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日本企業にとっての「台湾」との協調戦略 - Nomura Research Institute
GLOBAL VIEW 日本企業にとっての「台湾」との協調戦略 田崎嘉邦 同時不況の影響が大きい に対する家電購入への補助金制 こうしたなか、厳しい経済環境 台湾経済と在台日本企業 度)」もあって、半導体・液晶パ 下にあるとはいえ、台湾はその市 米国発の金融危機に端を発した ネル・OEM・ODMメーカー(パ 場特性や企業集積などから、日本 世界的な不況の影響で、2009年現 ソコンなどの受託製造メーカー) 企業のグローバル展開に向けた開 在、台湾経済もきわめて深刻な状 などの台湾企業の業績回復を受 発機能強化面で、引き続き重要な 況にある。特に、これまで台湾経 け、これらの企業に材料や部品を 役割を果たすことができる。 済を牽引してきた半導体や液晶パ 供給している日本企業の業績も3 ネル(以下、LCD)、電子部品な 月ごろから回復しつつある。ただ、 日本企業の開発機能強化に どの輸出型産業が大きな影響を受 主力市場である欧米の消費が回復 おける3つの台湾との協調戦略 けており、GDP(国内総生産) していない以上、本格的な好転に 日本企業の開発機能強化に際し 成長率は2008年通期で0.12%、同 はまだ時間がかかると思われる。 ての台湾との協調戦略は、「市場 年第4四半期では−8.36%と大幅 近接型」「部品調達型」「顧客近接 に悪化した。これに伴い、2009年の 不況下でも重視される開発機能 GDP成長率の政府予測も−2.97% こうした厳しい事業環境下で 市場近接型とは、中華圏やアジ と、大幅に下方修正されている(09 も、企業は必ずしも守り一辺倒に ア市場に進出するに当たって、 「日 年2月18日、行政院主計處)。 なるわけではない。2008年11月に 本」にブランド価値を感じつつも、 こうした経済環境の悪化は、在 野村総合研究所(NRI)が大手日 日本とは異なる嗜好を有する消費 台の日本企業にも大きな打撃を与 本企業の本社(有効回答501社) 者がいる台湾市場で、これら地域 えている。日本が高い市場シェア 向けに実施したアンケート調査に 向けの製品やサービスを開発する を有している半導体やLCD向け よると、今後投資を拡大したい分 ものである。同時に、その後、中 の材料や部品、設備関連の企業は 野として「人材採用・育成」「新 国などの巨大市場に参入する際の 受注が激減しており、2009年1、 規事業」「研究・技術開発」「製品 パートナー企業や人材を確保する 2月は、工場労働者の一時帰休を 開発」「品質・安全性」を挙げて という目的もある。 実施しているところも少なくない。 おり、新規事業や製品にかかわる このタイプには、自動車やバイ しかし、2009年2月中旬ごろか 開発技術、そして人材への投資に ク、家庭用品等の消費財メーカー らは、在庫調整が一段落したこと ついては、この不況下でも積極的 や、小売業、飲食業、サービス業 や、中国での「家電下郷(農村部 に拡大したいとしている。 等の企業が属する。ただ近年は、 84 型」の3つに分類できる。 知的資産創造/2009年 5 月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。 CopyrightⒸ2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 富裕層の増加や企業の技術力向上 を背景に、消費財メーカーなどは 中国に直接参入するケースも多い。 しかし、2007年12月に最初の海外 表1 日本企業の開発機能強化に際しての3つの台湾との協調戦略 開発機能の 種類 概要 市場近接型 中華圏・アジア向 け戦略製品の開 発、テストマーケ ティング拠点 拠点に台湾を選んだ楽天のように、 小売り、飲食、サービスなど、台湾 部品調達型 企業が中国で活躍している業種に ついては、引き続き台湾を活用す る利点は大きいと考えられる。 顧客近接型 部品調達型とは、鴻海(ホンハ イ)、広達電脳(クアンタ)等の グローバル向け 製品の部品調達 や OEM・ODM 先企業のコント ロール、および同 製品の開発拠点 半導体、LCDなど の主要顧客対応 および顧客向け 製品の開発 台湾の利点 主な業種 「日本」にブランド価値を感じつつも、 中華圏やアジアの好みもある市場の 存在 日本の文化まで理解した技術者や製品 企画担当者の集積、台湾企業の存在 消費財メーカ ー、小売業、飲 食業、サービス 業 迅速、安価かつ技術力を持った中小 企業の集積 大手OEM・ODMメーカーから中小 企業に至る産業集積の存在 電子機器・精密 機器メーカー 世界的な半導体やLCDメーカーの存 在 半導体やLCDにかかわる企業の集積 および柔軟な企業連携の存在 半導体、LCD関 連の部品、 材料、 生産・検査設備 メーカー ● ● ● ● ● ● 世界大手OEM・ODMメーカーの 存在を背景に、これらの企業と共 は、顧客の近くで対応できるのが けられている。これまで、この制 同で、電子機器や精密機器などの 望ましい。 度を活用している在台外資企業は グローバル向け製品を開発するも 27社に及び、日本企業としては、 開発拠点立地への政府支援 のである。 ソ ニ ー、NEC、 富 士 通、 ア ル バ 台湾企業と共同開発するに当た 上述のように、日本企業は台湾 ックに適用されている。 っては、台湾に開発拠点を設ける に製品やサービスの開発拠点を設 ことが望ましいが、利点はそれだ けることで、台湾のみならずグロ けではない。台湾には、迅速かつ ーバル市場に向けた事業拡大が可 2008年の新政権発足後、台湾は 安価に生産でき、しかも一定の技 能となり、これには、台湾政府も 中国との関係を改善し、台湾・中 術力を有する中小企業が集積して 積極的な支援をしている。 国間の直行便就航や、対中国投資 台湾を通じた中華圏ビジネス いる。こうした例は世界的にも少 代表的な優遇措置としては、経 と産業制限の緩和などを進めてい なく、台湾に開発拠点を設ける大 済部による「促進産業昇級条例(産 る。こうしたなか、台湾を通じて きな利点となっている。 業高度化促進条例)」がある。こ 中華圏ビジネスを展開していく環 れは、研究開発拠点立地にかかわ 境はさらに整いつつある。 顧客近接型とは、台湾に集積す る世界的な半導体やLCDメーカー る設備購入費や原材料費、人件費、 今後、多くの日本企業が、台湾 向けの部品や材料、生産設備など 人材育成費などを、企業の営利事 の利点を十分に活用し、中華圏を を開発するものである。半導体や 業所得税から控除できるとする条 含めたグローバル事業展開を進め LCDは、メーカーによって仕様 例である。また、一定の基準を満 ていくことに期待したい。 が異なることが多いため、顧客企 たした外資企業の研究開発プロジ 業に応じたカスタマイズや開発が ェクトには、人件費や設備購入費 必要になってくる。こうしたこと 等に対する補助金などの制度も設 田崎嘉邦(たざきよしくに) 台北支店副総経理 日本企業にとっての「台湾」との協調戦略 85 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。 CopyrightⒸ2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.