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田 代 研 究 室

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田 代 研 究 室
田 代 研 究 室
∼細胞の増殖、分化の分子メカニズムの解析∼
∼発癌分子メカニズムの解析∼
発癌に至る分子メカニズムの解析に伴い、癌の原因分子を標的とした新たな抗癌剤とし
て、分子標的薬や抗体医薬が注目を浴びている。このように発癌機序を詳細に解析し、そ
の情報を蓄積していくことは今後の癌治療へと繋がる重要な基礎研究である。近年、腫瘍
の中に癌の源となる幹細胞様の性質を有する癌細胞(癌幹細胞)が存在し、これが再発・
転移を導く難治性癌の原因ではないかと考えられ始めている。田代研究室ではラット肝癌
K2細胞を用いて、細胞の発癌メカニズムに関する研究ならびに、K2細胞に含まれる癌幹
細胞の特性解析を行っている。
図1. K2細胞の発癌メカニズム
ラット肝癌K2細胞は癌遺伝子c-Mycとシグナル制御因子14-3-3タンパク質が過剰発現している。当
研究室ではこれらのタンパク質と結合し、発癌に関わる因子としてSTAGA転写複合体の1つである
SGF29と新規14-3-3結合タンパク質であるFBI1 (Fourteen-three-three-Beta Interactant 1)を同定した。
図2. FBI1による造腫瘍性と肺転移能の促進
FBI1が発癌に関わっている因子かどうか調べるために、FBI1遺伝子の発現を減少させた細胞が必要
である。FBI1の相補配列(アンチセンス)を強制発現させたK2細胞あるいは肺癌細胞LLCを樹立し、造
腫瘍能と肺への転移能を解析した。K2細胞を胸腺を欠損し移植実験に適するヌードマウスの皮下に移植
した。その結果、FBI1の発現量を低下させた細胞は、造腫瘍能および肺への転移能が低下していた。
K2細胞の造腫瘍性(ヌードマウス皮下での腫瘍形成能)
発癌物質
14-3-3
Bmi1
癌幹細胞の
性質の寄与
SGF29
c-Myc
14-3-3
FBI1
BAD
アポトーシス抑制
標的遺伝子
細胞増殖促進
運動・転移能
肺癌細胞LLCの肺転移能
癌化
図1. ラット肝癌K2細胞の発癌分子メカニズム
研究室での実験風景
無菌状態なクリーンベンチ内での
細胞培養
細胞を飼育している
インキュベーター
図2. FBI1発現低下細胞による造腫瘍性と肺転移能の抑制
マウスへの癌細胞移植実験
遺伝子組み換え実験
(RNAの調製中)
図3. 難治性癌の原因と考えられる癌幹細胞の特性解析
恒常性の維持
幹細胞は生態学的適所
(ニッチ)にて生存維持、
増殖の調節が行われる
癌幹細胞
成熟細胞
前駆細胞
幹細胞
癌を切除しても残っている
癌幹細胞から癌が再発する
幹細胞
自己複製
の異常
腫瘍形成
癌細胞
癌幹細胞
自己複製
自己複製
nich
nich
癌切除
図3. 癌幹細胞の特性
恒常性の維持に働く組織特異的幹細胞は生物学的適所(ニッチ)にて、自己複製能(self-renewal)により幹細胞性を維
持している。幹細胞は自己複製により非対称分裂を行い、自分自身 (幹細胞)と分化の運命が方向付けられた前駆細胞
を産み出す。前駆細胞は数回の分裂の後、機能性の成熟細胞へと分化する。
一方で、幹細胞は自分自身を生み出す自己複製能と無限の分裂を繰り返すための、高いテロメアーゼ活性を有して
いるため、不死化細胞と同様の性質を示す。そのため自己複製能の異常、癌遺伝子や癌抑制遺伝子への変異により、
正常な幹細胞の増殖サイクルから逸脱すると、幹細胞性質の癌(癌幹細胞)となる。癌幹細胞はたった一つの細胞か
らでも新たに腫瘍を形成でき、癌切除時に癌幹細胞が残っていると再び癌を再発してしまう難治性癌の原因と考えれ
ている。
∼神経分化誘導機構の解析∼
生体内にある幹細胞を特定の細胞へと分化誘導できれば、神経変成疾患などで失われた
神経細胞を補うことができるかもしれない。そのためには、神経分化誘導の制御機構を詳
細に解明する必要がある。我々の研究室ではマウス胚性腫瘍細胞(P19細胞)にレチノイン酸
による神経分化モデルを用いて、神経分化誘導の分子メカニズムを解析している。
図4. 神経幹細胞の神経およびグリア細胞への分化誘導
生後7日目のマウス海馬領域から調製した神経幹細胞は、神経幹細胞特有のスフェアー形態で増殖す
る。神経幹細胞は成長因子EGFやBDNF存在下で培養すると、それぞれ神経細胞やオリゴデンドロサイ
ト(グリア細胞)へと分化する。P19細胞も凝集培養とレチノイン酸処理により、神経幹細胞と同様な時
系列で神経細胞やグリア細胞へと分化・成熟する。我々はP19細胞の神経分化誘導初期に発現誘導され
る因子としてmRNAサブトラクション法で単離されたPRP19とそのスプライシングバリアント体
PRP19が、神経細胞とグリア細胞間の運命を決定するスイッチとして働いていることを明らかにした
(図5)。現在は、PRP19およびの発現を調節することで、神経幹細胞を神経細胞あるいはグリア細胞
へと画一的に分化誘導できないか試みている。
オリゴデンドロサイト細胞
(MBP陽性)
図4. 神経幹細胞およびP19細胞の神経系細胞への分化誘導
10
5
0
PRP19過剰発現
レチノイン酸
15
PRP19過剰発現
凝集培養
20
PRP19 発現抑制
アストログリア細胞
(GFAP陽性)
25
P19
神経細胞
(-IIIチューブリン陽性)
P19
マウス胚性腫瘍細胞
(P19細胞)
アストログリア細胞(%)
神経細胞(%)
BDNF
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
PRP19過剰発現
成長因子
EGF
グリア細胞分化
神経細胞分化
PRP19過剰発現
神経細胞
(-IIIチューブリン陽性)
PRP19 発現抑制
神経幹細胞
(スフェアー形成)
図5. PRP19による神経細胞/グリア細胞への分化
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