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熱力学とは?-熱力学の基礎概念 2011 5/12 第3セメスター 化学B 第一

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熱力学とは?-熱力学の基礎概念 2011 5/12 第3セメスター 化学B 第一
熱力学とは?-熱力学の基礎概念
2011 5/12
第3セメスター 化学B
第一回講義
担当 奥西みさき(代理)
目的
熱力学を学ぶ上で基礎となる温度や熱などの基
本的な概念について学ぶと共に熱力学の体系全
般に関する大雑把な道筋を理解する
熱力学的現象
•熱い、冷たい、暑い、寒い
日常で観測される
様々な現象
•水の蒸発や氷の融解
•加熱による物体の膨張
•流体の混合や固体の溶解
熱を利用した動力
•蒸気機関や内燃機関
温度、圧力、体積といった少数の物理量を用いて統一
的に記述し、定量的に理解する
熱力学の講義
• 教養課程:熱力学(熱物理学)、化学熱力学(物理化学)
• 専門課程:熱力学(工業熱力学)、統計力学
• 関連する講義
– 反応速度論
– 有機反応論、無機反応論
– 固体物理学、固体化学
– 化学工学、機械熱力学
– ・・・etc
多くの分野の学問の基礎となっている
熱力学の応用
z 物質の相変化(固体-液体-気体)や物質の溶解
z 熱機関(熱サイクル)ー熱と仕事の交換
z ヒートポンプー冷蔵庫・エアコン
z 内燃機関ーレシプロエンジン・ガスタービン
z 外燃機関ー蒸気機関・蒸気タービン(火力・原子力発電所)
z 熱力学は産業革命の原動力である蒸気機関の熱効率
の考察をきっかけとして発展してきた。
z 化学反応と化学平衡ー化学プラント
z ・・・・etc
極めて応用範囲の広い実際的な学問
熱力学とは?
対象:マクロな熱平衡にある系
マクロ系(平均的)
非熱平衡系は対象外
ミクロ系(個別的)
温度(T)、圧力(p)、体積(V)、物質量(N)などのマクロな物理量で記述
熱平衡状態にある系の性質や異なる熱平衡状態への変
化に関する普遍的かつ定量的な関係を求めること。
普遍性:個々の系の具体的な特性に依存しない体系
熱平衡状態
熱平衡状態
どのような変化(反応)が可能かを判断
途中の状態は熱平衡である必要は全く無い
ミクロな系とマクロな系
ミクロ系:Microscopic system (微視的な系)
系を構成している個々の原子・分子が相互作用しながら運動(量子力学)
アボガドロ数~6×1023ーモル単位
マクロ系:Macroscopic system (巨視的な系)
あまりに沢山の粒子が存在すると運動方程式を解くことは近
似的にでも不可能となる。
初期条件の僅かな違いが最終結果の大きな違いにつながる。
小数のマクロな物理量で全体の性質や反応性を表現する
マクロ系を取り扱う学問ー熱力学・統計力学
1.熱力学:マクロ系において閉じた体系を持つ経験則(ミクロの知識は不用)
(例外のない完璧な物理体系ー19世紀半ばに完成)
2.統計力学:ミクロな立場から統計的手法を用いてマクロな系の性質を探る
(統計力学は熱力学により正当化ー現在も進化している未完の体系)
熱力学は分子論が広く受け入れられる以前に完成した理論体
系であり、物質の内部構造や分子運動に関するミクロな知識を
前提としていない。
しかしながら、ミクロな分子論的な知識を利用することで熱力学
に関する理解を深めることもできる。
熱力学で用いる状態量と状態変数
• 示量的な状態量
• 体積(V)、物質量(Ni)、熱容量、自由エネルギー、・・・etc
• 示強的な状態量
• 温度(T)、圧力(p)、密度(ρ)、比熱、膨張率(圧縮率)、・・・etc
• 状態量でない物理量
• 熱量(Q)、仕事(W)ー経路に依存する量(保存量ではない)
一般に巨視的な量は熱平衡状態でのみ一定の値を持つ
• 状態変数
• 系を記述するために必要な最低限の状態量の組
対象とする過程によって状態変数の取り方は変わる
• 他の状態量は状態変数の関数(熱力学関数)として表現
(状態方程式)
(V, N, T)
p = p(V, N; T)
熱力学系と外界(環境)
外界(環境)
物質
エネルギー
系
仕事(体積変化)
1. 開いた系:物質とエネルギー
の両方が外界と出入りできる
系
2. 閉じた系:エネルギーのみ外
界から出入りできる
3. 孤立系:エネルギーも物質も
出入りできない系
4. (断熱系):エネルギーも物質
も出入りできないが仕事の授
受は可能な系
外界が系より十分に大きく、温度がT0のとき、エネルギーの出
入りが可能なら熱平衡状態で系の温度はT0になる。
熱平衡と温度
マクロ系に何らかの操作(力学的操作や熱的接触)を施した
後、十分時間が経過するとこれ以上マクロな観点から時間変
化しない状態に達する。これを熱平衡状態と呼ぶ
温度(T) : 熱力学的な系の平衡状態を特徴付ける量
熱的接触で状態量が変化しない
系A
系B
温度が等しい
V1, N1, P1
V2, N2, P2
T1
T2
系Aと系Bが熱平衡状態にある
T1=T2
熱力学の第0法則と温度計
系Aと系Bが熱平衡状態にあり、系Aと系Cが熱平衡状態にあ
る時、系Bと系Cは熱平衡状態にある。(熱力学の第0法則)
温度の測定:経験温度
系A(温度計)の体積を温度の指標として使用する
(水銀温度計:液体水銀の体積)
熱学の定量化(科学としての熱学の誕生)
セルシウス温度(t):圧力1atmのもとで水の融点を0ºC、水
の沸点を100ºCとし100等分して、一目盛りを1ºCとする。
絶対温度(T): T = 273.15 + t (-273.15ºC:絶対零度)
絶対温度は熱力学第2法則から定義される
熱とは?
•熱物質説ー19世紀初頭までは主流の説
•燃素説(Phlogiston theory)
•熱素説(Caloric theory)ー数式を用いた理論の定量化
•熱運動説ー19世紀初頭まではほとんど無視される
•熱運動とは物質内部の原子・分子の運動(並進・振動・回
転・分子内の電子の運動)の総和。
•熱(熱量 Q )は系の熱運動のエネルギーが外界とやりとりす
る時に移動するエネルギー。
熱力学の法則と自由エネルギー(熱力学の全体像)
• 熱力学の第1法則(エネルギー保存則)
• 系が受け取る熱量は内部エネルギーの増加(温度の増加)と
外界への仕事の和となる。
• 熱力学の第2法則(熱力学で最も重要な原理)
• 熱は高温から低温へ流れ、その逆は起こらない。
• 最も大切な熱力学関数は自由エネルギー
• ヘルムホルツの自由エネルギー(等温変化)
• ギブスの自由エネルギー(等圧変化)
• 熱力学において自由エネルギーは力学系におけるポテン
シャルエネルギーの役割を果たしている。
• 熱力学関数の間には一定の決まった数学的関係がある。
膨張率と圧縮率
単一物質からなる一定量の物体を考える
(p,V) ; T = T(p,V)
測定可能な物理量
(定圧)膨張率(示強性)
状態変数
状態方程式
(p,T) ; V=V(p,T)
1
β=
V
⎛ ∂V
⎜
⎝ ∂T
⎞
⎟
⎠p
(等温)圧縮率(示強性)
さまざまな(p,T) で測定
することで状態方程式を
求めることができる
1
κ= −
V
⎛ ∂V
⎜⎜
⎝ ∂p
⎞
⎟⎟
⎠T
実測可能な様々な状態量の測定から他の状態量を求めることができる
比熱と熱容量
• 熱容量:物体を1ºKだけ上昇させるのに必要な熱量(示量性)
• 比熱:1gの物質を1Kだけ上昇させるのに必要な熱量(示強性)
(物質1gあたりの熱容量)
実験的には水の比熱を1とした時の相対的な比
熱を求める。(1 cal = 水の比熱)
(教科書の)熱量保存の法則という表現はあまり良くない
熱量は保存量ではない。 単なるエネルギー保
存則の特殊な例にすぎない。
熱と仕事の等価性:熱の仕事当量
系の温度上昇
熱または仕事(のどちらでも可)
系に与える仕事(W)=系が受け取る熱(Q)
重りが失う重力の力学的エネルギー
水槽内の水の温度上昇に必要な熱量
1 cal = 水が1gが1℃上昇するのに
必要なエネルギー
ジュールの実験(1840年代)
1 cal = 4.19 Joule : 熱の仕事当量(J)
熱機関の原理と熱効率
ワットの蒸気機関(18世紀末)
高温熱源
熱(Q1)
熱力学系
熱(Q2)
仕事
(W)
熱効率 = W/Q1
熱効率には温度に依存
する上限が存在する。
(カルノーサイクル)
低温熱源
カルノーの定理(1824年)
熱機関の原理
(低温熱源が必要)
熱力学の第2法則
(1850年代以降)
(参考)ワットの蒸気機関
Watt は蒸気機関を発明したわけで
はなかったが非常に重要で本質的
な改良を幾つか行った
1. 分離した凝縮器(冷却器)の設置
2. 複動蒸気機関の発明
3. 熱膨張の利用の提案
熱効率の大幅な向上
カルノーの理論
授業の予定
1.
熱力学とは?-熱力学の基礎概念 (5/12 奥西)
2.
3.
気体の性質-理想気体と状態方程式 (5/19 奥西)
熱力学の第1法則-エネルギー保存則と理想気体への応用 (5/26 上田)
4.
熱力学の第1法則-熱機関と熱サイクル (6/2 上田)
5.
熱力学の第2法則-熱力学の第2法則と熱機関の効率 (6/9 上田)
6.
熱力学の第2法則-エントロピーの導入 (6/16 上田)
7.
自由エネルギー (6/23 上田)
8.
分子運動論と分配関数 (6/30 上田)
9.
中間試験 (7/7)
10. 相平衡 (7/14 奥西)
11. 溶液 (7/21 奥西)
12. 化学平衡 (8/4 上田 or 奥西)
13. 統計力学 (8/11 上田)
14. 量子統計 (9/8 上田)
15. 試験 (9/15)
参考文献
•熱力学 現代的視点から 田崎晴明著 (培風館)
•熱力学入門 佐々信一著 (共立出版社)
•マッカリー・サイモン 物理化学(下) 分子論的アプローチ (東京化学同人)
•化学熱力学 原田義也著 (裳華房)
•熱学思想の史的展開 1, 2, 3 山本義隆著 (ちくま学芸文庫)
問題
1.
熱とは何かを200字以上400字以内(程度)で説明せよ。
2.
温度とは何かを100字以上200字以内(程度)で説明せ
よ。
3.
ジュールの実験において、質量1ポンド(0.4536Kg)の水
を華氏1度(5/9℃)上昇することの出来る熱の量は838ポ
ンドの”おもり”を1フィート(0.3048m)持ち上げる力学的
仕事に等しいとする。このときの熱の仕事当量を求めよ。
ここで重力加速度は9.80 m/s2、1J = 1kg m2/s2である。
学籍番号と氏名を書くことを忘れないように
問題の解答
問1と問2の解はこのファイルの該当項目を参照。この講義が終了した
時にこれに対する正しい解が得られるように希望します。
問3 水に加えた熱量Q(cal) および ‘おもり’ のした仕事W(J)は
Q=1×0.4536×1000×(5/9) (cal)
W=838×0.4536×9.80×0.3048 (J)
であるから仕事当量W/Qは
W/Q=4.506 J/cal
である。従って 仕事当量は 4.51 J/calとなる
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