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ユネスコの高等教育政策、大学改革と大学憲章 湯淺精二

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ユネスコの高等教育政策、大学改革と大学憲章 湯淺精二
ユネスコの高等教育政策、大学改革と大学憲章
湯淺精二
(国立大学のあり方を考える学習討論集会∼国立大学法人化の動きのなかで∼、11/09/02)
「垂挺の補助金に喰らいつくか!」「国民のために高等教育の底上げに奔走するか!」選択の仕方で 21 世紀の高等教
育の方向が決まる。21 世紀 COE(2002 年度)が、先の「遠山プラン」に基づいて決定された(巻末)。大学関係者も
マスコミも、
高等教育の有り様はこの問題との関連のみで議論する。今年度が半分の分野であることを考慮しても、
あまりにも限られた技術に偏っているし、いわゆる「人間生存」科学の範疇のものはない。今回採択されたプロジ
ェクトは、
『21 世紀を sustainable society を構築するためのあらゆる科学と技術の発展させる世紀」としようとす
る国際的潮流とは全くかけ離れた「COE」であり、Crisis Of Environment である。このような方向ではこれから
の高等教育は完全に瓦解する。改めて「大学とは何か」
「国民のための大学は如何にあるべきか」を討論し直ちに実
践に移さなければならない。大学改革の論点は、理念、実践、組織であり、理念は以下述べるユネスコ提案など を
参考にし、実践は構成員と国民との共同作業ですすめる。組織は各大学などの機関(将来は全国的な統合機構「教育
機構」も提案)であるが、そこに自主的・民主的運営共同体としての自治組織の構築を「労働組合」の参画によって
すすめ、学問の自由を行使できるようにする。つまり、大学改革は、学問の自由を守る闘いである。そこには、従
来型を超えた労働組合の役割が必須なのである。
学問の自由について「当局」の見解とコメントがある(=北大、辻下氏)
。筑波大学大学研究センターが発行して
いる「大学研究第 23 号」(2002 年 3 月発行)収録、第 35 回公開研究会「独立行政法人化時代の国立大学運営」
(2000.7.31)の記録におい、産学官連携推進の中心人物の一人と思われる小野田武(三菱化学顧問)氏は、
『今までも、
この独法化の問題に関連したいろいろたくさんのレポート、提言が大学サイドから出ています。個々の大学からも
出ていますし、国大協からも出ています。私はあれを読むたびにむかっとするのは、一番最初に「憲法に保証され
た学問の自由」
。もういい加減にしてくれないか。何かもうちょっと卒直になって書いていただかないと、あまりに
教条主義にすぎる。』という発言をしている。
「学問の自由を守れ」という主張が卒直な発言ではなく教条主義とし
か聞こえないような者が、政治家や官僚の集まりでは「研究者」を代表して発言している。基本的人権も無視して
きた企業の経営側の者としては当然の発言なのかも知れないが、これが日本の高等教育を支配していく思想である
ことに注目しなければならない。近年、企業における化学系研究者のリストラが激しく、大学への再就職口を用意
することが緊急の課題となっているが、大学を自由に支配したいがガードが堅い。小野田氏の異様な苛立ちの背景
はそこにあるのであろうか?
われわれはこの小野田氏のような考えを超えて、大学の有り様を明確にし、国民の負託に応えることのできる機関
に醸成する努力を構成員が発議し、国民との連繋によって進めなければならない。
1.ユネスコの高等教育政策
ユネスコは 1966 年に「教員の地位に関する勧告」を採択しているが、これは初等中等教育を対象とするもであっ
たが、以下の三文書は高等教育に関するものである。
1)「科学と科学的知識の利用に関する宣言および科学アジェンダー行動のための枠組み、 1999」
これは、
ユネスコと国際科学会議 (ICSU)が後援して開催した世界科学会議(ブダペスト)で採択された文書(通称:
「科
学宣言」と「科学アジェンダ」)である。(1)科学の発展による人類への恩恵の確認、 (2)科学の発展の結果する負の
側面の排除への努力、(3)科学知識の生産と活用のための学際的協力、(4)科学の恩恵の公平な配分、の重要性を述べ、
科学の有り様について、
「知識のための科学・進歩のための知識」
、
「平和のための科学」
、
「発展のための科学」
、
「社
会のための科学」の 4 項目に定式化し、「科学アジェンダ」においてその具体化を提起している。
1
●知識のための科学・進歩のための科学
科学研究が真理の探究にあることは勿論であるが、ここでは「基礎研究」と「問題追求型研究」の調和・連繋の奨
励を述べ、科学情報の公的利用のもとで「知的所有権の保護」
「科学者の意見表明の自由」
「女性や不利益者への支
援」を提起している。科学研究の目的である知識の獲得が、
「進歩のための知識」のそれでなければならない。
「進
歩」とは、教育・文化・知性の内容を豊かにし、人類の福祉と平和に資するものあるとしている(=後述するとこ
ろの「絶対的生命観」に支えられた「sustainable society」を構築することと同じである)
。
●平和のための科学
批判的で自由な思索に基づく国際協力が平和と文化の基礎であり、それが「核軍縮」を含む軍縮を促進することが
できるとしている。
●発展のための科学
優先課題として、地域住民の基本的な必要を満たすための科学と技術が必要である。
「科学と環境、持続可能な開発」
においては、科学の発展に伴う負の側面の防止を考慮しながら発展を持続するための科学研究のあり方を議論して
いる。世界規模での環境計画の立案と実践のための、とりわけ自然科学と社会科学との協力を提起している。
「平和
と紛争解決のための科学」の項で、科学知識や技術を「平和と安全を脅かす活動に応用しない特別な自覚」を教育
の場で問うことであり、あらゆる教育現場での基本とすべきであるとしている。このような「科学政策」を主張し
実現するために、科学研究および教育の基盤整備、情報の公開、科学者・教育者・技術者の自由と地位の改善が必
要だとしている。
●社会における科学と社会のための科学
科学研究とその利用の目的は、人類の福祉、人間の尊厳と諸権利と地球環境の尊重であるとしている(っまり、この
目的を達成しないものは「社会のための科学」ではない(=後述する「大学のあり方」の根幹をなす )。
「社会の要
請と人間の尊厳」では、社会問題の解決のために、特に社会科学研究の強い要請がある。また、各種段階における
「倫理綱領の制定」が上記の目的達成に必要となる(=後述する憲章づくりもこの一環である)。
2)「 21 世紀に向けての高等教育世界宣言一展望と行動一および高等教育における変革と発展のための任先行動の枠
組み 1998」
通称「高等教育世界宣言」であり、いわゆる「高等教育論」の展開である(日本の高等教育の展開について多くの示
唆がある)。高等教育の直面する課題は、進学者の増加、格差の拡人、社会発展における役割の重要性、価値観の深
刻な危機であるとしている。
「教育」の目的は、
「人権と民主主義、持続可能な開発および平和」であるとし(「科学
アジェンダ」にあるように科学研究もこの方向である)、市民的権利と社会への能動的参加、内発的能力形成、人権・
持続的可能な開発・民主主義と平和の実践に置く(=民主的市民の形成)。
●高等教育の使命と役割
社会発展への貢献を基本使命とし、学習機会の均等(=何人も廉価で白由にアクセスできる環境 )や専門知識の提供な
ど、教育と研究面での貢献を述べている。高等教育教員の責任については、社会に対して「批判的かつ先見的役割」
を提起している。
●高等教育の新たな展望の形成
中等教育について、高等教育への進学の準備教育のみでなく、
「職業に関する広範な教育を施すことにより、積極的
に人生への道を拓く」ことを提起している。「研究」については、
「基礎研究」と「目的志向型研究」との適切な均
衡が必要であり、研究者養成、知的所有権保護、研究成果の乱用の禁止、研究条件の充実の必要性を説いている。
さらに、
「社会的要請」に応える高等教育として、
「貧因や不寛容、暴力、非識字、飢餓、環境汚染および疾病の根
絶」と「暴力と搾取のない新しい社会の創造」を提起し、民主主義社会における社会的責任を提起している。
2
●展望から行動へ
内部の自己評価と外部審査 (=独立した国の「機関」)を設置し、高等教育槻関の質の評価を行う(ニュアンスとして
は、
「基準評価」=競争ではなく共存のための底上げ、のように読める)。高等教育の管理と運営は、自治と説明責任
であり、管理機関は教職員と学生との対話に努め教授陣の参加も求めるべきであるとしている。高等教育の財政の
充実は当然であるが、
「国家の役割が不可欠」であるとしている。
●優先行動の枠組み
行動のレベルを高等教育機関レベル、国レベル、国際レベルとし、それぞれが協力し所期の目的を達成する。
『差別
の禁止」
「教育と研究の有機的結合」
「財政の保障」『学生の参加」
「学問の自由と機関の自治」などが列挙されてい
る。
「高等教育機関」では、 (1)高等教育機関がその使命を自覚し、(2)自治と自由を守りながら『労働の世界」(=労
働組合)との提携を強め、学生に対する指導と援助をおこない、(3)社会人への解放と地域社会との共同、などを提
起している。
(注)文書については、日木政府が故意に正式翻訳を怠って今日に至っている(ユネスコの目指す高等教育と日本政府のそれとが全く逆であるため
かも知れない)。
3)「高等教育の歓育職員の地位に関する勧告、1997」
「前文」では、
「全ての人々の教育を保障するのは国家の責任である」としている。如何なる差別も存在してはなら
ないとし、国際人権規約(A 規約:日本は批准せず)「高等教育の漸進的無償化」を視野にいれている。
「高等教育の恩
恵を受けるもの」は学生のみならず、政府や企業も含まれるとしている(=受益者負担は従って学生だけではない )。
また、高等教育の社会的意義、教職員の権利、参加、学問の自由と自治の重要性を展開し、さらに、高等教育の形
態や組織が国によって多様であることを認めながら、「共通の基礎」(=以下各項目に述べるような国際的基準=高等
教育のフォーマット)の必要を提起している。
●定義
高等教育は大学だけではなく、生涯教育、文化センターを含め、多種多様な機関に自治と自由を認めることを提起
している。
●指導原理
「国際平和と国際理解、国際協力と持続可能な開発」を挙げ、
「平和を目指す教育」を推進する(=基本的指導原理)。
また、「人間の発達と社会の進歩」「平和と人権、持続可能な開発および環境」が高等教育と研究の明確な目標とし
て掲げている。「高等教育の教育職員を代表する団体」 (=労働組合)の項では、「政策決定への参加」
「団体交渉によ
る倫理綱領の策定への参加」
『責任体制の構築」
「結社の自由と権利侵害に対する支援」
「雇用条件交渉と交渉決裂時
に別の手段をとる権利(=自国の司法を飛ぴ越える国際的支援 )」『給与や実績評価についての協議」など、労働組合
の役割や機関における権利の国際的な「共通の基準」が示されている(=これからの労働組合の方向づけとなる)。
●教育目的と教育政策
図書館などの自由な利用、知的財産の保議、国際交流の重要性、およぴ、一国が他国による科学的、技術的搾取を
防止することの提案がある。
●教育機関の権利と義務および責任
「教育機関の自治」: 自治の定義は、
「学問の自由と人権の導重」のための「自己管理」であり、
「自治とは学問の自
由が機関という形態を示したもの」としている(=自治と自由の明確な定義)。
「教育機関の公共資任」: 教育研究の社会的責任に加え、学生・女性・少数民族への差別の禁止などを含み、「人権
および平和に逆行する目的のために知識と科学・技術の活用を防ぐ」ことが公共責任であるから、当然軍事研究と
その関連は否定されることになる。また、教育機関の責任体制として「国家権限による責任機構」(注:日本は文部
科学省であるが、ここで指摘するものはいわゆる独立の槻構であり、将来の日本であれば筆者の提起するところの
3
「第四権」を指すことになる)。
●高等教育教職員の権利と自由
「個人の権利と自由」:「社会変革に貢献する権利」を含めて思想、信条、表現、集会およぴ結杜の自由を認め、そ
れらの侵害に対しては国際組織に訴える権利を留保【一般的な人権侵害に対しても国際人権規約(B 規約=日本政府
は批准せず)では自国の司法を超 えて国際人権委員会提訴できる】することができ、教育と研究の自由の徹底を説い
ている。
「自治と団体組繊」:全ての教職員は機関の管理に参加する権利を持ち、その関連業務には「予算の配分」を含むと
されている。
●高等教育教職員の義務と責任
研究と教育の倫理の遵守と FD による質的な向上を提起している。
●雇用の条件<当勧告の目玉>
「学術職入職への差別の禁止」
「終身在職権」
「
「評価:学術的能力に基準をおき、異議申し立てを認める」
「雇用条件
交渉には労働組合の団休交渉権を基本とする」
「試用期間や臨時雇用について、同じ水準の常勤よりも低い俸給表で
支払ってはならない」など、先の「共通の基準」の遵守を提起している。
2.日本の大学
わが国においては、大学構成員および国民と国立大学との関係はどのようなものであったのであろうか。大学は、
官僚機構を反映した、いわぱ「お上」的存在であったのではなかろうか。
「恩給」「官舎」
「退官」
「任官」『事務官」
「技官」
「教官」などの用語はそれを端的に表わしている。大学構成員は、潜在的にせよ、この「お上」として上に
諂い、国民を蔑むことはなかったのであろうか。国民と共に自らの職場を国民のために住みよいと ころにしようと
する努力を十分にしてきたのであろうか。国民のための大学のイメージやそのための設計に積極的に努力をしてき
たのであろうか。これらについての総括をすすめる過程で、国民のための大学づくりに「自らの問題」として取り
組むことにより、21 世紀の高等教育のハードとソフト双方の有機的結合の姿が見えてくるし、各人の果たす役割も
明確になってくる。目標は、
「機関の自治」とそこにおける「自由」を国民と共に構築することである。自治と自由
は「落ちている」ものでもなければ、
「誰かがくれる」ものでもなく、われわれの運動によってのみ獲得できるもの
である。
●20 世紀の大学
口本の大学は 1888 年の帝国大学令にもとづいて帝国大学が発足した。そこでは、1890 年発布の教育勅語により忠
君愛国の思想のもとで軍国主義教育が貫徹され、さらに 1918 年制定の大学令により定められた教育目標「国家に
必要な学術と研究を遂行し、もって国家思想の涵養に当たること」によって教育と研究が天皇のためにすすめられ
た。そのもとで全ての大学人が第二次大戦に協力させられたのである。戦後はこの批判の上に立って、1946 年制定
の新憲法、1947 年教育基本法と学校教育法によって、学問の自由と大学の自治の確立を目指して 1949 年から新制
大学が始動したが、支配構造の基本は戦前となんら変わることはなかった。つまるところ、新制大学においてもま
た大学の自治と学問の自由への国家権力の執拗な介入が年々強められ、1971 年の中教審答申から戦前のような強烈
な国家統制の方向へとすすめられてきた。新制大学制定後 50 余年が過ぎた今日において、その総仕上げとして憲
法・教育基本法の改悪の策動と共に、国策としての「行政改革の一環」として『大学の法人化」が目論まれている。
しかしこの間、大学構成員も国民も、無責任に「親方日の丸」型人間として、浮き草のように大学を見てきたこと
も事実である。これからは、国民一人一人が、国民のための大学づくりに参加しなければならない。決して、
「最終
報告」や「遠山プラン」によって大学を崩壊させてはならないからである。
●21 世紀の大学
20 世紀の大学のあり方を批判的に検討しながら、学問の自由を貫徹することのできる自立した大学を構築するため
4
に、
『大学とは何か?」『大学改革の理念は何か?」についての国民的討論とそれに基づく大学づくりが必要である。
高等教育の最終段階を担う大学では、絶対的な価値を共有する教育と研究が遂行されな ければならない。人間は共
通の祖先から進化したが故に、他者を自己の外延と考え、生命を単純な「もの」や「数字」に抽象化すべきではな
く、意見や立場を超えて生命を絶対視する価値観「絶対的生命観」に支えられる sustainable society (地球の有限
性を前提に世代間の公平を顧慮し全てを計画的に管理する社会)の建設を目指す教育と研究を推進することを目的
としなければならない。つまり、月並みではあるが、
『殺し合い」から「生かし合い」、「競争」から『共存」への方
向転換のリダーシップを発揮しなければならない。当然、平和と民主主義を貫徹する教育と研究にそれぞれが係わ
ることになる(各個研究は、平和のもとでのみ存在できるのである )。このとき、先に述べたユネスコ文書(「科学宣
言と科学アジェンダ、1999」
「高等教育世界宣言、 1998」
「高等教育の教育職員の地位に関する勧告、1997」)が参
考になる。繰り返しになるが、そこでは、
「21 世紀のための科学」が提起した科学のあり方(①知識における科学・
進歩のための科学、②平和のため科学、③発展のための科学、④社会における科学と社会のための科学)を探求し、
高等教育の目標を「人権、持続可能な開発、民主主義と平和におき、学生参加をすすめるシステム(高等教育世界宣
言)」と、そこにおける教職員の「権利と自由および雇用(地位に関する勧告)」の確立を求めている。
3.大学憲章
憲法や教育基本法の改悪が議論され、一方では有事法の国会通過と、そのもとでの日米共同作戦が目論まれる極め
て危険な今日の情勢のなかで、「大学人」は何を考え行動をしようとしているのか?自衛隊と大学が共同で教育と研
究を始め、
「殺戴のシミニレーション」が単位認定の対象とされ時代になってきたことにも、なんら疑問をもたない
のであろうか?ドンパチの下でもなお各個研究が可能であるとでも錯覚しているのであろうか?戦後の大学が、反戦
と平和を掲げて発足したことに思いを致し、国民の負託に応えることのできる機関であり続けるために、
「大学とは
何か」を考える時である。そのためには、各大学が「大学の憲法」である「大学憲章」を制定し、そのもとで国民
のための大学づくりをすすめなければならない。大学憲章づくりは、
「科学アジニンダ」に示されている倫理綱領の
策定の大学版であり、進行中の「大学改革」の対抗軸の論理形成であると同時に、大学のあり方の討論と実践の主
体的取り組みの第一歩となる。
21 世紀の高等教育においては、平和と民主主義の構築を目指し、国のパイロットとして学問の自由をもとめて、
大学内外での討論とその国民的理解をすすめ、将来において第四権としての「教育機構」を提起しなけれ ばならな
い。しかし、戦前戦後を通じて、大学人は自ら職場の運営について、国民の負託に応えることのできる機関である
かどうか、そして自らが具体的に参画する方法を組織的に討論した経験がない。
「大学とは何か?」
「大学の理念は?」
を組織として討論したことがない。大学人が守り発展させなければならない「大学としての教育と研究の目標」を
定めて来なかった。大学人は「お上」に対していわばパラサイト的存在であった。国民も大学についての批判はす
るが、大学を構築するための主体的な提案はしてこなかった。今こそ、21 世紀の高等教育に大学人として責任を持
ち、それを国民と共に発展させることが求められる。大学が社会建設にその役割を遺憾なく発揮するために、大学
の憲法である『大学憲章」を学生と教職員が協力して制定し、この過程で上記の諸問題を大学内外で徹底的に討論
することにより、21 世紀の大学を国民と連帯して構築しなければならない。
大学憲章には以下のように、社会的使命、教育研究の目標と体制、そして運営のあり方に関する事項を謳う必要
がある。→『大阪大学憲章(案)参照』
4.おわりに
文部科学省の国立大学法人化「最終報告」に基づいて大学を改変すれぱ、日木のこれからの高等教育は完全に崩壊
する。
「 法人法案」を国会に上程させない全国的な運動を大学から発信し、
国民各層に訴えていかなければならない。
高等教育に関して
「も」
孫子の代まで負債を残すべきではない一これが現代を生きるわれわれの最大の責任である、
5
東京大学 21 世紀学術経営戦略会議は去る 10 月 8 日、東京大学法人法案「新国立大学法骨格案」を発表し文部科学
省に提出し、目下の国立大学法人法案に異議を表明したと伝えられている。各機関でも類似の表明の要請行動が緊
急に必要である。期を逸すれば取り返しのつかないことになる!
教育は国家 100 年の計である。それは、海の魚を育てるために山に木を植えるように、長期的展望と計画が必要
である。短期間の「成果」のみを追い続けることは、木を見ることに追われて森を見ない可能性がある。21 世紀の
極めて早い時期に、平和と民主主義を開花させる政策を発信する責任が大学にはある。科学の成果によって政治の
動きを制御する力を蓄え発揮することのできる大学が必要なのである。このような議論を「夢物語」であるという
人がいるが、国際的には極めて自然の議論である。夢があるから変革のエネルギーが出てくる。そのエネルギーは
夢の大きさに比例する。われわれは、せいぜい長生きして百年である。夢と希望とロマンをもって力強く生きるこ
とである。われわれの夢を国民的夢に高めることができたときに世の中は変わる。国民のための大学づくりも同様
である。われわれの運動によって世界を変革し「絶対的生命観」に支えられた世界を創造しなければならないので
ある。それが禄を食むものどもの努めである。
最後に、これからの高等教育機構を発展させるためには、構成員が「科学労働者」としてその運動に如何に参画
するかが重要であり、その意味で労働組合の果たす役割が余りにも大きいことを 特に強調しておきたい。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
大阪大学憲章(案)
[作成:大阪大学教職員組合]
大阪大学は地域に生き世界に羽ばたく知的共同体として、真理の探究とその成果の応用によって人間生活を豊かに
するという歴史的・社会的使命を貫徹するために、教育と研究の理念を定め、構成員が自ら負う社会的貴任を国民
の前に明らかにし、高等教育機関としての任務を遂行する.
人間の生命の尊厳を真に発展させる「知の体系」を具体的に確立し、科学が人間に及ぼす否定的な面を制御し生
態系の維持と人間の限りない生存を保証するために、大阪大学は、人文科学、社会科学、そして自然科学の統一的
発展を目指し・社会と自然に関する高度な教育と研究をすすめるとともに学術成果を次世代へ継承する。
1.社会的使命
1)世界平和の達成のために社会的正義を自ら体現できる健全な市民を養成する
2)高度な科学と技術の教育と研究を通じて地域の発展に寄与する
3)アジアにおける学術・技術の交流と協力、および教育的連繋を推進する
2.教育と研究の目標
1)基本的人権の理解を深化させ、その実践を目指す
2)「持続可能な社会」論を深く研究し、その具現化を期す
3)概論教育を徹底し、高度な専門教育と研究の調和的発展を目指す
3.教育と研究の体制
1)企画・立案、実施・評価を自ら実行し、公的財源の下で自律できる機関を実現する
2)基礎的学問分野と応用的学問分野の発展の均衡に配慮する
3)教養教育の場において人文・社会・自然科学の横断的展開を図る
4)立法・行政・司法の三権と独立した立場で社会に貢献するために、教育と研究の自由を確立する
4.大学運営のあり方
1)構成員の自律性や自発性を保証する確固たる自治財源と組織を構築する
2)大学の決議機関として評議会をおく
3)評議会は大学構成員の経営参加を鼓舞し、教育目標や大学運営上の重要な決定に学生・教職員の意志を反映させ
るために、教授会・労働組合・学生自治会参加の下に全学協議機関を設置する
4)教育と研究を自己点検し、結果を公表する
6
大学名
東京(11)
京都(11)
名古屋(7)
プログラム名
大学名
生体シグナル伝達機構の領城横断的研究
「個」を理解するための基盤生命学の推進
戦略的基礎創薬科学
動的分子論に立脚したフロンティア基礎化学
化学在基盤とずるヒューマンマテリア几創成
情報科学技術戦略コア
未来社会を担うエレクトロニクウスの展開
共生のための国際哲学交流センター
生命の交化・価値在めぐる「死生学」の構築
基礎学力育成システムの再構築
融合科学創成ステーション
先端生命科学の融合相互作用による拠点形成
生物多様性研究の統含のための担点形成
京都大学化学連携研究教育拠点
学域統合による新材料科学の研究教育拠点
知識社会基盤構築のための情報学拠点形成
電気電子基盤技術の研究教育拠点形成
グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成
心の働きの統合的研究教育拠点
世界在先導する総合的地城研究拠点の形成
環境調和型エネルギーの研究教育拠点形成
災害学理の究明と防策学の構築
システム生命科学: 分子シグナル系の統合
新世紀の食を担う植物バイオサイエンス
物質科学の拠点形成: 分子構能の解明と創造
自然に学ぶ材料プロセッシングの創世
先端プラズマ科学が拓くナノ情報デバイス
社会情報基盤のための音声映橡の知的統合
統合テクスト科学の構築
大阪(7)
生体システムのダイナミクス
細胞超分子装置の作動原理の解明と再構成
自然共生化学の創成
構造・機能先進材料デザイン研究拠点の形成
ネットワーク共生環境在築く情報技術の創出
インターフェイスの人文学
新産業創造指向インターナノサイエンス
東北(5)
バイオナノテクノロジー基盤未来医工学
大分子複雑系未踏化学
物質創製・材料化国際研究教育拠点
新世代情報エレクトロニクスシステムの構築
言語・認知総合科学戦略研究教育拠点
慶応(5)
システム生物学による生命概能の理解と制御
機能創造ライフコンジュゲートケミストリー
アクセス網高度化光・電子デバイス技術
心の解明に向けての統合的方法論構築
次世代メディア・知的社会基盤
早稲田(5)
実践的ナノ化学教育研究拠点
プロダクティブ ICT アカデミアプログラム
演劇の総合的研究と演劇学の確立
アジア地域交化エンハンシング研究センター
現代アジア学の創生
北海道(4)
バイオとナノを融合する新生命科学拠点
知識メディアセ基盤とする次世代 IT の研究
心の文化・生態学的基盤に関ずる研究拠点
生態地球圏システム劇変の予測と回避
東京工(4)
生命工学フロンティアシステム
分子多様性の創出と構能開拓
産業化を目指したナノ材料開拓と人材育成
フォトニウスナノデバイス集積工学
7
プログラム名
九州(4)
統合生命科学
分子情報科学の機能イノベーション
システム情報科学での社会基盤システム形成
東アジアと日本:交流と変容
筑波(3)
複合生物系応答機構の解析と農学的高度利用
未来型機能を創出する学際物質科学の推進
健康・スポーツ科学研究の推進
立命館(3)
放射光生命科学研究
マイクロ・ナノサイエンス・集積化システム
京都アート・エンタテインメント創成研究
東京外語(2)
言語運用を基盤とずる言語情報学拠点
史資料ハブ地域交化研究拠点
東京農工(2)
ナノ未来材料
新エネルギー・物質代謝と生存科学の構築
横浜国立(2)
情報通信技術に基づく未来社会基盤創生
生物・生態環境リスクマネジメント
豊橋技術(2)
インテリジェントヒューマンセンシング
未来社会の生態恒常性工学
奈良先端(2)
フロンティアバイオサイエンスヘの展開
ユビキタス統合メディアコンピューティング
広島(2)
テラビット情報ナノエレクトロニクス
21 世紀型高等教育システム構築と質的保証
帯広畜産
秋田
群馬
お茶の水
長岡技術
金沢
信州
岐阜
名古屋工
神戸
取鳥
愛媛
佐賀
長崎
熊本
宮崎医科
静岡県立
大阪市立
大阪府立
姫路工
青山学院
北里
國學院
上智
玉川
中央
東海
日本
法政
愛知
名城
近畿
動物性蛋白質資源の生産向上と食の安全確保
細胞の運命決定制櫛
生体情報の受容伝達と機能発現
誕生から死までの人間発蓮科学
ハイブリッド超機能材料創成と国際拠点形成
環日本海海域の環境計測と長期・短期変動予測
先進ファイバー工学研究教育拠点
野生動物の生態と病態からみた環境評価
環境調和生ラミックス科学の世界拠点
蛋白質のシグナル伝達機能
乾燥地科学プログラム
沿岸環境科学研究拠点
海洋エネルギーの先導的利用科学技術の構築
放射線医療科学国際コンソーシアム
細胞系譜制御研究教育ユニットの構築
生理活性ペプチドと生体システムの制御
先導的健康長寿学術研究推進拠点
都市文化創造のための人文科学的研究
水を反応場に用いる有機資源循環科学・工学
構造生物学を軸とした分子生命科学の展開
エネルギー効率化のための機能性材料の創製
天然素材による抗感染症薬の創製と基盤研究
神道と日本文化の国学的研究発信の拠点形成
地城立脚型グローバル・スタディーズの構築
全人的人間科学プログラム
電子社会の信頼性向上と情報セキュリティ
ヒト複合形質の遺伝要因とその制御分子探索
微生物共生系に基づく新しい資源利用開発
日本発信の国際日本学の構築
国際中国学研究センター
ナノファクトリー
食資源動物分子工学研究拠点
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