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7. 労働組合としての取組み(事例紹介と制度提案)

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7. 労働組合としての取組み(事例紹介と制度提案)
7.
労働組合としての取組み(事例紹介と制度提案)
日本食品関連産業労働組合総連合会(フード連合)
石川
敬崇
公益通報者保護法の施行に向けて、民間事業者向けのガイドラインを示すにあたり、労
働組合としてどう受けとめ、どう考えて取り組むべきか、研究会メンバーとしての私見で
はあるが以下のとおり考えを記したい。
1.労働組合としての現状認識
ここ数年、食品に関する偽装表示や自動車のリコール隠し、原子力設備のデータ改ざ
ん等、企業の様々な不祥事が頻発し、いまだに後を絶たない状況である。労働組合とし
てはこの現状を厳しく受け止めて、あらためて以下の認識に立つべきである。
・
労働組合の重要な役割に経営のチェック機能がある。
・
企業倫理やコンプライアンスについては、企業経営者のみならず労働組合も社会的
責任がある。
・
一連の不祥事を踏まえ、あらためて労働組合のチェック機能強化が必要である。
2.通報に関する労働組合の関与
内部通報に関する労働組合の対応としては、不祥事を起こした産業の労働組合を中心
に取組みが進められている。
現時点においては、労働組合の組織形態に応じて、以下の表のとおり大まかに分類で
きると思われる(正確な調査は未実施、連合を通じてヒアリングにて情報収集したもの)。
このように、どの組織形態においても労働相談窓口の機能を有しているか、窓口がな
くても企業内組合(単組)等は、労働組合という性格上、労働相談があれば当然受け付
けている。労働相談以外の通報も、相談があれば経営のチェック機能として、基本的に
受け付けているようである。
また、会社の制度への関与は、企業倫理委員会等のメンバーとして直接出席している
ところはまだ少ないようで、労使協議を通じて情報提供を受け、必要に応じて取組みに
反映させているところが多いと思われる。
指針やガイドラインについても労働組合独自のものは有していないところが多く、ナ
ショナルセンターや一部の産業別組織で検討中である。
-1-
ナショナルセンター
(連合)
通報窓口の有無
産業別組織
単組(企業内組合)
・グループ労連
労働相談中心(組合員に
ほとんどは、加盟組合
一部、あり
限らず)
の組合員を対象とした
(目安箱等)
2004 年 11 月に不払残業
労働相談のみ
に特化した受付を実施
(必要に応じて労基署
への告発も連合として
行う方針を表明)
倫理委員会出席等の
特になし
特になし
一部、倫理委員会
制度への関与
ただし、経営者団体等と
ただし、業界団体との
に労組役員が出席
の協議は行っている
協議は行っている
(委員 or オブザー
バー)
指針・ガイドライン等
労働協約の雛型を含め、 一部、検討中・策定中
一部、あり
策定に向けて検討中
3.通報に対する窓口としての労働組合の役割
労働組合が通報に対して、以下のとおり通報窓口や相談窓口としての役割を果たすこ
とが考えられる。
なお、労使で懲戒等を検討する賞罰委員会(懲罰委員会)を有しているところが多い。
この場合は通報対象事実をもって通報された者が対象となり、通報者と利益相反の関係
にあるともいえるが、誹謗・中傷等により不正の利益を得る目的での通報もありうるの
で、労働組合の責任と役割において、公平に判断する必要がある。
(1)通報窓口としての役割
次のとおり内部通報と外部通報が考えられる。どちらが好ましいか考え方が分かれ
ると思うが、内部の通報窓口として指定されるには、会社と一体になってコンプライ
アンス経営を実現していこうという良好な労使関係が不可欠である。
①
会社が労働組合を通報窓口として指定した場合(内部通報)
基本的には以下のとおり二つのパターンが考えられるが、通報者に対して調査方
法等を 20 日以内に速やかに通知することや、調査結果・是正結果等の通知の必要
性も生じる。個人情報の管理にも留意する必要がある。
(ア)組合役員が会社の通報処理体制の中にメンバーとして入っている場合(企業倫
理委員会のメンバー等)は、通報を受けたらすみやかに会社の通報処理体制の中
で反映させる。
-2-
(イ)会社の通報処理体制のメンバーに入っていない場合は、通報窓口として受け付
けた場合、労働組合自ら調査して会社に是正・再発防止を働きかけるには、現実
的に限界があると思われる。 通報を受けた後は、必要に応じて匿名で、会社の
通報処理体制に働きかけて調査を依頼することになろう。労使間のルール作りが
必要である。
この場合、会社は労働組合を通報窓口に指定するとともに、別途、通報処理体
制を構築する必要がある。体制がなければ、労働組合は体制構築を早急に求める
ことが必要であろう。体制があってもメンバーではない場合、労働組合はあくま
でも通報窓口であって通報処理まで担う必要はなく、会社側の体制で通報処理を
行うべきである。
②
会社が労働組合を通報窓口として指定しなかった場合(外部通報)
基本的に外部の通報先(マスコミ、消費者団体等)と同様の扱いなので、内部通
報に比べて保護要件が厳しくなる。通報者が法の保護を受けるには、事業者内部へ
の通報の保護要件(不正の目的でないこと)、行政機関への通報の保護要件(不正の
目的でないことのほか、真実相当性を有すること)以外に、一定の要件(内部や行
政に通報すると不利益な取扱いを受けるおそれがある、内部通報では証拠隠滅のお
それがある、事業者から内部や行政に通報しないことを正当な理由がなく求められ
た、内部通報後 20 日以内に調査を行う旨の通知がない、人の生命・身体への危害
が発生する急迫した危険があるなど)を満たす必要がある。
法の保護要件を満たさない場合は、適切なアドバイスが必要である。なお法の保
護要件を満たす、満たさないに関わらず、労働組合として対応の必要性があれば、
すみやかに対処すべきことは言うまでもない。
また、この場合の事業者内部への通報内容については、可能な限り労使協議の中
で情報提供を受けて、状況を把握しておくことが好ましい。
(2)相談窓口としての役割
企業が相談窓口を設置するに当たり(通報窓口と一元化して設置する場合もあるが)、
通報しようとする労働者が、内容によってはその相談窓口に相談することを躊躇する
場合も考えられる。この場合、労働組合として、通報処理の仕組み等についての相談・
支援・アドバイス等を行う相談窓口としての機能も有することが好ましい(どこに通
報すべきか等)。
-3-
3.通報に関する労働組合の事例
以下のとおり、現時点での企業内組合(単組)の通報に関係する事例を紹介する。
なお、連合や産業別組織の一部は、(2.)の表のとおり、加盟組合に向けて指針等を
検討中である。
(1)A 労働組合(食品)
2002 年 8 月の不祥事発生以来、再発防止策の一つとして「企業倫理委員会」を設置
し、遵法意識の徹底をはかるとともに、より透明性の高いグループ経営を実現するた
めの提言等を行った。
「企業倫理委員会」のメンバーは大学教授を委員長とする社外の有識者 5 名と労働
組合委員長の計 6 名で構成。2002 年 8 月から 2004 年 7 月まで、計 17 回開催した(2004
年 7 月に当初の目的を達成したとして解散)。
当委員会は、コーポレートガバナンス、企業倫理研修、報告相談制度、監査、コン
プライアンス体制等、幅広い分野に関して、提言・助言・勧告を行い、企業風土の刷
新と経営改革の推進に尽力した。
また、企業倫理委員会とは別に「コンプライアンス委員会」(社外では社外取締役、
社外有識者、労働組合委員長もメンバーとして参画)も設置し、コンプライアンスの
徹底に向けて取り組んでいる。
なお、通報窓口としては、会社としては社内窓口、社外窓口(弁護士、専門会社)
等があり、労働組合としても相談窓口を設置している。
労働組合のスタンスとしては、遵法経営に向けたチェック機能強化とグループ従業
員の連携強化に重点をおいて取り組んでいる。
(2)B 労働組合(エネルギー)
2002 年 10 月に設置された「企業倫理委員会」に労働組合委員長が委員会メンバー
として参画し、
「企業倫理に関する行動基準」や、企業倫理に反する行為への処分対応
などに関わっている。
・
「企業倫理委員会」の委員としては、会長、社長、労働組合委員長、社外の有識
者数名、ほかに幹事・事務局として会社から数名が同席している。
・
その結果、
「企業倫理相談窓口」として社内窓口(総務部)と社外窓口(弁護士事
務所)の設置等に至った。相談者としては、グループ会社、委託会社、取引先等、
幅広く受け付けている。
(3)C 労働組合(エネルギー)
経営倫理委員会に労働組合委員長がオブザーバー委員として参画して、情報提供を
受けており、求められれば発言もしている。
基本的には経営側に運営を任せ、経営チェックのスタンスで臨んでいる。
-4-
(4)D 労働組合(食品)
D 労働組合は、D 社及びグループ会社での 2 度の不祥事を踏まえて、事業ごとの分
社化及びグループの再編となり、あらためて企業倫理徹底・強化に向けて労使で協議
し、さまざまな対策を講じてきた。
労働組合では、独自の品質チェック活動の展開、また、組合職場会議を活性化し、
職場の声をダイレクトに組合に吸い上げ、会社に対し提言を行ってきた。
会社では、取締役会の諮問機関として社内 3 名、社外有識者 5 名(現在は社内 4 名、
社外 6 名)で構成する「企業倫理委員会」を設置した。当委員会は、経営への提言・
勧告とその実施状況まで検証できる機能を有しており、うち社外 1 名は労働組合の推
薦者として意見反映している。
2003 年 2 月、新企業理念、ビジョン、行動基準を策定し、以降、
「企業倫理委員会」
委員と労働組合役員で年 1~2 回徹底した意見交換の場を設け、よい労使関係のもと
でよい会社になることを目指している。
なお、通報窓口は社内、社外に設けており、社外窓口はグループ会社からも受け付
けている。
(5)E 労働組合(食品)
E 社では、2004 年 1 月、従来設置されている社内ホットラインに加えて、新たに社
外ホットラインを設け、リスク管理委員会を中心とするコンプライアンス推進体制を
確立した。あわせて企業行動基準を改定し、コンプライアンス・ガイドラインを制定
し、全従業員に冊子として配布した。
企業行動基準はEグループ共通のもので、コンプライアンス・ガイドラインやホッ
トライン等のコンプライアンス推進体制は、グループ各社がそれぞれ制定している。
E労働組合は、リスク管理委員会の直接のメンバーではないが、適宜情報提供を受
けて、意見交換している。また組合員に関する就業規則違反については、労使で設け
ている賞罰委員会にて協議のうえ処分を決定している。基本的には側面からの経営チ
ェックのスタンスをとっている。
5.制度導入時の労働組合の対応
法施行に向けて、各会社で内部通報制度の構築・導入が進むと思われるが、労働組合
としては以下の点に留意して対応していくべきと考える。
なお、会社の内部通報体制が信頼性・実効性のないものであれば、外部通報につなが
ることとなる。外部通報には風評リスク等を有しており、会社の健全な発展を望む労働
組合にとっても好ましいとは言えない。よって、企業に対して信頼性・実効性ある体制
構築を求めるとともに、労働組合は経営のカウンターパートとしてチェック機能の強化
に努め、自律性をもって労使で解決を図っていくことを基本とすべきである。
-5-
・ 法施行(平成 16 年6月 18 日の公布から2年以内の政令で定める日)以前に発生
し
た事案でも、施行後に通報すれば保護の対象とされる。よって、すみやかに制度概要
の周知をはかるとともに、問題が発生した場合は状況を記録しておくなど的確に対処
しておく。
・
すでに内部通報体制が構築されている場合には、労使協議を通じて法に沿っている
か確認し、必要に応じて見直しを行うよう働きかける。
・
まだ内部通報体制が構築されていない場合には、労使協議を通じて法をミニマムと
したよりよい体制構築を早急に行うよう働きかける。
・
内部通報窓口をどこに指定するのか労使協議で確認し、通報のルールや運営方法に
ついても詳細に確認する。
・
とりわけ組合が会社から内部通報の窓口に指定された場合には、調査や是正措置等
のステップの詳細について、運営上のルールを明確にしておく。
・
相談窓口の設置についても、同様に確認する。
・
労働者の範囲についてはできる限りグループや取引先等まで広く対象とする。この
ことが、通報対象事実の発生や被害の拡大防止につながる。
・
個人情報保護が徹底されているか、常に留意する。
・
内部通報体制のルールについては、労働協約に盛り込む(モデル労働協約の策定に
向けて連合が検討中である)。
6.今後の課題(労働組合の立場からの制度提案)
・
施行後、5年を目途に見直しが行われるので、労働組合として問題点を整理してい
く必要がある。
・
とりわけ、衆議院と参議院両方の附帯決議にあるように、通報対象事実の範囲、外
部通報の要件及び外部通報先の範囲等については、施行される内容が適切かどうか検
証しながら、必要に応じてより実効ある制度に見直していくべきである。
・
通報をしたことにより解雇や不利益取扱いを受けた場合、立証責任は事実上、通報
者に課されているため、立証責任を転換させるような法律の内容に改めていくべきで
ある。
・ 現状、通報者に対する解雇や不利益取扱いを行った場合、会社に対する罰則がない。
この状況で、実効ある法の運用がなされるかどうか検証していく必要がある。
・
通報者が取引事業者の労働者だった場合、通報によって取引停止等優越的地位の濫
用の可能性があり、法の実効性を検証し、必要に応じて見直していくべきである。
以上、考えを述べたが、大前提としては良好な労使関係を目指し、労働者が働きやすいオ
-6-
ープンな企業風土や職場環境を構築していくことが重要である。そのことが不祥事を未然
に防止し、あるいは自律的に被害の拡大を防止することにつながっていくと考える。
また、日本の労働組合の組織率が 19.2%(2004 年)という状況では、労働組合のチェ
ック機能の実効性に限界があり、未組織労働者を組織化する一層の努力が求められる。
労働組合が公益通報者保護法の施行を前向きにとらえて、コンプライアンス経営の強化
による企業倫理の確立に向け、大きな役割を果たしていくことを期待したい。
-7-
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