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強酸性電解水常用による手洗いの除菌効果

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強酸性電解水常用による手洗いの除菌効果
373
強酸性電解水常用による手洗いの除菌効果
―石鹸流水法とアルコール擦式法との比較―
昭和大学藤が丘病院看護部1),臨床病理科2)
坂下聖加子1)
岩沢 篤郎2)
中村 良子2)
(平成 13 年 10 月 31 日受付)
(平成 14 年 2 月 19 日受理)
Key words:
hand-washing, strong acidic electrolyzed water
要
旨
集中治療センターにおいて,日常的手洗い法(石鹸流水法),衛生学的手洗い法(擦式アルコール製剤
を用いたラビング法)と強酸性電解水(流水下 15 秒)を日常業務中に常用使用し,その除菌効果をスタ
ンプ法で比較検討した.
日常業務中の看護婦手指における平均付着菌数は,強酸性電解水,ラビング法,石鹸流水法でそれぞ
れ 54±63,89±190,128±194 CFU!
agar plate(n=81)
であり,強酸性電解水が最も低値を示した.また,
ラビング法において Bacillus 属の検出される割合が他法と比べ有為(P<0.05)に高かった.
全身清拭,ガーゼ交換,排泄介助などケアにより付着菌数が異なり,全身清拭で多く付着した.ケア
後の手洗いで,手洗い前の菌数が 100CFU 以下の場合石鹸流水法の除菌率が悪かった.
以上の結果より,奨励される方法は,
!手が明らかに汚れている場合は,石鹸や消毒薬を使用したスクラブ法で手付着菌数を確実に少なく
する.
"菌数を減少させた後は,強酸性電解水の常用
#高度の清浄度を必要とするケア前および手洗い設備のない場所ではラビング法を使用する.
強酸性電解水を常用し,場合によりラビング法,石鹸流水法を使い分けることにより,手荒れ等の障
害の少ない手付着菌数の少ない状態を維持できると考えられた.
〔感染症誌
序
文
76:373∼377,2002〕
電解水は塩素殺菌を最大限に効率良く行うことが
強酸性電解水の殺菌因子は,食塩の電気分解に
できる殺菌水と考えられた5).
よって生じ る 次 亜 塩 素 酸(HOCl)の 作 用 で あ
強酸性電解水生成装置は,手指の洗浄用として
る1)2).この強酸性電解水の殺菌効果は幅広い菌種
薬事認可を受けているが,手洗い時間は流水下で
に対して即効的効果を示し3),細胞毒性試験結果
2 分間であり,有効的に使用されていないのが現
4)
は従来の市販消毒薬より低いこと ,希塩酸と希
状である.しかし,強酸性電解水の効果的使用に
水酸化ナトリウム,次亜塩素酸ナトリウムを用い
よって,消毒薬頻用使用の障害としての手荒れが
調整した擬似的酸性水を用いた検討から,強酸性
少なくなり,かつ手付着菌数を抑えることができ
別刷請求先:(〒227―8501)横浜市青葉区藤が丘 1―30
昭和大学藤が丘病院看護部 坂下聖加子
平成14年 5 月20日
れば交差感染防止上重要となる.そこで,集中治
療センターでの易感染症患者ケア時の手洗いにお
374
坂下聖加子 他
Table 1 The bacteria-number on a nurse-hand in routine work with various handwashing
method1)
number of
handwashing
number of
care3)
SAEW
(n=81)
19±4
8±4
rubbing
(n=81)
soap-tap water
(n=81)
17±6
6±3
89±190
17±6
7±3
128±194
method2)
1)Data
the bacteria number on a nurse-hand in routine work
total bacteria number
Bacillus sp. number
54±63
7±11
**
**
**
38±109
*
12±56
shown are mean± standard deviation.
2)SAEW
indicate strongly acidic electrolyzed water(pH2.7, Cl2 30 mg/L); rubbing, ethanol and 0.2 %
chlorobenzalkonium,; soap-tap water, soap and tap water.
3)Care indicate body-cleaning and gauze changing in intensive care unit.
*The
asterisk indicate p<0.05 ; ** , p<0.01
いて,日常的手洗い法としての石鹸流水法,衛生
レコーションに準じ適宜手洗いを行った.被験者
学的手洗い法として消毒薬を用いた方法を対照
は,業務中に決められた方法でのみ適宜手を洗い,
に,強酸性電解水による手洗いを,日常業務中に
手洗い前後関係なく毎正時ごと(9 時から 17 時の
行い,各法の利点・問題点を明確にし効果的な手
n=9)に Palm stamp check SCDLP 寒天培地(日
洗い方法を検討したので報告する.
研生物医学研究所)でサンプリングし,定法に従
材料と方法
い培養後コロニー数を計測し手付着菌数とした.
1)強酸性電解水と使用消毒薬
500CFU までは計測し,1,000CFU までを+,1,000
強酸性電解水はオキシライザー OXM-01A(三
CFU 以上を++とした.この 3 法による手洗い方
浦電子(株)
,pH 2.28±0.03,
酸化還元電位 1,123
法 の 比 較 検 討 は,被 験 者 3 人(1 人 あ た り n=
±2mV,塩素量 38±3mg!
L,オゾン量 0.07±0.01
9)
を,異なる日に 3 回繰り返し比較検討した(n=
mg!
L)を使用した.対照消毒薬としてウエルパ
81)
.
$
ス (丸石製薬)を用いた.また,固形石鹸(花王
ホワイト)は流水下で使用した.
4)ケアごとの付着菌数と除菌効果
頻度の高いケアとして全身清拭,環境整備,
カー
2)手洗い方法
ゼ交換,排泄介助(手袋着用)
,観察の 5 ケアを選
今回検討した手洗い方法は,次の 3 種類である.
択した.各ケアあたり被験者 6 人とし,ケア前後
! SAEW 法:強酸性電解水を入れた流水噴霧
の菌数,SAEW 法・ラビング法・石鹸流水法によ
式手洗い装置(500ml!
min.)で 15 秒間手全面を揉
る手洗い後の菌数を同様に測定し(5 ケア,被験者
み洗い後,ペーパータオルで水分を拭き取った.
6 人で n=30)
,このうち,無作為に取り出した一
"ラビング法:ウエルパス$ 3ml を手掌にとり
部(各手洗い方法あたり n=8)で菌の同定を行っ
約 30 秒完全に乾燥するまで両手全体に擦り込ん
だ.
た.
5)統計学的検定
#石鹸流水法:石鹸を手にとり 15 秒間泡立て
統計学的検定には,一元配置分散分析(One-way
ながら洗浄し,15 秒間水道水で洗い流し,ペー
ANOVA)
の後,Scheffe の F 検定を用いて多重比
パータオルで拭き取った.
較検定(多重 t 検定)を行い,危険率 5% 未満を
3)日常業務中の平均付着菌数の測定
もって有為差ありとした.その際,日常業務中の
被験者(各方法 3 名ずつ計 9 人)は,日常業務
平均付着菌数における+は 500,
++は 1,000 とし
の中で,指定された SAEW 法,スクラブ法,石鹸
た.
流水法による手洗い法を常用し,スタンダードプ
感染症学雑誌
第76巻
第5号
強酸性電解水手洗いの除菌効果
375
Table 2 The bacteria-number remaining after various care1)
care2)
before3)
after4)
the bacteria-number
absorbed by care5)
body-cleaning
18.3±32.8
136.1±87.9
117.8±90.8
environmental cleaning
gauze-changing
9.9±14.1
74.6±120.4
36.2±43.6
143.8±215.3
27.2±45.5
69.39±228.7
excreation-helping
6.4±15.1
28.5±33.2
22.1±24.7
inspection
8.3±12.3
56.1±56.4
47.7±57.1
The bacteria-number are estimated
1)colony counts
(mean±SD)on a palm.
2)care
is nurse’
s routine work for patient in ICU.
bacteria-number on a nurse’
s palm before the care.
4)the bacteria-number on a nurse’
s palm after the care.
5)the bacteria-number are calculated by subtraction 4)
―3).
3)the
結
果
1)日常業務中の平均付着菌数の比較
Table 3 The reduction rate of bacteria-number by
various handwashing method
日常業務中に SAEW 法,ラビング法,石鹸流水
法でのみ手洗いを行った際の,平均付着菌数を
reduction rate
(%)
The bacteria-number
before handwashing
SAEW
soap and
tap water
rubbing
Table 1 に示した.サンプリングした看護婦の業
>100 CFU
務内容によって手洗い回数,ケア回数は異なった
が,有為差は認められなかった.その際の日常業
>50 CFU
務中の平均付着菌数は, SAEW 法,ラビング法,
>20 CFU
石鹸流水法の順に少なかった.石鹸流水法は,
87.6±15.4 92.6±7.6 90.6±11.5
(n=9) (n=8) (n=6)
89.6±13.6 91.8±7.5 58.1±85.5
(n=12) (n=15) (n=12)
88.8±15.4 89.7±11.3 11.9±159.6
(n=19) (n=22) (n=19)
☆
SAEW 法,ラビング法と比べ,有為に付着菌数が
多く(P<0.05)
,Bacillus 属の付着菌数は,ラビン
☆
☆
: p<0.05
グ法が,SAEW 法,石鹸流水法と比べ有為に高
かった(P<0.05)
.
2)ケアごとの付着菌数と除菌効果
Table 2 に全身清拭,環境整備,ガーゼ交換,排
Table 4 The reduction rate of bacteria-number on
different group by various handwashing method
泄介助,観察と ICU 看護婦が頻回にケアをする 5
項目に関し,ケア前とケア後の付着菌数を示した.
reduction rate
(%)
bacteria
SAEW
rubbing soap and tap water
ケア後に付着する菌数は,ケアにより異なり全身
Gram-positive cocci
68.6
95.9
88.6
清拭で多く菌が付着した.
Gram-negative rods
Bacillus sp.
99.8
94.9
100
75.7
26.7
75.3
次に,SAEW 法,ラビング法,石鹸流水法にお
ける,手洗い前の菌数に対する除菌率を Table 3
The reduction rate indicate the rate of bacterial elimination
by the stamp method on routine nurse’
s work in ICU
に示した.手洗い前菌数が 100 CFU 以上の場合
は,3 法とも良好な除菌率を示したが,手洗い前の
菌数が少なくなるほど石鹸流水法での除菌率が有
Bacillus 属の除菌率が低く,手洗い後に検出され
為に悪化した(P<0.05)
.
た菌のうち 47.9% を占めていた. 石鹸流水法は,
Table 4 に Bacillus 属とグラム陽性菌,
グラム陰
性菌とに分け,除菌率を示した.SAEW 法はグラ
ム陽性菌の除菌率が他法より悪く,ラビング法は
平成14年 5 月20日
Bacillus 属,グラム陽性菌の除菌効果は示したが,
グラム陰性菌の除菌率は悪かった.
376
坂下聖加子 他
考
察
きな変動があり(Table 2)
,日常業務中の付着菌数
医療用具として薬事承認を受けた強酸性電解水
を少なく保つには,排泄介助で手袋を使用したこ
の使用方法は,流水下で 2 分間手指全面にかかる
とにより,手付着菌数が抑えられたことから,手
ように洗うこととなっている.この 2 分間の手洗
袋の着用も効果的であるとともに,適切な手洗い
い時間は,乙黒ら6),粕田ら7)の報告にもあるよう
を絶えず行う必要があると考えられた.しかし,
に,ラビング法と同等の除菌効果を呈するために
消毒薬を使用した手洗いでは,手あれ・刺激性・
は,SAEW 法の手洗い時間は,90 秒以上に起因す
乾燥感などがみられ,ラビング法では,一般細菌
る.しかし,日常業務中に絶えず 90 秒の手洗いは
に対しては優れた殺菌効果を有するものの,Bacil-
困難である.そこで,現実的な手洗い時間 15 秒を
lus 属が残り,流水洗浄の必要性が示唆された.ス
常用することによる除菌効果を,石鹸流水法及び,
クラブ法でのビグアナイド系消毒薬の使用は,ラ
ラビング法と比較検討した.
ビング法では難しい Bacillus 属も除去でき,誰も
その結果,日常業務中における手付着菌数の比
が高い除菌率を得ることができると考えられる
較結果(Table 1)より,SAEW 法常用の利点が多
が,消毒薬常用による手荒れや環境汚染の問題は
く認められた.
無視できない.
SAEW 法 と 石 鹸 流 水 法 と の 比 較 に お い て,
強酸性電解水は,手の汚染度,必要とされる清
SAEW 法は 15 秒の手洗い時間で除菌効果は良
浄度などにより,その使用条件を変えることで,
く,簡便に短時間ですむ利点があった.石鹸流水
日常的手洗いから衛生学的手洗いまで使用可能で
法は,手荒れの障害はないが,30 秒は意識しない
ある.また,強酸性電解水の常用使用で従来の消
と守れない時間であり,緊急のケアには対応でき
毒薬の効果的な使用が可能になったと考えられ
ないという問題点も有している.さらに,Table 3
る.つまり,手が明らかに汚れている場合は,石
に示すように,100CFU 以上の付着では除菌率は
鹸流水で落とす.または,ケアにより,消毒薬を
良いが,手付着菌数が少ないと除菌率は悪く,手
用いたスクラブ法で手を洗う.一度手の菌数を落
洗い後に菌数の増加がみられる危険性を有してい
とした後は,強酸性電解水の常用で付着菌数を少
る.
なく保つことが可能である.そして,ラビング製
SAEW 法とラビング法の比較においては,日常
剤は,高度の清浄度を必要とするケアの前,手洗
業務中の平均付着菌数が SAEW 法の方が少な
い設備のない場所においての使用に限定すること
かったのは,ラビング法における Bacillus 属の残
によって,手荒れの障害が少なく,効果的に使用
存が原因と考えられた.本検討中,業務開始前に
できるものと考えた.
付着していた Bacillus 属がラビング法で手全面に
以上のことから,手荒れが少なく,簡便で手付
広がり,17 時の業務終了時まで除去できなかった
着菌数が絶えず少ない状態を維持できる手洗い法
1 例をはじめ,SAEW 法,石鹸流水法よりも多く
は,限定した消毒薬の使用と強酸性電解水の効果
検出された.菌の同定結果(Table 4)からも,Ba-
的な常用使用により確立できると考えられた.
cillus 属は,残存菌の約半数を占めていた.した
本研究の一部は,厚生科学研究補助金
酸性電解水を用
がって,ラビング法は Bacillus 属以外に対しては
い た 新 興・再 興 感 染 症 対 策―院 内 感 染・食 中 毒 対 策 マ
優れた殺菌効果を示すものの,定期的な流水洗浄
ニュアルの作成―および,新興・再興感染症研究事業「我
が必要と考えられた.また,ラビング法 9 人のう
が国における施設内感染等のあり方に関する研究」
で行った.
ち 3 人で手荒れがみられた.したがって,ラビン
グ法は Bacillus 属を除くと優れた除菌効果を呈す
るため,高度の清浄度を求めるケアの前の使用に
限定すべきと考えられた.
文
献
1)野村浩康,香田 忍,米森重明,下平哲司,三宅
晴久,西本右子:強酸性電解水の物理化学と殺菌
作用.日本手術医学会誌 1998;19:11―9.
2) Shunji Nakagawara , Takeshi Goto , Masayuki
看護婦のケアの種類によって手指付着菌数は大
感染症学雑誌
第76巻
第5号
強酸性電解水手洗いの除菌効果
Nara , Youichi Ozawa , Kunimoto Hotta , Yoji
Arata : Spectroscopic characterization and the
pH dependence of bactericidal activity of the
aqueous chlorine solution . Analytical Sciences
1998;14:691―698.
3)岩沢篤郎,中村良子,水野徳次:臨床分離株に対
するアクア酸化水の効果.環境感染 1993;8:
11―6.
4)岩沢篤郎,中村良子:アクア酸化水の培養細胞に
対する影響.環境感染 1994;9:12―8.
5)岩沢篤郎,中村良子:酸性電解水と疑似的酸性水
377
との殺菌効果の比較検討.感染症誌 1996;70:
915―22.
6)乙黒一彦,鈴木英世,秋丸洋子,飯島 肇,矢島
洋一,上馬場和夫,他:グロープジュース法によ
る 2 種の酸性電解生成水溶液の手指消毒効果に
ついて.環境感染 1996;11(2):117―22.
7)粕田晴之,福田博一,池野重雄,清水禮壽,林
和:衛生学的手洗い法における擦式アルコール
消 毒 薬 と 電 解 酸 性 水 の 比 較 検 討.環 境 感 染
1997;12(2)
:103―8.
Antimicrobial Effects and Efficacy on Habitually Hand-washing of Strong Acidic
Electrolyzed Water―A Comparative Study of Alcoholic
Antiseptics and Soap and Tap Water―
Mikako SAKASHITA1), Atsuo IWASAWA2)& Yoshiko NAKAMURA2)
1)
Department of Nursing and 2)Department of Clinical Pathology Showa University Fujigaoka Hospital
The rate of bacterial elimination for the stamp method was compared with regular handwashing(using soap and tap water)
, hygienic hand-washing(using alcoholic antiseptics)
, and handwashing using strong acidic electrolyzed water(the SAEW method)in routine work.
After routine work, the average number of bacteria remaining on the nurse’
s hands with using
the SAEW-method, rubbing method and tap water method, were:54±63, 89±190, 128±194 CFU!
agar plate, respectively(n=81)
. In this study, It was clarified that a much larger number of Bacillus
sp. were detected for the rubbing method than for the other methods.
After further nurse work, the most number of absorbed bacteria on a nurse’
s hands were
counted after cleaning a patient’
s body.
The rate of bacteria elimination for hand-washing with soap and tap water after taking care of a
patient was insufficient, especially when before care was provided the number of bacteria on the
nurse’
s hands were less than 100 CFU!
agar plate.
From these results, the following manual for sanitary hand washing is recommended:
!At first, dirty hands should be cleaned and the number of bacteria should be reduced using
soap and tap water or by scrubbing with disinfectants.
"After the number of bacteria has been reduced, use the SAEW method routinely.
#For care requiring a high level of cleanliness or if no tap water facilities are available, use the
rubbing method.
Finally, routine use of the SAEW method in ICU could be recommended with conventional disinfectants and soap and tap water on a case by case basis for less than adverse reactions, such as in the
case of rough-hands or keeping a low level of bacteria on hands.
平成14年 5 月20日
Fly UP