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第5章 - 総務省消防庁
第 5章 国際的課題への対応 第 5章 国際的課題への対応 消防の救助隊員が参加しており、我が国消防が、 [国際緊急援助] 1 培ってきた高度な救助技術と能力を被災地で発揮 し、国際緊急援助に貢献している。 設立の経緯 昭和 60 年(1985 年)11 月 14 日に発生したコロ 2 ンビア共和国のネバド・デル・ルイス火山の噴火に 派遣体制 「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」に基づき、 よる泥流災害で、死者 23,000 名、負傷者 5,000 名、 家屋損壊 5,000 棟に上る被害が発生したことに伴 海外における大規模災害発生時に、被災国政府等か い、外務省から消防庁に対して同国政府の援助要請 らの要請に応じて我が国が実施する国際緊急援助の がある場合の救助隊の派遣について意向打診があ 概要と救助チーム等の派遣の流れは、第 5 − 1 図及 り、消防庁は、これに積極的に協力することとして び第 5 − 2 図のとおりである。 準備を進めた。結果的に、コロンビア共和国政府か 消防庁は、外務省からの派遣協力に関する協議に らの救助隊派遣要請はなかったが、消防庁は、国際 基づき、消防庁職員に国際緊急援助活動を行わせる 協力の一環としてこうした活動に積極的に対応する とともに、消防庁の要請を受けた消防本部は、その こととし、昭和 61年(1986 年)に国際消防救助隊 消防機関の職員に国際緊急援助活動を行わせること ができることとなっている。 (International Rescue Team of Japanese Fire- また、国際緊急援助活動の協力要請に速やかに対 Service:略称 “IRT-JF”:愛称 “ 愛ある手 ”)を整備し、 昭和 61 年 8 月に、カメルーン共和国の有毒ガス噴 応するため、77 消防本部に所属する救助隊員 599 出災害に対して初めての国際消防救助隊を派遣し 人(平成 23 年 10 月 31 日現在)を消防庁に登録す た。 また、このような動きと相前後して、政府は外務 第 5 - 1 図 国際緊急援助の概要 国 際 緊 急 援 助 人的援助 国際緊急 援助隊 消防庁又は消防本部 警察庁 海上保安庁 医療チーム 医師・看護師等により編成 専門家チーム 物的援助 資金援助 270 救助チーム 自衛隊部隊 消防庁又は消防本部 災害応急対策・災害復旧 技術支援等 登 録 消 防 本 部 JICA れることとなった。以来、同チームの全ての派遣に ③派遣要請 派遣命令 省 国際緊急援助隊の救助チーム等の一員として派遣さ ①援助要請 庁 法律施行後、国際消防救助隊は、同法律に基づく 務 律」が公布、施行された。 ②協 議 防 年)9 月 16 日、「国際緊急援助隊の派遣に関する法 消 際緊急援助体制の整備を進め、昭和 62 年(1987 派遣までの流れ 外 被災国又は国際機関 省を中心に、海外で大規模災害が発生した場合の国 第 5 - 2 図 第Ⅱ部 消防を取り巻く現状と課題について るなどの即応体制がとられている。 平成 23 年には、外国での救助活動に関する国際 隊の派遣に関する法律」施行前の 2 回を含めこれま でに 18 回の実績がある(第 5 − 1 表) 。 的な指針(IEC * 1)を踏まえ、海外での救助活動を 平成 20 年 5 月に発生した中国四川省における大 行う上で国際消防救助隊員が身に付けておくべき知 地震災害においては、国際緊急援助隊救助チーム 識、技術を教育し、また、登録隊員が一丸となった 61 名(うち消防救助隊員 17 名)が派遣され、都市 即応体制の強化を図るため、消防庁は、全国を 3 ブ 型災害救助技術を発揮して、学校、寄宿舎等の建物 ロックに分け国際消防救助隊の実戦的訓練を実施す 倒壊現場で救助活動を行った。残念ながら生存者の る。 救出には至らなかったものの、救助隊員の勤勉かつ 真摯な救助の姿勢には、同年来日した胡錦濤中国国 実施場所及び実施期間 1 大阪会場 平成 23 年 10 月 18 日(火)から 21 日(金) 3 東京会場 平成 23 年 12 月 2 日(金)から 5 ラ州パダン沖地震災害においては、国際緊急援助隊 救助チーム 65 名(うち消防救助隊員 17 名)を他の 救援国に先駆けていち早く被災地に派遣し、最大の 被災地となったパダン市街のホテル・市場等の建物 施設倒壊現場において捜索活動を行った。 3 派遣実績 消防救助隊員の海外災害派遣は、「国際緊急援助 救出した母子に対して黙祷を捧げる救助隊員 (平成 20 年 5 月中国四川省における大地震災害) 平成 23 年 2 月に発生したニュージーランド南島 地震災害においては、第 1 陣から第 3 陣まで消防救 助隊員 33 名を派遣した。詳細は次のとおりである。 パダン市街地における懸命の捜索活動 (平成 21 年 10 月インドネシア西スマトラ州における大地震災害) * 1 IEC:INSARAG(国連国際捜索救助諮問グループ)が設けている救助能力の分類基準で、外国での災害救助に派遣される各国 の救助チームの活動を調整し、円滑な連携を図るための指針となるもの。具体的には、各国救助チームの能力(チーム体制、 訓練体制、携行資機材のレベル、隊員の活動能力等)に応じて軽(Light) ・中(Medium) ・重(Heavy)の 3 段階に格付け される。 日本の国際緊急援助隊救助チームは、平成 22 年 3 月に重(Heavy)に認定されている。 271 5 国際的課題への対応 日(月) 平成 21 年 9 月に発生したインドネシア西スマト 章 11 日(金) 大きな賞賛が寄せられた。 第 2 福 岡 会 場 平 成 23 年 11 月 8 日( 火 ) か ら 家主席からも直接謝意を表されるなど中国側からも 第 5 − 1 表 派遣年月日 消防救助隊員の派遣状況 災害名 被災地 被害状況 消防としての派遣実績、活動概要等 1 昭 61.8.27〜9.6 (11 日間) ニオス湖 有毒ガス噴出災害 カメルーン共和国 ニオス湖周辺 死者 1,700 名以上 救助隊員 1 名(東京消防庁) 有毒ガスの再噴出に備え、調査団に対する呼吸保護具 の指導 2 昭 61.10.11〜10.20 (10 日間) エル・サルバドル 地震災害 エル・サルバドル共和国 サンサルバドル市 死者 1,226 名 倒壊家屋 3 万戸 救助隊員等 9 名(東京消防庁 5 名、横浜市消防局 3 名、消 防庁 1 名) 倒壊ビルからの救助 3 平 2.6.22〜7.2 (11 日間) イラン地震災害 イランイスラム共和国 カスピ海沿岸 死者 80,000 名以上 救助隊員 6 名(東京消防庁 5 名、消防庁 1 名) 倒壊家屋からの救助 4 平 2.7.18〜7.26 (9 日間) フィリピン地震 災害 フィリピン共和国 ルソン島北部 死者 1,600 名以上 救助隊員 11 名(東京消防庁 2 名、名古屋市消防局 4 名、 広島市消防局 4 名、消防庁 1 名) 倒壊ビルからの救助 5 平 3.5.15〜6.6 (23 日間) バングラデシュ サイクロン災害 バングラデシュ 人民共和国 死者 約 13 万名 救助隊員 38 名(東京消防庁 17 名、大阪市消防局 11 名、 川崎市消防局 4 名、神戸市消防局 4 名、消防庁 2 名)及び ヘリコプター2 機 被災民への救援物資の輸送等を実施 6 平 5.12.13〜12.20 (8 日間) マレイシア ビル倒壊被害 マレイシア クアラルンプール郊外 ウルクラン地区 死者 48 名 倒壊ビル 1棟 救助隊員 11 名(東京消防庁 6 名、名古屋市消防局 2 名、 北九州市消防局 2 名、消防庁 1 名) 倒壊ビルからの救助 エジプト ビル崩壊被害 エジプト・アラブ共和国 カイロ郊外 ヘリオポリス 死者 64 名 崩壊ビル 1棟 救助隊員 9 名(東京消防庁 3 名、札幌市消防局 2 名、大阪 市消防局 2 名、松戸市消防局 1 名、消防庁 1 名) 崩壊ビルからの救助 平 8.10.30〜11.6 7 (8 日間) 焼失面積 1 万 8 千 ha (ランプン州内) 救助隊員 30 名(東京消防庁 19 名、名古屋市消防局 5 名、 大阪市消防局 3 名、横浜市消防局 2 名、消防庁 1 名)及び ヘリコプター2 機 火災地点の上空からの情報収集、消火活動の助言 8 平 9.10.22〜11.11 (21 日間) インドネシア 森林火災 インドネシア共和国 ランプン州 9 平 11.1.24〜2.4 (12 日間) コロンビア 地震災害 コロンビア共和国 アルメニア市周辺 死者 約 1,171 名 負傷者 約 4,765 名 救助隊員 15 名(東京消防庁 8 名、大阪市消防局 2 名、千 葉市消防局 2 名、船橋市消防局 2 名、消防庁 1 名) 倒壊ビルからの救助 平 11.8.17〜8.24 (8 日間) トルコ地震災害 トルコ共和国 ヤロヴァ地区周辺 死者 約 15,370 名 負傷者 約 23,954 名 救助隊員 25 名(東京消防庁 12 名、川崎市消防局 4 名、神 戸市消防局 4 名、市川市消防局 2 名、尼崎市消防局 2 名、 消防庁 1 名) 倒壊ビルからの救助 救助隊員 46 名(東京消防庁 18 名、仙台市消防局 4 名、千 葉市消防局 3 名、京都市消防局 4 名及び川口市、松戸市、 新潟市、岡山市、倉敷市、佐世保市、鹿児島市消防局から 各 2 名、消防庁 3 名) 倒壊建物からの救助 10 平 11.9.21〜9.28 11 (8 日間) 台湾地震災害 台湾中部 死者 約 2,333 名 負傷者 10,002 名 平 15.5.22〜5.29 12 (8 日間) アルジェリア 地震災害 アルジェリア 民主人民共和国 ブーメルデス県周辺 死者 2,266 名 負傷者 10,000 名以上 救助隊 17 名(東京消防庁 8 名、京都市消防局、仙台市消 防局、川口市消防本部、朝霞地区一部事務組合埼玉県南 西部消防本部から各 2 名、消防庁 1 名) 倒壊建物からの救助 モロッコ地震災害 モロッコ王国 アルホセイマ周辺 死者 564 名以上 負傷者 約 300 名以上 救助隊員 7 名(東京消防庁 4 名、千葉市消防局 1 名、京都 市消防局 1 名、消防庁 1 名) 現地被害状況の調査、救助資機材取扱いに関する技術 供与等を実施 13 平 16.2.25〜3.1 (6 日間) 14 平 16.12.29〜17.1.20 スマトラ沖大地震・ (23 日間) インド洋津波災害 タイ王国 プーケット周辺 死者 16 万人以上 救助隊員 46 名(東京消防庁 23 名、大阪市消防局 15 名、 千葉市消防局 2 名、横浜市消防局 1 名、相模原市消防本 部 1 名、川越地区消防組合消防本部 1 名、消防庁 3 名)及 びヘリコプター2 機 捜索救助活動、人員・物資搬送、捜索技術指導等を実施 15 平 17.10.9〜17.10.18 パキスタン・イスラム (10 日間) 共和国地震災害 パキスタン・イスラム 共和国 バトグラム周辺 死者 7 万 3,320 名 負傷者 12 万 8,378 名 救助隊員 13 名(東京消防庁 6 名、横浜市消防局 3 名、船 橋市消防局 2 名、茨城西南地方広域市町村圏事務組合消 防本部 1 名、消防庁 1 名) 倒壊建物からの救助 16 平 20.5.15〜20.5.21 (7 日間) 中国四川省における 地震災害 中華人民共和国四川省 広元市周辺 死者 6 万 9,130 名 負傷者 37 万 4,031 名 救助隊員 17 名(東京消防庁 6 名、川崎市消防局 3 名、名 古屋市消防局 3 名、市川市消防局 2 名、藤沢市消防本部 2 名、消防庁 1 名) 建物倒壊現場からの遭難者救助 17 平 21.10.1〜21.10.8 (8 日間) インドネシア 西スマトラ州 パダン沖地震災害 インドネシア共和国 パダン市周辺 死者 1,117 名 負傷者約 2,900 名 救助隊員 17 名(東京消防庁 6 名、札幌市消防局 3 名、福 岡市消防局 3 名、さいたま市消防局 2 名、横須賀市消防 本部 2 名、消防庁 1 名) 建物倒壊現場での遭難者救助ほか 18 平 23.2.23〜23.3.12 (18 日間) ニュージーランド南島 ニュージーランド 地震災害 クライストチャーチ市 死者 181 名 負傷者 約 2,000 名 救助隊員 33 名(東京消防庁 16 名、京都市消防局 3 名、千 葉市消防局 3 名、相模原市消防局 2 名、高松市消防本部 2 名、新潟市消防局 2 名、福岡市消防局 2 名、消防庁 3 名) 建物倒壊現場での遭難者救助ほか ※第 1 回及び第 2 回の派遣は、 「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」の施行前であり、消防庁単独での派遣である。 272 第Ⅱ部 消防を取り巻く現状と課題について [ニュージーランド南島地震災害 に対する派遣の活動概要] 1 地震の概要 動を捜索救助から遺体発見・収容に移行することが 発表された。 CTV ビルでの捜索活動は終了していたものの、 ニュージーランド側から高い技術を持った日本隊に よる支援継続が期待されたことから、第 3 陣(消防 平 成 23 年 2 月 22 日( 火 )8 時 51 分( 現 地 時 間 庁職員 1 名、東京消防庁及び福岡市の救助隊員 7 名 12 時 51 分)、クライストチャーチ市南南東約 6km を含む総勢 30 名)は 3 月 5 日に成田空港を出発し、 ( 震 源 の 深 さ は、 約 5km) を 震 源 と す る マ グ ニ 翌 8 日から 10 日まで、クライストチャーチ市内外 チュード 6.3 の地震が発生した。 8 か所の現場において解体前の被災建物内の人命検 索、貴重品の捜索・搬出を実施した。その後 CTV 2 活動概要 翌 12 日に帰国の途につき、第 1 陣から第 3 陣まで 第 ニュージーランド政府からの援助要請に先駆け、 ビルと付近の最終捜索、BoO の撤収作業等を行い、 の総勢 33 名による活動を終了することとなった。 緊急調査チーム 3 名(外務省、東京消防庁、JICA) 3 今回の活動の特徴等 から我が国に対して正式に援助要請があり、これを 18 回目となる国際消防救助隊の派遣の中で、今 受け 19 時に国際緊急援助隊救助チームの派遣が決 回が初めてとなることや特徴的なことをいくつか挙 定され、第 1 陣として消防庁職員 1 名及び登録消防 げる。 本部(東京消防庁、千葉市、相模原市、京都市、高 松市)の救助隊員 15 名を含む総勢 63 人が、翌 23 日午後の政府専用機にて現地へ向けて出発した。 2 月 24 日未明にクライストチャーチ空港に到着 した第 1 陣は、先発の緊急調査チームと合流し、各 国救助隊が活動拠点を置くラティミアスクエアに到 1 点目は、先進国からの救助隊の派遣要請であっ たこと。 2 点目は、ニュージーランドからの援助要請に先 駆け、緊急調査チームを派遣したこと。 3 点目は、政府専用機による第 1 陣の早期の投入 により早期に現地到着し活動が開始できたこと。 着、活動場所である CTV ビル倒壊現場の確認、活 4 点目は、第 2、第 3 陣を派遣したこと。 動拠点(BoO)の設営、救助活動の準備を行い、 5 点目は、INSARAG(国際捜索救助諮問グループ) 24 日 11 時から救助活動を開始した。救助活動は、 ヘビー級認定後、初の救助チームの派遣であったこ 27 日 20 時まで 24 時間体制で実施、3 月 1 日に活動 と。 を終了した。第 2 陣(消防庁職員 1 名、東京消防庁 このような中、現地では余震や雨、倒壊後の火災 及び新潟市の救助隊員 7 名を含む総勢 32 人)は、2 の影響もあり困難な状況であったが、国際緊急援助 月 28 日に成田空港を出発し、現地で第 1 陣からの 隊救助チームに参加した消防救助隊員は、その持て 引き継ぎを受け、2 日早朝から CTV ビル現場での活 る技術、強い使命感により捜索活動を展開した。 動を開始し、捜索活動を 5 日まで継続、翌 6 日に、 残念ながら全活動を通じて生存者の発見救出には CTV ビル現場にて黙祷式を実施後、近隣街区の被災 至らなかったが、その活動ぶりには現地の政府機 状況確認等を行い活動を終了した。なお、3 日午後 関、関係機関や邦人被災者家族等から高い評価、感 には、ニュージーランド政府から被災地における活 謝の意が寄せられた。 273 国際的課題への対応 発した。同日 18 時 10 分にはニュージーランド政府 章 の派遣が決定され、2 月 22 日 19 時に成田空港を出 5 CTV ビルにおける検索活動 CTV ビルでの活動を終了し、黙祷を行う救助隊員 [国際協力・国際交流] 1 開発途上諸国等に対する国際 協力 (1) アジア国際消防防災フォーラムの開催 近年アジア諸国では、経済発展・都市化などが進 む中、人命・財産や都市インフラ、各種施設等を火 災や自然災害から守るべき消防防災体制を拡充する 重機と連携した瓦礫除去・検索活動 クライストチャーチ市外の博物館においての収蔵品回収作業 研修」 (下記参照)を実施しているが、第 5 回目と なる今回のフォーラムでは、過去に我が国に研修生 を派遣したアジア各国の幹部職員を日本に招へい し、訪日研修成果の検証及び今後の訪日研修のあり 方等について議論を行った。また、3 月に発生した 東日本大震災での我が国の消防組織の活動について 情報共有を図った。 (2) 開発途上諸国からの研修員受入れ ア 課題別研修等の実施 必要性が高まりつつあり、人命救助や消火、火災予 消防庁では、JICA と連携・協力し、開発途上諸 防の技術や体制に関して、我が国消防に対する期待 国の消防防災機関職員を対象に救急救助技術研修、 も大きい。このようなことを踏まえ、主としてアジ 消火技術研修及び火災予防技術研修の 3 コースの集 ア圏内各国を対象に、対象国の状況に応じて、対象 団研修を、地方自治体消防本部の協力の下で実施し 国の消防防災能力の向上に資するため、我が国の消 ている。 防技術・制度・体制等を当該国で広く紹介する国際 救急救助技術研修は昭和 62 年(1987 年)度か 消防防災フォーラムを開催している。また、これを ら、消火技術研修は昭和 63 年(1988 年)度から、 通じて、各国消防防災部局との信頼関係を構築し、 火災予防技術研修は平成 2 年(1990 年)度から実 不測の災害救援にも備えるものである。 施しており、平成 23 年度は、救急救助技術研修に 平成 23 年度は 10 月に東京において開催された。 ついては大阪市消防局において 8 か国から 10 人(累 消防庁では、従来から JICA と連携して、消防技術 計 210 人) 、消火技術研修については北九州市消防 を各国内で普及させることを目的として、「課題別 局において 5 か国から 7 人(累計 207 人)の研修員 274 第Ⅱ部 消防を取り巻く現状と課題について を受け入れ、約 2 か月間に及ぶ研修を実施した。 また、地域別研修として、平成 21 年度から 3 か 年度の予定でベトナムの消防大学校教官を研修員と して迎え、「消防活動指揮技術研修」を実施してい る。 緊急救援隊向け指導者に対する救助技術の強化、災 害応急対応担当幹部職員に対する同対応能力強化の 2 本の柱で構成されている。 本年度は、昨年度に引き続き、中国側関係者の訪 日研修を実施するとともに、東京消防庁及び政令市 本研修においては、我が国が現在運用している最 消防本部の救助隊員が長期及び短期専門家として中 新の消防・救助技術について、ベトナムで指導的立 国に滞在し、現地の救助技術の指導にあたってい 場にある職員に研修を実施することにより、我が国 る。また、我が国の災害応急対処に関わる行政官や の消防・救助技術のベトナムへの移転、さらには、 研究者が短期専門家として現地の訓練センター教官 移転される技術のベトナム国内への普及伝播が達成 の指導にあたっている。 されることを期するものである。最終年となる平成 23 年度は、8 月末から約 2 週間、東京消防庁、横浜 5 (1) 日韓消防交流の推進 消防庁では、平成 14 年の日韓共同開催による 消防庁では、上記集団研修・国別研修のほかに サッカーワールドカップ大会、 「日韓国民交流年」 も、開発途上諸国を中心として各国からの情報提 を契機として、日韓消防の交流・連携・協力の推進 供、視察等の要望に随時対応している。各国大使 を目的に、日韓消防行政セミナーを開催している。 館、JICA、財団法人自治体国際化協会等の協力依頼 平成 23 年 3 月には、第 9 回の日韓消防行政セミナー に基づき、各国からの消防防災、危機管理分野等の が日本で開催され、近時の両国の消防防災に関する 関係者の使節を受け入れ、それぞれのニーズに合わ 取組のうち、両国の救助体制・活動に係る現状と課 せて情報提供等を実施している。 題について発表と意見交換を行った。 (3) トップマネージャーセミナーの実施 (2) 日中消防防災セミナーの開催 JICA との連携・協力の下、消防庁では、消防防 消防庁では、平成 20 年 5 月に発生した中国四川 災分野の国際交流を図ることを目的として、平成 大震災への救援を端緒として、中国との協同によ 10 年(1998 年)度から、各国消防行政に携わる幹 り、平成 21 年度から日中消防防災セミナーを実施 部職員を日本へ招いて意見交換等を行う、トップマ している。 ネージャーセミナーを実施している。平成 23 年 2 これは、両国の消防防災分野における重要課題に 月には、アルメニア共和国救助庁の幹部職員 4 名が ついての継続的な交流・協議の場を設置し、震災対 来日し、消防大学校、消防研究センター、東京消防 応の検証、技術的・専門的な課題についての情報共 庁、仙台市消防局及び宮城県消防学校を視察し、講 有などを行うことにより、両国の今後の効果的な激 義を受けるとともに消防活動訓練に参加するなどの 甚災害対応及び広域的な緊急援助のあり方などを討 研修を行った。 議することを目的としている。 (4) 日中協力地震緊急救援能力強化計画プ ロジェクト 平成 20 年 5 月の中国四川省大地震後、中国全土 の地震緊急救援を担う中国地震局の研修実施能力強 平成 22 年 3 月に第 1 回日中消防防災セミナーが 日本で開催され、引き続き、両国の消防防災の課題 等について情報共有、意見交換等を積極的に行うこ とにより両国の信頼関係を構築し、連携・協力の推 進を図っていくこととされた。 化のため、消防庁は、JICA との連携・協力の下、 平成 22 年度から 3 年間の予定で本プロジェクトを 実施している。 本プロジェクトは、中国の各省政府に属する地震 275 国際的課題への対応 イ 各国への情報提供等 国際交流 章 得て、消防活動指揮技術の研修を実施した。 2 第 市消防局、川崎市消防局及び福岡市消防局の指導を [基準・認証制度の国際化への対応] 1 消防用機械器具等の国際規格 の現況 [地球環境の保全(ハロン消火剤 等の使用抑制)] 1 人、物、情報等の国際交流を進めていくには、国 ハロン消火剤等の使用抑制に ついて 又は地域により異なる技術規格を統一していく必要 地球環境の保全のため、消防法令により設置・維 がある。このため、ISO(国際標準化機構) 、IEC 持が義務付けられている消防用設備等についても、 (国際電気標準会議)等の国際標準化機関では、国 その環境に及ぼす影響をできるだけ少なくするため 際交流の促進を技術面から支える国際規格の作成を に、リサイクル等の省資源対策や省エネルギー対策 行っている。 等の取組が求められている。 消防用機械器具等の分野については、ISO/TC21 *2 ハロン消火剤* 3(ハロン 2402、1211 及び 1301) において国際規格の策定作業が行われており、我が は、消火性能に優れた安全な消火剤として、建築 国としても積極的に活動に参加している。 物、危険物施設、船舶、航空機等に設置される消火 な お、ISO/TC21 の 活 動 に よ り、 平 成 23 年 3 月 31 日現在、80 の規格が国際規格として定められて いるとともに、ISO/TC94/SC14 *2 においても 5 つ の規格が国際規格として定められている。 設備・機器等に幅広く用いられている(平成 23 年 3 月現在、約 1 万 6 千トン) 。 しかしながら、ハロンはオゾン層を破壊する物質 であることから、オゾン層の保護のためのウィーン 条約に基づき、モントリオール議定書において、平 2 規格の国際化への対応 成 6 年(1994 年)1 月 1 日以降の生産等が全廃さ れることとなり、ハロン消火剤の回収・リサイクル WTO(世界貿易機関)等における非関税障壁低 によりハロン消火剤のみだりな放出を抑制する取組 減に関する包括的な取組の中で、平成 7 年 1 月に や、ハロン代替消火剤の開発・設置等が必要となっ WTO/TBT 協定(貿易の技術的障害に関する協定) た。 が発効され、WTO 加盟国は原則として、国際規格 消防庁では、平成 2 年からハロン消火剤の放出抑 に 基 づ い た 規 制 を す る こ と と さ れ た。 我 が 国 は 制等に関する取組を推進しており、これを受けて、 ISO/TC21 に初期から参加し、国際規格の策定に積 特定非営利活動法人消防環境ネットワーク* 4 を中 極的に貢献している。 心とした、社団法人日本消火装置工業会や消防機関 今後も、ISO 規格を通して技術の交流を円滑にし、 消防器具の技術発展を促すために、各国との連携を 図りつつ、引き続き ISO 規格策定に参画していくこ とが必要である。 等の国内関係者の継続的な取組により、世界でも例 のない厳格な管理体制が整備されている。 また、第 10 回モントリオール議定書締約国会合 における決議を踏まえ、これまでのハロン排出抑制 等の取組等を勘案して、日本全体として「国家ハロ ンマネジメント戦略」が策定され、平成 12 年 7 月 末に国連環境計画(UNEP)に提出されている。 これらの取組により、クリティカルユース * 5 の ハロン消火剤を適切な管理の下に使用していくとと もに、回収・リサイクルを推進することにより、建 * 2 ISO/TC21、ISO/TC94/SC14:TC(Technical Committee)とは ISO の専門委員会を示す。TC21 は消防器具の専門委員会で あり、消火器や感知器等の国際規格について審議している。また、TC94 は個人用安全防護衣及び保護具の専門委員会であ り、SC14 はその分科会として消防隊員用個人防護装備の国際規格について審議している。 * 3 ハロン消火剤:ハロゲン化物消火剤のうち、フロンの一種で臭素を含有する物質を消火剤とするもの。 * 4 特定非営利活動法人消防環境ネットワーク:ハロン消火剤の回収や再利用のため、ハロン消火剤を使用するガス系消火設備 等のデータベースを作成・管理する団体として平成 18 年 1 月に業務開始。 「ハロンバンク推進協議会」 (平成 5 年 7 月設立) の業務を継承。 * 5 クリティカルユース(Critical Use):美術館、電気室等で他の消火薬剤では代替することができない必要不可欠な部分にお ける使用をいう。 276 第Ⅱ部 消防を取り巻く現状と課題について 築物等の防火安全性を確保しつつ、不要な放出を抑 いられている消火設備である。しかしながら、一部 えていくこととしている。 の泡消火薬剤に用いられている有機フッ素化合物の 一方、ハロン代替消火剤を用いた消火設備につい 一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸 ても種々のものが開発され、消火性能、毒性等に係 (PFOS * 6)又はその塩が、難分解性、生物蓄積性、 る評価手法の検討が行われるとともに、知見が十分 毒性及び長距離移動性を有する残留有機汚染物質か に蓄積されたガスに係るものについては、平成 13 ら人の健康及び環境を保護することを目的とした 年(2001 年)3 月の消防法施行令等の改正により、 「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」 一般基準化が行われた。また、ハロン代替消火剤の において、製造及び使用等が制限されることとなっ うち HFC(ハイドロフルオロカーボン)について た。 これを受け、我が国においても、 「化学物質の審 京都議定書」において、温室効果ガスとして排出抑 査及び製造等の規制に関する法律」等が改正され、 制・削減の対象となっているため、消防庁では回 その製造、輸入等が禁止されるとともに、業として 収・再利用等により排出抑制に努めるよう要請して 泡消火薬剤等を取扱う際には、厳格な管理や保管容 いる。 器への表示等の義務が課されることとなった。 第 は、「気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく 章 5 消防庁としては、関連省庁やメーカー団体等と連 向等に留意しながら、引き続きハロン消火剤等を適 携し、上記法令の周知徹底を図るとともに、平成 切な管理の下に使用していくとともに、回収・リサ 22 年 9 月に泡消火設備の点検基準を見直し、PFOS イクルを推進することにより、建築物等の防火安全 を含有する泡消火薬剤を使用している場合において 性を確保しつつ不要な放出を抑えていく必要がある。 は、泡放射によらない方法により点検を実施するこ とを認める等の排出抑制を推進するための対策を講 2 PFOS を含有する泡消火薬剤 の排出抑制について じたところである。 泡消火設備は、駐車場や危険物施設等において用 * 6 PFOS:ペルフルオロ(オクタン- 1 -スルホン酸) (Perfluorooctane sulfonic acid)の略称。ストックホルム条約において、 難分解性、生物蓄積性、毒性及び長距離移動性を有する残留性有機汚染物質として、規制対象に指定された。ピーフォスと よむ。 277 国際的課題への対応 今後とも、国際会議等における地球環境保護の動