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アルコール発酵細菌の増殖・発酵特性とその応用

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アルコール発酵細菌の増殖・発酵特性とその応用
アルコール発酵細菌の
増殖・発酵特性とその応用に
関する研究
Study on growth and fermentation performance of
alcohol fermentative bacteria and its application
高知工科大学大学院
物質・環境システム工学コース
梶原秀一
2012 年 3 月 16 日
1
目次
緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p3-4
第1章
アルコール発酵細菌の増殖特性に及ぼす培養条件の影響
第1節
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p4
第2節
実験材料及び方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p4-8
第3節
実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p8-13
第4節
小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p13
第2章
静置式アルコール発酵法における高効率化策の検討
第1節
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p13-14
第2節
実験材料及び方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p14-15
第3節
実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p15-19
第4節
小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p19
第3章
通気式アルコール発酵システムの概念設計
第1節
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p20
第2節
システムの概念と特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p20-21
第3節
小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p22
第4章
通気式アルコール発酵システムの基本的運転条件の検討
第1節
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p22
第2節
実験材料及び方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p22-24
第3節
実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p24-33
第4節
小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p33
第5章
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p33-34
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p35
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p35-36
本論文に関係する口演発表及び特許・・・・・・・・・・・・・・・・・・p37
2
緒論
古い歴史を誇る酒類の製造でアルコール発酵の主役として活躍している微生
物は酵母であり、アルコール発酵は酵母の独壇場であると思われていた。しか
し、1928 年に Lindner がメキシコの地酒プルケから分離した Zymomonas mobilis
(以下ザイモモナス菌と略す)がアルコール発酵することが明らかになり、アル
コール発酵細菌の存在がはじめて知られた 1) 。その後、ザイモモナス菌の発酵
特性などに関する研究が活発に行なわれ、本細菌は酵母よりも発酵速度が速い
などの実用的メリットが明らかにされ
2~ 11)
、特に燃料用アルコール発酵領域で
の活躍が期待されるようになった。更に、1993 年には沖縄のヤシ樹液から分離
された Zymobacter palmae (以下ザイモバクター菌と略す)もアルコール発酵す
ることが報じられた
12)
。
アルコール発酵工業においては、スターターの菌数が多ければ多いほど、発
酵プロセスが有利となるのは当然である。そのための手法として、酵母の場合
は、スターター調製時に、培地に空気を吹き込む、いわゆる通気培養法が採用
されている。前述したように、燃料用アルコール発酵用の微生物として期待さ
れているザイモモナス菌やザイモバクター菌などのアルコール発酵細菌につい
ても、そのような視点から検討がなされたが、酵母の場合と異なり、好気培養
しても菌体生成量は増加しないとされている
13~ 15)
。
ところで、前記した通気培養法の主目的が培地への酸素の供給であることは
論を待たないが、著者らは、それに加えて、酵母の増殖を抑制する作用のある
ことが知られている、炭酸ガスなどの代謝産物を放出する効果も、
“通気”には
あるのではないかと考えた。このような仮説の下、著者は、先ず溶存炭酸ガス
濃度に注目して、ザイモモナス菌及びザイモバクター菌の増殖特性と培養条件
の関係について検討し、溶存炭酸ガス濃度を低減させれば菌体量が増すことを
明らかにした。次いで、松元研究室においてモロミ容量約 260ml のスケールの
静置式発酵法で明らかにされた固形分の溶存炭酸ガス放出作用を利用した発酵
の効率策について、モロミ容量約3L スケールにスケールアップした静置式発酵
法で評価し、そのスケールでも種子類などの固形分を添加して発酵させると発
酵速度が速くなることを確認した。更に、得られた知見情報とアルコール発酵
細菌が酵母と違って好気的条件下でもアルコールを生成するという発酵生理学
的特性を活用組み合わせて、溶存炭酸ガスを通気によって強制的に放出させ発
酵の高効率化を達成することを意図、酵母では考えられない通気式アルコール
発酵システムを構想提示した。次いで、構想提示した通気式アルコール発酵シ
3
ステムの実用化に向けた基礎的運転条件の検討として、通気条件や培地組成の
影響などに検討を加え、基本的な条件を明らかにした。
本論文は、全5章から構成されている。すなわち、第1章はアルコール発酵
細菌の増殖特性に及ぼす培養条件の影響、第2章は静置式アルコール発酵にお
ける高効率化策の検討、第3章は通気式アルコール発酵システムの概念設計、
第 4 章は通気式アルコール発酵システムの基本的運転条件の検討、そして第5
章は総括である。
第1章
アルコール発酵細菌の増殖特性に及ぼす培養条件の影響
第1節
緒言
スターターの菌数が多ければ多いほど発酵が有利に進行することは論を待た
ないが、燃料用バイオエタノール発酵での活躍が期待されているザイモモナス
菌などのアルコール発酵細菌は、酵母とは異なり、好気培養しても菌体生成量
は増加しないとされている。そこで、ここでは、酵母の増殖・発酵特性に影響す
ることが知られている溶存炭酸ガス濃度に注目して、ザイモモナス菌とザイモ
バクター菌の増殖特性と培養条件の関係について検討を加えた。
第2節
実験材料及び方法
2-1 実験材料
2-1-1 水
ADVANTEC 製 GSP-500 で逆浸透、脱イオン水にしたものを用いた。
2-1-2 ザイモモナス菌スターター
RM 寒天斜面培地(Glucose:20g、Yeast extract:10g、KH 2 PO 4:2g、Agar:15g、
Distilled water:1L) にて培養のザイモモナス菌 NBRC13756 菌株を 10ml の RM
培地に 1 白金耳植菌し、28℃にて 24 時間静置培養、次いで所定量の RM 培地に
全量移し、さらに 28℃にて 24 時間静置培養したものをスターターとして使用し
た。
2-1-3 ザイモバクター菌スターター
YPD 寒天斜面培地(Glucose:20g、Yeast extract:10g、Pepton:20g、Agar:
15g、 Distilled water:1L) にて培養のザイモバクター菌 NBRC102412 菌株を
10ml の YPD 培地に 1 白金耳植菌し、28℃にて 24 時間静置培養、次いで所定量の
YPD 培地に全量移し、さらに 28℃にて 24 時間静置培養したものをスターターと
して使用した。
4
2-1-4 ザイモモナス菌増殖試験用 RM 培地
ザイモモナス菌の増殖実験には、グルコース 5%の RM 培地を用いたが、その調
製方法は下記の通りであった。すなはち、純水 1L に、グルコース 50g、Yeast
extract10g、KH 2 PO 4 2g を混合攪拌し、溶解処理後、121℃20 分間滅菌処理したも
のを用いた。
2-1-5 ザイモバクター菌増殖試験用 RM 培地
ザイモバクター菌の増殖実験には、グルコース 5%の YPD 培地を用いたが、そ
の調製方法は下記の通りであった。すなはち、純水 1L に、グルコース 50g、Yeast
extract10g、Pepton20g を混合攪拌し、溶解処理後、121℃20 分間滅菌処理した
ものを用いた。
2-1-6 ザイモモナス菌発酵試験用 RM 培地
ザイモモナス菌の発酵試験には、グルコース 15%の RM 培地を用いたが、その
調製方法は下記の通りであった。すなはち、純水 1L に、グルコース 150g、Yeast
extract10g、KH 2 PO 4 2g を混合攪拌し、溶解処理後、121℃20 分間滅菌処理したも
のを用いた。
2-1-7 ザイモバクター菌発酵試験用 RM 培地
ザイモバクター菌の発酵試験には、グルコース 10%の YPD 培地を用いたが、そ
の調製方法は下記の通りであった。すなはち、純水 1L に、グルコース 100g、Yeast
extract10g、Pepton20g を混合攪拌し、溶解処理後、121℃20 分間滅菌処理した
ものを用いた。
2-2
実験方法
2-2-1 増殖試験法
増殖試験は Fig.1 に概要を示した装置にて実施した。すなわち、1L 容の三角
フラスコに、糖濃度 5%の RM 培地、もしくは YPD 培地を 500ml、スターター25ml
を加えて、混合、攪拌後、28℃で、静置培養、微粒子を添加した静置培養、マ
グネチックスターラーによる撹拌培養、もしくは通気培養を行った。なお、微
粒子は竹炭を 1000ppm 添加、撹拌培養はスターラーバーの回転数を約 300rpm に
設定した。通気は、除菌フィルターとストーンを通して行い、流量は 4vvm もし
くは 0.4vvm、気体の種類は、空気、窒素ガス、炭酸ガスを使用した。培養中は、
経時的に菌数や DCO2 などを、24 時間培養後には湿菌体重量などを測定した。
5
各種培養試験方法
静置
〔微粒子:竹炭添加〕
(1000ppm)
静置
通気
(空気/N2/CO2)
撹拌
通気量
4 or 0.4vvm
(約300rpm)
空気
Fig.1 各種培養試験方法
2-2-2 スターター品質評価発酵試験法
スターターの品質を評価するための発酵試験法の概要は、Fig.2 に示す通りで
あった。すなはち、500ml 容の三角フラスコに培地 250ml と所定のスターター
10ml を加え、混合、攪拌し、28℃で所定時間静置発酵させた。発酵期間中は経
時的に重量を測定し炭酸ガス発生量を算出した。発酵終了後は pH、アルコール
などを分析した。
6
Fig.2 スターター品質評価発酵試験法
2-2-3 分析法
・pH
HORIBA 製 pH METER D-51 にて測定した。
・総酸
発酵終了モロミのろ液 10ml を 0.1N( Factor1.000)水酸化ナトリウム水溶液で
中和滴定し、BTB 試験紙が中和色(pH6.2~7.8)になるに要する滴定 ml 数を総酸
として表示した。
・アルコール
発 酵 終 了モロミのろ 液をウッドソン社製 簡易アルコール分析 器 AL-2 型 IN
ST.NO.1Y010007 DATE 9111 RIKEN KEIKI CO.LTD アルコメイトで測定し、(v/v)%
で表示した。
・菌数
スターターまたは醗酵終了モロミを適宜希釈したもの 1ml に 0.1%メチレンブ
ルー溶液1滴を加え、標準血球計算盤にて計数した。必要に応じて培養法でも
計数した。
・湿菌体重量
7
採取した培養液を遠心分離(6000rpm、30 分)処理し、上清部を除いた重量を湿
菌体重量とした。
第3節
3-1
実験結果及び考察
増殖特性に及ぼす通気、撹拌条件の影響
Fig.3 はザイモモナス菌とザイモバクター菌について、静置培養と空気通気培
養の増殖特性を比較したものである。なお、この場合の通気量は 4vvm であった。
Fig.3 で、先ず、ザイモモナス菌の菌数変化を見ると、培養開始約 10 時間まで
は、コントロールの静置培養と同等の傾向を示したが、その後は、静置の場合、
ほとんど菌数が伸びなかったのに対して、通気培養の場合は増殖する傾向が認
められ、最終的に、静置よりも多い菌体が得られた。
次に、ザイモバクター菌の増殖特性を見てみると、この場合もザイモモナス
菌の場合とほぼ同様な傾向で、最終的に静置より多い菌体が得られた。なお、
この結果は江口らのデータとほぼ一致している
16,17)
。
これらのデータは、通気量が 4vvm と極端に多い条件で得られたものであった
ため、以下の実験では実用規模で採用可能な 0.4vvm で試験を行った。
Fig.3 空気通気培養と増殖特性の関係
Fig.4 は、ザイモモナス菌について、通気量を 0.4vvm にした場合と静置及び
撹拌培養のデータをまとめて示したものである。結果を見ると、培養開始約 3
8
から 6 時間までの菌数変化は3条件間に顕著な差は認められなかったが、その
後の菌数の伸びに違いが認められた。すなわち、撹拌培養と通気培養は、先の
4vvm 通気の場合と同様に、その後も、比較的順調に伸びたのに対して、静置培
養の伸びは僅かだった。24 時間培養後の培養液中の溶存炭酸ガス濃度を見てみ
ると、静置は 458ppm と、撹拌培養の 211ppm、空気通気の 49ppm に比べて高いこ
とがわかった。このことは、増殖の伸びには溶存炭酸ガス濃度が関係している
可能性を強く示唆している。
Fig.4 ザイモモナス菌の静置、撹拌及び空気通気培養と増殖特性の影響
Fig.5 は通気を空気から窒素ガスに変えた場合の結果を示したものである。
Fig.5 からわかるように、この場合も、空気通気の場合と同様な傾向、すなわち、
培養初期は、3 者同様な増殖傾向を示したが、その後の増殖傾向は、静置培養に
比べて、撹拌培養と窒素ガス通気の伸びが良く、24 時間培養後の菌体も多いこ
とがわかった。また、DCO 2 濃度も先ほどと同様の傾向であった。これらの事実
は、ザイモモナス菌の増殖には酸素は必要ないとの既往の知見を支持している
と同時に、ザイモモナス菌も酵母と同様に溶存炭酸ガスによってその増殖が抑
制されること、逆に言えば、溶存炭酸ガス濃度を低濃度になるように制御すれ
ば、ザイモモナス菌の単位あたりの菌体収量を増やすことが可能であることを
強く示唆している。
9
Fig.5 ザイモモナス菌の静置、撹拌及び窒素通気培養と増殖特性の関係
Fig.6 はザイモバクター菌について同様な検討を行った結果を示したもので
ある。この場合も、ザイモモナス菌の場合とほぼ同様な傾向、すなわち、窒素
ガス通気と撹拌培養の方が静置に比べて菌数の伸びが良く、24 時間培養後の菌
体も多いことなどがわかった。
Fig.6 ザイモバクター菌の静置、撹拌及び窒素ガス通気培養と増殖特性の関係
10
Fig.7 は通気気体として炭酸ガスを用いた場合の結果を示したものである。
Fig.7 からわかるように、ザイモモナス菌の場合は、これまでとほぼ同様な結果
が得られたが、ザイモバクター菌の場合はこれまでの結果と異なり、通気気体
に炭酸ガスを用いたこの場合は、培養の全期間にわたって、菌数の伸びが静置
よりも悪い傾向を示した。この事実は、ザイモバクター菌は、炭酸ガス・スト
レスに対する耐性がザイモモナス菌より劣る可能性のあることを示唆している。
ただ、その点については今後さらに精査する必要がある。
いずれにしても、以上の実験から、ザイモモナス菌などのアルコール発酵細
菌の増殖には、酸素は必要ないことが確認されると共に、培養液中の溶存炭酸
ガス濃度を低濃度に制御すれば、ザイモモナス菌などのアルコール発酵細菌の
菌体収量を増やすことが可能であることが分かった。
Fig.7 ザイモモナス菌及びザイモバクター菌の静置、撹拌及び
炭酸ガス通気培養と増殖特性の関係
3-2
増殖特性に及ぼす固形分添加の影響
松元研究室では竹炭などの固形分には溶存炭酸ガス放出作用があることを明
らかにしている
18,19)
。そこで、次に、溶存炭酸ガス濃度低減策の一つとして、
ザイモモナス菌とザイモバクター菌を用いて竹炭添加法を評価した。
11
Fig.8 はその結果を示したものである。Fig.8 から明らかなように、いずれの
菌の場合も、竹炭を添加した場合の増殖はコントロールの静置を上回り、撹拌
と同様な挙動を示し、多量の菌体が得られた。このことは、これらの菌のスタ
ーター培養時に竹炭を 1000ppm 程度添加すれば、撹拌や通気培養のように特別
な装置やエネルギーを消費することなく、それらと同等の効果の得られること
を示している。
Fig.8 ザイモモナス菌及びザイモバクター菌の静置、撹拌及び
竹炭添加培養と増殖特性の関係
3-3
スターターの発酵試験法による品質評価
スターターの品質は、当然のことながら、最終的には発酵試験に拠らなけれ
ばならない。そこで、Fig.9 は、各種条件下で培養したスターターを用いた場合
の発酵特性を比較したものである。
Fig.9 からわかるように、竹炭添加、撹拌のいずれの培養法で調製されたスタ
ーターも静置培養のものより、発酵は速く進行し、生成アルコール濃度も 7.7%
が得られた。これは、第一義的には、スターター中の菌数が多かったことによ
るものであるが、いずれにしても、これらの方法で培養されたスターターはア
ルコール発酵用のスターターとして品質的に良好であり、実用可能であること
を示している。
12
Fig.9 スターター培養条件と発酵特性の関係
第4節
小括
ザイモモナス菌とザイモモナス菌の増殖特性に及ぼす培養条件の影響につい
て検討し、以下の知見を得た。
①通気、撹拌、固形分添加などの手法により培養液中の溶存炭酸ガス濃度を低
減させれば、ザイモモナス菌などのアルコール発酵細菌の増殖量を増大させ
得ることが分かった。
②そのための実用化策としては、省資源、省エネルギーなどの観点から竹炭な
どの固形分添加法が好ましいと考えられた。
第2章
静置式アルコール発酵法における高効率化策の検討
第1節
緒言
竹炭などの固形分がアルコール発酵細菌の増殖を促進することは前記したが、
固形分を添加して発酵させると同様な理由から発酵も促進されることが判って
いる
18)
。また、木下らはユズ種子粉砕物を添加して発酵させると固形分に加え
て種子中に含まれる何らかのフィトケミカルが作用して、竹炭添加の場合より
一層発酵が促進されること、また西澤らはビワ種子中の代表的なフィトケミカ
13
ルであるアミグダリンを添加しても発酵が促進されることを報じている
19、 20)
。
ただ、それらの発酵実験スケールは約 260ml と非常に小さい。発酵がスケール
によって影響を受けることは良く知られている。そこで、種子やフィトケミカ
ルの発酵促進作用が、モロミ容量約3L の静置発酵スケールでも発現するのか否
か検討した。なお、種子としてはユズ種子とサンショウ種子について検討し、
フィトケミカルについてはビワ種子に多く含まれているアミグダリンについて
検討した。
第2節
実験材料及び方法
2-1実験材料
2-1-1
ユズ種子
天日乾燥したユズ種子をミキサーで粉砕したものをそのまま試料として用い
た。
2-1-1
サンショウ種子
自然乾燥したサンショウ種子をミキサーで粉砕したものをそのまま試料とし
て用いた。
2-1-3
アミグダリン
東京化成工業株式会社製アミグダリン(Amygdalin:C 20 H 27 NO 11 、純度 97%)を用
いた。
2-1-4 水
前章に準じた。
2-1-5 ザイモモナス菌スターター
前章の方法に準じて調整した。
2-1-6 ザイモバクター菌スターター
前章の方法に準じて調整した。
2-1-7 ザイモモナス菌発酵試験用 RM 培地
前章の方法に準じて調整した。
2-1-8 ザイモバクター菌発酵試験用 RM 培地
前章の方法に準じて調整した。
2-2
実験方法
静置発酵試験法は Fig.10 に示した。すなわち、5L の発酵タンクに培地 2500ml、
所定のスターター125ml、及び所定量の種子粉砕物などを添加し、混合撹拌後、
28℃で所定時間、静置発酵させた。なお、この場合の初発糖濃度はザイモモナ
14
ス菌用の RM 培地の場合は 13%、ザイモバクター菌用の YPD 培地の場合は8%で
あった。試料の添加量はユズ種子の場合、0.2%(w/v)、サンショウ種子の場合、
0.4%(w/v)、アミグダリンの場合は 0.004ppm であった。
種子類などの添加の影響を評価するための試験方法
RM(ザイモモナス菌用)/YPD(ザイモバクター菌用)培地:2500ml
(糖濃度:RMはグルコース13%、YPDは8%)
スターター(ザイモモナス菌/ザイモバクター菌) :125ml
ユズ種子粉砕物(0.2%) or サンショウ種子粉砕物(0.4%)
or アミグダリン(0.004ppm)
混合・攪拌
28℃で静置発酵
発酵中は、経時的にアルコール、菌数、糖などを測定
Fig.10
第3節
3-1
静置発酵試験方法
実験結果及び考察
ユズ種子添加とアルコール生成経過の関係
Fig.11 はザイモモナス菌のアルコール生成経過に及ぼすユズ種子添加の影響
をみた結果である。Fig.11 から判るように、ユズ種子を添加して発酵させると、
コントロールの無添加の場合に比べて発酵が顕著に促進された。
15
Fig.11
ザイモモナス菌のアルコール生成経過に及ぼすユズ種子添加の影響
Fig.12 はザイモバクター菌について行った結果である。この場合も、発酵は
顕著に促進された。
Fig.12
ザイモバクター菌のアルコール生成経過に及ぼすユズ種子添加の影響
16
3-2
サンショウ種子添加とアルコール生成経過の関係
Fig.13 はザイモモナス菌について、サンショウ種子を添加した場合の結果を
示したものである。この場合も、ユズ種子添加の場合と同様、発酵は顕著に促
進された。
Fig.13 ザイモモナス菌のアルコール生成経過に及ぼす
サンショウ種子添加の影響
Fig.14 はザイモバクター菌について同様な検討をした結果である。この場合
も、これまでと同様に発酵は顕著に促進された。
以上の結果から、初発モロミ容量約3L スケールの発酵においても、初発モロ
容量約 260ml スケールの発酵の場合と同様に、ユズ種子などを添加して発酵さ
せるとザイモモナス菌などのアルコール発酵細菌の発酵が顕著に促進されるこ
とが確認された。ここで観察された促進作用の機構については精査が必要であ
るが、木下らが報告している固形分による溶存炭酸ガスの放出作用、種子中に
含まれる何らかのフィトケミカルの作用によることなどが考えられる
17
19)
。
Fig.14 ザイモバクター菌のアルコール生成経過に及ぼす
サンショウ種子添加の影響
3-3
アミグダリン添加とアルコール生成経過の関係
Fig.15 は、ビワなどのバラ科の植物の種子などに特異的に豊富に含まれてい
るフィトケミカルの一つであるアミグダリンを 0.004ppm 添加して発酵させた場
合の結果である。Fig.15 から明らかなように、アミグダリンを添加した場合も、
種子類を添加した場合ほどではないが、発酵は明らかに促進された。アミグダ
リンには溶存炭酸ガス放出促進作用はないことから、ここで観察された促進作
用はアミグダリンによってザイモモナス菌の代謝活性が亢進されたことによる
ことを強く示唆している。
以上の実験事実から考えて、静置式アルコール発酵法において発酵の高効率
化を図る手段として、ユズ種子などの種子粉砕物やアミグダリンなどのフィト
ケミカルを発酵系に添加することは有用であるといえる。
18
Fig.15
ザイモモナス菌のアルコール生成経過に及ぼす
アミグダリン添加の影響
第4節
小括
モロミ容量約 260ml スケールの発酵実験で観察された種子類及びフィトケミ
カルのアルコール発酵細菌に対する発酵促進作用が初発モロミ容量約3L スケ
ールの発酵においても観察されるか否か検討し、以下の知見が得られた。
① アルコール発酵細菌にユズ種子やサンショウ種子などの種子類を添加して、
初発モロミ容量約3L 規模で発酵させても、発酵は顕著に促進されることが
確認された。
② ザイモモナス菌の発酵系にフィトケミカルの一種であるアミグダリンを添
加して、初発モロミ容量約3L 規模で発酵させても、発酵は顕著に促進され
ることが確認された。
③ 以上の実験事実から、静置式アルコール発酵法において発酵の高効率化を図
る手段として、ユズ種子などの種子粉砕物やアミグダリンなどのフィトケミ
カルを発酵系に添加することは有用であることが判った。
19
第3章
通気式アルコール発酵システムの概念設計
第1節
緒言
第1章でザイモモナスに代表されるアルコール発酵細菌は、通気や撹拌など
によって、培養液中の溶存炭酸ガス濃度を低減させれば、菌体量は増大するこ
とが明らかになった。更には、これまで周知されていたアルコール発酵細菌は、
酵母と違って好気条件下でもアルコールを生成することを著者らも確認した。
著者らはこれらの知見を活用することによって発酵の高効率化を志向する一つ
の策として、酵母では考えられない通気式アルコール発酵システムを構想提示
することとした。
第2節
通気式発酵システムの概念と特徴
燃料用のアルコールは飲料用のそれと違って、官能的品質は完全に無視でき、
効率のみを追及すればよいという利点がある。アルコール発酵プロセスにおけ
る効率化を達成する重要な要素はそこで活躍する微生物に可能な限りストレス
を与えずその能力を最大限に発揮させることである。微生物が活躍する環境か
ら受けるストレスは色々あるが、制御し易いという点では第1章で明らかにな
った溶存炭酸ガス濃度、アルコール濃度、そして温度が上げられる。発酵温度
については松元研究室で別途研究されているので、ここでは第1章の結果など
から、溶存炭酸ガス濃度とアルコール濃度を制御する通気式アルコール発酵シ
ステムを構想した。
Fig.16 はその概念設計図である。すなわち、著者らが構想提示した通気式ア
ルコール発酵システムは、発酵槽、通気装置、冷却機等からなっている。
一般に、発酵槽内のモロミにはザイモモナス菌に代表されるアルコール発酵
細菌の主要な代謝産物の一つである溶存炭酸ガスが過剰に含まれている。前記
したように、炭酸ガスは細菌にとって被毒物質であり、ストレスとなる。そこ
で、本システムではその溶存炭酸ガス濃度を低減させる手段として通気法を採
用している。もちろんその低減策としては撹拌や減圧などの手法もあるが、実
用規模である 1000KL 規模の発酵槽のことを考慮するとそれらの手法を採用する
のは物理的あるいはコスト的に無理があると考えられることと、前記したよう
にアルコール発酵細菌は好気条件下でも酵母と違ってアルコールを生成する能
力があるという特性を活用して、ここでは実用規模での実績がある通気式を採
用することとした。通気によって、生成したアルコールの一部も除去されるた
めにアルコールストレスも軽減される。
蒸散した気体は冷却に導かれ、冷却され、アルコールは凝縮され蒸留器へと
20
導かれる。炭酸ガスはドライアイス製造プロセスに導かれ利用されることを想
定している。
ただ、本システムを実用化するには Fig.16 にも一部示しているように、通気
方法、通気量、通気時間などの通気条件や、培地組成、温度といった諸々の運
転条件を最適化する必要性がある。それらの一部について検討した結果は、次
章で述べる。
アルコール発酵細菌による
通気式アルコール発酵システムの概念図
炭酸ガス
アルコールなど
設定すべき運転条件例
・通気方法
・通気量
・通気時間
・培地組成
・菌種
・発酵温度
・溶存炭酸ガス濃度
・発酵時間(滞留時間)
など
主発酵槽
エアーポンプなど
アルコール発酵細菌
(ザイモモナス属細菌など)
後発酵 or 蒸留装置
Fig.16 通気式アルコール発酵システム概念図
21
第3節
小括
溶存炭酸ガス濃度を低減させると増殖発酵が促進されること、及び好気条件
下でも酵母と違ってアルコールを生成するというザイモモナス菌に代表される
アルコール発酵細菌の特性を活用し、発酵槽、通気装置、冷却機等からなる通
気式アルコール発酵システムを構想提示した。
第4章
通気式アルコール発酵システムの基本的運転条件の検討
第1節
緒言
前章で構想提示した通気式アルコール発酵システムの実用化を指向して、通
気条件と培地組成について検討した。
第2節
2-1
2-1-1
実験材料及び方法
実験材料
ユズ種子
前章に準じた。
2-1-1
サンショウ種子
前章に準じた。
2-1-3
アミグダリン
前章に準じた。
2-1-4 水
前章に準じた。
2-1-5 ザイモモナス菌スターター
前章の方法に準じて調整した。
2-1-6 ザイモバクター菌スターター
前章の方法に準じて調整した。
2-1-7 ザイモモナス菌発酵試験用 RM 培地
前章の方法に準じて調整した。
2-1-8 ザイモバクター菌発酵試験用 RM 培地
前章の方法に準じて調整した。
22
2-2
2-2-1
実験方法
溶存炭酸ガス放出検定方法
通気による溶存炭酸ガス濃度の軽減を図るに際して、先ず通気手法、具体的
には実用規模で採用されている泡径が mm スケールの泡を通気するエアポンプ
(以下 AP 通気という)を用いる方法と極めて細かいμm スケールの泡を通気で
きる市販のマイクロバブル発生装置(以下 MB 通気という)を使って通気する方
法の炭酸ガス放出力を検定したが、Fig.17 はその方法の概要である。すなわち、
市販ビールに AP 通気もしくは MB 通気にて所定の条件で 5 分間処理した後、ビ
ール中の DCO2 濃度を測定した。DCO2 放出量は原ビールとの差とした。放出力は、
DCO2 放出量を静置の放出量で割った値として表示した。
なお、通気量は AP 通気の場合は 0.4vvm、MB 通気の場合は 0.3vvm とした。
溶存炭酸ガス(DCO2)放出力検定方法
エ
ア
ー
ポ
ン
プ
市販
ビール
1L
コ ン ト ロ ール(静置)
エ ア ー ポ ンプ(
AP)通気
(約0.4vvm)
M
B
発
生
装
置
マ イ ク ロ ハ ゙ブル(MB)
゙ 通気
(約0.3vvm )
5分間処理後
ビール中のDCO2濃度を測定
DCO2放出量の算出法
DCO2放出量=原ビール中の
DCO2-処理後ビール中の
DCO2
DCO2放出力の表示
DCO2放出力=AP or MBのDCO2放出量÷静置のDCO2放出量
Fig.17 溶存炭酸ガス(DCO 2 )法出力検定方法
2-2-2 基本的通気発酵試験法
基本的通気発酵試験法の概要は Fig.18 に示した。すなはち、5L の発酵タン
クに培地 2500ml、所定のスターター125ml を加え、混合、撹拌し、28℃で発酵
23
させた。通気手段としては AP 通気、MB 通気の 2 種類とした。なお、通気条件は、
5 分通気、25 分オフ、もしくは 2 分通気 28 分オフの間歇通気とした。通気量は
AP 通気の場合は 0.4vvm、MB 通気の場合は 0.3vvm とした。発酵中は、経時的に
アルコール、菌数、糖などを測定した。
Fig.18 基本的通気発酵試験法
2-2-3
分析法
・総菌数、pH、総酸、アルコールなどの分析は、いずれも第 2 章の方法に準じ
た。
・糖
モロミのろ液を島津製作所製 HPLC にて分析した。
第3節
3-1
実験結果及び考察
通気方法と溶存炭酸ガス放出力の関係
Fig.19 は通気方法と DCO 2 法出力の関係について検討した結果である。Fig.19
からわかるように、通気した場合は静置であるコントロールの場合の 2 から 3
倍の DCO 2 放出力を示した。この事実と DCO 2 濃度が低いほど、アルコール発酵細
24
菌の増殖活性が増大することを考え合わせると、アルコール発酵細菌による高
効率発酵システムの構築には、通気法の採用が効果的であることを強く示唆し
ている。
更に、Fig.19 で注目したいことは、MB 通気の場合、0.3vvm と AP 通気の場合
の 0.4vvm に比べて、通気量はやや尐ないにもかかわらず、MB 通気の方が DCO 2
放出力が大であるということである。このことは、DCO 2 濃度の低減効果という
ことに限れば、MB 通気の方が有利であるわけであるが、AP 通気が既存の設備が
使用可能であるのに対して、MB 通気の場合は特殊な装置を購入設置しなければ
ならないと言う点でデメリットがある。
このように、二つの通気法にはメリットとデメリットがあるが、以下の実験
では、発酵特性への影響に関する基礎的知見を得る観点から、原則として両通
気法について検討した。
Fig.19 通気法と DCO 2 放出力の関係
3-2
3-2-1
通気条件と発酵成績の関係
AP 通気法と静置法の生成アルコール濃度の経時変化の比較
Fig.20 はザイモモナス菌の AP 通気法と静置法の生成アルコール濃度の経時
変化を比較して示したものである。なお、この場合の通気条件は 5 分通気、25
分オフの間歇通気であった。また、通気法の場合の生成アルコールの濃度は、
25
蒸散したアルコール量を勘案した値である。以下同様である。
Fig.20 から判るように、AP 通気法の場合、静置法に比べて発酵が促進されて
いた。これは主として、培地中の溶存炭酸ガスが通気によって放出、低下した
ことによる菌数の増加によるものと考えられる。
Fig.20 ザイモモナス菌の AP 通気法と静置法の生成アルコール濃度の
経時変化の比較
Fig.21 は、ザイモバクター菌の AP 通気法と静置法の生成アルコール濃度の経
時変化を比較して示したものである。なお、この場合の通気条件は 2 分通気、
28 分オフの間歇通気とした。結果を見てみると、ザイモバクター菌の場合も、
ザイモモナス菌の場合と同様に、AP 通気の方が静置法の場合に比べてアルコー
ルの生成速度は速いことが分かった。
26
Fig.21 ザイモバクター菌の AP 通気法と静置法の生成アルコール濃度の
経時変化の比較
3-2-2
MB 通気法と静置法の生成アルコール濃度の経時変化の比較
Fig.22 はザイモモナス菌を通気量 0.3vvm の条件で間歇通気した MB 通気法と
静置法を比較したものである。この場合の通気条件は AP 通気の場合と同様、5
分通気、25 分オフの間歇通気としたが、Fig.22 から明らかなように、MB 法の通
気量は、AP 法の通気量である 0.4vvm に比べて 4 分の 3 と尐ないにもかかわらず、
AP 法の場合とほぼ同等の発酵促進度を示している。これは、先に述べた様に、
気泡径の大きい AP 通気より、気泡径の極めて小さい MB 通気の方がより強い DCO 2
放出作用を示すことによると考えられる。
27
Fig.22 ザイモモナス菌の MB 通気法と静置法の生成アルコール濃度の
経時変化の比較
Fig.23 は同様にザイモバクター菌について MB 通気法と静置法の生成アルコー
ル濃度の経時変化を比較したものである。Fig.23 から判るように、この場合も、
AP 通気の場合と同様に、静置法の場合に比べて発酵は顕著に促進された。
Fig.23
ザイモバクター菌の MB 通気法と静置法の生成アルコール濃度の
経時変化の比較
28
3-3
AP 間歇通気発酵下における種子などの添加と発酵成績の関係
種子粉砕物などを添加して発酵させると発酵が促進されることは既に第 2 章
で述べたが、ここではそれらの効果が間歇通気下でどのようになるかをみた。
なお、実験方法は所定量の種子などの試料を添加した以外は、基本法に準じた。
3-3-1
ユズ種子添加とアルコール生成経過の関係
Fig.24 は AP 法で 2 分通気、28 分オフの間歇通気下でのザイモモナス菌のア
ルコール生成経過に及ぼすユズ種子添加の影響をみたものである。なお、通気
条件は以下同様である。また、この場合のユズ種子粉砕物の添加量は 0.2%(w/v)
であった。Fig.24 で、AP 間歇通気下でのユズ種子添加の有無を比較してみると、
ユズ種子を添加すると、一層発酵が促進されている。一方、両者の溶存炭酸ガ
ス濃度は Fig.24 中に示されているように約 1170ppm と同等である。従って、こ
の差の要因は溶存炭酸ガス濃度以外であると考えられる。予測される要因とし
ては、二つのことが考えられる。すなわち、一つは、Fig.25 に示されているよ
うにユズ種子粉砕物を添加した方の菌数の多いことである。粉砕物を添加した
方が多くなる理由の一つは粉砕物の繊維に菌体が付着し、増殖が促進されたこ
とが考えられる。今一つは、木下らが指摘しているユズ種子中の何らかのフィ
トケミカルによる代謝活性の亢進である。これら要因のいずれもがここで観察
された発酵速度の一層の向上に関与しているのか否かについては今後の課題で
ある。
Fig.24 AP 間歇通気下におけるザイモモナス菌のアルコール生成経過に
及ぼすユズ種子添加の影響
29
Fig.25 AP 間歇通気下におけるザイモモナス菌の増殖特性に
及ぼすユズ種子添加の影響
Fig.26 は同様な条件でザイモバクター菌について検討した結果である。この場
合も、ユズ種子の添加によって発酵は顕著に促進された。
Fig.26 AP 間歇通気下におけるザイモバクター菌のアルコール生成経過
に及ぼすユズ種子添加の影響
30
3-3-2
サンショウ種子添加とアルコール生成経過の関係
Fig.27 は、同様に、サンショウ種子粉砕物を添加した場合のザイモモナス菌
のアルコール生成経過をみたものである。なお、この場合のサンショウ種子粉
砕物の添加量は 0.4%(w/v)であった。Fig.27 から明らかなように、AP 間歇通気
下においても、サンショウ種子を添加して発酵させると、ユズ種子の場合と同
様に、発酵は顕著に促進された。
Fig.27 AP 間歇通気下におけるザイモモナス菌のアルコール生成経過に
及ぼすサンショウ種子添加の影響
Fig.28 はザイモバクター菌について同様な実験を行った結果である。この場
合も、ザイモモナス菌の場合と同様に発酵は一層促進された。
いずれにしても、静置発酵の場合に観察されたユズ種子やサンショウ種子添
加による発酵促進作用は、AP 間歇通気下においても発現することが確認された。
これらの事実は、通気式アルコール発酵システムが実用可能であることを強く
示唆している。
31
Fig.28 AP 間歇通気下におけるザイモバクター菌のアルコール生成経過に
及ぼすユズ種子添加の影響
3-3-3
アミグダリン添加とアルコール生成経過の関係
Fig.29 はアミグダリンを 0.004ppm 添加して発酵させた場合の結果である。ア
ミグダリンを加えて通気発酵させたこの場合も、静置発酵法の場合と同様に、
無添加 AP 通気を凌ぐ発酵促進度が得られた。
Fig.29 AP 間歇通気下におけるザイモモナス菌のアルコール生成経過に
及ぼすアミグダリン添加の影響
32
以上の実験事実は、細菌による通気式アルコール発酵システムを実用化する
に際しての基本的運転条件としては、AP 間歇通気(エアポンプを用いる通常の
通気法)下で種子などを添加して発酵させるのが最適である可能性を強く示唆
している。
第4節
小括
前章で構想提示した通気式アルコール発酵システムの実用化を指向して、通
気条件と培地組成について検討し、以下の知見を得た。
①通気すると静置の場合の 2~3 倍の溶存炭酸ガス放出力を示した。
②MB(マイクロバブル)通気は、AP(エアポンプ)通気に比べて、DCO 2 放出力が
大であった。
③AP 通気法、MB 通気法のいずれの場合も、静置発酵に比べて、ザイモモナス菌
に代表されるアルコール発酵細菌の発酵速度は顕著に速かった。
④AP 間歇通気発酵系に種子類やビワ種子中の代表的なフィトケミカルであるア
ミグダリンを添加しても、静置発酵法の場合と同様に、無添加の場合に比べ
て、アルコール発酵細菌の発酵は一層促進された。
⑤以上のことから、通気式アルコール発酵システムを実用化するに際しての基
本的運転条件としては、AP 間歇通気(エアポンプを用いる通常の通気法)下
で種子などを添加して発酵させるのが最適である可能性が強く示唆された。
第5章
総括
著者は、特に溶存炭酸ガス濃度に着目してザイモモナス菌に代表されるアル
コール発酵細菌の増殖・発酵特性を精査し、得られた知見から酵母では考えら
れない通気式アルコール発酵システムを構想提示した。更に、その実用化を指
向して通気条件や培地組成の影響について基礎的検討を加え、通気式アルコー
ル発酵システムの実用化の可能性を示した。
すなわち、第 1 章ではザイモモナス菌とザイモバクター菌の増殖特性に及ぼ
す培養条件の影響について検討し、以下の知見を得た。①通気、撹拌、固形分
添加などの手法により培養液中の溶存炭酸ガス濃度を低減させれば、ザイモモ
ナス菌などのアルコール発酵細菌の増殖量を増大させ得ることが分かった。②
そのための実用化策としては、省資源、省エネルギーなどの観点から竹炭など
の固形分添加法が好ましいと考えられた。
33
第 2 章ではモロミ容量約 260ml スケールの発酵実験で観察された種子類及び
フィトケミカルのアルコール発酵細菌に対する発酵促進作用が初発モロミ容量
約3L スケールの発酵においても観察されるか否か検討し、以下の知見が得られ
た。①アルコール発酵細菌にユズ種子やサンショウ種子などの種子類を添加し
て、初発モロミ容量約3L 規模で発酵させても、発酵は顕著に促進されることが
確認された。②ザイモモナス菌の発酵系にフィトケミカルの一種であるアミグ
ダリンを添加して、初発モロミ容量約3L 規模で発酵させても、発酵は顕著に促
進されることが確認された。③静置式アルコール発酵法において発酵の高効率
化を図る手段として、ユズ種子などの種子粉砕物やアミグダリンなどのフィト
ケミカルを発酵系に添加することは有用であることが判った。
第 3 章では溶存炭酸ガス濃度を低減させると増殖発酵が促進されること、及
び好気条件下でも酵母と違ってアルコールを生成するというザイモモナス菌に
代表されるアルコール発酵細菌の特性を活用し、発酵槽、通気装置、冷却機等
からなる通気式アルコール発酵システムを構想提示した。
第 4 章では著者らが構想提示した細菌による通気式アルコール発酵システム
の実用化を指向して、通気条件と培地組成について検討し、以下の知見を得た。
①通気すると静置の場合の 2~3 倍の溶存炭酸ガス放出力を示した。②MB(マイ
クロバブル)通気は、AP(エアポンプ)通気に比べて、DCO 2 放出力が大であった。
③AP 通気法、MB 通気法のいずれの場合も、静置発酵に比べて、ザイモモナス菌
に代表されるアルコール発酵細菌の発酵速度は顕著に速かった。④AP 間歇通気
発酵系に種子類やビワ種子中の代表的なフィトケミカルであるアミグダリンを
添加しても、静置発酵法の場合と同様に、無添加の場合に比べて、アルコール
発酵細菌の発酵は一層促進された。⑤以上のことから、通気式アルコール発酵
システムを実用化するに際しての基本的運転条件としては、AP 間歇通気(エア
ポンプを用いる通常の通気法)下で種子などを添加して発酵させるのが最適で
ある可能性が強く示唆された。
34
謝辞
本研究を行なうにあたり、終始ご指導ご鞭撻いただきました松元教授に感謝
いたします。
また、ご指導ご鞭撻いただきました大濱教授並びに有賀准教授に感謝いたし
ます。
なお、本研究の一部は、松元研究室に大学院生として在籍していた江口 美奈
子氏、中西 貴洋氏、及び卒業研究生として在籍していた仲上 将央氏との共同
研究としてなされたものであり、各位に感謝いたします。
また、実験をいつも手助けして戴きました松元研究室の方々の深く感謝いた
します。ありがとうございました。
参考文献
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17)江口美奈子、“ Zymobacter palmae の増殖及びアルコール醗酵特性に関する
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18)中西貴洋、梶原秀一、木下絢賀、松元信也、“微生物に対する微粒子の作用
とその応用(5)微粒子の発酵促進機構”、日本農芸化学会中四国支部第 26 回講演
会講演要旨集、p26、2010 年 1 月 23 日
19)木下絢賀、松元信也、
“ユズ種子の発酵促進機構の関する基礎的検討”、日本
農芸化学会中四国支部第 29 回講演会講演要旨集、p30、2011 年 1 月 22 日
20)西澤和展、喜田和亨、松元信也、“微生物の発酵特性に対するアミグダリン
の作用”、日本農芸化学会中四国支部第 32 回講演会講演要旨集、p16、2012 年 1
月 21 日
36
本論文に関係する口演発表及び特許
●口演発表
1.梶原秀一、中西貴洋、江口美奈子、松元信也、バイオエタノールの省エネ
ルギー的恋効率発酵システムの開発(6)
アルコール発酵細菌の増殖特性に及
ぼす培養条件の影響、日本農芸化学中四国支部第 26 回講演会講演要旨集、
p27(2010)
2.梶原秀一、松元信也、バイオエタノールの省エネルギー的高効率発酵シス
テムの開発(7)
細菌による通気式アルコール発酵システムに関する基礎的検
討、日本農芸化学中四国支部第 29 回講演会講演要旨集、p31(2011)
3.梶原秀一、仲上将央、西澤和展、松元信也、バイオエタノールの省エネル
ギー的高効率発酵システムの開発(8)
細菌による通気式アルコール発酵シス
テムに関する検討、日本農芸化学会中四国支部第 32 回講演会講演要旨集、
p16(2012)
●特許
1.松元信也、高橋永、喜田和亨、梶原秀一、曽根隆志、山本達也、アルコー
ル発酵方法およびアルコール、特開 2011-123228(2011)
以上
37
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