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「街なか居住再生ファンド」の出資事例について
制度の紹介等 「街なか居住再生ファンド」の出資事例について (社) 全国市街地再開発協会 プロジェクト業務部 調査役 芦谷圭司 1.はじめに 例である。本事例は、TMKが賃貸住宅及び市街 平成17年6月、中心市街地への居住を推進する 地再開発事業の保留床の店舗部分の取得資金を調 ため、民間の多様な住宅等の整備事業に対し出資 達し、取得後、その運営を行うスキームである。 による支援を行う新しい制度として当協会に、 「街なか居住再生ファンド」(以下、「ファンド」 事業概要 27億円 という。)が設置された。これまで、全国各地か 総事業費(2物件) らファンドについて多数の問合せや相談を受けて 住宅供給事業 いる中で、本稿では、昨年度に出資を行った事例 プロジェクト名 を紹介することとしたい。なお、制度の詳しい概 階 数 10階 要については、当機関誌2005年5月号において 用 途 賃貸住宅 前・国土交通省住宅局市街地建築課清原係長から 延床面積 1,900㎡ 紹介されている。また、(社)全国市街地再開発協 日興證券跡地開発事業 市街地再開発事業 会のHP(http://www.uraja.or.jp)でも制度につい プロジェクト名 東後町権堂町A地区第一種市 て、Q&Aを含め、掲載しているので参照された 街地再開発事業 階 数 地上13階、地下1階 い。 用 途 店舗(地上1階、地下1階)、 分譲住宅(地上2∼13階) 2.出資事例 延床面積 6,800㎡ このファンドが出資対象とする事業は、いわゆ TMK組成規模 7.39億円 る不動産の証券化による事業手法を想定してお り、事業内容としては、住宅単独事業や住宅部分 出資先 アーバンタワーファンド第一 と商業施設との複合施設等、スキームの組成とし 号特定目的会社 階数・用途 ては、開発段階から運営段階までのスキームや、 建物完成後の建物及び床を買取り数年後に売却す 住宅供給事業 地上1∼10階・賃貸住宅 るスキーム等、様々である。その中で、協会が実 市街地再開発事業 地上1階、 地下1階・店舗 際に出資を行った事例を具体的に紹介したい。紹 街なか居住再生ファンド出資額 1.25億円 介する事例は、「特定目的会社(TMK)」と「YK (有限会社SPC)+TK(匿名組合出資)」をそれぞ れ活用したスキームである。なお、どの事例にお 仕組み いても、倒産隔離を行うため、まず有限責任中間 ① 該法人が100%子会社としてTMKを設立する。 法人を設立している。 1 長野市における、住宅供給事業・市街地再開 ② アレンジャーがTMKのスキーム組成を行う。 ③ アレンジャーは、本事業に係る資産流動化計 画書を作成し財務局へ届出る。 発事業の2物件を取得するTMK 長野市で、賃貸住宅と市街地再開発事業の店舗 部分の2物件を取得するTMKスキームによる事 市街地再開発 2006年7月 第435号 事業者がまず有限責任中間法人を設立し、当 ④ TMKは、金融機関からノンリコースローン を借り入れ、事業者及び街なか居住再生ファン ― 11 ― ド、一般投資家から出資を受け、資金調達を行 う。 アレンジャーは、本事業に当初届出た資産流 動化計画に変更が発生した場合、変更された資 TMKは、オリジネーターでもある事業者か ⑤ ⑦ 産流動化計画書を作成し利害関係人(出資者、 ら賃貸住宅と市街地再開発事業の店舗部分を取 金融機関等)から承諾を得た上で資産流動化計 得する。 画書の変更を財務局へ届出る。 TMKは、賃貸住宅・店舗の賃料から維持管理 ⑥ TMKは、6年間稼働後に資産を売却し、ノ ⑧ 等を行うプロパティーマネージャー等に報酬等 ンリコースローン及び出資元本の償還を行うと の必要経費を支払った後、金融機関への元利返 ともに、売却益があった場合、これを出資者に 済及び出資者に優先劣後関係に基づいた配当を 優先劣後関係に基づいた割合で分配する。 行う。 《事業スキーム》 2 岡山市における、市街地再開発事業の物件を 用途 事務所(1∼5階)、分譲住宅 取得するSPC (6∼20階) 岡山市において、市街地再開発事業の事務所部 延床面積 17,000㎡ SPC組成規模 19.6億円 分を取得するYK+TKスキームによる事例である。 SPCが参加組合員として保留床の事務所部分の床 出資先 有限会社ピースワン・プロパティ を取得するため資金調達し、完成後に不動産管理 階数・用途 1∼4階・事務所 処分信託を行い、信託受益権を取得し事務所の運 街なか居住再生ファンド出資額 2.9億円 営を行なう事業スキームである。 仕組み 事業概要 ① 総事業費 47億円 プロジェクト名 岡山市平和町1番地区第一種市 街地再開発事業 階 数 20階 ― 12 ― 投資家が、有限責任中間法人の100%子会社 となるSPCを設立する。 ② アレンジャーがSPCのスキーム組成を行う。 ③ SPCは、金融機関からノンリコースローンを 借り入れ、投資家と劣後匿名組合出資契約を、 市街地再開発 2006年7月 第435号 街なか居住再生ファンドと優先匿名組合出資契 ⑥ 約をそれぞれ締結することにより資金調達を行 う。 ④ を引いた額を信託配当としてSPCへ支払う。 SPCは、信託会社からの信託配当を基に、金 ⑦ SPCは、参加組合員として再開発組合から 融機関への元利返済及び出資者に優先劣後関係 SPCが取得する事務所部分の価額を負担金とし て再開発組合へ支払う。 ⑤ 信託会社はテナントからの賃料のうち、経費 に基づいた配当を行う。 SPCは、3年間稼働後に売却を行い、ノンリ ⑧ 建物完成後、SPCは再開発組合から取得した コースローン及び出資元本の償還を行い、売却 事務所部分を信託会社に不動産管理処分信託を 益があった場合、これを出資者に優先劣後関係 行い、信託受益権を取得する。 に基づいた割合で分配する。 《事業スキーム》 3.終わりに の街なか居住再生ファンドは、地方の活性化を目 最近では、地方都市にも土地・建物について、 指している事業者の後押しや、不動産の証券化事 従来のように資産を所有するという考え方から、 業の普及を図りながら、中心市街地活性化の実現 利用するという考え方を持つ事業者が見られるよ を目指すものである。 うになり、地方都市においても不動産事業のビジ ファンドの利用をお考えの方や、制度について ネスモデルの変化が見られる。しかし、地方では ご不明の点等があれば遠慮なく当協会まで問い合 不動産の証券化手法を用いた事業の経験者不足が わせいただきたい。 否めないのが現状である。こうした中で、当協会 市街地再開発 2006年7月 第435号 ― 13 ― 用語解説 エクイティ 自己資本の意味。資産総額から負債総額を引いたもの。株式などの発行や組合出資に よる資金調達分を指す。 デット 負債の意味。社債などの発行や借入による資金調達分を指す。 ノンリコースローン 債務履行責任範囲を貸付の担保となっている資産に限定した貸付(非遡及貸付) 。 債務不履行が発生した場合でも、債務者の他の資産への債務履行請求は行われない。 マスターリース 建物所有者から賃借(リース)した賃借人が、さらに別のテナント等(転借人)に 対し転貸借する場合の建物所有者と賃借人とのリース契約を指す。 SPC 特別目的会社(Special Purpose Company)といい、単一の事業目的で設立される会社。 株式会社、TMK等が含まれる概念。 TMK 特定目的会社といい、資産の流動化に関する法律に規定された、資産を流動化するこ とを目的に設立される会社で、法人格を有する。 YK+TK 有限会社(YK)と匿名組合(TK)を組み合わせたスキームのこと。 信託 現金や土地等の財産(信託財産)の所有者(委託者)が、一定の目的(信託目的)に 従った運用や管理あるいは処分を信頼できる第三者(受託者)に委託すること。 信託受益権 受益者が信託財産から生じる収益(信託配当)を受け取る権利(収益受益権)と、信 託が終了した時に元本である財産の返還を受ける権利(元本受益権)の二つの権利を いう。 倒産隔離 SPCをオリジネーター(資産の原保有者)等から法的・会計的に切り離して倒産等の 影響を排除し、かつ、SPC自身の倒産可能性の排除を行うこと。 中間法人 (有限責任中間法人) 有限責任中間法人の設立に際しては300万円以上の基金の拠出が必要と なるが、社員(団体の構成員)は基金の拠出を義務付けられていないので、基金拠出 者と議決権を有する者(社員)とを切り離すことができる。この性質を利用して、事 業スキーム上の倒産隔離を図る。社員には、会計士、弁護士がなることが多い。 特定出資 特定目的会社(TMK)設立に際し発起人が払込みを行った出資のこと。 優先出資 特定目的会社(TMK)への出資の一形態。配当及び残余財産の分配が特定出資より優 先されるが、議決権に制限がある。 匿名組合出資 出資者(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業(匿名組合の事業)のために行う出 資のことを指し、経営の一切を営業者に委ね、営業より生じる利益の分配を受けるこ とを約束する契約(匿名組合契約)に基づく。 ― 14 ― 市街地再開発 2006年7月 第435号