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肝癌におけるB型肝炎ウイルス遺伝子のヒト遺伝子へ

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肝癌におけるB型肝炎ウイルス遺伝子のヒト遺伝子へ
楡井和重 他
日本大学医学部総合医学研究所紀要
Vol.1(2013)pp.43-46
創立 50 周年記念研究奨励金(共同研究)研究報告
肝癌における B 型肝炎ウイルス遺伝子のヒト遺伝子への
組み込み様式の解明
楡井和重 1),森山光彦 1),黒田正道 2)
Analysis of rearrangement of HBV integration in patients with HCC
Kazushige NIREI1),Mitsuhiko MORIYAMA1),Masamichi KURODA2)
要旨
肝癌(HCC)における HBV 遺伝子のヒト遺伝子への組み込みの有無については,様々な検討が現
在までなされてきた。HCV 関連 HCC においては,我々は既に,Occult HBV 感染が HCV 関連肝癌発
生の原因のひとつであることを報告している。今回の研究の目的は,HCC 症例で Occult HBV 感染例
の全塩基配列を増幅する PCR 法を行い,FISH 法にて HBV 遺伝子のヒト染色体への組み込み部位の
検索を行い,real-time PCR システムおよびアッセイ系を開発することである。対象は,2003 年より
肝細胞癌の診断にて手術切除され,検体使用の許諾を得た 36 例である。これらの症例の癌部および
非癌部の凍結組織より,通常の方法にて DNA を抽出後,nested PCR 法にて HBx DNA(150bp),PCR
法にて HBV-DNA(3.2kbp),cccDNA(500bp),の検出を行った。結果としては,HCC における
occult HBV感染の頻度は,HBx DNAは43%に検出された。HBV DNA(3.2kbp)は,B型では3例中2例
(66.7%)に検出可能であった。いずれの症例においても癌部よりのみ検出された。この PCR 産物を
精製して,FISH 法の probe として使用することとした。
1. はじめに
2. 対象および方法
肝癌(HCC)における HBV 遺伝子のヒト遺伝子
対象は,当院消化器外科にて 2003 年より肝細胞
への組み込みの有無については,様々な検討が現在
癌の診断にて手術切除され,検体使用の許諾を得た
までなされてきた。現状では,HBV 遺伝子のヒト遺
36 例である。内訳は,B 型肝細胞癌;3 例,C 型肝細
伝子への組み込み形式は,ランダムであり特定の部
胞癌;20 例,NBNC 型肝細胞癌;13 例である。これ
位への組み込みはないとされている。一方 HCV 関
らの症例の癌部および非癌部の凍結組織より,通常
連 HCC においては,我々は既に,Occult HBV 感染
の方法にて DNA を抽出後,nested PCR 法にて HBx
が HCV 関連肝癌発生の原因のひとつであることを
DNA(150bp)
,PCR 法 に て HBV-DNA(3.2kbp),
報告している。今回の研究の目的は,HCC 症例で
cccDNA(500bp),の検出を行った。
Occult HBV 感染例の全塩基配列を増幅する PCR 法
①高頻度に HBV DNA を検出し得る HBx 領域の
を行い,その PCR 産物を Probe として用いる FISH
primer sets を 用 い た nested PCR 法 に て HBV
法にて HBV 遺伝子のヒト染色体への組み込み部位
DNA を検出した。
の検索を行い,C 型および非 B 非 C(NBNC)型 HCC
② HBV DNA 検出例について,3.2kb の全塩基配列
例について HBV 遺伝子の組み込み部位を確認し,
を増幅できる PCR 法を用いて full genome の検
簡便な検出法(real-time PCR システムおよびアッセ
出を行い,その全塩基配列を Auto Sequencer に
イ系)を開発することである。
て決定する。
FISH 法による解析は,2011 年に肝癌にて外科切
1)
内科学系消化器肝臓内科学分野
2)
病態病理学系微生物学分野
楡井和重:[email protected]
─ 43 ─
肝癌における B 型肝炎ウイルス遺伝子のヒト遺伝子への組み込み様式の解明
除された,HBs 抗原陽性 5 例と HBs 抗原陰性かつ
スをかける。この後 37℃で必要時間ハイブ
HCV 抗体陽性 1 例の末梢血リンパ球より,リンパ球
リダイズする。
4)洗浄および検出を行う。
ヒト染色体上の HBV ゲノムの組み込みの検出を
5. 2 × SSC 中 5 分浸漬しカバーグラスを静かに
行った。
はずして,37℃の 50%ホルムアミド /2 × SSC
① HBV 関連肝癌発生例のヒト遺伝子への HBV 遺
中 20 分浸漬する。
伝子の組み込みの検出を,3.2kb の PCR 産物を
6. 1 × SSC ですすいだ後 1 × SSC 中 15 分浸漬し
probe とした FISH 法を用いて検討した。
② PCR 産物を精製して,FISH 法に用いる Probe
た後,DAPI 染色後マウントし蛍光観察を行
う。
を作製する。
1. HBV DNA の検出方法は以下の如く行った。
3. 結果
1)肝がん症例の全血 10ml ないしは凍結保存血清
100μ,あるいは凍結肝組織より DNA 抽出 kit を
(1)HCC における occult HBV 感染の頻度
1)この結果では HBx DNA は 43%に検出され
た。
内訳は,
HBx DNAはB型HCC; 3/3
(100%),
用いて DNA を抽出する。
2)採取した DNA を用いて,HBx 部位に設定した
C 型 HCC; 6/20(30%)
,NBNC 型肝細胞癌 ;
primer sets を用いて,nested PCR 法を行う。
6/13(46.2%)に検出された。癌部 / 非癌部
の検索では,B 型 HCC; 100/100%,C 型 HCC;
25/25 %,NBNC 型 HCC; 38.4/38.4 % で あ っ
2.HBV の組み込みの検出は以下の如く行った。
1)ヘパリン加全血 10ml を血球を分離して,プレ
た。
2)HBV DNA(3.2kbp)は,B 型では 3 例中 2 例
パラート上に薄層に添付する。
2)Fluorescence labeled in situ hybridization
(66.7%)に検出可能であった。このうち 1 例
(FISH)法により,染色体上への HBV の組み込
を FISH 法の probe として使用した。Fig.1 に
全塩基配列を提示する。次に,C 型において
みの検出を行う。
3)
B 型肝がん患者の血清より PCR にて HBV 全長
は全例で検出されなかった。NBNC 型 HCC
を増幅し,この PCR 産物を利用して FISH 法の
においては,17 例中の 1 例(7.7%)に検出が
probeを作製する。DNA濃度を1μg/μlに調整し
可能であった。いずれの症例においても癌部
て 20μg を probe として使用する。
よりのみ検出された。
3)このうち NBNC 型 HCC より検出可能であっ
固定細胞 FISH プロトコルを以下に提示する。
た 1 例の PCR 産物より 3.2kb の全塩基配列を
1)細胞の変性処理を以下のごとく行う。
Auto Sequencer を 用 い た direct sequence 法
1. 細胞標本を 70℃ホットプレート上で 2 時間
にて決定した。この結果より,genotype C に
ハードニング後,70℃の 70%ホルムアミド /2
分類された。この症例においては現在詳細を
× SSC 中 2 分間変性処理した後,氷冷した
検索中である。
4)cccDNA は,B 型では 3 例全例に検出され,
70%エタノールに 5 分浸漬する。
2. 70%エタノールで洗った後 100%エタノール
に 5 分浸漬後風乾もしくは 37℃インキュベー
C 型では 20 例中 2 例(10%)
,NBNC 型では
13 例中 1 例(7.7%)に検出された。
癌部と非癌部の比較では,B 型は全例が両
ターで乾燥する。
者より検出された。C型では,癌部2例(10%)
2)プローブの変性処理を以下のごとく行う。
3. スライドあたり 10μl のプローブをチューブ
, 非癌部 1 例(5%)に検出され , NBNC 型では
に入れ 75℃で 10 分変性して,5 分以上氷冷す
癌部 / 非癌部ともに 1 例ずつ(7.7/7.7%)に
る。
検出された。
cccDNA の検出例はいずれも HBx DNA が
3)ハイブリダイゼーションを行う。
4. 細胞標本にプローブをアプライしカバーグラ
─ 44 ─
検出されていた。また 3.2kbp の HBV DNA が
楡井和重 他
Fig1 38T 株の全塩基配列
検出された例からは,HBx DNA および cccD-
4. 考察
この PCR 産物を精製して,FISH 法の probe とし
NA の両者も検出されていた。
以上より,HBs 抗原が陰性の HCC 症例であって
て使用した。
も,肝組織より HBV が検出されること,cccDNA が
Fish 法の結果では,多数の HBV genome のヒト
低 頻 度 で は あ る が 検 出 さ れ た こ と よ り,HBV が
染色体への組み込みが認められた。しかしながら,
cccDNA の形態にて存在する症例が存在することが
特定の部位への組み込みの集積,いわゆる hot spot
確認された。
は認められず,その組み込みはランダムであった。
現在,組み込み部位と発癌に関与する遺伝子発現の
(2)HCC 発生例のヒト遺伝子への HBV ゲノムの
有無など背景因子について,次世代高速シークエン
サーを用いて検討中である。
組み込みの検出
PCR 産物を probe とした FISH 法を用いて検討
した。
この結果,B 型 HCC 例 4 例全例に,ヒトゲノム
への HBV ゲノムの組み込みを確認した。
これらの検索結果では,HBV ゲノムはヒト染色
体へ多数の組み込みが認められた。しかしなが
ら,特定の部位への組み込みの集積,いわゆる
hot spot は認められず,HBV ゲノムの組み込みは
ランダムであった。
文献
Yamamoto T, Kajino K, Kudo M, et al. Determination of
the clonal origin of multiple human hepatocellular
carcinomas by cloning and polymerase chain reaction of the integrated hepatitis B virus DNA.Hepatology 1999; 29: 1446-1452.
Matsuoka S, Nirei K, Tamura A, et al.Influence of Occult
Hepatitis B Virus Coinfection on the Incidence of Fibrosis and Hepatocellular Carcinoma in Chronic
Hepatitis C. Intervirology 2009; 51: 352-361.
Wang J, Lin J, Chang Y, Li P, Yang Y.MCM3AP, a novel
HBV integration site in hepatocellular carcinoma and
─ 45 ─
肝癌における B 型肝炎ウイルス遺伝子のヒト遺伝子への組み込み様式の解明
its implication in hepatocarcinogenesis.J Huazhong
Univ Sci Technolog Med Sci. 2010; 30: 425-429.
Tamori A, Yamanishi Y, Kawashima S, et al. Alteration of
gene expression in human hepatocellular carcinoma
with integrated hepatitis B virus DNA. Clin Cancer
Res 2005; 11: 5821–5826.
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