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甲10260 主論文の要旨_ISLAM

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甲10260 主論文の要旨_ISLAM
報告番号
※
主
第
号
論
文
の
要
旨
Molecular cytogenetic studies on hybrid sterility and
chromosome evolution in Anseriformes ( カ モ 目 に お
論文題目
ける雑種不妊と染色体進化に関する分子細胞遺伝
学的研究)
氏
名
ISLAM Fhamida Binte
論 文 内 容 の 要 旨
人類は、古くから様々な家畜を用いて種間・属間交配をおこない、雑種強勢(ヘテ
ロシス)効果を農業や生活の向上に役立ててきた。しかし、異なる種や属の間の雑種
では、多くの場合、発育不全や不妊という現象が見られる。そして、この生殖後隔離
は、種の分化や維持のための重要な遺伝的メカニズムのひとつである。この現象は両
親の種の染色体やゲノム構造、あるいは遺伝子の違いによって生じるものと考えられ
ているが、その詳細についてはまだほとんど不明である。本研究では、鳥類の雑種に
見られる不妊現象の分子・細胞遺伝学的メカニズムを明らかにする目的で、成長が早
く肉質も優れていることから東南アジア諸国において重要な経済動物となっている、
ア ヒ ル( Anas platyrhynchos)と バ リ ケ ン( Cairina moschata)の 雑 種( ド バ ン )に 着 目
し、雑種雄における精子形成と減数分裂について、分子細胞遺伝学的手法を用いた解
析をおこなった。また、カモ目における染色体の相同性や核型進化の過程を明らかに
す る 目 的 で 、 ア ヒ ル 、 バ リ ケ ン 、 ガ チ ョ ウ ( Anser cygnoides) の 3 種 を 対 象 に 、 FISH
(Fluorescence in situ hybridization)を 用 い た 比 較 染 色 体 マ ッ ピ ン グ を 実 施 し て 、こ れ ら 3
種間に生じた染色体構造変化を明らかにし、核型進化の過程について考察した。さら
に、異種間のゲノム・染色体構造の違いを、染色体を構築する動原体ヘテロクロマチ
ンの反復配列の進化の視点から明らかにし、減数分裂における染色体対合に及ぼす影
響について調べた。
1 ) ア ヒ ル と バ リ ケ ン の F1 雑 種 の 雄 性 不 妊 に 関 す る 細 胞 遺 伝 学 的 解 析
ア ヒ ル 雌 と バ リ ケ ン 雄 の 交 配 に よ っ て 得 ら れ た F1 雑 種 の 精 巣 組 織 切 片 の 観 察 の 結
果、精巣上皮は正常に発達し精母細胞は存在するが、染色体が異常に凝縮した核を持
つ第一精母細胞が大量に存在し、第二精母細胞ならびに精子細胞、精子は存在しなか
った。精巣細胞の染色体標本を観察した結果、減数分裂はパキテン期までは正常に進
行するが、ほとんどはパキテン期で退縮し、移動期から第一減数分裂中期で退縮した
細胞もわずかに観察された。そしてこれらの細胞はアポトーシスによって消失するた
め 、染 色 体 対 合 期 以 降 の 正 常 な 減 数 分 裂 細 胞 は 観 察 さ れ な か っ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、
こ の F 1 雑 種 で は 、染 色 体 対 合 が 阻 害 さ れ る こ と に よ っ て 、染 色 体 組 換 え 、キ ア ズ マ の
形成、それに続く染色体の分離が正常に進行せず、主に染色体対合期以降に精子形成
が停止することが示唆された。
ア ヒ ル と バ リ ケ ン の 体 細 胞 で 核 型 解 析 を お こ な っ た 結 果 、染 色 体 数 は と も に 80 本 で
あるが、2 種間で 1 番染色体と 2 番染色体の動原体の位置に違いが見られ、これらの
染色体で逆位が生じた可能性が示唆された。また、5 番染色体のサイズに大きな違い
が 見 ら れ 、さ ら に ア ヒ ル の Z 染 色 体 が も つ サ テ ラ イ ト 腕 が バ リ ケ ン の Z 染 色 体 に は 存
在しなかった。これらの染色体構造の違いによって、第一減数分裂における染色体対
合が阻害され、その結果、減数分裂が停止することによって第二減数分裂以降のステ
ージの細胞が形成されず、不妊となる可能性が示唆された。
2)アヒル、バリケン、ガチョウ間の染色体相同性と核型進化に関する分子細胞遺伝
学的解析
ア ヒ ル と バ リ ケ ン の 間 で は 、 1、 2、 5 番 、 Z 染 色 体 で 染 色 体 の 形 態 に 違 い が 見 ら れ
た が 、ガ チ ョ ウ と 比 較 し た 結 果 、ア ヒ ル と バ リ ケ ン の 4 番 染 色 体 と Z 染 色 体 が ア ク ロ
セントリック型であるのに対し、ガチョウでは 4 番染色体がメタセントリック、Z 染
色 体 が サ ブ メ タ セ ン ト リ ッ ク で あ っ た 。 ニ ワ ト リ 染 色 体 特 異 的 DNA プ ロ ー ブ を 用 い
て染色体ペインティングをおこなった結果、アヒル、バリケン、ガチョウ 3 種ともに
4 番染色体がアクロセントリック染色体とマイクロ染色体に分かれたが、その他の染
色体はそれぞれニワトリの 1 対の染色体に対応し、3 種間で同じ遺伝連鎖群をもつこ
と が 分 か っ た 。 FISH マ ッ ピ ン グ の 結 果 、 18S-28S リ ボ ソ ー ム RNA 遺 伝 子 の ク ラ ス タ
ーは、アヒルとバリケンでは 4 対、ガチョウでは 8 対のマイクロ染色体に存在した。
また、バリケンとガチョウのマイクロ染色体では、染色体テロメアの繰り返し
TTAGGG 配 列 が ア ヒ ル の そ れ ら に 比 べ て 大 き く 増 幅 し て い た 。さ ら に 、ニ ワ ト リ と ア
ヒ ル の 機 能 遺 伝 子 cDNA ク ロ ー ン を 用 い て 、ニ ワ ト リ - ア ヒ ル - バ リ ケ ン - ガ チ ョ ウ
間 で 1、2、3、4 番 、Z 染 色 体 の 比 較 染 色 体 マ ッ ピ ン グ を お こ な い 、こ れ ら 4 種 間 に 生
じ た 染 色 体 構 造 変 化 に つ い て 調 べ た 。そ の 結 果 、ニ ワ ト リ と カ モ 目 3 種 間 で 、1、2 番
染色体に挟動原体逆位が、ガチョウと他の 3 種の間で、4 番染色体と Z 染色体で挟動
原 体 逆 位 が 存 在 す る こ と が 判 明 し た 。ま た 、ア ヒ ル - バ リ ケ ン 間 で は 、1、2 番 染 色 体
の動原体の位置が異なるが遺伝子オーダーに違いが検出されなかったことから、挟動
原体逆位が存在したとしても微小なものであることが予想された。これらの結果は、
キジ目とカモ目における遺伝連鎖群は非常に保存的であり、同一染色体内の構造変化
は低頻度で生じているが、異なる染色体間の構造変化はほとんど存在しないことを示
している。
3)アヒルの動原体特異的反復配列の構造と進化に関する研究
染色体の動原体ヘテロクロマチンを構築する反復配列の構造とその進化過程を調べ
る 目 的 で 、 ア ヒ ル の サ テ ラ イ ト DNA の ク ロ ー ニ ン グ を お こ な っ た 。 20 を 超 え る 制 限
酵 素 を 用 い て ゲ ノ ム DNA を 消 化 し 、 電 気 泳 動 に よ っ て 高 度 反 復 配 列 の ス ク リ ー ニ ン
グ を お こ な っ た 結 果 、HaeIII の 認 識 サ イ ト を も ち 190 bp を 基 本 単 位 と す る 新 規 の 高 度
反 復 配 列 ( AFL-HaeIII) が 得 ら れ た 。 サ ザ ン ブ ロ ッ ト ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン で ラ ダ
ー 上 の バ ン ド が 得 ら れ 、FISH 解 析 の 結 果 、こ の 反 復 配 列 が 染 色 体 の 動 原 体 に 存 在 し 動
原 体 C-ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン の 分 布 と 一 致 す る こ と か ら 、 こ の 反 復 配 列 は ア ヒ ル の major
サ テ ラ イ ト DNA で あ り 、 ま た 、 強 い メ チ ル 化 を 受 け て い る こ と も 判 明 し た 。 こ れ ま
でに報告されているダチョウ目 2 種、キジ目 3 種から得られた動原体特異的反復配列
はすべてマイクロ染色体特異的であり、染色体サイズ特異的な区画化が見られるが、
ア ヒ ル の AFL-HaeIII は マ ク ロ 染 色 体 と マ イ ク ロ 染 色 体 の 両 方 に 分 布 す る 新 た な タ イ
プの動原体反復配列であった。また、スロットブロットハイブリダイゼーションの結
果、この配列は、カモ科(バリケン、ガチョウ、ヒシクイ、オオハクチョウ)特異的
に存在し、他の目では検出されなかった。以上の結果は、アヒルから得られた
AFL-HaeIII は 、制 限 酵 素 サ イ ト の 保 存 性 が 高 く 、ま た 塩 基 置 換 率 の 速 い カ モ 目 特 異 的
な動原体反復配列であることを示している。また、マクロ-マイクロ染色体間で均質
化が起こっていることから、カモ科鳥類の染色体では、動原体反復配列の染色体サイ
ズ依存的な区画化が消失している可能性が示唆された。したがって、この反復配列は
マ イ ク ロ 染 色 体 の ゲ ノ ム 構 造 の 特 異 性 ( 高 い 遺 伝 子 密 度 、 GC 含 量 、 組 換 え 率 ) の 起
源とその進化過程を解明するうえで重要な情報を提供するものである。また、バリケ
ンにおいても塩基配列の高い相同性が認められたことから、動原体反復配列がアヒル
- バ リ ケ ン 間 の F1 雑 種 の 減 数 分 裂 に お け る 染 色 体 の 対 合 異 常 の 原 因 で は な い こ と が
示唆された。
以上のように、本研究では、分子細胞遺伝学的な手法を用いて、アヒルとバリケン
の 染 色 体 構 造 の 違 い を 明 ら か に し た 。 そ し て 、 F1 雑 種 の 不 妊 が 、 染 色 体 構 造 の 不 適 合
性によって減数分裂の染色体対合に異常が生じ、減数分裂を停止した精母細胞のアポ
トーシスによって配偶子形成が停止することによって引き起こされることをを明らか
にした。また、比較染色体マッピングによって、キジ目ニワトリとカモ目 3 種間の染
色体構造を比較し、染色体と遺伝連鎖群の保存性が非常に高いことを示すとともに、
これらの種間で生じた核型進化の過程を明らかにした。さらに、カモ目鳥類の染色体
の動原体を構築する新規反復配列を単離し、その塩基配列の進化速度が速いこと、そ
してマクロ-マイクロ染色体間の染色体サイズ依存的な動原体反復配列の区画化がカ
モ目鳥類では消失している可能性を示した。本研究は、鳥類におけるゲノム・染色体
の進化、そして、それにともなう生殖後隔離と種の維持機構の解明に重要な情報を提
供するものである。
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