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PDF形式 478 KB - 内閣府経済社会総合研究所
第4章
科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利
用・交流の国際比較
4-1
4-1-1
各国の現状
米国
(1)科学技術関連政策システム
米国では 2001 年から 2007 年末までの経済成長の間、情報通信技術の進展が起業サービス部門での生産性向
上を促した。国家としてイノベーション政策に取り組んでおり、政府部門での研究開発支出は減少したが、高
等教育部門や企業部門で増加し、総支出は増加している。
覇権国家の維持という国家目標を掲げる米国を支える基盤が科学技術であり、いずれの政権下でも重要課題
として継続されている。しかし、科学技術政策に関心を持つ研究政策コミュニティの多くは民主党支持者で、
民主党政権下ではそのコミュニティを支援する政策に重点が移され、一方の共和党政権では上位の国家目標に
牽引され、政策の重点が大学や企業における研究開発の現場から遠のく傾向が強い。
ブッシュ政権時代の総合政策として、2006 年 1 月に制定されたアメリカ競争力イニシアティブ(ACI: America
Competitiveness Initiative)がある。これは米国の国際競争力を維持し研究開発と教育への投資を増やすこ
と、特にバイオ・医学系に比べて資金配分の増加が遅れている物理・工学系への配分を強化することを主な目
標に掲げた。大統領府科学技術政策局(OSTP: Office of Science and Technology Policy)で策定され、2007
年度予算教書に盛り込み議会への承認を目指したが、2009 年度の通常予算審議までの 3 回の提案にも関わら
ず議会での承認が得られなかった。オバマが勝利した大統領選挙後の景気刺激策のための補正予算にこの案を
加えてようやく認められた。
ブッシュ政権下では全米アカデミー(National Academies)からの提言「巻き起こる嵐を乗り越えて」
(2005)
および国家科学技術会議(NSTC: National Science and Technology Council)で策定したアメリカ競争力イ
ニシアティブ(2006)の両者を受けて「米国競争力法」(2007)が策定された。
米国競争力法においては、以下が鍵となる要因であったとされる。
• 学術的なもの、非営利シンクタンク、産業界や政府など様々な情報源からの幅広い研究が政策変化に対し
て論拠や根拠を提供するために非常に有用である。公式および非公式の外部情報源が鍵となるインプット
である。多様な見解は、研究バイアスが政策オプションに影響しないことを保証するために必要である。
• 政策研究から政策立案者への翻訳フェーズが決定的に重要である。内部の議論に研究成果を持ち込むこ
とが大事な段階となる。政策立案者はたいてい非常に忙しい個人であるので、信頼できる情報源からの
情報とあわせ、問題をキーポイントとして抽出することに価値を置く。鍵となるコミュニケーターがこ
のプロセスで非常に有用である。
• 政策立案者による所有感覚が、時宜を得た行動にとって重要だろう。研究の誕生から、その完了にも関
わらず、政策立案者の見解を統合することは重要であるようだ。
• 政府からの情報源はデータ源としてもっとも価値がある。
• 政府の政策研究は懐疑的に見られている。こうした研究は上席政策立案者によって定義される既存の政
策によって不可避的に影響される。新しいアイデア、変化する概念、破壊的イノベーションは政府の政
策研究からは登場しそうにない。
• 政府の業務に固有の限界のために、非政府研究は政策アイデアを生起するところから政策評価まで、ど
の段階でも欠かせない。
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
• 行政府がある問題に重きを置いていないとき、議会など政府の他所からのリーダーシップは成功のため
に必須である。議会は多様な関心を持つ多様な議員から構成されているため、米国競争力法における課
題のための幅広い研究や支援機関が、成功をもたらす際の助けとなる。
(2)政策策定・知識利用プロセス
米国競争力法、
「イノベートアメリカ」、アメリカ競争力イニシアティブの事例では、学術的な体裁の研究は
課題の定義に決定的であった。これらの報告書や行動でなされた提言やのほとんどすべてが現行のデータ分析
や特定の政策研究に起源を求めることができる。だが、そのような分析や既存の政策研究が政策行動に必要な
政治的注意を引きつけるには不十分であった。これは NAS や CoC の研究と同じである。これらはステーク
ホルダーや高名な専門家を巻き込むプロセスにおいて鍵となるアイデアを析出し、その研究で巻き込んだ個人
を通じて、政策立案者の関心を得ることができる。人々が鍵であり、それは彼らの組織制度の信頼性によって
支えられている。
このコンビネーションの好例が「巻き起こる嵐を乗り越えて」という報告書にまとめられた研究である。全
米科学アカデミーへのレターで、二人の上院議員が二つの重要な要求を出した。
(1)米国の科学技術を強化す
るのに必要な 10 のアクションを上からリストして提示すること、
(2)6ヶ月以内に研究を完了すること。彼ら
は既に利用可能なよい政策研究がいくらでもあることが分かっていたが、幅のあるアイデアを分析してトップ
10 の提言を行うのに信頼に足る機関を求めていた。この役割において、全米科学アカデミーの名声が欠かせ
ないものであった。共和党議員も民主党議員はアカデミー会員および研究の蓄積に対して多大な敬意を払って
いたからである。
アカデミーは科学・工学・公共政策委員会(COSEPUP)に研究を統括するよう指令を出し、委員会はただ
ちにワーキンググループを結成した。それは「21 世紀のグローバル経済において繁栄する委員会:米国の科
学技術のためのアジェンダ」と呼ばれた。委員会は主要大学の総長、ノーベル賞科学者、大企業 CEO、元大
統領アポインティーなど 20 名のメンバーからなる。
COSEPUP は研究を支援するため 14 名という比較的大がかりなスタッフもすぐに用意した。彼らの最初の
業務は鍵となる課題について 13 のバックグラウンドペーパーを起草することであった。これらのワーキング
ペーパーのそれぞれが幅広い既往研究やデータ分析から引き出されたものであり、それから鍵となる要素が抽
出された。この活動は政策立案者のためのペーパーとして政策分析から導かれる教訓をまとめるという、重要
な翻訳段階である。
研究は政府によってなされる場合もあるが、たいていの場合、研究は大学を含む非政府組織によってなされ
る。政府のデータ源はよく使われるが、政府による研究は政府外の人間からは、政府の好ましいように結果が
偏向されているという疑いの目で見られている。政策に関する政府研究にとって、ビジョンを持ったり破壊的
なものにするために公式の政策を越えていくことは難しい。こうして、ほとんどの政策関連研究は政府外から
もたらされる。情報源の多様性はたとえば二つのワーキンググループの報告書で用いられている参考文献をい
くつか見ることで分かる。初等中等(K-12)の科学、数学、技術教育のワーキンググループでは、ワーキン
グペーパーの参考文献として、これまでの政策研究や政府データが主に使われた。可能性のある生徒を科学・
工学に引きつけるためのワーキンググループでは、参考文献として雑誌記事が多用された。他のワーキンググ
ループのペーパーでは両者の間ぐらいである。
競争力カウンシル(CoC)は国のイノベーションイニシアティブ(NII)を 2003 年 11 月に立ち上げた。CoC
のメンバーは米国のイノベーションにおけるリーダーシップに向けて、様々な新しい挑戦に取り組む必要を感
じていた。NII の第一段階は 19 名の CEO や大学総長からなる首長委員会によって運営された。座長は IBM
の CEO であるサミュエル・J・パルミサーノとジョージア工科大学の総長である G・ウェイン・クロウである。
44 名のイノベーション・リーダーからなる助言委員会と、産業界、学界、政府や NPO からの 300 名を超える
参加者を巻き込んだ 7 つのワーキンググループによって支えられている。
報告書「イノベートアメリカ:挑戦と変化の世界で繁栄する」の 2004 年 12 月の公開に際し、CoC は世界
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
中から 500 名の参加者を集め、ワシントンで国のイノベーションサミットを開催した。報告書では、才能、投
資、インフラという 3 つの主な行動プラットフォームごとにグループ化された 60 以上の提言が書かれた。
以上の二つの主要な研究の例、および他の政策研究でも見られるように、研究や提言はこれまで業績に強く
依存している。著名な政策研究がある課題に取り組む最初のものであるということは一般的ではない。もし本
当に新しい課題であったら、その視野は限られたものであることが多い。そのような例として、職業的科学修
士プログラムが挙げられる。
職業的科学修士(PSM)は新しい学位である。学生が職場技能も開発しながら科学や数学の進んだ教育を追
究することができる。PSM プログラムは 2 年間の新興ないし学際分野での学術的な訓練とともに、ビジネス
やコミュニケーションにおいてインターンシップや「クロストレーニング」を含む職業的要素も鍛える。すべ
ては産業界と協力して開発してきており、現在および将来の職業キャリアの機会に合うようデザインされてい
る。プログラムはスローン財団にせたって 1997 年に立ち上げられ、ヘルスケア分野における科学修士のため
の学校を発展させているケック財団によって発展された。イノベートアメリカにおいて裏書きされ、米国競争
力法において権威化された。
政策についての情報源のインパクトは、誰が情報を提供するかだけでなく、どれだけの支援がその報告書に
あるかによっても増幅されうる。大きな役割が多くの見解を代表できる提携とグループによって果たされる。
たとえば、「アメリカの潜在力を活用する」では、2015 年までに科学・技術・工学・数学(STEM)における
学位を持った学生の数の二倍にするという目標を設定しているが、いくつもの連盟の連携によって支援されて
いる。
(3)知識生産主体
科学技術政策の分野では、米政府が定期的でない政策研究を実施したり直接委託したというものは非常に少
数である。商務省の技術行政局では、技術政策研究を実施することに責任を負うが、皮肉にも米国競争力法か
ら除外された。
防衛分析研究所(IDA)は、防衛政策課題の研究の実施と科学技術政策研究所(STPI)の運営を行う連邦助
成研究開発センター(FFRDC)である。STPI は OSTP に認められるため、あるいは OSTP から認可された政
策研究を実施する。だが、たいていの場合、OSTP では非常に早く動く政策課題を求めてほとんどの STPI 研
究が 1 年の時間枠で行われているため、これら政策形成のための研究のインパクトははっきりしない。STPI
は 2004 年に RAND から Abt アソシエーツに運営が移り、そこから防衛分析研究所に移って以来、継続的な
移行期にある。ゆえに研究活動は壊滅的である。今は IDA に落ち着くようになって、STPI は OSTP から要求
されたり承認された研究を多く手がけ始めた。
米議会は科学技術政策における課題に取り組むため研究に関する能力も有している。議会研究サービス(CRS)
は議会メンバーからの要求に応じて研究を行う。かつての議会技術評価局(OTA)のように 18ヶ月ではなく、
CRS ではたいてい数日から数ヶ月の短期研究である。
政府アカウンタビリティ局(GAO)の主たる業務は議会メンバーの要求に応じて連邦政府組織の業績を評
価することである。この事例では、メンバーは GAO に調査の実施を依頼するときは特定の関心を持っている。
研究結果の取り組みはメンバーからの質問に答えることに向けられる。
政策研究が政府のために実施されているとき、連邦政府外では行政の政策や選好を反映するために結果にバ
イアスが掛けられている(結果が変えられたり、あらかじめ定められたりしている)かもしれないという懸念
があり、政策研究に疑いの目を向けられることがある。一つの事例では、業務の海外委託の問題についての商
務省の技術行政局の研究報告書が挙げられる。懸念の根拠は半導体産業協会の例も含む。米国の半導体会社が
海外で雇うエンジニアの数は 2000 年から 2003 年にかけて 1 万人以上にまで増加しているのに対し、同時期に
米国国内で雇用されたエンジニアは 4,000 人にまで落ち込んでいる。
メタレベルでの政策プロセスを考えると、構造的に利用可能な研究を解釈する際に政策立案者を支援するの
は限られた制度や手配である。議会が 1990 年代に OTA を失ったにも関わらず、CRS や GAO といった機関は
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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存続している。CRS は議会を支援し、既存のデータから析出することを専門にする短期の研究である。GAO
は政府の自身の分野の分析を行うが、議会メンバーの関心に応えることを常としている。
政府の行政サイドでは、科学技術政策研究所(STPI)が優先的政策トピックを掘り下げるのに助けとなる役
割を果たしていると見られる。場合によっては一次研究を行うこともあるが、だいたいは既存の研究成果から
導き出すことをしている。連邦機関のそれぞれは政策研究を委託することもありうるが、特定の内部シンクタ
ンクは存在しない。
議会も行政府も助言のために外部シンクタンクに他より、最も主要なものは政府の両サイドや両党から敬意
をもたれているものとして、全米アカデミーがある。
(4)知識交流
1995 年以来、科学技術コミュニティは政策議論とますます結びつくようになっている。同時に、上院と下
院が民主党から共和党多数に移った。新しい共和党議会では、特に下院では、科学技術の支援を高い優先事項
としていないようであった。共和党革命において科学技術が入ってくるかもしれないということは高い関心で
あった。これらの関心は国中のグループを活気づけた。この問題について明らかになると議会の支持的なメン
バーを激励し、政策研究者、政策唱道者、政策立案者間のコミュニケーションスペースが作られた。
研究の進展のように、これらのコミュニケーションスペースは時間と共に発展していくばかりであるが、米
国競争力法の時代まで、この様々なスペースが政策形成に研究研究をもたらす鍵となるチャネルを提供してい
た。米国競争力法の成功は、10 年以上に及ぶ政策研究者、政策唱道者、政策立案者間のコミュニケーション
スペースの拡大の上に成り立ったものなのである。
コミュニケーションチャネルの種類は大きなサミットから一対一の会合、廊下での立ち話まで幅がある。た
いていは研究オーガナイザーによって駆動されるが、政策立案者によっても組織立てられる。それぞれは知識
と関与を進める際にするべき役割を持っている活動のピークが「イノベートアメリカ」や「巻き起こる嵐を乗
り越えて」のような視認性と優先度が高いイベントにあるとき、鍵となるコミュニケーターも登場する。彼ら
は政策立案者、ビジネスやアカデミアから高い敬意を受ける個人であり、研究オーガナイザーにとても熱望さ
れる人である。
サミットやシンポジウム
「イノベートアメリカ」および「巻き起こる嵐を乗り越えて」はどちらも、その完
了はアウトリーチイベントと併せて行われた。CoC の国のイノベーションイニシアティブは研究を見えやす
くし、政策立案者の関心を集めるため、国のイノベーションサミットを 2004 年 12 月 14 日に開催した。全米
科学アカデミーはこの研究の提言をプレビューし議論するために 2005 年 9 月 28 日、政府、産業界、大学の主
導者との会合を開いた。
政策的・政治的主導者がまだ主要な競争力イニシアティブをプッシュすることに関心を表明していなかった
とき、サミットは「イノベートアメリカ」にとってより重要なものであった。CoC によれば、このサミットは
500 名の参加者を得たという。
法制化に向けて主要な位置にある上院・下院の鍵となる議員が欠席している。興味深いことは、上院から来
ている名誉助言委員会のメンバーが誰もこのサミットで発言をしていないことである。
こうしてこの研究を行動に翻訳するため、議会スタッフとの引き続いての会合がもっと重要である。これは
以下で議論される。
パブリックイベント
ナショナルプレスクラブ・ブリーフィング。ワシントンのナショナルプレスクラブはイ
ベントの報道や報告書のリリースにおいてよく知られた場である。というのもプレスにとって、望めば出席す
ることが便利なように取り計らわれているからである。たとえば、アメリカのイノベーションの将来について
のタスクフォースの報告書「われわれのイノベーションの将来についてのベンチマーク」は、2005 年 2 月 16
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日にナショナルプレスクラブで公式にリリースされた。だが、同日ブッシュ大統領はナショナルプレスクラブ
で別のイベントを開催し、レポーターはそちらに出払ってしまった。
場合によっては、研究オーガナイザーは議会の政策立案者の耳に触れる機会を増やすため、報告書のリリー
スにあたり、議会にワークショップやシンポジウムを持ち込む。たとえば、電子産業連盟がスポンサーになっ
た「イノベーションの岐路に立つ技術産業」は連邦議会で 2004 年 5 月 5 日にリリースされた。
サミットは地方の政治的な支援や結びつきを作るため、ワシントンの外側でも行われうる。例としては、米
電子工学協会(AEA)が主催したテキサス競争力サミットがある。共和党上院議員であるジョン・コーニンが
このサミットの名誉座長を務めた。ダラスのテキサス大学で開かれた。
政策ワークショップ・フォーラム
ワシントンでは幾多の機関が、問題についての政治的対話を進めるために
政策関係の議論やワークショップを設けている。開かれた公共政策議論はワシントンでは日常的に行われてい
る。そうした機関の多くは非営利シンクタンクであるが、業界や専門家団体もあり、政策分析と政策立案者と
の議論を混ぜたものの機会をふんだんに与えている。
一つの伝統的な場は、外交政策の議論を何十年にわたり主催してきた戦略国際研究センター(CSIS)であ
る。他の活動的な機関として、現在の出来事を議論するワシントンにおける主導的フォーラムとなったニュー
アメリカ財団がある。
特に科学技術では、情報技術・イノベーション財団(ITIF)が非常に活発である。政策議論によって直面す
る一つの課題は議論に政策立案者を引きつけることである。ITIF ではアーサー・デイビス(民主党)とジョン・
ポーター(共和党)という二人の下院議員が理事会の共同議長を務めている。だが、政策形成コミュニティか
らの主要な参加者は議会スタッフや行政からのキャリアスタッフでありがちである。
競争力カウンシル(CoC)
議会内の政策立案者とより有効なコミュニケーションスペースを構築するため、
CoC では何年も議会で教育的なアウトリーチ会合に出資してきた。CoC は上院でのテック・フォーラム、下
院での朝食会(Breakfast Bytes)、毎年行う議会スタッフとの合宿(overnight retreat)のスポンサーである。
テックフォーラムでは基礎研究、ブロードバンドの将来、競争力指標、ラボから市場へアイデアを移すこと、
エネルギー持続可能性の重要性といったテーマで開催している。下院の朝食会はテックフォーラムと異なり、
議会の議会からの座長を持たない。従って、朝食会はもっと非公式的でもっと議会スタッフをターゲットにし
ている。朝食会では、科学者・工学者の不足による国家安全保障への含意、米国の特許システムの強化、次世
代の科学者・工学者に意欲を与える革新的な方法、などのテーマで開催している。毎年、CoC では選抜され
た議会スタッフとの合宿を開催している。2005 年 1 月に、このスタッフ合宿はメリーランド州のバルチモア
で行われ、国家イノベーションイニシアティブや「イノベートアメリカ」の提言を法制化に向けて調整する戦
略について話し合われた。およそ 10-15 名のスタッフが招待講演者や CoC のスタッフとともにこうした合宿
に参加している。
技術・イノベーションフォーラム
技術・イノベーションフォーラムは科学技術政策立案者との対話を直接行
う手段である。フォーラムはスローン財団とマッカーサー財団からの支援によって CoC によって立ち上げら
れた。
草の根・ボトムアップ型コミュニケーションスペース
政策立案者とのコミュニケーションプロセスを評価す
るとき、情報を伝えるのに草の根の努力も重要である。多くの個人や組織をまたぐこうしたコミュニケーショ
ンスペースはメンバーが持つ多様な結びつきを活用する。例としてはアメリカ科学技術研究同盟(ASTRA)
およびアメリカ科学者・工学者アクションファンド(SEA)がある。
ASTRA は、数物科学、工学を代表する組織や個人の提携団体である。2001 年に創立され、ASTRA は数物
科学や工学の理解促進に努めている。メンバーは産業界、専門団体、大学、個人の科学者や研究者である。18
名は鍵となる企業、大学、非営利団体、貿易団体の核となるグループから、2000 年に ASTRA は 2008 年には
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124 の組織、約 32,000 名の個人の科学者、工学者、技術者、研究者、教授、学生、政策立案者や他の個人から
なる全国的なネットワークを抱えるまでに拡大した。
SEA のミッションはあらゆるレベルの政府において根拠に基づく意思決定を促すことである。SEA は科学
と政治のギャップを架橋する。SEA は政策に科学を持ち込み、科学とのための政策に影響を与えることに焦点
を当てている。SEA はまた、SHARP(科学、保健、それらに関係する政策)ネットワークを持つ。これは議
会メンバー、議会オフィスの候補者、大統領候補の科学や保健政策スタンスを追跡するウィキ(ウィキペディ
アに似たもの)である。
政策立案者への直接的なブリーフィング
政策立案者への直接的なブリーフィングは、注意を引きつけること
のできる最も望ましい手段である。研究を出版した後、研究のパネリストやメンバーが政策立案者への直接的
なブリーフィングの時間を求めることは良くあることである。
レター
多くのメンバーと鍵となる課題についてコミュニケーションするため、伝統的なレターという手段を
とる組織も多い。
議会訪問日(CVD)
CVD は科学・工学・技術に対する視認性と支援を増やすため、科学者、工学者、研究
者、教育者、技術責任者をワシントンに連れていくもので、毎年開かれる 2 日間のイベントである。セクター
や学問が多様であり、CVD は企業、職業的社会、教育的制度の連携によって行われており、科学技術が国の
将来の礎石となることを信じるすべての人々に開かれている。1995 年に開始され、2009 年に 14 回を数える。
科学工学技術ワーキンググループ(SETWG)によって主催されている。SETWG は職業的・科学的・工学的学
会、高等教育連盟、高い学習制度、貿易団体や個人企業からなる。ワーキンググループは米国の科学・数学・
工学の将来の活発さについて関心がある。
非公式の直接コミュニケーションスペース:レセプション
おそらく一日でもっとも重要なことはアカデミー
のビルから議会に参加者が移動し、受付で政策立案者に面するときだろう。このレセプションでの混和や議論
の時間が非常に有意義である。和やかな場で政策立案者に直接情報を伝えるのに非常に有用である。
議会党員集会・フォーラム
議会が主催する党員集会やフォーラムはもっとも直接的なコミュニケーションス
ペースの一つである。例として、1997 年、上院科学技術党員委員会が NSF の研究予算を倍増するといったイ
ニシアティブのための直接対話や支援の手段を提供した。下院でも似たような議会研究開発党員集会が設けら
れている。これら二つの党員集会は投資の継続を求めてブリーフィングをするべく専門・学術機関が議会に集
まる毎年の科学技術議会訪問日を支援することにおいて、積極的でもある。
このほか、超党派の科学技術工学数学教育党員集会が両院に設けられている。
議会のメンバーは情報や支援を集めるためにフォーラムを開いたりもする。2005 年 11 月に下院の民主党員
によって発表されたイノベーションアジェンダの場合、この課題を掘り下げるためにフォーラムが全国的に開
かれた。この民主党によるイニシアティブは全国の最大の技術クラスターで一連の会合を開くことから始めた。
議会研究開発党員集会
議会研究開発党員集会はホルト議員とビガート議員によって座長が務められ、コミュ
ニケーションのための便利な場が議会スポンサーによって提供されている。
議会スタッフの要求によるブリーフィング
あまり構造化されていない形式であるが、議会スタッフは外部の
グループからのブリーフィングをたまに要求する。たとえば、ブッシュ大統領が全米競争力イニシアティブを
2006 年 2 月に発表した後、下院の共和党員は競争力のための法制化にかかると感じた。このとき以前、下院
のリーダーシップは NAS や CoC の研究に関した競争力の法制化に動くことにほとんど関心がなかったこと
を知らせている。
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2006 年 3 月に共和党科学委員会のスタッフは法制化の可能性や競争力イニシアティブのためにどのように
助成を得るかについて議論するため、競争力の法制化に関心がある米国科学財団連盟、ASTRA、その他のグ
ループの代表数十名を招いた。民主党は会合について知らされなかった。
議会聴聞会
個人や組織にとって提案された法律ないし既存の法律について見解を表明する伝統的な公式の
メカニズムは、議会聴聞会のプロセスである。議会委員会は委員会メンバーに対する証言をする「証人」を呼
ぶ。これら証人の宣誓は議会記録の一部となり、法律の作成や監視において議員によって利用されるものとな
る。この意味で外部とのコミュニケーションのメカニズムは政策に影響を与える正式なルートを持つ。
だが、パネルは小さく、数名の選定された証人からなっているため、聴聞会はしばしば委員会の主なメン
バーにとって好ましい見解を反映したものとなる。
たとえば、2005 年 7 月 21 日、下院科学委員会はイノベートアメリカにおける提言をめぐって聴聞会を開い
た。証人は研究に関わった 3 名の主人物である。
鍵となるコミュニケーター
「イノベートアメリカ」や「巻き起こる嵐を乗り越えて」といった高レベルの政
策研究を精査する際、数名の個人が政策研究の場をまたがって、高レベルの政府役人に直接的な政策助言をす
る役割において活躍している。両方の研究における個人の参加者、PCAST のような高レベル助言パネルへの
参加は、コミュニケーターとして、かつ有識者としての両方において価値を認められている証である。
決定的に重要で鍵となるコミュニケーターは、ロッキード・マーティン社の前 CEO であるノーマン・オー
グスティンである。オーグスティン自身は共和党員であるが、民主党と共和党の両方から高く認められてい
る。彼はクリントン、ブッシュ両大統領下で PCAST に在籍した。オーグスティンは上院議員、下院議員との
約束を取ることに問題がないほど名声を持っている。また、この競争力の問題が大変重要であると考えていた
彼は、「巻き起こる嵐を乗り越えて」の提言を主に強調しながら、自ら政策立案者との会合に多くの時間を投
入した。彼は政策研究から政策立案者への中心的なコミュニケーターであった。
ジョージア工科大学総長であったウェイン・クロウはイノベートアメリカの主唱者であった。クロウは PCAST
の椅子に座りながら、大統領の行政オフィスに直接的なラインも持っていた。彼はオーグスティンのように研
究の提言の唱道に相当の時間を自発的に費やした。パルミサーノも IBM の CEO としての名声ゆえに確かに重
要である。だが、彼の政策とのリンクはおそらくそれほど直接的ではなかった。
4-1-2
英国
(1)科学技術関連政策システム
英国における科学技術・イノベーション政策形成は、イノベーション・大学・技能省(DIUS)という単一
の省の下でなされており、政策立案者はそれぞれイノベーション、科学、研究という三つの総局と政府科学局
(GO-Science)に所属している。DIUS は職業教育から産学連携の促進まで非常に幅広い政策権限を持ち、多
くの行政機関を通して政策を実施している。科学技術・イノベーションの領域では、助成機関、研究カウンシ
ル、技術戦略理事会、デザインカウンシルや英国科学技術文化基金(NESTA)といった他の省庁外の公的機関
などがある。イノベーションについては、特に小規模で地域基盤のビジネスコミュニティが有効な公的支援を
受けられるよう、DIUS は産業省や地域開発機関と密接に協働している。 英国では政策チームと実施機関の
上席マネージャーは科学技術・イノベーションのスペシャリストや訓練された経済学者・統計学者のチームに
よって支えられている。これらのスペシャリストたちはアドホックな助言をし、短期研究を委託し、分野の専
門性を維持するために定期刊行するサーベイや、学界やコンサルタント業界の科学技術・イノベーション研究
者との定期的な対話を設けている。また、政策分析官、学者や他の専門家が課題についての共通理解を持ち、
新しいツールやサーベイの開発のための超国家的なプロジェクトを立案する国際的なワーキンググループにも
参加している。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
戦略的ステートメント、業績契約、定期報告は DIUS の実施機関を通じてもなされている。全体の科学イノ
ベーションの業務成果はそれ自体で国務大臣に定期的に報告される。定期報告は大蔵省によって監査されため、
業務の成否は将来の包括的な支出レビューにおける予算確定に影響しうる。
DIUS は学術界と政府に関する科学技術・イノベーションを主導する一方、ビジネス・企業・規制改革省
(BERR)と協力して、その権限のイノベーションの部分を定義している。BERR は国レベルのビジネス支援プ
ログラムの助成を通じて直接的にイノベーションを支援している。たとえば、研究開発にかかる費用を補填す
る小規模ビジネスのための助成金や、リーン生産方式の実施から新しい製品開発プロセスの改善まで、ビジネ
ス展開の幅広い機会について小規模ビジネスに助言を与える製造業アドバイザリーサービスがある。BERR は
イノベーションのあらゆる局面について年間およそ 3 億ポンドを支出している地域開発庁(RDAs)の資金を
通じて間接的にビジネスにおけるイノベーションも支援している。RDA はイノベーションの地域条件に関心
を持ち、開発初期段階における新しい技術基盤の企業や研究移転施設の設立を通じて、地域ビジネスとともに
新しい技術の見極め、獲得、発展を求めている。とはいえ、財政面で DIUS は英国の科学技術・イノベーショ
ンアジェンダを支配しているのが現状であり、BERR や RDA によってイノベーションに投じられる額の5倍
以上を有している。
(2)政策策定・知識利用プロセス
英国の科学技術・イノベーション政策は『イノベーションネーション』という公的文書で詳述されている。
これは科学技術・イノベーションがなぜ英国にとって重要かということや、政府がどのように関わるかといっ
た説明とともに、それぞれの優先順位を定めたものである。文書には大蔵省および当該省庁との個別の行政契
約について、計測可能な目標に変換されうる明確な目的が書いてあり、費用がかかる事業計画の年間の更新を
するための政府規模での要求に基づく。
こうした政策文書に加え、科学的助言の利用やステークホルダーの相談における良い実践といった多くの
「技術的」ガイダンスがあるにも関わらず、国の政策展開に対する単一の規定された手続きというものはない。
実際には、政策は最初に歴史的関係、現在の政策の責務、何らかの関係する研究や根拠とのバランスを取ろう
としながら、政策チームによって起草される。草稿は最近の独立レビューからの知見を拾い上げながら、鍵と
なるステークホルダーや主要な個人との相互の議論を通じて繰り返される。そして最終的には、もっと開かれ
た公的な諮問を通じて政策が調整される。
政策立案者は科学技術・イノベーション政策形成の際、ますます政策研究の現状に留意するようになってい
る。最も明らかなところではセミナー論文や関連する研究を参照している。国際的な政策研究コミュニティの
動向も同じぐらい重要視されている。政策立案者がイノベーションを理解するため、研究開発スコアボードな
どの良いモニタリングや定期的サーベイが優れたプラットフォームとなっている。今や、研究開発スコアボー
ドは政策立案者が産業構造や市場条件の重要性を認識する基本材料になっている。
政策チームは科学技術・イノベーション政策研究コミュニティに短期研究を委託している。特定化はスペシャ
リストによって詳細が詰められ、この外注は政策オプションや政策の有効性についての狭い質問への答えを探
す助けとなるよう、政策チームが最新の考え方、データ、ツールに直接アクセスできるようにするものである。
政府は科学技術・イノベーション政策においてシンクタンクを非常に活用し始めている。特に国立科学技術
文化基金(NESTA)に出資しており、NESTA では科学技術・イノベーション政策の方向性や内容を決めるの
にますます活発な役割を果たすようになっている。他の影響的なシンクタンクは DEMOS であり、一方で科学
と社会の問題について、他方で国際的な研究提携について影響的な業績を残している。
政府社会研究ユニット(GSRU)
政府社会研究ユニット(GSRU)は大蔵省に置かれ、戦略・政策立案・実
施における根拠となる社会研究の利用を促進することを目的とする。戦略的社会研究課題の導出と政府におけ
る社会研究のための標準を設定することも重要な業務であり、このためにメンバーは幅広い対象や政策領域に
おいて活動しながら、政府分析官の業務を調整し、20 もの政府省庁・機関、分離行政をまたいで他の専門グ
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
ループとの協働も推進している。相手となる機関がどのように組織化されているにせよ、GSRU の研究者は、
政府の政策を発展させ実施する同僚と密接に協働するのが普通である。それは彼らの情報ニーズを特定し、そ
れに適うことを保証するためである。
GSRU では GSR 倫理グループを 2007 年に結成している。これは政府内で良き実践、学習と経験を共有した
り研究業務における倫理的課題の考慮をするなど、メンバー機関で政府における社会研究に対する倫理的保証
をするという権限を持つ。
政府科学局(GO-Science)
政府主席科学アドバイザー(GCSA)のジョン・ベッディントン教授が局長を
務める政府科学局は DIUS の中に置かれ、首相と内閣に対し提言し、科学的・科学政策的課題について彼らに
与える科学的助言の質を改善するとともに、省庁横断的に政策立案の改善を支援する責任を負う。
英国フォーサイトプログラムは省庁横断的にイノベーション政策形成の主駆動因であり、戦略的支援を政策立
案者に与えることで、将来を「管理」する目的がある。フォーサイトプログラムと将来展望センター(Horizon
Scanning Centre)は政府科学局の一部である。フォーサイトプログラムの目的は短期的・長期的なものの間の
政策形成のギャップを架橋することである。フォーサイトは、政府が長期的思考と直ちに注意を払うべき課題
に取り組むこととの適正なバランスを取ることができるよう助ける。政府主席科学アドバイザーはまた、科学
技術カウンシルの共同座長であり、政府のフォーサイトプログラムを監督し、英国の国際的な科学技術・イノ
ベーション戦略・実施を調整するグローバル科学イノベーションフォーラムの座長を務め、政府内の科学工学
専門部の頭を務める。さらに包括的科学技術・イノベーションの省庁戦略を維持することを保証するため、ボ
ブ・メイ卿をはじめとする GCSA は政府省庁と協働している。これら科学技術・イノベーション戦略は、どの
ように研究プログラムと(独立助言委員会から科学的スタッフの管理まで)他の科学関連活動が省庁の優先順
位や公共サービス契約(PSA)ターゲットの分配に貢献するかを示す。GCSA はまた、これらの科学技術・イ
ノベーション戦略と実践での配分の妥当性を精査する省庁の科学的レビューの定期的プログラムを調整してい
る。科学技術・イノベーション戦略の価値は地域行政が自発的に導入した程度に幅広く認識されるようになっ
た。GCSA は完全な政府研究システムをレビューする責任がある。彼は事実上あらゆる重要な委員会や助言グ
ループ、省庁の主席科学者の委員会(主席科学アドバイザー委員会)に座っている。
フォーサイトプログラム
英国は 1993 年の「科学・工学・技術白書」での提言により、国のフォーサイトプ
ログラムを開始した。1995 年の第 1 期はより産業中心的であり、名前も「技術フォーサイト」と呼んでいた
が、1999 年の第 2 期以降は「フォーサイト」としてより多様なアクターを巻き込み、社会的課題・健康的課
題などに注目して「技術」よりもっと幅広い視野を持つようになった。フォーサイトには保健省や内務省が関
わり、洪水、疫病、肥満、脳科学、保健衛生など多くのパネルを同時に進めた。この背景には、英国では研究
基盤が整っているのに製薬産業を除く他のセクターで商業的成功を収めることが少ないということがあり、研
究と産業をもっと結びつけたいという意図が込められている。フォーサイトおよび長期計画はおよそ 10 年に
わたり省庁が求めるものとして確立されてきており、そこで示された将来ビジョンや政策優先順位は気候変動
についての問題から高齢化まで多くの分野でのプログラム支出に役立てられているなど、省庁の科学技術・イ
ノベーション戦略には欠かせないものとなっている。
フォーサイトは新しい科学技術の可能性について通常の計画範囲を越えて見渡すため、鍵となる人々、知識
やアイデアを一緒に集める。フォーサイトプログラムは一度に3つから4つのプロジェクト領域に焦点を当
て、科学が部分的に解決するかもしれない鍵となる課題や、潜在的な応用や技術、まだ実現していない最先端
の科学トピックを精査する。関係する省庁やリサーチカウンシル、他機関からの上席の意思決定者や予算管理
者を含む高レベルのステークホルダーグループが全プロジェクトを見渡す。グループは主導する省庁の大臣が
座長を務め、プロジェクトの知見や報告書と一緒に公刊される行動計画に合意する責任を負う。各プロジェク
トは政府の主席科学アドバイザーによって高いレベルで主導される。プロジェクトは通常 18ヶ月から 2 年の
間である。各プロジェクトは研究文献をレビューし、将来展望を描く。参加者は情報を集めて将来像との結び
つきができて、関係する研究経験を持った個人からなる。科学的専門家とステークホルダーのネットワークは
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
フォーサイトプロジェクトチームと密接に作用している。
社会と現在知られている技術における傾向を発見するため、デルファイ調査からシナリオ構築まで幅広い有
望な手法を組み合わせた方法論が用いられる。適用するツールの範囲はプロジェクトの視座によって変わりう
る。フォーサイトは将来を予言するのではないが、幅広い視点で対象を徹底的に理解、分析すること、将来発
展する様々な方向性に気づいたりすることによって、可能な成果の範囲を見極めることができる。この目的は
意思決定がどのように将来に影響を与えることができるか、そして可能な影響に照らしてどんな意思決定を考
慮しなければならないかについて、意思決定者を支援することにある。
将来展望センター(Horizon Scanning Centre)
「科学・イノベーション投資フレームワーク 2004-2014」
において、政府は将来展望における COE を政府科学局のフォーサイト部署に設立するよう言及した。センター
設立に向けた業務は 2004 年 11 月に開始された。センターの業務は科学的知見および政府や民間セクターな
どにおける活動からの情報に基づき、その成果は省庁横断的な優先順位付けや戦略形成といった意思決定に直
接反映されることとなっている。センターには三つの主な業務があり、一つは、政府の戦略や政策立案に情報
を与えるため、公共政策に影響を及ぼすかもしれない潜在的な将来課題やトレンドを見る「シグマスキャン」
である。直接的には、英国の公共政策にインパクトを与えるかもしれない次の 50 年以上の潜在的な将来の課
題やトレンドを探索する 271 の短い報告書のことを指す。二つ目は、「科学技術の幅広い含意」(WIST)とい
うステークホルダーとのプロジェクト作業である。科学技術の新奇・新興分野の幅広い含意を探るため、一般
市民の関与プロセスを組み合わせた専門家およびステークホルダー評価を行う。これにより省庁や省庁のグ
ループを含めた専門家やステークホルダーが特定の課題について協働するための機会が与えられる。三つ目
は、省庁の将来展望において良き実践を広めるためのツールや支援である。将来展望センターでは 2002 年以
来のフォーサイトプログラムの業務経験に基づき、将来展望のための有用な情報を載せたマニュアルを著して
いる。また、資源の最適利用および能力開発を促進するコーチングや助言の提供、合意の仲介や相乗効果の創
造も行っている。この例としてセンターのファンクラブを設け、これを「将来の分析者ネットワーク」として
いる。ファンクラブでは将来展望や未来分析に関心を持つ人々が新しいアイデア、革新的考え、良き実践を交
換するための会合を毎年 4 回開催し、一般にも開かれている。
アドホックな独立レビュー
独立レビューは英国では広く行われており、特定のトピックにおける幅広い関心
を持った主要な個人が課題をレビューするために招かれる。通常は省内の秘書や分析官の支援チームと協働し、
手短な委託研究や公的諮問を活用する。最近の科学技術・イノベーション関連のレビューとして、ベーカー
(知的所有権)、ランバート(産業と科学の関係)、リーチ(技能)ロバーツ(研究者のキャリア)、セインズベ
リー(英国の研究イノベーション)、ウォーリー(公的研究支出からの経済インパクト)がある。
科学技術カウンシルはこうしたトピック的なレビューを引き受ける恒久的な権限があり、研究者のキャリア、
政策研究インターフェイス、将来の大学のあり方について調査活動をしている。ここには以前の貿易産業省に
よる「イノベーションと成長」チームのような、近年立ち上げられた多様なタスクフォースも含まれる。
(3)知識生産主体
科学技術・イノベーション政策についての学術研究成果は英国の政策に深い影響を与えてきたが、それが政
策のブレイクスルーを生むことは稀で、政策はむしろ短い委託研究と定期的なパネルサーベイや他の定期的
データ収集作業からの漸進的な洞察によって形作られている。短期委託研究は科学技術・イノベーション政策
および資源配分コミュニティをまたぎ、何十ものプロジェクトが毎年行われている。これらは問題志向的研究
であり、当然のこととして政策や実践に影響を与えている。このほか、特別系統立てられておらず、透明性も
独立性も高くないが、経済影響評価および運用レビューも数多くあり、利用されることもある。
ほとんどの科学技術・イノベーション分析サービスチームは非常に小さく、一人のスペシャリストしかいな
いこともある。彼らは様々な政策・資源配分チームにいる顧客に対して政策研究からの新しい知見をレビュー
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
をしたり、内容を消化して伝える能力が限られている。彼らは連携やネットワークに捧げることのできる時間
も限られていることが課題となっている。分析サービスチームは経済学者および統計学者によって占められが
ちであり、それはたとえば社会文化的分野に対する助言や研究にアクセスする政策立案者の能力を弱めるとも
言われている。
科学技術・イノベーション政策研究は英国では科学予算の中で主要な焦点になったことがなかった。学術的
には 40 年の歴史を持つとはいえ、この、そしてどこかよそでの数多の仕事では英国の科学技術・イノベーショ
ン政策チームと分析官は国際的な文献、ワーキンググループ、イベントを最大限に活用している。ところが、
特定の英国の文脈に結びつけ直して根本的な問題を質問して答える人間がいる大学セクターの能力が比較的小
さい。さらなる進歩が、頻発する科学技術・イノベーション政策課題の上に成り立っているかもしれない、研
究カウンシルを通じて利用可能な投資があるかもしれないと想像する者もいる。
政策研究コミュニティ
英国の科学技術・イノベーション政策研究コミュニティは英国では非常に確立されて
いる。スペシャリストの学術的関心は 40 年以上前に、民間セクターの関心でも 20 年以上前に遡ることがで
きる。英国政府は科学技術・イノベーション研究を持続的に支援しているわけではなく、むしろ知識や知識生
産者の国際的地位の俯瞰やアクセスを維持する目的で政府内にスペシャリストを登用することを好む。科学技
術・イノベーションの課題に特に焦点を当てている英国の政策研究コミュニティは、学術的な COE、政策シ
ンクタンク、専門に強いコンサルタントを含む、およそ 20 の組織と 200 名の専門家からなる。
NESTA のようなシンクタンクは最近政策シーンに入ってきたものである。だが彼らは政策と研究に目に見
えるインパクトをなし、結果としてそれはより挑戦的な科学技術・イノベーション政策課題に集中する、そし
て将来政策について骨太の展望を示すための決定に対しインパクトを与えている。もう一方では、英国や国際
的な専門家に現在の研究の理解を総合する研究委託をすることで、新しい政策指標の定義に一部影響している。
英国の学術界は科学技術・イノベーションと社会・経済との関係の理解を前進させる国際的なプロジェクト
と、特定の問題に興味を持った政策立案者によって委託される短期的研究の両方に関わっている。ほとんどの
学者は短期政策研究に時折関わっており、これが副収入となっていたり、より理論的な研究のための挑戦しが
いのある試験場になっている。政策立案者がいろいろな提案からつまみ食いしたり混ぜ合わせたりすること、
そして部分的に「根拠」や、部分的に政治的・実践的考慮に基づいた新しい政策やプログラムを考案すること
に学術的な政策研究者は不満を持っているので、彼らは政策チームと直接働くことに抵抗を持つと言われてい
る。政策立案者は目立ったコンサルタントに対して干渉しようとするが、これらの機関は研究に対する政策立
案者の強い主張と上手に折り合わせている。彼らは学術研究助成より少額な短期的な業務であっても、確定的
な提言や政策的挑戦に向けた実用しうる解答を生み出している。
科学技術・イノベーション政策チームは科学技術・イノベーション政策の基本的教義および、それらの基礎
となるものの実行の有効性・公平性の両方に関して、悪いことよりも正しいことをするのを助けるために政策
研究コミュニティを見ている、ということがおそらく適切な言い方である。とはいえ、彼らの政策研究に対す
る関心は、単に知的なものというより、功利主義的で目的を持ったものである。知見、知識やデータのニーズ
は幅広く、政策措置に結びついた科学とイノベーションとの因果関係、科学に対する政府支援の社会受容性、
科学を行う人間や制度に多くの不確実性があるからである。
この観点から、OECD を通じて政府や上席官僚の間では歴然とした少数の「自明の理」や基本的教義に貢献
してきた政策研究は意義がある。それは、多くの主要な研究で何年にもわたって仮説が検証・再検証されてき
た学術研究に裏打ちされている。科学技術・イノベーション周りの知識の状態の程度は伸び続け、いくつかの
重要な原則は政策コミュニティ内で広く保持され、最近の学術研究で確固たるものとなる。多くの重要な知見
のなかには、イノベーションは多くの形で存在し、単に技術的なものばかりではなく、社会経済的なシステム
の中で生ずること、そして市場の企業の経験に排他的に焦点を当てることは有効な政策対応の十分な基礎でな
いという認識を含んでいる。
科学技術・イノベーション政策研究は発展途上であり、適切な政策対応、政策ミックスについて答えられて
いない根本的な問題、かつ多くの経験的な疑問がある。不確実性や対立的な点は引き続き学術研究に対する焦
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
点を与えており、経験的疑問は大学研究者を惹きつけ続けている。
政策研究アーカイブ
英国政府は科学技術・イノベーション政策研究成果に対するいかなるウェブポータルや
アーカイブも維持していない。政策チームは科学イノベーションの文脈における公的介入の理論と実践につい
て知識やデータの「人間」レポジトリとして科学技術・イノベーション分析官に基本的に頼っている。分析官
は SPRU から NESTA、OECD の科学技術・イノベーションまで主導的学術グループ、シンクタンクや国際機
関によって維持される数多のオンライン・レポジトリのアドホック的な活用をしがちである。実際に、英国政
府の科学技術・イノベーション知識管理システムは省庁内の非常に少数の専門家グループによって形作られて
いる。DIUS は経験的研究や評価の小規模なレポジトリを維持しているが、単一のアクセスポイントを通じて
公には利用することはできない。
DIUS の科学技術・イノベーション政策分析官は標準的な分析フレームワークを用いて、EU および選任第三
国の研究イノベーション政策と実践の側面を詳述した ERA WATCH のような、欧州委員会の様々な政策モニ
タリングサービスを活用している。こうしたモニタリングはまた、現在の科学技術・イノベーション政策課題
が政策立案者や政策研究者によって審議されるイベントの議事録を共有することや、明らかな良い実践につい
てオンライン上でトピック的なポジションペーパーを投稿する。英国の科学技術・イノベーション政策チーム
および分析官は活動的で、これら国際的な議論への定期的な貢献をする。他人から学ぶことの真なる興味およ
び、重要だがむしろ曖昧な対象についての知識の状態を前進させることから離れた、EU 全域からのスペシャ
リストと協働する必要についての合議的責任の感覚の両方を反映している。
系統的レビュー
科学技術・イノベーション政策とは直接的な関係はないが、根拠に基づく政策のための知識
生産のあり方を考える上で、英国の医療・社会福祉政策における系統的レビューや知識利用・知識交流を促進
するための仲介機関の活動は参考になるだろう。
1997 年に労働党政権が『政府を近代化する(modernising government)』を打ち出して大蔵省が根拠に基
づく政策を進めるようになった。医療政策については新聞などのメディアから多くの圧力を受けていたため、
政府はすべての根拠を集め、研究者と意思決定者すなわち政府を繋ぐ仲介機関 NICE(National Institute for
Health and Clinical Excellence)を 1999 年に設置した。政府は NICE に資金を与え、医薬品の有効性につい
て管理を委託し、合理的意思決定に役立てようとした。だが、政策を後で正当化するために根拠を集めるとい
う伝統的で象徴的なやり方で根拠を用いているのではないかと見られ、メディアも政府による NICE の決定
への介入や阻止を採り上げて批判した。それでも NICE ではステークホルダー会合などの興味深い活動も行っ
ている。NICE のような機関は他省庁にも設置されようとしているが、児童・学校・家庭省(DCSF)は抵抗
して専門家を締め出した。その結果、DCSF では行政の担当者が 6ヶ月で変わるため、省内で知識が蓄積され
ていないことが問題となっている。NPIA(National Police Improvement Agency)は SCIE のようではない
が、その方向にある。
ロンドン大学の社会科学研究ユニット・EPPI センターは社会研究による根拠を情報として政策に関連させ、
役立てようとする目的を持った学際的組織であり、1993 年に設立された。設立後しばらくして、NICE のあり
方に対して社会からの批判が集まるようになると、社会科学において分散化した知識を集め、統一的な姿を描
き出すための新たな体系的方法を案出した。同センターはヘルスケアに対するコクラン共同計画(Cochrane
Collaboration)と社会科学に対するキャンベル共同計画(Cambell Collaboration)と連携している。コクラ
ン共同計画は、1992 年にイギリスの国民保健サービス(NHS)の一環として始まり、世界的に急速に展開し
ている医療テクノロジーアセスメントのプロジェクトである。無作為比較対照試験(RCT)を中心に、世界中
の臨床試験の系統的レビュー(systematic review)を行い、その結果を、医療関係者や医療政策決定者、さら
には消費者に届け、合理的な意思決定に供することを目的としている。英国では国民健康に対する関心が非常
に高く、財源もつきやすいことから、コクラン共同計画は英国からの資金が潤沢に投入されており、成功して
いるプロジェクトといえる。一方のキャンベル共同計画は、2000 年に正式に発足した。社会科学研究の系統
的レビューは、レビュー・グループへの協力者がつくり、維持していく体制となっている。「何が有効か」に
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関する良質の根拠に強い関心がある人々のニーズに応えられるように設計されている。対象者には社会・教育
政策や実務の効果に関する最善のエビデンスについて知りたい市民、実務家、政策決定者、教員と学生生徒、
研究者などが含まれる。キャンベル共同計画の系統的レビューは電子的に公表され、新たな根拠が示されるた
びに速やかに更新され、批判や方法論の進歩に応じて修正される。
これらに対し、EPPI センターの行う系統的レビューでは(1)何を知りたいのか、
(2)何を既に知っている
のか、(3)知りたいことをどのように知ることができるか、各研究について明らかにするところに特徴があ
る。また、系統的レビューによって、既存研究の質の低さや、問題設定が現実の課題に適切に応えるものでな
いことなども明確になる。RCT や他の手法での研究も収集するばかりでなく、理念的な研究や概念的な研究の
成果も取り込むので、プロセスは複雑である。このアプローチの一つの目的は手法開発であり、レビューをす
ることでより良い手法への改善が図られる。もう一つの目的は能力開発である。同センターでは修士の学生を
抱えているが、その多くは既に社会で活躍していて修士号を持っており、学位を取るというよりもスポット的
にいくつかの講座に参加している。政府に対するトレーニングも行っており、カナダ、デンマーク、スウェー
デン、ノルウェー、オーストラリア、ニュージーランドなど各国から政府関係者がまとまって短期間学びに来
るということもある。
系統的レビューの一つの適用例として、英国政府による健康推進策が挙げられる。これは英国で肥満児が増
えている状況を改善すべく、もっと果物や野菜を摂らせるようにするものである。この対策は費用効果的では
ないため、系統的レビューによって、子供の側の健康に対する態度を調査したところ、果物と野菜というもの
を別のものとして見なしていたため、両者を切り離して扱う戦略が政府に必要であることが示唆された。ま
た、子供の側は肥満が自分自身の問題であるとは考えていないことから、むしろ生活環境の改善、子供の親に
対する施策が必要であることが示された。もう一つの例は、ケアが必要な子供(looked-after children)の実
態である。NICE と SCIE(Social Care Institute for Excellence)が 2 年間共同研究に取り組み、ガイドライン
を制定した。そこでは政策立案者の知識、実践者の知識、子供の知識など、異なるプレーヤーやシステムがど
のような知識を持ってどのような役割を果たしているかを調べ、サーベイや科学的論文などの成果を一つにま
とめた。研究に先立ち、あらゆる利害関係者を集めたパブリックミーティングを行い、方針を決定している。
このように EPPI センターでは実践者の知識、質的研究からの知見、統計研究の成果などをまとめ、現場で何
が起こっているかを見極めている。
(4)知識交流
英国では、科学技術・イノベーション政策チームは次の二つのうち一つのルートを通じて政策研究コミュニ
ティと対話を図る。
• 経済学者や統計学者による内部チームとの関係を通じた、間接的だが頻繁になされる対話。特定の政策
チームのメンバーは緊急の課題や最新の統計についてアドホックな助言を求めるかもしれない。例えば、
英国科学の国際的な順位や主力研究やパブリックコンサルテーションと併せた進捗のフィードバックなど。
• 正式な委託研究を通じて行われる学界、シンクタンク、民間コンサルタントといった政策研究コミュニ
ティとして直接的だが頻度は低い対話。そこでは政策の主導者が分析サービスによる詳細な掘り下げの
ために、そして研究の統括グループのメンバーを通じて特定の問題をフレームする。
科学技術・イノベーション政策立案者のキャリアを見ると、科学イノベーションの新しい大臣であるドレイ
ソン卿は、科学的訓練を受けており、また学者として、いくつかのハイテク・スタートアップの責任者として
活動してきた。彼を除けば DIUS の省庁チームは主に政治家としてのキャリアを持つ者である。科学イノベー
ション政策グループの長は政府、学術界、産業界の上席にいる経験者を集めたものと協働する。政府の主席科
学者であるジョン・ベディントンおよび科学研究部局長(DGSR)はどちらも国際的に知られた学者であり、
学術界での地位も保ち続けている。科学研究部局長は統計学の素地があり、分析者およびコンサルタントとし
ても働いている。
SPRU および MIoIR は科学技術政策イノベーション政策における大学院課程の主たる供給者である。だが、
これら二機関の卒業者(多くは外国籍)の大多数は英国外で職を見つける。学術的な経歴はコンサルティング
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ほど目立っていない。卒業生の多数が外国籍で海外の政府に任用されたりするにも関わらず、英国政府内での
任用はほとんどない。
重要な政策研究者は高レベルの委員会に任命される。そこでは、上席の政策立案者や政策分配機関の機関責
任者に対し、選択肢やリスクについてアドホックな形で助言することで、彼らの専門が直接利用されるという
ことがある。
知識交流の制度としては、政府の ESRC は政府/ビジネス斡旋フェローシップがある。これは大学、ビジネ
ス、政府の人間との交流を促進するものであり、共同出資という形で小規模な起業者に対して学部生をつけて
支援するということもある。社会科学に対する支援も行っており、彼らは地方政府や慈善財団で働いたりして
いる。Innogen センターも国民保健サービス(NHS)の下部組織からの共同出資で博士研究者が研究をして
いる。
4-1-3
スコットランド
(1)科学技術関連政策システム
スコットランドは 1999 年から始まった権限委譲(devolution)により、地域政府としての機能が強くなっ
たが、英国とスコットランドからの同時進行的な権力が多い。この多層ガバナンスについての研究によれば、
英国とスコットランド、英国と欧州との調整の問題よりも、スコットランド内部で協調がうまく働いていない
ことが示されている(Lyall 2007)。2000 年代、権限委譲の初期にスコットランド行政府(Scottish Executive)
で研究、スコットランド開発公社(Scottish Enterprise)でイノベーションという分業体制ができた。それぞ
れは隔絶しているが、権限委譲の進展や政権の変化などにより今は協調が見られるようにもなっている。権限
委譲は一晩でできるようなものでもなく、ある意味で今も続いており、時間をかけて変革していく学習過程で
ある。スコットランドは労働党と自由民主党の連立政権であったため、ホワイトホールとエディンバラの間に
温度差もあり、政治的複雑性があった。権限委譲により、英国医師会(BMA)をはじめ多くの機関がスコッ
トランドに拠点を構えることとなった。連立政権下ではプログラムの立案は交渉によって決まるようになり、
プログラムのマニフェストは非常に詳細で特定的になった。政策根拠を強調するようになったが、成果を評価
することに弱点があった。分析的プログラムは年間ベースという短期的で、いつでも利用できるようなもので
あった。
2007 年 5 月に新しいスコットランド国民党政権が誕生し、さまざまな変化が起こった。15 の国家的成果、
45 の国家的指標によるスコットランドにおける国家的業績フレームワークが採用された。行政の再組織化が
行われ、あらゆる省は廃止された。代わりのユニットとして 45 の部局が設けられている。領域横断的な政策
課題ごとに関係部局・関係者を集めて協働するというものである。また、スコットランド政府は地方行政とと
もに活動し、戦略的フレームワーク内の政策やプログラムを取りまとめることも行った。分析サービスはこの
戦略的アプローチを立案するために根拠を提出した。地方政府と協働し、幅広い学術コミュニティにアクセス
し、長期的な優先順位づけについて研究し、政策展開について情報の普及を図る。これは新しい業績フレーム
ワーク成果測定アプローチの一環とされている。
(2)政策策定・知識利用プロセス
英国の SPRU や PREST に対して、スコットランドは有識者があちこちの組織に分散しており核となる研究
機関がない。また、英国議会科学技術局(POST)のように議会に科学技術政策に示唆を与える機関もない。
スコットランド議会には研究グループがあるが、科学技術に限ったものではなくすべての課題をカバーするも
のである。英国議会のように企業・イノベーションについての委員会、科学委員会などもある。超党派グルー
プはないが、議員にはもっと簡単に接触できる非公式な方法が多くある。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
主席科学アドバイザー(CSA)
英国は各省庁ごとに多くのアドバイザーがいて、アドバイザリー構造がで
きているが、スコットランドは一人の科学アドバイザーのみである。現在スコットランドの主席科学アドバイ
ザーをしているアン・グローバーはもともと微生物学を専攻していたが、自らの研究をスピンアウトして会
社を興した。学術研究とビジネスの両方の経験を持っていることがアドバイザーに選ばれた一つの理由であ
ろう。グローバーは外の視点から新しい科学戦略に責任を持つ。彼女は科学の公衆理解や公衆関与に関心があ
り、DIUS でも科学と社会についてのパブリックコンサルテーション「科学に対するビジョン」を行っている。
スコットランドのあちこちに科学センターを設け、1 月には未来科学をテーマにイベントを開催した。彼女は
スコットランドは科学立国であると打ち出して、社会科学を含む科学に対する能力開発に熱心に取り組んでい
る。また、科学の能力向上として、スコットランドにおける学校教育に注力している。
スコットランド科学助言委員会(SSAC)
スコットランド科学助言委員会(SSAC)はスコットランドにお
ける最高レベルの科学助言機関であり、スコットランド政府の主席科学アドバイザー(CSA)とスコットラン
ド政府に対し、科学戦略・政策・優先付けについて独立した助言や提言を与えている。これは幅広い基盤を持
つグループであり、実践者と科学的イノベーションの利用者の両方が加わっている。委員会のメンバーは幅広
い専門性と経験を持つように科学、ビジネス、学術コミュニティを横断して集められる。委員会はスコットラ
ンド各地で年 4 回開かれている。
「スコットランドのための科学戦略」の公刊を受けて、SSAC は独立した助言委員会として 2002 年に創設さ
れた。エジンバラ王立協会(RSE)の下に設けられ、科学戦略、科学政策、科学の優先順位付けを含む戦略的
な科学的課題についての助言をスコットランド政府大臣に行うことを目的とした。エジンバラ王立協会は英国
王立協会のスコットランド側の対応組織であるが、多領域研究を行っているところに違いがある。2006 年ま
での間、科学戦略や科学教育についての様々な側面について、比較的最近では遠隔医療、医療イメージング、
エネルギー、動物生科学などスコットランドの科学的基盤に貢献する多くの報告書を出した。2007 年にアン・
グローバーが主席科学アドバイザー(CSA)に任命され、SSAC の座長と兼任するようになると、SSAC はエ
ジンバラ王立協会から主席科学アドバイザー室(OSCA)に移った。これによりエジンバラ王立協会は委員会
に対して何の責任も持たなくなった。英国にあるような CSA の役職はこれまでスコットランドに置かれてい
なかったが、これが設けられたことにより助言委員会などの助言は CSA になされ、CSA が政府に助言をする
という形になった。2008 年、SSAC はメンバーを一新し、組織に幅広い科学的専門性をもたらすこととした。
関心分野が狭くなりがちな課題特定的であった過去の SSAC と差別化をするため、SSAC は「スコットランド
科学助言カウンシル」に名称を改めた。この新たなカウンシルは政府への直接的な助言を行わなくなったこと
により、地位が格下げされたと見られている。
政府分析チーム・分析サービス部局
スコットランド政府ではかつて各省に分析官によるチームがそれぞれ
あったが、より柔軟な体制に変化した。分析官同士の統合性・専門基準を高め、かつ政策との距離も保つバラ
ンスが整えられた。2002 年より、7 つの独立した分析チームが結成され、各チームが 45 の部局のいくつかを
組織することとなった。一つの分析チームは経済学、社会研究、統計学の 3 名の専門家からなる。彼らは国
家レベルの組織である政府経済サービス(GES)、政府社会研究(GSR)、政府統計サービス(GSS)からそ
れぞれ登用される。スコットランド政府の主席経済諮問官、主席研究官、主席統計官がそこから分析官を登
用し、英国とスコットランドの職能を繋ぐため、ある程度の質を保つことができる。テーマ別には環境・地方
(これは気候変動問題にも対応する)、コミュニティ(住居、都市)、不平等・社会犯罪、市民正義、保健、交
通(小さなチームである)、経済(企業ビジネス、地域経済)という7分野がある。分析チームの中でも、環
境分析チームは唯一、気候変動などの課題に対して科学者と社会科学者との結びつきを強めようとしている。
もう 2 つ領域横断的なユニットとして、企業の従業員サーベイなどを担当する主席研究官局(Office of Chief
Researcher)と統計分析を示す主席統計官局(Office of Chief Statistician)がある。これらは研究の有用性、
根拠の堅牢性を示し、分析官に対する政治的圧力のないように内部向けのセーフガードとして機能している。
分析官は 2002 年以前から中央政府の中央ユニットにいたが、2002 年以降は数が増えた。省庁外の分析官は
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ほとんどおらず、彼らは全体で 300 名ほど登用されている。分析官の技能と能力は、個人的な関係を構築し、
根拠を特定の文脈における政策にインパクトを与えるという新しい役割を効果的に担う必要があり、必ずしも
伝統的な研究アプローチを反映しているわけではない。戦略フレームワーク内での政策志向性は行為の変化
の方に推移している。規制をかけるよりも、最小限の介入でそうした人々の行為を変えさせようというやり方
(cf. Thaler & Sunstein 2008)は、根拠に基づく政策における分析官にとってのチャレンジである。
分析サービス部局の主たる目的は分析と政策形成との結びつきを改善することである。取り組むべき医療、
貧困、経済、教育や娯楽の平等といった領域横断的な難しい政策課題があり、戦略的・長期的なアプローチが
求められる。分析サービスによって、顧客との結びつきを強め、分析をもっと政策の役に立てようとしている。
その点で、仲介的存在、学術界と政策をつなぐブローカーのようなものである。分析サービス部局はまた、経
済学、社会研究、統計学という 3 つの職能がともに働けるように長期的・戦略的管理を行っている。彼らの定
める職業標準が政策とバランスを取り良い関係になるようにしているが、まだ道のりは遠いと言える。業種の
性質上、政策と密接に結びついているため、経済学者とは割と良い関係を保っている。これに対し、社会研究
者は政策を分析し理解する研究者というよりプロジェクトマネージャーであろうとする。統計学者はデータを
集め、分析し、公刊することに熱心である。政策的含意に対してはあまり技能をもっていない。彼らは互いの
学習・技能を身に付けつつ、それぞれの経験と専門性を発揮することが求められている。
もう一つの展開として、評価業務を通して政策の効率性を求めるようになった。分析サービス部局ではカ
ナダの評価分析・評価管理の専門家であるジョン・メーンに倣い、プログラムの論理性を重んじ、貢献度分析
(contribution analysis)と呼ばれる分析フレームワークを採用している。
スコットランド助成カウンシル
助成カウンシルは政策立案者と学術界を繋ぐ仲介機関である。この仕事の
90%は政策立案者が何を求めているかに充てられる。彼らは日々考えが変わっている。大学が政策に対してよ
り良い貢献をするにはどうしたらいいかがここでの仕事である。必ずしも委託研究には依らない。意思決定や
政策立案をするのに必ずしも新しい情報や知識は必要ない。既にあるものを上手く活用できるはずである。
(3)知識生産主体
スコットランド大学政策研究・助言ネットワーク(SUPRA) SUPRA はスコットランド、英国、国際的に対
して政策関連研究や助言サービスを提供する学際的ネットワークである。学際研究の実施や運営について国際
的に知られた機関となり、研究・政策の文脈で自然科学・社会科学の専門の統合について幅広い組織に助言し
ている。SUPRA は 1998 年から 2002 年までスコットランド高等教育助成カウンシルの助成を受け、以後は、
この活動の成果であるイノジェンセンターが ESRC から助成を受けている。SUPRA は職業的なコンサルタン
トの専門性を持った学術的実践により、政策研究、コンサルタント、助言を組み合わせた統合的なアプローチ
を展開している。クライアントは政府省庁、産業界、商業セクター、省庁以外の公的機関、公的・民間の利益
グループであった。学際研究の実施と管理について国際的にも認められた組織であり、研究・政策の文脈で自
然科学・社会科学の学問の統合について幅広い組織に助言してきた。メンバーは欧州研究領域(ERA)や新し
いフレームワークプログラムの実施について助言し、いくつもの EU からの助成研究と提携している。また、
スコットランドの大学が主要な研究・コンサルタントを受けられるよう政策関係のコンソーシアムを形成する
ことができるようにした。SUPRA はウェブ上の出版論文や報告書を通じて幅広いコミュニティと結びついて
おり、スコットランドや英国の他の地域、世界各国における他のネットワークや政策研究所との研究リンクを
保っている。
(4)知識交流
スコットランドの伝統として学術界と教会の結びつきが強かったことがあり、知識を社会に普及させる《啓
蒙》という考え方がある。異なるセクターが交流し、上流階層はともに観劇に出かけたりする伝統があった。
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スコットランド知識階層では人々が互いに知り合いであり、公式の場でよく集う。だが今でも大学と政府は隔
絶したところがあり、特にハードサイエンティストは外宇宙にいるようなものである。政策立案者が学術界と
結びつくことにインセンティブを与えることが必要である。政策立案者も変化しており、伝統的に英国の公務
員は新卒で一カ所に留まり専門性を高めていったが、1990 年半ば以降は多くの公務員が大学や産業界から来
るようになった。フランスは行政官が政治化されるところもあるが、英国ではやや脱政治化されるようになっ
た。日本の行政官の異動のようなことは英国でもあり、担当する分野の専門的な知識が乏しい者が配属される
こともあるが、これに対して知識や専門性を高める必要性が示されている。また、スコットランドは企業は大
学との結びつきが弱い。スコットランドで 96%を占める中小企業はとりわけ結びつきが弱く、大学との連携を
望んでいないわけではないがそのための時間がないとされる。
現在の大学では研究、教育に続く、知識移転という第三の使命がある。スコットランド助成カウンシルでは
知識移転について、大学に対する少額の助成を行っている。知識移転タスクフォースを担当しているジェフ
リー・ボールトンは、スコットランドの経済発展を支援する知識移転・イノベーショングループ(KTIG)に
も関わっている。また、スコットランド助成カウンシル(SFC)は公共政策アクショングループ(PPAG)を
設立した。PPAG はサンドラ・ナトリーを座長として、キャサリン・ライアルや政府、地方機関から 15 名が
参加している。SFC のアン・ミラーがこれを組織している。何か文書として発表するようなものはなく、鍵
となる人々を一同に会して知識を共有して政策の手助けをしようというものである。ナトリーは有識者である
が、他は政策立案者や研究者という実践者である。医療や社会福祉などを対象分野として知識活用の理論を構
築し、大学を基盤とする研究活用研究ユニット(RURU)の長を務めている。知識利用に関心を持っている者
はスコットランドでは学術界と政府にいる 10 名ほどで、スコットランドにおいては非常に小さな集団である。
こうした活動は小さなステップであるが、活動を推進する重要なステークホルダー、すなわち熱心な支持者
(champions)を集める必要がある。
ESRC の知識移転部門長であるデビッド・ガイも PPAG のメンバーとして関わっており、その意味でリサー
チカウンシルと助成カウンシルはリエゾン機関でもある。知識移転政策については政府は少額の予算しかつけ
ていないが、それを最大限活用しようとしている。ESRC では助成方針として、従来通りの学問分野ごとの優
れた研究への投資をすることと、大蔵省が関心を持っている領域横断的な知識移転活動を支援することの両方
を行っているが、両者に緊張関係が働いている。研究評価エクササイズ(RAE)など、発表した学術論文に
よって学術的質が測られるが、科学政策や科学技術社会論などは領域横断的であり、しばしば助成を受けられ
ないことがある。それは学術的成果の質が低いということではなく、領域横断的に評価をできる人材がいない
ということである。ESRC でもレフェリーをする大抵の研究者は一分野のみを専門としており、学際的研究は
レフェリーが難しいとされる。ESRC と自然環境リサーチカウンシル(NERC)の共同助成による地域経済・
土地利用プログラム(RELU)はすべてのプロジェクトが領域横断的でなければならないとされており、同様
に環境変化との共生といったプログラムもある。だが、このような事例は稀であり、ESRC の 2007-08 年度年
間報告書によれば、領域横断的なプロジェクトは全採用 267 件中わずか 6 件である。ポスドク助成は 743 名
中、医療科学と環境科学分野から 41 名、多領域研究での助成は 15 名となっている。
リサーチカウンシルは一大学に一人の所長を持つプログラム助成をするほか、研究センターを組織してい
る。大抵は一つのセンターは一つの大学で受け持つが、大学間で共同することもある。また、分野さえ当ては
まっていれば研究者が自由応募できる「応答方式(responsive mode)」というものもある。だが、近年は特
定の分野に焦点を当てた研究助成が増えている。製薬産業振興のためのタスクフォースのうちの一つ、貿易産
業省と保健省の共管である製薬産業競争力タスクフォース(PICTF)に基づく方針でイノジェンセンターが誕
生した。特定の政策課題の理解のために特定のグループを巻き込む目的を持っており、英国に 4 つあるゲノミ
クスの研究センターのうちの一つとして、他のセンターとのネットワークがあり、それぞれが政策サイドとの
リンクを持っている。助成は 5 年なされ、その評価を元にさらに 5 年間助成を受けることが決定した。
議員との知識交流においては、公式には「科学と議会」という年次会合が開かれている。王立化学会(RSC)
が、SUPRA などと協力して、研究者や議員を招き Our Dynamic Earth と題した年次展示会をエディンバラ
で開催した。昨年は環境問題、今年は教育とトレーニングだが、常に科学的文脈で考えるというものである。
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春休みに行われ、もっと一般の人々、子どもたちの関心を高める一方で、専門家向けには講演会などを開いて
いる。
大学と政府の関係は政治的な圧力がかかり、助成者に対してもっと競争的なアジェンダを求められるように
なった。ジェフリー・ボールトンが関わっている欧州研究大学同盟(LERU)は欧州における研究大学のロビー
集団となっている。LERU では報告書『大学は何のためにあるか』において、大学は経済的・社会的便益のた
めに根源的な役割を持つということを示した。
大学への一般助成の知識移転では、各機関に 70,000 ポンドの基盤的配分を行う。あらゆる高等教育機関が、
プロジェクトの計画に対して許されるスタッフの知識交流の許容力に捧げられており、文化的提携に対する要
素を含んでいる。知識移転・交流に対する主要な助成は大学に対する展望助成(HFU)を通じてなされる。
知識移転助成(KTG)は 2,100 万ポンド使われ、研究や教育ということではなく大学の知識基盤として充て
られる。研究全体には年間 2 億ポンドだから、高々10%が知識移転に使われているだけである。また、総額で
100 万ポンド以下の少額助成システムもあり、当部署の体制自体を評価するための根拠を集めるために使われ
る。根拠に基づく政策を打ち出しながら自分でそれをせずに済ますことはできないので。ストラスクライド大
学に本拠を置くが、全英規模で活動している「地域経済における高等教育機関のインパクト」というイニシア
ティブに関わっており、経済発展に焦点を当てているものの、基本原則は参考になると思う。ただし、2010 年
までの取り組みであり、まだ途上である。
長い議論を経て、2007 年というごく最近またシステムが改革され、戦略的知識交流プロジェクトが誕生し
た。契約形態という縛りでなく、多くのプロジェクトにより研究と政策をより密接に結びつける目的である。
幅広い活動を通じたネットワークにより、研究サイドと政策サイドの間に良い《信頼》を構築する。それから
次の段階として、彼らが研究を共同生産する。政策立案者の吸収能力に問題があり、研究者との仲介者として
スコットランドには分析官も置かれているが、同様の問題を抱えている。
スコットランド助成カウンシルでは新しい戦略的知識交流助成ラインを設けた。2008-2009 学年度の研究・
イノベーション移転における戦略的優先投資(SPIRIT)という戦略的プロジェクトである。戦略的・共同的な
活動に標的を当てた投資として、200 万ポンドを充てる。2009-2010 学年度は 380 万ポンドを SPIRIT に充て、
スコットランド政府の経済戦略において定義されているスコットランドの優先産業セクターの需要に特に合う
提案を求めることを認めている。この SRIRIT は大学と政策立案者の共同提案でなければならない。大学がプ
ロジェクトを管理して政策立案者が参加する形だが、政策立案者は時間的な余裕がないと言う。例えば、交通
や気候変動のプロジェクトにおいて、毎回異なるテーマで 6 日、6 回のセミナーを開催したことがある。1 回
につき午前 10 時から午後 4 時まで、大学研究者と政策立案者を招いて、何が問題なのかを話し合い、最終的
にはそれについて合意するとした。参加者は 6 回すべてに参加して知識を共有することが求められる。だが政
策立案者はその時間を捻出することができない。政策立案者は頻繁に異動するので、6 日かけて知識を蓄える
インセンティブもない。これはパイロットプロジェクトであるが、これがうまくいかなければ、政策レベルで
政策立案者にインセンティブを与えたり、大学研究者に対しても同様の措置が必要となるだろう。
「科学フレームワーク」は初めて政策立案者と科学が密接に結びついた試みである。政府は科学イノベー
ション政策を新しくしたいと思い、2007 年末頃、科学政策についてのステークホルダーに諮問を行った。これ
は標準的な「諮問」であり、あまり有用ではなかった。新しい国民党政権はこれに関心を持ったが満足せず、
もっとステークホルダーとの対話を望んだ。そこでステークホルダー 5?6 名ほどに対し、中堅官僚が参加し、
科学政策における知識移転、知識基盤、国際問題についてそれぞれチームを組んで議論した。それぞれ 5 回の
会合で、根拠が何であるかについて合意した。何がなされるべきかについての共同生産の一つの形である。成
果は何かとびっきり新しいものということはないが、違いは人々が結びついたということである。5 回も会合
をすれば人間関係を持つことができ、このことが利点となる。鍵となるアクターを登用し、政策立案者と会合
を行い、彼らが報告書を共同生産する。タイミングを重視する公式なプロセスであることで、参加者はやりが
いのあることだと認識して関わる。ただし、これはまだ道半ばであり、次の 5∼10 年で政策立案者の実務・慣
行を変えることが必要であるとされている。政策立案者の中には学術的活動に関心を持つ者もいれば、持って
いない者もいる。関心を持っている者に対して個人的な関係を作り上げることが大事である。また、政策に携
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わる公務員が 4 年で入れ替わるという規定されていない因習に注意しなければならず、ここで制度的な記憶、
政策分野の学習、ステークホルダーとの関係構築が問題になってくる。
研究者と政策立案者による知識の共同生産と聞けば響きがよいが、必ずしも現実はそうではない。社会科学
研究では法的合意事項ではないが覚書を交わしている。例えば警察についての研究で、警察は公表前にすべて
の研究成果を閲覧することができる、研究成果を警察が利用する前に研究者に知らせるようにする、といった
合意を交わす。
スコットランド助成カウンシルは ESRC と協力して地方政府における知識交流の促進を行っている。地方は
分析官も政策立案者も数が減っているにも関わらずなされるべき政策課題が増えている。危機と言わずとも難
しい時期にさしかかっているが、学術研究者をどうにかして公共政策の実践に役立てようとしている。優れた
科学者は各機関に留まり分散しているが、助成によるネットワークによって EU や OECD レベルで繋がり協
働することで必要不可欠な人々を確保することができる。
知識交流としては、ネットワーク、セミナー、配置転換などいろいろなことが試されている。配置転換では、
大学から地方政府に 12ヶ月だけ移って働くというものや、化学の博士号を持った者が研究室で働きつつ企業
でも働くという試みもある。公共政策で働く者は比較的短期間で終わることが多い。たとえば、気候変動の上
席フェローはスコットランド政府に 2 度ほど勤めたことがあったが、環境があまりにも違うため、最初に行っ
たときにはあまり政策に影響を及ぼすことができなかったと振り返る。次の 3ヶ月の滞在(80%のエフォート)
で彼は政策の一端に携わることができた。学術界は政策サイドに行くことにあまりに怖れをなしているが、彼
は実際にこの知識や経験が研究に役に立ったとともに、助成が貰いやすくなったとも言っている。政策立案者
はタイミングが重要であるが、研究者はそうではないため、時間ネットワークをどう構築するかが課題として
残っている。こうした知識交流活動は質的保証をしておらず、知識交流、そして知識の質が低いことも考えら
れる。スコットランドでは社会科学において定量的研究がないことの批判がある。SFC では大学で定量的手法
を教えるようにして、フィードバックループを作り出している。
英国における大学評価システムの RAE では、研究者の評価に学術的貢献以外の要素が入っておらず、文献
引用度など伝統的な成果評価にとどまっている。RAE は 2007 年に新しい評価体制ができ、研究者は応用研究
をすべきとされたが、評価の実態には反映されていない。だが、まもなく変化が来ると考えられ、新しいツー
ルも求められるだろう。研究のインパクト評価は新しい領域であり、自己評価も難しい。知識交流の評価にし
ても、政策立案者とどの程度関与したか、どれだけ接触したか、どれだけの学生が異動したか、といったこと
を総合して評価していく体制になるとみられる。これはラーニングレビュー(評価を通じた学習)と呼ばれる。
SFC では公益活動も評価できるようにしている。SFC における 2,100 万ポンドの知識移転のための助成資金
は経済発展に資するべく、貨幣基準で定められている。アウトリーチのための評価欄もあるが、アウトリーチ
が収入にならないことが問題であった。SFC ではこうしたアウトリーチや政策立案者への助言、セミナーへの
参加などを大雑把な概算によって評価できるようにした。スコットランドでも 2,100 万ポンドは、最初は商業
利用に使われていた。エディンバラ大学の各学部にビジネス人材が入り込むようになり、社会科学の分野にも
人が入るようになって良い効果が生まれた。だが、規模の小さい大学や芸術分野などに特化した大学では人を
置くことすらできず、知識移転の効果を生むための規模の下限に閾値が見られている。
4-1-4
オランダ
(1)科学技術関連政策システム
オランダでは一般に科学技術・イノベーション政策に対する関心が薄い。一つの理由としては、科学文献の
引用スコアや教育システムなど研究開発投資や費用便益で見ると非常に良い結果が出ているということがあ
る。だが他の国に対する投資や、大学研究への投資は減っている。科学技術はますます巨大なインフラを必要
としているが、毎年の大学への投資額はフラットであるため、科学技術への投資は十分でないという見方もあ
る。また、イノベーション政策では、経済的価値から経済成長をデザインするような仕組みも求められている。
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プログラムのデザインとマネジメントにおいて主導権を握るステークホルダーとの新しい対話的ボトムアップ
型のイノベーションプログラムを 2005 年に導入したことはオランダの科学技術関連政策システムにおける主
たる革新である。
幅広い政府の方向性を設定する二つの鍵となる政府のアクターは経済省(EZ)と科学文化教育省(OCW)
である。経済省は産業指向の研究開発・イノベーション政策であり、科学文化教育省は科学研究・教育に分か
れている。二つの省は、政策設計、政策実施、政策評価においてそれぞれ独自のアプローチを持っている。結
果としてシステムの科学技術・イノベーションの部分において二つの異なる統治文化が現れた。経済省のアプ
ローチが政策設計、プログラム設計、プログラム管理において積極的な役割を持つ「現場主義(hands on)」
として特徴づけられるのに対し、科学文化教育省は科学研究システムにおける研究カウンシル NWO や様々な
機関に責任を多く委譲する「無干渉主義(hands off)」である。こうした経済と教育、イノベーションと科学
の分離した体制はオランダばかりでなく、欧州全般にとってますます問題となっている。英国やオーストリア
では実際に両省が統合したが、統合しても新しい境界ができるということはありえるため、必ずしも統合する
ことが良いとは限らない。オランダでは統合はしていないものの、システムの異なるレベルで両省の二つの活
動領域は徐々に一緒になってきている。例えば、イノベーション政策白書(2003)に向けたプロセスでは経済
省と科学文化教育省はかなり連携している。スマートミックス(NL 53)は経済省と科学文化教育省の共同指
標である。また、省際プロジェクト「オランダ起業イノベーション立国」を打ち出し、あらゆる関係各省がイ
ノベーション政策における共同課題に協働する省際「知識・イノベーション」プログラム局(K&I)を 2008
年に設立したことにより、省際連携を改善しようとしている。2008 年に K&I は知識・イノベーションにおけ
る投資をガイドする長期戦略を策定し、公刊した。優先づけされた社会的テーマ(エネルギー、水、ヘルスケ
ア、教育、持続可能な農業イノベーション、安心・安全)に対するイノベーションアジェンダの発展にも責任
があり、再設立されたイノベーションプラットフォームと協働して、各省における知識、イノベーション、起
業に対する政策に首尾一貫性をもたらしている。
新しい内閣(4 期バルケネンデ;2007-2011)は省庁、省庁機関、他の(助言)機関を再組織する計画を進
めており、相当のスタッフを削るとしている。同時に、省際連携をすすめ、政策の混乱を減らし、情報通信技
術を活用しようというものである。現在、この計画は精査され、各省では再組織化計画が策定されているとこ
ろである。このオペレーションは 7 億 5 千万ユーロの国家予算を削減することとなる。特別なプログラム局長
が再組織かプロセスを運営するために指名された。閣僚カウンシルの下位カウンシルも新しいシステムとなっ
た。イノベーション政策は、科学・技術・情報政策カウンシル(RWTI)から経済・知識・イノベーションカウ
ンシル(REKI)となり、同じように、科学・技術・情報政策委員会(CWTI)から経済・知識・イノベーショ
ン委員会(CEKI)となった。
様々な外部の独立助言機関も見直しが検討され、これらの機能は部分的に省内のナレッジチャンバーによっ
て置き換えられている。これらのナレッジチャンバーは省庁における知識の需要を明確化するという主たる業
務を持ち、「政策のための知識」および「知識のための政策」を組織するという責任を負う。実際のセクター
に関する知識を省庁にストックするために始められたナレッジチャンバーと、助言カウンシルの削減との直接
的な関係はなく、省庁への集権化を図ろうという流れではない。
イノベーションプラットフォームの設立は、ここ 6 年の科学技術関連政策システムにおける最も可視的な変
化である。これは「オランダの知識経済を強化する戦略計画を提案するため、および密に協働する公的な知識
基盤においてビジネスの企業や組織を刺激することでイノベーションを促進するため」という目的で、暫定的
な高レベルの連携機関として政府によって 2003 年に設立された。2007 年に新しい内閣は再定義した目的と新
しいメンバーでイノベーションプラットフォームを継続することを決め、業務範囲が広げられた。オランダで
はイノベーションや起業に勢いを与えることが必要であるというビジョンを展開している。また、イノベー
ションプラットフォームはケア、教育、エネルギー、水資源管理という社会的分野に対して特別な注意を払っ
ている。「オランダ起業イノベーション立国」という新しい省際プロジェクトの一部としてイノベーションや
起業に対する長期政策にも貢献している。このプロジェクトはいわゆる新しい政策計画(2007-2011)の第二
の柱「革新的、競争的、起業的経済」の重要な部分である。複数の省庁はイノベーションや起業のための長期
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戦略を発展させるイノベーションプラットフォームと協働している。カウンシルが長期的な視野を持つことと
しているのに対し、イノベーションプラットフォームは短期的な目標設定になっている。
他の助言機関は科学技術政策助言カウンシル(AWT)、政府政策のための科学カウンシル(WRR)、社会
経済カウンシル(SER)といったいくつかの戦略助言カウンシル、CPB(オランダ経済政策分析局)、KNAW
(オランダ王立文化科学アカデミー)である。
主たる政策分配機関はイノベーション政策担当のセンターノーベムおよび研究カウンシル(NWO)である。
センターノーベムは経済省の一機関であるが、他の省庁のためにも業務を行うことが増えている。センター
ノーベムは持続可能なイノベーションのための機関であり、経済省(と他省)のイノベーションスキームを実
施する。経済省にあったセンター(イノベーション)とノーベム(持続可能な発展)の合理化による合併によ
り 2004 年に設立された。新しい機関はイノベーション、エネルギー、気候および(生活)環境の知識を組み
合わせる。センターノーベムのミッションは専門的なやり方でイノベーション、環境、持続可能な発展の分野
において公共政策を実施することであり、これらの分野間の結束と相乗を強めることである。センターノーベ
ムは国内・国際レベルでこれらの分野における社会的な目的を認識しながら企業、研究所、政府を支援し、刺
激する。技術、エネルギー、環境、輸出、国際連携の分野で助言を行い、ネットワーク(パートナー探し)を
作り、情報・財政サポートスキームを提供する。センターノーベムは過去数年目覚ましく成長し、多くのクラ
イアント(省)に対する政策実施機関となった。
経済省とその機関であるセンターノーベムの関係は変化している。センターノーベムは政策装置の効率的な
実施に焦点を当ててきたが、イノベーション政策における新しいアプローチ(「鍵となる分野アプローチ」)を
導入した。センターノーベムは新しいイノベーションプログラムの発展のためにもっと経済省と連携している。
(暫定的な)プロジェクト省イノベーションプログラムは経済省とセンターノーベムの両方からスタッフを集
めて立ち上げられた。政府をより効率的かつ効果的にする全政府規模のプログラム「異なる政府プログラム」
の一部として、経済省は政策分配構造を合理化するプロセスにある。政策の実施に対しては、企業に対するデ
ジタルの「ワンストップショップ」の立ち上げを含むいくつかの段階が設定されている。多くの政府系組織は
このウェブサイト上で協働している。国際ビジネス連携機関(EVD)、センターノーベム、オランダ特許室、
Syntens(起業家のためのイノベーションネットワーク;NL 22)は一緒に一つのフロントオフィスを形成し
ている。経済省はまた商業室や Syntens とも連携し「起業家フォーラム」を通じてあらゆる領域で一つのフロ
ントオフィスを形成している。
このほか、知識基盤は 14 の大学、18 の KNAW 機関、9 の NWO 研究所によっても支えられている。なか
でも最大の準公的研究機関は TNO(オランダ応用研究機関)、5 の大規模の技術研究所、そしていくつかの国
有研究専門センターである。そして、大学、研究所、産業界が公民連携で協働する主導的な技術研究所がいく
つかある。
シェルやフィリップス、ユニリーバなどの大企業は科学技術関連政策のために集合的な圧力団体となること
はなく、諮問委員会のメンバーとして発言するといった形で個別に動くことが大抵である。学術界には大学協
会(VSNU)もあるが、政治的な勢力としては非常に弱い。オランダ議会は第二院 150 名、第一院 75 名程度
で研究能力も大きくないため、科学技術・イノベーション政策に全体的にはそれほど関わっていない。巨大な
政府と渡り合うために彼らはカウンシルからのインプットを必要としている。連立政権の一端を担っている民
主党 66 は小さい党であり、存在感を出すため知識社会というものに関心を持って良質の報告書なども出して
いるが、大きな社会民主党や首相の属するキリスト民主党は科学などよりも社会福祉といった分野に関心があ
るため、科学技術関連政策が表に来ることはない。選挙過程でも話題にならず、緊要だという感覚がない。対
して、北欧やオーストリア、そして英国、ドイツは科学と社会についての政策に非常に投資しており、うまく
機能しているようだ。米国ではノーベル賞科学者が議会でスピーチをしたりして科学振興を訴えたりするが、
オランダ議会でそういうことはない。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
68
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
(2)政策策定・知識利用プロセス
一般的にオランダにおけるイノベーション政策設計は様々な内的・外的(バックグラウンド)研究や分析、
助言機関やコンサルタントからの助言、国のイノベーションシステムに関わる公的・民間のステークホルダー
との対話、指標やベンチマーク(例:世界経済フォーラムの競争力レポート、IMD の世界競争力年報、OECD
の主な科学技術指標、OECD の科学技術産業スコアボード、欧州イノベーションスコアボードなど)を基に
している。換言すれば、イノベーション政策デザインは分析、評価、ベンチマーク、優先順位づけやステーク
ホルダー関与によって裏打ちされる傾向にあるということである。例えば、過去 4 年のイノベーション政策
の基本は、2003 年のイノベーションレター「イノベーションのための行動」に基づいているが、経済省の内
部で、そしてその代わりに実施されてきた、オランダの国のイノベーションシステムやイノベーション戦略の
様々な側面を系統的に分析した、一連の分析やバックグラウンド研究である。幾多の研究がイノベーション政
策、イノベーションガバナンス、諸スキームの合理化の可能性、イノベーションの国際面、大学と企業の対話、
フレームワーク条件、革新的な起業、ブレークスルー技術などの根拠といったイノベーションの諸側面を分析
するために、内部チームと外部専門家の両方によって実行されてきた。
経済省のイノベーション政策は 90 年代は透明な評価基準、市場の失敗、税制などについて全般的な政策装
置を扱っていた。その後クラスター化や特定の産業支援などを始めた。これは今なお続く長年にわたる議論
になっている。政府は 30 年前に「勝者を選別する(picking winners)」という政策をとっていたが、デスク
ワークの行政官が見極めることが難しいと認識された。そこで造船業など斜陽産業の支援のため「敗者を支援
する(backing losers)」という政策に変えたが、これも成功しなかった。そこで最近 AWT は「勝者を支援す
る(backing winners)」という政策を提唱し、ワクチン研究や花産業や食品産業、治水工学など勝ち組を世界
トップレベルにまで押し上げようという試みを行っている。AWT はこうして初めて全般的政策から特定分野
の政策への流れを作ったが、勝者は市場において既に成功した者であるため、政府が支援する合理的根拠に乏
しい。一方の WRR は政府に対し、「挑戦者を可能にする(enabling challengers)」と掲げている。経済省は
こうした政策は挑戦者が失敗することも多く、投資に対する効果が現れにくいので議会を説得しにくいと渋っ
ている。
INNO-Policy Trendchart、ERAWATCH は記述的なものであり、Country Report はもっと分析的である
が、オランダの政策立案者に使われていることはない。政策研究者向けのものである。欧州政策立案者に使わ
れるということはある。また彼らに対する道具として Open Method of Coordination(OMC)があり、役立
てられている。オランダは欧州レベルの道具立てに対して、新しく道具を導入する必要がない。オランダ政策
立案者は新しい道具立てになじむのに時間がかかり、日常的に用いているものに頼りがちとも言える。オラン
ダに限らないが、政策決定は十分な情報に基づいていない。イノベーションプラットフォームでは鍵となる分
野を決定したが、適切なアセスメントによるものではなく、政治的ゲームで決まっている部分が非常に大きい。
重点4分野があるが、ロビー活動によって新たな分野が追加されたりしている。ライフサイエンスは重点分野
でないが、大きな投資がなされており、政府は言っていることとやっていることが異なっている。ロビー活動
や政策立案者の意図が働いているようだ。うまくいっている例は、オランダ応用科学研究機構(TNO)であ
る。政府によって出資されているが、各省庁からのテーマを統合的にまとめて、言わば部分的に国家的な議題
を作り上げており、資源配分を適切に行っている。
政策モニタリングとレビュープロセス
目標、業績、資源の間の政府の説明にはっきりとしたリンクを持たせ
るために「政策予算から政策アカウンタビリティへ(VBTB)」という名の下、野心的なプロジェクトが数年前
に立ち上げられた。VBTB は目的、活動、資源配分を結びつける目的がある。すなわち「われわれは何を達成
したいのか、そのためにどのするか、どのくらいお金を使えるのか?」新しい予算策定形式も政策目的の計測
可能性の重要性、業績指標や体系的モニタリング・評価の使用を強調しており、政策プロセスに影響を与えて
いる。
2002 年 1 月以来、政策設計と政策評価は、政策準備(事前評価)、モニタリング、事後評価に対していくらか
の要求をなす業績測定評価にかかる省庁規制(RPE)の対象となった。その要求とは以下に関わるものである。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
• 評価装置の使用
• 新しい装置について考え始めるとき、事前評価を考慮することの義務
• 事後政策評価の頻度と程度(あらゆる装置は 5 年ごとに評価されねばならない)
• 評価装置の質
• 大臣、省や議会の長に評価結果を通知すること
• 法令(RPE)の実施に関し、省内で責任を配分すること
RPE に基づいて経済省は装置の評価のためのガイドラインを開発してきた。2002 年より、経済省はどのよ
うな(新しい)装置が政策目的に合うか、どのようにそれらが特定された問題に影響するかを評価する系統的
な事前評価アプローチを用いている。2005 年に VBTB プロセスが評価され、その結果、2006 年に規制周期的
評価研究と政策情報(RPE)の改正となった。最近では、事後評価から事前評価・モニタリングへ関心が推移
する傾向にある。
効果測定、知識経営・質のための局として、センターノーベムも参加者に彼らの経験や成果について訊く
サーベイによって各装置に対する効果のモニタリングをしている。イノベーション政策ミックスの様々な装置
の有効性や効率はアウトプット、アウトカム、インパクトのレベルで測定されるが、後に行くほど測ることが
非常に難しくなる。
研究の影響評価を行うものに ERiC(Evaluating Research in Context)がある。これは直接的・間接的効果
を計るが、あらゆる利害関係者に対して調査するところに特徴がある。OCW でも経済学的手法を重んじてお
り、実証主義的である。政策プロジェクトに対して制限が多く、また厳格な根拠に基づく評価では、負の成果
が出ることが怖れられるので、ERiC のようなやり方は政策立案者に好まれない。知識ディレクターはこれが
役に立つか、立たないにしても政策立案に対してそれほど有害でないことを示す努力を傾けている。
調整メカニズムの存在
省庁レベルでは経済知識イノベーション委員会(CEKI)がイノベーション政策にお
いて調整役を務めている。内閣レベルでは、経済知識イノベーションカウンシル(REKI)が調整メカニズム
として機能している。イノベーションプラットフォームは比較的新しい調整メカニズムであり、科学文化教育
省と経済省の間の調整のための高レベルなフォーラムを提供する。両方の大臣はプラットフォームのメンバー
である。政策ミックスの首尾一貫性を保証する別の調整メカニズムは省際政策研究タスクフォース(IBO)の
時々の利用である。科学文化教育省と経済省との調整はここ数年増している。例えば科学技術デルタ計画は科
学文化教育省、経済省、社会雇用省(SZW)の共同出版である。他の調整例はスマートミックス(NL 53)指
標という大規模研究開発プログラム(年間 300-1,000 万ユーロ)に狙いを定めたものである。このスキームは
研究助成の断片化を防ぎ、研究基盤内で需要志向を強化するための共同の取り組みとして、科学文化教育省と
経済省によって立ち上げられた。プログラムは国の研究カウンシルである NWO とイノベーション機関セン
ターノーベムによって設立されたスマートミックスの事務局によって運営されている。だが、概して目標や優
先順位付けレベルでの調整は政策実施レベルでの調整より強くなる。新しい内閣は共同の課題に取り組むため
知識とイノベーションのための省際部局を設置することで、各省間の組織的ギャップを架橋しようとするつも
りである。
ナレッジチャンバー(Kenniskamer)
オランダには助言組織が大勢あるが、助言者と政策立案者との意識
に大きな差があり、ナレッジチャンバーは彼らの議題を統合し、意識の差を埋めようという発想に基づいてい
る。ナレッジチャンバーは 2006 年より始まり、各省庁ごとに設けられていて、実践はそれぞれ異なり、一つの
決まった形はない。これに対して国家的な調整がなされているわけでもない。たとえば、教育文化科学省は教
育、科学など多くのナショナルカウンシルがあり、代表者がナレッジチャンバーに加わっているが法務省はそ
れほどない。省庁のトップ、企業・研究所のトップ経営者からなり、何が政策のための根拠か、どんな知識が
欠けているかについて話し合うものである。ナレッジチャンバーは公式な会合であるが、この運営について省
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
内で前後に非公式な会合を開いている。経済学者や教育学者、科学者を一同に会させ、政治的なセンシティビ
ティを伝え、彼らの知識交流を手助けするという立場に立っている。また、非公式な場の新たな試みとして、
科学者を社交的にする目的で科学者によるカクテルパーティを開催することもある。こうした新しい機関や制
度をうまく消化して、公式・非公式過程により根拠がもっと自然でそれほど厳格でないものができれば、根拠
に基づく政策形成がより意味のあるものになると期待される。
ナレッジチャンバーは助言カウンシルの代わりとするものであるが、独立した制度ではなく、政府へのサー
ビスを目的とするという意味で視野はもっと限定的である。さらにこれは科学政策に特化したものではなく、
政策にどんな知識が役に立つかを扱っている。また、学際的なアプローチを採っているが、気候変動やエネル
ギーなど国家的・長期的な問題を扱っていないという批判がある。
2005 年末、教育文化科学省は再組織化計画ないし「OCW の変化」というプログラムにおいて有効な政策
を示す目標を掲げた。そのため、行動プログラムでは政策の科学的知識基盤を強化する必要、いわゆる根拠に
基づく政策の必要に触れている。これを背景にして、2006 年夏に教育文化科学省の主導によりナレッジチャ
ンバーが開かれた。ナレッジチャンバーはトップの行政官からなる諮問機関である。AWT によれば、このよ
うな知識政策がなければ政府は様々なリスクを冒すことになるという。第一に、過度の知識と情報のリスクが
ある。データと情報の量は定常的に増すとき、有意な研究を拾い上げ、それを正しく解釈し、既に利用可能な
知識と結びつけることはだんだん難しくなっている。第二のリスクは知識領域の分化である。省間・省内の分
化は知識基盤が組織化されるやり方、すなわち各領域内で反映される。統合的アプローチは知識の分化によっ
て邪魔される。第三のリスクは特にトップにいる政府役人が特定の政策の内容より政策形成のプロセスに集中
するということにある。国の政府の人事は内容に関した専門性よりプロセスに関するスキルに価値を置いてい
る。結果としてシニアの行政官の多くは政策提案の根拠を適切に精査するための理解に欠くということが起こ
りうる。これらのリスクを最小化するため、省ではナレッジチャンバーが知識政策の決定的成分になるように
してきており、政策における知識の役割の戦略的ビジョンから始め、トップで知識政策を定式化する必要を強
調する AWT の見解に従っている。トップの役人はつまるところ、政策が根拠に基づいていることについて最
終的に責任を負う。省庁は短期的な政策指標の形成と実施のための根拠を必要としているだけではない。それ
とは別に、長期的戦略を形成し政策課題を優先づけられるよう、長期的発展についての視座を求めているので
ある。これはトップマネジメントの典型的な責任である。
ナレッジチャンバーの設立のもう一つの理由は、政府プログラム「政府を近代化する」から来ている。プロ
グラムの目的は「コミュニティを中心にする力強く決定力のある政府」を認識することにある。プログラムの
イニシアティブの一つは助言カウンシルと計画局や研究所などの知的機関のシステムを再構築することであっ
た。このイニシアティブの結果は内閣から議会へのレターの中に書き留められた。このレターで政府は、政策
立案者と知的機関および研究者との直接的な対話が改善されなければならないと述べている。これは政策立
案者が知識の活発な利用を進めるためには定常的な対話が必要であるという AWT の提言に対応している。レ
ターではまた、この対話が組織されるやり方は各省の決定に任されるということも述べている。ナレッジチャ
ンバーは強く推奨されているが規定されているわけではない。各省は彼らの領域の条件に最もふさわしいアレ
ンジメントを考案しなければならない。
ナレッジチャンバーは厳密に定義された実体ではない。本質は政策と研究との対話である。レターでは内閣
は現在の政策プログラムに必要な情報に焦点を当てる「ナローチャンバー」や、現在の政策に限らず長期的課
題も探索する「ブロードチャンバー」といったいくつかの変種を区別している。純粋に公務機関内部にユニッ
トがあり政府の専門職がスタッフになっているものか、あるいは省から離れたところにある機関として組織化
されているかという、ナレッジチャンバーの独立性の程度に応じて違いが生ずる。他の変種はナレッジチャン
バーの構成に関わるものである。例えば、交通・公共事業・水管理省はナレッジチャンバーを大学、研究所、
計画局、社会的組織、中央政府、地方政府の代表からなる広汎な会合として組織した。経済省は一方で、最も
関係のある知的機関の小グループとトップマネジメントとの協議としてナレッジチャンバーを設定した。
内閣はナレッジチャンバーにおいて多様な経験や良い実践を交換することで、省庁は互いから学ぶばかりで
なく、ベストプラクティスが最終的に普及することを期待している。ナレッジチャンバーの発展は学習プロセ
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
スすなわち様々なモデルの支持者と反対者のバランスを取るプロセスとして明示的にデザインされる。
ナレッジチャンバーは原則として年 2 回、春と秋に開かれる。春の会合は主に、知的機関の業務計画に反映
される、翌年の「知識アジェンダ」をプログラム化および計画するためのものになる。秋の会合は「どんな知
識がチャンバーの活動で生まれたか」「この知識は政策立案者によって使われるために置かれたか」といった
質問を提起しながらナレッジチャンバーの活動のレビューを行う。定期会合の間、チャンバーのメンバーの一
人や外部専門家によって一つか二つの特定のテーマが強調されるかもしれない。ナレッジチャンバーの会合は
省の戦略理事会によって準備、支援される。ナレッジチャンバーの半年ごとの定期会合に加え、特定の角度か
ら組織化され、当省の視座を広げる目的をもった一回以上の特別会合がある。ナレッジチャンバーの本質は各
省と知的機関の間の構造的協議であり、実用的な意味で、知識が蓄積されなければならないテーマを見つけ出
すことにある。
ナレッジチャンバーの会合の参加者は二つのカテゴリーからなる。定期会合は教育カウンシル、科学技術政
策のための助言カウンシル、文化カウンシル、政府政策のための科学カウンシル、経済政策分析局、社会文化
計画局、オランダ科学研究機関、教育監督局、イノベーションコンソーシアムであるセンターノーベム、そし
て研究開発のためのセクターカウンシルの諮問委員会、からなる内輪の参加者である。テーマごとの特別会合
では外部の人間が招かれ、構成が多様になる。
おそらくナレッジチャンバーの最も挑戦的な任務は、政策分野の伝統的な境界をまたぐ「知識質問」の定式
化である。ナレッジチャンバーは未来志向の視点から、そして他の政策分野の角度からテーマを精査する。各
課題について重要な一般的な知識質問は「実際の問題は何か」「その問題に関わるステークホルダーの視点は
どのようなものか」
「どんな装置が効果的で効率的か」
「問題を解決する助けになるような政府の干渉を見極め
ることはできるか」である。だが、こうした基本的な知識質問を越えて、ナレッジチャンバーは創造的にかつ
革新的な観点から動作しなければならない。省ではいつも不確実な将来、創造性、新しく驚くような観点やひ
ねくれた見方についてチャンバーからの敏感な着想を期待する。これらはまとめることが困難であるが、チャ
ンバーは創造性に伝導性のあるディベートやプレゼンテーションの革新的な技術を用いることも考えられてい
る。「デジタルストーリーテリング」や、学生やアーティストといった新しく異なる才能を動員することもあ
ると見られる。
ナレッジチャンバーは、その活動が政策立案者によって有効な知識の実際の利用につながるとき、そして知
識の提供者が彼らの努力が重視されることに気づくとき、成功と判定される。もちろん、これは知的機関が《有
用な》知識を生産しなければならないことを暗に示している。すなわち、政策立案の実際の過程に合った知識、
そして提案した政策の含意と帰結をはっきりさせる知識である。ナレッジチャンバーの成果を判定することが
できるように、指標は上記の基準を測定するために開発されるだろう。いずれにせよ、ナレッジチャンバーは
柔軟であり、新しい需要に自身を適応させることができるということを証明しなければならない(Stegeman
& Rouw 2006)。
イノベーションプラットフォーム
イノベーションプラットフォームは高度に政治的な議題について、首相を
座長として関係各相、大企業経営者もメンバーとして加わる助言組織である。だが、彼らの設定する議題と実
際の政策立案との間に大きな乖離があり、首相が関わっているといえども意思決定に反映されるようにはでき
ていない。知識社会の構築のために毎年多くの追加的資金を投入するようにという方向性が議会と各省で合意
されたが、実際はむしろ資金が減らされているということが起きている。首相が座長とはいえ、彼は彼自身の
優先事項が他にあるため首脳側からの関心はだんだん薄れ、それほど実質性のあるものになっていないと言わ
れている。2003 年から始まったばかりで自ら財源を持たない。WRR が 2007 年に出した一般的な提言では、将
来の経済構造として 10-20 年先を見て、その中でイノベーション政策を考えようというもので、イノベーショ
ンプラットフォームは図らずもその一つの形を実現することとなった。
イノベーションのためのプラットフォームは制度化することが良いのか、プロジェクトベースで行うべきか
という議論があり、前者にすると直ちに省庁間の駆け引きや主導権争いなどが問題なる傾向にある。低い政策
レベルでは TNO が省庁間の調整をしているが、現在では半民間となって市場の意向を反映しており、戦略性
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
がはっきりしなくなっているようである。
科学文化教育省(OCW) 教育文化科学省(OCW)は弱い省だと見られている。科学より文化の方にウェイ
トがあるとして関係者をがっかりさせている。政策に資する根拠を示す必要があるが、コントロールグループ
を設けることは難しく、比較分析ができるものでもない。また、予期せぬ結果が起こることもあり、それをど
う計測するかという問題もある。OCW ではどれが良い方法かという方法論的論争を行っており、多元性が実
現している。政策評価が大きな課題となっている一方で、TIER(Top Institute for Evidence-Based Education
Research)という経済学者、教育学者、科学者を巻き込んだ明示的な決定プロセスでは、知識生産の有効性
などを測り、財務省の検討材料にされている。こうした方法で人材を選定することもあるが、方法論的多元主
義に則り、OCW ではオランダ科学研究機構(NWO)の取り組みとリンクした定性研究も行っている。だが、
どの知識人材を登用するかというのは非公式な過程であり、今後はもっと開かれた透明なものにするように試
みられている。
OCW における知識ディレクターの役割は、1)ナレッジチャンバーの事務局、2)当省における根拠・評価
などに対する知識サービス制度、3)教育研究に関して 3 つの大学(アムステルダム大学、グローニンゲン大
学、マーストリヒト大学)の統括ネットワーク組織、という 3 つがある。これは根拠に基づく政策の要請もあ
るが、知識にもっと投資しようという一般的な傾向に乗ったものである。戦略部門などもあったがあまり成功
しなかった。
1970 年代にオランダ王立科学アカデミー(KNAW)で試みられたことはあったものの、優先順
位づけはまったくはっきりしたやり方で決まっていない。たとえば化学分野についてはイノベーションプラット
フォームでは優先順位が高いとされなかったものの、ロビーイングによって振興されるようになった。治水技術
優先順位づけ
の関係者は、お金が欲しいと思えば産業や行政にいる意思決定者に電話でお願いするといった具合であり、合
理的な政策計画になっていない。また、経済省には FES(Foundation for Economic Structure Strengthening)
というインフラのための助成金があり、ロビー活動次第で優先順位づけの枠で割り当てられた資金に追加する
形で資金が投入されることもある。新しい資金だから新しいことに使える。だが、予算の半分は自分から出さ
なければならない。実際の予算より実際の効果が大きい。FES は道路などのインフラについてのものだったも
のが、知識インフラという概念を生み出してから研究にも投資するようにもなった。アリエ・リップが関わっ
ているナノテクのプロジェクトも従来の助成からではなく、この助成を介して出資されている。経済省はイノ
ベーションプログラムを作り、こうして間接的に優先順位づけを行い、優先順位づけのアイデアを守っている。
一方の科学サイドでは省庁は優先順位づけを諦め、リサーチカウンシルである NWO に委ねた。NWO は優
先順位づけに長い歴史を持っているが、もっと戦略的に動く必要が出てきている。現在は先端技術など 9 つの
テーマを扱っている。重点分野の選定は幅広い諮問を行い、理事会が決定する。組織は分野ごとに 8 部門に分
けられ、それぞれが戦略計画を立て、それを理事会が取りまとめている。スタッフを抱えた戦略策定部門があ
るわけではなく、重点分野の決め方は部門や理事会のパワーゲームである。優先順位づけは象徴的なものであ
る。科学の倫理とアセスメントについては、以前は 9 テーマの一つで優先的に扱われていたが、奇妙なことに
資金が与えられなかった。外部から財源を確保することが第一とされ、付加的にわずかな資金が投入されるだ
けであった。リサーチカウンシルは代表者が政治的に動いており、組織自体に優先順位を持っているため、実
際には独立とは言えないという指摘もある。
このほか、医療、環境、農業、開発など各セクターカウンシルは公式に優先順位づけを行ってきた。いくつ
かのセクターカウンシルは今でも残っている。これは言わばコーポラティストモデルであり、知識の集積者と
いうより仲介者と言ってよい。セクターカウンシルは農業セクター(NRLO)の例で言うと、かつてフォーサ
イトをしていたが、最近では公的機関と民間機関の仲介をするようになっている。
多くの政策関係者は優先順位づけをもっと合理的にして、政府が責任を持つべきだというが、「パッチワー
ク」と呼ばれるような各アクターのネットワークによる創発的プロセスが合理化プロセスより正統性を持ちう
るという見方もある(Rip & van der Meulen 1995)。
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第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
知識政策の変化
政府内はプロセスマネジメントを重視するようになり、知識の生産者と知識の利用者との
間に新たな緊張関係が生まれている。オランダの行政府はかつてもっと専門家を内部に擁していたが、英国モ
デルを真似て、行政官は頻繁に異動するようになり、行政官はスペシャリストというよりゼネラリストになっ
た。ただし、財務と経済部門はこの限りでない。教育文化科学省長官は省内の各分野が専門家を抱えているこ
とに対し、政策サイクルにもっと着目するようにと改革したが、彼が教授職に就いて省を去ったらまた分野ご
との専門性により戻しているようだ。それでも科学政策は、傾向としてはプロセス重視に向かっている。高等
教育研究についての助言委員会でも政策の中身よりも政策プロセスが中心であり、政策科学者・政治学者はこ
の状況を変えようとしている。
農業分野の例は興味深い。1990 年初頭まで、関心・知識について旧態的なネットワークがあり、農業ロビー
と政治家からなる固定的構造によって典型的なコーポラティズムを実現していた。だが環境問題や欧州農業市
場の危機により、農産業者と農家など利害が衝突し始め、構造が内外からプレッシャーがかかるようになった。
1980 年代は保守的だったが、こうしたきっかけで農業研究もバイオテクノロジーを取り入れるなどして改革
が進んだ。1990 年代中ごろの転換点(breaking point)は象徴的であり、ほとんどの助言機関は廃止された。
この流れに環境科学者やジョン・グリンなどの政策研究者もこれに関わり、政策分析がより重要になった。政
策研究者においては、プロセスを知っているが内容の詳細を知らず、政策から一定の距離があった方が役割を
果たせることがある。だが、政策研究者がある分野の政策に関わって内容に詳しくなるのは避けがたい流れで
もある。
オランダの各地方はイノベーション政策にも関わっている。欧州レベルの政策もオランダの政策立案に影響
を与えている。オランダ経済省の官僚はフレームワークプログラム(FP)に高齢化社会の問題を盛り込ませ、
それを引用してオランダも何かするべきだと訴えた。言わばループを作り出すことができる。しかし FP に書
かれているということは欧州各国が従うということでもあるから、逆に国レベルの重点化を蝕むことにもなる。
計画局
計画局はアドホックな調査研究を行うような助言カウンシルとは異なっている。経済計画局(CPB:
Centraal Planbureau [Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis])で働くことはステータスが高い
と見なされており、財務省、議会やメディアなど外部からの信頼が厚い。たとえば環境畑の人間は不確実性を
正確に分類・同定するが、経済畑の人間は不確実性を認めつつも最適の概算を示すので、政策立案者に受け入
れられやすい。経済分野では因習的な政策分析が根強く残っており、計画局のガイドラインに従って建設セク
ターも大規模プロジェクトに対して費用便益分析を行っている。ロッテルダム大学とは過去 15 年ほど密接な関
係がある。社会文化計画局(SCP: Sociaal en Cultureel Planbureau)も経済計画局ほどではないものの、その
報告は政策に対する影響力を持っている。統計局(CBS: Centraal Bureau voor de Statistiek)では、1960 年
代から 5 年ごとぐらいに科学研究システムの現状についての背景的研究を実施している。現代では定量的・定
性的な研究がなされるようになり、ラテナウでは科学システムアセスメントを行っている。また、ライデンで
は毎年、科学技術指標レポートを発行している。これは政策立案のインプットになっているわけではないが、
誰もが受け入れられる事実を提供している。
政府政策のための科学カウンシル(WRR) WRR は独立組織であり、特定の分野でなく戦略的レベルで長期
的な問題に対して政府に報告・提言を行う。9 名のカウンシルメンバーと、法律家や経済学者、政策科学、社
会科学、物理学など異なるバックグラウンドを持つ 35 名のスタッフからなる。カウンシルメンバーの選定は
大学の高名な教授などから選ぶ。理論的な研究者と、省庁に勤めた経験のある政策寄りの教授がいる。政府に
よって任命される。政府側がメンバーに対して追加などの注文をすることもある。メンバーは現実の党派体制
を反映し、政治的スペクトラムが出るようにすることが一つの選定基準である。
取り扱う課題は長期的なもの、かつ政治的にセンシティブなものが選ばれる。最近では労働市場の柔軟性が
扱われた。社会・雇用省(SZW)は数ヶ月前、WRR の一つの政策提言を採り上げた。イノベーションの報告
書はサーベイに基づき、国際的に研究者と協力してイノベーション政策に示唆を与えたものとなっている。カ
ウンシルの提言は常に政策的な方向性を与えるものである。WRR ではこれまで 80-90 の報告書、60 のサーベ
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イを出してきた。政府はこれに答えなければならず、WRR は時として政府と対立することもあるが、概ね協
調的である。
WRR はもともと 1970 年代半ばに首相に近いところの戦略ユニットとして設けられ、特に開発レベルにお
ける政策の科学的支援の組織として発足した。未来研究を通じて将来政策の策定において内閣府と密接な交流
があった。当時、出資者はすべてが《計画可能》であるという技術官僚的な認識に立っており、科学と政策と
の結びつきは全くなかった。現在は学問と政策形成の融合という考えに進化し、実践的に科学と政策のバラン
スを取るようになった。政策分析を主として常に将来の政策のことを考え、政策を構築し、科学を変えようと
している。WRR はそのための新しいプラットフォームとして議論を喚起しようとしているが、政府を含め社
会一般にカウンシルは《計画局》であり、政策を立てるものだという見方を今でもされるという。そのため、
カウンシルの提言に対して政府は防衛的である。70 年代は政府主導的であったが、80 年代は市場主導的にな
り、WRR も政府から距離を置くようになった。
報告書のほとんどはカウンシル自身によって準備される。WRR では 5 年の活動計画を立てており、それに
沿ってトピックを定めている。報告書の 80%は WRR 自身のイニシアティブで、20%は政府からの要請に応え
るものである。最近の政府からの要請は、安全と物理的セキュリティであり、治水、保健、化学、食品などに
ついて調べられた。報告書はサーベイから始めてだいたい 2 年かけて作成される。WRR のメンバーは行政官
とコンタクトを取るものの、影響を受けないよう報告書を書くときには距離を取っているという。サーベイは
8∼9 割がた外部の学術専門家に委託される。カウンシルメンバーは 2 週間ごとに会合を開き、スタッフ自身
も会合を開く。メンバーはそれぞれのプロジェクトに携わっているが、会合で情報や知識を共有してメンバー
間で合意を得ながら進めている。報告書はメンバーの誰々が書いたとされるのではなく、カウンシル全体の共
同責任において書かれる。「勝者を支援する」政策によって成功した大企業にさらなる支援がなされることに
中小企業は反対しているため、WRR は市民に対して訴え、その市民の声が政府を動かすような、間接的な手
段も取っている。このように、プロジェクトが終わってもアフターケアとして、カウンシルメンバーが議会や
省庁、欧州連合に赴いてコミュニケーションを図ったり、新聞や雑誌に投稿することもある。
王立科学アカデミー(KNAW)は科学者の職能団体であるので、公式の業務として書かれてはいるが、英
国の王立協会とは異なり政策志向性はない。WRR はもともと社会科学政策を作るという KNAW のイニシア
ティブで、「政策のための科学」のために作られた。しかし WRR は「科学のための政策」を行うようになり
《独立した公務員》としてもっと実践的になっている。社会経済カウンシル(SER)と WRR を比較すると、前
者は短期的な視野に立ち、もっとコーポラティスト構造である。法的には同類であるが、WRR は独立で長期
的な視野を持っており、SER のカウンターパートとして位置づけられる。また、WRR と同時期に設立された
社会文化計画局は定量的な社会指標を作ること、そして経済計画局は実際に《計画》をしておらず、経済モデ
ルを作ることが主で特定の政策に向けられているが、WRR はもっと実用的で、明示的に学際的であり、活動
が将来の政策に向けられている。
科学技術政策助言カウンシル(AWT)
科学技術政策助言カウンシル(AWT)は法律を根拠に設置されてい
る。政府からの資金で運営されているが、活動は独立している。AWT はイノベーション政策を主管する経済
省から 6 名、科学政策を主管する教育文化科学省から 6 名提案され、12 名のメンバーが任命される。メンバー
は実用的な知識を持って社会にルーツのある者たちで、具体的には大学教授・大学理事や企業経営者、起業家、
研究開発マネージャーなどである。これは、議員は週一回だけ議会で働きルーツは社会にあるという第一院と
似ている。1997 年までは労働組合や被雇用者組織など利益団体がメンバーであったが、1998 年以降は専門家
による構成になった。利害関心と専門性は分かちがたいところがあるが、専門家がカウンシルに参加するとき
には異なる帽子を被るという意識で臨んでもらっているという。
カウンシルメンバーは月 2 回の会合を開いている。毎年ワークプログラムを準備し、省庁、大学や研究所、
企業とトピックを何にしようか相談し、省庁からの合意を得る。業務の 80%はワークプログラムを通じた仕事
であり、20%は予備として許容しておき、カウンシルからの突然の要求に備えている。だいたい年間 4 本程度、
政策提言の報告書を公刊している。カウンシルメンバーは自分で政策提言を書かず、事務局の 6 名が書く。事
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務局は政府からの給料で働いているが、公務員ではなく外部者である。多くは研究のバックグラウンドを持っ
ている。特定のトピックでは、アリエ・リップやバレンド・ファン・デル・ミューレンといったトゥエンテ大
学の研究者などの外部専門家も活用することがある。このほか、数名のサポートスタッフもいる。AWT の報
告書を受けて省庁は議会に対し応答を返さなければならないと法律で定められている。同意の場合は提言のう
ち何を実施するか、不同意の場合はその理由を説明しなければならない。少なくとも AWT はこの問題を採り
上げたという事実が残ることが重要である。また、AWT ではこの強い立場を利用して、多くの関係者と話す
ことが容易になっている。そのため、多くの報告書を出すことより、むしろ知識・関心を持った人々と話して
議論を促すという、報告書を作成するプロセスを大事にしている。成果は省庁に報告するほか、プレスリリー
スを行い、新聞に意見も出している。
現在、多くのカウンシルの統合改革が検討されており、AWT はおそらく経済省に置かれている助言機関と
合併すると見られている。助言カウンシルの数を減らそうという再編成の背景として、政府は助言カウンシル
から利益を得るばかりではなく苦痛も得るから、ということがある。
(3)知識生産主体
プロセスマネジメントが重視されるところでは、政策分析者は重要になっている。分野の政策ではアカデ
ミックではなく実践者が重用される。政策分析者が政策立案に携わることも増えてきている。こうしてリンク
ができることもあるし、コラボレーションができることもある。1980 年代からこの流れができている。
政策形成に対する社会科学者の役割はそれほどない。新公共経営(NPM)の流れにあるアカウンタビリティ
の重視などは社会科学的な知見が入っているが。指標にしても科学的なものが中心で社会科学的なものはな
い。知識社会とは言いながら投資のウェイトは多分に科学にあり、人文・社会科学への眼差しは非常に低い。
社会イノベーションの振興に期待される。
(4)知識交流
オランダの特徴として、階級が見えにくく省庁の人間でも近づきやすいということがある。また、議員など
とも親しくコミュニケーションを図ることができる。ナレッジチャンバーやイノベーションプラットフォーム
多くの助言カウンシルはこうした研究者と政策立案者の知識交流を深める役割を担っている。一方で、CEKI
や REKI、K&I など、省際機関の発達によって、横の連携を図る場もも積極的に設けられている。
政策立案者のキャリアパスという点では、OCW のトップは有名な研究者から転向した人物であるが、一般
的には科学者のバックグラウンドを持った者は少ない。首相も科学の博士号を持っているが、彼らは科学に詳
しいにも関わらず優先順位は低いと見られる。さらに連立政権であるため、議題設定にも妥協が入る。省庁は
かつてそれぞれ隔絶しており、入省してから 65 歳まで勤め上げるという縦割り型の組織になっていた。良い
点は官僚は担当分野についてあらゆることを知ることができたことであったが、悪い点は省庁間の協調がなく
ダイナミクスがないことである。最近、トップのマネージャーが省庁間を異動するようになり、マネジメント
やプロセスの質を問うようになった。良い点は各省庁間の協調、相互理解、ネットワークの拡大であるが、こ
の弊害は省庁内での知識のビルドアップがなくなったことであり、長期的に見ると大きな問題である。これを
改善するための提言を AWT が行い、ナレッジチャンバーが誕生した。だが成果が現れるまで時間がかかる。
研究におけるキャリア開発スキームは一つの成功例として挙げられる。NWO、教育文化科学省、大学の三
者によって計画が立てられ、彼らの共同出資により大学から独立した資金として博士学生など若手研究者の
キャリアパスを保証するものである。この背景として年齢の問題が大きく、ベビーブーム世代の引退に対して
若手の有能な研究者の育成が急務であったことが挙げられる。また、科学者を目指す若者を将来的に増やすた
め、初等教育時から戦略を立てている。
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4-1-5
フランス
(1)科学技術関連政策システム
フランスの科学技術は原子力、宇宙産業、交通などの分野で優れているが、イノベーションの業績は近年下
降している。対 GDP 比の研究開発支出は後退し、2000 年代半ばまでにバイオテクノロジーやナノテクノロ
ジーといった分野で他国の後塵を拝している。他の欧州諸国と同様、研究開発投資は公共部門がほとんどを占
め、民間企業の研究開発は小規模で、さらにその伸びは低下している。基礎研究は強いものの、それを応用に
結びつけて産業振興や経済発展に貢献する仕組みがないという欧州パラドックスはよく知られているが、フラ
ンスは特にその傾向が顕著である。企業は研究開発に興味を示さず、研究者も応用科学や技術開発に熱意を見
せないといった点がフランスのイノベーションシステムの脆弱さとして指摘される。
このような状況の中、2005 年に「研究協約(Pacte pour la recherche)」が発表され、2006 年の「研究計画
法」成立を受けて、高等教育・研究システムの改革が開始された。研究開発には莫大な費用と創造性を高める
ための科学者の自由が要求されるが、計画法はこれらを保障するものである。一方、このような研究者に対す
る国民の信頼に対し、研究者は国民に責任を負わなければならない。すなわち、この計画法は、国の義務とと
もに、研究者は評価を通して常にその責任を問われるという、研究者の義務も明確にしている。計画法により
独立した資金配分機関と評価機関が設置され、アングロサクソン式のイノベーションシステムに倣って戦略計
画企画、研究の実施、研究助成金とプログラムの管理、評価の 4 つの機能をそれぞれ個別の専門機関が担うこ
ととなった。これに伴い、4 つの機能をすべて持ち合わせていたフランス最大の研究所である国立科学研究セ
ンター(CNRS)をはじめ、フランスの公的研究機関の機能も制約された。
政府は最近「国の研究イノベーション戦略(2009-2012)」の検討を行い、2009 年 3 月末に素案を示した。こ
れは、サルコジ大統領の「研究開発の分野で長期的なビジョンを設定する習慣が今までにないことを指摘し、
そのための不備、特に、社会のニーズと公的研究の隔たりがあること、フランスの基礎科学が技術やイノベー
ションと結びつかない弱点が国の経済的競争力に影響している」という問題意識を受け策定することになった
ものである。後発の利点を生かし、各国の政策を分析し、その効果を見極め、優れた施策は自国の研究システ
ムに即した形で取り込むことも考えられているが、戦略政策策定作業は公共政策全般改正(RGPP)プロセス
に基づいて進められている。これは、公共政策は社会の要求に的確に対応したものでなければならないと考え
るサルコジ大統領の強い熱意と指揮の下に行われている、300 以上の対策が取り決められた膨大な行政改革プ
ロジェクトである。
(2)政策策定・知識利用プロセス
ここでは「国の研究イノベーション戦略」を取り上げる。サルコジ大統領は 2008 年 1 月の演説で、フランス
の研究システムを改善するには白紙の状態から始める必要がないことを指摘し、他の先進諸国のベスト・プラ
クティスに学ぶことが大切であることに触れている。ヴァレリー・ペクレス高等教育・研究大臣は大統領の命
を受け、2008 年 9 月 3 日の閣議においてフランスが世界的な科学・経済競争に対抗するために備えるべき「国
の研究イノベーション戦略(2009-2012)」の必要性とその策定計画を説明し、戦略策定に着手することを対外
的に発表した。そこでは大統領が同作業の総指揮者であり最高責任者であることがはっきりと示されている。
通常、研究開発制度の方向付けと戦略的オリエンテーションの任務は高等教育・研究大臣に委ねられるが、
これは同戦略が国としての大改革の一つとして位置づけられている。大統領が演説を行った 1 月に戦略策定
が開始されなかったことや、ペクレス大臣が 9 月までその発表を待ったのは、公共政策現代化会議(CMPP)
による RGPP プロセスでの議論を踏まえる必要があったためである。すなわち、CMPP は政策や改革の大き
な設計図を描き、それに基づいて実施・執行を進めるのが高等教育・研究大臣であるといえる。RGPP プロセ
スで作成された改革シナリオを検討する「追跡委員会(comité de suivi)」では、提案書を作成し、決定機関
となる CMPP 開催の準備を行った。CMPP は大統領を議長として、政府のメンバー全員と追跡委員会のメン
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バーが召集されている。会議の目的は追跡委員会の提案を認可することであり、改革実現のための重要な段階
をはっきりさせることであった。
CMPP 第 3 回報告書(2008 年 6 月 11 日)は一連の改革事項の第一段階の完了を示すものであり、研究イノ
ベーション戦略計画に影響を及ぼしていることが、ペクレス大臣による 9 月 3 日および 10 月 13 日のコミュ
ニケからうかがえる。このほか、元老院の「フランスの研究とイノベーション:経済発展に貢献するためハン
デを克服する」、また EU の計画であるリュブリャナ・プロセスも同戦略計画に影響を与えているようである。
サルコジ政権では論理的に段階を追って、トップである大統領から大臣に指令が行き、大臣がそれを具体化し
て政策を実施に移していくという構造や手続きが透明で、改革の目的とその達成方法が明快である。
ペクレス大臣は戦略計画を実践に移す方法として、従来の政策形成者と政策実施者との間に「運営委員会
(SNRI)」という政策形成協力者を設け、この組織を媒介して両者の橋渡しを行う仕組みを築いた。つまり、運
営委員会は政策を立案する作業に参加する一方で、政策を実施する二重の役割と責任を担う。国(大統領、公
共政策審議会など)および大学や公的・私的機関のそれぞれを代表する専門家集団であるこの運営委員会は、
次の運営委員会に引き継がれるまでの間は研究イノベーション戦略計画の番人となる。同戦略計画は 4 年ごと
に内容の再検討を行うこととなっている。この作業が繰り返されれば、長期の研究イノベーション戦略がサル
コジ政府の定めた手順に従い段階的に策定され、運営委員会がフォローするという、フランスで初めての戦略
計画が科学技術関連政策の領域で実現し、実施されることになる。
運営委員会は公的研究が直面している、または研究が応えることのできる 4 種類の大きな挑戦(社会的挑戦、
知への挑戦、中核技術の開発にかかる挑戦、システム的挑戦)を設定した。それぞれの具体的な挑戦的課題を
明らかにする作業にあたり、テーマ別に作業グループが組織された。各作業グループは、専門家として著名な
運営委員会メンバーが議長を務め、他にレポーター 1 名とパネリストで構成される。パネリストは専門的な知
識を有するもので、研究機関、企業、研究・高等教育拠点(PRES)、専門団体、政府代表者などからなる。運
営委員会は 2008 年 11 月から 2009 年 2 月までの間に検討したすべての討論結果を集約して研究イノベーショ
ン戦略計画案をまとめ、2009 年 3 月に高等教育・研究大臣に提出した。この後、同計画案は専用ウェブサイ
トを開設してパブリックコメントを受け付ける。これらを踏まえ、計画案は科学技術高等審議会で審議され、
2009 年 6 月には閣議で承認される見込みである。
(3)知識生産主体
フランスの高等教育・研究制度の特徴
フランスでは、とりわけ 2005 年以来、研究とイノベーション制度の
改革が進められてきたが、一連の動きは、政策形成者が、科学技術の成果を上げるには、効率的な制度を設立
する必要があることを意識するようになったのが始まりである。効率的な制度とは、米国や英国に見られる制
度を示し、その特徴は、国の戦略の策定、プロジェクト・ベースの研究資金配分、評価の文化、研究者のモビ
リティー、研究の成果を活用する能力がすぐれているなどがあげられ 2、1) 研究、2) 戦略、3) 計画・資源配分、
4) 評価、の4つの機能が分離したマネージメントを指す。つまり、4つの機能が、異なる独立した専門家団体
で実施されていることが機能的な、効率のよいシステムであるという考え方が、1990 末から出現した。英国
の Foresight プロジェクトに影響を受けた Futuris がフランスでも開始され、将来の科学技術の構想を考える
動きが出、このような思索や討論の場が多く設けられた 。2000 年に入ると、フランスの研究活動を不能に陥
れた研究者のデモ運動の勃興(2004)、研究活動の将来を検討するグルノーブル全国大会の開催(2004)、競
争力拠点構築の特別資金の設置(2004)、研究計画法の設定と「研究と国の協定」が結ばれた(2005)。その
中から徐々に、従来存在していなかった制度の構築案が具体化していった。
フランスの研究システムの特徴は、「公的研究機関と大学」というアクターの二重構造である。研究システ
ム創立以来、大学と公的研究機関はそれぞれ独立したシステムとなっている。一方、高等教育システムの特徴
は、「グラン・ゼコールと大学」という二重構造である。18 世紀に法学者、医者、教職者以外の社会のエリー
ト教育を目的としたグラン・ゼコールが創立されると、グラン・ゼコールが特殊エリート教育に当てられ、フ
ランスの一般高等教育は大学が担ってきた。
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フランスの研究・イノベーション活動の実施機関は、
「大学と公的研究機関とグラン・ゼコール」という 3 つ
の機構を合わせて考察しなければならない。この構造は、研究・高等教育活動に補完性を持たせ、国の競争力
を強化することを可能にするメカニズムだが、3 者の対立を引き起こす弱点もある。研究領域では、一方では
自治権を全く持たなかった大学に対し、他方には、創立以来、自ら機関と人材を管理してきた CNRS などの
公的研究機関がある。高等教育領域では、厳しい審査で優秀な学生(ばかりを)を予備校に集めることのでき
るグラン・ゼコールに対し、入学審査がなく、毎年 46%の学生が 1 年目課程を終了せず退学する大学がある。
フランスの「大学」は優秀な研究活動で著名なアングロサクソン式モデルのものとは異なり、(例えば、米国
の MIT のように)グラン・ゼコールが大学に編成されることはなかった。3 つの機構は、それぞれの歴史的背
景を持ち、設立目的も、発展過程も、社会に対する役割も異なる。大学は研究と高等教育の 2 つの任務を持つ
が、公的研究機関は高等教育の任務は基本的にはなく、その代わり、国のミッションを担う。また、グラン・
ゼコールは研究に従事しない。学位授与の権限は大学に独占されており、公的機関やグラン・ゼコールはその
権限を持たない。
システムの改革
2003 年に中国の上海交通大学が公開した世界 500 の高等教育機関の順位表には、最上位 100
機関のうち、フランスは僅か 3 機関が名を連ねていたにすぎなかった。その後、他の Leyde や Times Higher
Education 指標も同じような結果を示し、フランスの高等教育研究機関は、国際的に知名度が低いことがはっ
きりとした形で示されたことは、少なからずフランスの高等教育研究界に衝撃を与えた。アングロサクソン
式、あるいは世界のトップ機関のように、エクセレンスを基準に、透明な評価が実施されることの重要性が認
識され、フランスの研究制度を世界の標準的なモデルに近付ける改革が必要なことが実感された。大学が国際
レベルの教育、学位や研究を持つには、質を向上させる必要があり、そのためには、「質のマネージメント文
化」1 を導入し、自治権をもち、独自の経営ができる団体となる必要がある。2007 年の「大学の自由と責任に
関する法(LRU)」は、大学の資源の経営管理、政策と戦略策定は、国から、各大学の学長と学長会議にゆだね
られ、大学は自治権と管理責任をもった自由な団体となることを可能にした。大学長の権限は大幅に増大し、
人材を募集し選択する雇用の自由、教育研究費や教育研究者などの雇用条件、給与、賞与の設定、企業との契
約、学費の設定、大学入学試験の導入などは、各大学が施行する自由が与えられた。国が大学に不動産を譲っ
てゆくことも検討され、大学は国と 4 年契約を結び、終結の際、4 年間の活動と教育研究者を評価する。大学
は資源の原理から成果の原理に移行し、数年にわたる「契約」の概念が導入された。
大学の研究を促進するには、クリティカル・マスを築き、企業を含めた多様なアクターとの交流が大切であ
る。混合ラボの整備と管理の簡素化、公的研究機関と大学の交流の促進策、大学とグラン・ゼコールとの新た
な連携関係である研究高等教育拠点(PRES) の構築など、3 機構が効率的にシナジーを増大するような制度建
設が進んでいる。こうして、大学が研究・イノベーションの主要なアクターとなりうる道が開かれたのが、改
革の主要な成果である。
フランスの研究・イノベーションの評価制度は、ギャランター・システムと通称いわれる、専門家を信頼し
任せる方法が伝統的に守られてきた。特に、すべての科学領域の研究を実施し、フランス公的民生研究費の
25%を占める巨大な組織国立研究センター(CNRS)は、1939 年以来、独自の政策を立て、基本的にはブロッ
ク・グラント制で研究資金の配分やプログラム計画を企画してきた。その上、評価は、機関評価、個人評価、
雇用決定に至るまで、およそ 900 人の専門家(40 領域 x 21 人)から成る CNRS の内部組織である国立科学研
究委員会(900 人中 3 分の 2 は CNRS 内選挙)が責任を持った。CNRS 研究員は教育の義務がなく、世界の
どこの研究室に籍を置くことも可能である。
このような、絶大な自由を謳歌してきた CNRS を中心とした制度を半世紀以上保ってきたフランスに、2005
年 1 月、初めてのファンディング・エージェンシー、国立研究機構(ANR- Agence Nationale de la Recherche)
が設立され、続いて、2007 年 3 月、研究高等教育評価機構(Agence d’évaluation de la recherche et de
l’enseignement supérieur − AERES)が設立された。こうして、(一部の)研究資金とプログラムとファン
1 Jean-François Dhainault, Universités: comment surmonter le syndrome d’Astérix, http://www.aeres-evaluation.fr/Edito (2009 年
1 月 20 日検索)。
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「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
ディング計画が独立した機関の手に委託された。CNRS 内部の制度にも変化が生まれ、従来 CNRS が行って
いた機関評価作業は、AERES に移り、研究者評価は、当面は、CNRS が引き続き行い、その方法論や結果を
認定するメタ・エバリュエーションを AERES が行うこととなった。しかし、行く行くは、AERES が研究評
価全体を行うことも予想され、研究者は気を揉んでいる。一方、従来プログラムの設定など、CNRS の 40 領
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域を纏めていた 8 つの科学部は、CNRS から独立した 8 つの国立機関に編成される。
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4-2
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知識利用・交流の比較分析
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ここでは、各国における科学技術戦略にかかる知識利用・交流の実態を比較分析する。そのために、前年度
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研究で用いた意思決定過程における情報・知識(源)の分類法を再び導入する。ここで内部/外部は情報や知
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識が主として意思決定者側のアクターによって生産されているか否かによって、公式/非公式は情報や知識を
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生産する手続きが意思決定者にとって制度的かつ方法論的に確認されているものか否かによって分類を行う。
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に理解を助けるものであって、図形の位置や形が明確な根拠に基づいているというわけではない。
ߢ߽᭎ᔨ⊛ߦℂ⸃ࠍഥߌࠆ߽ߩߢ޽ߞߡ‫ޔ‬࿑ᒻߩ૏⟎߿ᒻ߇᣿⏕ߥᩮ᜚ߦၮߠ޿ߡ޿ࠆߣ
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米国の場合
㧨☨࿖㧪
౏ᑼ
ᄖㇱ
ౝㇱ
㕖౏ᑼ
図 4-1: 知識利用・交流の比較分析<米国>
☨࿖ߪᄢቇ‫↥ޔ‬ᬺ⇇‫ޔߤߥࠢࡦ࠲ࠢࡦࠪޔ‬᡽ᐭᄖߩਥ૕ߦࠃࠆ᭽‫౏ߥޘ‬ᑼߩᖱႎ࡮⍮⼂Ḯ
ࠍᜬߟ‫ޔߚ߹ޕ‬᡽╷⎇ⓥ߆ࠄ᡽╷┙᩺⠪ߩ⠡⸶ࡈࠚ࡯࠭߇㕖Ᏹߦ㊀ⷐⷞߐࠇ‫ߦߎߘߚ߹ޔ‬
米国は大学、産業界、シンクタンクなど、政府外の主体による様々な公式の情報・知識源を持つ。また、政
៤ࠊࠆࠕࠢ࠲࡯߽ᄙ޿‫ޕ‬ᄙ᭽ߥ⍮⼂੤ᵹߩ႐߇⸳ቯߐࠇ‫ߩ߽ࠆ޽ߢࡦࡊ࡯ࠝ߇ߤࠎߣ߶ޔ‬
策研究から政策立案者の翻訳フェーズが非常に重要視され、またそこに携わるアクターも多い。多様な知識交
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流の場が設定され、ほとんどがオープンであるものの、実際の担い手としては鍵となる数名のコミュニケー
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ターに依るところが大きい。図
4-1 で表されているように、外部の情報・知識源が他国と比較して大きな領域
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を占めている。これは活動数の多さや活動主体・形態の多様さを象徴したものである。こうした活動のほとん
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どが知識生産単独では行われておらず、何らかの交流活動と結び付けられているため、単なる知識生産の領域
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は比較的狭くなっている。
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政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
80
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
英国の場合
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図 4-2: 知識利用・交流の比較分析<英国>
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英国では学術研究成果は価値あるものが多いが、政策に対して革新的な影響を与えるものはなかった。短期
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の委託研究や漸進的に洞察によって形成される。経済インパクト評価やオプション分析がいたるところで行わ
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れている。これらを引き受ける政府内の経済学者・統計学者はしかし、研究者と政策立案者と結びつけたり
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ネットワークを広げるといった時間は与えられていない。知識交流という点では、研究者は政府の委員会に招
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集されることがあるものの、政策立案者とのキャリアに交わりもなく、民間での場の形成も他国ほど進んでい
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ない。そのため、図
4-2 で表したように、非公式の知識生産が主で、知識交流はその中でもごく一部、非公式
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で内部という閉じられた形でしか見ることができない。
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スコットランドの場合
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図 4-3: 知識利用・交流の比較分析<スコットランド>
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スコットランドは英国(イングランド)と異なり、知識生産・利用・交流が盛んである。権限委譲によりス
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コットランド政府が旗を振っている活動が多く、政策立案者を中心とした限られた形から、外部の大学や産業
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界を巻き込んだ大規模なものまである。知識生産は知識交流と密接に結びついた形で行なわれており、知識交
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流の活動の多様性は、啓蒙主義的風土が残り、国の人口が少ないスコットランドの地域文化的特性に起因する
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部分も少なくないと見られる。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
81
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
オランダの場合
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図 4-4: 知識利用・交流の比較分析<オランダ>
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知識交流を促進するための組織制度が政府機関内に設けられ、既存の諮問機関より有用な情報を生むことを
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目的として活動しているが、政策立案者の優先度はそれほど高くない。国家戦略の策定は明確な根拠というよ
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り、方法論的多元性に基づいている。そのため、外部公式のチャネルを多様にして、幅広いアクターによる開
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かれた討議の場を様々な形で設定して意思決定を図っている。オランダも知識生産が知識交流と結びついた形
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で行われていることが多い。
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フランスの場合
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図 4-5: 知識利用・交流の比較分析<フランス>
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特にサルコジ政権から強く見られるようになった傾向であるが、科学技術関連の戦略形成については大統領
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からの透明なトップダウン・プロセスが実現している。科学コミュニティを代表する幅広い専門家がアジェン
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ダを設定したり優先順位を決定したりするため、政府の設定した場において熟慮に加わっている。それ以外に
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も一般市民が意思決定に向けて意見を示す機会が与えられているものの、基本的には政府内部のアクターが中
心となって知識生産を行い、そのプロセスは政府が認めているものから、アドホックな形態のものまで広がり
がある。知識交流としては、フランスはエリート社会であるため、グランゼコール出身の専門家や行政官が懇
親を深める場は非公式にいろいろと設けられている。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
ߢᐢ߇ࠅ߇޽ࠆ‫ޕ‬⍮⼂੤ᵹߣߒߡߪ‫␠࠻࡯࡝ࠛߪࠬࡦ࡜ࡈޔ‬ળߢ޽ࠆߚ߼‫࡯ࠦ࠯ࡦ࡜ࠣޔ‬
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日本の場合
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図 4-6: 知識利用・交流の比較分析<フランス>
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日本では他国と比較して、そもそもの知識生産のチャネルが限られている。また、審議会を中心とする外部
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公式の形態が主である。非公式のものはそれが政策形成に利用されるかどうかは措いても、絶対数が少なく、
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多様性も欠如している。ただし審議会などでは単に知識生産の場と見るよりも、複数回行われる会合および最
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終報告書の内容の摺り合わせのプロセスを通じて専門家と行政官の知識交流が図られているということができ
ߤ߁߆ߪភ޿ߡ߽‫⛘ޔ‬ኻᢙ߇ዋߥߊ‫ޔ‬ᄙ᭽ᕈ߽ᰳᅤߒߡ޿ࠆ‫ߒߛߚޕ‬ክ⼏ળߥߤߢߪනߦ
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知識利用・交流の各国比較
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図 4-7: 知識利用・交流の各国比較
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図 4-7
は各国の知識利用と知識交流の実態について比較したものである。横軸は知識交流の程度を表し、縦
軸は公式の知識の利用の程度を表している。これを見ると、一つの流れとして、公式の知識の利用と知識交流
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の程度が逆相関となっていることが分かる。すなわち、英国、日本、フランス、米国にかけて、公式の知識の
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利用が少なくなっていくにつれて、知識交流が盛んになっている。これは、政府側が政策形成プロセスにおい
てどれだけ知識の生産者を取り込んでいるかという程度を表している。ここでは知識の生産者が政策形成プロ
セスに取り込まれるほど、知識の生産者から知識の利用者へという単一の流れが実現し、両者の境界線が明瞭
になる傾向が強まる。その傾向が強まるほど、責任を預けたり権威を借りるための《他者》として設定され、
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
83
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」
第 4 章 科学技術関連政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流の国際比較
知識利用においては象徴的側面が顕在化しやすくなる。米国を見ると、知識の生産者から利用者からの単一の
流れは変わらないが、翻訳フェーズとして、知識交流による介在が入る。
図 4-7 では、上述の左上と右下をつなぐ流れのほかに、オランダ、スコットランドにかけて右上に向かうも
う一つの流れが見られる。ここでは公式の知識の利用が進み、知識交流も盛んになっている。政府が積極的に
知識交流を推進し、その場で知識生産と知識利用をつなごうとする意識があるために実現しているものであ
る。知識交流によって、知識利用の象徴的側面は薄れるものの、それが実質的利用の程度を高めることに必ず
しもつながるわけではない。知識交流の場における知識生産が実際に意思決定の役に立てられるかどうかはこ
こでも、他の社会的・政治的文脈や政策立案者の他の関心に依存している。オランダもスコットランドも小国
であるために、様々な専門家を集めた知識交流の場が設定しやすいということは言える。他の大国であれば、
どのようにどのくらいの専門家を集めればよいかという点で問題となり、また多種多様な専門家を招くことで
専門家間で見解の深刻な対立が発生し、交流が阻害されることも考えられる。そうした場の設定にかかる費用
が政策形成プロセス全体に対して効果的・効率的とならない可能性が高い。
二つの流れを比較すると、まず、米国のような知識交流を媒介として知識生産者から知識利用者への知識の
流れを生むものがある。この場合、政府外のアクターが政策立案者を巻き込んで知識交流の場を設定する。一
方で、オランダ・スコットランドのような知識交流の場がより中心的になり、そこで知識生産者と知識利用者
が双方向的に知識を交わすものがある。ここでは政府が主体となって知識交流の場を設定している。
各国の比較分析から日本の政策形成プロセスおよび知識生産・利用・交流のあり方に対して以下のような教
訓が導出できる。
• 日本においては科学技術関連政策の策定に有用となりうる非公式の知識生産活動が乏しく、質・量・多
様性ともに不十分である。これらの活動を活性化することが何よりも求められる。
• 日本で従来の審議会中心の政策形成プロセスではなく、より効果的な知識生産・利用を実現するために
は、知識交流を促進することが肝要である。
• 日本で知識交流を促進するにあたり、参考となるモデルとして、米国型とオランダ・スコットランド型
がありうる。日本の場合、政府の設定する擬似的な知識交流の場として審議会制度が確立しており、ま
たそれも一因として政府に対する信頼がそれほど高くない。このため、政府外のアクターが中心となっ
て動き、政策立案者を引き込む米国型がより適当かもしれない。ただし、米国と異なり、議会よりも行
政府に対する働きかけがより重要である。
政策及び政策分析手法研究会 2008 年度報告書
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