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ソーシャルビジネスカレッジレポート
Case Study 6 株式会社ユーグレナ
大和総研
環境・CSR 調査部
真鍋裕子
1.ビジネスモデルと企業ミッション
株式会社ユーグレナは、“ミドリムシ”(学名:ユーグレナ)を中心とした微細藻類に関
する研究開発及び生産管理、品質管理、販売等を行う企業である。同社の経営理念は、
“euglena as Food, Feed, Fuel”という言葉が示すとおり、ミドリムシを通じて人々の健
康と地球の環境に資することである。
同社出雲社長の話では、“ミドリムシ”と聞くと半数以上の人が青虫をイメージすると
いう。しかし、ミドリムシは緑色をしたプランクトン(微細藻類)であり、生物学上、植
物と動物の両方の性質を兼ね備えた極めて珍しい生物だという。つまり、植物のように光
合成により栄養分を体内に蓄えることができる一方で、動物のように細胞を変形させて移
動することもできる。その特異性から、豊富な栄養価と高い光合成能力を備えており、以
前より多くの研究者の注目を浴びてきた。しかし、大量培養に成功した例はなく、事業化
は困難と考えられてきた。そのような中、同社は、2005 年 12 月 16 日、世界で初めてミド
リムシの屋外大量培養に成功したのである。
同社は現在、ミドリムシの屋外大量培養技術を中心に、大きく二つのビジネスに取り組
んでいる(図表 1)
。
図 1 株式会社ユーグレナのビジネスモデル
(出所)ユーグレナホームページより
一つ目は、ミドリムシの高い栄養価に着目した「人を元気にする」ビジネスである。動
物と植物の両方の性質を持つミドリムシは、両者の栄養素を併せ持つことから、ビタミン、
1/8
ミネラル、アミノ酸、カロテノイド、不飽和脂肪酸など実に 59 種類もの栄養素を備えてい
る。さらに、通常の植物が有する細胞壁を持たないことから、栄養素の吸収率が極めて高
いという特徴があり、機能性食品、化粧品、飼料など幅広い用途の可能性がある。
同社は国内の健康志向の高い顧客をおもなターゲットとして、既に多くの機能性食品を
提供している。食文化が変わる日本では、特に若い女性が魚を食べなくなり、DHA や葉酸
などの栄養素不足が問題視されている。しかし、実際に魚に含まれる DHA は食物連鎖の最
下段にあるミドリムシが作ったものである。魚を食べなくてもミドリムシ入りのクッキー
やカステラを食べることで栄養を摂取することが可能だ。また、魚に濃縮されることが問
題となっているダイオキシン類や重金属等の有害物質についても、ミドリムシを直接摂取
すれば心配は少ない。健康食品としてのニーズ、食の安全性という観点から市場が広がっ
ている。
二つ目は、高い光合成能力に着目した「地球を元気にする」ビジネスである。ミドリム
シは、油分が豊富なうえ驚異的な速度で成長することから1、昨今、石油燃料の代替として
注目されるバイオ燃料としての利用可能性が期待されている。同時に、成長過程で大量の
CO2 を必要とすることから、火力発電所等から排出される高濃度 CO2 を吸収・固定化させる
用途としての可能性もある。
現在、同社はJX日鉱日石エネルギー(株)と(株)日立プラントテクノロジーとともに、
バイオジェット燃料開発のためのフィジビリティ調査を行っており、2018年には実用化す
る計画だ。CO2固定化についても、沖縄電力(株)や住友共同電力(株)の協力を得て火力
発電所で実証している。排気中のCO2を吸収しながらミドリムシの培養を活性化し、バイオ
燃料その他に用いる技術が確立すれば一石二鳥のビジネスモデルとなろう。
2.社会的課題とミッションの妥当性
同社は、ミドリムシの大量培養技術を通じて、食糧問題と地球温暖化問題という二つの
社会問題に取り組むことを企業使命としている。
①
食糧問題
出雲社長がミドリムシに着目した原点は、学生時代に訪れたバングラデシュでの経験に
ある。出雲社長は、後発開発途上国と言われるバングラデシュにもかかわらず、おなかを
すかせた子供に一人も出会わなかったことに驚いたという。しかし他方で、米やイモ等の
炭水化物は十分にあっても、ビタミンや動物性栄養素が足りないために多くの子供達が命
の危険にさらされていることを知る。冷蔵手段も運搬手段もないバングラデシュの貧困地
域では、多品目の食品を摂取することが難しい。
「一粒で全ての栄養素を持つ仙豆2のような
単位面積あたりの収率は、38.2kl/ha・年(株式会社ユーグレナ提供資料)
。参考として、大豆 0.5kl/ha・
年、サトウキビ 4.2kl/ha・年、ヤシ 6.1kl/ha・年など(石油エネルギー技術センター資料)。
2 鳥山明原作の漫画『ドラゴンボール』で仙人がくれる架空の食物。一粒で体力が回復するという描写が
なされている。
1
2/8
食べ物があれば世界中を元気にできるのに…」と強く感じた。
現在、世界ではおよそ 7 人に 1 人にあたる 9 億 2,500 万人3が飢餓に苦しんでいる。彼ら
は、食料を手に入れることができず、慢性的な栄養不良の状態にある。栄養不良は、必要
なエネルギー(カロリー)の不足により起こる場合もあれば、特定の栄養素が不足して起
こる場合もある。微量栄養素が不足する状態は、
“隠れた飢餓”とも呼ばれ、世界で 20 億
人4を超える人々が苦しんでいると言われる。例えば、ビタミン A が欠乏した場合、免疫力
が低下して、はしかやマラリア等にかかりやすくなる。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺腫な
どを引き起こし、重度の精神遅滞や発育障害が生じることがある。国際連合児童基金
(UNICEF)では、
「栄養不良は、食べ物が不足していることだと思われがちですが、単に
量が不足していることではなく、必要な栄養が不足しているということなのです5」と、飢
餓問題の本質について説明している6。
バングラデシュからの帰国後、出雲社長は、大学の授業で動物にも植物にも分類できな
い特殊な生物であるミドリムシを知る。そして、
「ミドリムシが地球を救う」ことを述べて
きた過去の論文を徹底的に読み、「これだ」と確信するに至る。現在商品化されているミド
リムシサプリメント 5 粒の中には、梅干 7 個に含まれるベータカロテン、牛レバー50g に
含まれるビタミン B12、いわし 1 匹に含まれる葉酸、あさり 50g に含まれる亜鉛、うなぎ
50g に含まれる DHA が含まれているという。これらの食品全てを 10 億人に届けることは
不可能でも、サプリメント 5 粒なら届けられる。同社はミドリムシを世界に普及させるこ
とで食糧問題の解決に貢献することを目指している。
② 地球温暖化問題
化石燃料の燃焼などの人的活動により、大気中の温室効果ガス(CO2 等)が増加し、地球
温暖化が急速に進んでいる(図表 2)
。地球温暖化は、海面上昇、異常気象による洪水や干
ばつ、動植物の絶滅、熱帯感染病の拡大、食糧難といった様々な問題を引き起こす喫緊の
地球環境問題である。同社は、地球温暖化問題に対応すべく「バイオ燃料」と「CO2 固定化」
という二つの技術開発に取り組んでいる。
石油燃料は、搬送がしやすく備蓄も可能であることから広く用いられており、現在世界
の最終エネルギー消費の約 40%を占めている(図表 3)
。温暖化問題を受け、天然ガスや再
生可能エネルギーへの代替が進められているが、輸送用石油燃料の代替はなかなか見つか
らなかった。バイオ燃料は、自動車や飛行機等に用いられる輸送用の代替燃料として期待
3
国連世界食料計画(WFP)による。
国際連合食糧農業機関(FAO)による。
5 国際連合児童基金(UNICEF)
【特集:栄養不良】子供の未来は栄養が握っている
(http://www.unicef.or.jp/special/eiyo/index.html)
6 国境なき医師団では、特に 2 歳未満児は栄養失調の影響を受けやすく、生涯にわたって身体機能などを
弱める発育不全に陥ることを指摘した上で、現在食糧支援として提供されている強化混合小麦粉では、成
長過程にある子供が必要とする必須の栄養素やたんぱく質が含まれていないことを問題視している。
(
「食
糧支援だけでは解決できない、栄養失調対策に新しい指針を」2011 年 10 月 13 日、国境なき医師団)
4
3/8
されている7。現在、サトウキビ、トウモロコシ等の糖・でんぷん質を原料とするバイオエ
タノールと、菜種、パーム油等の油脂を原料とするバイオディーゼルが実用化されている。
しかし、主たる原料が食糧であることから、食糧価格の高騰や森林伐採等を招くことが
問題となっている。また、製造過程に大量のエネルギーが投入され、カーボンニュートラ
ル8と言えないケースも指摘されている。そのため、食糧以外の原料(木質、稲わら等セル
ロース系原料、藻類)を用いる次世代バイオ燃料が注目されている。なかでも微細藻類は、
単位面積当たりのエネルギー収率の高さや、食糧生産と競合しない点、耕地を必要とせず、
CO2固定への寄与率が高いといった点から、将来的に高いポテンシャルがあると考えられて
いる。
バイオ燃料とともに、地球温暖化対策技術として注目されているのが CO2 回収・貯留技術
(CCS)である。CCS は、発電所等から排出される CO2 を化学・工学的に分離回収して固定化
し、地中または海洋に注入し貯留する技術である。IPCC9は、CCS を温暖化緩和のためのキ
ーテクノロジーと位置付けている。
しかし、膨大なコストがかかることや、貯留に適した地層を見つけることが困難である
こと、貯留量の検証が困難であること等が大きな障壁となっている。微細藻類による生物
的な分離回収が可能となれば、回収した CO2 を再び燃料として利用することもでき持続可能
な資源循環モデルとなる。
このように、同社は、ミドリムシを用いることで、現状の技術を補完する次世代の地球
温暖化対策技術に挑戦している(図表 4)。
図表 2 地球の平均気温の変化(過去 140 年)
(出所)IPCC 第 4 次評価報告書 2007
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より
7
EU では、2020 年までに運輸部門の燃料のうち 10%程度をバイオ燃料にすることを目標としており、米国
でも 2022 年までに 360 億ガロン(約 1 億 1,400 万 kl)を生産することを目標に掲げている。
8 植物は、大気中の CO を吸収して成長するため、燃焼時に CO2 を放出しても植物のライフサイクルを通
2
じて CO2 の増減はないとする考え方。
9 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
。気候変動に関して、
科学的、技術的、社会経済的見地から包括的評価を行う組織。
4/8
図表 3 最終エネルギー消費の内訳(2009)
Other
3%
Coal/peat
10%
Oil
42%
Electricity
17%
Biofuels and waste
13%
Natural gas
15%
Biofuels and waste:木質(薪)、野菜廃棄物などの固形バイオマス、バイオ燃料、バイオガス、都市・産業廃棄物等
Other:地熱、太陽光、風力等
(出所)“Key World Energy Statistics”,IEA,2011 より大和総研作成
図表 4 ユーグレナの持つ温暖化対策技術の先進性
温暖化対策技術
CO2固定化技術
バイオ燃料技術
現状
食品系原料(とうもろこし、
さとうきび等)の利用
問題点:膨大なコスト
適切な地層、モニタリング
問題点:食糧価格の高騰
耕作地のための森林破壊
ユーグレナ社
の技術
化学的な手法による固定
化と貯留
食糧と競合せず工業
的な生産が可能なミド
リムシの利用
ミドリムシによる生物
的なCO2固定と有効利
用
(出所)大和総研作成
3.ビジネスとしての持続可能性
2005 年、同社は有志による出資を得て、創業メンバー3 名にて設立された。現在は社員
約 30 名、資本金 3 億 6,500 万円の規模まで成長したものの、設立当初は、金融機関やその
他投資家から全く相手にされなかったという。しかし、
「10,000 時間(1 日 10 時間であれ
ば約 3 年間)は続ける10」と決め、“ミドリムシ”の魅力・可能性を粘り強く説明して回っ
た。理解されないのは、
「メーカー側の伝え方の問題」と考え、わかりやすい説明を今でも
日々チューニング中だという。そうした真摯な姿勢と粘り強さが通じてか、3 年目以降、投
資家、企業、マスコミなど出雲社長の言う「応援団」が増えてきた。
10
米国の研究では、多くの成功者に「グリッド=しつこさ、あきらめない」という共通点があるという。
その境界線は 10,000 時間(1 日 10 時間であれば約 3 年間)やりきるかどうかだと言う。
(出雲社長講演よ
り)
5/8
①
技術を中核としたビジネス戦略
同社の特徴は、ミドリムシの研究開発技術という確固たる強み(コア・コンピタンス)
を持つことであろう。ミドリムシは、世界中のほとんど全ての淡水で生息している11。東京
大学内にある同社の研究所には、世界中の川や沼などから淡水が集められ、そこに生息す
るミドリムシについて日々研究が行われている。ミドリムシは、種類によって栄養素や油
質、成長速度、培養環境等の違いがあり、それぞれに個性があるため、用途や環境に応じ
て最適なミドリムシを選出し培養する必要がある。研究所では、多くのミドリムシがデー
タベース化され、既に利用されているものもあれば明日の出番を待っているものもある。
後述するように、同社はこの強みであるミドリムシの研究開発技術を強化すべくビジネス
戦略を描いている。それは、ポリシーとして「Winner takes All」という言葉を掲げ、ミド
リムシの研究開発分野で「一番である」ことに強いこだわりを持っていることとも通じて
いる。
同社は、「バイオマスの 5F 」と呼ばれる考え方に基づき、ミドリムシの研究開発を軸と
した事業領域の拡大を計画している。ミドリムシには、価格の高い順から Food(食品)、
Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)としての用途の可能性があ
る(図表 5)
。現在、最も高価格である Food(食品)を事業化しており、新たな事業領域と
して、Feed(飼料)、Fuel(燃料)について研究開発中である。このようにコア・コンピタ
ンスを中核として多様な事業領域に展開することは、低価格化や安定的な企業経営を進め
る上で有利であることは言うまでもない。また、各事業領域に適したミドリムシの探索お
よび培養技術確立のための研究は、事業領域間の相乗効果を生み、同社の独自性や競争力
を一層強化させると考えられる。2018 年、次なる事業領域である Fuel(燃料)=バイオジ
ェット燃料を計画通り実用化させられるかどうか、同社の躍進を握る鍵となるだろう。
一方で、各事業領域の「事業化」に関しては、専門性を持つ企業とパートナーシップを
結ぶことで戦略的かつ効率的に進めている。MOT(技術経営)の概念では、ある技術を事
業化する過程を、研究→開発→事業化→産業化の 4 つのステージに分類し、その間に 3 つ
の障壁があるとしている(図表 6)
。特に、
「開発」と「事業化」の間にある障壁は“死の谷”
と呼ばれ最も乗り越えることが困難とされる。開発が終了して「製品」となったものを、
顧客が受け入れる「商品」へと昇華させていくためには、直接多くの顧客と接し顧客情報
を持っているメンバーの関与が欠かせない。同社は現在、機能性食品の分野においては、
食品流通分野に強みを持つ伊藤忠商事(株)と戦略的提携をしている。また、日本コルマ
ー(株)とは、化粧品分野の商品化について共同研究を進めている。さらに、バイオ燃料
の商品化については、燃料化技術を持つ JX 日鉱日石エネルギー(株)、培養プラント技術
を持つ(株)日立プラントテクノロジーと資本提携を結び共同研究を進めている。CO2 固定
については沖縄電力(株)や住友共同電力(株)の協力のもと火力発電所で実証試験を行
11
なかには海水で生息する種類もある
6/8
っている。こうした戦略的パートナーシップにより、1ベンチャー企業だけでは実現でき
ないことを可能にするとともに、経営資源をミドリムシの研究開発に集中させている。
図表 5 ユーグレナの研究戦略
(出所)ユーグレナホームページより
図表 6 事業化に向けた 4 つのステップと 3 つの障壁
研究
開発
事業化
産業化
(シーズ)
(製品)
(商品)
(大量生産)
魔の川
死の谷
ダーウィンの海
(デビルリバー)
研究はシーズ指向、
開発はニーズ指向
(デスバレー)
性能を満たす「製品」
から売れる「商品」の
開発が重要
収益を出すためには
大量生産への
意思決定が必要
(出典)出川通著、
「技術経営の考え方 MOT と開発ベンチャーの現場から」に加筆
(出所)九州経済産業局 事業化支援ハンドブック『覚えておきたい儲けのコツ“開発で生まれた製品”を“売れる商
品”へチェンジ!』平成 21 年 3 月より大和総研作成
②
マーケットの拡大に向けて
今後、顧客層や用途を広げる上での課題の一つは低価格化であろう。そのためには、大
量生産化することは勿論だが、高価値を持つ食品ビジネスを磐石にすること、CO2 固定化と
いう付加価値を伴う生産技術を確立すること等が考えられる。コストダウンの可能性は「あ
る」と言うため期待していきたい。
また、商品の直接販売を殆ど行わず、販売元に販促活動を委ねていることから、統一し
た“ミドリムシ”ブランドが確立されているわけではない。“ミドリムシ”という名称は、
冒頭で紹介したように青虫と誤解され敬遠されるケースも考えられるため、特に食品とし
て提供する場合には慎重なイメージ戦略が必要だ。そうした観点からすると、学名“ユー
グレナ”のほうが消費者に受け入れ易いかもしれない。そして、海苔やワカメと同じ藻類
であり、栄養豊富で優秀な食品であることを消費者に正確に理解してもらわなければなら
7/8
ない。成分ブランドとしての“ミドリムシ”(または“ユーグレナ”)の地位をいかに確立
し、市場に浸透させていくか(“Intel Inside”のように“Euglena Inside”がブランド価値
を持つように)
、今後の戦略に注目したい。
近い将来、起業の原点である途上国での BOP ビジネス12の展開についても検討中だとい
う。2030 年には途上国におけるオンサイト生産を実現させ、ミドリムシを世界中に広めた
いと考えている。ミドリムシを現地社会に根付かせるためには、従来の ODA にある“援助”
という形式ではなく、現地社会の自立を促す“BOP ビジネス”という視点は欠かせない。
ただ一方で、資金力、政治力を持つ開発援助機関や現地に精通する NGO と協調した BOP
ビジネス成功事例も見られる。途上国進出にあたって、例えば、初期段階は ODA を通じた
支援物資として提供し、現地の社会的受容性を築いていく手法等も考えられるだろう。同
分野では、低価格で栄養価の高いヨーグルトを開発したグラミン・ダノン・フーズ13や、国
際機関や NGO を通じて栄養失調治療食を提供するニュトリセット14の事例などが参考にな
ると思われる。
今日われわれを取り巻く社会問題は複雑化しており、それを打開できるのは従来にはな
い発想に基づくイノベーションであろう。「ミドリムシが地球を救う」、一瞬非現実的とも
思えるこの構想であるが、実は 50 年も前から多くの学者が考え実現できなかったことだ。
ユーグレナは、その実現の一歩を踏み出している。地球の持続可能性は、ユーグレナのよ
うな企業の持続可能性にかかっていると言えるのではないだろうか。
以上
【参考文献】
出川通著『実践図解 最強の MOT 戦略チャート』秀和システム、2010 年
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『NEDO 再生可能エネルギー技術白書』2010
年7月
Base of the Pyramid:世界の中で所得は低いが、人口は多数を占める層を対象とした事業
「フランスの食品多国籍企業ダノン社は、バングラディッシュで、マイクロ・ファイナンス機関のグラ
ミン銀行と、50%ずつ出資して合弁企業を設立。こうして出来たグラミン・ダノン・フーズ社は、貧困層の
顧客向けに、低価格(0.07 ドル)で栄養価の高い(競合製品の 3 倍)ヨーグルトの供給事業を始めた。そし
て、マイクロ・クレジットを活用して数頭の牛を飼育している何百という小規模農家から牛乳を調達して
ヨーグルトを生産し、100%生物分解性のある容器につめて、やはりマイクロ・クレジットを活用して商売
を始めた街角のスタンドやキオスクの販売網を通して貧困層の顧客に提供している。
」
(菅原秀幸北海道大
学大学院教授「日本企業による BOP ビジネスの可能性と課題」2009 年 8 月 28 日)
14 途上国の栄養失調問題の解決を目的として設立されたフランスの企業。ニュトリセットが開発した栄養
失調治療食(RUTF:Ready-To-Use Therapeutic Food)の「ブランピー・ナッツ」は、ピーナッツをベース
に栄養を強化した食品であり、一袋 500kcal の中に、混合ビタミン・ミネラル等必須微量栄養素が全て含
まれている。普及の背景には、保存が可能である点、粉ミルク等のように水を加えないために衛生的であ
る点、また、味も美味しい点など商品そのものの工夫も大きく影響している。主要な供給ルートは、ユニ
セフなどの国際機関、現地保健省などの公共機関、NGO など。2005 年からは、増産に備えるために「ブラ
ンピーフィールド」としての現地フランチャイズ生産に着手している。知的財産権を無償供与することを
明確に示しており、現地にインセンティブを与え、現地の雇用・経済発展にも貢献している。
(参考:
『ジ
ェトロセンサー2011.7』
)
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