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答 申 書 (答申第74号)
答 申 書 (答申第74号) 平成19年 8月31日 福井県公文書公開審査会 1 審査会の結論 下記の文書の公開請求に対して、福井県知事(以下「実施機関」という。 )が行った処 分の取消しを求める異議申立てに対する決定は却下が相当である。 記 ・福井県生活学習館(以下「生活学習館」という。)の図書のうち一時的に閉架扱い として確認作業を行った図書のリスト(以下「図書一覧表」という。) ・確認作業の結果がわかる文書 ・図書選定基準 2 異議申立ての内容 (1)異議申立ての趣旨 実施機関が行った平成 18 年 6 月 15 日付け生館第 277 号による公文書一部公開決定処 分(図書一覧表に関する決定に限る。 )(以下「本件処分」という。 )を取消し、全部公 開を求めるというものである。 (2)異議申立ての理由および主張 ア 本件処分は、福井県情報公開条例(以下「条例」という。 )の解釈適用を誤ったも のであり、全部公開すべきである。 イ 実施機関の担当者の説明によれば、図書一覧表を公開することにより、その作成者 の思想・信条が推測され、特定の個人を識別することにつながるおそれがあるという ことであるが、公開することにより、例え思想・信条は推測されても、全県民の中か ら一人を識別することはあり得ない。よって、識別のおそれをもって、非公開とする ことは、条例前文の県民の知る権利の実現を侵害している。 ウ 実施機関の担当者の説明によれば、図書一覧表を公開することにより、確認作業の 対象となった図書の著者・編者が公になり、当該者に迷惑がかかるため、事業を営む 個人の権利利益を害するおそれがあるということであるが、自著または編著をもって、 1 自分の思想信条を社会に公表している人たちを、 「事業を営む個人」と見なすことは 不自然である。そもそも、図書一覧表に書籍名や著者・編者が載ったからといって、 著者・編者の権利が害されることはあり得ない。 エ 8 月 11 日の図書一覧表に関する公開決定通知書には、6 月 15 日付けの一部公開決 定を撤回するに至った理由および全部公開するに至った理由については何も記載さ れていない。実施機関が一部公開決定を撤回するならば、その理由を公開請求者に説 明する責任が生じるのが当然であり、条例の該当条文に沿って、当初の条文解釈を如 何なる認識に基づいて変更するに至ったかを理論的に説明すべきである。請求者の公 開請求権は、単に公開請求した文書の公開によってではなく、公開するに至った経緯 についての説明責任を果たすことによって、初めて保障されたというべきである。 オ 実施機関は、理由説明書において、一部公開決定を行ったのと同様の主張を繰り返 しているのは、全部公開決定の措置と甚だ矛盾している。 カ 3 確認作業の結果がわかる文書については、異議申立ての論点にしていない。 実施機関の意見および説明 (1) 図書一覧表について 6 月 15 日付けの一部公開決定(図書一覧表に関する決定に限る。) (以下「当初決定 という。 )を 8 月 11 日に撤回の上、公開決定していることから、申立てを却下するこ とが相当である。 なお、当初決定は、次のとおり情報公開条例上の非公開事由に該当すると判断し行 ったものであり、当該決定自体は適正に行われたものである。 ア 条例第7条第1号(個人情報)本文後段の規定により、個人に関する情報であって、 特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益 を侵害するおそれがあるものは非公開とされており、当初決定は、以下の理由により 当該規定に該当すると判断した部分を非公開としたものである。 (ア)図書一覧表は、作成者が、2,600 冊ある生活学習館の図書の中から、一部の書 籍を作成者自身の思想、信条に基づき不適切であると判断し、選定したものであ る。このことにより、当該書籍を生活学習館に置くことが不適切であるとする作 成者の思想・信条が明確に読み取れる。したがって、公開することにより、個人 の思想、信条が明らかになると判断した。 2 (イ)個人の思想・信条に係る情報を、対社会に公開すべきか否か、また、それを社 会のどの範囲に公開すべきかについては、元来、当該個人が自ら決すべき利益を 有していると認めるのが相当であることから、この情報を知りえた県が公開する ことは当該個人の権利利益を侵害することになると判断した。 (ウ)なお、個人情報であっても、条例第7条第1号ただし書イの「慣行として公に され、または公にすることが予定されている情報」に該当する場合には、非公開 情報から除外されることになるが、本件案件の場合、個々の図書そのものは公に されている情報であるとはいえ、図書一覧表自体は、作成者の思想、信条が表れ ているものであり、その個人的見解を加えたものであることから、条例第7条第 1号ただし書イの「慣行として公にされ、または公にすることが予定されている 情報」には該当しないと判断した。 イ 著者・編者は著作業・編集業の事業を営んでおり、条例第7条第2号(法人等事業 情報)に規定する「事業を営む個人」に該当する。また、同号の規定により、事業を 営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該個人の権利、 競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものは非公開とされている。 本件事案については、県の意図と異なり、内容が過激とか、生活学習館の図書を県 が撤去または排除した等の情報が流布されていたことから、請求の段階で公にするこ とにより、当該著者等が公の施設に相応しくない、あるいは不適切な書籍を著述等し たと受けとられるおそれがあり、その結果、著者・編者の権利利益が侵害されると判 断した。 ウ 以上、個人の権利利益の保護および著者・編者の権利利益の保護について、総合的 に判断した結果、平成 18 年 6 月 15 日段階では、表の枠および各欄の名称のみを公開 し、表の内容、すなわち表題部、NO、書籍名、副題、著者・編者、出版社、備考各 欄記載事項は、非公開とすることが相当であると判断した。 エ その後、次の事情の変化があったので、県民の知る権利を尊重する観点から総合的 に判断し、平成 18 年8月 11 日に当初決定を撤回し、公開決定を行い、当初決定にお いて非公開とした部分を公開したものである。 (ア)作成者が、県に対して図書一覧表を公開してもよい旨の意思を示したこと、ま たブログにも同様のことを記載していたことから、作成者の意思を再度確認した ところ、公開しても差し支えない旨の意思が改めて示されたので、条例第7条第 1号後段により保護すべき個人の権利利益が消滅したと判断した。 3 (イ)時間が経過し、著者・編者の権利利益が侵害されるおそれが小さくなってきた ことから、条例第7条第2号で保護すべき事業を営む個人の権利利益が相対的に 小さくなったと判断した。 なお、図書一覧表中の著者・編者のうち2人については、当該図書一覧表に対 する公文書公開請求を別途行っている事実があることから、当該著者・編者につ いては公開されても権利利益の侵害には当たらないものと判断した。 オ 以上のとおり、平成 18 年8月 11 日に行った当初決定の撤回は、当初の段階で適正 に行われた処分を、その後の事情の変更により、消滅させるものである。したがって、 当初決定の効力は撤回時まで有効である。 (2)確認作業の結果がわかる文書について 該当する文書が不存在であり、申立てを棄却することが相当である。 4 審査会の判断 (1)本件対象文書について 本件対象文書は、図書一覧表、確認作業の結果がわかる文書および図書選定基準で ある。このうち、図書選定基準は全部公開していることから、また確認作業の結果が わかる文書については、異議申立人が意見書の中で異議申立ての論点にしていない 旨述べていることから、当審査会は、図書一覧表についてのみ判断することとする。 (2)本件処分の取消請求について 図書一覧表については、8 月 11 日に、当初決定を撤回し、新たに公開決定を行い、当 該一覧表の写しを交付しているものと認められる。 したがって、異議申立てに係る当初の処分、すなわち本件処分が既に撤回され、新た な処分により本件図書一覧表の写しが交付されていることから、現時点では本件処分の 取消しを求める異議申立ての利益は失われているものと判断する。 (3)まとめ 以上のとおり、異議申立ての利益は失われているものと判断したことから、その余の 点について判断するまでもなく、本件異議申立てに対する決定は却下が相当であると判 断し、冒頭の結論に至った。 4 5 審査の経過 審査会は、本件異議申立てに係る諮問について、下記のとおり審査した。 年 月 日 審 査 の 経 過 平成18年 9月21日 ・諮問書の受理 平成18年10月16日 ・異議申立人からの意見書受理 平成18年10月25日 ・ 審議(第1回) 平成18年12月 7日 ・審議(第2回) 平成19年 1月18日 ・ 審議(第3回) 平成19年 3月14日 ・ 審議(第4回) ・実施機関の説明聴取 平成19年 4月13日 ・審議(第5回) 平成19年 7月27日 ・審議(第6回) 平成19年 8月31日 ・答申 福井県公文書公開審査会委員名簿 (五十音順) 氏 名 相 木 玲 朝 倉 円 居 小 島 峰 雄 清 水 和 邦 渡 辺 数 巳 備 考 八 子 千 代 平成 19 年 5 月 22 日辞任 愛 一 郎 平成 19 年6月 25 日就任 5