女性の下着を盗む一高校生男子の内的世界について

愛知教育大学教育臨床総合センター紀要
第 ２ 号pp.
7 ∼14 (March, 2012)
女 性 の下 着 を盗 む一 高校 生 男 子 の内 的 世 界 につ い て
生 島 博 之 （愛知教育大学教育臨床総合ｾﾝﾀｰ ）
The innerworld of a male high school student stealing female underwear
Hiroyuki IKUSHIMA (Center for Clinical Practice in Education, Aichi University of Education)
要 約 32 回 に わ た り ， 近 隣 の家 々 の 物 干 し 竿 な ど か ら女 性 の 下 着 を 盗 ん だ 高 校 １ 年 生 男 子 Ａ に 実 施 し た 心 理 療 法
（箱庭療法とカウンセリング），および心理テスト（人物画，バウムテスト，ＴＡＴ）の結果を報告し，下着盗
み の 心 理 的 メ カ ニ ズ ムを 分 析 す る こ とに よ り， Ａ の 内 的 世 界 に つ い て 考 察 し た 。
Keywords : 下 着 盗 ， 箱 庭 療 法, TAT
Ｉ。はじめに
面識 のない女子 中学生に，「あ なたを愛し てい ます」
32 回 に わた り 女 性 の下 着 や 服 を盗 ん だ一 高校 生 男 子
等 とい たづら半分のラブレ ターを書 き，自分の名前や
に実 施 し た カ ウ ン セリ ン グお よ び箱 庭 療 法 の 経 過 と，
住所 は書 かず に郵便受け に入 れて きたりする。なお，
心理テスト（バウムテスト，人物画，ＴＡＴ）の結果
高校生 になってからは手口がエ スカレ ートし，窓ガ ラ
を報 告 し
スを割っ て侵入し， ダンスの中から盗 んだり もする よ
問 題 行 動 の心 理 的 メ カニ ズ ム や心 理 治療 の
あ り方 につ い て考 察し て み たい 。
うになる。そして，Ａは，盗 んで きたブ ラジ ャーなど
を自室で 身体 につけて鏡 を見て楽し んだり，大 きな箱
Ⅱ． ケ ー スの 概 要
の中にきちんとし まっておい たりする（母 親から の報
（ １） ク ラ イエ ント Ｚ工 業 高校 １年 生 男 子Ａ
告 によれば，Ａ の部屋は， 親で もびっ くりする程 に整
（ ２） 主訴 女 性 の下 着 な ど を 盗 む
理 されてお り，そ の箱 の中には，使い古し た電池，美
女 装 傾向
しいチ ョコレ ート の箱， 中学生時代 に使っ た体操 シャ
（ ３ ）家 族構 成
ツや水 着，などが きちんとしまわれてい たとのこ とで
父 親(45)
あ る。 また， 母親は，「Ａ は，近所は もちろん家で も
は, 生 気 を吸 い 取 ら れ た よ う な 感 じ の 人で ，
ボ ソ ボ ソ と小 声 で 話 す。 気 が小 さい 。 工 員 。 婿 養 子。
無口 で，父親とはほとんど口 をきかない し， 私とも必
母 親 （42） は ，囗 や か まし い が 反 面 放 任 的 な 人 であ る。
要なこと以外 は話 さない ため，事件 の発覚 が遅れてし
農業 兼 パ ー ト （ 食 品 関 係 ）。
まった」と述べ たりし てい る）
Ａ （16 ） は ，女 性 的 な 感 じ の す る 背 の 高い 男 の 子 。
（５）臨床 像お よび心理 テスト の結果
妹 （11 ） は ， 背 が 高 く て ブ ス ッ と し た 表 情 の 勝気 な 女
担任と母親につ れられて来所する。 背が高くやせた
の 子 。小 学 校 ５ 年 生。
お となしい男 の子。 ひげ などは一人前に生 えてい るが
（４）生育史および問題史
男 らしさが感じられない。事 件のことや無期停学中で
Ａ は ， 父 親29 歳 ， 母 親26 歳 の 時 ， 在 胎10 か 月 ， 仮 死
分 娩3600 g
あること等につい てテスターから質問されると，躊躇
で 長男 と し て 出 生 す る 。 母 乳 を 吸 う力 が
するこ となく小 声で応 答する。「事件が友 達に知 れた
な か っ た た め 人エ ミ ル ク で 育 て ら れ る 。 ８ ヵ 月 頃 腸 炎
ら学校 に行 きにく くない ？」 とたず ねら れても，
「別
にな るな ど乳幼児 期 は身体 が弱か っ たが，小 学生 に
にどうもない 」と淡々と答える。 罪悪 感や羞恥の感情
なってからは健康そのものとなる。しかし，運動神経
や戸惑いの気 持ちなどが全然伝わってこない。 テスト
はにぶく，友達はほとんどいなかった。
には素直に応じる。
中 １の 頃から女 性 の下着 に興味 を もち始 めた らし
人物画（図１）では，学生服を着た男の子を中央に
く ， 高 １ の 時 に 事 件 が 発 覚 す る ま で の 約 ３ 年 間 に32
画用紙全体を使っ てステレ オタイプに描く。開かれた
回 にわた り，近 隣の 家々 の物干し 竿 などか ら，ブ ラ
大きな両足 ，眉毛 のない 顔，等が印象的であり，容貌
ジ ャ ー ， ス リ ッ プ ， 女 物 カ ッ タ ー シ ャ ツ ， ス カ ート ，
からはすこし奇異なイメージを連想させる。
パ ン ツ ， な ど を 盗 む 。 また ， 侵 入 し た 家 に 住 ん で い る
バウムテスト （図２）では， イチジクの実を撫でる
７−
生 島 ： 女 性 の 下 着 を 盗 む 一 高 校 生男 子 の 内 的 世 界 に つい て
よう な 感 じ で 手 の よ う な形 を し た葉 をい っ ぱい 描 き刀
た 」「 裁 判 所 に 呼 び 出 さ れ て い る 。 少 し 不 安 だ 」「 早 く
剣枝 をカ ムフラ ージュ してい るこ と，長い 幹， 地平
登 校 し ない と落 第 に な りそ う で 心 配 だ」 等 と述 べ た り
線 で 幹 が ス ッ パ リ と 切 断 さ れ て お り 根 が 全 然 ない こ
す る が ， 女 装 の楽 し みの 実 感 ， 盗 み に対 す る 罪悪 感，
と （ 地 下 の 世 界 が 空 白 であ る こ と ）， 等 が 特 徴 的 で あ
将 来に対 する 不安， 等が セ ラピスト には ほと んど伝
る 。 女 性 的 な 木 であ り， ペニ ス（ 睾丸 ） を撫 で る手 の
わっ て こ ない の で あ っ た 。 ま た， 女 装 に対 す るＡ の イ
よう で あ り ， マ ス クペ ー シ ョ ン を 連 想 さ せ る と 同 時
メ ージ を確 か め よう と， ガ ー ル フレ ンド の話 題 を と り
に ， 乳 房 を 撫 で る 手 を 連 想 させ も す る。
出 し て も ， Ａ は，「 ガ ー ル フ レ ン ド は い ない 」 と 淡 々
と答 え る だけ で あ っ た 。 ま たＡ が 持 参し て セ ラピ スト
に 見せ て く れた 反 省 帳 （謹 慎 中 に学 校 か ら書 く よ う に
指 示 さ れ た 日 記 ） に は ，「 お 父 さ ん ， お 母 さ ん に 申 し
訳 ない こ と をし た の で 死 に たい 。 家 出 し たい 」 等 と書
か れて い る の だが ， Ａ の 表 情 か ら はそ の よ う な気 持 ち
を もっ て い る こ とが セ ラピ スト に は理 解 し に くい 状 態
であった。
だが ， 学 校 の担 任 や 警 察関 係 者 の配 慮 に よ り， 事 件
が 近 所 の 人 々や 友 達 に知 ら れ るこ と な く， ３学 期 か ら
再 登 校 の 許 可 が 与 え ら れ る と ， Ａ は ，「 月 ２ 回 ， 保 護
司 さ ん の所 に行 か ねば な ら ない 」 等 と述 べ るが ， 少 し
安 堵 の表 情 を みせ だす よう に な る。
そ し て ， カ ウ ン セリ ン グ を 開始 し て８ ヵ 月 目 頃 か ら
（ ６ ） 精 神 科医 の 所 見
は ， 表 情 も だい ぶ豊 か に な り時 々 笑顔 も み ら れ る よ う
「 女 に な り たい 。 最 近 に なっ て， 女 に なっ てい く よ
に な り， 頭 の髪 を左 右 に き ち ん と分 け だ す等 さ っ ぱ り
うに思う」といった気分が潜在的にうかがわれるとこ
し た感 じに なり，明 る さと スマ ートさが 出て くる。
ろ か ら ， 女 性化 念 慮 （ 希 求 ） が時 間 的 に先 行 し てい る
そ し て Ａ は ， 自 分 か ら ，「 最 近 ， 男 友 達 ３ 人 に 誘 わ れ
と 思 わ れる 。 性対 象お よ び 同 一化 希 求 の対 象 の両 面 を
て 初 め て ボ ウリ ン グ に 行 っ た 」「 試 験 は な ん と か 出 来
もっ た もの と し て ， 胸 （ブ ラ ジ ャ ー ） があ ら わ れ てい
た。 ど う や ら 進 級 で き そ う だ 」「 春 休 み か ら 家 を改 築
る と 思 われ ， 現 時 点 で は 過 渡 的 な段 階 に と ど まっ てい
し だし た ので 僕 も手 伝 っ てい る。 家 の畑 で イ チ ゴ や ス
る 。「 オ ナニ ー は 中 ２ の 時 に 自 分 で お ぼ え た 」 と の こ
イ カが 取 れ る」 等 と話 し 出 す よ う に な る。 し か し ， そ
と で あ る が ， ヌ ー ド 写 真 や 平凡 パ ン チ 等 は 見 たこ と が
の反面 ，お かしな夢 を みたこ とや気 に なる予 言の 本
な い と の こ と で あ る 。 ま た ，男 で好 き な 人 もい ない 様
（「 ノ ス ト ラ ダ ム ス の 大 予 言 」）等 につ い て 話 し 出 し
子である。
不 安感 を訴 えた りする。 Ａ は， まず夢 につい て報 告
し ，「 ２ 階 か ら飛 び 降 り た の に け が し な か っ た … … …
Ⅲ 。 事 例 の 経 過 （ Ｘ 年11 月 ∼ Ｘ ＋1 年12 月 ）
不 思 議 な 気 分 だ っ た 」「 外 国 の 飛 行 機 が 爆 撃 し な が ら
さて ， こ の よ う な 経 過 で 心 理 療 法 を 開 始 す る こ と に
僕の家 の方 に近づ い て きた……… 僕は家 の 中にい た
なったが ，Ａは ，会話 量 も少な く，感 情の起 伏の 乏
… … … そ こ で 目 が さ め た 」 と 言 う。 そ こ で 爆 撃 の 夢 の
しい話し方であった。そのため，Ａの内的世界の理解
感 想 を 求 め る と ， Ａ は ，「 ま だ 僕 の 家 か ら 離 れ てい た
を ス ム ース に す る た め に 箱 庭 療 法 を 併 用 す る こ と に し
の で そ れ ほ ど 恐 く な か っ た 」 と 補足 す る 。 一 方 ， Ａ
た。 だ が ， カ ウ ン セリ ン グ と 同 様 に
は ，「 ノ スト ラ ダ ム スの 大 予 言 を読 ん だ ら，『1999 年 ７
箱庭 におい て
も， 治療 の流 れが 捉 え に くい 作 品 が多 か っ た とい え る。
月 に 人 類 は 滅 亡 す る 。 そ の 後 ， 生 き残 っ た 人 間 た ち
そ こ で ， カ ウ ンセ リ ング の 中 で 話 し 合 われ た 主 な 話
は，共食いしたり，胴や頭が２つある奇怪な人間が生
題 や， セ ラピ ス ト に と っ て 興 味 深 く 思 わ れた 箱 庭 作 品
ま れ る』 と 書い て あ っ た … … … 最 近 急 に 寒 く な っ た 。
をピ ッ ク アッ プ し な が ら そ の 概 要 を 報 告 す る こ と に し
なにか地球が段々冷えていく気がする」と述べたり。
たい 。（ な お ， 心 理 療 法 は 隔 週 に 実 施 し ，29 回 で 一 応
「 こ の 前 テ レ ビ で 妖 怪 が 作 用 し て 枕 を 逆 さ まに す る と
終 結 し た）
いうのを見た………夜中に気がついたら僕の身体の向
（ １） カ ウ ンセ リ ング の 経 過
きが 逆 さまに なってい た。 枕が足 の ところ に きてい
開始当 初のＡ は， 自分 から話 すこ とはほ と んどな
た。変な気分だった」と述べたりする。
く ， セ ラ ピ スト の 質 問 に 簡 単 に 答 え る 程 度 で あ り ，
だがＡは，高２の２学期になると自信を持ち出す よ
感 情 表 現 も非 常 に 乏 し い 状 態 で あ っ た 。 そ し て ， 応
う にな り，夏休 み中 にバ イト をした ことや バ イクの
答 す る内 容 も貧 困 で あ り， 事 件 に つ い て 聞 か れる と ，
免 許 を と っ た こ と を 報 告 し ，「 自 分 で 家 の 近 く を 歩 い
「 盗 っ て き た もの を身 体 に つ け て 鏡 で 見 て 楽 し んで い
て 探 し ， 守 衛 さ ん に売 り 込 んで ア ル バ イト 先 を 見 つ
− ８−
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨 床 総 合 セ ン タ ー紀 要 第２ 号
け た。 ７ 万 円 貯 め る ま で 頑 張 る 」 と 述 べ た り す る 。
ら 治 療 をす す め て い くこ とが 大 切 と 思 わ れる が ， パ ト
また ， Ａ は ， 修 学 旅 行 に つ い て 報 告 し ，「 天気 が 良 く
カ ーが 効 力 を発 揮 し 出 し だ の はい い 感 じ を あ た え る 。
て非常 に 楽しか った。 夜， 友達 とエロ 漫画 を読 んだ
り ， 猥 談 し た り し た 」「 船 の 中 で 一 緒 に な っ た よ そ の
女 子 高 校 生 と 一 緒 に 写 真 を 撮 っ た 」「 道 を 歩 く か わい
子ちゃんに，バスの窓から手を振ったり，声をかけた
りした」等と，うれしそうに述べる。そして，Ａは。
「 もうあ んなこ とは二 度 としない 自信 があ る」 と述
べ ， 終 結 に 同 意 す る。（ な お ， 終 結 に 際 し て 母 親 は 。
「 お 陰 様 で 無 事 に 事 件 を 乗 り 切 る こ と が 出 来 まし た 」
「 Ａ は 少 し や る気 が 出 て き ， 成 績 も良 く な り まし た 」
等 と ， セ ラ ピ ス ト に 挨拶 し た り す る ）
（ ２ ） 箱 庭療 法 の 経 過
Ａ は ，29 回 の カ ウ ン セ リ ン グ と 併 行 し て ほ ぼ 毎 回 ，
箱 庭 をつ く っ た が， テ ー マ に 連 続性 が 乏 し い た め ， そ
の内 容 を 深 く 理 解 す る こ と は 困 難 であ っ た。 し か し ，
第10回（図４）
。 左上 からペニ スの ような形に砂 を
Ａ の作 り 方 の特 徴 と し て は ， 箱 を ２ 個 ひ っ つけ て 使 う
こ と が多 い こ と， 方 向 性 の 明確 な シ ン プ ル な 作 品 が多
盛って港 を作り，先 端に灯台 を置 き，「貨物 船が出発
する ところ 」と言う。 右上 にも砂を盛 り，
「 基地」 と
い こ と， 等 が あ げ ら れ る。 ま た ，箱 庭 の テ ー マ と し て
言って潜水艦や飛行機を置く。貨物船は灯台の光 を頼
は， 戦い の場 面 が 少 ない こ と， 逆 に ，事 故 場 面 （ 交 通
りに無事に航海できるのだろうか ？と もか く，出発し
事 故 や飛 行 機 の墜 落 な ど ） が多 く， パ ト カ ー や 消 防 車
た貨物船の無事の航海を祈りたい。
が よ く 登場 す るこ と， 道 路工 事 の テ ー マ が多 い こ と ，
等 が 特 徴 とし てあ げ ら れ る。 そ れ 故， ア グ レ ッ シ ョ ン
や性 的 なエ ネ ル ギ ーが 深 く抑 圧 さ れ分 離 さ れ てい る こ
と， そ し て， 自我 が 弱 い た め に 見 え ざ る力 に よ っ て 世
界 が 混 乱 させ ら れ や すい こ と， 超 自我 が弱 い こ と ， 等
を う かが い 知 るこ と が で き る と 思 わ れ る。
第 １ 回。 箱 を２ 個 ひっ つ け て 使い ， 左 上 か ら 右 下 に
む かつ て砂 を盛 り上 げ て 道路 を作 る。 そ し て ，左 上 の
端 に 踏切 を 置 き， 道路 を 横切 っ て汽 車 を走 ら せ る。 道
路 に はい ろ ん な車 が 走 っ てお り 今 の と ころ 事 故 は ない
が ， オ ート バ イ に乗 っ た一 団 （ ４名 ） が接 近 し て 走 っ
てい る のが 気 に か か る。 道 端 に は ガ ソリ ン ス タ ン ド や
消 防 署が あ り， 道路 下 （土 手） で は工 事 がお こ な わ れ
てい る。 Ａ は， つ くつ た 箱 庭 に 説 明 を 加 え る こ と はあ
第12回 （図５）
。 中央 に池を作 り，左上 と右横 に神
ま り ない が ， こ れ ま で の ア ク テ ィ ン グ ア ウ ト を な ん と
社を置き，四角い石を敷いて道を作る。池 の中央 に大
かお さ め よ う とい う 努力 と 治療 へ の モ チ ベ ー シ ョ ン と
きな石 を置く。完成 すると， Ａは，「の どかな感 じ」
不 安 が う かが わ れ る 感 じ であ る。
と言う。セラピストも心の安ら ぎを覚え る。Ａ の心の
第 ２ 回。 中央 に 城 を 置 き ， そ の ま わ り に 木 を 置 き 次
中にやっと中心が出来あがった感じ をうけ る。
に堀 を作 る。 だが ， 堀 に は 橋 が か か っ てお ら ず ， 人 は
一 人 も 登場 し ない 。 寂 しい 印 象 をあ た え る。
第 ３ 回 （ 図 ３）。 初 め て 兵 士 を 登 場 させ る が ，「 日 本
軍 （左 の 箱） と 敵 国 （ 右 の 箱 ） はお 互い に 離 れ た 所 で
作 戦 を ね っ てい る」 と の こ と であ る。 遠 く 離 れ て は い
る か 兵士 が 登場 し た の はい い 感 じ をあ た え る 。
第 ７ ∼ ９ 回。 ミキサー車と乗用車がスピードを出し
過 ぎ て正 面 衝突 し た り ，飛 行 機 が 草 原 に 墜 落 す る と こ
ろ を作 り， 救急車 やパ トカ ーを出 動 させる。 そ の後
は ， 道 路 に パト カ ー を待 機 さ せ て ス ピ ー ド 違 反 （ 制 限
速 度50 キロ ） を取 り 締 ま ら せ る。 制 限 速 度 を 守 り な が
９−
生 島 ：女 性 の 下 着 を 盗 む 一 高 校 生 男 子 の 内 的 世 界 に つ い て
第13 ∼14 回。 ラ イオ ン に 追 わ れ て 右 上 に 向 か っ て逃
（ １） 人物 画。 計 ５ 回 実 施 し た。 第 １ 回 （ 図 １ ） の 直
げ る 象 た ち （ 大 ４ ， 小 ２ ） をつ く り ，「 子 象 は １ 匹 捕
立不動 の学生 の絵 と比 較す ると， 回 を重 ねるご とに
まっ て ラ イ オ ン に 食 わ れ る だ ろ う 」 と Ａ は 言 う 。 次 に
動 きのあ る 人物 （すべ て男性 ）が 描か れる よう にな
は ， 飛 行 場 に 怪 獣 が １ 匹 出 現 す る と こ ろ を 作 り，「 戦
り ， 顔 の 表 現 に もバ ラエ テ ィ が 出 て く る 。（し か し ，
車 が出 動し て怪獣 と戦 うが ，管 制塔 も飛行 機 （旅客
逆心
顔 に面 をつ け てい た り ， 後 頭 部 が 描 か れて い た
機 ） も 給 油 車 も み ん な や ら れて し まう だろ う」 と 補足
り ， 組 み 合 っ てい る た め に 顔 が 見 え な か っ た り もし て
す る。 出 立 の 困 難 さ を 痛 感 さ せ る 。
お り ， 健 康 な 顔 を 描け る よ う に な る た め に は まだ まだ
第15 ∼17 回。 ド ラ イブ イ ン， ガ ソ リ ン ス タ ンド （ 給
心 理 療 法 が 必 要 な 感 じ で あ る ）。 地面 に 削 岩 機 で 穴 を
油 ）， 道 路 の 舗 装 工 事 ， 金 持 ち の家 ， 等 を作 る 。 平 和
あける工事人（第２回），相撲をとり組み合う２人の
な 町 や 安 全 な 道 路 を つ く る た め に は まだ ま だ エ ネ ル
力 士 （ 第３ 回 ）， 逆 立 ち し て 背 を むけ る 体 操 選 手 （ 第
ギ ー の 補 給 が 必 要 と思 わ れる 。
４ 回 ， 図 ６ ）， サ イ ン を出 す キ ャ ッチ ャ ー （ 第 ５ 回 ），
第18 回 。 中 央 に 城 を 置 きそ の 周 囲 に深 い 堀 をつ く る
を 描 く。 全 般 的 に 肉 体 （男 性 的 な 力 ） を 強 調 す る 男 性
が ， 第 ２ 回 の 作 品 と異 な り， 今 回 は 橋 を かけ る。 そ し
の 絵 が 多 く ， パ ワ ーへ の あ こ が れ と 同 時 に ナ ル シ ス
て ， 右 下 に 番 人 の 家 を置 く。 橋 が か かっ た の はい い 感
ティクな面をあらわしている印象をあたえる。
じ だ が ， 城 に 訪 れ る 人が 登場 し てい ない の が 寂 し い 感
じをあたえる。
第19 ∼25 回 。 公 園 や 野 球 場 （ た だ し 人 は 登 場 し な
い ） 等 の 平 和 な風 景 をつ く る か と 思 う と ， 次 に は ， 家
を踏 み潰 そ う と す る 怪 獣， 岩 に ぶ つ か っ て 転 覆 し た 貨
物 船 （ 第10 回 に 使 っ た の と 同 じ 船 ）， 自 動 車 レ ー ス で
転 倒し た車 ， 崖 か ら 落 ち かけ て 下 の民 家 に 激 突 し そ う
な ガソ リ ン タ ン ク 車 ， 等 を つ く る 。 し か し ， 飛 行 機 や
救 急 車 や 船 が 救 出 に む か っ て お り ，「 助 か る 」 と Ａ は
言 う。 平 和 な 町 を 建 設 す る こ と や 安 全 な 航 海 の 難 し さ
が 痛 感 させ ら れ る 感 じ で あ る。
第26 ∼29 回。 平 和 な 町 の 風 景 が 定 着 し ， 塀 で 守 ら れ
た 高 速 道路 ， ゴ ミ 焼 却 所ヘ ゴ ミ を 運 ぶ 清 掃 車 ， ス ピ ー
ド 違 反 を 見張 る パ ト カ ー と 警 察 署 ， 道 路 の 舗 装 工 事 ，
等 をつ く る。 第27 回 に は ， 初 め て 子 ど もを 登 場 さ せ て
（２ ） バ ウ ムテ スト 。 計 ６ 回 実施 し た。 第 ２ 回 に は
公 園 で 遊 ぶ と こ ろ を つ く る 。 全 般 的 に み て や っ と平 和
ミカ ンの木 （図７） を描 く。 幹の左 側 に描 かれた 陰
な町がなんとか出来上がった感じである。
影 ， 女 性 的 な小 さな 葉 ， 地平 線 の下 に 薄 く線 が 描 か れ
てい る こ と， 等 が 特 徴 的 で あ り， 女 性 性 器 を 連 想 さ せ
る。 第４ 回か ら は 地 平 線 が 消 え て し まい ， 幹 下縁 立 の
Ⅳ。 心理 テ ス ト の 結 果
さて，これまでのところでは心理療法の概要につい
描 き方 と なる 。 全 般 的 傾 向 と し て は， 回 が す す む につ
て報告したのであるが，次には，この期 間中 に実施し
れて ， 幹 が 太 く高 く な り 右へ と 傾斜 し だ す 傾 向 が み ら
た心理 テ スト の 概略 を述べ てみ るこ とにし よう。な
れ， 力 強 さが 出 て き， セ ク シ ャ ル な イ メ ー ジ を 連 想 さ
お，実施日は以下のごとくである。（表１参照）
。
せ る こ とが 減 少し て き てい る 感 じ であ る 。
表 １
心 理 テ スト の 実 施 日
−10
−
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨床 総 合 セ ン タ ー紀 要 第２ 号
（３ ） Ｔ Ａ Ｔ （ ハ ーバ ード 版 ）
「催 眠 術 か け て い る … … … 父 親 が 自 分 の 息 子 に か け て
紙 数 の制 限 の た め ， 内 容 分 析 の観 点 から 興 味 深 く思
いる………サーカスみたい………,息子にいろんなこと
われる ８枚 の図版 につい て のみ報告 す るこ とにし よ
や らせ る … … … 刀 と 刀 を 離 し て 立 て て ， そ の 上 に 息 子
う 。 なお ， タ イ ム は初 発時 間 と所 要 時 間で あ る。
を寝 させ る … … … そ れか ら 術 を とい て 元 に 戻 す … … …
［３ Ｂ Ｍ 図 版 ］
危 険 は ない 」（第 ２ 回:6 ″,2' 15
「 な に か嫌 なこ と があ っ て 泣い てい る … … …15∼16 歳
［13M F 図 版 ］
ぐら い の女 の 子 … …… 勉 強 のこ と で叱 ら れ た … … … そ
「朝 ， 男 の 人が 会 社 に 出 か け る とこ ろ … … … 前 の 日 の
れか ら は 真 面 目 に勉 強 す る よう に な る 」（ 第 １ 回:20
晩 遅 く まで 起 きて い た … … … 女 の 人 と遊 んで い た … …
2’ 12″）
…恋 人 ど う し… … … 女 の 人 は ま だ寝 て い る … … … 男 の
「ピ スト ルで 頭 を 撃っ て 自 殺し た … … …生 活 に 困っ て
人が 出 かけ て から 起 きて 会 社 へ 行 く… … … こ こ は 男 の
い る か ら … … … 中 ３ の女 の 子 … … …お 父 さ ん とお 母 さ
人 の ア パ ート で ， 二 人 は別 々 の会 社 に勤 め て い る … …
ん がい な く て … … … １年 ほ ど前 に交 通事 故 にあ っ た 」
… ＜ ど ん な こ と して 遊 んで い た の ？＞… … … 一 緒 に 寝
（ 第 ２ 回:10 ″,2'20り
た り し てい た …… … 変 な気 持 ち … …… こ ん なこ とし て
［ ４ 図 版］
い い の か な … … …そ の後 ， 結婚 す るが う ま くい か な く
「男 の 人 が どこ か へ 行 く の を 止 め てい る … … … 恋 人 た
な る 」（ 第 １回:18 ″，5’ 03
ち … … …男 の 人 に 違 う 恋 人 が で き て そ こ へ 行 こ う と し
「男 の 人 が 起 き て， 眠 そ う な 顔 し て こ れ か ら会 社 に行
てい る … … …可 愛 ら し さ が ない の で ， こ っ ち の 女 の 人
こ う と し てい る … … …会 社 へ 出 かけ て か ら， こ の女 の
が イヤ に な っ た … … … 魅力 が ない の で ，男 の 人 は 行 っ
人 が 起 きて く る … … … ご 飯 を 食 べ て， 働い てい る 所 へ
て し まう 」（ 第１ 回:29 ″，3’ 50
″）
出かける………夫婦………仲は普通………く何故，女
「 男 の 人 が 戦 争 に 行 こ う と し てい る の を 止 め て い る …
の 人 は 裸 な の ？＞ …… … 一 緒 に寝 てい た か ら 」（第 ２
… … 夫 婦 … … … 死 な れる と か な ん か ら 止 め て い る … …
回:12 ″，r 59″）
… 男 の 人 は そ の ま ま行 っ て し まう … … … 女 の 人 は ， 戦
［15図 版 ］
争 か ら 戻 っ て く る の を 待 つ … … … 男 の 人 は 功 績 をた て
「 お 墓 … … … 墓 参 り に 行 か は っ た … … … 花 を供 え てい
て帰ってくる………男の人は自分から戦争に行こう と
る … … … 親 の 墓 に 子 ど も が 参 っ て い る … … …50 歳 ぐ ら
志 願 し た 」（ 第 ２ 回:20 ″，ぶ１１″）
い の 男 の 人 が 参 っ てい る … … … 父 親 は 交 通 事 故 で死 ん
［７ＢＭ図版］
だ … … … 終 わる と 自 分 の 家 に 帰 る 」（ 第 １ 回:8 ″，2
「 会 社 で 上 司 （ 左 ） と部 下 （ 右 ） が し ゃ べ っ て い る …
20″）
… … なに か をや ら そ う とし て い る … … … 陰 に 隠 れて な
「墓 場 の 中 で ， 男 の 年 と っ た 人 が 女 の 格 好 し て 立 っ て
な にか 悪 い こ と… … … 密 輸 を企 んで い る … … … 失 敗 し
い る … … … な んと な く立 っ て い る … … … 楽 し ん でい る
部 下 は 上 司 に 殺 さ れる 」（ 第 １ 回:11 ″，2’ 26
″）
………自分の服に着替えて帰る………＜どうして女の
「 学 者 た ちが 会 議 をし てい る とこ ろ … … … 地震 が た く
格 好 して い る の
＞ … … … こ うい う 趣 味 が あ る … … …
さ ん起 こ る ので ， 原 因 を 追求 し て い る… … …Vヽろ ん な
独 り者 … … … ま わ りに 女 の 人が い ない か ら ， 女 の 人 に
説があるが，原因はわからない……ゆ古局，会議はな
憧 れ てい る の」（ 第 ２ 回:15 ″，5’ 12
″）
ん に も なら ない … … …大 地震 は今 の とこ ろ 起こ っ てい
［16 図版 ］
ない が ， 地震 は ま だ ま だ 続 く」（ 第 ２ 回:25 ″,2'
「暴 力 団 の 人 と市 民 が 喧 嘩 し た …… … 暴 力 団 の 人 が ，
［10 図版 ］
25歳ぐらいの男の人にぶつかって，『あやまれ！」と
「男 の 人 （左 ） が 女 の 人 （ 右） のお でこ の と ころ に キ
言 う … … …包 丁 みた い な の を取 り 出し て ， 市 民 の 腹 を
ス し てい る … … …夫 婦 … … …こ のあ と ベ ッ ド で な に か
突 き剌 す … … …市 民 は大 け が を す る… … … 命 は な ん と
す る （苦 笑） … … … ＜ な に かっ て ？＞ … … … 寝 る の …
か 助 か る が恨 む… … … 暴 力 団 の 人 は逃 げ る が す ぐ 警 察
… …」（ 第 １ 回:18 ″，2べ34
り
に捕 ま る」（第 １ 回:25 ″,2'58
「 キ ス し てい る とこ ろ … … …男 （左 ） と 女 （ 右 ） は 恋
「 大 き な ビ ル …… … あ る 人が50 階建 て のビ ル を建 て て
人 た ち … … … 車 で ホ テ ル に 出 かけ る … … … そ の へ ん 見
い る と こ ろ …… … だ い た い の形 が 出来 た時 に地 震 が 起
て 回っ た り し て か ら ， 部 屋 に戻 っ て 来 て 食 事 し た り す
こ っ て崩 れ て し ま う … …… ま た造 るが ， 完 成 す る 前 に
る………その後，二人は結婚して普通にうまくいく」
な っ て … …… もう 使 え る よ う な段 階 に なっ て ， 火 事 で
（ 第 ２ 回:10 ″，3’ 51 み ん な 燃 え て し ま う … … … こ の 人 は運 が 悪 い し， 商 売
［12M 図 版 ］
が 下 手 だ し ，何 度い ろ ん な こ と を やろ う と し て も み ん
「催 眠術 かけ てい る………寝てい る人が 催眠 術に か
な失敗してしまう………結局，お金がないのでそのま
かっ た まま起 き て, サ ル の真似 とか イヌ の真 似 とか す る
ま ほ っ て お く … …… そ れ を 別 の 人 が買 い 取 っ て， 中 を
もう一 度寝 かさ れて目 を覚 まさ れる……… なに かの
ま た 綺 麗 に し て 住 め る よ う に し て ， 会 社 と かい ろ い ろ
シ ョ ー 」（ 第 １ 回:5
入 れ る… … …今 度 は う ま くい く八 第 ２ 回:13 ″,4’ 36
″）
″ ’34″）
−11
−
生 島 ：女 性 の 下 着 を 盗 む一 高 校 生 男 子 の 内 的 世 界 につ い て
な お ， そ の 他 の 無 興 味 深 い テ ー マ と し て は ，「 親 に
いった感じの柿の木を描いていること，幹や枝の表面
勉 強 な ど を 強 制 さ れ る が 出 来 ず に 叱 ら れ る男 の 子 」
に多くのスジが描か れ，枝には葉や実が ぎっしり と描
（ １ 図 版 ），「 一 人 息 子 を 事 故 で 失 う 母 」(6
図
か れていること，地平線が欠落していること，枝の先
版 ），「 殺 さ れ て バ ラ バ ラ に さ れ る 探 偵 」（ ８ Ｂ Ｍ 図
端が開か れているが葉をつけることに よりカ ムフラ ー
版 ）， 等 があ げ ら れる 。 だ が ， そ れ 以 上 に 印 象 的 だ っ
ジュしてい ること，等があげら れる。傷つ きやすさや
た の は ， Ａ が ，「 キ ス し て い る … … … ペ ッ ト で 寝 て い
葛藤を もちながら も，そ れらから目をそらし外界にな
る 」「 女 の 格 好 し て 立 っ て い る 」 等 と 述 べ る 時 ， 苦 笑
んとか適応しようとしている姿が感じら れる。
BM
し た り はす る もの の ， ほ と んど 感 情 が と もな っ て い な
い こ と や ，「 結 婚 前 に 平 気 で ホテ ル に 行 く 恋 人 た ち 」
Ｖ。 考 察
等 に みら れる よう に
（ １ ） Ａ の 自我 構 造 の 特 徴 に つ い て
常 識 的 な 判 断力 の 欠 如 や 罪 悪 感
の稀 薄 さが う か が わ れる こ と で あ っ た 。
さて，これまでのところで述べてきた心理療法の経
（ ４） 家 族 の バ ウ ムテ ス ト
過 や 心 理 テ スト の 結 果 な ど を 振 り 返 り な が ら ， 何 故 Ａ
さ て， こ れ まで の と こ ろ で は Ａ に 実 施 し た 心 理 テ ス
ト の結 果 の 要 点 を 述 べ て きた の で あ る が ， 最 後 に
が女 性 の下 着 （特 にブ ラ ジ ャ ー ） を 盗 む よ う に な っ た
Ａ
か につ い て 考 察 し て み る こ と に し たい が ， そ の 前 に
の家 族 に実 施 し た バ ウ ムテ ス ト の 結 果 を示 す こ と に し
Ａ の 自我 の構 造 と そ の 特 徴 に つ い て 考 え て み る こ と に
よ う。（ なお ， 実 施 日 は パ ラ パ ラ で あ り ， 母 親 は Ａ の
し よ う。
イ ン テ ー ク時 に ， 父 親 と 妹 は Ａ の 心 理療 法 開始 ２ヵ 月
とい う の は， Ａ に と っ て よ り 問 題 な の は ， 下 着 を 盗
後 に実 施 し た ）
む とい う行 動 よ り も ， そ の 行 動 を 生 み 出 す 背 後 に 隠 れ
母 親の バ ウ ム（ 図 ８ ） の 特 徴 と し て は ， 画 用 紙 の 下
てい る 自我 の弱 さ や超 自 我 の 形 成 不 全 な ど に あ る と 思
半分 に小 さ な 木 が 描 か れて い る こ と ， 地 平 線 が 欠 落 し
わ れ る か ら であ る。 つ まり ， 常 識 的 な 判 断力 が 機 能 せ
てい る のに 根 が 長 く 描 か れてい る こ と ， 幹 の 先 端 が 開
ず安 易 に 衝 動 に押 し 流 さ れて し まい ， そ の 結 果 に 対 し
か れ た ま まで あ る こ と ， 一 線 枝 に 葉 と 実 が つい てお り
て も 適 切 な 感 情 が 起 こ ら ず 罪 悪 感 な ど も生 じ な い こ と
左 側 の枝 が 下 を 向 い て い る こ と ， 等 があ げ ら れ る。 全
であ る。
般 的 に弱 々し い 木 で あ り ， 臨 床 像 と は 正 反対 の 感 じ で
こ れら の点 は ， Ａ が 反 省 文 の 中 で ，「 犯 行 し た時 の
あ り， 生 に 対 す る 回 避 や 傍 観 ， そ し て 退 縮 的 傾 向 が う
僕 は ， 警 察 とい う も の の 存 在 を 忘 れて い た 。 泥 棒 す れ
かが わ れる 。
ば 被 害 者 が ，当 然 警 察 に 届 け 出 る とい う こ と を 忘 れて
父 親 のバ ウ ム（ 図 ９ ） の 特 徴 と し て は ， 幹 が 短い の
い た 」 等 と 書い てい る こ と に 明 確 に 示 さ れて い る 。 ま
に比 べ て 枝 が 非 常 に 長 い こ と ， 枝 が 大 きく 広 が り 画 用
た ， Ａ が 日 記 の 中 心 「 お 父 さ ん， お 母 さ ん に 申 し 訳
紙 から は み 出 し て い る こ と や 枝 の 先 が 開 か れた ま まで
ない こ と を し た の で死 に た い … … … 家 出 し た い 」 等 と
あ るこ と， 枝 の わり に 葉 が 少 な く 実 （ 桃 ） が 強 調 し て
書い てい る が ， セ ラ ピ ス ト か ら そ の 感 情 の 明 確 化 を 求
描 か れ てい る こ と ， 等 が あ げ ら れる 。 臨 床 像 （ 生気 を
め ら れ て も ， こ の よ う な 切 迫 し た 気 持 ち を もっ て い る
吸 い 尽 く さ れ た よう な 男 性 ） と は 正 反 対 の 感 じ で あ
こ と が 全 然 伝 わ っ て こ な い こ と に も示 さ れて い る 。
り，大 きな木で あ るが， バラ ンスが悪 く不安 定であ
さ ら に ， Ａ は ，ＴＡＴ の10 図 版 や13M F 図 版 な ど の
り ， 衝動 に対 す る コ ント ロ ー ルの 悪 さ が う か が え る 。
セ ク シ ャ ル な 反 応 を 生 じ さ せ や す い 図 版 に 対 し て も，
妹 の バ ウ ム（ 図10 ） の特 徴 と し て は ， 母 親 の バ ウ ム
「 こ の あ と ベ ッ ド で な に か す る 」 と 述 べ て 少 し 照 れ笑
と は 逆 に 画 用 紙 の 上 半 分 に ，「 毛 も く じ ゃ ら の 木 」 と
い し た り ，「 変 な 気 持 ち … … … こ ん な こ と し てい い の
12 −
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨 床 総 合 セ ン タ ー紀 要 第２ 号
か な 」 と 述 べ た り し ， 一 応 常 識 的 な 感 情 反 応 を示 し て
を吸 い 取 ら れ た よう な男 性 性 の まつ た く 消 滅 し た よ う
い る よ う に み せ な が ら ，「 恋 人 た ち が 結 婚 前 に 平 気 で
な父親をもちながら，このような不安や敵意が潜んで
ホ テ ル に 行 く 」 こ と に 対 し て な ん ら 批 判 す る こ とな く
い る の は どう い う わけ であ ろ う か 。
安 易 に 受 け 入 れ た り し て い る 。 つ まり ， 性 的 衝 動 に 対
するＡの自我の弱さを示していると言える。
こ の 点 を考 え る に はＡ が 見 た お か し な 夢 や 予 言 書 に
対 するＡ の反応 が 参考 にな るであ ろう。 つ ま り，Ａ
し か し ， そ れ 以 上 に セ ラ ピ ス ト に 不 可 解 な 感 じ をい
が ，「 夜 中 に 気 が つ い た ら 身 体 の 向 き が 逆 さ に な り，
だかせたのは，カウンセリングにおいて特に突っ込 ん
枕 が 足 の とこ ろ に きて い た 」「 人 類 は 滅 亡 す る … … …
だ 会 話 ， つ ま り ， Ａ の 無 意 識 に 切 り 込 む よう な 会 話 を
共 食 い し た り… … … 奇 怪 な 人 間 が生 ま れる 」 等 と 述 べ
していないのに
そ の 直 後 の 箱 庭 で 事 故 な ど の テ ーマ
てい るこ とか ら推 測す る と，エ ディプ ス葛 藤か ら生
が よ く 出 現 し た り ， 一 般 的 に は 些 細 な こ と と 思 わ れる
じ る去 勢 不 安 とい う よ り は ，「 自 分 の 全 存 在 が 喪 失 す
ような外的な出来事（例えば，気候の変化やテレビ番
る 」 あ る い は 「 奇 形 人 間化 さ れ る 」 とい っ た 恐 怖 感 が
組など）によって箱庭が影響を受けているらしいこと
ベ ース に あ る と思 わ れ る の であ る。 す な わち ， 乳 幼 児
であった。
期 に 温 か く保 護 さ れる 体 験 が な かっ た た め に ， 父 母 に
そ れ故 ， セ ラ ピ ス ト は ， Ａ の ア グ レ ッ シ ョ ン や 性 的
対 す る ア グレ ッシ ョ ンが 生 じ ， そ れ が 沈 殿 し て こ の よ
衝動が分離されて深いところに沈み込んでいること，
う な 不 安 に 変 形 し た と思 わ れ る の であ る。
そ し て 時 折 （ 安 易 に ） Ａ の 弱 い 自 我 防 衛 を 突 き破 っ て
（ ３ ） カ ウ ンセ リ ン グお よ び箱 庭療 法 の 意 味 に つ い て
噴 き出 し て く る と い う 印 象 を 強 く 受 け た の で あ っ た 。
で は ， 次に こ の よ う なＡ の 家 族 関 係 や 弱 い 自 我 が
そ し て ， こ れら の 点 は ， バ ウ ム テ ス ト に お い て ， 地
カ ウ ン セリ ン グや 箱 庭 療 法 に よ っ て ど の よ う に 変 化 し
平線 （地 面） によっ て地下 の世 界が切 断 され て空白
た か を みて みる こ と にし よ う。 まず ， 家 族 関 係 に お け
に な っ て い るこ と や ，ＴＡＴ にお い て ， 地 震 や 火 事 と
る 変 化 とし て は ， 事 件 後 ， 母 親 が パ ー ト を や め て Ａ に
い っ た 人 間 を 超 え る 力 に よっ て 不 幸 が 訪 れた り， 善 良
目 を向 け だし 親 身 に か か わ り 出 し た こ と ， 家 の 改 築 や
な 市 民 が 突 然 暴 力 団 に 剌 さ れる と い っ た 不 慮 の 事 故 や
畑 仕 事 な ど をＡ も 参加 し て 家 族 全員 で や り だ す よう に
交 通 事 故 な ど が 多 く み ら れる こ と に もあ ら わ れて い る
なっ たこ と， 妹 が 大 人っ ぽ く な っ た こ と ， 等 が あ げ ら
と思 わ れる の で あ る 。
れ， 稀 薄 な 親子 関 係 な ど が 少 し 改 善 さ れた し た とい え
（ ２ ） Ａ の もつ 家 族 イメ ージ に つ い て
る 。 そ し て， Ａ 自 身 も 表 情 が 豊 か に な り ， 明 る さ と ス
で は ， Ａ の こ の よう な 自 我 構 造 の 特 徴 は ど の よ う に
マ ート さ も出 て き， バ イ ト を し た り バ イ クの 免 許 を取
し て 生 じ て きた の で あ ろ う か 。 こ れら の点 を 考 え る に
るな どして 自信 と積極 性 をも ち出し たとい える 。 ま
は ， Ａ が 家 族 に 関 し て 述 べ た 発 言 や 生 育 史 に 関 す る母
た， Ａ は ， ク ラ ス メ イト （ 男 友 達 ３ 人 ） と一 緒 に初 め
親 から の報 告 が 参 考 に なる と思 わ れ るが ， 残 念 な が ら
て ボウリ ングに 行っ たり もす るよう にな り， 異性 に
Ａ は ，「お 母 さ ん は 囗 う る さ い 」 等 と述 べ る 程 度 で ，
対 し て も，「 修 学 旅 行 の時 ， 夜 ， 友 達 と エ ロ 漫 画 を 読
ほと んど述べ てい ない し，一 方， 母親 も「Ａ は乳幼
ん だ り， 猥 談 し た り し た 」「 道 を 歩 く か わい 子 ち ゃ ん
児 期 は 病 気 が ち だ っ た 」「 Ａ は友 達 が ほ と ん ど な か っ
に ， バ ス の 窓 か ら 手 を 振 っ た り声 を かけ た り し た 」 等
た」 と 述べ る 程 度 であ る。 そこ で ，こ れ ら の 乏 しい 情
と述 べてい る ように
報から 推測 する と，Ａ は温 かい母 子関 係を 体験し な
な っ て きた と い え る 。
年 齢相 応の関 心 をもつ よう に
か っ た し， 父 親 や 妹 と も 親 密 な 関 係 を も つ こ と が 出 来
一 方， カウ ンセ リ ング におい て も，Ａは ，セ ラピ
ず ， そ の た め 喜怒 哀 楽 の 感 情 も 育 た ず ， 無 感 動 な 孤 独
ス ト が 日 常 的 な 会 話 を積 極 的 に 取 り 上 げ る こ と に より
な 日 々 を 送っ て き た と 思 わ れる 。 そ の た め ， 思 春 期 を
（ Ａ の 無 意識 に軽 率 に 踏 み 込 ま ない よ う に か か わり を
むかえたＡは，衝動の突然の出現に適切に対応するこ
続 け る 中 で ）， 自 分 の 内 的 世 界 に 少 し づ つ 目 を 向 け だ
とが 出 来 ず ア ク テ ィ ン グ ア ウ ト し た もの と思 わ れる 。
し 意識 化 す る よ う に なっ た と 思 わ れ る 。 そ し て ， Ａ は
しかし
一 方 Ａ は ，ＴＡＴ の 中 で ，「 自 分 の 息 子 に
箱 庭 にお い て， 城 と堀 に 橋 を 架 け る こ と が 出 来 る よ う
催 眠術 を か け て ２ 本 の刀 の先 に 寝 か せ る 父 親 」(12M
に なっ た り， の ど か な 神 社 の 風 景 を 完 成 す る 中 で ， 自
図 版 ） や ，「 父 親 の 墓 参 り に 行 っ た50 歳 ぐ ら い の 息 子
分 の 心 の 中 に 拠 り 所 を つ く る こ と が 出 来 る よ う に なっ
が ，自分 の まわり に女 の人がい ない から女 の 人に憧
た と 思 わ れ る。 そ し て ， そ の 拠 り所 を出 発 点 とし て ，
れ て ， 女 装 し て 立 っ て い る 」（15 図 版 ），「 交 通 事 故 で
Ａ は ， 事 故 （ 交 通 事 故 や 墜 落 事 故 ） や 火 事 や 地 震 の多
死 亡 し た 父 母 のあ と を 追っ て 自 殺 す る 娘 」（ ３ Ｂ Ｍ 図
発 す る 世 界 に パ ト カ ー や 救 急 車 を出 動 させ る こ と に よ
版） 等 とい っ た 話 をつ く り， 父 母 に対 す る無 意 識 的 な
り ， 回 復 の 兆 し を 見 せ 始 め ， 道 路 を舗 装 し た り ， 警 察
ア グレ ッ ショ ンや 父 親 か ら去 勢 さ れ る不 安 な ど を 表 現
署 を 設 置 し た り ， ゴ ミ 焼 却 場 を 置い た り す る こ と に よ
し てい る と思 わ れ るが ， こ れ ら は一 体 ど うい う わけ で
り平和な町づくりを始め，最後 には公園をつくり，初
あ ろ う か。 一 見 す る と稀 薄 でエ デ ィプ ス 的 な 葛 藤 な ど
め て た く さ ん の 人 間 を 登 場 させ る よ う に な っ た と 言 え
生 じ てい ない よ う な 親 子 関 係 の 中 にあ り ， ま た ， 生 気
る （ し かし ，「飛 行 場 に 突 然あ ら わ れて 破 壊 す る怪 獣 」
−13
−
生 島 ： 女 性 の 下 着を 盗 む一 高校 生 男 子 の 内 的 世 界 につ い て
の箱 庭 に 見ら れ る よ う に
ア グレ ッ シ ョ ン に 対 す る Ａ
の コ ント ロ ー ルカ は ま だ ま だ 未 発 達 の ま ま残 っ た と思
わ れる ）。
こ の よ う にＡ は ， 箱 庭 を つ く る 中 で ， 超 自 我 を少 し
づつ 育て，突然噴き出してくる激しい衝動に対して な
ん と か 適 切 に 関 わ れ る よ う に な り ， ペ ニ スの よう な形
を し た 港 の灯 台 の 光 に 照 ら さ れて 出 立 を始 め た と 思 わ
れ る の で あ る 。 だ が ， そ の 行 き先 は ま だ ま だ多 難 であ
る と思 われる レ
実 際， 出発し た貨 物船 は岩 にぶつ
か っ て 転 覆 し た り し て い る の で あ る 。（ ま た ， 男 性 性
の 芽 生 え を 感 じ さ せ る よう なペ ニ ス の形 を し た 港 の 反
対側に
基 地 を もつ 港 が 置か れて い る の も気 に か か る
点 で あ る ）。
し かし ， と も か く約 １年 間 の心 理療 法 に より ， Ａ が
ア ク テ ィ ン グ ア ウト か ら 立 ち 直 り ， 再 出 発 す る た め
の基盤 を造っ たこ とは 明ら かであ ろう。 こ の点 は，
ＴＡＴ の 結 果 な ど に もう かが うこ と が で き，「 地 震 や 火
事 で 破 壊 さ れ た ビ ル を買 い 取 っ て 改 築 す る 人 」（10 図
版） や「戦 争に 自分 から志 願し て行 き功 績を たてて
帰 っ て く る男 」（ ４図 版 ） 等 が 印 象 的 であ る 。
（ ４ ） 下 着 盗 み の 心 理 的 メ カ ニ ズ ム につ い て
で は，最 後 に，Ａ の主訴 と なってい る女性 の下 着
（ 特 に ブ ラ ジ ャ ー） を盗 むこ と の心 理 的 メ カ ニ ズ ム に
つ い て 考 え て み る こ と に し よ う 。 Ａ は ，「 盗 んで き た
ブ ラジ ャ ー を身 体 に着 け て鏡 を 見 て 楽 し ん だ 」 と 説 明
し て い るが ， そ の 実際 や そ の時 のＡ の 感 情 に つ い て 質
問 し て も的 確 な応 答 が 返っ てこ ない た め ， セ ラ ピ ス ト
に はピ タ ッ と分 か り に くい の が現 状 で あ っ た 。 また ，
セ ラピ スト の 目 に は ， Ａ に 同性 愛 傾 向 が 顕 著 に あ る と
は 思 え な かっ た し ， 実 際 ， Ａ が セ ラ ピ ス ト に 対 し て そ
の よ う な 感 情 を 向け て く る こ と （ 同 性 愛 感 情 を セ ラ ピ
スト に 転 移 す る こ と ） は な か っ た と 思 わ れ， む し ろ 淡
泊 な対 人 関 係 し か 持 て な か っ た の が 現 状 で あ る と思 わ
れ る 。 そ れ 故 ， Ａ は ， フ ェ テ ィ シ ズ ムや 同 性 愛 傾 向 に
よ っ て 女 性 の 下 着 を 盗 む こ と に な っ た と言 う よ り も，
性的衝動や異性に関する欲求が屈曲した形で爆発し た
過 渡 的 な もの と 考 え る の が 一 応 妥 当 で は ない か と 思 わ
れる 。 そ し て ， 実 際 ， 盗 癖 は 予 想 以 上 に早 くお さ ま り
再 発 もお こ ら な か っ た の で あ っ た （ だが ， 前 述 し た よ
う に ， Ａ の 深 層 に は ， 去 勢 不 安 や 女 性 に な り たい とい
う 気 持 ち な ど もう か が わ れ， そ れ故 ， 女 装 す る こ と に
より ， こ れ まで に 得 ら れ なか っ た 母 子 の 一 体 感 や 融 合
体 験 を 強 く希 求 し て い た と も思 わ れ る の であ る ）
フ ォロ ー アッ プ （11 年 後 ）
そ の 後 ， Ａ は ， 無 事 に 高校 を卒 業 し て 会 社 に 勤 め る
よ う に な り ， 今 年 で10 年 目 を 迎 え る が 元 気 に 働 い て
い る と の こ とで あ る 。 だ が ，「 ガ ー ル フ レ ン ド が で き
た 」 とか 「 結 婚 し まし た」 とい っ た 風 の 便 り が まだ 届
い て ない のが 少 し 気 が か り であ る。
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