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準結晶における電子輸送現象
準結晶における電子輸送現象 Transport Properties 指導教官 中央大学大学院 理工学研究科 新井 of 石井 Quasicrystals 靖 物理学専攻 雄介 博士前期過程 Contents 1 Introduction_____________________________________________________________ 3 2 非周期的な空間秩序 _______________________________________________________ 5 2−1 準周期格子 _________________________________________________________ 5 2−2 準周期格子の生成(射影法) _________________________________________ 9 3 準周期格子の電子輸送特性 ________________________________________________ 14 3−1 エネルギースペクトルと波動関数 ____________________________________ 14 3−2 1次元準周期格子のエネルギースペクトルと波動関数___________________ 14 3−3 1次元準周期格子の輸送特性 ________________________________________ 16 3−4 2次元準周期格子の計算モデル ______________________________________ 16 4 3 次元準周期格子の計算モデルと計算方法 __________________________________ 19 4−1 計算のためのモデルと計算方法 ______________________________________ 19 4−2 コンダクタンス計算のための Green 関数を使った式 ____________________ 19 4−3 Green 関数を iterative に計算する方法 ______________________________ 22 5 数値シミュレーションによる3次元ペンローズ格子の計算結果 ________________ 28 5−1 コンダクタンスのフェルミエネルギー依存性 __________________________ 28 5−2 コンダクタンスのシステムサイズ依存性 ______________________________ 29 6.Discussion______________________________________________________________ 30 7 conclusion______________________________________________________________ 32 Acknowledgement_____________________________________________________________ 33 REFERENCES__________________________________________________________________ 34 2 1 Introduction われわれは、5 回対称や 8 回対称の回折斑点を示す構造が結晶になり得ないことを知っている。しかし ながら、1984 年に、イスラエルの D.Shechtman は次のような特徴を持つ物質を見つけた[1]。 (1)回折斑点は、非常に鋭い。 (2)回折斑点は正 20 面体対称(5 回対称軸 6 本、3 回対称軸 10 本、2 回対称軸 15 本)のように結晶 では、許されない回転対称性を示す。 このような特徴を持つ一群の物質を準結晶(Quasicrystal)と呼ばれている。一体、どのような長距離 秩序が考えられ、そしてそれはどうして鋭い回折ピークを与えるのだろうか。この方向への理論的関心 のきっかけになったのは、液体やアモルファス合金の構造を考えるとき局所構造として現れる 20 面体の 存在であり、他方ではペンローズタイリングと呼ばれる2種類の構造ユニットによる2次元無限平面の 非周期充填であった。実験的には 1984 年以降、3元あるいは4元合金を含めて多様な組成について準 結晶相が作られることが示され、特に Al-Li-Cu や Al-Cu-(TM)(TM:遷移金属元素)のように安定な 20 面 体相準結晶合金も見出されている。また 2 次元面内で 10 回や 8 回対称で残りの 1 次元方向には周期構 造をしているものなども見出されている。したがって、準結晶相は決して例外的に存在するのではなく、 自然界の多様性の一画を占めていると考えられる。 準周期系の様々な電子物性の中で、輸送現象は最も特異なものと考えられる。周期的な系で不純物散 乱がなければ電気伝導は無限大となる。不純物のために周期性が乱された系でも不純物散乱がそれほど つよくなく定数の電気伝導率 σ を持つ系では G =σ A ∝ σLd − 2 L となる。A は物質の断面、L はそのシステムサイズである。このような系の輸送特性はオームの法則に 従うという。一方、金属中の不純物により電子が強く散乱される場合、物質波として遠方まで伝播する 状態は許されず空間的に局在した状態が出現することが Anderson により指摘され、Anderson 局在と 呼ばれている。このような系では電気伝導度は局在した状態の拡がりを ξ (局在長と呼ばれる)とすると 系のサイズに対して G ~ e −L ξ のような依存性を示し巨視的な系では電気伝導は0、すなわち絶縁体とな る。 周期的な格子の場合、弾性散乱であればコンダクタンスは無限大になるが、1 次元準周期格子のフィ ボナッチ格子のコンダクタンスは非弾性散乱を無視しても無限大にならず、フェルミエネルギー及び端 −b 子の位置に強く依存し、コンダクタンスはシステムサイズに対してべき的依存性 G ~ L を示す。これ は、金属中の不純物により波動関数が局在し、コンダクタンスがシステムサイズに対して指数関数で局 在するアンダーソン局在 G ~ e −L ξ d −2 [11]やオームの法則 G ~ L ではなく波動関数が金属と絶縁体の中 間にある臨界的な性格であることを示している[2]。2 次元準周期格子の場合は、コンダクタンスはフ ェルミエネルギーの関数として大きな e 2 h のオーダーの揺らぎがありシステムサイズ L に対して、べ −b き的依存性 G ~ L を示す[3,4]。準周期がコンダクタンスに対してどのような影響を与えるか 1 次元、 2 次元の結果を踏まえて 3 次元の場合を調べる。このとき次の 2 点に重点をおく。 3 (1)コンダクタンスのフェルミエネルギー依存性 (2)コンダクタンスのシステムサイズ依存性 この 2 点において得られた結果を 1 次元,2 次元と比較して考察する。 4 2 非周期的な空間秩序 2−1 準周期格子 5 回あるいは 10 回対称軸をもつ電子回折点像が、アルミニウムとマンガンの合金で発見されたと、 1984 年秋に Shechtman らが発表した。回折実験の全体は、この合金の原子配置が、6 本の 5 回軸、10 本の 3 回軸、15 本の 2 回軸と、正 20 面体的な対称性を持つ長距離秩序を示している(FIG.2-1-1) 。32 種の点群、230 種の空間群等、19 世紀中には完成したと信じられてきた原子配置秩序の一般的体系とし ての結晶学では、周期性こそが結晶の定義である。ところが、5 回対称性は周期性と両立しえない。そ こで、この実験の場合、さらにそれを含むもっと一般の場合について、回折点像を与える。言い換えれ ば、δ関数的なフーリエ成分をもつ非周期秩序、準結晶の研究が関心を呼び出した。 FIG.2-1-1 準結晶の回折写真 1次元の準周期構造としてフィボナッチ格子と呼ばれるものがある。フィボナッチ格子では長さの比 が黄金比である長い間隔 L と短い間隔 S がフィボナッチ列の関係 5 LSLLSLSLLSLLS… で並んでいる。この格子では拡大操作が存在する。すなわち、 S→L,L→LS の変換を行った時、変換の前後の構造は全く同じものとなることが示される。この自己相似性のため、 1 次元準周期格子と呼ばれている。 2 次元準周期格子として、1974 年にペンローズは正 5 角形で埋め切れない隙間を分類整理し、さらに 一工夫して 2 種類の基本図形によって平面を非周期的に埋め尽くした。これは、2 種類のユニット、矢 (ダート)と凧(カイト)と呼ばれる形、あるいはやせた菱形(2 つの辺の角度 36°)と太った菱形(2 つの辺の角度 72°)で構成される 2 次元無限平面の非周期模様である(FIG.2-1-2)。準結晶の骨格構造 の 1 つとなるペンローズタイリングの持つ特徴は (1)骨格構造を与える基底となるベクトルの数 N は、次元数 D より大きい。 (2 次元ペンローズタイ リングにおいて N=5,D=2) (2)この構造は自己相似である。構造を特徴づける長さはない。 (3)2 つのタイプのユニット数の比は無理数である。これは、得られた構造が結晶でないことを意味 している。しかし、この構造はランダムではなく、長距離準周期構造と呼ばれている。 である。 FIG.2-1-2 ペンローズタイリング 2 次元の場合やせた菱形と太った菱形がそれぞれ 36°、72°の頂点を持つことから容易にわかるように 6 辺の向きは 72°ずつ傾いた 5 つの方向のどれかに平行である。すなわち、長距離方位秩序を持つタイ リングになっている。これらの方位秩序により、この構造は結晶では許されない回転対称性をもつ。 ペンローズ図形のもつ幾何学的特徴について説明する。ペンローズ図形を表現するのに FIG2-1-3 の ような2種類の菱形タイル(F と S とする)を使う。菱形のタイルの端に図のように印をつけておくと ペンローズ図形(FIG2-1-2)ではタイルはいつも菱形の辺に沿って矢印が描かれるように張り合わされ ていることがわかる。これをペンローズ図形の張り合わせ規則(matching rule)という。この張り合 わせのためにペンローズ図形には全部で8種類の頂点しか実現しない。 Fat Tile Skinny Tile FIG.2-1-3 ペンローズ図形の2種類のタイル(左側:F、右側:Sとする)。 ペンローズ図形には張り合わせ規則の他にもう 1 つ際立った特徴がある。それは、2 種類の菱形タイ ルを FIG2-1-4 のように 1 回り小さなタイルに分割すると、小さなタイルにより作られたパターンはや はり張り合わせ規則を満たしたペンローズ図形になっているというものである。これをぺンローズ図形 の自己相似性(self-similarity)といい、タイルの分割の操作をデフレーション操作(逆はインフレーシ ョン操作)と呼ぶ。 FIG2-1-4 ペンローズ図形のインフレーション、デフレーション操作 1 回のデフレーション操作で F のタイルは 1 回り小さな 2 枚の F と 1 枚の S に、S のタイルは 1 枚の F 7 と 1 枚の S に分割される。したがって、デフレーション操作をn回繰り返した後の F とSのタイルの数 をそれぞれ Fn 、 S n とすると Fn +1 = 2 Fn + S n S n+1 = Fn + S n が成り立つ。上式、右辺の係数の作る行列の N 乗は、 N f 2 1 = 2 N +1 1 1 f 2N f 2N f 2 N −1 になっている。ただし、 f N はフィボナッチ数列 { f N | f N = f N −1 + f N − 2 , f1 = f 2 = 1} = {1,1,2,3,5,8,13,21,34,55・・・ , } のN項目である。N→∞では f N +1 / f N →τなので N 2 1 → f 1 1 2 N −1 τ2 τ τ 1 この式十分に変換を繰り返した後 F,Sのタイルの数の比は黄金比になることを示している。長さや相 似比のみならず、混合比にも黄金比が現れる黄金ずくめの模様である。この極限模様が周期性を持たな いことは、混合比が無理数であることから示せる。結晶学でいう単位胞やブラベー格子が選べないから である。 自己相似性と密接に関係して、ペンローズ図形には Conway の定理というものが知られている。これ は「ペンローズ図形の中で、差し渡しがd程度の大きさのパターンに着目すると、その中心からたかだか dの距離のところに必ず同じパターンを見出すことができる。」というものである。この Conway の定 理の意味するところはペンローズ図形は非周期的でありながら極めて高い規則性(秩序)を持つことで ある。Conway の定理は準周期構造の分類に指針を与えてくれる。すなわち、1つのペンローズ図形か ら切り出してきた任意の大きさにパターンは必ずそのペンローズ図形の中に見出すことができるので、 同じ任意の大きさのパターンを含む2つの図形を区別することはない。一方の図形の中に存在する任意 の大きさのパターンを他方の図形の中に必ず見出すことができるとき、この2つの図形はたがいに局所 同型(locally isomorphic)であるという。 3 次元ペンローズ格子は 2 種類の平行 6 面体で作られる(FIG.2-1-6) 。この時、平行 6 面体の数の比 は黄金比になっている。平行 6 面体の辺の方向は正 20 面体(FIG.2-1-6)の中心から各頂点に向う方向に なっていて、全体で正 20 面体回転対称性を持っている。しかしながら、この 2 種類の平行 6 面体につ いては一意的に定まる張り合わせ規則はない。 8 FIG.2-1-5 2−2 2 種類の平行 6 面体 FIG.2-1-6 正 20 面体 準周期格子の生成(射影法) 最初に1次元準周期格子の生成を説明する。FIG.2-4-1 で e1 と書かれた方向が準周期格子の定義され る実空間(parallel space)の方向で、2 次元正方格子の結晶軸にたいして 1/τという無理数の傾きをな すようにとってある。ここで、τは τ = 5 +1 で黄金比である。実空間に直交する方向に e2 と書き、 2 これを直交補空間(perpendicular space または perp space)と呼ぶ。また直交空間への射影が作る図形を 1 + a ]と選ぶと、格子 τ 窓(window)と呼ぶ。0<1/τ<1 として、xの整数値mに対するyの整数値nを[ m 点(m,n(m))を選抜できる。[x]はxの整数部分を表すガウス記号である。直線 y = 1 τ x + a が通過す る格子点数は a にも依存するが、1/τが無理数のときは、あってもせいぜい1個である。0<1/τ<1 とと ったので、mの増分は 0 または 1 である。こうした選択された格子点(m、n)から直線 y = 1 τ x+aに おろした垂線の足を Pm とすれば、それらの間隔 Pm Pm +1 はnの増分 0 に対して 1/ ( 1 ) 2 + 1 τ 1 に対しては (1 + 1 ) τ ( 1 )2 +1 τ である。増分の平均値は勾配σであるから、これらの間隔の相対頻度は :1 (1− 1 ) τ 9 である。2 種類の間隔は S = (2 + τ ) 5 L = τS である。m>0 の部分は格子点の間隔が LSLLSLSLLSLLS…… のような準周期的な配列となる。今、 L = L'+ S ' 1 L' = L = S τ S'= 1 τ S としたとき L ' S ' L ' L ' S ' L' S ' L ' L ' S ' L ' L ' S ' と相似になる。別の 1/τの値で、黄金比と無関係の準格子もつくれる。 FIG.2-2-1 射影法 2 次元ペンローズタイリングの場合には菱形の辺の長さはすべて1であり、それらの方向は 10 種類 しかない。向きは符号で処理することにすれば 5 方向で足りる。ひとつの基礎から 72°刻みに、例え ば 0°、72°、144°、216°、288°と 5 方向の単位ベクトルを準基本ベクトルとして選ぶことができ る。ペンローズタイリングの頂点の位置ベクトル r は 5 回対称な単位ベクトルの組 10 e = (cos 2(i − 1)π 2(i − 1)π , sin ) 5 5 (i = 1 ~ 5) を使って一意的に 5 r = ∑ ni ei ( ni は整数) 1 と表される。したがって 2 次元ペンローズ格子の各頂点には 5 つの整数の組、すなわち 5 次元の単純立 方格子の格子点が対応付けられる。このアイデアを基づいて、一般的に準周期的な格子を生成する方法 が射影法である。 (ただしペンローズ図形については、 ∑e i = 0 であるから、格子点を 4 つの整数の組 i で表現してもよい。その時、射影法はそれに応じて少し違った形になる)5 次元超立方格子の基底ベク ⊥ トルを (e j , e j ) とすると 2 次元物理空間への成分 e j を || || 2 (cos( j − 1)ω , sin( j − 1)ω ) 5 e ||j = j=1∼5 2 5 (ω= π ) ⊥ 直交空間への成分 e j は e ⊥j = 2 1 (cos 2( j − 1)ω , sin 2( j − 1)ω , ) 5 2 とすることが出来る。窓の形は 20 面体である(FIG.2-2-2) 。 ⊥ 3 次元ペンローズ格子については 6 次元超立方格子の基底ベクトルを (e j , e j ) として e j を物理空間、 || || e ⊥j を直交空間への射影として e1|| = e2|| = e3|| = 1 2(τ + 1) 2 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ + 1) 2 (1,τ , 0) e1⊥ = (−1,τ ,0) e2⊥ = (0,1,τ ) e3⊥ = 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ 2 + 1) (−τ ,1, 0) (τ ,1, 0) (0, −τ ,1) 11 e4|| = e5|| = e6|| = 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ + 1) 2 1 2(τ 2 + 1) (τ , 0,1) e4⊥ = (τ , 0, −1) e5⊥ = (0,1, −τ ) e6⊥ = 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ 2 + 1) 1 2(τ 2 + 1) (1, 0, −τ ) (1, 0,τ ) (0, −τ , −1) である[10]。このとき、窓の形は菱形 30 面体である(FIG.2-2-3)。 FIG.2-2-2 FIG.2-2-3 2 次元ペンローズ格子の窓 perp 3 次元ペンローズ格子の窓 ⊥ space 方向への射影 e j に含まれる無理数τを適当な有理数に置き換えて高次元格子を周期的 に切るようにすることが出来る。これにより、広い範囲で準周期格子と似ているが少し原子の並べ替え が起こった周期構造を造ることが出来る。これを有理数近似結晶と呼ぶ。黄金比τを有理数で置き換え るための方法として連分数展開をして τ= 5 +1 = 2 1 1+ 1 1+ 1 1+" 12 これを各段で打ち切ると 1/1,1/2,2/3,3/5・・・ という最適有理数の列が得られる。この有理数を使って実際には格子を造っている。本文中ではm/nを (m,n)と書いている。 13 3 準周期格子の電子輸送特性 3−1 エネルギースペクトルと波動関数 一般に一体のシュレディンガー方程式のエネルギースペクトルには (1)絶対連続スペクトル (2)点スペクトル (3)特異連続スペクトル の 3 種類がある。(1)は連続固有値を持った散乱状態に対応しスペクトル測度が、エネルギーEのなめら かな関数 n(E)(状態密度)を用いて、dμ=n(E)dE とかける。(2)は離散固有値を持った束縛状態に表れス ペクトル測度が可符番号のエネルギー点 {E i } 上でのデルタ関数で与えられる。最後に(3)は絶対連続の 場合のような状態密度は定義できず、エネルギーEより小さいエネルギーをもった状態の総数(積分状 態数)は到る処で微分不可能な単調増加関数である。 エネルギースペクトルに対応して波動関数ψ(r)はそれぞれ (1)全系にひろがったもの ∫ |r |<L (2)有限領域に局在したもの | ψ (r ) | 2 d r ~ Ld (dは空間の次元) ∫ |r |<L (3)(1),(2)に当てはまらないもの | ψ (r ) | 2 d r ~ L0 ∫ |r |<L | ψ (r ) | 2 d r ~ Lν (0<ν<d) の 3 つに分類できる。 (Lは系のサイズ)3 番目の場合は波動関数が中心から、距離のべきで与えられる ものなどがあり得る。これらを広がった波動と局在波動とのちょうど境界に位置するという意味で、臨 界的(critical)ということもある。 3−2 1次元準周期格子のエネルギースペクトルと波動関数 フィボナッチ列は実際の準結晶ではないが 2,3 次元準結晶の格子モデルが持っている長距離並進秩 序の特徴を備えているので、フィボナッチ格子を1次元準周期格子と呼ぶ。フィボナッチ格子上のタイ トバインディングモデルのシュレディンガ−方程式は t m +1ψ m+1 + t mψ m+1 = Eψ m で与えられる。ここで t m ( m = 1,2,.....) はフィボナッチ格子の L,S の並びにしたがって、 t A と t B の 2 つ の値のいずれかを取る。この方程式は厳密に解く事ができる[2]。フィボナッチ格子の波動関数を ψ j = M (t j +1 , t j )ψ j −1 ϕ j +1 E / t j +1 − t j / t j +1 , M (t j +1, t j ) = ψ j = ϕ 1 0 j 14 とかく。M (t j +1,t j ) は転送行列(Transfer Matrix)と呼ばれるものである。フボナッチ格子では Transfer Matrix が次の関係を持つ。 M ( n +1) = M ( n −1) M ( n ) ただし、初期条件として M (1) = M (t A , t A ) , M ( 2) = M (t A , t B ) M (t B , t A ) である。波動関数とエネルギースペクトルの結果を FIG.3-2-1,3-2-2 に示しその結果を以下にまとめる。 (1)フィボナッチ格子のスペクトルは t j の大きさによらず特異連続であり、スペクトルが乗っている エネルギー領域は広義のカントール集合である。 (2)フィボナッチ格子におけるコンダクタンスは非弾性散乱を無視しても無限大にならず、フェルミ エネルギー及び端子の位置に強く依存する。 FIG.3-2-1 フィボナッチ格子におけるエネルギースペクトル 15 FIG.3-2-2 フィボナッチ格子の積分状態密度 3−3 1次元準周期格子の輸送特性 コンダクタンスは透過と反射の係数の比で定義され、次の Landauer の式 G= e2 T = R T:透過係数、R:反射係数 で表される[5]。T と R を転送行列を用いて表すことにより、 1 e2 1 1 = Tr{M (n) + M (n)} − h G 4 2 を得る。また、特異連続のエネルギースペクトルになるためにコンダクタンスはシステムサイズLに対 してべき的依存性 G ~ L−b を示す。これは、アンダーソン局在 G ~ e −L ξ 0<b<1 d −2 やオームの法則 G ~ L ではなく波動関数が両者の中間 にある臨界的な性格であることの反映であると結論されている。 3−4 2次元準周期格子の計算モデル 2 次元完全準結晶のモデルであるペンローズ格子上のタイトバインディング模型は、1 次元の時と違 い厳密に解くことはできない。そのため数値的に詳しく調べられた[3,4]。原子を配置する場合にペン ローズ格子の菱形の中心に置き、互いに接した菱形間に一定の強さの飛び移りを仮定する方法(center model),または菱形の頂点に原子を置き稜で結ばれた頂点の間に一定の強さの飛び移りを仮定する方法 (vertex model)と 2 種類がある。このときの、シュレディンガ−方程式としては単純なタイトバイン ディング模型 H = − ∑ (ai+ a j + a +j ai ) <i , j > を用いる。 a i はiサイトにおける消滅演算子であり、最近接原子間だけに飛び移りがあると仮定する。 コンダクタンスは Landauer の式を使って求める。 数値シミュレーションによる2次元ペンローズタイリングの結果を列記すると以下のようになる。 16 (1) コンダクタンスはフェルミエネルギーの関数として大きな e 2 h のオーダーの揺らぎを示す (FIG3-4-1)。 FIG.3-4-1 周期ペンローズ格子単位セルに対するコンダクタンスのフェルミエネルギー依存性。N は サイト数、M は格子幅である。 (2) フェルミエネルギーを固定すると、コンダクタンスはシステムサイズ L に対して、べき的依存性 G ~ L−b を示す。(FIG.3-4-2) FIG.3-5-2 Low energy 領域でのコンダクタンスのサイズ依存性。(a)は線形、(b)は log-log plot。 (1)の結果から エネルギースペクトルは特異連続の部分を含むと考えられる。 17 ほとんどの波動関数が臨界的であるように思われる。 (2)の結果から d −2 通常の系でオームの法則が成り立つ場合には G ~ L G~e −L ξ (dは系の次元) 、アンダーソン局在の場合には となる事と比較して、2 次元準周期格子における波動関数が両者の中間にある臨界的な性格で あることの反映であると結論づけられる。 18 4 3 次元準周期格子の計算モデルと計算方法 4−1 計算のためのモデルと計算方法 2 種類の平行 6 面体で作られる orthorhombic な近似結晶を使って計算する。このとき原子をペンロ ーズ格子の菱形の中心に置き、互いに接した菱形間に一定の強さの飛び移りを仮定する方法(center model),または菱形の頂点に原子を置き稜で結ばれた頂点の間に一定の強さの飛び移りを仮定する方法 (vertex model)と 2 種類あるが、ここでは vertex model を採用する。シュレディンガ−方程式とし ては単純なタイト・バインディング模型 H = − ∑ (ai+ a j + a +j ai ) <i , j > を用いる。 a i はiサイトにおける消滅演算子であり、最近接原子間だけに飛び移りがあると仮定する。 電流が流れる方向の垂直平面x-yとするとx方向とy方向に周期境界条件を課す。そして、Landauer の式を使いコンダクタンスを計算する(Landauer の式は 4-2 で説明する)。コンダクタンスを計算するた めの方法として FIG.4-1-1 のようにする。これはまず、左半無限格子を用意してこれに近似結晶を接続 し、最後に左半無限格子を接続する。このようにして、コンダクタンスを計算することが出来る。 FIG.4-1-1 半無限格子とつなぎ合わせたペンローズタイリング 4−2 コンダクタンス計算のための Green 関数を使った式 コンダクタンスの計算のための Landauer の式 G= e2 T h R T:透過係数、R:反射係数 を説明する[6]。この式を得るために 1 次元チェーンとして下図を定義する。□で表した部分が資料領 域で、そこに入射(i,i’)、透過、反射のチャンネルが存在する。 19 資料の両端に電位差 δV がかかり電流が生じているとすると電流を作る電子数は δn = dn eδV dE と与えられる。また、左側と右側の電子密度の差は δn = δnleft − δnright である。フェルミ面のずれが電流 j に関係するので δ nleft = δ ni + δ nr evδ ni = ji evδ nr = jr v は電子の速度である。上式より左側の電子密度差は、 δ nleft = ji + jr ev 同様に、右側は δ nright = ∴δ n = = jo + ji' ev ji + jr jo + ji' − ev ev ji + jr − ( jo + ji' ) e∂E ∂Px = 2 R( ji − ji' ) e∂E ∂Px ここで j r = Rji + Tj i ' j o = Tj i + Rji ' の関係を用いた。電流は 20 I = ji − j r = j o − ji ' = ( ji − ji ' )T と表せることからコンダクタンスGは G= I T 2 dn ∂E e = δV 2 R dE ∂Px と与えられる。ここで dn 1 ∂Px = であることに注意すると dE π= ∂E G= e2 T 2π= R となり Landauer の式が得られる。 実際の計算では透過係数、反射係数を計算しなければならない。Fisher と Lee は絶対零度における Kubo 公式から出発し、Landauer の式で Green 関数を用いて計算する方法を定式化した[7]。Kubo 公 式によれば電気伝導gは e 2 = を単位として g= 2 L π dE dzJ ( z ) δ ( E + ω − E β )δ ( E − Eα ) ∑ αβ ωL2 ∫ αβ ∫0 Eα < E F < E β EF : フェルミエネルギー と計算される。ここでψ α ( r ) はハミルトニアンの固有状態αである。状態αとβの間のz方向における 電流の行列要素は [ r = ( ρ , z )] として ∂ψ β (r ) e ∂ψ α* (r ) ψ β (r ) − ψ α* (r ) J αβ ( z ) = ∫ d ρ 2im ∂z ∂z となる。Green 関数の散乱状態bと a の間の行列要素、 JG JJG JJG JG JJG JJG G JG Gba( ± ) ( z , z ') = A−1 ∫ d ρ ∫ d ρ 'exp(−iqb ⋅ ρ ) exp(iqa ⋅ ρ ') < r , σ b | G ( ± ) | r ', σ a > G ( ± ) = ( E ± H ) −1 を使うとコンダクタンスは g= − ~ ~ ~ ~ − e2 π ∂ ∂ (+) ( −) (+) (−) (+) ( −) ∂ ∂ (+) ( −) Tr G G G G G G G G [ ( − )( − ) + ( − ) ( − ) ∂z ' ∂z ∂z ∂z ' 4m 2 (2π ) 2 ~ ~ ~ ∂ ∂ ∂ ∂ ~ (G ( + ) − G ( − ) ) (G ( + ) − G ( − ) ) − (G ( + ) − G ( − ) ) (G ( + ) − G ( − ) ) ∂z ∂z ' ∂z ' ∂z と表される。ここで、トレースは channel index に渡ってとり、 21 G ( ± ) = Gba( ± ) ( z , z ') ~ G ( ± ) = Gba( ± ) ( z ', z ) である。さらに微分を差分にすると、 g = 4Tr[G I", I G I"+1, I +1 − (G I", I +1 ) 2 ] ・・・4-2-1 " となりこれを用いる。ここで、 G はGの虚数部を意味する。 G I , J は試料を電流の流れる方向に層に分 けた時の Green 関数の I 層目と J 層目の間の行列要素である。 4−3 Green 関数を iterative に計算する方法 コンダクタンスを計算するためには Green 関数あるいはハミルトニアンの逆行列を計算しなくては ならない。ところが、サイトの数が数千∼数万になってくると、計算機の能力としては逆行列の計算が 不可能である。そのために、計算機で解けるような工夫が必要になってくる。コンダクタンスgは 4-2-1 をみると試料を層状に分割した時に層内及び層間の Green 関数の行列要素が求められればよいことが わかる。そこで FIG.4-3-1 のようにペンローズ格子を層に切って Green 関数を iterative に計算する方 法を説明をする。 FIG.4-3-1 ペンローズタイリングを層に切りつなぎ合わせる。 N 層目にサイトの数が M 個あるとする時、最初に N 番目の層に一層付け加えて N+1 層の Green 関 数を作ることを考える。 22 A ε 1− H = 11 A21 ^ ^ A12 A22 0 A12 = ただし、 BN = A21+ ‥4-3-1 ^ εはエネルギー、H はハミルトニアン、 1 は単位行列であり、 A11 : ( NM × NM ) 行列 A12 : ( M × NM ) 行列 A22 : ( M × M ) 行列 B N : ( M × M ) 行列 −1 である。 A11 は N 層までの左半無限格子の Green 関数ですでに求められている。また A12 は隣り合っ た層間でしか飛び移りがないとしている。このとき 4-3-1 の逆行列すなわち、Green 関数を計算し N+1 層目の Green 関数 G 22 は G22 = ( A22 − A21 A11−1 A12 ) −1 となる。 N層からなる系の Green 関数 G11( N ) " G1(NN ) % # # (N ) GN( N1 ) " GNN は既に計算されているので、一層付け加えた全系の Green 関数を G11( N +1) # GN( N1 +1) ( N +1) GN +1,1 " G1(NN +1) % # ( N +1) " GNN " GN( N+1,+1)N G1,( NN ++1)1 # GN( N, N+1)+1 GN( N+1,+1)N +1 とかくと、 ^ ^ (N ) G N( N+1+,1N) +1 = (ε 1− H N +1 − B N+ G NN B N ) −1 ‥‥(a) が得られる。(a)式はN層目までの Green 関数が計算されていると一層付け加えた N+1 層の Green 関 数が得られる事を示している。そして、(a)式を繰り返し計算することで、層を次々と付け加えた Green 関数を構築することが出来る。 半無限格子の Green 関数は得られているとしたがその Green 関数をつくるための方法を次に説明す る。無限格子のハミルトニアンを 23 ^ A ^ ε 1− H = 11 A21 A12 A22 とすると、 G11 G21 G12 G22 : infinite の Green 関数 である。 隣り合った層間にしか飛び移りがないと仮定しているので A12 は 0 0 A12 = B 0 A12 :(NM×NM)行列 B:(M×M)行列 (N→∞) ⇒ ( A12 ) IM +i , JM + j = Bij =0 −1 11 、 となる。 A I=N-1 , J=0 otherwise −1 22 は A A11−1 :左半無限の Green 関数 A22−1 :右半無限の Green 関数 と定義する。 このようにすると、半無限格子の Green 関数は A11−1 A12 G22 = −G12 ( A11−1 A12 G22 ) IM +i , JM + j = ∑ ( A11−1 ) IM +i , KM + k ( A12 ) KM + k , LM +l (G22 ) LM +l , JM + j 4-3-2 K ,k L ,l ここで、 ( A12 ) KM + k , LM +l =0 = Bkl K=N=1,L=0 otherwise となるので 4-3-2 式は、 = ∑ ( A11−1 ) IM + i ,( N −1) M + k Bkl (G22 ) l , JM + j k ,l = (G12 ) IM + i , JM + j となる。I,j,k,l を sufix とする M×M 行列の積と見れば、 24 ( 0 , N −1) −1 −1 ( A11−1 ) IM + i ,( N −1) M + j = −G12( I , N −1) [G22 ] B ^ …4-3-3 ^ 左半無限格子と右半無限格子が1対1で接合されるので B = 1 とすることができて 4-3-3 は (4-3-3)= − G12 (I ,J ) ( 0 , J ) −1 [G22 ] となる。 I=N-1 の時は、 ( 0 , N −1) −1 G S = ( A11−1 ) ( N −1) M +i ,( N −1) M + j = −G12( N −1, N −1) [G22 ] ‥‥(b) G S :semi-infinite(left)の surface layer となり半無限格子の Green 関数(b)が得られる。 最後に積層して出来た試料に右半無限格子を接続し無限系の Green 関数を計算することついて述べ る。N層積層した系に、一層付け加えさらにその先に右半無限のリード線をつなげた系を考える。ここ −1 でN層の系の Green 関数 A11−1 は既に計算されたものであり、また右半無限系の Green 関数 A33 も既知で ある。 前の計算と同様に、無限系のハミルトニアンを A11 ε 1− H = A21 0 ^ ^ 0 A23 A33 A12 A22 A32 とする。飛び移りが隣り合う層間にしかないのも同様であるので 0 A12 = BN A23 = (B' 0) 、 ^ B' = 1 −1 となる。被疑半無限系の Green 関数 A33 を G A = 'S+ GS −1 33 G S' G S" G S :surface layer の Green 関数 とすると G32 は G32 = − A33−1 A32 G22 25 G S' B '+ G22 G S" 0 G = − 'S+ GS G B '+ G = − 'S+ '+ 22 G S B G22 と計算される。さらに、一層付け加えた Green 関数 G22 は、 A22 G22 = 1 − A21G12 − A23G32 G S B '+ G22 = 1 + A21 A A12 G22 + (B' 0) ' + '+ G S B G22 −1 11 = 1 + A21 A11−1 A12 G22 + B' G S B '+ G22 G22 = ( A22 − A 21 A11−1 A12 − B' G S B '+ ) −1 A11−1 = (NM ) 2 subspace ^ ^ (N ) ⇒ G22 = (ε 1− H N +1 − B N+ G NN B N − GS ) −1 ‥‥(c) = [(G N( N+1+,1N) +1 ) −1 − G S ] −1 と計算される。全系の Green 関数 G33 は G33 = A33−1 (1 − A32 G23 ) B '+ G22 B' G S = A33−1[1 + 0 ( B '+ G22 B' GS = A 1 + 0 −1 33 G = A33−1 'S+ GS ) G22 B' G S' ] B ' + G22 B' G S' 0 GS' G S B '+ G22 B' GS + GS" GS'+ B '+ G22 B' G S G S B '+ G22 B' GS' GS'+ B '+ G22 B' G S' となり、surface layer 成分 GS を使って G33 は G33 = G S + GS G22 G S = [G S−1 − G N( N+1+,1N) +1 ] −1 ‥‥(d) G32 = −GS G22 26 −1 となる。右半無限格子 A33 は E − HS + −1 A33 = B' 0 と表せわられるので surface B' 0 A'33 −1 layer GS は G S−1 = E − H S − (B' 0) A33'−1 (B ' 0) G = E − H S − (B' 0) 'S+ GS + G S' ( B ' 0 ) + " GS = E − H S − B' G S B '+ を得る。 ^ ^ ここで、 ( B ' = 1) とすると = E − H S − GS となる。 G22 , G33 , G32 は 4-2-1 式のそれぞれ、 GI , I , GI +1, I +1 , GI , I +1 である。以上の計算から式(a),(b),(c),(d)が得 られ実際にコンダクタンスを計算することが出来る。初期値としては(a)で半無限格子の Green 関数だ けである。 27 5 数値シミュレーションによる3次元ペンローズ格子の計算結果 5−1 コンダクタンスのフェルミエネルギー依存性 FIG.5-1-1 は長さは一定で異なる幅(断面)のサンプルに対してフェルミエネルギーの関数としたもの である。図の N は最初の一層に入る格子数である。N、有理数近似(m、n)、長さの関係を FIG.5-2-2 に示す。このとき、原子間距離の長さを1としている。 energy dependence 70 N=11 N=26 N=52 N=113 60 50 energy dependence 0.5 N=11 N=26 N=52 N=113 0.4 0.3 40 30 0.2 20 0.1 10 0 (a) FIG.5-1-1 0 1 2 3 FERMI ENERGY 0 4 0 1 2 3 4 FERMI ENERGY E (b) (b)はコンダクタンスをサンプル幅で割ってあり見やすいように 0.1 ずらしている。(a)はも との値の図。 (m,n) 一層の原子数 N 層数 (1,1) 11 5 (2,1) 26 7 (3,2) 52 11 (5,3) 113 17 (8,5) 298 27 FIG.5-1-2 システムの電流方向の長さは 18.86。単位として原子間距離の長さを1としている。また一 層に入る原子数は層によって違うので最初の一層に入る原子数を一層の原子数と定義している。 28 FIG.5-1-1(b)図は(a)でコンダクタンスを断面積で割ってプロットしている。単位断面積でのコンダ クタンスのフェルミエネルギー依存性を知るためである。しかし断面積で割るとコンダクタンスの値は 同じ値のところに落ち込む。そのため(b)図では見やすいように 0.1 ずつずらしている。同じ値のとこ ろに落ち込むという事はコンダクタンスが断面積に比例している結果である。 5−2 コンダクタンスのシステムサイズ依存性 FIG.5-2-1 はサンプル幅を固定し長さを変えてコンダクタンスのサイズ依存性を計算したものである。 コンダクタンスはフェルミエネルギーの関数として揺らいでいるのでエネルギー1.0、1.1 での値をとり その差を誤差としてプロットしている。FIG.5-2-1(b)の log-log plot をみると、べき的依存性 G ~ L−0.78 を示している。(a)をみれば指数関数的でないのは明らかである。 (b) (a) FIG.5-2-1 エネルギーの値を 1.1、 1.0 でとり値の差を誤差としている。(a)は liner-log plot、(b)は log-log plot である。 一層の原子数 断面の大きさ 52 (3,2)×(3,2) 298 (8,5)×(8,5) 最大の層数は 755。 29 6.Discussion FIG.6-1 は今回の計算と同様に断面が 3×3 の単純正方格子のコンダクタンスを計算した結果である。 x,y 方向には周期境界条件がついているので固有値は離散的になる。原子が 9 個なのでエネルギー固有 値は 9 個(E=-4 に 1 個、E=−1 に 4 個、E=2 に 4 個)ある。この時、エネルギーは ε = ε 3×3 − 2 cos kZ ε 3×3 :3×3 正方格子のエネルギー固有値 になる。よって、固有値を中心に ±2 でエネルギースペクトルが張り付く。一つのエネルギースペクトル に一つのチャンネルが開き電流が e / = を単位として 1 流れる。例えば、E=3 のところをみればエネル 2 ギースペクトルが 4 個張り付いているのでチャンネルが 4 開き電流は 4 流れる。 3×3正方格子 10 energy spectrum 8 6 4 2 0 -8 -6 -4 -2 0 2 4 FERMI ENERGY FIG.6-1 6 8 3×3 正方無限格子のコンダクタンス ここで、フェルミエネルギー依存性 FIG.5‐1‐1 図にもどる。図は異なる断面の大きさによるコンダ クタンスの揺らぎの変化を示した。これは一次元的な準周期格子からから 3 次元の準周期格子への変化 を示す。図からフェルミエネルギーの関数として断面が大きくなるにつれて大きな揺らぎが見えなくな る。FIG.6-1 で今は 3×3 の単純立方格子での計算であるが原子数を増やしていけば固有値が密になり コンダクタンスは滑らかになるであろう。よって、 一次元増えたことによって FIG.5‐1‐1 図は FIG.6-1 のようにエネルギースペクトルが張り付いてチャンネルの数が増えコンダクタンスのフェルミエネル ギー依存性に揺らぎが見えなくなる。 状態密度については Zijlstra と Janssen や Fujiwara が [8,9]で調べていて2次元のときよりも滑 らかになるという結果を得ている(FIG.6-1-2)。 30 FIG.6-1-2 (8,5)における状態密度 次にシステムサイズ依存性についてみてみる。FIG.5‐2‐1 は E=1.1、1.0 の差を誤差としている。 この図よりべき的依存性 G ~ L−0.78 を示す。電気伝導率 σ 、断面積 A、システムの長さ L とすればコンダクタンスはオームの法則が成り立 つ場合、今断面積が一定であるので、 g =σ A ∝ σ L−1 L となる。FIG.5-1-1 でコンダクタンスは断面積に比例しているがオームの法則が成り立つ場合にはなっ ていない。よって、電気伝導率 σ に異常性がある。また FIG.5-2-1(a)より明らかに指数関数的依存性す なわちアンダーソン局在の場合 G ~ e −L ξ でもない。これは、3 次元準周期格子における波動関数が両臨 界的な反映であると結論づけられる。 31 7 conclusion 今回の計算結果より次の 2 点がわかった。 (1) フェルミエネルギーの関数として大きな揺らぎがみえなくなる。 −0.78 (2) システムサイズに対してべき的依存性 G ~ L を示している まだ、試料の大きさが不十分なのでもっと大きな系で計算しなければならない事がこれからの課題であ る。 32 Acknowledgement 準周期系の物性というテーマの研究するきっかけを与えて下さった石井靖教授には深く感謝の言葉 を申し上げます。また先生には 2 年間にわたり物性物理全般に対して多くのことを教えていただきまし た。石井研究室の岸伸幸氏、尾塩健二氏、杉原哲朗氏といろいろ議論できたことはこの論文を書くにあ たり大変有意義で感謝しています。修士論文の作成にあたり多くの方々に御協力、御指導を賜り心から 感謝の言葉を申し上げます。 33 REFERENCES [1] D. Shechtman, I. Blech, D. Gratias, and J. W. Cahn, Phys. Rev. Lett. 53, 1951 (1984) [2] M. Kohmoto, Phys. Rev. B 34, 5043 (1986) [3] H. Tsunetsugu, T. Fujiwara, K. Ueda, and T. Tokihiro, Phys. Rev. B 43, 8879 (1991) [4] H. Tsunetsugu and K. Ueda, Phys. Rev. B 43, 8892 (1991) [5] R. Landauer, Phil. Mag. 21, 863 (1970) [6] P. W. Anderson, D. J. Thouless, E. Abraham, and D. S. Fisher, Phys. Rev. B 22, 3519 (1980) [7]P. A. Lee and D. S. Fisher, Phys. Rev. Lett. 47, 882 (1981) [8] M. Krajci and T. Fujiwara, Phys. Rev. B 38, 12903 (1988) [9] E. S. Zijlstra and T. Janssen, Mater. Eng. Sci. A, 294-296 886, (2000) , E.S.Zijlstra, thesis (Univ. Nijmegen, 2000). [10] Y. Ishii, Proc. Of China–Japan Seminars on Quasicrystals, edited by K. H. Kuo and T. Ninomiya (World Scientific, 1991), P.196 [11] P. W.Anderson, D. J. Thouless, E. Abraham, D. S. Fisher, Phys. Rev. B22, 3519 (1980) 34