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国家分配論 - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部

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国家分配論 - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部
経 済 論 叢(京
都 大学)第]69巻
第5・6号,2002年5・6月
「国 家 分配 論 」 か ら 「公 共 財政 論 」 へ
一
改革 ・開放後中国財政支 出の構造変化一
は
改 革 ・開 放 後 の 中 国 は,市
じ
め
茜且
一
孫
に
場 経 済 化 が 進 む と と も に,社
会 経 済各 分 野 で 構 造
転 換 が 余 儀 な く迫 ら れ て い る 。 社 会 経 済 の 諸 分 野 で の 構 造 転 換 は,社
会主義計
画 経 済 か ら 社 会 主 義 市 場 経 済 へ の 経 済 体 制 の 移 行 に伴 う も の で あ る 。 本 稿 で は
体 制 移 行 期 に あ る 中 国 σ)こ う し た 構 造 転 換 の 実 像 を 国 家 財 政 の 局 面 か ら と ら え
よ う と試 み る もの で あ る 。 国 家 財 政 は,従
り,ま
た,そ
ど ま らず,政
来 の 計 画 経 済 の 王要 な構 成 要 素 で あ
の 本 質 を 一 番 良 く 反 映 し て い た 。 そ の た め,国
家 財 政 の構 造 に と
府 間 財 政 関 係 、 財 政 政 策 の 機 能 な ど 体 制 移 行 に伴 っ た 顕 著 な 変 化
を 示 し て い る 。 こ の よ う な 現 実 を 反 映 し て,特
に90年 代 後 半 以 降,中
国 の財 政
理 論 学 界 で は 祉 会 主 義 市 場 経 済 下 に お け る 財 政 の 機 能 を め ぐ り,活 発 な 論 争 が
な さ れ て き た",,議 論 の 中 心 は,社
のr公
会 主 義 的 な 「国 家 分 配 論 」 と 市 場 経 済 中 心
共 財 政 論 」 を め ぐ る も の で,r公
共 財 政 論 」 へ の 全 面 転 換 を主 張 す る学
派 と,「 国 家 分 配 論 」・
と 「公 共 財 政 論 」 の 融 合 を 主 張 す る 学 派 の 間 で 行 わ れ て
い る 。 こ こ で 言 う 「国 家 分 配 論 」 は,財
定 義 す る も の で,計
財 政 論 」 は,市
政 を 「国 家 を 主 体 と し た 配 分 」 と して
画 経 済 時 代 に 主 流 で あ っ た 財 政 理 論 で あ る 。 … 方,「 公 共
場 経 済 諸 国 で い う 「publicfinance」
を 「公 共 財 政 」 と訳 し,
近 代 経 済 学 を 基 礎 と す る 「公 共 財 」 理 論 を 中 心 に 構 成 さ れ る 。
1〉 『
財政研究』 中国財 政部 ・財政科学研究所発行,1997年11月 号,1998年4月 号,5月 号.8月
号,1999年1月 号,9月 号,ll)月 号,11月 号,12月 号,2000年1月 号.2月 丹,『中国財経信息
資料』1999年1号,5号,9号,10号
などの掲載論文を参照,、
「
国家分配論」から 「公共財政論」へ(465)95
本 稿 は こ う した学 界 の 論 争 と財 政 統 計 を手 懸 か りに,「 国 家 分 配 論 」 と 「公
共 財 政論 」 を比較 しな が ら,財 政 支 出構 造 に見 られ る変 化,改 革 の 理 念 と現 実
の 乖 離 を中心 に,市 場 経 済 移 行 期 の 中国 にお け る政 府 機 能 転 換 の 特 殊 性 と方 向
性 を検 討 す る 。
1「 国 家 分 配論 」 と は
1「 国家 分配論」誕生の背景
1949年 新 中 国成 立 直 後 よ り,中 央 政府 は全 国の 財 政 経 済 活 動 の 統 一 的 管 理 を
図 っ た。 短 期 間で 全 国 の 財 政 収 支,物 資 の調 達,現 金 の 管 理 を統 一 した うえ,
社 会 主義 的 国営 経 済 の 指 導権 を確 立 した。1950年 代 半 ば,資 本 主 義 工 商 業,個
人経 営 農 業,個
人経 営 の 手 工 業 と零 細 商業 な どの 祉 会 主 義 改 造 を達 成 し,中 国
の所 有制 構 造 は全 民 所 有 制 と集 団所 有 制 とい う単 一 的 な公 有 制構 造 にな った 。
マ ル クス ・レー ニ ン主 義 的 国 家 論 の 中 で,階 級 対 立 を な く した 時 点 で 国 家 が
「死 滅 」 す る と され た が,現 実 で は む しろ,旧 ソ連,中 国 な どの 社会 主 義 国 に
お い て は,国 家 に よ る生 産 手段 の完 全 な掌 握 に基 づ く経 済 の 国 家 主 義 的 管 理 の
体 制 が確 立 され た と同 時 に,党 の 国家 化,一 党 独 裁 の 政 治 シス テ ム も作 り上 げ
た こ とで,「 最 大 限 に 強 化 され た 国 家 」2)が
現 れ た。 国 家 政 権 を維 持 し,経 済建
設 を行 う ため に1よ 大量 の資 金 が 必要 とな る。 資 本 主 義 国 で は 国 家 の財 政 収入
は,主 に個 人 や 企 業 法 人 に課 され る租 税 収 入 で 賄 って い る 。 一方,社
会主 義 国
で は,本 来 原 則 と して 租 税 は存 在 しな い 。 そ れ は,「 社 会 主 義 社 会 で は,生 産
手 段 は原則 と して 公有 で あ り,国 家 が この 生 産 手段 を使 っ て事 業 を営 む 。 従 っ
て年 々の社 会隼 産物 は一 応 国家 の もの とな る。 しか し個 人 も財が な け れ ば生 活
で き ない か ら,国 家 は 自分 に とっ て必 要 な分 を手 許 に の こ して お い て,他 の部
分 を俸給 そ の 他 の形 で 人民 に配 分 す る。 別 の 語 で い う と社 会 主義 の財 政 形 態 は
官 業 収 入経 済 で あ る」3iからだ と され てい た 。 つ ま り生 産 手段 は 公有 な い し共 有
2)渓
内謙 『
現 代 社 会 主 義 を考 え る:ロ
3)井
藤 半弥 『
租 税 論 一 社 会† 義 租 税 と資 本 主 義 租 税一 』 千 倉 書 房 、呂3ペ ー ジ.
シア 革 命 か ら21世 紀 へ 』 岩 波 書 店,1988年
・88べ 一 ジ。
86(466)第169巻
と な っ て お り,社
第5・6号
会 生 産 物 は 一 応 国 家 の 所 有 と な る の で,社
国 家 」 で あ る 。 国 家 経 費 の 財 源 の 中 心 は,国
が で き る の で,人
営 企 業 か らの 利 潤 上納 で賄 う こ と
民 か ら 税 を徴 収 す る 必 要 は な い 。 従 来 か ら 中 国 で 税 と い う 名
目 で 徴 収 が 行 わ れ て き た 主 な イ)のは 取 引 税,工
り,そ
商 所 得 税 な ど間接 税 が 中 心 で あ
の 納 税 義 務 者 は 私 人 で は な く官 業 で あ る の で,実
へ の 納 付 金 で あ る と理 解 で き る4)、,この よ う に,単
と,国
営 企 業 か ら の 納 付 金 と 利 潤 上 納 が,国
つ ま り,社
会 主 義 国 は 「有 産
質 は 官 業 か ら財 務 当 局
一 的な公有制経済構造 の も
家 財 政 の 主 要 な収 入 源 とな っ た 。
会 主 義 財 政 に 共 通 す る 特 徴 は.「 国 民 経 済 の 金 融,社
等 の 国 家 活 動 に 要 す る 経 費 が,社
会 ・文 化 政 策
会 化 部 門 の収 入 に よ っ て 支 弁 さ れ る 財 政 形
態 」5:1で
あ っ た。
社 会 主 義 公 有 制 の も と,政
を持 つ こ と か ら,政
府 は政 権 主 体 と 国 営 企 業 経 営 者 と い う 二 重 の 身 分
府 活 動 は 国 民 経 済 の 全 般 を 網 羅 す る よ う に な っ た 。 勿 論,
政 府 活 動 の 経 済 的 指 標 で あ る 国 家 財 政 も 国 営 企 業,人
含 む き わ め て 広 い 範 疇 を も つ 。 当 時,こ
位[生を 位 置 付 け る た め に,社
民 公社 の 財 務 管理 な どを
の よ う な社 会 主 義 国 家 の 政府 活動 の優
会 主 義 財 政 を 如 何 に 資 本 主 義 財 政 と 区 別 し,ど
よ う な 内 容 を もつ べ き か に つ い て の 議 論 が,中
の
国 の 財 政 理 論 学界 で盛 ん に行 わ
れ た,,当 時 は 』 ソ連 の 財 政 理 論(「 貨 幣 関 係 論 」6))か ら多 大 な 影 響 を 受 け,「 国
家 分 配 論 」,「社 会 資 本 運 動 論 」,「共 同 需 要 論 」,「余 剰 生 産 物 分 配 論 」 な ど 多 く
の 学 説 が 出 さ れ た 。1964年
大 連 市 で 第 一 次 全 国 財 政 理 論 討 論 会 が 開 催 さ れ,
「
社 会主 義 財 政 の本 質 は プ ロ レ タ リア専 制 国家 が その 国 家 機 能 を実現 す る た め
に,社
会 総 生 産 と 国 民 所 得 を分 配 す る こ とで 形 成 さ れ た 分 配 関 係 で あ る 」71とい
う 「国 家 分 配 論 」 が
「列 席 者 の 大 多 数 」 の 支 持 を 受 け て,そ
の 後 の 中 国社 会 主
4)同 上書,11ペ ージ。
5)佐 藤博 「
社会主義財政論」(島恭彦 ・林栄夫編 『
現代 資本 主義と財政 財政学講座第4巻』 有斐
閣,1965年)170べ 一 ジ。
6)「 貨幣関係論 」では,「財政は生産の不断の増加,国 民の物質的 ・文化的水準の向上,社 会主義
国の 強化 を保証す るため国民経済の貨幣資金 を計画的 に形成 し利用す る経 済的諸関係である」 と
考 える.同 上書,167ペ ージ参照、
7)買 康 「関干財政本質学説的歴史回顧(下)」 『
財政研究資料1財 政部財政科学研究所,1998年5
期,9ペ
ージ、
「国家分配論」か ら 「
公共財政論」へ
(467)87
義 財 政 理 論 の 主 流 と な っ た,、
2「 国家分配論」の内容
「国家 分 配 論 」 の 中 心 的 な 内容 は次 の 四点 で あ る8)。(1)国家 主体 一 財 政分 配
の 主 体 は 国 家 政 権 も し くは政 府 で あ る 。(2)分 配 関 係一 財 政 は 一 種 の 分 配 関 係
で あ る 。(3)国 家 機 能 一 財 政 分 配 は 国 家 政 権 が そ の 機 能 を果 た す た め の もの で
あ る。(4)階 級 属性 一 財 政 は統 治 階 級 の 利益 を満 たす た めの 国 家 機 能 を果 た し,
階級 属性 を有 す る,、
第1図
「社 会 的 総 資 本 分 配 図 」 は 「国家 分 配 論 」 の 要 点 を示 した もの で あ る 。
国 家財 政 は拡 大 再 生 産 の 重 要 な一環 を担 っ て い る。 つ ま り,財 政 部 門 は,各 国
営 企業,集
団所 有 制 企 業 の 作 り出 した剰 余価 値 を国 民 経 済 計 画 に よ って 集 中 し,
そ れ を各 部 門 の基 本 建 設投 資 と 国 防,行 政,文 化 ・教 育 ・衛 生,科 学 研 究 な ど
の財 政支 出 に 当 て る。 国 家 財 政 は 計 画 的 に各 政府 部 門 と国 営 企 業 に再 分 配 す る
こ とに よ っ て,拡 大 再 生 産 をす る た め の 消 費 基金,累 積 基 金 を形 成 す る役 割 を
果 たす 。1950年 か ら1979年 まで の 間 の 財 政 収 入 の84.1%は
れ た 。財 政 支 出 の57,6%が
国 営 経 済 か ら集 め ら
全 国 の 基 本 建 設投 資 に投 入 さ れ た。
「国 家 分 配 論 」 の下,「 統 一 収 入,統 一 支 出」 の方 法 が と ら れ,す べ て の 財
政 収 入 は,中 央 が計 画 的 に地 方 に交 付 す る 部 分 以外,愉す べ て を上 納 す る こ と に
なっ て い た 。拡 大 再 生 産 の た めの 投 資 や 各 種 の事 業 費 はす べ て,中 央 が 集 中管
理 し,各 主 管 部 門 に 配分 した う え,こ れ ら各 部 門が 項 目を指 定 し,そ れぞ れ各
地 区,各 企 業,各 事 業 体 に交 付 す る システ ム だ っ た 。 地方,企 業,事 業 体 は予
算 を科 目別 に使 用 し,流 用 は許 さ れず,企 業 は利 潤 を残 らず 上 納 す る だ け で な
く,減 価償 却 費 も大 部 分 を上 納 し,上 級 が 統 一 的 に支 配 す る こ とに な っ て い た、
、
「国 家 分 配 論 」 は 財 政 の 本 質 を 「国 家 が 主 体 と な っ て 行 う社 会 総 生 産 の 分
配jと 定 義 して い る 。社 会 主 義 計 画 経 済 の 下,生 産 を行 うた め の生 産 手 段,生
産 要 素 な どの 資 源 配 分 は,国 家 の統 一 的計 画 に よ って 決 定 され る 。計 画 経 済 シ
8)項 懐誠編 『
中国財政50年』中国財政経済出版社,1999年,489べ一ジ.
娼期 邉串
媚
痢
樫
藤
硝
柵
馴
渓
製
遡
酬
株
馴
翼
姐
掴
娼 齢 賃 葦
襲
遡
娼
曝
漢
く
軍
坦遡姻縣
遡姻
測選
吟
覗似椥霧愈鐸擬圃
臼
無寂棋 隷剰
曝蚤猟絆誌
抵
︾
襯 寧娼
ヨ楓皿晋叫竃 拝葱
立}剛
如報劇
銀劇悟
曝 盤圃
鰍騨創轡に
鵬輿緊
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娼制曜繍輩 ︻籠遡 矧拙
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第5・6号
第169巻
88(468)
「国家分配論」から 「
公共財政論」へ(469〉89
ス テ ムの 下 で は,国 家 の 中 央官 庁 が生 産 を管 理 す る ほか,全 人民 に つ い て労 働
の 配 置 ・指 揮,賃 金 率,消
費 の 数 量 ・種 類,消 費 財 の 価 格 に 関 す る 一 切 を決 定
す る 。生 産 手 段 につ い て は計 画 的 に調 達 し,口 用 工 業 品,農 産 物 につ い て は 固
定 価格 の 下 で 統 一 買 付 ・一 手 販 売 の 方 法 が と られ た。 この よ うに,政 府 が 主体
とな っ て,国 民 経 済 全 体 を直接 的,間 接 的 に コ ン トロ ール す る 計 画 経 済 シス テ
ム の 下 で,「 国 家 分 配 論」 は形 成 さ れ財 政 学 の 主 流 とな った、
、 「国 家 分 配論 」 は,
計 画経 済下 の剰 余 価 値 の 分 配 シス テ ム と して の財 政 を説 明 す る財 政 理 論 で あ っ
た。
3「 国家分配論」 における財政機能
「国 家 分 配 論 」 に お い て は,財 政 の 機 能 は,「 資 金 調 達 」,「資 金 供 給 」.「財
政 調 節 」,「財 政 監督 」 の 四機 能 に整 理 され て い た91,,第1図 で も示 した よ うに,
「資 金 調 達」 と 「資金 供 給 」 は 「国 家 分 配論 」 の特 徴 を端 的 に表 わ す 二 つ の 側
面 で あ る 。計 画 シス テ ム の も とで,大 部 分 の 生 産基 金,一 部 の固 定 資 産 減 価 償
却 基 金 と消 費 基 金 は国 家 の 財 政 ル ー トを通 じて 配 分 され て い る。 「財 政 調 節 」
機 能 と は.財 政 は 資 金 集 め,資 金供 給 の 過 程 にお い て調 節,管 理 を行 い,国 家
経 済 全 般 の 資 金 運 用 の総 合 均 衡 を促 進 す る こ とで あ る。 これ は社 会 主 義 計 画 経
済 シス テ ム に 特 有 な 財 政 機 能 と言 え る。1957年,当
時 中国の財 政部長 陳雲 に
よっ て提 起 され た 「三 平 」(三 つ の 平 衡)理 論 の 中で,こ
の財 政機 能 は さ ら に
強 調 され た 。 「三 平 」 とは,財 政 収 支,信 貸 収 支,物 資 供 給 そ れ ぞ れ の 収 支 均
衡 と三 者 の 間 の 総 合均 衡 を指す 。 「財 政 収 支 」 は 「量 入為 出」(収 入 を量 っ て支
出 を 制 す る)の 原 則 を 守 り,財 政 赤 字 を 出 さな い こ とで 均 衡 を維 持 す る。
(1959年 か ら1980年 まで 国 債 の 発 行 も完 全 に廃 止 され て い た 。)一 方,「 信 貸 」
とは財 政 と対 に な る概 念 で,預 金 ・
貸 付 額 の ほ か,現 金 流 通 量 ・金 準 備 な ど,
金 融 的 な資 産 の 賦 存 や 動 態 を総 合 的 に 包括 す る意 味 で 使 わ れ て い る。 当 時 の 信
貸 シ ス テ ム は端 的 に言 えば,信 貸 差 額 二 貸付 一 貯蓄=現 金 発 行 と理解 す る こ と
9)邸 志宏 ・謝賢星編 『
中国社会主義i財
政学』江西人民出版社,1983乍.25-27ページ。
90(470)第169巻
第5・6号
が で きる。 銀 行 の 貸 付 資 金(主
に国営 企 業 の流 動 資 金)は,主
に財 政 資金 の貯
蓄,民 間 の貯 蓄 と財 政 か らの 信 貸 基 金支 出 で賄 わ れ て いた 。 その 中 で,当 時 の
「低 賃 金」 とい う賃 金 統 制 の もとで,民 間 貯 蓄 の規 模 は小 さ く,銀 行 資 金 の 大
部 分 は財 政 資 金 に依 存 し てい た、
、つ ま り当 時 中 国 の財 政 と金 融 は 「一 体 化 」 し
た もの で あ り,財 政均 衡 と信 貸 均 衡 は相 互 依存 関 係 に あ る と言 え よ う。 物 資 均
衡 で い う物 資 とは 主 に鋼 材,木 材,セ
メ ン トの 三大 建築 材 料 を指 し,物 資 均 衡
は,つ ま り基 本 建 設投 資資 金 と建 設 資 材 の 均 衡 を図 る こ とで あ る。 計 画 経 済 シ
ス テ ム の もと,基 本 建 設 支 出 は財 政 支 出の40%前
後 を占 め,向 家予 算 内投 資 は
社会 総 投 資 の90%以 上 を 占め て い た こ とか ら,財 政 収 支 と物 資 供給 は密 接 な 関
係 に あ っ た。 この よ う に,財 政均 衡 は計 画 経 済 下 の 国 民 経 済 の 総合 均 衡 と大 き
く関 わ っ て い た。 そ して,社 会 主義 財 政 は信 貸,物 資 だ けで は な く,各 部 門,
各企業 ・
事 業 単位 の 財 務 運 営 に も深 く関 わ っ て い る。 利 潤,税 金 は十 分 に上 納
した か ど うか,財 政 資 金 は有 効 に使 用 され て い る か ど うか の チ ェ ックが,財 政
機 能 を よ り確 実 に す る た め に 行 われ,そ の チ ェ ッ ク過 程 に よっ て,財 政 は国 民
経 済 全 般 の 運 営 に対 して 監督 機 能 を もつ 。
財 政 は分 配 過 程 の重 要 な一 環 を担 って い る。 国 家 が賃 金,価 格,「 信 貸 」,財
政 な どの 手 段 を用 い て 国 民所 得 の分 配 と再 分 配 を行 うな か で,財 政 は主 導 的 な
地位 に あ る と され た 。
以 上 で わか る よ う に,市 場 経 済 国 の財 政 はあ くまで も市場 を補 完 す る もの で
あ るの に対 して,計 画 経 済 国 の 財政 は計 画 を実 行 す る手段 で あ り,社 会 主義 再
生 産 の重 要 な一 翼 を担 い,国 営 企業 財 務 を含 む国 民 経 済 全 般 と深 く関 わ って い
た。 計画 経 済 国 の財 政 は計 画 経 済 シ ステ ム そ の もの で あ る とい える 。
皿
「国 家分 配 論 」 の 限界 と 「
公共財政論」への転換
「公 共財 政論 」 は先 進 資 本 主 義 国 で 広 く展 開 され て い る財 政 理 論 で あ り,市
場 経 済 へ の 移 行 期 にあ た る 中 国 の財 政 分析 に多 くの示 唆 を与 え て い る,、市 場 経
済下 の 「公 共 財 政 論 」 は,近 代 経 済 学 を基 礎 とす る租税 論 や 公共 財 の理 論 を展
「国家分配論」から 「
公共財政論」へ(471)91
開 し,政 府 の 財 政 活 動 の 経 済 分析 を行 う もの であ る。
現代 資 本 主 義 国 財 政 は,租 税 を基 盤 と して お り,「資 源配 分 」,「所 得 再 分 配 」,
「
経 済安 定 」 とい う三 つ の 機 能 を もつ と整 理 されて い る。 資 本 主 義 国 で は,政
府 の 経 済活 動 は あ くま で も民 間 の 経 済 活動 を補 完 す る もの にす ぎな い 。 民 間 部
門 は,市 場 に お い て 自 由 な経 済 活 動 を行 う。 しか し,非 排 除 性,非 競 合 性 を持
つ 公 共 財 の提 供 な どは市 場 に任 せ る と,全
く供給 さ れ な いか 過 少 に しか 供 給 さ
れ な い の で,資 源 配分 上 の非 効 率 な状 態 が 生 じる。 そ の ほか に も市 場 メ カニ ズ
ム が 完 全 に機 能 しな い時 は,政 府 の積 極 的 な経 済 介入 活 動 が 必 要 とされ る。 こ
の よう な公 共部 門 の 機 能 は 「資 源 配 分 上 の 機 能 」 と され て い る。 「資 源 配 分 上
の 機 能」 と並 ん で,公 共 部 門の 役 割 と して 重 要 な 機 能 が,「 所 得 再 分 配 機 能 」
で あ る。 人 々の 経 済 状 態 は,そ の 初期 の資 産 保 有 状 態 に依存 す る部 分 が 大 きい
ので,い か に市 場 メ カニ ズ ム が完 全 で あ っ た と して も,結 果 と して,人 々 の 間
で の不 平 等 な状 態 は避 け られ な い 。 政府 が,所 得 や 資 産 な どの 初期 経 済状 態 に
恵 まれ た 人か ら所 得 の 一 部 を取 り上 げ,そ れ を何 らか の 形 で 所 得 や 資 産 の 恵 ま
れ な い 人 に再 分 配 す る こ とで,「 所 得 再分 配 」 の機 能 を果 た す,,公 共 部 門 の 三
つ 目の機 能 は 「経 済 安 定 機 能 」 で あ る 。 これ は経 済不 況,失 業 の 増 大,イ
ンフ
レー シ ョンの進 行 な どの時 に,財 政,金 融 手段 を用 い て,市 場 の 調 整 メ カ ニズ
ム を円 滑 に し,マ クロ 的 な経 済 全 体 の 不 安 定 性 を 回避 す る た め に政 府 が 果 たす
役 割 で あ る 、,つま り,財 政 の役 割 とは,資 本 主義 市 場 経 済 の 「市 場 の失 敗 」 を
補 い,経 済 の 安定 化 を図 る もの で あ る。
一 方 ,中 国 の場 合,社 会 主義 計 画 経 済 が 実 施 され て い た 頃,市 場 は極 め て 限
定 的 だ っ たの で,理 論 上 「市 場 の失 敗 」 は存 在 しなか った 。 計 画経 済 シ ス テ ム
の下 で は,巾 央 の 政 府 部 門 が計 画 を策 定 し,タ テ 割 り従 属 の 形 で各 地方 政府,
各 企 業,各 部 門 に行 政 命 令 を下 ろ して い き,遂 行 させ る こ とに よっ て,「 資 源
配 分」,「所 得 再 分 配 」,「経 済 安 定 」 な どが 図 られ て いた 。
まず,「 資 源 配 分 」 に 関 して は,前
に も述 べ た よ うに,公 共財 供 給 は も と よ
り,国 有企 業 の場 合 も,原 材 料 の 価格,調 達 ル ー ト,配 分 方 法,生 産 物 の 種 類,
92(472)第169巻
価 格,生
第5・6号
産量,流 通 ルー トす べ て が計 画指 令 に よ っ て決 め られ て い た 。 次 に,
「
所 得再 分 配 」 に 関 して は,「 平 等 主 義 」 が 唱 え られ,都 市 部住 民 に 関 して は,
決 め ら れ た 「低 賃 金」 の 下 で,「 国 有 企 業 」 へ の完 全 就 業 が 図 られ た 。 一 方,
「高 利 潤,低 賃 金」 を維 持 す るた め に,都 市 部 に安 い食 料 品 を提 供 し なけ れ ば
な らな い 。 そ の た め に,戸 籍 制 度 に よ り人 口移 動 を厳 し く制 限 した う え,農 民
を犠 牲 に し,農 産物 の 買上 げ 価 格 は低 く抑 え られ た。 そ れ に よ って,農 産 物 と
工 業 製 品 の 鋏 状 価 格 差 が 生 じ,工 農 間 の 不 等 価 交換 関 係 が 作 り出 され た10ン
。ま
た,都 市 部 住 民 に 関 して は.「 単 位 制 度」 を通 じ,医 療,年 金 な ど の社 会 保 障
が 実 施 さ れ て い た が,農 村 部 住 民 に関 して は,「 自給 自足 」 の シス テ ム が 採 ら
れ,社 会保 障 な ど を一 切 受 け る こ とが で きな か っ た 。 つ ま り,社 会 主 義 計 画 経
済時代の 「
所 得再 分 配 」 は,主 に農 村 部(農 民)か
ら都 市 部(労 働 者)へ の 強
制 的 な所 得移 転 と,各 国有 企 業,事 業 単 位 内 部 に お け る福 祉 制 度 の 実 施 に よ っ
て行 わ れ て い た 。 最 後 に 「経 済 安 定 」 に関 して は,社 会主 義 計 画 経 済 シ ス テム
の もとで,国 家 が計 画指 令 を用 い て国 民 経 済 に 対 して 直接 統 制 が行 わ れ る ため,
財政 、 租 税 政 策,金 融 政 策 な どの間 接 的 調 節 を行 う必 要 は な い。 国民 経 済 を直
接 統 制 す る と同 時 に、都 市 部 で は国 有 企 業,事 業 単 位 昏 の完 全 就 業 を保 証 し,
農村 部 で は 「自給 自足 」 を実 現 させ た こ と と,人 民 に対 して 政 治面 で の厳 しい
管理 を行 っ た こ とで,社 会 的安 定 を維 持 しよ う と した 。 また,中 央 と地 方,政
府 と企 業 の 間 で 行 わ れ,「 放 」(分 権)と
「収 」(集 権)の サ イ ク ル と も言 わ れ
て い る 「行 政 的 権 限」 の 移転 も,社 会 的 安 定 を保 つ 重 要 手段 で あ っ た 。
しか しなが ら,周 知 の よ う に,社 会主 義 計 画 経 済 の 実 践 は 「
市 場 の 失敗 」 で
は な く,「計 画 の失 敗 」 に 見舞 われ.1978年
改 革 ・開 放 の経 済改 革 に着 手 せ ざ
る を得 な か っ た。 「中 国 の経 済 体 制 改 革 の 本 質 は,市 場 メ カニ ズム を基 礎 とす
10)統
計 に よ る と,1952年
か ら1989年 まで の 間・ 国 家 は工 業 製 品 と農 産 物 の 鋏 状 価格 差 に よっ て 農
業 か ら得 た 収 入 は9717億 元 で,そ
933億 元 で あ っ たが,農
れ に加 え て 農 業 税 な ど で徴 収 した の は1216億 元 で,合
業 へ の 財 政 支 出 は3793億 元 しか な か っ た た め,農
計1兆
業 か ら工 業 へ の純 資 金
流 入 は7140億 元 に も上 っ た 、楊 暁 民 ・周 翼 虎 「中 国 単 位 制 度』 中 国 経 済 出 版 社,1999年,107
ペ ー ジ。
「
国家分配論」から 「
公共財政論」へ(473)93
る 資 源配 分 方 式が 行政 命 令 を主 とす る資 源 配分 方 式 に取 っ て代 わ る こ となの で
あ る」玉1}と
い わ れ て い る よ う に,改 革 ・開 放 以 後,市 場 経 済 化 が 進 む 中,計 画
シス テ ム に よる 直接 統 制 で行 われ た 「資 源 配 分」,「所 得 再 分 配 」,「経 済 安 定 」
は 徐 々 に機 能 で きな くな っ た。 その 代 わ りに,国 家 と国有 企 業 の 分 離 が 進 め ら
れ て きた た め,「 利 改 税 」 改 革 に象 徴 され て い る よ う に,社 会 的剰 余 は 利 潤 上
納 か ら租税 徴 収 に 変 わ り,租 税 国家 化 が 進 んで い る。 国有 企 業 改 革,租 税 国家
化 の 進 行 につ れ て,政 府 の 「資 源配 分 」 は質 ・量 と もに大 き く変 化 して きて い
る と同時 に,租 税 政 策 と支 出政 策 の両 面 か ら 「
所 得再 分 配 」,「経 済安 定 」 を 図
る こ とが 求 め られ る よ うに な っ た。 こ の よ う に,政 府 の役 割 転 換 が 迫 られ る 中,
「国家 分 配 」 型 か ら 「公 共 財 政 」型 へ の転 換 は財 政 改 革 の基 本 的方 向 と 目標 に
な りつつ あ る。 この 転 換 を確 認 す る た め に,以 下,改 革 ・開 放前 後 にお け る 政
府 財 政 支 出 の 構 造 変 化 を見 て み よ う。
皿
政府財政支出の構造 変化
1政 府支出規模の変化
中 国 の財 政 支 出 は1978年 か ら1998年 まで の20年 間 に,名 目予 算 内 政 府 支 出 は
ll80.59億 元 か ら1兆3929億
元 と11.8倍 近 くに な っ た。 ち な み に1958年 か ら
1978年 まで改 革 以前 の20年 間の 名 目予 算 内 支 出 は409.4億 元 か ら1180.59億 元 と
2.9倍 まで しか 増 えな か っ た 。
ま た,支 出 の対GNP比
と い う相 対 的 指 標 で 見 て み る と,第2図
占め る財 政 支 出 」 の よ う に,改 革 ・開 放後GNPに
「GNPに
占め る予 算 内 支 出 の比 率 は
激 減 した。 予 算 内 支 出 の 相 対 的 低 下 は,中 央 政府 の 「
放 権 譲 利 」(権 限 を下 放
し,利 益 を譲 渡 す る)と い う 「分 権 化 」 の 結 果 で もあ る 。改 革 ・開放 以後 過 度
な 「放 権 譲 利 」,ル ー ル な き 「分 権 化」 は財 源 の 分 散 化 を引 き起 こ し,予 算 内
財 政収 入 の対GNP比
11)呉
12)改
の 低 下 を も た ら したゆ。 改 革 ・開放 以 後 の 中 国 財 政 収 支
敬 礎 『中 国 の市 場 経 済一 社 会 主 義 理 論 の 再 建 』 サ イマ ル 出 版会 ・1995年,80ベ
ー ジ。
革 ・開 放 以 後 財 政 収 入 の構 造 変 化 につ い て は,拙 稿 「中 国 地 方財 政 の 発展 過 程 よ り見 た 「分
権 化 」 過 程 の 評 価 」 『経 済 論 叢 』 第165巻 第1・2号.2000年
を参 考 され たい 、
94(474)
第169巻
第5・6号
第2図GNPに
占め る財 政 支 出
%
(
ハ︾
4
一
b
3
0
3
葦婁
鴛
5
2
護
圃
0
1
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鐘
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灘鑛 醐灘 嚢灘
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一
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盟
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劉
鷺
壽艇脳ダ
0
鰹灘 難
5
九九 六 年- 一九 九 九 年
第 八次 五 力 年 計 画 期
(一九 九 一- 一九 九 五 )
第七次五力年計画期
(一九 八 六- 一九 九 〇 )
第六次五力年計画期
(一九 八 一ー 一九 八 五 )
第 四次 五 力 年 計 画 期
(一九 七 一1 ﹃九 七 五 )
関係 も,従 来 の 「国 家 分 配論 」 下 の 「量 入 為 出 」(収 入 を量 っ て支 出 を制 す る〉
を基 準 とす る ため,予 算 内 財 政 収入 の相 対 的 低 下 に伴 い,必 然 的 に予 算 内支 出
も相 対 的 に低 下 す る。
しか し,こ こで注 意 を要 す るの は,改 革 ・開放 以 後 に予 算 内 に含 まれ て い な
い 公 共 支 出 が急 増 した こ とで あ る 。 た とえ ば予 算 外 支 出 と国 有 企 業 が 支 払 って
い る福 祉 厚 生 ・保 険費 な どを 計上 す る と,中 国 のGNPに
率 は25%∼30%の
占 め る 公共 支 出 の 比
値 に あ る と推 計 され る且3)。
政 府 支 出 の 膨 張 上 限 をGNPの
25%と す る コー リ ン ・クラ ー クの 臨 界仮 説 を考 え る と,必 ず しも低 い 水 準 とは
言 え な い 、,さら に 改 革 ・開 放 後 各 地 方 政 府,各
部 門 が 徴 収 した 各 種 名 目の
「費 」 収 入 な どの 「非規 範 的 収 入 」 の 一 部 も準 財 政活 動 に支 出 され て お り,税
13)王 庸君 「
中国公共支出実証分析』経済科学出版社,2000年,32ペ ージ。
、
「
国家分配論」から 「公共財政論」へ!475)95
制 上 の減 免税 措 縄 に よる租 税 支 出 な ど を考 慮 に入 れ る と,中 国 の 政 府 財 政 支 出
全 体 は相 対 的 な 上昇 傾 向 を呈 して い る と言 え よ う。 た だ し,支 出 の相 対 的 上 昇
はあ くまで も主 に予 算 内支 出以 外 の 支 出 要 素 の増 加 に よる もの で あ る。 改 革 ・
開 放 以 後,予 算 内 支 出 が相 対 的 に低 下 し,予 算外 支 出 な どが 相 対 的 に上 昇 した
こ とは,中 国 の 公 共 支 出 の特 徴 的 な 傾 向 で あ る。 ま た,予 算 外 収 入,「 非 規 範
的収 入 」 で 行 った 公 共 支 出 の 管理 は混 乱 してお り,実 態 の把 握 は難 しい状 況 に
あ る,、
2政
府支出構造の変化
政府 財 政 支 出 の分 類 方 法 は 主 に主 要経 費 別,機 能 別,使 途 別 と所 管 別 な どの
分類 が あ る。 第1表
「国 家 財 政 主 な 支 出項 目 と割 合 」 は主 要 経 費 別 に分 類 した
もめ で あ る 。 この分 類 か ら改 革 ・開 放 以 後 中 国政 府 の政 策 目標 の 選 択 と諸 施 策
の 重 点 を数 量 的 に把 握 す る こ とが で き る。 第1表 を 見 る と,1981年
か ら始 ま る
第6次 五 力年 計 画 期 前 後 か ら,基 本 建 設 支 出,企 業 流 動 資 金,教 育 ・科 学 ・衛
生 事 業 費,国 防 費,行 政 管 理 費 な ど主 な財 政 支 出 に お い て顕 著 な 変化 が 見 られ
た。 つ ま り,基 本 建 設支 出,企 業 流 動 資 金,国 防 費 の割 合 が 減 少 し,そ の 代 わ
り,教 育 ・科 学 ・衛生 事 業 費,行 政 管 理 費 の 割 合 が増 大 して い る。
次 に,国 家 の 果 た す 機 能 と財 政支 出の 経 済 効 果 を機 能 別 分類 に よっ て 見 て み
よ う。 一 般 的 に,経 済 機 能 別 に 政府 消 費 支 出,政 府投 資 支 出 と移 転 的支 出 に分
類 さ れ る。 政 府 消 費 支 出 には 一 般行 政 サ ー ビス,防 衛,教 育 な どが 分類 され,
政府 投 資 支 出 は固 定 資 本 形 成,資 本 移転 な どの投 資 的 経 費 で あ り,移 転 的 支 出
は 医療 保 健,社 会 保 障 ・福祉 サ ー ビス な どの所 得 再 分 配 機 能 を果 た す 財 政 支 出
で あ る 。 中 国 の財 政 統 計 の 中 で,政 府 消 費,政 府 支 出,移 転 的 支 出 とい った 分
類 は な い 。 ここ で 第1表 の経 費 別 支 出 を機 能 別 に再 分 類 し,さ ら に予 算 内 支 出
の 中 に含 まれ て い な い 移 転 的 支 出(国 有 企 業 が 支 払 った 福 利 厚 生 ・保 険 費14}と
14)国
有企 業 従 業 員 の福 利 厚 生 ・保 険 費 は 形 式 的 に は 企 業単 位 別 に留 保 さ れ るが.赤
字企業は国家
財 政 か らの 補 助 を受 け られ るの で 最 終 的 に は 国家 の 負 担 で あ っ た,,「福 利 厚 生 ・保 険 費」 の説 明 に
つ い て は小 島麗 逸 編 『中 国 経 済統 計 ・経 済法 解 説』 ア ジア経 済 研 究所,1989年,352ぺ
一 ジが詳 しい。
第169巻
96ぐ476)
第1表
国 民 経 済 回復 期
第5・6号
国家財 政主な支出項 日と割合
基
本
建
設
支
出
企
業
流
動
資
金
23.8
5.1
38.4
7.8
0.7
1.3
47.1
10.1
1.1
30.6
7.4
38.8
5.5
40.2
5.6
35.1
5.1
25.1
造業
改企
資合
金理
化
地
質
探
査
費
8.1
0.8
2.2
8.3
1.9
1.7
5.2
8.6
1.5
5.4
1.6
5.1
10.7
2.7
1.5
3.1
1.6
5.5
1.1
20.5
第8次 五 ヵ年 計 画期
(!991年 ㌘1995年)
1996年 ∼1999年
11950年 一1952年)
第1次 五 ヵ年 計 画 期
(1953年 ∼1957年)
第2次 五 ヵ年 計 画 期
(1958年 一1962年)
国 民 経 済調 整 期
(1963年 ∼1965年)
第3次 五 ヵ年 計 画 期
(1966年 ∼1970年)
第4次 五 ヵ年 計 画 期
(1971年 ∼1975年)
第5次
五 ヵ年 計1山醐
(1976年 一1980年)
第6次 五 ヵ年計 画期
(1981年 ∼1985年)
第7次
五 ヵ年計 画 期
(1986年 ∼1990年)
(%)
国
農業 衛教 救見
生育 済舞
支援 業科
事 ・ 支金
出・ 防
支 費学
社会
出
費
費
羅
そ
耀
の
鶴
他'
4.1
11.5
7.6
4.5
12.2
5.6
3.9
3.2
19.1
6.2
7.6
9.1
1.4
21.9
4.8
9.4
4.1
8.7
1.2
19.1
4.5
10.3
1.8
6.5
10.9
2.且
16.2
4.9
3.9
6.5
5.7
1.7
5.8
1.7
11.9
6.8
13.5
9.1
0.4
5.5
1.3
6.5
18.9
1.7
9.1
8.8
12.6
13.1
12.7
(〕.4
7.1
1.1
6.8
21.3
1.7
9.5
11.9
6.7
19.2
13.2
0.5
6.3
0.8
5.8
19.9
1.5
8.6
12.2
5.9
24.1
『3
.5
15.7
38.2
行
政
管
理
23.8
資料 出所:『中国財政年鑑2000』395ページ,403ペ ー ジよ り作成,
国 有 企 業 欠 損 補 助 金)を
付 け 加 え て,機
能 別 に 整 理 し た の が 第2表
「機 能 別 支
出 分 類 」 で あ る 、.
デ ー タの 制 約 上,第2表
で の 政 府 投 資,政
必 ず し も完 全 な もの で は な い が,改
で き よ う 。 改 革 当 初 総 支 出 の57.5%を
府 消 費,移
転 的 支 出 に よ る分 類 は
革 ・開 放 後 の 政 府 の 役 割 転 換 を 窺 う こ と が
占 め て い た 政 府 投 資 の 割 合 が,1998年
で
(477)97
「国家分配論」か ら 「
公共財政論」へ
第2表
総
支
機 能 別 支 出 分 類
出
政府投 資
1978年
1,180.59
(100%)
678.86
(57.5%)
1998年
13,929.07
(100%)
3,229.11
-(
23.2%)
政 府 消費
(億 元)
移転的支 出
その他支 出
99.15
(8.4%)
54.46
(4.7%)
4,555.28
(32.7%)
775.74
(5.6%)
47.38
(29.4%〉
5,368.94
(38.5%)
注1)二総支出=予 算内支出+国 有企業 欠損補 助金+国 有企業が支払った福利厚生 ・保険 費
2)二政府投資-基 本建設支出+企 業流動資金補 充+企 業合理 化 ・改 造資金+地 質探査費+農 業
支援支出等
3):政 府消費;工 業 ・交通 ・商業部門事業費+教 育 ・科学 ・衛生事業 費+国 防費+行 政管理 費
等
4):移 転的支 出=見 舞金 ・社会救済支出+価 格補助 などの補助 金支出+国 有企業 欠損補助 金+
岡有 企業が支払った福利厚生 ・保険費等,1998年 の移転支 出には新たに社会保 障基金 と行政
事業単位離 退職経費 を加 えた
5):そ の他支 出の内訳 は明 らかで はない
資料 出所:『中 国財政年 鑑1999』385-386ペー ジ,『中 国財政年鑑2000』393ペ ー ジ,402ペ ー ジ,
509ペー ジより作成,,
は23.2%ま
1978年
で に 低 下 し た 。 … 方,政
の29.4%,8.4%か
革 ・開 放 以 来,政
ら1998年
府 消 費 支 出 と移転 的支 出の 割 合 はそ れ ぞ れ
の38.5%,32.7%に
府 の 投 資 機 能(主
上 昇 し た 。 つ ま り,改
に 国 有 企 業 へ の 投 資)が
低 下 し た 一 方,行
政 サ ー ビ ス の 供 給 機 能 と所 得 再 分 配 機 能 の 働 き が 強 く な っ た と言 え る 。
IV改
以 上,改
革 ・開 放 以 来 中 国 の 予 算 内 財 政 支 出 構 造 の 変 化 を 見 た が,デ
見 る 限 り,国
一方
,社
ー タで
有 企 業 へ の 基 本 建 設 投 資 な ど の 経 済 建 設 費 が 相 対 的15)に低 下 し た
会 福 祉 支 出,行
政 管 理 費,教
し た 。 資 源 配 分 の 方 法 は,国
わ り,政
革 の 方 向 と現 実 の乖 離
育 事 業 費 な ど の 公 共 支 出 が 相 対 的 に増 加
家 に よる 計 画 配分 か ら市 場 を基 礎 とす る配 分 に変
府 は 「国 有 企 業 の 経 営 者 」 か ら 「国 有 資 産 の 管 理 監 督 者 」,「公 共 財,
社 会 保 障 の 提 供 者 」 に 変 わ りつ つ あ る,、中 国 財 政 は 形 の 上 で
ら 「公 共 財 政 」 型 に 変 化 す る 趨 勢 が 見 ら れ る 。 し か し,そ
「国 家 分 配 」 型 か
の 中 身 を 考 察 して み
15)改 革 ・開放以後,国 有企業への予飾内基本建設投資 の絶対額 は,多 少の増減はあ るものの,緩
やかな増加傾向が見 られ る,、また,1998年 以降.絶 対 額は急増 した。 『
財政統 計年鑑』2000年版,
439ペー ジを参照。
98(478)第169巻
第5・6号
る と,「 公 共 財 政 」 の 理 念 と 現 実 の 乖 離 が 生 じ て お り,多
くの 課 題 を 抱 え て い
る,、
1政 府投資機能の低 下 と 「
擁改 貸」の実態
基 本建 設支 出 とは国 家 が 固定 資産(拡 大 〉 再 生 産 を行 うた め の財 政支 出 で あ
る と定 義 され て い るIG》
。 固定 資 産 に は生 産 性 固定 資 産 と非 生 産性 固定 資 産 の 二
種 類 が あ り,そ れ に対 応 して,基 本 建設 支 出 も生 産性 暴 本 建 設 支 出 と非 生 産 性
基 本 建 設 支 出 に 分類 され る。 生 産性 固 定 資 産 は生 産過 程 に直 接 関 わ る生 産 手 段
(機械,設 備 な ど)と 固定 資本(鉄 道,港 湾,工 場 の建 物 な ど)が 含 まれ る。
非生 産 性 固 定 資 産 は住 宅,学 校,病 院,行 政 機 関 な どの建 物,設 備 を指 す 。 こ
の定 義 か らわか る よ う に,中 国 の基 本 建 設 支 出 の 中 に,政 府 公 共 部 門へ の設 備
投 資,国 有 企 業 へ の 設 備 投 資,公 共 事 業 投 資 が 混 在 して お り,そ の 内訳 は 明 ら
か で は な い 。基 本 建 設 支 出が 財 政 支 出 に 占 め る割 合 が 一 番 多 か った の は 第2次
五 力 年 計 画 期 で,47.1%に
25.1%ま
上 る,、改 革 ・開 放 後 の 第6次
で 下 が り,今 で は10%台
五 力年 計 画期 で は
に下 が っ て い る。 同様 に財 政 か らの 企 業 流 動
資 金 且71支
出の 割 合 も激 減 した。 基 本建 設 支 出 と企 業 流 動 資 金 の 財 政 支 出の 中 に
占 め る割 合 の 低 下 は,国 有企 業 資 金 調 達 の 制 度 改 革 の結 果 で あ っ た。1979年8
月,国 務 院 は国 有 企 業 の 基 本 建設 投 資 資 金 を旧 来 の 財 政 無償 給 付 制 か ら銀 行 貸
付 に 変 え る,い わ ゆ る 「搬 改 貸」 を い くつ か の 業 種 と地 域 で 実験 的 に 行 うこ と
を発 布 した。 「擾 改 貸 」 の 試 行 を経 て,1983年7月
以 降 は,核 工 業 部,航
空航
天 工 業 部 に所 属す る少 数 の 国 有 企 業 を 除 い て,他 の 国有 企 業 の 流 動 資 金 はす べ
て中 国 人 民銀 行 に よる統 一 管 理 ・貸 出 の 制 度 に変 わ っ た、,その 後 の 改 革 につ れ
16)邸
志 宏 ・謝 賢星 編,前 掲 書,134ペ
17)流
動 資 金 は 定 額 流 動 資金 と超 定 額 流 動 資 金 に分 け る1,1983年 以 前 国有 企 業 の最 低 限 の 定 額 流 動
ー ジ。
資 金 部 分 は財 政予 算 か ら支 出 さ才1、
る こ と に な って い た.定 額 流 動 資 金 はII準 備 資 金」(原 材 料 ・
部 品 購 人)・ 「生 産 資 金 」(仕 掛 品 ・半 製 品〉 ・製 品 資 金(在 庫 ・製 品)な ど が 含 まれ,定 額 流 動 資
金 の 需 要 量 は国 有 企 業 設 立 時 に査 定 した あ と,財 政 部 門 か ら支給 され る.そ の 後企 業 の生 産 の 発
展 と製 品流 通 の拡 大 に 伴 い,毎 年 財 政予 算 か ら定 額 流 動 資 金 が 補 充 され る 。 小額 の超 定 額 流 動資
金部 分 は改 革 以前 か ら国 家 銀 行 力'らの 有償 貸付 で賄 う こ と に な って い る 。
「
国家分配論」から 「
公共財政論」へ(479〉99
て,企 業 の投 資 主 体 と資 金 源が 多様 化 し,改 革 ・開放 以前 に は,企 業 の基 本 建
設 投 資 の80%前
後 を占 め て い た 国家 財 政予 算 か らの 支 出 が現 在 で は10%前 後 に
す ぎない 。
「擾 改 貸 」 に よ り,企 業 自身 が投 資資 金 を集 め る こ とが可 能 に な った こ とで,
投 資 の 自 由化 に繋 が った 。 一 方,支 出権 限が 増 大 した こ とで,地 方 政 府,企 業
の付 加価 値 の高 い 産 業 へ の投 資 が 多 くな り,「 重 複 建 設 」 が 問 題 に な り,産 業
構 造 バ ラ ンス の悪 化 を もた ら した。 また,前 述 した よう に,中 国 の 基 本 建 設 支
出 の 中 に イ ン フラ建 設 な どの 公 共 事 業 投 資 支 出 が含 ま れ て い る。 中国 の イ ン フ
ラ建 設 は遅 れ て お り,今 後,公 共 事 業 投 資 の 需要 は一 層高 ま るで あ ろ う。 基 本
建 設 投 資o大 幅 な減 少が,基 礎 産 業 の 衰 退,イ
ン フ ラ建 設 の遅 れ を招 くこ と も
懸 念 され て い る 。
「擾 改 貸 」 の 資 金 は,中 央 政府 予 算 と地 方 政 府 予 算 か らそ れ ぞ れ 中 国 人民 建
設 銀 行 本 店 と地 方 の 支 店 へ供 与 され,建 設 銀 行 は 融 資 を回 収 し,各 々 中央 政府
と地 方 政 府 へ そ れ を上納 す る とい う こ とに な って い た。 しか し,銀 行 が 国有 で
あ り,中 央,地 方 政 府 の 管 理 下 に あ る た め,独 立 した 利 益 追 求 をす る た め の経
営 主 体 にな れ な い。 「
擬 改 貸 」 は,国 有 企 業 に対 す る 国 の 出 資 者 責 任 放 棄 ξ も,
受 け取 れ る 。 自己 資 金 が ない 企 業 の場 合,銀 行 か ら資 金 を借 り,利 益 が 利 子 返
済 に 追 い つ か な い と,た ち ま ち経 営 悪 化 に 陥 っ て し ま う。 一 方 で,「 財 政 請 負
制 」 の 下 で は,地 方 政 府 が 地 方 企 業 保 護 に走 り,経 営 不 振 で 再 起 不 能 な企 業 に
対 す る融 賛 を銀 行 に命 令 し,.現 在,四 大 国有 銀行 に膨 大 な 回収 不 能 な不 良 債 権
が 残 る形 に な っ て い る,、つ ま り,「擾 改 貸 」 以 後,政 府 財 政,企 業,銀 行 三 者
の 相 互 依存 関係 は 第3図 か ら第4図
に変 わ り,結 び つ きが弱 くな っ た もの の,
依 然 と して 完全 分離 した形 に は な っ てい な い。 政府 の行 政 命 令 で銀 行 が 経 営 悪
化 した 国 有 企 業 に 融資 した り,ま た企 業 の 債 務不 履 行 が起 こ っ た りな ど,多 額
の 不 良 債権 を生 ん だ 。不 良債 権 問題 は さ ら に銀行 の経 営 悪 化 を もた らす 結 果 と
な る,,様 々 な 解 決 策 が試 み られ て い るが,結 局 国 家 財 政 が肩 代 わ りをせ ざる を
え な くな る。 現 在,直 接 的 な財 政補 填 か 間接 的 な金 融補 填(低
金利 に よる融 資
100(480)
第169巻
第5・6号
第3図
ヘヤ
\
家財政 ク
陣
ノ 謬 、 ノ張_
ぐ
国
轡)準(垂
蜘)
第4図
ズ ズ
ヘ
ヤヤペ
/\
☆ 駕,
国債 引受
と,元 本 未 返 済 に よる変 形 した資 金 提 供 〉 が検 討 さ れ て い る18'。「擾 改 貸 」 は,
地方 財 政 体 制 改 革 と国 有改 革,金 融 改 革 の 問 に ジ レ ンマ を 引 き.起こ し,一 種 の
政策 的 失 敗 で あ る と言 え よ う、
、
2政
府消費の増加 とその中身
政府 機 能 の多 様 化 に従 って,公 共財 を提 供 す る ため に,行 政 管 理 費,教 育事
業 費 な どの政 府 消 費が 増 え るの は 「公共 財 政 」 の一 般 的 傾 向 で はあ る 。 教 育 ・
科 学 ・衛生 事 業 費 は科 学,教
育,文 化,衛 生,マ
物 保 護 な どの 事業 を遂 行,発
展 させ るた め の財 政 支 出で あ る。 改 革 ・開 放 後,
18〉 最 近 の 国 有 企 業改 革 の動 向 につ いて は,渡
洋 経 済 新 報 社,2000年
辺 利夫 編
ス コ ミ関係 ・ 出 版
『国 際 開 発学Hア
所 収 の 王曙 光 と杜 進 の 論 文 を参 照 され た い。
体育・文
ジ ア地 域 研 究 の 現 在 』 東
「
国家分配論」から 「公共財政論」へ(481)101
財 政 支 出 の 中 に 占 め る教 育 ・科 学 ・衛生 事 業 費 の割 合 が 大 き く伸 び,改 革 以 前
の10%前
後 か ら今 の20拓 前 後 に な った 。教 育 ・科 学 ・衛 生 事 業 費 の う ち教 育 事
業 費 が60%以 上 占 め て い る。1978年 財 政支 出 の5.8%占
1998年 に な る とそ の比 率 は12.4%ま
め て い た教 育 事 業 費 は,
で上 昇 した。
一方
,行 政 管 理 費 も急 速 に膨 張 し,財 政 支 出 に 占め る比 率 は 改 革前 の5%前
後 か ら1996∼1999年 の 平 均12.2%ま
で に上 昇 した 。 行 政 管 理 費 は 行 政 支 出 と国
家 安 全 ・外 交 支 出 が 含 ま れ る。 改 革 ・開 放 後,対 外 開 放 政 策 に伴 い,国 家 安
全 ・外 交 支 出 も増 え た。 ま た,社 会 経 済活 動 が 多 様 化 した た め,「 法 治 国 家」
を もっ て社 会 秩序 を維 持 す る必 要 性 が 増 し,公 安 ・司 法 ・検 察支 出 も増 大 した 。
しか し,中 国 の 場合,そ
の政 府 消 費 の 中身 は 「人 件 費 」 の比 率 が高 い1、統 計
に よ る と'9),1993年 か ら1997年 まで の 問,中 国 の 国 家 財 政 収 入 は毎 年 平 均1000
億 元 規 模 で増 加 した が,一 方,政 府 雇 用 人員 の数 は毎 年 平 均100万 以 上 増 加 し
た。 給 与 引 き上 げ 改 革 が 行 わ れ た こ と も 加 え て,増 加 し た 財 政 収 入 の60%
∼80%は く件 費 の増 加 に充 て た。1995年 の 教 育 関係 経 費支 出 の な か に 人件 費 が
占め る平 均 比 率 は76%で
あ り,中
・小 学 校 の場 合,80%∼90%に
達 して い る201。
そ れ に加 え て,行 政 管 理 費の 場 合,市 場 経 済 運営 シ ス テ ム に対 応 す る た め,
政 府機 能 の多 様 化 に伴 い,政 府 行 政 機 関 の 拡充,新 設 が 行 わ れ,新 た な人 件 費
な どの機 関経 費が 必 要 とな った 一 方,行 政 側 が 「既 得 利 益 」 を固 持 す るた め,
旧 来 の計 画 経 済 シ ス テ ム に対 応 す る 政 府 機 関 の廃 止 は なか なか 進 ま ない 。 そ う
した こ とか ら膨 大 な数 の 政 府 機 関 と余 剰 人員 を抱 え てお り,行 政 管 理 費 の膨 張
に繋 が っ た。 そ して,行 政 管 理 費,部 門事 業 費 の一 部 を,役 人 に よ る公 金 消 費,
流 用 も社 会 間題 化 して い る 。 あ る 調査 に よ る と21),1996年 全 国の 大 きい レス ト
ラ ンや 娯 楽 セ ンタ ーの 平 均営 業 収 入 の68%は
20)『
19)星
星 編 『改 革 政 府』 経 済管 理 出版 社 ,1998年.IOペ
巾国 教 育 総 合 統 計 年 鑑1996年 』187ペ ー ジ.
21)陳
剣編 『
流 失 的 中 国一 国 有資 産流 失現 象 透 視1中
公金 に よ る消 費 で あ った 、
、
ージ 。
国 城市 出版 社 ,122ベ
ー ジ。
102(482)第169巻
3政
第5・6号
府移転的支出の増大 とその要因
改 革 ・開放 以 後,政 府 移 転 的 支 出 の増 大 は,公 共財 政 の 特 徴 の 一 つ と して 見
る こ とが で きる 。 中 国の 移 転 支 出 の 上 昇 は,主 に価 格 補 助,国 有 企 業 欠損 補 填
な どの 補助 金支 出 と国有 企 業 が 支 払 った福 利 厚 生 ・保 険 費 支 出が 急 激 に増 えた
こ と に起 因 す る 。 第6次,第7次
五 ヵ年 計 画期 間 中 は,国 有 企 業 か ら徴 収 した
法 人所 得 税 収 入 はそ れぞ れ595.84億 元,2917.24億
損 補 助 金 は そ れ ぞ れ507,02億 元,2325,43億
元 で あ っ た が,国 有 企 業 欠
元 で あ っ た。 つ ま り,国 有 企 業 所
得 税 と匹 敵 す るほ どの 金 額 の補 助 金 が 企 業 の 欠 損 補 填 に 充 て られ て きた。 価 格
補 助 金 な どの 支 出 もそ れ ぞ れ の期 間 巾で 財 政 支 出 の13.5%,12.6%を
占めてい
た。
「公 共 財 政 論 」 の なか で 政 府 に よる価 値 財 の 提 供 とみ な され る と きに,補 助
金支 出が 正 当 化 さ れ る。 価 値 財 の提 供 の意 義 は,民 間 部 門 に よ る資 源 配 分 の是
止 や 公平 な再 分 配 を計 る点1こあ る。 た とえ ぱ、 口本 の 産 業 補 助 金 の 場 合,公 的
な見 地 か ら第1次 産 業,基 幹 産 業,エ ネ ル ギ ー産 業 な どの 重 要 産 業 を補 助 す る
の は.資 源配 分 是 正 の手 段 で あ る。 中 小企 業 擁 護 を 目的 とす る補 助 は再 分 配 の
視 点 に よ る2呂1。
補 助 金 政 策 を考 える と き,そ の 目指 す 口的 とそ の 効 果 の 分 析 が
必 要 で あ る 。 改 革 ・開放 以 後 中 国の 補 助 金 政 策 は,資 源配 分 是 正 や 公 平 な再 分
配 の視 点 に立 った 価値 財 の提 供 を 目的 と した もの で は な く,国 有 企 業 欠 損 補 助
金,価 格 補 助 金 等 に代 表 され る よ うに,価 格 改 革 の 「補 償 的」 手 段 と して,国
の政 策変 更 に よ って 企 業 も し くは消 費 者 が 蒙 った 損 失 を補 填 す る こ とで,社 会
安定 をは か ろ う と した23)。つ ま り,中 国 の 補 助 金 政 策 は価 値 財 提 供 目的 とい う
よ りも社 会 政 治 の 安 定 目的 の 性 格 が 強 い と言 え る鍋》
。 ま た,国 有 企 業 の 欠損 は
政 策 変 更 に よ る ものか,経 営 悪 化 に よる もの か を 見分 け る こ とは 困 難 な の で,
企 業 との駆 け 引 きや 個 別 交 渉 で決 まる補 助 金 の支 給 は,市 場 シス テ ム に基 づ く
22)能
勢哲也
23)李
揚
『
現 代 財 政 学 』 有 斐 閣,1994年.138ペ
24)元
々,補 助 金 の根 拠 の一 つ に は,現 代 にお い て 内在 化 しつ つ社 会 的,政
『財 政補 貼 経 済 分 析 』 三 聯 書 店,1992年,281ペ
ー ジ。
ー ジ。
治 的 危 機 を解 消 す る た
め で あ る とい う指摘 が あ る、
、宮 本 憲 一 編 「補 助 金 の 政 治経 済学 』 朝 日新 聞 社,1990年,12ペ
ー ジ。
「
国家分配論 」か ら 「
公共財政論」へ(483)103
第3表
改 革 ・開放 後 国有 企 業 の 賃 金,福 利 厚 生 ・保 険 費支 出 分配
(A)国 有企業 福
利厚 生 ・保 険費
総 額(億 元)
(C)国 有 企業 か
〔B)国 有 企業 賃
ら財政 に寄 与 し
金総 額(億 元)
た利潤 ・所 得税
A/B
(%)
A/C
(%)
BIC
(%〉
総額(億 元)
1978年
66.9
468.7
571.9
14.3
U.7
8L9
1980年
116.O
627.9
435.2
18.5
26.7
144.3
1985年
269.9
1064.8
639.6
25.3
42.2
166.5
1990年
770.1
2324.1
682.4
33.1
112.9
340.6
1995年
1961.0
6080.2
759.4
32.3
258.2
800.7
1998年
2767.7
6812.5
743.9
40.6
372.1
915,8.
資 料 出 所:『
中 国 財 政 年 鑑2000』397-400ベ
ー ジ,509ペ
ー ジ,『 中 国 統 計 摘 要1999』37ペ
ー ジ よ り
作 成 、
、
公 正 な資 源 配 分 を妨 げ る結 果 を もた らす場 合 もあ る。
移 転 的 支 出 増 大 の も う一 つ の 要 因 は,改 革 ・開 放 以 後 に 国 有 企 業 が 支
払 っ た福 利 厚 生 ・保 険 費 の大 幅 上 昇 で あ る 。 「
公 共 財 政 論 」 で は 福利 厚 生 ・保
険 費 の増 加 は,政 府 の 所 得 再 分 配 機 能 の 働 きが強 くな っ た と考 え るσ しか し周
知 の よ うに,中 国 で は未 だ に統 一 した 社 会 保 障 シス テ ムが 整 備 され て い ない 。
故 に これ まで の福 利 厚 生 ・保 険 費 支 出 の増 大 は,政 府 の所 得 再 分 配 機 能 の 強 化
に よ る もの で あ る とい うよ り も,改 革 以 後 国有 企 業 へ の 「放 権 譲 利 」 が もた ら
した 一 つ の結 果 で あ る と考 え られ る。 前 述 した よ うに 「国 家 分 配 論 」 の も と,
国 有 企 業 従 業 員 の福 利 厚 生 ・保 険 費 は企 業 単位 を 通 じて 支 給 され て い た。 「放
権 譲 利」 型 企 業 改 革 は企 業 の 自主 権 の 獲 得 や イ ンセ ンテ ィ ブの 強 化,そ
して 経
済 パ フ ォー マ ンス の 向上 な どの 面 にお い て 良 い成 果 を上 げ た。 しか し一 方,企
業 は国家 と利 益 分 配 を行 う際,意 図 的 に支 出 の拡 大 や 分 配 にお け る企 業 の 取 り
分 と従業 員 賃 金 ・福 利 厚 生 の 引 き上 げ を図 り,国 有 資 産 を侵 食 し国 家 利 益 を侵
害 し.国 家財 政 へ の 寄 与 度 が 低 下 す る とい う負 の 効 果 も生 じた251。第3表r改
革 ・開放 後 国 有 企 業 の賃 金,福 利 厚 生 ・保 険 費 分 配 」 が 示 す よ うに,国 有 企 業
25〉 「
放権譲利」型企業改革の二重効果,限 界については,林毅夫ほか 『
中国の国有企業改革一市
場原理によるコーポレート・ガバナンスの構築』 日本評論社,1999年,52-65ベージを参照され
たい.
104(484)第169巻
第5・6号
が 支 払 っ た福 利 厚 生 ・保 険 費支 出が 賃 金 に 占め る比 率 は改 革 直 後 の14。3%か ら
1998年 の40.6%ま
で に上 昇 した。 国有 企 業 か らの 上納 利 潤,所 得 税 収 入 の 伸 び
は停 滞 して い る に もか か わ らず,賃 金,福 利 厚 生 ・保 険 費支 出 は大 幅 に増 え た。
価 格 改 革 に伴 う賃 金 引 き上 げ 政策 の実 施,1980年
代 以 後 国 有 企業 の定 年 退 職,
中途 退 職,幹 部 退 職 者 の増 加 な ど も賃 金,福 利 厚生 ・保 険 費支 出増 大 の一 因 で
は あ るが,第3表
V社
の よ うな 急増 はや は り過 大 配 分 が 考 え られ る。
会主義市場経済下 の政府機能 と 「
公共財政論」
1978年 の 改 革 ・開 放 以 降,巾
国 は 公 有 制 を 基 礎 と した 計 画 経 済(1978年
∼1984年) ,公 有 制 に基 づ く計 画的 商 品経 済(1984年
経 済(1992年
∼1992年),社
会 主義 市 場
以 降)と い っ た経 路 を辿 っ た。 「国 家 や そ の 他 の 公 的 機 関 に よる
土 地 や 主要 生 産 手 段 の 公 有 」,「共 産党 の指 導 」 とい う社 会 主 義 の 基本 制 度 を維
持 しなが ら,中 央 集 権 的 な 指 令 計 画経 済 か ら徐 々 に価 格 メ カニ ズ ム に よる 資源
配 分 を中心 とす る市 場 経 済 へ と経 済 シ ス テ ム の転 換 を図 った 。
社 会的 ・
政 治 的危 機 を避 け なが ら行 わ れ た 「漸 進 的 」 改 革 は,こ れ まで 大 き
な成 果 を上 げ,世 界 中 に注 目され て きた こ とは事 実 であ る,,し か し,改 革 が最
初 か ら 「放 権 譲 利 」 戦 略 を と`)た た め,集 権 的行 政 調 整 力 を弱 め る と同 時 に,
国 有 企業 の改 造,国 有 統 一 市 場 の 形 成 お よび競 争 ル ー ル の確 立 な どが 遅 れ た た
め,「 統 一 計 画 も統 一 市 場 もな い」,「高 度 集 権 の命 令 経 済 で もな けれ ば管 理 さ
れ た市 場 経 済 で もな い 」 とい う二重 体 制 を生 ん で し まっ た と も指 摘 さ れ て い
る26'。また,こ の よ うな経 済 シス テ ム は 「低 発 達 市 場 」 シス テ ム と も言 わ れ て
い る呂%前 述 した 通 り,二 重 体 制 の も とで行 わ れ た財 政 改 革 も理 念 と現 実 の 問
で ズ レが 生 じて し ま い,「 国家 分 配論 」 で も 「公 共財 政 論 」 で も説 明 しに くい
26)同
上 齊,116ペ
ー ジ,211ペ
ー ジc
27)石
川 滋 氏 は 「低 発 達 市 場 」 につ い て,「 社 会 的 分 業 の 発 達 度 」,「流 通 の シ ス テ ム ・物 的 施 設 な
ど流 通 イ ンフ ラの 発 達 」,「所 有 権 お よび 契 約 の 保護 ・尊重 を 中心 とす る取 引 き ルー ルの 整 備 」 な
どか ら発 達 ・未 発 達 の 概 念 を捉 え る ・石 川 滋 「経 済 改 革 と市 場 経 済 の 育 成 」 τ中 国経 済 改 革 の新
展 開一 日中経 済学 術 シン ポ ジ ウ ム報 告 』NTT出
版,1996年
。
(485)105
「国家 分 配 論 」 か ら 「公 共 財 政 論 」 へ
二重 財 政 構 造 に な って い る。
現 在 移 行 期 に あ る 中 国経 済 を捉 え る時,「 低 発 達 市 場 」 の ほか に,「 社 会 主 ・
義 」,「国際 競 争 」 とい う多 角 的視 点 か ら見 る必 要 が あ る と指摘 され て い る28)。
社 会 主義 公 有 制 を維 持 す る こ と は,中 国 政府 は 国家 政 権 の 行 使 者 で あ りな が ら,
国 有 企業 の代 表 者 で もあ る。 改 革 後 の 「政 企 分離 」 は,財 政 面 にお い て は 政府
の 「国有 資 産 管 理 」 機 能 と 「
社 会 経 済 管 理 」 機 能29)の分 離 が 要 求 され,1988年
国 有 資 産 管 理局 が 成 立 した。 しか し,規 定 上 国 有資 産管 理 局 は財 政 部 に従 属 し
て お り,独 立 した 機 関 で は な い。 故 に 政 府 財 政 は 「一 体 両 翼 」30)と
言 わ れ,国
家 税 務 部 門 と国 有 資 産 管理 部 門 とい う二 つ の 側 面 を持 っ て い て,境
り しない 状 況 にあ る 。 この こ とは単 純 な 公共 部 門財 政 に比 べ,中
目は は っ き
国の 財 政 構 造
を よ り複 雑 に し,改 革 の 理 念 と現実 に乖 離 が 生 じ た主 要 原 因 で もあ る。
国有 資 産 は生 産 的 国 有 資 産 と非 生 産 的 国有 資 産 に分 け られ る。 非生 産的 国有
資 産 管 理 は,国 有 資 産 価 値 の 保 全,国 有 資産 流失 の 防 止 に限 る が,生 産 的 国 有
資 産 管 理 は,そ の 上 利 潤 最 大 化 を追 求 す る。 つ ま り,「 国 有 資 産 管 理 」 機 能 を
果 たす た め に は,収 入面 に重 点 を置 く必要 が で て く、
る。 これ は 「国 家 分 配」 型 ・
財 政 の特 徴 で もあ る。 一 方,「 社 会 経 済 管 理 」 機 能 を果 た す た め に は,「 公 共財
政 」 型 財 政 シス テ ム の樹 立 が 必 要 とされ る。 つ ま り,そ の機 能 に合 わ せ た 公 共
支 出 を算 出 し、 そ れ を賄 い うる水 準 の 収 入 を租税 で確 保 す る システ ム を確 立 し
な けれ ばな らな い 。 この よ うに 出発 点 が 異 な る二 つ の機 能 を一 つ の 財 政 部 門 で
同時 に達 成す る こ とは 困難 で あ る。 政 府 の 「国 有 資 産管 理 」 機 能 と 「社 会 経 済
28)社
会 主 義 を 国 家所 有+一
党支 配 と い う意 味 で と らえ る 。 「国 際 競 争 」 に つ い て は.「 本 格 的 な国
際 競 争 時 代 の 到 来 に備 え た 「産業 構 造 の 再 編 成 」,外 資 企 業 の参 入拡 大 に備 え た 「国 際競 争 力 の
酒 養 」 を 進 め る た め に 、 中 国 の 国有 企 業.特 に大 企 業 は,そ れ ぞ れの 産 業 分 野 で の 最 先 進 の 技 術,
人 材 を投 入 さ れ て き て お り、 「比 較 優 位 」 が な い,市 場 競 争 を 制 限す る か ら とい っ て,そ
こか ら
撤 退,あ る い は 国 際競 争 に 委 ね る な ら ば,中 国の 技 術 発 展 を担 え る基 盤 を失 う こ と に な りか ね な
い 」 と指 摘 した 。上 原 … 慶 「移 行 期 の 巾 国 経 済 を ど の よ うに と ら え るか 一 国 有 企 業 改 革 を 中 心
に」r体 制 変 容 下 の 中 国 ・ス ラ ブ ・
ユ ー ラ シ ア』(領 域 研 究 輯 第40号),1997年9月
。
29)「 社 会経 済 管 理 機 能 」 は,市 場 経 済 先 進 諸 国 で通 常 財 政 の 機 能 と して あ げ られ る 資 源 配 分 の 調
整,所
30)凱
得 の 再 分 配,経
済 の 安 定 化 な ど の機 能 を指 す 。
子 基 「借 鑑 公 共 財 政 論
発 展 国家 分 配 論 」 「財 政研 究 』2000年 第1期,53ペ
ー ジ・ 、
106(486〉
第169巻 第5・6号
管 理」 機 能 が分 離 しな い限 り,各 級 政 府 で 収 入 追 求 型 の 財 政 シス テ ム に な りが
ちで あ る。 これ は 「政 企 分 離 」(政 府 と国 有 企 業 の 分 離〉 が な か なか 進 ま な い
一 つ の 重 要 源 因 で もあ る。 ま た,「 国有 資 産 管 理 」 機 能 と 「社 会 経 済 管理 」 機
能 の 混在 は,政 府 に赤 字 国 有 企 業 を保護 した り,黒 字 国 有 企 業 か ら よ り多 くの
収 入 を強 要 した りす る契 機 を与 え て し ま う。 つ ま り,「 国 有 資 産管 理 」 機 能 が
「社 会 経 済 管 理」 機 能 に悪 影 響 を与 え,資 源配 分 を歪 め る恐 れ が あ る。 故 に,
国 有 資 産 管 理 部 門 を如 何 に財 政 部 門 か ら独 立 させ,政 府 が 「国 有 企 業 所 有 者 と
して徴 収 す る 利潤 」 と 「社 会経 済管 理 者 と して徴 収 す る税 金」 を如 何 に分 離 す
るの か は 中国 財 政 の 重要 課 題 で あ る。
一 方 の 「公 共 財 政」 型財 政 シス テ ム は,中 国 政府 が 目指 す 財 政 改 革 の 目標 と
方 向 で は あ る か,「 低 発 達 市場 」 とい う制 約 条 件 を考 え る と,中 国 の 政 府 機 能
に求 め ら れ る の は,当 面 の 間,「 市 場 の 失敗 」 を補 うた め の 「資 源 配 分 」,「所
得 再 分 配 」,「経 済 安 定 」 を図 る こ とに加 え,「 市 場 の 整 備 」 が よ り重 要 で あ る
よ う に思 わ れ る。 「市場 の 整 備 」 は,価 格 改 革 を進 め,商 品価 格 と各 種 生 産 要
素価 格 を正 す と同時 に,政 府 主 導 で生 産 手 段,商 品 流 通,資 金,土 地 な ど各種
市場 の組 織 化 と育 成 を意 味 す る,、政府 は調 節,監 督 管 理,情 報 サ ー ビス な どの
役 割 を発揮 し,ま た,法 律 的,行 政 的,経 済的 制 裁 手 段 を用 いて 市 場 秩序 を維
持 しな け れ ば な らな い。 つ ま り,政 府 の 「公共 財 」 提 供 は,法 シス テム,社 会
保 障 シス テ ム,租 税 シス テ ム,貨 幣 ・金 融 シス テ ム な どの 「ソフ ト面 の イ ン フ
ラ ス トラ ク チ ャー」3"整備 が よ り重 要 に な る。 この よ う な イ ン フ ラ ス トラ ク
チ ャ ーが 欠落 して い る限 り,第IV節 で み た よ う に,「 公 共 財 政 」 は 中 身 が 伴 わ
な い形 だ けの もの に なっ て し ま う恐 れ が あ る。
終
わ
り
社 会 主 義 計 画 経 済 に お け る 国 家 財 政 は,国
べ て 国 家 に 集 中 さ せ,国
に
有 制 を通 じて社 会 的剰 余 価 値 をす
家 が 主 体 とな っ て杜 会 に再 分 配 す る シス テ ム で あ った 。
31)池 上惇 『財政学1岩 波書店,1990年.56ペ
ージ。
「
国家分配論」から 「
公共財政論」へ(487)107
従 って,「 国 家 分 配論 」 は,社 会 主義 計 画 経 済 の 下 で 「量 入為 出」(収 入 を量 っ
て 支 出 を制 す る)の 収 入 重視 の 体 系 を形 成 して い た 。 一 方,「 公 共 財 政論 」 は
「量 出 為 入 」(支 出 を量 って 収 入 を制 す る)の 支 出 重視 の 体 系 で,国 家 機 能 に
合 わせ た公 共 支 出 を賄 い う る水 準 の収 入 を租 税 で 確 保 す る体 系 で あ る。 「国 家
分 配 論 」 か ら 「公 共家 財政 論 」 へ の 転 換 は,社 会 的剰 余 価 値 の 集 中 再 分 配 構 造
の転 換 を背 景 と した財 政理 論 の構 成 を大 き く変換 す る もの で あ る。
「国 家 分 配 論 」 と 「公 共 財政 論 」 は,そ の 背 景 とす る経 済 シス テ ム は それ ぞ
れ計 画 経 済 と市 場 経 済 の よ うに,出 発 点が 異 な る理 論 で あ り,融 合 す る こ とは
困難 であ ろ う。 しか し,市 場 経 済 シス テ ム と公有 制 を同 時 に維 持 し よ う とす る
中 国 で は,支 出面 にお い て は 「公 共 財 政」 型 財 政 へ と転換 しつ つ あ るが,収
入
面 にお け る財 政 当 局 の行 動 は,「 国 家 分 配論 」 の収 入重 視 の 影 響 が 強 く残 っ て
い るの が現 状 で あ る32}。
32)市
場 経 済 シ ス テ ム1こ対 応 す る た め1994年 に 行 わ れ た 「分 税 制 」 改 革 は,巾 国 財 政 史 上 画 期 的 な
改革 で は あ るが.中
央 と地 方 の 税 収 入 配 分 を規 定 した だ けで 終 わ った とい う限 界 が あ る,ま
た,
「分税 制 」 以 後 も継 承 され た 中央 と地 方 の 間 で 企 業 の行 政 従 属 関 係 に基 づ く企 業 所 得 税 の 配分 シ
ス テ ム は,政 府 の 「公 共財 政 」 機 能 と 「国 有 資 産 管理 」 機 能の 分 離 を困 難 に して い る 。 詳 し くは
拙 稿 「「分 税 制 」 改 革 以 後 の 中 国 の 地 方財 政 に関 す る考 察一一天 津 市 地 方財 政 を 中心 に 」 『ア ジア 研
究』 第47巻 第2号,2001年4月
を参 照 され た い 。
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