...

真空のマシン

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

真空のマシン
GIFA・NEW CAST 07を視察して
−ダイカスト関連−
㈳ 日本ダイカスト協会 西 直 美
1.はじめに
CAST、METEC、THERMO PROCESS の 4 つ の 見
本市が同時に図 1 に示すように 17 のホールに分散し
2007 年 6 月12 日 ∼ 16 日 に ド イ ツ の Düsseldorf で
て開催された。本報告では GIFA 及び NEW CAST に
GIFA 2007 が開催され、社団法人日本ダイカスト協会
おいてダイカスト関連を中心に紹介する。
では、34 人の視察団を派遣し、著者もその一員として
GIFA は図 1 のホール 3 ∼ 7a、9 ∼ 11、15 ∼ 17 で開
参加した。我々の視察団は 6 月 6 日に日本を出発し、
催され、NEW CAST はホール 9、10 で開催されていた。
始めにイタリアの Milan に 6 月 9 日までの 4 日間滞在
GIFA への参加国は、地元ドイツをはじめ、アメリカ、
し Milan 近郊の 3 社を視察した。そのあと、Berlin に
イギリス、フランス、日本、中国など 40 か国で 450 社
空路で移動し、途中ドイツの中央部に位置する会社 1
以上の出展があり、NEW CAST は 27 か国で約 240 社
社を見学し(工場見学記は来月号に執筆予定である)、
以上の出展があった。日本からは、新東工業、宇部興
6 月11 日 に 陸 路 で Düsseldorf に 到 着 し た。12 日 ∼13
産機械、リョービ、ヒシヌママシナリーなど十数社が
日 に GIFA を 見 学 し、 翌 日 14 日 に Frankfurt に 陸 路
展示していた。写真 1 にホール 9 の会場内の様子を示す。
移動してその夜日本への帰路についた。したがって、
Düsseldorf での GIFA 会場見学は 2 日間のみで、少々
物足りない気もしたが、その間に見学した内容につい
て以下に簡単に紹介する。
2.GIFA 全体について
GIFA は、Düsseldorf 市の Messe Düsseldorf で 4 年
に 1 回開催される世界最大の鋳物関連の見本市で、今
回 で 11 回 目 と な る。GIFA と い っ て も GIFA、NEW
写真 1 ホール 9 の会場内の様子
3.分野別展示の紹介
3.1 ダイカストマシン
ダイカストマシンメーカーの展示は、Buhler、MüllerWeingarten、Idra、Frech な ど の EU 諸 国 の 主 要
なダイカストマシンメーカーを始め、ドイツ、スペ
インなどの中小のダイカストマシンメーカー、L. K.
Machinary といった中国のマシンメーカーなどが展示
を行っていた。日本のマシンメーカーは、宇部興産機
械、ヒシヌママシナリーが出展していた。
図 1 GIFA の会場配置図
Buhler は写真 2 に示すように 1,300 t の 2 プラテンの
写真 2 Buhler ブースの 1,300 t の 2 プラテン
ダイカストマシン 写真 3 中国の L. K. Machinary の 400 t の
ホットチャンバーマシン
ダイカストマシンを展示していた。今後 1,000 t 以上の
マシンはこのタイプになるとのことであった。2 プラ
テンダイカストマシンは、従来のダイカストマシンの
型締めに使用されていたトグル機構を廃止し、型の開
閉を可動プラテン下部の油圧シリンダあるいはサーボ
機構により行うものである。これにより、タイバーが
短く、リンクハウジング機構が不要なため省スペース
が可能である。日本のマシンメーカーでもこの 2 プラ
テンマシンが最近開発されているが、日本では、ハイ
ブリット方式(サ−ボと油圧駆動の複合)によるプラ
テンの稼動方式が主流で、省エネ・省スペ−ス化をね
写真 4 Urpe のホットチャンバーマシンと射出成型機
が装備されたマシン(左)と成形された製品(右:
白く見える部分が金属で周囲の黒く見える部分
が樹脂) らっている。しかし、Buhler などの EU のメーカーの
駆動方式はコスト的な配慮から従来と同じ油圧駆動が
の Urpe という会社が展示していたマシンで、1 台のマ
主体である。同社は GIFA と前後して日本製鋼所と合
シンにホットチャンバーマシンと射出成型機が装備さ
弁会社を設立し、08 年 1 月から日本での製造販売を行
れている。可動プレートは写真 4 に示すように回転式
うことを発表し、注目を集めていた。
になっており、展示されていた金型は 2 キャビティあ
Idra、Müller Weingarten でも 2 プラテンマシンを
り、最初に一方のキャビティに亜鉛合金を(マグネシ
発表し、それぞれ 800 ∼ 3,600 t、2,300 ∼ 4,000 t マシン
ウム合金ダイカストと説明していたような気がするが、
に採用する。Frech では、型締めを電動サーボモータ
カタログには ZAMAK(亜鉛合金)と記述されている)
で行うマシンを発表し、亜鉛合金ダイカスト用のホッ
ダイカストした後に、金型がプレートごと 180 度回転
トチャンバーでは型締めと射出を電動サーボモータで
して横から樹脂を射出する方式である。写真 4 のキャッ
行う方式である。
プのような製品で内側に金属、外側に樹脂の 2 重構造
中国の L. K. Machinary では、400 t のホットチャン
になっている。なお、残念ながら写真撮影は許可され
バーマシン(写真 3)とコールドチャンバーマシンを
なかったので、写真 4 はカタログより転載した。
展示し、マシン価格の安さを売り込んでいた。同社は
3.2 材料
最近日本にも販売実績があるが、中国ではすでに 1,500
今回の GIFA では Rheinfelden の Magsimal - 59 の適用
台の販売実績がある。日本から参加していた宇部興産
製品例が非常に多いのが注目された。この材料は Al -
機械、ヒシヌママシナリーはそれぞれ最新の 2 プラテ
Mg 系のダイカスト用合金(Al - 5 - 5 % Mg - 1.8 - 2.6 % Si)
ンマシンやパーティング射出ダイカストマシンなどを
で、発表されてからかなり年数がたっているが、Al -
発表していた。
Mg 系合金は鋳造が難しいことから日本では殆ど使用
その他、ユニークなダイカストマシンは、スペイン
されていない。しかし、合金特性としては非熱処理型
TOPICS 写真 5 Benz の S クラスのギヤボックスビーム
(Magsimal - 59) 写真 7 Lanborugini Gallardo Spyder のアルミニウムス
ペースフレーム(左上のリブ構造部品と右下の
黒く見える部分がダイカスト) の材料で鋳放しで強度、伸び、靭性に優れることから
l - 8.5 - 10.5 Si - 0.35 - 0.60 Mn - 0.006 - 0.025 Sr)で、 鋳 造 性
注目を集めていた。今回の GIFA では Benz の S クラス
に優れ、強度及び伸び特性がよい材料である。Mg
のギヤボックスビーム(写真 5)、フロントドアフレー
を低く抑えて時効による機械的性質の変化を抑えて
ム、BMW 5, 6 シリーズのサスペンションブラケットな
いるようだ。今回注目されたのは Rheinfelden ブース
どへの適用事例が展示されていた。かなり形状が複雑
に 展 示 さ れ て い た 写 真 7 に 示 す よ う な Lanborugini
な製品も同合金でダイカストされておりレベルの高さ
Gallardo Spyder のアルミニウムスペースフレームで
を痛感させられた。推測であるが、欧米では自動車の
ある。1994 年に Silafont - 36 のダイカスト採用で注目
インスツールメントパネルなどに代表されるような大
された Audi A 8 と同様な使い方で、A ピラーやリア
型で複雑なマグネシウム合金ダイカストを生産する技
コネクティングロッドなどが同合金でダイカストさ
術を有しており、マグネシウム合金に鋳造性が似てい
れ、溶接で押出部品などと接合されている。
る同合金を鋳造できるノウハウを持っているのではな
そ の 他、Thermodur - 73 と い う Al - Si - Cu - Mg 系 合
いかと考えられる。また、同様な合金で Magsimal - 33
金に Ni を添加した合金も紹介されており、耐熱性に
の製品も展示されていたが、カタログに記されていた
優れディーゼルのエンジンブロックや、シリンダー
規格成分は Magsimal - 59 とほぼ同じであった。詳細は
ヘッドなどをターゲットとした合金である。
不明であるが 59 と 33 の差は合金製造に差があるとの
3.3 潤滑剤・離型剤及び周辺機器・設備
ことで、機械的性質も若干違うようである。また、こ
潤滑剤は最近日本でも徐々に使用されつつある顆粒
れまで使用実績の高い Silafont - 36 の製品(写真 6)も展
状のチップ潤滑剤及びその供給装置の展示があった。
示されていた。
また、高温(800℃以上)に耐えられる耐熱性の無機系
同じく Rheinfelden の Castasil - 37 は Al - Si 系合金(A
のチップ潤滑剤なども紹介されていた。
離型剤に関しては特に注目されるようなものはな
く、日本から参加していた青木化学研究所が最近日本
で注目されている油性離型剤の少量塗布を紹介して
いた。なお、同技術によりサイクルタイムを劇的に
短縮した事例をリョービの井澤氏が WFO Technical
Forum で発表し、Best Technical Paper Award を受
けた。離型剤の塗布装置に関しては、従来のロボッ
トによる離型剤スプレー方式に替わって写真 8 に示
すようなカセットタイプのスプレーが多く展示されて
おり、スプレーヘッドはアドマイザータイプが主流で
あった。スプレーノズルを縦横にマトリックス状に配
写真 6 Silafont - 36 の製品
列し、各ノズルを独立に調整して塗布量の最適化をは
写真 8 マトリックスタイプのスプレー装置
写真 10 ロボットの展示
かる方法である。ロボット塗布に比べて短時間に塗布
3.4 製品
できるメリットがある。
今回の GIFA では、前回や前々回のような画期的な
日本では金型の温度調節機はそれほど多くは普
新製法を用いた目新しい製品の展示品は少なかった。
及 し て い な い が、 欧 州 で は か な り 普 及 し て お り、
むしろ、高真空ダイカストなどの特殊ダイカストを適
Düsseldorf に 行 く 前 に 見 学 し た ド イ ツ の 工 場 で も
用した部品の種類が増えて、水平展開の時期にあるよ
2,000 t クラスのダイカストマシン 1 台に温調機が計 6
うに感じた。そんな中で注目された製品についていく
台設置されていた。温調機というと媒体には油が使用
つか紹介する。
されているのが一般的であったが今回の展示では媒体
GDM ドイツ非鉄金属鋳物連合会のブースには国際
に水を使用しているものが多く展示されていた(写真
アルミニウムダイカスト展での受賞製品がいくつか
9)。高圧力をかけることで 150℃∼ 200℃の高温でも
展 示 さ れ て い た( 写 真 11)。 第 1 位 は G. A. Röder の
液体のままで使用できる。油に比べて比熱が大きいの
Al 10 S iMg(Fe)で鋳造した医療用のガス容器で、高
で媒体としての能力に優れており、また環境面でもメ
真空ダイカストした 2 個のパーツを溶接して中空部
リットがありそうだ。
を形成している。第 2 位は先に紹介した Benz の S ク
給湯、製品取り出し、ばり取りなどの作業を行うロ
ラ ス の フ ロ ン ト ド ア フ レ ー ム(Magsimal - 59)で あ
ボットも多く展示されていた(写真 10)。特にチャッ
る。フレーム下部がダイカストで上部の押出材と溶
キングはかなり高度なものが開発されており、画像処
接で接合されている。第 3 位は第 1 位の G.A.Röder で
理装置と組み合わせてワークの状況を判断してチャッ
AlSi 3 Cu により生産した Bentley の cabriolet のルーフ
キングする方法などが展示されていた。
写真 9 水を媒体とする温調機
写真 11 国際アルミニウムダイカスト展での受賞製品
(a)医療用のガス容器 (b)Benz の S クラスのフロントドアフレーム
(c)Bentley の cabr-iolet のルーフ収納装置
TOPICS 収納装置の部品である。
Manzoni Bouchot ではスチールパイプを鋳ぐるんだ製
AE Light Metal Casting で は 先 出 の Magsimal - 59
品を展示していた。
を使用した二輪のホイールを展示していた(写真 12 の
技術的に興味を引かれたのは、イタリアの金型メー
ホイール)。これはホイールの真ん中で分割して 2 ピー
カ ー KONCAR-ALTI の ブ ー ス に 展 示 さ れ て い た ス
スでダイカストしたあと左右を電子ビームで溶接した
チームヒータの筐体である。写真 15 に示すように長
もので、スポークの部分は中空になっている。その他、
さは 90 cm 程度であるが、内部を約 70 cm の中子にて
同社はサスペンションアーム、ショックアブソーバー
鋳抜いていた。しかも、中子は天側からの一方向で、
マウント、Audi -A3 のドアフレーム、A 300 エアバス
2 個取りである。また、ヒータであるから細いリブが
のアームレスト、酸素マスクホルダーケースなどを展
あり、これが肉厚 1 mm 程度で極めて薄肉である。イ
示し、高い技術力をアピールしていた。
タリアではごく一般的な暖房器具だそうで、かなりの
BMW ではアルミニウム合金をマグネシウム合金で
量を生産しているとのことであった。
鋳ぐるんだ直列 6 気筒エンジンブロックを展示してい
日本の出展者の製品では先述のリョービが崩壊性中
た(写真 13)。このような鋳ぐるみに代用される複合
子を使用したクローズドタイプのシリンダーブロッ
化技術の展示品も多く見受けられた。写真 14 はリョー
ク、高真空ダイカストのサブフレーム、ローター中子
ビブースに展示されていたベッドプレートでクラン
を使用したターボチャージャーなどを展示し、注目を
クシャフトと接する部分に鋳鉄が鋳ぐるまれている。
集めていた(写真 16)。また、宇部興産機械ではホン
同様な製品は他のブースでも見かけた。また、Grupe
写真 14 鋳鉄を鋳ぐるんだヘッドプレート
写真 12 Magsimal - 59 を使用した二輪のホイール
(中央を電子ビームで溶接) 写真 13 アルミニウム合金をマグネシウム合金で
鋳ぐるんだ直列 6 気筒エンジンブロック
写真 15 スチームヒータの筐体
(約 70 cm の鋳抜きを行っている)
訪問し、親交を暖めた。その際に通訳をお願いした現
地駐在の日本人が GIFA に関して注目すべきことを話
していたので紹介する。
「GIFA は鋳物の国際的見本市
で、出展者の目的は商談することにある。日本人は日
本で開催されるモーターショーや日本ダイカスト展示
会の感覚で訪れている人が多い。商談のつもりで行っ
ている人は少ないのではないか。また、基本的に会場
内、特にブース展示品は写真撮影が禁止であるが、日
本人(に限らないかもしれないが)はかまわず写真を
撮りまくる(ちなみに、本報告の写真は許可を得て撮
写真 16 リョービの展示ブース
影したものである)。」という印象を EU の人たちは感
じているという。このあたりに GIFA 出展者との間に
ダのセミソリッドダイカストで生産しているクローズ
ギャップがあり、「日本人は見るだけ見て日本に帰っ
ドタイプのディーゼルエンジンやトヨタの真空ダイカ
てからそっくり同じものを作る」という認識があるそ
ストサブフレームなどを展示して日本の技術レベルの
うで、「日本人が来たら適当に対応すればよい・・・」
高さをアピールしていた。
と考えている人が多いとのこと。我々も「何かいい物
その他、中国、台湾、インド、イスラエル、トルコ、
があれば参考にしよう」という考え方で GIFA に見物
南アフリカなど EU 以外のダイカスターも特徴のある
に行くのではなく、GIVE & TAKE の精神 を前提に
難易度の高い製品を展示しており、技術レベルの高さ
訪れる必要があるのではないか。
を痛感した。
4.まとめ
我々視察団の代表は、GIFA 会場にて GDM ドイツ
非鉄金属鋳物連合会専務理事の Gerahrd Klugge 氏を
社団法人日本ダイカスト協会
http://www.diecasting.or.jp/
〒105−0011 東京都港区芝公園 3−5−8 機械振興会館 502
TEL 03−3434−1885 FAX 03−3434−8829
Fly UP