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ダイヤニュースNo.69 - ダイヤ高齢社会研究財団
【ダイヤニュース】 no.69 2012 春 spring Viewpoint 「超高齢社会とこれからの地域コミュニティ」 Forum 東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授 ◉ 哲夫 「海外に学ぶアクティブシニアのライフスタイル」 三菱総合研究所主任研究員 ◉ 松田智生 My Opinion 「持続可能な地域づくり」 特別寄稿 CSOネットワーク事務局長・理事 ◉ 黒田かをり 「オレオレ詐欺の社会的背景」 聖学院大学人間福祉学部教授 ◉ 古谷野亘 「なぜ高齢者はオレオレ詐欺にだまされるのか」 警察庁振り込め詐欺対策室事務局 ◉ 廣渡隆信 コミュニティ 人と人をつなぐ Photo by Shinya Hirose 高 Viewpo int 齢社会とコミュニティの関係でい 「しっかり食べること」 、とくに「家に閉じこ えば、これから大都市の急速な もらないこと」である。そのためには、大 高齢化がきわめて深刻な様相を呈するだ 都市のサラリーマンがリタイアしても家に ろう。2005年から2030年までに後期高齢 閉じこもらないようなシステムを、コミュニ 者人口が1100万人から2200万人に倍増す ティの中につくっていく必要がある。 る。しかも、団塊世代の高齢化が急速に 東京大学高齢社会総合研究機構では、 進行し、大部分が大都市圏で増加する。 地域の中で高齢者が活躍できる就労の場 高度成長の過程で大都市圏へと大移 (高齢者の生きがい就労の創成) づくりを 動した労働力が、後期高齢期の世代へと 試みとして始めた。 「柏モデルプロジェク 向かっていく。急速に人口が流入した大 ト」 (図表参照) の取り組みである。 都市圏のベットタウンでは、日中勤め先に たとえば、休耕田を活用した農業、学童 超高齢社会と これからの 地域コミュニティ 海外に学ぶ アクティブシニアの ライフスタイル 米国のリタイアメント・コミュニティ ~アクティブシニアは過去を語らず今を語る 三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター 主任研究員 いた多くのサラリーマン 保育、高齢者が楽しむ「わいわいレストラ は、地域との接点が低 ン」など、生きがい就労をコミュニティビジ いため、十分にコミュニ ネスとして成立させていく。これらは地域 ティができていない。 に貢献してお小遣いも得られる。 1. はじめに イア生活を満喫できる街づくりが始まっ 第二に「介護」の問題だ。 「もし何か では、後期高齢期の 人と人のふれあいやコミュニティの形成 た。この住居、娯楽、医療、生活サービ あった時」 、せっかく移り住んだ場所から 課題は何か。近年は長 につながりながら、 高齢者が自立を維持し 高齢化先進国日本。今後続々と団塊 スが整備されたアクティブシニアのため 別の地の介護施設に移転せざるをえな 寿社会である。多くの ていける。 世代が退職するが、定年後の自由時間 の街がリタイアメント・コミュニティであ くなるのは経済的にも精神的にも負担で 人々が高齢期を経て死 超高齢社会においては、高齢者も可能 は一体どれくらいあるだろうか。1日24 り、主としてフロリダ、アリゾナ等の温暖 ある。 に至る過程で、多くの場合は虚弱な期間 なかぎり地域とのかかわりをもち、不定期 時間のうち睡眠や食事以外は約14時間、 な場所で開発されてきた。多くはゴルフ を経て死に至るわけだから、いかに虚弱 就労などで働きながらコミュニティビジネ 退職後の20年では、14時間×365日×20 場に隣接しており、シニアの夢である「ゴ 3.第二世代の にならないかが重要な課題である。 スづくりに参加し、できるかぎり自立をし 年間、何と約10万時間にもなる。充実し ルフ三昧」の日々が楽しめるようになっ リタイアメント・コミュニティ 虚弱化の予防は「しっかり歩くこと」 ながら生き切ってもらいたいと願う。 た老後はこの10万時間の過ごし方にか ている。先駆けとして有名なのが、アリ ~大学連携型CCRC かっている。 ゾナ州のサンシティだ。約3000haの敷 第一世代のコミュニティの課題であっ 健康で充実した老後への思いは日本 地に約3万人のシニアが住み、10のゴル た「知的刺激の不在」を解決したのが、 も海外も同じであるが、海外のアクティ フ場、ショッピングセンター、劇場、レスト 大学連携型のコミュニティだ。 ブシニアは、どのようなライフスタイルを ラン等あらゆる娯楽が満喫できるシニア マサチューセッツ州のラッセル・ビ 送っているのだろうか。ここでは、 「海 の理想郷になっている。 レッジは、大学の敷地にあるコミュニ 東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授 【Forum】 辻 哲夫 事業反映 参加 参加 事業反映 住みよい家、暮しやす く移動しやすいまちな ど、ハード面の設計を 中心に考える <プロジェクト総括意思決定> 人と人が繋がり支え合 う地域づくりを考える 在宅医療委員会 人と人委員会 住まい・移動 委員会 住まい 就労 連携 医療 (柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会より) 研究への反映 豊四季台地域高齢社会 総合研究会 いつまでも在宅で安心 して暮らせるための医 療看護介護サービスの あり方を考える 「柏モデルプロジェクト 〜長寿社会のまちづくり」 参加 各ワーキンググループ(作業委員会)で住民との 意見交換、勉強会などを実施し、具体的な事業を計画・実行 松田智生 ● 平均年齢84歳のアクティブシニアたちと筆者 定年後10万時間の過ごし方 ル」として、米国で多数展開されているリ ◇ ゴルフ三昧の老後にご用心! 以上の授業への出席となっている。シニ タイアメント・コミュニティの事例から、 しかし、シニアの理想郷にも盲点が アにとって授業は、昔は「出席しなけれ 活力ある超高齢社会へのヒントを紹介 あった。第一に「知的刺激の不在」だ。 ばいけない」受動的存在だったが、今は したい。 温暖な気候でのストレスフリーのゴルフ 「出席したい」という能動的存在になっ 三昧の毎日では、頭を使わず衰えて認知 ている。シニア学生同士が学び、サーク 2.リタイアメント・ 症等を患うおそれがある。シニアには体 ル活動で遊び、再びキャンパスライフを の元気だけでなく頭の元気も必要なの 満喫するという大学連携型コミュニティ である。 は全米で約70も存在する。また別の大 profile Tsuji Tetsuo 辻 哲夫 (つじ てつお) DiaNews | No69 | P 2 1971年東京大学法学部卒業後、厚生省 (当時)に入省。老人福祉課 長、国民健康保険課長、大臣官房審議官 (医療保険、健康政策担 当) 、官房長、保険局長、厚生労働事務次官を経て、2009年より現 職。厚生労働省在任中に医療制度改革に携わった。著書として、 「日 本の医療制度改革がめざすもの」 (時事通信社)等がある。 ティで、入居条件は、何と年間450時間 外に学ぶアクティブシニアのライフスタイ コミュニティとは 米国では1960年代から勤労者がリタ DiaNews | No69 | P 3 【Forum】 ● 図表1 米国の主な大学連携型リタイアメント・コミュニティ 大学名 名称 所在地 ラッセルカレッジ ラッセル・ビレッジ マサチューセッツ州 イサカカレッジ イサカコミュニティ ニューヨーク州 デューク大学 フォレスト・アット・デューク ノースカロライナ州 スタンフォード大学 クラシック・レジデンス カリフォルニア州 ダートマス大学 ケンダル・アット・ハノーバー ニューハンプシャー州 ● 図表3 ダートマス大学の生涯学習講座 〜2010年秋期講座の一部 ● 図表2 米国のリタイアメント・コミュニティ 〜第一世代と第二世代の比較 第一世代 第二世代 場所 温暖な地域 全国 (温暖な場所に限定せず) 中核施設 ゴルフ場 大学・病院・介護・ゴルフ場 ライフスタイル ゴルフ三昧、遊び中心 生涯学習・知的刺激・社会参加 住民 高齢者のみ 高齢者・学生・近隣住民 分野 講座名 1 政治 現代の国際政策課題 2 国際金融 3 環境 温暖化問題を考える 4 生活 上手に歳をとる方法 5 歴史 古代のミステリーの謎解き 6 歴史 ウィンストン・チャーチル論 7 執筆 ノンフィクションの書き方 8 文化 生け花~日本のフラワーア レンジメント 国際金融システム ● 写真1 美しい自然に囲まれた広大な敷地 のコミュニティ ● 写真2 近隣のダートマス大学 ● 写真3 アクティブシニアたち ● 写真4 良い病院が近隣にある安心感 ● 写真5 銀細工、折り紙、ラインダンスと 多彩な今日のイベント 学ではシニアが学ぶだけでなく教える 4.平均年齢84歳の大学連携型 た日々の健康や生活のテーマから、国際 かと一緒に食事をすることだわ。生涯学 や大学教授など、それなりの地位を築い ホームのイメージとは大きく異なってい 講座もあり、 元投資銀行家や元エンジニ 政治や世界金融等のアカデミックなテー 習ではパソコンを習っているの。 た方で、ともすれば過去の自慢話になり る、今後の日本の超高齢社会を考えるう アの話は学生にも好評だ。結局、学び・ 筆者が一昨年、今年と訪問した大学連 マまで約50の多様な講座があり、シニア ○87歳・男性 元エンジニア がちだが、彼らは今夢中になっているこ えで、多くの示唆がある。 教えるなかで「何かに打ち込んでいる」 携型CCRCが、アイビーリーグの名門校、 の知的好奇心を満たしている。学んだ ダートマス大学の近隣にある 「ケンダル・ 生徒が別の講座では講師として教える 退職前はエンジニアとして働いてい アクティブシニアは、 「過去を語るので ❶ シニアの高次欲求への対応 老化を防ぐのだ。 アット・ハノーバー」だ (写真1) 。美しい自 こともあり、講師陣は元大学教授、元経 た。今はヨガとテニス、そして日曜大工 なく、今を語る」のだ。 マズローの欲求5段階説では、人間の 第二の課 題である「 介 護 」を解 決 然に囲まれた26万㎡の広大な敷地に約 営者、元技術者など多士済々だ。また講 に夢中だね。コミュニティの自治委員会 したのが、同じ敷地で健 康時から介 400人のシニアが暮らし、平均年齢は84 師はティーチャーではなくグループリー にも参加して毎日忙しく過ごしているよ。 7. 選ばれる強み~居住者が資産 自己実現と言われる。従来型の老人ホー 護時まで継続的にケアを受けられる 歳。米国の平均寿命79歳を大きく上回り、 ダーと呼ばれる。これは、ディスカッショ ○87歳・女性 元公務員 今回訪問したケンダル・アット・ハノー ムは、生理や安全の基本的欲求の充足 CCRC(Continuing Care Retirement 寝たきりはわずか2割にしかすぎない。 ンを中心とした双方向の学び合いの精 バーは入居率98%、入居待ちが8年とい が中心だが、リタイアメント・コミュニティ Community)というシステムだ。日本の 注目すべき点は、 「大学街にあるコミュ 神の表れといえよう。 ここは、隣にダートマスの大学病院が う大変人気の高い施設だが、その強み では、集住での共助や社会参加、生涯 高齢者住宅が、サービス付き高齢者向 ニティ」という点だ。地元のハノーバー あるから安心だわ。高齢者にとって何か は一体何か? 施設ディレクターのウル 学習を通じた親和や承認といった高次 け住宅、有料老人ホーム、特別養護老人 市は人口1万人のうち約半数がダートマ 6.アクティブシニアの あった時に近くに良い病院があることは ソー氏は「Our asset is our people」と 欲求に応える場になっている (図表5) 。 ホームなどと分かれるように、米国でも ス大学の関係者という学生街であり、コ ライフスタイル とても大事だわ (写真4) 。 語る。それは「こんな人と余生を暮らし 高齢者住宅は、①健常者用、②軽介護、 ミュニティの近隣で大学生が颯爽と自 ~過去を語らず今を語る ○88歳・男性 元編集長 たい」という雰囲気や価値観を持った居 ❷ 四者一両得のモデル ③重介護、④認知症と分かれているが、 転車を乗りこなす姿をみかけると気分 ではコミュニティに住むアクティブシニ 住者そのものが資産ということだ。当地 大学連携型CCRCは、住民、大学、自 CCRCはこの①~④の居室をひとつの が若々しくなる (写真2) 。 アたちは、一体どんなライフスタイルを 私はダートマスのOBで、余生は母校 の強みを図表4にまとめた。 治体、企業の民・学・公・産、四者それぞ 送っているのだろうか。インタビューの の近くで過ごしたかったんだ。今はコ 「誰かの役に立っている」という実感が リタイアメント・コミュニティ 敷地にまとめたものであり、いわば介護 「日曜大工に夢中。毎日忙しい」 「良い病院が隣にある安心」 「余生は母校の近くで」 とを実に楽しそうに話す。 欲求は、①生理②安全③親和④承認⑤ れにメリットがある。 保険付き住宅ともいえよう。 5.ダートマス大学の 声を紹介したい (写真3) 。 ミュニティ雑誌の編集長として頑張って 8.日本への示唆 住民は知的で元気に生活し、学生は 大学連携型CCRCは、シニアの知的 ○84歳・女性 元大学教授 いるよ。 アクティブシニアが暮らすリタイアメン シニアの貴重な経験や知見を得られ、大 刺激を満たし、かつ介護不安を払拭す このコミュニティの人気のひとつが近 ト・コミュニティ。訪問して印象的だった 学は、多世代の知の交流拠点となる 。自 る第二世代のリタイアメント・コミュニティ 隣のダートマス大学の生涯学習講座だ。 歳をとって一番さびしいのは一人きり 印象的だったのは、彼らが昔の話をほ のは、皆明るい笑顔で毎日を充実して過 治体は、雇用創出、消費拡大、税収増に なのだ。 ここでは、 「上手に歳をとる方法」といっ の食事ね。ここでの一番の楽しみは誰 とんど話さないことだ。多くが元経営者 ごしていることであり、日本でいう老人 つながり、また企業においては、住宅・健 DiaNews | No69 | P 4 生涯学習講座 「誰かと一緒の食事が楽しみ。 」 DiaNews | No69 | P 5 【Forum】 ● 図表4 ケンダル・アット・ハノーバー、7つの強み ● 図表6 毎日充実して忙しいアクティブシニアの一日 M O y p i n i o n 概要 7:00 起床 1. 居住者が資産 こんな人と暮らしたいという雰囲気や価値観を持った居住者 7:30 散歩 外秩父の山々に囲まれ、美しい田園 みがベースになって実現できるものだ 2. 自主性 居住者の自主性を重んじた自治やレクリエーション活動 8:00 朝食 3. 生涯学習 ダートマス大学の生涯学習講座を通じた知的刺激やつながり 9:00 ガーデニングのサークル活動 風景が広がる小川町 (埼玉県) は、和紙 ということ、もうひとつはその目的のた 4. 愛校心 ダートマス大学の卒業生または関係者の愛校心 12:00 昼食 や酒造などの伝統産業で古くから栄え めにその地域で生活する、あるいは営 5. 街の魅力 学生街のアカデミックと活気。子供や孫が来たくなる街。 13:00 夫婦と友人とでゴルフ た町である。その南東部に位置する下 みをするさまざまな立場の人たちや団 6. 郷土愛 居住者の多くが東部ニューイングランド地方の出身。 16:00 生涯学習講座で美術史を勉強 7. 良い病院 隣接するダートマス大学病院の高度医療と健康支援 18:00 施設スタッフの子供の面倒をみる 里地区がいま注目を浴びている。下里 体が同じ目的に向かって協力・連携を 19:00 コミュニティの友人と夕食 地区は、40年以上有機農業に取り組 することが大事だということである。 20:00 コミュニティの運営委員会 む金子美登さんを中心に、食とエネル 世界中で「持続可能な発展 (サステ 22:00 就寝 ギーの自給を目指す地域づくりを進め ナブル・ディヴェロップメント) 」の重 ている。埼玉県の中堅ハウジングメー 要性が叫ばれて久しい。 「持続可能な カーである株式会社OKUTAは、金子 発展」は企業の社会的責任の文脈で さんの「地域づくりへの思い」に共感し も語られ、社会・環境・経済の三つの て、地元有機農業者の米を会社と社員 柱をベースに解 釈されてきた。2010 が全量購入する「提携」を始めた。そ 年 に 国 際 標 準 化 機 構 が 発 行し た 追記:謝辞 の OKUTAと有機農業者をつなぐ大 ISO26000(社会的責任の規格)は、 「持 ● 図表5 マズローの欲求5段階説 自己実現 承 認 親 和 安 全 生 理 リタイアメント•コミュニティでの 欲求充足 従来型の老人ホーム 康・学習・IT・金融等の関連ビジネスが創 者への「減税インセンティブ」という制度 出され、四者一両得のモデルとなる。 設計が重要な役割を果たしている。 口を開くことを期待したい。 一昨年そして今年の訪問に際して親切 事な役割を果たしているのは生活工 続可能な発展へのあらゆる組織の貢 事業者のインタビューで印象的だった 「一歩踏み出す勇気」 に対応していただいたケンダル・アット・ 房・游というNPOである。この地域に 献を促す」ことを目的としている。この のは、 「CCRCは単なる不動産ビジネス 日本でコミュニティの崩壊が言われて ハノーバーのディレクター、ウルソー氏に は、 地元の有機栽培の大豆で豆腐づく 規格の中にも、社会的責任の中核主題 でなく、ライフスタイルビジネス」という言 久しいが、昨年を表す言葉が「絆」で 感謝の気持ちを伝えたい。居住者への りに取り組む豆腐屋さんや有機米で酒 として組織の地域づくりへの参画と貢 葉であった。これは単なる老人ホームで あったように、今ほどコミュニティでのつ インタビューや夕食懇談会など、彼の機 造りをする酒屋さんがいて、地産地消 献がしっかりと位置づけられている。 なく、健康・介護・食事・生涯学習・社会 ながりや共助が重視されている時はな 転の利いた行動に大いに助けられた。 の循環型地域づくりという共通の目的 ともすれば抽象的な議論になりがちな 参加・資産運用などの複数のサービスに い。 昨年の東日本大震災の後、彼からメー に向かって互いに連携しながら日々の 「持続可能な発展」だが、すでにさまざ よる組み合せ型ビジネスという視点が 確かにリタイアメント・コミュニティの ルが届いた。 「君がケンダル・アット・ハ 営みを行っている。 まな地域で取り組みが芽吹いている。 重要であり、日本でも今後こうした新た ような新しい住まい方や暮らし方をする ノーバーで会ったすべての人々が、日本 この下里地区の事例は、二つの大事 そこに私たちは次の時代へとつながる な産業創造が期待できる。 には、市民にも行政にも様々な阻む壁が と君を心配している」という文面であっ なことを示唆していると思う。ひとつは 希望の光を見ることができるのではな あるが、できない理由を並べても何も解 たが、遠く離れた米国の地のアクティブ 「持続可能な社会」とは地域の取り組 ❹ 制度設計の視点 決しない。重要なことはまず一歩踏み出 シニアとその事業者と心を通わせている 事業者は地方税を納付するが国税は してみる勇気ではないだろうか。活力あ ということは、活力ある超高齢社会の研 免除されており、また居住者は家賃の一 る超高齢社会のために、意志のある市 究と事業化を目指す筆者のかけがえの 部を税控除できる利点がある。こうした 民、企業、自治体、大学が連携して突破 ない財産となっている。 減税でも地元自治体の財政が安定して profile いるのは、事業が好調で法人税が安定 Matsuda Tomoo し、元気シニアの活発な消費で地域経 (まつだ ともお) 済が潤い、寝たきりが少ないので医療 費が抑制できるからだ。事業者と居住 DiaNews | No69 | P 6 松田 智生 1966年生まれ 慶応義塾大学法学部政治学科卒業。 専門は高齢化社会の新産業政策・地域活性化。2010年三菱 総研の新たな政策提言プロジェクト「プラチナ社会研究会」 を立ち上げ、官公庁・企業に対して様々な提言やコンサルティ ングを行うとともに、専門誌への執筆や講演を数多く実施。 文部科学省生涯学習ネットワークフォーラム企画委員、石川 県ニッチトップ企業評価委員。 いか。 profile Kuroda Kawori 黒田かをり (くろだ かをり) Photo by Shinya Hirose 一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事 9.おわりに 黒田 かをり ❸ 組み合せ型ビジネス 持続可能な地域づくり キーワード 民間企業勤務の後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所、米 国民間非営利組織アジア財団を経て、2004年より現職。ISO26000(社会的責 任規格)策定の日本のNGOエキスパート、 「新しい公共」推進会議委員、経済 産業省BOPビジネス支援センター協議会委員などを務める。2010年4月より、 CSOネットワークとアジア・ファンデーション (元アジア財団) との事業パートナー シップ契約により、同団体のジャパン・ディレクターも兼任。CSOネットワークは 社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク (NNネット) の幹事団体。 DiaNews | No69 | P 7 Special Contribution 年の9月、ダイヤ財団の紹介に よりも、その事柄の社会的背景を明ら え方にも親子の差があります。たとえ も、ふるさとの親を「自分の家族だ」と 性のメンバーは、家族をつなぐ結節点 の日」と呼びかけています (callには電 より警察庁振り込め詐欺対 かにすることが中心になります。背景 ば、高齢者に「あなたの家族は」と尋 答える人はほぼ皆無です。親が思って の役割をしています。娘と親、特に母 話をかけるという意味もあります) 。遠 策室の係官2人の来訪を受けました。 といっても遠景から近景までさまざま ねますと、しばしば別居している息子 いるほどに子は親のことを思っていな 親との関係は密接なのです。ですか く離れて暮らしている親子でも、日頃 来訪の目的は2つでした。オレオレ詐 です。一番の遠景には人口の高齢化、 や娘をあげます。しかし、同じ質問を いと言ってもよいでしょう。このように ら、親の側からみても娘の状況はよく のコミュニケーションがよければ、お互 欺 (警察の定義では振り込め詐欺の つまり高齢者が増えたということがあ 別居している既婚の子どもにしたとき 親から子へのいわば片思いの状態が わかっていて、だまされにくくなってい いの状況がよくわかるはずですし、電 一類型) が一向に減らない理由につい ります。さらに、だまし取られるほどの には、自分の配偶者や子どもはあげて できていて、犯人につけ込まれやすく ます。ところが、息子が置かれている 話の声にも慣れて、だまされにくくなる て社会学的な説明を聞きたいというの 財産をもっていて、それを自由にできる なっているわけです。 状況はよくわからないし、先程の片思 でしょう。 がひとつ、もうひとつは計画中の新し 高齢者が増えたことがあります。 もうひとつの近景には、ジェンダー いの状態がありますから、犯人につけ ただ、親子の絆だけでは十分でな いキャンペーンについて意見を聞きた やや近い背景としては、日本では、 (社会・文化的な性差)の問題があり 込まれる余地が生まれ、オレオレ詐欺 いかもしれません。子どものいない人 いということでした。オレオレ詐欺に 高齢者が既婚の子どもと同居しない ます。子どもや孫をかたる犯人はほと に遭ってしまうというわけです。 も増えています。子どものいない人は、 ついて特に研究してきたわけではない ようになってから間がないということ んどすべて男です。これには、犯人グ ので、いくらか調べたり、考えたりした があります。高齢者の家族生活が急 ループには男が多いので、息子や孫 うえで2人と会いました。 速に変わって、子どもと同居しない高 息子をかたるしかないという事情も オレオレ詐欺を取りあげた研究は、 齢者が増えたのです。そのため、別れ あるのですが、男の子と親、特 このように考えてきますと、 警察庁の 日常的に接している近所の人や店の人 日本の社会老年学にはほとんどあり て暮らしている子どもとどう付き合っ に父親との関係は疎遠に 「親子の絆キャンペーン」は的を射たも はどうでしょうか。これらの人たちは、 ません。しかし、これまでに蓄積され たらよいのか、あるいは子どもの側か なりがちであるため のだということになってきます。 「親子 家族のような強力な支え手にはなりま てきた高齢期の家族に関する研究は、 らすると、ふるさとの親とどう付き合っ に、犯人につけ込 の絆キャンペーン」には、 具体的にはさ せんが、気楽に話せるような仲になる オレオレ詐欺が減らない背景につい たらよいのかという、社会的な合意が まれやすくなっ まざまな取り組みがあるのですが、親 ことはできます。 「いつもと違う」 「何か て多くのことを教えてくれます。 できていません。高齢者が既婚の子 ているという 子の関係を強化するために、まずは電 ヘン」と感じたときに気軽に声をかけ どもと同居しないのが当然となってか 面もありま 話をして、コミュニケーションをよくし てくれる人が多くいれば、毎日の暮ら す。家 族 ておきましょうと勧めます。たとえば東 しの安心度はより高まることになるで のな か 京の目黒警察署では、 「振り込めを絆 しょう。 で女 で防ぐ親コール」 「毎月15日は親コール 昨 オレオレ詐欺が減らない 社会的背景 社会学的な説明では、直接的な原因 ら長い年月を経ている欧米先進国で、 オレオレ詐欺はありません。 さらに、 「家族」の範囲についての考 オレオレ詐欺 オレオレ詐欺の 社会的背景 profile Koyano Wataru 古谷野 亘 (こやの わたる) 聖学院大学人間福祉学部教授 古谷野 亘 DiaNews | No69 | P 8 オレオレ詐欺には遭いにくいはずです 親子の絆と地域の絆 が、消費者被害に遭う可能性はありま すし、孤独死の危険はなくなりません。 立教大学大学院社会学研究科博士課程修了。保健学博士 (東京大学) 。立教大学、桃山学院大学、東京都老人総合 研究所、北海道医療大学等を経て、1999年より現職。 <主要著書>『間違いだらけの老人像:俗説とその科学』 (共著) 、川島書店・1985 『数学が苦手な人のための多変量解析ガイド:調査デ-タのまとめかた』川島書店・1988 『実証研究の手引き:調査と実験のすすめ方・まとめ方』 (共著) 、ワールドプランニング・1992 『現代定年模様:15年間の追跡調査』 (共著) 、ワールドプランニング・1993 『改訂・新社会老年学:シニアライフのゆくえ』 (共編著) 、ワールドプランニング・2008 <論文・学会発表> 多数 DiaNews | No69 | P 9 Dia Information Reports & information なぜ高齢者は オレオレ詐欺に だまされるのか Contribution 平成23年における振り込め詐欺全 犯行電話を見破り被害に遭わな や警察官等を装う 「オレオレ詐欺」は、 かった人ですら、その半数以上が、 「犯 認知件数4,628件、実質的な被害額は 人の声は子や孫と似ていた」と答えて 約106億円であり、この2年間で被害 います。電話の声だけで本人かどうか 件数は約1.5倍、被害額は約2倍に増 を聞き分けるのは困難です。 加。 (数値はいずれも暫定値) 次に、昨年警察庁で実施した被害 これを聞いて、 「あれだけ報道され 者本人からの聞き取り等により判明し ているのにどうしてだまされるのか」 たオレオレ詐欺被害者の代表的な意 と思う方も多いかもしれませんが、 思形成過程を端的に示します。 レオレ詐欺にだまされない』 」という 警察庁振り込め詐欺対策室事務局 警察庁警部廣渡隆信 に限らず、多くの人が、 「オレオレ詐欺 や恐怖心、時間的切迫感を感じる にだまされるのは特定の人」 「私 (両親 など極度のストレス状態に陥る。 や祖父母)は絶対大丈夫」などと安易 ❸ 「お金を払えば助かる」などの解決 に考えていますが、まずは以下のよう 策を提示され、熟慮することなく短 な思い込みに基づくこれらの誤解を 絡的に意思決定してしまう。 解く必要があります。 ❹自分の必要性を、家族が喜んでくれ ○ 「判断力の低下した高齢者がだまさ 被害者に高齢者が多いのは、そも 者は、あらゆる犯罪の格好のターゲッ そもオレオレ詐欺が子や孫に対する トです。また、被害に遭った高齢者は、 高齢者の情愛を逆手にとる犯罪だか 老後の蓄えを失うばかりか、家族との らです。 関係にも亀裂が生じたり、あるいは人 ○「子や孫の声は聞き分けられる」と を信じられなくなり社会との関係を自 25000 オレオレ詐欺被害総額 155.2 146.8 106.2 (億円) 145.3 10000 52 14874 DiaNews | No69 | P 10 H17 年 H18 年 03 ◆研究成果の発表 (*は財団研究員) 6430 H19 年 79.2 H20 年 3057 4418 H21 年 H22 年 4628 H23 年 4月1日付で、研究部に阿部詠子が着任しました。 1.「介護予防ボランティア登録者の活動への参加頻度に関連する要因」 老年学雑誌 2011;3 安順姫*、芳賀博 (桜美林大学大学院) 、兪今* 2.「インターライ方式ケアアセスメントの特徴と利点 多職種連携と切れ目のないケアプランを可能に」 訪問看護と介護 4月号 医学書院 天野貴史*、石橋智昭*、池上直己 (慶應義塾大学、インターライ日本) 1. 第27回日本老年精神医学会(6/21~22 大宮) 「うつリスクを有する地域高齢者のうつ状態のリスク要因」兪今* 2. シニアネットフォーラム21 in 東京2012(2/16~17) 先進事例研究「高齢期の活動継続におけるICTの役割」講演ならびに ワークショップ「ICTでシニアを助ける」コメンテーター 澤岡詩野* 04 ◆トピックス ダイヤビック・インストラクターチームが参加 「第8回ダイヤビック研究会」 (2/24~25 箱根) 全国のダイヤビック・インストラクターが一堂に会し、指 導レベルの統一と向上を目的に、小林祐美氏 (湘南エア ロビックコミッティ代表) による講義と新しいプログラム の実技指導を受けました。 05 ◆研究員著作物の ご案内 主任研究員 瀧波順子が 1. 新セルフチェック基礎介護技術第2版 中央法規出版 (平成24年2月発行)定価2,200円 (税別) 2005年発行の「セルフチェック基礎介護技術」における「介護技術には構造がある」 という新しい考え方に基づき、2008年に 「新セルフチェック基礎介護技術」を発行し 執筆した書籍2冊が ました。それから4年近い歳月を経た本年、昨今の介護技術の進歩を踏まえ、全面的 出版されました。 に改定したのが本書です。なかでも体位変換を中心に、新しい技法の導入、技術の 根拠の充実を図りました。これから介護を学ぶ学生、介護職、指導者の皆さまが、基 本介護技術をきちんと身につけ、その習得度を振り返るための教本として本書が役 立てば幸いです。 2. 地域ケアシステム・シリーズ第4巻(共著) (株)光生館 (平成24年4月発行)予価2,800円 (税別) 介護保険外生活支援サービスの実態調査 介護保険制度が施行されて12年。介護保険料や介護サービス利用料金の1割負担な どから、制度の存在が身近に感じられるようになってきました。一方、要介護者数は 急速に増加し、地域社会・家族関係も大きく変容しています。改めて 「地域」の意味 とその役割が問われるとともに、高齢者が尊厳をもって住み慣れた街で暮らし続け るために、「地域包括ケアシステム」の構築、すなわち、公助・自助・互助のサービスを 観点から見ても共通の課題であり、社 同時に組み合わせた「在宅生活の継続性を高める」ための基盤整備が喫緊の課題と 会全体で知恵を出し合い、あらゆる 調査結果から、そのサービス提供実態をまとめたものです。 ネットワークを活用し多方面から高齢 7615 本年3月末に針金まゆみと吉田恵が離任しました。 3. アダプテッドエアロビックナショナルフェスタよこはま2012」 (3/11) 欺の対策のみならず、防災、福祉等の オレオレ詐欺 191.3 H16 年 (*は財団研究員) 「高齢者を守る」ことは、オレオレ詐 架空請求詐欺 7093 ◆研究成果の 論文発表 が出ています。 融資保証金詐欺 6854 ◆研究員離任並びに 着任のお知らせ ら絶って孤立化するなど甚大な影響 還付金等詐欺 5000 る反応で確認したい。 情に厚く、ある程度蓄えがある高齢 れる」という思い込み 01 02 い反射的に嬉しくなる。 ❷身内のトラブルを告げられ、不安感 (件) 30000 128.6 ❶久しぶりの子や孫からの電話と思 単純な図式は成り立ちません。高齢者 振り込め詐欺認知件数等の推移 15000 いう思い込み 体の認知件数は6,255件。うち、親族 「 『オレオレ詐欺を知っている』= 『オ 20000 2012 spring 者にアプローチし続けることが肝要 です。 なってきました。本書は、介護保険外サービス事業者 (75事業者) を対象に実施した 06 ◆ダイヤニュース 送付先変更について 送付先変更、送付停止等のご希望は、 FAXまたはE-mailにてお知らせいただきたくお願いいたします。 FAX:03-5919-1641 E-mail :[email protected] DiaNews | No69 | P 11 「最 期まで人間らしく暮らせる家」を追求する天野さん、 安心な家づくりが長年のテーマの建築家・天野さんに「転 リフォームから高齢者施設まで手がけて50年にな ばぬ先の家づくり」についてお聞きした。 「私の祖母の場合、シャワーで自分の身体を洗い、這ってベッ した。日本は超高齢社会、長生きの時代だ。長生きすれば、 ドまで戻るため、すのこを使いました。脳性麻痺のお子さん 家は古くなるし、家族も古くなる。 は、座ったままずれて行けるいすを使って (写真参照)トイレ ついのすみかを考えるとき、高齢者 施設へ入所するのが安心という選択 肢もあるが、本心から施設へ移りたい と思っている人は多くはない。 「家といっしょに朽ちないため、まだ 元気な50代60代のうちに、いま住ん でいる家をどうするか準備しておきた い」と天野さんはいわれる。 代 代から始めたい 「転ばぬ先の家づくり」 る。渋谷の松濤にある「アトリエ4A」に、天野さんをお訪ね 50 60 に行けます。究極は這ってでも自分でトイレまで行けること。 ちょっと工夫すれば、人に介護されなくても、自立して生きら れることが重要なのです」 。 「人として生きるための幸せは何か。それは住み慣れた家に 最期まで住めることです」と。 準備はいつごろからかとお聞きすると、 「今です、元気なうちに。いま住んでいる家が年取ってから住 みたくない家なら、住み替え・改造をすぐに始めましょう。50 歳の今ならお金もあるし、働く力もあります。年取ってからだ と、家づくりに手を加えようとするときに、建築家も中途半端 なリフォームしかできません。大事なことは“今”の住まいを 考えて、ついのすみかをシミュレーションしリフォームする。転 ばぬ先に始めましょう」 。 天野さん提唱のリフォームのポイントは、東日本大震災でも 問題になっているように「住み慣れた家を離れないこと」 。向 絆も保たれる。 「年取ってからは増築するのではなく、身のまわりも含めた“減 築” をキーワードにしたい」 、最後にこう結ばれた。 (文・望月幸代 写真・谷本 夏) 4 A 代表 (あまの あきら) さん 一級建築士事務所アトリエ 天野 彰 Focus こう三軒両隣りに継続した声かけができれば、コミュニティの ❶ ベンチ式トイレ ❷「転ばぬ先の家づくり」 (祥伝社) 「朝日コム連載」 www.asahi.com/housing/amano/ (天野彰のいい家いい家族) ❶ 発行者 : 2012 spring 春 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 〒160-0022 東京都新宿区新宿 1-34-5 直田ビル3階 E-mail : [email protected] FAX : 03-5919-1641 http://www.dia.or.jp ❷ 編集人 : 後藤公位 企画編集 : 株式会社ミズ総合企画 デザイン : カインズ・アート・アソシエイツ 印刷 : 大川印刷 発行 : 2012.4.25 No.69