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ひび割れを有する鉄筋コンクリートの腐食に関する基礎的研究
51巻 11号 (1999.11) 産 生 785 研 究 速I I報I 研 究 │││││││││││││││││││││││││││││││ ││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││II 研 究 速 報 ひび割 れ を有す る鉄筋 コ ンクリー トの腐食 に関す る基礎 的研究 Study on corrosion rate of reinforcing steel bar in cracked concrete 塚 原 絵 万 *・ 魚 本 健 人 ** Ema TSUKAHARA and Taketo UOMOTO 1. は じ め に コンク リー トにひび割 れが生 じる と,ひ び割 れ を通 じて 外部環境 中 の物質 が容易 に鉄筋 に到達す るこ ととな り,鉄 筋 の腐食 が進行 し構 造物 の性 能 は著 しく低下す る。本研 究 で は,塩 害環境 下 にお け る鉄筋 コン ク リー トを対 象 と し, ひび割 れ 部 の塩 化物 イオ ンの侵入機構 を明 白 にす る こ とを ー 第 一 の 目的 とした。 ひび割 れ を有す る鉄筋 コ ンク リ ト供 試体 を用 い て ,健 全 部 とひび割 れ部 の拡散浸透機構 の違 い を検討 した。そ して ,ひ び害Jれ部 に境 界 条件 を与 える こ と の妥 当性 を解析 に よ り検討 した。 また,コ ンク リー ト中の鋼材腐食 にお い て ひび害Jれ近傍 の鋼材 はアノ ー ドを形成す る こ とが知 られて い るが ,そ の ー 形成過程 をシ ミュ レ シ ョンに よつて再現す る こ とを第 二 の 目的 と した。特 に,塩 化物 イオ ンの拡散浸 透 に着 目 し, 塩化物 イオ ン濃度差 に よる濃淡電池作 用 を考慮 した鋼材腐 口面 を除 く5面 をエ ポキシ系樹脂 に よ り被 覆 し,腐 食物質 は 1面 のみか ら侵入す る よ うに した。比較用 の 曲げ載荷 を 行 なわない供試体 につい て も同様 に被 覆 を行 った。供試体 の形状 を図 1に 示 す 。尚 ,鉄 筋端部 は極 力 防水 し,供 試体 端部 か らの腐食 開始 を防 い だ。 2.3 促進試験方法 促 進試験 は供 試体材令 35日 か ら行 い , 3日 間 の乾燥 お よび模擬海水 中へ の浸漬 4日 間 を 1サ イクル とす る乾湿繰 り返 し実験 を 13サ イ クル まで行 った。塩 水 浸漬期 間 ,乾 一 燥 期 間 と も に温 度 は 定 で あ る 。模 擬 海 水 は 濃 度 3± 0.3%の 塩化 ナ トリウ ム水 溶液 で あ り,乾 燥 時 の相対 湿 度 は 60%と した。 ン ク リー トの配合 表1 コ ilumpIcmAiri% W/C W C S 268 G SP C・0,3% 食 モ デ ル を作 成 した。 2.実 験 概 要 2.1 使 用材料及 び 配合 ー 本研 究 にお い て用 い た コンク リ トの示方配合 を表 1に 示 す 。 また,ス ラ ンプ と空気量試験 の結果 お よび水 中養 生 28日 後 の圧縮 強度 を表 2に 示 す 。 鋼材 は SD 295 Aの異形 鉄筋 をア セ トン脱脂後 ,黒 皮付 単位[mm 図 1 共 試体概 要 きの まま使 用 した。 2.2 供 試体 の作 成 ー 供 試体 は 10× 10X40cmの 型枠 内 に コンク リ トを打 Cで 水 中養生 を 設 し,翌 日脱 型 して材令 28日 まで温度 20° 行 った。 鉄 筋 は純 か ぶ りで 20 mmと な る よ う供 試体 の 中 心 に鉄筋 を配 置 して い る。その後 ,3′点曲げ載荷 に よ り供 試体 下面 の 中央付 近 に曲げひび割 れ を設 けた。 ひび害Jれ開 *東 京大学生産技術研究所 第 5部 **東 京大学国際 ・産学共同研究 セ ンター 位 :an] 陣 の 図 2 試 料 採取 ひび割れ IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIlll111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 53 786 研 51巻 11号 (1999.11) 究 生 産 研 究 報 │││││││││││││││││││││││ │││ │││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││1111 1111 11111111111 酬薄 ロ サ 伊0 酬 研 ︵ oこ ひび割れ部 図 3 塩 化物 イ オ ンの浸透状況 (ひび割 れ 幅 0.09 mm) て 自然電位 の変 曲点 を電 流量解析 に よ り求 め,鋼 材 の アノ ー ド領域 とカソー ド領域 の境界 を 把握 し,電 流量 の積算値 よ り腐 食反応量 を推定 した。 また ,供 試体害」 裂後 ,鉄 筋 の /it錆 面積 を写 し取 り,画 像解析 にて腐食面積 を測定 した。 5 0 , 0 し,自 然電位 に基 づ く劣化診 断 は,測 定時 の腐 食進行度 を 2)を 示 す定性 的 な もの に過 ぎない 。従 って ,小 山 参考 に し 1 照合電極 に銀塩化銀電極 を用 い ,各 週毎 に 自然電位 の測 定 を行 うこ とに よって,鉄 筋 の腐 食程度 を把握 した。 しか ・ 2.5 腐 食程度 の 把握 \. α =-1,05 5 た。 ︲ に して粉体試料 お よび測定試料 を作成 し,簡 易塩分分析 計 (東亜 電波 工 業製)を 用 い て塩 化 物 イオ ン量 の測定 を行 っ 5 2 . 2 て作成 した。 尚 ,ひ び割 れの ない供試体 につい ては,供 試 体 中央 部分 を同様 に切 出 した.JcI¨sc 4お よび 51)を参 考 3 0 測 定試料 は,供 試体 を割裂 し鉄 筋 を取 り除 い た後 ,図 2 の よ うに,割 裂後 の供試体半分 をオイ ル カ ッターで切 出 し \ ` Z凧 需 ミ_1モ ││♀ , 1 , 0 2.4 全 塩 化 物 量 測 定 方 法 △ 20く ℃-0.09mm □ 20C℃-0.20mm 5 2 ・ 0 図 4 ひ び害Jれか らの Cl_浸透量実測デー タ 3 3 ・ 0 ひび割 れ 中心部 からの 距 離 Y(cml =-1.33 5 4 , 4 4 ・ 0 012345678 5 5 , 0 □ 7cm … … 7cm近 似線 0 9cm -9cm近 似線 ︵ じ 嘔像岬口RЮむ紀里最長椰b● 6 ・ 0 曾選 ooち ・ , お 8 o嘲b 畑 解放面からの距離 X △ 5cm ――‐5om近 似線 0 1 2 3 解放面 か らの距離の平方根 X12 図 5 開 放面からの距離 とひび割れ部における表面 塩分量の関係 3.ひ び 割 れ か らの塩化 物 イオンの 拡散 図 3に 環境 温度 20° Cに お け る促 進 13週 後 の ひび割 れ周 辺部 の塩化物 イオ ン濃度分布 を示 す。 ここで表記 した ひび 割 れ幅 は,開 放面 にお け る 7点 の ひび害Jれ幅 の平均値 で あ り,濃 度分布 は図 2に 示 した測 定位置 にお ける塩化物 イオ ン濃度 を等 高線 にて表 した ものであ る。 これ よ り,ひ び割 れ を有 す る コ ンク リー トは内部 まで塩 化物 イオ ンが浸 透 し や す くな ってい る こ とは明 らかであ り,ひ び割 れ を中心 と して塩 化 物 イ オ ン濃 度 分布 が 形 成 され て い る こ とが 分 か る。従 って ,Fickの 拡散法則 によ りひび割 れか らの塩 化物 イオ ンの拡散浸 透 を表現 す る こ とを試み た。 Fickの第 2法 則 にお い て,境 界条件 を一 定 とす る こ とに よ り,―拡 散現象 を見 か け上 の拡散 と見 な して 実測 デ ー タ を近似 す る こ とが 可 能 とな る。 本研 究 で は表面塩 分 量 c0 を式 (1)の様 に表 した 1). Co= C(0,t) = S/T CO:表 面塩分量 (%) S:表 面塩 分量係 数 ……………………… ……………。 (1) 51巻 11号 (1999.11) 産 生 研 究 787 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1究1 1 1 1速 1 1 1 1 1報1 1 1 1 1 研 ごE。︶ 燿旧倒拠 ひび割れ 鋤 0.1 8 0 6 0 /1 -4weeks 4 0 2 0 0 10 20 刊■訓t聖 T く くこ 劇 颯 瞬 0 ■ oゝ ︶嘲 慶 倒 担 予測値 0.05 0 30 鉄筋端部 からの距離 (cm) 図 6 腐 食面積お よび腐食減量の分布 ひび害」 れの無 い供試体 の実測 デ ー タを用 い て近似 を行 った cm2/s,表 面塩 分 量係 数 は 結 果 ,Cl¨拡 散係 数 は 1.83×10イ 0.0011となった。かぶ リコ ンク リー ト中 を浸透す る こ とと -4weeks _ Tweeks lSweeks ----- Omonths *** lyear - - - 2years 2 4 6 8 10 12 14 解析 モデル中の鉄筋端部 からの距離 (cm) 図 7 電 流量分布 (解析結果) 4口 ひび害1れを有 す る コン ク リー ト中の鉄筋 の腐食 Cの ひび割 電流量解析 を用 い て得 られ た ,環 境 温 度 20° 比較 して ,ひ び割 れ を通 じる ことによ り塩 化物 イオ ンの浸 れ 幅 0.091111n供 試体 の促 進 13週 にお け る腐 食面積 と腐 食 透が容易 になる と考 える と,ひ び害Jれ部分 は解放面 とは異 減量 の経時変化 を図 6に 示 す 。供試体割 裂後 に腐 測定 した 腐 食面積 と自然電位 の経 時変化 か ら予測 した食減量 の位置 はほぼ一 致 してお り,腐 食 はひび害Jれを中心 として起 こっ た ことが 分 か る。本研 究 で は,に ひび割 れ周 囲 の塩化物 イ な った境界 条件 を有 す る と考 え られ る。図 4に 乾湿繰 り返 し実験 13週 を経 た ひび割 れ周 辺 の塩 化物 イオ ン量 実測 デ ー タ と近似 線 を示 す 。 図 中 の Xは ひび 割 れ 深 さ方 向 ,Y は ひび割 れ に対 して垂 直方 向 を示 す (図 2参 照 ).解 放 面 か らの X方 向 へ の浸 透 ,及 び鉄 筋 位 置 にお け る塩 化 物 イ オ ンの拡散浸透 に着 目し,そ れが ひび害Jれ周辺 の鋼材腐食 に及 ぼす影響 を解析 的 に検 討 した。 10 cmまで をひ 塩分 濃度 と自然電位 は よぃ相 関 を有 し,ま た,電 位差 は び割 れ 部分 か らの浸 透 と見 な した。近似 の 際 ,Cl―拡 散係 一 ー 数 はひび割 れ の無 い供試体 と等 し く,コ ンク リ ト中で 一 定 とした。 図 4よ り,拡 散係 数 を 定 と した近似 は妥 当 で 腐食電池 の起電力 に相 当す る ものであ り,そ の変化量 は腐 食 に直接 関係す るパ ラメー タと考 え られる。従 つて,ま ず, オ ンの 蓄積 の影響 を避 け るため ,X=4∼ あ り,ひ び割 れ部分 の表面 塩分量 は 内奥部 に向か うほ ど小 さ くな る こ とが分 か る。図 5に 各 ひび割 れ供試体 にお け る を示 す 。 これ よ り,ひ び割 れ部分 の表面塩 分量 は解放 面 か らの距 離 の平 方根 と良 い相 関 を示 し,式 (2)の様 に表 す こ とがで きる。 A/X+S√ X,t)=α C【 α :係 数 (ひび割 れ有 り≠ 0,無 し =0) Cc:開 放面 か らxcmの ひび割 れ部 にお け る 表面 塩分量 (%)… ………………………………。(2) Cと した試験 体 同 じ乾 湿繰 り返 し条件 で環境 温 度 を 40° 前節 に示 した様 に,促 進試験 よ り得 られた境界条件及 び拡 散係数 を も とに,有 限要素法 を用 い て塩 化物 イオ ンの 2次 3)を い 用 て各点 にお け 元拡散解析 を行 った。 そ して ,次 式 る 自然電位 Eを 求 めた。 b E=一 α×InlNaCl.40/o)一 E:電 位 (V),NaCl:コ ンク リー トに対 す る塩 分 (NaCl)の重量 %濃 度 a,b:係 数 ………………………………………………(3) 図 7に 拡散解析 の結 果得 られた各期 間毎 の電流量 の分布 を示 す 。 ひび割 れ部 は初期 はアノ ー ドと して働 くが ,次 第 にカソー ドに移 行 して い く結 果 となった。 同時 にひび割 れ か ら離 れた箇所 はアノー ドとな り,初 期 と比 較 して非常 に の デ ー タ も図 中 に掲 載 した。係 数 αは境 界 条件 の ひび 害J れ内奥 方 向へ の減衰 を表す係 数 で あ り,本 実験 の範 囲内 で 拡 散 解析 結 緩 や か だが腐 食 を開始 す る こ とが 分 か る。Cl― は,ひ び割 れ 幅 よ りも環境 温度 の影響 を受 けやす い とい え る。 果 よ り考察す る と,初 期 はひび害Jれの存在 に よつて鋼 材位 置 に置 い て極端 な濃度差 が生 じ,結 果 と して大 きな起電力 │││││││││││││││IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII 55 788 51巻 1 1 号 ( 1 9 9 91。 1) 生 産 研 究 報 │││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││ 研 が働 くが ,次 第 に濃度が均 一 にな り腐食速度が低 下 した と い うこ とが考 え られ る。腐食現象 は各腐 食 因子 の供給 とバ ラ ンス による もので あ り,濃 度差 の み を考慮す る場合 ,定 量 的 な結果 は得 られない 。 しか し,以 上 の結果 よ り,鉄 筋 コ ンク リー ト中 にひび割 れが あ る場合 ,塩 化物 イ オ ン_の 濃度差 は起 電力 となるため に腐 食初期 に特 に影響 を及 ぼす こ とが考 え られ る。 謝 本研 究 を行 うにあた りご協力頂 い た魚本研 究室助手 加藤 佳孝氏 ,同技術 官 星野 富夫氏 ,芝 浦 工 業大学 中山直基 君 に 感謝 の意 を表 します。 (1999年8月 10日 受理) 参 考 5.ま と め ひび割 れ を有す る鉄 筋 コ ンク リー ト中の塩 化物 イオ ン浸 透お よび鉄筋腐 食 につい て,本 研 究 よ り得 られた成果 を以 下 に示す 。 1)ひ び割 れ を通 じた塩 化物 イオ ンの見 か けの拡散 を考 え る場合 ,開 放面以夕れこひび害Jれ部 に も境 界条件 を与 え る必要が あ る。 辞 1) 文 献 丸屋岡1・宇治公隆 :コ ンクリー トヘ の塩分拡散浸透 に関す る表面塩分量 の定式化 ,コ ンクリー トエ学年次論文報告集, Vol.11,No.1,pp597-602,1989. 小 山理恵 ,矢 島哲司,魚 本健人 ,星 野富夫 :自 然電位 を用 い た鉄筋腐食状態の推 定手法 に関す る基礎 的研究 ,土 木学 会論文集 ,No.550/V-33,13-22,1996.11. 日本 コンクリー トエ学協会 :コ ンクリー ト構造物 の補修 工 法研究委員会報告書,1996. 2)ひ び割 れ部 の境界条件 となる表面塩分量 はひび割 れ幅 よ りも環境温度 に影響 を受 け,解 放面 か らの距離 の平 方根 と直線 関係 で表 せ る。 2)腐 食 因子 の 中で特 に塩 化物 イオ ンの働 きについ て考 え る場合 ,ひ び割 れの存在 に よる塩 化物 イオ ンの濃度差 が起電力 とな り,そ れは特 に腐食初期 に大 き く作用す る。 │││││IIIIIIIIIIIIIIllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll!││││││││││││││││││││││││││││ 56