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低消費電力無線受信器を搭載した2線式電子スイッチ

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低消費電力無線受信器を搭載した2線式電子スイッチ
特集「情報機器関連技術」
低消費電力無線受信器を搭載した2線式電子スイッチ
Two-Wire-Type Electronic Lighting Switch Equipped with Low Power-Consumption Radio Receiver
植田 真介* ・ 東浜 弘忠* ・ 笠井 秀樹* ・ 谷利 陽子* ・ 豊田 一郎** ・ 上原 健太郎**
Shinsuke Ueda
Hirotada Higashihama
Hideki Kasai
Yoko Tanikaga
Ichiro Toyoda
Kentaro Uehara
無線で照明制御を行う 2 線式電子スイッチにおいて,2 線式電源回路では AC / DC コンバータに
DC / DC コンバータを直列に接続して 2 段階の電力変換を行うとともに DC / DC コンバータ部に
PFM 制御を導入することで,受信回路では周波数逓倍方式を採用することで低消費電力化を図り,待
機時の消費電流 1 mA 以下を実現した。また受信回路においては,PWM 信号による自動周波数制御方
式を採用することで動作温度 80 ℃でも安定した受信性能を確保し,通信エリア 20 m を達成している。
この 2 線式電子スイッチと人体センサを備えた発信器を組み合わせることにより,電波式のワイアレ
ス照明自動制御システムを簡単な工事で構築することが可能となり,照明の省エネルギーを促進する効
果が期待できる。
We have developed a low-power two-wire-type electronic lighting switch with low power-consumption
radio receiver. By connecting AC/DC converter and PFM-controlled DC/DC converter in series and
adopting frequency multiplying method to receiver circuit, the power consumption has achieved less than
1 mA at standby mode. This receiver circuit has achieved stable reception performance of communication
distance of 20 m at operation temperature of 80°C by adopting PWM automatic frequency control.
Automatic lighting wireless control system can be easily installed by combining this two -wire-type
electronic switch and transmitter with motion detection sensor, thus energy saving of lighting systems is
expected.
商用電源
1. ま え が き
近年,地球環境問題の深刻化に伴い,オフィス,工場,
家庭などの各分野でエネルギー使用量の削減が求められて
いる。平均的なオフィスビルディングにおいては,全エネ
DC 接続
照明負荷
ルギー消費のうち照明が約 21 %を占めており,空調の約
31 %に次いで大きな割合となっている 1)。このため,照明
DC 接続
親器
子器
子器
センサ
センサ
センサ
図 1 従来の照明自動制御システムの構成
に対する省エネルギーのニーズは非常に強く,人体センサ
を用いた自動制御の需要が増えてきている。
そこで筆者らは,既設のスイッチ配線(片切)をそのま
当社でも,人の動きによって生じる温度の変化を検知す
ま活かし,簡単な工事で設置可能な無線受信機能付き 2 線
る独自の人体センサ「NaPiOn」を内蔵した天井埋込型の
式電子スイッチ(以下,スイッチ受信器と記す)を開発し
自動制御スイッチ「かってにスイッチ」を上市しており,
た。このスイッチ受信器は,発信器を備えた人体センサ(以
たとえば公共のトイレット,オフィスのロッカールーム,
下,発信器付きセンサと記す)と組み合わせることにより,
工場の倉庫など広範囲に採用され,自動点灯機能や消灯タ
電波式のワイアレス照明自動制御システムの構築を容易と
イマ機能により省エネルギーに貢献している。
するものである。
しかし,このスイッチを既設の照明設備に導入する場合
には天井での煩雑な配線工事が必要になる(図 1)
。
本稿では,その構成要素となるスイッチ受信器の開発に
ついて述べる。
* 情報機器事業本部 情報機器R & Dセンター Research & Development Center, Information Equipment & Wiring Products Manufacturing Business Unit
** 情報機器事業本部 配線・配管事業部 Wiring Devices & Electrical Conduits Division, Information Equipment & Wiring Products Manufacturing Business Unit
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パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3)
およびマイクロコンピュータの低消費電力化が必要である。
2. スイッチ受信器の概要と要求仕様
また,併せて電源回路の高効率化も必要である。
(3)の実現には,照明負荷通電時のトライアック等の内
2.1 システムの構成
図 2 に示すように,ワイアレス照明自動制御システムは,
発信器付きセンサとスイッチ受信器,照明負荷および商用
部半導体素子の発熱による温度変化に対しても安定した受
信性能が確保できるように周波数の自動制御が必要である。
電源とから構成される。
発信器付きセンサ
∼
照明負荷
・・・
無線受信回路
駆動電力
周波数
制御
受信
データ
2 線式
電源回路
マイクロ
コンピュータ
電路の
開閉制御
スイッチ受信器
図 2 照明自動制御システムの構成
操作部
図 3 スイッチ受信器のブロック図
発信器付きセンサは人を検知するとその情報を無線信号
でスイッチ受信器に伝達するもので,電源には電池を使用
しており配線工事なしで設置できる。また,スイッチ受信
次章以降にこれらの技術課題の詳細と解決方法について
器は手動での電路開閉も可能である。
述べる。
2.2 スイッチ受信器の要求仕様
スイッチ受信器は図 3 に示すように,2 線式電源回路,
3. 2線式電源回路の高効率化
無線受信回路,マイクロコンピュータ,および操作部から
るとともに,照明負荷の消灯/点灯の両状態においてマイ
構成される。また,これに対する主な要求仕様は次のとお
クロコンピュータおよび無線受信回路を駆動させるための
りである。
直流電力を供給する機能を備える。商用電源から直流電力
(1)施工性
を効率良く得るためにはスイッチング電源を用いることが
既設の手動スイッチの配線(2 線)をそのまま利用で
き,新たな配線が不要であること。
(2)負荷適合性
さまざまな照明負荷にも適合できるように,負荷適合
性が従来の電子スイッチと同等以上であること。
2 線式電源回路は,照明負荷への電路の開閉機能を有す
一般的であるが,自己消費電力による電力変換効率の低下
と,スイッチングに伴い発生するノイズによる無線受信特
性の劣化が問題となる。
そこで,開発品の 2 線式電源回路においては,図 4 に示
すように AC / DC コンバータと DC / DC コンバータを
・定格負荷電流:3 A
用いて 2 段階の電力変換を行うとともに,DC / DC コン
・消費電流:1 mA 以下
バータ部に PFM 制御を導入することにより電源の効率化
(3)通信エリア
小規模なロッカールームやトイレットでの使用に対応
するため,水平見通し距離で約 20 m の通信性能を有す
ること。
を図る。これにより総合変換効率は従来品のほぼ 4 倍の約
7 %となり,消費電流 1 mA 以下の条件下では 7 mW の直
流電力を出力できる。
また,DC / DC コンバータ部のキャリア周波数を後述
する無線受信回路の IF 周波数よりも低い周波数とするこ
(1)の実現には,必然的に電子スイッチは 2 線式となる。
2 線式電子スイッチは一般的な壁スイッチと同様の配線に
とで,スイッチングノイズによる無線受信特性の劣化を抑
制できる。
なるため施工が簡単である。しかし,商用電源に対して照
明負荷と直列に接続されるため,スイッチ受信器の消費電
流が照明負荷にも流れることになり,その電流が大きい場
合には消灯状態に制御されている照明が誤点灯するなどの
問題が起こり得る。したがって,
(2)の実現には低消費電
流であることが求められる。そのためには,無線受信回路
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2 線式電源回路
(2)
fLO = 8× fXtal
トライアック
無線
受信回路
4.2 低消費電力化
AC/DC
周波数逓倍を行う 8 逓倍発振回路は,トランジスタ 1 個
DC/DC
マイクロ
コンピュータ
電路の開閉制御信号
で構成したもので,一般的な PLL 回路に比べて低消費電
力であるとともに,回路規模も小さくできる。
また,RF 部を構成する低雑音増幅器はカスコード接続
回路とし,低電圧動作,低消費電力,高アイソレーショ
図 4 2 線式電源回路のブロック図
ンを実現している。ほかにも,ミキサや IF 部も低消費電
力化を図り,連続受信状態での消費電力はマイクロコン
4. 無線受信回路の低消費電力化
ピュータを含めて約 8 mW と一般的な無線受信回路の半分
4.1 無線受信回路の構成
以下の消費電力としている。待受時には回路の一部を間欠
無線受信回路の低消費電力化および簡素化を実現するた
め,シングルスーパヘテロダイン方式を採用する。図 5 に
駆動させることで平均消費電力をさらに低減し,7 mW 以
下を達成している。
無線受信回路のブロック図を示す。
5. 自動周波数制御による受信性能の確保
fC
アンテナ
RF 部
5.1 水晶振動子の温度特性
図 4 に示したように電路の開閉にはトライアックを使用
fIF
ミキサ
IF部
しており,照明点灯時は負荷電流によってトライアックが
fLO
水晶
振動子
発熱する。このため,雰囲気温度が 45 ℃のとき,定格負
復調部
fXtal
荷を点灯させると無線受信回路の温度が 70 ℃を超える場
8 逓倍
発振回路
可変容量
素子
合もある。
このような条件下でも通信エリアを確保するため,無線
LPF1
受信回路の高温側動作温度目標を 80 ℃と設定する。
局部発振部
一般に局部発振部を構成する水晶振動子の発振周波数の
LPF2
温度特性は図 6 に示すように 3 次曲線となり,とくに高温
比較器
時において周波数偏差が大きくなる。水晶発振周波数 fXtal
無線受信回路
周波数制御
(PWM信号)
2 線式電源回路
VREF
受信データ
の偏差が大きくなると,式(1)および式(2)から IF 周
波数 fIF の偏差が大きくなり,IF フィルタや復調部の周波
数範囲を逸脱し始め,受信感度の劣化につながる。
マイクロコンピュータ
図 5 無線受信回路のブロック図
アンテナで受信した搬送波周波数 fC の信号は,RF 部に
おいて増幅された後,ミキサにおいて局部発振周波数 fLO
の局部発振信号と混合され IF 周波数 fIF の IF 信号に変換
される。ここで,式(1)の関係が成り立つ。
fIF = fLO − fC
(1)
IF 信号は復調部で復調され,比較器でディジタル信号に
変換された後,マイクロコンピュータに入力される。マイ
クロコンピュータは,受信した信号に応じて 2 線式電源回
水晶発振周波数偏差(ppm)
15
10
5
0
−5
−10
−15
−20 −10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
温度(℃)
図 6 水晶発振周波数の温度特性例
路への制御信号を出力し,電路の開閉を行う。
58
局部発振部は,発振周波数 fXtal の水晶振動子と 8 逓倍発
携帯電話や GPS 受信器などでは,温度による周波数偏
振回路,および水晶振動子の発振周波数を変化させるため
差の低減を目的として温度補償水晶発振器(TCXO)を使
の可変容量素子で構成しており,式(2)の関係が成り立つ。
用するのが一般的である。
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開発品においては TCXO を使用せず,後述の PWM 信
号を利用して発振周波数の補正を行う。これにより受信感
VREF1
5.2 局部発振周波数のPWM制御
水晶発振周波数の初期偏差の補正および受信周波数チャ
ネルの切替を行うためには,局部発振部に周波数可変機能
が必要となる。図 5 に示した無線受信回路は,局部発振部
出力信号の電圧
度を確保しつつ,低消費電力化も実現する。
D0
D2
VREF0
D1
VREF2
に可変容量素子を備えており,これに印加する DC 電圧に
よって局部発振周波数の制御を行う方式とする。DC 電圧
fIF2
はマイクロコンピュータから出力する PWM 信号を平滑化
して生成する。
(1)初期調整
局部発振周波数の偏差がゼロになるような PWM 信号
は約 70 kHz 変化する。
のデューティー比 D0 を求め,マイクロコンピュータに
426.62
記憶させる。さらに,偏差がゼロの IF 周波数 fIF0 が復
426.61
局部発振周波数(MHz)
fIF1
図 8 復調部の f-V 変換特性
図 7 に局部発振周波数の可変範囲を示す。デューティー
比を 0 %から 100 %まで変化させたとき,局部発振周波数
fIF0
入力信号の周波数
調部に入力されたときの出力信号の DC オフセット電圧
426.60
VREF0 をマイクロコンピュータに記憶させる。
(2)待受状態
PWM 信号のデューティー比を D0 に設定した状態で,
426.59
426.58
426.57
発信器付きセンサからの無線信号を待ち受ける。
426.56
(3)周波数補正開始
426.55
426.54
プリアンブル信号の受信を開始してビット同期が取れ
426.53
た時点では局部発振周波数 fLO1 および受信する搬送波周
426.52
0
20
40
60
80
100
PWM 信号のデューティー比(%)
図 7 局部発振周波数の可変範囲
波数 fC1 は未知の偏差を含んでおり,その結果復調部に
入力される周波数 fIF1(= fLO1 − fC1)も未知の偏差を含
んでいる。このときの復調部出力信号の DC オフセット
電圧 VREF1 をマイクロコンピュータ内蔵の AD 変換器で
製造時の初期調整において,使用する受信周波数チャネ
ルごとに局部発振周波数が規定の値となるように PWM 信
計測する。
(4)1 回目のデューティー比調整
号のデューティー比を調整する。その調整結果をマイクロ
計測した VREF1 とあらかじめ記憶している VREF0 との
コンピュータに記憶させることで,水晶振動子発振周波数
比較を行う。VREF1 > VREF0 であれば fIF1 が正の偏差を
の初期偏差の補正および受信周波数チャネルの切替を実現
もっていると判断し,PWM 信号のデューティー比を D0
する。
より小さい D1 に変更する。その結果,IF 周波数は fIF1
トリマコンデンサやボリュームなどの機械的な調整で
よりも小さい fIF2 に変化する。このときの復調部出力信
はなく,PWM 信号による電気的な調整を行うことにより,
号の DC オフセット電圧 VREF2 をマイクロコンピュータ
調整工程が簡略化できるとともに後述する自動周波数制御
が可能となる。
に内蔵の AD 変換器で計測する。
(5)2 回目のデューティー比調整
デューティー比の初期値 D0 とそのときの DC オフ
5.3 周波数補正のアルゴリズム
セット電圧 VREF1,および 1 回目調整後のデューティー
通信フレームの先頭に付加されているプリアンブル信号
比 D1 とそのときの DC オフセット電圧 VREF2 が既知で
を受信中に PWM 信号によって周波数を補正し,受信感度
あることから,デューティー比の変化量に対する DC オ
の向上を図る。図 8 に復調部の f-V 変換特性を示す。こ
フセット電圧の変化量 A は式(3)によって求めること
の特性に基づく周波数補正のアルゴリズムを以下に述べる。
ができる。
A=
VREF1− VREF2
D0 − D1
(3)
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次に,式(4)によって最終のデューティー比 D2 を求
6
5
める。
VREF0− VREF2
D2 = D1 +
(4)
A
PWM 信号のデューティー比を算出した D2 に変更す
IF周波数偏差(kHz)
4
ることで,IF 周波数の偏差がゼロに近づく。通信フレー
3
2
1
0
−1
−2
−3
−4
ムを受信完了するまで,PWM 信号のデューティー比を
−5
−6
−20 −10
D2 に固定しておく。
(6)受信完了
0
10
20
30
40
50
60 70
80
90
温度(℃)
通 信 フ レ ー ム の 受 信 完 了 後,PWM 信 号 の デ ュ ー
ティー比を再び D0 に戻して待受状態に戻る。
fc偏差−4 ppm 補正前
fc偏差−4 ppm 補正後
fc偏差 0 ppm 補正前
fc偏差 0 ppm 補正後
fc偏差+4 ppm 補正前
fc偏差+4 ppm 補正後
図 9 自動周波数制御の結果
以上のように,PWM 信号のデューティー比を制御する
ことにより,IF 周波数を fIF0 に近づけることが可能となる。
さらに,制御目標となる VREF0 を温度の関数とすることに
6. あ と が き
無線で照明制御を行う 2 線式電子スイッチにおいて,2
より,補正精度の向上を図る。
線式電源回路では AC / DC コンバータに DC / DC コン
バータを直列に接続して 2 段階の電力変換を行うとともに
5.4 周波数補正の結果
前述のアルゴリズムに従って周波数補正を行った結果を
DC / DC コンバータ部に PFM 制御を導入することで,受
図 9 に示す。水晶発振周波数の温度特性による局部発振周
信回路では周波数逓倍方式を採用することで低消費電力化
波数 fLO の偏差のみならず,受信する信号の搬送波周波数
を図り,待機時の消費電流 1 mA 以下を実現した。また受
fC の偏差をも打ち消すように制御できており,-15 ∼ 80
℃における IF 周波数の最大偏差は,補正前に比べて 1/10
を採用することで動作温度 80 ℃でも安定した受信性能を
以下に抑えられている。
確保し,通信エリア 20 m を達成した。
信回路においては,PWM 信号による自動周波数制御方式
この 2 線式電子スイッチと人体センサを備えた発信器を
組み合わせることにより,電波式のワイアレス照明自動制
御システムを簡単な工事で構築することが可能となり,照
明の省エネルギーを促進する効果が期待できる。
今後は,さらなる電源効率化と無線受信回路の低消費電
力化の研究開発を推進するとともに一層の低コスト化を実
現することで,このシステムの普及拡大を図っていく予定
である。
*参 考 文 献
1)エネルギー白書 2010,p. 166
◆執 筆 者 紹 介
60
植田 真介
東浜 弘忠
笠井 秀樹
谷利 陽子
豊田 一郎
上原 健太郎
情報機器 R & D センター
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第一級陸上無線技術士
情報機器 R & D センター
配線・配管事業部
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