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(第1回)公共施設マネジメントの意義と流れ

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(第1回)公共施設マネジメントの意義と流れ
[新連載] 公共施設マネジメントと公民連携(PPP)
第1回
公共施設マネジメントの
意義と流れ
釧路公立大学 地域経済研究センター長・教授
佐野 修久
1.はじめに
地方財政が厳しさを増す中、高度経済成長期等
に集中的に整備された公共施設やインフラの老朽
化が急速に進展し、2011年3月の東日本大震災や
2012年12月の中央自動車道笹子トンネンル天井板
落下事故等で顕在化した安全性に対する懸念が強
まっているほか、集中整備された公共施設等の更
新時期が一斉に到来することによる財政負担の増
大も危惧されている。このような中、地方自治体
においては、総合的・戦略的に公共施設等のマネ
ジメントを図っていくことが求められている。
こうした状況を踏まえ、本連載では、最初に公
共施設マネジメントの意義・流れ等について概観
し、その上で、その管理や有効活用等を図るに当
たって有効と考えられる手法について、公民連携
(Public Private Partnerships(PPP))を活用した
手法を中心に紹介することにしたい。
2.公共施設マネジメントの意義
(1)
既存施設における維持更新投資の集中化
地方自治体においては、高度経済成長期や人口
増加時期に集中的に整備された公共施設やインフ
ラ等が耐用年数を超え、大量更新期を迎えつつあ
る。公共施設等を所有することで、施設の維持管
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理に加え改修・大規模修繕・建替等が必要となり、
これらに必要な維持更新投資費を一定の前提条件
のもとで年度別に試算した例をみると、図- 1の
とおり、高度成長期等に整備された公共施設等の
大量更新に多額の費用を要することを示す「山」
が到来しつつあることがわかる。また、その後も、
ふるさと創生事業等で整備された公共施設等の更
新、バブル崩壊後の景気対策等により大量に整備
された公共施設等の更新に多くの費用が必要にな
る。
こうした「山」の状態にある維持更新投資費は、
一般に、これまで各年度で支出されてきた投資的
経費等の金額を大幅に上回るものとなり、財政状
況が厳しさを増す中、こうした維持更新投資費を
捻出するのは極めて難しい状況となる。
したがって、今後は、維持更新投資費の総額の
圧縮を図るとともに、
「山」を切り崩す、すなわ
ち各年度に支出する維持更新投資費の平準化を図
ることを通じ、実際に財政負担ができる範囲内に
維持更新投資費を抑制するよう努めていくことが
求められる(図- 2)。
(2) 公共施設等における需給バランスの変化
わが国の人口は、2004年をピークに減少を始め、
今後加速度的に減少が進むものと予想されている。
佐野 修久(さの のぶひさ)
【専門分野】
公共経営、地域経済、地域金融
【略 歴】
北海道旭川市生れ
1985年 3月 北海道大学法学部 卒業
1985年 4月 北海道東北開発公庫(現在(株)日本政策投資銀行)入庫
1989年 4月 自治省(財政局)(現在 総務省)派遣
2007年 3月 東洋大学大学院経済学研究科修了
2007年 4月 (株)日本政策投資銀行 富山事務所長
2009年 4月 香川大学大学院地域マネジメント研究科教授(派遣)
2012年 4月 現職
【主な著書】
『公共サービス改革』(単著)[ぎょうせい 2009年11月]
『公有資産改革』(編著)[ぎょうせい 2009年1月]
『市民資金が地域を築く』(編著)[ぎょうせい 2007年1月]
『PPPではじめる実践 地域再生 』(編著)[ぎょうせい 2004年3月]
公共施設等がおよそピーク時の需要にあわせて整
備されていることに鑑みれば、人口減少社会の到
来により、今後、全般的に公共施設等に大幅な余
剰が生じるものと考えられる。
また、少子高齢化の進行により人口構成にも大
きな変化があらわれており、老人福祉施設など高
齢者向けの施設は不足が見込まれる一方、学校な
ど年少人口向けの施設は余剰が生じることになる。
さらに、
「平成の大合併」と称される市町村合
併が進行したことに伴い、今後、庁舎を含め、合
併市町村内で重複する機能をもつ公共施設等の集
約化等が進むことが予想され、ここでも公共施設
等の余剰が生まれることになる。
このように、地方自治体においては、人口減少
や少子高齢化に伴う人口構成の変化、市町村合併
の進展等により、公共施設等の需給バランスが大
きく崩れつつある。
財政が破綻し、2007年3月に「地方財政再建促
進特別措置法」に基づく準用財政再建団体となっ
た北海道夕張市では、図- 3のとおり、1985年から
破綻直前の2005年までの20年の間に、
○ 人口が59%減少しているのに対し、市役所
職員数は42%、市営住宅管理戸数は21%の減
少
○ 小中学校については、児童・生徒数が83%
減少しているのに対し、学校数は48%の減少
○ 市立病院についても、利用者数が56%減少
しているのに対し、病床数は14%の減少
にとどまるなど、人口や利用者の減少に即した公
共施設等の見直しが十分になされておらず、その
影響もあって、財政破綻に陥る結果となっている。
こうした事態に直面する前に、それぞれの自治
体においては、今後の人口動向等を見据えつつ、
需給バランスが損なわれることのないよう、公共
施設等の供給水準を見直していくことが必要であ
る。
(3) 公共施設等に対する高機能化ニーズと
資産リスクの高まり
公共施設等については、それが必要な機能を
担っている場合、高度情報化への対応、バリアフ
リーやユニバーサル・デザインへの対応、省エネ
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ルギーなど環境負荷低減への対応など、環境の変
化を踏まえた高機能化対応を図り、物理的性能が
実質的に陳腐化することのないよう改善していく
ことが必要であり、そのための財政負担が求めら
れることになる。
他方、一般に施設の所有者等は当該施設を適切
に管理していくことが求められ、それがなされて
いない場合には不法行為責任を負ったり、場合に
よっては刑事責任を負う可能性さえあるなど、資
産を所有することで多くのリスクを抱えるものと
なっている。現に、東日本大震災の際、震度5で
あったにも拘らず東京に所在する九段会館の天井
が崩落し2名の方が亡くなったことは記憶に新し
いが、このことに対し、施設の管理者は業務上過
失致死罪で訴えられるに至っている。
公共施設等の大量更新の「山」を迎える中、現
在の財政状況に鑑み、維持更新投資を先送りし適
切な管理を怠った結果として事故が起きてしまっ
た場合には、その責を負わざるを得ないことにな
ろう。今後、地方自治体おいては、公共施設等を
所有していることで資産リスクを負っていること
を十分に認識し、その軽減を図るための対応を徹
底していくことが求められる。
このように、地方自治体においては、財政が厳
しい中で公共施設等の大量更新に対処すべく、維
持更新投資にかかる財政負担総額の圧縮と時期の
平準化を図る必要があることに加え、人口減少や
人口構成の変化等を踏まえた公共施設の需給
ギャップの解消、施設を所有することで発生する
高機能化への対応(高度情報化、バリアフリーや
ユニバーサル・デザイン、省エネルギーなど環境
負荷低減等)や資産リスクの軽減といった要請に
応えていくことが求められている。一方、財政が
厳しさを増す中にあって従来型の対症療法でこれ
らの要請に応えていくことは最早困難であり、自
ら所有する公共施設等について、中長期的な視点
にたち、総合的・戦略的なマネジメントを推進し
ていくことが不可欠である。
3.公共施設マネジメントの流れ
(1)
公共施設マネジメントの現状
一方、現段階における公共施設等にかかる対応
は、
○ 公共施設等に関する総合的・戦略的な方針
等がない
○ 当該施設を担当する部署による個別施設単
位での対応が中心で、公共施設等全般を一元
的に管理する部署がない
○ 紙ベースの台帳等により、ごく基本的な限
られた情報しか把握されていない
という自治体が大半であり、公共施設等のマネジ
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メントが十分になされているとは言い難い現状に
ある。
今後、地方自治体においては、
○ 総合的・戦略的な方針等の策定
○ 全庁的な視点にたった公共施設等にかかる
対応の一元化
○ 公共施設等にかかる情報を把握し共有する
体制の整備
等を図りつつ、公共施設等のマネジメントを推進
していくことが求められよう。
(2) 公共施設等にかかる情報の把握・管理
公共施設等のマネジメントは、図- 4のとおり、
一般に、
① 公共施設等にかかる情報の把握・管理
② 公共施設等にかかる検証・評価
③ 検証・評価結果を受けた個別公共施設等の活
用等の具体化
という流れのもとで実施されることが多い。
このうち、第1フェーズの「公共施設等にかか
る情報の把握・管理」においては、名称、所在、
用途、規模、構造、担当部署、工事の履歴といっ
た基本情報に加え、
○ 残存年数、施設劣化度(劣化診断結果等)、
定期点検結果など「施設老朽化等の度合い」
○ 高度情報化対応状況、バリアフリーやユニ
バーサル・デザイン対応状況、環境負荷低減
対応状況といった「施設の高機能化度合い」
○ 耐震性(耐震診断結果等)、アスベスト除
去状況等の「資産リスクへの対応度合い」
○ 開館日数、利用者数、稼働率、利用者満足
度といった「施設の利用状況」
○ 収入、管理運営に要するコスト(いずれも
内訳を含む)による「施設の収支」
○ 管理運営形態(直営、指定管理者、委託
等)
、管理運営を行う職員数等の「施設の管
理運営方法」
など、公共施設等をマネジメントする上で必要と
なる情報を把握することが求められる。正確な情
5
報の把握は、適切なマネジメントを進める上で欠
くことのできないマネジメントの要諦である。電
子情報により全庁一元的に集約化されたデータ
ベースを構築すること等を通じ、情報の共有化を
図っていくことが重要なポイントとなろう。
(3)公共施設等にかかる検証・評価
① 維持更新投資費の把握
公共施設マネジメントの第2フェーズとなる
「公共施設等にかかる検証・評価」においては、
先ず、今後の維持更新投資費を把握することから
始まる。前記のとおり、公共施設等を所有するこ
とで今後多額な維持更新投資費が発生するものと
予想されており、その金額を的確に把握しておく
ことも、公共施設等をマネジメントしていく上で
は必要不可欠となる。
幸いなことに、総務省/地域総合整備財団から、
こうした維持更新投資費を推計するためのソフト
が無料で提供されており、こうしたソフト等を活
用しつつ、今後の維持更新投資費を試算し、財政
余力からみた対応可能性について検討することが
求められる。
② 施設アセスメント
次に、公共施設等にかかる情報の把握、今後必
要となる維持更新投資費の推計等の結果等をもと
に個別資産を検証・評価する「施設アセスメン
ト」を行い、自ら所有する施設それぞれが現在ど
のような状態にあるかについて明らかにすること
が必要である。そのためには、「必要性等」
、「物
理的性能」
、
「経済的価値」といった多様な視点か
らデータ等を整理し、総合的な検証・評価を図る
ことが重要である(図- 5)。
③ 施設仕分け(今後のあり方の方向付け)
その上で、上記「施設アセスメント」の結果等
をもとに、各施設の今後の活用等のあり方につい
て、
「維持」
、
「改修」、「増改築」、「建替」、「売却」、
「貸付」
、
「転用」、「統合(集約化・複合化等)」な
どに「仕分け」を行い、方向付けを図ることにな
る。例えば、「必要性等」と「物理的性能」の両
面から今後の活用等のあり方をおおまかに考えて
みると、以下のとおりである(図- 6)。
○「必要性等」
「物理的性能」ともに高い公共
施設等
当該公共施設等をそのまま活用することを
前提に、
「維持」あるいは「改修」により対応
することになる。あわせて、同一・類似の機
能が別の公共施設等に存する場合には、これ
らの機能を移転集約化する受け皿(集約化・
複合化)として活用することも重要である。
○「必要性等」が高い一方「物理的性能」が低
い公共施設等
「物理的性能」を確保するための「改修」、
「増改築」、「建替」を行う、あるいは他の公
共施設等に「移転」を図ることが基本となる。
○「必要性等」が低い一方「物理的性能」が高
い公共施設等
当該公共施設等が担う機能を廃止しつつ、
当該施設自体を有効に活用するため、「売却」、
「貸付」
、自治体自らによる他用途への「転
用」等を検討する必要がある。
○「必要性等」
「物理的性能」ともに低い公共
施設等
当該公共施設等をこのまま活用することは
望ましくないため、これを取り壊し、その跡
地を「売却」、「貸付」
、他用途への「転用」
を図ることになる。
こうした「施設仕分け」の結果を踏まえ、再度、
今後の維持更新投資費の推計を行い、財政負担の
総額が圧縮されているか、年度間で平準化されて
いるかについて検証することが必要となる。その
結果、今後の財政余力からみて、財政負担の圧縮
度や平準化度が足りない場合には、「施設仕分け」
の結果や評価後の対応時期等を改めて見直すこと
が求められる。このようなシミュレーションを繰
り返すことによってはじめて、今後の公共施設等
のあり方にかかる現実的な方向付けが実現するこ
とになろう。
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