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全国山岳遭難対策協議会報告書 - JMA 公益社団法人 日本山岳協会
平成20年度 全国山岳遭難対策協議会報告書 期 日:平成20年7月4日(金)∼5日(土) 会 場:第1日目/ホテル ルブラ王山 2F 飛翔 【講演・講義】 2F 飛翔 【第1分科会・全体会】 第2日目/ホテル ルブラ王山 主 2F 葵 【第2分科会】 2F 千成 【第3分科会】 催:文部科学省 警察庁 環境省 気象庁 消防庁 社団法人日本山岳協会 山岳遭難対策中央協議会 愛知県 愛知県教育委員会 愛知県警察本部 愛知県山岳連盟 愛知県山岳遭難防止対策協議会 目 次 1 平成20年度全国山岳遭難対策協議会開催要項・・・・・・・・・・・・・1 2 講演記録 「道迷い遭難のリスクマネージメント」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・3 静岡大学教育学部教授 村越 3 真 講義記録 (1)「平成19年中における山岳遭難の概況」 ・・・・・・・・・・・・・・13 警察庁生活安全局地域課課長補佐 稲垣 好人 (2)「山の天気と気象の話」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 名古屋地方気象台観測予報課予報官 谷渡 直樹 (3)「楽しい山歩きとリスク管理」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 名古屋工業大学准教授 北村 憲彦 4 研究協議のまとめ 第1分科会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 テーマ 「山岳遭難の現状と問題点」 サブテーマ −ヘリコプター救助活動の現状と登山者への対応− 第2分科会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 テーマ 「山岳遭難の予防とセルフレスキュー」 サブテーマ −指導員養成とセルフレスキュー指導について− 第3分科会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 テーマ 「学校登山活動の現状と課題」 サブテーマ −リーダーの育成と安全登山のために、今求められていること− 5 登山に関する事故防止の呼びかけ(採択文) ・・・・・・・・・・・・・93 全 国 山 岳 遭 難 対 策 協 議 会 開 会 式 主 文部科学省 スポーツ・青少年局 樋口 修資 局長 警察庁生活安全局地域課 稲垣 好人 課長補佐 展示ブース 講演・講義の様子 社団法人日本山岳協会 田中 文男 会長 愛知県教育委員会 今井 秀明 教育長 分 科 会 第1分科会 第2分科会 第3分科会 全体会 第1分科会 川合隆善 座長 第2分科会 安藤武典 座長 第3分科会 河野義人 座長 愛知県山岳連盟 中平等新一 議長 閉会式 文部科学省 登山研修所 長登 健 所長 愛知県教育委員会 体育スポーツ課 新井 忠 課長 第2分科会 安藤武典 座長 平成20年度全国山岳遭難対策協議会開催要項 1 趣 旨 登山における遭難事故を防止するため、山岳関係者や山岳遭難対策関係者の参加を求め、 山岳遭難の原因等について研究協議し、今後の遭難対策の具体的施策に役立てる。 2 主 催 文部科学省、警察庁、環境省、気象庁、消防庁、社団法人日本山岳協会、 山岳遭難対策中央協議会、愛知県、愛知県教育委員会、愛知県警察本部、愛知県山岳連盟、 愛知県山岳遭難防止対策協議会 3 期 日 平成20年7月4日(金)∼5日(土)の2日間 4 会 場 ホテル ルブラ王山 〒464-0841 名古屋市千種区覚王山通8―18 TEL 052-762-3151 FAX 052-751-3199 5 参加者 (1) 各都道府県からの参加者は、次の①及び②に該当する者の中から4∼5名とする。 ① 各都道府県教育委員会の関係者 ② 下記に該当する者 ア 各都道府県山岳遭難救助組織(都道府県遭難対策協議会、警察、消防防災、自然 公園保護等)の関係者 イ 各都道府県山岳協会(連盟)の関係者 ウ 高等学校登山部(山岳部)の関係者 (2) 山岳ガイド、山小屋の関係者、旅行会社等のツアー登山関係者、メディア関係者、 登山道具製造業関係者、登山道具小売業関係者 (3) 高等専門学校山岳部の関係者(顧問、監督、コーチ等) (4) 大学山岳部の関係者(顧問、監督、コーチ等) (5) その他山岳団体関係者 6 内 容 (1)講 演 10:50∼12:00(70分) 「道迷い遭難のリスクマネージメント」 静岡大学教育学部教授 (2)講 義 13:00∼16:30(210分) ①「平成19年中における山岳遭難の概況」 警察庁生活安全局地域課課長補佐 ②「山の天気と気象の話」 名古屋地方気象台観測予報課予報官 ③「楽しい山歩きとリスク管理」 名古屋工業大学准教授 村 越 真 稲 垣 好 人 谷 渡 直 樹 北 村 憲 彦 (3)分科会 9:00∼12:00(180分) ① 第1分科会 テーマ 「山岳遭難救助の現状と問題点」 ― ヘリコプター救助活動の現状と登山者への対応 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 ― 愛知県警察本部地域部地域総務課課長補佐 愛知県防災航空隊副隊長 愛知県警察本部地域部地域総務課長 愛知県防災航空隊長 警察庁生活安全局地域課課長補佐 名古屋地方気象台観測予報課予報官 柴 伊 川 纐 稲 谷 田 浩 地 知 政 合 隆 纈 吉 垣 好 渡 直 好 信 善 博 人 樹 ② 第2分科会 テーマ 「山岳遭難の予防とセルフレスキュー」 ― 指導員養成とセルフレスキュー指導について ― 事例発表者 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 愛知県山岳連盟遭難対策委員長 愛知県山岳連盟指導委員会普及部部長 愛知県山岳連盟指導委員会普及部副部長 愛知県山岳連盟副会長 愛知県山岳連盟議長 岐阜県山岳連盟遭難対策委員長 愛知県山岳連盟副会長 高 橋 吉 村 上 窪 安 藤 中平等 大 沼 阿 部 英 武 新 正 英 優 賢 男 典 一 博 美 ③ 第3分科会 テーマ 「学校登山活動の現状と課題」 ― リーダーの育成と安全登山のために、今求められていること ― 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 愛知県高等学校体育連盟登山専門部委員長 愛知学院大学登山部監督 全国高等学校体育連盟登山専門部副部長 愛知県高等学校体育連盟登山専門部委員 三重県山岳連盟理事長 三重県高等学校体育連盟登山専門部委員長 日 程 第1日目 7月4日(金) 9:00 10:00 10:50 受 付 開会式 休 講 憩 鈴 鈴 河 杉 萩 岸 木 邦 則 木 清 彦 野 義 人 本 憲 広 真 生 田 誠 司 7 第2日目 7月5日(土) 9:00 研 究 協 議 (分 科 会) 12:00 13:00 演 昼 食 講 義 12:00 13:00 14:00 14:30 昼 食 全体会 閉会式 16:30 18:30 情報 分科会 事前協議 交換会 講 演 記 録 【講演題】 「道迷い遭難のリスクマネージメント」 静岡大学教育学部教授 村越 真 「道迷い遭難のリスクマネージメント」 静岡大学教育学部教授 村越 真 本日は、道迷い遭難のリスクマネージメントについて、話をしたいと思います。2年前もいら した方がいると聞いておりますが、実は2年前の静岡大会の時にも道迷い遭難に関する話をさせ ていただいております。少しオーバーラップする部分もありますが、新しい資料等に基づきまし て新たな話をさせていただきます。また、講演に先立ちまして、今回の講演に関する資料を各県 の警察本部の方にいろいろとお骨折りいただき提供していただきました。若干、聞きようによっ ては批判めいたことを申すかと思いますが、遭難を減らしたいという気持ちでの話ですので、ご 容赦いただけたらと思います。 それでは講演を始めたいと思います。お手元にこのパワーポイントの6面付けの資料がありま すのでそれと対比させて聞いていただきたいと思います。 さて、今日の話の概要ですが、大きく分けて4つで構成しております。 最初に、道迷い遭難のリスク分析ということです。道迷い遭難は、どれくらいの損害を与える 可能性があるのかということに関しては、十分な資料がありません。そこで、今回警察の方にご 協力いただいた資料を基にして分析したいと思います。 2番目は、登山者の読解スキルの実態ということで私自身の専門はここにあるのです。いくら 道標なり環境を整えてもやっぱり迷う人はいます。そうすると最終的にそれを防いだり、あるい はそのリスクを最小限にくい止めたりするには、登山者自身がきちっとした読図スキルなり、ナ ヴィゲーションスキルをもっていなければならないと日頃から考えています。では、一般登山者 はどれくらいのスキルをもっているのだろうか、これもまた全然分かっていません。ここ2・3 年いろいろな講習会をやっておりますので、そこでの参加者や文部科学省登山研修所の方にご協 力いただき、自己評価や客観的テストを行い、登山者の読図スキルがどの程度なのか、どこに問 題があるのかということを話したいと思います。 3番目にリスクマネージメントについてですが、2年前の話とかなりオーバーラップするので 簡単に話したいと思います。要するに起こる前に何ができるかということを環境、地図それから 教育・啓発という3つの側面から話し、実際に行われている事例等を御紹介できればと思います。 最後に、道迷い遭難のダメージコントロールということで、要するに遭難が起こった後どうす るかということですが、後で見ていただくように、道迷い遭難のほとんどがその日あるいは 1 日 から2日以内に発見されています。しかし、中には7日間、8日間、10日間あるいは今月の 1 月もこれは雪山ですが11日後に自力で下りてきたというようなケースがありました。そうしま すとダメージコントロール、つまり起こってしまったもののダメージをいかに減らすかというこ とになり、救助の方法が重要になってくると思います。もちろんここにいらっしゃる方の多くは 救助の専門家ですので、私の方からは北米で行われている捜査の方法について1つ紹介し、でき ればこの講演で、いろいろな議論ができればと思っています。 Ⅰ 道迷い遭難のリスク分析 最初の道迷い遭難のリスク分析ということで、後から警察庁の方から昨年の山岳遭難の状況に ついて話がありますが、毎年、私も道迷いの遭難をメインに研究を進めています。全遭難中で道 迷いがどのくらいの割合を占めているか、 これは分かっております。 全遭難中の道迷いの件数は、 昨年度は34%、一昨年は38%ですから、割合としては若干減りました。しかし、山岳遭難に おける死亡者数は259人ですが、道迷いが原因で、どれくらいの人が死ぬのか、どの程度けが をするのか等は分かっていません。 実際には、道迷いとして最終的に分類されていないものの中にも一定数は道迷いが発端で、滑 落や転落した話があります。結局、統計では出てこない道迷いを発端とする事故は、どのくらい あるのか分かっていないのが現状です。 そこで、発表された資料だけではそれ以上の分析はできないので、概ね関東から近畿の各都府 県の警察本部地域課に資料提供をお願いしました。それを基にしたものがこの資料です。 道迷い遭難のリスク分析*1 道迷いを発端とする遭難の態様 態様 道迷い その他 合計 増加率 全目的 217 29 246 13.4% 登山 175 21 196 12.0% *1:本資料は、各地の警察本部から提供を受けた 資料(全201件)に基づくものである。 道迷い遭難 3 ここにあるように全部で246件、昨年度に限ると200件くらいですから全遭難数の1/9、 約10%をカバーしている資料だと言えます。それで見ていきますと、登山目的(山スキーや自 然観察を除く)の中で統計上、道迷いとして出てくるのは175件でした。ところが道迷い後に 滑落したというものも拾ってみるとだいたい20件くらいあり、合計196件になります。とい うことは、統計の資料では175件ですが、実際にはプラス12%くらいが道迷いに関連した遭 難であることが分かります。それから登山以外の山菜取り等も含めた道迷いは217件ですが、 その他で発端が道迷いで最終的に滑落とか凍死傷が29件くらいあり、その面で見ても増加率1 3%くらいですから、実際に警察庁から発表される資料の道迷いの、昨年で言うと628人に対 して10%ぐらいプラスして道迷いが遭難に関連していると思われます。 次に目的別道迷いということで、全体の道迷い数の中で登山が占める割合は80%です。登山 目的が全遭難者に占める割合は約70%ですから、道迷いの中でいうと登山が占める割合が多い のです。逆にいえば、全山岳遭難の中で道迷いというのが約34%くらいですが、登山に限って いえば、それよりも少し多い割合が道迷いによって遭難していることが分かります。 リスクの中で一番重要な、道迷いの中でどういう人がどれくらい最終的に救助されたりされな かったりしているかについてまとめたものです。 態様別負傷程度 態様 道迷い その他 無事 195 6 軽傷 17 6 重傷 1 8 死亡 3 9 不明 1 0 合計 217 29 道迷い遭難 5 道迷いというのは、ほとんどが無事に救助され、自力で下りてくるということで85%くらい は無事ということです。あと、10%弱が軽傷ということで、95%くらいがそんなに大きなリ スクが無く道迷いというのは終わっていることが分かります。しかし、重症が1件、死者・不明 が4件、概ね2%くらいの道迷いが死亡につながっています。ですから、道迷いの中で何人が死 亡したかと推測すると、200件中で4人の死亡・不明なので、1800件中で40人弱になる わけです。もっと問題なのはその他です。その他というのは、最終的には滑落・転落というカテ ゴリーに入っているものですが、その発端は道迷いです。その場合のリスクは大きいということ が分かります。30人中1/3は亡くなり、1/3は重傷です。このことから統計として表れてい ないことに関して、かなり道迷いが深刻な結果につながっていることが分かります。 発見までの日数ですが、80%近くは当日か翌日に見つかっています。5%くらいは日数がた ってから発見されたケースもあります。 事例としましては、 35歳男性、六甲山で道迷い後滑落、骨盤骨折、 24日ぶり救出(2006.10) 静岡県松崎、(2007.9)事例 • • 10月7日、六甲山頂付近で同僚とバーベキュー をした後、1人で下山しようとして道に迷い、約1 0メートルのがけ下に転落。骨盤を骨折して歩け なくなり、2日後に意識を失った。 • 同31日に心肺停止状態で発見されたが、翌日 の夕方には意識も戻ったという。 • 、医師は「冬眠状態に近かったため、臓器の機 能は落ちたが、脳の働きは回復したとも考えられ る」 • (六甲山では、07/9/16にも8日ぶり保護の事故あ り) • • • • 道迷い遭難 7 Nさんは、18日に3泊4日の日程で1人で松崎町に宿泊し、宿舎の 従業員に「山に行く」と伝えて、1人でタクシーを使い、ハイキング コース入り口から入山、21日午前10時のチェックアウト時間になっ ても戻らなかったため、従業員が松崎署に届けた。 宝蔵院付近から「長九郎山(996メートル)方面に行く」と話してい たため、地元消防団、猟友会、松崎署員など約70人が22日までハ イキングコースや林道を捜索。その後、23日から松崎署員がチラシ を付近の集落に配るなどして探していた。 道に迷い、「3日間歩き回ったが、その後山中で動かずにいた」。手 提げ袋にあったビスケットを食べ、沢の水を飲み、夜はライターで木 などを燃やして寒さをしのぐ。 27日午後1時45分ごろ、松崎町池代の山中で、20日にハイキン グに出かけたまま行方不明になっていたNさん(52)をパトロール中 の林野庁職員が見つけ、7日ぶりに救助された。Nさんは、最後に確 認された場所から東に約4キロ離れた山中で座り込んでいた。近くの 病院に運ばれたが、命に別条はないという。 (朝日新聞 朝刊 静岡・1地方 2007年9月28日版) 道迷い遭難 まとめてみますと、道迷い遭難の実態は、十分に記録・分析されているとは言えません。道迷 い遭難は統計に表れる以上のリスクが、個人的にも社会的にもあります。また、道迷い遭難は様々 なハザードが関連して発生しているということです。 Ⅱ 登山者の読図スキルの実態 調査対象は、8歳から65歳までの153名(男性76名、女性65名)です。山行経験は0 から30年までで1・2年が最も多く、10年以上は22名でした。また、読図経験は0∼1年 が90名を超えていました。これが等高線読解問題です。 8 等高線読解問題例 左:高低判断 右:尾根・谷判断 道迷い遭難 14 その結果は次のようです。 スキルテスト結果(高低判断)(10点満点) 尾根谷判別問題(8点満点) 14 14 12 10 8 6 4 2 0 12 10 8 6 4 2 0 4 5 6 7 8 9 1 10 道迷い遭難 15 3 4 5 6 7 道迷い遭難 16 高低判断は60%∼80%正解が一番多く、約30%の人は半分近く間違えています。また、 尾根谷判別は半分以下しかできない人が50%いることが分かります。これは6月末に行われた 大学生のリーダー研修会でのテストの成績です。全くの初心者ではなく大学の山岳部、ワンダー フォーゲル部の中核となる人たちにしてこの成績です。後は推して知るべきなのです。 現在置把握問題では、写真を見て地図上のどこが点なのかをチェックします。2得点の人が一 番多く、すなわち1問だけできた人なのです。 ナヴィゲーションスキルの自己評価調査から分かることは、山に行くときに地図やコンパスを 持って行くとか基本的なことが分かるというのは良いのだが、もう少し実践的なスキルでいうと、 例えば迷った時どうしたらよいか、等高線を見て地形がイメージできるとか、自分の居場所が分 かるという面でいくと自信をもってできると答えた人が、10%強です。多くの人が自信をもっ て山で地図を使えていない状況であることが分かります。意識や装備の面と実際のスキルの面と に隔たりがあります。ここは教育とか啓発が必要な部分ではないでしょうか。 道迷いの経験の有無は、経験年数とは関係ないようです。経験年数が長ければ道迷いの経験も 多いようです。もう一つはスキルとの関係がないことも分かります。自分は地図を読む力がある と評価していてもやはり道迷いはするわけです。ですから、スキルはあっても道迷いからは逃れ ることはできないのです。そういう意味でリスクマネージメント的な視点が重要になってきます。 客観的なテストと自己評価の関係は全くないと思います。一般的にいうと客観的なテストが悪 くても自己評価の高い人がいます。つまり、できなくてもできると思っている人がいるというこ とです。グラフで見るとはっきり分かります。問題は○印の所です。 客観的な読図力と自己評価の関係 読図テストと自己評価の関係 80 70 自己評価 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 読図テスト 40 50 道迷い遭難 21 大学リーダーの39名のデータですが、かなり問題があると思います。経験だけで自信をもっ たつもりになっている人が多くいると考えられます。経験年数が数十年の人でも遭難するケース があるわけです。 以上の分析をふまえ、これをどのように防いでいくかについて、3つの側面から話したいと思 います。 Ⅲ リスクマネージメント:予防 1つめの側面は、環境とその改善です。具体的には道を良くする、道標を完備する等です。滋 賀県では登山ルートの危険箇所の点検をしています。道標にUTM座標を入れておいてその番号 を迷った時に携帯で連絡すれば遭難者の位置が分かるようになっています。携帯電話で知らせる ことが多いので、このような取り組みは役に立ちます。 2つめの側面は地図の改善です。国土地理院の地図の登山道は、間違いが多かったがここ2年 改善に取り組んでいるようです。 3つめの側面は教育プログラムと啓発です。私は年10回ほど講習をしていますが、その他に もアウトドアメーカーが、問題になっている多くの未組織登山者に、リスクを防ぐためにどのよ うなスキルをもっていなければいけないかという情報を届けています。この点でショップとかメ ーカーの位置づけは重要になってきます。そういうところで、教育とか啓発がもっと展開される べきだと思っています。また、埼玉県では、6月28日に秩父安全山歩き検定を行ったそうです。 応募者172名で、クイズ感覚で安全に対して意識を向けてもらうことも重要ではないでしょう か。埼玉県の試みは、その意味でも評価できると思います。 受講者の感想(2) • 等高線の形と実際の地形の対比が良く分かった。 • 地形図と言うと、とっつきにくく学ぶ機会がなくて困ってい たが、ゼロから必要なことを要点を分かりやすく教えてい ただき、直後に山に出て自分で考えて悩みながら最後ま で辿り着くことが講義のお陰です。 • 地図上での特徴を風景に何度も照らし合わせ、自分の位 置を確認すること。 • 地形に対しての意識、進行方向への注意、周囲への注 意。コンパスの使い方が決して難しいわけではないこと、 何より地図に対して興味が湧きました。 • 読図は奥が深く、未熟さを実感いたしました。毎回予習復 習でとっても楽しく地形図が好きになってゆくのが自分で も分りました。今日の屋外講習は集大成と言う感じで本 当に楽しめました。 道迷い遭難 28 環境や条件の問題ということに関しては、前回にも話しましたが、 地図にはない道があるとか、 雨水で亀裂ができてそっちに迷い込んでしまうというような話があって、これをどのようにして 改善していくかということになります。 麻綿原のケース 地図にない道 野反湖のケース 倒れた笹原を道と間違える 愛鷹山のケース 雨水の亀裂を道と間違える 三重のケース 沢で登山道を見失う 大雪山のケース 高山帯で踏み跡をたどり損ねる 三郡山のケース 赤いテープ、似た特徴で安心? ルートを踏み外す環境上の特徴が道迷いの発端となっている 道迷い遭難 24 まとめですが、道迷いの多い国はいくつかありますが、山岳人口の多いノルウェーとかスイス ではそんなに多くないようです。ですから日本は地形とか植生の点でナヴィゲーションが難しい 国であろうと思います。地図とか環境に関しては不十分ながら改善が進んでいます。それに対し て登山者の読図ナヴィゲーション技術に対する啓発・教育活動というのは、彼らの関心は決して 低くないですが十分あるとは言えません。こういうところに関しては、コマーシャルセクターの 活用が必要なのではないかということで、昨年あたりからこの全山遭でもメーカーさんですとか 参加する機会が増えているようですが、これをうまく活用していくことも重要なのではないかと 思います。 Ⅳ 道迷い遭難のダメージコントロール 最後に、道迷い遭難のダメージコントロールということで、これは救助活動の話です。実際、 私自身もこういうものが現場でどの程度役に立つかということは、感触としてよく分かりません。 ですから、北米でこういうことが行われているということをご紹介するとともに、後ほど興味の ある方といろいろ意見交換ができればと思っています。ご紹介するのは北米のNASAR(North America Search And Rescue)のアソシエーションが出している Managing the lost person incident です。この本は、10年くらい前の物ですが今年のものと内容的には、ほぼ一緒だと思 います。もちろん既に、みなさんがやられている部分もあると思いますが、これを見て一番おも しろいなと思ったことは、体系性ということです。もちろん、その救助の人的リソースをどう体 系づけるかということもそうですが、道迷いをした人の過去の行動に関するデータに基づいて、 あるいはその捜索方法による発見確率とかそういうかなりの数学的な、戦争中でいうオペレーシ ョンリサーチ的な考え方が十分取り入れられているということです。その概要をご紹介したいと 思います。これはシステムの構成ということで人的リソースをどういうふうに配分するかという ことで、要するに長期に渡る道迷い遭難者の捜索には、多大な人的リソースが必要です。いろい ろな作業とか情報というのは結構少数の人に集中しがちで、それによって効率的な組織の活用が なされないということはあるわけです。それに対して、このようにきちっと各部署担当の任務を 決めているということがあります。それから、これがこの方法の一番の中核にある部分ですけれ ども、過去のデータの蓄積を基に「その道迷いをした人たちが最終的に確認された地点からどれ くらい動いているだろうか」についてまとめたものですが、その概要です。こういうものが一つ の資料として使われているということです。 例えば、北米ですのでハンターが結構多いわけですが、ハンターが100人ぐらいのデータで いうとだいたい最後に見られた地点から一番近い人だと220mぐらいのところで発見されると いうことです。中央値、これは100人のデータですから50人目の人は、どのくらいの位置に いるかというと意外と遠くに行く人は少数で、ほとんどの人は近くにいます。だいたい中央値が 2.44、それから50%ゾーン、下に25∼75%がいます。つまり、半数の人が見つかる範 囲というのは、1.5∼3.8㎞ぐらいだという基礎的なデータだということです。 ハイカーに関しては25人くらいのデータですが、だいたい移動距離は一緒です。今の移動距 離の分析をグラフにしてみると、こういう感じになります。 遭難者の移動距離の分布 道迷い遭難 33 20㎞くらい移動する人はいるにはいるが、ごくわずかです。ほとんどの人は、10㎞以内にし かも50%ぐらいの人は、だいたい1.5㎞から4㎞くらいのところで見つかっています。要す るに、そこが一番発見確率の高い位置だということです。これはやはり北米の地形とか植生が前 提になって、北米どこでも同じデータを使うと言っていました。ただ、日本でこれがそのまま使 えるかいうと、当然使えないわけで、これらのデータの蓄積は必要だと思います。こういうデー タを基に、どこを捜していくかということが次へのステップになります。 まず重要なことは、最後に見られた出発点 Last point と言いますが、それはどこか、そこから 先程の資料を基にどれくらい移動したかということを考えていくわけです。ただし、単純にさっ きの統計値をそのまま使うのではなく、その他にも主観的な推測方法で、いなくなった人がその 行動に影響するような要因があるか、例えば迷いやすい道があるとか、深い谷があるとか、そう いういろいろなデータを考慮するということです。それを基に探索区域の優先順位をつけます。 探索区域はまずはエリアを区画化するということで、だいたい標準的な大きさは0.4㎞ぐらい が良いと言われています。それから、この辺から先がいかにもアメリカ的なところですが、各区 域のそこに遭難者が存在する確率というのを数値で出します。ここは先程の資料に基づきながら も実はかなり主観的なところが入っているようです。けれども、これも一人ではなく複数でやる ことが推奨されています。その模擬的なケースがこれです。 道迷い遭難 36 遭難者が居そうなところが7区画とそれ以外の区画(Row)があるとすると、それ以外のところ であっても居る確率は少ないけどあるわけです。そういうふうに8区画に分けてリーダー何人か が、それぞれここにいる確率は何%と予想し、トータルで100%になるように数値を割り振る わけです。ここには、統計的なデータに主観的なものが含まれています。それを平均すると(ア ベレージ)こうなります。全部それらを合わせると当然100%になります。セグメント1が3 0%。要するに、この区画にいる確率が一番高いから、ここから捜すべきだという話です。 次は、探索モードということで、いろいろなレベルの探索方法があるということです。 探索のモードと段階 1)誘導モード 音や光で遭難者が動き出したり反応するのを待つ。同期させたビープ音によ る47-100m間隔の探索では、2分おきの場合100%の確率で遭難者を発見。 2)制限モード: 道のブロックやパトロールによって制限エリアをブロックする。遭難者は道を越 えて区域外に出てしまうこともある。砂地でのトラップの作成やストリングに よる誘導 3)探索モード:3段階 クラスⅠ:早い段階で利用可能なよく訓練された探索者によるスピーディーな 探索。LKPのチェック、知られたルートたどり、トレイルや尾根などの走破、範 囲のチェックと制限、サインカット(?)、誘導、危険地域、排水路等のチェッ ク。 クラスⅡ:指標は効率。体系的な方法により遭難者発見確率の高いエリアの 探索。クラスⅠによる手がかりの発見?? クラスⅢ:ゆっくりではあるが高度に体系的で完璧を目指す。高いPODが望ま れるセグメントやクラスⅠ・Ⅱが失敗に終わったとき。狭いグリッドによるス イープ探索。 道迷い遭難 37 もう一つの数値的な情報でおもしろいと思うのは、発見確率(POD)つまりどのような探し方 をしたら、どれくらいの確率で発見できるかということが、いくつかの方法によっては数値化さ れています。例えば、 30m間隔で人が直線的に歩いてエリアを縦断的に探索する場合だと50% で、発見できない確率が50%あります。これは実験値だそうです。ヘリコプターからだと手を 振って立っている人の場合だと発見確率は60%で、40%は発見できないそうです。しかも樹 林に隠れていて動かないような場合だと0%です。つまり、この場合はヘリコプターでは絶対に 発見できないというように、捜索方法によってどれくらいの確率で発見できるのか、データとし て蓄積されているわけです。当然、その地域の捜索が終わったからといって発見確率が100% でないので、そこにまだ人が残っている可能性があるということです。そこで、さらに計算をす るとセクメント4にいる可能性が高いということが分かるという方法をとっています。 発見確率とその利用 • ある種の探索方法による発見確率が実験的・経 験的に求められている – 1マイル進むのに3.5時間かかる場合、間隔が6mなら 90%、18mなら70%、30mなら50%のPOD(実験値) – ヘリ「手を振って立っている人」は60%POD、動かない、 隠れてはいないがカバーされている人の場合は0% • ある区域の探索が終わった場合、推測される発 見確率によって、その区域の存在確率が変わり、 区域の優先順位が変わる 道迷い遭難 38 当然、北米と日本では、地形や植生が違いますから、たぶん遭難者の行動も違うと思います。そ れから、人はかなり均質に動くのではなく、ある特定の地形的な特徴に沿って動くということが 多くあると思います。そういうことも考慮した上で行方不明者の行動に関する統計資料というの がもう少しないと、このような体系的方法というのは使えないと思います。それからカテゴリー です。年齢的に若い人だったらどれくらい動く可能性があるのか、年寄りだったらどれくらい動 く可能性があるのか、それから生存確率、そういう統計的な資料がもう少しないと体系的な捜索 活動には難しいと思います。それから、こういう捜索活動をしたらいったいどれくらいの確率で 遭難者を発見できるのだろうかという資料は、少なくとも共有はされていません。こういうもの を整えながら有用性の評価をしてみる価値はあるのではないかと思います。 これは、みなさんへの宿題ということで一つ入れておきました。かなり詳細に発見場所とか状 況が分かっている数少ない道迷い遭難のケースですが、1997年か1998年だったと思いま すが、オリエンテーリングの大会で70歳くらいの高齢者の方が遭難されました。道迷い遭難で す。午前10時半頃この学校をスタートして、こんな感じのコースでした。 1km 道迷い遭難 41 コースを回っていましたが、ゴール閉鎖が午後3時だったと思います。それで3時の時点で帰還 されていなかった、つまり迷って遭難したんだろうということでした。当然、警察にもお願いし て70人から80人体制でその日は夜まで捜索しました。けれども深夜は捜索をいったん中止し て翌日また6時から捜索活動を開始したところ、12時頃意識を失って倒れている方を発見した ということです。コースがこんな感じですから、おそらくラストのポイントはこの辺りと考えら れます。さて、みなさんでしたらどこをどのような優先順位で捜索されるでしょうか。答えは分 かっていますが、ここには記していませんので興味のある方は情報交換会の時に聞いてください。 全体のまとめですが、 全体のまとめ • 道迷い遭難は、統計上も最大数を占める 山岳遭難であり、統計以上の被害をもたら している。 • 予防、発生後の対処両面で改善の余地が ある。 • リスクの低減のためには、遭難者の行動 等についての基礎的資料の収集と分析、 活用が望まれる 道迷い遭難 42 私の今回分析した資料というのはサンプルでいうと12.3%ですけれども、こういうものが 遭難者の行動分析ですとか、リスクの分析とか、もう少し体系的に蓄積されていくことを期待し ています。 講 義 記 録 【講義題】 「平成19年中における山岳遭難の概況」 警察庁生活安全局地域課課長補佐 稲垣 好人 谷渡 直樹 北村 憲彦 「山の天気と気象の話」 名古屋地方気象台観測予報課予報官 「楽しい山歩きとリスク管理」 名古屋工業大学准教授 「平成19年中における山岳遭難の概況」 警察庁生活安全局地域安全課課長補佐 Ⅰ 稲垣 好人 平成19年度の発生状況 ①発生件数 1484件(前年対比 +67件) ②山岳遭難者 1808人(前年対比 −45人) ○死者・行方不明者259人(前年度比 −19人) ○負傷者666人 (前年度対比 +18人) ○無事救出等883人 (前年度対比 −44人) ③ 山岳遭難発生状況の推移 10年前の発生件数は1077件、遭難者1341人、死者行方不明251人であったが、 登山愛好者の増加により、昭和36年以降過去最高となっている。さらに、毎年増加傾向で ある。 【過去10年間の山岳遭難発生状況】 区 分 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 発生件数 1,077 1,195 1,215 1,220 1,348 1,358 1,321 1,382 1,417 1,484 遭難者数 1,341 1,444 1,494 1,470 1,631 1,666 1,609 1,684 1,853 1,808 死者、不明者 251 271 241 243 242 230 267 273 278 259 負傷者 439 555 635 615 684 677 660 716 648 666 無事救出等 651 618 618 612 705 759 682 695 927 883 ※「不明者」とは行方不明者を示し、「無事救出等」には自力下山を含む。 過去10年間の山岳遭難発生状況 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 発生件数 遭難者数 死者、不明者 負傷者 無事救出等 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 Ⅱ 平成19年度の発生概況 (1)目的別発生状況 例年、登山が1番多く、次に山菜・茸採りによる発生件数が多い。平成19年度はハイキン グ等を含めた登山が1241人の68.6%、山菜・茸採りが360人の19.9%である。こ れらを月別で比較すると、登山については8月・10月に、山菜採りについては5月・6月が 多い。各目的のシーズン時期によって遭難者の増減があることが分かる。 【表1 目的別・月別発生状況(人員)】 目的別 登山 細目別 1月 2月 3月 4月 5月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計(人) 登山 19 33 38 56 97 78 112 218 108 104 89 44 996 ハイキング 3 5 4 4 17 17 2 11 15 31 10 7 126 スキー登山 5 26 5 15 7 0 0 0 0 0 1 1 60 沢登り 0 0 0 1 3 2 4 12 6 4 0 0 32 岩登り 1 0 1 1 2 6 3 2 7 2 2 0 27 計(人) 28 64 48 77 126 103 121 243 136 141 102 52 1,241 1 2 2 23 105 109 11 12 30 55 9 1 360 渓流釣り 0 0 0 2 4 7 2 5 3 1 0 0 24 作業 1 1 1 2 3 5 8 3 3 2 2 1 32 観光 0 4 0 3 6 0 2 5 3 3 10 0 36 写真撮影 1 0 1 0 1 5 0 0 1 2 3 1 15 山岳信仰 0 2 0 0 1 0 25 1 0 1 0 0 30 自然観賞 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 1 0 3 山菜・茸採り その他 6月 狩猟 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 2 7 その他 3 0 22 0 6 5 3 7 3 8 2 1 60 計(人) 7 7 25 7 21 22 40 21 13 18 21 5 207 (2)年代別発生状況 例年、60代の遭難者は、平成19年度518人・前年度535人と1番多い。表2を見る と分かるように、40歳以上の中高年登山者が、1439人と全遭難者数の79.6%を占め ている。年齢が高くなるほど遭難者が増加傾向にあり、中でも中高年者の死者・行方不明者の 数は全体の多数を占めており、平成19年度においては全死者・行方不明者259人中、23 7人が中高年者である。例年、中高年者の死者・行方不明者の数が多く、重要な問題となって いる。 【過去10年間の中高年登山者の山岳遭難発生状況(人員)】 区 分 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 遭 難 者 総数 1,341 1,444 1,494 1,470 1,631 1,666 1,609 1,684 1,853 1,808 中高年 1,023 1,158 1,135 1,127 1,223 1,298 1,309 1,372 1,507 1,439 比率 76.3% 80.2% 76.0% 76.7% 75.0% 77.9% 81.4% 81.5% 81.3% 79.6% 総数 251 271 241 243 242 230 267 273 278 259 中高年 209 235 206 221 219 213 249 244 251 237 比率 83.3% 86.7% 85.5% 90.9% 90.5% 92.6% 93.3% 89.4% 90.3% 91.5% 死 不 者 明 ・ 者 【表2 年齢別発生状況(人員)】 300 263 251 267 250 200 172 138 150 100 50 87 66 55 119 97 86 70 49 49 26 10 3 15 歳 未 満 15 ∼ 1 20 9 ∼ 2 25 4 ∼ 2 30 9 ∼ 3 35 4 ∼ 3 40 9 ∼ 4 45 4 ∼ 4 50 9 ∼ 5 55 4 ∼ 5 60 9 ∼ 6 65 4 ∼ 6 70 9 ∼ 7 75 4 ∼ 7 80 9 ∼ 8 85 4 ∼ 90 8 歳 9 以 上 0 (3)態様別発生状況 道迷い628人、滑落312人、転倒257人の順に多い。また、疲労・病気における遭難 者数が近年増加傾向となっている。最近では、単独登山者が多く、それにおける遭難者数も増 加している。平成19年度の単独遭難者数は509人で、その中で125人が死亡・行方不明 となっている。割合で見ると、全単独遭難者数の24.6%、全遭難者における死者・行方不 明者数の14.3%であることから、単独登山におけるリスクの高さを確認することができる。 【表3 態様別発生状況(人員)】 0 滑落 転倒 転落 道迷い 疲労 病気 落石 雪崩 落雷 悪天候 有毒ガス 鉄砲水 野生動物襲撃 不明 その他 【表4 100 200 300 400 500 600 700 312 257 102 628 94 146 17 73 10 28 0 6 33 29 73 単独遭難発生状況】 【表4 単独遭難発生状況】 単独遭難発生状況 死亡 20.6% 無事救出 44.0% 行方不明 3.9% 重傷 13.9% 軽傷 17.5% (4)遭難件数に占める通信手段の使用状況 地元の警察及び消防、自治体等への連絡手段としての携帯電話の普及に伴い、携帯電話等の 利用による救助要請が多く、平成19年度では、遭難件数1484件に対して無線機を含む携 帯電話の利用件数は722件の48.7%であった。例年、携帯電話の使用については増加し ているが、多くの山岳では、通話エリアが限られていることから過信は禁物である。携帯電話 の使用については、予備バッテリーを持っていくことや電波の届く箇所を登山中に確認してい くことでいざという時に役に立つ。不感地帯における過剰な電池利用を防ぐために事故が起き た場合のみ電源を入れるなどして、低温による性能劣化を防止することも遭難した場合の救助 要請を可能にする方法でもある。 【表5 遭難件数に占める通信手段の使用状況(件数)】 通信手段使用状況(件数) 携帯電話 47.7% なし 51.3% 無線 0.9% Ⅲ 各都道府県の遭難に対する活動状況 訓練活動については、その地域の地形・季節等を考慮した救助訓練活動を行っている。冬山に おける遭難や低山で広範囲における山菜取りによる遭難等、様々な遭難事例を考慮して、雪山等 山岳地帯での訓練をはじめ、人海戦術といったような大勢で救助にあたる場合の訓練など、地元 の消防関係者とともに行っている。また、テレビ・ラジオによるメディアを利用した広報活動や インターネットで山岳情報の提供も行っている。 ∼各都道府県警察における山岳遭難防止活動(事例報告)∼ (1)富山県警察の活動事例 富山県警の山岳警備隊は、年度を通して立山・剱山・薬師岳など高い山の多い管轄区域である ため、航空機特にヘリコプターとの合同訓練等に力を入れている。例をあげると、雪渓で行うぼ っか訓練、赤禿山にて2人でロープをつなげての登山訓練、奥鐘山等の難易度の高い岩壁を登る 訓練、傾斜の急な岩壁バックステップで降りていく訓練、大岩壁でのワイヤーの張り込みによる 救助訓練、スノーボードを使っての搬送訓練、また、動けなくなった方を背負って下るための訓 練など様々な状況に応じた訓練を行っている。他には、昨年では、 『冬山遭難防止五則』を記した ラミネートチューブの安全カードを作り、主に冬山登山者に直接渡して事前に注意を促すために 呼びかけを行っている。準備などで不足品がないかどうか直接声をかけることで、安全に対して 再認識してもらおうという趣旨で始めた活動である。 (2)岐阜県警察の活動事例 今年1月に岐阜県警管轄内の槍ヶ岳山麓の槍平小屋付近で雪崩が発生し4名が死亡する事故が 起きた。その事故の反省をもとに事前に最新の情報を提供できないかと考案し、その結果『雪崩 発生危険予想マップ』を冬明けの時期に作成するようにした。 『雪崩発生危険予想マップ』は、山 を上空から撮影し、それを写真や映像にして安全情報を提供するものである。雪崩が起きそうな 危険な箇所に赤い線を入れて印付けし、ポスターにして山小屋やロープウェイの駅、新穂高の登 山指導センターに掲示するほか、ホームページでは映像が見られるようにするなどして取り組ん でいる。冬明けの登山者が多くなるゴールデンウィークシーズンの春山や北アルプスにおいて、 事前に最新の山状況や情報を提供することによって、登山者や山岳関係者に雪崩箇所の認識及び 注意を払ってもらうことができる。また、今登ろうとしている山の現状を目で確認することがで きるため登山する上での参考にもなると思われる。 (3)山梨県警察の活動事例 近年では、富士山登山において軽装登山者が増加している。平成19年度は約19万人であっ た。特に年末年始には富士山でご来光を見に行く人も増えている。また、5∼6月でも残雪も多 く、遭難した方の中には、ジャージやジーパンといった軽装で登り、身動きが取れずに救助を要 請するという実情がある。軽装では、登山をおこなうには不十分な状態である旨を理解してもら うため、その時期には富士山の5合目付近で軽装登山者へ呼びかけ・指導・注意を行っている。 また、冬季は富士山でスキーをやろうとする人がおり、そのスキーヤーの救助要請も少なくない。 富士山はエッジが効かないほどスキーには適しておらず、腕に自信があることから判断を誤って しまい、やむなく救助要請をするというのが実態である。まだ雪が残っているゴールデンウィー クをピークにスキーヤーが多いため、同じように指導や注意を行っている。また同時に、登山届 の未提出者に対してその場で登山届の提出を行ってもらうこともやっている。 (4)埼玉県警察・山岳連盟・地元警察の活動事例 埼玉県の秩父市では、秩父の山岳連盟と地元の警察署が主催となって『安全山歩き検定』を本 年初めて実施した。検定対象は中高年者となっており、検定料は無料、インターネット等で受験 者を募集し、検定方法は50問で四者択一の問題となっている。全問正解で1級、45問以上で 2級、40問以上で3級として正解数によって級を設け、認定証も発行している。検定内容は名 所・位置・危険箇所・避難施設の位置、装備資器材・食糧の内容や量、非難時の行動等様々な内 容が出題される。受講者数は243名で安全登山に対する登山者への意識の向上を目指すことを 目的として実施した。秩父の山々は低い山が多く、初心者でも馴染みやすいため簡単、親しみや すい反面、それでも山には危険箇所があるということを再認識していただく良い試みである。受 験者は、楽しんで受講できたと感想を述べていた人が多かった。 (5)警察庁での活動状況 警察庁の主催で全国の山岳救助にあたる指導者を育成するための研修を長野県と富山県の2県 で隔年ごと実施している。平成20年度は長野で開催する予定で、高技術をもっている先進県の 技術を各県に広めていくため、指導的立場の人を対象に高度な技術等を体得して各都道府県でそ れを広げてもらうことを目的といている。基礎訓練をはじめ、岩での救急訓練、高技術での移送 訓練、登山訓練、ヘリコプターからの救助訓練、ザイルの結索や応急担架の作成技術、背負いで 岩場を降下する訓練、縦走訓練等を行っている。その他、テレビ・ラジオなどのメディアを使っ ての山岳の広報活動やインターネットでの山岳情報の提供をはじめ各都道府県警察では、山岳遭 難における活動内容や特徴を冊子にし、各県・関係団体・スポーツ店へ送付する活動も行ってい る。 【質疑応答】 日本勤労者山岳連盟(川嶋氏) Q 各県による警察の山岳に関する取組は各県様々であるが、警察の山岳警備隊を中心にいろい ろな取組を行っていただいている。しかし、国内でも山岳警備隊を持っていない県もあり、その 県での遭難事故も発生している。そういった中で警察庁としては国内の安全登山に対して全県の 統一を図るような取組、例えば予報・救助体制等の予定を考えていないか。 A 各県によって山の特徴は様々であり、岐阜県のような高山が多い県、埼玉県のような低山の 県、山がほとんどなく遭難事故もないという県も数県あるため、一律にするということは難しい。 その地域における現状によって、高山の県については技術の向上を、また、低山の県については 知識の向上を要するなど各県によって山岳への対策・訓練はそれぞれ異なる。そういった意味で は、研修会や協議会等の機会で各地域の取組・対策を取り入れてもらい、実情に合った対策等を 行ってもらうということが望ましい。それに向けて、警察庁としては他県の状況を見習うような 指導は引き続きやっていきたい。 「山の天気と気象の話」 名古屋地方気象台観測予報課予報官 谷渡 直樹 本日の話の内容ですが、大きく分けて、お天気と気象の基礎知識、それから山の天気の特徴に ついて、ここでは基本的なことを気象学的立場から話させていただきます。次に、雲の種類と観 天望気です。この観天望気と言われるものは、我々気象台で明日・明後日の天気予報を出す人間 よりも皆さまの方が詳しいと思います。最後に、本会議のテーマの遭難しないための気象情報の 利用について話させていただきます。 Ⅰ はじめに 山の気象学についての重要性ですが、特徴的なところは、山というのは比較的地形が入り組ん で標高も違うので、それに対応する気象の変化が非常に激しいのです。気象知識を把握しつつ、 実際に山に登って経験される気象情報を次の登山に生かしていくことが非常に重要で、それが結 果的に安全で正しい登山につながると思います。 Ⅱ お天気と気象の基礎知識 お天気と気象の基礎知識ですが、まず四季の天気の特徴についてです。日本は四季折々、春夏 秋冬の季節があります。その天気の様子、空気の性質、気圧・気温・湿度について、簡単に説明 させていただきます。それから高気圧・低気圧・前線・台風・熱帯低気圧、また雷についても、 落雷による事故も毎年多数起きておりますので、少し話をさせていただきます。 まず、四季の天気の特徴です。冬季は、よくテレビのニュースでも西高東低の気圧配置になっ ているということが報道されます。太平洋側では、一般的に晴れる日が多くて、北西風の季節風 が強いという特徴があります。逆に日本海側では、曇りや雪の天気、または、発雷、雷を伴った 降雪が断続的です。私も名古屋の気象台に来る前は、福井の気象台に 3 年ほど勤務しましたが、 それまではほとんど太平洋側を回りました。北陸の冬は、平地でも毎日といっていいほど、雷と それから雪雨・曇天が続くので、本当に太平洋側から来た人は、憂鬱になってしまうくらい特徴 的な天気が現れる季節です。 春季は、比較的移動性の高気圧に覆われることが多くて、暖かい良い天気が時折現れますが、 それほど長く居座りません。高気圧の後にまた気圧の谷が来ると、かなり天気は周期的に変わり ます。従ってこの時期に登山される方は、その天気の変化を十分把握して計画を立てる必要があ ります。 夏季の梅雨の時期は、平地でも曇天の日が多く、雨で湿度が高くてうっとうしい日が続きます。 その梅雨も明ければ、太平洋高気圧に覆われて暑い晴天が続くようになります。春先の移動性高 気圧に比べて、夏場の太平洋高気圧というのは強い勢力です。年によっては安定して日本付近を 覆い、長期間晴天が続きます。登山するうえではかなり安定した天気が続き、安心して山に登れ ます。ただ雷が多い時期ですので、山岳地では、落雷に注意する必要があります。それから夏か ら秋に変わるときは、台風のシーズンです。通常では、8 月から 9 月に一番よく日本付近に接近 通過して、荒れた天気をもたらします。近年は割と早い時期、6 月 7 月にも台風が上陸接近しま す。一部では温暖化の影響もあるのではないかと言われています。長期的に見て、今後どうなる のか分かりませんが、少しずつ気候の変化もあるのかなと思います。 秋季、初秋 10 月は、春と同じように、移動性の高気圧に覆われることが多くなるので、さわ やかな晴天が期待できます。お天気も周期的に変わりますが、好天の日に登山されると素晴らし い紅葉が見られます。秋も後半になると、徐々に北日本の方から冬の便りが聞かれて、大陸から の寒気が日本付近を覆ってきます。標高の高い山岳地の方が一足先に冬の到来を告げるので、装 備も必要だと思います。 ここからは基礎的な空気、気体の性質です。一般的に空気は、気圧が下がると気温も下がり、 気圧が上昇すると気温も上がるという性質があります。湿った空気と乾燥した空気の場合、乾燥 した空気の場合は 100mで大体 1 度くらい、湿った飽和の場合は、100mで 0.6 度くらい気温の 下降があるという性質があります。それから、気温が高いほどたくさんの水蒸気を含むことが可 能になります。逆に気温が下がると、湿った空気が上昇して上空の冷たい空気と触れ、水蒸気が 凍結して雲を作り、それが成長すると雨粒となって地上に落ちてきます。 高気圧と低気圧は相対的なものです。一般の方から、高気圧というのは何ヘクトパスカル(hPa) 以上かという質問があります。標準大気圧は 1013hPa ですので、1013hPa 以上が高気圧でそれ 以下が低気圧という誤解をしている方がいます。高気圧というのは周りの気圧に対して高いとこ ろが高気圧、低いところが低気圧なので、数値的に何 hPa 以上とか、何 hPa 以下だというもの ではありません。例えば 1020hPa の優勢な高気圧ということは、周りが 1025hPa であれば 1020hPa のところが低気圧ということになるわけです。高気圧と低気圧ですが、高気圧は一般的 に中心に向かって上空から空気が下降していって、 下降流が卓越しているのが高気圧の性質です。 逆に、低気圧は中心に向かって空気が入り込み、そこで上昇気流が起きて雲ができます。雲がで きると雨も降りやすくなり、一般的に低気圧が近づいてくると天気が悪くなります。 前線は、気温や湿度などの性質の異なる空気の境目です。種類は、温暖前線・寒冷前線・停滞 前線・閉塞前線です。一般的には低気圧があってその中心から前方付近に温暖前線、後方には寒 冷前線があります。停滞前線は、一つには大きな性質の違う気団の境目と考えてよいと思います。 梅雨前線の場合は、通常南に太平洋の小笠原気 団という大きな気団とそれから中国大陸のシベ 寒冷前線と温暖前線の断面と雲の種類 リア気団、異なった性質の気団の境目に混ざり、 ちょうど今の時期に小笠原の気団が強まって、 寒冷前線付近では、積乱雲が 寒冷前線付近では、積乱雲が 温暖前線付近では、乱層雲や 温暖前線付近では、乱層雲や 発達しやすく、雷雨となること 高層雲が広がり、雨が長く続く 日本付近で停滞します。寒冷前線と温暖前線の が多い。 が多い。 ことが多い。 ことが多い。 断面と雲の種類というところで、一般的な低気 圧とそれから前線の行動を模式化したものがこ の図ですが、低気圧の中心から西側に位置する 寒気 寒気 暖気 のが寒冷前線です。それからその東側の線が温 暖前線です。特徴的には、 ここを切ってみると、 寒冷前線通過後は 雲の構造、冷たい空気と暖かい空気の特徴的な 強い寒気が入る(気 温の急激な下降) 模式図が見られます。寒冷前線の場合は、後ろ の方から冷たい空気が押し寄せてきて、前の温かい空気のところに滑り込み、境界のところにで きます。それから温暖前線は逆に南西とか南からの温かく湿った空気が、この前面の冷たい空気 の上を這い上がり、その境目にできます。寒冷前線付近のところでは積乱雲、雷を起こしやすい 雲ができます。温暖前線面では長く続くような雨を降らす雲ができやすくなります。 台風ですが、台風は極東地域の呼び名です。この前、ミャンマーの方で大きなサイクロンが襲 来して被害を出しましたが、インド洋で発生したいわゆる大型の低気圧、大気の渦のことを台風 といい、発生する場所によって名前があります。アメリカではハリケーンで、日本付近では台風 と呼んでいます。定義としては、中心付近の最大風速が大体 17m以上になったものを台風と呼び、 それ未満のものを熱帯低気圧と呼んでいます。熱帯低気圧だから、台風に比べると勢力が弱いわ けではありません。風の強さが違うだけで、基本的には熱帯低気圧が接近してくると台風並みに 大雨をもたらすことはよくあることです。 2002 年の 7 月に台風第 6 号が接近した時の大雪山系の遭難事例について話します。11 日の 9 時の天気図では、台風にはなっていませんが、三陸沖に接近してきました。山側での会話という ことで、こういう話がありました。 「台風が来るので今日のうちに行かないと 2・3 日足止めをく うから行こう」と決行した結果、北海道付近に台風が接近してきて低体温症で亡くなられたとい う痛ましい事故でした。北緯30°付近に北上してくると、偏西風が流れているので台風は加速 して以外に早い時期に近づいてきます。平地に比べると山岳では影響も出やすいので、この事例 を今後遭難防止のために活かしてください。 それから、これは熱帯低気圧の大雨による事 熱帯低気圧の大雨による事故 故です。1999 年 8 月 14 日の神奈川県玄倉川、 中州でキャンプ中の団体が濁流にのまれ 13 人 • 1999年8月14日神奈川県玄倉川 の方が水死されたという痛ましい事故がありま 中洲でキャンプ中の団体、濁流に流され13名水死 した。このときの天気図です。TDというのは 熱帯低気圧の略語ですが、ちょうど関東付近に 熱帯低気圧も積乱雲の塊であり、 この熱帯低気圧がありました。先ほどの台風と 大雨になりやすい点は台風と同じ。 熱帯低気圧の違い、風速の違いだけですが台風 並みの大雨をもたらし川が増水して、このよう な事故になったということです。 気象庁も、台風に関する情報の改善を進めて います。台風の進路予想に関しては、2007 年までは予想のもとに暴風警戒地を予想時間ごとに区 切って表示していましたが、昨年の 4 月から、ご覧のように一つでくくって全体を囲む線で暴風 域を表しております。 それから主な変更点です。昨年の 3 月までは、12 時間・24 時間・48 時間・72 時間予報だけ でしたが、24 時間先の 3 時間ごとの予報を現在行っております。さらに、きめ細かく台風の 3 時間ごとの予報が入ります。台風の強さを示す最大瞬間風速、これも従来 10 分間平均風速、い わゆる最大風速というのは 10 分間平均だけでしたが、最大瞬間風速も発表を開始しています。 それから、先ほどの神奈川県の玄倉川の事故後に、台風だけではなく、台風から熱帯低気圧や温 帯低気圧に変わった後も災害が起こりやすい状況を残している場合には、引き続き防災警戒態勢 を緩めないようにするために台風情報を継続しております。このような変更点がありますので、 今後も利用してください。 雷はとても予報が難しいのです。どこに雷が発生して、どこに落ちるのか、これは今の技術で は予測はできません。どういう時に起きるのかというと、大気の状態が不安定な時に発生します。 天気予報では、雷の発生するときは大気の状態が不安定な時と放送しています。大気の状態が不 安定な時とは、上空に冷たい空気があって地面付近の低い所に暖かい空気が入ってくる温度差が 激しいと、冷たい空気は重いので下に下がろうとする性質があり、逆に暖かい空気は軽くて上に 上がろうとします。これが逆転しているような状況を解消しようとする時に、大気の状態が不安 定になり発達した雲が発生して、さらに発達すると雷の発生になります。どんな時に不安定にな るかというと、雷の種類には熱雷、界雷、熱界雷という 3 種類があります。熱雷というのは、夏 の暑い日差しによって地面付近が温められると、それが上昇気流になりあちこちで雷雲が発生し、 夕立となりそこに発雷を伴ってくる。これが熱雷の一般的な特徴です。それから寒冷前線が通過 するときに発生する雷のことを界雷というのですが、これは天気図やレーダーをインターネット で見られますので、寒冷前線に対応しているこのエコーもきれいに線状になって見ることができ ると思います。どちらかというと熱雷に比べると界雷の方は、例えば西の方から前線が接近して くれば後どのくらいでこちらの方にも前線が通過して、その際に雷が襲ってくるのかなという予 測ができます。この場合熱雷と比べると、前線の通過が早ければ早めにおさまる時もありますが、 じっとしていてゆっくりであったりすると、同じところで長時間発雷しながら、局地的な豪雨を もたらすこともあります。 これは山岳の落雷事故例です。2004 年の 7 月 24 日帝釈山、福島栃木県境で起こった落雷事故 ですが、千葉県の山岳パーティーの 15 人のうち 9 人が落雷に遭い、そのうち一人が亡くなられ ました。気象要因は、ここに当日の天気図があ りますが、大陸の方に前線を伴った低気圧があ 山岳での落雷害事例 ります。日本付近は高気圧に覆われていて、高 気圧の中心が本州の東海上の方にあります。特 • 2004年7月24日帝釈山(福島・栃木県境) に前線とか低気圧はありませんが、低気圧が九 移動性の高気圧に覆われよく晴れた。午後になり大気の状態が不安定 化し、会津地方は雷雨となった。 州の南の方にあります。落雷事故があった関東 帝釈山(2060m)に向かった千葉県松戸市の山岳パーティー15人のうちの は特に低気圧とか前線は見受けられません。高 9人。山頂付近にて避難した岩場の陰で9人が気を失い、うち1人が死亡 気圧の縁を回って南からの暖かい空気が入りや 気象要因 すい高気圧に覆われていますが、中心が東にあ 晴れたため日射によって地上気温が高くなった るときは気をつけてください。南の湿った空気 南西風(下層)になって暖かい空気が流れ込んだ がちょうど回り込んで入りやすく、なおかつ、 一応天気は晴れるので太陽日射によって、地上 付近が暖められ非常に上昇気流が起きやすい条件がそろってしまうと、このような事故が起きや すくなります。これはその時のレーダー画像ですが、ここのバツ印のところが、帝釈山の位置で す。12 時から 18 時までを 30 分ごとでレーダー画像を表示してありますが、12 時にはレーダー 画像は見られませんが、14 時過ぎから 15 時に急激に雷雲が発生して発達したことが分かります。 中心が赤いほど発達していることが分かります。 落雷事故に遭わないためには、まず雷雲が発達していたら、下山をするというのも一つの選択 肢ですし、避難小屋があればそこに避難することです。それから雷は高い所に落ちますので、背 をできるだけ低くすることです。しゃがむのもいいですが、しゃがんでも落雷の事故があります。 本当は地べたに寝てしまうのが一番いいです。山の中であれば窪地に身を潜めることも必要だと 思います。それから事前に雷の発生を察知することも重要です。積乱雲の下で雷が発生しますの で、その雲の状況を事前に知って、極力近づかないようにすることです。逃げる場所ですが、低 い所へ行きましょうということで、沢に下りますと鉄砲水の恐れがあります。そこでは雷が発生 していなくても、上流の方で発達した積乱雲の下で集中的に豪雨があると、急斜面を下った雨が、 沢に一気にたまり、それが下流の方に押し寄せてくる事故もあるので、沢には下りないことです。 雷は、電光が見えてそのあとに音が聞こえてきます。音の伝わる速さというのが、気温によっ ても違いますが、1 秒間にだいたい 340 から 350mくらいですので、電光が光って音がするまで の時間で、だいたいどのくらいの距離があるのか分かります。それを覚えておけば雷が接近して くる前に避難行動がとれると思います。一番怖いのは落雷ですが、雷の電力というのは 5000 万 ボルトということです。電気代に換算すると一般の家庭の 1 か月分の電気代になるらしいです。 その 5000 万ボルトの電流・電圧が、一気に空気の層を破って放電するのが雷というものですの で、かなりのエネルギーをもっています。直撃ではないにしても側撃波に遭わないように、事前 の避難が非常に重要です。 山の天気の特徴について 次に山の天気の特徴というところに移ります。高度と気温ということです。100m高度が上が るごとに約 0.6 度の気温が低下するので、地上付近が 20 度のときには 1500mくらいでは大体 11 度くらいになります。平地と山の上の方では気温が違いますし、風による体感気温も違います。 これも一般的に風速 1mくらいで、1度くらい低く感じるといわれます。先ほどの例で、気温が 11 度の山頂で仮に 10m/s の風が吹きますと、体感気温が 1 度ということで、真冬並みに感じる ことになります。当然装備もそれなりの防寒対策が必要です。高度が高くなると上空の方はほと んど障害物がありませんので、風の強さも地上に比べると強くなります。特に山頂では、山頂付 近に吹いている風と中腹や下の方から山腹にあたって這い上がってきた風が集まって、必要以上 に風が強まります。山の複雑な地形のところは気流が乱れるので、場所によっては突風や通常以 上の風が吹きやすくなります。 それから風と雲ですが、山に向かって吹いてくる風では、上昇気流が生じます。強制上昇と言 いますが、上昇気流によって上空の水蒸気を含んだ空気が冷やされ、雲が発生しやすくなります。 平地では晴れていても、山の上の方では雲が発生発達して天気が悪くなります。 山谷風というのがあります。山風というのは、夜間冷やされた空気が山頂付近から山腹に下る 空気のことを言います。晴れている場合はいいですが、朝から雲があるときは悪天の前兆という 可能性があります。逆に谷風というのは、日中山の斜面で暖められた空気が上昇するときの風を いいます。平地に比べると雲が発生しやすいので、風の向き、風の流れを読むことも重要です。 山の遭難で多いのが、雪崩です。雪崩の種類は表層雪崩と全層雪崩と 2 種類の雪崩があります。 表層雪崩は前に積もった雪の上に、新しく軽い性質の違う雪が積もり何らかのショックで崩れ落 ちてしまうことで、全層雪崩というのは、一気に雪の部分が山の斜面を下り落ちてしまうことで す。雪崩の起きる形では、点で発生する雪崩と面的に発生する雪崩があります。当然面的に発生 する雪崩の方が範囲も広いので、場合によって は巻き込まれると大変な事故が起きます。全層 雪崩は、気温が急激に高くなるときに起こりや • 急速に気温が高くなるとき すいことがよく知られています。こちらの天気 低気圧が発達するとき、寒冷前線の 東側には、暖かい風が流れ込んで急 図で見られる通り、日本海に低気圧があって南 速に気温が高くなる。 から急激に暖かい空気が入る時には、全層雪崩 日本海で低気圧が発達する春に多い。 寒冷前線 温暖前線 (積雪の多い時期と重なる) が起きやすいです。登山計画を立てる場合には、 冷 翌日の地上天気図の予想図等を見て春先のこの た 寒冷前線通過後は、 い 風 再び冬型の気圧配置となる。 ような気圧配置の時には、登山計画の変更や中 強い寒気が入り気温が急激に下がる。 止の判断をしてください。 (低温と大雪、強風) 寒冷前線が通過したあと高原の冷たい空気が 入るので、特に暖かい空気が入って安心してい ると、前線通過のあと冷たい空気が入り急激な気温低下によって、遭難する可能性が高くなるの で、天気の予想を考慮してください。 鉄砲水は、上流で降った雨が沢の方に一気に集まって、下流で巻き込まれて遭難することがあ ります。雷が発生している状況の時に、自分がいる場所では雨が降っていなくても、上流の方で は、雨が降って鉄砲水が起きやすい状況にあるということも把握しておいてください。 山の天気をまとめますと、平地より気温が低く、風も雨も強いので、防寒対策が必要です。ま た、体感気温が低くなるので、疲労凍死などの遭難をしやすくなります。天気も平地に比べると 崩れやすくなり、変わるタイミングも早いので早目に下山の判断をしてください。 暖 か い 風 Ⅲ Ⅳ 雲の種類と観天望気 近年コンピュータの発達によって数値予報というものが確実に進歩していますが、雲や風の状 態を見て今後の天気を予測する観天望気という一つの技術が、特に登山される方には重要視され ています。数値予報で出される予報もありますが、観天望気の技術も重要だと思います。我々は 観天望気に関しては、登山の経験がないので詳しくは分からないのですが、雲の種類によって、 今後の天気を予測する方法があります。レン 雲の種類とお天気判断 ズ雲とつるし雲が一体になっている写真です レンズ雲(つるし雲) が、この雲が出ると強い風が吹き、天気が崩 ・強い風の前兆。 れる前兆だということです。この雲が出る時 ・悪天の前兆。 には、早めの下山や計画を変更する必要があ ・夏は雷の前兆。 ります。夏場では、雷の発生する前兆ですの で、晴れていてもこのレンズ雲が出たら要注 くらげ雲 意です。逆にくらげ雲は、高気圧が張り出し てくる時に出やすい雲として知られています。 ・好天の前兆。 めったに見られる雲ではありません。クラゲ のようにフワフワっと立ち上って、寿命の短 い雲なのですが、この雲が出る時には、好転 の兆しで、安心して登山ができます。旗雲、滝雲という雲が出る時は悪天の前兆です。特に北偏 高気圧で、高気圧の中心が北に偏っているとき、前の天気図でも見ていただきましたが、中心か ら離れているところでは、冷たい高気圧が回り込みやすくなり、このような雲も発生しやすくな るので、悪天の前兆として知られています。 強風のときに発生しやすいのが旗雲です。山頂付近で風下の方に雲が旗のようになびくので、 旗雲と呼ばれています。この雲が出る時も、山頂付近ではかなり強い風が吹いていることが分か りますので、注意していただく必要があります。時期的には、大西洋側では北西風が強い冬型の 気圧配置のときに出やすいです。 Ⅴ 遭難しないための気象情報の利用 遭難防止のための判断というところですが、気象庁ではいろいろな情報を発表しています。日々 防災のための情報を改善しつつ発表しています。昔に比べるとかなり画像情報も充実してきてい ます。衛星の画像もいろいろなサイトで見られますし、レーダーエコーの画像も分かりますので、 それを利用して遭難しないための登山計画を立ててください。また、情報は最新のものが一番有 効です。古い情報ですと誤った判断をしかねませんので、できるだけ最新の情報を入手すること が大事です。 Ⅵ おわりに 人間の心理的な部分ですが、正常化への偏見という言葉をお聞きになったことがあるかと思い ます。遭難の事例で、なぜ台風が近づいているときに山に出かけるのか普通では考えられないと 耳にします。人間は、自分は大丈夫だという心理が働く性質があるといわれています。日常いろ いろなストレスにさらされていると、安全・安心な状況に置きたいという心理が働くそうです。 目の前に危険が近づいてきても、それは大丈夫だと自分に言い聞かせて、適切な回避行動をとら ずに被害に遭ってしまうことがあるそうです。そういう心理的なものを冷静に判断して、これは 危ないなという危機意識を持って、行動していただければ遭難も防げると思います。 いろいろな遭難事故がありますが、気象情報の適切な利用や人間の心理を意識していれば、防 げる事故もあると思います。今後の登山計画に気象情報を利用、活用していただき、安全な登山 をしてください。 〔質疑応答〕 Q 疑似晴天は地上天気図で我々でも読むことはできますか? A 一時的に天気が回復するのを疑似晴天というのですが、予報を出しても、一つの低気圧や前 線が通過して、一瞬天気がよくなることがあります。例えば一つの低気圧や前線が抜けても、そ の後の天気を悪くする要因に、湿った暖かい空気がまだ残っているとか、上空の寒気が残ってい る時は、発達した雷雲などが発生しやすいのです。地上の天気図等で前線が通過して、低気圧も 通過したから大丈夫かなという時もありますが、いったん天気が良くなっても上空に寒気が残っ ているときにはまだ危険な状況があるので、その時には一つの方法として、地上の天気図だけで はなくて、500 ヘクトパスカル上空の天気図を参考にしてください。 中津川勤労者山岳会(渡邉氏) Q 雪崩注意報の定義を教えてください。 A 一般的に雪崩注意報の発表基準というのは、それぞれの府県で若干違いがありますが、ある 程度山岳地帯に多量の積雪が残っていて、なおかつ雪崩が起きやすい条件が重なる気象条件のと きに雪崩注意報を発表しています。春先に日本海に低気圧が入り、南から暖かい空気が入って気 温が急激に高くなるときには、雪崩が起こりやすくなるので、雪崩注意報を発表していますが、 必ずしも、積雪が多くて一定の条件がそろうから雪崩が起こるというものでもありません。一つ の基準としては、積雪が 50cm以上残っていることが目安です。ただ、積雪状況は把握できない のが現状で、場所によっては当然 50cm以上の場所もあります。雪崩注意報は、適切に運用でき ているのかと反省はありますが、起きやすい条件はあるのでその時には注意報を発表しておりま す。 それから新雪雪崩ですが、山岳部で降雪が 50cm以上降った場合に起きやすいということで、 雪崩注意報の発表を行っています。 静岡大学教育学部教授(村越氏) Q 雷について 2 点伺います。1点は、高山帯だとかなり危険があると思いますが、樹林帯に入 った時、どの程度の危険があるか。もう 1 点は、先ほど遠くで稲妻が見えて、何秒か時間がかか ると遠いという話がありましたが、最近はわりと稲妻が見えると結構遠くでも危険なことがある という話を聞いたことがあるので、危険はどれくらいの範囲なのか。 A 雷に関しては予測が難しいです。今回は一般的な話をさせていただきましたが、条件的には 熱雷の場合はある程度局所的に起こることが多く、寒冷前線が接近しているときやそれ以外のと きにも大気の状態が不安定になっていると、どこで起こってもおかしくないのです。電光が見え て、雷鳴が聞こえるまでの時間でおおむね距離を割り出すことが目安ですが、広範囲で雷が発生 するという条件のときには、それも当てはまらない場合もあります。ですから、上空、自分の頭 の上の空模様、雲の状況を見ながら、遠くの方で光って鳴っているからとりあえず大丈夫なのか なというのは、場合によっては危険な状況のときがありますので、今ここに落ちてもおかしくな いということを頭の中に入れておいてください。答えにはなっていませんが、回避方法というの はとりあえず身を伏せる、建物の中に入る、樹林帯の場合でも、背が低い木の場合だと安全なの か、そのことについては分かりませんが、よく言われるのは、木から2mは離れること目安とし て、木のてっぺんを見て大体 45 度のところに自分を置くのが、安全範囲といわれています。そ ういった回避方法も一つの方法かと思います。 「楽しい山歩きとリスク管理」 名古屋工業大学准教授 北村 憲彦 本日の話の流れとしては、最初に山歩きの特徴、それからリスクについてです。ここでは、各 個人が自覚してしっかりしなくてはいけない部分だと思います。その次に、どうしてもリーダー が必要なので、リーダー養成だということになります。リーダーがあるということは結局、パー ティーがあるということです。そのパーティーというものをもう少し広い活動でクラス、お近く の仲間、こういったものが未組織登山者も含めて、それぞれグループ活動があるのでその在り方 についてです。それから、最終的にいろいろな行政も含めたリスクマネージメントが全体ででき るというように、話をつなげていきたいと考えています。 Ⅰ 山歩きの特徴 最初に山歩きの特徴ということで、指導者の研修会等では、次のような話をしています。山登 りの楽しみは、もともとは旅行のようにどこかに移動するという楽しみ、それから生活する楽し みがあります。それが山歩きに発展して登山へ、登山も近郊の山から3000m級の日本アルプ スへ、さらにヒマラヤへとこんなふうに発展していくだろうと思います。それらを2つの軸に分 けまして、1つにはだんだんと高度が上がっていって、低酸素あるいは低温になっていき、厳し い自然、野外活動であるという見方です。もう1つは、だんだん高地に行くにしたがって不整地 になり、でこぼこした道しかも急な道で手も使わなくてはいけない。スリップする、氷が張って いる、そのような不整地の厳しさ。それから長時間の持久運動、こういった部分が登山の運動と しての特徴になります。 山本正嘉先生が登山の生理学の中で話されているのは、もともと人間としては恒常性としてバ ランスを保っています。体温、体の中のアルカリ性だとか酸性だとか、そのようなもの全て生命 活動という最低限の維持の中で恒常性を保とうとしています。そのためには、酸素と栄養この2 つがどうしても必要となります。例えば、グルコースそのものを燃料として最終的に分解してA TPになります。アデノシン三リン酸から二リン酸になり、この時のエネルギーが結局、生命活 動に役立ちます。すなわち、体の中は化学工場のような働きをしながら、エネルギーを生産して いるわけです。その中で、特に重要なのは心肺機能です。登山が強い人でも最大酸素摂取量をマ ラソン選手と比べれば、負けてしまいます。しかし、最大酸素摂取量は低くても、いかに効率よ く使っていくことが、登山では重要になってきます。筋力については、個人差が大きいので加齢 による低下は分からないのですが、平衡性については、明らかに下がってきます。同じように疲 れたときにもバランスは低下します。 では、登山の練習としてはどのようなものがよいかと言いますと、水泳や自転車などは心肺機 能の強化には使えます。しかし、登山で 下りで壊れる細胞組織 一番ポイントとなるのは下りのダメージ 山本 正嘉 です。上りの時の筋肉は、短縮性収縮を 登山の運動生理学百科 東京新聞出版局 (2000) して、ぐっと大きな力を出します。しか 下り し、下りの時は、伸張性収縮といって引 き伸ばされながら力を出すので、非常に 無理のかかった形となります。上りで疲 労した筋肉で下ると細胞の多くが壊れる 上り 短縮性収縮 伸張性収縮 ために、下りの時にバランスを崩しやす トレーニング注意 くなります。筋力の低下、疲労に伴う平 ・特異性の原則 衡性の低下が事故に結びついてきます。 以上のことから、山登りのトレーニン ・アミノ酸(BCAAなど) グとして重要なのは下りの運動負荷があるかどうかということです。登山の動作にあったトレー ニングとしては、階段の上り下りやスクワットのような運動が有効であるといえます。 もう一つ必要なのは、アミノ酸を含むサプリメントの利用ということです。アミノ酸はタンパ ク質をつくるものですが、激しい運動をすると壊れていきます。筋肉の中には、人間が自らつく り出すことのできない必須アミノ酸が9種類あります。それらが壊れると細胞の中からもっと使 おうとしますので、必須アミノ酸を食べ物から補うしかありません。研究では、運動の30分前 に2000mg 摂取すると効果があるとされています。今日では、手軽に入手できる製品も出回 っていますので、それを使って疲労に備えるというのも一つの遭難防止になるのではないかと思 います。 気圧と体感気温 山のリスク分類 山のリスクを分類し、まとめてみま 1) 高度1000メール上がると,気温は約 ℃下がる. した。高度が1000m上がりますと気 2) 風速10メートルで体感気温は約 ℃下がる. 温は6度下がります。風速10mで体感 山歩きクイズ 地上で36℃の猛暑なら,3000 mの頂上 +風速10メートルなら,体感気温 約 ℃? 温度はおよそ 1 度下がります。こういう 3)天候悪化(雨雪→濡れ) 話を覚えろと言ってもだめで、それをど 体調変化 う実感させるかが重要になってきます。 4) 筋力の低下・全身持久力の低下(トレーニング・栄養) ストック 5) 反射の低下 その一例として、クイズ形式で一般向け 6) 加齢に伴う平衡性の低下 に話をすることがあります。 「地上で36 装備・食料 ・グリコーゲン 度の猛暑の時に3000mまで上がった 7) 雨がっぱ,ツェルト,防寒着 ・アミノ酸 8) 燃料と食料の残量 らいったい何度になりますか?」 「もしそ 日程・時間 こで風が10m吹いていたら何度に感じ 9) チェックタイム オーバー → 心理的な焦り ますか?」というようなクイズです。答 10) 日没→視野・視界の減少(懐中電灯),気温の低下 えは、36−6×3−10=8で8度と なります。夏に3000mのところに行くのであれば、8度になってもおかしくないのです。だ から、長袖やフリースを持って行きましょう。さらに、雨が降って濡れれば熱を奪われるので濡 れないように雨合羽も持っていこうということになります。このような方法で気圧と体感気温に ついて学びます。 筋力、 全身持久力の低下に関しましては、先ほど話しましたようにアミノ酸の摂取が大切です。 頭の疲労には、グリコーゲンすなわちブドウ糖の摂取が必要です。頭が疲労してきて、 「もう、ど うでもいいいや」と思う瞬間が一番危険なのです。ですから、最後の最後で身を守るために判断 を正しくする、その基になるのはブドウ糖です。ちょっとふらふらしてきたら、 「おーい、これを 一本飲めよ」と渡してやることが大切です。 加齢に伴う平衡性ということについては、ストックを使うことが有効です。できたら両ストッ クを使うと良いでしょう。装備としては雨合羽が大事です。先ほど言ったように、体感温度を濡 れからどうやって守るかということですが、合羽を着て空気の層をつくって断熱をします。空気 というのは、断熱性の高い材料なのです。また、羽毛やセーターは空気を着込むことになり断熱 性が高まります。 日程や時間については、チェックタイムを過ぎると心理的に焦って、緊張や疲労が増します。 視野が狭くなれば、何かにつまずいたり転落したりという危険も増してきます。そういった事故 につながるから懐中電灯を持って行けよというように、具体的な指導の仕方が大切ではないかと 思います。 最低限の持ち物(装備) 服装の基本(雪渓のない夏山) (1) リュックザック (1)長袖の上着 (2) 雨合羽・防寒着 (2)防寒用のフリース上着など (3)長ズボン(木綿のジーパンは不適) (3) 水(夏は最低1リットルの水筒) (4) 懐中電灯, (5) 弁当やお菓子 (4)靴下 ・生命を維持 (6) 計画書と保険証のコピー ・恒常性の安定 (5)手袋 (7) ライター, (8) 地図とコンパス (6)足首まで覆う登山靴 ・行動支援 (9) 携帯電話や無線機 (or はき慣れた運動靴) 服装の基本 最低限の装備 生命を維持するためのものと行動を支援するためのものに分けてみました。リスクの管理では、 忘れてしまうこともあります。でも、最初からそれに気がついていて行動する場合と、持ってい ないことに気がつかずに山に来てしまった場合とでは、例えば天気が怪しいときの判断に大きな 違いが出てくるわけです。 準備・計画書については、計画書を出しなさいと言っていますが、これは1人が10分かけて ほんの少しのメモを残すことが、後で捜索する時に人件費や時間をどれだけ軽減することになる だろうということです。簡単な山行メモでも残してあると捜索することになれば、動きやすく発 見が早くなります。 このように自然のことをよく理解し、人間の体の調子のことを理解して装備を上手に使う。こ れが登山の基本だと思います。この体験と理解を繰り返しながら磨いていって知恵にしていく、 この部分は、個人が能力を磨くという領域です。 「登山客から自立した登山者へ」というキャッチ フレーズで広報や教育をし、未組織の登山者たちに少しずつよくなりましょうという活動が、必 要ではないかと思っています。 Ⅱ リスクに強いリーダーを育てる 次に、リスクに強いリーダーを育てるという話です。リーダーの仕事としては、これから起こ ることを予測、決断、そして実行、さらに修正ができれば、いいリーダーになるのではないかと 思います。また、パーティーをまとめるという意味でいうと、何のための登山かということをパ ーティー全体に了解させておくことが大事です。それから、大まかな方針をリーダーがもってい るかということです。インターネットで手軽に報告された情報を見て山に来た、という場面を最 近はよく目にしますが、その情報はどんな天気の時に、どんなレベルの人が、何人で行ったのか、 ということをよく調べなければいけません。また、どんな準備をして行ったのかは書かれていな いことが多いのです。現場の情報を的確にとらえるためには、自分の経験だけでなく、本を読ん だり、いろいろな人に話を聞いたりしたことも役立ててほしいと思います。 難題を作業に落とし込めと書きました 2.リスクに強いリーダーを育てる が、いろいろと困ったことが起きた時、 どうしていいか分からなくなり、パーテ リーダーの仕事 ィーがパニックに陥ることがあります。 *⇒予測⇒決断⇒実行⇒確認・修正⇒ * そうならないためには、具体的な作業、 例えば荷物の点検や読図、ラジオを付け 1) 何のための登山だったか,期待値は? る、テントを張る・たたむ、お茶をわか 2) 大まかな方針と臨機応変 す等の指示をすることが一番だと思いま 3) 情報は前提条件も含めて収集する す。その作業をやってさえいればいいよ 4) 現場主義(観察と予測と修正) というようになれば、それぞれがパニッ 5) 知恵と論理で経験不足を補う クになりにくくなるからです。 6) 難題を作業に落とし込め.パニック防止 私は東海地区の学生のワンダーフォー ゲル連盟で、リーダー養成のサポートを しています。そこで「リーダーっていったい何をやるのか?」という課題を出しました。学生の 議論を聞いていて、欠けているなと思ったことは計画・立案・準備の段階です。だれが・どこに・ どういう目的で行くのか、はっきりしていることが大切です。これでパーティーの共通の価値観 あるいは行動指針が出てきます。パーティーの能力や全体のパフォーマンスの把握や準備をし、 日常の生活習慣や忙しい中での練習の仕方を考え、模擬練習や想定練習を近くで行ったりするこ とも大切です。また、直前の準備はもちろん行いますが、実行にあたっては、どこで戻るのか、 何時まで動くのかということや事故拡大の防止などの問題も考えておかなければなりません。 リスクに強いパーティーをつくるということで、リスクマネージメントという観点から考えま すと、パーティーのパフォーマンスというものがあります。メンバーの強さ・装備、食料、計画 等です。それに対しまして自然の方は、雨が降った、風が強くなった等といろいろな作用があり ます。この二つがぎりぎりになってきますと事故が起きやすい状況になります。例えば、単純に 考えますと、二つの現象が同じようになり、さらに事故が拡大するかどうかというのは、ますま す自然の作用要因が大きくなるか、自分たちが疲労したり食料がなくなってきたりする時です。 そういう状況になりますと、事故がどんどん拡大していきます。それを見極めることが事故を防 いだり、拡大させたりしないことが、リーダーに求められていることです。そこで、一つの例で すが、これは未組織に近い登山のグループの人たちに話した時の考え方ですが、パーティー共有 の例えば、高度・風速・天候等の10の指標をつくります。そうすると、山を登っていくと高度 が上がるのでリスクが1、風が吹いてきたのでリスク2というようにリスクを数え、5になった ら帰ることを考える、そのようなマネージ メントの仕方です。これをパーティー全員 ベテランでも難しい判断・決断 の共有にしておけば文句はないわけです。 アクシデント発生 ものさしの無いパーティーはそこで分離す ・コースのミス・仲間が急に不調.・悪天・日没. ることがありますから注意が必要です。 緊急事態への対処 最後に、ベテランでも難しい判断・決断 ・安全のために可能な限りの手を尽くす. ・慌てない,焦らない,あきらめない(丁寧に) についてですが、山行の最中にコースのミ ・パニックを避けるための秘訣・・・分担作業 ス、仲間の不調、天候の急変等のアクシデ 決断と実行(パーティーの行動は止めにくい.) ントが発生することがあります。こういっ ・どこで引き返すか,中断するかを常に考える. た状況で事故が起き、その後緊急事態に対 ・行動中の相談を必要とする場所,時,状況. 処する時は、慌てない、焦らない、諦めな ・チェックタイム,エスケープ行動 を 決めておく. いことが大切です。最初の慌てない、焦ら ・無線や携帯電話などが使えないときの約束. ないでは、まず命が大事、連絡が大事とい うことをどのようにしてみんなに作業分担することができるかが鍵です。そうすれば全体のパニ ックが収まるという原則です。また、決断と実行で一番難しいのは、パーティーを止めるという ことです。関西学院が起こした事故のときは、まさにこういう状況でした。 「ちょっと待って」と 誰かが言うことができれば、ターニング ポイントだった山頂で話し合いができて これからリーダーになる人へ いたはずで、事故を未然に防ぐことがで 1) 計画をデータと想像力で練り込む きたかもしれません。私は、学生にはこ の点を特に注意して言っています。無線 2) 変化を敏感に捉え,リスクを数えろ や携帯電話がよく使えるようになってき 3) 現在状況を確認,少し先を予測. ていますが、山の中でこういうことが起 4) さあ,後は知恵と工夫で乗り切るさ! きたら「一度ストップしよう」という約 ・ターニングポイントを逃すな. 束が事前にできていないようです。携帯 ・エスケープも前進のうち準備怠るな をかければいいやといった調子です。大 5) 体験を伝承「教えることは学ぶこと」 切なことは事前に決めておくことが必要 なのです。 わてず せらず きらめず わてず せらず きらめず これからリーダーになる人へというこ 時間経過 とで少しまとめてみました。みんながパ ーティーの中で教え合うことが、実は学ぶことであり、リーダーを育てていることにつながるの です。 あ Ⅲ ・・あ ・・あ 楽しいグループ活動 楽しいグループ活動ということで、それぞれがいろいろな楽しさをもって山登りをしています。 汗をかくスポーツ的な楽しさ、ほっとする、仲間の笑顔等です。山に登る時には、最初の計画を 立てる段階では、わくわくと気分が高まってきます。そして、話し合いでいろいろな想像をして いきます。それから、実際に山に行き、助け合い、最後に思い出や感動を分かち合います。この ことを繰り返して山に行っているのだと思います。しかし、楽しく山に登るその裏には、リスク があります。そこに強力なリーダーの基にマネージしていくという必要性があります。もし、事 故があれば、一切登山の楽しみはなくなってしまうからです。 そこで、自立した登山者をつくることが重要になってきます。 身近に山がある我が国日本では、 行ってきた山の写真をお互いに見せ合ったり、ここに行ってきたよと話したりできる仲間をつく れば、もっと楽しくなると思います。そして、自然と調和して満喫しようということです。リー ダーの養成としては、小さなグループでのリーダーを体験して、リスクに強いリーダーを養成す ることです。この体験から、リーダーが困ること、心配なこと等が分かってきます。やはり、リ スクに強いパーティーをつくるためには、小さなリーダー経験の積み重ねが必要だと思います。 しかし、当然誰でも初めは経験不足です。そこで必要なのは、質の高い真剣なごっこ遊びでは ないでしょうか。所詮、学校でやることはままごとで実社会に出るとそんなもんじゃないよとい うことがあります。でも、質の高いままごとを重ねていくことで、事前に対処できるようになっ てきます。さらに、いろいろなことを考える時の縛りを無くし、みんなで情報を収集し、下界で 決められる事は決めておくことが大切です。決めておかずに、 「何とかなるだろう」と言って、登 り始めても何ともなりません。大きな計画ほど何ともならないのです。 ここからは、実際にリスクに強いパーティーをつくるということで、 道迷いについて話します。 道に迷う時の原因を2つに分けて考えてみました。 その一つは、位置情報が不足している時です。 例えば、山の中では天候、明るさ、障害物によって情報が制限されるからです。もう一つは、疲 労で心の部分が弱くなって認知力不足になることです。そこで、道に迷ったかなと思った時にど うするか。まず、行動を中止しなければなりません。すなわち、パーティーを止められるかとい うことが鍵になります。それから、周辺の特徴を観察し、行程を振り返ってみましょう。また、 地形図で予測することも大切なポイン トです。例えば、この道を行くとカー ブがくる、急に勾配が変わる、そのよ うな予測を確認するために動きます。 道に迷ったかなと思ったら、しっかり 疲労 霧(ガス) 夜 樹木 考え判断すれば、認知的な不足を補う 懐中電灯 ブッシュ どうでもいいや 雨 ことができます。さらに、情報不足も [明るさ] 谷間 ↓ 吹雪 補っていくことができるのです。 [天候] [障害物] あきらめ 近郊の山でポイントを決めて練習す あわてる る時は、学生にここの特徴は何だろう あせる と予測させます。 「次はこれが出てくる [心身] はずだね」と言いながら動きます。何 回かやってくると予測したことが当た り始めます。それを繰り返し行い、次 第に宝探しのような気分になり、学生たちも意欲的になってきます。半日それをした後、道のな いところへ連れて行って「今、君たち5人のパーティーで、どうやって、ここから抜けてきます か。 」というように進めていくわけです。また、リーダーを育てるということで討論の場を設けま した。結局、リーダーをやっていく、あるいはパーティーが強くなるためには、全員の人たちが いろいろなことに関心をもつことが重要になってくからです。彼らから「パーティーのリーダー は、何をするのか」 「雷の時はどうしたらいいのか」 「台風の時はどうしたらいいのか」等につい て、いろいろ教えてほしいと言われます。そこで、自分たちで今何を知っているのか、自分たち なりにどのように解決するか話し合いをもちます。このような活動には、正解というものはあり ません。全く違うこともまずありません。彼らだって、山をそれなりに経験しているからです。 多くのクラブの人たちもこういったことについて無関心なわけではないので、もっている知識や 経験を一度整理してみることが大切です。 文部科学省登山研修所で事故防止について討論しようということで、社会人のリーダー候補生 に集まってもらい、話し合ったことがあります。初めに「事故予防に何が必要ですか」と投げか けました。すると、想定練習が必要だといった意見が出されました。 「どのような想定練習がある か」と投げかけると、「ビバーグをやってみよう」 「負傷者を搬送してみよう」等の意見が出され ました。ここで大切なことは、自分では気がつかなかったことを他の人が気づいていることを知 るということです。このように、いろいろなことを総合していくと事故防止ができてきます。 道に迷う時 視界が利かない 位置情報不足+認知力低下 Ⅳ 山のリスクマネージメントの将来 山のリスクマネージメントの将来ということで、一番大事なのは正しい情報だと思います。本 質的には、 何が正しく、何が欠かせない技術かということを勉強して普及しなくてはなりません。 その普及の時には、当然教育が入ってきます。また、社会的な予防と救助体制、これについては 今回県警や消防の方々も参加されていて、全国的な活動が展開されているという話がありました。 以上の点は、クラブや団体に入っている人たちがやっていることだと思いますが、それ以外に緩 やかな連携・助け合いというような考え方も入れた方がよいと思います。10年前までは、未組 織登山者をなんとか組織化できないかという考えでしたが無理でした。ところが、未組織といっ ても完全に一人かというと単独登山の人は30%ぐらいで、後はグループです。そういう中での 連携も考えようということです。 後は前に話しました自立した登山者の育成です。全国的な組織や文部科学省のような組織を超 えた体制が、緩やかな連携のために何かできないかということです。さらに、リスクに強いリー ダーを養成するために、正しい知識の技術的標準、指導法や指導員制度の整備が必要だと考えて います。 もう一つは保険制度です。いろいろな山岳の保険がありますが、いざというときにヘリコプタ ーが飛ぶかどうか等の保障内容の確認も必 要です。個人的には、500円くらいの掛 山岳遭難保険の例 け金である程度の保障があり、登山口・駅・ ショップ等で簡単に加入できる簡易保険が できたらいいなと思っています。このよう ● 山や自然が好きな人の相互扶助と自立をめざす仲間の集まり「日本山岳協会山岳共済会」 ● 山岳共済会は安全登山をめざし、登山技術の向上・普及、遭難予防と対策などの事業支援 な保険ができれば、何かあった時に連絡が ● 山岳共済会は日本の山岳遭難・捜索保険で、4万4000人の会員を持つ最大級の共済保険 ● 山岳共済会には一般の誰でも加入でき,各種補償制度が受けられます ● 山岳共済会員向けに各種補償制度や特典制度を準備しています。 取りやすくなるし、登山届けの役割も果た ● 山岳共済会は入会費無料・年会費1000円(但し、18歳以下500円)で入会できます。 すからです。 事務受託:日本山岳協会山岳共済事務センター 月∼金 10:00∼17:00(土・日・祭日除く) 登山情報に関しては、ホームページがあ 東京都豊島区東池袋3−7−11−707 ります。また、いろいろなショップでも聞 TEL:03-5958-3396 FAX:03-5958-3397 くことができます。ここで大切なことは、 E-mail:[email protected] ホームページには多量の情報があるので必 もっと緩やかな予防システム? 要なもの、正しいものを取捨選択すること です。 Ⅴ まとめ 全体のまとめに入ります。正しい情報と教育、これが将来に向けて一番の鍵でしょう。いろい ろな研究をし、それらを検証し、普及し、そして常識化していくという流れの中で、正しい情報 が育成され、教育が普及するだろうと思います。それと個人を強くする。そして仲間や社会との 関わりで支え合う関係をつくっていきます。このようなものを山登りする人たち全員にもってほ しいと思います。個人については、特異な運動ということで登山の下りが弱い話をしっかりしま しょう。その次にお互いに小さなリーダー を経験することで、ずいぶんパーティーの 動きが変わります。それから社会制度。自 然に登山届けが出せるようになったり、自 経過時間 然に保険に入ったりできる制度ができれば、 ③普及*常識化,習慣化・・・ 例えば100万人規模で1人100円の掛 ②検証*ケーススタディ,実地検証,反復検証,・・・ け金で、全員が加入したのなら1億になる ①研究*運動生理学,心理学,気象学,材料,力学,・・・ わけです。捜索のための資金にもなります。 もう一つ付け加えるなら仲間です。未組織 の人も含めて、社会の中で生きていますか ら、社会から「登山なんか、やめてしまえ」 ③社会制度*常識的で自然な枠組み と言われたくありません。そういった意味 ②楽しい仲間*話し合い・助け合い・分かち合い・・・ でも、楽しい山を続けていけたらいいなと ①特異な運動*登降・気温・低酸素・体力・心理・・・ 思っています。以上で終わります。 正しい情報と教育 個人・仲間・社会/支え合う関係 第1分科会まとめ テ ー マ 「山岳遭難救助の現状と問題点」 サブテーマ −ヘリコプター救助活動の現状と登山者への対応− 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 愛知県警察本部地域部地域総務課課長補佐 愛知県防災航空隊副隊長 愛知県警察本部地域部地域総務課長 愛知県防災航空隊長 警察庁生活安全局地域課課長補佐 名古屋地方気象台観測予報課予報官 柴 田 伊地知 川 合 纐 纈 稲 垣 谷 渡 浩 政 隆 吉 好 直 好 信 善 博 人 樹 【第1分科会 概要】 第1科会では、警察と消防による遭難に対する活動概要や対策について発表させていただきました。 まず本テーマであります「山岳遭難の現状と問題点」については、愛知県という都市近郊の低山という 特徴から、登山経験及び登山技量の浅い、特に中高年登山者による事故の発生件数が少ないながらも年々 増加していることが分かりました。こうした中高年登山者を中心に登山者をいかに遭難事故から守り、ま た遭難した際には迅速安全に救出するかが課題であり、意見を発表させていただきました。 特にサブテーマでは、「ヘリコプター救助活動の現状と登山者への対応」と題して、空からの視点で問 題に迫りました。ヘリコプターによる救助活動は、森林限界のない当県では、山は常に緑に覆われ、その 中で要救助者を発見することは並大抵のことではありません。特に怪我を負っている者には、早期の救助 が必要となります。 始めに、ヘリによる上空からの遭難者の捜索活動の事例を紹介しつつ、遭難者の発見がいかに困難なも のであるか、また早期の救助には遭難者から捜索ヘリに対し、何かしらのシグナルを発してもらうことが 有効であること。また、救助現場においては、防災ヘリとドクターヘリによる見事なコラボレーションに よって、早期に傷病者を医師の管理下に引き継いだなどを紹介しました。 さらに要救助者の状態によっては、防災ヘリで救助した後、近くで待機するドクターヘリに傷病者を引 き継ぐ従来の方法ではなく、ドクターヘリのスタッフが防災ヘリに搭乗してもらい、そのまま現場にホイ ストにより投入して、現場で救命活動を行うという、傷病者の立場に立った新しい救助スタイルを検討し ています。これは、要救助者には、高齢者の心疾患など一刻を争う重症患者であることが多く、早期に医 師の管理下で応急処置を施すことが肝要で、救命や後遺症の軽減に大きな効果が期待できるからでありま す。ドクターヘリ特別措置法の成立により、将来的には各都道府県にドクターヘリが配備されることが予 想され、特に消防・防災ヘリとドクターヘリの連携は、急務であります。当県のドクターヘリとの連携に ついて、分科会での発表が各県の参考になることを期待するところであります。 以上のとおり、遭難現場においては、警察及び消防防災ヘリさらにドクターヘリの連携により、いかに 早期の段階で山中の遭難者を救助し、直近の医療機関に搬送できるかが重要であり、ドクターヘリの有効 性がよく分かる発表でありました。 次に、登山者の対応につきましては、大きく分けて2点発表させていただきました。 1点目は隣接県の遭難事故者に占める愛知県在住者が多い事にあります。 特に三重県におきましては、昨年中の遭難事故者に占める愛知県民の割合が、41.6%とその大部分 を占めており、当県は残念ながら、遭難者の送り出し県であることを改めて認識しました。この結果から 私たちはあらゆる機会を通じて遭難事故抑止に繋がる啓蒙活動や遭対協と連携した施策を講じていかなけ ればならないことを痛感いたしました。 2点目は遭難者の現在位置の特定についてです。 発見が早ければ治療も早い。場合によっては命を救うこともできます。当然のことですが広い山の中で は遭難者の発見は非常に困難なものです。そこで、愛知県警察では、昨年4月に導入した「位置情報通知 システム」についてご説明させていただきました。このシステムは、携帯電話で110番通報した際にそ の現在位置をある程度特定するものです。位置情報の精度については、数十メートルから数キロの範囲と 幅はありますが、いわゆる GPS 付加の携帯電話であれば、数メートルから数十メートルまで場所の絞込み が可能です。特に山菜取りに出掛ける方などは、特に採取場所を告げずに出掛けるとこが多く、こうした 方が、滑落等により遭難した際、本人から断片的にでも通報があれば、ある程度の位置が特定できる事を 紹介させていただきました。 最後に、既に愛知県や他の都道府県が一部実施しているところですが、登山道に設置されたベンチや道 標に番号を付して管理する事で、登山者が遭難した際に現在位置を特定する施策を紹介させていただきま した。この番号によって救助された事例がありますが、第1分科会では登山者が道を外れ遭難し、現在位 置が分からなくなったとき、果たしてこの番号は覚えていますかと疑問を投げかけました。番号は管理し やすいが、連続するもので覚えにくいものです。成田空港の巨大駐車場の試みを参考に、動物や植物さら に色を組み合わせることでイメージとして現在地点を覚えてもらおうという提案をいたしました。以上が 第1分科会での発表の主な概要です。 なお、ヘリコプターの活動は、先ほどの愛知県防災航空隊の事例発表でもありましたが、気象状況が大 きく左右してきます。愛知県防災航空隊から発表のありました事例発表2件の気象状況について、名古屋 地方気象台の谷渡様から補足していただきます。 【助言者より】 名古屋地方気象台の谷渡です。愛知県防災航空隊の4月1日の事例発表当日の気象状況について説明い たします。 愛知県北設楽郡碁盤石山の救助事案についてですが、当日、現場付近は、4月にしては西高東低の冬型 の気圧配置で等圧線が詰まっている状態で全国的に風が強い日でした。事故発生場所の碁盤石山山頂付近 でも30ノット近くの風が吹いていたと考えられます。また、雪についてですが、当日の北西風に乗って 北陸地方にあった雪雲が流れ込み易い気象状況であったので断片的に雪が降ったのではないかと考えられ ます。 もう一つの事例である5月27日岐阜県乗鞍岳における上空の天気図は、碁盤石山の4月1日の天気図 と違って完全に高気圧に覆われていました。こういった気象状況の場合、無風の事が多いため、現場では ほとんど風が吹かなかったのではないでしょうか。 【意見交換】 日本勤労者山岳連盟(川嶋氏) Q 山岳事故の中で病気による事故が増えてきていますが、事故発生時の通報については110番で警察 に連絡をするのか119番で消防機関に連絡したほうかいいのかご教示願います。また、こうした事案 では、できればドクターヘリに飛んでもらいたいのですがどのように連絡すればよいのかご教示願いま す。 A 岐阜県や富山県などのアルプスなどの高地にて事故が発生した場合、110番警察に通報する方がよ いと考えます。高地山岳地域を管轄する警察は山岳警備隊が常駐し、あわせて、高地での救助活動は警 察航空隊が中心となります。 低山の場合は119番消防機関に通報する方がよいと考えます。消防防災ヘリコプターは県・市が保 有しており、運用するのは消防本部です。我々は消防本部からの要請により出動することから、愛知県 などの低山で急病による事故が発生した場合は119番通報により消防機関が即応体制で出動します。 また、ドクターヘリについても消防本部からの要請により出動することから、119番通報時、ケガ や病気の状況を伝えドクターヘリに出動してもらいたい意思を伝えてください。 日本勤労者山岳連盟(川嶋氏) Q 消防防災ヘリ及びドクターヘリに出動してもらうのは費用がかかるのか? A 消防防災ヘリ及びドクターヘリが出動することによる要請者への費用負担はありません。しかし、ド クターヘリは医療行為を行うことにより医療報酬が発生しますのでこれだけの費用はかかります。通常、 病院に通院し診察を受けるものと同じと考えていただけばいいと思います。 愛知県山岳連盟(杉本氏) Q 愛知県警察にお願いですが、岐阜県警察、長野県警察などは山岳事故の発生件数をホームページに掲 載していますが、愛知県警察も同じようにホームページに掲載できないものか? A 岐阜県や長野県などは年間40∼50件の山岳救助事案が発生しています。しかしながら、愛知県警 察に報告されてくる愛知県内の山岳救助は19年中で2件のみで、過去のデータから考えると、毎年同 じくらいの事故報告件数であり、非常に少ないことからホームページに掲載していないのが現状です。 今後、中高年登山ブームにより山岳事故が増加する傾向であれば、ホームページへの掲載も検討します。 総務省消防庁(大久保氏) Q 愛知県防災航空隊の発表の中にありました「四県一市航空消防防災相互応援協定」についてですが、 耐空検査などで長期間にわたり運航を休止する等、ヘリ機体に関する動態状況を近隣の県や市で共有す るネットワークは存在するのか?存在するならば耐空検査までの残り時間等の情報をどこまで共有して いるのか、また、消防防災の枠組みだけでなく警察機関との相互のネットワークは存在するのか? A 「四県一市航空消防防災相互応援協定」において、耐空検査などで長期間にわたり運航を休止する場 合、関係する航空隊に連絡を行うことが明記されており、電話及びファックスによって相互間で連絡を 取っております。また、「四県一市航空消防防災相互応援協定」とは別に、北陸地方等を含めた「九県 一市災害時等の応援に関する協定」を締結しているところですが、これにつきましても同様の連絡体制 をとっております。 次いで、警察機関とのネットワークについては、愛知県は特別な協定は結んではおりません。しかし、 空港内で両機関の基地が近いため、急な運航休止等以外の情報においては電話等で相互に確認しあって おります。 総務省消防庁(大久保氏) Q 災害事案に対応しているときに、別の災害事案の出動要請が発生したときの対応についての質問です が、近隣の航空隊が災害等に出動した場合については、リアルタイムで情報を連絡しているか? A 災害事案に出動するたびに近隣航空隊への連絡はしておりません。別の災害事案が発生した場合、対 応できる直近の航空隊に連絡し応援要請を行っています。 日本勤労者山岳連盟(宮崎氏) Q 愛知県警察の位置情報システムについての質問ですが、平成19年の運用開始から今日までの間、位 置情報システムによって山岳事故等の場所が特定された事例はあるか?また、GPS を用いた場合どこま で位置を正確に伝えられるか、また、ヘリに対しての災害場所の認知方法についてご教示願います。 A1位置情報システムは、山岳遭難者のみでなく、事件等による110番した方が現在自分がいる場所の 住所がわからない時のためにも使用するものであります。この情報は、県警本部の通信指令室の画面に 円で表示され、誤差半径は数メートルから数キロであります。GPS 内蔵の携帯電話ですと誤差数メート ルであります。 今回、発表した事例については、このシステムが活かされたかどうかは確認しておりませんので、返 答はご遠慮させていただきます。しかし、このシステムは、あくまで平地に対応するものであり、愛知 県といえども東部側の山間地域では使用できない場合もあるので、登山をされる方は携帯電話を過信し ないようお願いします。 A2ヘリコプターに対する災害場所の認知方法ですが、ヘリコプターは GPS を使用して目的地まで飛行し ます。ただし、そのポイントはおおよその位置になります。尾根のように開けたポイントが災害現場で あれば、おおよその位置まで到着すれば発見は容易ですが、木々に囲まれているような場所であれば GPS の数字はほとんど意味を成しません。しかし、その数字はまったくの無駄ではありません。山を一 つ捜索するよりもおおむねの場所がわかっているのでは大違いです。 重要なのは、救助を求める方々が近くにいるヘリコプターに対してどのように自分の居場所を知らせ るかということです。木を揺すったり、カメラのストロボを発光したりするなどの手法により知らせる ことが重要です。 助言者(稲垣氏) 映像を交えての貴重な発表ありがとうございました。この事例発表により全国の登山者の皆様に山岳 遭難に対する様々な手法を伝えられたことは非常に良かったと思います。また、今回の発表により地上 と空との連携活動のカードがさらに増えたのではないかと感じます。 このような分科会を通じて様々な情報交換ができたことは大変有意義であったと思います。今回の愛 知県防災航空隊が発表した高地において離陸できなかった事例に通じますが、先日、水晶岳の山小屋で 発生しましたヘリコプターの墜落事故も高地において荷重量が重くて発生したものでありました。ヘリ コプターの限界は気象状況に左右されやすく、航空隊の皆さんはギリギリの環境で活動されている中で、 今回のような事例を発表する機会をどれだけもてるかということが重要だと思いました。 助言者(谷渡氏) 航空隊の方々は、苛酷な環境の中で活躍されていることを改めて感じました。今後とも困難な気象状 況で活動することもあるかと思いますが、二次災害に気をつけてご活躍いただきたいと思いました。 24 NNK EP JA6792 20 6 4 12 18 200km/ BELL AS BELL N BK C AS N BK C EC 24 2 24 5 24 52 24 9 4 24 2 365 19 10 24 22 3 20 2 13 14 20 18km 15 14 1 8:30 17:00 1 ( ) 19 6 63 1 1 12 2 3 3 4 11 4 5 20 5 10 7 9 72 2 83 63 65 6 11 27 60 8 1 39 7 7 12 3 69 7 4 5 2 20 11 13 1 2 3 3 1 2 21 4 1 65 5 27 82 1 4 6 1 67 3 19 20 9 6 3 2 1,000 5 6 4 1 12 49 13 15 13 15 13 33 / 20 4 1 12 38 12 30 13 27 12 52 / / 1,189 14:15 / 13:38 / 13:57 / 5.0 / 17 / / 20 / 13 18 / 18 /s 17 /s 2 19 10 7 11 20 11 12 695 70 11 34 / 11 59 12 04 12 11 11 31 / 11:45 12:53 / / 12:12 / 12:40 / : : : : : : : 2.3 / : 22. R Dr. Dr. 3 20 5 27 13 19 3,026 2,702 82 14:39 14:16 / 14:27 / / 43 13 33 / 3 000m 3 000m 2,702 1,415 3,000 1 4 3 000m 4 20 6 1 8 49 9 9 9 9 18 21 22 34 18 9 00 9 1,212 67 9:43 / 9 18 9 21 / 9 22 9 34 9 22 9 43 第2分科会まとめ テ ー マ 「山岳遭難の予防とセルフレスキュー」 サブテーマ −指導員養成とセルフレスキュー指導について− 事例発表者 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 愛知県山岳連盟遭難対策委員長 愛知県山岳連盟指導委員会普及部部長 愛知県山岳連盟指導委員会普及部副部長 愛知県山岳連盟副会長 愛知県山岳連盟議長 岐阜県山岳連盟遭難対策委員長 愛知県山岳連盟副会長 高 橋 吉 村 上 窪 安 藤 中平等 大 沼 阿 部 英 武 新 正 英 優 賢 男 典 一 博 美 【事例発表1】「愛知県山岳連盟の遭難予防への取り組み」 発表者 高橋 優 1 愛知県山岳連盟の活動 愛知県山岳連盟(以下岳連)では、加盟団体の事故防止のために技術講習会等でレスキュー技 術を含めた登山技術、知識の向上を図っております。また、一般登山愛好家の方々に関しては加 盟団体以外の方にも参加いただく行事を企画して安全登山の啓蒙を図っております。しかし、救 助技術講習会にしても年1.2回の講習で実際の山岳遭難発生時どれだけのことができるか疑問 もありますがこれらの講習会等が安全登山の技術.知識向上のきっかけにしていただき日ごろの 訓練と実践に繋げていただければと考えております。 (1)遭難対策連絡協議会 実際に遭難防止対策といいますと愛知県山岳連盟では約 40 年以上前より遭難対策連絡会議と して入山前に各パーティーの連絡会を開いております。現在は年 2 回、年末年始と5月の連休の 時期にこの会議を開催しております。事前に所属山岳会(クラブ)に入山計画の概要(入山山域・ 期間・リーダー名・緊急連絡先等)を提出していただき、愛知岳連の山行全体を把握いたします。 そして遭難対策連絡会議ではリーダーに出席していただき、 全体の情報連絡を行います。内容は、 偵察山行の報告や、インターネットでの山岳情報等山に関する近況情報等を提供します。その後 各山域に分かれて計画書を配布・確認し、山域ごとの幹事パーティーを決め、情報交換や各パー ティー間の連絡方法および、遭難事故発生時の連絡方法等を協議しております。しかし、最近で は偵察山行も少なくなり、体験による情報が少なく、また、インターネットの情報も更新が遅い と感じております。 下山報告はこの幹事パーティーが取りまとめ、岳連の遭難対策担当へ報告するようにしており ます。入山パーティーの少ない山域は各パーティーから直接岳連の遭難対策担当に連絡をもらう ようにしております。また、不幸にして遭難事故が発生した場合は多くの場合、各パーティーの 所属山岳会から岳連に連絡が入りますので、所属山岳会の相談にのり、必要な場合は救助のサポ ート要請等事故処理のサポートを岳連も援助します。さらに、事故の原因の究明、是正対策等を 検討してもらい、 事故報告書を提出していただき、事故の再発防止のために各山岳会への横通し、 講習会等への反映をしております。 このような形式で遭難対策連絡会議を実施することにより、山岳事故防止に努めております。 特に頻繁に発生する、同じ山域の同じ場所での遭難事故事例対策を伝えています。この会議によ り所属山岳会間の横のつながりができ、登山中現地での交流もできております。リーダーを召集 することにより、各会の中心的人物と顔合わせができ、指導員候補の選択や会を超えたパートナ ー探しにも役立っていると思っております。また、岳連が把握することにより同一山域で遭難事 故が発生した場合地元警察に山での状況情報を提供できることもあります。最近はメールを活用 して連絡を取り合い、山行情報の把握もできるとは思いますがこうして直接顔をあわせて情報交 換・話し合うことに意義があると考えてこの連絡会を実施しております。同じ遭難事故の繰り返 しが無いように隊のリーダーが、現地危険区域で必ず思い出して遭難防止対策が出来るよう取り 組んで行きます。 (2)講演会の実施 岳連では「遭難を考える」という講演会を毎年実施しております。これは一般の方にも参加して いただいており、講師の方に貴重な体験を1時間 30 分程度の短い時間にまとめていただき講演を いただいております。参加者にとって安全登山に対する考え方に大きく役立つ講演会だと思って おります。すでにこの講演会も 12 回開催しました。その内容の要点を下記に紹介します。 * 50cm位の積雪でレスキュー隊をタクシー代わりに呼ぶような感覚になっている。 計画書をチェックする山岳会の技術レベルが低下している。 現状のレスキュー方法はあまり役に立たないので専門家に任せて後方支援に協力する。 今後一般の登山者にいかにして危機感を持たせるかが課題です。 * 二人で8000m狙い、頂上直下高度差400m前で敗退したが「命あっての物種・・」限 界ギリギリの山行を成し遂げた充実感に満たされている。 * 登山経験の少ない大学生の遭難で先輩から受け継いだ遭難防止技術だけを駆使し大事にいた らなかったチームワークは最近の社会人も見習うべきである。 * 富士山では洪水のような突風が有るので十分な対応が出来るよう訓練する事。 * 死亡事故が10年前の1.5倍と増加している。特に単独登山者の死亡率は27%と高い。 又、他人への依存度が高く、危険への認識が低下している。計画書は危険度の高い人を、 基準にトレーニングを含めて検討して下さい。 * 2 「効果的なサプリメントの取り方と効果」では、傍聴者の関心が高く講師が質問攻めになっ た。医学博士のBCAAによる筋肉痛解消等への効果講義でした。 県民登山及び、少年少女登山教室 愛知県山岳連盟では一般の方を含めた行事として、県民登山と子供を対象とした登山教室を毎 年実施しております。 (1)県民登山 県民登山はもう何十年も前から実施しています。従来は有名な山に登山愛好家をつれて登頂を、 めざしながら、山を楽しみ山の魅力に触れていただこうという企画です。最近、ガイド登山や旅 行業者による登山等が盛んに行われるようになり、岳連が実施すべき県民登山の企画はどうある べきかの議論が山岳連盟の常任委員会で始まりました。遭難防止を啓蒙することが岳連ですべき 企画ではないか・・・。先導の後について山頂へ導かれる登山。今、自分がルートのどこにいる のか、あるいはルートさえも把握しないで山頂を目指す登山。道迷いが原因として発生すること の多い最近の遭難事故。などを考えると読図というキーワードが浮かんで来ました。県民登山を 登山教室として読図を中心とした安全登山の勉強会にしよう。これが岳連として一般の登山愛好 家へ提案する企画だと、岳連の常任委員で意見がまとまりました。 何も有名な山でなくてもいい。登山前に地図を読み、ルートを読む。登山行動中に地図を読み 現在地を把握し、今後のルートを予測する。そんな実践をしながら山を楽しむ登山教室を近郊の 鈴鹿朝渓谷から愛知川へのコースで県民登山教室として実践しはじめました。まず、参加者を1 ヶ月位前に招集し、登山準備を含む勉強会・自己紹介を実施しています。具体的には、登山前日 の夕方に集合し、夕食前に机上講習で安全登山の考え方や読図、コンパスの使用方法などを勉強 し、翌朝シルバーコンパスと国土地理院の1/25000の拡大コピーを持って地図と地形をに らみながらの登山です。地図に記されたいろいろな情報を読みとる訓練や機会あるごとに山岳指 導員が登山技術の指導もしながらチーム編成での山登りを楽しむ行事にしました。ちなみに現状 位置確認ポイントを地図上に20ヶ所程度設けて各グループで確認しながら進行します。こんな 登山教室で少しずつでも一般登山愛好家の方々に安全登山の啓蒙を図っていきたいという思いが 有ります。今後はマンネリ化を防止するために新たなフィールドを探すこと。これには魅力があ り、講習に適したコースを探し、事前に指導員の勉強会が必要です。それと参加者の拡大を図る 必要があると思っています。 (2)少年少女教室 少年少女登山教室は、日本山岳協会の主催で愛知県では親子ふれあい登山と称して子供たちに 登山の楽しさと自然とのふれあいを経験させるために実施している企画です。子供たちに自然の 中に入ることの楽しさを味あわせることを、目的に企画し、山登りの中にいろいろな遊びや冒険、 たとえば木登り・水遊び・簡単な岩登り・生き物を見つけて触ってみる等を取り入れています。 子供たちは新鮮でヒルをつかんで触ってみたりしています。しかし、子供たちが相手ですので、 事故があってはなりません。コースの安全確認はもとより、指導員の研修と企画会議をしっかり 行って、万全を期して取り組む行事であります。 3 登山用具店の登山初心者への対応 無組織登山者・中高年登山者・一般登山者対策については、毎年提案されていますが遭難事故 件数は増加しています。この山岳遭難防止対策として山道具店に御協力をお願いしました。岳連 所属会員でしたら注意喚起もできますが、無組織登山者にはお手上げ状態です。以前の登山道具 店は登山者のたまり場でいろいろな生の山情報が得られる機会がありましたが。近年はインター ネット等で殆どの情報が得られるので話す機会が少なくなりました。それでも初めての登山をす る場合には、必ず訪れるのが登山用具店です。登山初心者が店に訪れたとき、登山者に対するリ スクをアドバイスする事が遭難事故減少に繋がると考えます。山道具の事は、幅広く店員が良く 知っているので、話し掛けていただければ当然対応します。しかし、山を知らない人に例えば雪 崩の危険を話しても、その原因を理解してもらうのには無理があります。簡単な登山道の分岐と 合流が登りと下りでは、どう違うのかが理解出来ないようです。又、全てに万能の道具は有りま せんので、適材適所を見分けて活用するように話しています。特に登攀用具はまったく逆使いが 出来る道具が多数有りますので理解してもらえるまで説明します。又、初心者でシルバーコンパ スを購入する人は殆どおりませんので、道迷い対策には無関心ですが、危機感は持っています。 遭難事故を引っ張るのはこのような新人を連れて山登りをする無組織の登山愛好家に多いようで す。店では、楽しい登山の話しと装備の長所が先行しますので、登山でのリスク話は強く押せな いのが現状です。このようなことから、山道具店が遭難防止対策に協力できることは、行政指導・ 岳連指導により発行された遭難防止ポスターの掲示です。遭難への危機感は登山者が個々に現場 で判断することですので、現地の危険地帯で思い出せるよう働きかけていきます。 【事例発表2】「県岳連所属山岳会の組織運営と遭難対策」 発表者 吉村 賢 会場のみなさんは、各県の岳連等に加盟し、各々の山岳会、クラブ、サークルなどで活動して いることでしょう。今回は、名古屋山岳会の活動や遭難対策などを発表します。会によっては、 参考になる箇所があるかと思います。また、場合によっては、更に一歩進んだ、組織運営を行っ ている会もあるかと思いますので、発表後に各会のことが話あえたらいいかと思います。 1 名古屋山岳会の特徴について 会を代表する、会長1名がいます。そして、現役で活動する代表者1名、現役を引退した後の OB 組織があります。現役で活動するメンバーの中の主力メンバーで運営委員会をつくり、組織 運営していきます。新人で加入した方も含み、全員がなんらかの係りについてもらいます。会の 特徴としまして、週1回の割合で山行計画、山行報告を行うクラブルームを所有しております。 また、ロープ、テント、コンロ、コッファなどを共同装備として、常設場所にしています。ホッ チボードというクライミングボードもあります。 もう一つは、トレーニング期間を設けていることです。夏のお盆の時期、そして、年末年始の 休暇が取りやすい時期に、まとまって、あるいは、長めの山行を行う会は多いと思いますが、そ の2ケ月前ぐらいから、トレーニング期間と位置づけて活動しています。 2 入会にあたり 話が前後しますが、どこの会でも山岳会に入会する時は、入会しようとする方に対して会の活 動状況やルールなどを説明した後、本人が入会しようとする時に入会申込書を記入するかと思い ます。名古屋山岳会では、入会者自身が自立した活動をしてもらいたい事も考え、あえて、 「登山 活動が死を含む大きなリスクを伴うことを承知する」という文面を入会申込書の一番下の欄に記 入し、署名をいただいています。これは、山は危険を伴う活動であることを再認識していただき たいからです。そして、トレーニング期間に一緒に活動することがいかに大切かを今一度考えて もらいます。 3 メイン活動計画 6月、7月をトレーニング期間として、お盆休みの山行にあわせて計画し山へ行きます。基本 的にこのトレーニング期間中は、個人的な山行を自粛しトレーニング山行に参加します。11月、 12月も同じようにして、年末年始の山行にあわせ、トレーニング山行(8 回)を目標に行いま す。しかし、トレーニングと同等以上の計画と運営委員会が認めた場合には、別メニューで実施 することが出来ます。(ヒマラヤ遠征のトレーニング等) (1)トレーニング計画・夏山 まず、夏山合宿リーダーから場所や期間の提示があります。夏山合宿は一カ所に定着し、岩を 登りに行くメニューが多いです。主な場所として、剱の剱沢の三田平、あるいは真砂沢。穂高で すと、涸沢や横尾にベースキャンプを張り、期間中にメンバーが入れ替わり立ち替わりで合宿を 行います。そして6月、7月のトレーニング山行と集会の時に行う机上ゼミの予定が発表されま す。ゼミといっても、せいぜい長くて 30 分のポイントを絞ってのものになります。 トレーニングメニューですが、6月7月のほぼ毎週日曜日がトレーニング山行になります。新 人を岩登りできるように、中堅のレベルアップにと、岩登り中心のメニューが組まれます。とは 言え、剱は雪渓を歩きます。そのため、雪上訓練を取り入れています。歩くことが中心です。い かに滑り落ちないように歩くか。最悪、滑った場合の滑落停止などを行います。 (2)確保訓練や救助訓練 実際に岩登りをしていて、 転落した場合に、 どうなるか?を鉄のオモリを落として体験します。 どれだけの衝撃がくるのか?アンカーの取り方は大丈夫か?止めたはいいけど、自己脱出できる か?などの練習を1日かけてじっくり行います。 剱の岩を登るにしても岩場までは歩きます。また、ベースキャンプまでは、1人30kgぐら いは背負います。歩荷トレーニングなど歩くトレーニングは特に大切です。岩登りのトレーニン グのときも、前日夜に入山し、一山登ってからテント地に入るようにします。 状況や場合によってですが、最終のトレーニングでは、午前中に救命救急講習を受け、心肺蘇 生の練習をして午後に合宿時の荷物や乾物食料を割り振りパッキングします。トレーニング山行 の前に机上講習などもします。雪上訓練や確保訓練などは、事前にゼミをしておくと、実技がわ かりやすくなります。 (3)ルート研究 ルート研究では、今年入会した新人にもやってもらいます。連れて行ってもらう山から、一緒 に行く山へと、山域やルートを調べてもらいます。 (4)食料計画案・装備計画案発表 食料計画案発表、装備計画案発表では、合宿の時の食料担当や装備担当から事前に計画を出し てもらい検証していきます。この食べ物は調理に手間がかかりすぎる、腐る、重すぎるなど。 装備では、どのテントを持っていくか? ロープの本数の確認など。気象の変化による事故は、 夏の時期に起きやすく、気象に関する事故を交えながら、どうすればいいかなどを話します。 台 風や雷が夏の気象の特徴でしょうか。 遭難対策として、遭難しないためにどうすればよいか、起きてしまったらどうすればよいか、 などを話し合います。 (5)トレーニング計画・冬山 冬山合宿に関しましても、夏山合宿同様に冬山合宿リーダーから、合宿の時期・期間や、場所 などが発表されます。冬山合宿は、定着より、縦走タイプが多いです。剱の早月尾根をはじめ、 後立山、穂高、南アルプスなど様々です。新人を中心とした、合宿メニューが組まれることが多 いです。後は、好みの山域や登攀スタイルなどのバリエーションに行きます。従って、トレーニ ングメニューも各チームに応じて、必要と思われる訓練をします。トレーニングメニューで賛同 できる山行は参加するスタイルになります。 (6)偵察山行 11月中にある3連休などで、偵察山行を行います。初見で突破するのが、冬の醍醐味で面白 いというのもありますが、山は雪が着くと全然違う、別の顔を持つのだと、わかってもらうよう にします。また、偵察山行を行うことで、ルートの再確認や、ビバークポイントの確認、踏破性 の距離感覚や、合宿に対するモチベーションのアップなどの効果があります。冬のルート判断ミ スや吹雪、ホワイトアウトなどに遭遇すると、やはり偵察をしたか、しなかったかでは、隊の心 理的行動が違ってくると思います。アイゼン岩トレーニングとして、アイゼンを履いて岩登りを 行います。11 月中下旬ぐらいまでは、御在所の岩に雪がほとんど着いてないので、いいアイゼン トレーニングになります。歩荷訓練、いきなり合宿の重い荷物を背負うのではなく、事前に体を 慣らしましょう。雪が降り出した、冬の始め頃に富士山なんか行ってみても面白いです。冬山に は、吹雪はつきものとして、強い風を体験しましょう。ラッセル訓練、簡単に言えば、ワカンを 履いて歩く練習。あと、たとえば、雪が腰ぐらいまであるときは、どうやってあるくか?胸や顔 まであったらどうするか?ラッセルの先頭は疲れやすいし、なかなか進まない、どうするか。ザ ックを置いてラッセルしよう、どれくらいなら、取りに行って、もどってこられるかなどを学習 します。 冬の雪上では、スタンデイックアックスや、雪での支点、ビーコンによる捜索の練習なども行 います。また、雪崩に対してどうしたらよいかの、弱層テストなどをします。すべてのトレーニ ング山行に参加すると、相当強くなりますが、なかなか、全部は参加できません。 (7)ゼミナールの説明 冬山装備にどんな物が必要か?何がいいのかなど話し合います。医療では、凍傷にならないた め、どうするか?気象は、冬型の気圧配置により、山の天気はどの様に変化していくか?冬山の 成功の鍵のひとつに、天気を読む。必要があります。晴れていれば、どうって事ないルートが、 天気が悪いばかりにもの凄く厳しい山行になる事がいくらでもあります。また、遭難も天気が絡 むことで、遭難するケースもあります。 ゼミではないですが、冬には、岳連で遭難対策会議を行っていますので、日程を明確にし、 リーダーまたは、代理の者が会議に参加するようにしています。 4 遭難対策 実際に遭難対策としてどんな事があげられるか。まず、遭難しない為にはどうしたらよいか。 遭難事故を知る。過去の事故から考える。検証することがあげられます。 具体的には、トレーニング山行に行って体力を付け、経験を積む。ゼミにも出席して知識を増 やす。新人会員の単独登山の禁止。新人でなくても、できるだけ誰かと行く。当たり前ですが、 無断山行の禁止。計画は集会で発表し・下山後報告をする。今は、インターネットやメーリング リストの発展により、メール交換だけで OK の山岳会もあるかもしれませんが、集会の場がある べきと考えているので、メーリングリストだけによる山行計画は、下山連絡先が不明確になるの で NG です。また、万が一事故が発生したら、下山連絡先に報告する。 5 遭難事故を伝える 【事例1】 2001年1月4日17時頃、剱の内蔵助谷で雪崩による遭難で、 2人の会員を亡くしました。 年末に扇沢から黒部ダム。そこから下って、黒部別山を登り、八ツ峰を越えて、馬場島に下る計 画でしたが、黒部別山を越えて、1月1日頃から冬型の天気となり、かなりの降雪に見回れ、停 滞。八ツ峰を越えての計画を断念。1月4日にハシゴ谷乗越から下山。内蔵助谷で東海山岳会の メンバー2人と合流。彼らは丸山東壁を登攀して下山するところでした。2馬力から4馬力にパ ワーアップ。下山といえども雪深かったので、ザックを置いて空荷のラッセルだった。途中交代 で、1人がザックを取りに戻り、もとの場所へ戻ると、3人の姿が見えなかったそうです。雪崩 の最後のデブリに1人の遺体を発見したが、出すことができませんでした。 残った1人は1夜 ビバーグし翌日、黒部ダムに救援を求めた 【事例2】 もう一つは、2005年7月25日、単独登山だったですが、西穂高岳から奥穂高岳へ縦走で、 間ノ岳の頂上を越えて、下るときに飛騨側に転落・滑落し、死亡しました。こちらは、下山日の 翌日、昼を過ぎても連絡がなかった為、遭難と判断し、岐阜県警に捜索を要請しました。死人に 口なし、目撃者なしで、すべてが推測になってしまいますが、会としましては、今一つなんとか できなかったと思います。 (1)会の伝達 どこの会でも組織の中でなんらかの形で、事故発生時の連絡方法を決めているかと思いますが、 どれくらい明確に表記してますでしょうか?事故が発生します。パーティーから下山連絡先に事 故の発生報告をします。現役代表を中心に遭難対策本部を設置します。自力救助だけですむなら いいですが、最近はヘリコプターの性能も上がり、ヘリによるレスキューがスタンダード化して きています。警察にも協力を願って、行動します。初動救助を行います。というのを、基本スタ イルとしています。 (2)下山連絡がない 実際に事故が起きているかどうかわかりませんが、遭難事故予備軍として、下山連絡がない。 事があります。その山や天気によって下山連絡がある時間がなんとなくわかるかと思います。 簡単なよく行く山などで、夜7時8時と連絡がないと大丈夫かなと、なんとなく気がかりでなり ません。そして、さすがに9時を回るころになると、大丈夫か?と思い、山行リーダーに連絡す ると、連絡忘れがあります。実は、もう家に戻っていた。中止していた。帰りの途中でご飯食べ ていた。温泉に入っていた。 携帯電話が発達したとはいえ、山ではまだ電波の届かない場所もあり、下山が遅くなりまだ一 生懸命歩いている時もあります。あるいは、ザックにしまってあるので、バッテリーの消耗を防 ぐため、電源を切っている事もあります。でも、ひょっとしたら事故が起きているかもしれない。 下山日に連絡ない場合は現役代表に連絡を入れておきます。稀にですが、午前様下山となった山 行もあります。 下山日の翌日朝までに連絡がない場合は、メンバーの家族に連絡を入れます。どんな状況か分 からないが、最終的には捜索する準備があることを伝えます。正午過ぎても連絡ない場合は、万 が一に備え、動けるメンバーを確保しておきます。状況によっては、県警に一報入れるのもいい でしょう。天気により可能なら、県警ヘリなどがすぐに飛んでくれる場合もあります。夕方5時 になっても連絡ない場合は遭難と判断し、捜索をするため、招集をかけます。翌日朝から、現地 で捜索を行うようにします。 6 おわりに 山で事故を起こさないようにするには、山へ行かないのが、一番ですが、それを言ってはもと もこもないので、事故を起こさないためにどうするか、また起きてしまった場合どうするか、の 最善の不断の努力が必要ではないでしょうか。山では、危険は回避せよ。困難は克服せよ。と言 った先輩がいます。危険か困難かは、人それぞれですが、危険か困難かをかぎ分ける力をつけて おきたいものです。そして、さらなる山の楽しみのバリエーションを豊富にしていきたいです。 【事例発表3】「指導員養成とセルフレスキュー指導」 発表者 上窪 英男 第2分科会での3つ目の事例発表と致しまして「指導員養成とセルフレスキュー指導」という 内容で発表させていただきますが主に愛知県山岳連盟で行っています実技講習会の内容と救助技 術講習会の内容について説明させていただきたいと思っております。 1 講習会と構成 講習会と構成ですが、愛知県山岳連盟では実技を伴う講習会を年3回行っております。6月頃 に開催しております「確保技術講習会」、10月頃に開催しております「救助技術講習会」そして、 3月頃開催しております「雪上技術講習会」です。講習会の構成ですが、指導員研修会、指導員 検定、そして一般会員の講習会の3つで構成されています。各講習会とも2日間の日程で行って おります。1日目に指導員の研修会を行い、2日目に指導員検定、そして一般会員の講習会とい う日程でおこなっております。 (1) 研修会・講習会の考え方 研修会・講習会の基本的な考え方、方針ですが、まず、研修会は指導員の技術の向上を目的に、 ①既存技術の確認や研究を行う、②新しい技術の検証及び講習会へのフィードバックを行ってい ます。年々山岳技術やデバイスの進歩が進んでおりますので、技術やデバイスについても確認を していく必要があります。また、日本山岳協会や文部科学省登山研究所主催の研修会や講習会に 積極的に参加し、研修会等で報告できるようにしています。 講習会の考え方ですが、まずは、何よりも安全な講習会を行うことです。そして①基本の重視、 ②易しいから難しい、弱いから強いということで基本をしっかりと習得する。そしていきなり難 しいことや危険なことをするのではなく、 易しいところから、 そして弱い力から行っていきます。 また、各講習会では習得目標を定めています。各クラスで習得目標を習得できるように講習会を 進めていきます。 (2) 確保技術講習会 確保技術講習会は、確保の基本技術と理論の習得、そして確保に対する主体性を創ることを目 的に行っています。講習会の内容は、①基本的なロープワーク、②アンカーの構築、流動分散等 の説明。③確保理論と実技 肩がらみによる綱引きそしてタイヤ落としによる制動確保技術の実 践を行っています。特に肩がらみでおこなっておりますのは、実際どれぐらいの衝撃がかかって いるかを実体験してもらうことで、 より積極的な確保を考えることになると考えています。また、 雪上講習でのSABなどの制動確保技術にもつながると考えています。④懸垂下降技術も、また 基本的な技術でありますが、ロープをうまく制動コントロールできるように指導しております。 これらの確保技術は次に説明いたします救助技術の基本と成るものと考えています。 (3) 救助技術講習会 救助技術講習会では、基本的な技術そして確実な救助技術の習得を目的として、主にパーティ ーやパートナーなど少人数でのセルフレスキューの講習を行っております。実際の現場でも、自 分たちが主となって救助活動が出来るようにと思っております。講習はクライミングコースと縦 走コースに分かれます。クライミングコースでは、確保技術講習でも行いましたが、①基本的な ロープワーク、②アンカーの構築、そして③懸垂下降技術の講習となります。まずは、基本的な 技術を確実に行えること、そして救助技術として使えるようにするよう講習を行います。そして ④自己脱出技術、⑤救助方法、⑥ライジングの方法という講習につながっていきます。すべての 講習はパートごとに講習を行いますが、救助という設定と流れを意識して講習を行っています。 そして、講習会では実際の現場では自分の持っている技術を駆使すること、決してあやふやな技 術で行わないことを強調しています。 ・救助技術講習会 搬送技術では背負い法やドラッグ法による搬送技術の講習を中心に行います。 背負い搬送では、ザックを使用した搬送方法やロープを使用した背負い搬送の講習。 背負いの懸垂下降技術の講習会では安全を確保するため、必ずバックアップを行っています。 トップが墜落して動けない状況での自己脱出及び救助の講習も実施します。 ・縦走コース 縦走コースの講習につきましては、最近は縦走においても細引き等ロープを携帯しているこ ともあり、①基本的なロープワークの講習、そして②搬送技術、③総合救助という内容で講習を 行っています。 (4) 雪上技術講習会 雪上技術講習会では、まず雪山をしっかりと歩けること主として、基本的な技術の習得、雪山 での救助技術の習得を目的としています。講習会ではまず①雪山の歩行技術及び②アイゼンピッ ケルワークに重点を置いております。そして③滑落停止技術の習得、④ビバーク技術、⑤SAB などの確保技術、⑥ビーコン、ゾンデ棒などを使用した救助技術などの講習を行っております。 ・雪上技術研修 雪面でのアンカー強度の確認を行っています。引っ張る人数を増やしていきどこまで強度があ るかを実証します。雪上搬送技術を実際に行っています。確保しながらの雪面の下降および登行 を行っています。 SABの講習を行っています。滑落者はスピードを出すためにそりに乗って行います。又、埋 設体験からスコップやゾンデ棒を使用して捜索・救助訓練を行っています。 2 問題点と現状について さて、これまで愛知県山岳連盟にて取り組んでおりますセルフレスキューを含めた講習会の内 容について説明をしてきましたが、講習会等を進めていく中でいろいろな問題点がございます。 それらの問題点と現状について説明させていただきます。 まず、1番目として講習会を行うにあたっての講習会場の確保の問題です。あいにく愛知県に は大きな山はございませんが、今まで使用してきました唯一の屋外クライミング施設ブッポウウ ォールも19年度より経年劣化の為使用が出来なくなりました。確保技術講習会では、先ほど説 明しましたようにタイヤ落とし等の制動確保技術を実施する為には講習会の場所の選定も難しく なります。講習会場としては、やはり安全を確保できる場所であることが第1であります。また、 アクセスがいいこと(近い)そして準備がしやすい等の条件があります。これらの条件をすべて 満たすところはなかなか見つからないのが現状です。19年度は、名古屋市消防局特別消防隊第 1方面隊との合同講習ということで、名古屋市内の消防施設で合同講習会を行いました。また、 20年度は富山県の文部科学省登山研究所の施設を使用させて戴き講習会を行っています。施設 も充実していますので充実した講習会になっています。 2番目としましては講習内容と講習時間の問題です。講習会では講習する内容はたくさんあり ます。これらをすべて講習しようとすると到底時間が足りません。また、講習時間内にすべての 講習内容を終えようとしますと、内容が薄いものになってしまいがちです。現状では、基本的な 技術を徹底して行い決して欲張らない習得目標を設定して、講習会で確実に習得してもらえるよ うにしています。しかしながらこれではいつまでたっても基本技術のみとなってしまいますので、 レベルによるクラス分けや、2,3年ですべての講習内容が完了できるようなカリキュラムの構築 をしていくことが必要になってきます。 3番目としましては、指導員の確保の問題です。これは4番目の研修会の充実ということにも 関係してきます。指導員はそれぞれの山岳会でも中心的な役割を持っている人が多く、目標とし ている山への登山計画を立てたり、仕事や各会の運営をしたりして多忙です。そんな中で、講習 会への参加や準備に時間をとることはなかなか難しいのが現状です。また、講習会の前日に行っ ています指導員の研修会についても講習会の打合せのみになってしまいがちです。講習会の講師 をして講習することだけでも指導員の技術や意識の向上を図ることは当然なのですが、研修会を 充実させ指導員の更なる興味や技術の向上を図ることで研修会、講習会への指導員の確保が可能 になるのではないかと考えています。 3 今後の課題 さて、これらの問題点も含め今後の課題についてですが、1番目として幅広い年齢そしてさま ざまなレベルの講習生に対する講習会の進め方です。講習会の募集要項でも分かり易いクラス分 けや講習内容を明記して、この講習会のこのクラスでは何が習得できるかをしっかりと明記する ことで、講師も講習生も同じような目標を持ち取り組むことが出来るようにしていきたいと考え ています。 2番目として、クライミングだけでなく縦走における講習会の充実を図ることも必要となりま す。現在、山岳会の中でも縦走をメインに活動しているところも多く、縦走の比率も増えている こと、そして指導員資格も指導員と上級指導員にわけられ、縦走メインの指導員の養成も必要に なってきています。 3番目は、指導員の充実です。問題点にもあげていましたが指導員を確保して実働できる指導 員を充実させていくことが今後の課題となってきています。 今後これらの課題を少しずつ解決し、充実した指導員と講習会、研修会を目指し活動していき たいと考えています。 【意見交換】 新潟県山岳協会(楡井氏) Q 愛知県山岳連盟の講習会(確保、救助講習会等)について日程についてどのようになってい るか?加盟団体以外の人に呼び掛けているか? A 2 日間(研修 1 日、講習 1 日) 、会員限定で実施している。 新潟県山岳協会(楡井氏) 新潟でもやってみたいと思っている。遭難の多い道迷いに力を入れている。7 月 13 日に安全指 導講習会を開く。一般にも呼びかけている。ロープや器具を使うまでできないので白地図で GPS の使用方法をやるつもり。愛知県のやり方が参考になった。 ○登山届けについて 静岡県警察本部(真田氏) 警察に提出される計画書を点検したり、情報を出したり、 無理な計画は変更をお願いしている。 滋賀県山岳連盟(竹村氏) 7 月 1 日からインターネットで登山届ができるようになった。愛知県ではどのような取り組み になっているか?登山届は滋賀県では 15 か所あるが施錠がしてある。他県ではないところもあ るようであるが抜き取られて個人情報漏れにならないか? 富山県自然保護課(北山氏) 登山届は個人情報のこともあるので親身になってくれる人に出していく。 神奈川県山岳連盟(清水氏) Q 登山届の施錠は必要だと思う。振り込め詐欺等の被害も考えられる。登山届はどういう時に 役立てられているか?どこにも出さなかった場合不安があり出してはいるが。 A 以前木曽駒ケ岳に登った時、下山して家にいると地元の警察から自分たちの計画書を見て他 県の人の捜索願が出され、交友人を見かけなかったか?と問い合わせがあった。だから、登山 届も下山届も必要と思った。 石川県勤労者山岳連盟(村中氏) Q 必ず計画書を出すようにいっている。事故の時に必要になる。リーダー研修会で無雪期の救 助訓練をしている。ヘリが飛べるところまで誘導することが必要。愛知県には救助隊はあるの か? A 愛知県では救助隊を持っていない。セルフレスキューに力をいれている。 A 岐阜県では 19 年中は 48 件の事故があったが、ヘリが飛べたのは 23 件であとは、人力で救 助した。ヘリが必ず飛べるわけではないのでその時の対応を考えて欲しい。 愛知県勤労者山岳連盟(洞井氏) Q 登山届は会として掌握しているか?組織として徹底しているか?チェックできるか?一般 人の計画書をチェックできるか? A 春冬の遭難対策会議で検討し合っているが他は各会でやってもらっている。 日本山岳協会(町田氏) 社会的な面からも計画書は出すべきだ。山行のシミュレーションをすることも重要。これだけ の人が集まっているのだから情報を出し合い、活用できるようにネットワークを作ったらどうか。 第3分科会まとめ テ ー マ 「学校登山活動の現状と課題」 サブテーマ −リーダー育成と安全登山のために、今求められていること− 事例発表者 事例発表者 座 長 副 座 長 助 言 者 助 言 者 愛知県高等学校体育連盟登山専門部委員長 愛知学院大学登山部監督 全国高等学校体育連盟登山専門部副部長 愛知県高等学校体育連盟登山専門部委員 三重県山岳連盟理事長 三重県高等学校体育連盟登山専門部委員長 鈴 鈴 河 杉 萩 岸 木 木 野 本 邦 清 義 憲 真 田 誠 則 彦 人 広 生 司 【事例発表1】「学校登山活動の現状と課題」 発表者 鈴木 邦則 愛知県高等学校体育連盟(以下愛知高体連と略す)の活動では事故事例がないので、ここでの発表は事 例発表ではなく、いかに事故を事前に防ぐかといった、安全登山に向けての活動の一端を紹介したい。 最初に愛知高体連登山専門部の活動状況を報告する。愛知高体連の公式の大会は以下のように年間 3 回 ある。 ・県総体…… 5月実施:全国・東海等上位大会への予選会 ・夏期大会… 8月実施:講習会(ロープワーク・救急法・読図)、沢登り、踏査競技 ・新人大会…11月実施:踏査・縦走による総合力の養成 いずれも安全登山を主眼において競技が行われている。特に夏期大会においては、競技だけではなく、大 会中に救急や気象など各種講習会や、海外登山者による講演会を取り入れている。その他、愛知山岳連盟 が主催する気象講習会やクライミング講習会や登山講習会もあり、生徒や顧問は多様な機会を通して安全 登山を学んでいる。 愛知高体連の大会での運営方式には特徴がある。それは以下の 2 点である。 ア.大会運営及び審査を特定の人員に限定せず、全員体制で臨む。 イ.講習会においても講師及びその運営に全員で取り組み生徒の指導にあたる。 審査や運営や講習会講師を一部の役員のみで行わず全員で取り組むことにより、役員・顧問の指導力向上 ができ、多少なりとも事故を未然に防いでいると自負している。 次に、愛知県内の登山部の生徒と顧問を対象にアンケートを行ったので紹介し(参考資料)、愛知高体 連の現状での問題点を明らかにし今後の方向性を探りたい。生徒対象のアンケートで特徴的なのは、山岳 部に入部する生徒の減少の理由についての問いで、「きついから」が一番多く、いわゆる3Kを嫌う傾向 が感じられる。実際、登山部の生徒では最近は制汗スプレーをほとんどの生徒が使っている現状がある。 一方、顧問対象のアンケートでは、山岳部の顧問をしていての不安として、「部員の確保や部の存続」が 最も多く、「登山中の生徒の事故や病気」が続いている。また、部員の全国的な減少の原因については、 「生徒の気質に変化が生じたから」が最も多く、その変化には重厚長大を嫌う生徒の気質が伺われる。 顧問向けの安全登山に関する問いの結果に関して、「山行活動中にヒヤリあるいはハッとされたような 経験はありますか」という記述式の問いには、技術に関する回答が 8 件と最も多く、技術的な向上の必要 性を示していると思われる。 以上の結果から高体連の山岳部顧問が抱える問題点は次のようにまとめることができる。 ・ 学校自体の自由度が減少しており、その中で山岳部は縮小の方向にある。危険性についての過敏性も ある。 ・ 指導者の転勤によって、指導の継続性が困難である。 ・ 大会に参加できる体力を持った部員が確保できない。 安全登山のためのリスクマネージメントを常に心がけつつも、登山という行為が本来持ち合わせている 未知なるものに対するワクワク・ドキドキ感といったものを見失わないこともまた大切である。今後、顧 問研修会等を通じてこのあたりの共通認識を深めて行きたい。 【事例発表2】「学校登山活動の現状と課題」 ―大学生リーダーの育成と安全登山のために、今求められていること― 発表者 鈴木 清彦 文部科学省では大学生の登山活動のリーダー育成として、「大学生研修会」を行っている。大学生の参 加申し込みは毎回定員を上回っていることから、大学生への基本的な登山指導体制が独自では整っておら ず、このような教育機関を利用せざる得ない現状を察する。また、高校から大学へ登山を継続する学生の 数より、大学に入ってから登山を試みる学生が多いことも現状だと思われる。このような背景から大学生 のリーダーの育成は、研修会のような定期的な指導環境も必要だが、継続的指導はそれ以上に必要だと思 われる。それには経験をもったOBの関与が不可欠ではないだろうか。ここでは、事故に至る、あるいは 登山追行に至らなかったひとつの要因として、登山環境と生理的ストレスについて発表する。 1.低酸素と登山活動 日本の山でも低酸素で死亡に至った例として、一昨年の北アルプス蝶ヶ岳での高校生の事故や、昨年、 同じく蝶ヶ岳から常念岳の稜線上での大学生の事故がある。また、高山病にまで至らないにしろ、低酸素 が起因となって体調不良を訴える登山者は多くいる。 人の体は標高 1500m付近から低酸素の影響を受け始め、標高2500m付近まで急激に上がると約 30%の 人が、標高 3500mでは、ほとんどの人に山酔い症状があらわれる。実際に気圧高度計とパルスオキシメー ターを使って富士山の5合目・7合目・8合目・頂上の気圧とからだの中の酸素飽和率の変化を測定し比 較した。環境が低酸素分圧に変化していくと、人間の体の中の血液に大きな変化が生じることがわかった。 頭痛・吐き気・倦怠感などの代表的な症状の起因はこの血液変化が犯人なのかもしれない。このような症 状までなら、高山病というより、むしろ急激に変化した環境から受ける生体反応といえる。1ヶ月以上標 高 2500m以上の環境から遠ざかっていて、山行をする場合、初日は「ゆとり」をもった行動をすることが 大切である。 2.登山活動と水分補給 登山活動は、運動時間が長いことや環境が低酸素となるため、必然的に多くの水分が必要となる。登山 活動では、十分な水分摂取を怠ると「脱水」を起こす。脱水の障害は、脱水量が体重の2%を越えるとこ ろから始まり、1)熱疲労2)熱痙攣3)むくみ4)血栓5)熱中症がある。登山活動中には平均して、 体重1kg あたり、1時間の運動で5cc の水分が失われる。登山中の水分摂取は、失う水分を補給すること を目標にする。不便で不自由な山岳地帯でも水分補給ができる環境を把握した上で、最大限の摂取を考え るべきである。脱水は、自分自身の持久力以上のオーバーワーク行為が加わると急促進されることも忘れ てはならない。日焼けも同等に促進する。急性的に強い紫外線を受けると皮膚温度が上昇し、気化熱に よっても水分を失う。「皮膚ガン」のような将来的疾患の注意意識より、急性的熱中症障害の予防のため にも、襟付き・長袖シャツの着用と、日焼け止めを用いることが大切である。また、脱水は大量に出る汗 だけと思われがちだが、冬山や、低圧・低酸素の高所でも進行している。人間は、体温が必要以上に上昇 し始めると、体温を一定に保とうとして発汗するため、水分を失う。それに対し低温化の冬山では、体温 を下げまいと代謝(産熱)するため水分が使われる。また、低酸素高所環境でも生体反応として基礎代謝 量が上がるため、同様に水分が使われる。登山行為の呼吸によっても、体重1kg あたり、1時間に平均1 cc 失うといわれている。オーバーワークを続けたときの呼気は、脱水の危険信号行為である。 水分の摂取方法は、時間脱水分を休息時にコンスタントに摂ることである。飲み物はミネラルウォー ター類がよく、特に発汗量が多めだと予測できる環境では、スポーツドリンク類が効果的である。そして、 大量の汗を失った脱水になった時のために、「塩」を30g 程度携帯していくとよい。 水分補給の理想論を述べてみたが、登山活動実際では、不足気味が現実である。登山活動が終了してか らも、就寝時まで継続的に摂取するべきで、飲量欲が出る嗜好品がよいと思われ、心地よく定期的に繰り 返される排尿行為が、正常な循環機能の働きの指標となる。 登山活動以前に、体内に十分の水分を貯蓄することをウォーターローディング(水分貯蓄)というが、 長時間運動する登山活動に役立つ行為である。具体的には日常生活から脱水の体を作り上げないように、 最低限脱水が始まる体重の2%の量の水分を毎日定期的に摂取することを日課にする。登山活動の水分摂 取方法を習慣的に身につけるなら、1時間ごとに 150cc 摂取を継続するとよい。「飲む酸素」と宣伝して いる酸素水的な「水」も登山の時だけ急性的に摂取するより、日常生活の継続摂取行為とすると効果があ る。冷えたビールは摂取量は多いが、一気に体を冷やす効果もある為、排尿の量も、飲んだ量の2倍ほど ともいわれている。飲んだ分以上の水分も時間をかけて補充することが大切である。 3.高度と気温・風 山の気温は平地に比べて低い。標高が高くなるにつれて気温が低くなっていく現象を「気温の減率」と よぶ。この現象はその時々の天気や湿度などによって異なるが、平均的に標高 1000m上がるにつれ約6℃ くらいの割合で低くなっていく。しかし、経験上の実感は、穏やかな晴天時なら強い日差しを受けて汗ば むような暑さを感じている。これは強い紫外線が山肌を熱し、接している空気層の気温が上昇しているた めだが、天候の悪化がはじまると風を伴い、山肌周辺の暖かい空気を吹き流し、気温は一気に下がる。こ の時の気温は「気温の減率」に従った気温、あるいはそれ以下になる。登山者は、「気温の減率」から最 低気温も予測して適切な防寒着の用意が必要である。 風は地球上の大気の流れのことで、温度の域と気圧の域から成り立っている。風は登山者の「体感温 度」に大きな影響を与える。「体感温度」とは、実際にカラダに感じる温度のことで、気温そのものの他 に、吹きつけてきている風の強さ(風速)でも変わる。一般的には風速1m/秒で体感温度は1℃低温に なるといわれる。経験上の実感は穏やかな晴天時なら風によって快い体感にしてくれることもあるが、天 候が崩れはじめ紫外線が少なくなると、体感温度は低くなり、さらに身体が、雨・発汗によって濡れてい るとその気温の体感どころではなく、体温まで奪われることになる。人間の体温は、環境の温度変化に対 して一定の体温を保とうとする機能をもっているが、それを上回る環境の防御を怠ると「低体温症」とな り、致命的な結果が凍死である。夏の高山では凍死に至る例はほとんどないが、行動不能状態で救助され る例は少なくない。防水・透湿性の高い雨具、防寒具が装備として重要視される所以である。 4.体力とトレーニング 登山環境の生理的ストレスは知識と理解が解決手段のひとつであるが、体力も大事な要素である。体力 をつけるトレーニングは、持久力をテーマに継続性、漸増性(質と量を少しずつ増加させていく)特異性 (目的・種目に合った)を原則に組み立てる。よく、山登りのトレーニングは「山登りが一番」といわれ ているのは、特異性が環境的に満たされているということである。登山に必要な体力の目標例を「無雪期 の高山を自主手段(山小屋等を利用せず)で、1日8時間の行動を3泊4日で行えること」としてみて、 その体力を養うためのトレーニングとして次の2つをあげてみる。 1) 1500m走を5分30秒以内で走れるようになれること 2) 12分間走で3000m走れるようになれること。 目標を設定することで、現状の体力が把握でき、トレーニングの方向性が見えてくる。トレーニングで は、一定距離は何分で走れるのか、一定時間でどれだけの距離が走れるのかの測定を必ずする。それに よって、変化が感じ取れ、トレーニングのモチベーション、楽しさも加わってくる。 【助言者より】 (資料) 三重県山岳連盟会報 No.36 特集「登山の事故防止を考える」 2007 年に鈴鹿山脈での遭難事故が例年より多く、遭難事故現場を目の当たりにした。その体験より、 「絶対に事故は起こさせない」との思いを新たに、高校山岳部の現状を把握することから始めた。 アンケート結果で特徴的なのは、半分以上の顧問が登山指導のスキルアップの必要性を感じていること と、参加したい顧問研修会で一般登山での危険回避法(ロープの活用)をあげていることである。ロープ の活用方法については秋季登山大会で簡易ハーネスを作るなどの講習会を入れるようにしている。救急法 や搬出方法についても「自信がある」と回答する顧問は5%程度である。今後「自信がない」との回答を 減らしていく工夫や努力が必要だが、今のところ各顧問個人の自覚にゆだねられている。この調査の一番 の目的は、「危険回避」や「遭難対策」への注意喚起であった。アンケートの示す現状や意識に触れて自 分の学校の状態を見直すきっかけになればと考えている。 【意見交換】 京都府山岳連盟(高井氏) Q 大学生のレベルが下がり、大学生が高校生化しているといわれる。顧問や付き添う大学の OB のリスク も大きくなっていっている。万一事故が起きた場合の責任の所在や事故がおきたときの届けの体制はど うなっているのか。 A 高校の部活動での事故については、学校管理下であり、即座に学校へ連絡をする。合宿などでは各家 庭に参加させることについての承諾書をとるようにしている。高体連の大会中の責任は高体連専門部に あるが、大会の要綱には「応急措置をするがその後は各自の保険で治療する」ように示している。 A 確かに大学生のレベルは落ち、高校の延長が大学である。私の大学ではOBも現役も一緒に活動して おり、山行前には必ず一緒にミ−ティングをする。現役だけの山行で事故を起こした例もあり、OBが 同行しているのが大きい事故につながらない結果となっている。OBは、形式的ではなく、チームの力 量を把握していないといけない。学校に足を運び、現役と分かり合うのが事故防止につながる。 静岡県山岳連盟(出利葉氏) Q リーダーの育成について伺いたいが、顧問やOBが引率することでどこまでリーダーの認識があるか、 また、OB依存度はどれほどか。 A ここ 10 年程の傾向でレベルダウンし、全体に生徒が受身になることが多くなっている。私は、顧問が 先頭を歩くことをせずに、生徒主導で歩かせ、道迷いも気づかせるようにしている。 A 現在のレベルでは任せるレベルには達しておらず、すべてを任せてはいけないと思う。クラブ活動の 自主性と登山のリーダーシップとの兼ね合いが難しい。チームをまとめるリーダーシップを育てるため には、OBが姿勢を示すことが必要。 日本山岳協会会長(田中氏) Q 高等学校の山岳部の顧問のなり手が少ないという。この原因はどこにあるのか。 A 確かに、愛知高体連でも役員の年齢構成が高年齢化している。若い先生はいない、あるいは他の部活 動との関係でなかなかなれないという現状がある。また、学校には「山は危険である」といった認識が あり、管理職の理解度の低さもあることも原因である。 助言者(萩氏) 登山の面白さを教える自信のある人が少ないのではないか。登山の好きな人はいるが、指導者として活 動することについては自信がないのでなり手がないのではないか。学ばなければならないことは膨大だが、 指導者の育成は体系化されていない。 奈良県山岳連盟(前田氏) 若い教員の採用がない。部があれば経験のあるなしに関係なく誰かが顧問になるが、その顧問に部を運 営する知識や意欲がなければすたれていく。そのような顧問に山好きになってもらうのが大事である。 群馬県山岳連盟(対比地氏) 群馬でも同じである。指導者向けの講習会の見直しをする必要性を感じている。初めての人が講習会に 参加しやすい研修をしなければならない。地区で合同山行をするなど、新しい取り組みをするのも一つの 手だと思っている。 日本山岳協会会長(田中氏) 高体連や山岳連盟で指導者育成などを行っているが、日山協がサポートすることは可能か。 群馬県山岳連盟(対比地氏) 県の山岳連盟の講習会のレベルは高い。高体連の講習会には県山岳連盟から講師を派遣してもらってい る。現状では高体連の中でもやっていくことができるため、特に必要というわけではない。 日本山岳協会常任理事(西内氏) 小学生対象のアウトドア教室は大変に人気が高い。また、屋久島には若い人もいっぱいいるのが現状で あり、若者がアウトドアから離れているわけではない。どうやって居場所作りができるということが問題 である。山にこだわらず受け皿を作るのが必要ではないか。これまでの発想ではいけない。 石川県山岳連盟(根石氏) 若い顧問の先生を他の部活動にとられたことがある。その顧問の先生に山のわくわくする体験をさせる ことが不足していたのかと思う。競技登山については、認知度が高まり財政的なサポートが増している。 福岡県山岳連盟(横山氏) 大学で登山部をやっているのは、やはり高校で登山部を経験した学生が多い。 愛知県山岳連盟(川崎氏) 現在ワンゲル部の顧問をしているが、山登りが好きというスタンスで顧問をやっている。しかし、体系 立てて生徒に教えることに不安を感じている。若い人を引き入れるような講習会があるとよいと思う。 北海道山岳連盟(山田氏) 小中学校でスキーの授業があるが、成り立たなくなっている。大学生もあまりスキーをやらない。登山 に関しても小中学校で高度の技術をもった人が関わることができれば現状は変わるのではないか。目先の 2、3年より 10 年、20 年を見るべきである。 静岡県山岳連盟(出利葉氏) 校長が顧問となり学生をヒマラヤへ連れて行っている学校がある。トップに理解があると状況は大きく 違ってくる。 事例発表者(鈴木清彦氏) 高校の顧問の先生たちは、年間何日くらい山に行くのか。忙しくて自分の時間がとれないようでは、文 登研をはじめとして講習会への参加もできないだろう。自分の時間をどう生み出すかに課題があるのでは ないか。 助言者(萩氏) 山の楽しさの中で山岳部はうまく回転していく。私は生徒を冬山へも連れて行くが、生徒に危ない部分 を含めていかに安全に山を楽しむかを教えたいと考えている。 助言者(岸田氏) 顧問の力量を上げるのは顧問の自覚によるところが大きい。体系的な力量をつけて生徒の指導にあたる べきである。力量を上げるのには文登研は体系的に教えてくれる有効な場である。指導者の層を広げるに は、山の面白さを伝える形で他の先生を山へ一緒に行くことが必要である。 まとめ(座長) 山岳部の顧問のなり手の問題に関しては、顧問をしていない先生にも山好きはいて、自分でもやりたい のに体系立てた技術を身に付ける手だてがない現状があるのが分かった。計画書の作り方や読図など登山 に必要な体系的な知識を身につけることができるような場が求められている。解決策の一つは高体連の顧 問研修会を積極的に企画することである。 登山部員の不足は、生徒数が減少していることと、生徒が一部のプロのあるスポーツに集まることにあ るだろう。山岳の底辺を広げるには、少年少女への企画を含めて継続性のある企画を模索していった方が よいのではないか。全国高校体育連盟や日本山岳協会をはじめ、多くの場を見つけて新たな取り組みがで きるとよいと思う。 資料 愛知高体連登山専門部 部員対象アンケート (2008年3月実施 回答数20校81名) 1.山岳部に入部したきっかけは何ですか(複数回答可) 27.2% 29.6% ア 以前から山登に興味があったから イ 友達が入部したから 46.9% ウ 自然が好きだから 27.2% エ 中学にはなかった部活だから 9.9% オ 家族から影響を受けたから 18.5% カ 先生に勧められたから 8.6% 4.9% キ 先輩に勧められたから ク 県総体や上位大会で活躍できそうだから 17.3% ケ その他 ・部員が居なかったので先輩との上下関係に悩まなくていいから ・楽しそうだから ・他の高校にもなかなかない部活だから ・山頂やそれまでの道のりで見た景色がよかった ・競争競技が嫌いだからロマンがあるから ・友達に誘われた ・壁登りに興味 2.山岳部に入部して良かったと思うことは何ですか(複数回答可) 59.3% 60.5% ア 自然に触れることができた イ 今まで行ったことのない山(場所)に行くことができた 37.0% ウ 寝食を共にして部員との友情が深まった 25.9% エ 読図や天気図などの知識が深まった 42.0% 42.0% オ テント生活や炊事など野外生活の経験ができた カ 体力がついた 33.3% 25.9% キ 精神力がついた ク 友人が増えた ケ 県総体、あるいは上位大会に参加できた 13.6% 6.2% コ その他 ・さまざまな考えの人と出会うことができた ・クライミングに出会えた ・楽しい 3.あなたが山岳部に入部したことに対する家族の反応はいかがですか ア 理解してくれている イ 反対されている ウ どちらでもない イと答えた人のみその理由は ・部員が1人だから ・危険だから 74.1% 3.7% 21.0% 4.あなたは現在の山岳部の活動に満足していますか ア 満足している 29.6% イ まあまあ満足している 56.8% ウ やや不満である エ 不満である 9.9% 2.5% ウ・エと答えた人のみその理由は ・部員が1人しかいない、部員が少ない ・先生がフリークライミングをやらせてくれない ・疲れるから ・学校に人工壁がない 5.最近は山岳部に入部する生徒が減っていますが、理由は何だと思いますか(複数回答可) ア きつそうだから 56.8% イ 汗をかいたり不潔だから 27.2% ウ 危険そうだから 39.5% 40.7% エ かっこ悪いから 27.2% オ 山には虫などがいるから 33.3% カ 山中でのトイレの設備等衛生面で不安だから 45.7% 42.0% キ 山や自然には関心がないから ク 登山用具にお金がかかりそうだから 30.9% ケ 親が心配するから コ テントでの生活その他、いろいろ不便そうだから 16.0% 53.1% サ ほかに楽しそうな部活があるから シ その他 12.3% ・山岳部をよく知らないから、知名度が低い ・山登りに興味を示さないから ・時代のニーズにこたえていない ・楽しそうでないイメージがあるから 6.部員を増やすにはどうしたら良いと思いますか(複数回答可) ア 登山の楽しさや魅力をもっとPRする機会を増やす 46.9% イ 新入生対象の部活動紹介を工夫する 37.0% 39.5% ウ 登山以外にオリエンテーリングやサイクリングなど活動を工夫する エ 温泉に入ったり小屋泊りにするなど楽しみをもうけ 42.0% 38.3% る オ 兼部を認めるなどして生徒を山岳部にしばらない カ その他 ・1日体験など簡単で参加しやすい山行をもうける ・大きく知らす 7.4% ・おもしろい生徒が入部すれば自然と盛り上がる ・クライミングのみに特化する ・どうしようもないのでは? ・無理! 7.今までの登山経験の中で、危険な思いをしたことがありますか。あれば具体的に書いてください ・下山時に滑った ・忘れ物(2人) ・歩行中こけて落ちた ・高くて怖い ・こけて落ちそうになった ・高いところが苦手なので全部 ・足場が狭く滑りやすい ・剱岳のカニのヨコバイ ・足を滑らせて落ちそうになった ・まむしに遭遇(2人) ・雨で濡れていて木の板ですべる ・スズメバチに襲われた ・滑ベって落ちそうになった(2人) ・山の中で体調が悪くなった ・崖から落ちそうになった ・熱中症 ・滑落しそうになった ・徹夜しようとした。睡眠の大切さを知った ・眼鏡を落として落ちそうになった ・相当の低気圧の時に甲斐駒ヶ岳にいたこと ・こけそうになった ・後輩が岩場から飛んだ ・雪上を歩いたとき ・足を踏み外す ・八ヶ岳で雪上を歩いていて滑って落ちそうになった ・雪渓を歩いていたとき落ちたら死ぬと感じ怖かった ・小さいとき崖から落ちかけ誰かに助けてもらわなければ死んでいたかも ・岩場を集団で登っていたとき先頭の方で落石が起こった 8.高体連登山専門部・山岳連盟では次の講習会を開いていますが、興味のあるものは(複数回答可) ア 気象講習会 12.3% 56.8% イ クライミング(人工壁でのクライミング)講習会 29.6% ウ 登山講習会 (登山講習会は例年秋の鈴鹿にて登山の基本技術の習得を目的に実施) 愛知高体連登山専門部 顧問対象アンケート 1.山岳部の顧問になって何年ですか ア 1∼2年 3.0% 24.2% イ 3∼5年 ウ 6∼10年 9.1% 15.2% エ 11∼15年 オ 16∼20年 カ 21年以上 9.1% 15.2% 2.山岳部の顧問をしていてどんな悩みや不安がありますか(複数回答可) 57.6% ア 部員の確保や部の存続 36.4% 39.4% イ 自身の登山技術や山に関する知識 ウ 登山中の生徒の事故や病気 3.0% エ 部内の人間関係 12.1% 21.2% オ 一緒に活動してくれる副顧問がいない カ その他 ・他の仕事が忙しくなり、日々の部活動に時間が割けない。 ・年齢的に校務が忙しくなり、部活動の時間がとれない。 ・車社会の現状から交通機関が限られていること ・山に対する興味がない ・公共交通による山の限定。生徒の移動手段(公共交通機関で異動が困難な場合がある) ・2年前に主顧問が転勤して以後、ハイキング部と化し、主に平地の自然や史跡の散歩になっ ている。 ・顧問の体力的な衰え ・大会などの自家用車使用 ・生徒の経済的負担をいかに減らしていくか 3.部員数が全国的に減少しています。原因は何だと思いますか(複数回答可) 12.1% ア 3K(きつい、汚い、危険)が敬遠されているから 27.3% イ 登山以外に魅力のあるものがあふれているから 45.5% ウ 最近の生徒の気質に変化が生じたから 18.2% エ 小さいときから自然体験がない生徒が増えたから 33.3% オ その他 ・ゲームやアルバイト ・毎日の単純な活動に耐え難い(つまらないと感じる)生徒が多い。 ・未経験な事への不安 ・登山=中高年、というイメージができてしまっている。 ・保護者が子供を抱え込めなくなる状況を嫌い、平和・安全を感覚的に求めた結果だと思う。 4.近頃の部員を見てどのような変化を感じますか(複数回答可) 9.1% ア 根気がない 24.2% イ 先を見通した行動ができない 18.2% ウ 物事を深く考えない エ 責任感の欠如 オ 協調性がない カ 注意力が散漫である キ マナーが身についていない ク 忍耐力がない 0.0% 12.1% 12.1% 12.1% 9.1% 27.3% ケ 特に変化を感じない コ その他 9.1% ・与えられたことしかできず、自分で調べたり考えたりすることが苦手 ・生徒に本質的変化はない。ただ、忍耐・責任・マナーなどを含む総合的知識を教える事が少なく なった ・歩行バランスなど、基本的動作が身についていない生徒が増えた。 ・よい意味での変化を感じる時もある。 部員は自然に素直に感動できる。 ・よりハードな指向を好む生徒は減ったように感じられる。 5.貴校山岳部の活動状況についてお伺いします ア 部員の数はどのくらいですか(3月現在で) 男子 女子 0人 0人 9.1% 1人∼2人 3人∼4人 5人∼6人 9.1% 7人∼8人 11人以上 3人∼4人 21.2% 21.2% 5人∼6人 9人∼10人 63.6% 33.3% 1人∼2人 7人∼8人 0.0% 9人∼10人 6.1% 11人以上 27.3% 0.0% 6.1% 3.0% 0.0% 0.0% イ 年間の山行回数はどのくらいですか(大会・合宿含む) 15.2% 0回 6.1% 6.1% 9.1% 1回 2∼3回 4∼5回 15.2% 15.2% 6∼7回 8∼9回 30.3% 10回以上 3.0% 20回以上 ウ 昨年度、夏山合宿をされている場合、山域と日数は 槍ヶ岳 6.1% 穂高岳 蝶ヶ岳 立山 黒部五郎 双六 薬師・雲ノ平 甲斐駒・仙丈 荒川・赤石 鳳来寺山 未実施 0泊1日 1泊2日 21.2% 2泊3日 6.1% 6.1% 3.0% 3.0% 3.0% 3.0% 6.1% 3.0% 5.0% 0.0% 10.0% 60.0% 3泊4日 4泊5日 39.4% 25.0% エ 年間を通じて山域はどのあたりに入りますか(複数回答可) 奥三河 瀬戸周辺 猿投山 33.3% 3.0% 3.0% 57.6% 鈴鹿 美濃 養老 木曽方面 南ア南部 9.1% 3.0% 6.1% 3.0% 6.普段の部活動の活動内容について伺います ア 週のうち何日活動していますか 0日 1∼2日 イ トレーニング内容はどのようなものですか 12.1% 15.2% なし ミーティングのみ 45.5% 3∼4日 18.2% 5日 6日 7日 不定期 ランニング 3.0% 9.1% 12.1% 33.3% 24.2% ボッカ 3.0% 0.0% 6.1% 筋トレ 60.6% クライミング サーキットトレーニング テント設営 6.1% 27.3% ウ 座学(天気図・読図・救急法)について指導していますか している:45.5% していない:54.5% ●「している」方は何を指導していますか 植 物:33.3% 救急法:33.3% 天気図:86.7% 読 図:73.3% 気象知識:33.3% エ 学校独自のトレーニングや活動内容は ・兼部者が多く、日常は各部でトレーニング。クライミングを目指す者はジムで独自のトレー ニング。山行が近づいた時点で活動をしている。山行前と山行中に知識・技術など座学の指 導を行う。 ・山行一週間前に計画書の作成指導を行う程度しか活動を行っていない。 ・スプーンや箸の制作、布袋の制作、調理の練習、計画から反省まで生徒の自主的活動中心で、 校内外のエコ活動や募金活動・展示を行う。 ・トレーニングルームの利用、年 4 回程度の街道ハイキング(東海道、関宿、美濃、答志島など) ・近くに公共のトレーニングセンターがあり、そこを利用している。 ・雪渓の通過、落雷、炊事の時にコッヘルをひっくり返した。 ・学校近くの山に登りに行く(登山口よりコースタイム30 分程度) ・オリエンテーリングを定光寺にあるパーマネントコースで実施している。 7.活動の中で、ヒヤリ、あるいはハッとされたような経験はありますか(主に行動中の事例で) ・熱中症 ・道迷い 詳しい地図を持たず、道に迷う ・スノーブリッジを踏み抜いた ・夏山で、稜線にあるテント指定地での雷・天候の急変 ・雪渓での滑落10m ・7 月下旬の集中豪雨の中、山麓の車道での崖崩れ ・夏山合宿にて、風邪が治りかけた状態で参加した生徒が合宿中に体調を悪化させ、北岳山頂で発 熱し、北岳小屋到着後臨時診療所で診察を受けたところ、40度の発熱であった。何とか翌日 下山することができた。 ・雷による天候急変で道を変更したこと。 ・横尾∼上高地間の林道で何でもない石につまづき、額を切った。コンロの火で眉毛を焦がした。 ・鎌ヶ岳山頂付近にて、U 字状の溝状の登山道を下降中、平行する登山道で落石が発生した。運良 くこちらには来なかったので無事であったが、以後、通らないようにしている。 ・沢登りの途中、誤った巻き道を登っていたら傾斜がきつくなり、危険を感じて引き返した。 ・猿がこちらに向かって落石をおこした。 ・生徒が道を踏み外したが、何とか草につかまっていたのですぐに引き上げた。 ・寒冷前線の通過中に行動し、体温低下の危険を引き起こした生徒がいた。 ・国体縦走競技の練習会で、指導をしていた他校の生徒がゴールに気づかず、通り過ぎて山頂に向 かい、約 4 時間の間行方不明になってしまったこと。その生徒の特性を知らず、下見もさせてい ない状況で一人で行かせたのは大失敗であった。 ・道の脇が崩れているのに気がつかず、そこに足を入れてしまい、谷に転落しかかったこと。 (北アルプス太郎平から薬師沢への下降中で一回、中央アルプス檜尾根の下りで一回) ・何でもないトラバース道で、ボーッとしていたのか足を踏み外し、5mほど滑落した。樹林帯で あったので木につかまって停止し、けがもなくよかった。 ・岳沢下山中に転倒し、剥離骨折(下山後に判明) ・横尾で木道歩行中にスリップ転倒し、切り株で裂傷をおう。(10針縫う) ・東鎌尾根・水俣乗越のトラバース道でふらつきから5メートル滑落 ・不意の増水にあった。 ・登山道の崩落を知らずに進み、部員のバテも重なって戻るに戻れなくなってしまったこと。 ・雷の予想はできていたが、ペースが遅くて回避できなかったこと。 ・激しい雷雨に遭遇したこと。 8.山岳部の活動の中で安全登山のために心掛けていることはありますか ・合同山行やレク活動を通して仲間作りをする。 ・体力強化 ・トランシーバー二台を携行 ・メンバーの中に体力差があっても、絶対にパーティー分散をしない。 ・補助ロープ・ツエルト・シュラフカバー(全員分はないが)を持参 ・パーティーをなるべく割らない。 ・予備食を常に多めに持つ ・カラビナ 2 枚、スリング 2 本、ウエストロープを生徒に必ず持参させる。また、8mm×20mの ロープを共同装備として持参する。 ・危険箇所でのコールの徹底 ・水分の十分な補給と雷対策 ・無理をせずにペースを一定に保つ ・年度初めに登山保険に全員加入する。 ・山域にもよるが、個人装備でウエストロープとカラビナを持参させるとともに、共同装備で 9mm×20m ロープを持参する。 ・日帰りでもフル装備とし、非常食・水も余分に携行する。山頂などでのゆとり行動(昼寝など) ・補助ロープ・ツエルトの持参 ・常時ツエルトを持参し、無理をしない。 ・部員と常に行動をともにする。 ・レスキューシートの持参 ・無理のないコース設定と、複数(なるべく三人)の顧問付き添い ・顧問が実際に何回か入り、熟知しているコースで合宿などを行うとともに、悪天候時の行動は極 力避ける。また、ツエルト・レスキューシート・スポーツドリンク・アミノバイタル・栄養剤及 びメンバー全員が一泊小屋泊まりをして帰名できる程度の予備金(10∼15 万円)を顧問が携行す る。また、原則として生徒だけの登山行動はさせない。 9.山岳部の生徒を傷害保険等に加入させていますか はい:46.4% いいえ:53.6% ●「はい」の場合、その種類は 日山協 23.1% 23.1% 日山協軽登山コース 日山協特別共済 7.7% 7.7% 木村総合の 3000 円コース 掛け捨ての国内旅行傷害保険 38.5% 10.高体連登山専門部では、各種の大会・講習会等を開いていますが、貴校は昨年度参加されまし たか はい:63.0% いいえ:37.0% ●「はい」の場合、その感想・ご意見は ・他校の生徒との交流があり、刺激になったと思う。(2人) ・基本を教えてくれる、山岳の基本知識が身につくのでよい。(2人) ・学校では体験させられないことを部員に経験させることができる。(2人) ・夏期大会によい宿泊地はないでしょうか? ・登山技術向上のため、今後も積極的に参加したい。 ・生徒はとても楽しんでいた。 ・夏期大会は、生徒が夜遅くまで起きています。もう少しマナーを守らせた方がよい。 ・生徒のレベルごとに講習会ができるともっと実りあるものになると思う。 ・クライミング講習会は、装備の貸し出し、初心者に対するレッスンなど満足できる内容だった。 ●「いいえ」の場合、その理由は ・山岳部として目指すものと違う。また、活動時間が現在でも足りていないので、とても参加でき るゆとりはない。 ・山行日と重なることが多い。また、生徒の関心も低い。 ・(定期テストなどで)日程が合わず、参加できない。(2人) ・顧問は山歩きのできない体なので、いつも平地ハイキングしかできない。 ・事前準備に時間がとれない。 ●高体連に開催してほしい講習会は ・どの山岳部でも共通する救急法、テーピング、野外生物、自然保護など ・顧問対象の講習会 11.近年、登山専門部では、各大会に参加する学校が減少していることを危惧しています。より多 くの学校が参加できるためにはどのような知恵が必要でしょうか ・役員をやっていなかった時は、大会と聞いても何をやっているのかわからず敷居が高く感じられ、 とても参加してみようという気持ちにはならなかった。やはり、大会でどのようなことをやって いるのかを周知させることが必要であろう。 ・部員の確保 ・顧問の交流 ・活動をもっとオープンにする。岳連の講習会などわかりにくい。 ・夏期大会のように、講習会中心の大会とする。 ・(夏山合宿情報交換会等)もっと講習会の回数を増やす。 ・顧問の育成が必要。伝統ある高校でも、指導者が転勤すると休部・廃部となってしまう現状では、 指導できる教員の確保が重要。(2) ・里で説明会・講習会を開催する。 ・人数が少なくても参加できるようにする。 ・顧問講習会を開く ・登山そのものは楽しいが、日常活動となると、練習(トレーニング)も含めて、生徒に意義を感 じさせることは難しい。大会を重視しすぎることで山の楽しさを感じられなくなっても生徒のた めにはならないと思う。生徒が登山を楽しみながら技術の向上をはかることができる道を模索し ている。 ・競うものではなく、協力し、達成する形式であったり、山のクリーン活動など山に集まったもの 達が将来も山を愛し、仲間と呼べるような思いで深い大会となれば・・・、と思う。ただし、役 員に負担のない大会であればと感じる。 ・競争意識の低い生徒が多い。 ・自然に触れることの大切さをもっとアピールする。 ・学校への啓蒙活動を地道に行う。 ・大会会場へのアクセスの改善 ・トイレその他、山での衛生面での施設を充実させる。 ・きついという思いこみをなくすように努力する。 ・登山競技の啓蒙が必要である。競技があること自体知られていない。競技を知り、興味を持つ生 徒を見いだす努力も必要である。 ・山岳部を扱った漫画を出し、人気が出れば、スラムダンクでバスケ熱が高まったように登山に対 する人気も高まると思う。 ・遠足のような、先生も生徒も、高校生でなくても参加できるような、大盤振舞い的で、あっと驚 く、従って、私も出てみたいと思わせるような大会はできないだろうか。運営側の準備も大変で あるが、そんなザックバランな、考える側にも楽しみと夢がある、そんな気持ちになることが必 要だと思う。 ・東海大会は、参加校の中から順番に出場できるようにする。 ・大会不参加校の顧問との交流会を設ける。 ・学校自体が、自由度が減少するとともに危険性についての過敏性が増大している。登山もそう思 われているようだ。 ・顧問が生徒に楽しさを伝え、部員を増やす。 ・入部する生徒が少なく、大会に出せるメンバーがいない。また、人数がそろったとしても、生徒 の意識が低く、とても大会に出せるようなレベルにないのが現状である。 ・年間の活動自体が低迷している学校が多くなっているため、大会での重量規定に耐えられない学 校が沢山あると思われる。競技をさせる以前の問題として、山を楽しむ活動を普段から充実させ るような取り組みがなければ大会に参加する学校は増えないと思う。競技登山そのものに対する 見通しが必要なのかもしれない。中高年の登山熱は高まっているので、その辺に高校登山の活性 化のヒントが隠されているのではないか。 ・学校長への参加依頼をする。(学校長が禁止している?学校があると聞いたことがある。最も、 現在は廃部になったかも?) 12.部活動における登山活動全般の中で、先生が感じている事柄は ・公共交通の制限により、登山する山が限定される。車による引率を認めてほしい。自家用車での 引率を認めてほしい。 ・予算がないとの理由で山行の回数や行き先が制限される。 ・山行の旅費、特に食費はどのように扱うのか。また、燃料などの雑費、入浴料は支払ってもらえ るのか? ・校務が忙しく、生徒を指導したくても時間がとれず、そのうちに部員が辞めていってしまう。 ・見て分かりやすい競技に注目が集まっているように感じる。 ・交通費が高い。 ・女子トイレの問題。 ・総体と国体の種目が全く性質の異なるものとなり、クライミングに関しては指導しきれないし、 練習場所もなく困っている。 ・生徒の自主活動が顧問の思いで自由になっていない事への危惧。 ・教員の一部(大部分かもしれないが)に、土・日がなくなることや責任を持たざるを得なくなる ことから、運動部の部活動を持つことに危惧するものがいる。 ・主顧問に登山経験のある方の存在が大切である。 ・数年前に、旅費の計算が実費に変更され、個人負担が増大した。顧問の個人装備を前提とした旅 費計算は実費支給になっていない。 ・総合的な知識や体力を必要とする、人間的バランスのある部活であると思う。山岳部の他にはな い、総合的な知識、バランスのとれた体力は、現在の教育現場に求められている大事な要素をいっ ぱい持っている。 ・山登りに高度な技術を求めるには難しいかもしれませんが、山登りが好きになるきっかけを作る ことを優先するときに来ているのではないか。 ・高校生ごとの集合体が小さくなる中で、専門部の集合体を大事にしたところから始まる中にあっ た熱意を持ち、 0 から始める心構えを持つ時期かもしれないと思う。 ・部活動では、大会に出る、というよりは登山の魅力を何とか生徒に伝えたい、というのが現状で ある。 ・年間の参考回数をある程度維持していかないと部の活動はすぐに停滞していってしまう。何度も 引率することには顧問にとってもかなりの負担であるので、旅費や手当面で保証するような体制 がとられなければ、登山部の顧問の引き受け手がいなくなると思う。自然の中で活動するこのよ うな部活動の存在をサポートするためのシステムが、高校教育全体の枠組みの中で作られていく ことが大切であると感じる。 ・普段の活動は、今のところ全て他の先生に見ていただいているが、自分が見なくては成らない立 場になったときに、どのように指導していけばよいのか分からない。 ・夏期大会については、実施日をもう少し考えてはどうだろうか。8/20∼25は多くの学校が 補習を行う。多くを占める進学校の参加は難しい。 ・新人大会について、この大会は良い季候での大会となる。もう少し山を楽しめる余地のある内容 にならないであろうか。例えば、簡単な生徒の交流会を設定する、タイムリミットにもう少し余 裕を持たせる、などなど。 ・「スポーツにお金がかかるのは当たり前」という人がいますが、それでは本校のような学校の生 徒には登山部の活動はできません。同じ地区にある他の学校の顧問からも、同様のことを言う生 徒がいる、ということをしばしば聞きます。せめて、隣県のように登山口まで顧問の車の利用が 認められればと思います。また、登山については特例的に、練習登山の旅費は自己負担、という 出張命令が認められれば、とも思います。 登山に関する事故防止の呼びかけ(採択文) 全国山岳遭難対策協議会は登山事故の防止について、事故防止の呼び かけと安全登山に関する広報活動を徹底するとともに、次の事項を申し 合わせ関係当局に要望する。 Ⅰ 登山事故防止の要望事項 1 登山届の提出を奨励し、計画的な登山の徹底を図る。 2 登山道、道標、トイレの整備及び適切な管理等、環境保全に努める。 3 詳細な山岳情報と気象情報の提供に努める。 4 ツアー登山参加者の安全確保の指導を図る。 Ⅱ 登山者に対して事故防止の呼びかけ ∼登山の事故防止について、お互い呼びかけよう∼ 1 山の事故は自己責任。山岳遭難共済保険に必ず加入しよう。 2 単独登山は慎み、信頼できる仲間と登ろう。 3 登山計画は、メンバーの実力に適したルートを選定しよう。 4 登山者は、気象及び山岳情報を掌握して行動しよう。 5 トレーニングを積み、体調を万全にして山に出かけよう。 6 登山者は自然保護に努め、ゴミ等は必ず持ち帰ろう。 7 登山者は、各自で非常食・装備を必ず携帯しよう。 8 計画書を作成し、登山口や警察、身近な人に提出しよう。 9 下山報告、事故報告は必ず提出しよう。