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5. 潮間帯利用技術
5. 潮間帯利用技術
5.1 技術の概要
背景
有明海西部に位置する佐賀県太良町大浦地先のカキ養殖場では、垂下式によるカキ養殖
が営まれています。しかし、同海域のカキ養殖場では、たびたびカキの大量へい死が発生
しており、その安定的な生産が行えない状況が続いています。特に、夏~秋にかけて、顕
著な水質の変化がないにもかかわらず、へい死が発生することがありますが、この要因と
して、生殖腺の成熟、過熟に伴う生理異常 1,2)が指摘されています。事実として、有明海で
は生物生産が高く、豊富な餌料を摂取することで生殖線の成熟が進みます。これが高水温
と相まって、生殖腺の成熟、過熟に伴う生理異常を引き起こすことがあります
3-7)
。一方、
養殖筏のカキのへい死が発生したときであっても、干出と没水を繰り返す潮間帯ではへい
死が発生しませんでした 3)。そのような背景のもと、平成 21~24 年度に有明海漁場造成技
術開発事業にて行った潮間帯利用技術について、実際の運用を想定し、本マニュアルを作
成しました。
技術の特徴と主な効果
この技術は、潮間帯をカキの避難場所として利用することによって、カキのへい死を緩
和することを特徴とします。夏は潮間帯にカキを吊すことによってへい死を回避します。
しかし、そこでのカキは 1 日の半分を空中で過ごすため、餌が取れず、身入りが良くなり
ません。したがって、秋には潮間帯から養殖筏に移し、身入りを良くすることが必要とな
ります。
夏の大量へい死の回避
養殖施設
(潮間帯)
(7~9月を目安に実施)
避
難
春の成長、秋以降の肥育
再垂下
養殖筏
(海中)
(9月末~10月を目安に実施)
図 5-1 沖合養殖場(養殖筏)と潮間帯の養殖施設の連携利用模式図
- 197 -
- 197 -
コラム① 「潮間帯とカキの関係」
潮の干満によって、満潮時の水面の
潮上帯
高さを最高高潮面、干潮時の水面の高
最高高潮面
さを最低高潮面と呼びます(右図)。こ
れら 2 つの線を境に潮上帯、潮間帯、
潮間帯
海浜断面図
最低高潮面
および潮下帯に分けられます。
潮下帯
満潮線と干潮線の間に位置する潮間
帯は、一日のうちに陸上になったり海中になったりするため、環境の変化が激しく、ここ
に生息できる生物は環境の変化に強いものが多いとされています。
干潮
満潮
干潮時と満潮時の海岸 (佐賀県太良町大浦)
かつて、カキは潮間帯でしか養殖できないと考えられていました。しかし、現在のカキ
養殖の主流は海中で養殖する垂下式養殖法となっています。これは水産学者の佐藤忠勇さ
んが 1928(昭和 3)年に確立した方法です。養殖場所や生息環境などの条件によっては、常
に海中で養殖させることに伴って、カキに負担が掛かり、へい死に繋がることがあるのか
もしれません。
潮間帯にあたる部分にびっしりと付いたカキ(干潮時:佐賀県太良町大浦)
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- 198 -
5.2 適用条件
本技術の適用は、カキの垂下養殖のうち、以下の項目にあてはまることを条件とします。
(1)潮位差のある海域であること
※ただし、適度な干出と没水が繰り返される高さである事が重要です。高潮帯などは
不向きとなります
(2)施設を設置するのに十分な敷地が確保できること
(3)波浪や潮流により大きな攪乱がない海域であること
(4)淡水(河川水など)の影響が少ない場所であること
(5)養殖筏などで肥育することができること
(6)陸からの出入りが容易であること
5.3 実施方法
5.3.1 実施手順
本技術の運用フローを以下に示し、詳細な説明は次項以降に記載します。
1.計画
… 計画地の決定、関係機関との協議、
計画地の決定、周知方法、安全対策の検討、
避難のための施設について、施設設置場所の
検討、実施人数と時間
2.設置
… 設置
3.運用
… 養殖カレンダー、カキの移設、維持管理
4.撤去
… 撤去
図 5-2 本技術の運用フロー図
5.3.2 計画
(1) 計画地の決定
本技術の適用条件に当てはまる候補地を探します。その後、養殖実態、漁業者への聞き
取り、および既往知見から総合的に判断して計画地を決定します。特に、計画地の海面利
用が重複する場合には、十分な事前検討が必要です。なお、潮間帯に施設を設置するにあ
たり、以下のような条件があるとき、それらへの対応が必要となります。
・地面に近いところは、泥の巻き上げがあるため、カキを吊すのに適しません。
→カキを吊す高さを調整して、地面から離して下さい。
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地面に簀の子やシートなどを敷いて攪乱を抑えるなど、工夫してください
・波当たりが強い場所は適しません。
→高波浪や海底の攪乱が激しい所は設置に向きません。
護岸の近傍など、複雑な波や流れのあるところも向きません。
・真水の影響が強く、塩分が 10 以下となる場所は避けてください。
→大雨のあと、地面に真水が流れるような場所は、地面から離したところに
カキを吊すようにしてください。
コラム③ 「降雨後の塩分低下とカキの生残」
潮間帯は、干出したり、または没水したりすることもある特殊な場所です。陸になった
とき、大量の雨が降ると、地面に真水が流れることがあります。カキは長時間、真水に浸
かると死んでしまうので、このような場所は避けるか、棚などの施設で地面に直接、接し
ないような工夫が必要です。
大雨のあとに海底に湧きだした真水とそれに浸かる地カキ
(2) 関係機関との協議
候補地が決定した後は、その場の利用に係わる関係機関や関係者と利用に支障が発生し
ないように利用の期間、範囲、および方法などについて協議してください。
(3) 周知方法、安全対策の検討
潮間帯の利用にあたり、岸近くに施設を設けることは作業の簡便化をもたらす代わりに、
無関係の人間が容易に近づくことを可能としてしまいます。窃盗、密漁、およびいたずら
などが起きないような工夫が必要です。周知対策の例としては区画の明示(周囲を囲うな
ど)、立て看板などの利用が考えられます。
・周知:看板の設置、漁協などからの回覧 など
・区画:標識杭の設置、フェンスの展張 など
- 200 -
- 200 -
(4) 避難のための施設について
夏は潮間帯にカキを吊すことによって大量へい死を回避します。そのためには、カキを
吊す養殖施設(以後、避難のための施設)が必要です。一方、秋以降、カキの身入りを増や
すには、潮間帯ではなく、常時海中に吊さねばなりません。そのため、肥育のための施設(以
後、肥育のための施設)が必要です。
施設の形
潮間帯をカキの避難場所として利用するには、カキを吊す養殖施設(架台)が必要です。
既存の抑制棚の利用も可能ですが、他海域で実施されている棚養殖の施設を模したもので
も構いません。また、カキを潮間帯に吊すことが出来れば良いので、似た施設を養殖施設
として流用することも可能です。
[棚]
[棚]
海中
(満潮時)
丸カゴ等
丸カゴ等
丸カゴ等
海底
1
図 5-3 潮間帯に設置した避難用の養殖施設
施設の配置
漁業実態や漁業者の聞き取りなどで把握した計画地の特性を踏まえて、施設の規模や配
置を決めます。計画にはカキ運搬のための航路、陸からの進入経路、および施設周辺での
作業性などを考える必要があります。
カキを吊す高さ
架台はカキを垂下する部分が潮間帯となるように高さを決めます。カキは長時間、空中
に置かれると乾燥して死んでしまうことから、垂下する高さを決めるうえでは、干出時間
を知る必要があります(図 5-4 参照)。例えば、カキが付着している防波堤や護岸など、代
わりに潮間帯を知る目安があればそれを使っても構いません。
一方、海中に置く状態が長くなれば、養殖筏を使用するのと異なりません。潮間帯とい
っても、カキが緩やかに成長するように、適切な高さにカキを置くようにしなければなり
ません。目安として、1 日あたりの没水時間と干出時間の比率が同じか、やや没水時間が
長くなるような高さにカキを置くようにします。
- 201 -
- 201 -
潮位差が大きい時
潮位差が小さい時
300
潮位(cm.標高換算)
200
100
この高さ
にする
0
-100
-200
-300
0
6
12
18
経過時間(h)
24 0
6
12
18
経過時間(h)
24
図 5-4 潮位とカキを吊す高さ
[参考]カキを吊すことのできる高さの決定法
・カキを吊す位置(高さ)を考えて、推算潮位から 1 日あたりの干出時間を求める。
・カキを吊そうと考えている期間について、1 日あたりの干出時間を求める。
・算出した干出時間を時間順に並べて、24 時間以上、連続して干出しないことを確認す
る(24 時間以上、連続して干出するような場所は高いところなので、カキは死にます)。
(5) 肥育のための施設について
肥育に使用する施設としては養殖筏を利用します。
- 202 -
- 202 -
コラム② 「海中設置構造物と潮間帯、および、カキが吊せる範囲」
佐賀県太良町大浦地先の沖合には水質を自動計測するための観測塔が設置されています。
下図は満潮時(左)と干潮時(右)の状態です。このように沖合の構造物でも潮間帯を示す指
標がみてとれます。作業マニュアルでは海浜や干潟を対象にした説明をしますが、沖合の
施設を利用する事も可能です。
[満潮時]
[干潮時]
満潮時と干潮時の海中設置構造物
大潮干潮時の観測塔の橋脚を見るとフジツボ類が固着しているのが分かります。実際の
潮間帯の上限は、もう少し上のところ(満潮時の海面)までですが、干出時間が長いところ
では環境に強いフジツボ類でさえ生き残ることができません。このように地盤高を計測し
なくても、
付着生物を観察することでカキを吊すことのできる高さを知ることができます。
満潮時の海面
フジツボ類
カキ垂下可能
干潮時の海中設置構造物と付着生物から推定したカキ垂下範囲
- 203 -
- 203 -
(6) 実施人数と時間
養殖筏から潮間帯の養殖施設(架台)へカキを移設する際の労力の目安として、必要な人
数と時間を示します。
表 5-1 実施人数と時間の目安(養殖筏から潮間帯の養殖施設へ移設)
実施内容
人数
時間
連の引き揚げ(1 本あたり)
1~2 人
約 5~10 分※1
コレクタから剥離(連 1 本分)
1~2 人
約 10~15 分※1
丸カゴなどへの充填(連 1 本分)
1~2 人
約 5 分※1
架台への運搬
2~3 人
約 15 分※2,※3
架台近傍への投下
2~3 人
約 15~30 分※2
架台での
垂下作業
2~3 人
約 2 時間※2
作業
後片付け
2~3 人
約 30 分~1 時間※2
養殖筏での
作業
運搬
※1 実証実験でコレクタのカキを剥がすのに要した時間から推定
※2 漁業者が、購入したカキ種苗を抑制棚に垂下するのに要した作業時間から推定
※3 養殖筏と架台が 1km 程度とした場合
架台の規模は、縦 2m×奥行き 2m×高さ 2m(地中埋設部分は 1m)
架台から養殖筏へカキを移設する際の労力の目安として、必要な人数と時間を示します。
表 5-2 実施人数と時間の目安(潮間帯の養殖施設から養殖筏へ移設)
実施内容
人数
時間
丸カゴの回収
1~2 人
約 30 分~1 時間※1
浮体への積載
1~2 人
約 30 分~1 時間※1
運搬
養殖筏への運搬
1~2 人
約 15 分※1,※2
養殖筏での
垂下作業
2~3 人
約 2 時間※1
作業
後片付け
2~3 人
約 30 分~1 時間※1
架台での
作業
※1 漁業者が、購入したカキ種苗を抑制棚に垂下するのに要した作業時間から推定
※2 養殖筏と架台が 1km 程度とした場合
架台の規模は、縦 2m×奥行き 2m×高さ 2m(地中埋設部分は 1m)
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施設の設置に関する労力の目安として、必要な人数と時間を示します。
表 5-3 実施人数と時間の目安(施設の設置)
実施内容
人数
時間
準備
重機などの投入
5人
約 15 分※
設置
架台の設置
5人
約 15 分※
事後処理
重機などの回収
5人
約 15 分※
※ 重機使用の場合(実証実験時の作業時間から推定)
架台の規模は、縦 2m×奥行き 2m×高さ 2m(地中埋設部分は 1m)
施設の撤去に関する労力の目安として、必要な人数と時間を示します。
表 5-4 実施人数と時間の目安(施設の撤去)
実施内容
人数
時間
準備
重機などの投入
5人
約 15 分※
撤去
架台の撤去
5人
約 15 分※
重機などの回収
5人
約 15 分※
廃棄物の取り出し
5人
約 15 分※
事後処理
※ 重機使用の場合(実証実験時の作業時間から推定)
架台の規模は、縦 2m×奥行き 2m×高さ 2m(地中埋設部分は 1m)
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