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世界に存在感のある大学を目指して
―大学評価報告書
中央大学
2001―
2
『世界に存在感のある大学』を目指して
―大学評価報告書
2001―
学長
鈴木
康司
昨年来、中央大学の全教職員が一体となり、全力を投じて取り組んできた中央大学自己点
検・評価の成果が、このたび「世界に存在感のある大学を目指して ―大学評価報告書 2001
―」の形でまとまり、第三者評価を大学基準協会に申請してこれを提出するとともに、開か
れた大学として、評価結果を社会に開示することになりました。学長として心からこれを
慶ぶと同時に、大学創立以来、初めてできたこの報告書を出発点として、更なる大学改革に
向けて邁進する所存であります。
現在、わが国の大学は、国立・公立・私立の別なく、さながら嵐の海でもまれる船のごと
き状況にあります。20 世紀末から 21 世紀初頭の日本経済の悪化は、大きな危機として大学
をも襲っています。受験年齢世代の人口減をいかに乗り切るか、また、グレードアップを
目指し、生涯教育を求める社会人の要望をいかに満たすか、それぞれの大学はその建学精神
および学風に基づきながら試行錯誤を繰り返しつつ、最良の方策を探求しているところで
す。
知的社会の核がユニヴァーシティであるとすれば、当然のことながら、大学は社会に対し
て開かれ、透明であるべきでありますし、大学の中身についても説明する責任があります。
さらに、経済、情報が国境を越え、かつての狭い国家主義が色あせた今日、大学もまた国境
を越えて互いに結びつき、あるいは教育・研究交流を重ね、知的グローバル化が急務となり
ます。
中央大学は一方で、国際会計研究科や法科大学院など専門大学院を通じた改革によって
社会人の需要を満たし、他方、世界的教育研究拠点の形成のため、高度の大学院博士課程教
育を実行して、「世界における存在感のある大学」を実現しなければなりません。
とき、あたかも 2010 年に創立 125 周年を迎える本学として、創立 125 周年プロジェクト
が発足しました。報告書第8章にも書かれているように、このプロジェクトでは
(1) 人間性、国際性豊かな人材の育成
(2) 世界で活躍するプロフェッショナルの育成
(3) 世界レベルの研究成果の発信・交流
(4) 都市・地域と一体となった知的資産の創造と活用
(5) 以上の大学作りを実現するためのキャンパス整備
が、目標として掲げられています。我々は、斯様な目標を達成するためにも、この報告書
を最大限に活用し、あるいは改革の指針、あるいは反省材料として生かす方針であります。
中央大学には現在、多摩、後楽園、市ヶ谷の三つのキャンパスがあり、各キャンパスが地域
に根ざし、貢献すると同時に、多摩では文系学部教育と研究活動を中心に、後楽園では理工
学部と大学院、市ヶ谷では社会人大学院教育および産学協同研究のための研究開発機構が
それぞれ展開中であります。そして、これら三キャンパスの有機的結合が本学 21 世紀にお
ける発展の礎となると我々は確信しております。
本来、大学の自己点検・評価は、公正な第三者評価を経たうえで、大学の自主的な改善・
改革に繋がらなければ、意味をなしません。ひとたび、このような報告書を発表した以上、
我々は休むことなく第二の報告書作成を目指し、中央大学がどのような改革を行っている
か、周知を図る所存であります。「継続は力なり」のことわざ通り、不断の改革努力に向け
て、我々は第一歩を踏み出したのです。
終わりに、この報告書および、データ資料作成にあたって、献身的な努力を傾けてくださ
った、関係各位に対して、学長として心からの感謝を捧げます。
2002 年5月
I
世界に存在感のある大学を目指して
―大学評価報告書
目
2001―
次
第1章
中央大学の理念と教育研究組織 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
中央大学の歴史と建学の精神の再吟味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
多摩移転後の大学改革と教育研究組織の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
21 世紀に向けた目標の設定と具体化の指針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
教育研究組織における改革課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
第2章
学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
学部改革の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
法学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
法学部通信教育課程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
経済学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
商学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
理工学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 154
文学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 208
総合政策学部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 335
教育職員養成課程等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 358
第3章
大学院 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 383
大学院改革の課題と方策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 384
法学研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 386
経済学研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 414
商学研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 444
理工学研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 478
文学研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 590
総合政策研究科 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 664
専門大学院 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 689
第4章
研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 691
研究所改革の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 692
日本比較法研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 694
II
経理研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 709
経済研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 710
社会科学研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 730
企業研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 739
人文科学研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 753
保健体育研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 764
理工学研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 770
政策文化総合研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 785
研究開発機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 799
第5章
教育研究支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 811
図書館・学術情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 812
情報環境の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 824
学生の受け入れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 840
学生生活への配慮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 846
実学の伝統と国家試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 881
国際交流の促進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 885
開かれた大学の理念と社会貢献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 895
大学広報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 915
第6章
大学の運営 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 921
管理運営 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 922
財政 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 936
施設・設備等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 944
人権への配慮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 953
事務組織 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 954
第7章
自己点検・評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 963
第8章
今後の取り組み
−創立 125 周年に向けて− ・・・ 967
中央大学の現状と総合的評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 968
今後の改革課題と将来展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 970
中央大学創立 125 周年記念プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 972
III
IV
第1章 中央大学の理念
と教育研究組織
1
中央大学の歴史と建学の精神の再吟味
1.英吉利法律学校と建学の精神
(1)カンパニー精神と質実剛健の気風
中央大学の前身である「英吉利法律学校」は、イギリス法の研鑽・普及を目的とする私
学校として、1885 年(明治 18 年)7月8日、東京神田錦町に呱々の声をあげた。初代校長
に就任したのは、英国の伝統的法曹養成機関の一つミドル・テンプル(Middle Temple)に
学んだ新進気鋭の代言人増島六一郎(当時 28 歳)であったが、ほかに 17 人の少壮法律家
が創立者として名を連ねている。そのいずれもが増島と同世代の若者たちであり、共通の
理想に燃える彼らの同志的結合が「カンパニー精神」と「質実剛健」の気風を生みだし、
ひとりの傑出した指導者によって創設された他校にはみられない「合議制による学校運営」
がその特色となった。
(2)自由主義原理の尊重と批判的学問精神
当時、わが国は2世紀余におよぶ鎖国政策を放棄し、欧米先進諸国の政治制度や経済制
度の模倣による近代化を押し進めていたが、わけても列強との不平等条約を克服するため
に急務とされた法律制度の近代化については、フランス法の翻訳移入というきわめて性急
な形での法典編纂事業が政府主導のもとに進められつつあった。このような明治政府の方
針をめぐって闘わされたのが、いわゆる「法典論争」である。フランス法派、ドイツ法派、
イギリス法派を巻き込んだこの三つ巴の大論争の中にあって、英吉利法律学校の創設に結
集した人々は、大陸法の抽象的理論体系の直輸入によって「上からの近代化」を断行しよ
うとする政府の方針を批判し、「法は論理にあらず、むしろ経験なり」の箴言を掲げて、反
対運動の急先鋒に立った。
彼らの主張の要諦は、わが国が真の独立を達成し、国際社会において名誉ある地位を確
立するためには、自立した市民の育成と自由主義原理に立脚した法治国家の建設が不可欠
であり、わが国近代法制の整備にあたっては、経験を重んじ自由を尊ぶイギリス法の実証
的合理精神こそ範とすべしという点にある。1893 年、政府はついに従来の方針を改め、す
でに完成していた民法典(旧民法)の施行延期を宣言したが、英吉利法律学校の存在を抜
きにして、この歴史的大転換を語ることはできない。高い見識と確固たる信念をもって政
府の方針に敢然と挑戦した若き創立者らの反骨と在野の精神は、
「自由で批判精神に満ちた
学問研究」を尊ぶ学風として、今日に引き継がれている。
(3)実学の重視と開かれた教育
英吉利法律学校に始まるいまひとつの伝統は、「実学の重視」と「開かれた教育」の実践
である。英米法の伝統を形作るうえで実務法曹が果たしてきた役割を重視した創立者たち
は、わが国に法治主義原理が定着するためには、実際の法運用能力に優れかつ「品性の陶
冶された代言人」の存在が不可欠であると確信し、その育成に情熱を傾けた。同時に、こ
のような理念に基づく法学教育を広く社会に提供することの重要性を痛感した彼らは、教
室における講義を集録し、これを「講義録」として刊行する一方、通学が困難な学生のた
めに「校外生制度」を設けるなど、当時としてはきわめて斬新な教育制度を創出すること
によって、在野の法学徒に希望を与えた。
2 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
2.英吉利法律学校から中央大学へ
わが国近代法制のモデルをめぐって争われた法典論争が次第にドイツ法学派の優位に傾
く中で、1889 年に「東京法学院」と改称した英吉利法律学校は、その学則に「本院ハ、帝
国法律ノ実施応用ヲ練習セシムルヲ目的トシ、本邦制定ノ法律ヲ教授スルノ外広ク法理ニ
通達スル為メ、邦語又ハ英語ヲ以テ法律学ヲ講授スルモノトス」(総則第1条)と定めて、
国内法実務に精通し、かつ世界的視野を備えた法律家の養成を重視する姿勢を明確にした。
1903 年に東京法学院は、大学としての発展を期すべく、校名を「東京法学院大学」と改
ためたが、その後2年間の準備期間を経て経済学科を開設するに際して、現在の「中央大
学」が新たな校名に選ばれた。このようにして総合大学としての第一歩を印した中央大学
は、1909 年には商業学科を開設し、さらに関東大震災後の 1925 年には神田駿河台に新校舎
を建設し、以後半世紀余にわたってこの地を本拠地として大学の歴史を刻むこととなる。
3.戦後復興と多摩移転
1949 年、第二次世界大戦後の学制改革にともなって、財団法人から学校法人に組織を改
めた本学は、同年開設の工学部を加え、全部で4学部からなる新制大学として、新たなス
タートを切った。新生中央大学の学則は、自らの使命を「その伝統及び私立大学としての
特性を生かしつつ、教育基本法の精神に則り、学術の中心として、広く知識を授け、深く
専門の理論及び応用を教授・研究し、もって個性ゆたかな人間の育成を期するとともに、
文化の創造・発展と、社会・人類の福祉に貢献すること」
(中央大学学則第2条)と定めて
いる。
第二次世界大戦によって灰燼と帰したわが国は、国家組織の民主的再編と経済基盤の再
建を最重要の課題として、戦後復興の道を歩み始めたが、それとともに、高等教育の門戸
開放と民主化が求められたのは当然であった。1951 年に文学部を開設し、5学部体制に移
行した本学は、すべての学部において夜間教育を実施するとともに、法学部に通信教育課
程を併設(1949 年)して、勤労学生に対する門戸開放を率先して実践した。このようにし
て、英吉利法律学校に始まる実学重視の伝統と開かれた教育の理念を引き継いだ中央大学
は、時代の趨勢を受け止めながら、総合大学としてのメリットを活かしつつ、その教育研
究の場を広げ、ひとり法曹界のみならず、学界、教育界、言論界そして経済界、政界、官
界においても、わが国の発展を支える多数の優れた人材を輩出してきた。
一方、1950 年代末に始まる第一次ベビーブーム世代の大学進学によって、各大学の受け
入れる学生数は急激に増加し、それとともに教育施設の拡充と教育環境の整備が求められ
ることとなった。狭隘な都心校地を拠点としてきた本学にとって、これはきわめて深刻な
課題であり、多年にわたる真剣な検討を経た後、単に教育施設の狭隘化を解消するのみな
らず、21 世紀における本学にとって必要な基盤整備を行うために、理工学部については、
後楽園キャンパス(東京都文京区)において施設充実を図り、また文科系4学部について
は、多摩キャンパス(東京都八王子市)に新校舎を建設し、ここに全面移転する計画が策
定された。多摩キャンパスへの移転は、1978 年4月から丸2年の歳月をかけて行われ、1980
年3月にすべての作業を完了している。
3
多摩移転後の大学改革と教育研究組織の現状
1.多摩移転後の大学改革
多摩移転を中心とするキャンパス整備の結果、文科系学部・大学院の教育研究施設は、
駿河台時代には到底望み得なかったほどの大幅な改善が図られた。とりわけ、小教室の充
実によって少人数教育の展開が容易になったこと、サークル関連施設や体育施設の充実に
よって学生の自主的活動の場が広げられたこと、また多摩キャンパスが設計段階から肢体
障害を持つ人々の移動可能性を念頭においていたことなどは、施設改善計画の大きな成果
として特筆に値しよう。(第6章
大学の運営
施設・設備等を参照)
だがその一方で、多摩移転によって失われたものも決して少なくない。まず、都心を離
れることによって生じた有形無形の心理的影響に加えて、都心キャンパスの利便性(フッ
トワークの自由)の喪失があげられる。交通網の整備が進んでいなかった移転当時、この
問題はきわめて深刻であり、研究者交流にさまざまな支障が生じたのみならず、卒業生に
よる指導を軸に各種国家試験に取り組んできた学生団体にとっても大きな打撃となった。
また、駿河台時代には3時限制を採用していた夜間部を2時限制に移行せざるを得なかっ
たことから、夜間部学生の自由選択の幅が制約されるなど、授業編成のうえでも多くの難
問が生じた。さらに、移転実施が不幸にしてオイル・ショックの時期と重なったために膨
大な移転資金の借り入れが必要となったことから、その返済に要する負担が大学財政の硬
直化を招き、積極的な将来投資を抑制せざるを得ない状況が長期にわたって続くこととな
った。
1985 年、創立 100 周年を迎えた本学は、これらの課題の解決に全力をあげる一方、
「地域
に根ざし、世界に開かれた大学」をキー・ワードとして、多年にわたって培ってきた学術
的伝統をさらに充実発展させるとともに、わが国の高等教育をとりまく環境の急激な変化
に対応できる体制を整えるべく、第2世紀に向けた新しい歩みを開始した。
その先陣を切ったのは、文学部における社会学科と教育学科の増設(1990 年)であった。
以降、2001 年までの各年に新しい学部・学科・研究科・専攻が相次いで増設されたが、中
でも特筆すべきは、文学部の開設(1951 年)から数えてほぼ 40 年ぶりに、総合政策学部が
新設(1993 年)されたことである。本学は、それまでにも学部・大学院におけるカリキュ
ラムや教育手法を不断に見直しその改善に努めてきたが、創立 100 周年を契機に開始され
たこれら一連の学部・学科・研究科等の新・増設は、本学の伝統を踏まえつつ、新たな社
会的需要に応える学際的・総合的なアプローチを試みる野心的な計画を含むものであり、
特に総合政策学部の新設を生み出したエネルギーは、他の学部・研究科の改革にも大きな
インパクトを与えている。
他方、本学は、全国規模で進んだ高等教育機関の量的拡大が夜間部教育の歴史的役割を
縮小させてきた現実を直視し、2000 年度から夜間部の募集停止(文学部は 2001 年度から)
に踏み切ると同時に、昼夜開講制学部への転換(法学部・商学部)、科目等履修生制度の導
入、通信教育課程の充実(法学部)等によって、開かれた教育の場の確保を図ることとし
た。また、1997 年には、法学研究科と総合政策研究科に、社会人を対象とする昼夜開講制
コースが開設され、都心施設を利用した大学院レベルの開放型教育が展開されるようにな
4 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
った。
こうした教育面の改革と合わせて、研究活動の基盤たる研究所の整備についても、本学
は鋭意その充実に努めてきた。すなわち、戦後間もない 1948 年に日本比較法研究所(わが
国で最初の比較法研究所)が開設されたのに続いて、1950 年には経理研究所、1964 年には
経済研究所が法人附置機関として設置された。ついで多摩移転の時期には、社会科学研究
所(1978 年)
、企業研究所(1978 年)
、保健体育研究所(1978 年)、人文科学研究所(1979
年)の4研究所が大学附置機関として相次いで設立されている。1990 年代に入ると、理工
学研究所(1992 年)および政策文化総合研究所(1996 年)がこれに加わり、さらに 1999
年には、新しい学問分野の発展や学際的研究の進展に柔軟かつ機動的に対応するとともに、
外部資金による大規模研究プロジェクトの受け皿となる母体機関として、従来の研究所と
はまったく異なる組織形態を持つ研究開発機構が設置された。
2.教育研究組織の現況
このようにして、本学は、多摩キャンパスおよび後楽園キャンパスを主な拠点として、
教育研究体制の整備・充実に努めてきたが、さらに 1999 年 12 月には、それまで駿河台記
念館を軸に展開してきた社会人大学院の伸張による教育施設の狭隘化に対応すると同時に、
専門大学院の設置を始めとする将来計画を視野においた新たな都心拠点を確保するために、
市ヶ谷キャンパス(東京都新宿区)を取得した。
また、教育研究活動の直接的担い手である教員組織については、特に多摩移転後の学部・
学科の増設や新たな教育分野の拡大に合わせて、国内外から優秀な研究者が招聘され、大
幅な増員が図られた。その一方、専任職員については、事務組織の合理化とアウトソーシ
ングによる人員削減が長期計画に基づいて実施されてきた。これによって、多摩移転完了
直後の 1981 年度から 2000 年度までの 20 年間に、専任教員は 561 名から 608 名に増加した
のに対し、専任職員数は 628 名から 488 名に減少している。
この間、多摩キャンパスにおいては、移転当初の大問題であった立地条件に由来する困
難が交通網の整備とともに年ごとに緩和され、特に 2000 年1月の多摩モノレールの全面開
通によって大幅に改善されることとなった。さらに、大学財政も、財政改善への懸命な努
力によって次第に健全化が進み、次のステップに向けた本格的な財政投資を検討できるま
でに回復した。こうした多摩移転以来の課題の解決に向けた地道な努力の積み重ねが現在
取り組みつつある大胆な教育研究改革の展開を可能にしたと言えよう。
21 世紀に向けた目標の設定と具体化の指針
1.総合企画委員会による総合的将来構想の提起
本学は、建学以来1世紀余にわたる歴史を通じて、法曹界を始めとする各界に多くの優
れた人材を輩出することで、社会に大きく貢献してきたと自負している。しかしながら、
わが国の高等教育をとりまく環境の変化は、瞬時もとどまることなく続き、しかも近年そ
のスピードを一段と早めている。このような時代環境にあっては、良き伝統を継承しなが
らも、刻々と変化する社会の要請を的確に把握し、自己改革を推し進めることなしに、高
5
等教育機関としての使命を達成していくためには、自らの在り方を不断に検証し、それに
基づく改革を推し進めていくことが不可欠である。
1960 年代から 70 年代にかけて厳しい学園紛争を経験した本学は、1967 年に総長の諮問
機関として「研究・教育問題審議会」を設置した。その目的は、教育研究に関わる諸問題
について全学的視点から検討を加え、必要な改革案を提示することにあり、事実「本学の
総合的な将来構想及びその実現のために必要な具体的諸施策」、多摩移転を始めとするさま
ざまな大学改革も、その多くが同審議会の検討をベースに開始されている。その意味で、
この審議会は、自己点検・評価を先取りする制度であった評することができよう。
さらに進んで 1993 年には、教学と法人にまたがる全学的課題についてより総合的な検討
を行い、長期的展望に立った大学改革の目標を定めるために、理事長の諮問機関として「総
合企画委員会」が設置された。同委員会は、足かけ5年に及ぶ審議を重ねた結果、1998 年
3月、「本学の総合的な将来構想及びその実現のために必要な具体的諸施策」と題する報告
書を取りまとめ理事長に答申した。全体で 100 頁におよぶこの答申は、その前文において、
本学が目標とすべき課題を次のように提起している。
<総合企画委員会答申前文(抜粋)>
中央大学は、人類の叡智が生み出した、優れた社会的組織である大学の一つとして、何
よりもまず、人類の生存と福祉に貢献することを第一の目標としなければならない。人類
は、他から隔絶した存在として地球上に存在しているのではない。地球は、そこに存在す
るあらゆるものの生存の基盤であり、同時に、すべてのものの存在が地球の生存の基盤で
ある。学生が自らこの真理を探求し、地球上のあらゆるものとの共生と共存が人間の生存
と存在につながることを深く認識することこそ、本学における教育の眼目とすべきである。
地球上には、また、多様な国家や民族が存在し、それぞれの歴史が形作った価値観のも
とに、さまざまな生活を営んでいる。こうした価値観や文化の多様性を理解することなし
に、第一の目標を達成することは不可能である。したがって、第二の目標は、自国のそれ
を含めて、多種多様な国家や民族の言語・歴史・政治・経済などについて学修する機会を
提供することでなければならない。そして、これらの教育を実効あらしめるためには、多
様な文化的背景を持つ教員および学生を受け入れることによって、キャンパスにおける異
文化交流の機会を増加させるとともに、さまざま国や地域、とりわけアジア圏の大学や研
究機関との間に、質の高い交流実績を積み重ねることが重要である。
第三に、中央大学は、日本を代表する私立総合大学の一つとして、「全国型大学」の復活
に務めるべきである。かつて本学は、日本各地から学生が参集する全国型の大学であった。
しかし、近年においては、志願者、入学者とも関東1都6県の出身者が約7割を占め、首
都圏ローカル大学の様相を呈するに至っている。このような状況を克服するために、入学
者選抜方法に一層の工夫を加え、交通条件のハンディキャップを超えて志願者を引きつけ
る魅力を創造することが必要である。
第四に、中央大学は、実学の伝統を積極的に生かすべきである。言うまでもなく、本学
の目指すべき実学は、単なる実用技術の習得をもってこと足れりとするものでない。それ
は、広い教養と高い知性を兼ね備えたプロフェッショナルの養成であり、建学者たちが「品
性の陶冶された代言人の養成」を創学の目的に掲げた趣意もまさにこの点にある。
本学においては、実用を直接の目的としない学問分野の教育・研究も多面的に展開され
6 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
ているが、司法試験をはじめとする資格試験受験者の多くがこれを敬して遠ざける傾向に
あるのは、まことに悲しむべき現象である。各種国家試験の合格者をより多く輩出し、優
れたプロフェッショナルとして中央大学の社会的評価を高めていくためにも、こうした幅
広い教育の機会が無駄となることのないよう、一層の工夫が求められている。
第五に、中央大学における学部教育は、知的基礎体力の涵養を重視すべきである。社会
が急激な変化を繰り返す時代には、最新の専門知識も日ならずして陳腐化する。そのよう
な時代においてこそ、精選した素材を用いた基礎教育の徹底が求められるのである。
また、今日の学生は、偏差値を尺度として大学を選択する傾向が強く、必ずしも明確な
目的意識を持って入学してくるとは限らない。このような学生が自主的かつ自覚的な学修
主体として成長するためには、入学直後のオリエンテーションの徹底など、目的意識を高
める教育上の配慮が不可欠である。
第六に、中央大学は、研究の高度化を図るべきである。20 世紀における科学技術の進展
はまことに目覚ましく、特に核物理学、医療科学、遺伝子工学、情報通信技術、航空宇宙
工学、新素材開発等の分野においては、人類にとって未知の世界の扉を開く研究成果が続々
と生み出された。しかし、その一方で、学術研究が高度化すればするほど、学問の細分化
が進み、人類と地球との共生共存にとっては、むしろ無用、有害の結果を招来する事態も
生じている。
学術の研究は、人類の幸福と福祉に貢献するとともに、地球と人類との共生共存に寄与
するものでなければならない。そのような学術研究を推進するためには、専門分野ごとの
研究の高度化と同時に、その総合化や学際的アプローチが不可欠である。人類の生存と地
球環境の保全のためには、新しい価値観の創出や、それに基づく新しいパラダイムの創造
が求められているのである。
また、質の高い研究活動を推進するためには、優秀なスタッフを継続的に確保するとと
もに、大学院の拡充、研究所の発展的統合、研究費の重点配分など、自由な発想に基づく
創造的な研究を推進できる場と条件の設定が必要である。
第七に、中央大学は、建学の理念と学問的伝統を継承し、特色ある校風を確立するため
にも、核となる学生の養成に務めるべきである。そのためには、付属の高校との連携の強
化、さらにそれを推進する方策としての中高一貫教育の展開も検討に値する。有力私立大
学の中には、同じような目的から付属高校の出身者の比率を35%程度に引き上げていると
ころもあり、さらに小学校からの一貫教育を行っているところもある。
第八に、中央大学は、卒業生との連携を一層強化すべきである。大学の教育研究の成果
を体現するのは卒業生であり、各界各層における卒業生の活動は、中央大学の教育研究を
評価する重要な尺度となる。日本国内はもとより、世界各地に広まる卒業生のネットワー
クを構築し、卒業生の期待や社会的要請を敏感に吸い上げるとともに、卒業生に対して生
涯教育や継続教育の機会を提供することも必要である。
第九に、中央大学は、財政基盤の確立を図るべきである。私立大学が自らの教育研究の
目標を実現していくためには、財政的な裏付けが必要であり、それを欠いたままなされる
目標設定は画餅に過ぎない。財政基盤の確立には、長期にわたる不断の努力が必要である
が、支出構造を絶えず点検し、学費収入以外の財源の拡大を図ることによって、より高度
な教育研究の展開に迅速に対応できる財政を構築しなければならない。
7
2.将来構想の実現に向けた具体的改革課題の提起: 理事会基本方針(抜粋)
本学の長期的改革の方向性を示した総合企画委員会の答申は、それ自体、本学の現状分
析に基づく自己点検作業の成果である。しかし、そこに示された構想を現実化するために
は、財政的な裏付けを伴った具体的な肉付けが必要であることは言うまでもない。このた
め、総合企画委員会の答申を受けた理事会は、その実現に向けて喫緊に取り組むべき課題
を精査し、1999 年5月 17 日付で「21 世紀における本学の総合的な改革に関する理事会基
本方針」を策定した。
この理事会基本方針は、1998 年 10 月に発表された大学審議会答申が「高等教育を取り巻
く 21 世紀初頭の社会状況等を展望し、21 世紀の大学像を提案するとともに、その改革の方
策として、学部教育の再構築と大学院のダイナミックな改革を提案している」ことを踏ま
えながら、本学もまた「わが国の高等教育の全般的な改革の流れに沿って、学部改革、研
究所改革をさらに推進するとともに、大学院の大胆な改革を強力に推進する必要がある」
との認識を示したうえで、本学が取り組むべき喫緊の課題を次のように整理している。
(1)学部の改革
①夜間部の改編・廃止(2000∼2004 年度)と学部通信教育制度の拡充
②学部定員の見直し・改編、学部・学科の改組の検討
③多様な入試制度の導入と多様な学生の受け入れ(AO入試制度の導入、科目等履修生
制度、編入学制度、単位互換制度、留学生・帰国子女受け入れ制度、社会人・主婦等
学生の受け入れ、全国型大学の確立等)
④学部教育の改編・再構築=高等学校、学部、大学院教育の一貫性・関連性の確立(カ
リキュラムの抜本的改正、国際交流に適したセメスター制の導入等)
⑤教育機能強化を目指した教育手法の改革(Faculty Development、少人数教育、ゼミ形
式授業体制の拡大、シラバスの充実、インターンシップ、マルチメディアの活用、遠
隔授業等)
(2)大学院の改革
①大学院教育の量的拡大と多様化を目指す組織改編(研究者養成コース、高度専門職業
人教育コース、社会人再教育(生涯学習)コースの設置
②独立型・総合型大学院の設置(新しい大学院教育に必要な教員組織の確立及び専用施
設の確保)
③大学審議会答申に示された「特化大学院」の設置(Law School, Business School,
Accounting School, Policy School)
④民間研究機関、公共研究機関、外国の大学院・研究機関との連携大学院の設置(教育
プログラムの国際化、教員スタッフの国際化、研究交流の推進)
⑤大学院教育の通信教育制度の新設(本学の「建学の精神」である「校外生制度」を大
学院教育へ進展)
(3)研究所(研究機能)の改革
①世界に向けて本学の研究成果を発信するための研究拠点としての組織の設置
②研究活動を活性化するための外部資金導入の受け皿としての組織の設置
③COE、TLOなど、研究成果の発信機関の設置
8 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
④細分化されている既存研究所の改編、事務組織の統合化の推進
(4)実学重視の伝統を維持するための課外教育制度の改革
①司法試験、公認会計士試験、公務員試験等国家試験対応の各種講座の拡充
②クレセント公開講座等の課外教育の充実・拡大
(5)付属高等学校改革と中高一貫教育制度の検討
①高等学校・大学・大学院教育におけるカリキュラム上の連携の強化
②付属高等学校と大学との関係、教育内容、教員組織、立地条件、生徒の構成等の再検
討
③付属小・中学校の設置の検討
(6)情報環境の整備
教育研究用情報処理環境の充実並びに図書館、視聴覚システムを含めた学術情報セン
ターの設置等
(7)学部・大学院・研究所の改革に連動した事務組織の改革
①現状業務の再検討、組織統廃合の積極的な推進
②専任職員、非常勤職員の役割分担の明確化、業務のアウトソーシング
教育研究組織における改革課題
以上のような総合企画委員会による現状評価とそれに基づく将来展望の提示、そしてこ
れを受けた理事会による喫緊課題の抽出が行われる一方、各学部・研究科・研究所ではそ
れぞれの組織評価委員会を組織し、独自の点検作業を行った。これらの点検作業に関する
詳細な報告は、各学部・研究科・研究所の記述に譲ることとし、ここでは、全学横断的な
課題に関して、自己点検の結果明らかになった教育研究体制の問題点と今後本学が目指す
べき目標を学部・大学院・研究所ごとにまとめて整理する。
1.学部等における改革課題
本学では、
特に 1990 年代から学部・学科の新増設を含む大胆な学部改革を進めてきたが、
さらに学部教育の質的充実を達成するためには、次のような改善・改革を押し進めること
が求められている。
(1)夜間部の改編・廃止と学部通信教育制度の拡充
2000 年度(文学部は 2001 年度)より学部二部(夜間部)の学生募集を停止し、法学部お
よび商学部は昼夜開講制学部に移行し、経済学部、理工学部および文学部は夜間部を廃止
する方針を決定したが、夜間部廃止に伴う経過措置期間が終了した時点で、さらに大胆な
学部教育の再構築に取り組むべく、新たな検討を開始する必要がある。
また、「開かれた学部教育」の担い手である通信教育制度を拡充するために、高度情報通
信技術の活用によるハード面の整備を進めるとともに、社会の需要に応える授業コンテン
ツの作成など、ソフト面の開発に努めるべきである。
(2)学部定員の再配分と学部・学科の改組再編の検討
学術の進展や社会の変化は想像を超えるほど急激であり、各学部におけるカリキュラム
9
や教育方法の見直しなどで、十分に対応できるとは限らない。したがって、従来の学部の
枠組みを超えたより抜本的な取り組み、より具体的には、学部定員の再配分や学部・学科
の改組再編をも視野に入れた大胆な対策を検討すべきである。
(3)多様な入試制度の導入と多様な学生の受け入れ
多様な進学希望者の中から本学が意図する学部教育の目的に合致する入学者を選考する
ためには、従来にも増してその選考方法に工夫をこらすことが必要である。そのために、
面接試験の導入、年間を通じて適格者を選考するAO方式の採用等について、さらに具体
的な検討を進めるべきである。また、本学に学ぶ学生の中で首都圏出身者の占める割合が
70%近くに上る状況を踏まえ、全国型総合大学の復活を視野においた学生選抜を真剣に模
索すべきである。
一方、生涯教育のニーズの高まりとともに、社会人・主婦層の間には大学で学ぶことを
希望する人々が確実に増加している。こうした社会の需要に応えるために、科目等履修生
制度と関連した長期在学コースを検討する必要がある。確かに、本学の今後の教育研究政
策を展望すると、いたずらに学部レベルの定員増を図るべきではない。しかし、科目等履
修生制度や編入学制度等の拡充は、学生人口の多様性を高めるのみならず、短大・高専卒
業者への門戸開放、不本意入学者に対する軌道修正の機会の提供という意味からも社会的
な意義がある。本学はまず多摩地域に所在する 70 を越える大学等との協力関係を強化し、
学術情報の収集や保存等の協力、単位互換制度の拡充、留学生増加対策等に主導的な役割
を果たすべきであろう。
(4)学部教育の改編・再構築
高等学校、学部、大学院教育の一貫性・関連性の確立を図る必要がある。そのためには、
カリキュラム改正に加え、抜本的な改正も必要である。例えば、オリエンテーションを徹
底し、将来の到達目標を明示するコース制の設置や、大学院進学を希望する学修意欲の高
い学生に対して大学院の講義を受講する制度の充実を図り、さらに、他学部、他学科履修
の制約を大幅に緩和し、自己の専攻した領域以外の主題についても学修する道を開くべき
である。このようなきめの細かい教育指導を行うためには、教員のさらなる負担増が予想
され、研究時間の確保がさらに困難になるものと予測される。3期、4期の複数学期制の
採用によってこれらの解決を図るとともに、留学生や帰国子女の受け入れを容易に行える
よう考慮すべきである。
(5)教育機能の強化を目指した教育手法の改革
学修に臨む態度や意欲を啓発するために可能なかぎり少人数教育やゼミ形式の授業体制
の拡大を図るべきである。自主的・創造的に問題を発見し、それを解決する能力を涵養す
るためには教授法の研究、シラバスの充実や、マルチメディアの活用、遠隔授業等の教育
機器の利・活用をさらに進めることが重要であり、それに必要な施設・設備の拡充や改善
も不断に行われなければならない。さらに、在学中に社会での就業体験を得るインターン
シップについては、これをさらに充実させる方向で検討すべきである。
2.大学院における改革課題
本学は、学部改革と連携しながら研究科・専攻・課程の増設等を行い、また教育研究面
でもさまざまな改革を実施してきたが、その中でも、近年とりわけ重点的に取り組んでき
10 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
たのは、
「実学の伝統」の強化であった。時あたかも、大学審議会が『21 世紀の大学像と今
後の改革方策について』
(1998 年 10 月)と題する答申をまとめ、大学院の役割として、
(ⅰ)
学術研究の高度化と優れた研究者の養成機能の強化、(ⅱ)高度専門職業人の養成機能、社
会人の再学習機能の強化、および(ⅲ)教育研究を通じた国際貢献を掲げたが、このうち
特に(ⅱ)を受けて、2000 年 12 月 7 日に国際会計研究科の設置が理事会において承認され、
2002 年4月の開設に向けて着々と準備が進められている。この国際会計研究科は、最新の
会計・ファイナンス理論と実務の融合を基本コンセプトに構想されたわが国最初のプロフ
ェショナル・スクールであり、これからの日本経済を担う高度な会計・ファイナンス専門
家の養成機関として、内外の期待を集めている。
また、法科大学院(仮称)の開設についても、すでに具体的な検討が開始されているが、
これらの専門大学院構想は、本学の長年の学部教育における実績なしには考えることがで
きない。以下に述べる大学院改革の課題は、大学審議会が掲げる3つの大学院の役割の強
化方策すべてに関わるが、本学においては、学部の機能と組織が大学院の教育研究強化の
基盤となっているところに特徴がある。
(1)新アカデミズムの実現
①
新アカデミズムとは
本学大学院における教育研究の活性化、教育研究レベルの飛躍的向上、博士学位を取得
した優秀な研究者や高度の研究能力と独創性を持った専門的人材の育成強化、先端的な研
究や新しいパラダイムの創出と世界に向けての発信等に特徴づけられるアカデミズムをこ
こでは「新アカデミズム」と呼ぶことにする。各研究科は本学大学院の理念に則ってこの
ような新アカデミズムを実現すべく最大限の努力を続けている。
②
専門大学院と新アカデミズム
国際会計研究科とそれに引き続く法科大学院(仮称)の実現は、もはや時間の問題であ
る。これらの専門大学院が軌道に乗り、所期の成果を上げることができるよう全学を挙げ
て努力する必要がある。その実現は世界に存在感を示す大学を目指す本学にとって大きな
弾みとなる。また、両専門大学院に加わる新たな人的資源と施設・設備は、新アカデミズ
ムの実現にとっても、直接・間接的に寄与することになる。
そもそも、両専門大学院は、社会の急速なグローバル化と多様化に即応して重要かつ高
度な役割を果たすことが期待される法曹や国際会計人など、主として実務担当者の養成な
いし再教育に特化されたプロフェショナル・スクールであり、大学審議会の言う大学院の
役割(ⅱ)に関わる。これに対し、新アカデミズムは主として大学審議会の言う大学院の
役割(ⅰ)学術研究の高度化と優れた研究者の養成、および役割(ⅲ)教育研究を通じた
国際貢献に関わるものであり、これら(ⅰ)と(ⅲ)の役割は主に従来型の大学院(特に
後期課程)が果たさなければならない。その意味で、本学の各研究科が創意と工夫をもっ
てこれらの機能強化を進めてきていることは評価される。ただし、従来型大学院の役割は
大学審議会の言う大学院の役割の(ⅰ)と(ⅲ)に必ずしも限定される必要はない。同様
に、専門大学院も新アカデミズムの一翼を担うことが期待される。
③
新アカデミズム実現の方策
本学においても新時代に相応すべく分野を多角的に横断できる独立型の総合大学院の設
置や既存の学部・研究科の全面的再編成を求める声が出ている。「新形態の連携教育システ
11
ム」(大学院改革協議会『新たに展開される本学大学院のモデルについて(都心展開モデル
を中心に)−平成 11 年5月 27』27−28 頁を参照)も1つの提案として注目してよい。い
ろいろな選択肢の中から、コスト、柔軟性、有効性等の面で、新アカデミズムを実現する
ためのベストの方策について早急に学内合意を得る必要がある。ただし、
「タスキ掛け人事」、
兼担、他研究科履修枠の拡大、学科・研究科の枠を越えた関連科目のクロス・リスティン
グなど、すぐにでも実現可能な方策もあり、一部すでに実現しているものもある。これら
は新アカデミズム実現のために順次実施、あるいは強化していくべきであろう。この関連
で、東京外国語大学および東京都立大学と本学との間で協定が結ばれ、3大学大学院の緊
密な連携がスタートしたことは高く評価される。今後も学内外の大学院・研究機関との連
携を一層拡大・強化する必要がある。
④
博士課程後期課程プログラムの整備・強化
博士課程前期課程では、理工系・文系の如何にかかわらず、2年から4年の間に修士論
文を書かせ修士の学位を授与するのが慣行となっているが、文系の後期課程では、これま
で、3年以上在籍し、研究指導を受け、必要な単位を取得しても、博士論文を提出させ博
士の学位を授与することはむしろまれであった。教員も学生も、課程博士を論文博士に限
りなく近いものと考え、課程博士の学位審査にあまりにも慎重でありすぎたと思われる。
近年、特に社会人や留学生の事情や要請を考慮して、課程博士の学位を授与する研究科も
増えつつあるが、文系の研究科にあっては今なお課程博士取得が博士課程プログラムの不
可分の目標とはなっていない。
しかし、最近では、大学院のある大学は若手教員の採用に際しても博士の学位を要求す
るところが増えているのが実情である。文系の大学院修了者や大学院在籍中の学生から博
士の学位取得に対する強い希望が出てくることは目に見えており、文系各研究科がその対
応を迫られるようになるのは時間の問題と考える。
したがって、3年から6年の間に博士課程のレベルを落すことなく博士の学位を取得で
きる具体的プログラムを早急に整備することが急務である。このことは、また、博士後期
課程に在学する学生に対して勉学・研究計画を立てる上での指針を与えるのみならず、学
生の意欲を喚起することにもなり、新アカデミズムの実現にも繋がるものである。
また、本学出身の大学教員(専任)は、2000 年度時点では 460 大学で活躍しており、そ
の総数は 1,417 名に達している。博士課程後期課程に在籍する学生の進路の中心として、
大学教員が位置づけられるが、そのための経験機会(通信教育課程のインストラクターや
ティーチング・アシスタント)や情報の提供、指導、本学出身他大学教員との連携等を含
むシステムの整備・強化も望まれる。
⑤
学部+大学院教育システム
理工系諸分野においては、専門的な知識と高度な研究能力を習得するとともに、健全で
調和のとれた科学技術を進展させるための幅広い視野と豊かな人間性を身に付けるために
は、4年間の学部教育だけでは十分にその効果を上げることが困難になってきている。文
系の諸分野においても、国際化やIT化などによって、専門分野における高度な能力に加
えて高い語学力と情報処理能力が要求されるようになってきている。したがって、理工系・
文系の如何にかかわらず、多くの分野で、大学院での更なる研鑽が不可欠となっている。
大学院としても、学部を視野に入れた大学院カリキュラムを早急に確立することはもち
12 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
ろんのこととして、大学院の授業を一部学部学生に正規の科目として開放し、彼らの勉学
意欲を刺激する試みはすでに一部実施をはじめており、このような形で優秀な学部学生の
大学院進学を奨励することは実質的な目標として評価される。しかし、このことは他大学
を卒業した本学大学院への進学者に不利益をもたらすものであってはならない。なお、異
なる分野の出身者に対する教育上の配慮が未だ十分であるとは言えないということも付け
加えておく。
学部で専門分野の基礎的能力と高い語学力を身に付けた大学院進学者は、結果的に大学
院の教育研究レベルを高めることになり、新アカデミズムの実現に大きく寄与することが
期待される。
⑥
大学院奨学金制度の大幅拡充
優秀な学生を集め、恵まれた環境のもとで研究に専念させ、彼らを最先端の専門的知識
と高度な技能を身に付けた人材として世に送り出すことは本大学院の最も重要な役割であ
る。それには、奨学金制度の充実を始め、大学院学生が研究に専念できる経済的バックア
ップが不可欠である。
本学では、在学料(入学金、実験実習料、特別研究指導料等を除く学費)を国立大学大
学院の授業料と同額とすることによって、大学院学生の経済的負担の軽減に配慮している
ほか、無利子の貸与奨学金は現在希望者全員に貸与しており、この面での本学の配慮は大
いに評価されてよい。しかし、今後の大学院奨学金は給付を基本とすることが望ましい。
特に研究者養成をその重要な役割のひとつとする従来型の大学院の場合、優秀な学生には
授業料相当額を給付することが最低必要であるが、生活費の相当部分も賄えることが理想
である。また、後に取り上げる国際化の問題とも関連するが、外国からの優秀な留学生(ア
ジア諸国からの留学生も多い)の増加を望むならば、彼らのためにも授業料のみならず生
活費相当部分を含めた奨学金制度を早急に確立する必要があろう。
なお、奨学金の原資は大部分寄付等によらざるを得ない。残念ながら、このような寄付
に関する考え方は我が国では必ずしも一般的でなく、これまでに、奨学金制度拡充のみを
謳った寄付キャンペーンはほとんど行われていない。今後、この奨学金制度の拡充を図る
ために、法人・教学組織が知恵を絞り、奨学金制度の拡充についての方策を検討する必要
がある。
これに関連して、教育補助員(TA)制度や研究補助員(RA)制度は、奨学金制度と
はその機能・性格を異にするが、大学院学生にとっては教育研究の現場にいながら一定の
経済的メリットを得られる制度であり、今後さらなる拡充が望まれる。
⑦
研究専念期間制度の拡充
学部と大学院の教育改革が進むにつれて教育指導体制が多様化し、ともすれば教員の研
究時間が減少していく傾向が見られるのは問題である。このような状況において教員が十
分な教育研究レベルを維持するためには、研究助成費の増額もさることながら、より効果
的な研究専念期間を保証する制度の確立と拡充が不可欠である。
(2)本学の国際化
従来型の大学院の教員は、学部の専任教員の中から任用されることになっている。大学
院の専任教員は、事実上全員が学部の教員であり、学部の教員採用に実際に関わっている
ほか、学部の教員人事が大学院の教員任用を規定するので、本点検・評価において教員人
13
事についても触れざるを得ない。
従来の教員人事では、日本における人材に留まることなく積極的に世界の人材を視野に
入れているわけではない。最近、本学では、いろいろな雇用形態が採用されるようになっ
た。中には特定の学部・大学院に限定した雇用形態もあるが、もしこれらを全学的に利用
可能にすれば、世界の研究者の中から本学に相応しい優秀な教員を招聘することが可能に
なる。このことは、新アカデミズム実現に大きく寄与することは疑いない。
現在の日本における教育・研究機関で働く外国人研究者の多くは短期滞在型か非常勤の
形で採用されているのが現状であり、この流れを抜本的に見直して真の意味での国際化を
実現するためには長い時間と努力が必要である。本学においても、世界に開かれた大学院
を目指さなければならない。もし外国人教員が学部教授会もしくは研究科委員会メンバー
の相当部分を占めるようになり、外国人留学生を支援する奨学金制度が拡充するようにな
れば、本学ははじめて世界に開かれたと言える。
(3)生涯学習・遠隔地学習と大学院
「大学とは、高校卒業後、18 歳前後から 27 歳前後の人生の限られた期間にフルタイムの
学生として、主に昼間、その場に出向いて勉強するところだ」という伝統的大学モデルに
対置される形で、もう一つの魅力的な大学モデル(バーチャル・ユニバシティもその一例)
を検討すべきであるが、本学では未だその段階に至っていない。現在、情報通信技術の発
達・普及と規制緩和により、色々なプログラムが可能になってきている。そうすれば、聴
講生制度、科目等履修生制度、エクステンション・プログラム、通信教育(遠隔地学習)
制度など、これまでバラバラに制度化され、実施されてきたプログラムを新しい大学モデ
ルで包むことができるだろう。このことは、また、本学の「建学の精神」である「校外生
制度」を 21 世紀に生かす道ともなる。
本学の大学院は既に社会人に開放されており、その点で高い評価も受けているが、更に
広く一般の社会に開かれた大学院にするという目標を掲げることが重要であろう。本学に
おいても、既存の人的資源や施設・設備を活用することにより、現行の学部通信教育課程
を進化させた形で、このような大学院を実現することも視野に入れる必要がある。
3.研究所における改革課題
言うまでもなく、大学の2大機能は研究と教育にある。教育内容の高度化は、研究活動
の成果によって担われる。研究と教育が常に密接不可分の関係にある点に、大学に設置さ
れた研究所の特徴と長所がある。本学における教育研究体制は漸次整備されつつあり、研
究所についても一定の改善の努力が払われてきた。しかし、大学をとりまく環境の急激な
変化に対応するには、今後さらに研究所の充実に向けた改革の努力を継続していくことが
必要である。
国際的にみた研究活動の立ち遅れを自覚する日本の主要国立大学では「大学院大学」化
と結びつけて、研究水準の向上への体制を整備してきているし、主要私立大学でも同様の
方向が模索されている。こうした状況のなかで本学の9研究所が研究体制の改革に着手し、
将来のあり方を展望するにあたっては、少なくとも次の3つの視点を踏まえることが重要
である。
その第一は、本学の教育研究体制全体の見通しとの関連である。本学は、研究中心の大
14 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
学あるいは教育中心の大学のいずれかに特化することを目指してはいない。研究と教育を
両立させながら、世界的な研究水準を確保することを目指している。この両者の関連のあ
りようが、教育機関を併設していない民間研究所や一部の国立研究所と、大学に設置され
ている研究所との大きな違いであり、本学の研究所のあり方を基本的に規定する。
第二は、研究水準の向上という研究所の独自性を保持しつつ、大学院との連携を強める
ということである。大学院改革が進むにつれて、社会人を含む後期課程在籍者数が増加し
ており、研究所と連携して高度な研究を行うことへの要求が高まってきた。大学院学生と
いう次代を担う若手の研究者を常時、豊富に擁していることが大学に設置された研究所の
大きな長所である。現在も多くの博士課程後期課程の大学院学生が研究所の準研究員とし
てプロジェクトに参加しているが、予算制度等の制約で大学院学生の増加に応じ切れてい
ない。この長所をさらに発揮する方向で、さらに改善を進めることが重要である。
第三は、総合学術情報センター構想との関連である。研究所は国内外の学術情報の受信・
貯蔵とともに、独創的な研究活動によって得られる学術情報の編集・発信機能を充実させ、
研究と教育のための良好なインフラストラクチャーを提供する責務を担っている。したが
って、本学の 21 世紀における基本戦略として、総合学術情報センターを構想する場合には、
このような研究所の機能を重要な柱として位置づける必要がある。
(1)研究所の再編成
以上のことを前提とするならば、従来独自に運営されてきた9研究所は、何らかの形で
再編成する必要があるであろう。なぜならば、環境問題に代表されるように、21 世紀の知
は学際化、総合化を求められる。また、国内外で激化する大学間あるいは研究所間の競争
をバネにしてさらなる研究・教育水準の向上を図るためには、人的、物的、財務的資源を
一層有効に活用し、重点的な資源配分を行うことのできる機関とすることが必要である。
このような状況に対応するための研究所再編の方向としては、次の3つのケースが考え
られるが、そのいずれを採用すべきかについて、今後早急な検討が望まれる。
①
単一の総合研究所構想
②
社会科学系諸研究所など、部分的な統合化構想
③
現在の研究所体制を前提にしながらも、各研究所の構造改革を進め、その上で共同
化を強化する構想
(2)創造的研究体制の創出
上に述べた研究所の再編成と並行して、あるいはそれに先だってなされるべき課題があ
る。これらはいずれも本学の研究所が世界の研究水準に互して、創造的な研究を生み出し
ていくために不可欠のものである。
①
大型プロジェクトへの対応
現在の各研究所の多くのプロジェクトは極めて少ない予算で運営されている。それは多
くのプロジェクト希望があるということである。しかし、世界に互する研究水準を確保し
ていくためには、大型プロジェクトを企画し、有為の人材と豊かな資金を投入しなければ
ならない。もちろん、そのために一私立大学がなしうることは限られている。だが、少な
くとも以下の二点の対応が必要である。
a)大型プロジェクト予算の計上:国内外の研究者や研究機関との共同研究を容易にする
ために、大型プロジェクトを推進できる体制の整備が必要である。
15
b)外部資金の導入:科研費をはじめ多様な外部資金の導入が可能になってきている。そ
の受け皿として、現存の研究所だけでなく、それらにまたがる共通のリサーチ・ユニッ
トの設置も必要になってくる。これに伴って、プロジェクトの編成方法とそれを支援す
る事務組織の再編も必要になってこよう。
②
情報化への対応
国内外の主要大学・研究所および企業とのネットワークづくりをさらに積極的に進める
とともに、情報発信機能の強化を図る必要がある。その場合、図書館の総合学術情報セン
ター構想との関連や大学院との連携のあり方も考慮する必要がある。また、全国でも数少
ない大学出版部を有する本学のメリットを生かし、インターネット情報に加えて出版物の
形で研究成果を海外に向けて発信できるよう、出版部を強化し研究所との連携体制を整備
することが重要である。
③
国際化への対応
①のプロジェクトの多くは国際的なものとなるであろうし、その他のプロジェクトも国
際化してきている。研究所独自に大学院学生を含む海外の研究者との交流促進を図るため
には、研究施設などのハード面の整備とともに、大学院との連携を通じたソフト面での整
備も重要である。この対応のためには、研究者の交流に特化した研究所独自の国際交流機
関を設置するか、あるいは現在の国際交流センターとの関連を検討する必要がある。
④
専任研究員制度の設置
研究開発機構には既に設置されているが、各研究所にとっても専任研究員制度の設置は、
必要なことであり、また多様な設置形態が考えられるので、重要な検討課題とすべきであ
る。
⑤
若手研究者の育成
大学院博士課程後期課程への進学者の増加を踏まえ、大学院との連携による、若手研究
者の養成プログラムを組み込む必要があろう。
以上のことがらは、研究所の改革にとどまらず、本学の総合的将来計画のための検討課
題でもある。民間企業に見られる激しい競争は大学にも及んでいる。企業と大学を同じ尺
度で評価すべきでないことはいうまでもないが、アウトプットとしての成果が厳しく評価
される情況に変わりはない。大学に設置された研究所のメリットを最大限に発揮し、本学
の研究活動を一層活発かつ水準の高いものとし、その成果を人類の福祉の向上に生かすた
めに、各研究所および9研究所間の協議機関において、改善と改革に向けての具体的な施
策を継続的に検討し実施していく体制を早急に整備することが必要である。
16 第1章 中央大学の理念と教育研究組織
第2章
学部
本章では、各学部ならびに学部共通プログラムである教育職員養成課
程、その他の各種資格課程について、それぞれの組織体が行った点検・
評価の結果を報告するが、その前段として、第1章「中央大学の理念と
教育研究組織」の「教育研究組織における改革課題」で述べた学部全体
に共通する課題を再確認するとともに、これらの課題についてその改革
の方向性を総論的に記述する。
17
学部改革の方向性
(1)夜間部の改編・廃止と学部通信教育制度の拡充
すべての学部において二部(夜間部)の学生募集を停止したことにともない、経過措置
期間が終了し、二部(夜間部)が廃止された時点でカリキュラムを改訂すべく、各学部内
に委員会を設け、検討を進めている。その際、新たに昼夜開講制度(本学では「フレック
ス制度」と称する)を導入した法学部および商学部においては、今後の実績を調査すると
ともに、フレックス制度の見直しも視野に入れる必要がある。
また、法学部通信教育課程に関しては、法科大学院設立にともなう法学部の将来構想の
もとに通信教育部が果たすべき役割を明確に見定めることが不可避であり、新たな方策を
検討すべきである。
(2)学部定員の見直し・改編、学部・学科の改組の検討
2004 年度において臨時的定員の 50%恒常化が終了するため、大学全体として望ましい学
部定員、学部・学科の改組再編を検討する必要がある。また、法科大学院設立に伴い法学
部の基盤をいかに再構築するかも検討すべきである。
(3)多様な入試制度の導入と多様な学生の受け入れ
一般入試において、さらなる工夫、例えば論理的思考能力や文章作成能力を備えた学生
を選抜するなどの検討が必要である。また、高校と大学との連携教育に関してもさらに充
実を図り、特に付属3高校については法人・教学・付属高校と一体となり検討すべきであ
る。一方では各学部の政策・方針を反映した奨学金制度を運用し、高校生にとって魅力的
な入試制度とすべきであろう。すでに実施されている東京都立大学、東京外国語大学など
との全学レベルでの交流協定制度を足がかりとし、相互に学修を補完するための計画を具
体化すべきである。短大・高専卒業者に門戸を開放することに加え、専門学校においての
既修得単位の取り扱いも議論が必要である。多様な学生を受け入れるため、入学前準備教
育や入学後補習授業についても全学的な対応が望まれるが、同時に入試を含め教員にとっ
て負担が増大することを避ける方策が必要である。
(4)学部教育の改編・再構築
学科ごとの組織的活力と独自性を活かしながら、学部全体としての一体性を確保して教
育を改編・再構築する仕組みを図らなければならない。また、社会人の再教育や生涯教育
の要請に対応できるよう検討が必要である。授業科目における専任・兼任教員比率につい
ては専任教員の比率を高める方策を検討すべきである。セメスター制度に関しても、現状
の評価にもとづき、再検討の余地がある。学生が幅広い知識を得るため他学部・他学科履
修制度の充実を行ったが、さらに推進をはかるべきであろう。この制度の発展型として既
存の学部の教員組織および教育課程に依拠しつつ、学部間に共通する教育の場を設けるこ
とによって学際的な領域の教育を系統的に学修する、少人数の演習科目を基本とするファ
カルティリンケージ・プログラム(添付資料参照)が発足することになった。
(5)教育機能の強化を目指した教育手法の改革
少人数教育やゼミ形式の授業体制が教育的効果を高めることは明らかであるが、それら
の導入による担当教員の負担を軽減する方策を検討すべきである。シラバスに関しては、
18 第2章 学部
さらに内容を充実しWeb上でも見ることができるよう工夫する。著しく発展している情
報通信技術を活用し、通信授業も視野に入れなければならない。学生への個別指導である
オフィスアワーについてはさらに効果を発揮するよう再検討すべきである。社会との接点
が少なくなる傾向がある今日的学生にとって、企業において就業体験を得るインターンシ
ップ制度をさらに充実する必要がある。
(6)教員任用の多様化と教育補助要員制度
上記の方策を具現化するためにも、任期制専任教員(特任教員)、任期制助手など教員任
用の多様性を活用し、教育研究支援のためのTA(ティーチング・アシスタント)制度を
充実することが必要である。
19
法学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
中央大学法学部は、本学の前身である「英吉利法律学校」(1885 年創設)以来の「在野
の精神」を尊ぶ学風を一貫して継承し、併せて、
「実学の重視」と「開かれた教育」の実践
を目指してきた。在野精神を尊ぶ伝統は、自由で批判的精神に満ちた学問研究の絶えざる
追求とその成果を学部教育に還元する努力の中で具体化される。また、実学を重視し、開
かれた教育を目指す伝統は、一方において、日常的な教育研究の蓄積を通じて社会的に貢
献しうる能力を備えた人材の輩出に不断に努めるとともに、他方において、多彩な入学志
望者に対応しうる教育課程の整備を継続的に行うことにより、現実のものとなる。
本学部は、最も長い伝統を有する法律学科、間もなく 50 周年を迎えようとしている政治
学科、そして 1993 年設立の国際企業関係法学科の3学科からなり、それぞれが独自の教育
目標を有している。
法律学科は、法律学の体系的な学修を基本目標とし、法律学の基本的な知識の修得、法
曹養成および広義の法律専門職の養成、さらに国際的に求められる法律学の応用能力の育
成を目指している。本学部に付設されている通信教育課程も同様である。
政治学科は、地域・国家・国際レベルでの政治的事象を総合的に捉えるために必要な基
礎的素養の修得を基本目標とし、政治社会について適切な理解、公共行政問題に関する政
策的・制度的理解、国際関係についての理論的・実際的理解の向上を目指している。
国際企業関係法学科は、企業のグローバルな行動がもたらす法的諸問題を適切に把握す
る能力の修得を基本目標とし、基礎的経済知識を中心とする関連専門知識の学修と外国語
の実践的コミュニケーション能力の向上を重視している。
【点検・評価
長所と問題点】
中央大学の歴史を自らの歴史として歩んできた本学部は、その伝統的気風を強く受け継
いでいるが、それが強みであると同時に、問題点を内包させることとなっている。
最大の強みは、実務法曹界を中心として、しばしば「法科の中大」と呼ばれる有為な人
材を輩出してきていることである。この実績が持つ意味は、本学部にとってきわめて大き
く、また、その社会的要請に応え続けることが強く求められている。
また、新しい社会・経済的環境の変化に柔軟に対応することを目的として、1950 年代前
半における政治学科の設置、それからほぼ 40 年後における国際企業関係法学科の新設が行
われた。
これら3学科が所期の目的を十分達しえているかどうか、そのことが現在問われている
基本的な問題点である。
そのうえさらに、法科大学院設立に向けて取り組みを開始した今日、それが学部教育に
及ぼすであろう甚大な影響を抜きにして、本学部の将来を語ることができない状況に置か
れている。本学部の理念、各学科の基本目標の再定義が求められるのは必至である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
法科大学院設立に伴う影響にどのように対応し、今後に向けた法学部教育研究の確かな
20 第2章 学部
基盤をいかに再構築しうるかが、当面の最大の課題である。状況が未だ流動的で、不確定
な部分が残っているため、今後の教員人事計画を含め、必要とされる具体的な対応策につ
いては定まっていない。
そのことと関連して、現在の本学部における改革課題として重要であるのは、法律学科
のほか政治学科と国際企業関係法学科を有する3学科体制のもとで、いかにして学部とし
ての組織的一体性を確保し、組織的凝集力を高めうるか、という問題である。学科ごとの
組織的活力と独自性を活かしながら、学部全体のまとまりを保持するための具体的方策が
必要である。
また、中核となる法律学科自体、一方では通信教育課程との、他方では課外の法職講座
(「第5章
教育研究支援
実学の伝統と国家試験」参照)等との有機的連携をどのように
図るべきか、という大きな問題を抱えている。政治学科における独自性を追求したコース
制のデザインについても本格的な再検討を要するであろうし、国際企業関係法学科に関し
ても、専門性の強化と他分野とのリンケージの必要性をいかに両立させるかが、依然とし
て問題である。
これらの問題に取り組むには、学科の壁を超えた問題認識の共有化を図るための仕組み
をさらに整備することが求められるが、当面は、法科大学院設立にともなう影響への具体
的対応策を検討することに焦点を定めたうえで、学部としてのやや長期的な教員人事計画
の策定に早急に取りかかる必要があろう。それへの取り組みを通じて、いずれの学科の、
どの専門分野について、なぜ新任人事を急がなければならないか、どこに力点を置いて教
員人事の具体化を図るべきか、という共通の関心事についての相互理解が深まり、本学部
の将来構想を明確にするための布石となることが期待される。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本学部は、法律学科、政治学科および国際企業関係法学科により構成されている。この
うち国際企業関係法学科は、基礎となる法律系専門科目において法律学科と共通するとこ
ろが多いため、教育研究組織の中の専任教員組織について述べるには、法律系2学科の法
律学分野を一括して扱うこととする。また、3学科に共通する総合教育科目、外国語科目、
保健体育科目についても、一括して取り上げる。
「5−(4)
教育研究活動の評価」にある「表6
専任教員の部会別・身分別構成」
のような専任教員の陣容によって3学科の教育研究組織は組み立てられているが、学部教
育課程における制度的特徴は、第一に、本学部に通信教育課程(通信教育部)が併設され
ていること、第二に、二部(夜間部)の募集停止にともない、いわゆる「フレックス制」
が導入されていることの2点にある。各学科の教育課程および教員組織については、学科
ごとに置かれた運営委員会、科目担当者会議、専門分野別の部会が関係する職務を分担し、
通信教育課程については、独自の運営委員会が設置されている。また、学校法人中央大学
によって別置されている課外講座の「法職講座」は、実質的に本学部専任教員を中心とし
て運営されており、学部の教育研究組織と密接不可分な関係にある。
専任教員の共同研究活動は、専門分野ごとに組織される研究会の開催を通じた研究活動
のほか、日本比較法研究所、社会科学研究所、人文科学研究所、経済研究所、政策文化総
21
合研究所、保健体育研究所などの調査研究プロジェクトへの参画を通じて行われている。
法律学分野と関係が深いのは日本比較法研究所、政治学分野は社会科学研究所および政策
文化総合研究所、財政・経済学分野は経済研究所、総合教育科目および外国語科目は人文
科学研究所、保健体育科目は保健体育研究所である。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員の専門分野別編成に見られるとおり、現在の本学部教員組織は、他大学に比べ
ても相対的に充実しており、これまでのところ、現行の3学科体制のもとで、比較的充実
した教育活動を展開してきている。各専門分野別の研究会活動、上記の関連研究所におけ
る調査研究プロジェクトへの参画も活発である。
しかしながら、ここでも、法科大学院設立に伴う甚大な影響にどのように対応するかと
いうことが、当面の最重要課題となっている。その直接的影響は法律学分野にもたらされ
るが、当面の教員人事計画ならびに学部教育の理念や基本目標の再定義を通じて、間接的
影響が他分野に及ぶことは疑いがない。
そのことを措いて、学部教育課程における共通問題として重要であるのは、間もなく具
体化しなければならない二部(夜間部)全面廃止に向けた取り組みである。上記のように、
その募集停止にともない、新たに「フレックス制」が導入され、2003 年度は4年目を迎え
ることになるが、制度改革の趣旨が徹底しているとは言えず、現実の教育課程における「フ
レックスAコース」と「フレックスBコース」の差異化も十分ではない。これに加えて制
度的問題としては、学部付設の通信教育課程および課外講座の法職講座運営にともなう教
員負担の偏在をいかに是正するかということが、重要な問題点としてある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
法科大学院設立に向けた取り組みを契機として、専任教員の長期的な人事計画を策定す
ることが直近の課題であることについては、既述したとおりである。この課題への取り組
みは、必然的に、学部教育の理念や基本目標の再定義を要請することになろう。
そのことと並んで、二部(夜間部)全面廃止に向けた検討を早急に開始し、それに併せ
て、すでに導入した「フレックス制」の制度設計に関する見直しを行う必要がある。その
際には、今後の通信教育課程および法職講座等の課外講座の運営についても視野に入れる
ことが求められよう。
さらに、各学科において現在進行中のカリキュラム改正の検討を継続し、逐次的な取り
まとめにより、実現可能なものから実施していくことが必要である。総合教育科目、外国
語科目、保健体育科目に関しては、できる限り学科間での共通部分を作りだす方向で再編
することとし、その他の学科別専門科目についても、相互の乗り入れを可能にする科目群
の再編、履修・卒業要件の見直しが必要となろう。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
【現状の説明】
本学部は「法学的思考」
(リーガル・マインド)を身につけ、時代の変化に対応して社会
の諸問題を解決できる有能な人材を育成するため、
「法律学科」
「国際企業関係法学科」
「政
22 第2章 学部
治学科」の3学科を設けている。従来は一部(昼間部)
・二部(夜間部)の二部制をとって
いたが、2000 年度から「フレックスAコース」「フレックスBコース」からなるフレック
ス制学部としてスタートした。これは履修時間帯を学生の選択にまかせ、柔軟に履修でき
るようにしようとの配慮からである。ただし、国際企業関係法学科は、フレックス制を採
用していない。
法律学科のカリキュラムでは、第一に基本的法律科目の体系的履修を重視し、第1群の
憲法、民法、刑法の基本3科目は2年次までに一応の履修が終えられるよう配当されてい
る。次に第2群に基幹的科目をあて、憲法2(統治)、民法5(親族・相続)、行政法(1、
2)、商法(1、3)、民事執行法の7科目から、それぞれの進路に合わせ、比重をかけて
履修できる工夫がなされている。学び方を多様にするため、憲法2(統治)、民法2(物権)、
民法3(債権総論)については、2つの講義のうち1つを週2コマ・半年で終了する集中
型講義で実施し、もう1つを週1コマ・1年間通年制の講義で実施している。第二に、学
生の進路に応じた発展科目を配置し、法学教育の高度化、多様化の要請に応えている。第
3群で法曹志望者に対し、本学独自の工夫で「法曹論」「司法演習」、基本科目についての
「特講」を配置している。行政職志望者には第3群に「行政法特講」を配置し、民間セク
ターへの就職希望者には、第4群に「企業法特講」を配置している。また、法律に関する
専門的な語学力強化の一環として、第7群に「外書講読」を設置し、英語の文献を読むこ
ととした。
国際企業関係法学科では国際社会における企業のあり方を学ぶため、法律科目と併せて
「マクロ経済学」と「現代企業論」を特に重視する。法律学関係の科目は三つの柱から構
成され、第一の国内実定法では民法と商法が中核となって、
「民法総論」
「契約法」
「企業法
総論」の科目が置かれている。第二に外国法、国際関係の科目があり、第三に法史および
比較法関係の科目が置かれている。学生は学問的興味に応じて科目を選択でき、企業の組
織・行動(取引・労働)に関しては「労働法」「労使関係論」「国際取引法」などを、企業
に対する国家の規制・制裁に関しては「独占禁止法」「経済規制法」「国際経済法」などを
履修できるようにしている。
政治学科では政治学の専門知識だけでなく、幅の広い、しっかりとした総合的な知識と
見識を持った自立した市民の育成を考えている。最近の「国際化」
「情報化」に対処するた
め、カリキュラムには政治社会コース、公共行政コース、国際関係コースの3つからなる、
緩やかなコース選択制を採用している。それぞれ「現代政治理論」、「行政学」、「国際政治
学」を中心とし、選択は学生に任されている。国際化の観点からは、「国際政治学」「国際
政治史」「比較政治論」に加えて、必修の「国際学」を置き、「第三世界論」「国際開発論」
「国際組織論」「国際地域論」「国際政治経済学」を新設した。情報化の観点からは「情報
処理論」や「政治情報学」があり、また従来の「コミュニケーション論」に加えて「メデ
ィア論」を新設した。また、新しい時代にふさわしい「環境学」
「女性学」も設置されてい
る。
一般教養的授業科目は 1991 年の大学設置基準の改定にともない専門教育科目に位置づ
けられたが、本学では従来から教養部を置かず、学部縦割り人事で旧一般教育科目担当者
を擁しているため、本学部でも専門教育科目全体の有機的調和の中で、総合的な判断力を
培う一般教養的授業科目の設置に、柔軟に対処できている。「文学」「哲学」「宗教と倫理」
23
「文化と深層心理」「科学と人間」「科学・技術史」などの科目が、3学科に設置されてい
るが、その他「総合講座」の名称のもとに、時代に適した特定のテーマを論じる、弾力的
な科目も設置されている。2001 年度は「犯罪と刑罰」「都市政策を考える」「家族・差別・
人権」などのテーマで開講されている。
外国語科目のうち「英語」
(フレックスBコースを除いて8単位必修)では、従来の読解
を中心とした内容に加えて、国際化の中での学生の語学運用能力を高める必要から、単な
る「英会話」ではない「English Communication Skills」を設け、法律学科・政治学科で
は 2001 年度から上級者向けに、「特別選択クラス(アドバンスコース)」を設置して
「Preparing for TOEFL and TOEIC」「English for Studying Abroad」「Integrated Skills」
「Advanced Reading (A)(B)」として開講し、通常の「英語」科目単位に振り替えている。
国際企業関係法学科では当初から「英語(A)∼(G)」(16 単位必修)の中に「Listening &
Speaking」「Writing」「Reading」を、アドバンスコースを含めて開講している。
「英語」以外の外国語科目は、法律学科・政治学科のフレックスAコースでは、
「ドイツ
語」
「フランス語」
「中国語」
「ロシア語」のうち1外国語を選択、8単位必修とし、フレッ
クスBコースでは「英語」2 単位必修のほかは、
「英語」を含め上記の外国語からの準自由
選択とし、外国語科目全体で 12 単位必修となっている。国際企業関係法学科では前述の英
語 16 単位のほか、「選択外国語」(英語、ドイツ語、フランス語、中国語のうち1外国語)
(A)∼(D) 8単位が必修である。このほか、政治学科のフレックスAコースでは、上記各外
国語に「スペイン語入門」「ハングル入門」「アラビア語入門」を加えた「選択外国語」を
設け、4単位選択必修にしている。
このほか、中学校「社会」
・高等学校「地理歴史・公民」教育職員免許状取得のための教
職課程も開設されている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部のカリキュラムは「広く知識を授け」
「深く専門の学芸を教授」するほか、
「知的、
道徳的及び応用能力を展開させる」(学校教育法 第 52 条)目的を実現するように組まれ、
学科の特性に応じたバランスが図られてはいるが、その効果は多分に学生の履修計画にま
かされている。学生は風聞による単位のとりやすい科目に流れる傾向もあり、履修指導の
徹底と、最近の傾向として、目の届きやすい少人数教育が必要になってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際企業関係法学科では、少人数定員の利点を活かしてゼミを重視し、「法学基礎演習
1、2」を必修科目として、読書力、作文力、討論力などの開発と向上を目指している。
ただ、少人数教育である演習や外国語科目をさらに充実させるには、担当者の人的手当、
教室の確保など、大学経営上の検討も必要であり、そろそろ将来に向けてこれらの改善の
検討を始める時期にきていると思われる。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
法律学科・国際企業関係法学科では1年次に「法学」を、政治学科では1年次に「政治
学」を置くなどして、各学科とも大学専門課程への導入が円滑であるようにカリキュラム
上の配慮をしている。また、新入生が大学のカリキュラム履修にあたって迷うことのない
24 第2章 学部
ように、入学時の履修指導には特に力を入れている。国際企業関係法学科では1年次に「法
学基礎演習1」を配当し、少人数ゼミの利点を活かして、高校での学習環境から大学での
自主的学修への接続をスムーズにするよう努めている。法律学科・政治学科に置かれた「基
礎演習」、政治学科の「政治学基礎演習」も、この役割を果たすものであろう。なお、中央
大学の付属高校に対しては本学部への進学が内定した段階で、高校のカリキュラムの「特
別講座」等を利用して、法学等への導入的講座を出張授業している。
【点検・評価
長所と問題点】
カリキュラムは目的意識を持った学生の自主的学修を前提として作られているが、高校
までの「教わる」勉強から大学での自主的学修への切り替えが、スムーズにできなかった
り、知的好奇心が未成熟のため学修効果があがらない学生への対処は、単にカリキュラム
の処理で済む問題ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際企業関係法学科のような1年次ゼミ必修制によって、上記問題点を解決できる部分
も現状では少なくなく、法律学科・政治学科のゼミ必修制の可否、現行クラス担任制の再
検討を含め、制度の検討をする必要はあろう。
3−(1)− ③
履修科目の区分
【現状の説明】
授業科目は3学科とも、「専門教育科目」「外国語科目」「保健体育科目」、および外国人
留学生のための「特別科目」に区分されている。ただし、法律学科・政治学科のフレック
スBコースには「特別科目」は設けられていない。
法律学科フレックスAコースを卒業に必要な修得単位で見た場合、外国語科目、保健体
育科目に選択の余地はない(ただし、第2外国語の種類は選択希望できる。)。専門科目も
第1群は 11 科目中 10 科目選択必修で、ほとんど選択の余地はない。これは、基本的な知
識の修得を義務づける必要性からでている。法律学科フレックスBコースでも、保健体育
科目に選択の余地はないが、全体的に必修の割合は、フレックスAコースよりも緩やかに
なっている。
国際企業関係法学科では、1、2年次の英語、保健体育科目には選択の余地がなく、専
門教育科目のうち導入基礎科目にも選択の余地と言えば、
「英米法」をとるか「ヨーロッパ
法」をとるかの選択だけである。
政治学科フレックスAコースでは、専門教育科目の第2群 ∼ 第5群、および外国語科
目の「選択外国語」、「第2外国語」の種類に選択の余地があるが、それ以外はほとんど必
修となっている。政治学科フレックスBコースでも保健体育科目は必修だが、ほかはフレ
ックスAコースより選択の余地が広がっている。
【点検・評価
長所と問題点】
学問の対象が複雑な場合、限られたカリキュラムの枠では、その対象を理解するのに必
要な知識の習得と、科目選択の自由度とは相反することになるが、本学部のカリキュラム
は全体的に、基本的知識を与えながら科目選択の自由をも尊重するという姿勢ででき上が
っているといえよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
25
外国語科目と保健体育科目は科目としては必修だが、「健康体育」「生涯体育」の実技の
内容では選択の自由が保証されている。また、
「英語」科目では必修の枠は変えずに、特定
の目標を持ったものや上級者向けに、新たにアドバンスコースを設けて選択の余地をだし
ている。この工夫は新たな人員と教室の確保を必要とするが、多様な学生に対処するため
に、科目によっては検討する必要があろう。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
【現状の説明】
授業科目の単位は、1単位の授業科目を 45 時間の学修を必要とする内容を持って構成し
ている。講義および演習については、1単位=教室での授業 15 時間+予習復習 30 時間、
実験、実習および実技や外国語科目については、1単位=教室での授業 30 時間+予習復習
15 時間としている。
これを前提として、本学部では原則として講義・演習科目は毎週1回 30 週の授業に対し
て4単位が与えられ、外国語科目は毎週1回 30 週の授業で2単位、保健体育科目の実技は
毎週1回 30 週の授業で1単位、同じく保健体育科目の講義は毎週1回 15 週の授業で2単
位が与えられる。
【点検・評価
長所と問題点】
1単位=45 時間の学修という基準を維持するのであれば、4単位では 180 時間の学習時
間が必要となり、通常通年授業は週2時間で 25 ないし 30 週ということになるから、教室
での学習は最大でも 60 時間である。それゆえ4単位のための学習時間として予定されてい
る 180 時間との差、120 時間は、何らかの形の自宅学習[予・復習]によって補われなければ
ならない。
この自宅学習が実際に行われているかどうかが問題である。もしこの自宅学習が実際に
なされていないとすれば、その原因は、1)この自宅学習を担保するような学習指導がな
されていないか、2)そもそもこういった授業形態と単位の関係が実情にそぐわなくなっ
ているか、にあると言えよう。
また毎週1回、年 30 週としているが、現実には年 30 週よりは少ない回数となっている
場合が多いと思われる。年 30 週、という基本の数値も検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
まず自宅学習が適切になされているかどうか、その実態を学生や教員に対するアンケー
トなどで確認する必要がある。実態確認後に、自宅学習の不足が明らかになった場合には、
予定された自宅学習を担保するために、1)学部全体で意思統一し、学部の講義および試
験全体を、改めて自宅学習を前提とした水準の講義および試験とすることを確認し、また
それを学生に周知徹底させるか、2)自宅学習を担保するよう、TA制度などを充実させ
ていくことを考慮するべきであろう。制度導入に際しては講義や試験との有機的な関連づ
け、アシスタント一人あたりの適切な学生数など検討を要する多くの要素がある。
前項で述べたように、もし仮に現在の授業形態と単位の関係が実情にそぐわないものに
なっていると判断された場合には、授業形態と単位の関係は、教育効果と関連して論じら
れるべきものであるから、カリキュラムや履修方法全体の根本的見直しにまで発展する可
能性がある。TA制度の全面的展開なども考えられよう。また国内および国外の大学との
26 第2章 学部
交流促進・相互のシステム理解を容易にしようとするなら、見直しの際に、共通カリキュ
ラムや共通成績評価基準などを考慮する必要もでてこよう。
3−(1)− ⑤
単位互換・単位認定等
【現状の説明】
現在本学部では国内の大学とは単位互換を行っていない。また大学以外の教育施設での
学修や入学前の既修得単位の認定も行っていない。国外の大学で、中央大学と交流協定を
結んでいる大学、ないし学長が認定した大学で1年以上留学した際に、30 単位を越えない
範囲で、学部卒業に必要な単位として教授会が認定しているだけである。
本学他学部科目の履修は、専門科目にあっては 12 単位、保健体育科目実技にあっては
2単位まで履修し、卒業単位に算入することができる。卒業に必要な最低修得単位の約
10%である。
本学部内他学科科目の履修は、専門科目を 20 単位まで履修し、卒業単位に算入するこ
とができる。卒業に必要な最低修得単位の約 15%である。
【点検・評価
長所と問題点】
本学では現在オセアニア、アジア、アメリカ合衆国、ヨーロッパ各地域 15 カ国 45 大学
と交流協定を結び、そのうち 12 カ国 30 大学と学生交流を行っている。この広範で数多い
交流協定に則った単位認定のシステムは、留学生に対する経済的支援も含めて高く評価さ
れてよいであろう。また交流協定校以外に留学した場合の単位認定のシステムも同じく留
学生に対する経済的支援を含めて評価されるべきものである。翻って国内の大学との単位
互換制度を見ると、例えば地理的に近い、東京都立大学や東京外国語大学との大学間の交
流協定は結ばれたが、本学部においてはまだ単位互換制度が開始されていないという問題
点がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
東京都立大学や東京外国語大学などとの全学レベルでの交流協定締結を足がかりとし
て、地理的に近い大学間のネットワークを強化し、本学部においても単位互換制度を発足
させようとする計画が開始されている。相互に学修を補完するためにこの計画の具現化を
図るのが望ましい。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
以下本学部における専任・兼任担当授業数および専任比率を、各学科別に表で示している。
なお他学部の専任教員は兼任教員に算入している。また科目数は 2001 年度カリキュラムに
よっている。
表1
科
2001 年度学部全科目専任兼任別担当一覧
目
専
任(名)
兼
任(名)
合
計(名)
専 任 比 率
専 門 科 目
75
237
312
24.0%
外国語科目
36
151
187
19.3%
6
26
32
18.8%
保健体育科目
27
合
計
117
414
531
22.0%
※兼任には本学部の科目を担当している他学部所属の兼任も含まれる。
表2
2001 年度法律学科開講科目専任兼任別担当一覧
科
目
科 目 数
専任(コマ) 兼任(コマ) 合計(コマ)
専任比率
専 門 科 目
96
348
295
643
54.1%
外国語科目
49
111
285
396
28.0%
3
53
64
117
45.3%
148
512
644
1156
44.3%
保健体育科目
合
表3
計
2001 年度国際企業関係法学科開講科目専任兼任別担当一覧
科
目
科 目 数
専任(コマ) 兼任(コマ) 合計(コマ)
専任比率
専 門 科 目
81
219
80
299
73.2%
外国語科目
46
62
68
130
47.7%
3
53
64
117
45.3%
130
334
212
546
61.2%
保健体育科目
合
表4
計
2001 年度政治学科開講科目専任兼任別担当一覧
科
目
科 目 数
専任(コマ) 兼任(コマ) 合計(コマ)
専任比率
専 門 科 目
96
304
212
516
58.9%
外国語科目
58
66
130
196
33.7%
3
53
64
117
45.3%
157
423
406
829
51.0%
保健体育科目
合
計
【点検・評価
長所と問題点】
開講科目の専任兼任担当をコマ数で比較すると、専任比率がいずれの学科でも5割を割
っているのが、外国語科目と保健体育科目である。まず問題点としてはこの点があげられ
よう。もちろん専門科目を含めて、専任比率が現行より高いことが望ましい。専・兼比率
の比較では国際企業関係法学科が本学部内で最も高い評価を得られよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任比率を高めるようより努力を傾ける必要がある。また兼任教員が現実に果たしてい
る役割の大きさを考えると、専任教員担当の科目との有機的で緊密な連携を柔軟に創出す
るための工夫を凝らしたい。兼任教員のより能動的なカリキュラム参加を可能とするよう
なシステム構築を、兼任教員のさまざまな意味での待遇改善を視野に入れながら考えたい。
3−(1)− ⑦
生涯学習への対応
【現状の説明】
社会人等自己推薦入学試験、学士入学試験、聴講生の制度を設けている。編入学および
科目等履修生の制度はない。
28 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
編入学および科目等履修生の制度がないのが問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度から編入学の制度が発足することになった。科目等履修生制度についても検討
を始めてよい時期と思われる。また本学部には通信教育課程が設置されているので、さま
ざまなメディアを活用しながら、通学課程との新しい関係を模索・構築し生涯学習への斬
新な対応を創出する可能性が秘められていると考えられる。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
本学部では、教育効果の向上を図るために、学部教育問題検討委員会を中心にさまざま
な検討を重ね、各授業科目の関連性を視野においたカリキュラム編成、教育目標・教育内
容・授業スケジュール等を学生に周知させるためのシラバスの充実、学生による授業評価
アンケートの実施、各教員による成績評価の状況(成績分布)を示す資料の作成などの施
策を実践してきた。また、各学科の運営委員会、科目別・分野別に組織される科目担当者
会議や部会においても、教育効果を向上させるための努力が重ねられている。例えば、比
較的小規模な国際企業関係法学科では、学生と教員との懇談会が定期的に開催され、授業
のあり方について率直な意見交換を行ってきた。また、外国語科目については、教材の選
定、学修進度等について、科目担当者間の協議が定期的に行われており、その過程で教育
効果の測定についても、一定の組織的対応がなされている。さらに、複数の教員が担当す
るいわゆるローテーション科目(法曹論、企業法特講、特殊講義、総合講座等)また実務
法曹が担当する司法演習等の授業科目については、担当者相互間で成績評価の基準につい
て事前協議の機会が確保されている。
卒業生の進路状況については、2001 年3月卒業者の場合、就職希望者 819 名(内女子 236
名)の内就職決定率は男女とも 99.6%となっている。進路の内訳は、民間企業 680 名、公
務員 136 名、未決定3名である。
その他、卒業者の内就職を希望しない 572 名については、大学院等への進学者 77 名(中
央大学大学院 53 名、他大学大学院 15 名、その他進学9名)および各種受験準備 495 名(司
法試験 348 名、公務員 81 名、公認会計士 11 名、税理士3名、教員1名、その他受験準備
51 名)となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
シラバスの充実、学生による授業評価、成績分布の把握といった一連の施策が教育効果
の向上につながってきたことは評価される。しかしながら、教育効果は、基本的に、学生
の学修到達度(成績)によって測定されるという前提に立った場合、絶対評価を中心とす
る現在の成績評価システムのもとでは、自らの教育の効果を測る責任は、ごく一部の授業
科目を除いて、専ら個々の教員に委ねられており、このため選択科目や同一科目が複数開
設されている講座の場合、単位取得が容易と目される授業に学生が集中するといった弊害
も生じている。
卒業生の進路状況に関しては、昨今の経済状況の中で、99.6%の就職率を確保できたこ
29
と、また就職先についてみれば、民間企業では主要メーカーからマスコミまでほとんどの
分野に広がっていること、さらに公務員では上級職が多いことなどは評価に値する。他方、
本学部の伝統的特徴といえる各種受験準備のための非就職者、特に司法試験を目指す人に
ついて、将来の法科大学院の開設に絡みその進路に対するケアを検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果の測定をより効果的に実施していくためには、学部全体としての測定システム
を構築することが望ましいのはいうまでもない。しかし、他方において、個性ある教育を
展開するためには、科目の性格や履修者の規模に応じて、多様な測定方法が求められる。
今後、学部教育問題検討委員会、学科運営委員会において、この両者のバランスを考慮し
た学部・学科に共通する測定システムの検討を進める一方、部分的にはすでに実現してい
る成績評価基準に関する教員相互間の合意形成をさらに促進することが重要と認識してい
る。特に、同一科目間では共通試験を導入し、採点を公平に分担するとともに、学生から
見た成績評価の公平を図るための工夫が必要である。また、相対評価の導入についても検
討する必要がある。
なお、日常的な教育効果の測定にはTAの活用も考えられないではないが、評価の質や
責任体制などについて慎重な検討を要するし、数百人規模の授業ではやはり限界があろう。
その意味でも、少人数教育の大幅な導入が課題となる。
各種受験準備のための非就職者の中には、就職活動を先延ばしにしたいがために資格試
験に逃避する者もないとはいえない。適性を知ったうえで、進路について自己決定できる
学生を育成するために、インターンシップ等をカリキュラムに取り入れる検討が必要であ
る。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
【現状の説明】
厳正な成績評価を行う前提として、本学部では、年次ごとに最高履修単位を定め、学生
が選択した科目について十分な学修時間を確保できるように配慮している。
成績評価の方法としては、主として学期末・年度末に実施される筆記試験やレポート試
験の他に、担当教員の裁量によって随時実施される小テストやレポート、さらに語学、演
習等の少人数クラスについては平常点が加味されるなど、科目の特性や授業規模に応じた
多様な評価方法が採用されている。
これらの評価方法をどのように組み合わせて実施するかは、各教員の裁量に委ねられて
いる。また、成績評価基準は、100 点を満点とし、80 点以上がA、79∼70 点がB、69∼60
点がC、そして 60 点未満がD(不合格)と定められているが、絶対評価を採用するか相対
評価を採用するかは教員の裁量に委ねられており、その結果A・B・C・Dの比率も教員
ごとに異なっている。
筆記試験については、厳正な試験執行を確保するため、不正行為の防止に努めるととも
に、不正行為が発見された場合には、停学処分等を含む厳しい制裁を科している。
【点検・評価
長所と問題点】
A・B・C・Dの区分の評価基準は、問題の難易度や全体のでき具合などによって調整
せざるを得ない面があり、実質的な基準設定については担当教員の裁量を相当認めざるを
30 第2章 学部
得ない。A・B・C・Dの比率も担当教員の裁量に委ねられているが、教員によって大き
なばらつきがでるのは、公平の観点から好ましくない。
自宅作成のレポート試験は、短い試験期間に試験教室を多く確保する必要性や監督業務
の負担を軽減してくれるが、本人が書かずに他人に作成させるおそれがあるし、酷似する
内容のレポートが複数提出された場合の扱いも教員の裁量に委ねられているため、場合に
よっては厳格な成績評価が骨抜きになるおそれもある。
平常点による評価も、前述のような総合的・実質的評価がなされなければ、単なる手抜
きに堕するおそれもないではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
レポート試験はなるべく採用せず、筆記試験を原則とし、それを可能とするための物理
的条件の整備を図るべきである。
法科大学院などの入試においては学部成績がかなり考慮されることになる可能性が高い
ので、A・B・C・Dの比率など成績評価に関して教員に対しより実質的なガイドライン
を示したり、成績証明書に各授業のA・B・C・Dの比率をも表示したり、90 点以上のS
評価を導入するなどの工夫を検討する必要があろう。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
学生に対する履修指導は、1、2年次における学年始めの履修オリエンテーション以外
に、履修要項や履修ガイドブック、講義要項を配布することによって対応している。これ
らを通じ、特に発展的科目を中心に、学生の進路にそった履修モデルないしは履修案内の
情報を提供している。さらに、学部事務室では随時学生からの質問に応じている。
オフィスアワーは制度化されていないが、学修オリエンテーション委員である教員若干
名が試験的に実施している。
成績不良者については、成績発表後履修相談を促す手紙を本人および父母に送付(今年
度は2、3年次対象)している。理由はともあれ、一度学修の意欲を失った学生に再度や
る気を起こさせるには本人の家庭と教職員一体となった継続的取り組みが必要である。
留年者に関しては、その理由が積極的なもの(留学、資格試験等)、やむを得ないもの
(病気、けが等)、消極的なもの(怠学、成績不良)に大別できるが、いずれの場合も事務
室では積極的に履修指導を行い、内容によっては教員、学内他機関(学生相談室等)への
紹介も行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
履修に関する指導は、上記の対応でおおむね足りているものと思われる。4月の初回の
授業では、担当教員がそれぞれの科目についてより具体的な履修案内をしており、特に選
択科目についてはこれが重要な意味を持つであろう。
最近、本学部の講義要項は年を追うごとに分厚いシラバスと化し、電話帳サイズに近づ
く傾向があったが、部分的に行き過ぎの面もあり(あまりに詳細すぎる講義要項は、かえ
って学生に読まれなくなる)、2001 年度はやや軽量化を図るに至った。十分な情報を提供
する必要はあるけれども、教科書を読む前に講義要項を読むだけで新入生が音をあげてし
まうようでは困る。
31
特に新入生は、高校までのシステムとかなり異なる履修システムにとまどいを覚えやす
く、大学生活全体への不安と絡んで悩みを抱えることも多いので、学生部学生相談課とも
一層の連携を図る必要があろう。
成績不良者は、個人的事情が大きく作用するため履修指導にも限界があり、消極的留年
に陥るケースが多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大勢の学生を前にした履修案内や文書による説明をこれ以上増やすことは困難であるし、
あまり効果もあがらないように思われる。サービス向上のためには、個別相談的な機会を
今少し確保することが考えられる。その際、学部事務室の窓口対応にも限界があるので、
質問内容によっては、学修オリエンテーション委員のオフィスアワーの周知・活用を図る
べきであろう。ただ、オフィスアワーという形が適切かどうかは再検討の余地があろう。
学問的な質問ならばともかく、履修に関する質問のために、特に新入生が教員の個人研究
室を訪問することは考えにくい。学部事務室に隣接している教員室で対応する体制を整備
することが望ましいと思われる。
3−(2)−④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
本学部における教育指導方法の改善は、基本的には個々の教員の研鑽に任されている。
ただし、組織的な取り組みが全くなされていないわけではない。各教員の研鑽に資するた
めに、また、学生の学修上の便宜を図るために本学部が行っている組織的な取り組みとし
て、シラバスの作成と学生による授業評価の実施の2つをあげることができる。
シラバスの作成・・・国際企業関係法学科の新設にともない、従来の「講義要項」は、
その名称は残しつつもシラバスへと発展し、現在に至っている(2001 年度講義要項の総頁
数は約 480 頁)。そこでは、各授業科目が概要(テーマ)、方針、内容(スケジュール)、テキ
スト、参考書、評価基準・方法の6項目から詳細に解説されている。なお、各種演習科目(「3
−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係」を参照)および教職科目については、この講
義要項とは別にそれぞれ募集要項、講義要項が作成されている。また、学修の指針、履修
の方法・モデルなどについても、別途「法学部履修要項」
「法学部履修ガイドブック」が作
成されている。
学生による授業評価の実施・・・国際企業関係法学科では、発足当初から学生の授業評
価を定期的に行っていたが、学部として専任教員担当の授業全体を対象とする学生アンケ
ートを導入したのは 1996 年度からである。そこでは、各授業科目の特性を考慮して、法律
科目、政治・経済科目、外国語科目、総合教育科目、保健体育科目の5つの科目群ごとに
異なる質問項目が設けられている。アンケートは、原則として各授業科目の終盤の授業中
に実施・回収され、電算処理に回される。後日、授業方法などの改善に資するため、各教
員には本人担当の授業科目についてのアンケート原本とその集計結果とが配付される。
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度学生アンケート結果によれば、シラバスが「非常に役立った」(8.7%)「かな
り役立った」
(39.1%)
「それほど役立たなかった」
(43.5%)
「全く役立たなかった」
(8.7%)
との回答であった。また、シラバスの記載事項について「現在のままでよい」
(61.5%)
「分
32 第2章 学部
量が多すぎる」(8.2%)「簡略すぎる」(9.7%)「授業科目と将来の進路との関係を述べて
ほしい」
(6.1%)
「他の科目との関連性を述べてほしい」
(2.8%)との回答であった。これ
らからシラバスの有用性は明らかであるが、同時にシラバスに記された授業計画と実際の
授業内容が必ずしも一致していないことがうかがえる。また、学生アンケートについては、
専任教員担当の他学部との合併授業および兼任講師担当の授業は現状ではアンケート対象
に含まれておらず、学生の意見が担当教員に届かないという問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多数の学生がシラバスの有用性を認めているのは、それにより授業内容の全体があらか
じめ見渡せるため授業の予習・復習がしやすいからであろう。同時にシラバスは、教員にと
っても授業進行の道標になり、教員自身が授業への責任を自覚することにも寄与し得る。
それゆえ教員は、シラバス内容と実際の授業内容とを一層近づけるよう努めるべきである。
また、学生アンケートは、専任教員担当の他学部との合併授業および非常勤講師担当の授
業においても実施するようにし、教員が自らの授業について学生の声を聴く機会をより広
く確保すべきである。上述のように、この学生アンケート結果をどう授業内容・方法に生
かすかは個々の教員の裁量に委ねられている。学生の意見を真摯に受け取り、改めるべき
点は改めるという、教員一人ひとりの誠実な姿勢が求められていると言えよう。
FDについては、現在のところ組織的に取り組んでいないが、FDに関する組織的な検
討が急務である。
3−(2)−⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
1.授業形態
授業形態は、概論講義科目と少人数教育科目とに大別することができる。概論講義科目
は、体系的・系統的学修を目的とする授業科目である。同科目の履修者数は、1クラスあた
り数十名から 400 名を越えるものまで様々である。同科目には、他学科の類似科目と合併
形態で行われるものもある。また、学生は、一定の条件のもとに他学科・他学部の概論講
義科目を履修することが認められている。少人数教育科目は、一方通行になりがちな概論
講義を補完し、報告・討論を通じた学生の主体的学修を確保するために、全学年にわたって
導入されている(基礎演習、司法演習、専門演習、外国書講読など)。もちろん外国語科目
も、教育効果の観点からこの形態をとっている。履修者数は、演習・外国書講読が数名か
ら 20 名ほど、外国語科目が 40 名前後である(いずれも1クラスあたり)。
2.授業方法
概論講義の授業方法は、従来から大・中教室での講義方式がとられている。学生との交
流をできるだけ活発なものとするために、対話方式(ソクラティク・メソッド)や小テスト
を取り入れるなど、工夫を凝らしている教員も少なくない。また、教員室に置かれている
複写機や印刷機を利用して、講義レジュメや資料を配付することがほぼ一般化していると
言ってよい。さらにいくつかの教室には、ビデオ・プロジェクターやパワー・ポイントが備
わっており、これらを使用する概論講義科目も漸増傾向にある。他方、少人数教育科目の
授業方法は、演習科目について言えば、学術論文等を読み、報告・討論を行い、それらを踏
まえてレポートや論文を書き上げるという、学生主体の一連のプロセスからなりたってい
33
る。ゼミ合宿を行うことで教員・学生間の信頼関係を深めているものも多い。
【点検・評価
長所と問題点】
概論講義は体系的・系統的学修を可能にする授業形態であるが、大教室で教員が一方的
に話をするだけでは学生との交流を欠き、十分な教育効果があがらない。それゆえ、上述
のような工夫を凝らしている教員の努力は大いに評価されるべきである。また、合併授業
形態がとられるのは、授業負担を軽減させるためである。実際、多くの教員が授業と校務
の負担増加に悩まされている現状では、合併授業が増えつつあるのも止むを得ない面があ
る。しかしそれが各学科の教育目標と常に両立し得るかどうか、疑問なしとしない。
少人数教育科目は、概論講義科目と並ぶ法学部教育の「車の両輪」として今日ますます
重視されており、現状でもかなり充実している。演習レジュメや演習論文集の複写・印刷
を本学部が財政的に支援していることも、学生の積極的な学修に大いに寄与している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生に快適な教育環境を提供する観点からは、履修者の多い概論講義科目は専任教員の
増員等により適正数に減らしていくことが望ましい。合併授業は、上述のように、各学科
に固有の教育目標の観点からはそれが好ましくない場合もある。したがって合併授業の適
否は、教員の負担度や教育目標を考慮しながら個別かつ慎重に判断していかなければなら
ない。他学科・他学部授業科目の履修については、学年枠を撤廃し単位数の上限枠も従来
の 20 単位から 30 単位に拡大する方向で検討がなされている。また、外国語科目について
も専門科目との関連を考慮した改革が、現在、各学科で進行中である。各学科の教育目標
に照らしつつ、一方では新たな第二外国語科目の導入を図り、他方では既存の第一・第二
外国語クラスの編成方式を見直していくことも、今後、必要となるであろう。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本学は、1978 年以来今日に至るまで、世界の 15 カ国 45 大学と学術交流協定を締結し、
教員・学生の相互交流を推進するとともに、本学教員は、国内外において学会、研究会活
動も併せて活発に行っている。本学部専任教員については、学部予算による学会・研究活
動による出張は、2000 年度延べ 82 件(うち国外3件)である。このほかに学部予算によ
らない海外出張が同年度延べ 52 件、同年度中の本学研究制度利用による最長2年間におよ
ぶ特別研究1件、在外研究 10 件となっている。また、本学部教員のこうした学術交流成果
を学生に対して、国内外の各界著名人を招聘して開かれる特別授業、公開講演会等を通じ
て積極的に還元している。本学部生については、総じて海外大学との交流協定等を通じて
国際交流に積極的に参加してきたと言えよう。本学の留学制度には、交換留学、認定留学、
短期留学の3つがある。交換留学は、上述の学術交流協定に基づく協定校への1年間の留
学である。2001 年度交換留学生のうち本学部生は 18 名で、ヨーク大学(英)、ロベール・
シューマン大学(仏)、タマサート大学(タイ)などに留学している。認定留学は、学生自
らが選びかつ本学部が許可した大学への1年以上の留学である。2001 年度認定留学生のう
ち本学部生は6名で、ネブラスカ州立大学(米)、オレゴン大学(米)、ミーニョ大学(ポ
ルトガル)などに留学している。短期留学は、夏期休暇中に、5つの協定校でそれぞれ約
1カ月にわたって行われる語学・文化の集中授業に参加する制度である。参加学生は本学
34 第2章 学部
教員が引率する。2000 年度には、計 43 名の本学部生がこの短期留学に参加している。交
換留学・認定留学により取得した単位は、一定の条件のもとで本学部が改めてこれを認定
し、それは卒業要件単位数に含められる。これに対して短期留学は各学部の正規の授業科
目として設置されており(本学部の場合「フランス文化論」
「アメリカン・スタディーズ・
セミナー」)、したがって履修者には本学部科目としての単位が直接付与される。
他方、外国人留学生の受け入れ状況を見ると、本学部は 2001 年度、学士号取得を目指
す学部留学生を9名、協定校(オーストラリア国立大学(豪)、リヨン第Ⅱ大学(仏)、ベ
ルリン自由大学(独))からの交換留学生を4名、それぞれ受け入れている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学(部)の3つの留学制度は、最長2年間におよび、外国語・外国文化を深く学び、あ
るいは外国の法学・政治学教育を直接受ける機会を本学部生に提供している点で、国際社
会で活躍するための資質を彼らが備えるのに大きく貢献している。特に近年、本学部なら
びに留学先大学両方の学位取得、いわゆるデュアルディグリーを志向する学生も現れてき
ており、過去に2例ほどを数えている(本事例は、留学先大学を卒業後、本学部を卒業し
た場合の件数であり、その逆もあり得る)。また、上述した交換留学・認定留学上の単位認
定制度により、学生が留学先で取得した単位は 30 単位まで本学部の履修単位に換算するこ
とができるので、学生は1年間留学しても4年間で卒業することが可能となる。さらに、
通年科目のうち前期分を履修して留学に旅立ち、帰国後に当該科目の後期分を履修するこ
とを認めるという本学部の「継続履修制度」も、留学にかかわる単位取得の促進に寄与し
ている。他方、協定校から本学部への交換留学生は4名にとどまっており、本学部から協
定校への交換留学生 18 名の4分の1に満たず、交流の非対称性は否めない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
一般に外国人留学生には、日本語学習の困難さが立ちはだかっている。自然科学の場合
に比べ法学・政治学などの社会科学の学修にとってその壁は一層厚い。そのため、協定校
との間の交流の非対称性を解消するには、留学前の日本語学習のさらなる充実を相手校に
要請する必要があろう。また、本学部には上述のように単位認定・継続履修制度があり、
そのおかげで学生は在学期間を延長せずに卒業することが可能となる。同制度は本学部生
の外国大学への留学意欲を促すことに大いに役立っている。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
本学部は、一般入試および大学入試センター試験利用入試のほか、多様な形態の入学試
験を採用している。2001 年度入学試験で見ると、本学部の入学定員 1,436 名(臨定含む)
のうち一般入試で 740 名、大学入試センター試験を利用する入学試験で 205 名、合計 945
名(入学総定員の約 66%)を占めている。残りを下記に掲げる入学者選抜方法によって募
集している。
・指定校推薦入学
・付属高校からの受け入れ
・スポーツ推薦入学試験
・社会人等自己推薦入学試験
35
・英語運用能力特別入学試験
・海外帰国生等特別入学試験
・外国人留学生入学試験
①一般入学試験
【現状の説明】
一般入試は、「外国語」、「国語」および「地理歴史・公民・数学」の筆記試験を行い、
一定の合計点以上の者を合格とする選抜方法である。
【点検・評価
長所と問題点】
一般入試は、選抜基準が透明でかつ客観的であることから、選抜方法として公平である
一方、大学・学部が希望する人材を集めるには必ずしも適していない。問題の作成、試験の
実施にあたる教職員の負担が相対的に重くなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も一般入試の占める比重は大きい。論理的思考能力や文章作成能力を備えた学生を
選抜するには、試験の科目および問題に工夫を凝らす必要があろう。
②大学入試センター試験利用入試
【現状の説明】
本学部では3学科とも、2000 年度から大学入試センター試験を利用する入学試験を導入
した。本学部では、① 大学入試センター試験に加えて、個別試験として、一般入試の外国
語の試験を課す「併用方式」と、② 個別試験を課さない「単独方式」の2つの方式を採用
している。単独方式は、2月選考と3月選考の2回募集している。
【点検・評価
長所と問題点】
大学入試センター試験を利用する入学試験で本学部を受験した学生は、2000 年度で
4,400 名、2001 年度で 4,707 名に上る。このうちのほとんどが、国公立大学を併願してい
る。過去2年間、この試験で入学した学生の学力水準は比較的高い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この枠での入学者の数を高めてもよいと思われる。
③指定校推薦入学
【現状の説明】
2001 年度入学においては、3学科合計で、334 の高校を指定し、1名ないし5名の推薦
を依頼し、218 校から 405 名の推薦があった。書類審査と面接を行い、原則として合格に
している。
【点検・評価
長所と問題点】
指定校推薦入学で入ってくる学生は、選抜基準として評定平均値を高めに設定している
ことで、優秀で勉学意欲の強い学生を集めることができる。しかし、最近は、学生を推薦
してこない指定校が増えてきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
推薦してこない高校が増えている原因を分析することが必要である。高校推薦による入
学制度が高校生にとって魅力がなくなってきているのか、指定校の選び方を改めればよい
のか、等の分析である。
36 第2章 学部
現在、選抜基準としての評定平均値はすべての推薦指定校に一律に適用されているが、
一般入試を経て入学してくる学生の評定平均値は指定校によって異なるため、実状に合わ
せた形で高校別の基準点等の導入についても検討する必要がある。
④付属高校からの受け入れ
【現状の説明】
現在、学校法人中央大学には「中央大学附属高等学校」、「中央大学杉並高等学校」、「中
央大学高等学校」の3つの付属高校があるが、
「高校・大学一貫教育」の理念に基づき、こ
れらの高校から一定数の学生を推薦制度により受け入れている。付属高校からの受け入れ
数は、毎年、大学と高校の協議によって決められる。その枠内で高校が推薦してきた学生
を、特に問題がない限り受け入れている。
【点検・評価
長所と問題点】
3つの付属高校から本学部にくる学生の学力水準は、比較的高い。しかし、これらの高
校に在籍する学生のうち、優秀な学生が他の大学・学部を志望するようになってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
付属高校の優秀な学生を今後も受け入れるには、本学部において、これまで以上に優秀
な学生のニーズに応えるような仕組みを作っていくことが検討されてよい。
⑤スポーツ推薦入学試験
【現状の説明】
競技成績、小論文および面接によって合否を決定している。
【点検・評価
長所と問題点】
競技実績を重視して選抜している。この入試で入った学生の中には、入学後に授業につ
いていけない者が少なからずいる。現状では、英語に関して特設クラスを設けこれらの学
生のフォローを行い一定の成果をあげている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「文武両道」の趣旨を実現するには、入学後の教育にも一層配慮する必要があろう。
⑥その他の入学選抜方法
【現状の説明】
英語運用能力特別入学試験および海外帰国生等特別入学試験は、それぞれ能力や海外生
活体験を有していることを特に配慮したものである。外国人留学生入学試験の制度も、留
学生に門戸を開放するものである。社会人等自己推薦入学試験は、社会人および高校生が、
課題について 8,000∼10,000 字程度の論文を提出させ、その審査と面接によって合否を判
定するものである。合格者は、2000 年度で 20 名、2001 年度で 12 名である。
【点検・評価
長所と問題点】
これらの試験は、募集人員は少ないが、能力・体験等において特徴を有する学生を受け入
れるための制度として意義がある。しかし、これらの入学試験は、教職員の時間と労力を
かなり必要とする。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これらの試験によって、有意義な学生の受け入れにつながっているか否か、絶えず点検
37
する必要がある。そうでなければ、制度の廃止・縮小を検討する必要がある。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
「1.理念・目的・教育目標」に掲げた教育目標を達成するために、本学部では法律学
科、政治学科、国際企業関係法学科がそれぞれ特徴のある教育活動を展開しており、また
本学部に学んだ学生の進路は、ひとり法曹界のみならず、社会の各界・各層に及んでいる。
こうした学科の教育の特性や卒業生の進路の多様性は、当然のことながら、入学者の受け
入れ方針にも反映され、一般入試を例に取るならば、3学科がそれぞれの個性に応じた内
容の試験を別々の日程で実施するなどの方策が採られてきた。
近年、本学部が特に意を用いてきたのは、さまざまな能力と可能性をもった学生を受け
入れるために、伝統的な私大型3科目入試に加えて、大学入試センター試験の利用、論文
審査を重要な柱とする自己堆薦入試をはじめとする各種の特別入試の導入によって、学生
選抜方式の多様化を図ってきたことである。
こうした選抜方法の多様化に加え、社会の国際化に対応して、外国語能力を重視する方
針のもとに、一般入試において外国語の配点を 1.5 倍にし、大学入試センター試験を利用
する入試においても外国語の試験を課す併用方式を導入している。英語運用能力特別入試
および海外帰国生等特別入試を設けているのも、同様の趣旨からである。
【点検・評価
長所と問題点】
入試制度の多様化によって、従来とは異なるタイプの学生が確実に増加している。それ
が教育効果の向上にどれほど貢献するかは、今後の検証を待たなければならないが、さま
ざまな面で教育活動の活性化の兆しが見られると評価する教員が少なくない。また、一般
入試で外国語の配点を高く設定したり、大学入試センター試験の利用に際しても外国語の
試験を課したりしている現在の制度は、時代の趨勢に適合していると思われる。
ただし、入試制度の多様化は、出題、採点等の入試業務に関わる専任教員の負担を著し
く増大させており、これまでの取り組みの成果を損なうことなく、より合理的な学生選抜
方法を工夫することが求められている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入試方法の多様化から生じる問題については、入試・広報センターを中心に全学的な審
議が進められているので、本学部としても、その検討に積極的に参加していくことが重要
である。また、近く、法科専門大学院が設立されることになれば、本学部における教育も
変革を迫られることになる。そうなれば、入学者選抜方法、実施体制等について、本学部
独自の立場から、さらなる見直しが必要とされよう。
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
①一般入試
一般入試は、他学部とともに、全学的な組織である入試・広報センターによって運営さ
れている。その他の選抜方法は、各学部によって運営されている。本学部は、3学科の試
験を別々の日に実施している。本学部では、外国語の配点を他の2教科の 1.5 倍にしてい
38 第2章 学部
る。
②大学入試センター試験を利用する入試
併用方式
センター試験の配点のうち、外国語は 200 点を 100 点に換算。個別試験の外国語の配点
は 200 点(国際企業関係法学科は 300 点)。センター試験で受験した5教科6科目(700 点
満点)と個別試験の両者の総合得点(900 点満点。国際企業関係法学科は 1000 点満点)で
合否を判定。
単独方式
センター試験の配点のうち、国語は 200 点を 100 点に換算。センター試験で受験した5
教科6科目のうち、外国語、国語の2科目と、選択受験した科目のうち、高得点を得た3
科目の合計得点(5 科目 600 点満点)および出願時提出の作文、
調査書により総合的に判定。
③付属高校からの受け入れ
付属高校からの受け入れについては、高校側の推薦を尊重して、特別の事情がない限り
合格としている。
④指定校推薦入学
指定校推薦入学については、高校から推薦された者について、面接試験を実施して最終
的に合否を判定しているが、特別の事情がない限りは、高校側の推薦を尊重して合格にし
ている。
⑤スポーツ推薦入学試験
全国レベルの大会で優秀な成績を収めた者を選抜し、小論文と面接によって合否を判定
している。
⑥社会人等自己推薦入試
1次選考(自己アピールおよび社会問題について提出してもらった文書等についての書
類審査)をパスしたものについて課題論文を提出させ、第2次選考として論文審査を行い、
これをパスしたものについて面接試験を行い、合否を判定している。
⑦英語運用能力特別入学試験
TOEFL の点数が 560 点以上、ケンブリッジ大学英語検定試験(CPE もしくは CAE)合格、
英検準1級以上合格など英語力に自信がある人に対して、1次選考として筆記試験(国語
<現代文>、英語)、第2次選考として面接を行い、合否を判定している。
⑧海外帰国生等特別入学試験
1次選考として筆記試験(国語<現代文>、外国語<英語、ドイツ語、フランス語から
1カ国語選択>)、2次選考として面接を行い、合否を判定している。
⑨外国人留学生入学試験
筆記試験(日本語および英語)と面接を行う。出願にあたっては、
「日本語能力試験」
(1
級)と「私費外国人留学生統一試験」
(文科系)の受験が必要である。これらの総合点で合
否を判定している。
【点検・評価
長所と問題点】
多様な人材を確保するために、入学者選抜方法も多様化してきた。選抜の方法・基準の公
平性と実施体制の能率という観点からは、一般入試と大学入試センター試験を利用する入
試が優れている。これら以外の入試形態(付属高校からの受け入れを除く)については、
39
書類審査、面接だけでなくこれらの制度を絶えず見直すことに伴う教職員の負担が重くな
ってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大量の受験生から入学者を選抜する方法としては、今後も、一般入試に依存する割合が
大きい。公平性を確保しつつ優れた人材を確保するという点では、大学入試センター試験
を利用する入試の比重を高めてもよいと思われる。時間と労力を要する各種特別入試につ
いては、制度の趣旨を活かしながら、それらを整理・統合する必要があろう。
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
現在、入学者選抜方法全般に関しては、本学部の入学試験制度検討委員会で検討されて
いる。一般入試の入試問題については、毎年、試験科目別に構成される入試出題委員会の
中で検討されている。具体的には前年度の問題の平均点や正解率のデータをもとに、難易
度の調整を図っている。また出題範囲については、重複しないように調整が図られている。
【点検・評価
長所と問題点】
入試問題の検証そのものについては、きわめて機密性が高い作業であるので、各試験科
目の入試出題委員会に任されており、今のところ、こうした方法が妥当であると考えられ
る。また、その他の入学者選抜方法についても、入学試験制度検討委員会に絶えず検討を
加えて行くことが重要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入試問題の検証については、これまで以上に、毎年度の平均点、正解率、出題範囲等に
関して各試験科目ごとの出題委員会での検討作業を通じて、充実していくことが必要であ
ろう。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
本学部の各学科の入学定員、編入学(学士入学)定員、収容定員、在籍学生数、定員充
足率に関しては、「基礎データ調書
表2」に示したとおりである。2000 年度の場合、総
定員に対する在籍学生者数の比率は 1.15 倍である。5年次生以上の修学延長生の数は、
2000 年度は合計 611 名である。聴講生は 2001 年度が 31 名である。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部全体としての総定員に対する在籍者数の比率は、2000 年度は 1.15 倍、2001 年度
は 1.23 倍であり、特に問題はないと思われる。編入学(学士入学)定員と編入(学士)学
生数との比率は、募集定員が若干名であるので、ほぼ適正である。18 歳人口の減少期に入
り、毎年の入試判定における歩留まり率の予測が困難になりつつあるため、年度によりや
や多めになる年もあるが、その場合、次年度の入試判定委員会で前年度のデータをもとに
適正かつ厳正な検討を加えたうえ、抑制方針をとるなどの管理を行っている。修学延長す
る学生についてはやや多くなっているが、司法試験や公務員試験等のために自主留年する
学生も少なくない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
40 第2章 学部
歩留まり率の予測が困難な状況は、今後も続くと思われるので、今後も入試判定の際の
判断を詳細なデータに基づいて予測することが必要である。修学を延長する学生に関して
は、就職難への対応や司法試験等資格試験の受験準備のために自主的に留年する学生の割
合も少なくないが、増加することは好ましい傾向ではないので、修学延長する学生の占め
る割合を少なくするように努める必要がある。
4−(6)
編入学者、退学者
【現状の説明】
すでに大学学部を卒業した者で新たに法律・政治の専門教育課程を希望する者に対して
学士入学試験による選抜を行って編入学者を受け入れている。この制度は近年、社会人教
育、生涯教育の観点からもその意義が再認識されている。選抜方法は、外国語(英語・ド
イツ語・フランス語のうち1科目選択)と論文による。募集人員は3年次若干名となって
おり、2000 年度は志願者数 30 名、合格者6名、2001 年度は志願者数 24 名、合格者数4名
となっている。
また退学者については、2000 年度、除籍者は学部全体で 81 名、自己退学者は 90 名であ
り、全体で 171 名となっている。除籍理由の内訳は、履修届未済、学費滞納、在学期限満
了であり、自己退学者理由の内訳は、家庭の都合、経済上、勤務上、病気、その他となっ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部には通信教育課程が設置されており、社会人教育、生涯教育という視点から、近
年では通信教育を利用する者も増えてきており、本学部への編入学希望者は通信教育を利
用するケースもあると考えられる。社会人教育、生涯教育を進めるという点では学部と通
信教育部がそれを担っている。募集人員と合格者については定員との関連で適切であると
考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
編入学者については、社会人教育、生涯教育という視点から、学部と通信教育課程とい
うこれまで編入学制度を総合的に検討する中で、その受け入れ体制のあり方を再検討する
必要があろうが、学部に関しては言えば、次年度から短大および高等専門学校からの編入
学者を受け入れる試験を予定しており、現状ではほぼ適切に運営されていると思われる。
退学者については、経済上の理由が目立っているので、経済的理由により在学を継続で
きない学生に対しては、これまで以上に奨学金制度を利用した支援を積極的に働きかける
ことも必要であろう。
4−(7)
学生に対する奨学金
【現状の説明】
本学部が設けている奨学金には、次の4つの制度がある。入学時に応募・選考により給
付するもの(下記の(1)と(2))と在学生に給付するもの(下記の(3)と(4))に大
別される。
(1)
入学時成績優秀者特別奨学金
一般入試および大学入試センター試験利用入試で合格した者の中から、特に学力・人物
41
ともに優れた者に給付される。選考は、入学試験の成績、高校における学業成績および出
身高校の調査書等を参考にして、法学部一般入試合否決定委員会が行う。給付金額は、1
名につき4年間で総計約 350 万円である。2001 年度の採用人数は2名である。
(2)
フレックスBコーススカラシップ
一般入試、大学入試センター試験利用入試(併用方式または単独方式)および指定校推
薦入学によるフレックスBコース合格者で、本学部に入学する意思を持つ者に給付される。
選考は、入学試験の成績上位者から、提出されたエントリーシート・調査書等を参考にし
て、本学部に設置されている、各入試合否決定委員会が行う。給付金額は、1名につき4
年間で総計約 175 万円である。2001 年度の採用人数は、64 名である。
(3)
学業成績優秀者奨学金
本学部の2∼4年次に在学し、特に学力・人物ともに優れた者に給付される。選考は、
前年度までの学業成績等を参考にして、法学部奨学委員会が行う。給付金額は、1名につ
き1年間で約 64 万円である。毎年約 50∼60 名に給付されている。
(4)
やる気応援奨学金
本学部の学生で、学内外における諸活動(研究活動、社会奉仕活動、海外留学等)にお
いて実績をあげることが期待される、もしくはその実績をあげた者に給付される。給付金
額は、1件あたり上限 100 万円である。2001 年度は、4名に給付されている。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の法学部奨学金制度は、主に、入試時における優秀な学生の獲得、フレックスBコ
ースの学力水準の向上、在学生の勉学意欲の喚起および社会貢献等の目的で行われている。
給付金額、採用人数から見てかなり充実したものになっていると評価できる。
他方、これらの奨学金制度の存在が、受験生および在学生に周知されているのかどうか。
上記の奨学金は、その都度、当面の学部の方針を反映する形で設けられてきた。特に学部
の奨学金制度は一連の改革により機動的かつ柔軟性を持つものとなったが、全学奨学委員
会への報告義務等が課されているため、学部と全学との関係に不明瞭さを残すことになっ
ている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
限られた奨学金の予算を有効に利用するには、現行の各種奨学金について、どのような
理念・目的で、どれくらいの予算で、どのような対象者に、どのような基準で選考したら
よいのか等、制度を見直す必要がある。学部の政策・方針を反映した奨学金を制度化して
運用するには、学部により広い裁量を与えるような制度の変更が必要である。
5
教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
①本学部教員は、専任教員、兼担教員、兼任教員、助手、客員教員、外国人客員教員から
構成される。その人数は、
「表5
全教員の内訳」のとおりである。兼担教員とは、学内他
学部所属の専任教員であって本学部設置科目を担当する教員である。また客員教員とは、
「中央大学客員教員に関する規程」に基づいて「特色ある科目または教育効果において特
に必要性の高い科目を担当する教員」として採用された客員教授・客員講師のことである。
42 第2章 学部
外国人客員教員とは、
「中央大学外国人客員教員に関する規程」に基づいて正規の授業科目
を担当するために、招聘した外国人教員である。
なお、主要な授業科目への専任教員の配置状況については、「基礎データ調書(表 36)」
および添付資料『講義要項』の教員授業担当表を参照されたい。
2001 年5月現在、兼任教員数は 346 名であり、専任教員対兼任教員の比率は、25.3%対
74.7%である。女性専任教員数は8名であり、専任教員に占める女性教員の比率は 6.8%
である。また外国人専任教員数は4名であり、その比率は 3.4%である。
(基礎データ調書
表 10 参照)
2001 年4月末現在の、本学部3学科の学生収容定員は、法律学科 3,992 名、国際企業関
係法学科 640 名、政治学科 1,902 名、計 6,534 名(二部収容定員 1,000 名を含む)である。
なお在籍学生総数は 7,446 名である。専任教員数(助手を除く)が 117 名であるから、教
員一人あたりの学生数は、55.8 人(在籍定員比は、63.6 人)となる。
(「基礎データ調書
表
2、表 10」参照)
②本学部の3学科には、
「法律学科運営委員会」、
「国際企業関係法学科運営委員会」、
「政治
学科運営委員会」とがそれぞれ設置されており、学科運営の基本方針を検討している。ま
た法律学科、政治学科にはそれぞれ科目担任者会議が置かれ、専門科目の教育に責任を負
っている。国際企業関係法学科においては、国際企業関係法学科運営委員会が直接この機
能を負っている。総合教育科目、保健体育科目、外国語科目についても同趣旨の組織が設
置されており、それぞれの科目群の教育に責任を負っている。
さらに専任教員は、「表6
専任教員の部会別・身分別構成」に示すように、専攻領域
別に部会(専任者会議)を構成している。この部会が、担当領域の教育研究について審議
を行う基礎単位である。
こうした学部教員組織の重層的構成は、社会環境の変化や学生の進路の多様化に対応で
きる教育システムを用意していくために必要なもので、本学部が法曹養成に配慮した伝統
的法学教育の一層の充実に加えて、国際的な企業や政府機関、さらにはNPO等で活躍で
きる人材を育成するために大きな役割を果たしている。また専任教員の部会別年齢構成は
「表7
専任教員の部会別年齢構成」のとおりである。
なお教授会は、専任の教授・助教授・講師によって構成され、助手は、教授会員ではな
いが、教授会に出席して意見を述べることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
この間の専任教員数の推移をみると、1998 年度が 123 名、1999 年度が 121 名、2000 年
度が 119 名、本年度が 117 名である。学部全体として見ると退職教員等の補充人事の遅れ
が歴然としている。このことには、それぞれの領域ごとに事情があるため一律には議論で
きないが、この点が改善されると、対学生比は大幅に改善されることになる。
なお、1993 年特設科目として司法演習1∼3が設置され、本学を卒業した、法曹の実務
にかかわる現役弁護士・検察官 59 名(2001 年度現在)が兼任教員としてその指導にあた
っている。本学部の兼任比率が高まったのはこの年以降である。この大量の社会人教員の
受け入れは、本学部としての独自性に鑑みると、積極的意味を持つと考えている。
なお本学部の兼任講師は、大学での講義歴が1年以上あることを原則にしているが、社
会人教員の任用との関係で、原則自体は改めないものの運用の弾力化を図り対応している。
43
【将来の改善・改革に向けた方策】
この間、司法演習の開講や兼任講師任用の弾力化によって、社会人教員の受け入れが大
きく進んだ。この成果を慎重に見極めたうえで、一層充実した教員組織の確立を進めて行
きたい。また、今年導入された特別任用教員制度と併せて、運用の検討が必要である。同
時に前項で述べたように、専任教員一人あたりの学生数が過度に多くならないよう改善す
る必要がある。
また、本学部における女子学生比率は、年々高まり、現在 29.2%である。この点からも
教員組織に専任女性教員の増員を図る必要がある。外国人教員の受け入れについても今後
とも積極的に取り組んでいく必要がある。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
全学的な教育研究支援職員は、中央図書館・大学院図書館、研究所合同事務室、国際交
流センター、情報研究教育センター、映像言語メディアラボ等の機関に配置されているの
で、関連の項目を参照されたい。
学部独自の研究支援機構としては、法学部文献情報センターがあげられる。このセンタ
ーは、中央大学創立百周年記念事業として 1985 年に設立され、主として教員・大学院学生
を対象に、①オリジナル・データベースの構築、②オンラインもしくはオフラインによる
学術研究情報の検索サービス、③学術研究のための情報環境の提供、を目的とするもので
ある。パートタイム職員であるが、検索方法や機器操作に習熟したスタッフが常駐し、研
究活動を支援している。
また、教育用の図書室として、講義棟に教育図書を配架した学部図書室を設置している。
ここに配架された図書は、図書館の蔵書とは異なり、学部独自の予算と選定によって運用
され、適宜更新されている。
またTA制度の設置後、情報系科目を中心に活用がなされている。この運用実績を活か
して今後、他の領域の科目においてもこの制度の活用を進める予定である。
【点検・評価
長所と問題点】
法学部文献情報センターの設置は、本学部の教育研究の向上にとって重要な役割を果た
しただけでなく、このセンターが公開した情報は広く法学研究の発展に資するものである。
またこのセンターにおいて情報機器の利用がすすみ、このことがひいては学部の情報化に
も大きな貢献をした。
教育研究支援職員と教員組織との連携は、大学の教育研究においてきわめて重要なこと
であるが、そのあり方については、現在過渡期にあると言えよう。具体的には、大学にお
ける限られた資源の効率的運用の視点と、個別的具体的対応の必要性との調整が、求めら
れている。TAにとどまらず、将来はRA(リサーチ・アシスタント)制度が考えられる
が、今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究支援職員については、高度な知識を持つ人的資源の有効活用の視点からも、今
後全学的運用体制の充実がますます必要になってくる。ただ同時に学部独自の、いわば「小
回りの利く」制度的工夫も必要である。
44 第2章 学部
こうした点に配慮しながら、情報機器・映像機器等の教育機器を積極的に活用するため
の研修活動や、学内外の研究者・組織と共同で研究プロジェクト等を推進する活動に、習
熟したスタッフの系統的育成が必要である。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続
【現状の説明】
①
専任教員の募集・任免について
専門科目担当専任教員の任用は、法律学科と政治学科において実施されている助手採用
試験による任用と、部会発議による任用との2つがある。
助手採用は、
「中央大学助手規程」および「中央大学法学部助手に関する内規」に基づき
実施されるもので、資格は大学学部卒業以上の学歴を有し、採用時に 30 歳未満のものであ
る。任期は、学部卒4年、博士課程前期課程修了者3年、博士課程後期課程に1年以上在
籍した者2年である。助手はその任期が終了するまでに助手論文を作成し、教授会へ助教
授への昇格申請を請求することができる。教授会はその申請があった場合、
「法学部専任教
員の任用及び昇格の基準」に基づき、業績審査委員会を設置する。委員会において3分の
2以上の多数を得た場合、教授会に諮り、その3分の2の多数を得た場合、昇格が承認さ
れる。なお、昇格申請が行われなかった場合および3分の2の多数を得られなかった場合
は、助手は任期終了時に退職する。
部会発議による任用は、
「法学部専任教員の任用及び昇格の基準」に基づき、新任教員任
用を部会が発議するものである。この発議がなされた場合、業績審査委員会を設置し、候
補者の研究業績および能力の審査を行う(候補者は公募ならびに推薦による場合がある)。
委員会において3分の2以上の多数を得た場合、教授会に諮りその3分の2の多数を得た
場合、任用が承認される。
なお、法律学および政治学以外の専門科目担当専任教員、外国語科目担当専任教員、保
健体育科目担当専任教員の任用についても、この「法学部専任教員の任用及び昇格の基準」
が適用される。なお、任用に当たって満たすべき形式要件の概要は、以下のとおりである。
<専任講師>
大学において、1年以上専任講師であった者。
大学において、2年以上非常勤講師の職にあり、かつ顕著な業績を有する者。
担当する科目の分野において博士号を有する者。
大学において、助手内規の定める任期の期間またはそれを越えて助手の職にあった者。
その他上記に該当する者と同等以上の顕著な業績または能力を有する者。
<助教授>
大学において、1年以上助教授の職にあった者。
本学において、1年以上専任講師の職にあった者。
本学において、助手内規の定める任期の期間またはそれを越えて助手の職にあった者。
その他上記に該当する者と同等以上の顕著な業績または能力を有する者。
<教授>
大学において、7年以上助教授の職にあった者。
大学において、1年以上教授の職にあった者。
45
その他上記に該当する者と同等以上の顕著な業績または能力を有する者。
なお、本年度から特任教員制度が制定され、今後、この制度による任用が考えられる。
②
専任教員の昇格について
専門科目担当専任教員の昇格は「法学部専任教員の任用及び昇格の基準」に基づいて行
われる。専任教員は、下記の在職期間の要件を満たす場合、教授会に対し昇格の審査を申
請することができる。この申請に基づき業績審査委員会を設置し、申請者の教育研究上の
業績および能力の審査を行う。審査委員会において3分の2以上の多数を得た場合、教授
会に諮った後、その3分の2の多数を得た場合、昇格が承認される。なお、昇格に当たっ
て満たすべき形式要件の概要は、以下のとおりである。
<専任講師から助教授への昇格>
本学における専任講師としての在職期間が1年以上あること。
<助教授から教授への昇格>
本学における助教授としての在職期間が7年以上あること。ただし大学において専任講
師の職にあった期間は、助教授の職にあった期間に含めることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部における教員の募集・任免・昇格に関して、特徴の一つは助手制度にある。全国
の法学系学部・学科・専攻のある大学、大学院のほぼすべてに、助手公募書類の案内を送
り、広く有能な人材を求めてきた。この制度が本学部の教育研究水準の向上に大きく寄与
してきたことは言うまでもない。また、人材を広く学内外に求める点でも近年努力を進め、
専門科目においても、他大学の教員を迎え入れて任用するケースも増加している。
なお、他大学の教員を本学に迎え入れる場合、いくつかの問題もある。教員任用人事は、
学部にとってきわめて重要な案件であるため、発議から審査期間(情報を教授会員に開示
する期間も含めて)を経て議決に至るには、少なくとも教授会3∼4回は要する。その結
果、任用の決定時期が遅れ、割愛先の大学との関係で難しい問題を抱える場合も生じる。
そのために人事計画を早めに立てて、次年度採用人事ではなく、次々年度の採用人事を審
議する工夫を始めた。
また任期の定めのある特任教員については、まだ制度が発足したばかりで、具体化は今
後の課題となっている。なお、公募の方法については、従来の文書・新聞広告等によるも
のだけでなく、ウェブ・サイトに公開する工夫も採られ始めている点は評価できよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
近年、大学には多様な任用形態の教員スタッフが存在するが、教員の募集・任免・昇格
にあたっては、選考基準と手続における公正さがきわめて重要である。この点を今後とも
厳格に堅持しながら、近年の大学が置かれた社会環境の変化に応じて、広く優れた人材を
得るための教員人事を進める必要がある。
また、前項でも述べたように、人事計画が長期的視点に立つこと自体が、教員の適切な
流動化を図ることに寄与することになるので、今後とも改善が必要であろう。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
①
教育活動の評価
46 第2章 学部
現在、教員の教育活動そのものを評価する活動は行われていないが、毎年、学生による
授業評価アンケートを実施し統計処理を行い、全体的特徴の解析とともに、個別の科目ご
との集計結果を各教員に伝えることをしている。学生による授業評価を、教育内容の改善
に資するよう求めているという点で、教育活動の評価に関連するものである。
このアンケートは無記名で、内容は基本的に記号回答するものであるが、自由記述欄を
設けて学生の率直な意見を聴することに努めている。
講義概要の記述内容の調整、単位認定の基準などについては、適宜教授会などで審議さ
れ改善が図られている。また講義の領域の調整や方法について、各部会の教員間で調整が
なされている。また情報機器やAV機器利用については、対応する機関による講習会など
が実施され、教員の教育能力の向上に努めている。
②
研究活動の評価
研究活動に関する直接的評価は、教員の任用・昇格には厳格に実施されるが、日常的に
は実施されていない。ただ、全学的な『学事記録』において毎年教員の研究業績をまとめ
て公開し、さらに学部白書の刊行(『中央大学法学部白書(教育編)』1998 年刊、『中央大
学法学部白書(研究管理運営編)』1999 年刊)によって、その研究業績の詳細をまとめて
内外に公開している。こうした研究業績報告書の刊行は、間接的ではあるものの、教員の
研究活動の現状を評価する基礎的な資料となっている。
また特殊研究助成候補者等の選定にあたっては、当該の委員会が教員からの研究助成申
請を審査・選定することを行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
大学における説明責任として教育研究活動の評価はきわめて重要なことであるが、客観
的基準を設けること自体が困難なため、機械的画一的評価に頼ることは危険であると言え
よう。教員の任用・昇格時において、教員の教育研究業績と能力とを厳格に評価してきた
こと、授業評価アンケートの実施、教員の業績一覧の公表等、具体的な措置を進めてきた
ことは評価できる。ただ今後とも、実際の教育研究活動の向上につながる評価方法を探求
する課題が残されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
①
授業評価アンケートは専任教員の担当科目を対象に実施されており、兼任教員につい
ては、一般的な協力を求める以上のものではない。このことは、アンケート項目やデータ
処理方法について、兼任教員と審議して決定に至ったものではないため、
「強制」し難い面
が存在する。この点についての工夫が将来必要である。
また、アンケート項目の設定については、データの経年的比較の視点からは、過度の変
更が毎年なされることのデメリットと、アンケート内容を時宜にかなって変更するメリッ
トの関係について、今後検討する必要がある。さらに、アンケートの質を高める工夫をし
なければならない。学生側の真摯な対応も見られるが、一部に杜撰かつ無責任なものがあ
ることが、アンケート調査の内容を損なっている場合もある。
個々の教員レベルではこうしたアンケート調査の結果を、積極的に受け止め、講義内容
を改善していく努力がなされており、授業評価アンケートの果たした役割は小さくないが、
具体的改善方策を教員集団として考えていく点では、遅れが見られる。この点が、今後の
課題となる。
47
②
研究活動の評価の前提として、研究そのものの推進へインセンティブが働くよう改善
が進められなけれならない。例えば学内外に開かれた研究活動を進めることによって、一
層客観的で広い視点から自己の研究活動を見つめる機会が得られる。積極的な研究活動や
成果の公表を、評価・助成するシステムを構築することが、研究活動の評価を実質的に行
うことになる。
表5
全教員の内訳
専任教員 兼担教員
人
表6
数
117
13
兼任教員
助手
客員教員
外国人客員教員
計
346
0
9
0
485
専任教員の部会別・身分別構成
教
授
助教授
専任講師
助
手
計
公
法
5
1
0
0
6
民
法
6
2
0
0
8
法
5
0
0
0
5
商法・経済法
8
0
0
0
8
民事訴訟法
3
0
0
0
3
英
米
法
4
0
0
0
4
国
際
法
4
0
0
0
4
国 際 私 法
4
0
0
0
4
労
働
法
3
0
0
0
3
基
礎
法
5
0
0
0
5
3
0
0
0
3
学
15
3
0
0
18
総 合 教 育
4
0
0
0
4
語
17
1
1
0
19
ド イ ツ 語
5
3
0
0
8
フランス語
4
1
0
0
5
中
国
語
1
1
1
0
3
日
本
語
0
1
0
0
1
保 健 体 育
5
1
0
0
6
101
14
2
0
117
刑
事
国際政治経済
政
治
英
計
表7
専任教員の部会別年齢構成
∼30 ∼35 ∼40 ∼45 ∼50 ∼55 ∼60 ∼65 ∼70
公
法
民
法
刑
事
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
3
1
法
商法・経済法
1
1
民事訴訟法
英
米
法
国
際
法
国 際 私 法
48 第2章 学部
2
1
2
2
1
1
1
1
2
1
2
1
1
1
1
2
2
1
1
労
働
法
基
礎
法
1
3
国際政治経済
政
治
2
2
3
総 合 教 育
英
1
1
学
4
2
1
2
1
4
4
2
3
2
ド イ ツ 語
2
1
2
1
2
1
中
国
語
日
本
語
1
保 健 体 育
1
1
23
18
計
1
2
1
10
11
1
4
3
1
1
1
語
フランス語
2
1
1
2
1
1
3
1
18
14
1
20
6.施設・設備等
6−(1) 施設・設備等の整備
【現状の説明】
本学部は多摩キャンパス6号館および8号館ならびに映像言語メディアラボ設置の教室
の一部を利用して授業を実施している。教室等の面積・規模については「基礎データ調書
表 43・45」に掲げるとおりである。それぞれの教室等の使用状況は同じく「基礎データ調
書表 25・26」に掲げるとおりである。学生や兼任教員の希望等さまざまな理由により教室
使用状況に若干の偏りがあることは否めない。
また、設備面では、ほとんどの大・中教室においてビデオ・カセットテープ・教材提示
機・レーザーディスク・PC等のメディアを利用した授業展開を可能にしており、さらに、
2つの中教室を情報処理教室とし、100 台のPCを設置し、授業および学生の必要に応じ
自由な利用に供している。その教室には専用のインストラクターを配置し、学生の疑問等
に即時答えられるように配慮している。小教室については、中・大教室同様各種メディア
を利用した授業が可能な設備を3教室に、ビデオのみを9教室に設置し、語学等の教育に
配慮している。また、外国語会話の重要性に配慮し楕円テーブルを数個配置した3教室お
よびゼミ運営に配慮しロの字形テーブルを配置した6教室を用意している。
その他に学生の自主的な学修を促すために図書室および自習室を設けている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部に割り当てられた教室等で本学部生 7,446 名(2001 年5月1日現在)を収容する
には狭隘感を禁じ得ない。時間割編成に伴う教室使用状況の若干の偏りについても、学生
の自由な活動を支援する意味においてもやむを得ない選択と言える。
現在でも少人数教育を掲げ、できる限りの対応をしてはいるが、より一層教育効果のあ
がる施設・設備条件の向上に努めることが望まれる。しかし、この点は一学部内で解決で
きる問題ではなく全学の方針のもとに実施されていくことになる。
全体的に見て教育環境・学習環境を著しく阻害している事実はないが、問題点は残る。
具体的な問題点を以下にあげる。
第一に、中教室が足りない点である。従来のマスプロ的教育から 100 名規模の授業へシ
フトすることにともない、1970 年代の設計である本学の教室数では対応が困難になってき
49
ている。これに対しては、比較的履修者数の多い講座については大教室を使うことによっ
て対応せざるを得ず、理想的な授業実施になっていない可能性もある。
第二に、小教室が足りない点である。少人数教育は時代の趨勢であり、教育効果をあげ
るためには必須であるという認識から、できる限りの対応をしてきているが、教室数の不
足により十分な対応がなされていない点は否めない。例えば、サブゼミ等をゼミ時間帯と
連続させて同一教室で行う場合などに調整が大変困難になる。また、設備・机の形状等の
要望に十分に応えられない場合もある。メディア教室を希望しても全教員の希望にそうこ
とができていないのも実態である。これらにより教育の質の低下を惹起しない工夫が各教
員によってなされていることも事実であり、可能な限り臨時の教室変更等で対応している。
第三に、コンピュータ利用環境整備が遅れている点である。現在 100 台のPCで授業お
よび学生の自由な利用を担保しているが、学生からはPC台数の不足、スペックの問題等
の指摘がある。これも時代の趨勢からは十分整備することが望まれてはいるが、リプレー
ス費用の捻出はもとより、物理的な設置スペース確保が困難であり、対応に苦慮するとこ
ろである。教室同様に一学部では対応ができない面を含んでおり、全学的な検討に委ねざ
るを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
まずこの報告書が 2001 年5月 1 日時点の状況報告であるために上記2項目の中で言及で
きない 2001 年度後期からの改善について報告する。
具体的には、8小教室 ・5中教室 ・1大教室においてインターネット接続を含むマル
チメディア設備を実施した。これによりPCを含むさまざまな媒体でのプレゼンテーショ
ンが可能になるのみならず、インターネット接続によりリアルタイムな情報提供が可能な
授業展開を可能にした。初等・中等教育においてコンピュータ・リテラシー教育が行われ
ている現在の教育制度に対応し、大学における従来のリテラシー教育から情報機器を用い
ての調査・分析方法等へ大学の情報教育がシフトすることになる。将来的には全教室にお
いて学生が独自にPCを利用して学習することが可能になるように、設備の充実を計画し
ている。現時点では前記の教室の改善とともに全教室に情報コンセントを設置し、近い将
来に備えている。
また、全学のキャンパス整備実施計画(第6章
大学の運営
施設・設備等
参照)に
よれば、2002 年度より教育研究棟建設の検討に着手し、教室不足解消とともに設備の一層
の充実が図られることとなる。
最後に、司法制度改革審議会の法科大学院構想に伴う法学部教育の在り方が今後焦点を
当てて論じられる問題であり、それに伴う施設・設備の検討が急がれる。
何より最高学府である大学での教育が十全になされるべく施設・設備を充実することが
肝要であり、そこにおいては限られた資源の有効な活用に努め、補助金等への説明責任を
果たすとともに、学生の多様な個性を伸ばし、国際通用力のある学生の育成を目指した教
育の実現を可能にする施設・設備が求められるという認識にたって、今後の改善・改革計
画を立てていくことになる。
6−(2)
キャンパス・アメニティ等
本学におけるキャンパス・アメニティについては、
「第6章
50 第2章 学部
大学の運営
施設・設備等」
を参照されたい。なお、本学部にかかわる部分について以下のとおり学生サービス等につ
いて述べたい。
【現状の説明】
入学後の履修登録は多くの新入生にとって、大学生になったことを実感する機会の一つ
であり、窓口における最初の手続となる。現状では、学科ごとに日時を決め登録の受け付
けを行っている。また、各種証明書等の発行については、必ず法学部事務室に申し込む必
要がある。それらの交付は、郵送もしくは窓口での直接交付となっている。
窓口での対応如何によっては、学生の帰属意識を高め学修への意欲をかき立てることも
ある反面、事務への不信感、不満等を蓄積させる結果につながりかねない。
学生証については、2年ごとに更新することとなっている。
休講情報、事務室からの連絡等事前に情報があるものについては、本学部ホームページ
に掲載しているが、緊急を要する連絡事項は事務室の掲示板、電話での連絡を行っている。
館内は指定場所を除いてすべて禁煙措置が取られている。学生・教職員はこの措置を守
り、指定場所以外の喫煙はあまり見かけなくなった。
学部棟には1階から3階まで学生のための懇談スペースがそれぞれ設置され、飲み物の
自動販売機、ソファー等が置かれている。
【点検・評価
長所と問題点】
窓口での対応については、ベテラン職員とパートタイム職員を配置し、学生への質問等
に迅速に対応し学生とのコミュニケーションを円滑に行っているが、質問が集中する時期
(学期の初め、試験期)には学生からの苦情が寄せられることもある。各種証明書の申請、
交付について法学部事務室以外受け付けられないことは、時代の趨勢からして問題がある。
学生証は紙製のため、破損、汚損する危険性が大きい。
タイムリーな情報を事務室掲示板以外からも得られる方策が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生証をカード化し、その中にさまざまな機能を搭載することにより、各種証明書の発
行、自動履修登録等窓口のルーチン業務を減らすことで、学生からの学修、生活上等の相
談に時間を割くことができる。また本学部からの情報をタイムリーに得られる手段として
携帯電話の利用が考えられる。
6−(3)
利用上の配慮
【現状の説明】
本学部には、現在全盲者を含め3名の障害者が在籍している。全盲者を除いては施設面
での特段の配慮を必要としない。全盲者については、転落防護柵、点字ブロックの設置、
ロッカーの貸与、試験時間の延長、履修教科の担当者に対する授業上の配慮の依頼、学生
ボランティアに対する施設・設備面の補助等を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
障害者の入学にあたっては、大学はそのための特別な配慮は行わないことを原則として
きたが、障害を持ちながら難関を突破してきた学生に対しては、学修のための援助は当然
のことであろう。
本学部に在籍している障害者からは、特別の要望は出されていないが、特に全盲者に対
51
する配慮としての、施設・設備面での改善については、予算等の面で一学部が対応できる
範囲には限界があると言わざるを得ない。また点訳等については学外および学生ボランテ
ィアに頼っている現状では、全盲の入学者が増加した場合は対応できないこともある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
施設・設備面での改善は、全学的な合意のもとに検討を進めなければならない。点訳等
についてはボランティアの確保と併せ、自動点訳機等ハード面での充実が必要である。
6−(4)
組織・管理体制
【現状の説明】
法学部棟の管理責任は、一義的には法学部事務長が負う。日常の施設・設備に関する教
員・学生からの、修理・修繕等の要望に関しては、簡単なものであれば法学部事務室職員
が対応している。予算措置を伴う大規模なものは、緊急性等を考慮し学部長と相談のうえ
関係部署に対し申請を行っている。
教室に備え付けられているAV機器等については、収納場所の鍵を事務室が管理し、現
在のところ盗難、破損等の被害は報告されていない。
また、女子トイレの安全を確保するため、法学部棟の全女子トイレには緊急事態の発生
に備え、事務室に連動した警報装置が設置されている。
【点検・評価
長所と問題点】
施設・設備等を維持・管理するための責任体制、システムの確立については、現在のと
ころ機能していると言える。ただし建物の構造上(開閉できる窓が少ない)、5月∼6月に
かけて気温が上昇したときに教室内の風通しが悪くなることがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
建物の構造上の問題については、全学的に取り組まなければならない事項であるが、費
用等の絡みもあり一朝一夕には解決できない。改善の第一歩としては、天候・気温・室内
温度・湿度等に注意を払いきめ細かい空調の切り替えを、担当部署に要望していく必要が
ある。
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
本学部独自での公開講座等は、実施していないが、全学的に学術講演会や中央大学クレ
セント・アカデミーで公開講座が実施されており、本学部教員もこの学術講演会や公開講
座の実施に協力している。なお、この項目については「第5章
教育研究支援
開かれた
大学の理念と社会貢献」を併せて参照されたい。
本学部教員の行っている社会的活動は多岐にわたっている。それぞれの具体的活動形態
は以下のとおりである。
① 他大学非常勤講師
② 官公庁・各種団体の研修会講師(司法研修所講師、県・市職員研修会講師等)
③ 国家試験委員(司法試験 2 次試験考査委員等)
④ 官公庁審議等委員(国税庁国税審議委員、金融庁金融審議委員、法務省公証人審査委
52 第2章 学部
員会委員、特許庁弁理士審査会委員、文部省学術審議会専門委員等)
⑤ 各種公的団体委員(日本学術会議国際協力常置委員会委員、日本弁護士連合会外国法
事務弁護士懲戒委員会委員等)
【点検・評価
長所と問題点】
社会貢献では、社会の重要な役割を担っていると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会貢献については、特に問題があるわけではないので、将来においても改革・改善す
べき点は見当たらない。
8.管理運営
8−(1)
教授会
【現状の説明】
教授会は、学則第 11 条によってその学部の教授、助教授および専任講師をもって組織
され、学部運営の方針および諸規則の制定・改廃に関すること、教育課程および授業日に
関すること等 14 項目について審議決定を行っている。また中央大学教授会規程により教授
会の運営を定めており、月に1、2回の割合で開催されている。
【点検・評価
長所と問題点】
学部教授会の自治が尊重されており、問題点はないと考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教授会については、特に問題があるわけではないので、将来においても改革・改善すべ
き点は見当たらない。
8−(2)
学部長の権限と選任手続
【現状の説明】
学則第9条第2項に規定されているとおり学部長は、その学部に関する事項を司り、そ
の学部を代表する。
学部長の選任の手続に関しては、明文化したものはないが、学則第9条および第 11 条
第3項第 12 号に基づき、教授会の申し合わせ事項があり、教授会において投票により選出
している。
【点検・評価
長所と問題点】
予算の立案・執行に関し全学的な調整を行う場合、学部長の権限を制約する要素が発生
する。
学部長の選任の手続について、その運用が適切に行われる限り、特に問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
予算単位化の早期実施が望ましい。
内規や規程として明文化が必要となろう。
9.事務組織
9−(1)事務組織と教学組織との関係
【現状の説明】
53
法学部事務室は、教授会、各種委員会等開催通知の発送・資料作成・進行補助について
関係する業務を行っている。
毎週定期的に事務長、担当課長、3グループの副課長が参加し、学部長および学部長補
佐との打ち合わせを行っている。内容は教授会運営をはじめ各種業務に関する打ち合わせ
を行っている。
本学部には、19 の部会があり、専任教員はそれぞれいずれかの部会メンバーになってい
る。これ以外に 70 以上の各種委員会がある。部会や委員会が開催されるときはその議題に
より、事務の担当者が資料作成および運営補助を行っている。
事務組織と教学組織との連携は、緊密であると言える。
【点検・評価
長所と問題点】
大学に対する社会の要請が多様化している中で、事務組織と教学組織との関係は一層緊
密な連携が求められる。本学部の現状は一応満足すべきものと思える。しかしながら、教
授会・部会は別としても各種委員会の数が多いことが気がかりである。限られた事務職員
ですべての委員会をフォローするには、限界があると言わざるを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各種委員会の統廃合に向け、学部内における真剣な検討を開始する時期にきている。
9−(2)
事務組織の役割
【現状の説明】
職員構成
専任職員(「中央大学事務組織規則」に基づく)
専任職員の配置および人員数(2001 年度現在)
事務長(1名)
担当課長(1名)
合
副課長(1名)
A)教務グループ(7名)
副課長(1名)
B)学務グループ(2名)
副課長(1名)
C)システム・学部広報・特別入試グループ(2名)
計
16名
パートタイム職員(「中央大学パートタイム職員就業規則」)に基づく)および派遣社員
パートタイム職員および派遣社員の配置および人員数(2001 年度現在・常駐人数)
法学部事務室
7名(教務グループ専属派遣社員1名含む)
法学部教員室
1名
法学部学生図書室
1名
研究室
2名
法学部情報処理教室
1名
法学部文献情報センター
2名
法学部事務室・夜間部
3名
合
計
職務
54 第2章 学部
17名
「中央大学事務組織規則−業務分掌」に基づき、入試から卒業までの事務処理の流れを次
に示す。なお、A、B、Cの標記は、上述の事務組織−職員構成に示した3グループの各
担当業務を示す。
事務組織の職務の流れ(入試から卒業まで)
学生の受け入れ(入試)
C
学部の広報に関する業務
C
入学手続に関する業務
C
推薦入学試験、外国人留学生試験および特別入学試験に関する業務
B
学部聴講生の募集および選考に関する業務
学籍管理
A
学籍・学生身分異動等に関する業務
A
住所等学生届出事項に関する業務
A
学生証・学生割引証に関する業務
A
学生諸名簿の作成・保管
A
学生数等の調査・統計に関する業務
授業実施・運営
A
授業時間割の作成等授業実施に関する業務
A
履修・講義要項等の作成に関する業務
A
履修指導および履修届に関する業務
A
補助教材等に関する業務
B
学部棟の管理等に関する業務
A
カリキュラムに関する調査・分析
B
ゼミナールの助成に関する業務
学生生活全般
B
学部図書(室)に関する業務
B
学生の国際交流、特別聴講生に関する業務
B
医療費補助申請・学生弔慰金等に関する業務
A
学部企画行事に関する業務
B
課外教育に関する業務
A
学生相談に関する業務
A
父母との連絡等に関する業務
試験実施
A
試験時間割の作成等試験の準備および実施に関する業務
成績発表・管理・卒業
A
成績記録・発表および分析に関する業務
A
各種証明書の発行および資格・照会に関する業務
A
成績原簿等各種原簿の整理・保管
A
教育職員免許状の授与資格認定に関する業務
教員補助業務
B
教員人事の記録に関する業務
55
A
教員の応接および受け付けに関する業務
B
教員の国際交流に関する業務
B
学会出張等に関する業務
B
教授会・各種会議に関する業務
B
助手採用に関する業務
その他
B
学部の学事計画および予算に関する業務
C
教学システム(電算)の処理および学内の連絡調整
【点検・評価
長所と問題点】
学部内の業務を3グループが分担することにより、機動性と責任の所在の明確化等が図
られている。他方、約 8,000 名の在学生ならびに約 500 名の専任、兼任教員等への教育研
究サービスに対応するには、個々の職員の努力に負うところが大きい。その結果、残業の
日常化、窓口対応の画一化等指摘される点もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
人件費の問題はあるが、専任職員数の適正化もしくはスキルを持った派遣社員、パート
タイム職員の増員を考慮していく必要がある。また、業務の閑繁を視野に入れたグループ
の季節的編成を行う必要がある。
10.自己点検・評価等
10−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
本学部の自己点検・評価に関しては、1997 年度の『中央大学法学部白書』で次のよう
に記述している。
「その時々の課題に対して教授会のもとに設置された各種委員会による点
検作業が実施され、それに基づいて具体的な改革案が策定されてきた。たとえば、1993 年
に実施された法律学科・政治学科における新カリキュラムの導入と国際企業関係法学科の
新設は、多年にわたり教育システムの問題点を洗い出してきた学部教育問題検討委員会の
作業結果とそれを引き継いだ学部改革推進委員会における検討の成果である。このように
本学部では、教育体制の改善充実を目的とする自己点検作業が各種委員会によって実質的
に行われてきたということができる。しかしながら、これらの委員会による個別的点検作
業を総合的に把握し調整するシステムが不十分であったこと、また、自己点検の結果を内
外に公表し、客観的な批判を仰ぐ体制が整っていなかった点は、率直に認めざるを得ない。」
とし、このような反省に立って設けられたのが「自己点検評価制度検討委員会」であり、
その勧告に基づいて 1995 年に法学部自己点検評価委員会が発足し、1998 年3月に『1997
年度
中央大学法学部白書(教育編)』を、1999 年3月に『1998 年度
中央大学法学部白
書(研究・管理運営編)』を出版した。
【点検・評価
長所と問題点】
自己点検・評価について、法学部白書が公表され学部の改革や改善の資料となっている。
他方で他大学、他研究機関等に対してもこの白書は送付されたが、客観的な批判を仰ぐま
でには至っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
56 第2章 学部
自己点検・評価された結果が、学部の改革や改善に直結させるための制度やシステムが
整備されていないので、その確立が必要であろうし、今回の基準協会による評価を軸に自
己点検・評価の継続が大切な方策となろう。
10−(2)自己点検・評価と改善・改革システムの連結
【現状の説明】
法学部白書が発行されてから、この白書が今日までの本学部における入試、カリキュラ
ム等の改革・改善につながる資料となった。しかしながら、学部の改革・改善等に直結さ
せるためのシステムが整備されていない点で不十分であると言える。
【点検・評価
長所と問題点】
1995 年発足した「法学部自己点検評価委員会」は、その役割として「教育問題(教育の
現状把握)を中心に点検作業を行い、そこから得られた経験をもとに漸次他の点検項目へ作
業を拡大する。法学部における教育の現状を把握する作業の一貫として、学生による授業
評価に取り組むこととし、その実施方法等について教授会の合意を得られる具体案を策定
する。」等具体的課題を設定した。
これを受け、1997 年には『法学部白書(教育編)』、1999 年には『同(研究・管理運営
編)』を作成したことは前述のとおりである。また、学生による授業評価については 1995
年教授会の承認を得て、1996 年から全専任教員に対する授業科目について「授業評価アン
ケート」の形で実施し、結果について法学部白書(教育編)の中で、統計資料として公表
した。その後、学生による授業評価アンケートは現在まで継続して実施されており、授業
等の改革・改善に寄与している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部の改革・改善等に直結させるためのシステム構築が必要である。
10−(3)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
前述の法学部白書については、学内はもとより学外の関係機関に送付し意見を求めたが、
目立った指摘はなかった。
【点検・評価
長所と問題点】
資料の整合性、内容の適合性等について相当の時間をかけ議論を積み重ねた結果、完成
した白書であるため、他機関からの指摘がほとんどなかったことは評価に値する。反面、
興味を引く内容ではなかったために指摘がなかったとも考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
自己点検・評価の客観性、妥当性を確保するためには学内、学外の関係機関はもとより、
大学基準協会等の専門機関による検証が不可欠である。
10−(4)
評価結果の公表
【現状の説明】
前述の法学部白書は、本学部専任教員、学内の教員行政部長、理事会、職員部長、学外
関係諸団体、法学部を設置している国公私立大学等合計約 550 機関・個人に送付した。
【点検・評価
長所と問題点】
57
関係機関に対する白書の送付先は、ほとんど網羅されている。他方学生に対する白書の
公表が行われていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学構成員である学生に対する授業評価を含めた、情報公開のシステムを検討する必要
がある。
58 第2章 学部
法学部通信教育課程
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
中央大学の前身である英吉利法律学校は、1885 年に創設されたが、開校と同時に校外生
制度を設け、通学できない人々のために「講義録」を郵送するというわが国最初の通信制
授業を採用した。高等教育を広く社会に開放した校外生制度は、在外生制度から在外員制
度へと変遷し、その後、大学令に基づく中央大学の認可によって一時中断した。そして、
戦後、1948 年に社会教育法に基づく認定を受けて、校外生制度の伝統を受け継ぐ通信授業
が復活し、1949 年には中央大学が新制大学に改編されたのにともなって中央大学法学部通
信教育課程が発足した。
戦後の通信教育の再生は、教育の機会均等・門戸開放という教育の民主化の理念にたち、
新制大学教育に新たな道を開いたものであった。その理念は、経済的理由やその他の諸事
情から通学が困難な者にも通信(郵便)によって大学教育の機会をもたらし、教育の民主
化の一端を担うことにあった。本学法学部通信教育課程(以下、通信課程)での教育は、
通学課程と共通して、在野精神を尊ぶ白門の伝統のもとに実学の重視と開かれた教育の実
践を目指し、法律学の体系的な学修を基本目標とし、法律学の基本的な知識の修得、法曹
および広義の法律専門職の養成、社会のさまざまな領域における法律学の応用能力の向上
を図るものである。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の目標を掲げて実践される本学通信課程は、今日まで、創設以来半世紀を超える期
間にわたり、有為の人材を卒業生として社会に輩出し、この間、通学課程の二部(夜間部)
とともに、高等学校教育を終えた勤労者等に対する法学教育の貴重な機会を提供する役割
を担ってきた。創設当時と較べて日本の経済状況は改善されてきたものの、さまざまな理
由から通学課程の大学への進学が困難な学生も少なからず見られ、こうした初期の理念は
今なお失われてはいない。折しも、通学課程二部(夜間部)がフレックス・コース(昼夜
開講制)へ移行する中で、その役割は相対的に重くなっているとも言える。
一方、法学部通信教育課程の将来を展望するうえで、重要な変化も見られる。すなわち、
社会の複雑化・多様化、少子高齢化、そして法化社会の到来とともに、通信教育課程に社
会人の再教育あるいは生涯教育の役割を求める例が多く見られるようになっている。さら
に、最近では、情報処理および情報通信の技術が著しく発展する中で、通信課程も従来か
らの郵便を中心とした手段を用いることに加えて、新たな高度情報通信技術を活用するこ
とが求められ、その潮流に対応できる総合的な教育研究体制づくりが急務となっている。
また、法科大学院の創設にともなう法学部における法学教育の位置づけが従来と異なる場
合には、通信課程においても、それに対応した制度改革が迫られている。本通信課程が、
その理念と目標を高く掲げつつ、そうした社会変化にも積極的に対応していけるかどうか
は、その創立時からの理念のもとに、その目的を今後も遂行していくことと併せて、まさ
に存在意義そのものにもかかわっていると言って過言ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
59
本通信課程が、伝統と実績を継続しつつ、新たな社会の変化とニーズの多様化に対応し
て一層大きな社会的役割を担うべく、通信教育委員会および制度改革検討委員会において、
後掲各項目の記述のとおり、課題整理と具体的制度改革案の策定が進められている。その
個別具体的取り組みにおいては、法科大学院設立にともなう本学法学部の将来構想のもと
に、本通信課程が果たすべき役割を明確に見定めることが不可避である。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本通信課程は、創設以来、法律学分野での基本的・体系的知識と幅広い総合的な教養と
を統合した大学における法学教育の門戸を広く提供することを使命とし、本法学部通学課
程が法律学科とともに政治学科や国際企業関係法学科を擁するのと異なり、教育研究組織
としての学科構成を採っていないが、法学部の教育研究組織の全体が通信課程の教育研究
組織としての役割を担っている。このことより、教育研究組織に関する記述は、法学部に
ついて前述されたところと同様である。そして、通信課程の管理運営の職務にあたるべく、
法学部教授会組織のもとに通信教育部委員会が構成され、通信教育部長が置かれている。
【点検・評価
長所と問題点】
本通信課程は、提供する法学教育のカリキュラム上は法律学専門科目が中心を占めるが、
通信課程全体の教育活動には法学部における各分野の専任教員全員が参加することから、
質量ともに充実した教育研究組織を擁するものと言える。また、通信課程のみを担当する
専任教員を置かず、通学課程と実質的に同一の教育を提供する趣旨が貫かれている。それ
らは、本通信課程の教育実践を大いなる成果とともに遂行してきた基盤であるが、他方で、
法学部の通学課程においても通信課程においても、また法学部専門科目を担当する教員の
多くが兼担する大学院法学研究科においても、教育研究活動が多様化するにともない、職
務の加重負担が少なからず生じていることも指摘できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通信課程において、これまでに教育研究組織基盤が果たしてきた機能を維持しつつ、社
会変化に対応した制度改革を着実に遂行するための教育研究組織ともなりうるために、兼
担されている教育研究活動領域における専任教員数の増員や職務分掌のあり方などが検討
される必要がある。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
通信課程の教育課程
【現状の説明】
本通信課程は、法律学分野における基本的・体系的知識を授け、幅広い総合的な教養と
の総合を目指す法学教育を提供しており、本法学部通学課程のような学科構成を採らずに、
授業科目全体において法律学専門科目に3分の2、基礎科目・隣接科目に3分の1を充て
たカリキュラムを用意している。授業科目は、各科目の分野と性格をもとに、9つの群に
分けられている。法律科目(88 単位必修)として、第1群に基本六法を中心とした法律科
目(28 単位必修)、第2群に応用的な法律科目、第3群に特定テーマを扱う法律科目、第
60 第2章 学部
4群に卒業論文科目(8単位必修)を置き、基礎科目(43 単位必修)として、第5群に政
治・経済関連科目、第6群に基礎的な教養科目、第7群に英語科目(8単位必修)、第8群
にドイツ語・フランス語科目、第9群に健康関連科目(3単位必修)を置く。また、法律
科目と外国語科目以外では、年次配当を大幅に緩和し、1年次から法律科目を学習する中
で、各自の問題意識の高まりに応じて授業科目を選択できるようにしている。さらに、多
様な通信課程学生のニーズに応じ、個々人の学習目的に応じた科目選択が可能となるよう
に、必修科目は一定限度に抑えて、自由選択型に近いカリキュラムを採っている。
【点検・評価
長所と問題点】
本通信課程では、1993 年にカリキュラム改革を実施し、前記の群制度を導入して授業科
目を再編したことを契機に、通信課程の理念・目的にそいつつ、近時の通信課程における
法学教育の社会的ニーズに対応した改善努力が続けられている。そこでは、一般教養的授
業科目の編成における「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養」
するための配慮、外国語科目の編成における「国際化等の進展に適切に対応するため、外
国語能力の育成」のための措置、教育課程の開設授業科目、卒業所要総単位に占める専門
教育的授業科目・一般教育的授業科目・外国語科目等の量的配分などにおいて、その適切
性と妥当性が十分に確保されているものと考えられる。また、法律学専攻に係る専門の学
芸を教授するための法律学専門教育的授業科目においては、前記の群制度のもとに、学問
の体系性と本学法学部の理念・教育目的に即した豊富で適切な科目配置が実現している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通信課程での授業科目設置には、後述の授業形態の特殊性に基づく特別の準備が必要で
あることから、社会的ニーズへの早期の対応が困難な場合も少なくない。また、教育研究
組織を共通のものとすることから、通学課程での人事やカリキュラム改訂と連動すること
が求められる。さらに、社会の進展に伴って生起する現代法分野および総合的テーマの授
業科目設置を推進する必要がある。現行のカリキュラムは、これらに一定程度対応できる
柔構造を有するものではあるが、その対応を実現するための具体的な方策の検討が、通信
教育部委員会およびその下部に特設の制度改革検討委員会にて、今までに増して、早急に
進められなければならない。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
通信課程の学生に対し、後期中等教育いわゆる高等学校教育から大学における高等教育
へ円滑に移行できるよう施されているカリキュラム上の配慮は、入学初年度に学習する「法
学」科目や第5∼9群の基礎的な教養科目の内容を通じて行われ、その他、教育指導上の
配慮は、通信課程の特性を踏まえて、学内および全国主要都市で開催される新入生ガイダ
ンスにおける専任教員の講演、学内で開催される夏期スクーリング期間中の学習指導会、
「学習ガイドブック」や学習の手引きとして刊行される「リベルス」シリーズの記載内容、
補助教材たる月刊「白門」誌の掲載記事等を通じて行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
本通信課程が通学課程との同一水準の法学教育プログラムを用意し、書類選考のみによ
って広く入学者を受け入れていることの社会的意義を踏まえつつ、入学時における学力や
61
学習環境の多様性を視野入れて、前記学習指導の各方法において一定程度の工夫がなされ
ている。さらに、法学学修に必要な基礎的教養科目、外国語科目、健康体育科目等の履修
の必要性を踏まえて、できる限りきめの細かい学習指導機会の確保が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通信課程の特性と入学生の多様性に応じた入学ガイダンスおよび学習指導のあり方につ
き、継続した検討のうえに、一層の改善努力を重ねる必要がある。
3−(1)− ③
履修科目の区分
【現状の説明】
前記の教育課程「3−(1)− ①
通信課程の教育課程」の【現状の説明】にて既述の
とおりである。
【点検・評価
長所と問題点
】
群制度のもとに履修科目を配置して、カリキュラム編成における必修・選択の量的配分
を適切に行っているほか、多様な学生要望に応えるべく、科目選択の余地を大きくするな
どの工夫がなされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人の再教育や生涯教育の要請にも対応した制度改革検討が進められている。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
【現状の説明】
通信課程における授業形態には、通信授業たる印刷教材による授業形態と、面接授業の
形態があり、その他、法律科目については各地で開催される演習がある。現行の通信授業
では、教科書等の印刷教材による学生の自修、印刷教材に対する質問票による質疑応答、
年度ごとに単位数に応じて授業科目ごとに出題される課題に対するレポート作成とその添
削指導によって行われる。面接授業には、学内で夏期休暇中の3週間にわたって開催され
る夏期スクーリング、全国主要都市で各季節の週末等を利用して開催される地方スクーリ
ング、特別の選考を経て許可される通学課程授業への参加による通年授業がある。
通信課程に独特の各授業科目の履修方法と単位取得の形態としては、4単位科目の場合
には、①レポート4通が合格したうえで科目試験に合格するか、②レポート2通が合格し
て、当該科目の面接授業を受講し、科目試験に合格することを要し、2単位科目の場合に
は、①レポート2通が合格したうえで科目試験に合格するか、②当該科目の面接授業を受
講し、科目試験に合格することを要し、1単位科目の場合には、面接授業を受講し、単位
を修得する。そして、1年次から入学した場合には、卒業に必要な 131 単位のうち、面接
授業単位を 30 単位以上(夏期スクーリングの所要単位数を含む)必要とする。卒業に必要
な単位には、卒業論文審査による8単位が必修として含まれる。
【点検・評価
長所と問題点】
通信課程の特性に応じて典型的な授業形態と単位認定方法が基本的に採用され、加えて、
面接授業が豊富に開講され、演習科目が設置されるなど、教育効果の実を挙げる態勢が整
っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
62 第2章 学部
面接授業による教育効果が大きいことを踏まえて、さらに効率的な面接授業の実施に努
めるとともに、高度情報通信技術を活用した通信授業や面接授業のあり方の検討を一層進
めて、技術面、実務面、制度面での基盤整備を早急に実現する必要がある。
3−(1)− ⑤
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
本通信課程においては、現行の制度上、国内外の大学等との単位互換は行われていない
が、入学前の既修得単位の単位認定については、2年次および3年次編入制度において、
他大学および短期大学にて既修の単位を、法律専門科目等を除いて一括して換算認定する
制度を設けている。
【点検・評価
長所と問題点】
高等教育機関の連携や協力のもとに、法学教育の機会を求める人々への本通信課程のさ
らなる門戸開放の方策が、慎重に検討されなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本通信課程への門戸を広げ、多様化する入学者の既修経験を尊重すべく、単位認定にお
ける一括換算制度の導入準備などが進められている。他大学および短期大学の既修得単位
の一括換算制度の導入と関連して、専門学校における既修得単位の取り扱いが議論されて
いる。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
通信授業においては、原則として、法学部専任教員が執筆して通信教育部で出版する通
信課程専用の教科書が採用されているが、事情により市販教科書の利用や、専門分野の都
合により他学部教員が執筆する教科書の利用がなされている。また、レポート課題の出題
および科目試験の出題と採点は、原則として、教科書執筆者を中心に法学部専任教員が担
当の任にあたっている。レポートの添削指導は、課題出題者たる法学部専任教員のほか、
延べ 202 名のインストラクターを年度ごとに選任採用して、実施している。
面接授業においては、校舎外の地方スクーリングを、現行上、専任教員がすべて担当し
ているが、一部、兼任教員が担当できる方向で制度運用の改善が図られることになった。
夏期スクーリングについては、開講座数全体の約 70%を法学部専任教員が担当し、残りを
他学部専任教員と法学部兼任講師が半分ずつ担当している。面接授業に接続する科目試験
の出題と採点・評価は、それらのスクーリング講義担当者が行う。なお、演習科目につい
ては、法学部専任教員が地方出張等により一部を担当するほかは、大半は法学部兼任講師
が担当している。
【点検・評価
長所と問題点】
このように、通信課程における教育指導においても法学部専任教員が担当する割合が大
きいことは、本学の誇りうる特色の一つであるが、全国的に多数展開される教育指導機会
を確保するうえでは、今後、兼任・非常勤教員採用の増大は不可避の課題である。その採
用にあたっても、本通信課程の理念・伝統・教育手法等に理解ある人材の登用が必要であ
ろう。
63
【将来の改善・改革に向けた方策】
校舎外スクーリングにおける兼任講師採用が、一定の範囲を定めて実施される。今後は、
その範囲の拡充が、必要な教員の確保とともに求められる。
3−(1)− ⑦
生涯学習への対応
【現状の説明】
本通信課程は、伝統ある勤労者教育の機能に加えて、近時、社会人再教育や、生涯学習
の機会として、その社会的役割への期待が増大しつつある。本通信課程では、休学制度の
弾力的運用による修学年限の一定程度の延長を認めるほか、高齢者に対して卒業時に修学
努力を表彰している。また、卒業生に対しては、補助教材「白門」誌の頒布、同窓会活動
や学生会支部活動と連動した学習機会等の提供がなされている。
【点検・評価
長所と問題点】
通信課程の教育手法そのものが生涯学習にも対応するものである。少子高齢化や高度情
報化、さらには、一層法化する社会の実情を踏まえて、本通信課程に寄せられる期待に応
えるべく、具体的な方策の実施が、さらに進められなくてはならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
休学制度、修学年限制度、退学・復学制度などについて、生涯教育に対応した制度改革
の検討が進められている。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
本通信課程では、教育上の効果の測定は、通信授業および面接授業を担当し、教科書執
筆、レポート課題出題、科目試験出題・採点等にあたる法学部専任教員が、科目ごとに行
う成績評価や、卒業論文審査を通じて実質的に行われるほか、通信教育部事務室スタッフ
による試験結果(合格率算定)の精緻な統計等が教員に開示されることにより、客観的に
も行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
教育効果の測定は、多様な機会を通じ主として実質的に行われ、事務室のサポートがな
されているが、教育効果や目標達成度およびそれらの測定方法に対する教員間の合意の確
立や、教育効果を測定するシステム全体の機能的有機性を検証する仕組みの導入について
は、現時点では、特筆すべきものは見あたらない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通信課程に学ぶ学生の目的の多様性に照らして、教育効果の測定に困難はつきまとうも
のの、通学課程に劣らぬような法学教育の水準を維持するための方策が検討されなければ
ならない。なお、卒業生の進路状況については、通信課程に学ぶ者がすでに一定の職業を
有し、卒業時に新たな職業選択を行うことが少ないなどの事情から、統計的な状況把握が
困難な面があるが、今後は、卒業生の動向を、卒業生の団体である「信窓会」の会員把握
を通じて捕捉するなどの工夫をし、教育効果の測定に資するよう努めることが必要となろ
う。
64 第2章 学部
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
【現状の説明】
履修科目登録の上限設定として、年次の最高履修単位制限が設けられている。成績評価
基準の適切性に関しては、前記の科目別試験結果統計に照らして、各科目の担当教員にお
いて判断されている。
【点検・評価
長所と問題点】
各科目の担当教員の判断に委ねられており、伝統的に、厳格な成績評価がなされてきて
いる。しかし、それらが客観性を担保する仕組みについては、特段に用意されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、通学課程における厳格な成績評価を行う仕組みの導入状況に照らして、通信課程
においての実施も検討されなければならない。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
入学時の基礎学力を含めた修学条件が学生によって大いに異なる通信課程にあっては、
学生の修学目的の多様性を視野に入れた履修指導が求められ、また、授業形態の特殊性や
体系的な科目履修の必要性を踏まえた履修指導が必要である。本通信課程では、学内およ
び全国主要都市で開催される新入生ガイダンス時における履修指導、夏期スクーリング期
間中の学習指導会、
「学習ガイドブック」や学習の手引きとして刊行される「リベルス」シ
リーズの記載内容、補助教材たる月刊「白門」誌の掲載記事等を通じて、履修指導が行わ
れている。また、全国各地において学生が主体的に運営する通教学生支部の活動を支援し、
学習会における費用補助や、合宿ゼミへの法学部専任教員の派遣・協力が行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の履修指導および学習支援等は、カリキュラム上にとどまらない本学の誇るべき教
育活動の一環であり、同時に、学習内容の指導とともに科目履修内容の指導の実をもあげ
ていると考えられる。通信課程に入学した者には、さまざまな事情により、カリキュラム
の年次配当どおりの履修継続が困難な場合が多く、標準在籍年数を超えて在籍することや、
休学、退学等の修学中断が多く見られるので、各人の個人的事情に立ち入ることはできな
いまでも、修学継続に対する支援ができるだけなされることが望ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、編入学生の増加にともない、社会人再教育や生涯教育の役割も大きくなること
をも踏まえて、そうした従来の履修指導態勢の柔軟な対応が必要となり、入学ガイダンス
のあり方について、プログラムの工夫など、改善努力が積み重ねられている。
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
通信課程学生の学修の活性化は、前記の充実した履修指導や学生会活動支援によって図
られている。
【点検・評価
長所と問題点】
65
教員の教育指導方法の改善の促進、シラバスの適切性確保、FD活動に対する組織的取
り組み、学生による授業評価の導入等は、教育研究組織を共通とする通学課程での実践を
参考に行われている。さらに、通信課程独自の教育改善について、組織的な取り組みが進
められる必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育改善の組織的取り組みにつき、通信課程でも独自に検討の余地があることから、と
りわけ高度情報化社会への対応を視野に入れ、メディア授業のあり方の検討を含めて、さ
らに具体的に進められなければならない。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
通信課程における授業形態には、通信授業たる印刷教材による授業形態と、面接授業の
形態があり、その他、法律科目については各地で開催される演習があり、それらの形態に
ついては、授業方法と併せ、必要取得単位数との関連において上記「3−(1)− ④
授業
形態と単位の関係」で記述したとおりである。
年間の統計では、通信授業は、設置 76 科目に対して 67 講座が開講され、夏期スクーリ
ングは、設置 37 科目に対して複数開講を含んで、45 講座(その他に語学科目が 35 クラス、
体育実技が 13 クラス)、地方スクーリングは設置 24 科目に対して 36 講座(語学・体育実
技を含む)が開催された(同一科目の複数講座開講を含む)。通年面接授業は 21 名が 166
科目を履修した。また、第3群に位置する演習科目は 20 ゼミが開設されて総数 123 名の参
加があった。
【点検・評価
長所と問題点】
通信授業において使用する印刷教材(教科書等)については、その内容の現代化や自宅
学習対応の工夫等を踏まえた改訂・新刊の努力が重ねられており、その一層の推進が望ま
れ、また、面接授業については、その教育指導上の有効性が認識されることから、その拡
充が受講生の利便性を踏まえて促進されなければならない。また、特に通信課程において
は、マルチメディアを活用した教育の導入や文字通り「遠隔授業」による授業科目を単位
認定できる学内の規定整備ならびに人的物的環境整備が急がれなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
印刷教材については、改訂計画が策定され、促進の具体的方策が検討されている。面接
授業については、ITを活用したメディア授業の開設に向け、技術的・制度的検討が積極
的に進められている。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
国際化への対応と国際交流の推進に関しては、教育研究組織を共通とする法学部および
大学において記述されたところと同様であり、通信課程に独自な取り組みは今のところ、
あたらない。国内の交流としては、全国私立大学通信教育協会を通じての交流がある。
【点検・評価
長所と問題点】
国際化と情報化が進む中で、通信課程の教育サービス範囲の拡大が求められており、そ
66 第2章 学部
の対応が図られる必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本通信課程においては、外国人や在外邦人の入学希望に対応すべく、郵便事情や通信手
段を勘案した制度的・事務的な環境整備が検討されている。また、本通信教育部に独自な
国内の交流として、財団法人私立大学通信教育協会での活動に積極的に参加しており、今
後は、高度情報化社会における通信教育のあり方をめぐっても活発な意見交換がなされる
ことが期待されている。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
本通信課程では、年に2回、4月と 10 月に、高等学校卒業等を資格要件として、書類選
考により1年次への入学を許可している。学生募集は、全国新聞紙上を通じて私立大学通
信教育協会加盟の各大学との連合広告によるほか、本通信課程の単独広告や、説明会の開
催によって行われ、その他、案内冊子の作成配布、電車内ポスター掲示、インターネット
のホームページを活用した入学案内、バナー広告等が実施されている。
本通信課程への1年次入学者の数は、1993 年度には 2,000 名を若干超えていたが、94
年度と 95 年度には 1,700 名台、96 年度には 1,500 名台となり、最近3年間は各年度 1,100
名前後になっている。女子の1年次入学者数に大きな変化はないが、男子の1年次入学者
数が激減している(93 年度の男子1年次入学者が 1,458 名だったのに対して、2000 年度は
その約半分の 689 名であった)。ただし、2年次・3年次編入生(後述)を加えた数で見る
と、93 年度から 99 年度にかけての入学者総数の減少傾向に一応の歯止めが掛かっている。
【点検・評価
長所と問題点】
入学者選抜は行わずに書類選考のみにより入学を許可する制度、および、早い時期から
春と秋に入学を許可する制度は、大学教育を社会に広く開放する本通信課程の創設の理念
に基づくものであり、その理念を堅持する現行の入学制度は特段の問題はないと考えられ
る。また、創設当初の入学希望者は 10 日間で 10,000 人に上ったとも言われ、その後も、
入学希望者が多数存在したことは、本通信課程が社会のニーズに大いに応えてきたことの
証左である。こうした伝統が全国的に知名度を高め、長らくの間、学生募集は案内告知の
程度で足りてきたと言えるが、全国的に大学法学部通学課程が数多く設置され、多様な高
等教育機会が数多く提供されるとともに、18 歳人口が減少するにつれて、学生募集の基本
的な姿勢が再検討される時期を迎え、現在、その改善努力がなされつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生募集については、本通信課程の理念を現代の社会においても広く問う意味を含めて、
社会人の再教育、生涯教育の場としてのニーズを十分に視野に入れた工夫が一層なされな
ければならない。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
大学教育および法学教育を社会に広く開放する本通信課程創設の理念のもと、前述の入
67
学制度を堅持して1年次入学者を受け入れるとともに、2年次・3年次の編入学者を受け
入れている。この編入学制度の目的は、通信課程の独自性を生かしつつ、社会人教育・生
涯教育のニーズに応えること等を通じて、本課程をより社会に開かれたものにすることに
ある。最近では、その編入学制度の目的をよりよく達成するための制度改革も継続して進
められている(後述参照)。
【点検・評価
長所と問題点】
本通信課程の入学者受け入れ方針は、社会のニーズと合致し、多くの入学者を迎え入れ
てきた。さらに、本通信課程の存在意義を高めるべく、社会人教育・生涯教育のニーズや
今日的な法学教育のニーズに対応したアドミッションポリシーの再構築が望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
高等教育機会の多様化に対応し、専門学校課程修了者にも取得済み単位の相応分を換算
して編入学を認めるか否か、現在検討中である。
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
本通信課程では、高等学校卒業等を資格要件として、入学者選抜は行わずに書類選考の
みにより、年2回、春と秋に入学を許可している。
【点検・評価
長所と問題点】
前記の入学者受け入れ方針のもとに、大学教育と法学教育の門戸を広げてきた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本通信課程の入学者受け入れ方針は、今後も、社会のニーズに支えられて、継続される
べきものと考えられる。
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
入学試験は実施していない。書類選考に必要な提出書類の様式および記載事項において、
資格要件の充足を確認するほか、所定の記入事項により、修学意思が確認されている。
【点検・評価
長所と問題点】
従来、別段の問題は生じていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入学選抜は今後も実施される見込みはない。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
学則により、本通信課程の毎年度の入学定員は 3,000 名とされている。年度により、入
学者数に増減は見られるが、入学者数は定員を超えていない。
【点検・評価
長所と問題点】
入学選抜を実施せず、現状において入学者数は定員を超えていないので、別段の問題は
ない。また、通信課程の場合での定員は、教育上の対応可能人員を意味するものと考えら
れるので、定員充足率の確認の必要性が小さい。
68 第2章 学部
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も、入学希望者数に大きな変動がない限り、定員管理につき格別の方策は必要とさ
れない。
4−(6)
編入学者、退学者
【現状の説明】
大学卒業者に3年次編入を認めているほか、大学1年次を修了した者(専門教育科目を
除く 24 単位以上を修得した者)に、2年次編入学を認めている。さらに、大学2年次を修
了した者(専門教育科目を除く 32 単位を含み、総単位で 43 単位以上を修得した者)に、
3年次編入学を認めている。短期大学・高等専門学校(5年制)卒業者は、1999 年度まで
は、2年次に編入を認めていた。しかし 2000 年度から、3年次への編入も選択させること
にした。併せて、編入前に修得していた単位を本課程の単位として換算する要件を緩和し
て、かつての一般教育・語学にあたる科目の単位を一括換算することにした。その結果、
1993∼99 年度における3年次編入生の数は、男子が年平均約 363 名だったのが、2000 年度
は 484 名に、女子は年平均約 198 名だったのが、2000 年度は 421 名になった。特に女子の
3年次編入が大幅に(約2倍)増えたのは、短大卒業者の編入を認めたためと思われる。
通信課程には、高等学校卒業以上の者に科目履修を認める制度として、科目別履修制度
があった。しかし、2001 年度から、科目別履修制度を学校教育法等に定める科目等履修生
制度へと拡充した。科目別履修制度のもとでは、単位は認定されたが成績は評価されず、
修得単位は正科生として入学した場合には換算されなかった。面接授業は受講できなかっ
た。しかし、科目等履修生制度は単位修得を目的とするものであり、成績は評価され、面
接授業を受講でき(単位は与えられない)、正科生として入学した場合に修得単位の相応分
が換算される。科目等履修生になる最低限の資格は、高等学校卒業資格を有する者または
それと同等以上の学力を有すると認められる者とである。この履修生になり得るのは、本
課程の正科生以外の者、つまり、本学と他大学を問わず、大学院、大学、短大、高専(4
年次以上)に在学する者である。なお、単位修得を目的としない聴講制度を 2001 年度に新
設して、学歴を問わず聴講を認めることにした。対象は正科生以外の者である。
次に退学者の数と動向であるが、過去5年間(1996∼2000 年度)の年度末時点での在籍
者数と対比してみる。年度末在籍者数過去5年間で 8000 名弱から 6600 名強へと減少する
傾向の中で、退学者数が各年度末在籍者数に対して占める割合は、大体8∼9%である。
しかし、毎年度退学者の2倍前後の除籍者が出ていて、退学者と除籍者を加えた数が年度
末在籍者数の中で占める割合は、平均して、26%である。
特に本通信課程の学生は、学習環境に恵まれていなかったり、学習継続を困難にする経
済的問題を抱えていたりする場合が多いと思われる。また、教員の側としては、授業のレ
ベルを落とすことなく、通学課程と極力同等に保つよう心がけている。これらの理由が相
俟って、毎年度在籍者の約4分の1が退学者か除籍者になっていると思われる。
【点検・評価
長所と問題点】
編入学に関しては、上述の制度改変により、門戸開放をある程度進め得た。編入学生に
増加の傾向が見えるのは、その効果であろう。門戸開放を進めたことにより、社会人教育
と生涯教育のニーズにもよりよく応えることができるようになったと判断できる。
69
退学者・除籍者が発生する原因には、学生個人の事情が占める割合が多いと思われるの
で、本課程として取り得る方策には限りがあるが、生涯教育のニーズに対応した制度改善
が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専門学校生にも、取得済み単位の相応分を換算して編入を認めるか否かを、現在検討中
である。退学者・除籍者の発生を抑え、また、生涯教育のニーズに対応するために、科目
区分や単位数設定の工夫がなされてきており、今後、スクーリングの実施方法などにおい
て、一層の対応が検討されている。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
通信教育部学則第6条に基づき、通信課程の授業は本大学の通学課程の教員が担当し、
必要があるときは、教授会の議を経て、その他の適任者が担当している。また第6条2に
基づき、通信課程の学習指導については、委員会の選任するインストラクターが担当の任
にあたっている。インストラクターは、内規により担当業務や資格を規定され、授業担当
専任教員の推薦に基づき、通信教育部委員会で審議し、決定され選任されている。
【点検・評価
長所と問題点】
法学部通学課程と教育研究組織を共通して、通信課程の教育水準が確保され、通信課程
の特性に応じて、適宜、兼担教員、兼任教員を配置するとともに、インストラクターが選
任されている。インストラクターの選任においても、資格要件の設定とともに慎重な選任
手続が実施されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員組織に関しては、特段の問題点はないと考えられるが、今後、情報化対応にあたり、
下記の教育研究支援体制とあわせて、検討の必要があろう。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
教育研究支援職員に関しては、通信課程の特性に応じ、教育面において後述のような独
立事務組織基盤が整えられている。
【点検・評価
長所と問題点】
スクーリングや学生の学習指導等においては、教員と職員との協同により、地方出張を
含めて、十分な教育活動支援がなされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、現在検討中のインターネットを利用した授業形態や国際化に向けた改革が
実現する場合には、それに応じて、適切な教育活動支援の体制を構築するうえで、人的配
置や増員が必要となろう。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続
法学部通学課程と教育研究組織を共通にしていることから、当該項目については、法学
70 第2章 学部
部の記述と同様である。
5−(4)
教育研究活動の評価
法学部通学課程と教育研究組織を共通にしていることから、当該項目については、法学
部の記述と同様である。
6.施設・設備等
【現状の説明】
通信課程の授業形態は、主として通信授業(課題に基づくレポート添削)であるため通
教独自の教育用施設・設備は整えていない。夏期面接授業(スクーリング)は、通学課程
の夏期休暇を利用して、学内の教育施設を利用している。地方在住学生の勉学条件を配慮
した学外でのスクーリングは、主に全国主要都市の地方公共施設を借用して実施している。
学内の図書館等の学生勉学施設は、通学課程の学生と同様に通信課程の学生にも供されて
いる。通年を通学課程で勉学する通教生は、通学課程と同様に学内施設を利用することが
できている。他方、通信教育部事務室は、学部棟(通学課程棟)とは別の敷地にあり、施
設の管理・運営も独自で行っているため、通教生は、年間を通じて手続をすることができ
る。また、業務の特性を踏まえて、簡易郵便局に隣接しているが、夏期スクーリング実施
時期は法学部事務室に近い場所に事務拠点を特設している。
【点検・評価
長所と問題点】
学内で行うスクーリングの開講時期は、通学課程の夏季休業期間を利用せざるを得ない
ため、有職者が大半を占める通教生からの開講期間に関する多様な要望にすべて応えるこ
とができないが、施設・設備に関しては、通学課程と同一の水準が確保されている。学外
でのスクーリングについては、受講生の利便を考慮して、年間の各時期に週末を含む日程
で、全国の主要都市において実施しているが、開講数の増加にともない、利用施設の確保、
費用の面からも困難な場合が多くなってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後については、印刷物による教材や郵送による通信手段に加え、ITを活用した遠隔
授業の実施や新たな通信手段の利用が求められる。その実現に必要な施設・設備について、
制度改革検討委員会にて検討が開始されている。なお、通教生の中にも国家試験を目指す
者がいることから、通学生との意見交換を図り勉学向上を目的とした学生勉学施設(いわ
ゆるオフキャンパス)を確保したので、今後の活用が期待される。
7.社会貢献
7−(1)社会への貢献
【現状の説明】
法学教育において通信制を全国的に継続して実施すること自体が大いなる社会貢献と
して理解されてよい。個別の社会貢献の事例としては、通信課程の教員組織が法学部教員
組織と共通することから、法学部の社会貢献として記載された事例に含まれるが、通信課
程独自のものとしては、法学部専任教員の著作物等を全国各地の公共図書館等に寄贈して、
「中央大学通教文庫」を設置していることや、通信教育部創立 50 周年記念事業の一環とし
71
て各地において記念講演会・シンポジウムを実施したことなどをあげることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
伝統的に、本通信課程の教育実践は、社会的貢献を大いに果たしてきたと言えるが、通
信課程の制度インフラを活用した独自の社会貢献の方法が、さらに検討されてよい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全国的に展開する通信教育活動の各機会を有効に活用して、さらなる社会貢献の実績を
積み上げるために、情報化対応を契機とした具体的方策が検討されなければならない。
8.管理運営
8−(1)
通信教育部委員会
【現状の説明】
通信教育部学則に基づき、通信教育部委員会(以下、通教委員会)が、法学部教授会に
て選出された通信教育部長および 10 名の委員をもって構成されている。各委員は教育科目
の各分野を担当する法学部専任教員から選任され、その任期は2年である。このように法
学部教授会のもとに通教委員会が設けられ、通信課程関連の教学事項については、通教委
員会の審議を踏まえて法学部教授会で審議・決定されている。財政面については、通信教
育部の独立採算性を前提に、予算および決算に関しても通教委員会が審議の場となってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
通信課程に関する教学事項の意思決定等において、通教委員会の制度が十分に機能して
おり、特段の問題点はないと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通学課程との関連性を考慮しつつ、通信課程に特有な教育環境の整備において、高度情
報化や国際化に対応する諸課題を早急に検討するために、通教委員会を一層充実した協議
の場とする必要がある。現在、通教委員会の本委員会の他に、制度改革検討委員会が設け
られて精力的な制度改革の議論が進行しているが、より十全な審議体制を構築するために、
通教委員会や小委員会には必要な分野からの委員を増員するなどの改善の余地がある。
8−(2)
通信教育部長の権限と選任手続
【現状の説明】
通信教育部長は、通信教育部学則第4条により規定され、本大学の教授から法学部教授
会で選出した者につき学長が委嘱している。法学部教授会による選挙で選出され、任期は
2年である。通教委員会および通教事務室組織を統括し、通信課程における教学面および
財政面における権限と責任を有している。
【点検・評価
長所と問題点】
本通信課程通信教育部長の権限および選任手続に関して、特段の問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特段の方策の必要はないと考えられる。
9.事務組織
72 第2章 学部
9−(1)
事務組織と教学との関係
【現状の説明】
通信教育部事務室は、庶務課と教務課の二課制を採用している。通信教育部委員会の開
催にあたっては、通信教育部長と事務長・2課長・8副課長が2回にわたり委員会の運営
についての打ち合わせを行っている。また、授業編成については、法学部教授会の科目担
当者会議に教務課長、副課長が出席し、資料作成・運営補助を行っている。事務組織と教
学組織との連携は、緊密であると言える。
【点検・評価
長所と問題点】
通学生の年齢層が一定の幅の中にあるのと違い、通信教育部の学生層は多様化してい
る。しかも全国各地に居住している。事務組織を活用して、学生からの意見の集約をし、
教学に反映しなければならない。現状では、学生からの意見が大方委員会に反映している
と判断している。しかし、限られた職員では、学生からの意見や要望の聴取に限度がある
と言わざるを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の意見・要望を事務組織だけが聴取するだけでなく、教学と一緒になり聴取してい
ける方策の検討を開始していくことが必要である。
9−(2)事務組織の役割
【現状の説明】
法学部の併設課程に位置づけられる通信教育課程の事務を担う組織として、大学事務組
織の一つに、通信教育部事務室が設置されている。独立採算性をとる通信教育部の管理運
営上、同事務室は、学生募集から物品調達、人件費の支払いに至るまでを執行している。
事務組織は、2課体制のもとに、庶務会計、教材の制作・配布などを行う「庶務課」と、
学生の勉学環境の維持管理、授業・試験・成績管理としての「教務課」とで構成されてい
る。それらの事務組織には必要数の専任職員が置かれ、適宜、臨時(パートタイム)職員
が置かれている。
職員構成は以下のとおりである。
専任職員(「中央大学事務組織規則」に基づく)
専任職員の配置及び人員数(2001 年度現在)
事務長(1人)
庶務課長(1人)
副課長(4人)A)庶務・会計グループ(2人)
B)教材グループ(1人)
C)編集グループ
教務課長(1人)
副課長(4人)D)学籍グループ(2人)
E)試験グループ(2人)
F)学生グループ
合計
18名
パートタイム職員(「中央大学パートタイム職員就業規則」に基づく)
パートタイム職員の配置及び人数
庶務課(3人)
73
教務課(7人)
合計
10名
職務については以下のとおりである。
「中央大学事務組織規則−業務分掌」に基づき、事務処理の流れを次に示す。なお、A、
B、C、D、E、Fの標記は、事務組織−職員構成に示した6グループの各担当業務を示
す。
事務組織の職務の流れ
学生の受け入れ
C
入学案内、教材等の編集に関する業務
C
学生募集(広告・宣伝)に関する業務
D
入学願書の受付、入学手続きに関する業務
C
入学手続きに関する業務
B
教材、補助教材の配布及び在庫管理に関する業務
学籍管理
D
学籍・学生身分異動等に関する業務
D
学生証・学生割引証に関する業務
D
学生諸名簿の作成・保管
D
学生数等の調査・統計に関する業務
D
学籍原簿、成績原簿の作成、整理及び保管に関する業務
授業実施・運営
D,E
通信授業、面接授業の授業実施に関する業務
B,E
履修届の受付に関する業務
E
学習報告書関する業務
E,F
演習に関する業務
試験実施
E
試験実施に関する業務
成績発表・管理・卒業
D
成績記録・通知・発表に関する業務
D
各種証明書の発行及び資格・照会に関する業務
D
成績原簿等各種原簿の整理・保管に関する業務
D
卒業論文及び総合面接諮問に関する業務
学生生活全般
F
学生会活動及び学生の課外活動助成に関する業務
B,F
通教文庫に関する業務
B,F
奨学金に関する業務
予算・決算
A
予算・決算に関する業務
A
現金・予算の出納に関する業務
A
学費の収納・未収金の督促及び諸経費の支払いに関する業務
74 第2章 学部
その他
D
教務システム(電算)の処理及び学内の連絡調整
A
インストラクターに関する業務
【点検・評価
長所と問題点】
事務室員の削減に伴い、7グループを6グループに改編し、学生対応の向上を図ること
が出来つつあること。また、独立採算性をとる通信教育部の管理運営においては、法学部
教授会及び通教委員会の教学組織と連携協力し、通学部と異なる条件下にある教育活動に
対して、十分な環境整備に努めている。しかし、年4回全国各地での科目試験や年 40 講座
の校舎外スクーリングの開催においては、実施回数の減少や講義担当教員への補助業務が
十分に行えない点も指摘される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通信教育課程に入学する者の減少や在学する者が減少傾向にある中で、経営基盤を確保
しつつ通信教育独自の教育活動を維持・発展していくために、高度情報化への対応を急ぎ
つつ具体的な方策を検討している。
10.自己点検・評価等
10−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
通信課程においても、通学課程とともに、1997 年度および 1998 年度の法学部白書の作
成過程を通じて、自己点検・評価が行われた。また、通信課程では、1998 年に創設 50 周
年を迎えたことを機に、記念事業の一環として「中央大学通信教育 50 年(1948∼1998)
」
が刊行され、その 50 年史編集員会の編集作業は、中央大学および法学部の創立の理念から
通信教育課程の理念を確かめ、以後、伝統を育む過程をつぶさに検証し、新世紀の通信教
育を展望するものであり、歴史的見地に立った壮大な自己点検・評価の作業と言える。
通信課程では、従来から、主に事務の学生対応を通して積極的に学生の要望を容れてき
ている。また、学内で実施されるスクーリングの機会に、学生会支部の支部長懇談会の席
上で通信課程に学ぶ学生の生の声を聴取してきた。それらを踏まえて、単位の軽減とか履
修方法の変更等、さまざまな制度改革が実現している。さらに、2001 年度6月中旬を締め
切りとして、通信課程在学生全員(科目等履修生・聴講生を含む)7,400 余名を対象に、
アンケートが行われた(回収率=37%)。その目的は、学生たちの学習環境(勉強に費やす
時間とその方法等)やスクーリングや教材に関する要望等を尋ねることによって、制度改
革に資することである。こうしたアンケート結果の分析は自己点検・評価の大きな材料と
なりうる。
【点検・評価
長所と問題点】
学生の意見を積極的に受け入れようとしてきたといっても、通信課程は通学課程にある
ような自己点検・評価委員会を常時設置しているわけではない。また、カリキュラム改善
等のために学生の意見を定期的に聴取する仕組みが十分に整っておらず、制度改善の努力
が継続性や体系性を欠く恐れがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
自己点検・評価を行う委員会を常時設置して、自己反省・自己改革を体系的かつ恒常的
75
に行うための体制(学生の授業評価や学外者による検証を含む)を作るべきかどうかを協
議する必要がある。
10−(2)
自己点検・評価の改善・改革システムの連結
【現状の説明】
自己点検の結果を基礎とした将来の発展に向けた改善・改革を行うための制度システム
は、機能上、通教委員会および制度改革委員会が担っている。自己点検のためのアンケー
ト結果は、詳細な分析を付して、法学部教授会で報告され、専任教員に書面配布された。
【点検・評価
長所と問題点】
通教委員会および制度改革委員会においては、自己点検・評価の作業を明確に位置づけ
たうえで、改革の諸議題を検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
自己点検・評価の定期化と、そのための特別委員会の設置を実現する必要がある。
10−(3)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
自己点検・評価の客観性と妥当性を確保するための措置として、学外者による検証等は
特別に行われていない。
【点検・評価
長所と問題点】
50 年史の刊行等を通じた公表が自己点検・評価に対する客観性・妥当性をも実質的に保
障するものと言えるが、今後は、より客観的な検証を確保する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学外者による検証の方法を含めて、今後の検討課題である。
10−(4)評価結果の公表
【現状の説明】
1997 年度および 1998 年度に法学部白書の作成を通じて行われた自己点検・評価の内容
は、同白書の印刷・配布により公表され、また、壮大な自己点検・評価作業の結実と言い
うる「中央大学通信教育 50 年(1948∼1998)」が 1998 年に刊行され公表されている。
【点検・評価
長所と問題点】
法学部白書および 50 年史は、客観的資料をもとに作成・公表されており、広く社会に
本通信課程の存在意義を示すものと言える。外部評価の実施と公表が今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外部評価の実施と公表が今後の課題である。
76 第2章 学部
経済学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
1)
理念・目的
1877 年の設置に始まる明治期の帝国大学の法学部は「本邦ノ法律ヲ教フルヲ主トシ」国
家の須要に応じ、とりわけ官僚養成を目的としたのに対し、中央大学の前身、英吉利法律
学校はその設立時 1885 年に英米法体系を基盤とし在野精神を謳い「実学」を尊んだことは
明らかである。1905 年8月創立 20 周年を契機に教育改革を実行した際、校名を「中央大
学」と改め、同時に経済学科を新設した。その際、このような歴史的伝統が継承されたこ
とは、当時の教員の専門分野からも推察することができる。下って、第二次大戦後の学制
改革にともない、1949 年に新制中央大学の再編を経た後も相当に長い期間にわたって、経
済学部は経済学科のみであった。その後、1963 年に産業経済学科、国際経済学科が増設さ
れ、さらに 1993 年には公共経済学科が増設されて、現在は4学科を擁するに至っている。
戦後、経済学部は、日本国憲法やさらには教育基本法の精神に則り、学校教育法を遵守
し、大学設置基準等の要件を満たして発足したこと、また、その後中央大学に設置された
「研究・教育問題審議会」による「大学改革についての基本的姿勢」
(第一次討議資料)を
支えてきたことは明らかである。したがって経済学部の理念は、
「基本的姿勢」に込められ
た改革方針にそった内容を敷衍的に表現することによって説明できる。経済学部の一般的
目的は、社会諸科学の要としての経済学を中心として関連する種々の分野の学問を広く研
究し、研究成果を公表するとともに、その成果と方法・精神とを教育の場に反映すること
に尽きる。すなわち、以上のことを包括的に整理すれば、研究と教育の統一に努める教員、
教員の活動を補佐し法人と教学の事務執行の担い手たる職員、大学の構成員たる学生がそ
れぞれの役割を発展させることを通じて、経済学部および総体としての中央大学が社会的
貢献をなし、もって平和と民主主義、社会的正義を希求しようとするものと言ってよいで
あろう。
2)
教育目標および人材養成
本学部の教育目標は、具体的にはカリキュラムに示されている(詳細については、後出
の「3.教育研究の内容・方法と条件整備」参照)。
ここに、本学部の教育目標を要約すれば、次のとおりである。
①
幅広い総合的な教養および経済学の知識と学力、さらには批判的精神を身につけた
良識ある市民の養成。
②
経済的政策立案能力を含む専門的力量を備えた高度な職業人の養成。
③
国際社会で活躍できる人材の養成。
これら3項目は、孤立・分離した諸側面ではなく、市民社会・社会的分業システム・国
際社会という現代社会の各相に対応する関係にある。
本学部は、2000 年度から新しいカリキュラムを実施している。実施にあたって、教授会
は重要な確認事項を決定したので、ここに掲げておきたい(注1)。
本学部では、中央大学の他学部の学科や専攻に比して、学科ごとのカリキュラムの独自
77
性は最小限度に必要なものに限るという伝統を継承している。現代社会そのものの国際
化・情報化に対応する経済現象の複雑化の解明には、まずもって基礎的かつ総合的な科目
群の履修を必要とする。外国語や情報処理といった科目も単に経済学にとっての効果的な
「トゥール」としての側面のみならず、それぞれが独自性を持った学問として学ぶことが
求められている。また、多様な高水準の科目に接続できるような経済学的なアプローチの
システムを用意することが、本学部の総意となっている。これは、リベラルアーツ型を尊
重した本学部のあり方と言ってもよいであろう。もちろん、公共経済学科が設置された趣
旨にもあったように、学科固有の特徴を選択必修科目群等で工夫する努力も意識的に追求
している。したがって、以上から、本学部は、何よりも学生が導入教育科目群や演習を通
じて主体的に課題発見に成功し、それを高度な水準にまで高め得るカリキュラム整備に努
めているのである。これらの前提のもとで、本学部の学科固有の教育目標、人材養成に言
及すれば、次のように言える。ただし、どの学科に在籍しようとも、必修科目8単位を別
とすれば、学生の授業科目の選択の自由度はきわめて大きく、学科の制約は少ないことに
留意すべきである。
(1)経済学科
本学部の基本的な学科で、現代経済に立ち向かうために、理論・歴史・政策の基幹科
目群を重視している。
(2)産業経済学科
産業の構造と組織、地域経済の変化を明らかにし、併せて企業経営の領域に及ぶ学修
メニューを提供している。
(3)国際経済学科
国際的視野から経済と社会を把握できるよう諸科目群の配置に工夫がなされている。
(4)公共経済学科
市場経済では解決困難な現代の諸課題を、公共経済学・公共政策といったアプローチ
で解決しようとしている。
【点検・評価】
これまで本学部は、全学科共通としては大学院進学、各種資格試験取得(国家公務員Ⅰ・
Ⅱ種、地方公務員、国税専門官、公認会計士、税理士など)、民間企業への就職、教職関係
への就職などで成果をあげている。
【長所と問題点】
さらに今後の重点的な進路の目標としては経済学科では研究機関での経済分析・政策立
案の分野等、産業経済学科では公認会計士・企業経営アナリスト等、国際経済学科では官
民の国際部門、外資系企業への就職等、さらに公共経済学科では国際・国内公務員、NP
O等で活躍する人材等の育成を考慮している。
これらの理念・目的および教育目標の達成状況については、一般的に言えば、その評価
は社会的に徐々に認められつつあると言えよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2000 年度実施のカリキュラムについては、教授会の確認事項として記したように、見直
し作業を行い、必要があれば教授会の決定を経て 2004 年度以降に改正することになってい
る。このうち、現在実施しているセメスター制度(前期、後期ごと週2回授業)は専任教
78 第2章 学部
員担当は別としても、兼任担当の授業は当初から難航を極め、学生の受け止め方も二分さ
れているように思われる。
(注1)2000 年度新カリキュラム実施にあたっての教授会での確認事項(1999 年6月2日
教授会決定)
①
「21 世紀を展望する経済学部将来ビジョンのための教授会確認」
1.2000 年改革の目的は、カリキュラム、教育方法の改善を通じて教育内容を抜本的
に改善するとともに、教員の研究条件を改善し、学部全体の活力を一層高めるとこ
ろにある。
2.この改革を成功させるためには、学部教員全体の意思一致と相互信頼を基礎とす
ることが不可欠である。
3.経済学部学生の資質を向上させるためには、広い教養と専門知識とあわせ教授す
ることが必要である。
4.経済学の専門科目については、その範囲および内容において多様な見解が存在す
ることを人事を含めて相互に尊重しあい、不断に切磋琢磨することが必要である。
5.経済学部が可能な限り少人数教育の達成につとめてきた経緯を尊重し、教育効果
を増大させる上で少人数教育が果たす役割の大きさに十分配慮する必要がある。
6.学部の共通性を重視するとともに、学科の特徴を尊重する。
②
「2000 年改革を実施するにあたっての教授会の確認事項」
1.全科目について「シラバス、教材・配付資料、評価基準の公開」
「自己点検・自己
評価、学生評価」を実施することを検討する。
2.必修・選択必修科目については、担当者間、関連科目の担当者間で、枠組みと内
容についての話し合いを行う。
3.履修要項等で、科目設置の主旨、必修・選択必修科目の位置づけなどについて説
明を行う。
4.基礎ミクロ経済学・基礎マクロ経済学は、経済学を学ぶものとして必要な基礎の
一つであり、通過点として必修にするとの認識に立つ。カリキュラムの全体を通じ
て、異なる手法による経済学に対する多様なアプローチを保証する。
5.TA、SA制度を活用する。
6.2000 年改革については、4年後に見直しを行う。
7.学生への履修保証を最大限行う必要がある。教務委員会で作成する時間割編成に
ついて、科目のコマ位置等について専任教員の自己都合を優先させない。
8.総合教育科目について、選択必修の縛りとの関係で、各クラスの学生数が増加す
ることについては、やむを得ないと判断する。
9.特別講義・総合講座などを通じて、より発展的・専門的な内容の展開につとめる。
10.大学院改革と連動して、大学院との共通講義(上級科目)の設置をはかる。
11.演習論文は4年生後期に配置されているが、論文指導には特に配慮し、論文のレ
ベルダウンにつながらないようつとめる。
2.教育研究組織
【現状の説明】
79
本学部は、その理念・目的・教育目標を実現するための教育研究組織として、経済学部
4学科、大学院経済学研究科3専攻を設置し、さらにこれらの組織は、次のような特徴を
有している。
(1)全専任教員は、教育組織としての担当者会議・部門会議に所属し、学科固有の教育
組織は存在しない。
(2)学部の主として専門教育科目担当者は、一定の資格基準を満たせば、同時に大学院
経済学研究科教員を兼務できるようになっている。
(3)二部教育の教育責任は、一定の授業担当ルールのもとで調整している。
(4)本学部所属の専任教員は、学内での主として共同研究活動を法人附置の経済研究所、
大学附置の企業研究所・社会科学研究所・人文科学研究所・理工学研究所・保健体育
研究所・政策文化総合研究所に分属して行っている。なお、最近では、一部の専任教
員は外部資金活用の研究開発機構にも所属している。
【点検・評価】
大学設置基準を満たし、学部の基本的な教育研究組織の体制とその成果を発揮している。
【長所と問題点】
現状の説明で述べたように、一応の教育研究組織は整っている。しかし、後出の課題に
向けた具体的な検討を必要としている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
(1)学科の教育上の特徴を一層具体化するために、新たな組織を設置する必要があると
の意見も存在する。
(2)大学院担当教員のあり方をめぐっては種々の制度的問題が指摘されている。とりわ
け、機能の面で教育研究指導責任が一層発揮される措置を模索する必要がある。
(3)二部(夜間部)の教育責任については、廃止までの具体的プログラムが喫緊の課題
として残されている。
(4)研究所の統合問題のほか、専任研究員制度など研究活動の強化策が懸案の事項とな
っている。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)教育研究の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
*(二部は 2000 年度から募集を停止したので本項目では、経済学部(3年次以降は一部)について記載している)
以下、前述の「理念・目的・教育目標」に対応して編成された教育課程の現状について
述べる。
A 学部共通の教育課程
【現状の説明】
2000 年度のカリキュラム改正以来、1・2年次生のみに同カリキュラムによる教育課程
を適用している。ここでは、新カリキュラムを基本とした説明を行う。本学部共通の教育
課程としては、専門教育科目(導入課目・基礎科目・基本科目・発展科目)、総合教育科目、
外国語科目、健康・スポーツ科目を設置・配置している。低学年次では、導入科目、基礎
科目、総合教育科目、外国語科目、健康・スポーツ科目をより多く履修し、高学年次に向
80 第2章 学部
かって、より専門性の高い科目および応用的な専門科目をより多く履修できるよう、科目
配置に工夫がなされている。
本学部では導入科目として、入門演習(総合教育演習Ⅰで代替できる)
・入門情報処理演
習・経済入門を開講している。入門演習は、1クラス 20 名以下のいわゆるゼミナール形式
で行い、1年次生全員が履修できる体勢を整えている。入門情報処理演習は、1クラス 18
名以下を目途に編成される演習で、基礎的情報リテラシーの修得を目標に置いている。1
次在学生の3割強の履修を保証している。経済入門の主な内容は、経済の現状認識、経済
学の体系や経済学の基礎的概念についての概説など、高等学校段階での「経済」から大学
での「経済学」への転換を図ることに主眼が置かれている。
以上の学部共通科目(導入・総合教育・外国語・健康スポーツ)に加えて、本学部では
経済学の専門教育科目群ないしそれに準ずる科目群として、①人口・労働・福祉科目群、
②経営・会計科目群、③統計・情報科目群、④法律科目群の4つの科目群を設置している。
これらの科目群は、経済学とその関連領域を幅広い視野から学修することを保証し、しか
もカリキュラム表示としては科目間の関連性と発展性を学生に理解しやすく工夫しようと
したものである。
さらに、本学部では、学部共通科目として、英語・独語・仏語・中国語の外国書講読科
目を設置し、3年次からの履修科目として外国語読解能力涵養の道を開いている。
学部共通科目として、これまで経済学部教育の重点としてきた少人数の演習<ゼミナー
ル>が、2、3、4年次に設置されている。2年次の第4セメスター、3年次の第5・第
6セメスター、4年次の第8セメスターで合計4セメスター分の演習の履修が可能である。
専任教員が担当し、原則として 20 名の在籍者を上限にゼミナールとしての研究活動に取り
組んでいる。
さらに、学部共通科目として、特殊講義、特別講義、総合講座が設置され、常設科目で
は包括しえない学問領域の知識と研究成果を取り扱ったり、英語による講義を提供したり
している。
インターンシップは、1993 年に設置された実習系の科目である。当初ビジネスインター
ンシップという名称であった。この科目は、3年次に配置され、民間企業と市・区役所な
ど地方公共団体における最低 2 週間の実習を含む授業科目である。
【点検・評価】
学習課程が、その本来の目的を十分に果たしているかをここでの点検・評価の中心に据
えることとしたい。
1.現時点では1、2年次生についての科目履修状況のデータしかないが、おおむねカリ
キュラム編成の趣旨を理解した履修状況となっている。
2.3つの系列(入門演習、経済入門、入門情報処理演習)から、2科目4単位の履修登
録が義務づけられているが、入門演習+経済入門あるいは入門情報処理演習+経済入門
の組み合わせですべての1年次生が履修登録をしている。しかし、入門演習と入門情報
処理演習の両者を履修希望する学生に対しては、履修保証がなされていない問題点があ
る。
3.専門教育科目の学部共通科目群については、比較的少人数での授業が展開されている。
4.外国書講読は各国語で1ないし2講座しか開講されていないため、学生のニーズに十
81
分応えていない可能性がある。また、特別講義、特殊講義、総合講座については、開講
講座数が8つと少なく、その原因の解明と改善の方策が求められる。
5.2年次の演習履修者数は、結果的には 62%∼65%程度しか履修登録できない現状があ
る。
6.インターンシップは、2000 年度より公共経済学科以外の学生にも履修が可能となった
ため、履修希望者に対して、受け入れ機関の制約から全員の履修を保証できなくなって
いる。
【長所と問題点】
本学部の教育課程は、学生の自発的な履修選択の幅が広いという特徴を持っている。
しかし、現状での問題点は以下のとおりである。
1.導入科目の履修保証の問題がある。入門演習と入門情報処理演習をともに履修したい
という学生に対しては、十分に応えていない。
2.3、4年次配当の外国書講読の開設講座数の不足については、本学部専任教員の総体
での担当授業時間数の過渡的な増大によるところが大きい。オーラルコミュニケーショ
ンの重要性と同時に、外国書を深く読解する能力は、将来ますます重要性を増すであろ
うことに鑑み、増設が求められる。
3.演習(ゼミナール)の履修状況には問題がある。学生の志望が特定教員の演習に偏在
する傾向もある。その改善を図りながら、ゼミナール活動を一層活性化させることが求
められる。
4.インターンシップのうち、地方自治体における実習は、一定の受け入れ枠を確保して
おり、学生の受け入れ先については、一層情報系や金融、その他多様な業種の企業の協
力を得る必要があろう。学生引率、受け入れ機関の開拓と継続、事前・事後指導など担
当教員の負担は大きなものとなっている。
5.依然として、多人数講義が残存している。複数講座の設置など改善策を講じる必要が
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.導入科目については、登録必修制そのものが所期の効果を発揮しているかどうかにつ
いての検証を必要としている。また、入門情報処理演習については、高等学校等の情報
教育の浸透を考慮したうえで、再検討することが必要であろう。
2.外国書講読を一層充実させるとともに、将来、比較的少人数の授業科目でも、外国書
を使った授業展開を工夫するなど、総じて本学部学生の外国語能力の強化を学部教育目
標の一つにしっかりと据えることも必要であろう。
3.演習(ゼミナール)の履修状況について、まず2年次後期の開始では遅いという意見
がある一方、2年次前期からの開始だとテーマ選択が早いという意見もある。演習重視
という経済学部としての一貫した伝統を維持・発展させるという見地から新カリキュラ
ムの検討を開始しなければならないであろう。
4.インターンシップについては、担当教員の負担や受け入れ先の開拓など、さらに検討
する必要があろう。
B
経済学科の教育課程
82 第2章 学部
【現状の説明】
経済学科の教育課程は、学部共通の教育課程以外に以下のような履修体系をとっている。
1.基礎マクロ経済学・基礎ミクロ経済学の2科目は、経済学を学ぶ学生にとって、必要
な基礎の一つであり、その後の専門教育科目への通過点であるとの認識に立って必修科
目として位置づけられている。
2.専門教育科目の基礎科目の選択必修科目群として、日本経済史・西洋経済史・マルク
ス経済学・経済政策論・経済学史の5科目中2科目の選択必修が配当されている。ただ
し、日本経済史と西洋経済史の2科目を単位修得した場合は、一方のみを選択必修の履
修科目として卒業必要単位に算入する。
3.経済学科の基本科目として、2∼3年次に財政学・金融論・社会政策・社会思想史の
4科目中2科目が選択必修となっている。さらに、発展科目として、中級マクロ経済学・
経済数学・中級ミクロ経済学・経済変動論・独占資本主義論・経済計画論・租税論・地
方財政論・証券市場論・日本経済論の 10 科目中1科目が選択必修となっている。
4.他の産業経済学科科目、国際経済学科科目、公共経済学科科目は、選択が可能となっ
ている。
【点検・評価】
経済学科の学生は、上記の履修体系に則して、幅広く伝統的経済学の体系的知識と方法
を学ぶとともに、理論・政策・歴史に関する学部段階における高度な学修の到達点に達す
ることができる。基礎科目、基本科目、発展科目から合計7科目 28 単位を履修することで、
経済学科学生として学修の必要な科目が履修でき、それ以外に学生の関心や問題意識に応
じて、他学科科目および学部共通科目から自由に選択履修できるシステムとなっている。
【長所と問題点】
経済学科の教育課程は、基礎・基本科目に重点を置き、それらの科目履修から得られる
知識や研究方法の修得を通じて、幅広い選考分野別の専門的学修への広い導入を目指して
いる点に特徴がある。学生は、将来の進路計画や学修への興味によって、伝統的経済学の
体系を一歩ずつ高度なレベルへと進むこともできるし、場合によっては、他の学科の科目
体系や学部共通科目に重点を移した履修を進めることもできる。
他方で、問題点としては、学生の科目選択の仕方によっては、学科の特徴を最小限にし
た履修にとどまる可能性があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
改善されるべき方向として、何よりも理論・歴史・政策の総体の理解と方法論との関連
を明確に学生に説明するための工夫が求められる。
C
産業経済学科の教育課程
【現状の説明】
産業経済学科の教育課程は、学部共通の教育課程以外に以下のような履修体系をとって
いる。
1.基礎マクロ経済学・基礎ミクロ経済学の2科目は、経済学を学ぶ学生にとって、必要
な基礎の一つであり、その後の専門教育科目への通過点であるとの認識に立って必修科
目として位置づけられている。
83
2.専門教育科目の基礎科目の選択必修科目群として、日本経済史・西洋経済史・マルク
ス経済学・経済政策論・経済学史の5科目中2科目の選択必修が義務づけられている。
ただし、日本経済史と西洋経済史の2科目を単位修得した場合は、一方のみを選択必修
の履修科目として卒業必要単位に算入する。
3.産業経済学科の基本科目として、2∼3年次に産業組織論・産業構造論・産業立地論
の3科目中2科目が選択必修となっている。さらに、発展科目として、交通経済論・農
業経済論・中小企業論・地域経済論・流通経済論・先端産業論Ⅰ・Ⅱの7科目中1科目
が選択必修となっている。
4.他の経済学科科目、国際経済学科科目、公共経済学科科目は、選択が可能となってい
る。
【点検・評価】
産業経済学科の学生は、上記の履修体系に則して、経済における産業活動の広範囲な分
野についての体系的知識と方法を学ぶとともに、他の専門教育科目群の知識や方法を用い
て、産業経済の専門的な領域の学修へと進むことができる。基本科目は、3科目中2科目
選択必修とすることで、産業経済学科の学生はこれらの基本科目を最低限の知識として修
得することを課せられている。学生の関心や問題意識に応じて、発展科目については、7
科目中1科目選択必修であるので、それ以外に他学科科目および学部共通科目から自由に
選択履修できるシステムとなっている。
【長所と問題点】
産業経済学科の教育課程は、2、3年次の基本科目を3科目に厳選することで学生に分
かりやすい履修体系になっており、また、発展科目を3、4年次にすべて配列することで
段階を追った学修がしやすくなっている。
他方、問題点として基本科目の選択必修が3科目中2科目と高い割には、時間割編成上
学生の履修が十分に保証されるように注意しなければならない。後に触れるように、本学
部では専門教育科目の必修・選択必修科目は、半年で4単位の学修が完結するように週2
回講義によるセメスター制が導入されているが、時間割編成上これら3科目の配置に工夫
が求められている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
産業経済関連分野では、世界経済および日本経済の現状の変化にともない、新しいビジ
ネス分野の誕生や既存の産業の衰退など大きく変化しつつある。また、産業を取り巻く地
域と環境、国際関係なども変化している。そのような変化に対応しつつ、産業経済の基礎
理論を修得させるために、特殊講義や特別講義をさらに豊富な内容で開講する必要がある。
それと同時に、経済学科配当科目の履修と有機的に関連づけることで、理論と実証、歴史
と現状分析の複眼的な学修が必要になっている。
D
国際経済学科の教育課程
【現状の説明】
国際経済学科の教育課程は、学部共通の教育課程以外に以下のような履修体系をとって
いる。
1.基礎マクロ経済学・基礎ミクロ経済学の2科目は、経済学を学ぶ学生にとって、必要
84 第2章 学部
な基礎の一つであり、その後の専門教育科目への通過点であるとの認識に立って必修科
目として位置づけられている。
2.専門教育科目の基礎科目の選択必修科目群として、日本経済史・西洋経済史・マルク
ス経済学・経済政策論・経済学史の5科目中2科目の選択必修が配当されている。ただ
し、日本経済史と西洋経済史の2科目を単位修得した場合は、一方のみを選択必修の履
修科目として卒業必要単位に算入する。
3.国際経済学科の基本科目として、2年次の国際経済学 4 単位が必修となっている。同
じく基本科目として2∼3年次に設置された国際金融論・世界経済論・国際経済政策・
国際開発論の4科目中1科目が選択必修となっている。さらに、発展科目として、国際
経営論・アジア経済論・アメリカ経済論・ヨーロッパ経済論・外国為替論の5科目中1
科目が選択必修となっている。
4.他の経済学科科目、産業経済学科科目、公共経済学科科目は、選択が可能となってい
る。
【点検・評価】
国際経済学科の学生は、上記の履修体系に則して、世界経済における諸国間の経済関係
やグローバル化の中でのEUやアジア経済圏等のあり方、国際通貨関係や貿易問題など国
際経済に関する広範囲な分野についての体系的知識と方法を学ぶとともに、他の専門教育
科目群の知識や方法を用いて、国際経済に関する専門領域への学修に進むことができる。
基本科目のうち、国際経済学のみが必修科目とされている。また、2年次の早い段階から
国際経済学科科目を履修できるように工夫されている。すなわち、2、3年次で国際経済
学以外の基本科目は、4科目中1科目の選択必修とされており、発展科目については、3、
4年次に5科目中 1 科目を選択必修としている。他の学科と同様に、学生の関心や問題意
識に応じて、他学科科目および学部共通科目から自由に選択履修できるシステムとなって
いる。
【長所と問題点】
国際経済学科の教育課程は、2年次に学科必修科目として国際経済学が設置されている。
また、国際経済学の主要分野に応じた体系的科目配当も明確であろう。
しかし、問題点として、2年次に比較的多くの必修・選択必修科目を配当したため、学
部共通の選択必修科目との履修上の不明確さが懸念される。特に、セメスター制の週 2 回
授業の学科科目がオーバーラップすることもあり、学生の履修保証という点から改善が求
められる。また、国際経済学科の授業科目に英語による講義が設置されていない点は、学
科の特徴をさらに発揮するためには、今後の改善が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の科目履修状況の点検、学生評価の結果を踏まえ、より効果的に学科設置科目の学
修が進むように科目配当や必修・選択必修の組み合わせを再検討する必要がある。
E
公共経済学科の教育課程
【現状の説明】
公共経済学科の教育課程は、学部共通の教育課程以外に以下のような履修体系をとって
いる。
85
1.基礎マクロ経済学・基礎ミクロ経済学の2科目は、経済学を学ぶ学生にとって、必要
な基礎の一つであり、その後の専門教育科目への通過点であるとの認識に立って必修科
目として位置づけられている。
2.専門教育科目の基礎科目の選択必修科目群として、日本経済史・西洋経済史・マルク
ス経済学・経済政策論・経済学史の5科目中2科目の選択必修が配当されている。ただ
し、日本経済史と西洋経済史の2科目を単位修得した場合は、一方のみを選択必修の履
修科目として卒業必要単位に算入する。
3.公共経済学科の基本科目として、2∼3年次に公共経済学と公共政策が配当され両科
目の必修が学生に課せられている。また、同じく2∼3年次の基本科目として、財政学
と行政学が設置され、2科目中1科目が選択必修とされている。公共経済学科では他の
3学科と異なり、基本科目と発展科目の間に「基軸科目」を、「環境系」「地域政策系」
「国際政策系」の3つの系の科目群として配当し、学生が系統的に履修することを勧め
ている。「環境系」は、環境経済学・環境政策Ⅰ・Ⅱ、「地域政策系」は、地域政策・地
方財政論、「国際政策系」は、国際関係論・国際公共政策が配列されている。発展科目
は、3∼4年次に社会資本論・交通経済論・租税論・公共的意思決定論・外交史・公的
金融論・公益企業論・公共料金論・都市経営論Ⅰ・Ⅱが置かれている。
4.他の経済学科科目、産業経済学科科目、国際経済学科科目は、選択が可能となってい
る。
【点検・評価】
公共経済学科の学生は、上記の履修体系に則して、公共経済学を理論的基礎に、政府や
公的機関、国際機関の経済活動の役割と機能について、多面的に学修し、公共的政策決定
に必要な知識や手法を修得できる。
基本科目のうち、公共経済学と公共政策は必修科目である。また、2年次の早い段階か
ら公共経済学科科目を履修できる。すなわち、2∼3年次で公共経済学と公共政策は必修、
財政学と行政学が2科目中1科目選択必修となっている。発展科目は 10 科目設置されてい
る。学生は広い選択肢の中からその関心や問題意識に応じて発展科目を履修可能であり、
他の学科と同様に、それ以外に他学科科目および学部共通科目からも自由に選択履修でき
るシステムとなっている。
【長所と問題点】
公共経済学科の教育課程は、学科の設置目的に照らして、必修科目に加えて、行政学、
国際公共政策、環境経済学など公共政策および公共経済分野に関する科目を系統的に履修
できるという点に特徴が認められよう。
他方で、選択科目としての基軸科目について、学生の履修保証上の問題があり、設置科
目数と開講授業数の関係を考慮する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
公共経済学科は、本学部の4学科の中で最も新しく設置され、特徴あるカリキュラムを
設置しているが、さらに本学部全体の教育課程と公共経済学科の独自性との整合性を図る
必要があろう。
3−(1)− ②
86 第2章 学部
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
本学部は、2000 年度から新カリキュラムに移行し、その中で導入科目と補償教育(リメ
ディアル)科目を重視した。導入科目はすでに説明したように、入門演習、入門情報処理
演習、経済入門の3つの系統があり、いずれも半年2単位の科目として、1年次生に履修
登録を課している。本学部では、導入教育を次のように位置づけている。まず、今日の後
期中等教育の学習指導要領とカリキュラムおよび私立大学における入学試験に課せられた
科目の範囲や、多様な入学選抜方式(「4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法」参照)
に鑑み、入学生に対して何らかの補償教育が必要となっている。具体的には、経済学ある
いは経済への導入として、経済学の学習にとって数学的知識と論理的な思考力は重要だと
考えられるので、高等学校段階の数学の学習が不十分な学生が、基礎数学ⅠA・ⅠBを履
修することで、高校レベルの微積分と線形代数を理解できるような措置を講じている。入
門演習では、論理的な思考法を重視し、テキストの解読や報告・討論の進め方など高校段
階とは異なる大学での学修・研究の方法を修得する措置を講じている。それと並んで、入
門情報処理演習は、大学での勉学を支えるツゥールとしてのコンピュータ・リテラシーを
学生個々人に修得させることを目的としている。経済入門は、高校で政治・経済を履修し
なかった学生や入学試験科目として選択しなかった学生をも念頭に置いて、経済学の高度
な抽象理論を必ずしも必要としない経済現象や経済的事実の知識の取得を中心として、経
済あるいは経済学への導入を図ろうとするものである。
【点検・評価】
本学部では、近年導入教育や補償教育の重要性が認識され、新カリキュラムでも導入科
目群を重視するなど改善の努力が続いている。しかも、導入教育の担当者としては、学部
の総力をあげて取り組む態勢を確立しようとしている。また、付属高等学校や他の高等学
校へ学部専任教員を派遣して大学での講義風景を高校生に体験させるとともに、高等学校
生徒の実情、高等学校のカリキュラムや授業時間数についても認識を新たにし、高等学校
の新教育課程についても研究を進めようとしている。
【長所と問題点】
導入教育・補償教育に専任教員の相当量を投入していることは、本学部におけるカリキ
ュラム上の高・大接続重視の姿勢の現れでもある。
他方で、高等学校生徒に大学での授業を履修させる試みは検討中であり、継続的に高校
に大学教員を派遣して志願者の開拓を図る工夫などはまだ緒についたばかりである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部では、この2年間、入試・広報委員会を中心に、多様な学生選抜形態、高等学校
への広報活動、高等学校からの要請に応じた専任教員派遣などの取り組みを本格的に開始
しているが、まだ不十分である。また、高等学校教員との密接な連携や中期的な高・大接
続の学部としての方針を確立すべきであろう。
3−(1)− ③
履修科目の区分
【現状の説明】
本学部においては、総合教育科目を学生の重要な学修分野として設置し、4年間で最低
24 単位の修得を課している。人文科学・社会科学・自然科学の3系列と発展科目を開講し
87
ている。総合教育科目担当の専任教員を8名(人文2・社会2・自然4)置き、教育責任
体制を確立している。外国語科目については、最低 14 単位から最高 28 単位までを卒業要
件単位として認めている。英語については、1年次の正規クラスのすべてでネイティブ教
員が配置され、オーラルコミュニケーションの能力向上と併せて、国際化時代に対応する
能力の育成に努めている。また、平均して 35 名程度の少人数クラスを維持することで、学
生の学修効果を高めている。また、英語以外の外国語教育も、ドイツ語・フランス語・中
国語・スペイン語に専任教員を適正数配置して教育にあたっている。健康・スポーツ科目
は、理論科目2単位、実技科目1単位を全学生必修とし、意欲のある学生には最高7単位
まで卒業要件単位として認めている。本学部を卒業するために修得しなければならない総
単位数 132 単位中、専門教育科目以外を卒業要件の上限まで修得する学生は、総合 36 単位、
外国語 28 単位、健康・スポーツ7単位で合計 71 単位まで修得すると、残りの 61 単位を専
門教育科目で修得することになる。逆に、専門教育科目以外で最低限度の単位数を修得し
た場合、合計で 24+14+2=40 単位で、132−40=92 単位を専門教育科目で修得すること
になる。本学部が社会に送り出す学生の多様なニーズに応えるべく、履修科目分野配分の
自由度を持たせている。
【点検・評価】
上記のような本学部における履修科目の区分は、学生が主体的に教育課程と学修計画を
構築していけるように配慮したものである。履修区分が弾力化ないし撤廃される方向が多
くの大学でとられている中で、本学部では、幅広い教養に基づく専門教育という一貫した
理念のもと、総合教育科目を重視して最低 24 単位の履修を課している点はむしろ特徴とし
て評価できる。同時に、このような履修科目区分別に学生がどのような履修行動をとるか
については、現行カリキュラムでの履修学生がまだ2年次生までしかいないことを考慮し
ても、学生の科目分野別履修状況に関する教務資料に基づいて、現状と問題点を検討する
必要があろう。
【長所と問題点】
「自分のカリキュラム」を学生に作らせることが教育効果を高めるという認識のもと、
他の項で触れる「履修指導」と併せて、学修計画を学生に自ら考えさせることに努力して
いる点は、本学部の教育課程運用上の長所と考えられる。
他方で、とりわけ低学年次において、必修や選択必修科目として履修が課せられた科目
が多数配置されているという問題点も指摘されよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育課程における履修制約と自由度との望ましい関連についての慎重な検討を含めて、
学生の学修実態、単位制度の持つ本来の意味に立ち返って、現行の教育課程の運用につい
て見直しを図る必要があるかも知れない。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
【現状の説明】
本学部は、大学設置基準に基づき、次のとおり授業形態と対応した単位を配分している。
①セメスター科目の週2回授業実施科目は、4単位。②セメスター科目の週1回授業実施
科目は2単位。③通年科目で週1回授業実施科目は、専門・総合教育科目については4単
88 第2章 学部
位、外国語については2単位。健康・スポーツ科目の講義は半年2単位、実技科目は通年
で1単位を配置している。ただし、2年次以上で健康・スポーツ科目を履修する学生は、
通年で2単位の実技科目を設置し、さらに介護実習を内容とする健康・スポーツ実習を3
年次以上に配置している。③演習(ゼミナール)は、以下の構成をとっており、本学部の
教育体系において重要な役割を担っている。
1年次
入門演習(半年2単位)、総合教育演習Ⅰ(通年4単位)
2年次
演習1(後期2単位)、総合教育演習Ⅱ(通年4単位)
3年次
演習2(通年4単位)
4年次
演習論文(後期4単位)
演習論文指導期間は、時間割上は半年であるが、実質的には演習2の履修者が演習担当
教員の指導のもとで論文を作成する。指導と併せて単位評価を論文に対して4単位付与す
ることになっている。
【点検・評価】
本学部の設置科目は、年間授業時間数、授業内容と方法、自習と授業の関係を考慮して、
1単位科目、2単位科目、4単位科目が設置されている。単位制度の本旨に立ち返りなが
ら、現行単位数の検討も必要であろう。
【長所と問題点】
専門教育科目の専任教員による授業のほとんどは、現在週2回実施の4単位科目として
授業が実施されている。また、履修計画を1年単位でなく半年単位で練り直すなど、効率
的学修も一定の役割を果たしている。
しかしながら、本学部においては、これまで授業形態と単位の関係について必ずしも本
格的な検討がなされていないため、学生の授業負担や学修計画作成上妥当な単位付与とい
う点で十分な検討が必要である。さらに、現行のセメスター制については、兼任教員の協
力が得にくいという点や学内での他学部履修にも難点があり、またファカルティリンケー
ジ・プログラム(添付資料参照)実施の障害に成りかねないという重大問題を抱えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現行のセメスター制度の検討や演習論文の単位数など、改善を要する課題が提起されて
いる。
3−(1)− ⑤
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
本学部では、大学および学部の国際交流協定による海外への留学生派遣および学生が自
ら留学先を選定して、その派遣先大学を認定する認定留学生の両制度を実施している。協
定に基づき派遣された学生は、派遣先大学での授業料が免除され、海外の大学での修得単
位は、授業時間数、教科書、授業内容、授業レベル等の資料を点検したうえで、学部国際
交流委員会で単位換算基準に基づき、本学部教育課程の正規の修得単位として認定してい
る。また、本学設置の他の学部の授業科目については、
「他学部履修」制度により在学期間
合計で 30 単位まで履修できるようになっている。
【点検・評価】
海外の大学との単位互換や単位認定は、かなり以前から取り組み一定の成果をあげてい
89
る。しかしながら、国内他大学との単位互換・単位認定は立ち遅れているが、本学大学院
における学部生の履修制度は「共通科目」として具体化されようとしている。
【長所と問題点】
本学部は、学部としての教育責任を果たす立場から、本学部設置科目だけでも十分に学
生の学修要求に応えられるように豊富なカリキュラムを用意している点は評価できる。し
かし、他面において、学生の特殊な専門科目への要望などに十分応えるためには、現行セ
メスター制の学内理解とその検討をはじめ、他学部履修への参加、他大学等との単位互換・
単位認定制度の実施に向けた取り組みが必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部教授会における合意形成を前提として、学生の学修要求を汲みながら、他学部履修、
ファカルティリンケージ・プログラム(添付資料参照)をはじめ、他大学との単位互換・
授業の相互乗り入れなど積極的に検討に着手する必要がある。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
本学部の 2001 年度開設授業科目数における専・兼比率は、「表4
全授業数に占める専
任・兼任比率」に科目区分別に示されている。専任比率が 100%となっているのは、導入
科目・専門演習・総合教育演習の3分野である。健康・スポーツ科目は専任比率が 29.2%
と最も低く、次いで外国語科目が 32.7%と低くなっている。専門教育科目の講義科目は、
専任比率が 66.3%で総合教育科目は 50%である。全体の平均が 55.8%であり、授業科目
区分によって専任比率に分散が見られる。
【点検・評価】
専・兼比率の分散の原因については、現行の専任教員数の部門別配分が必ずしも教育課
程、開設授業数と整合していない点が関係している。現在本学部は二部(夜間部)廃止に
伴う専任教員削減計画を実施しているが、他の項で触れる専任教員一名あたり学生数をさ
らに改善するための方策を検討する必要がある。
【長所と問題点】
導入教育科目、専門演習、総合教育演習についてはすべて専任教員が担当していること
は、単に授業時間での教育だけではなく、オフィスアワーや合宿等での集中的な学生教育
を保証するうえで、大きな効果を持っている。
他面で、健康・スポーツ科目や外国語科目で専任の比率が低いことは、今後改善される
べき問題点であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専・兼比率を決定する要因として、専任教員の担当授業数に関する原則、カリキュラム
体系、開設授業数、学生数、学生の履修動向等を踏まえた検討が必要となるが、本学部と
しての教育理念・教育目標に照らした総合的な専・兼比率改善のための方策が必要になっ
てくるであろう。
3−(1)− ⑦
【現状の説明】
90 第2章 学部
生涯学習への対応
全学制度としての科目等履修生制度の実施にともない、本学部においても大学卒業生を
中心に広く社会人の科目履修を認める方向で進んでいる。科目等履修生の最近の傾向は、
大学院における社会人受け入れ枠の拡大の影響もあり、学部卒業直後の社会人や、職業経
験を数年持つ者の履修が多くなっている。科目等履修生は、本学部開設授業科目のうち、
クラス指定の外国語科目や演習を除いて、講義科目を中心に開放している。
【点検・評価】
科目等履修生は、ほとんどの場合講義科目を履修するので、比較的大規模な教室での授
業に参加している。教員に対しては、担当講義科目に科目等履修生がいる場合は事前にそ
の氏名が知らされ、把握できるようにしている。
【長所と問題点】
学部教育段階での生涯学習の展開にとって、本学部は科目等履修生以外にその教育手段
を持っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
生涯学習の発展にとって新しい形態での授業(通信手段を用いた遠隔授業等)の適否に
ついて検討を開始する必要があろう。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
本学部では、「2.教育研究組織」の説明で触れたように、教育課程の科目区分ごとに、
専門教育担当者会議、外国語担当者会議、一般教育担当者会議、保健体育担当者会議が設
置されている。さらに、専門教育担当者会議は、13 の専門科目別部門に分割され、外国語
担当者会議は言語別に4部門に分割されている。
学生への教育効果については、各担当者会議、部門会議において、毎年の授業編成につ
いての方針作成と結果の確認が行われ、教育効果を改善するための方策が検討されている。
それと同時に学部の教育課程全体を視野に入れた教育効果の測定のために、常設の教務
委員会が設置され、毎年の授業編成方針、開講授業数、適正履修人員の予測、時間割編成
における学生の履修保証など多面的に検討し、業務を遂行している。
本学部は学部創立以来 2000 年度まで 90,154 名を社会の各界に輩出してきた。2000 年度
各種資格試験および公務員試験合格者のうち本学部出身者は、国家公務員Ⅰ種1名、同Ⅱ
種 29 名、地方公務員 45 名、公認会計士 11 名、国税専門官4名などとなっている。2000
年度の卒業生の進路状況については、一部(昼間部)97.1%、二部(夜間部)80.3%の就
職決定率となっている。就職決定者 792 名(一部)のうち、① 情報・サービス業 24.9%
② 金融・保険業 20.8%、③ 卸・小売業 17.8%、④製造業 14.4%、以下⑤ 公務員、⑥ 運
輸・通信業、⑦ 建設業、⑧ マスコミ関係、⑨ 不動産業などとなっている。他方、就職を
希望しない者も多く、うち大学院などへの進学 31 名、留学9名、資格試験準備なども 84
名に増えている。
【点検・評価】
教育効果の測定は、授業内容の骨子を学生に周知するための『講義要項』の中に、授業
内容をシラバスとして表示するのみならず、各授業科目の到達目標や成績評価基準を開示
91
し、学生の学修動機を高めるように工夫している。
しかし、学部として学生の教育効果を測定するための日常的システムは、教務委員会を
除いては確立していない。
【長所と問題点】
個々の授業の教育効果については、担当教員の努力にまかされる傾向が強く、学部とし
ての効果測定システムの確立が求められる。そうした中で、2001 年5月に実施した学生評
価のためのアンケートは、授業内容や理解度に関する設問を用意し、現在その集計結果の
解析に取り組んでいる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各担当者会議、教務委員会を中心に教育効果を測定する方法の開発に取り組み、毎年の
学生の教育効果について自己点検するための態勢作りが検討されている。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
【現状の説明】
本学部では、学生の履修単位の年次別制限を、1年次 43 単位、2年次 43 単位、3年次
41 単位、4年次 40 単位以内として設けている。これは、単位取得には相当の授業時間数
の確保とそれに対する予・復習の学習時間が学生に求められることから、1年間に過大な
単位履修を認めることを自戒した結果でもある。
また、成績評価については、S・A・B・C・Dの5段階表示を採用しており、大学に
おける成績評価は「絶対評価」であるとの前提から厳正な評価を実施するよう努力してい
る。
【点検・評価】
以前から本学部では、科目別・担当教員別の学生成績評価分布表を教授会で配布し、成
績評価の厳格化のために専任教員の注意を喚起してきた。本学部としては、
「相対評価」を
推奨することにはなっていないが、教育責任を果たす立場から、極端に成績優秀者の比率
が高かったり、逆に不合格者が多過ぎたりした場合の自己点検を教員自身ができるように
している。
【長所と問題点】
本学部は、かねてより成績評価が厳しい、との学生の評価を受けているが、他面で、上
記の成績評価分布表に基づく教授会としての議論が必ずしも十分ではない。成績評価の基
準は、教授会の基本方針を受けて、個々の授業担当教員に評価権が委託されているという
認識の確立が一層求められよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学での成績評価が、企業などの外部でどのように信頼されているかの調査を初め、一
層の成績評価厳正化のための努力が必要になっている。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
毎年4月、新入生オリエンテーション期間における「履修相談」を、全学年在学生を対
象に実施している。教務委員全員が、1週間にわたり経済学部事務室の相談窓口に常駐し、
個々の学生の履修上の疑問や悩みに答えたり、履修プラン作成に協力したりしている。
92 第2章 学部
同時に、新入生については、オリエンテーション期間に、学部事務室の教務グループが
詳細な履修体系に関する説明会を開催し、
『履修要項』も分かりやすい内容にして、Q&A
を掲載するなど工夫を凝らしている。
オフィスアワーは制度化されていないが、『講義要項』の専任教員紹介の欄に同制度を
実施する教員が記載して、学生の便宜を図っている。
また、修学延長生や成績不良者に対する面接指導も随時行っている。
新入生には、毎年入学直後に『経済学部 Navigation』という冊子を配布し、本学部のカ
リキュラム体系の特徴と趣旨について正確に説明すると同時に、専任教員からの学修への
心がけ、学問への誘いをテーマとするエセーを掲載している。
また、一般の講義要項とは別に、『導入科目要項』『演習要項』を作成し、学生の便宜を
図っている。
【点検・評価】
複雑化するカリキュラムとそれに基づく履修計画を学生が打ち立てるためには、それな
りの理解と将来展望を学生に持たせる必要がある。その意味で、履修指導は単なる技術的
指導にとどまることなく、専任教員が責任を負って、学修計画の全体的視点に立って学生
個々人に指導することが望ましい。
【長所と問題点】
本学部は、学生の自由な履修計画の作成を促進する立場から、カリキュラムについての
説明を、主に履修方法を中心とした『履修要項』、講義内容や成績評価基準などを明記した
『講義要項』、カリキュラムや授業科目区分・必修や選択必修の意味について説明した『経
済学部 Navigation』の3本立てで行っている。しかし、毎年春の履修登録時期に学生が履
修計画を立てる際に、必ずしもこれらの冊子が十分活用されているとは言えない状況があ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
履修指導において最も重要なことは、学生がカリキュラムの意味をよく理解し、効果的・
系統的な履修を通じて、本学部の教育課程から最大限の学修効果を得ることにある。その
ためには、授業内容に関する担当教員による事前ガイダンスが着実になされなければなら
ないであろう。
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
本学部における教育改善の取り組みは、いくつかのレベルに分けられる。
1.恒常的にカリキュラム体系の見直しを行い、学生にとってより良い学習環境を整備す
るように努めている。学部改革検討委員会、学部改革委員会が設置され、系統的にカリ
キュラム改善、教育方法改善のための活発な議論と改善案の作成が行われてきた。
2.学生からの個々の授業内容や教員に対するクレームは、担当教員が直接学生に対応す
るのはもとより、当事者間で解決しない場合に、学生が記名・匿名にかかわらずクレー
ムを提出するための「経済学部オピニオンボックス」が設置されている。
3.経済学部自己点検・評価委員会が 2001 年 5 月に実施した学生アンケートの中で、授業
内容や授業形態、カリキュラム体系、授業形式等について自由記述で記入できる欄を設
93
け、学生の生の声を集約している。
4.
『講義要項』に全授業科目のシラバスを掲載し、年間(半年間)の授業計画が学生にあ
らかじめ開示される仕組みを確立している。
5.導入科目のうち、入門演習、入門情報処理演習については、担当者会議を開き、授業
科目の教育目標、教育内容、成績評価基準についてガイドラインを作成し、担当者相互
のコミュニケーションを密にする努力が毎年行われている。
6.FD活動として、経済学部研究会(全教授会員と助手で構成)において、導入科目の
実践報告と意見交換がなされた。
【点検・評価】
上記のように、本学部は教育改善のために学部内の常設委員会、分野別会議体、改革の
ための委員会等を通じて積極的に教育改善に取り組んできた。しかし、最終的には、学生
にとってより良い授業を提供するための「教育内容」の改善こそが決定的に重要である。
そのためには、授業担当教員が努力すべき授業内容改善の方向や、授業環境(教室・設備
備品・教育補助体制等)の整備がどうしても必要である。また、学生の授業改善に対する
要求を、アンケートだけでなく直接面接やパネルディスカッション等の方法で吸収してい
く努力も必要になっている。
【長所と問題点】
本学部の教育改善に向けた努力は、本学の中でも先見性を自負している。しかし、それ
らの試みの結果に対する自己点検と学生評価については、不十分な面が見られる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部教授会は新カリキュラムを実施する際に、二つの確認文書で合意した。これらの
うち、全科目についての学生評価の実施の検討が残されている。学部自己点検・評価委員
会の責任のもとで、全科目に関する学生評価のための具体化策を提起する必要があろう。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
本学部の授業形態は、以下のとおり区分することができる。
1.講義による授業である。大多数の専門教育科目と総合教育科目、健康・スポーツ科目
のうち理論科目がこの方法で実施されている。基本的に講義科目の場合、教員がテキス
トや授業配布資料を使いながらOHPやパソコンのプロジェクターを使ったプレゼン
テーションを行っている。比較的少人数の授業では、本学情報教育センターの施設を使
い、遠隔授業により海外や国内他大学と通信回線を用いた双方向授業も実施されている。
2.外国語クラス授業である。クラス指定の授業で平均 35 名程度の少人数授業が実施され
ている。従来型の外国語教室における授業はもとより、ワークステーション教室(パソ
コンをLANでつないだ環境)における外国語ソフトを使った実習と組み合わせた授業
が多く展開されている。
3.演習による授業である。原則として、学生数 20 名を上限に演習が多数開かれ、平均で
15 名前後の演習履修者数で推移している。演習では、学生によるレポートと討論、資料
収集や調査の実施、研究論文の作成、ゼミナール相互の討論大会、グループ別活動など
演習教室を拠点にした活発な活動が展開されている。
94 第2章 学部
4.実技・実習を伴う授業である。これには、健康・スポーツ科目の実習(介護実習を含
む)、インターンシップにおける企業・地方公共団体およびその付属施設における実習
が行われている。オフキャンパスにおける実習と学生における授業が有機的に結びつけ
られている。
【点検・評価】
授業形態と授業方法の関係については、これまで意識された改善の取り組みが行われて
こなかった。とはいえ、マルティメディア活用、双方向的授業の展開、オフキャンパスへ
の授業の展開、学外の実務経験者や専門家をゲストに招いての特色ある授業など、本学部
は多彩なリソースを活用した特色ある授業方法を開発してきている。
【長所と問題点】
問題点として、比較的少人数の授業を実施するための教室が不足傾向にあり、双方向的
授業展開の制約条件になっている。また、増加する演習(ゼミ)に対応するだけのゼミ専
用教室が不足する可能性も出ている。また、多摩キャンパスの教育設備が全体的に時代遅
れとなっており、学生がよりよい環境で、しかも最先端の技術やノウハウを享受できるた
めには不十分さが目立つようになってきた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
施設・設備の項と関連するが、多様で先進的な授業形態・授業方法を開発していくため
には、情報化・システム化に対応した新しい環境が必要になってきている。本学部は、本
学において、いち早く学部内LAN、イントラネット計画を打ち出し、現在第1期の計画
期間を終えようとしているが、次の計画期間と計画内容の策定が急がれている。
個々の担当教員の間に蓄積されている授業方法についても、共有できる部分を拡大し、
学生にとっての効果的な授業展開、授業補助ツゥールの開発など取り組むべき課題が多い。
3−(3)国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本学部教員・学生の交換に関する協定校は、アジア地域で8校、北アメリカで4校、オ
セアニアで2校、ヨーロッパで 15 校である。このうち、本学部ほか一部の学部による協定
は、1987 年に協定を結んだメアリヴィル大学、1982 年に協定を結んだパリ高等商科大学の
2校である。
本学部における交換留学、認定留学による学生の国外留学は、毎年、10 数名であり、一
方、外国人留学生の受け入れは、50 名を超えるものとなっている。交換・認定留学ともに、
単位認定のほか、継続履修、奨学金の付与、学費免除などの支援を行っている。
本学部教員の海外派遣は、形態としては、在外研究員の派遣、海外出張による派遣、学
術国際会議派遣、交流協定機関等への派遣などに分かれる。在外研究員の派遣は毎年、2
∼3名である。海外出張による派遣は、おおよそ、以下のように区分されるが、大部分が、
海外での現地調査・資料収集である。その他、国際学会への参加、日本私学振興・共済事
業団や日本学術振興会による共同研究、文部科学省科学研究費補助による研究などが、そ
の代表的なものである。文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助による研究の
ための派遣者数は、98 年度3名、99 年度5名、2000 年度3名となっている。これを含む
本学教員による海外出張による派遣は、おおよそ次のように分類できる。
95
①
国際学会・会議での報告・参加
②
海外での現地調査・資料収集
③
大学等での講演
④
日本私学振興・共済事業団、および日本学術振興会による共同研究
⑤
文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助による研究
⑥
政府主催によるセミナー、学術交流への参加
⑦
外国の大学との共同研究
⑧
外部機関からの委託研究
⑨
民間機関の外部資金による研究
⑩
本学研究機関でのプロジェクト(地球環境研究委員会等)
学術国際会議派遣は、国際学会での研究発表のための派遣であり、本学部教員の派遣者
数については、1998 年度8名、1999 年度7名、2000 年5名となっている。交流協定機関
等への教員派遣は、研究や講演などを行うための派遣であり、本学部からは、最近3年間
において、フランスに1名を派遣している。
さらに、外国人研究者の受け入れの制度があるが、これには、客員教授等の資格により
教育研究に従事する受け入れと、研究に従事する訪問研究者等の資格による受け入れとが
ある。過去3年度に、本学部は総計、4名の受け入れを行っている。
【点検・評価】
国外留学制度は、学生に勉学の意欲を促進させ、幅広い専門的知識や技術を身につけさ
せるのに役立っている。そのための支援体制は、単位認定を含め充実している。教員の教
育研究活動における国際交流は、年々、活発となっており、その領域も拡大している。こ
の国際交流の促進状況は評価されてよい。外国人教員の受け入れの一つとして、顕著な研
究業績をあげたものを客員教授等の資格で招聘する制度があるが、これは、英語での授業
を担当するもので、学生に刺激を与え、教育成果をもたらしている。教員の海外派遣につ
いては、中でも、ロンドン大学のベンサム・プロジェクトとの共同研究のように、学部主
導での共同研究ではないが、文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助をもとに
国際会議を開催し、国際的な共同研究を行うことによって、大きな成果を収めているもの
も見られる。この点でも評価される。
【長所と問題点】
教員の教育研究における国際交流は、多様な支援体制により、活発に展開されている。
教員の海外派遣については、教授会に申請・承認することになっており、情報公開の点で
評価される。全体として、教員の個人レベルでの国際交流は比較的、活発であるが、共同
研究レベルになると、それほどでもない。もっとも、共同研究は、研究所その他の機関に
おいて実施するのが望ましいこともあり、学部での促進の適否を含めて今後の検討課題と
なる。協定校との交流でも、学生の交換では比較的活発であるが、研究領域ではやや低調
である。相互協定でもあり相手校の準備体制もあることから、このための条件整備につい
ての検討が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
留学生の受け入れ体制について、環境変化を捉えた教育面での教員の適正配置やカリキ
ュラム整備等について、今後も検討を重ねてゆかねばならない。国際交流は、多様な領域
96 第2章 学部
を含んでおり、その促進のあり方と貢献度については、多様な評価を踏まえての具体的な
検討が求められる。研究面では、学部としての国際的な共同研究の促進が課題となる。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
2001 年度の現状は以下①∼⑫のとおり。
表1
入試名
学
科
募集人員
志願者数
合格者数 手続者数
①経済学科
200
3466
585
177
①②
②産業経済学科
115
1767
245
87
A方式
②国際経済学科
140
2001
464
182
①公共経済学科
70
871
178
62
525
8105
1472
508
287
47
12
41
4
1
202
32
15
40
6
2
570
89
30
43
6
2
8
0
0
88
9
2
20
5
2
159
20
6
525
8834
1581
544
経済学科
30
1743
327
34
産業経済学科
10
417
31
2
国際経済学科
20
1088
178
16
公共経済学科
10
264
42
4
70
3512
578
56
経済学科
40
40
産業経済学科
20
20
国際経済学科
27
27
公共経済学科
16
16
計
103
103
中 央 大 学 杉 経済学科
26
26
並高等学校 産業経済学科
11
11
小
一般入試
計
経済学科
産業経済学科
③B方式
国際経済学科
公共経済学科
小
計
※A方式は第1日
経済学科
目が経済学科、公共
産業経済学科
経済学科。第2日目 ④C方式
国際経済学科
が産業経済学科、国
公共経済学科
際経済学科
小
計
⑥付属高校
中央大学附
属高等学校
小
募集人
員の1
割を
B・C方
式から
合格
計
計
⑤センター試験利用入試
全体の
97
中央大学高
等学校
国際経済学科
18
18
公共経済学科
11
11
小
計
66
66
経済学科
4
4
産業経済学科
4
4
国際経済学科
4
4
公共経済学科
1
1
小
13
13
182
182
計
計
経済学科
59
56
56
56
産業経済学科
24
21
21
21
※指定校数は 249 校、推薦者(志 国際経済学科
47
63
63
63
公共経済学科
14
38
38
38
144
178
178
178
38
17
17
7
20
20
1
2
2
0
4
4
46
43
43
⑦学校推薦入学
願者)数は 178 人
計
経済学科
産業経済学科
⑧スポーツ推薦
国際経済学科
44
公共経済学科
計
⑨公共経済学科編入学試験
一般 公共経済学科
20
96
46
28
推薦 公共経済学科
20
18
18
18
40
114
64
46
経済学科
3
1
0
産業経済学科
1
0
0
18
9
3
3
1
0
25
11
3
経済学科
2
2
1
産業経済学科
1
1
0
17
17
9
0
0
0
20
20
10
15
5
3
7
2
2
23
14
9
3
1
1
48
22
15
2679
1077
計
⑩海外帰国生等特別入試
国際経済学科
若干名
公共経済学科
計
⑪英語運用能力特別入試
国際経済学科
若干名
公共経済学科
計
経済学科
産業経済学科
⑫外国人留学生試験
国際経済学科
公共経済学科
計
合
98 第2章 学部
計
若干名
【点検・評価】
①・②:本学部も他の文科系私立大学同様に国立大学の5教科制に対抗して、もともと
英、国、社を中心とした3科目(数学選択可)試験を行っていたのであって、上記①、②の
A方式は、国、社の試験時間は 60 分、配点は各 100 点のところを、外国語の試験時間を
90 分、配点を 150 点にするなどの改善を加えながら、それを継承したものである。また、
受験生のさまざまな便宜を考慮し、2001 年度からA方式は経済学科と公共経済学科、産業
経済学科と国際経済学科という二つの組み合わせで試験日を複数にした。
③・④:3科目試験制も長年実施しているうちに偏差値輪切りの型にはまるようになり、
3科目受験勉強型の学生にだけ有利な方式であり、この弊害を克服して論理的な思考力や
個性的な発想のできる学生にも入学の機会を与えたいという趣旨で、本学部にとっては格
別に関係の深い数学重視の選抜方法(B方式=③)と、個性的な発想と文章の論理的な構
成力を重んじる小論文試験(C方式=④)が 1984 年度から実施されて、今日に至っている。
一般入試A方式で入学する学生数の 10%程度をこの方式で入学させている。A方式もC方
式も、まず一般入試共通の英語の点数が一定の基準値以上の者について、数学あるいは小
論文の成績を評価して、合否を決める方式になっている。
⑤:センター試験利用入試は、私立大学入試3科目制で評価し切れない受験生の基礎的
で総合的な学力を判断するために部分的に採用することになった。
⑥:付属高校の卒業予定者は、2000 年度から一定の条件のもとで他の大学を受験できる
ようになり、また中央大学への進学希望者については、その成績と希望を考慮に入れたう
えで各学部へ推薦され入学が認められている。
⑦:指定校推薦入学は、受験勉強に偏らない高校の全教育科目について全体として高い
評価を得ているような学生を求めようという趣旨から、本学部に継続して合格者を送り出
している高校を指定して、指定校における評定平均値が 4.0 以上の学生を推薦してもらい、
志望意欲等について面接のうえ、入学を許可する推薦入学制度を 1981 年度から実施するこ
とになった。
⑧:スポーツ推薦入学制度は、各教授会の審議を経て、スポーツ能力と学力の「両立」
を図る全学制度として、1985 年度から「スポーツ能力に優れたものの推薦入学制度」が発
足し、定着しているが、制度の改善・検討は引き続き行われている。最近も制度検討委員
会が2度目の「討議資料」を全学に提起している。
⑨:公共経済学科3年への短期大学等からの編入学試験は、一般公募試験と指定校推薦
との2本建てで行ってきた。2002 年度からは公共経済学科以外の3学科でも短大卒業予定
者、4年制大学2年次以上単位取得者から編入学生を若干名募集することになっている。
【長所と問題点】
④:C方式、すなわち小論文試験は、長年実施している間に、受験生の側でこの方式に
うまく対応するための技術的・形式的な訓練も行われるようになり、この方式の当初の目的
であった旺盛な社会的関心を持ち文章構成力に優れ個性的な発想のできる学生という狙い
も薄らいできたという意見がある。そのうえこの方式には避けることのできない採点の主
観性という難しい問題も重なるので、すでに試験方式も多様化した現在、教授会内部では
C方式の存廃を含めて検討すべきだとする意見もある。
⑥:付属高校が他大学への併願を認めることによって、高校と大学との連携教育の新た
99
な段階を迎えている。
⑦:指定校からの推薦は、高い水準にある受験校の場合には、学部が推薦の条件とする
評点平均値を上回るほどの生徒は普通の学力試験で本学あるいはそれ以上の水準の大学に
入学できる可能性が高く、本学経済学部への推薦の対象にならない。評定平均値について
は上記の条件を満たしていない場合でも、人物が優秀で校内あるいは社会的な活動という
面で優れた意欲と能力を持っている生徒は、推薦入試の対象になってほしいとの意見もあ
る。
⑧:スポーツ推薦入学の学生の入学後の学業成績は概して芳しくない。そのため希望者
には一定の単位を限って特別の英語クラスを設置してその学力増進の特別措置を講じてい
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来の改善策は後述の入試・広報委員会を中心にして検討し、教授会への提案をするこ
とになっている。実際近年の入試改革はこの委員会から発案・提議されてきた。その一般
的な傾向は 1984 年の入試改革の方針を押し進めるものであって、一方では、偏差値輪切り
型の教育体制にさまざまな問題のあるという自覚のもとに、高校生の自律心や個性ややる
気を汲み上げようとする点にあったと言える。他方では、国際化を進めるという本学全体
の方向にそって改革が行われてきたように考えられる。入試方法の多様化もこの流れの中
で出てきたものと考えられる。
その結果、1)入試方法が複雑になり、入試業務が煩雑になり、多大の時間と労力を割
かなければならなくなってきている。2)他の大学でも似たような入試方法の多様化を推
し進めているため、全国の大学の入試方法の細目はきわめて錯綜したものになっており、
高校の進学指導の教師も個別具体的にはそれを把捉できないほどになっている。3)その
ため進学指導の教師の奨めもあってセンター試験受験生が増えている反面、インターネッ
トなどを利用して自分にあった学部学科を探し当てている生徒も増えている。4)こうし
た背景を踏まえ、単に入試方法の改善にとどまらず、本学部の学問的な水準を高めること
と個性的な魅力を備えることが、ますます不可欠である。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
いずれの大学も優秀な学生を入学させたいと望んでいる。しかし「優秀な」ということ
は、必ずしも受験勉強において優れているという意味ではない。本学経済学部で学びたい
という意欲を持った学生、入学後知的・人間的成長が期待される学生という意味も含んで
いる。したがって、このような目的を実現できるように入試形態とその多様化を工夫して
きた。今後、さまざまな入試方法を十分にカリキュラム編成に連結し、社会の「人材」提
供に資する努力をさらに続けなければならない。そのためにも、アドミッション・ポリシ
ーの一層の具体化に重きを置く必要がある。
【点検・評価】
次の3点は、入学者受け入れ方針の特徴と言えるのではないかと思われる。
1.国家的な規模での画一主義に対する私立大学の対応策
2.多様な学生・多様な個性・偏差値方式への是正策
100 第2章 学部
3.国際化への対応策
上述の試験方法の③B方式・④C方式、⑥付属高校 ―大学の一貫教育、⑦指定校推薦制、
⑪英語運用能力入試などは、特徴の1.2.に深く関連しており、⑧のスポーツ推薦もこ
の点を生かす狙いで制度化された。また入試方法の⑩、⑪、⑫、などは国際化への対応と
して全学的に推し進められてきた。国際化関係のカリキュラムは(コンピュータ関連の科
目とともに)近年ずいぶん拡充されてきた。
【長所と問題点】
上記の特徴は大なり小なり多くの有力な私立大学が目指している方針ともなっている。
したがって本学部が独自の特徴を打ち出すためには、学部内の4学科の教育内容の特徴を
もっと鮮明に打ち出すことを通して、本学部および各学科への志望動機もより一層はっき
りした学生が受験してくれるような体制を整えなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記1∼3の特徴は大手の私立大学では大なり小なりどこでも努力していることであ
る。したがって学部と各学科の個性を鮮明にするという問題は、将来にかかわる問題とし
て議論の対象になっている。
4−(3)入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
問題作成、校正、印刷、入試期日、採点期日、合格発表期日、監督体制の編成等につい
ては入試・広報センターが中心になって全学的に統一的なプログラムを組んでいる。
学部内では、出題者・入試管理委員会・採点者・合否決定委員会の役割と人選は教授会
で決定される。各年度の合否の決定は、教授会の基本方針に基づき合否委員会に付託して
いる。
【点検・評価】
入学者選抜の厳正、あるいは公正さを保証するという点は、適正な水準に達している。
また、選抜方法の多様化を推し進めたという点では、かなりの進展が認められる。
【長所と問題点】
入試の方式の多様化、複数日試験の実施などの結果、学部内の入試関係の業務は複雑に
なり、多忙になっている。そのうえ、複数日試験の実施のために同一科目について同程度
の問題が複数用意されなければならない。そのため科目によっては、関連のある教員が在
外研究や特別研究などで入試業務から免除になっているような場合などには、出題適任者
が不足する事態もまま発生する。そこで他学部からの応援を求める慣習ができているが、
他学部でも事情は同じだから、出題依頼の応諾を得るのが難しいこともある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の入学者選抜の仕組みは各学部で3科目試験を実施していた頃の仕組みを踏襲して
いる部分が残っていて、基本的に各学部別に入学者を選別することになっている。しかし
入試業務が繁忙を極めるようになった現在では、全学的な組織としての入試・広報センター、
国際交流センター、事務的な業務については事務システム推進室への各学部からの業務委
託の方法が、もっと工夫されるべきであるかも知れない。
101
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
入試科目ごとにその教科の出題者グループが教授会において決定され、その科目の出題、
印刷、校正、入学試験時に出てくる可能性のある質問への対応待機等の任にあたることに
なっている。また各科目ごとに、上記の出題者を中心にした採点者のグループが教授会の
承認を経て決定され、入学試験に続く数日間に採点の任に当たる。
出題グループは、採点者グループの採点時点での問題についての講評その他を参考に意
識的に反省、工夫を重ねている。④C方式の小論文の採点においてはできるだけ評価の客
観化を図るために、複数の(3名ないし4名)査読者による評価を平均している。採点終
了後は出題の問題点や採点方法について反省会を開いて、次年度の出題の参考に資するよ
うにしてきた。
【点検・評価】
入試の方法は、教授会を基礎にして、恒常的かつ継続的に審議・検討を続けてきた。
【長所と問題点】
C方式は、できるだけ客観的な評価ができるように、採点方法も工夫されてきたが、そ
れでも採点者の主観的な判定は小論文試験の性質上不可避であり、そのうえ受験生の側で
も小論文試験を要領よく受ける技術を訓練されるようになり、したがってもともとの目的
であった個性的な発想のできる学生を探し出すことがそれだけ難しくなっている。こうし
た事情のため学部内では、④C方式試験の存続の必要性について疑問が出されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在のところ学部内の入試・広報委員会が将来の改善に向けた方策の検討を開始してい
る。全学の入試・広報委員会からの情報を入手し、提案を受けながら、さらに教授会メン
バーの意見を集約しつつ、入試方法の問題点について検討を続けている。また委員会は各
地の高等学校を訪ね高校サイドの事情や意見を直接に調べる試みも始めている。その場合
AO制度の可否についての高校サイドの意見聴取も行っている。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
合否決定委員会は、合格者数に対する入学手続者数の割合を正確に予測することが、事
柄の性質上きわめて困難であるにもかかわらず、手続者数が定員を上回ることができるだ
け少なくなるように、最大限の努力と工夫をこらしている。したがって数年間の平均を取
れば、入学者数は定員を大きく上回ってはいない。したがってこの問題については格別に
問題視されてはいない。
【点検・評価】
上記の現状を達成するためにも、入試委員会は合格者発表数の算定方式を年度ごとに教
授会で発表し了解を求めている。各種の入試方法に関して歩留まり率を完全に予測するこ
とは不可能であるが、その算定方式についてできるだけ恣意的な判断が入り込まないよう
な工夫がなされている。
【長所と問題点】
最近取り入れることになった大学入試センター試験利用入試併願者の歩留まり率の予測
102 第2章 学部
は、2年間の実績の積み重ねにより大きく改善されている。
【将来の改善・改革に向けての方策】
一般入試と特別入試の関係など、学部としての具体的な方針を主として入試・広報委員
会で検討している。
4−(6)
編入学者・退学者
【現状の説明】
短大からの編入学生に対しては入学式以前に2日間の日程を設け、テキストを与えて経
済学入門の特別の授業をしている。退学者は学費未納者を含め年間数名程度出ている。学
生相談室を設けたり、奨学金制度を充実させたりするという一般的な方策を講じてはいる。
【点検・評価】
短大からの入学者については、時折経済学などに関連する知識が不十分だという意見も
出される。
【長所と問題点】
短大からの編入を認めている以上は、経済学などに関する補習授業は必要であろう。し
かし同様のことはスポーツ推薦入学の学生についても言わなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
補習授業の問題は教員の過剰負担の問題とも関連するから、必ずしも容易な問題ではな
いが、学部の教育責任上、何らかの形で取り組まなければならないだろう。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
学部・学科の理念・教育目標等や教育課程の種類・性格については、すでに述べた。こ
こでは、まず、学生数との関係における本学部の教員組織の現状から記したい。表2によ
って、文部科学省の大学設置基準との関係を示した。
表2
2001 年度専任教員数(現員)および大学設置基準による必要専任教員数
摘
学
部
要
専任教員数(現員)
別表
第1
学科・専攻
経
経
産
国
済
公
業
経
済
19
済
15
別表
第2
40
際
経
済
16
共
経
済
11
合計
必要専任教員数
別表
第1
昼間主コース・昼間部
合計
別表
第1
別表
第2
夜間主コース
別表
第1
計
別表
第2
夜間部
計
別表
第2
別表
第1
18
16
2
14
12
2
101
[0]
別表
第2
→(内訳)
37
34
94
15
13
10
10
計
3
9
85
2
注) 1.必要専任教員数は、大学設置基準第 13 条の定めにより、収容定員に応じて算出した。このとき、夜間部の収容定員の増
減に伴う必要専任教員数の算出については、別表第1及び別表第2共に年次進行に応じ次のとおり算出している。
なお、教授会は、2000 年度から二部(夜間部)廃止に伴う経済学部専任教員削減計画(表
2)を実施中である。
103
この表3には、同時に、一般教育、外国語、保健体育、および専門教育の各担当者会議
構成メンバーという「教員組織区分による教員配置」や「教員組織の年齢構成」
(ちなみに、
20 歳代ゼロ、30 歳代8名、40 歳代 25 名、50 歳代 39 名、60 歳代 29 名、平均年齢 53.7 歳)
も示されている。
表3
担当者会議および部門区分による教員数削減計画
基本
教員
組織
部門
一般教育
英語
ドイツ語
外
国 フランス語
語
(スペイン語)
講義
担当
後継
者
(Y)
講義
担当
年 齢 構 成 (上 段 )及 び 退 職 年 度 (下 段 )
後継
者 39歳 40∼ 45∼
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
49
助手 以下
44
(X)
2020 2019 2018 2017 2016 2015 2 0 1 4 2 0 1 3 2 0 1 2 2 0 1 1 2 0 1 0 2 0 0 9 2 0 0 8
計
7
8
6
1
1
12
14
10
2
2
3
1
1
1
4
4
4
4
4
4
1
1
1
中国語
4
4
4
(日本語)
1
1
1
1
1
1
1
64
65
66
67
68
69
2006
2005
2004
2003
2002
2001
(1 )
1
1
1
1
1
1
(1 )
(1 )
1
2
1
1
1
1
5
3
8
8
7
1
2
1
経済史
4
5
4
1
1
経済政策
3
3
3
経済学史・社会思想史
4
4
4
財政・金融論
6
6
6
1
1
1
1
1
1
1
1
1
3
専 社会政策・労働問題
門
教 統計・情報論
育 産業経済
4
4
4
1
1
5
6
4
2
1
6
6
6
1
1
人口・労働経済
3
3
3 1
1
1
1
1
1
1
(1 )
1
1
1
5
6
6
経営・会計
4
4
4
公共経済
3
3
3
1
1
1
2
法律・行政
2
2
2
1
1
94
101 89
3
5
4
19
2
1
1
国際経済
6
1
1
1
3
(1 )
(1 )
1
1
8
1
1
1
1
1
4
計
1
1
経済理論
保健体育
63
2007
1
1
1
1
2
1
1
4
3
3
3
4
7
3
3
1
1
3
0
1
3
0
2
2000 年3月8日教授会における経済学部自主計画「夜間部廃止に伴う教員数削減の年次計画」決定に基づき作成。
(
)は、削減予定年度と削減数。
次に、
「教員組織における専任、兼任の比率」については、(1)全授業数に占める専任・
兼任比率(表4)と(2)全担当者に占める専任・兼任比率(表5)を示した2種類の表を
掲載する。なお、専任教員組織における女性教員の占める割合は、101 名中5名(5%)と
きわめて少ない。
表4
全授業数に占める専任・兼任比率
2001 年度
表4−①
一部
合計(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ)
専門(講義科目)
150
99.5
50.5
66.3%
33.7%
導入科目
42
42
0
100.0%
0.0%
専門演習
135.5
135.5
0
100.0%
0.0%
外国語科目
349
114
235
32.7%
67.3%
健康・スポーツ科目
65
19
46
29.2%
70.8%
総合教育科目
42
21
21
50.0%
50.0%
総合教育演習
14
14
0
100.0%
0.0%
797.5
445
352.5
55.8%
44.2%
計
104 第2章 学部
表4−②
二部
合計(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ)
専門(講義科目)
51
20
31
39.2%
60.8%
専門演習
14
14
0
100.0%
0.0%
外国語科目
7
5
2
71.4%
28.6%
健康・スポーツ科目
3
3
0
100.0%
0.0%
20
9
11
45.0%
55.0%
95
51
44
53.7%
46.3%
総合教育科目
総合教育演習
計
表4−③
一部+二部
合計(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ) 専任(コマ) 兼任(コマ)
専門(講義科目)
201
119.5
81.5
59.5%
40.5%
導入科目
42
42
0
100.0%
0.0%
専門演習
149.5
149.5
0
100.0%
0.0%
外国語科目
356
119
237
33.4%
66.6%
健康・スポーツ科目
68
22
46
32.4%
67.6%
総合教育科目
62
30
32
48.4%
51.6%
総合教育演習
14
14
0
100.0%
0.0%
396.5
55.6%
44.4%
合計
専任平均コマ数:
892.5
5.28
496
コマ
(専任 94 人)
表5
全担当者に占める専任・兼任比率
担 当 者 数
専
任
兼
任
専 兼 比 率
合
計
専任比率
兼任比率
専門教育科目
60
50
110
54.5%
45.5%
総合教育科目
8
18
26
30.8%
69.2%
28
69
97
28.9%
71.1%
5
13
18
27.8%
72.2%
101
150
251
40.2%
59.8%
外国語科目
健康・スポーツ科目
計
【点検・評価】
教育課程編成の常設委員会として本学部は教授会の承認を経て「教務委員会」を設置し
て、当委員会がカリキュラム素案の提起をはじめ、各担当者会議・部門会議との調整とい
う重要な機能を果たし、事実上点検・評価の機能を発揮している。
【長所と問題点】
現行の教員組織については、大規模私立大学共通の課題であるとともに、中央大学全体、
本学部固有の課題をも抱えている。以下、主要なものを掲げておこう。
(1)2001 年度本学部の一部在籍者数は 4,682 名、二部在籍者数は 218 名、計 4,900 名であ
105
り、専任教員数は一部 92 名、二部 9 名、計 101 名である。したがって、一部所属専任
教員一名あたり学生数は 53.3 名となっており、総じて学部の教育条件の改善が望まれ
るところである。
(2)学部の専任教員の授業担当責任コマ数も早期に6コマ原則が実現され、さらに教員の
研究活動が十分に保証されるようコマ数の軽減が望まれる。
(3)リベラルアーツ型の経済学部を展望するためにも、総合教育科目、専門教育科目の専
任教員を重点的に強化する必要がある。
(4)大学院の院生研究指導体制を強化するとともに、その研究者養成機能を一層高めるた
め、任期制助手制度を早期に整備する必要がある。また、学部教育と大学院教育との関
係についての制度上の問題を含む検討も必要である。
(5)学部・大学院の専任教員のうち、2001 年度から任期制の特任教員制度を導入したが、
その適切な運営については、今後とも絶えず検討しなければならない。
(6)以上の課題達成のためには、財政的支援が求められる。近く実施される予定の全学的
な予算単位制度は、学部の教育研究体制を改善することに資する内容でなければならな
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述した諸問題点について、検討作業を開始している。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
現行の教育研究支援職員制度は、学部では基礎的な授業科目におけるSA、情報処理関
連教育を支える環境整備などで実施され、多くの周辺機器・ソフト・SE経費などは学部
学生の実験実習料に依存している。また、この項目とは直結しないかも知れないが、イン
ターンシップ制度のほかに、特別協力者として授業への外部講師の期限を限った連携体制
やRAの導入も展開されている。
【点検・評価】
大学財政の制約が大きく十分とは言えないが、一部学部独自の実験実習料で補填して、
一定の水準を維持している。
【長所と問題点】
支援体制全体の見直しが必要となっており、長所と問題点自体を明らかにしつつ、課題
を再設定することが残されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前述したように、一定の制約条件のもとではあるが、例えば実験実習料に基づく執行計画
の実施による成果には見るべきものがあり、さらなる具体化方策が期待される。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続き
【現状の説明】
学部(大学院を含む)における新任専任教員の募集(助手は公募、他は準公募)
・任用基準・
昇格基準は明確に定められており、それぞれ教授会員による業績審査委員会の厳正な報告
書に基づき、教授会で審議・投票決定に付されている。これら教学側の学部人事は、法人
106 第2章 学部
側の最終的な「任用審議会」での決定手続に先行して、
「研究・教育問題に関する経済学部
委員会」(以下「学部研教」という。)の議を経た原案を教授会の審議に付す枠組みのもと
で民主的に運営されている。
【点検・評価】
現行制度のもとで、適正な運用が図られている。
【長所と問題点】
大学の運営として言えば、教学と法人の責任権限が明確に守られており、最大の長所と
評価される。問題点を強いて掲げればより広い範囲から優れた人材を得る方法として、専
任講師・助教授・教授の採用への公募制導入が考えられるが、当面はそのための条件整備
が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員の公募制導入の課題と新規の任期制助手制度実施の具体化が残されている。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
教育活動については語学、一般教育、専門科目等の担当者会議、専門科目をさらに細分
した部門会議、教授会、教授会のもとに置かれたいくつかの委員会などで、それぞれの関
連事項について常時一般的に、評価、反省、改善策の検討が行われている。
学内での研究活動については経済研究所など学内各研究所の研究部会・研究会が、研究
報告会を開催し、学内外の専門家による相互批判の機会を持っている。学部内でも時折、
研究報告会を開催している。また各年度の研究成果を全学的に『学事記録』で公開し、研
究成果のインフォメーションの提供、相互評価の便を提供している。さらに助手、講師、
助教授、教授、大学院前期課程担当者、同後期課程担当者に就任する際に、規定に従って
複数の専任教員によって研究業績の審査が行われ、教授会あるいは大学院研究科委員会で
その審査結果が報告され承認を得なければならないことになっている。
教員採用時の教育研究能力の審査は、業績審査委員会の評価および推薦者による人物紹
介が教授会で報告され、審議の機会が設けられている。
【点検・評価】
研究活動は上記研究会での発表や研究成果の公表などを通して、自然ななりゆきで相互
評価ができる形になっているが、研究会での発表は各教員の自主的な意欲に負うところが
大きく、教員の義務になっているわけではない。また自然に相互評価がなされると言って
も、その評価はそれ以上のものではなく、規定化、公式化、組織化されているわけではな
い。
教育活動の評価については、教授会において、担当時間数に偏りがないような配慮が行
われているし、履修者数や成績評価の分布などについての情報もある程度は得られる。こ
うしたことは自然な形で各教員の反省の資料になっていると言えるかもしれない。しかし、
各教員の教育方法の評価については、規定化、公式化、組織化されてはいない。
【長所と問題点】
やさしく、学生に分かるような教授方法の工夫が、今すぐに緊急に必要だという意見は
多い。その必要性は広く認識されているし、またこの点について学生の要望を聞こうとす
107
る試みもある。そしてこの点に大きな問題があることは明らかだ。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に教授方法、教育方法改善の方向は、教授会でも各種の委員会でも絶えず話題にはな
っている。したがってこうした改善するために生じうる問題点の調査や研究、それを基礎
にして改善の具体的な方策を提案するための組織化(委員会など)が、まず必要なのかも
しれない。
6.施設・設備等
【現状の説明】
1)一般教室
講義と演習に使われている一般教室の種類と数、設備の現状は以下のとおりである。
(1)大教室(8号館)収容定員 434 名の大教室3教室、525 名収容の大教室が2教室。
設備(各部屋に、電動黒板2枚、マイク、ワイアレスマイク、プロジェクターとスク
リーン)。
(2)中教室(7号館) 計9教室。1階に4教室(収容人員各 180 名)
。2階に5教室(収
容人員各 100 名前後)。設備(マイク、ワイアレスマイク、大型TV[2階教室]、映
像プロジェクター[1階4教室]、常置OHP[2階1教室]、情報端末)
。
(3)語学用教室(7号館)3、4、5階に計 20 教室、収容人員各 50 名、設備(黒板、
プロジェクター用スクリーン、カセットテープレコーダー、大型TV、VTR、LD
プレーヤー[一部]、情報端末)。
(4)演習(ゼミ)教室(7号館5、6、7階)40 教室、収容人員各 20 名、設備(円卓と
カムファタブルな椅子、情報端末。共同利用の3教室に大型TV、VTR、PCプロ
ジェクター、OHP)。使用方法
2ゼミで1教室を共有。
2)情報教育教室
本学部の情報教育は3つのワークステーション室を中心に行われている。最新のネット
ワーク環境のもとで NT4.0 サーバー8台、UNIXサーバー2台が稼動し、学生は最新の
CPUとOSを搭載した 140 台のPCを利用できる。
(1)ワークステーション室1
Windows 2000 + 日立フローラ 40 台(授業、講習会、学
生の個人利用等のために使用されている)。
(2)ワークステーション室2
Windows NT4.0 + DEC Celebris GL-2 60 台(授業、学生
の個人利用等のために使用されている)。
(3)ワークステーション室3
Windows 98 + 富士通 FMV-6350DX 40 台(マルチメディア
対応PCを使った語学授業、演習等に使用されている)。
各PCにはワープロ、表計算等の基本的なソフトに加え、数学、統計、情報処理、語
学教育に必要な応用ソフトが搭載されている。授業のほか、学生の自習、PC講習会で
も利用されている。PCとソフトは2、3年ごとに最新のものにリプレースされている。
ワークステーション室に加えて、2000 年度には7号館のすべての教室に情報コンセン
トが設置され、どこからでもネットワークに自由に接続できる環境が整っている。また
無線LAN設備も徐々に増やしており、より簡単に接続できる環境が整いつつある。
3)学部図書室、自習室(AV利用ブースを含む)
108 第2章 学部
(1)学部図書室
蔵書の種類と数(12,812 点)。利用者数(2000 年度 4∼1 月の 10 カ月
間で、延べ 11,144 名)。設備(机[仕切りあり]15、机[仕切りなし]43、椅子 170、検
索用ノートPC8 台、ロッカー160 名分。利用方法
受け付けカウンターで係員に学
生証を預ければ、その間は自由に閲覧・学習できる。図書の貸し出しはできない。
(2)自習室
収容人員 30 名、うち 10 名はAV教材利用者用。机(仕切りあり)16、机
(仕切りなし)4、机(AV教材利用者用)10、椅子(自習用)20、椅子(AV教材
利用者用)10。AV教材利用ブースの設備(14 インチ小型モニター8 台、VTR5台、
LDプレーヤー3台、DVDプレーヤー3台、字幕表示アダプター2台、カセットテ
ープレコーダー2台)。教材・ソフトの種類と数(ビデオ教材 625、DVD教材 58、
カセット教材 218)。
【点検・評価
長所と問題点】
1)一般教室
かねてから問題ではあったが、2000 年度の新カリキュラム導入によって、大教室、中教
室の絶対数が不足しがちであり、時間割設定の自由の度合いが減っている。また、語学教
室についても、5時限目の利用が減少し、授業が1∼4時限に集中しているため、相対的
に数が不足気味である。
2)情報教育教室
ハードウェアの点では、頻繁なリプレースと最新の情報環境の整備によって、他学部・
他大学に勝るとも劣らぬ設備を維持していると思われる。ただ、ワークステーション室や
情報環境を利用する際に、学生・教員を支援する体制の整備が不十分で、専門の職員の数
も絶対的に不足している。
3)学部図書室
蔵書数が収蔵可能な限界に達している。利用頻度の少ない古くなった文献類を廃棄して、
新しい文献類を収蔵しているのが現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教室と図書室のスペースの不足問題は性急には解決しにくい問題である。数年前に答申
された第1期キャンパス整備計画においては、全学施設を含む法学部棟の建設が盛り込ま
れており、それが実現されれば、現在の法学部棟6号館を本学部と商学部で分有し、両学
部の利用可能スペースの拡大を図ることもできた。しかし、最終の計画では法学部棟を想
定した新教学施設の建設は第2期整備計画で行われることになった(第6章
施設・設備等
大学の運営
参照)。当面は、時間割のやりくりと狭いスペースのより有効な活用に頼ら
ざるを得ないが、限界は間近まで迫っている。情報教育教室の専門職員の問題については、
かねてから図書館でも専門司書について同じような問題が生じており、職員の人事システ
ムの問題であるが、定期異動のない各部署専門職員制の導入が望まれる。
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
本学部の教員は、多様な領域で社会貢献を行っている。比較的頻繁に行われているのは、
国内外の学会、研究会等における研究活動、出版や講演などによる学術的および啓蒙的な
109
活動、地域における調査活動や行政への助言である。これらを含め活動領域は、多岐にわ
たるが分類すると、おおよそ、以下のようになる。
①
国内外の学会、研究会等における研究活動
②
国内外の学会、研究会等の役員としての活動
③
地域における調査活動および行政への助言
⑤
出版、講演等による学術的および啓蒙的な貢献
⑥
官公庁、地方自治体における審議会等の委員
⑤
その他各種の公的団体の委員
⑦
官公庁・各種団体の研修会の講師
⑧
国家試験等資格試験の委員
その他、本学部の教員は、全学の制度として学事課が所管する学術講演会を通して、社
会貢献を行っている。これは、毎年、本学部の教員が講師となって演題を掲げ全国各地で
開催されるもので、地域に開かれた生涯教育の側面を持っている。本学部からは、毎年、
数名の教員が講師として参加している。最近の5年間で、本学部の教員が取り上げた演題
は、少子高齢化問題、財政投融資改革、アジアの通貨危機、現代の不況、金融改革、円の
基軸通貨問題、香港返還問題、情報化社会と企業経営、生物と環境、社会保障などに関し
ており、多様な領域にわたっている。
さらに、法人の組織として、有料制であるが生涯教育、オープンカレッジと称されるク
レセント・アカデミーがあり、これに、本学部の教員、本学出身の教員(名誉教授)が数
名、講師となって参加している。担当する講座は、経営戦略、国際経済、イギリスの文化、
欧州の宗教と社会、などに関する領域である。
【点検・評価】
社会貢献の活動は多様に行われており、この点は評価されてよい。以上の教員個人の外
部での社会活動は、教授会で申請し承認するシステムをとっており、組織としても個人と
しても点検できる状況にある。これは、本務の教育研究に支障をきたさないためのチェッ
ク機能を果たしている。情報公開の点では、一定程度評価できる。
【長所と問題点】
教員個人の社会貢献の活動は、教育研究活動に関連し、幅広い範囲にわたって行われて
いる。これは、教員の教育研究活動の水準の高さを反映している。しかしながら、その貢
献度を具体的に検証し、教育研究の活性化にどの程度、役立っているかを評価するには至
っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究活動を通して社会的貢献を行うことは、大学教員の社会的責務である。社会全
体における地域社会の役割が高まり、学問も領域が多様化し学際的研究が盛んになる潮流
の中にあって、学部全体としても、社会貢献の方向性と評価のシステムを具体的に検討す
ることが望まれる。地域や社会に開かれた教育研究のありかたについても、具体的な検討
が必要となろう。カリキュラムと設置科目を含め、教育面での工夫が求められる。教員の
外部機関での活動成果については、諸機関での報告や審議の内容が公表され透明性が高ま
る状況を踏まえ、それを新たな共同研究の発展のために活用できる方策などについて検討
することが望まれる。
110 第2章 学部
8.管理運営
【現状の説明】
学部の管理運営では、教育研究等に関する重要事項を審議・決定するのは教授会である。
これらの事項のうち、人事等の重要案件はあらかじめ「学部研教」で原案が審議される。
教授会のもとには、多数の学部内各種委員会が設置され、日常的な業務を執行している。
なお、教育研究組織としての担当者会議や部門会議も設けられている。
学部長は上記の教授会、学部研教をはじめ、10 を超える学部内の各種委員会を招集し議
長となるとともに、全学的な委員会等における多くの職務上委員が加わったうえで、学部
の管理運営の最終責任を負う。学部長は、同時に全学的な調整機関である学部長会議、学
長・学部長懇談会、法人・教学懇談会に出席して学部の意見を述べることができる。さら
に、学部長は、全学的な組織の業務約 45 を各学部長が担当学部長としての役割を担い、い
わば学長の業務を事実上補完している。なお、1999 年度から全学的に学部長補佐制度が導
入された。本学部では、2000 年度から導入しており、その貢献は大きいものがある。ただ
し、同補佐はあくまで学部長の実務を補佐するのであり、学部長の代理業務を果たすもの
ではない。
さらに、学部の管理運営に関係するが、大学院研究科委員会(研究科委員長が最終責任
者)と学部研教や教授会との緊密な協調関係が重視されつつある。
【点検と評価】
総体として言えば、学部の管理運営の機関は適正であると評価できよう。
【長所と問題点】
民主主義的な管理運営が保証されているが、反面学部長の責務と負担は過大となってい
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部の管理運営に限っても、一層合理的なシステムを検討する必要がある。
9.事務組織
【現状の説明】
中央大学事務組織規則第6条および第9条に基づき、経済学部教授会の審議、決定事項
の事務執行機関として経済学部事務室が置かれている。
業務の分掌内容は次のとおりである。
1
学部の学事計画及び予算に関する業務
2
助手採用に関する業務
3
授業時間割の作成等授業実施に関する業務
4
学部棟の管理等に関する業務
5
履修・講義要項等の作成に関する業務
6
履修指導及び履修届に関する業務
7
入学手続きに関する業務
8
推薦・外国人留学生・学士入学試験及び転部科(転専攻)試験に関する業務
9
学部聴講生の募集及び選考に関する業務
10
試験時間割の作成等試験の準備及び実施に関する業務
111
11
成績記録・発表及び分析に関する業務
12
各種証明書の発行及び資格・照会に関する業務
13
学生数等の調査・統計に関する業務
14
学籍・学生身分異動等に関する業務
15
教学システム(電算)の処理及び学内の連絡調整
16
カリキュラムに関する調査・分析
17
教員の国際交流に関する業務
18
学生の国際交流、特別聴講生に関する業務
19
教員の応接及び受付に関する業務
20
学部企画行事に関する業務
21
課外教育に関する業務
22
学部の広報に関する業務
23
父母との連絡等に関する業務
24
教員人事の記録に関する業務
25
学会出張等に関する業務
26
補助教材等に関する業務
27
学部図書(室)に関する業務
28
学生証・学生割引証に関する業務
29
住所等学生届出事項に関する業務
30
ゼミナールの助成に関する業務
31
医療費援助申請・学生弔慰金等に関する業務
32
学生相談に関する業務
33
成績原簿等各種原簿の整理・保管
34
学生諸名簿の作成・保管
35
教育職員免許状の授与資格認定に関する業務
36
学生の一般庶務事項(受託業務を含む。)の処理
37
教授会・各種会議に関する業務
また、同第9条−第 11 条に基づき、専任職員には管理職位者として事務長(1名)、事
務長を補佐する専門職位として担当課長(1名)、業務の執行組織としてグループが2グル
ープ置かれ、各グループには監督職位者として副課長を配置、各副課長のもとにグルー
プ員がおり、全体で 14 名の構成となっている。
専任職員
事務長
(1名)
副課長(学務グループ)
担当課長
(1名)
(1名)
副課長(教務グループ)
グループ員(3名)
グループ員(7名)
(1名)
また、専任職員のほかに事務室、教員室、学部図書室、教員研究室受付、コンピュータ
ワークステーション受付要員として約 20 名のパートタイマー職員を交代勤務形態で配置
112 第2章 学部
している。さらに、コンピュータワークステーションには常駐の本学部の専属技術者とし
て派遣社員1名を置いている。
【点検・評価
長所と問題点】
教務グループは主として時間割編成、履修指導等、学務グループは入試関係、庶務関係、
教授会の運営等にかかわる業務が主たるものである。これらの業務は、本学部として実施
しているものではあるが、本学組織の複雑化、業務の専門化に対応していかなくてはなら
ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学的な視点での適正な人員配置はもとより、学部や法人・教学の枠を越えた人事交流、
外部団体での研修の機会の充実などを通じ、大学全体や高等教育政策全体という視点から
業務を遂行できる人材育成が急務である。
なお、大学の事務組織については、教授会や各種委員会等の教学組織における一層の責
任・権限との機能分担の明確化と連携協力関係が求められる。
10.自己点検・評価等
本項は、(1)自己点検・評価、(2)自己点検・評価に対する学外者による検証および
(3)評価結果の公表の3小項目から成るが、ここではこれらをまとめて記述することに
したい。
【現状の説明】
本学部としての本格的な自己点検・評価活動の取り組みは、2000 年2月設置の「経済学
部自己点検・評価構想委員会」によって基本的な構想や編別構成の答申を得たうえで、同
年6月からの「経済学部自己点検・評価委員会」として草案の検討を重ねてきた。今回の
全学的な報告書をその骨子として継承しながらも、学部独自の報告書は、学生による評価
項目や学生生活の章を含んで豊富化され、2001 年度末にまとめ公表することになっている。
【点検・評価】
本学部の自己点検・評価報告書という形式ではないが、学部教授会をはじめ各種委員会
等によって内容の検討は続けられてきた。それらの成果が基礎となり、独自の報告書に仕
上げられることになる。
【長所と問題点】
今年度末、初めての学部自己点検・評価報告書刊行を目指しているので、細目はそこに
譲らざるを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
自己点検・評価活動を通じて、本学部の理念や4学科の特徴づけを改めて確認する必要
が生じたが、しかし教授会等において明文化されてきたものは必ずしも多くなかった。こ
の報告に記されたような本学部の特徴と弱点とをともに認識し得たことは、きわめて重要
な意味を持っている。自己点検・評価活動の内容は、今後とも、学部改革・学部充実の真
摯な討議の前提として、あるいは土台として、一層学部充実のための羅針盤の役割を発揮
することであろう。しかし、今回の内容はその出発点を築いたに過ぎない。この自己点検・
評価の内容が教授会等での意見を可能な限り取り入れた内容に絶えず高められるよう願っ
ている。
113
なお、自己点検・評価のプロセスへの学生の意見の反映については、アンケート調査な
ど一部にとどまった。外部の意見反映とともに、今後に残された大きな課題であろう。
114 第2章 学部
商学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
本大学の学則第二条(「本大学の使命」)は、「本大学は、その伝統及び私立大学の特性
を生かしつつ、教育基本法の精神に則り、学術の中心として広く知識を授け、深く専門の
理論及び応用を教授・研究し、もって個性ゆたかな人間の教育を期待するとともに、文化
の創造・発展と、社会・人類の福祉に貢献することを使命とする」、と規定している。した
がって、本大学の各学部はこれを基本的視点もしくは基準として各学部独自の教育研究の
目的・目標を追求するものでなければならない。
商学部は、従来より本学部としての教育目的・目標について要旨以下のように謳い、そ
の実現を目指してきた(『中央大学 2001 大学要覧』、『CHUO
UNIVERSITY
2002 』、『商学
部 学部ガイドブック 2002』等参照)。
商学とは「企業」のさまざまな活動に焦点を当てて、ビジネスにかかわる具体的な問題
を分析し、解明していく実学的な学問である。本学部は、広くビジネスに関連する専門的
な知識・技能を教えるとともに、歴史や社会、自然、文化に対する大きな視点とヒューマ
ニティを涵養することによって、幅広い教養と的確な判断力、豊かな人間性をそなえた専
門的職業人の育成を目指している。真の実学教育は、広く深い教養に裏打ちされてこそ、
初めて可能になる。
また、本学部を構成する4つの学科、すなわち経営学科、会計学科、商業・貿易学科、
金融学科の教育目的・目標は、おのおの次のように述べられている(上掲資料参照)。
経営学科
「経営学は、人々に雇用の機会と所得を保障するという、人間の社会生活にもっとも関
係の深い経済活動の単位『企業とその活動(経営)』について研究する学問です。したがっ
て経営学科ではまず、企業の内部構成や運営・成長の仕組み、対外関係などについて学び
ます。また、企業の行動は経済活動だけにとどまらず、地球環境の保護や文化活動の支援
など社会貢献活動への参加が求められています。経営学科ではこうした側面も視野に入れ
て経営学を学習します。経営学科は、幅広い教養に裏づけられた思考力と判断力によって、
自主的に問題解決できる人材を養成します。」
会計学科
「会計は、『企業の言葉』であると言われるように、企業の経済活動を測定・分析し、
いわば『企業の成績表』を作成・報告するという情報処理システムです。会計なくして、
企業の合理的な運営はできません。会計学科では、会計学を中心に、経済学、流通論、商
法など幅広く学び、理論・技術の両面を身につけた優れた会計専門家を育てています。会
計の専門的な知識を備えた人間に対する社会のニーズは高まっており、特に資格をもった
プロフェッショナル・アカウンタント(職業会計人)の意義が高く評価されています。
」
商業・貿易学科
「流通、サービス、貿易など、第三次産業の重要性はますます拡大しています。技術革
115
新、情報化、国際化の流れが、さらに新しいビジネスチャンスを生み出しています。この
ような分野を研究する商業・貿易学科の学問領域は、流通、貿易、マーケティング、広告、
金融、証券、保険、交通など、多岐にわたります。商業・貿易学科では、グローバルなス
テージに通用する幅広い教養、専門分野の知識、外国語能力、情報処理能力を備えた人材
を育成します。最新の経済動向に積極的な興味・関心を持ち、国際的なビジネス社会で活
躍したいと考える人にふさわしい学科です。」
金融学科
「金融学科では、銀行、証券、保険などの金融経済に関する理論、歴史、制度を学習し
ます。世界の金融市場は、世界中の有力都市や企業、何十億という人々のグローバルなネ
ットワークで結ばれ、瞬時も休むことなく活動が行われています。そんな中で新しい金融
取引の形が次々と登場し、主流になっていくなど、世界経済における金融部門の重要性は、
近年ますます増大しているといってよいでしょう。金融学科では、このような経済的背景
を踏まえ、金融についての専門的かつ最新の理論と、実務の知識、そして実践的な応用能
力をあわせ持った人材を育てます。」
フレックス制
本学部は、2000 年度よりそれまでの一部・二部制を廃止してフレックス制(「昼夜開講
制」)に移行した。これは、久しく勤労者教育という理念から著しく乖離してきていた二部
(夜間部)教育を発展的に改組し、これをより広い生涯教育や社会人教育という理念に置
き換え、かつ専門的職業に結びついた実学教育を行うところの「専門職コース」の設置を
意図してのものであった。こうして既存の学科体制を維持したままで、新たに「フレック
ス・コース」(昼主コース)と「フレックス Plus1・コース」(夜主コース)が開設され、
特に後者のコースには、職業会計人やビジネス英語の資格に対応した2つの「プログラム
科目群」が開講された(なお、ビジネス革新に対応した3つ目の「プログラム科目群」の、
2002 年度の開講がすでに決定されている)。
また、前者のコースを含めた本学部全体で、学部を越えた他学部履修制度(上限 30 単
位)や学科を越えた科目自由選択枠(フレックス・コースは 34 単位、フレックス Plus1・
コースは 42 単位を上限とする)、さらには外国語科目への習熟度別・学習意欲別のコース
制の導入など、大幅なカリキュラム改定が実施された。これらの改革は、本学部の教育目
的・目標である実学教育の重視という面と同時に、学生の多様な関心に応え、
「幅広い教養
と的確な判断力、豊かな人間性をそなえた専門的職業人の育成」という面の追求をより一
層明確にすることを目指したものである(フレックス制そのものの説明、ならびにカリキ
ュラム改定の詳細については本報告書の当該頁を参照)。
【点検・評価】
本学部の教育目的・目標は、本大学全体の存立の理念を謳った「学則」におおむね適合
していると言えよう。また学科の教育目的・目標に関する説明も、総じて学部教育の特徴、
その目指すところを、各学科の特性を踏まえつつ的確に表現すべく工夫されている、と評
価してよいであろう。各学科に共通する学部教育全体のキー・ワードは、①実学教育、②
教養と人間性、③専門的職業人の育成、の三つに集約できる。
しかしながら、全体として見た場合、これらの説明はやや抽象的であるとの印象が否め
ない。例えば、上の三つのキー・ワード自体には異論はないものの、これらは「商学部」
116 第2章 学部
一般についての解釈であって、
「中央大学の商学部」ということになると他大学の「商学部」
との相対において、本学部がいかなる特質を持つのか、
「教育目的・目標」にそれがどのよ
うに反映されているか、が必ずしも判然としない。
また、「実学」とは何か、「専門的職業人」とはいかなる人間を指すのかなどについては
もう少し踏み込んだ説明があって然るべきであろう。
「教養と人間性」についても、これは
ひとり「商学部」のみの教育観というよりは、大学のすべての学部に共通する考え方であ
る。いろいろ工夫を凝らした説明がなされてはいるが、さらに改善の余地があるように思
われる。
【長所と問題点】
本学部が掲げる教育目的・目標をよりよく実現するために 2000 年度より実施されたフレ
ックス制への移行と、この問題を学部教授会で審議する過程でまとめ上げられてきた数多
くの報告(「中期総合計画検討委員会報告」、
「夜間部問題に関する作業委員会報告」、
「カリ
キュラム改定作業委員会報告」等)は、学部教育の理念や改革の基本的な方向性に関して
教授会メンバーの意識を喚起せしめ、学部教育のあり方をめぐる認識の共有化によって大
変大きな役割を果たすこととなった。これらの教授会報告は、本学部の共有財産として今
後長きにわたって受け継がれていくべきものである。
問題は、これらの教授会内文書に盛られている学部教育の目的・目標に関する検討の多
面的成果が、大学案内や学部ガイド、講義要項等の説明の中に必ずしも十分に反映されて
はいないことである。例えば、学部全体の教育目標である「幅広い教養に基礎づけられた
実学教育」と各学科別の教育目的との関連性が一義的には理解しにくいこと、また、学科
の教育内容の説明がやや専門性を強調し過ぎるきらいのある学科(金融学科)があること、
さらには、やや厳しい見方をすれば、学科の名称とその教育の「目指すもの」とが必ずし
も一致していない部分があるように感じられる学科(商業・貿易学科)があること、など
である。これらは、先の「報告」の中に盛られている検討の成果を生かすかたちで一層改
善されていく必要があるであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「教育目的」を厳密に規定することは難しい問題である。
「教育理念」と「教育目的」は
次元の異なる問題である。後者は前者を踏まえながらも、より明示的かつ実践的であるは
ずである。そして、それは社会あるいは時代の要請を踏まえたものである必要がある。つ
まり、それは環境の変化に連動し、それへの適合を継続的に図るという性格を持つ。実学
教育を旨とする「商学」はそれが最も顕著である分野の一つであろう。それゆえ、本学部
の「教育目的」を普遍的に規定することは難しいと言わねばならない。加えて、その「教
育目的」を一律的に規定することの是非さえ安易に決せられる問題ではない。
けれども、他面において「研究」の自由は保証されねばならないにしても、
「教育」の自
由は無制限ではないとする意見もある。この意見に従えば、
「教育目的」について、本学部
および学科の合意があることは必然となろう。それが本学部あるいは学科の教育に秩序と
統制を与えることになるからである。
自己点検・評価は、この「教育目的」の内容に深く関わっている。
「教育目的」は自己点
検・評価を遂行するうえでの基点でもある。その意味でも、この問題の検討を欠くことは
できないと考える。
「商学部」教育を視点とする慎重かつ有意義な検討が期待される(以上
117
『商学部自己点検・評価報告書』1996 年度版1∼2頁、1999 年度版2頁を参照)。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本学部に関連する教育研究上の組織は、商学部(経営学科、会計学科、商業・貿易学科、
金融学科の4学科から構成される「フレックス・コース」、ならびに金融学科以外の3学科
から構成される「フレックス Plus1・コース」の2つの「コース」よりなる)、大学院商
学研究科、経理研究所、企業研究所などである。このうち大学院商学研究科と経理研究所・
企業研究所は、本報告書の大学院研究科(商学研究科)ならびに経理研究所・企業研究所
の箇所で点検・評価がなされるので、ここでは、教育組織としての学部、および学部教育
に密接に関連している経理研究所の活動の若干の説明に限定して見ていくこととする。
まず、学部の役職として、商学部長、教務主任(学部長補佐を兼務)、教務副主任(2名、
学部長補佐を兼務)が置かれている。また、学部教授会の構成メンバーは6つの部会(経
営部会、会計部会、商業・貿易・金融部会、経済・一般教育・体育部会、英語部会、第二
外国語部会)に分属し、各部会には委員長・幹事(各1名)が置かれている。以上に教授
会幹事2名を加えた計 18 名によって、学部教育等にかかわる教授会議題を調整するための
機関である商学部学部委員会が構成されている。
本学部の専任教員数は以下のとおりである。
表1
中央大学商学部専任教員数(単位:人、2001 年4月1日現在)
教
授
助教授
専任講師
助
手
合
計
経
営
部
会
10
6
0
0
16
会
計
部
会
12
2
1
0
15
商業・貿易・金融部会
15
3
1
0
19
経済・一般教育・体育部会
20
3
2
0
25
会
6
2
4
0
12
第二外国語部会
10
4
1
0
15
73
20
9
0
102
英
語
合
部
計
本学商学部は、1909 年中央大学商業学科として創設された。現在本学部は、1994 年 4
月に開設された金融学科を加えて上記の4学科体制をとり、また 2000 年4月より、それま
での一部・二部制を廃止し、新たにフレックス制(昼夜開講制、
「フレックス・コース」=
昼主コースと「フレックス Plus1・コース」=夜主コース)に移行した。本学部の所在地
は、東京都八王子市東中野 742−1、で、学部のすべての授業は同地(多摩キャンパス)
において行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
学部等の教育研究組織としての適切性・妥当性の点検・評価について、詳細は本報告書
「5
教育研究のための人的体制」および「6
施設・設備等」を参照されたい。ここで
はこれらとの重複を避けて、経理研究所の活動および学部長補佐制度の2点についてのみ
点検・評価、ならびに長所と問題点を一括して言及しておくこととする。
118 第2章 学部
本学部は 90 余年にわたるその歴史の中で多くの有為の人材を社会に輩出してきた。なか
でも、職業会計人の育成については、法曹の育成と並ぶ本学の二枚看板として輝かしい伝
統と実績を誇っている(例えば、2000 年度公認会計士第二次試験合格者数は 60 名で全国
3位である)。この職業会計人の育成に向け、課外講座としてではあるが、学部講義と関連
した専門教育を行っている学内組織として経理研究所がある。研究所には「簿記会計講座」
「公認会計士講座」が開設されており、学内教員や本学出身の公認会計士が講師陣を努め
ている。研究所は本学部の伝統である実学教育の実績づくりに大きく貢献してきており、
本学部にとって補完的な専門教育組織であると評価できる。
ただ、フレックス制への移行にともない、研究所講座とプログラム科目(特に「アカウ
ンタント・プログラム」)との併習が時間割上非常に窮屈になっているなど、特に技術的な
側面(教員負担や教室問題を含む)を中心に、解決されるべき問題点もいくつか見受けら
れる。
次に学部長補佐制度についてである。本制度は、
「学部の教育理念・目的の明確化とその
追求に向けた、学部長のリーダーシップの一層の発揮を眼目として」(『商学部自己点検・
評価報告書』1999 年度版3頁
参照)1997 年度より導入された。本学部にとっては新しい
試みであったが、導入後の5年間における学部改革の著しい進展を見ると、基本的には本
制度導入のねらいはあたっていたと評価できよう。特に、本報告書の当該頁に詳述されて
いるように、この間カリキュラム改定、教員人事制度検討、入試制度改革など学部の教育
研究の根幹をなす諸課題の検討が集中的にすすめられてきたが、これらの作業委員会への
学部長補佐(3名)の分担的配置は、相対的に学部長の雑務負担を軽減化し、もって意思
決定次元における学部長の大局的なリーダーシップの発揮によって大変有効であった。
もっとも、こうしてなされた諸課題の検討やそれらを踏まえて実施された諸改革の成果
如何については、時間的経過の中でさらなる検証が行われていくべき問題であることは、
言を待たない。
現在社会の環境変化は大学に大きな自己変革を迫ってきている。これにともない、本学
部でもここ数年来会議の増加など教職員の雑務負担が著しく拡大している。これは学部の
教育研究のあり方にも大きな影響を与えるものである。教育研究水準を維持・向上させつ
つ、こうした雑務負担にも対応していくためには、学部長補佐制度の導入に続く学部組織
運営の抜本的な見直し(例えば、部会・学部委員会・教授会間での意思決定のあり方の調
整・見直しなど)が喫緊の課題であるように感じられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部は、学部設置の趣旨、その教育目的・目標の実現に向けて、教員組織、施設・設
備、その他の諸条件の整備に不断の努力を重ねている。これらの現状での整備状況はおお
むね及第の水準にあると言ってよいが、環境の変化が大きくかつ速くなっているため、絶
えざる改善、改革の必要性があることも事実である。教育研究上の組織に関する、将来へ
の改善・改革については「5
教育研究のための人的体制」と「6
施設・設備等」の中
で述べられているが、そのうち主要な課題のみを列挙すれば以下のようである。
①
本学部で開講している科目の半数以上が兼任講師に依存している。科目の整理・統合
とともに、専任比率の改善に向けて引き続き努力が期待される。
②
助手の新規採用は 1994 年度以降行われていない。後継者養成のために助手の積極的採
119
用が待たれる。
③
女性教員の比率が低く、改善が必要である。
④
時代の変化に対応した教育課程の改革と教育科目・教育組織の再設計、およびその理
念に基づいた人事計画の策定(カリキュラム委員会と人事委員会との連携の強化が前提
となる)。
⑤
教育ニーズに対応したTAの積極的登用。専任・パートタイム職員の員数の拡充によ
る教員の教育研究活動の総合的補佐。
⑥
100∼300 名規模の中教室の不足。また、ゼミが特定の曜日に集中することから、特に
サブゼミにて使用の教室に不足が生じており、早急な対策が必要。
⑦
現状は学生の、特にパソコンを中心とした情報機器需要(正規授業内、授業外とも)
に十全には応えきれていない(ただし、現在 2003 年度を目途とした学部情報インフラ
整備計画が進行中である)。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
【現状の説明】
本学部に設置されている授業科目は、大きく9つの科目群に分けられる。すなわち、基
礎科目、基本科目、プログラム科目、経済・法律科目、関連科目、総合人間科目、演習科
目、外国語科目および健康・スポーツ科目である。
基礎科目は専門分野の習得のために不可欠な基礎的知識・能力を養う科目群で、学部共
通の横断的な性格を持つ。これには、どの学科の基本科目を学ぶうえでも履修することが
望ましい科目(経済原論、数学、情報処理概論など)と他学科の基本科目の中で当該学科の
基本科目を理解するうえで基礎的な内容を持つ科目(経営学、簿記論、流通総論、金融論)
とが含まれる。
基本科目は専門分野に関する幅広い知識と実際的な技能を身につけるための科目群で、
経営学科、会計学科、商業・貿易学科および金融学科の学科ごとに固有の科目が配置され
ている。基本科目は、さらに各学科の中で体系的に分けられる。
経営学科では共通基本科目、管理論系科目および情報論系科目に区分される。共通基本
科目には、経営学を学習するうえで最も基礎的な科目、つまり企業経営入門、経営学、経
営管理論という3つの科目と、企業経営を異なる視点から分析する経営史、経営科学、多
国籍企業論などの科目が配列される。管理論系科目は、財務・生産・労務・マーケティン
グといった現代企業の主要な管理職能の課題や内容を学習するための科目からなる。情報
論系科目は、経営情報システム論、情報資源管理論、情報セキュリティ論などにより構成
される。
会計学科では共通基本科目、財務会計系科目および管理会計系科目に区分される。共通
基本科目は、会計学の専門的学習のための基礎的な科目、つまり簿記論、会計学総論、高
等簿記論などからなる。財務会計系科目は、主として企業外部の利害関係者に対する報告
に関する問題を取り扱う科目で、財務会計論、監査論、税務会計論などからなる。管理会
計系科目は、主として経営者や管理者の意思決定や業務管理に必要な情報提供の問題を取
120 第2章 学部
り扱う科目で、原価会計論、経営管理会計論、経営分析論などからなる。
商業・貿易学科では、学科全体に共通する基本科目として流通総論、マーケティング論
および貿易論を配列したうえで、流通・マーケティング科目と国際貿易科目とに区分され
る。流通・マーケティング科目には、流通・マーケティングの体系的かつ多面的な学習が
可能なように、商業史、商業経営論、広告論などの科目が設置されている。国際貿易科目
には、国際貿易に精通し、また世界的に通用する実践的なビジネス英語を習得するために、
貿易システム論、国際マーケティング論、アメリカ経済論、ビジネス英語Ⅰなどの科目が
設置されている。
そして金融学科では「金融の理論」に関する科目、
「金融制度と金融機関」に関する科目、
「市場と企業金融」に関する科目に区分される。
「金融の理論」に関する科目は、現代の金
融現象を解明するうえでの基礎となる金融経済の理論と歴史を対象とする科目で、金融論、
保険論、財政学などの科目がある。
「金融制度と金融機関」に関する科目は、国内外の金融
制度と各種の金融機関の経営に関する科目で、銀行論、日本金融論、損害保険論などの科
目が設置されている。
「証券市場と企業金融」に関する科目は、証券市場の制度や業務と企
業の資金調達や運用とを対象にする科目で、証券論、証券市場論、企業金融論などの科目
が置かれている。
プログラム科目は、資格取得や技能形成に関心を持つ学生のために、特に実践的学習に
力点を置いた科目で、職業会計人(公認会計士、税理士など)の資格に対応したアカウンタ
ント・プログラムと、ビジネス英語の資格に対応したビジネス・コミュニケーション・プ
ログラムの2つに区分される。少人数のクラス編成で授業を行うとともに、講義と演習の
セット履修などの工夫がこらされている。もともとフレックス Plus1・コースのプログラ
ム履修者を対象に設置された。プログラム履修者は、希望するプログラムの履修登録をし、
2年次からそのプログラムの講義や演習を受講する。ここで修得した単位は所属学科の基
本科目として認定される。しかも 16 単位以上修得して修了した場合には、プログラム修了
証が授与される。科目によってはフレックス・コースの学生も履修できる。
経済・法律科目には、ビジネスの分野と特に密接な関係にある経済と法律の科目が配置さ
れている。経済社会の歴史・実態・理論・政策にかかわる経済科目と企業経営上の意思決
定を規制するさまざまな法令にかかわる法律科目とからなる。
関連科目には、所属する学科以外の3学科の基本科目が配置されている。例えば経営学
科には会計、商業・貿易、金融の主要な科目が置かれ、学生はこうした分野の学問的な素
養を持つことによって、広い視野から経営学を学ぶことができる。
総合人間科目は、人間・社会を総合的に理解するための科目である。専門的な知識・技
能を実際に社会の中で活用していくためには、幅広い教養と的確な判断力、豊かな人間性
が必要であり、そのための多彩な科目が設置されている。
演習科目は、3つのタイプの科目からなる。第1に、人文・自然・社会科学の幅広い分
野にわたって設定された特定のテーマについて発表・討論を行い、大学教育での新しい学
習の仕方を学ぶ「1年次演習」。第2に、実際的な技能や考え方を少人数でトレーニングす
る情報処理や数学、経済学の演習。そして第3に、特定の専門的なテーマについて発表・
討論を行い、文献調査やプレゼンテーション、論文作成などの能力の育成を目指す「演習
Ⅰ」「演習Ⅱ」。
121
外国語科目は、能力と意欲に応じたグレード別に設置されている。第1外国語の英語は
基礎コース、レギュラー・コースおよびアドヴァンスト・コースに分けられ、学生は英語
力と学習意欲によってこのうちの1つを選択する。第2外国語は、6つの言語(ドイツ語、
フランス語、中国語、スペイン語、ロシア語、朝鮮語)からの選択となる。学習意欲によ
って、週2時限のレギュラー・コースか週3時限のインテンシブ・コースを選択する。た
だしフレックス Plus1・コースは、プログラム科目に専念できるように、必修外国語は1
カ国語に抑えられている。このほか選択外国語として、英語、ドイツ語、フランス語、中
国語およびスペイン語の会話(初級と中級)と、各言語のより深い理解を目指して特定の
テーマについて学ぶ「上級外国語演習」がある。
健康・スポーツ科目には、一般的なスポーツ種目、ニュースポーツ系の種目および健康
づくりに関する種目の中から全体的なバランスを考慮して選ばれた 20 の実技種目が配置
されている。学生は、その中から技術・体力水準あるいは運動の好みに応じて希望する種
目を選択できる。
なお外国人留学生に対しては、特別科目として日本語や日本事情についての科目が設置
されている。
以上の科目群に区分される授業科目の中から、卒業の要件として全体で 124 単位の修得
が必要である。このうち必修単位は、フレックス・コースで 90 単位、フレックス Plus1・
コースで 82 単位である。その内訳は、次のとおり。基礎科目から 16 単位、基本科目から
32 単位、経済・法律科目から 12 単位、総合人間科目から 12 単位、健康・スポーツ科目か
ら2単位、そして外国語科目についてはフレックス・コースは 16 単位、フレックス Plus
1・コースは8単位である。卒業に必要な最低修得単位 124 単位と必修単位との差、34 単
位(フレックス Plus1・コースは 42 単位)は、自由選択枠となる。学生は各人の興味・
関心・進路に応じてどの区分から修得してもよい。さらに他学部履修制度により法学部、
文学部などの開講科目から 30 単位履修可能であり、修得単位は卒業単位として認定される。
また国外留学で学んだ成果も 30 単位まで卒業単位として認定される。
【点検・評価】
上で説明された本学部の教育課程は、実学重視の教育プログラムで専門的な職業人の養
成を目指すという本学部の理念・目的およびそれを経営、会計、商業・貿易および金融の
分野で具体化した各学科の理念・目的を実現するために十分な内容と体系性を備えている
と評価できる。また学校教育法第 52 条の大学の目的および大学設置基準第 19 条の教育課
程の編成方針にそった内容と体系からなると評価できる。もちろん個別的には不十分な点
もあるので、教育課程の改善の努力は今後も継続されなければならない。
まず専門教育的授業科目については、各学科の専門的な科目を配置した基本科目と実践
的学習に特化したプログラム科目とが中核をなす。その周辺に、専門分野を学ぶための土
台となる基礎科目、ビジネスに関係の深い経済・法律科目、他学科の主な基本科目からな
る関連科目および演習科目が位置する。こうした体系において各学科の教育目的を十分に
果たすとともに、深く専門の学問を教授し、知的、応用的能力を展開させることが可能と
なる。
一般教養的授業科目については、総合人間科目、スポーツ・健康科目および 1 年次演習
によって、幅広い教養と総合的な判断力、豊かな人間性の涵養が目指される。特に総合人
122 第2章 学部
間科目には多彩な科目が設置されるとともに、ユニークな科目として総合講座が設置され
ている。これは1つの講義を数人の講師が分担し、現代的なテーマについてそれぞれの専
門分野から総合的にアプローチするものであり、総合的な判断力の涵養に貢献している。
外国語科目については、単に知識や教養を身につけるための科目としてではなく、日常
で使用されている言葉として学び、運用能力を高めていくことを目標としている。しかも
こうした目標を学生の興味・意欲・能力に応じて実現できるよう、英語が3コースに、第
2外国語が2コースに区分される。さらに「会話」、「上級外国語演習」はもとより、専門
教育的科目の中に商学関係の海外のさまざまな文献を読んでいく「外国書講読」
「会計学英
語文献講読」やビジネス英語を習得してキャリア・アップを目指すビジネス・コミュニケ
ーション・プログラムが設置されており、国際化の進展に対応した外国語能力の育成のた
めの態勢が整えられている。
開設授業科目全体の構成については、9つの科目群に区分され、卒業所要単位 124 単位
のうち必修単位 90 単位(フレックス Plus1・コースは 82 単位)がバランスよく各科目群
に配分されている。したがって各科目群への量的配分は適切で妥当なものと評価できる。
以上の各項目と比較して不十分とみなされるのは、基礎教育、倫理性を培う教育の位置
づけと基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制の確立とである。倫理性を培う
基礎教育については、これまで本学部全体として意識的な対応はなされておらず、その教
育は特に総合人間科目を中心とした科目の教育において各教員に任されていた。基礎教
育・教養教育の実施・運営体制についても、総合講座の企画・実施・運営のための商学部
カリキュラム委員会総合講座検討部会を除くと、基礎教育・教養教育全般に対する責任体
制はまだ整備されていない。
【長所と問題点】
フレックス制移行を契機に 2000 年度から実施されている現行のカリキュラムでは、授業
科目の9つの科目群への再編成、プログラム科目の新設、外国語科目でのコース制の導入
などを行った。これによって 90 年にわたる商学教育の伝統と実績を踏まえつつ、ビジネス
のグローバル化と情報化に対応した実学教育の態勢が整備されたと言える。
しかし一方では次のような問題点も指摘しなければならない。第一に、プログラム科目
の新設などにより全体の設置科目数が過大になってきた。第二に、基礎科目、経済・法律
科目、総合人間科目などの科目群について、学問の発展やビジネス環境の変化に対応して
どんな科目を設置するのが適切かについての検討がなされなかった。第三に、基礎教育と
教養教育の実施・運営体制が未整備であった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部ではカリキュラム委員会を設置してカリキュラムの点検と改善に努めてきた。長
所をさらに伸ばし、問題点を克服するための検討がすでに開始されている。長所をさらに
伸ばすための方策としては、アカウンタント・プログラム、ビジネス・コミュニケーショ
ン・プログラムに続く第三のプログラム科目としてビジネス・イノベーション・プログラ
ムの設置が決定された。これはITを駆使して経営革新をリードしたい学生のためのコー
スで、問題発見・解決能力の向上とコンピュータ利用のスキルアップを目指す。問題点の克
服に向けた努力として、法学部との連携を含めた法律科目群の再吟味のための委員会をも
うけ、すでに検討に入っている。その他の問題点についてはカリキュラム委員会で今後検
123
討されることになる。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
本学部では 1999 年 12 月に全国の大学に先がけて「プレ・スチューデント・プログラム」
(略称「PSプログラム」)を導入した。これは学校推薦入試、自己推薦入試、海外帰国生
等特別入試などの特別入試によって入学が認められた高校生を対象に、3回にわたりテレ
ビのニュース解説番組や新聞記事などの論点を要約し、自分の意見をまとめるレポート、
英文の要約説明や英作文のレポートを無料で添削指導するものである。
また 2000 年 4 月からは新入学生の大学生活へのスムーズな適応をバックアップするため
のアドバイザー・クラス制を導入した。これは専任教員がアドバイザーとなり、年3回程
度のグループ・ミーティングやオフィスアワーの設定によって学生の個別相談に応じるも
のである。さらに「1年次演習」では、高校までとは違う大学での新しい学習の仕方を指
導している。
【点検・評価】
PSプログラムは、自分で書物を調べたり他人の意見を聞いて自分の意見をまとめてい
くという大学での学習方法に慣れることや大学で学ぶ学問が身近な問題と深くかかわって
いることなどを入学前に体験することによって、大学教育への円滑な移行を可能にしてい
る。このプログラムは、受講者からも好評を博している。
アドバイザー・クラス制は、クラス編成をどのようにするかについて試行錯誤が続いて
おり、その意図が教員の意識に十分浸透していないこともあって、十分機能しているとは
言えない。
「1年次演習」は大学における学習方法の教授などの点で一定の役割を果たして
いる。
【長所と問題点】
PSプログラムは、大学の中で先頭にたつ優れた制度である。アドバイザー・クラス制
については、せっかくオフィスアワーを設定しても学生があまり相談にこない、授業クラ
スとアドバイザー・クラスが異なるため毎週授業で学生に接する機会のないアドバイザー
がいるといった問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
アドバイザー・クラス制については、担当者会議などを開いて、問題点の検討をすでに
行った。今後はカリキュラム委員会で改善の方策が検討されることになる。また高・大連
携の新たな試みとして、本学部と都立高校との間の高・大接続教育プログラムの 2002 年度
からの実施に向けて、現在作業が進行している。
3−(1)− ③
履修科目の区分
【現状の説明】
卒業必要単位 124 単位のうち、必修・選択必修単位は 90 単位(フレックス Plus1・コー
スは 82 単位)である。その内訳は、基礎科目が 16 単位、基本科目が 32 単位、経済・法律
科目が 12 単位、総合人間科目が 12 単位、外国語科目が 16 単位(フレックス Plus1・コー
スは8単位)、健康・スポーツ科目は2単位である。残りの 34 単位(フレックス Plus1・
124 第2章 学部
コースは 42 単位)は、学生一人ひとりの興味・関心・進路に応じて選択できる自由選択枠
となる。
【点検・評価】
ビジネスの専門分野に関する幅広い知識と実際的な技能を身につけさせ、幅広い教養と
的確な判断力を養い、かつ国際化に対応した外国語教育を行うためには、124 単位中 90 単
位を必修にすることは必要であり、妥当なものと判断される。また自由選択枠 34 単位(な
いし 42 単位)によって、学生の科目選択の主体性は十分尊重されている。フレックス Plus
1・コースは、プログラム科目の学修に専念できるように、外国語の必修単位は 1 カ国語
8単位に抑えられているが、このコースの特徴をいかすという点から判断すれば、納得い
くものと思われる。
【長所と問題点】
必修科目と選択科目の量的配分はバランスよく行われており、特に問題点はない。ただ
フレックス Plus1・コースの外国語の必修単位を8単位に抑えている点については少な過
ぎるという意見もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
フレックス Plus1・コースの外国語の必修単位を増やすかどうかについては、このコー
スの特徴を踏まえて、カリキュラム委員会で慎重に検討する必要がある。フレックス Plus
1・コースの特徴を活かし、プログラム科目に専念できるようにするためには現行どおり
必修外国語は1カ国語に抑えるべきであるとの考えは、それ相応の根拠があるとみなしう
るであろう。しかし、大学生として2カ国語の学習は必要であり、それは幅広い教養につ
ながると考えれば、フレックス・コースと同じように2カ国語を必修にすべきであろう。い
ずれにせよ、学部全体としての方針を確定する必要がある。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
【現状の説明】
ここでは、2000 年4月に導入された「フレックス・コース」と「フレックス Plus1・
コース」の新体制のもとでの授業科目について述べる。本学部に設置されている授業科目
は、基礎科目、基本科目、プログラム科目、経済・法律科目、関連科目、総合人間科目、
演習科目、外国語科目、健康・スポーツ科目の9つの科目群から構成されている。特徴的
な科目群について述べると、基礎科目は、専門分野の修得のための前提となる基礎的知識・
能力を要請する学部横断的な性格の科目であり、基本科目は、各学科の専門分野に関する
幅広い知識と実際的な技能を身につける科目群であり、各学科のカリキュラムのコアとな
るものである。プログラム科目は、「フレックス Plus1・コース」の履修者を対象とした
科目であり、資格取得や技能修得に関心を持つ人のための少人数教育による実践的学習を
目的としている。また、経済・法律科目、関連科目は、基礎科目、基本科目に密接に関連
する科目で学生の関心を多面的に発展させることを目的とした科目群であり、総合人間科
目は、幅広い教養と的確な判断力、豊かな人間性を醸成するための科目群として、哲学、
歴史学等の多彩な科目が含まれている。
卒業に必要な単位は 124 単位とし、必修単位は、「フレックス・コース」では、基礎科
目 16 単位、基本科目 32 単位、経済・法律科目 12 単位、総合人間科目 12 単位、外国語科
125
目 16 単位、健康・スポーツ科目2単位の合計 90 単位となっている。
授業科目の単位は、学則第 33 条に基づき、次の計算に拠って、通年講義科目は4単位、
半期(前期又は後期)講義科目は2単位、外国語科目および健康・スポーツ科目は2単位
としている。
<講義科目>
*毎週1時限の授業が、通年 30 週行われるもの
(2時間の授業+4時間の自習)×30 週=180 時間:4単位
*毎週1時限の授業が、前期か後期の 15 週で完結するもの
(2時間の授業+4時間の自習)×15 週=90 時間:2単位
<外国語科目>
*毎週1時限の授業が、通年 30 週行われるもの
(2時間の授業+1時間の自習)×30 週=90 時間:2単位
<健康・スポーツ科目(体育実技)>
(2時間の授業)×30 週=60 時間:2単位
【点検・評価
長所と問題点】
本学部では、豊かな教養と人間性を備えた専門的な職業人を養成するという見地から、
9つの科目群の 210 科目という幅広い科目を用意している。2000 年度カリキュラムからは、
その科目の履修にあたっては、余裕のある学生生活の実現という視点から、必修科目数お
よび卒業必要単位を減らす等の改善が図られた。また、学生の多様な学習ニーズに応えて、
卒業必要単位数 124 単位のうち、各科目群で指定された必修・選択必修単位 90 単位以外の
34 単位は、どの科目群からでも自由に選択ができる「自由選択枠」とした。4年間で履修
できる最高単位は 156 単位であるが、その結果、学科を超えて横断的に学べることで、学
生が興味、進路等に応じて個性的なカリキュラムを設計することが可能となった。さらに、
演習(ゼミナール)も学科に関わりなく選択できることとされており、入学当時の学科選
択からの変更に対処できる体制を整えている。
2000 年4月から「フレックス・コース」と「フレックス Plus1・コース」が導入された
が、後者のコースでは、アカウンタント、ビジネス・コミュニケーション、ビジネス・イ
ノベーション(2002 年度導入予定)の各プログラムが設定されており、少人数教育による
教育体制が採用された。このプログラム科目については1年目でもあり、その評価をする
には時期尚早ではあるが、少人数教育による行き届いた指導等のメリットがある一方で、
履修者のレベル格差等に対する指導上の障害等に関して問題点の指摘もある。
本学部では、経済社会の構造変化に伴う学問領域の拡大と学生のニーズに応じたカリキ
ュラム編成について、カリキュラム委員会が、常時、継続的検討を行うことにより、学生
の視点からの改革が実行されて成果をあげている。
しかしながら、(1)ゼミの時間数の是非、特に、2年次生からの専門ゼミの開講の是非、
(2)教育効果という点からのセメスター制の採用の是非、(3)他学部履修の拡充の是非、等
について、検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の問題点を含めて、経済社会のグローバル化等、経営や会計等を取り巻く環境変化
に対応して、カリキュラムの早期かつ継続的な点検・評価により、常に見直しを図り学問
126 第2章 学部
的ニーズと学生のニーズに即したカリキュラム編成を図る必要がある。殊に「フレックス
Plus1・コース」のプログラム科目の履修については、その履修者の趨勢を見て、科目の
充実と「フレックス・コース」からの履修者の拡大等について、積極的に検討する必要が
ある。
3−(1)− ⑤
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
本学部は、国内の大学、学部間での単位互換制度を採用していない。大学として国際交
流協定を締結した外国の大学に派遣する交換留学制度および学生自身が留学したい大学を
選択して本学の許可を得て留学する認定留学制度(期間はいずれも1年間)があり、留学
により取得した単位について、本学部での単位が認定される。交換留学は、現在、41 校あ
る協定校のうち、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス等の 23 校と学生交換を実施して
いる。
また、協定を結んだ外国の大学で、夏の1カ月間、外国語を中心に歴史や文化を学ぶ制
度としての短期留学制度があり、その中で、本学部が実施するカールトン大学の留学では、
予備研修を受けて留学し、学習の成果をあげた者には4単位が与えられる。
大学以外の教育施設等における学修に対する単位認定は、本学部では制度として採用さ
れていない。入学前の既修得単位の単位認定については、編入生の単位認定がある。
2001 年度入学の編入生 35 名の認定単位は、総数で 2,179 単位、一人あたりの平均で、
62.3 単位となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度における交換留学は、本学部より派遣した留学生が4名、受け入れた留学生は
9名であり、認定留学では2名の学生が留学している。ここ数年、ほぼ同様の人数であり、
比較的、積極的に参加しているということが言えよう。この場合の単位認定は、国際交流
委員会で慎重に検討したうえで、教授会で審議されて決定するという厳正な手続で行われ
ており問題は生じていない。
また、カールトン大学への短期留学は、毎年 30 人程度の学生が参加しているが、この留
学では、
「アメリカの言語と文化」という本学部の正規の授業科目として、4月から7月ま
で集中的な予備研修を受けて留学するもので、大学が責任を持って計画・実施している制
度である。引率等、教員の過重な負担という問題点もあるが、各教員の協力により、これ
まで円滑に実行されて成果をあげている。
編入生の単位認定に際しては、当該認定科目の授業科目名、使用教科書、成績等を用い
て厳正な審査を行っている。その認定は、
「商学部編入学委員会」において審議され、最終
的に、教授会で決定される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他大学との単位互換制度の実現に向けて検討を行うべきであろう。また、交換留学制度
の積極的活用に向けて、対象年次の引き下げ、留学前におけるガイダンスの充実等、制度
の活用を充実するための直接的な方策のほかに、交換留学制度を志望する学生の底辺を広
げるためにも、1、2年次のさらなる語学力の向上に向けてカリキュラム等の教育体制の
改善についての不断の検討が必要であると考える。
127
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
1996 年度の『商学部自己点検・評価報告書』では、本学部全体(一部)での全教員に占
める専任教員の割合、つまり専任比率は 47%、1999 年度の同報告書での専任比率は 43%
と低下しており、2001 年5月1日現在の専任比率は 49%となっている。
科目群として見ると、演習の専任比率が高いことは当然として、基礎科目・基本科目・
経済・法律科目、関連科目では、1999 年度で 56.1%、2001 年5月1日現在では 60%とな
っており、4%増加している。語学では、英語が 35%(1999 年度は 29.1%)をはじめ、他
の語学でも専任比率は低い。これは体育講義、体育実技系科目でも同様の傾向を示してい
る。
兼任教員等が「演習Ⅰ」を担当しているのは、2001 年5月1日現在で全講座数 71 講座
(1999 年度は 63 講座)のうち、9講座(1999 年度は8講座)となっており、
「演習Ⅱ」も
同様の状況にある。
【点検・評価
長所と問題点】
教員配置の現状は、本学部の教育に当たる教員全体に占める専任教員の割合は 50%未満
の状況にあり、講座の半数以上が外部の兼任教員に依存しているということである。その
兼任教員の依存割合は、1996 年度の 53%に比べて 1999 年度では 57%と増加したが、2001
年では 51%とかなり減少した。
この専・兼比率の問題は、大学の財政問題にかかわる事項でもあるから、一義的にはそ
の議論をしにくい面もあるが、教育面では、専任比率の低い科目群については検討すべき
課題であると言えよう。しかし、語学の専任比率が低いのは、少人数教育を目的としてい
ることから、多数の教員を要するという問題がある。このような履修者と教育体制のあり
方等に深く関わるこの問題は、語学の履修者との関係等に配慮して改善策を検討する必要
がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育面で見れば、兼任教員の比率が高まっている状況について、改善に向けた検討が必
要である。ただ、この場合には、履修人員の数、授業体制との兼ね合いもあり、比率その
ものを取り上げて議論してもあまり意味はない。しかし、本学部における教育責任という
観点から、カリキュラム上における当該科目の位置づけを含め、改善に向けた中長期的な
方針の確定が必要であると言える。
3−(1)− ⑦
生涯学習への対応
【現状の説明】
本学部における生涯学習の対応として、社会人学生、編入学生および科目等履修生の受
け入れを実施している。編入学の場合および本学の科目等履修生制度により単位を修得し
た場合については、入学前の既修得単位の認定を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部では、2000 年4月から、二部学生の募集を停止し、新たにフレックス制(昼夜開
講制)に移行した。そして、金融学科を除く3学科に「フレックス・コース」
(昼間主)と
「フレックス Plus1・コース」(夜間主)を設置した。また、本年度より、科目等履修生
128 第2章 学部
制度をスタートさせた。これにより生涯学習を希望する者への対応を行っている。
問題点として、生涯学習への対応に対する明確な方針と組織体制を整備するということ
が、必ずしも、十分に検討されていない点であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
生涯学習機関としての本学部の基本的なスタンスを確立して、それに必要な組織体制お
よび人材の確保に向けた方策を検討すべきである。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
教育効果を測定する方法として最も基本となるのは、各授業科目の担当教員によって行
われる成績評価である。このことの暗黙の前提となっているのは、教員による成績評価が
相対評価ではなく絶対評価により下されているという点であろう。成績評価は、具体的に
は定期試験や小テスト、レポートや課題、出席、その他の平常点の採点によって、A、B、
Cの合格、Dの不合格、Eの無評価に判定される。学生の単位取得率(A、B、Cの合格評
価の割合)は、ほぼ8割近い水準になっている。
卒業率(在学生に対する卒業合格者の割合:卒業延期者を除く)は、ここ数年、平均して
約8割ほどで推移している。卒業生の進路は、9割以上の学生が民間企業に就職している。
業種は様々であるが、銀行や保険、証券などの「金融・保険業」、コンピュータ関連の「情
報・サービス」、商社や百貨店などの「流通業」、これら3つの業種でおよそ3分の2を占
める。公務員や非営利団体に就職する学生は、割合としては小さいものの、近年、増加傾
向にあり、国税庁、国税専門官などの国家公務員や、都・県庁や市役所など地方公務員に
採用されている。また、本学や他大学の大学院、さらには海外の大学院を含めて、大学院
への進学を希望する学生が増える傾向が見られる。
本学部では、1996 年、1999 年の2度にわたり『商学部自己点検・評価報告書』を作成し、
教員に配布してきた。報告書に収められたさまざまな情報や分析データは、教員が教育効
果を客観的に把握し、かつそれを多面的に再検討するうえで有効に活用されている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業科目の成績評価とそれに基づく教育効果の測定は適正に行われており、授業科目ご
との成績評価、その結果としての単位取得率と卒業率、さらには卒業生の就職・進学状況
など一連の評価指標から見て、4年間の学部教育が一定の成果をあげていると判断できる。
もっとも、教員が担当する個々の授業科目がそれぞれ固有の目的と内容を持つことから、
その成績評価とそれに基づく教育効果の具体的な測定方法について、教員間で共通の認識
があるということでは必ずしもなく、教授会においても教育効果の測定方法を絶対評価か
ら相対評価に見直すべきであるとの意見もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果の測定について早急に見直すべき点があるということではないが、社会や学生
のニーズが多様化する社会経済環境下では、今後、益々、より多面的で客観的な教育効果
の測定基準と方法が要請されてくるであろう。当面、商学部における教育の理念・目的・
目標に照らし合わせて有効な教育効果の測定方法とはどのようなものかについて継続的な
129
検討を進め、教員相互の情報共有と合意形成を図っていくことが必要である。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
【現状の説明】
本学部では成績評価の基準を次のように定めている。評価点 100∼90 点をS評価、89∼
80 点をA評価、70∼79 点をB評価、60∼69 点をC評価とし、これらについて合格として
単位を認定し、59 点以下をD評価の不合格、未受験についてはEの無評価としている。な
お、S評価は 2001 年度に従来のA評価をS評価とA評価に分けて設けた新たな評価区分で
あるが、現在のところ、成績原簿に記載されるのみで成績証明書ではA評価として表示さ
れる。
各授業科目の担当教員が成績評価にあたって絶対評価と相対評価のいずれを適用する
のかについて規定はないが、教育効果を測定するという観点からは、おおむね絶対評価に
よっていると考えられる。学生に対するアンケート結果(『商学部自己点検・評価報告書
1999 年』)から見ても、相対評価であるべきとの回答率が 12.7%にとどまるのに対し、絶
対評価であるべきとする回答は 43.8%と高い割合を占める。
成績評価の方法については、通常、前期・中間試験および後期・学年末試験を実施する
ことが多く、その他に、小テストの実施やレポートや課題の提出、あるいは授業への参加
状況、その他の平常点に基づいて採点が行われる。これら複数の方法を組み合わせて総合
的評価を行うことも多く、評価方法別の点数配分を明示している科目も広く見受けられる。
現在、すべての科目の成績評価方法について『講義要項』に記載することで学生に対し
事前に公表している。同時に、教員に対しては、従来からの成績評価分布の公開に加えて、
2000 年前期・中間試験からは試験問題(レポート課題を含む)をあわせて教授会での回覧、
および日常的な閲覧ができるようにしている。
通常の授業科目とは性格の異なる卒業論文は、履修する学生は定められた日時までに卒
業論文を学部事務室に提出し、演習指導教員によって最終的に取りまとめた論文の到達度
が評価される。
また、1年次では 36 単位、2、3、4年次ではそれぞれ 40 単位と各年次における履修
登録可能な単位の上限が定められている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業科目の成績評価は担当教員によって厳格かつ適切に行われており、特に大きな問題
があるとの意見はない。また、各年次における履修可能な単位数の上限を設定することに
より、学生が過剰な履修登録をして、安易に単位修得をすることの抑制にもなっている。
こうした成績評価の総体の結果として卒業認定がなされることで、社会に送り出す卒業生
の質を一定の水準以上に維持することが可能となっている。
しかし一方で、学生の声としては、
『商学部自己点検・評価報告書
1999 年』によると、
「成績評価は公平に行われていると思いますか?」との問いに対し、
「概して公平に行われ
ている」との回答が 24.0%であったものの、
「評価基準が不明瞭であるので判断できない」
が 38.6%、「科目あるいは教師によっては不公平さが目立つ」が 20.2%を占めた。成績評
価に対する学生の不満が少なくない事実は、真摯に受け止めなければならない。
とはいえ、成績評価が本来的に当該授業科目を担当する教員の判断に依存するものであ
130 第2章 学部
る限り、その基準や方法を標準化することは容易ではないし、また何よりも科目ごとの目
的や内容の多様性からは、そのことが必ずしも適切とは言えない。例えば、受講者が少人
数である科目や実技的な要素の強い科目などにおいては、定期試験によるよりも、むしろ
日常的に実施される小テストやレポートの提出、あるいは授業への参加状況など平常点の
採点によって行われることが適切な場合もある。評価における公平性の問題は安易に即断
すべき類の事柄ではない。
学生に対する成績評価方法の事前開示や教員間での評価結果や試験問題についての情
報の共有を図る取り組みは、「評価基準が不明瞭」という学生の不満に応えるものであり、
成績評価の透明性を高めるという点で高く評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
通常の授業科目では、教員間で成績評価にかかわる情報の共有を図るとともに、厳格か
つ公平な評価のあり方について十分な議論をしていくことが必要である。
ただし、卒業論文については、当然のことではあるが、修士論文や博士論文などと比較
すると、客観的かつ明確な成績評価方法なり制度が確立されているという状況には程遠い。
もっとも、この点は、卒業論文が必修単位化されていないことからすると、卒業論文の評
価方法を議論する以前に、まず学部教育における卒業論文の位置づけそのものから検討し
なければならない課題である。
また、卒業時の学生の質を保証・確保するための方途はおおむね適切であると評価でき
る一方で、学年次毎の学生の質を確保する仕組みは現在のところ制度としては存在しない。
仮に1年次から3年次に至る学年修了時における学生の質の平準化を図ろうとする場合に
は、最低履修単位数といった新たな制度の導入が必要になろう。もっとも、この点は、単
位互換制度を利用したり、海外留学をしたりする学生が増え、そもそも入学する学生が社
会人や編入生を含め多様化する中では、あまりに画一的な枠の設定は自由で創造的な学修
を阻害する面もあるだろう。この点を考慮に入れ、ゆるやかな仕組みが望ましいように思
われる。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
本学部に設置されている授業科目は 2001 年度で 210 科目を数える。卒業最低履修単位
数は 124 単位であり、このうち必修・選択必修単位数が 90 単位と約4分の3を占め、残り
34 単位が自由選択単位数となっている。また、他学部履修で 30 単位まで、短期留学で4
単位、交換留学と認定留学で 30 単位までを卒業単位として認定している。
授業科目は、1年次から4年次への進級にともなって、基礎的な科目から学科別の基本
科目、そして分野別により深く学ぶ発展・応用科目へと体系的に学修できるよう、年次配
当を行っている。また、4年間を通してバランスよく、意欲的に学修し、十分な教育効果
が得られるように、各年次に履修できる単位数の上限を設定している。
このように授業科目選択の自由度を保証しながら、体系的、効果的に学修できるよう科
目の配置と履修方法・ルールを定める中で、学科別の必修や選択必修についての履修指導、
さらに一人ひとりの関心領域や将来の進路にとって有益な自由選択科目の選び方などにつ
いての履修相談が適宜、実施されている。
131
入学直後、学生に学部の『履修要項』と『講義要項』が配布され、オリエンテーション
とガイダンスにおいて口頭で履修方法や履修上の諸注意が伝えられる。1年次を通じて、
クラス担任制度(あるいはアドバイザー・クラス制度)によって、少人数のグループ単位
で教員による履修指導・相談が逐次、行われている。3、4年次学生に対しては、主に演
習の授業時間帯、あるいは教員の設定したオフィスアワーの時間帯を中心に、必要に応じ
て教員が履修相談に乗っている。2001 年度からは、教員のオフィスアワーを『講義要項』
や学部ホームページに掲載している。履修上の技術的な問題については、適宜、学部事務
室の教務担当者が対応する体制が採られている。
留年者に対する特段の措置は講じていないが、留年生を出さないようにする事前の配慮
として、不合格科目および単位未修得科目については各年次の最高履修単位プラス 16 単位
を限度として履修登録できることとしている。
【点検・評価
長所と問題点】
現行の履修にかかわる指導ないし相談業務は、学生の在学期間を通じて、おおむね妥当
かつ適切に行われている。例えば、年次別履修科目登録の上限設定についても、学生が効
果的に授業科目の履修を行ううえで有効に機能している。既述のような厳格な成績評価の
もとでの 80%近い単位修得率は、履修方法・ルールの効果的な設計と、それに即した履修
指導が適切になされていることの結果と見ることができる。卒業論文は、必修ではないが、
過去3年間の平均でみると、全体の 80%の学生が履修し、その 90%の学生が単位を取得し
ており、卒論に取り組むことの意義・重要性について学生に対して十分な指導がなされて
いる。
ただし、履修指導体制に問題がないわけではない。年次別にみると、2年次学生に対し
教員が履修指導にあたる体制が制度としては存在しない。また3、4年次生で演習を履修
しない学生については、十分な履修指導が受けられない可能性がある。もっとも、教員と
の親密な関係を持たない学生については、全学的な組織である学生相談室が窓口となって、
履修を含めた幅広い学業上の悩みや質問に対応しており、必要に応じて学部教職員が面談
を行うなど、学部との連携をとりながら問題解決にあたっている。
各学年次および卒業時における学生の質を保証・確保するには、厳格な成績評価ととも
に、マン・ツー・マン方式による指導が重要である。学生の多様性を尊重するとき、履修
指導は画一的なものではあってはならないという点で、こうした取り組みは高く評価でき
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
カリキュラムが多様化し自由度が増す分、学生が判断に迷った場合に、適切な助言をす
る体制が求められるようになってきている。学生の目から見て、分かりやすい『履修要項』
や『講義要項』の作成とともに、教職員の負担に配慮しながら、必要なとき、必要なアド
バイスが受けられる体制を整備することが必要である。例えば、教務担当に、複数の履修
アドバイザーを置き、年次ごとに履修単位の不足している学生に対し、適切なアドバイス
を行う体制を作ることも検討に値する。
個別的な問題点としては、卒業年次にかけて就職活動に割く時間が増加する状況下で、
4年次における履修指導が形骸化するケースが増えている。大学のみで解決できる問題で
はないので、就職活動のあるべき姿を含めて、社会的に対策を講ずる必要がある。
132 第2章 学部
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
本学部では 2000 年度から新しい大学教育システムであるフレックス(昼夜開講)制に移
行し、「フレックス・コース(昼間主)」と「フレックス Plus1・コース(夜間主)」を設
けた。この2つのコースの大きな違いは、①フレックス Plus1・コースには、職業会計人
やビジネス英語の資格、ビジネス革新に対応した3つのプログラム履修を提供している。
②フレックス Plus1・コースの必修外国語は、フレックス・コースの半分の1カ国語(8
単位)で、プログラム履修に専念しやすいシステムになっている。
すなわち、フレックス Plus1・コースは、本学部が少数精鋭の学生集団づくりを目指し
て構想した、新しいコンセプトのカリキュラムを持ち、専門家養成のためのプログラムを
構成している。そして次のような特色がある。
公認会計士、税理士、国税専門官を目指す『アカウンタント・プログラム』、ビジネス英
語によってキャリア・アップを目指す『ビジネス・コミニュケーション・プログラム』、お
よび、2002 年度入学生からの適用を予定している、IT(情報技術)を活用して経営革新
を目指す『ビジネス・イノベーション・プログラム』の3プログラムを、学科の粋を越え
た形で開講している。
このような制度的な教育改善は鋭意行っているが、教育の内容や方法について組織的に
検討する研究・研修(FD)についてはあまり行われていない。
また、学生の授業評価については、1996 年と 1999 年に実施した本学部生へのアンケー
トで授業全体について行った。個別の授業については、教員が担当授業について個別に行
っていることもある。
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度からのカリキュラムでは、各学科で指定された必修単位のほかは、どの科目群
からでも自由に科目選択ができ、卒業最低単位の 124 単位から必修・選択必修単位の 90
単位を引いた残りの 34 単位は自由選択枠として学生一人ひとりの興味・関心、進路に応じ
た自分だけの個性的なカリキュラムを設計することができることになった。
また、他学部履修制度も従来の 12 単位から 30 単位に拡大された。他学部履修での修得
単位は自由選択枠として卒業単位として算入される。
フレックス Plus1・コースでは、プログラム履修に専念できるよう、外国語の必修単位
は1カ国語8単位におさえている。特定の外国語を修得したい場合は、選択外国語枠と合
わせて1カ国語を集中して学習できる。時間割は1時限から7時限の中で、学習目的やラ
イフスタイルに応じて、自由に設計できるようにした。
『アカウンタント・プログラム』は経理研究所の講座と併修できるよう、時間割が配慮
されている。授業のみならず、学生生活全般においても、コースによって大きな違いはな
い。もちろん、卒業証書、学生証、各種証明書などには、学部・学科名のみが印字され、
コースは表示されない。フレックス制度が 2000 年度から始まったばかりの制度であるため
に、これらコース制による学生の点検・評価は未だなされていない。本年度は2年生まで
がこの制度で履修している。今後この制度による学生・教員双方からの点検・評価に関す
るきめ細かな分析を進める必要がある。
また、正課授業ではないが、大学卒業後の進路を考えるための情報提供と、そのために
133
必要な個別指導を入学時から体系的に実施する『キャリア・デザイン・プログラム』を導
入した。大いに成果が期待されるところである。
さらには、アドバイザー・クラス制度を導入し、キャンパス・ライフに関する相談やミ
ーティングによって、新入生の新しい大学生活に対するスタートを担任が応援している。
しかしながら、本学部生へのアンケート結果に現れている細部については、依然として
対処できていないのも事実である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2000 年度からの新しい制度での学生は現在2年生までしかいない。それらの学生がどの
ように現行制度の、選択自由幅の大きい種類の多い授業科目の中から、自ら選択決定をし、
そして満足をしているのか、あるいは戸惑っているのか、現在の段階でこれらを知ること
はなかなか難しい。しかし 1996 年と 1999 年に行われた学部教育点検・評価の報告書から、
学生の本学商学部教育に対する評価の分析を見てみると、シラバスの適切性については以
下のように評価している。各科目の授業計画については、授業内容・方針、成績評価方法、
使用テキスト・参考書等の観点から、
『講義要項』で、年度始めに学生に徹底させているが、
「履修した授業が、このシラバス通りに行われているかどうか」について、
「だいたいシラ
バスどおりに行われている」と答えている学生が 70.9%で、前回の結果(『1996 年度商学
部自己点検・評価報告書』によると、69.0%)とほぼ同じ、
「シラバス通りには行われてい
ない」は 24.7%(前回の 28.0%よりは減少)であった。したがって授業はシラバスに即し
ておおむね行われていると考えられる。また「講義要項に記載されているシラバスの内容
について」の質問に対して、
「現在の形式で充分である」という回答が 51.1%(前回 43.6%
より増加)、「説明内容をもっと理解しやすいように工夫すべき」が 33.1%、「簡単すぎて
授業内容を十分把握できない」が 13.1%と回答されており、これらは前回より若干減少し
ていた。シラバスの内容に対する評価は、前回と比べると改善されてきていると言える。
しかし授業内容を丁寧に分かりやすく説明するなど、学生が理解しやすいシラバスにする
ためには、まだまだ改善の余地はあるであろう。学生が喜ぶ内容がすべて教育的であると
は限らないが、今後学科目に関してもまだまだ検討する余地はあるものと考える。
また、教育の内容や方法、学生指導法等について、FD活動を行うことにより改善で
きる可能性は十分にあるはずである。新任教員に対するガイダンス等、FDを積極的に
行う必要があると考える。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
授業には、教員の学問の解説によって授業内容を理解するタイプの「講義」と、少人数
の形態で、調査をしたり、発表をしたり、討論したりして学習をしていく「演習」タイプ、
あるいはスポーツやパソコン操作等を実習の形で行っていく「実習」タイプの授業とがあ
る。そのような3タイプの授業形態の中で、
「講義」では、何人かの専門家がそれぞれの専
門の側からアプローチをして一つのテーマに迫るという形の「総合講座」がある。また「特
殊講義」は、1年間に一人あるいは数人の専門家がそれぞれの専門分野を解説するという
形で授業を進めている。
また、本学部では学期制を採用してないが、週2回、半期で完結するセメスター形式の
134 第2章 学部
講義も行われている。
演習(ゼミナール)科目は少人数教育で、特定のテーマについて文献を読み、発表や討
論などを行いながら、文献調査能力やレポート作成能力等を身につけさせる。本学部では
少人数教育を重視し、1年から4年まで各年次で演習科目を履修することができる。
【点検・評価
長所と問題点】
「総合講座」や「特殊講義」は、一つのテーマに対して、あるいは関連する領域につい
て、単独あるいは複数の教員から講義を受けることができる授業科目で、学生の授業に関
する評価からは、授業にメリハリが感じられるためか、過去の点検・評価報告書では不満
な科目としてほとんど出てこない(1999 年の『商学部自己点検・評価報告書』によると総
合講座を不満な科目としている学生は 4.7%であった)。おおむね学生のニーズに応えるこ
とができているようである。
セメスター形式の授業は、教育効果をあげるための一方法であるが、担当教員の負担は
増える、兼任教員への依頼が難しい等、現状では教員の側にメリットは少ない。学生にと
っては、すべての授業がセメスター形式でない状況では履修のうえで混乱を招きかねない
という点について、1996 年度の『商学部自己点検・評価報告書』ですでに報告済みの問題
点である。
ゼミ教育については、点検・評価報告書によると、
「不満」と回答した学生は非常に少な
く(10.7%)、少人数のゼミ形式によるきめ細かい授業と、学生の主体的な関心に基づいた
授業は大いに支持されてきていると考えられる。
「演習」についての学生の不満項目は、
「時
間的な負担が大きすぎる」が 33.8%で最も高かった。しかし前回の 54.3%からは大きく減
少している。
「講義内容が難解過ぎる」
(前回には無かった選択枝)が 28.7%で2番目にあ
がっていた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
セメスター形式の授業に関しては、教員の側から兼任講師の補填が得にくい、学生の側
からは残った半期に履修できる科目がないため、効率よい時間割が組めない等、まだ問題
を多く抱えていて、そのことがセメスター形式の授業形態が増えていかない要因になって
いる。教育効果、留学する学生や留学してくる学生の増加、長期継続的なボランティア活
動の参加などへ対応がし易くなる、という学生の側に立った利点は多いので、今後引き続
き、全面的あるいは大幅なセメスター制度に関する検討は必要になろう。
「演習科目」は、少人数教育を重視するところから、今後もますます受講が予想される。
すべての希望学生がゼミを受講できるように、ゼミの開講数を十分に確保する必要がある。
またゼミ生が1クラス 15 人にもなるというのでは活動にも制約がでてくる。適性規模が維
持できるように今後善処をしていく必要があるだろう。
「マルチメディアを活用した教育」については、3つの情報関連教室の他に 2001 年度と
2002 年度の情報環境整備によって、約 500 台のパソコンを、商学部棟(5 号館)に配備を
する。この設備を活用して、学生の自由利用の他に、ビジネスで多用されるパソコンソフ
トの無料講座を年間を通して開講していく予定である。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
135
実際に国内外で本学部教員が学会発表をした数は、『1999 年度
商学部自己点検・評価
報告書』によると、年約 0.5 回で、この数字は 1996 年度報告書とほぼ同じ数値をあらわし
ていた。国際交流委員会からの援助も手伝って、教員は海外での学会発表を手がけている。
海外からの研究教員の受け入れについても積極的に勧められてきた。外国人客員教員につ
いて、『1996 年度商学部自己点検・評価報告書』で「毎年継続されていることが重要」と
指摘しているが、1996 年度2人、1997 年度ゼロ、1998 年度2人、1999 年度ゼロといった
具合で、コンスタンスな状況とはなっていない。教員の研究専念期間として「特別研究期
間」と「在外研究期間」の2つの制度があり、前者は通常1年間の研究期間がとれる制度
で、後者はA(1年間)とB(6カ月間)の2タイプがある。在外研究期間Aについては、
本人の研究期間延長申請により、教授会の了承を得て、研究期間延長(1年)が慣行化し
ているのが実状である。
学生の国際交流に関しては、3つの「留学制度」がある。外国へ留学生を派遣するとと
もに、海外交流校からも留学生をまた受け入れている。
「交換留学」
国際交流協定を結んだ外国の大学に学生を派遣する制度(留学期間は1年間)。現在 45
ある協定校のうち、学生交換を実施している 29 校に学生を派遣している。学費は協定校に
よりいくつかの例外もあるが、原則として派遣先の学費は納める必要がない。
「認定留学」
学生自身が自分の留学したい外国の大学を自由に選択して入学許可をとり、あらかじめ
本学の許可を得て留学する制度(留学期間は1年間)。
「交換留学」、「認定留学」とも正規の授業を受講し、修得した単位については、帰国後
に本学部の単位として認定される。
「短期留学」
協定を結んでいるアメリカのカールトン大学に夏の約1カ月間、留学するプログラムで
ある。
「アメリカの言語と文化」という本学部の正規の授業科目として、4月から7月まで
の集中的な予備研修を受けて留学し、学習の成果をあげた者には4単位とカールトン大学
からの修了証明書が与えられる。カールトン大学と同様に、アメリカン大学、テュービン
ゲン大学、エクス・マルセイユ第三大学への短期留学も他学部で4単位科目として開講さ
れ、本学部学生も正規の授業として選択し、参加することができる。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部教員の授業の持ちコマ数や委員会就任の多さ、基礎研究費以外の研究費を受給す
る機会が少ないこと等から判断すると、こうした研究専念期間(「特別研究期間」、
「在外研
究期間」)の回数が在職中それぞれ1回ずつであるという事実は、充分な教育研究交流の展
開を妨げる要因となっているといえよう。
「学生の留学による国際交流もますます充実する傾向にあるが、協定締結校の数的増加
とその効果は別問題である」(『1999 年
商学部自己点検・評価報告書』参照)。学生の留
学における教育的価値について、あるいは協定校で得ることのできる独自効果、あるいは
潜在する問題の発見とその解決策など、検討する課題が残されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「大学の国際交流は今後もますます盛んになるであろう。それにともない、単独教員に
136 第2章 学部
よる海外調査研究、外国研究期間、あるいは外国研究者との共同研究という形態の国際研
究も増加の一途をたどる」であろうため、在職期間に研究年が1回だけ、という特別期間
に代えて、いわゆるサバティカル・イヤーを採用する検討が必要になってきている。
兼任講師の数は 1996 年以降ずっと 210 名前後できているが、そのうちの外国人教員は現
在 33 名である。専任の外国人教員は 1998 年に退職者が1名でたために、現在2名である。
外国人教員の適性人数については検討がされていない。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
本学部の学生募集は、一般入学試験、大学入試センター試験利用入試、および特別入学
試験によって行われ、それらによって選抜された入学者に付属高校から推薦された入学者
が加わる。
一般入学試験と大学入試センター試験利用入試は、大学入学資格を有するすべてのもの
に広く門戸を開くものである。一般入学試験にはA方式とB方式があり、前者は外国語、
国語、それに地理歴史・公民・数学・商業のうちの1科目による試験を行い、後者は外国
語と地理歴史あるいは数学による試験を行うことによって入学者を選抜する。
大学入試センター試験利用入試は前期選考と後期選考に分けられるが、前期選考では外
国語、国語、数学、それに地理歴史・公民のうちの1科目のセンター試験結果を基に入学
者を決定し、後期選考ではセンター試験で受験した外国語、国語、数学、地理歴史・公民
の4教科4科目のうち、外国語と、外国語以外の3教科中最も高い点をとった1科目の合
計得点を基に入学者を決定している。
また特別入試としては、一般的な学力のほかにさまざまな個性を持った学生の入学も念
頭に置き、自己推薦入学試験、スポーツ推薦入学試験、海外帰国生等特別入学試験、フレ
ックス Plus1・コース社会人入学試験、外国人留学生入学試験、編入学試験(一般、社会
人)、学校推薦入試(指定校制)を行っている(これらに加えて、英語運用能力特別入試を
2002 年度入試より導入することが決定されている)。自己推薦入学試験は、文化、芸術、
スポーツなどの課外活動や、生徒会、部活動でのリーダーシップ、海外体験による異文化
理解などを積極的に評価するための入学者選抜試験であり、フレックス Plus1・コース社
会人入学試験は、勤労者や社会人にも学べる機会を積極的に提供するための試験である。
また外国人留学生入学試験は、国際交流の一環として、日本の大学教育を希望する外国人
留学生に広く門を開いている。
一般入学試験の募集人員は経営学科フレックス・コース 170 名、同フレックス Plus1・
コース 20 名、会計学科フレックス・コース 160 名、同フレックス Plus1・コース 35 名、
商業・貿易学科フレックス・コース 150 名、同フレックス Plus1・コース 20 名、金融学
科 80 名、合計 635 名で、2001 年度の入学者は 483 名である。
大学入試センター試験利用入試での募集人員は、経営学科フレックス・コース 30 名(前
期選考のみ)、同フレックス Plus1・コース 10 名(前期選考5名、後期選考5名)、会計
学科フレックス・コース 30 名(前期選考のみ)、同フレックス Plus1・コース 14 名(前
期選考7名、後期選考7名)、商業・貿易学科フレックス・コース 30 名、同フレックス Plus
137
1・コース 10 名(前期選考5名、後期選考5名)、金融学科 10 名(前期選考のみ)、合計
134 名で、2001 年度の入学者は 176 名である。
特別入試の募集人員は、自己推薦入試の場合、経営学科フレックス・コース 30 名、同フ
レックス Plus1・コース若干名、会計学科フレックス・コース 30 名、同フレックス Plus
1・コース若干名、商業・貿易学科フレックス・コース 25 名、同フレックス Plus1・コ
ース若干名、金融学科 15 名となっている。スポーツ推薦入学試験による募集人員は、フレ
ックス Plus1・コースを除くすべての学科で、合計 45 名である。海外帰国生特別入学試
験では、各学科、各コースで若干名である。フレックス Plus1・コース社会人入学試験の
募集人員は、それぞれの Plus1・コースで5名ずつである。外国人留学生入学試験の募集
人員は、フレックス Plus1・コースを除く全学科で各若干名である。以上の特別入試によ
る入学者は、学校推薦による入学者 274 名と付属高校からの入学者 213 名を合わせて 741
名であった。なお3年次入学を前提とした編入学試験の募集人員は、経営、会計、商業・
貿易学科はそれぞれ 10 名、金融学科は 25 名となっており、それに対する実際の入学者は
計 35 名であった。
【点検・評価】
入試では、一般的な学力を中心に見る一般入試を補う意味で、高校時代の学生生活をど
のように有意義に送ってきたかを主に見る特別入試を行っているが、1学年の定員に対す
る特別入試による入学者は、フレックス・コースの場合 59.6%、フレックス Plus1・コー
スの場合 115.7%、全体で 66.6%となっており、学内を活性化するうえでも、その割合は
おおむね適切であると考える。
【長所と問題点】
一般入試の他に特別入試を行い多様な学生を入学させることで、それぞれの学生がお互
いに刺激を受け、切磋琢磨しあいながら学内全体が活性化するという意味では、一般入試
と特別入試はうまくかみ合っていると言えるだろう。しかし一方で多様な学生が入学する
ということにより、学力の差も大きくなってきているのも事実であり、そのような現状に
合うように入学後の指導にこれまで以上に力を注ぐ必要がでてくるだろう。また特別入試
の場合、試験が比較的早い時期に行われるために、入学が決定してから実際に入学するま
で、学生の中には無為な時間を過ごしてしまうものもいる。
編入学については、1997 年度以降、本学が学部・学科、大学院研究科の新増設等の認可
等の際に、幾度となく「金融学科の編入学生の確保に努めること。」と勧告を受けている状
況である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
さまざまな学生が入学してくる現状をかんがみ、特に能力の差がつきやすい外国語の科
目などは能力別のコースを設置した。また入学後、学業等さまざまな相談に応じられるよ
うに、クラス・アドバイザー制度を設けている。さらに特別入試による合格者に対しては、
大学入学までの時期を有意義に過ごせるように、プレ・スチューデント・プログラムによ
り高校の授業に支障が出ない程度に論文および英語に関する添削指導を行っている。
また、金融学科については、編入学のみならず通常の新入生の定員が確保できるよう、
「魅力ある学科づくり」を目指し、鋭意検討を行うことになっている。
138 第2章 学部
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
本学部はビジネス社会にかかわるさまざまな具体的実践的問題を学ぶかなり専門性の
強い学部であるため、学部のアドミッション・ポリシーとして、一般的な学力を見る一般
入試に加えて、大学入学前からすでに商業教育を受けてきた商業高校の学生の入学を促す
ためにも、学校推薦入試や簿記検定合格者などを対象とした自己推薦入試を行っている。
また卒業後国際ビジネスの世界で活躍できる有為の人材を育成するという本学部の目的の
一つを果たすためにも、海外での生活を経験し、また外国語能力に優れた学生を対象とし
た海外帰国生等特別入試を行い、自己推薦入試の出願資格の1つに「外国語において優秀
な能力を有することを証明できるもの」という項目を加えている。
一般的な学力を中心に選抜する一般入試だけでなく、個性豊かな学生を積極的に受け入
れる目的の特別入試を経て入学してくる学生は、必然的に学力などで差が出てくるが、特
に差がつきやすい外国語に関しては、英語では三つの、その他の外国語では2つの能力別
コースを設けている。
さらに入学者の学問的関心もかなり多様化していることを考慮に入れ、2000 年度よりカ
リキュラムにかなり柔軟性を持たせ、学生の科目履修における選択の幅を大きくした。
【点検・評価
長所と問題点】
入試の多様化だけでなく、それに応じてカリキュラムもなるべく個々の学生のニーズに
あったものとし、さらに柔軟性を持たせているという点で、入学者選抜方法とカリキュラ
ムの関係は整合性があると考える。しかし今後ますます学生の多様化が進むことも考えら
れ、またある能力では非常に優れている一方で他の分野では基礎的な力が欠けているとい
った学生も入学してくることも予想されるので、そのような学生に対しても常に適切な指
導をできる体制を作るように心がける必要があるだろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
従来の一般入試中心の入学者選抜では、入学者の主要科目の学力という点である程度高
いところで平均していた。しかし入学者が平均しているということは、ある意味で学内の
沈滞化につながりかねない。そして今度は個性ある学生を入学させ学内を活性化させる目
的で、さまざまな特別入試を行ってきて、現在のところはある程度成功していると考える。
しかしこれから特別入試で入学する学生が増えると、基礎学力という点でかなりばらつき
が出てくるのは必定である。そういう事態に備えて、これからますます入学後のきめ細か
い教育を行っていく必要がある。特に能力差のつきやすい科目に関しては、将来の改善に
向けてかなり大胆な習熟度別クラス編成を考えていかねばらない。
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
一般入試と特別入試における出題、選抜に関しては、出題委員と学部執行部が協力しな
がら正確かつ慎重に行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
入学試験に関しては、常に客観性と公平性に注意が払われているという点で、特に大き
な問題はないと考える。ただ特別入試に関しては、これからますます多様化していく可能
139
性がある中で、多様な学生を受け入れて大学を活性化するということだけでなく、それぞ
れの選抜方法の間に公平性が保たれているかをもっと検討していく必要がでてくるだろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部では、入試の多様化に対して 1999 年に入試制度検討委員会を設置し、どのよう
な学生を受け入れることで大学を活性化できるか、またそのためにどのような入学試験が
適切かといった問題をさまざまな視点から検討している。
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
現時点では、それぞれの年の入学試験問題を全学部的に検証する制度はなく、その年の
担当の出題委員と学部執行部がチェックするということになっている。ただ今年度より、
付属高校の教員に入試問題の検証を依頼し、内容や分量、あるいは難易度といった点で受
験生に妥当なものであるかどうかを評価してもらう機会を持った。
【点検・評価
長所と問題点】
入試問題はその性格上、試験実施前に多くの人に検証してもらうわけにはいかず、その
チェックに関しては、出題委員と学部執行部による現状の体制が妥当なものと考える。そ
してその中で試験問題が問題の妥当性等に細心の注意が払われながら作られているために、
これまで特に大きな不都合が生じなかったという点は、評価できると考える。ただ問題作
成は一部の教員が担当するために、気づかないうちに内容的な偏りが生じる危険を常に孕
んでいることを意識する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述したような試験問題の無意識的内容的偏向などを避けるためにも、試験実施後の学
部全体的な検証を考えていく必要があるだろう。さらに大学の外の第三者の意見をもらう
場を作ることも検討の対象にすべきであろう。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
本学部全体の入学定員は 1,112 名、収容定員①は 4,923 名であるのに対して、在籍学生
数②は 5,558 名であり、この比率(②/①)は 1.129 である。
学科コース別では、経営学科フレックス・コースの入学定員 292 名、収容定員①588 名
に対し、在籍学生数②は 619 名で、比率(②/①)は 1.052 である。同フレックス Plus1・
コースは入学定員 40 名、収容定員①80 名に対して、在籍学生数②は 103 名で、比率(②
/①)は 1.288 である。会計学科フレックス・コースは、入学定員 292 名、収容定員①588
名に対し、在籍学生数②は 638 名で、比率(②/①)は 1.085 である。同フレックス Plus
1・コースは入学定員 60 名、収容定員①120 名に対し、在籍学生数②は 193 名で、比率(②
/①)は 1.608 である。商業・貿易学科フレックス・コースは、入学定員 258 名、収容定
員①517 名に対して、在籍学生数②は 581 名で、比率(②/①)は 1.124 である。同フレ
ックス Plus1・コースは、入学定員 40 名、収容定員①80 名に対し、在籍学生数②は 112
名で、比率(②/①)は 1.40 である。金融学科については、入学定員 130 名、収容定員①
260 名に対して、在籍学生数②が 252 名で、比率(②/①)は 0.969 である。
140 第2章 学部
【点検・評価】
入学定員に対して実際にどれだけの学生が入学してくるかは年度により多少変動する
のはやむをえないが、全体的に見て収容定員に対する在籍学生数の割合はおおむね適当で
あると考える。
【長所と問題点】
入学試験合格者のうちどれくらいの学生が入学手続を行うかという、いわゆる歩留まり
率は、正確に予想するのはきわめて難しいが、それでもさまざまな情報を参考にしながら
入学定員数にかなり近い学生が入学していることは、評価できると考える。しかし金融学
科に関しては、第一希望で出願するものが他の学科に比べると例年少なめで、そのため合
格者のうちのいくらかは第二希望や第三希望のものになっている現状がある。結果的には
定員充足率は十分になるのだが、この点に関しては早急な対策が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述した金融学科の問題に対しては、金融学科改善委員会を設け、金融学科をこれまで
以上に魅力ある学科にし、すべての合格者を第一希望者で埋めることができるようにする
ための議論が現在行われている。
また全体的には、入学定員の規模に関して、18 歳人口が今後も低下していく傾向にある
ので、それに対する何らかの対策を今後検討していく必要が出てくるだろう。
4−(6)
編入学者、退学者
【現状の説明】
2000 年度の退学者は 54 名で、全学部生の 0.99%である。退学理由の主なものとしては
「他大学入学」、「経済上」や「家庭の都合」などが挙げられる。
また、2001 年度編入学試験を経て入学したものは、35 名で、そのうち一般編入学が 30
名、社会人編入学が5名である。
【点検・評価】
退学者に関しては、対全学部生の比率が他大学と比べて特に多いということはない。
編入学に関しても、向学心のある短大卒業生や、他大学出身者、あるいは社会人に対し
て商学を学ぶ場を提供するという点で、意義のある制度であるが、今後希望者の極端な増
加は見込まれないことから、定員に関して見直す必要があるものと考える。
【長所と問題点】
現役の高校生に高校在学中にあらかじめ本学部の授業を受講する機会を与えたり、ある
いはパンフレット等を通じて商学部の広報をかなりしっかり行っていることもあり、入学
後に教育内容と自分の興味の齟齬が原因で退学する者の数は、決して多くないと言える。
しかしもとより退学者が 1 名も出ないというのが最高の理想なので、そのための対策を
常に考える必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
従来にもまして本学部の公報活動を充実させ、受験生に商学部とは何を勉強するところ
なのかを、その魅力とともになるべく正確に伝える努力をしていくようにする。また、経
済的な理由で退学せざるを得ない者を出さないように奨学金制度をさらに充実させたりし
て、経済的負担を可能な限り少なくする努力が必要である。
141
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
本学部の理念と目的達成のために、専任教員 102 名、兼担教員 16 名、兼任教員 213 名
によって、教育研究がなされている。専任教員の内訳は、教授 73 名、助教授 20 名、専任
講師9名である(「基礎データ調書
(「基礎データ調書
表 10」参照)。専任教員の平均年齢は、51.9 歳である
表 14」参照)。なお、兼任教員は 48.3 歳である。授業科目ごとの教
員配置は延べ講座数で次のとおりである。
基礎科目、基本科目、経済・法律科目、関連科目:
専任教員担当 116 講座
兼任教員担当 79講座
外国書講読
:専任教員担当
6講座
兼任教員担当
7講座
演
習
Ⅰ
:専任教員担当
62講座
兼任教員担当
9講座
演
習
Ⅱ
:専任教員担当
54講座
兼任教員担当
6講座
演習
:専任教員担当
4講座
兼任教員担当
0講座
総合人間科目:専任教員担当
16講座
兼任教員担当
6講座
1年次演習
:専任教員担当
34講座
兼任教員担当
4講座
英
語
:専任教員担当
61講座
兼任教員担当113講座
ドイツ語
:専任教員担当
19講座
兼任教員担当
32講座
フランス語
:専任教員担当
20講座
兼任教員担当
33講座
中
語
:専任教員担当
11講座
兼任教員担当
57講座
スペイン語
:専任教員担当
9講座
兼任教員担当
30講座
ロシア語
:専任教員担当
0講座
兼任教員担当
5講座
:専任教員担当
0講座
兼任教員担当
4講座
健康・スポーツ :専任教員担当
22講座
兼任教員担当
26講座
基礎
朝
国
鮮
語
また、
「8.管理運営」で後述するように本学部は、分野ごとに教授会員をグループ化す
る部会制を採っており、現在、経営、会計、商業・貿易・金融、経済・一般・体育、英語、
第二外国語の6つの部会がある。この部会が商学部における教育研究に関する審議を行う
基礎組織である。
さらに、学部長を委員長とし、この6部会の委員長、幹事、ならびに学部長補佐3名、
教授会幹事2名をメンバーとするカリキュラム委員会が設置されており、商学部カリキュ
ラムについて継続的な点検を行い、常に教育効果を検証し、カリキュラム上の問題点とそ
の改善策を教授会に報告・提案を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部の専・兼比率は担当講座数からみた場合、49.8:50.2 で、専任教員数は十分とは
言えない。また、専任教員1名あたりの学生数は 54.5 名であり、1講座あたりの履修者数
が 300 名を超える講座は 59 講座ある。
専任教員の平均年齢は 51.9 歳であるが、年齢構成は 50 歳未満が 38 名、50 歳代が 38 名、
60 歳以上が 26 名となっており、適正な範囲と考えられる。また、女性の専任教員の数は、
2001 年度に 9 名となったが、同様に改善が望まれる。教育責任の観点から、カリキュラム
142 第2章 学部
上における当該科目の位置づけを含め、改善に向けた中長期的な方針の確定が必要とされ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部の専任比率は低く、講座の半数以上が兼任講師に依存している状況で、改善が必
要である。女性教員の比率は依然として低く、引き続き改善が必要である。時代の発展に
対応した教育課程の改革を進めることが教授会でもしばしば論じられているところである
が、これと緊密に対応する教育科目と教育組織を設計し、その理念に基づいた具体的な人
事計画を策定する必要がある。
5−(2) 教育研究支援職員
【現状の説明】
教員の教育研究の支援には、商学部事務室が当たっている。職員の構成は、専任職員 14
名、パートタイム職員 22 名、TA6名である。専任職員とパートタイム職員は、教員の教
育研究活動を総合的に補佐する。TAは、情報関連の演習科目や「簿記論」、
「高等簿記論」
等の科目を対象に、教育活動を補佐する。例えば、機器操作の援助、レジュメの作成や配
布、提出物の整理等である。採用基準は本学部大学院学生である。
【点検・評価
長所と問題点】
TAの積極的な採用と活用によって、全般的に見て専門科目の教育が一層充実して行う
ことができるようになった。しかし、カリキュラム・入試改革に伴って、教育研究支援の
仕事は質量ともに増加している。それにもかかわらず、専任職員とパート・タイム職員の
定数は変わらない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任職員、パートタイム職員、TAともに員数を拡充し、各教員の教育ニーズに応える
必要がある。
5−(3) 教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続
【現状の説明】
教員の任用は原則として公募形式を採用している。教員の任用・昇格は、講師、助教授、
教授ごとに大学で定めた規定と本学部の明文化された基準・手続(「商学部専任教員採用に
関する申し合わせ」、「中央大学商学部教員資格基準内規」、「専任教員人事の決定に関する
申し合わせ」、「新任専任教員採否決定及び専任教員昇格決定方法」)に基づいて行われる。
教員の任用・昇格は、
「新任専任教員採否決定及び専任教員昇格決定方法」に拠り、次のよ
うなプロセスを経て行われている。
新任教員の採用計画については、商学部専任教員採用に関する委員会で検討・決定し、
教授会にその承認を求め、可であれば部会が中心となって公募を行う。部会から推薦され
た任用候補者について、教授会で承認された業績審査委員3名が審査を行い業績審査報告
書を作成し、教授会に報告する。教授会は、審査報告書に基づいて投票により採用の可否
を決定する。
昇格については、部会から推薦された任用候補者について教授会にその承認を求め、可
であれば教授会で承認された業績審査委員3名が審査を行い業績審査報告書を作成し、教
143
授会に報告する。教授会は、審査報告書に基づいて投票により昇格の可否を決定する。
【点検・評価
長所と問題点】
教員の任用・昇格は、「商学部専任教員採用に関する申し合わせ」に拠り本学部の策定
した採用計画に基づき、
「中央大学商学部教員資格基準内規」、
「専任教員人事の決定に関す
る申し合わせ」、「新任専任教員採否決定及び専任教員昇格決定方法」に従って、適正に行
われている。しかし、助手の新規採用は、1994 年度以降行われていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員の採用に関する委員会は、各部会から提出された採用計画案の調整を行い、教
授会に提案することとなっているが、カリキュラム委員会との連繋を強めて、設置科目に
関して総合的な判断を行い、中長期的な人事計画を策定することが必要である。
また、専任教員の採用に関する委員会において、助手の採用を含め、客員教員、特任教
員の採用も視野に入れた採用計画を策定することが確認されている。特に、後継者養成の
観点から助手の積極的な採用を行うことが必要である。
5−(4) 教育研究活動の評価
【現状の説明】
学部教育研究の発展に向けて、その現状および改善点を明らかにし、有効・適切な改善
策を講ずるために、
「商学部自己点検・評価委員会」を設置している。委員は各部会から1
名が選出され、任期は2年である。当該委員会は、原則として隔年に『商学部自己点検・
評価報告書』を公表している。
【点検・評価
長所と問題点】
『商学部自己点検・評価報告書』を、1997 年度と 1999 年度の2回刊行し、2002 年度に
も刊行予定であるが、踏み込んだ評価を行っていない。また、自己点検・評価を行うのが
学部の専任教員のみで、学外の第三者機関による評価も行われていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
『商学部自己点検・評価報告書』のアンケート項目をより適切なものにすること、第三
者評価を加えること、この報告書を活用し教育研究活動の積極的な改善策を打ち出すこと
が必要である。
6.施設・設備等
6−(1)施設・設備等の整備
【現状の説明】
本学部における教室等の状況は、「基礎データ調書
表 25・26・45」に示すとおりであ
る。また、各教室等に設置されている設備は、次の表のとおりである。
表2
教室
5101
5103
定員
付
50 ワークステーションⅠ
50+15 ワークステーションⅡ
144 第2章 学部
帯
設
備
パソコン:デスクトップ(WindowsNT)
パソコン:デスクトップ(WindowsNT)
ノート(Windows98)
5201
144 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機,簿記用黒板,暗幕
5202
124 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機,簿記用黒板,暗幕
5203
144 マイク,スクリーン,VHS ビデオデッキ,実物投影機,暗幕
5207
35 マルチメディア視聴覚教室
5401
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5402
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5403
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5404
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5405
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5406
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5407
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5408
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5501
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5502
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5503
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5504
61 VHS ビデオデッキ, モニター
5505
61 スクリーン,ビデオプロジェクター,VHS ビデオデッキ,OHP,暗幕
5506
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5507
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5508
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5601
20
5602
20
5603
20
5604
20
5605
20
5606
20
5609
61 スクリーン,ビデオプロジェクター,VHS ビデオデッキ,OHP,暗幕
5610
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5611
61 VHS ビデオデッキ, モニター,暗幕
5701
26
5702
26
5703
26
5704
26
5705
26
5706
26
5707
30
5708
30
5709
30
パソコン:(Windows NT/Macintosh OS9),LL 設備
145
5710
30 机移動可
5711
30 机移動可
5712
30 机移動可
8101
304 マイク,スクリーン,暗幕,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
8102
304 マイク,スクリーン,暗幕,OHP
8103
304 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
8104
304 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
8105
608 マイク,スクリーン,暗幕,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
8304
608 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
8305
514 マイク,スクリーン,レーザーディスクプレーヤー,VHS ビデオデッキ,実物投影機
情報処理機器については、上の表にあるようにワークステーション(5201、5203 の2教
室)、およびマルチメディア視聴覚教室(5207 教室)にパーソナルコンピュータを設置し、
イントラネットを構築し授業に供している。授業の空き時間には、1学生2時間を限度に
学生が利用できるようになっている。
【点検・評価
長所と問題点】
教室に関しては、2000 年度のカリキュラム改正にともない、従来と比較して少ない人数
で行う講座が増え、100 名∼300 名程度のいわゆる中教室が不足している。
また、ゼミ(演習Ⅰ、Ⅱ)が特定の曜日に集中しており、正規の授業には何とか対応で
きているものの、サブゼミでの教室使用について若干の支障をきたしている。
情報機器については、ゼミ(演習Ⅰ、Ⅱ)単位でのパーソナルコンピュータの使用の要
求も増えてきており、学生の授業外での使用と併せて需要を賄う方策を早急に見出す必要
がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
情報環境の充実に向けて、2002、2003 年度の2カ年で商学部棟(5号館)の情報インフ
ラを整備し、トータル約 500 台のパーソナルコンピュータを配備する計画が進捗中である。
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
大学で主催する学術講演会で講演を行ったり、個人レベルでクレセント・アカデミーを
含め学外のさまざまな講座等を担当したり、学外の各種委員等として関わったりして、社
会的な貢献を行っている事例はかなりの件数になっている。
本学部が発行する『商学論纂』に論文を執筆し研究成果を社会に公表することや、聴講
生制度、科目等履修生制度で向学心のある学外者の受け入れを除いては、本学部として組
織だって行っている活動は、ほとんどないのが実態である。
大学全体の取り組みについては、後述の第5章を参照されたい。
【点検・評価
長所と問題点】
聴講生制度、科目等履修生制度での学外者の受け入れについては、一部を除いては有料
となり、社会貢献ということであるならば、費用が発生しないことが原則であろうし、幅
146 第2章 学部
広い範囲を対象とすべきである。
また、公開講座、もしくはそれに類する講座は、開講されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学的な取り組みとともに、本学部として、研究分野をベースにした公開講座や時代の
ニーズに即した組織的な対応を検討すべきである。
8.管理運営
8−(1)
教授会
【現状の説明】
教授会は、学則にも示されているように学部教育研究活動および学部運営に関する事項
について審議決定する最高機関である。
本学部は、分野ごとに教授会員をグループ化する部会制を採っており、現在、経営、会
計、商業・貿易・金融、経済・一般・体育、英語、第二外国語の6つの部会がある。
また、教授会の円滑な運営を目的として商学部委員会が設置されており、各部会の委員
長、幹事も商学部委員会委員となっている。
通常、教授会での審議は、各部会での検討、商学部委員会での調整を経て行われている
が、専任教員人事に関しては、商学部専任教員採用に関する委員会の検討を経て、教授会
で審議される。
通常の審議事項の議決は出席教授会員の過半数の同意が必要であるが、専任教員の採用
については投票で行われ、有効投票数の3分の2以上の同意が必要であると学部内規で定
められている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部の管理運営は、すべて教授会の審議により決定されている。事前の部会での検討、
商学部委員会での調整により、部会の意見が十分に尊重され、かつ、効率的な教授会討議
が行われている。
しかしながら、100 名を超える教授会員で構成されているため、時として十分な討議が
行えない場合や教授会が長時間におよぶ場合もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
管理運営に関する業務の多様化・複雑化により、教授会審議事項が 20 を超えることも
ある。従来の処理・実施方法などの見直しを行い、さらには教授会・商学部委員会・部会
の権限ならびに業務分担を見直し、より能率的な管理運営の方法を考える必要がある。
また、年々教授会資料が膨大な量となっており、最近の情報・視聴覚機器を利用するこ
となどについても検討の価値があるのではないだろうか。
8−(2)
学長、学部長の権限と選任手続
【現状の説明】
任期2年の学部長の選任は、学則に教授会の審議決定事項として明示されている「学部
長の選出に関すること」に基づき、学部内規に拠り教授会員の選挙によって行われる。
学部内規では、在外研究中の者、海外出張中および休職中の者は選挙人から除き、特別
研究中の者は本人の希望により選挙人に含めることができることになっている。
147
また、選挙人の3分の2以上の出席がなければ選挙は行えず、有効投票の過半数を得た
者が当選人となる。過半数を得た者がいないときは、第1位および第2位の得票者につい
て決選投票を行うことになっている。
学部長は、学部長補佐として本学部専任教員の中から教務主任、教務副主任を指名する
ことができ、教授会の承認を得ることとなっている。教務主任・教務副主任の任務は、
「学
部長の指示に基づき、商学部における教務事項にかかわる諸問題の処理、その他学部内外
における学部長業務の補佐にあたること。」と学部内規で規定されている。教務主任・教務
副主任の任期は1年である。
【点検・評価
長所と問題点】
学部長の選任に関しては、学部内規に拠り公明正大に行われており、適切、かつ妥当で
あると言える。
学部長は、学部内の諸業務処理だけでなく、全学的な問題にかかわる対応・処理につい
ても責務を担っており、その業務は多岐にわたり、かつ複雑である。責任も大きく、過重
な任務と言えよう。教務主任・教務副主任と連携をとり、その責務を十分果たしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学全体にかかわる問題を処理するうえで、大学全体の管理運営体制と学部の管理運営
体制を見直す必要があると思われる。
9.事務組織
9−(1)事務組織と教学組織との関係
【現状の説明】
中央大学事務組織規則、第6条に事務組織および所管業務が定められており、現在商学
部事務室には、事務長はじめ 14 名の専任職員が配置され、教務、学務の2つのグループを
置き、本学部にかかわる業務を行っている。
教務グループでは、授業編成、授業実施、履修、試験、成績、学籍、証明書、学部棟の
管理、教務関連委員会の運営補助等々に関する業務を行っている。また、学務グループは、
教授会をはじめ、商学部委員会、各種委員会の運営補助、入試のうち特別入試、奨学金、
学部の予算管理等々に関する業務を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
商学部事務室は、教授会、商学部委員会、各種委員会について、開催通知の発送、資料
作成、進行補助等、円滑な運営を第一義に業務を行っている。また、学部長、教務主任、
教務副主任のほぼ定例的な打合せには事務長も同席している。
一方、学部運営の基盤である各部会の打合せ等その運営に関しては、事務室はいっさい
関わりを持っていない。
商学部(教授会)と商学部事務室の関わりは、ここ数十年来変わっておらず密接に連携
していると思われる。しかしながら、昨今の大学を取り巻く社会情勢、ならびに学内情勢
の変化にともない、取り組むべき課題が多種多様化しており、商学部(教授会)、商学部事
務室ともに時間に追われているような状況である。このため、商学部事務室には、14 名の
専任職員以外に 22 名ものパートタイム職員を配置しているが、これは本来的な状況ではな
く、しかるべき改善を行うべきである。
148 第2章 学部
【将来の改善・改革に向けた方策】
取り組むべき課題が多種多様化している中で、商学部事務室が担う業務もまた、質的に
も変化し煩雑化しており、量的にも増加の一途である。現状に即した業務の見直し、改善
はもちろんのこと大学全体での組織の見直しも必要不可欠なことである。
9−(2)事務組織の役割
【現状の説明】
商学部事務室は、教授会をはじめ、商学部委員会、各種委員会の運営補助業務、入試の
うち特別入試に関する業務、国際交流センターと連携をとりながら国際交流に関する業務
を遂行している。
また、予算単位である本学部の年度別の予算案策定、予算執行等については、学務グル
ープの副課長がもっぱら担当している。
さらには、学部長、教務主任・副主任の定例打合せには、商学部事務長も加わっている。
【点検・評価
長所と問題点】
商学部事務室は、各業務を遂行する中で、学部長、教授会に対し企画・立案・補佐機能
を過不足なく果たしているといえる。
さらに、情報の収集・提供、資料作成等を通じ、学部内の意思決定・伝達について、適
切にその役割を担っていると言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部内における企画・立案・補佐機能や学部内意思決定・伝達システムの中での事務組
織の役割については、その内容、質は従来に比して大きく変わっている。
事務組織、事務職員は、現在の状況において、大学、その中でも私立大学、さらには個
別中央大学のポジションを的確に把握し、どのように進むべきか等々について真剣に考え
ていかなければならない。そのためには、今更ながらという感は拭えないが、中央大学の
事務組織、事務職員個々の果たすべき役割、やらなければならないこと等を再確認する必
要がある。
10.自己点検・評価等
10−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
本学部は、1993 年6月の教授会において「商学部自己点検・評価委員会」の設置を決定
し、また 1995 年3月の教授会では「商学部自己点検・評価の体制について」が報告・了承
された。これを受けて、学部教授会は学部長を委員長とする「商学部自己点検・評価委員
会」
(教員7名、事務担当職員2名で構成)を立ち上げ、学部としての自己点検・評価の具
体化作業を進めるべく、1995 年 12 月第1回委員会を開催した。
以後、現在に至る5年間の積極的な活動の中で、委員会はこれまで『商学部自己点検・
評価報告書』を2回にわたって(1996 年度版、1999 年度版)上梓し、教授会に報告してき
た。本学部で最初の「報告書」となった 1996 年度版は、自己点検・評価の目的について次
のように述べている。
「商学部自己点検・評価の目的は、商学部を単位とする教育・研究の
実態を客観的に把握し、そこに潜む問題点を明確にするとともにその継続的改善を実施し
149
ていくための情報を提供することにある。……継続的改善を効果的に実施するには、問題
発見と解決が、点検・計画・実施・評価という反復的サイクルによって行われることが肝
要である。」
かかる観点に立ち、本学部は学部構成員(教員・職員・学生)へのアンケートをつうじ
て寄せられた「生の声」をもとに、改善すべき課題を明確にし、教授会として実施計画を
立て、実行可能なものから逐次改善を行ってきた。学部としての情報環境整備(ゼミ室へ
のノート型パソコンの配備)、TAの制度化、クラス・アドバイザー制やオフィスアワーの
開設などが、その具体的事例である。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部の 1996 年度版「報告書」は、中央大学における自己点検・評価報告書の嚆矢と
なり、結果として、その後に作成された他学部・学科の自己点検・評価報告書(白書)の
基点としての役割を果たすものとなった。
対学生アンケートの自由記述欄には授業改善を望む声が多数寄せられた(ただし「報告
書」では教員個人名は伏せられている)。これらは必要に応じて、学部長より担当教員に対
して「要望・注意」のかたちで伝えられた。こうした活動は、本学部の教育研究の目的・
目標をよりよく実現していくためには、なによりもまず教員の質の向上(研究業績だけで
なく授業教授法においても)が必須の前提になるとの思いからである。
「報告書」のとりま
とめを契機として、教授会全体でかかる視座の共有化にすすみつつある現状は大いに評価
されてよいと考える。
上記のとおり、
「報告書」作成のベースとなったのは、対教員・対学生アンケートである。
2回の対教員アンケートの回収率は、96 年度版は 76%、99 年度版は 50%(いずれも母数
は約 100 名)、同じく対学生アンケートの方は、60%と 54%(両年度版とも1・3 年次生を
対象とし、母数は約 2800 名)であった。いずれの「報告書」とも対教員・対学生アンケー
トに未回収分を多く残しているという意味で、その精度は十分とは言えない。対学生アン
ケートは、8頁立て、質問数が約 60 項目からなる大部のものであった。今後は短時間で回
答できるよう、質問項目の大幅な整理・統合が必要である。対教員アンケートも同様の問
題点を指摘しうるが、こちらの方は、なによりもまず学部の教育研究に責任を持つ主体と
しての自覚に待つ部分が大きいと言えよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
以上の点検・評価を踏まえて、当面早急に取り組まなければならない課題の主なものを
列挙すれば以下のとおりである。
① 「報告書」等を活用した学部研究会の継続的な開催。そこでは、
「報告書」に表された
学部の教育研究の実態と学部教育の目的・目標との関連性が徹底して議論される必要が
ある。関連して、FDの研究会・講習会等の開催も課題となる。
②
本学部としての次期「報告書」は 2002 年度版となるが、アンケートの精度の向上に向
けた質問項目の入念な検証が必要である。また、次期「報告書」より学外の第三者機関
による評価を導入したい。
③
これまでも担当教員個人による個別授業ごとの点検・評価、あるいは一部の学科では
学科単位での点検・評価が実施されてきたが、これを基本科目、演習科目、外国語科目、
プログラム科目等、系統別に分類し、毎年(あるいは前後期各1回程度)の点検・評価
150 第2章 学部
を制度化する。この場合、これらの集大成版は従来どおり2年ないし3年に1回の割合
で発行することでよいと思われる。
10−(2)
自己点検・評価と改善・改革システムの連結
【現状の説明】
1991 年の大学設置基準の大綱化以来、教育研究に対する各大学の「自己責任」は決定的
に大きくなった。本学部における自己点検・評価報告書の作成は、学部の教育研究の質や
水準の低下を防ぎ、その改善・向上に向けた学部としての取り組みの課題を明確にし、
「自
己責任」を系統的に果たしていくための基礎的データを得ることに主たる目的があった。
現在本学部には、学部における教育研究の実態を踏まえつつ、継続的に改革・改善に取り
組んでいくための数多くの委員会が立ち上げられている。教員組織に関して「商学部専任
教員採用に関する委員会」、教育課程に関して「商学部カリキュラム委員会」、学生の受け
入れに関して「入試広報委員会入試作業部会」、施設・設備等に関して「マルチメディア視
聴覚教室運営委員会」、等々である。
【点検・評価
長所と問題点】
学部内にある上述した委員会をはじめとする各種委員会は、いずれも『自己点検・評価
報告書』の作成以後に新設もしくは既存の委員会を改組して開設された。それは、学部の
教育目的・目標のより十全な実現に向けて、学部構成員の「生の声」を制度や運営にいか
に反映させていくか、という問題意識のもとに作られてきたものである。
例えば、専任教員人事に関して言えば、従来は教授会内で専門分野ごとに構成されてい
る部会(4頁参照)の、ほぼ専決事項のような取り扱いでその採用が決定されてきた。し
かし専門領域の細分化・学際化がすすみ、学生の教育ニーズが多様化している現状では、
さまざまな分野の識見を得て専任人事の問題を検討していくという視点が必要不可欠であ
る。
「商学部専任教員採用に関する委員会」は、かかる認識のもとに開設されたものであり、
その契機になったのは学部としての『自己点検・評価報告書』の作成であった。
このように、本学部独自の『自己点検・評価報告書』の作成は、学部の教育研究にかか
わる諸委員会の立ち上げに結果し、そこでの真摯な議論の継続は、ここ数年来の多分野に
わたる学部改革・改善の進展につながってきている。これは大いに評価されてよい点だと
思われる。しかし他方で、本学部教員にとって各種委員会に関連した雑務負担の著しい増
大は、教育研究に向けられるべき時間を圧迫し、教育研究者としての将来に対して懸念を
抱かせる不安材料の一つとなっていることも否めない事実である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部構成員の「生の声」を聞き、諸策を尽くしてそれに応えていくことは学部・大学に
課されている社会的責任の最も基本的な部分である。ただ、これを有限な人的資源のもと
で合理的・効果的に果たしていくためには、改革・改善に向けた課題の重要度、緊急度に
対する認識・判断が欠くべからざる前提となる。この点で、現在数十にのぼる学部内各種
委員会の整理・統合と教員間の各種負担の公平化の検討は、今後早急に取り組まれるべき
喫緊の課題である、と言えよう。
151
10−(3)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
本学部において、これまで2回にわたって作成されてきた『自己点検・評価報告書』の
開示の範囲は、1996 年度版は学部内教職員のみであり、1999 年度版からは学生にも開示さ
れることになった。学部の教育研究活動の実態を知ることは学生の固有の権利の一つであ
り、彼らの主体的努力と協力なくしてはその継続的改善は不可能である、と考えたからで
ある。ただ、現状は基本的には学内のみにとどまっており、学外に向けた開示とそこでの
第三者による検証を受けるには至っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
各大学・学部の自己点検・自己評価・自己向上こそ大学評価の原点であり土台である、
という視点から本学部における2回の『報告書』を見るならば、1999 年度版より学部の最
大の構成員たる学生へのその開示が実現されたことは、一定の前進であるとして評価され
てよい。
しかし、同時に第三者による批判・評価を受けて客観化されるのでなければ自己点検・
自己評価は十全なものとはなりえない、とする立場から言えば、そうしたプロセスを経て
いない「報告書」をベースにして取り組まれてきている諸改革・改善は、独りよがりの制
度いじりになっている危険性を孕んでいるものとの自覚が欠かせないものである。ここ2、
3年の学部内改革の動向を反芻し、今後を展望する際にはこの点の認識が決定的に重要で
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部次期『報告書』(2002 年度版)より、学外の第三者による評価を導入したい。そ
れは、自己点検・評価の客観性・妥当性の保証があってはじめて、社会の負託に応えうる
大学・学部の改革・改善が可能となるものであるからである。
10−(4)
評価結果の公表
【現状の説明】
見てきたとおり、本学部『報告書』の開示は、現在のところは学部内(教員・職員・学
生)にとどまるのものである。教職員に対しては各人に一部を配布し、学生に対しては「掲
示板」で告知のうえ、学部事務室窓口、学部図書室等日常の大学生活の中で学生の利用頻
度の高い部署を閲覧場所とし、各々複数部をその利用に供した。また必要に応じて学内他
機関(他学部教授会・事務室、図書館など)にも配布している。
一方、学外に対しては依頼があった場合のみ送付することとしている。1996 年度版、1999
年度版共に、他大学を中心に数十部の送付実績を持っている。地域社会に対しては現在の
ところ送付の実績はない。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部が、学内他学部にさきがけて作成した『報告書』を学部内構成員に公開し、それ
に対して意見等の提出を積極的に呼びかけてきたことは評価してよいことと思われる。し
かし、学部の最大の構成メンバーたる学生に対して自由配布が実現されていないことは大
きな問題点である。また、学内他機関を含む学内外への自己点検・評価結果の発信状況は
不十分な水準にとどまっており、この点での取り組みは決してシステマティックなものに
152 第2章 学部
なっていない。また、海外からの留学生の増加等高等教育のグローバル化が進みつつある
現状においては、評価結果の発信の範囲は外国の大学等をも含むものでなければならない
であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
当面以下のような諸課題に取り組みたい。
①
次期『報告書』(2002 年版)の、学生を含む学部内全構成メンバーへの自由配布の
実現、ならびにそこでの意見のフィードバック・システムの構築
②
学内他機関への配布数の増大
③
学外への系統的な発信への取り組みと外部評価結果の学内外への積極的な公開
④
高等教育のグローバル化に対応すべく自己点検・評価報告書の外国語版(当面は英
文によるダイジェスト版)の作成
153
理工学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
1949 年4学科からなる工学部として発足した時点では、
『中央大学理工学部創立 50 周年
記念誌』にあるように「総合大学設置の一貫として工学部が設けられたことは意義深いこ
とであり、敗戦日本が自立していくために工学部の使命は大きい。国土計画のための土木
工学、輸出振興のための精密機械学、工学全般にわたる電気工学、復興促進のための工業
化学が必要とされるので、工学部はこの四学科で構成される」と記されている。
現在では、数学科、物理学科、土木工学科、精密機械工学科、電気電子情報通信工学科、
応用化学科、経営システム工学科、情報工学科の8学科と共通科目を担当する語学教室、
地学・生物学教室、人文・社会教室および体育教室からなる学部として発展してきた。
本学部では『CHUO
UNIVERSITY
2002』に明示されているように、「マニュアルに頼ら
ず、豊かな感性を持ち、自ら新しい道を拓いていける有能な科学技術者を育成すること」
を学部の理念としている。
このために、これから科学技術がどのように進歩しようと柔軟に対応できるよう、基礎
学力の養成を重視している。一方で、国際理解や地球環境問題を含めて、幅広い教養と総
合的な判断力を持つ人間性の育成にも力を注いでいる。
この結果、昨今の不透明な経済環境にあっても本学部の卒業生の就職状況はきわめて順
調であり、現在 47,000 名を超える卒業生が、社会の各分野で活躍している。また技術開発
が生命線のメーカーでは大学院修了者を採用する企業が増えているため、各専攻分野にお
いてさらに研究を進めたい学生は、積極的に大学院に進学している。
【点検・評価
長所と問題点】
月1度、教室委員連絡会議(8学科および各教室主任で構成)が学部長により開催され、
全学での審議・報告事項を検討するとともに、学部の理念・目的・教育目標とそれにとも
なう人材養成等の目的の適切性を含め本学部内での諸問題について点検・評価を行ってい
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
(1)学部運営について
現状では、既存の8学科に加えて新たな学科を新設する計画はないが、既存学科の内容
については社会の要請に応えるように常に見直しをしていく計画である。また、実験実習
体制の向上のために現行の実験講師および技術員の制度を見直し、専任教員の担当時間を
考慮しつつ、専任教員による実験実習体制をさらに強化していくべく現在鋭意検討中であ
る。
(2)後楽園キャンパスの再開発計画と教育研究施設の充実について
中央大学百周年記念事業の一環として、後楽園キャンパスには、1980 年に本学部5・6・
7号館および中央大学高等学校校舎(8号館)が新築され、また 1982 年に既存棟の1・2
号館が改修(3号館は未改修)されて、教育研究施設が一応整備された。しかし、爾来、
今日に至る間での約 18 年間に、後楽園キャンパスに所在する理工学部、大学院理工学研究
154 第2章 学部
科および中央大学高等学校の教育研究活動は飛躍的に発展し、また積年の諸懸案も累加す
るに及んで、既存の諸施設のみでは将来はもとより現状の教育研究活動にも諸種の大きな
支障を生じるようになった。
それらの支障を克服するため、理工学部校舎の建設を含む、後楽園キャンパスの再開発
計画を総合的に検討し、今後の教育研究活動に対して緊急かつ必要不可欠な施設として新
棟を後楽園キャンパスに建設する計画を策定した。
―後楽園キャンパスに建設を予定している新棟の内容―
後楽園キャンパスに建設を予定している新棟に収容する施設は、理工学部関連施設、理
工学研究科関連施設、理工学研究所関連施設、学生生活関連施設および中央大学高等学校
関連施設を基本とし、さらに、都心校地の有効活用の観点から、社会人を対象とした文系
の大学院機能と付随する図書館機能および外部との共同研究や受託研究を可能とする研究
スペースを設置する。
計画建物の概要(予定)
1.建物名称
後楽園キャンパスの教育・研究関連施設及び学生生活関連施設(仮称)
2,建設主
学校法人中央大学
3.建設場所
文京区春日一丁目 13 番 27 号
4.主要用途
学校(大学、一部高等学校を含む)
5.敷地面積
27,545.87 ㎡
6.建築面積
1,970 ㎡
7.延べ面積
19,300 ㎡
8.建 坪 率
41.99%
9.容 積 率
274.02%
10.階
数
地下2階、地上 14 階、塔屋1階
11.高
さ
建物高さ
59.90m
最高高さ
71.20m
12.工
期
平成 13 年 11 月1日∼平成 15 年2月 28 日(16 カ月)
<数学科>
すべての科学の「言葉」として、数学は昔から人間社会の営みに深くかかわってきてい
る。現代の産業技術を支える物理・化学など自然科学の理論の基盤には数学がある。また
コンピュータもすべて数学の論理演算の応用といえる。数学科ではまず数学の基礎概念と
手法を身につけ、徐々に広い視野を養いながら、自分が興味を持つ方向を見定め、その方
面の研究成果を学んでいく。卒業時には、大学院に進む人は最新の研究の入口が見え、ま
た就職する人は論理的にものごとを判断し、処理する力が備わることを教育目標としてい
る。
<物理学科>
物理学は素粒子のようなミクロの世界から、宇宙のような無限とも思われる世界を相手
に、そこにかくれる自然法則を解き明かし、より基本的、普遍的な姿で自然を捉えようと
155
する学問である。またコンピュータ、超伝導など現代の先端技術の基礎科学でもある。物
理学の基本は力学、電磁気学、統計熱力学、量子力学である。これらの学修によって、基
礎法則とともに、それぞれに特有な自然観と物理的概念を知ることができる。さらにその
数学的基盤を学べば、物理学を超えた普遍的なものの考え方ができるようになる。物理学
科ではこれらの修得を特に重視している。
<土木工学科>
英語で土木工学は Civil Engineering(=市民工学)、つまり人々が暮らしやすい社会基
盤を作るための技術である。対象となるのは公園や上下水道などの都市施設、道路、鉄道、
港湾、空港といった交通施設、発電所やパイプラインなどのエネルギー供給施設、ダムや
堤防などの防災施設、そうした施設のまとまりである地域や都市である。土木工学科では
これらを計画、設計、建設、管理する技術を学ぶ。土木工学は自然と人間の接点にあり、
自然や人間社会の持つ力を活用して、人々の生活や文化などと調和させていく、きわめて
人間的な学問である。
<精密機械工学科>
ロボット、コンピュータ、ビデオ・オーディオ機器、自動車、航空機、人工衛星、そし
てあらゆる生産機械、これらの機器はすべて精密機械工学の粋を集めて作られている。機
能の高度化が進み、構造が複雑になるほど、部品やメカニズムの小型化が求められる。そ
してそれらを設計・製造し、正確に作動させるには、超精密な加工・生産技術や計測・制
御に関するシステム技術が不可欠となる。そうした技術のもととなる精密機械工学は力学、
計測・制御、情報処理、材料、加工・生産などの幅広い分野を統合、体系化した学問であ
る。精密機械工学科ではその基礎から徹底的に学ぶ。
<電気電子情報通信工学科>
誰でも一度は抱いた疑問:「目に見えない電気が、どうして音声や文字や画像を運ぶの
か?機械を動かせるのか?」そんな不思議を解明できるのがこの学問である。すなわち、
現代社会を支える電気という自然現象の原理と応用方法を幅広く学び、自ら創造できる人
材を育成する。対象分野には、エネルギー関連(発電、送電など)、物性・材料関連(半導
体など)、回路・デバイス関連(LSIなど)、情報通信関連(情報の伝送)、メカトロニク
ス(ロボット)関連などが含まれ、各分野で指導的な役割を果たせる技術者、研究者の育
成を目指している。また、国際化・情報化社会への対応能力を養うことにも力を入れてい
る。
<応用化学科>
人類の抱える問題に化学の視点から解決策を見出そうとしているのが応用化学である。
現在、分子・原子レベルの分子設計から、各種の応用技術に至る基礎の充実に研究が集中
しており、近い将来、大幅に飛躍した高度な化学技術が広く展開されようとしている。
応用化学科ではますます多様化しつつある応用化学の基礎づくりと、その応用技術への
弾みをつける知識の習得、他分野との境界領域まで一歩踏み込めるだけの力量の養成を目
指している。開発途上国では石油化学や金属精錬などの化学工業が依然重要であり、海外
で指導者として活躍する卒業生も多くいる。
<経営システム工学科>
経営システム工学は、ソフトウェアやサービスを含めたさまざまな商品、工場の経営管
156 第2章 学部
理だけでなく企画・設計から販売まで企業経営の意思決定にまつわるあらゆる部門にわた
る活動を対象とし、これらにかかわる問題を科学的理論と実践的技術によって追求する学
問である。経営システム工学科では、人、資金、設備、情報などの経営資源を社会および
環境も考慮に入れた全体的・客観的な視点から捉え、システム思考や情報技術を含めた工
学的手法の適用を通して、組織運営の最適化および効率化を図るための方法論を学ぶ。こ
れによって、問題を自ら発見し、解決できる能力を持った人材を育成するのがねらいであ
る。
<情報工学科>
情報工学は情報処理の仕組みを開拓し、その実用化を担うために生まれた学問である。
情報工学科ではコンピュータのハードウェアとソフトウェア、基礎とその応用を理解し、
情報の伝達、蓄積、処理、表示などの理論と技術開発について体系的に学ぶ。またハイク
オリティ情報処理−例えば計算の解についてあらかじめその精度・性能を保証するための
技術、コンピュータをもっと使いやすくするための技術、システムの集積化の技術、誤り
のないプログラムを作成するための技術−を目指した教育も特徴である。科学技術のどの
ような進歩にも対応できる基礎学力を養う。
<全学科共通科目>
本学部では専門科目以外に外国語教育科目および総合教育科目を履修する。各自の専門
と直接関係の薄いことも学ぶが、大学卒業生には専門知識だけでなく、基礎的な知識や幅
広い教養を身につけていることが求められる。さらに、自分の専門と無関係に思われる知
識が専門知識を理解するために必要であったり、社会に出てから重要になることも多い。
本学部ではそれぞれの分野の専門家である専任の教員を中心にして幅広い分野の授業が行
われている。
2.教育研究組織
【現状の説明】
<理工学部>
科学技術の急激な進歩にともなって発展する広範囲の専門分野に対応できるよう、本学
部においては8学科の教育研究組織を持っている。さらに大学院では、それぞれの専門分
野における研究を高度に発展させ、
「個性ある専攻、特色ある大学院」をモットーに8専攻
を組織している。また理工学研究所では、大学院と共同して広範囲な研究領域について大
学院学生も含めた研究グループを構成している。
本学部は、数学科、物理学科、土木工学科、精密機械工学科、電気電子情報通信工学科、
応用化学科経営システム工学科、情報工学科の計8学科から構成されている。
本学部の専任教員は、教授 106 名、助教授 18 名、専任講師5名、実験講師 16 名、合計
145 名である。
なお、この教員数には、電気電子情報通信工学科の特任教授1名を含んでいる。また、
兼任教員は、221 名である。
<数学科>
数学科は、教授 10 名、助教授2名、専任講師1名で構成されている。
<物理学>
157
物理学科は、教授 11 名、助教授2名、実験講師4名で構成されている。
<土木工学科>
土木工学科は、教授 11 名、助教授2名、実験講師1名で構成されている。
<精密機械工学科>
精密機械工学科は、教授 13 名、助教授2名、実験講師2名で構成されている。
<電気電子情報通信工学科>
電気電子情報通信工学科は、教授 12 名、特任教授1名、助教授3名、実験講師1名で構
成されている。
<応用化学科>
応用化学科は、教授 10 名、助教授3名、専任講師1名、実験講師6名で構成されている。
<経営システム工学科>
経営システム工学科は、教授 11 名、助教授1名、専任講師1名、実験講師2名で構成
されている。
<情報工学科>
情報工学科は、教授9名、助教授1名で構成されている。
<全学科共通科目>
本学部の共通科目である、英語、独語・仏語・中国語・人文・社会、地学・生物学、体
育については、教授 18 名、助教授2名、専任講師2名で構成されている。
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度より理工学部二部(夜間部)の学生募集を停止し、2003 年度には一部(昼間
部)のみとなるため、収容学生定員が減少する。これにともない、教員数の適切な配分の
点検・評価を 1998 年 12 月に行い、これに基づき順次削減を行っている。現在では、学部
ごとの学費など収入に応じた予算単位制度に移行しており、これによる教員人件費枠が設
定されている。この中で適切な教員数を運用するように改善されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の教育研究組織は学部内の各学科がそのまま大学院を構成する、いわゆる「煙突」
型となっており、教員採用は学部で行っており、大学院専任の教員はいない。将来的には
大学院が時代に対応して変化する新専攻を設ける必要があること、一般教育的科目の多様
性を図ることなどを考慮し、任期制など教員採用の柔軟性を活用して教員数増加を図る方
策をとるべきである。
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
<理工学部>
【現状の説明】
1.理工学部の教育課程の特色は、以下のとおりである。
大学設置基準の大綱化を踏まえて、1994 年度よりカリキュラムの大幅な改革を実施する
とともに、その後も見直し作業を重ねてきた。すなわち、従来、本学部に設置されてきた
一般教育科目および保健体育科目については、設置科目および単位を見直し、保健体育科
158 第2章 学部
目は総合教育科目の1群、人文・社会系の科目は総合教育科目の2群、自然科学系の科目
は総合教育科目の3群として再編成した。
また、従来の外国語科目については、
「英語」を外国語教育科目の1群、
「ドイツ語」
「フ
ランス語」「中国語」を外国語教育科目の2群として再編成した。
卒業に必要な単位については、学科ごとに専門教育科目との関連において見直した。
総合教育科目と専門教育科目との関連については、総合教育科目が理工学を学修するに
あたって、基礎的知識を涵養するとともに、専門知識を育むうえで必要かつ重要な授業科
目によって再編成されたことから、相互に緊密な関係があると言える。
(1)専門教育について
専門教育科目は、それぞれの学科の担う基礎研究・応用・開発の諸分野で活躍できる知
識と技能を持ち、指導的役割を果たす人材育成を意識し、それぞれの学科の独自性に基づ
き専門教育科目と総合教育科目の連結を図り、学科ごとの特色あるカリキュラムを編成し
た。
(2)外国語教育の充実・強化について
英語教育については、国際化時代への対応能力を体得させるため、国際共通語としての
英語教育に重点を置き、必修の英語の他に、一部(昼間部)に選択の英会話を学部共通的に
設置し、また、一部の学科においては、
「英語3」(上級英語)、
「科学技術英語」
「英語文献
研究」を設置した。さらに、TOEFL など英語検定試験への対応を視野に入れた特別英語を
履修できるようにした。
ドイツ語・フランス語・中国語教育については、外国語の多様化を図り、学生の自主性
を重んじ選択の幅を拡大した。
(3)情報処理能力を高める教育について
情報化時代への対応能力を体得させるために、全学科において情報処理教育を充実させ
た。また、情報研究教育センターにおいても、急速に高度化・多様化する情報環境に対応
すべく、組織の改善および施設の整備を図ってきた。特に、情報研究教育センターでは、
授業の空き時間には学生に自由に利用させ、大学院学生がアドバイスするシステムをとり、
教育環境の充実を図った。
(4)総合教育科目の体系的・総合的な設置について
人文系と社会系の科目は、学部共通科目とし、国際理解と地球環境問題を含めて融合さ
せ、幅広く深い教養と総合的判断力を持つ豊かな人間性を涵養すべく、専門教育との有機
的関連のもとに体系的かつ総合的に科目を設置した。
自然系の科目は、理工学に関する基礎科目の充実を目的とし、理工学に関する基礎科目
群および各学科が必要と認めた自然科学系の基礎科目群であり、学科ごとに充実を図った。
(5)保健体育教育充実および弾力化について
保健体育科目については、学生の心身健康を維持増進するための知識の習得および実践
を目的とし、課外活動による自主的な体力増強の期待を図り、一部の学科においては選択
科目とした。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
159
理工学部の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・130 単位、126 単位(数学科のみ)
理工学部の開講授業科目総数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1,036 科目
理工学部の卒業所要総単位に占める学部平均専門教育的授業科目比率・・・・・・・56.7%
理工学部の卒業所要総単位に占める学部平均一般教育的授業科目比率・・・・・・・30.1%
理工学部の卒業所要総単位に占める学部平均外国語授業科目比率・・・・・・・・・13.2%
【点検・評価
長所と問題点】
教育課程についての適切な点検・評価・改善が行えるよう、各学科・教室の委員により
構成される三つの委員会を本学部内に設けている。一つは、学科目・教養・二部(夜間部)
を含め教育課程全体についての総合的な検討を行うC委員会であり、教育課程の点検・評
価を毎年継続的に行い、4年ごとには大幅に見直しを図っている。もう一つは、時間割や
シラバス(講義要項)などC委員会の定めた方針に従って教育課程の実施面を担当するE委
員会であり、学生に対する学習指導も担当している。最後は、教職全般に関する審議を行
う教職課程委員会である。これら三つの委員会は相互に密接な連携を図りながら学部・学
科の教育課程の検討を進めている。
1994 年以降、卒業単位数、単位数などについては学部共通の枠組みを設けながら、学科
ごとの教育目標・実情に応じた大幅な独自性を認めている。また、その中で、必要に応じ
て学科相互で連携をとりながら知的財産法関係科目など共通性のある科目を設置している。
また、数学、物理、化学については専門の学科の協力を得ながら授業を行っている。
今後の取り組みが必要なものとしては、入試への多様化、高等学校の新指導要領への対
応がある。また、文系キャンパスと離れている中、いかに他学部と協力し総合的な教育を
実現するかが大きな課題となっている。さらに、多くの学科が情報分野の教育に力を入れ
たカリキュラムの改訂を行ってきた結果、計算機端末室の拡充が必要となってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2000 年度より二部(夜間部)を募集停止したことにともない、大幅な教育課程の改変が
可能となりつつある。授業実施の方法を含めて検討を進めている。また、入試の多様化や
高等学校の新指導要領などによる学生の学力や意識のばらつきに対応するための補習授業
や学生からの意見収集などについても検討中である。さらに、総合的な教育を実現するた
め、他学部履修の有効活用など、理系と文系の教員の相互協力を積極的に図っていくとと
もに、インターンシップ等を介した社会との連携、大学院との連携についても考えている。
また、いくつかの学科ではJABEE(日本技術者教育認定機構)による教育プログラム
の認定に取り組む計画があり、学部としても積極的に支援・協力できる体制を整えていく。
<数学科>
【現状の説明】
1.数学科の特色
1年次はまず基礎固めとして、集合、写像、数列、極限、連続などを厳密に取り扱うこ
とから始める。情報処理とその演習は必修科目で、コンピュータ、ネットワーク、プログ
ラミングの基礎を習う。2年次では基礎から専門へと発展し、統計数学第1(確率と統計の
基礎)が加わり、数学の全分野が出そろう。
3年次では各自がさらに深く学びたい科目を選んで、重点的に履修する。4年次では卒
業研究に加え、専攻や周辺分野など必要に応じて選択できる、特定のテーマの講義を多数
160 第2章 学部
用意している。教職志望者には追加の必修科目があり、教育実習を行う。
2.教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修
得単位数より比率を算出)
数学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126 単位
数学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・128 科目
数学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・・・・・58.7%
数学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・・・・・27.0%
数学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・・・・・14.3%
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度からセメスター制に移行し、また、数学の主要科目の講義と演習を統合して週
2回の開講として、科目の選択に幅を持たせるようにした。また、2001 年度から、教職「情
報」を取得できるように科目の新設・再編を行った。また、科目等履修生制度を導入、社
会人、高校生の受講を積極的に受け入れている。現在、新カリキュラムへの移行段階であ
り、授業実施の面において配慮が必要となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
週2回開講の主要科目の配置、科目等履修生の受講への配慮など、時間割の組み方に工
夫が必要である。卒業研究、大学院の講義、セミナーなど各教員の時間配分が難しい状態
であるが、5時限目、6時限目の有効活用などを検討している。
<物理学科>
【現状の説明】
1.物理学科の特色
物理学は経験・実験に基礎を置く学問である。物理実験を通して自然現象に直接触れた
り、計算機シミュレーションでミクロの世界をかいま見たり、そうした学生自身が参加で
きる授業をカリキュラムに組み込んでいる。4年次には他学科と同様に研究室に所属する
が、本学科では理論系の7研究室、実験系の6研究室がある。ここで素粒子物理、物性物
理、高分子物理、流体物理、非線形力学、フラクタル物理など最先端分野に触れることが
できる。なお学内の実験施設を補うものとして、理化学研究所、東京大学物性研究所など
の共同施設が利用可能である。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
物理学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
物理学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・117 科目
物理学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・・・・54.6%
物理学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・・・・31.5%
物理学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・・・・13.9%
【点検・評価
長所と問題点】
カリキュラムについてはC、E委員を中心に教室会議等で議論し、点検・評価を行って
いる。各教員が独自のテーマを持って卒業研究の指導にあたり、限られた教員数にもかか
161
わらず物理学の広い分野をカバーしていることは本学科の特色である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、専門分野での語学(特に英語)教育をより充実させていくことを計画している。
<土木工学科>
【現状の説明】
1.土木工学科の特色
土木工学の対象は、道路、鉄道、ダム、上下水道、橋、空港、港など、人間の生活に欠
かせない重要な施設・設備である。言いかえれば人々が快適で安全に生活するための整備
が土木工学の使命であると言える。そこで本学科では、日々技術革新が行われている現状
を踏まえて、基礎教育を重視したカリキュラムを組んでいる。基礎を固めたうえで、新技
術に対応できる応用力をつけ、さらに新技術を生み出せるだけの思考力を備えた技術者の
養成を主眼にしている。講義だけでなく演習、実験、実習をとおして専門知識を学び、さ
らに新しい時代のニーズに対応できる分野についても学修する。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
土木工学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
土木工学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・138 科目
土木工学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・・・49.2%
土木工学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・・・35.4%
土木工学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・・・15.4%
【点検・評価
長所と問題点】
主要専門科目については必ず演習を設け、基本知識の理解の徹底を図っている。また特
別講義、特別演習などにおいて、変化しつづける新しい社会のニーズについて学生に情報
を提供している。その他、社会的要請に応えるべく積極的に科目の見直しを行っている。
近年の学生の外国語また表現力(文章化し、人に説明する)の低下への対応が十分でない
点については今後の取り組みが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2003 年度を目途に、多様化する学生の質に対応するため、抜本的なカリキュラム改正を
予定している。
<精密機械工学科>
【現状の説明】
1.精密機械工学科の特色
1年次の専門教育科目では精密機械工学で最も大切な基礎を修得し、道具として大いに
利用するコンピュータの使い方を学修する。またハイテク製品を用いた演習を通して精密
機械工学の役割を理解する。グローバルな思考を養うことを目的とした、外国語、総合教
育科目を中心とした授業もある。2年次からは次世代を担う技術者となるための専門科目
の授業が本格的に始まる。専門科目は機械サイエンス系、メカトロニクス系、エコ・プロ
セス系の三つに大別されているが、もちろん複数領域を学ぶことも可能である。そして最
終年次では最先端の研究領域へと入っていく。
162 第2章 学部
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
精密機械工学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
精密機械工学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129 科目
精密機械工学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・61.6%
精密機械工学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・29.2%
精密機械工学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・9.2%
【点検・評価
長所と問題点】
専門教育科目は必修、選択必修、選択科目に分けられるが、選択必修科目を多く用意す
ることにより、学生の希望に応じた専門性を高めることができている。ただし、学生がど
れほど機械サイエンス系、メカトロニクス系、エコ・プロセス系の三つの系を認識し、科
目を選択しているのか、フォローする体制が整っていない点については今後の検討が必要
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
精密機械工学科の教育目標は、「もの作り」のための専門知識と専門技能を教授するこ
とである。専門知識に関しては工学基礎から最先端分野まで現行のカリキュラムで扱われ
ており、改善すべき点はない。しかし、演習や実験の時間数が十分ではなく、専門技能の
育成に関しては工夫の必要がある。教員が学生の履修状況を把握し、必要に応じアドバイ
スができる体制、例えば各教員がそれぞれ少人数の学生を担当する少人数クラス担任制な
どを検討している。
<電気電子情報通信工学科>
【現状の説明】
1.電気電子情報通信工学科の特色
数多くの選択科目から興味のある分野を体系的、かつ効果的に学べるようになっている。
1つのヒントとしてネットワーク・システム系、デバイス・材料系、計測制御系、情報通
信系、電力エネルギー系の5つに大別した履修モデルがある。選択によっては、第1種電
気主任技術者、第1級陸上無線技術士、電気通信主任技術者の資格取得につなげていくこ
とも可能である。また、各教員の設定する面接時間を利用すれば、1年次からきめ細かい
学習指導が受けられ、進路、専門分野選択などについてもじっくり相談できる。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
電気電子情報通信工学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
電気電子情報通信工学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・121 科目
電気電子情報通信工学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・60.0%
電子電子情報通信工学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・26.2%
電気電子情報通信工学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・13.8%
【点検・評価
長所と問題点】
近年電気電子情報通信工学の分野で進んでいる専門化、多岐化に対応するため、三つの
163
履修モデルコースを設置する一方、各モデルコースが共有する情報処理や数学、物理、回
路理論、電磁気などの基礎科目も強化している。また、今まで高学年で行っていた専門科
目を低学年に移行することで、学生に最先端の知識を早い時期に触れさせ、技術者として
の専門意識と、勉学、研究の意欲の向上を図っている。さらに、海外の科学技術文献の活
用能力を高めるために、
「科学技術英語」を「卒業研究」と平行して、4年次に設置してい
る。現時点では、このような方針はおおむね適切であると考えている。問題点として、各
履修コースにおいて3年次の科目配置が過密状態にあることがあげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在のカリキュラムに最新の技術進歩を反映しながら、各モデルコースにおける基礎理
論と専門科目を整理統合して、体系化することである。すなわち、各年次配当科目間の内
容が、基礎的な事項から専門的知識えと順次理解できるよう体系化し、内容の整合性を図
ることを検討している。
<応用化学科>
【現状の説明】
1.応用化学科の特色
企業が従来の業種を超えて新分野へとあざやかに転進する時代となった。化学技術者・
研究者も特定の狭い分野にとどまってばかりはいられない。ユニークな想像力と活力のあ
る化学者として活躍するためには、学問の広さと深さが必要である。本学科では1・2年
次は主に基礎化学であるが、3・4年次には無機化学系、有機化学系、物理化学系、化学
工学系などの選択科目を置き、希望に応じて系統的に履修できるようになっている。また
特定の系統に属する選択科目のみに偏った履修方法は避け、なるべく多くの講義を受けら
れるように、授業時間割の点でも工夫している。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
応用化学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
応用化学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123 科目
応用化学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・・・59.2%
応用化学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・・・30.0%
応用化学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・・・10.8%
【点検・評価
長所と問題点】
セントラルサイエンスとしての化学は環境、情報、バイオ、材料を支える大きな分野に
発展してきている。この流れの中で学生に物理化学、有機化学、無機化学、化学工学の基
礎的知識を1年次からしっかり身につけさせるとともに、情報処理能力の知識を含めた幅
広い分野に目を向けるように必修、選択科目として履修できるように工夫している。4年
次には卒業研究においてマンツーマンで各自にテーマを与え実験計画の立て方、論文検索、
結果のまとめ方、そして研究発表までを指導する体制ができている。最新の論文を読みこ
なす英語力を養う科目や数学の応用力を身につける科目など学力不足を補強していく科目
が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
164 第2章 学部
化学英語や応用数学などを新しい科目とする必要があるが、現在でも教員の負担が大き
く専任教員が担当するのは現状で無理があるので、科目の精選も含めて検討中である。ま
た、選択科目の履修については、現在学生の自主性にまかせているが、履修の際に既修内
容項目を前提に講義を進めているので履修の順序をシラバスに記するような工夫を現在検
討している。
<経営システム工学科>
【現状の説明】
1.経営システム工学科の特色
現在、経営システム工学科の扱う範囲は急速に広がっている。そのため講義は多様な分
野にわたる。品質管理、新製品開発、生産管理、工場計画、経済性工学、信頼性工学、デ
ータ解析、システム工学、OR、最適化手法、ソフトウェア工学、知能システム工学、人
間工学など、
“学際的”と呼ぶにふさわしい広がりを持っている。また特徴的な科目として
新製品開発編と人間工学編からなる実験A、工程設計編の実験Bがある。例えば新製品開
発編では清涼飲料水を例に、味覚、視覚によって製品の好感度を調べる実験を行い、新製
品開発の理論と実態を学ぶ。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
経営システム工学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
経営システム工学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・118 科目
経営システム工学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・50.8%
経営システム工学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・33.8%
経営システム工学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・15.4%
【点検・評価
長所と問題点】
カリキュラムについては教室会議において定期的に議論し、見直しを図っている。また、
見直しにあたっては、卒業生からのアンケート等の情報を活用している。経営工学分野、
数理システム分野、応用情報システム分野の三つに分けて系統的なカリキュラムを編成し
ており、中でも数理システム分野は学科開設以来注力してきた。また、応用情報システム
分野は社会的な変化を受けて近年大幅な拡充を図ってきた。これらは、他大学類似学科と
比較した場合の本学科の特徴となっている。また、実務に近い課題を設定した実験を2∼
3年次に設けることで効果的な学修ができるよう工夫している。さらに、一般教育科目・
外国語教育科目と専門教育科目の選択の自由を認めており、総合的な能力の育成にも配慮
している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生が実務における課題を理解したうえで学修に取り組めるよう、実務家を講師に招い
た講義やインターンシップなどの科目を設ける予定である。また、専門領域がますます拡
大する方向にあるため、学生が自分の興味に応じて科目を選択できるよう、科目の充実を
継続的に検討していく。さらに、学科の柱となっている三分野の相互のつながりをより密
なものにするため、講義内容についてのきめ細かな調整を図るための教員同士の会合を定
期的に開くことを考えていく。
165
<情報工学科>
【現状の説明】
1.情報工学科の特色
数値的・非数値的情報処理技術に関する基礎を修得できるように必修科目を配置してい
る。また、いくつかの基本的プログラミング言語を修得する演習を3年間にわたって必修
として設けており、いろいろなプログラム言語を駆使できる技術者としての素地を固める
ことができる。さらにハードウェア系の基礎理論にはじまり、現在のコンピュータ技術を
支える集積化技術の基礎知識までが、実験を併用して修得できる。ハードウェア系、基本
ソフトウェア系、応用ソフトウェア系、人工知能系四つの履修モデルのいずれかを軸に学
問を深めていく。
2. 教育課程の開設授業科目数、卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目・一般教育
的授業科目・外国語科目等の配分比率について(一般教育科目と外国語教育科目は最大修得
単位数より比率を算出)
情報工学科の卒業単位数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 単位
情報工学科の開講授業科目数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 科目
情報工学科の卒業所要総単位に占める専門教育的授業科目比率・・・・・・・・・・59.2%
情報工学科の卒業所要総単位に占める一般教育的授業科目比率・・・・・・・・・・27.7%
情報工学科の卒業所要総単位に占める外国語授業科目比率・・・・・・・・・・・・13.1%
【点検・評価
長所と問題点】
現在普及しているコンピュータの使い方を教授するだけでなく、科学技術のどのような
進歩にも対応できる基礎学力を養成することにより、情報工学がかかわる多彩で魅力ある
分野において縦横無尽に活躍できる知性と能力を備えかつ指導的な役割を果たせる人材を
育成できるような教育課程となっているかについて、随時、情報工学科の担当2教員が点
検し教室会議において全教員で評価している。現状では目標をほぼ達成できるものとなっ
てはいると考えている。ただし、「科学技術英語」(英文で書かれた科学技術の書籍や論文
を通して、科学技術を学ぶための読解力の養成、および、科学技術論文の論理展開法の修
得を目的とする3年次の科目)については、学生の基礎学力に対応するべく授業内容の工
夫が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記目標を達成できるような教育課程となっていることを随時本学科の担当2教員が
点検し教室会議において全教員で評価する方法は効果的に機能しており、今後も継続して
いく。問題となっている科学技術英語については、学生の基礎学力に対応するべく授業内
容の一層の充実を図っていく。
<全学科共通科目>
【現状の説明】
1.全学科共通科目の特色
〔外国語教育科目〕
外国語教育科目は1群、2群に分かれている。1群には英語、2群にはドイツ語、フラ
ンス語、中国語が設置されている。どの学科も世界共通語としての英語を重視しており、
1・2年次の英語科目が必修となっている学科が多く、上級年次には英会話や科学技術英
166 第2章 学部
語、上級英語のような科目が用意されている。さらに、TOEFL など英語検定試験への対応
を視野に入れた特別英語を履修することもできる。また、さまざまな異文化が併存する現
代に求められる広い視野と柔軟な判断力の育成のために、英語以外のドイツ語、フランス
語、中国語のいずれかを学ぶことになっている。外国語教育科目の目標の一つは、各専門
分野において求められる外国語文献の読解に必要な基礎語学力の養成である。そのために
は日常一般の言語としての外国語の修得が有効と考えられている。またわが国の科学技術
者がますます世界各国の科学技術者とかかわりを深めている今日、コミュニケーションの
ための外国語運用能力がおおいに求められている。各語学科目の担当者は、これらの目標
や時代の要請を考慮して教材に授業に工夫を凝らしている。
〔総合教育科目1群〕
より豊かな生活を送るためには、健康が基礎になければならない。総合教育科目1群で
は、健康・体力づくりと生涯スポーツを目標として行われる。体育実技は、スポーツを楽
しみながら仲間づくりを行ういい機会ともなる。総合教育科目1群には「体育実技1」、
「体
育実技2」と「健康・スポーツの科学」が設置されている。
「体育実技1」は1年次で、
「体
育実技2」は2年次から、
「健康・スポーツの科学」は2年次(電気電子情報通信工学科で
は1年次)で、それぞれ各学科のカリキュラムに従って履修する。
〔総合教育科目2群〕
総合教育科目2群は、人文・社会系の講義を中心に、幅広い話題を盛り込んで新しく編
成されたもので、学生の発想や会話の中により豊かな材料を提供する。具体的には、
「人間・
思想」、「社会・生活」、「歴史・環境」の3領域からなり、さまざまな専門分野を含みなが
ら、その境界にあたるテーマも広く取り上げている。また、発表力、文章力など自己表現
力の向上を目的とした少人数制の演習科目も開かれており、特に中学・高校の教員を目指
す学生には履修を勧めている。
〔地学・生物学〕
物理学科・応用化学科の専門教育科目として、地学、地学実験、生物学、生物学実験が
置かれている。
【点検・評価
長所と問題点】
ドイツ語、フランス語、中国語が全学科に開講され、学生は3つの第二外国語を選択し
て履修できるようになっている。また、総合教育科目2群については1∼4年または2∼
4年通して自由に履修できるように配慮されている。ただし、時間割上、総合教育科目と
専門科目と重なっているところがある点や第二外国語が必修となっていない学科があり、
約 20%弱の学生が履修していない点については見直しが必要である。
外国語教育科目や総合教育科目については兼任講師に依存する部分も多いが、毎年、担
任者会議を開き、全担当者が一堂に会し、前年度の総括を行うなど、教育方針や教授法に
ついて活発な意見の交換が行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他学部との協力を図りながら、総合教育科目の充実を図っていく。また、国際化等の進
展に適切に対応するため、外国語能力のさらなる育成を目指し、英語、第二外国語の高年
次向けのネイティブによる少人数クラスの開設を検討していく。また、外国語教育科目や
総合教育科目については、学科ごとの特殊性を考慮しつつ、統一的な教育課程が実現でき
167
るよう検討していきたい。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
本学部では、基礎学力の養成を最も重視している。基礎学力がしっかりしていれば、今
後の科学技術がどのように進歩しても柔軟に対応できるからである。一方で、国際理解や
地球環境問題を含めて、幅広い教養と総合的な判断力を持つ人間性の育成にも力を注いで
いる。また、新入生の高校における科目の履修状況や、入学試験の違い等を、基礎教育を
実施することで共通の基礎学力を持つことにつながっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部では、後期中等教育から高等教育へ円滑に移行できるような教育指導上の配慮と
して、専門教育科目の基礎科目として総合教育科目3群を設置し、数学、物理、化学につ
いて高校での履修状況等を配慮しつつ講義を進めている。
各学科とも1年次に入門的科目や演習形式の科目を配置し、高校からのスムースな移行
を図っている。また、推薦図書リスト等を準備し、入学前・入学後に配布している学科も
ある。さらに、付属高校、推薦入試の指定校などを中心に、特別講座・特別講義の講師派
遣も行っている。
高校で理科を一科目しか履修していない学生が今後増加するものと思われるが、C委員
会では 2000 年度、1年生および4年生に対してアンケートを行い、この結果をもとに学科
ごとに補習授業の必要性、その実施方法について検討している。
ただし、このような取り組みにもかかわらず、高校までの受け身の学習から大学での自
発的な勉強に転換できず時間を無駄にする学生、問題をパターン化してパターンごとに解
き方を覚えるという暗記中心の勉強方法から脱することができず大学の授業で頻繁に使わ
れる論理的な推論についてこられなくなっている学生などが少なくないのも事実であり、
今後の対応が必要となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
C委員会において継続的に点検・評価され、将来の計画も検討している。
各学科では、入学前準備教育・入学後補習授業について、希望者に限定した合宿形式で
の授業、高校レベルの教材を使って論理的な推論によって問題解決を図ることの重要性を
認識させその訓練を行う授業、少人数セミナーを1、2年次へ配当し、意欲のある学生を
さらに伸ばすとともに、高校との連続性を一層高めることなどを検討している。また、数
学や物理に関しては、補習・未履修クラスの設置の他、夏休みや春休みを活用して短期集
中講座を開講することも検討している。また、これに関連して、学外や大学院学生の協力
を得ることについても検討している。ほとんどの新入生が理数系の受験科目を重点的に学
習してきたため、国語、世界史、日本史、地理、倫理社会などの知識が乏しい学生も多い
が、これについては総合教育科目や第二外国語科目で補う工夫をしていく。
付属の高校を有している点を有効活用し、事例研究的に高・大接続問題を検討する機会
を設け、このノウハウを一般の高校との連携に活かすことを考えている。
168 第2章 学部
3−(1)− ③
履修科目の区別
<理工学部>
【現状の説明】
各学科において検討され、C委員会で学科間の調整が図られている。最終的な案につい
ては、教授会で審議・決定されている。
【点検・評価
長所と問題点】
外国語教育科目、総合教育科目を含め、各学科の専門領域の特徴に応じた必修・選択の
量的配分が考えられている。また、各学科の独自性のもとに検討されたことが、C委員会
に諮られる過程で、他学科の方針にも適宜反映されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
C委員会において継続的に点検・評価し、将来計画を検討している。
各学科の専門領域は今後ますます拡大する方向であり、基本的に選択の自由度を増やす
方向で検討することになる。一人ひとりの学生の履修状況・学修状況、必修科目のために
進級・卒業できない学生等を調査するとともに、学生からの意見を聞きながら、大幅な選
択を認めた中で、各々の学生の志望にそった系統的な学修を実現できる仕組みを検討して
いく。
<数学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、第二外国語4単位必修、総合教育科目は体育の実技・
講義科目3単位必修、2群の人文社会系科目8単位必修、3群の自然科学系科目 12 単位必
修、専門教育科目は 24 単位必修である。
卒業単位数は 126 単位で必修科目は 59 単位、選択科目は 67 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 46.9%、選択科目 53.1%である。
【点検・評価
長所と問題点】
科目の必修選択の振り分けについては、選択の自由度を増す方向でカリキュラムの手直
しをしてきた。結果として、学生の選択の幅は従来に比べて大きくなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修選択の振り分けの妥当性については受講者の意見も参考にすべきである。そのため
には持続した学生からの意見の収集が必要であり、履修状況の把握と合わせて今後検討し
ていく。
<物理学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、総合教育科目は2群の人文社会系科目6単位必修、
3群の自然科学系科目 11 単位必修、専門教育科目は 24 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 68 単位、選択科目は 62 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 52.3%、選択科目 47.7%である。
【点検・評価
長所と問題点】
必修・選択科目の量的比率は適正なものであると考えている。ただし、必修科目の単位
がとれないために4年次に進級できない、あるいは卒業できない学生がかなりいることに
ついては、カリキュラムの妥当性を含め、長所と短所の両面からの今後の検討が必要と考
169
えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修科目の単位がとれないために4年次に進級できない、あるいは卒業できない学生が
いることに対して必修科目の数を減らす、あるいは評価の基準を下げることは本質的な解
決にはつながらないため、よりきめの細かい教育を実現する方向で改善策を検討していく。
<土木工学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、総合教育科目は2群の人文社会系科目8単位必修、
3群の自然科学系科目 14 単位必修、専門教育科目は 55 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 85 単位、選択科目は 45 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 65.4%、選択科目 34.6%である。
【点検・評価
長所と問題点】
必修科目を 15 単位設けるとともに、選択必修科目をA(専門科目)40 単位中 28 単位必
修、B(数学)14 単位中 12 単位必修としており、必修科目の一部を学生が自分自身で選
択できるようになっている。また他学科履修、他学部履修についても 30 単位まで卒業単位
として認めている。実際には、時間割の調整が不十分であることもあり、他学科あるいは
他学部履修をしたくてもできない場合も生じている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新しい時代のニーズにあわせ、何が必修として必要なのかについて検討しており、2003
年度のカリキュラム改正に反映させる予定である。あわせて必修科目については、系統的
な学年配置、また単位を取得できなかった学生も翌年講義を履修できるよう時間割上の配
置を工夫することを検討している。
<精密機械工学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語4単位必修、総合教育科目は3群の自然科学系科目 18 単位必修、
専門教育科目は 58 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 80 単位、選択科目は 50 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 61.5%、選択科目 38.5%である。
【点検・評価
長所と問題点】
現行カリキュラムの必修・選択の量的配分は適切である。特に、必修科目の中の専門教
育科目 58 単位のうち 20 単位は選択必修科目で、学生の希望に応じた専門性を高められる
よう配慮されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も、定期的なカリキュラム改定時に、新しいカリキュラムの内容に応じた見直しを
図っていく。
<電気電子情報通信工学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、第二外国語4単位必修、総合教育科目は体育の実技・
講義科目3単位必修、2群の人文社会系科目4単位必修、3群の自然科学系科目 14 単位必
修、専門教育科目は 41 単位必修である。
170 第2章 学部
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 74 単位、選択科目は 56 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 56.9%、選択科目 43.1%である。
【点検・評価
長所と問題点】
各履修コースにおいて学生の専門的基礎能力を確実に高めるため、必修科目を 41 単位
まで減らす一方、選択専門科目を 104 単位まで増やすことで、学生に先端技術の専門知識
に幅広い選択肢を与えている。問題点として、卒業に必要な全科目の中で、必修科目は依
然として 74 単位を占めており、中でも人文関係の単位の数が多いと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修科目を最小限にするよう、カリキュラムの改定を検討している。
<応用化学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、第二外国語4単位必修、総合教育科目は体育の実技・
講義科目3単位必修、2群の人文社会系科目8単位必修、3群の自然科学系科目 20 単位必
修、専門教育科目は 54 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 97 単位、選択科目は 33 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 74.9%、選択科目 25.1%である。
【点検・評価
長所と問題点】
応用化学科では、基礎的学力をみっちりと身につけさせるということで必修科目の割合
が多くなっている。その分、学際的な領域や先端的な科目の選択の幅は減るので、今後ど
のように選択科目を増やし、学生の知識の幅を拡げていくか検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修、選択科目の割合は定期的に検討している。系統・段階的な科目履修という観点か
ら必修が多くなっているが、学生が幅広く知識を身につけられるように必修・選択科目の
割合の比率について今後検討していく。
<経営システム工学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語8単位必修、第二外国語(英会話を含めて)4単位必修、総合教育
科目は2群の人文社会系科目8単位必修、3群の自然科学系科目 16 単位必修、専門教育科
目は 28 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 64 単位、選択科目は 66 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 49.2%、選択科目 50.8%である。
【点検・評価
長所と問題点】
教室会議においてカリキュラムの改訂と併せて定期的に見直している。学際的な専門領
域の特徴を考慮し、必修科目を絞る検討を継続的に進めてきた結果として、科目の選択の
自由度は他学科と比べても大きくなっている。反面、学生が前提となる科目を履修しない
で授業を受ける問題点が生じているが、これを防ぐために科目間のつながりを図にして示
すとともに、講義要項において前提科目を示すようにしている。また、第二外国語につい
ては、入学時のガイダンス等でできる限り第二外国語を履修するよう指導するなど、ゆる
やかな形の必修・選択の配分を実現するようにしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
171
必修科目の絞り込みをさらにいくつかの専門科目について検討しているが、ほぼ限界に
近づいていると考えられるため、必修・選択の比率は現状を維持する方向で考えている。
学生の授業内容の理解度を調査しながら、大幅な選択の自由を認めた中で、系統的な学修
ができる仕組みづくりを目指していく。
<情報工学科>
【現状の説明】
外国語教育科目は英語9単位必修、第二外国語4単位必修、総合教育科目は体育の実技
科目1単位必修、2群の人文社会系科目8単位必修、3群の自然科学系科目 18 単位必修、
専門教育科目は 50 単位必修である。
卒業単位数は 130 単位で必修科目は 90 単位、選択科目は 40 単位である。
必修科目と選択科目の比率は必修科目 69.2%、選択科目 30.8%である。
【点検・評価
長所と問題点】
将来の研究者・技術者として必要な素養を教授するべく情報工学に関する専門科目だけ
でなく3年間にわたる外国語教育科目や在学中を通じて学ぶ総合教育科目を設置しており、
基礎的かつその後の授業科目にとって重要なものは必修または必修選択科目として定めて
いることから、必然的にやや必修科目の量的配分に重点が置かれたカリキュラム編成とな
っているが、随時、情報工学科の担当2教員が点検し教室会議での全教員による評価では、
この方策は効果的に機能していると考えられている。しかし、学生の要望を検討した結果、
法学部や商学部と併存する総合大学としての利点をいかし特に情報工学関係の特許取得や
弁理士を念頭に置いた知的財産権関連の選択科目が渇望されていることが分かっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記目標を達成できるようなカリキュラム編成となっていることを、随時、本学科の担
当2教員が点検し教室会議で全教員により評価する方法は効果的に機能しており、今後も
継続していく。将来の学生自身の方向性を固めるための専門的な科目は選択とし学生自身
で時間割をデザインするスタイルについては現状を維持していくが、問題となっている知
的財産関連の選択科目については、従来から設置されている工業所有権法のほかに、必修
ではない2科目を新設することによって対応する予定である。結果として選択への量的配
分が増えることになる。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
<理工学部>
【現状の説明】
本学部では、
「大学設置基準」に基づき単位制を採用しており、各授業科目にそれぞれの
単位数を定め、学則に規定している。
各授業科目の単位は、1単位の授業科目を 45 時間の学修を必要とする内容をもって構
成することを標準とし、次の基準により計算する。
1-1 講義及び演習については、15 時間から 30 時間までの範囲で別に定める時間の授業をも
って1単位とする。
1-2 実験、実習及び実技については、30 時間から 45 時間までの範囲で別に定める時間の授
業をもって1単位とする。
172 第2章 学部
2
前項の規定にかかわらず、「卒業研究」等の授業科目については、これらの学修の成果
を評価して単位を授与することが適切と認められる場合には、これらに必要な学修を
考慮して、単位数を定めることができる。
3
各授業科目の授業は、15 週にわたる期間を単位として行う。
ただし、第1項第2号及び前項については、この限りではない。
次に各授業科目の単位数は以下のとおりである。
外国語教育科目は週1回、30 週の授業で2単位
講義科目は週1回、15 週の授業で2単位
実験・実習・演習科目は週1回、15 週の授業で1単位
体育実技科目は週1回、30 週の授業で1単位
【点検・評価
長所と問題点】
本学部では、大多数の科目は半期終了のセメスター制を取り入れている。ただし、外国
語教育科目等については科目の特性を考えて通年とするなど、セメスター制と通年制との
バランスをとっている。科目名称によって一律に単位数を決めるのでなく、卒業研究や演
習科目については各科目の内容を考慮した柔軟性のある単位数を認めている。ただし、月
曜日の祝日が多くなったことにともなって半期 15 週が実際には確保できない場合も出て
きていること、実験・実習・演習科目と比較し講義科目については十分なレポート課題等
を与えることができていないことについては、今後の取り組みが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
C委員会において継続的に点検・評価し、将来計画を検討している。
月曜日の授業回数が少なくなることについては今後も問題となるため、補講期間を活用
するなど、授業の実施面も考慮に入れながら、具体的な対応策を検討する。講義科目につ
いては、その支援体制を整えるなど、単位数に応じた密度の濃い教育が実現できるように
していく。また、入試の多様化にともなう補習授業や実務経験をつけさせる目的で導入す
るインターンシップ等の科目の単位数については、その授業形態と合わせて合理的な決め
方を考えていく。
<数学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
講義科目では、週2回、15 週の授業で4単位の科目や通年科目で週1回、15 週の授業
で4単位の科目もある。
「卒業研究」は4単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
2000 年度からセメスター制に移行しており、「卒業研究」を除いて数学関係の通年の講
義はいずれなくなる予定である。個々の授業形態だけでなく、授業の組み合わせ方、具体
的には時間割の組み方も合わせて工夫・検討していく必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の授業形態や授業の組合せ方については受講者の意見をも参考にすべきである。そ
のためには持続した学生からの意見の収集が必要であり、今後検討していく。
<物理学科>
173
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
ただし、
「物理実験1・2・3」
「基礎物理実験」は週3回、15 週の授業で3単位である。
「卒業研究」は4単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
講義、演習、実験課目の単位の計算方法は現在のところ適正であると考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学科内で継続的に見直し、議論している。
<土木工学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
ただし、「土木実験」は週2回、30 週の授業で3単位である。
「卒業研究」は4単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
測量実習を夏季に集中的に行うなど科目の性質に応じて適切な単位数・授業形態を採用
している。学生の実務体験が現状では不足している点については今後の検討が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
インターンシップ、現場実習、見学、外部で実施されるスクーリング等について一定の
基準を設け単位を認めることにより、学生の実務体験が不足している状況を改善すること
を検討している。
<精密機械工学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
「卒業研究」は6単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
充実した卒業研究を行わせるために、「卒業研究」には6単位を付与している。各科目の
配分単位はほぼ4年に一度の割合で見直している。現行の単位配分に関しては、授業形態
に照らして適切と考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も、定期的なカリキュラム改定時に、新しいカリキュラムの内容に応じた見直しを
図っていく。
<電気電子情報通信工学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
ただし、「線形代数」は通年科目で週1回、30 週の授業で4単位である。
「卒業研究」は6単位である。
「電気電子情報通信工学実験第一、第二」は、週4コマで、各3単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
電気電子情報通信工学者に必要な専門的基礎能力を高めるために、特に基本理論の理解
だけでなく実験実習などの応用能力の育成にも重みを置いている。現行の授業形態と単位
174 第2章 学部
計算は、学科の教員、実験講師および教育技術員からなる教育体制では、ほぼ妥当である
と考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
実験実習と演習をより重要視するカリキュラムへの移行に向けて、授業形態、単位計算
法、ならびにそれに対応できる教育実験体制を検討している。
<応用化学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
ただし、
「数学A・B」はそれぞれ週2回、15 週の授業で4単位、
「線形代数」は通年科
目で週1回 30 週の授業で4単位、
[応用化学実験1・2・4]はそれぞれ週3回、15 週の
授業で3単位である。
「卒業研究」は4単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
講義、演習、実験科目の単位の計算方法は現在のところ、適正と考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
毎年教室会議で継続的に見直し、議論している。現在「応用化学実験1、2、4」と「応
用化学実験3」が時間数の違いから単位数が異なるので、教育実験体制を含めて検討中で
ある。
<経営システム工学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
ただし、「数学A・B」はそれぞれ週2回、15 週の授業で4単位である。
「卒業研究」は4単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
教室会議においてカリキュラムの改訂と併せて定期的に見直している。卒業研究につい
ては単位数を増やすことを検討しているが、学生によって取り組み状況が大きく異なる点
が問題となっている。また、実態として、講義科目については時間外のレポート課題等を
十分与えることができておらず、実験・演習に比べて講義科目の単位数が多すぎる傾向に
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業科目については、TA等を活用することにより、レポート課題等の講義時間外の学
修を促進できる方法を検討している。また、卒業研究については、学生ができるだけ希望
の研究室に配属されるようにすることで卒業研究に対するより積極的な取り組みを促進す
る工夫を進めると同時に、その効果を見ながら単位数を増やすことを考えていく。
<情報工学科>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
また、講義科目では、週2回、15 週の授業で4単位の科目や通年科目で週1回、15 週
の授業で4単位の科目もある。
「卒業研究」は4単位である。
175
【点検・評価
長所と問題点】
随時、情報工学科の担当2教員が点検し教室会議において全教員で評価しており、現状
では授業形態と単位の関係は適切な状態にあると考えられている。今後問題になることが
あるとすれば、それは入学希望者の学修目的の多様化に伴う補習授業やアカデッミクイン
ターンシップとの関係において、新たに設置することになるかもしれない補助的な科目の
授業形態と単位をどのように定めていくかという問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
随時、本学科の担当2教員による点検と教室会議での全教員による評価は今後も継続し
ていくとともに、入学希望者の学修目的の多様化に伴う補習授業やアカデッミクインター
ンシップとの関係において新たに設置することになるかもしれない補助的な科目の授業形
態と単位をどのように形成していくかについて重点的に検討していく予定である。
<全学科共通科目>
【現状の説明】
基本的には、理工学部の原則のとおりである。
【点検・評価
長所と問題点】
外国語教育科目は通年で単位を出している。第二外国語教育科目については、初習外国
語でもあり1年間の学修でやっと目鼻がつく状態で、前期のみ、あるいは後期のみで単位
を出してもあまり意味はない。現在の授業形態・単位数で適性であると考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
高学年の、ネイティブによる少人数教育など、従来と異なる科目の新設にともなって、
授業形態と単位の関係について継続的に見直していく。
3−(1)− ⑤
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
国外での中央大学国際交流協定校で取得した単位については、本学部の教授会の定める
基準に基づき、本学で修得すべき授業科目の単位として認定を受けることができる。認定
できる単位は 30 単位までである。
数学科においては、高校生が科目等履修生制度で修得した単位は、本学に入学した場合、
単位認定ができる。
他学部、他学科で履修できる単位は、以下のとおりである。
他学部履修について:本学部以外の学部に設置されている科目を履修することができる。
他学部履修一覧
履修単位数
受入科目群
卒業単位となる単位数
数学科
30 単位
総合教育科目2群
14 単位
物理学科
30 単位
総合教育科目2群
12 単位
土木工学科
30 単位
総合教育科目2群
16 単位
精密機械工学科
30 単位
総合教育科目2群
12 単位
電気電子情報通信工学科
30 単位
総合教育科目2群
12 単位
応用化学科
30 単位
総合教育科目2群
16 単位
経営システム工学科
30 単位
総合教育科目2群
20 単位
176 第2章 学部
情報工学科
30 単位
総合教育科目2群
12 単位
他学科履修について:本学部の自学科以外の学科に設置されている科目を履修すること
ができる。
他学科履修一覧
履修単位数
受入科目群
卒業単位となる単位数
開講科目
数学科
30 単位
*専・選
12 単位
*専・選
物理学科
20 単位
*専・選
16 単位
*専・選
土木工学科
30 単位
*専・選
30 単位
*専・選
精密機械工学科
12 単位
*専・選
12 単位
*専・選
電気電子情報通信工学科 30 単位
*専・選
12 単位
*専・選
応用化学科
16 単位
*専・選
16 単位
*専・選
経営システム工学科
30 単位
*専・選
12 単位
*専・選
情報工学科
30 単位
*専・選
12 単位
*専・選
*専・選:専門教育科目・選択科目
【点検・評価
長所と問題点】
他分野との交流、幅広い教養の涵養を奨励する意味で、他学部履修、他学科履修を大幅
に認めている。また、他学部・他学科履修の自由度を認めながら、各学科の特殊性を考慮
し、専門領域についての必要な学修を保証する工夫がされている。結果として、他学科履
修については、毎年約 150 科目程度、学生数にして 250 名から 300 名が当履修制度を利用
している。ただし、他学部履修については、キャンパスの立地の関係でなかなか進まず、
総合大学としての利点を活かし切れていない。また、他学科履修については、その主旨が
学生に十分に理解されておらず、単位を取りやすい科目を他学科まで探しにいく学生が見
受けられる。
国際交流協定校以外についても、留学先の大学で履修した科目の単位についてどのよう
な考えで単位認定をするかを明文化し、学生に対して知らせている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他学科履修、他学部履修の実績を調査・フォローするとともに、他学科、他学部の科目
について、履修が望ましい科目を明確にし、学生に示すことで、適切な他学科履修、他学
部履修を促進することを検討している。また、他学部履修については、e-learning 等を
活用することで履修しやすい授業実施形態の実現について取り組んでいく。さらに、従来
の学部の枠にとらわれない学際的な講義科目の設置、ならびにファカルティリンケージ・
プログラム(添付資料参照)、都内の他大学との間で単位互換・科目等履修制度など、新し
い枠組みでの学部間・大学間連携についても積極的に取り組んで行く。留学先の単位認定
については、まだ実績が少ない段階であるが、丹念に事例の収集を継続し、その基盤整備
を進める。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
2001 年度の全授業科目中、専任教員が担当する授業比率は 69.0%である。
(算出方法)専任教員担当総授業科目数÷理工学部総授業科目数=専任教員担当比率
177
1,637÷2,372=69.0%
兼任教員には原則として毎年度、専任教員と懇談する機会をもうけ、コメント・アドバ
イス等をいただき、教育課程へ反映している。
【点検・評価
長所と問題点】
毎年度、全専任教員および全兼任教員から担任授業科目および週担任時間数を提出し、
点検・評価を行っている。他学部に比べると専任教員が担当する授業科目が多いため、負
担が大きい。
予算の範囲内での兼任教員の採用については学科ごとの必要性に応じて柔軟に運営で
きており、必要に応じて適切な兼任教員の確保がなされている。また、学科・教室ごとの
兼任・専任の会合における意見の交換、兼任教員からの意見の収集などを通じて、カリキ
ュラム・授業実施方法への反映も図られている。しかし、大学院を担当している専任教員
の負担は特に大きく、専門教育科目の一部を兼任教員に頼らざるを得ない状況があるのは
事実である。また、外国語教育科目については約 70%が兼任教員であり、1クラス 60∼70
名の多人数クラスから現在の 30∼40 名平均の少人数クラスとなり教育効果の改善がなさ
れたとはいえ、学生との質疑応答などについては理想的な状態ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員採用の多様化など全学的に検討を行っている。
兼任教員にかなりの講義を頼らざるを得ない状況では教育手腕のある兼任教員を確保
することが重要となる。また、教員間の交流を活発化するため、各方面のエキスパートを
兼任教員として迎えることも必要である。これらのことを目指し、兼任教員と専任教員と
の間のより密接な意見交換の場の設定、受講者からの持続した意見収集等について検討し
ていく。また、二部(夜間部)廃止により専任教員の負担が軽減すれば、その分だけ専兼
比率を高めることができると考えられる。兼任教員を依頼する科目についての方針を明確
に定め、計画的な取り組みを行っていく。
3−(1)− ⑦
生涯学習への対応
【現状の説明】
聴講生制度を設けて、社会人等への学習機会を提供している。数学科では 2001 年度か
ら科目等履修生制度を導入し、社会人の受講を認めている。また、理工学研究所が中心と
なって、電子情報通信学会と協賛で「小・中・高校生の科学実験教室」を開催している。
【点検・評価
長所と問題点】
聴講生制度については、履修者が少なく、必ずしも活用しやすいものになっていない。
また、シラバス等をWebで公開しているが、対象となる社会人に対する情報発信も十分
とは言えない。科目等履修生制度については 2001 年度始まったばかりであるが、年配の社
会人が若い学生と一緒に受講するのはそれ相応の苦労があるのが事実であり、少数でも科
目等履修の希望者が持続する工夫が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
卒業生への対応という考え方からも生涯学習の体制を充実すべきであると考えている。
社会人のための講義の新設、インターネット等を用いた開設科目・講義内容の発信、
e-learning の検討、卒業生ならば面倒な手続を必要とせずに簡単な申し込みだけで再教育
178 第2章 学部
が受けられる体制を整えるなど、キャンパスが交通の便のよい都心にあるメリット生かし
て社会人教育の場を提供できるような方策を検討していく。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
<理工学部>
【現状の説明】
教育上の効果の測定については、学則により、試験の方法、時期、受験の条件、成績の
表示、通知を規定している。また、自己の学業成績を客観的に知りうる有効な方法として、
学業成績の平均点GPA(Grade Point Average)の学生への周知を行っている。GPAは学
業の成績評価を数値に置き換え、多様な成績内容を客観的に評価するための一つの方法で
ある。本学部で用いている算出方法は、随意科目・教職科目および成績不合格科目を除く
修得科目の成績をポイント化(例えば、A−4、B−3、C−2)し、これに各単位数を掛
けたものを合計し、算定科目の合計単位数で割って出したものである。
卒業生の進路状況については、昨今の不透明な経済環境にあっても就職状況は、きわめ
て好調で、進路は、各学科により特色はあるが、コンピュータ・電気・機械・化学などの
製造業、建設業、通信・情報サービス、新聞・出版、商社、金融、教職、官公庁などきわ
めて多彩である。現在 47,000 名を越える卒業生が、社会の各分野において活躍している。
また、各専攻分野においてさらに研究を進めたい学生は、積極的に大学院に進学している。
【点検・評価
長所と問題点】
各学科および、各教室から選出された委員より構成されるC委員会において、カリキュ
ラムに基づく授業の実施に責任を持っているE委員会と連携をとりながら教育方法・教育
技術等を継続的に点検・評価し、将来計画を検討している。また、就職に関しては、各学
科より選出された委員によって構成される、理工学部就職委員会において点検・評価・検
討を行っている。
教育効果の測定・評価については各学科でその実情に応じた工夫がこらされている。ま
た、その内容についてはC委員会の場を通じて相互に共有されている。ただし、学部全体
での教育効果の測定方法、教育目標の達成度について学部全体での教員間の合意を得る仕
組みを作り上げるまでには至っていない。また、就職状況とカリキュラムや教育目標とを
関連づけた議論についても今後取り組む必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部全体を通じて教育効果を評価する仕組み、その結果に基づいて教育目標の達成度に
ついての教員間の合意を得る仕組みを考える必要がある。教育活動は学生の学修を促進す
るものでなければならない。客観的なデータを得るために、学生から意見を持続して収集
する等の工夫も合わせて検討していく。
<数学科>
【現状の説明】
数学科で培った基礎力・応用力を生かし、プログラム開発などコンピュータ関連の企業
に就職する人が増加している。本学科の卒業生は、まもなく 2,000 人になり社会の中堅と
なって活躍している。
179
今後情報産業は、ますます盛んになり、企業や団体でも情報化時代に対処するため、数
学のセンスを持った人材が求められ、進路は多方面に開かれていると言える。
【点検・評価
長所と問題点】
数学科では、2000 年度からのセメスター制移行に伴う大幅なカリキュラム改定、2001
年度からの教職「情報」コースの設置、科目等履修生制度の導入、自己推薦入試の実施な
ど、矢継ぎ早に改革を行った。これが定着し、その評価を得るまでには時間が必要である。
個々の科目の教育については、教員によって差異が大きく、細かく方法を規定するのは教
育の可能性を阻害する可能性もあるため、各教員の創意工夫に任されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
改革を着実なものとするためにはフィードバックが必要である。これから数年、それぞ
れの試みに対してデータを蓄積していく。
<物理学科>
【現状の説明】
本学科の卒業生の就職先は、電気、電子、機械、自動車、通信、情報などの企業や、教
職などの広い分野にわたっている。これは、物理学が最新科学技術の発展とともに社会に
おけるその重要性を増し、物理学を身につけた専門家が多くの分野で必要とされているこ
とに起因していると考えられよう。また、物理学自体の持つ広いものの見方、常に基礎に
たちもどる思考法、同時に経験科学としての着実さなどが、社会の求めるところと一致し
ている、と言えるからであろう。
【点検・評価
長所と問題点】
教職を志す者の就職難は依然として大きな問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部卒業生に対して社会が期待するものは何かを教員全員が常に意識したうえで、基礎
科学として物理学の教育に取り組む努力をする。
<土木工学科>
【現状の説明】
卒業生の進路としては、大きく分けて、①公務員、②建設会社、③建設コンサルタント
会社、④一般の企業、に大別される。このことは、1953 年第1回卒業生を世に送り出して
以来、卒業生約 8,000 人の活躍分野の傾向と一致している。国、そしてすべての地方公共
団体で土木事業が行われ、毎年、多数の卒業生が公務員として採用されている。次に多い
のが建設会社である。建設コンサルタント会社も有力な就職先である。また、公共サービ
スを行う企業にも多数の卒業生が就職している。
【点検・評価
長所と問題点】
数学、物理系の基礎的な科目については数年ごとに担当教員を変更している。専門分野
の科目については自然科学的分野から社会科学的分野まであるため、統一した判定が難し
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、各教員が任意で行っている学生による授業評価を義務づけること、講義を行う教
員と試験問題を作成する教員を別にすることを検討している。
<精密機械工学科>
180 第2章 学部
【現状の説明】
本学科では、学部での学修内容をさらに深く掘り下げて、より高度な知識と技術力を修
得するとともに高い研究能力を身につけることを希望する学生に対しては、大学院への進
学を奨めている。
本学科の卒業生に対する産業界の評価は高く、毎年卒業予定者数をはるかに越える多く
の企業から求人がある。これは、技術を開発し、ものをつくるメーカーから、それを利用
してサービスを提供する企業まであらゆる業種の企業が精密機械技術者を必要としている
ことである。社会環境のどのような状況下にあっても精密機械技術者の需要がなくなると
いうことは決してないと言えよう。
【点検・評価
長所と問題点】
精密機械工学科では、専門科目の集大成たる卒業研究の結果で教育効果の測定を行って
いる。年度末の2月に卒業研究発表会が行われ、学生は教員、学生の前で自分の卒業研究
の成果を発表する。教員は、研究内容だけではなく、研究に関連した専門科目の知識につ
いても質問し、4年間の教育の効果を測っている。しかし、個々の科目についての測定方
法は未だ確立されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の授業科目の教育効果を測るシステムを整備するため、学力到達度を測るための統
一試験を学年ごとに実施することを検討している。
<電気電子情報通信工学科>
【現状の説明】
電気電子工学を専門とする技術者を必要とする企業は数多く、本学科の卒業生は、電
気・電子メーカー、情報・調査・専門サービス業、設備・電気工事業、公務員等さまざま
な分野に進出し、活躍している。また、より高度な専門知識や技術を修得するため、大学
院への進学を奨めている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業科目に対する教育効果の測定は現在系統的に行ってはいないが、4年次配当の「卒
業研究」は、学生の自主的な学習能力と創造的な研究能力が問われるため、総合的な教育
効果を検定するのに有効であると考え、厳格に審査と評価を行っている。特に、卒業論文
は、統一した時限を設けて、学科に提出することや、学科卒研委員(教員2名)による論
文の統一審査、そして、不合格者に対する再提出と再審査などを、実施している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果や目標達成度の測定について、まず、教員の意識の向上を始め、アンケートな
どによる授業評価の実施、授業科目における演習、宿題およびレポートによる教育効果の
測定と向上、卒業試験の実施などに関して検討している。
<応用化学科>
【現状の説明】
本学科における最近の卒業生の就職先は多方面にわたってきている。また、近年の高学
歴化や仕事の専門性を要求する企業が増えていることから、大学院への進学者が増加して
いる。セントラルサイエンスとしての化学は環境エネルギー、情報など 21 世紀で重要な問
題になる課題に対して大きな寄与が期待されている。本学科では、バイオ関連、エネルギ
181
ー関連、情報関連、環境調和関連など 21 世紀においての基幹産業に寄与できる学生を育て
ることに力を注いでおり、卒業生は、企業から高い評価を得ている。
【点検・評価
長所と問題点】
応用化学科では、学生が3年間に履修した科目や実験の教育効果が総合的に「卒業研究」
の1年間に集約されるので、開講科目の設定や改訂は学生の卒業研究への取り組みや達成
度を見ながら判断している。卒業論文については、系別に卒論発表会を開いている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在各教員は任意に行っている授業評価については、学生の授業評価はもちろんのこと、
各教員がだす各科目の合格率や学生の単位修得率などきめの細かい点検が必要だと考えら
れる。教室会議などでその方策について議論を始めている。そのようなデータ資料の作成
には教員だけではなく事務との連携も必要となる。現在、複数で担当している科目につい
ては評価や学生の達成度などについて話し合いを行うが、それ以外は各教員が自己努力で
行う以外方策がない状態である。教員間の意見交換や協力体制についてさらに議論を深め
ていく必要がある。
<経営システム工学科>
【現状の説明】
教室会議で就職状況について毎年確認している。経営システム工学科では、工学的な基
礎を身につけるための講義・演習のほか、経営システム工学のさまざまな領域に関する広
範囲な講義と実験を用意しており、卒業生は製造業、コンピュータ関連産業、サービス業、
金融業などの多彩な企業に就職して、多種多様な業務を遂行している。また、3年次前期
までの成績(GPA)、1年、2年次終了時に履修単位数が不足しているものの人数、3年
次終了時卒業履修制限者の数、4年間で卒業できなかったものの人数についても年に一度
確認している。さらに、1998 年度からは卒業が確定した学生に対するアンケート調査を行
い、カリキュラム、履修指導、計算機設備、就職活動支援などに対する意見を収集してい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
卒業時のアンケート調査は、学生の視点から見た場合の教育目的達成状況の評価であり、
カリキュラムの改善等につながる有用な意見を得ることができている。学修評価の指標で
あるGPA(A−4、B−2、C−1と見なした平均値)の分布は、3年前期までの成績
で見ると、中央値約 2.5、上側四分位点約 2.8、下側四分位点約 2.2 であり、ほとんど変化
がなく、カリキュラムや授業実施形態の改善にともなう効果を把握できるより適切な方法
が望まれている。就職状況の評価については定性的な部分が多く、景気による影響を強く
受ける傾向もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
卒業時のアンケート調査については提出率(約 30%)をあげる工夫が必要と考えている。
また、学科単独で対策をとることが難しいものについては、学部レベルにおける議論の場
へ確実に反映させる仕組みを考える必要がある。成績および就職状況については、結果の
確認だけにとどまらず、それを踏まえた対応策の検討ができる場を学科として設けること
を考えていく。このためには、就職先に対するアンケート調査等のより直接的な評価の導
入も検討していく。
182 第2章 学部
<情報工学科>
【現状の説明】
本学科は、1992 年4月に創立し、1996 年3月に第1期生を社会に送り出した。それか
ら現在に至るまで卒業生の就職状況は、情報システム・通信・製造・マスコミ・流通と多
方面にわたっている。また、最近の企業の傾向として、大学院を修了した修士・博士への
求人が増えている。学部を卒業し、より高度な専門家を目指す学生は大学院に進学してい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
教室会議において、随時、全教員により教育効果に関する点検と調査を行っており、個
別の授業における教育効果だけでなく、情報工学科全体としての教育効果が最大限にあが
るよう繊細に工夫しており、A、…、Dによる教育効果の測定自体はこの方法下で良好に
機能している。さらに、近年、情報工学分野への社会的な期待は大きく求人件数は桁違い
の現状ではあるが、反面、大学においてしっかりと勉強することが要求されているので、
学生自身が堅固な技術基盤を確立できたと自覚できる程度に教育効果があがることを理想
としている。しかし問題点として情報工学にとって有利な就職バブルのような状況におい
てこの種の自覚を育成することは困難なので、特に卒業研究時に教員が学生を個別にかつ
重点的に教育・指導することによってA、…、Dには現れないきめ細かな教育の効果をあ
げている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教室会議において、随時、全教員による教育効果に関する点検と調査を行い、個別の授
業における教育効果だけでなく、情報工学科全体としての教育効果が最大限にあがるよう
繊細に工夫していくことを今後も継続する。引き続き、学生自身が堅固な技術基盤を確立
できたと自覚できる程度に教育効果があがることを理想として、特に卒業研究時に教員が
学生を個別にかつ重点的に教育・指導することによってきめ細かな教育の効果をさらに上
げていく。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
<理工学部>
【現状の説明】
本学部では、応用化学科を除く7学科では履修科目登録の上限は設定せずに、学生が学
修可能としている。
また、成績評価法、成績評価基準として、学則で以下のように規定している。
1.授業科目を履修し、その試験又はこれに代わる学習の評価に合格したものには、所定
の単位を与える。
2.試験は、筆記又は口述によるものとする。ただし、論文の提出その他の方法によるこ
とができる。
3.試験は、学年末又は学期末において行う。ただし、必要があると認めるときは、その
他の時期においても行うことができる。
4.試験は、履修した授業科目でなければ、受けることはできない。
5.学費及び必要な手数料を納入しない者は、試験を受けることができない。
183
6.休学又は停学の期間中は、試験を受けることはできない。
7.試験の成績は、A、B、C及びDで示し、A、B及びCを合格とし、Dを不合格とす
る。
8.試験の成績は、学生に通知する。
次に、成績表示の評点は、学則で以下のように規定している。
成績表示の評点は、100 点を満点とし、以下のとおりです。
A・・・80 点以上
B・・・70 点以上 80 点未満
C・・・60 点以上 70 点未満
D・・・60 点未満
「A」、「B」、「C」は合格、「D」は不合格である。
授業が終了した科目は、一定の期間を設けて試験時間割により集中的に試験を実施して
いる。ただし、科目によっては、最終授業の際に実施するものもある。試験に代えてレポ
ート提出を求める場合があるが、筆記試験に準じた扱いをしている。受験できる科目は履
修登録した科目のみである。
成績の通知は、成績原簿の交付によって行っている。前期試験の成績発表は 10 月中旬
に、卒業・学年成績発表の成績発表は、3月下旬から中旬にかけて行っている。
成績の評価については、学則に定める通常の試験期間以外にも、随時、小試験・レポー
トを課す等の工夫をし、学生の教育効果を高めるとともに適切な成績評価に努めている。
各年次および卒業時の学生の質を保証・確保するための方途として、3年次終了時まで
に学科ごと定められた一定の要件を満たさなければ、4年次配当の理工学部集大成の授業
科目で必修科目の「卒業研究」が履修できないという制約を設けている。
【点検・評価
長所と問題点】
各科目における成績評価の方法、達成すべきレベル等については講義要項で公開されて
いる。ただし、各々の評価の方法については各教員にまかされている。警告レター、卒業
研究履修制限等による段階的な保証の仕組みが導入され効果をあげている。ただし、一学
科を除いて最高履修単位を設けず、時間割の許す範囲で履修を認めている。また、留年者
に対する配慮として、再履修指定科目を設けたうえで再試験制度を認めている。試験にお
ける不正行為の防止をいかに図るかが課題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
C委員会で継続的に点検・評価し、将来計画を検討している。
各科目の評価方法・評価基準の透明化については一層の工夫を検討していく。再試験制
度の廃止・存続については、授業の実施面に責任を持つE委員会とも相談しながら、継続
的に議論していく。また、最高履修単位の設定や段階的な保証の仕組みについても考えて
いく。試験における不正行為については、教育・指導的観点から厳格な対処を考えていく。
<数学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則どおり。
184 第2章 学部
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 95 単位以上修得していること。
【点検・評価
長所と問題点】
成績評価は各担当教員が責任を持って公平さを保つべく努力している。学生からの成績
評価に関する疑問にも、例外はあるかもしれないが、客観的に答えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
公平な成績評価には教員と学生の信頼関係が欠かせない。これについては、学生からの
持続した意見の収集について検討していく。
<物理学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則通り。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 90 単位以上修得し、かつ下記の(1)(2)をともに満たすこと。
(1)
「力学1」
「電磁気学1」
「解析1」
「量子力学1」
「統計物理学1」のうちから3科目
以上の単位を修得している。
(2)
「力学2」
「電磁気学2」
「解析2」
「量子力学2」
「統計物理学2」のうちから3科目
以上の単位を修得している。
【点検・評価
長所と問題点】
履修の要件を満たせない学生が毎年何名かいる。このことは「厳格な成績評価」の制度
が確かに機能していることの証である。ただし、4年次に進級するのに十分な知識・学力
を3年間で習得できない学生がいることは問題であり、今後の取り組みが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
履修要件が適正なものであるかどうかについては、学科内で継続的に議論を行っている。
学生の学力向上に向けては、きめの細かい指導ができる授業形態・教育体制を工夫してい
く。
<土木工学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は「英語1A」「英語1B」の4単位以下とする。
成績については、理工学部の原則とおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 95 単位以上修得し、なおかつ、総合教育科目3群の「基礎物理1」「基
礎物理2」「基礎化学」「物理実験」「化学実験」、専門教育科目の必修科目、選択必修科目
の修得単位の合計が 52 単位以上のこと。
【点検・評価
長所と問題点】
教室会議で、評価が著しく偏った科目について改善方法を議論している。科目の内容が
多岐に及ぶため、判定水準の統一化が困難である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
185
3年後期において専門科目の試験を毎回行う時間を設け、その結果を奨学金の受給資格
あるいは大学院の推薦に反映させることを検討している。
<精密機械工学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は認めていない。
成績については、理工学部の原則どおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 104 単位以上修得し、なおかつ、以下の要件をすべて満たすこと。
(1) 外国語教育科目の必修科目および総合教育科目3群の必修科目を合計 20 単位以上
修得していること。
(2)専門教育科目の必修科目を 30 単位以上修得していること。
(3)専門教育科目の選択必修科目を 20 単位以上修得していること。
【点検・評価
長所と問題点】
成績表示の評点は学則に従っている。成績評価は各科目担当者の判断に任せており、学
科として統一した評価法は設けていない。卒業研究に専念できるよう、
「卒業研究」の履修
要件を厳しく設定している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
卒業生の学力を保証するシステムの整備が必要である。そのために学力到達度を測るた
めの統一試験の実施を検討している。また、卒業までに TOEIC やFE(Fundamentals of
Engineer)の試験を必ず受けるなどの義務を課すことも考えられる。
<電気電子情報通信工学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則とおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 95 単位以上修得し、なおかつ、
「電磁気学及演習1」
「電磁気学及演習2」
の単位をすべて修得していること。
【点検・評価
長所と問題点】
新規履修、再履修の単位に上限がなく、「卒業研究」に履修制限を設置することは適切
であると考えている。評価方法としては、一部分の科目に対して、中間試験や、点数制に
よる評価を行っており、実験科目においては、レポートのみならず、口頭試問および面接
を実施している。また、学科として、GPAによる成績評価を、大学院進学における学内
推薦および卒業研究の配属時に用いている。しかし、その欠点として、
「D」と「E」の成
績評価は含まれていないことがあげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
GPAの制度化を初め、より厳格な成績評価方式の導入を検討している。
<応用化学科>
【現状の説明】
186 第2章 学部
各年次とも新規履修、再履修の履修単位は1、4年次 50 単位、2、3年次 60 単位とし
ている。ただし、再試験の履修単位登録は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則とおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 100 単位以上修得し、なおかつ、外国語教育科目、総合教育科目、専門
教育科目の必修科目、選択必修科目の修得単位の合計が 85 単位以上のこと。
【点検・評価
長所と問題点】
実験系である応用化学では基礎的な知識の積み上げが4年間を通して必要であると考
え、各年次できっちり科目履修するように学生に指導するために各年次の履修単位を制限
している。4年次の卒業研究の研究配属時には 100 単位という厳しい制限を設定している。
成績評価は各科目の担当教員に任されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
履修制限については、やる気のある学生の自由な履修を妨げている可能性もあるので、
今後学生の取得単位数などについて調査して議論していく予定である。学生の質の保証の
問題については、卒業生の学力を保証する科学技術者教育認定(JABEE)などへの申
請を目指して教員間の講義の連携と成績評価の基準公開など学科内での議論が今後必要で
あると考えている。
<経営システム工学科>
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則とおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 95 単位以上修得していること。
【点検・評価
長所と問題点】
再試験単位数、卒業研究履修制限等については学科教室会議においてカリキュラムの改
訂と併せて定期的に見直している。1年次および2年次終了時に履修単位数が少ない学生
に対しては警告の手紙を送っている。また、2年次において、再履修が必要な学生を集め
てガイダンスを行い、卒業研究履修制限者の人数、GPAの分布等を用いて単位取得や成
績の重要性について指導している。これらについてはある程度学生の意識向上に役立って
いると考えられる。また、各々の科目の成績評価については、講義要項で達成すべきレベ
ル、評価方法を公表し、これに沿って運用できている。ただし、その結果として試験終了
した後、学んだ内容が身についていない学生が見受けられることについては今後さらなる
改善が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
再試験制度については授業時間割の改善と併せて検討し、見直していく必要がある。ま
た、各々の科目については、講義要項等でその評価方法・評価基準をさらに透明なものに
していくとともに、TA等を活用しレポート課題を与えることのできる仕組みを考えてい
く。
<情報工学科>
187
【現状の説明】
各年次とも新規履修、再履修の履修単位の制限はない。ただし、再試験の履修単位登録
は 20 単位以下とする。
成績については、理工学部の原則とおり。
4年次配当の必修科目「卒業研究」を履修するには、3年次終了時において、卒業に必
要な科目の単位を 98 単位以上修得し、なおかつ、
「プログラミング演習1」
「プログラミン
グ演習2」の単位を修得していること。
【点検・評価
長所と問題点】
教室会議において、随時、全教員により成績評価に関する点検と調査を行っており、情
報工学科全体として眺めたときの各授業における成績評価がバランスよく厳格となるよう
不断に工夫しており、この方法は良好に機能している。特に卒業研究については、卒業論
文の要約を情報工学科 Technical Report (TRISE)シリーズの一冊として編纂し、本学図書
館、国立国会図書館、その他の図書館に収蔵しており、卒業研究論文を外部からの要請に
応じて随時公開することによって結果的に高品質を保持している。問題点として、教員 10
名が 10 個のテーマを定め、学生は少人数のグループに分かれて輪講形式でそのテーマにつ
いて議論を行う。科学技術英語については、グループ全員による質疑応答等の議論におけ
る評価に宿命的な困難さが伴う。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教室会議において、随時、全教員による成績評価に関する点検と調査を行い、個別の授
業における成績評価の仕組みに関する内容だけでなく、情報工学科全体における成績評価
がバランスよく厳格となるよう工夫していくことを今後も継続する。問題となっている科
学技術英語については、学生の質を保証・確保するために授業を継続していくこと自体は
言うまでもないが、成績評価のあり方については毎年教員間で綿密に調整し評価方法のノ
ウハウを事例研究の形で蓄積している状況であり、今後も努力を継続していく予定である。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
本学部では、従来からある「講義要項」をシラバスへ発展的に充実させ、学生の科目選
択、学修の指針および履修指導の手引きとしての機能を強化した。
年度初めに、新入生を対象に学習指導委員ならびに教務事務担当職員が履修・進路に対
するガイダンスを行っている。また、
「履修要項」を作成し、4年間の履修上の指針を明示
している。
さらに、各学科の教育効果を高めるために、各教員は、オフィスアワーを設けている。
留年者を含む、不合格科目履修者については、「再試験登録」制度で教育上の配慮を行
っている。
【点検・評価
長所と問題点】
学生に対する履修指導については、新入生を中心として、各学科学習指導委員、教務担
当職員が年度初めに実施している。その内容は、履修要項のカリキュラム表、履修モデル
を示しながら、1∼4年の系統的な履修の仕方を、学問の内容から説明し、4年次の研究
室配属、卒業研究について、また、なぜ卒業研究履修制限が行われているかについての説
188 第2章 学部
明を行っている。さらに、大学院進学、就職、海外留学などについても併せて説明を行っ
ている。また、第二外国語については、新入生に対する履修指導の一助となるよう、毎年
「第二外国語の履修について」というパンフレットを配布し、独・仏・中いずれの初習外
国語を履修すべきかヒントを提供している。また、選択制の3学科のガイダンスに参加し
て、独・仏・中それぞれの教員が履修を勧めている。なお、学部事務室では、常時、希望
する学生に対し履修相談に応じている。近年増えている学力と精神面とが関係する学生へ
の対応が今後の課題である。
オフィスアワー制度は、専任教員全員が実施しており、徐々にではあるが、学修上の問
題のみならず、広く学生生活全般についての助言も行い成果をあげている。ただし、利用
する学生が必ずしも多くなく、さらなる工夫が必要と考えられる。
「再試験登録」制度は、前年時までに履修登録したが、単位を修得できなかった科目で、
授業は受講せずに「再試験」で履修登録し、卒業・学年試験等を受験して単位を修得する
ものである。ただし、
「再試験登録」は、土木工学科が「英語1A・1B」のみ、精密機械
工学科は実施していない。また、前年にほとんど授業に参加していない学生が「再試験」
で履修登録する問題もある。必修科目については、引き続く学年で同一の時間帯に授業が
重ならないように配慮している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
二部(夜間部)募集停止にともない、4年次生が存在しなくなる 2003 年度に向けて、
各学科のカリキュラムをはじめ、履修関係、講義要項、時間割等の事項については、C委
員会、E委員会(学習指導委員会を兼ねる)にて改善策の検討を行っている。
2年次以上の学生に対する履修指導を含め、各学科で実施されている学習指導の方法に
関するノウハウの共有化を図ることを考えている。また、オフィスアワーのさらなる有効
活用を図るための工夫、必修科目等の再履修者に対する時間割上の配慮の徹底、
「再試験登
録」制度の廃止・存続、学生相談室・1年次少人数担任制度等による学力と精神の両面へ
の対応などについて検討していく。
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
本学部では、シラバス(講義要項)を重要視して作成し活用している。シラバスにおいて
講義の目的や進行の仕方、参考文献、成績の評価方法など詳細な講義計画をあらかじめ明
確にし、学生の準備学習や復習に役立てている。
FD活動に対しての組織的な取り組みは本格的には行っていないが、語学教育などにつ
いては新しい形態の教材についての情報を収集している。
【点検・評価
長所と問題点】
シラバスは、学生が年度初めに授業科目を履修するにあたって、豊富に開講されている
授業科目の内容をあらかじめ把握し、自らの1年次から卒業時までの履修計画と照らし合
わせながら、系統的に履修することに役立てる情報源としている。講義の進行の仕方、参
考文献、成績の評価の方法など詳細な講義計画をあらかじめ明確に表示し、学生の準備学
習や復習に役立てられるものと位置づけている。また、教育内容の公開にも鑑み、シラバ
スを電子データ化しWebにおいても公開している。
189
各学科では、複数の実務家による講義、実験・演習など学習意欲向上のための工夫が行
われている。また、学生による授業評価については本学部として制度化されていないが、
二種類の様式を用意し、教員が利用できるようにしている。また、個々の教員が、最後の
授業のときに学期を通しての当該授業の感想・意見・要望を書いてもらう、授業中に実施
する小テストやレポート提出の際に授業の感想・意見を書いてもらう、演習で机間巡回を
行い授業の感想・意見を聞くなどさまざまな形で学生の意見を聞いて講義の内容や方法に
反映させる努力をしており、授業の改善に役立っている。なお、卒業生や大学院進学者に
対して教育内容についての意見収集を行っている学科もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在すでに実施しているシラバスのWeb化をさらに一歩進め、Webによる授業内容
の積極的な公開を図るとともに、各教員がWeb上のシラバスを逐次改訂できる仕組みに
ついてE委員会で検討している。学修意欲の向上については、他学科の工夫を共有しなが
ら、少人数セミナー、インターンシップなどが各学科で計画され、C委員会で議論されて
いる。授業評価についても、各学科・教室でアンケート等を該当の全科目について計画的
にとることが検討されており、本学部としても全体で統一した方法で行えないか、その具
体的方策を検討している。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
マルチメディアを活用した教育の導入状況と運用状況については、情報研究教育センタ
ーが設置され、学部全般にわたって支援を行っている。また、1年次の多摩校舎における
語学授業では、映像言語メディアラボ教室のLL教室のラーニング・ラボラトリー・シス
テムやAV教室のマルチメディア機器を使用した教育も行っている。
情報研究教育センター
○設置機種・台数
IBM RS/6000 SP Tall Frame Model×2フレーム(20 ノード、40cpu)
IBM Netfinity 5500 ×12 台
ネットワークサーバー
ワークステーション端末
10 台 (RS/6000 43P×7 台、F50×2 台、Auspex ×1 台)
RS/6000 43P×174 台 (70 台×2 教室、34 台×1 教室)
X 端末 MINT-ACC×8 台
Real サーバー
PC300PL×1 台
エンコーダ、編集用パソコン
4 台 (PC300PL×3 台、 Mac G3×1 台)
○利用形態
ア.大規模処理計算機からワークステーションまで基本OSを統一することで、情報教育
としての基礎的・応用的・専門的な各階層教育が、低学年次生から高学年次生に至るま
で同一の環境のもとで、一貫して行える環境を実現した。
イ.情報処理入門教育の充実として、基本OSの UNIX 環境だけでなく、一般に広く利用さ
れている Winodws についても、182 台の端末から同時に利用できる環境を実現した。
ウ.時代に対応したネットワーク機能の強化およびセキュリティ面の充実を図り、学生の
インターネットニーズに対応する環境を実現した。
190 第2章 学部
エ.教育用・研究用処理環境が各々独立し、研究用大規模計算が行われていても、教育用
処理に影響を及ぼさない環境にした。
オ.音声・画像を含むマルチメディアを利用した教材作成のための環境を実現し、作成し
た教材を用いた教育を計画している。
カ.学生用の端末教室(70 台×2 教室、42 台×1 教室)で授業が実施されていない教室は、
本学の開門(8:00)から閉門(23:00)までオープン利用として課題の作成、自習等で自由
に利用できる運用を行っている。
キ.卒業研究においては研究用環境の積極的利用を推進し、研究室や自宅からネットワー
クを経由して、24 時間利用可能な運用を行っている。
表1
学科
土木工学科
精密機械工学科
電気電子情報
通信工学科
応用化学科
情報工学科
情報工学科 実習室
経営システム
工学科
情 報 研究 教 育セ ン タ ー 実 習 室
物理学科
数 学科 実習室
数学科
実習場所
利用時間
9:00∼19:00
9:00∼15:00
(土)
8:00∼23:00
8:00∼21:00
機器
Fujitsu
GP400S-10
( 一 部 の 授 業 Fujitsu
で の 使 用 時 以 Business
外は)何時でも Terminal
自 由 に 利 用 で 300II
きる
プラズマデ
ィスプレイ
IBM
授 業 中 で な け RS/6000
れば自由に利
43P
用できる(情報
リテラシー教
育 を 受 け る こ X端末
とが条件)
(注)(MiNT-ACC)
授業中でなけ
れ ば 自 由 に 利 Sun Ultra1
用できる
台 数
OS
アカウント
授業
Mail
UNIX(Solar
is)
+
WindowsNT
全員
1年前期か
ら毎学年授
業あり
○
○
(原則として学生
は)学科内のみ
UNIX(AIX)
+
WindowsNT
全員
学科により
異なる
○
○
中大内のみ
UNIX(Solar
is)
全員
1年後期か
ら授業あり
○
○
許可制
WWW 個人のホームページ
84
20
6
174
8
60
(注)経営システム工学科以外は1年前期に情報処理の授業がある
【点検・評価
長所と問題点】
各学科とも情報教育施設を利用した体験的教育を積極的に進めている。理工学部情報研
究教育センターではこれらのニーズに対応するため、技術進歩を踏まえた継続的な検討を
行っている。
本学部においては、情報教育を行うにあたって、新入学生に事前に各学科において、共
用のコンピュータの使い方に関するリテラシー教育を実施するとともに、情報教育におけ
る学生のモラル向上をはかっている。各学科の実施状況は以下のとおりである。
物理学科・情報工学科・・・・・・・・・・・・・・新入生学習指導期間中に実施
数学科・土木工学科・精密機械工学科・
電気電子情報通信工学科・応用化学科・経営システム工学科・・・・・・・・1年次関
係科目の授業中に実施
教室におけるインターネットコンセントの設置、プロジェクター等の教員室への設置と
活用、各学科における授業を有効に行うための情報機器等の導入と利用も進んでいる。ま
191
た、外国語の授業には映像と音声による情報・教材提供が不可欠であり、多摩キャンパス
のメディアラボに相当するものは本学部にないが、
「AV教室」と総称される教室が多数あ
る。VTR、ビューア(教材呈示機)、カセットデッキ、LDなどによるモニター画面への
呈示、スピーカー設備がある程度整っており、これらを活用した少人数教育が行われてい
る。ただし、適切な教材が不足していること、メンテナンスに不十分なところがあること
などについては見直しが必要である。また、一般の授業では、大教室における多人数授業
の弊害と低い授業効率が問題となっており、改善に向けた取り組みが必要な授業もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部において、情報教育によるコンピュータの使用頻度は年々増加している。今後は
これらに対処する方策を情報処理教室の使用調整にあたっているE委員会で改善に向け検
討を行っている。また、2003 年完成を予定している新棟で情報環境の充実を図っていく予
定である。
情報教育センターにおけるシステムの更新や拡充、AV教室における教材や機器、メン
テナンスの充実について継続的に進める他、各教室における情報機器を利用しやすい環境
についても整えていく。また、少人数教育やe-learning を進めるとともに、学生による
授業評価を導入し、その結果を踏まえて適切な授業形態を実現できるよう検討していく。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本学においては、国際化への対応と国際交流の推進を円滑かつ効果的に推進するために、
「中央大学国際交流に関する規程」を制定し、それに基づく「国際交流センター」を設置
し、国際交流の全学的な総合調整その他必要な事項の処理にあたっている。
また、本学の教育方針の大きな柱の一つとして学生の国外留学制度を設けている。この
制度は、学生に留学の機会を与え、外国での大学生生活を通じて広い視野と豊かな経験を
得ることにより、国際的な感覚を備えた人材を育成することを目的としている。
【点検・評価
長所と問題点】
国際レベルでの研究交流活動は、①外国人研究者受け入れ、②外国人訪問研究者受け入
れ、③教員の協定校への派遣、④教員の学術国際会議派遣、⑤学術国際会議開催、等活発
に行われている。問題点としては、教員の学術国際会議派遣について財政上の制限を受け
ていることが指摘できよう。
また、本学が制度とし実施している学生の留学は、次のような種類、形態となる。
1.交換留学
協定校への留学(期間1年間)
現在 45 校ある協定校のうち留学生を交換している 25 校について、学内募集を行って留
学生を選抜し派遣する制度であり、単位認定を受けることができる。
2.認定留学
学生が希望し、大学が認めた外国の大学への留学(期間1年間)
学生自身が留学先を決定し、入学許可を取った後、大学へ申請して留学許可を得ること
により、留学中に取得した単位が本学で認定される。
3.短期留学
192 第2章 学部
協定校における語学・文化研修(約1カ月間)
夏季の約1カ月間、協定校でその国の文化、言語、自然、社会などに関して学ぶととも
に、市民や学生との親交を通して豊かな国際感覚を養うことを目的としている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部長、研究科委員長、研究所長、理工学部選出の中央大学国際交流委員および各学科・
全学共通科目学科より選出された委員で構成される、理工学部国際交流委員会において継
続的に点検・評価し、将来計画を検討している。特に学術国際会議へは多くの本学部教員
が研究発表しており、国際交流センターが所管している予算において配慮を検討しなけれ
ばならない。また、理工学部学生の国外留学などについては今後、さらに充実する方策を
とらなければならない。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
学生募集定員は、次のとおりである。
数学科 70 名、物理学科 70 名、土木工学科 136 名、精密機械工学科 136 名、電気電子情
報通信工学科 120 名、応用化学科 136 名、経営システム工学科 118 名、情報通信工学科 98
名、合計 884 名
学生募集方法は、次のとおりである。
1
(1)一般入学
(2)特別入学
①付属高校入学(中央大学高等学校、中央大学杉並高等学校、中央大学附属高等学
校からの内部推薦)、②スポーツ推薦、③海外帰国生等特別、④外国人留学生
2
学校推薦入学
各学科特有の諸分野に興味と勉学意欲を持つ、個性豊かな高校生を一般入学試験とは別
の選考基準により選抜する入学試験を、物理学科を除く全学科で実施している。
3
大学入試センター試験利用入試
次の学科において実施している
①物理学科、②土木工学科、③精密機械工学科、④応用化学科、⑤経営システム工学科
4
学科特有の入学試験
次の学科において実施している
①数学科:自己推薦入学、②物理学科:公募推薦入学
5
学士入学
すべての学科で実施
6
編入学
実施していない
7
社会人入学
実施していない
8
特別入学試験実績
特別入試実績は、付属高校入学(内部推薦)9.2%、学校推薦入学 11.5%、その他特別
193
入学においては、1.3%以内である
なお、数学科では 2001 年度より、数学に興味と関心を抱き、将来数学科での勉学を生
かして社会に貢献したいと希望している、個性豊かな人物が学べるように、基礎学力、学
習意欲、創造力に選考基準を置いた「自己推薦」による入学試験を実施している。
また、物理学科では、物理に興味と関心を抱き、将来、自然科学の分野で社会へ貢献し
たいと希望している個性豊かな人物に対して、基礎学力、学習意欲、創造力に選考基準を
置いた「公募による推薦入学」試験を実施している。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部の学生募集については、各学科および各教室主任より構成される教室委員連絡会
議で検討・了承のうえ、教授会で、承認された後、全学的組織の入試委員会に報告を行い、
了承を得ることとなる。
入学試験の合否決定については、入学試験合否決定委員会において決定し、教授会に報
告・了承を得ることとなる。
上記の連絡会議および委員会が中心となり学生募集、募集方法等について点検・評価を
行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入学試験募集人員(各入試配分)、入学試験科目・配点・試験時間・マークシート方式
導入、大学入試センター試験導入等について、社会の状況を配慮しつつ鋭意検討を行って
いる。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
付属高校も含め、本学部への入学志願者の多い高校へ教員が出張し、模擬授業を行い、
本学部の理念・目的・教育目標を説明している。本学部では学科ごとに入学者を受け入れ
ているので、各学科の理念などについては特に『理工学部ガイドブック』にも詳しく明示
している。本学部は、
「マニュアルに頼らない豊かな感性を持った科学技術者」の育成を教
育目標とし、それに基づいた特色ある入学者受け入れ方針を決定している。また、入学者
選抜方法の多様性を増し、首都圏以外からの受験が容易になるよう 2001 年度より5学科
(物理、土木工、精密機械工、応用化学、経営システム工)では、大学入試センター試験
を採用している。
【点検・評価
長所と問題点】
学校推薦入学に関しては、各学科において入学後の成績調査を行い、点検・評価し、見
直しを図っている。学科によっては、高校時代に履修していない科目の知識を前提として
講義を進める場合もあり、入学者の学力が一定でないことが問題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入試の多様化に伴う入学者の学力の多様性について、どのようにカリキュラムに反映す
べきかをC委員会で検討している。科目等履修生制度を利用した入学者についても検討が
必要である。
194 第2章 学部
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
本学の入学試験実施体制は、入試・広報センターが中心となり、入学者選抜制度に関す
る企画・立案、入学試験についての広報・相談、情報の収集・分析、入学試験要項等の作
成・配布、願書の受け付けおよび処理、入学試験の実施、合格者の発表等の業務を集中的
に行っている。
しかし、入試・広報センターが実施している業務は、一般入学および付属高校入学(内
部推薦)試験のみであり、推薦入学、外国人留学生入学、海外帰国生等特別入学、学士入
学の特別入学試験および入学手続全般に関する業務は、当該学部によって実施されている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部の特別入試実施体制については、前年度中に各試験の出題科目専門委員(出題・
採点・面接・資格審査委員)を教授会で決定し、責任・担当体制を明確にしたうえで厳格
に運営している。さらに毎年度、理工学部特別入試委員1名を選出し、総責任者として、
試験問題印刷時の立会、試験実施日の総括管理にあたっている。
入学試験の合否決定については、学部長および各学科より推薦され、教授会で承認され
た委員で構成される理工学部入学試験合否委員会において審議し決定する。合否委員会で
の合否決定の結果については、教室委員連絡会議および教授会に報告し、了承を得ること
となる。
本学部では、受験生本位の試験制度の整備を目指しさまざまな取り組みを行っている。
その一環として「大学入試センター試験」を利用した入試制度を導入し、従来の3教科
型入試との併願を可能とした。同制度の導入により、受験機会のマルチ・チャンネル化を
図るとともに、受験生が得意なパターンで入試に挑戦することが可能となった。また、入
試に関する最新情報は、テレフォンサービス案内のほか、本学のホームページからも検索
できるようにしている。
なお、過去5年間の入学志願者数は、以下のとおりである。
理工学部学科別入学志願者数
数学
物理
土木
精密
電気
応化
経工
情報
合計
1997 年
918
1,326
1,537
1,784
1,896
1,569
1,491
2,461
12,982
1998 年
978
1,158
1,476
2,058
1,901
1,698
1,596
2,328
13,193
1999 年
832
1,149
1,110
1,786
1,719
1,712
1,444
2,159
11,053
2000 年
839
972
968
1,742
1,801
1,414
1,293
2,024
11,053
2001 年
993
1,139
1,012
1,853
1,892
1,886
1,388
2,119
12,282
*大学入試センター試験利用入試実施について
2001 年度入試より上記の入学試験を、物理・土木工学・精密機械工学・応用化学・経営
システム工学の5学科で実施した。入学志願者は以下のとおりである。
2001 年
数学
物理
土木
精密
電気
応化
経工
情報
合計
-
889
616
1,629
-
1,611
2,122
-
6,867
【将来の改善・改革に向けた方策】
195
本学の入学者選抜制度全般については、全学的組織である、研究・教育問題審議会にお
いて、検討がなされている。
学部独自の入学者選抜制度については、本学部内に設置さている理工学部入試・広報委
員会において鋭意検討がなされている。本学部では学科ごとに入学者を選抜するので、各
学科の理念、目的、教育方針にそったカリキュラムが用意されており、それに対応できる
入学者選抜制度が必要である。
4−(4)
入学者選抜の検証
【現状の説明】
本学部の特別入試については、各教科の入試問題出題委員の間で、問題の意図・傾向・
難易度・解答状況などについて総合的に検証している。
入学者選抜方法に関しては、理工学部入試・広報委員会で検討のうえ、教授会で審議、
決定している。
全学的には、入試・広報センターで把握する仕組みになっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部内での出題委員、採点委員による入試問題の検証を行い、予備校などの意見など
を聞く機会を設けている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学的な入試委員会において、さらに厳密な入試問題検証制度を充実する検討を行う。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
収容定員と在籍学生数は次のとおりである。
表2
収容定員および在籍学生数
(2001 年5月1日現在)
一部
(単位:
1 年次生
2 年次生
3 年次生
4 年次生
修延生
入学定員 在籍者数 入学定員 在籍者数 入学定員 在籍者数 入学定員 在籍者数
在籍者数
人)
合計
収容定員
在籍者数
数学科
70
77
70
74
70
102
70
61
33
280
347
物理学科
70
69
70
86
70
92
70
66
35
280
348
土木工学科
136
162
138
129
140
174
140
126
37
554
628
精密機械工学科
136
170
138
165
140
174
140
123
48
554
680
電気電子情報通信工学科
120
152
120
160
120
163
120
116
26
480
617
応用化学科
136
143
138
148
140
122
140
160
42
554
615
経営システム工学科
118
175
119
134
120
152
120
112
26
477
599
98
130
99
121
100
115
100
85
22
397
473
884
1,078
892
1,017
900
1,094
900
849
269
3,576
4,307
情報工学科
合計
二部
1 年次生
196 第2章 学部
2 年次生
3 年次生
4 年次生
修延生
合計
入学定員 在籍者数 入学定員 在籍者数
在籍者数
収容定員
在籍者数
物理学科
40
15
40
21
16
80
52
土木工学科
40
25
40
35
22
80
82
精密機械工学科
40
20
40
40
6
80
66
電気・電子工学科
40
17
40
38
30
80
85
応用化学科
40
12
40
26
13
80
51
経営システム工学科
40
13
40
28
7
80
48
240
102
240
188
94
480
384
合計
【点検・評価
長所と問題点】
理工系の学問は、基礎のうえに積み上げていく系統性が強く、本学部においてもそのこ
とを十分考慮したうえでカリキュラムが編成されている。このことは、単位修得が厳しく
管理され、学科による相違はあるものの、3年次修了までに、それぞれ最低限修得してお
くべき単位数ないし学科科目名が指定されている。これらの要件をクリアできない学生は、
4年次の「卒業研究」の履修が制限されてしまう。この結果、4年間で順調に卒業できる
学生比率は、2000 年度で一部(昼間部)82%、二部(夜間部)で 65%となっている。
1学科 70 名ないし 140 名の授業はマスプロ的印象を与えるかも知れないが、実験と演
習では、より細分された編成となり、4年次では各学科とも「卒業研究」で少人数のゼミ
(6名∼12 名)に配属される。
指導教授のもとに、ほとんど毎日、時間割のコマ枠を越えた長時間の接触によって、理
論と実験の伝統を継承し、新しい知見の創出が図られる点で、教育と研究の一体化した学
習が実施されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の定員管理については、各学科および各教室主任で構成される教室委員連絡会議に
おいて、長期的な視野と展望に基づき、全学科を対象として検討を行っている。また、各
学科の収容定員については社会の要望に則した方向で変更することを検討している。
4−(6)
編入学者・退学者
【現状の説明】
本学部では、編入学は実施していない。
退学者の現状と退学理由は次のとおりである。
表3
退学者数および退学理由
新入生 経済
満期
除
除籍
籍 除籍
(単位:
人)
自己退学
経済上 勤務上
病
気 家庭の都合 留
学
他大進学
国立
1996 年度
12
58
7
12
8
1997 年度
5
50
8
16
12
4
4
9
11
2
12
公立
1
その他 死亡
合計
私立
18
28
1
160
21
34
1
174
197
1998 年度
6
68
10
7
10
1
5
1999 年度
8
56
9
9
9
1
8
2000 年度
7
53
5
4
8
2
4
38 285
39
48
47
8
30
合
計
1
9
10
36
163
5
8
31
144
2
9
9
30
2
135
5
46
66
159
4
776
1
*一部・二部合計数
【点検・評価
長所と問題点】
学則により、新入生で指定された期限までに履修届け未提出で、修学の意志がないと認
められる者は除籍処分となる。このことは、本学部に入学手続完了後他大学等へ入学をし、
本学部に退学手続未済の新入生の二重学籍防止に対処していると言えよう。また、学費滞
納による除籍者も発生している。なお、学則には、除籍取り消しの救済措置を設けてある。
自己退学者については、ここ数年減少傾向にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部では、学生が修学上直面する問題に対し、教職員をはじめ学生相談室などで、相
談・助言・指導を行い修学の継続に支障がないよう配慮を行っている。また、経済的理由
により修学が困難な学生、家計急変などにより修学の継続が著しく困難となった学生に対
しては各種奨学金制度が設置されている。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
本学部における主要な授業科目への専任教員の配置状況は以下のとおりである。
主要な授業科目は各学科の専門教育科目の必修科目および選択必修科目として、専任教
員の担当科目を学科別に比率を算出した。
1.数学科・・・・・・・・・・・100%
2.物理学科・・・・・・・・・・ 97.4%
3.土木工学科・・・・・・・・・ 96.2%
4.精密機械工学科・・・・・・・ 87.2%
5.電気電子情報通信工学科・・・ 94.1%
6.応用化学科・・・・・・・・・100%
7.経営システム工学科・・・・・ 97.3%
8.情報工学科・・・・・・・・・ 89.3%
本学部全体としても、94.3%とかなり高い数字で、専任教員が主要授業科目を9割以上
担当している。
なお、4年の必修科目「卒業研究」は各学科の専任講師以上の教員全員が担当して学生
への指導を学部の理念・目的に照らし合わせて適切に行っている。
また、教員組織における専任、兼任の比率は、学部全体としては 38.1%と約4割弱を占
め、8学科平均では 44.9%を専任教員で占めている。各学科別の専任・兼任の比率は以下
のとおりである。
198 第2章 学部
1.数学科・・・・・・・・・・・38.2%
2.物理学科・・・・・・・・・・47.2%
3.土木工学科・・・・・・・・・38.9%
4.精密機械工学科・・・・・・・32.7%
5.電気電子情報通信工学科・・・53.1%
6.応用化学科・・・・・・・・・57.1%
7.経営システム工学科・・・・・51.7%
8.情報工学科・・・・・・・・・50.0%
9.共通・・・・・・・・・・・・20.6%
次に、教員組織の専任教員の年齢構成は、学部全体としては 54 歳で、中央大学全体の
54 歳とほぼ同じである。各学科別の年齢構成は以下のとおりである。
1.数学科・・・・・・・・・・・53 歳
2.物理学科・・・・・・・・・・55 歳
3.土木工学科・・・・・・・・・50 歳
4.精密機械工学科・・・・・・・54 歳
5.電気電子情報通信工学科・・・54 歳
6.応用化学科・・・・・・・・・58 歳
7.経営システム工学科・・・・・56 歳
8.情報工学科・・・・・・・・・51 歳
9.共通・・・・・・・・・・・・54 歳
【点検・評価
長所と問題点】
各学科・教室単位で学科の理念・目的に沿うように教員組織を点検・評価し、さらに各
学科主任および各教室主任より構成する教室委員連絡会議において、毎年度専任および兼
任全教員について担当授業科目および週担任時間数を提出して、改善等を検討している。
また、教育課程編成の目的を具体的に実現するための、教員間における事務調整を図る総
合的な検討を行う組織としてC委員会を設置している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員採用の多様化により、特任教員をどのように教員組織に位置づけるかを検討し、有
効な活用を目指したい。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
本学部においては、実験・実習をともなう教育等を実施するための人的補助体制として
は以下のとおりである。
1.教育技術員
各学科に配属され、実験・実習・演習科目等の補助業務に従事する1年度単位契約
の嘱託職員
2.技術員代替大学院学生アルバイト
技術員の採用が困難な場合の時の代替大学院学生アルバイト
3.ティーチングアシスト
199
本学大学院理工学研究科に在籍する優秀な学生で、教育的配慮のもとに教育的補助業務
を行わせ、これに対する手当てを支給することにより学生の処遇の改善に資するとともに、
大学教育の充実および指導者としてのトレーニングの機会を図ることを目的としたアルバ
イト学生。
また、教育補助員の構成人数は以下のとおりである。
教育技術員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31名
(数学4、物理2、土木4、精密1、電気6、応化2、経工 7、情報4、地学1)
技術員代替大学院学生アルバイト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45名
(土木 24、精密 21)
ティーチングアシスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・290名
(数学 16、物理 23、土木 35、精密 48、電気 77、応化 45、経工 21、情報 25)
【点検・評価
長所と問題点】
教室委員連絡会議において毎年度、教育補助員の点検・評価を行っているが、限られた
予算の中での執行は難しい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の教育補助員体制で、本学部の実験および実習科目等の教育的補助を現在行ってい
るが、今後は二部(夜間部)の廃止後のさらなる充実を目指して、D委員会(研究・改革・
在外研究・研究活動・業績自己点検)で検討中である。
現在、教授会において、助手制度について、本大学の教育研究の後継者を養成するだけ
でなく、広く教育研究者を養成し、もって本大学の教育研究水準を一層向上させるため、
任用形態の多様化を図るために新たに「任期制助手の導入」を検討している。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
【現状の説明】
本学部では、教員人事を公平・円滑に遂行するため、「専任教員人事に関する理工学部
内規」を定めて、教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続を明確化している。
「理工学部内規」による教員人事の主な手続は以下のとおりである。
1.当該学科・教室で人事計画の候補者選定
2.当該の教室委員と学部長にて、人事計画の妥当性及び候補者の事前資料点検
3.教室委員連絡会議にて、人事計画の妥当性の予備審査及び教授会上程の了承
4.教授会にて、人事計画の了承と人事委員会への諮問の決定
5.人事委員会にて、候補者資料の点検、業績審査委員の選定
6.業績審査委員会にて、候補者の業績審査
7.人事委員会にて、候補者の予備審査
8.教室委員連絡会議にて、候補者に関する提案趣旨説明
9.教授会にて、候補者の業績説明
10.教授会にて、候補者に関する票決
11.任用審議会にて、学部長から教授会決定候補者の任用申請
また、教員人事に関する審査・評価の基準は以下のように規定されている。
1.原則的な基準として、大学設置基準では、第四章「教員の資格」の第 14 条(教授の資
200 第2章 学部
格)、第 15 条(助教授の資格)、第 16 条(講師の資格)に示す各号の一つに該当する者
を有資格者としている。しかし、本学部では、それら有資格者のうち原則として、複数
の号を共に充足する者を新任・昇格人事の候補者とし、その予定身分を考慮して総合的
に審査し、その人事を決定する。
2.昇格人事の基準として、教員の昇格は、原則として表2の基準のすべてを充足するも
のとする。したがって、各基準に準ずる条件を適用する際は、当該人事提案者による十
分な説明と人事委員会および教授会における慎重な審議が必要である。
【点検・評価
長所と問題点】
現在は上記規定により厳格に教員の募集・任免・昇格が行われており、とりわけ問題と
はなってはいない。
教員選考手続において公募制も導入されており、多くの学科が採用している、関連する
学会などに公募し、面接なども含め厳正に選考されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部長、学科各2名、教室各1名で構成される人事委員会において、継続的に点検・評
価し、将来計画を検討している。特に特任教員に関しては任期制にともなう更新手続につ
いて理工学部内規を定める必要がある。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
本学部では、1992 年 12 月より、研究体制・大学改革を分掌としていたD委員会が「理
工学部研究活動自己点検実施委員会」として、本学部の自己点検・自己評価をも併せて取
り組むこととした。
また、カリキュラム関係を分掌としていたC委員会が、「理工学部教育課程教育活動自
己点検実施委員会」として大学設置基準大綱化に伴うカリキュラムの大幅改革に取り組み、
新カリキュラムは 1994 年度から実施した。
同年度に教員と学生および大学院学生との関係をより密接になるよう全学生に広める
ことを意図した「オフィスアワー」を設置した。
また、同年度より「シラバス」を作成・配布し、同時にFDの取り組みとして、アンケ
ートによる学生の授業評価にも着手した。
1994 年度改正されたカリキュラムはC委員会において見直し検討が重ねられ、完成年度
の 1998 年度より新カリキュラムとして発足した。
先に発足した大学院理工学研究科の「自己点検・評価作業委員会」に、D委員会委員が
参加する形で研究業績等の自己点検・評価に取り組んできたが、1998 年度より、この間の
作業委員会の検討結果を踏まえ、教育活動・研究活動の両面を包含した「理工学部自己点
検・自己評価委員会」を新たに発足させ、教育研究体制の充実を図ることとした。
<点検項目>
1.理工学部の教育・研究理念と運営に関する事項
1)教育・研究理念の妥当性の確認と見直し
2)教育・研究改革のこれまでの取り組み状況の点検
3)夜間部教育に関する諸問題
201
4)学科の将来計画との関連性
5)上記諸項目との関連での学部運営方法点検
2.学生の受け入れに関する事項
1)入学選抜方法の妥当性
2)学生募集活動、PR活動の効果
3.カリキュラムに関する事項
1)カリキュラム編成方針の妥当性
2)外国人留学生に対する授業科目編成
3)編入学生に対する授業科目編成
4.教育システムと方法に関する事項
1)教育システム
2)教育方法の工夫
3)成績評価と単位認定の方法
5.学生の就職活動に関する事項
1)就職ガイダンスの充実
2)就職委員会の活動
3)求人分野の拡大
4)父母連絡会就職懇談会の活用
6.研究活動に関する事項
1)研究支援体制の整備充実
2)研究業績、学会及び社会における活動の学内外への公表・報告方法
3)学会活動(出張を含む)への配慮
4)教員の研究活動評価システムの検討
7.教員組織及び人事に関する事項
1)学部教育の基本理念と教員組織の整合性
2)人事
8.国際交流に関する事項
1)国際交流の基本方針の確認
2)外国人留学生の受け入れ方針及び状況
3)派遣留学生の支援体制の充実
4)交換留学生の受け入れ体制の整備
5)研究者交流の促進及び支援
6)海外大学との交流結果の評価
9.広報出版図書関係に関する事項
1)広報
2)出版
3)図書
10.安全対策
1)各種危険物・危険設備の保安点検の方法と体制
2)キャンパスの防災対策、実験・実習及び研究における安全性の確保
202 第2章 学部
3)学生傷害保険の点検
11.自己点検・自己評価結果の活用と教育研究条件の改善充実、達成度の測定
【点検・評価
長所と問題点】
毎年、教育活動については授業科目週担任時間、研究活動については理工学部自己点
検・評価に基づく研究業績を提出しており、適正に評価できていると考える。教員の新任
採用・昇格人事における基準は理工学部内規で規定されており、選考において教育研究能
力・実績は配慮されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育活動と研究活動の比重は教員によって異なり、今後は多様な評価基準を設ける必要
があろう。教員選考においても研究論文重視だけでなく、それぞれの教育研究分野におけ
る特色を活かした基準を作成していく。
6.施設・設備等
6−(1)
施設・設備の整備
【現状の説明】
本学部では、一般に講義科目の他に実験・実習等の授業科目があり、必然的にこれらの
科目の授業はこの授業科目に対応した実験室を有しており、学生が実験・実習等の勉学す
るうえで有益な施設である。
次に学科別に見ると、数学科と情報工学科は独自に電子計算機が設備された情報関連施
設を有している。
土木工学科、精密機械工学科、電気電子情報通信工学科、応用化学科は3号館に大規模
な実験施設を有している。
また、本学部のカリキュラムにおける集大成の授業科目「卒業研究」を学生が履修する
ために、「卒業研究」の使用実験室を各学科にて有している。
【点検・評価
長所と問題点】
現在実験施設としている3号館施設の機能が教育研究の進歩にともない、改善が望まれ
ている。
また、近年の著しい情報社会の発展にともない、より高度な教育研究の探究が必要不可欠
となってきている現状からさらなる情報関連施設の充実が望まれている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の問題点を踏まえて、21 世紀中央大学の知的ネットワーク施設の中心として、理工
学部に新棟を建設することとした。
新棟は 2003 年の竣工を予定し、従前の3号館の4学科実験室をはじめ、最新の情報教育
施設を有し、理工学部のみでなく、大学院、文系大学院等をも有した施設を予定している。
6−(2)
キャンパス・アメニティ等
【現状の説明】
キャンパス・アメニティの形成、支援のための体制としては、全ての学科・教室から構
成される教室委員連絡会議において、理工学部キャンパスとして独自の検討対応を行って
いる。また、理工学部学生部委員が中心となりオピニオンボックスを設置し学生からの意
203
見・提案などを収集し、学生の「生活の場」の整備点検に役立てている。
さらに、大学周辺に対する「環境」への配慮としては、都心型キャンパスの特色を配慮
した騒音問題などに注意を払っている。
【点検・評価
長所と問題点】
多摩キャンパスと比べ、理工学部キャンパスは手狭なため、学生からの要望を全ては実
現できないのが問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
このような問題点を解決するため、2003 年3月竣工予定の新棟を建設中であり、キャン
パス・アメニティを格段に向上させる計画である。
6−(3)
利用上の配慮
【現状の説明】
本学部においては、従前より障害者の学生の在籍はほとんどなく、また現在も障害者の
学生は在籍していない。
【点検・評価
長所と問題点】
施設面においては、6号館に障害者用トイレが1室、エレベーターには身障者用昇降ボ
タン等が据え付けられている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後の検討課題であり、新棟においては、障害者用各種施設を計画しており、また既存
の施設についても現在改善に向けて検討中である。
6−(4)組織・管理体制
【現状の説明】
本学部における教育研究活動にかかわる危険物等の管理体制を確立し、危険物等の取り
扱いによる事故を防止し、教育研究の増進を図るために規程を制定し委員会を設置してい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部内に各学科より選出された委員により構成される理工学部安全管理委員会を設
置し、次の危険物等の安全管理体制を確立している。①放射能性同元素等、②放射線発生
装置、③高圧ガス、④有害実験廃液、⑤産業廃棄物および毒物・劇物。さらに、円滑な管
理を実施するために、監督者、主任者、責任者および管理者を教職員の中から理工学部長
の推薦に基づき学長が委嘱している。
委員会では、防災・事故防止のための啓発活動および訓練の実施、業務計画・業務実施
基準およびその報告書等の審議、事故等緊急事態発生時の措置等に関する必要事項の検討、
事故原因の調査などの業務を遂行している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
理工学部安全管理委員会において継続的に点検・評価し、将来計画を検討している。特
に、環境に配慮した産業廃棄物の処理、危険物の管理など後楽園キャンパス新棟の建設に
際して考慮している。
204 第2章 学部
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
毎年 11 月に開催される大学祭の期間中に、各学科の研究室公開を実施している。
大学祭に来校する、一般見学者、他大学生、高校生、地域住民、企業関係者、OB等を
対象として、日頃の学生および研究室の研究内容・成果等を専門的な知識を一般の方々に
分かりやすく、身近なものとして捉えながら、その成果を、具体的に分かりやすく説明・
解説を行い研究の成果を公表している。
毎年、50 室前後の研究室が公開を行っている。
研究に関しては、理工学研究所において各研究室の研究内容を公開し、研究シーズ集と
して発刊し、企業へ研究成果を還元している。また、研究成果に基づく特許も理工学研究
所より取得している。
【点検・評価
長所と問題点】
理工学部総体としての取り組み体制ができていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会からの要請を分析し、それに対応する体制を全学的に設ける必要がある。また、技
術移転TLOの組織も必要である。
8.管理運営
8−(1)
教授会
【現状の説明】
教授会は学則によって、教授、助教授および専任講師により組織され、学部教育研究活
動および学部運営について審議決定している。教授会のもとに教育課程を検討するC委員
会など、教員人事に関する人事委員会を設け、適切に運営されている。月一度の割合で開
催されている教授会の前日に、各学科・教室主任より構成される教室委員連絡会議を学部
長が開催し、教授会審議事項の事前調整を行っている。
評議会など全学的審議機関へは、学部長および学部選出委員が出席し、学部としての意
見を述べている。
【点検・評価
長所と問題点】
教授会員は 120 名を超え、十分な討議が行えない場合もあるので、事前の教室委員連絡
会議が有効に機能している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教授会で審議する事項が著しく増加しているので、全学的に教授会審議事項を整理する
ことが必要である。
8−(2)
学長、学部長の権限と選任手続
【現状の説明】
学部長の選任に関しては、学部内規に基づき教授会全員による投票により行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
選任手続は問題ないが、時期が学期中の 10 月であるため、選任された学部長が授業な
205
どの負担軽減を必要とし、問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部長の負担が著しく増大しており、学部長補佐を設けることも必要である。
8−(3)
=第6章
参照=
8−(4)
=第6章
評議会、「大学審議会」などの全学的審査機関
参照=
8−(5)
=第6章
意思決定
教学組織と学校法人理事会との関係
参照=
9.事務組織
【現状の説明】
中央大学事務組織規則第6条に基づき、理工学部事務室が設置されている。
理工学部事務室は、教務、学務・庶務、大学院の3つのグループより構成され、学部の
学事計画、予算・決算、授業、学籍、試験(募集)、大学院および庶務に関する業務を全般
的に行っている。
【点検・評価項目
長所と問題点】
本学の理工系学部は、理工学部1学部のみであり、キャンパスは後楽園にある。一方、
文科系学部は、5学部すべてのキャンパスが多摩にあり、理工系、文科系のキャンパス形
態が分離・独立している。このことは、事務組織上においても本学部は後楽園キャンパス
にまとまっており、文科系から独立した事務組織が存在する。
教務事務を執行している理工学部事務室においては、教職にかかわる事務、大学院にか
かわる事務については、多摩キャンパスに設置され、文科系学部全体の事務を執行してい
る教職事務室、大学院事務室から、分離・独立して本学部の学生のみを対象とした事務を
執行する組織となっている。また、学部長秘書にかかわる業務に関しても、多摩キャンパ
スの学部長秘書室から独立して、理工学部独自に業務を遂行している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学を取り巻く環境は、複雑、多様化傾向にある。そのような学内外の状況に対し、事
務組織が単なる事務処理機構としてではなく、教育研究をサポートする組織として、長期
的な広い視野に立ち、いかに迅速、的確に対応していくかが今後の課題となってくるであ
ろう。
10.自己点検・評価等
10−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
本学部では、各学科(兼・研究科)および、各教室より選出された委員により構成され
た独自の「自己点検・評価委員会」を設置し自己点検・評価を行っている。
206 第2章 学部
本委員会は、毎年、専任教員の研究業績を中心に点検・評価を行っている。この点検・
評価資料をもとに各官庁、学外諸団体等への対応、各種調査への回答、各種記録へのデー
タとして役立てている。また、最近の資料については、データベース化を行っている。
現在、本委員会において、本学部の自己点検・評価とはいかにあるべきか、等を中心に
継続的に検討を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
毎年、点検・評価を行い、最新のデータを収集しているが、本学部内での公表にとどま
り、大学全体へは公表していない。また、研究業績以外、例えば学生による授業評価など
は学科ごとに実施されており、制度として充実を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部独自の自己点検・評価と大学全体としての自己点検・評価とを明確に位置づける
ため、全学的な検討を始めるべきである。
10−(2)
=第7章
参照=
10−(3)
=第7章
自己点検・評価に対する学外者による検証
参照=
10−(4)
=第7章
自己点検・評価の改善・改革システムの連結
評価結果の公表
参照=
207
文学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
今年創立 50 周年を迎える文学部は、「人間を知り、新世紀をつくる」というメインテー
マを掲げ、
「私達文学部は、哲学、文学、史学と、はるか昔から続いてきた学問と、社会学、
社会情報学、教育学、心理学と、時代を切り開く最先端の学問が共存している学部です。
これらの学問はすべて人間とその営みを追求する学問であり、それゆえ、人間のいる限り、
人の世の続く限り、決して絶えることのない学問です。古来から新時代まで、人と時代を
作り続ける学問なのです。文学部創立 50 周年を迎えるにあたり、私達は、教職員・学生一
体となり心新たに、学問の伝統を守り、さらに豊かに発展させることを決意し、知の森の
探求者として、共に歩んでいきます」と、決意を表明している。(文学部創立 50 周年記念
メインテーマ)
本学部の理念・目的は、まさにここに掲げられているとおり、
「人間とその営みを探求す
る」ことであり、「人と時代を作る」ことであり、「知の森の探求者」になることである。
これは研究の理念・目的でもあり、そしてまた教育の理念・目的でもある。
こうした理念・目的を根底に据えて、自ら考え、自ら判断し、自ら行動し得る人材、わ
が国の文化をよく理解した上で、国際化・高度情報化・価値観の多様化あるいはグローバ
リゼーションといった言葉で示される世界の急激な変貌に深いところで対応し得る人材の
育成を本学部は目指していると言ってよいであろう。
また、二部(夜間部)については、将来的な文学部の教育研究体制を確立するために、
夜間部教育の現状を踏まえつつ慎重に検討を重ねた結果、現行制度の限界を克服する必要
性を認識し、一部(昼間部)教育を柔軟に実践することにより時代に対応した新しい開放
型教育システムの構築を図るため、本年度から二部(夜間部)の学生募集を停止し、在学
生の卒業を待って廃止することを決定した。
なお、各専攻・コースなどの理念・目的・教育目標については、項目「3−(1)教育
研究の内容等」を参照されたい。
【点検・評価
長所と問題点】
人間と人間の営為、その本質・根底を研究するのが文学部である。よって、本学部はあ
らゆる学問の基本と言い得るし、また人間存在探求の基本的学問ということもできる。古
来から新時代まで続く、古くて新しい学問、永遠の学問という、大きな長所をもっている
のである。
また、呼称は文学部であるが、文学のみならず、哲学、史学、社会学、教育学と5学科
12 の専攻・コースがあり(2002 年度からは中国言語文化専攻が加わり 13 となる)、多様な
学問領域を擁している。それゆえ、古きを温ねつつ現代の社会情勢に対応するという両面
の教育研究対応を可能としている。そうした学問の中で、学生は基本的でかつ多様な、そ
して古くてかつ最先端の学問を身につけていくことができるのである。
こうした長所を持つ文学部ではあるが、この長所が逆に問題点ともなっている。という
のは、多様性が時として、専攻・コース間の教育研究の連携性・統一性を損なわせ、体系
208 第2章 学部
的な総合的知識の獲得に支障をきたすという危険性があるからであり、また逆に、一つの
専攻・コースに引き籠もるという危険性も有しているからである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部では、カリキュラムを 2002 年度入学生から大改正し、他学科履修を大幅に認め、
さらに専攻・コースの敷居を取り払った学際的かつ体系的な科目を多く設置した。今後は、
新カリキュラムの成果と問題点を本学部の理念・目的・教育目標の観点から注意深く検証
してゆく必要があろう。
2.教育研究組織
【現状の説明】
現在、本学部には5学科 12 専攻・コースがある。文学科の国文学専攻・英米文学専攻・
独文学専攻・仏文学専攻、史学科の日本史学専攻・東洋史学専攻・西洋史学専攻、哲学科、
社会学科の社会学コース・社会情報学コース、教育学科の教育学コース・心理学コースで
ある。また、現在文学科に設置されている二部(夜間部)は、社会的環境の変化とともに
その教育の限界を克服する必要性を認識し本年度から学生募集を停止し在学生の卒業を待
って廃止する一方、2002 年度からは、中国言語文化専攻が文学科に新設され、13 専攻・コ
ースとなる。このように、きわめて多様な専攻・コースを有しており、まさに「知の宝庫」
(『文学部ガイドブック
1996・1997』)と言える。
この 12 専攻・コースならびに保健体育・中国語・共通科目では研究室会議が随時開かれ
ており、そこで専攻・コース等の問題や教授会・各委員会に向けての専攻・コース等の統
一見解、さらに教育方法や学生についての話など、教育研究にかかわる幅広い内容が話し
合われている。
委員会としては、文学部研究教育審議会ならびにその下部機関である将来構想委員会が
本学部の将来の基本的な見取り図を作成中であり、また、高大一貫教育委員会では、付属
高校との一貫教育を企画運営し、さらに他高校との一貫教育について構想中である。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部は他学部とは異なり、いわば、文学部という建物の中に 12 の専攻・コースという
名店が軒を並べる名店街のような観をもつ。具体的には、12 専攻・コースならびに保健体
育・中国語・共通科目がそれぞれに共同研究室を持ち、研究室会議を持ち、それぞれに独
自性を発揮しつつ、教育研究にあたっているのである。それゆえ、学生への対応は教育を
含めてきめ細やかな配慮が行き届いている。しかも、小回りが利き、臨機応変の対応が可
能である。12 専攻・コースが、よい意味で競い合い、教育に磨きをかけている、と言えよ
う。
しかし、こうした長所がまた短所ともなる。時に専攻・コースが閉鎖的態度に傾き、本
学部全体の利益よりも自らの専攻・コースの利益を優先させる、という傾向をもつからで
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
こうした問題点を克服するために、そして教育理念・目的を貫徹するためのよりよい組
織・制度を求めて、本学部では、将来構想委員会という組織が4年前に設置された。委員
会において、今年度は、オフィスアワーの構想、受講生による講義評価の構想、等が検討
209
されている。また、各研究室会議においても、近年の大学危機意識の高揚とともに、本学
部全体のことを考える状況がかなり広まってきている。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
≪文学部≫
【現状の説明】
本学部の教育体系は、その理念・目的である「人間とその営みを探求する」こと、
「人と
時代を作る」こと、「知の森の探求者」になることを実現するための教育体系として、「深
く専門的な学芸を教授研究」するための 12 に分割された専門領域と、「広く知識を授け」
「知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」ための一般教養的領域や各専門分野の補完
や連携を考慮した文学部共通・自由選択領域を置き、学校教育法 52 条にかなった編成を実
現している。
具体的には、多様な専門領域は、これを体系的に教育研究するための組織として、前記
「2.教育研究組織」のとおり、文学・史学・哲学・社会学・教育学の5学科に区分し、
さらに文学科および史学科については入学定員を定めた「専攻」を設け、社会学科・教育
学科は、同一学科内で履修形態を区分した履修上の「コース」に細分化し、
「専攻に係わる
専門の学芸を教授」するため、この 12 の専攻・コースがそれぞれ独自のカリキュラム体系
を保有している。また、
「幅広く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵
養する」ための一般教養的授業科目・専門領域の補完的教育として、外国語科目・保健体
育科目ならびに文学部共通科目を設置して、専門教育と合わせて体系的なカリキュラムと
している。また、学科内での合併授業の実施や他専攻・コース学生が自由に履修できる「ゴ
シック科目(履修要項にゴシック文字で表記している科目)」を積極的に設置し、本学部の
知的財産を共有できるよう配慮している。
本学部は、卒業所要総単位 137 単位の内、「外国語科目(16 単位)」「保健体育科目(3
単位)」「共通科目(28 単位)」は本学部共通の基礎・教養教育単位として統一している。
また、各専攻・コースで定めた専門分野の卒業要件単位以外は「自由選択」として本学部
内設置科目を自由に選択できる制度をとり、学生の知的興味に合わせて学修可能となるよ
う配慮している。さらに本学部では正規のカリキュラム体系の他に、教職課程および学芸
員・司書・司書教諭・社会教育主事の各種資格を取得できる履修課程を用意し、さらに卒
業所要単位に含まない「随意科目」として英会話や体育実技(2年次以上)を用意し、所
属する専攻・コースを超えた教育体系も確保している。
外国語科目は、
「語学教育運営委員会」を組織して本学部全体の外国語能力育成のための
方針を定め、これに基づき英語・ドイツ語・フランス語・中国語について授業科目を開設
している。国際化等の進展に適切な対応をするため、1クラスの履修者数を制限した少人
数教育により「発信する能力の向上」に努め、また学生の幅広い需要に対応するために、
2カ国語 16 単位という選択必修枠内で毎年度学生の履修希望をとり、全面的に履修希望に
応える体制をとっている。
保健体育・共通科目は、本学部生の「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊か
210 第2章 学部
な人間性を涵養」するほか、各専攻・コースの教育課程に共通する基礎教育・倫理教育と
して活用している。共通科目内には 12 の専攻・コースの専門領域に所属しない学問領域に
ついて「副専攻(地理学・比較文化・情報処理・国際関係学)」と呼ばれる4つの履修モデ
ルを設け、主専攻に加えて複眼的思考の養成も視野に入れている。
基礎教育と教養教育の実施運営については、各専攻・コース単位では研究室会議、本学
部全体では教務委員会、共通科目運営委員会(共通科目)、語学教育運営委員会(外国語)
が調整機能を果たし、日常的な運営は円滑に実施されている。
【点検・評価】
文学のみならず、哲学、史学、社会学、教育学と5学科 12 専攻・コースに細分した教育
体系は、学校教育法第 52 条・大学設置基準第 19 条の「深く専門の学芸を教授研究」する
ことに適合しているが、反面、多岐・多様な専門分野のため専攻・コース間相互の教育研
究の連携性や本学部としての統一性を損なわせ、体系的な総合的知識の獲得に支障を来す
という危険性があることは前記「1.理念・目的・教育目標」のとおりである。そのため、
「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培う」文学部共通科目を設置して一般教養的およ
び専攻・コースの補完的専門分野の授業を実施し、さらに他専攻・コース科目の履修も一
部の実習・演習科目を除いて大幅に履修可能として本学部全体の知的財産を有機的につな
ぎ、有効に活用できるカリキュラム体系を用意している。しかし、現在は専攻・コースご
との必修・選択必修単位数に差異が大きく自由に授業科目を選択できる幅に不公平が生じ
ている。また授業科目の選択肢が多くても自専攻分野の必修科目に縛られ事実上他の選択
科目を履修できないケース、選択幅が拡大しても自ら自専攻分野に閉じ籠もるケース、単
位取得が容易な授業科目に履修が集中するケース等があり、今後の検討が必要である。
外国語科目は、1993 年度実施の学生に対するアンケート結果で外国語授業に対する満足
度が他の授業科目に比べて低かったのを受けて大幅な改革を検討、1996 年度入学生から現
在のカリキュラム体系となった。改革以来小規模な見直しは行われたが、施行から5年が
経ち、外国語の追加の是非、単位数の適切性、能力別クラス編成等の課題が残されており、
今後の検討が必要である。
保健体育科目については1年次に3単位(実技1・講義2単位)を必修としているが、
大学教育の導入教育的役割と「豊かな人間性の涵養」の視点から適切に機能している。
共通科目も「幅広い教養と総合的判断力を培う」ための重要な役割を果たしている。共
通科目には特に教職・資格課程科目や就職試験のための基礎知識となる科目も含まれ、専
攻・コースの授業科目に含まれない一般教養的授業科目・補完的専門科目として重要であ
る。しかし、主専攻に対して複眼的視野を持たせるために開設している「副専攻」は、
「情
報処理副専攻」が履修希望者の超過により抽選で履修登録を認めているため在学中の副専
攻修了が保証できない反面、他の副専攻については希望学生が少なく、再点検が必要であ
る。
本学部の基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制としての各種委員会は、定
期的に開催され、本学部全体の調整機能を果たしており、日常的な運営は円滑に実施され
ている。また将来的な学部改革については、学部研教審委員会とその下部組織である将来
構想委員会がその任にあたり、現在も多くの懸案事項を検討中である。
【長所と問題点】
211
本学部の教育研究において最大の長所は5学科 12 専攻・コースにおよぶ多様な学問領域
とこれを補完する共通科目の多種多様なカリキュラム体系である。各専攻・コースごとに
学部から大学院まで独立した教育研究体制を整え、各々個別の共同研究室・図書室を保有
しており、
「深く専門の学芸を教授研究」するのに適切な体制である。しかし、専門性が高
くなるほど専攻・コース間の連携が薄れてしまうのが問題であり、本学部全体の教育体制
を調整・運営するために教務委員会や各種専門委員会の果たす役割が大きい。また開講科
目数が多く学生の履修上の選択幅が豊富であることは幅広い教養と総合的な判断力を養う
ために適切であるが、反面選択の幅が広すぎて自専攻以外どの学問領域を追求するか判断
に迷うことがある。一定の履修モデルや適切な履修指導が必要である。
外国語科目については、語学教育運営委員会が運営を担い、文学科の外国文学系の専攻
が教育を担当する体制をとり、単なる語学の授業以上の高度な外国語・文学・文化につい
ての教養を本学部全体で享受できるという長所があるが、特定専攻には専門科目教育以外
にも負担を強いるという問題点も残る。また 1996 年度から実施した現行の外国語履修制度
も学生の希望に合わせた自由な選択制度を導入し、積極的な外国語運用能力の向上を目指
す学生にとって効果をあげているが、消極的履修者・再履修者にとっては安易な選択に流
れる傾向があり改善が必要である。
保健体育科目は、1年次の必修科目としたことから、大学生活に必要なコンディショニ
ングづくり(自己管理の点検)や健康問題、社会問題との関わり等についての再考に役立
ち、2年次以降も随意科目(卒業に必要な単位に含まない)として継続する学生も多い。
共通科目については、専攻・コースの縦割りを超えて本学部共通の「幅広い教養と総合
的判断力を培う」場であり、学生間の専攻・コース横断的な交流・情報交換にも役立って
いる。また教職・資格課程の履修者、就職等の基礎知識取得を目指した履修者も多く、そ
の重要性が認められている。しかし、科目数の豊富さの反面、専攻・コース専門科目と類
似するものや履修者が極少の科目も存在し、統合・整理が必要となっている。また主専攻
に対して複眼的視野を持たせる「副専攻」制度も制度としての長所は十分理解されている
が履修者の多寡が生じ問題が残る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部は、従来から学生履修者が多く、需要が高かった中国語科目および中国文化・文
学関連の共通科目を体系的に一つの専攻領域にすることを検討、1998 年度教授会で承認後、
認可申請手続を経て 2002 年度から文学科内に「中国言語文化専攻」を新設することが決定
した。この中国言語文化専攻は、専任教員5名が中心となり、本学部全体の中国語授業を
担当しながら、新専攻の専門分野を担当する。専門分野は、本学部共通科目として開設さ
れていた「現代中国事情」
「中国文化」
「中国文学」
「中国語学」を柱に、より専門的に発展・
拡大させたカリキュラムとする。
これに合わせて本学部のカリキュラムも大幅に改正することを計画、具体案が決定し、
同じく 2002 年度新入生から適用する。この改正は、卒業所要単位を現行より 10 単位削減
し 127 単位にする一方、専攻・コースの専門科目は 68 単位に統一、卒業論文および3・4
年次の演習併せて 16 単位を必修として専任教員による徹底した少人数教育を実施し専門
分野の充実を図り、「専攻に係わる専門の学芸を教授」するため、既存の 12 専攻・コース
と新設の中国言語文化専攻がそれぞれ独自のカリキュラム体系を充実させる。一方、
「幅広
212 第2章 学部
く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養する」ための本学部全体の
共通カリキュラムとして、既存の外国語・保健体育科目を含めた「総合教養科目群」を新
設、1年次導入教育としての「研究基礎科目」4単位を必修に、またさまざまな分野の学
問を総合的・有機的に結びつけ複眼的な思考を身につけるための「特別教養科目」を6単
位選択必修科目として設けるとともに、専攻・コースの垣根を低くして自由に授業科目を
選択できる幅を拡大、他専攻・コースに「副専攻」として履修モデルを置き、体系的に複
眼的思考を育成できるよう配慮する。
新カリキュラムの実施・運営のための責任体制としては、各専攻・コースの専門領域は
各研究室会議で意思決定して、各専攻・コースを代表する教務委員が本学部全体の調整を
図り、外国語科目は語学教育運営委員会、共通科目は共通科目運営委員会、総合教養科目
群も本学部全体の専門委員会を設置して運営にあたることが決定し、常に各委員会で点検
し、改善の検討を実施する。
<国文学専攻>
【現状の説明】
本専攻では、古来よりわが国が守り育ててきた言葉による文化的営みを深く理解するこ
とにより、文学伝統の継承とその研究成果の蓄積・発展とに寄与する人間を育成すること
を教育の目的としている。その目的を達成するために、特定の時代・領域の専門に偏るこ
とのないよう、上代から現代までの各時代の文学関係の科目群と国語学関係の科目群と、
幅広い選択肢を学生に対して用意している。
2002 年度入学生より、専門科目は 68 単位必修である。比較的自由度の高いカリキュラ
ムといえるが、1年次に必修の基礎演習、1・2年次に時代別の文学史講義と国語学・漢
文学関連講義を配当して基礎固めを図り、演習科目を2・3年次に、必修のゼミナールと
より高度で専門的な選択科目を3・4年次に、4年次に必修の卒業論文を配当しており、
興味と目的に応じて自由な選択が可能な形でありながら、基礎から積み上げて卒業論文に
至るように工夫している。
【点検・評価】
本専攻の設置科目のほとんどは、専攻の性質に因る部分が大きいが、きわめてオーソド
ックスなものである。伝統的な内容・方法による授業である以上、破綻はごく少ない。し
かし、その分、保守的な感は否めない。国文学という学問を取り巻く社会状況は大いに変
化しており、学生のニーズも昔年とは多分に異なってきている。教育研究をこの変化にす
べて合わせる必要はないであろうが、これからの社会や学生がこの学問に何を課し、何を
求めているかを不断に見据えていく必要はあろう。
【長所と問題点】
大きな変化・改革を早急には必要としないほど伝統的に完成された教育内容を安定的に
堅持しているところは長所といえばいえる。伝統の継承という大義を有する学問であるの
で、闇雲に新しい教育研究方法を取り入れる必要はないであろうが、変化・改革の気に乏
しいところは逆に問題点としてあげられよう。時代輪切りの文学史の発想等、そろそろ検
討すべき時期にさしかかっているかもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の要望の高い「国文学情報処理」等、情報機器を利用した科目は 2002 年度入学生よ
213
り実施のカリキュラムに盛り込まれている。こうした新設科目の評価を心がけ、次期改定
に向けて準備していく必要がある。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
英米文学専攻は、イギリス文学・アメリカ文学・英語学の基本領域から構成されている。
これらの領域の専門研究を通して、ことば・文化・文学に関する認識を深めることを目標
とする。授業科目は大きく二つに分けて、
(イ)英語運用能力養成のための少人数クラス授
業と(ロ)専門分野の講義、演習科目、卒業論文およびその指導からなっている。
英語運用能力養成のための少人数クラス授業については、1・2年次に、読む・書く・
聴く・話すの4技能それぞれについての授業を開いている。なかでも、
「ヒアリング及び発
音」「英作文(1)∼(3)」「SPEECH & DEBATE」は通常の1クラスをさらに二分割した徹
底的少人数制である。また、1・2年次には毎週ネイティブ・スピーカーによる必修授業
がある。
専門分野への入門は1年次の「基礎演習(1)」
「英語講読(1)」および「イギリス文化
誌」「アメリカ文化誌」「英語学概説」から始まる。2年次には専門の講義科目および演習
が始まり、3・4年次にはさらに本格的な講義科目および演習科目を履修する。
「演習(1)
(3)」では2年次と3年次、「演習(2)(4)」では3年次と4年次の合同授業が行われ
ている。「卒業論文」は現在必修ではないが、積極的に取り組むように指導している。
1・2年次には上記の専門科目を共通科目より優先して履修するようにし、共通科目の
履修は卒業までの4年間に修得して、専門科目と共通科目のバランスを考えた学習計画を
立てるように学生に指導している。
外国語科目の履修は、本専攻の学生の場合は、1年次では、「英語読解」「英語表現」各
1コマ必修、第2外国語としてドイツ語・フランス語・中国語から1言語(2コマ)を選
択必修としている。2年次では、「ENGLISH
READING」と「ORAL
COMMUNICATION」を必修
とし、さらに選択必修科目として、2年次以上で、ドイツ語・フランス語・中国語の「読
解」
「コミュニケーション」あるいは「ドイツ語読解(上級)」
・
「フランス語読解(上級)」・
「中国語読解(上級)」・「中国語コミュニケーション(上級)」の中から2コマを選択必修
としている。また、随意科目として「英会話」が開設されている。さらにまた、正規の授
業ではないために有料であるが、全学の学生を対象としたLL特設講座の「英会話」とク
レセント・アカデミーの「英会話」がある。
以上のカリキュラムは一部のものである。二部のカリキュラムは2時限制のために、一
部と同じ形でのカリキュラムは導入することができない。しかし、できるだけ充実を図る
ため、一部5時限目に、1年次では、「ヒアリング及び発音」、「英作文(1)」、「英語講読
(1)」、2∼4年次では、「SPEECH & DEBATE」、「英作文(2)」、「英語講読(2)」を開設
し、二部学生が随意科目として履修することを可能としている。一部に転部した場合には
これらの科目は卒業に必要な単位として認められる。なお、二部については、2001 年度よ
り学生募集停止となったために、2001 年現在、2年生以上の学生が在籍している。
【点検・評価】
本専攻にとって最も大きな課題の一つは、専攻学生数の多い中で、いかにしてきめ細か
い充実した授業を実現するかであったが、1989 年から 1990 年に画期的なカリキュラムを
214 第2章 学部
導入し、現カリキュラムはこれを基本としている。高校までの英語学習からの移行にも配
慮しつつ、実際的な英語力と専門的な学力がバランスよく身につくようにした体系的シス
テムとなっている。現行カリキュラムは他大学の英文科に負けない充実したものと評価し
ている。
上記のカリキュラム改革に加えて、新入生オリエンテーションを導入し、また、本専攻
の教員・学生全員が会員となる「文学部英米文学会」を設立している。この学会は、英語
英米文学の研究活動の活発化を図るとともに、会員相互の親睦・交流を促進している。ま
た、学年の壁を外した2年次生と3年次生、3年次生・4年次生それぞれの合同演習は、
約 30 名の少人数クラスで行われ、専門研究の場における人間的な交流も可能にしている。
これらの改革は、「学校教育法」第 52 条にいうところの知的、道徳的および応用力を展開
させる場である。
【長所と問題点】
上記の改革により、本専攻の教育内容や教育環境などの充実がもたらされ、英語の学習
においては少人数クラスによる個人個人に対するきめの細かい指導ができるようになった
という点で、望ましい体制づくりができた。しかし、一方、これにともなって、教室数の
余裕がなくなるという問題が生じた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学者から本学部全専攻で始まる新カリキュラムでは、その理念にともなう措
置の一つとして、各専攻の授業コマ数を一定の基準で見直すという方針がとられ、そのな
かで、上述の教室数不足の問題等が浮上し、最終的に本専攻の現行開講コマ数が約 60%に
削減されることが 2001 年3月の教授会で決定された。このコマ数大削減に応じるために、
少人数クラスで現在展開している科目を中心にコマ数を大幅に削減せざるをえなくなった
が、これを期に、本専攻のカリキュラムの全体的な見直しを行い、いくつかの新機軸を打
ち出した。例えば、1・2年次の英語力養成については、他の科目への振り替えなどをし
て対応することになっている。また、「選択科目」の講義科目すべてに半期制を導入して、
学生が選択できる科目の種類を倍増し、学生の幅広い興味に応じたり、それを育成する方
針である。また、新カリキュラムでは、英米の文化や世界の英語文学の専門的な研究もで
きるように科目を増設する。加えて、現在は選択科目である「卒業論文」を必修にするの
で、これまで以上にきめの細かい個人指導が可能になると考える。
<独文学専攻>
【現状の説明】
独文学専攻の教育目標・理念は、
(a)国際化の進展に対応するために、異文化交流に必
要な能力(単に語学力だけではなく、ドイツ語圏諸国の文化に関する専門的知識を獲得し、
自らの視点を活用してそれらを分析する能力)を育成すること、
(b)並びにドイツ語圏の
言語文化・藝術作品・社会現象などに接することを通じて感性と知性を磨き、幅広く深い
教養を培うにとどまらず、あわせて豊かな人間性を涵養することにある。
開設科目はドイツ語教育関連科目と専門教育関連科目に大別される。前者は上記の特に
(a)の目的と、後者は(a)
(b)双方の目的とかかわりが深い。ドイツ語教育関連科目
はコミュニケーション能力養成科目と読解能力養成科目から成り、
「話す・聞く・読む・書
く」という総合的語学力の育成を目指す。また専門教育関連科目は文学・言語学、藝術・
215
文化学、歴史・社会学という3種類から成っており、ドイツの精神文化のほぼすべての領
域をカバーしている。
【点検・評価】
卒業所要総単位に占めるドイツ語教育関連科目と専門教育関連科目の比率については、
常に検討を怠っていない。現在はベストに近い状態にあると思う。
倫理性を培うことを目的とする科目は特に設けていないが、1・2年次の基礎演習で、
折にふれて学生のメンタル面の指導を行っている。
【長所と問題点】
長所は、カリキュラムが系統立っていることである。ネイティブ・スピーカーによる授
業が多い。ドイツへの長期留学と短期留学の機会を多く提供している。課外活動(春季の
新入生オリエンテーション合宿、夏季のドイツ語合宿など)が活発である。
問題点は、選択科目の卒業論文の履修者は少なくないが、テーマを自分で決められない
学生、途中で放棄する学生が近頃目立っている。4年次に就職活動のために授業を欠席す
る者が年々増えつつある。外国語としてのドイツ語の授業の責任体制については、専攻内
で議論を繰り返してきたにもかかわらず、なおいくつかの点で問題を残している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
文学に限ることなく、ドイツ文化全般について幅広く多彩な講座を提供しているが、今
後もこの基本方針を維持してゆきたい。また、2002 年度入学生から卒業論文が必修科目と
なるので、さらにきめ細かい卒論指導を行うための具体策を現在検討中である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻は『2001 年度
文学部履修要項』(15 頁)に見られるとおり、
(1)「基礎から
実用までのフランス語能力を養うこと」、
(2)「フランス文学を原文で読むこと」、
(3)学
生各自の関心に沿って「課題を見つけ出し、自ら学び、考え、発言する積極的な姿勢を培う」
こと、の三つの教育目標を掲げている。第一の語学力の養成は、『文学部ガイドブック
2002』にあるとおり、単に「聞き」「読む」という受容能力のみならず「話し」「書く」という発
信能力をも含むオールラウンドのフランス語運用能力を目指したものである。また第二の
原典読解は、フランス文学を中心に据えながらも近年学生の関心が多様化したのを反映し
て、言語学や思想・演劇から音楽・絵画・映画・料理・ファッションに至るまでフランス文
化全般にわたるフランス語のテキストの読解を意味するものと理解されている。さらに第
三の目標は、これら二つの目標を踏まえた上で、自ら問いを立て、思考し、表現するとい
う高度な知的能力の涵養を視野に入れたものである。こうした教育目標のもとに、仏文学
専攻ではさらに具体的に2点の努力目標を設定している。卒業までに文部科学省認定の実
用フランス語技能検定試験(以下、仏検)2級に合格することと、協定校への短期語学研修
や交換留学に挑戦することである。
第一の教育目標は第二・第三の教育目標を達成するための不可欠の条件である。仏文学
専攻に入学する学生のほとんどが入学後初めてフランス語を学ぶことも考え併せれば、
1・2年次で何よりもフランス語の習得に力点が置かれるのは当然であろう。1年次に週
6コマ、2年次に週5コマのフランス語が必修とされ、その内それぞれ2コマはフランス
人教員の担当とされるのはそのためである。1年次のフランス語3コマは日本人1名とフ
216 第2章 学部
ランス人2名がチームを組んで担当し、同一のビデオ教材を用いて基礎的コミュニケーシ
ョン能力を養い、この授業が2年次でフランス人2名の担当するフランス語2コマに引き
継がれる。2年次には仏検3級から2級を目指す学生向けの実践的な授業もある。その他
1年次では基礎文法とフランスの文学・文化の入門、2年次では初級の仏作文に加えて、
フランスの文化・社会・歴史に関するフランス語の基礎的なテキストの読解と、原文によ
る文学テキスト読解の手ほどきを行う。
第二の教育目標に移行するにはフランス語の基礎的習得と同時にフランス文化全般につ
いての教養をも体系的に教授しておくことが肝要である。そのため1年次に「フランス文
化・社会誌」が、2年次に「仏文学史」と「仏語学概説」が設けられている。
3・4年次は当然ながら第二の教育目標にかかわる専門教育的授業の占める比重が格段
に大きい。時代別にフランス文学を概観する「文学講義」と、「フランス言語学講義」、特
定の作家を扱う「作家作品研究」、協定校への短期留学予定者向けの「コミュニケーション
演習」、フランス人教員が担当しフランス語運用能力の一層の開発を目指す「演習」などが
ある。
「講読」は小説・詩・演劇などの文学作品に加えて思想・文化・社会・歴史などを扱
ったテキストを読む演習形式の授業で、第二の教育目標の中心的なカリキュラムとなって
いる。卒業論文は仏文学専攻ではまだ必修科目ではないが、第三の教育目標を達成するた
めの好個の機会として履修を推奨している。
【点検・評価】
学校教育法 52 条ならびに大学設置基準 19 条は大学の目的ならびに教育課程の編成方針
として専門の学芸の教授と並んで幅広く深い教養・総合的な判断力・豊かな人間性の涵養
に対する配慮を求めている。仏文学専攻の教育目標にことさらこうした観点は織り込まれ
ていないとはいえ、フランス文学は伝統的に人間性の洞察に優れた点に特色があるとされ
るのはあらためて指摘するまでもない。フランス・ユマニスムの例を挙げるまでもなく、
フランス的精神の特徴は寛容の精神にあり特定の価値観に偏らないバランスのとれた人間
理解がその真骨頂であるとされる。フランスの文化と文学の研究は従って法規と設置基準
の求めるところに自ずと資するのである。かかる観点に立つ時、仏文学専攻の現行の教育
課程は外国語科目・一般教育科目・専門教育的科目の三者のほどよい量的均衡の上に組み立
てられていると見なしてよいであろう。
【長所と問題点】
ヨーロッパの一国の言語と文化の理解が普遍的な力を持つのは上述のようにそれが他
ならぬフランスの言語と文化であるからである。こうした強みを本来備えているにもかか
わらず、現実の教育がややもすれば単なる語学の習得に偏重し、あるいはフランスに関す
る通り一遍の知識の吸収に終わるとすれば、設置基準の要求を満たすのは難しいというこ
とになろう。仏文学専攻が掲げる3つの教育目標は互いに有機的に連関してこそ意味をな
す点を看過すべきではないであろう。
【将来の改善・改革に向けた展望】
仏文学専攻の現行の教育課程は近年の専攻をあげての数度の見直しによる成果であっ
て、一応の完成度に達していると自負しているが、学生の知的関心の多様化と大学の使命
に対する社会の要求の変化にともなって文学中心の教育研究体制で果たしてよいのかとい
う反省が専攻内で生まれているのも事実である。伝統的な仏文としての希少価値を守るの
217
か、それとも学際的な地域研究としてのフランス学を目指すのか、という本質的な選択を
迫られているとも言える。専攻の存立基盤にかかわるこうした問題に直ちに解答を出せる
わけではないが、2002 年度入学生から卒論を必修にし、専任教員による3・4年次合同の
ゼミ制度を採りいれるなど、さらなる改革を追求しつつあるので、少なくともこうした努
力によって教員と学生間の一層親密で効率的な交流が可能となると思われる。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
日本史学専攻の基本的な教育目標は、古代∼近・現代における文献史料をはじめとする
さまざまな史料を的確に読解する力と、必要とする基礎的な歴史的知識とを身につけるこ
とにより、広い視野と深い洞察力に基づいて歴史状況を多角的に考察し、その意味を解明
するための方法・能力を磨くということにある。この目標に沿ってカリキュラムが組み立
てられている。
具体的には、1年次に必修で時代の異なった基礎演習をあわせて2コマ、2年次に必修
で基礎演習を1コマ履修する。そこでは各時代の基本的な文書・記録等をテキストに、史
料の読解力を養い、基礎的な知識と分析方法を身につける。その他1年次で古文書学、日
本史学入門が必修科目となっており、基礎演習とともに大学における歴史学研究への橋渡
しの役割を果たす。2年次では日本史概説が必修のほか、日本古代史をはじめとする時代
史や古文書学演習を選択履修することができる。3・4年次では時代史のほか、日本思想
史、日本社会経済史等の部門史や特殊なテーマの講義(日本史特講)、各時代ごとの日本史
演習が開講され、より専門的な知識や分析・考察の方法と能力を身につけることができる
ように配慮されている。卒業論文は必修である。(『文学部履修要項』参照1)
【点検・評価
長所と問題点】
早くから史料演習関係の専門科目を学ぶことによって、史料の読解技術の修得に関して
は、かなり効果が上がっている。
問題点としては、第一に広い視野から歴史学的な考察を行う際にそのバックボーンとな
る幅広い知識を体系的に教授するような科目は比較的大人数の講義ものが多いため、学生
にとっては技術の修得を目指す史料演習関係の科目ほどには興味を感じられないケースが
まま見受けられる点をあげられる。幅広い知識を教授する科目においても、少人数の演習
形式の授業があってよいのではなかろうか。
さらに、3年次の日本史演習は複数の演習を履修する形をとっており、また、3年次に
日本史演習を履修していなかった教員を、4年次になって指導教授として選び卒論を作成
することも制度上は可能なため、3・4年次の2年間を通してじっくりと卒論の構想を練
り上げさせようとしてもなかなかうまくいかないことが、第二の問題点として指摘できる。
第三に、学生の要望が強い考古学や民俗学等、文献史学以外の科目が専攻内の専門科目と
して存在していない点があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から実施される新カリキュラムにおいて、思いきって必修科目を整理し、
選択の幅をより広げたが、それにとどまることなく、上述の長所と問題点を踏まえ、学生
が学びやすいカリキュラムをめざして、さらに検討を加えていく必要がある。特に、考古
学については何らかの形で専攻内の専門科目として開講する方向で、現在検討を進めてい
218 第2章 学部
る。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
東洋史学専攻は、
『2001 年度
文学部履修要項』
(19 頁)に記されているとおり、アフロ・
ユーラシア大陸を広く研究の対象としている。ここで明記しているように、東洋史学専攻
の主な教育目標は、①幅広い教養を身につけ、社会に貢献する人材の養成、②教員・学芸
員・公務員などへ進む路を設定すること、③研究者へ進む路を設定すること、の三つであ
る。
東洋史学専攻は、広大な地域の歴史を対象とするために、第一に、学生の多様な要求に
こたえうる、多彩な語学習得のカリキュラムの提供をこころがけている。大学4年間の勉
学の集大成をなす卒業論文の執筆のためには、なによりも、文献の綿密な読解に基づく立
論が必要であり、そのためには、専攻する地域の語学の習得が基礎をなすという考えは、
代々の教員や学生たちによって受け継がれ、東洋史学専攻の伝統の核をなしている。
多彩な文献の読解力をつけるために、東洋史学専攻では、漢文や中国語の演習に力をそ
そぐとともに、同等の重みをもって、アラビア語やサンスクリット語の演習の充実に力を
そそいできた。漢文とアラビア語、サンスクリット語という、ユーラシア大陸の情報伝達
史の主役をなす3つの文語を、カリキュラムの中枢に確立し、そこから、各学生の興味に
応じて、それぞれ、中国文化圏、イスラーム文化圏、インド文化圏の研究に向かうのが、
本専攻の標準的な学習方法となっている。
もちろん、ユーラシア大陸の多様な世界は、上記の3つの文語圏だけで完結するわけで
はない。朝鮮半島や東南アジア、中央アジアの諸地域には、それぞれ、独自の言語と歴史
をもつ人々がおり、学生たちの関心も、近年、とみに高くなっている。東洋史学専攻の教
育目標は、このような地域に関心を抱く学生たちの学習意欲にこたえるべく、毎年、専任・
非常勤の教員によって、ユーラシア大陸全域にわたって、まんべんなく講義が開講される
ように、カリキュラムに工夫をこらしている。
この結果、ヨーロッパをのぞくユーラシア大陸各地域と、アフリカ大陸のイスラーム化
した地域を対象とするのであれば、どの地域でも、どの時代でも、学生の希望に即した教
育が行い得る体制を整えている。専任教員と非常勤の教員の数が限られている中で、広範
囲におよぶ地域と広大な歴史の重みに対応した教育体制の充実を、最大限度まで図ってい
ることが、東洋史学専攻の最大の特色といえるであろう。
【点検・評価】
専門の学問を教えるとともに、専門を核とする幅広い教養と総合的な判断力、豊かな人
間性を涵養することを、学校教育法と大学設置基準は謳っている。この意味において、東
洋史学専攻の教育課程の編成方針は、専門とする地域の語学の習得の上に、幅広い教養を
身につけるよう工夫されており、学校教育法と大学設置基準のねらいに、少しでも近づけ
るように努力している。
上記のように、東洋史学専攻の教育目標は、膨大な東洋史の学問世界に、具体的な研究
のくさびを打ちこむために、まず、語学の習得と、それに基づく文献批判力の修練を積む
ことにある。
その目的のために、東洋史学専攻では、カリキュラムにおいて、1年生から、演習にお
219
ける原典史料の講読を導入し、演習を積みあげて、その基礎の上に、卒業論文を書き上げ
る方法をとっている。その成果は、基礎文献の丹念な読解力と分析力に基づく卒業論文と
して、毎年、結実している。また、多彩な学生たちの知的関心にこたえる講義の開講、と
いう点でも、理想的とは断言できないにしても、かなりの程度、学生たちにとって満足度
の高い講義の質量を維持しえている。
【長所と問題点】
最大の長所は、上述のように、多彩な学生の関心に応じうる教育体制の構築に心がけて
いるために、東洋史学の範疇内であれば、どのような分野の関心にも対応できる講義と教
員が、存在することである。
にもかかわらず、対象地域の広大さに比べて、現在の東洋史学専攻の教員数が限られて
おり、教員の努力に限界のあることも確かである。専門分野の分化が進む中で、近年の、
急速な学生たちの学習意欲の拡散に対応できる教育の体制を、どのように整えてゆくか、
という点は、大きな問題として残っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
演習と講義の二つの教育方式を、効果的に組み合わせ、専任教員と非常勤の教員の知的
経験をかけあわせて、学生たちの知的関心にこたえてゆく必要がある。幸いに、東洋史学
専攻では、専攻が主体となって組織される学会(白東史学会)をもち、毎年、学術誌『ア
ジア史研究』を刊行し、毎月、公開の研究会を開いて、学部の学生や大学院学生、卒業生、
専任教員、他大学の教員や学生との交流の場を設けている。このような学問的伝統を最大
限度に活用して、さらなる、教育の改善・改革に取り組む必要があろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
西洋史学専攻の教育目標は、次の2点にまとめられる。第一は、国際化に対応して異文
化に対する豊かな感性を持つ人材を育成すること。第二は、情報化社会にあって、自ら主
体的に問題を設定し、必要な情報を蒐集し、分析し、最後に自分独自の見解をつくり上げ
る、そのような人材を育成することである。この教育目標を実現するために、カリキュラ
ムの編成においては卒業論文を主軸として位置づけている。中心となる全員必修の授業科
目は、次のとおりである。まず、1年次の「基礎演習」では英語のテキストを用いて外国
語文献を読むことに慣れさせ、同時に西洋史学の入門編の授業も行う。2年次の「基礎演
習」では、同じことをもう一段高いレベルでさらに徹底する。3年次では「特別演習」と
いうゼミ・スタイルの授業で卒業論文作成に向けての訓練を行う。学生は自ら問題を設定
し、必要な文献を検索し、口頭発表を行い、教員と他の学生から批判を受ける。それ以外
に選択必修の演習がある。一方、講義科目としては入門編にあたる全員必修の「西洋史概説」、
そして西洋史のさまざまな時代・地域を対象とする特殊講義が設けられている。最後に、4
年次における論文の作成については、各教員がそれぞれ「卒論指導」の時間を設けて学生
との対応に努めている。
【点検・評価】
卒業論文に関しては枚数(400 字原稿用紙 40 枚以上)等についてかなり高いハードルを
設けているにもかかわらず、例年ほぼ全員が論文としての要件を満たすものを書き上げて
おり、また非常にレベルが高いものも散見され、教育目標はいちおう達成されているよう
220 第2章 学部
にみえるが、現行の水準を今後どこまで維持できるのか、予断は許されない。
【長所と問題点】
特に卒業論文については厳正な評価を行い、要件を満たさないものについては不合格と
判定しており、就職が内定していても卒業できなくなる学生もいる。そのことを入学時の
段階から周知徹底するように努めているためであろうか、学生の側には緊張感が常にある。
また、カリキュラム全体を貫く教育理念もおのずから明らかであるため、学生の側はそれ
ぞれの段階での努力目標を具体的に理解できるようになっている。問題点としては、卒業
論文の作成に欧文文献を駆使できる学生がごく少人数であることが挙げられる。この点は
西洋史学の本来のあり方からみて改善されるべき課題であろうが、大学受験者数の減少と
それにともなう入学者の学力低下という厳しい現実のなかでは、それよりも、大多数の学
生がそうである日本語の文献のみを使用した卒業論文の質の向上を目指すことにならざる
をえないだろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
欧文文献を用いた勉学の弱さという現状を改善するために、2002 年度からのカリキュラ
ムにおいて2年次生を対象として「外書講読」を開講し、よりきめの細かい外国語教育を
実施することにした。つぎに、新入生の基礎学力の低下が著しい現状では、基礎演習の段
階において日本語文献の読み方、本の探し方、口頭報告の仕方とレジュメの書き方、レポ
ート作成の心得等についての指導にも今後は心がける必要があろう。
<哲学科>
【現状の説明】
本哲学専攻は本学部創設1年後の 1952 年に、古今東西の哲学、倫理思想の教育研究を目
標として発足した。本専攻の教育研究内容は、発足時の理念に従って、東西の哲学倫理思
想を総合的に学べるものとなっている。例えば西洋の現代哲学を専門研究しながら、その
基礎となった古代ギリシアの哲学を学ぶ。と同時に、中国の古典を読んだり日本の江戸期
の思想に触れたりすることもできる。このように、自分の専門分野を深く研究するととも
に、他の思想との比較研究を通じて、哲学思想全体のなかに自分の研究を位置づけること
を、本専攻は教育研究の第一の目標としている。この第一の目標を確実に達成するために、
第二に、哲学の文献を正確に読解することが目指される。特に外国語原典の精緻な読解を
通して、論理的な思索が求められている。
文献の読解能力を重視する本専攻は、現在のカリキュラムでは、1年次に「基礎演習(1)
(2)」で英語や漢文で書かれた哲学の原典を読み、文学や評論を読む際の読み方との違い
が徹底して教え込まれている。ついで2年次には、これに「基礎演習(3)」でドイツ語、
フランス語、そして1年次同様漢文がさらに加わる。地道な原典の読解作業とは別に、1
年次、2年次の「西洋哲学史」・「中国哲学史」では、哲学の歴史が詳細に教授される。そ
うした基礎的な訓練と知識に基づいて、3年次、4年次になると「哲学演習」と「哲学講
読」の授業で文献の本格的読解がはじまる。また「哲学講義」では専門のテーマがじっく
りと展開される。2年次以上では、哲学するうえで是非とも必要な専門の分野(倫理学、
科学哲学、論理学など)が選択できるようになっている。こうして、正確な読解力と豊富
な哲学的知識をそなえた学生たちが、自分自身のさまざまな哲学的問題や人生の疑問を古
今東西の哲学を学びながら解決していこうとしている。このような自分自身の問題との本
221
格的な格闘の記録は、卒業論文という形で結実する。卒業論文(現在は選択制)では、学
生それぞれが自由にテーマを選んでいる。例えば漫画の構造分析にはじまり、絵画や音楽、
あるいは心理学的なテーマや文化人類学的な題材まで、
「万学の王」哲学に相応しく、その
範囲には限りがない。このような場合にも、そのテーマを分析する際の方法や形式に、哲
学的な工夫が求められ、論理的で明晰な論文を作り上げるよう指導が行われている。もち
ろんプラトン、デカルト、カント、フッサール、ハイデガー、ウィットゲンシュタインな
どの、いわゆるオーソドックスな哲学者に関する研究論文も多数書かれている。
また学部学生も自由に参加できる、大学院学生を中心とした研究発表会や読書会も盛ん
である。こうした自主ゼミに課外指導として専任・兼任の教員が参加しているケースも多
い。
【点検・評価】
第一の目標について言えば、例えば西洋哲学を研究する学生にも、中国の古典の読解は
必修科目として課せられるといった現在のカリキュラムで、上記の目標は、おおむね達成
されている。第二の目標も、上述のような充実したカリキュラム、特に多彩な演習の設置
によって教育研究環境は整えられている。よって、学校教育法 52 条ならびに大学設置基準
19 条(専門の学芸の教授と幅広い教養・判断力の育成)の理念に照らしても、現状の教育
内容で、特に問題はない。
【長所と問題点】
第一の目標によって「豊穣な思索の海で思う存分泳ぐ」(『中央大学文学部の五十年』を
参照)醍醐味を達成し、あわせて幅広い教養と論理的な思考を身につけることができると
いうメリットがある。第二の目標に関しては、現状では学力の面で少なからず問題がある。
哲学研究に欠かせないドイツ語、フランス語、ギリシア語、ラテン語の習得が不十分な学
生が、近年特に増えており、原典講読のための語学力の低下が、問題点として挙げられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記問題点を改善するために、初習外国語による基礎演習の充実がさらに図られるべき
である。
<社会学コース>
【現状の説明】
社会学は、とりつきやすいがわかりにくい学問だとか、研究対象が幅広く多様化してい
てとらえどころがない学問だとか言われるが、その一方では、それゆえにこそ学生の幅広
い関心を満たすことのできる、応用範囲の広い学問である。また、社会の急激な変化に応
じて、理論も方法も新しくなるきわめてアップツーデートな学問である。
しかし、社会学の学問対象と研究方法が多様で、変化が激しいために、いかなる大学の
社会学科も、そのすべてを網羅することは不可能なことである。したがって、大学ごとに
それぞれ個性的な特徴や得意な分野を備え、それをセールスポイントにしている。
本学部社会学科社会学コースの最大の特徴は、常に社会的現実に目を据えた実証研究を
重視しており、教育研究の内容も、そうした特徴を持ったものとなっている。
具体的な教育目標としては、①時代の変容に対応した研究課題と問題領域を取り込みな
がら、急速に発達しつつある情報技術を駆使して、社会学の新しい問題意識と理論と方法
を学修すること、②変容する社会のもとで発生するさまざまな社会問題を実証的に把握し、
222 第2章 学部
その解決のための政策形成に必要な知的能力を持つ人材を養成すること、③家族、職場、
地域社会などの身近な日常生活の諸問題を掘り下げるとともに、少子高齢化、国際化、情
報化、等に対応した実務的・実践的知識とセンスを身につけること、である。
要するに、流動する現代社会の問題に鋭い関心を持ち、問題を経験的・実証的に把握し、
その解決のための実務的・実践的知識を身につけること、また、そのために必要な情報技
術や社会調査の技法を身につけることである。
【点検・評価
長所と問題点】
社会学科社会学コースには、現在6名の専任教員がいる。各教員は、都市、産業・労働、
政治、社会問題、文化、比較研究を専門としており、ともに実証的な学風を共有し、各自
の専門分野では第一人者であり、その教員ならではのレベルの高い講義を行っている。ま
た、全員教育熱心であり、教育にかける情熱にはかなり高いものがある。演習にあっては、
国内はもとよりのこと外国にまで調査に出かけたり、きめ細かなフィールド調査を要求し
たり、3年次で2万字分の研究論文の執筆を課したりと、それぞれの演習の特長を生かし
つつ、かなり高い学問水準を学生に要求している。
こうした点においては、本学の社会学コースは、教育目標に向かって、充実した内容の
教育研究を行っていると、断言し得る。
しかし、すでに述べたように、社会学という学問は、法・経・商以上に広い研究領域を
持つ学問である。よって6名の専任教員ではとうてい、その領域をカバーすることは不可
能である(もっともどこの大学でもこのことは大なり小なり同じであるが)。また、6名の
教員は、これもすでに述べたとおり、実証的(ないしは経験科学的)研究が中心で、相互
作用論、現象学的社会学、エスノメソドロジー、構築主義、等の意味解釈論的なアプロー
チの教育に弱さを残す。
【将来の改善・改革に向けた方策】
そこで、兼任講師や、社会情報学コースとの連携を深めている。また、2002 年度からは、
大妻女子大学の人間関係学部等3学部との教育研究交流が行われることになっている。こ
れによって、できうるかぎり弱点を補い、さらに充実した内容の教育を学生に提供し得る
ものと思われる。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
社会情報学は、情報技術の進展による情報流通や情報蓄積における大きな変化を踏まえ、
人間や組織さらには社会と情報との健全な関係を築くことができるように、伝統的な学問
分野を拡張して新たな立場から、教育と研究を進めていくことを目標としている。
社会情報学コースの教育を実施するため、コース内には、「情報コミュニケーション」
と「図書館情報学(記録情報学)」の2つの専修が置かれている。情報コミュニケーション
専修では、社会情報学の視点を確立するとともに、メディア・コミュニケーションの理論
と実態を教育し、高度情報化社会に対応できる人材を育てることを目標としている。図書
館情報学(記録情報学)専修では、社会情報学の知識や情報処理の技能に留意しつつ、図
書館や情報メディアについての専門家を育成することを目指している。
本コースと関連の深い資格課程として、「司書課程」、「司書教諭課程」、「教職課程(情
報)」を開設している。さらに、学生の学習プログラムの多角化を図る意味から、他学部履
223
修制度、再履修制度、副専攻の履修、などの仕組みを用意している。
【点検・評価】
本コースの教育研究内容は、学校教育法 52 条における「広く知識を授ける」、「深く専
門の学芸を教授研究する」、「知的、道徳的、応用的能力を展開させる」の条件を満たして
いると考えられる。また、大学設置基準 19 条における「必要な授業科目の開設」および「体
系的な教育課程の編成」の諸条件にも適合していると認められる。共通科目も多く開設さ
れ、幅広く深い教養、総合的な判断力、豊かな人間性の涵養にも配慮している。
特に、体系性の面では、社会情報学の基礎的理論から現実の社会現象の観察・分析に向
けて、学年を追って学習できるようにカリキュラムを配置している。資格課程についても、
情報化、生涯学習機運の高まりなどを反映して、学生の学修意欲は高く、社会的に有用な
専門的人材の育成に貢献している。
【長所と問題点】
現実のカリキュラム上では、1年次から多くの専門科目を開設している、1人1台のコ
ンピュータ環境整備下で情報処理分野の実習を潤沢に提供している、演習については社会
学コースも含めた中から自由選択としている、などの工夫をしている。これに対応して、
学生には「社会情報学の基礎理論」、「コミュニケーションおよびマス・コミュニケーショ
ン研究」、
「コンピュータを用いたデータ解析」、
「図書館情報学(司書資格の取得を含む)」、
「マルチメディア・インターネット研究」などを柱とした学習を奨励している。
問題点としては、1)1演習の人数が多くなりすぎる場合が発生し、きめ細かい指導が
できにくくなるケースがある、2)選択の自由度を多くしたため、学生側として専門性の
確立に本人の自主性・自律性を多く要求する結果となっている、などがあげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
情報化社会の高度化や生涯学習の必要性の高まりにともない、社会情報学の持つ意味は
ますます大きくなるものと考えられ、カリキュラムの体系性を維持しつつ、社会環境の変
化や情報技術の進展に対応して、個々の授業科目の配置や教授内容の適切性を検証する努
力を重ねる必要がある。社会学と情報・コミュニケーション研究とのより一層の有機的結
合を図り、マス・コミュニケーションにおけるファクト情報、図書館情報学における記録
情報、コンピュータを利用したデータ操作にかかわる数理情報の系統的把握に基づく教育
研究を確立する必要がある。
<教育学コース>
【現状の説明】
教育学コースの教育課程は、「人間を学ぶ」学問としての本学部のなかにあって、「人間
とは何か」を問いながら、人間形成の課題を明らかにすることを目指している。生涯にわ
たる教育に関心の高まった時代の要請に応えて、学校教育にかぎらず、地域や社会教育な
どを含んだ教育事象を、広い社会的・国際的視野のもとで、生涯にわたる人間の発達に即
して探究する。そのために教育学の哲学的、歴史的基礎を学習し、学校教育、社会教育の
実践的課題を研究するとともに、学校教育、社会教育の専門的知見と教育的技術の力量・
資質の形成を目指す。
【点検・評価】
教育という事象の複雑さゆえに、教育学は多様な下位学問分野から構成される複合的な
224 第2章 学部
学問である。そのため専門教育科目では、主要な教育学の下位分野の学問的基礎を体系的
に学ぶことに主眼を置いている。また、学生のアクチュアルな問題関心を生かした学習を
保障するために、
「特殊講義」等を設置して、今日的な教育課題を取り上げるように努めて
いる。また、3、4年次に履修する「教育学演習」は、教員の行き届いた指導ができるよ
う、少人数制のもとで、学生の主体的な学習の機会となるよう配慮している。
教育の事象を理解するためには、隣接する学問領域の学習はとりわけ重要であり、その
ため共通科目や他学科の専門科目の積極的な履修を求めてきた。学生が自分の問題関心に
あわせて幅広く履修できるように、卒業に必要な単位 137 のうち、専門科目の必修単位は
66 と、他専攻と比べて少なめに設定してあるのはそのためである。
【長所と問題点】
教育課程において学生の幅広い問題関心を生かす学修を保証することと、授業や演習で
たしかな教育学的知識を身につけさせることの間には、両立しがたい側面がある。2002 年
度入学生から実施の新カリキュラムでは、開講科目数を全体として削減するとともに、教
育学基礎科目群(「教育哲学」、
「教育社会学」など)の必修単位数を引き上げて、教育学の
基礎知識を習得させることに力点を置くことになる。他方で、教育学演習に関して、3、
4年次と続けて同一教員の授業を履修できるようにし、学生の問題関心を生かした主体的
な学習を援助できる環境づくりに努めた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
共通科目の履修はこれまでまったく学生の自主性に任せてきたが、教育学を学ぶという
観点からの教員の積極的な履修指導が必要と考えている。そのための具体的な措置につい
ては、今後の検討課題である。
<心理学コース>
【現状の説明】
心理学コースでは、人間の心理の働きを、主に、教育、発達、臨床、認知、健康、文化
などの各分野から教育研究を行う。上述の各分野に関して、実証科学としての心理学の研
究に要求されている人間の心理をどう理解するかの理論性と、その理論の正しさや現実の
人間の心理状況を事実によって証明する実証性について、高い力量をもって研究できるよ
うにすることが教育目標である。
教育目標を達成するために、心理学の基礎的な知識・技術を学び、人間の心理やその法
則を現実生活との関連において深く理解することができるように、1年次から4年次まで
を体系的にカリキュラム構成してある。
1年次では「心理統計法」で、実験・調査の計画やデータ処理方法の基礎学習を行い、
また、クラス単位で行う基礎演習科目として、心理学の基本的文献の講読や発表・講義を
行う「基礎演習(1)」、コンピュータの基礎操作や文献検索などの「基礎演習(2)」を設
けている。2年次には、「心理学概論」で現代心理学全般の理論や成果を学び、「基礎実験
(1)
(2)」で実験法、調査法、観察法など心理学の研究方法を学ぶ。また、
「教育心理学」
「学校臨床心理学」「文化心理学」「健康心理学」を選択学習できるようにしてある。3、
4年次では、「児童・青年心理学」「生涯発達心理学」「言語心理学」「教育相談・カウンセ
リング論」「臨床心理学」「障害児心理学」「認知心理学」「産業労働心理学」「心理検査法」
「精神衛生学」さらに、3つの「心理学特殊講義」を選択学習できるようにしてある。3
225
年次では、すべての専任教員が担当する「心理学特殊研究」があり、卒業論文作成に要求
される専門能力や技術習得するために演習方式で行われ、4年次に、心理学の学習成果を
「卒業論文」でまとめる。
以上のことを実現するために、なるべく少人数指導ができるようにしている。
【点検・評価】
1年次「基礎演習」では心理と現実問題とのつながりを理解させ、「心理統計」「基礎実
験」では、基礎的技術の習得を目指す。3年次「心理学特殊研究」では、自分の問題意識
を深める指導をして、4年次において卒業論文で集大成させている。
【長所と問題点】
系統立てた学習方法が工夫されてきたと考えられる。コンピュータ、OHP等を利用し
た学習、実習や見学等を重視している。少人数指導ができるような体制を工夫しているこ
とは評価してよいだろう。
卒業論文を 1991 年度カリキュラム改正において必修とし、1年次から3年次までに「心
理学概論」「基礎実験」「心理統計法」「心理学特殊研究」を必修教科としたことによって、
体系的に心理学を学ぶ体制を整えたが、学生の自主性にまかせているため、個人差が出て
しまい、学年ごとのガイダンスが必要である。
【将来の改善点・改革に向けた方策】
2002 年度カリキュラム改正にともない、心理学を体系的に教授するカリキュラムは崩す
ことなく、主要科目の 28 単位は必修として少人数による徹底した指導を行うとともに、選
択科目については基本的にセメスター制、半期科目を採用し、前期・後期を通して教育を
していく。選択肢の幅を拡大したため、学生の興味、関心、希望進路にそった履修ができ
るようきめの細かい履修指導をしていく。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目の教育理念は、現行の大学設置基準第 19 条の骨子である「幅広く深い教養」・
「総合的な判断力の啓発」・「豊かな人間性の涵養」に、根本的な基礎を置いており、教育
目標としては、 (1)細分化された専門領域以外の科目の学修による視野の拡大、(2)新世紀
に重要性の高い分野に関する科目群の系統的学修による複眼的思考能力の修得、等を掲げ
ている(『2001 年度
文学部履修要項』36 頁)。
教育目標(1)の実現のための前提条件としては、人文・社会・自然科学の三分野にわた
る広領域の科目が多数必要である。そのため、共通科目には、全体で 52 におよぶ多彩な科
目群が開設されている。これとは別に、各専攻・コースが他専攻・コース学生の履修を認
めている専攻・コース科目(ゴシック科目)も開設されている。さらに他学部・他大学履
修制度もあり、幅広く奥深い教養の修得が保証されている。以上は、学生の学問的視野の
拡大ならびに学力向上のための基礎となっている。
教育目標(2)の系統的学修による複眼的思考能力の修得のために、各科目のほか、副専
攻を開設している。副専攻とは、専攻・コースとは異なる学問領域である比較文化・地理
学・情報処理・国際関係学の四分野を選定し、それぞれ指定科目を 20 単位以上修得するこ
とにより、卒業時に修了証書を授与するかたちの教育メニューである。学生の所属する専
攻(主専攻)での学びと副専攻での学びとの双方の成果が多様かつ競合的に刺激しあう「知
226 第2章 学部
的営み」により、複眼的思考能力の涵養を目指している。
このように、共通科目は一般教養的授業科目として編成され、専攻・コース科目とあわ
せ、
「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養」するための役割を
担っているといえる。
【点検・評価】
共通科目の履修にあたり、学生は自己の学修計画にしたがい、上記(1)または(2)を選択
できる。また、共通科目は原則として1年次から4年次まで履修可能である。履修の原則
は、学生個々の学習計画に委ねられており、自由で柔軟な学修過程から、意志的な努力を
必要とするものまで多様である。受講学生側の充足度と評価については、多様な「温度差」
が生じている。
【長所と問題点】
長所は以下のようである。多数科目の設置と多様な履修方法は、学生個々のニーズに柔
軟に応えるものとなっている。特に副専攻は、学生に多くの可能性を与えている。例えば、
ある副専攻を修了して他大学の専門学部・大学院に進学した卒業生が何人かいる。また、
就職活動においても、情報処理副専攻をはじめ各副専攻の履修者にはメリットとしてカウ
ントされてきている。
問題点は以下のようである。多様な履修を認めている現状では、上記のような成果を生
み出している反面、「場当たり的」で「恣意的」な履修にもつながる。その原因の一つは、
大学設置基準の『大綱化』以降、学部としての新たな教育理念・教育目標についての審議
が行われず、教養科目の意義・位置づけが明確にされなかったことにある。旧一般教育科
目は、専門領域の補完的科目群として開設されていた「共通科目」にそのまま組み込まれ
た。また並行的に専攻・コースのゴシック科目も共通科目に組み込まれるなど、広領域的
で到達度を高める制度的措置が講じられた。しかし、ゴシック科目の履修については、細
分化された専門教育の共通科目読み替えであり、受講者の一部から「消化不良」の指摘が
なされている。
大学設置基準の『大綱化』により、本学部で一般教育と専門教育との並行履修が認めら
れ、一般教育の新しい履修方法として4分野の副専攻が開設された。しかし、副専攻につ
いては、受講者が少ないことが指摘されている。これは専任教員側の努力不足もあろうが、
副専攻の履修ガイダンスおよび履修方法に問題がある。副専攻の履修ガイドは、『2001 年
度
文学部履修要項』の2章「各専攻・コースのガイド」中の共通科目にはない。3章か
ら5章にもなく、6章「履修」の(8)に、「副専攻の履修」として、副専攻の趣旨と各副専
攻の概要が記載されており見つけにくい。また、学生に対する副専攻履修ガイドは新入生
に対する履修ガイダンス時に専任教員が 20 分ほど説明する機会があるだけである。また、
副専攻の履修では、4年次の5・6月の1週間に履修確認申請をするのみである。副専攻
の履修希望申請などの動機づけもなく、学生は副専攻履修者としての自覚を持てず、教員
は副専攻の履修者を把握することができない。さらに、副専攻の授業科目が専攻・コース
の必修科目と競合して副専攻の履修を断念せざるを得ない場合もある。情報処理副専攻で
は、2単位の 10 科目をすべて履修する必要があるが、希望者が著しく多いため履修者を抽
選で決めている。そのため、情報処理副専攻の修了はまさに僥倖といえよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
227
2002 年度入学生より実施される新カリキュラムにおいては、同案策定の過程で、新専攻
の立ち上げや教室数の不足ほかにより、共通科目の専任教員が「一人減」となり、共通科
目の科目数と副専攻は、ほぼ半減することとなった。そのため、一般教育的授業科目は激
減する。その制度的代替措置として、新たに半期2単位の「特別教養科目(1)∼(18)」
が開設され、「プロジェクト科目(1)∼(3)」を含んで6単位が必修となる。特別教養
科目においては、選択の余地を幅広く残しつつ、目的効果をより高める教養教育への模索
が可能であろう。
共通科目の履修については、学生の自主的選択のみならず、専攻・コースによる履修指
導なども必要である。特別教養科目や共通科目・副専攻の一層の充実に向けて、共通科目
は専攻・コース、事務室との十分な議論をもとに実施・運営される必要があろう。現在の
共通科目運営委員会や新カリキュラムの特別教養科目運営委員会がそのような場として機
能することが望まれる。
<中国語>
【現状の説明】
中国語教育の目標は、1年次で発音・文法・会話の基礎を習得させ、2年次以上では読
解とコミュニケーションに分けてより高度な中国語運用能力を習得させ、3年次以上の上
級クラスを終えた段階で現代中国文学を原文で読むことができ、日常会話ができるように
することにある。
カリキュラムは1年次生を対象とする「中国語(1)(2)(3)」、2年次生を対象とす
る「中国語読解」「中国語コミュニケーション」、3年次生以上を対象とする「中国語読解
(上級)」「中国語コミュニケーション(上級)」から成り立っている。
「中国語(1)(2)」は共通教科書を使用するリレー形式で発音・文法・会話を中心と
する入門教育を行う。一部の専攻の学生が履修する「中国語(3)」では書面語読解に重点
を置いた授業をしている。「中国語読解」「中国語コミュニケーション」では前年度に習得
した中国語の基礎を定着させるとともに、さらに高度な読解と会話の訓練を行っている。
教育スタッフは専任5名、非常勤 12 名(内外国人5名)の教員で、総コマ数 49 コマの
中国語の授業を担当している。このうち、専任教員は学生の中国に対する興味・関心に応
じるべく本学部共通科目「現代中国事情」
「中国文化概論」
「中国文学概論」
「中国語学概論」
「現代中国文学」も担当している。
【点検・評価】
中国語担当グループでは 1999 年度より学生を対象とする中国語教育アンケートを実施
している。この調査によれば、学生の中国語の授業に対する満足度のパーセンテージは平
均して「中国語(1)
(2)」が 56%、
「中国語読解」が 76%、
「中国語コミュニケーション」
が 82%である。学習意欲や能力に応じて自由選択することになっている2年次生以上対象
のクラスでは比較的問題が少なく、学生の満足度も高い。1年次生対象の「中国語(1)
(2)」の満足度は、相対的に低い。
【長所と問題点】
以下、「中国語(1)(2)」に限って検討する。
満足度が相対的に低い原因としては、リレー方式で2コマの授業を担当する2人の教員
の間で教授法の違いが大きい場合、学生が適応しにくいことなどが挙げられる。
228 第2章 学部
しかし、2コマで別々の教科書を用いる授業と違い、共通教科書によるリレー方式授業
は、1年間で1冊の教科書を学び終えることが可能であるなど、いくつかの長所がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では「中国語(1)(2)」の2コマを同一教員が担当するカリキュラムの編成に改
めることは困難である。当面は、教員間の連絡をより密にし、教授法上の緻密な調整を行
い、学生の授業に対する適応を促す必要がある。さらには、リレー方式に対応した教材を
独自に開発する必要もあろう。
<保健体育>
【現状の説明】
本学部における保健体育教育は、「健康教育、スポーツの社会的・文化的価値の理解、
健やかな心身を育てるための身体活動、余暇としてのスポーツ活動に対する理解等」を教
育目標に掲げている。1991 年の「大学設置基準の一部を改正する省令」によるカリキュラ
ム改革後、1994 年度より「体育と健康の科学(講義)」半期2単位と「体育とスポーツ(実
技)」通年1単位の1年次必修科目として、実施してきた。
このカリキュラム改革に際して実施された「学生アンケート」を参考にして、本学部の
特色である少人数教育を行って成果をあげることに努めてきた。
(講義は、150 名規模のク
ラスを6クラス設けて各々2つの領域を選択、実技は、1クラス 35 名を基準にして 35 コ
マを開講している。)
【点検・評価】
1年次全員を対象にした必修科目とすることによって、大学教育の導入教育的役割と教
養教育、特に「幅広く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養する」
の視点から、身体にかかわる理論(講義)と実践(実技)をとおして学部教育に貢献して
いる。
【長所と問題点】
身体にかかわる理論と実践という両面を教育研究の対象としていることで、大学生活に
必要なコンディショニングづくり(自己管理の点検)や体育・スポーツ(健康問題、社会
問題との関わり等)についての再考に、役立っている。
講義では、2択させている担当者の専門領域の組み合わせの問題、実技では、実施場所
への移動時間の確保の問題や開講したい種目を展開するための施設不足等、授業マネジメ
ントにかかわる諸問題があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業マネジメントにかかわる問題として、実技面では1曜日を本学部で占有使用(現行
は、1曜日2学部で使用)できれば現行よりも多様な授業形態(種目を限定して開講する
だけではなく、企画・運営能力を育成する授業や指導者としての体験を重視する授業等)
を行うことができる。
講義については、理論と実技を融合した形態の演習科目や体育・スポーツの多様な領域
を網羅する総合科目等の開設も必要である。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
≪文学部≫
229
【現状の説明】
本学部では、毎年新入生を対象に、ガイダンス期間中に専任教員が主催するパネルディ
スカッションを開催し、大学での生活や授業について説明を行い、後期中等教育から大学
の高等教育への円滑な移行に配慮していたが、1999 年度にはこれを発展させて、2カ月間
をかけて各専攻・コースから1名の専任教員が担当する自主講座「君たちは本当の学問を
知らない」を実施、2000 年度にはガイダンス期間中に各専攻・コースの専任教員が担当し
て「あなたは文学部で何をするか」というテーマでパネルディスカッションを実施、いず
れも学生の評判は良好であり、導入教育として有効であると認められた。これらの経緯を
踏まえ、本年度は正規のカリキュラム「研究基礎(導入リレー講義)」半期2単位を新設し、
大学での研究と生活に必要な基本的態度・知識・考え方を学ぶためのさまざまな内容を専
任教員がリレー方式で講義することになった。
さらに、正規カリキュラムとして、各専攻・コースごとの専門領域を学ぶための基礎知
識を修得する導入教育として、1・2年次に3科目 12 単位の「基礎演習(1)∼(3)」
を設置し、必修科目として位置づけている。また、本年度新設した「研究基礎(導入リレ
ー講義)」の他にも、1年次選択の共通科目として「研究基礎(文章表現)」、
「研究基礎(デ
ィベート)」を開設している。
【点検・評価
長所と問題点】
本年度から実施した「研究基礎(導入リレー講義)」では、個々の講義に対して「これか
らの学生生活にどのように役立てるか」という視点から感想文を課し実施しているが、高
等教育への円滑な移行のための教育として学生の反応は良好である。導入教育としての教
育効果は大きく、1年次の必修科目として実施することが望ましいが、コーディネーター
の負担が大きく今後の検討が必要である。
また、本学部として以前からカリキュラムに設置されている1年次選択科目の「研究基
礎(文章表現)」、「研究基礎(ディベート)」についても大人数での実施が困難なため、必
要性を認識しながら拡大ができない現状である。
専門領域の導入教育としての「基礎演習」は本学部共通で必修科目として位置づけ、ク
ラス単位の少人数教育により適切な配慮を行い、専門基礎知識の修得はもとより教員との
交流や学生相互の交流にも役立ち、大学生活の基盤づくりに一定の成果をあげている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から本学部カリキュラムが改正されることにともない、専攻・コース単
位の導入教育である「基礎演習」は、現行3科目 12 単位必修から2科目8単位必修に軽減
するが、その代わりに本学部全体として後期中等教育から大学の高等教育への円滑な移行
にたいする教育的配慮を充実させる方向にある。
具体的には、「総合教養科目群」の中に1年次導入教育としての「研究基礎科目」4単
位を必修として、本年度から実施している「研究基礎(導入リレー講義)」を発展的に拡大、
1年次共通科目の「研究基礎(文章表現)」、「研究基礎(ディベート)」も取り込み、充実
を図る。また、現行カリキュラム同様に3単位必修に位置づけた体育実技・講義について
も大学生活に必要な健康管理や健康問題との関わり等について再考し、導入教育としての
役割を果たすよう配慮する。
また、本学部では 2000 年度から「高大一貫教育に関する委員会」を設置し、付属高校
230 第2章 学部
との連携や高校生を対象とした公開講座を積極的に実施してきたが、将来的に、これらの
高校生を科目等履修生として受け入れ本学部入学後に単位認定することの是非、あるいは
推薦入学決定後入学までの間に課している各専攻・コースごとの課題等について入学後の
単位として結びつけるか否か、今後の検討が必要である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
1年次に必修の「基礎演習(1)」と「基礎演習(2)」を設置している。
(1)は古典読
解、
(2)は近代以後の文章の読解と位置づけており、どちらも調査と発表方法を習得する
ことにも重点が置かれており、より高度な演習科目へ対応するためのステップとなってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
近年の高校教育における「国語」の時間数の減少が響いており、入学時の文章読解力が
全体的にかなり低下している。また、能力差の開きも大きく、教室一律、同様の到達度を
期すことにかなりの困難を覚えるようになってきている。高校教育において本来実現され
ているべきレベルを1年次において確保し、より高次のステップに効率よく進めていくた
めには、現行のカリキュラムとは別に何らかの措置が必要であるかもしれない。
2002 年度入学生より施行の新カリキュラムにおいて、必修科目の単位数削減という学部
全体の方針を受けて、これまで2年次に設置していた漢文読解を内容とする「基礎演習
(3)」を廃止した。漢文は日本の各時代を通して学問・教養のベースの言語であり、日本
語の言語体系のなかに確たる位置を占め続けてきた。古文・現代文とも、その読解の基礎
的なところにかかわって重要な教養といえる。しかし、高校教育においてすでに漢文を実
質的に教育していないところも増加し、新入学生の漢文能力は、古文・現代文の比ではな
くなっている。基礎的漢文習熟のための基礎科目を廃止した影響については、今後注意深
く見守っていく必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、「基礎演習(2)」において、授業担当者同士の連絡が密に行われている。これを
維持していくとともに、「基礎演習(1)」担当者を含めて、1年次の基礎科目における問
題点を共有しあい、その対処を考える機会を設けることを検討したい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
1年次生・2年次生が履修する「必修科目」は、高校までに学んできた英語をもう一度
体系的に理解しつつ、一層の英語力を習得して専門分野へ進められるような授業内容とな
っている。
また、本専攻の入学生全員に対してではないが、付属高校からの推薦入学内定者と指定
校推薦の内定者には、入学時までに読むべき推薦図書のリストを添えた、入学準備のため
の文書を送付している。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の1年次生・2年次生「必修科目」は英語力という面での高・大の橋渡しの役割を
もつが、入学してくる学生の英語力が近年低下しており、専門領域への橋渡しが必ずしも
スムーズにいきにくくなっている。
231
【将来の改善・改革に向けた方策】
入学者の英語力の低下にどのように対応していくかが今後の重要課題である。英語力の
みならず、学問への姿勢という面でも高大のスムーズな接続を同時に考えていく必要があ
る。2002 年度入学者からの新カリキュラムでは、基礎力充実のための現行少人数クラスの
いくつかの科目がなくなるため、基礎演習科目や外国語科目等の授業の中においてもでき
るだけ高大の接続に対応できるように配慮していかなくてはならないだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
ドイツ語既習者が1年次にドイツ語中級クラスに編入できるよう配慮している。
また、1年次に「ドイツ文化特講」という全専任教員がリレー方式で担当する講義を開
いて、新入生のドイツ文化への導きの糸としている。
【点検・評価
長所と問題点】
ドイツ語既修者の編入後の学習状況と成績はおおむね良好である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
主にドイツ語既修者たちがドイツ語の高度の読解力を身につけるためのドイツ語上級講
座(2・3年次向)の開設を検討している。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻では付属高校からの推薦入学内定者には入学時までにできるだけ多くのフ
ランス文学関係の翻訳書を読むよう指導している。また1年次の特別演習で口頭発表やレ
ポート作成の練習を行っている。毎年 10 名ほどいるフランス語既習者については1年次か
ら2・3年次の授業を受講できる態勢もとっている。
【点検・評価
長所と問題点】
付属高校からの推薦入学内定者に対する事前の指導体制とフランス語既習者の授業振
り替えの措置については評価できるが、その他の入学予定者については現在のところ特段
の措置をとっていない。1年次の特別演習で文学作品の読み方を指導することで高校教育
から大学における専門教育への移行がスムーズなものとなるよう促しているが、いわゆる
「ゆとり教育」の弊害である学力低下を補うには必ずしも十分とは言えないかも知れない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
中等教育における外国語履修の現状とも関わるが、専攻としても高大のカリキュラム接
続についてはまだまだ工夫の余地があるものと思われる。今後専攻で検討したい。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
付属高校からの内部進学者には入学前にレポートを課し、大学での学習に対する動機づ
けを行っている。また、現在本学部全体で行っている付属高校との高大一貫教育のための
諸企画、例えば公開講座や出張授業、高校生の研究室訪問などに専攻として積極的に協力
し、高校における日本史学習と大学でのそれとの違いをわかりやすく説明している。
入学後のカリキュラムに関しては、基礎演習や古文書学、日本史学入門を1年次に履修
させることによって、大学の専門科目としての日本史へのスムーズなステップアップを図
っている。
232 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
付属高校からの内部進学者に関する高・大の接続は、現状でもかなり評価できる。しか
し、付属高校以外の一般の高校に関しては、説明会や出張授業の要請があった時に教員を
派遣する程度で、まだまだ不十分な点が多い。入学後については、現状の3科目(基礎演
習、古文書学、日本史学入門)でカリキュラムにおける高・大の接続は十分に図れると思
われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
付属高校以外の高校との高大一貫教育の推進について、本学部全体の「高大一貫教育に
関する委員会」の活動に協力しつつ、専攻としても独自のアイディアを出していきたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
付属高校からの推薦入学内定者については、現在のところ、事前指導の特別の措置はと
っていない。ただ、東洋史学専攻の推薦入学内定者は、高校時代に、東洋史学に特別の関
心をもっている生徒たちであり、入学時に、明確な勉学目標をもっている学生が多い。こ
のような、1年次から目標の明確な学生たちに、できるだけ早くから専門的な知識を伝授
するために、1年次から履修可能な「基礎演習」や「東洋史概説」を設けている。実際に、
1年次から、専門の演習や概説等を受講できることは、東洋史学専攻を目的に入学してき
た新入生たちに、とても好評である。
【点検・評価】
上記のように、付属高校からの推薦入学内定者については、現在のところ、事前指導の
特別の措置はとっていないので、今後この点を、検討すべきと思われる。
【長所と問題点】
カリキュラムにおける高・大の接続は、付属高校をもつ大学ならではの長所であるので、
今後、指導体制について、綿密に検討してゆきたい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、付属高校側と密接に連絡をとりあって、付属高校をもつ大学にできるカリキュラ
ムの作成を、積極的に進めてゆきたい。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
1年次に2コマ分配されている「基礎演習」において高校までの世界史とこれから4年
間、専門科目として学ぶ西洋史との違いをまず理解させるようにし、さらに入門編的な英
文テキストの読解を通じて洋書になじませるようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
英文のテキストをじっくり読むことを通じて異文化体験させ、その体験から学生一人ひ
とりが自分の研究テーマを探すように指導してゆく点では、後期中等教育から高等教育へ
の円滑な移行という所与の目的はかなりの程度まで達成されていると評価できよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
近年、よく言われる日本語の表現力の低下に対しては、今後、教員側はもっと意識して
指導する必要があるだろう。
<哲学科>
233
【現状の説明】
本学科では付属高校からの推薦入学内定者に対する事前の指導として、入学時までに哲
学思想に関係する小説やエッセイ、やさしい哲学入門書などを指定して、その中から1冊
を選んで、レポートを書かせている。このような指導を通して、入学時までの数カ月に勉
学の空白が生じないようにしている。一般入試の入学内定者に対しては、入学後の初習外
国語の選び方に関して、事前の指導をしている以外は、特段の措置はとっていない。
【点検・評価
長所と問題点】
付属高校からの推薦入学内定者に対する事前の指導に関しては評価できるが、その他の
入学予定者については現在のところ特に事前指導は行っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
中等教育における哲学教育の貧困さという現状にかんがみて、学科として高大のカリキ
ュラム接続について工夫の余地はあると思われる。この点に関して具体的に何ができるか、
今後学科で検討したい。
<社会学コース>
【現状の説明】
社会学コースでは、付属高校からの推薦入学内定者には課題論文を書かせている。しか
し、その他の入学予定者に対しては具体的には何もしていない。
社会学は、高校の勉強とさまざまな関連性を有している。高校での現代社会は社会学の
学問領域とかなり重なるし、政治・経済も、政治社会学、産業・労働社会学のみならず、
社会学の研究領域全体と関連性が高い。さらに、世界史、日本史は社会学を学ぶにあたっ
ては基礎的学問であり、その知識の有無によって後の学習が大きく左右される。
また、高校時代にどれほど論理的思考をしていたかどうかが、社会学理解に大きく影響
を与えるし、さらに、高校時代までに何に対してどのような関心を抱いてきたかというこ
とは、決定的な影響をおよぼす。
こうした意味では、社会学コースにとっては、近時の高大一貫性の必要以上に、高校で
の勉学と、そして高校時代に各自が考えていたことが、きわめて大事となる。
【点検・評価
長所と問題点】
したがって、1年次には「基礎演習(1)」にて、まずはこうした個々の学生の個性と素
養を見極めるように心がけている。
しかし、こうしたことはすべて入学してきてからのことである。語学力や高校にカリキ
ュラムとしてある学問領域の知識については、入学試験という形で問うことはできるもの
の、個々の学生のもっている社会的関心や論理的思考性、そして創造力と想像力を見極め
ることはできない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
このことを解決し、真の高大一貫教育を求めるならば、本学社会学コース独自のきめ細
かな質の高いAO入試が必要となろう。現在、将来構想委員会において検討中の課題であ
る。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
特に、1年次に「基礎演習」を置くことによって、高校までの勉学とは異なる大学での
234 第2章 学部
研究学習の方法について指導している。また、同じく1年次に配当される「社会情報学概
論」、「図書館情報学概論」などの科目によって、当該領域を早い時期に鳥瞰させ、研究分
野の広さと深さを理解させるようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
こうした配慮によって学生は大学教育にスムーズに入ってゆけるようになるものと思
われるが、なお、演習その他でのきめ細かい指導が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究の方法についての基礎的素養(リテラシー)の習得については、専攻・コースの枠
を超え、学部としての具体的対応が可能なカリキュラムに改変した。具体的には1年次か
ら専攻・コースの垣根をとり、全専攻の教員が各自の方法と対象について講義し、また、
ディベートや表現能力を高めるための特別教養科目群を設置した。
<教育学コース>
【現状の説明】
推薦制度によって入学してくる新入生に対しては、面接時のアドバイスや、課題図書に
ついてレポートを求めるなどの事前指導を行っている。
1年次はクラス担任制度があり、
「教育原論」の授業や個別面接などを通して、学生の実
態把握に努めている。また、4月下旬に1泊のオリエンテーション合宿を行い、全教員が
参加して、学生と懇談する機会を設けている。
【点検・評価
長所と問題点】
自分の受けてきた教育や青年期の問題など、教育学の対象は学生にとってあまりにも身
近であるがゆえに、学問として学ぶのにある種の困難がつきまとう。少人数制の「基礎演
習」が、自らの体験を相対化して、学問の世界への導入の機会になるように配慮している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラムでは、教育学コースの1年生が履修する「英語講読」
(通年2単位)を教
育学研究室が担当することになっており、英語力の向上とともに英語教材による教育学へ
の導入になるように工夫している。
<心理学コース>
【現状の説明】
心理学コースでは付属高校からの推薦入学内定者には入学時までに面接を行い、心理学
コースでのカリキュラムの説明や、学習の仕方等の事前指導を行っている。
また、1年次にはクラス担任制度があり、「基礎演習(1)」の授業や個別面接などを通
して、学生の実態把握に努めている。また、入学直後に1泊のオリエンテーション合宿を
行い、学生と懇談する機会を設け、高等教育へ円滑に移行できるような教育上の配慮をし
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
付属高校からの入学者に対しては、事前指導が実施され、成果をあげている。また、心
理学コース独自で新入生ガイダンス期間中に実施している1泊のオリエンテーションは、
教員や学生相互の親睦が深まり、その後の学生生活を円滑に進める上で大きな効果をあげ
ているが、その他の学内行事との関係で日程の調整が難しい。
また、心理学コースでは、1・2年次から専任教員が担当するクラス単位の少人数授業
235
が多く開設されており、特に「基礎演習」は、おおむね成果がでていると思われる。
【将来の改善点・改革に向けた方策】
入学前の事前指導については、将来的には入学内定者全体に行き渡るようにして、早い
時期から高等専門教育を学修する心構えを持たせることが必要と思われる。
また、入学後の教育上の配慮については、現行体制の少人数によるきめ細かい指導と、
自主的に学べる体制を維持して、高等教育への円滑な移行に配慮する。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目のなかで1年次生を対象とした授業科目は「研究基礎(ディベート)」と「研究
基礎(文章表現)」である。専攻・コース科目では「基礎演習」である。これらはいずれも、
高等学校の教育から大学での教育へ円滑に移行できることを目指した授業科目である。な
お、大学受験のために、いわゆる文系科目だけを中心に学習してきた新入生にとって、大
学で広い領域にまたがる未経験の分野を数多く履修することに混迷は避けられない。した
がって、適切なオリエンテーション・ガイダンス期間を設けるとともに、各授業科目にお
いても指導上の配慮が必要と思われる。しかし、共通科目としての組織的な取り組みはな
く、教員の個人的な試みに任されている。
【点検・評価
長所と問題点】
新入生に対する指導は、大学側・教員側で用意するものだけでなく、学生の要望に沿う
ものも必要であろう。そのために、新入生に対するアンケート調査なども必要と思われる。
また、学生が質問しやすい制度やオフィスアワーも効果的と思われるが、十分ではない。
共通科目としては、このような取り組みは今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
高・大の接続のための取り組みには、それぞれの専攻・コースにかかわる部分と全学部
的に共通する部分とがある。共通科目は、この共通部分にかかわることになろう。大学に
おける履修に必要な態度や技能などが主な指導内容になるであろう。教員間で指導内容に
齟齬をきたすことがないよう、合意のための研究を重ねることが望まれる。
<保健体育>
【現状の説明】
保健体育という組織では、具体的な取り組みは行っていない。付属高校との接続という
点では、中央大学杉並高校で「特別授業(布目専任講師)」を行ったことがある。
【点検・評価
長所と問題点】
組織としての点検・評価は、現時点ではできない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
高校では、学習指導要項の改善等により種目選択制が導入され、柔軟な指導形態の授業
が行われている。今後は、こうした変化に対応したカリキュラムを大学でも模索していく
必要がある。
3−(1)− ③
≪文学部≫
【現状の説明】
236 第2章 学部
履修科目の区分
カリキュラム編成における必修・選択の配分は、本学部の卒業所要総単位 137 単位の内、
「保健体育科目(3単位)」は必修、「外国語科目(16 単位)」「共通科目(28 単位)」につ
いては選択必修として統一している。しかし、専攻・コース科目は、
「基礎演習(1)∼(3)」
の 12 単位は本学部共通で必修としているが、それ以外の科目については各専攻・コースに
より卒業に必要な専門科目単位が 66∼84 単位まで幅があり、その内訳としての必修科目単
位も 16∼28 単位まで幅があり本学部として統一していない。このため、専攻・コースによ
り必修科目以外の自由に選択できる科目単位が6∼24 単位と大きな違いが生じているの
が現状である。
【点検・評価
長所と問題点】
一般教育的科目と外国語科目の量的配分は、
「保健体育科目(3単位)」、
「外国語科目(16
単位)」「共通科目(28 単位)」と本学部全体で統一し適切であると考えられるが、専門領
域の科目は、専攻・コースごとに 12 通りのカリキュラム体系があり各専門領域の特徴や特
殊性を前面に押し出していることから一律ではない。本学部として統一した一般教育的科
目と外国語科目の 47 単位を除いた 90 単位の履修方法については、専攻・コースで大きく
異なり、
「専攻に係わる専門の学芸を教授」することに比重を置く専攻・コースと、逆に「幅
広く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養する」ことにも配慮した
専攻・コースとの間に不平等が生じ、本学部として多種多様な履修科目を保有し自専攻を
超えて自由な履修選択を可能にする制度を確立していながら、自専攻の卒業に必要な単位
の取得に追われて実際には最低限の活用に留まってしまうという専攻・コースもあり、問
題が残る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度新入生から施行する新カリキュラムでは、「幅広く深い教養および総合的な判
断力を培い、豊かな人間性を涵養する」ことに配慮した本学部共通の「総合教養科目群」
を新設して、「研究基礎(4単位)」「特別教養(6単位)」「保健体育科目(3単位)」、「外
国語科目(16 単位)」の計 29 単位を選択必修とする。また、各専攻・コースの専門科目単
位を 68 単位に統一、その内訳として「基礎演習(1)
(2)」計8単位と「卒業論文(8単
位)」
「専門演習(3・4年次で計8単位)」の合計 24 単位を必修として設定し、
「専攻に係
わる専門の学芸を教授」を専任教員による徹底指導で実現する。一方、卒業に必要な残り
30 単位は、各専門領域の垣根を低くし、本学部の多種多様な分野を自由に選択できるよう
に配慮し、今まで以上に選択の幅を確保する。
<国文学専攻>
【現状の説明】
専門科目の中では、「基礎演習」・「ゼミナール」・「卒業論文」が必修であり、「日本文学
史」
・
「上代文学」
・
「中古文学」
・
「中世文学」
・
「近世文学」
・
「近現代文学」
・
「国語学概論」・
「国語史」・「漢文学」の講義科目群、ならびに「古典文学演習」・「近現代文学演習」・「国
語学演習」・「漢文学演習」の演習科目群、および「書道」・「国文学情報処理」・「日本語教
育」・「国文学作家作品研究」・「日本漢文学」・「日本文学研究史」・「国語学研究史」・「日本
芸能史」の特殊な領域の科目群が選択必修である。
【点検・評価
長所と問題点】
前述した国文学専攻の教育目標に照らして、おおむね適切であると思われる。
237
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生より施行の新カリキュラムにおいて新設された科目と科目相互の関係
について、その区分上の適切性を今後検討していくこととしたい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
専門科目のなかでは、
「基礎演習(1)∼(3)」、
「実践英文法」、
「ヒアリング及び発音」、
「英作文(1)∼(3)」、「英語講読(1)(2)」、「SPEECH & DEBATE」が必修であり、「イ
ギリス文化誌」、
「アメリカ文化誌」、
「英語学概説」、
「英文学史(1)
(2)」、
「米文学史(1)
(2)」、「英語史」、「英文法研究」、「作家作品研究」、「現代英語研究」、「近代英語研究」、
「中世英語英米文学研究」、
「特殊研究」ならびに「演習(1)∼(4)」が選択必修となっ
て い る 。 ま た 外 国 語 科 目 は 「 英 語 読 解 」、「 英 語 表 現 」、「 ENGLISH READING 」、「 ORAL
COMMUNICATION」の4コマが必修で、それ以外は選択必修である。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻では実際的な英語力と専門的な学力がバランスよく身につくようにと考えている。
必修科目が1・2年次に多く集中しているのは、専門の英語英米文学を専攻するのに必要
となる英語力を低学年時に身につけさせたいからである。また、選択科目にはできるだけ
幅を持たせて学生の多様な関心に応えられるようにしている。必修・選択の量的配分もほ
ぼ適正であると考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生の新カリキュラムから、「卒業論文」、「講読演習(1)(2)」、「英作文
演習」、3・4年合同の「専門演習(1)
(2)」が必修となる。また、選択科目のすべてに
半期制を導入する。これにより、学生に幅広い選択肢が与えられ、さまざまな専門領域へ
の興味が一層高められることを望んでいる。新カリキュラムでは、専攻科目のうち英作文
指導のコマ数が現行カリキュラムより減少することに対処するため、外国語科目のうち
「ENGLISH
WRITING」を必修に追加する。定期的に、必修・選択のバランスの問題を今後
も見直していくことが必要だろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
学生に幅広い選択肢を与えるために、必修科目を少なめにし、選択必修科目を多くして
いる。
【点検・評価
長所と問題点】
ドイツ語の会話の必修科目が少し多すぎて、学生の負担になっているのではないかとい
う意見が一部にあり、数年後に見直しをする予定である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修科目と選択科目の区分がいろいろと重要な問題点を含んでいることは十分に承知し
ている。全体について数年おきに定期的に見直しを行う方針である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
専門科目のなかでは、
「基礎演習」、
「特別演習」、
「フランス文化・社会誌」、
「仏文学概説」
が必修とされ、「仏語学概説」、「文学講義」、「作家作品研究」、「コミュニケーション演習」
238 第2章 学部
ならびに「講読」が選択必修となっている。また外国語科目はフランス語5コマが必修、
それ以外は選択必修である。
【点検・評価
長所と問題点】
前述の教育目標にかんがみておおむね適切であると考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から卒論と、専任教員による講読を改組した3・4年合同のゼミが必修
に、また「フランス文化・社会誌」が選択必修になる予定である。必修と選択の区分につ
いては、定期的に検討を怠らない方針を堅持したい。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
必修科目は「基礎演習」、「古文書学」、「日本史学入門」、「日本史概説」および「卒業論
文」である。この他に選択必修として「日本文化史」、「日本思想史」をはじめとする分野
史、
「日本古代史」、
「日本中世史」をはじめとする時代史、
「古文書学演習」、
「日本史演習」、
「日本史特講」があげられる。
「東洋史概説」をはじめとする東洋史学専攻の専門科目、
「西
洋史概説」をはじめとする西洋史学専攻の専門科目も履修できる。
【点検・評価
長所と問題点】
「3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程」で述べた専攻の教育目標に照らしてみて
も、現在の履修科目の区分はおおむね妥当だと思われる。問題点としては選択必修を含め
て、必修科目がやや多い点があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からカリキュラムの改革を行い、古文書学を必修から選択必修に変更し
たり、史学科他専攻(東洋史学と西洋史学)の専門科目に関する選択必修の単位数を減ら
したりするなど、学生による選択の余地をより広げた。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
1・2年次から、「基礎演習」(必修)と「東洋史概説」(必修)、「東洋史学研究法」(必
修)などの専門科目を設けており、2年次からは、
「東洋古代史」、
「東洋中世史」、
「東洋近
世史」、
「東洋近代史」、
「アジア地域史」
(朝鮮史、北・中央アジア史、イスラーム史、イン
ド史の4科目)、
「東洋史特論」などの概説を受講できるようになる。3・4年次には、
「東
洋史演習」によって、卒業論文に取り組むための訓練を受けることになっている。そして、
4年間の勉学の締めくくりとして、卒業論文の提出が義務づけられている。
その他、漢文史料や英語史料を精読する各種演習、アラビア語、サンスクリット語など
のアジア諸言語の演習が開講されている。これだけ広範囲な地域と、各種語学を教授でき
る大学東洋史学専攻は、全国的に見てもきわめて稀少で、本専攻の誇るべき伝統となって
いる。
【点検・評価】
現在の教員数のもとでは、現今の多様な履修科目の設置は、最大限度の努力の結果とい
える。履修科目の種類と内容については、おおむね、学生たちにも好評であると思われる。
本学の東洋史学を目指して入学する学生たちに志望の動機を聞くと、多くの学生が、本専
攻の多彩なカリキュラムの存在をあげているのも、本専攻の教員スタッフの努力が一定の
239
効果をあげていることを示している、と考えられる。
【長所と問題点】
本専攻の多様さと幅の広さを考えれば、現行の履修科目ですべての要望にこたえるわけ
にはゆかない。特に近年は、学生たちから東南アジア史の教員や専門科目の開講の要望が、
繰り返しだされており、アジア地域史をユーラシア史規模で論じるグローバル・ヒストリ
ーの開講への要望もでてきている。現状に満足して甘んずるのではなく、新しい学問状況
にこたえる新しい履修科目の設定を、今後、絶えず模索してゆかなくてはならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の専門の勉学を進展させ、卒業論文指導をできるだけ効果的に行うために、将来は、
さらに履修科目の数を増やす必要があるとともに、外国のみならず、国内においても、単
位互換を他大学と連携して行い、今後、学生の要望に即して、一層、履修科目の充実に努
める必要があるだろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
1・2年次における「基礎演習」と「西洋史概説」、3年次における特別演習、そして
四年次における「卒業論文」が必修科目であり、それを中心軸にして外書講読を中心とす
る演習と各種の講義が選択必修科目として配されている。
【点検・評価
長所と問題点】
すでに述べたように、本専攻では卒業論文の作成を最も重視しており、履修科目もその
教育目標にそって構成されているが、全体としては適切な構成になっていると評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
洋書読解力の向上や日本語表現力の向上などについて今後はさらに真剣に取り組む必
要があり、前者についてはすでに述べたように外書講読を新たに設けることで対応するこ
とになった。後者については学部全体の改革の取り組みと連関させつつ、今後、基礎演習
のなかで取り組む必要があろう。
<哲学科>
【現状の説明】
専門科目のなかでは、
「基礎演習」、
「哲学演習」、
「哲学講義」、
「哲学講読」、
「西洋哲学史」、
「中国哲学史」、
「哲学概論」
(各4単位)が必修とされ、
「倫理学概論」、
「倫理思想史」、
「現
代論理学」、「科学哲学」が選択必修となっている。卒業までに取得しなければならない全
単位のうち必修科目の占める割合は、37%となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
前述の教育目標にかんがみて履修科目の区分のバランスはおおむね適切であると考えら
れる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から卒業論文が必修になる。全員が高度な哲学論文を書くことを目指す
ことになるわけだが、そのためには周到な事前指導が必要になる。きめ細かい指導を徹底
するためにも、演習等の担当者と卒論指導の教員との密接な連携が必要となる。また必修
と選択の科目区分については、定期的に検討するという方針を今後も堅持したい。
<社会学コース>
240 第2章 学部
【現状の説明】
専門教育では、1年次に「社会学概論」、「社会学史」、「社会調査」、「社会統計学(1)」
と4つの必修講義を配置し、
「基礎演習(1)
(2)」を必修とし、この段階で、社会学の基
礎を習得させている。
2年次からは、個別の応用社会学(「地域社会」、
「家族」、
「政治」、
「産業・労働」、
「文化」、
「社会問題」、
「社会政策」、等)を配置し、社会学の知識を深めるとともに、社会学調査実
習を必修とし、自ら調査し得る能力を養う。
3年次からは「現代社会研究(1)∼(10)」を配置し、「社会学演習」が始まる。各自
の主体的研究の始まりである。4年次では引き続き「社会学演習」が必修であり、こうし
て、自ら主体的に調査研究し得る能力を身につけさせているのである。
【点検・評価
長所と問題点】
前節の教育目標にかんがみて、おおむね適切であると思える。特に、必修科目の調査実
習と社会学演習は、各教員の努力により、それなりに自慢し得るものとなっている。
ただし、社会学コースでは卒業論文が必修ではないため、卒論は意欲ある学生のみが履
修するという状況になっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からは卒業論文も必修となる。これによって、すべての学生が卒論に向
けて、努力しなければならない学的状況が形成されることになった。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
卒業要件単位数は、専攻・コース科目の「基礎演習科目」(12 単位)、同必修科目(26 単
位[情報コミュニケーション]、18 単位[図書館情報学(記録情報学)])、専攻・コース科
目のうちの選択科目と外国語・共通科目の計(96 単位[情報コミュニケーション]、104 単
位[図書館情報学(記録情報学)])、保健体育科目(3単位)からなり、両専修とも合計
137 単位である(最高 175 単位まで)。
【点検・評価
長所と問題点】
必修科目と選択科目の配分はほぼ妥当であると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から新カリキュラムに移行する。いずれにせよ、社会情報学は、進歩の
著しい学問領域であるので、必修・選択の区分も必要に応じて見直すことも必要である。
<教育学コース>
【現状の説明】
現在のカリキュラムでは、専門科目 28 科目のうち必修は 16 科目であるのに対して、新
カリキュラムでは 25 科目のうち必修 17 科目で、数字の上では大きな変化はない。
【点検・評価
長所と問題点】
しかし、現在は教育学基礎科目として開講されている9科目のうち、4科目のみの履修
で必修単位が満たされるため、習得した教育学的知識について学生間のばらつきが大きか
った。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラムでは、教育学基礎科目として開講される7科目のうち5科目の履修が求
241
められるので、事態はかなり改善されるのではないかと期待している。
<心理学コース>
【現状の説明】
現在のカリキュラムでは、卒業に必要な 137 単位中、心理学コースの専門科目は 84 単位
であり、本学部の中で一番多い。この専門科目のうち、必修は9科目 40 単位であり、本学
部で共通の「基礎演習(1)∼(3)」12 単位の他、1年次の「心理統計法」から4年次
の「卒業論文」まで、心理学コース独自の専門科目6科目 28 単位を必修にしている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部全体のバランスからすると必修の量的配分は多いが、心理学コースの教育目標か
らするとおおむね適切である。特に心理学の専門性から理論と実証の両面から学修する必
要があり、1・2年次において必修として基礎を確実に修得させることは不可欠である。
また、全専任教員が責任を持って教育指導する「心理学特殊研究」や「卒業論文」の必修
は専門性を深く追求するために適切であると考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度カリキュラム改正においても心理学コースの必修枠は多く、専門科目 68 単位
のうち 36 単位を必修とする。本学部共通の「基礎演習」は4単位削減するが、独自の専門
科目の必修枠は 28 単位を維持する。ただし、内訳は、2年次の必修を4単位削減して選択
科目の履修幅を増やし、その分を4年次に演習授業「心理学特殊研究(2)」4単位を置き、
最終学年で卒業論文とともに必修として専門領域の学修をより高度に実施する。
<共通科目>
【現状の説明】
現行カリキュラムでは、共通科目の一般教養的授業科目のなかに卒業要件としての必修
科目はない。副専攻の修了のための必修科目、ならびに教職課程の [教科に関する科目]
としての必修・選択必修科目があるのみである。これは、共通科目の中に、専攻・コース
科目であるゴシック科目が置かれており、ゴシック科目の履修だけでも共通科目の必修単
位数を満たせることによっている。
【点検・評価
長所と問題点】
旧基準時では、
「共通科目」は専門領域の補完的科目群であった。そこに旧一般教育科目
が組み込まれた。そのため、一般教養的科目は消滅したと解されたらしい。当時、他専攻
のゴシック科目の履修が幅広い教養の履修として十分なものであるとの主張が聞かれた。
しかし、専門の科目と一般教養としての科目とでは目的も異なり、講義内容も自ずから異
ならざるをえない(FDハンドブック)。したがって、現行カリキュラムにおける教養教育
の軽視・無視の姿勢は、学校教育法 52 条、大学設置基準 19 条はおろか、大学・学部の理
念からみても、学士課程教育における重大な欠陥と言わざるを得ない。共通科目に関して
は、カリキュラム編成における必修・選択の量的配分の適切性・妥当性は著しく欠如して
いる。
このような欠陥にもかかわらず、実際には多くの学生が共通科目の一般教養的授業科目
を履修している。しかし、このことで現行カリキュラムの不備が払拭されることはない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
以上のような結果を招いた原因の主なものとして、大学設置基準の『大綱化』以降に新
242 第2章 学部
たな本学部の理念・教育課程に関する議論がなされず、教養教育の意義と必要性が合意さ
れなかったことが挙げられる。2002 年度入学生から実施される新カリキュラムの策定にお
いてもまた、理念の審議はなかった。新カリキュラムでは、新たに設けられた総合教養科
目群の中に、半期2単位の「特別教養科目(1)∼(18)」が開設され、
「プロジェクト科目
(1)∼(3)」を含んで6単位が必修となる。特別教養科目の過半は共通科目の専任教員
が担当する予定である。しかし、専攻主導の総合科目であるプロジェクト科目の履修だけ
でも6単位が満たされるため、特別教養科目の履修は保障されているとは言い難い。
新カリキュラムにおいて共通科目は、自由選択科目群に置かれ、自由選択科目とあわせ
て 30 単位が必修となっている。自由選択科目には、
「ゴシック科目」、他学部履修科目(30
単位まで)などが含まれている。したがって、ゴシック科目の履修や他学部履修だけで必
修単位が満たされるため、新カリキュラムでは共通科目の履修も保証されていない。
以上のように、新カリキュラムも現行カリキュラムと同様に、教養教育の軽視・無視の
姿勢があり、早急な改善が待たれる。同時に、このような欠陥が学生の教養科目履修に問
題を生じないよう適切な履修指導も必要になろう。
<保健体育>
【現状の説明】
「体育と健康の科学(講義)」半期2単位と「体育とスポーツ(実技)」通年1単位が1
年次の必修科目である。「体育とスポーツ(実技)」については、2年次以降「随意科目」
として1単位の履修ができる。共通科目(1∼4年次を対象)として、「スポーツ科学論」
「身体健康論」「スポーツ教育論」「現代社会とスポーツ」「体育・スポーツ演習」「野外教
育演習」(半期2単位)の授業を開講している。
【点検・評価
長所と問題点】
必修科目については、特段の問題はない。共通科目については、履修者数の推移等を判
断して、2002 年度から「スポーツ科学論」「現代社会とスポーツ」「体育・スポーツ演習」
の3科目の開講とした。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必修科目については、これまでの保健体育科目から総合教養科目群の中での位置づけに
なるので、今後は新たな視点からの点検・評価が必要となる。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
≪文学部≫
【現状の説明】
本学部の授業形態は、年度初めに一括して履修登録を行い、大半は一般教室による講
義・演習形式の授業で通年4単位、文学科の外国文学系専攻では、自専攻の専門外国語教
育の一部を通年2単位の実習形態の授業として行っているが、社会情報学コースや心理学
コース等の新しい学問分野においては半期2単位完結の講義や演習形式の授業も多い。た
だし、半期科目であっても履修登録は通年科目と同じく年度初め1回のみで履修の変更等
も認めていない。
授業内容は、従来の講義や演習授業の他、社会情報学コースや心理学コースではパソコ
ン教室や各種実験・実習室を利用した実習授業を多く実施している。最近では、これらの
243
特定専攻に偏らない幅広い授業でパソコン教室・マルチメディア教室の需要が高まり、講
義中心でも、視聴覚教材やインターネットを活用した授業形態が増大している。
大学施設以外での授業も近年積極的に実施され、その一例にインターンシップによる授
業評価が挙げられる。具体的には、社会情報学コース「図書館情報学実習」で事前指導と
公共図書館等での図書館実務により2単位を付与、学芸員資格課程「博物館実習」におい
て前期の講義とその後の博物館での実習で3単位、2001 年度から心理学コース「心理学特
殊研究」の演習形式通年授業において中学校の相談員実習を取り入れ4単位付与等、学外
での実務実習を授業単位に加えている。
さらに、2000 年度からは、短期海外留学に於いても単位認定を開始、ドイツ(テュービ
ンゲン大学)とフランス(エクス・マルセイユ第Ⅲ大学)の短期留学では前期授業による
事前指導と夏期休暇中の語学研修(約1カ月)により、それぞれ「ドイツ語アクティーフ
(4単位)」「コミュニケーション演習(4単位)」に単位を付与している。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部のカリキュラム体系および授業形態は、社会学科・教育学科の実習・実験を主と
する一部の科目を除き、伝統的な授業形態をとっており、通年4単位の講義・演習形式授
業が主流で授業科目名や内容もほぼ固定化され、各専攻・コースにおいて大幅な改革は実
施されず比較的安定したカリキュラム体系を維持してきた。しかし、最近では海外留学や
他大学との交流等が積極的に推進される中で、半期完結型のセメスター制の導入が必要と
なり、社会学系を中心に半期2単位科目を増やしている。しかし、履修登録自体は年度初
めの一回限りで前期終了後の修正を認めておらず、また成績評価も年度末一括であり、セ
メスター制の完全実施に向けて検討が必要である。
また、授業形態も単なる講義・演習に留まらず、各分野でパソコンやマルチメディア教
材を活用した実習、大学以外の教育施設等での実習等の導入等が増え、従来の伝統的授業
形態だけでは対応できない問題が生じている。
授業科目の単位計算方法は、原則として大学設置基準第 21 条および中央大学学則第 33
条に従い行われ、おおむねその妥当性を保っているが、近年のインターンシップや海外短
期留学の単位化については、実施効果を優先し既存科目の中で単位認定を実施したため、
実際の授業時間数に比べて単位数が少なく、妥当性が必ずしも適切ではない。具体的には、
従来から実施されている「図書館情報学実習」はガイダンス的事前指導と約2週間の実習
で2単位、博物館実習は前期授業2単位と約1週間の実習1単位で計3単位となり妥当で
あると考えられるが、昨年度から実施した海外短期留学では、前期2単位の授業と約1カ
月の語学留学で4単位、インターンシップでは、心理学の通年演習授業に加えて半期週1
回の実習で4単位と、通常の授業形態に比べて時間的負担が大きくなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
インターネットやマルチメディア教材の活用による授業形態の変化や、国際化による留
学の促進、他大学との積極的な交流は、既存の授業内容や履修形態だけではなく、将来的
な遠隔授業や他大学との単位互換制度を視野に入れたセメスター制の導入等、新しい体制
づくりが必要であり検討を行っている。2002 年度新カリキュラムでは、この点を踏まえて
通年4単位科目を半期2単位2科目に分割した暫定的セメスター制を検討、可能な科目か
ら実施する予定である。しかし、履修形態については現行通り年一回の登録で年度末の成
244 第2章 学部
績付与のためさらに改善のための検討が必要である。
また、昨年度から実施された短期海外留学による単位認定(2000 年度から実施)やイン
ターンシップによる単位認定(2001 年度実施)等の大学以外の施設での授業科目は、従来
から実施していた教育実習や博物館実習、図書館情報学実習の拡大として認識し、半期の
事前指導・研修と実習・留学で単位を認定している。このため通常の大学内の授業に比べ
て単位数の割には時間数が多く、大学外の実習時間も長いため履修者の負担が大きいが、
外部へ学生を送り出す責任体制や、より高い教育効果をあげるための徹底した指導を考慮
すると事前指導のための半期授業と一定期間の実習は不可欠であり、他の授業科目に比べ
て単位の計算方法が厳しくなることはやむを得ない。ただし、既存授業科目の運用でこれ
らの科目を実施するのではなく今後独自の授業科目を設置する必要があり、海外短期留学
は大学全体の共通科目として検討が始まっている。インターンシップについても今後拡大
することを想定して、特定の専攻・コースに偏らない本学部全体の授業科目設置の検討が
必要である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
「書道」が2単位、
「卒業論文」が8単位であるほかは、講義・演習すべての専門科目が
通年の4単位である。
「書道」はこれまで4単位であったが、教職免許に必要な単位の変更
に伴ってこのたび改定した。
「卒業論文」は、授業をともなうものではないが、専攻の教育
目標と教育効果、および完成までに至る労力をかんがみ、8単位としている。
【点検・評価
長所と問題点】
半期2単位の講義科目や演習科目は設置されていない。現状に特に問題点を見出せぬま
ま、授業形態と単位との関係については検討の対象とならずに現在に至っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
セメスター制により教育効果が上がると考えられる科目については検討をしていく。例
えば、2002 年度施行のカリキュラムにおいて廃止した漢文読解の基礎的能力を培う科目な
ど、その影響のほどを鑑みながら、2単位科目として再設置することなど考える必要があ
るかもしれない。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
専攻科目のうち、「必修科目」が通年2単位、「卒業論文」が8単位、それ以外の「基礎
演習科目」と「選択科目」が通年4単位となっている。
「外国語科目」は通年2単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
実技の練習を主体とする英語力養成の科目を通年2単位、それ以外の科目を通年4単位
とする方針をこれまでとってきたが、現状で問題ないと考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生の新カリキュラムから、専攻の「選択科目」はすべて半期2単位となる。
この新しい形態が実際に授業や学生にどのような成果や影響をもたらすかをよく検討しな
がらこの問題を考えていきたい。
<独文学専攻>
【現状の説明】
245
語学科目が2単位、専攻科目が4単位、「卒業論文」が8単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
おおむね妥当と思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
主にドイツ語の科目についてセメスター制を導入することを検討中である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
外国語科目が通年2単位、「卒業論文」が8単位とされる以外、すべて通年4単位とな
っている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業形態と単位の関係については長らく検討課題とされなかった。専門教育に関しては
現状でよいという認識に立っているからである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
語学能力の効率的な開発という観点から、とりわけフランス語の授業効果の向上を目指
したセメスター制の導入など、専攻としても今後鋭意検討するつもりである。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
「卒業論文」
(8単位)を除くと、講義科目も演習科目もすべて通年4単位となっている。
いわゆるセメスター制は導入されていない。
【点検・評価
長所と問題点】
セメスター制の問題に限らず、授業形態と単位の関係についてはこれまでほとんど検討
してこなかった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からのカリキュラム改革において、「古文書学演習」等半期2単位の科
目を設置した。他の科目についてもそれが可能かどうか検討する。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
外国語科目が2単位、卒業論文が8単位である以外は、すべて通年4単位となっている。
【点検・評価】
現行の制度について、特に、問題点が指摘されたことはないので、今後も、基本的に、
現行の制度を存続させる予定である。
【長所と問題点】
通年4単位という制度は、年間を通してじっくりと同内容の授業を受けることができる
という長所がある。一方、2単位の場合、4単位の授業と比べて、短期間に多くの異なる
授業を受けることができるという長所がある。学生の興味が拡散する傾向にあるので、将
来は、この両者のバランスを踏まえたカリキュラムが必要になるかもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
卒業論文を8単位とするのは、卒業論文の重みを考えてのことであり、外国語科目以外
の科目を4単位としているのも、通年の科目であることを踏まえている。この点で、将来、
大きな変更は不要と思われるが、上記のように、科目の多様性を増やすために、将来にお
246 第2章 学部
いては、2単位、あるいは1単位の授業を部分的にとりいれることも、考慮すべきかもし
れない。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
授業形態は演習と講義の2本立てで、各4単位である。また、「卒業論文」は8単位で
ある。
【点検・評価
長所と問題点】
授業の形態についてはこれまでのところ特に問題となる点は見出されない。特に卒業論
文についてはハードルが高いその分だけ教員の側も丁寧な指導を行っており、その点では
学生の側からもおおむね評価されているのではないかと思われる。単位のありようについ
ては特に問題とすべき点は現在の段階では見出されない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部全体の改善努力に協力したい。
<哲学科>
【現状の説明】
外国語科目が通年2単位、
「卒業論文」が8単位とされる以外、すべて通年4単位となっ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業形態と単位の関係については、これまで特に問題とされなかった。外国語科目、演
習、講義、論文の学習上のバランスは、現状でよいという認識にたっているからである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状を変革する理由は特にないが、今後「卒業論文」の必修化にともなって、授業形態
と単位の関係を再検討しなければならないという事態が出てくるかもしれない。その時は
鋭意検討するつもりである。
<社会学コース>
【現状の説明】
「社会学概論」と「社会学史」が4単位、「社会調査」、「社会統計学(1)」は半期で2
単位。
「基礎演習(1)、
(2)、
(3)」と「社会学調査実習」、そして「社会学演習」は4単
位、「卒業論文」は8単位である。個別の応用社会学(「地域社会」、「家族」、「政治」、「産
業・労働」、「文化」、「社会問題」、「社会政策」等)は半期で2単位、「現代社会研究(1)
∼(10)」も半期で2単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
社会学の基本カリキュラムは4単位(「社会調査」と「社会統計学(1)」は合わせて4
単位)とし、少人数制の、そして学生自らが主体的に調査・研究する演習を4単位として、
教育の充実を図っている。また、
「応用社会学」、そして「現代社会研究」は半期科目とし、
多様な選択ができるように配慮してある。教育目標にかなった、バランスある授業形態と
単位の関係と思える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生よりカリキュラムが大幅に変更される。ただしそこにおいても、基本の
重視、演習の重視、応用の多様性の確保、という原則は貫かれている。さらに「卒業論文」
247
の必修化により、学問への主体性がより強調されることになる。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
科目の性質とカリキュラム上の配慮により、積み重ねによる理解のための通年学習が必
要な科目(4単位)と半期ごとに機動的に履修できる科目(2単位)を併存させている。
また、社会情報学の特性から実習型の科目については特別の配慮をしている。
【点検・評価
長所と問題点】
おおむね妥当な構成であるが、学生の履修の便宜や選択機会の多様化を図るためには、
2単位科目の増加が望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
以上のような配慮に基づき、2002 年度からの新カリキュラムでは、2単位科目を大幅に
増やしている。
<教育学コース>
【現状の説明】
一般的な授業は通年4単位、半期2単位である。現状は4単位科目がほとんどである3、
4年次に「教育学演習」が置かれ、うち2科目計8単位の履修が求められている。この2
科目は異なる教員の演習を1科目ずつ履修することも、同一教員の演習を引き続き履修す
ることもできる。必修の卒業論文指導は「教育学演習」とは別に置かれ、3年次後期に指
導教員(主査)が決定され、4年次を通じて定期的な指導を受ける。また、卒論指導には
副査の制度があり、学生は中間報告や個別の機会を通して、副査の指導もあわせ受けるこ
とが求められている。卒論の最終審査は、全教員の出席のもとで行われる口述試験による。
卒業論文は8単位である。
【点検・評価
長所と問題点】
3年次に「教育実地研究」という必修科目がある。単位は諸般の事情で2単位だが、事
前学習は2年次末の調査地の選定から始まり、3年次前期を通して集中的に行われる。6
月末の1週間、現地に入って調査活動が行われる。また調査終了後、ほぼ半年をかけて調
査報告書を完成させる。この学習は学生が組織した実行委員会のもとで、まったく自主的
な活動として行われ、教員は常に学生に同伴して指導・助言にあたる。今後の課題として
は、学生の実質的な学習・作業負担を考慮して4単位を出せるようにしたいと考えている。
本授業は毎年高い教育効果をあげており、今後本授業を円滑に運営するためにも大学から
の一層の経済的援助が期待される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度からは「教育学演習」の数を倍に増やし、同一教員の演習を2年続けて取れる
よう、制度的にも改正を行った。それが学生にとって主体的な問題関心を生かした学習活
動への励ましになるかどうか、その効果が期待される。また、2002 年度からの改定にあわ
せて2単位科目を若干増やし、多様な科目が履修できるよう配慮した。
<心理学コース>
【現状の説明】
すべて通年4単位であることは、他専攻と変わらないが、心理学コースの専門分野の特
殊性により、理論と実証の双方を学修することから、一般的な講義科目だけでなく、実験、
248 第2章 学部
観察、臨床実習などを組み合わせた授業を実施している。
また、授業教室も一般教室だけでなくパソコン教室や心理学実験室・行動観察室等を頻
繁に利用するほか、学外の施設に見学・研修する場合もある。また、本年度から「学校イ
ンターンシップ」として八王子市内の小中学校において教育相談補助の実習を行う試みを
「心理学特殊研究」の授業で取り入れた。いずれも通常の講義・演習授業の一部として実
習・実験・観察等を行うため、単位数は講義科目同様に通年4単位である。
また、「卒業論文」は8単位必修で他の授業科目と比べても比重が高く、指導教員・主
査は3年次後期に決定され、4年次を通じて定期的な指導を受ける。卒業論文指導は副査
制がとられ、学生は中間発表時や個別に副査の指導を受けることもできる。
【点検・評価
長所と問題点】
実証科学としての心理学の研究のため、人間の心理を理解する理論性と、この理論を実
験や観察により証明する実証性を各授業科目で学修できる。学校インターンシップは、本
年度から試行的に実施したため既存の授業科目の実習として位置づけ、週1回の授業と
小・中学校での実習により4単位であり、単位数に比べて費やす時間数が多く、学生の負
担となるが、教育効果は高い。
「卒業論文」は8単位であるが、3年次の段階から準備に入
りこれにかかわる時間も多く、単位の計算方法も妥当と思われる。
【将来の改善点・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から基本的にはセメスター制・半期教科を採用する。
「心理学特殊研究」
が3年次、4年次と継続されることにより学生の興味・関心をより専門的に方向づけられ
ることとなり、卒業論文にその成果が現れるのではないかと期待できる。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目の授業形態は、講義や演習が主体である。一部に学外施設の見学や野外巡検も
実施されている。一方、実験形式の授業はほとんどない。単位はこれらの授業の学修量に
よって示され、1単位は 45 時間分の学修量である。これによると、4単位(通年)の講義や
演習では、学修量が 180 時間必要である。24 週ほどの授業期間では 36 時間が講義にあて
られ、残り 144 時間が学生の自習に任される。授業時間の4倍の自習時間が不可欠なので
ある。言い換えれば、1回の授業につき6時間の自習が必要である計算になる。
自主的に自習する学生が少ない現状では、上記のような自習を促すためには毎回の授業
で自習課題を与える必要がある。しかし、これは教師にとっても負担増となろう。共通科
目の講義・演習で実際にどのくらいの課題が与えられているかは不明である。
【点検・評価
長所と問題点】
現行カリキュラムでは、卒業に必要な最少単位が 137 単位となっている。1年ごとにそ
の4分の1を学修するとすれば、1年で約 34 単位 1,541 時間ほどの学修量である。1年を
30 週、1週間を5日とすると、授業の時間を含め毎日 10 時間以上の勉強に相当する。1
回の授業につき6時間の自習が必要であることや、毎日 10 時間以上の勉強をすることは、
現実には困難なことと言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
単位を実質的なものにするためには、学外施設の見学や野外巡検など、講義以外の形式
を付加して授業時間数を増やすことや、夏期休暇なども含めた長期にわたる自習活動(レ
249
ポート作成など)を課すことが必要である。4単位の授業科目のすべてにおいて、小論文
ないし本格的なレポート作成を課すことにすれば、単位の実質化に大いに役立つ。また、
共通科目には馴染みにくいが、ある単位を取得しないと卒業研究ができないなどの関門を
設けることも単位の実質化に有効であろう。
<保健体育>
【現状の説明】
「体育と健康の科学(講義)」半期2単位と「体育とスポーツ(実技)」通年2単位の他、
「体育とスポーツ(実技)」を随意科目として開講している。
【点検・評価
長所と問題点】
必修科目に特段の問題はないが、随意科目の希望者に対する配慮が必要である。(2∼
4年次で1単位まで)
【将来の改善・改革に向けた方策】
随意科目については、2002 年度より2年次以降各年度での履修を可能にしたので、新た
な点検・評価をして充実を図っていきたい。
3−(1)− ⑤
単位互換、単位認定等
≪文学部≫
【現状の説明】
他大学で修得した単位を本学本学部の単位として認定する制度は、現行では海外の交
換・認定留学生の持ち帰り単位に限定して認めている。この単位認定は、本学部独自に定
めた「中央大学文学部学生の国外留学に関する内規」に従い、文学部教務委員会で審議、
教授会の承認を得て決定している。認定の上限は中央大学学則第 35 条第2項に従い、上限
30 単位を遵守している。
また、短期海外留学による単位認定(2000 年度から実施)やインターンシップによる単
位認定(2001 年度実施)等大学以外の施設での学修についての単位認定も活発になってい
るが、これらの科目については、現在のところ当該科目を担当する本学専任教員が留学・
インターンシップの成果を勘案して事前指導のための授業や事後指導を含めて総合的に成
績評価を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
海外の交換・認定留学による他大学からの持ち帰り単位の認定は、2000 年4月から現行
内規に改正を行った。これ以前は、留学先で履修した授業科目を本学部の開設授業科目に
読み替える方法で単位認定を実施していたが、本学部に該当しない授業科目については成
績評価を受けても本学部の卒業要件に反映されず、認定される科目が限定され、留学は卒
業のためには不利な状況であった。このため、昨年度から施行した新内規では、一対一の
科目の認定ではなく、取得した単位数を上限 30 単位まで本学部の授業科目区分の単位数に
換算する方法に変更した。これにより、留学先で取得した単位のほとんどが本学の卒業に
必要な単位として認定可能となり、本学部の特性を生かした国際交流の積極的推進のため
有効に活用されている。国内の大学等との単位互換は、現行の本学部レベルでは実施され
ておらず、検討段階にあるが、国内外ともに単位互換制度が充実した場合は、認定単位数
の拡大が不可欠である。
250 第2章 学部
大学以外の教育施設における学修は、海外短期留学による単位認定(2000 年度から実施)
とインターンシップによる単位認定(2001 年度実施)等が従来の教育実習や博物館実習、
図書館情報学実習に加わり、今後も拡大傾向にあるが、いずれも既存授業科目の延長とし
て、事前指導の徹底と当該指導教員による単位認定を実施しており、その方法は適切であ
ると認められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
海外の大学との単位互換については、学部の特色から、本学部独自の内規により独自の
国際交流促進に努めているが、全学的に国際化に対応するための成績評価方法について検
討が開始され、世界的な統一基準としての単位互換制度を導入したいとの国際交流センタ
ーからの意向もあり、UMAP(アジア太平洋大学交流機構)の単位互換計画(UCTS)
について検討を開始した。
国内他大学との単位互換については、大妻女子大学と本学の間で締結された教育研究交
流に基づいて本学部内で検討し、2002 年度から本学部社会学科が実施できるよう調整を開
始し、近い将来、東京都立大学との単位互換も視野に入れている。
大学の施設以外での学修としては、インターンシップの単位化が今後も拡大することが
予想されるが、事前指導の実施方法や実習先での成績評価の方法、総合的な単位認定方法
等について、現行通り既存の特定の専攻・コースの専門授業科目の延長として実施するか、
新たに本学部全体の共通科目として授業科目を設置するか慎重な検討が必要になる。
<国文学専攻>
【現状の説明】
他大学との単位互換は学部においては行われていない。留学生の単位認定についても、
専門科目に読み替えられる科目を取得してきたケースは今までなく、特に検討課題ともさ
れずに現在に至っている。学士入学者等については、個別に既修得単位についての検討、
判断を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
単位互換・単位認定については、これまで特に問題となるようなこともなく、したがっ
て、検討の俎上にものぼらずにこれまで経過してきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院においては、いくつかの大学と単位互換を行っているが、これを学部にまで拡大
して行うことの是非については今後検討していくこととしたい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
国内の大学との単位交換制度は現在ないが、海外の協定校への留学と認定留学によって
外国の大学で取得した単位は 30 単位を上限として本学の単位として認定している。卒業に
必要な総単位中、本学の他学部履修による認定単位数については、本学部には「他学部履
修制度」があり、他学部の履修許可科目を、卒業までに 30 単位を限度に履修でき、共通科
目として卒業に必要な単位に含まれる。また、本学部内の他の専攻・コースのゴシック科
目を履修して、一定の単位数が卒業に必要な単位数として認められる。
【点検・評価
長所と問題点】
海外の大学で取得した一定の単位が本学の単位に認定されるという制度は、学生の留学
251
意欲を高め、留学生の数を増やし、国際交流を盛んにするという点で高く評価できる。そ
の単位認定方法についても、海外の諸大学の授業科目と本学の授業科目との読み替えなど
を今後もできるだけ柔軟に取り入れることが望ましいと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学の大学院文学研究科ではすでに、都立大学と東京外国語大学との間で単位交換を含
む全学協定が締結され、交流が始まっているが、学部レベルでの交流についても検討して
いくべきであろうし、また、ITなどによる新しい形態を通しての交流に伴う単位互換制
度などの検討も必要であろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
学生が海外の協定校で取得した単位を本学部の単位に読み替えている。
【点検・評価
長所と問題点】
互換可能単位の上限、成績評価の仕方について、若干議論がなされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国内の大学との間で単位互換制を実現できないものか、目下その可能性を探っていると
ころである。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
協定校への留学と認定留学によって外国の大学で取得した単位は帰国後教務委員が本
人と面接して取得内容を検討し、教授会に諮って 30 単位まで本学の単位として認定してい
る。また3年次からの編入学生については、短大における取得単位を一定数、本専攻の単
位として認めている。
【点検・評価
長所と問題点】
単位互換と認定留学の制度が採りいれられてからいまだ日が浅いが、留学意欲を促がす
など、成果は非常に大きい。ただ、互換単位の認定方法は画一化になじまず柔軟にきめ細
かく対処すべきであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度から大学院レベルで東京外国語大学ならびに都立大学との間に単位互換を含
む全学協定が締結されたが、こうした交流を学部レベルまで拡大するべく検討中である。
大学間共通カリキュラム構想を一層推進すべきであろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
他大学との単位互換は専攻独自では行っていない。また、日本史学という専攻の特性上、
海外に留学する学生もほとんどいないため、外国の大学で取得した単位を認定する必要性
は、これまで全くなかった。
【点検・評価
長所と問題点】
これらの問題について今まで一度も議論してこなかった点が問題点としてあげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他大学との単位互換については、学部全体の審議を踏まえ、専攻としても検討していき
たい。また、日本史学専攻といえども今後は東アジア諸国等への留学生が出てくる可能性
252 第2章 学部
があり、その単位認定についても専攻で議論する必要があるかもしれない。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
他の専攻と同様に、本学部の規定に基づき、外国の協定校への留学と認定留学によって
取得した単位は、帰国後、教務委員が本人と面接して取得内容を検討し、教授会に諮って、
30 単位までは本学の単位として認定している。
【点検・評価】
単位互換の制度ができてからまだ年月が浅いが、外国の大学で単位を取得した学生の数
は、確実に増えており、他の学生への刺激も大きく、当初の期待以上の成果をあげてきて
いる。
【長所と問題点】
外国の協定校への留学や認定留学にゆく学生の大半は、目的意識が高く、卒業論文の設
定などにも、独自の視角から積極的に取り組む姿勢が強い。このような学生を1人でも増
やすためには、外国の協定校の数を、吟味しながら増やしてゆき、さらに、多くの学生が
外国で専門を学ぶ機会を増やす必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国内の他大学との学部レベルでの単位互換の制度は、まだ存在しないので、外国の協定
大学の制度を基準に、国内の他大学との間にも、単位互換や単位認定の制度を広げてゆく
必要があるだろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
現状では学部単位での海外留学に関する単位互換は行われているが、専攻単位では取り
組んでいない。
【点検・評価
長所と問題点】
したがって、特に評価する点もない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は学部全体で単位修得の多様性を検討すべきであり、それに専攻として積極的に協
力したい。
<哲学科>
【現状の説明】
諸留学制度を利用する本学科の学生はさほど多くないが、これらの学生の取得した単位
は、本学部の制度に従って認定されている。また学士入学の学生が他大学・他学部ですで
に取得した単位のうち読み替え可能な科目については、本学科の単位として認めている。
【点検・評価
長所と問題点】
留学先で取得した単位の認定制度は留学意欲を促進することにつながり、成果は大きい
が、残念ながら本学科の学生はこの留学制度そのものをあまり利用していない。学士入学
生の取得単位の読み替えは効果をあげ、ほとんどの学生が2年で卒業論文を書いて卒業し
ているし、大学院に進む率もかなり高い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院レベルで 2001 年度に始まった東京外国語大学および東京都立大学との間の単位
253
互換制度は、学部レベルまで拡大すべく現在検討中であるが、こうした制度が実現すれば、
本学科もこれに積極的に参加すべきであろう。
<社会学コース>
【現状の説明】
協定校への留学と認定留学によって、外国の大学で取得した単位は、帰国後教務委員が
本人と面接して取得単位を検討し、教授会に諮って 30 単位まで本学の単位として認定して
いる。
【点検・評価
長所と問題点】
社会学コースは社会情報学コースと講義のみならず、演習や卒業論文指導に至るまで、
大幅な相互乗り入れを行っている。他専攻・コースには見られない珍しいケースである。
しかし、他大学との単位互換はまだ始まったばかりであり、これからの課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
すでに記したように、2002 年度からは大妻女子大学の人間関係学部等3学部との教育研
究交流が行われることになっており、これにより大妻女子大学との単位互換制度が施行さ
れる。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
大妻女子大学の社会情報学部、人間関係学部、比較文化学部の3学部と本学科との間で
2002 年度から単位互換による相互の学生交流を図ることにした。
【点検・評価】
学生にとって本学で学習することが困難な分野(例えば福祉関係)などの履修に便宜が図
られる。
【長所と問題点】
単位互換校の双方で重複する科目の取り扱いについては、原則として履修不可能とし、
相手校にのみ開講されている選択必修科目を履修することにした。このことによって、よ
り幅の広い学問研究に接する機会を大きく増大させることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度から予定されている大妻女子大学との授業の相互乗り入れ・単位互換は、同大
学社会情報学部を含める3学部と、本学科との間で専門科目において多くの授業科目が開
講される。いずれにせよ、単位互換制度については、本学のカリキュラム全体の中により
効果的な位置づけが必要であろう。
<教育学コース>
【現状の説明】
国内の他大学との間の単位互換については、中央大学として結ばれた協定に、また国外
の大学で取得した単位の認定については、本学部の規定に従っている。
【点検・評価
長所と問題点】
教育学コースでは、本年度から東京都立大学・東京外国語大学と大学院レベルで単位互
換が開始されたが、現在この制度を利用している学生はまだきわめて少ないといえる。履
修オリエンテーションや個人指導を通しての広報活動が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
254 第2章 学部
大学院レベルで行われる国内他大学との単位互換制度と連動させて、学部でも実施でき
るように努めたい。
<心理学コース>
【現状の説明】
国際交流センターの協定により交換・認定留学生が本学部共通の内規に基づき単位の認
定を行っているが、心理学コース単独では実施していない。
【点検・評価
長所と問題点】
実施していない。
【将来の改善点・改革に向けた方策】
全学協定による他大学との教育研究協定が締結されているため、心理学コースとしても
今後の可能性を検討したい。
<共通科目>
【現状の説明】
単位互換・単位認定については学生が所属する各専攻・コースに任せ、共通科目として
は実施してない。
【点検・評価
長所と問題点】
上記理由により該当なし。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記理由により該当なし。
<保健体育>
【現状の説明】
本学部では、短期大学からの編入生を受け入れている仏文学専攻の学生と協定校である
海外の大学についての単位互換・単位認定を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
短期大学からの編入生のほとんどが、「体育とスポーツ(実技)」の授業を履修している
が、積極的に取り組んで1年次の履修者に好影響を与えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、編入等による学生が増加していくと思われるが積極的に取り組んでいきたい。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
≪文学部≫
【現状の説明】
一部(昼間部)二部(夜間部)を合わせた全授業科目 1,156 コマ中、専任教員が担当す
る授業科目は 386 コマで 33.4%である。科目群別では、専門科目の専任教員が担当する授
業科目の割合は、全 735.5 コマ中 307.5 コマで 41.8%になっている。また、外国語科目は
全 304 コマ中 45 コマで 14.8%、共通科目は 116.5 コマ中 33.5 コマで 28.8%になっている。
専任教員と兼任教員の連携および兼任教員の本学部教育課程への関与としては、年1回
の担任者会議(各専攻コース主催=3月中旬実施)および各専攻・コースの研究室会議や
共同研究室を通じて兼任教員に情報を提供することで円滑に行われるよう配慮している。
【点検・評価
長所と問題点】
255
本学部は、カリキュラム体系が多岐にわたり、さらに学問の性格上、少人数語学教育や
演習形式の授業形態が多いため、専任教員の限られた人数で学部・大学院の授業を担当す
ることは難しく、外国語科目を中心に授業コマ数に比例して兼任教員の担当割合が高くな
っている。専門教育は平均して専任教員の負担率が高いが、最も専任の負担率の高い専攻・
コース(75%)と一番低い専攻・コース(26.7%)の差異が非常に大きい。原因として学
生に対する専任教員数の割合・開講授業コマ数の割合が専攻・コースにより異なることや、
外国語科目・資格課程科目を担当することにより専門教育科目の担当が少ないこと等が挙
げられるが、公平さに欠け改善が必要になっている。ただし、授業コマ数の比率には含め
ていないが、各専攻・コースとも卒業論文指導は必ず専任教員が担当し、徹底した個別指
導を行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1999 年度の将来構想委員会において、2002 年度入学生から施行のカリキュラム改正に合
わせて、各専攻・コースの開講授業コマ数も本学部全体の共通基準により統一する案が検
討され、2000 年度中の教授会において、学生数に比例した一定の計算式に基づき各専攻・
コースの開講授業コマ数が公平になるよう調整することが承認され、さらに二部(夜間部)
の募集停止に伴う教員数の削減計画と合わせて、学生定員に対する専任教員数も極力公平
になるよう検討され、今後 10 年以内の調整計画案をまとめ、実施段階に入った。
また、カリキュラム改正の柱として、3・4年次の専門演習と卒業論文を全専攻・コー
ス必修としてこれを極力専任教員が担当することが決定しており、今後専任教員による責
任ある教育体制が今まで以上に確立されることになる。
<国文学専攻>
【現状の説明】
2001 年度については、国文学専攻設置の専門科目は一部(昼間部)で全 61 コマ、うち、
専任教員の担当しているコマは 37 コマ、兼任教員の担当は 24 コマである。特別研究期間
でこの年度担当から外れている専任教員もいるので、本来ならば専任教員担当のコマ数は
これを上回る。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員と兼任教員の担当コマの数はほぼ6:4であり、専任の担当比率はかなり高い
と思われる。
1年次の「基礎演習(1)」は必ず専任教員が担当し基礎教育に万全を期すと同時に、卒
業論文とそれに直結するゼミナールも専任教員が担当し、きめ細やかな指導が行われてい
る。
ただし専任教員は他に要職を抱えていても、なかなかコマ数の負担を軽減しにくいとこ
ろが難点としてあげられよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専・兼比率については現状を維持していく努力を続けることが良いと思われる。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
開設授業科目における専任・兼任の各担当コマ数については、2001 年度の場合、「文学
部履修人員表」によると、一部に関しては、専攻科目開設コマ数 175 のうち、専任担当 55、
256 第2章 学部
兼任担当 120 であり(専任の担当は 31%強)、外国語科目(全専攻英語)開設コマ数 166
のうち、専任 21、兼任 145 である(12%強)。一方、二部に関しては、専攻科目開設コマ
数 40 のうち、専任 23、兼任 17 であり(57%強)、外国語科目(全専攻英語)開設コマ数
10 コマのうち、専任4、兼任6である(40%)。授業科目への専任ならびに兼任教員の配
分は、個々の教員の専門領域と力量を考慮して行うのが原則である。1年次の「基礎演習
(1)」は専任教員がクラス担任となり、学習等に関する細かい指導ができるような体制に
している。また、卒論指導は専任教員があたり、それにつながる3、4年次生合同の「演
習(2)(4)」も専任教員全員が担当するようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻では、少人数クラスを多数開講するカリキュラム上の要請から兼任教員数が多く
なるのはやむをえないと考えている。授業科目に応じてそれにふさわしい専門領域と力量
をもつ教員に兼任を依頼するよう努めているが、これは充実した授業を編成するためには
非常に重要なことである。したがって、兼任教員は専任教員同様、本専攻の教育の一端を
担ってもらう重要なスタッフと考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からの新カリキュラムでは、本専攻の開講コマ数が大幅に減少するので、
その点では専任担当コマ数の比率は現状より大きくなるだろう。また、専任の担当率とい
う視点だけでなく、より充実した多彩な授業編成および学生への望ましい影響・啓発とい
う点で、すぐれた力量をもつ兼任教員を今後も人選していくことが必要だろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
独文専攻の全責任コマ数のうちで兼任の担当コマ数は約 60%である。
【点検・評価
長所と問題点】
諸事情を考慮すると、この数字はやむをえないと思われる。なお、兼任に頼りがちな第
二外国語を専任が最低1コマ持つようにしているのは、評価されてよいと自認する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から卒業論文が必修になるため、兼任教員にも卒業論文を一部担当して
もらうことに制度を改善できないかについて現在議論を行っている。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻全コマ数 107 コマのうち専任教員が担当するコマ数は 24 コマで、全体の
22.4%強となっている。授業科目への専任ならびに兼任教員の配分は個々の教員の専門と
特性・力量を考慮して行うのが原則であるが、特に1年次の「フランス語(1)」は日本人
の専任教員があたることとしている。また卒論履修予定学生は3年次から2年間通して同
一の専任教員が担当する講読の授業を履修するよう指導している。卒論指導は必ず専任教
員があたる制度と関連した措置である。
【点検・評価
長所と問題点】
専任の担当比率が低いとは必ずしも考えていない。仏文学専攻ではカリキュラム上の要
請からどうしても兼任教員数が多くなりがちであるが、兼任も専攻の重要なスタッフであ
るという考えは以前から一貫している。
257
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述の講読の授業は 2002 年度入学生からゼミに移行することが決定している。兼任教
員の教育課程への関与については卒論指導以外特段の制約を設けていない。教員本人の専
門と得意分野を最大限に活かす配慮こそ肝心であろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
総数で 46 コマのうち、専任教員の担当コマ数は 24 コマで、専任と兼任の比率は 52:48
となっている。専任教員は持ちコマ以外に卒論指導のオフィスアワーを各自1コマ担当す
る。卒論指導のほか、「日本史概説」、「日本史学入門」、各時代史等の重要科目は、原則と
して専任教員が担当する。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員の持ちコマ数が全体の5割を超えている点は評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後ともできる限りこの体制を維持していきたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
東洋史学専攻の専攻・コース科目(基礎演習科目・必修科目・選択科目)開設科目の授
業コマ数 25 コマのうち、専任の担当するコマ数は 14 コマ、兼任の担当する科目数は、11
コマである。専任の担当する科目の比率は、56%である。
【点検・評価】
以上の専・兼比率からいえるように、専任が教育の主体を担っており、兼任が、それを
補佐するという形態をとっている。また、専任と兼任が、バランスよく、役割を分担して
いることも確かであり、大きな問題はない。
【長所と問題点】
専任と兼任の比率はよくとれており、学生からも、専任の講義や演習をとる機会が広く
与えられていることは評価されており、また、専任の専門以外の分野を担当する、兼任の
講義や演習を取得することのできる現行の制度への評価は悪くない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来の学生の多様な分野の学習意欲の高まりと、ヨーロッパ以外のユーラシア大陸の歴
史への重視が、今後、一層進むに違いないことからかんがみて、現行の科目数、専任人数、
兼任人数が理想的とはいえない。今後、社会の要求にこたえるかたちで、中央大学の東洋
史学専攻が、アジア地域史の歴史教育・歴史研究における、世界的拠点のひとつとなるよ
うに、開設科目数・専任人数・兼任人数、専任・兼任の比率を、改善してゆかなくてはな
らない。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
2001 年度における西洋史学開設科目における専任教員と兼任教員との比率は、50:50
である。兼任教員には、専任教員がカバーできない領域についての講義を担当してもらっ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
258 第2章 学部
西洋史学の対象は狭義の西洋、すなわちヨーロッパとアメリカ両大陸に加えて、古代オ
リエント、アフリカ、オーストラリアを含み、さらに近代植民地を加えればアジアも入っ
てくる。それだけの対象をできるだけ網羅するためにも、兼任教員の役割は重要であるが、
これまでのところでは、かなりの程度まで学生の問題関心に応えるような人選を行ってい
ると評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後もできるだけ幅広い科目を開設するように努力する必要があろう。また、これまで
欠けていた美術史などについても学生のニーズが高く、今後、本来の西洋史を踏まえた議
論を展開できるような適切な人材を見つけ、開講したい。また、学際的な領域、例えばニ
ューヒストリシズム、歴史人類学などについて兼任教員に適宜、担当してもらうことも今
後、検討したい。
<哲学科>
【現状の説明】
哲学科開設全コマ数 33 コマのうち、専任教員が担当するコマ数は 24、兼任教員が担当
するコマ数は9コマであり、専任教員が担当するコマ数は全体の 72.7%となっている。授
業科目への専任ならびに兼任教員の配分は個々の教員の専門分野・力量を考慮して行われ
ているが、1学年の基礎演習と卒業論文指導は必ず専任教員があたっている。
【点検・評価
長所と問題点】
古今東西の哲学をきめ細かく開設するためには、7人の専任ではとてもカバーできない。
そのため多様な分野のすぐれた兼任教員を一定数導入せざるをえない。兼任教員も本学科
の重要なスタッフと位置づけることができる。しかし特に重要と思われる1年生の基礎演
習や卒業論文は専任が責任をもって指導にあたっており、特に問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
兼任教員の教育課程への関与については卒論指導と基礎演習以外は特段の制約を設けて
いない。専任も兼任も教員本人の専門と得意分野を最大限発揮する配慮は今後とも必要で
ある。
<社会学コース>
【現状の説明】
社会学コース全コマ数 43 コマのうち、専任教員が担当するコマ数は 25 コマで、全体の
58%を占めている。かなりの部分を専任教員で占めているわけである。しかも、
「社会学概
論」、
「社会学史」、
「社会調査」、
「基礎演習(1)」、
「社会学調査演習」、
「演習」といった主
要な部分は、専任教員が行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
6名の専任教員では、社会学のカリキュラムのすべてをまかなえるはずもない。そこで、
かなりの部分を兼任講師で賄わざるを得ない。しかも、社会学は他の学問に比べ、きわめ
て研究領域が広く、多様性をもっているので、また学生のさまざまな研究ニーズに対応す
るためにも、演習も一部兼任教員にお願いしている。兼任とはいえ、非常に教育熱心であ
り、学生の評判もいい。さらにまた、すでに述べたとおり、社会情報学コースと演習や卒
業論文指導において、大幅な相互乗り入れを行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
259
演習の社会学コースとの乗り入れ、そして兼任講師の演習の採用は、学生のニーズに対
応しており、すこぶる評判がよい。よって、今後も進めていくつもりでいる。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
社会情報学コース 2001 年度開講 77 科目(共通科目を除く)のうち、専任が担当してい
るのは 31 科目であり、専任担当の比率は 40.3%となっている。主要講義と演習は原則とし
て専任教員が担当している。
【点検・評価】
カリキュラムの核となる科目は専任が担当しており、兼任講師担当の科目についても専
任が方向づけをしている。このため、カリキュラム全体は安定的に運用されていると言え
る。
【長所と問題点】
社会情報学は新しい分野であり、次々に新規性あるテーマが出現するので、そうした点
を授業内容に盛り込むことが必要である。そのために、専任の一層の研鑽と、適切な兼任
講師の開拓が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究内容の多様化をにらみながら、専任教員の構成について常にチェックを行うと
ともに、専任教員自身が機会あるごとにさまざまの学会、研究会に出かけてゆき、有能な
人材の発見と確保に努めることが求められる。また、兼任講師との意思疎通の機会をより
増やすことも検討中である。
<教育学コース>
【現状の説明】
教育学コースの開講科目 39 コマのうち、専任の担当は 31 コマ(79.5%)であり、十分
満足いく水準であると考えている。
兼任教員の担当科目は比較的履修者が少ないため、受講者はレポートの添削をはじめ、
本務校学生との交流や学外施設の見学など、親しく指導を受ける機会が多い。
【点検・評価
長所と問題点】
2002 年度入学生からのカリキュラム改正にともない、専任比率はさらに上昇して 89.7%
になる。「基礎演習」、「教育学演習」、主要な教育学基礎科目はできる限り、専任が担当す
るように努めており、授業を通して学生の日常生活の把握に努めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、TA制度の充実を図り、大学院学生と学部学生とのあいだの学習を通して
の交流の機会を拡充したい。
<心理学コース>
【現状の説明】
心理学コース開講科目 38 コマのうち、専任教員6名で 23 コマ、兼任教員 10 名で 15 コ
マとなっている。専任教員担当コマ数は 60.5%である。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員が担当する割合は高く、特に必修科目を多く担当していることを考え合わせる
と、専・兼比率は満足いくものであると考える。
260 第2章 学部
【将来の改善点・改革に向けた方策】
今後も専任教員による責任ある教育体制を維持したい。
<共通科目>
【現状の説明】
現行カリキュラムで、共通科目に開設されている授業科目は、専攻などに所属するもの
を合わせると全部で 98 科目である。
「2001 年度担当時間数一覧」によると、共通科目に所
属する授業科目の専兼比率は、一部(昼間部)で 24.8%、二部(夜間部)で 26.3%、昼夜
合計では 25.9%となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
2002 年度から開設される新専攻のために共通科目のスタッフは1名減となった。このた
めに、共通科目の専・兼比率は低下している。しかし、幅広い分野を担当するといった共
通科目の性格を考慮すれば、上記のデータはかなり良い状況である。専任教員、兼任教員
ともに、共通科目の教育に十分な役割を果たしていると判断されよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
共通科目は、幅広い領域にまたがる授業科目が多いため、少数の専任教員だけで共通科
目を担当することは望むべくもない。したがって、兼任教員が必ず必要である。また、本
学部の教養教育をより良い状況に戻すためにも、減員1名分は将来回復されることが望ま
しい。
<保健体育>
【現状の説明】
「体育と健康の科学(講義)」で専任教員が担当するコマ数は9コマで、全体の 75%で
あり、「体育とスポーツ(実技)」で担当するコマ数は 10 コマで、全体の 29%である。共
通科目の6コマは、すべて専任教員が担当している。
【点検・評価
長所と問題点】
3名の専任教員は、講義および共通科目を中心に担当しているので、実技科目の兼任依
存度が高くなっている。多様な種目等を開講できるという点では、兼任の担当率の高さは
必ずしもマイナスではないと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員としては、講義科目、実技科目、共通科目のバランスのとれた担当が望ましい
ので、実技科目の担当を検討していきたい。
3−(1)− ⑦
生涯学習への対応
≪文学部≫
【現状の説明】
生涯学習の対応としては、現在、本学部聴講生制度と本学部卒業生に対する資格課程科
目等履修生制度を開設しているが、社会人教育ならびに生涯教育の受け皿として本学部設
立と同時に開設された二部(夜間部)は、社会的環境の変化にともない 2001 年度から募集
停止とし、現在の在学生の卒業を待って廃止とする方向性が決定した。
【点検・評価
長所と問題点】
二部(夜間部)が担ってきた本学部の生涯学習の理念は、新しい開放型教育システムの
261
構築を図ることによって生かす必要があるが、対応が遅れ実施には至っていない。本学部
の立地条件や多様な専門分野の特性から、今後積極的に本学部聴講生や科目等履修生を受
け入れることが不可欠であり、早急に条件整備をする必要がある。また、社会的な要請も
あり、資格課程の他学部開放ならびに一般外部への開放、資格課程以外の授業科目を科目
等履修生に開放することの是非等を早急に検討することが必要である。しかし、本学部の
授業科目は、少人数で履修者数を制限している授業科目が多いため、無制限に受け入れを
認めることが不可能であり、履修希望者の選考基準や方法を検討し、学部さらに学部教育
に支障をきたさないような一定の配慮が必要になる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部のカリキュラム改正により、各専攻・コースの専門教育の特色を生かし、これを
他専攻・コースの学生も自由に履修できる範囲を大幅に拡大した。これに合わせて、専門
分野ごとの履修モデルである「副専攻」も提示し、専門分野の体系的な履修方法を提示し、
生涯学習として科目等履修生や聴講生がこのカリキュラムを活用することも視野に入れて
いる。
また、資格課程科目については、科目等履修生の履修が有利となるよう、法規上の科目
に名称ならびに単位数を極力合わせ、従来、本学部独自の専門教育の延長的な色彩が強か
った資格課程を、生涯学習・一般開放を視野に入れた構成に変更した。
今後は、具体的な生涯学習の受け皿として、聴講生・科目等履修生の募集体制を整備す
るとともに、本学部本来の学部教育にどのような影響があるか検討する必要があり、新カ
リキュラムの点検・評価と合わせて、学部研教審委員会の下部組織である将来構想委員会
が中心となり継続して検討を続けている。
<国文学専攻>
【現状の説明】
学部の制度に則り、聴講生・科目等履修生を受け入れているほか、学士入学等で社会人
が入学するケースが近年増えてきている。
【点検・評価
長所と問題点】
生涯学習については、専攻として特に積極的に検討することなくこれまで過ごしてきて
いる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学が社会に果たすべき責務の一つであり、ニーズの高まりも予想されることであるの
で、なるべく早い機会に検討を開始したい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
本学部には聴講生制度と科目等履修生制度があり、本専攻の科目を開放している。
【点検・評価
長所と問題点】
聴講生や科目等履修生は毎年一定程度おり、制度としての機能は果たしているが、専攻
として生涯学習に対する特別のカリキュラムについて系統立った議論をしたことはいまま
でない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
生涯学習の社会的要請が強ければ、それに対して本専攻にできる役割等についても議論
262 第2章 学部
をしていくことが必要になるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
学部の聴講生制度がこれに相当する。
【点検・評価
長所と問題点】
聴講生の数は毎年数名なので特に多いとは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人のための講座を新設すべき時期に来ているという認識は持っている。しかし、こ
れはやはり学部全体で検討すべき事項であろう。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
生涯学習らしきものは専攻として特に実施していない。学部の聴講生制度などがこれに
相当するであろう。
【点検・評価
長所と問題点】
専攻として生涯学習に対する特別のカリキュラムを検討しなければならないという認
識はこれまでなかったのが実状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会に開かれた大学という観点から本学部全体で早急に検討すべき課題であろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
この点に関しては、特に何も実施していない。
【点検・評価
長所と問題点】
生涯学習について、これまで専攻として全く検討することはなかった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
日本史は語学やコンピュータ関係の科目等とともに生涯学習の需要が多いと思われる。
したがって、今後は学部全体の議論の推移をも踏まえつつ、専攻においてもこの問題につ
いての検討を深めていきたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
本学東洋史学研究室には、東洋史学専攻の教員と学部生・大学院学生・卒業生が主体と
なってつくられた、全国学会・白東史学会の事務局が置かれている。白東史学会は、本学
のみならず、一般市民も含めた多くの東洋史学研究者・愛好家を会員にもっており、公開
の研究会、シンポジウムを定期的に行って、生涯学習の機会を広く社会に提供してきた。
【点検・評価】
東洋史学専攻としての生涯学習への対応としては、上記のように、本専攻が主体になっ
てつくられた白東史学会が活動の中核をなしている。それとともに、内外の研究者を講演
者とする公開の講演会を不定期に開催し、一般市民にも参加を呼びかけて、東洋史学専攻
の教育研究の成果を社会に還元し、生涯学習の機会を提供する努力を行ってきた。この点
については、一定の評価をうけている。
【長所と問題点】
263
白東史学会を中核とする生涯学習への対応は、本学の卒業生を中心に成果をあげている
が、さらに、多くの社会人の知的欲求にこたえるためには、一層の努力が必要なことも確
かである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
生涯教育の場を提供する白東史学会の活動をより広めるために、定期的研究会や講演会
の開催、定期刊行物の刊行、シンポジウム記録の公刊などを、継続してゆく必要がある。
幸いに、白東史学会の組織はしっかりしているので、今後、専門家のみならず、一般社会
人も興味をいだいて多数参加してもらえる公開の研究成果の報告会を、より多く開催して
ゆかなくてはならない。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
通常理解されている意味での、制度的な生涯学習については専攻としては何も行ってい
ない。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の事情ゆえに、特に記載すべきことはない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部全体として今後、生涯学習にどう取り組むべきか検討されるべきであろう。その際、
これまでに輩出した卒業生とのつながりが具体的な取り組みの基礎となるであろう
<哲学科>
【現状の説明】
本学科独自には生涯教育へ向けての対応は特に実施していない。
【点検・評価
長所と問題点】
本学科として生涯教育に対する特別のカリキュラムを検討しなければならないという認
識はこれまでなかった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これは本学部全体で検討すべきことかもしれないが、社会に開かれた哲学科という観点
で何ができるか検討することも必要であろう。
<社会学コース>
【現状の説明】
生涯学習は、社会学コースとしては実施していない。社会人入試も、学部レベルでは行
っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
社会学コースでは、社会人を特別視したカリキュラムがあるわけではないし、社会人を
特別視した講義が予定されているわけではない。誰であろうと、正規に入学してきた者に
対応する、という方針を貫いている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人を一般学生と区別するという方向性は、今のところない。ただし、将来構想委員
会において、生涯学習への対応が検討されるのであれば、社会学コースとしても考えざる
を得ないであろう。
<社会情報学コース>
264 第2章 学部
【現状の説明】
現状では、コースとして組織だった対応は特に行っていない。
【点検・評価】
問題の重要性は意識されている。特に高齢者の情報教育は、その社会的適応が求められ
ているので開拓が必要であろう。
【長所と問題点】
上述の問題の検討を始める必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会情報学は現代において社会的にも注目されている分野であり、むしろ社会に出てか
らの再学習に価値があるとも言える。しかしながら、この点は学部、大学院一体となって
対応する方が効果があるものと思われる。そのための勉学条件を整え、制度化することに
よって、生涯学習を望む人々のニーズを満たすべく改革を検討している。
<教育学コース>
【現状の説明】
本学部には聴講生制度や科目等履修生制度が置かれ、卒業生をはじめとして広く社会人
に対して授業を開講している。
【点検・評価
長所と問題点】
特に科目等履修生制度を利用して、教員や社会指導主事の資格を取得し、その道に進む
者も出てきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
クレセント・アカデミーを活用するなどして、市民や教師向けの公開講座の開催等、地
域に開かれた生涯教育の場を提供していきたい。
<心理学コース>
【現状の説明】
本学部として実施している聴講生制度や教職科目等履修生制度により心理学関連科目に
多くの受講者が見受けられる。また、各教員の個人レベルで学術講演会や各種講演への出
張を可能な限り引き受けている。
【点検・評価
長所と問題点】
心理学専門科目の聴講が近年非常に増大しており、教職課程の「カウンセリング」も心
理学コースの教員が担当し科目等履修生も受講している。生涯教育として学部学生以外に
も開放することは必要であるが、実験・実習を必要とし、少人数による徹底指導を特色と
しているコースだけに無条件な開放は授業に支障をきたすため難しい。講義科目であって
も一定の選考や受け入れ人数の制限を課してほしい。
【将来の改善点・改革に向けた方策】
正規の授業科目への聴講生の受け入れには限界があり、公開講座等別の手段の検討が必
要である。教職課程としての「カウンセリング」も学部の専門教育とは切り離して単独で
開講することが望ましい。
<共通科目>
【現状の説明】
大学設置基準には、断続的に複数の大学に在籍して単位を取得・累積して、学士号に到
265
達できるようにするための、科目等履修生の制度が組み込まれている(第 31 条)。これに
よって、生涯学習(18 歳だけが学生ではない)などの多様な学習形態に対応できる柔軟性
が要請されている。そのためには、科目等履修生を受け入れる制度と、ある目標をもって
配列された科目群の整備が必要である。
本学部では、上記のような科目等履修生の受け入れが実現しておらず、共通科目にも、
科目等履修生に対応した科目群は開設されていない。
【点検・評価
長所と問題点】
生涯学習に対応した制度に聴講生制度がある。しかし、本学の卒業生だけに限られてい
るため、十分とは言えない。また、聴講生は聴講生のために整備された科目を履修するわ
けではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
かつて、大学設置基準の『大綱化』に際して、科目等履修生の履修を考慮して、共通科
目の中の1∼3科目程度で、例えば「環境論」など、学際分野、複合分野、新分野などに
かかわる科目群のグループ化を考えたことがある。これでも役立つとすれば、科目等履修
生の受け入れが実現した際に、既存の科目を活用することができるし、在学生の履修にも
指針として役立つであろう。
<保健体育>
【現状の説明】
旧設置基準での「体育実技」では、2年次の授業で生涯学習を目指した内容での取り組
みを行っていたが、現行カリキュラムに移行してから具体的な取り組みは行っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
学部全体として生涯学習に取り組む必要性があるが、生涯体育、生涯スポーツというテ
ーマとの関連からも具体的な検討が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
実現可能な具体策として、2年次以降に履修する随意科目での開講を検討したい。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
≪文学部≫
【現状の説明】
本学部としては、統一した教育効果の測定方法を持っておらず、各専攻・コースさらに
は個々の授業担当教員に一任し、前期試験・学年卒業試験の定期試験、レポート、平常点
等により実施しているのが現状である。
教育効果や目標達成度、その測定方法に対する教員間の合意は、必ずしも十分ではなく
主として各教員に一任している。したがって教育効果を測定するシステムが本学部全体と
して存在していない。ただし、専任教員による各専攻・コース単位の研究室会議は頻繁に
開催され相互の情報交換は実施しており、各研究室会議の検討結果が本学部全体の問題で
あれば教務委員会で調整し、教授会に諮る仕組みになっており有機的に連携している。ま
た、専任教員と兼任講師との合意の形成は、年1回開催している担任者会議で図られてい
る。
266 第2章 学部
卒業生の進路については、現在のところ就職部で一括して把握しているデータを本学部
が受け取り、本学部内の教員組織「就職担当部会」等で検討の材料としている。
【点検・評価
長所と問題点】
個々の授業科目の教育内容やその改善策については、本学部として組織的に検証・改善
する制度がない。教育効果の測定を個々の授業担当教員に一任している現状では、教育効
果の目的達成度が同一授業科目であっても担当教員により異なり検討が必要である。各教
員間の合意の確立は、専任教員では研究室会議等で可能であるが、兼任教員との合意の確
立は年1回の担任者会議だけでは難しい。
卒業生の進路については、就職部で正確に状況調査を実施しているため、本学部として
独自の調査を必要としていないが、専攻・コース単位で卒業生カードを作成して把握して
いるところもある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラム導入により、学部内の専攻・コースの横断的履修が活発になり、さらに
他学部履修や科目等履修生の受け入れが実施された場合、教育効果を測定する本学部とし
ての仕組みの導入を検討する必要がある。現行の研究室会議、教務委員会、担当者会議等
を有効に活用し本学部として教育効果を測定するシステムを構築したい。
<国文学専攻>
【現状の説明】
全学生を対象とする組織的な教育効果の測定は特に行っていないが、推薦入学者につい
ては追跡的な調査を行っているほか、専攻内の会議等での情報交換は随時行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員の会議等で情報交換は行われているものの、その情報が網羅的とはいえず、ま
た客観的な測定の上に立ってのものとはいいがたい面がある。各科目における評価は、担
当教員の裁量にすべて委ねられており、それらを総合して客観的な資料として教育効果を
測定することはなされていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育内容の改善のためには、しかるべき根拠に基づく教育効果についての網羅的で客観
的データが必要である。早急に検討を開始したい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
教育効果の測定は、専攻としては組織的に行っていない。特に、少人数クラスの科目で
は、教員が各自の判断で、適宜レポート、小テスト、発表等を課して、それを授業改善の
参考にしている。比較的大人数の科目の場合には、テストやレポートを課して教育上の効
果を測定している。また、アンケートをとることによって授業の効果等をチェックしてい
る教員もいる。
【点検・評価
長所と問題点】
これまでは、個々の授業における教育効果の判断は個々の教員の経験と良識にまかせて
きたが、適正に行われていると考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の教員間で教育効果について相互に意見を交換し合う場はしばしばあるが、専攻全
267
体での教育効果を組織的なレベルで測定する方法について、必要に応じて検討したい。
<独文学専攻>
【現状の説明】
教育効果の測定を組織的には特に行っていない。しかし、個々の学生の学習状況につい
て教員間でよく情報を交換している。
【点検・評価】
現状にほぼ満足している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本当に「教育効果」が現れるのは卒業後ではないかという意見が一部にあり、卒業生か
らの意見聴取を積極的に行おうという案が出ている。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
本専攻の第一の教育目標であるフランス語の基礎的習得については1年次から仏検受
験を勧め、受験者個々の成績を取り寄せて検討している。
【点検・評価
長所と問題点】
仏検はフランス語運用能力に関する教育効果の測定には適しているが、その他に関して
は、適宜行われる小テストやレポート、学期末試験、卒論指導の機会などに測定できるぐ
らいである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員による講読が 2002 年度入学生から3・4年合同のゼミに移行すれば、卒論指
導と有機的に連関するので、第二・第三の教育目標についても教育効果を一層機能的に検証
できるものと思われる。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
教育効果を測定するシステムとして、1年次と4年次に各々年間2∼3回日本史に関す
る基礎的なテストを実施し、研究室会議においてその結果をもとにどのような課題を与え
るべきか話し合っている。学生による授業評価制度に関しては、日本史学専攻全体として
はいまだ導入されていないが、個々の教員のレベルでは授業についてのアンケートをとる
などの工夫がなされている。
【点検・評価
長所と問題点】
1年次と4年次で行っている基礎的なテストは、教育効果を測定するシステムとして有
効に機能している。問題点としては学生による授業評価が制度として導入されていない点
があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基礎的なテストに関しては、2年次・3年次での実施も検討するとともに、成績不良者
に対するアフターケアをこれまで以上に充実させる。学生による授業評価については、学
部全体の議論を踏まえつつ、専攻内でもその実現の可能性を探る。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
教育効果の測定方法としては、前期・後期の定期試験、レポート、出席点、授業参加の
268 第2章 学部
程度(特に演習における発言の回数、発言内容の論理的構成の度合いなど)を総合して行
っている。評価の基準は、シラバスや授業において、授業開始時に学生に公開し、できる
だけ公平を期するように心がけている。
授業の成績評価に疑問をもつ学生のために、本学部においては、
「成績評価理由伺書」を
提出させており、東洋史学専攻においても、疑問をもつ学生に対して、できるだけ丁寧に
対応できるように体制を整えている。
学部教育の集大成である卒業論文の評価に際しては、主査と副査を立てて担当の教員が
綿密に論文を検討した後に、面接試験の日には、全教員が一堂に集まって卒業論文執筆の
学生一人ひとりに面接し、教員全員の協議を経て成績を最終的に決定する体制をとってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻の教育内容を点検すれば、一般の演習・講義以外に、研究会や個人の研究相談を
とおして、学生一人ひとりへのきめ細かい指導を心がけている。
ただ、教育内容に関する学生たちからの率直な意見が、できるだけ、ストレートに教員
に届くようにするためには、制度的にも、また、パーソナルな関係においても、どうすれ
ばよいのか、という点については、なお、模索が続いている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、授業への学生の評価を、どのように取り入れ、授業をさらに改善してゆくか、と
いう問題について、東洋史学専攻の教員会議においても、真摯に検討してゆきたい。また、
成績評価の公平を期するために、学生への成績評価の基準の詳細な提示と、学生からの成
績評価の疑問への速やかな応答を、制度化させてゆく必要があるだろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
次項で述べるように卒業論文については専攻全体として非常に厳格な評価を意識的に
行っているが、それ以外の科目については個々の教員による独自の判断で教育効果の測定
がなされている。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻では、卒業論文を最終到達点として設定し、それに向けて学生を指導し、それに
至る各段階で教育効果を測定してきた。この方式ではそれぞれの学生が各年次における勉
学の努力目標を具体的に認識できる。教員の側もそのことを念頭に中間点での効果を測定
できる。これまでのところ特に重大な問題は生じていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基礎演習および総合演習に関しては小テスト、レポートなどの方策によってこれまで以
上にきめの細かい指導と教育効果の測定を行う必要があろう。
<哲学科>
【現状の説明】
教育効果の測定は、専攻としては組織的に行っていない。しかし教員の中には年に何回
か自分の授業に関するアンケートをとっている者もいる。
【点検・評価
長所と問題点】
現状のカリキュラムで教育効果の測定はある程度できており、特に問題はない。
269
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から「卒業論文」が必修になるので、「基礎演習」、「哲学演習」などの
専門科目については、小テストやレポート提出を増やして、これまで以上のきめ細かな教
育効果の測定を行う必要がある。
<社会学コース>
【現状の説明】
社会学には総合的な能力が要求される。創造力、想像力、理解・判断力、考察・分析力、
企画・計画力、構成力、表現力である。芸術的な素養から論理学的な素養まで必要であり、
さらにホットな心と冷めた心が必要な学問である。
こうした学問の性格さゆえ、教育効果の測定は、他の学問以上の難しさが伴う。出席点、
ペーパーテストによる採点、レポートによる採点、授業中の平常点、発表点等、他の専攻・
コースでも行っている、効果測定のすべてを社会学コースも行っている。
しかし、教育効果の測定は、なんといっても演習そして卒業論文の成果で測定し得るも
のである。論文を書かせてみれば、たちどころにその学生の能力は判断し得る。そこで各
教員は、演習に力を入れ、学生に能力をつけさせているのである。
【点検・評価
長所と問題点】
教育効果の測定は各自の教員に一任しており、社会学コースとして統一の方法を採用し
ているわけではない。社会学演習も多様であり、ディベートやプレゼンテーション能力を
重視する演習、調査方法の習得を重視する演習、論文執筆能力の獲得を重視する演習と、
そこでの教育測定も必ずしも一律ではない。
「卒業論文」は主査と副査が評価するが、現時点では「卒業論文」は必修ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度から「卒業論文」が必修となる。それにより、今以上に学生の教育効果の測定
は客観的になっていくものと思われる。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
学生による授業評価は、複数の教員が毎回の授業時において、学生からの質問・意見を
全員に所定の用紙に記入させ回収し、その内容について次回の授業時に回答したり、個別
に答えることを実施している。さらに、成績評価の際に、その記入用紙の提出状況や内容
を評価の対象としている。
【点検・評価
長所と問題点】
上記の学生からの質問や意見は流動的に授業内容に反映させることで、理解と認識を深
めることに大いに役立っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生による授業評価も検討に値すると思われるが、学生による単なる「印象批評」、「人
物批評」に陥ることなく、真に授業の改善に資するような情報を学生から収集する方法を
検討・採用しなければならないものと考えられる。
<教育学コース>
【現状の説明】
教育上の効果を測定するための特別の方策はとっていない。
270 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
少人数の科目が多いので、各教員が適宜レポート、小テスト、発表等を課して、それを
授業改善の参考にしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
何らかの形で、学生に対する授業評価を今後導入する必要があると考えている。
<心理学コース>
【現状の説明】
演習科目や「心理学特殊研究」などの少人数の授業では、レポートや発表によって教育
効果を測定し、比較的大人数の科目ではテストやレポートを課して教育上の効果を測定し
ている。個別の授業は各教員に委ねられているが、卒業論文では専任教員が厳格に合議し、
個々の学生の最終的な学習成果を判定することで、心理学コース全般にわたる教育効果を
測定している。
【点検・評価
長所と問題点】
各授業の成績評価方法と基準については、従来個々の教員の経験、良識に依存している。
卒業論文については主査・副査を決めて教員間の合意を確立して厳格に対応している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の教員の経験と良識を大事にしながらも、専任教員間の評価の方法や基準などにつ
いての交流が求められる。卒業論文については従来通りでよいであろう。
<共通科目>
【現状の説明】
授業によって、学生がいかに良く目標に到達したかは、学期末試験や年度末試験によっ
て測られ、成績評価が行われている。また、演習や実習などでは、レポート課題によるも
のや学生の日常的な取り組み状況を評価するものもある。
【点検・評価
長所と問題点】
教育効果を測定する営み(成績評価)は、並行して教育効果を高める教育活動にほかな
らない。実質的には、担当教員の判断(判定)に委ねられている。本学部では、学期末・
年度末試験の得点による成績評価基準があり、すべての教員が合意している。基本的には、
出席票の配布、レポートの作成(査読・添削・返却)、期末・年度末試験の全部、またはそ
れぞれの組み合わせにより、評価されている。また、毎時の出席票回収の際に、出席票の
裏面に講義の要点と感想を記入させたり、授業時に出席票のほかに意見カードを配布した
り、学生の発言を評価するカードを使うなど、独自に教育効果の測定を工夫している教員
もいる。しかし、教育効果や目標達成度の測定に関する教員間の合意はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果や目標達成度の測定には、試験結果だけでなく、授業への参加度、授業への取
り組み度、自主的な学習成果など、総合的な測定が必要である。これは、レポート作成な
どの技能や物事に真摯に取り組む態度の養成によい影響を与える筈である。したがって、
ほとんどの授業で、試験結果に出席点・参加点・レポート点などを加えた「総合評価」を
採用することが、学生には適度な緊張感をもたらし、目標達成度の向上によい影響が得ら
れよう。
<保健体育>
271
【現状の説明】
「体育と健康の科学(講義)」と「体育とスポーツ(実技)」ともに、理論と実践の乖離
がないよう配慮する必要があるので、試験による教育効果の測定だけではなくクラスワー
クを中心とした平常点とレポート提出を組み合わせている。
【点検・評価
長所と問題点】
クラスワークとしての活動は教育効果をあげているといえるが、内容の理解度という点
では、検討すべき点が多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2000 年度から一部実施している授業テーマの予習レポートを提出させて授業を行い、授
業後にまとめのレポートを提出させる方法は、理解度を高めるのに効果がある。今後は、
こうした改善を充実させたい。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
≪文学部≫
【現状の説明】
本学部では、卒業に必要な最低単位 137 単位の内、単年度の履修登録の上限を1年次 43
単位、2年次以上 44 単位に設定し、4年間の最高履修単位を 175 単位に設定している。単
位未修得による再履修の場合はこれに 16 単位を再履修枠として保証している。
成績評価法および成績評価基準は学則第 40 条に従い表示し、各科目ごとの評価基準・
方法はシラバスに明記し、学生へ周知しているが、成績評価の判断は担当教員に一任し、
基本的に絶対評価により実施している。ただし、卒業論文の評価については、各専攻・コ
ース単位で厳格に実施している。
厳格な成績評価は、教授会での申し合わせにより全担当教員へ協力要請をしている。ま
た、成績評価について学生から再確認の申し入れがあった場合は、
「成績評価理由伺書」を
提出させ、担当教員も文書で結果を回答する制度を設け、誤記の防止と成績評価の厳正を
保っている。
各年次および卒業時の学生の質を保証・確保するため、カリキュラム上に配当年次別必
修科目を配置して対応している。ただし、単位未修得の場合でも上級年次へ進級した上で
の再履修を認めている。
【点検・評価
長所と問題点】
履修科目の上限は、総単位 137 単位中、3年次までで最高 131 単位が修得できるが、卒
業論文作成までの学修の積み重ねの必要性や、教職・各種資格課程の履修等を考慮すると、
この配分は適切であると考えられる。ただし、再履修の場合、1年間で最高 60 単位の履修
が可能であり、実質3年間での卒業が可能となるため、検討の余地が残る。
成績評価方法のシラバスへの明示および成績評価について学生から問い合わせる「成績
評価理由伺書」の制度の2点については本学部全体の方針として担当教員に徹底され、こ
の結果、学生への周知および成績表記の誤記の防止に反映され、成績評価の厳正さは保た
れている。
各年次の学生の質を保証する制度としては、基礎演習やその他専門科目の年次別必修が
設定され、体育講義・実技科目は1年次必修になっている等により、制度上は確保されて
272 第2章 学部
いるが、スクリーン制度がなく再履修でも進級し、最終学年まで基礎教養を残してしまう
例があり検討が必要である。しかし、卒業時の学生の質は、卒業論文や専門演習等の実施
により保たれ、特に卒業論文を必修にしている専攻・コースでは学部教育の集大成として
大きな効果を上げている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラムでは、卒業単位を 127 単位に削減したため、計算上は各年次の最高履修
単位をすべて取得した場合は3年次までに単位を取得できることになるが、卒業時の専門
演習4単位および卒業論文8単位が必修となるため、現在以上に学生の質は保証される。
また、基礎教養科目でスクリーン制度を設け、成績不振者の2年次から3年次への進級を
認めないことが決定し、2002 年度入学生から施行される。
成績評価については、国内外の単位互換が積極的に行われる前提として、教育効果の測
定方法の適切性や成績評価の厳格化が求められている。これに合わせて本学部内各種委員
会でも成績評価の方法について議題として審議したが、絶対評価か相対評価か、担当教員
の専権事項か学部としての基準が必要であるか、意見が分かれて継続審議となっている。
本学部として近い将来結論を出す必要があるが、もうしばらく検討する時間が必要である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
成績評価の方法・基準については専攻で統一された特段の取り決めがあるわけではなく、
現状では教員間で差があることは免れがたいものと思われる。
【点検・評価
長所と問題点】
現状の方法・基準では、各科目間において成績評価の不均等が存する可能性が免れがた
い。
卒業論文の審査については、指導教授のほかに副査による査読も行われていたが、精緻
な評価には多大の時間を要し、限られた時間で処理することは困難な状況のため、現在で
は実質的にあまり機能していない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
A∼Cの3段階の合格評価について、その割合等なんらかの統一原則を検討してみるこ
ととしたい。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
成績評価は、担当教員の授業方針・評価方針により、試験(筆記・口述・実技等)、レ
ポート、授業参加の状況(出席・発表等)、その他に基づき担当教員が厳密に行うことにな
っている。その評価方法は、各担当教員の判断に委ねられている。成績評価についての方
針は、
『文学部講義要項』で開設科目ごとに各教員が履修学生にあらかじめ周知する方法も
とられている。
【点検・評価
長所と問題点】
担当教員の責任のもとに厳正な評価が行われていることを全面的に信頼することが前
提となっており、現在のところ大きな問題は生じていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
成績評価の方法と評価の基準については、従来担当教員に委ねられていたが、それに関
273
する専攻全体での見直しが必要なのかどうか検討したい。
<独文学専攻>
【現状の説明】
語学以外の教科の成績評価の基準についてはゆるやかな取り決めがあるだけである。
【点検・評価
長所と問題点】
教員の評価の基準に差があると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
不公平をなくすには、成績ランクの比率を決めて、これを全教員に周知徹底させるのが
近道だろう。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
1年次のフランス語3コマは担当教員3名の合議、卒論は専任教員全員による口頭試問
後の合議によって成績評価を行っている。それ以外の科目については、出席点・平常点・
レポートなどを評価の対象に加えるか否かを含めて担当教員の判断に委ねているのが現状
である。
【点検・評価
長所と問題点】
担当教員の責任と権限において判断するという従来の方式は、教員の資質に対する全面
的な信頼を前提とするものであるが、そうした信頼を損ねる事態が発生した場合の対処の
仕方についての合意が存在しないという点が問題点として挙げられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
成績評価の方法と評価の基準については、従来個々の教員の経験と良識に依存していた
わけであるが、専攻全体として見直す余地があるかどうか、検討したい。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
成績評価に関しては原則的に個々の教員の判断にまかされているが、問題が発生した場
合は研究室会議において審議し、専攻全体で対処するようにしている。また、最も厳格な
成績評価が要求される卒業論文については、1人の学生に対する口述試験を複数の教員で
行い、口述試験終了後全教員の協議によって成績を判定するシステムをとっている。
【点検・評価
長所と問題点】
卒業論文の成績判定のシステムは厳格であり、評価できる。卒業論文以外の成績評価が
個々の教員まかせになっている点については、検討の余地がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
成績評価のおおまかな基準が必要か否か、必要だとすればどのような基準にするべきか
研究室会議で議論し、できる限りの共通理解を得られるよう努力したい。卒業論文の成績
判定システムについては今後ともこの制度を維持するだけでなく、さらなる充実を図って
いきたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
各科目については、試験による成績評価以外に、提出レジュメの成績、出席数、発言数
などを加味して、できるだけ多角的に評価が行えるように努力している。卒業論文につい
274 第2章 学部
ては、専攻の複数の専任教員が読んで採点し、その上で、教員全員による面接を行い、最
終的な成績を付すようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
現在のところ、東洋史学専攻の科目の成績評価は、大多数の学生に支持されているが、
改良の余地は残されている。各科目において、成績評価に不満をもつ学生の場合、現行で
は、
「成績評価理由伺書」を文学部事務室に提出する制度があるだけであるが、東洋史学専
攻内においても、卒業論文の場合と同じように、複数の教員によって成績が評価される制
度を柔軟に取り入れる必要があるかもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
成績評価の問題は、通常、教員の側からではなく、学生の側から異議が出されるもので
ある。学生の正当なる異議が自由に提出できる体制をつくることで、教員の成績評価の基
準もより厳密な内容になってゆくはずである。現状は、学生が自由に教員の成績評価や授
業内容に異議申し立てができる、とまではいえず、まだ理想とは遠いものがある。成績評
価は、教員側が一方的にくだすものではなく、学生も十分納得する内容にならなくてはな
らない。難しい問題ではあるが、理想に向けて、少しずつ歩んでゆかなくてはならない。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
卒業論文は教育上の効果を測定するうえでもっとも重要な位置を占めており、そこでの
厳正な評価を保証するために、まず、ひとつの卒業論文を指導教員ともうひとり専任教員
が読むことにしている。つぎに、口述試験を行い、当該論文を読んできた2人の教員を中
心に全教員が参加して質疑応答を行っている。一人あたりの所要時間は 15 分であるが、場
合によってはそれが大幅に延長されることもある。最後に、教員全員による成績会議をも
ち、評価を決めている。
【点検・評価
長所と問題点】
特に卒業論文については厳正な評価を下すことで教員間の了解があり、その点では十全
ともいえる態勢であると評価できる。どんなかたちであれ論文を提出しさえすれば単位を
認定するようなことのないように努力している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の授業における成績評価については、各教員のさらなる創意工夫に委ねるべきであ
る。卒業論文の成績評価については、現状のままでよいと思われる。
<哲学科>
【現状の説明】
成績評価は各担当教員の判断(試験、レポート、卒業論文などによる評価)に委ねられ
ているが、卒業論文の審査は別である。まず主査副査2人の専任教員が査読し、そのうえ
で全専任教員の出席のもとに口頭試問が行われ、最終的には専任教員全員で評価を決定す
るという、万全の体制がとられている。
【点検・評価
長所と問題点】
卒業論文以外の成績評価の方法と基準については、個々の教員の経験と良識に依存して
いるが、専攻として組織的にこれをチェックする仕組みがないかどうか、今後検討すべき
である。
275
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の教員の成績評価については、さらなる創意工夫が必要である。卒業論文の成績評
価はこれまでもかなり慎重になされているので、現状のままでいいが、2002 年度入学生か
ら必修化が始まるので、さらに厳格さを極める方法がないか、学科全体で絶えず検討する
必要がある。
<社会学コース>
【現状の説明】
卒業論文は、主査と副査による合議制を採っている。しかし、それ以外の授業科目の評
価、各教員の判断に委ねられている。
【点検・評価
長所と問題点】
各教員に成績評価の判断を委ねていることが、今のところ重大な支障を生じさせている
という認識はないが、しかし、そのため学生の授業科目の選択が偏ることは否めない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後専攻としての成績評価のあり方について組織的に検討をしたい。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
担当教員が行っており、複数の教員が1科目を担当する場合には意思疎通を十分に図る
ようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
現状でおおむね問題は発生していない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
コースとして何らかの基準を作成すべきかを検討することも考えられる。学生と教員と
の相互理解のもとで行うべく、相対的、客観的な教育効果の測定方法を検討中である。
<教育学コース>
【現状の説明】
授業中の課題、出席状況、期末試験等を総合して厳格な評価を行っている。特に卒業論
文については、すべての教員が出席して行う口述試験を実施して、協議のもとに厳格な成
績評価を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
3年次までにほとんどの科目を履修してしまう学生が多くみられるが、上級学年で学習
した方がより大きな効果の期待できる科目も多い。4年次に最低履修単位を設定する必要
があるかもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
成績評価の方法については各教員にゆだねられるべきだと考える。しかし、期末試験あ
るいはレポートのみで判断するのではなく、さまざまな方法を複数採用して多面的な評価
を行っていきたい。
<心理学コース>
【現状の説明】
履修登録上の規則は本学部全体に合わせている。各年次の学生の質を保証する方途とし
ては、各年次に必要な知識や技法を身につけるために一定の必修科目を置き、卒業時には
276 第2章 学部
卒業論文を課している。
卒業論文は卒業論文発表会後、専任教員による厳格な合議によって成績評価を行ってい
る。それ以外の教科は、出席点・平常点・レポート・テストなどを評価の対象に加えるか
否かは担当教員の判断に委ねられている。
【点検・評価
長所と問題点】
個々の教員の責任においてそれぞれの方法で教育上の効果を測定し、指導に反映させて
いるが、学生の評価方法・基準の提示など適正になされている点は評価できる。
学生からの成績評価の疑問への応対はおおむね現状でよいのではないかと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教科によって評価の方法や基準は異なって然るべきであるが、学生に何をどこまで理解、
習熟しているかの合格ラインを示した上で、厳格な成績評価をするなどのシステムを検討
することが今後も大事であると思われる。
<共通科目>
【現状の説明】
本学部では、教員が事務室に成績評価を提出した後は、転記ミス以外の修正は受け入れ
られない。また、修正の原因や経過について当事者である教員が教授会で説明して承認を
得なければ修正は許可されないという厳格な仕組みがあり、教員相互のチェック機能が運
用されていると言える。しかし、成績評価自体は教員に任されており、それについての厳
格な取り決めは存在しない。
【点検・評価
長所と問題点】
履修科目登録においては、カリキュラムに年次ごとの最高履修単位が設けられている。
これ以外の制限はない。成績評価では、期末・年度末試験の得点によってA∼D評価の基
準が定められている。しかし、内容が相当に高度な科目などでは、試験のレベルを下げる
か、事前に試験に関するヒントを提供しないと、この基準はかなり高度である。そのため、
出席点や意見カード、あるいは簡単なレポートなどを加えた総合評価でないと、基準に達
しない場合が多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
厳格な成績評価を行う仕組みは、授業科目の分野や受講生の年次、必修科目と選択科目
などを無視しては不可能であろうか。であれば、受講生全体を「形式的に平等に」成績評
価する現行の仕組みを改善していくことが、良い評価につながる可能性もある。
<保健体育>
【現状の説明】
「講義」
「実技」ともに、クラスワークによる平常点を中心に成績評価が行われている。
「講義」では、ほぼ毎回ショートレポートを授業時に提出させている。
「実技」においても、
必要に応じて理論の説明を行いレポートを提出させて評価を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
現行の評価方法で特段の問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
講義時間内に記入するショートレポートについては、講義時間を削減していることにな
るので、今後はIT化を図って授業終了後2日以内に入力できるようなシステムを学部全
277
体で検討する必要がある。
3−(2)− ③
履修指導
≪文学部≫
【現状の説明】
履修指導については、本学部の特性として多種多様な履修形態があり複雑化しているた
め、全体の指導には特に注意を払っている。毎年度始めに履修ガイダンスを行い注意を喚
起するほか、各種パンフレットや掲示によって指導を徹底している。また、専攻・コース
によっては特に新入生を対象に学外でのオリエンテーションを実施して学生生活ガイダン
スと教員・学生の親睦交流を図っている。個別履修指導は、履修形態や方法、事務システ
ム上の制約等が多いため文学部事務室が中心になり実施している。
現状ではオフィスアワーを制度として実施はしていないが、本学部にはクラス担任制が
あり各専攻・コース単位で1クラス 30∼40 名程度の学生について専任教員1名が担任とな
っている。担任は、1年次の「基礎演習」の授業を担当する他、大学生活全般についての
相談に応じたり、クラスミーティングを開催して大学生活を円滑に送れるよう支援する役
割を果たしている。
成績不振者や留年者に対する積極的な指導や教育上の配慮は、父母懇談会開催前に成績
不振者名簿を出力して把握し、父母宛に父母懇談会開催時に積極的に個人面談に出席する
よう周知している。この通知により学生個人への履修指導等につながるケースがあるが、
それ以外は制度として行っておらず、個々の教員の判断に一任しているのが現状である。
【点検・評価
長所と問題点】
履修指導等について、ガイダンス期間中の文学部事務室による履修指導や個別相談の他、
専攻・コース単位のオリエンテーション、教員によるクラス担任制が有効に機能している。
オフィスアワーについては、個別教員による実施に依存しており、本学部全体としての
申し合わせがなく今後の検討が必要であるが、各専攻・コース単位の共同研究室は有効に
機能しており、共同研究室での教員への相談・室員への相談は随時可能である。
成績不振者や留年者に対する制度上の配慮がなく、学生からの申し出がない限り積極的
な履修指導や教育上の対応が行われておらず、今後の検討が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
履修指導については、2002 年度入学生から実施する新カリキュラムの導入と、新旧カリ
キュラムの移行措置、さらには多様な授業科目を有効に活用する履修方法等に関して、指
導の重要性が高まっており、現在の各種履修ガイダンスやクラス担任による指導、教務委
員による教育指導方法の改善検討、さらには個別相談の充実、履修要項・シラバスの適切
性の維持、オフィスアワー制度の実施等に努めるため具体的な方策を検討中である。
また、新カリキュラムでは2年次から3年次に進学する際のスクリーン制度を導入し、
また将来構想委員会で成績不振者に対する退学勧告についても検討しており、今後不本意
入学や諸事情により単位修得が芳しくない学生の一覧を機械的に出力する必要性が生じる
ため、これに合わせて当該学生をどのように指導するかが課題となる。
<国文学専攻>
【現状の説明】
278 第2章 学部
履修指導については、入学時におけるガイダンスのほか、2年次後半においてゼミナー
ルの履修ガイダンス、3年次後半において卒業論文のガイダンスが行われている。また個
別の相談はクラス担任の専任教員などが随時受け付けているほか、専攻共同研究室の室員
も相談の窓口として大いに機能している。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻では、ゼミナール選択の成否とゼミナールへの参加姿勢とに教育の達成が大きく
かかっている。ゼミナール履修のためのガイダンスと情報提供は多くの効果をあげている
と思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状を維持することに努力するとともに、さらにきめ細やかな体制づくりを検討する必
要があろう。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
新入生の履修指導については、本専攻では、入学式直後に学外で1泊2日で行われる「新
入生オリエンテーション」において、クラス担任の教員と上級生の引率・指導のもとで、
中央大学における学生生活や履修の指導を中心にして懇切丁寧な導入が図られる。さらに、
文学部事務室による指導がある。
『文学部履修要項』の本専攻「教育目標とカリキュラムの
特徴」では、4技能の学習目標とそのための授業科目を具体的に示すことによって、目標
に向けての勉学を学生に奨励している。また、
『文学部履修要項』には、4年間の履修に関
する必要事項が掲載されている。シラバスについては、全専攻共通の『文学部講義要項』
があり、各授業内容についての詳細な紹介がなされている。卒論執筆に関しては、本専攻
独自の『卒業論文ガイド』を用意している。
履修科目登録に関しては、選択必修科目の英語講読と演習は少人数クラスであるために、
事前登録をさせて人数調整をしている。特に、「演習(1)・(3)」と「演習(2)・(4)」
は柱となる科目でもあるので、履修人員の上限を約 30 名とし、履修希望理由や現在の関心
分野などを自己申告させ、これを教員が参考にしながら履修者を決定している。第1志望
が通らない場合には、さらに、抽選によって履修が決定される。
卒論指導は曜日・時限を決めて、個人研究室で行われている。それ以外のオフィスアワ
ーは制度的に決めているわけではないが、実質的には各専任教員が個々の学生の相談・指
導に随時対応している。
学生の研究成果は、本専攻の「文学部英米文学会」が発行する『英米文学研究』『会報』
に卒論、レポート、書評などとして掲載され、また、卒論の中間発表が毎年秋に行われる。
【点検・評価
長所と問題点】
まだ改善していく余地は残っているが、少人数制の導入によりきめの細かい指導が可能
になったことなどをはじめとして、一定の成果は得られている。解決すべき問題の一つは、
2年次以降の演習の人数制限のため、必ずしも希望の授業をとれない学生がでてしまうこ
とである。少しずつ改善する工夫をしてきているが、学生数の多い本専攻においてはまだ
根本的な解決策がない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新入生に対してはオリエンテーションやクラス担任制度等により懇切丁寧な指導がで
279
きるような体制となっているが、大学4年間全体を通した体系的な履修指導も必要になっ
てくると思われる。特に、2002 年度入学者から始まる新カリキュラムでは、卒論が必修に
なるので、その作成に向けて低学年からの履修指導を今まで以上にきめ細かくしていくこ
とが必要になるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
選択科目である卒業論文をできるだけ書くようにしなさいと勧める以外には、特に履修
指導はしていない。
【点検・評価
長所と問題点】
履修指導ではないが、2年次の終わりに専任教員が手分けして全学生の個別面接指導を
している。その他の折にも、学生との接触を心がけている。それゆえ、オフィスアワーは
不要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からカリキュラムが改正になるため、履修指導があるいは必要になるか
もしれないという認識は持っている。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
入学時に担任によるクラス別のガイダンスと仏文全体のガイダンス、それに新入生歓迎
行事を行っている。3年次の編入学者に対しても同様の履修指導を実施している。毎年秋
に留学情報ガイダンスも開催している。また3年次の秋に卒論指導ガイダンスを実施し、
専攻独自の執筆要項も編集・配布している。
【点検・評価
長所と問題点】
履修指導は学部全体の指導の他にも専攻で事項ごとにきめ細かく行われている点は高
く評価できる。オフィスアワーなる制度はないが、実質的には各専任教員が随時快く相談
に応じている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1・2年次にフランス語の単位を落とした者に対しては教務委員が個別に相談に応じる
体制をとってはいるが、これについては現状では十分機能しているとは言い難い側面があ
る。シラバスの充実、オフィスアワーの制度化なども含めて検討の余地はあるであろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
学生に対する履修指導に関しては、入学時に新入生に対して行うほか、2年次の 12 月に
日本史演習の履修指導を、そして3年次の 12 月と4年次の4月に卒業論文の履修指導をそ
れぞれ行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
2年次に対する日本史演習の履修指導と3年次・4年次に対する卒業論文の履修指導は
学生にも好評で、評価できる。入学式の日に行う新入生に対する履修指導は、時間的制約
から必ずしも十分とはいえず、改善の余地がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
日本史演習と卒業論文の履修指導は今後も行う。新入生に対する履修指導に関しては、
280 第2章 学部
4月の授業開始前に合宿形式のガイダンスを行うべきかどうか検討する。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
入学時の学年ガイダンスと、クラス別ガイダンスを行い、4年間の履修に基礎知識を授
けている。また、折りにふれて、東洋史学研究室において、室員の協力をえて、履修上の
疑問にこたえる体制を整えている。3年次に、各自の卒業論文のテーマに即して、指導体
制を固め、その時点で、履修の再確認を行っている。
【点検・評価】
履修についてのトラブルはほとんどなく、現行の制度が十分に機能していることを示し
ている。東洋史学共同研究室では、1年生から4年生までの学生が、常時、顔をあわせて、
演習や講義の準備・復習や、卒業論文の執筆に取り組んでおり、学生同士の情報も、履修
の情報も含めて、研究室において交換されており、教育上きわめて有益である。
【長所と問題点】
現在のきめ細かい履修指導は、普通に授業に出席し、東洋史学共同研究室にでてくる学
生にとって有効であるが、問題は、授業に欠席しがちで、東洋史学共同研究室にもほとん
ど顔を見せない学生にこそ、適切な履修指導が必要なことである。この点に関しては模索
中であるが、できるだけ、東洋史学共同研究室に出てくるように、共同研究室での授業レ
ジュメの手渡しや進路相談を行うことで、対応している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
履修に問題のある学生に対しては、各教員が個別に面談して、早急な対応策を検討する
ほか、東洋史学共同研究室の室員の協力によって、共同研究室でも履修の問題を相談でき
るようにしている。今後は、履修指導を、さらに徹底することで、履修問題で学生が悩ま
なくてもよい環境づくりに努力していく方針である。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
新入生については学部全体のオリエンテーションに任せている。3年次で履修する特別
演習については、事前に2年次の段階で説明会を開いている。これは専任教員がそれぞれ
どのような内容の演習にするかを説明するもので、それを踏まえて学生は希望する教員を
選ぶことになる。同じように、卒論指導についても事前の説明会を3年次生に対して行っ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
総合演習および卒論指導については学生が希望する教員を選べるこの方式は十全であ
ると評価できよう。しかしながら、新入生については果たして現行のままでよいのかどう
か問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新入生に関してはこれまで学生の自主性を重んじるという観点で特に手立てを講じな
かったが、今後はこの点について専攻としてガイダンスを開くなどの何らかの方策をとる
べきであろう。
<哲学科>
【現状の説明】
281
入学時に担任によるガイダンスを行っている。また入学合格決定後ただちに初習外国語
の履修の仕方のガイダンスを事前に行っている。これによって、例えばニーチェを研究し
たいのに初習外国語として中国語を選択するといった、研究主題と語学のミスマッチが起
こらないように、事前の履修指導している。また毎年秋(9月∼10 月)に3年生を対象に
卒業論文執筆の説明会を開いている。これを受けて学生は希望テーマと希望教員を研究室
に届け出るが、それに基づいて 10 月中に来年度の卒業論文の指導教員が研究室会議で決定
させる。そしてはやくも、11 月から来年度の卒業論文指導が始められている。
【点検・評価
長所と問題点】
近年初習外国語の語学力が低下しており、例えばドイツ語の演習に英訳などを併用せざ
るをえないケースも見られる。それゆえ学生の語学力を一層高める必要がある。また 2001
年度入学の学生から卒業論文が必修化されるので、初習外国語、古典語の履修に関する事
前のオリエンテーションを今以上に充実させる必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度新入生に関しては卒論必修化にともなって、論文指導のスケジュールを早める
などして、これまで以上に一層きめ細かな履修指導を行うべきである。
<社会学コース>
【現状の説明】
学生の履修指導に関しては、『講義要項』で指摘するとともに、「中央大学文学部社会学
会」という教員と学生で組織している会が、毎年演習の選択相談にあたっている。また、
卒業論文執筆希望者に対して、心構えと諸注意を与え指導している。
【点検・評価
長所と問題点】
教員によるフォーマルな情報よりも、学生間のインフォーマルな情報の方が、学生には
人気があるようだ。最近では、インターネットによる情報の提供も盛んで、多くの学生が、
こちらで言わなくとも、しっかりと情報をつかんでいる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生間のインフォーマルな情報には、なかに間違ったものも含まれている。こうした情
報の氾濫にどのように対処していくか、また正しい情報と間違った情報を判定する学生の
能力の養成、等、課題は多いが、こちらの履修指導以上に学生間の情報は増大しているの
が現状である。今のところ打つ手はない。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
新入生に対するガイダンスその他を実施している。また、実習系の科目においては、事
前指導を丹念に行っている。また、
『文学部履修要項』によって、コースのカリキュラム全
体の流れを提示している。
【点検・評価
長所と問題点】
上記以外に演習において個々に指導するケースもある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学問体系全体が鳥瞰できるようなガイダンスが必要であると思われる。
<教育学コース>
【現状の説明】
282 第2章 学部
1年次生に対しては担任が履修指導を行っているが、2年次生以上に対しては、
「基礎演
習」、「教育実地研究」、「卒業論文」などの必修科目を置いてあるので、各教員がその場を
利用して履修指導をあわせ行うように申し合わせている。また、個人的な相談に対しては、
研究室会議のために全教員が出校する日があるので、その時にアポイントメントをとるよ
う指導している。留年学生に対しては、卒論指導にあたる教員が指導にあたっている。
【点検・評価
長所と問題点】
履修指導については、専任教員が中心となり年次ごとに適切な指導方法を用いて、細か
く実施している。本学部として設置している担任制度が有効に機能している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
留年者に対しては、学年担任と卒論指導教員が連携してあたれるような措置が必要と思
われる。
<心理学コース>
【現状の説明】
入学直後に合宿し、担任によるガイダンスと上級生からの経験談を含めた履修の要領伝
授など、綿密な指導をしている。3年次編入生、学士入学者へのガイダンスも行っている。
「心理学特殊研究」は3年次の4月に、卒業論文は3年次の 11 月に事前指導を行っている。
履修上困難を抱えている学生に対しては、教務委員が個別に相談にのる体制になっている。
【点検・評価
長所と問題点】
入学時と各年次の履修指導は適切であると思われる。また、専任教員による少人数授業
科目が多いため、特にオフィスアワーを制度化しなくてもその都度学生に対する履修指導
が可能な体制にある。また、教務委員が果たす役割も大きい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラムの実施にともない、シラバスの充実だけでなく、多様な学生に応じられ
る体制の検討が必要である。
<共通科目>
【現状の説明】
本学部では、事務室による履修ガイダンスが新入生に対して行われており、これは本学
部に開設されている諸科目群の履修方法を指導するものである。また、学生の個人的な疑
問にも対応している。
共通科目では、新入生の履修ガイダンス時に、専任教員が手分けして共通科目・副専攻
についての履修指導をしている。全学年を対象として、副専攻の履修希望申請を独自に実
施し、副専攻履修の動機づけや副専攻履修者数を確認したこともある。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部には担任制がある。しかし、履修上不明な点が生じても「相談できる教師がいな
い」とか、「推薦状を依頼できる先生を知らない」などの苦情を学生から聞くことも多い。
担任制が不備でも、オフィスアワー制度があれば、救われる部分が多いと思われるが、こ
れも十分ではない。このように、学生に対するきめ細かな履修指導は不十分である。
共通科目では、手狭ではあるが 1994 年に開室された共同研究室の運営が軌道に乗り、室
員の支援を得て、教員と学生間の連携や、学生間の連絡(取次)が、常時行われるように
なってきている。同研究室では共通科目・副専攻関連の参考書や専門書を相当数蓄積して
283
きており、学生に学習や研究上の便宜を供与できる態勢となっており、大きな教育効果を
生み出している。しかし、研究室のスペースの確保が喫緊の課題となりつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
このような不備に対しては、第一にオフィスアワーを取り入れることが大事である。第
二はアドバイザリー・システムを取り入れることであろう。教員の負担はかなり増加する
が、きめ細かな履修指導や生活指導が可能になる。本学部の全教員がこれに取り組めば、
教員一人あたりの担当学生数は1年次につき 10 名ほどになろう。10 名全員が常に問題を
投げかけるとも思えないし、難問が生じたときは、複数の教員団で対策を考えるなどの方
法も考えられる。このような取り組みによって、本学部での学修・生活に満足する学生が
激増すると推定できる。これは、本学部に明るい未来を約束するものであろう。
<保健体育>
【現状の説明】
「講義」については、第1回目の授業時に 45 分交代で授業ガイダンスを行い、担当教
員を選択させている。
「実技」においては、指定時間ごとの種目分けと指定時間外の種目分
けを入学後のガイダンス期間に実施している。怪我等によるRH(リハビリテーション)
クラス希望者については、別途ガイダンス期間に履修指導を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
現行システムで特段の問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
ここ2、3年できめ細かい履修指導システムをつくったので、今後はこのシステムの点
検・評価を行っていきたい。
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
≪文学部≫
【現状の説明】
学生の学修の活性化を促進する措置は、主として各担当教員に一任し、授業科目によっ
ては専攻・コースの研究室会議等で統一した指導方法を検討して実施している。また、成
績優秀者に報償的意味合いで給付する「文学部給付奨学金」については本学部内に奨学委
員会を設置して募集から選考まで実施し、学修の活性化を目指している。
各専攻・コースごとの理念や教育目標を明記した履修要項や入試要項等やシラバスは毎
年各担当教員へ更新を依頼し、提出された原稿は各専攻・コースの教務委員が点検を行っ
ている。
教育改善への組織的な研究・研修(FD活動)のための取り組みは、本学部全体として
は主として将来構想委員会が中心となり実施し、各専攻・コースの研究室会議等に持ち帰
り検討を行っている。カリキュラム改革等の大幅な改革は学部研教審委員会を経て教授会
で審議・実施、日常的な運営を教務委員会が担当している。授業実施に際しての問題点の
改善や学生からの授業に対する要望については、教務委員を通じて各専攻・コースの研究
室会議で検討し、または直接担当教員へ改善を促している。
学生による授業評価アンケート等については積極的に実施している専攻・コースもある
が、本学部全体としてこの結果を共有するまでには至っていない。
284 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
主に各専攻・コース単位で実施している教育改善の取り組みは、教務委員を中心として
日常的に適切な措置がとられ一定の成果をあげているが、本学部全体に結果を反映させ改
善に導くことが難しく、本学部学生による授業評価の導入を含め、本学部としての学修の
活性化と教員の教育指導法の改善を促進する取り組みについて適切な措置を講じる必要が
ある。
シラバスについても個別教員により内容の表記が異なり、授業計画や指針が明確な場合
と授業中にその都度指示する場合とあり、何らかの統一が必要である。
学生による授業評価については個別授業や専攻・コース単位で単発に実施し各授業の改
善に寄与していたが、本学部全体としては実施していない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新カリキュラム施行後の点検・評価が不可欠である。このため学生による授業評価は将
来構想委員会を中心に具体案を検討することとなり、また、各研究室会議単位でも組織的
にカリキュラム改革後の授業内容や方法を見直す必要がある。
また、多種多様な授業を有効に学生に選択させ、履修後の教育効果を高めるため、シラ
バスはますます重要性が高まるので、表記方法を含め今後検討が必要である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
定期的に開かれる専任教員全員による研究室会議にて、随時諸問題の対応にあたってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
研究室会議で検討される課題について、専任教員以外からの意見を取り入れる機会が少
ないことは確かである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生による授業評価の導入等、教育指導体制改善を組織的に行うための方策を具体的に
考えるべき時期にきていると思われる。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
毎月2回程度開かれる専任教員全員による研究室会議において本専攻の教育指導体制
をその都度検討している。また、毎年3月に兼任講師との担任者会議を開き、教育条件等
の改善について意見交換をする機会をもっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻はこれまでにも何度もカリキュラムの改正を行って教育改善への組織的な取り
組みを積極的に行ってきた。その点で評価できると考えているが、時代の急激な変化にと
もなう教育事情の変化や学生の質の変化などと教育指導体制の間に絶えず生じてくるずれ
をどのように適宜修正していくのかが問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
少子化にともなう受験生人口の減少などによる学生の質の変化や大きく変貌している
社会のニーズなどを考慮しながら、今後も柔軟に教育方法の改善に組織的に取り組んでい
くことが必要であろう。特に、2002 年度入学の学生からのカリキュラムにおいては、現行
285
カリキュラムに大きな変更が加えられているので、それから発生する問題等についても鋭
意検討していく必要がある。
<独文学専攻>
【現状の説明】
語学教育に関しては、教員間で授業の方法論などについてしばしば議論を交わしている。
学生への授業評価アンケートは折にふれて小規模ながら実施している。
【点検・評価
長所と問題点】
アンケートの結果を授業改善の一助とすべきだが、兼任講師への遠慮その他があって、
なかなかままならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
やはり大がかりなアンケートを行って、結果を全教員に伝達し、今後の参考にしてもら
うべきだろう。ただし、学生に授業内容を採点させる方式は避けるべきである。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
月に2、3度開かれる専任教員全員による研究室会議において教育指導体制の改善を鋭
意議論し検討している。また毎年3月に開かれる、兼任教員も含めた専攻の全教員による
教科書会議で、問題点を話し合っている。
【点検・評価
長所と問題点】
カリキュラムの変更なども含めて、教育改善については専任教員間でいつでも話し合え
る態勢が整っている点は評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今年度から学生による授業評価アンケートの実施を検討している。また、基礎講読用の
共通教科書やフランス文学案内の教科書を分担執筆する計画が現在進行中である。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
毎月定期的に行われる研究室会議において、教育改善に関する諸問題を議論している。
【点検・評価
長所と問題点】
教育改善に向けての専任教員間の組織的な取り組みは、おおむね問題なく行われている。
問題点としては、兼任教員との意思疎通が組織的なレベルではやや不十分な点があげられ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
毎年3月に行われる兼任教員との懇談会になるべく多くの兼任教員に出席してもらい、
教育改善に向けての議論を深める。また、法学部の通信教育で用いる日本史テキストの全
面改訂の依頼がきており、専任教員全員で分担執筆した上で、そのテキストを専攻でも使
用する計画がもちあがっている。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
教育上の問題については、教員会議の席上で、そのつど問題点を列挙して解決策を考案
している。また、学生からの教育上の改善の要望に、できるだけ速やかに、対応できるよ
うな体制を整える努力をしている。
286 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
東洋史学専攻の場合、学内での教育上の改善に努力している上に、教育効果も大きい、
上述の専攻主体の全国学会・白東史学会をもち、多角的に学生の教育に携わる体制をもっ
ている。この体制を今後も維持すると同時に、さらに一層、学生の教育への要望に応える
努力を継続してゆかなくてはならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状の教育改善への努力は、学生から一定の評価を得ていると思われるが、さらに、多
くの点で改善が必要であることも確かである。大学内の授業以外に、内外の他大学や他研
究機関、社会人による講演会の開催、学内外の専門家の集うシンポジウムの開催、インタ
ーネットの活用による、より効率的で密度の濃い個別教育への模索などを、今後、一層進
展させる必要があるだろう。
また、学生たちの学習の選択肢を一層ふやして、より効果的な教育をなしとげるために
は、教育における情報機器の導入とソフトの開発は、早急に実現されなくてはならない。
東洋史学専攻の場合は、文献を重視するあまり、どちらかといえば、マルチメディアを利
用した、視覚にうったえる教育の側面が弱かった点は否めない。
ユーラシア大陸という人類の歴史が蓄積された地域を対象としている東洋史学専攻こそ、
文字史料と非文字史料の膨大な情報を活用する、視覚的で動態的な研究が実を結ぶ分野で
あるといえる。今後の努力が期待される。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
卒業論文の指導については、その成績会議のときに各論文の評価とからめながら集中的
に議論している。それ以外の科目については専任教員による研究室会議において適宜、議
論している。
【点検・評価
長所と問題点】
卒業論文を軸にしての教育改善については専攻全体で十分に努力してきたと評価でき
ようが、それ以外の科目については、基本的に個々の教員による創意工夫に委ねてきたと
ころがある。これまではそれだけで対応できたとしても、学生の問題関心の多様化、教育
方法の変化等をみるとき、今後もそのままでよいのかどうかは問題であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来に向けては、教育方法について相互批判を行えるような環境をつくり、改善に組織
として努力する必要があろう。
<哲学科>
【現状の説明】
毎月1回開かれる専任教員全員による研究室会議において教育指導体制の改善を鋭意検
討している。また、3月には兼任教員との担当者会議を開き教育改善の意見交換も毎年行
っている。
【点検・評価
長所と問題点】
2002 年のカリキュラム改正にともなって、教育改善に関するさまざまな問題が発生する
可能性があり、その時には月に1回の研究室会議をもう少し増やしていく必要があるだろ
う。
287
【将来の改善・改革に向けた方策】
各教員の教育方法について相互批判を行えるような環境を研究室内につくり、改善に向
けて組織的に努力する必要がある。
<社会学コース>
【現状の説明】
専任教員による研究室会議にて、常々教育改善が検討されている。
【点検・評価
長所と問題点】
教育改善は、各教員の個人的な努力によるところが大きい。研究室会議でも、議題とし
て討論されるだけでなく、雑談のなかでも話し合われているが、研究室全体として取り組
みを行うということはまずない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
ところが、2002 年度入学生からは、本学部のカリキュラムが大幅に改正され、それによ
って、社会学コースということでなく、本学部全体で、組織的な改革に乗り出している。
この改革がどれほど浸透するか、またどれほどの成功を収めるか、ここ数年でその結果が
出ることと思う。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
授業内容の改善については、定期的に開催される研究室会議、その他電子メール等によ
って教員間で検討している。
シラバスについては、学生に履修科目選択や学習の事前準備等の機会を与えるために作
成して配布している。
【点検・評価
長所と問題点】
現代社会の動きと深い関わりを持つ本コースにおいては、科目によっては、あまりにも
硬直的な授業内容の設定よりも、社会的事象の移り変わりを授業に反映できる柔軟性が必
要と思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
シラバスを学生の科目選択の参考資料としてより一層有用なものとするために、記述す
べき項目をより明確にする必要がある。しかしながら、事前のシラバスの制約により、動
きの早い現代社会を教育の題材とする本コースの特色が殺がれることのないような配慮も
求められる。
<教育学コース>
【現状の説明】
教員相互の研修の機会としては、教育学科の教員で組織される教育学研究会、また人文
科学研究所の研究チーム「大学問題研究会」の場を生かして、研究活動成果の報告と並ん
で、授業実践の報告と意見交換を行ってきた。また、春には兼任講師との担任者会議を開
き、教育指導方法について意見を交換している。
【点検・評価
長所と問題点】
教員相互の研修による意見交換は、教育改善の検討のため重要である。また、兼任講師
との担任者会議や専任教員による研究室会議も有効に機能している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
288 第2章 学部
教育学コースには学生の自主的な研究組織「サブ・ゼミナール」があり、長い歴史をも
っている。こうした学生の自主的な学習活動と通常の授業との間に有機的な関係をつくり
だして、学生の具体的な問題関心を学問的関心へと導いていくこと、また授業に対する学
生の評価や要望を教員に伝える場として活用することが、今後の課題になると思われる。
<心理学コース>
【現状の説明】
学生の学修の活性化と教育指導方法の改善を促進するための措置としては、月に2度定
期的に開かれる専任教員全員による研究室会議等により教育指導体制の改善を検討してい
る。シラバスについては、各担当教員の責任により作成するが、教務委員が校正等を担当
している。
【点検・評価
長所と問題点】
心理学コースの組織単位では学生による授業評価を導入していないが、学生から要望が
出された場合は研究室会議で取り上げ検討している。この研究室会議が有効に機能するこ
とにより、この場での意見・情報交換がファカルティ・ディベロップメント活動に代替し
てよりよい授業実施に役立っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、FD活動に組織的に取り組む必要があり、兼任講師との定期的な懇談や担
当者会議の開催など、具体的な教育改善への工夫が必要であると思われる。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目としては、教育改善への組織的な取り組みはない。教員の個人的努力に任され
ている。学生に配布される講義要項は、それぞれの授業について、授業のテーマ、内容、
形態、履修者への要望、成績評価の方法、テキストおよび参考書などの項目がA5版1頁
に記載されている。記載内容は、毎回の授業内容までを表記したものが少ないので、シラ
バスより講義概要と言える。したがって、第1週の授業は、学生が登録前に、どんな先生
が、どんな授業をするのかを下見するためのものとされている。これは、半期の授業では
授業時間の実質的な減少となり、影響が大きい。
【点検・評価
長所と問題点】
学生による授業評価は、教員の個人的な取り組みに任せられている。また、教員同士に
よる授業の相互評価も教授法の改善に重要とされているが、共通科目でこのような取り組
みをしたことはない。
教育内容・教育方法の研究・工夫などにより、教員個人の教授能力を向上させる取り組
みは狭い意味でのFD活動で、これは学科・学部あるいは大学全体が取り組むべき問題で
ある(FDハンドブック)。しかし、FD活動としての組織的取り組みは、共通科目でも、
本学部でも行われていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学の教師になったとき、何をどう教えたら良いのかわからなかったし、誰も教えては
くれなかった。新人教員研修とか現教員研修とかのFDがまず必要ではなかろうか。学生
の評価が高い良い授業に学ぶなど、すべての教員のよりよい教師となる努力を支える組織
的な取り組みについて、研究を始めるべきであろう。
289
<保健体育>
【現状の説明】
「講義」については、担当している4名(内兼任1名)で講義内容、成績評価等につい
て討議している。
「実技」については、体育施設を全学部で共有しているため本学部独自の
改善をすぐに図ることができないのが実情である。各学部の代表による教務分科会で、本
学部の実技プランが了承されて学部の実行プランとなる。兼任教員(7名)との打ち合わ
せは、毎年4月に行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
現行カリキュラムになって、4年を経過した 1997 年度に「保健体育」についての学生
調査を行った。1992 年度との比較では、
「講義」でやや評価がさがり、
「実技」では評価が
あがっていた。その後もできる限りの改善を行っている。
【将来の改革・改善に向けた方策】
「講義」については、さらなる改善を継続し、「実技」については、本学部の改革案を
全学部で組織されている教務分科会に積極的に働きかけていきたい。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
≪文学部≫
【現状の説明】
授業形態と授業方法の関係では、伝統的な学問領域における授業では、従来の講義・演
習方式が主流を占め教育効果をあげている。また、本学部の長所として、少人数教育によ
る授業は外国語科目および演習科目を中心に積極的に実施され、充実した成果をあげてい
る。また、短期海外留学による単位認定やインターンシップ・実習等、大学以外の施設で
の単位認定についても教育効果が高く拡大傾向にある。
パソコン教室・マルチメディア教室を利用した授業については、科目自体も増大し、学
生の履修希望も集中するのが現状であるが、教室の収容定員の関係で履修定員を設定して
いる情報処理関係の授業では抽選により履修者を決定しているのが現状であり、本学部内
の早急な情報環境整備を迫られている。
本学部では現在のところ「遠隔授業」は実施していない。
【点検・評価
長所と問題点】
一般の講義・演習形式の授業では、一部の科目で履修者が集中してやむを得ず授業コマ
数を拡大したり、定員を制限するため小論文や面接により選抜する等して適切な授業実施
に配慮している。外国語・演習の少人数教育では一定の教育成果をあげており、さらに充
実をさせる必要がある。また、一定の成果をあげている大学以外の施設での単位認定につ
いて、今後さらに拡大することが予想されるが、学生の安全管理と本学部としての責任体
制や学生の緊急時における経済的負担(交通費等)、保険の整備等を含めその実施体制を今
後確立する必要がある。
一方、需要が高まっているパソコン教室・マルチメディア教室による授業は、社会情報
や心理学統計等のみでなく、伝統ある学科・専攻でも利用する授業が拡大し、本学部とし
て利用の実態と要望を把握し、早急な情報環境整備を実施する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
290 第2章 学部
少人数教育は、新カリキュラムにおいては3・4年次演習の必修や卒業論文の必修によ
り質・量ともにますます充実をさせる方針である。また、短期留学やインターンシップ、
単位互換制度の活用により、大学外の教育施設を積極的に活用した授業を促進させるため
の条件整備を行う予定である。
パソコン教室・マルチメディア教室は、情報環境整備委員会を本学部内に設置して将来
的な検討を開始した。今後マルチメディアを活用した教育を今まで以上に導入し適切に運
用できるよう整備している。
<国文学専攻>
【現状の説明】
大教室で行われる講義科目、比較的少人数の演習科目、自由な形のゼミナール等さまざ
まな形態の授業が行われている。目的に応じてパソコン教室を使用したり、ビデオを利用
したり、教員それぞれが工夫をこらしている。ただし講義科目の多くはテキストと黒板使
用に依存した従来通りの授業が多いことは事実である。
【点検・評価
長所と問題点】
講義であれ、演習であれ、テキスト読解を基礎とする江戸時代より伝統の授業形態を捨
てがたい学問ではあるが、学生へのプレゼンテーションを工夫する余地はまだ多分に残さ
れていよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から新設の「国文学情報処理」などの科目については、さらなる充実が
必要かどうか、また教育目的に適った情報環境が整備できているかどうか等、今後の評価
を特に心がけるつもりである。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
授業科目の形態は大きくわけると演習形式と講義形式に分けられる。演習形式の授業は、
英語力養成のための必修科目や専門演習の少人数クラスで行われている。講義形式の授業
は、さまざまな領域の専門科目の大きめのクラスでなされている。マルチメディアを活用
した専攻全体の組織的な授業はないが、教員個人個人の授業科目とその方法に応じて、テ
ープやビデオ等の視聴覚教材による授業は積極的に行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
少人数クラスの授業では、個々人の能力・個性に応じたきめの細かい演習形式の授業が
展開できる点が評価できる。しかし、少人数クラスの演習形式の授業を実現するには多く
の教室が必要になるが、限られたスペースでの教室の確保が難しい問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新しい情報機器の導入などにともなう教育方法の改善、特に、マルチメディア教育への
対応はこれからである。マルチメディアを活用した授業の需要は今後高まることが予想さ
れるが、人的対応や施設対応等も専攻だけでなく全学的な視野から検討していくことが必
要だろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
専任教員のほとんどが、パソコン、インターネットなどの視聴覚機材を導入したマルチ
291
メディア教育に理解を示し、また熱心に取り組んでいる。パソコンを用いての最先端の授
業方法を模索している教員もいる。
【点検・評価
長所と問題点】
マルチメディア教育は学生に評判がよく、また目立った教育成果をあげてもいる。
マルチメディア教育が学生に好評を博する反面、原典講読を中心とする授業は、敬遠さ
れる傾向がまま見られる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
パソコンと書物の双方について、その魅力と面白さを伝える努力を怠ってはならないだ
ろう。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
授業科目に応じて受講者数が異なり、少人数の演習形式から大教室での講義まで、多様
な授業形態に即して、カセットやビデオテープ等の機器を使用するなど、教員各自が工夫
を凝らしている。1年次のフランス語3コマは同一のビデオ教材を用いて大きな効果をあ
げている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業方法については担当教員の工夫と熱意に依存する度合いが大きく、専攻として統一
的に把握し難い状況にあるのは事実である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業方法の検証、マルチメディアの活用による教育指導上の効果については大いに検討
の余地があろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
授業形態は基本的に講義と演習からなる。講義においては授業内容や関連史料を載せた
プリントを配布するなど、教員各々が工夫を重ねている。演習においては、あらかじめ担
当学生を決めた上での発表形式の授業が一般的である。卒業論文に関しては、日本史演習
の授業とは別に毎週1時間のオフィスアワーを設け、指導教授によるアドバイスの時間に
あてているほか、教員によっては合宿形式あるいは夏期休業中に集中討議の形式で卒論指
導を行っている。マルチメディアを活用した教育は、ビデオ教材の利用を除き、現在のと
ころほとんど行われていない。
【点検・評価
長所と問題点】
指導教授による卒論指導は現状で十分だと思われる。ただ、日本史演習にしろ卒論指導
にしろ、指導する学生の人数が 40 名を超えている教員もおり、その負担はすでに限界に近
い。
問題点としては、学問の性質上黒板とテキストを用いたオーソドックスな授業に偏りが
ちで、多様な授業形態がとられていない点、特にマルチメディアを活用した教育はほとん
ど行われていない点等があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業形態に関しては、マルチメディアの活用はもとより、フィールドワーク等多様な授
業形態を模索する。また、演習や卒論指導における学生の人数を適正規模にして教育効果
292 第2章 学部
をあげるために、学部全体の理解と合意を得て、専任教員の増加を目指す。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
演習では、少人数による個別的な教育を目指し、講義では、多くの学生に専攻の学問の
精髄を教示している。東洋史学専攻では、できるだけ、教員と学生の交流を増やすために
も、質疑応答の時間を多くとって、授業についての質疑に、その場で、他の学生たちの前
で応答することで、問題を共有するように努力している。
【点検・評価
長所と問題点】
演習は、少人数教育のためのものであるが、現実には、40 名以上のクラスも多く、目標
とするところと、現実とが乖離している状況が見られる。それにもかかわらず、教員の努
力と学生の理解によって、演習は、一定の成果をあげており、優れた卒業論文の執筆のた
めに、不可欠の存在になっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
演習を本来の演習とするためには、教員の数を増やすか、学生の数を減らすしか方法は
ない。現在は、限られた条件の中で、教員も学生も最大限に努力している状況である。今
後、状況の許すかぎり、改善してゆく必要があるだろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
前述のように、卒業論文については訓練・指導・評価の点で万全を期する態勢がとられ
てきたが、反面、3年次までの指導が多少、手薄になっていることも否めない。また、授
業の形態は伝統的な文献講読・講義の2本立てが中心のまま今日に至っている。
【点検・評価
長所と問題点】
論文の執筆という中心軸についてはこれまで十分、対応してきたと評価できよう。しか
しながら、目覚ましいマルチメディアの進展という時代状況のなかで育つこれからの学生
のことを考えれば、これまでの教育形態で果たしてどこまで対応しきれるのかは大いに議
論すべき点であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
まず、授業形式についてはマルチメディアの導入を早急に検討しなければならない。そ
して、できるだけ早い段階で学生が自分の研究テーマを見つけ、取り組むようにさらにき
め細かく指導するようにしたい。この点についてはTA制度を活用することなどが考えら
れる。また、西洋史の守備範囲が広いこと、しかも学生の関心が多様化していることに関
しては、他大学との単位互換を今後は検討すべきであろう。
<哲学科>
【現状の説明】
授業は、主に教師が中心の講義形態と学生主体のゼミ形式で実行されている。講義は大
教室で、少人数のゼミは演習室で行われる。事情が許せば、哲学合同研究室を使ってゼミ
が行われる場合もある。
【点検・評価
長所と問題点】
学問の性質上、カセット、ビデオ、マルチメディアの活用による授業はしにくいが、学
生のモチベーションを高めるために、視聴覚関連の資料を使った授業も、今後検討する価
293
値はある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
例えば新しいメディアを使ったどのような哲学教育が可能かといった、新しい時代に即
した教育授業形態の検討を定期的に研究室会議などで検討すべきである。
<社会学コース>
【現状の説明】
講義においては、従来通りの黒板を用いての講義が大半である。ただし、そんな場合で
も、教壇に立ったまま、もしくは椅子に座ったままの講義ではなく、学生の間を歩いて講
義したり、質問して回ったり、クイズ形式を導入したり、はたまたロールプレイングの手
法を用いたりと、講義に工夫を凝らしている。また、若い教員を中心に、OHPやプロジ
ェクタ、ビデオを用いて講義するということもなされている。
基礎演習はクラス(ほぼ1クラス 30 人)ごとになされており、調査実習は1年を3期に
分け、各クラスごとに3名の専任教員が交代で指導している。こうして学生は量的調査・
質的調査・データの読みと再構成を習得する。社会学演習は、社会情報学コースと相互乗
り入れしており、また、非常勤の教員にももっていただき、15 ほどの演習講座が開設され
ており、学生の多様な研究ニーズに応えている。
【点検・評価
長所と問題点】
上述したように、講義では各教員が工夫を凝らし、分かりやすい講義を行っている。ま
た、すでに述べたように、演習においても、各演習ごとに特徴を出し、魅力ある演習を心
がけている。さらに、他専攻・コースに比べ、学生が選択し得る演習の数がきわめて多い
ことから、学生はお気に入りの教員・お気に入りの演習を選ぶことができている。よって、
大きな問題点は今のところないと言える。ただし、教育方法等に関しては教員それぞれに
任せており、コースとして組織だって行ってはいない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後ますますOHPやプロジェクタ、ビデオを用いての講義が増えていくことと思える。
社会学は他の専攻・コースに比べ、そうした授業方法の導入には意欲的である。しかし、
それとともに、面接調査で培った技術を生かしての話芸による学生の関心を一気に講義に
引き込む職人芸の講義もますます磨きがかかっていくことと思う。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
「3−(1)
教育研究の内容等」で述べた教育内容を実現するために、必修科目と選
択科目のバランスを考慮して配分している。また、学習効果を高めるために、講義、実習、
演習を配置し、多面的に学習ができるように構成している。
【点検・評価】
講義によって基礎的知識を習得させ、演習でその応用を図るという構成は妥当なものだ
と考えられる。演習も、1・2年次の「基礎演習」、3・4年次の「社会情報学演習」とい
う形で開講され、学生の習熟度や知識レベルに応じた指導を行っている。
【長所と問題点】
マルチメディアを導入した授業も一部行われている。しかし、まだまだ全面的な展開に
は至っていない。また、シラバスについても、より充実した記述が必要な部分もある。
294 第2章 学部
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会情報学の特性から考えて、将来的には、インターネットを利用した遠隔授業、電子
図書館などの導入も検討すべきだと考えられる。
<教育学コース>
【現状の説明】
授業の種類によって、主に教師中心の講義形態と学生主体のゼミ形態の両方で行われて
いる。講義形態の授業においても、VTRなどの視聴覚教材の使用や学生同士によるディ
ベートを取り入れるなど、各教官が創意工夫して学生への動機づけを行っている。また、
「教育実地研究」という必修科目では、フィールドワークや報告書づくり等、体験的・作
業的活動が中心になっている。
【点検・評価
長所と問題点】
「教育実地研究」における体験的・作業的活動は、学生の授業への主体的参加の動機を
高めており、今後他の授業においても、学生の主体的授業参加のための工夫が必要である
と考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の主体的授業参加を促すため、講義形式だけでなく体験的・作業的活動なども取り
入れた授業づくりを心がけたい。
<心理学コース>
【現状の説明】
教科に応じて受講者が異なり、少人数の演習方式から大教室での講義や、実験・観察・
実習まで、多様な授業形態となっている。実験・観察・実習以外の講義においても、各教
員が視聴覚教材やパソコンなどを用いた創意工夫した授業をしている。
【点検・評価】
広範な専門領域をカバーするために、多様な形態が採用されている。これ以上の工夫は
施設設備がいかに充足されるかにかかっている。
1・2年次では「心理統計法」で、実験・調査の計画法やデータ処理方法の基礎的な学
習を行い、
「基礎演習(1)
(2)」では心理学の基礎的操作や文献検索などを行う。2年次
には「心理学概論」で現代心理学全般の理論や成果を学び、
「基礎実験(1)
(2)」で実験
法、調査法、観察法など心理学の研究方法を学ぶ。3年次では、すべての専任教員が担当
する「心理学特殊研究」があり、卒業論文作成に要求される専門能力や技術を習得するた
めに演習方式で行われ、4年次に、心理学の学習成果を「卒業論文」でまとめる。
【長所と問題点】
系統立てた学習方法が工夫されてきたと考えられる。コンピュータ・OHP等を利用し
た学習、実習や見学等を重視している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度から基本的にセメスター制、半期教科を採用し、年間を通して教育をしていく。
基礎演習1・2を1年次、基礎演習3・4を2年次で行い、コンピュータ使用、統計、基
礎実験を1年次で教え、方法論とコンピュータ学習を併せて行う。3年次必修であった特
殊研究を、3年・4年次を通して必修とする。
<共通科目>
295
【現状の説明】
授業形態とその方法については、講義形式、演習形式、実習形式に大別される。いずれ
も年度当初配布する講義要項に基づく。講義では、数百人規模の大教室から十数名までの
小教室まで、多様である。演習は少人数クラスで、研究した成果の発表やディベート、小
論文の作成など、多彩な学習がなされている。また専任教員のクラスでは、教室に限定さ
れない授業として、学外での指導(巡検観察、合宿を含む)を重視し、活発に催行してい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
授業では、16 ミリ映画、スライド映写機、VTR、OHP、PCなど、多様な機器が利
用されている。共通科目では、16 ミリ映写機1台を稼動可能状態で保存している。これは
利用者が少ないことを理由に廃棄されかかったものである。OHPはポータブルが4台と
ズーム式1台が教員室にある。しかし、OHPのシートで教材をつくるための材料・道具
はない。何カ所かの教室に導入されていた教材提示装置はピント不良で使えない。さらに、
移動用ビデオ装置があっても、暗幕がないため使いづらい教室も多い。スライドを使う場
合は、映写機とスクリーンを持ち運ばねばならない。視聴覚教材は全般に利用し難い状況
にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教室には、暗幕や見やすいスクリーンが不可欠である。毎年少しずつ装着してゆけば、
可能と思われる。また、視聴覚教材を利用する教員(殊に老齢な兼任教員)へのサポート
体制は欠かせない。かつて、駿河台では、次週にスライドを利用する旨を伝えれば、次週
の授業前に教室に映写機とスクリーンが設置されていた。教員は映像を活用した授業を実
施しやすい状況にあった。視聴覚教材の有効な利用のためには改善が必要である。教育に
は多くの側面で人手が要る。
<保健体育>
【現状の説明】
講義と実技の2つの領域を担当する体育では、ビデオ教材等の使用は必須の教材として
こうした付帯設備のある教室で講義を開講し、実技においても、体育館内の教室を使用し
た実技にかかわる理論教育を実施している。
具体的な授業方法は、講義、実技ともにクラスワークを中心としているため、1回ごと
の授業テーマについて事前の説明や事後のレポートの紹介などを行っている。
【点検・評価】
1年次の必修科目を展開する授業方法という視点から、できる限りきめ細かな配慮を行
ってきた。講義においては、毎回レポートによって授業内容の理解度を点検することに重
点を置いて実施し、実技では創意・工夫をメインにしたテーマや企画・運営能力を育てる
テーマを設定して取り組ませる等、学生の主体的な関わりという点で、かなりの成果があ
がってきているといえる。
【長所と問題点】
講義、実技ともにある程度の少人数教育が行われている点では、一定の成果をあげてい
るが、学生のニーズにさらに応えていくためにはさらなる授業改善を行い、恒常的な自己
点検・評価を行っていく必要がある。
296 第2章 学部
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生から実施されるカリキュラム改革後も、保健体育は1年次3単位必修科
目として継続されることになっているので、これまで取り組んでこなかった総合講座とし
ての科目設置等を新カリキュラムの中に開講する必要がある。
3−(3)
国内外における教育研究交流
≪文学部≫
【現状の説明】
各専攻・コース単位の国内外における教育研究交流は、海外研究者の招聘や本学専任教
員の派遣等、教員レベルでは積極的に実施されている。
一方、学生の国際交流については国際交流センターの基本方針に基づいて実施している
が、本学部独自の試みとして海外留学後の修得単位の認定について本学部内規を定めてい
る。この方法は、交換・認定留学により取得した単位を本学部の卒業要件に換算する際、
担当の教務委員が留学先の成績証明書と本人の申告を基に換算単位の原案を作成するもの
であり、積極的に留学を奨励するために、海外留学により卒業に必要な単位修得が不利に
ならないよう配慮している。また、短期留学として夏期に実施されるドイツ(テュービン
ゲン大学)、フランス(エクス・マルセイユ第Ⅲ大学)の語学研修について、2000 年度か
ら独文学専攻と仏文学専攻の専門科目で単位認定する制度を実施した。この制度は、前期
授業で事前研修を行い、夏期休暇中に短期留学をして4単位を認めるものであり、前記2
大学への短期留学希望者だけでなく、将来の留学希望者や私費留学・語学研修希望者も履
修可能で、他学部学生の履修も認め、積極的な国際交流を奨励している。
【点検・評価
長所と問題点】
各専攻・コース単位の点検・評価は後述によるが、本学部としての留学単位の認定方法
や短期留学の単位化は、本学部の専攻の特性を生かした国際交流の積極的推進のため有効
に活用されている。
一方、受け入れた外国人を通して、国際的教育研究交流を緊密化させる組織的な取り組
みはなされておらず、今後、外国人留学生の積極的な受け入れと併せて検討すべき課題で
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
海外への短期留学の単位化は、英語圏を含めて拡大する必要性があり、今後は全学的な
短期留学の単位化の検討と並行して、学部の特性を生かした事前研修の実施を検討する。
また、受け入れ留学生と本学部学生の積極的な異文化交流を促す教育について、授業の
一環として実施することを現在将来構想委員会で検討中である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
国内外における研究交流については、教員個々にすべて委ねられており、専攻として組
織立ってこれを行うことはこれまでなかった。
毎年若干の留学生は受け入れているものの、在外研究者受け入れの実績はこれまでほと
んどなかった。現在も海外との交流についての積極的かつ具体的な動きもほとんどない。
研究者の国内留学は希望に応じて随時受け入れている。
また、他大学との単位互換についても学部については行われていない。
297
【点検・評価
長所と問題点】
当然のことながら、国文学についての研究者層は日本国内が最も厚く、水準についても
日本が抜きんでている。したがって、これまで積極的に国際的な交流を心がけようとしな
かったのももっともなことではある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に、本専攻ではこの問題について議論されたことはなかったが、優れた在外研究者も
多くなり、また、在外和古書の所在情報も密になってきた現状を鑑みるに、積極的に海外
研究者とも交流を行うべき時期にさしかかっている。
<英米文学専攻>
【現状の説明】
本専攻では学生の海外留学を奨励してきたが、1987 年米国に Maryville College、
Illinois Benedictine College、 1990 年に英国 Sheffield 大学との協定締結以後、認定
留学も含めて留学する学生の数は飛躍的に増加した。現在は、短期留学、交換留学、認定
留学の3つの制度がある。留学する本専攻の学生数は、毎年一定してはいないが、2000 年
度の場合、短期留学5名、交換[認定]留学生6名である。
英米などの著名な研究者を招聘しての学術講演会は、本専攻の「文学部英米文学会」の
主催によりしばしば行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
留学希望を持ちながら、経済的などの諸般の事情や英語力の不足などの点で留学できな
い学生もいるが、本学の短期・長期(交換留学・認定留学)の制度は現状ではうまく機能
していると考える。なお、長期の留学(1年間)の場合には問題にならないが、短期留学
の場合の引率スタッフの必要性について本学部内では意見が分かれている。本専攻ではそ
の必要性を認めている。本専攻が世話をしているシェフィールド大学夏期短期留学では、
教員1名・職員1名が引率にあたっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻からの海外留学は毎年一定数の学生が体験しているが、もっと多くの学生が海外
留学をできるようになるためには、全学的な経済支援システムなどが必要であろう。経済
的負担の少ない短期留学については、より多くの学生の参加を奨励するために、卒業に必
要な単位として現在は認められていないシェフィールド大学夏期留学を単位化する方向で
検討を進めている。
<独文学専攻>
【現状の説明】
専任教員がしばしば国外の研究機関(ジーゲン大、バイロイト大、ヴュルツブルク大、
ベルリン・フンボルト大など)に赴き、講演を行っている。また、国外から研究者や作家
を招き、講演会や朗読会を催している。これらの会には、独文専攻だけでなく、他の専攻
からも多数の学生が聴講しにやってくる。さらにまた、韓国の梨花女子大などアジア諸国
のドイツ文化研究機関との交流もある。
【点検・評価
長所と問題点】
研究交流はきわめて活発であり、高いレベルを維持していると自負している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
298 第2章 学部
現状は満足すべきものだが、これを将来長く持続していきたいと考えている。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
協定校エクス・マルセイユ第Ⅲ大学への短期留学には毎年 20 名近くの学生が、同じくリ
ヨン第Ⅱ大学とトゥールーズ・ル・ミラーユ大学への交換留学にも毎年2、3名が参加し
ている。今年度から短期留学を単位化し、コミュニケーション演習(1)の履修と併せて
4単位を認定することにした。また近年仏文学専攻では国際交流センターを通じて海外か
ら研究者を積極的に招聘し、あるいはフランス大使館や日仏学院の協力を得るなどして、
院生や学部学生向けの講義や講演会を年に数回開催している。日仏会館等におけるシンポ
ジウムなどへの参加も精力的に指導奨励しており、協定校からのフランス人留学生との交
流の企画も年に何回か行うなど、交流はきわめて活発である。
【点検・評価
長所と問題点】
生き生きとした創造的な研究に国際的学術交流は欠かせない。協定校トゥールーズ・
ル・ミラーユ大学日本語科へ兼任教員1名を2年ごとに派遣し、先方からもフランス語教
員1名を兼任教員として迎えているが、こうした交流は教員や院生のみならず学生たちに
も多大の知的刺激を与え、学部の活性化につながっている点は大いに評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の海外の学会や研究集会への参加も含めて、今後も一層の推進を図りたい。外国か
らの客員教授は最長1カ月の滞在が現行の規定であるが、半年ないし1年の招聘制度の導
入も検討すべきであろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
日本史学専攻の場合、学問の性質上こちらから外国に留学する学生はほとんどおらず、
時々留学生を受け入れている程度である。
【点検・評価
長所と問題点】
問題点としてはこれまでこの問題について全く検討してこなかった点があげられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
東アジア世界の一部分として日本の歴史をとらえた時、特に周辺諸国との教育研究交流
を活発化するための制度的な手立てを検討する必要がある。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
国内の教育研究交流は、本学東洋史の教員と学部生・大学院学生が主体となってつくら
れた、全国学会・白東史学会を核に行われている。白東史学会は、本学学部生、卒業生、
教員を中心に、全国組織の学会で、学術誌『アジア史研究』(現在第 25 号まで刊行)と、
定期的な会報を発行し(現在 26 号まで刊行)、国内外での評価は年ごとに高くなってきて
いる。毎年秋に、東京駿河台で全国大会を開き、注目すべき研究成果を次々に生みだして
いる。
また、東洋史学研究室には、日本の秦漢史研究会の事務局が置かれており、現在、本学
東洋史学研究室は、日本における中国古代史研究の中心的機関となっている。本学で発行
される専門学術誌『秦漢史研究』は、国内外で非常に高い評価をえており、学部生や大学
299
院学生に与える教育効果は、はかりしれない。
さらに、本学におかれた新疆研究会は、日本における内陸アジア史・中央アジア史研究
の一中心となっており、学外からも、外国の研究者を含めて多数の来訪者がある。
以上からうかがえるように、東洋史学専攻は、各分野において、日本における研究の中
核的役割を担っており、国内外の教育研究交流の場としての評価が、近年、ますます高ま
ってきている。
国外との教育研究交流では、本学部の留学単位認定の制度に基づき、東洋史学専攻でも、
意欲のある学部生の留学が、コンスタントに見られる。現在のところ、留学先は、中国や
韓国が多い。東洋史学専攻は、現地での実地経験が、文献での知見と同等に重要であるの
で、今後、国外との学部レベルでの交流を、制度的に整備する必要があるだろう。
教員の研究交流も盛んである。国内外の学会での頻繁な講演出張や、継続的な国際学術
調査も行われており、その成果は、学部の教育にも還元されている。また、国外からの研
究者の公開講演会も、しばしば開かれ、密度の濃い交流が進んでいる。
【点検・評価
長所と問題点】
国内外における教育研究交流に関しては、東洋史学専攻は、全国的に見ても、トップク
ラスの交流実績をもっているといって過言ではない。今後は、この伝統を堅持し、さらに
内実を向上させるために、教員スタッフが努力してゆかなくてはならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育と研究は、他者との交流によって育まれ生命を吹き込まれるものである以上、国内
外における教育研究交流は、学生にとっても、教員にとっても不可欠といえる。その点で、
本専攻は、上述のように、白東史学会という全国学会の組織の核になっているために、効
率的で実のある交流が比較的容易にできる環境をもっている。
ただ、これで理想的であるとまではいえず、今後、白東史学会を核に、国内外の交流を
一層緊密に進めるとともに、交流を促進する制度を、より確かなものにしてゆく必要があ
るだろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
各教員レベルにおける国際的な研究活動、および学生の協定校への短期留学はあっても、
専攻全体としては特に具体的なことは行っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
これまでは教員なり学生の個人レベルでの活動が主であり、その限りでは成果はあがっ
ていると評価されるが、これもはたして現状のままでよいのかどうかは疑問であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は専攻全体として国際化に対応した積極的な研究と教育の国際交流を検討しなけ
ればならないだろう。
<哲学科>
【現状の説明】
外国からの留学生は少数ながら、ほぼ例年受け入れている。近年で言えば、例えばスウ
ェーデンや中国などからの留学生が学部生と同じように学んでいる。優秀な卒業論文を書
いて卒業する留学生もいる。また本専攻の学生が海外(例えばフランスなど)に認定留学
300 第2章 学部
するケースも増えてきた。教員に関しては専任教員を数年に1度、本学の在外研究制度に
従って海外に派遣している。また近年専任教員の 1 人を台湾の佛光大学で行なわれた東亜
学術研討会に、研究室の代表として派遣するなど、海外との交流はコンスタントに行われ
ている。
【点検・評価】
学生の留学は他専攻に比べれば、決して多いとは言えない。この点の積極的な指導がさ
らに必要である。
【長所と問題点】
国内他大学、他研究機関との交流は、学会等を通じて各教員の個人レベルで盛んに行わ
れている。しかし本専攻としての組織的な取り組みは、紀要等の出版物の交流が盛んであ
るとはいえ、十分とは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の海外留学については、本専攻の目標のひとつである比較思想研究の観点からみて
も、もっと多くの学生の留学を促す指導が必要である。国内他大学との交流は、本学部全
体で単位互換制度が導入されれば、それに積極的に参加したい。
<社会学コース>
【現状の説明】
すでに述べたように、社会学コースは社会情報学コースと講義のみならず、演習や卒業
論文指導に至るまで、大幅な相互乗り入れを行っている。他専攻・コースには見られない
珍しいケースである。
またこれもすでに述べたように、2002 年度から大妻女子大学人間関係学部・社会情報学
部・国際文化学部と教育研究交流を行うことになっている。さらに近い将来、東京都立大
学、東京外国語大学とも交流計画が進んでいる。
外国との教育研究交流は組織的ではないが、各教員が個別的に、アメリカ、東欧諸国、
中国、台湾、韓国、等と教育研究交流を行っており、年に数回海外から研究者を迎えてセ
ミナーを行っている。また時には演習で学生をスロバキア、台湾、ハワイ等に連れて行っ
たり、台湾の学生達と合同のシンポジウムを開催したりしている。
【点検・評価
長所と問題点】
東欧諸国、中国との学術交流は特に盛んで、本学社会学コースの1つの特色をなしてい
る。しかし、あくまで各教員個別の交流であり、コースないし学科単位での組織的な交流
には至っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
すでに述べたように、国際化の時代を迎えて、今後は組織的な交流が必要と思われるが、
今のところ具体的な方策があるわけではない。
<社会情報学コース>
【現状の説明】
専任教員がそれぞれ自己の専門領域において、主として欧米の研究者や学会に対して活
発に交流している。
【点検・評価
長所と問題点】
それぞれの教員の段階では、教育研究内容の充実につながっているものと評価される。
301
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員個人レベルでの成果を踏まえ、コース全体としてどのような取り組みができるか検
討する必要がある。特に各個人の研究内容や成果を諸外国に発信したり、研究の相互交流
を行うために相互の客員研究制度の活用を一層活発化させたい。
<教育学コース>
【現状の説明】
毎年のように、外国からの客員教授・客員研究員の受け入れ、人文科学研究所、教育学
研究会での講演を行って、学生の参加を促している。専任教員の多くも、毎年のように海
外の学会や研究会で講演、研究報告等を行い、国際交流に努めている。
【点検・評価
長所と問題点】
教員については、毎年活発な国際交流を行ってきているが、学部・大学院学生のレベル
では十分とは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
最近、学部や大学院に在籍する留学生も増えてきており、彼らを通して海外の大学や学
会との交流の可能性も考えられる。
<心理学コース>
【現状の説明】
学校心理学、認知心理学、生涯発達心理学とその近接領域の研究に触れることができる
ように、必要と思われる文献研究や研究動向の紹介に努め、また関連学会、研究会に参加
することができるようにしている。
また、外国語での教育・学習を重視し、具体的には専任教員が担当する授業等で主とし
て英語の文献講読も重視している。客員研究者として大学に招聘される外国人研究者の課
外セミナー等にも出席させ、外国語での講義になれさせるようにさせ、併せて諸外国の研
究動向について興味・関心を抱くことができるようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
心理学研究室として教員レベルで国際的にも開かれ、各国の心理学者と交流し、客員研
究者を招聘したり、国際的な学会・研究会での交流も積極的に実施したり、学生への教育
指導に還元している。国際的視野を持たせるための配慮も授業の中で実施している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
年度ごとの討議によって、上記のように改善してきたが、外国人研究者を招聘し、講義
を開く機会を多くし、協定校への留学をすすめる。留学の促進のため、新カリキュラムで
はセメスター制を積極的に導入する予定である。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目では、国内のみならず諸外国の文献・テキストを多数収集し、共通科目共同研
究室の所蔵本として、教員・学生に供し、国際レベルの教育研究を目指している。
【点検・評価
長所と問題点】
共通科目の教員は、国外の学協会誌に英語の論文を出すとか、各種の国際会議に参加し
て研究発表するとか、教育研究交流に努力している。また、国際レベルの教育研究を理解
するために、在外研究期間も活用している。
302 第2章 学部
【将来の改善・改革に向けた方策】
共通科目の課題とは言えないが、学生の交流のためには、協定校へ学生を送ると同時に、
相手校の学生が今以上に来たいと思う大学をつくらねばならない。そのための研究と実施
が必要と思われる。
<保健体育>
【現状の説明】
保健体育という領域での協定等は一切ないので、個人の「特別研究」「在外研究」の機
会に交流が進められている。
【点検・評価
長所と問題点】
具体的な交流等がなされていないので、「点検・評価」の対象とならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状の個人依存型から組織としての交流を模索していく必要がある。多摩コンソーシア
ム等を利用して、教育研究交流を図っていくことも課題のひとつであろう。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
本学部は、現在、外国語、国語、および地理歴史・公民・数学の3教科から1科目を選
択し、受験した3教科の合計点により選抜された一般入学試験と、以下に述べる5つの特
別入学試験による入学生を受け入れている。特別入試による入学生は、年度により、ある
いは専攻・コースにより若干異なるが、本学部入学者総数のほぼ3割にあたる。この他に
学士入学、仏文学専攻3年次編入学、転部・転科試験を実施し、意欲ある社会人、学生、
本学部生に勉学の機会を提供してきた。
①
一般入学試験
前述のとおり、外国語、国語、および地理歴史・公民・数学の3教科から1科目を選択
し、受験した3教科の合計点により選抜をする。
英米文学専攻、独文学専攻、仏文学専攻、東洋史学専攻、西洋史学専攻、哲学科、教育
学コースは外国語 150 点、国語 100 点、地理歴史・公民・数学 100 点配点の 350 点満点で
ある。日本史学専攻、社会学科の2コース、教育学科心理学コースは外国語も 100 点配点
の 300 点満点、国文学専攻は国語、外国語 150 点配点で合計 400 点満点としている。また、
国語の問題には漢文を含む。
2001 年度募集人員数 640 名、志願者数 7,508 名、受験者数 7,303 名、合格者数 2,070 名、
入学者数 714 名、実質合格倍率 3.53 あった。
②
特別入学試験
○付属高等学校推薦
本学全体の基準により本学付属3高等学校より受け入れている。いくつかの専攻・コー
スにより入学決定後入学までの間、課題および面接を設定している。本学部受け入れ数の
目安は定員の約1割である。
○学校推薦(哲学科、社会学コース、心理学コースを除く)
指定校を 選 定し、各 専 攻・コー ス で設定し た 出願資格 条 件のもと に 応募を受 け 学
303
校長の推薦により受け入れる。小論文(仏文学専攻・社会情報学コースを除く)および面
接試験を行う。2001 年度の募集人員数は 148 名、指定生徒数は 211 名、志願・入学生数は
131 名であった。
○スポーツ推薦
本学全体の出願資格に基づき、小論文および面接試験を行い選抜する。2001 年度の募集
人員数は 46 名、志願者数 54 名、入学生数は 52 名であった。
○海外帰国生
出願資格条件は保護者の海外勤務にともない、海外に滞在中の者またはすでに帰国し
た者で、①日本国籍を有し、②国の内・外を問わず通常の 12 年の学校教育を修了した者(飛
び級を可とする)または、これに準ずる者として文部科学大臣の指定した者で、③海外に
おける外国の正規の教育課程に基づく高等学校に2年以上在学した者である。③について
は、卒業してから本学部入学年3月末日までの経過年数が1年以内の者、あるいは海外の
高等学校を本学部入学年3月までに卒業する者、あるいは日本国内の高等学校もしくは中
等教育学校を卒業見込みの者で、本学部入学年3月末日までの在学期間が1年以内の者に
限る。保護者が先に帰国した場合は本人の残留期間が1年以内の者に限る。
以上の資格条件を基に応募した受験生から小論文、外国語、面接試験を行い選抜
する。募集人員数は若干名、2001 年度は 83 名の志願者数、22 名の合格者のうち、入学者
は 10 名であった。
○外国人留学生
本学全体の基準により出願資格を設定し、特に本学部は日本語能力試験(1級)の受験
を本学部受験資格条件としている。募集人員数は若干名、2001 年度は 45 名の志願者数、
19 名の合格者のうち、入学者は 11 名であった。
【点検・評価】
①一般入試について、3教科入試での実施という入学試験設置条件の範囲内では十分
受験生の納得のいく内容であると自負している。
②特別入試については、現在までその目的とするところをよく実現してきた。近年、本学
他学部も含め、さまざまな入試改革が行われてきたが、シンプルな形態を維持することに
より、海外帰国生、外国人留学生入試などは、むしろ、その目的により適った新入生を受
け入れる傾向が発生している。
【長所と問題点】
近年、入試改革が進められ、ともすると複雑になっている他大学・他学部入試形態の中
で、本学部はシンプルなかたちを維持している。これは受験生に対して、わかりやすい印
象を与えている。しかし、一方、受験生の受験機会の増加には寄与しているとは言い難い。
受験生の減少にともない、本来の本学部志望学生の抽出を目的とした制度、受験生の潜在
的な能力を引き出す選抜方法を必要としている。また、いくつかの専攻・コースでは、近
年、高等学校での必修科目からはずされた科目の学力を必要としているため、何らかの対
策を必要としている。
入試形態によって、また同一の入試方法によっても学生の質・能力に大きな差が見られ
ることは明らかである。このことは入試の工夫のみによって解消される問題とはもはや思
われない。大学における基礎教育に耐え得るような国語力を補完するような導入的講座を
304 第2章 学部
設置するなど、受け入れ後のサポート体制強化を考えるべき時にきている。
①
一般入試
例年、志望動機のあいまいな不本意入学者が散見される。受験生人口の減少とともに学
問分野の不一致というケースは減少しつつあるが、大学格差による不本意入学者は一定数
確認できる。どのようにこれらの学生を積極的に勉学に対峙させるかは入学試験形態にと
どまらず、カリキュラム等を含めた大きな問題点である。
②
特別入試
○付属高等学校推薦
大学全体 の 検討を待 つ ことにな る が、学習 意 欲の点で 欠 けるとこ ろ の多い学 生 が
まま見受けられるのは、学生本人の志望動機による推薦がなされていない、もしくは学問
の内容についての知識がないまま推薦されている可能性があるからである。これは従来か
ら本学部の主張していることであり、専攻・コースによっては改善傾向が見られてもいる。
○学校推薦(哲学科、社会学コース、心理学コースを除く)
付属高校推薦同様、過去には入学者の学習意欲も必ずしも高くないケースがまま
みうけられたが、近年、受験者人口の減少とともに減少しつつある。むしろ、推薦依頼に
対する応募者がここ数年減少傾向をたどっており、他大学が学校推薦入学を新設、拡大し
た結果、競合を余儀なくされているものと推定される。本学部の指定校の中には学校推薦
制度が導入された初期の段階より一貫して指定校であり続けている高校も多く含まれてい
るが、その当時と比べると高校の学力レベルもかなり変化し、本学部が求める意欲ある学
生がなかなか得られにくくなっている。また、専攻・コースの学問に興味を示す意欲ある
生徒がいたとしても、出願条件の評定平均のハードルが高いため、出願を見送らざるをえ
ないこともある。
一方、学校推薦入学発足当時から現在まで、学校推薦入学者は各専攻・コースで高い学
力水準を維持し、専攻・コースのコアとなる学生集団を形作ってきたことも事実である。
今後もこの点を踏まえ、この入学制度の維持、発展のための改革を必要としている。
○スポーツ推薦
スポーツ推薦で入学した者の中に学力的にかなり低い者が見受けられる点は重要
な問題点である。能力はもちろん、そのモチベーションからして他形態の入学生とは大い
に開きのある者が多く、このような学生へのケアは今後ますます必須のものとなるであろ
う。志望する学部学科について本人の希望通りに推薦されてない者が見受けられ、これが
入学後の勉学意欲に影響しているものと推定される。
○海外帰国生
海外帰国生については、帰国子女の救済という当初の目的の主要素はほぼ解消し
たと認識されつつある。前述のとおり、本学部は資格条件を緩和していないため、この入
試が本来の目的とする条件にまさに該当する受験生がほとんどという状況に至っているが、
志願者数から手続率まで年々低下しており、この制度を維持していくよりも、別種の形態
に包括していくことを課題としている。
○外国人留学生
本学部専攻・コースの多くは日本語を主体とした教材を使用するため、入試にお
いて日本語能力の水準をある程度確保せざるえない。このため大学設置の本学独自
305
の日本語試験を課している。今後もこの条件は継続せざるえないが、受験生からみた場合、
条件を緩和しつつある他学部に比して入りにくいという印象は免れない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入試改革については本学部将来構想委員会で検討を重ねている。検討項目としては、全
項目の「問題点」があげられる。しかし、これらを個別に検討するのではなく、すべてを
視野に入れたバランスを考慮した改革が必要である。特に社会人を含む自己推薦型入試の
導入の是非、科目等履修生制度等による他大学等の付与単位の受け入れ、編入学制度の設
置等は重要な検討課題としてあげられる。2000 年度の本学部将来構想委員会で答申を出し、
なお継続審議となった自己推薦型入試を含む入学試験改革について、特に独文学専攻、仏
文学専攻は独自の企画をもって実施を検討している。
また、本学部は 2002 年度入学試験からの改革として①大学入試センター試験利用入試の
導入、②中国言語文化専攻の設置にともなう各特別入試試験(学校推薦・留学生入試を除
く)募集を決定し、実施に向けて準備をしている。特に大学入試センター試験利用入試に
ついては、他の形態の特別入試以上に受け入れ後の追跡調査を行う必要がある。
前項で個別にあげた問題点については、常に当該年度の入学試験実施に際して検討し、
修正をしてきているが、大幅な改革実施までは今後も同様である。大学全体の基準に基づ
く付属高等学校推薦、スポーツ推薦入試については本学部として全学会議体の場で発言を
し、改革に寄与していきたい。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
質実剛健をカラーとして営々と多くの卒業生を送り出してきた本学であるが、そのなか
で本学部はともすると本学部志望学生に加えて本学法・経済・商学部、あるいは他大学志
望で志望学部に入学できなかった学生を受け入れてきた経過がある。しかし、これらの不
本意入学生を含め、本学部は「人間とその営みを探求する」、「人と時代を作る」という大
きな理念のもとにこれら入学生に社会における個々の位置を得る能力を養うべく教育を行
ってきた。
前述のとおり、受験生人口の減少とともに学問分野の不本意入学生は減少しつつあるが、
大学格差による不本意入学生は一定量確認する。このような状況下では、本学部にとどま
らず各大学の受け入れ方針は入学生の質と傾向を左右するものとなろう。本学部では上記
のように大きな理念のもとに各専攻・コースともそれぞれの方針をもって受け入れにあた
っているが、特に以下の専攻・コースでは記述のとおり明確な方針のもとに選抜にあたっ
ている。
<国文学専攻>
国語の能力と当該学問に対するモチベーションとが高い人間を優先的に受け入れること
を行っている。学校推薦についても、特に国語の成績の良好な者ということを条件づけて
いる。
<独文学専攻>
一定の学力を有する、ドイツ文化に関心を抱く学生を受け入れるというのが、基本方針
である。
306 第2章 学部
<仏文学専攻>
知的好奇心に溢れ、とりわけ異文化理解に関心を持ち、外国語の能力に優れた学生を歓
迎するというのが、専攻としての暗黙の了解事項である。
<心理学コース>
心理学への理解の程度と興味・関心が高く、熱意のあふれる学生を歓迎するというのが
暗黙の了解事項である。
【点検・評価】
前述のとおり、本学部は多くの不本意入学者を引き受けてきたにもかかわらず、その設
置する専攻・コースの多様さ、応用の利く学問の特質をもって、社会に貢献する基礎的素
養を備えた卒業生を送り出してきたことを自負している。これは社会に出てからの卒業生
の多様な職種、活躍内容を見ても明らかであり、逆説的ではあるが本学部の評価しうる点
として認識している。
【長所と問題点】
本学部は学力とともに志望動機の確かな学生の確保を目指しており、このシンプルさを
維持しながら、志望動機をどのようなかたちで確認するかが今後の問題点となる。その上
で入学生の学力水準を維持、発展させることが課題である。志望動機の明確な入学生の入
学を促進するとともに、興味の赴く特定分野に拘泥し、狭量になりがちな傾向のある一部
の入学生にも対応するバランスのとれた教養教育を必要としている。入試形態別、あるい
は同一形態入試の中でも、学力差は均等とは言い難い。本学部卒業時に目指す学力水準の
目安を提示し、学生に目標を与え、これをサポートするカリキュラム、教育態勢を整備す
る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前項問題点は現行制度による入試を継続していく場合には、必要な微調整を行いながら
執行していくことになる。
「4−(1) 学生募集方法、入学者選抜方法等」の【将来の改
善・改革に向けた方策】で述べたとおり、現在、委員会で検討を重ねており、よりよい入
試制度を模索中である。各専攻・コースで微妙に異なる受け入れ方針を、その利点を残し、
本学部でどこまで共通認識のもとに結束させていくかが今後の課題である。
どの入試形態でも一定数確認しうる不本意入学者を減少させるために、学問分野の広報
を充実させ、すでに行っている付属高校との高大一貫教育の諸企画を積極的に、あるいは
一般高等学校へと拡大、推進をしていく。
能力差を解消するための受け入れ後のケアについては、これまで教員個々の判断と手腕
に委ねられてきた。しかし、もはやそれでは対応しきれない段階にきている。本学部では
2002 年度入学生より予定している新カリキュラムにより入学後のケアに力を入れ、本学部
の設置する専攻・コースの学問分野に興味、関心がある意欲的な学生をより多く入学させ、
あるいはより多くの学生に自ら選んだ学問のおもしろさを、教育を行っていく過程で伝え
ていくよう努力することを新カリキュラム構築の過程を経てすでに共通認識とした。
また、本学部の特徴とする幅広い学問分野の中には実学的な専攻・コースも含まれてお
り、特にこれらの学問分野ではその性格から見て、卒業後、社会に出てからの社会人の再
教育(卒後教育)のニーズに対する効果的な対応方法を実現していく必要がある。
307
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
本学部では専攻・コース別に合否決定委員を選出し、各専攻・コース委員が特別、一般
入試とも本学部全体の過去入試データを参考として、当年度入試データを検討し、本学部
全体の選抜にあたっている。特別入試については、出題・採点・面接等委員を選考し、特
に面接試験については各専攻・コースとも複数の委員があたっている。
また、大学全体の広報により、入試に関する一般的な数値データを開示しており、公平
性、透明性を確保している。
【点検・評価】
各専攻・コースの特質と意思を尊重しながら、本学部全体の公平性とバランスを考慮す
る態勢は現在までよく機能してきた。
【長所と問題点】
特別入試については各専攻・コースがそれぞれ選抜にあたるのできめの細かい、専攻・
コースの方針に沿った選抜を可能としている。合否決定については各専攻・コースの合議
となるため学部内の公平性、透明性をよく確保している。今後、自己推薦型入試等入試改
革を行う場合は、この点をどのように継続、発展させていくかが問われる。また、本学広
報部から学外に対して公開される入試情報を通して、学外に対する公平性、透明性を確保
している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「4−(1) 学生募集方法、入学者選抜方法等」の【将来の改善・改革に向けた方策】
で述べたとおり、今後の検討を待つことになる。
なお、全学的な視点からも検討されつつある個人に対する入試情報開示について本学部
も開示に向け整備をする必要があろう。
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
一般入試についての検証は大学レベルの入試委員会等で行われる。それとは別に本学部
は専攻・コース内で必要であれば常に検討をする用意がある。また、過去に検討をしてき
た。
特別入試では、毎年、出題・採点、面接委員を各専攻・コースから選出している。出題
については出題委員の責務であるが必要であれば過去の問題を参考とし、専攻・コース内
で方針等の検討が可能である。特に学校推薦指定校選定においては毎年度の見直し、3年
ごとの大幅検討をしてきた。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部は入試問題については一定の水準を維持してきたと自負している。そのため、社
会の変革を汲み取り入試改革を実行したいくつかの他大学、あるいは本学他学部には後れ
をとっているかにみえる。しかし、現在まで機能してきた本学部の入試システムは今後も
緩やかに、しかし的確に機能するものと推定する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部の現状および自己評価は前項のとおりであるが、これからは社会に迅速に対応す
308 第2章 学部
るという機能が必要である。この点を今後の検討課題としたい。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
本学部合否決定委員会では当年度合格者数を決定するに際して過去数カ年に遡る各専
攻・コース別入学生数データをもとに適正な在学生数を確保するべく検討をしている。本
学部は少人数教育を目指し、実行していることもあり、定員超過率については特に留意を
している。過去3年間の定員超過率は 1.13 、1.16、1.16 である。
【点検・評価】
40 人から多くて 150 人の定員数である本学部各専攻・コースの規模、および 18 歳人口
の減少にともなう志願者数の減少等が合否決定に際しての歩留まりを読みにくくしている。
これが、近年、定員管理について以前に増して苦慮している要因である。しかし、現在ま
でのところ大幅な歩留まりの読み違いもなくほぼ希望に近い入学生数を確保してきた。
【長所と問題点】
各専攻・コースの規模からすると、一定の歩留まり率で在籍数を抑えていくのはかなり
な困難を伴う。今までのところ、ほぼ希望に近い入学生数を確保してきたが、今後、大学
入試センター試験利用入試の導入、特別入試再編などの改革を実行していくと、現在以上
の困難を伴うと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
著しい定員超過を防ぐ有効な手立ては見当たらないが、現在まで有効に機能してきた本
学部の過去蓄積データ解析法を、入試改革に適応する変更を加えて、今後も活用していき
たい。
4−(6)
①
編入学者、退学者
編入学(学士入学、仏文学専攻3年次編入学)、転部・転科試験
【現状の説明】
○
編入学(学士入学)
学士入学は若干名募集。外国語、論文、面接試験により選抜する。2001 年度は一部(昼
間部)志願者数 18 名、合格者数8名、入学者数5名、二部(夜間部)志願者数1名、
合格者数1名、入学者数1名であった。なお、2001 年度からの二部募集停止にともない、
二部学士入学試験も 2003 年度から、在籍年次生がなくなる場合は 2002 年度から募集を
停止する。
○
編入学(仏文学専攻3年次編入学)
仏文 学専 攻3年 次編 入学は 若干 名の短 期大 学指定 公募 制であ る。 現在、 6校 を
指定し、仏語、小論文、面接により選抜する。2001 年度は志願者数7名、合格者数5名、
入学者数3名であった。
○
転部・転科試験(本学部内に限る)
すべて若干名の募集であり、
1) 2 年 次 転 部 科 ( ⅰ : 二 部 か ら 一 部 同 一 専 攻 へ の 転 部
ⅱ:二部から一部他学
科・他専攻・コースへの転部科)は外国語(英語、独語、仏語から選択、ただし英米文
309
学専攻は英語、独文学専攻は独語、仏文学専攻は仏語)、論文、面接試験(二部から一
部同一専攻への転部を除く)により選抜する。
2) 3年次転部(二部から一部同一専攻への転部)は外国語(英語、独語、仏語から選択、
ただし英米文学専攻は英語、独文学専攻は独語、仏文学専攻は仏語)、論文試験により
選抜する。
3) 2 年 次 へ の 転 専 攻 ・ コ ー ス ( ⅰ : 一 部 内 の 他 学 科 ・ 他 専 攻 ・ コ ー ス へ の 転 専
攻・コース
ⅱ:二部内の他専攻への転専攻)は筆記試験(英米文学専攻は英語、独文
学専攻は独語、仏文学専攻は仏語、その他の専攻・コースは論文)、面接試験により選
抜する。
2001 年度の2年次転部志願者数は 47 名、合格・手続者数 27 名、3年次転部志願者数は
24 名、合格・手続者数 11 名、2年次一部転専攻・コース志願者数 10 名、合格・手続者数
6名、二部転専攻志願者数1名、合格・手続者数1名であった。
【点検・評価】
学士入学、転部・転専攻試験については妥当な制度、内容である。仏文学専攻3年次編
入学については設置以来実績と効果をあげてきたが、短期大学の衰退とともに見直しの必
要が発生している。
学士入学者は、モチベーションが高いせいもあって、入学後の成績も、おおむね良好で
ある。これらの学生のなかには大学院に進学する者も多い。
【長所と問題点】
編入学の社会的な需要を汲み取った、あるいは科目等履修生制度に見合った制度を
必要としている。今後の問題点である。
また、受け入れ後の履修上の配慮、カリキュラム整備も急がれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「4−(1)学生募集方法、入学者選抜方法」の【将来の改善・改革に向けた方策】で
述べたとおり、他とのバランスを考慮しながら整備を検討したい。
②
退学者
【現状の説明】
退学届を提出して退学していく学生数はほぼ一定している。2000 年度末では一部、二部
併せて 79 名退学者を数えたが、これは休学者を含んだ全学生数(4,822 名)の 1.6 %にあ
たる。退学理由としては学籍取得後「他大学へ進学」を決めた者が多く、次に「経済上の
理由」、
「家庭の都合」、
「留学」と続くが、退学者の4割をしめる「その他」のほとんどが、
「学習意欲の喪失」、「進路変更」である。この他に決められた期日までに学費を納入せず
除籍となる者がやはりほぼ一定した人数を数える。2000 年度末では一部、二部併せて 46
名、総学生数の1%弱であったが、これも多くは退学者の「その他」と同様、
「学習意欲の
喪失」、「進路変更」を含むと推測される。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部は退学者が同程度の教育機関に比して決して多いとは認識していない。少
人数教育に力を注いできた一つの結果と自負している。
スポーツ推薦入学による入学者の追跡調査では、他の形態の入試による入学者に比
して退学者の多いのは本学部のみではなく全学的な問題であると推定される。
310 第2章 学部
学習意欲喪失者のなかで、入学時から勉学の自覚がない者が年々増加しているよう
に認識される。進路変更による退学者も同様である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「学習意欲の喪失者」については早い時期にクラス担任、学生室相談員等既存の対応プ
ログラムを活用して対処したい。進路変更に絡むケースは社会で身を立てていくことを前
提として自主退学をも視野に含んで、学生サイドに立った、これも早期の対応が必要と認
識する。なにより入学時での志望動機と各専攻・コースの専門学問についてのミスマッチ
を回避することが肝要である。他の項目でも述べたが、各専攻・コースの詳細についての
広報活動に力を入れたい。
スポーツ推薦入学生については全学的な対策が必要であり、本学部もこの問題に関して
は積極的に関与していきたい。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
≪文学部≫
本学部は一部(昼間部)5学科と二部(夜間部)1学科から成るが、二部(夜間部)に
ついては 2001 年度入学生から募集を停止している。
本学部一部(昼間部)は、文、史、哲、社会、教育の5学科で形成されており、実質的
な教育課程は7専攻、4コース、1学科(哲学)の 12 の課程(以下 12 専攻と呼ぶ)から
成っている。本学部はこの他に本学部共通科目として副専攻の制度を設けており、主たる
専攻・コースの他に、地理学、比較文化、情報処理、国際関係の4つの副専攻の科目を学
生が体系的に学ぶことができるようになっている。教員数は 2001 年5月1日現在、専任
103 名、兼任 355 名である。専任教員は、この 12 の専攻に保健体育、中国語、共通科目を
加えた 15 の研究室に所属しており、この研究室が学部の最小の組織単位となっている。
2001 年5月1日現在の本学部在籍学生数は一部、二部を合わせて 4,766 人であり、専任
教員一人あたりの学生数は 46.4 人である。
専攻・コース科目の専門科目については可能な限り専任教員があたることになっている。
総コマ数における専任持ちコマ率は 33.4%、専門科目の専任持ちコマ率は 41.8%となって
いる。
専任教員の平均年齢は本年度末時点の計算で 56 歳である。年齢構成は 70 歳が5名(本
年度末で定年退職となる。)、60 歳代が 36 名、50 歳代が 34 名、40 歳代が 20 名、30 歳代が
8名となっている。
各専攻・コースの教育課程に関する日常的な提案、発議は、基本的には専攻・コースの
研究室会議で行われ、事案の内容により、教務委員会の議を経て学部教授会において決定
される。また、学部全体のあるべき姿を論議する機関として、将来構想委員会が設置され
ており、ここで審議された事項について、文学部研教審委員会を経て、教授会で決定する
というシステムが確立されている。学部内の連絡調整の委員会としては、共通科目運営委
員会、語学教育運営委員会、資格課程運営委員会があり、それぞれの委員会のもとに専門
委員会を設置して学部横断的に連絡調整を図っている。
311
各専攻の現状は以下のとおりである。
<国文学専攻>
2001 年度の本専攻の教員配置は、専任教員が9名、内訳は、国語学専門の教員1名、上
代文学・中古文学・中世文学・近世文学を専門とする教員各1名、近代・現代文学専門の
教員3名、書道の教員1名である。それぞれが学部の授業だけで全員5∼7コマ(専攻科
目以外の担当も含めて)、一部(昼間部)・二部(夜間部)とも主要科目を担当している。
専任教員相互の連絡については教授会開催日に「研究室会議」を定例で開いているほか、
必要に応じて、随時会議を開いている。
2001 年度、兼任教員数は 18 名である。専任教員のほとんどがゼミナール・卒業論文を
はじめとする主要な科目を担当しているほか、大学院を兼担し、また、特別研究期間中の
教員の担当分の補完もあるので、この人数は必ずしも多いとは言えないであろう。
学生は、2001 年7月現在で、一部(昼間部)は1年次生 107 名、2年次生 119 名、3年
次生 121 名、4年次生 111 名、5年次生以上 21 名で、一部(昼間部)学生の総数は 479
名(男子 179 名、女子 300 名)である。二部(夜間部)は、2年次生 27 名、3年次生 39
名、4年次生 34 名、5年次生以上9名で総数 109 名(男子 69 名、女子 40 名)である。2001
年7月現在、国文学専攻在籍学生総数は、一部(昼間部)・二部(夜間部)合わせて 588
名、単純に頭割りすると教員一人あたりの学生数は 65 名ということになる。
<英米文学専攻>
英米文学専攻は 15 名の専任教員からなる。研究分野ごとの構成は、英文学が6名(うち
イギリス人1名)、米文学が6名、英語学が3名となっている。15 名のうち、男性が 14 名、
女性が1名である。年齢別には、60 歳代が7名、50 歳代が4名、40 歳代が1名、30 歳代
が3名である。英米文学専攻の教員は、専門科目のほかに、外国語科目の英語も担当して
いる。
<独文学専攻>
独文学専攻の専任教員は8名(内ドイツ人教員1名)である。年齢構成は、60 歳代3名、
50 歳代2名、40 歳代2名、30 歳代1名となっている。
<仏文学専攻>
仏文学専攻の教員は現在専任 10 名(内、フランス人1名)、兼任 41 名(内、フランス人
6名)で、17 世紀から現代までのフランスならびにフランス語圏の文学・演劇・思想をカ
バーしている。専任 10 名のうち 60 歳代が3名、50 歳代が4名、40 歳代が2名、30 歳代
が1名、すべて男性である。これらの専任が研究室会議を構成し、任期1年の教務委員が
これを主催して本学部と専攻にかかわるあらゆる問題を検討している。専任教員は1年次
の担任としてフランス語を1コマ担当する他、文学史や語学概説といった専門基礎科目に
加えて、講読と卒論指導を必ず坦当する態勢をとっている。この他フランス人の専任が兼
任のフランス人との調整にあたる。専任は原則として年齢構成と専門のバランスを考慮し
て任用される。
<日本史学専攻>
専任教員は6名からなる。現在のところその内訳は、古代史1名、中世史2名、近世史
1名、近・現代史2名となっている。年齢構成は、60 歳代3名、50 歳代2名、40 歳代1
名である。この他に非常勤の兼任教員も 16 名を数える。日本史概説、各時代史等の主要科
312 第2章 学部
目、および卒業論文の指導は専任教員が担当する。
また、専任教員による研究室会議を定期的に開催し、専攻の教育研究にかかわるさまざ
まな問題について議論を深め、専攻としての意見を集約している。
<東洋史学専攻>
現在の専任教員数は5名である。教育研究分野の分担は、中国を主とする東アジアの古
代史1名、同中世史1名、同近世史1名、イスラーム史1名、中央アジア史1名である。
年齢構成は、40 歳代3名、50 歳代1名、60 歳代1名である。東洋史学専攻コースとして、
比較的バランスのよくとれた教育研究分野を配しているといえよう。
兼任の教員に、中国古代史、インド史、朝鮮史、中国近現代史など多彩な陣容をそなえ
ており、専任と兼任の教員によって、東洋史の全領域を、ほぼおおうことのできる充実し
たカリキュラムを誇っている。
<西洋史学専攻>
専任教員は全部で5名である。専門は、時代別にいうと、古代史、中世史、近世史、近
代史、現代史、地域別にいうと、オリエント(古代)、フランス、ドイツ、イギリス、アメ
リカとなる。年齢別では、60 歳代が1名、50 歳代が2名、40 歳代が2名である。出身大
学・大学院も全員、違っている。それに加えて例年、5ないし6名の兼任講師が授業を担
当するが、主軸となる演習科目についてはできるだけ専任教員を配置するようにしている。
卒業論文指導は専任教員のみが担当する。教育課程編成の目的を具体的に実現するための
教員相互の連絡調整機関としては適宜開催される「教室会議」があり、そこで西洋史の教
育にかかわる諸事、さらに人事についても協議する。
<哲学科>
現在本学科に所属する教員の専門分野を挙げれば、西洋古代・中世哲学、西洋近代哲学、
西洋倫理学・近代哲学、論理学・西洋現代哲学、中国古代哲学、中国近代哲学、日本倫理
思想史である。この7名の専任教員に科学哲学を研究する本学部専任教員1名を加えて、
本学科では、アリストテレス研究、懐疑主義研究、カント研究、ウィトゲンシュタイン研
究、科学哲学、本居宣長研究、儒教、老荘研究、朱子学、陽明学などの専門教育研究が、
多彩なスタッフで行われている。また専任教員でカバーできない専門領域については、6
名の兼任教員が担当している。
<社会学コース>
6名の専任教員、7名の兼任講師、というスタッフである。専任教員は、1名4コマか
ら5コマの講座を持ち、かつ卒業論文の指導を行っている。
<社会情報学コース>
社会情報学コースの教員組織は定員6名であるが、1名を前倒し人事で任用したため、
2001 年度専任教員の人数は、7名となっている。学部、大学院を担当するだけでなく、
「司
書課程」、
「司書教諭課程」、
「教職課程(情報)」を中心とした教職・資格科目を合わせて担
当している。社会情報学の性格上、また最近の分野の広がりを受けて専任教員以外の非常
勤教員の支援によって授業を行っている。ただし、主要講義と演習は原則として専任教員
が担当している。教員間の連絡・調整は、定例の研究室会議、および、随時必要なメンバ
ー間で行っている。
<教育学コース>
313
教育学コースの専任教員は6名である。教育学の基礎科目に対する教員配置は、教育社
会学を除いておおむね満たされている。専・兼比率は開設授業科目の項で述べたように適
切と思われる。教員の年齢構成は 60 歳代4名、50 歳代と 40 歳代が各1名である。教育課
程編成にあたっては全教員の参加する研究室会議で、十分に議論した上で決定している。
<心理学コース>
専任教員6名、兼任講師 10 名で構成されている。教員の年齢構成は 60 歳代3名、40 歳
代2名、30 歳代1名である。専兼比率は 60.5%である。6名の専任教員が研究室会議を構
成し、教務委員がこれを主催し、本学部とコースにかかわるあらゆる問題を討議、決定し
ている。
<保健体育>
現在本学部における保健体育担当の専任教員は3名であり、1年次必修科目の講義「体
育と健康の科学」を中心に担当している。
実技においては、専任教員が半期+集中授業形態のコース(テニス、ゴルフ、キャンプ、
スキー)を中心に担当し、大学キャンパス内では達成できない体験授業(寝食をともにす
る共同生活)に取り組んでいる。
授業担当専兼比率は以下のようになっている。
講義科目「体育と健康の科学」
専任 9コマ:兼任3コマ(半期)
実技科目「体育とスポーツ」
専任 10 コマ:兼任 25 コマ(通年)
共通科目
専任 6コマ(半期)
【点検・評価】
≪文学部≫
本学部の特徴である、多様な教育内容に対応しうる、最低限の専任教員数は確保してお
り、設置基準上の必要教員数も充足している。さらに、より充実したカリキュラムを編成
し、学生に対して優れた研究実績を有する教員からの教育の機会を与えるためにも、非常
勤の教員も積極的に採用している。
専任教員一人あたりの学生数は専攻・コースによってはばらつきがあるが、今後の人事
計画の進捗の中で平準化を図っていく予定であり、学部全体としては、許容できる範囲と
理解している。
各専攻・コースの主要科目は可能な限り専任教員が担当しており、非常勤教員の担当科
目は前述のように、カリキュラムの充実や優れた研究実績を有する教員からの教育機会を
確保する意味合いが強いことから、特に問題となる点はない。
専任教員の年齢構成においても、一部の専攻・コースで高齢化しているところがあるが、
全体としては妥当な構成である。
教授会において、学部全体の合意形成や意思決定を行う上で、研究室会議や各種委員会
は合理的に機能している。教務委員会や学部研教審委員会において、各専攻・コースの意
見を集約した上での実質的な審議が行われ、審議目的や問題点があらかじめ集約されてい
るため、教授会では審議が効率的に行われている。また、ほとんどの学部内の会議は木曜
日に開催され、出席率はきわめて高いことも、合意形成や意思決定が迅速に行えることの
一因と考えられる。
各専攻・コースの教員組織に関する具体的な点検・評価の内容は以下のとおりである。
314 第2章 学部
<国文学専攻>
現専任教員の人数については、二部(夜間部)合わせての入学定員に対して設定された
ものであった。今年度より募集停止した二部(夜間部)学生の減少と、臨定解消とを視野
に入れて、本学部各専攻コース間の教員数を調整し、2002 年度より当該専攻の専任教員数
は8名となることが確定している。必修のゼミナール・卒業論文をもこの人数でまかなう
ことになり、押しなべて言えばけっして楽な体制ではない。学生の希望を第一に履修させ
ており、受け持つ学生の数に教員間で偏りが出ることも必然である。場合によっては、特
定の教員の負担が甚だしいものになることもあるが、学生の希望を優先の第一にすべきで
あり、いたしかたないと考えている。
<独文学専攻>
学生数に対する専任教員数の比率、および専任と兼任の比率はほぼ適正と考える。教員
の専門分野はそれぞれ多岐にわたっており、総合すると、ドイツ文化の大部分の領域をお
おうほどになっている。主要な授業科目への専任教員の配置状況にも、問題は認められな
い。教員間での話し合いの機会も十分にもたれている。
<仏文学専攻>
専攻の性格上、専任に少なくとも1名のフランス人がいることは必須条件である。兼任
にも多様な人材と多数の有能なフランス人講師を擁している点は高く評価できる。
<日本史学専攻>
時代ごとに専任教員1名以上のスタッフをそろえている点は、同規模の他私大と比較し
てもかなり恵まれている。また、分野的にみても、専任教員・兼任教員を含めると、政治
史、社会・経済史、文化史、思想史、対外交渉史の各分野・領域を網羅しており、非常に
充実している。専任教員の年齢構成は、現在のところおおむね妥当だと思われる。
<西洋史学専攻>
本専攻は伝統的に専門にせよ、出身校にせよ、また学問のスタイルにせよ、ある一点に
偏らないように心がけてきた。実際、現在の教員スタッフも他大学の西洋史学専攻ではほ
とんど類をみないような、たいへん多様な陣容となっている。すなわち、時代・地域のみ
ならず歴史研究のスタイルも多様であって、政治史、宗教史、社会史、文化史、女性史等
の専門家が同居している。日本における西洋史学研究そのものが以前よりもはるかに幅広
い内容のものとなっており、このような専攻のスタンスは、西洋史学界全体の教育研究の
最先端に属しているといってもけっして過言ではない。学生の多種多様な勉学上の要望に
対しても十分に対応しうる、バランスのとれた人的配置であると評価できよう。
<哲学科>
古今東西の哲学領域を一応カバーしているが、西洋現代哲学については、1999 年度定年
退職した専任教員の後任ポスト(現代哲学)が、現在埋まっておらず、手薄の感は否めな
い。
<社会情報学コース>
コースとして開設し、10 年にならんとする若いコースゆえ、人事の交代は 2002 年度か
ら始まるため、やや高年齢層に傾斜しているものと思われる。
【長所と問題点】
≪文学部≫
315
学部の運営が各専攻・コースを中心として行われる現在の教員組織の運営はきわめて有
効であり、少人数教育や多様な教育カリキュラムを維持する上で合理的であるといえる。
現在、学部全体の運営方法・システムはおおむね妥当な評価を得て行われているが、教
員個々の負担軽減については検討を要する。各専攻・コースがそれぞれに教育研究の実を
挙げることに努力し、さらに、学部総体として調和を図りながら教育研究活動を続けてい
くとき、個々の教員の負担は相当なものになる。専攻が多いということはそれだけで業務
量が多いということであるが、さらに、全学の教職課程や資格課程の運営も実質的に本学
部の教員が担っているため、教員個々の負担は相当なものがある。
単に設置基準を充足しているかどうかの判断だけではなく、今後の大学間競争を見据え
た、より質の高い教育研究活動が可能な教員数を考えることが必要である。
各専攻・コースから提示されている具体的な長所と問題点は以下のとおりである。
<英米文学専攻>
専任教員の年齢構成の点で、ここ数年は 60 歳代の層に教員が偏り、男女の比率では男性
に偏りがあったが、退職者の補充人事において、年齢構成、男女比率に配慮して人事を進
めており、この問題は少しずつ改善されている。
<独文学専攻>
専任教員の平均年齢は 55 歳、やや高めと言えなくはない。
<仏文学専攻>
教員数、専任と兼任の比率は、現在のところ学生数を考慮しておおむね妥当であるが、
近い将来の二部(夜間部)廃止の決定を受けた各専攻への専任教員の配分見直しの結果、
数年後には仏文学専攻の専任は8名へと減員されることが決まっている。新規補充が当分
できず、専任の高齢化が懸念される。
<日本史学専攻>
問題点としては、第一に専任教員1名あたりの学生数が各学年とも 15 名以上であり
(2001 年度の1年生の場合、17.2 名)、他の専攻・コースと比較して、きわだって多い点
があげられる。これは本学部の特色である少人数教育という観点からすると、大きな問題
点だといえよう。第二に、考古学・民俗学・美術史等、文献史学以外の分野の専任教員が
いない点があげられる。第三に日本史学専攻が学芸員課程に対し責任を負っており、今後
資格課程の充実が本学部全体にとっても重要になってくると思われる点からすると、博物
館概論等、学芸員課程の資格課目を教授できる専任教員がいない点も問題である。
<東洋史学専攻>
充実した人的体制をもっていることは確かであるが、理想とはいえない点がある。特に、
学生の要望の高い東南アジアや現代史の陣容が薄く、特に、近年、急速に進展している学
際的で、かつ、社会科学を応用した地域分析の専門家が少ない点は、今後、さまざまな方
法をとおして、教育上おぎなう必要があるだろう。
<西洋史学専攻>
現状の説明と点検・評価で述べたような多様性こそ本専攻の最大の特色であり、長所で
あって、この伝統は今後ともぜひ守りたい。
<哲学科>
前述の現代哲学の専門分野は現在、兼任教員で何とかカバーしているが、現象学、存在
316 第2章 学部
論といった現代ヨーロッパ哲学を卒業論文に選ぶ学生たちが近年特に多いだけに、専任の
スタッフが望まれる。
<社会学コース>
すでに述べたことだが、社会学は研究対象領域がきわめて広く、そのすべてを網羅する
ことは到底不可能である。しかし、本学の社会学コースは実証の学風を掲げ、専任教員で
は、地域社会学、産業労働社会学、政治社会学、社会問題、文化社会学、比較社会学、そ
して東欧・中国のエリアスタディと、主要な研究領域を確保し、その各領域において、特
色ある教育研究活動を進めている。また、理論社会学、社会保障等、残された領域のいく
つかは非常勤の教員でカバーしている。さらに、社会情報学コースの人材で、社会情報学
関連の領域はカバーしている。
しかし、それでも領域としては社会福祉の面に弱さがあり、また意味解釈論的なアプロ
ーチの面に弱さを持つ。
<社会情報学コース>
各分野のベテラン、エキスパートによって構成されているため、特に、演習において学
生は豊かな学識と経験に基づいた指導を受けることができる。
<教育学コース>
2002 年度から専兼比率は、専任が9割を占めるので、開講科目にバラエティをもたせる
ために、むしろ兼任教員の割合を増やすことが望まれる。
<心理学コース>
心理学は広範な領域にまたがり、学習、研究方法も実験、観察、臨床実習など多岐にわ
たる。1990 年度心理学コースができた際に専任教員は5名から6名となったが、すべての
領域をカバーすることは難しく、6名では十分とはいえない。
<保健体育>
講義科目を中心とした体制をとっていることで、1年次約 1,000 名の学生全体の把握は
できているといえるが、講義ではみえにくい部分を学生と共有できる実技の担当も、可能
な限り広げる必要がある。
(現行では、講義、実技ともに月曜、金曜の固定時間割り体制で
開講している。)
【将来の改善・改革に向けた方策】
≪文学部≫
従来の学部内教員人事は各専攻・コースの欠員補充的な傾向があったが、今年度の学部
研教審委員会において学部全体での要員計画を策定し、その枠内で各専攻・コースが人事
計画を進めていく態勢をまとめ上げた点は画期的であり、今後はこの要員計画を基に教員
組織を維持していくことになる。
この要員計画における目標値としての専任教員数は 95 名から 98 名程度となっており、
入学定員を 900 名(収容定員は 3,600 名)とすると、専任教員一人あたりの学生数は 37
名前後となる。
当面、学部内の教員組織の在り方としては、各専攻・コースが責任ある教育を行うこと
ができるという前提のもとに、専任教員一人あたりの学生数が極端に差のあるものになら
ないことと、二部(夜間部)廃止に伴う専任教員の削減計画を教育研究活動に支障を来さ
ない形で合理的に進めていくことになる。
317
各専攻・コースから出されている方策は以下のとおりである。
<国文学専攻>
専任教員や研究室員の増員は今後ありえないであろう。新任人事によってより一層の充
実を図ることになろう。
<英米文学専攻>
今後数年間にわたって退職者が続くので、補充人事において、年齢構成や男女比率など
の改善をさらに図りたい。また、二部の学生募集停止、一部の入学定員の減員などに伴っ
て、2009 年度までに本専攻の現専任教員数 15 名を 13 名に削減する原則が教授会で決定さ
れているので難しいことだが、できれば外国人専任教員の増員の可能性を探りたい。
<独文学専攻>
定年などによって生じた欠員を補充する際には、若手教員を採用するつもりである。
<仏文学専攻>
有能な若手を専任に補充したい。また中世とルネサンスの専門家も採りたいが、専任の
定員2名減が決まっているため展望は暗い。
<日本史学専攻>
当面学部全体の理解と同意を得た上で、学芸員課程の充実に貢献することができるよう
な専任教員の増員を実現する方向で努力したい。また、今後人事計画の策定にあたっては、
研究業績、時代、専攻分野だけでなく、年齢構成の問題にも十分に留意する必要がある。
<東洋史学専攻>
限られた人員と時間の中で、教育研究上、最大限の成果を効率的にあげるためには、各
教員のつながりが、とりわけ重要である。その点で、本専攻は、恵まれた環境にあるが、
今後、一層、教育研究のための人的体制を強化するためには、本専攻のみならず、他専攻
や他学部の教員とも協力して、学際的・多分野的に、知的ネットワークを広げてゆく必要
があるだろう。
<哲学科>
上述の事情により、現代哲学専門の専任教員の採用が望まれる。
<社会学コース>
2002 年度から大妻女子大学と教育研究交流が行われることとなり、これによって社会福
祉面の領域での教育がかなりフォローし得ることとなった。
<社会情報学コース>
さまざまな問題に機動的に対応するために、教員間の連絡調整手段として電子メールな
どの情報技術を積極的に活用することが考えられる。一方、両専修間および社会学コース
での教育研究の一層の融合を進める必要がある。
<教育学コース>
ここ数年内に専任教員が4名退職するので、補充にあたっては年齢を最重視すべき条件
のひとつと考えている。
<心理学コース>
この数年の間に専任教員2名が定年退職するので、補充にあたっては現状を踏まえつつ
学問的発展の動向から、領域、年齢を考えていく必要がある。
<保健体育>
318 第2章 学部
専任教員の増員という点は、すぐに実現することが難しいので、現行専任スタッフと多
様な領域を網羅する兼任講師の配置等、講義科目、実技科目、演習科目間のバランスを考
えた人的配置を行うことが、授業効果をあげていくことにつながると考えられる。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
1999 年度より全学的な「中央大学ティーチング・アシスタントに関する規程」が制定さ
れた。本学部においても「中央大学文学部及び大学院文学研究科ティーチング・アシスタ
ント制度に関する内規」が制定され、実験・実習・演習をともなう科目の補助体制として、
大学院学生をTAとして採用する制度が導入されている。また、情報処理の教室には専門
のインストラクターを配して補助体制をとっている。
本年度のTAに関する予算額は 1,404,000 円、インストラクターの予算額は約 9,000,000
円である。
現在、演習や実習などをともなう科目で、実際にTAの制度を利用している専攻・コー
スは独文学、社会学、社会情報学、教育学、心理学の5つの専攻・コースである。
また、各専攻・コースの研究室には各2名の研究室事務室員が常駐し、司書業務を中心
とした教育研究支援体制をとっている。
研究室事務室員は、学生の勉学の支援、図書の貸し出し、専攻の学務・教務に関する業
務、専攻の各種の行事に関係する仕事など、多様な仕事を行っている。どの専攻・コース
も原則的にはその専攻・コースの卒業生を室員として採用している。
共同研究室にある図書室は文学科においては 21 時 30 分まで、他の専攻については 20
時まで開室しており、研究室事務室員が退室した後は、大学院学生をパートタイマーとし
て雇用し、教員、大学院学生、学生のサービスに当たらせている。
【点検・評価】
本学部の授業は基本的には少人数教育であるが、古典的な対面授業を行うものから、パ
ソコン教室において行うものまで、講義内容の多様性と同様授業形態も多様をきわめてい
る。中でも、実験や実習をともなう科目については、TA制度や教室インストラクターの
導入は教育効果の向上に大きく寄与している。
また、本学部の特徴である各専攻・コースの共同研究室は専門図書室と演習室と談話ス
ペースを持ち、そこに専門的なスキルの高い研究室事務室員を配している。この研究室事
務室員が教育研究のサポートに果たす役割は非常に大きい。
研究室事務室員の制度はうまく機能しており、研究室業務に不可欠であるばかりでなく、
先輩として精神的支えとなり学生と教員の間のコミュニケーションの円滑化に貢献するな
ど貴重な存在である。
【長所と問題点】
研究室事務室員は研究室業務に不可欠であるばかりか、先輩として学生の精神的支えと
もなる貴重な存在であるが、業務が多岐を極めややもすれば過重負担を強いられかねない
状況にある。
また、不安定な身分の割には仕事量と責任とが過重である感は免れない。
TA、および夜間開室のための大学院学生採用は、学部学生と大学院学生の交流の点で
319
も有意義である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
TA制度とインストラクターの導入については、今後とも教育効果を勘案しながら充実
させていきたい。
共同研究室については、手狭であることや、室員が全員女性であるための安全対策が必
要であることが指摘されているが、一層の充実を図っていく必要がある。
また、研究室事務室員の専門職としての処遇を検討することも将来必要と思われる。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続
【現状の説明】
「中央大学教員任用審議会規程」、
「中央大学文学部教員任用昇進に関する内規」
(添付資
料参照)による。
任用に関する大まかな流れは以下のとおりである。
①
退職者が出た場合、まず、学部研教審委員会において欠員の補充を行うかどうか、補
充を行う場合、どの専攻・コースに所属する教員を任用するかの審議を行う。(1999 年
度より実施。それ以前は退職者の出た専攻・コースが学部研教審に発議していた。)
②
学部研教審の決定に基づき、任用を認められた専攻・コースの発議により任用候補者
に関する事案が教授会に上程され承認を得る。
③
教授会では学部長と、当該専攻から3名、他専攻3名から成る人事委員会(学部長が
委員長)を設置し任用の可否について審議を行う。
④
人事委員会は審議の結果を教授会に報告し、教授会はその報告を受けて投票を行い、
教授会としての決定を行う。
⑤
学部教授会で承認された人事案は、全学の教員任用審議会で審議され、最終的に任用
が決定される。
教員の任用に際して、本学部全体としての公募の制度はない。各専攻・コースで任用す
る候補者を決定する際の手続については、現状では、公募することも含めて、各専攻・コ
ースの判断によっている。
独文学専攻においては過去に専攻独自で公募の方式をとったこともある。
各専攻・コース内での任用候補者の人選は、専任教員の収集した情報に基づいて行われ
ることが多く、研究業績を中心に人柄、専攻の年齢構成、専門のバランス等を考慮して、
専攻内の合意を形成している。
昇格手続の流れは以下のとおりである。
①
学部長は、
「中央大学文学部教員任用昇進に関する内規(二)の二の①、②、③」に該
当する専任教員(昇進年限に達している助教授以下の専任教員)に対し、昇進手続を申
請するかどうかの意志を確認する。
②
昇進希望者は「内規(一)の三、四」に定める論文を添えて、学部長に申し出る。
その際、所属の専攻・コースにも申し出る。
以下の流れは任用の場合の③∼⑤と同じである。
【点検・評価
長所と問題点】
教員の任用に関しては、関係する専任教員のネットワークや情報をもとに人選を進める
320 第2章 学部
従来からの方法が一般的であるが、各専攻・コースとも研究業績をはじめとして、専門領
域、人柄、教育運営能力など、多面的な評価、判断に基づいて選考を行っている。そのた
め、現状では特に問題となっている点はない。
手続に関しては大学教員任用審議会などはやや形式的にすぎる観もあるが、その結果が
処遇を決定する給与委員会や法人の発令行為につながっていくことを考えればやむを得な
いとも言える。
公募制の導入に関する各専攻・コースの意見は、一長一短があるので、慎重に議論を重
ねていく必要があるというものが多いが、独文学専攻のように、時と場合によって臨機に
対応すべきであるという意見もある。公募制を否定するものではないが、現行の方法も円
滑に運営されているとの判断があることから、性急に公募制の導入を図る必要はないとい
う判断である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
二部(夜間部)の募集停止にともない、本学部教授会としても中長期の教員人事計画の
検討を行い、今後、10 年程度で8名の専任教員を減員することになっている。
この減員計画は、2002 年度入学生からスタートする新カリキュラムの運用をとおして、
教育水準の低下をきたすことのないよう、本学部全体の共通認識と各専攻・コースの理解・
協力のもとに行われなければならないものと考えている。
本学部の人事やカリキュラムについては縦割りの専攻・コースに一任するべきではない
という意見が近年強くなっている。学際的で専攻横断的な研究体制確立の必要性、専攻間
交流という観点から学部全体で検討すべきであるという意見である。
これらの意見をもとに、本学部全体のカリキュラムや教育課程の改変を視野に入れなが
ら、専攻・コースの枠にとらわれない、新しく、かつ必要とされる本学部に相応しい教員
が任用できるようなコンセンサスが必要であると考えている。
また、今後も能力の高い教員を任用し、教育研究水準を維持向上していくためには、新
たに迎える教員の能力を適切に判断することも重要であるが、学部総体としてどのような
人材が必要であるか、どのような学部を形成したいのかのコンセンサスを得た上で任用の
手続を行うことも重要であると考えている。
また、現状の専任の男女比を考慮すれば、徐々にその数は増加しつつあるものの、女性
教員の比率がきわめて低いため、積極的な女性教員の採用が求められている。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
教員の任用、昇進にあたっては、該当者の教育研究活動を教授会で報告し、その内容を
任用・昇進の重要な判断材料としている。
また、教員の研究活動は毎年発行される『学事記録』に記載され、発表した論文等につ
いては、学長室企画調査課が保管する履歴書に加筆することになっている。これはあくま
でも教員個人の意思によって行われることであり、客観的な研究活動の評価制度と言える
ものではない。また、教育活動については一部の専攻・コースで学生に対するアンケート
調査等を行っているが、学部としての統一された制度はない。
教育研究活動の学内の発表手段としては、本学部紀要編集委員会のもとに発行される『文
321
学科紀要』、
『史学科紀要』、
『哲学科紀要』、
『社会学科紀要』、
『教育学論集』があり、また、
大学は本学の事業部からの研究業績の出版に対して補助を行っている。これらの紀要に論
文を掲載する審査は間接的な研究活動の評価となっている。
授業に関する学生側からの評価については、アンケート等で行う教員もいるが、それは
各教員の裁量にまかされている。
教員選考基準は「中央大学文学部教員任用昇進に関する内規」
(添付資料参照)のとおり
である。この内規に基づき、教育研究能力・実績を勘案して任用時の身分が決定されてい
る。給与面の待遇については、現状では、身分別にほぼ年齢給に近い形で全学的に制度化
されている。
【点検・評価
長所と問題点】
学部を活性化し、教育研究活動の実績を向上させるための何らかの評価制度は必要であ
ると考える。しかしながら、統一的な評価基準が設定可能かどうか、学生の評価を加える
ことが妥当かどうかなど、学問領域が多岐にわたる点などを考慮すれば評価を制度として
確立することには相当の困難が予想される。
一面では、教員の任用時や昇格時の審査がきちんと行われていれば、結果的に教育研究
活動の評価はなされているという見方もあり、現実に本学部ではそれがうまく機能してい
ると言える。しかしながら、優れた研究業績とそれに裏打ちされた教育を融合させるため
にも、不断の評価制度の導入は必要である。
教員選考時における教育研究能力と研究実績の評価を行うのは当然であるが、任用後の
評価は昇格時以外にはなされていないのが現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部は創立以来、将来を見据えながらさまざまな学部改革を行い、文学、史学、哲学、
社会学、教育学といった文化系領域の各学科をさらに充実させながら、それらの教育研究
の統合や連携を図りつつ新しい時代に適合する学部づくりを目指してきた。本年、本学部
創立 50 周年を迎えることができたのは、この間の学部全体の努力と、個々の教員の教育研
究の努力と成果がそれなりに評価されてきたからと考えている。
しかしながら、昨今の大学を取り巻く環境の中で、不断に行われる自己点検・評価のシ
ステムを持たない大学は危機的な状況を迎えるということも共通の認識になりつつある。
専攻・コースによっては専任兼任を問わず、業績を定期的に評価する制度の導入を検討す
べきであるという意見や、研究室会議や卒業論文成績会議等で教育内容についての検討を
行っているが、例えばマルチメディア時代に即応した新しい授業の模索等については、ま
だ個々の教員が試験的に行っているのが現状であり、その点を含む教育方法の具体的な改
善に専攻全体として真剣に取り組む態勢をつくることが今後の大きな課題のひとつとなる
と考えている専攻もある。他方、評価制度導入は必要であるが、専攻によっても、また、
専門領域の違いによっても評価基準が違ってくるはずであり、慎重かつ的確な議論をして
いく必要があるという専攻もある。これらの意見を調整し、学部として教育研究活動の向
上につながる評価基準やシステムを策定するためには、今後かなりの時間と労力を必要と
することが想定される。
学生の授業評価については、一部の教員が試験的に実施しており、学部内に設置されて
いる将来構想委員会でも、実施可能なレベルでの検討を行っている。当面、実現可能なこ
322 第2章 学部
とから制度化し、総合的な評価制度確立につなげていくのも一つの方策であると考えてい
る。
直接的な評価方法ということではないが、学外者に研究報告を依頼することを制度化し、
注目される研究を行っている研究者の講演を定期的に開催し、最前線の研究に接する機会
をつくることは、研究室の活性化につながるため、積極的にその方向で具体化する必要が
ある。
また、学内の制度的なことは別にしても、今回のような外部評価に対応するための、自
己点検、自己評価の作業を積み重ねていくことにより、教員個人個人の教育研究に対する
意識も検証され、学部の存在意義もより明確になっていくものと考えている。
教員選考基準における教育研究能力・実績への配慮については適切に行われており、今
後も能力の高い教員を任用し、教育研究水準の維持向上に努めていきたい。
6.施設・設備等
6−(1)
施設・設備等の整備
【現状の説明】
本学部の教育研究目的を実現するための施設・設備は、学生の授業教室、大学院学生の
研究室、各専攻・コースの共同研究室・図書室、専任教員個人研究室および学部事務室が
一棟に集中しているのが大きな特徴である。各専攻・コースに配置されている共同研究室
は、所蔵の図書・資料を利用しての調査・研究に供するもので、研究室員が常駐し利用者
のサポートに従事しているほか、文献検索用のパソコンは、学生も自由に使用することが
できる。この共同研究室と図書室は、教員・大学院学生・学部学生の交流の場として、情
報収集の場として、また演習等の授業の場としても有効利用され、頻繁におとずれる教員
や、常勤の室員、大学院学生、学部学生同士の学問の世界を共有できる精神的共同体をな
している。また、専任教員の個人研究室については、少人数のゼミナールに利用したり、
学生の個別指導に利用したりと、利用の仕方は各教員の裁量に委ねられている。
一般教室は、小・中教室を中心に 55 教室配置されているが、多様なカリキュラムと少
人数教育による影響で、稼働率が非常に高く、特に平日の2∼4時限の時間帯は教室が飽
和状態であり、授業時間割の編成に支障をきたしている。また、語学教育の授業を中心に
視聴覚設備を必要とするものが近年多くなってきたが、それに応じられる施設として、文
学部棟の視聴覚設備のある教室、また2号館1階のLL教室などがあるが、時間帯によっ
てはこれらの施設を利用できない授業も多くなっている。また、LL教室の設備の古さに
ついても担当教員から苦情がでることもある。さらに体育施設は、全学的な問題で多摩校
地への移転後かなりの数の体育施設が建設されたが、その多くはチームスポーツ(団体競
技)を中心につくられたため、ここ数年の授業内容の多様化に合わなくなってきている。
さらに本学は、施設と種目が固定されたかたちで使用(バレーコートでは、バレーボール
のみ)されてきたので、多目的施設が相当数不足している。数年前に改善した屋外バスケ
ットコートのように、バスケット、テニス、ミニサッカー、ニュースポーツ等の多様な種
目が展開できる施設が少しずつ増えてきている。
本学部の専門領域のために特有な施設設備として、国文学専攻の書道教室がある。また、
社会学コースには社会学調査資料室、社会情報学コースに社会情報学実習室、心理学コー
323
スに各種実習・実験室がある。特に心理学コースについては、1992 年教育学専攻修士課程
を設置する際に整備し、また、2000 年心理学専攻修士課程設置にともない、学校臨床心理
学領域を強化するために、以下のものが設置、整備された。学部教育はそれらの施設・設
備を利用するという形で行われている。
①心理実験室−3号館に設置。認知心理学関係のブロック、心理学関係のデータ処理を行
うブロック。
②行動観察室(1室)、授業分析室(1室―モニター・記録室)−体育館地下に設置
③心理・教育相談室(1室)、モニター・記録室(授業分析室と兼ね、共同使用)
教育の用に供する情報処理機器としては、本学部内にパソコン教室(60 人定員)を用意
し、学生の情報処理、インターネット利用技術などの習得・向上にあてている。また、必
要なサーバーも配置している。学生が利用可能なソフトは、ワープロ、表計算、データベ
ース、電子メール、WWWブラウザ等である。教員は研究用にそれぞれの裁量で研究費等
によって購入し個人研究室で利用しているほか、専攻共同研究室にもパソコンは設置され
ているが、これは個人情報セキュリティの問題があり全くの事務専用とせざるをえない。
【点検・評価
長所と問題点】
学生の授業施設と教員・大学院学生の研究施設が一棟に集中している構造は、教員・学
生の距離が身近になり、交流が容易となり教育研究によい影響をおよぼしている。特に共
同研究室は専門図書室であるばかりではなく、同時に教育研究の現場でもある。専攻・コ
ースによって学生へのサポート体制は異なるが、授業テキストや研究マニュアルが年間を
通して配布され、少人数の学部授業の一部や、すべての大学院の授業が共同研究室で行わ
れ、学習指導、卒業論文指導の場でもあり、毎日のように学部・大学院共同の読書会等も
開かれている。しかし、共同研究室内の蔵書数は、すでに収蔵スペースの限界を突破して
おり、中央図書館の増築による蔵書の一部移転の推進と、中央図書館と各専攻の共同研究
室との密接な連携が、強く求められ、さらに利用者の増加により、さらに狭小化の一途を
たどって、早晩満杯となるのは目に見えている。早急な打開策を講じる必要がある。また、
図書室の書籍がもっぱら教員サイドの判断で決められていて、学生のニーズに十分、対応
できていないことも問題点として挙げられる。
一方、授業教室の飽和状態は、学部の教育体系にも影響をおよぼし、1時限・5時限や
土曜日の必修科目の配置や授業コマ数の調整、授業時間割の変更等、教員・学生にも不便
を強いており、抜本的な改善が必要である。
教育のための情報処理機器は非常に不足し、緊急の対策が必要である。本学部では、従
来から、社会情報学コースでは専攻の特殊性からパソコン教室の利用度が高く、情報技術
を活かしたより高度な情報分析および情報検索の手法の習得ができるような環境整備が必
要であり、さらに他専攻・コース学生の情報処理関係授業の履修希望が多いこと、教職課
程・資格課程で情報機器の操作が必修科目となっていること、その他の授業科目でパソコ
ン利用の授業が拡大したことが原因で稼働率が非常に高く、学生の自由利用時間を確保で
きない現状である。本学部予算で年次計画により整備を進めているが、絶対数の不足から
多様化する授業形態の要望に追いついていない。しかし、情報環境の整備が、当該学問に
必須の所蔵資料の充実等専攻共同研究室整備を犠牲にしてまでなされるべきものかどうか
については一考を要するとの意見も出ている。
324 第2章 学部
また、日本史学専攻が責任を負っている学芸員課程関係の施設は、同課程を設置してい
る他大学と比べてきわめて貧弱だといわざるをえない。現在1室確保されているものの、
今後学芸員課程の充実を図っていくためには、この広さでは狭すぎると思われる。考古学、
民俗学等の実習のための部屋も存在していない。心理学の行動観察室や心理・教育相談室
では、文学部棟からかなり離れた場所にあること、両室とも記録、資料等の保管室がなく、
資料の散逸する危惧とプライバシーの保護のために危険であること等問題が残る。さらに、
体育施設では、他学部と比べて男女別クラス数が多い本学部としては、教場のさらなる改
善(多目的施設)や更衣室・シャワー室の改善等を急務として考え、取り組んでいく必要
がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
共同研究室は、本学部のよき教育研究に必要不可欠であるが、その狭小化が問題であり、
利用価値の薄い文献資料を個人研究室や保存書庫などに移動させたりするなどして対応し
てきているが、もはやそれも限界に近い。この狭小化は早急に改善を要する問題ではある
が、施設の拡大を実施する以外抜本的な解決策が見当たらない。
本学部の特徴である少人数教育を実施するならば、必要な教室の数は当然多くなる。現
在の教室稼働率の飽和状態を解決するためには、6時限の有効活用や時間割の固定化等、
本学部全体の調整が必要である。
情報処理機器を使用した授業は、世界各地で文献情報のデータ処理が飛躍的に進展した
ために、各種の専攻で活用が不可欠な状況になっている。多数の学生や教員が同時に、複
数の情報にアクセスできるネットワーク環境やコンピュータの周辺機器も充実させ、文字
だけでなく画像の活用も自由に行える環境が必要である。さらに社会情報学コース等の専
門領域ではより高度なインターネット利用技術の習得が中心的課題として位置づけられ、
情報技術の発展・普及状況を見ながら、情報研究教育センターと協力して、逐次、具体策
を実施していくことが求められる。
根本的な不足に対応するためには、パソコン教室の増設が考えられるが、普通教室も不
足している現状では情報機器専用教室の設置は難しく、共用施設の設置が必要であり、検
討を開始した。この検討は、本年度から情報環境整備委員会が設立され、情報環境改善の
検討を始めたほか、将来構想委員会においても授業形態の実態から調査を開始する動きが
出ており、将来的な本学部の情報教育の実施状況に合わせて整備が進められる予定である。
学芸員課程関係の資料室の拡張と実習室の確保も実現が必要で、将来的には文献資料のみ
ならず、考古資料や民俗資料の有効活用と安全な保管を図るために、博物館相当施設の設
置が是非とも望まれる。
体育実技の面では、大学全体の問題であるが、更衣室・シャワー室等のソフト面は、利
用者数とのバランスを考えても不十分であり改善が必要である。また、第1体育館の空調
(冷暖房)は、授業の安全配慮からも必要不可欠であり、大学の主要な行事を行う場所で
もあるので、大学の重要な施設として設備の改善・充実が必要である。
6−(2)
キャンパス・アメニティ等
【現状の説明】
本学部独自のキャンパス・アメニティの形成・支援のための体制は存在せず、教員・学
325
生からの要望等を文学部事務室がくみ取り、その都度管財部等へ働きかけているのが現状
である。本学部は構造上、教育棟と研究棟・事務室が一体となっており、教員・大学院学
生・学部学生が同じ環境を共有している。これが本学部の大きな特徴であり、相互の交流
を促進しているが、スペースが限られており、すべての面で手狭になっているのが現状で
ある。
また、他学部に比べて女性の比率が高く、防犯・安全管理面でも特に配慮が必要であり、
女子トイレに防犯ベルを設置する等の対策を講じているがまだ不十分である。
また、文学部棟には「学生のための生活の場」としての施設・設備は少ない。学生が自
習できるような視聴覚設備は本学部には存在せず、全学に1カ所、2号館LL教室の1室
だけである。各共同研究室には大学院の授業や研究室会議に使用できる場所があり、空い
ているときは学生・院生の自習室としても開放され、ガイダンスや懇親会にも使用される多
目的の部屋として利用価値は高い。しかし、それ以外に学部学生の自習専用の部屋はない。
学生のための交流スペースとして、わずかなロビーが利用されているが、休憩時間には学
生で満杯状態であり、昼食をとるスペースも確保できない。自習や昼食のために空き教室
を学生が自由に利用しているが、授業が多く教室もほぼ飽和状態のため使用できる時間帯
が限定されており、現状では新たな場所を確保できない。
大学周辺への「環境」への配慮については、モノレールの開通により文学部棟が駅から
至近の教育研究施設となり、大学近隣の民家棟に最も近くなったが、それでも外部との距
離が十分に確保されており、騒音等の影響は全くなく特別の配慮は行っていない。逆に、
モノレールの開通により文学部棟が駅から至近の教育研究施設となり、学内外の学会・講
演会や試験会場に多く利用されるとともに、日常的に他校舎への通り抜け通路として文学
部棟内を利用する者の数が増大し、授業への影響が懸念されるとともに、部外者の校舎内
への進入が自由な点、今後の対策と安全管理が必要になっている。
【点検・評価
長所と問題点】
施設・設備等は、本学部独自で対応することがなく、管財部の管轄であり、教員・学生
の要望等を即実現できる体制にはない。移転後の本学部の特徴である教育研究棟の一体化
は学生の教育指導や学術上の交流にとってメリットがあるだけでなく、不足している「学
生の生活の場」を共同研究室が補完する等の施設・設備の構造上の役割も果たしている。
「学生のための生活の場」は、文学部棟内では手狭であり、文学部将来構想委員会におい
て本学部学生の「たまり場」計画が提示され、本学部学生同士の交流の場を拡大するため
の検討が行われたが、同時に全学的な問題として、文学部棟横に学生生活関連棟の建設計
画があり、さらにモノレールから学部棟までの導線計画が進められ、本学部単独で「学生
のための生活の場」を検討できない状況である。
大学周辺の「環境」への配慮は、本学部としては現在のところ問題がないと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
モノレールからの導線計画が文学部棟を縦断する計画であり、この計画により文学部棟
の「学生のための生活の場」が大きく左右されるため、改善策が確定できない。ただし、
学生の生活環境を最低でも維持し、さらに将来構想委員会でも検討される通り、一層交流
の場が拡大されるよう、本学部として大学全体へ申し入れる必要がある。
また、文学部棟は立地的にも便利であり、近年学会や外部組織に広く利用されるように
326 第2章 学部
なり、これらの利用者のためにも一定の憩いの場は確保する必要がある。
6−(3)
利用上の配慮
【現状の説明】
施設・設備面における障害者への配慮の状況として、文学部棟内のバリアフリーは、利
用者への多少の不便は強いるものの、文学部棟への出入りと各授業教室への出入りは一応
の対応が済んでいる。また、身障者用トイレ1カ所、文学部棟内車いす対応エレベーター
が低層棟・高層棟に各1カ所設置され、足が不自由な場合の配慮はされている。ただし、
自家用車での入構を前提とした構造になっており、公共機関(モノレール)を利用した場
合は、かなりの遠回りをしなければ文学部棟に入れない。また、共同研究室と図書室につ
いてはスペースの問題があり、車いすを利用した場合の十分な通路が確保できず、今後の
整備が必要である。一方、点字案内等は全くなく、目が不自由な場合の施設・設備面での
配慮がなされていない。
【点検・評価
長所と問題点】
利用上の配慮として、身障者への対応は最低限の導線は確保しているが、利用者の便宜
を考えると健常者には気づかれない段差や出入り口の扉の重さ、降雨時の移動の不便さ、
教室の机の配置等不便な点が多く、早急な改善が必要である。
また、現在の在学生に目の不自由な学生がいないため、この部分の対策が不完全であり、
改善が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
モノレールからの導線計画により、文学部棟の出入り口も大幅に変更されるため、これ
に合わせて障害者への配慮も実施すべきである。特に、現在は、モノレールからの障害者
の導線に配慮していなかったが、今後は本学部関係者だけでなく、全学の関係者が文学部
棟を通過することになるため、あらゆる対応が必要になる。
6−(4)
組織・管理体制
【現状の説明】
本学部独自として、施設・設備を維持・管理するための責任体制はなく、修繕や改修に
ついては文学部事務室が仲介して大学全体の管財部へ依頼する形式である。
衛生・安全を確保するためのシステムとしては、火災・事故等に対する安全対策は、庶
務課との連携により確保され、文学部棟内の異常を示す表示板が庶務課だけではなく文学
部事務室内にも設置され、本学部内の初動体制を確立している。
モノレール駅から至近となり、文学部棟が他施設への導線の通過点になったため、本学
部関係者以外の入構が増大した。これにともない、授業への影響や盗難、不審者の進入等
が懸念されており、安全を確保するためのシステムの整備は今まで以上に必要になってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
本学部教職員・学生等の関係者以外の出入りが増大し、現実問題として事件事故が増発
しており、女子トイレの防犯ベル設置等の対策も講じられたが、さらなる安全管理対策が
必要である。特に不審者の立ち入りについては監視システムがなく、教職員・学生の身体
327
の安全や施設・設備の保全の確保が問題になっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
文学部棟の施設・設備等の維持・管理は直接本学部の責任体制にないが、ここで教育研
究に携わる構成員の衛生・安全を確保することは、本学部として責任がある。防火・防災
のための設備は現在でも一定の信頼性を確保しているが、不審者の進入等への対策はなさ
れていないため、これらの入構を制限や、防犯カメラの設置や非常ベルの設置等対策が必
要である。
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
全学的な学術講演や教員個人レベルでの講演・社会的委員への参画等は多数あるが、本
学部として社会と文化交流等を目的とした教育システムは非常に少ない。
また、生涯学習とも関連して、地域住民に対する本学部授業の開放は聴講制度として設
置されているが、公開講座を定期的に実施することはなく、唯一本年度が本学部創立 50
周年のため、これを記念した講演会・シンポジウムを企画し、広く地域住民に参加を呼び
かける計画が進んでいる。また、昨年度から、付属高校生を中心に本学部の特別講座を開
講し、父母や地域住民にも声をかけて参加を呼びかけている。
教育研究上の成果の市民への還元状況は各専攻・コースの専門分野により事情が異なる
が、本年度から八王子市教育委員会の要請により学校インターンシップ制度が開設され、
当面社会情報学コースの司書業務補助と心理学コースの教育相談員補助として学生を派遣
することになり、地域への貢献を正規のカリキュラムとして実施することになった。
各専攻・コース単位での社会貢献は次のとおりである。
国文学専攻では、学生・大学院学生・教員・卒業生有志によって「中央大学国文学会」
を組織している。この学会では学会誌『中央大学国文』を年1回発行し、会員の研究成果
を公表している。また、学部生の研究成果については『白門国文』という雑誌を年1回発
行し、公表の場にあてている。また、この学会ではそれぞれ年1回研究発表会と講演会と
を開催し、会員以外にも広く公開している。また、合宿によって旧家や寺社の蔵書調査を
行い、その成果を目録として毎年公刊することを年間計画に盛り込んでいるゼミナールも
ある。
英米文学専攻では、英米文学会主催の講演会を年2回開催し、一般市民にも公開してい
る。
独文学専攻では、リヒャルト・シュトラウス協会、日本ワーグナー協会での理事として
の活動や公開講演、市町村主催の文化講演会への出席、朝日カルチャーセンターの長期連
続教養講座への出演、市民オーケストラの顧問等、独文の専任教員は個人のレベルで市民
との文化交流を実践している。
仏文学専攻は、個々の教員が著書・論文・翻訳などの公刊や学会発表・講演・テレビラ
ジオやカルチャーセンターなどの講師等による活動を通じて社会に貢献しているのは言う
までもなく、専任教員と大学院学生、そのOBで中大仏文研究会を、また学部横断的には
本学の全学部のフランス語専任教員で中央大学仏語仏文学研究会を組織し、それぞれ研究
328 第2章 学部
誌を毎年刊行してもいる。
日本史学専攻では、教員、卒業生、大学院学生、学部学生等からなる中央史学会という
学会を組織し、年に1度大会を行うとともに、学術雑誌『中央史学』を刊行して、教育研
究上の成果の社会への還元に努め、中央史学会の大会においては研究報告の外に、著名な
歴史研究者による一般向けの公開講演を毎回実施している。
東洋史学専攻の本学学部生や、卒業生、教員を中心につくられた、全国組織の学会であ
る白東史学会の活動は、長い蓄積があり、定期的に学術誌や会報を発行して、国内外の学
会に貢献している。不定期ではあるが、本学での教育と研究を踏まえて、白東史学会の論
文集も数冊刊行されている。白東史学会は、毎月、中央大学多摩校舎で、例会を開催して、
本学の大学院学生を中心とする研究報告を行い、毎年、秋には、駿河台記念館において、
全国大会を主催して、多数の参加者を集めている。
哲学科では、講演、著作、事典執筆、翻訳等の出版活動によって各教員が個別に社会貢
献しているほか、それぞれの所属学会で委員などの活動を通じて広く社会に貢献している。
社会学コースでは、専任教員が学会の理事であったり、行政の専門委員であったり、行
政や財団から調査を委託されたり、財団の理事長・理事・評議委員・運営委員であったり、
学外の講演会やセミナーに招請されたり、地域でボランティア活動をしたり、また新聞・
雑誌などにも出たりと、幅広く貢献している。社会学科として、10 年ほど前八王子のテレ
ビ局の依頼で、社会学の講義を放映したことがあり、5年ほど前には、クレセントアカデ
ミーの依頼で、社会学の市民講座を開いたことがある。
社会情報学コースでは、教員が、その専門性を活かして、外部機関の委員その他の役職
等を務めたり、一般社会人向けの講演等を行うことによって、当該分野の発展や社会の進
歩に貢献している。例えば、社会情報学コースの教員の一人は、日本学術会議の副会長と
して、わが国学術と学術政策との全般にかかわる諸問題に取り組んできている。また、社
会情報学は時代の先端を行く学問領域であるため、地域や自治体、高等学校などから講演
依頼は多く、定期的に出かけ、市民や生徒の啓蒙に貢献している教員も多い。さらに、2001
年度から八王子市教育委員会の要請をうけ、市内の中学校において図書室の業務に対する
教育補助として学生の派遣がなされている。
教育学コースは、学生の自主的な研究サークルである「サブゼミ」が母体となって、子
ども会活動を継続して行ってきた。その活動にはまったくボランタリーな参加の形態をと
るものから、公共の児童館活動、また民間の経営による幼児教室までがある。「サブゼミ」
が活動紹介の場となって、学年を越えた活動の継続が可能となっている。また、社会教育
や社会福祉を担当している卒業生の紹介で、公的な施設での学生の活動が途切れることな
く続いてきた。有給の場合も、ボランティア活動の場合もある。学会活動では、すべての
専任教員が積極的な役割を果たしてきた。日本教育学会、教育史学会、社会教育学会、社
会教育全国協議会、教育思想史学会などの会長職を務めたほか、理事、編集委員などの職
責を果たしてきた学会は数多くある。また、全国私立大学教職課程連絡協議会の事務局長
を出して、全国規模での私大の教職課程の質の向上に貢献した。さらに、社会教育主事の
講習会や小・中学校の校内研究会・授業研究会の講師として多くの教育現場を指導してき
ている。
心理学コースでは、本年度から八王子市の要請に応えて、現在、学部3年生が 1 小学校、
329
3中学校にスクールカウンセラーインターンシップとして入っている。専任教員としては
学習障害児の教育、心理教育相談など、周辺地域に貢献している。周辺地域・学校から心
理教育相談を求められることが多いが、現状ではそれに応じることのできる人的、物理的
条件が乏しく、断ることがしばしばである。
【点検・評価
長所と問題点】
文学部棟の立地条件や専門の学問領域を考慮すると、現在以上の積極的な社会貢献も可
能であり、今後の具体的対策を検討している。
公開講座は現在のところ高校生を対象としたものが定着し一定の成果をあげているが、
今後は広く一般社会人を対象として開催し、聴講生や科目等履修生制度も積極的に導入す
る方向で検討を開始した。タウン紙や地域のCATVなどを通じて全学的な広報活動と情
報収集をより積極的に進めることが必要である。また、本学部にのみ設置されている学芸
員・社会教育主事・司書・司書教諭の資格課程についても広く開放してほしい旨の要望が
学内外で高まっているが、受け入れ数を含めて拡大することには問題点が多く、また他学
部への開放を優先すべきとの声もあり、今後さらに検討が必要である。
またカリキュラム上の地域との交流については、本年度八王子市教育委員会から学校イ
ンターンシップとして近隣小中学校への教育補助要請があり、本年度は当面、社会情報学
と心理学の2コースで実施を決定したが、今後このような形で教育研究上の成果を市民へ
還元し、かつ文化交流ができる教育システムを充実させる必要があり、積極的に拡大につ
いて検討している。
各専攻・コース単位は次のとおり。
国文学専攻は、学会誌『中央大学国文』が投稿論文を審査し厳選して製作されており、
一定水準以上の学問成果を示しており外部の評価も高い。
『白門国文』については、若干未
熟な論文もあるが、新見を含んだ優れた成果も少なくない。
日本史学専攻の中央史学会の活動は活発であり、その公開講演には一般市民もかなり参
加している。問題点としては、中央史学会以外の社会貢献のための方策が不十分な点、中
央史学会大会の公開講演についても宣伝活動が不十分なため、せっかくの興味深い講演に
もかかわらず、思ったほど一般市民の参加が得られないケースもまま見受けられる点等が
あげられる。
社会学コースは、各教員がそれぞれの分野で、自己の専門を生かしつつ、政府・行政に
民間・地域に貢献し、学会や研究会を運営し、自大学の院生だけでなく、広く若手研究者
を育成している。このことはとても素晴らしいことなのであるが、その分、過重労働を強
いられる結果となっている。
社会情報学コースは、社会を的確かつスピーディに把握することができる学問であるた
め、一般社会との接点はきわめて密である。しかし、コンピュータ技術や数量的把握だけ
に終止した社会の理解や認識ではなく、学問的・客観的認識をするための諸方法を学生の
みならず一般社会へ浸透させることが必要である。
心理学コースのスクールカウンセラーインターンシップは試験的に始めたばかりであり、
まだ評価することはできないが、八王子市以外の多数の市町村から同様の要望が来た場合
にどのような対応をするのか、将来的な展望を持った議論が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
330 第2章 学部
現在は、公開講座も学校インターンシップも試行的な実施の段階であるが、今後は教育
システムの一環として文化交流やボランティア活動を積極的に推進するとともに、生涯教
育の観点からも資格取得の実務的講座や本学部の知的財産を活用した教養講座等、社会へ
の還元が不可欠であるが、教員の過重労働の問題を指摘する声もあり、今後の本学部とし
て受け入れ体制について検討中である。
具体的に社会貢献を検討している専攻・コースは次のとおりである。
日本史学専攻は、中央史学会として大学所在地である多摩地域の歴史に関するシンポジ
ウムを企画し、今後こうした地域密着型の企画を定期的に実施し、有効な宣伝活動を行う
ことによって、地域住民との文化交流をさらに進めていく計画がある。
社会情報学コースは、大学に近接した地域や学校・自治体などに図書館情報学や情報処
理の方法と実践を、機会あるごとに出かけて指導・教育しているが、同時に特に学校や自
治体へのインターンシップも徐々に増加しつつある。本学部の中では数少ない実学的領域
のコースであるため、今後は積極的に地域の自治体・学校・市民組織などに貢献できる方
法と実践が必要である。
心理学コースは、社会・学校の状況から見て、今後、心理教育相談を求められることが
予想されるが、人的、物理的条件、システムを含めて方向性を出していく必要がある。
8.管理運営
【現状の説明】
教授会が、学部の最高意思決定機関である。学部長は任期2年(再任も可)で、教授会の
全構成員の投票によって選出される。教授会のもとには各種委員会が設けられているが、
特に重要なものは、
「教務委員会」と「学部研教審」である。各専攻・コースから委員が1
名ずつそれぞれに参加する。教務委員会は日常的な学務一般にかかわる審議事項について
検討し、必要な場合には各委員がそれぞれの専攻・コースに案件を持ち帰り、各研究室会
議において専攻・コースとしての意向を取りまとめ、その結果を委員会で報告し、相互の
調整を図る。学部研教審は制度上のなんらかの変更をともなう事項について審議する。さ
らに、そのもとにワーキング・グループとして「将来構想委員会」がもうけられている。
委員はおもに若手の教員の中から学部長の指名によって選ばれ、専攻・コースの枠を越え
た自由な立場から本学部の長期的なありようについて討議し、具体的な提案が煮詰まった
場合には、それを学部研教審に持ちあげて討議し、そこで承認されれば、教授会において
最終決定される。
【点検・評価】
教務委員会が実質的に本学部の管理運営全般を統轄している。百余名の構成員を抱えて
の教授会では、細かな実務的事項を審議するにはなじまない。その点で教務委員会は学部
の円滑な管理運営にその機能を果たしてきたと評価できる。
【長所と問題点】
本学部は、教員についても学生についても所属する専攻・コースが非常にリジッドな縦
割り型に編成されている。しかも、本学部一般にいえることだがさまざまな専門の研究者
が同居している。そのため、学部全体として意思統一を図るのがなかなか容易ではない。
その意味では、教務委員会をはじめとする各種委員会においてあらかじめ各専攻・コース
331
の意向や利害を調整し、教授会に上程される段階ではほぼ全体の合意が形成されている現
行の体制は確かに効率的である。無用な軋轢も回避できる。しかしながら、このような利
害調整型管理運営体制は、本学部における学問と教育のありようについてかなりの程度ま
で合意が形成されていた時代には適合的であっても、そのような合意が学内外ともに崩れ、
新しい時代に即応した学部へと脱皮することが緊急の課題となった今日では、むしろ足か
せとなりかねない。というのも、現行体制のもとでは各専攻・コースの直接的な利害に関
心がついつい向かいがちで、全体的な視点に立つことが難しいからである。さらに、各専
攻・コースに人事についての事実上の選任権があることがその「タコツボ」的状況を一層
強め、その結果、学部全体の改革に関して総論には賛成しつつ、自分の専攻・コースにつ
いては各論反対となって、結局、改革がなかなか進行しないことにもなる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
管理運営の制度そのものについては特に手直しする必要はないと思われるが、今後は専
攻・コースの個別的な利害を超えた、学部全体を眺望する広い視野からの自由な討論の場
を確保する必要がますます増大するはずで、その意味では将来構想委員会の機能をさらに
強化し、学部全体でもっと自由に議論する雰囲気をつくらなければならないだろう。また、
近年、諸課題をスピーディに解決したり、意思決定をしたりしなければならない案件が増
大していることから、学部長の権限も現在のような利害調整型のそれから脱皮したものへ
と強化することも検討されなければならない。さらに、教員人事のありようも、今日では
古色蒼然たる学問の仕切りを墨守することに流れ、学部全体の新しい展開を阻害する弊害
の方が顕著になりつつある。したがって、本学部の学問全体のありようをもう一度問い直
す作業と連動させつつ、まずは人事選考のありようをなんらかのかたちで刷新し、大胆な
人事を行うように努め、その結果として旧来の専攻・コースの仕切りが徐々に開放され、
管理運営体制の方もおのずから改善されてゆくという道筋が考えられよう。
9
事務組織
【現状の説明】
現在、文学部事務室には学務と教務の2つのグループが設置されている。学務グループ
は聴講生、学部給付奨学金、教育補助、入試、一般庶務および予算等に関する業務を、教
務グループは授業、資格課程、学部試験、学籍管理等に関する業務を担当する。また、両
グループ共通の業務として、学部企画、学生の国際交流、課外講座、父母との連絡、各種
会議がある。
【点検・評価】
本学部はもともとの文学科・史学科・哲学科に後から社会学科および教育学科を設置し
た経緯があり、その相互の利害調整に腐心する局面が少なからずある。例えば、社会情報
学コースの場合には情報処理を駆使しなければならず、施設等の面で他の専攻・コースと
のバランスをとる必要に迫られる。心理学コースについても同様の問題がある。そのよう
な場合には特別のプロジェクト・チームを組織し、対応してきた。また、多種多様な授業
科目の設置、各種資格課程の充実、副専攻コースの設置等の実現にさいしても通常の業務
をこなしつつ対応し、学部の改革に貢献してきたと評価できる。
【長所と問題点】
332 第2章 学部
本学部では多くの懸案が専攻・コース単位で検討される。そのため、専攻・コースごと
の意思決定は比較的、迅速になされる。事務の執行に際しても、専攻・コースごとに対応
する限りではかなりスムーズである。しかしながら、学部全体の懸案事項となると統一感
を欠き、事務の執行についても煩雑かつ不合理な局面が露呈されることも少なくない。ま
た、多種多様な教育を必要とする専攻・コースの設置状況から、授業科目数と兼任講師の
数が多くなり、教室の確保も困難になっている。さらに、文学・哲学・史学系と社会・情
報・心理学系という、多くの点で両立しにくい学問系を抱えこんでいるために、情報機材
の充実、情報教育の運営にさいしては、他学部にはない専攻・コース間の利害調整を必要
とする。しかし、そのような多種多様な学科を取り揃えていることが本学部のまさに魅力
なのである。今後とも、事務組織はこの両輪の輪の潤滑油的な役割を果たすことが期待さ
れる。また、2002 年度入学生から改正される新カリキュラムに対応する教育事務システム
の変更、老朽化しつつある教育事務システム自体の更新、入試方法のさらなる多様化等、
課題が山積し、業務のさらなる増大が予想され、それにどう対応するのかが問題になって
いる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
事務職員の定員削減という厳しい状況のなか、入試の多様化や学生に対する各種サービ
スの充実等、事務量はむしろ増える傾向にある。それに対応しつつ、長期的な展望に立ち、
事務室は学部改革について必要な資料の提供、企画案作成の支援などの業務を行っていか
なければならない。大学全体の問題ではあるが適切な人員配置はもとより、専門知識保有
者の確保(委託等を含めて)等も今後、検討しなければならないだろう。事務室は学生と
教員との仲介役として教育内容の改善、学部と社会との仲介役として対外的な学部の魅力
のアピールや入試方法の改善などについて今後は各種委員会や教授会に対してもっと積極
的・有機的に機能することが求められよう。
10.自己点検・評価等
【現状の説明】
本学部では、1992 年に文学部研教審委員会において、教員・在学生アンケートを実施、
本学部の教育内容について大規模な自己点検・評価を行った。この結果を受けて外国語科
目・本学部共通科目を中心に大幅なカリキュラム改正を行い、その後の自己点検・評価を
それぞれ語学教育運営委員会、共通科目運営委員会に引き継いだ。また、併せて現在設置
されている 12 専攻・コースでは、各々の専任教員で構成する研究室会議において各専門分
野ごとの教育内容の点検・評価を続けてきた。こうした本学部における継続した自己点検・
評価の結果、各委員会・研究室会議から再び本学部全体の見直しが必要であるとの意見が
上がり、1998 年度から文学部研教審委員会において本学部カリキュラム再編と、かねてか
ら設置要望の声が強かった中国言語文化専攻の新設について検討を開始した。
新専攻設置にあたっては、1999 年 10 月に中国語を履修している学生を対象にアンケー
ト調査を実施し、授業編成の検討資料として活用した。検討の結果、2002 年度実施に向け
新カリキュラムおよび中国言語文化専攻の設置案を具体化することになった。
また、本学部ホームページによって教員の研究活動や本学部教育の詳細、在学生による
演習等の研究成果の発表等を行っている。また、本学部在学生を対象とした導入教育とし
333
て実施している専任教員によるシンポジウムの内容を報告集として発行して近隣の高校を
含む学内外へ提供しているほか、主に高校生を中心に公開講座を設けている。
【点検・評価
長所と問題点】
各専攻・コースにおける自己点検は、各研究室会議等で個別具体的な問題について恒常
的に行われているが、それぞれまとまった形で文章化はされていない。また、学生からの
評価についてもいくつかの専攻・コースにおいて独自に試みられているが、個別具体的な
問題については毎学年度始めに修正されたり補正されたりして実施に移されている内容が
少なくない。本学部全体として上記の2点を総合して文章化し、各専攻・コースまたは教
授会で審議したことはない。
しかし、長年にわたり積み残された問題や課題について、本学部では 1998 年度より将来
構想委員会を発足させ、カリキュラム・人事(教員定数)問題等について点検し、将来を
見据えた改革・改善を具体化し、教授会の承認を得たことは一歩前進したと言える。
また、将来構想委員会の発足後は、従来のいわゆる専攻コースのタコツボ的発想から抜
け出て、全学部的視野に立って問題解決や改善案を志向する傾向が、特に若い教員層から
出てきていることは大いに評価できよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学的な自己点検・評価の制度が確立されたので、本学部においても諸項目について定
期的に検討が行われる予定である。特に、上記将来構想委員会を中心として、教務委員会
や学部研教審等においても緊急な改善・改革のみならず、中長期的な改善・改革に向け恒
常的に検討することが必要である。
また、学生による授業評価や学部全体にかかわる改善・改革の意見も、学部として制度
的に取り入れる方法を決め、できる限り速やかに実施する必要があるであろう。
334 第2章 学部
総合政策学部
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
情報化を軸とするグローバリズムが、容赦なく社会に変容をもたらしている。この変容
は、社会構造の変化、学問の高度化と学際化、学生の知的感受性の変化といった大学の拠
って立つ基盤を揺るがし、再生へ向けた課題を鋭く突きつけている。こうした変容の意味
を問い、新しい指導原理をうち立て、従来にもまして有効な教育課程を設計し構築するこ
とが現在の日本の高等教育に求められている焦眉の課題である。
社会の高度化にともない人間の社会的関係が錯綜し、人間と社会が抱える問題が従来の
ディシプリン科学の枠組みに納まらず、それらの解決に既存のディシプリンを「総動員」
しなければならない時代になってきているという認識が広く受け入れられるようになって、
多くの大学に「総合政策学部」やそれに類似の名称をもつ「政策系学部」が設置されるよ
うになった。これが、少子化に向けた大学改組における一種の「流行」にすぎないのか、
それとも人類の未来を担う「学問体系」としてゆるぎない位置を占めるものとして成長す
るのかは、総合政策学部にかかわるすべての者にとって、きわめて重要な問いかけである。
人類はその発生以来、生存と種の維持のための長い闘いを通して知の体系を組み上げて
きた。人間の生の中核的営みである言語・生産・貨幣・規律は、文化、科学技術、経済、
法としてシステム化され、時代の変化に対応し、時代の変化を生み出す能力をもつディシ
プリンとして鍛え上げられてきている。情報化が言われ、グローバリゼーションがとめよ
うのない流れとされる中にあっても、人間の営みのありようが根源的に変化することには
ならないであろう。したがって、既存のディシプリンが無力化するということではなく、
既存のディシプリンの相互浸透がそれぞれのディシプリンの発展を促し、知の体系を組み
替えていくことになるはずである。現代はこのディシプリンの相互浸透過程が大きく進み、
ディシプリンが新たな対応を迫られている時代である。
本学部は、政策科学科と国際政策文化学科の2学科構成であるが、政策課題が、その根
底において価値観や文化に規定されていることを踏まえ、政策科学科はディシプリン諸科
学に、国際政策文化学科は文化諸学に軸足を置きつつ、2学科の協同によって理念の実体
化を図るものとなっている。
複雑化した社会で求められている知は、学際的課題で紡がれたディシプリンのネットワ
ークであり、ディシプリンに依拠しつつそれらを統合し構造化する体系である。学際性は、
実践的には、既存のディシプリンの周縁部分の拡大という接続的アプローチに依拠するも
のと位置づけられがちであるが、総合政策における学際性はディシプリンの根幹の再構築
を試みる新分野創出アプローチに他ならない。したがってそこでの教育は、法、経済、そ
して文化をそれぞれの歴史を踏まえて体系的に学ばせ、歴史観、人間観を涵養しつつ、問
題解決能力を支える専門性を身につけさせることが課題となる。
多様な価値観に通じ自在な適応力に満ち、自ら要求を組織して新たな秩序をつくり出せ
るような 21 世紀社会の担い手を世に送り出すことが、本学部の教育目標である。
【点検・評価
長所と問題点】
335
こうした学部の理念・目的は、設立後9年経過した今も変わりなく、時代の要請に応え
るものであるが、その実現の方法は教育研究の実践を通して拡散してきている。具体的に
は issue oriented な方法論と discipline oriented な方法論への分化である。issue
oriented な方法は、表面的な理解にとどまる傾向を助長し、discipline oriented な方法
は、既存の discipline に閉じ込め、学際性に目を向けない傾向をもたらす。方法論の違い
は学問観や理念理解の差異によるばかりでなく、研究と教育の関係に対する見方の違いを
も反映している。4年という限られた期間で全うされるべき学部教育における学際性と研
究における学際性は、その構造において自己相似といえようが、レベルの異なるものであ
る。そのギャップをどのように捉えるかは、学部の理念の実現性にかかわる問題といえよ
う。本来、この2つのアプローチを統合することが目的であったはずで、個々の教員によ
って異なる多様化した方法を相互に生かしあう環境づくりが必要となっている。
また、学際性を一般的に掲げることの問題点も指摘されている。限られた人的資源の中
で戦線を目いっぱい広げることで比較優位を保つことは困難であるという議論である。学
際性のもとでの差別化が実践的にどれほどの意味を持つのか検証が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専門性と総合性を4年間の教育課程で全うすることがどこまで可能なのか、まだ模索の
段階である。しかし、いくつかの異なる教育プログラムを試行しながら理念を生かす制度
設計をしていかねばならない。コース制の設置、6年制プログラムの導入など、具体的な
案が出され検討されている。
政策現場での研修など、理論を検証する場、自らを鍛える場が必要であるが、そのため
インターンシップの導入を急ぐべきである。
理念や目的を実体化するのは具体的な個々の教員の研究においてであり、日常的な教員
の研究交流を図る場の設定が必要である。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本学部は政策科学科と国際政策文化学科の2学科構成になっているが、学部の教育理念
を実現するために、学科単位の組織運営をしないばかりか、ディシプリンごとの教員クラ
スターをつくることもせず、すべての教員が学部内のあらゆる事柄に通じているようにす
ることが重要であると合意されてきた。異なる学問分野の異なる文化を踏まえた運営が、
学際的学部が機能するキーポイントである。
【点検・評価
長所と問題点】
学科の枠を取り払った運営は、教員が個々の経験を通して学部の姿を捉える傾向を生み、
現状に対する認識の共有化を困難なものにしている。したがって教育上の課題に全体とし
て取り組むというよりは個別的努力に解消されている。限られた教員定員(基礎データ調
書
表 10 参照)では、学問的なスペクトルが広ければ同じ分野の教員の数は少なくなり、
互いの研究に対する理解が困難になる。一つの分野に何人かの教員がいるようでなければ
厳しい相互批判は生まれない。相互批判が可能であり、しかも他分野から学べるようなス
ペクトルの広がりのある組織であるためのミニマムサイズを満たしているのか、あるいは
適正な分野配置が行われているのかは、重要なチェックポイントである。現実には、教育
336 第2章 学部
研究組織のサイズは経営上の制約を受けることになるが、学部の理念・目的の実現を果た
す上で必要な分野配置の戦略的合意が得られているとはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新学部設立によって条件づけられた、教員における高齢者の比重の大きい構成(基礎デ
ータ調書
表 14 参照)は、世代のスムーズな交代を困難にしている。これをあらため、学
部をダイナミックに担っていける活力ある組織にする人事政策が急務である。
学部・学科・大学院研究科・研究所といった教育研究組織は、教育と研究が生活の中心
にあり、厳しい相互批判のもとで活発な活動が展開されるような組織でなければならない。
専門性を異にする集団は、互いを十分評価できないことから来る甘さや無関心に流されや
すい側面を持っている反面、構成員が研究の新しい領域を拡大する機会に恵まれていると
いうことでもある。その優位性を生かす工夫と待遇上の措置を含めた共同研究環境の整備
が求められる。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
学部・学科等の教育課程
【現状の説明】
本学部には、学校教育法 52 条、大学設置基準 19 条の条文の理念を実現すべく、政策科
学科と国際政策文化学科が設置されているが、今日の政策課題は、人間の生活に根ざす文
化と深い関わりをもつとの認識のもとに、政策科学科と国際政策文化学科を共通の枠組み
で運営し、授業科目を相互に履修可能とし、学生が広く学問分野にかかわれるように配慮
されている。1年次においては現代社会の課題とのかかわりにおいて学問の意味論を講義
し、学問の力と課題を理解させ、学習意欲を育成する導入科目群を置いている。これは政
策担当者にとって必須の、高い倫理観を育て、広い視野と豊かな人間性を養うものでもあ
る。ついでディシプリンの基本と問題構成の方法を学ぶ基幹専門科目群と、それらを基礎
に新たに展開しつつある学問領域を学ぶ先端学際科目群を設け、さらに3・4年次には事例
研究によって現代の複合的テーマに取り組み、問題発見・問題解決能力を養う。こうした
ディシプリン横断型の科目群を、政治・行政、法律、経営・経済、アジア社会研究、比較
文化の5つのコースに編成し、そこから主専攻、副専攻を選ばせ、専門性と総合性をあわ
せて身につけさせる複合型カリキュラム構成をとっている。本学部におけるカリキュラム
は、ディシプリンに依拠しつつ、時代の課題とのかかわりで体系化されたものであり、先
端学際科目群は不変なものとして捉えるべきものではない。
また、時代に生きる基礎能力としての情報処理・外国語運用能力を重視し、情報の受発
信・構築・処理・分析のリテラシーとシミュレーション技法の修得、外国語によるコミュ
ニケーション能力の育成を現代社会の必須条件として、情報リテラシーと外国語を必修に
している。英語表現能力〔TOEFL
500 点(Computer-Based TOEFL
173 点)、TOEIC
650
点を2年生までに達成することが進級条件〕を基礎に、練達した英語運用能力を身につけ
る道とあわせて、英語以外の外国語を修得する道も用意されている。なお、各科目群の単
位数と配当科目は学年進行にあわせ設定されている。
本学部の教育理念から、開設授業科目は政策科学科では、198 科目、国際政策文化学科
337
では、197 科目におよび、卒業所要総単位数は、政策科学科、国際政策文化学科ともに 136
単位である。この中での科目配分は、政策科学科では基礎科目群から 48 単位、基幹科目群
から 50(主専攻 34 単位、副専攻 16 単位)単位、応用科目群から 12 単位、国際政策文化
学科では基礎科目群から 60 単位、基幹科目群から 50(主専攻 34 単位、副専攻 16 単位)
単位、応用科目群から 12 単位となっており、外国語科目群と情報処理科目群の一部を除い
て、すべて選択必修となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
複数のディシプリンを学ぶという方針は、実践的には容易ではなく、ややもすると表面
的な学習に終始し、専門性が身につかないという結果を招く。特に学生の自己責任を求め
る、必修を置かないカリキュラム体系(情報処理科目と外国語科目を除く)は、高等学校
における科目選択性の進展と相俟って、体系的な学習を構想し得ない学生群を生み出して
いる。学部の理念を体現する学生を育てる観点から、基幹科目を定め、これを必修にする
べきという意見がある一方で、多様な学生を育てることが学部理念の実現であり、選択制
こそがその保証であるという考え方もあり、議論は収斂していない。
卒業所要単位数における基礎、専門、外国語、情報科目の量的配分は、必修を置かない
カリキュラム体系ではあるが、それぞれの科目群で定められた単位数のため、バランスの
よい履修ができるようになっている。
一方情報処理科目と外国語科目は、これまで全員がミニマムを超えることに重点を置き、
一定の成果をあげてきたが、社会の環境が大きく変わろうとしているなかで見直しが求め
られている。情報科目については、高等学校における情報処理科目の必修化をうけて、必
修の見直しを含む内容の再編を準備すべきであり、急激に変化している情報環境への対応
を迅速に図れるような工夫が必要である。外国語科目については、社会における外国語運
用ミニマムが引き上げられてきており、学部の基準を維持するだけではすまない状況が生
まれている。専門に関するコミュニケーション能力を身につけさせる多様なプログラムを
用意すべきであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
カリキュラムを改変することは、授業を担当する教員の専門性、教員数、社会や学生の
要望などを視野に入れねばならないが、基幹科目の必修化や、国際政策文化学科を2つの
コース(国際政策コース・政策文化コース)に分け、国際政策コースは英語による授業を
取り入れるなどの改変にも積極的に対応していくべきであろう。
3−(1)− ②
カリキュラムにおける高・大の接続
【現状の説明】
学生が後期中等教育から高等教育へ円滑に移行できるような教育指導上の配慮につい
ては、学部として制度化しておらず、学生自身による勉強にゆだねてきている。
【点検・評価
長所と問題点】
学部理念の理解に欠けたまま大学生活をスタートさせる学生の数が多く見られることか
ら、今年度から単位とはならないが、「総合政策講座」を開設し、教員が、「総合政策とは
何か」を語る連続講演会を行うことにした。受講した新入生は3割程度であったが、受講し
た学生たちのその後の積極的な学習態度は、こうした企画の重要性を示している。受講し
338 第2章 学部
た上級生が、勉強の方向性がつかめたと語っていることも、いまのカリキュラム体系が羅
針盤のないものであることを示唆しているといえよう。
必修を置かない現在のカリキュラム体系のもとでは、学生の自己責任に帰するだけでは
ない体制が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基礎演習が1年後期から開講となっているので、主専攻ごとにカリキュラム相談員を置
くなど、教員による指導体制を考慮すべきである。
3−(1)− ③
履修科目の区分
【現状の説明】
カリキュラム編成における、必修・選択の量的配分については、学生の自己責任を期待
して基幹科目群に必修を置かないシステムをとってきたが、学部の理念を支える基幹科目
を取らない学生も出てきている。
【点検・評価
長所と問題点】
学生が自身の将来設計を必ずしもつかみきれないまま、学年を進行しており、進路に見
合った履修モデルをフレームアップし、さまざまな可能性を育みながら、収斂する先につ
いても明らかにしておく必要があろう。現在のカリキュラムや履修システムは、可能性だ
けを語り続けているに過ぎず、その意味では、期待を膨らませる上での役割を果たしてい
るが、成果に責任を負っているかどうかの厳しい検討が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の知的感受性の変化をどう位置づけるかで対応が異なるが、自由な個性を育て、あ
わせて確かな実力をつける教育方法や履修システムなどは、今後の検討課題である。
3−(1)− ④
授業形態と単位の関係
【現状の説明】
各授業科目の特徴・内容や履修形態との関係における、授業科目の単位計算方法につい
ては、現行カリキュラムでは一律2単位となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
そのため、前述のように開設授業科目は政策科学科では、198 科目、国際政策文化学科
では、197 科目におよび、学部のサイズに不適合な科目数となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基幹科目はディスカッションセッションや演習と組み合わせ6−8単位とし、先端学際
科目群は1−2単位とするなど、異なる単位を持つ科目を組み合わせ、学部の理念を損な
わずに科目数を減らし、学生が集中して考える時間を持てるように配慮すべきであろう。
3−(1)− ⑤
単位互換・単位認定等
【現状の説明】
国内外の大学等との単位互換方法は、現在、教授会の定める基準に基づき運用されてい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
339
大学以外の教育施設等での学修や入学前の既修得単位の単位認定については、現在行っ
ていない。
卒業所要総単位中、自大学・学部・学科等による認定単位数の割合については、国外留
学に伴う単位互換、他学部履修ともに 30 単位を限度として単位認定しており、卒業所要総
単位に比して妥当と考える。学部教育のアイデンティティーを確保する上でも、他学部履
修単位数などには上限を設けざるを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度からは、全学的にUCTS(UMAP単位互換計画)による単位互換方式が導
入される。
3−(1)− ⑥
開設授業科目における専・兼比率等
【現状の説明】
現状では、外国語にかかわる授業科目について、少人数教育(1クラス 20 名以下)を
実施しているため、兼任教員が大きな比重を占めている。
【点検・評価
長所と問題点】
これは、英語教育に重点を置いていて単位数を多くしていることと、英語以外の外国語
の専任教員を揃えることが困難なためである。外国語以外の科目についても、本学部の特
殊性から多様な科目を提供せねばならず、兼任教員の比率は、小さくはない(基礎データ
調書
表 10 参照)。
兼任教員の教育課程への関与については、多数の兼任教員に学部の主要・関連科目を任
せるのは望ましいことではない。主要科目やその関連科目は専任教員が一貫した教育計画
に基づいて行い、専任教員を揃えることの比較的困難な特殊な科目を中心に兼任教員によ
る教育を図るべきだからである。
(1)現在の専任教員の授業の負担を増し、科目も整理し数を減らすことによって、兼任教
員を減らすこと、(2)新任教員の採用にあたって、自己の専門とする科目以外にも、幅広く
周辺領域を担当可能な者を補充することが望ましい。
科目名とそれに対応する内容は、担当教員によっては、微妙に異なる場合が一般的であ
る。兼任教員が多い場合は、多様な授業を提示することができるとともに、授業内容が重
複する場合もあり得る。また、兼任教員の素質は一般的に言って、採用時の審査の基準か
らも言えるが、必ずしも専任の水準まで到達していないこともある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
英語のように兼任教員が多数の場合には、教育のあるべき方向や内容について、定めら
れた本学部の教育方針に基づいて、専任教員が全体を統率し、成果をあげる必要がある。
また、成果を具体的に把握するための方法の開発も重要である。
一般の科目の場合でも、兼任教員から、本学部の授業単位数では不足で体系的な教育に
差し障りがあるとの指摘を受ける場合も多い。これは社会学や社会心理学などの基礎科目
についても顕著である。この点については、現行の2単位を通年4単位の科目に変更する
ことを含め、カリキュラム改革時に検討を要する。
3−(1)− ⑦
340 第2章 学部
生涯学習への対応
【現状の説明】
政策科学科におけるフレックス・コースは、生涯学習への対応の一つとして、社会人教
育を念頭においたものである。
【点検・評価
長所と問題点】
しかしながら、多摩キャンパスの立地上の問題もあり、現実には多くの社会人を迎え入
れるには至っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
労働経験のある社会人はさまざまな点で学生に刺激を与え、社会に開かれた大学へ導く
役割を果たすなど、高等教育に新しい風を吹き込むものとして、今後受け入れ態勢の整備
へ向けた工夫がなされるべきであろう。
3−(2)
教育方法とその改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
学部設立以来実施していた授業評価アンケート(結果の非公開)の見直しを図り、2000
年 10 月に新たな内容による授業評価アンケート(結果の公開)を実施した。初回は回答率
が低かったが、学生の意見を聴取し、実施方法の改善を図った結果、2回目の回答率は
90.7%に上昇し、回答内容も充実した。現在のアンケート調査方法は適切と思われるが、
アンケート項目については、教授会の合意が得られた項目から順次実施し、その調査結果
の分析に基づいて継続と改善を計画する。最も重要な課題は調査結果を生かす方法であり、
その点についても検討を要する。
【点検・評価
長所と問題点】
上述した学生による授業評価は授業の良し悪しについての評価であり、教育効果の測定
にはなっていない。教育効果は成績によって測定できるが、大学における慣習として絶対
評価が定着していて、評価基準が教員に任されている現状がある。学生の成績評価に対す
る苦情の多くは、評価基準が明らかでないというところにある。そのため、すべての科目
の成績分布を公開することにした。これによって学生が教員の評価基準をデータによって
跡づけることができるようになり、幾分透明性が増した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果の測定は、日常的に行われ、毎回の授業に生かされるものでなければならない。
そうした仕掛けは今のところ教員任せであり、小テスト、演習などによって、学生の理解
度をチェックしながら進んでいる授業もある。しかし、多人数の授業では、学生の理解度
を確かめることはむずかしく、小テスト、宿題などを評価するTAを導入するなどの措置
がない限り、改善はおぼつかない。
卒業生の進路状況は、事務職および一般職の、正規雇用から契約・派遣社員への移行と
いう社会的状況にありながら順調である。2000 年度の就職決定率は、就職希望者の 96.8%
である。特に、女子の就職決定率が 97.1%と高く、就職を希望し、事前の準備を行えば、
ほとんどの学生が就職できている。
業種別の就職先は、情報サービス業、金融・保険業、卸・小売業の順となっており、時
代を反映して、情報サービス業が首位で、32.2%を占めている。就職先職種分布から学部
341
の特徴を見出すことは困難である。
表1
2000 年度
就職決定状況
総合政策学部
卒業生数(人)
就職希望者数(人)
就職決定者数(人)
就職決定率(%)
全学部合計
288
144
189
102
183
99
96.8
97.1
6,860
1,987
3,976
1,267
3,854
1,228
96.9
96.9
(注)下段は女子内数
また、国家公務員Ⅰ種、国家公務員Ⅱ種、地方公務員ともに、ようやく合格者を出すよ
うになったものの、学部創設時に期待された状況からは程遠く、今後適切な指導が必要と
なろう。
表2
2000 年度
就職決定状況(規模別)
総合政策学部
大 規 模
中 規 模
小 規 模
公 務 員
(注)
教
員
合
計
(単位:人)
全学部合計
99
51
44
22
31
20
9
6
0
0
183
99
2,085
618
739
249
725
280
278
73
27
8
3,854
1,228
下段は女子内数。大規模は従業員 500 人以上、中規模は 100∼499 人、小規模は 100 人未満の企業。
一方大学院進学者は 10%前後で、なかには海外を含む他大学の大学院へ進学するものも
いる。
こうした就職・進学の成果の反面、留年者が 30%程度いる。この中には海外留学のため
の卒業延長者もかなり含まれるが、4年間で進路をつかみきれない学生を生み出している
のも事実である。教育における学際性のメッセージを消化しきれない学生に対する対策が
求められている。学部教育の学際性を踏まえた専門性を身につけるよう大学院への進学を
もっと奨励し、大学院の重点化を視野に入れた議論が必要かもしれない。
3−(2)− ②
厳格な成績評価の仕組み
【現状の説明】
カリキュラムにおける履修科目登録の上限設定とその運用については1つの授業につ
342 第2章 学部
いて3時間の自習を考慮したときに取りうる最大の科目数を上限としており、特段の問題
はないと思われる。アンケート調査の結果によれば学生の関心が最も高いのは、成績評価
法・成績評価基準である。学生の要望は「自分の成績評価について説明して欲しい」とい
うことであり、成績評価方法の適切化のため、科目別成績分布表と成績評価基準、試験問
題、レポートの課題を公開している。
【点検・評価
長所と問題点】
しかし、絶対評価、相対評価は教員によってまちまちであり、統一的な基準は定められ
ていない。絶対評価法をとる教員の中には、履修者全員にAを与える者もいて、すべての
学生が教員の定めたレベルより高いとするのであるが、それはレベルが適当でないことを
物語るもので、言い訳に過ぎない。より高いレベルを目指す意欲を育てるものでなければ
ならない。しかし、合意は難しく、授業が聖域になっている状況の打破が求められている。
3年生から始まる事例研究は、導入科目群の定められた単位数を取り、TOEFL 500 点
(Computer-Based TOEFL 173 点)を取らなければ受講できないが、取得した単位数のみを
問題にしており、その成績については不問である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各年次および卒業時の学生の質を保証するために、政策系学部の統一卒業試験を他大学
の政策系学部に提案しているが、具体化にはいたっていない。学部独自では、卒業論文発
表会なども提案されたが、教授会で認められなかった。したがって、学生の質を保証する
システマティックな方策は今のところなく、各教員の努力を信頼するばかりである。
3−(2)− ③
履修指導
【現状の説明】
学生に対する履修指導は、これまでは1年前期から行われていた基礎ゼミでなされるこ
とになっていたが、基礎ゼミを1年後期から開講することにしたため、入学時の履修指導
として、2001 年度は、単位を付与しない『総合政策講座』を開催し、それぞれの教員の「総
合政策論」を通して、学部における勉強のあり方に関するメッセージを送った。これには
5分の1の新入生が参加したが、学生が知識に加えて、教員の考え方に強く関心を寄せて
いることがわかり、授業運営のあり方にヒントを与えるものであった。こうした企画を通
して、生きた履修指導がなされることになれば、学生の知的意欲も大きく伸びることにな
ると思われる。
【点検・評価
長所と問題点】
オフィスアワーは、学部創設時には制度として実施していたが、学生の授業時間との兼
ね合いで、教員が設定した時間に訪ねられないなど、制度として運用するには問題の多い
システムであり、現在は個々の教員と個別にアポイントメントをとることや、メールを利
用するバーチャルオフィスアワーで、実質が図られている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
留年者に対する指導は事務職員が個別に行っているだけである。教員による学生指導を、
履修指導を含め、より一層充実させる必要があると思われる。
343
3−(2)− ④
教育改善への組織的な取り組み
【現状の説明】
学生の学修の活性化は、最近の学生の知的感受性の低下と相俟って大きな問題である。
知的好奇心を大きく育てる教育方法を模索している教員も多くいるが、アイデアを交換す
るにいたっておらず、共有しうるものが育っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
FD活動として自覚的な取り組みがなされているわけではない。多くの教員はFDをフ
ロッピーディスクと取り違えている状況である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育指導方法の改善に対して中心的な役割を果たすのは学生による授業評価アンケー
ト調査である。授業評価とは別に学生の苦情・関心・示唆等を集めて、FD活動に対する
改善策を検討し、適宜学生に報告することとしている。
その事例の一つは休講問題である。アンケート調査の分析により、問題は休講が多いこ
とではなく、休講の情報が足りないことであることが分かった。特に出校後にしかわから
ない休講情報が問題であるから、休講情報をホームページに載せることにした。
また、本学部のシラバスについては、デジタルキャンパス構想の一環として、従来の紙
ベースではなく、
「電子シラバス」として、インターネット上で電子媒体によって学生に提
供されている。
これにより、印刷にかかわる時間的なものを含めた事務的コストは軽減し、携帯に不向
きであった冊子体から、必要頁だけをプリントアウトする利用方法への変更によって利便
性は向上した。しかしながら、当初の構想では、適宜教員がシラバスの内容のメンテナン
スを行うこととしていたが、その点については十分な対応がなされているとはいえず、運
用についての改善の余地がある。
3−(2)− ⑤
授業形態と授業方法の関係
【現状の説明】
少人数教育は、今のところ外国語教育を中心に行われているにとどまり、多くは大人数
教育である。少人数教育では、学生の主体的な参加が得られやすいが、大人数教育での授
業方法は旧態依然で、学生参加を可能にする方法が開発されているわけではない。
一部にはメーリングリストによって、学生の疑問と教員の答えを共有し、成果をあげて
いるものもあるが、すべての教員がメールを使いこなしているわけでもなく、また、学生
が積極的に質問をメールで流すわけでもなく、これからも試行錯誤を続けていかなければ
ならない。シラバス、テキスト、練習問題、小テストなどがひとつになったコースウェア
の開発も考えられるが、教員一人ひとりにカスタマイズする必要もあり、まだ先が見えな
い。
情報環境と情報教育については、情報の受発信・構築・処理・分析のリテラシーとシミ
ュレーション技法の修得のために各種の情報処理機器を設置している。デスクトップ型P
Cとしてリテラシー集合教育用の3つの演習室へ 267 台、特化型教育用として 20 台、さら
にゼミ室での利用を考えた無線LAN型ノートPC40 台の合計約 320 台がほぼ同一の利用
空間で使用できる。これらの機器は、学生が学部棟内でいつでもどこでも使えることを目
344 第2章 学部
指し、年間を通して午前8時の開門から 23 時の閉門まで利用できる。なお、導入以来4年
を経過しているので、本年度末入れ替えを情報教育研究委員会で検討中である。
【点検・評価
長所と問題点】
近年、情報関連環境を取り巻く世界の動きは速く、技術の急速な進歩、急激な普及、超
低価格化の進行等々、教育方法との乖離が大きくなっている。このため、情報環境整備は、
情報関連科目以外の授業科目の情報化を重視したシステム構築の視点が重要であり、加え
て、一度更新したシステムをいかに陳腐化させず、かつ学生のニーズに合致したシステム
として維持していくかに努力と知恵を必要とする。情報関連科目に関しては、社会の動向
に即応して、随時必要に応じて改訂できるようにするべきである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
遠隔授業については今マルチメディア教室を準備中であり、外国語教育をはじめ、専門
教育でも外国と結んだ遠隔授業を予定している。単位認定などの詳細はこれから検討する
ことになっている。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本学部においては、国際化への対応として、TOEFL 500 点を2年次までに超えなければ、
3年次の必修科目を登録することができないというルールを定めている。
【点検・評価
長所と問題点】
授業科目にないものを履修条件にすることの是非に関する議論は続いているが、今日卒
業後の活躍の場は地球規模に広がっており、それに向けた準備がなされていることの重要
性は、議論の余地のないところである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2年次までに TOEFL500 点を超えた者には、3年次から英語のみで行う授業をいくつか
履修させることによって、専門性と結びついた英語運用能力を身につけさせる必要がある
と考えており、今後のカリキュラム改革の際にはぜひとも実現すべき課題のひとつである。
また、3年次から、半年ないし1年、国連機関など、海外の非営利組織においてインタ
ーンを行う、国際インターンシップの開設も日程に上っている。大学で学習したことを実
地で検証し、問題点を整理して、再び大学で学ぶという繰り返しが、これまでの大学に欠
けていたものであり、大学と社会・国際社会のギャップをこうして埋めることで、国際化
に対応しうる人材を養成することができよう。また、海外からの留学生を積極的に受け入
れ、学部そのものを国際化していく必要もある。
研究に関しては、在外研究制度によって、5∼7年に1度の割合で授業を離れて研究に
専念することができるが、これがどこまで機能していたかは、検証の必要がある。研究者
招聘制度をもっと活用し、共同研究を進めるだけでなく、同時に教壇に立ってもらうなど、
積極的な運用を図る必要がある。
表3
年次別在外研究者
研究期間
(人数)
1997
1998
1999
2000
2001
345
在外研究
3
3
1
2
2
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
既存の学部より認知度の点でハンディキャップを持つことから、潜在能力があり、知的
好奇心の旺盛な学生を募集するため、以下のような方法がとられている。全学パンフレッ
トにおける学部案内の記載内容を工夫するほかに、学部学生が主体的に内容や制作にまで
関与する学部ガイドを配布したり、教職員が直接高等学校に出向いて「総合政策学部とは
どのような学部か」を説明する機会を設けたり、大学のオープンキャンパスなどを利用し
た模擬講義などでこの学部の積極的な広報活動を行っている。
また、入学者選抜方法については、学部独自で作問している一般入試に加え、センター
単独入試、センター試験と一般入試問題の併用入試、特別入試(指定校推薦入試、自己推
薦入試の Basic Entry 方式・Admission Seminar 方式)、留学生入試等多様な入試方法をと
っている。一般入試は客観テストによる実力本位の評価方法で、高校における勉強ぶりを
評価する。センター入試は、多くの科目を満遍なく勉強している学生を入学させるためで
あり、自己推薦入試、アドミッション入試は、それぞれ特色ある、活力ある学生を受け入
れるためのものである。指定校推薦入試は、指導力のある優れた学生を確保する道である。
自己推薦入学試験
表4−①<BE方式>
第 1 次選考(書類選考)
学科・コース
志願者
男子 女子
第 2 次選考(小論文および面接試験)
1 次合格者
計
男子 女子
2 次志願者
計
男子 女子
2 次受験者
計
男子 女子
2 次合格者
計
男子 女子
計
政策科学科フ
レックス A コ
17
31
48
6
14
20
6
11
17
6
10
16
4
8
12
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
21
76
97
6
34
40
6
33
39
5
30
35
3
21
24
38
107
145
12
48
60
12
44
56
11
40
51
7
29
36
ース
政策科学科フ
レックス B コ
ース
国際政策文化
学科
合
計
表4−②
学科
<AS方式>
第1次選考(小論文および面接試験)
志願者
1 次受験者
1 次合格者
男子 女子 計 男子 女子 計 男子 女子 計
政策科学科フ
レックス A コ
4
6
10
4
6
10
1
6
7
0
0
0
0
0
0
0
0
0
ース
政策科学科フ
レックス B コ
ース
346 第2章 学部
国際政策
4
14
18
4
14
18
2
9
11
8
20
28
8
20
28
3
15
18
文化学科
合
計
表4−③
Admission Seminar
エントリー者
99
招待者
参加者
84
82
特別出願認定者
29
表5 外国人留学生入学試験
志願者
受験者
学科・コー
ス
男子 女子
計
男子 女子
政策科学
科フレッ
2
0
2
1
0
クス A コー
ス
合格者
男子 女子
計
計
1
1
0
1
国際政策
文化学科
3
2
5
3
1
4
1
1
2
合
5
2
7
4
1
5
2
1
3
計
センター入学試験
表6−①単独方式
志願者
学科
男子
女子
計
合格者
女子
男子
計
政策科学
科フレッ
クス A コー
ス
310
136
446
13
5
18
国際政策
文化学科
173
218
391
10
10
20
合
483
354
837
23
15
38
計
表9
表6−②
学科
併用方式
志願者
男子
女子
計
合格者
女子
男子
計
政策科学科フ
レックス A コ
94
51
145
17
12
29
ース
345
201
546
政策科学科フ
レックス B コ
ース
347
国際政策
文化学科
合
計
表7
197
318
515
63
84
147
542
519
1061
174
147
321
一般入学試験
志願者
学科
男子
女子
受験者
計
男子
女子
合格者
計
男子
女子
計
政策科学科フ
レックス A コ
ース
681
320
1,001
623
290
61
32
93
58
31
89
913
政策科学科フ
レックス B コ
ース
国際政策
360
457
817
331
413
744
71
77
148
1,041
777
1,818
954
703
1,657
190
140
330
文化学科
合
計
【点検・評価
長所と問題点】
入学後の成長は、知的好奇心の旺盛な学生に見られることが多く、基本的な知識を身に
つけていれば大学入学は差し支えないとする考え方と、偏差値こそが成長のバロメータと
する考え方があり、必ずしも一致した理念のもとで、多様な入試制度が運営されているわ
けではない。アドミッションセミナー入試は、2日間に渡る模擬授業を受けさせて、評価
するものであるが、高校生からは「じっくり評価してもらえる」と大変評判がよいが、そ
のぶん手間もかかり、教員の評価は半ばしている。
多様な入試方式を持ちながらも、学生の出身地が首都圏に偏る傾向がある。全国から集
める意義は、それだけ個性の違った学生が期待でき、豊かな学生集団を形成できる可能性
が高いからである。首都圏偏重の是正に向けて、指定校の対象校を東北5県(青森、岩手、
宮城、秋田、山形)、広島、福岡に広げた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多彩な人材を集める目的で設けられた多様な入試方法であるが、限られた教職員数で執
行することから教員の負担はかなり重い。今後は入試方式を外注化するなど工夫すること
によって、多様な経験や潜在能力のある学生を多く受け入れ、学部教育を通して学生を鍛
える方向への転換を図るべきである。
4−(2)
入学者受け入れ方針等
【現状の説明】
何事に対しても積極的で学習意欲のある学生を受け入れることが基本方針である。その
他に、外国居住を含めた経験、高校3年生までのボランティアを含む学習以外の各種活動、
スポーツ等の成績など、特筆すべきさまざまな活動経験を持った学生を受け入れる。その
348 第2章 学部
ことによって学生が相互に資質を高め合う環境がつくり出せる仕組みづくりを工夫してい
る。本学部は、多様な文化を許容し合い、弾力的な発想や広角的な視野を身につけさせる
ことを目標にしている。講義以外の時間でも学生相互に交流し合うことによって学生達が
自ら資質を向上させる機会を多く持つことを狙っている。そのために、多様な入学者選抜
方法を導入している。
カリキュラムは学際性を軸に体系化されているので、多様な学生を受け入れるに十分で
ある。多くは、将来どのような道に進むかを決められないまま大学に進学しており、その
意味でも学部のカリキュラムの広がりは学生にとって大きな魅力のひとつになっている。
【点検・評価
長所と問題点】
それぞれの入試方法に関して、追跡調査によって学生の学習成果の比較を行っているが、
選抜方法ごとにいくつかの課題が摘出される。例えば、自己推薦など、面接重視の特別入
試で受け入れた学生にみられる語学の成績のバラツキなどの課題である。しかし学習意欲
の高い、特別入試、特に自己推薦入試の定員枠を拡大することの重要性は論を待たない。
そのために、新たに模擬授業によって理解力や表現力を直接観察評価できるよう工夫され
たアドミッションセミナー入試を導入した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多様な学生を受け入れることは、その分教員の負担を増大させる。限られた人員でこれ
ら入試業務を行うことの困難をどのように解消するか、今後の課題である。
4−(3)
入学者選抜の仕組み
【現状の説明】
入試形態として一般入学試験(外国語、基礎テストという共通科目のほかに歴史、数学、
小論文の3つの選択科目で3区分されている)、大学入試センター単独試験および大学入試
センター試験併用方式の他に、面接に力点を置き特別入試としてくくられる指定校推薦、
自己推薦、アドミッションセミナー入試、留学生入試といった多様な入試を設けている。
その理由は受け入れるべき学生の多様化を重視するからである。しかし、本学部が期待す
る学習能力を考え、面接を工夫して英語能力の評価にかなり力点を置いた選抜を心がけて
いる。その他、なるべく潜在能力の高い学生を受け入れるために面接に工夫をこらしてい
る。
また、入学者の選抜基準について学部ガイド等を通じて配点、内容の解説を増やしたり
して、透明性を高めるように努めている。入学試験は合格者数で言うと、一般入学試験が
最も多く、次いで大学入学センター試験の併用、大学センター入試試験の単独試験、付属
校推薦、自己推薦、学校推薦、スポーツ推薦等の構成になっている。
【点検・評価
長所と問題点】
このように、多様な能力を持った学生を多様な入試で、受け入れているが、入試にかか
わる業務が多く、しかも限られた教職員で業務をこなさなくてはならないため、負担が重
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
したがって、省力化できることは外注化を含めて早急に検討しなくてはならない。
349
4−(4)
入学者選抜方法の検証
【現状の説明】
入試の作問の方針や内容の検討等については主査を選び、主査のもとで会合を重ね、誤
りや偏りがないように努めている。また、各設問について担当者が相互にチェックする機
会が何回か設けられている。ある面では教員が学生に求めている能力がメッセージとして
学生に伝わるような内容の問題の比重が高くなるように工夫もしている。毎年、成績のデ
ータ分析を行い、試験問題の適切性をチェックしている。
【点検・評価
長所と問題点】
特に一般入試の3方式は、基礎テストと外国語を必須科目とし、歴史、数学、小論文を
選択科目としているが、作問に携わる教員の数に限りがあるためかなり特定の教員に負担
がかかっている。知識を見るようなテストに関しては外注化の工夫が必要であろう。自己
推薦入試についてはあらかじめ小論文を書かせているが、短時間の面接で学生の潜在能力
を見極めることが十分にできているかどうか、少し検討する必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
その点でアドミッションセミナー入試は小論文のほかにプレゼンテーション能力や論
理的思考能力や敏速な理解力などを2日間にかけて評価できるが、それに携わる教員の負
担は重い。学生の評価にあたってペーパーテストだけではなく、多様な面から評価できる
点で昨年から始めたが、今後この入試の比重を高めていく必要があるように思う。
4−(5)
定員管理
【現状の説明】
在籍学生数と学生収容定員との比率は 1.16 倍に抑えられている。
【点検・評価、長所と問題点】
この比率は、教育条件としては良好であるが、経営上の困難をどう克服するかが今後の
問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部の理念を実現する上では、在籍教員の専門分野におけるスペクトルを広くとりたい
が、一方で学生定員を拡大することには慎重にならざるを得ず、現状では解決策が見出せ
ない状況である。
4−(6)
編入学者、退学者
【現状の説明】
退学者は1年生では進路変更型退学者が、3・4年生では学業怠学型退学者となってお
り、例年 10 名未満である。
【点検・評価
長所と問題点】
この数字は、1,000 人の在籍学生に対して問題となるものとは考えられない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
しかしながら、退学者を少しでも減らすべく、教職員による緻密な履修相談ないしは指
導を継続していかなければならないと考えている。
350 第2章 学部
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
学部の理念等については、必ずしも、コンセンサスを得ていない。あらゆる学問は分析
と総合を基本にしているが、本学部ではさらに学問全体として専門性のある「総合」が求
められている。それは「学際的・総合的」な専門科目として講義されるべきものである。
主要な授業科目にはおおむね専任教員が配置されているが、一部の科目については、兼任
教員に依頼しているものもある。また、基幹科目について、専任の担当をどのように配置
するかについて、カリキュラム委員会で検討する必要があろう。
【点検・評価
長所と問題点】
教員組織における専任教員、兼任教員の比率(「基礎データ調書
表 10」参照)の適切
性については、前述のとおりである。
本学部の「総合性」に関して積極的に研究を行っている教員は少なく、大部分は既存の
学問領域において研究成果をあげてきた教員によって占められている。また、その年齢は
40 歳代以上で、50 歳代、60 歳代がその中心になっている(「基礎データ調書
表 14」参照)。
困難なことではあるが、今後は 30 歳代で研究成果をあげ、将来性のある教員の採用に力を
入れる必要がある。そのためには現在の教員でより研究成果をあげ、研究環境を改革し、
若手に魅力的な学部を創ることが必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学部では、「総合」や「政策と文化の融合」などを理念に掲げているが、その具体的
内容について、意見の一致が見られない。全体として具体的に議論する場や連絡調整は不
足しており、教員個人の間で折にふれて議論されている程度に留まっている。
5−(2)
教育研究支援職員
【現状の説明】
実験や実習をともなう教育の支援体制は、情報処理ではインストラクターを配置してお
り、講習会などで、授業についていけない学生のサポートを行うなど、一定の成果をあげ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
しかしながら、外国語では英語会話に留学生をアルバイトとして起用するといった状況
で、十分とはいえない。これに加えて、実験や実習をともなわない授業にあっても、授業
の情報化が求められており、授業内容のデジタル化をはじめとしてさまざまな支援を必要
としている教員が多数となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
広く教員の教育研究上のサポートを行う組織を立ち上げることは緊急の課題である。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に対する基準・手続
【現状の説明】
教員の募集・任免・昇格に対する基準や手続は、きわめて明確に本学部の人事諸内規に
よって確定されている。また、その運用についてもおおむね適切に行われてきた。本質的
351
に難しいのは、むしろ人材に関する情報や確保である。
【点検・評価
長所と問題点】
学部に所属する教員が定年時まで在職するという前提で、年次別の予定空きポストが想
定される。教員採用については、カリキュラム委員会がコア科目と認定したものを中心に、
コア科目の周辺領域も担当できる人材の確保を目指してきた。空きポストの従前の科目が
そのままで継続したり、その後任が必ずしも採用されるわけではない。これらの要請は守
られてきたし、今後も守られなければならない。
今まで、語学・文化、また政策の分野で専任教員人事案件が上程され、検討が行われて
きた。また、兼任教員や契約講師などの人事については、必要に応じかなり頻繁に委員会
が開かれている。また、特任教員採用の基準案件や人事・投票規則などを巡って、より十
全なものを目指して議論を重ねてきている。
業績審査委員にはできる限り学部教員全員が順当に担当するのが望ましい。また、採用
分野やその周辺を専門とする教員も参加するのが望ましい。ただ、候補者の推薦人は審査
委員候補に選定しないという「公平の原則」があるので、人事委員会が教授会に提案する
委員候補者の選定には困難もつきまとう。この点については、何かルールがあれば、透明
度が増すかも知れない。
人材の確保は最も重要でかつ困難なことである。どのような人材が
available な
のか、事前にデータベースを作成したらよいという意見がある。このような情報蓄積はほ
とんど進展がなかった。本人の意思が不明のままで、本人をリストに加えるのには問題が
あり、実際の人事を進めるかどうか不明のままで、本人の意思を問うわけにもいかない。
今後もこの種のデータベースの作成は困難ではあるまいか。
昇格人事は、本人の申請に対して、人事委員会が関係する分野の人事委員や教員の意見
などを聴取し、また、業績の他に年齢などのバランスを考慮して、人事をさらに進めるか
どうかを決定してきた。そしてその内容を申請者に伝えてきた。他の教員が本人に申請を
促すか、自主的に申請するか、いずれにしても申請がなければ、昇格人事は進まない。こ
の点、本人以外に申請できるよう規則を変える必要はないだろうか。
昇格人事の難しいのは、申請者が同僚の1人であることである。審査が甘くなってもい
けないし、バランスを欠いてもいけない。また、申請を当面は却下する際にも、理由を正
しく述べ、今後の見通しを与える必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
人事の進め方については、なによりも公正に透明に行ってきたつもりであるが、率直な
意見の交換や常に意思の疎通を図り、信頼関係を保つことが重要であると感ずる。
なお、教員選考手続は、公募制を原則としている。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
教育研究活動の評価方法については、一般的に、執筆された論文の有無によってある程
度の評価は可能であるが、その内容や水準については、Referee 制度のある雑誌に発表し
たか否かでおおむね評価され、次に Referee の程度が学術雑誌によって異なるから、学術
雑誌のランクによって、または具体的に内容を専門家によって判断することによって行わ
352 第2章 学部
れる。
【点検・評価
長所と問題点】
現在、Referee 雑誌に論文を出すという当然のことについても、そういう雑誌が存在し
ない分野があったり、そういう考えのない分野、また、それを逆に無視しようとする傾向
もあることを否定できない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では、執筆され発表された論文の有無や、学会・コンファレンスなどでの発表の有
無で判断するより仕方ない場合が多い。
表8
総合政策学部教員
発表論文数・出版数年次別表
1996
1997
1998
1999
2000
論文(英文)
14
19
9
11
16
論文(和文)
42
38
36
48
48
出版(英文)
2
0
0
3
0
出版(和文)
8
10
20
13
13
注)基礎データ調書「専任教員の研究業績一覧表」による。
学会における評価は、科学研究費の取得状況によっても見ることができる。科学研究費
の1次審査は学会から推薦された委員によって行われるので、レフリー雑誌を持たない分
野の研究も評価できるからである。科学研究費の採択率が 30%であることを考慮すると、
本学部における申請率・採択率ともに低く、研究面での奮起が必要である。
6.施設・設備等
6−(1)
施設・設備等の整備
【現状の説明】
学部の教室は、外国語教育、事例研究などの少人数教育用教室、60∼100 人規模の中教
室からなり、200 人以上の大教室は、他学部との共用である。中教室にはプレゼンテーシ
ョン設備が備えてあり、小教室にはテレビ受像機とDVDが置かれている。
教員の個人研究室を含め、すべての教室はインターネットにつながっており、ロビーな
どのフリースペースでも無線によってインターネットにつながるようになっている。情報
端末の置かれた3教室にはそれぞれ 80 台のPCが置かれ、情報リテラシー教育に利用され
ており、授業時間以外は自由に使えるようになっている。
事例研究をうけている3・4年次生がゼミごとに日常的に使える教室はない。
表9
用途別教室面積と諸設備一覧
収容人員
用 途 別 室 名
室数 総面積(㎡)
収容人員1人当たりの面積(㎡)
備
品
(総数)
情報処理学習施設(WS)
3
574
495
1.2
自習室(視聴覚教室施設)
1
191
80
2.4
ビ、L、教、ス、カ
353
演習室(語学学習施設)
13
667
390
1.7
ビ、L、カ
教員研究室
47
1,318
40
33.0
収容人員は、専任教員数
17
1,431
965
5.3
計
凡例:ビ(ビデオ)、L(レーザーディスク)、教(教材提示機)、ス(スライド)、カ(カセットレコーダー)
情報処理学習施設、自習室、教員研究室については、ネットワーク配線。学部棟内に無線LANのアクセスポイント
12カ所設置
【点検・評価
長所と問題点】
学部の理念、教育研究目的を実現するために少人数教育を柱にしており、少人数教室が
これを支えているが、現状では十分でない。したがって、セミナーが教員の個人研究室で
行われているケースがある。もちろん教員によっては、資料が身近にある個人研究室を好
む場合もあろうが、個人研究室のスペースを考えれば現実には多くの教員にとって無理で
ある。図書室にセミナー用のスペースを設けるなど、教育の場に資料を置く工夫が必要で
ある。確かにすべての教室と教員の個人研究室が情報ネットワークでつながれていて、イ
ンターネット上での資料へのアクセスはどこでも確保されているが、教育がすべてそうし
た情報ネットワーク上で行われるわけではないことを考えれば、多様な仕組みを提供する
必要がある。また、プレゼンテーション機能をもった教室の数が少なく、ビジュアル化を
含めた多様な教育方法への対応ができていない。またプレゼンテーション機能をもつ教室
にあっても、使いづらいという設計デザイン上の問題があり、授業の実際を踏まえた設備
設計をすべきである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業における多方向性を確保する上で、中教室の階段教室化は重要である。いわゆるソ
クラテス法を可能にする教室設計が授業を活性化させる条件の一つである。外国語教育に
おいては海外の大学との遠隔授業などを取り入れる必要があり、そのための設備を持った
教室の設置が急がれる。
7.社会貢献
7−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
学部の情報環境を利用して多摩地区の高校の教員を対象に、パソコン組み立て講座など
を開催したり、高校生の体験授業を受け入れたりしてきたが、いずれも単発的で組織的な
取り組みはしてこなかった。人的資源の確保を抜きに組織的な対応を進めることはできな
い。また、学部の多くの教員は、大学として全国的に展開している学術講演会に積極的に
参加し、研究成果を社会へ還元しようと努力している。学部の公開講座にあたるものとし
て、総合政策フォーラムを開催してきた。学部設立当初は活発に多様な課題に対して開催
されていたが、近年は共同研究を基礎とする継続的な体制を背景にするフォーラムだけが
開催されている。
教員個人の社会的貢献として、政府・自治体の審議会などでの活動や執筆活動を通して
広く社会へ発言する活動が挙げられる。
354 第2章 学部
【点検・評価
長所と問題点】
国や自治体の審議会活動は、個人の研究活動の成果を社会に問う活動であり、学部の評
価に直接・間接の影響を与えるものであることから、重視する必要があるが、そのために
学部の実務から逃げるということであっては、学部の運営が成り立たない。役割の分担に
関する公平な指針が必要になっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
長く続いている総合政策フォーラムの組織の仕方は、こうした活動が持続的に展開され
る条件として教訓的であるが、一方で、時々の重要課題に対してアドホックにフォーラム
をもてるような工夫も必要であり、そのためには、フォーラム運営委員会が主導的にプロ
グラムを設定するなど、個人をベースにするフォーラムを補完する役割を果たす必要があ
ると思われる。
8.管理運営
8−(1)
教授会
【現状の説明】
学部教授会のもとに、人事委員会、カリキュラム委員会、教務委員会、入試・広報委員
会、CD委員会、情報教育委員会、外国語教育委員会が置かれ、それぞれで関連する課題
が整理、議論され、教授会に報告されて審議されることになっている。こうして日常的な
学部運営を実体的に支えているのは委員会活動であり、事務組織のサポートのもとに、現
状では有効に機能していると評価できる。しかし、学部の将来構想を共有化して、それに
向かって、それぞれが仕事を組み立てていくというよりは、目先の課題だけを処理してい
るので、本来的な意味からは、不十分である。また教授会へほとんど出席しない教員に対
して、教授会がまったく無力であるというのもおかしなことである。管理主義的運営に道
を譲らないためにも教授会が学部運営の基礎であり、自主的な参加を原則としているから
こそ可能となるフリーライドであるということを理解し、アカデミズムを育てる自由を確
保する努力が求められている。
【点検・評価
長所と問題点】
教員の中に日常業務を分担する意識は低く、特定の教員に委員の分担が集中する一方で、
学部実務を回避する教員がいるという、ゆゆしき事態がある。公平に分担されていれば、
それ程の負担とはならないものでも、一部に集中する状況のもとで、真面目に受けている
教員の負担感は大きく、こうした状況を改善するための管理上の方策が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部にかかわる事項も、しばしば全学部の教授会や全学委員会との関係で、その進捗に
支障をきたすことがある。学部独自性の尊重と大学としての統一性を調整する役割は学部
長会議に委ねられているが、意思決定を迅速にする構造改革が必要である。
9.事務組織
9−(1)
事務組織と教学組織との関係
【現状の説明】
大学における事務組織に求められるものは、事業体の維持に必要な業務のほかに、教学
355
部門における教育研究のサポートと、法人部門における管理・運営のサポートである。
【点検・評価
長所と問題点】
一方、委員会組織における意思決定システムをとる大学における実質的なトップマネー
ジメントは、教学では教授会であり、法人では理事会である。そして、同様にミドルマネ
ージメントの担当機関は各種委員会であり、職員により構成された事務組織である。事務
組織と教学組織が車の両輪として大学を支えるが、学部事務組織は、教授会決定事項の処
理機構としての性格づけがなされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
しかし、改革を求められている大学にあって、的確な情報収集・分析能力を有し、学部
運営の政策立案に関与できる組織として位置づける時期にきている。
9―(2)
事務組織の役割
【現状の説明】
学部事務室は、学部長または学部内委員会委員長との協議に基づいて、情報収集・素案
の作成を行い、各種委員会に上程する。委員会は審議結果を教授会に提案し決定される。
【点検・評価
長所と問題点】
この教授会決定に基づき、学部事務室は業務執行を行うが、現状は全般的に待ちの姿勢
にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
事務組織が政策立案能力を身につけることが緊急の課題である。
10.自己点検・評価等
本項は、(1)自己点検・評価、(2)自己点検・評価に対する学外者による検証および
(3)評価結果の公表の3小項目から成るが、ここではこれらをまとめて記述することに
したい。
【現状の説明】
これまで自己点検・評価は個人に任され、組織としての自己点検・評価はしてこなかっ
た。
【点検・評価
長所と問題点】
1.知的活動に依拠する大学にあっては、あくまでも個人による自己点検・評価が基礎と
なるが、個人間の競争原理を抜きには機能しない。カリキュラムなどが個人ベースに組
み立てられている以上、指定席として、「甘さ」が入り込む余地がある。したがって組
織としての自己点検・評価もその「甘さ」を引きずる可能性がある。
2.組織としての自己点検・評価は改革プログラムとして結実することになろうが、その
意味では普段の運営において、常に学部の課題が明らかにされ、問題を克服する努力が
なされていればよい。しかし、主観的な問題解決では真の改革にはならないであろうか
ら、客観的な評価としての外部者の検証が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.自己点検・評価が実質化されうる人的管理上の仕掛けが緊急に必要である。
2.自己点検・評価の結果を基礎に、将来の発展に向けた改善・改革の合意形成、改善・
356 第2章 学部
改革を行うための組織は、今回の大学評価の結果を受けて検討したい。
3.今後外部評価を定期的に受け、これを学外に公表し、自らの改革への拘束条件とすべ
きである。
4.自己点検・評価結果の学内外への発信については、今回の大学評価と平行して、学部
独自の大学評価を取りまとめ、総合政策学部創立 10 周年事業の一つとして、国内外の
専門家集団による外部評価と、結果の公表を検討している。
357
教育職員養成課程等
本学には、各学部および各大学院研究科の教育課程を前提として、教育職員免許状を取
得するための資格を与える課程としての「教育職員養成課程」(通称『教職課程』)が開設
されている。また学部の教育課程を前提として、社会教育分野の専門職員の養成を目的と
する「学芸員課程」「社会教育主事課程」「図書館司書課程」(一括して通称『資格課程』)
が文学部に置かれている。「資格課程」は 2002 年度から全学規模で開設されることになっ
ている。したがって、本学の自己点検・評価に当たって、これらを「教育職員養成課程等」
という名称の下に報告する。
教育職員養成課程
1.理念・目的
【現状の説明】
教育職員養成課程(以下、教職課程と略称する場合もある。)は、大学が文部科学大臣の
認定を受けて、教員免許状を得させるための資格を修得させる課程である。1949 年5月 31
日に制定された教育職員免許法(以下、免許法という。)に基づき、本学の教職課程は 1950
年 10 月1日に開設された。以来、
「教育職員の資質の保持と向上を図ること」
(免許法、第
1条目的)を目指して懸命な努力を重ねてきた。教職課程の理念・目的は、この 50 数年に
わたり変化することはなかったが、時代状況の変化とそれにともなう社会的要請の変化に
対応して免許法の求める教育内容は大きく変化し、これに連動する形で教職課程のあり方
はその内実を変えてきたことは言うまでもない。
1998 年の「教育職員免許法の一部を改正する法律」は、
「一部の改正」とは言うものの、
すでに「教職課程として認定されている課程」も改めて認定を受け直さなければならない
ほどの大規模な改正であり、現在の教職課程は当然のことながらこの改正法の理念に基づ
いて運営されている。改正法が志向している教員養成の目的は、1997 年7月 28 日に出さ
れた教育職員養成審議会の第1次答申『新たな時代に向けた教員養成の改善方策について』
(以下、第1次答申という。)に明示されている。教員に求められている資質能力について
論じられている箇所においては、まず教員に求められる一般的な資質について述べ、それ
に続いて「今後特に教員に求められる具体的資質能力」として以下の3点が掲げられてい
る。 ――― 「未来に生きる子どもたちを育てる教員には、①地球や人類の在り方を自ら
考えるとともに、培った幅広い視野を教育活動に積極的に生かすことが求められる。さら
に、②教員という職業自体が社会的に高い人格・識見を求められる性質のものであること
から、教員は変化の時代に生きる社会人に必要な資質能力をも十分に兼ね備えていなけれ
ばならず、これを前提に、③当然のこととして、教職に直接関わる多様な資質能力を有す
ることが必要であると考える」(第1次答申、Ⅰの1の(2)、引用文中の数字は引用者に
よる。)、と。さらに、答申は一人ひとりの教員が「得意分野を持つ個性豊か」であること
をも求めている。もっとも、もとより大学における教職課程に対して、こうした資質にお
いて完成した教員を養成することを求めているわけではなく、教員の資質能力は養成・採
用・現職研修の各段階を経て、絶えずそれらの質的向上が目指されなければならないこと
358 第2章 学部
が確認されている。こうした漸進的向上というプロセスを念頭におくとき、大学における
教職課程の役割は自ずから限定されてくる。この点について答申は、次のように述べてい
る。 ――― 「教科指導、生活指導等に関する<最小限度必要な資質能力>(採用当初か
ら学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障を生じることなく
実践できる資質能力)を身に付けさせる」こと(第1次答申、Ⅰの2の(1))、と。
こうした要請を前提にした上で、本学における教職課程の理念・目的を言葉として別の表
現にしようとするならば、中央大学の建学の父祖達が掲げた理念である「実際の法運用に
優れ、かつ、<品性の陶冶された代言人>の育成」を引き受け、「教育実践に優れ、かつ、
<品性の陶冶された教育者>の育成」にあると言うことができよう。
【点検・評価
長所と問題点】
本学の建学の精神が「実学」にあることは、ここで繰り返し指摘するまでもなかろう。
単なる「実学」に終わることなく、広くまた深い「教養」に支えられた「実学」を体現し
た人材の育成こそ、果敢に本学の礎を築いた人々が口にした「品性の陶冶された代言人の
育成」という言葉に込められた願いであったと考える。今日日本における教員養成政策は、
少なくとも義務教育段階の教員については、教員養成という目的性を明確にした大学・学部
を中心にして整備・強化しようとする方向に動いている、といっても過言ではあるまい。教
員養成における「開放制」と目的養成制という考え方の対立は、戦後長く続いてきたきわ
めて調停することの困難な問題である。もちろん、現在の教員養成政策が明らかに目的大
学の整備・強化に傾斜しているといっても、開放制を全く否定しているわけではない。政策
への提言の中心的役割を演じている「国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談
会」は、
「開放制の趣旨からいって、さまざまな学部の卒業者が学校現場にいることは望ま
しいことであるが、教員養成学部に対しては、優秀な教員を養成し、教員就職率の向上や
シェアの拡大を図れるよう、努力することが求められる。」(2001 年 10 月 23 日、報告案)
と述べている。こうした動きの中にあって、本学の教職課程もその理念と目的を実現して
いくためには、教職課程のシステムの整備に努めるとともに教職教育を担っていることに
対する自覚と責任感を鮮明にしていかなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員養成を主たる目的としていない大学、いわゆる一般大学における教職課程の位置づ
けは、必ずしも明確ではない。本学における場合もその例外ではない。教職課程が大学の
なかでどのような位置に置かれているかということを常に、繰り返し意識化していかない
限り、本学の建学の精神にのっとった教員の育成はおぼつかないであろう。「自己点検・自
己評価」を機会に、本報告を通してその方向性を示唆できれば幸いである。
2.教育・運営組織
【現状の説明】
(1)現在、本学において教職課程を認定されている学部・学科ならびに大学院研究科・
専攻は次のとおりである。
359
表1
学部
学部
免許状教科
学科・専攻
中学免許
高校免許
社会
地理歴史、公民
中学1種
高校1種
社会
地理歴史、公民、商業
中学1種
高校1種
社会
地理歴史、公民、商業
中学1種
高校1種
数学科
数学
数学、情報
物理学科
数学、理科
数学、理科
工
土木工学科
数学
数学、工業
中学1種
高校1種
応用化学科
理科
理科、工業
経営システム工学科
数学
数学、工業
情報工学科
数学
数学、情報
国文学専攻
国語
国語
英米文学専攻
英語
英語
独文学専攻
ドイツ語、 ドイツ語、[英語]
仏文学専攻
フランス
中学1種
高校1種
法学部
高校教科
理
中学教科
免許状の種類
法律学科
国際企業関係法学科
政治学科
経 済学 部
経済学科
産業経済学科
国際経済学科
商
公共経済学科
経営学科
学
会計学科
部
商業・貿易科
金融学科
学
精密機械工学科
電気電子情報通信工学科
部
文学 科
フランス語、[英語]
語、[英語]
文
史学 科
日本史学専攻
東洋史学専攻
学
社会
地理歴史、公民
西洋史学専攻
部
哲学科
社会学 科
社会学コース
社会
地理歴史、公民、情報
社 会 [ 国
地理歴史、公民、[国
語][英語]
語][英語]
社会
地理歴史、公民
社会情報学コース
教育学 科
教育学コース
心理学コース
総合政策
政策科学科
社会
地理歴史、公民
学
国際政策文化学科
社会
地理歴史、公民
部
中学1種
注)1.学科・専攻欄の※印は1部・2部設置学科、無印は1部設置学科。
2.[
]は、他学科履修による習得可能免許状教科。
360 第2章 学部
高校1種
表2
大学院
免許状教科
研
究
科
専
免許状の種類
攻
中学教科
高校教科
中学免許
高校免許
中学専修
高校専修
中学専修
高校専修
中学専修
高校専修
中学専修
高校専修
中学専修
高校専修
公法専攻
民事法専攻
法
学
研 究 科
刑事法専攻
社会
公民
国際企業関係法専攻
英米法専攻
経
済
学
研
究
科
商学研究科
政治学専攻
社会
地理歴史、公民
経済学専攻
社会
地理歴史、公民
国際経済専攻
社会
公民
公共経済専攻
社会
公民
商学専攻
社会
商業
数学専攻
数学
数学
物理学専攻
理科
理科
土木工学専攻
理
研
工
究
学
科
工業
精密工学専攻
電気電子工学専攻
応用科学専攻
理科
理科
経営システム工学専攻
工業
情報工学専攻
国文学専攻
国語
国語
英文学専攻
英語
英語
独文学専攻
ドイツ語
ドイツ語
仏文学専攻
フランス語
フランス語
社会
地理歴史
日本史学専攻
東洋史学専攻
文学研究科
西洋史学専攻
哲学専攻
社会
社会
教育学専攻
社会
地理歴史、公民
心理学専攻
社会
公民
総合政策専攻
社会
公民
社会学専攻
社会情報学専攻
総合政策
中学専修
高校専修
研究科
(2)学部・学科あるいは研究科・専攻が免許状授与資格の認定を受けると言うことは、そ
れぞれが免許法が指定する「教科に関する科目」および「教職に関する科目」を提供しう
361
ることが認められた、と言うことを意味する。考察の筋道を単純化するために、ここでは
学部・学科のみを取り上げることにしたい。
それぞれの学部・学科は、指定された科目を提供するとは言うものの、すべての科目を
自前で提供できるはずはない。その場合には、他学部・他学科で必要な科目が提供されてい
れば、一定の条件はつけられてはいるものの、ここで提供されている科目を履修すること
を前提にして、それぞれの学部・学科の認定を受けることができるのである。他学部が一学
部ではなく複数学部である場合には、大学が提供すると言うこともできよう。この点につ
いて、最新の認定基準は、次のように述べている。
(本学の大部分の学部・学科は、1998 年
の認定基準によって認定されているが、基準そのものは 2000 年、2001 年と改定が繰り返
されている。以下の説明は、2001 年 7 月 19 日、教員養成部会が決定した「教員免許課程
認定基準」によることにする。)
ア.教員免許課程は、大学、大学院又は大学の専攻科の学部、学科、課程、専攻等(以下
..
「学科等」という)ごとに認定すべきものとする。
イ.認定を受けようとする学科等の目的・性格と免許状との相当関係、教育課程、教員組織
等が適当であり、かつ、免許取得にかかわる科目の開設および履修方法が、当該学科等
の本来の目的、性格をゆがめるものでないと認められる場合に認定すべきものとする。
(以下略、ア、イは本文では(1)、(2)
傍点は引用者)
これを本学の場合に当てはめてみると、まず、「教科に関する科目」については(教育
職員免許法施行規則第3条)、ほとんどの場合各学科が提供している専門科目とは別に、免
許教科にふさわしい「概説的教科」を必須にすることを条件にして認定されている。この
必須教科は、それぞれの学科が提供するものではなく、
「設置区分:教職」というジャンル
に置かれている「教科に関する科目」として提供されている。
「教職に関する科目」は、言
うまでもなく、すべて「設置区分:教職」として提供されている。
(3)では、本学においては、「設置区分:教職」はどのように運営されているのであろう
か。
この科目の運営については、本学学則第 14 条「学部長会議、教授会、連合教授会及び
共同の委員会に関する運営の手続その他必要な事項については、別に定める。」に基づいて
設置されている「教育職員養成に関する運営委員会」(以下、運営委員会と言う。)が責任
を負っている。
運営委員会の構成は、委員会規則第2条によるならば、次のようになっている。
一
学部長
二
大学院研究科委員長で互選した者一名
三
各学部教授会で互選した者各一名
四
文学部教育学科の専任教員で互選した者五名
五
教職に関する科目を担当する専任教員(文学部教育学科の教員を除く。)で互選し
た者十名
その任務については、第6条に次のように明確に規定されている。
委員会は、次の事項について審議決定する。
一
授業の編成に関すること
二
教育実習の指導に関すること。
362 第2章 学部
三
教育職員免許状の授与申請に関すること。
四
教育に関する研究機関及び関係機関との連絡に関すること。
五
科目等履修生の受講許可及び単位認定に関すること。
六
その他教育職員養成に関する重要なこと。
この運営委員会の下には、下記の4つの小委員会があり、教職課程の運営を円滑ならし
めている。
①
教職課程検討小委員会(7名)
②
教職授業編成小委員会(15 名)
③
教育実習委員会(9名)
④
科目等履修生選考小委員会(9名)
各委員会の役割は以下のようになっている。
①
検討小委員会は、運営委員長から出される教職課程に関連して惹起してくる諸問題
に関する諮問事項を検討し、運営委員会での審議のための原案作成にあたる。
②
授業編成小委員会は、各学年度の「教職に関する科目」および「教科に関する科目」
の担当者の斡旋、依頼を担当する。ここで選任された担当教員については、運営委員
会においてその適否が検討される。
③
教育実習委員会は、教育実習の企画・運営の全般にわたる任務を負う。
④
科目等履修生選考小委員会は、教職科目の履修を希望するものに対して、その受け
入れの諾否を決定し、単位の認定の責任を負う。現在のところ科目等履修生について
は、本学の出身者に限って履修を認めている。
【点検・評価
長所と問題点】
(1)「設置区分:教職」とされる授業科目は、上記のとおり正常に運営されており、そこ
には何の問題もないように思われる。しかしながら、原理的に考えると決して明確とは
言えない。「設置区分:教職」科目は、確かに、運営委員会の責任において設定され、滞
りなく運営されている。だが、この科目はどこが「開設」しているのだろうか。例えば、
法学部法律学科の学生用の「教職履修要項」には、はっきりと「設置区分:教職」と明
記されている科目が、学科が提供する授業科目を規定している「学則」にはなんらの区
分名称もつけずに列挙されているだけである。これは法律学科のみの問題ではなく、た
またま学則の最初に置かれているのが法律学科であったので取り上げたまでのことで
別に他意はない。学則を見る限りでは、法学部の各学科が「教職科目群」として「設置
区分:教職」にあたる科目名称を掲げているのを除けば、すべての学部・学科が法律学科
に類する取り扱い方をしているからである。ちなみに、学則は「教職に関する科目」に
ついては、学部・学科が開設する科目の最後に、ただ「教職に関する科目」として科目
名称を掲げるだけで、どこが開設するかについては何も指示していない。こうした曖昧
さはどこからきているのであろうか。
(2)運営委員会規則は、先にも述べたように、その任務について、
「委員会は、次の事項
について審議決定する」と規定している。もしも、本当に「審議決定する」というので
あるならば、ここで決定されたことは、同一大学の他の機関において再審議・決定され
ることは特別な規定に基づかない限り、ありえないはずである。ところが、運営委員会
の決定については、恒常的に再審査・決定がなされているのである。例えば、授業編成
363
小委員会の最重要任務は、「設置区分:教職」科目を担当する教員、特に兼任講師の選任
の問題となっている。兼任講師の選任にあたっては、授業編成小委員会が斡旋・選定し、
運営委員会がこれを審議・決定している。だが、教員の人事権は委員会にはないので、
専任された教員が担当する科目に最も深く関係する学部が最終責任を持つことになる。
つまり、運営委員会が決定した人事は当該教授会において正規の人事任用手続を踏んで
から、その採用が決定されなければならないのである(時間の関係で、これが逆の場合
もありうる)。つまり、教職課程の兼任講師の人事権は最終的には、それぞれの関係す
る学部に帰するということは、原理的に考えれば、その教員の出す単位は当該学部教授
会の責任においてなされているということになるはずである。こうして教職課程の教育
は、「設置」は、運営委員会においてなされるが、実際の「開設」はそれぞれの教授会
の責任においてなされると言う二重構造からなっている。この二重構造性は、「教職課
程」に対する責任感を曖昧化させ、さまざまな問題を生み出させる原因になっているよ
うに思われる。
(3)本来、運営委員会には、人事権も単位認定権も与えられてはいないはずである。だ
が、運営委員会規則第6条の第5号には、「科目等履修生の受講許可および単位の認定
に関すること」として、単位の認定権をはっきりと認めている。これは学則第 61 条の
「各学部教授会(中央大学教育職員の養成に関する委員会(以下「教職運営委員会」と
いう。)を含む。)は、本大学の学部学生以外の者が単位の修得を目的として、別表第四
の三に掲げる審査料を添えて特定の授業科目の履修を願い出た場合には、教育に支障が
ない限り、別に定める審査基準により、科目等履修生として、当該授業科目の履修を許
可することができる。」に根拠があることは言うまでもない。
では、なぜ科目等履修生に関してのみ、教職運営委員会が教授会に準じた扱いがなさ
れているのであろうか。学則成立の過程については調査していないが、事務処理上の便
宜性と本学では当分の間、本学卒業生が教職課程の単位取得を希望する場合に、それを
受け入れることにするという方針と関連しているものと思われる。いずれにせよ、ここ
では運営委員会に教授会の機能を認めていることは事実なのである。この処置は運営委
員会に教授会の持つ権限の一部を委譲しても、大学運営に大きな支障をもたらさないと
いうことを意味していると言えよう。教職課程の教育を担う基本的単位に教授会に準じ
た権限を与えることが有効であることが認められるならば、そうすべきなのではあるま
いか。学則第 61 条は、教職課程の不安定な地位を見直す突破口となりうるであろう。
(4)教授会が人事権と単位認定権を独占すると言う伝統的大学観を固持する本学が、す
べての学部において「設置区分:教職」科目を卒業単位とは認めないと言う厳しい姿勢
を維持させていると言えよう。時代の変化はともかくとして、多くの学生が教員免許状
の取得を強く望んでおり、しかもそのために費やす時間とエネルギーの膨大さを考える
ならば、この問題を真剣に吟味しなければならない段階に来ているのではあるまいか。
【将来の改善・改革に向けた方策】
(1)
「設置区分:教職」科目の管理・運営についての教職運営委員会と教授会の二重構造の
問題は、早急に討議に付され、何らかの形での改善策がとられなければならない。
端的に言って、運営委員会を大学院研究科と同じ位置づけにできないであろうか。運
営委員会に所属する教員は、本務を各教授会に置きながら相当程度長期にわたって教職
364 第2章 学部
課程の管理・運営に責任を持つこととする。研究科との違いは、兼担教員は教職課程の
授業担当を主たる任務とはせず、管理・運営についての責任を負うものとする。(この機
関の内容に関しては、基本方針が決定された後で改めて審議されなければならないであ
ろう。)
(2)運営委員会の位置づけが定まるならば、従来の運営委員会と区別する意味からも「教
職課程センター」を立ち上げたい。
「教職課程センター」構想は、過去にすでに運営委員会から提起されているが、今回
の構想とは原理的な相違があることは明らかである。実際的機能の面では、多くの点で
先に提案された構想と重複するが、
「設置区分:教職」の開設主体と責任所在を明確にし、
教育の結果についてのフィードバックのシステムを確立することが急務なのである。
(3)
「教職課程センター」の事務は、当分の間、現在の「教職事務室」が担当することに
なるが、職務分掌については、非常勤講師採用、単位の集計等については従来通りとし、
大学全体の事務体系の中で慎重に改変されていくべき問題であろう。
3.教育の内容
【現状の説明】
(1)教科および教職に関する科目
教職課程の教育内容は、教育職員免許法施行規則によって詳細に規定されている。
中学校普通免教科に関する科目については第3条、高校普通免教科に関する科目に
ついては第4条、教職に関する科目については第6条に展開されている。免許法によ
って取得が求められている科目の中でも、特に「教職に関する科目」に注目する時、
その変化がそれぞれの時代状況の変化を如実に反映しているように思われる。1949 年
には、中学校一級免許状 20 単位、高等学校二級免許状 20 単位であったものが、1954
年には、教科に関する科目の単位数が大幅に増加した代わりに、教職に関する科目の
単位が中学校一級免許状 14 単位、高等学校二級免許状 14 単位と削減された。この状
態がほぼ 35 年続いた後、1988 年には免許状の等級が2つの「級」から「専修、一種、
二種」という3種類に変更されるとともに、
「教職に関する科目」の単位数は中学一種、
高校一種ともに 19 単位と大幅に増加した。さらに、1998 年の改正になると中学一種
31 単位、高校一種 23 単位と激増することとなった。しかも、教育職員免許法施行規
則第 66 条の4により、「日本国憲法」「体育」「外国語コミュニケーション」「情報機器
の操作」の各2単位を修得しなければならないことになった。その上に、別項で述べ
るように「小学校及び中学校の教諭の普通免許状授与に係わる教育職員免許法の特例
等に関する法律」(1998 年4月1日、施行)の規定により中学校教員の免許状を取得す
ることを希望する学生は「7日を下らない範囲内で障害者、高齢者等に対する介護、
介助、これらの者との交流等の体験」を行わなければならないことになったので、教
職希望の学生の負担が膨大なものになっていることは明らかである。従来、中学校教
員免許状と高等学校教員免許状を合わせて取得することを目指す学生が大半であった
が、中学校教員免許状をあきらめ高等学校教員免許状のみにする学生が出てきている。
改正法に基づく教職に関する科目の授業については、本学では 2001 年度から本格
的に始動し始めたばかりである。とりわけ、「総合演習」や中学校教員免許状希望者の
365
5単位の教育実習については、これから本格的に実施されるものであり、今後その実
施結果を追跡していかなければならない。
(2)教育実習
教育実習については、法の定めるところに従って、事前指導、実習期間中の指導、事
後指導の3段階において実施されている。
<事前指導>
①
指導(1)
3年次生に対するAからDの4段階にわたる履修希望者全体を対象とする事前指導
A
教育実習の意義と基本的な心構えについての講義
B
教育実習参加申し込みと実習依頼手続についての指導
C
「学校現場を知る(高校・中学) ――― 生徒の実体・生徒指導」といったテー
マで、現場教員による講義
D
②
教育実習を体験した学生の体験発表とそれに対する教員の講評
指導(2)
教育実習を行う予定の 4 年次の学生に対するEからGまでの3段階にわたる指導
③
E
直前の実際的指導
――― 「実習に臨む態度と実習録の作成方法」
F
教材研究と学習指導案の作成方法について、各教科別の教員による最終指導
G
実習生を受け入れる学校の教員(主として校長)による具体的指導・講義
指導(3)
実習生3名ないし4名ずつを対象とした各実習担当教授(各学部所属教員によって担
当されている。2001 年度は 94 名)による事前指導
<実習期間中>
実習担当教授による研究授業への参加等の指導(出身校での教育実習生については、
実習校を訪問していない。)
<事後指導>
適宜、実習担当教授によって指導がなされている。
(3)介護等体験
①
先に述べた 1998 年制定の
「小学校及び中学校の教諭の普通免許状授与に係わる教育職
員免許法の特例等に関する法律」に従って介護等の体験を終了した学生数は次の表のと
おりである。
366 第2章 学部
表3
学
1999 年度
部
学校
施設
2000 年度
延べ人数
学校
施設
延べ人数
法
12( 2)
12( 2)
24( 4)
18(11)
18(11)
36(22)
経済
24( 6)
23( 6)
47(12)
15( 7)
17( 9)
32(16)
商
7( 2)
7( 2)
14( 4)
13( 4)
13( 4)
26( 8)
文
96(55)
98(55)
194(110)
179(83)
175(83)
354(166)
総合政策
1( 1)
1( 1)
2( 2)
6( 2)
5( 1)
11( 3)
理工
49(15)
48(14)
97(29)
74(14)
74(14)
148(28)
9( 2)
9( 2)
18( 4)
3( 1)
3( 1)
6( 2)
198(83)
198(82)
396(165)
308(122)
305(123)
613(245)
科目等履修生
合計
注)学校→盲・ろう・養護学校。施設→社会福祉施設。(
②
法第3条の3項
「大学
‥‥
)は女子で内数。
は、その学生または生徒が介護等の体験を円滑に行
うことができるように適切な配慮をするものとする」の規定を遵守して、学生に対して
適切な対応ができるように努力している。本学では、法が施行されるにともなって教職
事務室に介護等体験担当の事務職員一名が新たに増員されている。
③
教職課程の教育の中で介護等体験をどのように位置づけるかについての意見の統一が
見られていないため、現在のところ「教育職員養成に関する運営委員会」にはこれに関
する特別の小委員会は設置されていない。
【点検・評価
長所と問題点】
(1)教科および教職に関する科目
①
教育職員養成審議会第1次答申は、教職課程の改善方策の具体的提案を詳細に述べ
ている中で、
「教育内容の一貫等の確保等」について述べ(第1次答申、Ⅱの2の(3)
の①の(c)のキ)、大学は「教職に関する科目」の中の各科目内容が重複したり、関
係があいまいであったりしないようにし、さらには、それらの内容を学生たちに効果
的に教えていけるような方法を生み出していく努力をしていかなければならない、と
している。「教職に関する科目」が非常に増えたことを念頭に置くならば、この主張
はすこぶる妥当な主張といわなければならない。可能な限り、そうした努力をしてい
かなければならないであろう。とは言え、審議会自体が、現実的には、この主張を実
現することは非常に困難であることを自覚しているようで、一つの大学の中ではなく、
「大学関係者を中心に、授業内容等に係わる研究開発を行うことが望まれる」と結ん
でいる。
こうした現実感覚は、答申そのものが孕む自己矛盾から生み出されているように思
えてならない。多様な教職に関する科目を履修することを求めるならば、教職教育に
関する専任教員の増員を求めるのが筋であるはずであるが、今回の再課程認定にあた
っては、教職の専任教員の人数を従来よりも減らしているからである。答申は次のよ
うに述べている。
.......................
「課程認定に際しての<教職に関する科目>の専任教員数の基準を緩和し、社会人や
367
現職教員の非常勤講師としての活用や、複数の学部・学科等の教員による連携協力を
積極的に促す必要がある。」(Ⅱの2の(3)の②、傍点は引用者)
この答申に符合するように、改正法にともなう再課程認定に関する文部省教育助成
局教職員課長名による通知「平成 10 年7月1日以降における免許状授与の所要資格
を得させるための課程の認定について」によるならば、学生定員数に応じた「教職に
関する科目」のために必要とされる教員の数は比較的緩やかなもになっている。ちな
みに、必要とされる教員の数は、1998 年までは入学定員 801∼1200 名では4名以上、
1200 名以上は5名以上となっていたのに、今度はそれぞれ3名、4名と1名ずつ減
らされているのである。こうした政策の持つ意味を問うことは保留しておく。ただ、
こうした種類の兼任講師によって講義される教職に関する科目の内容的一貫性を教
員集団に期待することの困難性は十分に予測できるところである。
本学の教職に関する科目の授業が兼任講師の援助に頼るところが大きいことは否
定できない。しかしながら、教育学科教育学コースでは、答申の提言を待つまでもな
く、つとに「教職に関する科目」担当者間の調整の必要性を認識し、毎年一度ではあ
るが、教育学コースの教員と兼任講師との意見交換の会を開催し、教職課程の教育を
充実させる方向で努力してきている。もちろん、この会はわずかな時間の中での会合
であり、本来的に望まれるような成果をあげることとは程遠い試みである。
②
改正法を生み出した社会的要請の一つに、今日の学校教育を脅かしている病理現象、
すなわち、いじめや不登校、校内暴力といった問題に適切に対処できる実践力を備え
た教員の養成というものがある。
本学の「教育職員養成に関する運営委員会」では、心理学コースに所属する一委員
から、
「教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む)の理論及び方法」の
科目を誠実に実行しようとするならば、例えば学生相互にカウンセラーとクライアン
トの役割を遂行させると言った場合、被暗示性の強い学生がパニックに陥るなどと言
った不測の事態が惹起する危険性がある。こうした事態を想定するならば、この際教
職課程(カウンセラー担当)のための教員1名の増員が必要である、との詳細な要請
文が提出された。これを受けて、教職検討小委員会は慎重に検討し、その結果を教職
運営委員会に答申したところ、教員1名増の線で実現に向かって努力することが決定
された。この決定は大学当局の承認を得て、2002 年度から教職課程のための教員1名
が活動することになっている。
③ 「総合演習」は、本学では 2001 年度からスタートしたばかりではあるが、全学的に
その実践結果を何らかの形で保存し、教育実践結果の共有化が図られなければならな
いであろう。
(2)教育実習
教育実習の事前・事後指導のあり方については、中学5単位、高校3単位の違いが出
てきたし、特に実践力が重視される今日においては、より濃密な指導の必要性がある。
(3)介護等体験
①
先に教育の内容に関する「現在の状況」の中で述べたように、介護等体験について
は教職課程に関係する教員のうちの特定の教員がそれに責任をもつ体制が整えられ
ていない。しかしながら、現実には介護等体験に関連して問題が惹起してきているこ
368 第2章 学部
とは否定できない。応急的には教育実習委員会委員長が対応しているが、制度的に位
置づける必要があろう。
②
大学の正規の授業期間中に「介護等体験」のために欠席したものの取り扱いについ
ては、制度的には何らの取り決めもない。この問題は教育実習についても同じことが
言わなければならない状態である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
さまざまな問題がある中で早急に解決の糸口を見つけ出さなければならないものとし
て、教育実習の指導の問題がある。
現在、先にも述べたように本学の教育実習は「教育実習委員会」が中心となって運営さ
れている。運営委員会とは別に、少人数の実習生を相手にきめの細かい指導をするという
目的のもとに、
「教育実習指導教授」が決められ、具体的指導の徹底が図られている。問題
は、この指導について運営委員会レベルでは、フィードバックがなされていない点である。
「教育実習指導教授」は各学部から選出されてくるが、果たして選出されてきた教員がど
のような教育経験を積み、教育実習の何たるかをどの程度自覚しているか、どのような指
導を行っているか、現在のところ知るすべはない。
1997 年の教員養成審議会答申(その1)が教職に関する科目の単位数を大幅に増加しな
がら、教職に関する専任教員の必要人数を減らした理由が「社会人や現職教員の活用」に
あることは明らかである。答申は「現職経験を有する優れた者を大学の常勤教員又は非常
勤講師に積極的に登用」することを勧めている。理論と実践をつなぐための教育実習につ
いては、この方途は十分吟味するに値するものと考える。ただし、この問題を現実的に処
理していくためには、教職課程を本学においてどう位置づけるかの問題、
「教職課程センタ
ー」構想の実現が先決である。
4.学生の受け入れ
【現状の説明】
(1)教職課程は原則としては、正規の課程に在学している者で教職課程の教育を受ける
ことを希望する者には、それを受けることを開放している。次に過去5年間の教職教
育に関する開講科目および受講者延べ総数ならびに教育実習生数を掲げておく。
表4
年
開講科目数・受講者数
度
1997
1998
1999
2000
2001
科目総数
118
122
120
120
125
7.260
6.867
6.202
6.953
6.375
受講者総数
なお、上記の数字についての説明を若干付け加えておく。教職に関する科目の開設は、
免許法に基づいて自ずと決まってくる。しかしながら、本学のように2つのキャンパスと
一部(昼間部)と二部(夜間部)を持っている場合は、2つの開設科目も最低4コマを開
講しなければならなくなる。
したがって、上に掲げた数字は、多摩キャンパスと理工キャンパスにおける一部(昼間
部)と二部(夜間部)において開講された科目およびそれを受講した履修生の総数である。
369
ちなみに、2001 年度の教職課程の履修登録者は 1,680 名であるから、これを基にして単
純計算してみるならば、一人の学生は 3.78 コマの科目を受講していることになる。さらに
言うならば、開設されている講座1コマは、平均 51 名の学生が受講していることになる。
もちろん、現実にはそれぞれの科目によって、受講者数のバラツキは大きいものがある。
表5
教育実習生数
年度
1997
1998
1999
2000
2001
実習生数
483
393
453
369
367
(2)正規の課程の学生とは別に、科目等履修生については、記述および面接試験によっ
て選考を行っている。
現段階では、良質なる教育機会を提供できる可能性を考慮して、受験者を本学出身
者に限定している。これまでの志願者および合格者数は下記のとおりである。
表6
校地
1995 年度
1996 年度
1997 年度
1998 年度
志願者
合格者
志願者
合格者
志願者
合格者
志願者
合格者
多摩
70
69
56
56
65
65
56
55
理工
6
6
7
7
3
2
11
11
合計
76
75
63
63
68
67
67
66
校地
1999 年度
2000 年度
2001 年度
志願者
合格者
志願者
合格者
志願者
合格者
多摩
47
47
55
55
50
50
理工
12
12
14
14
9
9
合計
59
59
69
69
59
59
【点検・評価
長所と問題点】
(1)本学では教職課程を履修することを希望する学生は、登録料として 18,000 円を納め
なければならない。さらに、介護等体験をするためには、それ相応の経費を徴収され
ている。
(2)上述したように、本学では教職課程の教育は、数字の上から見れば、1コマ 51 名の
受講生であり、大学の授業としては妥当な形で展開されていると言えよう。だが、現
実には、同じ授業科目であっても、授業時間帯、曜日、あるいは前期か後期かによっ
て、受講生の数に大きなバラツキがあり、可能な限り少人数の授業を実現しようとす
る努力が水泡に帰している。問題解決の方法を考えあぐねている。
(3)わが国における少子化現象にともなう教員の採用率の低下やいじめ、学級崩壊、不
登校などの教育問題の深刻化を念頭におくとき、教員免許状の取得者は高い教育意識
と実践力を備えていることが強く求められている。
こうした要求は、大学において教職教育の履修を希望する学生に対してあらかじめ
何らかの形で選考することを求めている。教職についての適性や意欲といった面にま
370 第2章 学部
で立ち入って選考することは、事実上、非常に困難であるが、それをただ困難である
といって見過ごすわけにはいかない段階にあることも十分承知しており、今後真剣に
検討していかなければならい課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教職教育の履修を希望する学生をあらかじめ選別するシステムの構築を困難ならしめて
いる原因の一つには、大学における教育課程が置かれている曖昧性にあると言わざるをえ
ない。例えば、教育実習において取り返しのつかない過ちを犯したとしても、その学生を
処分する権限は誰にもない。せいぜい説諭に終わるのが現状である。教育課程が「教職課
程センター」として位置づけられるならば、この問題について改めて議論されるはずであ
る。
5.教育のための人的体制
【現状の説明】
教職課程の教育のうち教科に関する科目を除いた教職に関する科目の大半の教育は、兼
任講師に依存している。
【点検・評価
長所と問題点】
改正法の施行以来、各大学の教職教育を担当している教員の多忙さは、いずれの大学に
おいても変わりはない。そうした状況の中で適切な人材を本学の兼任講師として選任、依
頼することは、年々非常に困難となっている。これは教職授業編成小委員会において検討・
審議される以前の、候補者選定にかかわる問題であり、このことに関係している当事者以
外にこの困難を理解してもらうには大変難しいが、深刻な問題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員養成系国立大学・学部の統合、廃止が現実化していくならば、「教職に関する教科」
の担当者を選定することはますます困難になることが予想される。その不足をすべて教育
現場の経験を積んだ教師で補うことは、果たして妥当なことなのだろうか。素朴経験主義
からいかにして脱却するかという問題を抱えながら、この問題に取り組み、苦闘してきた
近代市民社会における教員養成制度の歴史を無視することはできないはずである。では、
どうするか。個別大学の自己点検・自己評価のレポートとしては、この問題を論ずるには
あまりにも大きすぎる。
6.社会貢献
【現状の説明】
教職課程が果たす社会的貢献は、言うまでもなく、優れた教師を世に送り出すことにあ
る。この5年間に本学において教員免許状の資格を取得した者と教職についた者の数を表
示すれば、次のようになる。
表7
1996 年度
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
教員免許取得者数
454
493
408
459
397
教員就職者数
51
51
44
25
33
371
【点検・評価
長所と問題点】
(1)この数字は教職事務室が把握しえた限りでの数であり、報告を怠っている者の数が
相当数いることは否定できない。また、中高の免許状を取得した後、小学校の免許状
を取
得して就職していく者もいる。この者たちは、形式的には、本学の教職課程教
育の成果とはいえないが、その基礎を作り、教職への道を開いた点は評価されなけれ
ばならないであろう。それにしても、教職課程に注ぐ努力に比較して、その成果の貧
しさは率直に認めなければならない。全国的に教員採用数が少ないことを考慮しても、
教職への強い希望を抱く学生たちのために就職競争への準備を本格的に整えなければ
ならない。
(2)1999 年 12 月 10 日に発表された教員養成審議会の第3次答申『養成と採用・研修と
の連携の円滑化について』には、次のような発言が見られる。
「新規学卒者の採用選考については、試験方法の多様化、重点化を図る必要
があり、学力試験については一定の水準に達しているかどうかを評価するた
めに活用することとし、その水準に達した者については、大学の推薦、教育
実習・養護実習の評価、ボランティア活動の実績等を選考のための資料とし
て活用し、多様な人材の確保を図る仕組みを工夫することが必要である。」
(Ⅲ
の3の(1)の a)
本学の教職課程の教育は、一般的に言って、こうした動向を念頭において行われて
いるとは言いがたい。
教職教育が常に採用試験を念頭において行われることは、教職課程の本来の目的に
整合するとは思われない。しかしながら、学力が一定水準に達しているかどうかを見
る学力試験に適応しない学力しか身についていないということは問題である。大学が
考える学力と採用試験が考える学力の間にはギャップがあるというのであるならば、
それはそれとして問題にしなければなるまい。ここでの問題は、学力試験以外の試験
方法に対して大学が学生のための支援を行うかどうかである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
(1)上記の問題に対処するためには、まずは本学における教職課程をどう位置づけるか
というシステムの整備が急がれる。新しい運営委員会において本学の教職課程の在り
方を時代の進展に合わせて再吟味しなければならないであろう。
(2)学生には現実の採用試験についての情報を提供し、採用試験に関する相談に応じる
システムを整備していくことは急務である。この必要性はつとに自覚化されており、
すでに「教職課程センター構想」として打ち出されている。
(これについては、本学教
職事務室が発行している『教職課程年報』第2号を参照されたい。)
(3)本学の自己点検・自己評価報告書の「第1章
中央大学の理念と教育研究組織」にお
ける「2.将来構想の実現に向けた具体的改革課題の提起:理事会基本方針(抜粋)」
の中に見られる喫緊の改革課題の一つに「実学重視の伝統を維持するための課外教育
制度の改革」として、司法試験、公認会計士試験、公務員試験等国家試験対応の各種
講座の拡充が掲げられている。教員採用試験は地方自治体による試験ではあるが、そ
の重要性と困難性から考えて課外教育制度を新設することが望まれるところである。
372 第2章 学部
7.事務組織
【現状の説明】
本学においては教職に関する事務組織は、「教職事務室」として一つの自立した部署と
して認められている。中央大学事務組織規則によれば、その職務分掌は次のようになって
いる。
1)教育実習の立案・実施及び実習校開拓に関する業務
2)教育職員養成に関する指導及び調査業務
3)教育職員免許状の申請に関する業務
4)教職聴講生・科目等履修生に関する業務
5)教職業務の学部間連絡・調整業務
この他に現在では介護等体験に関する業務を担当している。
人的構成は室長をはじめとして、職員3名のうちの1名は介護等体験に関する専門職員。
他に臨時職員2名となっている。
この業務分掌には明記されていないが、事務室を基盤として、1995 年度から『教職課
程年報』が発刊され、本学の教職課程についての情報が学内外に広く開放されている。改
善は事実に基づいて初めて可能であるという意味から、ここに蓄積されつつあるデータは
貴重な財産となるであろう。
【点検・評価
長所と問題点】
(1)急激な教育改革が求められている今日、教員免許状関係の変化にはめまぐるしいも
のがある。
たとえば教職課程にとってその死命を決するとも言うべきところの認定基準も
1998 年6月「大学において教員養成の課程を置く場合の審査基準」からわずか3年弱
の 2001 年7月には「教員免許課程認定審査基準」に変更されている有り様である。対
学生へのサービスよりも対外的交渉にエネルギーを割かなければならないことは本旨
ではない。
(2)職務分掌の第2項の「教育職員養成に関する指導」という言葉がどのような範囲ま
でを指すかは不明確ではあるが、今日では教職に絡んで持ち込まれる学生達の不安感
や人生相談に近い問題にまで対応しなければならない事態がまま生じている。こうし
た対応にあたって、適切な部屋のないことは致命的である。
【将来の改革・改善に向けた方策】
上記の(2)の解決のためにも、「教職課程センター構想」の実現が望まれる。少なく
とも空間欠乏症の問題は、現在本学で進められている新しい建設計画の中でその解決の具
体策を提示されることを強く望むところである。
8.総括的自己評価と将来展望
(1)一般大学における教職課程
①
一般論として非教員養成系大学における教職課程は、非常に不安定な位置におかれ
ていると言って大きな誤りではない。今回、本学の教職課程についての自己点検・自
己評価をまとめるにあたって、他大学の事例を参考にできればと思い、すでに公表さ
れているめぼしい報告書を調査してみた。「めぼしい」というのは、なにも一般に言
373
われているような有名大学という意味ではない。ただ単に分量の大きな大学という意
味に過ぎない。分量が大きければ、教職課程についての何らかの言及があるはずだと
考えたからである。結果は失望あるのみであった。目に入った限りでは、最も頁数が
多い大学でもわずか数頁に過ぎなかった。もちろん、調査が及ばなかったところに詳
細な記述を持つ報告書があるかもしれない。だが、大学基準協会編の『大学の自己点
検・評価の手引き』に忠実に従った報告書は、大方教職課程についての記述はごく貧
弱なものと推察できる。なぜならば、そこには教職課程についての項目を見出すこと
ができないからである。こうした状況の中にあって、本学の報告書が教職課程につい
ての記述を学部や大学院研究科と同列に置いていることは、まさに画期的なことと言
うべきであろう。
②
本学における教職課程の在り方への将来展望については、今までに十分に述べ尽く
してある。その実現に向けて、真剣な審議がなされることを心から願うものである。
(2)初等中等教育と高等教育との接続の問題
1999 年 12 月 16 日、中央教育審議会は『初等中等教育と高等教育との接続の改善につい
て』
(答申)を発表している。少子化の問題と学術の高度化の問題を考えれば、当然の問題
提起といわなければならない。本学の自己点検・自己評価報告書においても、大学入試の改
善、付属学校との関係の改善について詳細な報告がなされているところである。
教職教育の充実は、本来、日本の社会さらには世界の安定と繁栄に接続していくべきも
のと言えよう。しかし、個別大学の視点に立って考える時、教育現場の実践に携わった教
師が教え子に対し、母校のすばらしさを伝えることのもつ意味を無視することはできない。
長期的展望に立つならば、しかも「首都圏ローカル大学」からの脱出を目指すならば、教
職教育の強化は、本学にとって単に学生の要望にこたえるという意味以上のものをもって
いると言えないであろうか。大学全体の将来展望の中での教職課程を考えるべきであろう。
学芸員、社会教育主事、司書および司書教諭
本学に社会教育関係の資格課程が置かれたのは、1978 年である。そのねらいは、本大学
文学部がその研究と教育の成果を広く世に問う領域を広げようとするところにあった。従
来も、文学、哲学・思想、社会学の分野で活躍する多くの人材を輩出してきたが、それら
は優秀な教授陣の薫陶を受けた者たちのいわば個人的な努力によるものであった。
全学に開かれている教職課程は、新制度下では、1950 年以降教育界で指導的な役割を果
たす、優れた教師を数多く育ててきており、それへの信頼はまことに厚いものがある。教
職資格取得者に占める文学部学生の数は圧倒的に多かったが、しかし文学部としての独自
な専門家養成課程は有していなかった。
多摩キャンパスへの移転に際し、文学部の特色ある専門家養成の課題に応えるべく構想
されたのが、社会教育主事、博物館学芸員、図書館司書の社会教育関係専門職員養成課程
の設置であった。1976 年教育学専攻に社会教育学担当教員を採用したことで各専門資格取
得に共通して必要な「社会教育概論」が開設されることになり、資格課程設置の条件が整
ったので、他大学の実態調査を踏まえて本学にふさわしい課程設置の検討を重ねた。その
結果、(1)充実した内容と厳しい指導による責任ある養成体制をつくる。(2)無性格的な
374 第2章 学部
専門職でなく、本学が独自性を出せる特色ある資質を育てる(例えば学芸員は歴史特に古
文書の専門家養成など)、(3)選考試験(面接を含む)を行って年度ごとの受講生を絞り、
強い意志と一定の資質を持った学生を対象とする教育指導体制をとる、という方針でこの
資格課程を発足させることとなった。
以来 2001 年度まで、学習意欲盛んな学生たちの参加を見て順調な展開を見せ、卒業後
の進路もさまざまではあるがこの課程での専門的な学習を生かしてそれぞれの分野で活躍
している。
学芸員課程
【現状の説明】
博物館学芸員課程は、1978 年度から文学部に開設された。文学部の学生、および文学部
を卒業した大学院学生などの科目等履修生を対象としている。文学部が開設する博物館学
や博物館実習などの 35 単位を修得した学生に修了証書を与えている。必修科目には古文書
学や古文書学演習を加え、古文書の扱いに習熟した学芸員の養成に力を入れてきた。1996
年 8月の博物館法施行規則の改訂にともない、翌年度からは博物館情報経営論、博物館資
料論、視聴覚教育メディア論を設置している。
現在の学芸員課程科目は、必修科目が社会教育概論 4単位、博物館概論 2単位、博物
館情報経営論 2単位、博物館資料論 2単位、視聴覚教育メディア論 2単位、博物館実習
3単位、教育学概論(1) 2単位、教育学概論(2) 2単位、古文書学 4単位、古文書学演
習 4単位の計 10 科目 27 単位である。選択必修科目は、日本文化史 4単位、美術史 4単
位、考古学 4単位、民俗学概論 4単位、考古学演習 2単位で、その中から選択で 8単
位以上が必修となっている。
この学芸員課程の履修は 2年次から始まる。履修者の募集は、2年次が 20 名、3年次
が若干名となっている。履修を希望する学生は、4月上旬に行う選抜試験を受験し、合格
することが必要である。毎年の履修許可者は、1年次あるいは 2年次の成績と小論文・面
接による選考をパスした 30 名前後である。1997 年からの履修希望者、許可者、修了者数
は、別表のとおりである。2000 年度は履修希望者が 75 名で、選考後の履修許可者が 35 名
であった。2001 年度は履修者希望者が 59 名、履修許可者が 35 名となっている。合格者は、
ガイダンスに出席して必要書類を提出し、課程履修料を納入することで、学芸員課程とし
ての科目等の履修が認められる。
学芸員課程の必修科目の配当年次は、古文書学が 1年次、博物館概論、博物館情報経
営論、博物館資料論、視聴覚教育メディア論、教育学概論(1)、教育学概論(2)が 2年次、
社会教育概論が 2・3年次、古文書学演習が 2∼4年次、博物館実習が3∼4年次であ
る。選択科目は、美術史、考古学、民俗学概論が 1∼4年次、考古学演習が 2年次、日
本文化史が 3・4年次の配当となっている。
博物館実習の履修は、前年度までに博物館概論、博物館情報経営論、博物館資料論を修
得すること、さらに実習の前段階として博物館実習見学会に参加することが必要条件であ
る。博物館実習の事前指導の見学は、教員 2名がその年度の実習予定者を引率し、 5、
6月に貸切バスを用いて博物館を調査・見学する。2000 年度は群馬県立博物館と武蔵村山
市立歴史民俗資料館、2001 年度は川越市立博物館、富士見市の難波田城博物館を調査・見
375
学した。 展示だけでなく、作業室、収蔵庫などを見学し、学芸員から実務の説明を受ける
時間を設けている。
毎年の博物館実習は、大学が用意した博物館・資料館のリストに基づいて学生が実習先
を選択する場合と、学生が出身地などの博物館・資料館に問い合せて実習先を確保してく
る場合がある。いずれも学生が博物館・資料館の許可を得て、それぞれのカリキュラムに
そった実習を行い、大学側は担当教員が実習先に挨拶に伺っている。2000 年度は 23 名、
2001 年度は 26 名の学生が実習を行っており、主な実習先は、八王子市立郷土資料館、シ
ルク博物館、神奈川県立歴史博物館、川崎市立日本民家園などであった。以上の配当年次
にそって合計 12 科目 35 単位の取得したものに対して、
「本学文学部において博物館法第5
条の1に定める学芸員の資格に必要な単位を修得したので修了証書を授与する」という、
修了証書を与えている。
博物館学芸員課程の修了者数は、1998 年度が 37 名、1999 年度が 34 名、2000 年度が 22
名である。歴史系博物館に対応する学芸員養成に向けた履修科目が多いこともあって、修
了者の半数は日本史学専攻の卒業生であるが、残り半数は国文学、仏文学、哲学、社会学
など、文学部内の各学科、専攻の出身である。文学部卒業生と大学院学生などの科目等履
修生も、毎年 5、6名が修了証書を授与されている。
学芸員課程修了後の進路については、修了生が容易に博物館および相当施設などに就職
できているわけではない。国公立博物館、私立博物館の数、およびそれらに勤務する学芸
員数が限られており、採用数自体少ないのがその理由である。しかし、一般の公務員とし
て募集し、採用後に学芸員資格の修得を評価して博物館勤務とする場合も見られる。学芸
員資格が就職に寄与した事例も少なくなく、博物館の調査員・嘱託あるいはボランティア
などに採用されて活躍しているものも多い。本学の修了生の学芸員就職先は、首都圏の県
や市町村の公立博物館では、神奈川県立歴史博物館、千葉県立中央博物館、豊島区立郷土
資料館、町田市立自由民権資料館、府中市郷土の森博物館、川越市立博物館、市川市立郷
土資料館、鎌倉国宝館などである。民間の私立博物館についても、弥生美術館、交通博物
館などで学芸員として活躍している。
【点検・評価
長所と問題点】
本学の学芸員課程の特色・長所は、必修科目と選択必修科目の科目数・単位数を博物館
法施行規則で定められている以上に増やしている点である。必修科目に古文書学や古文書
学演習を加え、古文書の扱いに習熟させることを目的にしている点も、他大学の学芸員課
程と異なる本学の特色である。これらは本学の学芸員課程が、課程教育の充実と質の向上
を図り、歴史系博物館・資料館で求められている専門的な学芸員を養成する長所となって
いる。
また、学芸員課程の履修については、履修者の人数を限定し、選抜試験に合格すること
を条件にしている点が特色である。それは学生を厳選することで、資格だけを取得してお
こうという安易な気持の履修を減少させ、目的意識を持ち、熱意をもって前向きに取り組
む学生を集めた質の高い教育を可能にしている。博物館実習の事前指導である見学会は、
規模や性格の異なる博物館を見学先に選び、作業室、収蔵庫などを見学し、学芸員から実
際の説明を受けることで成果をあげている。見学後に提出する学生のレポート、あるいは
見学当日のバス車中での質疑応答などからも、見学会の教育効果が大きい点がうかがわれ、
376 第2章 学部
博物館実習の事前教育の特色として評価できる点と思われる。
以上が本学の学芸員課程の現状と特色・長所であるが、その問題点をあげると、まず第
一は、施設と教員・職員の制約から、学芸員課程の履修者が文学部とその卒業生・大学院
学生に限られている点である。第二には、本学が自前の博物館あるいは相当施設を持って
いない問題であり、そのことが博物館実習関係の教育を制約し、博物館実習先の確保の困
難に結びついている。授業においても古文書、民具、遺物、写真などの博物館資料の実際
的な活用が困難であり、専門的図書、研究室の整備も不足している。さらに学芸員課程の
専任教員、事務室が確保されていないことは、よりきめ細かな教育を行い、教育内容の向
上を図るうえで、致命的な課題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
近年、大学の社会的役割が重視され、資格取得を希望する学生が増加する中で、学芸員
課程も文学部に限定されない全学への開放、さらには他大学や社会人などの科目等履修生
の受け入れが期待されるようになってきた。その改善・改革に向けた方策としては、学芸
員課程の充実と文学部以外への拡大が望まれる。この点については、本学の学芸員課程は、
2002 年度から他学部などへの開放を準備している。履修科目についても、セメスター制を
導入して古文書学や古文書学演習を半期科目とし、全体を必修 19 単位、選択必修 8単位
の合計 27 単位に改めることを予定している。さらに将来計画では、125 周年記念事業の一
環として歴史資料館(仮称)などの建設案が公表されるようになった。学芸員課程の拡大
に対応した教員の充実も予定されている。博物館の専門職である学芸員がその博物館の展
示・教育の内実を左右することから、学芸員養成についても、質の高い教育が求められて
いる。本学においても、広く門戸を広げること、上記の特色・長所を生かし、充実した内
容の学芸員教育を行うことが期待されている。
表8
学芸員課程
履修希望者・許可者・修了者数
年度
希望者数
許可者数
修了者数
1997
80
30
27
1998
63
37
37
1999
70
33
34
2000
75
35
22
2001
59
35
社会教育主事課程
【現状の説明】
本学における社会教育主事資格取得の方式は、社会教育法第9条の4第3号に基づくも
のであって、一定の期間の講習によって取得できるいわば代替的な養成方式(第9条の5)
とは異なる2年以上の専門教育を条件とする社会教育主事養成の本道に則ったものである。
したがって、社会教育主事資格は、教育学の専門科目と社会教育主事養成のために特別に
編成された正規の授業を受講して法定の単位を取得できた者のみに与えられるのである。
(社会教育主事の専門性と資格取得のメリット)
社会教育主事は教育公務員特例法に規定された専門的教育職員であり(同法第2条5
377
項)、社会教育法に「社会教育を行うものに専門的な技術的な助言と指導を与える」(第9
条の3)と規定されているように、その専門性は、成人の学習活動を組織援助する者や成
人学習者を助言指導の対象とする教育活動を行うという高度なものである。またその助言
指導も、学習者自身の自発性と主体性を尊重するという社会教育の本質に立って行われる
べきものであって、そのための専門性は不断の研修によって高められることが求められて
いる(教育公務員特例法第 20 条、社会教育法第9条の6)。
この資格を取得したものは、原則として1年以上社会教育主事補の職にあって経験を積
んだのち、社会教育主事の発令を受ける資格が生じる。社会教育法の他の条項による社会
教育主事資格取得も可能であるが、本学のような大学における系統的な専門教育を受けて
資格取得した者に対する評価は高く、特に教育委員会の独自採用方式がとられている場合
には採用・発令において優位であることは言うまでもない。また、一般職試験合格者の場
合も、採用後に有資格者として優先的に社会教育職場に配置されるケースも多い。社会教
育主事は一般的に、教育委員会事務局、公民館、生涯学習センターなどの社会教育専門施
設へ配置されるが、その専門性や経験を買われて、児童福祉施設職員やケースワーカーと
して積極的に活用される場合も少なくない。
(教育内容)
社会教育主事養成カリキュラムは、社会教育主事講習等規定が定めている大学で修得す
べき科目と単位に従って構成されている。すなわち、生涯学習概論(本学の名称は『社会
教育概論』)
(4単位)、社会教育計画(4単位)、社会教育演習(4単位)、社会教育特講Ⅰ
(4単位)、社会教育特講Ⅱ(4単位)、社会教育特講Ⅲ(4単位)であるが、教育学専攻
学生に対しては社会教育概論と社会教育演習以外の科目について同質の内容を持つ他の教
育学専門科目をもって充てることを可としている。担当教員は、教育学専攻専任教員のほ
かに専門分野別に委嘱した本学教員と他大学から招いた兼任講師である。授業科目によっ
ては、実地見学や調査も組み込んで内容の濃い指導がおこなわれている。
(受講者数)
上述したように、強い意志と一定の資質を持った学生を対象とした教育指導体制をとり
選考試験によって毎年度 30 名前後の受講生を受け入れている。2年次生以上を対象とする
ため文学部全体では、科目等履修生を含めて 100 名弱である。
【点検・評価】
社会教育主事養成課程を設置したことは、文学部教育に新しい局面を開いたという点で
高く評価される。それは、第一に、具体的に自己が身につけた専門性を生かす機会や場を
想定しつつ学習に取り組むことによって、高い学習意欲と緊張度を持たせた教育指導が実
現できた点である。第二に、学生たちがこの課程での学習を通して従来の縦割り的な学問
領域を越えた現実生活にかかわる広い問題意識を持つようになったことである。第三に、
共同研究や実習の機会を通して、専攻の枠を越えた学生間の交流が進んだことである。
また課程の規模が小さいことで、卒業生の社会教育現場での実際活動の様子が伝わりや
すく、学生の大きな励ましになっていることも特色である。
しかしながら、専攻別の教育とは別立ての課程における教育であるため、カリキュラム
構成上余裕をもった授業編成ができず、実地見学や実習の機会が乏しく実践的な力量を身
につけることが困難であることは大きな問題である。また、現在多くの市町村が財政上の
378 第2章 学部
事情もあって専門職の採用を手控えているという状況が、今後学生の社会教育主事志望の
動向や学習意欲に与える影響も心配される。
【長所と問題点】
社会教育主事養成制度上最も充実した体制をとっているため学生に大学への信頼と自
分への自信を持たせていることが長所である。また他学部からこの課程の全学への開放要
求が強く出されていることからも、その存在意義が確認できる。その一方で、教職課程に
見られるような安定的な社会教育関係資格課程の運営がなされていないため、日常的には
社会教育主事、博物館学芸員、図書館司書・司書教諭の養成の内容の検討も担当者決定も
それぞれの課程で独自にすすめられ、担当専攻に附置された課程のような状況にある。こ
の間、文学部内おける資格課程の位置の確立と全学開放を展望した課程編成の充実が課題
となり検討を重ねてきた結果、2002 年度からの入学者から全学的に開放された課程として
再編成されることになった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
懸案であった全学的開放の方針が決定を見たことで将来の発展方向の道が開かれたが、
その具体策を煮詰めることが当面の課題である。現在検討が必要な課題は以下のように考
えられる。
(1)全学的に開放するに際し、その運営に当たる委員会が必要となる。このた
め、従来の教育職員の養成に関する運営委員会を拡充して社会教育関連資格を含めた全学
的な運営組織を発足させる。それに対応して現教職事務室を拡充した事務室を設置する。
(2)委員会は、授業の計画と実施にとどまらず、すでに、教職課程が試みてきたように
進路相談的な機能を持つとともに、社会教育関連専門職にかかわる職員募集や採用状況の
情報収集や提供を行う。
(3)卒業生の就職先も含めて実地見学や実習の受け入れ施設の開
拓と、実地指導体制の充実を社会教育関連施設と大学の緊密な協力関係で進める体制をつ
くる。
(4)全学開放にともない必要とされる講座数の増加に対応した教育指導スタッフの
充実が求められるので、兼任講師に頼ることなく全学的な見地からの専任教員の増員を図
る。
(5)従来構想されてきた教職センター的な部署と施設の計画も、社会教育関連専門職
養成の機能を持たせて充実したものに手直し、その実現を図る。
司書課程
【現状の説明】
履修資格は、文学部一部(昼間部)の2年次生以上であり、年間の募集人員は、図書館
情報学専修の学生を除く約 30 名である。2001 年度の例では、3月5日∼3月 19 日に出願
を受け付け、3月 23 日に筆記試験を行う。筆記試験の結果により選抜し、4月6日に合格
者を発表し、同日、合格者のためのガイダンスを行う。資格課程履修料は、1資格につき
8,000 円である。(ただし、司書、司書教諭を併せて履修する場合は1資格とみなす。)
図書館情報学専修の学生が課程履修する場合は、願書のみの提出で、試験およびガイダ
ンスは行わない。
また、科目等履修生に対しても若干名を募集している。この場合の出願資格は、本学文
学部の卒業生、もしくは本学大学院文学研究科生のいずれかである。論文試験をおこない、
合格者を決定し、学部学生と同様にガイダンスを行う。履修期間は1年間で、別に定める
履修料の納付が必要である。
379
資格取得者は、図書館におけるさまざまな専門的職務に携わるための基礎的能力を身に
つけるているいうことができる。また、情報化社会の中で、他の情報関連の職務に就くう
えでもメリットになると思われる。
授業科目は以下のようになっている。
表9
法規上の科目・単位
区分
科
目
本学における科目・単位
単
授 業 科 目
位
単
最低修得
年次
位
単 位 数
2・3
4
1
4
2−4
2
生涯学習概論
1
図書館概論
2
図書館サービス論
2
図書館経営論
1
情報サービス概説
2 マルチメディア(1)
2−4
2
必修
情報検索演習
1
マルチメディア(2)
2−4
2
18
レファレンス・サービス演習
1
人文社会情報サービス
2−4
4
1
(人文社会情報サービス)
科学技術情報サービス
2−4
4
図書館情報メディア論
2−4
2
情報組織論(1)
2−4
4
単位
専門資料論
社会教育概論
配当
図書館情報学概論
公共図書館論
30単位
図書館資料論
2
資料組織概説
2
資料組織演習
2
児童サービス論
1 児童図書館論
2−4
2
図書館特論
1
2−4
2
資料特論
1 児童YA情報サービス
2−4
2 2科目
選択
図書および図書館史
1
図書・図書館史
2−4
2
4単位
2単位
情報機器論
1
−
−
−
必修
コミュニケーション論
1
コミュニケーション論
2−4
4
情報組織論(2)
2−4
4
索引・抄録法
2−4
4
学校図書館論
2−4
2
大学図書館論
2−4
2
専門図書館論
2−4
2
情報文化論
※選択
太字で表示されている授業科目は、他専攻・コースの学生が履修できる。
図書館情報学(記録情報学)専修以外の学生は、図書館情報学(記録情報学)専修に設
置されている科目は、資格科目として履修し、卒業に必要な単位には含まれない。
※印の選択の欄に表示された科目は履修することが望ましい科目である。
現在の受講者は、73 名である。
【点検・評価
長所と問題点】
法規上の科目・単位を、十分にカバーし、教育内容の充実を図っている。特に実習を伴
380 第2章 学部
う科目には十分な時間数を充てるようにしている。
また、現在の図書館は、コンピュータでの処理が進んでおり、図書館単体ではなくオン
ラインで他の図書館の図書を検索したり、CD-ROM による検索等といったように新しい図書
館への変貌を遂げようとしている。本学の司書課程は、このような状況に対応し、カリキ
ュラム・授業内容を点検し、時代の変化と要請に応えられるように措置している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度入学生からカリキュラムを改正し、これにともなって司書課程についてもより
効果的な学習ができるように措置する。
また、文学部以外の 2002 年度以降入学生に対して、司書課程の履修を可能にする予定
である。これについては、さらに事務的な詰めを行う。ただし、このような多角的展開に
対しては、担当専任教員のより十分な手当てを検討する必要があると思われる。
司書教諭課程
【現状の説明】
履修資格は、文学部一部(昼間部)の2年次生以上であり、年間の募集人員は、図書館
情報学専修の学生を除く約 30 名である。募集等の方法は、司書課程と同様である。
資格取得者は、司書教諭として、学校図書館運営の中心となる道が開かれる。
授業科目は以下のようになっている。
表 10
学校図書館司書教諭課程の
配当年次
単位
学校経営と学校図書館(2) 学校図書館論
2−4
2
学校図書館メディアの構成 図書館情報メディア論
2−4
2
(2)
2−4
4
学習指導と学校図書館(2) 学習指導と学校図書館
2−4
2
読書と豊かな人間性(2)
読書と豊かな人間性
2−4
2
情報メディアの活用(2)
デジタルライブラリ
2−4
2
科目(かっこ内単位数)
文学部授業科目
情報組織論(1)
最低修得単位数
14
図書館情報学(記録情報学)専修の学生は、すべて自コースの科目として履修する。
図書館情報学(記録情報学)専修以外の学生は、図書館情報学(記録情報学)専修に設
置されている科目は、資格科目として履修し、卒業に必要な単位には含まれない。
現在の受講者は、22 名である。
【点検・評価
長所と問題点】
必要な授業科目を網羅し、履修生は求められる知識・能力を習得することができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
司書課程と同様である。
381
第3章
大学院
本章では、大学院の各研究科が行った点検・評価の結果と新た
に設置を予定している専門大学院に関する取り組みの概要を報告
するが、その前段として、
「第1章
中央大学の理念と教育研究組
織」の「教育研究組織における改革課題」で述べた大学院研究科
全体にかかわる課題を再認識するとともに、これらの課題につい
てその方向性を総論的に記述する。
なお、本学の教育研究組織は、各学部がそのまま大学院を構成
するいわゆる「煙突」型となっており、専任教員は学部所属とな
るため大学院の専任教員はいないが、本報告書では、大学院を担
当している本学の専任教員についても「専任教員」と表記してい
る。
383
大学院改革の課題と方策
(1)新アカデミズムの実現
① 専門大学院と新アカデミズム
本学大学院が近年最も集中的に取り組んできた課題は、高度専門職業人の養成と再教育
の分野であり、2002 年開設を予定している国際会計研究科と 2004 年開設を目指して準備
中の法科大学院(仮称)は、その象徴的存在と言えよう。これらの専門大学院が完成した
暁には、この面での本学大学院の貢献は大いに期待できる。また、既存各研究科の修士・
博士前期課程においても、専攻増設やコース新設、さらに教育課程の抜本的改革によって、
高度職業人教育の機能が強化されつつある。今後は、この分野における大学院の機能を一
層高めるために必要な情報インフラの拡充、事務的支援の強化、兼担教員の過重負担を軽
減するための方策、さらには既存大学院と専門大学院の連携のあり方などについて早急に
検討を進めることが重要になるが、新アカデミズム実現の責任は、既存研究科、特に博士
後期課程が中心となって担わざるを得ないであろう。
② 新アカデミズム実現の方策
本学が新アカデミズムの実現を目指す点については学内に異論はない。すでに各研究科
で、あるいは複数の研究科を横断する形で、その実現に向けた方策の検討が始まっている。
例えば、学際的・総合的な独立大学院の設置構想はその一つである。他方、既存研究科の
整備や再編成によってこれを実現すべきであるという声もある。いずれにしても、新アカ
デミズム実現の具体的な道筋を早急に明らかにすることが求められている。
なお、この関連で国内外の大学院・研究機関との連携を一層拡大・強化することが必要
である。
③ 博士後期課程のプログラムの整備・強化
この点に関しても、全学的な合意があり、今後は博士後期課程在学者がレベルを落とす
ことなく博士号を取得できるよう、各研究科で早急に具体的なプログラムを作成し、適切
な研究指導を行っていくことが肝要である。
④ 学部+大学院教育システム
学部・大学院の連携に関しては、すでに部分的に実現している。他大学出身者、異分野
出身者および社会人の事情にも配慮しつつ、カリキュラムや科目履修の面で学部・大学院
間の隔壁を低くする方向は、今後も維持発展させていかなければならない。
⑤ 大学院奨学金制度の大幅拡充
大学審議会が大学院の役割の第一に掲げる「学術研究の高度化とすぐれた研究者の養成」
には、給付奨学金制度の大幅拡充が不可欠であり、そのための原資の確保に積極的に取り
組むことが求められている。
⑥ 研究専念期間制度の拡充
教員の大幅増員が認められないかぎり、大学院の教育研究活動の強化にともない教員の
負担が増えることは避けられない。教員の研究活動の低下を招き、新アカデミズム実現そ
のものを挫折させないためにも、サバティカル制度の導入を含め、研究専念期間制度を格
段に充実することが必要である。
384 第3章 大学院
(2)本学の国際化
21 世紀の大学院には、教員組織と学生双方の国際化が求められる。教員組織の国際化は
外国人教員の採用促進であり、学生の国際化は外国人留学生の受け入れの促進である。前
者については、大学全体として教員採用条件の見直しと改善を行い、後者については、日
本語教育プログラムの強化、英語による授業の拡充、給付奨学金の増額、勉学面での支援
を行うチューター制度および生活面での支援を行うアドバイザー制度の充実等々の課題を
克服するために、一層のエネルギーを傾注することが必要である。他方、日本人学生につ
いても、大学院教育の一環として、海外留学を強力に奨励する体制を整えることが重要で
ある。
(3)生涯学習・遠隔地学習と大学院
本学は既に学部・大学院ともに、専門的職業人として活躍する社会人には開放されてお
り、すでに高い評価を受けつつあるが、居住場所や年齢に制約されず、いつでも、どこに
いても学べる大学教育の提供については、法学部の通信教育課程を除き、全学的な取り組
みとなっていない。今後は、大学院レベルにおいても、積極的な検討に値する課題である。
385
法学研究科
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
本学法学研究科における教育および研究の目的は、
「課程の目的に応じ、学術の理論及び
応用を教授・研究し、その深奥をきわめて、本大学の使命を達成すること」であり(中央
大学大学院学則第2条)、これに基づき、広く法学の基礎・応用分野における学術の研究、
後継の研究者養成および社会人教育を行うことを理念としている。
法学研究科は、1920 年、大学令により設置が認可され(旧制)、以後約 30 年間にわたり、
わが国の学問研究の基礎整備に多くの成果をあげた。戦後、新制への切り替えにともない、
1951 年、修士課程として民事法・刑事法・政治学・英米法の4専攻の設置が認められ、1953
年には博士後期課程として民事法・刑事法・政治学の3専攻の設置が認められた。1980 年
には政治学専攻から公法専攻が分離独立し、修士課程 1 専攻(英米法)、博士前期・後期課
程4専攻(公法・民事法・刑事法・政治学)の体制となった。その後、1997 年に修士課程
として国際企業関係法専攻を開設し、英米法専攻修士課程の募集を停止、1999 年には国際
企業関係法専攻博士課程後期課程を設置し、現在の本研究科の体制ができた。
【点検・評価】
従来は主として研究者養成を教育目標としてきたが、最近は高度職業人養成も視野に入
れている。これらの教育目標はかなり達成されたと言える。新制大学院以降に本研究科で
修士・博士学位を取得した者は総勢 1,000 名を超えており、大学教員も多数輩出した。本
学出身の大学教員(専任)数は、1996 年 7 月現在で、国立大学教員が 31 名、私立大学教
員が 171 名(うち中央大学が 39 名)、国私立短期大学教員が 21 名となっている。また、法
曹界、官界、実業界で活躍している者も数多い。
【長所と問題点】
研究者養成、高度職業人養成に加え、最近は、社会人が自己の能力を高め、キャリア・
アップや転職を図るニーズに応えることが大学院に求められている。そのため、1999 年か
らは全専攻で社会人特別入学試験を実施し、社会人学生を幅広く受け入れており、講義の
方法としても、多摩校舎と市ヶ谷校舎を結んだ「遠隔授業システム」を導入するなど、多様
化する社会の要請に応えるべく積極的な取り組みをしている。問題は、社会人を含めた学
生のニーズが多様であり、それに応えるため、大学院担当教員の充実、リサーチ・アシス
タント(RA)制度の導入、副指導教授制、1年で修了できる制度の導入等さまざまな施
策を講じているが、より多様で、きめの細かい対応が必要となると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生のニーズの多様化、社会の複雑化、グローバリゼーションの進展等にともなう高度
で学際的な研究の必要性等の要請に応えるために、教員・学生を含めた共同研究体制の充
実、外国の大学との研究交流の促進、外国人研究者による講義の充実、多数の外国人留学
生の受け入れ、教育研究を効率的に行えるためのサポート体制の整備などを図る必要があ
る。
386 第3章 大学院
2.教育研究組織
【現状の説明】
本研究科には公法・民事法・刑事法・国際企業関係法の法律系4専攻と政治学専攻の5
つの専攻が置かれている。各専攻とも、博士前期課程および後期課程からなり、博士前期
課程の入学定員は 130 名、後期課程の入学定員は 28 名で、全体の収容定員は 344 名である。
在学期間は、通常、博士前期課程で2年以上4年以内、博士後期課程で3年以上6年以内
である。
本研究科に設置される研究科委員会の委員 67 名は、いずれも本研究科の基礎となる学部
である法学部を構成する3学科(法律学科・国際企業関係法学科・政治学科)の専門科目
を担当する兼担教員である。
次に、専攻ごとの概要を記す。
公法専攻では、憲法・行政法・国際公法のほかローマ法・ロシア法を専攻する教員が所
属し、教育研究活動を行っている。
本研究科の中で最も多い専任教員を擁する民事法専攻では、民法・商法・経済法・民事
訴訟法・労働法・法制史の各分野で、教育研究活動を展開している。
刑事法専攻では、刑法・刑事訴訟法・刑事政策・犯罪学・法制史・法哲学の各分野におけ
る教育研究活動を行い、実務家・実務法曹も加わった教育研究が推進されている。
1997 年度に設置された国際企業関係法専攻所属教員の共通の関心事は、企業の国際的活
動にともなう法的諸問題の法的および経済的な検討にあり、比較企業法・経済法・国際私
法・国際取引法・国際経済法・アメリカ私法・アメリカ公法・現代国際経済論・国際金融
為替論の各分野について教育研究活動を行っている。
政治学専攻では、政治理論・政治史・政治思想史・国際政治学・国際政治史・行政学・
地域政治・政治社会学・コミュニケーション論・政治経済学など多岐にわたる教育研究活
動を行っており、民事法専攻につぐ専任教員を擁している。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の法律系4専攻と政治学専攻は、本学法学部における法律学科・国際企業関係
法学科の法律系2学科と政治学科の区分に対応しており、学部教育の基盤の上に専門の学
術研究を行うという観点から見て概ね妥当なものと言える。専攻区分は、入学者選抜、授
業科目の配置、論文審査等、主な教育研究活動の枠組みとなっているが、必ずしも絶対的・
排他的な区分ではない。各専攻共通科目の設置に見られるように、個々の専門分野に自閉
した教育研究に陥らないような配慮がなされている。また、各研究所を中心に専攻横断的
な研究も行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今日の大学院は、従前の研究者養成に加え、高度専門職業人の養成、多様な社会的ニー
ズに応える人材の養成という課題をつきつけられている。現行の組織編成や教員配置等が、
このような社会的要請に応えるのに適切か否かについては検討を要するだろうが、その際、
通信教育課程を含めた学部教育、各研究会や研究所における研究活動、開設が予定されて
いる法科大学院などとの総合的・有機的関連の中で議論を積み重ねていかなければならな
いだろう。
387
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
【現状の説明】
博士前期課程の「公法」「民事法」「刑事法」「国際企業関係法」「政治学」の各専攻分野
について、各専攻別にそれぞれ基礎から先端的な分野に至るまで様々の科目を設け、専攻
学生の研究能力・専門能力を高めるカリキュラムを用意するとともに、多くの「共通科目」
をおき、10 単位を上限に所属以外の専攻または研究科の履修を認めて、選択履修の幅を広
げ、より広い視野で学生が研鑽できるようにしている。例えば、「日本法制 2010 年」にお
いては、幅広く、テーマを設定するとともに、多数の参加者による、多角的視点からの日
本の法制度の直面する問題についての検討を通して、基本問題から最先端の問題までを学
生が学修できるように工夫されている。各専攻分野の教員は、現代社会の問題とその解決
策について、比較法的検討と関連隣接諸分野の最近の成果を踏まえて研究教授し、学生の
具体的問題の解決能力を養成してきている。また、民事法、刑事法、政治学の各専攻の授
業科目の担当教員ごとに講義科目と演習科目をセットにして、学生が体系的学修をより深
めることができるようにしている。さらに、イギリス法律学校から出発した伝統を生かし、
海外との提携協力関係のある大学や政府機関から派遣されてくる外国人教授・研究者によ
る講義もなされてきており、学生の問題関心を深め、研究能力を高めるのに役立っている。
また、法律実務家を多数輩出してきている背景を生かして、実務家の参加を求めて、授業
を行い、現実の問題を踏まえた、理論的検討もなされている。さらに、東京外国語大学と
の単位互換協定や政治学分野での7大学間協定により、本学以外での履修が可能となって
いる。
国際企業関係法専攻のカリキュラムは、基幹科目と発展科目に分かれ、経済に強い法律
家の養成を目指して、国際経済関連科目を多数設置し、また、英米法科目を充実させてい
る。
博士後期課程は「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその
他の高度な専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力とその基礎となる豊かな学識
を養う」ことを目的として設置されている。博士後期課程においては、博士前期課程以上
に個別指導が重視されており、博士後期課程の学生の問題関心を踏まえた論文執筆への助
言・指導を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
現状の説明に示された大学院のコースの構成とカリキュラムのあり方は、学生の関心を
広げ、学部教育の上に立って専門的知見を教授し、問題を分析的に思考する修練を積むも
のとなっており、
「広い視野に立って清深な学識を授け、専攻分野における研究能力または
高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」という修士課程(博士前期課程)
の目的にかなっていよう。
学部における法学教育においては、基本6科目を中心に、実定法の内容とその背景、変
動する社会と法の変化等を理解して法律学の基礎を固めることに中心が置かれているが、
大学院においては、比較法的視野と問題の社会的背景の理解を踏まえた、重要問題の検討
により重点が移されると同時に、より高度で詳細な検討が行われ、学部よりはずっと専門
388 第3章 大学院
性が高くなる構成となっており、両者の接続は概ねうまくいっていると評価できる。法の
基礎をなす、社会的現実の把握や、歴史的、哲学的背景等、実定法を支えその背景にある
ものについての十分な学習が高度の法律学学修の基礎をなすので、学士課程での教育につ
いては、隣接科目の学習の充実が期待される。この点について、他学科・学部履修枠を一
定限度に設けることで、ある程度の対処がなされてきている。
博士前期課程における教育内容は、比較法、および隣接諸領域の知見を踏まえたものと
なっており、博士前期課程の人材養成は概ね妥当と評価できるのではないか。博士後期課
程は個別指導の色彩が強くなり、博士前期課程での研鑽をさらに発展させて、より広くそ
してより深く自立して研究することができる指導が行われている。学生も博士前期課程で
選択したテーマをさらに発展させていく場合が多いので、博士前期課程と博士後期課程の
連携関係も多くの場合、保たれていると言えるであろう。
博士後期課程については、水準に達する学生への博士号(課程博士)の授与が徐々にな
されるようになってきているが、この方向を一層押し進めるべきであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では、専攻別に専門的指導が行われているが、将来的には、自己が研究する問題に
関連する分野を、横断的に履修し研究を重ねることができるように、他専攻設置科目の履
修枠の拡大や、他専攻との共通履修科目枠を拡大するなどして、問題の解決に向けた総合
的分析能力の向上に資するカリキュラムが考えられてよい。法科大学院ができれば、それ
との関連で既存の大学院にも影響が及ぶので、どのようなあり方にするのかを見極めつつ、
問題解決能力を高めるカリキュラムが工夫されなければならないであろう。
博士号(課程博士)の授与については、一定の研鑽を積んで、水準に達する論文を提出
した学生に博士号(課程博士)の学位を授与し、自立して研究できる能力があることを明
らかにして、卒業生の研究者としての出発ができるようにしていく必要があろう。このこ
とは、特に外国からの留学生に関して言える。
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
現在、単位互換は、各大学間の学術的提携・交流を促進し、大学院の教育研究の充実を
図ることを目的として設置され、本学大学院と「特別聴講学生に関する協定」を結んだ他
大学大学院(東京外国語大学、学習院大学大学院、成蹊大学大学院、法政大学大学院、日
本大学大学院、明治大学大学院、立教大学大学院)の授業科目を履修し、その取得履修単
位を、8単位を上限として認定している。
【点検・評価
長所と問題点】
単位互換は、協定大学との話し合いと相互の評価によってきまるので、拡大することも
あれば、縮小することもあるという性質のものであろう。協定が活性化するかは今後を待
つ必要がある。
長所としては、学生の選択の幅が広がるというメリットがある。単位互換協定による学
生の他大学履修が活性化するには、協定校間の相互の信頼と教員を含めた交流の活性化が
前提となろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
389
将来は法科大学院との関係が問題となろう。そこでは、各大学の他大学に対する評価と、
独自のポリシーに基づく評価により決められることになろう。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮
【現状の説明】
公法・民事法・刑事法・国際企業関係法専攻の博士前期・後期課程および政治学専攻の
博士前期課程において社会人特別入学試験を導入して、弁護士、官公庁・企業の法務担当
者、公務員等を主な対象とした社会人の受け入れを行っている。授業を都心の市ヶ谷校舎
において展開して、民事法専攻および国際企業関係法専攻では、夜間の授業と土曜日の授
業の履修を通して修了に必要な単位を修得できるものとしている。また、多摩校舎との双
方向メディアを通した遠隔授業も行われている。
留学生は、博士前期・後期課程を含め、大学院学生の約1割を占める。韓国、中国から
の留学生が多い。留学生に関しては、特に留学生のための履修コースを大学院に設けるこ
とはしていなく、一般の学生と同様に指導している。なお、外国人留学生に関しては外国
人留学生チューター制度を設けて、外国人留学生の日本語学習と学生生活について指導・
助言している。
【点検・評価
長所と問題点】
社会人に対しては、地理的にまた時間的に通常の業務後の履修が可能となるように配慮
している。社会人の場合、利用できる時間が限られることもあり、他方、担当教員数と教
員の負担からも、通常の大学院コースと同じだけのメニューを用意できないという難点が
ある。
留学生に関する指導・助言は概ねうまく機能していると思われるが、留学生が日本にい
るメリットを生かせるように、より一層チューター制度が活用されるべきであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
法科大学院と社会人コースとの関係も法科大学院との関係で見直されることになろうが、
社会人コースには法科大学院とは別のニーズがあるので、将来的に存続し、現在の不十分
な点は、双方向メディアの技術の活用などを通して、補われることになろう。
留学生に関しては、現在は韓国・中国が中心であるが、将来的には、英語による授業も
視野に入れて、アジア・オセアニア圏を対象とする留学生受け入れの拡大も考慮されても
よい。
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
該当なし
390 第3章 大学院
「連携大学院」の教育課程
3−(1)− ⑦
研究指導等
【現状の説明】
大学院における研究指導は、指導教授との密なコンタクトを通して、随時行われてきて
いる。比較的多い人数の授業もないわけではないが、修士論文の作成などにおいては指導
教授への研究計画書の提出、研究の途中経過の報告、指導教授によるコメント、調査・研
究上の相談、など、かなりきめ細かな過程を経て指導が行われているのが実情である。博
士前期課程の学生は修士論文の完成を目指して、博士後期課程の学生は、まずは、大学院
研究紀要に論文を載せるために、論文を執筆して、その過程で指導を受ける。また、共同
プロジェクトがあるような場合には、それに参加して、指導を受け、また、自ら調査・研
究する機会を得て、さらに自分の研究を発展させる機会が与えられている。
【点検・評価
長所と問題点】
指導教授による個別指導は適切に行われているということができよう。日頃の少人数の
授業での口頭による指導に加え、指導を受ける学生の執筆した論文のドラフトの段階から
助言指導を行っており、適切で真摯な助言指導が行われているということができる。この
指導を通して、学生も、問題意識をよりシャープにし、説得的な構成とは何かを知ること
になる。問題は、指導を受ける学生が多数に上がるために、教員の負担がかなり重くなる
点であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
法科大学院との関係で既存の大学院も大きく変わることになると思われるが、指導学生
数を視野に入れた十分な指導体制の充実は継続して行われなければならない。
3−(2)
教育研究指導方法の改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
博士前期課程の場合、32 単位を必要単位とし、博士後期課程の場合には8単位を必要単
位数としている。博士前期課程においては、修士論文の審査を通り、法学研究科委員会に
おいて了承されることが修士号付与の要件である。なお、在学期間に関しては、
「研究科委
員会が優れた研究業績をあげたと認める者」については、本学博士前期課程に1年以上在
学すれば足りるとしている。修士論文については、指導教授および2名の副査による審査
を受け、法学研究科委員会の議を経るものとされている。1年で修士号を取得する場合に
は、指導教授の他、4名の副査による審査を受ける。博士号(課程博士号)の授与の場合
には、本学の博士後期課程に3年以上在学し、所定の単位以上を修得し、論文の審査およ
び最終試験に合格した者に対し、法学研究科委員会の議を経て認定することとされている。
【点検・評価
長所と問題点】
修士論文の審査および修士号の取得に至るまで、指導が重ねられるが、最終的には修士
論文が審査をパスすることが最も重要であり、厳格な要件のもとに審査が行われていると
いうことができる。博士論文(課程博士)の審査に関しては、一定水準の論文を執筆し、
独立して研究を進め、または高度な専門的業務を行うに必要な研究能力とその基礎となる
豊かな学識を有すると認められる者には、学位を授与するという積極的運用が必要とされ
よう。とりわけ外国人留学生の場合には、このような学位の授与は重要な意味を持つ。
391
【将来の改善・改革に向けた方策】
修士論文の指導に関してはこれまでも適切な助言指導が行われてきている。博士論文に
関しては、これまでの審査の質を維持しつつ、一定の水準に達する論文には学位を授与す
る積極的運用が求められよう。
3−(2)− ②
成績評価法
【現状の説明】
成績の評価は、少人数の授業が多い大学院の授業にあっては口頭での報告および必要な
場合に求めるレポートによる報告などを基礎に行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
成績の評価は、履修科目での口頭の発表・報告などを通して、問題意識の鋭さ、分析力、
問題解決能力などを見ることができるが、口頭での発表の機会がない場合には、レポート
による報告を求めて評価する必要があるので、これらを組み合わせて使うのが有効であろ
う。従来の成績評価でも適切に行われていると言えるのであるが、強いてあげれば、口頭
での議論の能力に関する評価の比重が比較的低い点が問題であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来は口頭での議論の能力は、特に法科大学院において重視される項目に入ると思われ
るが、既存の大学院においてもこの能力の養成をより重視し、評価の比重を高めるべきで
あろう。
3−(2)− ③
教育研究指導の改善
【現状の説明】
各年度のはじめに教員の方から、その年の授業計画を示してそれにそって授業が進めら
れ、学生もそれに併せて準備をして、口頭での報告などをしてきているのが現状である。
現在の、教育研究指導方法の改善を促進するための組織的な取り組みとしては、資料の収
集等に関して、インターネットを利用して、最新の資料を収集するように必要な指示をし
ており、文献の指導などに関してはかつてよりも十分に行われていると言えるであろう。
シラバスに関しては、大学院の場合、個別指導が重視されることもあり、学部と比較す
ると簡潔な記述となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
組織的な取り組みの点では、できるだけ最新の資料を利用した教育研究ができるように、
インターネット環境を利用した資料の収集、整理、分類、それを利用した研究材料の配布
などを効率よく利用できるようにする必要があり、そのための補助スタッフの手当も必要
である。この点は、RAやティーチング・アシスタント(TA)を利用した準備を行える
状態となっている。このような最新の資料を利用できる環境の整備は妥当なものであり、
より一層進められるべきであろう。
シラバスの記述は、大学院の場合には簡潔だが、学部よりも学生数が少なく、シラバス
以外の方法で連絡する方法があるので、さほど不都合はなく、また、シラバスにあまりに
拘束されるのは、その後の新しい展開をフォローする道を閉ざしてしまうので妥当ではな
いという面がある。シラバス以外の方法による柔軟な対処が、特に、インターネットを活
392 第3章 大学院
用してできるようになってきているので不都合はないであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、学生による授業評価は導入されていない。少人数教育が中心である大学院教育で
は、一般的に学生の満足度は高いと考えられるが、今後の学生数の増加、とりわけ研究者
志望ではない社会人学生の増加を考慮すれば、何らかの授業評価制度の導入が必要であろ
う。
また、授業、学生の指導と関連して、必要事項の伝達、資料の配付、収集などに関して、
今後、Webページ、share disk、e-mail などの一層の活用が期待される。また、Web
ページの制作を援助する技術スタッフなども用意される必要があろう。Webを活用する
ことによって、アップ・ツー・デイトな授業計画の伝達の可能性は高まる。インターネッ
トを活用した学生への情報の提供が考慮されてよい。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本研究科においては、法律および政治という研究対象自体の国際化によって、早期から
その対応策を模索してきたと言える。教育と学問研究における国際交流は人と知の相互的
な移動を意味するべきであると考えられるが、現実には、本研究科に限らず、こちらから
国外へ出て行くことが多いと思われる。
こうした希望を持つ大学院学生の国内および国外との教育研究交流に関わる制度は、現
在、前者に他大学大学院との単位互換制度、および他大学大学院における既修得単位を所
定の条件を満たしたうえで認める大学院既修得単位認定制度があり、また後者には1年間
の国外留学制度があって、指定校に留学する「交換留学」とそれ以外に学生が希望し本学
が認める大学ないし研究機関等への留学である「認定留学」の二種類が存在する。これと
ともに、指定校からの交換留学生を含めて外国人学生を受け入れる制度も有している。ま
た、研究者に関しては、指定校との交流ばかりでなく、本学の比較法研究所、社会科学研
究所等と連携しつつ、公開講演会や特別講義等において外国人研究者の研究成果と直接に
接する機会を持つと同時に、本研究科教員が国外へ研究または講義に行くことも認められ
ている。
【点検・評価】
大学院学生の国外への留学は近年、相当に活発になりつつあるが、必ずしも当該制度を
利用している学生ばかりではないようにも見受けられる。また、国外からの留学生の受け
入れに関しては、法学研究の特殊性、すなわち、一定レベル以上の日本語能力が必要とさ
れる事情から、必ずしも多数の外国人学生が本研究科で学んでいるとは言えない。ただし、
研究者の国内外との交流に関しては、研究者個人の努力にも支えられて比較的活発と思わ
れる。
【長所と問題点】
上記の【点検・評価】に述べた点を踏まえて言えば、大学院学生の国外留学に関しては
かなり寛容な制度的保障をしていると思われるので、これを周知徹底していくことが望ま
しい。また外国人留学生の受け入れに関しては、すでに「外国人留学生チューター制度」
を設け、外国人留学生の日本語学習および学生生活の指導や助言を行っているが、より充
393
実したものとすることが望ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院学生の国外留学制度をより使い勝手のよいものに充実させ、外国人留学生の受け
入れに関しては、将来、日本の実定法を外国語で教育研究できる方向も考えていく必要が
あると思われる。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
【現状の説明】
本研究科においては、1951 年に開始された新制度によって学位を授与された者は、2001
年3月現在までに修士号 1,329 名、博士号は課程博士と論文博士をあわせて 74 名となって
いる。ここ数年、両学位とも授与者の数が著しい伸びを示している。
【点検・評価】
本研究科における修士号および博士号授与に関しては、厳正かつ公正を旨とし、国内外
における学界の水準に照らして審査がなされている。とりわけ学際領域や新しい問題など
を扱った論文の審査に関して、必要があると研究科委員会が判断した場合、本研究科以外
の研究者にも審査または助言を仰いでおり、特に問題とすべき点はない。
【長所と問題点】
1953 年度から 2000 年度までの本研究科における修士号取得者数は、1,329 名(公法専攻
93 名、民事法専攻 491 名、刑事法専攻 313 名、英米法専攻 36 名、国際企業関係法専攻 100
名、政治学専攻 296 名)となっている。また博士号取得者数は、1964 年度から 2000 年度
までに、課程博士が 14 名、論文博士が 60 名となっている(旧制度による博士学位授与者
は 62 名いる)。課程博士の取得者は、1964 年度から 1993 年度までの間にわずか2名であ
ったが、1994 年度から 2000 年度の間の取得者が 12 名と増加しているほか、論文博士取得
者 60 名のうち、1991 年度からの 10 年間の取得者が 33 名と、全体の半数以上を占めてい
る。
このように、修士学位の取得状況については、概ね問題はないと考えられるが、今後は
博士学位の取得を増加させる必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
諸外国の例に見られるように、これからは修士または博士のタイトルが、従来よりはる
かにキャリアとして重要な意味を持つと思われる。とりわけ、本研究科においては、課程
博士および論文博士の学位授与者数を増加させることが必要と思われる。そのためには、
例えば博士号取得者に対する就職その他での優先的な扱いなど、インセンティブを制度的
に保証していくことなどを考えるべきだと思われる。
表1
法学研究科学位授与状況
研
究
専
1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年
科
攻
度
修
394 第3章 大学院
士
度
11
度
6
度
12
度
7
7
公法専攻
博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
2
0
2
0
21
17
21
22
64
博士(課程)
0
0
0
2
2
博士(論文)
2
0
0
1
1
17
10
6
19
15
博士(課程)
0
0
0
0
1
博士(論文)
1
0
0
0
0
修
0
1
-
-
-
博士(課程)
-
-
-
-
-
博士(論文)
-
-
-
-
-
修
-
4
18
35
43
博士(課程)
-
-
-
0
0
博士(論文)
-
-
-
0
0
修
2
6
8
10
13
博士(課程)
3
0
0
0
3
博士(論文)
1
3
2
4
1
修
民事法専攻
修
刑事法専攻
英米法専攻
国際企業関係法専攻
政治学専攻
3−(4)− ②
士
士
士
士
士
課程修了の認定
【現状の説明】
本研究科における修士課程ならびに博士前期課程の標準修業年限は2年以上であり、所
定の単位を修得し、なおかつ必要な研究指導を受けたうえで、修士論文の審査および最終
試験に合格した者に修士学位は授与されるが、特に優れた研究業績をあげた大学院学生に
対しては1年間で修了することが認められている。また本研究科国際企業関係法専攻にお
いては、すでに高度な専門職にある人あるいはその経験を有している人を念頭において、
本研究科委員会が特に必要と認めた場合、修士論文に代えて特定の課題についての研究成
果を提出することも認められている。博士後期課程については、標準修業年限が3年で前
期とあわせて5年以上であるが、特段に優れた研究業績をあげた者はこの限りでない。
【点検・評価】
修士課程および博士前期課程における1年修了制度、また特定課題に対する研究成果を
修士論文に代える国際企業関係法専攻の制度は、この制度を利用しようとする大学院学生
自身が意欲と力量を十分に具えていなければ現実的に1年修了、またレポートペーパー作
成は困難であり、結果としてそこでスクリーニングが行われることになって、特に問題は
ないと思われる。
【長所と問題点】
修士課程および博士前期課程における1年修了制度は、本研究科入学以前にすでに高度
な専門的知識を有し、また一定程度以上の研究を積んでいる大学院学生に対しては、単位
修得と論文作成を同時に行うことを可能とするものであり、その点、とりわけ高度な専門
職に結びつく研究を志す大学院学生には有効な制度であると思われる。
395
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科における課程修了の認定方法に関して、大学院における研究自体が現実社会と
相互啓発的であることが望ましいことから、現行以上に、よりフレキシブルな、いわば出
入りのしやすい認定の方法を検討していくべきであると思われる。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
博士前期・後期課程とも、学生募集は入学試験によって行われる。
博士前期課程の学生は、全専攻について、①
象とする特別選考入学試験、③
一般入学試験、②
社会人特別入学試験、④
本学学部学生等を対
外国人留学生入学試験の4種
類の試験によって選抜される。
試験方法について、②・③は別に項目(「4−(2) 学内推薦制度」、
「4−(5) 社
会人の受け入れ」
)を立てて検討するので、ここでは①・④を見ていくことにする。
①の一般入学試験では、公法・民事法・刑事法各専攻については、専攻専門1科目およ
び基本6科目(憲法・民法・刑法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法)のうち1科目(専攻
専門科目で選択した科目を除く)と外国語試験(1カ国語)からなる第1次試験(筆答)
と第2次試験(口述)が行われる。国際企業関係法専攻では、専攻専門科目1科目につい
て論述式試験と当該科目に関連する英語の問題が出題される第1次試験(筆答)と第2次
試験(口述)が行われる。政治学専攻については、専攻専門科目2科目の論述式試験と外
国語試験(1カ国語)からなる第1次試験(筆答)と第2次試験(口述)が行われる。
④の外国人留学生の選考は、出願時に提出された論文(使用言語:日本語・英語・ドイ
ツ語・フランス語)を含む書類審査による第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。
博士後期課程の入学試験は、①一般入学試験、②社会人特別入学試験(国際企業関係法
専攻のみ)、③外国人留学生入学試験からなる。すなわち、選考は、国際企業関係法専攻に
おいては3種類、それ以外の専攻については2種類の方法によって行われる。
博士前期課程と同様、②の試験方法については別途検討するので、ここでは、①および
③の試験内容について見る。
一般入学試験について見ると、国際企業関係法専攻を除く専攻では、専攻専門科目1科
目の論述試験および外国語試験(2カ国語、ただし日本法制史・日本政治史・日本政治思
想史を専攻する者は外国語1カ国語の代わりに「史料解読」の受験可)の筆答試験と修士
論文・副論文審査からなる第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。また国際企業関
係法専攻では、英語と専攻専門科目1科目について論述式試験と当該科目に関連する英語
の問題が出題される筆答試験と修士論文・副論文審査からなる第1次試験と第2次試験(口
述)が行われる。
③の外国人留学生の選考は、出願時に提出された論文(使用言語:日本語・英語・ドイ
ツ語・フランス語)を含む書類審査による第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。
入試形態別の在籍者数とその割合を以下に示す。
396 第3章 大学院
表2
入試形態別在籍者数
専
一般入試
攻
人数
公法
博士前期課程
在籍者比
特別選考入試
収容定員比
人数
在籍者比
収容定員比
2
16.6%
6.7%
5
41.7%
16.7%
民事法
17
12.5%
21.3%
43
31.6%
53.8%
刑事法
19
36.5%
63.3%
16
30.8%
53.3%
9
10.2%
12.9%
15
17.0%
21.4%
政治学
15
50.0%
30.0%
8
26.7%
16.0%
全専攻合計
62
19.5%
23.8%
87
27.4%
33.5%
国際企業関係法
専
社会人入試
攻
人数
公法
在籍者比
留学生入試
収容定員比
人数
在籍者比
各専攻合計
収容定員比
人数
3
25.0%
10.0%
2
16.6%
6.7%
12
民事法
72
52.9%
90.0%
4
2.9%
5.0%
136
刑事法
16
30.8%
53.3%
1
2.0%
3.3%
52
国際企業関係法
56
63.6%
70.0%
8
9.1%
11.4%
88
4
13.3%
8.0%
3
10.0%
6.0%
30
151
47.5%
58.1%
18
5.7%
6.9%
318
政治学
全専攻合計
表3
入試形態別在籍者数
専
博士後期課程
一般入試
攻
人数
在籍者比
特別選考入試
収容定員比
人数
在籍者比
収容定員比
公法
12
70.6%
133.3%
−
−
−
民事法
14
31.1%
66.6%
−
−
−
刑事法
13
68.4%
86.7%
−
−
−
6
22.2%
20.0%
−
−
−
政治学
15
65.2%
166.6%
−
−
−
全専攻合計
60
45.8%
71.4%
国際企業関係法
専
社会人入試
攻
人数
公法
在籍者比
留学生入試
収容定員比
人数
在籍者比
各専攻合計
収容定員比
人数
4
23.5%
44.4%
1
5.9%
11.1%
17
民事法
28
62.2%
133.3%
3
6.7%
14.3%
45
刑事法
2
10.5%
13.3%
4
21.1%
26.7%
19
国際企業関係法
20
74.1%
66.6%
1
1.4%
3.3%
27
政治学
−
−
−
8
34.8%
88.9%
23
全専攻合計
54
41.2%
64.3%
17
13.0%
20.2%
131
397
【点検・評価
長所と問題点】
大学院が専門的な学術研究能力を備えた研究者、高度な専門的学識や能力を有する人材
を養成するという社会的使命を負っていることを考えると、上記のような外国語を含む学
科能力判定を中心にした一般入学試験によって学生を選抜することは適切であると言えよ
う。他方で、今日の大学院が社会の新たな要請に応えるべく多様なニーズを持つ学生を受
け入れるために一般入学試験のほかにさまざまな入学試験方法を設けることも積極的に評
価すべきであろう。
しかしながら、
「4−(6) 定員管理」でも触れるように本研究科の定員充足率は、博
士前期・後期課程を合計すると 134.4%と高くなっている。研究者養成を目的の1つとす
る後期課程に ついては別に議論する必要があるが、博士前期課程では民事法・刑事法専攻
の定員充足率が 170%を超えている(表4−①)。その原因の1つとして、試験方法ごとに
入学許可者割合の目安を設けることなく、多様な入試を単純に積み重ねて学生の入学を許
可していることをあげることができよう。博士前期課程で、留学生入試は他の試験方法に
よる入学者を圧迫する要因でないことは明らかである。他方、例えば民事法専攻で社会人
入試による在籍者だけで収容定員の 90%を占めていることが典型的に示しているように、
特に民事法・刑事法では、特別選考入試・社会人入試による在籍者が定員充足率を押し上
げる大きな要因となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
第一に、現行の入学選抜方法が適切であるかどうかについては、追跡調査などを含めた
検証システムを確立することが望ましいのではないだろうか。
第二に、各専攻ごとの教育研究の目的・理念に照らして、適切な入学選抜方法と、各試
験方法ごとの入学許可者・在籍者数割合の目安について検討することが必要なのではない
だろうか。
表4−①
定員充足率
博士前期課程
(2001 年5月1日現在)
専
攻
公
法
年次 入学定員 在籍者
民
事
法
刑
事
法
国際企業関係法
政
治
計
学
入学定員
充 足 率
1年次
15
6
40.0%
2年次
15
5
33.3%
1年次
40
55
137.5%
2年次
40
63
157.5%
1年次
15
25
166.7%
2年次
15
13
86.7%
1年次
35
34
97.1%
2年次
35
32
91.4%
1年次
25
18
72.0%
2年次
25
7
28.0%
1年次
130
138
106.2%
2年次
130
120
92.3%
398 第3章 大学院
収容定員
在籍者
収容定員
充 足 率
30
12
40.0%
80
136
170.0%
30
52
173.3%
70
88
125.7%
50
30
60.0%
260
318
122.3%
表4−②
定員充足率
専 攻
博士後期課程
年次 入学定員 在籍者
入学定員
充 足 率
1年次
3
3
100.0%
2年次
3
4
133.3%
3年次
3
3
100.0%
1年次
7
17
242.9%
2年次
7
10
142.9%
3年次
7
10
142.9%
1年次
5
6
120.0%
2年次
5
2
40.0%
3年次
5
2
40.0%
1年次
10
10
100.0%
国際企業関係法 2年次
10
9
90.0%
3年次
10
8
80.0%
1年次
3
5
166.7%
2年次
3
6
200.0%
3年次
3
4
133.3%
1年次
28
41
146.4%
2年次
28
31
110.7%
3年次
28
27
96.4%
公
民
刑
政
法
事
事
治
法
法
学
計
4−(2)
収容定員
在籍者
収容定員
充 足 率
9
17
188.9%
21
45
214.3%
15
19
126.7%
30
27
90.0%
9
23
255.6%
84
131
156.0%
学内推薦制度
【現状の説明】
本研究科博士前期課程では、一般入学試験による募集に先立って、学部における学業成
績などを主な資料とする書類審査と口述試験による特別選考入学試験を実施している。本
学学部在学生・卒業生については、A評価の科目数を出願資格とするほか、国家試験等の
実績(全専攻)、その他の資格や留学経験などの実績(国際企業関係法専攻)、公募論文の
実績(政治学専攻)を出願資格としている。また、国際企業関係法専攻では、本学法学部
以外の学部または他大学卒業見込みの者についても、本学学部在学生・卒業生とほぼ同様
の要件で受験を認めているのに加え、日本の大学に在学する外国人留学生に対して、特別
選考試験の門戸を開放している。
【点検・評価
長所と問題点】
成績優秀者等に対して、本学法学部の学生を中心に、さらなる教育研究の機会を提供す
ることには一定の意義がある。また、司法試験など国家試験等の実績を出願資格の要件と
しているように、これらの試験を目指す優秀な学生に対して学部卒業後も勉学を継続する
場を保証するという意義も認められる。
しかしながら、外国語の筆答試験を実施していないため、特別選考試験によって入学し
399
た学生の中には、一般入試による学生に比べ外国語能力が低い学生もおり、大学院入学後
の教育研究に支障を来すケースも見られる。また、修士論文作成に向けた問題意識の希薄
さや研究計画の甘さゆえに入学後とまどう学生も中にはいる。さらに、学業成績に基づく
出願資格が、単位数ではなく、2単位科目であるか4単位科目であるかを問わずA評価の
科目数に基づいて定められている点は必ずしも合理的とは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
法科大学院の開設を契機に、この試験制度そのものの位置づけを見直さざるを得ないだ
ろう。その際、この試験方法によって入学した学生についての追跡調査などの基礎的デー
タをもとに議論することが必要だろう。
4−(3)
門戸開放
【現状の説明】
他大学・大学院の学生(外国の学校卒業者等を含む)に対する「門戸開放」の状況を、
2001 年度入学者について見てみよう(他大学等出身入学者数/全在籍者に占める割合(%)
で表記)。博士前期課程では、公法専攻:2/33.3、民事法専攻:19/34.5、刑事法専攻:
11/44.0、国際企業関係法専攻:19/55.9、政治学専攻:4/22.2、全専攻計:55/39.9、
となっている。博士後期課程では、公法専攻:3/100.0、民事法専攻:1/5.9、刑事法
専攻:1/16.7、国際企業関係法専攻:0/0、政治学専攻:2/40.0、 全専攻計:7/17.1、
である。
【点検・評価
長所と問題点】
上記のように、博士前期課程では、国際企業関係法専攻の「門戸開放」の割合が最も高
く、政治学専攻で最も低い。また博士後期課程では、公法専攻が 100%と最も高く、国際
企業関係法専攻が0%と最も低い。国際企業関係法専攻では、博士前期課程で広く学生を
募り、それらの学生の内部進学率が高いことになる。また、博士前期課程について全専攻
合計で4割が他大学等の出身者であることは、教育研究の活性化という点から積極的に評
価できよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究の活性化という観点からすれば、開かれた大学院を目指し、進学相談会やホー
ムページ等を通して大学院情報の積極的な提供を続けることが望ましい。
4−(4)
飛び入学
【現状の説明】
本研究科では特別進学入学試験(いわゆる「飛び級」入学試験)を実施していない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
飛び入学について今後の検討課題になることもあろうが、その場合、学部教育のあり方
を含めた大学教育全体のあり方の検討が求められることになるだろう。
4−(5)
社会人の受け入れ
【現状の説明】
博士前期課程については秋季に、博士後期課程(政治学専攻を除く全専攻)については
400 第3章 大学院
春季に、それぞれ社会人特別入学試験を実施している。また、国際企業関係法専攻博士前
期課程では春季にも入学試験を実施している。博士前期課程の学生は、研究計画書等の書
類審査(在学期間中に修士論文をまとめる能力の有無を中心とした審査)を行い、その合
格者に対して口述試験(公法専攻については筆答試験も実施)を実施し合否を決定する。
博士後期課程については、研究計画書等の書類審査(在学期間中に博士論文をまとめる能
力の有無を中心とした審査)を行い、その合格者に対して口述試験(公法・民事法・刑事
法専攻については必要があると判断された場合には筆答試験も実施)を実施し合否を決定
する。
社会人入試による在籍者数の各専攻ごとの内訳については上掲の表2および表3を参照
されたい。
【点検・評価
長所と問題点】
表2・表3から明らかなように、民事法・国際企業関係法各専攻では、社会人入試によ
る在籍者の割合が全在籍者の半数を超えており、とりわけ、国際企業関係法専攻の博士後
期課程学生は4分の3が社会人によって占められている。これに対し、公法・刑事法・政
治学専攻ではその割合は低い。この数字は、各専攻領域の特徴、社会人のニーズをほぼ忠
実に反映していると言えよう。また、研究科としてもそうしたニーズに応えるべく、民事
法・刑事法・国際企業関係法の各専攻については市ヶ谷キャンパスにおいて平日夜間・土
曜日に授業を開講し、研究テーマも現代の先端的なテーマを取り上げるなどの取り組みを
重ねてきたことの成果であると思われる。
しかし、すでに「4−(1)
学生の募集方法、入学者選抜方法」で述べたように、博
士前期・後期課程とも民事法・国際企業関係法専攻では、収容定員に占める社会人入試に
よる在籍者の割合がきわめて高く、定員充足率を押し上げる一要因となっていることは問
題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多摩キャンパスと市ヶ谷キャンパスを往復する教員の過重負担について早急に検討すべ
きである。また、社会人入試による入学者の割合についても、各専攻ごとの特性を踏まえ
ながら議論する必要があるだろう。
4−(6)
定員管理
【現状の説明】
2001 年5月1日現在の定員充足率(学生収容定員に対する在籍学生数の比率)、修業年
限を超えて在籍する学生(いわゆるオーバーマスター(OM)、オーバードクター(OD))
を除いた在籍者の学生収容定員に対する比率などを示したのが表4−①、②である。なお、
博士前期・後期課程合計では、収容定員 334 名、在籍者数 449 名で、定員充足率は 134.4%
となる。
【点検・評価
長所と問題点】
定員充足率が本研究科全体で 100%を超えていることは、本研究科に対する期待の高さ
を示したものとして積極的に評価できよう。
各専攻ごとの特徴を簡単に示す。公法専攻博士前期課程の充足率は 50%を割っているが、
博士前期・後期課程を合算すると 74.4%となる。他方、民事法・刑事法各専攻では博士前
401
期・後期課程とも著しく定員をオーバーしている。両専攻では修業年限超過学生を減じた
数字でも定員オーバーという状況は変わらず、特に民事法専攻の博士後期課程においては
その傾向が顕著である。民事法専攻の高等教育に対する社会的ニーズの高さの現れとも言
える。しかし、学生に良好な教育研究環境を提供するという点から見ると問題がないとは
言えない。また、公法専攻博士後期課程および政治学専攻博士後期課程の定員オーバーが
目立ち、ODが占める割合が他専攻に比べ高い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
定員管理という観点からも教育研究体制について議論をする必要がある。本研究科に対
する社会の要請や期待にこれまで以上に応えていくために、教育研究条件・環境を改善し
ていかなければならないだろう。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
本研究科に所属する教員総数は 112 名であり、身分別に見ると、専任 66 名、兼担4名、
客員教授2名、兼任講師 40 名となっている。これを専攻別に見ると、公法専攻 15 名(専
任8名、兼担2名、兼任5名)、民事法専攻 29 名(専任 20 名、兼任9名)、刑事法専攻が
12 名(専任7名、兼担1名、兼任4名)、国際企業関係法専攻 32 名(専任 14 名、兼担1
名、客員教授2名、兼任 15 名)、政治学専攻 18 名(専任 17 名、兼任1名)、共通科目6名
(兼任6名)である。なお、外国籍の教員は2名(専任・兼任各1名)となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の教員数は 112 名であるのに対し、在学中の大学院学生の総数は 449 名である
ことから、専任教員一人あたりの学生数は 6.8 名となっている。この比率は、大学院学生
に対する研究指導体制として、おおむね良好と考えられる。ただし、専攻別に見ると、刑
事法専攻が 10.1 名、民事法専攻が 9.1 名、国際企業関係法専攻が 8.2 名、公法専攻が 3.3
名、政治学専攻が 3.1 名という順となっており、専攻ごとに比率が異なっている。また、
指導教授として、論文指導する大学院学生数についても、教員により大きな差がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
第一に、国際化の進展状況の中で、本研究科の教育研究体制を一層確立するためには、
外国人教員の増加が不可欠である。第二に、大学院が大学において占める比重が、今後い
っそう高まるという事情に鑑みれば、より柔軟な人事制度の構築が望まれるところである。
5−(2)
研究支援職員
【現状の説明】
本研究科に所属する教員の研究を支援する職員として、法学部文献情報センター職員と、
RAおよびTAが配置されている。
まず、法学部文献情報センターは、その名が示すとおり、本来的には法学部に所属する
機関であるが、大学院における教育研究体制への支援の役割も果たしている。同センター
では、6名のパート職員が配置されており、国内外の法律学の文献や裁判例のみならず、
社会科学に関する文献の検索のサポート体制を支援しているほか、パソコンのトラブルな
402 第3章 大学院
どの事態への対応もしている。
RAは、比較法研究所、社会科学研究所、人文科学研究所などにおける共同研究プログ
ラムにおける研究に参加するほか、国内外の文献・資料の収集、翻訳などの役割を担い、
大学院教員の研究をアシストする役割を担っている。現在、RAは 14 名で、全員が博士後
期課程に在学する学生であるが、非常勤職員に準ずる労働条件が適用されている。
TAは、大学院における講義の支援をする役割を担っており、大学院教員の講義の準備
や資料収集に従事している。現在、TAは6名おり、いずれも博士後期課程に在籍する学
生である。
【点検・評価
長所と問題点】
法学部文献情報センターによる検索システムの利用と、同センター職員によるサポート
体制は、これを利用する教員に多くの満足度を与えており、評価できるものである。RA
やTAについても、大学院での講義(とりわけ社会人大学院での講義)などでの資料配付
の効率化に寄与しているものと評価することができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科における研究支援職員の体制については、おおむね評価できるものであるが、
今後も制度をより充実させることが期待される。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
【現状の説明】
本研究科所属の教員については、法学部所属の教授職に当たる教員が兼務することとな
っている。このため、本研究科担当の専任教員を公募するという形態は採用されておらず、
原則として、教授として法学部で採用された教員、あるいは新たな教授昇格者を大学院担
当の教員として任用するシステムとなっている。ただ、助教授についても、大学院教育に
必要な場合には、大学院担当教員として任用することも認められている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の教員(兼任教員を含む)として任用されるための条件として、候補者の研究
業績を審査し、法学研究科委員会に出席する委員の3分の2以上の賛成という厳格な方式
が採用されており、大学院教育に必要な人材が確保されているものと評価することができ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員の任用については、さほど問題がないと考えられる。兼任教員については、大
学院担当教員が学会活動などを通じて、本研究科の講義担当に相応しい候補者を選定して
いるが、他大学や研究機関などから、より広く人材を求める方策が必要となってこよう。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
本研究科に所属する教員の教育研究活動は、
「中央大学大学院法学研究科教員紹介」にお
いて、各教員ごとに一覧表として掲載されているので、学生はこれにより教員の教育研究
テーマを知ることができる。また、中央大学が発行する『学事記録』
(年1回刊行)に、各
教員の研究業績一覧が掲載されているほか、2000 年 3 月には、『大学院自己点検・評価報
403
告書(研究教育活動報告書)』(第1号)が発刊され、1994 年から 1998 年までの各教員の
研究業績一覧が掲載されている。
【点検・評価
長所と問題点】
以上のように、教員の教育研究活動における実績を示す報告書などは作成されているが、
それを総合的に判断し、改善の方向へ導くための評価システムは採用されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「本大学院は、教育研究水準の向上を図り、その目的及び社会的使命を達成するため、
教育研究活動の状況に関して自己点検及び評価に努めるものとする」とする中央大学大学
院学則第2条の2の規定を実行化するために、その具体的な実施システムを早急に整備す
る必要がある。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
【現状の説明】
大学院と学内組織との連携については「6−(1)− ②
教育研究組織単位間の研究上
の連携」で、また大学院における他大学との単位互換制度については「3−(1)− ②
単
位互換、単位認定等」で言及したところである。本研究科と学外組織との連携については、
毎年1∼2名の客員講師(Visiting Professor)を国外から招聘し、1ヵ月から1年の期
間、中央大学客員教員として講義を担当するシステムが採用されている。
【点検・評価
長所と問題点】
Visiting Professor による講義は、本研究科・法学部で行われ、好評を博している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も、Visiting Professor 制度を拡充するなど、本研究科における教育研究システム
がより多様化されることが望まれる。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)
研究活動
6−(1)− ①
研究活動
【現状の説明】
本研究科に所属する教員の研究は、一般研究、特別研究あるいは特殊研究として行われ
ているほか、各種のシンポジウム、講演会などが実施されている。
【点検・評価
長所と問題点】
各教員の研究成果は、各々の学会誌や学外の著名雑誌、学内では、
「法学新報」、
「比較法
雑誌」あるいは各研究所の「研究年報」などで公表されるが、おおむね良好なものと評価
することができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院としての研究活動を促進し、学術の振興に寄与するためには、研究成果とりわけ
学位論文の出版助成を、一層充実させることが必要と思われる。また、専任教員の研究成
果、学会活動、学会での評価等を、より正確に集約するよう努めることも重要となろう。
なお、これを学内外に公表する際には、インターネット・ホームページを活用することも
視野に入れられてよいであろう。
404 第3章 大学院
6−(1)― ② 教育研究組織単位間の研究上の連携
【現状の説明】
「6−(1)− ①
研究活動」でも言及されたとおり、学内の研究所として「日本比較
法研究所」「中央大学社会科学研究所」「中央大学人文科学研究所」等があり、本研究科の
専任の教員が研究活動に従事している。教員個人による研究のほか、多数の共同研究チー
ムが組織され、そこでは中央大学の他学部・他研究科、他大学の教員、大学院学生等も加
わって活発な研究活動が行われている。また、専任教員が主宰する専門分野別の研究会と
して、公法研究会、基礎法研究会、民事法研究会、刑事判例研究会、政治学研究会、国際
関係研究会等があり、大学院の学生も参加して活発な研究活動を展開している。
【点検・評価
長所と問題点】
これらの研究所が固有の事業計画に基づいて予算を編成し、教員の研究活動を支えるこ
とには大きな長所がある。ただし、これら研究所と大学院との間で、研究上、特段の連携
が意識されているわけではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院が、従来のような研究者養成だけでなく、高度専門職業人の養成をはじめとして、
より多様化した役割をも担うに至っていることに鑑みると、学内の研究所の機能にも一定
の変化が生じてくる可能性があろう。ただし、具体的な改善・改革に向けた方策を策定す
るのは、今後の課題である。
6−(2)
研究体制の整備
6−(2)− ①
経常的な研究条件の整備
【現状の説明】
以下では、a.研究費、b.教員研究室、c.教員の研究時間確保という3つの点から
説明する。
a.研究費
「中央大学学内研究費助成規程」に基づく学内研究費としては、①
定課題研究費、③
基礎研究費、②
特
共同研究費があり、いずれも 2001 年度から改められた部分がある。
①は、個人で行う学術研究を支援するために助成される研究費である。学内研究費全体
の中での基盤的研究費として位置づけられ、研究用図書の購入をはじめとして、パソコン
等機械器具の購入、研究旅費、謝金、学会年会費等に充てることができる。教員の研究ス
タイルの多様化を反映して使途が拡大される傾向にあったが、2001 年度からは、一定の手
続を経て外国旅費としても使用できる等の改善がなされた。
②は、教員の専門分野における特定の課題について個人で行う研究を支援することを目
的とする研究費である。原則として、助成を受けようとする年度の前々年度に、文部科学
省または日本学術振興会の科学研究費補助金に申請していることを条件とする一方、使途
範囲を外国旅費にまで拡大する等の点が改められた。
③は、学際的学術研究を格段に発展させるとともに、学部、大学院、研究所および学外
研究機関との研究交流を促進し、もって教育研究水準の一層の向上を図るための助成制度
である。共同研究プロジェクトの研究代表者を本学専任教員とし、プロジェクトのメンバ
405
ーの過半数が本学専任教員であることを要件とし、300 万円以上・100 万円以上 300 万円未
満・100 万円未満という3つの金額区分が設けられている。
b.教員研究室
教員研究室は、助手以上の専任教員1名に1室が割り当てられ、1室は 19.44 ㎡(7.2
×2.7m)である。教員研究室の使用については、「中央大学教員研究室使用規程」が定め
られており、また、教員の個人研究室等の円滑な運営と使用の適正を図るために「中央大
学研究室委員会」が設けられている。
c.教員の研究時間確保
教員の研究時間を確保するために、①特別研究期間制度(在宅研究)(「中央大学特別研
究期間制度に関する規程」に基づく)、②在外研究制度(海外留学)
(「中央大学教員在外研
究に関する規程」に基づく)がある。
①は、専任教員が、個人で行う特別の研究の推進に資するため、学年始めから1年間、
一切の校務を免除され、特別研究費の補助を受け特定の研究に従事するものである。この
制度は、本学に5年以上(助手の期間を除く)継続勤務した専任教員を対象とし、特別研
究費の使用方法や請求手続は、基礎研究費とほぼ同じ扱いを受ける。
②は、専任教員が、在外研究費の支給を受け、学術の研究・調査のため一定期間、外国
に派遣されることによって、本学における教育研究の向上と発展に寄与することを目的と
するものである。専任教員のうち教授・助教授・専任講師であって、在外研究を希望する
年度において年齢が満 65 歳未満(ただし、教授会が特に認めた場合はこの限りでない)で
あることが申請の要件とされる。在外研究期間および研究費については、1年・375 万円、
6カ月・245 万円、3カ月・155 万円の3つの区分がある。
【点検・評価】
本学における研究費制度および在宅・在外研究制度は長い歴史を持ち、専任教員の研究
基盤を充実させる役割を担ってきた。教員研究室も、専任教員1人1室の使用が確保され
ている。
【長所と問題点】
研究費、在宅・在外研究期間制度および教員研究室の使用は、全教員に対して平等に保
障され、研究費も徐々に増額されてきた。また、2001 年度からスタートした新しい研究費
制度においては、従来から懸案と認識されていた旅費充当、備品購入等についていくつか
の改善を見た。しかし、教員の間では、研究費のさらなる増額や使途の自由化を求める声
が多く聞かれる。さらに、新しい研究費制度のもとで、特定課題研究費の申請にあたり、
原則として科学研究費補助金への申請が要件とされたこととの関連において、申請手続に
あたっての事務局の情報提供その他のサポートがともなうことも、問題として残されてい
る。
なお、教員の研究時間確保との関連では、昨今、教員の校務負担が重くなりつつあると
の認識の下で、従来の在宅・在外研究期間制度だけで研究専念期間として十分と言えるか
を問う声がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学の研究費制度は、2001 年に改められたばかりであるが、教員の研究スタイル多様化
にともなって、研究費の使途・使用手続についてはさらに柔軟な対応がなされるよう改善
406 第3章 大学院
の余地が残されている。また、コンピュータ利用による研究および情報検索へのサポート
体制も、引き続き整えられる必要があろう。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
7−(1)− ①
施設・設備等
【現状の説明】
現在、本研究科の学生研究室は、博士前期・後期課程全体の収容定員 344 名に対して、
約 20 ㎡の部屋が 45 室ある。利用時間は、開門時刻(8時)から閉門時刻(23 時)までと
なっており、庶務課(1号館受け付け)が、学生研究室室員名簿により、その室員に直接、
鍵の貸し出しを行っている。また、社会人学生用の共同研究室を多摩校舎に1室(85 ㎡)
有している。
講義・演習室は、多摩校舎2号館に大学院教室 21 室(各研究科共用)があり、主に昼間
の時間帯に授業を開設している。これらの教室を中心に、情報自習室、教員の個人研究室
等で授業を行っている。また、夜間の時間帯および土曜日の授業は、社会人学生を主な対
象に市ヶ谷校舎で行っている。
研究施設・設備としては、多摩校舎2号館および3号館に学生共同研究室がそれぞれ1
室ずつあり、研究会等に利用する他、学生相互または教員との交流を図っている。
研究図書については、一般専門図書は、多摩校舎の中央図書館、大学院図書室を利用で
きる他、2号館4階にある日本比較法研究所、社会科学研究所等の各研究所の蔵書も利用
できる。そこでは、和雑誌 1,731 種、洋雑誌 1,946 種が閲覧に供されている他、和書籍 95,369
冊、洋書籍 92,238 冊が整備されている。学生への利用案内については、図書館ホームペー
ジ、図書館発行の「中央大学図書館利用案内(大学院学生・教職員用)」、
「資料のさがし方
ガイド」等を提供し、また文献情報検索システム(CHOIS:中央大学オンライン目録)を稼
動していることにより、利用者の利便を図っている。また、検索文献が研究所や図書館等
で探し出せない場合には、中央図書館のレファレンス・ルームを通じて、他機関への複写
依頼が行えるなどの文献収集のサポートを行っている。
その他、大学院事務室には、資料等の複写サービスのためのコピー機4台を設置し、ノ
ート型パソコンの貸し出し(35 台)などを行っている。
2000 年度から開設された市ヶ谷キャンパスには、図書室(蔵書冊数約 4,500 冊、雑誌 153
タイトル、座席 50 席)、パソコンルーム(1室 40 台)、学生共同研究室(4室 133 席)が
設置されている。また、貸し出し用ノートパソコンが 40 台ある他、共同研究室、談話室、
図書室等の各所に情報コンセントを敷設し、個人のパソコンをネットワーク環境に接続す
ることが可能となっている等、先端的な教育研究活動を支援する環境が整備されている。
同キャンパスの開室時間は 10 時から 22 時までとなっている。
【点検・評価
長所と問題点】
大学院では、学生研究室、講義・演習室、情報自習室、大学院図書室、教員の個人研究
室、事務室などが、すべて2号館に集まり利便性の高い環境が整っていると言える。これ
らの施設は当然、空調なども完備している。しかし、学生研究室の現状は、本研究科で1
室平均 6.1 名と手狭になってきており、今後の改善が望まれる。
407
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院教育に対する社会的要請は年々高まる傾向にあり、それにともない入学希望者も
増えてきている。入学者の具体的要望も、より高度に、より多様になりつつある。これら
の状況に応えるべく、毎年予算計上し、漸次、施設・設備の充実を図っているが、現在と
は社会情勢の異なる多摩移転時の施設・設備を基礎としたインフラ整備はいささか時代遅
れの感は否めない。
特に、学生研究室が手狭なことについては、学生定員の管理にも関係してくるが、早急
に解決されるべき問題で、現在は多摩キャンパス内で新たな場所を模索している。しかし、
このような絶対的スペースが不足している問題は大学院のみならず、多摩キャンパス全体
の整備計画の中で取り上げていくべきである。
市ヶ谷キャンパスについては、専門大学院の開設に備えて一層の整備が進められている
ため、サテライトキャンパスとしての教育研究環境としてはさらに改善・充実されるもの
と考えている。
7−(1)− ②
維持・管理体制
【現状の説明】
大学院施設・設備等の維持・管理については、基本的には法人部門の管財部が所管して
いる。そのうち、什器類等の設備に関しては、大学院において付設計画を立て、研究科委
員長会議の審議を経て予算申請し、予算所管課の査定を受けて、予算が配付され実行に移
される。その際、学生の自治組織である院生協議会などの意見も委員長会見を行って聴取
し、予算申請に反映させている。
また、建物の修繕、ネットワーク工事など構築物の修繕にあたるもの、空調費用、電気
代、プロバイダ利用料などは、法人側で予算措置するようになっている。執行は管財課な
ど所管課が行うが、大学院の申請に基づくことが多い。
【点検・評価
長所と問題点】
施設・設備の維持管理のための意思決定や予算確保に至るプロセスは確立され、十分に
機能していると思われる。
大学院の予算規模は多摩の文系5研究科を抱えているわりには、あまり大きくなく、特
別計上された予算を含めても年間 6,000 万円程度である。この範囲でやり繰りをし、学生
の研究活動を支えているが、マイナス決算になることも往々にしてある。
学部と比較しても決して恵まれているとは言えず、しかも院生協議会の要望が強い情報
インフラの整備(機器増設、ネットワークの高速化・無線化)について、IT技術の進化
に即応していく維持・管理体制をいかに作るかは重要な課題である。また、多摩移転から
23 年が経過し、建物・施設の老朽化も著しく、現状を維持していくための修繕費の増大が
見込まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院の限られた予算や時間・労力を費やし、施設・設備の維持・管理にあてるには、
中長期的な視点による計画の策定が必要になるであろう。その際、進捗状況を確認し、計
画立案後の情勢変化を捉えることも必要である。
7−(2)
情報インフラ
408 第3章 大学院
【現状の説明】
現在、本研究科の教員および大学院学生が利用する図書・資料については、中央図書館、
大学院図書室、比較法研究所および社会科学研究所などに所蔵されている。これらの図書・
資料の書誌データについては、オンライン・データベースが構築されており、学内はもと
より、インターネットを介して学外からも検索することが可能となっている。
本学図書館に所蔵されていない図書・資料については、レファレンス・ルームを通して、
国内外の他大学図書館等に現物貸借または複写依頼を行うことが可能となっている。
また、東京外国語大学、東京都立大学との教育研究交流協定に基づき、両大学と本学の
専任教員および大学院学生は、相互に紹介状なしで図書館を利用することができる。
【点検・評価
長所と問題点】
図書・資料については、本学のほぼ全蔵書の書誌データがデータベース化されており、
検索に不自由することはない。また、従来からある他大学図書館との文献の相互利用に加
えて、近年では、交流協定に基づく図書館の相互利用も活発に進められてきている点は評
価できる。
しかし、博士論文および修士論文や大学院研究年報掲載の論文などの保管は、すべて紙
媒体によるものであるため、電子データ化して閲覧に供する等の取り組みがなされるべき
であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学術資料については、その情報をできるだけ電子データ化していく必要があろう。電子
データを一元的に管理し、利用に供していくことが望まれる。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
本研究科専任教員は、国や自治体における審議会等の委員、国家試験・資格試験の試験
委員、大学主催(学事課所管)の学術講演会ならびに官公庁および民間部門におけるさま
ざまな講演会・研修会等の講師等として、個々の研究成果を社会に還元する活動を行って
いる。また、本研究科出身者の多数が、全国の国公私立大学・短期大学等の専任教員とな
って教育研究活動に従事したり、法曹として活躍したりしていることも銘記されるべきで
ある。なお、本学は、地域に根ざした教養番組を提供することを目指して、八王子テレメ
ディア(株)と共同で「知の回廊」を制作し、2001 年 4 月から八王子ケーブルテレビでの
放映が開始された。これまでに3名の本研究科専任教員が番組に登場している。
【点検・評価
長所と問題点】
上に言及されたさまざまな活動に多数の教員が携わっていることは、社会のさまざまな
場面における個々の専門的知識を提供する学識研究者として、また、利害調整における中
立的判断の主体として、本研究科専任教員が高い評価を受けている証左と言える。今後も、
引き続き、こう言ったかたちで教員の研究成果を社会に還元していくことが望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院を担当する専任教員の研究成果を社会に還元する要請は、生涯学習、リカレント
教育等の広がりにともなって、今後もいっそう強まるものと考えられる。将来も、積極的
409
かつ組織的に社会への情報発信活動を行っていくことが必要とされよう。
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
【現状の説明】
本研究科を運営する機関として、法学研究科委員会が置かれている(中央大学大学院学
則4条以下。以下、この項では「学則」という)。法学研究科委員会は、法学研究科に所属
する学部専任の教員をもって組織され(ただし、法学部長は職務上委員となる:学則9条)、
法学研究科委員会において互選された法学研究科委員長が、法学研究科に関する事項をつ
かさどり、その研究科を代表する(学則6条2号、3号)。法学研究科委員長の任期は2年
である(学則6条4号)
。
法学研究科委員会が審議決定するべき事項は、次の 13 項目である(学則 11 条1項)
。
①研究および指導に関すること、②教員の人事に関すること、③委員長の選出に関するこ
と、④学生の入学、休学、転学、退学その他学生の地位の得喪・変更に関すること、⑤学
生の外国への留学および外国からの留学生の受け入れに関すること、⑥授業科目の編成お
よび担当に関すること、⑦試験に関すること、⑧学位論文の審査並びに学位の授与に関す
ること、⑨学生の奨学に関すること、⑩国際交流の推進に関すること、⑪学生の賞罰に関
すること、⑫大学院学則その他重要な規則の制定・改廃に関すること、⑬その他研究科の
教育研究の運営に関する重要事項。
法学研究科委員会の定足数は、委員の過半数であり(学則 11 条3項)、議決は原則とし
て出席委員の過半数の同意をもって決するものとされるが(学則 11 条4項)、上記②およ
び⑧については出席委員の3分の2以上の者の同意が必要とされる(学則 11 条5項:ただ
し、②のうち兼任の教員については、学則 11 条4項の規定を適用することができる)
。
なお、各研究科に共通する事項を連絡協議するため、研究科委員長会議が置かれている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の管理運営は、法学研究科委員会における審議・決定が尊重されるかたちで円
滑に行われている。ただし、昨今は、大学院に在籍する学生数の増大、大学院改革の動向
等を反映して、法学研究科委員会における議事も増加し、また、審議に時間を要する議題
も増える傾向にある。
また、研究科委員長の選任手続については、現状において特段の問題はなく、学則に基
づき適切に行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では、法学研究科委員会の委員は、全員が法学部教授会の会員でもあるが、議題に
よっては、2つの会議において重複することがある。したがって、今後は、会議運営上の
効率化を進めて審議の実をあげる方策が望まれると言えよう。
10.事務組織
【現状の説明】
大学院に関わる業務は、法学研究科、経済学研究科、商学研究科、文学研究科および総
合政策研究科の文系5研究科については、多摩キャンパスの大学院事務室が、理工学研究
410 第3章 大学院
科については、後楽園キャンパスの理工学部事務室が行っている。また、法学、経済学お
よび総合政策の3研究科は、社会人主体の授業を市ヶ谷キャンパスで行っているため、市
ヶ谷総合事務室と連携を図り、円滑な運営に努めている。
専攻やコース制の新設・改変、学生の募集方法など、大学院の充実・発展に関わる企画・
立案は、各研究科委員長との連携のもとで進めている。合意形成、学内手続、関係機関と
の折衝等、難しい作業もあるが適切に行われている。
予算(案)編成については、編成過程において学生(院生協議会)や教員(各研究科委
員会)からの要望を聞く機会を設け、予算所管部署との折衝を行い、適切な編成に心がけ
ている。
なお、大学院の事務組織全体を見たときに、従来型の業務に加え、近年は、多様な入試
制度、社会人学生の増大にともなう高度専門職業人教育、既存研究科の改変や新研究科設
置構想など、種々の問題点が内在しており、事務局機能の強化は、今後の課題である。
【点検・評価】
近年、大学院在籍者が飛躍的に増大している中、学生および教員への支援は、情報関連
設備の拡充や教育研究支援体制(TA、RA等)の導入等、着実に向上させてきた。しか
し、学生増にともなう学生研究室不足、社会人学生の増加にともなう市ヶ谷キャンパスに
おける円滑な教育研究体制の確立、新形態の研究科設置構想など、懸案事項が多々あり、
今後、事務局は、企画・立案、予算折衝等を通じて、教育研究条件の向上に如何に貢献で
きるかが問われている。
【長所と問題点】
現在、文系5研究科では、一つの事務組織の中で相互に協力しあいながら各研究科毎に
1名の職員が専従として担当している。この体制は、他の研究科や大学院全体の動向を横
断的に把握することができるとともに、担当者と当該研究科委員長等にとっては密接な信
頼関係のもとで業務が遂行される等の利点がある。
しかし、近年の大学院の規模拡大による業務量の増大は、ルーチン・ワークに追われて、
将来の大学院の発展を見据えて業務に取り組む余裕を奪っている状況にあるのが現実であ
る。
しかも、ここ数年の大学院を取り巻く環境の変化は大きく、在籍学生の増加もさること
ながら、従来の研究者養成型の大学院から、社会人学生の増加にともなう高度専門職業人
教育など、著しく多様化している。こうした状況の中で、より高度な問題解決機能が事務
局機能には求められている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院の充実と将来発展に関わる事務局としての企画・立案機能の強化を図る。例えば、
知的資産(教育研究内容・成果)のホームページ等による紹介・発信などは学生募集戦略
上からも緊急の課題とされているが、全スタッフによる広報感覚を持っての発信材料の洗
い出し、さらに必要に応じて、短期間の専門スタッフの導入等により課題の解決を図る。
また、学生研究室拡充、遠隔授業設備更新、情報環境整備等、多額な予算措置を必要と
するものについては、予算編成・折衝過程において経営資源の効率的運用と大学院の方向
性との調和を十分認識のうえ、事務組織の役割を果たせるよう努力する。さらに、就職、
奨学金等他部署からの協力が必要なものについては、連携を密にし、人的資源の有効活用
411
によって、学生サービスの向上を図る。
さらに、例えば、文部科学省の言う「トップ 30」をも視野に入れた既存研究科の再編・
統合問題、新研究科設置構想問題、学生・教員双方に有効的、効率的な教育研究を行うた
めの研究科間の連携(共通科目・コースの設置、人事交流等)問題等、大学院運営の根幹
にかかわる問題についても経営トップや教学執行部と十分な意見交換を図ることによって、
経営面から支えうるような提言ができるよう事務局機能の強化を図る努力をする。
11.自己点検・評価等
11−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
中央大学では『学事記録』毎年作成し、全専任教員の業績一覧を公開している。また、
本研究科の教員紹介のパンフレットにおいて、各教員の研究テ−マ、主要な著書・論文お
よび学会活動を紹介する欄を設けている。
このほか、大学院独自の自己点検・自己評価の活動として、2000 年に『大学院自己点検・
評価報告書』作成されている。
【点検・評価
長所と問題点】
『学事記録』公開されていることにより、各教員の研究状況を把握することができ、こ
の点は評価できるものである。しかし、全教員が毎年の業績を『学事記録』に掲出してお
らず、一部の教員の研究業績が空欄となっているものもあり、統一的な業績公開とはなっ
ていない点が問題である。また、各教員が各々の部署に手書きの方式で業績を提出するシ
ステムとなっており、研究業績の多い教員ほど、何回も手書きの業績一覧表を作成するた
めの時間をとられるという状況にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、
『学事記録』の作成については、法学部、法学研究科、比較法研究所、学長室な
どの連携をより密なものとして、統一的なものとする必要があるし、研究業績の入力シス
テムについても、電子化することが求められる。さらに、本研究科でも、制度的に授業評
価が行われる必要性が検討される必要があるが、大学院の特性からすれば、むしろ学位の
取得状況や、大学その他の研究機関への就職状況という成果により、評価されることも重
要である。
11−(2)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
現在、学外者による客観的評価を受けるシステムは正式には採用されておらず、各教員
が国立情報学研究所による「学術研究活動に関する調査・個人調査票」を大学がとりまと
めのうえ、提出しているに過ぎない。
【点検・評価
長所と問題点】
学外者による検証は行っていないことから、特に記載する内容はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、一層大学院の社会的責任が高まる点に鑑みれば、まず第一に、教育や研究体制
に関する学内での客観的な評価システムの確立が不可欠である。しかし、それにとどまら
412 第3章 大学院
ず、大学の自治を尊重しながら、他大学や外部組織などの統一的な第三者評価システムの
確立が必要と考えられる。
11−(3)
評価結果の公表
【現状の説明】
大学院独自の自己評価を集大成したものとして、2000 年に全文 812 頁にわたる『大学院
自己点検・評価報告書』が作成・公表されており、本研究科についても、自己評価の公表
がなされている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科を含む大学院独自の自己評価報告書が作成・公表されたことは画期的であるが、
その内容は各教員の研究業績の紹介にとどまっていること、また作業が個人単位で行われ
たことから、全員の研究業績が掲載されたものではないという問題点が残されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、全教員の研究業績を掲載するだけでなく、独自の教育システムを採用している
大学院での教育内容を紹介するなど、大学院教育に関する報告内容の充実も望まれるとこ
ろである。
413
経済学研究科
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
経済学研究科は、創設以来長年にわたって研究者養成に主眼を置いて運営されてきた。
博士後期課程を経て教員として大学に在籍している者も大勢おり、その教員数(2000 年4
月現在の判明数)の内訳を見ると国立大4名、公立大2名、私立大 65 名(うち中大は 17
名)、国公私立短大6名などとなっている。また、留学生の学位取得者で母国の教職につ
いている人も多数いる。
しかし、近年は少子高齢化、情報化、国際化を中心とする経済社会の急激な変化に対応
して、大学院教育に対するニーズも多様化しており、特定の分野に関する専門的な知識や
技術を身につけた高度専門職業人教育の必要性が急速に高まっている。このため、経済学
研究科のカリキュラムも時代とともに政策論や応用経済学に属する諸分野を徐々に充実さ
せて、上記のようなニーズの変化に対応してきたが、最近における急激な状況変化は、本
研究科の経済学専攻という単一専攻内部における応急的な措置をもってしては対処しえな
いほどのものになっていた。
このため、経済学研究科改革問題検討委員会を研究科委員会内に設置し、「経済学研究
科 2001 年改革」の名のもとに改革の方向性を探るとともに、カリキュラム改定を中心とす
る具体案を作成し、1999 年に入り、既存の経済学専攻のほかに、まず地方分権化の流れに
対応するための公共経済専攻を設けることが経済学研究科委員会において決定された。続
いて、旧アジア経済研究所跡地を購入して中央大学市ヶ谷校舎を新設することにともなっ
て、日本貿易振興会アジア経済研究所との実体的な連携構想がまとまり、経済のグローバ
ル化に対処しうる人材の育成を目指す国際経済専攻を設置することが研究科委員会におい
て承認された。そして、従来からある経済学専攻博士前期課程から分離・独立する形で国
際経済専攻修士課程と公共経済専攻修士課程の設置申請を 2000 年6月に行い、同年 12 月
に認可され、2001 年から修士課程・博士前期課程において3専攻体制となった。
このような経緯を持つ各専攻の理念・目的・教育目標は以下のとおりである。
国際経済専攻を設置した趣旨は、
①アジア地域を中心に経済社会のグローバル化に対応した高度教育研究体制の充実
②長期の一貫した高度専門教育研究体制の充実
③他研究機関との連携による実践的教育研究体制の強化
という3つの要請に基づくものであり、国際経済の諸問題に関連するさまざまな学問領域
について高度な分析能力を有する研究者の養成を目指している。
また、公共経済専攻を設置した趣旨は、
①地方自治体をはじめとする行政や公的機関あるいは企業等におけるガバナンス能力や公
共的意思決定の高度化、重層化に対応した高度教育研究体制の充実
②長期の一貫した高度専門教育研究体制の充実
③行政機関や他研究機関との連携による実践的教育研究体制の強化
という3つの要請に基づくものであり、経済社会あるいは経済学の研究を担う高度な分析
414 第3章 大学院
能力あるいは研究能力を有する人材の育成、ならびに、公共的な経済社会活動において、
個々の課題に対して適正に政策立案し実行する高度な能力を有する人材の育成を目指して
いる。
そして、2専攻が分離・独立した後の経済学専攻は、経済学の総合的な体系研究を行う
専攻として、経済学の理論・歴史・政策の科目を中心としてそれらがトライアングルの関
係を持ち、相互に関連した体系の基本視点を提供できるような研究を行っている。理論・
学説史では経済学の広範な分野をカバーして、その生誕から今日までの理論体系そして理
論の最先端の分野まで研究を行うことが目標である。また、歴史・応用分野でも経済のさ
まざまな事象を実証分析して、具体的な経済構造を解明する研究を行っている。このよう
に経済学専攻では、理論と実証という両面から、経済学研究の基本視点と分析手法を指導
することを目指している。
【点検・評価】
2001 年度の国際経済専攻と公共経済専攻の2専攻増設と同時に行われた、カリキュラム
の改革によって、純粋に学術的な研究者を志向する学生だけでなく、高度職業人を目指す
学生に適合するプログラムが整備された。
【長所と問題点】
2001 年度の改革によって、多くの科目が設置されたことから、多様な研究のニーズに対
応できるカリキュラムが整備された。この充実したカリキュラムも、多摩校舎と市ヶ谷校
舎での開講科目が異なるため、e−ラーニングなどの新たな教育手法の導入などを通じて、
両校舎間での設置科目の有機的な連環を持たせ、その機能を強化することが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際経済専攻・公共経済専攻を設置したことにより、飛躍的に向上した教育研究体制を
維持発展させるために2専攻を分離した後の経済学専攻の理念・目的・教育目標について
より明確にするべく検討を加える必要がある。学部と大学院の連携あるいは一貫性を明確
にするため、授業科目の相互の関連性が見直されるべきであろう。また、国際経済専攻と
公共経済専攻における博士後期課程の設置が、当面の課題とされるが、この改革を通じて、
博士後期課程の一層の充実が図られる。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本学における大学院の歴史は旧制と新制の二つに分けることができる。1920 年の大学令
にもとづいて本学に大学院(旧制)が設けられ、1953 年まで存続した。経済学に関する教
育研究もその中で行われ、経済学博士の学位も出されている。
戦後の 1951 年に新制の大学院制度がスタートしたとき、法学研究科および商学研究科と
ともに、経済学研究科が経済学専攻修士課程として設置され、2年後の 1953 年には博士課
程に経済政策専攻が開設された。1961 年には博士課程経済政策専攻が博士課程経済学専攻
に改組されている。さらに 1975 年には、修士課程が博士前期課程に、博士課程が博士後期
課程に制度変更された。
爾来、本研究科は、2000 年度まで博士前期課程2年、博士後期課程3年の一貫性博士課
程で、教育研究上の基本組織としては、経済学専攻のみが置かれていた。
415
2001 年度4月から国際経済専攻修士課程、公共経済専攻修士課程の設置が認可され、現
在、修士課程・博士前期課程は3専攻、博士後期課程は1専攻で構成されている。
【点検・評価】
1専攻体制から3専攻体制に移行することによって、学生が選択できる研究テーマが拡
大したが、研究科全体の運営面で専攻の独自性がどの程度発揮されるべきかなどの基本方
針が試行錯誤の結果として確立されるべきであろう。
【長所と問題点】
博士後期課程が1専攻の体制となっており、専攻の壁がないということで、弾力的な研
究活動が可能であるという面はあるが、国際経済専攻と公共経済専攻の学生にとって研究
が一貫していないという、恐れもでてくる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際経済専攻と公共経済専攻においては、博士後期課程の設置による一貫した研究指導
体制の整備が検討されている。
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
【現状の説明】
本研究科の修士課程・博士前期課程の教育課程の概要は以下のとおりである。
①経済学専攻では、2専攻新設により経済学の総合的な体系研究を行う体制となり、経済
学の理論・歴史・政策がトライアングルの関係を持ち、それが統一されて研究されるよう
になった。新設された2専攻では、国際経済専攻修士課程に、日本を含むアジア市場の諸
問題を総合的に取り上げた国際開発の分野に関する科目群および国際市場における資本の
動きに焦点を当てた国際金融の分野に関する科目群を設置し、また、公共経済専攻修士課
程では、科目を公的経済システム群、空間経済群、環境・福祉群に再編・整理するととも
に、各専攻の各群とも授業科目を大幅に拡充した。
②高度専門職業人の養成等を目的とする場合、種々の学力を有する者を大学院学生として
受け入れることは避けられない。また、入学定員の増大にともない、教員の個人的な指導
に関する努力だけでなく、優れた教育システムを備えることが不可欠であると考える。そ
のシステムの一環として大学院学生の理論的および計量的分析に関する基礎的能力の向上
および平準化のために、1年次に本研究科としての共通基礎科目を設置した。さらに、体
系的学習を図るために、各専攻の基幹科目と発展科目を整備し、その基幹科目の中から、
4単位を選択必修とした。
③各専攻の学生は、本研究科の各専攻に共通して設置される共通基礎科目の履修により理
論的および計量的分析に関する基礎的な能力を強化したうえで、それぞれの専攻に配置さ
れた基幹科目、さらに発展科目、演習科目と履修を積み重ねて、専門性、実践的応用力を
高めるという体系的学習を指導している。
④演習科目は、通年で4単位とし、4単位を必修として2年間で8単位まで履修を認めて
いる。これにともない、1年次で論文指導を行うことができることにより、優れた研究業
績をあげたと認められて1年で修了することが可能となった。
416 第3章 大学院
⑤それぞれの専攻は、他専攻および他研究科との有機的な連携を図り、広い視野と学際的
観点から研究を行うことができるようにするため、本大学院他研究科および本研究科の他
専攻において履修することができる単位を 12 単位まで認めている。
⑥国際経済専攻と公共経済専攻では、現実の経済で生じている諸問題に実践的に対応でき
る能力を形成し、特定の課題での研究遂行ができるようにするため、プロジェクト演習、
インターンシップなどを開設し、実践的実習を重視した教育を行っている。
また、本研究科後期課程の教育課程の概要は以下のとおりである。
①後期課程においては論文の作成指導中心であるため、単位取得は一切必要ない。後期課
程では形式的な意味での単位修得は必要ではなく、指導教授の個人的な研究指導を中心と
して、近い将来に大学の教壇に立つ人材あるいは専門領域の研究を想定した、より高度な
専門的知識の蓄積と分析能力の涵養に力点が置かれている。
②後期課程に在籍する最大の目的は、博士論文の作成にあるが、その完成のために常時適
切な指導やアドバイスがなされている。特に博士論文の完成に向けて大きなステップとな
るのは、毎年1月末に開かれる定例研究発表会での研究成果の報告である。ここでは、大
学院学生の報告に対して指導教授以外の2名の教員からさまざまなコメントや論評が加え
られる。大学院学生はこのコメントや論評、さらには他の意見などを参考に研究内容を充
実させ、その後に学会で報告したり、大学院の機関誌である『大学院研究年報』、『論究』
などに論文を発表したりしながら、最終的な博士論文を仕上げていくことになる。
③また、後期課程の学生には本学附置の経済研究所の研究プロジェクトに準研究員として
参加する途も開かれており、早くから本格的な研究活動に取り組むことも可能となってい
る。
【点検・評価】
①授業時間割の編成に関しては、昼間時間と夜間時間の有効活用、ならびに、多摩校舎と
市ヶ谷校舎の効率的利用と連携的活用によって、学生にとって科目、時間、場所の選択の
幅を広げるとともに、2年間にわたる一貫した研究計画のもとでの効率的な履修計画に大
きく貢献しているものと思われる。
②研究計画の策定については、各学生ともに指導教授の指導のもとで慎重に履修計画をた
てており、特に、現時点では1年間での修士号取得を目指す学生はいないが、今年度もプ
ロジェクト演習などによる指導も行われており、各テーマに沿った研究指導体制が予定通
り拡充の方向に向かっている。
③国際経済専攻にあっては、アジア経済研究所の協力体制のもと、プロジェクト演習やそ
の他の関連科目などを通じて、アジア圏経済の経済事情や通貨問題などを含めて、きわめ
て実践的な講義が行われている。また、数多くの国際経済の理論、実務、実証分析にかか
わる科目群があり、学生の興味に応じた最適履修を可能にしている。
④公共経済専攻にあっては、官公庁をはじめとする多くの客員教授等による協力のもと、
公共経済に関する理論はもとより、実証分析や現実の公共的意思決定にかかわる具体的講
義に至るまで、幅広い科目群が用意され、学生にとって多様な履修を可能にしている。
⑤経済学の基本的な領域をカバーする共通基礎科目は、履修者の数も多く、基礎的概念の
履修意欲が特に社会人に強いことが伺われる。共通基礎科目は、それぞれ内容的かつレベ
ル的にⅠ、Ⅱが配列されており、この点でも、学生の過去の学修履歴に応じたきめの細か
417
い対応が可能となっている。
【長所と問題点】
新設された国際経済専攻や公共経済専攻の科目群と併せて、基幹となってきた経済学専
攻における科目群も、名称変更や新設科目設置、改廃などによって拡充されている。これ
ら3専攻間の履修可能性によって、ある専攻に入学した学生は、他専攻の科目群を含めて、
充実した選択肢のもとで、幅広い履修が実質的に可能となっている。また、演習科目を選
択し、指導教授のもとで、各学生にとっての最適履修を可能にする履修ができる。さらに、
新専攻では、プロジェクト演習によって、一層実践的な研究指導が行われている。
このような長所を持ったカリキュラム体系ではあるが、以下のような問題点も指摘でき
る。例えば、従来からの伝統領域を越えた広範かつ横断的な研究領域にあっては、副指導
教授体制の拡充と併せて、個別的な指導体制から複数教授による指導体制が要請される場
合もあるであろう。このような点を、内部の負担増との兼合いで、どのように充実できる
かが問題となろう。特に共通教育科目に関連して、週の時間割構成上、他の選択科目と重
複し履修が不可能な状況がある。基礎的な科目群であることの配慮をどの程度行うのかを
考慮しなければならない。このことは、特に、市ヶ谷校舎、夜時間での開講時に起こる問
題ではあるが、より慎重な時間割作成が望ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
①国際経済専攻ならびに公共経済専攻における博士後期課程の経済学専攻からの分離・設
置を行うことは、より高度な研究職従事を目指す学生の期待に応えるためにも是非必要で
ある。その際、現行の修士課程における研究履歴とどのように有機的にリンクさせ、評価
し、継続的な指導が可能となるかを含めて、効率的な指導上の仕組みを準備することが重
要であると思われる。
②プロジェクト演習における修士号取得の条件や手続は整備されているが、本来の共通テ
ーマのもとでの研究体制の中で、一定のレベルを保持しつつ展開していくためにも、プロ
ジェクト演習を主たる演習指導の場とする履修者の拡充を図る必要がある。その点、プロ
ジェクト演習の趣旨や目的に関する若干の情宣不足があるように思える。履修指導を充実
させる必要があるように思われる。
③選択科目群、特に、発展科目については、学生の興味や必要に応じておおむね良好な履
修状況にあると思われるが、専任教員の負担上の問題や、履修の合理性に鑑みて、隔年開
講や集中講義形態など、より機動的な科目配置、時間割を模索する余地はあるように思え
る。
④本研究科では、独自のパンフレットを作成し、受験はもとより入学後の履修決定上の便
宜を図るために、さまざまな情報を発信している。インターネット(HP)での配信をよ
り一層拡充させ、個別の疑問や履修上の注意まで含めた情報を、現在以上に充実させる必
要がある。
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
「今日の学問の高度化と専門化の進展の中で、大学院にふさわしい高度な教育研究を実
現するためには、各大学における改善努力とともに、複数の大学間での単位互換制度を導
418 第3章 大学院
入することにより、大学院学生に学修する機会をより豊富に提供することは、有益かつ必
要な改革であると考える。本協定に加盟する各大学大学院経済学研究科・専攻は、所属す
る大学院学生の研究機会および情報交換の場を拡充し、経済学ならびにその関連分野の研
究の質を高めるとともに、大学院間の学術交流に資することを目的とし、平等互恵の精神
に基づき、相互の交流と発展を目指して、単位互換制度を設置し、運用するものである。」
という趣旨のもとに、青山学院大学、専修大学、中央大学、日本大学、法政大学、明治学
院大学、明治大学、立教大学の8大学院経済学研究科・専攻で単位互換協定を締結し、2001
年度から運用を開始している。単位互換で修得した単位は課程の修了に必要な単位として
認定できるが、修得できる単位数は 10 単位を上限としている。
【点検・評価】
本学での利用者数は、初年度である 2001 年度について受け入れが2名4科目、派遣が1
名2科目となっている。
【長所と問題点】
単位の大学院間での互換性は、互いの教育研究機能を補完するのみならず、相互の競合
的関係を明確にし、大学院の独自性を要求する。その意味で望ましいと考えられるが、伝
えられる内容が講義科目のテーマのみに限定されていたりすれば、かえって不十分な情報
伝達のもとでの評価や判断が行われる危険性がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に、他大学院に関しては、現在の制約条件である 10 単位の履修が可能であるにもかか
わらず、きわめて低い活用状況にある。これには、履修時あるいはその前に、他大学院の
情報が十分には準備されていないためであろう。指導教授においても情報が不足している
か、あるいは全く無いというのが現状である。大学院間の積極的交流関係を築くためにも、
このような点の改善が必要であろう。連携大学院の情報をリンクさせたHPなどの設置も
必要であろうし、なによりもまず、相互の連携を意図する研究科個別の意欲不足の問題も
あるかもしれない。大学院間でカリキュラム体系を相互に話し合う場が必要となろう。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮
【現状の説明】
1.社会人学生
本研究科においては、研究者および高度専門職業人を目指す本学および他大学の学部卒
業生、外国人、留学生、社会人など大学院での勉学を行うにふさわしい能力を有する者を
広く受け入れている。特に社会人の受け入れについては、大学院設置基準第 14 条の教育方
法の特例の趣旨にそって、多摩校舎のほかに、市ヶ谷校舎というきわめて利便性に優れた
場所での開講と、第6時限目や第7時限目という夜間時間の活用によって対応している。
高度専門職業人を目指す意欲ある社会人学生は、実社会に従事して以来、さまざまな意味
での社会的・職業的能力を身につけており、その意味で、勉学目的意識が高いと考えられ
る。このような意欲あふれる社会人に対して広く門戸を開放するために社会人特別入試を
実施し、また、入学後には、適切な履修ガイダンスを行うとともに、社会人学生の学習意
欲に応えるために、実務経験が豊富な兼任講師と専任教員が連携して研究指導をする「プ
ロジェクト演習」を開設するなど、社会人学生に対する研究指導が円滑に進むように配慮
419
している。
2.外国人留学生
本研究科では、これまで多くの留学生を受け入れてきた。近年、国際経済の諸問題に強
い関心を持つ留学生は非常に増加しており、さらに、学生の関心の対象も国際市場におけ
るさまざまな問題に広がって多様化し、高度専門的な技術の習得を指向する傾向が強くな
っている。こうした留学生の学習ニーズに応えるために、各専攻のカリキュラムでは、多
様な問題に関して、理論的な基礎研究から実践的な応用研究まで、数多くの科目群が体系
的に配置されている。
また、留学生の中には、日本の経済システムに強い関心を持つ大学院学生が多く含まれ、
彼らは、自国とは異なる特徴を有する日本社会の経済システムを研究して、その成果が帰
国後、母国の経済運営に役立つことを願っている。留学生にとって、これから進行する日
本の構造改革の内容を理論的および実証的に研究することは、教育研究にとって重要な機
会に恵まれることになると考えられる。留学生向けの支援策として、留学生のための特別
入試制度を実施するとともに、必要に応じて、英語による論文指導を行っている。
【点検・評価】
現在、本研究科修士課程、博士(前期)課程に在籍中の社会人は、32 名、留学生は 11
名である。社会人学生にあっては、適切な履修指導のもとで演習指導を受け、また、プロ
ジェクト演習の履修も積極的に行われている。留学生は、日本語による受講やレポート作
成もおおむね良好であり、特に、国際経済専攻の設置によるアジア経済を分析する科目群
の充実、また、公共経済専攻の設置による国や地域の公共政策の制度的枠組みや遂行過程
をめぐる理論・実証科目群の充実などによって、履修の幅が一層広がったと考えられる。
【長所と問題点】
授業時間の夜間時間での設置や市ヶ谷校舎での開講は、特に、職場を都心に持つ社会人
にとってなにより利便性を与える好条件となった。また、公共経済専攻や国際経済専攻の
設置が、留学生の幅広いニーズに応えたものになった。現状では、外国人留学生に関して
は、大きな問題は生じていないように思えるが、留学生に限ったことではないかもしれな
いが、世界的な不況の中、経済上の問題のみならず生活上の細かな問題が生じた場合には、
やはり、専門のアドバイザーの設置や外国人留学生チューター制度などが簡単に利用でき
る体制づくりが必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人のニーズの高まりや外国人留学生の入学希望に応えるためには、入試改革ももち
ろんであるが、充実した履修科目群の整備のほかに学生生活を送るうえで精神的安心を保
証するためのアドバイザーの存在が必要であろう。後者の点に関しては、特に制度上の整
備を含めて今後の議論が必要であろう。また、社会人の履修に関しては、必ずしも、経済
学部を最終卒業学部としない学生やかなり以前に卒業した学生もおり、現在の経済学の知
識を十分持ち得ていない。そのような個人の個別履歴に対応するためには、現行の共通基
礎科目だけで十分なのかを含めた検討が必要であろう。
420 第3章 大学院
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
「連携大学院」の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑦
研究指導等
【現状の説明】
本研究科の大学院学生は、指導教授の指導のもとに、履修の計画を作成して、研究を進
めていき、その成果は修士論文・博士論文となっている。
特に修士課程・博士前期課程では、この研究成果としての修士論文が、質の高いものと
なるために、指導教授が主要な研究テーマ別に演習科目を担当している。大学院学生は、
この演習における2年間にわたる指導教授からの個人の研究テーマに適応した研究指導に
よって、高度な内容を備えた修士論文の作成が計画的に進められる。特に、社会人などを
経験した大学院学生が、明確な研究のテーマを持って進学してきたときには、この演習の
指導体制は、2年間の標準的修業期間を研究のために有効に活用するのに役立つように設
計されている。
また、国際経済専攻と公共経済専攻では、プロジェクト演習を履修することが可能であ
る。これは重要なテーマごとに共同研究チームを設定して、専任教員と兼任教員が連携の
もとで、大学院学生は毎週研究報告を行い、その成果を報告書として外部に公開すること
を義務づけるものである。プロジェクト演習の単位は、演習と同様に4単位としている。
報告論文は修士論文に代わるものであると認められるので、字数は、1万字程度以上とし
ている。課題研究において専任教員とともに共同して研究指導にあたる兼任教員には、専
門的な経験がある多様な人材をあて、実務的な研究指導が可能なようにしている。
博士後期課程における博士論文の作成に関しては、指導教授からの個人的な指導によっ
て行われているが、3年間での博士号取得に向けた指導体制になっていないのが現状であ
る。
【点検・評価】
本研究科における個別学生の指導内容については、教員の判断に委ねられている。若干
のばらつきはあるものの、それぞれの専任教員が指導する学生数はきわめて少ない(中に
は、財政学関連担当者で、1学年 10 名を超える学生を抱えているケースもある)。このよ
うに、全般的には少人数教育が実現しており、個別学生に対する指導に関して十分行き届
いた指導が可能な状況にある。
【長所と問題点】
少人数教育であることが、充実しかつ丁寧な研究指導を可能にしている。しかし、少人
数とは言え、専任教員のカバーする専門領域を越える対象領域を研究対象とする学生の要
望に応えるためには、研究指導の委託も含めた他研究科・他大学院との協力を進めること
421
が重要であろう。また、分野によっては、教授、助教授、あるいは現行での大学院担当者
という枠にとらわれず、資格のある場合には、副指導教授として関与できる制度の整備が
必要かもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
修士課程・博士前期課程の3専攻を合わせて、100 名定員のもとでは、一教員あたりの
指導担当学生数も当然ながら増加する傾向を持つし、また、学生の偏在を考慮すれば、一
教員あたりの負担はかなり増加することが考えられる。このような負担増をともないなが
ら、同時に、少人数教育のメリットを享受できない事態が想定される。その場合には、負
担の平準化の問題も合わせ議論されるべきであろう。プロジェクト演習の活用による研究
指導体制の充実などが望まれる。一方、博士後期課程での研究指導については、個別的な
指導体制に任せるのではなく、修士課程・博士前期課程と同様に、副指導教授制度の導入
と併せて、博士論文作成に至るステップの明確化や目標水準等の明示化によって、学生の
論文作成へ向けたインセンティブを高める施策を講じることが必要であろう。この点につ
いては、2002 年度からの実施を目指して、現在大学院経済学研究科委員会で鋭意検討中で
ある。
3−(2)
教育研究指導方法の改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
教育効果は、最終的に、受講した学生に対する単位付与という形で結実し、単位評価に
よって認定されるが、実体的には、受講生自身の当該科目に対する知識、理解の深化によ
って測定されると考えられる。現在、教育効果を判定する者は、担当教員自身であって、
客観的に外部の評価や教育評価を受けるかたちにはなっていない。共通教育科目などの場
合には、到達度に一定の平均レベルがあるので問題は比較的少ない。
【点検・評価
長所と問題点】
現時点では、教育効果の測定を、外部者を含めるという意味では客観的に行ってはいな
いが、これが直ちに、現行の教育効果の測定について問題があることを意味しない。
大学院レベルの講義では、講義内容や対象となる文献それ自身が、コントラバーシャル
な場合も含めて、最先端の内容で、標準的な評価がないケースがある。その意味では、他
者の評価測定をそのまま当てはめて評価する方法は存在しないように思われる。それがゆ
えに、個別に任せられている教育効果の評価については、当事者の真摯な評価態度が求め
られる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育効果の評価については、むしろ、シラバス等の充実化を図ることで、教育内容の整
備と教員間での横断的な情報交換を行い、当該授業科目の目標到達度や内容を明示するこ
とによって、結果として教育効果を表示することが期待できる。現状のシラバスは、必ず
しも十分な情報を学生に提供しているとは言えない部分もあるので、シラバスの充実が望
まれるところである。また、体系的な大学院での講義体系を目指して議論を詰めることも
必要であろう。
422 第3章 大学院
3−(2)− ②
成績評価法
【現状の説明】
単位の認定にあたっては、制度上、平常点やレポートならびに試験によって評価が行わ
れるようになっている。現状では、試験を行うケースは比較的少なく、平常点で評価され
るウエイトが高いように思われる。平常の出席において、発言や議論、予習・復習状況が
判定されるわけであるから、特に少人数教育で行われる大学院の講義や演習科目にあって
は、評価自体に客観性がないわけではない。もちろん、新専攻の設置とともに、受講生が
増大する傾向にある(10∼15 名程度の講義がある)が、このような場合には、課題やレポ
ートあるいは、場合によっては実質的に試験が行われる例もある。いずれにしても、評価
のレベルについては、各教員に任されている。成績評価の認定は、授業科目毎に、Aから
C段階が合格で、不合格はD評価である。なお、Cは 100 点満点の 60 点以上を指す。
【点検・評価】
大学院では、少人数であり個別的かつ細密な指導が可能である。当該授業科目にとって
必要な大学院水準のレベルにおける理解をしえたかどうかが判定材料となる。一般的な評
価は困難であるが、おおむね、適正な評価が下されているように思える。
【長所と問題点】
評価が、個別的であるため、顕在化しているわけではないが、科目間の評価の偏差が大
きい可能性が依然として残されている。もちろん、履修上で必要なものについては、その
平易さや難解さとは無関係に履修指導が行われるので、科目間の評価上の偏差がもたらす
科目間の履修のばらつき問題は、それ自体生じないと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
適正な評価に向けた教員相互の努力は、常に必要とされる課題である。講義をする側と
受講する側の、講義における信頼関係の構築とともに、評価自体への信頼が形成されるで
あろう。
3−(2)− ③
教育研究指導の改善
【現状の説明】
大学院での教員の教育研究指導方法の改善を促進するための組織的な取り組みについて
は、国際経済専攻や公共経済専攻の新設にあたって設置された大学院カリキュラム検討委
員会をはじめとするいくつかの委員会で話し合いが行われ、その結果、新専攻を含む現在
の教育研究指導方法が形成された。しかし、組織的な取り組みが、例えばFDのような理
念のもとで行われているわけではない。また、現在、学生に提供されているシラバスにつ
いては、記載内容や情報量について担当教員間でかなりのばらつきがある。学生による授
業評価制度は、現在のところ導入していない。
【点検・評価】
現在のところ、新専攻の設置や国際経済専攻と公共経済専攻における博士後期課程の申
請を行うといった改革が継続しているために、大学院での教育や指導の在り方をめぐって
議論がかなり深まっており、その成果が現れつつある。
【長所と問題点】
改革の継続がもたらすメリットを最大限享受しているのが現状ではあるが、シラバスに
423
関しては、十分な改善へ向けた議論が行われていない。学生による授業評価制度について
も、少人数教育であるがゆえに主に教員側にその必要性が感じられないように見受けられ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
授業科目によっては、数十人の受講がありえる科目については、学生による授業評価の
導入も視野に入れるべきであろう。また、シラバスの充実に関しては、本学にとどまらず、
他大学院の学生にとっても利便性が向上することから、早急な改善が必要であろう。また、
このような点も含めて、恒常的に、大学院での教育研究の在り方を議論する組織の形成も
希求の課題であろう。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
国際化時代への対応として、国際交流の拡充は欠かせない。本大学院では、専攻分野を
さらに深化させるために、1年間の国外留学制度(交換留学、認定留学)があり、現在の
大学院レベルの国外派遣大学は、世界各国の 24 大学に及んでいる。認定留学制度は、学生
自身が希望し、本学大学院が認めた大学・研究機関への留学である。交換・認定留学とも
に、単位認定をはじめ、継続履修、奨学金給付、学費減免等のサポートを行っている。ま
た、本学の協定校をはじめ、大学全体で毎年 80 名程度の外国人研究者が訪れ、公開講演会
や研究会などを行っている。
【点検・評価】
現在、本研究科では、1名が留学中である。目的を持って留学し、海外での学究生活を
送ることが、本人の研究活動として大いにプラスになることは疑い得ない。
【長所と問題点】
単位認定の他、一定のサポート体制は充実していると考えられる。しかし、1学年 100
名定員の規模にあって、今後増大するであろう留学希望に応えるためには、1年間に限定
された留学期間で良いのか、留学をサポートする現行のシステムは十分かなどの点を含め
て議論が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本来、自己完結した指導体制のもらもとで、大学院における教員配置やカリキュラム整
備が必要であるということから考えれば、他大学院との単位互換や留学制度の拡充は、そ
れ自身補完的な意味で、学生個人の研究意欲を促進し、研究へのインセンティブを高める
契機として位置づけるべきかもしれない。他方、経済学の領域深化とともに、一つの大学
院ではすべてを準備できないという大学院機能の狭隘化が進む中、国際交流を含めてより
学際的な交流の場が必要となっていることもまた事実であろう。一層の国際交流の拡充に
向けて制度の改革が必要と思われる。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
【現状の説明】
学位は、博士前期課程修了者が修士(経済学)、博士後期課程に在籍し、博士学位請求
424 第3章 大学院
論文が審査に合格した場合には博士(経済学)、博士(会計学)、博士(経営学)をそれ
ぞれ取得できる。新制度発足以来これまで、444 名の修士学位取得者と 73 名の博士学位取
得者を輩出しているが、その多くは経済学および関係領域の研究に関連する分野で活躍し
ている。
修士課程・博士前期課程の標準修業年限は2年である。修士論文の審査および最終試験
は、指導教授を主査とし、その他に研究科委員会で選出された副査2名以上を合わせ、3
名以上の審査委員によって行っている。なお、修士論文のほかに、特定の課題についての
研究成果をもって修士論文に代えることを認めており、特定の課題についての研究成果の
審査は、修士論文の審査に代わるものであるため、これと同一の手続で行っている。
博士後期課程の標準修業年限は3年であるが、3年間でいわゆる課程博士を取得したと
いう例はほとんどない。博士学位の授与要件については、博士後期課程に3年以上在学し
た者が指導教授を通じて博士論文を研究科委員会に提出し、指導教授を主査とし、研究科
委員会が委員のうちから指名する2名以上の副査を加えて審査される。その際、必要な場
合には、本研究科の兼任教員、あるいは他研究科の教員、または、他の大学院もしくは研
究所等の教員の協力を得て審査を行うようになっている。
【点検・評価】
修士論文の審査に関しては、現行の手続で厳密に行われ、多くの修士課程修了者を輩出
している。反面、博士学位、特に、課程博士論文に関しては、提出も含めてきわめて少数
になっている。これは、経済学部の独自性を反映している面もあるが、時代とともに博士
学位を所持することが、就職のための条件となりつつある現状を鑑みたとき、博士論文の
作成を念頭に置いた指導体制づくりが必要であろう。
【長所と問題点】
指導教授が少数の学生を演習の形で、論文作成の指導を行うことは、きわめて良好な結
果を生んでいるように見受けられる。しかし、研究領域の広域化や学際化を踏まえて指導
体制を見た場合、一人のみの指導がいつでも良い帰結を生むとは限らない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
すでに制度化されている副指導教授の制度を拡充し、複数の指導を受けることを可能に
することが必要であろう。しかし、その場合、一大学院研究科の中では、分野や範囲が限
定されているであろう。広範に人材を求めることが必要であると考えられる。学位の審査
に関しては、現在の学位審査の透明性や客観性をより一層高めるための措置を導入するこ
とも必要であろう。
表1
経済学研究科学位授与状況
研
究
専
科
1996 年度
攻
修
経済学専攻
士
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
23
28
21
27
28
博士(課程)
1
3
0
0
1
博士(論文)
0
2
1
2
1
425
3−(4)− ②
課程修了の認定
【現状の説明】
1.修了要件
修士課程・博士前期課程の修了要件は、本学大学院に所定の期間在学して 32 単位以上を
修得し、かつ指導教授から必要な研究指導を受けたうえ、修士論文の審査および最終試験
に合格することである。標準的在学期間は2年であるが、ただし、優れた業績をあげた者
については、在学期間を1年とすることを認めている。修業年限短縮の決定に関しては、
以下の方法を採用している。まず、1年次の個別研究指導を担当する指導教授(主査)が
日常的な指導の過程を通じて「優れた研究業績を上げた」と判断するときは、当該大学院
学生が提出する修士論文の審査に当たる2名の副査と合議のうえ、在学期間短縮の適否の
判定を申請し、これを受けて研究科委員会が審査のうえ、在学期間短縮の可否について最
終決定を行う。
2.学位の名称、学位論文および特定の課題についての研究成果の審査方法
(1)学位の名称
経済学研究科修士課程・博士前期課程の修了者の学位は、
「修士(経済学)
」である。
このほか、留学生および外国の大学院への進学を希望する者のために、上記学位を“Master
of Economics”と英訳して表記し、英文表記の際には、末尾に“SHUSHI(KEIZAIGAKU)”と付記している。
(2)学位論文の審査方法
修士課程・博士前期課程を修了するにあたり、大学院学生は、研究指導を受けたうえ、
修士論文を作成することが必要である。修士論文の審査にあたっては学術的な観点から研
究内容についての評価を行う。
(3)特定の課題についての研究成果の審査方法
大学院設置基準第 16 条第2項の主旨に従い、社会人に対して特別の処置をとっている。
社会人に対する教育上の特別配慮の一つとして、特定の課題についての研究成果の審査を
もって修士論文の審査に代えることを認めている。特定の課題についての研究の成果に対
する審査は、修士論文の審査に代わるものであるため、これと同一の手続で行うが、特定
課題についての研究成果も修士論文と同等の厳格さを持つように指導している。また形式
面では、特定課題についての研究成果は報告書として外部に公開することとし、その字数
を 10,000 字程度以上としている。
【点検・評価】
修業年限の1年間への短縮については、現時点では制度的には認められていても実例が
ないのが現状である。特定課題の研究成果を修士論文とする場合とは、プロジェクト演習
を履修し、特定課題のもとで、論文を作成するケースを指しており、これも現時点では実
例がない。いずれにしても、新しい大学院の在り方を示すものであり、履修指導を含めて
指導体制を充実させている。
【長所と問題点】
社会において十分高度な専門領域での経験を積んでいるケースや、学生時代に十分な勉
学をした学生のケースなど、実態として、1年間で修士号を修得できる可能性は十分考え
られる。安易な活用は避けるべきではあるが、早期に適用を実現することで、一つの目標
基準ができあがるであろう。プロジェクト演習についても、実際の履修者が特定課題によ
426 第3章 大学院
る研究を開始して初めて制度的対応がためされるのかもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
目標基準の設定が具体的に形成されることが先決であるが、将来的には、学部との連携、
特定の研究所や自治体における専門部署など、社会人や学生の履歴を配慮した形での期間
短縮措置が行われる必要があろう。プロジェクト演習による特定課題の研究指導について
は、専任教員と担当客員教授の間の連携が十分に取れるような措置が必要であろう。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
1.入学試験の形態
修士課程・博士前期課程の入学試験は、 (A) 一般入試と (B) 特別入試とを行ってい
る。特別入試は、①
学内選抜入試、②
社会人入試、③
社会人指定機関推薦入試、④
外国人留学生入試の4つの形態で行っている。
また、博士後期課程の入学試験は(A) 一般入試と (B) 特別入試とを行っており、特別
入試は、外国人留学生入試のみを行っている。
2.選抜方法と入試時期
修士課程・博士前期課程の選抜はそれぞれ以下の方法によって行っている。
(A) 一般入試
1)筆答試験
外国語 (英、独、仏語から1カ国語) 、経済原論 (近代経済学あるいは
マルクス経済学) 、および入学後の専攻科目
2)口述試験
問題意識、研究能力などを審査
(B) 特別入試
①学内選抜入試
大学院進学を希望する成績優秀な本学学部の4年次生を対象として、4月初旬に実施
している。
1)書類審査
3年次までの学業成績および研究計画書
2)口述試験
研究計画書を中心に審査
②社会人入試
学部卒業後3年以上経過した社会人を対象に実施している。
1次試験
1)小論文テスト
2)研究計画書ならびに実務経験に関する自己申告書による審査
2次試験
口述試験による審査
③社会人推薦入試
学部卒業後3年以上を経過した社会人を対象として実施している。
口述試験
研究計画書ならびに勤務先からの推薦書を中心に審査
④外国人留学生入試
留学生を対象とする入学試験で、11 月に実施している。日本の大学を卒業した留学生
も受験できる。また、外国と日本の双方の国籍を持つ者も受験できる。
427
1)筆答試験
外国語としての日本語、経済学に関する基礎知識
2)口述試験
問題意識、研究能力などを審査
博士後期課程の選抜はそれぞれ以下の方法によって行っている。
(A) 一般入試
1)筆答試験
外国語 (英語、独語、仏語、中国語、スペイン語、のうち母語を除くか
ら2カ国語、ただし、外国語1カ国語の代わりに数学、史料解読で受験できる。)
2)口述試験
問題意識、研究能力などを審査
(B) 特別入試
①外国人留学生入試
留学生を対象とする入学試験で、11 月に実施している。日本の大学を卒業した留学生
も受験できる。また、外国と日本の双方の国籍を持つ者も受験できる。
1)筆答試験
外国語としての日本語、経済学に関する基礎知識
2)口述試験
問題意識、研究能力などを審査
【点検・評価】
一般入試は経済学研究科設立以来行われてきたもので、いまなお質量ともに本研究科の
水準を決定する重要な入試方式と位置づけられている。
【長所と問題点】
修士課程・博士前期課程では、一般入試のほか、学内選抜入試、社会人入試、社会人指
定機関推薦入試および外国人留学生入試という4つの形態の特別入試を実施することによ
って、質の高い、しかも多様な人材を受け入れることに成功している。しかし、2専攻の
増設にともない、入学定員が増大したので、より広い範囲から学生を集める努力と工夫が
求められている。
また、博士後期課程では、一般入試と外国人留学生入試という2つの形態の入試を実施
し、後期課程で研究が継続できる質の高い人材を受け入れることに成功しているが、高度
専門職業人養成のために修士課程・博士前期課程に受け入れた社会人学生の内、より高度
な研究を希望する学生をいかにして後期課程に受け入れるかの工夫が求められている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
修士課程・博士前期課程では、入試制度としては、現在大学院を保有していない4年制
大学を対象に、指定校推薦制度の創設を検討している。その具体的な方法については未定
である。また、博士後期課程では、2003 年度入学試験から社会人入試を実施することが研
究科委員会において決定されており、現在、実施方法を検討中である。
4−(2)
学内推薦制度
【現状の説明】
特別入学試験の一環として、学内選抜入試を実施している。出願資格は、本学経済学部
4年次に在籍する学生で、前年度までに、卒業に必要な最低修得単位数のうち 112 単位以
上 (認定留学生または交換留学生として留学した者は 96 単位以上) を修得し、SおよびA
評価の単位数の合計が 72 単位以上 (認定留学生または交換留学生として留学した者は 64
単位以上) である者である。ただし、S評価(みなし点 90 点以上)についてはA評価(み
428 第3章 大学院
なし点 80∼89 点)の 20%増しで換算している。
【点検・評価】
学業成績が優秀で、早い段階から大学院進学を希望している学部学生に対し、上記のよ
うな一定の基準を満たしている場合に、4年次に進学する時点で入学資格を与える制度と
して 1991 年度に始まったものである。年に 10 名から 20 名がこの制度に基づいて入学し、
大きな成果をあげている。入学後もおおむね成績優秀で、研究意欲にあふれ、多くが博士
後期課程に進学して、研究者として育っている。
さらに、1999 年度からは学部在学生の大学院授業科目履修制度が発足した。これは、学
内選抜入試の合格者が4年次に大学院の講義科目を先行的に履修し、これを大学院進学後
の履修単位として認定しようとするもので、2001 年度の場合9名の学生がこの制度を利用
し、延べ 14 科目を履修している。
【長所と問題点】
これまで、成績優秀者の進学希望を早期に実現する制度として一定の成果をあげてきた。
しかしながら、近年企業による新規採用試験の時期が大幅に早まり、いわゆる青田刈りが
進んでいるうえ、長期不況による就職難が、学生の落ち着きを失わせ、学習意欲を削ぐ原
因ともなっている。大学院進学希望者にもその影響が及んで、最近この制度による受験者
数が漸減し、学生の質も若干低下しているように思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この制度は当面継続する予定であるが、将来的には学部と大学院を一体化した教育シス
テムに改編する構想を描いている。これはまだ検討段階であるが、例えば学部入学時に大
学院進学を希望している学生の場合には、特別のメニューを用意して、5年間で修士の学
位を取得できるような事実上の飛び級プログラムを考えている。
4−(3)
門戸開放
【現状の説明】
他大学あるいは他大学院の学生にも(学内選抜入試を除けば)本学学生と全く平等の受
験機会を提供しており、その意味での門戸開放は以前から行われている。また、学部卒業
予定者の他、社会人と外国人留学生にもすでに門戸を開放している。
【点検・評価
長所と問題点】
受験機会の平等の側面や、受験者の特性を考慮した入試制度の導入など門戸は十分開放
されており、当面これ以上に対象を広げる予定はないが、場所と時間の制約を受ける方に
対し高等教育を提供するという別な意味での門戸開放を考える必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在インターネットを利用した遠隔授業(Distant Learning;DL)の実施に向けて準
備を進めており、これが実現すれば、通信教育とは違った意味で対象が全国に、さらには
世界に広がっていく可能性がある。
4−(4)
飛び入学
【現状の説明】
本研究科では「飛び入学」を実施していない。
429
【点検・評価
長所と問題点】
研究科委員長の諮問機関である改革問題検討委員会において、飛び入学についても種々
検討してきたが、未だ結論を得るに至っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
先にも述べたように 1999 年度からは学部在学生の大学院授業科目履修制度が発足し、成
績優秀者の進学希望を早期に実現する制度として一定の成果をあげてきた。この制度は当
面継続する予定であるが、将来的には学部と大学院を一体化した教育システムに改編する
構想を描いている。これはまだ検討段階であるが、例えば学部入学時に大学院進学を希望
している学生の場合には、特別のメニューを用意して、5年間で修士の学位を取得できる
ような事実上の飛び級プログラムを考えている。
4−(5)
社会人の受け入れ
【現状の説明】
経済学研究科では、特定の分野に関する専門的な知識や技術を身につけた高度専門職業
人教育の必要性の高まりに対応して、1992 年度 入試から社会人入学試験を実施して社会
人を受け入れている。特に 2001 年度 からは、国際経済専攻と公共経済専攻の設置にとも
ない、社会人学生をより積極的に受け入れている。そのために、教育施設も、本学の拠点
施設である多摩校舎だけでなく、市ヶ谷校舎も使用して、夜間 (6、7時限) に開講する
カリキュラムに基づく教育研究を行っている。高度専門職業人を目指す意欲的な社会人学
生は、実社会における就業経験を通じて、さまざまな意味での社会的、職業的能力を身に
つけており、その意味で勉学の目的意識が高いと考えられる。
このような意欲あふれる社会人に対して広く門戸を開放するために、社会人特別入試・
社会人指定機関推薦入試を実施している。社会人特別入学試験は、一次試験に小論文と書
類審査を行い、それに基づいて二次試験に面接を行っている。また、社会人指定機関推薦
入学試験は本研究科が指定した機関から推薦が得られる者に対し、小論文の受験を免除す
る特典が与えられる。2001 年度は、社会人特別入学試験、社会人指定機関推薦入学試験で
入学した学生は、総数 53 名中 26 名であり、それ以前に入学した学生を合わせると、博士
前期課程在籍者全体でも 94 名中 32 名が社会人入試を経て入学した学生となっている。
【点検・評価】
2000 年度入学試験までは、受験資格として学部卒業後5年(入学時)を経過しているこ
ととしてきたが、2001 年度入学試験から国際経済専攻・公共経済専攻の開設に併せて受験
資格の見直しを行い、学部卒業後3年(入学時)を経過することに変更した。また、それ
まで一次試験は書類選考だけにとどめていたが、筆記試験(小論文)を併せて実施し、小
論文の結果と書類選考の結果を合わせて一次試験の合否を決定する方法に変更した。2専
攻開設にともない、市ヶ谷校舎をサテライトキャンパスとして使用し、併せて夜間に授業
を実施することにより社会人学生が通いやすい環境を整えたので、入学者の約半数は社会
人学生と想定した目標を達成できたと言える。
【長所と問題点】
受験資格の見直しと小論文試験の実施により、受験機会の拡大と研究能力の高い社会人
学生の選抜が可能となった。また、社会人学生の学修環境は、市ヶ谷キャンパスを利用し
430 第3章 大学院
て、主に夜間と土曜日の時間帯で授業を実施することにより、以前と比較して飛躍的に向
上している。その結果は社会人学生の入学者増加に端的に現れている。しかし、社会人学
生の声を聞いてみると、夜間の授業時間帯のうち、6時限目(18 時 10 分から 19 時 40 分)
の授業に最初から出席するのが困難だという学生が多くなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
市ヶ谷キャンパスは丸ノ内、日本橋、新宿などのビジネス街から至近距離にあり、立地
条件としては申し分ないと思われる。したがって、前段で指摘した平日の授業にフルに参
加できない学生がいるという問題の解決は非常に困難であるが、少しでも長い授業時間を
確保するために、授業のやり方を工夫する努力が教員の側に求められている。
4−(6)
定員管理
【現状の説明】
2000 年度までは、入学定員は経済学専攻の博士前期課程 25 名と博士後期課程5名であ
り、それぞれ毎年これを上回る入学者を確保してきた。もちろん一定の学力水準を保つこ
とには細心の注意を払い、その目的を達成するために選考方法を種々改善してきた。2001
年度から2専攻が増設され、修士課程・博士前期課程の定員も4倍増の 100 名となったこ
とから、定員管理は定員確保という側面から修士課程・博士前期課程において一層大きな
課題となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度入試においては、設置認可からの時間的余裕がほとんどなく、広報活動も制限
されていたため、十分な受験者数を得ることができなかった。このため、この年度は近年
例を見ない定員割れの状況となった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1年間の教育実績に基づいて広報活動にも力を入れ、2002 年度入試以降については諸々
の対策を講ずることにしている。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
本研究科の教員組織は、経済学研究科委員会で定めた「経済学研究科任用基準」、「経済
学研究科兼任講師任用基準」、
「経済学研究科における客員教員の運用に関する内規」、およ
び「特任教員任用基準」を満たす教員で、大学院担当の意思がある者により構成されてい
る。
2001 年9月現在、本研究科博士前期課程は、専任教員 51 名、兼担教員 10 名、客員教授
15 名、兼任講師 40 名で構成されている。また、博士後期課程は専任教員 35 名で構成され
ている。
(専攻別の内訳は下表参照)
431
表6−①
修士課程・博士前期課程
経済学専攻
国際経済専攻
公共経済専攻
合
計
専 任 教 員
24
12
15
51
兼 担 教 員
2
5
3
10
客 員 教 授
0
8
7
15
兼 任 講 師
6
20
14
40
32
45
39
116
合
表6−②
計
博士後期課程
経済学専攻
合 計
専 任 教 員
35
35
兼 担 教 員
0
0
客 員 教 授
0
0
兼 任 講 師
0
0
35
35
合
計
【点検・評価】
2000 年度までは、学生定員が博士前期課程で入学定員 25 名、収容定員 50 名、博士後期
課程が入学定員5名、収容定員 15 名であった。これに対応する教員組織は、2000 年度4
月の段階で、博士前期課程は専任教員 46 名、兼担教員1名、兼任教員4名、また、博士後
期課程は専任教員 31 名であった。しかし、2001 年度の改革によって、博士前期課程の定
員見直しが行われたのにともない、表6−①、②のとおり大幅な教員組織の拡充がなされ
た。また、博士後期課程については特に定員の見直し等は行われていないが、博士前期課
程の改革に連動する形で教育研究活動が活発化され、専任教員が 35 名へと増加した。
【長所と問題点】
2001 年度の改革以前の教員組織では、本研究科が経済学部を基礎として成り立っている
ことから、大学院を担当する専任教員は、すべて経済学部の専門科目を担当する教授であ
った。2001 年度の改革では、他学部に所属する専任教員が本研究科を担当するいわゆるタ
スキがけ人事制度や、高度に専門的な職業に従事してきた実務家を一定期間専任教員とし
て雇用する特任教員制度等、本学における先進的な教員人事制度が活用されている。また、
カリキュラムを見直すことによって、学部における一般教育科目を担当していた教員で今
まで大学院を担当していなかった教員からも、協力を得ることができた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科が経済学部を基礎として成り立っている以上、教員組織の改善・改革にあたっ
ては、学部と一体となった努力が必要である。しかし、2001 年度の改革が、他学部・他研
究科の協力や経済学部で今まで大学院を担当しなかった人の協力によってなされたことか
らも分かるように、中央大学全体を見渡す視点を忘れてはならない。そのためにも、まず
今回導入した諸制度を軌道に乗せることが重要である。
432 第3章 大学院
5−(2)
研究支援職員
【現状の説明】
現在導入されている研究支援職員としては、研究活動を直接的に支援するという狭義で
はRAが位置づけられ、また、教育活動を支援することにより教員の負担が軽減されると
いう広義では、TAも位置づけられる。
RA制度の運用については、各研究科において、RA制度に関する内規が承認されてお
り、総額 3,000 万円の予算枠内で 2000 年4月から実施されている。昨年度の各研究科のR
A採用状況は、法学研究科 11 名、経済学研究科4名、商学研究科5名、理工学研究科 18
名、文学研究科2名、総合政策研究科2名、計 42 名であったが、本研究科では、今年度、
1名の増員が認められている。なお、採用においては、本研究科は経済研究所と連携して
いる。
一方、TA制度の運用については、RA制度と同様に各研究科において、TA制度に関
する内規が承認されており、各研究科 200 万円の予算枠内で 2000 年4月から実施されてい
る。
【点検・評価】
RAの採用にあたっては、経済研究所の研究プロジェクトと関連づけて大学院博士後期
課程に在学している学生の中から選んでいる。現在運用2年目を迎えているが、大学院改
革の流れの中で予算が確保され、研究所と協力することにより導入が可能となった。
TAは、授業を実施している教員がその必要性を認識した場合に、その教員が大学院博
士後期課程に在学している学生から適任者を選出し、研究科委員会において申請内容を審
議して決定している。
【長所と問題点】
RAは、研究支援という側面や、博士後期課程の学生に対する経済支援という側面など、
さまざまな意味合いを持つ制度であるが、財政的な制約から採用される人数に制限がある。
また、研究支援職員に徹しきって、教員の研究活動をサポートする制度でもない。
また、TAの場合は、授業を実施している教員が必要とするかが制度運用上の一番の問
題であり、実際に 2000 年度は予算が余り、2001 年度も同様な状況である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
RAについては、採用を積極的にできる予算措置が望まれる。また、TAについては、
教員が制度の趣旨を理解して、積極的に制度を利用することが望まれる。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
【現状の説明】
本研究科は、経済学部を基礎とする研究科であるので、専任教員の募集、任免、昇格に
ついての機能を有しない。ただし、大学院担当教員の任用については、研究科委員会で内
規を定めて行っている。手続的には、研究科委員会で、専任新任人事の手続について、
「博
士大学院任用基準経済学研究科の慣行(内規)」に基づき実施することと、有資格者に対し、
前期課程・後期課程担当についての意思確認の事務手続を開始することの承認を得て行っ
ている。任用基準は、以下のとおり。
Ⅰ.博士前期課程
433
次の各号の一に該当し、かつ、その担当する専門分野に関し高度の教育研究能力がある
と認められる者
1:大学教授であって、博士の学位を有し、研究上の業績を有する者
2:前号と同等以上の教歴と研究上の業績を有すると認められる者
Ⅱ.博士後期課程
次の各号の一に該当し、かつ、その担当する専門分野に関しきわめて高度の教育研究上
の指導能力があると認められる者
1:博士前期課程2年以上の教歴があり、博士の学位を有し、かつ、最近における研究上
の業績が顕著な者
2:前号と同等以上の教歴と研究上の業績を有すると認められる者
(補足)
Ⅱの2でいう「前号と同等以上の教歴と研究上の業績」の形式要件は、次のとおりとす
る。
教歴・・・・博士前期課程2年以上の担当歴
業績・・・・学位論文に準ずるものとして最近5年間に学術著書1冊以上、もしくは、こ
れに代わるものとして、最近5年間に通算5本以上の学術論文
(確認事項)
「最近5年間」とは、任用人事を起こす当該年度を含む。
当該年度中に公刊されることが明確であれば、校正刷りも業績と認める。
なお、
「中央大学特任教員に関する規程」に基づき、期間を限定して専任教員を任用する
こともでき、経済学部および本研究科では 2001 年度から1名採用している。
【点検・評価】
2001 年度における本研究科の改革の際には、特任教員として実務家を任用するために、
研究科内での任用基準の検討を行い、本学で初めて特任教員の任用がなされた。
【長所と問題点】
研究科の任用基準を明確化して、対象者に公表しているので、研究活動の一つの指針と
なっている。また、研究科全体に対する評価を維持する一つの要素となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度に行った博士前期課程の改革と今後予定している博士後期課程の改革により、
社会人学生の増加等による学生の質の変化が予想され、限られた財源の中で学部と大学院
の協力のもとに専任教員の充実を今後とも図っていく。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
毎年、本大学では、専任教員の研究活動の状況を『学事記録』として公表している。こ
こでは、詳細な教員の研究活動状況が報告されている。また、これとは別に大学院担当の
すべての専任教員を対象として『大学院自己点検・評価報告書(研究教育活動報告書)第
1号』が 2000 年3月に刊行されており、そこでは大学院担当教員の個人別教育研究活動が
報告されている。
【点検・評価】
434 第3章 大学院
『学事記録』は、年誌、学事、人事、規程、学生、研究機関、図書館、施設、財政、資
料の各項目に関する、本学における詳細な記録であり、活動個人の研究業績だけでなく、
各種補助金の受給者、研究課題、補助金額等についても詳細に報告している。研究成果の
公開という意味で果たす役割は非常に大きい。
【長所と問題点】
データの提供は強制力があるものではなく、個人の自主性に任されているが、さまざま
な媒体に対するデータ提供にともなう作業の煩雑さが研究活動を阻害するという面もある。
また、研究科として大学院学生の声を聞く制度が確立されてない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
『学事記録』はより電子データを活用した形で、研究活動のデータベースとして発展さ
せる方法を検討すべきである。
教育活動の評価については、学生へのアンケートを実施し、教育の効果をフィードバッ
クするシステムを作る必要がある。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
【現状の説明】
本研究科担当の専任教員は、本研究科の基礎である経済学部の担当教員でもあり、研究
科および学部において教育研究活動を行っている。また、当研究科担当の全教員は、本大
学の9研究所のうち経済研究所をはじめとして企業研究所、人文科学研究所、社会科学研
究所の研究員を兼務している。また、近年発足した本学の研究開発機構のプロジェクトや
共同研究費助成制度に基づく共同研究は、学内研究諸機関のみならず学外研究機関との研
究交流を促進しつつ、学際的学術研究を行っている。さらに、2001 年3月に本学と日本貿
易振興会アジア経済研究所との間で学術交流協定が締結された。
【点検・評価
長所と問題点】
本学の各学部、各研究所、さらに国内、国外の大学、研究機関との共同研究や研究交流
は、個人研究はもとより、特別研究期間制度、特定課題研究費制度などの活用により、活
発に行われ、顕著な成果をあげている。また、それらの成果の口頭による発表は、従来の
学会発表、共同シンポジウムのほか、現代の生涯教育時代に留意して、全国各地での学術
講演会を通じて実施されている。
また、本学の研究開発機構や日本貿易振興会アジア経済研究所との研究上の連携も整い
つつある。情報研究教育センターとのマルチメディアを通じての研究上の連携は今後深め
ていく必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度から学術交流協定を締結した日本貿易振興会アジア経済研究所との共同研究
活動をより展開させていくことが望まれる。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)
研究活動
6−(1)− ①
研究活動
【現状の説明】
435
本研究科専任教員の研究活動については、毎年度作成される『学事記録』において公表
されてきた。各教員の研究業績一覧が記載されているほか、在外研究(専任教員が一定期
間外国に派遣されて調査・研究を行う)
・特別研究(専任教員が1年間一切の校務を免除さ
れて特定の研究に従事する)・特殊研究(専任教員が特定の課題について研究を行う)・学
術図書出版助成・国際学会出席を含む国際的学術交流等の実施状況が報告されている。ま
た、科学研究費をはじめ学外の各種団体から補助金を交付されて行う研究についても概要
が記されている。
これとは別に、大学院では、2000 年に『中央大学大学院研究教育活動報告書』を作成し、
本研究科専任教員の研究活動を公表した。さらに、従来から多くの専任教員が、国立情報
研究所の行う学術研究活動に関する調査に回答しており、研究成果の情報公開に努めてい
る。
本研究科専任教員の研究活動は、専門分野はもとより学際的・国際的研究においても、
著書・共著・編著・学術論文・報告書・翻訳等において多くの研究成果をあげている。ま
た、国内外での学会・研究会あるいはシンポジウムなどでの研究報告も多数にのぼる。
基礎データ調書に見るように、個人の研究も活発に行われているが、加えて学内外との
さまざまな形態の共同研究が実施されている。次項で述べる大学附置の研究所との連携は、
専任教員の研究活動にとって不可欠のものとなっており、これまでに研究叢書や年報のか
たちでその研究成果を公刊している。近年発足した研究開発機構のプロジェクトや共同研
究費助成制度に基づく共同研究は、学内研究諸機関のみならず学外研究機関との研究交流
を促進しつつ、学際的学術研究を行っている。さらに、2001 年3月に本学と日本貿易振興
会アジア経済研究所との間で締結された学術交流協定により、新たな研究活動の広がりが
予想される。
【点検・評価】
個人の研究ならびに共同研究ともに学術研究としての高い水準を維持している。また、
学術研究に対する社会からの種々の要請にも真摯に取り組んでいる。
【長所と問題点】
個人の研究ならびに共同研究ともに学術研究としての高い水準を維持しているが、学問
の国際化・学際化に対する研究状況に照らし、これまで以上に積極的に応えていく必要が
ある。さらに、専任教員の研究時間の確保という物理的問題もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2001 年度から開始される共同研究プロジェクトの研究活動や日本貿易振興会アジア経
済研究所との共同研究活動をより展開させていくことが望まれる。専任教員の研究時間の
確保については、教育に費やす時間や会議等に費やす時間とどのように調整を図っていく
かということでもあり、難問ではあるが早急に解決を要する問題である。
6−(1)−②
教育研究組織単位間の研究上の連携
【現状の説明】
本研究科の専任教員は経済学部の専任教員であり、その意味で学部との研究上の連携は
密接不可分である。年6回発行される『経済学論纂』は経済学部経済学研究会の機関誌で
あるが、ここに経済研究科専任教員が含まれることは言うまでもない。本学附置の9研究
436 第3章 大学院
所は、教員の研究活動の場として大変重要である。各研究所は、研究員のほか客員研究員
や準研究員も含み、幅広い人材を擁している。本研究科教員の場合には、経済研究所をは
じめとして、社会科学研究所、企業研究所、経理研究所、社会科学研究所の部会・研究会
等で研究活動を行っている。その成果は、経済研究所の場合で言えば、経済研究所研究叢
書(既刊 35 冊)や経済研究所年報(既刊 30 冊)として刊行されている。その他の研究所
においても同様の成果が重ねられている。これからは本学の研究開発機構や日本貿易振興
会アジア経済研究所との研究上の連携も期待される。また、国際交流センター・情報研究
センター・図書館等の保有する研究上のリソースも活用されている。
【点検・評価】
研究所事務機構が統一され各研究所間の研究上の連携が今まで以上に図られやすくなっ
たことで、経済研究科教員の研究活動にもプラスの影響を及ぼしている。
【長所と問題点】
大学附置の研究所との研究上の連携は良好であるが、今後他の教育研究組織単位との相
互連関性を含め、幅広い連携を求めていくことが肝要である。特に情報化社会に向けてマ
ルチメディア関連研究システム等の万全の整備を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内全体の情報環境の整備は焦眉の課題である。本研究科と他の教育研究組織単位との
相互連携もこれによってより高度化が期待できる。
6−(2)
研究体制の整備
6−(2)−①
経常的な研究条件の整備
【現状の説明】
教員の研究室は1人1室約 10 ㎡が確保されている。基本的備品はほぼ整えられており、
近年情報環境の整備も徐々に進んでいる。
教員の研究活動を支援し活発化させるために、さまざまの条件整備が行われている。ま
ず、個人で行う学術研究を支援するために基礎研究費 42 万円の助成がある。これは、従来
の研究用図書費(個人研究費)と同様の趣旨であるが、使途範囲を拡大しながら基盤的研
究費としての位置づけをより明確にしたものである。国内の学会出張費はこれとは別に支
給される。また、特定の課題について個人で行う研究には特定課題研究費が支給される。
これは、従来の特殊研究助成を改めたもので、使用目的を特定した研究費としての性格を
はっきりさせ、使途範囲も拡大している。助成金額は、基礎研究費のように一定額ではな
く、申請者への審査を経て適切に決定される。特定課題研究費を申請する場合、原則とし
て、助成を受けようとする年度の前々年度に、文部科学省または日本学術振興会の科学研
究費補助金に申請していることが条件となっている。特別研究費の補助を受けて行う特別
研究期間制度や、在外研究費の支給を受けて一定期間外国で学術研究・調査を行う在外研
究制度は、教員の研究活動に大きな役割を果たしている。特別研究期間は1年間で、その
間一切の校務を免除され研究に専念することができる。特別研究費は、申請によって 105
万円まで使用することができる。在外研究費は、A(期間1年)375 万円、B(期間6カ
月)245 万円、C(期間3カ月)155 万円である。
専任教員または名誉教授の研究成果の発表を助成促進するために中央大学学術図書出版
437
助成制度が設けられている。専門の学問領域における優れた研究業績や学術的価値の高い
外国の古典、文献等の翻訳、古文書その他の貴重な文献・史資料の翻刻または覆刻などが
助成対象となる。
特別図書・機械助成制度では、主に教員が共同で同一領域の研究を行うために必要な図
書や機械を購入することができる。さらに、2001 年度から募集開始されるのが、共同研究
費助成制度である。これは、本学における優れた学際的学術研究を格段に発展させるとと
もに、学部、大学院、研究所および学外研究機関との研究交流を促進し教育研究水準の一
層の向上を図るため創設されたものである。
なお、学外の研究費助成として、科学研究費補助金・私立大学等研究設備整備費等補助
金・私立学校施設整備費補助金・学術研究振興資金さらに各種団体からの補助金等も教員
の研究促進に役立っている。
【点検・評価】
教員は、基盤研究費としての意味を有する基礎研究費に加え、学内外のさまざまな研究
費補助を受けることで専門分野の研究に従事している。特別研究期間制度や在外研究制度
は、研究への専念という点で教員の研究活動に大きな役割を果たしている。学際的共同研
究についても支援制度が発足し、研究組織の弾力化による研究の一層の進展が望まれる。
【長所と問題点】
教員が高水準の研究を遂行できる研究条件はある程度整備されている。ただし、学問の
国際化・学際化・情報化という状況に十全に対応できているかという点では不十分な点も
ある。また、教員の研究時間の確保に関して言えば、現行の特別研究期間制度や在外研究
制度のほかに研究専念期間が皆無であり、考慮の余地がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の研究時間の確保に関して、サバティカル制度等の導入も視野に入れ検討すべきで
あろう。情報教育研究センター・図書館等の保有する研究上のリソースも有効に活用して
いく必要がある。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
7−(1)−①
施設・設備等
【現状の説明】
(1)学生研究室(自習室)
現在、本研究科博士(前期・後期)課程全体の収容定員 65 名に対して、学生研究室は約
20 ㎡の部屋が 12 室あり、学生が自主的に割り当てを行い利用している。さらに、収容定
員 150 名の増加に対して、全体として 190 ㎡のスペースが学生研究室として追加され、一
人あたりに必要なスペースは確保されている。これに加えて、市ヶ谷校舎でも全体として
約 365 ㎡のスペースが大学院学生共同研究室として確保され、また、情報関連講義あるい
は個別研究上必要となるインターネット環境の整備のために共同利用のPCルーム(約 30
名収容、授業再現装備付き)、さらに学生用コピールームが設置されている。
(2)講義・演習室
カリキュラム編成の基本方針で述べたように、研究者と高度専門職業人の養成という目
438 第3章 大学院
的を実現するために、夜間・昼間といった工夫とともに、市ヶ谷校舎と多摩校舎の有効活
用が必要となる。多摩校舎では、すでに2号館大学院講義室が充実しており、主に昼間の
時間割に対応して講義室の利用を図る点は従来通りである。これに加えて、市ヶ谷校舎で
は、夜間の利用を中心として講義室が全部で 12 室追加されており、講義実施上十分である。
さらに、多摩校舎と市ヶ谷校舎あるいは、他大学・他研究機関を映像情報ネットワークで
結び、同時双方向的な大学院講義を行うための遠隔授業教室も3室設置している。
(3)研究施設・設備
市ヶ谷校舎においては、夜間における授業が主なものとなるために、特に教員と大学院
学生との間のコミュニケーションの場を拡充することが重要である。そのため、大学院教
員室のほかに、教員個人研究室 14 室、共同資料室・研究室1室、教員共用研究室2室、研
究指導室2室、教員共用スペース2室等が整備され、適宜柔軟な研究・指導体制がとれる
ように工夫している。
(4)研究図書
一般専門図書は、多摩校舎の中央図書館、大学院図書室を利用できる他、2 号館 4 階に
ある経済研究所、企業研究所などの蔵書も利用できる。そこでは、和雑誌 1,731 種、洋雑
誌 1,946 種が閲覧に供されている他、和書籍 95,369 冊、洋書籍 92,238 冊が整備されてい
る。市ヶ谷校舎では、教育研究に関連する和雑誌 29 種、洋雑誌 651 種、和書籍 53 冊、洋
書籍 610 冊が、閲覧に供されているが、むしろ膨大な多摩校舎の研究図書を効率的に利用
する手段の拡充が必要である。そのため、市ヶ谷校舎においては文献情報検索(CHOIS;中央
大学オンライン目録)がシステムとして整備され、経済学関連文献の CD-ROM 検索装置が設
置されている。また、検索文献が研究所や図書館等で探し出せない場合には、中央大学の
レファレンス・ルームを介して、他機関への複写依頼が行えるなどの文献収集のサポート
を行っている。
【点検・評価】
諸設備については、多摩校舎と市ヶ谷校舎との両者を如何に有効に利用できるかにかか
っている。市ヶ谷校舎での研究指導についても、研究指導室などが整備されており問題は
ない。
大学院での書籍利用、情報端末利用は今や欠かすことのできない研究手段である。市ヶ
谷校舎には、小規模ながら大学院専用の図書館が置かれている。しかし、圧倒的な書籍の
所在は、多摩校舎である。このため、検索システムと図書運搬システムが導入されている
が、市ヶ谷校舎での利用は、多摩校舎での利用に比して制限的なものになることは否めな
い。
【長所と問題点】
特に、経済学研究では、雑誌(特に洋雑誌)の講読が必要であるが、制度上、市ヶ谷校
舎に設置される雑誌の数は限定的である。当初購入した雑誌は、多摩校舎ではまだ購入し
ていない雑誌が中心であったので、その限りでは多摩にはない貴重な雑誌もあるのだが、
コンテンツ自体が圧倒的に少ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在では、既存の雑誌でも電子ジャーナル化されたものが多い。このようなジャーナル
については、PDFファイルでダウンロードできるような契約を結び、どこでも同じ条件
439
で利用できるような仕組みが必要であろう。
7−(1)−②
「第6章
7−(2)
維持・管理体制
大学の運営
施設・設備等」参照。
情報インフラ
【現状の説明】
大学院に限らず、本学では、情報インフラの整備に早くから取り組んできたと思われる。
ネットワークはもちろんのこと、情報の共有や保管、運営をWeb上で可能にするシステ
ムも一部ですでに導入されている。
しかし、本研究科における学術情報の記録、保存という側面から見た場合には、情報シ
ステムにデータが保存されているケースはほとんどなく、特に学生に関していえば、修士
論文、修士論文要旨、大学院研究年報等に掲載した論文および要旨などは、すべて紙媒体
として保存されている。
【点検・評価】
情報インフラのハード面で言えば、ネットワークが特殊な教室においてのみという時代
は終わったのかもしれないが、すべての教室・研究室にネットワーク環境があるわけでは
ない。また、ソフト面で言うと、著作に関する権利関係を整理したうえで自らの研究成果
を電子情報化するという段階まで至っていない。
【長所と問題点】
多摩校舎や市ヶ谷校舎では、ともにネットにつながったコンピュータを利用できるし、
そこから文献検索をし、情報を処理し、文章作成、データ解析まで行うことができる。ま
た、大学院学生に対しては、コンピュータの貸し出しを行うなど、必要な要求にはある程
度応えていると思われる。
しかし、本研究科における学術情報の記録、保存という面では、情報システムにデータ
が保存されているケースはほとんどない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院の情報インフラを考える場合には、よりオープンなシステムの構築が望まれると
ころである。少人数という特性を生かして、時空を超越した履修を可能にするシステムが
近い将来必要になるであろう。この意味では、場当たり的なネットワーク環境の整備では
なく、著作に関する権利関係の整理などのソフト面を含めた充実を行い、研究成果を電子
情報化していきたい。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
本研究科の教員は多くの分野で社会貢献を行っている。例えば、
①国内外の学会、研究会等における役員としての活動
②出版、講演等による学術的および啓蒙的な貢献
③国、地方自治体における審議会等の委員
440 第3章 大学院
④地域における調査活動および行政への助言
等である。特に所属学会では、役員など主力メンバーとして活動している教員が目立つと
同時に、複数学会に所属し、学問の国際化・学際化に対応している教員も少なくない。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の教員は国内および国際的な教育研究および啓蒙活動において、きわめて多彩
な社会貢献を活発に行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究および啓蒙は大学教員の基本的な活動分野であり、社会的責任でもある。対外
的な社会貢献の大小は、教員(そして学生)の研究業績が時代の要請に十分に応えている
かどうかの指標ともなり、したがって今後も、より一層その機会を増やしていくことが重
要であると考えている。
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
【現状の説明】
研究科委員会の審議事項は大学院学則第 11 条に規定されており、当該研究科に関する次
の事項について審議決定している。
一
研究及び指導に関すること
二
教員の人事に関すること
三
委員長の選出に関すること
四
学生の入学、休学、転学、退学その他学生の地位の得喪・変更に関すること
五
学生の外国への留学及び外国からの留学生の受入れに関すること
六
授業科目の編成及び担当に関すること
七
試験に関すること
八
学位論文の審査並びに学位の授与に関すること
九
学生の奨学に関すること
十
国際交流の推進に関すること
十一
学生の賞罰に関すること
十二
大学院学則その他重要な規則の制定・改廃に関すること
十三
その他研究科の教育・研究の運営に関する重要事項
審議決定された事項については、常設の各種委員会によって業務が遂行されている。ま
た、教育方法やカリキュラムに関する改革は大学院改革問題検討委員会での審議を経て、
研究科委員会で審議決定され、実施される。
なお、研究科委員長の選出に関しては、本研究科においてはその選出方法についての明
文規定はないが、従来からの慣例は以下のとおりである。
1.過半数の委員の出席が必要であり、かつ当選者は、有効投票数の過半数の得票が必要
である。
2.後期課程担当委員の中から選出する。
3.来年度・再来年度の在外・特別研究員に予定されている委員も被選挙人に含める。
4.選挙方法は、2人の投票立会人を選出、投票用紙は後期課程委員名簿を使用し、投票
441
立会人のもとで投票箱に投票する。
5.開票結果は、投票立会人が集計し、その結果を委員長が発表する。
6.投票用紙への表示は、氏名の右欄に記された○印を可とし、それ以外の記号は無効と
する。
7.投票終了時までに入室のあった委員には、投票を認める。
【点検・評価】
現状では各委員の献身的な貢献によって組織運営は良好に機能しているが、原則的に全
会一致の合意が必要なので、各委員の理解と協力を得ることは容易ではない。
【長所と問題点】
人事権などは研究科委員会にはなく、学部教授会の権限となっていることから、学部教
授会と研究科委員会の意見の調整が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学卒業後の教育研究体制が整備されるにつれて、その重要性が高まることから、学部
教授会と研究科委員会の役割分担の明確化、審議事項の簡素化と連携の強化が図られるべ
きであろう。
10.事務組織
【現状の説明】
「法学研究科に同じ」
【点検・評価】
「法学研究科に同じ」
【長所と問題点】
「法学研究科に同じ」
【将来の改善・改革に向けた方策】
「法学研究科に同じ」
11.自己点検・評価等
11−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
教員の業績は、本学が毎年発行する『学事記録』で積極的に公表されてきた。また、研
究科の現状と課題は、大学院改革問題検討委員会で積極的に討議して、その検討結果は、
研究科委員会と学部教授会に報告されている。
【点検・評価】
大学院改革問題検討委員会の活動は 2001 年度の改革という成果をもたらしたことから、
その活動は高く評価するとともにその改革への努力は今後とも維持されるべきであろう。
【長所と問題点】
大学院改革問題検討委員会を中心とする研究科委員会内部での評価活動は有効に機能し
442 第3章 大学院
ているが、一定の評価基準に基づいて恒常的な自己点検・評価を行うシステムは確立して
いない。今後は相互評価のプロセスを明確にする必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これまで、大学院改革問題検討委員会での検討の対象とならなかった検討項目の積極的
な検討・評価の体制を整備し、一定の評価基準に基づいて恒常的な自己点検・評価を行う
システムを確立していく。
11−(2)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
本研究科は文部科学省への書類の提出はもちろんのこととして、学生の募集活動に関し
て必要な研究科の組織の情報は積極的に外部に提供してきている。
【点検・評価】
点検・評価を受ける外部の機関とその評価を直接的に受ける機会が限られていた。
【長所と問題点】
自己点検に関する評価を外部機関から受けて刺激を受けることは、組織の改善に役立つ
といえるが、部内で検討中であるため答えが出ていない項目は実質的には評価の対象外と
なるので、本当の意味での適正な評価が得にくい。また、「11−(1)
自己点検・評価」
で述べたように、一定の評価基準に基づいて恒常的な自己点検・評価を行うシステムが確
立していない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の研究指導の過程において、学外の研究者による評価を積極的に取り入れることが
検討されているなど、部分的には外部評価を取り入れる試みがなされている。これらの動
きを統合して、一定の評価基準に基づいて恒常的な自己点検・評価を行うシステムを確立
していく。
11−(3)
評価結果の公表
【現状の説明】
教員の業績を中心とした自己評価が公表されたが、組織に関する評価は、大学院改革問
題検討委員会で積極的に実施されてきたが、包括的な項目で発表されることはなかった。
【点検・評価】
点検・評価は部内では厳密に実施されてきたが、外部への公表という点では改善の余地
がある。
【長所と問題点】
研究科委員会では、問題の検討から改革の実行への過程が確立して多くの改革が実現さ
れたという実績がある。なお、外部の評価者が研究科の活動の実態を正確に把握すること
は容易ではないという問題点が存在した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今回の大学評価に加わることによって、研究科で点検・評価の比重が相対的に低かった
項目に関する具体的な見直しが検討されるべきである。
443
商学研究科
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
商学研究科は、1951 年に修士課程商学専攻の大学院として発足した。1954 年には博士
課程商学専攻を増設し、修士・博士の両課程を併設する大学院となった。その後、1975 年
に博士前期課程2年、博士後期課程3年からなる、商学部を基礎にした積み上げ方式の博
士課程大学院に改組され現在に至っている。
本大学院の研究および教育の基本理念は、
「学理およびその応用を教授・研究し、学術の
深奥を究めて文化の向上に寄与すること」であり、これに基づいて広く商学の基礎・応用分
野にわたる学術の研究と、後継研究者の養成を基本理念として教育研究のシステムを体系
化している。
現行のシステムのもとでは、博士前期課程修了者は、修士(商学)の学位を、また、博
士後期課程修了者は、博士(商学)、博士(経営学)、博士(会計学)、博士(経済学)の中
から、いずれか1つの学位を取得することができる。
近年の国際化、情報化の進展を背景とするわが国社会の変化を反映して、また複数の入
試方式の導入にともない、学生のカテゴリーと進路志望の多様化は著しく、本研究科はこ
うした内外の変化を真正面から受け止めて 2001 年度より、博士前期課程の履修方法につい
て独自の理念に基づく次の3つのコースに複線化し、21 世紀の新たな歴史の一歩を踏み出
したところである。
コースの名称と理念は次のとおりである。
(A)研究専修コース(Research Profession Oriented)
商学についての研究と研究者の養成を理念とする。
(B)会計専修コース(Accounting Profession Oriented)
会計学の専門的基礎と応用的理論の教育を通じて公認会計士・税理士などの職業的会
計人の養成を理念とする。
(C)ビジネス専修コース(Business Person Oriented)
企業現象の理解と分析力の涵養を通じて、応用力を備えたビジネスマンの養成を理念
とする。
【点検・評価
長所と問題点】
教員数は博士前期課程担当者 83 名(内専任教員は 64 名)の中規模の教育組織であるが、
カリキュラム体系ならびに教育方法の不断の改善により、着実に教育研究の成果をあげて
きている。
本研究科が発足して以来の通算での学位取得者数は、修士学位が 850 名、博士学位が 128
名におよび、学外者を含む博士学位の取得者数は、本学の文系 5 研究科中、最高の数に達
している。
最近の取得状況は次のようである。
博士前期課程修了者は、1997 年 32 名、1998 年 27 名、1999 年 38 名、2000 年 53 名、博
士学位授与者は4年間で 20 数名にのぼっている。
444 第3章 大学院
本研究科では、これまで、高度に専門的な研究方法論や技法を体系的に修得した研究者
養成が伝統的に主たる教育目標とみなされてきた。新制度移行後だけでも、全国の国公立
私立大学(短大を含む)で活躍する本学出身教員は一千数百人にのぼり、本研究科において
も「実証的合理主義」に基づく自由な学風をもとに多くの自立した研究者・教育者を輩出し
てきた。この点は、『中央大学大学院ガイド
2002』40∼41頁に掲載されている「中央大
学出身者の大学別教員分布数」で確認できる。
社会的に必要な人材養成の観点から見ると、こうした教育研究職の他に当研究科の特性
から会計専門職の分野に多数の優れた卒業生を送りだしてきた。
また近年の社会構造の多様化、複雑化の結果、高度な専門的知識に対する社会の要求の
増大を反映して、これまでの範囲を超える多様なビジネス分野へと本研究科修了者を送り
だしている。
そして今年 2001 年から実施された博士前期課程へのコース制の導入により、本研究科の
教育システムは飛躍的に改善され、それぞれの要求を持って入学する学生の多様な進路要
求に十分に対応することが可能になったということができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科は今年 2001 年度に教育効果を一層向上させることを目的とする新しい教育シ
ステムを導入したところであり、この新システムの整備の時期に入ったものと判断される。
コース制の理念が今後どのように実現されるかは、学生のコース選択の動向や課程修了
後の進路などを、すこし長期的な観点から見ていくべきものと思われる。
また最近の本研究科の入学試験の応募者は増加傾向にあるものの、学則上の学生定員は
在学生数より低い数字のままになっている。この定員枠を変更すべきかどうかが将来の検
討課題になろう。
2.教育研究組織
【現状の説明】
本研究科博士前期・博士後期課程の教育研究全体については、専任教員からなる商学研
究科委員会がすべての責任を負っている。
研究科委員会の総意のもとに、入試、カリキュラム編成、授業の実施、卒業試験および
学位の授与等が実施される。研究科委員長の補佐機関として教務連絡委員会が構成されて
いる。
現在、博士後期課程の授業科目・研究指導担当者は専任教員だけで、43 名にのぼってい
る。
本研究科の教育研究の編成は、制度上は「商学専攻」という1専攻だけからなっている
が、講義・演習科目を仔細に見てみると、実質的には、「経営」、「会計」、「商業・貿易」、
「金融」、「経済」という、5専攻相当分のボリュームを有していることが分かる。商学の
全般にわたる学術研究を理念とする博士後期課程においては、文字どおりこの5専攻にわ
たる教育が行われている。
博士前期課程においては、学生の多様な研究目的に対応するために、2001 年から、コー
ス制による教育課程の複線化および科目配置が実現された。
445
また 2000 年度から博士前期課程の担当者が、助教授一般にまで拡大された結果、開講科
目の体系が質・量ともに充実された。
現在、
「研究専修コース」では、専任・兼任教員により 76 科目の授業科目が、
「会計専
修コース」では 19 科目が、そして「ビジネス専修コース」では 44 科目が開講されている。
こうした教育体制の改善は、研究科委員長のイニシアティブのもと、本研究科内の改革
委員会で原案を作成し、研究科委員会内の4つの部会(経営、会計、商業貿易・金融、経
済)とのフィードバックを経て実現されたものである。
また本研究科所属の教員は原則として本学附置の企業研究所の研究員となり、研究計画
を編成し同研究所の研究プロジェクトに参加することになっている。それに加えて、本研
究科の多くの教員が本学附置の経済研究所、社会科学研究所などの研究員として研究活動
に従事している。
研究所におけるこのような研究活動は、本研究科における個々の教員の教育研究活動を
支える基礎的な条件となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
コース制への移行の初年度に当たる 2001 年の、コース別の学生所属数は次のようになっ
た。すなわち、新入生総数のうち「研究専修コース」の学生は 27 名、「会計専修コース」
の学生は 16 名、
「ビジネス専修コース」の学生は5名である。
今年は移行の第1年であるので、基本的には来年以降の推移をみまもりながら、カリキ
ュラムの一層の改善と教育効果の達成に取り組むことになる。
コース制移行の準備にかけた時間に比して、新入生に対するコース制のガイダンスにか
けた時間は学事日程の関係で十分にとれなかったものの、研究科委員長ならびに大学院事
務室の適切な指導によって、学生のコース選択はバランスのとれたものものになったと評
価している。なお来年度の入学生に向けてコース制のガイダンスを積極的にすすめるべき
である。
近年、本研究科の実績と内容がよく知られてきたために、学内外からの受験生が年々増
加してきた。
そこで、教育条件の維持改善が重要な課題となるが、現在、教員と学生数の比較をして
みると、前述のように博士前期課程で教員1に対し学生2名、博士後期課程ではほぼ1対
1という望ましい数値を実現している。
しかし配慮すべき問題も存在する。
教員の担当科目ごとの受講者数を見ると、多数の演習学生や受講生が特定の教員に集中
するというアンバランスが見られる。
これは、特に、資格試験に関連する科目に多く見られる。今後、他大学院などからの優
れた兼任講師の採用ならびに授業科目の受講生数の制限措置などを通じて、こうしたアン
バランスの解消を図らなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各コースの学科目についても、移行の準備過程で時間をかけて審議した結果、コースの
理念に応じた斬新な科目が配置され、今後の学生の研究意欲の向上が期待されている。今
後のコース制の実施状況を見たうえで、一層の改善を図りたい。
履修学生の、特定科目、教員への偏在の問題については、これも本研究科内の改革委員
446 第3章 大学院
会において早急に検討する予定である。
さて現在、大学院の組織の基礎をなす学部(商学部)において、わが国金融システムの
近年の変化に対応すべく金融学科のカリキュラムが再検討されている。その結果をまって、
本研究科の当該分野の学科目の編成も再検討されることになる。
他大学院との提携の活発化も重要な課題である。
現在5つの他大学院との単位互換制度を有し、学生の研究と教育に有益な効果をもたら
しているが、今後、最近の学術研究の学際化に鑑み、これまでの経験を総括した上で、異
種部門を研究対象とする大学院との教育研究上の交流が検討されるべきである。
研究科の情報環境については、大学院棟に学生が自由に利用できる情報自習室が設置さ
れており、今年新たにパソコン室の利用が可能になったが、なお情報機器の現代的な水準
の維持が必要である。
また、内外に開かれた大学院として、国内他大学院との連携のみならず、外国の大学院
との交流を促進すべきである。招聘外国人による講義の開講など、いっそうの改善が望ま
れる。
中期的な課題として、情報教育研究センターの協力のもとにインターネットを利用した
他大学院、外国大学院との共同授業の可能性を検討することも望まれる。
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
本研究科の教育課程の特長であるコース制について始めに総括的に記述し、以後コース
別に取り上げることにする。
[総
括]
【現状の説明】
博士前期課程では研究者養成に加えていわゆる高度専門職業人の養成が独自の理念とさ
れている。
各コースの授業科目には、<演習>と<講義>の2種類があり、演習Ⅰは1年次に、演習Ⅱ
は2年次に履修し、講義科目は1年次、2年次を通じて所定の開講学期に履修することに
なっている。
3つのコースごとに独自の授業科目が体系的に設置されている。専任の教員の他に、各
科目に関するエキスパートを兼任講師に採用して多様かつ斬新な科目を開講している。
多くの科目は後期、前期に分けた半期制を採用しており、これは一般に学習効果をあげ
るとともに、西欧諸国の慣行に合致するものである。
今回のコース制移行に際しては、科目の受講に関する方法も検討され、科目履修はでき
るだけ個々の学生の研究の必要と欲求に基づくべきであるとの考えから、必修単位数を削
減し、自由選択の幅を拡大することとなった。外国語科目の必修単位数の削減がその例で
ある。
各コースの授業科目の中から、指導教員の講義1科目2単位と、主ゼミナールとして同
じ指導教員の演習Ⅰ・演習Ⅱ計2科目8単位の計3科目 10 単位を原則として選択履修する
ことになっている。ただし、会計専修コースおよびビジネス専修コースについて、指導教
447
員がそのコースで講義を担当していない場合には、講義科目2単位については他コース履
修の枠として処理されることになる。
博士後期課程では、学生各自の商学研究の成果を博士論文に仕上げることが最も重要な
課題となる。そのため、各学年にわたり、演習指導教授の授業(特殊研究)を受けること
が研究の中心になる。学生の論文作成を広く補助するために、多様な授業科目が設置され
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
昨年度からの博士後期課程・博士前期課程の担当教員の範囲の拡大と今年4月の博士前
期課程のコース制移行の2つのシステム変更によって、講義科目の体系が近代化され、学
生の要望に一層合致するものになったと判断している。
博士後期課程においては、担当者の拡大によって学生の研究テーマの多様化に対してよ
り適切に対応することが可能になった。
博士前期課程の教育研究システムにおいても大きな改善がなされたものと判断される。
研究専修コースは、経営、会計、商業・貿易、金融、経済の広範な領域にわたるオーソ
ドックスな科目体系に特徴があり、会計専修コースは将来会計職に就くために不可欠な会
計・経営・法律・経済の基本科目によってコンパクトに体系化され、ビジネス専修コース
では、戦略・革新・国際・環境・ ITという基本キーワードをコアとする科目が体系化さ
れており、学生の多様で実際的な関心に応えるものとなっている。
また近年、学部においては、学生の自主的な学習意欲に応えるために、科目の自由選択
の範囲を拡大してきた。当研究科においても学生の固有の研究を促進する目的で同様の方
向がとられている。
また毎年、学生の要望に基づいて全国から招聘した講師による複数の特殊講義を開講す
るというシステムがあり大きな教育効果をあげている。
こうして、基本的には本研究科の教育課程は基本的に満足できるものになっていると思
われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
もちろん、社会の変化は急速でありこうした変化に対応するために、授業科目の体系を
不断に改善することが望ましい。後に触れるように、近年の企業社会の変貌は著しく、博
士前期課程のコースの中においてすでにカリキュラム体系を早急に整備しなければならな
い部分も発生している。
企業社会の変化はとりわけ金融の分野で著しく、これに対応するために現在、学部にお
いて授業科目の再編成が企画されている。
短期的な改善としては、学部におけるこの分野のカリキュラム再編の結果をまって、本
研究科における学科目体系が再編されることになる。
[研究専修コース(Research Profession Oriented)]
【現状の説明】
3つのコースの第1は研究専修コースである。このコースは「商学についての研究と研
究者の養成」を理念とするものである。
研究専修コースは研究者として必要な高度専門的な研究方法論や技法を体系的に修得し、
448 第3章 大学院
その成果を修士論文にまとめるためのコースであり、これまでの博士前期課程を再編した
ものである。
【点検・評価】
研究専修コースは、他の2コースとともに 2001 年度より開始されたばかりであるため、
実質的な点検・評価には数年の経過を見る必要があろう。したがって、ここでは、コース
の特徴を点検することにしたい。
(ア)学科目の体系的配置
研究専修コースの授業科目は、「演習科目」と「講義科目」からなる。本研究科のカリ
キュラムの大きな特色は、「経営」、「会計」、「商業・貿易」、「金融」、「経済」と
いう、5専攻分野におよぶ多彩な学科目が体系的に配置されていることである。さらに、
本研究科では、2000年度から、博士前期課程担当者に助教授一般を加えること、また、博
士後期課程担当者に博士前期課程2年以上の教員を加えることにより、教育スタッフの格
段の充実にも努めている。
(イ)柔軟な履修制度
博士前期課程の履修には、おおむね次のような枠組みが設けられている。
まず、授業科目群の中から、指導教員の講義1科目2単位と、主ゼミナールとして同じ
指導教員の演習Ⅰ・演習Ⅱ計2科目8単位の、合計3科目10単位を原則として選択履修す
る。
また、課程修了に必要な最低履修単位数32単位(最高履修単位44単位)のうち24単位を、
各コースに設置された演習および講義の中から選択履修しなければならない。
さらに、指導教員以外の他の教員から研究指導を受けるための以下のような工夫もな
されている。
(1)指導教員のアドバイスのもとに、そのコースの他の教員の担当する演習Ⅰ(1年
次)、演習Ⅱ(2年次)を副ゼミナールとして、各年次1科目4単位まで履修可能
としている。
(2)指導教員のアドバイスのもとに、計8単位を上限に、他研究科の講義科目、または、
交流・協力校が聴講を認めた講義科目を履修可能としている。
(3)指導教員のアドバイスと担当者の承認のもとに、計8単位を上限に、本研究科の授
業科目担当者が商学部において開設する講義科目を履修可能としている。
こうした柔軟な科目履修システムにより、きめ細かな研究指導を受けると同時に幅広い
研究分野を選択できるよう工夫がなされている。
博士後期課程については、基本的には指導教授の研究指導を受けながら、研究および博
士論文の作成を行うが、それにともなって、毎年≪研究計画書≫と≪研究状況報告書≫を、
指導教授を経由して研究科委員会に提出することが義務づけられている。
また、指導教授の担当する特殊研究Ⅰ(1年次)、特殊研究Ⅱ(2年次)、特殊研究Ⅲ(3
年次)
、計12単位を履修しなければならない。
(ウ)大学院・学部・研究所一体での研究参加の場の保証
学生の研究成果の発表の場および研究参加の途を保証することも、大学院の重大な使命
である。この点では、大学院の責任において編集・刊行する『大学院研究年報』や、学生
自身が編集にあたる『論究』が大学の財政的支援のもとに刊行されている。
また、指導教授の推薦とレフェリーによる審査を条件として、優れた論文については、
449
商学部教員向けの紀要である『商学論纂』に研究ノートとして発表する途も拓かれている。
さらに、博士後期課程学生においては、学会での報告(国内外を問わない)にあたって
の財政的支援制度が用意されているばかりではなく、企業研究所研究チームの主査の推薦
を受けて、「準研究員」の資格で、同研究所の研究プロジェクトに参加することが認めら
れている。
加えて、2000年度から、企業研究所の準研究員である博士後期課程学生は、「中央大学
リサーチ・アシスタント(RA)」に採用される途も拓かれた。RA制度の趣旨は、「本
大学が行う研究プロジェクト等の各種研究活動の補助業務を行わせることにより研究活動
の強化・充実を図り、併せて大学院学生の研究能力の向上に資する」点にあり、この制度
をつうじて、博士後期課程学生一人あたり年額最高100万円までの給与の支給が可能になっ
た。
このように、大学院・学部・研究所が一体となって、学生の研究活動の場および研究参
加の途を保証している点は、本研究科の大きな特色言えよう。
【点検・評価
長所と問題点】
コースの長所としては次のような諸点が指摘できる。
そもそもコース制の導入のひとつのねらいは、長期間を要する研究者を養成するための
研究環境整備にあった。大学院学生の研究目的や姿勢が多様化する中で、従来型の研究者
養成は困難をきわめていると言えよう。本学に限ったことではないが、学問の世界にも世
界的な水準が求められていることや、研究業績を世界に向けて発信することが徐々に、し
かし確実に重要となりつつある。
この点から見れば、本研究科が行いつつある各種の取り組みは、本学における研究水準
を高めることに中長期的に大いに貢献することと期待できる。多彩な学科目体系を有する
点は、商学分野における学際的な研究分野をカバーするのに適したものと言える。さらに、
他研究科、学部、研究所との連携教育体制も研究の質を高め、創造的な研究者を育てるた
めに望ましい。
さらに、情報発信という点では、本学研究科の学生の業績発表の場と機会は十分なもの
と言えよう。上記のような各種の投稿媒体があり、また博士後期課程の学生については研
究所のプロジェクトへの参加も認められており、海外での学会発表を含めて、業績を発表
する機会に恵まれている。
また、TAやRAといった研究および経済支援制度も拡充の方向にある。これらの制度
を十分に活用することによって、研究者として、さらには教育者としての資質が磨かれ、
あるいはまた、研究スタイルを確立できる、という効果が期待できる。
他方で、次のような問題点も指摘できよう。
研究専修コースの場合、優れた研究者を育てるための環境整備が殊のほか重要である。
従来、本研究科の問題点の一つは、大学全体の組織が縦割り型であることから、他研究科
との横方向の交流が少なく、大学全体のネットワークの中で学生を育てていくという姿勢
が希薄なことであった。こうした「蛸壺的な雰囲気」は、指導のミスマッチに結びつくこ
ともあった。このような点を解消するために、履修制度の弾力化や学部・研究所との連携
教育が図られているが、このような新たな取り組みを定着させ、どのように活用していく
のかが、問われている。
450 第3章 大学院
また、業績発表の国際化が叫ばれる中で、外国語による発表形式も増えてきているが、
本研究科としても早急に取り組むべき課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
コース制は始まったばかりである。したがって、まず実績を積み上げることが必要であ
り、その経験の中から改善すべき点が見えてこよう。現状では、上記の問題点を含めて、
制度の充実に努めることが肝要であろう。また、現状ではそのような事例が確認できない
が、コース変更を希望する学生の指導など、コース制に固有の問題に具体的にどのように
対処すべきか、も今後の検討課題である。
[会計専修コース(Accounting Profession Oriented)]
【現状の説明】
本コースでは、会計学の学問的な基礎と応用理論を研究するために必要で基本的な科目
体系を設定している。各科目に関しては、大学の学部教育の自然な延長上に位置づけられ
る体系的で基本的な内容が講義(または研究)され、教育の方法についても伝統的な「研
究者養成の方法」とは異なった方法を採用している。
会計専修コースには、講義と演習という2種類の授業科目があり、①会計科目群、②経
営科目群、③経済科目群、④法律科目群、⑤外国専門書研究(または日本語専門書研究)
または実務英語、および⑥演習という6つの科目群が置かれている。2001 年度の各科目群
の科目は次のとおりである。
①
会計科目群
現代制度会計、監査と会計、税務と会計、コストマネジメント、管理と会計、財務の分
析、およびITの進展と会計
②
経営科目群
経営学Ⅰ、経営学Ⅱ
③
経済科目群
マクロ経済学、ミクロ経済学、財政学
④
法律科目群
商法、法人税法、所得税法
⑤
外国専門書研究(または日本語専門書研究)または実務英語
外国専門書研究、実務英語Ⅰ、実務英語Ⅱ、実務英語Ⅲ
⑥
演習
現代制度会計、税務と会計、会計学原理、経営学Ⅰ、経営学Ⅱ、ミクロ経済学、マクロ
経済学、財政学、その他 11 科目
なお、⑤外国専門書研究(または日本語専門書研究)または実務英語については、外国
人留学生は、外国専門書研究、実務英語および日本語専門書研究の中から4単位を選択履
修することになる。また、⑥演習については、修士論文に代えて「特定の課題についての
研究の成果」の提出も可能である。ただし、これらのコースから博士後期課程に進学する
場合には、修士論文の提出が義務づけられている。
【点検・評価
長所と問題点】
会計専修コースを導入したことにより、
「会計専門職」を目指す学生と「研究者」を目指
451
す学生の双方に適したよりきめ細かな教育指導が可能になった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
会計の国際的調和化が著しく進展している現状では、わが国の「職業会計人」は、国際
会議に出席し、各国の代表者と英語で討議できる能力を求められている。会計専修コース
では、こうした時代のニーズに応え、
「国際的職業会計人」を育成できる体制づくりが急務
である。なお、こうした体制づくりには、2002 年開設予定の「国際会計研究科(専門大学
院)
」と教育上の連携を図ることも重要である。
[ビジネス専修コース(Business Profession Oriented)
]
【現状の説明】
ビジネス専修コースでは、修士号を取得の後、広くビジネス界において活躍しようとす
る学生を対象に、企業現象の理解と分析力、実践で通用する専門的知識を授けることがで
きるよう8つの科目群を配置している。
ビジネス専修コースの学生は、課程修了に必要な 32 単位のうち 24 単位をコースに設置
された科目群から履修しなければならない。しかし同時に、8単位を上限に他の研究科や
学部開講の指定された科目を履修することが可能であり、学生の自由な科目選択の余地を
残している。
ビジネス専修コースの特徴点は、このコースを履修する学生が研究者ではなくビジネス
マンとして実業界で活躍することを志望している点を考慮し、従来、研究者志望を念頭に
必修であった修士論文に代えて、
「特定の課題についての研究の成果」を提出することを認
めたことにある。ただし、ビジネス専修コースを選択する学生には、博士後期課程への進
学の途が閉ざされているということではない。同コースの学生であっても、修士論文を提
出する場合には博士後期課程に進学する門戸は開かれており、学生の進路変更にも柔軟に
対応できるようにしている。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度の博士前期課程入学者は 49 名を数えた。大学院受験者そして入学者数が増加
基調を示す中、必ずしも研究者を志望しない学生が増えつつある。会計専修コースととも
にビジネス専修コースを設置したことは、こうした学生の多様化する大学院進学のニーズ
に対応するものである。
ただし、2001 年度にビジネス専修コースを選択した学生は1割にとどまった。それは、
コースが設けられた初年度という事情から、ビジネス専修コースの趣旨や特長が必ずしも
学生に対し十分に伝えられなかった面があるためと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
ビジネス専修コースが設けられて間もないことから、現時点での大きな改革課題は存在
せず、将来の改善方策についても今後の課題である。しかし、短期的には、ビジネス専修
コースの趣旨やその特長を大学院進学者に対し、より積極的にアピールすることが不可欠
であり、あわせてコースの特長をより明確に示す授業科目の充実に引き続き取り組むこと
が必要である。
452 第3章 大学院
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
単位互換制度とは、各大学間の学術的提携・交流を促進し、大学院の教育研究の充実を
図ることを目的に設置された制度である。大学院の学生が研究上の必要性から、本学大学
院と「特別聴講学生に関する協定」を結んだ他の大学院の授業科目を履修し、その修得単
位を認定(本研究科は8単位)するというものである。
現在この制度により協定を結んでいる他大学院研究科・専攻は「専修大学大学院、明治
大学大学院、法政大学大学院、立教大学大学院、東京外国語大学大学院」の関連専攻科と
なっている。
また学生が履修する授業科目の評価および単位の認定は、当該科目を開講する大学院の
規定に基づいて行われる。
また、他大学院を修了ないし中退して本研究科に入学する学生については、大学院既修
得単位認定制度があり、本大学院に入学する以前に他大学院において修得した単位を、研
究科委員会で審査のうえ、10 単位を超えない範囲で認定するというものである。
入学前に他大学院を修了している場合や、科目等履修生制度を利用して単位を修得して
いる場合は、この制度を利用して修了に必要な単位として認定を受けることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年においてこの単位互換制度を利用して、他大学院の授業を履修している学生は1
人である。
本研究科へ入学後に大学院既修得単位認定制度を利用した学生は1名である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後この制度を学生が一層効果的に利用できるような、諸措置を検討する必要がある。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮
【現状の説明】
社会人については社会人特別入学試験を実施している。入学後はその他の入試形態によ
る学生と同一の条件で学ぶことができる。
外国人留学生については、外国人留学生入学試験において日本語での研究能力の有無を
厳格に審査しているが、入学後には、本学国際交流センターが設定するカリキュラムに従
って、留学生の日本語および日本に関する一般知識の収得のための教育を実施している。
研究科においては留学生のための専門書による日本語学習のプログラムを設置している。
また入学後1年間に限り、外国人留学生の日本語学習および学生生活について指導・助
言を行うために留学生チューター制度が置かれている。
なお、外国人留学生については、博士後期課程学生による、
「外国人留学生の修士論文の
作成について、日本語の表現方法に関する助言」を行う、TA制度も用意されている。
【点検・評価
長所と問題点】
留学生入学試験における日本語の試験については、非漢字圏からの受験生については特
別の考慮を払うことになっているが、このことを含めて教育的な配慮を重視してきている。
外国人学生が授業を正しく理解し、研究をすすめるためには、できるだけ早急に日本語
の読み書き能力を身につけなければならない。日本語に関するこのような指導がTAによ
453
って実施されることは有益なことである。2001 年度は1名の博士後期課程在学学生が留学
生のためのTAとして指導にあたっている。
また、近年外国人留学生の人数の増大は著しいが、近隣のアジア諸国からの留学生に片
寄る傾向が見られる。海外の学術交流の協定校はヨーロッパとアメリカにも存在している
のだから、これらの諸国からの留学生の増加が望まれる。本研究科のシステムの中に、こ
れらの地域の学生の留学を促進する措置を検討する必要があるものと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
ヨーロッパ圏からの留学生を招くためには、現在本研究科で行われているような、主と
して日本語に基づく教育システムの再検討が必要になろう。
また、上述の日本語能力を向上させるために、留学生の教育指導に関するスタッフを今
以上に充実させる必要がある。
社会人入試による学生についても、それにふさわしい勉学条件の一層の改善が望まれる。
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
「連携大学院」の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑦
研究指導等
【現状の説明】
博士前期課程における研究指導は概略次のように行われている。
前述のように、各コースの授業科目には、<演習>と<講義>の2種類があり、演習Ⅰは1
年次に、演習Ⅱは2年次に履修し、講義科目は1年次、2年次を通じて所定の開講学期に
履修することになっている。
各コースの授業科目の中から、指導教員の講義1科目2単位と、主ゼミナールとして同
じ指導教員の演習Ⅰ・演習Ⅱ計2科目8単位の計3科目 10 単位を原則として選択履修する
ことになる。ただし、会計専修コースおよびビジネス専修コースについて、指導教員がそ
のコースで講義を担当していない場合には、講義科目2単位については他コース履修の枠
として処理される。
また、指導教員以外の他の教員から研究指導を受けるため、指導教員のアドバイスのも
とにそのコースの他の教員の担当する演習Ⅰ(1年次)、演習Ⅱ(2年次)を副ゼミナール
として、各年次1科目4単位の履修が可能となっている。副ゼミナールとして演習Ⅰ、演
習Ⅱを履修する場合、それぞれの担当教員は同じであっても異なっていてもよい。
指導教員のアドバイスのもとに、計8単位を上限に、他研究科の講義科目、または、交
流・協力校が聴講を認めた講義科目を履修することができる。他研究科の講義科目の履修
には、その講義の担当教員の承認と関係する研究科委員長の許可が必要である。
454 第3章 大学院
指導教員のアドバイスと担当者の承認のもとに、計8単位を上限に、本研究科の授業科
目担当者が商学部において開設する講義科目を受講することができる。
修士論文は原則として2年次に日本語で提出することになる。会計専修コースおよびビ
ジネス専修コースについては、修士論文に代わる「特定の課題についての研究の成果」の
提出が可能である。ただし、これらのコースから博士後期課程に進学する場合には、修士
論文の提出が義務づけられている。
博士後期課程では指導教授の研究指導を受けながら、研究および博士論文の作成を行う
ことになる。学生は、毎年≪研究計画書≫と≪研究状況報告書≫を、指導教授を経由して
研究科委員会に提出することになっている。
また、指導教授の担当する講義(特殊研究)を3年にわたって履修しなければならない。
学生の研究指導は、ゼミナール形式での研究室内の指導の他に、研究科が組織する修
士論文の公開報告会がある。さらに、本学附置の企業研究所と本研究科が共同で主催す
る大学院学生の研究報告会が行われ、一般の大学院学生および指導教員以外の教員によ
る評価が行われる。
【点検・評価
長所と問題点】
学生が履修する演習担当の教員が、個別の研究指導に加えて、学生の履修科目の選定、
学部の指定科目の履修、他研究科の履修等に関して不断のアドバイスをし、個々の学生の
研究生活全体に責任を持つシステムになっている。
博士前期課程学生の実際上の学修の経過を考慮して、学部の指定科目を履修させる制度
が新たに制定された。学生の基礎的学力を補充するうえで、有効なものと思われる。
演習について主たる指導教授の他に、副指導教授を選択できる制度があり、学生の研究
が無用な細目に陥るのを防ぎ、多様な視点から研究テーマを見直すうえで有効な役割が期
待されている。
また近年、多様な入試形態の実施にともなって、合格水準を均一に保つことが困難にな
り、その結果、学生の学力水準にかなりの格差が存在しており、従来、一般的に行われて
きたような伝統的な指導体制では対応しきれない状況が生じている。この点を解消するた
めに個別の講義や日常の指導においても新たな対応が必要となってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科の特性に由来する制度的な問題もある。すなわち、本研究科では各種の国家資
格取得に関する科目が設置されており、これらの科目において、当該科目の担当者に履修
者が偏在するなどの問題が起きている。こうした現象は、教育効果を保証するうえで困難
をもたらしてきたが、今年実施されたコース制の導入によって、こうした傾向が緩和され
ることが期待されており、今後の推移を注意深く見守っていかなければならない。
3−(2)
教育研究指導方法の改善
3−(2)−①
教育効果の測定
【現状の説明】
博士前期課程修了者については多くは、会計専門職をはじめとする実社会の多様な分野
に進路を見いだしている。修了者の一部は、引き続いて博士後期課程に進学する。
修了者の進路先は『中央大学大学院ガイド
2002』に見られるとおりである。
455
博士後期課程の修了者は、経営学、会計学、商業・貿易・金融の学問領域の理論・応用
の専門知識を修得して、大学の教員や各種研究所および調査期間へ就職している。
在学中の教育効果の測定法としては、研究論文の発表および学会での研究報告が主要な
ものである。特にこれらは研究職を目指す博士後期課程の学生にとって重要である。
博士後期課程の教育効果の測定方法として、
『中央大学大学院年報』、
『中央大学企業研究
所年報』などの学内の学術刊行物に投稿、掲載される論文・研究ノートなどの研究成果に
よって研究の進展状況を判断することが大きな役割を果たしている。また、学内、学外で
開催される研究会での研究報告を通じて、指導教員やその他の教員による教育効果の測定
がなされている。
就職・進路状況(2001 年3月)は、博士前期課程では 53 名の卒業生のうち、大学院研
究科への進学が 13 名、就職が 17 名、その他が 23 名となっている。博士後期課程では、5
名のうち就職者は4名であり、うち3名が大学、1名が非営利団体に就職している。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の教育効果を測る一つの規準は、研究科修了後の進路であるが、博士前期課程・
博士後期課程を通じて、進学・企業への就職状況はおおむね順調なものと考えられる。
現在、博士後期課程においていわゆるオーバードクターの学生が5名存在している。本
研究科として、どのような事情によってオーバードクターが発生するのかを解明しなけれ
ばならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導上の効果を測定するための方法は、現在のところ、早急に改善すべき問題
があるとは言えない。だが、今後、博士後期課程については、学生が研究成果を学会・研
究会報告や論文・研究ノートなどのかたちとして公表する機会を増やし、それに基づいて
効果を測定する仕組みを充実することが望ましい。
なお前述した博士後期課程におけるオーバードクターについては、学生が円滑に社会に
進出できるように一層の努力をしていかなければならない。
3−(2)−②
成績評価法
【現状の説明】
博士前期課程および博士後期課程における授業科目は、各授業科目を担当する教員が次
のような方法と基準によって成績評価を行っている。演習科目が多いことから、期末試験
を実施することは少なく、レポートの提出あるいは授業への参加状況など平常点で評価点
が下されることが一般的である。評価点の基準は、A(100∼80 点以上)、B(79∼70 点以
上)
、C(69∼60 点以上)を合格、D(59 点以下)を不合格と定めている。
博士前期課程における成績評価は、授業科目の成績評価と修士論文の審査によっており、
博士後期課程については授業科目の成績評価と博士論文の審査によっている。
博士前期課程、博士後期課程ともに、授業科目の単位取得率はほぼ 100%であり、A評
価取得率も高い。しかし、博士前期課程の学生は修士論文を提出し、同課程を修了するの
に対し、博士後期課程の学生の場合には、博士論文を完成させることは稀であり、同課程
を単位取得で退学することが一般的である。
【点検・評価
長所と問題点】
456 第3章 大学院
博士前期課程、博士後期課程における成績評価は厳格かつ適正に行われており、評価方
法や基準について見直すべきとの意見が研究科委員会で出されることはない。
その根拠として、博士前期課程、博士後期課程のいずれにおいても次のような教育研究
指導の成果をあげているからである。すなわち、博士前期課程の学生は博士後期課程へ進
学する学生を除くと、公務員として採用されたり、民間企業に就職する一方、博士後期課
程の学生は大学や非営利団体に就職している。過去の修了・単位取得者のいずれも、各分
野で活躍している実績がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在のところ、早急に改善すべき問題はない。ただし、ビジネス専修コースなど新しい
教育システムが定着すると、将来的には、成績評価についても従来とは異なった評価基準
が要請されることも考えられる。
3−(2)−③
教育研究指導の改善
【現状の説明】
博士前期課程および博士後期課程の授業は、少人数のゼミナール方式を基本とし、担当
教員が一方的に講義をするのではなく、学生自らが自発的に学習、研究をし、その成果を
報告し、相互に議論をするかたちで行われている。
授業以外にも、必要に応じて、教員の研究室において個別の指導、相談が随時行われて
いる。さらに、他大学大学院の教員が報告者となる研究会や、本学研究所が主催する研究
会などに積極的に参加するように指導している。特に博士後期課程の学生にとっては、こ
うした多面的な教育研究体制が重要な意義を持っているのである。
博士前期課程および博士後期課程の「演習」、
「講義」科目の内容=シラバスは、
「大学院
履修要項」として学生に配付されている。
【点検・評価
長所と問題点】
現行の研究科における教育研究の指導はおおむね妥当なものと判断される。すでに述べ
たように、最低履修単位数は 32 単位に設定しており、ゼミ方式への授業に主体的に参加す
る条件を確保している。
論文作成に際しては、指導教員により個別的に密度の濃い指導が逐次行われている。こ
の点は特に博士後期課程の学生の教育研究指導の基本となっている。
ただし、専門領域の特性から、多数の学生が特定の教員を指導教員として希望する場合
があり、その場合、担当する教員の負担は表面的に表れる学生数以上に過大になることが
大きな問題として残っている。
ビジネス専修コースでは、受講者がいないために休講となっている科目が少なからずあ
る。しかし、この点は、コース制導入後、間もないことを考慮すると、同コース科目への
ニーズが小さいと判断することは早計過ぎるであろう。
教育活動の評価に関しては、大学院が独自で教育活動に関して調査した報告はこれまで
のところ行われておらず、講義の受講者数や演習への参加者数など、学生の反応によって
間接的に評価せざるをえないのが現状である。
それぞれの授業科目のシラバスは、記述の仕方に精粗の別が見られるものの、おおむね
丁寧なもので学生の科目履修の指針としての役割を果たしているものと思われる。
457
【将来の改善・改革に向けた方策】
シラバスの記述については、今後研究科委員会で議論を深めて、一層分かりやすい記述
に改善する必要があろう。
2000 年度に教員組織が改革され、2001 年度にコース制が導入されている。今後2・3年
のうちに、学生へのアンケートを含めて教育活動の実態を調査し、改革の成果を吟味すべ
きである。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
本研究科では、単位互換制度や交換留学生制度など国内外の大学院・研究機関との教育
研究面での交流を活発に行っている。
専修大学経営学研究科・商学研究科、法政大学社会科学研究科、明治大学経営学研究科・
商学研究科、立教大学経済学研究科、および東京外国語大学地域文化研究科と交流・協力
に関する協定を締結している。学生が研究上の必要性から、本学大学院と交流・協力に関
する協定を結んだ他の大学院の授業科目を履修した場合には、8単位を上限に単位を認定
している。
本研究科と教育研究にかかわる協定を締結している海外の大学も多数あり、交換留学を
実施している協定校は 22 校にのぼる。
また、海外の研究者が訪問期間中に行う研究会での講演や報告、あるいは大学院の講義
でのゲスト・スピーカーとしてのレクチャーは、教育研究上の効果という観点から見てみ
て学生に対する大きな刺激となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
限られた人的資源、施設などの点から、国内外の大学との協定を通して幅広い多面的な
教育研究指導を進めていることは、きわめて望ましいことである。特に海外の大学院・研
究機関との国際的な教育研究交流は息の長い取り組みであるため、地道で継続的な努力が
求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
限られた人的資源の制約の中で、より幅広い多面的な教育研究指導を実現しようとする
とき、国内外の大学との協定は今後、ますます重要になってくる。
国内外の大学院や研究者との交流を通じて、学生が自らの研究力量を全国的・国際的な
レベルで再確認しながら、それを高めることが期待されるからである。さしあたり、近隣
の大学院との提携関係の強化、そして長期的には海外の大学院との単位互換制度の一層の
充実が必要である。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
【現状の説明】
修士学位は、原則として博士前期課程に2年以上在学し、授業科目 32 単位以上を修得し、
かつ論文審査、最終試験に合格した者に対して授与される。授業科目の単位認定は各授業
担当者によるが、修士論文の審査は次のような手続をとっている。学生が定められた期日
458 第3章 大学院
までに提出した論文について、指導教員のほか、研究科委員会が指名する2名以上の教員
によって論文審査が行われ、それら複数の教員の査読結果報告書を審査の主査となる指導
教員が総括し、審査結果報告書を作成する。そのうえで、査読にあたった教員による口頭
試問が最終試験として実施され、その最終結果が研究科委員会に報告され、合否が決定さ
れる。
博士学位(課程博士)については、原則として博士後期課程に3年以上在学し、指導教
員の担当する授業科目 12 単位を修得し、必要な研究指導を受けたうえ、博士論文の審査お
よび最終試験に合格した者に対して、研究科委員会の議を経て授与される。審査は、研究
科委員会構成員から選ばれた主査1名と副査2名以上が担当し、外国語試験の結果ととも
に論文審査結果を大学院研究科委員会に文書で報告し、定足数を満たしていることを条件
に、可とするものが3分の2以上をもって合格となる。
本研究科が設置されてから 2001 年 3 月までに、商学修士の学位を取得した者は 850 名を
数える。商学博士の学位取得者は、1909 年から 1964 年までの旧制で 10 名、1964 年から
2001 年 3 月までの新制において 24 名となっている。
最近 10 年(1991 年から 2000 年)を見ると、課程博士の学位取得者は 16 名、論文博士
の学位取得者は 41 名となっている。
博士号の名称としては、博士(商学)のほか、博士(経営学)、博士(会計学)、博士(経
済学)がある。
【点検・評価
長所と問題点】
修士学位および博士学位の授与方針・基準のいずれも適切であり、かつ審査も厳格に実
施されている。
ただし、博士後期課程に規定の年限にわたって在籍しても、博士学位を取得できる割合
はきわめて少ない。その理由は、研究科委員会構成員の博士学位についての解釈が、旧制
の学位授与基準を慣例的に引きずっていることにある。日本の大学院において博士学位の
授与が欧米の大学院よりも厳格に運用される状況は、留学生も含めた学位を取得する学生
の側からすると、取得の困難性という不利益を蒙っている面がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際化が進展する中で、日本の大学院においても博士学位の授与については、欧米の大
学院との比較において格段の隔たりのないよう、より現行の学位規則に即した適用の改善
が求められる。
表1
商学研究科学位授与状況
研
究
専
科
1996 年度
攻
修
商学専攻
士
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
39
32
27
38
53
博士(課程)
1
2
1
3
0
博士(論文)
7
8
4
4
1
459
3−(4)− ②
課程修了の認定
【現状の説明】
博士前期課程については、2年以上在学し、指導教員の担当する授業科目 10 単位を含め
た 32 単位を取得し、かつ必要な研究指導を受けたうえで、修士論文の審査および最終試験
に合格することによって、課程修了の認定がなされる。
ただし、優れた研究業績をあげた学生については、1年以上の在学期間で終了すること
が可能である。
博士後期課程については、標準の場合5年以上在学し(博士前期課程の2年の在学期間
を含む)、指導教員の担当する授業科目 12 単位を修得し、必要な研究指導を受けたうえで、
博士論文の審査および最終試験に合格した者に対して、研究科委員会の議を経て博士号学
位が授与され、課程修了が認定される。
ただし、優れた研究業績をあげた学生については、3年(博士前期課程の2年の在学期
間を含む)の在学期間で終了することが可能である。
【点検・評価
長所と問題点】
現在まで標準以下の在学期間で課程を修了した事例はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
当面は、標準在学期間以下で課程を修了する学生の現れることを期待している。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
(ア)入学試験形態
本研究科では、①学内選考入学試験(学内推薦入学制度)、②一般入学試験、③外国人
留学生入学試験、④社会人特別入学試験、⑤特別進学入学試験(「とび級」入学制度)か
らなる、5種類の入学試験形態を実施し多様な入試形態のもとで学生の募集と選抜を行っ
ている。
1)学内選考入学試験(博士前期課程)の出願資格および選抜方法
(出願資格)
本学商学部4年次に在籍する学生(認定留学生または交換留学生として留学した人は 5
年次生でも可)で、次のいずれかの条件を満たし、かつ、大学院において専修を希望する
学科目に関し、所定の前提履修科目の単位をすでに修得または履修予定の人。
1.前年度までに卒業に必要な最低修得単位数のうち 112 単位以上(認定留学生または交
換留学生として留学した4年次生は 98 単位以上)を修得し、かつ、A評価の単位数の合
計が 80 単位以上(認定留学生または交換留学生として留学した4年次生は 72 単位以上)
の人(ただし必修外国語科目の4分の3以上がA評価を得ていること)。
2.本学4年次に在学する編入生で、3年次の修得科目のうちA評価の単位数が4分の3
以上であって、かつ、4年次での卒業が見込まれる人(ただし、必修外国語科目の4分
の3以上がA評価を得ていること)。
3.在学中に公認会計士試験2次試験に合格した人。
(選抜方法)
460 第3章 大学院
1.書類審査
2.口述試験(1次試験合格者のみ)
2)一般入学試験の選抜方法
(博士前期課程)
1.外国語(英語、ドイツ語、フランス語のうち1カ国語を選択)
2.専門科目(第一希望指導教授の担当科目と、それ以外の1科目を経営学、会計学、商
業学、経済学、金融論の中から選択)
3.口述試験(1次試験合格者のみ)
(博士後期課程)
1.外国語(英語、ドイツ語、フランス語、中国語、スペイン語、ロシア語、日本語のう
ち母語を除く2カ国語を選択)
2.口述試験(1次試験合格者のみ)
3)外国人留学生入学試験の選抜方法
(博士前期課程)
1.日本語
2.入学後の専攻に関連する科目
3.口述試験(1次試験合格者のみ)
(博士後期課程)
1.外国語(日本語のほか英語、ドイツ語、フランス語のうち母語を除く1カ国語を選択)
2.入学後の専攻に関連する科目
3.口述試験(1次試験合格者のみ)
4)社会人特別入学試験の選抜方法
(博士前期課程および博士後期課程)
1.書類審査
2.口述試験(1次試験合格者のみ)
5)特別進学入学試験の出願資格および選抜方法
(出願資格)
学部(他学部、他大学を含む)の3年次在籍者で以下の要件のすべてを満たしている人。
1.2年次までに修得した必修外国語科目の4分の3以上が最高評価を得ていること。
2.2年次までに志願者の所属学部における「卒業に必要な最低修得単位数」の2分の1
以上を修得し、かつ、修得科目の4分の3以上が最高評価を得ていること。
(選抜方法)
1.英語
2.専門科目(経営学、会計学、商業学、経済学、金融論のうち2科目選択)
3.口述試験(全員)
(イ)研究生、科目等履修生、聴講生制度
本研究科では、研究生(外国人留学生に限る)、科目等履修生、聴講生も受け入れてい
る。また、このうち科目等履修生、聴講生については、国籍の如何を問わない。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度の入学試験の状況は次のとおりである。
461
表2
2001年度入学状況
試験区分
入学志願者数 合格者発表数
入学者数
一 般 入 試
57
22
21
学 内 推 薦
11
11
11
外 国 人 入 試
31
14
12
社 会 人 入 試
11
5
5
計
110
52
49
現在の入学試験については、おおむね順調に志願者が推移しているものと考えられる。
ただ、外国人留学生入学試験の選抜方法については、試験科目の中身に関して検討を必
要とする問題が存在する。今後早急な取り組みが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国人留学生入学試験の選抜方法については改善措置を講じることになろう。
4−(2)
学内推薦制度
【現状の説明】
前記の入学試験形態に述べられた、①学内選考入学試験(学内推薦入学制度)が、ここ
でいう学内推薦制度に該当する。
【点検・評価
長所と問題点】
この入試形態に応募する在学生の数は安定しており、入学学生の学業成績からみて特別
の問題はないものと判断される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
当面、将来の推移を見守ることが必要である。
4−(3)
門戸開放
【現状の説明】
本研究科では、外国人留学生および社会人に対して積極的に門戸を開放しているととも
に、博士前期課程および博士後期の一般入学試験において、他大学および他大学院の卒業
生に広く門戸を開放し、本学ないし本学大学院卒業者と同一の条件のもとでの試験を行っ
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度の博士前期課程入学試験における他大学卒業生の応募は 28 名で、全入学者数
49 名の約 57%であった。
また同年度の博士後期課程入学試験における他大学院修了者の応募は1名であり、入学
者総数の5%を占めるだけであるが、本研究科の博士前期課程を終了して博士後期課程に
合格したもの 17 名のうち5名は他大学出身者であった。
博士前期課程および後期課程とも、本学以外からの受験者は年々増加の傾向を示してお
り、本研究科が社会的に広く認められている印であると考えられる。
462 第3章 大学院
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、本研究科の教育研究システムを改善するとともに、研究科独自の広報活動に努め
ることが必要である。
4−(4)
飛び入学
【現状の説明】
本研究科博士前期課程では、特別に優れた学部学生に対して、特別進学入学試験(とび
級)を実施している。
【点検・評価
長所と問題点】
現在まで当該の制度を利用して入学した学生はいない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、特別の改善策はない。
4−(5)
社会人の受け入れ
【現状の説明】
本研究科は社会人に門戸を開放し、社会人特別入試を実施している。
2001 年度には、博士前期課程への社会人入試の応募者は 11 名であり、5名が合格して
在学している。博士後期課程の社会人入試の志願者は2名であって、1名が合格して現在
在学している。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の定員に対して標準的な受け入れ数であると判断される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生の大学院での研究生活は、総じて学生個人の努力にまかされているが、社会
人学生に対する本研究科としての教育研究条件等についての制度的な条件整備が必要にな
るものと思われる。
4−(6)
定員管理
【現状の説明】
本研究科の在籍者数は以下のとおりであるが、近年の傾向として、本研究科に対する社
会的評価の高まり等から志願者、合格者数が増加しており、在籍者総数も増加傾向にある。
表3―①
博士前期課程(定員 25 名)
2000年入学
特別選考入試
2001年入学
OM
在籍数
16
11
6
33
試
10
21
7
38
社会人特別入試
6
5
1
12
外国人留学生入試
14
12
4
30
46
49
18
113
一
般
合
入
計
(OMは在学期間が3年以上のもの)
463
表3−②
博士後期課程(定員5名)
1999年入学 2000年入学
一
般
OD
在籍数
試
5
5
11
4
25
社会人特別入試
−
3
1
−
4
外国人留学生入試
3
3
6
1
13
8
11
18
5
42
合
入
2001年入学
計
(ODは在学期間が4年以上のもの)
【点検・評価
長所と問題点】
最近の特徴として、博士前期課程の一般入試において他大学出身者の受験者が増加して
いること、および外国人留学生の受験が多数にのぼることが指摘できる。
博士前期課程および博士後期課程の双方において、いずれの年にも在学学生の数は定員
を満たしている。
各種の入試形態を経由する学生の数が増加するにつれて、合格水準を均一に保つことが
困難になりつつある。
受験者数の増加を維持しながら、一定の学力を保持する学生を選抜できる体制を作るこ
とが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各種の入試形態について、従来の選抜方法を慎重に点検していきたい。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
本研究科では、大学院担当者は学部科目担当教授と助教授が兼担し、また必要と認めら
れる場合には、他大学等より兼任教員を任用している。2001 年度の担当者は、教員総数 83
名であり、そのうち専任教員は 64 名(教授 53 名、助教授 11 名)、兼任教員は 19 名であ
る(基礎データ調書
表 10
参照)。
なお、専任教員としては、「中央大学特任教員に関する規定」が 2000 年7月より施行さ
れ、職務および期間を限定して任用される専任教員である特任教員も採用できるようにな
った。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科では、1999 年度まで大学院担当者の資格は原則として学部教授であり、博士後
期課程においてはさらに博士学位保有者に限定されていた。学生数の増大と研究テーマの
多様化に対応し、十分な研究指導の効果を得るために、上記のように教員任用制度を変更
し、2000 年度より、スタッフの格段の充実を図った。その結果は、第一には、専任教員一
人あたりの在籍学生数は約2名となり、少人数の教育研究指導が可能になった。第二には、
博士前期課程はもとより博士後期課程においても、
「経営」、
「会計」、
「商業・貿易」、
「金融」、
464 第3章 大学院
「経済」という5専攻分野に教員を配置することができ、学生の研究テーマの多様化に対
応することが可能になった。第三に、助教授が大学院の担当教員になることにより、教員
の年齢構成が若返ったと言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特任教員制度は 2000 年7月に施行されたため、2001 年度ではその任用数は0名である。
今後、これまで以上に研究テーマの多様化が進むと見られる。これに対応するためには、
教員の流動化を促進する必要があり、このための手段としては、特任教員の制度を積極的
に利用するべきである。
今後、大学院の教育を充実させていくには、長期的には大学院に専任教員を置くことが
望ましいと考えられるが、当然、財政条件を考慮しながら取り組まざるを得ない。学部教
員による大学院兼担という組織体制を基本とする限り、当面、学部と大学院での教育負担
のバランスを採るような方策が必要である。
5−(2)
研究支援職員
【現状の説明】
研究支援職員としては、RA制度がある。この制度は企業研究所の準研究員である博士
後期課程学生に、本大学が行う研究プロジェクト等の各種研究活動の補助業務を行わせる
制度であり、その趣旨は各種研究活動の強化・充実を図るとともに、併せて大学院学生の
研究能力の向上に資することにある。
RAは 2000 年度から施行され、2000 年度の採用者は5名、2001 年度は6名である。
この他に、TA制度が設けられている。この制度は 1999 年度より施行され、博士後期課
程に在籍する学生に対して、教育的補助業務を行わせ、指導者としてのトレーニングの機
会を与えるものである。この制度のもとで、博士前期課程の授業のうち、演習および本研
究科が必要と認めた授業科目において、教育的補助業務を行っている。
留学生の教育指導に関してこの制度が利用されている。例えば、外国人留学生がレポー
トや論文を作成する際には、日本語表現の適切さが問題となる。この問題に関しては、現
在、指導教授に主として委ねられているが、TAにその補助をさせることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
RAの選考は、博士後期課程学生の中から、その能力・適性を考慮して、指導教授の推
薦に基づいて研究科委員会が行うこと、さらに、研究科委員長は、次年度の採用計画書と
ともに過年度の採用実績書を学長に報告することになっており、RAの選択の適切さを研
究科全体として評価するシステムが存在する。
また、これらの学生は企業研究所の研究チームの準研究員であることから、実際の研究
プロジェクトを前提にしているので、RAと教員との連携・協力関係の適切さは十分に確
保されている。
TAは 2000 年度と 2001 年度ともに5名であり、演習のほかに、情報関連業務および外
国人留学生関連業務に配置されている。また、その採用は指導教授の推薦によること、さ
らに、商学研究科委員長は年度初めに計画書、年度の終わりに実績報告書を学長に提出す
ることにより、教員とTAの連携・協力関係の適切さが確保されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
465
RA制度の趣旨を考えるのであれば、博士後期課程学生だけでなく、博士前期課程研究
専修コース学生までに広げることも可能である。それが実際に成功する見込みがあるか否
かは、現在のRA制度の実施状況を今後2・3年のうちに調査し、改めて検討すべきであ
る。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
【現状の説明】
本研究科では、学部専任教員の教授および助教授が兼担しており、科目の必要性に応じ
て、他大学等より兼任教員を任用している。教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
は、「商学研究科専任教員任用慣行(内規)」によっている。以下では、「商学研究科専
任教員任用慣行(内規)」に従い、大学院担当教員の任用について説明する(その他につ
いては、商学部の募集・任免・昇格に関する基準・手続を参照のこと)。
博士前期課程では、教授、助教授について、各専門分野からの推薦を受け、候補者から
履歴書を取り寄せ、商学研究科委員会で審査・投票が行われる。
博士後期課程では、博士前期課程において2年の教歴を有する者について、専門分野か
らの推薦により、商学研究科委員会で審査・投票が行われる。
なお、専任教員としては、
「中央大学特任教員に関する規定」に基づき、職務および期間
を限定して任用した教員である特任教員を任用することもできる。この特任教員が大学院
における教育研究を担当する場合には、その人事に関して、商学研究科委員長は、学部長
と事前に協議しなければならない。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の「商学研究科専任教員任用慣行(内規)」は、改訂前には、「大学院設置基準
第9条」に規定される資格基準、他大学院、および本学他研究科の任用規準と比べて、教
員の任用に関して制約的であった。そこでそれらの他の資格基準と同じ水準となるように
配慮し、学生数の増加と研究テーマの多様化に対応する十分な指導体制を確立するために、
資格基準の改正が行われた。
この「商学研究科専任教員任用慣行(内規)」では、任用に際しては、研究科委員会での
審議と投票が必要であり、研究科委員会が主体的に関与している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「商学研究科専任教員任用慣行(内規)」では特任教員を除き、本研究科の専任教員はあ
くまでも学部の専任教員であることが前提となる。将来さらに研究分野が多様化し、大学
院教育の重要性が増すことが予想されることから、大学院独自の専任教員の任用を前提に
した任用規定を設ける必要があろう。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
本研究科所属教員の教育研究活動の評価は、本研究科内のシステムとしては、博士前期
課程担当者の任用の際における業績審査ならびに博士後期課程担当者の任用の際の業績審
査によって行われる。
いずれの場合も、任用規定に定められた方法により、教歴および学術上の著書ないし論
466 第3章 大学院
文等の業績が評価される。
また学内の各種の公表文書によって、教員の教育研究活動が評価されると判断される。
『大学院自己点検・評価報告書
第1号』には、1994 年度から 1998 年度までの大学院担
当教員の個人別教育研究活動が報告されている。
『学事記録』では、大学院担当教員も含めて学部担当の専任教員の研究成果の発表状況
が公表されている。そこでは、文部科学省、日本学術振興会科学研究費補助金、私立大学
等経常費補助金補助などの学外の研究費補助制度における研究課題、特別研究期間制度、
特殊研究助成などの学内の諸制度における研究課題、個人の学術発表などが公表されてい
る。なお、個人の学術発表では、研究業績(著書、論文、学会発表等)、学術受賞が明らか
にされている。さらに、『商学部自己点検・評価報告書
1999 年度』では、専任教員の学
部全体としての研究活動の状況が明らかにされている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科における博士前期課程、博士後期課程の担当者任用のための業績審査は、公正
かつ厳格に行われている。
『学事記録』は毎年度公表され、かつ、個人の研究業績に加えて、大学内外の補助金制
度における研究課題が明らかにされているので、各教員の研究成果の十分な公開性は保た
れている。ただし、
『学事記録』の研究業績のデータの提供は教員個人の自主性に任されて
いるために、それらのデータを公表していない教員もあり、学部教員の研究成果の公開に
アンバランスが生じているのが現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
緊急に改善すべき問題は存在していない。
『学事記録』に関して言えば、データの提供は個人の自主性に委ねながらも、研究成果
を公開することの重要性を周知させることによって、できる限り多くの教員の研究成果を
公表できるようにすべきである。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
【現状の説明】
商学関係の専任教員は、本学附置の企業研究所の研究員となり、当研究所を運営し、商
学の領域における研究活動に従事している。
また、本研究科の教員は、本学の経理研究所、経済研究所、社会科学研究所その他の研
究所の研究員として、それらの運営と研究に従事している。
本研究科の教員の中には、他大学の非常勤の教員として、専門に関わる授業を担当する
ものが多数存在する。
さらに、本研究科の教員の多数は、わが国および国際的な学術団体の会員ないし役員と
して重要な役割を果たしている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の所属教員は、本学附置の各研究所の所長、役員、研究員として重要な役割を
果たしている。
毎年配付される『商学部講義要項』および 2000 年3月に刊行された『大学院自己点検・
評価報告書(研究教育活動報告書)』の中に、本研究科教員の研究業績および所属学会等が
467
公開されており、これによれば、研究科教員が学会において大きな貢献を行っているもの
と判断される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後一層、本研究科教員の研究活動が促進されるように、教育研究の条件等を整備して
いくことが望まれる。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)
研究活動
6−(1)− ①
研究活動
【現状の説明】
教員の研究活動の状況は、個人別では『学事記録』、学部全体としては『商学部自己点検・
評価報告書
1999 年度』や『大学院自己点検・評価報告書
第1号』で明らかにされてい
る。
学内では、商学部研究会の『商学論纂』、企業研究所の『企業研究所年報』、経理研究所
の『経理研究』など定期刊行誌があり、商学部・商学研究科関係の教員は、それらの定期
刊行誌に研究成果を発表している。また、企業研究所では、各種の研究会、公開講演会、
シンポジウムが開かれている。
教員は、学外でも、定期刊行誌に成果を発表するとともに、国際会議を含めた学会など
で発表し、学会等の役員としても活躍している。
【点検・評価
長所と問題点】
『学事記録 1999 年度』によると、専任教員は、学内では、上記の定期刊行誌に盛んに
投稿しており、企業研究所の研究会、講演会も頻繁に行っている。また、各教員は、学外
の刊行誌でも成果を公表しており、各学会等でも発表を行い、日本管理会計学会研究功績
特別賞、経営史学会B賞などを受賞している。このように、専任教員は活発な研究活動を
行い、大学全体の教育研究の発展に寄与していると言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究活動の改善は究極的には個人の問題であるので、画一的に論じることはできないが、
大学全体の教育研究能力を維持・向上するために、量的にも質的にも十分な研究活動が必
要であることを、研究員である教員が一層強く自覚する必要がある。
6−(1)− ②
教育研究組織単位間の研究上の連携
【現状の説明】
商学関係の専任教員は、企業研究所の研究員として、研究活動に従事している。この研
究所では、研究員は、客員研究員や準研究員とともに、研究チームごとに共同研究を行っ
たり、「研究叢書」、「翻訳叢書」、「Research
Papers(リサーチペーパー)」、「年報」など
を出版したり、あるいは公開定例研究会、公開チーム研究会、公開講演会、公開シンポジ
ウムなどを開催している。
【点検・評価
長所と問題点】
企業研究所では、『学事記録 1999 年度』によると、研究チームとして 13 チームが活動
中であり、公開定例研究会 11 回、公開チーム研究会2回、公開講演会1回、公開シンポジ
468 第3章 大学院
ウム1回が開催された。また研究叢書1冊が発行されている。チームの研究テーマは「グ
ローバル・コミュニケーション・ポリシーズ」、「企業金融と社会的責任」など多種多岐に
わたっている。こうした研究は頻度においてもかつ多様性の観点からも、教員、博士後期
課程学生を含む研究員の研究能力の向上に役立っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これまで、研究上の連携は主として企業研究所との間で行われてきた。しかしながら、
近年、各専門研究領域においては、総合的・複眼的視野を必要とする状況になり、そうし
た状況に対応するためには、他の研究科、他大学との連携を強めなければならない。当面
の問題としては、現在も行われているが、学内の他の研究所の研究チームへのより積極的
な参加を通じて、他の研究科との連携を促進する必要があろうし、2002 年度開設予定の「国
際会計研究科(専門大学院)」との研究上の連携をできる限り早く構築することが望まれる。
6−(2)
研究体制の整備
6−(2)− ①
経常的な研究条件の整備
【現状の説明】
研究費、研究専念期間、その他の制度の順で説明する。
1.研究費
「中央大学学内研究費助成規程」に基づく学内研究費としては、①
定課題研究費、③
基礎研究費、②
特
共同研究費があり、いずれも 2001 年度から改められた部分がある。
①は、個人で行う学術研究を支援するために助成される研究費である。学内研究費全体
の中での基盤的研究費として位置づけられ、研究用図書の購入をはじめとして、パソコン
等機械器具の購入、研究旅費、謝金、学会年会費等に充てることができる。教員の研究ス
タイルの多様化を反映して使途が拡大される傾向にあったが、2001 年度からは、一定の手
続を経て外国旅費としても使用できる等の改善がなされた。
②は、教員の専門分野における特定の課題について個人で行う研究を支援することを目
的とする研究費である。原則として、助成を受けようとする年度の前々年度に、文部科学
省または日本学術振興会の科学研究費補助金に申請していることを条件とする一方、使途
範囲を外国旅費にまで拡大する等の点が改められた。
③は、学際的学術研究を格段に発展させるとともに、学部、大学院、研究所および学外
研究機関との研究交流を促進し、もって教育研究水準の一層の向上を図るための助成制度
である。共同研究プロジェクトの研究代表者を本学専任教員とし、プロジェクトのメンバ
ーの過半数が本学専任教員であることを要件とし、300 万円以上・100 万円以上 300 万円未
満・100 万円未満という3つの金額区分が設けられている。
2.研究専念期間
研究専念期間とは授業およびそれ以外の校務を一切免除され研究のみに専念できる期間
を言い、特別研究期間制度と在外研究制度がある。
特別研究期間制度は、専任教員が個人で行う特別の研究の促進に資するために、学年始
めから1年間、一切の授業および校務を免除し、特定の研究に従事することを目的とする
制度である。
在外研究制度は、専任教員が、在外研究費の支給を受け、学術の研究・調査のために一
469
定期間外国に派遣されることによって、本学における教育研究の向上と発展に寄与するこ
とを目的とする制度である。この制度には、在外研究A(期間1年間)、在外研究B(期間
6カ月)、在外研究C(期間3カ月)という3つの種類がある。
(基礎データ調書
表 20
参
照)
。
3.その他の制度
その他に、教員の研究を助成する制度としては、学術図書出版助成、特別図書・特別機
械助成などの制度がある。中央大学学術図書出版助成制度は、専門の学問領域における優
れた研究業績や学術的価値の高い外国の古典、文献等の翻訳、古文書その他の貴重な文献・
史資料の翻刻または履刻などが助成対象となる。
特別図書・機械助成制度では、主に教員が共同で同一領域の研究を行うために必要な図
書や機械を購入することができる。
なお、学外の研究費助成として、科学研究費補助金・私立大学等研究設備整備費等補助
金・私立学校施設整備費補助金・学術研究振興資金さらに各種団体からの補助金等も教員
の研究促進に役立っている。
また、研究室としては、個人研究室は十分な広さとは言えないまでも、教員が個人で利
用しており、その他に共同研究室が2つ、電算室が1つある。
【点検・評価
長所と問題点】
在外研究制度に関しては、3種類の在外研究制度があり、制度的には充実していると考
えられる。とりわけ在外研究Aは、在外研究者の研究期間延長要請により、教授会の承認
を経て、研究期間を1年間延長することが慣行となっていることは、国外の研究者等との
交流を深めるために十分な機会が与えられていると言える。しかしながら、3種類の在外
研究はすべて、その順位が本学への就任順となっているため、在外研究は早くて 30 代後半
から 40 代前半になることが多い。
教員の研究時間が確保されているか否かに関しては、教員個人の問題であり、全体とし
て評価することは難しいと言える。研究時間を制約する要因の1つとしては、授業担当コ
マ数があげられる。「商学部自己点検・評価報告書
1999 年度」の「2
研究活動に関す
る項目」によると、1999 年度の商学部専任教員の平均持ちコマ数は、学部で 5.17 コマ、
大学院の担当コマを入れると 6.49 コマである。ただし、この計算には大学院を担当してい
ない教員も含まれており、大学院を担当する教員に限定すると、平均持ちコマ数は増える
であろうし、2000 年度からは助教授も大学院の授業を担当することになっており、2000
年の平均持ちコマは増加している。この数字をどのように評価するかは一概には言えない
が、国立大学や他の有力私立大学に比べて負担が過重になっていることは否めない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
経常的な研究条件の改善については、研究者それぞれの研究スタイルや研究テーマなど
によって、要求が異なることから、画一的に論じることはできない。
【点検・評価
長所と
問題点】で取り上げた事項に関して言えば、第一に、在外研究の機会を 20 代後半から 30
代という若い教員に利用できるように制度を変更するか、あるいは新たな制度を設けるべ
きであろう。第二に、研究時間を確保するために、在職中に一度だけ利用できる特別研究
制度を変更して、いわゆるサバティカル・イヤーの採用を検討する必要があろう。
いずれにしても、研究条件の充実は良質の研究成果を挙げるためには必須のものであり、
470 第3章 大学院
その改善に向けて継続的努力が期待される。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
7−(1)− ①
施設・設備等
【現状の説明】
学生研究室は約 20 ㎡の部屋が 15 室あり、毎学年始めに、各研究科専攻別に学生数をも
とに、事務室が調整のうえ割り当てている。利用時間は通常は開門時刻(8:00)から閉門
時刻(23:00)までとなっている。
講義・演習室は、多摩校舎2号館に大学院教室 19 室がある。本研究科は主に昼間の時間
帯に講義・演習を置いているが、この教室を中心に、情報自習室、教員の個人研究室等で
授業を行っている。
研究施設・設備としては、多摩校舎に学生(共同)研究室2室、セミナー室2室を置き、
研究会等に利用する他、教員と学生、学生相互の交流を図っている。
研究図書については、一般専門図書は、多摩校舎の中央図書館、大学院図書室を利用で
きる他、2号館4階にある経済研究所、企業研究所などの蔵書も利用できる。そこでは、
和雑誌 1,731 種、洋雑誌 1,946 種が閲覧に供されている他、和書籍 95,369 冊、洋書籍 92,238
冊が整備されている。学生への利用案内については、図書館ホームページ、図書館発行の
「中央大学図書館利用案内(大学院学生・教職員用)」、
「資料のさがし方ガイド」等を提供
し、また文献情報検索システム(CHOIS:中央大学オンライン目録)が稼動していることも
相まって、利用者の利便を図っている。また、検索文献が研究所や図書館等で見出せない
場合には、中央大学のレファレンス・ルームを通じて、他機関への複写依頼が行えるなど
の文献収集のサポートを行っている。
その他、大学院事務室では、資料等の複写サービスのためのコピー機4台を設置し、貸
し出し用パソコンの管理、各種証明書・学割等の発行などを行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
学生研究室、講義・演習室、情報自習室、大学院図書室、教員の個人研究室、事務室な
どが、2号館に集まり便利な環境である。これらは当然、空調なども完備している。講義・
演習室については、2000 年4月より開校した市ヶ谷キャンパスに他の研究科の一部が授業
展開したことにより、稼働率が下がり、本研究科の時間割上の制約が緩和された。
しかし、学生研究室の現状は本研究科で1室平均 10.2 人と非常に手狭であり、早急に改善
が望まれる。
【将来への改善・改革に向けた方策】
大学院教育に対する社会的要請は年々高まる傾向にあり、それにともない入学希望者も
増えてきている。入学者の具体的要望も、より高度に、より多様になりつつある。この傾
向に応えるべく、毎年予算計上し、漸次、施設・設備の充実を図っているが、現在とは社
会情勢の異なる多摩移転時の施設・設備を基礎としたインフラ整備はいささか時代遅れの
感は否めない。
特に、学生研究室が手狭なことについては、学生定員の管理にも関係してくるが、早急
に解決されるべき問題で、現在は多摩キャンパス内で新たな場所を模索している。しかし、
471
このような絶対的スペースが不足している問題は大学院のみならず、多摩キャンパス全体
の整備計画のなかで取り上げていくべきである。
7−(1)− ②
維持・管理体制
【現状の説明】
大学院施設・設備等の維持・管理については、主に大学院(教学)が手当てする項目(計
画)と学校法人が手当てする項目がある。
大学院が予算手当てをする学生の利便に直接かかわる計画は、項目ごとにつき研究科委員
長会議で十分な審議を行い、予算申請し、所管課の査定を受けて、予算が配付(通知)
・執
行される。その際、学生の自治会である院生協議会などの意見も委員長会見を行って聴取
し、予算申請に反映させている。執行状況の管理も大学院事務室を通じ、委員長会議が行
っている。
また、建物の修繕、ネットワーク工事など構築物の修繕にあたるもの、空調費用、電気
代、プロバイダ利用料などは、法人側で予算を負担するようになっている。執行は管財課
などの所管課が行うが、大学院の申請に基づくことが多い。
【点検・評価
長所と問題点】
施設・設備の維持管理のための意思決定や予算確保に至るプロセスは確立され、十分に
機能していると思われる。
大学院の予算規模は多摩の文系5研究科を抱えているわりには、あまり大きくなく、特
別計上された予算を含めても年間 6,000 千万円程度である。この範囲でやり繰りをし、学
生の研究活動を支えているが、赤字決算になることも往々にしてある。
学部と比較しても決して恵まれているとはいえず、しかも院生協議会の要望が強い情報
インフラの整備(マシン増設、ネットワークの高速化・無線化)については、IT技術の
進化に即応する維持・管理体制をいかにつくるかは重要な課題である。また、学校法人手
当て分については多摩移転から 25 年を超え、建物・施設の老朽化も著しく、修繕費の増大
が見込まれる。
【将来への改善・改革に向けた方策】
大学院の限られた予算や時間・マンパワーを費やし、施設・設備の維持・管理にあてる
には、中長期的な視点による計画の策定が必要になるであろう。その際、進捗状況を確認
し、計画立案後の情勢変化を捉えることも必要である。
7−(2)
情報インフラ
【現状の説明】
学術研究資料の中の図書について見ると、中央図書館を基礎として、教員および大学院
学生の為の大学院図書室があり、法学、商学、経済学関係の洋書が所蔵されている。
また商学分野の専門雑誌は、企業研究所および経済研究所において収集されており、教
員および大学院学生の利用に供されている。
大学院図書館は、中央図書館および研究所資料室とネットワークが組まれている。また
中央大学の図書ネットワークは、学外他機関とネットワークで結ばれており、大学院の教
員、学生はこれらを利用することができる。
472 第3章 大学院
現在、本研究科は、東京外国語大学および東京都立大学との間に図書の相互利用の協定
を結んでいる。
また、中央図書館には、約 7,300 タイトルの CD-ROM を含む視聴覚資料およびマイクロ資
料庫を有している。
図書館所蔵の図書・資料については、書誌・所蔵データベースが構築されており、イン
ターネットを介して 24 時間検索できる。
また、今日の大学にとって、コンピュータシステムとしての情報インフラの整備はきわ
めて重要な課題である。本学においても、大学全体における情報化と、個別部門ごとの情
報化を段階的に整備しつつある。
【点検・評価】
コンピュータシステムについて個別に見てみると、以下のようである。
・遠隔授業システム
多摩キャンパスと市ヶ谷キャンパスをISDN回線でつなぎ、テレビ画面を介して双方
向の授業を実現している。
・情報環境について
大学院では、情報環境の整備についても、先端的な研究支援を常に検討し、その拡充を
心がけてきた。多摩キャンパスの大学院事務室にノートブック型パソコンを多数用意し、
学生への貸し出しを行っている等はその例である。
また、ネットワーク環境としての情報自習室も多摩キャンパスに2室、市ヶ谷キャンパ
スに大学PC室を1室設けており、さらに、多摩校舎では、すべての学生研究室に情報コ
ンセントが付設されている。
・情報教育研究センター
1996 年 7 月に従来の電子計算機センターを改組し、情報に関する教育と研究をサポート
する専門部署として情報教育研究センターを設置した。
【長所と問題点】
図書館のシステムが充実しており、大学院学生および教員の研究に本質的な役割を果た
している。大学院図書室は、基本的な文献が体系的に収集されている。また企業研究所、
経済研究所などでは、学術雑誌の収集が体系的に行われている。
上記の情報インフラは、大学院を含む本学全体の情報環境の整備に関わっている。その
面での本学の長所としては、情報インフラが教員、学生双方に平等に提供されていること
であろう。多摩校舎において、すべての学生研究室に情報コンセントが付設されているこ
となどはその例である。
本学の情報化は段階的に整備されつつあるが、課題がないわけではない。
まず、学生向けのPC端末の設置数が十分とは言えないことである。情報自習室につい
ては、上記のとおりであるが、全研究科の学生数からすれば必ずしも十分とは言えない。
また、近年、学生数が増加傾向にあるが、学生数の伸び率ほどには端末数が増えていない
ことも、この傾向に拍車をかけている。
第二に、PC端末およびその周辺機器、とりわけプリンター等の機器が十分にメンテナ
ンスされていないことである。故障中の機器が必ずといってよいほどに存在すると言われ
ているが、日常のメンテナンスを業者等のサービスを通じて迅速に行う体制づくりが課題
473
となっている。
第三に、情報インフラの使われ方として、資料・文献の検索という点の使用頻度は高い
ものの、研究成果等を発信するという点での工夫はこれからの課題であろう。また、この
点と関連して、セキュリティの強化も検討課題として重要性が増すことと思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学の情報インフラは、図書についてもコンピュータシステムについても、基本的には
一応整ったと評価できる。今後は、質量ともに、その充実に努めることが必要である。ま
た、同分野は技術革新にともなう変化が激しいことから、情報環境のどの部分に予算を重
点的に配分するか、も問われるところである。したがって、予算措置を踏まえた全学的整
備計画の中で大学院の情報環境を改善し充実していくことが望まれる。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
本研究科における研究成果の社会的還元は、さまざまな方法で行われている。その中心
となるものは、本学の紀要その他の研究発表機関誌による社会的公表である。
その他には、主として企業研究所における定例の研究会等の各種研究会、また研究所が
合同して開催する学術シンポジウム等の公開研究会により、学内外の研究者や学生の参加
による共同研究体制が確立している。
また、国内外で開催される学会において、本研究科教員は活発に研究成果の発表を行っ
ている。
多摩地域に存立する大学としては、同地域に関連したユニークな研究が、本学社会科学
研究所や企業研究所等で盛んに行われているが、本研究科の教員と学生もその一翼を担っ
てきた。
【点検・評価】
本研究科の教員にとって研究成果の最も本質的な社会への還元は、おそらく論文と著書
の公表である。
そして本研究科教員の主要な研究発表機関誌は商学部が発刊する『商学論纂』である。
また、本研究科専任教員の大多数が所属する企業研究所の研究発表誌『企業研究所年報』、
『研究叢書』、
『翻訳叢書』、会計学関係教員が所属する経理研究所の研究発表機関誌『経理
研究』、さらには海外との研究交流を目的とする企業研究所の『Research Papers』も重要
な研究成果発表の場である。
これらの研究発表誌で日常の研究活動の成果を公刊し、併せて、海外の諸大学・研究機
関との学術提携協定その他に基づく研究交流(研究者の招待ないしは派遣)を行って、多
くの成果をあげている。
その他に大学の立地する地域やコミュニティに対する貢献がある。
多摩地域に根ざした研究として、企業研究所のベンチャー企業プロジェクトでは、広域
多摩地域のベンチャー事業経営等に関する体系的な研究が進められている。
このような地域に密着した研究は、他の研究所でも活発に行われ、教員と学生の多くが
このような地域研究に関わっている点は本学の研究の特徴である。
474 第3章 大学院
【長所と問題点】
本学の特徴は、上記のような各種研究発表機関誌に見られるように、充実した発表の場
が確保されていることであろう。また、紀要だけでなく、研究調査のための制度も十分と
は言えないまでも、一応整っていると評価してよい。多摩地域の研究等のユニークな研究
が見られる点も評価できよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
高度研究機関としての本学の使命の一つは、研究成果の公表を通じての、研究成果の社
会への還元である。また、多摩をメインキャンパスとする本研究科の場合、多摩地域にお
ける研究をリードするということも重要な使命である。
さらに、研究成果の公開という点では、国内、地域向けに公表するだけでなく、海外へ
の積極的な情報発信が必要であろう。特に、この点に関して言えば、研究成果を日本語ば
かりでなく、英語その他の言語で発表することが必要となろう。加えて、海外の研究者と
の共同研究の取り組みは近年その制度的基盤は徐々に整いつつあるが、今後においてもよ
り一層積極的に推進していくことが重要である。
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
【現状の説明】
本研究科の管理運営は基本的には、研究科委員会で行われている。同委員会は、大学院
学則第 11 条第1項に明記された当該研究科に関する審議事項について、審議決定するもの
であり、カリキュラム、教員人事、学位論文の審査ならびに学位授与、大学院入試等につ
いての審議決定機関である。
研究科委員会は、従来、博士前期課程研究科委員会と博士後期課程研究科委員会とに区
分され、構成メンバーも身分・資格によって異なるものであった。しかしながら、近年に
おける学生数の増大と研究テーマの多様化にともない、従来の教育体制では必ずしも十分
な研究指導の効果を達成できなくなりつつあった。そこで、博士前期課程、博士後期課程
を担当する教員の充実を図るため、従来の任用基準を弾力化し、思い切って担当者を拡大
した。また、それにともなって、博士前期課程研究科委員会と博士後期課程研究科委員会
とを一本化することによる研究科委員会の統合化が審議され、実現した。
研究科委員会は審議決定の基本的責任を負うものであるが、その他にも改革委員会、教
務連絡委員会など必要に応じて各種委員会が設けられ、それぞれ適切に機能している。
研究科委員長の任期および選任手続については、大学院学則第6条、第 11 条に明記され
ている。それらによれば、研究科委員長は、「当該研究科委員会において互選される」(第
6条第3項)、
「任期は2年とし、再任は妨げない」
(同第4項)とされている。また、研究
科委員長の選任については、その手続を「学部長選挙についての申し合わせ」に準じて、
選挙管理委員会(研究科委員長と教務連絡委員4名の合計5名によって構成)が設置され、
同委員会によって実施される。また、立会人は大学院事務長が担当し、選挙人の3分の2
以上の出席で、有効投票の過半数を得た者を当選としている。
【点検・評価】
教員の任用基準の弾力化により、博士前期課程教員任用については、
「助教授以上の専任
475
教員」とすること、また博士後期課程教員任用については、
「博士前期課程において2年の
教歴を有するもの」であり、
「教授、助教授は問わない」こととなった。これによって、商
学部に所属する多くの専任教員が大学院教育を担当することが可能になり、その結果、大
学院の学科目体系の充実をみたことは評価できよう。
【長所と問題点】
上記のように、本研究科の大学院教育の充実の必要性とともに、担当教員数の不足を解
消することが急務となり、教員任用基準の弾力化が実施されたことは長所として指摘でき
よう。また、それにともなう研究科委員会の統合も意思決定プロセスの迅速化と公開性と
いう点から見て長所として大いに評価できる。
ただし、このようなかたちで本研究科の学科目体系は一定の充実をみたが、学部教育と
の連携と調整の問題が浮上してきている。多くの私学においては、教育の比重は現在まで
のところ、やはり学部を主とせざるをえない。その中で、近年の大学院教育に対する国内
外からの期待の高まりにどのように対処していくべきかは、本学に限らず日本の大学全体
の課題である。そのような大学および大学院を取り巻く環境の中で、教員の負担増は避け
られないものの、研究水準を維持する立場からすれば、学部教育と大学院教育との連携・
調整が必要不可欠な時期を迎えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究科委員会を統合化した効果はこれから期待できるので、次の改善項目は、上記に記
した学部や研究所との教育研究面での連携・調整である。加えて、本学の他研究科や他大
学大学院との連携についても取り組みはすでに始まってはいるものの、本格化はこれから
であり、この点についても将来に向けた主要な課題である。
10.事務組織
【現状の説明】
「法学研究科に同じ」
【点検・評価】
「法学研究科に同じ」
【長所と問題点】
「法学研究科に同じ」
【将来の改善・改革に向けた方策】
「法学研究科に同じ」
11.自己点検・評価等
本項は、(1)自己点検・評価、(2)自己点検・評価に対する学外者による検証および
(3)評価結果の公表の3小項目から成るが、ここではこれらをまとめて記述することに
したい。
【現状の説明】
本学における自己点検・評価に関する検討は、
「研究・教育問題審議会」の大学改革問題
部会を中心に行われ、1990 年 3 月に研究会記録と関係資料が「大学の自己評価について」
としてまとめられた。
476 第3章 大学院
その後、大学設置基準の大綱化を受け、同部会で自己評価の検討が進められ、1994 年3
月に、自己点検・評価の実施体制、および点検・評価項目等に関する「中央大学の自己点
検・評価について」がまとめられたことにより、各学部、各研究科において具体的な検討
が開始された。
大学院においては、大学院学則に自己点検・評価を明文化し、1997 年4月1日から活動
を開始し、その結果を 2000 年3月に『大学院自己点検・評価報告書(教育研究活動報告書)』
としてまとめ、学内外に公表している。
【点検・評価】
1990 年以降、上記のような経緯を経て、順次、自己点検・評価をめぐる学内体制を整え
てきた。大学院については、2000 年 3 月の『大学院自己点検・評価報告書(教育研究活動
報告書)
』の公刊が、その最も大きな成果と言えよう。
【長所と問題点】
「研究・教育問題審議会」では大学改革問題部会を中心に、その時々の検討課題につい
て検討し、幾多の答申を発表してきており、その継続的活動は、本学において明確であり、
十分に定着していると評価できる。
その中に盛られた改善案をその後の教育研究活動に活用していくための、基本的な機関
は大学院の研究科委員会であり、本研究科の場合はとりわけ改革委員会が重要な役割を果
たしている。
こうした体制のもとで、本研究科委員会は公開された提案や答申を参考にしながら、教
育研究を発展させるための改善策を模索し、実施してきたと判断される。
また今回、本研究科は全学の自己点検・評価の作業に参加し、改めて、本研究科の教育
研究の全体制を点検しているところである。
今後は、今回の点検・評価の結果を商学研究科として日常的に検証し、現行の教育研究
システムを具体的に改善するために活用するつもりである。
点検・評価の中で提案される改善案と日常の活動をどのようにリンクさせるかが、これ
からの課題である。そのような意味においては、事後的な検証を行えるような仕組みが必
要であると思われる。
なお、現在のところ、自己点検・評価の第三者機関による評価は行われていないが、こ
れは全学的な方向で解決に向かうことが予想される。
最も重要な評価は、本研究科の教育研究の直接の対象である学生による研究科全体に対
する評価である。この意味では、日常不断に検証されているということができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
自己点検・評価は、日常の教育研究活動の点検と評価、および改善でなければならない。
そのような日々の継続的な活動として、自己点検・評価活動をどのように活性化できるか
が、今後の課題であろう。また、そのためには、FDおよび学生による授業評価等の手法
を活用することも考えられるが、本学ではこの点への取り組みはまだ十分とは言えない状
況にある。
477
理工学研究科
1.理念・目的・教育目標
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.中央大学理工学研究科では、1953 年に開設以来、理工学の各分野における専門研究と
知見を発展深化させ、最先端の研究と新技術の開発を推進することによって、国際的な学
術研究の中心的役割を果たすことを目指している。また、それらの研究成果に基づいた創
造性豊かな教育を通して大学院の教育を行い、博士後期課程にあっては最新の専門的知識
を備えた研究者の養成を、博士前期課程にあっては広く理工学の素養を持ち社会に貢献で
きる人材の育成を目的としている。
大学院博士前期課程にあっては学部教育との一貫性を重視しつつ世界に開かれた大学を
目指し、博士後期課程にあってはさらに高度な専門的研究活動に参加することにより、現
代科学技術の基盤となる基礎科学と工学の各重点分野を担い、新世紀における健全な科学
技術の諸分野におけるフロンティアとして健全で調和の取れた文明社会を切り開く見識と
実力を有する研究者ならびに技術者を養成することを目標としている。
現在、本研究科は、数学専攻、物理学専攻、土木工学専攻、精密工学専攻、電気電子情
報通信工学専攻、応用化学専攻、経営システム工学専攻、情報工学専攻の 8 専攻で構成さ
れている。本研究科および各専攻の理念や教育目標は、「大学院ガイド 2002」に記載され
ているが、これらの研究科の理念と目標に沿って人材の養成に総力を挙げて取り組んでい
る。
本研究科は、大学審議会における大学院制度の弾力化と大学院設置基準の大綱化に即応
した中央大学大学院学則の大幅改正にともなう教育研究にかかわる多様化と活性化を目指
し、改善と充実に取り組んできた。理工系大学院への社会的要請は、最先端の知見と独創
性に満ちた研究者ならびに高度な専門的知識と同時に幅広く国際的な視野を持つ人材の育
成であり、その成果への期待が高まっている。本研究科は、このような社会のニーズに応
えるべく、個性ある専攻、特色ある大学院づくりを目指して改善を重ねている最中である。
本研究科では、近年特に博士前期課程において在籍学生数が増加し、教育研究環境の改
善・充実が急務となっている。本学の総合的将来構想の一つとして、後楽園キャンパスの再
開発計画・新棟の建設が掲げられており、この新棟の実現によってこの問題の大幅な改善・
充実が図られる見通しである。次に、大学院設置基準の弾力化にともなう大学院学則の大
幅改正を行ったことにより、今後この新学則に則った改革整備を継続することになる。高
度情報化時代に即応した基盤整備に努め、社会と時代の変化に即応しつつ個性ある専攻、
特色ある大学院づくりを実行することである。加えて国際交流をはじめ、他の大学院や学
外研究機関との連携や交流・協力体制などさらなる改革・充実を推進していく必要がある。
そして、社会のニーズと時代の急速な変化に即応しつつ個性ある専攻、特色ある大学院づ
くりを実行することが重要である。
2.本研究科では、一般入試、推薦入試、推薦入学特別入試、社会人特別入試、外国人留
学生特別入試など、多様な入学試験制度を設けて異なる資質や能力を持つ人材を受け入れ
478 第3章 大学院
ている。博士前期課程には、1999 年に 275 名、2000 年に 290 名、2001 年には 283 名とな
り、1995 年以来入学者数は着実に増加している。博士後期課程では、1995 年以来、毎年
12 名から 15 名程度を受け入れている状況である。
修士の学位の取得者は、1954 年度以来 1998 年度までに 2,371 人おり、1993 年には前年
度より 40%増加し、1995 年には 20%増加して 180 人に達した。その後、経済停滞の影響
もあって 1997 年度まで同様な規模で推移し、1998 年度には 203 人となり、1998 年度には
220 人、2000 年度には 270 人規模にまで拡充している。
これに対して博士の学位の取得者は、1972 年度に最初の課程博士を出して以来、1998
年度まで 99 人、最近では毎年 10 人程度となっている。
博士前期課程の修了者の進路は先端技術の諸分野に及んでおり、開発部門や製造、制御、
システム設計、情報管理、メカトロニクス関係の企業ならびに研究所など技術職が中心と
なっている。数学専攻や物理学専攻では教職に就く者もいる。
近年、私費留学生ならびに国費留学生の受け入れが進んでいる。彼らは非常に努力する
とともに定められた期間に十分な研究成果を挙げて学位を取得する実績をあげている。
【点検・評価】
1.本研究科の目標は、第1章に掲げた本学の理念と目標を理工学の立場から現代化しこ
れを具体的かつ先進的に実現することである。しかしながら、毎年度刊行している「中央
大学大学院ガイド」や「大学院学生募集要項」、「大学院履修要項」には、急速に進展して
いる科学技術の現状と社会のニーズに即応した教育方針と研究の方向が具体的に記述され、
最新の知識を修得して研究活動に参加していくための必要な情報は与えられているものの、
中央大学における教育の理念と目標に基づく本研究科の理念と方針が博士前期課程と博士
後期課程に分かり易い形にまとめられて明示されていない。
本研究科における教育と研究の成果は、在籍・修了している学生の資質と研究活動に依
存するところが大きい。近年、より高度化を目指しつつも自然環境に十分な配慮がなされ、
人類社会にとって健全な科学技術を発展させることが必須の課題となっており、国内外の
理工系大学では大学院の整備拡充が進められ、新しい試みが検討されている。このような
状況にあって、理工学研究科委員会ではさまざまな観点から多様な入学試験制度を設けて
個性豊かな独創性のある人材を確保することに努めるとともに、研究・学習に対する支援
制度を充実させて積極的な教育研究体制の整備を進めていることは評価される。
本研究科では専攻を横断する教育研究の体制づくりを目指して新しい構想の検討を行っ
ている。まず「充実改革検討委員会」を設置して研究科共通科目の検討を開始したが、成
案には至っていないので今後の努力が必要である。また、本年4月、この委員会の下に「新
分野大学院検討部会ワーキンググループ」を設置して新分野の教育研究構想の検討を開始
した。現在の8専攻構成を拡充するとともに、新世紀の科学技術の在り方を模索する試み
としてその検討結果が期待される。
2.本報告書「4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法」の項に示すように、本研究
科博士前期課程への進学者数は毎年度確実に増加しており、高度な専門的知識と広汎な視
野を持つ技術者など社会のニーズに応えうるに足る十分な人材を育成する状況にある。し
たがって、学生の能力と資質に適合し偏りが無いように研究指導を行うための方策を立て
る必要がある。現在研究科のスタッフは、非常勤で依頼している教員を含めて、総力を挙
479
げて学生の指導に当たっている。
博士前期課程修了者の現在までの就職状況は、わが国の厳しい経済状況にあってなお良
好であり、さまざまな分野において活躍している。主として出身分野に関係する職種に就
く傾向が見られ、このような状況は特徴的である。現在では急速に新しい形態の企業が誕
生しており、これらの職種における要請に即応する進路指導も望まれる。
これに対して、博士後期課程への進学者数の顕著な増加は見られず、学位取得者の総数
も毎年度 10 名程度に止まっているのが現状である。この中には社会人も含まれており、所
属する企業の研究開発部門で活躍している。他方、課程修了者で研究職に就く者の数は大
学・国立研究所などの現在の状況を反映して増加しているとはいい難い。
他方、現在のわが国における経済状況はきわめて厳しいものであるにもかかわらず、な
お理工系大学院博士前期課程学生の就職状況は他の分野のそれに比較して恵まれている方
である。このことは、多くの学生が今後少子高齢化が進むにつれてより困難な状態になる
であろう厳しい社会を支えていくために十分な技能を習得する熱意に欠けるところがある
傾向を惹起しているとも考えられる。
外国人留学生の受け入れは順調に進められており、入学した外国人留学生は積極的に勉
学・研究活動を進めている。特に優秀な留学生の場合には、日本人大学院学生のみならず、
学部学生にも良い刺激を与え、今後の大学院の国際化に大きな効果を与えることが期待さ
れる。
【長所と問題点】
1.本研究科では、修士の学位と博士の学位の取得方法に弾力性を持たせ、大学院学生、
研究生、研究者を受け入れるための多様な入学試験制度と受け入れ制度を設け、大学院課
程における研究・学習活動を効率よくするための大学院既修得単位認定制度や奨学金など
の助成制度、TA制度、RA制度などの多様な方策により、多角的かつ効率的に大学院課
程拡充に成果をあげていることは、本学のように中規模の理工学研究科を運用する上での
一つの大きな長所であるといえる。
また、本研究科において行われている博士前期課程・後期課程における研究活動に対する
研究助成については、基礎研究費と呼ばれる均等配分型の研究費に加えて多様な形での競
争的研究助成の制度を設けており、その効率的かつ弾力的な運用は、今後多くの研究成果
を生み出す原動力を与えるものとしてもう一つの長所であると判断される。
現在の本研究科にあって、目標とする教育と研究の成果をあげ、大学院学生の充足を図
りつつ、さらに社会のニーズに応える新しい構想を積極的に検討して具体化していくこと
は、現在の体制のもとでは必ずしも容易なことではない。教員と職員の負担を過剰に増加
させてしまう可能性のある企画を立てる際には、その実現可能性について十分な検討を加
える必要がある。制度の多様化は多大な利点があるものの利用する上での混乱と運用する
側にとって不測の負担を課す恐れがあることには注意する必要がある。
大学院の教育改革が進むにつれて教育指導体制が多様化し、ともすれば教員の研究時間
が減少していく傾向が見られるのは大学院における研究体制と研究指導の体制が弱体化す
ることになる恐れがあり問題である。
2.本研究科は、理工学部とともに都心部に位置し、わが国の主要な教育研究機関や先端
科学技術に関係する研究所、企業、法人機関にも連絡が容易であるため、この利点を生か
480 第3章 大学院
して人材養成を遂行できるように本学の教育研究体制が整備されていることは大きな長所
であると考えられる。
本研究科の近辺には多数の大学や研究機関があるが、これらの人的資源の支援と協力を
得ることにより、幅広い分野にわたって多角的に人材の育成ができることも重要な長所で
ある。
しかしながら、本研究科では、その沿革(「新世紀のいしずえ 中央大学理工学部」)から
推察されるように設置以来十分な歴史と実績を未だ積み上げられていない専攻があり、博
士後期課程における人材の育成に関しても目標の達成にはまだ時間を要することは事実で
ある。今日のように激動する世界情勢の中で、社会に貢献できる人材の育成を目指し将来
を見据えた適切な教育研究の指導方針を検討・策定することは容易なことではない。本研
究科としては、現有の人的資源でこの課題に的確に対処するための対策が必要である。
現在ではさまざまな新しい形態の企業が誕生しており、これらの職種における要請に即
応する進路指導を行えるように最新の情報を収集する体制を整備する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.毎年改訂して刊行される「中央大学大学院ガイド」、「大学院学生募集要項」、「大学院
履修要項」には、本学の教育研究の理念と目標を踏まえ、21 世紀の新しい科学技術の在り
方を見据えた形で本研究科の理念を博士前期課程と博士後期課程別に分かり易く述べ、各
専攻の目標について毎年度検討を加えて明記し、研究分野と勉学の内容と方針について解
説する。これによって学生が効果的な勉学・研究計画を立てられるように大学院課程のプ
ログラムを明示することが必要である。
学部課程との連携を強め、博士前期課程との一貫教育のシステムをさらに検討するとと
もに、専攻を横断して学生が多様な進路を選べるようにカリキュラム編成に工夫を加える
ことが望まれる。特に、今後工学系の諸分野と理学系分野が積極的に交流することは新し
い研究と可能性に繋がることが期待される。
また、国際交流を始め、他の大学院や学外研究機関との連携や交流・協力体制などさら
なる改革・充実を推進していく必要がある。このために、理工学部に設置されている国際
交流委員会に検討を依頼する他、本学国際交流センターとも協議を行う。優れた外国人研
究者を招聘し資質の高い外国人留学生を受け入れることは、本学大学院の目標の一つであ
る国際交流を推進する上で必須であるがこれらの事業を実施するための研究助成を充実さ
せることを検討する。
わが国は、少子高齢化など社会構造や経済状況が急速に変化しつつあり「大学とは、高
等学校課程を経た後、18 歳前後から 27 歳前後の人生の限定された期間にフルタイム学生
としてキャンパスなど特定の場に出向いて勉強する所である」という伝統的大学モデルか
ら脱却し、積極的に新しい大学モデルを提案し実現していくことが重要である。これに関
連して、生涯教育や遠隔地学習の考え方に基づく大学院構想が検討されている。2000 年6
月に研究科委員長会議の下に「大学院DL検討ワーキンググループ」が設置されて全学的
に検討が開始され、2001 年1月に最終報告が出されている。
2.企業の研究・開発部門では、開発技術の高度化にともなって高度な専門的知識と技術を
持つ人材を求めるようになっている。したがって、博士後期課程の学生に対する需要も高
まりつつあるが、相応の即戦力を要求されるのが現実である。他方、国立の研究所から独
481
立行政法人に移行した研究機関でも学位取得者を募集するようになっており、その就業形
態は未だ過渡的なものであるものの各研究機関のニーズに合わせた人材を養成して行くこ
とが必要である。
このような状況に対応するためには、研究指導する側としても関連分野の現状と要望に
ついて的確な情報と認識を深めておくことが重要である。学生各人には自発的な訓練活動
を勧めるだけでなく、可能であるならば即戦力につながる研究課題を研究指導の中に盛り
込む工夫をすることも一つの有効な方策であろう。
<数学専攻>
【現状の説明】
理学の目的は自然の真理を探究することにあり、数学の目的は数学的真理を探求するこ
とにある。数学を今日の形に進化させるためには数千年の歴史を要したが、現在では論理
性と普遍性を基本とする人類文化を代表する学問として独自の発展を遂げるとともに、自
然科学・科学技術・工学を支える基礎として近代科学文明の進歩に多大な貢献をしてきた。
近年では数学を核とするさまざまな数理的手法が開発されて社会・人文科学にも応用され、
社会全体にわたる計算機支援の高度情報化とも相俟って、数学の応用は益々広範かつ高度
なものになってきている。
本専攻では、理工学研究科の教育研究に則り、数学に関わる分野での専門的研究を進化
させ、国際的学術研究においても積極的に貢献していくことを目指している。創造性豊か
な教育を重視し、現代数学の基礎を身に付け、数学的センスと幅広い教養に根ざした総合
的判断力を持つ人材の養成を目指している。博士後期課程では、高度な専門的研究活動に
参加させることによって、数学の理論と応用に関する研究を担う研究者を養成することを
目標とし、博士前期課程にあっては現代数学の本質とその学問的・社会的位置づけを理解し
た教育者と高度情報化社会のニーズに応える数学的思考能力・創造力を有する人材の養成
を目指している。
【点検・評価】
博士前期課程に在籍する学生は充足しており、各研究分野で積極的な教育研究活動が行
われている。今日の高度社会でその重要性が指摘されている暗号理論の研究や地球規模で
の環境劣化の問題に対する数理的接近、統計的手法を駆使するデータ科学に向けて組織的
に取り組んでいる。
【長所と問題点】
本専攻は、小規模ながら数学の主要部分を比較的調和の取れた形で配置し、学外研究者
との幅広い連携を活かして数学の基礎的教育研究を行っている。また、応用解析や統計学
にも重点を置いていることは大きな特徴である。また、計算機室が充実しており、計算機
援用の研究を行うことができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究分野の配置について毎年度検討を加え、カリキュラムや研究指導の方法を含めて時
代に即応し社会のニーズに応える研究成果をあげ、併せて人材の養成を行う。
<物理学専攻>
【現状の説明】
現代の科学技術の急速な発達は、今日の知識を明日には陳腐化したものにしようとさえ
482 第3章 大学院
している。本専攻ではこのような先端技術の進歩を意識しながらも、いたずらにそれを追
いかけるのではなく、基礎知識や基本的な解決方法と解決手順を身につけ、それを実際に
応用できる能力を持つ人材を育成することを目的としている。
博士前期課程では、研究機関で活躍できる研究者の育成とともに、民間企業の技術者と
して有為な人材を育てることに主眼を置き、特定の専門分野の高度技術者としてよりも、
広い視野と基礎知識を持った問題解決型の人材を育てることを目標とする。また、博士後
期課程への基礎となる学識と研究能力を養うことを目的としている。
博士後期課程では、大学、公的機関等で活躍できる研究者の育成とともに、民間企業の
高度な専門技術者として有為な人材を育てることを目標としている。
【点検・評価】
博士前期課程修了者の多くは、民間企業の開発・研究部門で活躍している。また、修了
者の中に毎年数名の教員免許取得者がおり、理科教育を担う人材を継続的に輩出している
ことは、意義あることである。
【長所と問題点】
基本に立ち帰って考える物理学の思考方法は、未知の新しい問題解決にあたって有用な
はずであるが、民間企業ではいわゆる即戦力にはならないとして、大学院課程修了者の能
力が十分に評価されない傾向があるのは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
一部の企業には本課程修了者の問題解決能力が評価されて、企業側から積極的な採用希
望がきている例がある。このような事例を増やす方向で努力する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は、高度な専門教育を行うとともに学問の深淵を考究する。学生自身の問題解決
能力の育成、さらには問題発掘・提案能力の育成に努め、将来土木工学の諸活動(計画、
設計、施工、監理の各分野)において中心的な技術者となり得る人材の育成を目指してい
る。
現在、土木工学においては、環境問題や自然災害問題、社会資本整備の財源問題等、解
決を迫られている問題が多い。本専攻は、こうした社会からの要請を積極的に受け止め、
問題を構造化し、その解決に向けて研究に努力していくことの重要性を実践を通して学生
自身が身に付けていくことを目指している。
また、多くの学生に学会や研究会での発表の機会を作り、学会の外でも幅広い知識を身
に付けることができるよう努めている。
【点検・評価】
問題解決能力や問題発掘・提案能力の育成は、研究室での論文研修指導が中心となる。
論文研修における成果・評価の点検は、学科内において中間発表会と最終発表会を開催し
て行っている。また、教育目標の達成状況の目安として、本大学院土木工学専攻修了生の
就職先があげられる。計画・管理を主たる業務とする公務員、設計を主たる業務とするコ
ンサルタント、施工を行う建設会社にほぼ均等に就職し、各分野において中心となり活躍
している卒業生が多い。特に難関とされている国家公務員試験Ⅰ種試験の合格者数は全国
の大学の上位に毎年ランクされている。
483
【長所と問題点】
各研究室に配属された学生は研究指導の教員と密接な交流を保つことができ、専攻の理
念と目標に基づく教育研究を行う環境が整っていることは長所である。しかしながら、1
人の教員の指導では視野が狭くなる可能性があることについては配慮する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
土木工学の分野では環境や自然災害の問題に本質的に関わらねばならなくなっており、
そのためにも副指導教授制度を導入するなど、博士前期課程・後期課程の学生が複数の教員
の指導を受けられるように検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
わが国が今世紀の国際社会で共生できるまでは、物すなわちハードと情報すなわちソフ
トからなる人工物を創造することである。最先端の技術を駆使して有限な地球資源を有効
に使って高い付加価値をもつ人工物を創生するにあたり、それらは人に優しい機能に加え
て高い性能と信頼性を持ち、自然の循環システムに近づけることで地球環境を保全するエ
コ・プロセスを志向することが重要である。本専攻では、このような地球共生時代に適合す
る人工物創生のための工学を目指し、この目的に基づく人材の養成に取り組んでいる。
【点検・評価】
博士前期課程では、本専攻の研究分野の基礎知識と基礎技術を修得させるようにカリキ
ュラムを組み、研究指導を行っている。修了者の多くは企業などの設計・開発・研究部門で
活躍しているが、本専攻が目標として掲げているように”もの作り”が主要目標であるの
で、地味な分野であるが経験が積みまとめる能力を養えるような人材が出ていることは評
価される。
博士後期課程では、主として研究職に就く人材の養成を目指しており、学外との連携も
深めて研究指導体制を強化している。各研究室で毎年度2回研究発表させ、2年次に専攻
で中間発表を行い、査読論文2編と英文の論文2編の業績をもって博士学位取得の資格と
している。
【長所と問題点】
機械工学は「工学の基礎」という認識から機械工学(精密工学)の基礎に重点をおいて教育
しているが、最近の幅広い先端技術の教育に手が回らないところもある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専攻の活性化を図るためには、博士後期課程を充実させることも重要であり、このため
に実績のある社会人を積極的に受け入れることを検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
約 40 年前に始まった技術革新により電気電子工学の対象分野と応用範囲は大幅に拡大
し、電力工学、電力応用工学、情報通信工学、制御工学、コンピュータ工学とそれらを支
える半導体工学や電子材料工学の諸専門分野を含む、電気電子情報通信工学と呼ばれる大
きな工学分野に発展している。これらの専門分野において、IC、LSI等を駆使したエ
レクトロニクス化、デジタル化、インテリジェント化が進み、各専門分野における応用技
術は日々高度で 精緻なものに変貌しつつある。このような電気電子情報通信工学の各種技
484 第3章 大学院
術は、今日ほとんどすべての分野で広く活用され、現代の文明生活の最も重要な技術的基
盤の一つとなっている。現在も電気電子情報通信工学の理論と技術は急速に進歩発展を遂
げつつあり、新技術と新製品が創生され、人類の高度な生活を可能なものにしている。そ
の反面、諸工業の発展が地球環境の悪化をもたらし、技術の高度化が人間にとって扱いに
くい機器を生み出していることが指摘されている。本専攻では、地球に優しい技術、人に
優しい技術が重要視されるため、それらの課題の解決においても重要な役割を果たす電気
電子情報通信工学を修得し、社会において中心的な役割を果たす人材を育成することを目
指している。
【点検・評価】
本専攻では、社会において重要視され、高度に発展しつつある各専門技術分野について、
基礎に重点を置きながらも最先端の理論と技術を含む教育研究を行い、今後の技術の発展
を担う研究者・技術者を育てるとともに、研究の成果をもって社会の発展に貢献すること
を目標としており、その実績は評価される。
【長所と問題点】
本専攻の研究分野は電力・制御、電子・電子回路、情報・通信など多岐に渉って広汎であり、
科学技術のすべての分野と関わって人材養成を含めて社会貢献ができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻の電気電子工学、情報通信工学にかかわる研究分野が広範囲であることを活かし
た研究指導を行って、博士後期課程の充足も視野に入れて専門的知識と技術を持つ人材を
育成する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
現代の化学の役割は、これまで扱われてきた物質の合成や変換の研究に留まらず、地球
環境、エネルギー、新素材、生物、生命現象などの 21 世紀における先端分野の中核を担う
ものである。したがって、応用化学専攻修了者には世界的な水準で最先端の研究能力と技
術力が求められている。学部課程では無機化学、有機化学、物理化学、化学工学の基本的
な分類によって教員配置やカリキュラムが組まれている。これに対して本専攻では、従来
の枠組みにとらわれず、先端分野や境界領域に対応できるように、機能物性化学系、環境・
化学プロセス系、生命・有機系の3つの大きな枠組みに分け、教員やカリキュラムを編成し
ている。本専攻ではこのような視点に立って、国際的に通用する第一級の研究者、技術者
の養成を人材養成の目標としている。
【点検・評価】
博士前期課程では定員をほぼ充足している。国際会議での発表や指導教授との共著で一
流国際誌への投稿者も増加している。修了者の進路としては企業の研究職が多数を占めて
いる。人材養成の面で、ある程度達成しているものと判断される。若手教員(助手クラス)
の代わりとなって、各研究室の重要な担い手になっている。
博士後期課程では、定員を充足しているとはいえない。社会情勢を反映して進学者が少
ないものと思われる。学位審査については、専攻内規では査読のある論文3編、他機関の
審査委員1名を加え、水準を保っている。その分、在学期間が長くなる傾向にある。各研
究室の研究のアクティビティの向上には博士後期課程の在学者数増加が重要である。現実
485
には社会情勢、修了後の進路の不安から急激な増加は見込めない。
【長所と問題点】
先端分野や境界領域に対応できるように、機能物性化学系、環境・化学プロセス系、生命・
有機系の3つの大きな枠組みの中で弾力的に教育研究を行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
論文博士を含めて学位審査件数を増やして教育研究の活性化を図る。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
経営工学は元来、工場の経営管理を対象にして生まれたが、今日では、ソフトウェアや
サービスを含めた多様な商品をその対象とするとともに、企画・設計から販売までの企業
の全部門にわたる活動を取り扱うようになり、広く経営システム全体に対して適用可能な
科学的理論と実践的技術を統合した学問に発展してきた。本専攻では、社会および地球環
境も考慮にいれた広い視野に立ち、情報技術を含めた工学的手法の適用を通して、より良
い組織運営を実現するための方法論の教育研究に取り組んでいる。経営システム工学が扱
う領域はきわめて多様である。本専攻では、その中でも特に実務に直結する、品質経営、
新製品開発、信頼性・安全性工学、統計工学、最適化設計、システム工学、非線形システ
ム論、情報資源管理、知能システム工学、ヒューマンメディア工学などの専門分野ならび
にその応用分野に焦点を絞り、指導的な役割を果たすことのできる教育研究者の育成を目
指している。また、企業においては、経営環境の複雑化にともない、経営システム工学に
関するより専門的な知識と能力を持った経営管理者および高度専門技術者が強く求められ
るようになっている。このような状況のもと、産業界で活躍している人材に対して、より
創造的な視点から実際問題の解決に取り組める応用研究の機会を提供することは本専攻の
特徴である。
【点検・評価】
経営システム工学の扱う領域は急速に広がる傾向にあり、その教育研究の方向を固定化
することは今や容易なことではない。本専攻では、組織の経営管理を人間、情報、システ
ムの3つの視点から捉え、工学の立場から貢献できる領域を中心に、経営システム工学の
教育研究に全力をあげている。この教育研究の内容は、現在の高度に多様化した社会の要
請に応じるもので評価される。修了者は製造業、コンピュータ関連産業、サービス業、コ
ンサルティング業などの多彩な企業において、幅広く活躍しており、本専攻の特徴である。
【長所と問題点】
広範囲に多様化している研究分野を分野に分けて適切に指導している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程の定員増を行い、本専攻に対する社会のニーズに即応する研究プロジェク
トを発足させて教育研究体制の拡充を図る。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
情報技術・情報工学の基礎から応用にわたって研究・開発・実務に携わるための知識と
能力と意欲を持ち、それぞれの分野で指導的役割を果たして活動することのできる人材の
育成を目標としている。博士後期課程においては、高度な専門的知識、ならびに情報技術
486 第3章 大学院
が人間・社会に与える影響についての洞察力や広い視野をベースに、問題を発見して新し
いコンセプトを創出し得る独創的な研究者や高度な専門家を育成することを目的としてい
る。
本専攻では情報工学の分野を大きく次の4つの分野に分け、教育研究が行われている。
情報処理分野では離散アルゴリズム研究と計算理論基礎研究。情報数理分野では情報シス
テム数理研究、数値情報処理研究、知的情報制御。情報システム・ネットワークと情報セ
キュリティ分野ではシステムのモデルリングと最適化法研究、情報ネットワークと情報セ
キュリティ、システム解析・可視化研究。コンピュータハードウェアの高信頼性設計の分
野ではコンピュータと集積回路の研究とコンピュータ工学研究。
【点検・評価】
基礎から応用までの各分野に対応するため、
「情報処理基礎」、
「情報数理工学」、
「情報シ
ステムと情報ネットワーク」、「コンピュータハードウェア」の4つの専門分野を柱として
立て、これに即して教育研究を行っていることが特徴である。
学生は各研究室に配属され、研究指導教授のもとで高度な専門的知識を身に付けること
ができる。
【長所と問題点】
情報の幅広い分野の知識を習得するために、大学院学生セミナーを開催し、多くの教員
からの指導や他の研究室の学生との研究交流が行える体制をとっている。しかし、情報の
分野は非常に広く、すべての分野における十分な知識が身に付いていない点も指摘できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究室間の活発な交流、学会や他大学との交流などを通して、高度な専門知識と情報の
幅広い知識を持ち合わせた人材の育成をさらに促進させる。ソフトウェアとハードウェア
の分野の連携をさらに有機的なものにする。
2.教育研究組織
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科は、理工学部に学科が新設される度にこれに対応する形で専攻が設置され、そ
の後名称の変更を経て現在の8専攻構成になったものである。したがって、研究科におけ
る教育研究組織はこれらの経緯と設立の趣旨を直接的に反映したものになっている。学部
の教育プログラムにしても各学科において対応する専攻への一貫教育を実現するために各
学科から対応する専攻への進学を奨励している。
本研究科の諸分野においては、専門的な知識と高度な研究能力を習得するとともに健全
で調和の取れた科学技術を進展させるための幅広い視野と豊かな人間性を身に付けること
が要求されている。したがって、4年間の学部教育だけでは十分にその効果をあげること
が困難になってきている。
このような状況に鑑み、博士前期課程の教育プログラムを整備するとともに、博士後期
課程における研究指導体制の強化を図って本研究科の教育研究組織を整備拡充することに
努めている。学部の教育プログラムは各学科から対応する専攻への一貫教育を実施するた
めに編成されている。教育システムを改革するために、科学技術の進歩と社会の要請の変
487
化によるカリキュラムの改善を行っている。
本学の教員人事は学部教授会で行われ、従来型の大学院担当の教員は学部専任教員の中
から任用される。本研究科の専任教員は事実上理工学部の教員であり、理工学部の教員任
用に関わるとともに学部の教員人事が大学院の教員任用を規定する形になっている。
研究体制を強化するために、共同研究や委託研究を積極的に受け入れるとともに産官学
連携の共同研究のプロジェクトを推進している。
【点検・評価】
20 世紀末よりわが国はその社会構造や経済状況が急速に変化しているため、各専攻は直
接にその設置基準の趣旨に則った教育研究組織を現状に即した形に整備する必要がある。
教員人事は、各学科・専攻で審議された後、理工学部教授会の承認が得られた上で本研
究科において任用の可否が定められる。これらの審議が形式的に行われることがないよう
に、人事委員会で審議する制度を採用していることは評価される。
【長所と問題点】
本研究科の研究活動を支援するために、多様な研究助成を行っておりさまざまな規模の
研究計画を立てられることは大きな長所である。また、理工学研究所は外部資金の受け入
れに関する支援を行い、学外との共同研究や受託研究の窓口になっており、人的資源の有
効な活用や研究活動を円滑に進める上で重要な役割を担っている。
他方、理工学部・理工学研究科の教育体制の強化により大学体制そのものが多様化して
相応の新業務が生じることになり、これによって研究活動が阻害されないようにしなけれ
ばならない。このことは大学院改革を進めるに当たって重要な問題点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育システムの整備を行うにあたりカリキュラムの改善と研究指導体制の再検討が必要
である。社会に具体的貢献ができる即戦力を持つ技術者を養成するべく教育システムを改
革する必要がある。
研究体制を整備するにあたって、高度な能力を持つ大学院学生の育成を実現し、適切な
研究指導を通じて具体的な研究成果をあげる。分野横断型の共同研究と学際的研究を強力
に推進し、社会への直接的貢献を目指す。また、社会人学生を積極的に受け入れて先端科
学技術との連携を図る。さらに、人事の在り方について常に点検を行い、長期的視点に立
って本研究科独自の分野を開拓できる人材を招聘する。
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本研究科の教育課程は、理念と目標に則って教育プログラムの整備と担当教員体制の
強化に重点を置き、理工学の諸分野において先進的な研究とそれに即応する指導を行い、
科学技術に貢献することを目指している。博士前期課程のカリキュラムや研究指導は、多
様化する科学技術に即応する課題を選択し広い視野に立って講義と研究指導を行っている。
博士後期課程では、専攻分野において研究課題を定め、最新の知見と高度な研究能力を身
488 第3章 大学院
に付けることを目標として勉学活動を続けている。
TA制度とRA制度を取り入れ、大学院学生に対して教育研究補助業務を行わせて大学
教育の充実を図るとともに、教える立場から自らの専門的知識の進化を図るべく実施して
いる。
2.各専攻ともその専門分野における基礎知識と技術を修得し、最先端の知識の上に立っ
た研究活動や専門的業務を遂行できる能力を養うためのカリキュラムと研究指導体制を整
備している。専攻の研究分野で十分でない領域は学外より専門家を招聘して教育もしくは
研究指導を依頼することを行っており、必要に応じて対策することとしている。
外部から各分野の指導者を招聘して教員と学生がともに最先端の知識や情報を得るため
に、ゲスト・スピーカー制度を導入している。
実験による研究を行う分野の専攻においては、すでに整理されたデータをのみ参照する
のではなく、生データを処理し現場の見学や関係分野の実態調査を行うことは、計算機の
画面上のみで作業する傾向にある現状に鑑み重要である。このような活動に対して「見学・
実態調査補助制度」を整備している。
3.博士後期課程の目的は、自立した研究を行い高度に専門的業務を遂行する能力を持つ
人材を養成することである。本研究科では、博士後期課程の目的を達成するうえで十分な
教育研究指導体制を整備し、各専攻で関連分野の専門家である指導教員を配置している。
したがって、今までの博士学位取得者の研究業績はきわめて質の高い優れたものである。
最近の論文博士の論文内容を見ても、その水準は高く、しかも分野を横断し最先端の研究
成果に基づくものになっている。
4.学部課程の教育プログラムと博士前期課程の教育プログラムは、各学科に対応する専
攻の間で学部課程の教育内容を進化させるかたちで組まれている。他方で各専攻に在籍す
る学生が自分の研究を進めるうえで必要である場合には、学部の講義の一部を受講するこ
とができるようになっている。
5.博士前期課程では、広い視野を持って最新の知識を学修するとともに高度の専門性を
要する職業において要求される能力を身に付けるための授業科目を設け研究指導を行って
いる。博士後期課程では、大学院に設置されている講義科目も受講できるが、主として専
門分野のセミナーを通じて研究の準備を行い、研究課題を定めて独自の研究を遂行する。
新しい研究課題に取り組んでいる時には、関連分野の専門家に依頼して集中講義の形式で
知識の提供を受けることができる。
6.博士前期課程から博士後期課程に進学する状況は専攻によって異なる。数学専攻では
博士前期課程からの進学者がきわめて少なく、これに反して社会人や外国人留学生は比較
的多い。他専攻では、博士前期課程からの進学者が比較的多く、研究指導にも一貫性があ
り相応の成果をあげている。
7.博士後期課程への進学者は、指導教員を選んで学位取得へ向けた研究を行う。必要で
あれば、関連する授業科目を受講しても良い。研究課題に関するセミナーを開き、実験も
しくは計算機実験を行い、指導教員との協議のもとに研究成果を得る準備を行う。所期の
成果が得られたら、本学学位規則に沿って学位論文作成が行われ、客観的かつ適正な審査
を経て学位授与に至る。
【点検・評価】
489
1.本研究科の各専攻は、本専攻が掲げる理念と目標ならびに学校教育法と大学院設置基
準に則って教育課程を組み立てているが、各専攻とも規模が十分に大きいという訳ではな
いため、担当教員に別の業務が発生した場合、ともすれば博士前期課程と博士後期課程に
おける教育研究が十分に行われなくなる可能性がある。このことは本研究科における大学
院改革を実行する上で技術的に工夫を要する点である。
2.既存のカリキュラムは、専攻が提供する研究分野において教育研究を可能にし、学生
が必要とする知識や技術を習得するうえで時間的に精一杯のものである。しかしながら、
現代の科学技術は多様に変化しており、広い視野に立って学識を得るだけでは不十分で、
実際に多角的研究を行うことが重要である。分野を横断して勉学活動を行う希望の学生に
対しては時間割が窮屈であり、今後この点について検討する必要がある。
3.博士後期課程においては、各専攻とも未だ学生が充足していないため、現状を見据え
つつ積極的に博士後期課程の充足と活性化を図る必要がある。博士後期課程も人的に充実
していなければ教育研究指導の内容も十分で適切なものとはならない。この目的のために、
博士前期課程からの進学のほかに高い資質を持つ社会人や外国人留学生の積極的な受け入
れを試みている。社会人との連携によって研究内容の高度化を図り、外国人研究者の招聘
と外国人留学生の受け入れによって研究科の国際化を進めている。
奨学金制度を設けて研究と学修支援体制を整備し、本研究科出身の研究者もしくは大学
などの教育研究機関での専門的業務に従事できる人材を養成する状況になっているものの、
設立してからの年月が未だに浅く十分な成果が得られていない専攻があるのも事実である。
博士後期課程の学生には学位取得後の進路まで含めて研究指導を行われなければならない
社会情勢になっていることを認識しなければならない。
4.学部の各学科に所属する学生が対応する本研究科専攻に進学する場合には制度的な連
携が確立されており、一貫教育を行う上で適した教育内容になっている。しかしながら、
他大学から進学する学生、社会人、ならびに外国人留学生が研究・勉学活動を行う場合には、
その背景によって学部の適切な授業科目を履修して補習をする必要も生じてくることに注
意する必要がある。
5.博士前期課程の教育内容は、研究分野によって多少の相違はあるものの充実している。
しかしながら、研究分野によっては受講する者が少なく人材が十分に育成されていない場
合があることは否めない。博士後期課程の教育効果は学生の能力に強く依存するものの、
研究指導は熱心に行われ学位取得に到達していることは評価される。
6.現在の体制では、博士後期課程の学生に対する教育は研究指導を通じて行われている。
学生が一定の成果をあげて在学中に研究発表できるようであれば学位取得に至るまでにあ
まり困難な点はない。専攻によっては、相応に成果をあげており評価される。しかしなが
ら、研究内容が適切でなかったり、学生の方で進路希望が変わる場合にはその成果はきわ
めて少ないものとなっている。
7.博士後期課程への進学者にとって自らが選択する研究分野と指導教員の助言を得て定
める研究課題は、単に学位論文の効率的かつ早期の完成に関係するのみならず、学位取得
後の専門分野を決める上で重要である。もちろん、このことは研究指導者の専門分野と本
研究科における研究環境にもかかわる問題であるが、余り現状にとらわれることなく将来
の展望を見据えた継続性のある研究を遂行することが望まれる。
490 第3章 大学院
【長所と問題点】
1.各専攻とも規模が大きくないことから、教員と大学院学生との人間関係は良好に保た
れており、研究指導が相互の信頼関係をもって行われることは長所である。しかしながら、
ともすれば研究を遂行する上で視野が狭くなる可能性があることは十分注意する必要があ
る。
TA制度は、大学院学生に学術教育の指導者としてのトレーニングの機会を与えようと
するもので効果をあげている。
2.博士前期課程の目的を達成するための勉学活動を行うために、大学院学生にとって研
究助成は励みにもなり、研究生活を財政的に支援することは集中して深い学識を積み上げ
ていく上で必須である。奨学金制度、研究・学習の財政的支援、国際会議出席のための旅費
などの支援など、大学院学生が研究活動を進める上でさまざまな形の助成制度が設けられ
ていることは大きな長所である。
博士前期課程において、専攻によっては期待される研究学習活動を可能にするために十
分な環境が整備されているとはいえない状況にある。今後の学生の充足度達成と教育施設
の拡充による改善に向けて努力と工夫が必要である。
3.本研究科委員会スタッフにはその分野で指導的役割を果たしているメンバーも多く、
学生の能力・資質に応じて最新の情報と知見を提供できることは最大の長所である。しかし
ながら、分野によっては学位取得後の進路が困難である場合もあり、また実績が少ないと
いう背景もあって学生の博士後期課程への進学を奨励できない状況にあることも事実であ
る。
4.理工学部の教育と本研究科の教育の相互乗り入れが適度になされていることは、学部
学生が大学院課程に進学することを動機づける上で両者の関係の大きな長所になっている
と考えられる。しかしながら、最近の日本経済の動向にともなって学生の就職に対する考
え方に変化が見られるようになり、大学院教育の内容も再検討を迫られていることが感じ
られる。
5.学部からの進学者が多いということもあって、大学院学生がさまざまな形で学部学生
と交流を持つことは本研究科博士前期課程の長所である。博士前期課程の修了者はそのほ
とんどが就職する傾向にある。多くの専攻が設立以来の歴史が浅いとはいえ、本学出身の
自立した研究者が少ないのは今後の重要な問題点である。
6.一般の技術職や研究職に関連する就職状況が厳しくなっている現在、博士課程におけ
る一貫性を持った教育内容を再検討する必要がある。
博士後期課程では、奨学金制度をはじめ国際会議参加のための旅費の助成など、研究・
勉学の支援を受けることができるのは在籍学生の研究活動に対する最大の長所である。反
面、一部の学生は博士後期課程の学生であることの学力を利用して正規の研究職などに就
かなくても困窮することが無い生活を送ることができることから、一貫教育に求められて
いる課題を修得することもなく十分な研究活動が足りないことは検討すべき課題である。
7.指導教員の助言のもとに適切な研究課題が定められれば、入学して学位を取得するま
での研究環境は自由でさまざまな支援体制が整備されているという意味で、この点は本研
究科教育システム・プログラムの長所である。しかしながら、専攻によっては博士後期課
程に在学する学生数が少なく、特に専攻分野が異なる場合には共通の話題が限られたもの
491
となり研究活動を通じて研鑚し合うことができにくくなる可能性について検討する必要が
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.現在、本研究科では「新分野大学院検討部会ワーキング・グループ」において、分野を
横断するかたちで副専攻(またはコースの形)で教育研究を行う可能性について検討してい
る。既存の分野と既存の人的資源を活用して新分野の専攻を新設し、大学院の拡充を行う
ことを検討する。
2.今後は、教育研究指導の内容は各専攻ともより横断的なものになることが予想される。
このような状況の下で大学院課程の教育研究の環境を充実させることは本研究科にとって
急務である。
教育研究施設の拡充、新規建設や図書館の整備などに代表される施設・設備の拡充がなさ
れる場合には、長期的展望に立ち、点検・評価によって指摘された点に留意しつつ博士前
期課程の学生が所期の目標を達成することができるようにその環境を整備する。
研究指導を専任教員のみで行うことが困難である場合には、該当する専門家に協力依頼
できるような体制を整える。
3.博士後期課程に在籍している者ならびに在学した者が毎年学会で発表できる成果をあ
げさせ、学位審査を積極的に行って毎年 10 件(論文博士を含めて)程度の学位取得者を出す
ことを目指す。このようなことは最先端の研究課題を目指し、高度な研究能力をもって成
果をあげる人材を輩出していくための基盤となるものであり、後続の学生に具体的指針と
動機づけを与えることになる。このようにして、博士後期課程の目的に適合する教育研究
指導の内容と方法を確立する。
4.本研究科の充実を図るために、進学者の対象を他大学の卒業予定者、社会人、優秀な
外国人留学生を受け入れる環境を整備する。特に、すでに研究業績を持っている社会人は
本研究科の学術活動に直接的貢献を行うことができ、外国人留学生は本研究科の国際化に
貢献できる。
5.後期課程における大学院改革の主要目標の一つは、自立した研究能力を持つ研究者の
養成である。本研究科で学位を取得した者で、本学もしくは他の教育研究機関に就職でき
る人材を養成するための体制作りを実現することが急務である。実績を持つ社会人との連
携や共同研究者としての受け入れが不可欠であろう。
6.本研究科の水準をあげるために必要なことは、学位審査の件数を多くし、可能な限り
研究職に就く人材を増やすことである。このために、まず学生には積極的に研究発表を行
わせることによって意欲を高め、研究職となる道を拓く。
7.後期課程在籍中の奨学金制度を整備する他に、学位取得後の進路と可能性についても
研究科全体で支援していく体制を整備していくことが重要になっている。
<数学専攻>
【現状の説明】
本専攻では数学の主要分野である代数学、幾何学、位相幾何学、解析学、統計学、計算
数学、応用数学の分野で学位が取得できるように研究指導体制を整備している。また、研
究指導分野を充実させるために、各方面の専門家を兼任講師として任用する制度を設けて
おり、通年の委嘱のほかに集中講義の形式で教育内容を充実させている。
492 第3章 大学院
【点検・評価】
研究指導に加えて複数の研究分野の基礎講義科目を受講させて知識に幅を持たせるよう
に教育プログラムを組んでいる。
【長所と問題点】
TA制度を利用して学生の勉学活動を活性化させることに努めているが、大学院におけ
る授業担当の実績がない。TAの採用実績は、博士前期課程で 1999 年度9名、2000 年度
12 名、2001 年度 15 名、博士後期課程は 1999 年度4名、2000 年度3名であった。TA制
度は博士後期課程の学生に対しては有効である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
純粋数学のみならず、社会のニーズに即応する形での学際的な問題へ数学的接近を試み
るとともに、数学における新しい展開を図る。
<物理学専攻>
【現状の説明】
物理学における主要な分野の最先端研究に触れるような特論的講義とともに、学部より
は進んだ、しかし基礎的な講義も行うように努力している。さらに、最先端の研究に触れ
る機会として、理工学研究所の「国際交流・公開研究セミナー」制度を活用した外国人研
究者によるセミナー、あるいは、ゲスト・スピーカー制度を利用したセミナーを実施してい
る。また、学会での研究発表を奨励しており、博士前期課程修了者の約半数の学生が発表
している。
外部の共同利用研究施設を用いた研究や外部研究グループとの交流・共同研究が活発に
行われている(高エネ研、京大原子炉実験所、東大物性研究所、室蘭工大、他)。これらは、
学生が学外の研究や研究者に触れる機会を提供している。
TA制度は、教育補助業務を行わせるだけではなく、指導する立場に立つことにより、
アシスタント学生の知識を深め発展させることに寄与している。
【点検・評価】
博士前期課程修了者の約半数が、本学の大学院学生に対する学会発表助成制度を使って
発表しているのは評価できる。外部研究組織との交流・研究が活発であることも評価でき
る。
【長所と問題点】
物理学における重点分野を総合的に研究できる体制にしていることは本専攻の長所であ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
応用物理学も視野に入れ、学際的な研究を推進して博士後期課程の充実を図る。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
各教員が工夫したシラバスにより、大学での講義内容をさらに専門化した学識を授けて
いる。研究能力については各教員が専門とする分野を中心に積極的な指導を行っている。
ゲスト・スピーカー制度の活用も利用しており 1999 年度3件、2000 年度1件、2001 年度
1件の実績がある。
研究者教育としてのTA制度の活用:補助業務を行わせて、専門知識の応用、発展を図
493
っている。
【点検・評価
長所と問題点】
研究面では時宜を得た研究課題の選択を行わせ、対外発表などを通じて学生の興味と動
機づけを行い、やりがいを引き出すことに成功している例が多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
カリキュラムの設定については内部教員の専門の範囲でやりやすい形に傾きがちで、社
会の最新のニーズからみた検討を行うようにする。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
研究は実験が主であり、実験装置の設計・製作などすべて指導教員と共同して行うので、
指導教員は常時大学院学生を指導する形になっている。研究者教育としてのTA制度とR
A制度を活用するために、教育研究の補助業務を行わせ、専門知識の確立と進展を図る。
【点検・評価】
研究の中間発表などを通して、大学院学生の研究の進捗状況を把握し、専攻が目指す研
究指導に反映させている。
【長所と問題点】
中間発表はいくつかの関連する研究室合同で行うことが多く、より正確な研究成果の評
価が行われる。在籍学生の多くは学会での発表を行うが、まだすべての学生に行き渡って
いる訳ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1研究室での研究発表より複数の研究室で、または将来公開発表など常に外部に開いた
形式にしたい。関連する最先端の知識と情報を学ばせるためにゲスト・スピーカー制度と
見学・実態調査補助制度の利用を検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
当専攻の研究分野は技術的関連性の強い専門分野をまとめた形で電力・制御、電子・電子
回路、情報・通信の3グループに分類されている。大学院に入学した学生はいずれかの研究
室に所属して、研究指導を受けながら研究を行う。上記の研究分野以外の分野の研究を行
いたい場合は、指導教員の紹介を得て、研究所(通信総合研究所、電子技術総合研究所など)
で研究を行わせている。また、当専攻が特に必要と認めた場合は指導教員のほかに副指導
教員をおき、複数の教員が研究を指導することもある。ゲスト・スピーカー制度の活用は
2000 年度2件、見学・実態調査補助制度の活用実績は 1999 年度2件 27 名、2000 年度1件
10 名、2001 年度1件4名、TAの採用実績は、博士前期課程の場合 1999 年度 91 名、2000
年度 84 名、2001 年度 76 名、博士後期課程の場合 1999 年度2名、2000 年度1名であった。
【点検・評価】
当専攻のカリキュラムは、電気電子情報通信工学において現在重要視されている 諸分野
のすべてを網羅するように配慮して構成されている。当専攻の専任教員のみで、これらす
べての分野をカバーすることは困難であるので、一部の講義科目は他専攻の教員、他大学
の研究者、企業の技術者等に兼任講師として担当して依頼し、幅広い分野における基礎理
論から最新技術までの講義を、学生が自由に選択履修できるようにしている。
494 第3章 大学院
【長所と問題点】
技術革新の相次ぐ現代において、当専攻の出身者が将来においても新しい技術分野で指
導的な役割を果たす研究者・技術者であり続けるためには、諸技術の根幹をなす基礎理論、
基礎知識、基礎技術を十分に身につけていることが必要である。当専攻では学部における
教育と同様に電気電子情報通信工学の基礎教育を重要視しており、本専攻の長所となって
いる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後この分野は益々他の分野と連携し多様化することが予想されるので、基礎教育とと
もに他の分野との連携や本専攻の研究分野の新展開も視野に入れた教育研究指導の内容を
検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
大学院に入学した学生は直に各研究室に配属され、研究指導を受けながら研究を行い、
また授業科目を受講する。学生の研究分野は所属する研究室の独自のテーマに関連したも
のが多いが、各教員が行っている他の教育研究機関、他専攻、また応用化学の各分野での
第一人者を講師として招き、応用化学特別講師第一、第二(それぞれ半期)を設けている。
講師の任期は単年度のみとしている。ゲスト・スピーカー制度の過去3カ年の実績は、1999
年度3件、2000 年度2件、2001 年度は1件である。
【点検・評価】
ゲスト・スピーカー制度は大学院の授業の一環としているが、学部学生(卒業研究を履
修している学生や3年生)も参加可能な場合が多く、外国人研究者の場合、特に効果をあ
げている。また、応用化学特別講義第一、第二は各分野での第一線の研究者を講師として
招いているので、学生によい刺激を与えている。
見学・実態調査補助制度の利用の利用はしていないが、最近、学会に出席する学生も多
く、学会主催の研究会・講演会にはその都度積極的に参加している。
TA制度は非常に効果的に機能している。内容は学部の演習・学生実験・計算機演習な
どで、教員の負担を減ずるだけでなく指導者になる事による自覚、責任感、深い理解、研
究室以外の担当教員との交流など効果があがっている。
【長所と問題点】
ゲスト・スピーカー制度、応用化学特別講義第一、第二など専任教員の専門以外の応用
化学分野についても意欲的な学生に対してよい刺激を与えている。現在の環境を十分に活
用するかどうかは学生の主体性による。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多くの他専攻と同様、応用科学分野についても学際領域の重要性が増し、研究者、技術
者は自分の専攻分野以外にも幅広い知識・学識が求められている。諸外国の大学院の様に、
「ダブルメジャー」の必要性が増し、そのためには副指導教授制度の導入が効果的と思わ
れる。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
カリキュラムは毎年度検討を加え、必要に応じて改正している。TAの採用実績は博士
495
前期課程で 1999 年度5名、2000 年度6名である。
【点検・評価】
内部の推薦入試合格者には博士前期課程において許可されている科目を4年次において
履修することを認めており、博士前期課程における学習の効率化を図っている。
【長所と問題点】
大学院学生をTAとして採用し、学部学生の実験補助を通じて自らの知識を確かめさせ
るようにしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
実務に携わっている社会人を招聘して講義を依頼する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程における講義科目は、将来の科学技術の進歩発展に対応できる基礎的主題
に重点をおいて、ソフトウェア開発・応用からハードウェア設計にわたる各分野において、
特色ある内容となっている。TAの採用実績は、博士前期課程で 1999 年度 26 名、2000 年
度 23 名、2001 年度 24 名である。
【点検・評価】
基礎を重視しつつ、最新の研究成果も講義の中で積極的に取り入れるなど世界における
最先端の情報の知識も伝えることによって、情報分野の急速な進歩に対応できるようにし
ている。
【長所と問題点】
幅広い分野をカバーする講義科目となっているため、科目間の関係が明瞭でない部分も
あり、各専門科目をつなぐための指導を行う必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の状況に鑑み、各専門的知識を統合して情報社会が構築されているという、情報全
体を見渡すような科目を設け、各講義科目で習得した専門的知識の間の関係を把握できる
ようにすることが必要である。
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
<理工学研究科>
【現状の説明】
本学では大学院学則第55条で他の大学院との交流について定め、必要な細則は研究科ご
とに定めることとしている。本研究科では、大学院特別聴講学生制度を設け、本研究科と
特別聴講学生に関する協定等を締結した他の大学院の授業科目を相互に履修する単位互換
制度を運用している。
「中央大学と東京外国語大学との教育・研究交流協定」による制度は、交流協定に基づ
いて「単位互換に関する協定」、「単位互換に関する覚書」を相互に取り交わし、8専攻す
べてを対象とし、2000年度から単位互換を行っている。単位互換方法は、先方の開講科目
を履修することができ、修得単位は所属大学院の修了要件単位に算入する方法である。近
年開始した制度ということもあり、派遣学生は2000年度に1名(電気電子情報通信工学専攻
博士前期課程2年次)で、東京外国語大学からの受け入れはこれまでのところない。
496 第3章 大学院
「中央大学とお茶の水女子大学との間における学生交流に関する協定」による制度は、
協定に基づく単位互換制度で、2000年度から開始した。対象専攻は数学専攻、物理学専攻、
応用化学専攻、情報工学専攻の4専攻である。単位互換方法は、先方の開講科目を履修する
ことができ、修得単位は所属大学院の修了要件単位に算入する方法である。過去2年間の
本研究科からの学生の派遣については2000年度数学専攻1名、物理学専攻10名、応用化学
専攻4名、情報工学専攻15名であり、2001年度物理学専攻3名、応用化学専攻10名、情報
工学専攻1名であった。また学生の受け入れについては、2000年度3名、2001年度9名で
あった。
本学では、大学院学則第25条の2第2項において「許可を得て留学した者が、外国の大
学院で履修した授業科目について修得した単位は、10単位を超えない範囲で、本大学院に
おいて修得したものとみなす」と規定して、国際交流協定に基づく単位互換制度を設け、
留学によって修得した単位を認定している。物理学専攻では2000年度に1名を受け入れた。
しかしながら、今日の教育研究に関する情報公開の状況では不十分であると判断される。
数学専攻に限定した制度であるが、「大学院数学連絡協議会委託聴講生」制度(本専攻に
限定した制度)によるものは下記のとおりである。この制度は、東京に所在する大学院が運
営する大学院数学連絡協議会による制度で、1997年度に学習院大学大学院 自然科学研究科
数学専攻、国際基督教大学大学院 理学研究科 基礎理学専攻、上智大学大学院 理工学研究
科 数学専攻、東京女子大学大学院 理学研究科 数学専攻、津田塾大学大学院 理学研究科
数学専攻、立教大学大学院 理学研究科 数学専攻、中央大学大学院 理工学研究科 数学専
攻が加盟し現在に至っている。
単位互換方法は、所属大学院の指導教員の了解を受けたうえで所属大学院を通じて先方
の大学院に申請し、修得単位は所属大学院の修了要件単位に算入する方法である。
過去 3 年の数学専攻からの学生の派遣は 1999 年度1名、2000 年度7名、2001 年度 19
名、受け入れは 1999 年度1名、2000 年度4名、2001 年度 11 名である。
【点検・評価】
大学院特別聴講学生制度、教育研究交流協定、学生交流制度、単位互換に関する協定、
大学院教学連絡協議会委託聴講制度、国際交流協定に基づく単位互換制度などのさまざま
な制度を設け、大学院間交流のための環境を整備していることは評価される。従来の日本
における大学環境を反映しているためか、現在までに所期の実績をあげるには至っていな
い。しかしながら、数学専攻では研究指導体制が充実してくるとともに、受け入れ数のみ
ならず他大学への派遣件数も増加傾向にある。物理学専攻では、お茶の水女子大学との交
流で実績をあげており評価される。応用化学専攻では、実験系が多いため、なかなか他大
学に出かけて授業を受ける時間的余裕が少ない。しかし、夏休みのお茶の水女子大学大学
院での実験実習に参加した学生の感想は大変有意義で満足したとのことで、他大学の教員、
学生から受けた刺激は大きく、教育効果は大きい。
本学が国際交流協定を締結している大学のうち、2001 年度現在 23 大学が本研究科大学
院学生の交換留学の対象となっている。交流協定校に理学・工学系が少ないこともあって
過去 3 年の派遣実績はない。1999 年度と 2000 年度に各1名の受け入れがあったが、本研
究科では必ずしもこの制度が活用されているとはいえず、交換留学生の受け入れもきわめ
て少ないことは認識する必要がある。
497
【長所と問題点】
国内ならびに国際交流に関する制度をさまざまな形で制度化して整備していることは大
きな長所である。しかしながら、これらの制度を有効に活用していくためには早急の検討
が必要である。数学専攻では、年度毎に実績をあげている。公開セミナーには学生を出席
させ、効果をあげている。物理学専攻では、国際交流協定に基づく受け入れの実績はある
が、こちらからの派遣の例はまだない。ことばの問題が大きいと思われる。教員の個人レ
ベルでの関係があると効果的である。土木工学専攻と情報工学専攻では、単位互換制度は
学生の流動化を促し、広く人材を集める上で有効であるとしてその意義を認めている。応
用化学専攻と経営システム工学専攻では、単位互換制度が実験・実習の経験を積む上で有効
であると判断している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学間協定を有意義な体制にするためには、まずその意義について十分な情宣活動を行
う。社会情勢を反映して学修意欲に変化が見られるが、広い視野の下で研究目標を定める
ように指導する。物理学専攻では、大学間の交流協定がない他大学大学院(専攻)との単位
互換制度の検討をしている。土木工学専攻では、認定基準の明確化を図り、互換単位数の
設定の拡大について検討している。応用化学専攻では、単なる単位互換制度に留まらず、
さらに多様な交流関係に発展させることを検討している。経営システム工学専攻では、国
際的制度をさらに整備活用することについて検討している。
また、交流を有効かつ弾力的に実行していくために研究科内部に専門委員会を組織して
検討を重ねる。語学留学を含め、今後国際的な交流を促進していくことが望まれる。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では、社会人特別入試制度と外国人留学生入試制度を施行して社会人ならびに
外国人留学生を積極的に受け入れている。受け入れ実施状況については点検項目「4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法」と「4−(5)
社会人の受け入れ」の項に述べるよう
に、専攻により相違はあるものの両者とも年々増加の傾向にある。
社会人学生は、多くの場合新しい知識と技術を習得するとともに学位論文を書くことに
よって異なる環境の中で新知見を得ることを目指している。したがって、指導教員との共
同研究の形になることも多く、このことは他の大学院学生にも大きな刺激を与えている。
現在は、すでに実績を積んでいる社会人が主として博士後期課程に入学している状況であ
り、博士後期課程に在籍している学生の大きな部分を占めている。博士前期課程に入学す
る社会人は少ないが、教職に就いている社会人入学が増えるものと期待されている。
外国人留学生には、国費留学生のように生活費まで含めた形の奨学金の給付を受けてい
る者、学費免除の形の支援を受けている者、そして私費留学をしている者がいて、それぞ
れ自国の事情を背景としつつ勉学活動を続けている。外国人留学生は、入学当初より日本
文化(日本事情)に関する講義を受ける他、心理カウンセリングを受けることもできる。語
学研修は学部課程には課せられているが、大学院課程には制度として設置されていない。
外国人留学生には、外国人留学生で博士後期課程に在籍している者が助力するというチュ
498 第3章 大学院
ーター制度が整備されている。また、異文化の中で異なる言語で勉学活動を続けていくた
めの履修上の指導を行っている。教員側に対する措置として、外国人留学生の担当教員に
はこのような教育上の配慮にともなう負担に対して指導手当を加給している。
社会人学生と外国人留学生に対してカリキュラムを別に用意することはしていないが、
各人の状況に応じて研究指導を行い、勉学活動を進める上での配慮をしている。
【点検・評価】
本研究科博士前期課程への進学者数は増加傾向にあり、高度な専門的知識と広汎な視野
を持つ技術者など社会のニーズに応えうるに足る十分な人材を育成する状況にある。した
がって、学生の能力と資質に適合し偏りが無いように研究指導を行うための方策を立てる
必要がある。
社会人と外国人留学生の受け入れは、大学審議会が掲げている大学院機能の強化に向け
ての方策である「一般社会に開かれた大学院」と「大学院の国際化」を推進する上で基本
となるものであり、本研究科がこれを積極的に実施して実績を積み成果をあげつつあるこ
とは評価される。
しかしながら、社会人学生は自らが所属する組織の業務を優先する必要があるため、時
として大学院における勉学活動が予定どおりにできない場合がある。本研究科における研
究指導が、この現実の状況を必ずしも十分に配慮して行われているとはいい難い。
【長所と問題点】
社会人ならびに外国人留学生に対する教育課程が、通常の学生とは異なる事情にあるこ
とを考慮して、弾力的に編成されていることは長所である。外国人留学生に対しては、大
学院学生の場合心理カウンセリングなどの異文化間に生じ得る問題に対応する組織的な検
討が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新しく研究・勉学活動を行う計画を持って進学してくる社会人の他に、すでに研究実績が
あり学位取得を主たる目的とした社会人の受け入れに積極的に取り組む。このような事業
は他の大学院学生に大きな刺激を与えるのみならず、大学院課程の活性化を促し研究科自
体が産学連携の共同事業と関係することも考えられる。
国公立の中・高等学校の完全週休2日制の実施にともない、土曜日に講義科目などを配置
することによって教員を社会人として受け入れることが可能になるので、この形での博士
前期課程への社会人の受け入れについて検討する。このことは教員の再教育と中・高等学校
教育の充実に貢献することにつながる。
企業からの社会人学生で基礎学力を必要とする場合には、これを補うために学部に設置
されている授業科目を履修できるように制度化することを検討する。
<数学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では中・高等学校の教員も受け入れるように配慮されている。いわゆる 14
条(土・日曜日と5時限目以降に授業科目が受講できる)に基づいて門戸を開いているが、実
際には適用されていない。博士後期課程に入学を希望する外国人留学生に対しては、修士
論文の内容と研究計画について面接を行って評価している。
【点検・評価】
499
外国人留学生は現在までに研究生を含めて3名を受け入れたのみで、実績は多くない。
社会人の受け入れについては博士前期課程と博士後期課程共に実績がある。社会人の受け
入れは数学の学際化とともに後期課程に重点を置いて推進しようとしている。
【長所と問題点】
本専攻における社会人と外国人留学生の受け入れ制度は現実的で弾力性があることが長
所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人と外国人留学生の受け入れは、博士後期課程の充実を図るうえで重要である。第
一段階としてすでに実績をあげている社会人と国費留学生を中心に受け入れ実績をあげて
いく。4時限目と5時限目の授業を交替に行うなど授業科目の設置に工夫を加えて実現す
る。
<物理学専攻>
【現状の説明】
社会人学生、外国人留学生とも、原則的には一般入学の大学院学生と区別しないように
配慮している。居室環境なども一般入学大学院学生と同じである。
【点検・評価】
特に外国人留学生には、日本人大学院学生との接触が豊富になり、よい日本語環境にな
っている。
【長所と問題点】
在職のままの社会人入学生は、昼間の授業の受講が困難なため単位の取得が難しい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
在職のままの社会人入学生も受講できるように、一定の科目の夕方開講を検討する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
一般入試、外国人留学生入試、特別入試(帰国子女、社会人等)、外国人研究生受け入れ
制度等により積極的に受け入れている。担当教員により個別に教育課程編成および教育研
究指導を実施している。また、TA制度やRA制度により教育研究活動の強化・充実を図
っている。
【点検・評価】
社会人学生や外国人留学生は比較的少人数であるため、教育上の配慮は適切になされて
いることは評価できる。一方、今後増加するこのような学生に対してグローバル化に向
けた体制が必要である。
【長所と問題点】
個々の学生へのきめ細かな教育研究指導がなされていることは長所である。社会人学生
や外国人留学生の増加にともなう教育研究指導体制の充実を組織的に検討するに至ってい
ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生に対する教育課程の編成(昼夜開講制等)を検討する。また、外国人留学生
に対する外国語教育の充実を図る。
<精密工学専攻>
500 第3章 大学院
【現状の説明】
外国人留学生に対しては、「数学」、「力学」、「日本語小論文」と面接によって評価し、入
学を許可している。主として中国および東南アジア諸国からの留学生で毎年1∼2名が入
学している。
【点検・評価】
卒業までには日本語が流暢になり、専門分野において一定の学力が身につくことは評価
される。
【長所と問題点】
異なった文化を身につけた学生との交流は、日本人学生と外国人留学生の双方にとって
良い結果を生む。しかしながら、学生によっては英語をまったく勉強しないで来日するこ
とがあり、このような場合には教育に著しい支障をきたす。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国人留学生を受け入れるに当たって英語の試験は行うべきとの意見がある。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
社会人の受け入れについては、すでに実績を持つ専門職に就いている人材を受け入れて
いる。研究指導は弾力的に行っているが、毎年度2、3名の博士学位を授与している。外
国人留学生の受け入れ体制を整備し、修了後の進路も視野に入れて研究指導を行っている。
研究生として来日し、語学研修を経て博士前期課程に入学する学生も多い。
【点検・評価】
外国人留学生の場合、日本文化の中で日本語で勉学を行うため、本専攻の研究分野がき
わめて国際的であるとはいえ、教育研究指導には十分配慮している。
【長所と問題点】
社会人学生、外国人留学生の受け入れを積極的に行うために学位基準にについて十分検
討を重ねている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人、外国人留学生の受け入れは、博士後期課程の充実を図る上で重要である。すで
に専門職に就いて実績をあげている社会人や国費留学生を中心に実績をあげていく。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
外国人留学生入試、特別入試(帰国子女、社会人等)などの制度により受け入れている。
本専攻では韓国からの留学生を受け入れた実績を持つ。
【点検・評価】
これまでの受け入れ実績は十分とは言えないが、今後、ポスト・ドクトラル・フェロー
も含めて受け入れ枠を増やすことが望ましい。
【長所と問題点】
社会人および外国人留学生は日本人学生に社会性、現場での先端技術、諸外国の文化、
国際性などいろいろ好ましい影響を与える可能性がある。しかし、社会人学生、外国人留
学生の学位基準については検討する必要がある。また、外国人留学生についてはアジア地
域からの留学生が主であるが、本学大学院への入学を前提とした日本学術振興会奨学金の
501
推薦依頼の要望がかなり多く、外国人留学生については経済的支援の充実が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人との連携を深めるための民間企業との共同研究、社会人、外国人留学生の受け入
れに必要な外部資金の導入と研究スペースの確保が不可欠である。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
博士後期課程に入学してくる社会人の研究指導については柔軟に対応している。外国人
留学生は通常日本語学校で語学研修を済ませて入学してくるため、言語の点で特別な配慮
はしていない。分野によっては日本語で学ばねばならず研究指導の上で配慮している。
【点検・評価】
社会人学生は主として博士後期課程に在籍しているが、優れた実績をあげている。外国
人留学生は、日本人学生と豊富な接触を持つことにより、良い環境を得ている。
【長所と問題点】
在職した形で博士前期課程に入学した社会人学生が授業を受講することは一般的に困難
さをともなう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人を博士前期課程に受け入れた実績はないが、今後検討する。外国人留学生が日本
語で学ばざるを得ない分野を専攻する場合の研究指導のあり方について検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
社会人学生、外国人留学生は増加の傾向にある。特に博士後期課程の学生はこれまで社
会人であった。
【点検・評価】
社会人学生が多数在籍していることから、本専攻が社会の必要性に対応していることが
わかる。外国人留学生が増加していることは、国際交流の観点や留学生の勉学の意欲を受
け入れる枠組みができているという点で評価できる。しかしながら、社会人に対しても一
般学生と同じ試験を課していることについては検討の余地がある。
【長所と問題点】
高度な専門知識の習得が短期間で可能であるようにするために、博士前期課程の講義内
容が学部での講義を前提としている。そのため、他大学において教育を受けた者に対する
配慮が必要である。講義はすべて平日昼間に行われるため、社会人学生は業務との両立が
難しいという点がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生の場合、担当している業務に特化した専門的知識に偏っているため、前提と
なる知識の補充、時間割りの工夫などが必要である。
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
502 第3章 大学院
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
「連携大学院」の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑦
研究指導等
<理工学研究科>
【現状の説明】
博士前期課程における教育課程では、必要とする知識を習得するための授業科目を受講
できるように整備されている。
「論文研修」と呼ばれる研究指導では、専攻分野に関するセ
ミナーを通じて情報交換を行い、研究課題への接近について検討し、研究成果は学位論文
の形に集約される。
博士後期課程における教育課程では、指導教員の助言の下に研究課題を定め、これに応
じる研究成果をあげるべく研究指導が行われる。実験や計算機実験を行う場合には、必要
に応じて学生が所属する研究室が協力する。研究課題の内容により複数の専門家の助言が
与えられる。所期の研究成果が得られた時点で、本学学位規則に従って学位論文を作成す
る。
本学では大学院研究科共通の申し合わせとして「大学院の副指導教授制に関する了解事
項」を定めている。これに準じて本研究科では 1997 年度より研究指導体制の充実・強化を
図るため、指導教授と共同して指導の任に当たる副指導教授制を実施している。
また、学生の研究課題に対して本研究科の専門分野が対応しない場合に備えて、他大学
大学院や研究所に委託して指導を受ける制度(委託研究指導制度)を運用している。過去3
年間の委託学生の実績は、すべて博士前期課程で 1999 年度に電気電子工学専攻2名、土木
工学専攻1名、2001 年度に電気電子情報通信工学専攻1名であった。
毎年行われる授業編成に際して、各専攻の授業科目の追加変更を行い、それに合わせて
学則別表の改正を行っている。理工系大学院、とりわけ研究者養成と高度専門職業人養成
の機能を持つ博士前期課程における教育研究への社会的ニーズが高まり、そのニーズに応
えるべく、特色ある大学院、個性ある専攻をモットーに、広がりのある選択に対応可能な
カリキュラム編成、履修制度を行っている。数学専攻、物理学専攻、土木工学専攻、精密
工学専攻、電気電子情報通信工学専攻、応用化学専攻では半期科目にカリキュラムを改正
し、多様化した学問領域に柔軟に対応し、また、最先端の内容を基礎から応用まで学べる
ようにするとともに、9月入学制に対応できるカリキュラム改正を行った。
【点検・評価】
博士前期課程における教育課程は、必要とする知識を習得するための授業科目は十分に整
備されている。
「論文研修」と呼ばれる研究指導は、専攻分野に関するセミナーや実験を通
じて行われる。一般的に修士論文は研究成果として新しい結果を含む優れたものであり評
価される。
博士後期課程における教育課程では、研究課題に応じて目標とする研究成果をあげるべ
く研究指導が行われる。実験や計算機実験を行う場合には学生が所属する研究室が協力す
る。研究課題の内容により指導教授など複数の専門家の助言が与えられる。所期の研究成
503
果が得られた時点で、本学学位規則に従って学位論文を作成する。このような研究指導は
適切である。
副指導教授制度は、学生にとってその研究対象を広げる上で有効であるのみならず、指
導教員同士の学術的交流を促進することにもなり評価される。
【長所と問題点】
博士前期課程ならびに博士後期課程共に研究セミナーに加えて学位論文を作成する過程
で研究活動がきめ細かく行われていることは、本研究科における研究指導の長所である。
また、他大学の大学院や研究所に委託して指導を受ける制度(委託研究指導制度)を運用し
ていることも一つの特徴である。
しかしながら、他大学大学院や研究所に委託して指導を受ける制度(委託研究指導制度)
は実績が少なく、今後の積極的な運用が期待される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程における研究指導をより充実したものにするために、学位審査件数を増や
すべくあらゆる可能性を検討する。大学院課程の充実と研究指導の拡充のために関係する
独立研究法人と連携大学院の形で連携していくことについて検討する。
<数学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程1年次で数学特別演習と論文研修の科目を設置して研究室単位でセミナー
を通じて研究指導を行うとともに、修士学位論文の作成に必要な基礎的準備を行う。2年
次では論文研修のみの科目となるが、研究指導をより充実したものとしている。学内推薦
入学決定者に対しては、大学院授業科目の履修を認め、大学院入学後に単位を認定する制
度を採用している。博士後期課程では、研究成果の学会や研究集会での発表を推奨してい
る。個別の研究指導は時間にとらわれることなく必要に応じて行われており、良い効果を
あげている。
【点検・評価】
博士後期課程の学生の多くが学会や研究集会での発表を行うようになり、発表件数は増
えつつある。個別研究指導では学生と教員とは頻繁に接触しており、優れた成果をあげつ
つあるのは評価できる。
【長所と問題点】
研究指導が指導教授に一任されているため、研究内容に偏りが生じることを防ぐ必要が
ある。合同ゼミや特別講義などで研究室間の交流を進めることを検討する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学会発表を奨励し、指導教授との共著の形ででも論文発表の実績をあげるよう工夫する。
大学院課程の充実と他の教育研究機関との連携を深めるために委託研究生や研修生の制度
を積極的に活用する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では、課程修了までに学会発表を奨励している。
「論文研修第1、第2」で
は各研究室単位で、ゼミや輪講形式で指導が行われている。学内推薦入学決定者について
は、学部在学中に大学院授業科目の履修を認め、大学院入学後に単位を認定している。
504 第3章 大学院
博士後期課程では、課程修了までに研究課題の論文が学術雑誌に掲載されることが義務
づけられている。個別の研究指導は、1教員あたりの学生数が4∼5名のため、学生と教
員との接触が豊富でよい効果をあげている。
【点検・評価】
現在、博士前期課程在学生の約半数が課程修了までに学会発表を行っていることは十分
評価できる。発表件数は増えつつある。学部学生の大学院授業科目履修の実績はまだ少な
い。個別研究指導では学生と教員との接触が頻繁に行われており、よい効果をあげている
のは評価できる。
【長所と問題点】
学会発表の奨励は長所であるが、各研究室の指導教授に一任されている。この結果、学
生間の指導の一様性に多少の難がある。学部学生の大学院授業科目履修の制度は、学部学
生に興味を起こさせる効果もあるので良い制度だが、実績が少ない原因を検討する必要が
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学会発表の奨励を今後さらに徹底して指導することが望まれる。
「論文研修第1、第2」では各研究室単位ではなく、類似あるいは共通点のある研究室
が合同でゼミ、輪講を行うなど、研究室間の交流を推進する方策が考えられる。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程の修学年限は2年間、博士後期課程は3年間である。ただし、優れた研究
業績をあげた者についてはそれぞれ1年、2年でも修了することが可能である。履修モデ
ルや研究内容については、本専攻の「履修要項」に毎年度詳述されている。
高度の専門性を要する職業等に必要な高度な能力を養うために、博士前期課程では講義
科目のほかに1年次で論文研修第1、2年次での論文研修第2では研究室単位でのゼミを
通じた研究指導を受けている。博士後期課程では、専攻分野について研究者として自立的
に研究活動を行い、またはその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度な研究能
力およびその基礎となる豊かな学識を養うことを目指している。基礎となる学識および専
門性を有する能力を育成(学内の教員のみが講義している)するために、専門分野の理解が
深まるよう各教員が、基礎から応用にあたる講義を用意している。
社会人のための社会人博士後期課程の設置をしている他、博士後期課程の学生は、1年
次の9月に研究計画書を、2年次の 12 月末日までに研究経過報告書を、それぞれ指導教授
を経て研究科委員会に提出させている。プレゼンテーション能力とディスカッション能力
を育成するために修士論文については中間発表と最終発表会を行っている。
【点検・評価】
学会での積極的な発表を通じて積極的な研究交流の推進を促すと共に、カリキュラム以
外の指導については個別に各教員が対応し、問題意識の向上に努めている。また、高い能
力を有している学生には、学会や夏季のゼミを通じて、他大学、他機関の教員・研究者ら
との交流を進めることにより、専門性をより高める工夫を行っている。学会発表ならびに
国際会議での発表件数はきわめて多く、2000 年度は土木学会優秀発表者4件の実績をあげ
ている。学会等での発表等、他大学の学生、先生との積極的な交流に努めている。また、
505
研究者または専門家による特別講義を開催して教育研究活動の活性化を図っている。
【長所と問題点】
将来の改善・改革方策を継続的に見直す体制が十分ではない(短縮修了の要件など)。ま
た、広い視野にたって清深な学識を授けるだけの十分な講義の提供は必ずしもできていな
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専攻会議を充実させ、学生の意見を取り入れる場を設定する。また、副指導教授制を活
用することについて検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
研究分野を機械サイエンス系、メカトロニクス系、エコ・プロセス系の 3 分野に分けて
カリキュラムを編成し、各系に配置された研究室でその趣旨と内容を実施するための研究
指導を行っている。研究は実験が多く、実験の合間に指導教員が指導時間を多く取ること
ができるためきめ細かい指導が行われている。副指導教授制を採用しており、教員数で
2000 年度に博士後期課程2名、2001 年度は博士前期課程1名、博士後期課程2名であった。
【点検・評価】
実験における指導の他に研究発表の機会を多くとり、研究の進み具合を常にチェックし
ている。研究室ごとに週2回のセミナーを行い、実験装置を実際に使っての研究指導のほ
かに実験装置そのものの設計製作や測定の実施を通じて指導教員によるきめ細かい指導を
行っていることは評価される。
【長所と問題点】
学生との対話時間が多いことは良いことであるが、精密工学は実学であり、大学の研究
者の視点からだけの指導で十分であるとはいえない。3つの系に分けたことによって研究
目標が立てやすくなり、学位論文の指導がしやすくなったことは最大の長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程1年次より同じ研究室に所属しているため、研究内容に偏りが出てくる可
能性がある。研究発表は外部の人(特に企業人)に見てもらうべきである。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻が対象としている研究分野は、ますます多様化し広範囲なものとなっているため、
研究分野を電力・制御、電子・電子回路、情報・通信の3つのグループに分けてカリキュ
ラム編成し、各グループに配置された研究室で特徴のある研究指導を行っている。1名の
教員が 10 名程度の学生を担当することがあるが、研究の進捗状況を把握するために中間発
表を行っている。副指導教授制度を採用しており、教員数で 1999 年度に博士前期課程6名、
博士後期課程1名、2000 年度に博士前期課程9名、博士後期課程3名、2001 年度に博士前
期課程5名、博士後期課程5名であった。
【点検・評価】
カリキュラムが強電系、弱電系、通信系と分かれていて共通の基礎科目がない。これら
の広範な研究分野に対して専門的知識を修得させるために、学内推薦入学決定者に対して
大学院授業科目の履修を認め、大学院入学後に単位を認定する制度は効果をあげている。
506 第3章 大学院
また、本専攻の研究分野が多岐にわたるため、実務経験を有し優れた業績を持つ人材を特
任教授として招聘し、大学院課程の教育研究指導の充実を図っている。
【長所と問題点】
社会的要請が強く高度に発展しつつある本専攻の研究分野において、基礎に重点を置き
つつ最先端の知識と専門技術に関する教育研究指導を行っていることは大きな特徴である。
また、本専攻のカリキュラムは本専攻にかかわる重要分野すべてを網羅するように構成さ
れている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学会や研究集会など外への発展を奨励し、論文発表の実績をあげるようにする。副指導
教授制度のさらなる活用など、研究室間の交流を推進して研究内容に偏りがないようにす
る。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程の学生は修了までに少なくとも1回学会発表することを課している。実験
が中心の個人指導であり、発表の要旨を書いたり練習を行って学会発表に臨んでいる。修
士論文作成に当たっては、1年生に対して 12 月上旬に研究状況の中間発表会を実施してい
る。発表会には全教員が参加し、発表は1人7・8分程度、質問を5分程度としている。
発表要旨を作成させて全員に配布、2001 年度からは発表要旨を製本して保存することとし
た。博士前期課程の授業の評価に関しては各教員に任されている。学内推薦入学決定者に
対しては大学院授業科目の履修を認め、大学院入学後に単位を認定している。
博士後期課程の学生の在学期間は長くなる傾向にある。学生の研究の進捗状況は指導教
員ひとりに任されている。博士学位取得までのスケジュールの確認など他の教員の参加も
必要と考えられる。
【点検・評価】
教員の授業内容や成績採点の適切性についての他者の評価は受けていない。また、大学
院推薦入学決定者の大学院授業科目履修制度は、研究分野の専門科目を受講する上で、ま
た研究遂行上大変効果的である。また、専門知識の修得および学生の興味を持たせること
ができる。
【長所と問題点】
研究分野に即した授業科目が多く、横断する形の分野に関する授業科目が少ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
諸外国の制度で Comprehensive Examination のような制度の導入もひとつの方策と考え
られる。共通の基礎科目を増やしていくことを検討する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では、人間、情報、システムをキーワードとして教育研究領域を定め、工学の立
場から貢献できる分野を中心にカリキュラムを編成し、学位論文作成のための研究指導を
行っている。経営システム工学の研究課題に取り組むにはさまざまな知識や技術が必要と
され、単一の視点からのアプローチでは解決が困難であることを考慮し、研究指導は複数
の教員(主指導1名、副指導1名)が担当している。
507
【点検・評価】
研究内容の幅が広いため、さまざまな分野の授業科目を履修せねばならない。現在は担
当教員の研究分野で充当しているが、研究指導が十分ではないので、学外から関係する専
門家を招聘して研究指導を補充する必要がある。研究指導は指導教員に任されているが、
その効果は中間発表のときに評価される。したがって内容が不十分である場合には指導教
員の反省事項となる。
【長所と問題点】
博士後期課程では、取り上げた研究課題の内容や学生の事情に応じて研究指導の時期・
場所などの細かい点まで配慮し、研究成果を最もあげやすいように体制を整備している。
分野によっては企業からデータを提供してもらい、共同研究の形に発展させることができ
ることから大学院学生には新しい形での研究活動を体験させることができる。大学院学生
の研究室配属には偏りがあり、専攻を調和の取れた形で充実させる状態になっていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
企業から最先端で実績をあげている人材を招聘し、1人3回程度講義を依頼することを
検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、通常の研究室内の発表に加え、修士論文の中間発表会と最終
の修士論文を専攻として実施している。研究室を横断する発表の場として、大学院学生セ
ミナーを実施している。博士後期課程でも授業を実施している。
【点検・評価】
研究室での発表、中間発表の実施や学会発表を行わなければならないことによって、各
学生の進度や研究内容が明らかになるため、学生の到達度に加えて教員の指導のあり方を
見直すことができる。授業科目が専門に直結した内容が多いため、カリキュラムを分かり
やすくしコースなどのガイダンスがあるほうがよい。可能な限り受講したとしても 10 科目
程度であるので、連携させる工夫が必要である。
【長所と問題点】
全教員によって本専攻の分野に真正面から取り組んでおり、各学生への研究指導が行わ
れている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程の学生数が増加することを考慮し、研究指導体制について常時検討を加え
る。授業科目間の関係が明確になっていないところがあり、今後重点的に改良を加える。
3−(2)
教育研究指導方法の改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科における研究領域は、理学基礎分野と工学の主要分野からなり、いずれも最先
端の科学技術に関わるものである。したがって大学院課程における教育研究は急速に発達
する科学技術に即応するものでなければならない。各専攻にあっては、その担当する研究
508 第3章 大学院
分野の独自性や特性を反映しつつ幅広い視点に立って教育目標を定め、それらの目標を実
現すべくカリキュラムを編成して大学院学生が最新の知識を修得できるようにするととも
に、社会の要請に適合する研究課題を選択して具体的な成果があげられるように研究指導
を行っている。
博士前期課程においては、幅広い視野の下で最新の専門的知識を身に付け、社会におい
て大きく貢献できる人材の育成を目指しており、そのための教育研究指導がどの程度効果
をあげているかは、講義中に行われる学生との会話やレポートを点検するとともに、実験
や各研究室のセミナーにおける教育研究指導を通して評価されている。各専攻では研究状
況の中間発表会や修士論文発表会を開催しており、専攻に所属する教員が共同でその評価
を行っている。
博士後期課程においては、自立して研究し、技術開発を行う能力を修得深化させること
を目指しており、研究室や専攻内での研究発表はもちろんのこと学会や研究集会での発表
と論文発表を通じて外部からの評価を受ける。
学会等での発表状況は海外での発表を含め、博士前期課程で 1998 年度 145 件、1999 年
度 152 件、2000 年度 153 件、博士後期課程で 1998 年度 14 件、1999 年度 20 件、2000 年度
26 件である。本研究科全体では3分の1程度の学生が学会等で発表を行っている。
【点検・評価】
博士前期課程にあっては、各専攻で1年次に中間発表会を行い、2年次には修士論文発
表会を行って研究成果を評価している。専攻によっては少なくとも1回の学会発表を要求
している。学生に対する教育研究指導の効果は、これらの発表の準備や緊密な交流を通じ
て評価される。各専攻とも学生数は充足しているが、指導体制も十分に整備されおり、学
生の意識に応じて教育指導方法を点検し即応することができる。博士後期課程においては、
研究室単位のセミナーに加えて研究集会や学会での発表、論文発表を通じてその研究成果
が評価され、それによって教育研究指導の効果について検討している。
【長所と問題点】
博士前期課程は各専攻とも比較的多数の大学院学生を擁するものの、指導体制は充実し
ており、常にその指導方法が検討され、専攻単位で改善を図っている。専攻によっては、
学年を通じた縦の連携が薄く、研究指導の継続性が失われていく可能性があることは問題
である。博士後期課程については、各専攻とも充足するに足る学生数を確保していない状
態であるが、確実に博士学位を取得させるべく指導を行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各専攻の研究室は、独自の教育目標と方針を持っているため、学生の意識や価値観の変
化を踏まえた教育研究指導方法に改善することが難しい状況もある。これを回避するため
に専攻を通じて指導方法改善に向かって協力する体制を構築する。
<数学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、各研究室と研究室を横断するセミナーにおいて研究指導が行
われ、各学生の研究の進捗状況を評価しつつ、その状況に応じて指導方法を検討している。
修士論文作成と修士論文発表会準備を通じて教育効果の測定を行っているほか、修士論文
に対しては担当教員による審査会を設け、判定とともに指導方法について専攻全体で検討
509
している。博士後期課程に在籍する学生の数は少ないが、社会人や外国人留学生がいて相
互に刺激しあっており、博士学位の取得に向けて熱心な研究指導が行われている。
【点検・評価】
博士前期課程においては学生数が多いものの、教育研究指導体制が充実しており、修士
論文発表会や論文審査会を開いて教育研究指導の状況がすべての担当教員によって点検さ
れている。近年学生の研究活動に関する意識が変化しており、このことは教育効果の測定
方法に反映されなければならない。
【長所と問題点】
社会人や外国人留学生もいて日本人学生と相互に刺激しあっており、研究環境は良好で
ある。しかしながら、学年を通した縦の連携が少なく、研究指導の継続性が保てないこと
は問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学年によっては研究活動の活性に偏りがあるので、恒常的に研究に対する意識を高める
方策を検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程については、指導教授による個別の判定以外では、学会発表と課程修了前
に行う修士論文発表会が、教育効果を判定できる場である。博士後期課程については、毎
年の学会発表、および学位論文公聴会が、教育効果を判定できる場である。
【点検・評価】
博士前期課程の教育効果の測定に、学会発表を活用しているのは評価できる。この方法
は、論文作成を含めてその準備のために指導教員が学生と密接に交流しているので、教育
効果測定の方法として評価できる。
【長所と問題点】
学会発表以外には公の判定が修士論文発表会のみであるのは教育効果を評価するうえで
不十分である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
適切な時期に、適切な規模の中間発表会を行うことを検討する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程2年次において、夏休み明けの9月に中間発表会を開き、これまでの研究
成果と今後の課題などについて主査、副査2名を交えて議論を行う。さらに、修了間近の
2月に修士論文発表会を行い、研究内容に関する議論やプレゼンテーション能力などの判
定を主として成績評価としている。また履修科目の修得度を評価する方法として、学年末
の試験や学期中のレポート等により成績を評価し、その結果によって教育効果の測定を行
っている。
【点検・評価】
研究室に配属された学生に対し、指導教員はセミナー、実験、観測・調査、データ解析
などの研究指導を通じてその効果を常に測定し、副指導教員や上級の学生と共に指導方法
を検討している。また、授業科目の担当者の成績評価によって、指導教員以外の教員によ
510 第3章 大学院
る教育効果の測定が行われ、その結果を研究指導に反映させている。
【長所と問題点】
各学生の資質に応じてセミナー、実験、観測・調査などの多角的な観点から教育研究活
動の効果を見ることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究室配属が決まった後は、ほとんどの場合配属が固定されてしまうため、研究分野は
特化され視野が狭くなる恐れがある。この傾向を是正する方策を検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
全教員の前で口頭発表という形式による最終試験を行っている。A4判2枚にまとめた
レジュメを用意し、全教員が質問をする形で教育研究指導の効果の検討を行っている。
【点検・評価】
全教員の評価を総合し、優秀な者にはベスト・プレゼンテーション賞を授与している。こ
の形式は、教育研究指導の効果を目に見えるものにする。
【長所と問題点】
博士前期課程の授業科目では、十分に推敲されたレポートを提出させて修得度を評価し
ている。発表者はその態度まで含めて手順よく発表するように指導している。しかしなが
ら、発表時間が 15 分程度と短いのが難点である。博士後期課程では、理工学研究所に所属
させて助成を得ることができることから学生にとって大きな長所となる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専攻内での研究成果の発表に2日または3日を設定し一人あたりの発表時間を十分にと
って、教育研究指導の効果の測定を十分に行い、将来の改善に資することを検討している。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程1年次では、3月に研究状況の中間報告書を提出させて教育研究指導の効
果について評価している。2年次では 10 月に研究課題の審査を行い、2月には修士論文審
査を行って研究指導の効果測定を行っている。
【点検・評価】
博士前期課程1年次の3月に研究状況の中間報告書を提出させて評価することは学生の
問題意識を明確にし、研究目標を定める上で有効である。2年次における修士論文作成を
中心とする研究の評価プロセスは学生各人にとって適切な研究指導体制を整備する結果を
与えている。
【長所と問題点】
専攻全体で教育研究指導の効果の測定結果について検討する場合、分野間の評価基準の
統一が困難であることは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程においては、学会発表と論文作成が要求されているが、博士前期課程にお
いても学会発表を推奨している。これを義務化することを検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
511
履修科目についての教育効果を直接測定することは困難であるが、試験やレポートの評
価に加えて中間発表会での発表を通じて間接的に効果測定を行っている。研究指導につい
ては、半数以上の研究室で博士前期課程の学生と教員との共著で学会発表を行っている。
【点検・評価】
相当数の学生が博士前期課程修了時までに最低1回、多い学生では4回学会で登壇者と
なっていることは教育研究指導の効果が上がっているものとして評価できる。また数名程
度であるが国際会議での発表を行っている。学生が学会で発表する際の旅費の援助は効果
的に使われている。学会への参加は、最先端の学問レベルを知るだけでなく、活発な研究
を行っている他大学の学生を知ることで刺激を受け、また、目的の研究が認められること
により学生の能力が飛躍的に向上する場合が非常に多い。学会発表は他者の客観的評価が
得られるので重要である。
【長所と問題点】
本専攻の研究内容は主として実験の分野にかかわるものであるので、学生の学会発表は
かなりの教育的効果をあげている。指導教授が参加する学会の研究集会に参加し、他大学
の教員・学生と交流することは「研究の最先端の現場」を知ることにより学生の研究意欲向
上に役立っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程・後期課程共に大学院学生が学会発表と研究集会に参加することをさらに
推進する。また、論文を書かせることにも重点を置く。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では1年次と2年次に3回の発表が課せられており、そのための準備を通
じて教育研究指導の効果について測定している。博士後期課程でも研究の進捗状況につい
て報告するための中間発表を課している。
履修科目の修得度はレポートの評価と平常点で測定している。研究指導に関しては、研
究室別のセミナーで輪講形式が多く学生にとって相当の準備が必要である。指導教員は常
時学生と接触することになり、研究指導の効果について評価がなされている。他に中間発
表、最終発表、学会発表の準備や発表要旨の作成を通じて教育研究指導の効果について評
価されている。
【点検・評価】
博士前期・後期課程における発表を通じて複数の教員から研究指導による効果の客観的
な評価が得られるほか、これらの評価と各研究室内でのきめ細かい教育の効果の測定がな
されている。
授業や研究室でのセミナーにおける指導に加えて、異なる形の研究発表を通じて教育研
究指導の効果の測定がなされている。研究は複数の学生が同じ研究課題に向かうため、い
くつかのグループに分かれる傾向にある。
【長所と問題点】
指導教員に加えて他の教員の指導を受けてさらに資質が向上することが認められる。し
かしながら、学年を通じて縦の連携がないことは研究の継続や研究指導の面で支障が出る
場合がある。
512 第3章 大学院
毎年度大学院学生を擁する研究室には継続性があり、学年を通じた縦の連携ができ、好
ましい研究環境になっている。博士前期課程では 3 回の発表の機会があり、博士後期課程
でも研究の中間発表を課していることから、学生の資質に応じたきめ細かい教育研究指導
の効果を測定できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
毎年度大学院学生を擁していることは、研究を継続し活性化させる上で重要である。学
生の間に縦の連携を持たせることを検討する。
博士後期課程における研究状況の中間評価の方法について検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、修士論文の中間発表会と最終の修士論文発表を専攻として実
施しており、すべての教員によって、教育研究の効果のチェックが行われる。また、修士
の学位取得のためには、学会や研究集会において発表することが原則として義務づけられ
ている。現在は副指導教授制を運用していない。
【点検・評価】
中間発表の実施や学会発表を行わなければならないことによって、教育効果の測定が適
切に行われている。
【長所と問題点】
各研究室における研究指導に加えて、大学院ゼミの形の共同指導体制をとっていること
は長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
比較的新しい専攻であるとはいえ、今後学生が増加する状況に対応する体制を整える。
博士後期課程における研究の中間評価の方法について検討する。
3−(2)− ②
成績評価法
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科における研究領域は、急速に発展している科学技術の主要分野に直接かかわる
ものである。したがって、毎年度教育研究指導の効果について点検し、カリキュラムを再
検討して指導方法の改善を図っている。各専攻においては、担当研究分野の学問上の特性
に基づいて独自の成績評価方法を確立しているところではあるが、大学院課程にあっては
これらが単なる個々の学生の成績評価に終わることがあってはならない。各専攻は所属す
る学生の資質向上を検証するための成績評価法を専攻の研究分野の特性に基づいて多面的
に検討し改善を加えているところである。博士前期課程にあっては、広い視野の下に専門
的知識を修得し、学生各自が選択するところの研究課題の下に指導教員と共に研究を進め、
修士論文としてまとめあげることを目標としているから、成績評価はこの目的に資するも
のとして理解されている。博士後期課程にあっては、自立して研究目標を立て指導教員の
助言の下に新しい研究成果をあげることが要求されており、学位審査の対象となる学位論
文を完成することが最終的な成果であると理解されている。
【点検・評価】
513
博士前期課程にあっては、各専攻で要求する講義科目、演習、実験、調査を通じて専門
的素養を身につけ、セミナーや修士論文の作成を通じて専門的知識を深化させ研究能力を
培うことがどの程度達成されたのかについて評価しており、その評価は学生の資質向上の
状況を比較的よく検討できるものと判断される。博士後期課程においては、高度の専門性
を必要とする研究活動に従事するために研究室単位での研究指導にとどまらず、研究集会
や学会における研究発表や論文発表により外部からの厳正な評価を受けることになり、学
位論文の完成をもって一つの区切りとしての成績評価が与えられることになる。
【長所と問題点】
博士前期課程では、多角的に各学生に対する評価が行われ、資質の向上を検証できる。
しかしながら、研究課題によっては博士前期課程の期間中に所期の成果をあげられないこ
ともあり、一律の成績評価法が十分機能しない可能性がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の資質向上の状況を検証するための成績評価は遅滞なく学生にフィードバックされ
るべきものであり、現在採用している成績評価の形態が研究指導の改善に向けて直ちに反
映できるように研究分野ごとの組織的な取り組みを検討する。この目的のために、複数の
教員から指導を受けるようにする副指導教授制度、学外からの評価を受けられる委託研究
制度、学外の関連分野の専門家から指摘やレビューを受けることができるゲスト・スピー
カー制度、学生同士の相互評価を可能ならしめるようなTA制度の活用などを視野に入れ
て新しい評価法を検討する。また、このような成績評価の伏線として、各専攻において系
やグループに類別されている研究室で履修モデルを作成し、成績評価項目を策定すること
は実質的であろう。
<数学専攻>
【現状の説明】
講義科目に対してはレポート、試験、講義時間内における発表の内容によって評価し、
学生の資質向上の状況を検証している。論文研修においては研究室毎のセミナーでの発表
内容や参加状況を評価し、資質向上の状況について判断している。努力や達成度に応じて
100 点満点として素点で評価している。
【点検・評価】
通常の成績評価項目に留まらず、修士・博士学位の論文作成を通じて明らかな資質向上
が見られる場合には高く評価している。学生一人ひとりに対してきめの細かい成績評価が
行われ、研究指導や研究内容の高度化に反映させている。
【長所と問題点】
研究課題によっては専攻分野や研究室を横断する形で指導を受けることができ、学位論
文作成に有益であることが多い。このような場合には異なる分野から研究成果の評価を受
けることになり、多角的に資質向上の検証ができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程と博士後期課程共に研究状況について中間報告を行い、研究課題と内容に
関する審査会を組織することを検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
514 第3章 大学院
授業科目についての成績評価法は、授業担当教員に任されている。研究指導においても、
論文研修などにより指導教員を中心に評価されている。
【点検・評価】
少人数指導制により、きめ細かな指導と評価が行われているのは評価できる。
【長所と問題点】
講義科目や研究室でのセミナーなどでは成績評価が個々の教員に任されているので、評
価基準や評価方法に相違が生じている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
物理学専攻会議で成績評価基準ならびに評価方法について議論を行い、専攻としての基
本的な考え方について検討する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程の2年間に、土木学会年次学術講演会や各分野における全国大会に相当す
る学会において研究発表できる内容の研究をしているか否かを成績評価の判断材料の一つ
として設けている。
【点検・評価】
専攻での発表会では、指導教員は発表者に助言しないことにしている。学生がどのよう
な質問に対しても自分で対処できるように訓練するとともに、専門用語を使わず分かりや
すく説明することも推奨されており、このような指導と成績評価法は学生の資質向上の状
況を検証するうえで有効である。発表会では学生間の議論が活発になることが望まれる。
ほとんどの指導教員が学生に学会発表を行なわせており評価される。
【長所と問題点】
学会支部での発表やレベルによっては全国大会の発表を学生に経験をさせることにより、
プレゼンテーションの能力が育成される。成績評価をカリキュラムに反映させることは容
易なことではない。幅広い視野の下に専門的知識を修得するという目的を形式的に達成す
るために、単位合わせのために受講する傾向があることは否定できない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究指導体制の整備に加えて教育システムの改善を行うために、学生の資質向上の状況
を検証するための成績評価法について検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
講義科目ではレポート、研究室内での輪講では発表の準備状況と内容で成績評価を行い、
博士前期課程・後期課程ともに中間発表で全教員が評価できる体制をとっている。修士論
文発表会は、すでに提出された修士論文の審査と博士前期課程の最終試験を兼ねており、
指導教員全員が主査・副査として出席する。研究発表後は主査・副査による口頭試問があ
り、学生の資質向上についての最終的な評価・判断を行っている。
【点検・評価】
指導教員は学生の研究発表により、目標に適合する資質の向上があったかどうかについ
て評価を行う。発表の要旨を作成して全教員に配布するため、専攻全体で研究成果と到達
度の評価を行うことができる。
515
【長所と問題点】
学生の学習活動ならびに研究活動の状況についての点検を常時行って適切に指導するよ
う努めている。しかしながら、専攻内の規程などで組織的に取り組んでいるわけではなく、
各教員が独自の成績評価を行っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学会や研究集会での発表回数や研究成果の公開などを義務づける方向で検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
講義科目は試験とレポート、研究室内のセミナーでは発表の準備状況と内容で成績評価
を行い、研究活動については中間報告と研究課題審査によって資質の向上の状況について
評価している。博士前期課程では修士論文審査と発表会での内容によって最終的な評価を
行っている。博士後期課程では、2 年次において内容審査を行って研究状況を点検評価し、
3年次に博士学位の審査を行って最終的な評価を行っている。
【点検・評価】
研究室配属を調整して偏らぬようにし、きめ細かい研究指導と評価を行って到達度や修
得状況について成績評価している。学生の成績評価を多角的に行えるように副指導教授制
度を活用していることが特徴である。
【長所と問題点】
研究課題が多様であるため、研究分野や研究室を横断する指導を受けることができ、学
位論文作成に有益である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
分野によっては成績評価の基準が異なり、専攻として統一することは容易ではないため、
整合性のある評価体制を整備することについて検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
講義科目についてはレポート、試験、授業中の試問を行い内容の修得度を評価している。
研究指導については、研究室内のセミナーに加えて中間発表や学会発表を通じて研究の内
容を客観的に評価している。博士後期課程における資質向上の評価は論文発表を基準にし
ている。他大学の授業の受講、兼任講師や訪問研究者との交流を通じて資質の向上を図っ
ている。
【点検・評価】
本専攻では実験による研究指導が多く、指導教員が学生と接触する機会が多いため、学
生の資質向上に関して常時評価ができる。講義科目の成績評価は担当教員に一任されてい
るため、教員によって幅があり、最終試験を行うようにしている。全体の傾向については
専攻内の会議で検討され、今後の講義内容や指導方法に反映される。
【長所と問題点】
他大学での講義の受講や研究室訪問は学生にとって良い刺激となっており、この点も視
野に入れた資質向上の評価を行っている。本専攻の研究活動は主に実験によるものである
ため、常時研究の進捗状況を点検評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
516 第3章 大学院
博士後期課程における社会人学生、外国人留学生に対する成績評価法について再検討し、
資質向上の評価を行って学位審査の効率化を図る。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
講義科目についてはレポートを課して成績評価を行っている。研究指導は研究室内のセ
ミナーを輪講形式で行い、指導教員がその準備状況と内容によって評価している。博士前
期課程においては中間報告を行うことを義務づけており、指導教員が主として評価を与え
るが他の教員からも注意や意見が加えられる。
【点検・評価】
学生の努力や達成度に応じて 100 点満点とし素点で評価している。学生の順位づけが必
要になる場合には、この素点評価の変化を追跡することによって学生の資質向上の状況を
評価できる。学位論文発表会では専攻全体で研究成果と達成度の評価を行うことができる。
【長所と問題点】
学習活動ならびに研究活動の状況についての点検を常時行って適切に研究指導するよう
努めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各教員の評価の適切性について確認し、今後の研究指導に反映させるとともに専攻に共
通する客観的な成績評価法について検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
講義科目においては、レポート、講義時間内における発表、試験などによって、成績評
価を行う。論文研修に関しては通常のセミナー時における発表や参加状況に基づいて評価
を行っている。
【点検・評価】
努力や達成度に応じて、素点で評価することによって、個人別の成績評価が細かく行わ
れている。
【長所と問題点】
本専攻では研究内容が多岐にわたっているため、専攻分野や研究室を横断する形で指導
を受けることができ、学位論文作成に当たって有益である。このような場合、他の研究分
野から異なる立場での成績評価を受けることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究内容の紹介を行うことによって履修・研究指導のコースを提案できるようにする。
教員間の相互交流とともに他の研究室との交流を図り、これに応じた成績評価法の共有化
について検討する。
3−(2)− ③
教育研究指導の改善
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科における教育研究指導は急速に発展し多様化する科学技術を的確に把握し、主
要な局面に真正面から取り組むものでなければならない。各専攻は、その担当分野にあっ
517
て独自の理論的基盤を構築し、その上に立った接近法や手法を駆使して現代科学技術の健
全で調和の取れた発展に貢献するべく最善を尽くしているところである。したがって、本
専攻の最大の使命は新世紀の科学文明を担っていく人材を育成して社会に供給していくこ
とである。この目的のために、本研究科ではさまざまな状況に対応できるような弾力性の
あるカリキュラムを編成し、最新の情報と知識を提供するための講義科目を設置するほか、
実験、実習、調査の実施計画を立て、本研究科の充実と活性化を図るべく研究指導の目標
を定めている。
博士前期・後期課程とも研究の中間報告を行い、複数の教員による研究指導を通じて教
育研究指導方法の改善に向けた組織的な取り組みを実施しようとしている。
【点検・評価】
講義科目の配置については、相当な部分について授業科目の半期制度化を実施して、よ
り多様で弾力性を持たせるようにしている。このようにして授業科目の選択肢を増やすと
ともに、従来作成することが困難とされているシラバスを基にして授業計画を立てること
を容易にしている。研究状況の中間報告のほかに、学会や研究集会での研究発表や論文発
表を強く推奨している。このような研究指導による教育上の効果は大きく評価される。学
生による授業評価の組織的な導入については現在検討中である。
【長所と問題点】
講義科目が関連する分野の最先端の動向に触れ、他方で受講者の研究上の興味と関連を
持たせて行われていることは重要である。研究室内でのセミナーに留まらず、講義でも受
講者と意思を通じ合って授業評価を教育研究指導に反映させていく方向にあることは意義
がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究科の充実と定員管理の問題は複雑に絡み合っている。本研究科の理念と目標に適合
しない便宜的な理由で進学してくる学生に効果的に対応し、可能性を秘めた人材を啓発し
ていくためのカリキュラムの策定や研究指導を通じた学生への多様な取り組みについて実
質的に検討を重ねる。
<数学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程における講義課目では、数学の多様な進歩に即応する知識と情報を提供し、
今後の可能性と発展の方向を示唆するように講義を行っている。博士前期課程・後期課程
の研究指導は、別々のセミナーを設置するものの可能な限り共通に学生が参加できるよう
にして、教員の教育研究指導法の改善を可能にし、授業評価を反映するようにしている。
【点検・評価】
授業を通じて提案する課題に対して強く反応する学生もあり、研究室を横断する研究指
導ができることは評価される。講義科目の内容によってはシラバスを作成することによっ
て授業計画を固定化することは必ずしも適当ではないと判断される。状況に応じて最新の
学術論文を基に講義を行うこともある。博士前期・後期課程を通じて研究活動を通じた研
究指導は相応の効果をあげている。
【長所と問題点】
博士前期・後期課程共に研究活動を通した研究指導は相応の効果をあげているが、近年
518 第3章 大学院
の学生には意識の変化や価値観に変化が見られ、今後の専攻の活性化と充実を図るために、
多様な学生への対応を組織的に取り組む必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導方法の改善を常に検討することは必要であるが、これらの改善策は学生や
関係者に情宣することが重要であり、この目的のために本専攻のホームページを組織的に
活用することについて検討を進める。研究室単位のセミナーに加えて関係分野が合同セミ
ナーを組織し、教員と学生が一体となって研究を進める時間的、空間的配置について専攻
全体で組織的に検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
1998 年度までにセメスター制(授業科目の半期制)化について検討を行った結果、1999
年度より段階的にセメスター制を開始して、2002 年度には完全にセメスター制に移行する
計画である。2002 年度からは、シラバスも完全に半期ごとの記述になり統一性がとれる。
学生の授業評価については、個々の教員が学生からアンケート調査をすることはあるが、
公式的な学生による授業評価制度は導入されていない。
【点検・評価】
セメスター制(半期制)により学生は授業科目の選択肢が増え、単位の修得に柔軟性が
得られた。
【長所と問題点】
セメスター制に移行後の通年の講義科目をシリーズ的に2セメスターにわたって分けた
授業科目に、毎年半期開講のものと、全期隔年開講のものを適切に組み合わせることによ
り学習効果を高めることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
シリーズ的な授業科目については、開講形式を検討する。セメスター制完全移行の機会
に、シラバスの形式の統一と記述内容の充実を図る。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
博士前期・後期課程とも、論文の中間発表を専攻全体で行い、全教員参加のもと、きわ
めて熱心に質疑が行われる。こうした取り組みの教育上の効果には目覚ましいものがある。
また、外の学会などへの研究発表を積極的に推奨している。現状は、所属する研究室で直
面する研究課題に、比較的性格が近い科目を中心に履修をさせている。他方、既存科目の
シラバスの整備や相互調整などは、これからの課題である。学生による授業評価の導入は
行ってはいない。
【点検・評価】
土木専攻では、教育と研究を一体化させる認識が強い。
「研究活動を通じた教育効果」か
ら離れた、教室による講義の位置づけについては、まだ専攻として議論が熟していない。
近年、大学院においてもスクーリングを重視する米国型の教育設計が、社会的にも有用性
を認められていることには、一定の認識は有している。
【長所と問題点】
学部と異なり、大学院の講義は参加者の研究上の関心にリンクさせる努力が評価される
519
べきであり、そのための柔軟性があってよい。また人数が比較的少ない状態でできること
から、「考えさせる」方向にもっていくこともできる。シラバスにおいても、過度に内容を
固定的に考えず、授業中の参加者とのコミュニケーションによって、効果的な講義を行う
教員も多い。これなどは、リアルタイムで「授業評価」をフィードバックしているというこ
ともできる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「研究活動を通じた教育効果の実をあげる」という見地からは、相応の成果をあげてお
り評価できる。近年の学生の意識の変化、とりわけ「研究を大学院進学の主たる動機としな
い」学生への対応が早急に問われる課題であろう。また、修士論文への要求水準を下げるこ
とは考えられないが、スクーリングの面で開講科目の再構築など、多様な要求(知識その
ものを広げたい、など)に応える方向性を目指すかどうかは今後の検討課題である。今後
専攻で研究指導と教育内容について検討を重ねていく。
すでに、新規開講科目の提案などを通して、大学院の授業のあり方を議論する取り組み
は緒についている。ここで学生の多様化への取り組みなども論じていくことになると期待
される。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
全研究室で掲示板を廊下側に付けてあり、本専攻の義務としてその研究室での研究内容
を公開している。これはシラバスに代わるものである。学生による授業評価に関しては、
多くの教員がレポートの最後に講義科目や授業の内容について書かせて教育研究指導に反
映させている。
【点検・評価】
修士論文発表会には教員と大学院課程の学生全員が参加し、修士論文の主査と副査によ
る審査・評価が行われる。発表者の中から特に優れた者3名に対してベスト・プレゼンテー
ション賞が贈られ、研究の活性化を図っている。
【長所と問題点】
掲示板は各研究室の研究内容を分かりやすく解説し充実しているが、より詳細に理解さ
せるためにはさらなる工夫が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究の内容と研究指導成果の公開の方法として、各研究室のホームページを充実させる
方向で専攻全体で組織的に検討している。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻で対象とする研究分野は多岐にわたるため、電力・制御、電子・電子回路、情報・
通信の3グループでそれぞれの授業科目の編成について点検・改善を図っている。これら
の授業科目では、研究室での研究指導では補えない最新の知見と情報を提供するようにし
ている。研究指導については、博士前期課程の学生に対して行われる中間報告、研究課題
審査、修士論文審査と博士後期課程の学生に対して行われる内容審査と博士学位審査を通
じてその指導方法の改善について専攻全体で検討している。
【点検・評価】
520 第3章 大学院
教育研究指導方法の改善等については、講義科目や論文研修の解説や履修ガイドの提示
を通じて「履修要項」、「大学院ガイド」、ホームページなどで情宣している。また、各教員
はオフィスアワーを設けており、その時間帯に学生は自由に教員と議論することができる
ため、間接的に授業評価が行われることになる。
【長所と問題点】
一部の科目でその内容や講義形態についてアンケートを実施しているが、アンケートの
実施方法が無記名であるため状況の正確な把握に限界がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導方法の改善について専攻内で検討して作成し直した履修要項の内容をイン
ターネットを用いた資料として配布することを検討する。学生に対するアンケートを専攻
が設置しているすべての科目で実施することを検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、応用化学分野でかなりの授業科目を用意して学生が持つ多様
な要求に応ずる体制を取っている。修士論文作成にあたっては、中間発表と最終発表が課
せられる。全教員が参加し、可能な限り研究指導評価に客観性を持たせる努力をしている。
中間発表要旨は 2001 年度から製本し、研究指導方法の改善に用いることにした。
博士後期課程においては、授業科目を必修としていないこともあり、学生は指導教員の
下で研究に専念している。学会や研究集会で研究発表を行うことにより、研究内容につい
て外部の評価を受けることになる。
【点検・評価】
ここ数年間の外国人留学生の博士学位取得はないが、博士学位の審査や博士後期課程の
修了時期が年に1回では留学生にとって不利である。また、社会人学生の学位や論文博士
の審査についても年2回は必要である。
【長所と問題点】
博士後期課程では、修了まぎわに大学院担当教員が全員参加する専攻内の審査を受ける
のみであるので、研究の中間報告が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士学位取得までの年月を短縮させるために中間審査あるいは進捗状況をチェックする
方法について検討する。研究室紹介をポスターで行うほか、シラバスに代わるものとして
各研究室でホームページを作成し、研究内容を公開する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では、1年次と2年次にそれぞれ中間発表を課し、修了時に最終発表会を
開いて研究成果の評価を行うが、これらの発表には専攻の担当教員が参加する。一定の水
準に達するまで研究指導を行い、研究成果が得られたら学会発表を行うことを推奨してい
る。統計学会や品質管理学会で毎年 10 件程度の発表を行っている。博士後期課程において
も定期的に研究の進捗状況を点検している。
【点検・評価】
発表に際しては発表の要旨を準備するが、他の研究室の教員や大学院学生も参加するた
521
めに分かりやすい説明とどのような質問に対しても対応できるように指導するため、結果
として専攻全体で教育研究指導の改善に取り組むことにつながっている。
【長所と問題点】
中間発表や最終発表を下級年次の学生も聞くことは非常に教育効果がある。このような
機会に問題の指摘や問題提起を行うことは、教員が教育研究指導の改善を図るうえで専攻
全体で考える動機づけを与えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
指導の改善に取り組む上で必要性が生じた場合には、研究指導を従来とは異なる形で充
実させることも検討する。たとえば理化学研究所などに委託することなどである。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程の講義科目はすべて通年であり、その内容は教員個人に任されている。研
究分野が急速に発展していることから博士前期・後期課程共にシラバスは配られていない。
しかしながら、学生と教員の間の交流は積極的に行われているので、学生の方から直接内
容に関する質問や要望を伝える機会は十分にある。
【点検・評価】
詳細なシラバスを年度初めに決めてしまうと、情報技術の発展に敏感に対応できなくな
ってしまう。現在はそれを行っていないため、最新の研究成果を講義に取り入れることが
できる。本専攻では研究領域の特性で対象とする研究内容が社会に直結して多様であるた
め、専攻全体で教育研究指導に当たっており、学位論文作成に際しても研究室外の教員か
ら意見を得ることができる。
【長所と問題点】
急速に変化する学問領域の性質上、1年を通しての授業計画が途中で変更されることが
多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
講義の内容ややり方を随時学生に伝える手段を大学院学生へのメーリング・リストとホ
ームページを用いて確保していく。研究内容の紹介を行うことによる履修コースや研究計
画の提案を行う。研究室間の交流を図り、教育研究指導方法の改善に向けて協力体制を構
築する。
3−(3)
国内外における教育研究交流
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本研究科の目標としては、本学大学院課程の目標である教育研究の活性化、博士学位
を取得し高度の研究能力や専門的人材の育成、先端的研究や新しいパラダイムの創出と世
界に向けた発信など新アカデミズムの実現、生涯学習・遠隔地教育への貢献と並んで国際
化ということが大きな柱となっている。本研究科の研究領域はすべて国際的な研究環境の
中で発展深化させるものであり、国際化への対応は研究科、専攻、研究室、大学院担当教
員、大学院学生の各レベルでさまざまな形で行われている。研究科としては、教育研究組
織の国際化の推進や国際交流を促進するための組織的・財政的支援を重点化し、国際会議
522 第3章 大学院
などの学術活動の支援、教員や大学院学生の国際交流に対する制度的・財政的支援を行っ
ている。各専攻にあっては、その研究分野に適当であると思われる国際化と国際交流を推
進することに取り組んでおり、外国人研究者の招聘、担当教員の在外研究や国際会議への
参加など研究交流を積極的に行っている。各教員にあっては、科学研究補助金を始めとし
てさまざまな形で得られる助成により国際的な研究活動を行っている。
2.本学では国際交流に関する制度を整備して、教育研究の交流の促進を図っている。通
常、専任教員の国際的研究交流は共同研究や国際会議への参加の形態で行われ、直接的交
流は短期間であるので本学の教員研究費や科学研究費による外国出張を通じて行われてい
る。
専任教員が国際会議等で発表を行う場合、座長となる場合、あるいは理事等として活動
する場合に、その旅費を支給する「学術国際会議派遣」制度がある。本学国際交流センタ
ーが所管し、国際会議等の開催の前年に申請を受け付け、センターの委員会での審議を経
て旅費が支給される。
専任教員が国際会議等の開催にあたってその責任者となる場合で、本学を会場として開
催する場合に、その運営経費の一部を補助する「学術国際会議開催」制度がある。本学国
際交流センターが所管し、国際会議等の開催の前々年に申請を受け付け、センターの委員
会での審議を経て補助が行われる。
本研究科の学生に対しては、研究助成の一環として大学院独自の「学術国際会議発表助
成」制度を設けている。
【点検・評価】
1.教育研究組織の国際化については、本研究科の多くの専攻の歴史が浅いこともあって、
必ずしも積極的に世界の人材を視野に入れるまでに至っていないが、短期間ながら外国人
研究者を招聘して教員も含めて研究指導を依頼しているほか、在外研究制度を設けて本研
究科教員の比較的長期にわたる国外での研究活動を支援するなど徐々にその基礎ができつ
つある。各専攻では研究科や本学理工学研究所の支援を得て、さまざまな規模の国際会議
を主催し、本研究科の国際貢献に大きな役割を果たしている。各教員は国際会議への参加
や海外での関連分野の専門家と共同研究を進めるなど積極的な国際研究交流を推進してい
る。
2.科学研究費、教員用研究費、その他外部資金が当該年度に不足している場合、国際交
流において十分な成果をあげることが困難である。このような場合に備えて国際交流制度
は有益であり評価される。
【長所と問題点】
1.本研究科の国際交流の推進に関する基本方針は、その国際交流プロジェクトが大学院
課程における教育研究指導に支障がない限り支援と助成を行うところにある。本学の国際
交流センターを通じた事業や本学理工学研究所の協力と支援を受けつつ益々成果をあげて
いくことが期待される。
2.国際交流制度に表されているように、本研究科の国際交流に対する取り組み方が積極
的であることは大学院改革の観点からしても大きな長所である。しかしながら、近年では
国際会議が頻繁に開催されるようになり、その規模も大きくなる傾向にある。補助金の枠
と助成申請期間に関して一層の弾力化が望まれる。
523
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.本学の主要目標のひとつである世界に開かれた大学院を実現するために、各専攻の協
力の下に関連する海外の教育研究機関と柔軟な形で提携し、制度的にも予算的にも安定し
た形での教育研究交流が行えるような体制作りについて検討する。本研究科に優れた世界
の人材を招聘するための準備として高い資質を持つ外国人若手研究者、外国人留学生の組
織的な受け入れについて検討する。
2.本研究科において国際交流を推進するために、招聘研究者の宿泊施設を整備確保する
ことを検討する。国際交流センターと連携しつつ提携校の枠を拡充することについて検討
する。
<数学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、国際交流センターの「学術
国際会議派遣」制度によるものが 1999 年度に2件、2000 年度に1件、2001 年度には3件
である。本専攻では国際的レベルの事業として「数学との遭遇」事業を行っており、すで
に5年間で 20 回開催している。この事業は、分野やテーマを限定せず年 4 回定期的に開催
されている。また、毎年3、4件の外国人研究者による講演会を組織しているほか、日本
応用数理学会環境数理研究部会の研究会や本学理工学研究所や本学研究開発機構の支援の
もとで国際的な研究集会を組織している。
【点検・評価】
本専攻で主催する「数学との遭遇」事業は学生のみならず国際的レベルでの研究者の交
流に大きな貢献をしており、すでに多くの研究者が参加しその規模も大きくなっているこ
とから評価される。近年は暗号理論に関する研究集会や環境数理研究会などの学際的な研
究集会が組織されている。国際交流協定については本専攻としても改善の希望があり、今
後の課題となっている。また、
「学術国際会議開催」制度による会議開催の実績はない。
【長所と問題点】
学術国際会議発表助成制度など、大学院学生が在学中から学会等で積極的に発表する機
会が与えられており、このような制度を有することは長所である。在外研究制度によって
12 カ月間海外研究を通じて国際的な関係を築きあげることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院学生の国内会議発表助成を外国で開催される国際会議での研究発表助成に使用で
きることも検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に2件、2000 年度に1件、2001 年度には2件である。また、
「学術
国際会議開催」制度による会議の開催はない。教員の交流は、理工学研究科の項にも記し
たようにきわめて盛んである。物理学は元来国際性の高い分野なので、国際的学術雑誌へ
の論文投稿、国際会議への参加と研究者との交流、外国人研究者のセミナー開催などの形
で、国際化への対応には実績を積んでいる。
【点検・評価】
524 第3章 大学院
学生の研究指導の観点から外国人留学生の受け入れもしくは在学生の留学を念頭に置い
た体制づくりはなされていない。個別に対応しているのが実状である。
【長所と問題点】
これまでの外国人研究者のセミナーは比較的専門的な内容なので、専門分野外の学生が
参加しにくい。学生の個人的な海外留学の例はあるが、国際交流制度を利用した留学の例
はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
一般学生が聴講しやすい外国人研究者のセミナー開催を検討する。国際交流制度を利用
した海外留学制度があることを学生に周知徹底し、可能性のある学生には海外留学を奨励
する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に6件、2000 年度に2件、2001 年度には6件である。また、
「学術
国際会議開催」制度による会議の開催は 2001 年度に1件である。本専攻における教育研究
の高度化・多様化・個性化と国際化・国際交流の推進はすべて必須の課題である。国際化
や国際交流を推進していくことは、本専攻が国際的に認知された知的共同体としての地位
を獲得するための道のりである。国際的に認知されるためには、外国人教員の任用を推進
して世界に開かれた専攻とすること、そして、先端的国際共同研究を推進して、グローバ
ル化を図ることが重要である。本専攻では、研究科全体で用意されている各種の国際交流
システムを活用して、教員・学生の相互交流を活発に実施している。
【点検・評価】
教員・学生の相互交流を実施して、専攻構成員の流動化を進めることを行っている。
【長所と問題点】
留学生教育、外国語教育の拡充・強化を通じて、教育体制全般の国際化を進めることが
重要であるが、現在は外国人留学生が少なく、外国人教員の任用や、留学生を意識した外
国語教育を実施するには至っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際的第三者による点検・評価を受け、客観的・国際的評価を獲得する環境を整備する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に3件、2000 年度に8件、2001 年度には7件である。また、
「学術
国際会議開催」制度による会議の開催実績はない。本専攻では研究分野の性格上専攻の国
際化とそれにともなう国際交流を推進することは必須であるという認識を深くしている。
【点検・評価】
教員により個別に国際研究交流が行われているが、より緊密な教育研究交流を推進する
ために現在専攻全体の国際化に向け検討を進めている。
【長所と問題点】
教員の個人レベルでの研究交流に止まっており、専攻としての国際化への対応には遅れ
525
が出ており、基本方針の策定が望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際化への対応に関する専攻としたの基本方針を定め、これに則って国際化に取り組む。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に 11 件、2000 年度に5件、2001 年度には 17 件である。また、
「学
術国際会議開催」制度による会議の開催は 1999 年度、2001 年度に各1件である。本専攻
の研究分野の性格上、専攻の国際化は必須の要件である。
【点検・評価】
教員の国際交流はきわめて活発である。また、専攻としては外国人の客員教員を招聘し
て教員組織の国際化を図るとともに外国人訪問研究者による講演会を組織して教員と大学
院学生がこれに参加している。また、ゲスト・スピーカー制度を活用して指導的立場にあ
る外国人研究者に講演を依頼し、指導やレビューを受けている。
【長所と問題点】
大学院学生が高いレベルの研究成果をあげた場合、学生の国際会議派遣制度を運用でき
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院学生が聴講しやすいような外国人研究者によるセミナーの開催について検討する。
国際交流制度を利用した学生の海外留学制度の活用について検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に4件、2000 年度に7件、2001 年度には9件である。
「学術国際会
議開催」制度による会議の開催実績はない。外部資金や学内の助成による外国出張が活発
に行われている。このほか、1998 年より毎年度1名ずつが在外研究制度により海外での研
究活動に従事している。
【点検・評価】
相当に知名度の高い国際会議でも日本での組織・開催には経済的問題がともなう。しか
しながら、教員は本学の国際的な知名度の向上のためにも本学での開催に努力すべきであ
ると判断される。現在は、外国人研究者を積極的に招聘して教育研究交流を行っている。
【長所と問題点】
「学術国際会議派遣」制度は各教員の資質向上に非常に役立っている。最近では国際会
議が頻繁に組織されるため、本学のさまざまな助成制度は有効である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
「学術国際会議開催」制度などを利用して本学において国際会議を組織することは、そ
の準備のために関係教員や大学院学生が関係することになり、本専攻の国際化に貢献する
ことが期待される。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
526 第3章 大学院
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に4件、2000 年度に5件、2001 年度には5件である。また、
「学術
国際会議開催」制度による会議の開催実績はない。国際会議への参加のほかに教員が国際
的に行う活動として技術指導や共同研究のために海外企業に出張することがある。ISO
関係の会議に出席して国際的活動を行っている。
【点検・評価】
本専攻の各研究分野において外国人研究者を招聘して講演会を開催し、関係する教員と
大学院学生が参加している。本専攻の研究分野は社会の高度情報化と急激な変化に深く関
わるため、世界全体のグローバル化に対応するため国際化への対応は専攻としての最重要
課題である。
【長所と問題点】
大学院学生の国際会議での発表を推奨しており、その教育効果はきわめて大きい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専攻全体として外国人研究者を積極的に受け入れて講演会やセミナーを組織していくこ
とを検討する。大学院学生のテクニカル・プレゼンテーションに関する指導が望まれる。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本学の制度による本専攻の 1999 年度以降の教育研究交流は、「学術国際会議派遣」制度
によるものが 1999 年度に 3 件、2000 年度に2件、2001 年度には2件である。また、
「学術
国際会議開催」制度による会議の開催実績は 1999 年度に1件である。その他、科学研究補
助金や外部資金により国内外における教育研究交流を積極的に行っている。
【点検・評価】
講演会、関連分野の権威による教員を含めた短期の研究指導など、国内外における研究
交流は十分に行われている。国際交流センターの支援を受けるためには1年前より計画す
る必要があるので、外国人研究者の招聘については本学理工学研究所の支援を受けること
が多い。
【長所と問題点】
各教員の研究交流は国内外を問わず積極的に行っているが、学生の研究交流は一般的に
不足している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国人研究者による講演や他大学大学院学生によるセミナー講演など、大学院学生が参
加できる機会を増やす。大学院学生の国際会議等への積極的参加を視野に入れる。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科における修士学位の授与方針は、広い視野に立って専門的知識を修得し、専門
的研究能力と高度な専門的技術を身に付けたことを明確に示す研究成果をあげた者を修士
学位を受ける基準が満たされていると認定し、博士前期課程における目標が達せられたも
527
のとして学位を授与するというものである。
2000 年度の修士学位の授与状況は、理学修士 17 名、工学修士 242 名である。1990 年度
から 1999 年度の修士号取得者数の状況は、毎年、理学修士は 10 名から 30 名程度で平均
22 名、工学修士は 80 名から 180 名で平均 132 名であった。学位審査は、審査委員選出、
最終試験、審査報告を経て学位授与が決定される。
博士学位の授与方針は、自立した研究者として研究活動を行い、高度に専門的な業務に
従事する上で必要な研究能力を身に付け、その専門分野の基礎となる学識を有し、しかも
その研究分野で新しい意義のある研究成果をあげた者を、博士学位を取得する基準が満た
されていると認定し、博士後期課程における目標が達せられたものとして博士の学位を授
与するというものである。
2000 年度の博士学位の授与状況は、課程博士7名、論文博士2名である。1990 年度から
1999 年度の取得者数の状況は、課程博士が毎年1名から8名で平均4名、論文博士が毎年
2名から7名で平均4名である。
博士学位の審査は、次のような審査方法・手続により厳正に行っている。課程博士の場
合、1)審査委員は主査1名、副査4∼5名を研究科委員会で承認、2)公聴会を行い、3)
審査委員による口頭試問、4)審査報告は研究科委員会において論文審査報告を行い評価し、
5)授与決定は研究科委員会で承認される。
修士論文の場合、1)審査委員選出は主査1名、副査2名を研究科委員会で承認、2)最
終試験は修士論文発表と審査委員による口頭試問、3)審査報告は研究科委員会において論
文審査報告を行い評価し、4)授与決定は研究科委員会で承認される。
【点検・評価】
修士学位の審査と手続は適正である。また、博士学位の審査に関してはほとんどの場合
審査委員(副査)の1名は学外の専門家を依頼している。
1991 年度に経営システム工学専攻、1996 年度に情報工学専攻をそれぞれ設置したことも
あり、工学修士の取得者数は増加傾向にある。理学修士の取得者数は若干減少傾向にある。
【長所と問題点】
修士学位の審査は博士前期課程の目標に沿っているが、博士学位の審査は専攻ごとに弾
力的に行われており本研究科の長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程が充実していない状況であるが、十分に実績のある人材を見出して論文博
士の審査を積極的に行い、公聴会や審査報告を通じて研究科全体の活性化を図る。
博士学位の審査基準を見直して現代化する。
<数学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 10 名のうち9名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 13 名のうち9名が修士号を取得し、2000 年度在学者 10
名のうち8名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度、2000 年度に博士学
位をそれぞれ1名に授与している。
【点検・評価】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。博
528 第3章 大学院
士前期課程では修士論文発表会と審査会を設けて学位審査を行っている。博士後期課程で
は課程博士の審査条件として、共著の場合には有審査論文1編、他1編とし、単著の場合
は有審査論文1編としている。論文博士の場合には有審査論文2編、他1編をもとに審査
を行っている。
【長所と問題点】
発表論文をまとめた形の学位論文を提出させて審査できるようにしたことは実質的であ
り有意義である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
毎年度1名程度学会発表できるように指導する。論文博士の審査件数を増やすことで博
士後期課程の活性化を図る。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 16 名のうち 15 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 13 名のうち 12 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 10
名のうち9名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度、1999 年度、2000
年度ともそれぞれ2名に博士学位を授与している。
学位授与の方針・基準については理工学研究科の項に記述したとおりで、審査は厳正に
行われている。修士学位の審査では、修士論文発表会での口頭発表が最終試験となってい
る。また、博士前期課程では、必要履修単位数を最低 30 単位として、修得するべき知識に
一定の基準を設けている。
【点検・評価】
修士論文発表会の後、引き続き専攻会議で各発表について批評した後、主査・副査計3
名が合格不合格を判定しているので、一定の基準が保たれている。博士論文では、副査に
必ず外部機関の審査委員を含めているので、透明性と客観性が保たれている。
【長所と問題点】
修士学位の場合、標準修業年限で学位が取得できるよう研究指導がなされているのは長
所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
論文博士の審査件数を増やして大学院課程の活性化を図ることを検討する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 43 名のうち 41 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 48 名のうち 46 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 53
名のうち 51 名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度・1999 年度に博士学
位をそれぞれ1名に授与している。
大学院課程に入学し、所定の単位を修得し、審査に合格した者は特別の事情がない限り
学位が授与されている。本専攻における修士の学位の基準は、所定の単位を取得し、試験
に合格し、かつ修士論文の中間発表ならびに最終発表において全教員の賛同を得られるこ
ととしている。審査に当たっては教員全員で判定することにより適切性を保持している。
博士の学位の基準は、所定の単位を取得し、
「土木学会論文集」またはそれに準ずる雑誌
529
に有審査論文を少なくとも2編以上発表し、学内審査により全教員の賛同が得られており、
主査および副査による慎重な審査を受けた後、公聴会において全員の賛同が得られること
としている。最終決定は、研究科委員会において投票により与えられる。
【点検・評価】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。有
審査論文が少なくとも2編あること、および、副査には可能な限り本研究科他専攻より1
名、他大学より1名を任命することで適切性を保っている。
【長所と問題点】
透明性客観性は公聴会になるべく多くの参加者を求めることにより保っている。また、
他専攻、他研究機関に副査を依頼して客観性を持たせている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
論文博士まで含めて学位審査の件数を増やすことにより大学院課程の活性化を目指す。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 43 名のうち 41 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 37 名のうち 34 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 61
名のうち 60 名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度から 2000 年度にか
けては博士学位を授与の実績はない。いずれの場合も最終試験(口頭発表)は厳正に行い、
透明性と客観性を高めるようにしている。
【点検・評価】
全教員で審査しているが、学生一人あたりの評価の担当者は主査と副査で合計3名であ
る。最終試験においては研究成果について適切に発表し、他の担当教員の質問に的確に対
応できることを審査する措置を講じており評価される。
【長所と問題点】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。特
に、最終試験(口頭発表)を厳正に行っている。
審査は厳正に行っているが、全体的に審査時間が短いことは問題である。博士前期課程で
は研究内容が悪い者は3年にしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究成果の発表に関しては時間をかけて審査の透明性と客観性を高めるよう配慮する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 40 名のうち 38 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 47 名のうち 46 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 54
名のうち 52 名が修士号を取得している。2000 年度入学者のうち1名は1年で修士学位を
取得し、博士後期課程に進学した。博士後期課程では、1998 年度以降で 1999 年度に博士
学位を1名に授与している。
【点検・評価】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。現
在、博士学位の審査件数は未だ多くはないが、適切な審査体制を整備している。
530 第3章 大学院
【長所と問題点】
博士後期課程が充足していない現在、必然的に審査件数は少ないが常にレベルの高い学
位審査体制を整備している。論文博士や社会人学生の博士学位の審査も積極的に行ってい
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
十分に実績のある人材を見出して質の高い論文博士の審査実績をあげることにより博士
後期課程の充実を図る。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 32 名のうち 31 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 26 名のうち 26 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 30
名のうち 29 名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度、1999 年度、2000
年度ともそれぞれ1名に博士学位を授与している。
【点検・評価】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。修
士学位の授与数は近年増加の傾向にあり、大学院の充実と社会に貢献できる人材養成の立
場から評価される。
【長所と問題点】
博士論文の審査について、本専攻では内部の教員のみで論文審査委員会を構成すること
なく他機関からの審査委員を加えることで審査の透明性とレベルを保つようにしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
独立研究法人や企業の研究所に所属し、十分に実績を持つ人材を見出して質の高い論文
博士授与の実績をあげることにより、博士後期課程の充実を図る。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 13 名のうち 11 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 13 名のうち 11 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 15
名のうち 14 名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度以降で 2000 年度に
博士学位を1名に授与している。博士前期課程1年次で中間発表を行い、2年次で中間発
表と最終発表を行うことを課しており、いずれの場合も複数の教員の前で研究成果を報告
する形にしている。博士後期課程では、1年次に研究計画の審査があり、2年次に中間発
表を行い、3年次に専攻内審査を経て公聴会の形で最終発表を行った後、学位審査が行わ
れる。
【点検・評価】
本研究科で定める学位授与の方針・基準に従って弾力的ではあるが厳正に行っている。博
士前期課程の発表では複数の教員が出席することから、発表の内容に加えてプレゼンテー
ションの仕方に至るまで相当な準備が必要となり修士学位の基準に達しているか否かが判
定される。博士後期課程における発表と審査に当たっては主査と副査を始め関係分野の教
員に加えて他大学の教員も学位審査に加わる。
【長所と問題点】
531
学位論文の作成と発表の準備のためにきめ細かい研究指導が行われるため学位を取得す
る候補者は一定レベルに達することになり、学位授与の基準が満たされることになる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学位授与の基準は保たれているが、学位授与方針に適合する審査方法を改善して手続の
煩雑さを合理化し、研究指導をしやすくする。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の学位授与の状況は博士前期課程の場合、1998 年度在学者 18 名のうち 17 名が修
士号を取得し、1999 年度在学者 23 名のうち 20 名が修士号を取得し、2000 年度在学者 39
名のうち 35 名が修士号を取得している。博士後期課程では、1998 年度に1名、1999 年度
に3名、2000 年度に2名に博士学位を授与している。
博士前期課程においては、専攻で行われる中間発表(9月)、修士論文発表(2月)、学
会発表が原則として学位審査のための前提条件となっている。
【点検・評価】
学会では学生のみのセッションがあり、ベスト・ペーパー賞の制度は教育の効果が高い。
2月に行われる修士論文発表会の終了後、教員全員による最終評価と審査が行われる。博
士学位の審査件数も相応の実績をあげている。
【長所と問題点】
専攻内での発表と学会における発表が課せられていることによって、修士論文の内容は
学位にふさわしいものとなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
十分な実績を持つ人材を見出して博士学位の審査件数を増やして博士後期課程の充実を
図る。
「情報処理学会」では学生の発表が多いが、発表ができなくなった学生に対する適切
な措置について検討する。
3−(4)− ②
課程修了の認定
<理工学研究科>
【現状の説明】
修士学位に関しては、大学院学則第 44 条第2項において「在学期間に関しては、研究科
委員会が優れた研究業績をあげたと認める者については、本大学院博士課程の前期課程又
は修士課程に1年以上在学すれば足りるものとする」と定め、博士学位に関しては、第 44
条第1項で「在学期間に関しては、優れた研究業績をあげた者については、本大学院博士
課程に3年(博士課程の前期課程又は修士課程を修了した者にあっては、当該課程におけ
る2年の在学期間を含む。
)以上在学すれば足りるものとする」と定めている。
物理学専攻では 1999 年度に博士後期課程で1名が2年間で学位を取得した。電気電子情
報通信工学専攻では 2000 年度に1名が1年で博士前期課程を修了している。また、同専攻
の博士後期課程において 1999 年度に1名が2年間で学位を取得している。情報工学専攻で
は、博士後期課程で社会人特別入学者が 1999 年度に3名が2年間で、2000 年度に1名が
1年間でそれぞれ学位を取得している。応用化学専攻や経営システム工学専攻では、博士
前期課程の修業年限を標準修業年限としている。博士後期課程では、業績次第で修業年限
532 第3章 大学院
を短縮することの可能性もあるが、実績を評価することに重点を置く場合には逆に延長す
ることを勧める場合が多い。なお、1999 年度以降、数学専攻、土木工学専攻、精密工学専
攻、応用化学専攻、経営システム工学専攻では博士前期・後期課程ともに標準修業年限未
満での修了を認めた実績はない。
【点検・評価】
前期課程では、推薦入学の学生の場合、学部4年の卒業研究からの継続的な研究が可能
であり、優秀な学生には標準修業年限未満で修了の可能性があるので、このような学則を
設けるのは適切である。
博士後期課程では、博士前期課程から継続している場合、標準修業年限未満でも学位論
文を提出することは大いに可能であり、このような学則を設けるのは適切である。標準修
業年限未満の修了者は資質と研究成果に応じて自然に出てくるのを待てばよく、負担をか
けてこの形での修了者を出すことは問題である。逆に研究能力と実績の向上に重点をおい
て標準年限での修了を目指し、一定レベルに達しない者を3年間に延長している博士前期
課程の専攻もある。
【長所と問題点】
標準修業年限未満で修了することを認める措置を設置していることは重要である。しか
しながら、本研究科においては例が少なく、短期修了を認める基準が明確でない。他方、
情報工学専攻では、2001 年度に博士前期課程に入学した社会人学生がこれまでの実績から
1年で博士前期課程を修了させることが期待されている。この例のように実績がすでにあ
る人にとってはこの制度は有効である。
博士前期課程での標準修業年限未満での修了が可能であっても、幅広い情報や最先端の
知識を1年で修得することは、学部を卒業して直ちに大学院に入学した者にとってはむし
ろ問題となることが多い。また、実験による研究を主としている専攻では、実験の技量を
修得し経験を積むためにある程度の期間が必要であり、修業年限を短縮することには弊害
もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究能力や研究業績が顕著であることの基準を定めることや、標準修業年限未満での修
了の妥当性の判定の仕方についてさまざまな角度から検討する。今後の標準修業年限未満
での修了者を想定して基準や判定法を策定していく。他方で、研究者として活躍する人材
を育てるためには、学部教育と連携して博士前期課程を標準修業年限未満で修了できる制
度が有効に働くようにカリキュラムを見直すことが必要である。博士後期課程ではこの制
度を活用することを検討する。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
<理工学研究科>
【現状の説明】
本学理工学部を中心に、他大学学部を卒業もしくは卒業予定の学生、外国人留学生、社
会人を、一般入試、外国人留学生入試、帰国子女の特別入試、社会人特別入試、学部学科
から対応する専攻の博士前期課程への推薦入試、他大学学部から博士前期課程への学内推
533
薦入試(土木工学専攻のみ)、博士課程の前期課程から後期課程への学内推薦入試、学部か
らの特別進学(飛び級)入試(数学専攻のみ)、などの大学院入学試験制度によって受け入
れている。
募集にあたっては、本研究科ホームページ、他大学への募集案内、本学国際交流センタ
ーによる募集案内などにより行っている。ホームページには問い合わせ用のメール・アドレ
スを掲載し本研究科に少しでも興味を持つ者に対してメールでの案内も行っている。また、
主に学部の企画として実施している進学相談会で希望者には大学院進学に関する案内も行
っている。
1.博士前期課程
博士前期課程の入学定員(2001年度)は、数学専攻10名、物理学専攻25名、土木工学専攻
35名、精密工学42名、電気電子情報通信工学専攻40名、応用化学専攻35名、経営システム
工学専攻15名、情報工学専攻25名、合計227名である。学生募集の方法は次のとおりである。
(1)学内選考(推薦)入試
学部において優秀な成績を修め、博士前期課程に進学する者を優先的に受け入れる制度
である。全専攻で実施している。
(2)一般入試(夏季・秋季・春季)
定められた資格を有し、大学院に進学希望する者を受け入れる最も一般的な入試制度で
ある。全専攻で実施している。最近3年のこの制度による入試結果を下記に掲げる。
表1―①
1999年度
募集人員
数学専攻
志願者数
合格者数
入学者数
5
7
1
1
物理学専攻
15
14
3
2
土木工学専攻
20
51
26
26
精密工学専攻
20
24
12
12
電気電子情報通信工学専攻
20
30
14
14
応用化学専攻
20
20
13
12
経営システム工学専攻
10
8
5
5
情報工学専攻
20
23
19
17
130
177
93
89
募集人員
志願者数
合格者数
入学者数
5
14
3
3
物理学専攻
15
31
13
11
土木工学専攻
20
39
22
22
精密工学専攻
20
25
10
10
電気電子情報通信工学専攻
20
20
8
8
応用化学専攻
20
22
14
14
経営システム工学専攻
10
18
11
11
情報工学専攻
20
12
9
9
合計
表1−②
2000年度
数学専攻
534 第3章 大学院
合計
130
181
90
88
募集人員
志願者数
合格者数
入学者数
表1―③
2001年度
数学専攻
5
4
0
-
物理学専攻
15
22
9
9
土木工学専攻
20
54
29
28
精密工学専攻
20
30
10
9
電気電子情報通信工学専攻
20
37
12
12
応用化学専攻
20
30
19
14
経営システム工学専攻
10
26
16
16
情報工学専攻
20
16
14
13
130
219
109
101
合
計
(3)推薦入学特別選抜(他大学在籍学生推薦)
この制度は他大学の学部課程を修了した者を対象に、土木工学専攻に限定して2000年度
入試より開始した。他大学在籍学生の推薦制度である。
(4)特別進学(飛び級)入学試験
この制度は学部教育課程に3年以上在学した者を対象とする飛び級入学試験で、数学専攻
に限定して1991年度入試より開始した。
(5)外国において高等教育を受けた者に対する特別入学試験
この制度は外国において正規の高等教育を修了した者を対象に、数学専攻、精密工学専
攻、電気電子情報通信工学専攻に限定して1999年度入試より開始した。
(6)社会人特別入試(秋季・春季に実施)
この制度は数学専攻、物理学専攻、電気電子情報通信工学専攻、経営システム工学専攻、
情報工学専攻の5専攻で実施している。
(7)外国人留学生入試
最近3年のこの制度による入試結果を下記に掲げる。全専攻で実施しており、募集人員
は若干名とし、土木工学専攻では2000年度1名、精密工学専攻では2000年度1名、2001年
度2名、電気電子情報通信工学専攻では1999年度1名、2000年度1名、2001年度2名、応
用化学専攻では2000年度1名、経営システム工学専攻では1999年度2名、2000年度1名、
2001年度4名、情報工学専攻では2000年度1名、2001年度1名を受け入れている。
2.博士後期課程
博士後期課程の入学定員(2001年度)は各専攻とも3名で合計24名と定めている。学生募
集の方法は次のとおりである。
(1)学内選考(推薦)入試
数学専攻、精密工学専攻、電気電子情報通信工学専攻、応用化学専攻、経営システム工
学専攻、情報工学専攻の6専攻で実施している。
(2)一般入試
最近3年のこの制度による入試結果を下記に掲げる。数学専攻と応用化学専攻は春季の
535
み、その他の専攻は秋季・春季の2回実施している。各専攻とも募集人員は3名で合計24
名である。数学専攻では1999年度2名、2000年度3名、物理学専攻では1999年度5名、2000
年度2名、土木工学専攻では1999年度1名、2000年度2名、2001年度1名、精密工学専攻
では1999年度1名、電気電子情報通信工学専攻では1999年度2名、2000年度1名、応用化
学専攻では1999年度1名を受け入れている。経営システム工学専攻、情報工学専攻は3年
間での受け入れはない。
(3)博士前期課程を1年で修了する者の特別入学試験
この制度は本研究科博士前期課程を優秀な成績で修了する者に対しての選抜試験制度で、
1998年度入試より開始した。開始以来2名が入学している。
(4)社会人特別入試
数学専攻、土木工学専攻、精密工学専攻、電気電子情報通信工学専攻、応用化学専攻、 経
営システム工学専攻、情報工学専攻の7専攻で秋季・春季の2回実施している。
(5)外国人留学生入試
全専攻で実施している。最近3年のこの制度による入試結果を下記に掲げる。数学専攻
では1999年度1名、2001年度1名、精密工学専攻では1999年度1名を受け入れている。
「研究生」制度
学位取得を目的とせず、本研究科において研究を進めることを希望する外国の大学を卒
業した者を対象として、研究生制度を設けている。在籍期間1年で募集人員は若干名であ
る。その他聴講生制度を設けて学生を受け入れている。
【点検・評価】
学内推薦入試制度は、理工学部において優れた成績を修め博士前期課程に進学希望の学
生を受け入れて学部との一貫教育を有意義なものとする上で重要である。一般入試制度は
従来より行われ、入学状況の記録が示すように大部分の志願者はこの制度により進学して
おり、進学者数も増加していることから評価される。他大学在籍学生推薦制度は現在まで
に志願者がいないが、今後の実績を期待する。
社会人特別入試について、大学院充実のためには実績を持つ社会人や強い目的意識を持
つ社会人の受け入れは、順調に実績をあげており、今後益々重要なものとなると期待され
る。
外国人留学生入試について、アジア圏の国からの留学生が多いものの西欧諸国からの留
学生も受け入れている。大学院全体の国際化に貢献するのみならず、日本人学生に対して
も異文化を背景に持つ学生との交流は良い刺激を与えるものと評価される。
【長所と問題点】
他大学在籍学生推薦制度と飛び級入学試験は現在までに実績がなく、今後検討を要する。
いわゆる帰国子女受け入れのための特別入学試験については、1999 年度に制度を施行して
以来実績がないが、現在のように社会構造がグローバル化し国際化が進んでいることから
制度そのものの見直しが必要であろう。
主として学部への受験者に対して行っている進学相談会で、大学院進学に関する案内も
行っていることは博士前期課程への進学者が増加している中で学生に大学院進学への動機
付けを与えることになり、効果的である。
536 第3章 大学院
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程における学内推薦入試は、博士前期課程における研究活動により優れた成
果をあげ、さらに研究を続けることが適当であると判断される場合に適用される。加えて、
現在の就職状況を十分に分析して当該学生の進路を見極める必要がある。他に考えられる
具体的方策として、入学試験要項の無料化、進学相談会の積極的実施、
「大学院ガイド」の
充実などがある。
<数学専攻>
【現状の説明】
他大学出身者を含めて年2回の一般入試に加えて内部からの推薦入試を実施しているほ
か、飛び入学制度も整備している。また、外国において高等教育を受けた者に対する特別
入学試験を 2000 年度入試から導入し、数学を筆記試験として課し、全員に口述試験を実施
している。
【点検・評価】
本専攻は研究科の項に記したすべての入学者選抜方法を採用しているが、最近では内部
からの推薦による入学者が多く、一般入試による入学者を加えて博士前期課程は充足して
いる。現在まで外国において高等教育を受けた者の受け入れはない。1999 年度以来現在ま
で研究生の受け入れはない。
【長所と問題点】
内部からの推薦入試に関しては有資格者には事前に通知を行っており、学生が進路を考
える上で有効である。一方、学年を通した縦の連携が薄く、内部からの推薦の応募人数は
年度によって大きく異なるものとなり、前期課程における研究指導に継続性が失われる場
合がある。また、社会の急速な国際化にともない、外国において高等教育を受けた者の受
け入れについては、考え方を検討し直す必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院課程の人的充実と活性化のために研究生の受け入れを推進する。博士後期課程の
活性化のために社会人入試制度を積極的に活用することを検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻の入試選抜方法は理工学研究科の項に記述したとおりである。学内推薦を除いて
試験は博士前期課程・後期課程ともに物理学、英語、面接試験の3科目を課している。特
に博士前期課程の物理学の入学試験については、物理学の標準的な科目の中から出題し、
他大学卒業生に不利になるような出題は避けるように配慮している。
【点検・評価】
多様な入試形態は進学を希望する者にとって多くの機会を与えている。学力試験の水準
を下げて合格者数を確保することはしない。
【長所と問題点】
博士前期課程の入試日程が関係している可能性があるが、学力試験(特に物理学)の成
績が振るわず合格者が少数になってしまう場合がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
物理学の基礎科目が社会の実務とは離れているために、社会人入試の方法については検
537
討の余地があると考えている。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
多様な学生を受け入れるために学内推薦入試および秋と春の2回の一般入学試験を行っ
ている。また、外国人、社会人に対しても特別入試制度を実施している。学外からの進学
者を増やす方策として 2001 年度入試から学外推薦入試を始めている。
【点検・評価】
学内からの進学者の占める割合が大きい。外国人留学生の受け入れは少ない。研究生を
1999 年度に1名、2000 年度1名、2001 年度に2名受け入れており、研究生制度を有効に
活用していることは評価される。
【長所と問題点】
学内外に開かれた多様な形で学生の受け入れを行い、広く人材を求めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国人留学生を増やす方策として海外の大学(土木工学科)との協定を結ぶことを検討す
る。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
一般入試に関しては、数学や力学の問題が中心であるが各入試科目に合格最低点を設け、
この基準を厳格に守っている。研究生については、1999 年度に1名、2000 年度に2名、2001
年度に5名を受け入れている。外国において高等教育を受けた者に対する特別入学試験は
2000 年度入試から制度を導入している。
【点検・評価】
合格最低点(一般入試のみ)を設けたことで、学力のしっかりした者だけが合格するよう
になった。入学試験にふさわしい努力をしており評価される。研究生制度は有効に活用し
ている。現在まで外国において高等教育を受けた者の受け入れはない。
【長所と問題点】
外国人留学生特別入試では日本語論文の審査が中心となるが、本人による作成の信頼性
が必ずしも明確ではなく問題である。また、英語をまったく学んでいない外国人留学生を
受け入れることは入学後の教育研究指導の観点から困難さをともなう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
英語の学力をすべての入試で審査することが望ましい。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では、他大学出身者も対象にした年3回の一般入試に加えて、内部からの
推薦入試を実施している。また、外国において高等教育を受けた者に対する特別入学試験
は 2000 年度入試から制度を導入している。研究生については、1999 年度に2名、2000 年
度に3名、2001 年度に3名を受け入れている。
博士前期課程を修了していない場合でも、審査の上博士前期課程を修了した者と同等以
上の研究能力と実績を持つ者には博士後期課程への入学を許可している。
【点検・評価】
538 第3章 大学院
多様な入試制度を活用することによって進学希望者に希望を与えている。内部からの推
薦入学者が多く、一般入試による入学者と共に博士前期課程は充足している。現在まで外
国において高等教育を受けた者の受け入れはない。研究生制度は有効に活用している。
【長所と問題点】
現在の社会情勢を反映して博士後期課程の学生が少なく、専攻の活性化を図るうえで人
的資源の開拓が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国人留学生の入学を許可する場合に、日本語に関する要求水準を策定する。国外にお
ける3年制大学を卒業した者を一旦研究生として受け入れることを検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻の入学者選抜方法は理工学研究科の項に記したとおりである。学内推薦を除いて
一般入試では専門科目と外国語および口述試験を課している。博士後期課程においては社
会人特別入試を実施し、社会との連携を図っている。
【点検・評価】
各研究室の定員を4名としており、13 研究室で 52 名程度が研究室のスペースからも限
度であることは問題である。他大学からの入学者も多いが、他大学への進学者が多いこと
が特徴である。研究生の受け入れは 1999 年度以来実績はない。
【長所と問題点】
実験によって研究を進める分野であるため、多彩な学生を受け入れるに当たって実験室
が不足していることは本質的な問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
より多彩な学生を受け入れるために実験室の拡充と研究支援体制の強化を図る。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
他大学出身者も対象にした一般入試に加えて内部からの推薦入試を実施しているほか、
外国人留学生入試を実施している。また、社会人特別入試は博士前期・後期課程共に実施
している。人数は多くないが毎年他大学や国立大学からの入学者がいる。研究生について
は、1999 年度に1名、2000 年度に3名、2001 年度に2名を受け入れている。
【点検・評価】
本学部経営システム工学科卒業生の多くが就職を志向する傾向にある。したがって、内
部からの推薦入試による入学者は少なめであるが、一般入試による入学者は増加の傾向に
ある。外国人留学生の場合、研究生になってから本専攻に進学してくることが多い。
【長所と問題点】
在籍学生は 70 名くらいでもその資質は多様であり、相互に良い刺激を与えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程の収容定員を増やす計画である。本専攻に留学を希望する者の問い合わせ
に対して組織的に対応する体制を整備することについて検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
539
本専攻の入学者選抜方法は理工学研究科の項に記したとおり、多様な形で学生の受け入
れを行っている。一般入試では専門科目、外国語および口述試験を課しているが、社会人
特別入試では数学と英語の試験に加えて口述試験を課している。研究生については、1999
年度に1名、2001 年度に2名を受け入れている。
【点検・評価】
他大学からの博士前期課程への入学希望者、特に日本の大学にすでに在籍している留学
生や他大学からの留学生が増加の傾向にあることは大きな特徴である。
【長所と問題点】
社会において実績を持ち、強い目的意識を持つ社会人の受け入れは実績をあげており、
専攻課程の活性化のために重要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程を充足させるために資質の高い学生を受け入れる体制について検討する。
4−(2)
学内推薦制度
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では博士前期課程・後期課程において学内推薦制度による進学の機会を学生に
与えている。
博士前期課程では1982年度から全専攻でこの制度を導入している。卒業研究指導教員の
推薦を受けていることを条件とし、書類審査ならびに口述試験を課して合否を決定してい
る。最近3年の実績は下記のとおりである。なお、精密工学専攻を除く合格者には、条件
づきで大学院講義の履修を許可している。授業科目を履修し、試験に合格した科目につい
ては、大学院に入学して1年次を修了した時点で、大学院で修得した単位として認定して
いる。最近3年のこの制度による博士前期課程の入試結果を下記に掲げる。
表2
1999年度−2001年度
(数字は左から2001・2000・1999年度の順)
募集人員
志願者数
数学専攻
若干名
19, 15,
物理学専攻
若干名
土木工学専攻
合格者数
7
7
13, 14,
6
20, 17, 11
20, 17, 11
11, 17,
8
若干名
26, 31, 41
26, 31, 40
22, 29, 36
精密工学専攻
若干名
35, 38, 46
35, 38, 46
35, 36, 46
電気電子情報通信工学専攻
若干名
38, 37, 41
38, 37, 41
36, 35, 38
応用化学専攻
若干名
26, 23, 21
26, 23, 21
25, 22, 20
経営システム工学専攻
若干名
12, 20,
12, 20,
12, 20,
情報工学専攻
若干名
16, 16, 22
16, 16, 21
16, 16, 21
合計
若干名
192,197,196
192,197,194
170,189,182
7
19, 15,
入学者数
7
7
博士後期課程では1999年度から数学専攻、精密工学専攻、電気電子情報通信工学専攻、
応用化学専攻、経営システム工学専攻、情報工学専攻の6専攻でこの制度を導入している。
540 第3章 大学院
出願にあたっては博士前期課程指導教員の推薦を受けていることを条件とし、書類審査な
らびに口述試験を課して合否を決定している。最近3年のこの制度による博士後期課程の
入試結果は、電気電子情報通信工学専攻で1999年度、2000年度に各1名を合格、2001年度
に2名を合格、経営システム工学専攻で2000年度、2001年度に各2名を合格としている。
【点検・評価】
博士前期課程では学部卒業者の約20%がこの制度によって進学していることは、大学院
課程の活性化に貢献するとともに学部・大学院の教育の一貫性という観点から評価できる。
博士後期課程への進学者は博士前期課程修了後就職する志向が強いためもともと少ない
こともあり、必然的に推薦を受けようとする学生も少ないのが現状である。
【長所と問題点】
博士前期課程において推薦試験の合格者のうち、過去3年では約10%の者が入学を辞退
している。入学辞退は増加の傾向にあり問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内推薦制度は大学院課程を充実させ活性化させる上で重要である。近年の最先端技術
の分野では博士前期課程までは修了していることが望まれるようになっており、一貫教育
の重要性が認識されている。本研究科ではこの制度を活用すべく学部学生に一層の周知を
図る。
企業などのリクルート活動が前倒しされる傾向があることから学部学生が早めに就職活
動を始めるようになり、これにともなって学内推薦入試制度について実施時期や運用方法
について検討する。
<数学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部卒業生 69 名のうち 15 名、2001 年度学部
卒業生 62 名のうち 19 名が学内推薦に合格している。なお、博士前期課程への合格者のう
ち 2000 年度1名、2001 年度6名が入学を辞退している。博士後期課程では 2000 年度博士
前期課程修了者9名、2001 年度修了者8名であったがそれぞれ出願者はいなかった。
【点検・評価】
学生に対して積極的な情宣活動を行い、ある程度の成果を得ているが、学年を通した縦
の連携が少ないために学内推薦による入学者の数が年度によって相当異なる結果となって
いる。
【長所と問題点】
学内推薦制度による申請希望者はその資格があることをあらかじめ通知されているため、
学生はある程度の確実性をもって進路を考えることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この制度での申請希望者がある程度定常的になるように情宣活動を進め、研究指導計画
が立てやすくすることについて検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
541
とおりである。博士前期課程の場合の学部卒業者数との関係は下記のとおりである。博士
前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 79 名(二部 17 名)のうち 17 名、2001 年度学部昼
間部卒業生 61 名(二部 11 名)のうち 20 名が学内推薦に合格している。なお、合格者のうち
2000 年度8名が入学を辞退している。本専攻では博士前期課程から博士後期課程への推薦
入学制は実施していない。
【点検・評価】
学内推薦の制度は学生に大学院進学を考えさせる動機づけになっている。また、社会の
要請でもある。
【長所と問題点】
実験系研究室では学部4年から博士前期課程2年までの3年間のスコープで実験計画を
立てることができることは大きなメリットである。しかしながら、学内推薦を受けた学生
の学力の水準を危ぶむ声もあり、学力が低下することについては十分留意する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内推薦入学者の妥当な受け入れ数と受け入れ体制について検討を継続する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 151 名(二部 36 名)のうち 31
名、2001 年度学部昼間部卒業生 125 名(二部 38 名)のうち 26 名が学内推薦に合格している。
なお、合格者のうち 2000 年度2名、2001 年度3名が入学を辞退している。本専攻では博
士前期課程から博士後期課程への推薦入学制は実施していない。博士後期課程への受け入
れは一般入試により行っている。
【点検・評価】
本専攻では学内推薦制度で毎年入学者全体の半数程度(30 名程度)を受け入れている。外
部からの応募についても推薦制度を開始したが、この制度による成果が期待される。
【長所と問題点】
学内推薦制度は努力した者に対する一種の褒賞的な意味合いを持ち、このことは学生に
刺激となっている。推薦制度の対象人数が 30 名程度と多いため、十分な心の準備なしに大
学院志望を決めて進学後に成果の上がらないケースが見られる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
推薦人数を絞り褒賞的な意味合いを強めたほうが良い結果になると判断されるので、こ
の点について教育研究指導の立場から検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 127 名(二部 12 名)のうち 38
名、2001 年度学部昼間部卒業生 136 名(二部 18 名)のうち 35 名が学内推薦に合格している。
なお、博士前期課程への合格者のうち 2000 年度2名が入学を辞退している。博士後期課程
では 2000 年度博士前期課程修了者 34 名、2001 年度修了者 60 名であったがいずれの場合
も出願者はいなかった。
542 第3章 大学院
【点検・評価】
カリキュラムが変わるごとに審査と評価の方式を度々変更したが、博士前期課程では学
部3年生までの主要科目の成績で上位3分の1程度を学内推薦の候補者としている。
【長所と問題点】
主要科目を3科目以上落とした者はどんなに成績が良くても推薦されないという形にし
て歯止めをかけている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内推薦制度は博士前期課程の充実にとって重要であるので、一般入試との連携につい
てさらに検討する。また、外国人留学生の受け入れについて検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 109 名(二部 27 名)のうち 37
名、2001 年度学部昼間部卒業生 141 名(二部 25 名)のうち 38 名が学内推薦に合格している。
なお、博士前期課程への合格者のうち 2000 年度2名、2001 年度1名が入学を辞退してい
る。博士後期課程では 2000 年度博士前期課程修了者 46 名のうち1名、2001 年度修了者 53
名のうち2名が学内推薦に合格している。
【点検・評価】
学部卒業生の学内推薦による博士前期課程への進学率は適切であり、この制度は学部学
生に大学院進学について考えさせる動機を与えている。この制度は専攻の活性化にとって
重要である。
【長所と問題点】
学部4年次から博士前期課程修了までの3年間を単位として研究指導計画を立てること
ができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
一般入試による学生の受け入れ数と学内推薦による受け入れ数をバランスの取れたもの
にすることについて専攻全体で検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 143 名(二部 45 名)のうち 23
名、2001 年度学部昼間部卒業生 150 名(二部 16 名)のうち 26 名が学内推薦に合格している。
なお、博士前期課程への合格者のうち 2000 年度1名が入学を辞退している。博士後期課程
では 2000 年度博士前期課程修了者 26 名、2001 年度修了者 29 名であったがそれぞれ学内
推薦入試への出願者はいなかった。
【点検・評価】
博士前期課程において両年度とも二部(夜間部)卒業生から1名ずつ成績の最も優秀な者
が学内推薦により入学している。一般入試による進学者も相当おり、他大学に進学する学
生も数名いる。優秀な学生が学部から大学院課程を通じて一貫教育が行われていることは
評価される。
543
【長所と問題点】
学生の専攻内での適正配置が常に検討されている。研究目的が明確で進学予定の学生は
大学院課程の授業科目を履修できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の適正配置に関連して、実験室の整備状況から研究室の定員を4名にしていること
について再検討する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部昼間部卒業生 146 名(二部 33 名)のうち 20
名、2001 年度学部昼間部卒業生 128 名(二部 31 名)のうち 12 名が学内推薦に合格している。
博士後期課程では 2000 年度博士前期課程修了者 11 名のうち2名、2001 年度修了者 14 名
のうち2名が学内推薦に合格している。
【点検・評価】
一貫教育の意義のひとつとして学部4年次から博士前期課程修了時までの期間研究指導
を継続できることから学内推薦による博士前期課程への進学者数が増加していくことが望
まれる。
【長所と問題点】
就職活動を気にすることなく研究に打ち込める環境にある。後期課程への推薦入学の場
合、研究能力が見極められていない状況で合否が決められてしまうことがあり問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
選考の時期が早すぎる状況が考えられるため、選考時期について検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降の学内推薦による合格者の実績は理工学研究科の項に記述した
とおりである。博士前期課程では 2000 年度学部卒業生 93 名のうち 16 名、2001 年度卒業
生 81 名のうち 16 名が学内推薦に合格している。博士後期課程では 2000 年度博士前期課程
修了者 20 名、2001 年度修了者 35 名であったが学内推薦入試への出願者はいなかった。
【点検・評価】
この制度は学部学生に大学院進学について考えさせる動機づけを与えており、本専攻の
活性化の上で重要である。博士前期課程では学内推薦による入学者の卒業生に占める割合
は増加の傾向にある。
【長所と問題点】
高品質の情報工学を修得させるために学部4年次から博士前期課程修了時までの期間き
め細かい研究指導を行うことができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この制度と一般入試による受け入れ制度との連携について教育研究指導の観点から専攻
全体で検討する。
4−(3)
門戸開放
544 第3章 大学院
<理工学研究科>
【現状の説明】
他学部・他研究科のみならず他大学の学部・研究科に所属する学生に対し、一般入試や
専攻によっては推薦入試制度を取り入れて本学出身者以外からの選抜を行っている。また、
外国人留学生入試制度や外国で高等教育を受けた者に対する特別入試制度を設けている。
さらに、科目等履修生制度を導入して他大学大学院に所属する学生を含めて本研究科の設
置科目を履修することができる。これらの制度は「門戸開放」事業の一環である。
【点検・評価】
物理学専攻では他大学からの一般入試の受験者が多く、本学理工学部からの進学者とは
調和の取れた形で学生の受け入れが行われている。土木工学専攻では推薦入学制度を他大
学卒業予定者にも適用することを定めている。単位互換制度によって提携していない他大
学の大学院学生には科目等履修生制度は有効で実績をあげつつある。
【長所と問題点】
一般入試制度による他大学からの学生の受け入れは弾力的に行っており、一定の水準に
達している学生を積極的に受け入れている。他方で、推薦入学制度を他大学に適用する場
合、成績評価の基準を策定するうえで困難さをともなう。科目等履修生にとって時間の都
合がつく場合には、本研究科キャンパスの位置は最適であり、交通の利便性は大きな長所
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後はさらに「門戸開放」のための弾力性のある制度を検討し、博士後期課程において
資質ある学生の獲得を目指す。また、他大学において一定レベルに達している学生を積極
的に受け入れる制度について実績を積み上げながら改善を図る。科目等履修生で意欲と能
力を持つ学生が本研究科に優先的に進学することができるような制度について検討する。
4−(4)
飛び入学
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では、大学院学則第 20 条第1項に規定する「博士課程の前期課程の入学資格は、
大学に3年以上在学し、又は外国において学校教育における 15 年の課程を修了し、所定の
単位を優れた成績をもって修得したと本大学院が認めた者」を根拠に、数学専攻に限定し
て 1991 年度入試より特別進学(飛び級)入学試験制度を開始した。学部教育課程に 3 年以上
在学した者を対象としている。数学専攻では独自に「3年飛び級の入学資格」を本研究科
の内規として定めて実施している。内規では、出願資格として、大学に3年以上在学し、
3年前期までの数学の成績について、科目数の4分の3がA、B、C、D4段階評価に換
算してAであり、かつ、2年次までに必要な外国語を含めた専門科目以外の規定単位数を
修得している者と定め、春季入学試験を実施している。1991 年度入試から運用しているが
現在まで出願者がない状況である。
【点検・評価】
「飛び入学」制度は、全国的にも期待された程実績が上がっている訳ではない。社会に
おける就職状況や急速に変化している社会情勢を反映しているとも考えられる。数学専攻
545
のみが実施することを決めているが、現在までに実績はない。逆に他大学大学院に飛び入
学で2名が進学している。また、実験系が主な専攻では、境界分野も多く1科目のみ突出
しているよりも広範囲な知識と経験が必要でありこの制度が適さないとしている。
【長所と問題点】
「飛び入学」制度は、直ちに実績が上がらなくても設置してあること自体は重要である。
専門的な教育研究に早い段階から従事可能であり、大学院における教育研究活動の充実に
つながる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
数年間に一度は「飛び入学」制度によって推薦できるような学生が出現することを期待
する。
4−(5)
社会人の受け入れ
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科博士後期課程では 1998 年度から社会人特別入学試験制度を開始した。数学専攻、
土木工学専攻、精密工学、電気電子情報通信工学専攻、応用化学専攻、経営システム工学
専攻、情報工学専攻で実施している。2001 年度入学試験は、土木工学専攻を除く6専攻で
夏季・秋季・春季の3回、土木工学専攻で秋季・春季の2回実施した。最近3年のこの制度に
よる結果は次のとおりである。1999 年度入試以来志願者すべてを合格とし、合格者全員が
入学している。志願者の状況は、1999 年度には土木工学専攻で2名、電気電子情報通信工
学専攻で2名、情報工学専攻で3名である。2000 年度には土木工学専攻で2名、電気電子
情報通信工学専攻で1名、情報工学専攻で1名である。2001 年度では数学専攻で3名、土
木工学専攻で1名、電気電子情報通信工学専攻で1名、情報工学専攻で3名であった。
本研究科博士前期課程では 2000 年度から社会人特別入学試験制度を開始した。数学専攻、
物理学専攻、電気電子情報通信工学専攻、経営システム工学専攻、情報工学専攻の5専攻
で実施している。当初、秋季・春季の2回実施する計画であったが、2002 年度入学試験か
らは夏季を加え、各専攻ともいずれかのうち2回を実施している。この制度による結果は
次のとおりである。2000 年度には数学専攻で志願者1名、物理学専攻で志願者2名があり、
すべてを合格とし入学している。電気電子情報通信工学専攻で志願者が1名いたが受け入
れていない。2001 年度では経営システム工学専攻で4名の志願者があり3名の合格とし2
名が入学している。情報工学専攻で1名の志願者があり合格とし入学している。数学専攻
で志願者が2名、物理学専攻で志願者が1名いたがそれぞれ受け入れていない。
【点検・評価】
博士前期課程における社会人入試制度は設置されてから2年目であるため、顕著な実績
をあげるまでには至っていない。しかしながら、この制度は一般社会に開かれた大学院を
目指していくという観点から評価される。特にキャンパスの位置は社会人の参加に適して
いて、この長所は生かされるべきである。
博士後期課程への優秀な社会人の招致は、企業の研究者や技術者に対して企業で直面す
る問題の解決に必要な専門知識と研究開発能力を本研究科スタッフとともに相補的に発展
深化させ、他方で博士学位取得への適切な博士論文作成の機会を与えることになる。本研
546 第3章 大学院
究科では、このような社会人学生の招致に具体的な実績があり、このことは評価される。
【長所と問題点】
博士前期課程の場合には1年次に授業科目を履修しなければならず、実務を担当する社
会人にとってはこの点が現実的に困難な点である。他教育機関の教員の場合には、1年間
の研修制度を利用することも有り得るが今後授業時間の設定には工夫を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人の受け入れは、今後生涯教育の実施に関連して重要である。
<数学専攻>
【現状の説明】
博士前期・後期課程共に特別入学試験制度で社会人の受け入れを行っている。本専攻で
は 2000 年度に博士前期課程に1名、2001 年度に博士後期課程に3名を受け入れている。
【点検・評価】
本専攻は社会人学生の受け入れに対して積極的である。現在在籍している社会人学生に
対しては各人の職務の状況や研究活動のあり方について十分な配慮を行い、受け入れ環境
を整備している。
【長所と問題点】
専門職に就き研究実績を持つ社会人の場合、大学院学生が社会人学生から学ぶことも多
く、また現場での研究開発業務の実際について知ることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程において社会人学生を受け入れるために、講義やセミナーの時間について
配慮する。博士後期課程における社会人学生の場合、さまざまな通信手段を駆使した研究
指導方法について検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では特別入学試験制度で社会人の受け入れを行っている。2000 年度に2名
が社会人特別入試で合格しているが、この2名はいずれも大学院入学時に元の職を辞して
いる。博士後期課程では特別入学試験制度での社会人受け入れは行っていない。
【点検・評価】
職をもった社会人の受け入れ実績はない。
【長所と問題点】
進路変更で物理学の研究を目指して入学する場合があることは大きな特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
職をもった社会人が大学院学生として研究を進めることは、実験系研究室では難しい面
があるが、理論系では検討できる。博士後期課程の社会人受け入れについては特別入試制
度の導入を検討している。また博士前期課程・後期課程ともに中学・高校教員の再教育の
場として、こうした人たちを積極的に受け入れていく方針である。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
博士後期課程では特別入試制度で社会人の受け入れを行っており現在 7 名が在籍してい
る。博士前期課程では特別入試による社会人の受け入れは行っていない。
547
【点検・評価】
ほぼ毎年社会人の受け入れを行っていることは評価できる。この制度の運用を始めてま
だ3年目であるため、質の面から評価することは時期尚早である。社会人学生が研究指導
を受けるための研究上のスペース、コンピュータ、インターネットなどの環境は確保され
ている。
【長所と問題点】
指導教員によっては学部課程の二部(夜間部)の講義などを担当していることがあり、平
日の夜間の研究指導が困難である場合がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部課程の二部(夜間部)募集停止にともない、平日の夜間を講義や議論の場として用い
ることについて検討する。博士前期課程の学生の受け入れ可能性についても検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
博士後期課程で特別入試制度を整備しているが現在まで受け入れの実績はない。
【点検・評価】
社会人学生を受け入れる上で、現行の入学試験の方法は必ずしも現実的なものではなく、
社会人が果たすべき職務上の事情に配慮した受け入れ体制が整備されているとはいえない。
【長所と問題点】
本専攻の3つの系(機械サイエンス、メカトロニクス、エコ・プロセス)のいずれにおい
ても現場で活躍している社会人を業務内容と関連させつつ受け入れることができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生の存在は大学院課程を活性化させる上で重要であるので、今後積極的に受け
入れていくことを検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では、博士前期・後期課程共に社会人の受け入れを行っている。1999 年度には博
士後期課程に2名、2000 年度に1名を受け入れている。博士前期課程での実績はない。
【点検・評価】
本専攻の研究分野の急速な発展によって得られた最先端の知見を大学院で体系づけて研
究したいという社会人にとって、この制度はこのような要望に応えるものである。博士後
期課程においては他の在籍学生に良い影響を与えている。
【長所と問題点】
社会人学生はその専門的知識をより高度に深化させ体系化することにより、自分の所属
する現場や社会に還元し貢献することができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程の社会人学生が研究指導を受けるための十分な環境を整備する。博士前期
課程に社会人学生を受け入れるために講義課目の配置や研究指導方法について検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
博士後期課程で特別入試制度を整備しているが現在まで受け入れの実績はない。博士前
548 第3章 大学院
期課程では社会人のための特別入試制度は運用していない。
【点検・評価】
博士後期課程における社会人学生は、その社会的立場や現場での経験から在籍する他の
学生に良い刺激を与えることが期待される。
【長所と問題点】
社会人学生が入学するということは、本専攻の研究分野や研究成果が社会の要請に応え
ていることを意味するものであり、最先端の動向についての情報を得られることもあるた
め、その資質によっては指導教員にも良い影響があることが期待される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生の在籍は大学院課程の活性化にとって重要であるので、今後積極的に招致す
るべく情宣活動を行っていく。また、社会人や企業から入学して学ぶ価値がある専攻との
評価を受けることが必要で、各教員がそれぞれの分野で活躍し、学会等での評価をあげる
ことが不可欠である。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻博士後期課程では、社会からの期待・要請に応えるために、企業や他の組織に在
籍しながら日常の実務で直面している問題を研究課題として取り上げ、その解決を通して
新しい方法論の開発を試みることのできる研究指導体制を用意している。2001 年度に博士
前期課程で1名を受け入れている。
【点検・評価】
博士前期課程における社会人学生は、進路を変更した場合かもしくは十分に余裕のある
企業の在職者に限られる。博士後期課程での受け入れは今後増加することが期待される。
【長所と問題点】
専門職において実績をもった社会人であっても、実験結果の報告のみでは不十分であっ
て専門的知識や研究能力について点検する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後社会人特別入試制度による入学希望が増すと思われるので積極的に受け入れるため
の体制を整備する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
社会人特別入試を実施してから、博士後期課程においては毎年数人を受け入れている。
博士前期課程も2年目の 2001 年度には社会人を受け入れている。
【点検・評価】
情報工学分野の急激な進歩によって得られた最先端の知見を、大学院で体系づけて研究
したいという社会人が増加しており、本制度はそのような要望に応えるものである。特に
博士後期課程においては、より高度な専門的知識を社会に還元している点が特徴である。
【長所と問題点】
大学院の講義が平日昼間に行われるため、博士前期課程においては業務との両立が難し
い。博士前期課程における社会人の受け入れには相応の工夫を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
549
博士前期課程における社会人学生を受け入れるために、講義やセミナーの時間を配慮す
る。
4−(6)
定員管理
<理工学研究科>
【現状の説明】
2001年度の本研究科博士前期課程の入学定員、収容定員および在学者は下記のとおりで
ある。1999年度から2001年度の3年では研究科総体では収容定員を充足している。
表3−①
入学定員
収容定員
在学者数
数学専攻
10
20
32
物理学専攻
25
50
50
土木工学専攻
35
70
105
精密工学専攻
42
84
94
電気電子情報通信工学専攻
40
80
93
応用化学専攻
35
70
77
経営システム工学専攻
15
30
67
情報工学専攻
25
50
61
227
454
579
合計
2001年度の本研究科博士後期課程の入学定員、収容定員および在学者は下記のとおりで
ある。
表3―②
入学定員
収容定員
在学者数
数学専攻
3
9
16
物理学専攻
3
9
8
土木工学専攻
3
9
11
精密工学専攻
3
9
2
電気電子情報通信工学専攻
3
9
14
応用化学専攻
3
9
3
経営システム工学専攻
3
9
5
情報工学専攻
3
9
6
24
72
65
合計
1999 年度から 2001 年度の間、研究科総体では僅かながら充足していない状況にある。
【点検・評価】
1999 年度、収容定員 66 名に対して実員 58 名、同じく 2000 年度は 72 名に対して 60 名、
2001 年度は 72 名に対して 65 名である。精密工学専攻、応用化学専攻、経営システム工学
専攻では充足率が減少の傾向にあるが、過渡的なものと考えられる。年度によって相違は
あるが、最近3年間の充足状況は良好であり評価される。
学部から大学院への進学者が多いことは、一貫教育の推進施策もさることながら最近先
550 第3章 大学院
端企業の専門的業務において十分に貢献できる人材が求められるようになって来たことを
示している。
【長所と問題点】
本研究科では収容定員に対する充足率を重視している。入学定員と収容定員の間に相当
の幅を持たせていることは、定員管理を容易にするという意味で弾力性があり長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の社会・経済状態には厳しいものがあり、他方で学生の側にも進路上での考え方に変
化があってこの点について十分な検討が必要である。一般の博士前期課程の学生は課程修
了とともに就職する者が多く、博士後期課程に進学することを望まない傾向にある。した
がって一旦就職して実務経験を積み実績をあげた後に学位取得を計画する社会人の受け入
れを積極的に進める。
<数学専攻>
【現状の説明】
本専攻では 1999 年度以降、博士前期・後期課程の両課程において定員を充足している。
【点検・評価】
博士前期課程における学内からの進学者数は学年にわたった縦の連携がなく、年度によ
って変動が大きい。安定して進学者を確保できていないことは研究指導の継続性を欠くも
のである。
【長所と問題点】
最近本専攻の出身者はさまざまな先端技術部門や研究開発部門に進出しており、このこ
とは社会からの需要が高まっていることを意味している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
純粋数学に加えて数学の学際的分野にも力点を置き多様な専門的知識と能力を持つ人材
を養成することによって、本専攻への進学者が増加していくための情宣活動を行うととも
に、博士前期課程の定員増を図って環境を整備していく。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において 1999 年度、2000 年度に収容定
員(50 人)を若干下回る在籍学生数であった。しかし、2001 年度には収容定員を満たしてい
る。また、博士後期課程において 1999 年度、2000 年度には収容定員を満たしていたが、
2001 年度に収容定員を若干下回る在籍学生数である。
【点検・評価】
博士前期課程で若干の欠員が生じたのは、国公立大学の大学院定員増加により、国公立
大学大学院へ学生の流出が顕著になってきていることがある。本専攻への推薦入学希望者
で不合格になった学生が国立大学に入学している例もある。
博士後期課程に関しては、十分な実績をあげていると考えられる。博士後期課程に在籍す
る学生は少数の研究室に偏っていることについては認識しておく必要がある。
【長所と問題点】
物理学の学際的研究よりも純粋理論を志向する学生が多いことは大きな特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
551
博士前期課程に関しては、現在程度の学生が確保できているのならば、基準を下げて定
員確保に努めることはしない。博士後期課程に関しては、今後も現在程度の学生数を維持
することに留意する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において欠員はない。博士後期課程にお
いては、1999 年度、2000 年度に収容定員を若干下回る在籍学生数であったが、2001 年度
には収容定員を満たしている。専攻全体として特に入学希望者を増やすような努力はして
いない。今年から博士前期課程の推薦入学制度を学外にも広げている。その目的は他大学
からの進学者を受け入れることにより、より魅力ある専攻となることを目指したものであ
る。
【点検・評価】
博士前期課程においてはこの 10 年間進学希望者が多く、定常的に定員の約 1.5 倍を擁し
ており、一貫教育の立場からは評価される。博士後期課程では近年進学希望者が増えて充
足するようになった。
【長所と問題点】
博士前期課程の在学者が増えたことに加えて、入学者の学力が下がる傾向にあり、指導
教員の負担が増えていることに対処する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入学試験の方法などを再検討し、学内および他大学から資質の高い学生を受け入れる方
策を立てる。実験の分野では施設の関係で研究室単位で3∼4名が適当であるが、計算機
シミュレーションの関係では多人数を受け入れる方向で検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程においては欠員はない。博士後期課程に
おいては、1999 年度から 2001 年度にかけて在籍者が2名の状態が続いて、収容定員を下
回る傾向が継続している。
【点検・評価】
博士前期課程においては在学生のほとんどは学内からの進学者である。本専攻の3つの
系で在学者は大体均一に配属されている。社会情勢の変化により早めに就職する傾向にあ
り、博士後期課程への進学者が少ない。
【長所と問題点】
博士号取得者を受け入れる研究所・企業が増えない限り欠員が生じることはある程度認
めざるを得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
指導教員一人あたりの担当を5名程度とする。同じ研究室内では、推薦入学する者を成
績順に3∼4名程度とし、他の入学試験により進学する者を1名程度とする。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において欠員はない。博士後期課程にお
552 第3章 大学院
いては、1999 年度には収容定員を若干下回る在籍学生数であったが、2000 年度、2001 年
度には収容定員を満たしている。
【点検・評価】
博士前期・後期課程とともにほぼ定常的に収容定員を満たしている。今後は博士後期課
程の学生数を増加させることが重要課題である。
【長所と問題点】
一般企業の研究開発部門、企業の研究所、大学への就職など博士後期課程からの進路は
比較的安定している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程を充実活性化させるために推薦入学の実施、社会人の受け入れ、RA制度
の活用、博士後期課程2年次以上の学生への研究支援、任期制助手の採用など可能な方策
について検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において欠員はない。博士後期課程にお
いては、在籍者が 1999 年度6名、2000 年度4名、2001 年度3名で収容定員を下回る傾向
が継続している。
【点検・評価】
最近の経済状況および一般企業の博士号取得者への需要は依然として低いうえ、国立研
究所の独立行政法人化による任期制の導入、大学ポストの減少等、博士号取得者を取り巻
く就職状況は厳しい。したがって、博士前期課程修了者がさらに進学希望をもっていても
進学を断念する場合も多い。
【長所と問題点】
学位審査は厳正に行われ一般にいわれる標準以上の水準で博士学位の審査を行っている
が、これによって博士後期課程への進学者数に影響があるとは考えにくい。実験による研
究分野の場合、3年間で博士学位を取得することは困難である。博士前期課程では教員一
人が担当する学生数が多く、実験設備の関係で研究指導に困難さを生じつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人の博士号取得への需要は高いので、論文博士を増加させることを推進する。博士
前期課程の定員を 40 名に増員する。また、博士後期課程にあっては各研究室に少なくとも
1名の学生が在籍するような受け入れ方法について検討する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において欠員はない。博士後期課程の在
籍者は、1999 年度2名、2000 年度4名、2001 年度5名で収容定員を下回る傾向が継続し
ているが、増加する傾向にある。
【点検・評価】
博士後期課程が充足されつつあることは評価される。今後は社会人の受け入れも予定さ
れており、博士後期課程の活性化が期待される。
【長所と問題点】
553
本専攻の研究分野は実社会における実務と直結していることから社会人からの需要が高
く、企業の品質管理部門で実績をもつ人材が進学しやすい体制を整備している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士前期課程の定員を 25 名に増やし、専攻の充実を図る。また、博士後期課程には実績
をもつ社会人を受け入れて活性化を図る。また、博士後期課程に外国人留学生を受け入れ
ることにより国際化を目指す。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の 1999 年度以降を見ると、博士前期課程において欠員はない。博士後期課程の在
籍者は、1999 年度7名、2000 年度5名、2001 年度6名と収容定員を若干下回る傾向が継
続している。これまで博士前期課程を修了した者の博士後期課程への入学はなかったが、
2002 年度には予定されている。
【点検・評価】
博士前期課程・後期課程ともに入学者が充足されつつある。特に、博士前期課程の学生数
は増加の傾向にある。社会情勢の変化により学生は早めの就職を志向する傾向にあるが、
現在の社会情勢を考慮してもなお博士後期課程への進学は十分に推奨される。
【長所と問題点】
博士後期課程における学生数が少なめではあるが、2000 年度に博士後期課程が完成年度
を迎えた事情を考慮すると、今後博士後期課程の学生の増加が期待される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻出身者に対する社会の需要が増加するように工夫する。ハードウェア系とソフト
ウェア系で受け入れ人数を制限する必要はなく、また、実験系の分野でも受け入れ人数を
制限する必要はないのでこの利点を活用する。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
<理工学研究科>
【現状の説明】
2001年度の本研究科の博士前期課程における主要な授業科目に対する専任・兼任教員の
配置状況および学生数との関係は下記のとおりである。主要な授業科目とは、専攻所属教
員が共同して担当する科目を除いた科目である。下記の教員数のうち電気電子情報通信工
学専攻の専任教員数には特任教授を含む。また、兼任教員には兼担教員と客員教員を含む。
表4―①
2001年度
専任教員数
兼任教員数
数学専攻
11
14
32
16
物理学専攻
13
6
50
8
土木工学専攻
14
1
105
11
精密工学専攻
15
1
94
2
電気電子情報通信工学専攻
15
9
93
14
応用化学専攻
13
7
77
3
554 第3章 大学院
博士前期課程学生数
博士後期課程学生数
経営システム工学専攻
11
1
67
5
情報工学専攻
10
0
61
6
102
39
579
65
合
計
本研究科の教員組織は、基礎となる学部の専任教員をもって充て、専任教員以外の教員
として特任教員、客員教員、兼任講師、兼担教員を任用している。特任教員は当該専門分
野の高度化を図るために先端的専門家を招聘するものであり、客員教員は当該専攻の教育
研究体制の充実を図るために有為な人材を招聘するものであり、兼任講師は当該専攻にな
い分野の教育研究指導を依頼するべく招聘するものである。兼任講師の本務先は2001年度
の場合、大学教員26名、企業の研究所5名、国立研究所3名、特殊法人の研究所1名である。
兼担教員には本学の専任教員で当該分野の専門研究者を任用している。
2001年度における本研究科の博士後期課程の指導教員となる専任教員数の配置状況およ
び学生数との関係は下記のとおりである。なお教員数の電気電子情報通信工学専攻には特
任教授を含む。
表4−②
2001年度
専任教員数
博士後期課程学生数
8
16
物理学専攻
10
8
土木工学専攻
11
11
精密工学専攻
12
2
電気電子情報通信工学専攻
12
14
9
3
10
5
9
6
81
65
数学専攻
応用化学専攻
経営システム工学専攻
情報工学専攻
合
計
【点検・評価】
各専攻における教員の配置状況は現在担当している学生数に対して研究指導を行ううえ
で可能な状況であると思われる。しかしながら、今後研究科の拡充を図るためには十分と
はいえない状況であり、改善のための設置科目数の担当と研究指導の観点から教育目標を
再検討し、受講生に対しても分かりやすい形にして担当教員の配置と専門分野との整合性
を持たせる必要がある。
【長所と問題点】
各専攻とも博士前期課程の学生数は充足していることから、教育内容を再検討し学生の
資質に応じた研究指導を行っていく必要がある。この作業は急速に変化する社会情勢とニ
ーズに即応するものでなければならず、本研究科における今後の重要な課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新構想や将来計画について専攻を横断する形で検討を進め、本研究科の研究領域や新分
野の教育研究指導を担当する専任教員、特任教員、兼任教員、兼担教員、客員教員の配置
について十分な検討を行い、これによって人的体制を整備する。また、2002 年度から任期
555
制助手制度を導入する。
<数学専攻>
【現状の説明】
現在は兼担教員を含めて代数系6名、幾何系7名、計算機科学2名、数理統計学5名、
解析系5名が博士前期課程を担当し、数学の主要な分野の教育研究指導にあたっている。
全員が博士の学位を有しており、博士前期課程の科目を担当する能力を持っている。博士
後期課程では8名の専任教員が教育研究指導を行い、代数幾何学2名、微分幾何学1名、
位相幾何学1名、整数論1名、解析学2名、数理統計学1名の専門分野を担当している。
【点検・評価】
各専任教員は独自の研究テーマのもとで、あるいは共同研究の形で研究を進めているが、
これらの研究成果を踏まえて純粋数学、応用数学、統計学の多彩な分野で教育研究指導を
行っている。
【長所と問題点】
博士前期・後期課程共に解析学の大学院学生が少ないため、応用解析に関する研究を積極
的に推進させるうえで相当の工夫を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導の対象とする分野のうち、情報科学や環境科学などにかかわる学際的研究
にも特色が出せるように体制を整えることを検討する。また、限られた教員の人的体制の
中で有効かつ多様な研究指導を行うために研究室を横断して助言・指導を行うことについ
て検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
現在は理論系7名、実験系6名の専任教員が博士前期課程を担当している。教員の専門
分野は、理論系は素粒子論1、物性理論2、統計・数理物理4、実験系は物性実験4、高
エネルギー実験1、複雑系1となっており、物理学の多岐にわたる分野をカバーしている。
専任教員は全員が博士の学位を有しており、博士前期課程の標準的な科目を担当する能力
をもっている。専任教員でカバーしきれない分野の授業科目は兼任教員にお願いしている。
博士後期課程は理論系、実験系各1名を除いた 11 名の専任教員が担当している。
【点検・評価】
各専任教員が独立したテーマをもって研究指導にあたり、多岐にわたる物理学の分野を
カバーしていることは評価できる。
【長所と問題点】
専任教員として若手の助手クラスのスタッフがいないことは、理論・実験を問わず若い
世代の大学院学生の研究指導が円滑かつ有効に行われない可能性がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育については広い分野をできるだけカバーしつつ、研究では非線形非平衡開放系や複
雑系の分野で特色を出せるように、人的体制を整える計画である。また限られた教員数の
中で有効な研究指導を行うために、研究室の枠を越えて助言、指導する体制も整える。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
556 第3章 大学院
土木工学専攻においては、構造・材料系、水理・環境系、計画系、基礎地盤系の各分野
に大別される。博士前期課程の学生は、入学後1年間は主にこれらを縦断的かつ横断的に
講義を履修することが推奨されており、後半の1年間は所属研究室の専門に特化した講義
を履修する。その間、学生の志向と研究室の研究目的に沿ったテーマで、研究目的遂行の
ための実験、観測、数値計算等が行われる。
各研究室は博士前期課程の学生を2∼7名程度有しているが、年度によっては 10 名前後
の数になり、13∼14 名のスタッフでは必ずしもきめの細かい研究指導が行われ難いときも
ある。このような状況においては、特任教授に研究指導の助力を依頼している。
【点検・評価】
各専門分野においては高度でかつ学問の深淵を考究している。各専門分野においては、
応用性に富む、問題解決型の研究指導を基本としつつ、問題発掘型、問題提案型の人材の
育成を目指している。
【長所と問題点】
近年、博士前期課程には1学年 50∼60 名が所属しており、研究指導担当者が必ずしも十
分とは言い難い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各研究室1名の教育技術員や教育技術員代替制度があるが、博士後期課程の学生指導に
はかなりのスタッフが必要であり、今後増員を図る。研究開発機構の特任教授に研究指導
を依頼することを検討する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は超精密メカトロニクスの創生を目指してあらゆる分野での”ものづくり”の基
盤技術を開発・創造していくべく専攻を機械サイエンス系、メカトロニクス系、エコ・プロ
セス系の3系統に分け、各系に5名の専任教員を配置して博士前期課程の教育研究指導に
あたっている。計算機シミュレーションを含む実験を通じて若手研究者・技術者を養成する
ことを目指している。博士後期課程では 12 名の専任教員が研究指導に当たっている。
【点検・評価】
各研究室では、マイクロ機構、材料力学、機械力学、流体工学、熱エネルギー・システム、
モーション・コントロール、自動化システム、ロボット工学、知的計測システム、音響シス
テム、材料工学、トライポロジー、設計・生産システム、知能化機械加工、生産環境工学の
15 分野において特色ある研究指導を行い、この教員配置は適切であり、教員の新規採用に
あたってはこの点を考慮している。専任教員の3分の1は本学出身である。
【長所と問題点】
技術員は1名のみであり、実験指導のスタッフが不足している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導の支援が行えるスタッフを確保する計画を立てる。任期制助手制度を活用
することを検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員は、電力・制御グループ5名、電子・電子回路グループ6名、情報・通信
557
グループ6名が配置され、各々の専門分野で教育研究指導を担当している。研究分野で不
十分な部分は兼任教員に依頼することとし、特任教授を1名配置している。博士後期課程
は特任教授1名を含む専任教員 12 名で研究指導を担当している
【点検・評価】
各専任教員は独自の研究テーマの下で研究を進めているが、研究分野が広範囲であるた
め担当専任教員 15 名に対して毎年度博士前期課程で 45 名程度の大学院学生を指導するこ
とは容易ではない。
【長所と問題点】
専任教員の多くは学識経験者を必要とする学外の審議会や評価委員会などでその専門的
知識を生かす場所で活動しており、本専攻の研究分野の性格上このことを教育研究指導に
反映できる。また、他大学や企業から兼任教員を招聘して研究指導を行って本専攻の多様
な専門分野に対応している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻の研究分野は広範囲でその進歩が早いため、特任教授制度や客員教員制度の活用
や他大学ならびに企業からの兼任教員を招聘して多人数の大学院学生に対して有効な研究
指導を行っていく。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻では研究分野を、機能物性化学系、環境・化学プロセス系、生命・有機系の3系に
分け、専任教員をそれぞれ4名、4名、5名と調和のとれた形で配置している。研究分野
の拡充のために兼任教員に依頼し、20 名全員で博士前期課程における教育研究指導を行っ
ている。博士後期課程は9名で応用化学の主要分野における研究活動と研究指導を行って
いる。
【点検・評価】
本専攻の専任教員は本学出身者が1名であり、他の 12 名は他大学か国立研究所を経てお
り、企業から1名招聘し、人的体制の多様化を図っている。兼任教員とともに教員内容の
強化を図り、共同研究の芽を育てようとするものである。
【長所と問題点】
一般私立大学に共通の問題点であるが、教員1人が担当する学生数が多いため、実験指
導の困難さをともなう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各研究室とも若手研究者で実験指導の主役となるべき助手クラスの指導者が不可欠であ
るので、任期制助手の採用に向けて努力する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は「人間」、「情報」、「システム」の 3 つの視点から経営システム工学の研究領域を
経営工学、信頼性・安全性工学、数理システム工学、応用情報システム工学に分類し、専任
教員 11 名、兼任教員1名を配置して博士前期課程における教育研究指導を行っている。後
期課程では、これらの4つの専門分野に対して 10 名の専任教員が研究指導を担当している。
【点検・評価】
558 第3章 大学院
本専攻の研究領域を4つの専門分野に分けているが、大学院学生の人数に制限は設けて
いない。研究室によっては教員1名が大学院学生6名を担当する場合がある。博士前期課
程では定員を超過している。博士後期課程の実績もある。各教員が担当する学生数は多く
なる傾向があり、研究指導のあり方について検討を重ねている。専門分野によっては学生
が集中することもあり得る。
【長所と問題点】
計算機を維持管理する要員がいないため、専任教員と教育技術員の負担が大きくなる。
博士前期課程の修了者は、品質管理の分野で実績を積み上げることができる。生産・工場管
理の現場よりの指導者には学位がなく、研究指導ができないのは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
増加する学生の研究指導をさらに充実させ、計算機システムの有効活用を実現するため
の教員組織体制を整備すると共に、任期制助手制度を活用する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の研究分野を、
「情報処理基礎」、
「情報数理」、
「情報システム・ネットワークと情
報セキュリティ」、
「コンピュータハードウェアの高信頼設計法」の4つの専門分野に分け、
専任教員 10 名を調和のとれた形で配置して博士前期課程において教育研究指導を行って
いる。博士後期課程においては、これらの4つの専門分野を9名の専任教員で担当してい
る。博士前期課程の学生数が増えてきているなかで、各教員の研究室に配属する学生数が
多くなっている。
【点検・評価】
本専攻に在籍する学生は、4つの専門分野に設置されている研究室に配属される。本専
攻の学生は博士前期課程修了前に学会発表することを課せられるが、全員が発表できるレ
ベルまで研究指導を行っていることは評価される。
【長所と問題点】
今後学生数が増加すると多くの分野で研究する学生が増えることにより、学生間の交流
によって各学生の知識の幅が広がると思われるが、他方で各学生に対して細かな指導がで
きるように各教員の工夫が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻の研究分野は高度情報化社会に密接に連携しているため、研究指導の内容をその
変化に即応させるようにする。
学生間、研究室間、そして他専攻を含めた交流が盛んになるように努める。多数の学生
を効果的に指導する体制の整備について検討する。
5−(2)
研究支援職員
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本学ではTA制度に加えてRA制度を大学院全研究科に共通する制度として2000年度
より施行している。この制度の目的は、本学が行う研究プロジェクトの研究活動に対する
補助業務を大学院学生に依頼することによって研究活動の強化・充実を図り、
併せて大学院
559
学生の研究能力の向上発展に資することである。本研究科ではこの制度の運用を円滑に行
うため内規を制定し運用を開始した。共同研究プロジェクト単位にRAの採用申請を行う
ことなど、各種の事項に関し次のように規定した。
(1)まず、RAの行う補助業務は、本
学が行う共同研究プロジェクトに限定する。
(2)RAの対象は博士後期課程に在学中の者
に限定する。
(3)RAの採用期間は年度単位とし共同研究プロジェクトが期中で終了する
場合、その終了日までとする。
(4)勤務時間は1週間4日以内で1日6時間以内を限度と
し、1週あたり20時間を超過しないこと。ただし、外部資金によるプロジェクトの場合の
勤務時間は別に定めることとした。
(5)さらに、本研究科が行っているTAと兼務できな
い。
2000年度には17のプロジェクトに18名のRAを採用した。RAの半数以上は博士後期課
程1年次の学生である。RAは主に調査活動、コンピュータ・プログラムの開発、実験、デ
ータ解析などに携わりプロジェクトの基礎的領域で活動している。各専攻でのRAの採用
状況は次のとおりである。数学専攻では2000年度に3名(3プロジェクト)、2001年度に4
名(4プロジェクト)、物理学専攻では2000年度に3名(3プロジェクト)、2001年度に3名
(3プロジェクト)、土木工学専攻では2000年度に2名(2プロジェクト)、2001年度に2名
(2プロジェクト)、精密工学専攻では2000年度に1名(1プロジェクト)、2001年度に2名
(2プロジェクト)、電気電子情報通信工学専攻では2000年度に2名(2プロジェクト)、2001
年度に3名(3プロジェクト)、応用化学専攻では2000年度に2名(2プロジェクト)、2001
年度に3名(2プロジェクト)、経営システム工学専攻では2000年度に3名(3プロジェク
ト)、2001年度に4名(4プロジェクト)、情報工学専攻では採用していない。
2.RAの採用については、共同研究プロジェクトの研究内容に即してその業務に適切な
人材が選考されている。現実には研究者とRAとの間の連携・協力が採用時から十分になさ
れている。また、プロジェクトの終了時にはRA採用報告書の提出を義務づけ、RAの活
動に関する検証を行っている。
【点検・評価】
1.2000年度の各プロジェクトは学術雑誌への公表あるいは学会での発表を通してその研
究成果を公表した。RAの貢献度は各プロジェクトとも高いものと評価される。学外の資
金を利用した研究支援者(ポスドク、博士課程研究員)の採用は、今のところない。実験講
師(専任教員)と教育技術員は「教育支援職員」として職名が異なるものの、本研究科にお
ける教育と研究は表裏一体の関係にあり、場合によっては研究支援職員としての性格をも
つ場合もある。TAも博士後期課程の学生である場合には同じことがいえる。本学理工学
研究所やハイテクリサーチセンター等は「研究支援組織」であって外部資金の受け入れ等
の機能は果たしているが、研究支援職員を採用することについて検討されることが期待さ
れる。
2.RAは研究者の単なる研究補助に留まらず、共同研究の形で重要な役割を果たすこと
があり、助手を採用することが現実的には困難である現在、RA制度は研究科にとって有
益であると評価される。研究者とRAの協力関係はおおむね良好である。RA制度により
博士後期課程1、2年次の学生が研究に積極的に参加し、成果をあげていることは評価さ
れる。
【長所と問題点】
560 第3章 大学院
1.RAの申請は競争的であり、相応の成果を要求するために結果として大学院学生の能
力を高めることになる。このことはRAの長所である。他方でRAは助成が得られるが人
数が少ないということは問題である。学外の資金を利用した研究員を採用した実績が少な
い。RA制度は専攻の独自性によってその運用は異なるが、博士後期課程の学生の「生活支
援」の側面をもつことは否定できない。
2.RA制度は博士後期課程に所属する学生の育成の観点から有意義であるが、高度な研
究能力を持つ本学出身の研究者を輩出することを積極的に目指すところまでには至ってい
ない。教育技術員は専攻によっては実験補助や研究補助の面で多大な貢献をしている場合
もあり、職員として処遇することの適切性について検討する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.博士後期課程の充足とともにRA制度の適用枠を広げることは今後の課題である。委
託研究や共同研究などの外部資金の導入により、非常勤の研究スタッフを任用する。これ
に関連し、「研究支援職員」を実験装置の作成などを依頼できる「技官」の形で任用できる可
能性について検討する。
2.自立して研究を遂行できる若手研究者を助手の形で育成できるように体制を整備する
ことを検討する。研究支援者を必要とする場合は学外の資金を利用してポスドク、博士課
程研究員を雇用するなどの努力をする。学術振興会の研究員を採用したり、教育技術員を
教育研究技術員とすることを検討する。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では特任教員を含めて大学院課程のみを担当する専任教員はいない。したがっ
て、教員の募集、任免、昇格に関する人事は理工学部において行い、学部の専任教員とし
て任用された後、本研究科の担当教員として任用される形になっている。しかしながら、
学部各学科の教員の募集・任免人事は、その選考方法と手続において対応する専攻の担当教
員としての資格と適切性も同時に審査し判断するものであって、学部学科の専任教員人事
とほぼ一体化したものとなっている。
教員の募集に関しては多くの学科・専攻が公募による方法を採用しており、書類審査なら
びに面接による評価を行って候補を選出した後、専門分野、年齢構成、将来構想との関連
で多角的に判断し最も適任と思われる人材を任用している。専任教員の任免は、下記のよ
うな内規に従って公平・円滑に遂行されている。
本研究科では、
「理工学研究科教員任用基準内規」、
「理工学研究科の人事に関する内規」、
「理工学研究科人事委員会に関する内規」、
「理工学研究科人事手続きに関する申し合わせ」
を定めて、教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続を明確化している。
「理工学研究科
人事手続きに関する申し合わせ」による教員人事の主な手続は以下のとおりである。
1.各専攻で人事計画の候補者の選定
2.研究科委員長は本研究科連絡委員会の了承を得たうえで予備審査を人事委員会に付託
3.人事委員会は予備審査(約1カ月)を行い、その結果を連絡委員会に報告する
4.連絡委員会は人事の適否を判断する
561
5.連絡委員会の議を経て、研究科委員長は研究科委員会に提案する
6.研究科委員会にて、候補者に関する票決
「理工学研究科教員任用基準内規」による審査・評価の基準は課程により以下のとおり
定めている。博士前期課程の場合、次の各号のひとつに該当し、担当する専門分野に関し
て高度の教育研究上の指導能力があると認められる者であること(大学審議会答申「教員
採用の改善について」(1994 年6月 28 日)の社会人の採用の項、および、大学院設置審査
基準要項の教員組織の項参照)。すなわち、(1)博士の学位を有し、研究上の業績を有す
る者、
(2)研究上の業績が(1)の者に準ずると認められる者、
(3)専攻分野について、
特に優れた知識および経験を有する者である。
博士後期課程の場合、次の各号のひとつに該当し、担当する専門分野に関してきわめて
高度の教育研究上の指導能力があると認められる者であること(大学審議会答申「教員採
用の改善について」(1994 年6月 28 日)の社会人の採用の項、および、大学院設置審査基
準要項の教員組織の項参照)。すなわち、(1)博士の学位を有し、研究上の顕著な業績を
有する者、(2)研究上の業績が(1)の者に準ずると認められる者、(3)専攻分野につ
いて、特に優れた知識および経験を有する者である。
本研究科の専任教員(教授・助教授・講師)の選考は、上に掲げた人事に関する内規に基
づき、理工学研究科委員会が行う。手順としては、各専攻の教員採用計画に従い、次年度
に補充する教員候補者を各専攻会議に諮り、承認後専攻主任が本研究科の人事委員会に推
薦する。その承認を経て、理工学研究科委員会で審議され、改めて開催される理工学研究
科委員会で投票により採用の適否に関する議決を行った上で、承認された場合は理事会に
申請する。昇格に関わる手順・基準についても、採用に際して用いられている上記内規を
準用し、採用の際と同様の手順により行われている。なお、専任教員の募集にあたっては、
形として研究科担当教員になることを前提とした学部専任教員の募集とし、一部公募制を
導入する場合もある。
【点検・評価】
教員の募集・任免は各専攻で責任をもって本研究科の専任教員として最も適任と判断さ
れる人材を選出している。その手続は公平かつ厳正なものであり、上に掲げた「内規」と
「申し合わせ」は適切であると評価される。現時点で研究科担当教員は全員が博士の学位
を有し、博士前記課程における教育研究指導を担当する能力をもっている。
【長所と問題点】
各専攻の規模は必ずしも十分ではないために、専攻として必要とする研究分野を多角的
に充実させることに重点が置かれ、特定の分野に偏りがないように人事が行われているこ
とは大きな長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科が位置するキャンパスは、周辺に多くの教育研究機関が存在し教育研究の両面
にわたって研究科が必要とする研究分野の専門家の協力を得ることができる。今後大学院
の教育研究の内容を整備するにあたってこれらの専門家との緊密な連携と協力の在り方を
検討する。研究科に重点を置いて教育研究体制について検討し、大学院独自の人事体制を
整備する可能性を検討する。
<数学専攻>
562 第3章 大学院
【現状の説明】
本専攻の専任教員の選考は、初め学部数学科の専任教員の新任人事として行うものの、
現専任教員の合議により教員の専門分野をある程度特定し、将来構想も視野に入れた選考
対象となる人材の期待される資質について検討した後、多くの場合公募によって行ってい
る。書類審査や応募者の総合的審査を行い、場合によっては少数の候補者に講演を依頼す
るか、インタビューを行って最終決定をする。この際、候補者の学術的業績に加えて担当
分野と教育研究指導に対する考え方についても判断の材料としている。昇格人事について
は本研究科の内規に従って行っている。
【点検・評価】
本専攻の専任教員のみで人材を選考する方法に留まらず、公募により広く人材を求める
ことは、本専攻の教育研究目標と将来構想に適合する人材の発見にもつながるものであり、
教育研究指導の水準を高めるうえで有効である。また、研究分野と人材の適正位置につい
て専攻会議で検討している。
【長所と問題点】
本専攻は専任教員 11 名を擁する小規模なものであるが、数学の主要分野において教育研
究指導を行う能力を持っている。研究と教育のいずれの分野にも偏らない人材を選考して
いることが特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
数学の理論と応用に関する諸分野において多様な発展が見込まれることから、日頃から
将来構想と教育研究の目標を点検し、本専攻にとって望ましい専任教員と教員組織のあり
方を検討して、適切な人材を選考する体制を整備する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員の選考は、現専任教員の合議により教員の専門分野をあらかじめ特定
し、公募により行う。書類選考の後、少数の候補者に講演をお願いし、このインタビュー(専
任教員全員が参加)の結果を踏まえて決定する。この際、候補者の研究業績はもちろんのこ
と教育に対する姿勢も判断の材料としている。昇任については本研究科の内規に従って行
っている。
【点検・評価】
公募により広く人材を求めることは、本専攻の教育研究水準を高めるのに大いに有効で
あると評価できる。
【長所と問題点】
公募を行うと、他大学の教員公募と時期や専門分野が重なって競合がおきて選考が思い
通りに行かない危険性がある。また新任教員の専門分野を著しく限定する場合には、望ま
しい候補者が集まらない場合もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員選考にあたって広く人材を求めることは今後も続けていくが、場合によっては公募
によらない選考を考える必要もあるかもしれない。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
563
本専攻における教員採用計画は、全担当教員の合議のもとに進められ、意見が分かれた
場合は投票を実施するなど、きわめて民主的に行われている。さらに意見がまとまらない
場合には、採用候補者との面接を行い、全教員が当該人物を評価して、慎重に専攻選出の
候補者とするか否かを判断している。なお、教員の採用の審査に際しては、研究業績だけ
でなく教育実績や学界、社会での活動状況も含めた総合的な人物評価を行っている。
【点検・評価】
本専攻においては、土木工学における理論的研究とともに具体的な実務教育にも重点を
置いており、教育研究の目標と今世紀における本専攻の研究分野の動向を常に視野に入れ
た形で教員の募集を行っている。
【長所と問題点】
専任教員に加えて本専攻の研究体制の充実と教育内容の強化を図るために、例えば環境
流体力学の専門家のような特任教員を任用することについて最大限の努力をしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻の研究分野は、本来の専攻分野に加えて環境科学や危機管理工学などの新分野を
含む展開が見込まれることから、教育研究目標と方針について再検討し、本専攻にとって
最も望ましい教員を募集する体制を整備する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
専任の大学院担当教員が手分けして他大学、研究所、企業などから優れた人材を募集し
ている。選考にあたっては専門分野、年齢構成、将来構想を視野に入れている。これまで
公募による募集は行っていない。昇格人事については本研究科の内規に従っている。
【点検・評価】
招聘する人材の個人的な人柄まで把握して人事を行っており、一般公募による方法とは
異なる専攻の理念と独自性に基づいた教員の任用を行っている。
【長所と問題点】
従来優れた人材を招聘してきたが、企業からの人材は時として研究論文が少なく、人事
委員会での説明が難しかったことがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
公募による教員の募集方法を採用する方がよいという意見もあり、今後具体的に検討す
る。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員の選考は、現専任教員の合議により教員の専門分野を定め専攻の将来
構想を視野に入れて期待される資質を持つ人材を、専攻の理念・目標と独自性を基にして
行われている。本専攻が対象とする研究分野は広範囲であるので、主要分野の核となる部
分を担当できる人材を募集し、任用している。
【点検・評価】
選考にあたっては専門分野、年齢構成、将来構想との適切性を評価して適切な選考が行
われていると判断される。特に現専任教員の出身校には全く偏りがなく、また専任教員 15
名のうち3名が本学の出身であることは適切である。
564 第3章 大学院
【長所と問題点】
本専攻の研究領域は電力・制御、電子・電子回路、情報通信の3分野に分かれているが、
これらの分野の核となるところに専任教員が配置されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻の研究分野は広範囲であり、急速に進展している科学技術の変化に即応する必要
があるが、今後伝統を保持しつつ実績をあげていくのか、新しい分野を取り入れていくの
かについて検討し、教員採用計画を立てる。大学院担当の専任教員を任用する可能性につ
いても検討する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員の選考は、現専任教員の合議により教員の専門分野を定め専攻の教育
研究体制に配慮しつつ、原則として公募によって行っている。書類選考の後、少人数の候
補者に講演を依頼しインタビューなどの結果を踏まえて最終判断をしている。1997 年度、
1998 年度に各1名を任用し、2002 年度にも同じ形で選考を行って1名の採用を予定してい
る。昇格人事は本研究科の内規により行っている。
【点検・評価】
選考にあたっては研究実績、教育実績、社会的評価などを基にして判断し、本専攻が定
めた3つの系(機能物性化学系、環境・化学プロセス系、生命・有機系)が相補的に教育研究
指導の実績をあげられるように、教員の選考が行われていると判断される。
【長所と問題点】
本専攻の専任教員のうちには本学出身者もおり、教員の選考基準は適切であるが、若手
教員のバランスには若干検討すべき問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻では応用化学の主要分野である3つの系において核となるところに人材を配置す
るようにしているが、実験施設との関係もあり、専攻の理念と目標に適合する人材を招聘
できるように体制を整備する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
専攻の専任教員が合議して選考対象となる教員に期待する専門分野を定め、専攻の教育
研究の理念と目標を視野に入れつつ適切な人材を選考している。原則として公募制度は採
用していない。
【点検・評価】
本専攻においては経営システム工学における理論的研究と並行して具体的な実務的研究
と教育も重要であり、多様に変化する社会情勢を反映し社会からの要請に応える形で教員
の募集を行っている。
【長所と問題点】
本専攻の研究分野は、理論的な研究に加えて実務に関係する研究部門が重要である。現
場からの人材を選考する場合には、分野の性格上学術論文が少ないため通常の基準では任
用を決める上で困難な場合がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
565
本専攻では経営システム工学の3つの視点(人間、情報、システム)からの主要分野を担
当できるような教員構成を確立するべく教員人事を進める方針にしており、分野によって
は公募による選考方法の採用を検討する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
設置年度が新しく、これまで大学院課程が完成年度に達していなかったため、教員の新
規採用は行っていない。昇格人事については本研究科の内規に従って行っている。
【点検・評価】
教員構成はその主要な4つの研究分野(「情報処理基礎」、「情報数理」、「情報システム、
ネットワークと情報セキュリティ」、
「コンピュータハードウェアの高信頼設計法」)におい
て適性に配置され、年齢構成の面から見て適切であり評価される。
【長所と問題点】
研究分野をこの方面で最も重要な情報数学、知能情報学、情報機器、社会情報システム
に焦点を当てて柱としていることは今後専攻の理念と目標を実現するための教員人事を行
う上で適切である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
情報工学の分野の急速な発展に即応する研究指導体制を確立する上で、専攻の定める 4
つの研究分野が調和の取れた実績をあげられるような人材を見出して本専攻の専任教員と
して任用し、専攻を強化する計画を立てる。
5−(4)
教育研究活動の評価
<理工学研究科>
【現状の説明】
授業科目は各専攻とも教員の専門分野に応じて等しく割り当てられており、毎年度編集
される「履修要項」に記載されている。研究指導や内容については「履修要項」の他に「大
学院ガイド」にも紹介され毎年度更新されている。博士前期課程の研究指導については、
修士論文発表会のアブストラクトを収録した「大学院研究年報」にまとめられている。
研究活動については、教員独自の研究成果を自己点検資料の一部として『学事記録』の
中に公開している。また、共同研究や研究プロジェクト、委託研究などの形で本学理工学
研究所を通じて得られた研究成果については「理工学研究所論文集」および「年報」に載
せられている。国際会議への参加・組織に携わる学術活動については、
『学事記録』、
「年報」、
「英文大学院ガイド」などで調べることができる。また、本学で開催される外国人研究者
との交流や国際会議の開催実績については国際交流委員会を通じて承認、記録されている。
本研究科教員の「文部省・日本学術振興会科学研究費補助金」(科研費)の受給状況は
1998 年度 43 件、1999 年度 39 件、2000 年度 41 件である。
【点検・評価】
博士前期課程は全専攻において充足していることから、全教員による熱心な教育活動が
行われ、授業と研究指導の両面から成果をあげている。研究活動は『学事記録』にも記録
されているように学内外、国内共にきわめて盛んであり、評価される。
【長所と問題点】
566 第3章 大学院
現在の本研究科では、教員構成が調整されて専門分野、年齢構成、教育実績、社会的貢
献度、研究内容の時代的変化に即応した研究活動の面から調和のとれたものとなっており、
教育研究体制が有効なものになっているので、専攻・研究科・学生からのさまざまな側面
が評価できることは最大の長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究助成の報告書などのように短期的な評価は、教員の教育研究活動を本研究科の立場
から評価する上でともすれば適切でない場合があり、教員が所属する専攻の活性化を図り
教育研究指導の水準をあげるためには、教育研究の内容に応じて適切な中間報告・終了時
の報告をまとめる必要がある。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
<理工学研究科>
【現状の説明】
本学では全学の制度として国際交流センターが所管する「外国人研究者の受入れ」制度、
「外国人訪問研究者受入れ」制度がある。
「外国人研究者の受入れ」制度は、教育研究に従
事するため3週間以上1年以内の期間外国人研究者を受け入れる制度で本学との交流協定
よるもの(第1群)、本学の招聘に基づくもの(第2群)、本人の研究計画によるもの(第3群)、
がある。
「外国人訪問研究者受入れ」制度は、講演等の学術的な行事のために受け入れる場
合の制度である。本研究科では訪問研究者の受け入れが多く、例えば 2000 年度は短期・長
期をあわせて8件であった。
本研究科では専任教員が企業等に所属する研究者との共同研究を行う場合、共同研究者
の受け入れを行っている。受け入れ人数は 1998 年度 31 名、1999 年度 21 名、2000 年度 30
名である。
2000 年度に「中央大学と東京外国語大学との教育・研究交流協定」を締結して、両大学
は双方が実施する研究等に相互に研究者・学生等を参加させ、研究交流を行うことができる
ようにした。
【点検・評価】
学内外の大学院・学部・研究所等の教育研究組織間の人的交流を、協定を結んだ形やそ
の前段階の弾力性を持たせた形で進めていることは評価できる。しかしながら、ややもす
れば人的交流が慣習・固定化し、学内外の区別がなくなってしまうことについては注意す
る必要がある。
【長所と問題点】
外国人研究者の受け入れ制度は他大学に比べても充実したものになっており、本研究科
の大きな長所である。しかしながら交流協定による受け入れ制度は現在は必ずしも有効に
活用されていない状況も見受けられ、検討を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究科の招聘に基づくもの、専攻の招聘に基づくものなど学問領域の広さに応じてきめ
の細かい組織制度の運用と可能性について検討する。受け入れ制度が多岐にわたっている
ため、問い合わせに即応できる事務担当の存在が望まれる。
<数学専攻>
567
【現状の説明】
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
1999 年度には2群によるもの4件、2000 年度は2群によるもの3件、2001 年度は2群に
よるもの2件、3群によるもの1件である。
「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者
との交流を 1999 年度以降についてみると、2001 年度まで毎年1件である。本専攻の共同
研究者の受け入れは 1998 年度1名、1999 年度2名、2000 年度5名である。また、本専攻
独自の企画として行っている「数学との遭遇」と名づけた講演会と講師との研究交流は効
果をあげており、1999 年度以降 2001 年度まで毎年4件ずつ開催されている。学内では、
理工学研究所の研究プロジェクトで情報工学専攻や電気電子情報通信工学専攻と共同プロ
ジェクト研究を行っているほか、研究開発機構のユニットに参加している。学外では、京
都大学数理解析研究所において共同研究集会を組織した実績を持つ。科学研究費の補助の
もとで研究集会や共同研究を行っている。また、日本応用数理学会との共催でシンポジウ
ムを開催しているほか、環境数理研究部会の世話人として環境数理研究会を開催している。
統計学関係では国際会議を組織している。
【点検・評価】
教員の個人レベルでの人的交流(研究者の招聘、他の教育研究機関への訪問、共同研究)
は国内外を問わずきわめて盛んであり、国際交流の提携に関する打診を受けているほどで
ある。本学の研究推進機関や学外の研究所、学会と協力して多様な形で人的交流を行って
いることは評価できる。
【長所と問題点】
近年の数学の分野における学際的な発展を反映して、数理科学の分野の専門家の間に人
的交流が広がりつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻は小規模であるとはいえ、積極的な人的交流を大学院課程における教育研究指導
に反映させるとともに、地の利を生かして多様な学術活動に中心的な役割を果たしていく
ことを目指す。
<物理学専攻>
【現状の説明】
高エネルギー研究所、京都大学原子炉実験所、物性研究所、室蘭工大など共同利用施設
を利用した共同研究を行っている。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を
1999 年度以降についてみると、1999 年度には3群によるもの1件、2000 年度は2群によ
るもの1件、2001 年度は2群によるもの1件である。「外国人訪問研究者受入れ」制度に
よる研究者との交流は 1999 年度以降ない。本専攻の共同研究者の受け入れは 1998 年度4
名、1999 年度2名、2000 年度3名である。教員個人のレベルの人的交流(研究者の訪問、
他の教育研究機関への訪問・出講、共同研究)は日常的に行われているが、その詳細は把
握できていない。
【点検・評価】
現専任教員の人的交流は学外や国外との交流を含め大変に活発である。
【長所と問題点】
学内の研究者受け入れ制度を利用しようとすると前年度から申請が必要であり、特に短
568 第3章 大学院
期の訪問、滞在を希望する研究者にとっては大きな障害になることは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
短期の訪問研究者が利用できる研究室、宿泊施設の整備、滞在費援助の制度の多様化と
事務の簡素化、事務支援体制の充実などに一層の改善に向けて検討する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
科学研究費に基づく共同研究や研究集会を通じた教育研究交流が行われている。毎年1
名程度東京大学生産技術研究所や独立研究法人に研究指導を依頼している。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
1999 年度には2群によるもの1件、2000 年度は2群によるもの2件、2001 年度は2群に
よるもの3件である。「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度
以降についてみると、2000 年度・2001 年度に毎年2件である。本専攻の共同研究者の受け
入れは 1998 年度7名、1999 年度6名、2000 年度8名である。
【点検・評価】
研究上の視野を広げるために他の教育研究機関に積極的に研究指導を依頼していること
は評価される。研究分野の性質上関連する教育研究機関、独立研究法人、企業の研究所と
の交流は重要である。
【長所と問題点】
民間企業等の研究所等から共同研究員を受け入れて本専攻の教育研究活動の活性化を図
っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
長期的に人を招聘するとともに、研究上の緊急の必要性が生じた場合には容易に研究出
張することができるように環境を整備する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
企業の研究部門と連携しているほか、宇宙研究所などの独立研究法人に研究指導を依頼
している。東京大学に機械を設置し共同研究を実施し、学生を派遣して研究指導を依頼し
ている。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
1999 年度には2群によるもの1件である。「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者
との交流は 1999 年度以降ない。本専攻の共同研究者の受け入れは 1998 年度2名、1999 年
度2名で、2000 年度の受け入れはなかった。
【点検・評価】
毎年5∼10 名の大学院学生が他大学、他研究所で研究を行っているが、先方の教授の個
人的了解によるもので、正式手続を経ているとは限らない。他大学や他研究所での研究成
果も多く、これらの成果は学会で発表されている。
【長所と問題点】
本学にはない設備が使えるが、個人的に行っている形では支障が生じた場合に保険制度
が利用できないため問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
569
研究交流の一部を研究科から支援される形で専攻レベルの公的制度にすることを検討す
る。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
科学研究補助金に基づく共同研究、理工学研究所の予算に基づく研究交流、研究集会開
催による研究交流を行っている。民間企業等の研究所に研究指導を依頼している。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
1999 年度には2群によるもの4件、2000 年度は2群・3群によるもの各1件、2001 年度
は2群によるもの3件である。「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者との交流を
1999 年度以降についてみると、1999 年度に1件、2000 年度・2001 年度に毎年3件である。
本専攻の共同研究者の受け入れは 1998 年度5名、1999 年度2名、2000 年度2名である。
【点検・評価】
外国から客員研究者を積極的に受け入れており、ノーベル賞受賞者クラスを含めた指導
的研究者を招聘して教育研究の活性化を図っていることは評価される。
【長所と問題点】
産業界に多大な貢献をしている外部の研究者との交流を深めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
長期的に人を招聘する制度が設けられ、長期的に研究出張が可能になる環境が整備され
ることを期待する。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
科学研究補助金を受け、国内に限らず国際的な人的交流を進めている。民間企業の研究
者を受け入れて共同研究を行っているほか、独立研究法人の研究者と理工学研究所を通し
て交流を図っている。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
2000 年度は2群によるもの2件、2001 年度は2群によるもの1件である。「外国人訪問研
究者受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、1999 年度に2
件である。本専攻の共同研究者の受け入れは 1998 年度9名、1999 年度5名、2000 年度5
名である。
【点検・評価】
これらの研究が本専攻の教育研究の活性化に役立っていることは評価される。
【長所と問題点】
常時客員研究員が使用できる研究室が整備されていないことは、他機関の研究者とある
程度の期間人的交流をする上で不便である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の個人レベルの研究交流から専攻の組織的レベルでの研究ができる環境整備を行う。
外国人研究者を数日間程度招聘する際の本研究科からの予算措置が得られるよう検討する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
基本的には教員各自で科学研究補助金による共同研究や他の教育研究機関との交流を行
570 第3章 大学院
っているが、本専攻の研究分野の性格上企業との連携を深めて積極的な人的交流を進めて
いる。
「外国人研究者の受入れ」制度および「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者と
の交流はない。本専攻の共同研究者の受け入れは 1998・1999・2000 年度それぞれ1名であ
る。
【点検・評価】
教員の個人的レベルでの交流は国内外を問わずきわめて盛んである。関連学会、日本規
格協会、日本科学技術連盟、企業の研究所との交流は本専攻の研究分野の性格上最先端の
情報やデータを得る上で重要である。また、本学出身者が研究者として本専攻を訪問する
ことが多く、このことは本専攻の特徴である。
【長所と問題点】
外国人留学生で本専攻を修了した者が帰国して指導的立場にあって交流を続けているこ
とも特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際交流センターや理工学研究所を利用するなど、専攻として学内外の教育研究機関と
の組織的な交流体制を確立する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
教員各人は、科学研究補助金による共同研究の打ち合わせをはじめとし、関連分野の研
究会で他の教育研究機関との人的交流を促進している。理工学部キャンパス内で研究集会
を開催することもある。
「外国人研究者の受入れ」制度による研究者との交流を 1999 年度以降についてみると、
2001 年度に2群によるもの1件である。「外国人訪問研究者受入れ」制度による研究者と
の交流は現在特に実績はない。本専攻の共同研究者の受け入れは 1998 年度4名、1999 年
度1名、2000 年度4名である。理工学研究所の支援を受けて関連機関の専門家を招聘し、
交流することも多い。
【点検・評価】
他の教育研究機関間の協定による人的交流の件数は必ずしも多くはないが、教員の個人
レベルでの人的交流はきわめて盛んであり、評価される。
【長所と問題点】
交流協定を結ぶ環境が整備されていることは長所であるが、研究の推移によっては継続
性を保つことが困難となり問題が生じることがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
相応に制度化され、研究科レベルもしくは専攻レベルで認められた形で弾力性のある人
的交流体制を整備する。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)
研究活動
6−(1)− ①
研究活動
<理工学研究科>
571
【現状の説明】
本研究科専任教員による学術研究成果のこの3年間の発表状況は、専攻によって若干の
相違はあるものの、総計で見る限り安定的状況にあり、論文数は 270 編から 290 編の間を
推移し、著書は 30 編から 55 編、講演発表は 620 件から 710 件の間を推移している。その
他翻訳、資料作成などで研究成果をあげている。
【点検・評価】
研究科専任教員が毎年度あげている研究成果は、教員総数と比較して非常に多いとはい
えないまでも現在担当している授業科目や研究指導の状況では十分なものと判断される。
【長所と問題点】
本研究科では、博士前期課程の学生でも学術講演を奨励しており、博士後期課程の学生
の中には国際会議に参加講演する件数も多い。これら多くの研究発表は指導教員との共同
発表であり、研究科による研究指導が直接研究成果に結びついているという意味で大きな
特徴である。
大学院課程の充実とともに学生や共同研究者との研究成果が多くなり研究分野も広がり
つつあることは本研究科の長所である。しかしながら、入学試験の多様化や博士前期課程
における研究指導に相応の時間が取られるために、十分に推敲された論文を書くことが困
難になりつつあることは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、研究成果は他大学との成果と競争的に評価されることから、安易な業績評価は不
適当であるものの、より積極的な研究活動を行うことを目的とするとともに、それを支援
する体制の確立が望まれる。
今後ますます分野横断的な研究が進み、従来とは異なる形態の論文が増えてくる傾向に
ある。このような事態に即応する研究の支援と評価体制を整備する。他方、理工系の重点
分野とされるバイオ・テクノロジーやナノ・テクノロジー関係の分野に貢献できるように
教育研究体制の整備を進めることを検討する。
<数学専攻>
【現状の説明】
数学の学問の特性から一人の教員が発表できる学術論文は必ずしも多くはない。1998 年
度では論文等 11 編、著書1編、講演発表 30 件。1999 年度には論文等 11 編、著書2編、
講演発表 20 件。2000 年度では論文等 14 編、著書1編、講演発表 25 件である。
【点検・評価】
数学専攻における研究分野は、主として整数論、代数幾何、微分幾何、位相幾何、関数
解析、非線形解析、統計学であるが、研究成果は偏りなくあげられており、評価される。
招待講演や国際会議への参加件数も多く、今後さらに研究成果が上がることが期待される。
【長所と問題点】
各研究分野とも理論的研究とともに学際的研究と具体的な問題への応用について興味を
持ち、このような研究方向は大きな特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
数学専攻はその規模が十分に大きいとはいえず、専任教員が各専門分野の専門性を保ち
つつ研究成果をあげることは容易なことではない。したがってさまざまな形で共同研究を
572 第3章 大学院
進め研究活動の幅を広げていくことが望まれる。
<物理学専攻>
【現状の説明】
物理学専攻における研究分野は、偏りなく物理学全般にわたっており、研究成果も物理
学の各分野において研究成果があげられている。1998 年度では論文等 36 編、著書3編、
講演発表 57 件。1999 年度には論文等 27 編、著書4編、講演発表 51 件。2000 年度には論
文等 27 編、著書1編、講演発表 53 件である。
【点検・評価】
研究分野は物理学における重点分野をほとんどすべて含むものであり、評価される。し
かしながら、専攻そのものは十分に大きな規模ではないので学外の研究者との共同研究が
重要である。
【長所と問題点】
研究分野は、素粒子論、物性論、固体物理、高エネルギー物理、統計物理学、流体物理、
複雑系、生物物理など多岐にわたっており、多様な人材を擁していることは本専攻の長所
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、非線形非平衡開放系や複雑系の分野で特色を出せるように、研究体制を整備する。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は本研究科の中で最も古い伝統を持ち、人材養成と研究に実績をあげてきた。1998
年度では論文等 76 編、著書3編、講演発表 202 件。1999 年度には論文等 88 編、著書9編、
講演発表 202 件。2000 年度には論文等 79 編、著書1編、講演発表 139 件である。
【点検・評価】
研究分野を構造・材料系、水理・流体系、地盤工学系、都市系、交通系、計算力学系に分
けて教員全員で精力的に研究活動を行っていることは評価できる。
【長所と問題点】
本専攻の研究分野は幅広く、多様な人材を擁していることは大きな長所である。しかし
ながら、現在の分類に固定することなく新しい研究課題に対して即応できる体制づくりを
常に検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新世紀に入って変化する社会の要請に応えるべく、研究活動を特化し高度化する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は、土木工学専攻に次いで設置され、以来多くの人材を輩出し実績をあげてきた。
1998 年度では論文等 28 編、著書6編、講演発表 140 件。1999 年度には論文等 42 編、著書
12 編、講演発表 84 件。2000 年度には論文等 38 編、著書 17 編、講演発表 110 件である。
【点検・評価】
研究分野を、機械・サイエンス系、メカトロニクス系、エコ・プロセス系に分け、担当教
員全員で研究成果をあげていることは評価される。また、このようにすることによって教
育研究内容が分かりやすくなっている。公的な助成を利用して積極的に研究発表を行って
573
おり、国際会議での発表も多い。
【長所と問題点】
研究分野を3つの系に分けて成果をあげていることは本専攻の長所である。他方、授業
時間の関係で海外での発表に回数の制限があり、成果の多い年度では制約となる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
確実に論文作成していることを検証し、授業に支障のないように工夫して学会発表には
限度を設けなくても済むように対策を講ずる。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本研究科では、土木工学専攻に次いで電気工学専攻として設置され、1996 年度に電気電
子工学専攻に名称変更し、その後 2000 年度に社会的ニーズの変化に即応して現在の専攻名
に名称変更した。長い伝統と幅広い研究分野を持ち、研究活動を行っている。1998 年度で
は論文等 39 編、著書6編、講演発表 97 件。1999 年度には論文等 53 編、著書 14 編、講演
発表 84 件。2000 年度には論文等 47 編、著書 15 編、講演発表 90 件の研究成果をあげてい
る。
【点検・評価】
研究分野を電力・制御、エレクトロニクス・電子回路、情報・通信の3つのグループに分け、
幅広い研究分野において研究成果をあげていることは評価される。学会等からの受賞が多
く、また、学会役員としての貢献も多大である。産学共同による理論の実用化を推進し、
産業界に多大な貢献をしている。
【長所と問題点】
エネルギー、エレクトロニクス、情報をキーワードとし、専攻の研究分野を3グループ
に分けて研究活動を明確化したことは大きな長所である。しかしながら、専攻全体の規模
は十分に大きいとはいえない状況で多様な研究活動を実施するためには相応の工夫が必要
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
関連分野の研究者が所属する他機関との連携を含め、相互交流を通じて教育研究活動の
充実を図る。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻は、土木工学専攻に次いで工業化学専攻として発足し、1996 年に現在の専攻に名
称変更し、共同研究を含めて担当教員全員で積極的に研究活動を行っている。1998 年度で
は論文等 28 編、著書2編、講演発表 104 件。1999 年度には論文等 24 編、著書3編、講演
発表 93 件。2000 年度には論文等 38 編、著書2編、講演発表 98 件の研究成果をあげてい
る。
【点検・評価】
本専攻の研究分野を機能物性化学系、環境・化学プロセス系、生命・有機系に分け、幅広
い分野において研究活動を行っている。特に、最近数年間では、本専攻所属教員の一流国
際誌への投稿数が 10 年前と比べて飛躍的に増加し、大学院学生との共著も多く評価される。
各教員の個人的テーマのほかに日本私立学校振興・共済事業団学術振興資金による研究補
574 第3章 大学院
助などを得て共同研究を行っている。
【長所と問題点】
独創的な発見・発明は多方面の学際分野から生まれるという視点に立って、研究分野を 3
つの系に類別し、研究活動を明確化したことは大きな特徴であり、研究指導の立場からも
学生にとって分かりやすくなっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
関連分野の研究者が所属する他機関との連携を初め、競争的外部資金を導入して研究活動
の活性化を図るとともに他の専攻と横断する共同研究を推進する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は実務に直結する研究領域を重視し、企業・他研究機関との共同研究を促進しつつ
研究活動を行っている。1998 年度では論文等 31 編、著書4編、講演発表 30 件。1999 年度
には論文等 26 編、著書6編、講演発表 52 件。2000 年度には論文等 21 編、著書1編、講
演発表 35 件の研究成果をあげている。
【点検・評価】
人間、システム、情報をキーワードとして経営工学、信頼性・安全性工学、数理システム
工学、応用情報システムに分類し、専攻の研究分野を明確にしたことは、本専攻の研究活
動を活性化するために有効であり評価される。本専攻は管理工学専攻から 1997 年度に現在
の専攻に名称変更し、ソフトウェア開発やサービス業への貢献も視野に入れて研究活動を
行っている。
【長所と問題点】
企業をはじめとするさまざまな組織をより良い形で運営していくための方法論を提供す
ることは、経営システム工学の重要な役割の一つである。このため、外部との共同研究は
その発展において不可欠なものとなっている。本専攻ではさまざまな企業や研究機関と積
極的に協力し、新たな経営システム工学に関する問題の発見とその解決に取り組んでいる
ことは大きな特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究分野の性質上、その対象とするところが多様であり、常に新しい観点から経営シス
テム工学の目標を明確化し、実質的な研究成果に結びつけることを目指す。現在個人レベ
ルで行われている外部との教育研究協力を専攻レベルに組織化する。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻は 1996 年度に本研究科に設置された最も新しい専攻であり、アルゴリズム設計・
解析法、計算理論、情報システム、集積回路、数値情報処理、知的情報制御、情報ネット
ワークとセキュリティ、情報システム解析などを中心として研究活動を行っている。1998
年度では論文等 24 編、著書8編、講演発表 50 件。1999 年度には論文等 19 編、著書5編、
講演発表 52 件。2000 年度には論文等 17 編、著書1編、講演発表 70 件の研究成果をあげ
ている。
【点検・評価】
現代科学における最も重要な課題を、情報工学における5つの側面(情報処理、情報数理、
575
情報システム、情報セキュリティ、計算機科学)から捉えて多面的な研究活動を行っている。
【長所と問題点】
研究分野が情報工学において最も興味深い研究領域を含み、各領域の研究者を擁してい
ることは本専攻の長所である。しかしながら、ハードウェア関係とソフトウェア関係の連
携を深める必要があり、今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学際的な分野であるので基礎理論、解析手法、設計、製造、検証、管理にわたって総合
的な知見の提供が期待される。ホームページを充実させ、新聞を通じた情宣活動を行う。
6−(1)− ②
教育研究組織単位間の研究上の連携
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では、大学に設置されている理工学研究所が科学研究費や奨学寄附金をはじめ
とする外部資金の導入ならびに外部機関との共同・受託研究などの受け入れ窓口となって
いる。本研究科では多くのメンバーが同研究所の研究員となっており、共同研究など研究
規模に従ってさまざまなプロジェクト研究に携わっている。また、私立大学ハイテク・リサ
ーチ・センターの指定を受けており、他専攻の研究者との共同研究を行っている。
【点検・評価】
理工学研究所によって支援される研究プロジェクトはきわめて競争的な研究助成に基づ
くもので、毎年相当の成果をあげており評価される。運営に関しては専攻毎に1名研究所
運営委員を出しており、理工学研究所との連携を密にしている。研究所の事務体制は各専
攻と密接に連動しており現在の人的レベルも高いことから十分機能している。専攻を横断
して学際的研究を行う機会を提供しており評価される。理工学研究所主催の国際会議を組
織するほか、研究所を経由して産学の連携を深めるとともに研究室紹介などを行っている。
学際的な研究を行う場として活用している教員が多いとは限らない。
【長所と問題点】
本研究科と理工学研究所の関係は、その事務的な業務分担が明確で研究プロジェクトの
申請の審査等も研究科の現状を十分配慮した公正なものであることは最大の長所である。
現在は、人的・資金的にも規模が小さいため大規模研究プロジェクトに対応できない状態に
ある。規模が大きく、理工系に限定されない学際的研究プロジェクトに対しては本学に設
置されている研究開発機構の支援を受けることができる。また、研究を実施する場所の確
保についても各専攻は研究所と連携を密にして協力する必要がある。特許などの知的所有
権などの取り扱いについて特に積極的支援体制をとっていないことは今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所を通じた研究助成と本部の学長室学事課の所管事項は、場合によっては区別が難
しいことがあるため今後事務的な改善を行う必要がある。研究所を通じて他専攻との共同
研究を推進させる。研究所主催の国際会議を組織する。また、研究所を経由して産学連携
し、研究室紹介を行う。
6−(2)
研究体制の整備
576 第3章 大学院
6−(2)− ①
経常的な研究条件の整備
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本学では基礎研究費に加えてさまざまな競争的研究助成制度を設置しており、科学研
究費を取得していない年度でもさまざまな研究助成を受けることができる。
専任教員に対しては、
「基礎研究費」の制度があり、教員一人につき年額42万円が支給さ
れ(2001年度現在)。個人で行う学術研究を助成するものとし、その使途は図書・機械器具・
消耗品の購入、通信費・手数料・交通費・旅費・学会年会費などである。「特殊研究助成」(2
001年度から「特定課題研究費」)は、専任教員がその専門分野における特定の課題につい
て個人で行う研究を支援することを目的にして設けられている。本研究科の教員の最近3
年間の受給状況は、1999年度10名(総額570万円)、2000年度8名(総額860万円)、2001年度
13名(総額860万円)である。「学術図書出版助成」の制度は、専任教員の研究成果の発表を
助成促進するもので、研究業績の他に、学術的価値の高い外国の古典などに関するもので、
かつ市販性にとぼしい著作を出版するときの出版経費を補助することを目的に設けられて
いる。
研究旅費は、上記の基礎研究費、特定課題研究費の他に学会出張旅費、発表を行う場合
の学術国際会議出張旅費が制度化されている。学会出張旅費は予算としては理工学部に付
与され、その総額は2000年度で約1,800万円である。理工学部の「学会出張旅費支給に関す
る理工学部内規」に従って、年度内2回までの旅費を支給している。旅費の支給基準は、
国内を地域によって区分し泊数を定めている。年度内3回目以降の出張申請に関しては、学
会での発表者であるか等を勘案して支給を決定している。宿泊費・日当・交通費の支給基準
は本学の旅費規程による。学術国際会議の出張旅費は本学の国際交流センター所管の予算
から前年度申請に基づいて支給している。
2.本学では、専任教員について「共同研究費助成」制度を設け、2001年度からその運用
を開始している。従来、本研究科では本学理工学研究所が所管する共同研究プロジェクト
や特化研究プロジェクトによる研究活動に重点が置かれてきた。
3.本学では専任教員について個人研究室(個室)を完備し、執務机などの什器を標準備品
として配備している。本研究科では所属教員101名全員に対して同様の措置を行っている。
4.本研究科の所属教員は学部教育においては講義形式の授業のほかに実験・実習をともな
う指導にも重点を置いているため、教育に携わる時間を過重にしないため次の2つの制度
を導入している。
実験・実習・演習での学部学生の指導の補助として教育技術員を配置している。2001年度
現在31名の教育技術員を各学科に1名から7名を配置している。
TA制度は、大学院学生を教育的見地から教育の補助者とするもので、博士前期課程学
生は学部教育の補助者として、博士後期課程学生は学部および博士前期課程の授業の補助
者とすることができる制度である。本研究科ではTAを主として学部の授業の補助者とし
て、また実験・実習指導の補助者として活用している。
また、全学の制度としては次の2つの制度がある。
「在外研究」制度は、本学専任教員を
対象に海外で1年あるいは6カ月間校務からは一切免除され、研究活動に従事することが
できる制度である。本学から旅費・滞在費を含む手当が支給される。必要な場合は教授会の
577
議を経て研究を継続するための延長制度もある。この場合には延長期間に関しては私費で
の在外研究となる。また、短期の在外研究制度として3カ月の制度がある。本研究科では、
毎年約3名程度の教員がこの制度を利用して研究活動を行っている。
「特別研究期間」制度
は、本学専任教員を対象に1年間校務からは一切免除され、国内での研究に専念すること
ができる制度である。毎年約1名の教員がこの制度を利用して研究活動を行っている。
【点検・評価】
1.基礎研究費に加えて、各種研究旅費の制度や多様な競争的研究費の制度が適度に組み
合わされて設置されていることは評価される。「学術図書出版助成」については 1999 年度
以降本研究科の教員は受給していない。研究の規模に応じた助成額は適切であると評価さ
れる。教員研究室の整備状況はおおむね良好であると判断される。
2.本研究科においては制度化の初年度であり共同研究費助成制度の運用実績はないが、
この制度は助成額が適当であるとともに運用上の弾力性があり研究科における研究活動に
対して適切である。
3.本研究科の現有施設は限られたものであるにもかかわらず、教員研究室の整備状況は
おおむね良好であると判断される。しかしながら、今後本研究科の学術活動はますます拡
大されることが期待され、長期的視野に立って教員研究費の整備について検討を進める必
要がある。専攻によっては面積が不足する事態が生じており早急な検討を要する。
4.教育技術員は教育上の補助のみならず図書室などの機能維持管理にも弾力的に貢献で
きることから各学科・専攻において重要な役割を演じておりこの制度は高く評価される。
この特別研究期間制度は、いわゆるサバティカル制度に相当するもので、この期間研究に
集中することにより大きな成果をあげており、評価される。
【長所と問題点】
1.研究の内容と規模に応じてさまざまな形で研究助成が得られることは最大の長所であ
る。研究費には、学長室学事課を経るものと理工学研究所を通す研究助成や外部資金の受
け入れ手続などがあり申請に若干の混乱を招く傾向にある。
2.本学が設置している研究助成制度と本研究科が設置している制度が混在しているため、
両方に対する問い合わせに即応する体制が必要である。
3.教員研究室の整備は、全研究科的観点から十分検討された計画に基づいて行われる必
要がある。限界のある施設の最適利用に向けて全学部・研究科で協力する必要がある。
4.専任教員とスタッフが十分とはいえない状況で、相互に協力してこの制度を重要視し
活用していることは大きな長所である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.研究費の助成制度が多様化するのにともない、申請資格や申請方法も異なってくるた
め、整理した形での募集要項を作成する。特に、予算上の問題から申請しても意味がない
場合もあり、この点についての情宣・ガイダンスを行う。
2.現在は、特定研究課題研究費との関連で申請基準が定められているが、申請総額に相
当の相違があることと申請資格が明確な形で通知されていないため今後助成額と申請資格、
申請時期について検討が必要である。
3.個人研究室等の研究環境に関して、本研究科の有意義な改革を進め充実を図るうえで、
今後各専攻は緊密な協力体制を整備する。
578 第3章 大学院
4.教員任用の時期によっては1年程度の相違であってもこの制度を活用できない場合も
あり、その運用には工夫を要する。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
7−(1)− ①
施設・設備等
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では、8つの専攻が常に独自の工夫をして実験設備や情報設備などに関して充
実を図っている。この目的のために専攻に配分される実験実習費、文部科学省補助金、学
内の助成制度等を効率よく効果的に活用する努力をしている。大学院学生・学部学生から
徴収する実験実習費については、各専攻・学部学生の在学生数によって各専攻・学科に配分
し教育に直接結びつく使途に限っている。施設・設備関係に対しては、2000 年度1億 5,400
万円、1999 年度1億 4,800 万円の支出を行って充実に努めた。
文部科学省補助金のうち設備関係に関する補助金について毎年度申請を行い、継続的に
設備等の充実を図っている。過去3年の実績は下記のとおりである。
「私立学校施設整備費
補助金(私立大学・大学院等教育研究装置施設整備費)」
(装置)は、1999 年度に学内LA
N(事業経費 2,100 万円)、2000 年度に測定装置(事業経費 10,000 万円)、2001 年度に装置(事
業経費 10,000 万円、申請中)である。
「私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等研
究設備等整備費)」は、1999 年度に実験設備等計4件(事業経費 6,850 万円)、2000 年度に
情報システム等計4件(事業経費 7,100 万円)、2001 年度に情報システム等計3件(事業経
費 5,300 万円)である。
「私立学校等経常費補助金特別補助(情報化推進特別経費:情報処理
関係設備(借入))」(情報処理関係設備:レンタル)は、1999 年度に装置(事業経費 1,700
万円)(その他継続として計2件、事業経費 8,100 万円)、2000 年度に情報システム(事業
経費 10,000 万円)、2001 年度に情報システム(事業経費 4,000 万円、申請中)である。学内
助成制度は、本学の助成制度で図書の購入、機械の購入を対象としている。過去3年の実
績として 1999 年度に装置等計5件(助成額 1,700 万円)、2000 年度に装置等計5件(助成額
1,700 万円)、2001 年度に装置等計5件(助成額 1,700 万円)である。
さらに、本学では経常的経費に加え、特別経費として法人が認めた場合には、特別予算(C
予算)の配布を受けることができる。2000 年度に関しては機器備品を中心として約 3,000
万円の配布を受けている。
【点検・評価】
実験実習費による施設・設備の整備は毎年度適切に行われ、各年度における教育研究目
的を達成する努力がなされている。その他文部科学省からの補助金により施設・設備の整
備に関して毎年度相当の実績をあげており評価される。
【長所と問題点】
実験実習費と文部科学省補助金の適切な執行を可能とする予算編成は本研究科の大きな
特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、文部科学省に加えて科学技術振興事業団ならびにNEDOなどからの研究助成を
579
恒常化し、実験実習費の負担を軽減する努力を行う。教員が恒常的に使用する設備・備品
の規模によっては研究室が狭隘となる可能性があるため、そのような機器備品類を収納す
る共通のスペースが取れるよう工夫する。
7−(1)− ②
維持・管理体制
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.教室等の基本的施設・設備に関しては、法人部署がその維持・管理にあたっており、毎
年修繕等に必要な予算を確保している。また、実験・実習に直接結びつく施設・設備に関す
る維持・管理(修繕等)のための経費は、原則として実験実習費によることとしている。2000
年度では修繕等に約 1,800 万円の支出を行っている。
2.本学、本研究科および理工学部は実験・実習にともなう安全管理等に関して以下のよう
に規程等を整備し、各種の委員会を組織して安全の確保を行っている。大学の取り組みと
して、
「中央大学理工学部危険物等管理規程」、
「中央大学組換えDNA実験実施規則」を定
め、危険物の管理、実験・実習等の安全確保に努めている。「中央大学理工学部危険物等管
理規程」では、消防法第2条第7項に規定する危険物、放射性同位元素、放射線発生装置、
高圧ガス、有害実験廃液、産業廃棄物(特別産業廃棄物を含む)、劇物・毒物に関する管理方
法、管理報告書の提出等を定めるとともに、それぞれの管理責任者(危険物保安監督者等)
の職務を規定し適正な管理を行うよう義務づけている。
「中央大学組換えDNA実験実施規
則」では、組換えDNA実験を実施するうえでの安全確保に関し、実験対象を物理的封じ
込めP2レベル以下に限定すること、限られた実験室で行うこと等を規定している。また、
安全委員会、安全主任者、実験責任者を定めそれぞれの権限・職務を定めている。実験の実
施にあたっては安全委員会の議を経ること、および、実験従事者の登録、記録の保管、教
育訓練を義務づけている。実験従事者に対しては健康管理の措置として定期的な健康診断、
事故への対処方法等を規定している。本研究科および理工学部の取り組みとして、上記の
学内規程による管理等のほか、
「理工学部安全管理委員会」を設け独自に管理運営している。
内規には委員会は安全管理に関する基本方針、基本計画、防災対策等に関し検討すること
を定め、構成は理工学部長、各学科・教室1名、放射線取り扱い主任者、放射線安全管理
責任者、高圧ガス製造保安技術管理者、水質管理責任者、危険物保安監督者、産業廃棄物
処理責任者、毒物・劇物管理責任者等としている。
また、実験等によって排出される各種の廃液に関しては理工学部事務室に専任の職員を
配置してキャンパス内で処理するほか、専門業者による処理を委託している。また実験等
にともなう産業廃棄物に関しては専門業者に処理を委託している。
【点検・評価】
1.教室等に関する維持・管理はおおむね良好である。
2.各種の廃液に関する処理は、東京都等の公共団体からもその運用について良好との指
摘を受けている。実験等にともなって大きな事故を起こしたことはなく、近隣住民の理解
を得ている。
【長所と問題点】
1.教室等の維持・管理に関する中長期的な計画は必ずしも計画されておらず、学部・研究
580 第3章 大学院
科からの要求にも十分に対応できない面がある。
2.本研究科の所在するキャンパスは主に理工学部と本研究科が使用しており、管理体制
は学部長・研究科委員長のもとで一元的に行えるので柔軟な対応が可能である。安全管理・
衛生管理に関する実務マニュアルの整備が遅れており、仮に大きな事故が発生した場合の
適正な措置に問題を残している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.補助金を獲得して実験・実習にかかわる設備を設置した場合の付帯的に発生する工事に
関し、学部・研究科の予算で執行するか法人の予算として執行するかのルールづくりの検討
を行う。
2.2001 年 10 月に「東京都環境確保条例」が施行されたことにともない、本研究科・学
部での環境汚染等への配慮に向けた体制等の整備を行う。また、安全管理・衛生管理に関す
る実務マニュアルの整備を行う。
7−(2)
情報インフラ
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本学の学術資料の記録・保管に関する取り扱いは、図書館と各専攻(学科)とで分担して
いる。本学図書館は多摩キャンパスに所在する中央図書館および市ヶ谷キャンパス図書室
がおもに文系学部・研究科のための学術情報の収集・整理・提供を行い、後楽園キャンパスに
所在する図書館理工学部分館が本研究科および理工学部のための機能を果たしている。理
工学部分館の蔵書数は、2001 年度現在、図書が約 23 万冊、継続して受け入れている雑誌
が約 1,000 タイトルである。おもに図書と学術雑誌のうち刊行後数年を経て製本した後の
ものを所蔵している。理学・工学系で必要とされる学術雑誌のほとんどは製本して永久保存
としている。また、定期的に蔵書の点検を行い、発見した紛失等による欠本は可能な限り
補充している。2000 年度の図書費予算は約1億5千万円で、そのうち学術雑誌の購入に約
1億1千万円の支出を行っている。
また、各専攻(学科)では独自の図書室を持ち、学術雑誌のうち比較的新しく刊行された
ものを保管し、利用に供している。これらの雑誌の多くは刊行後3年程度で製本し、上記
のとおり図書館の書庫に保管している。各専攻(学科)図書室の蔵書についても、数年に一
度の割合で蔵書点検を行っている。
2.学外の機関が発行する学術情報・資料や、所蔵する資料の入手に関しては、おもに図書
館理工学部分館が担当している。図書館では学術雑誌の購入とともに外部オンライン・デー
タベースの導入を積極的に行っている。オンライン・データベースはキャンパス内のどこか
らでも、可能なかぎ入り時間的制約のないよう提供している。データベースには電子ジャ
ーナルも含んでいる。また、文献の入手についても図書館がその仲介を行っている。
【点検・評価】
1.本研究科の大学院学生や教員が必要とする文献資料の複写・検索・情報提供のサービス
に加え、理工学部分館、各専攻の図書室は大学院学生にとってきわめて有効に利用されて
おり、講義や実験、研究指導の合間に必ず立ち寄るほど重要な存在となっている。
2.さまざまな学術情報や所蔵情報の入手に対して理工学部分館が果たす役割は重要であ
581
る。オンライン・データベースの提供は有効であり、文献入手の仲介も迅速で評価される。
国内の大学図書館等からの複写文献の入手、海外の文献提供業者からの入手など多様な入
手経路を開拓している。なお、入手にかかわる費用は本学の研究費である「基礎研究費」
や専攻に配布している消耗品費で支出が可能である。
【長所と問題点】
1.理学・工学系で特に重要な学術雑誌の購入に充てる予算が実質的に減額となっている。
予算が増額されないこと、版元価格が上昇していること、また為替レートの円安傾向の中
でここ数年は毎年の購入雑誌の削減を行わざるを得ない状況になっている。また、図書等
の保管場所の狭隘化が進んでおり図書館理工学部分館、各専攻(学科)図書室の双方で喫緊
の問題となっている。
2.文献資料や学術資料によっては、理工学部分館に所蔵されていないものが多く、関連
する専攻に問い合わせる必要があり、必ずしも入手が容易でない場合がある。また、相当
数の文献資料が個人研究室に保管されているために、それらの資料の検索や入手が容易で
ない状況にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.今後多くの文献資料が電子媒体に集録されていく傾向にある中で、通常の形態で保存
されている文献資料の重要性も益々高まっている。いずれの場合でもこれらの貴重な学術
情報の検索と閲覧を容易にし、快適な環境を整備することが重要である。2004 年度から共
用を開始する予定の理工学部新棟に情報工学専攻・情報工学科等の教室・研究室が引っ越す
ことから、その跡地となる教室・研究室等に蔵書の保管スペースを確保できるよう検討して
いる。
2.図書館では学術情報・資料の収集に関し、紙媒体のものに加え、電子ジャーナル・二次
情報文献データベースの拡充を計画している。今年度導入した DialogSelect(データベー
スの商品名)は来年度の運用に向け整備拡充を急いでいる。個人研究室の保有している学術
資料が制度的に学部・研究科に帰属している場合には、
理工学部分館で検索できるような体
制を整備することについて検討する。
<数学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、図書・学術雑誌の保管・閲覧場所として有効に使っ
ている。数学分野では図書の価値も高く年間相当の冊数の購入を行っている。また、学術
雑誌の利用を考慮して可能な限り既刊分の維持・保管を行い利用に供している。
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては主として専攻で対応している。学術雑誌については相当の
予算を割り当てて定期的に購入している。また、理工学部で刊行している紀要と他大学の
重要な紀要との交換を行っている。
【長所と問題点】
本専攻の図書室は他大学に比べてもきわめて充実したものになっており、本専攻の重要
な資産である。主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧できること
は、教育研究上好ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
582 第3章 大学院
図書室を拡充する努力をする。交換雑誌を増やしていくことを視野に入れて本専攻の紀
要もしくは学術論文集を刊行することについて検討する。
<物理学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、図書・雑誌の保管・閲覧場所として有効に使ってい
る。学術雑誌の利用を考慮して可能な限り既刊分の保管を行い利用に供している。また、
限られたスペースを有効に利用するために、優先順位の高い学術雑誌は図書室に保管し、
比較的順位の高くない雑誌は図書館理工学部分館に移して保管している。
【点検・評価】
一部の物理系学術雑誌では論文が電子化されてWeb上で提供されており、学内ネット
ワークからのアクセスが可能になっている。定期購読する雑誌の種類は十分ではないにし
ても、おおむね満足のいくものである。必要な文献の入手に関しては専攻としての体制の
整備はしていない。おもに図書館のサービスによる複写文献の取り寄せによって入手して
いる。
【長所と問題点】
専攻図書室について主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧でき
ることは、教育研究上好ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学術情報の保管管理の改善を図り、図書室のスペースの拡充を図る。
<土木工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、図書・学術雑誌の保管・閲覧場所として有効に使っ
ている。学術雑誌の利用を考慮して過去 3 年間程度の刊行分を保管している。3年以前の
既刊分は、製本後に図書館理工学部分館に移して保管している。
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては専攻としての入手体制の整備はしていない。必要な文献資
料はおもに図書館のサービスによる複写文献の取り寄せによって入手している。また、教
員の共同研究者が関係する機関から必要とする文献を入手することが多い。
【長所と問題点】
主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧できることは、教育研究
上好ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
必要な文献をすべて揃えることは不可能であるので、近隣の教育研究機関と提携して文
献収集・閲覧の体制を整備する。
<精密工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、おもに学術雑誌の保管・閲覧場所として使っている。
学術雑誌の利用を考慮して過去 3 年間程度の刊行分を保管している。3年以前の既刊分は、
製本後に図書館理工学部分館に移して保管している。また、図書は図書室に保管場所が確
保できないことから、教員の個人研究室に保管している。
583
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては、教員が各自科学技術文献速報(機械編)などを利用して文
献検索し、科学技術振興事業団情報事業本部や図書館のサービスによる複写文献の取り寄
せによって入手している。
毎年、学術雑誌について不要なものと新規購入のものについて点検している。
【長所と問題点】
専攻図書室について主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧でき
ることは、教育研究上好ましい。一方、図書の保管場所が個人研究室にならざるを得ない
ことは問題点として将来改善を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基本的文献資料や関連する学術雑誌を電子化して、研究室で閲覧できるようにすること
を検討する。
<電気電子情報通信工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、主に学術雑誌の保管・閲覧場所として使っている。
学術雑誌の利用を考慮して過去3年間程度の刊行分を保管している。3年以前の既刊分は、
製本後に図書館理工学部分館に移して保管している。学術図書については、主として教員
の個人研究室に保管している。
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては専攻としての入手体制の整備はしていない。おもに図書館
のサービスによる複写文献の取り寄せによって入手している。研究分野が広汎であるため、
限られた予算で最大限図書の充実を図っている。代表的雑誌については教員と学生が自由
に閲覧できるように専攻独自の図書室に配置している。
【長所と問題点】
主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧できることは、教育研究
上好ましい。一方、図書の保管場所が個人研究室にならざるを得ないことは、他の研究室
の研究者が閲覧に不便を感じることになり将来改善を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他の教育研究機関と協定を結んで図書・文献等の相互利用を行う。
<応用化学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、代表的な雑誌について教員と学生が閲覧できるよ
うに図書・雑誌の保管・閲覧場所として有効に使っている。学術雑誌の利用を考慮して過去
3年間程度の刊行分を保管している。3年以前の既刊分は、製本後に図書館理工学部分館
に移して保管している。
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては専攻としての入手体制の整備はしていない。おもに図書館
のサービスによる複写文献の取り寄せによって入手している。
【長所と問題点】
専攻図書室について主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧でき
584 第3章 大学院
ることは、教育研究上好ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際学術雑誌を電子ジャーナルの形で購読する。
<経営システム工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、図書・雑誌の保管・閲覧場所として有効に使ってい
る。本専攻では図書の価値も高く年間相当冊数の学術図書の購入を行っている。また、学
術雑誌の利用を考慮して可能な限り既刊分の保管を行い利用に供している。
【点検・評価】
専攻の教員と学生が自由に閲覧できるように専攻独自の場所を用意して図書を保管整備
している。必要な学術資料については図書館のサービスによる複写文献の取り寄せによっ
て入手している。
【長所と問題点】
専攻図書室について主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧でき
ることは、教育研究上好ましい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他の教育研究機関と協定を結んで図書・文献等の相互利用を行う。
<情報工学専攻>
【現状の説明】
本専攻では専攻独自の図書室を設け、おもに学術雑誌の保管・閲覧場所として使っている。
学術雑誌の利用を考慮して過去3年間程度の刊行分を保管している。3年以前の既刊分は、
製本後に図書館理工学部分館に移して保管している。また、図書は図書室に保管場所が確
保できないことから、教員の個人研究室に保管している。
【点検・評価】
必要な文献の入手に関しては専攻としての条件整備はしていない。教員が個人的に他の
機関に依頼して文献の入手を行うほか、図書館のサービスによる複写文献の取り寄せによ
って入手している。
【長所と問題点】
主要な学術雑誌を教員の個人研究室から比較的近い場所で閲覧できることは、教育研究
上好ましい。一方、図書の保管場所が個人研究室にならざるを得ないことは問題点として
将来改善を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他の教育研究機関と提携して図書・文献等の相互利用を図る。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科の教員の多くは、政府機関の各種審議会委員ならびに調査委員会委員、教育研
究活動に関わる財団の評価委員、企業、裁判所、警察における技術顧問、社会から委託さ
585
れた調査委員会委員、企業における技術指導者、国際会議の組織委員、学会役員、さらに
各種学術雑誌の編集委員などの任にあり、自らの研究成果に基づく専門的知識の社会への
還元を果たしている。また、多くの教員は特許などの知的所有権を持ち、これらの知見を
通して社会に多大の貢献をしている。
【点検・評価】
本研究科の教員の多くは、本学へ赴任する前の経緯もあって各種機関の審議会委員、評
価委員または役員になっている場合が多く、社会への直接的貢献ができることは評価され
る。また本研究科の教員が取得・申請中の知的所有権も多く、社会への貢献が期待される。
さらに、本研究科では社会のニーズに即応する人材の養成に力点を置いており、即戦力を
持つ人材を供給することにより社会への要請に応えられるように努めている。
【長所と問題点】
共同研究や委託研究では直接に研究成果を反映させることができるが、具体的な自己点
検・評価のデータにはなりにくい側面がある。シミュレーション結果の実証を依頼されるこ
ともあり、実質的貢献をしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学際的な研究成果を積み上げて、社会への還元状況を明示することが重要である。加え
て、研究成果に関する組織的な情宣活動を行い、産官学の連携活動を推進する。
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
<理工学研究科>
【現状の説明】
1.本研究科の教学上の組織およびその運営は本学大学院学則に従って行われている。本
学大学院の運営上の組織は本研究科をはじめとする6研究科で構成されている。研究科委
員会は管理運営上の最高機関として位置づけられ、大学院学則第11条に規定されている研
究および指導に関することなどの諸事項を審議決定している。
研究科委員長会議は、大学院学則第7条に規定されており、各研究科に共通する事項を
連絡協議している。
2.本学ではそれぞれの学部を基礎として各大学院研究科を設置し、本研究科各専攻は理
工学部の各学科に対応して設置されている。したがって、たとえば教員人事の場合、当該
学科より発議されて、人事委員会で審査された後、学部教授会の承認を得る。学部教授会
で専任教員として承認された後、研究科委員会に発議され業績審査を受けて研究指導を担
当する。
3.本研究科では「研究科委員長互選方法の申し合わせ」を内規として制定し、選任手続
を行っている。選挙は研究科委員会委員の過半数の出席により成立し、有効投票数の過半
数を得た者を当選人と規定している。
【点検・評価】
1.研究科委員会は研究会委員長を選出し、2年ごとに選挙により選出される。研究科委
員会は構成員の過半数をもって成立し、議決は出席者の過半数の賛成をもって行われる。
研究科委員会における議決は、各種委員会において検討審議され、事前の連絡委員会にお
586 第3章 大学院
いて報告審議された後に行われる。
2.学生の受け入れ、研究指導、学位審査などは学部教授会とは独立に行われているが、
研究科の担当教員はすべて学部教授会のメンバーであるため、学部から大学院への一貫教
育の体制は十分整備されている。
3.選挙人について在外研究中の者などの取り扱いを同内規および定足数に関する内規で
詳細に規定し運用上の誤りが発生しないよう手続等を定めている。選挙手続は同内規に従
って行われ、従来格段の問題が生じたことはない。
【長所と問題点】
1.研究会委員長を中心に、該当する委員会が検討課題を取り扱うほか、必要に応じてワ
ーキング・グループを組織して相当の議論を積み上げた後、研究科委員会で審議することは
本研究科の特徴である。
2.研究科委員会の審議事項は学部教授会での決定事項を踏まえて扱われており、この緊
密な連携は大きな特徴である。
3.選挙が研究科委員会委員の過半数の出席により成立し、有効投票数の過半数を得た者
を当選人とする制度について将来問題が生じることがないように検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1.研究科を通じた教育研究指導プログラムや学位審査などの学術事業を管理運営する委
員会を再検討し、時代の変化に即応して事業内容を改革する。
2.学部教授会の議を経た後、研究科委員会に諮られるため、ともすれば時間がかかりす
ぎる傾向にある。この点を改善するための手順と事務手続の合理化について検討する。
3.研究科委員長の選出は、今後大学院改革を行い今後の困難な状況に対応していくため
に適任である人材を慎重に選出する意識を学部教授会と共有するよう努力する。
10.事務組織
<理工学研究科>
【現状の説明】
本学で理工学研究科を除く5研究科において総合的事務の取り扱いができるような事務
組織として大学院事務室を設置している。本研究科は地理的に他の研究科とは別地にある
ことから理工学部事務室のもとに大学院担当(係に相当)を置き、理工学部の入学試験等
を所管する担当を含めて統括する担当課長職を置いている。また、教員の研究活動にかか
わる庶務的事務は学部事務室の庶務担当が行っている。
大学院担当では、大学院事務室などの協力を得ながら本研究科の改革・改善に関する調
査活動や他大学大学院研究科の状況の把握などに努めている。また、予算編成では前年度
以前の実績を勘案しながら最適配分が可能となるよう努めている。外部からの補助金等の
獲得に関しては、学長室学事課や経理部経理課と密接に連携して立案に努めている。
【点検・評価】
本研究科の組織活動を可能にする財政的基盤を維持するために、本部事務機構と密接に
連絡をとりつつ少人数のスタッフで業務を遂行していることは評価される。また、理工学
部事務室の中では学部事務と大学院担当は相補的に業務を行っている。
【長所と問題点】
587
本研究科のキャンパスは他研究科が位置する所と異なるが、その学問分野の特性や学術
活動の性格上その事務組織はある程度の独自性が要求される。この意味では現在の形態を
保持拡充するべきであろう。限られた事務職員数のなかで広範囲にわたる業務を執行する
ことは時に業務の渋滞を起こすことがある。また、大学院事務室に比して業務知識などの
点で厚みや蓄積がないことは問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科事務組織の他研究科や本部との連携を最適にするためには、必要とされるデー
タや情報が遅滞なく伝達されなければならない。また内規にかかわる情報提供のあり方や
研究助成、教員の学外活動に関する事務処理など、事務局として正確かつ適切な専門的知
識と教員の支援体制を整備していくことは今後の課題である。
11.自己点検・評価等
11−(1)
自己点検・評価
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科においては、各専攻の主任か構成する連絡委員会が自己点検・評価を含む諸問
題に取り組んでいる。1994年度以来、自己点検・評価作業委員会を設置し、具体的な検討
を行ってきた。教員の研究業績等については、かねてより『学事記録』に収録・公表して
きたが、1992年度からは理工学部における論文概要を収録して、閲覧に供している。また、
1994年度からは本研究科および理工学部で「自己点検・自己評価のための基礎資料」のデ
ータベース化に着手した。1998年度より、大学院の自己点検・評価を充実させるために理
工学研究科自己点検・評価委員会を発足させた。
【点検・評価】
博士前期課程と博士後期課程における教育活動については、毎年刊行される『大学院研
究年報』に修士論文の概要が収録公表され、このような事業は大学院課程の活性化を示す
ものとして評価される。
「自己点検・評価のための基礎データ」は充実しつつあるが、今ま
でこれらのデータに基づく具体的な点検・評価作業は今後の課題である。
【長所と問題点】
自己点検・評価のための基礎データは十分に蓄積されている。しかしながら、本研究科
の理念と目的が成文化されて明示され、点検・評価の結果は必ずしも整備されているわけ
ではない。今後ますます教育研究の環境整備と財政支援が競争的になることを深く認識せ
ねばならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新世紀に入って社会や科学技術が急変することが予想される中、今後は定期的に自己点
検・評価を行い、適宜外部評価を受けることが不可避である。今後はこのような情勢に即
応する組織的かつ具体的な体制づくりが望まれる。
11−(2)
自己点検・評価に対する学外者による検証
<理工学研究科>
【現状の説明】
588 第3章 大学院
毎年定期的に自己点検・評価の基礎資料が収集されている。教育研究活動ならびに社会
への貢献に直結した資料が『学事記録』に収録され、大学院課程における研究成果は『大
学院研究年報』に収録されている。毎年度「大学院ガイド」、
「理工学研究科教員紹介」、
「履
修要項」が発行され、教育方針や研究指導の内容が示される。これらの刊行物や本研究科
のホームページにある記述を通じて学外者によって検証されている。
【点検・評価】
本研究科における教育研究活動の成果は、自己点検・評価資料としてまとめられ各教員
は自らの活動の成果を整理する機会が与えられるとともに、次年度の教育研究の方針が定
められる。これらの資料から客観性のある妥当な点検・評価を行うことができる。
【長所と問題点】
基礎データは十分に整備されているが、これらは具体的な自己点検・評価の形に整理さ
れているとは限らない。2000 年に刊行された本研究科の「自己点検・評価報告書」では基
礎データは与えられているものの点検・評価に関する具体的な記述は与えられなかった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今回の点検・評価報告を含めて、今後は定期的かつ積極的に点検・評価を行い、さまざ
まな形で外部評価を受けて検証を受ける体制を確立するよう努力する。
11−(3)
評価結果の公表
<理工学研究科>
【現状の説明】
本研究科では、2000 年に『大学院自己点検・評価報告書(研究教育活動報告書)』を作
成・発行した。従来『学事記録』や『理工学研究科教員紹介』に加えて理工学研究所が発
行している『ガイド』の中に本研究科における教育・学術活動が記録されているが、
『報告
書』はこれらを集大成したものである。この報告書は 2,000 部作成され、学外へは約 300
部を配布した。
【点検・評価】
報告書は十分な点検・評価資料を収録しており、資料としては評価されるが、本格的な
点検・評価まで踏み込んでいない。
【長所と問題点】
点検・評価の作業と結果は実施年度の学内状況や社会状況に依存するが、大学院の改革
や充実が急務となっている現在、点検・評価を実施し必要であれば外部評価を受けてその
結果を学内外に発信することは必須である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科に独自の自己点検・評価委員会を組織・編成し、自己点検・評価を実施して外
部評価を受ける体制を確立する。
589
文学研究科
1.理念・目的・教育目標
<文学研究科>
【現状の説明】
文学研究科は 1955 年に国史、東洋史学専攻などが設置されてから次々と開設され、現在
では1専攻(心理学専攻)に修士課程が、また 11 専攻(国文学、英文学、独文学、仏文学、
日本史学、東洋史学、西洋史学、哲学、社会学、社会情報学、教育学)に博士課程前期・
後期課程が設置されている。なお、2002 年には心理学専攻に博士後期課程が開設される予
定である。そうすれば、全 12 専攻に博士課程前期・後期課程が設置されることになる。各
専攻は「大学院設置基準」第3条第1項および第4条第1項に従って、前期・期課程の目
的を追求してきている。
本研究科は文学部の上にいわば煙突型に設置されており、したがって学部の人文主義的
理念(人間の内面と社会と歴史をテクスト、データおよび事象を中心に考察するという理
念)を継承している。また社会情報学のように高度情報社会に対応した理論と実務の教育
を理念としている専攻もある。
従来、主として研究者、大学教員の養成を教育目標としてきたが、最近は実務家養成も
視野に入れている。
【点検・評価】
上述の教育目標はかなり達成されたと思われる。昨年までに修士の学位を取得したもの
が、1,425 人、博士の学位を取得した者が 35 人となっている。大学教員も多く輩出してき
た。
【長所と問題点】
学部の多くの優れた教員がほとんど研究科の教育に携わってきたことから、大学院教育
は充実してきたといえる。しかし煙突型の形態をとっているために、学部の専攻形態をそ
のまま引き継いでおり、文学・歴史系に顕著にみられるように、伝統的な学問区分がその
まま保持されている。
近年、大学院に対する期待やニーズは多様化している。学部の勉強に物足りなさを覚え、
さらなる勉強の場を求める学生、より高度な実践的能力を身に付けることを願う学生、社
会に出たあとさらなる研究に志す人々、中高の教員でブラッシュアップやグレードアップ
を求める教員も多くなり、大学院に期待するようになった。この傾向に応えるのも今後の
大学院の重要な役割となるだろう。特に博士前期課程の課題である。
研究者、大学教員養成は重要な使命であるが、現今の少子化などの影響で、教員の席は
厳しいものとなっている。激しい競争に打ち勝つ力を、特に博士後期学生には身につけさ
せなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来は専攻の改編をしてグローバル化に対応しなければならない。学部の改編が前提と
なるが、当面さまざまな工夫によってジャンル横断の実効をあげなければならない。他専
攻、他研究科、他大学研究科での履修を積極的に行うよう学生に奨励しなければならない。
590 第3章 大学院
また、東京都立大学、東京外国語大学と結ばれた「教育・研究協定」を十分に活用するこ
とも肝要である。教員組織の有機的な連携による専攻を横断した講座(総合講座)も学生
に資するであろう。
<国文学専攻>
【現状の説明】
7世紀に遡る歴史を有する日本文学についての研究は、1,300 年余の伝統を保ち、今日
なお新たな分野の発見、新しい方法の開拓が押し進められている。国文学専攻では国語学
をはじめ、和歌・物語・詩・小説等、主要な分野、上代、中古、中世、近世、近代、現代
のすべての時代をカバーする8名の教員を揃え、積極的に教育研究に取り組んでいる。国
際化・情報化の中で、大学や教員のアイデンティティが問い直されている時、その拠り所
となる伝統的な感性、思想の表現である日本文学を改めて捉え直す責務を、積極的に果た
しつつ、これを受け継ぐべき次の世代を育成している。教職や研究職に就く修了者も多い。
【点検・評価】
2000 年に入学定員を博士前期課程 10 名、博士後期課程5名に増やし、積極的に教育研
究を進めており、外国人留学生・社会人等多様な学生が集まっている。実証的で堅実な学
風を身につけ、大学・短大等で教職や研究職に就く修了者が、すでに 20 人を越えており、
外国人留学生の中にも在籍中に学位を取得し、帰国後研究者として大学で教鞭を執る者も
出てきている。
【長所と問題点】
主要なジャンル、上代∼現代のすべての時代をカバーする8名の教員を揃え、その実績
は定評がある。また、学生主催の行事等が活発で、教員と学生の結びつきも強く、学統を
継承する上で大きな特長となっている。
毎年多様な学生が集まってきており、外国人留学生の多いことと相俟って、日常的に異
文化に接することを通して、自らのアイデンティティを問い直す契機となっている。
学生同士のつながりも強く、学年の違いを越えて密接な交流がある。外部の学会活動等
への参加も活発である。
一方、社会状況の急激な変化にともなって、伝統的な文化や価値観に対する見方が異な
ってきており、志望する学生の減少など、専攻を取り巻く状況が厳しさを増している。加
えて、オーバードクターや博士前期課程での留年生が増加する傾向がある。
また、学生数に対する教員数は、同規模の他大学に比べても少ない。そのために、校務
や学生指導の面で教員の負担は過重になりつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際化・情報化の中で、大学や教員のアイデンティティを主張しなければならない機会
はこれからますます増えるだろう。我々自身の拠って立つ文化についての正しい認識を持
ち、それを外に向かって発信できる人材育成が急務である。
<英文学専攻>
【現状の説明】
英文学専攻は、
「中央大学大学院学則」の第1章「総則」の第2条にある「学術の理論及
び応用を教授・研究し、その深奥をきわめて、本大学の使命を達成することを目的」とし
て、1956 年に修士課程(現博士前期課程)が、1964 年には博士課程(現博士後期課程)が
591
設置された。英文学専攻の研究分野は、英文学、米文学、英語学に大別される。
英語力の充実を共通の地盤としつつ、言語と文化のより深い理解を目指し、各研究分野、
さらには各研究テーマに沿って、博士前期課程は学部における、博士後期課程は同前期課
程における学生の研究成果をさらに発展させることを目標として、指導にあたっている。
教育指導方針に一貫性を持たせるため、同一教員が中心となって一人の学生の指導にあた
ることが多いのだが、研究分野の近親性も手伝って、英文学専攻では全教員が一団となっ
て直接・間接に指導を行ってもいる。学生が研究分野や直接の指導教員を変更することが
困難ではなく、かつ実際に変更が少なくないことは、英文学専攻の教育方針が全教員に共
有されていることを示している。
【点検・評価
長所と問題点】
上述の使命と目的のもとに、設置以来今日に至るまで多くの研究者を養成し、わが国の
英文学研究の進展に寄与してきた。同時に高度な専門性を有する英語・英文学教育者の育
成にも貢献してきた。英文学専攻および教員については「中央大学大学院ガイド」と「中
央大学大学院文学研究科教員紹介」に詳しくその特色が紹介されている。毎年の大学院修
了者数やその後の就職状況については、中央大学英米文学会発行の『英米文学研究』に詳
しい。
上述の使命と目的は今後も維持・達成すべきことは言うまでもないが、やや抽象的・観
念的であることも事実であるので、時代・状況に即応した具体的・実践的な目標を掲げ、
取り組んでいくという方向性をも示す必要があるだろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前項の最後に示唆した新たな方向性を全担当教員が共通認識として持ち、鋭意改善・改
革に取り組んでいきたい。
<独文学専攻>
【現状の説明】
1.博士前期課程
ドイツ文学専攻の教育研究の理念と目標は現在、大きく変わろうとしている。これは独
文学専攻を取り巻く社会的環境の変化に伴い、本専攻がドイツ文学・語学の教育研究機関
からドイツ文化・社会の教員研究機関へと転換しているからである。また本専攻では異文
化教育研究におけるメディア環境の変化に対応して、文献学的教育研究方法とマルチメデ
ィア的教育研究方法との融合を試行していいる。こうした状況の中で、本専攻が現在掲げ
る理念と目標を要約すれば以下のようになろう。
○ ドイツ語圏諸国の文化と社会に関する専門的教育研究の実施
○ ドイツ語圏諸国の文学に関する専門的教育研究の実施
○ ドイツ語教育法に関する専門的教育研究の実施
○ 日独文学・文化交流を促進するための方法論に関する専門的教育研究の実施
○
文献学的研究方法とマルチメディア的研究教育方法を融合した学際的な研究教育方法
の開発
以上のような理念と目標を実現するために博士前期課程では、ドイツ語圏諸国の文化・
社会を専門的に研究するための基本的な能力の養成に教育の重点を置いている。これは具
体的には次のようになる。
592 第3章 大学院
○ 専門的な文献を読解し、専門的な議論を行うための高度なドイツ語運用能力の養成
○ 専門的な研究を行うための方法論の修得
○ 文献学的研究方法とマルチメディア的研究方法の修得
○ 日本語とドイツ語による論文執筆方法と研究発表方法の修得
人材養成という点では、博士後期課程に進学し、より高度の研究を行い得る人材を育て
るとともに、高度の語学力と専門的な知識を持つ民間企業人を育てることを目標としてい
る。
2.博士後期課程
博士後期課程では、博士前期課程の教育研究理念と目標に即したより高度の研究教育を
行い、さらに高度の語学力と専門知識を持つ研究者および民間企業人を養成することを目
標としている。具体的には次のような目標を掲げている。
○ ドイツの文学・文化・社会に関する個別的で専門的な教育研究の実施
○ ドイツの文学・文化・社会に関する個別的で専門的な博士論文の執筆指導
○
高等教育機関においてドイツ語圏諸国の文化と社会に関する教育研究を行う人材の養
成
○ 高等教育機関において基礎的かつ専門的なドイツ語教育を行う人材の養成
○ 英独の高度な語学力と専門的な知識を持つ民間企業人の養成
○ 文化機関や自治体において日独文化交流を担う人材の養成
【点検・評価】
本専攻は上記の理念と目標を達成するために現在かなり大胆な試みを実施している。具
体的にはドイツ語圏諸国の文学研究から文化研究へと教育研究領域を拡大し、新たな異文
化教育研究を実施しつつある。また、文献学的教育研究方法とマルチメディア学的教育研
究方法の融合にも積極的に取り組み、この分野では日本の大学におけるドイツ文学専攻の
最先端に位置している。
【長所と問題点】
本専攻の長所はドイツ語圏の文化と社会に関する多様な領域の教育研究が行える点にあ
る。また語学教育が充実している上にドイツの協定大学への留学制度も整備され、実践的
語学力と専門的能力の両方を練磨する教育研究環境を整備している。さらにいたずらに学
生数を増やすことをせず、少人数教育で徹底した論文指導を実施している点も本専攻の長
所である。
問題点として現在挙げられるのは、学生数の減少である。本専攻が近年試みている新た
な教育研究の理念と目標は、まだ社会的に十分に認知されているとは言いがたい。さらに
学生の新たな就職先の確保も将来の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻が試行している改革は将来のドイツ文化研究の新たな指針となるはずである。し
たがって今後は本専攻の教育研究の理念と目的を社会的により広く認知してもらう必要が
ある。そのためには、インターネットのホームページを用いた広報活動が有効であるので、
本専攻のサイトの充実を図りたい。またドイツの文化機関のみならず民間企業と本専攻と
の関係を深め、学生の就職先を開拓することも必要である。
<仏文学専攻>
593
【現状の説明】
仏文学専攻の修士課程(現博士前期課程)が設置されたのは 1955 年4月、同博士課程(現
博士後期課程)の設置は 1962 年4月のことである。その目的および使命は、 1951 年4月
設立の本学文学部文学科仏文学専攻における教育の基盤の上に、17 世紀の古典主義から現
代に至るまでのフランスの文学・思想について、それぞれの分野において専門的知識をも
つ教員が「学術の理論及び応用を教授・研究し、その深奥をきわめて、本大学の使命を達成
することを目的とする」(「中央大学大学院学則」(以下「本大学院学則」と略記)第2条)
ことにある。
【点検・評価】
こうした目的・使命のもとに、設置以来今日に至るまで多くの研究者を中心とする高度
な専門性を有する人材を養成し、国内外の文化の進展に寄与してきた。
【長所と問題点】
上記の目的と使命に関しては、講義内容とともに毎年入学生に配布される「中央大学大
学院履修要項」
(以下「履修要項」と略記)の巻末の前記「本大学院学則」に明記されてお
り、 また専攻の特色、教員紹介等については募集要項である「中央大学大学院ガイド」と
「中央大学大学院文学研究科教員紹介」
(以下「教員紹介」と略記)に詳しく掲載されてい
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この目的と使命を達成すべく全担当教員が鋭意努力を重ねている。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
本研究科日本史学専攻は、1955 年4月、国史・東洋史学専攻修士課程として創設され、
1963 年国史学専攻修士課程(のち博士前期課程)が東洋史学専攻と分離して発足した。ま
た、国史学専攻博士課程(のち博士後期課程)は 1962 年に設置された。1997 年4月から
日本史学専攻と改称され今日に至っている。
本専攻は実証主義の学風を基本理念として、厳密な史料批判のもとに、日本の歴史事象
に関する個別的研究を通じて、その総体的歴史像を明らかにし、多角的な歴史理解を深め
ることを目指すものである。博士前期課程においては、広い視野に立った深い学識と研究
能力を養うこと、博士後期課程においては、豊かな学識を一層深め、自立して研究活動を
行い得る能力を身につけることを教育目標とし、専攻分野においてそうした学識や能力を
有する専門家あるいは専門的職業人たるべき人材の養成を目指している。
【点検・評価】
上記のような理念・目的・教育目標に基づき、古代史から現代史までの政治・ 法制・経
済・社会・思想・対外関係・史料学などさまざまな専門分野にわたる7名の専任教員と3
名の非常勤教員により、教育研究活動が行われている。また、他大学との単位互換制度や
大学共同利用機関などの活用も進められている。
本専攻において修士・博士の学位を取得した者は別記のように多数に及ぶが(3−(4)
− ①
学位授与
参照)、多くが大学・博物館・資料館などの教育研究機関や文化施設に
おいて専門の学識能力を生かして活躍しており、上記の教育目標はおおむね達成されてい
ると評価できよう。
594 第3章 大学院
【長所と問題点】
広い分野にわたって教員による研究指導体制が整えられ、学外の機関の活用もある点が
メリットといえよう。しかし、近年、大学院在籍の学生数もかなり増加しているので、そ
れに対する教員数は必ずしも十分とはいえない。大学院の学生のための研究室の施設・設
備の不備も認められる。また、考古学の専門スタッフがいないことも問題点の一つであろ
う。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後とも、上記の理念・目標を目指して、高度な教育研究者はもとより、専門的職業人
の養成という点にも一層の努力を注ぎ指導体制を充実させていきたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
東洋史学専攻は、1955 年4月に国史・東洋史学専攻修士課程が設置され、1963 年に東洋
史学専攻修士課程(のち博士前期課程)が国史学専攻と分離することを通じて発足した。
本専攻は、堅実な実証性を骨格とした文献史料の厳密な分析・批判を基礎として、アジ
ア諸地域の歴史を研究し、これらの地域に対する深い理解を達成することを目指している。
このような研究の基本理念に基づき、博士前期課程においては、東洋史学の分野について、
広い視野に立って深い学識を授け、専攻分野における研究能力または高度の専門性を要す
る職業に必要な高度の能力を育成する。博士後期課程においては、東洋史学の分野につい
て、研究者として自立して研究活動を行う、あるいは高度に専門的な業務に従事するに足
る高度の研究能力と豊かな学識を育成する。東洋史学専攻は、これらを基本的な教育目標
としている。
【点検・評価】
日本においてアジア諸地域との関係・交流の重要性が増しつつある現在、本専攻の掲げ
る教育目標の意義は高まっているといえる。本専攻においては、上記のような理念・教育
目標に従い、中国史を中心にアジア諸地域の歴史を扱う教員により、教育研究活動が実施
されている。その教育目標の達成度に関しては、博士前期課程・後期課程を通じて、かな
りの程度達成できていると評価できる。過去 10 年間の修士号授与者は 34 名、博士号授与
者1名(論文博士)である。また、現在、他大学で専任の教職に就いている者は 16 名に及
ぶ。
【長所と問題点】
他大学大学院の東洋史学専攻と比較して、理念・教育目標という点に関して特に長所も
しくは問題点として指摘できる点は見いだせないが、教育課程や教員スタッフの充実度、
出身者の教育研究分野における活躍といった視点から見れば、理念・目標の達成度は低く
はないと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
理念・教育目標に関しては、社会状況・国際情勢などの変化に対応する形で運用面にお
ける柔軟性にも配慮しつつ、基本的には将来的にも現在の教育目標を保持していくつもり
である。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
595
博士前期課程においては、政治・経済・文化の急激な国際化による異文化理解の必要性
増大に応えて、多様な価値観に対する感性と異文化に対する深い理解を持つと同時に、広
い視野と高度な歴史学的素養を身につけた職業人を養成することを教育目標とする。
博士後期課程においては、それに加えて高度の専門的知識をもって社会が直面するさま
ざまな問題を歴史学の立場から読み解き、適切な提言ができる教育研究者や専門的職業人
を養成することを教育目標とする。
【点検・評価】
あらゆる分野においてグローバル化と情報通信技術が加速度的に進む中で、異文化理解
は遅れがちである。したがって、西洋史学専攻が掲げる教育目標はさらにその適切性を増
していると言える。教育目標の達成度に関しては、博士前期課程の場合かなりの程度達成
できていると考える。後期課程の場合 1994 年度に発足してまだ7年ということで、評価を
下すには時期尚早であるが、博士後期課程を了えた者あるいは中途退学した者のうち1名
が専任教員(助教授)、1名が兼任講師、1名が助手として他大学に採用されており、「合
格点」は与えられるのではないか。
【長所と問題点】
理念・教育目標等の点で、他大学院の西洋史学専攻に比べて特記すべき長所はないが、
問題点もないと考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育目標に関しては、今後も現在の教育目標を堅持していきたい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
哲学専攻は、西洋哲学と東洋哲学との二本柱からなるが、このことが特色であって、研
究の専門分野を異にする研究者の相互協力や共同研究を可能にする。
西洋哲学の方には、古代・中世哲学、近世哲学、近代哲学、現代哲学それぞれの担当者、
加えて科学哲学の担当者がおり、また、東洋哲学の方には、中国哲学の担当者と日本倫理
思想の担当者とがいて、いずれの場合にも、哲学の研究の原点である原書の読み込みに重
点を置いた講義・演習を行っている。そのことによって、古今東西にわたる広範な哲学的
素養をもちつつ専門領域での深く緻密な研究をなし得る人材育成という本専攻の教育目的
の達成を目指している。
【点検・評価】
古今東西の哲学古典テクストの原語講読に重点を置く、という本専攻の理念は、
『履修要
項』の授業科目一覧を見ても明らかなように、ほぼ良好に実現されている。また、そうし
た教育実践によって、広範な哲学的素養に裏打ちされ、水準以上の修士論文を執筆し得る
博士前期課程在学生、および専門研究の分野で頭角を現し得る博士後期課程の学生の育成
が着実に達成されている。その結果、課程修了後、本学を含めた多くの大学に専任および
非常勤の教員を輩出し、また博士前期課程修了後、東北大学等の大学院博士後期課程へと
転出し、より専門度の高い研究に向かい得る学生も送り出している。さらに、アカデミズ
ムの世界にとどまらず、専門書出版・編集に携わるなどジャーナリズムの世界にも有能な
人材を送り出している。
【長所と問題点】
596 第3章 大学院
古今東西の原点に広く、かつ深く研究活動の中心を向け得る長所に対し、現実社会への
哲学の活用、現代的哲学問題への取り組みに今後の課題を残す。人材養成面では、広範な
知識を必要とする専門研究書の翻訳等において優れた人材を輩出するという長所をもつ反
面、オリジナルな研究面での人材育成に今後の課題を残している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
古典読解を現代の諸問題解決のために生かすことにより、より一層深いテクスト理解を
得られるような、生きた哲学教育研究の方向づけをカリキュラム面でも試行していく。
また、そうした指導によって、より現実適応能力をもったオリジナルな哲学研究をなし
得る人材を育成していく。
<社会学専攻>
【現状の説明】
研究指導を担当している6名の専任教員は、都市、産業・労働、政治、病理、文化、比
較をキーワードに、実証的な学風を共有し、それぞれの学生を指導している。社会学専攻
では、研究を志向するにせよ、実務を志向するにせよ、学生自らが収集したデータを批判
的に解釈し、仮説や理論を構築・検証する能力を高めることを教育の目標としている。こ
れは、アングロ・アメリカ的経験主義の流れを汲む本学全体の学風と合致したものであり、
他大学に比べても実証主義的スタンスは顕著である。
【点検・評価】
ここ数年、実証研究の中でも、量的データよりは質的データを用いた、いわゆるフィー
ルドワークに依拠した研究が盛んになってきているが、これは、文学研究科に設置されて
いるもう一つの専攻である社会情報学専攻との「棲み分け」、日本全国でフィールドワーク
を中心にした研究科が少ないといった事実を意識してのことである。実際、本専攻へ進学
してくる者のほとんどは、こうした学風を理解した上で進学しており、アメリカでいえば
カリフォルニア大学バークレー校のような特徴をもっていると自負している。
ここ数年、特に研究者として大学・研究機関に採用された学生の研究テーマや研究態度
をみても、こうした実証主義の気風は受け継がれているといえる。
【長所と問題点】
上述のように、本専攻は質的データを用いた研究を奨励している点で、学説・理論志向
が強かったり、もっぱら量的データを用いた研究が行われていたりする社会学専攻とは一
線を画している。この点が本専攻の最大の長所である。他方、そのため、学生の研究テー
マが「狭く深く」なりがちで、欧米の社会学理論に広く通じている学生・研究者を輩出す
るという点では若干の問題点を抱えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後とも、実証を重視する風土は維持・発展されることになるであろうし、個別のテー
マが変わることはあっても、基本線は今後とも変わらないであろう。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
本専攻は、1995 年に修士課程後の博士前期課程が設置され、1997 年に博士後期課程が設
置された。その目的は、21 世紀の学問と社会の変化を先取りして、これまで人文社会諸科
学が個別に扱ってきた情報現象に関する豊かな成果を踏まえつつ、情報という統一的視点
597
から新しい学問領域を開拓し、高度情報化社会における科学技術の進歩と社会・文化の発
展とのインタフェースを担いうる人材を養成することである。
本専攻における社会情報学とは、それ自体を1つのディシプリンとするアプローチおよ
び総合的・学際的なアプローチとの2つを設定し、それらを組み合わせることによって教
育研究されるものである。
具体的には下記の4つの部門と1つの支援領域によって教育研究を行う。
第1は、社会情報学の基礎理論を扱う部門として社会システムにおける指令・認知・評
価の機能を果たす各種の情報とその社会的な伝達・貯蔵・変換などの教育研究を行う。
第2は、情報の社会的伝達を扱う部門であり、情報の発信・送信・受信というコミュニ
ケーション行為の教育研究を行う。
第3は、情報の記録・保存・再生という3つの下位部門からなる社会的情報貯蔵を対象
にし、図書館情報学(記録情報学)の学問的伝統を発展させる。
第4は、コンピュータ情報処理を扱う部門として情報化社会の技術基盤の中核に位置す
るコンピュータによる情報処理を教育研究する。そして、以上の諸部門に共通する問題設
定・データ収集・データ解析などの教育研究を行う。
【点検・評価】
総合的に見て、理念・目的にともなう人材養成の目的は達成されている。
博士前期課程では、社会人の入学者も多く、彼らのために広い視野に立った専攻分野に
おける研究と職業に必要な高度な能力を養うという目的を達成している。また、博士後期
課程では、研究者として自立して研究活動を行い、高度な社会情報学の業務に従事できる
ような学識を養うという目的を達成している。
さらに、学部、博士前期課程、博士後期課程の教育課程における一貫性、教育内容の適
切性も評価できる。
【長所と問題点】
長所は、上記の4つの部門に分けて高度情報化社会という時代認識を背景にして、理論
的かつ実務的な大学院教育を行ってきたことである。さらに、このところの情報技術の革
新、価値観の多様化、政治・経済・社会・文化の急激な国際化、異文化理解の要請の増大
などにともない、本学の社会情報学が描くような大学院教育への期待は高まる一方である
ことである。
問題点は、看板倒れにならないように注意することである。名前は立派であるが、その
実が無に等しいことがないように商品の品揃えと品質改善に心がける必要がある。そのた
めには、4つの部門が一体となった「大学院教育システム」を構築し、それをモデルにし
て今後の点検・評価の項目とする。これは、社会の要請や期待に応えるために社会的情報
システムに関する高度な専門知識と研究能力および情報処理技術をもった研究者・専門家
および実務家を養成することを目的としているからである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
この大学院教育システムは、教員、施設、カリキュラムなどリソースが有機的に機能す
るもので、社会情報学という設置の理念を具現化する体制といえる。現状は上記の4つの
部門間において整合性のとれない領域が存在する。社会情報という目まぐるしく変化する
ものを対象にしているのであるから、柔軟に対応できる大学院教育システムを設計・開発・
598 第3章 大学院
運用していく必要があろう。
<教育学専攻>
【現状の説明】
本教育学専攻は、関連諸科学の成果を吸収した新しい総合的な教育学の創造を担うこと
を目指して 1992 年、人文科学の広い領域にわたって教育研究活動の蓄積豊かな文学研究科
に設置された。以来、現実的課題から離れることのない教育学研究の前進とその積極的な
担い手の形成を課題として教育研究活動を重ねてきている。
【点検・評価】
博士前期課程においては専門領域と研究方法を異にする6名のスタッフの充実した体制
を有し、博士後期課程は 2002 年度に心理学専攻が分離設置される計画の中で、博士前期課
程の教育研究を踏まえつつ同じスタッフによる研究指導を続け、所期の目的の達成に努力
している。
【長所と問題点】
この体制は、総合的な教育学研究を進める上で広い視野と研究方法の充実の上で好条件
を有している反面、学生の研究意欲と力量によっては未消化や個別関心に閉じこもる傾向
も見られ、総合的な教育学創造への道は険しい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各教員による研究指導の充実とともに専攻全体として在籍学生の研究の進捗状況につい
ての情報の共有化を図り、それに基づく指導体制や指導方法上の改善を進める。そのため
には、教育学研究の課題の広がりに応じた教員スタッフの増員と、あわせて教員相互の教
育学研究方法をめぐる共同討議を深める体制を整えることが求められている。
<心理学専攻>
【現状の説明】
心理学専攻は、多様な現代的課題に対して、学校心理学・認知心理学・生涯心理学の各
分野から理論的研究を行うとともに、学校、地域社会、職場などで生じている現実の諸問
題と結びつけて、実証的・応用研究を行っている。特に学校心理学の分野での教育研究は、
実験的研究・資料の分析においてコンピュータを適切に使いこなすことができる能力の形
成を重視し、学校臨床の教育・学校現場で役立つ実践力を育成し、将来、学校現場、教育
相談所、社会福祉施設等の現場で、スクールカウンセラー・心理教育相談員として自立し
て勤務できる高度専門職業人を養成することを目指している。また、本専攻は 2002 年度開
設予定で博士後期課程の増設を申請している。
【点検・評価】
心理学専攻は修士課程が 2000 年度より新設されたばかりで、修了生を送り出していない
ので、全体としての評価を出す状況にはない。
【長所と問題点】
認知心理学関係の実験実習は心理学実験室、学習障害児に対する訓練実習や研究は行動
観察室、カウンセリングなどの訓練実習は相談室において行っている。各施設を有効利用
した研究指導が行われている。講義と演習をペアにした授業を行っているので、効率良く
研究指導が行われている。第1学年において必修科目として心理学基礎理論について集中
的に教えているのが、2年次の専門的な研究活動に役立っている。問題点としては、今後
599
学生が増えると現状の施設では足りなくなる可能性が非常に高い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
心理学関連の実験施設設備や相談室の施設整備の充実。
<共通科目>
【現状の説明】
共通科目は、どの専攻の学生も履修し得る科目群として設置されている。目的は、文学
研究科という大きな枠組みの中にありつつも(1)学生にそれぞれの専攻の専門科目とは
異なる視点を与え、また他方では、
(2)特定テーマを深く掘り下げて研究してみることに
よって専門科目の研究をより深め、逆に、
(3)数人の研究指導者がチームを組んで教育研
究指導を行うことによって幅広さの形成を図り、各専攻の教育研究の体制を補完しようと
するものである。
【点検・評価】
「基礎データ調書
表 36」の授業科目一覧から看取できるように、上記の共通科目の理
念は、既設の科目の範囲内では、ほぼ良好に実現されている。
【長所と問題点】
上記の理念とその実現自体が共通科目群の特色であるが、文学研究科に設置されている
各専攻が多岐にわたるため、必ずしもすべての専攻の学生に対応できるほど多数の科目が
ないことが問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
さまざまな学問領域のスタッフがいるのだから、各専攻に所属している教員にも参加し
てもらうことによって、この科目群の幅広さと、奥行きを増すことが可能なので、検討中
である。
2.教育研究組織
<文学研究科>
【現状の説明】
本研究科は 12 の専攻より成っているが、他に所属学生を持たない共通科目が設置されて
おり、他専攻の学生が受講している。なお、本報告書では、共通科目も点検項目によって
は専攻と同じ扱いにしているので、共通科目についての詳細はそれらの項目の共通科目に
関する記述を参照していただきたい。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科は比較的多くの分野の専攻があり、人文科学の広い領域をバランスよくカバー
している。しかし、各専攻とも小所帯であるため、その専門領域を十分にカバーしきれて
いるわけではない。社会の新たな需要に応ずることも容易ではない。例えば心理学専攻に
臨床心理士に対する需要は高まっているが、即応することは簡単ではない。
一方で、実学的要求が高まっている社会にあって、人文学的学問の存在理由も真剣に検
討しなければならないだろう。
『大学院研究年報』『論究』のほか各専攻に機関誌があり、またそれぞれに学会があり、
研究発表の場はかなり充実している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
600 第3章 大学院
前項で述べたように、学問領域と時代のニーズに応じたカリキュラムを構成し必要な教
員を配置できるように、学部のみならず、全学的にも取り組まなければならない。
3.教育研究指導の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究指導の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
<国文学専攻>
【現状の説明】
現在担当教員は、専任8名のほか、兼任講師2名によって演習を中心とした科目構成で
教育研究指導を行っている。学生数は博士前期課程 17 名(内女子7名)、博士後期課程 39
名(内女子 13 名)、計 56 名(内女子 20 名)で、専任教員一人あたりの担当学生数は7名
ほどであるが、学生の志望に分野ごとの偏りがある。
博士前期課程では分野ごとに特講と演習を置き、さまざまな分野の研究方法の基礎を幅
広く修得できるよう配慮している。博士後期課程では分野ごとに特殊研究を置き授業を通
して研究指導を行っている。
外国人留学生は博士前期課程の約3割、博士後期課程の約半数を占める。社会人入試も
制度化されたが、以前から学部卒業後社会人としての経験を経て入学してくるケースがか
なりあり、一般学生に刺激を与えてきた。在学中に学位の取得を志す博士後期課程の学生
も、外国人留学生を中心に増加してきており、この面での指導も必要になっている。
学部では卒業論文を必修として課し、3、4年次に必修となっているゼミナールと併せ
て、一貫して指導できる体制となっており、大学院進学の動機づけにもなっている。
【点検・評価】
カリキュラムは学年を追って逐次高度な内容になるように配慮されており、博士前期課
程においては国文学の全分野に渉って広く清深な学識を授け、研究能力および高等学校等
の教職、博物館学芸員、専門図書館の司書等、高度の専門性を要する職業に必要な高度の
能力を取得できるようになっている。
また、博士後期課程においては、研究者として自立して研究活動を行い、高度に専門的
な業務に従事するに必要な高度の研究能力、およびその基礎となる豊かな学識を身につけ
るよう、在学中の学位取得を見通したカリキュラム構成を採っている。
【長所と問題点】
学生と教員、学生同士の交流が密で、演習中心のカリキュラムと相俟って、きめ細かな
教育研究指導が行われていること、学生の学習意欲もおおむね高く、多様な学生が集まっ
ていることもあり、相互に刺激しあって良い効果をあげている。
学生の志望が近現代に偏りがちなため、科目によっては指導に困難を感ずるケースもあ
る。修了後の就職が困難な状況にあり、学生の意識の変化も相俟って、留年生やオーバー
ドクターが増える傾向にあることなどが問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の意識の変化、殊にモラトリアム指向の傾向に対する対策が必要であろう。これを
否定的に捉えるのでなく、学生の自己形成のプロセスと捉え、積極的に関与することが求
められている。具体的には、大学院博士前期課程に学部における学習の補充、補完をも含
601
み込んだカリキュラムが必要となろう。また、教育研究指導を効果的なものとするには、
これまで教員の個人的な努力に拠っていた部分につき、教員の増員、TA制度の活用を含
めて、大学院全体としてサポートする体制をつくる必要がある。
<英文学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では、
「広い視野に立って精深な学識を授け、専攻分野における研究能力又
は高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養うことを目的」(「中央大学大学院
学則」第3条第4項として、英語学・英文学・米文学の3分野で特講と演習を組み合わせ
たカリキュラムを設けている。学生は特講と演習で研鑚を積み、指導教授のもとで修士論
文を完成させている。
博士後期課程では、
「専攻分野について研究者として自立して研究活動を行い、又はその
他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度な研究能力及びその基礎となる豊かな学
識を養うことを目的」(「中央大学大学院学則」第3条の3)として、英語学・英文学・米
文学の3分野で特殊研究という授業科目を開設している。学生は特殊研究でさらに研鑚を
積み、指導教授のもとで学術論文の執筆や研究発表を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
上述したように、英文学専攻の教育研究指導の内容は「学校教育法」第 65 条、「大学院
設置基準」第3条第1項、同第4条第1項、および「中央大学大学院学則」第2条、同第
3条に合致すると言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、特に後期課程に在籍する学生がさらに積極的に学術論文の執筆や研究発表に取
り組むように指導を強化していく必要があるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
1.博士前期課程
先に掲げた教育研究の理念と目標を実現すために本専攻の博士前期課程では 2002 年度
よりカリキュラムを大きく変更し、次のような教育研究領域に関する科目を配することに
なっている。
(1)ドイツ語圏の文学関連科目
(2)ドイツ語圏の文化学関連科目
(3)ドイツ語教授法・ドイツ語学関連科目
(4)ドイツ哲学・思想関連科目
(5)ドイツメディア論関連科目
(6)ドイツ語翻訳論関連科目
(7)ドイツ芸術論関連科目
(8)異文化交流論関連科目
(9)専門的ドイツ語能力養成科目
(10)研究論文執筆能力および研究発表能力を養成する科目
以上のような多彩な科目を設けることによって、本専攻は学際性、学術性、実用性を兼
ね備えた新たなドイツ文化教育研究機関へと発展するとともに、高度な語学力と学問的か
602 第3章 大学院
つ実践的な専門能力を持った人材の育成を目指している。
2.博士後期課程
博士後期課程では前期課程に開設している科目に密接に関連しながら、さらに専門的な
教育研究を行うために個別のテーマを持つ専門科目を開設している。またヨーロッパの社
会や文化に関する一般教養を養うためにヨーロッパ研修旅行を実施し、教育能力を養うた
めのTA制度を導入している。さらにドイツ語による研究発表能力を養うための夏季合宿
などの課外行事も定例化している。マルチメディア関連の教育は授業の範囲のみならず課
外でも実施しており、ワープロ、表計算、画像処理、音声処理、データベース作成、OCR、
プレゼンテーションなどパソコンを駆使しながら実行できる能力を養成している。このよ
うに本専攻の博士後期課程では博士論文執筆のために必要な高度なドイツ語運用力と専門
的知識の修得とならんで高度な実践的語学力とコンピュータ・リテラシーの修得が可能と
なる教育研究体制を整えているのである。
【点検・評価】
博士前期課程、後期課程ともに教育課程に関しては新たなドイツ文化教育研究を実施で
きる体制を整えている。高度な語学力、専門的知識、コンピュータ・リテラシーの融合と
いう点では本専攻は日本のドイツ文学専攻では先端に位置している。
【長所と問題点】
本専攻の教育課程の長所は、ドイツ文化研究のみならず異文化研究に関する多彩な科目
が開設され、学際的な能力を養成することができる点にある。また語学教育が充実してい
るとともに短期・長期の留学制度も整っているのでドイツの大学でも教育研究能力を養成
できる点も大きな長所である。さらに専門教育、語学教育、メディア教育のバランスが保
たれ、学術的な能力と実践的な能力と同時に修得できる点も本専攻の長所としてあげられ
る。
問題点として挙げなければならないのはやはり、大学院修了者の就職先の確保であろう。
大学教員のポスト削減と民間企業の不況の深刻化にともない、ドイツに関連する専門職の
ポストは将来的には減少すると予想される。こうした状況の中で就職先を確保できる人材
を養成することができるか否かが問われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学教育における文学研究から文化研究への転換、ドイツ語圏研究からヨーロッパ地域
研究への研究対象の拡大、ドイツ語単独教育からドイツ語・英語二カ国語教育への転換、
コンピュータ・リテラシーの高度化といった現状に直面して、本専攻の教育研究課程も改
革に向けて大きく歩を踏み出したところである。現在は新たな教育研究体制を整えた時点
なので、今後はそれをより効果的に実行するために試行錯誤を重ねてゆく時期に入る。専
門的能力、実践的能力、人間的教養の調和が取れている人材を育成し、彼らの就職先を確
保するためには本専攻の教育課程の更なる点検と改善を重ねる必要がある。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻の博士前期課程においては、17 世紀仏文学、18 世紀仏文学、近代仏文学、現
代仏文学、仏言語学、仏詩、仏演劇の各々「特講」と「演習」をセットしたカリキュラム
を設置し、11 名の担当教員が「広い視野に立って清深な学識を授け、専攻分野における研
603
究能力又は高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」ことを目的として教
育と指導を展開している。また修士論文の執筆についてはその専門領域を担当する研究指
導教授が個別に綿密な指導を行っている。
一方、博士後期課程においては、上記の各分野について9名の教員が「特殊研究」のカ
リキュラムのもとに、
「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はそ
の他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力およびその基礎となる豊か
な学識を養う」ことを目的とする講義と演習を担当し、さらに高度の指導を行っている。
とりわけ、専攻分野における研究者として自立するための博士論文の執筆・完成について
は、指導教授が恒常的に綿密な指導を行う。
また本専攻では、研究能力の向上のため年1回研究経過の口頭報告会を開催し全専任教
員が指導にあたるとともに、研究論文の発表やフランス政府給費留学生試験は全員毎年受
験するよう奨励している。一方、博士前期課程の学生には、文部科学省認定の実用フラン
ス語技能検定試験(以下、仏検)準1級取得、同後期課程の学生には仏検1級取得等の到達
目標を設定してフランス語の運用能力も高めるよう努めている。
【点検・評価】
これらの教育研究指導は、
「学校教育法」第 65 条、
「大学院設置基準」第3条第1項、同
第4条第1項、および「本大学院学則」第2条と第3条第3項、同第4項に合致するとい
える。
【長所と問題点】
仏文学専攻ではフランス本国に限らず広く仏語圏の文学・文化をも取り上げている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
長期間休講になっている仏言語学、およびフランス中世・ルネサンス文学に関しては、
非常勤の教員を委嘱するなどの対策を講じてカリキュラムの一層の充実を図る必要がある。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程では、文学部日本史学専攻の教育課程をも担当する7名の専任教員の担当
当する日本古代史(特講あるいは演習、以下同様)、日本中世史、日本近世史、日本近代史、
日本政治史、史籍研究、史料学研究、および3名の非常勤教員の担当する日本史学特講(I・
II)、日本史学演習(I・II)の授業科目が設置されている。博士後期課程では、同じく7
名の専任教員と3名の兼任教員の担当する日本古代史特殊研究、日本中世史特殊研究、日
本近世史特殊研究、日本近代史特殊研究、日本史学特殊研究(I・II)、史料学特殊研究の
授業科目が設置されている。このうち、史料学研究・史料学特殊研究については、大学共
同利用機関である国文学研究資料館史料館の協力を得て、実地に史料学の研修が行われて
いる。
【点検・評価】
広い専門分野にわたる授業科目が設けられており、おおむね所期の目標を達成できてい
ると思われる。
【長所と問題点】
時代的にも分野的にも教員の専門は広くバランスがとれている。また、後述するように
他大学との単位互換や大学共同利用機関の活用も行われており、学生のニーズをおおむね
604 第3章 大学院
満たしている。しかし、近年、日本史学の分野で年々新しい問題関心が広がり、それが多
様化する傾向があり、大学院入学者の数も増加してきているので、必ずしもそのすべてを
満たすには至っていない。とりわけ考古学や文化財学の分野について、授業科目が設けら
れていないことは問題点の一つである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学共同利用機関の活用、他大学との単位互換制度の拡充とあわせて、考古学や文化財
学の分野についての授業科目および施設を置き、専任あるいは非常勤教員を補充すること
が考えられている。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、中国の古代史、中世史、近世史、近代史、および北・中央ア
ジア史、西アジア史の、それぞれ6つの特講と6つの演習、および東洋文化特講を設けて
いる。博士後期課程については、中国の古代史・中世史・近世史・近代史、北・中央アジ
ア史、西アジア史、東洋文化、という7つの特殊研究を設けている。特講・演習および特
殊研究では、それぞれの分野における重要史料の読解・分析を中心とした高度な教育研究
指導を行っている。当該カリキュラムは、中国史に重点を置きつつ、北・中央アジア、西
アジア地域に関する指導も含んでいる。アジア諸地域を隙間なく扱い、さまざまな関心を
もつ学生の要求に応えうるカリキュラムを旨とする、学部における教育体制との連続性に
も配慮している。
【点検・評価】
本専攻の現状は、
「広い視野に立って精深な学識を授け、専攻分野における研究能力又は
高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」(「大学院設置基準」第3条第1
項)という博士前期課程の目的に十分に沿うものであり、また、
「専門分野について、研究
者として自立して研究活動を行い、またはその他の高度に専門的な業務に従事するに必要
な高度の研究能力およびその基礎となる豊かな学識を養う」(「大学院設置基準」第4条第
1項)という後期課程の目的にも適合していると言える。本専攻と学部との関係について
は、すでに上記【現状の説明】で触れたとおりである。
【長所と問題点】
本専攻の長所は、アジア各地域の歴史を対象とする東洋史学の幅広い分野をかなりの程
度カバーしうるバランスのとれた研究指導体制と考えられる。問題点としては、東南アジ
アおよび南アジアの歴史に関する研究指導がないことが挙げられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員の人員数が限定されている以上、東洋史学が本来扱うべき広大な分野の研究に
全面的に対応できる教育課程の体制を構築するのはいささか困難であろう。教育課程の設
定に際し、本専攻の特色を鮮明化して他大学の東洋史学専攻との差別化を図るという観点
から、特定の地域・時代に重点を置くのか、あるいは可能な限り総体性を追求するか、い
ずれにしても考慮のしどころと思われる。今後の教育課程の編成について、日本とアジア
諸地域との関係性のあり方、社会の側からの要請といった外的諸条件をも勘案しつつ、こ
の点についてさらに検討を加えていく必要があるであろう。
<西洋史学専攻>
605
【現状の説明】
博士前期課程では、古代、中世、近世、近代、および現代の5つの時代別の特講および
演習と研究指導を、また博士後期課程では5つの時代別の特殊研究と研究指導を設けてい
る。
特講・演習および特殊研究では、年度ごとに設定したテーマに関して高度な教育研究指
導を行っている。地域的にはオリエントからフランス、ドイツ、イギリス、アメリカに及
んでいる。このような教育研究指導は、特定地域ないしは時代に偏らないカリキュラムと
教員配置を重視する西洋史学専攻の学部教育体制を反映したものである。
【点検・評価】
西洋史学専攻の現状は、
「広い視野に立って精深な学識を授け、専攻分野における研究能
力又は高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」(「大学院設置基準」第3
条第1項)という博士前期課程の目的、また、
「専門分野について、研究者として自立して
研究活動を行い、またはその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力
及びその基礎となる豊かな学識を養う」(「大学院設置基準」第4条第1項)という博士後
期課程の目的にも適合していると言える。本専攻の学部との関係については、すでに上記
【現状の説明】で触れた。
【長所と問題点】
バランスの良くとれた研究指導体制になっており、
「広い視野にたって」教育研究指導が
できる点が長所であるが、長所は同時に短所にもなりえ、総花的であるとの問題点が指摘
されるかも知れない。これに対しては、中世と近世、近代と現代は教育指導面で連携し、
学生が2人以上の教員の緊密な指導を受けることができるよう配慮しているほか、教員人
事の際にそれぞれの分野で第1級の教育研究者を採用することで、問題点の克服に努力し
ている。なお、古代においては兼任講師を常時1人置くことで、
「2人以上の教員」の条件
を満たしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学予算の制約などで、教員の増員は容易でないので、現在すでに実施されている、学
内外の研究科との連携や首都圏在住研究者を中心とした研究会などを積極的に活用してい
きたい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
前述した本専攻の教育理念に基づき、
『履修要項』に示されたカリキュラムに沿って博士
前期課程・後期課程を通じて高度な専門教育がなされている。具体的には、各分野ごとに
オーソドックスな原典の講読をカリキュラムの中心に据えるのが原則であり、大著を講読
する場合には複数年にわたってその授業が継続することもある。したがって、本専攻の場
合、博士前期課程と後期課程のカリキュラムには、実質的には連続性があり、また、それ
はあくまで哲学という学問の性格上、本来そうあるべし、という信念に基づいたものでも
ある。
【点検・評価】
研究者としての自立を目標とした専攻分野における高度な専門性、研究能力、およびそ
れらの基盤となる広く豊かな学識を養うための十分なカリキュラム実践がなされている。
606 第3章 大学院
したがって現行のカリキュラム構成もおおむね良好とみなされる。
【長所と問題点】
きわめて高度な専門教育の実践が長所であるが、その反面、細分化された専攻領域内に
閉じこもる傾向が生じ、広く豊かな学識を育てるという点が今後取り組むべき問題となっ
ている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、在学生の研究発表を教員・在学生全員で相互に批評し合う「院生発表会」を年2
回、延べ7日間ほどかけ実施しているが、今後こうした活動をさらに充実化させるべく現
行カリキュラムに組み入れていく。さらに他専攻との提携カリキュラムや他大学との交流
プログラムを通じ、専攻横断的なカリキュラム構成も模索していく。
<社会学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程修了に必要な 32 単位、博士後期課程修了に必要な 16 単位を充足するため
に、専任教員が前者で8単位(「研究指導」の単位を除く)、後者で4単位を準備している
以外、毎年、前者で8∼10 名、後者で5∼7名(兼担を含む)の教員を招聘し、学生のも
つ多様なニーズに応えるよう、バラエティに富んだ講義・演習を用意している。学生は、
基本的に指導教員の講義・演習を履修し論文執筆を準備しながらも、異なるテーマ、異な
るアプローチを、これらの多様な授業から学習していけるよう工夫が施されている。
【点検・評価】
毎年、在学生から招聘してほしい外部講師についてのニーズを聴取しており、後述の単
位互換制度の充実により、学生は多くのメニューから論文執筆に必要な情報が獲得できる
ようになっている。そのメニューの多さは、博士前期課程・博士後期課程の収容定員から
すれば特筆すべきものがある。その結果、それぞれの授業における平均履修者は少なく、
徹底した少人数教育が行われているため、教育効果は高い。
【長所と問題点】
すでに述べたように、バラエティに富んだ授業構成は、本専攻が他大学にも誇りうる最
大の長所である。他方で、本専攻に所属する教員・学生が一同に会する機会が少なく、し
ばしば学生たちは狭い領域での研究に閉じこもりがちになる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の指導教員が、学生の個別状況に応じて授業を履修するよう指導を徹底すると同時
に、総合講座を設けて広く学生の関心を喚起する工夫を始めたところである。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
現状は、6名の専任教員と4名の兼任教員を中心にして前記の4つの部門に分けて理論
的かつ実務的な大学院教育を行っている。設置科目は、社会情報学特講、社会情報学演習
など 17 科目である。また他専攻・他研究科・提携他大学の科目を8単位まで履修すること
ができる。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻の長所としては、高度な専門的職業人の養成と研究者養成との統合的プランを持
っていること。このプランの特色は、両者の教育がとかく相互隔離される傾向が多くの大
607
学院において指摘される中で、本専攻では相互交流こそが望ましいという時代の趨勢を踏
まえて練りあげていることである。
問題点は、社会人の受け入れが多くなった場合は、専門的職業人の育成に比重が偏るこ
と。その場合に対応する実務経験的な教育指導とカリキュラムなどを検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の問題点の解決である。個別研究指導と適切な講義および演習科目履修のための教
育環境条件をさらに改善する必要がある。具体的には、専門図書の確保、教育機材の確保、
実習室と学生研究室の確保などがあげられる。なかでも、ITによる最新情報処理システ
ムを活用した教育機材の確保は重要と思える。
<教育学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては入学者全員を対象とする「教育学基礎論」を6名の教員全員が
担当して、各自の研究テーマと研究方法の深化を図る出発点と位置づける。その上に本専
攻の目指す教育学研究の骨格である教育原理論(教育哲学、教育思想史)、教育方法論(教
育方法論、学校教育論)、教育計画論(社会教育計画論、教育政策・行政論)の各領域にわ
たる特別講義と演習の隔年開講システムをもって教育と研究指導にあたるとともに、修士
論文作成に向けての学生個々の研究指導のほか論文発表会や共同研究会など集団的な指導
体制をもっている。
博士後期課程においては、指導教員による博士論文作成に向けた研究指導を中心としつ
つ、教育原理論特殊研究I、教育原理論特殊研究 II、教育方法論特殊研究、教育計画論特
殊研究I、教育計画論特殊研究 II、教育政策・行政論特殊研究の各領域にわたる演習形式
の研究指導を全学生に開き、広い視野と異なる研究方法への関心を通した個々の研究の深
化を求めるとともに、学生の研究発表会を設け共同指導の体制もとっている。
【点検・評価】
博士前期課程の「教育学基礎論」は教育学研究の全体的な発展状況と多様な研究視角に
ついての基礎的知見を得させるためのものであって、学部からの進学生には学部教育の発
展線上に位置づけ、他大学からの進学者に対しては本専攻での教育学の専門的な研究指導
上で不可欠のものとして機能している。しかし現在の開講科目については教育学研究の現
代的課題との照応上の課題も残され、博士後期課程に継続させた研究指導の中で対応して
いるものの、教育学研究の全体骨格の再検討が必要となってきている。
【長所と問題点】
博士前期・後期課程ともに論文・研究発表など共同指導と共同研究の場を設けているこ
とは、専攻学生の研究意欲と力量の向上に大いに役立っている。問題点としては、博士後
期課程において個別研究を深めていく過程でこの指導がどう有効に生かされるか学生の研
究姿勢と教員の指導の充実が問われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育学研究の進展と従来の教育研究活動の点検を踏まえると、現在の教育学研究の骨格
の再検討と研究指導の内容と方法の充実が必要であることは明らかであり、2002 年度に分
離開設される心理学専攻の後期課程の研究指導と密着した関係を保ちつつ、さらなる発展
方向に向けて検討を重ねているところである。
608 第3章 大学院
<心理学専攻>
【現状の説明】
心理学専攻の教育課程は、「学校心理学」「認知心理学」および「生涯発達心理学」の3
つの部門からなる。将来、心理学の研究者および心理学専門家として社会で活躍すること
ができるよう、在学中にそれぞれの専門分野で焦点を定め、研究活動を行うように指導し、
研究業績を積み上げ、博士課程後期では修了時に学位(課程博士)を取得させることを目標
とする。さらにどの学生もコンピュータを自由に駆使できるようにその面の教育を重視し、
客員研究者として大学に招聘される外国人研究者の課外のゼミナール等に出席することに
より、外国語(主に英語)での講義と討論の経験を積むような教育を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
修得すべき単位とメニューが多すぎてすべてのカリキュラムが消化しきれていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
心理学専攻修士課程が本年完成年度となっているが、今しばらくは様子を見たい。
<共通科目>
【現状の説明】
現在、
「比較文化特講」(1科目)、
「比較文化演習」(1科目)、
「特殊講義」(2科目)、お
よび「総合講座」(2単位×2科目)の6科目が開設され、授業が行われている。総合講座
と特殊講義は、この科目群の目的に応じて担当者を増加し得るようにしてある。
【点検・評価】
異なった視点の提供、また、特定テーマの考究を通じての、各専攻の教育の補完という
目的は達成されている。また、フィールド・ワークが必要な科目は、学外での現地研究も積
極的に行うなど、各教員の努力が払われ、効果をあげている。
「総合講座」は、昨年度より
新たに開設された複数の担当者による総合講座であるが、事前の準備と相互調整を十分に
して臨んだ結果、新鮮な内容と受講生からは好評であったし、細部では若干の改善すべき
点が残されているが開設の目的は達した。
【長所と問題点】
共通科目は、科目群の性格上、さまざまな専攻の学生が履修をするという状況の一方で、
「比較文化」や「特殊講義」の場合、特定テーマを扱うので、受講学生の学部段階の専攻
によって基礎的素養の差が著しく、この差を埋めるのは大変困難で、これを克服して教育
効果をいかにあげるかに、担当者は苦心させられている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基礎的素養の相違については授業担当者による個別的指導やアドバイスを実施すること
によって克服する。
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
<文学研究科>
【現状の説明】
単位互換制度は、各大学間の学術的提携・交流を促進し、大学院の教育研究の充実を図
ることを目的に設置されており、協定大学院で取得した単位のうち8単位までを本研究科
の単位として認めている。本制度が適用される大学院は専攻によって異なるので、詳細に
609
ついては、各専攻の当該箇所を参照していただきたい。ただし、東京外国語大学と東京都
立大学は、本学との全学協定であるので、本研究科の全専攻に適用される。
単位認定制度は、本大学院に入学する以前に大学院において修得した単位を、研究科委
員会で審議の上、10 単位を超えない範囲で認定するもので、入学前に大学院を修了してい
る場合や、科目等履修生制度を利用して単位を修得している場合は、この制度を利用して
修了に必要な単位として認定を受けることができる。
【点検・評価
長所と問題点】
単位互換制度を利用する本研究科の学生は、年によって若干名いるが、本学が地理的に
不便なところにあるため、本制度を利用する者は決して多くない。ただし、大学間の時間
割の調整や協定大学の開設科目の周知方法が改善されれば、利用者はもう少し増加する可
能性がある。単位認定制度も、利用者は少ないものの、便利な制度として利用されている。
【将来の改善・改革に向けての方策】
東京外国語大学と東京都立大学との間に全学協定が締結されたのを機会に、単位互換制
度とその運用の仕方を検討して、学生にとってもっと使いやすいものとする必要があろう。
<国文学専攻>
【現状の説明】
現在、国内では成蹊大学大学院、上智大学大学院、東京外国語大学大学院、東京都立大
学大学院と、単位互換制度を実施している。履修した単位は8単位まで本専攻の単位とし
て認められる。海外の大学との協定もある。
【点検・評価】
モノレール開通とともに、次第に活用する学生の数が増え、殊に東京都立大学大学院の
授業は、地理的に近いこともあり受講生が増加している。
【長所と問題点】
単位互換制度を活用する学生は増加しており、学生の学習意欲を引き出す効果をもたら
している。異なる学風に接することによる学習効果も期待される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
認定単位数は現在のところほぼ妥当と考える、協定先については、なお検討の余地があ
る。
<英文学専攻>
【現状の説明】
英文学専攻は、国内ではすでに実践女子大学大学院との間で単位互換制度を持っている
が、2001 年度より本学と東京外国語大学および東京都立大学との間に大学間協定が成立し
たことにより、東京外国語大学大学院地域文化研究科および東京都立大学大学院人文科学
研究科との間でも単位互換が認められることになった。学生は指導教授の助言を得て適切
な履修をして、単位の互換認定を受けることになっている。海外では、交換留学協定大学
大学院への交換留学や文学研究科委員会で認定された認定留学中に履修・修得した単位を
文学研究科委員会の議を経て認定している。
なお、これとは別に大学院既修単位認定制度がある。これは本大学院に入学する以前に
他大学院において修得した単位を、研究科委員会で審査の上、10 単位を超えない範囲で認
定する制度である。
610 第3章 大学院
【点検・評価】
海外留学が大学院学生の能力や士気を飛躍的に高める機会であることは、すでに証明さ
れている。今年度から開始された東京外国語大学大学院地域文化研究科および東京都立大
学大学院人文科学研究科は、所在地が互いに近いこともあり、両研究科との単位互換に対
する期待・需要も高く、大きな成果が期待できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院学生の研究能力の啓発・向上にとって、国内外の大学院での勉学は大きな意義を
有するものであるので、単位互換や既修単位を認定する制度は学生の意欲をサポートする
上でも重要である。今後、一層の充実を図るべきであろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
本専攻は現在、東京都立大学および東京外国語大学と単位互換制度を持っている。制度
の運用に関しては他専攻と共通である。またドイツの協定大学であるベルリン・フンボル
ト大学、ベルリン自由大学、ヴュルツブルク大学、テュービンゲン大学、オスナブリュッ
ク大学との間でも単位互換の制度を持っている。
【点検・評価】
国内の大学との単位互換制度は始まったばかりであるので、今後の推移をまず見る必要
がある。ドイツの大学との単位互換制度は有効に機能している。
【長所と問題点】
国内の大学との単位互換制度に関してはまだ実例がないので、長所・問題点とも述べら
れる段階ではない。ドイツの大学との単位互換制度に関しては、ドイツの大学で取得した
単位が大学院の修了単位として認定される点でメリットがある。問題点は特には見当たら
ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
単位互換制度の今後の実績を見ながら対応する予定である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻は海外では交流協定校であるトゥールーズ・ル・ミラーユ大学、リヨン第Ⅱ
大学への交換留学生、または本研究科委員会で認められた認定留学生が留学期間中に修得
した単位に関しては、下記の範囲内で、本研究科委員会の議を経て修了に必要な単位とし
て認定することができる。国内では 2001 年度より東京都立大学、東京外国語大学の大学院
と交流・協力校の協定を結び単位互換が可能になった。 単位互換、単位認定については、
指導教授の助言を受け、 研究領域によっては(1)他専攻の履修科目 (2)他研究科が聴講を
認めた授業科目 (3)交流・協定校が聴講を認めた科目のなかから、 博士前期課程 12 単位、
博士後期課程8単位を上限として選択履修し、所定の基準を満たせば単位の互換認定を受
けることができると規定されている。
【点検・評価
長所と問題点】
単位互換制度は全学的に明確な規定があり、学生の研究能力向上のためにも資するとこ
ろ大である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
611
東京都立大学、東京外国語大学の大学院との単位互換制度については、今後さらに緊密
な連絡をとり一層の推進を図る考えである。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
本専攻では現在、次の8大学の大学院と単位互換制度を実施している。東京外国語大学
地域文化研究科、東京都立大学人文科学研究科、青山学院大学文学研究科史学専攻、國學
院大学文学研究科日本史学専攻、上智大学文学研究科史学専攻、専修大学文学研究科史学
専攻、明治大学文学研究科史学専攻、立教大学文学研究科史学専攻。本専攻の学生には、
なるべく他大学の授業も受講し、異なった視点からの研究や異質な学風に接することによ
って、自らの研究に役立てるよう指導・奨励している。前記の諸大学からの受講生もかな
りあり、お互いによい刺激となっている。単位認定については、本学の学生と全く同様に
行っている。
【点検・評価】
単位互換制度は学生の視野を広め、相互に影響を与え合って教育研究の交流の場にもな
り、大いに成果をあげているように思う。
【長所と問題点】
上述のように、この制度は十分に活用すれば大きなメリットがある。ただし、本学の地
理的条件もあって、都心にキャンパスを置く大学との交流には難点もある。また、成績評
価方法の異なる大学もあるので、これらは今後の課題であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、この制度は一層拡張する必要があるが、上述のような諸問題については、先方の
大学との協議や授業の場所について検討することも考えられる。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
現在、東洋史学専攻では、青山学院大学大学院・國學院大学大学院・上智大学大学院・
専修大学大学院・明治大学大学院・立教大学大学院および今年度から全学協定が結ばれて
新たに加わった東京外国語大学・東京都立大学の各大学院と単位互換制度があり、修得単
位8単位を上限として単位の認定を行っている。
【点検・評価】
現存する単位互換制度、認定制度は適切に活用されていると言える。ただ、本学の地理
的な条件との関係で、実際に本制度を活用している学生にとって、都心に位置する大学の
大学院との往来は至便とは言い難い。
【長所と問題点】
現行の単位互換制度は、他大学の大学院との交流面等も含め、有用な制度であると評価
できる。問題点としては、現行の単位互換制度の協定校が限定されており、それ以外の大
学院の授業、あるいは他国立大学の附置研究所における研究会などに継続的に出席する学
生が見られることが挙げられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、協定先大学院等の枠やカテゴリーの拡大といった対応も視野に入れられ
るべきであろう。なお、東京都立大学および東京外国語大学の大学院との間に交流協定
612 第3章 大学院
が結ばれたことは、本専攻にとっても、特筆されるべきことであろう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
現在、西洋史学専攻では、青山学院大学大学院、國學院大学大学院、上智大学大学院、
専修大学大学院、明治大学大学院、立教大学大学院等との間で単位互換制度が存在する。
過去5年間に他大学研究科との単位互換制度を利用した本専攻の学生は3名、他大学研究
科の学生で同制度を利用して本専攻の授業を受けた者は8名である。なお、本年度から東
京外国語大学および東京都立大学と本学の間で大学間協定が結ばれ、両大学の大学院と本
学研究科の間で単位互換が可能になった。
【点検・評価】
現存する単位互換制度、単位認定制度は適切に活用されているが、他研究科の設置科目
を利用する本専攻の学生がやや少ないのが目につく。
【長所と問題点】
人数的に限られた陣容で運営している研究科にとっては、有益な制度である。問題点は、
単位互換制度が存在する大学がまだ限定されていること。
【将来の改善・改革に向けた方策】
すでに存在する単位互換制度の一層の拡充が望まれる。なお、東京都立大学および東京
外国語大学の大学院との間には交流協定が結ばれており、近い将来単位互換制度を含め緊
密な協力関係が実現しそうなので、これにも期待したい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
東京外国語大学および東京都立大学と単位互換の協定を結んでいる。
【点検・評価】
専門領域の関係で協定校での指導を必要とする学生が、現時点でまだ若干名ではあるが、
本制度を適切かつ有効に利用している。
【長所と問題点】
高度な専門性の受容と異なった研究環境への適合という長所を持つ反面、時間割の重複、
協定校までの移動の費用などの経済的負担などが問題として残っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
協定校とのカリキュラム面でのより有機的な連携、および協定校の範囲拡大に向けた努
力が必要である。
<社会学専攻>
【現状の説明】
1997 年から関東圏の 22 大学(千葉大学や筑波大学、法政大学、立教大学など)と単位
互換制度を発足させ、今年度から本専攻が幹事校役を引き受けている。社会学のカバーす
る領域が広いことから考えると、こうした制度は妥当なものといえる。
【点検・評価】
基本的にほぼすべての授業を開放しており、単位互換をめぐる不都合はない。
【長所と問題点】
すでに指摘したように、社会学のカバーする領域が広いことからも、この単位互換制度
613
は他大学も含め、おおむね高い評価を得ている。一方で、タコツボに入りやすい学生が多
いために、指導教員の方が積極的に他大学のカリキュラムを紹介しないことには、なかな
か実際の単位互換が進まないという問題もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
制度そのものに不備はないことから、専任教員が中心となって学生に広く他大学のカリ
キュラムや授業を紹介することが具体的な方策として残されている。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
国内では 1997 年から関東圏の東京外国語大学、筑波大学、法政大学、明治大学など 22
大学と単位互換制度を利用して教育交流を行っている。これらは社会情報学に隣接する社
会学、コミュニケーション学など開設している大学であり、その科目の中で指定した範囲
を単位互換の対象として認定している。
【点検・評価】
これまで数名の博士前期学生が相手校に出向き、活発な教育研究活動を行い、単位認定
された。特定の相手校とは単位互換の微妙な違いが発生しているが、単位互換方法の運用
状況について点検した結果、概して妥当であると評価できる。
【長所と問題点】
社会情報学が対象とする学際的な主題領域をカバーできるという長所があるが、学生に
とって距離的な移動はなかなか大変である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他大学院との連携をより緊密にし、より高度で専門的知識や技術を修得できるように具
体化を進める必要がある。
<教育学専攻>
【現状の説明】
現在、文学研究科の単位互換協定に基づいて学生が個別に対応しており東京都立大学の
開講科目を受講している例がある。
【点検・評価
長所と問題点】
他大学院の講義や演習から得る多様な研究視角や方法から自らの研究を深める方向を獲
得しつつあり成果をあげている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
協定校の開設科目と担当者と内容に応じて、学生の自主選択と担当教員の指導方針の調
整をどう考えるかが課題となっている。
<心理学専攻>
【現状の説明】
東京外国語大学大学院および東京都立大学大学院との間に単位互換制度がある。
【点検・評価】
東京外国語大学大学院および東京都立大学大学院との単位互換制度は 2000 年度から開
始されたばかりのため、現在のところ単位互換を利用した実績はないものの、将来的には
単位互換制度を利用する可能性は十分ある。
【長所と問題点】
614 第3章 大学院
時間割編成や、受け入れ手順を定める必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
利用しやすい制度にするため、こまごまとした調整が必要。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生などへの配慮
<文学研究科>
【現状の説明】
大学卒業後各界で活躍している社会人で、さらにステップアップすることを希望してい
る人達を対象に、国文学、英文学、日本史学、東洋史学、社会学および社会情報学の各専
攻で、博士前期課程に限って、一般入試とは別に、社会人特別入試を実施している。
外国人留学生に対しては、これも一般入試とは別に、全専攻にわたり博士前期課程・後
期課程とも外国人留学生入試を実施しており、毎年 10 名前後の学生が入学している。文学
研究科では、数が少ないこともあり、社会人・外国人留学生のための特別なカリキュラム
や時間割を提供してはいない。ただし、日本語能力に不足がある外国人留学生にはチュー
ターを付けて勉学の支援をしている。なお、社会人・外国人留学生のための特別入試に関
しては、毎年度の中央大学大学院入試要項や同大学院ガイドに詳しく案内されている。
【点検・評価
長所と問題点】
これらの特別入試を実施している専攻の社会人・外国人留学生に対する評価は高い。社
会での経験を積んだ社会人学生の真摯な態度は、一般学生にとってかけがえのない指針と
なっているし、外国人留学生が多数在籍していることで、一般学生が日常的に異文化に接
しうることの意義も大きい。ただし、留学生にとっては在学中に学位を取ることが必須の
要件となっており、歓迎すべきことではあるが、指導を担当する教員にとっては大きな負
担となっていることも事実である。
なお、本研究科には、社会人に対する特別入試を実施していない専攻があるが、実学と
直接結びつかないそれら専攻に対する社会人の需要がほとんどないことがその主たる理由
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人学生・外国人留学生の受け入れは、学問的成果の社会的還元、学問研究の国際化
を考えれば望ましく、一般学生にも学問的視野の拡大という点で良い影響を与えているの
で、今後も進展が望まれるが、古文書などの取り扱いに関しては、TAやチューター制度
を活用し、社会人学生や外国人留学生を支援していく必要がある。
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
「連携大学院」の教育課程
該当なし
615
3−(1)− ⑦
研究指導等
<国文学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては各分野に特講と演習、博士後期課程においては各分野に特殊研
究を置き、演習を中心とした授業形態で、主に授業そのものを通して、研究方法の習得か
ら、主体的な研究発表まで、学生の段階に応じて指導している。また、以前からその要求
の強かった外国人留学生のみならず、近年は一般の学生も在学中に学位論文を作成するよ
う指導を強めつつある。主に指導教員の個別的な研究指導に拠っており、すでに学位を取
得して修了した事例もあり、学位を取得する学生はなお増加の傾向にある。
【点検・評価】
研究指導は主に授業を通して教員の個別指導で行われる。演習は学生同士の相互批判を
通して進められるが、博士前期課程では批判を適切に受け止める方向への教員の指導が不
可欠である。
【長所と問題点】
外国人留学生の動向に刺激されて、学生全般に学位論文作成への意欲が高まってきてい
る。また積極的に学会、他大学の研究会等に参加する学生も増加する傾向にある。研究指
導は主に授業および指導教員の個別の対応に拠っており、おおむね充実していると考える。
しかし、留年生、オーバードクターの増加は、就職難など社会的な要因にもよるが、学位
論文作成の意欲は認められるものの、在籍期間内に学位論文を作成するには至らないケー
スもあり、指導方法を検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
留年生やオーバードクターの対策としては、まずよりきめ細かな指導が必要であるが、
担当教員の個人的な負担のみでは担えきれない状況が生じかねない。そのため、教員の増
員、TA制度の活用などの対策を講ずる必要がある。また、社会状況の変化に対応した進
路指導も考えなければならない段階に来ている。
<英文学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程においては、修士論文作成が最大の課題となるため、特に綿密な個人指導
が行われている。また、博士前期課程・後期課程の学生は全員が『大学院研究年報』、『論
究』や、英文学専攻独自の『中央大学英米文学研究』といった機関誌への論文発表の権利
を有しており、それらへの寄稿論文執筆にむけての研究指導を恒常的に行って論文発表を
奨励している。
【点検・評価
長所と問題点】
綿密な個人指導のもとで執筆された修士論文には、博士前期課程での研究成果が集約さ
れているだけではなく、その後の研究の方向性や可能性を予感させるものも多く、引き続
いて指導を行うことで目覚しい発展が期待できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述した機関誌は学内のものだが、国内と国外とを問わず、学外の学術誌への論文発表
や学会での研究発表を強く奨励していくべきであろう。また、博士論文執筆の指導も積極
616 第3章 大学院
的に行うべきであろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
1.博士前期課程
研究指導は主として各授業科目と指導教員の研究指導によって行われる。指導教員の選
択は学生が行う。また学外から招待した日本人研究者やドイツ人研究者によって研究指導
が行われることもある。さらにドイツへの短期・長期の留学を通して学生はドイツでも研
究指導を受けることができる。その他にも国内外への研究旅行や夏季合宿を通しての研究
指導も実施している。博士前期課程では特にドイツ語運用能力の向上、資料収集の方法、
論文執筆の方法など研究基礎の指導を重点に置いている。修士論文を執筆するための前提
として合同の中間発表も実施している。
2.博士後期課程
博士後期課程では博士論文の執筆に向けた研究指導と、将来の就職先を考慮した研究指
導が行われている。博士論文執筆の指導は主として指導教員が行っているが、論文執筆過
程で随時中間発表会を実施している。博士後期課程の学生はドイツへ長期留学することが
多いので、ドイツの大学の指導教員からも研究指導を受けることが一般的である。このよ
うに本学での研究指導、ドイツでの研究指導、中間発表会を通して学生は博士論文を準備
することになっている。
【点検・評価】
博士前期課程の研究指導は比較的整備されており、特に大きな問題はない。中間発表会
を通して教員全体による研究指導も効果的に実施されている。博士後期課程の研究指導は
現在転換期にある。それはこれまで課していなかった博士論文の執筆を義務付ける方向で
研究指導体制の見直しを行っているからである。新たな研究指導体制の確立に向けてさま
ざまな条件を現在、検討中である。
【長所と問題点】
学生の主体性が重視され、学生の関心に応じた研究指導を受けられるのが本専攻の長所
である。また日本とドイツの両方で研究指導が受けられるのも学生には大きなメリットと
なっている。さらに中間発表会において、指導教員のみならず専攻教員全員のアドバイス
を受けることができることも利点である。問題点として挙げられるのは、論文に求めるレ
ベルが指導教員と学生の間でやや異なるケースがあること、また指導教員によって論文指
導の方法が異なっていることなどである。博士論文の執筆条件とレベルに関して教員間で
まだ明確な合意ができていない点も現状の問題点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、本専攻では修士論文のレベル、博士論文の執筆条件、博士論文のレベルに関して
教員内部で検討を行っている段階である。今後はこれらの点を明確に定めた上で学生に周
知し、修士論文と博士論文のレベルをそろえるとともに論文全体のレベルアップを図る予
定である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
先にも記したとおり、博士前期課程・同後期課程それぞれの理念と目的に応じた詳細な
617
シラバスに基づき各担当教員が鋭意研究指導を行っている。また学位論文作成のために、
指導教員(専任教員に限られる)が綿密な個人指導を恒常的に行っている。一方、博士前
期・後期課程の学生ともに『大学院研究年報』、
『論究』、あるいは本専攻独自の『中大仏文
研究』等の機関誌への論文掲載を奨励している。
その他フランス人専任教授1名とフランス人兼任講師1名により、本国の大学院の講義・
演習と同一内容の授業が行われ、フランス留学のための試験準備や、DEA取得論文(日
本の修士論文に相当し、博士論文の予備論文となる)の作成にも大いに役立っている。
【点検・評価
長所と問題点】
修士の学位を授与される学生は多いが、博士の学位取得者はフランスで数名、国内では
論文博士1名、課程博士はまだ出ていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に課程博士の学位取得について、学生の意欲を高めるよう指導する努力が必要である。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
各教員がそれぞれ、自らの専門分野を中心に学生に対して研究指導を行っている。博士
前期課程においては、修士の学位、博士後期課程においては博士の学位の取得を目標に、
学生各自がそれぞれ問題の設定・史料の蒐集・読解・分析などを自分の力で行い、独創性
に富んだ論文を作成できるよう指導している。演習や学内の研究会を利用して随時報告を
行わせるのみならず、他大学の大学院学生や若手研究者が参加している学外の研究会にも
進んで出席し、自らの研究の視野を広めることが期待されている。近年、歴史学において
は、文献史料・文書史料のみならず、絵画・写真・映像・各種の遺物・遺跡など多種多様
な史料を取り扱うことが多くなってきたので、そうした史料の活用の能力を身につけさせ
るため、大学院教育協力制度のある大学共同利用機関(国文学研究資料館史料館・国立歴
史民族博物館など)における史料学研修・講習会等に参加したり、特に博士後期課程の学
生には、その特別共同利用研究員として研究活動に参加したりすることを大いに奨励して
いる。また、本専攻大学院在籍中の研究成果は、
『大学院文学研究科研究報告』や、本専攻
の専任教員、大学院学生、本学文学部日本史学専攻の卒業生を中心とする全国的な日本歴
史の学術雑誌『中央史学』などに、しばしば発表されている。
【点検・評価】
上述のような本専攻の研究指導のあり方の充実度は、各指導教員の個別的な研究指導の
努力に依存する度合いが大きいが、その成果は修士論文・博士論文や学内外の学術雑誌に
掲載された論文などの内容にも反映されており、おおむね適切なものと評価できよう。
【長所と問題点】
本専攻における実証主義の歴史学という学風を考えるならば、史料批判や史料の解読な
どを通じた研究指導における各教員の個別的指導というあり方は、大きなメリットがあろ
う。しかし、近年、大学院への志願者・入学者がしだいに増加し、2001 年現在、本専攻は
大学院学生の在籍者 53 名(博士前期課程 22 名、博士後期課程 31 名)となり、文学研究科
において、国文学専攻に次ぐ大所帯となった。そのため7名の専任教員一人あたりの学生
数は、7.7 名強に達した。こうした事情により、これまで目指してきたきめ細かい研究指
導の条件もかなり難しくなりつつあることは否定できない。また学生の姿勢にも若干バラ
618 第3章 大学院
ツキがあり、十分な成果が在籍の学生全体に行き渡っていないという点も見受けられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任スタッフの充実、とりわけ学生のニーズを考慮に入れれば、これまで比較的欠落し
ていた考古学・文化財学等の分野での研究指導体制の充実を考える必要があろう。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
東洋史学専攻で実施している研究指導は、特講・演習・特殊研究といった授業における
教育指導、個別的な研究指導、および本専攻を主体として運営している白東史学会の例会
等における発表に際しての研究指導から構成される。
(1)授業においては、直接的な指導
により、史料を厳密に読解し、活用して分析する実証的な研究手法を習得させるという形
式がとられている。また、授業においては学生による研究成果の発表も随時行い、研究の
進展度を把握しつつ指導している。
(2)前期課程学生に対しては、特に修士論文作成に向
けた指導を随時行っている。後期課程学生に対しては、学会報告の準備や発表論文の作成
に向けた指導を随時実施するとともに、博士論文作成のための指導を行う。
(3)白東史学
会の例会で順次発表することが大学院学生の慣例となっており、そこには専任教員全員が
必ず出席して研究指導を行っている。また、学生も多数自主的に参加し、質問・批判を交
えながら発表者と議論しあい、相互に啓発し合う場として重要な役割を果たしている。以
上のような研究指導を通じて、歴史学における基礎的な研究能力の育成から学位論文作成
へと至る一連のプロセスを十分にカバーしうる指導体制が基本的に機能していると考えら
れる。
【点検・評価】
本専攻の授業を中心とする研究指導は、博士前期課程・後期課程を通じ、教育課程の趣
旨を十分に生かし、歴史学研究において必須の史料読解能力、史料批判の手法、実証的な
分析方法、論文の論述力などが習得できるよう、有効に実施されているといえる。
実際、本専攻の大学院学生の手による論文が、
『東洋学報』など外部の学会誌や研究機関
紀要などに審査を経て掲載されるケースが、近年顕著に見られる。
【長所と問題点】
問題点は、博士前期課程について、一部の授業で履修者がやや多数にわたり、特に個別
指導の面で教員に負担がかかる場合があることが挙げられる。博士後期課程については、
博士学位取得者が寡少であることを指摘できる。本専攻発足以来の博士学位授与者は、3
名(いずれも論文博士)である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
東洋史学のみならず人文系の学問分野においては、従来、博士の学位取得者は希少であ
り、しかもその大部分がいわゆる論文博士であるという状況が一般的であったといっても
過言ではない。しかし、近年、他大学大学院の東洋史学専攻の一部や本学大学院文学研究
科の他専攻の一部においては、博士学位の授与(特に課程博士)が格段に促進されている。
このような動向を睨みながら、当該側面において、博士後期課程における研究指導体制を
本専攻としてどのような基本方針のもとに構築していくのか、将来的には検討を加える必
要がある。もちろん、現状における様態を保持していくという選択肢もあり得るが、博士
学位授与を促進するという方針を採用するとすれば、博士後期課程における学位論文作成
619
指導の充実化を図り、博士学位取得に至る一貫した研究指導のあり方を徹底化することが
望まれよう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程の研究指導は特講・演習など授業における教育指導、個別的・随時的な研
究指導、および年2回から3回行われる大学院学生の研究発表会における教育研究指導に
分けて考えることができる。
(1)授業に関しては、担当教員によって指導方法に多少の違
いがあるが、史料操作の訓練と論理の構成を重視した指導を行う点では共通している。
学生は2年次も自分の指導教授の授業を受講するのは当然として、専攻としては異なる
研究スタイルの教員の授業を受講するよう奨励している。
(2)修士論文作成に向けた個別
的な研究指導は、オフィスアワー以外でも随時行っている。
(3)年2回から3回の大学院
学生の研究発表会は、学生が自主的に運営にあたっているが、教員は毎回全員出席する。
学生はここで年最低1回は報告することになっており、自分の研究報告に対して全教員の
みならず同僚の学生からも厳しい質問や批判を受けることによって自分の研究をさらに精
緻なものにすることができる。なお、博士後期課程の学生は、多くの場合、同前期課程の
授業に自主的に出席しており、博士前期課程の学生によい刺激を与えている。
博士後期課程では、学生が自分の選んだテーマに関する研究を深め、博士論文が作成で
きるよう研究指導を行う。なお、学生は、専攻設置の特殊研究(4単位)を 16 単位履修す
ることが義務づけられている。西洋史学専攻では、その学問の性質上、博士論文の作成の
前に、各自の研究に資すると思われる国に留学するよう指導している。
【点検・評価】
博士前期課程に関しては、博士後期課程が発足した 1994 年以前と比べて、量的にも質的
にも成果が上がっていると判断する。具体的には、修士論文の一部がレフリー制のある学
術雑誌に論文として受理されたり、その成果の一部を西洋史学会等で報告し好評を博した
りしている点をあげることができる。したがって、現在の研究指導体制が適切に機能して
いると評価してよい。ただし、博士論文作成を最終目標とする後期課程については、発足
後7年で、まだ歴史が浅く、学位取得者を出すに至っていない。また、後期課程の学生の
多くが、生活費を得るためのアルバイトにかなりの時間を割かなければならないという厳
しい現実もある。
【長所と問題点】
教員は努めて自分の専門分野の研究会に本専攻の学生を紹介し、他大学の教員や学生お
よび留学帰りの若手研究者と交流する場を与えている。これは、本専攻の長所と言えなく
もない。
博士前期課程の研究指導体制は、特に問題があるとは思わないが、博士後期課程につい
ては、学会報告や論文作成あるいは留学への熱意と努力をさらに促す必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に博士後期課程については、修士論文をまず論文(複数)にまとめ、レフリー制度の
ある学術雑誌に出版するよう指導すると同時に、学位論文作成の前に留学し、その経験を
生かした優れた博士論文を書くことができるよう指導を徹底する必要がある。一方、学生
が研究に専念できるよう大学院奨学金制度を充実させる方策を本学大学院全体として検討
620 第3章 大学院
する必要がある。
<哲学専攻>
【現状の説明】
学位論文の指導担当教員が各学生につき、授業も含め個別的に研究指導を行っている。
博士前期課程では、特に原典講読を機軸にしたテキスト読解能力の育成に重点を置き、そ
の成果を修士論文へと集約していく過程で個別的な論文指導が行われる。博士後期課程で
は、より高度なテキスト読解力を養成しつつ、先行解釈を十分咀嚼した上でのオリジナル
な論点をもった論文作成へと指導のポイントを移行していく。
【点検・評価】
カリキュラム実現の面においても、学位論文作成指導面においてもきわめて適切な指導
がなされている。
【長所と問題点】
緊密な指導が長所であるが、今後、学生の学外での活動(学会等の)支援が課題となっ
てきている。とりわけ博士後期課程在学生の場合、そうした学外での研究発表等の活動と
課程博士論文とをいかに有機的に連関させていくかが大きな課題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生の学外での活動(学会等の)を支援する体制づくりを進める一方で、そうした活動
と課程博士論文とを有機的に連関させるための本専攻内規を設け、2002 年度より早速適用
していくことになっている。
<社会学専攻>
【現状の説明】
本専攻では、博士前期課程・後期課程を通じて専攻所属の6名の教員が個別に研究指導
にあたっており、論文審査で共同作業をする以外は、基本的に指導教員が各学生の特性を
見極め、個別カリキュラムの選択をするよう指導を行っている。一人の教員は、博士前期
課程約2名、博士後期課程約2名の学生を指導しているが、その学生によって研究の方向
性や意欲、指向がまちまちで、同じ指導教員でも、相手にする学生によって指導方法は異
なっている。
【点検・評価】
上述のように、指導教員と学生の間にバラエティがあるので、一律に評価を下すのは難
しいが、博士前期課程修了者の多くがまずは博士後期課程進学を考えている現状からすれ
ば、教育効果は十分に高いものと判断される。他方、博士後期課程の場合、博士号取得に
いたる者は少ないとはいえ、博士後期課程修了者の多くが研究者として社会的認知を受け
ている点で問題はないと判断している。
【長所と問題点】
個別指導を中心にしたスタイルで、しかも少人数教育を実施しているため教育効果は高
い。反面、学生たちでの意見交換は教育課程上では保証されておらず、博士前期課程・後
期課程を通じ、あくまで学生の個別の自助努力に任せられている点に、若干の問題点があ
る。
また、入学後に学生が研究方針について悩み、論文が書けなくなるということは少ない
ものの、入学者を特定の研究領域を志向する者だけに限定していないため、学生内部にバ
621
ラエティがあり、研究の場としての潜在力を高めているが、それだけ指導教員の負担が大
きくなっている。とりわけ外国人留学生の指導の負担は大変大きいのが現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程在学生で、博士論文を執筆する予定の者は、執筆を開始する前の段階で構
想を発表し、複数の教員がこれに対してコメントをつけることで実質的な「博士論文執筆
候補者」として認定するスタイルを採用しようと計画しているところである。博士前期課
程の学生については、修了に必要な単位数が多いこともあって、現時点における修正は考
えていない。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
6名の専任教員が、社会情報学理論、コミュニケーション論、図書館情報学、マルチメ
ディア論、数理社会学などそれぞれの専門に分けて、平均して教員1人に学生2名という
指導体制のもとで、個別的にきめの細かな指導を行っている。指導内容は、個別教育、学
会発表、インターネットによる電子情報発信、学位論文作成などであり、カリキュラムに
対応したものである。それぞれの研究指導を受けた学生には、『大学院研究年報』『論究』
あるいは専攻の機関論文誌などに成果を論文として公表するように働きかけている。
【点検・評価】
教育課程の展開ならびに学位論文の作成を通じた研究指導の適切性、カリキュラムの趣
旨・内容を具体的に実現するための研究指導の適切性、指導教員による個別的な研究指導
の充実度などを点検した結果、妥当であると評価した。
【長所と問題点】
長所は、きめの細かな個人指導である。問題点は、一教員あたりの指導学生が多いこと
から、教員の負担が増えるということである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の問題点の解決。
<教育学専攻>
【現状の説明】
上の「大学院研究科の教育課程」の項で述べたように「教育学基礎論」による学習で得
た基礎的知見を踏まえて自分の問題関心を発展させ、各自指導教授のもとで研究を進めて
いく方針をとっている。同時に、本専攻の目指す教育学研究の骨格をなす教育原理論、教
育方法論、教育計画論の各領域にわたって開かれている特別講義と演習への出席を通した
異なる研究方法や広い視野の獲得にも心がけさせ、修士論文の中間発表会や博士論文検討
会などの集団研究の場も設けて一定の成果を挙げている。
【点検・評価】
現在、各指導教授のもとでの研究指導を踏まえた上で、他領域への関心、授業参加、共
同研究参加も試みられているところであるが、いまだ相互理解の次元にとどまりがちであ
って、今後、広い視野に立つ教育学研究をすすめる気運が高められなければならない。そ
のためにも、学部からの進学者、他大学からの進学者、社会人学生、外国人留学生に対し
てはそれぞれに応じた指導を組み立てているところである。
【長所と問題点】
622 第3章 大学院
このような配慮によるきめ細かい指導のうちに自立した研究者養成に向けた厳しい指導
をどう組み込んでいくかが、前期課程固有の課題としての高度専門職業人養成とともに、
研究者養成の指導方針が博士前期・後期課程を通して一貫したものとして確立していく上
での大きな課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
先に述べたように、現在の教育学研究指導の骨格の再検討を行うとすればそれに即した
教育研究の指導内容と方法の再検討が必要となってくる。
<心理学専攻>
【現状の説明】
「学校心理学」
「認知心理学」および「生涯発達心理学」の3つの部門においてそれぞれの
部門の特徴を生かした、修士論文作成を目標とした研究指導が行われている。さらに学校
現場、教育相談所、社会福祉施設等の現場で、スクールカウンセラー、心理教育相談員と
して自立して勤務できる専門職業人を養成している。
【点検・評価】
心理学専攻は修士課程が 2000 年度より新設されたため、全体的な評価を出す段階に至っ
ていない。
【長所と問題点】
「学校心理学」
「認知心理学」および「生涯発達心理学」の3つの部門においてそれぞれ
の部門の特徴をいかした研究指導が行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今のところは特に無し。
3−(2)
教育研究指導方法の改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
<文学研究科>
【現状の説明】
教育効果測定の方法論が一般に確立しているとは言い難く、本研究科においても組織的
な教育効果の測定は行われていない。ただ、教員は、学生の演習における研究発表、レポ
ートなどを通して日常的に自らの教育指導の効果を確かめるとともに、教育研究指導をめ
ぐる研究室における定期的な検討その他を通して集団的に教育効果の測定と個別の力量を
高める努力をしている。特に全教員が出席して修士論文の口述試験を行う専攻では、同口
述試験が、自らの教育効果に対する自己点検・評価の貴重な場となっている。
なお、英文学、独文学および仏文学などの専攻においては語学関係の諸検定試験なども
教育効果測定の1つの手段となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
機会あるごとに開かれる研究室会議で、教育効果の検討が重ねられていることは現状の
説明で述べたが、各専攻が一定の方式に従って効果測定を行うことはしていないし、その
可能性と有効性についても議論は定まっていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後とも、現在行われている各専攻の研究室会議での意見交換を中心とした点検・評価
623
を通して教育効果の向上を図りたい。
3−(2)− ②
成績評価法
<文学研究科>
【現状の説明】
個々の授業における成績については、演習における発表と討議、レポート、指導の受容
と消化の状況などを踏まえて指導担当教員がその責任において評価しているが、それは、
学習・研究の達成度のほか、意欲や方法上の進展状況も含めるものである。さらに、専任
教員が全員出席する「院生研究発表会」などでの研究発表や質疑応答なども成績評価の参
考にしている専攻もある。
修士論文の評価に関しては、多くの専攻で教員全員出席のもとで口述試験が行われ、そ
の成績評価も合議の上で決定されている。そうでない専攻においても、修士論文の評価は
主査と副査2名の合議に基づいており、この点においての透明性・客観性は確保されてい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
個々の授業における成績の評価は、上述のごとく指導担当教員の責任に委ねられている
ため、教員によって評価に若干のばらつきがあり、この点の改善を求める声も専攻によっ
ては聞かれるが、修士論文の評価に関しては各専攻とも公正に行われており、問題ない。
なお、課程博士の学位を取得することがまだ一般化していない現状においては、博士後期
課程に在学する学生の成績評価に厳しさを欠くとの指摘もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後とも厳正な成績評価を維持していくが、教育学専攻のように、修士論文作成をもっ
て大学院生活を修了し、高度専門職業人として社会に出ていく者に対する指導のあり方に
ついて検討を深めたいとする専攻もある。
3−(2)− ③
教育研究指導の改善
<文学研究科>
【現状の説明】
本研究科においては、各教員が個人的に、あるいは研究室会議等でインフォーマルな形
で教育研究指導方法の改善に努めていることは言うまでもないが、組織的な取り組みは行
われていない。また、各授業の授業内容は毎年度の『大学院履修要項』に公表されている
が、シラバスと言えるほどのものではない。さらに、学生による授業評価に関しても、個々
の教員が個人的に聴取し、自分の授業の参考にしているケースは見られるが、研究科とし
て組織的に実施してはいない。
【点検・評価
長所と問題点】
教育研究指導方法の改善のための組織的な取り組みがない点は、問題点といえるが、こ
の点は個人的あるいはインフォーマルな取り組みによってある程度補われている。それぞ
れ個別の研究テーマを持つ学生に対応する必要があること、新入生や受講生の状況に応じ
て新学期開始時に授業計画を調整する必要があること等のため、シラバスは本研究科にお
いては必ずしも実用的とは言えない。ただし、聴講生、科目等履修生、他大学・他研究科
624 第3章 大学院
からの受講生等が増加する傾向にあり、できるだけ正確な授業内容の予告は必要である。
学生の授業評価を何らかの形で参考にすることの有用性に関してはおおむね合意がみられ
るが、これを制度化することについては、慎重論が強い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究指導方法については、随時改善に努力する。完全なシラバスの提示は実用的と
は言えないが、授業内容をできるだけ正確に予告する努力が必要であろう。学生の授業評
価の制度化については慎重に検討する必要がある。
3−(3)
国内外における教育研究交流
<文学研究科>
【現状の説明】
次の諸大学と本学の間には、大学間協定が結ばれており、教員の交流および学生の交換
留学などが実施されている。タマサート大学(タイ)、フィリピン大学ディリマン校(フィ
リピン)、高麗大学(韓国)、延世大学(韓国)、中央大学(韓国)、成均館大学(韓国)、南
開大学(中国)、フリンダース大学(オーストラリア)、オーストラリア国立大学(オース
トラリア)、ストックホルム大学(スウェーデン)、ヨーク大学(イギリス)、ウェールズ・
カーディフ大学(イギリス)、マーストリヒト大学(オランダ)、ヴュルツブルグ大学(ド
イツ)、チュービンゲン大学(ドイツ)、ベルリン自由大学(ドイツ)、オスナブリュック大
学(ドイツ)、フンボルト大学(ドイツ)、エクス・マルセイユ第Ⅲ大学(フランス)、リヨ
ン(Ⅱ)大学(フランス)、トゥールーズ・ル・ミラーユ大学(フランス)、ロベール・シ
ューマン大学(フランス)
、ベオグラード大学(ユーゴスラビア)
。
【点検・評価
長所と問題点】
上記大学とは教員・学生と交流があり、大学協定が有効に利用されている。詳しくは、
「第5章
教育研究支援
国際交流の促進の点検・評価報告書」を参照。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これら協定大学との間の交流が益々活発化することが望まれる。なお、英語圏の大学と
の交流を求める声が多いが、そのためには、それらの大学からの留学生や研究者の受け入
れ態勢を一層拡充する必要である。
<国文学専攻>
【現状の説明】
国内外における教育研究交流について、殊に国際的な交流については分野の性格上これ
まで積極的には追求されてはいない。国内の交流は、学会等を通しての交流が主であるが、
研究発表や講演を行うことはもとより、学会事務局の分担、大会会場の誘致など、積極的
に活動し学問的交流の機会を持つよう努めている。
【点検・評価】
国内における教育研究交流は、学会等を通して活発に行っている。ただ、国際的な交流
となると、教員が中心で学生の交流というところまでは及ばない。単位互換等を通して国
内における教育交流は制度化されている。
【長所と問題点】
国内における教育研究交流については、可能な限りで行われている。国際的な交流につ
625
いてはこれまで積極的に追求されてはいない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
日本文学研究の国際化にともなう海外の研究者との交流の増加、また、情報のデジタル
化にともなう情報科学等周辺諸科学との交流など、従来の枠を超えた交流が起こりつつあ
る。こういう交流についても視野におさめ、多様な交流に対応できる体制を作る必要があ
る。
<英文学専攻>
【現状の説明】
学問分野の性質上、英文学専攻では特に教育研究交流を国際的に推進していくことが重
要であるので、長年にわたって英語圏からの研究者を招聘して、講演会・研究会・講義な
どを開催している。また交換留学協定制度などを活用して英語圏での留学を実現させる大
学院学生も多く、教員は大学の在外研究制度などを利用して英語圏の大学・大学院で研究
生活を送っている。
【点検・評価
長所と問題点】
英語圏からの研究者を招聘しての講演会・研究会・講義の開催は長年にわたるもので、
毎回の成果は英文学専攻の財産になっている。交換留学協定制度を活用した大学院学生は
留学先の大学で有益な時間を過ごし、貴重な体験をしている。在外研究制度による教員の
交流は、その後のアカデミック・ネットワークの構築にも貢献している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述の成果を踏まえ、例えば、国内の教育交流に関しては、集中講義期間の導入などに
よって、大学院学生が相互に交流しやすい制度を整えるとか、海外との教育研究交流に関
しては、外国人客員教員の招聘制度を期間・環境・待遇などの面で充実させる、今後さら
なる改善・改革を図っていく必要があるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
日本におけるドイツ文化研究の社会的環境の変化、社会的需要の変化に応じて本専攻で
は国内外の研究者や専門家との交流を緊密化してきている。国内での教育研究交流は主と
して学外の研究者や専門家との共同研究や講演会、研究会を通して実施している。本専攻
の教員は科学研究費による共同研究にも参加している。また本専攻では日独文化交流、日
独同時通訳などに従事する学外の研究者や専門家による学生向けの講演会を実施し、学生
の学問的・社会的関心の幅を広げる努力を行っている。
ドイツとの教育研究交流ではベルリン・フンボルト大学などのドイツ文学専攻との交流
ばかりではなく、近年はボン大学の日本学専攻との交流も行っている。また短期留学先の
テュービンゲン大学、ゲッチンゲン大学、ウィーン大学などのドイツの大学とはドイツ語
教授法の面での交流を実施している。さらに韓国の梨花女子大学とは教員と学生による相
互交流を実施している。協定大学を中心とするドイツの大学から来校した研究者による講
演会は年間に5回前後実施している。また毎年秋にはドイツの作家を招いた朗読会も行っ
ている。このように本専攻が実施している国内外における教育研究交流は極めて盛んであ
る。
【点検・評価】
626 第3章 大学院
本専攻の国内外における教育・研究交流は順調に推移し、特に日独大学間交流、日韓大
学間交流の面では優れた成果を示している。
【長所と問題点】
本専攻の国内外における教育研究交流がドイツ文学専攻の枠に留まらず、日本学専攻、
教育学専攻との交流など学際的な広がりを持っていることは大きな長所である。また教員
の国内外の学会活動、研究会活動も盛んである。本専攻の学生とドイツの協定大学や韓国
梨花女子大学の学生との間の交流も活発である。日韓独の学際的な交流を実施している点
で本専攻は独自の交流を実施していると言えよう。
問題点としては国内外の民間企業や文化機関との交流がやや不十分である点が挙げられ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本専攻ではさらにアメリカ、台湾ないし中国の文化機関と本専攻との教育研究交流を開
始したいと希望している。アジア、ヨーロッパ、アメリカの各大学と協力しながら新たな
ドイツ文化研究の可能性を切り開いていく方向で検討している。また、ドイツでの企業研
修などを通してドイツの民間企業や文化機関との交流を緊密化することも必要である。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻ではその学問の性質上、教育および研究における国内外の学術的交流の推進
と緊密化がきわめて重要である。近年本専攻では国際交流センターを通じて、フランスの
交流協定大学を中心として、フランスおよびフランス語圏諸国から研究者を積極的に招聘
して講義と講演を年に数回開催している。また国内の大学人による講演会の開催、本専攻
専任教員による海外の大学における教育研究交流も行われている。なかでも 1996 年に交換
協定を結んだトゥールーズ・ル・ミラーユ大学には毎年2名の交換留学生を派遣するほか、
相互に大学院修了程度の若手教員の交換が軌道に乗り、双方のフランス語・日本語教育に貢
献している。このような国際的学術交流は学生に対し非常に有益な刺激を与えるものであ
り、交換留学生・認定留学生・ロータリーの奨学金を利用して留学する学生の数は年々増
加している。また 2001 年3月末には国際交流基金の助成を受け、本学主催の日仏文学シン
ポジウムを3日間にわたって開催した。
【点検・評価
長所と問題点】
本学は国際交流推進のため、協定校の拡大、そのための諸規定、国際交流センターはじ
め諸施設の整備の改善に長年努力を傾けてきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
外国からの客員教授については最長1カ月が現行の規定であるが、半年ないし1年の招
聘制度の導入も検討すべきであろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
日本史の分野では、近年、国際的な視野に立った研究が重要視されつつある。本専攻で
も各教員が研究上の必要に応じて、本学の在外研究制度をはじめ、学内外からの資金を得
て、海外での調査・研究活動や国内外における歴史研究や歴史教育のための国際会議・学
会等に参加し、研究報告・講演などを行い、討論にも加わっている。また、日本研究を目
627
指す外国人を研究生などとして受け入れている。
【点検・評価】
各教員がそれぞれ個別に国際的な研究交流を行い、その成果を研究上に反映させている。
(各教員の毎年の海外出張や国際会議での報告状況などについては、『学事記録』を参照)
【長所と問題点】
各教員による教育研究上の交流はかなり広く行われているが、専攻としての組織的・系
統的な対応、特に教育上の交流は必ずしも十分とはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の海外調査・研究活動に対する本学の基礎研究費の適用を一層充実させる必要があ
るだろう。また、外国人研究者の受け入れには、現行のチューター制度の拡充などが望ま
れる。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
国際的な教育研究交流の推進に関して、本専攻として特段の方針は確立されていない。
教員の個人レベルの活動としては、中国および中央アジアの研究機関との間で共同研究が
実施され、研究成果も発表された。また、近い将来、韓国、中国、カザフスタンなどから
短期・長期の訪問研究者受け入れの計画もある。
【点検・評価】
本専攻の専攻としての公式的な教育研究交流の方針が策定されているわけではなく、ま
た、交流推進のための本格的な措置がとられているともいい難い。他方、個々の教員のレ
ベルにおいては、外国の研究機関等との教育研究交流活動が、比較的活発に展開している
と評価できる。
【長所と問題点】
問題点としていえるのは、専攻としての組織的な取り組みという点において、国際的な
教育研究交流のための基盤がいささか薄弱な点であろう。また、英語による研究成果の出
版物が少なく、国際的な発信性に乏しいことも挙げられよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、現在個々の教員がもつ外国の大学・研究機関との連絡関係を基礎としつつ、
国際的な教育研究交流に対する方針を確立し、専攻として交流を展開していく方向性も一
つの案として、検討課題としたい。また、国際的な研究成果の発信性を高めていくための
不断の努力も要請されよう。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
国内レベルでの組織的な教育研究交流は、「3−(1)− ②
単位互換、単位認定等」
で述べた他大学院との単位互換に留まる。ただし、インフォーマルな形での教育研究の交
流は、
「3−(1)−⑦
研究指導等」の【長所と問題点】のところで述べたように、盛ん
に行われている。国際レベルでの交流推進に関しては、専攻としてまだ基本方針を作成す
る段階に至っていないし、それを緊密化する措置をとるまでには至っていない。
【点検・評価
長所と問題点】
国内でのインフォーマルな教育研究交流を別にすれば、専攻としての国際的な教育研究
628 第3章 大学院
交流は今のところほとんどない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、国際レベルでの教育研究交流を専攻として推進する必要があることを認識
しており、そのための方策を検討中である。
<哲学専攻>
【現状の説明】
各教員の個別レベルに留まっている。
【点検・評価
長所と問題点】
組織的な取り組みは立ち遅れており、この点が問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員相互で専攻全体としての取り組み体制を整えていく。さらに、哲学専攻として海外
の研究者を招聘する等の試みも今後模索していくことになるだろう。
<社会学専攻>
【現状の説明】
専任教員の中に海外でのフィールド調査を行う者が多いこともあり、特に東欧(チェコ
やスロバキア、ハンガリーなど)や東アジア地域(中国、台湾、韓国など)との教育研究
交流は盛んである。平均して、年に5・6回、海外からの招聘研究者によるセミナーが開
催されている。海外から研究者を迎えてのセミナーを行う場合、文学研究科だけでなく、
本学の社会科学研究所と共催するなど、開かれた場でのセミナー開催を心がけており、特
に国際交流の多さは本専攻の大きな特徴となっている。また国内での研究交流については、
個々の専任教員のもつ人的ネットワークによりながら、その都度共同セミナーを開催する
などの工夫がなされている。専任教員が個別の状況に応じて交流を推進しているのが現状
である。
【点検・評価】
上述のように、特に東欧・東アジアとの研究交流の多さには特筆すべきものがあり、
「地
域研究」と銘打った大学院研究科でのそれに比較しても遜色ないほどのものである。
【長所と問題点】
以上の諸点は長所といえるものだが、他方で、これらの教育研究交流はあくまで専任教
員の個別のネットワークに依拠しているため、転出・退職などがあった場合に、どのよう
にこのネットワークを維持するかという問題が存在している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
交流の基本が個人をベースに行われやすいことを考えると、その抜本的な改善策は考え
にくい。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
国際的には、米国、ヨーロッパ、東アジアなど大学間交流の協定校と留学生交換を行っ
ている。また、社会学、社会情報学、記録情報学、図書館情報学などの国際的学会を通じ
て、教育研究発表や共同研究を実施している。専攻所属の教員に関しては在外研究や国際
学会において積極的な活動をし、社会情報学の国際化に努力している。学生に関しては、
国内では、東京外国語大学、筑波大学、法政大学、明治大学など 22 大学と単位互換制度を
629
利用して教育交流を行っている。特に、東京外国語大学および東京都立大学との研究交流
は 2001 年度より発足した。
【点検・評価
長所と問題点】
米国、ヨーロッパ、東アジアなどの大学と結んでいる大学間交流と留学生交換制度はお
おむね適切であると考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際化への対応と国際交流の推進に関する基本方針は今後も堅持していきたい。また国
際レベルでの教育研究交流を一層促進させる努力をしたい。
<教育学専攻>
【現状の説明】
教員それぞれの研究関心や専門領域ごとに国際的な教育学研究に関わり、ドイツ、イギ
リス、フランス、アメリカ、中国、韓国などの研究者との交流や共同研究の推進に携わっ
ているだけでなく、国際学会の理事を担当するなど教育学研究活動の国際化に寄与してい
る。これに関連して積極的に他学問分野の国際的な研究との交流も深めている。
【点検・評価
長所と問題点】
この経験や成果は、専攻が組織する「教育学研究会」や全教員が参加する中央大学人文
科学研究所の「大学問題の研究」チームでの研究活動に生かされ、たびたび外国人研究者
を招いて研究の国際交流を続けて、関連学会や本学における大学教育の充実の課題を担っ
ている。ただし、日常の授業負担の重さと経費保証の裏づけがないため現在以上の努力に
は限界がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々の教員の研究活動を踏まえつつ専攻としての国際的研究活動の構想の具体化を目指
したい。そのためにはその活動を保証する研究費の増額や研究専念制度の整備が不可欠で
ある。専攻としては、今後とも学部、大学院を通した国際教育に関わる教育研究の指導充
実を図り、後継研究者育成に力を入れたい。
<心理学専攻>
【現状の説明】
2000 年度国内国外で開催された学会(日本心理学会・日本教育心理学会・日本発達心理
学会・ECVP)などにおいてシンポジウムの主催、研究発表が行われ、それぞれ学術雑
誌に発表された。また、2000 年度科学研究費の採択件数は研究室では3件という数であっ
た。
【点検・評価
長所と問題点】
現在のところ、個別的な研究交流に限られている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究室として、他大学・研究所所属の研究者との共同的な研究などを行うことを目標と
して努力する。
<共通科目>
【現状の説明】
個々の教員にゆだねられており、共通科目担当の組織としては行われていない。個々の
教員が個別的に外国人研究者や他大学の研究者を自分の授業に招いたり、研究交流を行っ
630 第3章 大学院
てはいる。
【点検・評価
長所と問題点】
共通科目の性質上、さまざまな専門にわたるため、組織として統一的な教育研究交流は
行いにくい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上に述べたような理由で、組織的な教育研究交流は困難なので、個人レベルでの研究交
流をより活発にしていきたい。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
<文学研究科>
【現状の説明】
修士の学位は、中央大学学位規則に定めるところに従って博士課程の前期課程または修
士課程に2年以上在学し、研究科所定の単位(32 単位)を修得し、かつ、必要な研究指導
を受けたうえ、修士論文を提出してその審査および最終試験に合格した者に授与される。
なお、修士論文は、広い視野に立って精深な学識を修め、専攻分野における研究能力また
は高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を有することを示すに足りるものをも
って合格とすることが中央大学大学院学則第 40 条に定められている。
博士の学位は課程による博士(課程博士)と課程によらない博士(論文博士)の学位に
分かれるが、課程による博士の学位は、本研究科博士課程に5年以上在学し、所定の単位
(後期課程の単位として 16 単位)以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けたうえ、博
士論文の審査および最終試験に合格した者に対し、当該研究科委員会の議を経て授与され
る。なお、博士の学位論文は、専攻分野について研究者として自立して研究活動を行い、
またはその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力およびその基礎と
なる豊かな学識を示すに足りるものをもって合格とすることが、中央大学大学院学則第 40
条に定められている。
課程によらない博士の学位は、中央大学学位規則に定めるところに従い、本研究科博士
課程の後期課程を経ない者であっても、博士論文を提出して、その審査に合格し、かつ、
専攻学術に関し本大学院博士課程の後期課程を終えて学位を授与された者と同等以上の学
識を有することを試問により確認された場合は、当該研究科委員会の議を経て授与される。
いずれの博士の学位の場合も、研究科委員会で互選された主査1人および副査2人以上
の審査委員は、学位論文の審査および最終試験または試問の終了後、速やかに、論文の内
容の要旨、審査の要旨、最終試験または試問の結果の要旨およびその成績を、研究科委員
会に、文書をもって報告しなければならないことになっている(中央大学学位規則第 16
条)
。
これまでの学位の授与状況を専攻別・学位別に示すと次のとおりである。
631
表1
専攻別・学位別学位授与状況
専
攻
修士学位授与者数
(修士課程/博士課程開設年度)
博士学位授与者数
博士学位授与者数
(課程博士)
(論文博士)
国文学専攻(1956/1963)
217
5
2
英文学専攻(1956/1964)
217
0
0
独文学専攻(1956/1962)
101
0
1
仏文学専攻(1955/1962)
108
0
1
日本史学専攻(1955/1962)*
194
3
14
東洋史学専攻(1955/1963)*
118
2
1
西洋史学専攻(1962/1994)
84
0
0
哲学専攻(1956/1962)
159
0
0
社会学専攻(1962/1965)
138
3
2
社会情報学専攻(1995/1996)
33
0
0
教育学専攻(1992/1994)
56
0
1
-
-
-
1425
13
22
心理学専攻(2000/-)
合
計
*1955 年度に修士課程が国史東洋史学専攻として開設。1962 年度に国史学専攻博士課程が
開設、次いで 1963 年度に国史学専攻と東洋史学専攻が分離独立し、同時に東洋史学専攻に
博士課程が増設された。国史学専攻は、後に日本史学専攻に名称変更。
【点検・評価
長所と問題点】
修士の学位および博士の学位に関しては、学位授与の方針・基準とも適切で、本研究科
においてはそれぞれ高い学的水準を維持している。また、学位審査の透明性・客観性も維
持できている。大学院事務室に保管されている学位審査報告書も第三者評価に十分堪えう
るものとなっている。ただし、課程博士学位に関しては、これまで暗黙のうちに論文博士
と同じ水準を要求してきたために、課程博士の取得者がきわめて少ないことを、各専攻と
も問題点として指摘している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
課程博士の学位取得促進と同時にその審査の透明性・客観性をも保証することができる
具体的プログラムを早急に作成する必要がある。この点に関してはすべての専攻が一致し
ている。
表2
研
専
文学研究科学位授与状況
究
科
1996 年度
攻
修
士
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
5
9
13
4
7
国文学専攻 博士(課程)
0
0
0
1
1
博士(論文)
0
0
0
1
0
修
3
8
9
5
5
0
0
0
0
0
士
英文学専攻 博士(課程)
632 第3章 大学院
博士(論文)
0
0
0
0
0
修
3
3
4
3
1
独文学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
0
0
1
0
修
2
3
3
3
2
仏文学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
1
0
0
0
0
11
6
7
12
10
日本史学専攻 博士(課程)
0
0
1
0
0
博士(論文)
1
2
0
3
4
修
1
4
2
2
10
東洋史学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
1
0
0
0
0
修
6
3
2
6
2
西洋史学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
0
0
0
0
修
3
4
3
5
7
博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
0
0
0
0
修
3
5
7
3
2
社会学専攻 博士(課程)
1
0
1
0
0
博士(論文)
0
0
0
0
1
修
6
4
6
9
8
社会情報学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
0
0
0
0
修
4
11
8
6
9
教育学専攻 博士(課程)
0
0
0
0
0
博士(論文)
0
1
0
0
0
修
哲学専攻
3−(4)− ②
士
士
士
士
士
士
士
士
士
課程修了の認定
<文学研究科>
【現状の説明】
修士課程または博士前期課程の修業年限を2年以上と定めた中央大学学位規則第3条に、
ただし書きを付して、
「ただし、在学期間に関しては、研究科委員会がすぐれた研究業績を
あげたと認めたものについては、本大学院博士課程の前期課程又は修士課程に1年以上在
学すれば足りるものとする」と定めている。また、本学大学院の入学資格を定めた中央大
学大学院学則第 20 条第2項第4号の適用を受けて博士後期課程に入学した者に関して、修
業年限を3年以上と定めながらも、ただし書きを付して、「ただし、在学期間に関しては、
研究科委員会がすぐれた研究業績をあげたと認めた者については、本大学院博士課程の後
633
期課程に1年以上在学すれば足りるものとする」と定めている。
しかし、文学研究科においてこれら規則のただし書きの部分が実際に適用された例はな
い。
【点検・評価
長所と問題点】
標準修業年限未満で修了することを例外的に認めていること自体は問題なく、このよう
な規則が真に適用されうる事態が生ずることはむしろ歓迎すべきこととさえ考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後社会経験とすでに優れた実績を有する社会人が入学してくる可能性もあり、本制度
はそのまま残しておくべきであろう。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生の募集方法、入学選抜方法
<文学研究科>
【現状の説明】
本学研究科では、毎年度受験生を対象に配布されている『中央大学大学院ガイド』や本
学のホームページで大学院学生の募集と入試の案内を行っている。その他に、多摩キャン
パスで年に2回7月と 12 月に、また後楽園キャンパスで年3回、7月、8月および9月に
大学院入試説明会を開催している。
大学院入試は、大きく一般入試と特別入試に分けることができる。本研究科の一般入試
は博士課程の前期課程のみ年2回、秋と春に実施しているが、秋の一般入試を実施してい
る専攻は英文学専攻(前期課程)と社会情報学専攻(前期課程)のみである。これに対し、
春の一般入試(修士課程、および博士課程の前期・後期課程)は、全専攻が行っている。
入試科目は、外国語、専門科目、および面接からなるが、その他に卒業論文(卒業論文が
ない場合はそれに代わる論文)の提出を求める専攻もある。詳細は専攻によって異なるの
で、入試要項の当該箇所を参照していただきたい。一般入試の募集定員に関しては、
「4−
(6)
定員管理」を見ていただきたい。
本研究科が実施している特別入試には、社会人特別入試(修士課程/博士前期課程のみ)
と外国人留学生入試(修士課程/博士前期課程および後期課程)があり、それぞれ秋に実
施している(『中央大学大学院ガイド 2002』35 頁以下を参照)。社会人特別入試は1次試験
(筆答)と2次試験(口述)からなる。外国人留学生入試も同様に1次試験(筆答)と2
次試験(口述)からなる。詳しくは、入試要項を参照していただきたい。
なお、これら特別入試に関しては、「3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生への
教育上の配慮」を参照。
一般入試および特別入試の合否判定は研究科委員会で行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
学生の募集方法および入学選抜方法に関しては、おおむね満足のいく状況で、客観性・
透明性ともに確保されている。学外からの受験生と学内からの受験生は全く平等に扱われ
ており、門戸が開かれているのが長所といえる。ただ、出題傾向がマンネリ化し、最近の
受験生の状況に対応できていないのではないか(英文学専攻)とか専門知識に対し語学力
偏重のきらいがあるのではないか(社会情報学専攻)とか、文学研究科の社会人入試につ
634 第3章 大学院
いてはもっと周知させるべきではないか(日本史学専攻)などの声も聞かれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
文学研究科としての学生の募集方法および入学選抜方法に関しては、大きな改善を求め
る声はないが、専攻の特性にあった入学選抜方法(英文学専攻)や社会人特別入試のあり
方(日本史学専攻)の検討などを考えている専攻もある。
4−(2)
学内推薦制度
<文学研究科>
【現状の説明】
本学の他研究科では、早期に大学院進学を希望する学部学生に対し、学業成績等を主た
る資料とする書類審査と口述試験による学内推薦入試の制度があるが、本研究科では実施
していない。
本学大学院として、多様な入学選抜方法を実施すること自体は評価できるが、卒業論文
を重視する文学部(因みに 2002 年度から文学部全専攻で卒業論文が必修となる)を基礎学
部とした本研究科にとって、卒業論文の成績を考慮に入れることができない学内推薦制度
は本研究科になじまないというのが、これを実施していない主たる理由である。
【点検・評価
長所と問題点】
実施していないため、点検・評価等はできない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状の説明で述べた理由により、学内推薦制度の実施を含めて改善策は特に考えていな
い。
4−(3)
門戸開放
<文学研究科>
【現状の説明】
あらゆる他大学・大学院の学生に対して門戸を開放しており、制限は設けていない。入
試も入学後も本学学部・大学院出身者といっさい区別していない。さらにまた、本研究科
は聴講生制度および科目等履修生制度によっても学外者に門戸を開放している。
【点検・評価
長所と問題点】
他大学・大学院出身の学生が毎年多数入学してきている。入学者の半数以上が他大学出
身者で占められている専攻もある。入学後も本学学部・大学院出身者とよく交わっており、
彼等を介して他大学・大学院との交流が可能となり、共同で研究会を開催したり、学会に
加入して活動の場を広げるケースも出てきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来も、門戸開放の方針を堅持していく。
4−(4)
飛び入学
<文学研究科>
【現状の説明】
本学では、商学研究科、理工学研究科(数学専攻のみ)および総合政策研究科で飛び入
635
学を実施しているが、本研究科では実施していない。
本研究科で飛び入学を実施しない主たる理由は、学内推薦制を設けない理由と同じであ
る。
【点検・評価
長所と問題点】
実施していないため、点検・評価等はできない。
【将来の改善改革に向けた方策】
現状の説明で述べた理由により、飛び入学の制度の実施を含めて改善策は特に考えてい
ない。
4−(5)
社会人の受け入れ
<文学研究科>
【現状の説明】
社会人の受け入れに関しては、「3−(1)− ③
育上の配慮」および「4−(1)
社会人学生、外国人留学生等への教
学生募集の方法、入学者選抜の方法」ですでに触れた
が、社会人特別入試(博士前期課程のみ)を実施している6専攻の受け入れ状況は、以下
に示す通りである。ただし、社会人特別入試を実施していない専攻においても一般入試を
経て社会人・元社会人が入学している。例えば、教育学専攻においては、在籍学生 14 名の
内4名が社会人学生であることは特記に値する。
表3
2001 年度社会人学生入学状況
専
社会人学生
攻
(前期課程)
専
攻
社会人学生
(前期課程)
国文学専攻
0
東洋史学専攻
1
英文学専攻
1
社会学専攻
0
日本史学専攻
0
社会情報学専攻
2
【点検・評価
長所と問題点】
社会人特別入試によって社会人を受け入れている専攻および社会人特別入試は実施して
いないものの社会人を受け入れている専攻(例えば、教育学専攻)は、社会人学生の研究
意欲およびそれが一般学生に与える好影響を高く評価している。ただし、学業中断によっ
て生じた語学力の低下と論文作成手法の未熟さなどを問題として指摘する専攻もある。
【将来の改善改革に向けた方策】
【点検・評価
長所と問題点】で指摘した通り、TA制度を活用して社会人学生を積極
的に支援していく必要があろう。また、広報活動の不足も否めず、この面での改善も必要
である。なお、社会人学生が増えてきた場合は、時間割その他の面での配慮も検討する必
要があろう。
4−(6)
定員管理
<文学研究科>
【現状の説明】
636 第3章 大学院
各専攻の博士前期課程(修士課程)および後期課程の 2001 年度現在の定員と在籍者数は、
下に掲げる表のとおりである。
表4−①
専
博士前期課程(修士課程)の定員と在籍者数(2001 年度)
攻
入学定員
1年生
2年生
3年生
合計在籍者数
国文学専攻
10
5
8
4
17
英文学専攻
10
8
12
3
23
独文学専攻
5
2
0
0
2
仏文学専攻
5
3
6
3
12
日本史学専攻
7
14
8
0
22
東洋史学専攻
5
10
8
2
20
西洋史学専攻
5
5
5
2
12
哲学専攻
5
7
7
12
26
社会学専攻
5
5
7
0
12
社会情報学専攻
5
5
12
4
21
教育学専攻
5
2
5
5
12
心理学専攻
8
10
5
-
15
75
76
83
35
194
合
表4−②
専
計
博士後期課程の定員と在籍者数(2001 年度)
攻
入学定
1年生
2年生
3年生
4年生
員
合計在籍者数
以上
国文学専攻
5
5
1
6
27
39
英文学専攻
5
2
3
4
3
12
独文学専攻
3
1
0
0
1
2
仏文学専攻
3
0
3
2
1
6
日本史学専攻
5
9
6
2
14
31
東洋史学専攻
3
4
4
1
6
15
西洋史学専攻
3
0
4
0
3
7
哲学専攻
3
3
3
1
4
11
社会学専攻
3
1
4
1
1
7
社会情報学専攻
3
0
2
5
1
8
教育学専攻
5
7
5
6
5
23
心理学専攻*
-
-
-
-
-
-
合
41
32
35
28
66
161
計
*心理学専攻の博士課程は 2002 年度に増設予定
因みに、2001 年度における、入学定員に対する入学志願者数(一般入試・特別入試を含
む)は、研究科全体で見るかぎり、博士前期課程(修士課程)では 2.1 倍、後期課程では
637
1.2 倍となっている。しかし、専攻別に見ていくと、博士前期課程(修士課程)では、入
学定員を上回る入学志願者のあった専攻は英文学、仏文学、日本史学、東洋史学、西洋史
学、哲学、社会学、社会情報学、心理学(修士課程)の9専攻あり、特に哲学専攻では入
学定員の6倍、日本史学専攻では4倍、東洋史学専攻では3倍の入学志願者がいた。
他方、国文学専攻の場合は定員数の1倍、独文学専攻および教育学専攻の入学志願者数
は定員を下回った。
博士課程後期課程における専攻別の入学志願者数は、日本史学(3倍)、東洋史学(2倍)、
西洋史学(1.3 倍)、哲学(2.3 倍)、教育学(1.8 倍)の5専攻で入学定員数を上回ったが、
その他の専攻の入学志願者は定員数と同じか(国文学・英文学)、それらを下回った(独文
学・仏文学・社会学・社会情報学)。
(基礎データは『中央大学大学院ガイド
2002』37 頁
による。
)
なお、この説明は 2001 年度の状況に関するものであって、過去の状況を総括するもので
も将来の状況を見通すものでもないことは言うまでもない。
【点検・評価
長所と問題点】
表4−②に見る通り、博士後期課程の入学者は入学定員を若干下回っているが、研究科
全体としての定員充足率については特に問題ない。標準修業年限を越えて在籍する学生が
博士前期課程(修士課程)および後期課程にいるため、これらの学生数を含めると在籍者
の数は博士前期課程、後期課程とも収容定員の約 1.3 倍となっている。学生が標準修業年
限を越えて在籍する理由としては、各専攻が修士論文に求める基準の高さ、専攻分野によ
っては英・独・仏・中国語以外の諸言語の修得が必要であること等のほかに、現今の厳し
い就職状況や奨学金制度が十分でないためアルバイトにかなり時間を割いていることなど
も考えられる。
哲学専攻が博士前期課程・後期課程ともに大勢の入学志願者を引きつけている事実は特
筆に値する。また、日本史学専攻と東洋史学専攻も、博士前期課程・後期課程ともに多く
の入学志願者を集めている。他方、独文学専攻は定員の充足率がきわめて悪い。同専攻は
この状況を深刻に受け止め、教育目標の大幅修正と教育課程の抜本的改革を行った
(独文学専攻の「1.理念・目的・教育目標」の項を参照)
。
【将来の改善・改革に向けた方策】
より多くのレベルの高い入学志願者を引きつけることができるように、研究科全体とし
て広報活動に一層の力を入れるとともに、教育課程・研究指導の面でも不断の工夫と努力
を行いたい。独文学専攻に関しては、今回の抜本的改革の結果を見守ることになる。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
<文学研究科>
「5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続き」の項目を参照
<国文学専攻>
【現状の説明】
国語学をはじめ、和歌・物語・詩・小説等、主要な分野、上代、中古、中世、近世、近
代、現代のすべての時代をカバーする8名の教員を揃え、積極的に教育研究に取り組んで
638 第3章 大学院
いる。
【点検・評価】
国語学をはじめ、和歌・物語・詩・小説等、主要な分野、上代、中古、中世、近世、近
代、現代のすべての時代をカバーする構成で、バランスはとれているが、分野としては日
本漢文学や国語学等の担当者が不足している。また、学生との関係という観点からは、近
現代にも配慮する必要がある。
【長所と問題点】
教員の分野・時代別の分担状況が、ほぼバランスのとれているのに対し、学生数に対す
る教員数は、同規模の他大学に比べても少ない。さらに、学生、殊に外国人留学生の選択
志望が近代に傾き、これにともなう近代担当の教員の負担は限界に達しつつある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員構成については、教員の専攻分野、学生の志望者数に鑑み、また他専攻とのバラン
スからしても、あと1ないし2名の増員が望まれる。
<英文学専攻>
【現状の説明】
英文学専攻の教員組織は、博士前期課程、後期課程ともに、イギリス人教授1名を含む
11 名の専任教員によって構成されている。11 名の専任教員の専門分野の内訳は英語学3名、
英文学4名、米文学4名となっている。各教員についての詳細は『大学院案内』やホーム
ページなどを参照されたい。
【点検・評価
長所と問題点】
専任教員の員数と専門内訳については、現状では際立った不足はない。ただし、学問の
枠組み自体が見直されようとしている状況を考えれば、根本的な発想の転換が必要とされ
るかもしれない。なお、専任教員が在外研究などで教育研究指導にあたれない場合には、
臨時的に兼任講師を依頼することもある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述したとおり、人員数や専門内訳の点では特に問題はないようだが、本専攻の大学院
専任教員にアメリカ人教員がいないことと、特に女性教員がいないことは種々のバランス
上問題であるので、今後の人事計画で、上述の枠組みの見直しも含めて、積極的に改善し
ていかなくてはならない。
<独文学専攻>
【現状の説明】
本専攻の教員数は現在7名である。その専門領域はドイツ文学、ドイツ文化学、ドイツ
哲学・思想、ドイツ語教授法、ドイツ語翻訳論、異文化交流論、ドイツ芸術論である。将
来はドイツメディア学を専門とする教員が加わる予定である。教員の専門領域が学際化・
広域化していいるのが特徴である。
【点検・評価
長所と問題点】
教員の専門領域が多様なので、ドイツ文化に関する広領域の教育研究が実施できる点は
本専攻の大きな利点である。問題点としては教員定員の削減にともない、各教員の教育負
担が増加している点である。また、将来的にはヨーロッパ全体の文化研究を行う教員の補
充が必要になると考えられるが、世代交代が進まない限りその実現も難しい。
639
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の専門領域の見直しによる社会的需要への対応は現在すでに進行している。将来的
にはヨーロッパ文化研究を専門とする教員の補充も検討している。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
仏文学専攻の博士前期課程はフランス人教授1名を含む 10 名の専任教授とフランス人
兼任講師1名の計 11 名によって構成されている。一方、博士後期課程はフランス人教授1
名を含む8名の専任教授とフランス人兼任講師1名の計9名が担当している。それぞれの
専門分野の内訳は、博士前期課程(括弧内は博士後期課程の担当者数を示す)で 17 世紀仏
文学1名(同)、18 世紀仏文学1名(同)、近代文学2名(1名)、現代文学4名(3名)、
仏演劇1名(同)
、仏詩2名(同)
、仏言語学(休講中)である。
これに対して 2001 年度における在籍学生者数(括弧内は女子で内数)は博士前期課程
12 名(6名)
、博士後期課程6名(3名)で計 19 名(9名)である。
【点検・評価】
教員と学生数の比率は概ね妥当であり、効率の良い教育がなされている。
【長所と問題点】
専攻の性格上、専任教員に少なくとも1名の優秀なフランス人がいることは必須条件で
あり、その貢献度は大きい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記の現状に見られる通り、近・現代文学(思想も含む)については充実しているが、
長期間休講になっている仏言語学、さらには中世・ルネサンス文学に関しては学生の要望に
応じるかたちで、兼任教員を委嘱するなどの対策を講じる必要があろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
本専攻における教育研究分野は、時代によって古代・中世・近世・近代(現代も含む)
に分かれており、また、政治史・法制史・外交史・文化史・ 社会経済史・対外関係史・思
想史・女性史など時代を超えた諸分野に加えて、歴史研究に必要不可欠な古文書学・史料
学などをも網羅している。本専攻では7名の専任教員と3名の兼任教員によって、それぞ
れの専門に応じて、これらの広い分野について教育研究が分担されている。
【点検・評価】
教員の専門分野はおおむね上記分野をカバーしており、教員はバランス良く配置されて
いる。しかし、54 名という学生数からいえば、必ずしも十分とはいい難い。
【長所と問題点】
教員組織は各人の専門分野を良く考慮し、均衡がとれているが、学生の志望や社会的ニ
ーズを考えれば、考古学や文化財学などの分野での科目や専門家の配置が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
考古学や文化財学に関する科目を設け、専門の教員を置くことを考えたい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
専任教員は5名で、中国史4名、北・中央アジア史1名という構成になっている。兼任
640 第3章 大学院
教員は2名で、中国近代史と西アジア史を担当している。空間的には東アジアから西アジ
アを、時間的には古代から近代へと至るほぼすべての時代を含んでいる。
【点検・評価】
本専攻は、地域において、中国、北・中央アジア、西アジアに分かれ、さらに中国史に
おいては古代・中世・近世・近代に分けられる、広範囲の領域にわたる歴史を研究するこ
とを旨としている。基本的にこのような領域をカバーしうる教員の構成をとっている。ま
た、大学院学生 35 名に対し、7名の教員を擁し、学生数との関係においても妥当と言える。
【長所と問題点】
中国史においては古代から近代へと至るすべての時代を専任教員でカバーしており、教
育課程において適切な陣容といえる。また、各教員は、兼任教員も含め、学界の第一線で
高度の実証性と先駆性を兼ね備えた研究業績をあげてきた研究者である。問題点としては、
東洋史学をアジア諸地域の歴史を扱う研究分野と考えるならば、南アジア・東南アジアを
扱う教員の欠如を指摘できる。実際、東洋史学専攻の学部学生で東南アジア史を研究し、
他大学大学院に進学した学生の例も見られる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
アジア諸地域との関係・交流が重要性を増している現代日本の状況を考慮するならば、
中国史を中心としつつ、可能な限りアジア全域をカバーしうる教員組織が望ましいと考え
られるが、実際問題として総花的な展開は難しい。この点に関し、将来的な課題として検
討していく必要はあると考えられる。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
現在5名の専任教員がおり、時代的には古代から現代まで、地域的にはオリエント(西
アジア)
・イギリス・フランス・ドイツ・アメリカをカバーすることができている。
また、専任教員の研究スタイルも、原史料を重視する実証史学から社会史まで多様であ
る。年齢構成は 40 歳代2名、50 歳代2名、60 歳代1名となっており、男女比は4対1と
なっている。ついでに付言すれば、5名の専任教員の最終出身大学はすべて異なっている。
【点検・評価】
西洋史学専攻の博士課程の理念・目的およびその教育課程と学生定員に照らしてみれば、
また同じ教員組織が学部教育をも担っていることを考えれば、現在の西洋史学専攻の教員
組織は相当高く評価すべきものと考える。
【長所と問題点】
大学院を担当する専任教員が、時代・地域・方法論・研究テーマ・年齢・性別・最終出
身大学その他の面でバランスが比較的良くとれているところが本専攻の長所。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も現在のようなバランスのとれた教員組織を堅持していく方針。
<哲学専攻>
【現状の説明】
日本思想に1名、中国哲学に1名、西洋哲学に4名、科学哲学に1名の専任教員を配し、
さらに西洋近代および現代哲学に各1名ずつ兼任教員を配している。2001 年度は休講扱い
であるが、本来、日本思想にも兼任教員を1名充てることになっている。西洋哲学系では、
641
以上のスタッフがさらに、講読する原典の言語により、古代ギリシア語、ラテン語、英語、
ドイツ語、フランス語それぞれの文献講読の担当として割り振られる。
【点検・評価】
本専攻の理念・目的、当該学問の専門性、学生数との関係において適切かつ妥当であ
ると思われる。ただし、それはあくまで個々の教員が自主的に開く読書会、研究会など
によってようやく水準に達する現状を維持しているのであって、予算が許すのであれば、
専任スタッフ、とりわけ西洋現代哲学の専任スタッフを拡充することが望ましい。
【長所と問題点】
本学科は1学科でありながら実質的には日本思想・中国哲学・西洋哲学という3専攻の
複合であり、その点で慢性的な専任スタッフ不足を抱えているが、同時に今後ますます教
員組織のより有機的な連関が課題となるであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員組織の一つ、「研究室会議」の定例化、さらに多方面に専任スタッフが求められる。
<社会学専攻>
【現状の説明】
冒頭でも述べたように、本専攻の最大の特徴は実証的な学風を共有している点であり、
教員組織もこの理念をもとに作られている。社会学で従来から重要とされてきた都市、産
業・労働、政治、病理、文化、比較についての専門的な研究者を配置し、学部カリキュラ
ムとも連動させながら機動力のある人事を行っている。専任教員6名は、博士前期課程・
博士後期課程での研究指導とカリキュラム作成の任にあたるとともに、学生の研究に必要
と思われる科目や問題について、適宜外部講師を招聘している。
【点検・評価】
平均4ないし5名の指導学生を抱える現在の体制は、少人数教育の徹底と実証的研究の
奨励を考えると適切なものと判断できる。しかし、今後外国人留学生の比率が増えた場合、
その研究指導の徹底やチューターの確保など、いくつかの点で対策が必要となるかもしれ
ない。
【長所と問題点】
上述のとおり。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上述のとおり、今後外国人留学生の比率が増えた場合、その研究指導の面で対策が必要
となるかもしれない。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
社会情報学の領域は、社会学、社会心理学、コミュニケーション学、図書館情報学、マ
ルチメディア、数理社会学、情報処理まできわめて幅広いものであり、それに対応できる
教員の専門は、人文科学、社会科学、情報科学、そして学際領域にまたがるものとなる。
現状は、6名の専任教員と4名の兼任教員を中心にして前記の4つの部門に分けて理論的
かつ実務的な大学院教育を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
社会情報学大学院研究科の理念・目的ならびに教育課程の種類、性格、学生数との関係
642 第3章 大学院
から現在の教員組織は概して適切であると評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の教育構成で成果をあげることができるよう精一杯努力したい。
<教育学専攻>
【現状の説明】
博士前期課程における教育学専攻は、2000 年度の心理学専攻(修士課程)独立後も、教
育学の主要領域を担当する専任6名と教育心理学系科目を担当する心理学専攻の専任5名
による指導体制をとっており、人間形成機能全般を考察する広い視野をもった教育学の学
習・研究を進めてきた。さらに関連分野の専門家を兼任講師として招いて教育学研究指導
を充実させている。
博士後期課程は、設置当初掲げた総合的な教育学創造のねらいに即して教育学系・心理
学系が統合されているが、2002 年度からの心理学博士後期課程の設置にともない専門分化
が進んだ状況での指導体制となる。博士前期課程在学生 11 名、博士後期課程在学生 14 名
に対する指導体制としては手一杯の状態である。
【点検・評価
長所と問題点】
日常的には指導担当教員の指導を軸にしながらも、個々の学生の研究指導を一層豊かに
するため全教員が情報を共有して指導内容についても相互に協力援助できる体制をとって、
教育学専攻全体としての指導力量を高める努力をしている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
関連分野との緊密な連携や国際的研究交流の必要性の高まりと学生の研究関心の多様化
に応じて、教育学の研究指導にあたる教員スタッフの増員が強く求められるところである。
と同時に、心理学専攻の博士後期課程設置、独立後も引き続き協力的な関係を保ちつつ研
究指導を進めていく課題もある。
<心理学専攻>
【現状の説明】
「教育・学校心理学」
「文化・認知心理学」および「生涯発達心理学」の3つの部門にお
いて専任教員6名で指導を行い、あわせて障害児教育、臨床心理、神経心理、情報処理、
海外での発表に向けた英語での心理学の授業、の科目を兼任教員で行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
心理学専攻は修士課程が 2000 年度より新設されたため、専攻が完成年度を迎えるまで、
具体的な評価による教員組織の変更は行えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
まだ新しいため、特になし。
<共通科目>
【現状の説明】
2001 年度は共通科目から社会思想、地理学ならびに国際法をそれぞれ主たる専門分野と
する3名と仏文専攻および日本史学専攻から各1名の合計5名が共通科目の担当者となっ
た。
(
「大学院履修要綱」(中央大学)267∼268 頁参照)
【点検・評価】
文学研究科における共通科目の理念および目的の実現、ならびに教育研究指導の点から
643
みて現在のスタッフは、適切かつ妥当であると思われる。
【長所と問題点】
ただし、前述のごとく共通科目の科目数の拡充を図る場合、各専攻の人的支援が必要で
ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
総合講座の拡充を検討している。
5−(2)
研究支援職員
<文学研究科>
【現状の説明】
ここでは、研究支援職員を広い意味での教育研究を支援する職員の意味に解して説明す
る。大学院独自の研究支援職員制度としては、TAとRAおよび外国人留学生のためのチ
ューターの制度がある。いずれも研究科委員会の承認を得て博士後期課程の学生をその任
にあてることができる。本学研究科においては、ギリシャ語、ラテン語、アラビア語、そ
の他の言語で書かれた文献を扱う特別演習の授業などでTAを初心者の教育支援要員とし
て利用することが許されている。チューターは外国人留学生の教育支援に当たる。しかし、
人文科学研究所や保健体育研究所における共同研究に、本研究科の学生がRAとして参加
しているケースはあるが、現在のところ本研究科ではRA制度はまだ活用されていない。
また、文学部で採用されている研究室員(臨時職員)が各専攻の共同研究室に2名ずつ
配置されていて、専任教員および非常勤講師の授業用の配付資料の作成、その他の支援を
行っている。これらの室員の本来の業務は各研究室に設置されている書庫の図書(主に大
学院図書)の貸出・返却などの管理が中心であるが、ほとんどの研究室員が当該専攻の卒
業生であるため、部外者からの図書についての問い合わせにも対応できている。
他大学から来た大学院学生は、これらの研究室員の世話になることが多い。
さらに、学事課に研究助成担当者が置かれていて、専任教員の科学研究費補助金の申
請とその他の支援を行っているほか、中央図書館のレファレンス・ルーム、法学部設置
の文献情報センター、および情報研究センター等が教員のために行う研究支援サービスに
も言及しておく必要がある。
【点検・評価
長所と問題点】
TAとRAおよびチューターに対する報酬が僅少のため、これら研究支援職員の利用に
は限界がある。また、これらの支援職員はアルバイト学生であって、本来の研究支援職員
とは言い難いが、このような制度の存在自体は評価できる。ただし、マルチメディア等を
扱う専攻や社会情報学実習室などには高度な情報通信技術に通じた支援職員が必要であろ
う。研究室員の制度は、文学部(と文学研究科)独自の制度で、本学文学部(と文学研究
科)の長所の1つである。また、中央図書館のレファレンス・ルーム、法学部設置の文献
情報センター、および情報研究教育センターの研究支援業務も評価される。
【将来の改善改革に向けた方策】
TAとRAおよびチューターに対する報酬を改善するとともに、彼等を本学大学院の奨
学制度の中にも位置づける必要がある。また、上に記した以外の研究支援体制の一層の強
化・拡充が望まれるほか、特に情報通信技術についての専門的な知識を持った大学院独自
644 第3章 大学院
の教育研究支援職員を望む声も多い(国文学専攻、独文学専攻、社会情報学専攻など)
。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
<文学研究科>
【現状の説明】
本研究科専任教員は、すべて研究科委員会の議を経て学部の専任教員から任用される。
学部専任教員から大学院担当教員への任用・昇格は、
「中央大学大学院教員任用基準」
(1976
年 11 月 19 日、研究科委員長会議決定)と「『中央大学大学院教員任用基準』の文学研究科
における運用に関する了解」(2000 年 10 月 19 日、文学研究科委員会決定)に従って行わ
れる。各専攻・共通科目の大学院担当教員は、基本的には当該専攻・共通科目の学部の専
任教員から任用されるが、同一専攻・共通科目の枠を越えた任用も行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科の専任教員の任免・昇格に関する基準・手続は適切で、その運用も適正に行わ
れている。本研究科においては、基礎学部の助教授も研究科委員会で審査の結果教授同等
と認められた場合は研究科の専任教員に任用される道が開かれている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、特任教員など一定の枠内で研究科独自の教員枠の必要性が指摘される。
5−(4)
教育研究活動の評価
<文学研究科>
【現状の説明】
本学研究科教員の教育活動の評価システムは存在しない。研究活動については、毎年自
己申告に基づき編纂される本学の『学事記録』など に、著書・論文・学会報告・講演会な
どの業績一覧表が各人別に公表されているほか、外部配布用の「文学研究科教員紹介」に
も、自己申告によって各人5点ほどの業績が紹介されているが、研究科として恒常的にこ
れらを評価するためのシステムは存在していない。
学部における昇格人事の際に、また研究科における任用人事の際には研究業績等が厳正
に評価されるが、教授昇格後は改めて教育研究活動の評価が行われる機会はほとんどない。
【点検・評価
長所と問題点】
教育研究活動の評価システムが本研究科に存在しないことは事実であるが、そのような
システムのあり方についてはいろいろな議論がありうる。特に教育活動の評価システムに
ついてはそうであろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
次善策として、教員の教育研究活動およびその成果を出版物やホームページ上でできる
だけ公開し、広く第三者の評価に供すべきであろう。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
<国文学専攻>
【現状の説明】
学内では人文科学研究所の共同研究を主催、またはこれに参加しているほか、学外で機
645
関の運営、共同研究等に参加しているスタッフもおり、学会でもリーダーシップをとるな
ど、本専攻所属の教員の活動は活発である。
【点検・評価】
個々の教員の教育研究活動は、他機関との交流を含め活発であるが、専攻自体で組織的
に行っているものはない。
【長所と問題点】
学外の組織、機関との交流と、学内の専攻間の交流をより活性化する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学外の組織、機関との交流と、学内の専攻間の交流をより活性化し有機的に結びつけて、
専攻分野の別を越えて新しい領域、方法を開拓するような研究と、それに基づく大学院教
育のあり方を探る必要がある。
<英文学専攻>
【現状の説明】
「3−(3)
国内外における教育研究交流」の項目で詳述したように、本専攻の学問
分野の性質上、国際的な教育研究交流を推進していくことが重要であるので、英文学専攻
では長年にわたって英語圏からの研究者を招聘して、講演会・研究会・講義などを開催し
ている。また教員は大学の在外研究制度などを利用して英語圏の大学・大学院で研究生活
を送っている。
【点検・評価
長所と問題点】
英語圏からの研究者を招聘しての講演会・研究会・講義の開催は長年にわたるもので、
毎回の成果は英文学専攻の財産になっている。本学の在外研究制度による教員の交流は、
その後のアカデミック・ネットワークの構築にも貢献している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に、国内の教育研究交流に関しては、集中講義の積極的活用、海外との教育研究交流
に関しては、外国人客員招聘を充実させるなど、今後さらなる改善・改革を図っていく必
要があるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
本専攻の大学院は学部教育と密接な関係を持ち、教育研究面で共通の目標を設定してい
る。また本学の人文科学研究所とも研究面の密接な関係にある。本専攻の教員が主体とな
っている人文科学研究所の研究チームとしては「日欧文化交流史研究」、
「食の文化史」、
「近
代演劇研究」などがある。他大学の大学院の教員とは共同研究による交流を行っている。
また本専攻の教員は日本独文学会においても他大学の教員と共同シンポジウムを実施して
いる。さらにドイツのボン大学の教員とは日独文化交流史に関する共同研究を行い、フン
ボルト大学の教員とは文学とメディアに関する共同研究を実施している。さらにテュービ
ンゲン大学の語学コース担当教員とは、ドイツ語教授法の分野で協力している。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻とドイツの大学との協力関係は密接で、相互訪問も盛んに行っている。またその
結果としての研究成果も少なくない。また、本学の人文科学研究所を基盤とする国内の研
究者との研究交流も盛んである。今後は民間の文化機関に勤める専門家との交流を進める
646 第3章 大学院
必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、ドイツの企業研修を通してドイツの美術館や博物館といった文化機関との交流を
緊密化する方向で努力している。また、国内のドイツ関連の文化機関との交流をさらに密
にする必要がある。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
個人レベルでの人的交流は活発であるが、組織単位では行われていない。
【点検・評価
長所と問題点】
【現状の説明】で述べた理由で、【点検・評価
長所と問題点】を指摘する状況にない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
組織単位での交流に関しては、特記すべき改善・改革計画は考えていない。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員は、いずれも文学部の専任教員として授業を担当している。また、そ
の多くが人文科学研究所の研究員として、一部は政策文化総合研究所の研究員として、そ
れぞれ教育研究活動に当たっている。
【点検・評価】
教育研究機関相互間の協力・交流は適切に行われている。
【長所と問題点】
上記のように協力・交流が行われているが、研究科間の教育研究の交流はなお活発でな
い点も認められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究科内だけではなく、研究科間の共通科目の設置や人事交流の積極的活用も考慮する
必要があろう。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
教員の個人レベルとしては、総合政策研究科など本学他研究科の教員との間で、教育研
究上の協力・連絡関係のもとに、教育研究活動を行っている。また、文部科学省科学研究
費のプロジェクトを通して、海外の教育研究組織、特に中国、ウズベキスタン、カザフス
タン等の研究機関の研究者と共同研究など、学術交流を推進してきた。
【点検・評価】
おおむね活発な人的交流が行われていると評価できる。
【長所と問題点】
特に問題はないと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学際的な教育研究の手法が模索されつつある状況を勘案すれば、他の教育研究組織・機
関等との連携・協力態勢のもとでの教育研究活動を、一層促進する措置を講じていくこと
を視野に入れたい。また、海外の教育研究組織との間の関係についても、さらに活性化へ
と努力を続ける必要がある。
647
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
現在のところ学外の教育研究組織・機関との人的交流は、兼任講師の相互依頼、研究者
および大学院学生を含めた首都圏在住者による活発な月例研究会などあり、国内では全教
員が附置研究所の1つである人文科学研究所のいくつかの共同研究に参加している。
【点検・評価
長所と問題点】
人的交流はかなり活発であるが、組織単位とは言えない点が問題点とは言える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には、現在のインフォーマルな人的交流をさらに活発なものとしていく一方、場
合によっては、組織的な交流も考えたい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
原則的に各教員個人に委ねられている。具体的には、たとえば、2000 年度から3年間に
わたって、科学研究費補助による他大学教員との共同研究に本専攻から3名の専任教員が
参加している(内1名はその共同研究の研究代表者である)
。
【点検・評価
長所と問題点】
現時点で可能な限りでの活動が良好に行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専攻全体の取り組みに向け、拡充していきたい。
<社会学専攻>
【現状の説明】
既述のように、単位互換制度を通じて学外の大学院と連携している。博士後期課程の学
生の一部は、文学部社会学科社会学コースの「社会調査実習」のTAをするなどして実地
訓練を受けており、他方で、専任教員が主査を行っている社会科学研究所のプロジェクト
で準研究員として活動するなど、他の教育研究組織との結びつきは密接である。
【点検・評価】
研究者を志向する博士後期課程の学生にとって、TAや準研究員として活動する機会が
多く与えられることは、みずからの教育者・研究者としての資質を確かめ、広く自らの能
力を高める機会として有効に機能している。他方、博士前期課程は修士論文執筆までの時
間が短く、時間的・精神的余裕がないことから、こうした交流に「巻き込まれず」、論文執
筆に専念できる現行制度も、これでよいと思われる。
【長所と問題点】
上述のとおり。
【将来の改善・改革に向けた方策】
当面は、現状維持の予定。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
社会情報学は、多数の学問領域と関連しているため、学内外の大学院との交流は不可欠
である。例えばインターネット著作権の研究では、大学院法学研究科と、またデジタルラ
イブラリーやマルチメディアでは大学院理工学研究科との交流である。また、学内の人文
648 第3章 大学院
科学研究所、社会科学研究所、図書館などとは、学生がRAや図書館インターンとして参
加して、研究活動ができる体制をもっている。
【点検・評価】
学外の教育研究組織・機関との連携はこれからの課題である。
【長所と問題点】
外部、特に国際的に幅広い関係を築く必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、国際的な連携を強化していく必要がある。
<教育学専攻>
【現状の説明】
各教員は学内の人文科学研究所(全員)、社会科学研究所(一部)に所属して研究活動を
深める機会をもつほか、専攻としては他大学との紀要等の交換を通した研究交流を図って
いる。
【点検・評価
長所・問題点】
各教員は、それぞれの所属する専門学会の会長、理事など重要な役割を果たしており、
関連学会の研究大会等の開催に際しては専門領域を越えて専攻全体があたるなど研究交流
を深める機会として生かしている。このことは、専門領域を越えた研究情報の取得をはじ
め自己の研究の前進に役立つ機会が増えるほか、研究交流を通した学生指導に関わる教育
指導力量の向上にも役立っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これまでの成果をさらに豊かにするために、今後とも他の教育研究組織・機関との研究
交流の機会を増やしていきたい。
<心理学専攻>
【現状の説明】
文化・認知心理学においては京都大学大学院理学研究科、通信放送機構、明星大学、東
京都立大学、北海道大学などとの交流を行い、教育・学校心理学においては京都大学、東
京学芸大学、広島女子大学、北海道大学、一橋大学その他の大学と交流研究活動を行って
いる。その他個人レベルではあるが、人文科学研究所の研究チームに加わり研究交流活動
も行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
今のところ研究交流は個人レベルに留まってバラバラに行われているという面は指摘で
きる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
総合的な交流活動が望まれる。
<共通科目>
【現状の説明】
専任教員は、本務のほかに学内の各研究所の研究員を兼務している場合、他学部・他研
究科の授業を担当している教員も存在する。
【点検・評価】
学内における研究所の研究員の兼務は、自己の研究活動の拡張にもなるから良い。
649
【長所と問題点】
学内の他学部・他研究科にも本研究科の教育研究に役立ち得るスタッフがいるので
あるから、もっとこの人的資源の活用を人事面で考える必要があると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も他学部・他研究科から兼担その他の依頼があれば、積極的に対応していきたい。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)− ①
研究活動
<国文学専攻>
【現状の説明】
学内の論文発表機関としては、
『文学部紀要』、
『大学院研究年報』、
『論究』、
『中央大学国
文』などがある。
『文学部紀要』には国文学専攻の教員が毎年必ず投稿しており、また、分
野毎に多数ある国文学関係の学会誌にも、活発に発表している。平均して教員一人あたり、
年間3、4点の論文もしくは報告を発表しており、また、学会役員としての活動等を含め
て研究活動は盛んである。なお、詳細は「基礎データ調書表 15
専任教員研究業績一覧表」
を参照していただきたい。
【点検・評価】
文学部紀要等への執筆状況では、国文学専攻の教員の掲載率はきわめて高い。
【長所と問題点】
教員個々の研究活動は活発であるが、分野の性格上組織化されていない憾みがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
個々には活発に行われている研究を、より活性化する方途を探る必要があり、他専攻、
他大学、他分野等組織の枠を超えた交流を図る必要がある。
<英文学専攻>
【現状の説明】
文学研究科独自の研究機関誌はないが、学内の研究機関誌として、文学部『紀要(文学
科)』、本学全学部の英文学関係の専任教員からなる研究組織の『英語英文学研究』、そして
人文科学研究所の『人文研紀要』が毎年発刊されており、日頃の研究成果が着実に論文と
して発表されている。また、国内外の学会における研究発表や研究誌への論文執筆も精力
的に行われている。さらに著書・翻訳書の刊行も盛んである。なお、詳細については、
「基
礎データ調書表 15
【点検・評価
専任教員研究業績一覧表」を参照していただきたい。
長所と問題点】
上述したように、さまざまな形で積極的な研究活動が展開されているが、文学研究科独
自の研究機関誌はないし、大学院担当教員としての付加的な研究活動が行われているかど
うかは明らかではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
アカデミック・ネットワークの充実を図り、国内外の学術交流をさらに活性化させてい
くために、個人・組織それぞれの創意工夫・努力が一層必要とされるだろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
650 第3章 大学院
本専攻の教員は学内・学外で活発な研究活動を行っている。学内では他学部の教員と人
文科学研究所で研究チームを組んで研究活動を実施しているケースが多い。学外では科学
研究費による研究チームのメンバーとして、また個別の研究チームのメンバーとして研究
活動を行っている。本専攻の組織全体としてはボン大学の日本学研究所、フンボルト大学
のドイツ文学専攻、韓国の梨花女子大学のドイツ文学専攻と共同研究を行っている。日本
独文学会で研究発表する本専攻の教員も多く、学内外に論文を発表している。
【点検・評価
長所と問題点】
本専攻では現在科学研究費のプロジェクトして「日独文化交流に関する総合的研究」を
実施しており、その成果は 2003 年春に発表される予定である。また韓国の梨花女子大学と
は共同シンポジウムとして「ドイツ文化研究の新たな可能性」を 2001 年 3 月に実施した。
また近年の日本独文学会では本専攻の教員がドイツのポップカルチャーとドイツのメディ
ア論に関するシンポジウムに参加した。さらに本学の紀要や学会誌にも本専攻の教員が盛
んに業績を発表している。例えば本年の日本独文学会誌の特集「ドイツ文学とイタリア」
にも本専攻教員が寄稿している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
近年、人文科学書の出版が困難になり本専攻の教員も単行本として研究成果を出版する
ことが少なくなっている。今後は大学出版会を活性化して研究成果の公刊を進める必要が
ある。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
学内の研究機関誌としては、それぞれ年1回発行される文学部『紀要(文学科)』、本学
全学部の仏語仏文学関係の専任教員からなる研究組織の『仏語仏文学研究』、さらには人文
科学研究所の『人文研紀要』があり、活発な論文発表が行われている。また海外の大学へ
客員教授として招聘されたり、国内外の諸学会における研究発表、日仏語による論文の掲
載、著書の刊行も盛んである。詳細は、
「基礎データ調書表 15
専任教員研究業績一覧表」
を参照していただきたい。
【点検・評価
長所と問題点】
研究活動は意欲的になされているといえる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国内外の学術的交流を今後さらに充実させてゆく方針である。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
本専攻の専任教員・大学院学生・本学文学部日本史学専攻卒業生を中心とする中央史学
会が毎年1回、大会を開いて研究成果を発表している。また、同会により学会誌『中央史
学』が公刊されている。
『中央史学』には、教員や大学院学生などによる多くの研究論文が
掲載される。そのほか、各自、専門に応じて学外でさまざまな研究活動を行っているが、
専任教員については『学事報告』に毎年の研究業績一覧表が掲載されているが、平均して
年に7∼8点の業績がある。大学院博士後期課程3年次以上の学生についても、研究業績
一覧が刊行され、全国の大学に配布されている。
【点検・評価】
651
教員や大学院学生の研究成果の発表状況は、きわめて活発で、高く評価できる。
【長所と問題点】
研究成果の発表は活発に行われているが、大学院学生については、学内に一層多くの発
表機関が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院として、より多くの発表の場を学生に与えることが望ましい。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
専任教員全員がそれぞれの分野において継続的に研究成果を発表してきた。各教員はそ
れぞれ、毎年1本以上の論文を発表している。また、単行本の研究書や一般向きの研究成
果還元としての著書の出版も行ってきている。具体的な論文・著書に関するデータは、
「基
礎データ調書表 15
専任教員研究業績一覧表」を参照。また、本専攻の専任教員・大学院
学生・本学文学部東洋史学専攻卒業生を主体とする白東史学会が、毎年1回大会を開催し、
専任教員を中心に研究成果を発表している。また、当学会の学会誌『アジア史研究』が毎
年1回刊行され、本専攻の研究成果公開の重要なメディアとなっており、専任教員は毎号
必ず論文を掲載している。
【点検・評価】
これらの研究成果は、実証的な方法に基づく堅実な業績であるとともに、東洋史学のそ
れぞれの地域・時代の研究において新生面を開拓する最先端のものと評価される。
【長所と問題点】
中国史研究の業績には、顕著なものがある。明代に関する精力的な成果の産出、文部科
学省科学研究費による中国の研究者との共同研究の成果出版、などが特筆される。問題点
としては、英語における著作・論文等が寡少で、国際的な流通性・発信性という観点から
見ると、いささか貧弱という印象を受ける点が挙げられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際的な発信性の改善という観点から成果発表の推進を行っていく姿勢がより要請され
る。また、掲載の形式については検討を必要とするが、日本語の研究成果のWeb上にお
ける公開も望まれる。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
過去5年間の専任教員(5名)の研究実績は、単著3、論文 21、共著4、単訳書4他で、
各専任教員が過去5年間で、翻訳を別にして、4点から8点の、単著、共著あるいは論文
を出版したことになる。(詳しくは「基礎データ調書表 15
専任教員研究業績一覧表」を
参照)
【点検・評価】
西洋史学における研究活動としては、本専攻の専任教員のそれは質・量の両面で、決し
て劣っていないと考える。
【長所と問題点】
現在のところ、各教員がそれぞれ独自に研究を進めているのが本専攻の長所と言えるが、
人文科学研究所での共同研究を除いて、西洋史学専攻として共同研究を行ったことはない。
652 第3章 大学院
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には西洋史学専攻のみでなく、他専攻も誘って共同研究を試みることも考えたい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
本専攻は、中国・日本・西洋の3分野にまたがっているため、研究成果を発表する学会
も発表媒体も異なっており、一律に述べることはできないが、総じて活発な研究活動を行
っている。具体的には、それぞれの所属学会への論文寄稿、本学『紀要』への論文寄稿、
欧文専門書の翻訳等が頻繁になされ、さらには学術書を中心とした著書刊行もなされてい
る。
(詳細は「基礎データ調書表 15
専任教員研究業績一覧表」を参照)
【点検・評価】
おおむね良好。
【長所と問題点】
本専攻『紀要』の刊行が今まで隔年であったため、若手・中堅の研究者の発表の機会が
必ずしも十分ではなかった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2002 年度より本専攻『紀要』の毎年刊行が認められた。
<社会学専攻>
【現状の説明】
専任教員は、平均すると年間3、4本の論文を執筆し、2∼3年に1冊のペースで本を
刊行するなど、積極的な研究活動を展開している。また、海外でのフィールドワークに強
い研究者が多いため、文部省の科学研究費の採択率もきわめて高く、専任教員は年平均2、
3回の海外出張を行っている。海外での調査報告や学会発表も盛んに行われており、この
点は、他大学とは一線を画していると自負している。個々の研究者によって研究の幅はま
ちまちではあるが、総じて守備範囲が広く、多くのプロジェクトを抱えているのが現状で
ある。
【点検・評価】
各専任教員は、学内での役職や外部資金の調達状況によって、成果発表が多かったり少
なかったりするが、総じて各専門における一線級の成果をあげている。
【長所と問題点】
以上のとおり。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の研究活動のレベルを維持していきたい。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
研究活動は、前記の4つの部門において行われている。研究成果は、各学会誌、専攻の
機関論文誌に論文として発表されている。また最近では一部の研究成果の概要をインター
ネット上に電子文書としても公表している。なお、詳細は「基礎データ調書 15
教員研究
業績一覧」を参照。
【点検・評価
長所と問題点】
4つの部門別の研究活動は、それぞれの特色が十分に生かされた形で活発に行われてい
653
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的にも現在の研究レベルを維持していきたい。
<教育学専攻>
【現状の説明】
教員個々の研究活動は、個別的に取り組まれているほか専攻主催の「教育学研究会」お
よび所属学会等のプロジェクト研究への参加、国際的な学会や研究交流機会への参加、協
定校との相互招聘や訪問の受け入れ、海外研究者の招聘など、この間意欲的積極的に取り
組みその成果の発表も機会を見て試みている。その状況は毎年刊行される中央大学の『学
事記録』などに発表されている。
【点検・評価
長所と問題点】
上記のような研究活動の情報と内容の交換は、異なる専門分野間での問題意識の共有化
による研究の前進を促し、専攻全体の研究指導力量を高めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、さらに独自な研究方法の展開と展開を目指しつつ、率直な研究交流を専攻内で
も深めていく努力が期待される。
<心理学専攻>
【現状の説明】
教員による論文等研究成果の発表数は、2000 年度は8件であった。2001 年度の科研費
(JSSP)の採択件数は3件であった。
【点検・評価
長所と問題点】
教員個別としては、研究業績はあがっていると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、研究室全体としての研究成果をあげることを目標とする。
<共通科目>
【現状の説明】
基本的には、各教員の判断と活動に委ねられている。ほかに、学内では各研究所の研究
活動が行われている。共通科目担当教員の研究成果の発表雑誌として「中央大学論集」が
あり、他にそれぞれの専門分野の関連学科や学部の研究誌に発表の機会もあり、適宜、研
究成果の公表が行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
おおむね良好。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の研究活動レベルを維持していきたい。
6−(1)− ②
教育研究組織単位間の研究の連携
<国文学専攻>
【現状の説明】
人文科学研究所を中心として、研究科内の連携・交流が行われている。
【点検・評価】
654 第3章 大学院
人文科学研究所の共同研究に参加している。中心は個人の活動である。
【長所と問題点】
人文科学研究所の共同研究への参加も、個々の活動としてであり、自由で闊達な反面、
組織的に動きにくい面もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
人文科学研究所の活動を、個人の研究活動と、より有機的に結びつける必要がある。
<英文学専攻>
【現状の説明】
研究組織として本学には8つの研究所があるが、英文学専攻の専任教員は全員が研究員
としてその中の人文科学研究所に所属していて、いろいろな共同研究に関わっている。
【点検・評価
長所と問題点】
上述の人文科学研究所では、所属する学部・大学・研究科などの枠にとらわれることな
く、それぞれの関心に応じて共同研究チームを構成することが許されている。その研究成
果は叢書として出版され、社会的・学術的に寄与するところが大きい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究組織としては文学研究科独自のものはないので、特に教育面でのなんらかの組
織構築が必要であろう。
<独文学専攻>
【現状の説明】
本専攻の教員は全員、本学の人文科学研究所のメンバーとして共同研究に従事している。
本専攻の教員で構成される研究チームとしては「日欧文化交流史研究」チームがある。ま
た、人文科学研究所の「食の文化史」、「近代演劇研究」、「外国語教育法」などの研究チー
ムでの本専攻の教員は活発に活動している。
【点検・評価
長所と問題点】
人文科学研究所での研究成果はすでに単行本となって公刊され、学外の研究者からも高
い評価を受けているものもある。現在の共同研究活動も活発である。問題点として指摘で
きるのは、研究チームの予算が乏しい点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内における研究組織単位間の研究所の連携が盛んである一方で、学内の研究予算が増
える見込みはないので、学外から研究予算を確保する必要がある。
<仏文学専攻>
【現状の説明】
本学には9つの研究所があり、なかでも人文科学研究所はその性格上本専攻の専任教員
のほぼ全員がその研究員として参加し、他学部専任教員はもとより、他大学所属の専任教
員・本学名誉教授・同兼任講師からなる客員研究員、および大学院博士後期課程の学生も準
研究員として加わって、定期的に活発な共同研究(現在 28 チーム)を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
当該研究所は、なによりもその所属する学部・大学・研究科等の枠を取り払い、各々が
関心のあるテーマのもとに研究チームを構成して、多角的な視点から共同研究の成果を挙
げており、その学術的貢献度は大きい。
655
【将来の改善・改革に向けた方策】
本学のみならず他の教育研究組織との研究上の連携も検討すべきであろう。
<日本史学専攻>
【現状の説明】
附置研究所のうち、人文科学研究所とは密接な連携を保ち、その研究プロジェクトに協
力している。また、一部の教員は政策文化総合研究所のプロジェクトと連携して研究を進
めている。
【点検・評価】
研究活動の上での連携は適切に行われている。
【長所と問題点】
附置研究所の研究プロジェクトが研究活動の上で生かされる点はメリットであるが、な
お、教育活動の面にもっと活用される必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院での教育活動と附置研究所などとの有機的連携を一層有効にする必要があろう。
<東洋史学専攻>
【現状の説明】
東洋史学専攻の専任教員は、本学の人文科学研究所の研究員として、共同研究活動に従
事している。他方、他大学の大学院、本学の他の大学院研究科、外国の研究機関などと、
組織としてのフォーマルな連携関係は存在しないと言える。
【点検・評価】
専攻の組織として他教育研究組織・機関等との正式な関係は見られないが、このような
状況に対して専攻としての一定の認識・方針があるわけではない。他方、
「5−(5) 大
学院と他の教育研究組織・機関等との関係」で前述したように、個々の教員による交流は
ある程度活発に行われている。
【長所と問題点】
現行のあり方において、教育研究活動を進める上で特に支障があるわけではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
東洋史学が扱うアジア地域の研究においては、本学大学院の他研究科、例えば総合政策
研究科などに所属する専任教員の中にも、優れた専門研究者が存在する。学部においては、
東洋史学専攻の専任教員が総合政策学部の授業を一部担当している。大学院において他研
究科との組織的な連携をとりながら教育研究活動を進めていくことを検討課題としたい。
また、国際化の飛躍的な進展という趨勢やアジア諸国との関係の緊密化という近年の社会
情勢を考慮するならば、将来的に、個人レベルのみならず、専攻として外国の研究機関と
の共同研究なども視野に入れる必要性が生じる可能性も考えられる。
<西洋史学専攻>
【現状の説明】
すでに触れたように、西洋史学専攻の全教員が附置研究所の一つである人文科学研究所
の「歴史意識の比較文化史的研究」をテーマとした共同研究と「ユダヤ文化と歴史」をテ
ーマとする共同研究のいずれかまたは両方に参加している。
【点検・評価
長所と問題点】
656 第3章 大学院
本専攻のメンバー全員が人文科学研究所の共同研究に参加していおり、同研究所が設立
されて以来その運営に積極的に関わってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
人文科学研究所を含め附置研究所は、異なる学部・研究科に所属する専任教員および兼
任講師に貴重な共同研究の場を提供している。将来的には、これら附置研究所を中心とし
た共同研究が一層活発化することが望ましい。
<哲学専攻>
【現状の説明】
人文科学研究所と研究上の連携がなされている。具体的には、同研究所において、西洋
史学専攻や独文学専攻、仏文学専攻の専任教員と連携して、
「歴史意識の比較文化史的研究」
というテーマのもと、共同研究チームを組織している。本専攻の専任教員のほぼ全員がそ
の共同研究に加わっている。
【点検・評価
長所と問題点】
上記研究所との連携は、上記研究チームにおける研究発表会や紀要執筆、図書貸し出し
などの面できわめて適切になされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
人文科学研究所との研究上の連携をより生産的な(著書に関して)ものとしていきたい。
<社会学専攻>
【現状の説明】
専任教員のすべてが、学内に附置された社会科学研究所の所員として活躍し、それぞれ
独自のプロジェクトを運営している。特に博士後期課程の学生は、これらのプロジェクト
に「準研究員」として関わっており、そこで研究者として必要な資質を磨く機会が与えら
れている。
【点検・評価】
研究所のプロジェクトを通じて研究のマネジメントを習得してゆくことはたいへん有意
義なことであるし、特に実証研究を進めていくうえで必要なノウハウを獲得する格好の機
会になっていると評価される。
【長所と問題点】
このように、研究者養成の実地訓練の場としての機能は充実しており、その点は大いに
誇るべき点であるが、博士後期課程の学生でも、自らの研究テーマと一致しない場合、こ
うした方法は必ずしも有効に機能しないという問題点がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所におけるプロジェクトが3年間で、一人の専任教員が複数のプロジェクトをマネ
ジメントできないことから、上述のような問題が生じてしまうのは仕方のないところであ
り、研究所以外の機会(私的研究会や文部省科学研究費のプロジェクトなど)で訓練が施
されているケースも少なくない。
<社会情報学専攻>
【現状の説明】
学内における人文科学研究所や社会科学研究所、図書館や情報研究教育センターとの交
流によって各種のプロジェクトに教員・学生ともに参加している。例えば、デジタルライ
657
ブラリーの開発研究では、図書館および情報研究教育センターと共同プロジェクトを結成
して成果をあげた。また、社会科学研究所とは、CATVによる地域社会の研究に関する
プロジェクトなどに実績がある。
【点検・評価
長所と問題点】
上述の研究所や図書館・情報研究教育センターなどとの連携は満足すべき成果をあげて
いる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後も、学内の他の教育研究組織との研究上の連携を深めていきたい。
<教育学専攻>
【現状の説明】
本専攻の組織は小規模であって、専門領域を異にしながらも日常的には一体となって教
育研究活動の充実に取り組んでいる。
【点検・評価
長所と問題点】
これまで日常的に異なる専門領域ごとの研究機関や組織の交流を図ってきたことは、そ
れぞれの教員の力量と専攻全体の教育研究指導の質を高めてきた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後ともこの気風を大切にしつつ、さらに連携と相互評価を深めて各自の研究の進展に
役立たせ研究活動と指導活動の充実を図っていきたい。
<心理学専攻>
【現状の説明】
本学人文科学研究所と共同で「東南アジアにおける認知文化心理学の研究」の研究会を
行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学人文科学研究所との共同研究が行われているが、まだ十分とは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来的には共同研究の数を増やしていきたい。
<共通科目>
【現状の説明】
各教員の多くは、学内の研究所の各研究チームに所属して、学部を超えた共同研究活動
を行っているほか、研究所における研究発表会や紀要執筆などが行われている。
【点検・評価
長所と問題点】
各人が積極的に附置研究所の共同研究に参加しており、特に問題はない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に改善・改革を要する問題はない。
6−(2)
研究体制の整備
6−(2)− ①
経常的な研究条件の整備
【現状の説明】
経常的な研究条件の整備を研究費、研究室の整備および研究時間に分けて説明する。ま
ず、教員の学内研究費は、2001 年度から改正され、基礎研究費(毎年支給、研究旅費を含
658 第3章 大学院
む)、特定課題研究費(研究旅費を含む)、共同研究費、および特別研究研究費(特別[=
在宅]研究期間に支給、研究旅費を含む)に整理・改正されたが、これらは学部の専任教
員に支給されるもので、文学研究科の教員にそれとは別に研究費が支給されることはない。
この他に、学会出張費は、申請に基づき、年2回程度を上限に別枠で支給される。また、
全学単位で、まとまったコレクション、資料集、学術雑誌のバックナンバー、実験用機器
購入のための特別図書・機械購入費(学内助成)もあるが、これを利用できるのは6、7
年に一度である。さらにまた、各研究所にも学際的な共同研究用の予算が用意されている
が、額はそれほど多くはない。
研究室に関しては、全学部専任教員に空調完備の研究室(個室)が与えられており、机、
イス、照明器具、書架など基本的な備品が配備されている。また、各室に情報端末が設置
されている。研究科が独自に配備している研究室備品等は特にない。
研究時間は担当授業コマ数のほかに各種の学内公務の多少に左右される。
【点検・評価
長所と問題点】
諸研究費の額と用途に関しては、これまで改善されてきているが、その評価については
「特に不適切ではない」
(仏文学専攻・東洋史学専攻・西洋史学専攻・共通科目など)から
「不足している」
(独文学専攻、社会情報学専攻など)や「年間必要額の3分の2」程度(国
文学専攻)を経て「極めて劣悪」(教育学専攻)まであり、評価が大きく分かれる。特に、
国立大学では実験講座に指定されている社会学・教育学・心理学などの諸専攻がきわめて
厳しい評価をしているのは理解できる。不足を指摘する専攻では、研究調査旅費や調査費
および高額実験機器の不足も指摘している。
研究室に関しては、多摩移転にともない個人研究室を導入した「先見性」を評価しなが
らも、パソコンおよびその周辺機器の設置と個人研究室の書籍の増加にともない、個人研
究室の絶対的狭隘化を指摘する専攻(国文学専攻)もある。
研究時間不足を強く訴える点は、各専攻共通している。増加傾向にある大学院学生の研
究指導に加えて、学部教育の負担、委員会その他の学内公務の増加などもあり、研究時間
不足は危機的状況に至っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院教育と教員の研究活動の維持と活性化のために、諸研究費の額と用途の拡大が必
要である。教育学専攻は国立の実験講座並の基準に照らした共同研究費が必要であると主
張している。研究室関係ではスペースの確保と同時に学内の情報環境の整備にともなう設
備の強化を挙げる。また、研究時間を確保するために担当コマ数の削減と校務分掌の軽減
を提案する専攻(国文学専攻)もある。せめて4年に6カ月あるいは7年に 12 カ月のサバ
ティカル制度あるいは研究専念制度を確立しなければならない(西洋史学専攻)
。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
【現状の説明】
以下に特記する専攻を除けば、大学院が教育研究のために特別に用意した諸施設・設備
等はない。現在、各専攻が共通に有する学部の施設・設備は、書庫・共同研究室・演習室
の3つがあるが、このうち、書庫は各専攻に図書館予算から分配される「専門図書購入費」
659
で購入した書籍の収蔵・管理に利用されており、大学院図書室の管轄下にある。また、演
習室は、大学院の授業に使用されることが多い。
本研究科独自の施設・設備として特記されるのは、つぎの4つの施設である。
(1)行動
観察・授業分析室:被観察者が入る観察室と観察・分析者が入るモニター室からなり、両
者はマジックミラーを持つ防音室で区切られている。
(2)心理学実験室:防音壁により外
部からの雑音に妨害されることなく実験が行われる。内部は2つのコーナーに分かれ、A
Vタキストスコープやパソコン(複数台)が設置されている。
(3)心理教育相談室:高度
の専門知識と技術を身につけた教育相談員やスクールカウンセラーの養成に使用される。
また、この施設にはモニター設備がある。
(4)社会情報学実習室:ワークステーションや
パーソナルコンピュータなどが設備されていて、UNIX教育、マルチメディアの実験、
数理解析、統計分析、シミュレーション研究、調査資料解析等、社会情報処理の教育研究
が行われる。
ほかに、大学院学生用として、6∼7名に1室の割合で、学生研究室が用意されている。
【点検・評価
長所と問題点】
本学文学研究科の特筆すべき長所の1つは、書庫と、その管理運営に当たる室員2人
(臨時職員)の常駐する共同研究室および演習室の3室が同じ場所に配置されていること
であるが、これは大学院の授業運営にもきわめて適切・有効な配置であると評価される。
ただし、専攻の共同研究室に附置されている書庫が収蔵図書の増加にともないすでに収蔵
能力を超えているところが多い。
社会情報学専攻・教育学専攻および心理学専攻のための設備は人文・社会科学系施設・
設備としては平均的水準にあると評価される。問題は、専門的な支援職員がいないことで
ある。
学生研究室制度の存在は、他大学院と比較すれば、本学大学院の長所といえるが、大学
院学生の増加にともなって深刻なスペース不足になっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専門図書収蔵用スペースの確保と学生研究室の拡充に早急に取り組まなければならない。
なお、社会情報学実習室等にとって専門的知識をもった支援職員の必要性については、
「5
−(2)研究支援職員」の項で述べた。
なお、心理学系施設の共同利用体制の改善を含む教育学専攻専用施設の設置や充実は、
早急に実現されるべき課題である(教育学専攻)
。
7−(1)− ②
維持・管理体制
【現状の説明】
研究科が維持・管理にあたる施設は多くない。大学院学生の研究室は、学生が施錠等の
責任を負っている。教育学・心理学・社会情報学の各専攻の特別施設は、それぞれ管理担
当者を定めて安全管理に努めている。行動観察・授業分析室については、賠償責任のため
の損害保険に加入している。
【点検・評価
長所と問題点】
現在の維持・管理体制に特に問題ない。
【将来の改善・改革に向けての方策】
660 第3章 大学院
特別な問題が生じないかぎり、現在の維持・管理体制を保持していく。
7−(2)
情報インフラ
【現状の説明】
学術資料の記録・保管は、中央図書館、大学院図書室、国文学研究室、教員の個人研究
室等に分置されていて、主なものは学内でほぼ閲覧できる。国内外の他の大学院・大学と
の図書等の学術情報・資料の相互利用のための条件も整備されており、またネットを通し
てその利用が可能となっており、情報インフラは次第に整備されつつある。
【点検・評価
長所と問題点】
学術資料の記録・保管や国内外の他の大学院・大学との図書の相互利用はおおむね適切
に行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学術資料に関しては、利用頻度に応じて複本の購入を大幅に認め、これを保管するスペ
ースを確保することが必要である(国文学専攻)
。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
社会への貢献は、おもに講演や国家機関・地方自治体の各種委員会への参画を通じて行
われているが、多くはまだ個人レベルに留まっている。因みに、日本史学専攻の専任教員
の多くは文化庁の文化財関係の委員会などに参加している。教育学専攻は、現職教員の専
修免許取得や社会教育主事・学芸員・図書館司書資格取得の機会を用意していること、大
学院教育や研究を通した市民文化交流活動を担う人材育成、いくつかの地域課題にかかわ
る研究活動への参加とその成果の活用にかかわる活動、学会研究大会等の地域公開の試み、
大学の公開講座等への協力など、社会との関わりは大きい。また、独文学専攻や仏文学専
攻などは、日・独、日・仏間の文化交流にも積極的に貢献している。
さらに、社会情報学専攻や心理学専攻は、八王子市などの要請を受けて小中学生のため
に大学院学生をボランティアとして派遣している。
【点検・評価
長所と問題点】
社会への貢献にかかわっている専攻では、社会参加が社会の問題を学問の場にフィード
バックする機会にもなる点で、また、独文学専攻や仏文学専攻の文化交流への貢献はそれ
ぞれの専攻の教育理念・目標とも関わりがある点で、社会への貢献を高く評価している。
しかし、その他の専攻に関しては、研究成果の社会還元の難しさにかまけて、公開講座の
実施やWeb上における成果の公開など、直接的な社会への還元に組織的な取り組みを行
っているとは言い難い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
Web上における成果の公開などのほか、大学が広報活動の一環として人文系諸専攻と
協力して教養講座を組織し、地方自治体などに提供するなど、社会に積極的に働きかけて
いくことが必要である。
661
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
【現状の説明】
研究科委員会は大学院担当教員によって構成されており、カリキュラム編成、研究科担
当教員の新任(学部で教授になった教員は自動的に研究科担当となる)
・昇格人事、修了認
定、博士論文および博士の学位の授与審査・認定、その他研究科学生に関する事項を審議
決定する。また研究科担当の兼任講師の人事も審議承認する。
委員会の下部組織として各専攻1名よりなる教務委員会が設置されており、事務連絡、
奨学生選定、意見交換などを行っている。
委員長は2年任期で委員会によって選出される。委員長は委員会と教務委員会の議長を
務める。
【点検・評価】
文学研究科の運営に関しては、後に述べる研究科独自の選任人事権を持たない点を除け
ば、特に問題は認められない。
【長所と問題点】
専攻が多いため役割分担が比較的公平になされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員人事が学部教授会事項となっているため、研究科独自の選任人事を行うことが
できない。将来は研究科に一定の人事権を持たせるべきだろう。さしあたっては、特任教
授の制度を活用することが考えられる。
10.事務組織
「法学研究科に同じ」
11.自己点検・評価
本項は、(1)自己点検・評価、(2)自己点検・評価に対する学外者による検証および
(3)評価結果の公表の3小項目から成るが、ここではこれらをまとめて記述することに
したい。
【現状の説明】
本研究科は、機会あるごとに改善・改革を行ってきたことは言うまでもないが、自己点
検・評価を「恒常的に行うための制度システム」をまだ作りあげるまでには至っていない。
当然ながら、自己点検・評価の結果の客観性・妥当性を確保するための学外者の評価を受
ける仕組みも持っていないし、自己点検・評価の結果を学外に発信する手順も決められて
いない。
【点検・評価
長所と問題点】
今回、
(財)大学基準協会の相互評価を受けるにあたり、本研究科全体として、また各専
攻がそれぞれ、自己点検・評価する機会を得、長所はもちろん多くの問題点を明らかにす
ることができた。文学研究科として改善しなければならない問題点は、研究科委員会に「申
し送り事項」としてすでに付託している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
662 第3章 大学院
研究科委員会に付託された問題点ができるだけ多く改善されることが望まれる。同時に、
自己点検・評価が恒常的なシステムとして本研究科の運営に組み込まれなければならない。
663
総合政策研究科
1.理念・目的・教育目標
【現状の説明】
総合政策研究科は、政策分析能力に優れ、異文化を理解する専門的職業人および関連分
野の研究者の養成を目指して 1997 年4月に発足した。この研究科では、総合的・学際的研
究を通して世界と日本の情勢を的確に把握・分析し、これに基づいてさまざまなレベルの
政策課題を考察し、これらに対する現実的政策を立案し、世界の人々との知的・人的ネッ
トワークの形成に貢献できる人材を育成することを目標とするが、特にアジアの歴史・文
化についての理解を深め、アジアと世界の架け橋となり、人類全体の発展と調和に貢献す
るという、能力・資質を備えた人材・高度職業人および関連分野の研究者を育成すること
を目指している。
このため本研究科では、
①政策分析能力を高めるためには総合的・学際的な研究が不可欠であり、このためには主
要な社会諸科学および文化諸学の研究成果を総合活用することが必要である。
②政策課題が発生するレベルの多岐性と、それぞれのレベルの関心事に対応した研究が可
能となるように研究分野を設ける必要があるとの観点から、法と社会、経済と公共政策、
企業と経営、国際関係と開発、文明と国家、アジアの歴史と文化、政策研究の方法、なら
びに日本と世界の8つの研究指導分野を設定した。これにより、総合的な政策分析能力を
修得できるように配慮している。
本研究科は、総合政策研究科として博士前期課程・後期課程を置いている。
本研究科のカリキュラムは、政策と文化の融合と言う視点から総合的・学際的研究を踏
まえた上で、高度な専門的研究とその応用を目指す本研究科の理念に基づいて編成されて
いる。学校教育法第 65 条に規定する大学院の目標ならびに大学院設置基準に規定する大学
院修士課程・博士課程の目的におおむね適合していると判断される。
【点検・評価
長所と問題点】
現状は、この理念を良く反映していると評価される。政治・経済・社会の国際化・高度
専門化・情報化に対応したカリキュラムのあり方をたえず検討し、改善してゆくための体
制を整えている。本年度で後期課程も完成年次を迎えこれから博士の学位の審査にはいる
ところであり総体として今後の評価に待つべき部分も多いが掲げた目標の多くは達成され
つつあると考える。しかし、本研究科の取り扱う分野の広さと専門性およびそれに対応す
る社会の需要は幅広いだけに、的確に対応するためには、与えられた人的・財的資源上、
多くの制約がある。さらに、教員の数が学生数に比して相対的に少なくその専攻分野も限
られるため学際領域での授業や研究指導体制に教員の負担が大きく学部のキャンパスと離
れているため学部の教育研究体制との連携に問題点がみられる。特に、大学院学生と学部
生の交流には多くの問題点が存在すると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科は、政策分析能力に優れ、異文化を理解する専門的職業人の養成を目指し、総
合的・学際的研究を通して世界と日本の情勢を的確に把握・分析し、さまざまなレベルの
664 第3章 大学院
政策課題を考察し、これらに対する現実的政策を立案し、世界の人々との知的・人的ネッ
トワークを形成することを目標としている。この観点から、従来の大学院教育とは異なる
新しい授業内容の工夫がされ、その成果もあげてきていると考えている。
しかし、前項で指摘した通り本研究科の取り扱う分野の広さと専門性およびそれに対応
する社会の需要は幅広いだけに、的確に対応するためには、与えられた人的・財的資源上、
多くの制約がある。この問題を克服するためには、他研究科との連携を必要とし、実際に
もその方向で努力がなされているが、より本格的なアプローチとしては、法学研究科等を
含む中央大学大学院全体の問題として、専門大学院の設立を含め、検討する必要があると
思われる。
なお、本研究科の授業の大部分は、市ヶ谷キャンパスで行われている。しかし、いわゆ
るアカウンティング・スクールおよび法科大学院の発足を間近に控え、このキャンパスの
授業活動に支障を生じることも懸念される。また、大学院教育を市ヶ谷に移しても、すべ
ての教員の研究室は、多摩にあり、授業活動によっては、支障を生じることもある。この
ような状況の中で、本研究科の今後の活動に支障を生じないような配慮が強く望まれる。
2.教育研究組織
【現状の説明】
博士前期課程における教員の体制は下記のとおりである。
博士前期課程
専任教員
兼担教員
31 名
7 名(法学研究科1名、経済学研究科2名、商学研究科2名、
理工学研究科1名、文学研究科1名)
客員教員
5 名、兼任講師
7名
博士前期課程では、研究発展分野を8つに区分けして指導分野の明確化を図っている。
・研究指導分野別
法と社会、経済と公共政策、企業と経営、国際関係と開発、文明と国家、
アジアの歴史と文化、政策研究の方法、共通分野
博士後期課程、専任教員 20 名で構成される。
博士後期課程では、以下の4つの研究指導分野を区分けして指導分野の明確化をはかっ
ている。
・研究指導分野別
法政策研究、公共政策研究、経営政策研究、歴史文化研究
【点検・評価
長所と問題点】
総合政策研究科として多方面にわたる授業科目、研究指導分野をカバーするため多様な
分野を専任を中心として、兼担、客員教員、兼任講師等で分担して受け持っている。
学生側は、社会人に見られるようにさまざまな専攻分野や研究目的を持って入学してい
るが研究指導分野別授業、演習(総合政策セミナー)、学術研究等の研究授業により研究指
導が行われており、教員の専門の偏りの問題はあるもののおおむねバランスのとれた組織
であると評価できる。
665
しかし、社会人大学院学生が多いため授業、研究指導等が行える時間が平日夜間、土曜
日に集中しており十分な時間をとるためには教員の負担が大きい。特に、時間確保の問題
と個人研究室がある多摩キャンパスではなく市ヶ谷キャンパスでの指導となるため研究に
必要な本・論文・資料等の研究環境を確保するために苦労しているのが実状である。また、
教育研究をサポートする間接スタッフが少数のTAのようなアルバイト的な者しか存在し
ないため授業、研究の側面からのサポートが十分でないと考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
市ヶ谷キャンパスでの施設の充実、研究環境の整備を図るとともに、情報環境の整備が
設備の整備だけではなく学術資料や統計データのデジタル化などソフト的な環境の整備が
強く望まれる。また、他大学との図書館の共同利用や他大学研究科との合同講義など既存
の枠組みを超えた柔軟な仕組みの構築が望まれる。
3.教育研究の内容・方法と条件整備
3−(1)
教育研究の内容等
3−(1)− ①
大学院研究科の教育課程
【現状の説明】
1.カリキュラムの内容および方法論の特色
上記の目標を実現するために、研究基礎科目および研究発展科目に分けた。研究基礎科
目としては、
「正義と法」、
「公共経済と公共選択」、
「経営組織論」、
「国際システム論」、
「イ
スラーム文明と現代世界」、
「アジア比較歴史論」、
「政策科学」および「日本論」を設けた。
これらは、法律学、経済学、経営学、国際関係論、文明論、歴史学と広範にわたるものに
なっている。また、これらを日本という舞台で集約して論議するために、政策科学の実践
という観点から「日本論」を研究基礎科目とした。
研究発展科目としては、それぞれの研究指導分野に所属する教員により、40 を超える各
論的講義により構成されている。さらに大学院学生の直接指導を担当する教員により総合
政策セミナーⅠが行われている。この総合政策セミナーⅠは、前期課程修了必要単位数 30
のうち、8単位を占めており、個人指導の充実が、本研究科における重点の一つとなって
いる。
さらに、本研究科のカリキュラムの特色の一つとして、総合政策研究の実践(学際的方
法論の展開、政策と文化の融合、現実の諸課題の問題解決重視、最先端の動き重視など)
の観点から、複数の教員の協働、社会で活躍している有識者の動員などにより、授業展開
が行われている。具体的には、日本論、総合政策フォーラム、総合政策セミナーⅡの授業
である。また、知の集積の社会還元という観点から、それらの成果をできるだけ出版する
努力もしている。
2)複数の教員による授業展開の具体例−総合政策学の展開に向けて
①日本論
1990 年代日本は「失われた 10 年」を経験した。冷戦後の国際関係の変化がきわめて大
きかった中で、戦後の発展を担ってきた日本のシステムが制度疲労を起こし、政治、経済、
社会の各般にわたる混迷を経験している状況である。日本論は、このような状況の中で日
本の混迷の原因を総合的に把握し、対応策を考察する目的で出発した。それはまた、日本
666 第3章 大学院
の価値、特色を追求し、世界の安定と発展に貢献することである。このような姿勢は本研
究科の設立目的である「総合的、学際的研究を通して、世界と日本の情勢を把握し、現実
的政策を提案する」ことに適合し、さらに本研究科の指針でもある「政策と文化の融合」
を日本を舞台に研究することでもある。
研究を進めるには日本社会のシステムの機能不全が強いことに鑑み、システムの担い手
を軸に考察し(政治、行政、企業、社会、国際など)、これに歴史的視点、国際比較、未来
軸、国家目標軸を交差させて講義、研究を行ってきている。これは2年間で循環する講義
としている。
授業は主として研究科の担当教員とこれに対する討論者を立てるというやり方で行って
きている。1999 年度の例でいえば、前期には本研究科所属教員 11 名が講義ないし討論者
として参加した。また、後期には 10 名が講義ないし討論者として参加した。このほかに後
期には部外講師が1名講義を担当した。大学院学生も数多くの参加があった。前期・後期
の最後には全員による討論会が行われた。日本論に参加した教員が行った講義を基に、論
文が執筆された。この論文集は、『日本論−総合政策学への道』(中央大学出版部、2000、
全 268 頁)として刊行された。
②総合政策フォーラム
今日の社会が直面する複雑な諸問題について学生が複眼的に考察しその解決方法を提案
できるような総合政策能力を涵養することを目指して、企画された科目である。セメスタ
ーごとに、講義課題となるテーマを変えてきている。また、中心となる担当教授も原則と
してセメスターごとに異なる。また、識見豊かな部外講師を広く招き、この授業に参加を
依頼してきている。この有識者の中には、日本の学会をリードする教授陣、シンクタンク
等で活躍している第一線の研究者、実際の政治・行政の意思決定に大きな影響力をもった
有力政治家・行政官、時代をリードするマスコミ界の重鎮等の協力を得て授業を行ってき
ている。具体的なテーマ等の内容は、下記のとおりである。
授業の方式は、まず講義があり、それに対して教授陣から質疑、さらに大学院学生から
の質疑を行う方式によるもの(例:「21 世紀日本の改革、日本の貢献」、「21 世紀の環境問
題と産業社会」等)と、担当教授が部外講師に対してインタビュー方式で論点に関する説
明を聴きだし、その後で参加教授および大学院学生による質疑を行う方式によるもの(例:
「意思決定者に聴く」、
「テレビはどこに行くのか」)とがある。いずれも、大学院学生のレ
ポート提出は毎週、あるいは隔週求められる。また、授業の最後は、授業内容の総括をす
る意味で、参加教授全員によるシンポジウムが行われる。
1999 前期:
「21 世紀日本の改革、日本の貢献」
(担当教授4名、部外講師 11 名)
1999 後期:
「21 世紀の環境問題と産業社会」
(担当教授3名、部外講師9名)
2000 前期:
「意思決定者に聴く」
(担当教授3名、部外講師5人)
2000 後期:
「21 世紀の論点」
(担当教授・兼任講師2名、部外講師 12 名)
2001 前期:
「テレビはどこに行くのか」
(担当教授2名、助教授1名、部外講師4名)
2001 後期:
「イスラム社会と日本−研究の最先端から−」
(担当教授2名、部外講師 12 名)
なお、この授業の成果の有効活用あるいは社会還元などの観点から、授業記録を出版す
ることも一部行われている。
(例:
『証言 大改革はいかになされたか−意思決定者の着眼』、
増島俊之・小林秀徳編著、ぎょうせい、2001、全 291 頁)
667
③総合政策セミナーⅡ
法と社会、経済と公共政策、企業と経営、国際関係と開発、文明と国家、アジアの歴史
と文化、政策研究の方法等の研究指導分野が設定されているが、
「総合政策セミナーⅡ」は、
次のような具体的テーマをかかげて演習を行うが、主たる狙いはそれぞれの指導大学院学
生に対して、修士論文の作成指導を複数の教員共同で行うものとなっている。
総合政策セミナーⅡのテーマ:
「人間関係の規律のあり方に関する思想と仕組み」
「21 世紀ビジネスの新戦略と展開」
「政策への総合的接近」
「政策形成における意思決定問題の研究」
「経済・環境・外交政策の総合的研究」
「アジア文化研究への多角的視点」
「東アジア・太平洋における歴史の中の文化政策と国際関係」
「都市と地域の総合的研究」
④教員・大学院学生全員参加による修士論文中間報告会
毎年9月末の土曜日に修士論文提出予定者全員の中間報告会が開かれ、教員全員が参加
し、発表内容に関連して質疑・指導が行われる。午前・午後にかけて2∼3グループに分
けて行われる。この中間報告には、博士課程前期1年生にも参加が求められる。
【点検・評価
長所と問題】
博士前期課程においては、指導教授の講義および演習を計 12 単位履修するほかに、指導
教授以外の講義および演習を計 20 単位以上履修しなければならない。これによって大学院
学生は、それぞれの専攻領域以外の分野についても学習し、広範な学問の方法や思考様式
を学ぶとともに総合政策セミナーにより分野の異なる間での協調的な研究や学際的な領域
での研究の機会に恵まれている。
修士論文の作成に対する研究指導はおおむね適切に行われており、その結果ほとんどの
大学院学生は所定の期間内に修士論文を完成しているが、学際的な分野での研究を進める
者の中には留学なども含めて十分な時間を勉学に利用しているものも見受けられる。また、
社会人は、仕事と両立させながらさまざまなテーマについて多様な研究を行い論文の完成
について多大な努力を払っている。一人の学生に対して複数の指導教授が、セミナーなど
を通じてさまざまな角度から研究指導を行っており、論文作成に関しては研究計画から実
論文を作成する過程でさまざまな制度上の工夫がなされており、社会人でもスムーズに体
系的に修士論文を作成できるシステムを構築している。
博士後期課程においては、単位制ではなく指導教授を中心とした研究指導を受けながら
自立的に研究活動が行える課程を用意している。また、最近は社会人でも博士学位の取得
を目指す傾向が大であるため、キャンディデートの試験を実施し6名が合格した。教授に
よる研究指導論文作成の指導の体制を整えているがまだ学位取得者は出ていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学外の研究者・専門家による特別講義を体系的に実施するためにフォーラムⅠ、Ⅱを実
施している。また、総合的な科目として「日本論」を多数の教員が講義を担当して行って
おりこれらは当研究科の教育理念に適合するものであり、大きな成果をあげていると考え
668 第3章 大学院
られる。また、博士前期・後期課程在籍者の研究論文発表の場として『大学院研究年報』
を年1回発行している。掲載論文については、審査の厳正を期すべく指導教授と年報担当
教授が審査にあたっている。この論集を活用して諸大学との研究交流を高めるよう努力し
ている。
さらに、本研究科においては、大学の教育研究活動を助成するためにさまざまな育英資
金の制度を設けている。
3−(1)− ②
単位互換、単位認定等
【現状の説明】
現在、本研究科では国内外の大学との直接の単位互換制度はないが国際交流センターを
通じて大学間で協定が結ばれた国外の大学へ交換留学生として留学した場合は、単位を認
定している。また、総合政策フォーラムを通じて国内外の産・官・学の第1人者の人々と
教育研究交流を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
今後、大学院学生の留学生も多くなってくるであろうが、その場合、国内の大学院との
単位互換や産・官・学という幅広い領域での教育研究交流を組織的なレベルで進める必要
がある。また、ドイツのように大学院制度自体が存在しない国や単位認定制度の異なる大
学との単位互換をどのようにしたらよいのかなど制度の違いを克服する努力が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他大学との教育研究交流の促進と留学制度を拡充し、国内外の特定の大学と協定を締結
し長期にわたって相互に学生を受け入れ単位互換や博士学位を授与することなどが考えら
れる。後期課程完成年次以降は独自の提携先を模索する予定であるが、学問領域が多岐に
わたるため単一的な尺度での提携先の選定には限界があり、重点領域に限り充実させてい
くのが現実的であると考える。
3−(1)− ③
社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮
【現状の説明】
社会人に対しては、月曜日から金曜日まで夜間に2コマの授業を行って受講しやすい環
境を整えているが特別の教育課程は行わず、一般学生と同一のカリキュラムによって対応
している。教育研究指導の方法は、原則各指導教授の判断にゆだねているが、複数の教員
が指導できる体制を整えている。
外国人留学生に対しては、特別のカリキュラムは設置しておらず社会人・一般学生と同
じ授業を受講している。外国人留学生のうち、学費等個別の問題がある場合は指導教授と
担当事務で対処している。
【点検・評価
長所と問題点】
社会人、外国人留学生のいずれについても、その学習態度はおおむね良好である。
外国人留学生については、受け入れ側の指導教授が、日本語の能力がまだ十分でない者
にも懇切丁寧な教育研究指導を行っている。
ただし、社会人・外国人留学生を受け入れる際には、書類選考や筆記試験、面接試問を
通じて、彼らの目指す目標が何であるのか、どのような主題についての研究を意図してい
669
るのか等を的確に把握する必要がある。したがって、入試に際して、詳細な研究計画書を
提出させるとともに、入学後のきめ細かい指導を実施するためにチユーター制度などを活
用すべきである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に博士後期課程への進学を志望し、博士学位の取得を目的としていることが明らかな
社会人学生・留学生に対しては、研究経過報告書と研究計画書を定期的に提出させ、研究
の進行状況を報告させることを検討すべきである。
3−(1)− ④
専門大学院のカリキュラム
該当なし
3−(1)− ⑤
連合大学院の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑥
「連携大学院」の教育課程
該当なし
3−(1)− ⑦
研究指導等
【現状の説明】
博士前期課程では、研究成果としての修士論文が充実したものとなるために、総合政策
セミナーⅠと総合政策セミナーⅡという演習科目のもとで研究指導を行っている。総合政
策セミナーⅠは指導教授中心の従来型の大学院演習であるが、本研究科は指導教授と2名
の副指導教授からなる複数指導体制をとり主要な研究テーマ別の総合政策セミナーⅡも実
施している。
学生は、総合政策セミナーⅠで2年間にわたり指導教授から個人の研究テーマに適応し
た研究指導を受け、修正論文を計画的に作成している。特に、社会人学生に対しては、演
習時間以外にも個別の指導なども積極的に行っている。総合政策セミナーⅠ・Ⅱからなる
研究指導体制は、2年間の標準的修業期間を有効に活用するのに役立つよう設計されてい
る。
後期課程では、特に科目履修を課さず指導教授と副指導教授による研究指導を中心とし、
研究発表会や学内研究所の共同研究プロジェクトへの参加を奨励している。また、課程博
士学位候補資格認定制度を設け、博士課程在学3年目に同資格取得後博士論文を提出させ、
その審査及び試験に合格したものに博士の学位を授与することで、博士後期課程修了を認
定するものとしている。
【点検・評価
長所と問題点】
多くの場合、学生の研究領域が専任教員のカバーする専門領域を超えているため研究指
導の委託も含めて他研究科・他大学院との協力を進めることが重要であろう。また、分野
によっては、教授、助教授、あるいは現行での大学院担当者という枠にとらわれず、資格
のある場合には、副指導教授として関与できる制度の整備が必要であると考えられる。
博士後期課程に関しては、4つの研究分野(法政策研究、公共政策研究、経営政策研究、
670 第3章 大学院
歴史文化研究)における複数の指導教授の有機的な研究指導で、従来型の研究科では実現
できないような新たな教育成果や研究成果を目指してきた。この3年を省みて現時点での
到達点を点検・評価してみると、ヒト(人材)
・モノ(施設)
・カネ(財源)
・情報といった
教育研究資源が量的に少ないことがあるものの、必ずしも有機的な研究指導が行われてい
るとはいえない。しかし、いくつかの研究室では、本学の政策文化総合研究所など研究所
や他大学の研究室やシンクタンクや学会研究部会との共同研究を行い、後期課程学生の教
育研究能力を相当高めている。この点は、博士学位候補資格認定に関する申請要件の1つ
である、レフリード・ジャーナルに学術論文2本という要件を満たした博士後期課程の学
生が 10 名を超えていると言う事実が示している。
長所は、このような課程博士学位候補資格認定制度を持ち研究指導を集中的に行い、学
生の学位論文の一部となる論文作成・学会報告・論文投稿などの研究活動を高めてきてい
る点である。だがその一方で、単位取得を求める講義科目がないため、学位論文を取得す
る前に単位取得満期退学として後期課程を終える選択肢がないという問題点もある。さら
に研究指導分野はあるものの、実質的には分野ごとの統一的な研究指導が十分行われてい
ないという問題点もある。加えて、文化歴史研究分野の学生の学位論文テーマには、純粋
な文化研究や歴史研究のものも散見でき、「博士(総合政策)」という学位では研究職への
就職が困難になると予想される。さらに、研究指導の担当教員は各々従来型の伝統的な学
問分野で研究を深化してきていることもあり、学生の学位論文に対しても従来型の学問体
系の研究指導を行い、法学・行政学・経済学・経営学・文化人類学・歴史学などの学位論
文と内容等もほとんど変わらない論文に総合政策の学位を与えることに問題が生ずる。他
の伝統的な学問分野の学位論文と総合政策の学位論文との差異を、十分認識し得ないまま
研究指導をしているケースも存在する。これは、いまだ「総合政策学」の本質について、
教員組織全体が合意に達していないことを意味する。こうした背景もあり、学位論文の水
準について従来型の学問体系の違いが現れ、統一評価基準をいまだ十分に確立できていな
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
上記のような点検・評価、長所・問題点を踏まえれば、次のような改善・改革が必要に
なろう。
1.社会人学生に対しては修士論文を必修とする制度ばかりでなく、共同研究報告書を主
体とするより実践型のコースを選択できる制度の導入も必要であると考える。
2. 博士後期課程を「総合政策研究専攻」の1専攻から、研究指導分野などに応じて3∼
4専攻に分割する。
3. 研究分野や学位論文テーマに応じて、新しい学位「博士(学術)」も授与できるよう
に学則改正を検討する。
4. 後期課程学生相互の研究実態把握と研究交流をなお一層活発にするためには、前期課
程で実施している修士論文中間報告会と同様に、後期課程においても年に一度程度の研
究報告会を用意する。
5.さらに、レフリード・ジャーナル2本という課程博士学位候補資格認定制度の要件を
踏まえれば、大学院研究年報に査読制度を取り入れ、掲載論文を厳格にする。
671
3−(2)教育研究指導方法の改善
3−(2)− ①
教育効果の測定
【現状の説明】
修士論文作成の指導は、上述のごとく、適切に行われていると評価される。また、社会
人特別入試学生の場合も、おおむね所定期間内に修士論文を提出している。今後、生涯教
育がますます盛んになることが予想されるなかで、本研究科博士前期課程がこれまでにあ
げてきた成果は大きいと考えられる。
【点検・評価
長所と問題点】
問題点をあげるとすれば、博士前期課程の研究指導において複数教授による指導が十分
に行われていない場合が見受けられる。この点に関しては、論文作成を体系的に行うシス
テムを開発して対処しており時間とともに改善されるものと思われる。
博士後期課程では、単位制をとっていないため研究指導の内容が他の教授から見えにく
いことや複数指導体制が十分に機能していないと思われる。この改善には、横断的な研究
会等を活発化させていくことが急務であると考える。
現状では、後期課程は社会人が多いため、学位取得者の大学や研究所などへの就職問題
は起きていないが、今後起こることが予想される。対策として、大学講師としての教歴を
取得させ、あわせて教授法を含め研究職に必要な訓練を身につけさせる方策が必要とされ
る。
学生の研究水準の向上のために、他大学院で同じ学問領域を専攻している大学院学生や
当研究科OBの参加を募る等、いま少し開かれた研究組織を構築する必要があるが、学問
分野が多岐にわたっているため実現に向けて改善の努力を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
博士後期課程修了者の研究機関への就職の機会を拡大するため、各地の大学に就職して
いる本学出身者との連結を密にし、情報交換の場を作る等、きめ細かい具体的な方策が必
要である。
大学院の設置場所(市ヶ谷キャンパス)が学部(多摩キャンパス)と離れているため専
任教員と兼任講師との間の意思疎通や教員の研究室が大学院側に機能的に利用できる環境
にないなどキャンパスのサテライト化による問題点が見受けられ有効な対策がなされてい
ないと考えられる。
また、社会人学生の研究活動を推進していくためには大学の諸研究施設設備の利用につ
いての時間的制限緩和が求められる。例えば、図書館等の開館時間の延長(日曜、祭日も
含む)等が学生の強く要望する問題である。市ヶ谷キャンパス図書室における基礎書等の
充実とともに都心の他大学の図書館を利用させていただくなどの対策が早急に実施される
ことを要望する声が多い。
特別講義の講師に対する総枠と謝礼が平均的に低く(1回3万円程度)おさえられてい
るため、本研究科としては、特別に招聘したい講師に対する礼を失することがないよう増
額を図る必要がある。
3−(2)− ②
【現状の説明】
672 第3章 大学院
成績評価法
学生の日常的な勉学態度、演習・講義に対する姿勢、レポート作成・報告などを総合的
に判断して適切な評価を加えている。さらに、修士論文については3人の審査員(主査1
人、副査2人)の合議によって行っている。修士論文については、論文計画の段階、本論
文作成の段階、提出後の段階で審査員の意見が学生に伝えられ、最終審査までに修正する
機会が与えられており適切な制度が確立していると考える。
【点検・評価
長所と問題点】
評価は、おおむね公正に行われていると考えられるが実質的には教員個人の尺度にまか
さており客観的な判断の基準が学生には見えにくいという問題点が存在する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では、成績評価は各教員の主観的な尺度に任されているが、多様な学問分野とさま
ざまな背景を持った学生の集合体である本研究科としては評価尺度の基準について作成す
る必要があろう。
3−(2)− ③
教育研究指導の改善
【現状の説明】
大学院での教員の教育研究指導方法の改善を促進するための組織的な取り組みについて
は、カリキュラムなど幾つかの委員会で話し合いが行われるとともに、研究科委員会でも
適宜議論が行われている。また、現在、学生に提供されているシラバスについては、記載
内容や情報量について担当教員間でかなりのばらつきがあるが、学問分野によっては、学
問の急速な進歩や、世の中の情勢の変化などに柔軟に対応できる情報公開の仕組みが必要
であると思われる。学生による授業評価制度は、現在のところ導入していない。
【点検・評価
長所と問題点】
さまざまな改革により改善されつつあるが、場所の問題や研究体制の問題など引き続き
改革の継続が必要である。情報公開については、引き続き検討する必要がある。学生によ
る授業評価制度も検討課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
もともと大学院は少人数による教育研究システムが機能するのが当たり前と考えられる
が、授業科目によっては、数十人単位の受講がありえる。これらの科目については、授業
評価を個別に行っている場合もあるが、組織的な学生による授業評価の導入も視野に入れ
るべきであろう。また、このような点も含めて、大学院での教育研究の在り方を全学的に
議論する恒常的な組織の形成も課題であろう。
3−(3)
国内外における教育研究交流
【現状の説明】
研究科の性質上国内外との交流は重要であり大学院学生は国外留学制度(交換留学、認
定留学)を利用して活発な交流を行っている。提携大学ばかりでなく研究のテーマに応じ
て世界各国の大学・研究機関に及んでいる。認定留学制度は、学生自身が希望し、本学大
学院が認めた大学・研究機関への留学である。交換・認定留学ともに、単位認定をはじめ、
継続履修、奨学金給付、学費減免等のサポートを行っている。また、フォーラム、セミナ
ーなどさまざまな制度を利用して国内外の研究者との交流を図っている。
673
【点検・評価
長所と問題点】
多数の学生が超短期で留学、研究のための交流を行っているが、単位認定の他、調査研
究の補助などのサポート体制は充実していると考えられる。博士後期課程の学生の中には、
客員研究員など正式の研究者としての身分での交流の計画があり対応をどのようにするか
早急に決める必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
総合政策という学問の性質上国内外との密接な交流はなくてはならない。他方、大学内
の水平連携の強化ももう一つの選択肢であり、より学際的な連携が必要と考える。特に、
研究のための調査やヒアリングといった研究活動そのものにかかわる交流の促進も必要で
あると考える。一層の国際交流の拡充に向けて制度の改革が必要と思われる。
3−(4)
学位授与・課程修了の認定
3−(4)− ①
学位授与
【現状の説明】
修士・博士の学位授与には、大学院学則 40 条から第 44 条(学位の授与)の規定による。
学位の授与方針・基準は、大学院学則 40 条(学位論文の合格基準)を満たすことが必要と
なる。まず、博士前期課程の趣旨は、
「広い視野に立って精深な学識を修め、専攻分野にお
ける研究の能力または高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」ものとあ
り、修士学位はそれを満たすことが必要である。修士論文の審査は、指導教授を含む3名
の審査委員が査読し、ついで口頭試問を行い、評価を決定し、本研究科委員会の承認によ
り最終的に評価を決定する。
博士後期課程の趣旨は、
「専門分野について研究者として自立して研究活動を行い、また
はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力およびその基礎となる
豊かな学識を養う」ものであるから、博士学位はそれを満たすことが必要である。博士論
文を提出しようとするものは、所定の科目試験と公表論文2本以上についての試問が課せ
られたキャンディデートの試験に合格すると博士論文を提出する資格が得られる。博士学
位論文の審査は、当該論文を一定期間、研究科委員の閲覧に供せられた後に、指導教授を
含む3名以上の審査委員により審査委員会を設置し、博士学位論文を査読し、ついで所定
の試問を行い、合議によって評価を決定する。次いで審査委員は審査報告書を作成し、主
査は研究科委員会で説明を行う。その後、研究科委員会で審議を経て決定する。博士前期
課程の大部分の学生は、2年以内に修士論文を提出している。また最近、博士後期課程在
学者のあいだでキャンディデートの試験を受け、博士学位を取得しようとする研究意欲が
高まっている。
【点検・評価
長所と問題点】
修士学位の取得にいたる過程において研究指導は適切に行われており、審査ならびに評
価も厳正である。最近では修士論文計画書制度により論文作成指導体制が改善され適切さ
を増している。このことにより、修士学位の取得に向け体系的な指導体制が確立しつつあ
ると考えられる。修士学位の取得は、学則には「優れた研究業績を上げたもの」に対して、
「1年以上在学すれば足りる」としている。すでに、1年で修士号を取得している学生も
あり、このことは、社会人在学生の研究意欲を高めているので高く評価できる。しかし、
674 第3章 大学院
大学院担当教授の数が限られるためすべての分野を専任教員でカバーすることは難しいの
が現状で境界領域の研究をする学生を十分に指導できない場合も見受けられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前項での指摘にある通り、境界領域の問題については外部の専門家と共同で指導するな
どの方策を実行しつつあるが、その方法自身が制度上正式に認められているわけではない。
この点を制度上改善する必要がある。
表1
総合政策研究科学位授与状況
研
究
専
科
1996 年度
攻
修
1998 年度
1999 年度
2000 年度
-
3
38
44
36
総合政策専攻 博士(課程)
-
-
-
0
0
博士(論文)
-
-
-
0
0
3−(4)− ②
士
1997 年度
課程修了の認定
【現状の説明】
履修に際しては、研究基礎科目、研究発展科目、研究応用科目と3つに分類して修了要
件として下記を満たす者とする。
1.必修科目合計12単位の履修
(総合政策セミナーⅠ
8単位、総合政策セミナーⅡ
4単位)
2.必修以外の科目合計 18 単位を履修
3.修士論文を提出し審査に合格すること
博士後期課程では、授業による単位制ではなく博士学位のための予備審査に合格し博士
論文を提出し審査に合格した者に博士号が授与される。
【点検・評価
長所と問題点】
修士学位の取得にいたる課程修了の認定は適切に行われており、修了要件の審査ならび
に評価も厳正である。このことにより、学位の取得に向け体系的な課程修了体制が確立し
つつあると考えられる。しかし、大学院担当教授の数が限られるため授業ですべての分野
をカバーすることは難しいのが現状で境界領域の研究をする学生の要求を十分に満たして
いない場合も見受けられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
境界領域の問題については他研究科・外部の大学院と共同で指導するなどの方策を将来
実施するのが望ましい。研究指導を副査の形で外部の応援を得るにはその方法自体が制度
上正式に認められていない。この点を制度上改善する必要がある。
4.学生の受け入れ
4−(1)
学生募集方法、入学者選抜方法
【現状の説明】
本研究科は、修士・博士学位の取得を目的とした博士前期・後期課程(募集人員博士前
期課程 40 名、博士後期課程 10 名)により構成されている。
675
前期課程は、特別入試、一般入試、社会人特別入試、外国人留学生入試により選抜を行
い、後期課程では、一般入試、社会人特別入試、外国人留学生入試により選抜を行ってい
る。
飛び級入試は、学部第 3 年次を修了した段階で、一定の学業成績をあげた成績優秀者に
大学院進学の機会を提供する制度である。現状では、志願する者はいたがまだ合格した者
はいない。飛び級入試制度は学部 3 年次までの学業成績が確定してからの入試であり、他
大学生または本学他学部生には飛び級入試制度はないので、一般入試で受験する仕組みと
なっている。
その他、科目等履修生・聴講生受け入れ試験がある。
・博士前期課程特別入試
成績優秀者(A評価が 75%以上)を対象とし、第一次審査は書類選考、第二次審査は面
接試験によって選考している。
・博士前期課程一般入試
一般入試は、4年次在学中の卒業見込みの者、または卒業している者を対象として、第
一次審査は外国語科目および専門科目(総合問題)の試験、第二次審査は面接試験によっ
て選考している。
・博士前期課程社会人入試
社会人入試は、原則として企業等組織に勤務している者を対象とし、第一次審査は書類
審査、第二次審査は小論文、面接試験によって選考している。
・博士前期課程外国人留学生試験
外国人留学生入試は、外国人で留学を目的とした者を対象とし、第一次審査は書類審査
(論文審査を含む)
、第二次審査は外国語試験、面接試験によって選考している。
・飛び級入学試験
飛び級入試は、募集人員は若干名である。学部第3年次を終了した投階で、一定の学業
成績をあげた成績優秀者に大学院進学の機会を提供する制度である。試験科目は面接試験
である。
・科目等履修生聴講生試験
科目等履修生試験は、本研究科の特定授業料日の履修を希望する者を対象として、書類
審査および面接試験により選考している。聴講生試験も同様である。
・博士後期課程一般入試
博士後期課程は前期課程に縦続してその研究成果のより一層の発展を求める者を対象と
し、第一次審査は書類審査(修士論文審査を含む)、第二次審査は外国語試験および面接試
験によって選考している。
・博士前後期課程社会人特別入試
社会人入試は、原則として企業等組織に勤務している者を対象とし、第一次審査は書類
審査、第二次審査は小論文、面接試験によって選考している。
・博士後期課程外国人留学生試験
外国人留学生入試は、外国人で留学を目的とした者を対象とし、第一次審査は書類審査、
第二次審査は外国語試験、面接試験によって選考している。
合格者決定の過程は、研究科委員会の承認を得た合否委員会で合否原案を作成し、研究
676 第3章 大学院
科委員会の審議によって決定するシステムとなっている。
募集人員および出願資格ならびに試験科目の詳細は基礎データ調書を参照されたい。
入学志願者数、在籍数は下記である。
入学形態別入学者数(手続者数)
表2−①
博士前期課程
1997
1998
1999
2000
2001
2002
志願 手続 志願 手続 志願 手続 志願 手続 志願 手続 志願 手続
特別選考
26
23
14
7
7
3
15
14
7
3
12
11
般
24
5
29
7
20
8
39
12
25
10
20
10
社会人
66
45
89
38
65
32
88
26
53
14
21
17
外国人
−
−
7
3
9
5
8
2
8
4
3
2
116
73
139
55
101
48
150
54
93
31
56
40
一
合
表2―②
計
博士後期課程
2000
1999
志願
一
手続
志願
2001
手続
志願
2002
手続
志願
手続
般
3
1
14
7
10
3
9
6
社会人
25
14
33
11
14
5
8
3
外国人
3
2
3
1
5
3
3
0
31
17
50
19
29
11
20
9
合
計
学生数(在籍者数)
(2001.9.20 現在)
表3―①
博士前期課程(入学年次)
男女別
男
女
左のうち社会人
合計
社会人
男
女
合計
1 年次生
21
10
31
1 年次生
11
3
14
2 年次生
37
13
50
2 年次生
20
7
27
3 年次生
20
4
24
3 年次生
12
1
13
4 年次生
5
1
6
4 年次生
5
1
6
5 年次生
5
1
6
5 年次生
0
0
0
88
29
117
48
12
60
合
表3―②
計
合
計
博士後期課程(入学年次)
男女別
男
女
合計
社会人
男
女
合計
1 年次生
5
6
11
1 年次生
2
3
5
2 年次生
12
6
18
2 年次生
9
1
10
3 年次生
14
3
17
3 年次生
11
3
14
31
15
46
22
7
29
合
計
合
計
677
本 研 究 科 の 入 学 者 選 抜 の あ り 方 は 、入 試 委 員 会 に お い て 検 討 し て お り 、検 討 さ れ
た改善・改革案は研究科委員会において審議され、実施に移される。
【点検・評価
長所と問題点】
各専攻の理念・目標にそった適切な人材を求めるため、現状の説明に記述したとおり、
各種入試方法を設け、選抜方法および基準を定めて学生の受け入れを行っている。本研究
科の理念・目標を反映した多様な人材と社会経験豊かでかつはっきりとした研究目標を持
った学生を受け入れていることは高く評価できるものであると考える。また、一般入試と
各入試制度により受け入れた学生数の比率も概ね適切である。
合格者決定の過程も、研究科委員会の承認を得た合否委員会で合否原案を作成し、研究
科委員会での審議により決定するシステムとなっており、公正かつ適切なものである。
入学者選抜のあり方を検証する体制も妥当なものであり、公正に運営されている。また、
これまでにも、試験科目の検討・改革等についての改善を行ってきており、その実施面で
の有効性も評価できるものである。
一方、入学志願者別に多種多様な試験問題を作成しなければならないので、教職員の負
担が大きいという問題もある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
社会人の受け入れに際しては、博士前期課程の入試が秋のみに行われているが春入試も
実施するべく検討を行っている。
一般入試については定着しており、早急の改善の必要はないと考えるが、キャンパスが
異なるため学部教育との連携および一体化については、高度専門知識の教育が大学院レベ
ルに求められてきている現在、早期により一層の連携強化を図り学部からの大学院教育を
受ける機会の拡大がこれからの問題と考える。
4−(2)
学内推薦制度
【現状の説明】
前期博士課程特別入試として学内の成績優秀者(A評価が 75%以上)を対象として実施
しており、第一次審査は書類選考、第二次審査は面接試験によって選考している。
【点検・評価
長所と問題点】
学内からの推薦制度を利用して本研究科に入学する学生は、10 名以下と少数である。こ
れは、本学部の学生が指向する学問の専門領域が多岐にわたり多くの学生が他大学や外国
の大学院に入学する傾向にありこの傾向は喜ばしいことであると考える。しかし、相対的
に人数の少ない学部であり上位者は多様な進路から自由な選択ができる状況では急速な人
数の増加は難しいと考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前項の状況にもかかわらず、大学院の研究者養成という使命からはもっと多くの学生が
この制度を利用することが望ましく、学部の入学時のガイダンスや就職のガイダンスの時
に大学院の意義と入試制度の普及に努める必要があると考える。
678 第3章 大学院
4−(3)
門戸開放
【現状の説明】
博士前期課程特別入試は主として学内の成績優秀者(A評価が 75%以上)を対象として
いるが、他大学の成績優秀者にも実施しており、本学の学生と同等の基準で開放している。
【点検・評価
長所と問題点】
例年この制度を利用して数名の他大学生の成績優秀者が入学しているが、積極的な制度
運用をしていないため限られた範囲の他大学の学生のみが利用しているのが現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
他大学のもっと多くの学生がこの制度を利用することが望ましく、広報宣伝活動の一環
として本研究科の意義と入試制度の普及に努める必要があると考える。
4−(4)
飛び入学
【現状の説明】
飛び級入試は、学部第3年次を修了した段階で、一定の学業成績をあげた成績優秀者に
大学院進学の機会を提供する制度である。例年学部からの飛び入学による大学院への進学
を希望する学生は少数ではあるが予備審査の段階で辞退しており、この制度を利用し入学
した学生はいない。
【点検・評価
長所と問題点】
現状では、志願する者はいたがまだ合格したものはいない。飛び級入試制度は学部3年
次までの学業成績が確定してからの入試であり、就職の時期と重なることもあり対象学生
へのこの制度の詳細が周知されておらず改善する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
基準の見直しや3年生の対象者への周知など研究科としての広報活動が必要であり、き
め細かな運用が望まれる。
4−(5)
社会人の受け入れ
【現状の説明】
前述したように、博士前・後期課程で下記のような社会人のための入試を行い積極的に
受け入れている。
博士前期課程社会人入試
社会人特別入試は、原則として企業等組織に勤務している者を対象とし、第一次審査は
書類審査、第二次審査は小論文、面接試験によって選考している。
博士前後期課程社会人特別入試
社会人特別入試は、企業等組織に勤務している者を対象とし、第一次審査は書類審査、
第二次審査は小論文、面接試験によって選考している。
【点検・評価
長所と問題点】
例年この制度を利用して多数の社会人が入学しており、入学後も積極的で意欲的な研究
活動を繰り広げている。特に、後期課程には他大学の教員および研究員など高度な専門知
識を有する専門家が多数入学しており今後も積極的に受け入れる方策を検討したい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
679
社会人は、専従の学生と異なり専門的な知識では十分な能力を持っているが、選抜する
方法についてはより多方面の人材を受け入れる方法を検討するとともに、入学試験の春期
実施や入学時期の多様化も含め検討したい。
4−(6)
定員管理
【現状の説明】
入学定員は博士前期課程 40 名と博士後期課程 10 名であり、それぞれ毎年これを大幅に
上回る入学者を確保してきた。選抜方法については、入試制度の改善を行っており選抜方
法の適切化を図ってきた。
(4−(1)
【点検・評価
学生募集方法・入学者選抜方法
参照)
長所と問題点】
現状では、多様なニーズを持った受験生から本研究科にふさわしい学生を選抜している
が、対応する教員の数が限られるためニーズを吸いあげる方法を充実させる必要があるこ
とと、より一層の広報活動が必要であると考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究成果や教育内容の広報活動にもより一層力を入れ、今後の入試ばかりでなく他機関
との交流については諸々の方策を検討したい。
5.教育研究のための人的体制
5−(1)
教員組織
【現状の説明】
大学院においては、研究指導教員の確保が問題となるが、本研究科においては
前期課程
27 名
後期課程
20 名
の教員が指導にあたっている。研究科の趣旨から幅広い分野をカバーしなくてはならない
がその分は、多様な客員教授、兼任講師等でカバーしている。
【点検・評価
長所と問題点】
研究指導に必要な有資格の教員数は確保されているが、将来大学院教育研究の質的向上
を図る上において、大学院専任で学部を兼担の教員と、学部専任でとして大学院兼担の教
員とを適切に組み合わせた柔軟な教員組織が検討されるべきである。特に、本研究科は、
学部と大学院の主たる場所が異なるため担当教員に多大な負担をかけるとともに、大学院
専任教員が1名も存在しないため大学院学生との連携が十分にとれているとは言い難い面
があり、今後改善の必要があると考えられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部担当の教員をさらに大学院を担当していただき人数と分野の拡大を図ることが急務
であると考える。また、年度により期限付きで学部専任から大学院専任の教員を市ヶ谷キ
ャンパスに配置する方法を検討すべきである。
5−(2)
研究支援職員
【現状の説明】
大学院学生の教育研究活動へのアドバイスができる能力・学力を有するTAが少数存在
680 第3章 大学院
するが現状では特定の授業のサポートを行っている。専従の研究支援職員は存在しない。
【点検・評価
長所と問題点】
TAは、社会人が多く専従でないため本来の趣旨である研究指導の補助については十分
機能しているとは言い難い。また、大学院が市ヶ谷キャンパスであるために常時教育研究
指導ができる体制が整備されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来は、後期課程の学生やオーバードクターの効率的な活用のための制度を検討すると
ともに情報や文献などの専門家を確保することも必要であると考える。
5−(3)
教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続
【現状の説明】
現在は、大学院に人事権がないため教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続は原則
として学部の制度に従って行われているが、大学院授業担当者については大学院任用委員
会が学部と連携をとりながら当たっている。
【点検・評価
長所と問題点】
人事権が学部にあるため新規採用や昇格などの人事案件は大学院の発議により学部の了
承を得る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院専任の教員を採用し大学院の諸問題を専門的に担当する制度を作るべきである。
5−(4)
教育研究活動の評価
【現状の説明】
教育活動については、カリキュラム委員会等で検討を加えている。研究活動については、
総合セミナーⅡにおいて複数の教員が共同で研究指導にあたることでお互いの研究活動を
間接的に評価している。
【点検・評価
長所と問題点】
研究科の趣旨から教員の多様な学問分野の評価を客観化することが難しいが、各委員会
や研究科委員会でさまざまな議論が行われている。また、セミナーや日本論などの授業を
通じて間接的な活動の評価をする機会が存在している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学生・教員を問わず教育研究活動の情報をオープンにし、少なくとも活動のディレクト
リー情報は早急に公開する必要があると考える。
5−(5)
大学院と他の教育研究組織・機関等との関係
【現状の説明】
政策文化総合研究所や学内の他の研究所とは、教員の研究員・大学院学生の準研究員と
しての活動などでの連携が見られる。その他は、内外とも個人レベルでの交流であるが活
発な交流が行われている。また、大学が連携している諸機関とは交流を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
学内の研究所等研究機関の詳細が教員・大学院学生に十分周知されているとは言い難く、
681
多様なニーズを学内・学外の諸機関と有機的に連携する仕組みが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在大学・個人レベルで行われている国内外の教育研究機関との連携の情報をオープン
にする仕組みが必要である。
6.研究活動と研究体制の整備
6−(1)
研究活動
6−(1)− ①
研究活動
【現状の説明】
研究活動は、さまざまな授業を通じて外部機関との連携により行われている。特に、総
合政策フォーラムでは、成果を出版するなど成果を積極的に外部に公開している。また、
外部の担当者が授業を行いその課程で研究活動が個別に行われている場合も見受けられる。
【点検・評価
長所と問題点】
現状では、研究科の性格から教員の多くがさまざまな分野にまたがっているため、研究
活動は分野が近い教員などの共同研究や個別の教員が主体となって行っている。共同研究
は、さまざまな分野で行われているが、個人的な活動が中心で組織的な活動には至ってい
ない。研究活動を行う上での支援要員のサポートが皆無なため、教員の研究活動はよりサ
ポートの充実している外部の機関・学会等に参加することで行われている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現状では、研究科内で外部の研究者の参加による各分野をまたぐような学際的な研究会
を積極的に開く必要がある。また、国際的なシンポジウム、ワークショップの開催なども
行う必要があるとともに、主体的に研究成果を公表する仕組みを確立する必要があると考
えられる。
6−(1)− ②
教育研究組織単位間の研究上の連携
【現状の説明】
総合政策学部、政策文化総合研究所など直接関係する教育研究組織ばかりでなく学内他
学部、他研究所との連携ばかりでなく、学外研究組織との密接な連携が行われている。ま
た、国際交流センター・情報研究教育センター・図書館等の保有する研究上のリソースも
活用されている。
【点検・評価
長所と問題点】
学部・研究所との連携、学内の他研究所との研究上の連携は緊密であるが、今後他の教
育研究組織単位との相互連関性を含め、幅広い連携を求めていくことが必要であり組織レ
ベルでの連携の方法を模索すべきである。特に情報化社会に向けてマルチメディア関連研
究システム等の万全の整備を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内全体の情報環境の整備とネットワーク環境の充実は緊急の課題である。他の研究組
織との連携も相互連携もこれによってより高度化が期待できる。
682 第3章 大学院
6−(2)
研究体制の整備
6−(2)− ①
経常的な研究条件の整備
【現状の説明】
教員の研究室は多摩キャンパスにおいて確保されているが大学院の主体である市ヶ谷キ
ャンパスでは、共同利用研究室が3室あるのみで十分な設備とはいえない。基本的備品は
ほぼ整えられており、近年情報環境の整備も個人の努力で徐々に進んでいる。
教員の研究活動支援のためには、基礎研究費、特定課題研究費が支給されているが、こ
れは学部での話で大学院としては特別な研究支援策は存在しないと言ってよい。
2001 年度からは、共同研究費助成制度が開始された。これは、学部、大学院、研究所お
よび学外研究機関との研究交流を促進し教育研究水準の一層の向上を図るため創設された
ものである。
なお、学外の研究費助成として、科学研究費補助金・私立大学等研究設備整備費等補助
金・私立学校施設整備費補助金・学術研究振興資金さらに各種団体からの補助金等も教員
の研究促進に役立っている。
【点検・評価
長所と問題点】
教員は、学内外のさまざまな研究費補助を受けることで専門分野の研究に従事するとと
もに積極的に学外の研究組織や連携システムに参加し、学内でできない研究に多角的に参
加している。学部に存在する特別研究期間制度や在外研究制度は、研究への専念という点
で教員の研究活動に大きな役割を果たしているが、大学院の研究指導には重大な支障をき
たす場合があり、その間その教員の担当分野を肩代わりする方法を行っている。学際的共
同研究についても支援制度が発足し、研究組織の弾力化による研究の一層の進展が望まれ
る。
教員が高水準の研究を遂行できる研究条件は個人の努力である程度整備されている。た
だし、学問のグローバル化・学際化・情報化という状況に量的質的に迅速に対応できてな
い点は早急な改善が望まれる。また、教員の研究時間の確保に関して言えば、現行の特別
研究期間制度や在外研究制度のほかに研究専念期間が皆無であり、セメスター制による授
業の柔軟な運用などにより特別な考慮が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教員の研究時間の確保に関して、サバティカル制度等の導入も視野に入れ検討すべきで
あろう。学内の他組織との水平連携の仕組みの整備や学内で保有する研究上のリソースも
有効に活用していく必要がある。
7.施設・設備および情報インフラ
7−(1)
施設・設備
【現状の説明】
大学院の主体が市ヶ谷キャンパスであり、多摩キャンパスとの有機的な連携については
数多くの問題が指摘されている。
1)学生研究室(自習室)
現在、多摩の他研究科では学生が自主的にスペースの割当てを行い利用しているが本研
究科では、博士前期、後期課程とも市ヶ谷キャンパスでの共同利用のキャレル方式であり、
683
自分の利用できる専用のスペースは割り当てられていないのが現状で大学院学生からは強
い不満が出されている。
2)講義・演習室
カリキュラム編成の都合で、市ヶ谷キャンパスでは 50 科目、多摩キャンパスでは5科目
が開講されている。教員と大学院学生の活動の場が異なるため、夜間・昼間といった工夫
とともに、土曜日の活用や日曜日、祝祭日の研究や研究指導への活用といった表に現れな
い体制を強いられており、教員と大学院学生の市ヶ谷キャンパスにおける活動の場所とサ
ポート体制の確保が望まれる。市ヶ谷キャンパスでは、夜間の利用を中心として講義が行
われており演習・講義実施上十分とはいえない。さらに、多摩キャンパスと市ヶ谷キャン
パスあるいは、他大学・他研究機関を遠隔授業を可能にするシステムで結び、同時双方向
的な大学院講義を行うための遠隔授業教室も3室設置しているが、レベルはテレビ会議シ
ステム程度で時代遅れといわざるを得ない。
3)研究施設・設備
市ヶ谷キャンパスにおいては、夜間と土曜日における授業・演習が主なものとなるため
に、特に教員と大学院学生との間のコミュニケーションの場を拡充することが重要である。
そのため、適宜柔軟な研究・指導体制がとれるように努力しているが、施設と設備が物理
的に不足しており、多摩キャンパスを緊急・補完的に使っており多大な負担を強いられて
いる。
4)研究図書
一般専門図書は、主として多摩キャンパスの中央図書館、総合政策学部図書室を利用で
きるが、講義研究指導の主体が市ヶ谷キャンパスのため事実上ゼロに等しく大学院学生は、
他大学等の図書館や、社会人では所属している組織の施設を利用しているが十分とはいえ
ない。教員も研究室が多摩キャンパスにあるためその都度文献や本などを持って移動せざ
るをえず効率的でない。むしろ多摩キャンパスで研究図書等の関連情報をデジタル化した
ものを整備し、ネットワークにより効率的に利用する手段の拡充が必要である。そのため、
市ヶ谷キャンパスにおいては文献情報検索(CHOIS,中央大学オンライン目録)がシステムと
して整備されているが、所在情報しか把握できず取り寄せるのに時間がかかり十分に機能
していない。また、検索文献が研究所や図書館等で探し出せない場合には、中央大学のレ
ファレンス・ルームを介して、他機関への複写依頼が行えるなどの文献収集のサポートを
行っているが時間がかかり電子化などによる迅速化が望まれる。
【点検・評価
長所と問題点】
学部のキャンパスと大学院のキャンパスが異なるため教員の研究室の問題や学部学生と
大学院学生との交流の問題など物理的な設備の改善は解決し得ない問題点を抱えている。
しかし、社会人学生や講師にとっては都心にある市ヶ谷キャンパスが便利であることは否
定できない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
図書の充実、大学院学生の研究室の問題などハードの面での改善を急ぐとともに教員研
究室の運用などソフトの面での改善・改革が望まれる。
684 第3章 大学院
7−(2)
情報インフラ
【現状の説明】
情報インフラの現状は、パソコンがネットにつながった設備が存在するだけで大学院の
研究に必要なアプリケーションの提供、データマネージメントシステム、利用のための情
報の提供などがなく、ハードウェアがただ存在するだけの状態である。電子政府やネット
ワーク社会が実現しようとしている現状での総合政策研究科のインフラとしては不十分で
あるばかりでなく、大型電子計算機時代の考え方を改めない大学側の体制にも問題がある
とともに、大多数の大学院学生の研究が外部設備を利用せざるを得ない現状は十分反省す
べき点であると考える。
【点検・評価
長所と問題点】
現状は、キャンパス内でネットに接続された端末(パソコン)が利用できる程度で、研
究活動に必要なアプリケーションや研究活動に必要なデータベースのサポートなどがなさ
れていない。また、社会人にとっては外部情報環境との連携が不十分であるとの指摘が多
く見受けられる。また、情報インフラそのものも日々刻々進歩しており、それ自身が研究
対象であるにもかかわらず、事務管理システムのような運用体制では学内の研究成果をみ
すみす外部の成果とせざるを得ない点に問題があると考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は、情報インフラ自身が研究対象であると同時にハード・ソフト面での充実ととも
に運用形態の在り方、研究に必要なオープンな環境の構築と外部システムとの連携の強化
が必要であると考える。
8.社会貢献
8−(1)
社会への貢献
【現状の説明】
セミナーなどの授業を公開し外部に成果を出版することにより社会に貢献するとともに、
社会人学生を通じて間接的に社会のさまざまな活動に貢献している。
【点検・評価
長所と問題点】
授業の公開など評価すべき面もあるが、現在個人的に行われている他機関との共同研究
等を通じての貢献を研究科として組織的に行うことが必要であると考える。また、現実の
政策への参加が教員、大学院学生個人のレベルでは行われているが研究科として組織的な
体制を構築する必要があると考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
後期課程の社会人学生などとも連携し既存の学内の仕組みを有機的に連携し社会貢献す
る仕組みが必要であると考えられる。社会貢献の内容も多様化しており、個人・組織を問
わず中央大学大学院として主体的に連携できることを模索すべきである。特に、大学院内
部に蓄積された膨大な量の知識の公開は急務であると考える。
9.管理運営
9−(1)
大学院の管理運営体制
【現状の説明】
685
研究科委員会は、博士前期課程委員会および博士後期課程委員会からなり各々の構成員
をもって構成する。本委員会は、学生の入学、転学、退学その他学生の身分の得失および
変更、試験、学生の指導および賞罰、その他研究科の教育研究の運営に関する事項につい
て審議、決定する組織である。
本委員会は、構成員の2分の1以上をもって成立し、出席者の2分の1以上をもって議
決される。
研究科委員長は、研究科委員会が博士前期課程委員会、または博士後期課程委員会の構
成員の中から選出して、学長が任命し、その任期は2年である。研究科委員会は、研究科
委員長を議長として運営される。
本研究科委員長は大学院研究科委員長会議に出席し、本研究科の審議・決定事項を報告
し、大学院全体の審議・決定に参加している。研究科委員会構成員は、大学院の各種委員
会委員となり、大学院全体にかかわる事項の審議・答申および運営の任に当たっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究科設置以来の組織、カリキュラム等における数多くの改革・改善の実施を見ても
明らかなように、本研究科委員会および各種専門委員会の運営は、メンバー全体の協力体
制によって行われており、本研究科の教育の改革、水準の向上、教育研究活動の活性化を
図る上で有効に機能していると評価される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学部組織とともに大学院研究科の組織も、時代の急激な変容に沿うために今後も引き続
き改革の努力を続けなければならない。この点においてこれまでの本研究科の管理、運営
は概ね良好に行われているが、学部組織との連携の強化、他研究科との協力体制の強化、
他大学、研究期間等の連携について努力する必要があると思われる。
10.事務組織
【現状の説明】
「法学研究科に同じ」
【点検・評価
長所と問題点】
「法学研究科に同じ」
【将来の改善・改革に向けた方策】
「法学研究科に同じ」
11.自己点検・評価等
11−(1)
自己点検・評価
【現状の説明】
教員の業績は、本学が毎年発行する『学事記録』で公表されるとともに大学院案内パン
フレットなどでも公表している。また、研究科委員会や各委員会において研究科の課題な
どについて積極的に討議している。特にカリキュラム委員会、専門大学院委員会では、現
状、問題点、将来構想等について積極的な議論がなされている。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度をもって、博士後期課程が完成年次を迎えることから次年度の改革へ向けて積
686 第3章 大学院
極的な点検、評価活動が行われており今までに行われた改善改革は評価されるべきである。
多様な学問領域での一定の評価基準に基づく恒常的な自己点検・評価を行うシステムは確
立していない。今後は学問領域を超えた学際分野における評価体制の確立が望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
完成年次後は、多様な学問領域を包含するとともに現状の学問領域相互間の協調および
新しい学問領域の生成に向けた積極的な方策が望まれる。さらに、評価制度としては事前
評価、実施評価、事後評価の相互的な評価制度が政策評価制度などで常識化している中で
現在のような評価システムでは不十分と考え、間接評価も含めて本研究科で新しい評価制
度の研究も積極的に行われており成果も外部に公表されつつある。他に先駆けてこれらの
成果を、評価システムとして実践していくシステムの構築が望まれる。
11−(2)
自己点検・評価に対する学外者による検証
【現状の説明】
本研究科では、セミナーⅡに見られるように学外研究者等との積極的な交流を通じて学
外者との教育研究活動を展開し成果については積極的に外部公開している。教育研究内容
についても半期のテーマごとに外部者とのディスカッションや共同研究を通じて行ってい
る。
【点検・評価
長所と問題点】
学問領域が広いため外部機関からの評価を受けるための客観的な点検の方法が確立して
おらず、分野ごとの基準を調整しながら議論を行っているが、文化領域と理工系では学問
そのものの成り立ちが異なるためISOのような間接監査の仕組みの確立が望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
完成年次にあたり博士学位の審査が今後始まるが、その際積極的に外部研究者の審査へ
の参加を招請し、それにより外部評価に結びつける方向で動いている。内部における検討
と外部との連携を統合して、間接的な評価基準に基づく自己点検・評価を行うシステムを
確立していくことを目指す。
11−(3)
評価結果の公表
【現状の説明】
教育研究業績における自己点検・評価を公表するとともに、組織に関する評価は、研究
科委員会等において積極的に公開されているが入試制度など課題別の場合が多く包括的な
議論にはなっていない。
【点検・評価
長所と問題点】
完成年次へ向けて点検・評価は厳密に実施されてきたが、研究科委員会等では、問題が
あった場合、検討から改革の実行まで特定の問題については方法が確立しつつあり、授業、
入試制度や論文審査方法など多くの改革が実現した。しかし、外部からの評価は、完成年
次までは、文部科学省から受けているが、今後外部の客観的な評価のために研究科の活動
の実態を正確に外部に公表するための体制作りが急務であると考える。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究科のように学際領域の学問の確立を目指し社会人など外部からの学生を受け入れ
687
ている研究科での自己点検・評価のための客観的な基準と外部からの監査を受ける新しい
方法論については、博士後期課程委員会で研究中であり間接的な評価体制が早期に実施さ
れることが望まれる。
688 第3章 大学院
専門大学院
1998 年 10 月に公表された大学審議会の提言「21 世紀の大学像と今後の改革方策につ
いて」は、21 世紀の大学院に期待される役割の一つとして「高度専門職業人の養成機能
および社会人の再学習機能の強化」を掲げ、特定の分野におけるプロフェッショナルの
養成に特化した新しいタイプの大学院(特化大学院または専門大学院)の構想を打ち出
した。これを受けて、本学理事会は、翌年5月 17 日付の「21 世紀における本学の総合的
な改革に関する理事会基本方針」において、特化大学院の開設を大学院改革の最重要課
題の一つに取り上げ、同年7月には、その具体化に向けて「高度専門職業人養成に特化し
た実践的教育を行うことを目的とする大学院に関する構想推進委員会」を発足させた。こ
れとほぼ並行して、特化大学院の機能目的に相応しい施設を都心に確保するために、市
ヶ谷キャンパスの取得が決定されている。大学審議会の問題提起に対して、これほど迅
速な対応が可能であったのは、審議会答申に先立つ 1998 年3月に、総合企画委員会が理
事長に提出した「本学の総合的な将来構想及びその実現のために必要な具体的諸施策」
において、「実学の伝統」の強化が掲げられていたことと無縁ではない。
「高度専門職業人養成に特化した実践的教育を行うことを目的とする大学院に関する構
想推進委員会」は、本学が専門大学院を開設すべき分野について、集中的な審議を行い、
理事会が「基本方針」で例示したロー・スクール、ビジネス・スクール、アカウンティ
ング・スクールおよびポリシー・スクールの中で、本学が数多の実務家を輩出してきた
伝統と実績を有する法律および会計の分野を最優先課題として取り組む方針を固めると
ともに、両分野における専門大学院の具体的内容について専門委員会による検討を開始
した。
このようにして、2000 年 12 月には、まず「国際会計研究科」の設置構想が理事会にお
いて承認され、開設準備室が組織された(同研究科については、すでに文部科学省の設
置認可を受け、2002 年4月の開設に向けて、着々と準備が進められている。)。また、法
律の分野では、
「法科専門大学院(仮称)構想」が専門委員会による精力的な検討が進め
られており、2001 年度内にも開設準備室が発足する予定である。
これらの専門大学院は、既存大学院における新アカデミズムの実現と相俟って、本学
の大学院教育の内実を飛躍的に高める可能性を持つことは疑いがない。しかしながら、
その一方において、専門大学院が既存大学院の果たすべき役割と調和しながら、所期の
目的を十分に達成するためには、多くの克服すべき課題が残されていることもまた否定
できない。特に、今後の大学院における教員組織の在り方や学部教育との関係について
は、さらなる検討が必要である。
689
第4章
研究所
本章では、本学に設置されている各研究所および研究開発機
構が行った点検・評価の結果を報告するが、第1章「中央大学
の理念と教育研究組織」の「教育研究組織における改革課題」
で述べた研究所全体に共通する課題を再確認するとともに、そ
の改革の方向性を総論的に記述する。
691
研究所改革の方向性
(1)情報化への対応
① 研究所のイントラネットワークを整備し、研究員に対する各種委員会の審議事項や研
究員への報告事項などの情報提供を緊密に行い、研究所活動に対する関心を高める。また、
学術情報の共同利用を促進し、重複投資のむだを省く。
② インターネット(ウェブサイト、eメール)を通じて、研究所内外との情報共有・情報
交換をより密接にし、研究所活動の活性化を図るとともに、研究成果の社会還元策を一層
改善する。
a. 国内外からの学術情報の受信体制の強化
b. 国内外へのプロジェクトの活動状況および成果の発信体制の強化
c. 電子媒体による学術情報の収集とサービス提供への対応強化
(2)学内外との連携強化および国際化への対応
① 現在の国際交流は欧米諸国を中心にしているが、非欧米諸国との提携や共同プロジェ
クトへの取り組みを促進することが重要である。
② 各研究所が協同して、留学生向けの日本事情コース(社会、法律、文化、経済等)を開
発し、学部・大学院に提供する。これによって、学部や大学院が単独では不可能な多様な
教育プログラムを提供することが可能になる。
(3)学部、大学院との連携強化
① 大学院学生に対する指導体制を強化するために、研究所のプロジェクトと連携を深め
ることによって、プロジェクトに参加する学内外の研究者による集団指導体制をつくる。
それによって、1人の指導教授による指導に比して、より広範で多様な評価と批判を受け
ることができ、緊張感のある研究ができるようにする。大学院学生の研究水準の向上は、
優秀なTAなどによるきめ細かな学部教育に還元され、学部の活性化と大学院進学者の向
上につながる。また、研究所の研究会に対する関心も高まると期待される。
② 大学院のRA制度をさらに充実させることにより、大学院学生に共同研究への参加する
枠の拡大を図り、研究活動の活性化を促す。
③ 都心キャンパスでの大学院の拡充にともない、研究所の機能を都心に展開することが必
要である。これによって、大学院や他機関との連携を強化できる。
(4)研究時間と研究会への参加の保証
教育研究機関としての大学に設置された研究所の構造的問題として、研究時間の絶対的
不足があげられる。これを緩和し、さらには研究会への参加時間を確保するために、学部、
大学院、研究所が協同して授業や各種委員会開催の日程調整をする必要があろう。
(5)産学連携と外部資金導入の促進
受託研究の拡充、産学連携の促進、TLOの取り組み等によって、外部資金の導入を図
り、学費収入に依存しない研究資金の確保に努める。
(6)専任研究員制の検討
① 現在は、研究開発機構を除き、いずれの研究所も専任研究員制度を設けていないが、外
部資金導入の一環として専任研究員制を設けることを検討する。
692 第4章 研究所
② 専任教員が一定期間、学部、大学院から研究所の専任研究員に移籍できる制度の検討
を行う。
(7)研究成果の社会還元
① 公開研究会や公開講演会への参加を容易にするために、市ヶ谷キャンパスを積極的に
活用することが必要であろう。
② インターネットを利用した成果の還元をさらに推進することが望ましい。
③ 研究者向けの研究会等に加えて、複数の研究所が共同して、タイムリーな問題について
市民講座的な平易な講演会を開催することによって、成果の還元を図ることを推進すべき
である。
(8)内部および外部による評価制度の導入
① プロジェクトの成果および論文に対する自己評価制度の導入を検討する。
② 外部機関による評価制度の導入を検討する。
(9)研究所活動を支援する専門的事務スタッフの拡充
研究所活動の多様化、高度化に対応できる専門性を備えた事務スタッフの採用が必要で
ある。
693
日本比較法研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
日本比較法研究所の創設は、1948 年 12 月1日、当時の財団法人(のちの学校法人)中
央大学が杉山直治郎を所長に委嘱する辞令を発したときに遡る。本研究所が、中央大学の
設置したものであるにもかかわらず、日本比較法研究所という名称を有するのは、一大学
の独占的施設ではなく、
「日本の、東洋の、ひいては世界の」共同施設として、比較法学の
進歩に寄与する研究所たらんとする理念を表していたからである。
1963 年、「日本比較法研究所規則」の改正後も、世界法の樹立という創設時からの理念
を受け継ぎ、世界の著名な研究所とともにその理念の実現を目指す東洋における比較法研
究のセンターとしての性格を維持したのである。現行の同規則では、
「本所は、比較法学の
組織的研究を通じて人類連帯社会の完成に貢献することを目的とする」
(第2条)と定めた
うえで、本研究所の事業を次のように列挙している(第3条)。
1. 比較法学の研究及び調査
2. 内外主要施設との連絡
3. 法学者の国際交流に伴う事業
4. 比較法資料の蒐集、整備ならびに保管
5. 研究会、講演会等の開催、その他研究及び調査の成果の発表
6. 比較法専門家の養成
7. 研究及び調査の受託
8. 以上のほか本所の目的達成上必要と認める事業
ここに列挙された事業(特に、1∼6)は、比較法研究所を名乗る以上、当然になすべき
事柄であって、どれも欠くことのできないものばかりである。研究所は、これらを、研究
連絡部、国際協力部、資料部および雑誌部の4部体制で遂行しており、これらの事業目的
は4部の活動を通して実現されているといえよう。
【点検・評価】
日本比較法研究所は、その創設以来、すでに 50 年以上経過したが、その理念・目的は、
学問の研究と教育を通して世界の平和と人類の福祉に貢献することを目指す、日本国憲法
や教育基本法と共通するものであって、この理念・目的自体が古びてしまうことはあり得
ない。それどころか、グローバル化やボーダーレス化が叫ばれる現在においてこそ、なお
一層の充実・発展が望まれるところである。とするならば、点検・評価の基準も、研究所
の創設以来の理念・目的を再点検することにあるのではなく、理念・目的がどの程度実現
できているかということでなければならない。
【長所と問題点】
そのような観点からすると、研究所の活動は、おおむねよくやっていると評価できよう。
所員の研究活動は、個人による研究はもちろん、30 前後の共同研究グループが、多彩な活
動を行っている。その成果は、
『研究叢書』、
『翻訳叢書』、
『資料叢書』として刊行されるほ
か、年4回発行の『比較法雑誌』に掲載される。海外の研究機関との交流も活発で、交流
694 第4章 研究所
協定のある大学との相互派遣だけではなく、毎年かなりの数の研究者が研究所を訪問し、
セミナーや講演会を行っている。研究所は 10 年ごとに記念論文集を刊行しているが、40
周年、50 周年の論文集への外国からの寄稿者数が所員を上回っていることをみても、研究
所の国際的な知名度が上昇していることがうかがわれる。国内においても、出版活動はも
とより、シンポジウムや講演会の開催により、広く社会に研究成果を還元しているといえ
るだろう。こうしてみれば、十分であるかどうかには異論もあろうが、研究所の理念・目
的を相当程度達成していると評価することができよう。
とはいえ、問題点もあるのは当然である。従来の活動に欠けているもの、あるいは一層
充実・深化させるべきものとして、次の諸点が指摘されている。
①所員が、学部、大学院、通信教育課程などと兼務しているため、研究時間が大きく制約
されているという指摘は、ずっと以前から繰り返されてきたが、予算をともなう抜本的な
改正が必要であるため、全く手つかずのまま残されている。研究時間は、研究者が個人と
しての時間を犠牲にすることで、かろうじて確保されているといえよう。
②また、研究活動が多彩であるとはいっても、それは研究テーマが所員個人の選択に委ね
られているからであって、これまで、研究所全体としての組織的研究は、必ずしも十分で
はなかった。
③さらに、国際交流については、派遣と比較すると、外国人研究者の受け入れが圧倒的で
あり、交流が片面的であるとの指摘があったが、これも、これまでの研究が外国法の吸収
に偏り、日本の法制度・法文化を外国に紹介するという点で不十分であるという点は首肯
しなければならない(ただし、これは、本研究所だけではなく、日本の比較法研究全般に
あてはまる傾向である)。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これらの問題点のうち、①については、本研究所だけで解決は難しいが、一つの可能性
としては、研究基金(誌友)制度による資金を有効活用し、専従研究所員制度を設けるこ
とが考えられる。②③については、現在進行中の日本法紹介事業が注目される。日本法紹
介プロジェクトは、本研究所がはるか以前から計画しながら実現をみてこなかった。しか
しながら、例えば後述する「日本の法文化と法システム」プロジェクトは、すでに準備期
間を過ぎて実現に向けて着々と進行中であるが、研究所総体による組織的研究で、かつ発
信型の比較法研究を目指しており、従来の問題点②③を克服するものとして、その成果が
期待されるところである。
695
2.研究組織
【現状の説明】
(1)組織
研究所員会(57)
商議員会 (11)
(9)研究基金委員会
所
長
事務室長
情報環境委員会 (5)
常任幹事会 (5)
研究連絡部
国際協力部
(16)
(12)
資料部
雑誌部
(20)
個人研究
日本法紹介事業
(9)
〔2グループ〕
編集委員会 (9)
共同研究
シンポ企画
事務室
研究連絡部担当
国際協力部担当
専任職員4名、嘱託職員1名
①
資料部担当
雑誌部担当
*人数は 2001 年度4月現在
部会
本研究所の研究活動に携わる各機関のうち、とりわけ研究所事業の実施機関として、研
究連絡部・国際協力部・資料部・雑誌部の4部が置かれている。各部会は、担当常任幹事
のもとで活動しており、所員(57 名)はいずれかの部会に所属しなければならないものと
されている。各部会の担当業務は、以下のとおりである。
すなわち、研究連絡部(16 名)は、研究所員が個人、または共同研究グループを組織し
て行う研究活動を支援し、その成果は『研究叢書』、『翻訳叢書』および『資料叢書』とし
て刊行されている。国際協力部(12 名)は、所員を国外の大学その他の機関に派遣し、長
期または短期の訪問研究者を受け入れるなどの人事交流を計画・実施する。資料部(20 名)
は、法令集・判例集をはじめ、研究上必要な資料を選定・購入する。そして雑誌部(9名)
は、研究所の機関誌である『比較法雑誌』を、年4回、定期的に発行し、所員に研究成果
の発表の場を提供している。
これらの各業務を具体化し、実施するにあたって、事務室の担当職員によるサポート体
制が整えられている。
696 第4章 研究所
②
共同研究グループ
現在置かれている共同研究グループとその研究テーマおよび代表者等については、
「資料
編(1)」を参照のこと。
③
日本法紹介事業
本研究所の研究事業として、日本法紹介事業を実施するため2つの研究プロジェクトが
編成され、2001 年度から活動を開始している。この点の詳細は後記「3−(1)研究活動」
を参照のこと。
(2)構成員
①
名誉所長
名誉所長は、過去に所長であった者の中から、研究所員会が推薦し、理事会の承認を経
て総長が委嘱する(同規則 12 条)。現在、名誉所長は置かれていない。
②
顧問
顧問は、比較法学に関係のある内外の権威者の中から、研究所員会の議を経て、総長が
委嘱する(同規則 13 条)。現在、外国人研究者1名が顧問になっている。
③
名誉研究所員
名誉研究所員は、過去に所員であった者の中から、研究所員会の議を経て、所長が委嘱
する(同規則 14 条)。名誉研究所員は 15 名である。
④
研究所員
研究所員は、比較法学ならびにこれと密接な関連のある研究に従事する本学の教授・助
教授・専任講師または助手でなければならない(同規則7条)。所員数は 57 名である。
⑤
助手
研究所員の研究および調査を補佐するために助手が置かれる(同規則 10 条1・2項)。
現在、助手は置かれていない。
⑥
客員研究所員
客員研究所員は、研究所員と同等もしくはそれ以上の研究歴または研究能力を持つ者が
嘱任される(同規則9条2項)。客員研究所員は、研究所員会における出席・発言権を有し
ている(同4項)。客員研究所員は 20 名である。
⑦
嘱託研究所員
嘱託研究所員も、研究および調査に参加することができる(同規則 11 条)
。嘱託研究所
員は 181 名である。
⑧
その他
共同研究グループには、以上の他、所員以外の本学専任教員 12 名が特別参加している。
また、これと並んで 60 名の本学大学院学生が参加している。
【点検・評価
長所と問題点】
前記のとおり、研究所員は、比較法学ならびにこれと密接な関連のある研究に従事する
本学の教員とされており、法学部所属の教員に限定されていない。それゆえ、比較法研究
に携わる教員であれば、所属学部に限定されず、所員として研究所の組織に参加すること
ができる。現在も、法学部以外の学部に所属する教員5名が研究所員として研究・調査活
動を行っている。このことによって幅広い研究活動が展開されている。
客員研究所員は、研究所員会に出席し意見を述べることができることから、本学以外の
697
所属メンバーからの直接的意見を研究所の運営および活動に反映することが可能とされて
いる。なお、客員研究所員として「研究所員と同等もしくはそれ以上の研究歴または研究
能力を持つ者」であることが求められている。一方、同様に研究活動に携わる者として嘱
任される嘱託研究所員については、前記のような要件は設けられていない。したがって、
同等のキャリアがあると思われる研究者であっても、客員研究所員となる者と嘱託研究所
員となる者とがあるが、研究活動の面で区別はない。
各共同研究グループの所員以外のメンバーとして、前記客員研究所員のほか、本学教員、
嘱託研究所員および本学の大学院学生が参加している。共同研究グループの員数は特に制
限されていない。また、大学院学生についても、博士課程後期の者に限定している訳でも
ない。この点、博士課程後期の者に限定して共同研究参加を認める方法もあるが、本研究
所は、共同研究活動を通じて広く研究の場を提供しようとするとともに、研究所と大学院
との連携を図ることを考慮し、そのような限定をしていない。これらのことから各グルー
プの設定したテーマに応じて、多様なグループ構成が可能とされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所専任助手ないし専任研究員制度の可能性は、従来からも常任幹事会その他におい
て議論されてきた経緯がある。今後もその可能性について継続的に考慮すべきである。
研究所の研究活動がさらに発展することと相応して、それをサポートする事務室体制の
整備、とりわけ職員の増員を検討すべきである。
共同研究グループへの助成は、現在は資料購入に限定されているが、この使用範囲の拡
大を実現すべきである。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)研究活動への取り組み
本研究所所員は、『比較法雑誌』や『研究叢書』等に各自の研究成果を公表してきた。
この個人研究とならんで、共同研究も積極的に推進されている。現在、「資料編(1)」
のように 31 の共同研究が行われている。
これらの共同研究とは別に、現在、2つの日本法紹介事業が進行している。1 つは、本
研究所自体が企画する「日本の法文化と法システム」プロジェクトである。このプロジ
ェクトは、西洋・非西洋地域を名宛人に、日本法全般についての機能的・法文化的比較
研究を行うという「発信型」の比較法学の試みである。同プロジェクトは、2002 年4月
に「日本の法文化」と題するシンポジウムを日本比較法研究所第4回シンポジウムとして
開き、最終的に“Japanese Legal System and Legal Culture: Cases, Materials and Text”
と題する英文の書物を刊行する予定である。同プロジェクトの代表は木下毅所長、参加
所員は約 30 名である。
もう 1 つの事業は、
「『日本法大全』
(仮称)の編纂」プロジェクトである。これは本大
学の協定校である中国政法大学比較法研究所の研究者との国際共同研究であり、現行日
本法の大系を法史学・比較法学・解釈法学の見地から俯瞰する概説書を編纂し、最終的
には、中国でこの書の中国語版を刊行することを目指している。なお、中国文原稿が完
698 第4章 研究所
成した段階で国際交流基金に出版助成を申請する予定である。同プロジェクトの代表は
眞田芳憲所員、参加所員は6名である。
2)刊行物(資料編(2)(3)(4)参照)
研究所の活動を広く公表するとともに、所員の研究を発表する場として重要なのが、研
究所の機関誌『比較法雑誌』である。『比較法雑誌』は、1951 年に創刊されたものである
が、現在は年4回定期に発行され、現在、第 34 巻4号(通巻 115 号)までが刊行されてい
る。
所員の個人または共同研究の成果を発表するものとして重要なのが、研究所の叢書であ
る。2000 年度までに、
『研究叢書』54 冊、
『翻訳叢書』43 冊、
『資料叢書』7冊が刊行され
ており、学術的な出版が次第に困難になりつつある昨今、これらの叢書はきわめて貴重な
活動となっている。
研究所は、設立爾来 10 年ごとに記念論文集を刊行してきた。最近の2巻だけをあげると、
1990 年に 40 周年記念論文集“Conflict and Integration : Comparative Law in the World
Today”を、1998 年に 50 周年記念論文集“Toward Comparative Law in the 21st Century”
を刊行した。前者は全 48 論文(外国からの寄稿 38 論文)、後者は全 77 論文(外国からの
寄稿 53 論文)を収録した大冊である。
そのほかにも、後述の本研究所主催シンポジウムが『研究叢書』(『比較法の方法と今日
的課題』および『国際社会における法の普遍性と固有性』
)や『比較法雑誌』
(第 30 巻臨時
増刊号『悪質商法など消費者被害をめぐる法的諸問題』)として、また、50 周年記念講演
会の記録は、
『多文化世界における比較法』として刊行された。なお、50 周年を記念して、
研究所の歴史を全体として記述・点検する『日本比較法研究所 50 年史』
が刊行されている。
最後に、研究基金を寄付した誌友に対する広報誌として、
『News Letter ひかくほう』が
年2回発行されている。これは、誌友にとってのみならず、広く社会一般にも、本研究所
の活動に関する手軽で貴重な情報源となっている。
3)講演会、研究会、シンポジウム
本研究所は、毎年、数々の講演会、研究会、シンポジウムを通じて研究成果を発表して
きた。このうち講演会は、おもに外国人(訪問)研究者を講師に迎え、2000 年度は計 14
回開催された。最近5年間の講師と講演内容は、「資料編(5)」のとおりである。
研究会は、各共同研究チームにより自主的に開催されている。講演や研究会と比べて、
より規模の大きい発表形態であるシンポジウムには、以下のものがある。
①
日本比較法研究所シンポジウム
1989 年に本研究所創立 40 周年を記念し、中大法曹会の協力を得て開始された本研究所
主催のシンポジウムである。開催数は今日まで計3回(第1回「比較法の方法と今日的課
題」、第2回「国際社会における法の普遍性と固有性」1993 年、第3回「悪質商法をめぐ
る諸問題」1996 年)。前述のように、2002 年には「日本の法文化」と題する第4回シンポ
ジウムが予定されている。なお、1998 年には、協定校のエクス・マルセイユ第Ⅲ大学(フ
ランス)との国際交流 20 周年を記念して、同大学研究者と本所員による国際シンポジウム
「今日の家族をめぐる日仏の法的諸問題」が開かれた。これらの成果は、
『研究叢書』また
は『比較法雑誌』臨時増刊号として刊行されている。
②
共同研究プロジェクト・シンポジウム
699
「日米欧の競争法のハーモナイゼイション」(1993-1997 年)、「女性の権利」(1994 年)、
「日本と韓国の法制度の比較法的研究」
(1994-1997 年)
、
「標識保護法の国際調和に関する
研究」
(1994 年)、
「日本近現代における法の役割 ―法の継受と受容 ―」
(1994 年)などがあ
る。これらの成果は、叢書または報告書にまとめられている。
③
中央大学学術シンポジウム
学内での学際的研究を促進することを目的に 1980 年から各研究所持ち回りで開催され
てきた。本研究所はこれに積極的に参加してきており、これまで 18 回開かれたもののうち、
4回を担当している(第2回「現代の環境問題」1981 年、第6回「中央大学第2世紀の教
育と研究」1985 年、第 11 回「国際文化摩擦 ―日本の社会と法文化の特色をめぐって」1990
年、第 18 回「現代社会における倫理の諸相」2000 年)。これらの成果は、報告書にまとめ
られ、第 16 回からは『学術シンポジウム叢書』として刊行されるようになった。
【点検・評価
長所と問題点】
個人および共同研究チームによる多様な研究の遂行とその成果の着実な公表は、本研究
所の長年にわたる活発な研究活動をまさに証するものとして、大いに評価されよう。特に
刊行物についていえば、一般に刊行物は「質」と「量」の見地から評価することができる。
「質」の評価は、本来、第三者の手に委ねるべきかもしれないが、本研究所にとって学術
出版が重要な意義を有していることは疑いない。これまで本研究所において、研究成果の
刊行が予算上の理由で抑制されたことは一度もないことからも、それはうかがえる。「量」
についても本研究所の刊行物はかなりの数に達しているといえる。本研究所がその理念の
とおり、一大学のみならず世界に開かれた法学研究の場であり続けるには、このような旺
盛な研究活動を、今後とも継続していかなければならない。
けれども、本研究所の研究活動にまったく問題がないわけではない。例えばすべての共
同研究チームが活発な研究をしているとはいえない。研究基金制度による助成を受けた共
同研究チームの中には、研究年度終了後の研究成果公表が遅れているものがある。また、
『比較法雑誌』の論文原稿の提出が期日から大幅に遅れることは少なくなったものの、締
め切りから刊行までの期間をさらに短縮することが望まれる。叢書については、研究成果
の発表に叢書を利用する所員と、研究テーマに多少の偏りが生じており、さまざまな専門
分野を持つ多くの所員がバランスよくこれを用いているとはいいがたい。シンポジウムの
なかには、所員の参加意識が希薄なため、結果的に一部の所員や研究所の負担が過重にな
るものも見受けられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究所は、その発足以来、常に研究活動を活発化し、できるだけ早く研究成果を公表
できるようにする方針をとってきた。この努力により、本研究所の活動は相当の成果を収
め今日にいたっている。他方、所員の持てる力が十分に発揮されてきたか、また、所員を
中心とする研究活動が遺憾なく遂行されてきたか、という観点からは、上述のように、改
善されるべき点がないとはいえない。さらに、短期的な研究活動の活発化だけでなく、長
期的な研究活動の活発化を図ることにも、十分な考慮が払われなければならない。
本研究所の研究活動が充実したものとなるためには、当然、所員一人ひとりの研究活動
が充実していなければならない。だからといって、前者がもっぱら後者次第だというわけ
ではない。研究所の研究活動の充実に向けての研究所自体の組織的取り組みも、同様に重
700 第4章 研究所
要である。そのような取り組みとして、例えば、研究上の諸問題に関する所員同士の自由
な意見交換・批判や、研究テーマに関心を持つ所員間の相互協力を確保することがあげら
れよう。また、種々のシンポジウムが重要かつ有益な成果を収めてきたことは確かである
が、その開催方法や準備過程に一層の工夫を施し、より充実したものとすることが求めら
れよう。
他方、このような研究活動の活発化こそが出版活動の活発化の基礎である。したがって、
本研究所の出版活動には予算上の制約を極力課さないことが望ましい。
所員主体の共同研究を活発化し、その内容を高度化し、ひいては研究所全体としての組
織的研究を発展・充実させていくことが、本研究所の今後の課題にほかならない。
3−(2)研究体制の整備
人的整備については「2.研究組織、7.管理運営、9.事務組織」を参照。
物的整備については「4.施設・設備等」を参照。
情報環境の整備については「5.図書等の資料、学術情報」を参照。
財政的整備については、「8.財政」を参照。
3−(3)国内外における研究者・研究機関交流
【現状の説明】
本研究所は、その性格上、外国の研究者・研究機関との交流を活発に実施してきた。
外国人研究者の受け入れとしては、第1群(交流協定校)の外国人研究者(滞在費支給)
として年間2人、第2群(それ以外の研究機関)の外国人研究者(滞在費支給)として年
間4名、第3群の外国人研究者(滞在費支給なし)として年間2∼4名を受け入れている。
(資料編(6)参照)また、1日限りの外国人訪問研究者として年間 10 名程度を受け入れ
ている。これらの外国人研究者による講演会・セミナーの回数は、年間 20 回前後に上る。
なお、協定校への派遣については学部の担当であるが、実質的には当研究所も協力し、年
間2名程度を派遣している。
大学として研究交流の全学協定を結んでいる大学は数多いが、研究所として定期的に研
究者の受け入れまたは派遣を実施してきたのは、エクス・マルセイユ第Ⅲ大学(フランス)
チュレーン大学ロースクール(アメリカ合衆国)、ミュンスター大学(ドイツ)、オースト
ラリア国立大学の4校である。エクス・マルセイユ第Ⅲ大学とは、交流 20 周年を記念する
シンポジウム等を 1998 年に開催した。そのほか、テュービンゲン大学(ドイツ)
、高麗大
学校法科大学(韓国)などとも、非定期的に研究交流を実施してきた。
さらに、韓国法務部とは検事の研修受け入れおよび資料交換、スイス比較法研究所およ
び中国社会科学院法学研究所とは資料交換などの協定を結んでいる。
また、研究所内の共同研究グループが、非定期に、国際共同研究を企画して、国際シン
ポジウム等を実施することがある。
【点検・評価
長所と問題点】
外国人研究者の受け入れ等による交流は、本研究所の所員および研究者の卵としての大
学院学生の研究発展に大きな役割を果たしている。欲を言えば、外国人研究者と同一の研
究分野の所員しかセミナーに参加しない傾向があるが、これをいかにして他分野の所員・
701
大学院学生に拡大するかが1つの課題であろう(学際的研究交流の必要性)。
4校の協定校とはおおむね着実に研究交流が実施されてきた。アメリカの大学について
見ると、組織的な違い等に起因する被派遣者の負担の重さも指摘されているが、真に活発
な国際交流の発展のために、十分な力量を備えた人材の確保・養成が必要であろう。
協定校以外からの受け入れ(第2群)は、各所員の申請に基づいて実施しているところ
であるが、事実上の人数枠(4名)を超える申請が出て調整が必要となる場合が多い。
なお、定期的な交流を実施している大学はいずれも西洋法文化圏の大学であるが、第2
群では非西洋法文化圏からも相当多く受け入れているので、この点のアンバランスは見か
けほどではないといえよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前述のような人数調整を必要とする事態がしばしば発生するので、2群の受け入れ枠に
ついては、予算の増額による拡大が望ましい。
なお、この種の外国人研究者の滞在費は4週間を単位としつつ日割り計算方式を採用し
ているが、2週間までは共通の定額とし、それ以降は日数に応じて加算する方法なども検
討する余地があろう。
また、他の一流私大とのバランスからみて、滞在費の増額も検討が必要であろう。
4.施設・設備等
【現状の説明】
本研究所は専有施設として、2号館4階に所長室(38.88 ㎡)、事務室(97.20 ㎡)
、会議
室(85.46 ㎡)、倉庫2ヵ所(19.44 ㎡、41.40 ㎡)、共同雑誌室(本研究所分:107.57 ㎡)、
2号館3階に、共同書庫(本研究所分:369.36 ㎡)
、カナダ法書庫(専用:97.20 ㎡)を有
している。
また、設備としては、パソコン7台、プリンター2台、スキャナ1台、ファックスコピ
ー複合機1台、コピー専用機1台を所有している。
【点検・評価
長所と問題点】
所長室、事務室、会議室、倉庫などについては、本研究所に相応しい規模であり整備状
況は適切だと評価できる。
これに対して、学術資料の記録・保管のために必須である書庫スペースは必ずしも十分
とはいえず、共同雑誌室、共同書庫は、毎年蓄積されていく図書資料によって、空きスペ
ースは年々減少している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
資料の所蔵スペースの狭隘化に対する対策としては、
① 集密書架の増設、所蔵資料保存の外部委託
② 他の研究所や図書館との重複資料の廃棄
③ 資料のマイクロ化、資料の電子化(CD-R、DISK)
④ 学術情報の相互利用、オンライン資料の活用
などが、考えられるが、その実現のためには、図書館や他の研究所との共通認識を高め、
学内の合意を得ることが必要であり、資源の有効利用が望まれる。
702 第4章 研究所
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
研究所設立以来、世界各国・地域の法制度に関する図書・資料等を収集してきている。2001
年3月末現在、図書 49,068 冊、雑誌 892 点を所蔵している。(基礎データ調書 表 27,28
参照)この中には創立者杉山直治郎、研究所元顧問コーイング博士の蔵書、フランス慣習
法・ローマ法古書等の貴重なコレクションも含まれている。購入の決定は、所員の購入申
込によるほか、法令集、判例集、辞典、記念論文集、逐次刊行物等の法律資料を重点的に
収集している。毎年 2,800 万円強の予算が図書・資料の購入等に支出されている。(資料編
(7)参照)これらの予算は新規の図書・資料の購入のほか、共同研究グループの資料購
入、雑誌の継続購入および製本、加除式資料の追録、古書のマイクロ化、近年では書誌・
判例・法令等で相次いで出版される電子媒体資料の収集にもあてられている。また、学内
のLAN構築や資料の電子化に対する取り組みとして、1993 年に研究所内に情報環境委員
会を設置し、情報環境の整備、電子媒体資料の利用、所蔵資料目録の電子化などの検討を
行った。研究所で学内LANの利用は 1995 年に開始、1997 年には研究所のホームページ
が公開され、研究所の基礎情報、講演会や行事に関する情報、刊行物や所蔵資料の案内な
どを随時提供している。2000 年度からは中央図書館とシステムを共有して所蔵資料の情報
提供を開始した。
【点検・評価
長所と問題点】
比較法研究に必要な図書・資料等を、これだけの規模で所蔵している研究所は、わが国に
はない。学内にあっては、法律に特化した専門図書館としての役割を果たすとともに、教
育研究活動に密着したきめ細かなサービスが提供されてきている。
これらの図書・資料は、わが国における法律学研究の方法を反映して、欧米の法制度に関
する図書・資料の収集に力点が置かれてきた。その分、アジア諸国およびイスラム圏等の法
制度に関する図書・資料の収集が十分なされているとはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後さらに重要となる法律専門図書館としての役割を果たすため、コレクションの充
実・サービスの向上に関してメンバーの積極的な関与が必要である。外国の研究者に日本
の法制度を理解してもらうために、日本の法制度について外国語で書かれた図書・資料を、
継続的に収集していく必要がある。研究活動に用いられる資料の形態が、IT化とともに
変わりつつある。CD-ROM等の電子媒体資料を積極的に収集するとともに、オンライン
検索などにも対応できるような設備およびサービス提供体制を整えていく必要があろう。
6.社会貢献
【現状の説明】
研究所の社会貢献は、研究機関である以上、公表によって研究成果を社会に還元するこ
とが中心であろう。社会へ広く研究成果を公表する方法として、現在、
『研究叢書』、
『翻訳
叢書』、『資料叢書』を刊行するほか、定期的に『比較法雑誌』を刊行している。
また、研究所が所蔵する図書・資料について外部の研究者等にも利用の便宜を図ってい
るが、これも研究所の社会貢献といえよう。
さらに、比較法研究をテーマとしたシンポジウムを定期的に開催し、一般人も参加され
703
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
法律学は実用的性格の強い学問分野であるから、現代のような国際的交流の盛んな時代
には、外国法との比較研究のかなりの部分は日本社会のさまざまな分野での法実務にも関
わりを持つことになる(例えば、企業法、契約法、民事訴訟法、刑事法などの分野)。した
がって、研究成果を種々の媒体によって社会に向けて発信し、これを誰もが知ることので
きる状態におくことは、研究者・研究機関の間での学問的交流に資するだけでなく、実務
的にも価値のある情報を社会に提供するという面がある。当研究所は、このような意味で
の社会貢献を果たしてきたし、今後もこれを果たすことが重要な使命といえよう。ただ、
研究所のこのような貢献ないし役割が社会から十分認知されてきたか否かは、疑問がない
わけではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来は、さらに種々の媒体を活用し、研究成果が認知されやすいように努めるべきであ
ろう。例えば、商業データベースでは、論文等の全内容がオンラインで入手できるが、
『比
較法雑誌』に掲載された論文等について、刊行後一定期間が経過したものはそのような方
法で入手できるようにすることも考えられないではない。
7.管理運営
【現状の説明】
本研究所の組織については、
「2.研究組織」を参照されたい。研究所の管理運営に携わ
る各機関の現状は以下のとおりである。
①
所長
所長は、本学教授の中から、研究所員会において選挙した者について、理事会の承認を
得て、総長によって委嘱される(同規則5条1項)
。所長の任期は、3年である(同2項)。
所長は、本研究所の代表権を有し、事業を統轄し、職員の指揮監督を行うとともに、商議
員会および研究所員会の議長となる(同規則4条2項)。
②
商議員会
商議員会は、本研究所の管理運営に関する事項ならびに予算案を審議決定する権限を有
しており(同規則6条2項)、職務上委員3名(所長・法学部長・事務局長)および選任委
員8名によって構成されている(同3項)。
③
研究所員会
研究所員会は、本研究所の研究・調査に関する最高の意思決定機関である。研究所員会
は、研究所員全員によって構成される(同規則8条1項)。所員会の開催は、年3回である。
④
常任幹事会
常任幹事会は、本研究所の日常の業務執行活動に関する審議決定機関として設置されて
いる。常任幹事会は、議長となる所長のほか、選任商議員中選任された5名の常任幹事に
よって構成されている。
⑤
委員会
雑誌編集委員会は、
『比較法雑誌』編集の意思決定の継続性と統一性をはかり、個別的問
題について検討するため、雑誌部のもとに設置され、実際の雑誌編集にあたっている。
704 第4章 研究所
研究基金委員会は、所長の諮問機関として設置され、研究基金の使途その他基金に関す
る事項を審議決定する権限を有している。
なお、研究所内の情報環境整備に関し審議決定するため、情報環境委員会が、所長の諮
問機関として設置されていたが、1995 年をもって活動を停止している。
⑥
事務室
本研究所の事務組織については、後記を参照のこと。
【点検・評価
長所と問題点】
所員会の開催は、年3回であるが、定足数(所員総数の過半数)に満たない場合には、
仮決議によって議案を処理してきた。2回連続して仮決議となった場合には、次に開催す
る所員会および各年度最終所員会においては、選挙による人事案件を除き、委任状による
議決権行使が認められている。ここ数年の議案処理は、代理人による議決権行使を認めた
所員会において、仮決議の追認を含めた形で審議決定がなされている状況である。このこ
とは、もし委任状による議決権行使が認められなければ、研究所としての意思決定が確定
されないということを意味している。
これに対して、日常の業務活動の審議決定機関としての常任幹事会およびそれと連動す
る商議員会は、定期的かつ継続的に行われており、その審議も活発になされている。とり
わけ常任幹事会は、必要に応じて頻繁に開催されており、研究所の活動を実質的に支えて
いるものといえる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所員会は、出席者の間では、実質的な審議がなされているものの、先に示したよう
に、定足数に満たず、代理行使に頼っている状態である。従来から、開催時期等について、
できるだけ多くの出席者が予想されるように設定してきた。また事前の公示等もできるだ
け行ってきた。しかし、結果的としては、十分な成果はあがっていない。今後も、代理行
使に頼ることなく、本人の出席だけで定足数が確保されるような方策を考慮していかなけ
ればならない。
8.財政
【現状の説明】
本研究所の財政基盤は、大学予算のほか、国庫補助金である経常費補助金と日本比較法研
究所研究基金である。支出の主なものは「資料編(8)」の構成で分かるように、研究成果
の発表経費(主に比較法雑誌・叢書等の出版経費)と資料の収集費である。研究基金を除い
て個人や共同研究グループには研究費は配分しない。
研究基金制度は、特色ある共同研究等を支援するために創設され、基金の財源は中央大学
法曹会(法曹関係の校友会)の協力による募金を充て、納入された方には「誌友」として『比
較法雑誌』、叢書、広報誌『News Letter ひかくほう』等を送付している(2001年3月末現
在の基金残高−約2,500万円)。審査は、希望する共同研究グループから研究基金委員会が
行い、毎年原則として1件、150万円以内を助成することとしている。なお、研究基金から
は、研究所の事業として取り組んでいる日本法紹介事業にも2001年度から助成を予定してい
る。
また、共同研究グループ単位での外部資金への申請は、研究所事務室がバックアップして
705
いるが、近年の実績で金額の大きいものでは、国際交流基金日米センターの助成金があり、
1999∼2000年度には1,000万円弱の助成を受けた実績がある。
【点検・評価 長所と問題点】
研究所の研究成果や活動状況を公開・発信していく意味で、『比較法雑誌』『News Lette
r ひかくほう』の刊行は定期的に行われ、また叢書の出版も活発に行われている。また、資
料収集も当研究所の目的に鑑み、比較法研究に必要なもの、ならびに所員の共同研究に利す
るものを中心に可能な限り購入している。
研究基金制度に関しては、この基金を利用し共同研究助成と日本法紹介事業のプロジェク
トが弾力的に活動できるようになり、それぞれ研究成果が期待されている。しかし、基金と
なる寄付者(「誌友」)数は増加が難しい実情がある。
その他、本研究所としての外部資金の申請は、共同研究グループに依拠しているのが実態
である。
本研究所の活動を保証する全体としての予算は、事務室経費を含め、新たな活動・計画を
行うには十分とはいえないが、現状は問題なく執行されている。
【将来の改善・改革へ向けた方策】
今後、特に共同研究での研究活動が活発になり、叢書の刊行数が増加すれば予算不足の事
態も予想されるが、研究成果の発表は研究所の本質的な事業であることから出版費の確保は
当然のことである。
研究基金および誌友制度は発足以来約10年が経過しており、制度の拡充を図るため見直す
時期にあると認識している。
外部資金の導入は課題としてあるが、本研究所の設置目的と研究形態が研究者の個人研究
ないしは共同研究であることから、なかなか研究所全体で取り組むまでには至っていない。
9.事務組織
【現状の説明】
現在、事務室は、事務室長1名、専任職員3名、嘱託職員1名、アルバイト数名で組織
されている。
専任職員は「2 研究組織」で述べられた4つの部会(研究連絡部、国際協力部、資料部、
雑誌部)の分担を中心に、研究活動のサポートを行い、嘱託職員、アルバイトはその補助
作業に従事している。
2000 年7月に、2号館4階に事務室を有する5研究所(経済研究所、社会科学研究所、
企業研究所、人文科学研究所、政策文化総合研究所)の事務組織が統合され、合同事務室
として新たに発足をみた。本研究所はこれに加わらず、独立した事務室となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所の事務室が独立していることにより、きめ細かい研究サポートが実現しやすい
利点がある。しかし、特に資料部門について、必ずしも十分な人数の事務スタッフが確保
されていないという問題点がある。多種多様な業務内容を執行していく上でも、事務スタ
ッフの育成と充実が望まれる。スタッフの量的充実とともに、質的な面においても、法文
献に関する知識を有する者を今後も継続して確保していかなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
706 第4章 研究所
上記の問題点を解決するためには、業務内容の見直しと、スタッフのレベルアップを図
る必要がある。嘱託などの業務委託も考えられるが、何よりも資料部門において、必要な
知識を有する者を育成・確保していくシステムが望まれる。
また、研究支援体制の充実のために、事務組織と研究組織の中間に位置するものとして、
大学院学生をリサーチ・アシスタントとして研究所予算で採用し、共同研究の支援を行う
ようなシステムが考えられる。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
2001 年7月 17 日に「第1回大学評価委員会」が開催され、基本方針が決定された。その
決定に基づき、7月 23 日に「第2回研究所等評価専門委員会」が開催され、それを受けて、
日本比較法研究所としては、7月 27 日に「第1回比較法研究所組織評価委員会」、9月 21
日に「第2回比較法研究所組織評価委員会」を開催し、意見交換をした上で『自己点検・
評価報告書』の原案を作成した。さらに検討・調整を加え、9月 28 日に「常任幹事会」を
開催し、最終的に本報告書にまとめ上げた。
この作業については、本研究所内に組織評価委員会を設置し、研究所長を委員長として、
常任幹事5名、事務職員2名の計8名の委員構成により、具体的な点検・評価項目の選定、
実施手順、分担等を協議・決定して実施してきた。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所は、一大学の施設ではなく、
「日本の、東洋の、ひいては世界の」比較法学の共同
施設として、半世紀余の歩みを続け、今日に至っている。所長、商議員会、研究所員会、
常任幹事会、4つの部会(研究連絡部、国際協力部、資料部、雑誌部)、研究基金等の委員
会から成る「研究組織」、30 以上の共同研究グループを中心とする多彩な所員の「研究活
動」、『比較法雑誌』および『News Letter ひかくほう』、過去半世紀に刊行してきた 100
冊を超える『叢書』、10 年ごとに刊行される『記念論文集』
、研究所主催の学術シンポジウ
ムをまとめた『学術シンポジウム叢書』などの「刊行物」
、年 20 回前後のセミナー、研究
者の受け入れ・派遣を実施してきた米豪仏の大学(協定校)との交流(「日本法入門」コー
ス提供)などの「国内外における研究者・研究機関交流」、適切な整備状況にある「施設・
設備」
(所長室、事務室、会議室、共同雑誌室)等、比較法研究に不可欠な基礎的分野をほ
ぼ網羅している「図書等の資料・学術情報」、研究基金に恵まれた「財政」など、総じてい
ずれもかなりよく条件整備されており、研究所それ自体(ハード)としては理想的な状態
に近い状態で管理・運営が行われているように思われる。
以上はハードの面であるが、ではソフトの面ではどうであったか。従来の研究対象は、
イスラーム法、中国・韓国法などの東アジア法の優れた研究は散見されるものの、概して
言えば、
「西洋法」中心であったことは否めない。それ以外のヒンドゥー法、オセアニア法、
アフリカ法などの「非西洋法」ないし「非西洋法文化」に関する本格的研究は、ほとんど
手がつけられていない状態にある。また、内容的に見ても、
「比較法制度論」ないし「法シ
ステム論」に関するものが大半を占め、
「比較法文化論」にまで研究の射程範囲を広げた研
究は、ようやく緒についたばかりである。日本法紹介事業のひとつである「日本の法システ
ムと法文化」は、このような方向を示唆する野心的な試みと評価することができよう。
707
【将来の改善・改革に向けた方策】
問題は、むしろそれを利用する研究者の研究時間が、致命的なほど不足している現実に
ある。これは、研究所の問題を超えた教育研究機関としての大学の構造的問題でもある。
研究環境は、
「1.理念・目的」から「9.事務組織」までで見てきたように大変恵まれて
いるが、それを十分に利用するだけの時間的余裕がなさすぎる、というのが偽らざる実感
である。
さらに、所長職が行政的任務(行政職にともなう会議出席など)に追われすぎて、研究
所のプロジェクトを企画提案するといったような研究所本来の任務に取り組む時間的余裕
が少ないことも、今後の課題として問題提起しておきたい。
それと並んで、特定の常任幹事に管理運営の業務が、集中する傾向があることも、将来
改善すべき事項であろう。
708 第4章 研究所
経理研究所
【現状の説明】
中央大学経理研究所は、1950 年1月に学校法人中央大学の附置機関として設置された。
その開設の当初から、公認会計士試験のみならず税理士試験の受験講座、会計・税務に関
する各種の講習会・研究会を開設し、本学出身者はもとより、広く他大学出身者も含めて
会計人の養成に当たってきた。また、創立年の8月には、わが国最初の会計士補実務補習
所を設置し、1974 年に募集を停止するまで会計士補の実務補習に尽くした。これらの実績
によって、一時は会計人教育のメッカと称されるまでになったのである。
その後、徐々に研究機能を充実させ、会計経理に関する「会計経理研究部」と税法およ
び企業に関する「企業租税法研究部」を設置し、商学部をはじめ法学部、経済学部の関係
教員の研究者がメンバーになった。しかし、大学紛争による講座の縮小、そして 1978 年の
多摩移転に伴って、研究部と資料部を独立させ、新設の企業研究所に移管したのを契機に、
公認会計士試験等の受験指導にその機能を特化させ、今日に至っている。
したがって、現在の経理研究所は、会計人を対象とする学術誌である『経理研究』を継
続的に刊行している点を除けば、本来的意味での研究機関としての機能を停止しているた
め、
【点検・評価
長所と問題点】および【将来の改善・改革に向けた方策】についての記
述は割愛する。なお、本研究所が母胎機関として実施している「公認会計士講座」等につ
いては、第5章の「実学の伝統と国家試験」の項を参照されたい。
709
経済研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
中央大学経済研究所は、
「日本及び世界経済の実態に関する共同研究・調査を行い、日本
経済の発展に資すること」(中央大学経済研究所規則第2条)を目的として、1964 年6月
26 日に学校法人中央大学附置として設置された。本研究所は、この目的を達成するために、
次の事業を行うことを定めている。(同規則第3条)
①日本及び世界経済に関する研究・調査
②研究・調査の受託
③研究会、講演会、シンポジウム等の開催
④研究・調査に必要な図書及び資料の収集・管理ならびに機器等の整備・保管
⑤研究・調査の成果ならびに資料の刊行
⑥その他研究所の目的達成上必要と認める事業
本研究所は常勤の専任研究員を持たないが、その目的を達成するために次の3種類の研
究員を置いており、いずれも研究員会の議を経て所長が委嘱する。
(同規則第6条、第7条)
・研究員:中央大学専任教員で、研究所の事業に参加を申し出た者。
・客員研究員:中央大学専任教員以外の者で研究所の共同研究に参加を希望する者。
・準研究員:研究所の共同研究に参加を希望する大学院博士課程後期課程の在籍者または
これに準ずる者。
このように、本研究所に在籍する研究者は本学の専任教員に限定されておらず、学外の
研究者および大学院学生に対して共同研究に参加をする機会を広く提供している。研究活
動は、これら3種類の研究員によるプロジェクト単位で行っている。また、大学院学生が
指導教授の承認のもとに研究プロジェクトに参加し、研究補助業務に従事する有給のリサ
ーチ・アシスタント(RA)制度がある。
【点検・評価】
本研究所は、一私立大学に附置された経済学系の研究所としては規模が大きく、客員研
究員として国内外の研究者に広く門戸を開放しており、また、大学院学生の参加も多く、
教育機関に設置された研究所としての役割を積極的に果たしている。本研究所はその理念
として、理論研究はもちろんのこと、実態調査に基づいた実証研究を重視しており、この
理念は調査旅費を中心とする研究費の配分方法や研究成果に現れている。
研究活動に基づいた教育を行うという本学の理念に照らして、設置者である学校法人中
央大学は研究所の意義を十分に認識しており、研究所の自主的活動を財政面・施設面にお
いて積極的に支援している。また、本研究所は、各種の規定が整備され、それに則り後述
する各種の委員会を通じて民主的に運営されており、事務組織を含めて研究機関としての
整備がなされている。
本研究所は、国内外から広く共同研究への参加者を募っているために、参加者の研究内
容の拡大と深化を図ることに貢献し、着実に研究成果を挙げている。その結果を、出版物
や各種の公開研究会や公開講演会として、あるいはインターネットを通じて広く公開し社
会に還元する努力を行っている。研究費や成果の公表、資料その他の施設の利用等におい
710 第4章 研究所
て、本学の専任教員と学外からの参加者や大学院学生に対して区別を設けることなく機会
を提供しており、幅広い人材の育成に留意している。所蔵資料については、研究員以外に
大学院学生、学部学生にも閲覧を認めている。
本研究所は、設立後 34 年の歴史を有し、教育研究機関としての本学における重要な研究
機関として成長し、その理念の達成に努力してきた。しかし、研究水準の一層の向上を図
るとともに、本学の学部と大学院教育との連携の拡大、さらには近年における情報化、国
際化、研究機関における競争の激化など、地球規模で生じている急激な環境の変化に対応
するために、運営方法、成果の公表方法、予算配分などについてかなり根本的な検討を加
える必要が生じていることも確かである。
【長所と問題点】
本研究所は、学校法人の全面的な支援のもと、本学専任教員に限定することなく国内外
の研究者と大学院学生に広く共同研究に参加する機会を開放している。客員研究員と準研
究員の合計が、本研究所に在籍する研究者数の5割弱に達していることは、本研究所に対
する学外研究者の期待と評価を表わしている。これによって、本学専任教員の研究水準の
向上に資するばかりでなく、本学以外の研究者と大学院学生の研究活動にも大きく貢献し
ていると言えよう。特に、本研究所の事業項目に明記されてはいないが、本学における大
学院在籍者数の増加にともない準研究員数が増加しており、若手の研究者養成に大きな役
割を果たしている。RA制も、大学院学生が有給で研究活動に参加することができ、大学
院学生の研究指導に有効である。資料収集等の研究条件の整備も着実に進められており、
本研究所の目的を達成するために掲げた事業は、おおむね良好に達成されていると評価で
きる。
しかし、次のような幾つかの問題点もある。
(1)研究所はその目的を達成するために共
同研究・調査を実施することとしているが、現在のプロジェクトが必ずしもそれに相応し
い形態で実施されているとは限らず、個人研究の集約という性格が強く、その成果がプロ
ジェクトの目標に合致していない場合もある。研究員が全国から幅広く参加しているため
に、意思の疎通が図りにくい点に、その原因の1つがあるのかも知れない。また、他の研
究機関との共同プロジェクトが少ない点が挙げられる。特に(2)事業項目②に掲げた、
受託研究と受託調査は実績が乏しく、研究所の評価を高めるとともに財政基盤を強化する
ためにも、当該事業の強化が今後の大きな課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
共同研究の効果をより高めるために、プロジェクトの責任者がリーダーシップを発揮
することが必要である。そのためには、プロジェクトメンバーのメーリングリストを活
用し、インターネットを通じた情報交換を活発化するとともに、最近整備された、大学
院学生を対象とするRA制度を活用することが考えられる。
外部機関との共同プロジェクトの実施を活発化することは、問題点(2)および外部
資金の導入と関連する。研究所が外部機関と共同プロジェクトを実施し、また、委託研
究や委託調査を活発化するには、科研費なども含めて、外部資金を調達する形で大規模な
研究プロジェクトを実施できるような制度づくりが必要である。これが現状でできていな
い要因としては、研究員、特に客員研究員の加入時期が年度変わりに限られており、外部
との共同研究をする場合の柔軟性、機動性に劣る面があるからである。
711
また、全学の広報活動と連携して、時事問題に対する研究所の研究成果を速やかに広く
発表できるような体制を整備すること、研究所で進行中のプロジェクトをインターネット
で積極的に公開し本研究所が有するリソースに対する関心を高める処置をとることによっ
て、受託研究の機会が増えるはずである。いわゆる、学内シンクタンクの整備である。
2. 研究組織
【現状の説明】
本研究所は法人附置であるため、所長は、
「中央大学教授のうちから研究員会において選
挙した者について、理事会の承認を経て、総長が委嘱(同規則第5条)」し、任期は3年で
ある。研究所の運営に関する審議決定機関は2つからなっている。1つは、その管理運営
および予算案の審議決定を行うために総長が委嘱した商議員で構成される「商議員会」で
ある。他の1つは、研究・調査に関する事項を審議決定するために、研究員のうち本学専
任教員であるもの全員で構成する「研究員会」である。
「商議員会」、
「研究員会」とも、所
長が招集し議長となる。このように、財政面と研究面とに関して独立した審議機関が設け
られ、法人と研究部門とが専権事項に関して独自の意思決定を行うことになっている。し
かし、商議員会でも研究・調査に関する事項に関して審議しており、他方、研究員会でも
研究所の財政に関して審議しており、双方がそれぞれの事項に配慮した審議決定をするこ
とになっている。これら2つの審議会は、年間4回、定期的に開催されている。
業務の必要に応じて、研究員会から選出された委員による各種の委員会を設けている。
現在、研究所の予算原案の作成を含めて研究活動の基本事項を審議する「事業計画委員会」、
図書・資料の収集に関する事項を審議する「資料委員会」、成果の刊行に関する事項を審議
する「出版委員会」、そして国際交流に関する事項を審議する「国際交流委員会」を設置し、
それぞれの業務について内規を整備している。これらの委員会も年4回開催されているが、
事業計画委員会以外の3委員会は、必要に応じて適宜開催されている。
研究部門を構成する共同研究プロジェクトは、
「部会」と「研究会」の2種からなってい
る。この詳細については、次の「3.研究活動と研究体制の整備」で取り上げる。また、事
務組織については、「9.事務組織」で取り上げる。
【点検・評価】
規定に則り、上記の組織が適切に運営されている。しかし、規定や委員会の業務に時
代に即した改善を要する点が出てきている。
712 第4章 研究所
【長所と問題点】
研究・調査に関する事項が「研究員会」の専権事項となっており、教育研究の独立性
が確保されている。他方、「事業計画委員会」で予算原案を作成し、「研究員会」でも財
政問題を含めその予算原案を審議するため、学校法人の財政を無視した運営は行われて
いない。
ただ、
「事業計画委員会」、
「研究員会」ともに、委員数は多数に上るが委員会への出席
者数が必ずしも多くない。各種研究会や講演会の開催、調査のための出張等については文
書による申請と事後報告が行われ、その都度、所長が決済しているので研究の遂行および
事務執行上の支障はない。しかし、「事業計画委員会」、「研究員会」への出席者数が少な
いことは、授業や他の各種委員会と開催時間が重複すること、研究所運営に関する規定
が整備され、研究活動が大きな支障なく遂行されているためとも考えられるが、両委員
会は研究所活動の基本事項を審議決定する重要な機関であるために、改善すべき点であ
る。また、出版委員会が、出版物の編集機能を十分に果たしていない点を再検討すべき
である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、開催日時の通知は書面(あるいは電子メール)とホームページを通じて行ってい
るので、これを拡大して、インターネットによる資料配布と意見の聴取を行うネット上
での委員会が考えられる。イントラネットの整備にあたってはこの可能性も考慮すべき
であろう。
出版委員会については、編集委員会としての任務も明確にし、執筆要綱の一層の整備、
研究所叢書と年報に投稿された原稿の編集責任を持つようにすべきであろう。
3. 研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)研究員
本研究所の研究メンバーは、研究員、客員研究員、準研究員より構成されている。2001
年4月 1 日現在の各研究員の構成は以下のとおりである。
①:資格
研
究
員
②:人数(2001 年 4 月 1 日現在)
③:規程等
①専任教員であって、研究所の事業に参加を申し出た者、研究員会の議を
経て所長が委嘱
②116 名
③同規則第6条
客員研究員
①専任教員以外の者であって共同研究に参加を予定された者、研究員会の
議を経て所長が委嘱
(慣習では研究職に就いている者)
② 132 名
③同規則第7条第2項
準 研 究 員
①共同研究に参加を予定された大学院博士課程後期課程在籍者又はこ
れに準ずる者、研究員会の議を経て所長が委嘱(中央大学大学院学生に限
713
る、オーバードクターを含む)
② 35 名
③同規則第7条第3項
2)部会・研究会
各研究員は必ず部会あるいは研究会のいずれかに所属しなければならない。研究員が部
会を設置するためには、研究会による3年間の活動を実施していることが要求される。規
定により、部会と研究会は年度始めに活動計画を、また、年度末には当年度の活動概要を
所長に提出し承認を得る。
部会の責任者を主査、研究会の責任者を幹事と呼んでおり、それぞれの設置・運営は以
下の通りである。ただし、人数、年数は目安であり、厳格な規定ではない。本学の専任教
員たる研究員がプロジェクトの責任を持つこと、および、財政上の観点から、客員と準研
究員の合計が本学専任教員である研究員数を超えないという、2分の1ルールを目安とし
て定めている。
部会・研究会は、刊行物と公開研究会等によって成果を公表している。
①構成人数
部
会
②構成内訳
④業績公表
⑤規程等
⑥設置数(2001 年度)
①10 人以上
②客員・準研究員の割合は合計で2分の1をこえないものと
する
④研究叢書を公刊
③3年
し合わせ
研究会
③活動期間
⑤部会・研究会の設置と運営に関する申
⑥2部会
①5人以上
②客員・準研究員の割合は合計で2分の1をこえないものとす
る
④経済研究所年報に公表
③3年
申し合わせ
⑤部会研究会の設置と運営に関する
⑥27 研究会
2001 年度に活動中の部会、研究会、および、1996 年度以降の部会、研究会については「資
料編1」に示した通りである。
3)刊行物
本研究所は、成果の公表のために、
「経済研究所叢書」、
「経済研究所年報」、
「リサーチ・
ペーパー」、
「ディスカッション・ペーパー」および「研究会報」の5種類の刊行物を発刊
している。このうち、
「経済研究所叢書」と「経済研究所年報」については中央大学出版部
発行の市販本として販売するとともに、交換資料として広く配布している。また、叢書、
年報については、研究所ホームページでコンテンツを公開している。会報、リサーチ・ペ
ーパー、ディスカッション・ペーパーについては、研究所ホームページで広報するととも
に希望者には無料で配布しており、広報の浸透とともに引き合いが増えている。さらに、
これらの出版物は研究所の室外に展示し、広報に資するとともに自由閲覧に供している。
①
研究叢書(不定期)、既刊 35 冊(資料編2
参照)
3年間の共同研究活動を終了した部会が、主査の責任において企画・編集を行い部会単
位で出版する。研究活動の最終成果として、出版が義務づけられている。最近5年間に出
版された叢書は以下のとおりである。
No.30
『社会保障と生活最低限』
No.31
『市場経済移行政策と経済発展』
No.32
『戦後日本資本主義
No.33
『現代財政危機と公信用』
No.34
『現代資本主義と労働価値論』
No.35
『APEC 地域主義と世界経済』
714 第4章 研究所
1996 年刊
1998 年刊
−展開過程と現況−』
2000 年刊
2000 年刊
2001 年刊
1999 年刊
②
経済研究所年報(年1回発行)、既刊 30 号
原則として3年間の共同研究活動を終了した研究会が、幹事の責任において、原稿を提
出し合同で出版する。当該研究会から最低でも1本の論文を提出しなければならない。た
だし、研究活動期間中であっても、研究期間終了に先立って論文を提出することができる。
多くの研究会が活動しているため、通常、年報には複数の研究会の論文が掲載される。
③
研究会報(不定期)、既刊 61 号
公開講演会、公開研究会、シンポジウム等を担当した部会・研究会の主査・幹事の推薦
によって出版することができる。最近は、ディスカッション・ペーパーの発行が増加した
ため発行数が少なくなってきた。
④
リサーチ・ペーパー(不定期)、既刊3号(資料編2参照)
研究員および研究会、公開講演会等での報告者は、部会・研究会の主査・幹事の推薦に
よって英文でのみ出版することができる。
⑤
ディスカッション・ペーパー(不定期)既刊17号(資料編2参照)
研究員および研究会、公開講演会等での報告者は、部会・研究会の主査・幹事の推薦に
よって使用言語を問わずに出版できる。
4)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
本研究所は、非公開の研究会のほかに、本学の学生、大学院学生のみならず市民に開放
した公開講演会、公開研究会、シンポジウム等を開催している。これらは全研究員にメー
ルで開催通知を出すとともに、ホームページで広報している。過去5年間における開催数
は以下の通りである。これらの報告者には、研究チームのメンバー以外の講師を依頼する
ことも多い。定例研究会は、研究会等の開催方式が変わったために、近年は開催されてい
ない。
(数字は実施回数)
96年度 97年度 98年度 99年度 00年度
公開講演会
5
6
6
6
3
公開研究会
24
18
13
14
22
合評研究会
0
1
1
1
1
定例研究会
1
0
0
0
0
【点検・評価】
1)
部会・研究会について
研究プロジェクトが、先ず研究会を組織して一定の共同研究の成果を挙げた後、さら
に部会として活動し、その成果を単行本として公刊できる制度は、十分な研究を可能に
させるとともに、研究活動に柔軟性を持たせる制度である。
研究期間については、柔軟性を持たせてもよいだろう。
研究会への参加登録の時期は年度始めが原則だが、外部機関との共同プロジェクトの
推進等を考えると、もっと柔軟でよいであろう。
研究会の数が多すぎるので、集約する必要があるのではないか。
プロジェクト単位による研究活動を中心にしながらも、研究所全体として、時代の社
715
会経済状況に応じたテーマを設定し、それに向けて研究者を組織してゆく試みがあって
もよいのではないか。受託研究・受託調査を強化するためにも有効であろう。
大学院との連携をさらに強化し、研究者養成機能を強化する必要がある。
2) 刊行物について
業績発表のために多様な刊行物を発行し、研究成果を着実に公表していることは評価で
きる。研究叢書は現在まで 35 巻が出版されているが、その内容は日本経済と世界経済につ
いてそれぞれの時代の重要課題を取り上げた実証研究が多く、本研究所の理念に沿った研
究である。また、きわめて詳細な実態分析を行った研究が多いことも本叢書の特徴である。
研究所年報は、研究会の成果を発表する刊行物であり、本研究所における唯一の定期刊
行物としての役割は大きい。毎年多くの研究会が活動しているために、年報には通常、複
数の研究会の論文が掲載される。しかし、叢書の場合と違って、投稿される論文は必ずし
も共同研究の成果として統一あるテーマに関連して作成されているとは限らず、また、論
文の発表本数に研究会ごとのばらつきが見られる。
叢書や年報の刊行には時間がかかり、また、プロジェクト単位で刊行するが、ディスカ
ッション・ペーパーとリサーチ・ペーパーは個人単位で刊行できる。特にディスカッショ
ン・ペーパーは、原稿をそのまま印刷するために低コストでスピーディに刊行でき、さら
に使用言語を問わないために、研究プロセスでの重要なメディアとして有効である。リサ
ーチ・ペーパーは、使用言語が英文に限定され、また活版印刷である点に特徴がある。
3)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等について
毎年 20 数回開催されており、月平均2回は開催されていることになる。外部講師の都
合などを考慮すれば、開催件数として活発であろう。
【長所と問題点】
1)部会・研究会について
研究チームの設置は専任研究員の申請で自由にできるため、研究の自由が保障され多
様な課題を掲げるプロジェクトが活動できる。また、他機関の研究者や大学院学生の参
加をプロジェクトメンバー数の半数まで認めている制度は、研究水準の向上に大きな意
義を持っている。反面、日本及び世界経済の実態に関する研究・調査という観点から離
れた研究テーマを設定する研究会が見られる。
多くの研究員が複数のプロジェクトに参加するためにプロジェクト数が増加し、プロ
ジェクトごとの予算が少なくなり、成果の公表にも困難をきたすことが問題である。
大学院学生の増加とともに研究所への参加希望者が増加し、いわゆる二分の一ルール
が制約となってきた。
2)刊行物について
多様な成果の公表機会を設けており、商業ベースに乗りにくい学術研究にとって成果の
公表が容易である。
大学院学生である準研究員の論文は時間がかけられており、おおむね好論文が多いが、
一部には水準に問題がある論文が掲載されることがある。
必ずしも、研究会を組織したときの研究テーマのとおり研究活動ができていない研究会
もあるのではないだろうか。その結果、研究会終了後に研究年報に掲載される論文が研究
会の研究活動を全体的に包括する論文になっていないケースが散見される。
716 第4章 研究所
3)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等について
公開講演会等の場合であっても専門的な内容の会が多く、学部学生や市民の参加は特
定の課題を除いては多くない。
開催数が多くなると逆に開催日程や参加者のスケジュール調整が困難になり、参加人数
が少なくなる傾向がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1)部会・研究会について
プロジェクト数を適切化するためには、設置に一定の基準を設定してはどうか。また、
研究活動の過程についての評価システムを導入することが必要であろう。
共同研究の成果を高めるためには、定期的に研究会を開催し、研究会全体のスケジュ
ールを確認しながら全体的に統一したテーマで研究を進めるべきである。したがって、
最終的に提出される論文が所属研究員による共同執筆となることを奨励してもよいので
はないか。
プロジェクトとは別に、研究所全体としてのテーマを設定した活動を行うために、現行
のプロジェクト単位の予算配分方式を再検討すべきである。
大学院との連携を強化し研究者養成機能を高めるためには、博士課程後期課程在籍者
の研究報告会を頻繁に開催する機会を提供すべきである。現在、経済学研究科では年1
回、後期課程在籍者の研究報告会を開催しており、大学院学生にとって大きな刺激にな
っている。この報告会に加えて、本研究所と合同で、この研究会をさらに数回開催する
機会を設けるべきである。
二分の一ルールの問題があるが、大学院との連携強化のためにはこれを再検討する必
要があろう。大学院学生が増加しているので、研究と教育との連携、研究所と大学院と
の連携という観点から、各プロジェクトに大学院学生の研究指導プログラムを明示的に
組み込むことを検討すべきであろう。
客員研究員についても、一律に二分の一ルールを適用せずに、原則は残しながらも、
プロジェクトごとに客員が参加することで得られる成果を明確にした上で、それを超え
る参加を認めるよう改善すべきである。
他大学の研究所に例があるように、政府機関や民間シンクタンクに所属する研究者を
「中央大学経済研究所助教授」などの身分で内地留学を受け入れる機関としての機能を
高めることを考慮すべきである。財政との関連で大きな課題であるが、外部資金の導入
を考慮して、研究所専任の研究員を設けることを検討する時期ではないか。
産学交流を推進するために、法人が実施しているクレセント・アカデミーのような、外
部向けのチュートリアルセミナーを有料で開催する。テーマとしては、企業人向けには、
経営戦略、環境、マーケティングなど、研究者向けには、理論経済学や統計学、分析手法
の先端的な内容を提供する。
2)刊行物について
複数の学内研究所と共同で、学外の編集委員を含めたレフリー制を備えた市販性のある
雑誌を刊行し、研究活動をより活性化すべきであろう。
既存の出版物に関しても、レフリーあるいはエディターによる編集機能を強化すべきで
ある。
717
ディスカッション・ペーパーは、著作権を考慮した上で、Webからダウンロードでき
るようにすることが考えられる。リサーチ・ペーパーは活版印刷であるためコストがかか
ることなどから現在のところ発行点数が少ないが、研究成果の発信メディアとして刊行点
数を増やす努力が必要である。
刊行物の広報については、出版部と協力して、ホームページ、パンフレット、あるいは
学会開催の折に展示販売するなどして、浸透を図ることが考えられる。
3)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等について
学内他研究所も相当数の研究会等を開催しており、開催数の増加にともなって参加者の
スケジュール調整が困難になっている。プロジェクト数の適正化、他研究所との合同開催、
大学院の講義との連携、学部学生に対する広報拡大によって、参加者が参加しやすい条件
を整備することが必要である。特に、ホームページでの検索を容易にして広報の成果を高
めるべきである。
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
予算の配分方法については、研究費のうち研究旅費のみを次の方法で部会・研究会に直
接配分する。(資料編3参照)
1)部会・研究会に直接配分されるもの
研究旅費(調査、合宿)
部会…40 万円
研究会…15 万円
ただし、不足が生じた場合は研究員会で審議の上、共同予備費から支出
*旅費支給基準(国内のみ、海外は承認されていない)
決裁者:所長
規程:中央大学旅費規程、旅費内規
内訳:交通費、宿泊費、日当
支給対象及び支給基準:中央大学旅費規程(標準出張旅費一覧)を準用。ただし、
客員研究員・準研究員については、本人居住地最寄り駅から目的地まで、標準出張旅費一
覧の起点より近い場合は、実費を支給。起点より遠い場合は、中央大学旅費規程を準用。
2)部会・研究会が直接申請できるもの
講演料…公開講演会、研究会実施にともなう招聘講師に対する講演料
印刷費…公開講演会、研究会実施にともなう研究会報出版に対する印刷費
3)資料費の取り扱いについて
資料費予算については、部会・研究会に直接予算配布を行っていない。資料・図書の予
算については、研究員からの申請に基づいて、資料委員会で審議執行を行っている。
研究室については、外国人の客員研究員は共同研究室(学事課所管)を利用することが
できる。
【点検・評価】
講演料、印刷費、資料費に関する予算の分配方法、支給基準そのものは適切である。
本研究所は実態調査を重視しているために、部会・研究会に直接配分している研究費
は研究旅費である。これは実態調査が不可欠の研究会等には必要であるが、必ずしもそ
れを実施しない場合には他に流用しにくい面があり、十分に使用されているとはいえな
718 第4章 研究所
い。
研究旅費がプロジェクト単位に配分されているため、一種の共同研究費的性格を有し
ているが、旅費以外に使用できる共同研究費が必要である。
研究旅費は、原則として口座振込みであるため、適切に管理されている。
教員研究室については、本学専任教員は全員個人研究室が整備されているので研究所
としては必要ではない。外国からの訪問研究者の場合も、共同研究室を提供しており、
必要に応じて学部に依頼して個人研究室を提供することができる。
全体として、研究時間は確保されているが、研究会等でプロジェクトのメンバーが集合
できる時間の確保が困難である。
【長所と問題点】
研究費は総額としては適切な水準にある。
「資料編3」で、予算がAとBに区分されているが、B予算は研究所叢書、年報の出版
に関わる印刷費、原稿料であり、他に流用はできない。年報は定期的であるが執筆者数が
変動し、叢書の出版は部会の設置状況によって不定期である。したがって、B区分は、当
初予算にかかわらず年度の実績をすべてカバーできるよう法人が予算処置を講じており、
逆に未執行の場合はすべて戻し入れとしている。このため、出版に支障がでることはなく、
無駄な執行も避けられる。
プロジェクトごとの特徴をだした研究費の利用が困難である。
旅費は国内に限られているため、国際化に対応できない点がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
プロジェクトの研究員構成における二分の一ルールは、研究所の財政的制約に起因す
る面が大きい。準研究員を増やし、大学院教育との連携を強化するためには、予算面で
大学院との関連をつけることが適切であろう。
各部会・研究会に配分されている研究旅費を、重点的・有効的に使用する工夫がなさ
れてしかるべきであろう。
大学予算に加えて、科研費その他の外部資金の導入を積極的に行うべきである。
予算総枠の中で、研究所独自の研究会やシンポジウム、本学で開催される学会の共催
など、事業計画委員会や研究委員会で積極的な企画を立てて実施すべきである。
研究費の執行を効率的に行うことによって、プロジェクト独自の使途や、公開研究会
開催に関わる支出、あるいは本研究所全体として自前のライブラリアンを雇用して資料
環境を充実(資料の検索・調達、開室時間の延長など)させるなど、きめ細かな研究支
援体制の整備ができるようにすることが考えられる。
全学的に新しく整備された共同研究費を積極的に活用するために、研究所としての対
応を早急に検討すべきである。
3−(3)国内外における研究者・研究機関交流
【現状の説明】
1)外国人訪問研究者の受け入れ
毎年、外国人訪問研究者を受け入れ、公開講演会を開催している。
2000 年度は5名を受け入れ、公開講演会を開催した。(資料編4参照)
719
(外国人訪問研究者)
96 年度:5名、97 年度:5名、98 年度:3名、99 年度:6名、00 年度:5名
2)研究交流協定、国際共同研究等
国内の大学や研究機関の研究者は、客員研究員としてプロジェクトに多数参加してい
る。国外の研究者もプロジェクトに参加しており、プロジェクト単位での国際共同研究
は実施している。本研究所の研究員も、海外の研究機関を訪問している。東京外国語大
学および東京都立大学とは、全学協定の一環として研究所も研究交流協定を結んでいる。
しかし、本研究所独自の研究交流協定や国際共同研究は実施していない。
【点検・評価】
毎年、外国人研究者を受け入れており、また、本研究所の研究員が海外の研究機関を訪
問するなど、研究交流はプロジェクト単位で進んでいる。国内外、他機関の研究者の業績
も刊行しており、研究交流は活発であるといえよう。
【長所と問題点】
海外の研究者との交流は、全学的な期間である国際交流センターを通して実施してお
り、支援体制は整っている。
世界的に著名な研究者を受け入れて公開講演会等を実施しても、参加者数が少ない場
合が多い。これはPR活動にも問題があるが、招聘研究者と一部の研究員だけの交流に
とどまっているのかもしれない。
多数の大学と全学的な学生、研究者の交流協定は締結されているが、いずれも学生交
流が主体であり、研究所独自の基本方針に基づいた交流協定が必要であろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学の国際交流センターとの機能分担を検討し、研究所自体の基本方針に基づく交流
協定を締結できるよう、検討すべきである。この場合、本研究所単独ではなく、多摩キ
ャンパスの複数の研究所と合同で行うことが望ましい。
国際交流を一層推進するためには、研究所予算の一定額を積み立てる、あるいは外部
資金を導入して、研究所独自の国際交流ファンドを作り、国内外の優れた研究者を研究
員として招聘あるいは、研究員を派遣できる制度を検討すべきであろう。
研究所の事務室に、国際交流支援のための職員を置くべきである。
4.施設・設備等
【現状の説明】
①所長室
②研究所共同会議室1∼4
⑥新着雑誌コーナー
③研究所談話室
④研究所合同事務室
⑤倉庫
⑦研究所書庫 2,418 ㎡
※②∼⑤は経済・企業・社会・人文・政策文化の5研究所で共有している。
⑥∼⑦はそれに日本比較法研究所が加わる。
【点検・評価】
情報機器類の導入にともない設置スペースに余裕がほしいが、施設・設備は比較的良好
に整備されており、その維持・管理体制も学内の責任体制の一環に編成されている。情報
インフラについては、研究員のニーズに応じて電子情報によるデータ・ベースや検索サー
ビスを提供している。一部のサービスは研究室から利用可能になっている。所蔵資料は多
720 第4章 研究所
摩キャンパスの6研究所と合同の書庫を使用しており、研究員にとっては広範囲の図書・
資料が利用できる。これらは大学院学生、学外の研究者にも公開している。また、複数の
大学と資料の相互利用のための協定を結んでいる。
【長所と問題点】
国内の経済学系の研究所としてはかなり規模が大きいほうであろう。合同事務室化(9.
事務組織の項を参照)してから、資料管理と庶務の担当の専門性がなくなってしまったが、
一方で、全体の資料を管理する事務担当者が置かれ、他研究所の資料が利用しやすくなっ
たので利便性が向上した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に大きな改善を必要とする点はないが、報告スタイルの変化に対応した機器の整備は
必要である。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
「日本及び世界経済に関する研究・調査」
(同規則第3条第1項)に
必要不可欠な基本
的資料の収集を目的として、白書・年鑑・統計資料をはじめとする逐次刊行物および調査
報告等、一次資料の収集に重点をおいている。なかでも特色ある資料として、米英の経済
に関する政府刊行物(1980 年代以降)や OECD 資料(1970 年代以降)を重点収集している。
また、DIALOG・日外アシスト・日経テレコンといった外部データ・ベースを学内に先駆
けて導入し、Federal Reserve Bank・ECONbase・NBER Working Papers などの電子ジャー
ナルの利用にも積極的に取り組んでいる。
目下(2001 年2月現在)、所蔵資料の目録データ・所蔵データの電子化、図書館情報検
索システム(CHOIS)のデータ・ベースへの組み込みが進行中であり、2003 年度には
学内LANを通じた蔵書検索が可能になる。
なお、現在の蔵書数はマイクロフォームを含め 53,292 冊、所蔵雑誌タイトル数は 950
点である。
【点検・評価】
学術情報へのアクセス、学術情報の処理・提供システムの整備状況、国内外の他大学と
の協力の状況についてはかなり充実していると思われるが、CD-ROMなどによる電子情
報をもっと充実すべきである。また、電子情報化が進むにつれて、ライブラリアン等によ
る支援体制の充実を考慮すべきである。図書室施設の規模、機器・備品の整備状況につい
ては、建物スペースに制約があるため情報端末機器の増加とともに設置場所に制約が生じ
ている。図書室の利用については、開室時間の延長に対する要望が増えてきている点に配
慮すべきである。
【長所と問題点】
National Bureau of Economic Research シリーズを系統的に収蔵している点は大きな特
徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、研究所所蔵の図書・資料についてCHOISに接続するための作業を行ってお
り、学内外からの検索の向上を図っている。書庫への入庫方式については、現行の図書
721
館システムに一元化できないか検討すべきである。研究所内の情報機器設置スペースが
限られていることから、研究室や自宅から研究所のデータ・ベースにアクセスできるよ
うにする必要がある。
6.社会貢献
【現状の説明】
1)中央大学学術シンポジウム
1980 年より中央大学学術シンポジウムとして、8研究所共催で 1994 年までに 15 回の学
術シンポジウムを開催してきた。第 16 回からは開催方式を改善し、全学から参加者を募っ
たプロジェクトチームを形成し、研究期間を2年間として隔年で学術シンポジウムを開催
することとした。16 回からは中央大学学術シンポジウム研究叢書として研究成果を公表し
ている。(資料編5参照)
2)刊行物
叢書、年報については、研究所のホームページでコンテンツを公開している。会報、リ
サーチ・ペーパー、ディスカッション・ペーパーについては、発刊の都度ホームページに
掲載するとともに、希望者に無料で配布している。
3)公開研究会・公開講演会・シンポジウム等
市ヶ谷キャンパス開校にともない、2000 年度より多摩キャンパス、駿河台記念館に加え
て市ヶ谷キャンパスでもこれらの研究会等を開催している。(資料編4参照)
4)研究所利用状況
研究所の利用状況は、以下の通りである。なお、研究員の利用数には、本学専任教員
である研究員のほかに、客員研究員、準研究員も含んでいる。研究員のコピー利用は無
料である。
経済研究所利用状況
96
研究所利用人数
資料貸出延人数
*はコピーのみ
研究員
98
99
00
1,333 1,366 1,434 1,583
4-7 00
9-3
495
大学院生
365
362
499
401
145
研究員
245
207
154
184
63
専任教員
23
14
20
9
2
大学院生*
233
214
324
249
93
学部学生*
134
95
136
99
11
研究員
575
578
393
524
203
専任教員
31
58
35
19
2
図書館他
51
39
61
26
40
大学院生*
914 1,150 1,405
969
322
学部学生*
333
230
12
資料貸出冊数
*はコピーのみ
97
88
73
174
275
722 第4章 研究所
243
333
コピー利用(研究 枚数
員のみ)
情報検索サービス
24354 27,956 18,692 22,037
延べ人数
研究員
学内機関
9,394
683
649
542
541
228
48
42
23
19
3
8
20
10
2
0
・2000 年8月は工事のため利用停止
・事務室統合後、コピー機は共同利用
【点検・評価】
研究会等については、開催場所も含めて努力している。刊行物をホームページで公開
し、一部については無料配布によって利便性を高める工夫をしている。学術シンポジウ
ムについては実施方法を変更し、参加者を拡大する工夫を行うとともに、その成果を叢
書として刊行している。
【長所と問題点】
さまざまな形で研究成果を広く発信する工夫を行っており、特にホームページによる広
報は徐々に浸透して効果を上げている。ただ、研究会等は専門性が高く、学部学生や市民
が参加できる内容ではないために、参加者が限られている。情報検索サービスの利用件数
低下の原因を検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究会等の参加者数を上げるためには、ホームページによる広報だけではなく、関連す
る学会や、研究員の所属する私的な研究会のメーリングリストを活用すること、駿河台記
念館や市ヶ谷キャンパスでの開催を増やす必要があろう。広報にあたっては、その内容を
要約して関心を高める工夫が必要であろう。大学のホームページ上での、研究所および研
究会等の検索が困難であり、学内広報全体との関連でホームページの構成を検討する必要
がある。
研究所の社会的貢献という意味では、学内シンクタンク構想を実現し、その成果を本研
究所独自の企画による時宜にかなったテーマで、シンポジウム等を開催することが考えら
れる。また、本学で開催する学会で、研究所共催のシンポジウムを企画することが考えら
れる。
7.管理運営
【現状の説明】
全体を統轄する所長のもとに、部会・研究会の責任者からなる事業計画委員会をはじめ、
出版委員会、資料委員会、国際交流委員会といった部門別の委員会を持つ。研究・調査に
関する事項はこれらの委員会で十分に審議された上で、最終的に研究員全員が参加できる
研究員会で審議決定するという民主的な運営方法をとっている。
また、本研究所は法人附置の機関であり、所長、事務局長(法人代表)、経済学部長(以
上職務上)および選挙によって選出されたメンバー(任期2年)による商議員会が置かれ、
管理・運営に関する事項および予算案を審議決定している。
1)所長
①資格・選出:中央大学教授であって研究員会で選挙された者。理事会の承認を経て、総
723
長が委嘱する。
②機能・権限:研究所を代表し業務を総括
③規程:経済研究所規則第5条
④任期:3年
ただし再任を妨げず
2)委員会等
①:構成
②:機能・権限
③:規程等
④:定足数
商議員会
①所長、経済学部長、事務局長、研究員より8名互選(選挙実施)
11 名
任期:2年
②研究所の管理、運営に関する事項及び予算案の審議決定
③経済研究所規則
④無し
研究員会
①研究員
②研究・調査に関する事項の審議決定
③経済研究所規則第 10 条
④無し、但し所長・商議員選挙時は要二分の一
事業計画委員会
①所長、研究員会において選出された委員若干名、慣習として部会・研究会の主査、幹事
で構成。任期:1年
再任妨げず(ほとんど再任される)
②事業計画の基本方針の原案
・事業の年度計画の原案
・予算の原案
・事業計画の実施に関する事項、以上を審議
③事業計画委員会内規
④無し
出版委員会
①所長、研究員会において選出された委員若干名
8名
・慣習として当該年度に出版計画の有る部会・研究会の担当主査・幹事で構成
・任期:1年
再任妨げず(担当の出版計画が終了しない場合は再任が慣習)
②刊行物の出版に関する基本方針の審議
・各年度の刊行物の出版に関する事項を審議
③出版委員会内規
④無し
資料委員会
①所長、研究員会において選出された委員若干名
任期:1年
再任妨げず
②図書・資料の収集に関する基本方針
・各年度の図書・資料購入に関する事項
・寄贈図書・資料に関する事項
・図書・資料の利用に関する事項、以上を審議
724 第4章 研究所
4名
③資料委員会内規
④無し
国際交流委員会
①所長、研究員会において選出された委員若干名
任期:1年
4名
再任妨げず
②国際交流の基本方針の原案
・各年度の国際交流に関する事項
・国際交流部門の運営に関する事項、以上を審議
③国際交流委員会内規
④無し
【点検・評価】
学校法人は、研究所の財政的基礎を保証する一方、研究所の独立と自主性を尊重してい
る。研究所の事業に関する事項は、最終的に研究員会での審議・決定に基づいて行われて
おり、整備された組織によって民主的な運営が行われている。
【長所と問題点】
多くの研究所が設置されているが、社会科学系研究所の統合について非常に長い期間
議論がなされている。しかし、最終結論には至っておらず、研究所の運営にとって大き
な課題となっている。研究所を取り巻く大きな環境の変化に対応するために、早急に結
論を出す必要がある。
事業計画委員会と研究員会は、構成する研究員数が多いが、出席者数が少ないのが常
態化している。定足数を設けていないために会は成立するが、研究員の総意を審議・決
定に反映できず、また、決定事項についての周知を図る上でも問題があり、改善が望ま
れる。委員会への出席者が限定される原因は、大学、学部、大学院を含めた各種の委員
会開催数が多い上に、開催できる曜日が限定されるために、出席者の時間調整が困難な
ことが大きな原因である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
商議員会の審議事項は予算であるが、実質的には研究員会で審議しており、法人との
間に大きな齟齬は生じていないので、委員会を整理するためにこれも研究員会で決定し
てしまっても良いのではないか。
他研究所を含めた研究所全体の再編成については統合案が提示されているが、9研究
所の所長懇談会、および、特に多摩キャンパスに施設を持つ5研究所の所長懇談会にお
いて、早急に結論を出すべきである。
研究員会等への出席者が少ない点は、現在の学内委員会数や授業日程などを考慮する
と改善が難しいのが実情である。研究所内のイントラネットの整備が検討されているが、
これを利用することによって一種のネット上での委員会にすることが考えられるが、決
定的な策はない。
8.財政
【現状の説明】
研究所の財政は、全面的に法人からの予算に依存している。成果の刊行については、
725
状況に応じて予算化されることになっているため、刊行に支障は生じない。図書・資料
に関しては研究所の理念に照らして組織的に収集をしているが、それ以外に研究所とし
て中・長期的な計画は立てておらず、むしろプロジェクトがそのような計画に基づいて
活動しているものと考えている。委託研究を含めて、研究所が機関として外部資金を受
け入れた実績はない。文部科学省科学研究費については、学部の教員の実績に記録され
ている。予算配分に関しては、事業計画委員会、研究員会、商議員会を通じて審議・決
定している。また、執行に関しては、書面での決済と銀行口座への振込みが原則であり、
上記委員会で審議されている。
【点検・評価】
法人は研究所の意義を十分に理解し、必要な財政処置を講じている。予算の執行は、明
瞭かつ適切に行われている。
【長所と問題点】
法人によって安定的な財政措置が講じられている半面、大学財政に依存しすぎており、
外部資金導入のインセンティブを高める必要がある。各プロジェクトに対しては、研究員
数に応じて均等に予算配分をしている点は基礎研究の推進という点から評価できるが、重
点的な配分ができず、大型のプロジェクトを運営しにくいという面がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に大学院博士後期課程在籍者に対する中・長期的な教育プログラムを事業項目に明
示し、大学院と連携した予算処置を講じることが考えられる。また、シンクタンク的な
機能を育成し、事業項目に掲げた委託研究・調査を実施できる受け皿を整備する。研究
所のリソースやプロジェクトの企画をホームページで公表し、外部機関の参加を積極的
に働きかけることが考えられる。
9.事務組織
【現状の説明】
経済、社会科学、企業、人文科学、政策文化総合の5研究所の事務室が 2000 年7月1日
付で統合され、研究所合同事務室として発足した。事務長1名、庶務課長1名、資料課長
1名、専任職員9名、派遣職員1名、アルバイト7名で、組織図にある業務等 5 研究所の
研究活動に対する研究支援を行っている。
726 第4章 研究所
【点検・評価】
5研究所事務室が統合され、合同事務室としてスタートし1年経過したが、この間、研
究員に対してのサービスの低下がないよう努めている。
【長所と問題点】
業務の標準化を図り、研究支援の強化を目指す。研究所間の重複資料を無くし、資金の
有効利用が可能となる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
合同事務室のメリットを十分に生かし、資料部門では外部データ・ベースの有効利用や
レファレンス業務の強化に向けた専門家の育成等、きめ細かい研究支援を展開する。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
本研究所は、その活動にあたって、以下のような手続きで申請と決済を行っている。
(部会・研究会の研究活動全般)
①9月に次年度の部会・研究会の研究活動について以下の申請を受け付ける。
○部会・研究会設置申請書(3年の活動期間を満了して、引き続き、研究活動を行
う部会・研究会、新設の研究会)
部会・研究会名
研究期間
研究テーマ
参加研究員(氏名・区分)
○研究計画書(次年度活動予定の部会・研究会)
研究テーマ
次年度の研究目標
*次年度予算の算定基礎となる
次年度の研究活動(公開講演会・公開研究会、
727
合宿、出張調査の具体的な実施予定)
②主査・幹事は、3月に今年度の部会・研究会の研究活動報告書を作成し、当年度の年
報で公表する。
○部会・研究会活動報告書
参加研究員数
研究活動の概況
講演会・研究会
出張調査
合宿研究会
研究業績の刊行等
(公開講演会・公開研究会・合評研究会等)
上記については、主査・幹事が事前に申請。研究員に開催通知(メール、郵送)。外部
講師には講演料を支給(所長決裁)。学内にポスター掲示。終了後は報告書を提出。
(合宿研究会・現地調査)
上記については、主査・幹事が事前に申請(所長決裁)、終了後は報告書を提出する。
【点検・評価】
研究成果の評価については各研究プロジェクトの主催者が責任を持っており、研究所叢
書については公刊後に合評研究会を開催することによって一定の外部評価を受けている。
これは、研究の自由を保障する上で重要かつ必要な処置である。また、年報で、当該年度
における各プロジェクトの研究活動記録を公表している。
研究会の計画書、報告書などの提出自体は義務づけられているが、その研究内容や予
算の利用状況が妥当かどうかを明示的に点検するシステムは有していない。少なくとも、
最終的には所長が報告者に付帯意見をつけて、幹事・主査だけではなく、その研究会に所
属する全研究員に知らせるべきである。
【長所と問題点】
本研究所は、多くのプロジェクトが活発に活動しており、その成果を確実に公表して
いる。予算執行については、事務処理が明確にされており、適正に執行されているとい
える。また、法人は中央大学における研究所の重要性を十分に認識し、その活動を積極
的に支援していることは、評価すべき点である。
予算の執行と研究活動の状況、成果の公表については、全研究員が参加する研究員会
で審議されており、一定の自己点検・評価システムとしての機能を果たしている。さら
に、予算の執行については、商議員会によって審議されており、法人による点検を受け
ており、機関として整備されている。
他方、次のような問題点が指摘できる。社会人教育を含めた大学院の拡充にともない、
研究所に参加を希望する大学院学生数が増加しているが、これに対応できていない。財政
面と研究活動についてのチェック機能を果たすシステムが一定程度組み込まれているが、
組織として自己点検・評価をその目的とするシステムはない。産官学の連携体制が不十
分である。国内外の研究機関との連携が不十分である。成果の公表が国内志向である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学に設置されている研究所として若手研究者の育成に積極的に関与するために、研究
所の目的に「教育へのフィードバック」を明記し、大学院との緊密な連携に基づいてその
ためのプログラムを整備すべきである。
国際レベルでの成果の公表を活発にするとともに、国内外の研究機関との連携を強化す
るために、複数の学内研究所と共同し、英文による定期刊行物の公刊を検討すべきである。
728 第4章 研究所
研究活動をなお一層活性化させるとともに、研究所のアカウンタビリティを一層高め
るためには、「財源の多様化と効率化」「国際化」「情報化」
「競争とネットワークの形成」
そして「教育へのフィードバック」の5つの視点から、それらの目的の達成度を定期的に
評価するシステムを導入することが必要である。
729
社会科学研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
社会科学研究所は、1978 年 11 月、中央大学の研究部門を支える7つの研究所のうち、主
に社会科学に関する学際的な共同研究を行うことを目的として設置された。
当時、中央大学は新しい時代の要請に基づく大学づくりの一環として、今後の研究所の
在り方として、次のような見地をうちだしている。すなわち、①大学の使命を単なる教育
機関としてではなく、学問の一層の発展を推進する研究機関としてとらえる、②研究体制
を研究者個人としての能力の発揮と責任体制の確立に留まらず、研究者集団としての協
力・相互批判・相互援助の組織化を進める、③所属学部の枠を越え、大学単位で同一研究
テーマに関する協力関係を結ぶという「共同研究」の体制をつくる、④大学設置の形態を
とることにより大学自治の枠内に組み込む、の諸点である。
現在、本研究所は、研究所のあり方に関する上記の理念に則り、政治学と社会学を中心
に6つの研究チームを組織し学際的な研究活動を行っている。また、フォーラム「科学論」
において、幅広い学際的なシンポジウムを開催し、また「ヨーロッパ研究ネットワーク」
等を中心に海外の研究者との研究交流も進めている。
【点検・評価
長所と問題点】
所属学部の枠を超えた共同研究は、各研究チームの研究活動によって実績が積み重ねられ
てきている。また共同研究を通して、若手研究者や大学院博士課程後期課程に所属する学
生の研究能力の向上にも貢献してきた。他方、各研究チーム活動の「タコツボ化」の傾向
とそれにともなう「相互批判や相互評価」の不十分さもみられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究員の専門的な研究分野がますます分化し、深化する中で、今後本研究所の理念であ
る学際的な共同研究をいかに組織し、いかに進めるかを適宜検討することが必要になる。
730 第4章 研究所
2.研究組織
【現状の説明】
社会科学研究所組織図(2001 年 5 月 1 日現在)
庶務課
研究所合同事務室
資料課
所
長
運営委員会(8人)
研究員会
編集・出版委員会
資料委員会
研究チーム(6チーム)
研究部門
フォーラム「科学論」
ヨーロッパ研究ネットワーク
研究チームの設立過程(1996 年4月∼
)
「アジアの国際化と社会変動」
幹事
高
橋
由
明
(1996.4∼1999.3)
「現代社会理論の研究」
幹事
田野崎
昭
夫
(1996.4∼1999.3)
「地域情報化研究」
幹事
林
茂
樹
(1996.4∼1999.3)
「現代国家と経済のグローバル化」
幹事
渡
辺
俊
彦
(1998.4∼2001.3)
「民衆文化と社会形成」
幹事
宮
野
勝
(1998.4∼2001.3)
「国際平和の諸条件(Ⅱ)」
幹事
内
田
孟
男
(1998.4∼2001.3)
「アジアの国際化と合弁企業」
幹事
園
田
茂
人
(1999.4∼
)
「環境破壊と薬害」
幹事
小
串
照
宗
(1999.4∼
)
「現代東アジアの国際関係」
幹事
滝
田
賢
治
(1999.4∼
)
「多摩地域の都市ガバナンス」
幹事
武
智
秀
之
(2000.4∼
)
「現代社会理論と社会的現実」
幹事
早
川
善治郎
(2000.4∼
)
「現代政治の思想と運動」
幹事
江
川
潤
(2001.4∼
)
【点検・評価
長所と問題点】
研究組織は、研究員会を意思決定の頂点として、研究所長、運営委員会、研究所事務機
731
構が有機的に連携しながら運営にあたっており、現状は特に問題はない。ただし、研究員
が多忙のために、各種委員会への出席が難しい場合が多々ある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所独自に海外の大学と研究交流協定を締結しているために、2001 年度に本研究所
「国際交流委員会」を設置することが予定されている。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)研究成果の刊行
本研究所では、成果の公表のために「研究報告」、
「研究叢書」、
「英文叢書」、
「年報」、
「オ
ケージョナル・ペーパー」の5種類の刊行物を発刊している。
《研究報告》
第 17 号「日本人の公正観」
1996 年 12 月出版/研究チーム「体制変動と社会形成」
第 18 号「統合するヨーロッパ/重層化するアジア」 1997 年3月出版/共同研究Ⅰ 「世
界システムの総合的研究」
第 19 号「世界化と平和の問題状況」
1999 年3月出版/研究チーム「安保・開発・人権
の国際比較」
第 20 号「GLOBALIZATION IN EAST ASIA : PAST AND PRESENT」2000 年3月出版/
研究チーム「体制変動と社会形成」
研究チーム「アジアの国際化と合弁企業」
《研究叢書》
第4号
「革命思想の系譜学」−宗教・政治・モラリティ−
1996 年7月出版/
研究チーム 「革命思想の系譜」 中央大学社会科学研究所編
第5号 「ヨ−ロッパ統合と日欧関係」−国際共同研究Ⅰ−
1998 年3月出版/国際共同
研究「冷戦後の欧州新秩序と日欧関係」
編著
高
柳
先
男
第6号 「ヨ−ロッパ新秩序と民族問題」−国際共同研究Ⅱ− 1998 年3月出版/国際共
同研究「冷戦後の欧州新秩序と日欧関係」
第7号
柳
先
男
編著
「現代アメリカ外交の研究」 1999 年9月出版/研究チーム「現代東アジアの国
際関係」坂本正弘・滝田賢治
第8号
高
編著
「グローバル化のなかの現代国家」
2000 年 11 月出版/研究チーム「現代国家
の実証的研究」 鶴田満彦・渡辺俊彦 編著
第9号
「日本の地方CATV」
茂
編著
樹
2001 年3月出版/研究チーム「地域情報化研究」林
第 10 号 「体制擁護と変革の思想」
敬
思想」
池庄司
《年
報》
第1号
1996 年度版
1997 年6月 30 日発行
中央大学社会科学研究所編
第2号
1997 年度版
1998 年6月 30 日発行
中央大学社会科学研究所編
第3号
1998 年度版
1999 年6月 30 日発行
中央大学社会科学研究所編
732 第4章 研究所
信
2001 年3月出版/研究チーム「体制擁護と変革の
編
第4号
1999 年度版
2000 年6月 30 日発行
中央大学社会科学研究所編
第5号
2000 年度版
2001 年6月 30 日発行
中央大学社会科学研究所編
《英文叢書》
第1号
「Management Strategies of Multinational Corporations in Asian Markets」
1998 年 3 月出版/研究チーム「アジアの国際化と社会変動」
『アジア市場における多国籍企業の経営戦略』
《オケージョナル・ペーパー》
No.3
EUROPEAN INTEGRATION AND THE WORLD-SYSTEM
1997 年3月出版/古城
利明
No.4 「THE CONSTITUTION OF JAPAN AND THE UNITED NATIONS」「THE SYMBOLIC EMPEROR SYSTEM
IN JAPAN」
1999 年3月出版/植野 妙実子
No.5 The Cold War Concept and History of Modern International Politics:
Applying
the US/Japan Debate as Basis
1999 年3月出版/滝田
賢治
No.6
WORLD-SYSTEM,ASIAN REGION AND JAPANESE SOCIETY
2000 年3月出版/古城
利明
No.7
Considering Okinawa as a Frontier
2001 年3月出版/古城
利明
2)大学院との関係
研究所の共同研究に参加を予定された大学院博士課程後期課程在籍者またはこれに準じ
る者については、研究員会の議を経て、準研究員として所長が委嘱し、研究活動に従事す
る。
【点検・評価
長所と問題点】
研究チームは原則として3年間で研究活動を終了し、速やかに研究成果を刊行すること
が義務づけられているが、現在までのところ成果の刊行は順調である。研究チームは研究
員全員の意思を尋ねるアンケートをもとに自発的希望に基づく共同研究チームとして組織
されるが、毎年2から3の研究チームが入れ替わり、毎年ほぼ8-10 の研究チームが活動
している。
問題は、研究成果の執筆に制約が少ないために、共同研究成果の刊行にあたり企画・構
成に工夫が足りない場合が見られること、また「年報」の執筆者に専任教員(正研究員)
が少なく、準研究員(大学院博士課程学生)や客員研究員のうちの大学院博士課程修了者
に執筆が偏りがちな点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究活動を一層充実させかつ情報の発信基地としての役割を果たすためには将来次のよう
なことを考えるべきである。
①本研究所のコーポレート・アイデンティティが確立できるような大規模研究プロジェク
ト、それも学際的なプロジェクトの継続的な展開。
②「科学フォーラム」等を通じての大きなシンポジウムの定期的開催。
③「研究所ニュース」(英語による情報提供を含む)の充実と広報活動の一層の展開。
④共同研究の成果の刊行にあたっては、企画と構想に一層の熟慮を重ねた、市販性や普及
性に耐えられる成果の刊行。
⑤「年報」の刊行にあたっては「レフェリー制度」を設置。
733
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
2001 年度に研究チームに配分された研究費予算の総額は 530 万円である。配分された各
研究チームの予算は、研究所全体予算の中での科目流用が可能であり、あらかじめそのチ
ームの研究旅費額として固定せず、幅広く使える仕組みとなっている。
研究チームの研究期間は、原則として3年とし、通算して5年を越えることはできず、
予算については3年間で打ち切る。チーム予算の配分方法は、その年度に活動するチーム
数の多少により、配分額の増減が生じるが、考え方としては、2年目に最も厚く予算配分
するような配慮をしている。
【点検・評価
長所と問題点】
研究チームの研究活動は、研究員の自主性を基盤にしており、研究会活動などでは、活
発な議論が行われている。だが、各研究チームの研究費の使い方は、次第に図書費からフ
ィールドワークに重点が移りつつあり、その点では3年間で約 150 万前後の研究費予算は
中途半端であり、また研究費総額も十分ではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は全学的な共同研究費の活用や外部の研究資金の導入によって、十分な研究費を調
達するように努力するとともに、研究計画による研究費の傾斜配分や使途の拡大を考慮す
べきである。
研究のネットワークを広げるために、国内留学者の受け入れ、地方自治体職員やNPO
職員との交流あるいは近隣大学の研究機関や多摩地区の自治体などの連携やシンポジウム
の開催などを積極的に進めるべきである。
3−(3)国内外における研究者・研究機関との交流
【現状の説明】
1)外国人訪問研究者の受け入れ
①国際交流センターを通じて、計画的に単年度 10 数名の外国人研究者を招聘し、活発な研
究活動を行っている。
②過去数年の間に、欧州をはじめとする各国から著名な学者を多数招聘し、学術性の高い、
大規模な国際シンポジウムをすでに4回開催している。
③国連派遣職員の研修の場を提供している。
2)研究交流協定、国際共同研究等
①「ヨーロッパ研究ネットワーク」の基盤づくりとして、研究交流協定を締結した協定校(ナ
ポリ大学・ローマ大学・ブリュッセル大学)と、情報交換および研究者を招聘しての共同
研究を推進している。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所は、国際的な研究交流に重点的に取り組んできており、研究所独自に外国の研
究機関と交流協定を結んでいるほか、各研究チ−ム単位の国際共同研究や国際的なシンポ
ジウムの開催の面でも、大きな成果をあげてきた。課題は、国際交流に必要な独自の予算
の充実および外国への研究成果発信基地としての体制の整備である。
734 第4章 研究所
【将来の改善・改革に向けた方策】
国連研修職員の恒常的な受け入れ体制を整備したい。また国際交流を積極多岐に進める
ためには都心部のキャンパス(市ヶ谷キャンパス)の有効利用を考える必要がある。
4.施設・設備等
【現状の説明】
所長室、研究所共同会議室1∼4、研究所談話室、研究所合同事務室、倉庫、新着雑誌
コーナー、研究所書庫(共用)2,418 ㎡
【点検・評価】
施設・設備は比較的良好に整備されており、その維持・管理体制も学内の責任体制の一
環に編成されている。情報インフラについては、研究員のニーズに応じて電子情報による
データ・ベースや検索サービスを提供している。一部のサービスは研究室から利用可能に
なっている。所蔵資料は多摩キャンパスの6研究所と合同の書庫を使用しており、研究員
にとっては広範囲の図書・資料が利用できる。これらは大学院学生、学外の研究者にも公
開している。また、複数の大学と資料の相互利用のための協定を結んでいる。
【長所と問題点】
合同事務室化してから、資料管理と庶務の担当の専門性がなくなってしまったが、一方
で、全体の資料を管理する事務担当者が置かれ、他研究所の資料が利用しやすくなったの
で利便性が向上した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に大きな改善を必要とする点はないが、報告スタイルの変化に対応した機器の整備が
必要である。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
資料収集は、これまでの基本方針に基づき、特に次の 6 つの項目に重点を置いている。
1)逐次刊行物(特に洋雑誌)の整備
2) 政党、労働団体、農業団体の新聞・機関紙の収集
3)地方自治に関する資料・統計書の収集
4)労働関係資料の収集
5)多摩地域関係資料の収集
6)諸外国基本統計書の収集
【点検・評価
長所と問題点】
研究所合同事務室の開設によって、施設整備と情報インフラの再整理が行われ、図書資
料の一体的かつ効率的な管理運営が期待される状況にある。また、収集された図書資料に
は「政策関係雑誌」に代表されるように他機関にない貴重な文献があり、広い範囲の有効
活用を図るべきである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
各研究チームの研究活動と有機的に連動するような図書資料の整備に一層心がけるべき
である。
735
6.社会貢献
【現状の説明】
次のような研究成果および研究活動を通して社会に還元し、貢献している。
(1)学術シンポジウム
1980 年より中央大学学術シンポジウムとして、8研究所共催で 1994 年までに 15 回の学術
シンポジウムを開催した。第 16 回からは開催方式を改善し、全学から参加者を募ったプロ
ジェクトチームを形成し、研究期間を2年間として隔年で学術シンポジウムを開催するこ
ととした。16 回からは中央大学学術シンポジウム研究叢書として研究成果を公表している。
(2)本研究所では、すでに述べたように多数の研究成果の公表、あるいは公開シンポジウ
ムや講演会および研究会を開催している。
【点検・評価
長所と問題点】
研究成果の公表やシンポジウム、講演会の開催などによる社会的貢献は少なくない。他
方、地元の民間団体や自治体との連携を積極的に進める「開かれた研究所活動」はやや弱
い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内で開催される地域住民のための公開講座との連携、地元ケーブルテレビの活用、地
元の各種研究団体(例えば「多摩ニュータウン学会」)との連携を図るべきである。
7.管理運営
【現状の説明】
①研究員会(年3回定例)
本学専任教員で、研究所の事業に参加を申し出た研究員(81 名)によって構成されている。
会議は、所長(任期3年)が招集し、議長となる。
②運営委員会(年4回定例)
研究員会で選出された所長1名および運営委員5名(任期2年)に、職務上運営委員(資
料委員長、事務長)2名を加えた合計8名により運営されている。運営委員は所長ととも
に学長により職務を委嘱される。
③資料委員会(年2回定例)
研究所の図書・資料を収集・管理するため、研究員会において、各研究チームから1名が
選出され、資料委員(任期3年)となる。
④編集・出版委員会(年2回定例)
研究・調査の成果および資料の刊行を行うため、所長の推薦により選出された者、若干名
(任期1年)により、構成されている。
⑤主査・幹事懇談会(年2回定例)
各研究チームの責任者である主査・幹事によって構成され、研究活動を円滑かつ効果的に
推進するための話し合いが行われる。
以上②∼⑤の各委員会等によって、研究活動にともなう予算および運営の基本方針等が
審議され、了承された後に、①の研究員会において承認を求める。
なお、本研究所は法人附置の研究所ではないので、管理運営にあたっては法人組織と直
736 第4章 研究所
接関係を持つことはない。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所の管理運営は、現状では問題はない。ただ、研究所の研究活動を全学の中で明
確に位置づけるための努力が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究員が研究時間だけでなく、研究所の会合のための時間の確保さえ難しくなりつつあ
る現状では、さまざまなIT機器を利用することによって、研究員間のコミュニケーショ
ンを円滑に行えるような仕組みを作り上げることが必要になる。
8.財政
【現状の説明】
研究所の財政は、大学予算に依存している。過去6∼7年同じ予算額で運営されてい
る。成果の刊行については、状況に応じて予算化されることになっているため、刊行に
支障は生じていない。図書・資料に関しては研究所の理念に照らして組織的に収集をし
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所では、ヨーロッパ研究ネットワークの基盤作りとして、研究交流協定を締結した
協定校(ナポリ大学・ローマ大学・ブリュッセル大学)と、情報交換および研究者を招聘して
の共同研究を推進しているが、国際交流の予算も頭打ちであり、研究所の限られた予算内
で執行している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学際的な学術研究を指向する共同研究費助成制度がスタートしたので、この制度を有効
活用するとともに全学的に国際交流予算の見直しも必要である。
9.事務組織
【現状の説明】
経済、社会科学、企業、人文科学、政策文化総合研究所の5つの事務室が 2000 年 7 月 1
日付で統合され、研究所合同事務室として発足した。以下、この項については「経済研究所」
を参照されたい。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
本研究所には自らの活動を自己点検・評価する恒常的組織は研究所内はもとより学内外
にも存在しない。研究活動の成果についての点検・評価も、研究成果が文献・書物として
刊行されたときに寄せられる、読者や世間の評価に任せられてきた。
【点検・評価
長所と問題点】
研究所活動の点検・評価を定期的に行うための組織がないのは問題である。しかし研究
員は研究チームへの所属を通して研究所の共同研究に参加することを要請され、さらに研
究チームは原則として3年後には成果を刊行することが義務づけられているので、自然に
厳しい節度ある研究姿勢を求められることになる。
737
【将来の改善・改革に向けた方策】
「社会科学研究所年報」の編集にレフェリー制度を設けることはもとより、各研究チー
ムの研究成果についても、成果を刊行するだけに留まらず成果の中身を相互に評価しあい、
今後の研究活動に生かせるような機会を設けたい。
738 第4章 研究所
企業研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
企業研究所は、広く企業に関する理論的及び実証的研究を行い、学術の振興及び日本経
済の発展に寄与することを目的とする。(中央大学企業研究所規程第五百十八号二条)
この理念・目的を達成するために、以下の事業を行っている。
1.企業に関する理論的及び実証的研究
2.研究に必要な資料の収集、整理及び分析
3.研究及び調査の成果並びに資料の刊行
4.研究会、講演会等の開催
5.その他研究所の目的達成上必要と認められる事業
【点検・評価】
本研究所の理念である理論的・実証的研究を共同研究を中心に行うという目的は、創立以
来貫かれており、各種の業績となって蓄積されてきている。また近年、大学院学生に対す
る教育、社会貢献活動を行うようになった。人材の養成という点では、①RAの採用、②
大学院博士課程後期課程の大学院学生に対する準研究員としての採用、③大学院商学研究
科と共同した大学院学生を対象とした研究報告会の開催、などを行っている。社会貢献活
動では、公開講演会、セミナーへの講師派遣、起業家育成のNPO活動を行っている。
【長所と問題点】
本研究所の理念・目的は、①企業に関する研究に関心を持つ大学構成員であれば一定の要
件のもとに自由参加でき、必要に応じて外部の客員研究員を招聘できる開かれた研究所で
ある点、②講師派遣や多摩地域の企業に焦点を当てた研究によって、地域に根ざした研究
所になっている点、③研究活動において研究会へ海外からの講師を招いたり、積極的に海
外の企業を訪問し現地調査を行ったり、国際共同研究を行う等、国際交流を図っている点
において効果をあげている。
ただし、人材の養成という点では、RAの採用も、大学院学生研究報告会も始まったと
ころであり、どの程度の研究成果をあげられるかはもう少し様子を見る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究所が現在最も力を入れている改善・改革は、①大学院学生の研究能力向上のための
研究会の開催、②研究論文の質的向上である。今後の取り組みとして他研究所との共同プ
ロジェクトを急いでいる。
2.研究組織
【現状の説明】
739
【点検・評価】
研究所の組織図において検討課題となっているのは、①商議員会のあり方、②研究チー
ムのあり方、③個人研究員の処遇、などである。商議員会のあり方については、規程改正
作業委員会において検討し答申が出されている。また研究チームのあり方については、繰
り返し検討され部分的な手直しを加えてきた結果、総合プロジェクトチームと個別研究チ
ームに実質的差異を設けずに研究活動を展開している。しかし、さらに研究所のあり方、
今日同研究のあり方を踏まえた抜本的な議論が必要と考えられる。
近年、研究チームに所属しない研究員がともすれば増加しがちである。このため研究員
に呼びかけて研究チームへの参加を促している。この点についても計画委員会で検討して
きたが、抜本的には研究所のあり方と絡めてさらに議論する必要がある。
【長所と問題点】
研究組織については「企業研究所規程」が詳細に定めており、概ね適切に運営されてい
るといえよう。ただし、最高意思決定機関である「研究員会」への出席者が少ないなどの
日常的な問題点の他に、規程改正に関わる以下のような問題点を指摘できる。
(資料編1参
照)
①
商議員会に関する問題点
本研究所は大学附置の研究所であるが、創立の経緯において法人附置の経理研究所の研
究部門を引き継いだこともあって、法人附置の研究所に特徴的な「商議員会」が置かれて
いる。この商議員会について、「十分に機能していない」「研究員会があるので必要ないの
ではないか」といった問題点が指摘されている。このため「規程改正作業委員会」を設け、
商議員会のあり方を含め「企業研究所規程」の問題点を洗い直し、現在改正の作業に入っ
ている。
②
研究チームに関する問題点
研究組織に関する一番大きな問題点は、研究チームのあり方についてである。研究チー
ムとして「国際共同研究チーム」「総合プロジェクトチーム」「個別研究チーム」の3つを
設けているが、総合プロジェクトチームと個別研究チームに事実上差がなくなっている。
名称が示すように、総合プロジェクトチームは相当数のメンバーで総合的な共同研究を目
740 第4章 研究所
的としているが、目的達成に必要な研究費は十分とは言えず、予算配分およびチーム結成
のあり方を抜本的に見直す必要がある。個別研究チームは、共同研究に加わらないグルー
プである。このグループの研究員が増加すると、共同研究を行うという本研究所の理念が
損なわれる。21 世紀に求められる本研究所の理念を、研究員全体で構築することが必要で
ある。
③
所長選挙に関する問題点
所長選挙に関しては、慣例的に「申し合わせ」に基づいて選挙を行っているが、規定に
盛り込むことが望ましいとの歴代所長からの引き継ぎがある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究組織の改善・改革のポイントは、①研究活動の活発化方策と一体的に検討すること、
②そのために研究員の意見を集約し、本研究所への関心を喚起することにある。現在、研
究活動の活性化に取り組んでいるので、その一環として改善・改革を行う予定である。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
<チーム研究>(資料編2参照)
2001 年度は、総合プロジェクトチーム5チーム、個別研究チーム 10 チームの研究チー
ムが共同研究を行っている。
<刊行物>(資料編3参照)
①総合プロジェクト研究チームおよび個別研究チームの研究成果を「企業研究所研究叢書」
として刊行(既刊 20 冊)(2000 年度4冊)
叢書 17 号『日中の金融・産業政策比較』 鹿児嶋治利、建部正義、田万蒼編著
5月発行
2000 年
188 頁
叢書 18 号『経営管理方式の国際移転
林正樹、日高克平編著
2000 年6月発行
―可能性の現実的・理論的問題 ―』
高橋由明、
328 頁
叢書 19 号 Case Studies of International Marketing and International Business /
edited by The Institute of Business Research, Chuo University
叢書 20 号『現代の経営革新』
池上一志編著
2001 年2月発行
2000 年
158 頁
391 頁
②総合プロジェクト研究チームおよび個別研究チームの研究の一環として訳出される外国
語文献・資料を「企業研究所翻訳叢書」として刊行(既刊8冊)
翻訳叢書8号『小売システムの歴史的発展
―1800∼1914 年のイギリス、ドイツ、カナ
ダにおける小売業のダイナミズム―』 ジョン・ベンソン、
ギャレス・ショー編
辰馬信男、薄井和夫、木立真直訳
1996 年5月発行
前田重朗、
324 頁
③総合プロジェクト研究チームおよび個別研究チームの研究の成果、または研究員の個人
研究の成果を論文、研究ノート、資料紹介のいずれかの形態で「企業研究所年報」として
年1回刊行(既刊 21 号)
④研究員が自己の責任において欧文で執筆した論稿を Research Papers (欧文単独論文シ
リーズ)として刊行(既刊 23 号)
23 号 National Brands vs. Private Brands : An Approach Using Product Types and
741
Competitive Position Types
Toshihiko Miura
1998 年
25 頁
⑤研究成果の公表を、より迅速に行うことを可能にし、研究活動の活性化を図るために、
ワーキングペーパーとして刊行(既刊3号)(2000 年度2冊)
3号 Avatamsaka Game Structure and It’s Design of Experiment Yuji Aruka 2000
年9月
4号 Profitable Inventory Chaos in a Macro Disequilibrium Dynamic Model
Matsumoto
5号
Akio
2001 年4月
広域多摩地域ベンチャー企業の経営者精神
に対するアンケート調査報告― 田中史人
―新興企業のトップ・マネジメント
2001 年3月
⑥年 1 回開催する公開講演会の速記録を公開講演録として刊行
<公開講演会、公開研究会、シンポジウム等>(資料編4参照)
①「社会に開かれた研究所」を指向して、広く一般にも参加者を募り、毎年設定する統一テ
ーマのもとに、中央大学出身の経営者 1 名と、研究員 1 名を講師として、公開講演会を年
1 回開催する。
②叢書の刊行を記念して、叢書の執筆者もしくは、関連する分野の研究者を講師として、
シンポジウムを開催する。(2000 年度3回)
③総合プロジェクト研究チームおよび個別研究チームの研究員もしくは、それらが推薦す
る研究員以外の研究者を講師として、公開定例研究会(2000 年度 13 回)、公開チーム研究
会(2000 年度5回)を開催する。
【点検・評価】
本研究所の自己点検・自己評価は、研究活動についての点検・評価が最も重要と考えられ
るので、詳細に検討する。研究活動の評価は、
「何のために」
「何を」
「どのように」という
評価・分析の体系に従って次のようにいくつかの側面から行うことができる。
1)ミッションから見ると①学会および社会への貢献、②中央大学の名声への寄与、を対
象として評価することになる。
2)活動内容から見ると①研究成果の発表、②大学院学生に対する教育、③地域社会に対
する知識の提供、を対象として評価することになる。
3)活動方法から見ると①共同研究・個人研究など研究の方法、②研究会の持ち方、③研究
成果の発表方法など、を対象として評価することになる。
上記の対象を評価する場合、①「情報化」「国際化」「社会貢献」といった外部に対する
評価視点、②「研究のしやすさ」「研究員の共同と競争」「教育効果」といった内部に対す
る評価視点から行うことが適当である。
以上のような評価対象と評価視点を念頭に、本研究所の研究活動を点検・評価するならば、
①各種発表論文の質・量、②研究員の研究会など研究活動への参加、③準研究員の研究に対
するバックアップ、④国際交流・他研究機関との共同研究など対外的研究活動、⑤公開講演
会や講師派遣といった社会への貢献、⑥多摩地域の中小企業研究など地域への貢献、の如
何を検討することになる。
本研究所においては、研究活動の活性化やレベルアップが常に課題となっており、改め
て点検・評価するまでもなく問題点の所在は確認されている。問題は改善・改革の実行にあ
り、行動力に問題点があるといえよう。
742 第4章 研究所
【長所と問題点】
本研究所の研究活動を量的に見た場合、各種の発表論文数、対外的研究活動、社会貢献
については、研究生産性(正研究員当たりの各種業績)という指標で見ると遜色ない。特
に「叢書」については質的にも高いレベルにある。
現在、従来以上に力を入れているのがシンポジウムであり、①叢書の刊行を記念して開
催するシンポジウム、②大学院学生を中心にしたシンポジウム、③外部の組織と共同で行
うシンポジウム、を積極的に開催している。また、大学院学生の研究能力の向上を目指し
て、今年度から大学院商学研究科と共同で組織した「大学院学生研究報告会」は、大学院
学生に刺激を与えるものとして期待される。
しかしながら、①『年報』の質、②研究員の意識、という点で問題がある。
1)『年報』の質の問題
『企業研究所年報』の質が低下しているのではないかという意見が4・5年前から出され
ている。年報の質的低下は、①正研究員の投稿の減少、②準研究員の掲載論文の増加と相
対的なレベルダウンによるところが大きい。
2)研究員の意識
研究活動において①研究会への参加および各種委員会への出席の低迷、②外部講師の報
告が中心の研究会、③『年報』への投稿の減少、という現象に見られるように、研究員の
責任感が希薄化している。
その理由としては、①学部および大学院に関わる大学行政に追われて研究時間が取れな
いこと、②研究の細分化にともない増加している各種学会での活動に比重が移行している
こと、③研究員の関心が共同研究より個人研究に向いていること、などが考えられる。
こうした傾向は、本学に固有のものではなく他大学においても見られる。しかし、だか
らといって軽視することは許されない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来の改善・改革の方策は少なくない。しかし、限られた研究予算と研究時間の中で実行
可能な改善・改革を考えると多いとは言えない。今年度必ず実現したいと考えている方策は
『年報』の改革である。基本的な方向は、①研究論文に純化した刊行物とする、②準研究
員の投稿にはレフェリー制を取り入れる、③特集を中心とした論文集にする、等である。
(資料編5参照)
3−(2) 研究体制の整備
【現状の説明】
本研究所では、「研究費」「資料収集」「研究発表」「その他」の4つの計画別に予算を配
分している。研究費については、予算申請時にチームの研究計画として申請された範囲内
であれば、
「アンケート調査にかかる費用」
「調査研究のための旅費」
「講演会の講師講演料」
などは所長決済で支出できる。(資料編6参照)旅費の支出は、下記の内規・取扱い要領に
よる。
資料収集予算のうち図書支出の中に、チーム資料費として、各チームに主たる正研究員
1名につき 40,000 円、従たる正研究員と準研究員1名につき 20,000 円を配分し、チーム
の研究に必要な資料を購入できる。
743
中央大学企業研究所旅費内規
第1条
この内規は本研究所研究員および客員研究員、準研究員の実態調査、合宿研究会
等に関する事項を定めるものである。
第2条
旅費の支給は、「中央大学旅費規定」別表第一に準ずる。
第3条
国際共同研究経費、海外研究調査費の支給については、中央大学国際交流センタ
ーの定めるところに従う。
(取扱い要領)
1
研究調査地は国内とし、原則として宿泊数は1泊とする。ただし、調査の必要上、1
泊を上回る宿泊を希望する場合は計画委員会での了承を必要とする。
2
準研究員への旅費支給については、
「研究調査・合宿申請書」を提出する前に計画委員
会での了承を必要とする。
3
合宿研究会は原則として、中央大学健康保険組合寮を利用する。
(企業研究所国外調査・研究に関する取扱い要領)
1
この要領は、本研究所の研究員が、調査・研究を目的として、国外に出張する場合に
必要な事項を定める。
2
国外で調査・研究を行う場合、研究チームの主査・責任者は、あらかじめ「研究計画
書」を提出することとする。「計画」が多数の場合、調整することがある。
3
国外出張にあたっては、
「国外出張申請書」を提出し、計画委員会の議を経て、所長の
承認を必要とする。
4
交通費は、国内における出張旅費の最高額を超えない範囲で支給することができる。
5
宿泊費は、中央大学旅費規程に定める宿泊費を、3泊4日を限度として支給すること
ができる。なお、日当は4日を限度に支給することができる。
6
国外調査・研究に出張した研究員は、その研究成果を「年報」または「叢書」に発表
しなければならない。
7
学内の他制度からの旅費支給と重複して支給しない。
《確認事項》
①この要領は客員研究員・準研究員に適用しない。
②学会、研修会、教育、視察、国際会議を目的とする出張については適用しない。
(学内規
程あり)
③交通費の国内における最高額は人事課が定める金額を適用する。なお、国内における最
高額を超えない場合は実費支給とする。
【点検・評価】
1)研究費関係
研究所の予算額は、予算申請額にかかわらず、前年度と同額の予算が割り当てられてお
り、研究所に裁量の余地はないといってよい。ただし、叢書の出版に関しては予算額にか
かわらず認められている。
共同研究費は、当初総合プロジェクトチームに対して相対的に多く配分されていたが、
現在は総合プロジェクトチームと個別研究チームの配分割合に差がない。これは、研究方
法においてチームによる違いが実質的にないため、配分割合の差を取り払ったことによる。
744 第4章 研究所
準研究員に対しては、RA制度による研究費補助、国内の企業訪問に対する出張旅費の
支出など、研究支援は十分といえないまでも充実してきている。
2)教員の研究室の整備・研究時間
教員の研究室の整備および研究時間の確保は、研究所自体が改善・改革できる余地は極め
て少なく、法人・学部教授会・大学院研究科委員会との調整に待たざるを得ない。受身の立
場にある研究所として、学部教授会に働きかけて、今年度「ノー会議デー」
(会議日の木曜
日に会議を設定しない日)を年3回実現できたことはせめてもの救いである。
大学改革のために取られる時間の増えたことが研究時間減少の理由であり、本学だけの
現象ではない。研究時間の減少は、研究会への出席、論文執筆への意欲を減退させている。
研究所が関係する研究室の整備は、9研究所全体の問題であり、中央大学全体の問題と
して制約された状況を打破する努力が求められる。
【長所と問題点】
研究室、研究費のいずれも改善されていると言えないのみならず、大学財政逼迫が研究
所関係の予算にしわ寄せされがちである。予算編成において、学生確保のため教育予算に
目が向けられやすいが、教育とともに研究が大学のミッションであることの再認識が求め
られる。
ただし、他大学と比較した場合、中央大学は悪いとは言えないので、現時点では研究所
内部でメリハリがある予算配分が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究費、研究旅費が制約されている状況では、研究費の効率的な利用が重要であり、そ
のためには一律的な配分方法ではなく、研究生産性に応じた配分方法が効果的である。換
言すれば、研究費の配分に競争を持ち込むということである。慣例となっている横ならび
的な配分方法を変えるためには、研究員の覚醒が必要であり、そのために繰り返し問題点
を投げかけていく予定である。
本研究所では、①計画委員会が主導的に大規模なプロジェクトを設定し、②研究費、研
究旅費を重点的に配分することが必要ではないかという意見も出ており、これからの検討
課題とする予定である。
3−(3)国内外における研究者・研究機関交流
【現状の説明】
国内外の研究機関との共同研究(2000 年度実績)
1)国内研究機関との共同研究の活性化
アジア経済研究所との合同シンポジウムの開催
企業研究所・アジア経済研究所共催公開シンポジウム
2000 年 10 月 12 日
:
統一テーマ
「中国経済―21 世紀の課題」
「中国の産業政策と産業の現況」
榎本
善昭研究員(中央大学教授)
「不良債権問題の発生と処理―市場対応型政府への転換のプロセス」
渡邉
真理子氏(アジア経済研究所研究員)
「行政・企業間関係―競争圧力下の制度転換」
745
今井
健一氏(アジア経済研究所研究員)
2)外国人訪問研究者の受け入れ
外国人訪問研究者として、5名を受け入れ、公開定例研究会を開催した。
報告者
Thomas Ferguson 教授(マサチューセッツ大学)
テーマ
現代アメリカの政治と経済
報告者
John Dawson教授(エジンバラ大学)
テーマ Future retail formats in food retailing in Europe(ヨーロッパにおける食
品小売業態の展望)
報告者
Dieter Beschorner教授、Heike Lang助手(ドイツウルム大学)
テーマ Controllship in Japan : Is there Western-style controllship in Japanese
company?(日本の管理統制―日本企業に西欧型管理統制は存在するか―)
報告者
李 愚寛教授(韓国漢城大学経済学部)
テーマ Member firm's characteristics and the financing behavior in the internal
capital market of large business groups in Korea(韓国大企業集団の特徴と金融的
行動)
報告者
Sanford M. Jacoby教授(The Andersen School UCLA)
テーマ
Are career jobs extinct in America?(アメリカにおいて終身雇用制は消滅し
たか?)
3)研究交流協定、国際共同研究等
本学の協定校である、パリ高等商科大学から1ヵ月間研究者を受け入れ、学部・大学院・
研究所で講義・研究会を開催した。
報告者
Renaud de Maricourt教授(パリ高等商科大学)(2000年度本研究所受け入れ外
国人研究者)
テーマ
The distribution revolution
毎年、1・2群、3群の研究者を受け入れている。海外調査の旅費支給制度ができ、外国
企業も調査対象としている。
【点検・評価】
国内外の研究者・研究機関との交流についての点検・評価は、
「蛸壺的な研究所」となって
いないかどうかが検討課題となる。換言すれば、①研究成果について情報発信しているか、
②国内外の研究者と共同研究しているか、国内外の研究機関と提携しているか、③地域と
交流しているか、など国際化、情報化、地域との交流の点検・評価が求められる。
本研究所をまず、「国際化」の視点から見ると、「リサーチペーパー」(英文論文)、外国
人研究者との共同研究による叢書を刊行しているとともに、海外への調査出張や、公開定
例研究会での外国人研究者の研究報告も活発であり、こうした点からはかなり評価できよ
う。ただし、社会科学研究所のように外国大学と研究協定を結ぶ、というところまでは研
究員の意識にはないように見受けられる。
次に、「情報化」の視点から見ると、おそらく他の研究所と実態は大差ないと思われる。
もし、本研究所が行っている「公開講演会」や、外部の研究機関との「共同シンポジウム」
を、研究所の情報発信と位置づけるならば、一定の成果をあげており、今後も積極的に進
める意義がある。ただし、外部資金の獲得というような点では意欲が見られない。
第三に、本研究所が努力している「地域に開かれた研究所」という視点からは、(財)日
746 第4章 研究所
本電信電話ユーザ協会西東京地区協会の、会員向け研究会に講師を派遣しているとともに、
多摩起業家育成フォーラムの中央大学での窓口になっており、一定の役割を果たしている。
今後さらに積極的に活動を進めるべきと考えている。
【長所と問題点】
客員研究員や海外からの研究者の受け入れを増やすことは難しくはない。むしろ研究規
模に応じて適正人数となっているかどうかが問題である。この点ではうまくいっていると
いえる。
しかし、客員研究員が固定化してきていること、招請した海外からの研究員の本研究所
への論文での還元が多いとは言えない点で問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
情報化、国際化を積極的に進めるためには、研究チームの編成を研究員の主体性に委ね
ておくだけでは限界がある。計画委員会が主導的に研究員に働きかけ、スケールの大きい
チームを作ることが必要と考えられる。規模の大きい共同研究チームの編成が必要という
声が出ているので、早急に研究員の意見の集約化、方向づけを行いたい。
4.施設・設備等
【現状の説明】
①専用施設
企業研究所所長室
②共用施設
書庫、新着雑誌コーナー、研究所会議室 4 室、研究所談話室、研究所合同事
務室、倉庫
【点検・評価】
情報機器類の導入にともない設置スペースに余裕がほしいが、施設・設備は比較的良好
に整備されており、その維持・管理体制も学内の責任体制の一環に編成されている。情報
インフラについては、研究員のニーズに応じて電子情報によるデータ・ベースや検索サー
ビスを提供している。一部のサービスは研究室から利用可能になっている。所蔵資料は多
摩キャンパスの6研究所と合同の書庫を使用しており、研究員にとっては広範囲の図書・
資料が利用できる。これらは大学院学生、学外の研究者にも公開している。また、複数の
大学と資料の相互利用のための協定を結んでいる。
【長所と問題点】
国内の経済学系の研究所としてはかなり規模が大きいほうであろう。合同事務室化して
から、資料管理と庶務の担当の専門性がなくなってしまったが、一方で、全体の資料を管
理する事務担当者が置かれ、他研究所の資料が利用しやすくなったので利便性が向上した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特に大きな改善を必要とする点はないが、報告スタイルの変化に対応した機器の整備は
必要である。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】(資料編7参照)
①基本図書
研究所としての体系的収書計画に基づき、社史、産業史、労働組合史、企業
家の伝記、有価証券報告書、財界団体・シンクタンクなどの刊行する資料、企業に関する理
747
論的および実証的研究の領域において古典的価値のある図書、などを重点的に収集・購入す
る。
②内外の学術雑誌、大学紀要、統計・白書・年鑑類を他研究所・中央図書館との重複を考慮し
ながら収集・購入する。
③2001 年3月末の蔵書数は、和書 30,189 冊、洋図書 12,682 冊、また 2000 年度までの所
蔵雑誌のタイトル数は、和雑誌 548 タイトル、洋雑誌 241 タイトルとなっている。
【点検・評価】
図書館システム導入にともない、学術情報へのアクセスや書誌所蔵データ検索も整備さ
れつつある。また、外部データベース等各研究所や図書館が個々に契約して利用していた
が窓口を一本化して無駄がないようにすべきである。
【長所と問題点】
有価証券報告書はかなり充実しており、学部学生、大学院学生、研究員の利用に供して
いるが、年2回の受け入れや製本、管理保管に限界があり、CD-ROMなどの電子媒体を
利用した方法の検討をする時期である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学術情報センター構想が、図書館を中心にして提案されているが、研究所の独自性を考
慮に入れた情報の共有化を図り重複等を避けた有効利用を考えるべきである。
6.社会貢献
【現状の説明】
1)中央大学学術シンポジウム
1980 年より中央大学学術シンポジウムとして、8研究所共催で 1994 年までに 15 回の学
術シンポジウムを開催してきた。第 16 回からは開催方式を改善し、全学から参加者を募っ
たプロジェクトチームを形成し、研究期間を2年間として隔年で学術シンポジウムを開催
することとした。16 回からは中央大学学術シンポジウム研究叢書として研究成果を公表し
ている。
2)刊行物
研究叢書、翻訳叢書、年報、リサーチ・ペーパー等は、研究所HPでコンテンツを公開
している。他に、研究成果の公表をより迅速に行うためにワーキング・ペーパーも刊行し
ている。
3) 公開研究会・公開講演会・シンポジウム等
多摩地域の企業に対し、講義・研究会の講師を派遣するとともに、多摩起業家フォーラム
の活動の一環としてベンチャーに関するシンポジウムを開催する。
また、「社会に開かれた研究所」を指向して、広く一般にも参加者を募り、毎年設定する
統一テーマのもとに、中央大学出身の経営者1名と、研究員1名を講師として、公開講演
会を年1回開催する。(資料編8参照)
【点検・評価】
研究会等は公開としているが、かなり専門的になるため参加者はすくない。シンポジウ
ムや公開講演会については、著名な講師や時流にあったテーマを設定することにより一般
の参加者が多数みこめる。
748 第4章 研究所
【長所と問題点】
本研究所の公開講演会は 10 年間開催してきており、固定した聴衆が定着し、参加者も
毎年 200∼350 名位の参加をえて好評である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
公開講演会・シンポジウム等については開催場所や日時およびテーマや講師によって参
加者数が変わるのでより工夫した企画が必要である。
研究成果の公表については、ホームページにそのコンテンツは掲載しているが、いずれ
著作権等の問題がクリアーできれば、論文等も全文掲載する方向で検討することが必要で
ある。
7.管理運営
【現状の説明】
①研究員会は、研究員で構成し、所長が召集し、研究および調査に関する事項を審議決定
する。
②商議員会は、所長・商学部長・研究員の互選による7名で構成し、所長が召集し、研究所
の管理および運営に関する事項ならびに予算申請案を審議決定する。
③業務の必要に応じて、研究員会から選出された委員による委員会を置く。2000 年度は計
画委員会・資料委員会・国際交流委員会・編集出版委員会を開催した。
④計画委員会は、14 名で構成し、研究計画の基本方針の原案、研究の年度計画の原案およ
び国際共同研究に関する事項、研究計画の実施に関する事項を審議する。
⑤資料委員会は、12 名で構成し、図書・資料の収集に関する基本方針、各年度の図書・資料
購入に関する事項、寄贈図書・資料に関する事項、図書・資料の利用に関する事項を審議す
る。
⑥国際交流委員会は、10 名で構成し、国際交流に関する基本方針、各年度の国際交流計画、
国際交流の実施に関する事項、国際共同研究に関する事項を審議する。
⑦編集出版委員会は、12 名で構成し、叢書・年報・資料・要覧等の編集・出版に関する基本方
針、各年度の叢書・年報・資料・要覧等の編集・出版に関する事項を審議する。
【点検・評価】
組織としては、整備され民主的な運営が行われている。
【長所と問題点】
構成員が多い研究員会は、出席者が少なく、定足数を設けていないので会は成立するも
のの、そこでの決定を研究員の総意によるものとすることには問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
規定改正委員会を設置し、問題点の洗い出しをはじめ、会議体のありかた等を検討して
いる。
8.財政
【現状の説明】
本研究所の財政基盤は大学予算の中でまかなわれており、ここ6∼7年は増額されてい
ない。支出の主なものは研究費 600 万、資料収集 2,418 万、研究発表 1,768 万の合計 4,
749
800 万円の規模で運営されている。(資料編9参照)
【点検・評価】
研究チームは国際共同・総合プロジェクト・個別3種のチームがあり、各々共同研究チ
ームとして活動している。研究成果を研究叢書、翻訳叢書、年報のいずれかの形態で公表
している。また、資料収集も本邦社史・有価証券報告書・外国企業アニュアルレポート等
を主として、共同研究に必要な資料として購入している。
【長所と問題点】
研究所のありかたを検討し、研究所の活性化を促進するような学際的共同研究や大型プ
ロジェクト研究を運営していくには、大学財政に全面依存することでなく、外部資金導入
の方策を検討することも必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学院と連携した教育研究プログラムの策定に向けては従来からの予算配分ではなく各
組織をまたがる共通予算も必要になる。また、研究所の組織は個別だが極力無駄を省き、
重複資料等をなくすような自助努力も必要であり、各研究チームへの平均的予算配分では
なく、重点的な予算配分も検討する時期である。
9.事務組織
【現状の説明】
経済、社会科学、企業、人文科学、政策文化総合の5研究所の事務室が 2000 年7月1日
付で統合され、研究所合同事務室として発足した。この項については「経済研究所」を参
照されたい。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
本研究所は、従来からアンケートによる問題点の洗い出し、検討委員会による改善の検
討を繰り返し行ってきている。したがって重要な問題については改めて自己点検・自己評価
をするまでもなく明らかである。しかし、総合的・体系的に見直すのは初めてであり、「大
学評価委員会」が示す方針・手続きに従って前述のような報告内容をまとめた。
大学の自己点検・自己評価が教育研究の質を高めることを目的とすることに鑑みれば、量
的に見た研究業績ではなく、質的に見た研究業績こそが重要である。この意味で、以上の
自己点検・自己評価は、研究活動の成果を量的に見直しているという点では意義を有するが、
質的に検討するという点では不十分である。この意味で、本研究所の社会的評価を、
「叢書」、
「年報」、「Research Paper」、「Working Paper」の質的水準を客観的に評価することは今後
の課題として残されている。
【点検・評価】
本研究所の活動は、次の内容からなる。
①
研究会活動
研究報告会(定例研究会、個別研究会、合宿研究会)
シンポジウム(内部の関係者によるシンポジウム、外部の研究機関と共済するシンポジウ
ム、中央大学学術シンポジウム)
750 第4章 研究所
調査(国内外訪問調査、国内外アンケート調査)
②
出版活動
「叢書」、「年報」、「Research Paper」、「Working Paper」
③
社会貢献活動
公開講演会、セミナー講師派遣、起業家育成NPOへの参加
④
教育活動
大学院学生の研究チームへの参加、商学研究科委員会との共済による大学院学生研究報告
会
⑤
資料収集活動
定期刊行物、社史、有価証券報告書、著書
研究所の活動が成果を上げるためには、研究資金、研究資料、研究時間、研究発表の機
会、職員のバックアップなどの充実が必要であろう。しかし、現実には削減される研究所
予算、大学改革のために取られる研究時間、合理化の一環としての職員の削減に直面し、
研究活動がともすれば萎縮しがちである。特に研究員の関心が、学会の多様化、研究の細
分化の影響を受けて個人研究に傾斜しやすい状況にあり、本研究所の創立理念である共同
研究との両立をどのように図るかを検討しなければならない時期にきている。
【長所と問題点】
本研究所は、研究員数および予算に照らして研究チームが適正な数に抑えられており、
本研究所の理念と研究実績は維持されている。特に、海外からの講師による「定例研究会」、
10 回を数えた「公開講演会」、
「大学院学生研究報告会」などは、本研究所の特長と言える。
しかし、次のようないくつかの点で問題点が生じている。
①何よりも忙しすぎるという理由で、ここ数年計画委員会が強力にリーダーシップを発揮
しないと、研究員が「動いてくれない」、「集まってくれない」という状況に陥っている。
研究所の生命線は、ほとばしる研究意欲に基づいた主体的な研究にあり、そのためには研
究のための時間と、精神的に余裕が持てる状態をつくる必要がある。忙しすぎるという理
由は、研究所だけでは解決できない問題であり、学部教授会、大学院研究科委員会などと
連携して解決の方向を探ることが求められる。
②博士課程後期課程の大学院学生が増えつつあり、準研究員として研究活動に参加したい
大学院学生が増加している。しかし、大学院学生の希望に沿う研究チームがなかったり、
財政的な制約があったりして、何らかの改善方法を見出す必要がある。
③外部の研究機関や企業との共同研究がほとんどないといってよい。タコツボ型の研究所
にならないために、外部の組織と連携した研究が求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究所の問題点の所在から、改善・改革の具体的な方向は明らかである。ただそれを実
現するためには、研究員の意欲を引き出すことが必要である。そのためには、各研究員が
意欲を持っていてもそれを発揮しにくい、あるいはできない状況を改善しなければならな
い。研究所長の任務は、まずこの点の改善を手がけることであり、学部・大学院との話し合
いによる研究時間の確保を進める予定である。
大学院学生に対する教育については、研究所以上に大学院の問題であり、大学院商学研
究科に設置されている「改革委員会」との連携によって改革を進める予定である。すでに
751
第 1 回目の「大学院学生研究報告会」を開催し、成功をみているので積極的に進めていく
予定である。
外部の研究機関との共同研究については、具体的な相手先が念頭にあるので、具体化を
急ぎたい。
752 第4章 研究所
人文科学研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
人文科学研究所は、1979 年4月1日、大学附置の研究所として開設した。
本研究所は、広く人文科学に関する共同研究を行い、学術の進歩発展に寄与することを
目的とする。
(規程第五百十九号第一条
第二条)人文科学とは、広くは政治、経済、社会、
歴史、文学、芸術など幅広い人類文化に関する学問の総称であるが、本研究所は、政治、
経済、社会、技術などの社会科学や自然科学の実学的な学問分野は他の研究所に譲り、主
に文学、芸術、言語、教育、歴史など人間そのものとその文化に関する学問分野を研究対
象とし、対象を思想的・本質的に思考し、研究するところに特色がある。また本研究所は、
研究員が専攻する学問分野や所属する学部間の枠を超えて、課題意識を前提とした幅広い
人文科学に関する共同研究を特色としている。
この理念・目的を達成するために、以下の事業を行っている。
(1) 人文科学に関する共同研究
(2) 研究・調査に必要な図書および資料の収集・管理
(3) 研究・調査の成果および資料の刊行
(4) 研究会・講演会等の開催
(5) その他研究所の目的を達成するために必要な事業
【点検・評価】
研究チームの結成は、研究員の自主的な、自由な発意に基づいて行われていて、自由な
共同研究の場が形成され、それぞれ叢書や紀要の形で数多くの研究成果を挙げている。
【長所と問題点】
数多くの専任教員が、各学部横断的に研究員として参加し、大学附置の人文科学研究所
として相応しい構成になっている。また、学外の研究者も客員研究員として共同研究に参
加し、その研究成果を叢書や紀要に発表していて、文字通り開かれた研究所になっている
ことは特筆されてよい。
問題点としては、研究チーム結成が研究員の自由な発意に基づいているため、チーム数
が多くなり過ぎて、研究所の限られた予算では期待されるような予算配分ができなくなっ
ていることである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究の国際化にともなって、海外調査活動や研究交流のための費用を別途予算化し、大
学内の他の研究所や学外の学術団体との共同研究を推進する途を探りたい。
さらに、活動を充実させるためには、研究所の運営と研究に専念する専任の研究員が置
かれることが望ましい。
2.研究組織
【現状の説明】
(1)研究チームの種類と構成員
753
人文科学研究所の目的を達成するために、各研究員は研究チームに所属して共同研究を
行うが、この共同研究の組織には、
「共同研究チーム」と「研究会チーム」の2種類がある。
「共同研究チーム」とは特に専門分野を異にする研究員によって構成されたチームを指す。
研究員の資格は、中央大学の専任教員であって、研究所の事業に参加を申請し、研究員
会の議を経て許可された者に与えられる。また、専任教員以外の者にも、客員研究員(学
外の研究者で共同研究への参加を申請し、研究員会の議を経て許可された者)、準研究員(大
学院博士課程後期課程在籍者またはこれに準ずる者で、共同研究への参加を申請し、研究
員会の議を経て許可された者)として共同研究へ参加する道が開かれている。
編成形態については、「共同研究チーム」の場合7人以上の構成員、「研究会チーム」の
場合3人以上の構成員によって編成され、いずれも客員研究員と準研究員の合計人数は構
成員の半数を超えないことを原則としている。ただし、定年退職者は研究の本拠を本学に
置いていることから、この比率を問題にする場合、客員研究員として数えないことにして
いる。
(2)研究期間
研究期間は、1期を5年以内とし、上限は 10 年となっている。ただし、各期の研究期間
内に共同研究が終わらなかった場合は、合計3年まで延長することができる。
(この延長期
間には、チーム別予算配分は行われない。)
(3)成果公表の義務
研究チームは、各期ごとの研究期間内に、研究成果を発表するものとし、特に「共同研
究チーム」には、その研究成果を「研究叢書」として発表することが原則的に義務づけら
れている。
刊行物としては、「人文研紀要」と「研究叢書」があり、前者には、「共同研究チーム」
および「研究会チーム」の研究成果が随時発表され、後者には、
「共同研究チーム」および
「研究会チーム」の総合的な研究成果が発表される。また、各年度の研究活動概要を公表
するために「人文科学研究所年報」が刊行されている。
(4)現在の状況
2001 年5月現在、各学部の人文科学を研究する専任教員、法学部 44 名、経済学部 28 名、
商学部 26 名、理工学部 14 名、文学部 77 名、総合政策学部9名、総計 198 名の研究員で構
成されているが、研究所専任の研究員はいない。さらに、専任教員以外の者として、130
名の客員研究員と3名の準研究員が各研究チームに所属している。
2001 年度は、
「共同研究チーム」は1チーム、
「研究会チーム」は 29 チーム、合計 30 の
研究チームが活発な研究活動を行っており、共同研究の実りある成果をあげている。
(資料
編1参照)
【点検・評価
長所と問題点】
学外の研究者が共同研究に参加し、その研究成果を研究所叢書や紀要に発表できる点は
評価されてよい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
新規の研究チームが活動を開始するためには、研究員会の承認が必要となるが、広く人
文科学の領域に関わる研究である限り、テーマの設定等、内容について特別な制約は設け
られておらず、また、研究員が所属する研究チームの数にも制限はない。このように、研
754 第4章 研究所
究員の自由な発意に基づいた共同研究を保証する在り方は、学術の進歩発展への寄与を目
指す人文科学研究所の基本的精神を活かすために不可欠のものであり、今後とも維持され
るべきものであろう。これをさらに発展充実させるためには、専任研究員を置くことや国
内外の研究機関との交流を推進することなどが考えられる。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
本研究所の研究活動には次のようなものがある。
①
刊行物
本研究所から刊行されている刊行物は次の通りである。
ア.共同研究チームは、研究活動の成果を「研究叢書」に発表することが義務づけられてい
るが、他の研究会チームも「研究叢書」を刊行している。今年度までに 27 冊の「研究叢書」
が刊行されており、近年は年平均3冊の割合で刊行されている。
イ.研究チームおよび研究員個人の研究成果は、年3冊ないし4冊刊行の「人文研紀要」に
発表されている。(既刊 39 冊)
ウ.研究チームによる活動記録および研究所運営に関する事項は「年報」に年1回報告され、
まとめられている。(既刊 21 号)
エ.研究会や談話会等で、口頭発表された報告は希望があれば、ブックレットにまとめられ、
刊行されている。(既刊 12 号・不定期)
②
(資料編2、3、4、5参照)
口頭による研究発表
本研究所で行われる口頭による研究発表には次のようなものがある。
ア.公開講演会・シンポジウム
主催
研究所
講演料:手取
教授:50,000 円
助教授:30,000 円
その他:20,000 円
*外部講師のみに支給し、研究員・客員研究員・準研究員には支給しない
開催回数は、以下のとおり
年
度
2000
1999
1998
1997
1996
計
回
数
4
8
4
8
4
28
イ.公開研究会
主催
研究チーム
講演料:手取
教授:50,000 円
助教授:30,000 円
その他:20,000 円
*外部講師のみに支給し、研究員・客員研究員・準研究員には支給しない
開催回数は、以下のとおり
年
度
2000
1999
1998
1997
1996
計
回
数
8
10
4
10
12
43
ウ.談話会
主催
研究所
講演料
支給しない
開催回数は、以下のとおり
755
年
度
2000
1999
1998
1997
1996
計
回
数
1
4
3
3
0
11
エ.合宿研究会・現地調査
主催
研究チーム
開催回数は、以下のとおり
年
度
2000
1999
1998
1997
1996
計
回
数
9
10
8
6
8
41
オ.研究会
主催
研究チーム
開催回数は、以下のとおり
年
度
2000
1999
1998
1997
1996
計
回
数
98
104
101
101
110
523
(資料編6参照)
【点検・評価】
研究成果の刊行物による公表、および口頭による講演会、研究会などの研究活動は実り
あるものと評価されてよい。
【長所と問題点】
研究成果を研究叢書および研究紀要として、それぞれ毎年3ないし4冊ずつ刊行し、内
外にその研究成果を問うていることは、研究所の研究活動として評価されてよい。また、
研究叢書の掲載論文は研究チーム内で論議の上掲載されているが、紀要の掲載論文は編集
幹事会の審議を経て掲載されることになっているものの、より実りのあるものにするため
には、論文の審査機構が必要かもしれない。研究会活動の自由や執筆の自由とも絡んで難
しい問題が生じてくる可能性があるが、今後議論すべき課題と思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、上記「研究叢書」
「人文研紀要」の他に新たに、海外のすぐれた文献を紹介する「翻
訳叢書」刊行に向けて審議中である。
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
今年度本研究所の経常予算総額は 47,285 千円で、内、A支出予算は 22,999 千円である。
これは大きく分けて研究計画予算と資料委員会予算、その他となるが、そのうち研究計画予
算は 10,850 千円、これを各研究チームに配分して各研究チームの研究費としている。
研究費
研究チームは、現在「共同研究チーム」1チームと「研究会チーム」29 チームあり、2001
年度研究費配分額は「共同研究チーム」80 万円、
「研究会チーム」35 万円で、研究会活動に
必要な図書費、講演料、研究旅費などはこのチーム予算から支出されていて支出できない
のは会合費のみである。
また、研究旅費、および講演料について説明すれば以下の通りである。
①
研究旅費(調査、合宿)
756 第4章 研究所
*旅費支給基準(国内)
・規程:中央大学旅費規程、旅費内規
内訳:交通費・宿泊費のみ。日当は、慣行に従い研究所予算(研究計画予算)が好転する
までの当面の間、支給しないものとする
・支給対象および支給基準:
研究員………中央大学旅費規程(標準出張旅費一覧)を準用
客員研究員・準研究員
本人居住地最寄り駅から目的地まで、標準出張旅費一覧の起点よりア.近い場合……実費支
給、イ.遠い場合……中央大学旅費規程を準用
・旅費支払い限度額:
チームの配分予算の中から支出するものとし、予算額の 50%あるいは 30 万円のいずれか
高い方を上限とする
*旅費支給基準(海外)
・決裁:運営委員会の議を経ることとし、所長の承認を必要とする
・支給対象および支給基準:当面研究員のみ
・交通費は、国内における出張旅費の最高額を超えない範囲で支給することができる
・交通費の国内における最高額は人事課が定める金額を適用する。なお、国内における最高
額を超えない場合は実費支給とする
・宿泊費は、中央大学旅費規程に定める宿泊費を、2泊3日を限度として支給することが
できる。なお、日当は3日を限度に支給することができる
・旅費については、所属するチームの配分予算の中から支出するものとし、予算額の 50%
あるいは 30 万円のいずれか高い方を上限とする
・学内の他制度からの旅費支給と重複して支給しない
学会、研修会、教育、視察、国際会議を目的とする出張については適用しない
・国外から帰国後はすみやかに研究所所定の「国外調査・研究報告書」を提出しなければ
ならない
②講演料
外部講師のみに支給し、研究員・客員研究員・準研究員には支給しない
手取
教授:50,000 円
助教授:30,000 円
その他:20,000 円
(資料編7、8参照)
【点検・評価】
研究チームへ配分されている研究費は、おおよそ資料の購入に充てられており、各チー
ムの研究テーマに沿った資料収集がなされている。
【長所と問題点】
研究費の使途については、各チームの独自性を尊重し、会合費以外の支出を認めている。
研究チームへの配分額が少ないため、研究旅費には厳しい使用制限をつけざるを得ず、現
地調査等は活動範囲が限定されている点に問題がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究チーム数は、当研究所設立 1979 年度 10 チームであったのが 2000 年度現在では 30
チームと増加している。ここ数年は毎年5から6チームずつ増加しているにもかかわらず、
757
経常支出の予算の増額がないことから各チームへの研究費配分額が年々減額となっている。
活発な研究活動を営むには研究費の増額が必要不可欠である。
3−(3)国内外における研究者・研究機関交流
【現状の説明】
①
外国人訪問研究者の受け入れ
国際交流センターへ公開講演会4回、公開研究会6回の申請を行い、多彩な外国人講師
を招いて、活発な研究活動を行っている。
・講演料(手取)共通基準(教授:50,000 円
助教授 30,000 円
その他 20,000 円)
・懇親会については、研究所主催公開講演会の場合で講師が外国人の場合は国際交流セン
ターと人文研が7:3の割合で負担。日本人の場合は人文研で全額負担。公開研究会は懇
親会を実施しない。談話会は参加者負担を原則としている。
②
研究交流協定、国際共同研究等
東京外国語大学の綜合文化研究所との間に研究交流協定の提案があったが、まだ実りあ
るものになっていない。海外の研究機関との国際共同研究についてはまだ計画がない。
【点検・評価】
外国人訪問研究者の受け入れ機関としては、十分な機能を果たしていると評価できる。
【長所と問題点】
公開講演会・公開研究会を実施しても、参加者数は必ずしも多くないのが現状である。
これは公開講演会・公開研究会のPR活動にも問題があるが、外国人訪問研究者と一部
の研究員だけとの交流にとどまるとすれば問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際交流については、もっと実りある多様な研究体制を探らなければならないであろう。
4.施設・設備等
【現状の説明】
(1)所長室
(2)研究所共同会議室1∼4
事務室 (5)倉庫
(6)新着雑誌コーナー
(3)研究所談話室
(4)研究所合同
(7)研究所倉庫(共用)計 4,248 ㎡
※(2)から(5)までは、5研究所共有、(6)、(7)は、比較法研究所と共有する。
【点検・評価】
合同事務室になったことで研究会用会議室が増え、談話室も設けられて、研究所の利用
範囲は拡大したが、研究所書庫だけは相変わらず狭い。
【長所と問題点】
問題点としては、研究所書庫は、後4・5年で満杯になる点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所書庫を改善したい。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
5研究所書庫(共有)の一角に、人文科学研究所の資料コーナーが設けられ、研究会に
758 第4章 研究所
必要な資料を収集し、研究に供している。
資料は、資料委員会および各研究チームで選定しており、多岐の分野にわたっていて、
その数は、現在までに雑誌等 622 タイトル、資料 33,663 点である。資料についての 2001
年度年間予算は、研究費予算で 7,735,000 円、資料委員会予算で 8,140,000 円計 15,875,000
円であり、研究所合同事務室資料課において、整理、登録され研究員に広く利用されてい
る。
【点検・評価】
図書等の資料の収集は、各研究チームおよび資料委員会によって行われている。各研究
チームは、配分された予算の中でそれぞれの研究遂行に必要な図書を選定し収集している。
一方資料委員会は、当研究所全体にとって必要な図書等を選定し収集することを任務とす
る委員会で、委員会として予算の配分を受け、逐次刊行物および辞典・目録等のいわゆる
レファレンス関連図書の選定・収集を行っている。そのため資料委員会委員は、文学・歴
史学・哲学・教育学など各分野から選出され、それぞれの専門分野で必要な図書等を選定
するよう努めている。なお、選定に際しては、図書館を始めとする学内の諸機関に所蔵さ
れていない図書等に限定している。
【長所と問題点】
各研究チームに図書の選定が任され、それぞれに必要な図書等を収集できる体制が保証
されていることは、十分に評価できる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
資料委員会の扱う図書等については、逐次刊行物および辞典・目録等のレファレンス関
連図書に限られている。近年の出版状況をみると、図書の多様化が進み、必ずしも従来の
辞典・目録の範疇で捉えきれない参考図書が増えてきている。このような現状に鑑みれば、
現在の収集方針には、やや硬直化がみられ、改善の余地があり、委員会としても早急にこ
の問題について検討する予定である。(資料編9、10、11 参照)
6.社会貢献
【現状の説明】
次のような研究成果および研究活動を通して社会に還元し、貢献している。
(1)学術シンポジウム
1980 年より中央大学学術シンポジウムとして8研究所が共催する形で 1994 年まで 15 回
の学術シンポジウムを開催してきた。第 16 回から新しい方式で事前にテーマを設定し1研
究所ではなく、全学から参加者を募りプロジェクトチームを形成し研究期間を2年間とし、
隔年で学術シンポジウムを開催することとした。16 回目からは中央大学学術シンポジウム
研究叢書として研究成果を公表している。(資料編 12 参照)
(2)研究叢書を書店で発売し、研究成果を公表している。
2001 年5月現在
創刊号から 27 号まで(資料編 13 参照)
(3)毎年数回の公開講演会、公開研究会、シンポジウム等を通じて社会貢献を行ってい
る。(資料編 14 参照)
【点検・評価
長所と問題点】
「研究叢書」は年3ないし4冊刊行されており、研究成果を十分に社会に還元している。
759
公開講演会・研究会等も資料編 14 の通り開催されており、社会に還元している。一方、
公開講演会・研究会での研究員参加者や一般聴衆が場合によっては必ずしも多くないこと
が問題点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
公開講演会・研究会の参加者数を上げるためには、広報活動を充実させるだけでなく、
開催場所として駿河台記念館や市ヶ谷キャンパスを積極的に活用するべきであろう。
7.管理運営
【現状の説明】
本研究所では、基本方針に基づく運営のために運営委員会を設置している。 運営委員会
は、所長の主宰により月1回開催され、研究所の運営に関する事項全般について、審議・
決定している。
研究員会を年4回開催し、運営委員会で審議・決定された事項および研究活動全般に関
わる事項について、研究員の意見を徴し、研究活動に反映させている。
研究所の活動を円滑に遂行するために、研究チームの主査・責任者等による下記の委員
会を設けている。
(1)所長について
資格・選出:中央大学専任教員、研究員会で選出した者、学長が委嘱
機能・権限:研究所を代表、研究所業務を掌理
規
程:規程第5・6条
任
期:3年、再任妨げず
(2)委員会等について
①:構成
②:機能・権限
③:規程等
④:定足数
研究員会
①研究員。2001 年5月1日現在は 198 名
②運営の基本方針に関すること、事業計画に関すること、所長の選出に関すること、予算
申請案に関すること
③規程第 10・11 条
④研究員数の過半数
運営委員会
①所長、研究員会で互選(選挙)した者5名、共同研究チームの主査、資料委員長、事務
室長。2001 年度は9名。任期:2年、再任妨げず
②研究所の運営に関する事項、事業計画案の作成および事業計画の執行に関すること、予
算申請原案の作成および予算の執行に関すること
③人文科学研究所規程第 12・13・14・15 条
④無し
研究計画委員会
①所長、研究員会において互選された運営委員、共同研究チームの主査、研究会チームの
責任者、資料委員長、事務室長。2001 年度は 34 名。任期:1年、再任妨げず
②研究計画の立案に関すること
760 第4章 研究所
③研究計画委員会内規
④無し
出版委員会
①研究員会において互選された運営委員のうちから運営委員会で選出された者2名、共同
研究チームおよび研究会チームの研究員のうちから推薦された者各1名。 2001 年度は 30
名。任期:1年、再任妨げず
②紀要・叢書の編集・発行に関する基本方針の審議
③出版委員会内規
④無し
編集幹事会
①出版委員のうちから選出、5∼10 名。2001 年度は 11 名
②当該年度の紀要・叢書の編集・発行に関わる事項
③出版委員会内規
④無し
資料委員会
①研究員会において選出した者について、学長が委嘱
2001 年度は 10 名。任期:3年、再任妨げず
②図書・資料の収集および管理
③規程 16 条
④無し
講演会企画委員会
①運営委員会で互選した者2名。任期:1年、再任妨げず
②人文研主催の講演会の企画・立案
③規程第 17 条
④無し
761
・研究所組織を図で示せば、以下の通りである。
研究員会
所
長
運営委員会
事務長
研究所合同事務室
研究計画委員会
出版委員会
資料委員会
講演会企画委員会
編集幹事会
資料課
研究チーム
庶務課
共同研究チーム
【点検・評価
研究会チーム
長所と問題点】
組織としては、非常にしっかりしており、十分に機能している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在、翻訳叢書刊行を検討していて、審査委員会を設置するか否かで議論になっている。
さらに、刊行物全体に関して論文の審査機構を設けるべきか否かも議論になっている。
8.財政
【現状の説明】
研究活動のための経常支出(A)枠がここ6、7年 22,999 千円と増額がない。そのため、
研究チームへの配分額は、年々減少し 2001 年度は、
「共同研究チーム」で 80 万円、その他
の「研究会チーム」で 35 万円である。(資料編 15 参照)
【点検・評価】
予算額は増加しないにもかかわらず、年々研究チーム数が増え、かつそれにともなって
研究会の開催数も増えている。このように限られた予算の中でも研究活動は、活発に行わ
れているが、より一層充実した研究活動のためには、早急に予算の増額が望まれる。
【長所と問題点】
経常支出(A)はここ6、7年一定額に抑えられているのに、新規の研究チーム申請は
増え続けており、チーム配分額を減額せざるをえない。目下最大の問題点である。
刊行物出版予算については、別枠の経常支出(B)の処理となっており、希望に応じて
「研究叢書」および「人文研紀要」が刊行され、活発な研究発表がなされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在でも「共同研究チーム」で 80 万円、その他の「研究会チーム」で 35 万円であるが、
これも近い将来維持できなくなる恐れがある。研究員数に比例した研究所の予算配分を望
762 第4章 研究所
みたい。
9.事務組織
経済、社会科学、企業、人文科学、政策文化総合研究所の5つの事務室が 2000 年7月1
日付で統合され、研究所合同事務室として発足した。以下、この項については「経済研究所」
を参照されたい。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
本研究所では、これまで自己点検・評価について、委員会を設置して検討した経緯はな
い。将来的には、研究活動の内容が高い水準を維持しているか、恒常的に自己点検・評価
委員会を設置し、検討する必要がある。
【点検・評価】
研究会の計画書、報告書などの提出を義務づけており、その研究活動については、年報
に掲載されている。
【長所と問題点】
各学部横断的に数多くの専任教員が、研究員として参加し、大学附置の研究所としてふ
さわしい構成になっている。また、学外の研究員も客員として参加し、ともに叢書や紀要
にも執筆していて、文字通り開かれた研究所になっていることは特筆されてよい。
問題点としては、少子化にともなう私立大学の予算の制約もあって思うような研究費を
配分することができない。その一方では、科研費の申請件数も少なく、その点は反省すべ
き点であろう。また、研究成果は叢書と紀要に発表され実りあるものになっているが、相
互批判が不十分と思われる点は反省すべき点かもしれない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
(1)研究体制の発展・充実のためには共同研究をさらに強化・発展させる必要があり、その
ためには早急に研究費の増額が望まれる。
(2)現在、研究成果の公表には、「研究叢書」と「人文研紀要」が刊行されているが、さら
にこれに海外のすぐれた、貴重な文献を紹介する翻訳叢書や資料叢書の途を探っている。
(3)研究の国際化にともなう海外調査活動や研究交流のための費用を別途予算化する必要
がある。
763
保健体育研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
1978 年 11 月 13 日に大学附置の研究所として設置され、保健体育科学に関する共同研究
を行い、学術の発展に寄与することを目的とする。
(中央大学保健体育研究所規程第五百二十号)
研究所は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
1.保健体育科学に関する共同研究及び共同調査
2.研究・調査に必要な図書及び資料の収集・管理
3.研究・調査に必要な実験・測定機器の整備及び管理
4.研究・調査の成果及び資料の刊行
5.研究会、講演会等の開催
6.その他研究所の目的を達成するに必要な事業
【点検・評価
長所と問題点】
保健体育科学・スポーツ科学に関する共同研究を行う機関が中央大学に初めて設置され
た意義は大きく、その領域の研究が格段と進展し、研究図書および資料の収集、実験・測定機
器の整備がなされた。共同研究の活性化、研究成果の還元、多様な研究領域を持つ研究員
との交流などが今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
科学技術の急速な発展にともなう実験・測定機器等の機器類の更新が十分でなく、今後、
時代のニーズにあった最新のものに取り替える必要がある。また、研究所主催の公開シン
ポジウムや研究会等をさらに充実し、共同研究の活性化、研究成果の還元、多様な研究領域
を持つ研究員との交流が今後の課題である。
2.研究組織
【現状の説明】
<保健体育研究所組織図>
研究所長
事務室
紀要編集委員会
運営委員会
研究所
研究員会
資料・設備委員会
国際交流委員会
企画委員会
研究班(11 研究班)
組織図は各研究班にとって研究活動に取り組みやすいように、2000 年度からスタートし
たものである。
【点検・評価】
企画委員会で企画された公開シンポジウム、各研究班の公開研究会や在外研究報告会等
はかなりの成果があった。
764 第4章 研究所
【長所と問題点】
企画委員会が研究班の研究活動を公開する横断的役割を果たし始めたが、情宣活動の不
足により、周知徹底があまりできなかったので、今後検討していく必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究活動をより活性化させるために、共通の研究時間を設定し、研究会の定例化と研究
員間の交流を活発化させる方向を模索する必要がある。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】(資料編1、2参照)
1)刊行物
「保健体育研究所紀要」を年1回刊行(既刊 19 冊)し、各研究チームの研究成果を発表
する。
2)学会、国際会議等における研究発表
・競泳コーチング班
「パワー出力傾向と主観的な泳ぎの感覚からみた Semi-tethered Swimming 実施時の至適設
定負荷」 日本体育学会
1996 年9月
「Development of Power Processor for Swimming」ACSM
1997 年5月
「牽引泳時のパワー出力とストローク技術の主観的評価について」PRE-OLYMPIC CONGRESS
2000 年9月
・スポーツ医科学研究班
「女子大学運動選手の間欠的パワーの発揮」日本体力医学会 2000 年9月
3)公開研究会の発表
・競泳コーチング班
20 周年記念シンポジウム「21 世紀のスポーツ」1998 年 11 月
「徹底解剖中央大学水泳部−インカレ7連覇&オリンピックでの活躍に迫る」2000 年 12
月
【点検・評価】
ここ数年の継続研究では、学内への成果の還元という視点で、精神衛生班の「運動部員
のストレッサーに関する研究」、競泳コーチング班の「プロジェクト 2000」等が研究成果
として評価される。
【長所と問題点】
研究成果の紀要への報告や公開研究会の開催が始まったが、今後は、他研究所との共同
研究や合同研究会の実施等も視野に入れて取り組む必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究員の構成が保健体育と心理学関係に偏っているが、保健体育の分野は幅広くあるた
め、他研究所と連携すると同時に、法律、政治、経済、社会学関係の研究者も研究員とし
て取り込むことも視野に入れるべきであると考える。
3−(2)研究体制の整備
765
【現状の説明】
研究費、研究旅費については、各研究班の主査により研究計画に基づいた予算申請が行
われ、研究委員会の議を経て決定されている。教員の研究時間の確保については学部授業
との関係で十分な時間が確保できていないのが現状である。
【点検・評価】
予算申請に特段の問題はないが、研究成果をチェックするという視点がやや欠けている。
【長所と問題点】
研究時間の確保については、研究所に専念できる期間を具体的に検討しなければ解決さ
れない問題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究活動とその成果については、常に「点検と評価」を行い、実績に基づく予算配分等
も検討する必要がある。
3−(3)国内外における研究者・研究機関との交流
【現状の説明】
国内の研究機関との交流では、大学教員、高校教諭、コーチ等が、国際的にも外国の研
究者が客員研究員として研究班に参加し、研究活動を行っている。競泳コーチング班は国
際学会で研究成果の発表を行っている。
【点検・評価】
本学の研究員だけではカバーできない多様な研究領域からの客員研究員の存在は研究活
動の活性化に大いに役立っている。
【長所と問題点】
研究員の絶対数が少ないため、実験・調査対象となる学生には恵まれているが十分な研
究活動ができていない。今後、客員研究員の増員を図る必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後は電子メディアを活用し、国内外の研究者との交流を活性化させる必要がある。
4.施設・設備等
【現状の説明】
保健体育研究所所長室、会議室、共同研究室2、図書・資料室2、倉庫、トレーニング
室、コンピュータ室、実験室2(動作解析システム、スピードメータ解析装置、体力測定
関係、トレッドミル、自転車エルゴメーター等)、事務室、(専有床面積 900 ㎡)
【点検・評価】
スポーツ科学の進展から見て、現在ある実験器具機材は、やや遅れをとっているのが現
状である。トレーニング室の器具は研究目的のためにはすべて取り替える必要がある。情
報インフラの面でも、機能的に見て不十分である。
【長所と問題点】
体育館内にまとまってあるのはよいが、トレーニング室および実験室は狭く、十分に活
動できない状況にある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
766 第4章 研究所
トレーニング機器、体力測定器具等については、中期計画等の中で随時購入し、研究活
動と平行して取り組む必要がある。トレーニング室は、新しく設置されることが望まれる。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
1)逐次刊行物の整備(代表的な和洋雑誌)
2)体育、スポーツ、医学に関する学会誌
3)スポーツ・健康科学の辞(事)典
4)スポーツ・健康科学に関する資料
5)スポーツ、体育、健康科学、医学に関する図書全般
以上のような収書方針である。
【点検・評価】
主な和洋雑誌、学会誌等が購入されているため、雑誌等の充実度は高い。しかし書庫が
狭いため保管場所のスペース不足が新たな問題として生じている。
【長所と問題点】
資料室はあるが、資料の検索や作業効率上、スペースが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
重複図書や購入図書の配置問題などを検討し、スペースの有効利用・活用を図る必要が
ある。
6.社会貢献
【現状の説明】
学内外への還元では、
「ナイトハイク」の実態調査、10 周年の記念講演会、20 周年の記
念シンポジウム、教職員のフィットネスチェック、2000 年度公開シンポジウムなどを実施
した。
【点検・評価】
本研究所の特徴として、研究と実践が表裏一体になっていることが必要である。こうし
た取り組みが、実績として一応の成果を挙げてきている。
【長所と問題点】
2000 年度には公開シンポジウムとして 1999 年度に「21 世紀のスポーツ」−21 世紀にス
ポーツの流れは変わるのか−に続いて「中大水泳部インカレ7連覇&オリンピックの活躍
に迫る」を実施した。この公開シンポジウムには、多くの学生を始めとして、小学生から
高齢者までの聴衆が参加するという傾向が見られ好評を博した。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、注目されるテーマを選んで、上記のような企画を継続していくことが課題である。
7.管理運営
【現状の説明】
運営委員会を置き①研究所の運営に関すること②事業計画案の作成および事業計画の執
行に関すること③予算申請原案の作成および予算の執行に関すること等を協議している。
767
図書・資料の収集および実験・測定機器の購入、管理のため研究所に資料・設備委員会
を置いている。さらに運営の基本方針に関すること、事業計画に関することなど、研究所
の管理・運営についての審議決定機関として、研究員会を置いている。
研究所全体の研究活動を活発化させるため、企画委員会を設置し、公開講演会、公開研
究会の企画、立案を行っている。
なお、本研究所では、サービスプログラム委員会を設け、本学教職員の健康づくりに寄
与できるよう年2回程度のプログラムを 2000 年度より実施している。
(1999 年までは体力測定を教職員向けに行っていた。)
【点検・評価】
現行のスタッフ、組織体制の中では問題なく運営されている。
【長所と問題点】
公開シンポジウムやサービスプログラムの成果が上がったが、これらの情宣活動の工夫
が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後、小回りの利く委員会活動を活発に行い、活性化を図ることが具体的な方策である。
8.財政
【現状の説明】
各研究班の研究計画は5年を目途に実施されている。現時点では、外部資金等への申請
は行われていない。
【点検・評価
長所と問題点】
今後は、外部資金導入にも積極的に応募していくことが望まれる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究と財政という観点から、多様な研究領域に関わる専門知識を持った人員確保などの
研究サポート体制が必要である。
9.事務組織
【現状の説明】
体育センター事務室と保健体育研究所事務室が同じ場所で事務局の仕事を行っている。
【点検・評価】
研究・調査活動のサービス向上について、迅速化に努める。研究活動に沿った有効的な
予算の使用に努める。
【長所と問題点】
近代のスポーツはデータを重視したスポーツに変化してきている。学生が自由にデータ
処理ができるコンピュータ室の設置や、トレーニング場での医科学、心理学(スポーツ相
談)に携わるインストラクターを置くことが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
多摩移転後 23 年を経過したが、トレーニング場等を新たに設置し、学生の体力測定デー
タを常時とることによって、研究活動の分析や統計をリサーチ・アシスタントやインスト
ラクター等研究所予算で採用し、研究の支援を行うようにするのが望ましい。
768 第4章 研究所
10.自己点検・評価
【現状の説明】
研究活動を行う上で、大学院学生をはじめとする学生の存在は大きい。しかし本研究所
は教員のみの活動であり、また実験・調査を必要とする研究が大部分のため研究がはかど
らない状況である。
【点検・評価
長所と問題点】
研究と実践が密接な関係にあるためその成果が現れてくるが、そのための要因となる予
算、人的整備が問題となる。このような研究員の拡大、研究サポート体制は、大学の授業
等公務と両立して研究を行い、研究所の研究活動を活発化させるためには重要な要件と言
える。また、研究員の構成が全学部に亘るため、会議、研究会のために共通の曜日、時間
の確保が必要となる。そのための学部間の調整に今後努力することが求められる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究所の組織体制については、保健体育の学問分野は、医学、法学、社会学、心理学、
歴史学、教育学等多岐に亘るため、多くの専門分野の研究者と共同しての研究活動ができ
ることが考えられるため、研究員の拡大を図ることが望まれる。研究を活発化させるため
には、研究サポート体制の充実が望まれる。特に実験系の研究においては、その準備およ
び実験助手が必要となるが、その他の研究分野においても、調査等の資料整理を始めその
サポートにより効率のよい研究活動が可能となるため、専門的知識を持ったアシスタント
が望まれる。
今後の社会における、健康、スポーツに関するニーズは多くその研究が果たす役割は大
きい。本研究所においてもこれらの要求をふまえ、今後の研究活動を考えていくことが急
務であると考えられる。
769
理工学研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
本研究所は、
「理工学の基礎及び応用に関する共同研究・プロジェクト研究等を行い、も
って学術の発展に寄与することを目的」
(中央大学理工学研究所規程第2条)として、1992
年7月1日に中央大学に設置された。本研究所は、この目的を達成するために、次の事業
を行うことを定めている。(同規程第3条)
①理工学に関する共同研究及び共同調査
②理工学に関するプロジェクト研究
③理工学に関する一般研究及び一般調査
④研究、調査及び試験の受託
⑤研究及び調査の成果ならびに資料の刊行
⑥研究会・講演会等の開催
⑦その他研究所の目的を達成するために必要な事業
本研究所は常勤の専任研究員を持たないが、その目的を達成するために次の3種類の研
究員を置いており、いずれも研究員会の議を経て所長が委嘱する。
(同規程第7条、第8条)
・研究員:中央大学専任教員で、研究所の事業に参加を申し出た者
・客員研究員:中央大学専任教員以外の者で研究所の研究に参加を予定された者
・準研究員:研究所の研究に参加を予定された大学院在籍者又はこれに準ずる者
【点検・評価】
本研究所は、理工学分野における「世界の先進的研究」を進めるための新しい共同研究
機構として設立された。活動の主要目標は、未来へ向けた科学技術開発の研究推進のため、
学内の人材を積極的に結集し必要に応じて学外(他大学、研究機関、産業界等)の人材協
力や連携を得て、先端技術研究プロジェクトを有機的に組織することによって、研究目的
達成への環境を整備し、研究成果を広く社会に役立たせることにある。
研究員 112 名を擁し受託研究 24 件を推進するとともに、2000 年度は、共同研究9件、
プロジェクト研究3件を計画・推進している。これらの諸研究を推進していく中で、平成
9年度文部省(現文部科学省)
「私立大学ハイテク・リサーチ・センター」に本研究所が選
定されている。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、科学技術庁関連の大規
模な研究プロジェクトや、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業等を通じての同様な
プロジェクトに、本研究所が ――中核機関として、あるいは研究分担者となっている研究
員の方を支援する形で――関わる例も着々と増えてきた。
大学における研究成果(独自のものも他機関・他企業との共同のものも)を社会に還元
するためのいわゆる“技術移転(Technology Licensing)
”の仕組み(成果の特許化等も含
めて)を、本学でも確立すべく検討がなされている。その中で、本研究所は、1999 年に設
置された研究開発機構との密接な連携のもとで、実質的に大きな役割を担うことが期待さ
れている。
研究成果の社会還元を促進するために情報公開を行っている。年報・論文集の刊行や研
770 第4章 研究所
究発表会等の開催とともに、相乗効果を狙いインターネットも積極的に活用している。
また、大学院においてRA(リサーチ・アシスタント)として採用された大学院学生等が
準研究員として研究活動に参加していることや、研究発表会等による研究成果の大学院学
生・学部学生への公開等により、大学院理工学研究科および理工学部の教育をも視野に入
れた活動を行っている。
【長所と問題点】
本研究所は、学校法人の全面的な支援のもと、本学専任教員に限定することなく国内外
の研究者と大学院学生に広く共同研究に参加する機会を開放している。多くの客員研究
員・準研究員に参加いただいていることは、本研究所に対する学外研究者の期待と評価の
表れといえる。また、若手研究者の養成のために、RA制度が大学院において設けられ、
大学院学生が有給で研究活動に参加できることも大学院学生の研究指導に有効である。
しかしながらいくつかの問題点が見られる。本研究所は、多くの共同研究、公開発表会
などを主催しており、事務作業が質・量ともに年々増えているが、現状では事務スタッフ
の数が少なく、また施設面でも十分整備されているとはいえない。また、法人部門や文系
研究所のある多摩キャンパスと離れていることに起因する情報のギャップや合同会議参加
の負担等の問題が生じている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
より広範な教育研究を進めるためにも、より多くの外部資金を導入できるよう、各研究
員ならびに研究所の一層の努力が望まれる。施設面については、2003 年3月竣工予定の後
楽園キャンパス新棟内で、その拡充が予定されている。また、ITを利用して研究員相互
や外部との情報共有・情報交換をより密にし、研究所活動のさらなる活性化を目指してい
る。
2.研究組織
【現状の説明】
本研究所は大学附置である。所長は、
「中央大学専任教員のうちから、研究員会で選出し
た者について、学長が委嘱(中央大学理工学研究所規程第5条)」し、任期は3年(再任可)
である。研究所の運営に関する審議決定機関は2つからなっている。1つは、研究員によ
り構成される「研究員会」である。
「研究員会」は所長が招集し議長となり、研究所に関す
る「運営の基本方針・事業計画・所長の選出・予算申請案に関すること及びその他研究所
の運営に関する重要なこと」を審議決定する。他の一つは、
「所長・研究員会において互選
した者 10 人(任期2年・再任可)・事務室長」によって組織し、学長が委嘱する「運営委
員会」(委員長は所長をもって充てる)である。「運営委員会」は「研究員会」の決定した
基本方針に基づく運営のために「研究所の運営に関すること・事業計画案の作成及び事業
計画の執行に関すること・予算申請原案の作成及び予算の執行に関すること・その他所長
が必要と認めること」について審議決定する。運営委員は研究・発表・出版・広報につい
て役割分担を行っている。また、研究所には必要に応じてその他の委員会を置くことがで
きる。現在は研究所長の諮問機関と位置づけられた「先端技術研究部会(技術評価委員会)」
があり、理工系全体について広く高い見識を持つ研究員から構成されている。
「先端技術研
究部会」は長中期的観点から研究所の将来について所長に助言し、また、教員の発明を大
771
学所有の特許として出願することの適否の審査を行うなどの役割を担っている。「研究員
会」は 10 月と3月の年2回、
「運営委員会」は8月を除く毎月、
「先端技術研究部会」は不
定期に、それぞれ開催し、構成員による情報の共有を積極的に行い組織の透明性を担保し
ている。
「研究部門」については次の各種研究制度がある。
・共同研究
第1類:基礎的で奨励的な研究で研究所より研究資金助成。研究期間1∼3年。
第2類:先端的分野での実用化研究、応用研究で研究所より研究資金助成。研究期間
1∼3年。
第3類:研究所からの直接の研究費支援はないが、他の資金によって研究所において
行われる研究。大学院のRA制度に呼応して設けられた。研究期間1年。
・プロジェクト研究
早期に大型外部資金を導入した本格的な実用化研究に結びつけるための準備的研究。
研究所より研究資金助成。研究期間3∼5年。
・特化プロジェクト研究
公的資金の大型研究プロジェクト取得を目指す研究プロジェクト。
以上の3研究制度は本研究所予算により行う研究(ただし共同研究第3類は除く)で、
準研究員、客員研究員が参加している。
・受託研究
公的機関、企業、財団等の学外機関から資金提供される研究。
・奨学寄付金
企業、財団等の学外機関からの特定研究者への研究寄付金。
・科学研究費補助金
文部科学省、日本学術振興会に申請・採択を経て交付される。
学外公的資金によるプロジェクト研究の事例として次のものがある。
・日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業
「炭素材料中への機能性ナノおよびミクロスペースの創製」(1996∼2000 年度)
「マルチメディアネットワークのための高度情報セキュリティ技術」(1996∼2000 年
度)
・文部科学省私立大学ハイテク・リサーチ・センター
「超高温プラズマ式環境破壊物質無害化・有効活用技術の研究」(1997∼2001 年度)
「統合型地理情報システムの研究」(1997∼2001 年度)
※1997 年度文部省(文部科学省)「私立大学ハイテク・リサーチ・センター」に本研
究所が選定されたのにともない、後楽園キャンパス内に「先端技術研究センター」
が竣工。建物は地上2階建てで、ここを拠点に上記2研究プロジェクトが推進され
ている。
・新エネルギー・産業技術総合開発機構
「マクロ形状精度評価法の高度化に関する研究」(1997∼1999 年度)
・文部科学省科学技術振興調整費
「都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」(2001
772 第4章 研究所
∼2003 年度)
・日本私立学校振興・共済事業団
「マルチホップ無線ネットワークの実現研究」(1999∼2003 年度)
「高度な物質・情報変換機能を目指した分子材料の創製と集積化」
(2000∼2002 年度)
「事務室」については、「9.事務組織」で取り上げる。
理工学研究所組織図(2001 年7月1日現在)
【点検・評価】
規程に則り研究員会、運営委員会、共同研究等が適切に運営されている。さらに、必要
に応じて、先端技術研究部会、特化プロジェクト研究が設置されており、組織に柔軟性が
ある。また、多くの大学院学生が研究に従事しており、大学設置の研究所として教育面に
も配慮している。
【長所と問題点】
研究員会、運営委員会以外に先端技術研究部会を設け、また、外部資金のより積極的な
導入を目指す「特化プロジェクト研究」を設置するなど、フレキシブルな組織である。
他方、本大学内には多くの委員会があるためか、年2回の研究員会への出席者は必ずしも
多いとは言えない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
運営委員会における審議事項、報告事項などを、インターネット(ウェブサイト、Eメ
ール)を通じて各研究員に頻繁に伝えるべきとも思われる。また、共同研究等への多様な
分野からの申請を増やす努力が必要である。
773
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)刊行物
本研究所は、研究成果の公表のために次の5種類の刊行物を発行している。
・年報
:本研究所で推進されている研究の概要・業績や講演会・セミナー
等の諸活動を網羅した刊行物。年1回発行。既刊7冊。
・論文集
:研究員の研究業績を学外者等の査読を経て公表し、研究活動の公
開・交流を目的とした刊行物。年1回発行。既刊6冊。
・研究シーズ集
:公的機関・企業・財団等との学外連携による共同研究・受託研究
を目指して研究員の研究内容を紹介した刊行物。年1回発行。既
刊4冊。
・英文レポート
:正式名称「Researches in Science and Engineering」
。海外の大
学・研究機関との研究交流を目指して、学会誌等に英文で発表し
た研究員の研究成果をまとめた刊行物。年1回発行。既刊3冊。
・理工研ニュース:本研究所の諸活動をタイムリーに報告・紹介するために、不定期
に発行。既刊7冊。
「年報」第7号(2000 年)の研究報告、「論文集」第6号の全文をPDFファイル形式
で、
「研究シーズ集」の研究員研究内容をHTML形式で、インターネット公開を行ってい
る。
また、
「プロジェクト研究」、
「学外公的資金によるプロジェクト研究」の各研究グループ
において、シンポジウム予稿集、研究成果報告書等の刊行物を必要に応じて発行している。
2)研究発表会、特別講演会、国際交流・公開研究セミナー、シンポジウム等
本研究所では、本学の学生、大学院学生のみならず市民に開放した研究発表会、特別講
演会、国際交流・公開研究セミナー、シンポジウム等を開催している。
・研究発表会:研究所の資金助成に基づく共同研究・プロジェクト研究の研究成果
の報告。学内外に公開して年1回開催。
・特別講演会:理工学各種分野の話題性豊富なテーマ・内容の講演会を、著名な講
師を招聘し学内外に公開。年1回開催。
・国際交流・公開研究セミナー:理工学各種分野の海外の著名な研究者を招聘し、
学内外に公開して年 10 回程度開催。
・各種学術シンポジウム・ワークショップ:各種研究プロジェクトが研究所と共催
で国内外の著名な研究者を招聘し、研究成果を公開・公表。
・科学実験教室:研究成果公開の一環として、小・中・高校生等を対象とした科学
実験教室・講演会・施設見学会を開催。年1、2回開催。なお、2000
年度には「科学系博物館活用電子情報通信学会&中央大学ネットワー
ク推進協議会」を全国各地の科学系博物館等と結成し、文部科学省生
涯学習政策局の委嘱事業として全国各地で活動を展開している。
・産官学交流会:研究成果の社会還元を目指す活動として、学外での交流会・展示
会に参加。また、企業を招いての学内施設見学会を開催し研究内容を
774 第4章 研究所
公開。不定期開催。
3)理工学研究所と理工学部・大学院理工学研究科との関係
本研究所では大学院学生を準研究員として研究所の共同研究、プロジェクト研究に参加
させることのできる途を開いており、大学院在学生に対する研究・学習支援の一部となり
つつある。また、2000 年度からは大学院の制度としてRA制度が設けられた。この制度は
博士課程後期課程の学生が本学研究プロジェクト等の研究活動を補助する制度であるが、
本研究所ではこの制度に呼応して、共同研究第3類を 2000 年度より新設し、RA制度の受
け皿としての役割を果たしている。さらに、本研究所は大学院理工学研究科との共催でR
A研究発表会を開催。ポスターセッション形式での研究成果発表を行うことにより、RA
制度がより有効に機能するよう努めている。
本研究所が開催する研究発表会、特別講演会、シンポジウム、国際交流・公開研究セミ
ナー等は大学院学生、学部学生に対して広く開かれている。また、年報、論文集等の刊行
物も希望する大学院学生、学部学生に配布するなど、本研究所における研究成果を大学院
学生、学部学生の教育研究のために積極的に公開している。
【点検・評価】
共同研究、プロジェクト研究の成果は、毎年秋に開催される研究発表会で一般に公表さ
れ、さらに年報に掲載された研究報告をウェブサイトに転載している。また、RAの研究
成果は、共同研究・プロジェクト研究の研究発表会と同日開催されるポスターセッション
にて公表され、一般の研究者・学生との討論がなされている。このポスターセッションは
参加者が多く、学生にも好評である。一方、共同研究・プロジェクト研究の研究発表会に
ついては、日時の問題もあり、参加者が多くないというのが現状である。
研究成果は、論文として一般の雑誌に投稿、あるいは本研究所の論文集(学外の研究者
による査読あり)に投稿・掲載されている。
【長所と問題点】
RAに発表の場を用意し、学部学生を含めた討論の場として活用されている。一方、ポ
スターセッションの活況に対応するための十分なスペースの確保が課題と言える。共同研
究・プロジェクト研究の研究発表会については、より適切な日時の設定が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
参加人数を増やす目的で、白門祭(中央大学の大学祭)期間中に開催することを検討し
ている。また、2001 年度より、研究発表会の模様をウェブサイト上でも公開する。
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
本研究所予算による研究費は次の種類によって金額の規模が区分されている。
・一般研究:個人研究のようなもので、1名以上の研究員による1年間の研究で、助
成金 50 万円以下。ただし、本研究所設立以来実施されていない。
・共同研究:複数の研究員が共同して行う研究。研究期間は3年以内で、助成金は1
年間 200 万円以下。共同研究には第1類(基礎的主題、萌芽的課題)
、第
2類(応用的主題、実用化に近い課題)、第3類(研究所から直接の研究
費の支援はないが、他の資金により研究所において行われる研究)があ
775
る。
・プロジェクト研究:
“共同研究”よりも実用化を目指した組織的な研究。研究所から
研究費の支援を受けて実施した研究成果に基づき、研究期間中あるいは
研究期間終了後に大型外部資金を獲得して本格的実用化研究に進むこと
を目指す。研究期間5年以内で、助成金1年間 500 万円以下。
・特化プロジェクト研究:
“プロジェクト研究”以上に本格的な外部資金導入による大
型プロジェクトに発展することを目指すもので、共同研究・プロジェク
ト研究とは別に大学に予算申請して実施する。研究期間3年以内で、助
成金1年間 400 万円以下。原則として、研究計画2年度から、公募の大
型研究プロジェクト(提案公募型・大型研究プロジェクト)に3年以上
応募・アプローチする。
本研究所は予算執行の前年度中に研究計画を募集する。研究所から大学当局へ予算申請
し、査定を受けた総額内で、各研究計画に対する予算配分を行う。予算配分は所長が委嘱
した審査委員(非公開)により審査を行い、所長が決定し、運営委員会、研究員会の審議・
承認を受ける。
共同研究、プロジェクト研究、特化プロジェクト研究の各研究予算から支出できる項目
は次の通りであり、支出基準は中央大学の規程に依拠する。
機器、用品、消耗品、旅費、手数料、印刷費、会合費、通信費、その他
本研究所は国際交流予算を持つ。研究員が国際的なワークショップ等の主催を希望する
場合、前年度中に計画を申請し、運営委員会、研究員会の審議・承認を受ける。また、海
外の著名な研究者が来日する機会を捉えて中央大学に招き、小規模な国際交流・公開研究
セミナーを開催することができる。この場合は開催予定日の1ヵ月前までに計画を申請す
る必要がある。
【点検・評価】
共同研究、プロジェクト研究への研究費は、その内容に合わせて適切に予算配分されて
いる。経常的な研究費以外に、外部資金も導入されており、それが研究費の主体となって
いる場合も多い。
【長所と問題点】
共同研究、プロジェクト研究等の予算は年度当初より支出可能であり、科学研究費補助
金等に比べ使い勝手がよい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
さらなる研究の発展のためにも、経常的研究費以外により多くの外部資金を導入できる
ように、特化プロジェクト研究導入や、リエゾン活動などを行っている。
3−(3)国内外における研究者・研究機関との交流
【現状の説明】
1)国際ワークショップ
研究員が組織する国際ワークショップを研究所主催として支援・助成を行っている。実
績は次の通り。
・2001 年度 2001 International Workshop on Advanced Electromagnetics (IWAE'01)
776 第4章 研究所
・ 2000 年 度
Tokyo Workshop of Information Technology in Hydroscience and
Engineering
・1993 年度 Second Japan-US Symposium on Finite Element Method in Large Scale
Computational Fluid Dynamics
2)国際交流・公開研究セミナー
海外の著名な研究者が来日する機会を捉えて中央大学に招き、小規模な国際交流・公開
研究セミナーを開催している。最近の開催件数は次の通り。
2000年度:9件
1999年度:6件
1997年度:11件
1996年度:5件
1998年度:10件
3)文部科学省私立大学ハイテク・リサーチ・センターにおける外国人研究者の受け入れ
「超高温プラズマ式環境破壊物質無害化・有効活用技術の研究」(1997∼2001 年度)にお
いて積極的に海外の研究者を受け入れている。
【点検・評価】
毎年、多くの国際交流・公開研究セミナーの開催や、海外の著名研究者との交流を行っ
ており、大学院学生への教育上の刺激にもなっている。また、研究員による国際シンポジ
ウム開催への支援も行っている。外国人研究者の長期・短期滞在については国際交流セン
ターで扱っている。
【長所と問題点】
国際交流・公開研究セミナーは、年度中に申請、開催することができるので、柔軟に運
用することができる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後の多種多様な研究形態に対応するために、研究員、客員研究員、受託研究員、外国
人研究者のための研究室の確保を新棟にて行う。
4.施設・設備等
【現状の説明】
1)施設・設備等
本研究所独自の施設としては、①所長室兼事務室(56.1 ㎡)、②先端技術研究センター(2
階建て、総床面積 331 ㎡)がある。
※先端技術研究センターは私立大学ハイテク・リサーチ・センターとして進められてい
る2つの研究が終わる 2001 年度末をもって、大学当局に移管する予定。
※2003 年3月竣工予定の新棟(地上 14 階、地下2階建て)に次の施設を持つ。
9階:共同研究・実験室(120 ㎡×1室、80 ㎡×6室、20 ㎡×3室)
、資料室(80 ㎡)
10 階:所長室兼応接室(40 ㎡)、事務室(60 ㎡)、打ち合わせコーナー
2)維持・管理体制
管財部に維持・管理機能が集中している。
3)情報インフラ
図書および有料の情報検索については図書館に機能が集中している。また、キャンパス
内の情報インフラ整備に関しては情報研究教育センターが所管している。
【点検・評価】
777
研究員のための施設・設備は、現状では所属学科の施設に依存している。研究所独自の
施設に先端技術研究センターがあるが、私立大学ハイテク・リサーチ・センターにおける
研究の終了にともない、2001 年度末には法人に移管する。
【長所と問題点】
施設・設備等については、現状では十分に整備されているとは言い難い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2003 年3月に竣工される後楽園キャンパス新棟に、本研究所所属の研究施設が準備され
ることになっている。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
1)図書の整備
大学図書館および各学科の図書室で整備・管理を行っている。
2)学術情報へのアクセス
大学図書館がサービスを提供している。
【点検・評価】
図書館が提供する学術情報検索サービスを各研究室から利用することができる。
【長所と問題点】
本研究所は図書館機能をすべて中央大学図書館に委ねている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究員、準研究員、客員研究員が中央大学図書館をより有効活用できるよう、図書館と
の情報交換を密に行っていく。
6.社会貢献
【現状の説明】
1)受託研究、技術移転
本研究所は、研究員と学外機関(公的機関・企業・財団等)を仲介して、研究情報の提
供、研究委託契約事項、工業所有権、技術相談、研究者派遣、研究施設等見学の受け入れ
などを行っている。また、研究員の発明への取り組みの奨励、企業等への技術移転の推進
を行っている。
2)研究発表会、RA発表会、各種シンポジウム等による研究成果の公表
共同研究・プロジェクト研究の研究発表会(RA発表会を同日開催)を年1回開催。2001
年度からは研究発表会の模様をビデオ録画し、予稿集である年報とともにインターネット
配信を行う。
プロジェクト研究、私立大学ハイテク・リサーチ・センター等、研究グループ単位での
シンポジウムを不定期に開催している。
3)特別講演会
学生、研究員および地域の方々が、理工学などの最新の知見に接する機会を設けること
を目的として年1回開催。
4)年報、論文集、英文レポート等の刊行物による研究成果の公表
778 第4章 研究所
「年報」、「論文集」、「英文レポート」を発行している。国内の約 800 の企業、大学等に
対して「年報」および「論文集」を毎年送付している。海外の約 650 の大学、研究機関に
対して「論文集」および「英文レポート」を送付している。
5)ウェブサイト「教養講座」
研究員等が学内誌等に発表した一般向け読み物等を、著者、発行者の許諾を得てWeb
に転載している。2000 年度中に 60 編を越えた。
6)科学実験教室
1999 年度より中・高校生向け科学実験教室を開催。2000 年度には、電子情報通信分野で
わが国最大(会員数約4万人)の電子情報通信学会と中央大学(本研究所)が中心となり、
各地の科学系博物館や大学と“科学系博物館活用電子情報通信学会&中央大学ネットワー
ク協議会”を結成した。協議会に属する優れた人材と施設、ノウハウを活用して、子供た
ちが最先端の科学技術を実体験する教室を全国各地で開催している。また、CD教材等を
作成し、全国の小・中・高等学校へ配布した。
【点検・評価】
研究成果の発表会や特別講演会を行っている。企業からの受託研究を積極的に受け入れ
ている。また、文部科学省生涯学習政策局からの委嘱事業として、全国の大学・科学系博
物館と連携して青少年および社会人の科学技術教育の推進にも寄与している。
【長所と問題点】
研究者、学生、社会人を対象とした研究成果発表や特別講演会を行っている。さらに子
供向けの実験教室に全国規模で取り組んでいることが特徴である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究成果を社会に還元するために、研究員の研究現況・研究シーズを冊子体およびウェ
ブサイトで広く社会・産業界に紹介して、企業等との共同研究、研究開発、技術開発相談
に対応しており、これらのメディア・手段によるリエゾン活動をより一層拡充して社会貢
献を目指す。また、大学のある種の研究成果を特許化して、大学からの技術移転に段階的
に取り組んでいる。将来的には、TLOを立ち上げて一層の社会への技術移転を促進した
い。
7.管理運営
【現状の説明】
1)意思決定
研究所の業務を掌理する所長が委員長となる運営委員会において本研究所の運営に関す
ること等が十分に審議された上で、最終的に研究員全員が参加できる研究員会で審議決定
するという民主的な運営方法をとっている。
2)研究所と学校法人理事会との関係
受託研究契約および特許に関する事項は、理事長決裁を必要としている。
【点検・評価】
1)意思決定
年2回の定期研究員会(10 月、3月)と毎月開催(8月を除く)の運営委員会による研
究所の意思決定プロセスと運用で、研究所組織としての意思形成・決定に支障が生じたこ
779
とはない。この仕組みと意思決定プロセスは、かなり十分に機能しているといえる。他に
文部科学省公募の「私立大学ハイテク・リサーチ・センター」等に応募するにあたっての
先端技術研究部会と、TLO(技術移転)関係特許の技術評価委員会(先端技術研究部会
と同構成とし、目的・機能を別とする。)があって、研究所全体の意思決定機能を補完して
いる。
2)研究所と学校法人理事会との関係
受託研究契約・奨学寄付金については、申請書・契約書・申込書のマニュアルに則して
提出・締結されるので、運営委員会決定から理事長決裁に至るプロセスにおいて実際上の
支障は生じないが、TLO関係特許については、技術移転・特許が有する専門性・特殊性
から判断して、現在の技術評価委員会決定から理事長決裁のシステムでは対応できないこ
とがあるので、学外の技術移転判断機関との緊密な連携、特許課題に専念する人材の配置
等を含めた迅速で効果的なシステムの確立が求められている。
【長所と問題点】
1)意思決定
長所は、研究所管理の意思決定システムとしての研究員会・運営委員会と、目的・機能
別の先端技術研究部会・技術評価委員会とが、全体の意思決定機能を相互に補完しあって
いることと、意思決定機構の重複や小機関の並立がないために迅速性と効率性がある程度
保証されていることである。
問題点は、研究員の多忙等により研究員会の出席が少なく、研究所活動の報告会の側面
が見られることである。
2)研究所と学校法人理事会との関係
既述したように、受託研究契約・奨学寄付金の諸手続きは基本的にマニュアル処理が可
能であるが、技術移転・特許のように高度な専門性と市場性についての判断が求められる
場合は、学外専門的機関の判断が重要になるので、現行の意思決定システム・プロセス・
運用では困難である。別途の効率的・効果的なシステム構築が不可欠である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1)意思決定
研究所の意思決定システム・プロセス・運用に対して改善・改革を求める意見は余り聞
かれないが、それを補助する事務スタッフの拡充を求める意見が少なからずある。研究員
へのよりきめ細かなサービスの提供・充実、産学連携の拡充・TLO特許の取組みの拡充
等にあたって、学内外におけるコーディネイター機能を有する専門的スタッフの配置・充
実・育成が必要とされている。
2)研究所と学校法人理事会との関係
現行の法人稟議システムは迅速性・効率性に問題がなしとしないが、実際上の運用によ
って対処可能な範囲の問題である。今後の課題として考えられるのは、大学全体の発明委
員会(仮称)等の発足等によって、これまでの研究所内でのやり方のような小回りの利く
意思決定がどの程度保証されるか、学外連携機関(技術移転推進機関等)との迅速で効果
的な連携活動がどのように推進されるかという問題がある。当面は関係部署・担当者間の
勉強会の開催や綿密な打ち合わせが必要とされる。
780 第4章 研究所
8.財政
【現状の説明】
1)研究と財政
本研究所の①共同研究、プロジェクト研究、特化プロジェクト研究の実施実績、②受託
研究の受け入れ実績、③奨学寄付金の受け入れ実績、④科学研究費補助金の申請・採択件
数、補助金額の実績は次の通りである。
① 共同研究、プロジェクト研究、特化プロジェクト研究の実施実績
研究費総額
年度
件数
1996
18
17,300,000
1997
17
17,440,000
1998
13
17,450,000
1999
11
17,490,000
2000
11
21,520,000
(単位:円)
②受託研究の受け入れ実績
年度
件数
総額(円)
1996
37
56,222,510
1997
34
65,000,000
1998
38
51,769,265
1999
36
65,120,000
2000
29
48,513,500
③奨学寄付金の受け入れ実績
年度
件数
総額(円)
1996
24
17,030,000
1997
51
38,100,000
1998
54
34,102,268
1999
47
36,680,000
2000
28
16,950,000
781
④科学研究費補助金の申請・採択件数、補助金額の実績は次の通りである。
申 請 採 択 補助金額
年度
件数
件数
(単位:円)
1996
65
24
105,200,000
1997
61
31
51,800,000
1998
73
45
76,300,000
1999
92
40
66,400,000
2000
79
40
83,200,000
研 究 実 施 実 績
(千 円 )
1 2 0 ,0 0 0
1 0 0 ,0 0 0
8 0 ,0 0 0
6 0 ,0 0 0
4 0 ,0 0 0
2 0 ,0 0 0
0
1996
共
受
奨
科
1997
同
託
学
学
1998
(年 度 )
1999
2000
・プ ロ ジ ェ ク ト ・特 化 プ ロ ジ ェ ク ト 研 究
研 究
寄 付 金
研 究 費 補 助 金
【点検・評価】
(研究と財政)
研究費をすべて大学予算によってまかなうことは不可能であるので、科研費を始めとす
る公的・民間を問わない学外研究資金の活用・利用が必要であり、それらによる研究成果
によってさらに学外研究資金の取得を可能にするという好循環が求められている。
(予算の配分と執行)
予算配分と執行については、毎年度、運営委員会、研究員会の審議・決定を経ている。
研究所の予算総額の審議決定後は、個々の共同研究費の配分について、所長が複数の研究
員と協議のうえ、一定の基準によって適宜配分している。予算執行については、研究費支
払手続要領に則して執行している。
【長所と問題点】
研究所からの研究費の総額は、数年間据え置かれたままであるが、一応は一定額が保障
されている。現状では学外研究資金(公的、民間含めて)は毎年度約2億 5000 万円程であ
782 第4章 研究所
る。これは他の理工系私立大学と比較して、少なくはないがトップグループにあるという
わけにはいかない。
既述したように、学内・研究所内の手続きにおいては明確性、透明性、適切性が基本的
に保持されているが、予算執行後の決算は、必ずしも明確に報告されているとは言えない。
経理部門と協議しつつ、今後どのように公開するかを検討する必要がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学外研究資金の取得→高度な研究成果の実現→更なる学外研究資金の取得という好循環
を生み出すために、研究施設の利用、学内研究資金取得の奨励施策等と関連づけた諸施策
を樹立する。
9.事務組織
【現状の説明】
事務室長1名、専任職員3名、アルバイト2名により研究支援を行っている。業務内容
は次の通り。
各種委員会、共同研究・プロジェクト研究・特化プロジェクト研究、科学研究費補助金、
受託研究、奨学寄付金、官公庁等からの大型研究補助金(公的資金)および助成団体から
の研究助成、刊行物、研究発表会等のイベント、ウェブサイト、産学連携、文部科学省生
涯学習政策局の委託事業(科学系博物館活用電子情報通信学会&中央大学ネットワーク推
進協議会の諸活動)
【点検・評価】
研究所活動の充実と将来発展を企図する事務局の企画・立案機能の成果としては、文部
科学省の私立大学ハイテク・リサーチ・センター事業に関する情報収集・調査分析および
それにともなう申請・採択、各省庁・事業団の大型研究プロジェクト公募情報の収集・紹
介とそれへの取り組みを目指す特化プロジェクト研究制の新設(新規予算措置)、各種公的
機関(都・県・区・市・商工会議所等)との連携による産学協力の推進、TLO活動(技
術移転活動)が挙げられる。文部科学省生涯学習政策局・委嘱事業の科学教育推進事業の
実施等については、研究所の独自な調査・企画・立案で、ある程度の経験を積み上げると
ともに、情報収集や各種機関(大学・科学館等)との連携によって、研究所の評価のみな
らず大学評価に貢献していると考えられる。
私大ハイテク関係、特化プロジェクト研究、TLO関係、英文レポート発行、研究シー
ズ集発行、要覧発行等で、通常の予算取得の他に、別途折衝して取得してきている。
産学連携活動、TLO活動の活発化を通じて研究所の財政基盤の強化拡充を企図してき
たが、現状のシステム・人員・人材を拡充しないままでは極めて難しい。平成 14 年度から
の学外資金研究費から、一般管理費を徴収することを計画しているので、これによって、
財政基盤の補強を行い、より一層の産学連携活動とTLO特許活動の支援を行う予定であ
る。
【長所と問題点】
小回りが可能な組織規模を活かして研究者の研究公開を行っている。また研究シーズ集
の発行(年1回発行、現在第4号)や、産学連携・TLO活動を試行的に実施してきてい
る。しかし、これはほとんど事務組織による企画・立案に立脚していて、大学が全体的観
783
点から推進しているわけではないので、小規模で試行的レベルから脱皮するのは困難であ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2003 年4月より新棟竣工によって大幅に研究施設が拡充・改善されるので、これを契機
に多くの大型研究プロジェクトの推進が可能な諸条件を整備する。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
2001 年度に関しては、組織評価委員会(委員は所長、運営委員3名(研究担当)
、事務
室長、事務職員1名の計6名)により、自己点検・評価報告書(案)を検討し、運営委員
会、研究員会において審議・承認された。
【点検・評価】
組織評価委員会内で複数のメンバーにより検討し、運営委員会、研究員会で審議・承認
を得るという民主的な方法により実施された。
【長所と問題点】
組織評価委員会における検討および運営委員会、研究員会での審議と意見の聴取に費や
した時間が短かった。恒常的な自己点検のための組織づくりについては今後の課題として
検討を要する。
【将来の改善・改革に向けた方策】
①学内・研究所内の機関(例:先端技術研究部会)のメンバーによる研究所評価委員会(仮
称)による評価。
②現在施行している論文集の査読評価(学外研究者)を参考に、学外の第三者的研究機関
による評価の検討。
784 第4章 研究所
政策文化総合研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
中央大学政策文化総合研究所は、1996 年に大学附置の研究所として設置された。本研究
所は、国際社会における人類の調和的共存のために、学際的研究を超えた総合的学問の創
造を目指し、日常生活から地球規模にいたる多様な人間活動に関わる政策・文化に関して
共同研究を行うことにより、学術の進歩・発展に寄与することを目的とする(中央大学政
策文化総合研究所規程第1条、第2条)。
この理念・目的を達成するために、以下の事業を行っている(同規程第3条)。
① 政策・文化に関する共同研究・調査の実施
② 新しい総合的学問の確立に寄与する研究プロジェクトの推進
③ 国内外の研究者との交流及び研究機関との提携
④ 研究・調査の成果の各種メディアによる公表
⑤ 研究会、講演会、シンポジウム等の開催
⑥ 研究・調査に必要な図書・資料の収集・管理及び機器等の整備・管理
⑦ その他研究所の目的を達成するために必要な事業
本研究所は常勤の専任研究員を持たないが、その目的を達成するために次の3種類の研
究員を置いており、いずれも研究員会の議を経て所長が委嘱する(同規程第6条、第7条)。
①研究員:中央大学専任教員で、研究所の事業に参加を申し出た者。
②客員研究員:中央大学専任教員以外の者で、研究所の共同研究に参加を申し出た者。
③準研究員:大学院博士課程後期課程に在籍する者又はこれに準ずる者で、研究所の共同
研究に参加を申し出た者。
このように、本研究所に在籍する研究者は本学の専任教員に限定されておらず、学外の
研究者および大学院学生に対して共同研究に参加をする機会を広く提供している。研究活
動は、これら3種類の研究員によるプロジェクト単位で行っている。また、大学院学生が
指導教授の承認のもとに研究プロジェクトに参加し、研究補助業務に従事する有給のRA
制度がある。
【点検・評価】
実際に本研究所が動き出したのは、1996 年度後半であり、運営委員会の設置、出版委員
会、図書委員会の発足、プロジェクトの発足など当初の手探りとしての研究体制、規定の
整理などが行われたが、研究体制の整備は今なお不十分である。それは総合政策、政策と文
化の融合を目指すという目的を実行に移すことの難しさも関係している。
【長所と問題点】
本研究所は、本学専任教員に限定することなく国内外の研究者と大学院学生に広く共同
研究に参加する機会を開放している。しかし、その参加状況は多いとはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
発足から5年を経て、研究所の活動の基盤が整備されてきた。それは、①RA制度の導
入により、研究活動に核ができてきたことである。それは、また、②大学院との共同のプ
785
ロジェクトを進める条件でもある。③定年OBおよび外部の有識者とのネットワークがで
きてきた。④大型プロジェクトの長所が理解されてきたことであるが、特に国際プロジェ
クトの有効的な推進には上記①-④の条件の整備が必須である。現在、進めている日本戦略
研究フォーラム、米国シンクタンクとの共同研究は外部資金の導入とともに、外部専門家
の動員による研究活動の活性化や資金効率の向上により、研究所の活動を大きく活性化す
る可能性がある。
2.研究組織
【現状の説明】
研究所の組織は下記組織図のとおりである。
研究員会は、研究員をもって構成し、所長が招集し議長となる(同規程第9条)。それは、
年に4回(年度始め、夏季、10 月予算要求期、1月予算編成期)開催され、①運営の基本
方針に関する事項(役員の任命、規定の制定等)②事業計画に関する事項(プロジェクト
の承認等)③所長の選出に関する事項
④予算申請案に関する事項(予算案の認定、予算
の執行等)⑤その他研究所の運営に関する重要な事項(研究員、客員研究員、準研究員の
承認等)について、審議決定する(同規程第 10 条)。
所長は、研究員である者のうちから研究員会が選出した者について、学長が委嘱し、任
期は3年である(同規程第5条)。
運営委員会は、所長と研究員会において互選した者7人(任期2年)、研究所合同事務室
事務長からなり、プロジェクトの発足(4月)、決算、プロジェクトの進行(6月)、新規プ
ロジェクトの審査と予算要求(9月)、予算の編成1月、次年度計画の審議(3月)などのほ
か、規定の作成、研究所の運営などについて年5∼6回行うが、このうち2∼3回はプロ
ジェクトの主査を含めた運営・企画員会として行う。
出版委員会は、研究員会が選出した3名で構成し、随時年4∼5回開催される。年報や
叢書の編集が任務である。
図書委員会は、研究員会が選出した2名で構成し、年3∼4回行われている。研究所の
図書・資料の選定が任務である。
共同研究は、プロジェクトと分科会とからなっているが、詳細については、「3−(1)
研究活動」で取り上げる。
また、事務組織については、「9.事務組織」で取り上げる。
786 第4章 研究所
政策文化総合研究所組織図(2001 年7月1日現在)
研 究 員 会
所
長
運営委員会
出版委員会
企画委員会
共同研究
受託研究
事務長
研究所合同事務室
図書委員会
その他の事業
庶務課
資料課
【点検・評価】
規定に則り、上記の組織が適切に運営されている。しかし、所長の選出方法について
規定がないため、その規定化が今後の課題である。
【長所と問題点】
「研究員会」が最高議決機関となっているが、出席率が必ずしも良くない。それは、授
業や他の各種委員会と開催時間が重複すること、研究所運営に関する規定が整備され、
研究活動が大きな支障なく遂行されているためとも考えられるが、研究所活動の基本事
項を審議決定する重要な機関であるために、改善すべき点である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
当面、学部および大学院ならびに他研究所との会議の開催日程の調整を密に行い、年度
始めに開催予定日を決めて通知しておくことが考えられる。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)構成員
本研究所の研究メンバーは、研究員、客員研究員、準研究員より構成されている。2001
年4月 1 日現在の各研究員の構成は以下のとおりである。
①:資格
研
究
②:人数(2001 年4月1日現在)
③:規程等
員 ①中央大学専任教員であって、研究所の事業に参加を申し出た者、研究員会
の議を経て所長が委嘱、②61 名、③規程第6条
客員研究員
①中央大学専任教員以外の者で、研究所の共同研究に参加を申し出た者、研
究員会の議を経て所長が委嘱、(他大学の教員、シンクタンク専門家、企業か
らの参加者などがある。研究所OBも含まれる。)
準研究員
②13 名、③規程第7条
①大学院博士課程後期課程に在籍する者又はこれに準ずる者で、研究所の共
同研究に参加を申し出た者、研究員会の議を経て所長が委嘱②13 名③規程第
787
7条
なお、研究員以外の構成員として、次の者が研究の補助をしている。
研究協力者
①他大学、民間企業、公務員の専門家で客員研究員として登録されていない
者、②6名、③慣習
研究調査員
①民間有識者、大学院・学部在学生、②0名、③新規プロジェクト設置に関
する申し合わせ(資料編1参照)
2)プロジェクト、研究会
プロジェクトの発足に関しては、
「政策文化総合研究所新規プロジェクト設置に関する申
し合わせ」
(資料編1参照)にしたがって行っている。プロジェクトは3人以上の研究員の
参加を必要とし、活動開始前年度の8月 31 日までに所定の書類を調え、運営委員会での審
議、研究員会での議を経て成立する。最大限3年間、予算は2∼3百万円のプロジェクト
とし、主査または研究代表者による報告および成果の公表が義務づけられている。プロジ
ェクトは、研究員のみでなく、客員研究員、準研究員の参加をはじめ、内外の各種専門家
の参加が望まれる。プロジェクトを進める上で、大学院学生の参加が重要であるが、1999
年度から実施されているRA制度はその効果を発揮しだしている。海外の研究機関との合
同プロジェクトも 2001 年度から発足の予定である。
本研究所では本年度、次のとおり各種の研究活動(資料編2参照)を行っている。
①「世界の教科書と日本」プロジェクトは、世界の教科書で日本がどのように扱われてい
るか、その理由は何かの目的のもとに進められている。各国の歴史教科書は地域研究の有
力な資料の一つであり、日本の扱いは日本との関係を見るうえで重要である。
1997 年夏には、研究所の創立1周年をかねて、アジア諸国の教科書と日本の観点からシ
ンポジウムを行ったが、その後もアジア諸国の教科書を重点に進めてきた。この間、明石
書店と契約を結び、当研究所監修のもとに、教科書の翻訳を出版している。対象はアジア
諸国が中心だが、欧州や中東も範囲に入れている。
②「アジアの持続可能な発展と自然資源」プロジェクトは、アジアの森林資源の現状につ
いて調査し、2000 年にはインド、ラオス、タイ、中国から専門家を招いて国際セミナーを
行った。
③「21 世紀・日本の生存」プロジェクトは、所長が主査の一員となり、すべての研究員が
参加するプロジェクトとしている。21 世紀は日本の生存が問われる世紀だとの認識であり、
日本の国際環境、特に、日本と米国、中国などとの対外関係、日本型企業経営のあり方、
日本の構造改革、地方分権などを重点に、プロジェクトを進めてきた。2001 年度は日本論、
パックス・アメリカーナと日本(海外との共同研究)を付け加えている。また、
「リモート
センシングによる地球環境の研究」、「ツーリズムにおけるサービスマーケテイング研究」
の受託研究がある。
3)刊行物
本研究所は、成果の公表のために『政策文化総合研究所年報』を発行しており、交換資
料として広く配布すると同時に研究所ホームページで目次コンテンツを公開している。ま
た、世界の教科書シリーズ(明石書店)において歴史教科書の監修を行い、刊行している。
①『政策文化総合研究所年報』年1回発行、既刊3号
出版委員会が、原稿の募集を行う。応募資格者は、政策文化総合研究所研究員・客員研
788 第4章 研究所
究員・準研究員(準研究員については、所属プロジェクト・チームの主査の推薦が必要)、
その他出版委員会が認めた者(大学院学生を除く)である。テーマについて、論文は、プ
ロジェクトのテーマを中心に個別テーマも可、翻訳も可である。掲載の可否について、出
版委員会で検討し研究員会に諮る。
その他、プロジェクト報告、記事(活動報告、中央大学政策文化総合研究所規程)を掲
載する。
②『タイの歴史教科書』中央大学政策文化総合研究所監修・世界の教科書シリーズ(明石
書店、2001 年)
『世界の教科書と日本』プロジェクトにおいて、翻訳する教科書と翻訳者の選定を行う。
翻訳出版されたものについて、公開研究会等を行っている。
4)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
本研究所は、非公開研究会の他に、本学の研究員以外の教員、大学院学生、学部学生、
さらに学外者に開放した公開講演会、公開研究会、シンポジウム等を開催している。
これらは、全研究員に E-mail 等で開催通知を出すとともに掲示、ホームページにおいて
広報している。過去5年間における開催数は以下のとおりであるが、他研究所または大学
院と共催したものもある。(資料編3参照)
*数字は実施回数、(
)内は、他研究所または大学院との共催によるもので内数
1996 年度
1997 度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
公開講演会
0
0
1(1)
0
0
公開研究会
0
5(1)
8(1)
4
11(1)
シンポジウム
0
1
0
1(1)
1
国際セミナー
0
0
0
0
1
フォーラム
0
0
1(1)
0
0
【点検・評価】
1)構成員
大学院・学部の教育との連携を考慮し、研究調査員(上記1)構成員参照)を設けたが、
現在のところ参加がないので、それについては今後の課題である。
2)プロジェクト、研究会
大学の研究所として、研究に当たっては、①総合政策研究、政策と文化の融合などの学
際研究を重視し、3人以上の研究者による共同研究を旨とした。②単なる理論研究ではな
く、現実の政策問題への接近、未来研究の重視などを特色としているため、③大学関係者
のみでなく、政策担当者、民間企業専門家との交流を進めるとともに、海外の研究者との
共同研究を重視している。また、④研究成果の教育へ還元を重視するとともに、大学院、
学部との協力を進め、⑤特に大学院学生の共同研究への積極的参加を通じて研究を深める
とともに、教育にも役立つように努力している。
共同研究については、現在9プロジェクトが活動しており、政策文化総合研究年報は既
刊3号となり、公開研究会、シンポジウムも行われてきた。この間、
「世界の教科書と日本」
プロジェクトは本研究所の重点研究となっているが、これは教科書が地域研究として文化
789
と政策の融合の面があるからである。「21 世紀・日本の生存」プロジェクトは 90 年代の日
本の混迷を背景に生まれてきたが、所長以下全員が参加するプロジェクトとして、この研
究所の柱となっている。それは、21 世紀における日本のアジア・太平洋との関係、21 世紀
の日米中関係などの国際関係、日本型多国籍企業のあり方、地方文化行政のありかた、日
本論、総合政策の方法論などを含み、総合的な、未来志向の政策的プロジェクトを志向し
ている。さらに後述の「パックス・アメリカーナ第二期と日本の安全保障」のように日本
のシンクタンク、アメリカの専門家との共同研究を目指す総合的、国際プロジェクトにも
挑戦している。
プロジェクトリーダーが頑張り一時的に活性化し「世界の教科書と日本」や「アジアの
持続可能な発展と自然資源」などの公開シンポジウム、セミナーのように成功したものも
あるが、研究所の体制が軌道に乗り、全体として活動が継続的に活性化する状態になった
とはいえない。
3)刊行物
研究所発足以来大型プロジェクトによる成果を期待してきたが、未だ十分な効果が現れ
ていない。研究所の研究体制の成熟度が低かった。研究と成果の公表のリンクについての
認識に不備があり、個別に状況をみると、以下の通りである。
「世界の教科書」プロジェクトは明石書店の協力により、中央大学政策文化総合研究監修
として、歴史教科書の翻訳を発行の予定。タイ、マレーシアに続いてイランも刊行の予定
である。
「滞日外国人の比較研究」は年報4号に関連論文を掲載した。
「日本型多国籍企業の経営戦略・人的資源管理政策」の成果は、年報3号に『上司と部下
関係の国際比較研究』として掲載した。
「21 世紀の日・米・中関係」は海外調査と研究会を行い、その成果は年報2号に『北アジ
ア情勢の分析と展望』『パックス・アメリカーナ第二期と日本』“Changing Pattern of
US-China-Japan Relations”として掲載した。
「21 世紀初頭の東アジアと日本の対応」は官庁専門家を中心に系統的に研究会を行ってい
る。
「地方における文化行政のあり方に関する実証研究」プロジェクトは専門家による検討を
継続している。
「アジアの持続可能な発展と自然資源」プロジェクトは海外専門家の参加を得てその成果
は年報第4号に掲載した。
4)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
プロジェクトにより公開研究会を積極的に行っている場合もあるが、全体的には多いと
はいえない。本研究所として行うものは、ほとんど他機関との共催となっているが、総合
政策という学際的な学問の性格によるといえよう。
【長所と問題点】
1)構成員
前述の研究協力者と研究調査員の参加が多くなれば、外部および学部との連携が促進さ
れることになると思われるが、どのように行うかが課題である。
2)プロジェクト、研究会
790 第4章 研究所
本研究所のプロジェクトの特色として大型プロジェクト主義がある。共同研究を前提と
して2∼3年にわたり、総額2∼3百万円の予算を配分する方法である。これは予算を細
分せず、じっくりとプロジェクトに取り組み、資金効率を上げようとの戦略であるが、十
分機能しているとはいえない。
その原因としていくつかの問題がある。第1は、研究所の母体としての大学院、学部の
発展・整備が遅れ、大学院博士課程後期課程の学生の参加が活性化したのは最近である。
第2に、大学の研究所の宿命として、時間の制約が大きいことである。教育時間が設定さ
れている中で、教員も学生もまとまった時間を見つけるのが難しい。第3に、第2の制約
を超えて、プロジェクトへ参加すべきインセンティブの欠如である。若手研究者の立場か
ら、
「プロジェクトの中心となるのが年配の研究者が多く、その成果公表を迅速にしようと
いう意欲に乏しく、若手の研究者にとってプロジェクトへの参加が業績の増加につながら
ない。したがって、若手研究者にとってプロジェクトの参加は単なる行政雑事に過ぎなく
なっており、参加することに魅力を感じない。」という意見がある。このようなインセンテ
ィブの欠如は予算の使用面での制約とも絡んで、研究所のプロジェクトへの参加を阻んで
いる。第4に、内外の交流を強めることにおいてもこのような制約がある。例えば、内部
資金からは研究員以外の海外旅費は出てこない。
上記のような時間の制約、プロジェクト参加インセンティブの欠如等から、年々、多額
の未使用金を返済している。体制が整わないプロジェクトを無理に進めることは無いと達
観しているが、活性化が遅れている。時間の経過、定年OBの存在、大学院の発展などの
環境整備を行うことが必要である。
3)刊行物
本研究所は発足して間もないこともあり、論文を年報に掲載している。年々論文の数が
増えてきているが、今後は紀要の刊行ができるような成果を出すことが望まれる。
4)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
本研究所単独で開催するだけでなく、他研究所、大学院との協力のもとに公開研究会等
が実施できることは、学際的研究にとって有意義である。特に大学院総合政策研究科との
連携が総合政策研究には欠かせない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1)構成員
研究員が積極的にプロジェクト活動に参加することができる時間的余裕を生み出すため
には、研究所専任となる期間を設ける等の改善策が考えられる。
2)プロジェクト、研究会
発足から5年を経て、研究所の活動の基盤が整備されてきた。それは、①RA制度の導
入により、研究活動に核ができてきたことである。それは、また、②大学院との共同のプ
ロジェクトを進める条件でもある。③定年OBおよび外部の有識者とのネットワークがで
きてきた。④大型プロジェクトの長所が理解されてきたことであるが、特に国際プロジェ
クトの有効的な推進には上記①∼④の条件の整備が必須である。現在、進めている日本戦
略研究フォーラム、米国シンクタンクとの共同研究は外部資金の導入とともに、外部専門
家の動員による研究活動の活性化や資金効率の向上により、研究所の活動を大きく活性化
する可能性がある。
791
大型プロジェクトにより学問的基礎と現実の進展、政策への転換を志向する方式は依然
有効と考える。研究体制の整備、研究所の周辺の研究環境、都心展開による外部専門家の
動員、大学院学生の参加、国際交流の活発化などにより、改善があろう。これらの改善の
上で外部資金の導入による研究実施の弾力的運営が可能になれば、改善の可能性は高まろ
う。
3)刊行物
紀要、叢書等の刊行ができるように成果を上げることが必要であるが、その刊行にあた
っては、レフェリー制度等を確立する必要がある。
4) 公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
大学院の講義との連携、学部の事例研究との連携等により、大学院学生、学部学生が参
加しやすい条件を整備することが必要である。
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
研究費は、原則として、1プロジェクト当たり 100 万円を限度に予算を配分する。その
使途は、チーム図書購入費、国内旅費(現地実態調査、合宿研究会)
、海外旅費(現地実態
調査)、手数料(講演料、翻訳料、学生アルバイト等研究補助謝礼金)、調査委託費、実態
調査等協力者への謝礼品等である。
旅費について、「研究出張に関する申し合わせ」(資料編4参照)による。
【点検・評価】
研究費は、プロジェクトごとに配分された予算の範囲内で必要に応じて比較的自由に使
用できるが、研究出張については所長が決裁する。
プロジェクトの予算に不足が生じた場合は、運営委員会および研究員会で審議し研究費
全体の中で配分を見直す等、実質的な運用をしている。
【長所と問題点】
大型共同研究として予算を細分しない点は長所と考えるが、参加者が限定される可能性
がある。最大の問題は教員、学生を通じる時間の制約であり、また、予算支出に関しては
科研費並みの弾力性が必要であろう。この制約を逃れるには、外部資金の導入が必要とな
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学予算に加えて、科研費その他の外部資金の導入を積極的に行うべきである。それに
より、客員研究員、準研究員にも海外出張旅費を出すことが可能となろう。
3−(3)国内外における研究者・研究機関との交流
【現状の説明】
1)外国人研究者および外国人訪問研究者の受け入れ
外国人研究者には、第1群(本学との交換協定に基づく外国人研究者)、第2群(本学の
招聘に基づき研究・教育に従事する外国人研究者)、第3群(本人の研究計画に基づき本学
で研究に従事する外国人研究者)の区分があるが、本研究所では第2群・第3群の研究者
を受け入れている。また、外国人訪問研究者を受け入れ、公開研究会等を開催している(資
792 第4章 研究所
料編3参照)。
*年度別、外国人研究者および外国人訪問研究者受け入れ数(単位:人)
1996 年度
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
第2群
0
1
0
1
0
第3群
0
0
0
2
0
訪問研究者
0
0
0
1
6
2)研究交流協定、国際共同研究等
国内の大学や研究機関の研究者は、客員研究員としてプロジェクトに参加している。
東京外国語大学および東京都立大学とは、全学協定の一環として研究所も研究交流協定
を結んでいるが、政策文化総合研究所独自の研究交流協定は結んでいない。
外国人研究者、外国人訪問研究者として受け入れた国外の研究者が、公開研究会の講師
等として研究活動に参加している。本研究所の研究員も海外の研究機関を訪問している。
国際共同研究として現在「パックス・アメリカーナ第二期と日本の安全保障」を推進
中である。日本国際戦略フォーラムと共同し、また、米国の学者、Ikenberry(Georgetown
Univ.)、Mochizuki(George Washington Univ.), Wortzel(The Heritage Foundation)と
の共同研究への助成を申請中である。
【点検・評価】
外国人研究者、外国人訪問研究者を受け入れており、本研究所の研究員が海外の研究機
関を訪問する等、研究交流はプロジェクト単位で進んでいる。国内外の他機関所属研究者
の業績も『政策文化総合研究所年報』に掲載しており、研究交流は徐々に進んでいるとい
える。
【長所と問題点】
海外の研究者との交流は、全学的な機関である国際交流センターを通して実施しており、
支援体制は整っている。しかし、受け入れた研究者による公開研究会等の出席者数は多い
とはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
国際交流については、発足後間もないので国際交流部も設けていない状況である。
しかし、21 世紀における日本の生存は国際化対応如何にかかっており、本研究所にもい
えることである。前述の国際共同プロジェクトはこのような視点から進めていおり、米国
の学者、専門家、シンクタンクと腹蔵ない意見を戦わせて、政策提言を行いたいと思って
いる。また、本プロジェクトは日本の他のシンクタンクとの共同研究であり、外部の研究員
の参加を多く得ている点においてこれまでのプロジェクトとは異なっている。さらにいえ
ば、本プロジェクトは、外部資金の導入により予算制約の克服を目指している。
4.施設・設備等
【現状の説明】
①所長室
⑤倉庫
②研究所共同会議室 1∼4
⑥新着雑誌コーナー
③研究所談話室
⑦研究所書庫
④研究所合同事務室
2,418 ㎡
*②∼⑤は、経済・企業・社会科学・人文科学・政策文化総合研究所の5研究所で共用し
793
ている。⑥∼⑦は、それに日本比較法研究所が加わる。
【点検・評価】
事務室の合同化にともない、施設・設備は比較的良好に整備された。所蔵資料は、多摩
キャンパスの6研究所が合同の書庫を使用しており、広範囲の図書・資料を利用できる。
【長所と問題点】
前述したとおり多摩キャンパスにおいては施設・設備が整っているが、市ヶ谷キャンパ
スにおける研究所関連施設・設備が整っているとはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所の活動を拡大するには都心での活動の強化が必須であり、市ヶ谷キャンパス等で
の共同研究室、プロジェクトのための施設の強化が必須のものと考える。
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
図書委員会選定により 2000 年度以降に購入した図書・資料について、図書館情報検索シ
ステム(CHOIS)に登録している。
図書保有状況(2001 年3月 31 日現在)は、次の表のとおりである。
① 図書・資料冊数
和 漢
購 入
2000 年度
受入図書冊数
寄贈・その他
計
総 蔵 書 数
洋
書
計
102 冊
148 冊
250 冊
3 冊
5 冊
8 冊
105 冊
153 冊
258 冊
227 冊
782 冊
1,009 冊
② 雑誌種数
2000 年度
受入雑誌種数
日 本 語
外 国
計
購 入
0 種
12 種
12 種
寄贈・その他
4 種
0 種
4 種
計
4 種
12 種
16 種
19 種
13 種
32 種
雑 誌 種 数
③ 新聞種数
日 本 語
購 入
受入新聞種数
計
2 種
2 種
2 種
2 種
寄贈・その他
計
794 第4章 研究所
外 国
④ その他の資料
所 蔵
視
電
聴
覚
子
資
出
料
版
等
物
6
タイトル
9 タイトル
【点検・評価】
合同事務室化されてから、学術情報へのアクセス、学術情報の処理・提供システムが使
いやすくなったといえる。
【長所と問題点】
特色として、世界の教科書を多く集めている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1999 年度以前の購入図書・資料について遡及入力し、図書館情報検索システム(CHOIS)
に登録し学内外からの検索ができるように整備する。
電子情報化の進展にともない、支援体制を強化していくことを考える必要がある。
6.社会貢献
【現状の説明】
1)中央大学学術シンポジウム
1980 年から中央大学学術シンポジウムとして、8研究所共催で学術シンポジウムが開催
されてきた。本研究所は、1996 年から参加している(資料編5参照)
。
2)刊行物
『政策文化総合研究所年報』について、交換資料として広く配布すると同時に研究所ホ
ームページで目次コンテンツを公開している。
3)公開講演会、公開研究会、シンポジウム等
学内外の方々の幅広い参加を歓迎している。前述の「世界の教科書と日本」のシンポジ
ウムには 100 人を超える参加者があった。「パックス・アメリカーナ第二期と日本の安全
保障」プロジェクトは、日米でのセミナーと公開のシンポジウムを予定している。
【点検・評価】
公開研究会等については、開催場所を市ヶ谷キャンパスにする等、参加しやすい状況を
作るようにしている。
【長所と問題点】
研究成果の社会還元については、ホームページによる広報を行っているが、徐々に問い
合わせ等が出てきている。しかし、通常の公開研究会等には専門性の問題があり、一般的
に参加ができる内容ではないために、参加者が限定されている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
学内外に向けて、研究成果を問い社会への貢献度をあげるためには、広報の仕方を考え
ていく必要がある。公開講演会等については、開催時期と場所が問題になろう。
795
7.管理運営
【現状の説明】
1)所長は任期3年であるが、研究所を代表し業務を統括する。
2)事務室長(研究所合同事務室事務長)は、所長の命を受け、研究所の事務を処理する。
3)研究員会は、研究所に関する次の事項について審議決定する。
①運営の基本方針に関する事項
④予算申請案に関する事項
②事業計画に関する事項
③所長の選出に関する事項
⑤その他研究所の運営に関する重要な事項
4)研究員会の決定した基本方針に基づいて、運営委員会(委員の任期2年)が研究所の
運営にあたり、次の事項について審議決定する。
①研究所の運営に関する事項
②事業計画案の作成及び事業計画の執行に関する事項
予算申請原案の作成及び予算の執行に関する事項
③
④その他所長が必要と認める事項
既に述べたように、研究所の主要な機関は企画委員会、出版委員会、図書委員会である。
出版委員会はプロジェクトの成果、研究員の研究成果などの年報を中心の活動である。まだ、
研究業書などを出すに至っていない。図書委員会は研究所に必要な図書の選定に当たるが、
プロジェクトに必要なものはプロジェクトの主査が判断する。
研究の中核であるプロジェクトの認定は、8月に次年度のプロジェクトの申請を受け運
営委員会がこれを審査し(しばしば企画委員会と合同になる)、研究員会で承認される。運
営委員会は規定を作成し、これを研究員会に諮る。プロジェクトの提出、審査、実行の規
定である。また、プロジェクトの経費支出の内容についてもここでの審議が出発点になる。
海外旅費、国内旅費、一般管理費の支出基準などを決定する。研究員会は研究所の最高決
定機関であるが、実質的なものは運営委員会で決定してきた。
【点検・評価】
学校法人は、研究所の財政的基盤を保証するとともに、研究所の独立と自主性を尊重し
ている。研究所の事業に関する事項は、研究員会における審議・決定に基づいて民主的に
運営されている。
【長所と問題点】
社会科学系研究所の統合について、長い間検討されているが結論が出ていない状況の中
で、5研究所の事務室が統合されたことにより、各研究所間の共通部分と独自的なものが
見える状況になってきている。研究所を取りまく環境の変化を考えると、研究所の統合に
ついて結論を出す必要があろう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所の現在の活動状況から見ると、運営委員会中心の現状の方式で十分と考える。しか
し、将来、国内外の研究者との交流が増えると、国際部の設置などが必要になる。
8.財政
【現状の説明】
財政は、経常支出枠(A)
(計画の遂行上、毎年継続する恒常的な支出科目のうち、各予
算単位で組替・流用ができるもの)でみると、これまでのところ本研究所は設立以来、予
算を完全消化せず、余剰を計上している。予算を消化したプロジェクトとしては、
「世界の
796 第4章 研究所
教科書と日本」、
「日本型多国籍企業の経営戦略」、
「21 世紀の日・米・中関係」、
「アジアの
持続可能な発展と自然資源」などがあるが、多くのプロジェクトが予算を消化し、成果を
生じるのに時間を要している。(資料編6参照)
【点検・評価】
これは、基本的には、設立間もない状況で、研究活動が本格化しなかったことを反映し
ている。時間制約の強い中で、研究活動のルールづくりや研究体制の不備が結果していた
ものである。また、大型予算主義で2∼3年のプロジェクトとした枠組みへの不慣れも影
響していよう。しかし、同時に、予算執行にともなう制約の多いことも影響している。海
外旅費についてはいち早くその必要性に応じて支出しているが、なお、外部の専門家や準
研究員への支出には制約が大きい。また、会議費、会議出席への交通費などへの制約が大
きい。さらにいえば、研究員に関しても、大きな貢献がある場合は何らかの見返りがあっ
ても良いのではないか。そうでなければ、教育や委員会業務の多忙な中などの時間制約の
大きい中で、研究所の研究に大きな貢献を継続させることは、困難なことが多い。
【長所と問題点】
研究所の収支から見れば、予算消化していないのは予算余剰との評価もありえよう。
大型予算主義をとり、資金の効率的使用を目指した結果、現在のような状況になった。し
かし、今後については、研究体制の整備も進み、外部との協調体制が進展すれば、資金
は不足になる事態も予想される。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後の展望であるが、研究環境,研究体制の整備が進むことにより、次のような改善
が期待される。教科書プロジェクトについては、研究会の活性化と、明石書店からの出版
が進展する。日本型多国籍企業プロジェクトについては、委託調査によりアンケートの結
果が出るなどの進展がある。地方における文化行政プロジェクトも調査項目を決め、アン
ケート調査を行う。21 世紀初頭の東アジアと日本の対応についてはまとめに入っている
等である。
また、今後の資金の効率的運用のためには、現在の予算に課せられている諸制約を緩
和し、プロジェクト参加者への海外旅費の支給、会議費や会議出席の費用の支給(科研費
並みの扱いが第一歩)などが必用である。
さらに今後の改善の目玉として、
「パックスアメリカーナ第二期と日本の安全保障」プ
ロジェクトにより、研究活動が内外の専門家を動員し、外部資金を導入することができ
れば、研究所の活動は大きく活性化することが考えられる。そのときは現在の資金余剰は
むしろ資金不足となり、改めて資金導入の必要性が高まろう。その過程はまた、予算支出
への制約をさらに緩和し、研究体制の整備に寄与しよう。
9.事務組織
経済、社会科学、企業、人文科学、政策文化総合の5研究所の事務室が 2000 年7月1日
付で統合され、研究所合同事務室として発足した。この項については「経済研究所」を参
照されたい。
なお、本研究所が特にあげることとして、以下の点がある。研究活動の都心展開は今後
必須の流れと思われるが、これに対応する研究所の事務体制の都心展開が必要ではないか。
797
特に、今後の国際化に備え、事務組織の中に国際関係を処理する部門が必要になると思わ
れる。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
プロジェクトの成果は何らかの方法で公表されるべきことについての合意がある。大型
共同プロジェクトを志向した以上、当然の義務である。公表を十分に行わないプロジェクト
リーダーには新しいプロジェクトを割り当てないことにしたのもこのような考えからであ
る。しかし、プロジェクトの評価は十分に行われていない。プロジェクトの成果により、そ
の一層の研究の継続が認められるシステムが作られて良いと考える。出版委員会に一部そ
の機能がある。
【点検・評価】
自己点検システムは十分ではない。
【長所と問題点】
「世界の教科書と日本」プロジェクトを本研究所の固有のものとした。また、
「21 世紀・
日本の生存」プロジェクトの中の「総合政策研究の方法」もこれと同じ扱いにしてきたが、
これらの点をどう考えるか。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所の本質的なものとして「総合政策の研究方法」、独自なものとして「世界の教科書
と日本」、重要なものとして「21 世紀・日本の生存」を位置づけることができると思われ
るが、研究成果の評価をどのように行うかの基準をつくり、成果の公表を一層義務づける
必要があろう。
公表にあたっては、出版の際に外部に評価を依頼する等、レフェリー制度を確立する
必要があろう。
798 第4章 研究所
研究開発機構
研究開発機構は、外部資金を導入した大型研究について、本学を拠点に展開することを
主たる目的として、1999 年7月に設立された。設立初年度は、既存研究所の一部プロジェ
クトの機構への移行業務や運営基盤整備を中心に活動を行い、本格的な活動は市ヶ谷キャ
ンパスに専用施設設備・事務組織を整備した 2000 年4月から開始した。
機構の活動のコアとなる研究プロジェクト(研究ユニット)は、相当規模の外部資金を
得て初めて設置することができ、資金提供期間の終了とともに解散する、いわゆるサンセ
ット方式をとっている。研究ユニットの活動は、研究内容・実施方法・組織編成・予算か
ら研究成果報告等に至るまで、原則としてすべて資金提供者との間で交わされる「委託契
約書」や「研究仕様書・計画書」等に定められ遂行される。そしてこれらの契約書に基づ
き、常に資金提供者から点検・評価を受ける環境にあり、所期の目的が達成される見込み
のないときは、中途でうち切られるかあるいは次年度契約更新されないこともある。この
ことから、研究ユニットの研究活動の目標・目的は明確かつ限定的で成果志向が強い(こ
れらの研究ユニットの設置要件、性格および特長を、以降本報告では一言にまとめ「研究
ユニットの(活動の)特性」と表記することとする。)。そして、その目的達成を図るため
に、研究責任者の責任および権限はきわめて大きなものとなっている。
こうした特性を持つ研究ユニットの活動をコアとしている研究開発機構は、研究組織の
在り方、研究活動の目的および方法、研究体制・条件、施設設備等の整備方針、予算・財
政措置等多くの点について、大学の既存の各研究所とは異なる特徴を有している。
これらのことから、機構の自己点検・評価にあたっては、次の理由により表現上も内容
的にも十分でない点があることをお断りしておく。
研究開発機構は、設立されて2年が経過したばかりであり、活動経験の蓄積が十分では
ない。自己点検・評価の項目設定にあたっては、必ずしもなじまない項目もあるが、比較
性を考慮して研究所向けに設定された項目と同一にしている。個別研究ユニットの活動内
容の自己点検・評価については、その活動が常に外部(直接的には主として資金提供者)
から点検・評価をうける環境にあること、また、現在設置されている研究ユニットは機構
設立以来継続して活動しているものばかりであり活動を終了した研究ユニットは未だない
ことから、今回は立ち入っていない。
1.理念・目的
【現状の説明】
研究開発機構は、学長・学部長懇談会(1997.10)における「外部資金を導入した研究支
援組織設置」に向けた研究・教育問題審議会特別部会の設置確認、同特別部会での審議開
始(1998.5∼)を皮切りに、討議資料に基づく全学的な検討・審議過程をへて、1999 年
7月に設置された。その理念・目的は、設立根拠規程となる「中央大学研究開発機構に関
する規程」の制定提案理由に次のように凝縮されている。
「近年、科学技術の発達や学際的な研究領域の拡大にともなって、伝統的ディシプリン
の枠組みを超えた研究体制の整備が求められる一方、研究活動の大型化が進み、大学に対
799
する多様な形態での研究資金供与の動きも加速されている。このような状況のもとで、大
学が先端的研究機関としての役割を十全に果たしていくためには、研究費の多くを学納金
に依存する体質からの脱却が不可欠であり、また、学内研究者の流動化等によって、研究
組織の柔軟化を図るとともに、より積極的に国内外の研究機関、政府機関、民間企業等と
の協同を可能にする研究体制の構築が急務となっている。
こうした研究環境の変化に対する本学の取り組みは、他大学における先進的な事例に照
らしてみれば、さまざまな局面で大きく立ち遅れていると言わざるを得ない。このような
本大学の現状を克服し、先端的研究機関としてのポテンシャルをより高めていくためには、
本大学に蓄積された学術研究の成果を広く内外に発信していくことはもとより、①大学の
研究活動に対する社会的需要や学外資金(外部資金)に関する情報を的確に把握し、これ
らを学内の構成員及び組織に提供することにより新たな学術研究の展開を促し、本大学の
研究活動の活性化に資する一方、②既存組織では対応の難しい研究課題について、学内外
の研究者からなるサンセット方式の研究ユニットを組織して、外部資金の活用による共同
研究が本大学を拠点に展開される諸条件を整えることが重要である。そこで、これらの目
的を達成する組織として、本大学に『中央大学研究開発機構』を新設するために必要な規
程を定めたい。」
以上のように、いわば本学における産官学連携を専門業務とする機関として、研究開発
機構は設立されたものである。
【点検・評価】
研究開発機構の理念・目的と達成状況の点検・評価にあたっては、まず何はともあれ外
部資金の導入状況と研究ユニットの設置状況が、続いて、その研究ユニットが学内外の多
彩な研究者によって組織され活発な活動が行われているかどうか、さらにはその活動が大
学の教育研究に効果的な影響を及ぼしているかどうかが判断材料となる。
【長所と問題点】
研究開発機構は、2000 年4月に市ヶ谷キャンパスに施設を得て本格的活動を開始して以
来2年に満たないにもかかわらず、既に産業界、官公庁を資金提供者とする 11 件の研究ユ
ニットが設置され、実質初年度の 2000 年度で1億 8,800 万円、2001 年度は現在まで2億
9,500 万円の外部資金(契約ベース)を得ている。また、各研究ユニットにおいては、本学
専任教員の他に学外の多彩な研究者が加わるなど開かれた組織のもとで大型の学際的研究
活動が進められている。
このように短期間のうちに急速に研究開発機構の活動が進展したことは、学内の期待と
支援を受けて、機構長を中心した適切な運営体制と施設設備条件を整備できたことが基盤
となっているが、より具体的には、次の点があげられる。
産官学連携の必要性が叫ばれる中で、実際に、学内や社会にこうした研究活動へのニー
ズ、シーズが一定程度存在していたこと。
このニーズ、シーズが、研究開発機構の設立によって、さらにはその施設設備・事務組
織が市ヶ谷キャンパスという都心拠点に整備されることによって、顕在化してきたこと。
研究組織の編成から資金の使途に至るまで、研究責任者の意向を最大限尊重する柔軟な
運用が行われるなど、専任教員の研究インセンティブを高める工夫がなされていること。
大学が社会の支持と信頼を得ながら、個人および組織全体がその教育研究活動を活性化
800 第4章 研究所
するための産官学連携の必要性は、今後ますます強まってくると考えられる。本学におい
て、その専門機関として研究開発機構を設立したことは、以上の成果に見られるように、
時宜を得た適切な判断であったと言える。その結果、少なくとも外部資金を活用した大型
の共同研究・委託研究の実施という面では、本学の立ち遅れは急速に回復しつつある。
とはいえ、産官学連携の形態は本来そればかりではない。大別すれば、共同研究・委託
研究の実施、TLOによる技術移転の実施、大学発の新産業を創出するインキュベーショ
ンの3つになるが、本学は今のところ、TLOへの取り組みやインキュベーションについ
ては萌芽段階に過ぎない。
これは現在の機構の基本性格に起因している。機構設立にあたっては、時間的な制約等
から当面差し迫った課題に対応することとされ、研究者のシーズや研究成果の学外への紹
介・売り込みを図るいわゆる「セールス機能」については、設立された機構での検討課題
とされた。その意味で現在の機構は、産官学連携のニーズの受け皿的な機関の性格が強く、
推進機関としての位置づけは十分ではない。このことは、社会的需要や外部資金の情報を
的確に把握して学内に情報提供し学内と学外とをつなぐリエゾン機能を果たすという、機
構のもう一つの設置目的が十分機能しているとは言い難い現状と密接に関連している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
第一に、機構の存在・活動内容の学内外への一層の認知と理解を得るべくPRをより積
極的・継続的に行うこと。そのためには、既に実施している機構パンフレットの配付や機
構講演会の開催を定期化するほか、新たに「機構ニュース」等の定期発刊、
「学員時報」へ
の定期的な掲載、ホームページの日常的更新・整備が当面考えられる。
なお、学内外へのPRを図るため外部資金をオーバーヘッドして機構で留保していた財
源によって、8月 29 日、朝日新聞朝刊全国版に5段広告を実施したところ、機構や理工学
研究所への問い合わせなど一定の反応があった。その中では、卒業生が喜びつつ問い合わ
せるというケースの電話が少なくなかった。
外部資金情報の収集・提供業務については、研究助成課(現学長室研究助成担当)と機
構とが輻輳している。学外からの資料・案内等も同課に届けられるため、同課に任せてい
たが、今後はどのように分担するのか協議する必要がある。それによっては例えば、機構
のホームページで外部資金情報の提供を行うことなども考えられる。
機構の活動の短期間での大きな前進と現在の役割・機能の限界という両面を踏まえ、ま
た、産官学連携の中でもとりわけ「大学の技術移転促進」
「大学発新産業・技術の創出」に
対する社会的な期待と要請が高まる中で、これらに適切に対応すべく、本学の新たな段階
にふさわしい産官学連携政策を打ち出す必要がある。例えば、承認TLOは既に全国で 20
機関整備(国立大学など 15、私立大学5)されているが、この有無(共同機関への加盟を
含む。)が、今や当該大学における産官学連携の意欲と能力の象徴的現れとして評価されて
いる面がある。その意味で、全国の承認TLOの実情は実情として、本学としても、経済
産業省や文部科学省から整備促進に向けて様々な支援措置や便宜を受けられるこの間に、
承認TLOの整備に向けた検討を開始する時期にきている。そのためには、まずは機構の
運営委員会において、理工学研究所等とも連携しつつ遅くとも 2003 年4月の後楽園キャン
パスへの移転時期までを目途に、機構設立後の検討課題とされていた「セールス機能」を
含め検討する必要がある。
801
2.研究組織
【現状の説明】
研究開発機構に所属する研究ユニットの組織・構成は、「資料編1」のとおりである。
【点検・評価】
冒頭に説明したように研究ユニットの特性から、各研究ユニットの組織構成の適切性、
妥当性の点検・評価は、資金提供者側によって適宜行われている。
一方、各研究ユニットが、本学の教育研究組織として適切・妥当であるかという視点で
は、研究ユニット設置に際して、
「研究開発機構に関する規程」に基づいて運営委員会が審
査委員会を設置し、
「研究ユニット設置に関する審査基準」および関連の「申し合わせ」に
基づいて、審査委員会ならびに運営委員会で判断を行っている。設置承認した研究ユニッ
トの計画内容に変更が生じた際にも、内容に応じて適宜審査委員会または運営委員会で審
議あるいは報告を行っている。
【長所と問題点】
各研究ユニットの研究員の組織構成についても、研究成果を引き出しやすくする観点か
ら、研究責任者の意向が相当程度尊重されている。また、多忙な研究責任者のもとで研究
ユニットの活動を研究面から日常的に補助し、あわせて彼らの実践的な研究能力の向上に
も資することを意図して、
「研究開発機構研究補助員制度」を設けることとし、学内手続き
を経て所要の規程を整備した。(資料編1−2参照)
他面、組織構成について研究責任者の意向を尊重する運用は、研究責任者の自主性と主
体性が何よりも肝要となる。それらがゆらぐようなことがあると、本学および機構として
の研究活動の水準確保等に影響を及ぼしかねないこととなる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
引き続き審査委員会や運営委員会機能の実質化と適正な運営を図るとともに、別途、運
営委員会の補完的機能と学内のアカウンタビリティを意図して、自律的な監査制度の検討
を継続している。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
研究ユニットの特性から、資金提供者に対しては、契約に基づき研究成果の報告・発表
等を適宜行っている。ただし、研究ユニットによっては契約上研究内容に非開示の部分も
含まれており、すべての研究成果を研究報告書や論文といった形で外部に公表できるとは
限らない。
一方で、契約内容に公開シンポジウムなどによる社会貢献が含まれているものもあり、
そうした研究ユニットでは、公開シンポジウムや講座、講演会、研究報告書の発行等を通
じて、研究活動の成果を積極的に外部に公表している。
大学・大学院との関係については、研究ユニットが行う研究は、現代社会における先端
的・実践的な課題に関する分野が多く、主として社会人大学院における教育研究に貢献す
る余地は大きい。実際にも、多くの研究ユニットでは、大学院学生が準研究員・研究補助
802 第4章 研究所
員あるいは何らかの形で研究活動に参加している。また、活動成果報告会を大学院学生対
象の公開講座として開催している研究ユニットもある。
研究開発機構の研究ユニットの活動概要は、「資料編2」のおりである。
機構発足以来、開催されたシンポジウムや公開講座は、「資料編3」のとおりである。
機構発足以来、発行された報告書、研究叢書等は、「資料編4」のとおりである。
【点検・評価】
研究ユニットの特性から、研究活動に関する資金提供者側からの点検・評価は、研究ユニ
ットごとに適宜行われている。
一方、大学・大学院との関係に関しては、研究ユニットによって関連の度合いがかなり異
なり、研究ユニットの設置状況自体も年次的に変動していくため、一律の基準を以って点
検・評価することはなじまないが、現状では、十分貢献していると言える。
【長所と問題点】
大学・大学院との関係では、上記のような研究ユニットの活動から、研究に参加する大学
院学生にとっては彼らの視野を広め刺激を与え研究能力養成の実践的フィールドとして役
立っている。また、一般受講生に対しては最先端の研究テーマや成果を大学院教育に反映
させることで教育の活性化に貢献している。
研究開発機構の研究ユニットは、本学の専任教員、専任研究員が責任者となって研究活
動を行っている。専任教員の責任者の場合、学部・大学院での教育責任を果たしつつ、別
キャンパスにおいて、自らも研究活動の中核を担いながら研究ユニットをマネジメントし
責任(直接的な契約責任、大学への責任、社会的責任)を果たすことは並大抵の負担では
ない。
また、サンセット方式の研究ユニットの宿命ではあるが、研究活動の一環として行って
いる研究レポートの発刊や公開フォーラムの開催は、本学の教育研究活動上も意義があり
読者・参加者からも評価を得ているものの、研究ユニット設置年限内での実施となるため
継続性は持ち得ない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
専任教員の負担に関して、
「中央大学研究開発機構に関する規程」の了解事項として「本
大学の専任教員が、この規程に基づいて機構の専任研究員となった場合においては、本大
学の専任教員としての義務を当然に免除されるものと解してはならない。」という規定があ
る。しかし、契約当事者たる大学・機構としての組織的な対外責任、機構が現実に果たし
ている本学の社会的貢献と社会からの支持獲得、大学院の教育研究活性化への貢献等を考
慮すると、研究責任者については、研究ユニットにおける研究活動と所属学部・大学院で
の教育研究活動とを両立するための何らかの配慮が切望される。
資金提供期間が終了し研究ユニットが解散した場合、その成果が顕著であった発行物や
公開フォーラム等については、既存研究所等になんらかの形で継承されることが望まれる。
3−(2)研究体制の整備
【現状の説明】
既述のとおり研究ユニットを組織する際に、研究計画・研究内容を細部にわたって資金提
供者と検討し、人件費、活動費、物件費を含む資金総額を定めて契約を締結している。そ
803
の際、研究活動費については、研究成果を最大化する観点から、必ずしも学内の支出基準
によらず、契約と研究責任者の要請に基づき、それぞれの研究ユニットの必要に応じて措
置している。なお、未執行・資金残となった場合は、翌年度へ繰越して研究費執行を可能
とする柔軟な運用を行っている。
研究開発機構活動経費に関しては、「8.財政」で詳述する。
教員研究室の整備状況に関しては、「4.施設・設備等」で詳述する。
【点検・評価】
研究ユニット設置審査の際に、「中央大学研究開発機構に関する規程」
、「設置審査基準」
および各種の「申し合わせ」に基づき、経費計画についてもその適切性を審査している。
設置後は、契約上使用可能な範囲での支出が行われているか適宜確認することとなる。
【長所と問題点】
現状の説明で述べたような研究資金の支出に関する柔軟な運用は、研究成果を最大限発
揮する観点からは極めて有効であり、研究開発機構の大きな特長となっている。そのこと
は、相応の自律性が求められるとともに、学内からの批判に耐えられる信頼性のある運用
基準(ないしは監査制度)を期待されるという一面を持っている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究開発機構の活動は、あくまで大学組織の中での活動であることから、学内の理解を
促進すべく相応の自律性を発揮しアカウンタビリティを果たす必要がある。
現在、研究費の使途を含めて自律的な監査制度を導入するべく運営委員会において検討
を始めているが、何らかの形でこれを実現すべく検討を継続する必要がある。
3−(3)国内外における研究者、研究機関交流
【現状の説明】
研究ユニットの多くはその研究課題に国際的な研究者交流や海外の学会参加、実態調査
等の海外出張を含んでいる。また、海外の研究者を招聘して開催する研究会や国際シンポ
ジウムなどを積極的に行っており、一回の研究会で複数の海外研究者を招いていることも
多い。
研究開発機構発足以来、ユニット研究員が参加した国際学会、調査等については、
「資料
編5」のとおりである。
研究開発機構発足以来、開催された国際シンポジウムと、招聘した研究者数については、
「資料編6」のとおりである。
【点検・評価】
国際交流に関しては、研究ユニットの活動の特性から、予め機構において目標や方針を
立てているわけではなく、あくまで、研究ユニットの研究課題に応じて適宜行っている。
このため、一律の基準を以って点検・評価することはなじまないが、現状では、本項に述
べるように活発に展開されている。
【長所と問題点】
研究ユニットの特性から、大学の様々な予算上の制約にはとらわれずに自由活発な国際
交流・連携を行うことが可能であり、実際にも、大学予算ではなかなか実現不可能な研究
交流・連携も生まれている。
804 第4章 研究所
しかし、ともすれば機構自体が他の学内研究所からは活動の独自性が強いこと、研究ユ
ニットの活動はその特性もあり当該研究ユニットの中で閉じられていることおよびサンセ
ット方式で活動していることから、研究ユニットの活動でネットワークを結んだ海外の研
究者・研究機関と、他の研究ユニットや学内研究者がそのネットワークを活用したり大学
として交流を持続することが難しい面がある。
【将来の改善・改革に向けた方策】
構築された海外研究者・研究機関とのネットワークを可能な限り全学の財産として活用
すべく、当面次のような方策が考えられる。
① 海外研究者を招聘した講演会・シンポジウムの学内への積極的なPR。
② 他の学内研究所や国際交流センターとの連絡体制の整備・強化。
4.施設・設備等
【現状の説明】
2000 年4月に開校した市ヶ谷キャンパスの2号館8階フロアを機構の専用施設として
整備した。この専用施設の個人研究室やワークルームには、情報ネットワークを初め、P
Cやプリンターが予め配備されるなど基本的なインフラが整備されている。2001 年8月の
時点で、個人研究室は 100%、共同利用のワークルームなども高頻度で利用されている。
これらの他に、研究活動に必要な設備等が不足する場合には、各研究ユニットが提供資
金の範囲内で個別に購入・整備している。それら外部資金により整備した設備(主として
情報機器)の研究ユニット期間終了後の帰属については、それぞれ契約の時点で定めてい
る。
図書・学術資料は、研究ユニットの活動の特性から、研究開発機構が予め収集・整備し
ているものではない。本学図書館・研究所の既存図書・学術資料も活用しつつ、各研究ユ
ニットがそれぞれの責任と判断で、必要な資料を自由に整備している。これらの記録・保
管についても、各ユニットの利用に合わせた至便な方法に任せ、機構として統一的な管理
はしていない。
各研究ユニットで購入した図書・学術資料は、それぞれ市ヶ谷キャンパス図書室に保管
を委託したり、研究ユニット内で保管したりしており、研究ユニットの研究期間が終了し
た際の取り扱いについて統一的な基準は作成していない。
【点検・評価
長所と問題点】
交通至便な市ヶ谷キャンパスに機構の専用施設を設けたことは、資金提供者との対応、
学外研究者の招聘、他大学・他機関との研究連携等、産官学連携の積極的展開には大きな
メリットとなっている。他面、本学のキャンパス(特に多摩キャンパス)に研究室を持つ
教員にとっては、市ヶ谷キャンパスまでの距離が負担になっていることは否定できない。
また、研究に必要な設備や図書・資料が自由に調達できるシステムは、研究活動の活性
化・迅速化・有用化に資している。一方で、それらの設備や資料などの取り扱いについて
は、現状は各ユニットに一任しており、機構内での共通利用や、学部・大学院との共有な
どは積極的には行っていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
機構が現在本拠としている市ヶ谷キャンパスは、機構の活動の急速な進展、大学院社会
805
人展開の一層の拡充、同キャンパスにおける 2002 年度からの国際会計研究科専門大学院の
開校、さらには 2004 年度のロースクールの開校によって、施設が狭隘化することが確実で
ある。このため、機構の施設設備を後楽園キャンパスの新棟に確保することを申し入れて
いたが、今般、新棟内に専用施設として1フロア(12 階)が手当されることとなった。(詳
細は資料編7参照)これにより、新棟が利用可能となる時期に、機構は後楽園キャンパスに
移転することが確定的となっている。
5.図書等の資料・学術情報
図書等の資料・学術情報に関しては、「上記事項4.」の施設設備に含めて記述。
6.社会貢献
研究開発機構は、産官学連携の推進機関であり、活動それ自体が社会還元への一形態と
なっている。このため、この項目について単独で記述することは適当ではないので省略す
る。
7.管理運営
【現状の説明】
研究開発機構の運営に関する意思決定は、
「研究開発機構に関する規程」に基づき研究開
発機構運営委員会で行われる。また、研究ユニットの設置に際しては、運営委員会におい
て研究ユニットごとに審査委員会を設け、
「研究ユニット設置に関する審査基準」および各
種の「申し合わせ」に基づき審査を行っている。(規程等資料編8参照)
それぞれの委員会構成と、現在までに委嘱された各委員は、
「資料編9」のとおりである。
現在までに開催された委員会の日程は、「資料編 10」のとおりである。
研究ユニット設置のプロセスは、研究代表者から設置申請書が提出された時点で、①研
究開発機構運営委員会を開催し、研究ユニット設置審査委員会を設置、②研究ユニット設
置審査委員会を開催して基準等に基づく審査を行い、結果を機構長に報告し運営委員会に
上程、③さらに研究開発機構運営委員会において審査委員会報告および基準等に基づき、
当該研究ユニット設置の可否を審査、という経過をたどる。
資金提供者との委託契約の本学側の契約主体は、研究開発機構長、中央大学理事長また
は中央大学学長となるが、これは既存の研究所における従来の運用を参考にしながら資金
提供者からの要望等によって個別に対応している。
【点検・評価】
点検・評価の機能は、現状では基本的に研究開発機構運営委員会が担っている。研究ユ
ニットの設置審査については、機構長の諮問機関である研究ユニット設置審査委員会も行
っている。
【長所と問題点】
運営委員会が包括的な権限を持つこのシンプルな意思決定プロセスは、課題に臨機に対
応し研究ユニットを機動的に立ち上げるうえで適切な仕組みである。
しかし、運営委員会の構成からしても、すべての活動について運営委員会が実質的に点
検・評価機能を果たすには限界がある。
806 第4章 研究所
また、研究活動の早急な開始が望まれるため、研究ユニット設置申請の都度に召集する
委員会の開催回数は、産官学連携への高まりとともに急速に増加しており、ただでさえ学
内の要職を占める職務上運営委員の負担が大きくなっている。
加えて、「研究開発機構に関する規程」の規定により、運営委員会の構成に規程第 20 条
第5号委員として研究ユニット責任者が含まれているため、研究ユニットの増加にともな
って運営委員会の規模が拡大している。もちろん、研究ユニット責任者も多忙である。こ
れらの結果、委員会成立要件の確保が難しくなってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
運営委員会の会議を定例化するとともに、臨機に市ヶ谷キャンパスと多摩キャンパスの
テレビ会議システムの活用を図り、やむを得ない場合は議題によっては、手順を定めて電
子メール利用による「ネット運営委員会」を導入することとした。可能な限り一堂に会し
ての会議を追求しつつ、これらの方式の効果的な運用を図る必要がある。
「研究開発機構に関する規程」の規定を改正し、例えば、規程第 20 条第5号委員(研究
ユニットの責任者)については、全員ではなく互選方式または代理人方式を導入するなど、
委員の数の適正化を図る必要がある。
既に開始されているが、運営委員会の点検・評価機能を補完するための監査制度等の検
討が必要である。
研究契約に際しての本学側の契約主体について、現状では個別対応しているが、研究開
発機構長、学長、理事長のいずれを基本とするのか、本学側の基準を設けて対応していく
必要がある。なお、民間企業等と研究契約を行う際には、慎重を期するために、必要に応
じて弁護士に「契約鑑定・相談」を行うこととし、依頼先の弁護士を選定した。
「知的資産の取り扱いに関する規程」の整備を理工学研究所とともに提起し、運営委員
会の議を経て学部長会議に報告した。現在、学部長会議の協議を経て、法人に規程化を委
ねている段階にある。産官学連携を積極的に推進している大学の多くは既に関係規程を整
備済みであり、本学もできるだけ早い機会に制定することが望まれる。
8.財政
【現状の説明】
研究ユニットの特性から、研究活動を行ううえでの財政基盤はもっぱら外部資金に依存
している。
外部資金(一部科研費を含む)の受け入れ状況は「資料編 11」の通りである。
なお、機構本体の財政については、外部資金を導入した際に、受け入れた外部資金の 10%
または 100 万円のいずれか高い額を間接経費として控除(オーバーヘッド)しており、その
控除した資金のうち 50%を機構に留保(残る 50%は法人が施設維持費や機構の事務のため
の人件費・物件費として控除)することにより賄われている。そして、この資金により、講
演会やPR等、機構の共通的な活動を積極的に行っている。
【点検・評価】
個別研究ユニットの財政的基盤および活動予算については、それを担保する外部資金が
提供されるかどうか、研究ユニット設置審査の際に審査を行っている。また、運営委員会
において年1回、各研究ユニット単位および機構本体で収支報告を行っている。
807
【長所と問題点】
予算の使途に関して、研究責任者の意向を最大限尊重する柔軟な運用は、研究成果の最
大化には寄与するが、一面ではそれが学内の批判を招きかねない遠因ともなる。
また、オーバーヘッドした間接経費の処理ルールが、経理部と機構事務室との口頭の申
し合わせのレベルに過ぎなかったことから、明文化して運用することの必要性を学部長会
議で指摘された。関連して、多額の外部資金を導入しており、使途の自由度も高いことか
ら、自律的なチェック機能の確立が課題となっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
機構としては、設置趣旨にふさわしく自由で学内外に開かれた研究活動を今後も維持し
発展させていくために、機構の財政運営等に関連して当面、①オーバーヘッド分の処理を
含む法人との費用負担の明確化、②財政的自立策の強化、③運営上の自律的なチェック機
能の検討を開始し、①については、鋭意法人と折衝し「研究開発機構活動経費の取扱基準」
として明文化し9月 25 日学部長会議に報告した(資料編 12 参照)。これにより、機構の専
任事務職員の人件費までを賄うのは将来的な課題としつつ、②の課題についても当面は制
度的な見通しがついたことになる。また、運営上の自律的なチェック機能に関しては、既
に述べたとおり何らかの監査制度を導入する方向で検討を続けている。
9.事務組織
【現状の説明】
研究開発機構の事務組織は、機構の設置に遅れること半年あまり、2000 年2月1日に設
置された。現在、市ヶ谷キャンパス総合事務室の職員が全員兼務という形をとり、実質的
にはその中で、責任者である事務長(市ヶ谷キャンパス総合事務室事務長兼務)を除いて、
職員2人と派遣社員1人が担っている。
【点検・評価】
研究開発機構の事務組織は、事前相談から研究ユニット解散時まで、資金提供者との様々
な折衝窓口を担うことから、研究ユニット同様に、資金提供者からその業務執行能力(相
談・契約等折衝能力、プロジェクト管理能力、事務処理能力等)が点検・評価される立場に
ある。また、他大学の同様の産官学連携組織において事務組織の果たしている役割・機能
等との比較という点からの点検・評価も可能である。
【長所と問題点】
研究ユニットの性格や活動形態によって事務組織の関与度はかなり異なっているが、全
体としては、急速に研究ユニットが増加し積極的かつ多彩な研究活動が展開される中で、
機構の趣旨と各研究ユニットの特性を活かした柔軟で機動的な対応が行われている。
研究開発機構の事務組織においては、資金提供者からも研究者からも安心されるような事
務・経理処理機能は当然のこととして、海外を含む研究活動を適切に支援し管理し発展さ
せるための、総称すれば研究マネジメント機能(研究管理、研究支援機能および研究連携機
能)とでもいうべき次のような多彩な機能が必要となっている。
企画・立案機能、折衝・調整機能、調査・情報収集提供機能、広報・学外連携機能、情
報環境整備・情報支援機能、国際会議等開催支援機能、海外折衝機能、技術移転促進機能
これらの全体について、現状ではそれぞれの研究ユニットの活動展開に対応するのに手
808 第4章 研究所
一杯の感があり、機能強化のための計画的な取り組みはできていない。例えば、国際会議
開催や海外折衝については、派遣社員1人に頼り切りである。また、
「研究開発機構の理念・
目的」の項で述べたように、機構の基本性格の限界から生じているものではあるが、セー
ルス機能や技術移転促進機能については整備されていない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
緊要な研究マネジメント機能、さらには近い将来を見据えたセールス機能(技術移転促進
機能およびインキュベーションマネジメント機能を含む)を強化するためには、短期的には
派遣・委託者あるいは期間限定採用職員等の形態で外部資源を臨機に活用しつつ、長期的
には計画的に職員を育成する必要がある。このためには、研究支援専門職としての明確な
位置づけのもとで大学院修士修了レベルの職員の積極的な採用を行うとともに、海外派遣
を含め計画的な研修機会を設定する必要がある。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
既述してきたように、研究開発機構は常に、学外からの点検・評価にさらされている。
また機構内部の自己点検・評価に関しては現状では、研究開発機構運営委員会と審査委員
会がその機能を果たしている。特に運営委員会においては、定例会議を最低年4回開催す
ることとしているが、ここではできるだけ機構の課題や将来構想についての議論を行うこ
ととし点検・評価機能を担保している。別途、研究ユニットの設置のときなどは適宜運営
委員会を開催することとし、研究ユニットに対する評価を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
何よりも学外からの点検・評価を常に受ける環境にあること自体が、大きな長所である。
それは当然、社会からの一つの評価としての客観性・妥当性を持っているからである。
内部の自己点検・評価に関しては、委員規模の拡大と、委員がそれぞれ要職についてい
て多忙なことや市ヶ谷キャンパスという地理的条件もあって、運営委員会の設定が相当困
難となっている。これに対応して点検・評価機能を維持することにも工夫が必要となって
いる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
管理運営の項でも述べたように、運営委員会の会議を年4回定例化するとともに、臨機
に市ヶ谷キャンパスと多摩キャンパスのテレビ会議システムの活用を図り、やむを得ない
場合は議題によっては、手順を定めて電子メール利用による「ネット運営委員会」の導入
を図ることとした。
これも既に別の項目で何度か述べたが、機構の自律性を担保し、運営委員会の自己点検・
評価機能を別の観点から補完する組織として、監査制度の導入を検討継続している。将来
的には、何らかの形での外部評価を取り入れることが、機構のプレステージを高めること
となり、機構のさらなる発展にとっても望ましい。
809
第5章
教育研究支援
本学の教育機関の運営は、各学部・研究科・研究所のそれぞれの特色が
最大限生かされるように、各機関の自主性を重んじた運営を行っている。
しかし、それぞれの機関が取り扱う業務のなかには、教育研究に欠かせな
い図書情報や、奨学金をはじめとする学生生活への支援など、全学的に集
中して取り組むことにより、より効果的・効率的に大きな成果を収めるこ
とができる業務がある。本章では、これらの業務を、図書館・学術情報、
情報環境整備、学生の受け入れ、学生生活への配慮、実学の伝統と国家試
験、国際交流の促進、開かれた大学の理念と社会貢献、大学広報の8項目
により点検・評価を報告する。
811
図書館・学術情報
本学では、教育研究、学習活動に資する学術情報の収集・提供サービスを図書館、各研
究所、映像言語メディアラボ、各学部図書室がそれぞれの特色を発揮しつつ行ってきたが、
近年の著しい情報環境の変化と情報通信技術の進展を受けて、ネットワーク環境において
多様な情報媒体へのアクセスを可能とする学術情報サービスの体制整備を進めている。
新しい学術情報サービスが目指すところは、総合学術情報サービスセンター(仮称)構想
のもとに、学内関連機関の連携により統合的に学内外の学術情報資源を活用して、教育研
究、学習活動を支援するとともに、本学における教育研究の成果を社会に広く発信するこ
とにより、本学の教育研究、学習活動をさらに充実させ、社会へ還元しようとするもので
ある。
以下、この項では主に図書館における学術情報サービスについて述べることとし、学内
関連機関(研究所、映像言語メディアラボ、各学部図書室など)における学術情報サービス
については、それぞれ関連機関の項で記述している。
1.図書、図書館の整備
当館の理念・目的は、
「中央大学図書館規則」に「図書館は、研究、調査及び教育に必要
な図書その他の資料を収集・管理し、本大学の教職員、学生及び館長が特に許可した者の
利用に供することを使命とする。」(一部略)と規定されている。また、近年の情報環境の変
化により電子資料をも利用に供しなければならない点は、「図書館改善年次計画」(本項目
末尾を参照)の冒頭に、「伝統的図書館機能と電子図書館機能の両立」という目標を掲げて
館内外に明示している。なお、
「中央大学図書館規則」には「学習」の語が見えないが、学
部学生向けの学習用図書の収集と提供にも当然ながら力を入れている。今後は、電子図書
館機能のほか、他大学図書館・公共図書館との相互協力を一層強化したい。
次いで、大学の社会貢献については、第一に八王子市中央図書館と申し合わせて 1993
年度より同市民の館内閲覧と複写を認めている。今後、地域開放への要望は強まる一方と
予想され、図書館を含む本学全体の方針の策定を促進する必要がある。現行の休日開館を
地域開放につなげる方向も考えられる。第二に 2001 年度より貴重書をデジタル化して広く
公開する予定である(後述「2−(1)電子図書館サービス」の項を参照)。
管理運営上の重要事項は、図書館商議員会において審議決定し、ここへの提案および報
告事項は、あらかじめ館長を議長とし図書館事務部の管理職位者・専門職位者を構成員と
する図書館事務連絡会議において協議している。さらに、このもとに事務部長を招集者と
する図書館各課打ち合わせ会議を置き、上位2協議体への提案および報告事項につき協議
している。この現体制は手続きが煩瑣で、協議体の運営そのものに精力が奪われているき
らいがあるので、2001 年度より、図書館事務連絡会議と図書館各課打ち合わせ会議との統
合を実施する予定である。また図書館商議員会の審議決定事項について、教授会への報告
と図書館利用者への広報をより活発に行う所存である。
次に、図書館予算は、毎年度図書館事務部において予算申請案、予算案、決算案を起案
して商議員会に提案し審議決定しているが、1997 年度以来、研究科および学科・研究科専
812 第5章 教育研究支援
攻の増設にともなう予算措置を除き増額されていない。しかも、洋雑誌の価格高騰により
購入誌の削減を余儀なくされている一方で、データベースや電子ジャーナルの費用が嵩ん
できている。そこで、図書予算配分を見直し次のような方策を講ずる予定である。① 大学
全体の教育研究体制整備の施策に対応した配分、② キャンパス単位の配分、③ 学部学生・
大学院学生の学習・研究用図書費および電子媒体情報の受配信費用の確保等についての配
慮、④ 洋雑誌コアジャーナルの継続購入の確保を検討して理工学部分館より実施する。
ところで、図書館事務部の組織は、総務課、情報資料課、閲覧課、理工学部分館事務室
の3課1室より成る。2000 年7月に旧図書課と旧逐次刊行物課を統合して情報資料課を新
設したほか、電子媒体情報の提供サービスを行う情報サービス課の新設構想など、情報環
境の変化や閲覧業務の多様化・高度化への対応と、アウトソーシングの進行や専任職員の
削減などへの対応が途上にある。専門職制度と研修プログラムの検討も続けている。
また、現在中央大学情報環境整備委員会のもとに、図書館長を主査とする中央大学総合
学術情報機構推進専門委員会を設置し、図書館、各研究所、映像言語メディアラボ、情報
研究教育センターの組織的連携による全学的な総合学術情報サービスセンター(仮称)構想
を検討中である。この組織の目指すところは、目覚しく進展する情報技術と情報環境の変
化に対応して、大学における研究・教育・学習活動に有用な情報について、媒体の如何を
問わず収集・統合して提供することと、教育研究の成果を発信し公開することにより公益
に寄与しようとすることにある。要約すれば、① 教育研究支援機能、② 学習支援機能、
③ 情報生成・発信機能に集約されるが、その実際的展開においては、教員・学生からの多
様な情報要求に即応し得るサービス体制と、学術情報に関する専門的知識を有する要員の
配置が必須である。この2点に関する専門委員会の検討結果を、2001 年 12 月までに情報
環境整備委員会委員長に答申する予定である。
最後に、図書館では 1985 年度より「図書館改善年次計画」を策定し、年度ごとに計画の
達成度を評価し次年度の計画を立案してきた。これは自己点検・評価の先駆的なものと見
なし得ると思われ、近年ややルーティン化し達成度は必ずしも高くないが現状改善に一定
の役割を果たしている。同計画は 2003 年度に見直す予定であり、その際に今回の大学評価
を恒常的なものとして定着させる所存である。
(1)利用サービス
a.利用条件
【現状の説明】
座席数には電卓を使用する利用者のための 40 席(特別閲覧室)と、グループ討議する利
用者のための 36 席(グループ読書室)を含む(基礎データ調書
表 29 参照)。この他に、法、
経済、商各学部図書室と市ヶ谷キャンパス図書室があり閲覧可能である。また、中央図書
館内にある国際機関資料室は、国連寄託図書・EU(欧州連合)寄託図書等の一般市民への
閲覧と貸出しを行っている。
開館時間は、中央図書館が9時から 22 時まで、理工学部分館が9時から 21 時までなど
である。近年、大学院図書室の開室時間の延長に努め、授業期間中は 20 時まで開室してい
る。開館日数は、中央図書館が 287 日、理工学部分館が 278 日などである。この中には、
中央図書館と理工学部分館における、各試験時期の約3週間前からの休日開館が含まれて
いる。なお、市ヶ谷キャンパス図書室は社会人大学院学生を対象としているため、授業期
813
間中は日曜・祝日も開室している。
ほかに、2001 年度より返却遅延等に対するペナルティーに関する細則を施行すべく、手
続きを完了した。
【点検・評価
長所と問題点】
比較的卒業生の利用が多く、そのほとんどが国家試験受験の勉強のために自習室として
固定的に利用されており、本学の試験時期には試験開始2週間前から終了まで、卒業生利
用者の入館利用を制限している。開館時間と開館日数は、ともに私立大学図書館の中で上
位にあるといってよいが、レファレンス・ルームの受付時間は9時半から 16 時半(土曜日
は 11 時半)までにとどまっている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
レファレンス・ルームの受付時間の延長は、業務の専門性と人員確保の点から対応が困
難だが、その対策を検討する予定である。
b.閲覧サービス
【現状の説明】
利用方法の周知に関して、利用者に次のように説明している。①全学的な新入生ガイダ
ンス期間内における説明、②ゼミナール(演習)ごとのゼミ員への資料の探し方やツールの
説明を中心とする指導、③インターネットを経由して情報検索できる端末機(以下「ウェブ
OPAC」)の操作方法等の説明(司書コース履修者を中心とする学生パートタイム職員による
対応)、④卒業論文作成を控えた3年生以上の学生に対する、閉架書庫への入庫指導と卒論
のための特別貸出。なお、2000 年度は経済学部からの申し出により、1年生全員を対象に
ウェブ OPAC と外部データベースの検索についての説明を実施した。
キャンパス間の図書の利用について、各キャンパスに分散所蔵されている図書を、キャ
ンパス間の本学の連絡便により搬送して、他のキャンパスの図書を2日後には利用できる
体制を整えている。
閲覧目録は、1989 年度よりカードからオンラインに移行して図書館内各部署間での検索
が可能となり、貸出・蔵書点検などの業務もシステム処理するようになった。その後ほぼ
全蔵書の遡及入力を終え、さらに 1999 年度の新システム導入とともにウェブ OPAC へ移行
し、学内の個人研究室、自宅さらには外部の端末機等から情報検索が可能となった。
さて、他大学図書館との相互協力の面では、多摩キャンパスにおいて複数の大学図書館
との個別協定による構成員の利用を認めてきている。具体的には、東京西地区の大学図書
館間での相互協力を実施しており、さらに東京都立大学・東京外国語大学各図書館との相
互協力協定を締結した。
なお、2000 年度より中央図書館の閲覧業務の大部分をアウトソーシングした。(電子図
書館サービスについては後述2−(1)を参照。)
【点検・評価
長所と問題点】
学部学生の下級学年においては自習室としての利用が多く、現状の利用者指導は演習を
履修するようになって初めて役に立つのが実態であり、学部学生利用者へのアプローチが
今後の課題である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
後楽園キャンパスにおける他大学図書館との相互協力・相互利用は、話し合いの緒に就
814 第5章 教育研究支援
いた段階にある。今後、他大学図書館とは、相互協力からはじめて大学図書館コンソーシ
アムの構築に至る展望が求められている。
c.レファレンス・サービス
【現状の説明】
事項調査は、量をこなすより、質問者に満足してもらえるに足る質を維持する方針で対
応している。所蔵調査は、ウェブ OPAC の実現により利用者が自ら他館の蔵書を容易に検索
できるようになった関係で、当該資料の所在状況確認に関する、担当者による相手館への
問い合わせ件数が大幅に増えている。文献複写の受付(文献複写の依頼は図書館嘱託職員が
担当)については業務委託している。図書の現物貸借は、従来東京西地区所在の大学図書館
との間に限定していたが、2001 年6月より全国へ範囲を広げる予定である。ただし、当分
の間は、利用対象者を教員と大学院学生に限定している。
【点検・評価
長所と問題点】
文献複写の受付は業務委託に移行したため、サービスの質の維持・向上について業者と
の定期的打ち合わせを行い、業務内容を点検・評価するようにしている。現物貸借の利用
者からの要望は高いが、業務量の関係で学部学生への拡大は困難である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
文献複写と現物貸借は、端末機画面上での受付を実現すべく検討中である。また現物貸
借にともなう資料の受け渡しについては、業務委託等による多様な対応の検討が必要であ
ろう。
(2)資料の選書・収集
【現状の説明】
図書予算は、主として専任教員用として配分される「専門図書費」とその他の分野での
「図書館長運用予算」とに区分され、後者については「中央大学図書館収書方針」が適用
される。当方針は館内に設けられた選書委員会によって審議されるが、現状では必ずしも
トータルな収集方針の審議の場として、十分に機能していないきらいがある。(蔵書構成に
ついては基礎データ調書
表 27、28 を参照。)
図書予算はここ数年ほぼ5億4千万円(内訳比率は、図書費が約 67.4%、逐次刊行物費
が約 32.6%)で推移しており、私学のトップクラスにある他大学図書館と隔たりがあると
いえ、一層の増額が望まれるところである。また和書の観察評価を 1994-1999 年度に、経
済学の洋書の基本文献所蔵調査を 1998-2000 年度に各々実施し完了した。
【点検・評価
長所と問題点】
現在の当館の予算規模・保有施設・業務体制等の組織的力量からすれば、全蔵書冊数や
年間増加冊数はそれなりに妥当であると判断されるが、内容的に見ると必ずしも適切とは
いえず、以下のような問題点が生じている。① 学生1人当たりの蔵書冊数が同規模 10 大
学中最下位に近い位置にある。② 外国語図書を含む基本文献の収集が必ずしも十分とはい
えない。③ 選書・収集をめぐる状況の変化(学部・学科・大学院の増設による対象分野の
拡大、留学生や社会人大学院学生の増加等利用者層の多様化、資料媒体の多様化)に必ずし
も的確に対応できていない。④欧米の洋雑誌(特に理工学部関係)の価格の高騰が著しく、
一部の雑誌の購読の取りやめを余儀なくされている。
815
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学図書館の基本的な機能が学習支援と教育研究支援にあることはいうまでもないが、
それを十分に果たし、前項で指摘した問題点を克服するには、シラバスに添った選書・収
集を蔵書構築の柱とし、基本文献の収集を徹底させることが必要である。そのためには、
以下のような方針によるべきであろう。① シラバス掲載図書を中心に複本の収蔵を検討す
る。② 基本文献の整備・充実のための選書・収集体制を強化する。③ 蔵書の増加に対応
するため保存書庫を含む新館の建設が必要である(後述)とともに、不要な蔵書の除籍を含
め蔵書の更新を促進し、適切な蔵書構成の維持に努める。また基本文献の収集と並んで、
当館独自の蔵書の構築と他大学図書館との分担収集についての検討が予定されている。
(3)資料の組織化
a.資料の発注・受け入れ
【現状の説明】
発注から受け入れまでオンライン処理を行っている。受け入れ資料の増加にともなって、
効率的な処理を行うため業務の一部を委託化(アウトソーシング)している。
【点検・評価
長所と問題点】
委託化により処理冊数の増大と処理時間の短縮を図ることができ、業務の効率化が実現
した。なお、委託に関して点検業務は専任職員が行う体制としているが、管理要員が減少
し質の高い管理体制の保持が問題となってきている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
少ない専任職員でも管理が可能なように、点検業務の定型化とマニュアル化を進める必
要がある。
b.資料データおよびデータベースの作成
【現状の説明】
国立情報学研究所の目録所在情報サービス(以下「NACSIS-CAT」
)に参加し、国立情報学
研究所の目録に準拠したデータの作成を行うとともに、図書館資料のほか研究所資料の一
部も含めて目録データベース(以下「DB」)を形成している。
【点検・評価
長所と問題点】
NACSIS-CAT 利用によるDB作成により、データ作成の省力化、迅速化を実現するととも
に、オンラインを通じて学内外から資料の所蔵状況が把握できる。さらに研究所の全資料
をDBに入力する準備を進め、DBの品質保持のために著者典拠の整備およびDBへの独
自項目の追加作業を行う体制を整えている。しかし、韓国・朝鮮語、アラビア文字等の特
殊文字については入力できないこと等により、全学のDBとはなっていない。また、1999
年のシステム変更にともなうデータ修正作業が大きく、作業終了に努力中である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
全学の全資料の入力を行い、全学学術情報DBとして整備する必要がある。中国語につ
いては、国立情報学研究所の参照マークの導入を検討している。また、DBの品質保持と
メンテナンスを確実にするため、目録規則について継続的な研修を行うとともに、作業体
制を確立する必要がある。
816 第5章 教育研究支援
(4)施設・設備
【現状の説明】
図書館関係の施設は、多摩・後楽園・市ヶ谷の3キャンパスに設置されている。多摩キ
ャンパスには、中央図書館(国際機関資料室を含む)・大学院図書室・文学部専攻別図書室・
総合政策学部図書室が、後楽園キャンパスには、理工学部分館および理工学部学科等図書
室が、市ヶ谷キャンパスには市ヶ谷キャンパス図書室がある。設備としては、各図書館・
図書室の閲覧席・サービスカウンターと書庫等とともに、利用者用検索機と業務用端末機
とで全学をネットワーク化してある。なお、2000 年度末より入館者チェック・システムを
中央図書館に設置した。
【点検・評価
長所と問題点】
大規模大学である故に、同一キャンパス内で図書室が分散している状況は、ある面では
止むを得ない。その代わり各施設での利用対象を明確にする必要がある。中央図書館と理
工学部分館では各々開架閲覧室が備えられており、学部学生を中心に開館時間中はいつで
も自由に資料を閲覧できるようになっている。教員・大学院学生を主たる利用者とする施
設としては、多摩キャンパスの大学院図書室・文学部専攻別図書室・総合政策学部図書室、
後楽園キャンパスの理工学部学科等図書室、市ヶ谷キャンパス図書室とがあり、それぞれ
特色を活かした運営を行っている。しかし、収集した資料が収蔵能力を超過し、現在多摩
キャンパスでは約 18 万冊を外部保管委託しており、特に教員を中心とした利用サービスに
多大な影響を与えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現在の中央図書館を学習用図書館とし、新たに研究者用図書館の建設を法人に提案して
いる。ただし、現実は保存書庫の建設という方針だが、その建設時期が未定のため、多摩
キャンパスでは資料の外部保管委託を継続する一方、現状施設の範囲内で全学的な洋雑誌
センターを構想するとともに、学術情報検索室を設置し、より質の高い情報サービスの提
供環境整備を志向している。また、理工学部分館では後楽園キャンパスの再開発にともな
い、各研究領域の中核となる雑誌を集中管理する雑誌センター構想を提案している。
2.学術情報へのアクセス
(1)電子図書館サービス
【現状の説明】
電子図書館的機能については、プロジェクトチームにより検討した。その大項目は以下
の通りである。① デジタル・コンテンツの受配信、② デジタル・コンテンツの発信、③ 電
子図書館の要件の整備、④ 検討体制、⑤ 本学における電子図書館の全体像。その結果、
外部オンライン・データベースの利用者への提供については、利用者のニーズに合わせて
各種のDBを積極的に導入し、図書館のホームページに公開している。また、図書館独自
にメールサーバを立ち上げメーリングリストを作成し、SwetsNet(外部データベースの一
つ)から各種のサービスを提供できる環境を構築した。さらに、図書館システムのパッケー
ジ機能の一部を導入し、質問システム、自館ホームページ検索、他機関 OPAC との横断検索
の機能を利用者に提供している。
817
【点検・評価
長所と問題点】
基本的な外部オンライン・データベースの提供サービスは、一定程度達成したと評価し
ている。しかし、導入したDBは、IPアドレスでチェックする固定料金制のものにとど
まっていて、今後はサイト契約のもの、あるいは従量制のものの導入に向けて、認証シス
テムおよび課金問題の解決が不可欠である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
デジタル・コンテンツの受配信については、サブジェクト・ゲートウェイ機能の活用が
今後の課題である。発信については、当館の貴重書である哲学者ヒュームの書簡から電子
化を開始し、所蔵するイギリス哲学、英法および英文学の資料全体へ年次的に拡大してゆ
き、将来は英国に関する一大コレクションを構築する計画である。また、紀要・学位論文
など本学での研究成果についても、電子化での公開を計画している。
(2)情報基盤整備
a.システムとネットワークの開発・運用・保守
【現状の説明】
新図書館システムが 1999 年度より稼働し、ウェブ OPAC が学内のみならず自宅からも 24
時間利用可能となった。これにより業務処理する部署も市ヶ谷キャンパス図書室と研究所
に広がり、学内の学術情報データベース構築の一元化が進んだ。
【点検・評価
長所と問題点】
新図書館システムの導入によるクライアント/サーバシステムへの変更によって、ハー
ドウェアのコストダウンが実現した。また、システムの運用・保守に関して、外部委託の
システム・エンジニア(以下「SE」)とオペレータの常駐を廃止し、業者の定期訪問だけ
の運用に変更することができた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
現システムの今後の改善についての主な項目として、NACSIS-CAT のUCS(国際文字コ
ード)対応、CATP(Cataloging Information Access & Transfer Protocol) ゲートウェ
イ機能、書誌典拠自動削除機能があげられる。また、業務用に新図書館システムを利用す
る学内部署として、映像言語メディアラボの参加が予定されている。
b.予算
【現状の説明】
新図書館システムでは、旧システムのようにリース契約ではなく、一式を買い取りで導
入した(1998-1999 年度予算)。システム導入後1年が経過し保証期間が過ぎたため、サー
バメンテナンスのための保守費を計上した。なお、クライアントPCとプリンターの保守
については、年間定額制の保守契約ではなく、障害が発生した時にスポットで修理を行う
契約となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
新図書館システムへの移行によってSEとオペレータが常駐する必要がなくなったため、
旧システムのシステム関連予算を比較すると、2000 年度においては1億円以上のコストダ
ウンが実現できた。
【将来の改善・改革に向けた方策】
818 第5章 教育研究支援
当館一館だけでシステムを維持していくのではなく、複数のユーザ間で図書館システム
のパッケージの仕様を統一し、業者が提供するASP(Active Server Pages)によりシステ
ムを維持・管理してランニングコストを抑えていくことを想定している。
819
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820 第5章 教育研究支援
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822 第5章 教育研究支援
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情報環境の整備
最近の情報機器・システムの急速な進歩により、大学の構成員である学生および教職員
すべてにとって情報環境を整備することは最重要かつ喫緊の課題であり、法人および教学
組織が全体として、また個々として有機的・効率的に機能するよう継続して検討しなけれ
ばならない。特に、教育研究などの情報については、図書館、各研究所、情報研究教育セ
ンターおよび映像言語メディアラボの連帯による全学的総合学術情報サービスセンター構
想を検討している。一方、本学には多摩、後楽園および市ヶ谷の3つのキャンパスがあり、
キャンパス間さらには学外、国内外との教育研究交流を一層促進するための情報環境を整
備するために、ネットワークを最大限に活用したシステム構築を目指している。それぞれ
の組織の情報環境整備については個別の学部、大学院、研究所などに記述しているが、こ
こでは全学的組織である情報研究教育センターおよび映像言語メディアラボについて述べ
る。
情報研究教育センター
研究教育情報システム組織評価委員会は、本大学の教育研究に関連する情報システムに
関する組織の評価を行うことを任務としている。ここで、主な評価の対象となるのは、
「情
報研究教育センター」である。この他、教育研究に関連する情報システムの一部として、
ネットワーク関連の施設・設備の維持管理があり、これは「事務システム推進室」の所管
となっている。このため、今回の評価の対象として、ネットワーク施設・設備の維持管理
に関連する限りで、「事務システム推進室」を含むものとする。
1.研究教育情報システム関連組織の理念と目的
【現状の説明】
高度化・多様化する情報化の進展に鑑み「電子計算機センター」の機能と役割が見直さ
れ、1997 年7月、教育研究にかかわる情報処理分野の業務全般を所管する「情報研究教育
センター」(以下「センター」と略称)、および、事務処理にかかわる情報処理分野の業務
全般を所管する「事務システム推進室」(以下「推進室」と略称)が設置され、
「電子計算機
センター」は改組された。
情報研究教育センター規程は、センターの任務として、1.全学共同利用を目的とした
コンピューター環境及びネットワーク環境の提供とその円滑な運用に関する事項、2.情
報科学に関する研究の調整・維持及び支援に関する事項、3.情報研究教育センター主催
による基礎的情報教育の立案及び実施に関する事項、4.本学における基礎的・応用的及
び専門的情報教育実施の調整ならびに情報交換に関する事項、5.本学における情報機器
利用教材の共同開発及び情報交換に関する事項、6.その他教育研究に関する必要な事項、
をあげている。
1997 年7月の発足以後、センターの役割は大きく変化してきた。発足当初のセンターの
824 第5章 教育研究支援
中心的な活動は、(1)大学における教育研究に関連した情報環境の調査・研究を行う研究
活動の組織化(研究プロジェクト)、(2)各学部において実施される情報リテラシー教育の
補完的なセンター主催講習会の実施、(3)全学共通利用のソフトウェアのライセンス管理、
(4)各学部における情報環境整備に関する情報の交換、(5)教員・大学院学生の研究室関
連の情報環境利用支援と情報の提供、(6)理工学部におけるネットワーク環境の維持管理、
情報リテラシー教育のための教室の維持管理と利用者支援、(7)教員・大学院学生用のメ
ールサーバの運用やマルチメディア教室など共用情報環境の運用管理、(8)ネットワーク
環境整備と維持管理に関連する推進室との連絡協議・調整、に置かれていた。
しかし、その後の大学の教育研究に関連する情報環境の変化はきわめて急速かつ大幅な
ものであった。すなわち、(1)大学における情報技術のあり方が、狭義の情報リテラシー
教育や少数の先端的な研究のみでなく、文科系も含めた相当多数の教員の教育研究活動の
あり方に、深く関連するようになった、(2)かつて汎用機や単体のパソコンなどが中心で
あったものが、ネットワーク状でのサーバ・クライアントシステムへと大きく転換し、ま
た全体としての費用もきわめて高額になった、(3)教育研究面での情報技術支援の重点が、
ハードウェアや既存のソフトウェアの整備から、コンテンツの作成・蓄積・利用などに移
行しつつある、といった変化が生じ、センターの活動の重点も、これらの変化を反映して、
大きくシフトしつつある。現在、センターの活動の重点は、(1)情報環境整備委員会など
における情報環境整備計画立案ならびに予算調整の支援、(2)全学に共通する教育研究に
関する情報環境の整備と維持管理、(3)各学部・大学院の情報環境整備と利用に関する情
報の集約・調整と全学的なポリシーの策定、(4)教員・大学院学生の情報技術利用支援、(5)
各学部情報教室の技術支援、(6)教育研究に関するデジタル・コンテンツの開発支援、(7)
理工学部におけるネットワーク環境の維持管理、情報リテラシー教育のための教室の維持
管理と利用者支援、(8)教員・大学院学生用のメールサーバの運用やマルチメディア教室
など共用情報環境の運用管理、(9)教育研究における情報環境利用のための情報収集・調
査研究・広報活動、などである。
また推進室は、センターとの協議・調整を行いながら、(1)各キャンパスにおける基幹
ネットワークの整備・維持・管理、(2)各学部教室棟、大学院教室・研究室、教員研究室
などへのネットワークの接続と設定・運用、(3)ネットワーク運用に関する調査研究と全
学的ポリシーの形成、にあたっている。
【点検・評価
長所と問題点】
1997 年のセンター発足によって、教育研究に関する情報環境整備の独自性が確認され、
資源配分が行われるようになった点は教育研究機関としての大学にとって特に重要である。
発足当初は試行錯誤的な面も見られたが、人員・予算ともきわめて限定された条件の中で、
これまでのところその基本的な任務を遂行し、その活動は一定の軌道に乗ってきたと評価
することができる。
しかし、上記の現行のセンターにおける活動の重点を中心に、センターに期待される課
題は急速に拡大し、かつ複雑化しており、今後いくつかの重要な新しい課題の発生が予測
される。また、センターと推進室が分立して以後、教務情報などに関する情報化など、い
くつかの開発の遅れた領域が残されたことも指摘しなければならない。
また、市ヶ谷キャンパスの取得によるマルチ・キャンパス化、専門大学院の設置や文理
825
融合化、付属高校との連携、卒業生との関係強化などの環境変化と新規課題の出現は、教
育研究に関する情報環境整備における新たな任務の形成を意味しており、これらに適切な
対応をするには、現行の資源と組織では、必ずしも十分とはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究情報システムに関する組織の理念と目的にかかわる課題と将来の改善・改革に
向けた方策として、以下の点がある。
1)
戦略的な情報化への対応:大学における情報環境整備は、ますます戦略的な性格を強
めており、教育研究情報システムの理念と目的もそれに応じて、大学戦略との関連を明
確に意識したものとして、設定されるべきである。
2)
総合的な情報化の推進:情報技術の変化、特にネットワーク技術の利用は、従来の法
人と教学、教育研究と事務管理、キャンパス区分の意味を大きく変え、その境界を不鮮
明にしている。教育研究情報システムの理念と目的もその変化に応じた包括的なものと
して、設定されるべきである。
3)
教育研究の現場に即応した情報化の推進:大学における情報環境整備は、物的な面に
ついていえば、まだ不十分な点を多く残すとはいえども、一定の前進を見ている。問題
は、教育研究の現場をサポートする効果的な情報環境の整備と利用支援体制の確立であ
る。常に、教員・職員・学生の利用を念頭に置き、如何にすれば教育と研究が効果的に
遂行されるか、という点から、教育研究情報システムの理念と目的に点検が加えられる
べきである。
2.組織
【現状の説明】
情報研究教育センターおよび情報研究教育センター理工分室(後楽園キャンパス)の人的
構成は、センター所長、事務室長、課員(多摩キャンパス1名、理工分室2名)、派遣技術
者(SE)(多摩キャンパス9名、理工分室3名)、パート職員(多摩キャンパス3名、理工分
室1名)である。
センターは現在、運営委員会での審議に基づいて、所長、
事務室職員、派遣技術者(SE)、
パート職員の協力のもと、日常業務を遂行している。また、多摩キャンパス、後楽園キャ
ンパスの連絡調整に関しても、日常的な業務連絡の他、定期的に業務調整の会議を開催し
ている。また、必要に応じて、推進室との協議・情報交換の場を設けている。センター発
足以来の最も大きな変化は、教育研究に関する情報技術の利用に関しての利用者支援活動
量の飛躍的な拡大とそれにともなう、派遣SEの増加(センター発足時の2名から 12 名へ)
である。
各学部・大学院の意向を反映して、センターの運営方針を決定する運営委員会は、所長
の他、各学部選出の各2名の運営委員によって構成されていた。この構成は、最近の大学
院の拡大にともなって、2000 年から、大学院選出委員2名を追加するように変更された。
また、運営委員会での審議事項の増加、審議期間の短縮化の要請などを受けて、2000 年7
月から、運営委員会内に所長、各学部1名・大学院1名からなる常任委員会を設置し状況
の変化に迅速に対応できる体制を整えた。
センターの組織と密接な関係にあるのが、情報環境整備委員会である。センターは、推
826 第5章 教育研究支援
進室と並んで、全学的な情報環境の整備計画の立案にかかわるこの委員会の事務局の役割
を果たすとともに、同委員会における計画策定にかかわる各種専門委員会に所長、運営委
員が加わるなどの形で、その活動を支えてきた。
【点検・評価
長所と問題点】
発足当初、センターは、主として(1)研究プロジェクトの決定と管理、(2)センター主催
講習会の計画・運営、(3)共通利用ソフトウェアのライセンス管理、(4)教員・大学院学生
用のメールサーバの運用やマルチメディア教室など共用情報環境の運用管理、(5)理工学部
におけるネットワーク環境の維持管理、情報リテラシー教育のための教室の維持管理と利
用者支援、などを主な審議事項としてきた。
その後の情報技術とその教育研究面での利用態様の変化の中で、センター運営委員会の
検討課題として、1) 大学における情報環境整備に関する調査研究、2) 教育研究における
情報環境整備の方向性の検討、 3) 各学部・大学院とセンターとの関係と役割区分の見直
し、4) 全学に共通する情報環境の計画的整備、5) 教育研究の場における情報環境利用の
効果的支援体制の確立、6) 情報環境整備に関する学外諸機関・企業との協力関係のあり方
の検討、などが重要な検討事項として追加されてきている。
センターは、これまで、運営委員会の審議に基づいて、所長、事務室長、課員、派遣技
術者、パート職員の協働体制を確立し、可能な限り迅速かつ柔軟に課題に対応してきた。
また、常任委員会の設置、調査研究プロジェクトの充実、派遣技術者の増員などによって
変化と仕事量の急増に対応し、基本的任務を遂行してきた。
ただし、大学における情報環境のウェイトは今後も一層大きくなることは明らかで、ま
たその変化に対応した取り組みも、広がりと複雑さを増すことが予想され、その点では、
現行センターの組織体制がその変化に十二分に応じられるものとなっているとは評価しが
たい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究情報システムに関する組織の改善・改革に向けた方策として、以下の点を指摘
することができる。
1)
大学における情報技術の利用可能性についての最新情報を獲得し、迅速かつ効果的な
意思決定を行える執行体制の確立。
2)
計画的な情報環境整備と効果的な利用者支援体制の確立のために、全学をカバーする
包括的な研究教育情報システム対応組織の確立。
3)
多摩、後楽園、市ヶ谷のそれぞれの教育研究ニーズに応じた、組織体制の確立と、キ
ャンパス間の連絡・協議・調整組織の整備。
4)
コンテンツのデジタル化・マルチメディア化と効果的な情報環境利用を可能にする、
教育と研究の「現場」に即した手厚い支援体制の確立。
5)
高度化し、複雑化する情報技術に対応し、技術と教育研究を媒介し、様々な機能の調
整を行える、新しいタイプの職員の採用と育成。
3.教育研究活動と情報環境管理運用体制
【現状の説明】
旧電子計算機センターの教育研究支援部門を独立し組織化されたセンターは、発足当初、
827
これまでの教育分野における情報処理支援のあり方を見直し、各学部の情報処理教育方針
を尊重し、側面からの学部の情報環境管理運用支援を中心に活動を展開することとし、情
報リテラシー教育なども学部における実施を補完するに止めてきた。その後、各学部の情
報環境整備が進行するにともない、教室環境の維持管理に対する効率的支援を行うという
観点から、1999 年度より各学部情報教室の管理運用支援をセンターのSEが巡回方式で行
う体制を確立した。また、2000 年度からは、情報環境整備委員会における情報環境整備の
中期計画の設定を受けて、各学部の教室環境(特にマルチメディア・プレゼンテーション環
境)の整備プランの提案や学部を超えた共通情報環境(共通認証システム、無線LANによ
るオープン・アクセス・エリアの開設)の実現に取り組んでいる。大学全体の情報環境整備
計画との関係では、センターが情報関連予算の調整において果たす役割が徐々に大きくな
りつつある。
現在、センターは、大学における教育研究活動に直結した情報環境の整備と利用者支援
という課題を一層重視する方針を明確にし、以下のような活動を展開している。
1)
ネットワーク環境の増強と整備:
推進室の協力を得て、教育研究情報環境のインフ
ラストラクチュアーとなるネットワークの高速化とVLAN環境の整備など
2)
教員・大学院学生の基礎的な情報環境の提供:教員用メールサーバの管理運用、メー
リングリストのサービス、Web サービスの提供開始など
3)
授業などでのデジタル・コンテンツとネットワーク利用:コンテンツの開発支援やプ
ロトタイプの作成、コンテンツのライブラリ化、マルチメディア教室における授業利用
支援、ネットワークを利用した海外大学とのオンライン授業支援など
4)
研究環境支援:教員・大学院学生のパソコンやネットワークの利用支援、利用者相談
と利用上のトラブル対応、ウィルスや不正利用への対応、講習会の開催など
5)
各学部PC教室環境支援:学部教室の遠隔監視システムを構築し、巡回サービス体制
を強化しトラブル対応の迅速化とシステムの安定的な運用を図る、など
6)
理工学部における情報環境の総合的な管理・運営・利用者支援:後楽園キャンパスにお
ける情報環境整備計画立案の支援、後楽園キャンパスにおけるネットワークの維持管理
など教育研究インフラの整備、研究用システムの維持管理、情報教育教室環境の整備と
維持管理、教員に対するユーザ支援・トラブル対応など
7)
利用者のニーズ把握と広報活動:アニュアル・レポートの発行、ニューズレターの定期
刊行、プロジェクト研究発表会の開催、海外および国内他大学の情報環境に関する研究
活動
【点検・評価
長所と問題点】
教育研究活動と情報環境管理運用に関するセンターの活動は、現状の説明でも述べたよ
うに、発足以後相当大きく変化した。現在では、独自の大規模な情報環境資源を抱え、そ
れを利用して教育活動を行う、あるいは研究活動を行う、というタイプの組織ではなく、
各学部・大学院といった教育と研究の基礎単位における情報環境の整備を全学的な視点か
ら調整し、その運用を側面から技術的に支援すること、必要に応じて各単位組織ではこな
せない高度な技術的サービスを直接提供すること、教員・大学院学生の個別の情報技術利
用支援体制を整え、必要なツールを用意する、といった活動を中心の組織へとシフトした
のである。
828 第5章 教育研究支援
こうした、広い意味での、全学的な教育研究のための情報環境整備と利用者支援のため
の組織としてのセンターの姿は、教員・職員・学生の間にかなりの程度定着し、かなりの
程度、その実をあげていると評価することができる。
特に問題を指摘するとすれば、電算センター改組と、センター、推進室の並立という組
織体制のもとで、教育研究の場における情報技術の利用に急速な変化が生じる中、教務情
報の提供や登録のオンライン化や、学生への情報サービスをリアルタイムに提供するなど
の面で、必ずしも効果的な対応ができていない、ということである。
【将来の改善・改革に向けた方策】
教育研究情報システムの将来の改善・改革の課題として、当面以下の点を指摘すること
ができる。
1)
現在、本学の情報環境の整備充実と関連サービスの提供に主としてかかわっている部
署に事務システム推進室と情報研究教育センターがある。ネットワーク化やマルチメデ
ィア化の展開といった近年の情報技術の急激な変化と大学に対する社会的な要求の高度
化の中で、教育研究における情報環境の利用も多様化・複雑化・高度化し、その核心部
分を支える必須の条件になりつつある。この変化は、学内における資源配分の重点の変
更を迫っている。他方で、現在の状況と情報技術の展開は、法人・教学、教育研究・学
生サービス・管理・事務処理といった区分の意味を希薄化し、全学にわたる一貫したシ
ームレスな情報関連サービスの展開の必要性を高めると共にその可能を広げている。そ
して、現行の事務システム推進室と情報研究教育センターが並立する組織編成は、必ず
しもこうした状況の変化に対応できず、両者の間隙に取り残された領域が生じていると
いうのが現状である。
こうした状況を踏まえ、学内における一貫したシームレスな情報環境整備と情報関連
サービスを提供する「情報技術センター」の構想が、情報環境整備委員会の「情報化推
進組織検討専門委員会」を中心に検討され、早ければ 2002 年7月には新組織体制での活
動を開始することが展望されている。
2)
教育と研究の行なわれる場に、可能な限り近接した支援サービス提供のポイントを置
き、教員・大学院学生のニーズにきめ細かく、かつ迅速に応えられる体制を確立する。
そのために、確かな専門的技術をもち、かつ教育研究の実情を把握した、情報技術と教
員・職員・大学院学生を媒介するような、コンサルタント的な技術者を多数配置する。
3)
教育支援情報システムの開発・整備を重視し、現在アメリカの大学での利用が進んで
いる、いわゆる「コースウェア」の導入を早急に行う。
4)
図書館と映像言語メディアラボとのコンテンツ面での連携を強め、教員・職員・学生
が、書誌データベース、統計データベースなどを学内各所から簡便に利用できる体制を
確立する。
5) 2002 年4月に市ヶ谷キャンパスでの「国際会計研究科」開講を契機に、今後予測され
るキャンパス間を結んだ情報システム確立という要請に応え、早期に、効率的なサービ
ス体制を整える。
829
4.施設・設備
【現状の説明】
センターが管理保有している情報環境利用支援の施設設備は、多摩キャンパスに、所長
室(2209 号室)、事務室(2208 号室)、会議室(2207 号室)、図書室(2214 号室)がある。また、
学生や教員の情報環境利用支援の施設に、支援室Ⅰ(2215 号室)があり、支援室Ⅰには研究
者の情報環境利用支援をするために研究者の利用ニーズに対応できるハードおよびソフト
とSE用の機器等を配備している。支援室Ⅱ(2108 号室)には、マルチメディア支援関係の
機器とSE用の機器を配備している。支援室Ⅲ(2103 号室)には、学部および大学院の情報
環境を遠隔監視するシステムとSE用の機器を配備している。
マルチメディア教室(2108 号室)には 70 インチの大型ディスプレイをはじめ前面に3台
のスピーカーと教室内カメラを教室内に2箇所、操作卓には書画カメラや PictureTel
System200 等の遠隔授業システムを設置している。マルチメディア教材作成準備室(2109
号室)には、コンテンツ作成用PC3 台、Win-NT 用PC2台、Macintosh のPC1台、VH
Sビデオデッキ(再生・録画)、DVデッキ(再生・録画)、世界規格対応VHSビデオデッ
キ(再生・録画)等のマルチメディア対応の機器を導入している。
後楽園キャンパスの理工学部分室には、研究システムの研究用超並列コンピューター
(RS/6000SP)の管理運用と教育システムの各種サーバ機器(NT サーバー(Netfinity5500M20
*20)、ファイルサーバー(AUSPEX NS2000)等の機器)と、学生が利用する第1実習室
(RS/6000 43P*70 台)、第2実習室(RS/6000 43P*70 台)、第3実習室(RS/6000 43P*42
台)の教育用機器を設置している。I/O室には(RS/6000 43P*1台、Real Server 他)を
設置している。
【点検・評価
長所と問題点】
多摩キャンパスのマルチメディア教室は、1998 年度の文部省の補助金で施設設備を導入
した。教室はシンガポールやタイ等の外国の大学、大阪府立大学や駒沢大学等の国内の大
学との遠隔授業での利用、早稲田大学との遠隔授業実験での利用、センター主催の学生向
けのパソコン講習会での利用等、各種イベントで利用されている。また、マルチメディア
教材作成準備室では、各種コンテンツのデジタル化、学内で行われる各種イベント(卒業式
典、最終講義等)のインターネット配信、学内保有のビデオ等をデジタル化しデジタルライ
ブラリー化を進め保有施設設備が利用されている。
当面の問題・課題としては、授業用コンテンツのデジタル化の支援と技術革新の早いマ
ルチメディア機器のリプレースをどのように対応していくかなどを指摘できる。
また後楽園キャンパスについては、現行の研究システムを今後どう位置づけ、運用して
いくか、文系教育機関の後楽園展開が予測される中で、後楽園キャンパス全体の包括的な
情報施設・設備をどうすすめるか、などが大きな課題となる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
センターの側から見れば、大学の教育と研究の質の向上に直接貢献できるシステムの構
築、教員や大学院学生の側から見れば授業と研究に役立つ、使い勝手の良い情報環境の構
築が課題となる。情報技術が、教育研究にとって周辺的な位置にとどまる時代が終わろう
としている今、教育と研究の核心部分に踏み込んだ支援体制を可能にする物的環境の整備
が焦眉の急となっている。
830 第5章 教育研究支援
大学全体の情報環境整備する計画の中の1つに、コンテンツ開発とマルチメディア環境
の整備充実があり、3ヶ年計画で各学部のマルチメディアおよびプレゼンテーション機器
を導入し教室の情報環境の整備を進めることと、センターでは既設の支援室Ⅱを改造しス
タジオ設備を構築し教育研究用のコンテンツ作成支援の強化に努める計画である。
また、各学部の情報関係教室の、教育側からの需要に応じた柔軟な更新計画の立案、普
通教室のメディア・ネットワーク環境の改善、図書館システムと結んだ、各学部・大学院
の学習・研究支援のための学術情報利用環境の整備、モバイル端末も含めた学内外からの
オープン・アクセス環境の整備、より効率的で包括的かつ重層的な認証システムの確立な
どが、喫緊の整備目標となる。
さらに、2003 年に予定される、後楽園キャンパス教育用システム・研究用システムのリ
プレースを、現行の環境を、理工学部新棟の建設、後楽園キャンパスの総合的な情報環境
整備計画と組織体の整備との関係で再評価し、効果的な計画を立案することが求められて
いる。
5.自己点検・評価組織体制
【現状の説明】
研究教育情報システム評価組織委員会は、2001 年7月6日、センター所長、6学部から
各1名、大学院から1名の教員側委員に、事務システム推進室長、センター事務室長を加
えた、9名の委員で編成された。
委員会は、発足直後から、主としてメーリングリストを利用して、評価のポイントや観
点について調整を行い、一部推進室業務も含む研究教育情報システムに関する点検・評価
を行ってきた。今回の評価委員会の組織化は、これまでのセンターを中心とした、点検・
評価活動の延長線上に位置づいている。
これまで、センターでは、その活動を教員・職員・学生にフィードバックし、情報環境
利用の効率性を高めると共に、利用者のニーズに応じたサービスを提供するために、さま
ざまな活動を行ってきた。センターの活動の全貌を伝える「アニュアル・レポート」の刊
行、センターと利用者をつなぐ「ニューズレター」の定期刊行、多摩キャンパスの全教員
を対象とした情報環境の利用に関するアンケート調査などが、それである。
【点検・評価
長所と問題点】
研究教育情報システムに関する点検・評価は、今回の全学的な点検・評価体制の確立と
研究教育情報システム組織評価委員会の設置により、新たな段階に入った。これまでの、
利用者のニーズとアカウンタビリティを重視した自主的な取り組みは、意図はともかく実
際の面ではまだ試行錯誤的かつアドホックな性格が強く、また計画性・体系性に欠ける弱
みがあった。
【将来の改善・改革に向けた方策】
1)
研究教育情報システムの点検評価を行う機能を、センターの運営委員会に組み込み、
恒常的な評価を可能にする組織体制を整備すると共に、評価項目と評価の基準を明確に
するためのワーキング・グループを組織し、検討をすすめるなどの措置を講ずる。
2)
これまで行ってきた、センターの広報活動、利用者調査、利用者からの意見・要望の
フィードバック活動の体系化を図り、一層利用者サイドに立った活動を可能にする体制
831
を整備する。
情報技術という変化が激しく、かつ国際的変化の影響を直接受けやすい環境を扱う部署
として、必要に応じて、海外の情報環境や最新の情報技術に関する調査研究を積極的にす
すめると共に、情報関連企業やビジネス・コンサルティング企業などに依頼して、本学の
環境の包括的な外部評価を実施する。
映像言語メディアラボ
本学では、1965 年の視聴覚教室開設以来、一貫して視聴覚機器を活用した語学教育を重
視してきた。特に 1978 年の多摩キャンパス移転によって、設備は大幅に向上し、LL教室
のみならず、教材作成のためのスタジオや研修室が新設され、多用されてきた。その後 1991
年から2年間で、別項「施設・設備」に記されたとおり、音声や映像による多種多様な授
業に対応する教室へと改修され、今に至っている。名称はその間、映像言語メディアラボ
と変更された。
なお現在、情報環境整備委員会のもとで、図書館、各研究所、情報研究教育センター、
映像言語メディアラボの連帯による全学的総合学術情報サービスセンター構想を検討して
いる。情報技術・情報環境の劇的な変化に対応して、教育研究等の情報について、媒体の
如何を問わず収集・統合して提供することと、教育研究の成果を発信し公開することを目
的にしている。
1.学部授業
【現状の説明】
映像言語メディアラボ(以下メディアラボ)の営む種々の教育サービスのうち、中心的な
ものとしてあげられるのが学部授業である。各学部の視聴覚にかかわる授業は、各学部棟
の視聴覚教室でも行っているが、メディアラボの設備は全学部の共同設備として開放され、
現在、全学部の教員がここで授業を行っている。メディアラボで行われている授業は語学
だけに限らない。音声・映像媒体を使用した1年次から4年次までの語学以外の授業も、
2001 年度現在、週 29 講座持たれている。教室は、土曜日を除き、週5日の1∼5時限ま
での正規時間帯はほとんど授業で埋まっている。こうした現状を見ると、もはやメディア
ラボは、学部授業においても、従来の単なる語学教育から、総合的なマルチメディア教育
のための場へと機能転換しつつあり、この大きな流れに対応してゆくことが我々の課題で
ある。
832 第5章 教育研究支援
表1
2000 年度 映像言語メディアラボ 使用状況数
(2000.4.12∼2001.1.31現在)
法学部
経済学部
商学部
理工学部
文学部
総合政策学部
大学院
その他
合
計
授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生 授業 受講生
通
年
63
2,647
11
440
44
1,565
12
475
58
2,005
2
7
0
0
34
576
224
7,715
臨
時
8
98
4
78
3
106
0
0
15
340
0
0
3
30
50
1,307
83
1,959
71
2,745
15
518
47
1,671
12
475
73
2,345
2
7
3
30
84
1,883
307
9,674
合計(通年・臨時)
(注)
1) 各学部とも昼、夜間部の教室使用を合計した。
2) その他はLL特設講座・職員研修等。
【点検・評価
長所と問題点】
このように、多様な機材とソフトライブラリーをそろえたメディアラボは、高度化され
たメディア教育の場として不可欠な役割を学部授業において担っている。
メディアラボにおける現在の学部授業はカセット、ビデオ、CD、LD、DVD、PC
などを媒体としてなされ、日本人、外国人を問わず教員の使用希望が多い。そのような多
角的メディアによる教育に対する学生の関心は高くまた、機器の現状も教員の教育上の創
意工夫にある程度応えていると思われる。ただ教室数に限度があるため、教員の使用希望
をすべて充たすにいたっていない。
問題点としては、「施設・設備」の項にも示されるように、最後の改修後 10 年間の視聴
覚教育をめぐる環境の変化は著しく、DVD、CD-ROM 、インターネットをはじめと
するデジタル化の時代に充分に対応できる教室として新設備導入の必要性に迫られている
事実があげられよう。それに対する学生のニーズも高く、2001 年には一部教室が最新のメ
ディアに対応する教室としてリプレースされ、一定の前進を見たが、他教室はなお設備が
古く、引き続いて新たなシステム構築が求められている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後さらにグローバル化によってデジタル化の流れはますます加速され、授業形態も一
層メディア中心のものとなっていくことが予想される。そうしたなかで全学的施設として
のメディアラボもさらに多様で効率的な運営を考えつつ、学生サービスに対応する必要が
ある。メデイアラボ運営委員会もその方向で取り組む点で一致している。
2.LL特設講座
【現状の説明】
正規の大学教育カリキュラムの外国語会話授業を補完するものとして開講され、学部学
生・大学院学生の希望者を対象としている。開講科目は、英語、ドイツ語、フランス語、
スペイン語、中国語、イタリア語の6ヶ国語で、それぞれ初級と中級を(英語については上
級も)設置し、各定員は初級 35 名、中級 25 名、上級 25 名としている。講座は有料で、1
講座あたり 10,000 円の受講料としている。開講期間は学部授業の授業期間に合わせた通年
方式とし、月曜から金曜までの1時限(9時 20 分から 10 時 50 分)から5時限(16 時 35 分
から 18 時 05 分)にかけての何れかの時間帯に配置される。授業は週一回・一回 90 分とし、
833
各講座とも、開講前の4月初頭にガイダンスを開催し、希望者の能力に見合った適切な受
講を指導している。受講希望者が定員を上回った場合、抽選となる。なお、LL特設講座
の単位修得は、学部の卒業に必要な単位としては認められていない。
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年度の開講科目は6ヶ国語で合計 29 講座。内訳は英語が 19(初級9、中級8、上級
2。このうち初級2講座と中級2講座は半年で修了、受講料は 5,000 円)、ドイツ語2(初
級1、中級1)、フランス語2(初級1、中級1)、スペイン語2(初級1、中級1)、中国語
2(初級1、中級1)、イタリア語2(初級1、中級1)。開講講座数は、予想される受講希
望者が全員受講できる程度に毎年度決められている。受講者数は、2000 年度の実績は別表
のとおりである。なお、受講者総数 526 名のうち最後まで履修して修了した者は 242 名。
途中リタイアする者が半数以上いる。
表2
2000 年度 LL特設講座学部別受講者数
(2001.1.31 現在)
法学部
経済学部
商学部
理工学部
文学部
総合政策学部
大学院他
合計
語
昼
125
76
47
0
61
15
34
358
22 コース
夜
15
3
5
0
6
0
0
29
計
140
79
52
0
67
15
34
387
ド イ ツ 語
昼
5
0
3
0
6
1
5
20
2 コース
夜
1
0
0
0
1
0
0
2
計
6
0
3
0
7
1
5
22
フランス語
昼
15
2
4
0
19
5
8
53
2 コース
夜
1
0
2
0
0
0
0
3
計
16
2
6
0
19
5
8
56
スペイン語
昼
7
0
1
0
4
5
3
20
1 コース
夜
0
0
0
0
0
0
0
0
計
7
0
1
0
4
5
3
20
中 国 語
昼
3
2
0
0
5
6
4
20
2 コース
夜
1
0
0
0
0
0
0
1
計
4
2
0
0
5
6
4
21
イタリア語
昼
4
5
0
0
6
3
1
19
1 コース
夜
0
0
1
0
0
0
0
1
計
4
5
1
0
6
3
1
20
昼
159
85
55
0
101
35
55
490
夜
18
3
8
0
7
0
0
36
計
177
88
63
0
108
35
55
526
33.7
16.7
12
0
20.4
6.7
10.5
100
英
合
比
計
率
長所として考えられるのは、本講座が採算性を度外視して開講しているため、市中の外
834 第5章 教育研究支援
国語会話学校に比べて格安の授業料で会話学習の機会を提供し、受講者の多くには好評を
博しているという点である。
一方問題点としては、以下の点があげられよう。途中リタイアが多い。その理由は、過
去の学生アンケートなどを見る限り(1)低料金がかえって災いして動機が薄れる、(2)学
部の正規の単位にならないので向学心が薄れる、(3)講座の内容(レベルが低すぎ満足でき
ないという声がある)、の三点に集約される。また、まれに帰国子女など語学力が卓越した
学生が受講すると、たとえ上級講座でも物足りなさを覚えるケースが見られる。また、1
時限∼5時限の授業とぶつかるため、受講したくてもできない学生がいると思われる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
特設講座を6時限にも置くことは検討に値する。また、途中リタイアする学生を減らす
ためには、(1)LL特設の単位を学部卒業に必要な単位として認定してもらう、(2)講座
の内容をレベルアップする、などの対策が可能である。(1)に関しては、LL特設講座が
正規カリキュラムを補完する目的で設置されたものである以上、困難である。(2)に関し
ては、現在でもメディアラボ運営委員会と外国人講師、事務スタッフを交えた話し合いの
機会が随時設けられている。運営委員会の責任で、外国人講師が遵守すべき「講座のレベ
ルの最低基準」を各外国語別に作成することが望ましい(実際にはこうした基準作りはたい
へんに困難であるが)。また、現行の講座定員(25∼35 名)は会話授業としては多すぎる。
学生が意欲的に参加でき、実りの豊かな授業を実現するためには、最初から定員を 10∼15
名に押さえる必要があるのではないか。帰国子女に対しては、
「LL設備を生かした外国語
教育」を目的とするLL特設講座では対応に限界がある。帰国子女を満足させられる語学
教育は、むしろ各学部のカリキュラムで充足することが、必要ではないだろうか。
3.メディア資料収集
【現状の説明】
メディア資料収集
中央図書館とは別に、主に語学教育に直接結びつくメディア資料を
独自に収集し、学生の利用に供している。収集状況は、2001 年7月現在でビデオテープ
1,316 点、カセットテープ 2,167 点、CD188 点、LD1,047 点、DVD157 点となってい
る。また、法学部の委託を受けて法学部所有のメディア資料を保管し、同様に学生の利用
に供している(法学部所有分はビデオテープ 630 点、カセットテープ 34 点、CD80 点、L
D504 点、DVD127 点)。貸出時間は9時 30 分から 21 時 20 分までとしており、利用場所
はAV自習室に限定している。
【点検・評価
長所と問題点】
資料は語学学習に直接関係したもの以外に、オペラや映画なども含まれる。2000 年度の
利用状況は、年間累計のべ 11,918 名となっている。学生には購入希望調査書を配布し、購
入希望を直接取っている。
長所として、語学学習に有益な資料の学生への提供があげられよう。それ以外に、課外
での映画鑑賞などの機会を提供していることにもなり、多摩キャンパスに少ない娯楽設備
としての機能も同時に果たしている。利用者はたいへんに多く、利用には待ち時間が必要
な時間帯もある。
問題点としては、利用スペース(AV自習室)にあるAV再生装置が 20 台しかなく、待ち
835
時間が長くなるときがある(そのために利用を断念する学生もいる)。また、AVソフトは
1つの作品につき1つしか購入しないため、人気のあるAVソフトは希望が殺到して取り
合いになる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
利用状況から見て、利用スペースを拡張することが望ましい。利用頻度の高いメディア
資料に関しては複数買い揃えることも必要だろう。
4.AV自習室
【現状の説明】
AV自習室(2118 号室)は、多様なメディアを利用した自主学習の場を提供する目的で
1991 年3月に設置された。現状の設置機器は以下のとおりである。
再生録音機機
DVD 15 台、VHS 20 台、LD20 台、CT(カセットテープ) 2台
モニター
14 インチ・モニター 18 台、32 インチ大型モニター
2台
(*CNNとBBCはすべてのモニターで視聴可能)
ブースは、2名用が 18、4名用が2で、座席数は計 44 である。事務室カウンターにお
いて学生証と引き換えに必要なソフトを貸し出すか、あるいは持ち込みのソフトを利用す
るか、いずれかの方法で、自由に視聴することができる。過去4年間の各メディアごとの
利用者数は以下のとおりである。
年度
1997
1998
1999
2000
VHS
1882
1075
1375
2287
LD+DVD(2000 年度のみ)
8806
10657
10014
9270
CT
56
18
10
9
CD
/
/
8
15
51
53
39
79
衛星放送
【点検・評価
長所と問題点】
AV自習室では、外国映画、語学教材、音楽・演劇を中心に、計 6,250 点のソフトの中
から自由に選んで視聴することができる。ここ1・2年のDVDの急速な普及にともない、
2000 年3月には計 20 のブース中の 15 にDVD再生機を導入し、またソフト購入ソフトに
占めるDVDの割合を大幅に増やした。
映像ソフトの利用だけで過去3年間で毎年平均 11,000 名前後の利用があったが、座席数
計 44 では満室になることもたびたびである。過去3年間でほとんど増減がないのは、これ
が 44 席のスペースの収容限度であることを示している。満席のために、利用したくても利
用できない学生が多数おり、空席が出るまで待機してもらう場合も多い。
【将来の改善・改革に向けた方策】
2000 年1月の多摩モノレールの全面開通にともなう学生の動線の変化により、映像言語
メディアラボの施設は従来にも増して、身近で利用しやすい施設となった。またホームペ
ージによる施設の広報も一段と進み、現に利用を希望する学生の数は着実に増えている。
さらに多言語字幕を持ち、より高画質のDVDソフトの急速な普及により、今後利用を望
む学生の数はますます増えるものと予想される。改善の方策としては、ハードとソフトの
両面でDVD中心に切り替え、現在のAV自習室のブースを2・3増設し、さらには現在
836 第5章 教育研究支援
の対面朗読室(2121 号室)を改装して第2AV自習室とし、少なくとも 10 以上のブース、
20 以上の座席を新設することが望ましい。
5.施設・設備
【現状の説明】
メディアラボの教室等の構成は以下のとおりである。
LL教室(5教室、内 52 名用−4教室、48 名用−1教室)
フルラボ、S-VHS、3-VHS、LCD、DVD、パソコン、教材・資料提示装置
モニターテレビ(学生ブース)、ビデオプロジェクター(巻き込み式スクリーン)
AV教室(4教室、内 50 名用−3教室、130 名用−1教室)
(3教室)Wカセット、S-VHS、LCD、DVD、教材・資料提示装置、
ビデオプロジェクター(巻き込み式スクリーン)
(1教室)Wカセット、S-VHS、3-VHS、LCD、DVD、パソコン、
教材・資料提示装置、ビデオプロジェクター(パネル式スクリーン)
AV自習室(1教室)
学生諸君の自主学習およびキャンパスライフを楽しむ場として利用
(2名用 18 席)S-VHS、LCD、DVD、カセット、CNN・BBC衛星放送視
聴
(4名用2席)S-VHS、LCD、DVD、CNN・BBC衛星放送視聴
スタジオ(教材編集室)
教員が授業・研究のために、教材作成、編集、ダビング等に利用
S-VHS→S-VHS、3-VHS⇔S-VHS、
CNN・BBC・衛星放送→S-VHS、LD→S-VHS、β→S-VHS、
8mm→S-VHS、Wカセット、CD→カセット
編集室(事務室内)
教員の授業支援、学生への授業サービスと学内会議・講演会の録画・録音および
編集・ダビング等
S-VHS→S-VHS、3-VHS⇔S-VHS、
CNN・BBC・衛星放送→S-VHS、LD→S-VHS、β→S-VHS、
8mm→S-VHS、DV→S-VHS、Wカセット、CD→カセット
【点検・評価
長所と問題点】
1991∼1992 年のリプレース工事によって現在の施設・設備ができあがった。
その時の基本コンセプトは使用される教員の立場にたって、授業中に設備・機器の操作が
容易であることを最優先に考えシステム構築した。
それゆえ、教員は苦労なく設備・機器を取り扱え、また保守点検業者が常駐していて、
教員の要望にスピィデーかつ臨機応変に対処ができることにより、教室の稼働率はそのご
90%を維持しフル回転の状況。
教室使用の要望が高まるにつれ、使用する時限・曜日の問題だけではなく、LL・AV
教室すべてあわせても9教室しかないという、物理的な点も加味してやむえなくお断りし
ている状態である。
837
しかしながら導入から 10 年近く経過すると、設備・機器等は経年劣化による故障がおき、
試験時に突然ブースが作動しなくなる、または録音不可になり試験を急遽延期する等が生
じ、対応に迫られる状況が頻繁に起こっている。
むろん年1回夏季休暇中に専門業者による保守点検は行っているが、10 年近くなると部
品在庫は底をつき、授業中および試験時の故障の対応に四苦八苦している現状である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
最近、国公立大学や主要な私立大学が視聴覚教室の高度化を進めているが、その流れに
本学が乗り遅れるのは、外国語教育や映像等のメディアを用いた教育サービスの低下に繋
がることになる。
教育用メディアとして、最近では情報技術に対応したDVD、コンピューターソフト、
インターネットなどが、幅広く利用されるようになってきており、授業を取り巻く環境は
激変してきている。
メディアラボはこの点を最も危惧し、2000 年夏に予算作業委員会を組織し、LL・AV
教室の環境整備計画の立案と予算要求を行った。
その場合の基本コンセプトは以下のようなものである。
1)
PC・LL・AVが有機的に結合した、バランスのとれたマルチメディア施設にする。
2)
夜間部廃止および昼夜フレックス制度導入にともない、6∼7時限の空き時間をIT
自習室として、積極的に全学生に開放する。
3)
PC・AV設備を必要とするオープンキャンパス、映画鑑賞会、講演会、学会等など
のために、総合マルチメディア施設として利用する。
以上3点を骨子として、3ヶ年計画でLL・AV教室の9教室をマルチメディア教室とし
てリプレースすることを計画した。
2001 年度はLL・AV教室おのおの1教室づつ認められ、夏季休暇中に工事を行い9月
には下記のようなマルチメディア教室としてオープンする。
LL教室(48 名用)
(ア)教卓および学生ブースにPC・AV・LL機器を導入し、それらが有機的に結合し
て、それぞれ単独利用する単一モードでも、同時に複数の機器を利用するマルチモー
ドでも、また初心者であっても経験者であっても、単純で容易に操作できるデザイン
にする。
(イ)授業のサブテキストとして最新のインターネット情報(最近のニュース等)をセルフ
アクセスして活用させる。
(ウ)編集室から教材・情報を教室へ配信する。
(エ)学生ブースでPCによるDVD・VOD・AODの視聴等
AV教室(110 名用)
(ア)教卓以外は、無線LANシステムにより学生机に備え付けパソコンではなく、学生
が自由に個人のパソコンを持ち込み、ノート代わりとして活用させ、また自宅におい
てもパソコンによる自主学習ができる環境を創り出す。
(イ)学生に課題・問題を与えた際など、学生個別の進度に応じ、また各個人の独創性・
自主性を妨げることなく自由にインターネット情報を活用させる。
(ウ)パソコンネットワークを活用したグループワークによる演習を行う。
838 第5章 教育研究支援
(エ)編集室から教材・情報を配信する。
6.広報活動
【現状の説明】
1)
LL特設講座案内誌(添付資料参照)
講座の時間割、担当講師の紹介、講座内容等
2)
A-V誌(添付資料参照)
年1回発行する学内・他大学への広報機関紙
3)
ソフト目録
教員・一般学生向けにソフト紹介
4)
ホームページ
LL特設講座案内、AV自習室、ソフト紹介等
【点検・評価
長所と問題点】
2001 年夏にリプレース工事を行い、9月の後期授業から 2 教室がマルチメディア教室と
して、オープンするので広報活動を今までよりきめ細かく実施したい。
特に6∼7時間帯はIT自習室として一般学生に開放するので周知徹底したい。
【将来の改善・改革に向けた方策】
メディアラボとして名実ともにホームページの充実を図る。
839
学生の受け入れ
本学においては、入学者選抜にかかわる重要な政策決定の権限が伝統的に各学部・研究
科に置かれてきた。したがって、各学部・研究科における選抜制度の詳細については、そ
れぞれの記述に譲ることとし、ここでは、主として全学共通の課題について記すことにす
る。
学生の受け入れ
【現状の説明】
18 歳人口の急激な減少に加え、長引く経済不況に起因する「私大離れ現象」など、私立
大学をとりまく環境は一段と厳しさを増し、遠からず「大学全入の時代」に突入すること
が確実視されている。こうした社会環境のもとで、大学が自らの社会的使命をより高度に
達成していくためには、何よりもまず高等教育機関としての内実の強化・充実が前提とな
るが、同時に、国内外から豊かな可能性を持った優秀な学生を迎え入れることが重要であ
り、そのためには、自らの個性と魅力を積極的にアピールする広報活動の充実と、公正で
合理的な入学者選抜制度の確立が不可欠となっている。
このような認識のもとに、本学では、各学部・研究科がそれぞれの個性に応じた多様な
選抜制度の充実を図る一方、大学全体としての中・長期的課題への取り組みを強化するた
めに、新たに「入試・広報センター」を発足させるなど、さまざまな角度から入学者選抜
制度の改革に取り組んできた。
(1) 入試・広報センターの開設と入試執行体制
すでに述べたように、本学の入学者選抜制度は、各学部・研究科を中心に運営され、一
般入試や大学入試センター試験の実施など全学的な取り組みが必要とされる部分を除いて、
最終的な合否判定はもとより、一般入試の出題・採点、特別入試やセンター試験利用入試
の実施形態、さらには入試広報の実施に至るまで、各学部・研究科の主体性が最大限に尊
重されてきた。
教育責任を担う学部・研究科が入学者選抜についてイニシャティブを発揮しなければな
らないのは当然である。しかしながら他方において、このような縦割り体制のもとでは、
厳しさを増す社会的環境に対応する全学的かつ長期的な戦略の構築が難しいこともまた否
定できない。こうした反省の上に立って、本学では 1999 年7月に「入試・広報センター」
を発足させ、従来一般入試の実施機関として単年度ごとに組織されてきた入試管理委員会
と大学広報全般を所管してきた広報部の機能を再編統合するとともに、
「入学者選抜及び広
報活動に関わる全学的な課題について、総合的かつ継続的に検討し、本学の入試・広報に
関わる基本政策を立案する」ための審議機関として、同センター内に「入試・広報審議会」
を設置した。
入試・広報センターおよび同審議会の発足によって、本学では入学者選抜にかかわる全
学的かつ長期的な戦略を検討する場が確保され、同時に、入試戦略と大学広報の有機的結
びつきが従来にも増して強化されることとなった。また、従来、全学共通の大規模汎用型
840 第5章 教育研究支援
情報処理システムを利用して行ってきた入試関連データの電算処理についても、機動性と
セキュリティを高めるために専用システムを導入し、2002 年度入試から独自処理を行うこ
ととした。
ただし、各学部の特別入試および大学院入試については、それぞれの特性に応じた運用
を確保するために、一部の例外を除いて、従前どおり各学部・研究科の責任で実施する体
制を維持している。
(2) 入試形態の多様化
これまで本学が実施してきた入学者選抜方法は、一般入試(3教科型学力考査など)と特
別入試(付属高校推薦入試・指定校推薦入試・自己推薦入試・公募推薦入試・スポーツ推薦
入試・英語能力特別入試・海外帰国生等特別入試・外国人留学生入試・編入学試験)に大別
されるが、さらに 2000 年度入試から法学部・経済学部・商学部・総合政策学部で大学入試
センター試験利用入試が導入され、2001 年度には理工学部がこれに続き、残る文学部も
2002 年度入試から参加することになった。
こうした入試形態の多様化は、受験者にとって最も得意な分野で挑戦する可能性を拓く
と同時に、受け入れる学部にとっても、多様な受験者の中から、自らの教育目標により適
合した学生を選抜する機会を広げるものとして、その効果が期待されている。
(3) 志願者数の推移
過去 10 年間における本学志願者数の推移は、本項目末尾に記載のとおりであるが、その
特徴として次のような傾向を指摘することができる。すなわち、一般入試の志願者数は、
1999 年度に始まる二部(夜間部)の募集停止にともない大幅に減少したが、
2000 年度に法学
部・経済学部・商学部・総合政策学部で大学入試センター試験利用入試が導入された結果、
二部募集停止による落ち込みを上回る志願者を集めることができた。この傾向は、理工学
部が大学入試センター試験利用入試を導入した 2001 年度入試において更に顕著であり、大
学入試センター試験利用入試が志願者数の確保に大きく貢献していることを示している。
(4) 大学入試センター試験利用入試の特徴
本学が大学入試センター試験利用入試を導入した最大の理由は、いわゆる「国立型受験
者層」が本学に挑戦するチャンネルを開くことにあったが、その導入にあたって、志願者
の経済的負担を極力抑えるために、選考料を同規模他大学に較べ低く設定したことも、多
くの志願者を得る結果につながったものと思われる。また、法学部においては、大学入試
センター試験の結果のみを合否判定の資料とする方式に加え、一般入試との併用方式も採
用し、受験者の能力を多面的に評価する工夫を行っている。
【点検・評価
長所と問題点】
(1)入試形態の多様化の問題点
各学部で採用された各種の特別入試は、従来の3教科型などの学力考査では評価しきれ
ない多様な能力を備えた学生を迎え入れる選抜制度として、一定の改善の余地を残しなが
らも、ほぼ定着しつつある。また、大学入試センター試験利用入試の導入によって、幅広
い基礎学習能力を備えた学生が目立つようになったと評価する教員も多い。このように、
入試形態の多様化は一定の成果を収めつつあるが、その一方において、入試業務がきわめ
て錯綜し、教職員(特に出題・採点等にあたる教員)に過大な負担を強いている現実がある。
これは、特に各学部の責任で実施している特別入試について顕著であり、各学部の個性を
841
生かしつつ、全体としての負担を軽減する方策を早期に検討する必要がある。
また、入試形態の多様化にともなって、それぞれの選抜方法が本当に所期の目的を達成
しているかどうかを客観的に評価するシステムを構築することも必要である。すでに、学
部によっては、入試形態別に入学後の学業成績追跡調査を実施しているところもあるが、
いまだ全学的な取り組みとなるに至っていない。
(2)出題・採点体制の問題
特別入試をはじめとする入試形態の多様化は、一般入試の出題・採点業務に振り向ける
べきエネルギーにも、深刻な影響を与えている。本学では、過去数年にわたって出題・採
点作業のチェック体制を強化し、大きな事故を未然に防止してきたが、出題ミス・採点ミ
スを根絶するためには、学部縦割りの出題・採点体制の見直しを含めて、より抜本的な体
制の整備が望まれる。
(3)得点開示制度の問題
受験者に対する得点開示制度は、公正で透明度の高い入試制度を作り上げていくために
必要不可欠な措置のひとつである。本学では、従来から不合格となった受験者本人の申し
出があった場合に書面で開示してきたが、今後、開示の時期・対象・開示内容等について
さらに検討が必要である。
(4)入試データ処理の問題
近年、入試データ処理の誤りから大きな事故となった例が少なからず報道されている。
本学では、幸いなことにこのような事故は発生していないが、2002 年度入試から入試デー
タ処理体制が変更されるに際して、最も心して取り組まなければならない課題である。同
時に、入試課が独自のシステムによってデータ処理を行う体制に移行する目的は、各学部
の合否判定作業に必要な情報を的確かつ迅速に提供することにあり、この目的を達成する
ためにはハード面のみならずソフト面の整備・充実に特段の配慮が必要である。
(5)入試広報活動の問題
入試・広報センターの発足によって、受験年齢層を対象とする本学の広報活動は格段の
充実を見せたが、改善すべき点もまだ多く残されている。この点については、後述「大学
広報」の記述に譲り、ここでは次の点について指摘しておくにとどめる。
進学相談会、ホームページ等を通じて寄せられる受験生の質問は、かつてのように入試
制度そのものに関する情報というよりも、入学後の学修環境(授業内容、学生生活、奨学金
制度、サークル活動、卒業後の進路、就職状況、取得できる資格等々)に関する具体的な情
報を求める傾向が顕著になっている。こうした受験生の要望に応えるためには、学部事務
室・大学院事務室(教育関係)、就職部(就職関係)、厚生課(奨学金関係)、法職事務室・経
理研究所(資格試験関係)等々の関連部署との協力関係をより密接にしていくことが重要で
ある。
(6)入試制度と奨学制度との関連
より優秀な学生を迎え入れるために、入試と連動した給付奨学金制度が一部の学部で導
入され一定の効果をあげているが、その取り組みが部分的であるために、大学全体として
受験生に大きなインパクトを与えるまでに至っていない。今後、奨学制度全体を見直す中
で、取り組むべき課題である。
(7)全国型大学の復活
842 第5章 教育研究支援
本学は、かつて全国各地から学生を迎え入れる「全国型大学」であった。しかし、過去
4半世紀以上にわたって首都圏出身者の比率がじりじりと上昇し、2001 年度入学者では、
全学部平均で 70%になろうとしている。「全国型大学の復活」というテーマは、今後の入
学者選抜制度改革において重点項目のひとつとして取り上げるべき課題である。
(8)外国人留学生の受け入れ
本学の外国人留学生数は「基礎データ調書
表6」のとおりであるが、同規模他大学に
比してきわめて低い水準にとどまっており、特に学部においては一層の増員が求められて
いる。もちろん、より多くの外国人留学生を受け入れるためには、チュータリング制度や
日本語教育をはじめとする指導体制の強化、居住施設の確保、奨学制度の充実など学修環
境の整備を並行して進めなければならず、各学部・研究科、国際交流センターが中心とな
って全学的な取り組みを展開することが必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
入試・広報センターのもとに①長期的な入試・広報戦略を全学的視点から検討する入試・
広報審議会、②入試執行を直接に所管する入試委員会、③広報活動を包括的に所管する広
報委員会が組織され、入試業務と広報業務を有機的に結びつける体制が確保されたことは、
本学にとってきわめて重要な意義を持つ。
入試・広報審議会では、すでに、学部の枠を越えた教育システムの導入可能性について
審議を行い、その結果を学部長会議に報告(2000 年 10 月)したが、この提案は「ファカル
ティリンケージ・プログラム」として、2002 年度入学生から実施される運びとなっている。
また、2001 年9月には、得点開示制度の拡充とそれにともなって必要となる諸措置を検討
するために、新たな作業部会が設置され、2001 年度中に審議会としての提案を取りまとめ
る予定である。
このように、入試・広報センターは、入学者選抜制度に直接・間接に関わる諸課題につ
いて多角的な検討を加え、成案を得たものから順次全学的な合意形成手続に上程すること
をその任務としているが、当面、以下の課題について、審議会レベル、入試委員会レベル、
広報委員会レベルの審議を促進していきたい。
(1) 入試形態の多様化にともなう負担増への対応
(2) 出題・採点・データ処理の誤りを防止する諸施策の強化
(3) 一般入試における学部縦割り出題体制の再検討
(4) 入試形態別学業成績追跡調査の全学的実施
(5) 全国型大学の復活に向けた入学者選抜制度の検討
(6) 外国人留学生の受け入れ体制の整備充実に向けた関係機関との協力体制の強化
(7) 本学に適合するAO入試制度の検討
843
―般入試
志願者数(1992∼2001年度)
学科
昼学
夜 部 専攻・コース
法律
法
国際企業
政治
計
経済
産業経済
経
済
国際経済
公共経済
計
経営
会計
商
商業・貿易
金融
計
数学
物理
土木工
精密機械
理
工 電気・電子
応用化学
一
経営システム工
情報工
計
文
国文
部 学
英米文
独文
仏文
小計
史
日本史
学
東洋史
西洋史
文 小計
哲学
社会
社
会 社会情報
小計
教
教育
育
心理
小計
計
昼主
政
総
夜主
合策
政 国際政策
策
計
合計
法学部
経済学部
二
商学部
部
理工学部
文学部
合計
一部・二部合計
1992
平成4
9,288
―
3,332
12,620
8,670
3,386
4,053
―
16,109
4,807
3,174
4,143
―
12,124
1,365
1,399
2,307
2,758
2,918
2,393
2,039
2,789
17,968
1,243
1,449
642
829
4,163
1,169
722
711
2,602
1,085
1,709
759
2,468
590
1,196
1,786
12,104
―
―
―
―
70,925
2,151
1,796
1,710
1,645
940
8,242
79,167
844 第5章 教育研究支援
1993
平成5
10,188
2,127
3,500
15,815
5,982
2,642
2,883
1,845
13,352
7,206
3,494
4,421
―
15,121
1,265
1,789
2,234
2,488
2,475
2,095
1,711
2,267
16,324
1,005
1,304
555
756
3,620
1,064
844
941
2,849
815
1,436
896
2,332
813
1,180
1,993
11,609
5,742
1,042
4,449
11,233
83,454
1,868
1,350
1,003
1,228
605
6,054
89,508
1994
平成6
9,221
1,996
3,350
14,567
5,235
2,312
3,220
1,962
12,729
3,586
2,912
2,921
1,166
10,585
1,013
1,311
1,959
2,049
1,927
1,950
1,394
2,022
13,625
1,086
1,263
508
599
3,456
1,142
660
757
2,559
689
1,353
630
1,983
703
1,039
1,742
10,429
2,472
527
2,441
5,440
67,375
1,707
1,269
780
894
684
5,334
72,709
1995
平成7
8,709
2,059
3,244
14,012
3,860
1,486
1,947
807
8,100
3,764
2,121
2,266
1,030
9,181
1,035
1,158
1,573
1,809
1,674
1,577
1,222
2,218
12,266
809
1,145
236
629
2,819
1,265
754
662
2,681
632
1,104
754
1,858
647
1,133
1,780
9,770
1,856
360
1,791
4,007
57,336
1,584
840
1,318
811
557
5,110
62,446
1996
平成8
8,382
1,524
2,741
12,647
3,848
1,652
2,082
940
8,522
3,344
2,273
2,974
964
9,555
1,207
1,111
1,863
1,983
1,931
1,785
1,562
2,583
14,025
865
884
510
508
2,767
1,030
498
523
2,051
737
1,218
775
1,993
664
1,260
1,924
9,472
2,046
451
1,818
4,315
58,536
1,447
868
754
895
472
4,436
62,972
1997
平成9
7,012
1,583
2,192
10,787
3,676
1,011
1,804
1,758
8,249
2,645
1,668
1,577
841
6,731
912
1,285
1,498
1,769
1,853
1,528
1,462
2,424
12,731
988
1,282
297
606
3,173
1,038
555
545
2,138
567
1,293
699
1,992
645
1,359
2,O04
9,874
1,485
250
1,350
3,085
51,457
1,265
652
1,186
794
490
4,387
55,844
1998
平成10
6,730
1,221
2,277
10,228
3,615
831
2,084
691
7,221
2,560
1,877
1,639
805
6,881
972
1,124
1,443
2,014
1,847
1,662
1,564
2,295
12,921
820
1,194
271
612
2,897
871
381
588
1,840
716
1,272
792
2,064
722
1,164
1,886
9,403
1,295
196
1,456
2,947
49,601
901
468
625
745
278
3,017
52,618
1999
平成11
6,977
1,263
2,298
10,538
3,187
1,221
1,865
493
6,766
2,109
1,463
1,393
592
5,557
823
1,119
1,083
1,742
1,665
1,667
1,404
2,120
11,623
802
1,024
184
484
2,494
708
333
463
1,504
512
946
738
1,684
436
974
1,410
7,604
964
190
988
2,142
44,230
898
322
341
480
384
2,425
46,655
2000
平成12
6,921
1,023
2,409
10,353
2,928
951
2,243
767
6,889
3,095
2,331
1,906
1,173
8,505
834
936
949
1,686
1,752
1,382
1,249
1,985
10,773
586
772
268
418
2,044
689
292
438
1,419
434
991
600
1,591
315
682
997
6,485
2001
平成13
6,946
1,258
1,999
10,203
3,796
1,816
2,291
931
8,834
2,471
1,743
1,065
510
5,789
950
1,118
990
1,810
1,840
1,845
1,344
2,083
11,980
798
1,100
255
509
2,662
748
356
429
1,533
529
956
544
1,500
483
801
1,284
7,508
1,331
1,001
1,165
817
2,496 1,818
45,501 46,132
―
―
―
―
―
―
―
―
283
―
283
―
45,784 46,132
大学入試センター試験利用入試
学
部
法
経
済
商
理
工
文
総
政
学科
コース
法律
国際企業
政治
合計
経済
産業経済
国際経済
公共経済
合計
経営
会計
商業・貿易
金融
合計
数学
物理
土木工
精密機械
電気・電子
応用化学
経営システム工
情報工
合計
文
国文
学
英米文
独文
仏文
小計
史
日本史
学
東洋史
西洋史
小計
社
社会
会
心理
小計
教
教育
育
心理
小計
合計
政策
国際政策
合計
総計
志願者数(2000∼2001年度)
2000
平成12年
3,128
461
811
4,400
746
196
497
151
1,590
589
684
371
111
1,755
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
648
549
1,197
8,942
2001
平成13年
3,487
492
728
4,707
1,743
417
1,088
264
3,512
678
745
346
140
1,909
―
889
616
1,629
―
1,611
2,122
―
6,867
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
992
906
1,898
18,893
845
学生生活への配慮
本学は学生生活への配慮を目的に、「学生が個性を育み、自己実現できる環境を整備し、
提供すること」を理念として各種活動を行っている。
第一に、本学は、学生生活への経済的支援を目的として、独自の充実した奨学金制度を
設けており、大別して給付と貸与(無利子)がある。また、アルバイトの紹介・斡旋、下宿・
アパートの紹介・斡旋、学生食堂・店舗、大学院学生への重点施策などを展開している。
第二に、生活相談等をサービスするために、本学には、学生の相談に対応する組織を「学
生相談室」と「保健センター」の二つ設けている。その役割としては、「学生相談室」は学
生部に所属し、学生の勉学上の相談から経済的な問題、交友関係等、常時専門の精神科医・
カウンセラーを配置し、学生のあらゆる問題に対応できる体制がとられている。
「保健セン
ター」では学生の健康に関する相談および病気・けがの医療に関する対応である。いずれ
も多摩キャンパス、後楽園キャンパスそれぞれに開設されている。
第三に、充実した就職指導を行っている。本学の学生が大学で学んだことを活かして、
自分の適性にあった分野で社会に貢献できるように、情報の収集・整理・提供、就職指
導行事の開催、学生との個別面談、インターンシップの実施等により学生の進路・就職
支援を行っている。学部3年次以上および大学院学生を中心に支援しているが、近年、
既卒者の相談も増加している。就職部は、就職課(多摩キャンパスおよび駿河台記念館)
で文系学部の学生を、理工学部就職課(後楽園キャンパス)で理工学部の学生の進路・就
職支援を担当している。
第四に、学生が多様な課外生活・活動を展開できるように、支援している。大学の課外生
活・課外活動を担当する部署として「学生部」と「学友会」がある。学生部は課外生活・
教養を担当し、学生個人あるいは大学へ未登録の学生有志団体を対象としている。学友会
は課外活動を担当し、大学へ登録した学生団体およびそれら団体を取りまとめる連盟を対
象としている。なお、学生の課外活動の中でニーズの高い体育施設の利用については、上
述の学生部、学友会のほか、正課授業、地域住民への施設開放などさまざまな利用形態が
ある。体育施設を効率的に利用できるように「体育施設運営センター」で調整するととも
に利用時の安全面についても支援している。
第五に、父母連絡会を設け、父母への対応を行っている。父母連絡会は大学と子弟の父母
との関係を親密にし、相互理解と協力を深め、大学の使命達成に資することを目的とし発
足したが、さらに今日では本学が我が子の大学としてだけではなく、父母自身の大学でも
あることを実感してもらうことを究極の目的としている。全国の主要都市で父母懇談会を
開催し、機関誌「草のみどり」を毎月発行している。1988 年全員加入となり、現在の全国
54 支部体制が確立。この年から父母懇談会とは別に就職懇談会を開催している。
なお、セクシャルハラスメントについては「第 6 章
1.学生への経済的支援
【現状の説明】
①
奨学金制度
846 第5章 教育研究支援
人権への配慮」で扱う。
ア.学内奨学金(給付・貸与)
本学は、学生生活への経済支援を目的として、独自の充実した奨学金制度を設けており、
大別して給付と貸与(無利子)がある。主な奨学金は次のとおりである。
○学部生給付奨学金
学力・人物ともに優れている学部生を支援することを目的としている。法学部・経済学
部・商学部・理工学部・文学部・総合政策学部の6学部が独自に特色を持った制度を実施
している。給付額は、おおむね授業料相当額を限度としている学部が多いが、学部ごとに
弾力的に運用されている。
○大学院給付奨学金
特に学力または研究能力が優れている大学院学生を支援することを目的としている。給
付額は、在学料相当額(1/2の場合あり)となっている。
○経済援助給付奨学金
学力・人物ともに優れており、修学の意思があるにもかかわらず、経済上の理由により
修学がきわめて困難な学部生・大学院学生を支援することを目的としている。学部生給付
奨学金が成績を重視する制度に対し、この制度は成績の他に家計状況を相当程度加味する
点で学部生給付奨学金と異なる。
○文化・スポーツ活動等奨励給付奨学金
学内または学外における課外活動等において優れた成績を収めた学部生や、高い目標を
目指しその努力が認められ、今後の成果が期待できる学部生を支援することを目的として
いる。給付額は、学費相当額または授業料相当額を限度とし、奨励内容により決定される。
○指定試験奨学金(給付)
本学で指定した国家試験(司法試験、公認会計士試験、国家公務員Ⅰ種試験)に合格する
ことを期して学部の修業年限を超えて在学する者に対し、経済支援をすることを目的とし
ている。給付額は、学則に定める学費減免措置を受けて納入する授業料および実験実習料
の4/5相当額となっている。
○貸与奨学金
能力があり修学の意思があるにもかかわらず経済的事由により修学が困難な学部生・大
学院学生を支援することを目的としている。貸与額は、月額6万円(年額 72 万円)である。
○応急奨学金(貸与)
主たる家計支持者の死亡、失職、疾病または災害等により家計急変のため学業の継続が
著しく困難になった学部生・大学院学生に対して貸与することを目的としている。貸与額
は、学費相当額以内となっている。
○応急貸付金(貸与)
仕送りの遅延・急病・緊急帰省等の不時の出費のため、生活費に不足を生じた学部生・
大学院学生(外国人留学生を含む)を支援することを目的としている。
貸付額は、申請内容により3万円以内、10 万円以内、学費相当額以内の3種類がある。
○冠奨学金
飯塚毅奨学基金、谷本利千代百年基金、内山力奨学基金、永井善次郎奨学基金、飯塚久
子奨学基金等の寄附者の名前を冠した冠奨学金制度があり、各々の規程を制定し、学生へ
の経済的支援を行っている。
847
そのほかに、教育研究活動に対する冠奨励基金として、渋谷健一奨励基金、船木勝馬学
術奨励基金、三重野康・髙木友之助記念学術奨励基金、水野富久司スポーツ奨励基金、瀧
野秀雄学術奨励基金、茨木龍雄学術奨励基金、久保田昭夫女子スポーツ奨励基金等がある。
イ.日本育英会奨学金(貸与)
優れた学部生・大学院学生であって経済的理由により修学が困難な者に対し、学資の貸
与等を行うことにより、国家および社会に有為な人材の育成に資するとともに教育の機会
均等に寄与することを目的としている。無利子の「第一種」と有利子の「きぼう21プラ
ン」があり、本学の学内奨学金と相互補完的な役割を担っている。
ウ.民間・地方公共団体等の奨学金(給付・貸与)
団体により、募集対象・金額が異なる。学部生・大学院学生合計で毎年 100 名程度が採
用されている。
エ.学費の分納・延納制度
学費を一括納入できない者や期限までに納入できない者に対し、分納および延納の制度
を設けている。学費未納の場合は、経済除籍となる。
②
アルバイトの紹介・斡旋
内外学生センターや民間・地方公共団体等からのアルバイトの求人依頼を受けて、精選
したうえで厚生課の掲示板に掲示している。学生が求人先に電話を入れて面接のアポイン
トが取れた段階で厚生課が紹介状を発行している。
③
下宿・アパートの紹介・斡旋
中央大学生活協同組合が年間を通して学生の下宿・アパートの紹介・斡旋を行っている。
新入生に対しては2月中旬から特設コーナーを設けて紹介している。多くは仲介手数料を
必要としない物件である。
④
学生食堂・店舗
多摩キャンパスの中央部に位置する4階建ての建物が「ヒルトップ’78」と称する食堂
棟になっている。この中には、生活協同組合を含めた食堂業者が3社、理容業者が1社お
よび生活協同組合の店舗(購買、書籍、プレイガイド等)が入っている。食堂の席数は、合
計で約 3,500 席であるが、多摩・後楽園キャンパスともに席数の不足傾向にある。なお、
この他に大学施設内のバスターミナルにおいて、食堂業者1社(31 席)が営業を行っている。
食堂棟の営業時間は、おおむね朝 10 時から夜8時までである。食堂業者に対しては、業務
委託契約書および覚書に基づき学生の健康を守るために、メニュー・価格・衛生・味等に
十分な注意を払い、栄養のバランスのとれた食事を提供するよう常日頃から指導を行って
いる。また、店舗業者に対しては、生活協同組合の設立の趣旨・目的に則り、学生の利益
に供する営業活動を行うよう指導をしている。経費負担については、大きく分けると建物・
厨房機器・修繕は大学負担、光熱水費その他は業者負担となっている。
⑤
大学院学生への重点施策
大学院学生に対しては、①で該当する奨学金に加えて、特に前述の中央大学貸与奨学金
について希望者全員が受けられるように配慮している。また、大学院学生の在学料は、文
科系・理科系を問わず国立大学の大学院学費に準じたものになっており、他私立大学の大
学院に比べて低額な学費設定を行っていることにより、学生への経済的支援を図っている。
さらに、大学院学生を対象としたTA・RA制度により教育的補助業務や共同研究プロジ
848 第5章 教育研究支援
ェクトに関する補助業務を担当する場合手当を支給しており、教育研究能力を促進させる
とともに経済的支援の一助にもなっている。
【点検・評価】
①
奨学金制度
学内奨学金については、2000 年度に全学的に抜本的な改革を行った結果、育英を目的と
した給付制度、奨学を目的とした貸与制度、緊急および応急時に対応できる奨学制度(給
付・貸与)等、質・量ともに充実が図られている。日本育英会奨学金については、前述のと
おり、学内奨学金と相互補完的な関係に位置づけられており、本学にとっては不可欠の奨
学金である。民間・地方公共団体等の奨学金については、育英を目的とした奨学金が多く、
本学にとっても重要かつ貴重な団体となっている。学費の分納・延納制度については、近
時の経済情勢を反映し、この制度の利用者は増加の傾向にある。
②
アルバイトの紹介・斡旋
近年、アルバイトを希望する学生が増えているのに対して、求人数は横ばいの傾向にあ
る。大学は紹介・斡旋業務にとどまっているので、学生の就労状況が十分把握できていな
いきらいがある。また、学生とアルバイト先との間で主に待遇面において、年間数件のト
ラブルが発生している。
③
下宿・アパートの紹介・斡旋
質・量とも充実が図られている。また、入居後の相談にも応じているので、最も身近な
住まいの窓口と言える。
④
学生食堂・店舗
学生食堂については、安全で、安くて、ボリュームがあり、美味しく、メニューが豊富
であり、充実が図られている。昼食時の混雑緩和対策として、食堂棟の外で弁当販売を行
っており、これが混雑緩和に効果を発揮している。また、喫煙対策として、食堂棟におけ
る禁煙・分煙措置を徹底している。店舗についても、学生生活に必要な低廉で良質な製品
が揃っており、学生の福利厚生施設という点で学生から高い評価を得ていると思われる。
⑤
大学院学生への重点施策
国立大学並みの学費水準を維持するとともに、希望者全員に学内外の奨学金を貸与する
ことができていることは評価できる。また、学内の給付奨学金については予算に限りがあ
るため、支給基準・支給方法を再検討し、より多くの学生が受けられるように努力してい
る。
【長所と問題点】
①
奨学金制度
学内奨学金については、全学的な審議機関である奨学委員会の決定・方針に基づき、厚
生課においておおむね事務の執行を行っており、情報の一元化と事務の一元化という長所
がある。奨学金に対する学生の需要と大学の予算との関係の面から言えば、社会の経済情
勢の悪化により学生の奨学金に対する需要が大幅に増えることによって予算が不足する年
度があり、学生が安心して学業に専念できる大学生活の担保という奨学金本来の趣旨に照
らして、この点は苦慮するところである。日本育英会奨学金については、毎年一定程度の
採用者数を確保できるという長所があるが、その年の国庫予算の獲得状況によっては、採
用者数の大幅削減も危惧されること、また、日本育英会の運営方針の変更により大学事務
849
局に過重な負担を強いる傾向がある点等が問題点としてあげられる。民間・地方公共団体
等の奨学金については、団体の趣旨に沿った優秀な学生を推薦することによって、大学と
社会との緊密な連携を保つことができるという長所があるが、近年の経済不況により募集
件数の若干の減少が見られる。学費の分納・延納制度については、この制度を利用して経
済除籍を免れている学生が多い。しかし、分納にしろ延納にしろ、この制度は期限が定め
られているので、完全に学生を救済できる制度ではないところが欠点である。
②
アルバイトの紹介・斡旋
大学がアルバイト先を紹介・斡旋するので、学生にとっては信頼のおける働き場所とい
う長所がある。問題点としては、大学として安全で質の良いアルバイトの確保を最優先す
るので、量的には必ずしも十分とは言えないことが指摘される。
③
下宿・アパートの紹介・斡旋
生活協同組合が大学の指導・監督のもとに一括して紹介・斡旋しているので、学生にと
っては健全な住まい探しができるという長所がある。問題点としては、学内においては、
唯一の住まいの窓口となっており、他との競争がないことによりサービスの一定以上の向
上が望めない状況が懸念されることがあげられる。
④
学生食堂・店舗
学内における立地条件が良く、一極に集中しているので、大部分の学生にとっては便利
で利用しやすくなっている。また、大学の監督・指導のもとに低廉で良質の食事や製品を
提供しているので学生に安心感を与えていること等が長所である。問題点としては、大学
特有の夏休み、冬休み、春休みの期間には営業実績が落ち込むことが指摘されている。ま
た、本学特有の問題として、夜間部の募集停止にともない、夜間部学生の漸減傾向が続い
ており、夜間の利用者が減ってきている。さらに、食堂棟は、築 24 年を経ており老朽化し
てきている等の点があげられる。
⑤
大学院学生への重点施策
近年、大学院学生数は社会人大学院の開設などにより大幅に増加しており、今後の専門
大学院の開設を考え合わせると、量的質的にも新たな、大学院学生への経済的支援策の展
開が必要である。
【将来の改善・改革に向けた方策】
①
奨学金制度
学内奨学金については、財政基盤を確立し、予算面と制度面におけるより一層の充実を
図ることが肝要である。また、奨学金に関する相談コーナーの設置と大学生活における経
済支援を4年間トータルでプランニングできる専門スタッフの養成が求められる。日本育
英会奨学金については、安定した採用者数の確保と給付制度の新設、無利子貸与の増枠を
要請していきたい。民間・地方公共団体等の奨学金については、今後とも継続して優秀な
学生を推薦する努力をするとともに、新たな団体の開拓も検討する必要がある。学費の分
納・延納制度については、法人の政策にも大いにかかわる問題であり、今後予算面を含め
て法人と検討する必要がある。
②
アルバイトの紹介・斡旋
継続して良質で安全なアルバイト先の開拓に努める。また、雇用者および学生双方に対
してトラブルの未然防止に関する啓発・指導の徹底を行う必要がある。
850 第5章 教育研究支援
③
下宿・アパートの紹介・斡旋
下宿・アパートの紹介・斡旋業務は、大学の福利厚生の観点からも重要な柱になってい
るので、今後とも生活協同組合に対して健全で良質・低廉な物件の紹介を心掛けるように
指導・監督を行い、学生サービスの一層の向上に努める。
④
学生食堂・店舗
快適な食生活を送るためには、老朽化した食堂棟の改修が必要である。また、衛生管理・
メニュー等について、各業者になお一層の営業努力をするよう継続して指導していくこと
が必要である。さらに、夜間部学生の減少にともない、全学的な夜間部学生に対するサー
ビスの在り方の観点から夜間の食堂棟の営業についても、今後営業時間の短縮や営業面積
の縮小等具体的な対策が必要と思われる。なお、現在、学生生活関連棟の建設計画(2003
年竣工予定)があり、この建物に入る食堂業者の選定が当面の課題となっている。竣工され
た暁には、多摩・後楽園キャンパスともに席数の増加につながることになる。
⑤
大学院学生への重点施策
後期課程に進学する学生は、学部入学時からの在学期間が 10 年を超える者も少なくなく、
奨学金制度やTA・RA制度などの充実により、研究活動に専念できる環境を整えていく
必要がある。また、近年では仕事に就きながら研究する学生が増加していることから、そ
のような社会人学生にも配慮した制度を検討する必要があろう。
2.生活相談等
本学には、学生の相談に対応する組織が「学生相談室」と「保健センター」の二つある。
その役割としては、
「学生相談室」は学生部に所属し、学生の勉学上の相談から経済的な問
題、交友関係等、常時専門の精神科医・カウンセラーを配置し、学生のあらゆる問題に対
応できる体制がとられている。
「保健センター」では学生の健康に関する相談および病気・
けがの医療に関する対応である。いずれも多摩キャンパス、後楽園キャンパスそれぞれに
開設されている。
<学生相談室>
【現状の説明】
①
学生相談室の組織と運営
学生の個人的な問題や悩みに関する相談に応じるために、学生部に学生相談室が開設さ
れており、学生部長が学生相談室長を兼務することになっている。
また、学生相談室の事務は、多摩キャンパスは学生部事務室学生相談課、後楽園キャン
パスは学生部事務室理工学部学生生活課が所管する。
学生相談室の運営および業務の重要事項については、学生相談室運営委員会が審議決定
する。同運営委員は、学生相談室長、保健センター所長、各学部教授会からの教員、学生
部事務長、学生課長、厚生課長、学生相談課長、理工学部学生生活課長、保健センター事
務室長で構成し、学生相談室長(学生部長)が議長になる。
②
学生相談室の体制
学生相談室は 1954 年に私立大学の先駆けとして開設し、幾度かの所管課の統廃合を経て、
851
1996 年7月に新設された学生相談課(多摩キャンパス)、理工学部学生生活課(後楽園キャ
ンパス)が事務を所管し現在に至っている。学生相談課の専任職員は4名であり、他に専門
相談員として嘱託相談員が9名(精神科医4名、カウンセラー4名、弁護士1名)、また、
該当相談事発生時に随時対応する法・経済・商・文・総合政策学部教授会選出の教員相談
員 14 名、法学部教授会で選出された教員1名(精神科医)と職務上職員相談員 13 名(法・経
済・商・文・総合政策学部事務長、学友会事務長、就職課長、保健センター事務室長、学
生部事務長、学生課長、厚生課長、大学院事務長、通信教育部事務長)がいる。また、理工
学部学生生活課も同様に専任職員2名、嘱託相談員が3名(精神科医2名、カウンセラー1
名)、理工学部教授会選出の教員相談員3名と職務上職員相談員2名(理工学部事務長、理
工学部就職課長)で相談に対応している。
【点検・評価】
学生相談室は、学園生活をはじめとする諸々の学生の個人的な問題や悩みに関する相談
に応じる「よろず相談」を前面に掲げて相談に対応している。学生の個人的な問題や悩み
は意外と根深いものがあるため、精神的にすぐ不安になり易く、近年の傾向として、日常
的なサポートを必要とするケースが増加している。来談者には、まず学生相談課職員が十
分に時間をかけてインテーク(予備面接)して相談の内容を聞き、各相談員につなぐことに
している。最近のケースとして対人関係に端を発したトラブルが多発しており、関係課室
とのより一層の連携強化が必要と考えられる。特に対人関係で問題があったり、大学生活
に馴染めない学生に対しては、サロン(談話コーナー)を利用して、学生同士の横のつなが
りをもたせたりするように学生相談室スタッフが介入しながらケアをしている。しかし、
学生同士の人間関係だけでなく、教職員と学生との距離や関係の希薄さも指摘される中、
サロンを利用する学生に対してのサポートが以前より困難になってきており、学生相談室
スタッフが種々工夫をしながら検討を重ねている。
なお、学生相談室では学生相談業務以外に年間を通じて、学生の人間的な成長・発達を
支援するために春季および夏季セミナー、集中講座や教養講座等の各種行事やエンカウン
ターグループ、キャリアグループなどのグループワークを実施している。
【長所と問題点】
相談内容の多様化にともなって、さまざまな問題を抱えた学生をサポート、支援するた
めには、学内外の多様な資源を活用し、連携をしなければ解決できないケースが増えてき
た。
大学が学生を教育するという重要な責務を全うするためには、どんな学生が入学してき
ているのか、学生は大学に何を求めているのか、学生の所謂“大人”としての成熟度はど
うなのか等の理解が、教育に携わるすべての教職員に従前以上に必要とされる時代になっ
てきている。
学生相談室に寄せられる相談からも学生一般のもつ困難さや一定の問題が抽出されるこ
とは確かであるが、学生相談室から発信することは、
「特別な学生のこと」という認識が学
内にまだまだ根強くあることも事実である。学生相談室に寄せられる様々な問題と向き合
っているわれわれは、常にそのジレンマの中で仕事をしているといっても過言ではない。
そのようなジレンマを少しでも解消し、現在の学生実態への理解を教職員へ発信すべく、
新入生アンケート、教職員向け研修会、学生相談ハンドブックの発行という新しい試みに
852 第5章 教育研究支援
力を入れてきた。
学生相談室は、学生の相談を通じて彼らの成長を促す支援と同時に、学生の抱える問題
を通して、現在の学生に必要な施策をさまざまな場面で提言していく役割などが一層重要
になってくるものと考えている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学が学生相談室というセクションを設けて学生の「メンタル」な問題に対応しなけれ
ばならない理由は次のとおりである。
第1に大学教育の一環として必要であるということ、すなわち大学教育では「専門教育」
と「社会的な能力を育てること」が主要な教育目標とされているが、その目標を達成する
のに学生を「メンタル」な面でサポートすることが欠かせないことは当然である。
第2は学生へのサービスの一環として取り組むということがある。学園生活を円滑にお
くれるように大学として「メンタル」な面でのサポートを学生に提供しようということ。
第3として、大学組織の円滑な管理運営のために必要だという考えである。相談室に寄
せられる「メンタル」な問題が起因のひとつになって大きなトラブルに至ることは少なか
らずあり、学内でのさまざまなトラブルの発生を防止する為に「メンタル」な問題に対応
するセクションを設けようということである。
以上3点については、いずれも学生相談室単独では達成できるものではなく、学内の関
係諸機関と問題を共有しつつ共通理解を得ながら「協働」していくことが必要である。す
なわち、日頃から「密接な連携」を保つことが学生をサポートするうえで最も不可欠であ
る。
また、これまでの学生相談室は「よろず相談」という看板を掲げ、相談室にやってくる
学生を主に対象として対応しており、受け身的なスタンスであったことは否めない。しか
し、昨今、大きく変わりつつある学生と向き合っていくうえで、こちらから積極的に学生
に働きかけ、支え、成長させていくことが重要で、決して受け身的ではなく、能動的な役
割が求められるであろう。
なお、学生関連施設棟の建設が進められており、竣工後近隣事務室が移転する。その跡
地に学生相談室関連の設備等を充実させ、多様化する要望に応えうる体制を整える。
<保健センター>
【現状の説明】
教育施設における健康管理業務および保健施設等の設置にあたっては、学校教育法、大
学設置基準、学校保健法等の関係法令が関連している。本学は、1978 年4月に多摩校地移
転と同時に新たな健康管理機能として「健康管理と医業」を行う保健センターを設立させ
た。
現在の健康管理業務と医業は設立当初とはかなり異なっており、近年では大学の危機管
理が問われるなか「健康管理と医業」に対する期待も年々増大している。また、社会的に
は「医療業務」に対する責任が厳しく問われるようになってきている。
医療関係業務に対する社会環境が厳しくなってきたことは、大学として現在の健康管理
体制を見直す時期に来ているといえる。学生の「健康管理」は大学にとって重要な業務で
あり、保健センターに関わる業務は学外的にも学内的にも信頼性と専門性をともなうもの
853
である。
今後、ますます複雑化するであろう社会環境の中で、本学を支えていく人材は「健康」
であることにより、勉学に、研究に、スポーツに邁進することができる。
魅力ある大学を目指す中で、保健センターの担う「健康」は、すべての「教育研究活動
の基盤」になるものである。
①
健康管理と医業
保健センターの医業は、医療法に基づく正規の「診療所」として医療業務を行っている。
設立以来 20 数年を経過した現在、2000 年度における保健センターの年間利用状況は、健
康管理件数(二次検診・臨時健康診断・予防接種・体脂肪測定を含む)で約 27,000 件と年々
増加傾向にある。また、診療件数(医科・歯科)は約 5,900 件で、これも受診者が年々増加
している。
生活環境の変化は、健康において年々低年齢化している生活習慣にともなう疾病(糖尿病、
肥満症、高脂血症、高血圧症等)に移行しているのが現状である。
②
定期健康診断
定期健康診断の実施(受診)は、学校保健法によって義務づけられており、本学では毎年
4月初旬に学生に対する定期健康診断を実施している。この学生への健康診断は大学生活
における健康管理の中心ともいえるものであるが、本学における学生の受診状況は 2000 年
度で約 23,600 名(受診率約 78%)である。このうち、二次健診(再検査)対象者は約 1,200
名(約 5.1%)である。
③
医療技術員
現在、学生数約 30,000 名
(大学院学生を含む)の健康を預かる保健センターからすると、
現状の医療技術員の人数では増加する学内各方面からの要請には対応しきれない現状であ
る。また、日常における学生の健康管理の継続性にも万全を期することができない状況に
きているといえる。
④
診療医師
健康管理と診療に関する業務は、開設当初とはかなり異なり、現在では5つの医療機関
から医師などの派遣を得て昼夜の診療業務などを行っている。
多摩キャンパスの医科では、嘱託非常勤医師6名による月曜日から土曜日の昼間診療業
務を夜間診療については日本医大医局の協力により医師のローティションにより夜間診療
業務を行っている。また、後楽園キャンパスの医科においては、嘱託非常勤医師6名によ
る月曜日から金曜日の昼夜診療業務(土曜日は昼のみ)を行っている。
⑤
救急体制
学内で突発する負傷者、急病人の救護にあたってはその重症度に応じて自ずから対応が
異なるが、センターでは、応急手当を施してできるだけ速やかに地域救急病院に転送する
ようにしている。
【点検・評価
①
長所と問題点】
健康管理と医業
2000 年度の「保健センター診療疾病分類」で見ると呼吸器系、消化器系、循環器系等が
毎年増加傾向にある。特に、精神神経科系では2年前の2倍となっている。また、女子学
生の増加にともない健康相談等で保健センターを訪れる女子学生も年々増える傾向にあり、
854 第5章 教育研究支援
前年の2倍となっている。今後、女性の健康相談業務に関する配慮も重要になっている。
近年、感染症に代表される「結核」が再興し始めており、1999 年の秋、当時の厚生省は
「結核緊急事態宣言」を発表した。以後、報道でも集団感染の厳しさを報じ、大学での対
応・対策が要求されている。大勢の人が集まる大学では、このような事態に重大な関心を
払う必要がある。現実に本学における結核発病者は、毎年、学生で2∼3名程が発病して
おり、今年も学生で新たに5名の発症例が確認されている。
大学として健康管理業務の重要性を十分認識する必要がある。
②
定期健康診断
大学は、学生の集団生活の場であり、また、教育研究活動を行う組織体であることから
すれば、学生の健康状態は直接的に教育研究活動に影響を与えるものである。さらに、学
生の健康増進を図ることは、教育の目的の一つでもある。しかし、現在の学生定期健康診
断の項目は事後の健康管理を行う契機と為すには十分なものではない。健診の検査項目に
改善を図ることも必要である。また、学生には健診に対する受診意識の向上を図っていか
なければならない。生活環境の変化は、個人の健康にも大きな変化をあたえている。今後
は社会人および留学生の増加にともない感染症等との関係も含め大学として健康管理(健
診)を一層充実させなければならない。
③
医療技術員
近年、医療現場においてはチーム医療の要請から医師以外の医療専門職の役割が重くな
っている。また、大学の保健管理業務の領域においても、看護婦は「診療の補助と療養上
の世話」という臨床看護の概念を超えた保健指導をも含めた看護が期待され、事実、保健
婦とともに保健指導の任にあたっている。
健康サービスを担うべき保健センターにとって医療技術員は医師と並んで中核スタッフ
となるべき存在であり、健康管理サービス業務の水準を維持していくためにも、その業務
に従事する要員の専門的知識(技術)とチームワークが求められる。
保健センターの設置目的である「健康管理と医業(診療)」業務を低下させないためにも
医療技術員の確保と充実は欠かせない。
④
診療医師
近年各医療機関における医療体制整備等の関係から医師(嘱託非常勤医師)の派遣が困難
になってきている。特に、夜間診療業務においては医療機関の夜間医療との関係から派遣
する医師のローテーションが難しくなってきている。
⑤
救急体制
多摩キャンパスにおける救護の実状を見ると医師、看護婦の事故発生現場へ急行する足
の確保および現場との連絡方法に問題を生じている。この点例えば、大学の公用車により
現場に急行できるような改善を図るとともに、現場と連絡が取り易いよう学内携帯電話の
整備も考える必要があろう。また、今後は、大学と医療機関(病院)との提携関係を整備し、
救急外来および夜間外来の受け入れを確実なものにしていく必要がある。
特に、多摩キャンパスにおいては都心とは異なる医療環境にあることを理解すべきであ
る。
【将来の改善・改革に向けた方策】
大学も社会の変化を受けてそれに沿った改革が求められる。大学の医療業務に関わる保
855
健センターにおいても、医療面での変化や大学の改革に沿った変容が求められて当然とい
える。
そのためには、他大学に先駆けて本学の変革と呼応した形で、保健センターの改革・改
善を推進し、保健センターの健康管理と診療体制を整える必要がある。そのためには、保
健センターの基本的性格を健康サービス機関として位置づけ、これからの保健センターは、
初期診療から疾病管理、疾病予防、健康増進のための健康相談、保健指導、健康教育活動
へと発展する方向を目指すべきである
それには、現在の保健センター機能を充実させることが重要であり、人的構成の検討お
よび責任体制の充実等事務組織の改善を含めた健康管理体制の整備が望まれる。
①
健康管理について
保健センターの業務内容は、疾病構造の変化にともなって変わって行かなければならな
い。今後、疾病管理、感染症対策、生活習慣病対策、健康相談等広い視野から健康管理サ
ービス業務への対応が必要となる。
第一は、学生に対して健康面のサービスを一定の計画のもとに行うことである。健康面
のサービスとは、学校保健法の趣旨に照らすまでもなく治療行為を行うことではなく、健
康づくりをすすめ、生活習慣病予防を目指して、定期、臨時の健康診断を行い、かつ、セ
ルフケア能力の向上を目指して必要な情報・知識を提供するものである(健康管理)。教育
的には、自立心の向上を図るきわめて具体的な活動の一つと位置づけられる(学生に対する
健康サービス)。
第二は、他の医療機関で治療を受けているか否かにかかわらず、何らかの疾患・障害を
有する学生に対し必要な治療面の指導を行うことである(療養指導)。
第三は、訓練をともなう教育プログラム(正課および課外のスポーツ等)の実施にあたっ
て健康状態を把握し必要な助言を行うことである(訓練についての助言)。
第四は、保健センターが健康管理活動を一層充実させていくためには、健康教育、健康
科学に関する研究の成果を積極的に取り入れる必要があるが、そのためには、センターの
要員の確保だけでなく、新たな組織体制の構想として保健体育研究所との業務提携、共同
調査・研究が必要である。例えば、健康診断と体力測定行事の合同実施、スポーツ・食生
活等の指導を含む健康教育プログラム、疾病、障害学生のためのリハビリプログラムの共
同開発、健康に関する講座や講演会の開催等が考えられる(健康教育の推進)。
②
医業(診療)について
大学は学生を預かっている立場から彼らのけが、疾病等の診療については十分配慮して
初期診療から疾病管理、疾病予防、そして医療機関への搬送と充実した診療体制を整えて
おかなければならない。
A
救急体制(一次救急医療の充実)
a.患者輸送の明確化と対応すべき学内スタッフのネットワーク化
保健センター医師等スタッフが接触するまでの時間、ないし救急車の到着までの時間は
現場対応者が、身元確認、連絡、指示受け、輸送手伝い等を行わなければない。これらは
発生状況が特定し難いことから、またセンターで救護に専従する要員を確保することが困
難であることから学内関係部署と学内スタッフのネットワーク化で対応するほかはなく、
教職員の理解と協力を願わざるを得ない。
856 第5章 教育研究支援
b.地域救急医療機関との提携
24 時間体制(第三次救命救急センターを備えた病院)を保持している地域内の医療機関
(病院)と提携し、受け入れに対するシステムを確立する必要がある。
B
その他の救護
保健センターでは、学内の行事に際して救護班を用意するが、行事によっては医師・看
護婦等の派遣を医療機関に依頼しなければない。学内では、平日、休日を問わず、多くの
行事が行われているが、それらが授業の範囲であるか否か、主催者(責任者)がどこである
か等に分け、予算を含むルールづくりを行う必要がある。
C
その他の診療
近年の医学と医療技術の目覚ましい進歩発達にともなって、医療は益々高度化、専門化
の趨勢にあり、また高度の医療サービスへの経済負担も増大してきている。
このような社会趨勢を考慮すれば、医学部および付属病院を持たぬ私立大学が、学内に
おいて高度医療サービスを保障するのは、財政的に非現実的であることは明らかである。
幸いにして保健センターは、これまでも近隣の病院、診療所と提携して、医療について協
力関係を作り上げてきたが、今後はより明確に保健センターの診療機能を「第一次診療」
として位置づけ、専門的かつ高度の医療については、信頼できる地域医療機関との提携関
係を作り、学生を積極的に受け入れてもらうべきであろう。
このことは、先述したように、学内における第一次救護活動の受け皿を地域の救急シス
テムに期待し、迅速かつ的確に受け入れる体制を確立することと軌を一にするものである。
要するに、大学の限りある財政的、人的資源で対応しきれぬ問題については、地域社会や
行政と連携して、効果的な医療サービスシステムを作って行くべきである。
D
学生への診療費負担軽減と診療内容の充実
本学では、保健センターで診療(医科・歯科)を受ける教職員個人の診療費負担は中央大
学健康保険組合と学校法人中央大学との診療契約により、無料(健康保険組合8割、大学2
割の負担)扱いとなっている。
しかし、学生については、保健センターが「保険医療機関」でないため「健康保険」を
利用することができず診察以外は「一部負担又は実費」となっており、学内診療での医療
費負担においてアンバランスが生じている。
一般には、ほとんどの医療機関が健康保険取り扱いの認可を受けている。保健センター
の医業は、正規の「診療所」として認可を受けているのであるから、大学として「保険医
療機関」としての認可申請を行い、学生の費用負担の軽減を図るとともに、他大学に先ん
じた質の高い健康サービス(診療内容の充実)とバックアップ体制を整える必要があろう。
そのためには、センターにおける医療事務の充実を図らなければならない。
E
保健管理活動を推進する要員の充実
保健管理活動を統括する所長(医師:校医・産業医)は、保健センター所属の専任医師と
し、保健管理業務や診療業務に専念できる体制を講ずるべきであり、業務全体が統括しや
すいように業務組織を改善すべきである。また、けが等での利用者が多いことから外科(整
形外科)医等の確保が望まれる。
保健管理活動において、主要な要員となる保健婦については、医療専門職として意欲的
かつ継続的に保健管理活動に従事できる勤務条件を確保するとともに適切な人員配置を図
857
る必要がある。また、現在看護婦に適用されている常勤嘱託制度は、現場における職務内
容と責任に照らして改廃し、専任化していくべきである。また、生活環境の変化(生活習慣
病の低年齢化)から新たに、栄養管理、栄養相談のための要員として、栄養士を配置するこ
とも必要である。
今後、保健活動を充実させるには保健センターの業務を改善し、
「恒常的かつ主要な業務
領域」と「臨時的・補助的業務領域」の区分を明確にして、前者の領域を担当する医療専
門職の定員を専任として確保しなければならない。同時に医療専門職の処遇制度と研修制
度を体系的に整備して、職務への意欲を自ら高めていけるように処遇しなければならない。
F
保健管理施設の整備
保健管理活動を一層充実させていくためには、活動を保障する施設の整備が不可欠の条
件である。
a.常設施設としては、問診や個人面談およびグループ指導等が可能な健康相談室、グル
ープ指導室などを設ける必要がある。特に後楽園キャンパスにおいては男女を分けて収容
する休養室(救護室)が必要である。
b.臨時施設としては、現在「学生健康診断」時に学部の大教室並びに一般教室を臨時借
用して実施している。このために、新年度の授業開始に支障を生じることのないよう4月
初旬のガイダンス期間中に短期集中的に実施しているが、学部行事等の関係から借用にあ
たっては問題が生じている。今後、教室を臨時に健康診断会場に転用するような対処方法
では限界がある。
この際、学生生活における「健康サービス」の観点から多摩キャンパスにおいては、新
設される「学生生活関連新棟」の一部を一定期間借用して、また、後楽園キャンパスにお
いては「新棟」の一部を一定期間借用して「学生定期健康診断会場」として使用する方法
が考えられる。
G
市ヶ谷キャンパスへの対応
市ヶ谷キャンパスにおける専門大学院開設にあたっては、健康管理機能(保健センター分
室)を設置することが決定されている。
このことから、今後は三キャンパス(多摩・後楽園・市ヶ谷)で業務を行うことになり、
大学として学生に対する健康管理責任は増大してくる。今後、現在の保健センター体制に
ついて見直しを図っていかなければならない。
H
今後の健康管理体制について
学生の健康管理は大学にとって重要な課題である。社会情勢の変化に対応するためにも、
本学の将来計画を支援していくためにも、これからの保健センターは、従来からの業務体
制を改善し、初期診療から疾病予防へ、さらに健康増進へと発展する保健活動こそ組織の
主目標とし、文字通りその名にふさわしい役割と機能を備えた新たな「健康管理体制」を
整えていくべきである。
3.就職指導
【現状の説明】
本学の学生が大学で学んだことを活かして、自分の適性にあった分野で社会に貢献でき
858 第5章 教育研究支援
るよう情報の収集・整理・提供、就職指導行事の開催、学生との個別面談等により学生の
進路・就職支援を行っている。学部3年次以上および大学院学生を中心に支援しているが、
近年、既卒者の相談も増加している。
就職部は、就職課(多摩キャンパスおよび駿河台記念館)で文系学部の学生を、理工学部
就職課(後楽園キャンパス)で理工学部の学生の進路・就職支援を担当している。
求人や就職活動について文系と理工系では相違点が多いため、各課でそれぞれ適宜指導
しているが、一部の就職関連行事の協働や情報交換を行っている。
全学組織としての就職委員会は設置していないが、就職担当学部長を中心に各学部との
連携を図っている。
(1)就職相談および就職指導
<就職課>
採用形態の多様化にともない、現在の就職相談業務は学生本人の特性や潜在能力を引き
出し、その能力を生かした職業選択を行えるように導いていくカウンセリングが中心とな
っている。
就職相談は学生と就職部専任職員との1対1での対面による個人面談形式を基本として
いる。専任職員は部長以下全員が個人面談を担当する。学生が相談者を指定することも可
能である。なるべく多くの学生と面談を行えるよう、相談は一人1回 30 分を基本とし、す
べて面談希望当日に時間を指定して予約を受け付けている。
文系学部の就職については学内選考をともなう学校推薦は行っていないため、指導は就
職活動上の様々な場面でのアドバイスが中心となる。従って各種行事を通じて行っている
全体向けの内容を踏まえた上で、個人の就職観を考慮しながら各々が最適な進路選択が可
能となる指導を心がけている。
なお、就職に対する基礎知識や活動中に起こる疑問・質問に対してアドバイスできる内
容を網羅した「就職の手引き」やレジュメを作成し、就職活動を行う学生全員に配布を行
っている。
文科系大学院学生に限定された求人は少なく、ほとんどが学部学生と同様の就職活動を
行うこととなる。そのため、大学院学生に対する相談および指導も、基本的には学部学生
と同じ対応をとっているが、例年具体的な就職活動に入る時期となる 11∼12 月に大学院事
務室と協力し、大学院学生向けの就職ガイダンスを実施している。
<理工学部就職課>
近年、学校推薦制度が志望企業の内定を保証するものでなくなり、理工系の就職活動も
文系同様「自由応募」が中心となっている。企業の採用試験は学問の専門性のみならず人
物評価を重視する傾向が見られる。さらに加え、事業所マッチング、OB選考等、理工系
は特有の採用方法を取る企業が増えてきている。
大学院学生への指導対応については、学部生以上に専門性を重んじ、製造業を中心に専
門知識を生かした選択を行うように適切な情報提供ならびに指導を行っている。
また、理工学部には各学科教員からなる「就職委員会」が設置され、理工学部就職課と
の連携によりきめ細かな学生指導が行われている。
(2)就職指導行事
<就 職 課>
859
就職ガイダンス:年4回実施(7・10・11・1月)。就職適性検査:年2回実施(9・10
月)。SPI模試・経済常識試験:各1回実施。就職活動体験報告会:秋季に実施。学内企
業セミナー:2∼3月に実施。女子学生就職準備講座(女子学生ガイダンス)
:秋季に実施。
公務員ガイダンス:秋季に実施。公務員受験希望者対象。教員による講演。公務員試験制
度説明会:春・秋季に実施。国家公務員Ⅰ種受験者・OB 懇談会:5月に実施。業界研究
会:秋季に実施。合宿就職セミナー:年1回冬季実施。日帰り就職セミナー:年1回冬季
実施。マスコミガイダンス:年1回春期実施。U ターンガイダンス:年1回冬季実施。マ
スコミセミナー:年2回秋季実施。
〈就職部主催ではないが、協力している行事〉
ウイング(女性白門会):年1回実施。アナウンサーセミナー(民放現役アナウンサー):
年数回実施。就職業界研究会(学生):年1回実施。外国人留学生ガイダンス(国際交流セン
ター):年1回実施。派遣留学生(交換・認定)ガイダンス(国際交流センター):年1回実施。
大学院就職ガイダンス(大学院事務室):年1回実施。
<理工学部就職課>
理工学部では、10 月から翌年4月にかけてさまざまな指導行事を実施している。具体的
には、① 就職活動のポイントとなる時期に実施する就職ガイダンス(3回)、② 志望業界
選択の一助としての業界研究会(9業界)、③ 就職内定者による体験報告会(19 回)、④ 職
種選択の一助となる適性検査・筆記試験対策としてのSPI模試(各1回)、⑤ 現場を知る
ための工場見学会(3回)、⑥ 採用試験の第一歩といえる企業研究会(112 社)、⑦ 履歴書
の書き方、面接マナーなど実践指導をする講演会(4回)、⑧ 面接対策としての模擬面接セ
ミナー(2回)などである。
(3)各種講座
ⅰ
公務員講座
公務員試験に出題される科目のうち、法律、経済の専門科目を中心とした講義中心の講
座(有料)を前期、後期に分け開講。講師はすべて本学の専任教員。各学部から選出された
教員で構成される公務員講座運営委員会により運営されている。(委員会の事務所管は就職
部)2000 年は前期6科目、後期3科目を開設した。
理工学部では学生からの要望が多い公務員講座を開講している。土木工学科教員の指導
のもと、国家公務員Ⅰ種試験合格者の大学院学生を中心に、集中講義と過去問題による模
擬試験とを実施して実践的に実力が付くように進められている。全学科対象に行われてい
るが、特に土木工学科は専門について、徹底した指導がなされている。
ⅱ
マスコミ講座
現役のマスコミ関係者およびマスコミ出身の講師による講座。作文対策、時事英語など。
講師ごとに講座を設け、通年または前後期で実施。
ⅲ
教職講座
以前は自由参加の「教職ガイダンス」という名称で行っていたが(無料)、1999 年度
(1998.10∼1999.5)から有料の講座形式をとっている。講師は本学OB2名に依頼し、教員
採用試験合格を目指し、年 12 回の講座を低廉な講習料で行っている。
(4)企業情報の収集
通常の求人依頼については、2月に採用または求人実績のある企業を中心に約 15,000
860 第5章 教育研究支援
社に対し所定求人票を送付している。それ以外でも請求があれば随時求人票を送付してい
る。また所定以外の様式であっても文書で受領した求人については同様に受け付けている。
それらすべてを含め、求人数は約 7,500 社である。(2000 年度)
求人開拓としては例年 12 月上旬に学長招待による首都圏を中心とする企業(約 1,000 社
の採用担当者と大学関係者との情報交換会を開催している。理工学部就職課ではこれとは
別に3月に採用担当者と就職担当教職員との懇談会を行っている。
また、例年 10 月から 11 月にかけて全国で開催している就職懇談会の際に、それぞれの
地域の企業を訪問し、情報交換並びに求人開拓を行っている。それに加え理工学部就職課
では翌年2月までの間に、首都圏の企業を訪問し情報交換を行っている。
大学職業指導研究会をはじめ、企業や媒体誌などが主催する情報交換会等にも極力参加
し、情報交換・求人依頼を行っている。
(5)インターンシップ
<就 職 課>
1999 年度よりアカデミック・プログラム(単位認定あり)以外のものを、キャリアデザイ
ン・プログラムと称し、就職部が窓口となって行政、NPO、企業等の連携をはかりなが
ら実施・推進している。毎年、夏期の実施に向けて、インターンシップガイダンス・パネ
ルディスカッション(5月中旬)、インターンシップセミナー(6月上旬)、個別相談(随時)、
インターンシップ体験報告会 10 下旬)などを実施している。
<理工学部就職課>
2000 年度より理工学部就職課を窓口とする「理工学部・大学院インターンシップ制度」
を開始し、夏休み期間中、8企業に 11 名の学生がインターシップに参加し、その成果報告
会として座談会を開催した。また、初年度であるので、状況把握のためにインターンシッ
プを実施している企業の担当者を招集しヒアリングを行った。
(6)資料収集および統計・調査
就職課、理工学部就職課とも事務室と資料室を設け、それぞれで各種の資料を自由に閲
覧できるようにしている。
〔備付け資料の種類と内容〕
ⅰ
事務室
a
求人申込書ファイル
企業名 50 音順、業種別・都道府県別の各索引を利用。
b
公務員ファイル
国家公務員・地方公務員・警察官・消防官など案内を詳細にファイル。
c
特殊ファイル
教員・特殊法人・財団法人・非営利団体・法律・税理士事務所などをファイル。
d
セミナーファイル
業種ごとに最新の企業のセミナー案内をファイル。
e
OB名簿ファイル
企業からいただいたOB名簿を企業の 50 音順にファイル。事務室内だけの管理。
f
就職活動体験記
毎年、就職活動を終えた学生から後輩へのメッセージとして、内定先の選考状況や、就
861
職活動で感じたことなどを業界ごとの冊子に収めたもの。
g
Uターン関係ファイル
全国で開催する就職懇談会の出張にあわせて収集した情報の県別ファイル。
h
その他図書資料
会社四季報、日経会社情報、会社年鑑、会社職員録、各種就職情報誌(業界本など)をタ
イムリーに並べている。
ⅱ
就職資料室
就職部事務室閉室後、学生が自由に閲覧できるよう設置。
個別企業ファイル(1社1冊のファイル)を上場・未上場企業に分け 50 音順に設置。(約
5,000 社)また、その他の企業は受付順にファイルしている。
(7)広報
広報活動として、教職員・学生と父母・業界企業団体・受験生・学員・一般などの対象
ごとに必要な就職情報を提供している。具体的には、就職部ホームページ作成、
「就職の手
引き」「CCR(就職部だより)」、「就職状況概要」など印刷物の発行、大学誌「草のみど
り」や「Hakumonちゅうおう」、「大学案内」、「学員時報」への就職情報掲載の他、
学内外からの資料提供依頼への回答や、マスコミ対応等である。
本学のホームページは、担当者が仕事の合間に作っている現状である。就職部宛のメー
ルでの問い合わせが増えてきたが、担当者2名のほか、他の課員の協力のもとで処理して
いる。
【点検・評価
長所と問題点】
情報収集・整理・提供では、企業との情報交換を中心に、卒業生の協力を得ながら幅広
い活動を行っている。就職指導行事についても企画・実施・評価の体制を組み、常に改善
を心掛け、学生の要望に即した行事の実施をしている。年々希望者の増加している個別面
談は特に重要視し、研修を通して職員のスキルの向上に努め、また職場連絡会により情報
の共有を図っている。
採用活動の早期化、採用形態の多様化、インターネットの普及等により就職活動が変化
しているなか、これに対応する支援の取り組みを考える必要がある。
文系と理工系の就職指導に合わせた2課体制は、それぞれの雇用環境に応じた指導がで
きる。事務部門のみの就職指導となっていることは、就職に関しては迅速な対応を可能と
するが、学部教育と連携をとった低学年からの就業意識の醸成には難しい面もある。
(1)就職相談および就職指導
<就 職 課>
相談件数は年々増加しており、また一度相談を受けた学生が継続して相談にくるケース
も多く、学生の期待や信頼の大きさを示しているといえる。専任職員全員が学生と面談を
するのも、学生の志向や就職活動の状況を理解するのに有益である。
極力多数の学生と対応するよう心がけているが、時期的に面談の希望に対応しきれない
場合が発生している。特に近年提出書類の記述内容に関する相談が多く、一人の学生との
対応時間が長くなる傾向があり、学生を長時間待たせてしまうこともある。
当日予約とういう方式はできるだけ多くの学生と対応するために採っている手段である
が、通学に時間のかかる学生からは、なかなか面談を受けられないと言う声も出ている。
862 第5章 教育研究支援
<理工学部就職課>
個別相談を中心に理工学部就職課を訪れた学生に対しては、カウンセリングを通してそ
の学生に自己を見つめ直させ、特に本人が自覚していない潜在的な能力を認識させること
で、自己に対する自信と将来の職業に対する目標意識の向上に役に立っている。
近年、学生の就業意識の希薄さ、将来に対する目標の欠如等のため真剣に就職活動に取
り組む学生が少なくなってきている。また、インターネットの発達から容易に企業情報が
得られるため、自らの足で情報収集を行い、経験豊な就職担当者からのアドバイスが必要
ないと考える学生が多くなり、このことが理工学部就職課の利用率低下の一因と考えられ
る。
(2)就職指導行事
<就 職 課>
就職課全体の利用率は年々増加の傾向にあり、就職課に対する認知、信頼や期待は大き
いものがある。また、就職に対する学生の意識は高く、開催の周知の難しい第1回の就職
ガイダンスにも2千数百名の参加者がある。全学生に対する就職者数を考えるとかなりの
参加者数と思えるが、それでもガイダンスがあることを知らない者も少なからずいる。ま
た、行事によって参加数が大きく異なり、実施当初は参加者数が多かったが、時代の変化
とともに関心の少なくなっているものもある。
講演は講師のスキルが学生の満足度を左右するが、幸い講演の内容等はおおむね好評を
得ているようである。職員が講演する場合、将来にわたってプレゼンテーション能力のあ
る人材が配属される保証はなく、また、体系的なスキルアップのプログラムが確立してい
るわけではない。さらに会場の確保など学内の協力に苦慮している面もある。
<理工学部就職課>
年々増加する自由応募の就職活動に対応できるよう、毎年、行事内容を検討し改善して
いるので、この行事スケジュールに従って就職活動を進めた学生の就職活動満足度は高い
ようである。その一方、行事の数が多いので危機感のない学生や時期を逸した学生にとっ
ては消化不良となっている。
(3)各種講座
ⅰ
公務員講座
他大学に比較し公務員志望者が多く、それらのニーズに応えるべく公務員講座を開設し
運営してきた。
文系では一時は述べ年間 900 名以上の受講者があり、多くの合格者を輩出するなど、そ
の役割を十分に果たしてきた。しかし効率的な受験指導を行う専門の予備校が増加したこ
ともあり、1997 年頃より受講者が大きく減少しはじめ、2000 年は開設科目を絞り込み、問
題演習を中心とした内容に変更するなどの対応をとったものの、年間受講者数は延べ 27
名にとどまっている。
本講座を開設した当時は公務員試験のための予備校などの数が少なく、そのほとんどが
都心部に集中するなど本学の学生にとっては利用しにくい環境であったため、学内で受講
できる公務員講座は有益であった。また大学の施設で専任教員が講義を担当することで予
備校に比べ低コストで受講ができる点もメリットであった。
その一方で専任教員による講義は概説的なものとならざるを得ず、また開設クラスが少
863
ないため、受講生間のレベル差が講義の進行を一層難しくしている面もある。そのような
点から現行の講座はより具体的な受験指導を望む学生からは支持を得られなくなっている。
理工学部公務員講座は、公務員試験合格者が直接指導し、熱心に講座を運営しているた
めに、参加者から国家公務員Ⅰ種に毎年多く合格者を輩出している。学内メンバー、特に
大学院学生中心に行っている関係で、必要に応じて講義回数を増やすなど柔軟な対応が取
れている。
しかし、合格者が土木工学科に偏っているため、土木系以外の専門科目に対する指導が
弱くなってしまう傾向がある。また、地道に試験対策を行ってゆかなければならないため、
公務員を志望する学生が減少していることも事実である。
ⅱ
マスコミ講座
本学でのマスコミ志望者は同規模他大学と比べて特段多いわけではない。本講座はマス
コミ志望者の学生に十分対応できる定員を用意できている。講座の内容、講師の人選等は、
毎年検討し改善を重ねてきている。本学の地理的状況を考えると、本講座の設置は、都心
に集中している「マスコミ受験予備校」には通いにくい学生たちのニーズに的確に対応し
ているといえる。また、マスコミ志望者は、一般の就職希望者より活動が早期から始まる
ので、講座を就職部で把握していることは、当年の学生の活動、気質を知る上で参考にな
る。また、受講生から口コミで就職部の支援内容を広めてくれるという点で、就職部の学
生に対する認知に役立っている。講座の内容、講師の人選に関しては、鋭意改善を続ける
必要があるが、他の業務も兼務し、ジョブ・ローテーションで異動する職員が企画・運営
するには、難しい面もある。
ⅲ
教職講座
2000 年度(1999.10∼2000.5)については 37 名の受講生がおり、うち5名が卒業と同時
に教員として就職した。
本学には教職事務室があるが、そちらは教員免許状の取得、就職部では就職というよう
に担当が分かれてしまっている。講師を依頼している先生の熱意でなんとか成果をあげて
いるものの、科目ごとに専門の講師をつけることもできない。また、本学にも教職関係の
教授、講師がいるにもかかわらず採用試験の指導にまったく関わっていない。
(4)企業情報の収集
経済情況により変動はあるものの、例年文系で 6,000 社以上、理工系で約 4,500 社から
求人が寄せられており、本学学生に対する企業の期待は大きい。
大学主催の情報交換会は一度に多数の企業と情報交換が可能であるが、時間をかけて話
をすることができず、挨拶程度になってしまうことが多い。また、理工学部企業招待会は、
恒常的に採用している企業 100 社ほどに限定し、採用担当者と就職担当教職員の一同に介
した情報交換会として企業に好評である。
地方の企業については就職懇談会の際に訪問しているが、秋期から年度末にかけては各
種の行事を数多く行っている関係で、首都圏の企業を個別訪問する機会が非常に少なくな
っている。
(5)インターンシップ
<就 職 課>
学生のインターンシップに対するニーズは増加し、就職部の情報提供への期待は大きく、
864 第5章 教育研究支援
インターンシップガイダンスへの参加者も年々増加している。さらに、窓口での相談も急
増し、毎日数名の学生の相談がある。受け入れ数も 1999 年 20 名、2000 年 40 名と確実に
増加している。また、インターンシップを全学的に推進するための学内組織「インターン
シップ連絡会議」(座長
インターンシップ担当学部長)において、学部・大学院のアカデ
ミック・プログラムとキャリアデザイン・プログラムとの連絡調整を行い、担当者間の意
思疎通を図っている。
企業との接点が密な就職部が窓口となることで、企業の依頼に対しダイレクトで受けら
れるほか、独自プログラムにおいて本学の学生の教育にマッチングした受け入れ先(法律事
務所・経理事務所など)を設けることができている。
しかしながら、掲示板の場所・スペースに限界があるため、告知が充分にできていない
点や、一般公募で大学を通さず参加した学生のフォローが十分できていない部分がある。
また今後増大するであろう業務量に対し担当スタッフのマンパワーが絶対的に不足してい
る。
<理工学部就職課>
初年度にもかかわらず大手企業からの受け入れ枠を確保することができ、参加学生の満
足度も高く、受け入れ企業に内定した学生もいた。(2企業2名)
ただし、インターンシップを実施する企業は増えているが公募をする企業が多いため、
今後の受け入れ枠の確保は困難が予想される。また、募集期間が短く広報が行き渡りにく
い場合がある。
(6)資料収集および統計・調査
<就 職 課>
インターネット普及により、容易に企業の情報を見られる環境下にある中、就職部の資
料の価値が問われてきた。そのため、学生のニーズに合った情報提供ツールを豊富に揃え
対応している。しかし、就職部の事務室と資料室が離れた場所にあるため、学生の情報収
集が分断されると同時に資料室の利用指導ができにくい状況にある。
OB情報を初め、企業の情報は豊富に揃っている。しかし、企業からの情報はインター
ネットの利用にともなう紙媒体の提供廃止や、個人情報保護の観点から、OB名簿の未提
供が増加している。さらに、自宅にパソコンを所有している学生が増加したことから、就
職部の利用頻度が低下しているように感じる。また、就職活動の早期化にともない資料を
より早く提供する必要がある。
<理工学部就職課>
企業より送られてきた資料はすみやかに処理するように心がけているが、繁忙期におい
ては人的不足により資料整理が遅れがちである。また、近年のインターネットの普及によ
り、企業からの最新資料の送付も少なくなってきているため、情報が最新ではない企業も
ある。
(7)広報
就職部主催の行事日程や、時期に合わせた就職活動の方法をホームページやCCR、大
学誌等を利用して学生に告知している。また、本学の就職状況を企業や受験生等に知って
もらうため、情報誌へのデータ提供や、マスコミのインタビューに答える等のPR活動も
行っている。限られた場所・媒体によるため、周知の情況が把握できていない。
865
インターネットと紙面を利用することで、多くの学生に平等に情報を提供できるのが長
所だが、急遽決定した行事を告知するには紙面は不適当に思われる。ホームページに関し
ては、
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