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第55号 (2016年9月29日) - 核戦争に反対する北海道医師・歯科医師

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第55号 (2016年9月29日) - 核戦争に反対する北海道医師・歯科医師
71
第55号(2016年9月29日)
発 行 核戦争に反対する北海道医師・歯科医師の会
http://northhankaku.web.fc2.com/
事務局 〒063-0061 札幌市西区西町北19丁目1―5
勤医協札幌西区病院医局内
☎011-663-5711 Fax011-666-4119
核兵器禁止への止まらない歩み
国連作業部会で3分の2が禁止条約求める
ジュネーブの欧州国連本部で開催されていた核軍
備縮小・廃棄への多国間交渉に向けた前進を図る公
開作業部会(Open-ended Working Group=OEWG)
第3会期は、8月19日、
「2017年に核兵器禁止のた
めの法的拘束力のある協定を交渉する会議を開催す
るよう国連総会に勧告する」という内容を盛り込ん
だ最終報告書を約3分の2の賛成で採択しました
(賛成68、反対22、棄権13。日本は棄権)。ぎりぎ
りまで全会一致が追求されていましたが、最後の最
後で投票となったようです。採決後のフロア発言で、
ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は「核なき
世界を求めるこの70年の苦闘の中で画期的な瞬間
だ。核兵器の非人道性に関する3回の国際会議を経
て、この OEWG は核兵器禁止条約が必要だと勧告
した。国連総会ですべての国が、核兵器禁止条約交
渉を促す決議に賛成するよう求める」と訴えました。
日本国政府の代表である佐野利男軍縮大使は、こ
の OEWG で一貫して、核兵器禁止条約は時期尚早
であるとして、核軍縮の「漸進的接近」を主張、
OEWG をボイコットした核兵器保有国の代弁者と
しての役割を果たしました。
9月13日からニューヨークで始まる第71回国連総
会は核兵器禁止条約を求める多数派とこれを阻もう
とする少数派の攻防の場となります。右の図は核兵
器に依存しない政策をとる「真の非核兵器国」と非
核兵器国でありつつも、拡大核抑止力(核の傘)に
依存する国々(日本など)が綱引きをしており、後
者に「核兵器保有国」がついている様子を表したも
のです(原図は中村桂子長崎大学核兵器廃絶研究セ
ンター准教授による)。日本は「唯一の被爆国」と
しての体面と「核同盟国」という本質のあいだでの
矛盾が強まっており、草の根からの運動で政府の姿
勢を変えさせて行くことが必要です。
(事務局長 塩川哲男)
核兵器保有国
核兵器に依存しない
政策をとる
「真の非核兵器国」
非核兵器国でありつ
つも、拡大核抑止力
(核の傘)に依存す
る国々(日本など)
核兵器廃絶をめぐる綱引き
主な内容
◇第28回総会で決まった事項 ◇総会記念講演(峯廻攻守) ◇原水禁世界大会に参加して(三浦宗也、鈴木悠介、伊志嶺篤) ◇映画評「日本と原発」(伊古田明美) ◇エッセイ(佐藤利夫、大倉秀顕) 2
5
18
19
21
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆1
第28回総会で決まった事項
(2016年7月9日、札幌全日空ホテル)
2015年度活動報告と2016年度活動方針
1.
2015年度活動報告(主なもの、2015/4-2016/3)
⑴第26回核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める
医師・医学者のつどい in 愛知に塩川事務局長、
福原事務局次長、中野亮司先生、中川恵さん(北
大学生)
、
笹原恵輔さん(勤医協中央病院事務)
が参加した(10月31日―11月1日)。
⑵北海道原爆死没者追悼会に福原事務局次長が参
列(8月6日、札幌市)
⑶会 報の発行 第53号(9月30日)、第54号(16
年3月25日)
⑷会の紹介リーフレットを改訂した(12月)
⑸運 営委員会を2回(5月29日、9月30日)、事
務局会議を1回(16年3月25日)行なった。
⑹新年会(16年1月9日、札幌市)
⑺核戦争に反対する医師の会(PANW、全国)第
11回世話人会に福地会長と塩川事務局長が参加
(6月14日、東京)。同常任世話人会および運
営委員会に塩川事務局長が参加(5月17日、7
月26日、16年1月17日)
2.2016年度活動方針と活動計画
【活動方針】
⑴全道の医師・歯科医師・学生のなかに「核兵器と
原発は21世紀の早い時期になくそう」の世論を
高め、ひきつづき会員の拡大につとめる。とく
に後継者となる若い層を重視しよう。
⑵全国の核戦争に反対する医師の会(PANW)に
結集し、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)
や ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の活
動に協力する。
⑶核戦争に反対する他団体との共同をつよめ、活
動の輪を広げる。
⑷被ばく者の実態を把握し、被ばく者の健康管理
に協力する。ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴
える核兵器廃絶国際署名に協力しよう。
⑸憲法改悪の動きに反対し、「医療九条の会・北海
道」と連帯して活動する。
⑹あらたな被ばく者を生み出しうる原発の再稼働
を許さず、原発のない社会をめざす。
【スケジュール】
2016年6月3日 第55回運営委員会
6月12日 反 核 医 師 の 会 第12回 全 国大会
(東京)
2 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
7月9日 第28回総会
8月6日 原爆死没者追悼会、この前後に
原水禁世界大会(北海道は広島
へ)
秋 第56回運営委員会
11月5-6日 第27回核戦争に反対し、核
兵器の廃絶を求める医師・医学
者のつどい(仙台)
2017年1月 新年会
3月1日 ビキニデ-
【活動計画】
1)会報の発行 年2回(9月、3月)
2)原爆死没者追悼会など各種イベントへの参加・
代表派遣
3)ホームページの定期的更新と充実
4)会員アンケートを実施
2016年度役員・名誉会員
【会長】
福地 保馬(北大名誉教授)
【代表委員】
伊古田明美(勤医協中央病院内科)
上野 武治(北海道医療大学リハビリテーション科学部教授)
川島 亮平(勤医協札幌西区病院)
鈴木 頌(札幌市)
芳賀 千明(道北勤医協一条通病院整形外科、旭川市)
平野 哲夫(市立札幌病院腎移植外科嘱託)
松崎 道幸(道北勤医協旭川北医院)
吉岡 猛(道東勤医協釧路協立病院)
【事務局長】
塩川 哲男(勤医協札幌西区病院)
【事務局次長】
福原 正和(札幌市医師会夜間急病センター)
【監事】
三浦 彌(三浦メンタルクリニック、札幌市)
峯廻 攻守(浪江町国民健康保険仮設津島診療所、福島県)
(五十音順、敬称略、いずれも再)
【名誉会員】
牧田憲太郎先生(牧田病院理事、札幌市)
2015年度決算および2016年度予算
1.2015年度決算
【一般会計】
1)収入の部
前
年
度
繰
会
雑 収 入( 募 金 等
銀
行
利
合
越
費
)
息
計
15年予算
880,005
550,000
10,000
0
1,440,005
15年決算
880,005
570,000
35,108
0
1,485,113
14年決算
990,844
646,000
32,570
0
1,669,414
13年決算
1,068,181
570,000
16,100
0
1,654,281
用
費
費
料
費
助
費
計
15年予算
250,000
300,000
80,000
10,000
130,000
0
670,005
1,440,005
15年決算
242,864
409,824
59,492
7,600
85,423
0
14年決算
263,070
278,800
108,679
9,630
112,100
17,130
13年決算
168,785
293,805
58,837
10,160
131,850
0
805,203
789,409
663,437
計
計
越
金
15年決算
1,485,113
805,203
679,910
91,464
14年決算
1,669,414
789,409
880,005
0
13年決算
1,654,281
663,437
990,844
81,260
12年決算
1,717,991
649,810
1,068,181
81,260
金
局
行
計
15年決算
6,000
756,365
9,009
771,374
14年決算
85,031
785,965
9,009
880,005
13年決算
215,000
848,095
9,009
1,072,104
12年決算
54,370
1,086,062
9,009
1,149,441
15年決算
13年決算
81,260
218,000
12年決算
124,680
185,500
96,536
91,464
14年決算
81,260
213,000
213,000
98,390
-17,130
218,000
81,260
228,920
81,260
16年予算
679,910
550,000
10,000
15年予算
880,005
550,000
10,000
14年予算
990,844
550,000
10,000
13年予算
1,068,181
550,000
10,000
1,239,910
1,440,005
1,550,844
1,628,181
91,464
0
81,260
81,260
16年予算
250,000
300,000
70,000
10,000
100,000
15年予算
250,000
300,000
80,000
10,000
130,000
14年予算
200,000
300,000
60,000
10,000
130,000
509,910
1,239,910
670,005
1,440,005
850,844
1,550,844
13年予算
150,000
350,000
80,000
10,000
130,000
500,000
408,181
1,628,181
2)支出の部
総
印
郵
振
渉
つ
予
合
会
送
込
ど
刷
事
手
外
い
備
費
務
数
補
3)収支決算
収
支
次
つ
入
合
出
合
年
度
繰
ど
い
基
4)財産目録
現
郵
銀
合
便
【つどい・IPPNW 関連】
前
年
繰
越
募
金
合
計
I P P N W( 萩 原 Dr)
費 用( つ ど い )
剰
余
金
0
188,000
2.2015年度予算
【一般会計】
1)収入の部
前
年
度
繰
会
雑 収 入( 募 金 等
銀
行
利
合
越
費
)
息
計
つ
金
ど
い
基
2)支出の部
総
印
郵
振
渉
つ
予
合
会
送
込
ど
刷
事
手
外
い
備
費
務
数
補
用
費
費
料
費
助
費
計
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆3
27
2015年は戦後 年そして被爆 周年の記念すべき年でした。
5月にはニューヨークで核不拡散条約の再検討会議が開かれました
が、残念ながら最終文書は採択できませんでした。しかし、核兵器
禁止条約をめざして2016年2月と5月、国連の公開作業部会が
ジュネーブで開かれ、今秋の国連総会で何らかの勧告を出すものと
期待されています。
北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核実験や核兵器依存政策は
言語道断ですが、北東アジア地域の非核化をめざして、唯一の被爆
国日本の役割はますます大きくなっています。5月 日に、米オバ
マ大統領が広島を訪問しましたが、核軍縮にむけての具体的行動を
求めます。
昨年9月に安全保障関連法制(戦争法)が国会で強行採決され、
日本が米国と一体になって「戦争をする国」へと大きく舵を切り始
めました。さらに多くの反対を押し切って川内原発1号機と2号機
が昨年8月と 月から再稼働されました。
東日本大震災と福島第一原発事故からは5年が経過しました。原
発事故は収束したというにはほど遠い状況で、2016年5月現在、
なお92,
154人もの方が県内外で避難生活を続けておられます。
せようではありませんか。
回総会
4 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
70
70
戦争法を廃止し、平和憲法を堅持する政府を実現しましょう。そ
して核兵器も原発(核発電所)もない世界の実現に向け、力を合わ
10
2016年7月9日
核戦争に反対する北海道医師・歯科医師の会 第
28
あいさつする福地会長
あいさつするご来賓の山口さん。右は金子さん
核兵器も原発もいらない。
核に依存しない日本を。
【特別決議】
第28回総会(2016年7月9日)に臨席いただいたご来賓
◇北海道被爆者協会 常務理事 金子廣子(ひろこ)
◇福島の子どもたちを守る会・北海道 代表 山口たか
同総会にメッセージを寄せていただいた団体
◇北海道保険医会 会長 小笠原俊一
◇原水爆禁止北海道協議会
◇非核の政府を求める北海道の会
◇北海道勤労者医療協会 理事長 堀毛清史
◇核戦争に反対する医師の会(全国)代表世話人 中川武夫 原和人 飯田哲夫
◇核戦争防止和歌山県医師の会 代表世話人 西畑昌治 野上成樹 奥村明春
(順不同、敬称略)
【総会記念講演】
(2016年7月9日、札幌)
共催 医療九条の会・北海道
後援 福島の子どもたちを守る会・北海道
東日本大震災・フクシマ第一原発事故
5年間の軌跡
──浪江町 町民の場合 (要旨)
浪江町国民健康保険仮設津島診療所、
渓仁会札幌西円山病院名誉院長
峯廻 攻守
みねまわり よしもり:
1944年滝川市生まれ。1969年3月札幌医科大学医学部卒業。1976年4月札幌医科大学内科学第二講座助教。
1987年10月手稲渓仁会病院副院長・循環器内科部長。1998年4月札幌西円山病院院長。2014年4月札幌西円山
病院名誉院長。2014年10月福島県浪江町国保仮設津島診療所(二本松市)に出向、現在に至る。
きょうこの場に来て、
「福島」をあえてカタカナ
に直しました。福島の問題というのは決して福島だ
けの問題でなくて、日本の問題でもあるし、世界の
問題でもあるということで、
「ヒロシマ、ナガサキ」
と同じように、漢字で書かないでカタカナで書こう
というのが NHK の七沢潔さんの考え方なんですね。
これは、帰宅困難区域の浪江町の津島地区という
ところの山なみです。阿武隈山系といいますが、こ
んな美しいところに帰れないわけですね。それで、
先ほどの山からふりかえると、こういう看板がある
わけですね。
「50mSv 以上で帰宅困難区域」。考え
てみたら帰宅困難区域を車で通行していいというの
はおかしな話ですね。本来ですと、通してはいけな
いところのはずなんですよ。私は毎週、いまは今年
の4月から3回、帰宅困難区域を通って役場まで走
っているんですけれど、そんなところを本当に人を
通していいのかというのが正直なところです。
私が福島に行った理由
まず私が突然福島に行った理由は何かということ
なんですが、1つ目は、過去北海道勤医協に勤務し
た3年間の経験があり、1989年以来、本会の会員で
あったわけですけれども、2010年に、本会も実行団
体の1つとして開催された講演で、京都大学の小出
裕章先生の話を聞いて、非常にショックを受けまし
た。そのときのプログラムにこういう言葉を小出先
生は書いていたんです。「Nuclear development」
という英語を訳すときに、イランとか北朝鮮が使え
ば「核開発」というのに、なぜ日本語訳にすると「原
子力開発」というふうに言葉を変えるのかというま
やかしですね。
2つ目は、震災の翌年、2012年のゴールデンウイ
ークに妻と一緒に被災3県をレンタカーで回ったん
ですけど、このときに妻は「行くな」ということを
あきらめたそうです。
3つ目は、安倍晋三さんが「福島第一原発は完全
にコントロールされている」ということでオリンピ
ックを招致したということが私を元気づけたという
か、福島に向かわせたということです。オリンピッ
クなんかを呼ぶと、大工さんから何からみんな東京
へ行っちゃいますよ。そうすると福島の復興なんて
さらに遅れると思います。
私が勤務する津島診療所のある二本松
市とは
福島県というのは、人口がピークのときには213
万ほどあったんですけど、震災前から減り始めてい
て、過疎の波にもまれていたんですが、だいたいこ
ういうふうに浜通り、中通り、会津というふうに分
けるのが福島県の人たちの考え方です(図1)。
私がいま住んでいる二本松というのはここにあり
まして、浪江町というのはここにあります。山の中
のとてつもない道路を走って毎週3回通うんですけ
ど、だいたい1時間半かかります。ですから往復3
時間ですね。役場はこの海の近くのほうにあります。
二本松というのは城下町で、お祭りを非常に大切
にしますね。日本百名山の安達太良山がすぐそばに
あります。霞ケ城というのもあります。
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆5
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
図1 福島県は東から浜通り、中通り、会津に分けられる
ここから少し生々しくなるんですけど、私のとこ
ろから歩いて5分ぐらいの安達高校ですが、もう既
に年間1.68mSv。これはモニタリングポストでこの
数字ですから、琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬先生
にいわせたら、国のつくったモニタリングポストは
半分ぐらいがいいところだと。倍にして考えなけれ
ばだめだということになれば、3.36mSv ぐらいで
すね。
これはさきほどの霞ケ城址ですが、地面の上に線
量計をおきますと、年間4.02mSv。ここは二本松で
すよ、決して双葉8町村ではないですよ。本丸にい
くとこのぐらいです。天守閣のあるところ。
これは霞ケ城の笠松という立派な木なんですけれ
ども、柵の根元で測るとなんと年間6.48mSv です。
ですから京都大学の小出先生がいつもお話しして
いるように、福島県の東半分は放射線管理区域だと
いうのは事実なんですね。もちろんすべての地面が
そうとは申しませんが、こういうホットスポットが
当たり前のようにあるということです。この霞ケ城
址というのは、
観光客が土日はいっぱい来ています。
子供たちも来ていますし、乳幼児もお母さんに抱っ
こされて来たりしていますけれども、こういう事実
というのは地元のメディアも取り上げません。
これは私の住んでいるアパートの濡れ縁です。や
はり年間1mSv 以上です。玄関をちょっと出たと
ころの地面ですと3.9mSv/ 年です。
二本松も除染しているんですが、私どものアパー
トの大家さんは、なんか除染する手続きが面倒くさ
いらしくて、まだしてくれてないんですよね。
これが仮設住宅です。この中にプレハブの診療所
があって、私が行った年は、週3回、月、火、金と
普通に患者さんを見て、水、木、浪江町の役場の中
の応急仮設診療所というところで働いていました。
今年から浪江町に行くのが1回増えて、水、木、金
6 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
と、往復3時間かかるんですけど、金曜日になると
さすがに、車を降りてもまだ車酔いしているみたい
な感じで、やっぱり72歳にもなるとこたえます。
これがご高齢夫婦の仮設の正面です。玄関のひさ
しは2013年になってようやく造られたということ
で、玄関は畳1枚分ぐらいでしょうか。入ってすぐ
台所、その背中側に冷蔵庫とかそういうものが置い
てあります。お風呂ですね。トイレ、狭いです、す
ごく。こういうお部屋がご高齢2人の世帯で、台所
を除いて2つあります。押し入れに戸も入ってない
んですよ。
これは私が行ってすぐテレビが取り上げてくれた
んです。(動画が数分間流れる)
アナウンサー:二本松の安達運動場にあります浪江
町の仮設住宅です。その敷地内にあります町で唯
一の仮設の診療所が、こちらの仮設津島診療所で
す。これまで常勤のお医者さんは所長一人しかい
なかったんですけれども、今月から新たにもう1
人、お医者さんが加わりました。峯廻攻守医師で
す。よろしくお願いいたします。 峯廻:よろしくどうぞ。
アナウンサー:北海道出身で70歳、内科そして循環
器科の専門でいらっしゃいます。札幌にあります
高齢者やリハビリ医療を専門とする病床数が850
あるという大病院の院長を17年間務めていらっし
ゃいました。今年の春に定年を迎えまして、第2
の医師活動の場所としてこの福島に奥様とともに
いらっしゃったということになるんですが、どう
してまた福島に来てみようと思われたんでしょう
か。 峯廻:前職在勤中に東北3県にリハビリの技術職を
医療支援に派遣しておりました。で、院長退任を
契機に、プライマリーケアをやりたいと。そのた
めには震災と原発事故で二重苦で一番困っている
福島県ということで、福島県を選ばせていただき
ました。
アナウンサー:たいへんありがたい考えだと思うん
ですけれども、既に峯廻先生は精力的に医師活動
を始めていらっしゃいます。
先週の木曜日です。峯廻先生は二本松市の自宅
から、ある場所へと向かいました。検問ゲートを
ぐぐり、浪江町の三島は帰宅困難区域の津島地区
に入ります。
峯廻:左手に見えるのが診療所なんですけど、1日
400人ぐらい診たとおっしゃっていましたから、
いわゆる野戦病院的なたたかいのあとが診療所の
張り紙に如実にあらわれています。
アナウンサー:津島地区の放射線量は車内からの測
定でも、高いところで1時間当たり6マイクロ
Sv 以上を今も示しています。1時間半かけてや
ってきたのは、役場前にある応急仮設診療所。
峯廻:おはようございます。
アナウンサー:浪江町の応急仮設診療所は、去年5
月から診療を開始、浪江町と相馬郡医師会、国の
災害医療センターから派遣された医師が日替わり
で対応。峯廻先生は週2日、ここに来ています。
診療の対象者は、主に一時帰宅した浪江町民や復
興作業員です。
峯廻:多いときで2人ぐらい。少ないときはゼロと
いうこともありますし、蜂を中心にした虫刺され
ですね。外科的には外傷、それから打撲、捻挫と
いったものが主になります。
アナウンサー:あくまで緊急を要する場合のみの診
療のため、医療器材も必要最小限にとどめていま
すが、応急仮設診療所の存在は大きな意味がある
と峯廻先生が話します。
峯廻:自分のおうちの管理とか、そういうかたちで
入られるということで、1つにはその方たちに対
する安心ということが、心の応急措置が一番の役
割だというふうに考えられます。
アナウンサー:この日も患者が来ることはなく、診
療時間が終了。町民や作業員に大きなトラブルは
ありませんでした。
勤務終了後、峯廻先生はある場所へ向かいまし
た。津波で大きな被害が出た請戸地区、気になる
場所をカメラで撮影しつづけます。
峯廻:本当に複雑で腹立たしい気持ちですね。
アナウンサー:レンズを向けた峯廻先生の先にあっ
たのは、福島第一原発。こんな事故は2度とあっ
てはならない。被災地の医師としての在り方など
を伝えていくために、今後も福島の写真をとり続
けていく考えです。
「浪江町の人々の健康を支えたい」。その思いで
1人のベテラン医師が福島にやって来たことにつ
いて、浪江町の人々はこう話しています。
住民:本当に親切でわかりやすく説明していただい
て、みんな安心してかかれるというような状態で
すね。いろいろな経験をした先生が来てくれると
いうことは力強い。長くいてもらえればありがた
いなあ。
テレビも取り上げてくれたということですが、ち
ょっと渡辺さん、立ってくれます? 浪江町民が1
人いるんですよ、この中に。
(拍手)先ほどの役場
の応急仮設診療所で一緒に働いている仲間です。僕
の話を聞きたいというからウソだと思ってたら、き
ょう来てたんですね。
福島県、特に双葉郡八町村の現状
さて、浪江町というのは、この双葉郡の8町村の
1つですけれども、ここの下にありますが、原発立
地が大隈町と双葉町で、それを取り囲むようにある
わけですね。
被災者の現状ですけれども、今年の3月でこうい
うふうになっております。死亡・行方不明者は、東
北3県の10%か、それ以下。ところが震災関連死・
自殺者・避難者ということになると、6割ぐらいが
福島県です。これがやっぱり津波とか地震と違う福
島県独特の問題というのは、まさにこの原発事故の
もたらした害悪だろうというふうに考えておりま
す。とくに自殺者なんかは、2015年度だけでみると、
83%が福島県の方たちです(図2)。
たくさんの核物質が放出されたわけですね。みな
さんにちょっと考えていただきたいのは、1950年か
ら70年にかけて世界各国で大規模な核実験がおこな
われたわけですが、このとき、昭和63年(1988年)
には1キロ平方メートル当たり19億3500万ベクレ
ルのセシウム137が…私は原発事故が起きて興味を
もつまで、核実験でどのぐらいの核物質が降り注い
だかというのは知らなかったんですね。ですけれど
も、実はこれだけ降り注いでですね、これは2008年
の19000倍に相当すると。だから日本に降り注いで
いたわけですね。水爆とか原爆の実験の影響が。
ところが、2013年4月末時点で、福島市に蓄積し
たセシウム137は、桁が違うんですね。3000億とか
6000億ベクレル。
そしてこれは福島県の双葉郡の8町村でなくて福
島市ですからね。ですからますます、中通りも含め
て福島県の東半分というのは放射線管理区域どころ
か、直後はひどい状況だったということがわかりま
図2 東日本大震災に関連した自殺者数の推移
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆7
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
図4 区域別の主な賠償項目
図3 世界の核実験による日本児童の癌死増加率
す。
医学部出身でありながら知らなかったんですが、
1972年に、瀬木三雄という東北大学の公衆衛生の先
生ですけれども、日本の5歳から9歳の子供1000人
当たりのガンの死亡率。原爆投下、5年おくれ、ソ
連最初の原爆実験、最初の水爆実験。1940年代から
70年代にかけて、5歳から9歳の子供1000人当たり
のガン死亡率が実に6倍になっているということ
を、日本癌学会で発表しているんですね(図3)。
これは昨年の発表ですが、当会の総会にも来てい
ただいた広島大学の血液内科の鎌田七男名誉教授
が、複数のガンを発症した女性の病態、肺臓なんで
すけれども、放射線の痕跡を確認したと。これは去
年6月22日付の読売新聞ですが、60年以上も体内に
残るというのは、広島型の原爆で使われたウラン
235しか考えられないというふうに鎌田先生はおっ
しゃっています。
要するに、ウラン235といったら、ガンマ線では
ないですよね。アルファ線なんか紙1枚で遮られる
とかですね、ベータ線だってちょっとしたもので遮
られるとか、よく御用学者がいいますが、空気中に
あったものを吸い込んだら内部被曝なんですね。
日本のメディアは、テレビも新聞も本当にいま瀕
死の重症だろうと私は思うんですけれども、福島に
福島民報社という地域新聞があります。昨年この4
年間の総まとめみたいなものを記録として出しまし
たが、これは「復興している」ということばかり書
いた中身でした。ただ参考になるものがいくつかあ
りますので、例示します。じつは双葉8町村では、
高校が5つも再編、もうやっていけないんですよ、
8 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
廃校と同じです。廃校という言葉は使いませんよ、
新聞社は。だけど私に言わせたら廃校ですね。ふた
ば未来学園なんていう、いかにも未来が明るいかの
ような名前をつけた高校をつくって、その宣伝ばっ
かりですね。
甲状腺検査もやっていますけれども、福島医大か
ら発表されることは私は残念ながら全然信用できま
せん。ともかくスクリーニングの人数が多かったか
らこれだけ出ているというのがあって、直接的には
甲状腺のガンというのは放射線障害にあらずと、今
のところは関連性がないという考え方ですね。
それからもう1つの大きな問題は、原発事故の賠
償です。帰宅困難区域、居住制限区域、緊急時避難
準備地域、これは全部賠償額が違うんですね(図4)。
これがまた地域に格差と分断をもたらすんですね。
そしてこの分け方自体が極めて非科学的です。です
から先ほど車で行きましたけれども、帰宅困難区域
に入るときに検問を受けて、居住制限に入るときに
帰宅困難区域から出るときにまた検問を受けるんで
すが、浪江町の居住制限区域と避難指示解除準備地
域の境界線はどこかというと、陸橋の橋が境目にな
っているんですけど、本当にその橋の下とかを全部
線量を測ったかどうかというと、科学性は私は全然
ないと思うんですよ。
浪江町の風景
浪江町仮庁舎及び浪江町仮設津島診療所は、二本
松市にあり車で1時間半かかります(図5)。これ
は現在の馬場有・浪江町長です(図6)。それから私
がお手伝いをしている関根俊二先生(図7)。卒業
は私と同じ昭和44年(1969年)なんですけど、私よ
り年は2つ上で、この先生は全然病気がなくて、
100歳位まで生きるんじゃないかな。
こ れ が 役 場 で す が、 役 場 の そ ば で こ の ぐ ら い
(3.27mSv/ 年)です。これもただし、矢ヶ崎先生
が国のモニタリングポストが当てにならないという
のは何かというと、周り全部を除染してあるんです
ね。ここにコンクリート台をつくって鉄板を置いて
周りをさらにこういう頑丈な鉄条網で囲ってある。
これで本当に空間線量を測れるのかということです。
これは庁舎内です。そして駅ですね。常磐線は寸
断されていますから草ぼうぼうです。地震で壊れた
家もありますし。これは役場からそんなに遠くない
ところですけれども、水道管とかのインフラもこう
いうふうに陥没していて、まだまだこれからですね。
これが除染物の仮置き場ですが、すごい量ですね。
これは私が行った当時の請戸の地区の瓦礫です。
津波で流されたものばかりです。これは東電の排気
筒。
6年を迎えてもまだ仮の慰霊碑しかありません。
本当の慰霊碑というのはまだ浪江町も造れておりま
せん。
これが津島診療所で、その当時の張り紙がそのま
まになっておりますけれども、すごく混んだという
ことです。
これは浪江町の隣の川俣というところの除染物質
ですが、どこもかしこも除染物質の置き場だらけで
す。
冬は雪はこのぐらいしか降りません。この川俣の
山木屋地区というのは標高540m ぐらいでしょうか。
藻岩山とほぼ同じぐらいの高さのところを通って私
は浪江町に通っているんですが、除染というのも全
くの幻想ですね。いくら5センチか10センチ、土を
はいで、こんなところに袋に詰めても、この後また
草が生えてくるんですよ。1年もしたら草ぼうぼう
図6 馬場浪江町長
図7 関根津島診療所長
です。そこに山から水が流れ込んできますが、山は
放射性物質だらけですから、山を丸裸にしないかぎ
り、除染なんていうのはあり得ません。
ここでいえば大体8μ Sv/hr ぐらいあるんですけ
れども、ここで、車の中で測ると6.2ぐらいです。
だから車も突き抜けてきているということですね。
8ぐらいあっても3分の2ぐらい車の中に入ってく
る状況です。これが雨が降ると、8マイクロぐらい
のところが7とか、それが気持ち悪いですよね。そ
して雨が止んで天気になったらまた8ぐらいにちゃ
んと戻るんですよ。
つまり、われわれの五感では感知できませんが、
空気中にそういうものが浮遊しているということで
すね。雨が降ると落とされて、天気になるとまた浮
遊しだす。それがこのあたりでは1マイクロぐらい
の差があります。
この常磐高速道も帰宅困難区域を走っているんで
す。これは安倍晋三首相が前回の衆議院選挙の前に、
本当はゴールデンウイーク明けといっていたのを無
理やり選挙前に開通させたんです。
こ れ は 役 場 か ら た っ た1.2キ ロ
の 地 点 で す。 居 住 制 限 地 域 で す
が、国の作ったモニタリングポス
トでもこれだけ(3.738μ sV/hr =
32.744mSv/ 年)あるんです。
イノシシがいっぱいですね。おサ
ルさんにも出会いますし。家の中も
ネズミやイノシシに荒らされて、み
なさんの家はグジャグジャです。
請戸地区にあるこのお墓も今は立
派になりましたけれども、瓦礫など
の焼却施設が、もう稼働しています。
浪江町唯一の病院で西病院、さきほ
どご紹介した渡辺看護師さんが震災
前まで働いていたところです。ここ
にしかベッドはなかったわけです。
それから毎年、3.11になると、こ
のように遺体捜索がおこなわれま
図5 浪江町仮庁舎と浪江町仮設津島診療所は、二本松市にある
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆9
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
す。1年ごとだけじゃなくて月命日の11日はいつも
遺体捜索をやっています。
これは浪江町役場が作成したものです。今現在は
もう人口が2万を切っています。じつは浪江町とい
うのは DASH 村があったところなんですね。
いまは本当に時間が止まって、ほとんどゴースト
タウン。いま除染作業員が浪江町全体で3200人ほど
入っています。
こ れ が 浪 江 町 の 避 難 状 況 で、 だ い た い 県 内 に
14000人、県外に6400人。
ここで赤字で書いてあるように、原発事故が起き
てから、避難指示が出ましたね、国から。要するに
大熊町と双葉町だけは国と県と東電から連絡があっ
たんです。その他の市町村は、国、県、東電から何
も連絡が来てないんです。自主判断です。ですから
浪江町の場合もどういう判断でいったかというと、
報道により事実確認。テレビを見て。私たち北海道
にいる人間と同じ扱いですよ。たかだか30キロ圏内
の人がみんなそういう扱いを受けていたんですね、
実は。そういうこともメディアはたたきませんね。
そして避難するバスも全部自己手配です。いちば
ん近くに福島交通というのがあるんですけれども、
運転手さんの健康被害に責任がもてないからとバス
を出してくれなかったんですね。どこから出てきた
かというと、小佐野賢治で有名な国際興業社が東京
からバスを出してくれたんです。実際にバスを国と
か県とか東電が手配したのは立地自治体である大熊
町と双葉町だけです。あとの市町村は全部、バスも
自前ですね。
ましてや情報が報道と同じですから、津島地区に
逃げ込んで、3月11日以降、12日から15日までがい
ちばん放射能が流れ込んでいって、濃度の高いとこ
ろでみなさん、15日まで避難生活を送っていらっし
ゃったわけです。こういうふうに渋滞して、津島地
域に向かっていったわけですね。
15日過ぎてはじめて、先ほどの報道で確認して、
こんなところにいたんじゃとんでもないことになる
ということで、二本松の東和地区というところに避
難したわけですね。
渡辺さんも最初は福井県かどっかへ避難したんで
すよね。ですから本当に自分の判断で動かざるを得
なかった。国からの指示、県からの指示、ましてや
援助も何もなしですよ。
この少し赤い地域ですね。これが線量の高いとこ
ろです。要するに線量が高いところに3月12日から
15日まで、みなさん逃げ込んで避難していたという
ことです。
これは去年の2月28日現在ですけれども、和歌山
県以外のすべての都道府県に被災者が避難しており
10 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
ます。北海道にももちろん来ております。
二本松はいま仮設住宅に、11カ所あるんですが、
1400―1500人の方がいらっしゃるということです。
現在役場は、ロードマップといいますか、こうい
う予定で帰ろうかどうしようか悩んでいるところで
すけれども、まだ町長がはっきり宣言してませんの
で、どうなるかわかりません。
ともかく普通の生活がしたいということですよ
ね、みなさん。そして帰るも自由、帰らないのも自
由。そういう空気が本当にあるかはなかなか難しい
ところです。
今は福島県内で放射能の話をすることもちょっと
はばかられるような雰囲気があります。ともかく「帰
ろう」、ともかく「復興」。押しなべて国も県も全部
そんな雰囲気ですね。だから放射線の話なんかをす
ることは、かえって周囲の人からおかしな目でみら
れる可能性があるかもしれないという雰囲気です。
そういう社会的な雰囲気づくりもされているような
気がします。
ただ実際にアンケートをとると、浪江町民の中の
17.6%しか「帰りたい」という意思表明はしていま
せん。これは「帰りたい」という願望ですからね。
「帰ります」でないですから。「帰りたい」の中か
ら帰らない人もまだ出てくると思います。
まちづくりのイメージをいろいろ役場の復興推進
課というところでがんばって立てているんですが、
どうなるのか。私は、来年1年は最低、見届けたい
なあと思っていますけれども。
浪江町「健康白書」から
これが当時の健康保険課の課長で紺野則夫という
んですけど、「健康白書」を作ったというのは、彼
の功績が非常に大なるものがあると思います。超党
派の子ども被災者支援議員連盟というのがありま
す。そういう議員立法の法律が実際にできたんです
が、理念法であって、中身の具体的なことは安倍晋
三さんは一切やってません。その理念を実現するよ
うな施策はそれ以降一切やってません。
それで、国会に呼ばれて、この議員連盟の前で紺
野課長が浪江町の現状をレクチャーしてきたんで
す。そのときの動画です。私が今年の内科学会で発
表した内容です(会報54号に既報=編集部註)。
まだ13万人ほど被災者が避難しているわけですけ
れども、双葉8町村で64000人、そのうち浪江町民
が19000人ということで、まさしく原発事故の被害
の重大性だと思います。
本当にメディアが、もう風化させてますね、被災
のことを。原発事故のことも風化されつつあります。
それで、この「健康白書」で2つ、医学的なデー
タがあるんですけれども、1つは、被災前後の健診
データの比較検討です。もう1つは、国保のレセプ
ト、ほとんどが国民健康保険に入っている方たちで
すから、国保のレセプトデータから町民の健康状態
がどう変化したかということを検討したわけです。
これは1例ですが、血圧とか中性脂肪の、これは
赤が要医療、緑が要指導ですけれども、被災したの
は平成23年(2011年)の3.11ですが、これはその年
の10月位にやった検査。それからこれが翌年の10月
位ということですけれども、血圧も中性脂肪も、コ
レステロールも血糖値も全部悪化しています。健康
診断の結果です。
体重が1キロ増加しているということで、血圧、
空腹時血糖、LDL コレステロール、中性脂肪、肝
機能、すべて有意に上昇しています。
病名としては高血圧、糖尿病、脂質異常症、肝機
能異常が増加していて、男性でより有意です。
これは何が原因でそうなっているかということを
みると、1つは被災前の年齢とか被災前の BMI(体
格指数)
、要するに体重と考えていいですが、それ
が増加したことが、こういう結果をもたらしている
のではなかろうかということです。
食生活調査ではあまり有意な変化は見られなかっ
たんですけれども、睡眠が取れてない、それから運
動量が減ってるということが、この体重増加あるい
はこういう病態がもたらされた原因ではなかろうか
ということです。心筋梗塞、脳卒中の発症リスクが
非常に増えているということです。
「眠れない」ということはやっぱり精神的なスト
レスの裏返しなんですね。それから運動というと、
やっぱり農村地帯でしたから、農業も何もできない
わけで、仮設の中にいるしかないわけですね。ある
いは借り上げ住宅にいても、働くところがなくなっ
てきているわけです。
国保のレセプトからみると、ガンと精神及び行動
の障害、これはほとんど認知症です。それから循環
器系の疾患。これは入院ですね。
外来では、ガンと認知症、循環器系に加えて、内
分泌症、要するに糖尿病です。あと整形外科的な疾
患とか、腎泌尿器疾患が外来では増加しています。
1年後と3年後でみますと、入院医療費ではガン
と認知症と循環器系の疾患が増えている。
外来でみても同じですね。ガンと、栄養及び代謝
疾患というのは糖尿病です。それから循環器系の疾
患。
1年目から3年目にかけては、こうして転々とし
ていたわけですね。プライバシーは全くないし、快
食・快便・快眠なんていうことも望めなかったわけで
す。冷暖房も完備しているようなところへ避難して
いたわけじゃありませんので、仮設住宅とか借り上
げ住宅への入居が決まるまでは転々としていたわけ
ですね。それで医療機関も、慣れない土地で捜すの
がたいへんで、新規発症疾患の発見が非常に遅れた
ということです。
みなさんのお手元に「浪江町の現状と課題」とい
う資料があると思います。要介護認定者数がどんど
ん増えていっています。
浪江町では、成人病はともかくとして、生涯にわ
たる放射線被曝にたいする健康不安にたいして、検
診体制と医療費無料化ということを国に対して訴え
てきているんですけれども、残念ながら双葉8町村
でまとまって行動できていない。被爆者援護法と同
等の法整備ということを浪江町では要望しているん
ですが、国は全然耳を貸さないということですね。
それで私もそうですけれども、全国でリタイアし
た60歳以上のドクターは、もしお子さんがたに手が
かからないんだったら福島に来て働いてもいいんじ
ゃないかなというのが、私の個人的な見解なんです。
先ほどの紺野課長が「健康白書」の終わりに「せ
いいっぱい、その人らしく心豊かに人生を送りたい。
そのための健康を保持したい」と書いているんです
けど、本当にその通りなんですね。
チェルノブイリの場合、そして放射線
管理区域に住めと国は言う
チェルノブイリのことですが、先ほども話しまし
たが、矢ヶ崎先生は、モニタリングポスト、国の作
ったものは実際の半分の表示だと。いま年間20mSv
にしてあげて帰そうとしているわけですね。それで、
土壌汚染が、チェルノブイリ法というのは、国の法
律ですから。こういうふうに内部被曝、外部被曝、
土壌の被曝も考えて、5mSv 以上からは移住義務、
どんどん移住ですね。1から5は移住の権利は本人
の選択です。0.5から1は管理強化。健康診断その
他でやっていくということです。日本と全然違いま
す。日本は20mSv のところに帰そうとしているわ
けですから。
ですから、放射線管理区域、病院にいくと、レン
トゲンや CT の撮影をするところに、「放射線管理
区域。無用な立ち入りは禁ずる 院長」という表示
が出ておりますが、あの「放射線管理区域」という
のは、3カ月で1.3、年間にすると5.2mSv。それか
ら平方メートル当たり4万ベクレル。こういう定義
があるわけですね。それ以上のところに住めという
んですよ。
私は循環器内科ですから心カテというのをやりま
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆11
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
す。あれは腕から管を入れて心臓の筋肉を養ってい
る血管を造影する。あれは結構放射線を浴びるんで
すね。ましてや風船を入れて膨らますというと、1
回に16mSv ぐらい浴びるんですけれども、あれは
外部被曝のみです。私たちはプロテクターをつけて
います。場合によってはゴーグルもかけますし。放
射線も、最近の進歩している病院では、患者さんの
台を倒したりするときに鉛ののれんみたいのが垂れ
下がるようになっていて、ドクターや看護師さんの
被曝をできるだけ低減する工夫をしております。
ですからそういうところにプロテクターをつけて
入っていくのに、20mSv ですよ。20mSv のところ
へ帰れということは、「プロテクターをつけて生活
しろ」といってるのと同じですよ。しかもプロテク
ターをつけろとは言ってませんね。
再度申しますけど、恐ろしいのは内部被曝です。
ですから、ホールボディカウンタというのはあれは
ガンマ線しか測れませんから、アルファ線、ベータ
線の放射性物質はまた別のことです。
福島原発事故は防げた!
福島原発事故というのは防げたんですね。2008年
当時に、東電自体が、15.7mの津波が起こるという
のは想定していたんですよ。だけども当時の武藤栄
原子力立地副本部長と吉田昌郎第一原発の所長で、
なんか英雄扱いされていますが、彼らが握りつぶし
たんですね、この15.7mを。そののち、2010年から
吉田氏自身が第一原発に赴任しているわけです。
さらに腹が立つのは、その当時、原発安全審査課
長を務めていた本部和彦氏、いま大成建設の常務取
締役ですね。何をやってるかというと、除染を一手
に引き受けています。双葉8町村の除染の、大手の
ゼネコンで筆頭は大成建設です。そこの常務取締役
が当時の原発の安全審査課長だったわけですね。
そのあとを継いだ平野さんという人は、いま中国
電力の常務取締役です。これがいわゆる原子力村と
いうものの実態ですね。興味のある方はこの本(「原
発と大津波 警告を葬った人々」添田孝史著、岩波
新書)を読んでください。
福島県の医療の現状・問題点
過疎過密の人口・社会情勢の変化が、とりわけ震
災、原発事故後急速に進行しております。医療技術
職の絶対的な不足。ドクターだけでいうと、47都道
府県の中で、最下位は沖縄なんですけれども、その
次が福島です。人材不足によって結果として医療そ
れから福祉の稼働ベッド数が絶対的に不足していま
12 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
す。
それから、療養担当規則に必要以上に規制され萎
縮した医療現場にびっくりしましたね。札幌で普通
に私たちが検査の指示を出しますね、新患が来て。
福島県では問答無用で査定されます。全然理解でき
ません。僕は逆に考えていたんですね。北海道でこ
のぐらいで検査したら検査し過ぎだと怒られるけれ
ども、福島県は原発事故が起きたんだから少し大目
に見てくれるんでないかと思って検査指示を出した
んですね。そうしたら関根先生から「先生、検査が
多すぎる」と注意を受けたんですね。だけどそれは
札幌ではごく当たり前に通っている検査ですよ。福
島県の伝統なのかどうか、福島県の医師会の重鎮に
聞いてみたいと思ってるんですが、本当に変ですね。
ものすごく萎縮しています。
それから病病連携、病診連携が全く不十分で、救
急医療の現場で顕著です。だから消防士さんがかわ
いそうですね。浪江町で急患が発生して送るにも、
南相馬市にかけたりいわき市にかけたり、もうあっ
ちこっちに声をかけて何時間もかかって連れていく
というのが現状ですね。
住民全部がそうだというわけじゃありませんけれ
ども、もうウツ状態なんてものじゃないですね。も
う本当にやる気を失いかねないような状況です。
被災後も高齢化が進んでいて、認知症高齢者が増
加しています。それから若年者、壮年者で単身の方、
独身の方はやっぱりギャンブルだとかアルコール依
存の方も結構目につきます。疾病そのものの管理に
たいしてもやや投げやりな傾向がみられます。
要するに、国の非科学的な地域区分で賠償額が異
なるものですから、家族間では、たとえば子供さん
がいらっしゃる家庭では絶対放射能のことを気にし
ますし、そうすると2世帯、3世帯住宅は崩壊して
いるわけですね。それが当たり前だったわけですか
ら。それが崩壊して、今度は同じ町内でも、ここの
線からむこうはこういう制限で、こっちは帰宅困難
で、賠償金額が全然違うわけですから、地域の中で
分断が起こります。
そして今度は転居先で、福島県内で分断が起こる
んですね。どこの都市という固有名詞は出せません
が、引っ越しして新しい土地を買って家を建てて、
そして近所に引っ越しのあいさつにいった。朝起き
て玄関の前に出たら、きのうあいさつで配ったもの
が全部返されていた。そういう話を聞きました。患
者さんからも聞きますし。ですから本当に、福島県
内が至るところで分断されている。
これは私たち自身が自分たちに向かって言わなき
ゃならないことですが、要するに原発政策を進めて
きたのは自民党なんですが、民主党もだらしなかっ
たですけれども、どうして選挙で大勝させてしまっ
たんだろうということですね。なんで「帰ろう、帰
ろう」
、復興が「進んでる、進んでる」と、メディ
アはそういうことしか言わないのはなぜなんだろう
と。国民を屈服させるメカニズムについて正面から
議論しているメディアはほとんどないと思います。
ともかく中国、韓国といった近隣諸国ばかりヒステ
リックに攻撃している政府、ともすればメディアは
そればっかり取り上げる。
原発再稼働は絶対に許すべきではない
が
再稼働を許す根拠になっている歴史的な3つの裁
判が私はあると思うんですが、1つは安保条約の問
題を問うた砂川事件で、このときは「統治行為論」、
統治行為というのは非常に高いレベルの行為だか
ら、違憲かどうかの判断を差し控えると。要するに
逃げるんですね、最高裁判所は。
2つ目が四国の伊方原発で、これは非常に高度な
エネルギー政策の裁量が必要だから、これも地域住
民の意見で決めるんではなくて、国がエネルギーを
判断して決めるべきだという。これも逃げですね。
3つ目にいま沖縄の基地が非常に大きな問題で米
兵のいろんな事件がありますけれども、これは厚木
だったと思いますが、米軍の飛行訓練の差し止めが
できないと。これは条約で保障された第三者の行為
であり、
「第三者行為論」というんですが、ともか
く三権分立の中の一権である司法が全部、日本国憲
法にもとづいて判断していないということですね。
(図8を示して)左が理想的なんですけれども、い
まの日本の現状というのは右側じゃないでしょうか
ね。憲法判断をしないんですね。日米安保条約が上
にあって、日本国憲法を含む国内法が下にあるんで
すね。
どうしてそれがわかるかというと、大気汚染防止
法、放射性物質に弱い。土壌汚染の対策法、放射性
物質を除く。水質汚濁防止法、放射性物質による適
用はしない。さっきの最高裁判所の考え方とみんな
同じですよ。
そしてこの放射性物質をどう扱うのかというと、
環境基本法の中で、
「原子力基本法その他の関係法
律で定める」と書いてあるんですが、書いてあるも
のは1つもありません。原子力基本法の中にも書い
てません。何を根拠に放射線の災害にたいして対応
するか。何もないということです。
映画監督のオリバー・ストーンが、「日本は偉大な
文化をもつ国だけれども、第2次世界大戦後の70年
をみて、自ら本当に何かを成し遂げようとした日本
図8 日本の二つの法体系
の政治家や首相を私はただの1人も知らない。ドイ
ツには存在したような高潔な政治家を1人も知らな
い」と。まさにその通りですね。
私はもうちょっと激しくて、やはり第2次世界大
戦でいちばん責任を取るべき人が取らなかったとい
うのがいちばん問題だろうと思います。陛下という
人ですね。それから日本人は責任を取らなくなった
んですよ。最高責任者が責任を取らないわけですか
ら、以降70年間、だれも責任を取ってませんよ。
明日は選挙ですが、僕は安倍晋三さんは病気だと
思っています、精神医学的に。じいさんを愛してい
るみたいですけれども、自己愛性パーソナリティ障
害だと思います。人の目を見ないでしゃべるんです
ね、あの人は。国会答弁を見ていてもそうですよね。
まじめな対応をしてないですよね。あれは人格形成
障害だろうと思います。そういうリーダーのもとで、
私たちのすべてが決められていくというのは、非常
にさびしいことですね。残念でなりません。
ご清聴、ありがとうございました。(拍手)
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆13
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
質
疑
【質問】先ほど、査定をされるという話がありまし
た。具体的に何がだめといわれるんですか。
峯廻:外来で新患が来ますよね。そしたら私たちは
検血一般、検尿、腎機能、肝機能、それから脂質
とかの検査をすると思うんですが、私は関根先生
から注意されたんですよ。関根先生が同級生の保
険の審査委員に問い合わせてくれたんですね。そ
したら外来で初診者であっても項目数が10項目以
上になると査定の対象にするというんです。論拠
は何もわからないんです。なぜなのか。だから私
は工夫してセット検査を組み替えてつくって今現
在やっています。
【質問】現地で、モニタリングポストのデータを捨
てたという報道を、ちょっとだけ見たことがあるん
です。被曝履歴を推定するのに重要なモニタリング
ポストのデータを捨てるということをお聞きになっ
ておられるでしょうか。
峯廻:具体的には私はその件についてはあまり詳細
に把握できておりません。ただ、私が毎週3回通
う運転手さん、同じ方がずっとやってくれている
んですけれども、元は浪江町役場の職員で、震災
当時、防災係長をしていた方なんですね。ですか
らそういう情報は非常に詳しいのですが、矢ヶ崎
先生と同じで、浪江町の方は、国の言うこと、県
の言うこと、東電の発表すること、モニタリング
ポストも含めて信頼してないと思います。
ですから、先ほど NHK の七沢潔さんの話をし
ましたけど、彼らは2011年3月14日から現地に入
って、空間線量とか土壌も全部モニターしてるん
ですね。いまはそれが NPO 法人になっていまし
て、そこで発表した地図もございます。それと国
が作っているモニタリングポストとの開きという
のは矢ヶ崎先生がおっしゃる通り倍ぐらいの開き
があります。
ですから、そんな少なく出るようなモニタリン
グポストのデータを隠す必要はないんじゃないで
しょうか。
【質問】私はいま厚別区もみじ台で診療しているん
ですが、5年前の3月の末に私のところに、先生が
今おっしゃった地域から、北海道へ2人目というこ
とで、移住避難をしてきた患者さんがやってきまし
て、当時はただ経過をみていただけだったんですけ
14 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
応
答
れども、やはりさまざまな基礎疾患が悪化。循環器
でしたから冠動脈インターベンション、ペースメー
カー、そしてメンタルの悪化から、救急対応をした
り、…その方の場合、いろいろなことを経験しなが
ら、東電に対して訴訟活動を始めていると伺ったん
ですが、現地のほうでは東電にたいする裁判闘争と
いうのはどのように進められているんでしょうか。
峯廻:それもですね、メディアはほとんど取り上げ
てないですね。ですから実際に原告訴訟団に入っ
ている人からでないと話を伺えないと思います。
テレビも取り上げませんし、新聞も取り上げませ
ん。福島にいてもそういう情報を得ることは非常
に難しいですね。ましてや役場の広報紙にそうい
うものは一切載りません。
【質問】最近話題になっている「ふるさと納税制
度」をみても、飯舘村のように自分のところではな
くて他市町村のものを使いながら「ふるさと納税制
度」の支援をお願いしているところもありますけれ
ども、自分のところの農作物を使って、ぜひ協力し
てほしいというようなところもいくつか見られてき
ましたが、実際問題として、除染をしたあとで、そ
こで穫られている農作物などについて、地元ではど
のように受け止められていますか。
峯廻:実は、私の住んでいる二本松でも、水道水を
飲まない人がほとんどです。スーパーマーケット
でペットボトルの水を買ってきて、私も、自分の
ためではなくて妻のために、そういう水を使って
います。
福島県産は、スーパーにありますが、いちばん
買わないのは福島県の人でないでしょうか。だか
ら、やれ「復興だ。帰ろう、帰ろう」と言ってる
人の中には、試作して、測定して、ほかに売ると
いうことに生きがいを感じてがんばっていらっし
ゃる方も中にはいます。ですけれども、スーパー
にいって私はときどきモニタリングするんです
が、福島県産を買わないのは福島の人だと思いま
す。ですから風評被害といっていいのかどうか。
ともかく福島の方たちは、国と県と東電の言うこ
とは一切信用していないというのが事実です。
モニタリングポストの数字も毎日テレビに出ま
す。ですが、とくに浪江町の方はどなたも信頼し
てないんじゃないでしょうか。浪江町の場合は、
私のいる診療所のそばにもイノシシ用の檻があり
ますけれども、時として捕まるときはすごい大き
なやつが5匹ぐらい団体で、家族で捕まる場合が
あるんです。全部肉は測定しているはずです。食
料に回すということは皆無です。全部処分してい
るというのが事実だと思います。実際に数も増え
てると思います。
ただ、そういう生態系で、とくにサルなんかを
見ると、京都大学の霊長類研究所の先生方でも来
て、サルを捕まえて遺伝子でも検査してくれない
かなあと思っているんですけど、サルもおそらく
は流産とか死産とか奇形児とかいっぱい生まれて
いるんじゃないかと思うんですが、何せ山の中に
行かないとわからないものですから。
川の中の魚については、弘前大学の先生とか、
生物関連でそういう測定を継続的にがんばってや
っていらっしゃる先生方はいますけれども。
ホールボディでもそうなんですが、南相馬市立
病院で、東大から坪倉政治という医師が来て、東
大の理学系研究科の早野龍五教授という人がい
て、世界的な雑誌に出しているんですね。福島県
が受けた放射線の量というのはそんなに心配した
ものでないと。
これはランセットとか JAMA とかいう世界的
に名の通った雑誌に投稿していますので、知らな
い外国のドクターが見たら、ああ本当に大したこ
とないんだと思うかもしれませんけれども、現地
にいる人は決してそんなことはないと思います。
私は放射線物理学の専門家でないからわかりませ
んが、検出限界以下というのは、その機械の感度
で、
それ以下は検出限界以下ということですから、
被災前の状況に比べてどのぐらいの数値かじゃな
いですから、検出限界以下イコール全く心配ない
ということではないと思うんですが、西尾先生、
どうですか、そのへん。
西尾正道(北海道がんセンター名誉院長)
:全くそ
の通りで、ホールボディカウンタの場合は300ベ
クレル以上でなければほとんど検出できないんで
すね。ほとんど意味がない、今の時期。事故直後
は意味があるんですよ。だから北海道がんセンタ
ーでも、7月から3カ月間測定したんだけど、も
う半年も経ってますから、北海道に逃げ帰ってき
た人なんかは、全被曝量の1%から2%しか出な
いんですね。それでも出てましたよ、しっかり。
ほとんど意味がないから、3か月でやめたんです
けれども。要するに今測って出ないから安心だな
んて、とんでもない話です。
あと、
モニタリングポストの話は、有名な話で、
最初アルファ通信のモニタリングポストを使って
いた。それは米軍が使っている国際標準の機械で
す。それが日本政府が低くごまかして数値を出せ
という圧力をかけたんですが、アルファ通信の社
長が断ったんですね、そんなことはできないと。
といったら政府が契約を解除して、けっきょく富
士電機という国産のメーカーに切り換えた。アル
ファ通信は1年後に会社がつぶれちゃったんです。
僕は毎月福島に行くたびに、病院で使ってる測
定器を、これは医学物理士が較正して、ちゃんと
正確な線量計を持って行って測るんですけれど
も、モニタリングポストと比較すると、大体4割
は確実に減っています。ですから大体1.5倍から
2倍というふうに考えたほうがいい。そのぐらい
モニタリング自身がインチキしている。それは本
当にとんでもないウソだらけの世界ですね。
今いろんな訴訟も起こっているけど、僕は印象
としてはたぶん因果関係を証明するのは非常に難
しい。というのは放射線防護学自体がとんでもな
いウソだらけで構築されているからです。
モニタリングポストの話もそうですけど、すべ
て外部被曝だけを議論していますけど、実はいち
ばんの人体への影響というのは、いわゆる気体中
の放射線の量を測ってどうのこうのとかいう議論
じゃなくて、実際には空気中に放射線微粒子が飛
散しているわけですね。だから雨が降ったりする
と減ったり増えたりするわけですね。結局、吸い
込んでその微粒子が、サイズが大きければ鼻に出
てくるわけです。鼻にベッタリつくから鼻血にも
つながるわけです。
それから PM2.5が問題になるのは、そのサイ
ズから大体、肺胞に入っちゃう。外に出てこない。
そして肺に沈着するから問題になるんです。さら
にもっと小さいナノのレベルになると、肺胞から
血中に入っちゃうんですね。それで全身に、臓器
親和性のあるところにずうっと沈着してそこで放
射線を出す。
最終的には、長寿命の放射性元素体内取り込み
症候群、これですべての人体影響、ガンも含めた
慢性疾患のすべてが説明がつくんです。こういう
概念というのはほとんど想定外なんです。要する
に微粒子としての放射線が、実際にああいう事故
の場合は空気中に飛んじゃってあるんだという、
そういうことは全く想定外なんで、人体影響をほ
とんど解明できない。しかも吸収線量と実効線量
というのは全く関係ない話なんです。放射線とい
うのは当たった細胞にしか基本的には影響がない
んですよ。ところが当たってないようなところも
含めて全身化換算した実効線量というのは、ほと
んど健康障害と相関しない。そういうことをきち
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆15
総会記念講演
東日本大震災・フクシマ第一原発事故5年間の軌跡─浪江町 町民の場合(要旨)
んと把握しないと、この問題は全然説明がつかな
いと思います。
【質問】ホールボディカウンタというのは、先ほど
いったようにアルファ線は検知できないということ
で、内部被曝についてはホールボディカウンタでも
確認できない、それは外に出てこないから確認でき
ないというふうに考えてよろしいということでよろ
しいでしょうか。
西尾:全くできません。だから倍合わせするしかな
い。だからアルファ線、ベータ線は倍合わせ。そ
れからガンマ線に関しては、精度のいいものだっ
たら尿測定をすると、だいたいホールボディカウ
ンタの60倍から100倍の精度で出ます。
峯廻:それと、放射線障害でよく問題になるのはガ
ンですよね。だけど西尾先生が今おっしゃったよ
うに、慢性疾患も全部含めて考えなきゃならない
ということです。だからもしかしたら心臓の病気、
脳卒中、そういう我々の社会でありふれている病
気も、放射線障害の一つとして、全身的に考えて
いかなきゃいけないということで、事ひとつガン
だけではないということですね。
それと、ガン一つにしても、それを科学的に放
射線のせいだというふうに立証せよといったら、
それこそ10年20年、国民総力を挙げてデータを積
み重ねないとできませんよ。そんな立証責任じゃ
なくて、たとえば刑事事件の場合は「疑わしきは
罰せず」という言葉がありますが、私は健康障害
に関しては逆で、
「疑わしきは罰する」という形
でいかないと、立証せよといわれたって立証なん
かできっこないですよ。
【質問】私の娘夫婦が福島に住んでいて、孫も3人
いるので、じじばばの立場になると、福島を離れて
戻ってきてほしいと思っているんですけど、病院に
2人とも勤めているので、病院の中で去るものは去
っていく、子供が小さいからと去っていって、残っ
ている医者たちが当直その他で厳しくなるというこ
とで、帰還をいわれていますけど、病院がなければ
住民は戻れない。そういう中で困難を抱えている先
生は本当に尊敬しているんですけど、そのへんの厳
しい現状についてもう少しお話しいただけますか。
峯廻:厳しさは、その先生のふところの広さによっ
て違うんですね。私が二本松市内のある病院に患
者さんを紹介して入院させてもらおうと思うと、
そこの病院の副院長が、
「あなたたちが避難して
16 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
きたおかげで、私は1.5倍働いている」と、それ
を患者さんに言うんですね。そしたら私が紹介し
た患者さんが戻ってきて泣くわけですよ。だけど
私はその医者の悪口は言いません。それは真実だ
ろうと思います。
それから、いわき市にはいわき市民病院という、
昔から循環器内科では学会でずうっと発表してき
た優秀なスタッフがいた病院ですけれども、1.5
倍どころか、2倍3倍働いているんじゃないかな
と思います。
で、さっき地域の分断といいましたが、待合室
で浪江町の人はいびられるんですね。「あんたた
ちが来たおかげで待ち時間が2倍3倍になった」
と言われるらしいんですよ。ですから本当に今の
福島県の医療の状況というのは、ドクターだけじ
ゃなくて、看護師さん、それから介護職の方も含
めて、みなさん本当にいま残ってやられている方
は一所懸命働いているというふうに考えていま
す。だから本当に大変だろうなと思います。
ただ私のように、診療所から患者を送る側にと
っては、非常に病病連携とか病診連携が難しいの
で、どちらも大変じゃないでしょうか。
【質問】北海道の医療人というか、実際に現地に来
て診療をしてほしいという要望があると思うんです
が、そういうことのほかに何か、われわれが支援で
きることはありませんか。
峯廻:できることというのは、先ほどもいろんな原
発の訴訟の話が出てましたけれども、そういう情
報を自分たちで丹念に捜して、今はインターネッ
トの世界ですから、勉強していただく。それで、
そういう活動を支援していただく。原発訴訟団は
弁護士の先生ががんばって、河合弘之先生を先頭
に全国的に原発訴訟をやっていますが、そういう
動きに目を向けていただいて、できればそういう
活動には、単に金銭的な問題だけでなくて、精神
的な支援も含めて激励していただければなあと考
えております。
西尾:僕は最近こう考えています。今のままだった
ら果てしなく健康被害というのは、将来出てくる。
これは放射線だけじゃなくて、化学物質、農薬、
遺伝子組み換え食品も含めてトータルに人間の遺
伝子を傷つけるファクターの中で健康が害される
というふうに思っているんですけれども、放射線
に関していえば、いわゆる気体中の放射線量を測
るというところから出発するのではなくて、放射
性微粒子みたいなものを、食べさせるなり、かが
すなりして体内に入れちゃう。そういう動物実験
をして、
それでガンになったり死んだら解剖して、
たとえばガンになるラットとならないラットをつ
くれば、そういうものをかがしたもののほうが発
がんのリスクが高かったら、それは放射線のせい
だろうということが言えますね。
それから、
解剖して、その中で先ほどのような、
アルファ線のようなものが出てきますから。ガン
マ線もそうです。そういうものが明らかに細胞に
当たっていると。それでガンになったという証明
ができるわけですね。ところがこういう実験とい
うのは一切してないんです、世界中で。
ICRP(国際放射線防護委員会)が1950年にで
きましたが、52年には内部被曝の委員会をつぶし
ちゃったわけです。それ以来、内部被曝は一切不
問に付す。研究させない。日本でもたとえば放医
研なんかで内部被曝を研究しようと思ったら、次
の年は研究費をとられちゃう。ですからまともな
研究者は結局やめていっちゃうわけですね。
だから内部被曝のデータというのはきちっと動
物実験されてないんですよ。今は技術的にはでき
る時代ですから。医者が本当に ICRP のあのウソ
だらけの放射線防護学の催眠術から目を覚まし
て、本気になって研究するということをしていけ
ば、この人体影響に関してはもうちょっと科学的
に解明できるだろうと思います。
僕が関係しているいわき放射能市民測定室「た
らちね」では去年からストロンチウムとトリチウ
ムのベータ線を測り出しました。核実験のときに
出ていた海水中のトリチウムのだいたい24倍ぐら
いのベータ線が実際には出ている。このままでい
くと本当に大変です。
それから、原発は事故を起こさなくても、稼働
させるだけで膨大なトリチウムを出してるわけで
すね。実際に原発が立地しているところの周辺の、
世界中の子供たちの健康被害というのはあるわけ
ですね。原因はトリチウムなんです。
トリチウムというのはエネルギーが低いから心
配ないというのは大ウソで、実際にはほとんど
DNA に取り込まれる。DNA は二重螺旋構造の4
つの塩基は、じつは水素結合によってつながって
いるんですね。だからもろに水素のかわりにトリ
チウムが入っていきますから、そこでベータ線を
出してるわけですから、DNA の4つの塩基のと
ころにベータ線が当たるという構造になりますか
ら、医学的には説明がつくんですね。こういうも
のもきちんと解明していかなければ本当に原子力
政策を進めるためにというだけで、学問が使われ
ているということに対して対抗できないし、医者
が問題意識をもう少し正確に持つということから
出発すべきだなと僕は思います。
峯廻:東電も、トリチウムを海水に出していいかど
うかということを漁業協同組合に掛け合っている
んですね。とんでもない話で、幸いにしていわき
市の小名浜漁業協同組合は断りましたけれども、
あんなものを海に放出されたらとんでもないこと
になりますね。
西尾先生のような専門家が札幌にはいらっしゃ
るわけですから、ぜひみなさんも、西尾先生に教
えていただいて、また座長の松崎道幸先生にも教
えていただいて、自分の知識を深めて、今後の福
島県の推移を見守っていただきたいと考えており
ます。
〈文責は編集部〉
講演会の様子
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆17
原水爆禁止世界大会2016
原水爆禁止世界大会2016に参加して
三浦 宗也
このたびは,貴重な機会を与えて頂き,有難うご
ざいました。
現地で,8月6日の広島の雰囲気を感じ,戦争や
平和について深く考えることができ,それを団員の
方々と共有することができました。また,印象的だ
ったことは,同世代や下の世代の人々の中には,普
段から戦争・平和という大きなテーマに対して正面
から真摯に向き合っている人がいるということで,
彼らに驚きと尊敬の念を禁じ得ませんでした。
今回の経験を契機として,今後もこのような活動
にたずさわることができればと思います。
本当に有難うございました。
(勤医協中央病院初期研修医)
は歴史、宗教、政治、物理などの様々な知識を基に
多方面から分析することが必要である。しかし、知
識もないままにただ自分の言いたいことだけ言い、
他者の考えを尊重しない参加者が散見された。自分
と異なる意見を排除し、なんとなく同調する態度が
戦争を引き起こす原因の一端になり得るという考え
にはたどり着かなかったのだろうか?私は決して核
賛成派ではないが、様々な意見を集約しまとめてい
くことが肝要であると感じた。また、少人数討論に
おいても何のアセスメントもないままにただ感想を
述べて「平和、平和」と言っている様は滑稽であり、
討論や意見交換の意義について疑問を禁じ得なかっ
た。
(勤医協中央病院初期研修医)
原水爆禁止世界大会に参加して
伊志嶺 篤
原水爆禁止世界大会に参加して
鈴木 悠介
今回私は、広島で開催された原水爆禁止世界大会
に参加する機会を幸運にも得ることができた。自分
が今まで学んできた歴史を再確認し再認識するとい
う意味で貴重な経験になると考えた。実際に会に参
加する中で、戦争が教科書の中のものになりつつあ
る現代において、被爆者のお話を直接聞くことがで
きたのはとても良い経験であった。歴史という大き
な枠組みではなく、戦争が個人個人にどのような影
響を与えたのかも学ぶことができた。そこにはそれ
ぞれの日常があり、一人一人の日常の中で原爆投下
がどのように影響が与えたかということを知ること
ができた。また、原爆ドームや平和記念資料館など
の様々な施設に足を運んでみて、戦争が、原爆がど
のように世界に影響を与えたのかということを客観
的に知ることもできた。
しかしある一面では、自分が出席した限りでは気
になる点が存在した。個人的には、核について客観
的、論理的評価を行いどのように行動していけばよ
いか考えることが重要だと考えている。そのために
18 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
原水禁世界大会に初めて参加した。今回北海道か
らは146人の参加で、若い人の参加が多いのが印象
的だった。東区代表団も総勢18人中10 ~ 20代が6
割を超える11人とフレッシュな顔ぶれ。団長を任さ
れたが、しっかりした事務局長がついていたおかげ
で役割としては結団式でのあいさつぐらいだった。
広島大会へは世界各地から5,500人が参加。オバ
マ大統領がアメリカの現役大統領として初めて広島
を訪れた年の世界大会とあって、核廃絶に対する機
運が一層盛り上がった大会だったように思う。折し
もこの4月に「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴え
る核兵器廃絶国際署名(ヒバクシャ国際署名)」が
呼びかけられており、開会総会では各地での署名の
取り組みや協力の依頼が述べられた。オバマ大統領
は、広島での演説で「核を保有する国は、勇気を持
って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求し
なければならない」と述べた。しかし、そのすぐ後
に「私の生きている間にこの目標は実現できないか
もしれない」とも発言している。一方で被爆者の平
均年齢は80歳を超え、被爆者が切望する核兵器の廃
絶はまさに待ったなしの課題となっている。
2日目の夜に「第1回全国被爆2・3世交流と連
帯の夕べ」という企画に参加した。参加者のほとん
原水爆禁止世界大会2016
どが被爆2世・3世というややディープな会で、初
爆国である日本政府にもっと訴えかけなくてはいけ
め少し戸惑ったが、京都の被爆2世の会の方から、
ない」という海外の参加者の発言が胸に染み、まだ
「アンケートを取ったところ、被爆2世の半数以上
まだやるべきことがたくさんあるとの思いを胸に帰
は親から直接被爆者であると聞いたことがない」と
路についた。
のお話があり、あまりにも辛い体験であったことや
(勤医協伏古10条クリニック)
我が子に対する差別など
を配慮する気持ちから肉
親にも自らの被爆体験を
語ることのできなかった
被爆者の苦しみにあらた
めてショックを受けた。
北海道の様子を聞かれて
ほとんど何も答えられ
ず、日頃の不勉強も反省
させられた。
大会でも述べられてい
たが、オバマ大統領が検
討している核兵器先制不
使用に、あろうことか安
倍首相が「抑止力を弱め
る」として反対の意向を
伝えていたとのことであ
る。先に述べたヒバクシ
ャ国際署名に関連して、
「核保有国に対する訴え 札幌市東区代表団 前列左から2番目が筆者。後列右から4番目が鈴木先生、5番目は三浦先生
はもちろんであるが、被
映画「日本と原発」
を観て考えたこと
勤医協中央病院内科 伊古田 明美
2011年3月11日東京電力福島第1原子力発電所事
故が起こってから原子力について考える機会が増え
ました。あれから5年経ちましたが状況は厳しさを
増しています。
⑴ 土地の消滅
映画を観終わって最も印象に残ったのは「有史以
来の土地が消滅した」というショッキングな言葉で
した。地殻変動でもないのに半径数十キロメートル
にわたって人、物、集落、社会、経済、文化、流通
などの空白地帯となったわけです。その原因は風水
害や土砂崩れ・地震・噴火などの自然災害ではなく、
原発の過酷事故と言う明らかな人災であります。現
代人の手で国土が消されたのです。もとより宮城・
福島・茨城県にまたがる太平洋沿岸地域は温暖で四
季折々の風物豊かに山海の幸に恵まれ、いにしえよ
り栄えていた土地柄でした。綿々と続く人々の暮ら
しのいとなみが伝統と文化を作り上げ、磨かれてき
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆19
ました。それが原発の水素爆発と放射性物質の放出
を境に一瞬にして何もかも消滅しました。東京電力
は当時の人々の命と暮らしばかりではなく、何千年
もの歴史をも奪ってしまったのです。
そしてその後35日間もの間、津波災害の救出活動
すら不可能となりました。原発事故さえなければ救
えた命があったかもしれないと思うととても悔しい
思いです。浜辺に打ち上げられたご遺体にすら近づ
けず「見殺し」にするしかなかった、命もご遺体も
守れないなどあってはならないことだと強く思いま
した。
時間の止まった街の現在の様子を取材したTV番
組が放送されました。イノシシの群れが無人の家屋
や里山に住み着いている様子が映り、あたかも野生
の生命活動には影響がないかのような解説でした
が、その陰にある動物の死骸についての調査はあり
ませんでした。
⑵ 健康被害
事故で放出されたセシウム137は広島型原爆168発
分に相当する量であることにも驚きました。広島・
長崎の被爆者健康調査は71年を経て今も続いていま
す。すでに5年間で原発作業員の甲状腺癌リスクは
5倍に、小児甲状腺がん発生も有意に高率であるこ
とが報告されています。放射性物質は遺伝子の損傷
と言う形であらゆる細胞に影響を与えます。どの細
胞にどのような影響が出るのか、まだ全貌は解って
いません。また急性障害ばかりではなく晩発性の臓
器機能障害と発癌、そして遺伝子の変化は世代を超
えて続いていきます。放射性障害に対する治療法も
私たち人類は持ち合わせていません。原発から出さ
れる廃棄物処理も何万年もの期間が必要で閉じ込め
には限界がある中、健康被害についても未解明のま
ま、それでも政府は他国に原発を売り歩こうとし
ています。日本は武力による被爆、
「平和利用」に
よる被曝を3度も経験しました。今まさに核兵器
NO、原発 NO と世界に発信する責務があるのでは
ないかと思います。
⑶ 社会構造
最近の出来事です。9月9日九州電力は三反園(み
たぞの)鹿児島県知事の川内原発即時停止再要請を
拒否したと報道されました。2回の要請に対して2
回とも拒否したわけです。ひとたび国が再稼働を許
可すれば地元の意思は無視しても法的問題はない仕
組みです。しかしひとたび事故が起これば福島と同
じように何千年の歴史と土地が消滅します。地元の
人々の意思はなぜ反映されないのでしょうか。核の
暴走を止める方法はありません。原子力規制委員会
の基準はクリアしてもそれは安全基準ではありませ
ん。そもそも福島第一原発の事故原因は究明されて
20 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
いません。高線量のため調査困難で検証不能なので
す。規制基準そのものが不透明です。
また9月10日には北朝鮮が5回目の核実験成功の
報道がありました。だから日本の国防が重要で「核」
は必要なのだと言う世論が作られようとしていま
す。原発とは別物だとはいうものの「核」を扱う事
では同じです。原発技術は核兵器応用につながる可
能性をふくむものです。武力としての利用は絶対に
あってはならないことですが、平和利用だとしても
一歩間違えば生命活動の破壊につながる、人類の手
におえないものであると思われます。核の廃絶に向
けての世界的な運動が今こそ必要だと思いました。
近年の日本は経済最優先、財界優遇の政策をとっ
ていますがその陰には社会的弱者切り捨ての現実が
あります。少子化や若年層の貧困に対しても無策で
す。原発・核武装・国防と言う名の武力行使・エネル
ギー政策・格差社会・消費税増税・マイナンバー導入
など様々な問題が渦巻き、「生きにくい社会」を形
成しているように見えます。原発の問題はそれらと
根っこは同じという気がしてなりません。時代を見
据えながら、医療人として人々が安全に平和に過ご
せる社会をめざして職場や地域と連帯していこうと
強く思いました。
◇ ◇ ◇
映画「日本と原発」(河合弘之監督、2014年)は amazon
で DVD の購入が可能です。税込4104円。
〈エッセイのコーナー〉
「美味しんぼ」の鼻血描写
佐藤 利夫
2年ほど前、週刊ビッグコミックスピリッツ(小
学館刊)の連載「美味しんぼ」(雁屋哲 作、花咲
アキラ 画)で、いわゆる「鼻血描写」が騒動にな
ったことがあった。話題となった描写は、東日本大
震災後の福島県の状況を取材して描いた「福島の真
実」篇(全24回)の「その22」(2014年4月28日発
売同誌22・23号)に登場した場面である。新聞記者
である主人公が福島第一原子力発電所の構内を2013
年4月に見学して東京へ戻った後、取材の疲労感と
ともに「鼻血」が出た、という内容だ。この描写に
対する騒動は、さまざまなメディアで専門家も交え
て議論百出の様相を呈していた。専門家の中には北
海道医師会の会員もおられ、最近になり本誌へ関連
する投稿1)を寄せている。
騒動の当初私は、そうした報道やネット世論を眺
めて
「そんな大騒ぎになるような内容なのだろうか」
という思いを抱いた。当時、作者は自身のブログで
次のように述べていた。
「私は鼻血について書く時
に、当然ある程度の反発は折り込み済みだったが、
ここまで騒ぎになるとは思わなかった」
「(中略)
『美
味しんぼ』福島篇は、まだ、その23、その24と続く」
「その23、特にその24ではもっとはっきりとしたこ
とを言っているので、鼻血ごときで騒いでいる人た
ちは、発狂するかも知れない」
(2014年5月4日)
2)
。ずいぶん気になる物言いだ。商業誌に掲載され
た作品を批評するからには、
「御代」を払って読む
のが礼儀というものである。そこで、掲載誌(定価
税別315円)
を3週連続して買い求めて読んでみた。
その後、単行本(定価税別700円)が刊行され、買
い求めて改めて読み直した。読んでみると、
「鼻血
描写」が大騒ぎになった要因と作者が訴えたかった
ことが、おぼろげながらつかめてきた。以下は私の
「作品評価」である。
なぜ、
「鼻血描写」が騒動になったのか。一言で
言えば、
逆説的ではあるが、たかが「鼻血ごとき」
(作
者の表現)だったからではないか。鼻出血は日常生
活の中で誰もが経験する、ありふれた症状だ。健康
障害としては軽微で、局所の圧迫により通常は容易
に止血する。とはいえ止血するまでは多少なりとも
不快で、場合によっては不安な気持ちにさえなる。
一方で外部からの視認は容易であり、それゆえ漫画
として描写しやすい。だからこそ作者は作品の中で
「鼻血」を取り上げたのだと思う。刊行された単行
本で「鼻血描写」に至る前の「福島の真実」篇に目
を通してみると、福島県内で放射線と向き合ってい
る人々を丹念に取材し、作品のテーマである「食」
の立場から現状を生き生きと描き出していることが
分かる。これらに比べると、
「鼻血描写」の話題は、
いささか批判を受けやすい内容だ。作者の言説に批
判的な立場からは、この話題は「福島の真実」篇の
弱点だと見て取ったことだろう。結果として多くの
批判を招く事態となったことについては、作者とし
ても上記ブログで「ここまで騒ぎになるとは思わな
かった」と述べているが、もっと深刻で、しかし漫
画では描写しにくい、別の健康障害を取り上げてい
たとしたら、あるいは異なる展開になっていたかも
しれない。
ところで作者は、騒動の渦中に上記ブログのタイ
トルで「反論は、最後の回まで、お待ち下さい」と
意思表明をしていた。その言葉に従って「福島の真
実」篇の最終話「その24」
(2014年5月19日発売25号)
まで読むと、作者が訴えたかったことがつかめてき
た。それは、「世代から世代へと受け継がれていく
ものがある」ということではないかと思う。最終話
では、震災後に福島県から北海道に移住して畜産業
に従事している夫妻へのインタビューが描かれてい
る。夫は福島県の出身で、道内の大学を卒業した後、
震災の5年前に帰郷して結婚し、本格的に畜産業を
始めようとした時に原発事故があり、福島県では牛
が飼えないので北海道へ移住したのだという。妻は、
事故のすぐ後に妊娠していることが分かった。「雨
にも当たったし、犬の散歩もしていたし、不安でし
たが、この子がいたおかげで私たちは前向きになれ
たので、本当にありがたいと思っています」と、小
さな子を抱えながら現在の思いを語っている。そし
て最終話の終盤で、主人公父子は福島県の山並みを
前に立ち並び、こう語り合っている。「福島はあり
がたい。かけがえのない妻に出会え、新しい人生を
踏み出した土地だ」「俺にとっては、父親といっし
ょに生き直す道を教えてくれたありがたい土地だ」。
原爆被爆者は、長く風評被害による差別に苦しん
だと聞く。その中には「鼻血描写」どころではない、
極めて深刻なものもあったようだ3)。世代から世代
へと受け継がれていくものがあり、もろく傷つきや
すいが、たくましく回復する力を持っている。その
ように作者は訴えているように感じた。
1)西尾正道:放射線の健康被害を通じて科学の独立性を考
える。北海道医報、1166:22-25、2015年。
2)http://kariyatetsu.com/blog/1685.php
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆21
〈エッセイのコーナー〉
今春、ベルギーの首
都ブリュッセルに行っ
てきた。
3月22日のブリュッ
セル空港(写真1)、
欧 州 連 合(EU) 本 部
近くの地下鉄マルベー
ク駅の同時連続爆破テ
ロ(死者34人、負傷者
270人、うち日本人男
性2人負傷)の直後で、
空港の復旧と警戒態勢
が続いていて、フラン
クフルトから入国する
筆者、ブルージュにて
予定のルフトハンザ航
空が運休状態になり、間際になって、急遽フィンラ
ンドのヘルシンキ経由で入国することができた。
昨年11月のパリ同時多発テロの後、イスラム国
(IS)による卑劣な行動は、ヨーロッパ全土を脅か
している。空港での保安検査は徹底した厳しいもの
であった。しか
し、ブリュッセ
ル市内は平穏
で、人々は明る
かった。市電ト
ラムに乗って
も、市中を歩い
ても、移民を含
めた多民族の老
若男女が行き交
い、ヨーロッパ
の首都を肌で感
じた。
ブリュッセル
の中心部、中世
では『絞首台の
丘』と呼ばれた、
写真2 戦没者慰霊碑
見晴らしのよい
高台にのぼると、19世紀に建てられた最高裁判所が
あり、その近くに巨大な慰霊碑があった(写真2)。
銃を携え、勇ましく、胸を張って、遠くを見つめる
兵士たちの彫像が、慰霊碑を輪になって囲んでいる。
慰霊碑には、1914-1918 1940-1945 と大きく太く
年代が刻まれている。訪れる人の誰の眼にもはいる。
言うまでもなく第一次大戦と第二次大戦である。
翌日、列車でブルージュに行くため、美しい曲線
のアールヌーボー様式のブリュッセル中央駅にいく
と、ひろい駅構内の中央に、大きな記念碑が壁一面
にあった(写真3)
。ここにも1914―1918 1940―
1945と大きく刻まれていた。殉職した鉄道関係者
3012人に捧げる記念碑である。二つの大戦は終わっ
た、
しかしその教訓的精神と記憶は、
いつまでも残る。
前日早朝、ブリュッセル在住の娘の案内で、私と
妻は、爆破テロで亡くなった34人の犠牲者の追悼集
会(3月23日)があった証券取引所 Bourse(1801
写真1 爆破テロの空港ロビー(ブリュッセル・タイムズ紙)
写真3 ブリュッセル中央駅の戦没者記念碑
3)吉澤康雄:はじめに人ありき―医者の眼で見た原子力・
放射線安全。真興交易医書出版部、1989年。
(札幌医科大学医療人育成センター)
◆編集部より:北海道医報1173号(2016年6月1
日発行)から許可をえて転載させていただきま
した。
ブリュッセル6日間の旅
大倉 秀顕
22 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
〈エッセイのコーナー〉
写真4 花が手向けられた証券取引所広場
年ナポレオンによって設立)の広場にいってきた。
世界遺産のグラン・プラス、王立モネ劇場と歩いて
きて広場にでると、追悼集会のあと、まだたくさん
の花束が手向けられていた(写真4)。3月22日、
ドイツのメルケル首相は TV 演説で「ブリュッセル
のテロリストは自由や民主主義、平和的共存を尊重
する欧州の価値観念すべてに対する敵だ」と述べた。
日本でも AFP 時事、ロイター通信で大きくとりあ
げられていた。肌寒い早朝の、追悼集会の広場には、
訪れる人は少なく、まだ軍隊の車が待機していた。
ブリュッセルから列車で1時間ちょっと、中世の
都市そのままの、ブルージュを愉しんだ(写真5)。
21世紀の現代から、天空から500年の時間を遡って
舞い降りてきた錯覚にとらわれた。ファン・エイク
兄弟とメムリンク。ファン・ルイス・ビベスの像とエ
ラスムス。来るまえに『オランダ・ベルギー絵画紀
行』フロマンタン(1820~1876)著を読んではきた
が、原画をみなければ、複製による理解は、ただの
誤解である。ブルージュは街全体が彫刻であり、中
世建築の美である。街を流れる小川と、悠久な自然
との調和である。ここではまったく別の時間が流れ
ている。眼を閉じると、嗚呼、恍惚として、セザー
ル・フランクのヴァイオリン・ソナタのメロディーが
聴こえてくる。それもつかの間、アントワープにい
く時間がせまっていた。
車窓から、西フランドル地方の淡い緑の草原と、
牧歌的なのどかな田園風景をながめ、アントワープ
中央駅についた。ここはオランダ語圏。吃驚、なん
と華麗な駅であろうか。世界でもっとも美しい駅の
5本に入るという。19世紀~20世紀のネオバロック
様式、たかい天井、焼絵硝子の天井窓。まったくす
ばらしい。しかし駅構内を見わたせば、ここでも数
名の武装兵が機関銃をかまえ、テロの警戒にあたっ
ていた(写真6)
。アントワープの近くには、老朽
化した原発(北部ドール原発)が稼働しており、放
射能汚染の不安、フクシマの危機感は、国境周辺国
のオランダ、ドイツ、ルクセンブルクの住民に及ん
でいる。歴史と文化。王立美術館のルーベンスとブ
リューゲルの絵画をみて学ぶことは多い。しかしヨ
ーロッパを旅して、日本を読まなければ、旅をした
意味がない。
2016年(平成28年)8月27日 記
(北愛歯科クリニック)
写真6 アントワープ中央駅構内の武装兵 写真5 ブルージュの風景
北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日◆23
会員の動き(2016年3月~ 2016年8月)
【入会】
伊集 唯行 市立根室病院 内科
【退会】
佐野 康太 群馬県へ転出
(敬称略)
会員数は8月末現在で135名(準会員=学生1名)
となっています。また、正会員134名のうち、医科
は130名、歯科は4名となっています。
活動日誌(2016年3月~2016年8月)
【3月】
6日 北海道被爆者協会会長 越智晴子さんを偲
ぶ会(北海道高等学校教職員センター、札
幌市)
25日 第35回事務局会議(道民医連)
25日 会報第54号発行
【5月】
15日 全国反核医師の会常任世話人会(塩川事務
局長、テレビ会議)
【6月】
3日 第55回運営委員会(道民医連)
12日 全国反核医師の会第12回全国大会(塩川事
務局長、東京)
【7月】
9日 第28回総会(札幌全日空ホテル)
【8月】
6日 北海道原爆死没者追悼会(塩川事務局長ほ
か、ホテルノースシティ、札幌市)
27日 全国反核医師の会常任世話人会(塩川事務
局長、東京)
規 約
1989年6月4日制定
1990年6月10日一部改正
1994年7月10日一部改正
1995年6月11日一部改正
2001年6月24日一部改正
2015年7月4日一部改正
1.本会は、
「核戦争に反対する北海道医師・歯科医師の
会」
(略称「道反核医師・歯科医師の会」
、英名 Hokkaido
Physicians and Dentists Against Nuclear War)と称し、事
務所を札幌市内におく。
2.本会の目的は、核戦争に反対し、核兵器廃絶のために、
ヒューマニズムにもとづき、医師として可能な限り努
力を払うことにある。
3.本会は、会の目的に賛同する全道の医師・歯科医師に
よって構成する。医学生および歯学生は準会員とする。
4.本会は、次の事業を行なう。
(イ)他都府県の同趣旨の医師の会と連携を保ちつつ、
「核
戦争防止国際医師会議
(IPPNW)
」
の活動に協力する。
24 ◆北海道反核医師・歯科医師の会会報第55号 2016年9月29日
事務局から
▼年会費の未納分がある先生方に振込用紙を同封し
ています。どうぞよろしくご協力ください。カンパ
も歓迎します。
▼本会の活動についてのアンケートも同封しており
ます。お気軽にご記入いただいて、返送くだされば
幸いです。
編集後記
▼会報第55号をお届けします。
▼北海道では複数の台風が続けて上陸し、各地で河
川の氾濫や土砂崩れが起きました。被害に遭われた
方は本当に大変だと思います。被害の状況は、交通
や農作物などについては報道されていますが、個人
の住宅については知らされていません。流されてき
た泥や砂利で相当の被害があるとのことです。現在、
多くのボランティアの方が現地で活動されていま
す。復旧作業のお手伝いとなるとなかなか行くこと
はできませんが、義捐金の呼びかけなど、遠方でも
できる活動をしたいと思います。一日も早い復旧、
復興をお祈りします。(N)
▼リオデジャネイロでのオリンピックが終わり、パ
ラリンピックが熱戦を展開している。ドーピング問
題など暗い話題もあったが、世界中の若者が国境を
越えて交流する姿はやはりいいものだ。4年後の東
京オリンピックまでには、人類の存続にとって最大
の障害物である核兵器を廃絶し、文字通り「平和の
祭典」となるように力を合わせたいものだ。また、
日本の原発の再稼働を許さず、自然エネルギーの比
率を飛躍的に高めて、非核の日本を作ることが福島
の人々の願いに応える道だと思う。(S)
(ロ)核兵器完全禁止署名への協力。
(ハ)原子力発電に反対し、原発のない社会をめざす活動
に協力する。
(ニ)そのほか、
核戦争の悲惨さを訴え、核兵器完全禁止を
めざすために研究会、講演会、出版などの活動を行
なう。
5.本会は、特定の政党または宗派のための活動は一切行
なわない。
6.本会に、会長と若干名の代表委員と監事および事務局
長、事務局次長をおく。会長、代表委員と事務局で運
営委員会をつくり、規約に従って活動を行なう。
7.本会に功績のあった会員は名誉会員となることができ
る。名誉会員は運営委員会で推薦し、総会の承認を受
けるものとする。名誉会員の会費は免除する。
8.本会の会費は、会費および寄付金をもって充てる。会
費は年額5,000円、準会員は1,000円とする。ただし、
年度後半の入会の初年度会費は半額とする。会計年度
は4月1日から翌年3月31日までとする。
9.本会は、年1回以上、総会を行う。総会の議決は出席
者の過半数をもって行う。
10.本規約の変更は総会で行なう。
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