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Ⅰ 消防団の現状と課題 1 本検討会の基本的な考え方

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Ⅰ 消防団の現状と課題 1 本検討会の基本的な考え方
Ⅰ
消防団の現状と課題
1
本検討会の基本的な考え方
(1)
消防団を取り巻く状況
市町村は、地理的状況、市街地の状況、災害発生状況等を考慮し、常備消防
と消防団を整備することにより消防の体制を確立している。
人口が密集している市街地を中心に常備消防が配置されているが、人口密集
度が低い地域では、火災や震災・水災等の大規模災害へ対応する消防力を常備
消防だけで確保することは、多くの人材が必要となり財政的に大きな負担が生
じるため、非常勤の消防団を中心に体制が整えられているのが現状である。
そのため消防団では、若年層を中心に地域に必要な消防団員を確保し、厳し
い訓練により活動能力を向上させ 、地域の防災体制における中核的存在として 、
災害の防御活動 、予防活動に従事し 、住民の安心・安全の確保に貢献してきた 。
消防団は、地域密着性、要員動員力、即時対応力という特性を十分に発揮す
るため、各市町村で地域の実態にあった組織、団員数を確保し、地域に必要な
体制を整えることが期待されている。しかし、全国の団員数は、消防の常備化
率が 10%程度であった昭和 29 年は 200 万人を超えていたが、常備化の進展に
伴って減少し、常備化率が 90%を超え落ち着いてきた昭和 60 年には 103 万人
となった 。その後も減少を続け平成2年には 100 万人を割り込み 、現在では約 92
万人(平成 16 年)となっている。
団員数が減少することは地域の防災力の低下に直接結びつくことになること
から、消防庁・都道府県・市町村・消防団では、団員確保策を検討・実施し、
必要な組織・規模を維持するよう努力しているところである 。特に全国約 3,500
の消防団では、各地域で住民の安全を確保するために様々な取組を実施してい
るが、団員の確保に苦慮している消防団も見られるのが現状である。
最近の団員減少要因は、団員の高年齢化に伴い退団者が増加する一方で、若
年層人口の減少、農村・中山間地域の人口減少、就業者における被雇用者が占
める割合の増加など、以前から消防団の入団対象となっていた層から入団者を
確保することが難しくなっていることが考えられる。
消防団の中には団員の確保が困難であることを理由に団員の定数を削減する
など、地域防災体制を考慮せずに削減している例も散見される。
(2)
消防団の充実強化への基本的な考え方
現在、消防団員は各消防団で基本的に同一の研修・訓練を受け、すべての災
害、消防団活動に参加することとなっており、身分・処遇・被服等についても
同一である。この制度が基本であり、多くの団員が生業・生活の一部を犠牲に
して、誇りを持って参加していることから、本制度を消防団の基本的な制度と
して維持した上で、消防団の充実・強化を進めていくことが必要である。
団員を確保し、地域防災体制を充実・強化するためには、すでに、女性や公
務員などが入団している消防団も多く見られるように、消防団へ参加する住民
の範囲を広げていくことが重要であり、住民の幅広い層からの団員確保するた
め、消防団側の意識・制度の変革、住民・事業所の参加への取組を検討するが
必要がある。
(3)
基本的な制度の維持と多様化への取組
消防団員の基本は、昼夜間を問わず、あらゆる災害、厳しい訓練に参加する
ことができる基本的な制度による団員(以下「基本団員」という 。)である。
このような基本団員が消防団の基幹として在職していることの重要性は現在
も、今後も変わることは無いと考えられる。しかし、基本団員のみで必要な団
員を確保することは、現実的に困難な消防団も増加しているのが事実である。
団員OB、サラリーマン、女性などには 、「厳しい訓練とすべての活動に参
加することは難しいが、火災等の災害、大規模災害等なら出動する 」「一部の
役割・活動だけなら協力できる 」「時間が許す範囲で協力できる」といった意
見があり、特定の時間、特定の活動に従事することを予定する団員を含めて、
必要な団員を確保することが検討すべき課題として考えられる。
また、団員における被雇用者団員の比率が上昇し、以前のようにすべての活
動に参加できない団員が増えてきているのも現実であり、各消防団では各団員
が出動する活動・災害を相互に調整するなど自然にワークシェアを行ってい
る。このような状況で、すべての活動に参加できないのに同じ処遇とすること
は不公平との団員の意見がある一方、すべての活動に参加できないことで、他
の団員に負い目を持つ団員もいることから、団員の処遇を含めて、特定の活動
に従事する団員について検討することも課題となってきている。
以上のような課題について、より多くの人達が能力や希望に合わせて消防団
に参加できる制度などが過去の検討会等で議論されてきたが、基本団員との身
分、処遇、活動等の相違点をどう整理するかについての問題が指摘され、現在
まで具体的な検討には至っていない。しかし、全国の消防団にはすでに、特定
の活動を予定する団員の採用などを進めている例もあり、そのような団員の必
要性を認めている消防団もある。
そこで、本検討会では、消防団員の活動環境の整備という観点から、制度の
多様化等に関しての課題、対応策そして具現化策等について検討を実施した。
ここで、重要なことは、基本的な制度を全面的に改めることではなく、あく
までも、基本的な制度を消防団の中核に位置づけた上で制度を多様化し、基本
団員の補完を目的とした特定の役割・活動を行う団員制度などを、消防団が地
域事情に合わせ選択できる制度として提供することの検討である 。この制度は 、
団員の確保だけではなく、新たな人材の登用により消防団の活性化にも繋がる
可能性がある。
なお、消防団の役割を考慮すれば、制度を多様化した場合においても、団員
は一定の体力を有し、技術・知識の習得のための訓練へ参加するほか、少なく
とも震災・水災等、大規模災害への出動をする必要があると考えられる。
2
消防団の課題
消防団は、次のような課題に直面しており、消防団員の確保に苦慮している消
防団も少なくないのが現状である。
(1)
①
消防団員の確保の困難性
専門的なイメージの消防団
平成 15 年 5 月に内閣府が行った「消防・救急に関する世論調査」で、消
防団に入りたくない理由を調査したところ「体力に自信がない」が 53.8%、
「男の役割だと思っている」が 21.6%との回答であった。住民にとって消防
団は、平素から厳しい訓練を行い、消火活動に従事するといった専門的な組
織といったイメージが一般化し、参加が敬遠される一因となっていると考え
られる。
②
過疎地域・中心市街地等での人口の減少
全国を見ると、人口は微増であるが、地域別にみると中山間地域を始めと
する過疎地域や市街地の中心部分などでは、人口が減少しており、このよう
な地域では団員確保が難しく 、団員数減少の一因となっていると考えられる 。
③
若年層人口の減少と被雇用者の増加
日本全国で、少子化の進展等に伴い、従来から団員確保の対象となってい
る 20 歳前後の男性の人口が減少している 。さらに 、農村地域 、中山間地域 、
過疎地域等では、大都市等への若年層の流出も多くなっている。また、地域
の就業構造の変化に伴い就業者における雇用者の割合が上昇し、近隣市街地
への勤務者が増え、消防団への参加を希望する住民が減少する状況が生じて
いる。
④
地域住民・事業所の理解の不足
消防団活動の地域への浸透度が市街地や新興住宅地などで不足しているこ
とから、地域住民・事業所の消防団への理解が不足し、団員の確保が難しく
なっている。また、阪神・淡路大震災以降、住民の社会参加意欲、社会貢献
意識は高まり、近年は企業の社会的責任への取組が盛んになっているが、消
防団への参加には結びついていない。
⑤
地縁を活用した募集活動の限界
少子化、地域における若年層の減少や地域におけるコミュニティ機能の低
下等に伴い、従来の団員確保の主たる方策であった地縁による確保が難しく
なっている。
(2)
消防団条例定数の削減
市町村の消防団員定数については、市町村が条例で定めることが消防組織法
で定められているが、消防団を取り巻く様々な環境の変化に伴い、一部の市町
村においては条例定数の削減が行われている。
①
市町村合併に伴う定数の削減
市町村の合併の特例に関する法律(昭和 40 年法律第 6 号)の期限である
平成 16 年度末に向け市町村合併の動きが活発化している。合併によっても
地域に必要な防災力に変化がないことを考慮すれば、合併時に条例定数は少
なくとも維持することが必要であるが 、一部に削減されるケースが見られる 。
②
定数の確保が困難な場合の削減
条例に定める定数の団員数を確保できないことを理由としての定数削減
は、地域防災体制の充実の観点から適切ではない。しかし、定数の団員数確
保に苦慮している消防団も多く、一定期間確保できない場合、定数が削減さ
れるケースがあり、全国の条例定数総数の減少の一因となっている。
③
市町村財政の窮乏に伴う削減
消防団は常備消防と比較し、要する費用がはるかに低額なのにもかかわら
ず、災害時には市町村長・消防長の指揮のもと活動する貴重な防災力である
から、定数を維持することが必要である。しかし、地方財政が厳しい環境に
おかれていることから、市町村が消防団の条例定数若しくは団員数を維持す
るために要する費用を削減するため、定数を削減する場合が見られる。
④
市町村人口の減少に伴う削減
前③で述べたとおり、消防団は常備消防などと比べると要する費用が低額
な地域の防災力なので、地域防災力の維持を考えると安易な削減は適切では
ない。しかし、人口が減少している市町村では、行政改革に基づく市町村職
員の削減などに合わせ、定数を削減し、併せて団員を削減する場合がある。
(3)
消防団の役割の拡大
常備消防の充実に伴い、平時に発生する火災、救助活動などの災害対応にお
ける消防団の役割は市街地などで低下しているが、大規模災害時の災害防御や
住民の避難誘導、平時における災害予防の住民へ働きかけ、国民保護法におけ
る新たな役割など、地域における消防団の役割は拡大している。
①
大規模災害等への対応
昨年、今年と全国各地で地震・水災・火山噴火など大規模災害が頻発し、
全国で消防団が地域防災体制の中核となって活動し、住民の安全を確保して
いる。被害が広範囲にわたり、火災・救助事象が多数発生する大規模災害で
は、常備の消防力のみでは十分に対応できないことから、地域に密着し、動
員力を有している消防団の活動が、災害発生直後の住民の救助、被災地域か
らの住民の避難誘導などのために不可欠である。
②
国民保護法における役割への対応
平成 16 年 9 月に施行された国民保護法では、消防団が住民の避難誘導の
役割を果たすことが明記されており 、消防団の役割はますます拡大している 。
③
地域コミュニティの要としての災害予防
地域の安全を確保するためには、平素から地域住民が防災訓練などを通じ
て災害に強いまちづくりに取り組む必要がある。火災を初め各種災害に関す
る知識を有する消防団員は、その指導者としてふさわしいことから、自助・
共助の理念が根付いた地域を中心に、地域の防災リーダーとしての役割が期
待されている。
なお、地域における消防団への期待から、本来の消防団の任務である「水火
災または地震等の災害を防除し、これらの災害に因る被害を軽減する」ことか
ら逸脱した活動を地域住民から依頼される事例も見られるが、平素から地元住
民に消防団の任務を説明し、本来活動への理解を深めておく必要がある。
3
消防団員確保の取組
消防団、市町村などが中心となり、消防団員確保に取り組んでいるが、団員の
減少が継続している現状を克服し団員を確保するためには、以下の取組が必要で
ある。
①
消防団の役割の再認識
消防団は厳しい訓練を行い消火活動に取り組む専門的な組織といった従来
のイメージに限定するのではなく、地域を災害から守るため、住民・事業所
等が幅広く結集し、被害軽減に取り組む住民主体の地域に開かれた組織であ
り、様々な役割があり、多様な人材を必要としている組織であることが再認
識される必要がある。
②
消防団員減少の歯止め
団員減少の要因の一つとして、消防団活動への参加率が低い団員への退団
の勧奨がある。このような団員は、消防団活動に興味を持って入団し、訓練
・研修により一定の知識・技術を身につけており、災害発生時には貴重な戦
力となることから、安易に退団を促すのではなく、団員の意欲、仕事等の都
合等を配慮し、可能な範囲で活動に参加できる制度を検討し、多くの住民が
消防団に参加できる環境を整備することが必要である。
③
消防団定数の維持・拡大
前2(2)で述べたように、定数を様々な理由で削減している市町村がある
が 、地域の防災力確保の観点からは定数を維持することが必要である 。特に 、
団員を確保できないことを理由に定数を削減することは、地域の防災力の低
下に繋がり、望ましくない。定数を維持した上で、住民が参加しやすい環境
を消防団が整え、幅広い層に参加を呼びかけることにより、新たな団員を確
保することが必要である。
④
消防団の活動能力の保持・向上
開かれた組織として団員を幅広い住民層から確保する場合、個々の団員の
技術・知識が不足し、活動能力の低下が懸念されることから、各消防団が住
民の体力・能力を活かし、組織としての活動能力が保持される方策を検討す
る必要がある。
⑤
市町村の財政負担増を伴わない形での充実
市町村が団員を増やす場合、増加に伴い一定の財政負担増が生じる。この
ことが団員増員の阻害要因となっている場合があることから、財政負担の増
加を伴わない形での充実方策を検討する必要がある。
4
(1)
研究会の開催と調査の実施
消防団員の報酬等に関する研究会の開催
消防団員が参加しやすい活動・訓練環境、被雇用者団員の勤務環境を配慮で
きる組織制度の在り方を検討する場合、必須の検討項目となる団員の報酬等に
ついて、問題点を抽出し、対応策を取りまとめるため、本検討会では次の研究
会を開催し検討を実施した。
○消防団員の報酬等の在り方についての研究会(以下「研究会」という 。)
検討期間
:平成16年7月∼11月
研究会
:3回
座長・委員:別添え資料のとおり
(2)
活動環境の整備に関する調査
前3に上げた課題に取り組み、消防団員確保による地域防災力の充実強化に
ついて検討を進めていくためには、全国の消防団の活動環境に関する状況や各
団の考え方を調査する必要があることから、次の調査を実施した。
○消防団員の活動環境整備に係る実態調査(以下「実態調査」という 。)
期
間:平成16年9月∼11月
対
象:各都道府県のすべての消防団
回答者:消防団長又は副団長等の消防団幹部
方
法:各都道府県により、アンケートを配布、回収
○消防団員の活動環境整備に係る現地調査(以下 、「現地調査」という 。)
期
間:平成16年10月∼11月
対
象:次の条件で選定した消防団(49団)
①
消防庁で地域性を考慮して9道県を選定
②
各道県で地域性を考慮して4∼9団を選定
回答者:消防団長又は副団長等の消防団幹部
方
5
法:消防庁職員による現地での面接方式
課題の整理と検討の方向性
本検討会では、消防団の活性化に向けた、消防団の活動環境の整備について、
参加を促す消防団側、参加する事業所・住民側、それぞれの視点から課題を整理
した上で、今後、対策の具現化を図ることを考慮して対応策を検討した。
(1)
消防団側の視点
−
地域住民が参加しやすい消防団
消防団員における被雇用者率の上昇、住民指導や火災予防広報などの消防団
の役割の増加などに伴い、今までのような、常にすべての団員がすべての活動
に参加する基本的な制度だけでは、団員の確保が難しくなっている消防団が見
られる。
一つの方向性として基本的な組織・制度は維持しつつも、特定の活動に従事
する団員の導入を可能とするため組織・制度を多様化し 、団員確保対象の拡大 、
消防団の役割の分業化、参加活動の特定化を可能とする制度等を取り入れ、各
消防団が地域特性に応じて必要とする制度を選択することにより、多くの地域
住民が参加しやすい活動環境づくりを進める方策を検討した。
また、団員の中で被雇用者占める割合が高まっている現状や市街地などで勤
務地での団員確保が必要になっている状況を踏まえ、被雇用者が消防団活動に
参加しやすい活動環境づくりについても検討した。
(2)
住民・事業所側の視点
−
消防団の理解の向上
昨年度に消防庁が開催した「地域防災体制の充実強化に向けた団員確保のた
めの調査検討会 」(以下「団員確保検討会」という 。)では、消防団への理解を
深める広報施策が重点方策の一つとして取り上げられるなど、事業所、地域住
民の消防団への理解不足が、消防団員確保を進める上での大きな課題として指
摘されていた。国では昨年度から、リーフレットの作成、日本商工会議所での
講演等、事業所向け広報施策を進めているが、いまだ理解が十分でない状況で
あるので、消防団の組織・制度の多様化などを考慮し、更なる施策の検討を行
った。
また、事業所側の理解を得るために、事業所の意見を聴取する機会を設ける
など、従業員が参加する場合の課題を把握し、事業所が参加しやすい活動環境
を整備することについても検討を実施した。
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