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鯨骨生物群集に生息する脊索動物ゲイコツナメクジウオの網羅
鯨骨生物群集に生息する脊索動物ゲイコツナメクジウオの網羅的遺伝子解析 ○窪川かおる・丹藤由希子(東京大学海洋研究所)、山本智子(鹿児島大学水産学部)、山中寿朗(岡 山大学理学部)、河戸勝・藤原義弘(海洋研究開発機構) NT07-09、NT05-24、NT04-23 ナメクジウオ類は温帯から熱帯の水深 100m 以浅の潮間帯の限定された粒径の砂地・サンゴ砂の底 質に生息する。ところが、鹿児島野間岬沖の水深 230m の海底で新種が Asymmetron inferum (Nishikawa, Zool. Sci., 2005) が発見された。ナメクジウオの生息地としては最深であり、ゲイコツ ナメクジウオ(和名)と名付けたように、その生息場所は、鹿児島野間岬沖に 2002 年 2 月 1 日に海洋 投入にされたマッコウクジラの遺骸である。鯨遺骸の直下とその近傍の海底および鯨骨中と鯨蝋中に 生息している。鯨骨生物群集は、深海底に沈んだ鯨の遺骸で構築される化学合成共生細菌に始まる生 物生態系であり、脊索動物が極限環境に生息していることが注目される。ゲイコツナメクジウオが属 する Asymmetron 属は、Epigonichthys 属と分離した属で、両属は広く分布する Branchiostoma 属に 対する研究にくらべて研究が著しく少ない。その理由には、小型(1-3cm)と低密度のために研究材料 に難い点があげられる。ゲイコツナメクジウオは高密度に生息し、繁殖もしているとみられる。投入 後 5 年目になる 2007 年には鯨骨は風化し、埋没した骨もあった。ゲイコツナメクジウオは採集できた が、2008 年には生息しているかどうかわからない。そこで、ゲイコツナメクジウオの全身を使った完 全長 cDNAライブラリーを作成し、今後の利用に供することができるようにした。さらに 2500 個の クローンの塩基配列を最長 500bp まで読み、既存のデータベースにある相同配列を探索し、約 370 個 の機能をもつと考えられるタンパク質をコードする遺伝子を得た。そのうちのいくつかについて、 Branchiostoma 属との相同性を検証した。また、還元環境生態系への適応に関わる遺伝子を探索して いる。ゲイコツナメクジウオは、ナメクジウオの中でもっとも原始的な種である。脊索動物に属する 脊椎動物の起源について考えるとき、この種の研究は意義がある示唆を与えてくれると期待される。 ゲイコツナメクジウオ:体長 3cm、