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学習メモ
小説を読む こころ (全八回) 学習のポイント なつ め そうせき 夏目漱石 ① 「私」の「狼のごとき心」と「K」の「罪のない羊」 ② 「覚悟ならないこともない」の二人の意味の違い ③ 寝室での会話の意味を捉える ① 「私」の「お嬢さん」と「K」に対する思いを理解する ② 「私」の裏切りと行動 ③ 「お嬢さん」と「奥さん」の対応の変化 理解を深めるために 【第五回】 ①「私」の「狼のごとき心」と「K」の「罪のない羊」 私が投げかけた言葉に対して、Kはなすすべがありませんでした。当然です。 私はKの何が弱点かということがあまりにも明らかにわかっていたからです。K が私の卑怯さを追求しない優しい羊とすれば、私は容赦なく羊を食らい倒そうと する狼でした。優しい羊であるK自身には何の罪もないのです。狼に食われる理 由など思いも寄らないことでしょう。ただお嬢さんのことが好きになってしまっ たというそれだけのことなのです。 ②「覚悟ならないこともない」の二人の意味の違い 普通、愛する人について「覚悟ならないことも無い」と言う場合、どんな困難 なことがあってもその愛する人と一緒に過ごしていく、そのような覚悟はできて いる、というような意味が含まれているのではないでしょうか。この言葉を聞い た私も、Kがそのような意味で言ったのだろうと考えていきます。しかし、Kに とって、この覚悟や精進という言葉は、自分の生まれながらにして、そして生き てきた根幹をなす言葉でした。迷いから脱却し悟りや真理を得るために、Kの覚 悟は用いられることになります。 ③ 寝室での会話の意味を捉える 襖が一枚あるだけで全く別の空間となり、この襖をあけ放ってしまえばそれは 同一の空間ということになります。襖一枚で、空間の意味が変わるという考え方 です。これを比喩的に考えると、その部屋に住んでいる人と人も区切ると考える こともできます。この時Kが私の部屋の襖をたいした用でもないのにあけて、も う寝たかと尋ねるということは、Kから私への人間的なつながりを求めたメッセ ージだったかも知れません。 − 93 − 鈴木一史 第 35 〜 42 回 第5回 第6回 講師 現代文 ▼ ラジオ学習メモ 【第六回】 ①「私」の「お嬢さん」と「K」に対する思いを理解する 私は、お嬢さんを諦めさせようとしてKに放った言葉が、かえってお嬢さんに 向かわせたのではないかと考えるようになります。Kの言っていた覚悟という言 葉が、どんな困難を伴ってもお嬢さんと一緒になるんだという覚悟だと感じてし まいます。そのKの上をいくには、Kもお嬢さんもいない間に、お嬢さんの母親 である奥さんに対して、お嬢さんとの結婚を許可してもらうしかない、そのよう に考えるようになります。 ②「私」の裏切りと行動 私は、ついに奥さんにお嬢さんとの結婚のことを話してしまいました。しかし、 考えてみれば本当に急な話です。奥さんの、「あげてもいいが、あんまり急じゃ ありませんか。 」と言う言葉を聞くまでもなく、いくら自分が好きだからといって、 本人の了解も何もなしに、いきなりそのお母さんに対して「お嬢さんを私にくだ さい」と結婚を申し込むというのは今では考えられないことかもしれません。と ころが、奥さんはほとんど即断という感じで、 「よござんす、差し上げましょう。」 と言います。この反応も、現在では考えられないことでしょう。 ③「お嬢さん」と「奥さん」の対応の変化 奥さんの態度といえば、いつもよりうれしそうに私に接してきます。また、お 嬢さんは同じ食卓につきませんでした。奥さんはきまりが悪いのだろうと言って 私の顔を見ます。当然何も知らないKはなんできまりが悪いのかと追及してさら に聞いていきます。奥さんは少し微笑みながら私の顔をまた見ます。この夕飯の − 94 − ときのお嬢さんと奥さんの対応によって、奥さんはお嬢さんに、私から結婚を申 第 35 〜 42 回 し込まれたということを話し、お嬢さんはそのことを当然快く納得した、という ことが読み取れます。 (学習メモ執筆・鈴木一史) 現代文 ▼ ラジオ学習メモ