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2012年9月1日 見過ごしがちな重複表現に気をつけるPDF
放送用語委員会(関東甲信越) 見過ごしがちな重複表現に気をつける 第 1357 回放送用語委員会が,2012 年 5月18日に NHK 放送博物館で開かれた。外部委員は井上由 ◎長いリードは分割する の5局のニュースやリポートを検討した。 繭の生産量が全国一の群馬県で,養蚕の担い手 が年々,減少する中,26 歳の男性が養蚕農家を目 指すことになり,前橋市にある県の施設で研修が 始まりました。 ◎重複感があることばづかいをしていないか 「繭の生産量が全国一」と「養蚕の担い手が年々, 美子氏(脚本家)と町田健氏(名古屋大学大学院教 授)が出席し,長野・新潟・前橋・千葉・さいたま 無意識に同じことばを繰り返していることがある ので注意が必要だ。 ①通学の様子も様変わりしました。 様子が変わるのが様変わりなので,重複表現に なる。 「通学の風景も様変わりしました」と言いかえ られる。 ②馬肉を使い始めてから,客足は戻り始めました。 同時に 2 つのことが並行して始まったわけではな い。また,「始める」が続くので重複感がある。次 のように言いかえられる。 →「 馬肉を使うようになってから,客足は戻り始め ニュースのリードの部分である。 減少している」は矛盾しないが,1つの文に多くのこ とが盛り込まれているため,分かりにくい。文を2 つに切れば意味が伝わりやすくなる。 (言いかえ案) 群馬県は繭の生産量が全国一ですが,養蚕の担 い手は年々,減少しています。養蚕の歴史や文化を 守ろうと 26 歳の男性が養蚕農家を目指すことにな り,前橋市にある県の施設で研修が始まりました。 ◎より適切なことばがないか吟味する ①避難所で大勢の人がラジオの前に集まり,放送に 聞き入っている姿を目の当たりにしたのです。 ました」 「目の当たり」は,「歴史的な事件を目の当たりに または, した」 「惨状を目の当たりにした」などのように使わ →「馬肉を使い始めてから,客足は戻ってきました」 ③一見,普通に見える,このラジオ。 「一見」と「見える」が同語反復だという指摘が あった。これに対して, 「一見,普通のラジオ」とす ると,放送では耳に残らないのではないかという意 見もあった。スタジオでのトークなら, 「一見すると, 普通のラジオですよね」という言い方もできる。 放送では強調表現として,連勝,連覇を2 連勝, 2 連覇と言ったり,現在を今現在と言ったりする場 合がある。 「一見,普通に見える,このラジオ」が れる。ラジオを聞く人たちの姿が静かな映像であ ることもあって,ここでは違和感がある。 「放送に 聞き入っている姿が印象に残りました」などとしたほ うがよい。 ②牛肉の代用品ですが,客の反応は上々です。 →(言いかえ案) 「牛肉にもひけをとらないと,客の 反応は上々です」 代用品というと,間に合わせとしてやむを得ず 使っているという語感がある。 リポートのタイトルは「信州の味でユッケ復活」 , 許容されるかどうかについてはさまざまな意見があ マスコットタイトルは「信州の味をユッケに 馬肉人 るかもしれないが,同じことばの繰り返しととられる 気高まる」であり,馬肉を牛肉の代わりに使うことを 可能性があることを意識しておいたほうがよい。 前向きにとらえている。それならば,リポートのねら 90 AUGUST 2012 いを踏まえた表現を考えたほうがよい。 ③コミュニティー FM は,電波の届く範囲は狭くな りますが,被災した人たちが必要とする,より地 域に密着した,きめ細かい情報を届けることが できます。 「狭くなる」は, 「広い範囲」から「狭い範囲」へ ◎理由を示すことばの重複 下仁田町では少子化の影響で,今年度から町内の 4 つの小学校が統合され, 1つになってのスタートです。 このため,家から学校が遠くなった児童もいるこ とから,新たにスクールバスが運行され,通学の様 子も様変わりしました。 の変化を示したり,ほかのものと「広さ」を比較した 「このため」 「ことから」という理由を示すことばを りする場合に使う。しかし,ここは比較の場面では 2つ続けて,2 段階でスクールバス運行の理由を説 なく, 「コミュニティー FMは,電波の届く範囲が狭 明している。 「このため」は,省略しても分かるので い」という「状態」を表している。 不要だ。多少長くなるが「通っていた小学校がなく 「電波の届く範囲は狭いものの」 「電波の届く範囲は なり,家から学校が遠くなった児童もいることから」 狭い地域に限られていますが」などの表現が適切だ。 としたほうが,より分かりやすい。 ◎外来語は意味があいまいになる場合も ◎キーワードをどんな意味で使うのか明確に 日本の建築やエコの技術の高さを示したいと考 えています。 ハウスメーカーや建築資材のメーカーから協力を 取り付け,最新の資材やノウハウを取り入れた住宅 を目指します。 外来語は,意味を不明確にすることがある。 「エ この店では9月から,ユッケに代えて馬肉を使っ ています。その名も「桜ユッケ」です。 ユッケはこのリポートのキーになることばである。 通常,ユッケには牛肉を使うのかもしれないが,こ のリポートでは「桜ユッケ」という名称ながら,馬肉 を使ったものもユッケと呼んでいる。それならば, コ」は「エコロジー」の略で,自然環境に与える好ま 「ユッケに代えて馬肉を使っています」は,やや分か しくない影響を少しでも少なくしようとすることであ りにくい。以下のような言いかえ案も考えられる。 る。エコの複合語として,エコバッグ,エコポイント, エコカーなど近年多くのことばが生まれた。しかし, 単独で使うと今一つ,あいまいさが残る。 「エコの 技術」は,「自然環境に調和させる技術」などと表 現できる。 「ハウスメーカー」は,全国展開している大手の会 社なのか,地域の中小の工務店なのか,家を作る だけの会社なのか,販売も行う会社なのか,視聴 者は疑問をいだく。 「ノウハウ」も,はっきりしないこ とばだ。技術情報などと言いかえられる。 ◎「○倍広い」という表現は避ける 普通の住宅の 3 倍広い窓を付けながら,高い断 熱性能を維持することに成功しました。 「3 倍広い」は,普通の住宅の3 倍の広さの窓とも 4 倍の広さの窓とも受け取られる可能性がある。 「普 通の住宅の○倍の広さの窓を付けながら」 「窓の広 さを普通の住宅の○倍に広げながら」などとしたほ うがよい。 (言いかえ案) この店では 9 月から,ユッケ用の肉として牛肉の 代わりに馬肉を使っています。その名も「桜ユッケ」 です。 ◎漢語は,なるべく和語に 店舗に配送する独自の流通網を構築しています。 雇用の場を確保しようというのです。 放送では下記のようにできるだけ和語を使ったほ うが聞き取りやすい。 →「店に送り届ける独自の流通網を作り上げています」 →「働く場を作ろうというのです」 吉沢 信(よしざわ まこと) 第 1357 回放送用語委員会(関東甲信越) 【開催日】平成 24 年 5 月 18 日(金) 【出席者】井上由美子 氏,町田 健 氏 佐々木 真 首都圏放送センターデスク 森本和憲 放送文化研究所所長 ほか AUGUST 2012 91