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経済原論Ⅱ
はじめに-バブル経済とは何か 資産価格 2004農経学科 2004農経学科 経済原論Ⅱ 経済原論Ⅱ 一般に資産が価格を持つのは,その資産を保有ないし利用すること によって何らかの収益が得られるから 株式—株価,土地—地価 に共通する論理 資産価格=予想収益/市場利子率 ・・・収益還元価格 ところが,現実の価格は理論価格から乖離する傾向 バブル経済と90年代長期不況 (2年1/18,3年1/21) 担当:久野秀二(Hisano, Shuji) 農業市場学分野・助手 資産価格={予想収益+値上がり期待額}/{市場利子率+リスクプレ ミアム} キャピタル・ゲイン 地価高騰Æ保有企業の含み益膨張Æ株価上昇 担保価値増加Æ金融機関による融資過熱化Æ土地・株への投資Æ さらなる上昇 売買益(キャピタル・ゲイン)を目当てとした土地・株への投機的な投 資Æさらなる上昇 Hokkaido University, Faculty of Agriculture Hokkaido University, Faculty of Agriculture バブル経済の起点-1985 年プラザ合意 バブル経済の起点-1985年プラザ合意 プラザ合意の背景-レーガノミクス 1985年9月のG5(先進五ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議)のプラザ 合意で協調利下げ 70年代 米国経済の長期不況と国際競争力の低下 80年代初頭 レーガン大統領「強いアメリカ」を掲げて登場 超金融緩和政策=公定歩合引き下げ(85年5%Æ87年2月2.5%) ドル安の安定的誘導を企図した政府・日銀による金融市場介入 国際為替市場で円買ドル売Æ円高ドル安が急激に進行Æソフトラン ディングさせるため円売ドル買=円資金の大量放出 「カネ余り」現象 土地や株式などの「資産市場」へ流入 実体経済(ファンダメンタルズ)と乖離した「資産価格」の過度の上昇 所得税減税Î労働者の勤労意欲の刺激と貯蓄率の上昇を企図 企業減税Î企業の投資意欲の刺激と国際産業の活性化を企図 歳出削減Î「小さな政府」(反ケインズ政策)により財政均衡を企図 マネーサプライの抑制(高金利)Î高率インフレの収束を企図 成果=GDP実質成長率の若干の回復とインフレの若干の抑制 ところが 減税政策Î実際に実施したのは高所得者減税と大企業減税 歳入削減Î巨額の財政赤字Î赤字国債の支払い増 その一方で拡大し続ける軍事費が財政をさらに圧迫 高金利政策Î企業の投資意欲の停滞(生産設備過剰による景気後 退と失業率の上昇)+途上国の債務負担増(債務不履行危機Æ国 際金融危機) Hokkaido University, Faculty of Agriculture Hokkaido University, Faculty of Agriculture 双子の赤字 「カネ余り」現象 「双子の赤字」という名の双六 信用創造 財政赤字Î赤字国債の発行Î金融市場からの資金調達Î民間と の競合による金利上昇(クラウディングアウト)Î海外からの資金調 達に依存Î相対的高金利を維持する必要 海外資金の米国への流入Î諸外国通貨の売りとドルの買いÎドル 高Î米国産業の輸出競争力の低下と安価な海外製品の流入Î貿 易赤字の拡大 その相当部分が逆輸入 国際協調による危機回避 貿易赤字拡大は困るが,海外資金は必要,しかし高金利でも困る 日欧との貿易摩擦Îとくに日本に対する内需拡大要求 プラザ合意(85.9)とルーブル合意(87.2) 日米欧の国際協調介入による秩序あるドル安誘導 金利引き下げと米国の相対的高金利状態の維持 Hokkaido University, Faculty of Agriculture 法定支払準備率や自己資本比率の範囲内で手元の資金をはるかに 上回る与信活動 ところが,貸付可能資本に対する需要が伸び悩み,貸付可能資本が 過剰になっている状態 Î無理な貸付 無理な貸付(バブル経済下で自己資本が増大,さらに信用を拡大) なぜ貸付可能資本が過剰になったのか? 高度経済成長期を通じて蓄積された巨額の利潤(自己資本)Î低成 長への移行に伴い遊休化 大幅な貿易黒字に伴う資金余剰経済の定着化 発展途上国の工業開発Î累積債務問題の顕在化で投資先を失う 政府・日銀による円売ドル買で円が市場へ大量に流入 株高Îエクイティ・ファイナンス(新株発行)による資金調達が容易に なり,大企業の銀行離れが進行 Hokkaido University, Faculty of Agriculture 1 ・・・つづき バブル経済の実相 「カネ余り」が一般商品市場に流入しなかった理由 1985~89年の5年間 商品の供給圧力が強かった(需給バランスは正常) 急激な円高と原油価格低下によって価格吊り上げ要因がなかった 低金利によって資産価格上昇の一般的条件が醸成していた 経済の国際化に伴う都市部を中心としたオフィスビル需要の増大 国内の資産市場に流入するまでのタイムラグ GDP伸び率 24.9% 株式の時価総額の伸び率 370% 地価総額の伸び率 210% 90年末,製造業向け貸付の割合15%に対して,不動産業・建設業・ 金融保険業向け貸付の割合28% 政策誘導によって,当初は米国国債等の証券投資に向かったが,「双子の 赤字」が一向に改善されず,ドル安進行にセーブがかからなかったため,為 替相場の不安定化に伴う市場リスクが増大 生保等の一部金融機関の資金を除き,多くは対米投資から国内の土地・株 への投資にシフト 資産市場での投機熱を加速した政策的要因 金融自由化,NTT株の放出(1987),民活政策による都市部再開発やリ ゾート開発,等々 株式相互持合(法人資本主義)ゆえに,市場売買が株式全体の3割に集中 Hokkaido University, Faculty of Agriculture Hokkaido University, Faculty of Agriculture 銀行の果たした役割 バブル崩壊 最大の責任は大手銀行・金融機関にあり 直接的契機 「土地神話」の喧伝と不動産担保融資によって土地高を助長 系列ノンバンクを経由した乱脈融資(大口融資規制の回避) 不動産融資の「総量規制」を迂回した住専問題(後述) 中小企業金融への参入により専門金融機関の不祥事を助長 特定金銭信託(ファンド・トラスト,営業特金)と証券スキャンダル 自らもエクイティ・ファイナンスにより資金調達Æ株式市場の過熱化 を助長 1990年初頭のトリプル安(円安,株安,債券安) 背景 公定歩合の引き上げ(89年5月2.5%Æ90年8月6%) 大蔵省による不動産関連融資の総量規制実施(90年3月) 資産価格の暴落 逆資産効果,キャピタル・ロス 不良債権化Î手元流動性の減退Î短期株式の放出Îさらなる株価 低落Î金融システムの機能不全(貸出行動の制約Æ調達行動の制 約) 生産力の「過剰」化 余剰労働力の顕在化Î賃金抑制とリストラÎ消費需要の減退 Hokkaido University, Faculty of Agriculture Hokkaido University, Faculty of Agriculture 長期不況のはじまり 次週の内容 政策による不況の「後押し」 2年目1/25,3年目1/28 講義内容 異常低金利の長期化(95年9月0.5%,01年2月0.35%,01年3月 0.25%) 赤字国債への依存体質(財政の硬直化) 公共事業への依存体質(波及効果なし) 90年 日米構造協議で430兆円の公共投資基本計画を発表 94年 630兆円に膨張 国家財政をめぐる問題 次回までの課題 とくになし 金融機関への公的資金投入(波及効果なし) 96年 住専問題の処理(1次6800億円,2次○兆円) 98年 預金保険機構(公的資金30兆円) 金融ビッグバン(96年経済審議会WG報告) メガバンク化Æ自己資本率優先Æ貸し渋りを助長Æ中小企業淘汰 消費税増税と医療保険制度改悪(97年~)Î消費需要の大幅減退 規制緩和による中小企業の淘汰(98年大店法廃止など) 雇用流動化を促進する産業再生法(99年)Î雇用不安 Hokkaido University, Faculty of Agriculture Hokkaido University, Faculty of Agriculture 2