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初期視覚処理における文字列の知覚的カテゴリー化
日心第77回大会 (2013) 8. 感覚,知覚 1PM-014 初期視覚処理における文字列の知覚的カテゴリー化 高速提示下における文字列特異的な ERP ○奥村安寿子 1, 2・河西哲子 3・室橋春光 3 (1 北海道大学大学院教育学院・2 日本学術振興会特別研究員・3 北海道大学大学院教育学研究院) キーワード:文字列処理,事象関連電位,高速提示 Perceptual Categorization of Letter Strings in Early Visual Processing Yasuko OKUMURA1, 2Tetsuko KASAI 3Harumitsu MUROHASHI 3 Graduate School of Education, Hokkaido Univ.JSPS Research FellowFaculty of Education, Hokkaido Univ. Key Words: Letter-string processing, Event-related potential, Rapid stimulus presentation 読みの学習と経験は,文字列を他の視覚刺激と迅速に区別 する知覚的カテゴリー化処理を発達させると考えられている。 その存在を示すのが事象関連電位(Event-related potential, ERP) において刺激提示後 200 ms 以内に出現し,文字列特異 的に増強する N170 である (e.g., Bentin et al., 1999)。しかし, N170 は文字列の音韻的・語彙的性質によって変動するという 報告もあり (e.g., Maurer et al., 2005),より高次な言語処理を 反映する可能性もある。従って,文字列の知覚的カテゴリー 化処理が初期視覚処理レベルにあるかどうかは明らかでない。 そこで本研究では刺激を高速提示し,文字列と非文字列に 対する ERP を比較した。先行研究では刺激が低速で提示され ていたため (数秒に 1 刺激),個々の刺激に十分な処理資源が 配分され,課題非関連な言語処理が混入した可能性がある。 一方,高速提示下では単位時間あたりの入力刺激数の増加に よって情報負荷が増大し,注意を向けていない情報の処理が 困難あるいは不可能になると考えられる (Schwent et al., 1976)。そのため,高速提示下で非言語課題を用いることによ り,音韻や意味といった課題非関連な言語処理が最小化され た状態で文字列の初期処理を検討できると考えられる。文字 列の知覚的カテゴリー化処理が視覚処理の初期段階にあるな らば,言語処理が制約された状況下でも ERP の早い時間帯で 文字列と非文字列が区別されると予想される。 参加者 日本語母語者 12 名 (男性 6,M= 21.5 歳,19-25 歳)。 内 1 名は加算回数不足により分析から除外した。 刺激 4 文字のひらがな単語,非語,記号列が提示された (各 107 個) 。各刺激の内 100 個は非標的刺激 (黒字),7 個は標的 刺激 (青字) であった。刺激は,灰色の画面中央に横書きで 提示され,その 1.21°下に十字の注視点が常に提示された (視 距離 70 cm)。刺激の空間配置の操作として文字/記号間に空 白がない dense 条件と,全角スペースを 1 個入れた sparse 条 件を設定し,刺激の横幅は dense 条件で注視点から左右に 2.05°,sparse 条件では 3.93°であった。刺激提示時間は 100 ms, 刺激間間隔は 300-600 ms (50 ms 間隔で 7 段階) とした。 手続き 参加者は注視点に視線を固定し,青字の標的刺激に 対してボタンを押すよう求められた。dense 条件と sparse 条件 はブロック別に行い (各 3 ブロック),順序は参加者間でカウ ンターバランスした。1 ブロックにつき 300 個の非標的刺激 および 21 個の標的刺激がランダム順で提示された。 記録と分析 脳波は鼻尖を基準として,拡張国際 10-20 法に 従う頭皮上 28 箇所からバンドパスフィルタ 0.1-30 Hz で導出 し,サンプリング周波数 500 Hz で A/D 変換した。加算平均は 非標的刺激について提示前 200 ms から刺激提示後 800 ms 区 間で種類別に行った (基線:0-200 ms)。 全刺激に対し,後頭側頭部において刺激提示後約 180 ms で 頂点に達する陰性電位 N1 が惹起され,記号列よりも文字列 で振幅が増強していた。この N1 の平均振幅を刺激提示後 160-210 ms 区間で算出し,半球×文字配置×刺激の 3 要因分散 図 1. 左右両側の後頭側頭部における総加算平均 ERP 分析を行ったところ,刺激の主効果が有意であった (F (2, 20) = 6.925, p < .02)。Tukey 法による多重比較を行ったところ,単 語と非語に対する N170 は記号列より増強しており (単語-記 号列:p < .006,非語-記号列:p < .04),単語と非語の振幅差 は有意ではなかった (p > .6)。半球もしくは配置条件を含む効 果は認められなかった (all ps > .5)。 高速提示された文字列は記号列より高振幅の N1 を惹起し, 文字列間で N1 の変動は認められなかった。文字列特異的な 増強および語彙性に対する感度の欠如は,低速提示下の N170 と一致する結果である (e.g., Bentin et al., 1999)。高速提示下で は課題非関連な言語処理が低速提示下より制約されると考え られるため,本研究の結果は文字列の知覚的カテゴリー化処 理が初期の視覚処理段階において生じることを示唆する。 ただし,本研究で得られた文字列特異的な N1 には左半球 優位性が認められなかった。課題が異なる類似の実験でも同 じ結果が得られており (Okumura et al., 2013),これらの結果は 低速提示下で同定された文字列特異的な N170 とは異なる (e.g., Bentin et al., 1999)。従って,文字列特異的な ERP の左半 球優位性には言語処理が関与していた可能性がある。 Bentin S, Mouchetant-Rostaing Y, Giard M.H., Echallier J.F., & Pernier J. (1999). ERP manifestations of processing printed words at different psycholinguistic levels: time course and scalp distribution. J Cogn Neurosci, 11, 235-260. Maurer, U., Brandeis, D., & McCandliss, B. D. (2005). Fast, visual specialization for reading in English revealed by the topography of the N170 ERP response. Behav Brain Funct, 1. Okumura, Y., Kasai, T., & Murohashi, M. (2013, April). Letter-stringspecific N170 broadly distributes under rapid stimulus presentation. Poster session at Cognitive Neuroscience Society 20th Annual Meeting. Schwent, V. L., Hillyard, S. A., & Galambos, R. (1976). Selective attention and the auditory vertex potential. I. Effects of stimulus delivery rate. Electroencephalogr Clin Neurophysiol, 40, 604-614. ― 501 ―