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第7回 機械化したオフィス(2009年6月12日)

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第7回 機械化したオフィス(2009年6月12日)
産業と技術の歴史
第7回 機械化したオフィス
2009年6月12日
国際環境経営学部 大谷卓史
目次
ƒ 前回課題について
ƒ 機械化したオフィス
前回の課題
ƒ バベッジとホレリスは、機械によって大規模計
算・情報処理をどのように効率化しようとした
か説明しなさい(できれば、200文字程度で)
。
ƒ その経緯を書きなさい。
ƒ また、機械による効率化の方法を書きなさい。
前回課題について
ƒ 1822年、数学者チャールズ・バベッジは、数表作成作業を自
動化する機械「階差機関」を思いついた。1823年、イギリス
政府はバベッジの構想に資金提供を決めた。
ƒ バベッジは、複雑な数式を差分法によって多項式という加算
だけの式に直したうえで、階差機関にこの加算を自動的に実
行させようとした。フランスのナポレオン時代に、複雑な式を
厖大だが単純な式に分解して多数の人間コンピュータに実
行させる数学工場が、階差機関のモデルと考えられている。
ƒ 1833年、バベッジは階差機関の模型を完成し、その翌年イ
ギリス政府に追加支援を申請した。しかし、新構想への資金
援助を要請したため、政府の信頼を失い、資金調達に失敗
した。
前回課題について
ƒ 米国人の機械技術者ハーマン・ホレリスは、厖大な国勢調査
データを整理するため、集計作業を機械化することを構想し
た。
ƒ その基本的なしくみは、自動オルガンがパンチカードやテー
プに音楽を記録するように、個人データを孔のパターンとし
て記録するものだった。機械がこの孔の位置を自動的に読
み取って、データの集計を行う。
ƒ 1888年、国勢調査準備のため、米国国勢調査局が新しい集
計方法を募集し、公開実験の結果、ホレリスのシステムの優
越性が示された。
ƒ 1890年の国勢調査では、ホレリスのシステムが採用され、
以前の調査では7年間かかった集計作業が、2年半で完了し
た。
機械化したオフィス
ƒ はじめに
ƒ オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 新しい販売手法の登場
はじめに
ƒ 本章の目的:19世紀から20世紀への転換
期における事務機器企業群の興亡史を知
ることで、
① 20世紀のコンピュータ産業の歴史を理解する。
② 20世紀を代表するコンピュータ企業IBMの経営
スタイル、販売文化、技術がどのように結合し
て、この企業の体質をつくったか、理解する。
はじめに
ƒ IBMとは?・・・20世紀を代表するコンピュータ
企業。
ƒ 1960∼1970年代、コンピュータ市場を支配(IBM
と7人の小人たち)。
ƒ 1964年・・・IBM System/360発売・・・「第3世代」
ƒ 1981年、IBM PCを発売・・・その後、パーソナル
コンピュータの世界標準になる。
ƒ 1997年、チェス専用スーパーコンピュータ・Deep
Blue、チェス世界チャンピオンを破る。
電機・コンピュータ・半導体企業
世界上位10社(2007年)
会社名
総合順位
国名
売上高
利益
雇用者数
(百万ドル)
(百万ドル)
(千人)
37
シーメンス
ドイツ
106,444
5,063
386
38
サムスン電子
韓国
106,007
7,986
144
41
ヒューレット・
パッカード
アメリカ
104,286
7,264
172
46
IBM
アメリカ
98,786
10,418
390
48
日立製作所
日本
82,096
-509
160
67
LG
韓国
79,412
2,916
306
72
松下電器産業
日本
79,412
2,468
306
75
ソニー
日本
77,682
3,235
181
88
ノキア
フィンランド
69,886
9,862
112
91
東芝
日本
67,145
1,116
198
『世界国勢図会2008/2009』p.327より。オリジナルデータは『フォーチュン』「世界の大企業500社」
(2008年7月21日号)。
世界のソフトウェア売上高(2007年)
(単位 100万ドル)
会社名
順位
ソフト売上高
全売上高
ソフト比率
従業者数
(%)
(千人)
1
IBM(米)
66,451
91,423
72.7
395
2
マイクロソフト(米)
39,317
44,282
88.8
71
3
EDS(米)
21,268
21,268
100.0
119
4
ヒューレットパッカード(米)
16,918
91,658
18.5
156
5
アクセンチュア(米)
16,646
18,228
91.3
140
6
コンピュータサイエンス(米)
14,616
14,616
100.0
79
7
オラクル(米)
14,380
14,380
100.0
56
8
SAP(独)
12,310
12,408
99.2
39
9
キャップジェミニ(仏)
9,019
80,892
11.1
356
10
日立製作所(日)
8,992
39,620
22.7
140
『世界国勢図会2008/2009』p.311より。
はじめに
ƒ オフィスにおけるコンピュータの用途(現在)
ƒ 文書作成・・・ワープロソフトによる手紙や報告書
の作成。
ƒ 情報の記録・・・データベースソフトによる住所録
の管理や棚卸し表の作成。
ƒ 財務分析・会計計算・・・表計算ソフトによる財務
予想や給与台帳作成。
はじめに
ƒ 19世紀の事務機器メーカーの進出分野
ƒ 文書作成・・・タイプライター(レミントン・ランド社)
ƒ 情報の記録・・・ファイリング・システム(レミントン・
ランド社)
ƒ 財務分析・会計・・・加算器(バローズ社)、パンチ
カード式会計機(IBM)、金銭登録機・会計機(
NCR)
機械化したオフィス
ƒ はじめに
ƒ オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 新しい販売手法の登場
オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 文書作成・・・タイプライター(レミントン・ランド
社)
ƒ 情報の記録・・・ファイリング・システム(レミン
トン・ランド社)
ƒ 財務分析・会計・・・加算器(バローズ社)、パ
ンチカード式会計機(IBM)、金銭登録機・会
計機(NCR)
タイプライターの発明
ƒ 1868年、クリストファー・レイサム・ショールズ(米)、
実用的タイプライターを発明。
ƒ 1874年、製造権を入手したレミントン社がタイプライ
ター製造を開始。
ƒ 19世紀後半、同社がタイプライター市場をほぼ独占。
ƒ ミシンをモデルとした販売組織を確立。
ƒ 1880年代、タイピスト訓練学校が登場。
ƒ タイピストの職業確立は、女性がオフィスに進出するきっ
かけ。
ƒ タイプライターを使いこなす労働者の登場は、タイプライタ
ー普及の大きな力となる。
タイプライターと
事務機器産業発展の要件
ƒ タイプライターは事務機器産業の3つの要件
を開拓。
ƒ 製品の完全性と低コスト生産
ƒ 製品を販売するための販売組織
ƒ 労働者の訓練組織
ƒ コンピュータ産業は、上記の3つの要件を引
き継いだ。
タイプライターの現代への遺産
ƒ QWERTY式キーボード
ƒ 現代のコンピュータのキーボード配列(アルファベット)は
、ショールズのタイプライターとまったく同一。
ƒ 効率のよいキーボード配列が提案されても、QWERTY式
キーボードから移行することがない。
ƒ コンピュータもタイプライターの配列を引き継ぐ。
ƒ QWERTY式キーボードで訓練されたタイピストやコンピュ
ータ・ユーザーが多数のため、あらためて訓練コストを支
払って、新しいキーボード配列に移行するメリットが少な
いためとされる。
技術の経路依存性
(Paul David, Economics of QWERTY )
オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 文書作成・・・タイプライター(レミントン・ランド
社)
ƒ 情報の記録・・・ファイリング・システム(レミン
トン・ランド社)
ƒ 財務分析・会計・・・加算器(バローズ社)、パ
ンチカード式会計機(IBM)、金銭登録機・会
計機(NCR)
19世紀の事務文書作成の
大きな変化
ƒ 南北戦争以前の時代・・・小企業の時代。ビジネス
文書はすべて「レター・ブック」に記録。
ƒ 受け取り用と差し出し用のレター・ブック。
ƒ 筆耕書記が手書きで受け取ったり差し出す書状をレター・
ブックに書き写し、保存記録を作成。
ƒ 南北戦争以後の時代・・:・・大企業への移行。
ƒ タイプライターとカーボンコピーの登場⇒手書きでなくても
簡単に書類の複製ができるようになる。
ƒ ルーズ・リーフを使って書類をとじるようになったので、タ
イプライターで打った書類を整理できるようになる。
ランドによる索引つき
ファイリング・システム
ƒ 1898年、ジェームズ・ランド、ランド・レジャー社(
Rand Ledger社)設立。
ƒ これに先立ち、ファイリングの索引システムを考案し、特
許化。
ƒ ランドは元銀行員で事務作業を熟知。
ƒ
ƒ
ƒ
ƒ
1915年、ランド・ジュニア、カーデックス社設立。
⇒カード式のファイルシステムを構築。
1925年、ランド社とカーデックス社を合併
⇒ランド・カーデックス社設立。
ランド社の事務機器メーカーとの合併
ƒ ランド・カーデックス社、事務機器メーカーの吸収合
併を促進。
ƒ ルールリーフ・カード・インデックス・システム業界の企業
ƒ ダルトン加算機会社、パワーズ会計機会社
ƒ 1927年、レミントン・ランド社と合併⇒レミントン・ラン
ド社へ
ƒ 企業資産7300万ドル、レミントン・ランド世界最大の事務
機器メーカーに。
ƒ ⇒総合事務機器メーカーとしての優位性を生かし、
20世紀のコンピュータ時代まで生き残る。
オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 文書作成・・・タイプライター(レミントン・ランド
社)
ƒ 情報の記録・・・ファイリング・システム(レミン
トン・ランド社)
ƒ 財務分析・会計・・・加算器(バローズ社)、パ
ンチカード式会計機(IBM)、金銭登録機・会
計機(NCR)
初期の加算機
ƒ アリスモメーター・・・最初の実用的加算機
ƒ 6桁の四則演算。
ƒ コンプトメーター・・・入力速度を改善(キーボ
ード入力)
ƒ バローズ加算機・・・印刷機能を搭載。
ƒ 金融組織でのニーズ・・・財務会計記録を残す。
アリスモメーター
ƒ 1820年、トマ・ド・コマ(仏)が発明。
ƒ 6桁の四則演算、ホイール回転による入力。
ƒ 1880年代、頑丈で信頼性ある製品が登場。
アリスモメーター
ƒ トマ・ド・コマの「ピアノ型」アリスモメーター
From IBM Archives (http://www03.ibm.com/ibm/history/exhibits/attic3/attic3_101.html)
コンプトメーター
ƒ 1885年頃、ドール・E.フェルトが発明。
ƒ タイプライターに似たキーボードから数字を入力
。
ƒ アリスモメーターの入力速度の問題を改善。
コンプトメーター
ƒ マカロニの箱を使って製作した最初のコンプト
メーター
From Early Office Museum
(http://www.earlyofficemuseum.com/calculating_machines_key_d
riven.htm)
コンプトメーター
ƒ 1887年、シカゴの製造業者ロバート・タラント
とともに、フェルト・アンド・タラント製造会社を
設立。
ƒ コンプトメーター訓練学校を設立。教育訓練
を提供⇒普及のきっかけに。
ƒ 第一次世界大戦までに、米国の主要都市および
ヨーロッパ、インド、オーストラリアに訓練学校が
広がる。
コンプトメーター
ƒ フェルト・アンド・タラント製造会社のコンプトメ
ーター
東京理科大学近代科学資料館ウェブサイト
(http://www.tus.ac.jp/info/setubi/museum/kannai/
database/syudou/kasan/410.html)より。
フェルト社のその後
ƒ 1930年代、電気機械式計算機の開発に失敗
⇒第二次大戦後、真空管式コンピュータの発
達に追いつく基盤を喪失。
ƒ 1960年代、コングロマリットに吸収され、コン
ピュータ史からは消える。
バローズ加算機
ƒ 1885年、ウィリアム・S.バローズ加算機の特
許を申請。アメリカン・アリスモメーター社を設
立。加算印刷機(adder lister)製造を開始。
ƒ 計算結果を印刷して残すことができる初めての
計算機
バローズの加算機の特許(米国特許番号
388,166)。
From the National Archives
(http://en.wikipedia.org/wiki/File:CalculatingM
achinePatentBurroughs.jpg).
バローズ加算機
ƒ 1898年、バローズ死去。
ƒ 1904年、バローズ・アディング・マシーンズ社
と改称。
ƒ 年間販売数を伸ばし、1907年には58種類のモデ
ルをラインナップ。
ƒ 加算機市場の拡大とともに、同社は発展。
20世紀初頭の加算機市場
ƒ 1913年、米国で累進税率の適用と給与に対
する源泉課税など、新しい税制が導入。
ƒ 1914年∼1918年の第一次大戦時、法人税
が拡大
ƒ ⇒計算事務量が拡大。
ƒ ⇒加算機の需要がさらに拡大する。
その後のバローズ
ƒ 第一次大戦前、米国加算機メーカーは設立。
ƒ しかし、バローズのみがコンピュータ時代生き
残る。なぜか?
ƒ 要因1:顧客の業務に加算機をどのように組み込
むかノウハウ・サービスも提供したため。
ƒ 第二次大戦後には、会計機械メーカーに発展。コンピ
ュータへの移行を助ける。
ƒ 要因2:一つの製品に固執せず、ユーザーの要
望にこたえて徐々に製品の幅を広げた。
機械化したオフィス
ƒ はじめに
ƒ オフィス情報処理3分野の機械化
ƒ 新しい販売手法の登場
新しい販売手法の登場
ƒ 事務機器市場におけるハード製品の販売を左右す
る要素
ƒ 顧客ニーズのシステマティックな解析
ƒ アフターサービスの提供
ƒ ユーザーのトレーニング
ƒ ⇒1890年代、ナショナル・キャッシュ・レジスター社(
NCR)がこれらの要素を取り入れた販売手法を確
立する。
ƒ ⇒事務機器メーカーが販売組織を構築する手っ取
り早い方法は、NCRの販売法を学んだ人間を雇用
することだった。
ナショナル・キャッシュ・レジスター社
ƒ 1884年、ジョン・ヘンリー・パターソン(米)、石炭小
売業から転身、金銭登録機事業を買収し、「ナショ
ナル・キャッシュ・レジスター社(NCR)」と改名。
ƒ 1888年、NCR、「開発部」を新設(事務機器産業最
初の正式な研究開発機関)。
ƒ 20世紀初頭、NCR社は急速に成長。ただし、単一
製品企業
ƒ 1926年、クラス2000会計機を発売し、事業を転換。
ƒ 同機は、送り状発行、給与計算など会計業務を網羅。
ƒ 同機以後、NCRと呼称を変える。
ナショナル・キャッシュ・レジスター社
の販売手法
ƒ パターソン、事務機器メーカーの営業手法を確立。
ƒ 販売特約店網の展開(シンガー・ミシン社の手法を採用)
ƒ 直販営業部隊の設立。
ƒ 金銭的動機付け・・・十分な基本給と歩合給
その後、 NCRの営業・販売手法は、
ƒ 精神的動機付け・・・厳しいノルマと、報酬としての「ハンドレッド・
20世紀コンピュータ市場を支配した
ポイント・クラブ」(ノルマ100%達成者のクラブ)への入会資格。
IBMに引き継がれる。
ƒ 詳細で魅力的な商品パンフレットや資料の整備。
ƒ セールスマン教育の確立
ƒ 1887年、「NCRプライマー」(セールストークの教科書)の作成。
ƒ 1894年、販売訓練学校を設立。
トマス・J.ワトソン
ƒ 1895年、トマス・J.ワトソン(米)、NCRに入社。
ƒ 1908年、販売マネージャーに昇進。セールス・スク
ールの責任者にも就任。
ƒ 「T-H-I-N-K」のスローガン。
ƒ 1911年、ワトソン解雇。
ƒ 同年、C-T-R社(ホレリスの電気作表機械会社から
発展した企業)に総支配人として入社。
ƒ 1914年、同社社長に就任。
ƒ 1924年、C-T-R社をIBMと改名。
ƒ 1935年、IBM、会計機市場の85%を独占。
IBMの会計機ビジネス成功の要因
ƒ 販売組織の確立・・・NCRの文化を導入
ƒ 販売地域、手数料、販売ノルマの設定。
ƒ 「ワン・ハンドレッド・パーセント・クラブ」
ƒ T-H-I-N-Kのモットー。
ƒ 「賃貸と補充」ビジネスモデル
ƒ パンチカード・システムを賃貸・・・安定収益。製造コストは約2∼3年
のレンタル料で回収。長期リースによって大きな利益。
ƒ パンチカード販売による高収益・・・原価は売価の数分の一、収益の
30∼40%がパンチカード販売。
ƒ 技術革新
ƒ 競合企業に対抗して、印刷機能を追加。
ƒ 桁数の大きなカードの開発競争。
ƒ 1930年代初頭、400シリーズを発売。「両大戦間のパンチカード・マシ
ンにおける最高峰」。
大恐慌とIBM
ƒ 1929年、大恐慌
ƒ IBMの新規受注も落ち込み、収入はカード販売および既
受注機械のレンタル料のみ。
ƒ 従業員を解雇せず、景気回復にそなえて、工場をフル稼
働。
ƒ 1935年、ニューディール政策。社会保障法制定。
ƒ 1936年、社会保障法制定にともなう米国労働者(
2600万人)の雇用記録整備のため、連邦政府、
IBMの在庫の大部分を導入。⇒その後、政府売上
げは、IBMの収入約10%を占めるまでに成長。
大恐慌とIBM
ƒ IBMの1936∼1940年の売上げ・・・約2倍に
ƒ 1936年:2620万ドル
ƒ 1940年:4620万ドル、従業員数12,656人
ƒ 1940年、IBMのビジネス規模、同社以外の世
界中の事務機器会社全体の合計を超える。
本日の課題
ƒ 下記の現象に当てはまる事例はどのようなも
のがあるか?例を示し、それがどうして当て
はまるか簡単に説明しよう。
ƒ 技術の経路依存性
ƒ 歴史的偶然から選択された技術が、ほかの優れた技
術を押しのけて事実上の標準として生き残っていく現
象など。
ƒ 「賃貸と補充」ビジネス
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