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学校生活における 事故防止の留意点 学校生活における 事故防止の留意点

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学校生活における 事故防止の留意点 学校生活における 事故防止の留意点
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
学校生活における
事故防止の留意点
99
100
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点
Ⅰ 小学校における事故防止の留意点
兵庫教育大学大学院学校教育研究科
教授 西岡 伸紀
本項では、小学校における死亡・障害事故の状況を、休憩時、教科等などの場合別に概観す
る。また、障害事故については、衝突、転倒、転落などの事故発生時の「できごと」の状況を
概要としてまとめた。さらに、概要を踏まえて基本的対策を述べた後、場合別に事例を紹介し
具体策を示した。
1 小学校における死亡・障害事故の概要
平成22年度には、死亡は11件、供花料支給は14件、障害は131件発生した。死亡件数は昨年
度とほぼ同程度、供花料及び障害の件数は増えた。
1)死亡、供花料
死亡を場合別にみると、通学中が半数近くを占め、他には、教科等、学級活動、学校行事、
課外活動、休憩時に1〜2件発生した(表1、図1の「死亡」を参照)
。
死亡11件のうち3件は突然死によるものであり、学校行事、課外活動、休憩時に各1件発生
した(表1)。突然死の占める割合は、
21年度に比べ少なかった
(21年度は12件中10件が突然死)
。
学校行事における突然死の事例を示す(22死-3)
。また通学中の死亡は5件発生したが、その
うち3件が川や水路での溺死であり(22死-11)
、他の1件も雨水槽への転落であった。これら
の事故のきっかけや誘因は、
「カードを取ろうとして」
「落ちた鉛筆のキャップを拾おうとして」
「小魚や水生生物をさがしているうち」などであった。
供花料については14件発生したが、ほとんど(13件)が通学中の交通事故であった。そのう
ち11件は、1年生あるいは2年生の事故であり、低学年で特に注意すべき事故であると考えら
れた。また9件は、
横断歩道を「渡っている」あるいは「渡ろうしている」際の事故であった。
さらに5件は、右折あるいは左折してきた車による事故であった。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
101
表1 場合別の死亡の発生件数
場 合
各教科
全件数
突然死
体育
1
その他
0
供花料
学級活動 学級活動
1
学校行事 運動会・体育祭
1
1
課外活動 臨海学校
1
1
1
1
休憩時間中
休憩時
通学中
始業前の特定時間中
1
授業終了後の特定時間中
1
登校中
1
4
下校中
4
9
計
22死-3
小6年・女
11
突大血管系
3
14
学校行事、運動会・体育祭
運動会の全校練習中、綱引きを終え本児童はテントの中で見学していた。放送係のた
め放送室へ駆け寄り、その直後に力が抜けたようにその場に倒れた。救急車で病院に搬
送し、手当てを受けたが、死亡した。
22死-11
小5年・男
溺死
通学中
下校中、橋の下にあったカードを取ろうと、橋の下に降りた。川の上に積もっていた
雪から足を滑らせ、川に落ち流された。およそ1時間後に発見され、病院で救命措置を
施したものの死亡した。
22供-10
小2年・男
全身打撲
通学中
下校中、本児童は通学路になっている交差点を徒歩で横断中、左折した清掃車にはね
られ死亡した。
2)障害
①障害発生状況の概要
死亡及び供花料の発生が25件であるのに対し、障害は131件であり、死亡等の約6倍発生し
ていた。
死亡では通学中の発生が大半を占めたのに対し、障害では、休憩時中の発生が全体の半数を
占め、教科等が6分の1程度であり、特別活動及び通学中は、各10%程度であった(図1の「障
害」、表2を参照)
。教科としては体育が半数を占め、特別活動では、日常の清掃、給食指導、
児童会活動などに見られた。通学中では、下校中が大半を占めた(表2)
。
102
図1 小学校における死亡・障害の場合別内訳(%)
死亡
(%)4.0 8.0 4.0
12.0
障害
(%)
11.5
16.8
72.0
4.6 4.6
0%
51.9
10.7
50%
100%
表2 小学校における障害事故の場合別発生状況(件)
教 科 等
特別活動
学校行事
課外指導
休憩時
通学中
区 分
体育(保健体育)
図画工作(美術)
理科
家庭(技術・家庭)
総合的な学習の時間
自立活動
その他の教科
計
学級(ホームルーム)活動
給食指導
日常の清掃
その他の学級活動
児童(生徒・学生)会活動
体育的クラブ活動
文化的クラブ活動
計
その他儀式的行事
運動会・体育祭
その他健康安全・体育的行事
遠足
修学旅行
その他集団宿泊的行事
その他
計
体育的部活動
文化的部活動
その他
計
休憩時間中
昼食時休憩時間中
始業前の特定時間中
授業終了後の特定時間中
計
登校(登園)中
下校(降園)中
計
合 計
件数
12
1
1
4
4
22
2
3
4
3
2
1
15
1
1
1
1
2
6
5
1
6
27
23
9
9
68
3
11
14
131
教科等
特別活動
学校行事
課外指導
休憩時間
通学中
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
103
②障害を発生させた「できごと」
事故の「できごと」の発生状況を把握するために、障害の各事例について、表3に示すよう
な「できごと」のうちいずれにより発生しているのか分析した。分類では、一つの事例に複数
の「できごと」がある場合には、複数を挙げた。ただし、分類には一義的に決まらない場合も
あり、分類結果の件数は絶対的なものではなく、目安程度とお考えいただきたい。そのため、
内訳の件数は示していない。
表3 障害事故事例の分析に用いた「できごと」の区分
・人にぶつかる ・物にぶつかる
・落下する ・転倒する
・物などが当たる、はさまれる ・その他
③「できごと」の発生状況
発生件数を場合別にみると、休憩時が圧倒的に多く、特別活動、教科が続いた(図2)
。
「できごと」の内訳については、全体では、
「転倒する」
「物などが当たる、はさまれる」
「そ
の他」の順に多かった(図3)
。
場合別に「できごと」の内訳を見ると、場合によって異なっていた(図3)
。
まず、休憩時では、
「転倒する」が最も多く、
「物にぶつかる」
「落下する」
「物などが当たる、
はさまれる」などがほぼ同じ割合で続いた。教科等では、
「転倒する」
「物などが当たる、はさ
まれる」が同程度であり、
「落下する」
「その他」が次ぎ、
「人にぶつかる」や「物にぶつかる」
は少なかった。また、特別活動では、
「その他」が多く、
「物などが当たる、はさまれる」が次
ぎ、「物にぶつかる」は少なくなった。この場合の「その他」は火傷がほとんどであり、クラ
ブ活動、自然教室などでの調理や実験の際に、味噌汁、湯、油などの容器等をひっくり返すこ
とにより起こっていた。通学時については「転倒する」が目立った。
104
図2 障害事故発生時の「できごと」
:場合別件数(件)
休憩時
(69)
人にぶつかる
教科等
(23)
物にぶつかる
落下する
特別活動
(24)
転倒する
物などが当たる
はさまれる
課外活動(5)
その他
通学時
(15)
0
20
40
60
80
※各場合の( )内の数値は、発生件数を示す。
図3 障害事故発生時の「できごと」
:場合別内訳(%)
合計(136)
休憩時
(69)
人にぶつかる
物にぶつかる
教科等
(23)
落下する
転倒する
特別活動(24)
物などが当たる
はさまれる
その他
課外活動
(5)
通学時
(15)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
※各場合の( )内の数値は、発生件数を示す。
2 死亡、障害事故の防止対策
1)突然死
突然死は、独立行政法人日本スポーツ振興センターによれば、突然で予期されなかった病死
とされている。突然死には、基礎疾患が事前に指摘されていないケースや原因が特定できない
ケースも少なくないが、同センターは、突然死予防策として、次の10か条を、
「基本的な事項」
「疾患のある(疑いのある)子どもに対する注意事項」
「その他、日頃からの心がけ」に分けて
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
105
挙げている。その中で、⑨は発生時の救急及び緊急連絡体制(以下、救急等の体制とする)に
関することである。危険等発生時対処要領等に救急等の体制や具体的対応を、AEDの使用を
含めて明示し、かつ体制を有効に機能させるためには、シミュレーションや訓練を行う必要が
ある。その際には、例えば、文部科学省が作成し全ての小・中・高に配布された教職員研修用
DVD の応急手当の内容が有用である(表5)
。この内容は10分程度で視聴できるもので、詳
細ではないが基礎的内容を教職員で共通理解することに役立つ。
余談であるが、本DVDは他の安全課題の研修にも使用できるので、ぜひ活用されたい。
表4 突然死予防の10か条
基本的な事項
①学校心臓検診(健康診断)と事後措置を確実に行う
②健康観察、健康相談を十分に行う
③健康教育を充実し、体調が悪いときには、無理をしない、させない
④運動時には、準備運動・整理運動を十分に行う
疾患のある(疑いのある)子どもに対する注意事項
⑤必要に応じた検査の受診、正しい治療、生活管理、経過観察をおこなう
⑥学校生活管理指導表の指導区分を遵守し、それを守る
⑦自己の病態を正しく理解する、理解させる
⑧学校、家庭、主治医間で健康状態の情報を交換する
その他、日頃からの心がけ
⑨救急に対する体制を整備し、充実する
⑩AEDの使用法を含む心肺蘇生法を教職員と生徒全員が習得する
(学校における突然死予防必携(改訂版)
、独立行政法人日本スポーツ振興センター)
106
表5 小学校教職員用研修DVDの内容
児童を事故・災害から守るためにできることは
1.できていますか 来訪者対応の基本
2.事故の原因を探る
3.熱中症から子どもを守る
4.子どもに伝える 安全な自転車の乗り方
5.自然災害に備えた施設・設備の安全点検
6.自然災害時の避難
7.安全ですか 通学路
8.応急手当の重要性
2)交通事故
事例では、交通事故12件のうち8件を横断歩道での事故が占めており、車両側の責任が大で
あると言える。ただ、駐車車両の間からの飛び出し事故も見られる。このような状況を見ると
運転者への働きかけが不可欠であるが、児童への交通安全教育も欠かせない。指導としては、
横断歩道や交差点での横断における横断の仕方や留意事項、校区の通学路の危険箇所やそこで
の行動などについて、事故事例やヒヤリハットの経験を取り上げ、その場のイラストや写真な
どを用いて、具体的に指導することが考えられる。
3)障害の防止:概論
障害は、死亡に比べて通学路での発生が少なく、学校の教育活動と密接に関連した事例が多
く、いずれの学校でも起こりうると言える。対策としては、施設設備の安全点検、安全教育を
組織的に包括的に行う必要がある。
①安全に関する子どもたちの発達特性
障害については、死亡に比べて場面や「できごと」が多岐にわたる。したがって、安全管理
と安全教育を一層関連付けて、組織的に行う必要がある。
小学生の学校安全に関する発達段階の特性について、
「学校安全参考資料」
(文部科学省)を
まとめてみる。
低学年では、見えるものには危険と判断できるが、明確な危険が見えない場合は、安全だと
判断する傾向にある。例えば、死角が存在する場面、因果関係または事象の展開により危険事
態が発生するような場面に対する指導が必要である(22障-28、22障-54)
。したがって、学習
経験を他の類似場面等に一般化する力が弱いので、場面ごとに教育内容を提供しながら、学習
経験を徐々に広げていく必要がある。
中学年では、身近な場所での危険については知識を持っているものの、危険予測や判断の能
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
107
力は十分ではない(22障-17)
。特に、未知の場所や状況での危険予測や判断は難しい。そのた
め、このような場所等における危険予測の学習、自分たちの生活空間と関連づけて安全・危険
を考える「安全マップづくり」などの学習が有効である。
高学年では、仲間関係が強くなり、冒険心や仲間への同調行動からあえて危険を冒し、事故
に遭うこともある。したがって、仲間の圧力への対処の指導が必要である。
22障-28
小2年・女
歯牙障害
特別活動(日常の清掃)
同じクラスの男子がトイレから出てくる時、左手にほうきを持って行進するように手
を振って歩いていたため、女子トイレから出てきた本児童の口に、ほうきの棒の先が当
たってしまい、下前歯2本、上の前歯1本が半分くらいから折れてしまった。
22障-54
小1年・女
歯牙障害
休憩時間
ぶらんこに腹ばいの姿勢で乗って漕いでいた際、バランスを崩し、顔から転落し負傷
する。
22障-17
小4年・男
視力・眼球運動障害
各教科等
木工教室にて本児童作成の竹トンボを飛ばしていた。本児童が飛ばした竹トンボが自
分に向って飛んできて右目にぶつかり受傷。
なお、同じ発達段階でも、個人差に留意すべきである。小学校4年生でも見えない危険に気
づかないこともあったり(22障-48)
、小学校6年生でも、未知の状況に対して危険が予測でき
ない場合があったりする(22障-107)
。
22障-48
小4年・男
視力・眼球運動障害
課外指導
練習後に、体育館の床を雑巾がけしていたところ、本児童と他の児童の顔面が正面衝
突する。
22障-107
小6年・男
外貌・露出部分の醜状障害
休憩時間
バスケットボールをしていて、ダンクシュートをしようと、友達に肩車をしてもらい、
バスケットボールへ近づいた。ゴールに届かなかったため、ネットに手をかけ、体を持
ち上げ、ボールをネットに入れた後、バスケットゴールが倒れ頭にぶつかった。
②安全管理
小学生では、安全に関する能力の発達が十分とは言えないため、安全な環境を保持すること
が特に重要である。学校内の環境は変化するため、日常の点検や定期点検が必要である。例と
して、体育館の床面の状態(濡れていること、22障-11)
、危険性のある実験器具や用具の扱い
方や保管の仕方(22障-76、22障-34)に関するものを示した。
108
22障-11
小1年・女
精神・神経障害
各教科(体育)
教師が鬼になり子供が逃げる鬼ごっこをしていたが、本児童は雨漏りで濡れていた体
育館の床で足を滑らせ、頭部を床で打ちつけた。
22障-76
小6年・女
外貌・露出部分の醜状障害
休憩時間
休憩時間に入ったが児童はまだ理科室にいたところ、教科担任が実験の準備でアルコー
ルランプにアルコールを補充する為、アルコールの入った18リットル缶を開缶して教師
用実験台の下に置き、教科担任がマッチの火をつけたところ、アルコール缶が爆発し、
近くにいた本児童は両下肢に熱傷を負った。
22障-33
小5年・男
手指切断・機能障害
特別活動
新聞掲載委員会活動を始めた。男子児童は紙を切る裁断機に関心をもった。一人が紙
押さえを上げた為、本児童がこれを元の状態にしようと、裁断機の台に掌を上に向けた
格好で置いたところ、急に刃が下りて、左手の指2本を切断した。
さらに、救急等の体制整備が必要である。というのは、事例の中には、子どもの行動や環境
に大きな問題はないものの、事故が発生したと思われるものが複数見られたためである。これ
は、「障害の防止が不可能」としているわけではない。事故が起こり得ることを想定して備え
る必要があることを意味している。
22障-75
小6年・女
精神・神経障害
休憩時間
「けいどろ」をして遊んでいる最中に左足首を挫く。
22障-86
小3年・男
外貌・露出部分の醜状障害
休憩時間
ドッジボールをしていた。ボールを受けて前に出ようとした所、足を滑らせ前に転倒。
顔面を強く打ち前歯2本を負傷する。
22障-114
小5年・男
視力・眼球運動障害
休憩時間
サッカーの試合をしていた時、本児童がシュートしたボールが友人の足に当たり、跳
ね返ったボールが右眼にぶつかり負傷する。
③安全教育
階段の手すりを滑る(22障-116、
計3例)
、
持ってきた弓矢で遊ぶ(1例)などの危険な行動、
悪ふざけの行動、教室等での鬼ごっこ等の不適切な場所での行動などの防止には、安全教育が
必要である。鬼ごっこや追いかけっこが関わる障害は20件に上り、頻度が高い。また、けんや
かトラブルが関わる障害は8件見られた。防止のためには、子どもたちのルール遵守や自主的
な安全行動が求められるため、安全教育が不可欠である。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
22障-116
胸腹部臓器障害
小6年・男
109
休憩時間
帰りの会が終わり靴脱ぎ場へ向かう途中、3階の階段で手すりの上に座って滑り降り
ようとしてバランスを崩し、2階の階段まで落ち、全身を強打した。
4)障害の防止:場合別
①休憩時における事故防止
休憩時の障害発生件数は、既に述べたように「転倒する」
「物にぶつかる」
「落下する」
「物
が当たる、
はさまれる」が多かった。休憩時間中の「遊具等での遊び」
「鬼ごっこ・追かけっこ」
などは、子どもたちの社会性や運動能力を高めるため推奨されるべきものである。しかし、遊
びや運動も、行われる場によっては事故の危険性が高まる。教室、階段、校舎の出入口などで
の鬼ごっこ等は危険性が高くなる(22障-58)
。遊びに集中する、興奮する、競争心が働くなど
のため、周囲の状況が見えにくくなることが一因と思われる。指導内容としては、遊びや運動
として適切な場を選択したり、上述のような不適切な場を避けたりすること、それらに関する
決まりを守ることなどが考えられる。
また、けんかやトラブルも、計8件のうち6件が休憩時に起こっていた。けんかやトラブル
自体の防止が肝要であるが、発生時には、教職員やクラスメートが早期に介入することが必要
である(22障-71)
。
22障-58
小2年・男
外貌・露出部分の醜状障害
休憩時間
追いかけっこをしていたところ、転倒。階段の角に頭をぶつけ負傷した。
22障-71
小5年・男
外貌・露出部分の醜状障害
休憩時間
他児童と本児童がトラブルになり、投げた植木鉢の破片が本児童の顔面に当たり、顔
が切れ負傷した。
②教科等における事故防止
教科等では、
「転倒する」
、
「物に当たる、はさまれる」などの事故が多かった。
教科等の授業では、
「楽しい」
「わかる」
「知的に興奮する」
「実感する」などの目標がある。
それらが、安全への意識を低下させる場合がありうるが、指導者は安全への配慮を忘れてはな
らない。安全に関する事前指導、子どもたちの行動の観察、授業環境や用具等の整備や状態な
どの事前あるいは授業中の確認などを行う。また、技能や体格のレベルに合わせて指導内容を
選択すること(22障-4)
、子どもたちの技能等によりグループを編成すること、適宜個別指導
を行うことなどが必要である。
110
22障-4
下肢切断・機能障害
小6年・男
体育
跳び箱の段数を増やしながら開脚跳びの練習をしていた際、8段目を跳びきることが
できず足を強打する。
③特別活動(学校行事を含む)
学校行事を含む特別活動では、
「その他」
「転倒する」
「物に当たる、
はさまれる」が多かった。
既に述べたが、
「その他」では熱傷が多かった。特別活動での活動は多様であり、必要な対策
も多岐に渡るが、基本的には、安全管理により環境を安全に保つ、決まりを設ける、手順を徹
底する、指導内容を適切なものにするなど留意する。併せて、子どもたちに対して、危険箇所、
活動の仕方や留意点(21障-36、22障-42)などの安全指導が必要となる。
なお、清掃時には、悪ふざけなどの危険な行動が複数見られた(21障-30)
。清掃活動自体の
充実を図るとともに、悪ふざけによる「できごと」の発生、その結果として起こる負傷を具体
的に示すなどして、危険な行動の問題を理解させる必要がある。
22障-36
小5年・女
外貌・露出部分の醜状障害
特別活動
卓球クラブ活動中、転がった球を取りに行き戻る途中、素振りの練習をしていた男児
のラケットが本児童の顔に当たった。
22障-42
小5年・男
外貌・露出部分の醜状障害
学校行事
自然学習4日目、飯ごう炊飯学習でみそ汁ができたので、みそ汁の入った鍋を流し台
に持って行ったが、流し台の上にはボール等の調理道具があったため、2人が片手で退
けた後、鍋を台にしっかりと乗せようとしたところ、鍋が傾いてこぼれ、本児童の右足
にみそ汁がかかった。
22障-30
小3年・男
精神・神経障害
特別活動
階段の手すりの所で滑って遊んでいたところ、手すりの右側に置いてあった傘立てに
右足が引っ掛かり、頭から床に転落した。
④課外指導
指導に関わる安全管理や安全指導も必要である。残念ながら、飛び込みによる障害が2件見
られた(22障-44)
。飛び込みについては、
文部科学省から通じがあり(平成21年5月22日)
「ス
、
タートの指導については、個人の能力に応じた段階的な取り扱いを重視し、教師等の指示に従
い、水深や水底の安全を確かめ、入水角に注意するなど、安全に配慮した慎重な指導を行うこ
と」とある。さらに、一定の技能を身につけている児童生徒の事故例があることも述べ、単な
る技能の問題ではないことを示している。他にも、
鉄棒、
サッカーに関する事例が見られた(21
障-47)。対策は教科等と同様であるが、活動の場所や特性を踏まえる必要がある。また、活動
終了後の後片付けや会場退室時における事故もあり(22障-48、上述)
、活動の前後まで広げて
安全対策をとる必要がある。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 小学校編
22障-44
小5年・女
精神・神経障害
111
課外指導
本児童は担当教諭指導監督のもと、翌日開催水泳記録会の最終調整の練習に参加して
いた。本児童が水中に飛び込んだ際に、プールの底に頭部を強く打ち、頚椎を負傷した
と思われる。
22障-47
小6年・男
視力・眼球運動障害
課外指導
サッカーの試合中に相手が蹴ったボールが、近い距離で左目に当たり、負傷した。
⑤通学路
通学路においては「転倒する」が多く見られた。きっかけは、
「バランスを崩す」
「つまづく」
「押される」
「すべる」
「ぶつかる」などであった。また、所持していた鉛筆、棒、傘などが事
故の原因や誘因になる場合もある(22障-123、22障-126)
。通学路の危険な環境を改善すると
ともに、子どもたちには、事例等を用いて、危険な箇所を把握すること、周囲の環境に注意を
払うこと、悪ふざけなどの危険な行動はとらないことなどの指導を具体的に行う必要がある。
22障-123
小2年・男
視力・眼球運動障害
通学中
友達と話しながら帰っていて、バランスを崩して転んだ際、手に持っていた鉛筆が顔
面の右眼下に刺さり、鼻骨と左眼を負傷した。
22障-126
小3年・男
視力・眼球運動障害
通学中
落ちていた竹や棒を拾って友達と「戦いごっこ遊び」を始めた。その時、友達の手か
ら勢い余って棒が離れ、本児童が振り向いた瞬間、右眼を直撃した。
3 事故防止対策の総括
死亡・障害の事例は多様であり、発生可能性の大小はあるものの、いずれの学校でも起こり
うるものである。したがって、対策としては、安全管理と安全教育を関連させて計画的に組織
的に実施、事故の発生を防止すること、発生時に備え、危険等発生時対処要領に緊急事態発生
時の対応を示し、そのシミュレーションや訓練を行っておくことが必要である。その際、学校
保健安全法を踏まえ、教職員の研修を学校安全計画に位置付け、確実な実施を図るべきである。
112
2 中学校における事故防止の留意点
東京学芸大学教育学部
教授 渡邉 正樹
(1)学校生活における障害事故防止
図1 中学校と全校種における場合別の障害事故の発生状況
(%)
45
40.2
40
33.2
35
30
23.5
25
25.1
23.5
24.6
中学校
全校種
20
15
8.3
10
9.6
7.3
3.8
5
0.8 0.2
0
各教科
特別活動
課外活動
休憩時間
通学中
寄宿舎
中学校における事故・災害の実態は小学校とは大きく異なり、休憩時間での災害発生は減少
し、課外活動での災害が増加する傾向がある。図1は、中学校と全校種における場合別の障害
事故の発生状況を示しているが、課外活動が全校種にくらべ高い傾向があるものの、それ以外
では大きな差はない。
図2 中学校と全校種における男女別の障害事故の発生状況
(%)
80
70
68.2
67.0
60
50
40
男子
31.8
33.0
30
20
10
0
中学校
全校種
女子
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 中学校編
113
図2は同じく中学校と全校種における男女別の障害事故の発生状況を示しているが、やはり
中学校と全校種では大きな差はみられない。このように学校における災害の実態を代表してい
るのが中学校の状況といえる。
しかし災害の内容をみると、やはり中学生独自の傾向もみられる。以下、障害事故、死亡事
故、供花料支給事故に分け、それらの事例から災害の特徴と事故防止の留意点について述べた
い。
① 教育活動中の事故
・体育活動中
表1 体育活動中における発生状況(障害事故)
区 分
各教科等
体育(保健体育)
学校行事
運動会・体育祭
競技大会・球技大会
その他集団宿泊的行事
課外指導
体育的部活動
競技種目等
跳箱運動
マット運動
短距離走
持久走・長距離走
走り高跳び
サッカー・フットサル
ソフトボール
バスケットボール
バドミントン
柔道
準備・整理運動
計
体操(組体操)
短距離走
その他
その他
短距離走
スキー
計
短距離走
持久走・長距離走
障害走(ハードル)
陸上競技(その他)
サッカー・フットサル
テニス(含ソフトテニス)
ソフトボール
野球(含軟式)
ハンドボール
バレーボール
バスケットボール
バドミントン
柔道
弓道
その他
計
件 数
1
2
2
2
3
2
2
7
1
1
1
24
1
1
1
1
1
1
6
1
1
1
1
4
4
1
16
1
7
8
2
3
1
1
52
体育活動中の障害事故では、保健体育の授業時および課外活動において数多く事故が発生し
ている(表1)
。いずれも球技実施時に事故が数多く発生している。最も災害件数が多いのが
114
課外指導における野球であり、これは近年の事例と同様である。
具体的には、顔面にボールが直撃し、その結果として顔面の負傷による障害が、多く発生し
ている。事故の背景としては、本人の未熟な技能による事故(事例198)のほか、練習の環境
も関係していると思われる。例えば事例188と192では、練習する場所の位置や練習計画を改善
するなどによって事故防止が可能となると思われる。生徒の安全意識の向上や危険予測・回避
能力の育成とともに、指導者の安全管理意識を高めることが必要である。
22障-188
中1年・男
視力・眼球運動障害
課外指導 野球(含軟式)
バッティング練習中、ピッチングマシーンに球を入れようと球拾いをしていた所、他
の部員が打った球が2バウンドほどして右眼に直撃する。
22障-192
中2年・男
外貌・露出部分の醜状障害
課外指導 野球(含軟式)
練習中、野外の守備練習で打球を追いかけていたところ、運動場にあるサッカーゴー
ルのポストの裏にある突起部分に右頬を強打した。
22障-198
中2年・男
視力・眼球運動障害
課外指導 野球(含軟式)
野球部の練習試合中、バッターボックスで打撃中だった本人の自打球により、右眼を
強打した。
バスケットボールやサッカー・フットサルは、他の選手との接触の多いスポーツであるため、
衝突等による事故が多い(事例180、212、213)
。技術が未熟であったり、選手間に技術の差が
あったりした場合には事故発生の危険性が高くなるため、練習中、試合中に予想される事故・
災害についての理解を深めることが必要である。
22障-180
中2年・男
下肢切断・機能障害
課外指導 サッカー・フットサル
練習試合中、相手生徒のスライディングタックルを右足に受けて転倒し、右足大腿骨
を負傷した。
22障-213
中1年・女
外貌・露出部分の醜状障害
課外指導 バスケット
他校体育館で練習試合中、相手と接触し転倒した時に、右足首を骨折した。
22障-218
中2年・女
歯牙障害
課外指導 バスケット
ゲーム形式の練習中にチームメイトの肘が強く当たり、前歯が折れる。
テニス(含ソフトテニス)やバレーボールでは、
用具や設備によるけがが数多くみられる(事
例182、206)。競技そのものだけではなく、施設・設備および用具の安全な使い方についての
指導も必要である。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 中学校編
22障-183
精神・神経障害
中1年・女
115
課外指導 テニス(含ソフトテニス)
ゲーム形式の練習中、ペアの生徒が先にコートに入り、本生徒が遅れてコートに入っ
た際、たまたま素振りをし、本生徒は反対方向を見ていたため、お互い気付かず、振り
上げたラケットが本生徒の首(耳の後ろ辺り)に当たった。
22障-209
中2年・女
外貌・露出部分の醜状障害
課外指導 バレーボール
準備のため、ネットを張っていたところ、ネット上部のワイヤーが断裂し、その反動
でネットによってしなっていた支柱が戻り、支柱を押さえていた本生徒の額に当たり後
方に転倒し床で後頭部を打撲した。
柔道は事故件数は少ないものの、
重大な事故が発生する危険性が特に高い。
格闘技系では個々
の技術を考慮して、事故の発生の危険性を想定した安全指導が求められる。
22障-223
中3年・男
精神・神経障害
課外指導 柔道
試合中に本生徒が低い姿勢で払い腰の技を仕掛けた時に頭から崩れ、その上に相手が
のしかかって受傷した。その後、頚髄損傷の後遺症として両下肢麻痺及び神経因性膀胱
の障害を負っている。
保健体育の時間では、計24件の障害事故が発生している。バスケットボールが7件と特に多
く、他の競技・種目では1、2件となっている。中学校の保健体育科では、小学校に比べ多様
な競技・種目が行われるため、新たな競技・種目ゆえの技術の未熟さが原因となって生じたと
思われる負傷が多くみられる(事例145、
150)
。また環境要因が関わる事故も発生している(事
例140)。
これらの多くは過去にもしばしば発生している典型的な事故であり、授業前に安全指導を
行っておくことで防げるものも少なくない。生徒が未熟であることと併せて、教員の意識の向
上が求められる。
22障-145
中3年・男
歯牙障害
保健体育 ソフトボール
ソフトボールの試合中、バッターがボールを打った際、バットを手放してしまい、そ
のバットが観ていた本生徒の口を直撃した。
22障-150
中2年・男
手指切断・機能障害
保健体育 バスケットボール
バスケットの授業中に、ボールを受け損ね、右人差し指を突き骨折した。
22障-140
中3年・女
せき柱障害
保健体育 走り高跳び
走り高跳びの練習をしていて、背面跳びで着地の際、マットから外れ地面に落ち、腰
を強打した。
116
件数は多くないが、学校行事における体育活動においても障害事故が発生している。しかし
その内容は、体育活動だけではなく、悪ふざけ等によって発生していることがある。学校行事
という特徴から、気持ちが高揚して、安全の意識も低下しやすいので、指導者が特に注意を払
うべき場面である。
22障-173
視力・眼球運動障害
中2年・男
学校行事 その他集団宿泊的行事(スキー)
スキー林間の講習前、集合場所で友だちとふざけていて、逃げようと振り返ったとき
スキー立ての棒が左眼下に当たった。
・体育活動中以外
表2 体育活動中以外における発生状況
区 分
理科
家庭(技術・家庭)
各 教 科 等
総合的な学習の時間
給食指導
特 別 活 動 日常の清掃
(除学校行事) 児童(生徒・学生)会活動
課 外 指 導
その他
1件は転落事故
家庭2件、技術1件
計
計
件 数
2
3
2
7
1
1
1
3
1
保健体育以外の教育活動では、各教科等や総合的な学習の時間での障害事故は少なかった。
各教科等で教科の学習活動に関わって発生しているは事例156、159であるが、発生の危険性が
高い典型例と言える。実験、実習を含む教科では、このような典型例を参考にして、授業前に
は確実に安全指導を行うべきである。
22障-156
中2年・女
外貌・露出部分の醜状障害
各教科等 理科
数人ずつがグループに分かれて実験をする選択理科の授業であった。エタノールによ
る燃焼実験を中庭で5人でしていた。教師は他のグループ実験を手伝い見ていたので、
このときは窓から指示、指導をしていた。3対2の対面で空気中にエタノールを噴霧し
て火をつけたため、エタノールが対面した生徒の衣服や手足にもかかっていたものと思
われるが、引火して火傷を負った。
22障-159
中1年・男
手指切断・機能障害
各教科等 家庭(技術・家庭)
技術の授業中、木工製作のため自動手押カンナで木を切る作業をした。削る時には担
当教員の指導の下で削らせていたが、この時は他の生徒を指導する為に数分間はなれて
いた。その間に、本生徒が持っていた木から手を滑らせ、自動手押しカンナの回転部分
に右手中指が挟まれて巻き込まれ負傷する。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 中学校編
117
② 教育活動中以外
表3 教育活動中以外の発生状況
区 分
休憩時間中
昼食時休憩時間中
休 憩 時 間 始業前の特定時間中
授業終了後の特定時間中
寄
宿
舎
通
学
中
寄宿舎
登校中
下校中
計
自転車2件、徒歩1件
自転車1件、徒歩1件
計
件 数
12
13
2
4
31
1
3
2
5
教育活動中以外での障害事故は休憩時間中、昼食時休憩時間中に数多く発生している。その
多くが事例229、235のように、
「けんか」
「遊び中」
「ふざけ合い」が主な原因となっており、
近年の共通した傾向である。自分たちの行動がどのような結果を招くかという危険予測が不十
分であることがうかがえる。具体的な事例を元に、
日常的に安全指導を行う必要があるだろう。
22障-229
中1年・男
視力・眼球運動障害
休憩時間中
休み時間にふざけていて、友達を怒らせ右眼あたりを殴られた。
22障-234
中2年・男
視力・眼球運動障害
休憩時間中
同級生2人が消しゴムの紙ケースを下敷きで打ち返す遊びをしており、それを近くで
見ていた本生徒の眼の中に下敷きが入った。
通学中の障害事故は、平成22年の報告のあった15件から23年は5件に減少した。5件の事故
のうち3件が自転車乗車中の事故である。以下の事例260は中学生が起こしやすい典型的な事
故であると考えられる。自転車乗車中の事故は通学以外でも発生するので、保健体育科保健分
野「傷害の防止」での指導はもちろん、特別活動などに自転車指導の時間を設けて確実に指導
を行うべきである。
22障-260
中3年・女
歯牙障害
通学中 登校中 自転車
自転車で走行中テニスラケットが前輪に挟まった。その際、自転車が急停車し、右前
方に転倒し道路で顔面を打った。
118
(2)学校生活における死亡事故防止
① 教育活動中の事故
・体育活動中
表4 体育活動中における発生状況
区 分
各 教 科 等
保健体育
計
課 外 指 導
体育的部活動
計
持久走・長距離走
走り高跳び
柔道
その他
短距離走
棒高跳び
サッカー
テニス
バスケットボール
卓球
柔道
死亡件数
1
1
1
1
4
1
1
3
1
2
1
2
11
突然死
1
1
1
3
1
3
1
2
1
8
各教科で発生した死亡事故は、すべて保健体育科で発生しており、4件中3件が突然死であ
る。また課外指導での死亡事例もすべて体育的部活動におけるものであり、11件中8件が突然
死である。生活管理指導表のある生徒への配慮はもちろんだが、そうではない場合でも当日の
生徒の体調に十分注意を払う必要がある。なお柔道の2件はいずれも頭部外傷によるものであ
り、この競技の事故の特徴を表しており、指導者の十分な注意を必要とする。
22死-23
中1年・男
突心臓系
課外指導 バスケットボール
本生徒はバスケット部の入部初日の練習日だった。校外でのランニングを行った。走
り始めてまもなく、不調を訴えたため、無理をしないように指導し、ゆっくりと目的地
へ向かったが、到着後に気分が悪くなり倒れた。直ちに病院へ搬送、集中治療室で治療
を受けたが、翌日死亡した。
22死-26
中1年・男
頭部外傷
課外指導 柔道
柔道部の活動中、準備運動の後の基本練習で投げと受け身の練習をしていた。自分の
順番を待っている時、急に頭を痛がり、前向きに倒れた。救急車で搬送後、手術が行われ、
意識の戻らないまま、後日死亡した。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 中学校編
119
・体育活動中以外
表5 体育活動中以外における発生状況
学 校 行 事
区 分
その他集団宿泊的行事(自然体験学習)
件 数
1
学校行事での死亡事故は、集団宿泊的行事において発生したものであるが、
、自然体験学習
中のボート転覆による溺死によるものである。悪天候が原因とされるが、活動の中止の判断も
含めた危機管理が必要な事例である。
22死-16
中1年・女
溺死
学校行事 その他集団宿泊的行事
2泊3日の予定で自然体験学習に参加し、2日目の午後はカッター訓練で湖に出艇し
ていた。3時頃より急に天候が悪化し、波が高くなり槽艇不能となってしまった。レス
キュー艇に救出される途中、乗っていたボートが転覆し、その中に取り残されてしまった。
その後水難救助隊に救助されたが心拍停止の状態で、そのまま病院へ搬送されたが搬送
先の病院で死亡が確認された。
② 教育活動中以外
表6 教育活動中以外の発生状況
区 分
休憩時間中
始業前の特定時間中
休 憩 時 間
授業終了後の特定時間中
通
学
中
登校中
下校中
計
自転車2件、徒歩1件、バス1件
自転車1件、徒歩1件
計
死亡件数 突然死
1
2
1
4
4
2
2
1
6
3
教育活動中以外の死亡事故では、教育活動中の死亡事故とは異なり、突然死によるものが少
ない。特に休憩時間における4件の死亡事例は、窒息死(溺死以外)によるもの3件と、転落
による全身打撲が死亡原因である。通学中の死亡のうち徒歩とバスの3件は突然死であるが、
他の3件はいずれも自転車乗車中の事故である。特に事例34のように、危険な行動によって発
生した例もあり、自転車の安全指導の充実が必要とされる。
22死-34
中1年・男
頭部外傷
通学中 登校中
自転車で登校中、警報機が鳴り遮断機も下りた状態の踏切に自転車を運転したまま進
入し、下り列車の前面左側と衝突して大きく跳ねとばされ死亡した。
120
(3)供花料支給事故の防止
供花料が支給されるのは、学校の管理下で発生した死亡事故のうち、第三者から損害賠償等
を受けた事故である。
表7 供花料支給事故の発生状況
課 外 指 導
通
学
中
体育的部活動
登校中
下校中
区 分
柔道
自転車
自転車1件、徒歩1件
計
件 数
1
1
2
4
課外指導における死亡事故は柔道の1件であり、前述の死亡事例と同じく頭部外傷によるも
のである(事例15)
。他の3件はいずれも通学中の交通事故である(たとえば事例16)
。
22供-15
中1年・男
頭部外傷
課外指導 柔道
柔道の部活動の実施していた。ランニング、準備運動、受け身の練習、寝技の習得、
打ち込み等の練習の後、最終的な30秒乱取り稽古に入る。練習終了間際に、他の生徒が
本生徒に払い腰をかけた際、受け身をとれずに頭を打った。直ちに救急車で病院に搬送
された後、入院していたが、数日後に死亡した。
22供-16
中3年・男
内臓損傷
通学中 登校中
登校するため自転車で走行中、自動車が車線を越え、本生徒をはね、本生徒は死亡した。
(4)総括
中学生における障害事故、死亡事故、供花料支給事故のいずれも、例年の発生傾向と大きく
変わるものではない。体育活動においては、特に課外指導(運動部)における事故発生件数が
高い。本人の技術の未熟さ(例えばボールが顔面を直撃するなど)や、集団競技や格闘技にお
ける技術の個人差によって生じていると思われる事故がみられる。また練習場所の改善によっ
て防げると考えられる事故も少なくない。指導者は生徒の能力・体力および当日の体調を考慮
した指導はもちろんのこと、施設・備品あるいは用具によって発生することが想定しうる事故
の防止のための安全管理にも十分注意を払うべきであろう。
また中学生の障害事故では、休憩時間はもちろん教科や課外指導においても、けんかやふざ
け合いが原因となって発生している事故が少なくない。日常的な安全指導を通じて、問題行動
等への対策を充実させることも必要である。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 高等学校・高等専門学校編
121
3 高等学校・高等専門学校における事故防止の留意点
東京女子体育大学体育学部
教授 戸田 芳雄
本項は、学校管理下の高等学校・高等専門学校における障害や死亡等の現状と事故防止に関
する留意点について述べる。
(1)学校生活における死亡事故防止
① 教育活動中の事故
・体育活動中 11件
表1 体育活動中における死亡事故の状況
教科名等
保健体育
課外指導
種 目 等
件 数
持久走・長距離走、
サッカー他
3
サッカー
1
テニス
1
武道(柔道、 剣道)
3
自転車
1
バスケットボール
1
野球
1
小 計
合 計
8
11
備 考
持久走・長距離走(突然死:心臓系)2
サッカーのゲーム中1
(突然死:心臓系)1
ゲーム後(突然死:心臓系)1 心臓疾患有
前衛・後衛の練習後(突然死:心臓系)1 心
臓疾患有
柔道の最後のトレーニング中(熱中症)1、
投げられ後頭部を強打(頭部外傷)1
剣道の打ち込み練習中(突然死:心臓系)1。
走行中に自動車の後部に衝突(頭部外傷)1
約3.8Kmのランニングの後に倒れる(突然死:
心臓系)1
ランニング中に倒れる(突然死:中枢神経系)
1
体育活動中の死亡事故は、11件で昨年より8件減少している。体育活動のうち教科(保健体
育科)における死亡事故は長距離走・持久走及びサッカーゲーム時の突然死(心臓系)が計3
件である。これらを防ぐには、心臓に疾患をもつ生徒だけではなく、日ごろからすべての生徒
に対して健康管理・指導を行うことはもちろん、特に体育的活動においては、準備運動を十分
行うとともに、当日運動開始前および運動中、運動後の健康状態の変調等を観察し、異状が見
られた場合は、学校医に救急処置を依頼したり、救急車等ですぐ受信させたりするなど迅速な
対応が必要である。
課外指導では、8件で5件減少している。5件が突然死(心臓系4件、1件が中枢神経系)
である。その他にも、近年、注目されてきている熱中症が1件発生している。これらの事故を
防止するには、指導者やマネージャー等が選手の健康観察を丁寧かつ継続的に行うとともに、
症状の重篤化を防ぐには、本人による活動前、活動中、活動終了直後の体調把握と変調が見つ
かった場合の迅速な対応や申し出ができるような部活動経営体制を確立しておくことが必要で
ある。また、本センターで発刊している「突然死予防必携」
(23年改訂)及び「熱中症を予防
122
しよう」(文部科学省、スポーツ振興センターHP掲載)等も参考とし、引き続き指導と管理
に力を入れる必要がある。
・体育的活動中以外での事故 4件
表2 体育活動中以外における発生状況
教科名等
活動名等
件 数
各教科
体育以外の教科
特別活動
ホームルーム活動
課外指導
文化部活動
合 計
備 考
理科、授業に不参加5階バルコニーから転落
(頚髄損傷)1
2
授業中に突然椅子から倒れる(突然死:心臓
系)1
運動会のパネル色つけ作業中倒れる(突然死:
1
心臓系)1
吹奏楽部でウオーキング中にたおれる(突然
1
死:心臓系)1
4
体育的活動中以外での死亡事故は、4件であり、そのうち3件が突然死(心臓系)
、1件が
転落による頚髄損傷である。
それぞれ、予見が非常に難しいケースであるが、教師や指導者は、このような事例を参考と
して、学校内外にかかわらず、事故が起こらないようにするため、丁寧かつ慎重な観察、環境
及び生徒の状況(疲労や行動、健康状態)の両面から予測される幅広い危険の有無を点検し、
改善や指導を行うことはもちろん、事故が起こったときの迅速な救助や救急体制を整えておく
必要がある。特に、今回の事故には含まれていないが、毎年のように修学旅行での溺死や文化
祭,体育祭等の準備中の転落や負傷事故などが起こっており、校内外における学校行事等の実
施に当たっては、恒例の行事であっても必ず事前調査や危険の有無を検討し、必要な対策を講
じておくことが必要であることは言うまでもない。
特に、直接準備作業とは関連のない休憩中などに重大な事故が起こっていることに留意し、
作業以外の安全に関する注意を促したり、健康観察をていねいに行ったりすることなども必要
である。
② 教育活動中以外の事故
・休憩時間等の事故 5件
表3 教育活動中以外の発生状況
場 合 別
始業前
休憩時間
件 数
1
休憩時間
2
授業後
2
合 計
5
備 考
昇降口で倒れる(突然死:心臓系)1
8階北向き窓から飛び降りる(内臓損傷)1
トイレ休憩中3階から転落か(頭部外傷)1
中間試験終了後に倒れる(突然死:中枢神経系)1
下校時刻後に非常階段下で倒れているのが発見される(頭部
外傷)1
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 高等学校・高等専門学校編
123
休憩時間に発生した5件は、突然死2件(心臓系1、中枢神経系1)
、飛び降り・転落が3
件である。これらの事故防止のためには、教師は単に危険な行為をそのたびに指摘するだけで
はなく、ホームルーム等での安全教育を通じて、学校生活での危険を予測させたり、回避の方
法を考えさせたり、自分や他の者のどのような行動が大きな災害を招くかを気づかせたりする
ような指導を行うことが重要である。
また、昨年は、寄宿舎での転落や体調不良で休んでいた生徒の突然死も発生している。この
ような事故の防止には、日頃から寮関係者等が様子を観察・把握したり、家庭と連絡を蜜にし
たりしながら、養護教諭やホームルーム担任等が連携した生徒の心の健康に関するケアや相談
活動などを充実するとともに、早期に異状を発見し必要な生徒に専門機関への相談や医療機関
への受診等をすすめることも必要となる場合があるものと考えられる。
③ 通学中の事故 7件
表4 通学中の発生状況
場 合
登校中
下校中
状 態
自転車
原動機付自転車
件 数
その他
徒歩
自転車
自動二輪
その他
合 計
備 考
1 遮断機の内踏切を横断中に列車と接触(頭部外傷)1
1 ガードレールに衝突し、河原に転落(頭部外傷)1
列車を降りたところで、同級生に腹部を刃物で刺され
1
る(内臓損傷)1
1 駅に向かう途中で倒れる(突然死:心臓系)1
1 下車駅から帰宅する途中倒れる(突然死:心臓系)1
1 信号機のない交差点で車両に追突(頭部外傷)1
ホームから線路に降り、貨物列車にはねられる(頭部
1
外傷)1
7
通学中の死亡事故7件のうち、1件が鉄道にかかわる事故で、2件が突然死(心臓系)
、犯
罪被害が1件である。その外に、
自動車やガードレールへの衝突などによる死亡となっている。
予測が困難と思われるが、家庭や地域とも連携し通学中の安全確保を図るとともに、交通事故・
踏切事故はよそ見や思い込みを廃し、危険を予測し、慎重な運転・通行等によって防げる事故
がほとんどである。計画的な安全教育によって、危険を予測し、回避するため、安全な交通の
仕方等を生徒に徹底する必要がある。
また、日頃から、駅構内やホーム、踏切の安全、登下校中の安全について幅広く注意を促す
とともに、各学校が連携したり、交通指導員、保護者やスクールガード、警察など地域の関係
機関や住民の協力を得たりしながら、防犯も含めて安全点検や実地の指導を行うなど細心の注
意を払う必要がある。ひやり、はっと体験などを題材に、生徒の身近な体験を通した危険予測
学習などを展開することも有効であると考えられる。加えて、体調の不良にも注意したい。
124
(2)供花料支給対象の死亡事故の防止
供花料を支給した事故 25件
表5 供花料支給対象死亡事故の発生状況
場 合
内容等
件 数
休憩時間等
授業終了後
4
課外指導
野球部
2
特別活動
学校行事
1
徒歩
自転車
原付・二輪車
鉄道
徒歩
1
6
1
1
1
自転車
7
その他
合 計
1
25
登校中
下校中
備 考
飛び降り・転落 4(自殺の疑い:保護者を含む面
談後1 生徒指導前後2 放課後1)
打球が右頸部に当たる1(頭部外傷)
移動中のバスが横転1(頚髄損傷)
自転車でマラソン大会会場に移動中、トレーラーと
衝突1
団地7階より転落1 横断中自動車と衝突6(そのうち交差点での衝突4)
転倒し、後続の軽トラックに衝突1
母親の運転する自動車に同乗中の踏切事故1
交通事故(横断中1)
横断中4(そのうち、トラックと衝突3) 走行中に
自動車と衝突2 解体工事の外壁が崩れ下敷きに1
生徒数名から暴行を受ける1
供花料を支給するのは、学校の管理下において発生した死亡事故で、第三者より損害賠償等
を受けた場合である。これらの事故は、その防止について前述の死亡事故と同様に一層力を入
れる必要がある。
供花料を支給した学校管理下の死亡事故は、25件で8件減少している。そのうち、道路交通
事故が最も多く16件である。その他に、今年も転落・自殺(疑いを含む)と見られるものが5
件ある。
道路交通事故は、昨年と同様にトラックや乗用車との衝突、横断中又は交差点での事故があ
り、特に自転車の事故が13件と目立っている。
交通事故の防止については、通学中の事故防止の留意点で述べたことに加えて、通学路等の
危険予測学習、通学路の交通安全マップ作成等を行い、登下校中の安全について注意を促すと
ともに、生徒会での自主的な活動を推進したり、各学校が連携したり、保護者や警察など地域
の関係機関や住民の協力を得たりしながら、安全点検や実地の指導を行うなど事故防止に対す
る学校や保護者の一層の努力が必要である。
また、今年は、暴行による死亡1件、保護者同席の懇談や教師による生徒指導直後の発作的
な飛び降りが合わせて5件発生している。近年、いじめや教師の叱責等による生徒等の自殺が
発生しており、その傾向が供花料支給状況からも感じられる。学校や教育委員会等では、生徒
指導後のていねいな見守りなどにより、その兆候を敏感に感じとったり、生徒や保護者が学校
等に悩みなどを相談できる体制を整えたり、普段から教師と生徒、生徒同士の温かい人間的な
交流(人間関係)を深めておく必要がある。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 高等学校・高等専門学校編
125
(3)学校生活における障害事故防止
① 教育活動中の事故
・体育活動中 124件
表6 体育活動中における発生状況
教科名等
保健体育
種 目 等
件 数
サッカー・フットサル
4
バスケットボール
2
ソフトボール
バドミントン
水泳
3
3
2
陸上競技
2
器械体操
2
バレーボール
1
その他
2
小 計
ホームルーム活動
備 考
ゲーム中4(ボールが目に2 キックした足が大腿部に
1 頭同士の衝突1)
顔面に他の生徒の足が強打1
ボールが顔面に衝突1
打球が顔に1 バットが顔に1 捕球失敗1
ラケットが当たる3(眼に2、歯に1) 飛び込み2(頸部損傷1、頭部損傷1)
槍(先端はゴム)が眼に衝突1
ランニング後に倒れる1
前方宙返りの着地失敗1
トランポリンで自分の膝が口に当たる1
転倒し、顔面を床に強打1
馬跳びで顔面を床に強打1 肩車から転落し、臀部と左
手を強打1
21
1 サッカーゲーム中に突然倒れる
体育祭1、球技大会6(ドッジボール2 サッカー2 特別活動
学校行事
8 ソフトボール1 陸上1)遠足でサッカー中にゴールが
倒れ眼に当たる1
陸上
1 800M走終了後意識不明1
野球
45 ボールが当たる36 (歯牙障害20、視力障害16)
サッカー・フットサル 11 人との接触・衝突6、ボールが当たる5
相手のパンチを顔面に1
ボクシング
2
試合中に意識不明1
ラグビー
6 スクラム、タックル、ラックでの接触・衝突6 バスケットボール
4 人との接触・衝突4
ソフトボール
1 ノックの打球が顔面に1
テニス
1 球拾い中に他の生徒の打球が眼に
柔道5(投げられ2 投げ2 寝技1)
武道
8 剣道2(転倒1他生徒の割れた竹刀が眼に1)、弓道1(ゴ
課外指導
ム弓の柄が眼に1)
整理運動中に鉄棒から落下1
バレーボール
2
ボールを取りに行って天井から落下1
バドミントン
1 シャトルが目にあたる。
ハンドボール
3 相手との接触・衝突2 片付け中ゴールが足に落下1
ラクロス
1 クロスが歯にぶつかる1
卓球
1 練習後の雑談中ペットボトルが眼に当たる1
ホッケー
2 打球が口に衝突1 スティックが口に1
レスリング
1 相手の手が眼に当たる1
水泳
2 飛び込みで底に頭部を打撲2
チアリィーデング
1 他の生徒の肘が左眼に当たる
ダンス
1 他の生徒の足が顔面に当たる
小 計
94 合 計
124
126
体育活動中の障害事故は、124件で、昨年より5件増加している。その内訳は、課外指導が
94件と最も多く、保健体育科が21件と次いでいる。その他に、特別活動9件である。
保健体育科では、球技実施時に事故が多く、その他に水泳、器械体操等でも発生している。
特別活動では、体育祭と球技大会の学校行事での事故が合計7件である。
課外活動で、最も事故が多いのが野球で45件である。その内容をみると、主に自分の技術の
未熟さや行動による事故(主として、自分自身の行動等に原因があるもの)
、主に外の生徒の
行動や施設・用具等にかかわる事故(主として他人や環境等に原因があるもの)
、イレギュラー
したボールの捕球失敗などどちらとも判断しにくい事故となっている。詳しく見ると、前者で
は、ノックや打者のボールを捕球しそこねたり・避けられなかったりして、打球が歯や眼に当
たるという事故がみられる。後者では、
他者の投げた(打った)予期せぬ球やバットに当たる、
自分の練習相手以外の方から球が飛びだしてきて当たる、必要な注意を向けていない、避ける
余裕がないことなどがある。これらの事故の背景には基礎的な技術習得が不十分であることが
指摘できるが、指導者・生徒ともに、他の選手との距離を十分取る、互いに声をかける、打撃
投手やピッチングマシンの補助者の保護措置(ネット等)をする、練習前・練習中など日頃か
ら施設や用具を点検し、改善しておくなどの基本的な危険回避を行うことがまず必要である。
また、安全点検、注意事項の掲示、部活動日誌への記録や声がけなどにより、毎日の練習時
など日頃から、練習前の用具や施設設備の点検整備、種目に応じた注意事項や練習方法の確認、
健康管理や安全確保に必要なものの準備など、選手自身が常に自他の安全に配慮することがで
きるよう部活動構成員全体で具体的に指導することが大切である。なお、歯牙障害が20件、視
力障害16件である。
ソフトボールでは1件、ノックの打球が当たっての負傷である。野球と同様に、打者やノッ
ク者の注意を喚起するとともに、声がけ、周囲の生徒の位置に問題がないか等、指導者及び生
徒自身が周囲に注意を払うようにすることが必要である。
サッカーの事故が、11件あり、球技では野球に次いで事故件数が多い。サッカーでは、他者
との衝突・接触が6件、ボールに当たる5件。そのうち、視力障害が5件と歯牙障害が2件、
胸腹部臓器障害が3件である。サッカーでは他者の至近距離でボールをけることが多いため、
技術が未熟であったり、
選手間に技術の差があったりした場合には事故発生の可能性が高まる。
指導者は能力を配慮した練習・試合を計画するとともに、必要以上に危険なプレーを避けるよ
うな指導を心がけるべきであろう。
ラグビー6件及びバスケットボールの事故は4件と球技では野球、サッカーに次いで多く発
生しているが、いずれも激しい身体接触・衝突が原因での事故であり、眼・頭部等を強打し、
視力障害3件神経に関わる障害が2件である。ルールを遵守して危険なプレーを避けること、
基本的な練習を十分に行って危険回避能力を身に着けることなどの指導が求められる。ラグ
ビー、ハンドボール等も他の選手と接触することが多いため、同様に対応することが必要であ
る。
バレーボールでは2件で整理運動時に鉄棒から落下、ボールを取りに行って天井から落下で
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 高等学校・高等専門学校編
127
ある。今回はなかったが、過去に、他者との接触転倒、ネット巻上器の不具合による事故、レ
シーブのためコートの近くにある用具と衝突したという事例もある。練習や試合においては、
技能練習の他にコート周辺に不要な物や事故の原因となる物品を置かないように注意する、準
備や後片付けなどの安全にも留意する必要がある。もちろん施設設備自体の日常の安全管理の
徹底もいうまでもない。
テニスでは、ボール拾いをしていて、眼に打球が当たる事故が1件である。過去に、部室扉
への指挟み、突然の転倒、素振りのラケットに衝突などがあり、練習などでは他の部員と距離
をとるなど練習時の安全指導はもちろん、練習時以外の日ごろの安全指導も大切である。
球技以外の種目では以下のような事故が発生している。
レスリングで相手の手が眼に当たる、水泳で飛び込みプール底に頭部を打つ、チアリーディ
ングとダンスで他の生徒が肘や足に当たる自転車競技での転倒、ボクシングでの強打による歯
牙障害などの事故がある。
武道では、柔道で5件、試合や乱取り中に投げる・投げる時に崩される、受け身の失敗等で
の精神神経障害が起こっている。剣道では2件、転倒及び相手の竹刀出負傷する、弓道で弓の
柄が眼に当たる事故がある。
運動部活動等では、一般に同じグラウンドや体育館で複数の種目が同時に練習することが少
なくない。そのため、自分の種目はもちろん、他の種目の練習状況に注意する、事故が発生し
やすい種目間では練習時間をずらす、施設設備や用具の安全を確認する、ネット等で確実に隔
離するなど指導者は常に全体に注意を払い、生徒も含めた関係者全員が安全を意識して行動す
ることが必要である。
なお、昨年までも含めて練習や試合そのものに関わって発生した事故のほか、練習中にふざ
けていて発生した事故、トラブル・けんかによる事故、部室出に事故、応援中に発生する事故
なども少なくない。体育活動中以外の安全指導と同様に、指導者は生徒自身及び相互に自他の
安全に留意して行動することを意識的に機会を捉えて指導する必要がある。
また、全体をとおしての際だった特徴を挙げると、体育活動中の障害事故124件の内、歯牙
障害41件、顔面打撲等による視力障害等事故が41件、頭部・頚椎損傷による精神・神経障害が
17件で、併せて約8割を占める。特に、視力障害等事故が昨年に比べて11件増加していること
が特徴である。なお、体育活動以外・教育活動以外でも、歯牙障害が11件、眼の障害事故が4
件、頭部・頚椎損傷による精神・神経障害が5件加わる。近年、この傾向が続いている。特に、
大きな割合の歯牙障害を減少させることは、非常に深刻かつ緊急な課題であると思われる。
特に、本センターでは、研究指定校での研究等を元に、
「学校管理下における歯・口のけが
の防止必携」を発刊するとともに、20、21年度の2カ年にわたって実施した「課外指導におけ
る事故防止対策の調査研究」の貴重なデータや取組を参考にするとともに、歯・口の障害防止
策と安全教育の教材の一つとしてマウスガードの着用が効果的と考えられる。学校歯科医の指
導の元、野球やバスケットボール、サッカー、ホッケーなどラケットやバットの使用、激しい
接触プレーの伴う体育活動において着用を検討してみたらどうだろうか。強く提案したい。
128
・体育活動中以外 6件
表7 体育活動中以外における発生状況
教科名等
活動名等
理科
件数
実験中
1
ホームルーム活動
儀式的行事
特別活動
学校行事
その他
課外指導
1
1
1
キャンプ
その他
合 計
2
6
備 考
ドライアイスを入れたペットボトルが爆発、右
眼に衝突
他の生徒にコンパスで眼を指される
教室で待機中に他の生徒の親指が口に当たる
インターンシップで作業中に、ドリルに巻き込
まれ、左手親指を切断
キャンプで移動中に転落
プール会場の補助中にプールに転落
体育活動以外では6件で、4件減少している。そのうち、学校行事は3件、課外指導は2件
である。
また、今年度は発生しなかったが、実習中の事故、企業でのインターンシップ中における事
故は今後も予想されるものである。校外における学習においては、事前調査の実施とそれに基
づいた活動中の十分な安全管理・指導を行う必要がある。
② 教育活動中以外の事故
・休憩時間等 10件
表8 教育活動中以外の発生状況
場 合
休憩時間
活 動
件 数
休憩時
2
昼食時休憩
4
授業終了後
4
合 計
10
備 考
けんかを止めに入って相手の足が右小指に当たる1
窓ガラスを叩き、右手首負傷1
4階の窓から落下1
足場に乗って足場毎転倒1
他の生徒が蹴ったボールが眼に当たる1
友人の肘が口に当たる1
2階の雨よけから落下1
階段を踏み外して着地し、腰を痛める1
ダンスをし転倒、床に歯を打つ1
他の生徒が投げた居たが顔に当たる1
教育活動中以外の事故は、10件で7件減少している。運動遊びや作業、移動中の事故が発生
している。その他には、友達とのトラブル、ふざけなどによるものも起こっている。
このような事故を防ぐためには、ホームルーム等で様々な事例をもとに事故の原因と結果に
ついて十分な理解させる、危険な行動をとることによる被害の大きさを認識させる、施設設備
を正しく使用させるなどの内容を含む安全教育を計画的に進める必要がある。
なお、毎年のように起こる生徒同士のトラブルなどによる事故については、生徒指導と連携
を図りながら全校的に取り組み、事故を未然に防がなければならない。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 高等学校・高等専門学校編
129
③ 通学中の事故 ・通学中の事故 13件
表9 通学中の発生状況
場 合
状 態
件 数
登校中
自転車
6
下校中
自転車
合 計
7
13
備 考
電柱に衝突1 自転車同士の接触・衝突2 道路凍結時
のスリップ1 宴席に接触転倒1 転倒してバスに接触
1
衝突2(電柱、ポール)。転倒5
通学中の事故は、13件で10件減少している。そのうち、すべて自転車乗用中で、登校中6件、
下校中7件)である。例えば、
下り坂でスピードの出しすぎや前方不注視での衝突(電柱、
ポー
ル)や転倒・転落、バランスを崩しての転倒というような様々な事故が発生している。
それ以外に、歩行中の心臓発作、原動機付自転車でのカーブでの転倒などもある。既に述べ
たように、自転車や原動機付自転車などの安全な利用に関する実技指導などを行うことで防ぐ
ことができる事故が多いと考えられる。高等学校・高等専門学校では、自転車通学が増加し、
原動機付自転車など二輪車の利用もあり、地域の関係機関や専門家等の協力も得ながら危険を
安全に体験する実習や危険予測学習など安全な自転車の利用や正しい点検の方法、二輪車の安
全運転などについて、より体験等を重視した具体的で役立つ指導を実施する必要がある。
130
4 特別支援学校における事故防止の留意点
東京女子体育大学体育学部
教授 戸田 芳雄
特別支援学校では死亡事故が5件(中1件、高4件)発生しており、障害事故が11件(小2
件、中6件、高3件)発生している。なお、供花料支給対象の死亡事故は、ない。
運動後に突然倒れたり、体調の変調や持病があるなどで突然倒れたり、発作を起こしたりし
ている。また、入浴時に溺れたり、不整脈となったりするほか、食事中に転倒したり、発作を
起こしたりして死亡に至るなどしている。いずれの場合も、その際のいっそう迅速な救急対応
が求められる。できるだけ、教師や支援者などの注意と見守りで早期に対応し重篤化を防ぎた
い事故である。もちろん、日頃から努力しているように、障害のある生徒の指導に当たっては、
一人一人の障害の程度や内容、体の柔軟性やバランス感覚(姿勢保持力など)に留意し、注意
深く観察しながら行動や危険を予測し、安全に十分配慮して指導・支援に当たる必要がある。
また、障害がのこる事故では、学習中や給食準備中の転倒・転落による頭部や歯・口の負傷、
自立活動で薪割り作業中に電動油圧式薪割り機で手の小指を切断する事故などが発生してい
る。活動や支援の場は転落の危険の無い所を選ぶ、姿勢等に注意し指導者等がすぐに支えられ
る位置に立つ、機械・器具用具を使用するときの子どもの指先・足先の位置を把握する、周囲
の器具・柱・柵等をマット等で防護するなどの対策も考慮することなどが大切である。
なお、今年はなかったが、校外行事での移動中や様々な設定での自立のための訓練で、指導
者の直接の監視と介助、自力で支えるための手すり等の設置など転倒防止の環境的な支援をす
ることなども考えられる。
また、日頃から保護者の送迎における直前直後の横断や死角による交通事故防止など交通安
全の啓発にもつとめたい。
表1 特別支援学校での死亡見舞金支給状況
教科等
活動名等
件 数
保健体育
持久走・長距離走
1
特別活動
給食指導
1
入浴時
2
朝食時
1
合 計
5
寄宿舎にあるとき
校種・
学年
備 考
スタート後約800メートル付近で倒れ、突
然死(心臓系)
給食準備中にイスに座ったまま転倒、頭部
高1
外傷。
中2 入浴時に浴槽で溺死。入浴中に不整脈で突
高2 然死(心臓系)。
朝食時に、 チアノーゼ症状。突然死(中枢
高2
神経系)
高2
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 特別支援学校編
131
表2 特別支援学校での障害見舞金の支給状況
教科名等
保健体育
活動名等
水泳
件 数 校 種
1
不明
自立活動
歩行
小6
3
薪割り作業
特別活動
学校行事
休憩時間
小6
高3
高3
1
2
中3
中3
高2
中1
昼食休憩
4
中2
中3
中3
合 計
11
備 考
プールサイドに上がる際に転倒し、脊柱障
害。
椅子に寄りかかり、転倒、後頭部打撲。精神・
神経障害。
ホールを歩行中に転倒し、上顎部を強打。
歯牙障害。
薪割り作業中に電動油圧式薪割り機で手の
小指を切断
修学旅行の食事中に窒息。精神・神経障害。
回転遊具に乗り損ね転倒、左膝を損傷し、
機能障害。
車椅子で移動中、後ろを歩いていた生徒が
金槌で叩き、視力障害。
トランポリンから3M飛び、着地の際、大
腿部を強打。
トランポリンから大きくはねて、マット外
の床に落下し、負傷。
階段を走り降りた時、右膝を負傷。
給食後の歯磨き中に、他の生徒に後ろから
突き飛ばされ転倒し、歯牙障害。
132
5 幼稚園・保育所における事故防止の留意点
福岡大学 講師 小柳 康子
平成22年度の幼稚園・保育所における災害(負傷・疾病)の発生率は、幼稚園1.67%(前年
度1.64%)、保育所2.04%(前年度1.96%)と低水準ながら、昨年よりやや増加した。
乳幼児期の重大な事故防止のために本項では、幼稚園・保育所における死亡事故・障害事故
の発生状況から、事故の予防について述べる。
Ⅰ.死亡事故と事故防止の留意点
1.繰り返しおきている低年齢児の突然死
図1は、平成16年〜 22年迄の幼稚園・保育所における死因別の死亡事故の発生状況である。
近年、乳幼児の死亡事故において突然死(
「予期せぬ内因性(病)死」
)の占める割合は約6割
と最も高い。その多くが園舎内でおきているという状況が続いている(図2)
。
図1 幼稚園・保育所における死亡事故・死因別
図2 死亡事故の発生場所
(平成16年〜 22年度)
(平成16年〜 22年度)
頭部外傷
2.4%
内臓損傷
4.8%
その他
2.4%
窒息死
11.9%
熱中症
2.4%
溺死
11.9%
園外
16.7%
計42件
園舎外
11.9%
突然死
64.3%
園舎内
71.4%
表1は平成22年度の死亡事故(供花料支給対象の死亡事故を含む)の発生状況の概要である。
表1にみるように平成22年度の死亡事故は、全て保育所で発生していた。死亡事故5件の内訳
は、1件が窒息死で、残りの4件は突然死である。過去の突然死の発生率から突然死の発生頻
度をみると、幼稚園で低く、保育所で高い傾向にある。運動中に突然死が多い児童生徒と比較
して、乳幼児は午睡中に多発している。表1でも0、1歳児の午睡中(または午睡明け)の突
然死が複数見られている。
<22死-71>の1歳児の事例は、仰向けで寝かせられていたが、
「うつぶせでぐったり」して
いるところを発見された。また、
<22死-70>の0歳児の窒息死の事例でも
「寝返りしたためか、
うつぶせに近い状態で顔色が悪くなっている」所を発見されている。このように午睡中にうつ
ぶせの状態で異常が発見されるケースは、過去も繰り返し見られている。
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 幼稚園・保育所編
133
一日の多くの時間を眠って過ごす乳児に対しては、
寝具等の睡眠環境への配慮が重要である。
すなわち、敷布団は固めにし、乳児の顔がふとんにうずくまっていないか、保育者は見守る必
要がある。また、乳児はあおむけ寝に寝かせた方が窒息死のリスク要因を減らすといわれてい
る。ただし、先に示した2つの事例にも見られるように、仰向けに寝かせてもうつぶせになる
ことがあり、なかにはうつぶせ寝を好む場合もある。その場合には、特に顔色や呼吸状態をき
め細かく観察する必要がある。また、月齢は同じでも、発達や心身の状態は一人ひとり異なる
ため、平常時の状態をしっかりと把握しておき、朝の健康観察時や睡眠時の観察時にその違い
を適切に早期発見する必要がある。突然死の対応について以下にまとめたが、本センターから
も『学校における突然死予防必携』が刊行されているので、参照して対応を整えておきたい。
園の方針や子どもの特性に合わせて睡眠環境を配慮することで、死亡事故の予防及び早期発見
と早期対応に結びけたい。
《 午睡のための保育環境の安全対策チェックリスト 》
□ 月齢が低い子どもの場合、顔が沈み込むほど柔らかい寝具は避ける。
□ 寝ている顔の近くに、タオルやぬいぐるみ等の物を置かない。
□ マットレスとベッドの間に隙間はないか確認する。
□ 掛け物を顔にかけ過ぎていないか。
□ ベッドの柵を開けたままにしていないか。
□ 部屋の明るさは顔色が見えるくらいに保たれているか(暗過ぎないか)
。
《 午睡中の健康観察 》
□ 呼吸状態や顔色を目で見ているか。体に触って健康状態を確認しているか。
□ 首がすわっていない乳児は、できるだけうつぶせ寝を避けているか。
□ 授乳後排気(ゲップ)が出ない時は、保育士間でよく観察をし、顔を横に向かせる等
の配慮がなされているか。
□ 入園後、預けたばかりの子どもや、風邪気味で体調が悪い子どもについては、特に継
続的に健康観察しているか。
表1 保育所における死亡事故(供花料を含む)発生状況の概要(平成22年度)
ଏ 134
2.健康状態の把握―家庭・園・嘱託医(園医)の連携
<22死-73>は、保護者同伴の入園式終了後に廊下にいた保護者が同児の異変に気付き、ク
リニックを受診した事例である。突然死は予測困難であり、この例のように入園式終了後に、
突然子どもに異変が起こることもある。この事例から、入園に際して、子どもの生活リズムや
子どもの特性について、保護者と話し合うことの重要性が改めて再確認される。その際、守秘
義務の厳守の上で、乳児の胎生期間、出生体重、既往歴、アレルギー体質の有無、風邪にかか
る頻度が高いかどうか等の健康情報を保護者との間で確認することが大切である。さらに、嘱
託医と連携し、一人ひとりの健康状態や発達への配慮ができるように、嘱託医の健康診断や専
門的な立場からの指導を受け、継続して健康増進のための支援をしていく必要がある。
なお、供花料支給の対象となった死亡事故は、通園中、横断歩道を歩行中に交通事故に遭遇
した事故であった(表1<22供-44>)
。運転者の責任も問われる事例であるが、通園時の交通
事故の報告は過去もみられている。保護者に対して、地域と連携して具体的に道路の危険個所
や事故事例を示すことも保護者の安全意識の啓発となるであろう。
Ⅱ.障害事故と事故防止の留意点
1.障害事故発生の特徴
平成22年度に発生した障害事故を傷病種別にみると、
「外貌露出部分の醜状障害」
(75.0%)
の割合が最も高い(図3)
。
「外貌露出部分の醜状障害」のけがを負った時の直前の動作は、多
い順に「転倒」
「友達に引っ掻かれる」
「転落」
「衝突」であった。
「転倒」は、
「移動中」
「走っ
ていて」「段差」につまずく等の状態で起きている。特に子どもは頭が大きくバランスがとり
にくいという身体特性がある。このため、負傷部位は、頭部と顔部に集中しており、全体の
70%を占めていた(図4)
。乳幼児は、このような身体特性から、地面の物につまずいて転倒
したり、遊具から転落したりしやすい。このため、鉄棒などからの落下に備えて緩衝材を敷い
たり、段差をなくしたりする環境整備が重要である。
図3 平成22年度 障害事故の傷病種別
図4 幼稚園・保育所において発生した
障害事故の負傷部位
胸部腹部臓器障害
5.0%
精神神経障害 7.5%
上肢切断・機能障害
2.5%
手指切断・機能障害
5.0%
外貌露出部分の
醜状障害
75%
口 2.5%
前額部 10.0%
鼻 2.5%
肘 2.5%
頭部 10.0%
眼部
5.0%
頬部
25.0%
頭部・顔部
視力眼球運動障害
5.0%
上肢 5.0%
下肢 2.5%
足 2.5%
指 5.0%
腹部 5.0%
胸部 2.5%
顎 5.0%
歯 2.5%
70
顔 7.5%
眉 5.0%
※部位表記は報告書表記による
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 幼稚園・保育所編
135
事故発生を年齢別にみると、低年齢児に死亡事故の報告がみられるのに対して、4歳以上で
は障害事故の報告が多いという特徴がある(図5)
。活動がより活発になる年中・年長児と年
少児とは、発達段階が大きく異なるため、異年齢児が一か所で遊んだり、一つの遊具を使うと
きは、遊びのルール作りの配慮をするなど特に注意が必要である。
障害事故の発生場所をみると、幼稚園、保育所共に園舎内での発生の割合が高い。これを幼
稚園と保育所で比較すると、保育所の方が園舎内での発生割合がやや高い(図6図8)
図5 平成22年度 年齢別の障害・死亡事故の発生件数
(単位:N)
図6 平成22年度 保育所における
障害事故発生場所(園舎内外別)
15
園外
8.7%
10
園舎外
17.4%
5
0
0歳
1歳
2歳
3歳
4歳
障害H21
障害H22
5歳
園舎内
73.9%
6歳
死亡H21
死亡H22
図7は、幼稚園・保育所における障害事故を場所別にみたものである。特に保育室と園庭の
事故報告数が多く、子ども達の生活や活動の中心となる場所で事故は起きているといえる。そ
こで、今回は「保育室と園庭における障害事故の事例からみた事故防止」を中心に以下に述べ
る。
図7 平成22年度幼稚園保育所における場所別の死亡・
図8 平成22年度 幼稚園における
障害事故状況(単位:N)
障害事故発生場所(園舎内外別)
10
園外
11.8%
8
6
4
2
道路
公園
講堂
障害事故 幼稚園
死亡事故 保育所
園庭
昇降口
ベランダ
階段
廊下
体育館・室内運動場
遊戯室
保育室
0
障害事故 保育所
園舎内
52.9%
園舎外
35.3%
136
2.保育室における障害事故の事例からみた事故防止
保育室での障害事故で最も特徴的なものは、友達とのトラブルで起きるけがであった。これ
は、過去三年間の事例でも同様であり、トラブルの結果、
「頬」
「顔」を友達に「引っ掻かれ」
るけがが目立っている。低年齢児は、自分の気持ちを相手に伝えられずに、引っ掻いたり噛み
ついたりすることは稀ではないが、顔に痕が残るくらいの傷は、未然に防ぎたいものである。
そのための対策の一つとして、トラブル時の子どもの活動の姿を記録し、その原因を考え、保
育環境を振り返ることがあげられる。
他方、保育室の施設設備における障害事故は、出入り口付近での衝突、移動中の転倒、加湿
器を介しての熱傷事故等がみられた。その時の子どもの姿は、
「走っている時」と「移動中」
に衝突や転倒が起きていた。事故事例をみると、本人の不注意によるものもあるが、環境の整
備によって危険のリスクを減らすことができるものもある。以下の表は、過去三年間に保育室
で実際に起きたけがの事例からみた事故防止策である。重大事故を防ぐには、子ども達の身体
特性や発達段階を踏まえ、出入り口や廊下で走らない等の日常の指導と環境整備の徹底が必要
である。
(平成22年度報告事例:◎、平成21、20年:○)
保育室のけがの事例
安全対策チェックリスト
■ トラブル
→引っ掻かれる
◎言 い争い、手を振って、積み
木の造形を壊されて
(22障-436)(22障-443)
(22障-454)等
○物の取り合い
○並んでいて横から入った
□原因を考え環境を整える。保育者は目を離さない。
・遊びの人数を減らす。・落ち着いた環境に。
活発な遊びと手先を使った遊びのバランスをとる。
・遊具・用具の数は足りているか。出すタイミングを考える。
・遊具・用具の扱い方の指導。なぜいけないかを知らせる。
・欲求不満や情緒不安、生活リズムの乱れ等はないか。
・未満児には、気持ちを言葉で伝えることを知らせる。
■ 床に置いてあった物
□床に不要な物を置いたままにしない。
(22障-438) 教具の収納 →つまずく
◎鯉のぼりを踏んで滑って転倒
(22障-437)
■ 出入り口
□走らない指導(出入り口、廊下、水飲み場)。
◎走っていて柱に衝突
□衝突緩衝対策(クッションを巻く等)
(22障-447)
■ 移動中
□物を持たせる時は、子どもが持てる重量かを考える。
◎椅子を持って移動し
□移 動中に物を持ったりする時は、一つのことに集中しにく
→椅子を置いた瞬間転倒
いので注意する。
(22障-465)
■ 手の届く所の環境整備
□子どもの手の届く所に危険に繋がる物はないか。
◎加湿器コードを引っ張って加 (加湿器、調乳用ポット、ハサミ、尖った鉛筆、洗剤等)
湿器を倒して湯を浴びる(熱傷)
(22障-446)
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 幼稚園・保育所編
保育室のけがの事例
137
安全対策チェックリスト
■ 机、いすの角、突起物
□机や椅子、棚の角が尖っていないか。
○テ ーブル、木の椅子の角にぶ (安全カバーを利用)
つける
□顔や体の当たる位置に、突起物がないか。
○フックに目をぶつける
(眼球運動障害)
■ ドア
○手の指のはさむ
○足の指をはさむ
□ドアや扉を勢いよく開閉しない。ドアで遊ばない。
(切断) □ドアストッパー、ドアクローザ—を使う。
□保育者は子どもの指の位置に注意する。
3.園庭における障害事故の事例からみた事故防止
園庭の事故は、転倒、衝突によるものが多い。とりわけ、遊具からの転落が目立っていた。
図9は、幼稚園・保育所の遊具別の重症事故の報告数である。遊具での事故防止は、単に規制
するのではなく、子どもたち自身がルールを守ったり、安全を習慣化したりできるような具体
的な対策が必要である。
事故を未然に防ぐために、①保育者の目線に死角をつくらないこと。目と手の届く位置で見
守り、その場を離れるときは声を掛け合うこと。②子どもの目線に立った安全環境をつくるこ
と。さらに、③発達に合わせて子ども自身が危険な行動を避けることができるよう、なぜ危険
なのかを繰り返し子ども達に伝えることが大切である。もちろん避けられない事故もある。し
かし、それにより重大事故の危険リスクを確実に減らすことはできる。
図9 幼稚園・保育所における遊具別の重症事故(死亡2名・障害事故30名)
(遊具別・H18 〜 H22報告分)単位:N
6
4
うち死亡2名
幼稚園
保育所
2
総合遊具
回旋塔
回転遊具
ゴンドラ
リングブランコ
ブランコ
ジャングルジム
すべり台
鉄棒
うんてい
0
138
《園庭編》
園庭での事故の事例
(平成22年度報告事例:◎、平成21、20年:○)
安全対策チェックリスト
■ すべり台
□遊びのルールを決める。(上で友達を押さない、逆上りはし
(22障-429) ない、引っかかりやすい服装(フード、ひも、マフラー、カ
◎飛 び降りようとして落下(骨 バン)をしない。友達を押したり、ふざけたりしない。一度
折)
にたくさん上に登らない)
◎逆 から登り、下から声を掛け □着地部に衝撃を吸収するマット等の緩衝材を敷く。
られて振り返り転落
(マットに亀裂やめくれはないか)
(22障-463) □滑り面に指の入るような破損や隙間はないか。
○ぽ んちょの紐が手すりに掛か
る
○口 に入れていたミニトマトを
誤飲
(○窒息死)
■ ブランコ
□周 囲に障害物や危険なものが落ちていないか。立ちこぎや
→転落・衝突
飛び降りる子の見守り。年齢に合った乗り方の指導。
◎前 に飛び降りてバランスを崩 □握 る力が弱い年少児等は、ぶらんこの握り部分をしっかり
し顔面から前へ倒れ(眼球運
握るように声をかける。鎖に指が入る危険はないか。
動障害)
(22障-464) □遊び方のルールを決める。(ブランコの前後を横切らない指
○ぶ らんこをこいでいて後に転
導(柵の工夫)、待っている子どもの並び方、二人乗りブラ
落
ンコの背もたれに立った立ちこぎは特に危険)
○リ ン グ ブ ラ ン コ( 二 人 乗 り )
背もたれに立って揺すってい
て落下
■ ジャングルジム
□雨で滑りやすくなっていないか確認する。
→落下・転落
□遊び方のルールを決めて見守る。
◎足 を滑らせ落下(胸腹部臓器 (物を持って登っていないか、滑りやすいサンダルで登って
(22障-431)
障害)
いないか、引っかかるような服装ではないか)
■ うんてい
→落下
◎雨 上がりに友達とふざけてい
(22障-442)
て足を滑らせ
○手を滑らせて顔から落下
○うんていの柱にぶつかる
□雨で滑りやすくないか確認する。下に緩衝材を敷く。
□うんていの下に踏み台や危険な物がないか確認する。
子どもがぶつかりやすい支柱には緩衝材を巻く。
□遊び方のルールを決めて見守る。
(うんていの上でふざけない。握り方の指導。)
■ 鉄棒
□鉄 棒の下にマット等の緩衝材を敷く。鉄棒が濡れていない
→落下、転落
か確認する。(濡れていたら拭く)
◎両 足をかけていて足が離れ転 □しっかり握るように声をかける。
(22障-456) □手の届く位置で見守る(鉄棒の太さは手に合っているか)
落
◎手にリールが当たる
(22障-435)
■ 総合遊具(固定遊具)落下
○ロープに足がひっかかる
○回転遊具に指を挟む
○遊具の中から飛び出して衝突
□ロープやネットに穴があいたり、ほつれたりしていないか。
遊具に指の入る隙間や亀裂はないか。
□遊具の周りに十分なスペースがあるか。(遊びの動線)
□総 合遊具、すべり台アーム、うんていに縄跳びの縄をかけ
て遊ばない(首を吊る状態で窒息死:平成17年報告)
Ⅳ 学校生活における事故防止の留意点 幼稚園・保育所編
園庭での事故の事例
139
安全対策チェックリスト
■ 木の枝・石 等
□顔 に掛かるような枝は剪定する。草むらに入るとき、草木
◎草むらで遊んで木で頬を切る
の避け方を伝える。
(22障-461) □人 に向かって石や砂を投げることは危険なことを、遊びの
○枝で目を突く
中で繰り返し伝える。
○投げた石が目に当たる
□マットや人工芝に破損はないか。危険な物はないか。
◎人工芝に足をかけ転倒
(22障-433)
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