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2 手引 第1章P2~19
第1章 年度初めに取り組むこと 第1章 年度初めに取り組むこと 2 第1章 年度初めに取り組むこと 1 特別支援学級担任に求められるもの 特別支援学級の担任には、教育の専門職として求められる基本的な資質に加えて、一人一人の児童 生徒を理解し、教育課程の編成、実施、評価を適切に行うことや校内の体制づくり、教育環境の整備、 保護者との連携等、多くのことが求められます。また、障がいのある児童生徒の自己実現を図る支援 者として、次のような力を高めていけるよう日々の教育実践に励んでいくことが大切です。 豊かな人間性 児童生徒は、自分の良さや可能性に目を向けてくれる人に対して心を開き、信頼を寄せます。そのた めには、共感的な理解と態度に基づく豊かな人間性が必要です。このことは、保護者や関係者に対して も同様です。 確かな理解力 障がいのある児童生徒を理解していく上で大切なことは、一人一人の障がいを正面から見つめ、その 特性やその障がいによる学習上又は生活上の困難などについてできるだけ正確に知ることです。 旺盛な行動力・探求心 障がいのある児童生徒とともに学び合うためには、児童生徒と一緒に行動しながら、指導の手がかり を見出し、指導力の向上に努めていくことが求められます。 <特別支援学級の先生方(経験のある先輩)からのメッセージ> □ 児童生徒が話したくなる先生に ・ 好きなことや考えていることなど、学習以外のことも含めて、児童生徒との会話をたくさん楽しみまし ょう。少人数の学級だからこそもてる、ふれ合いの時間を大切にしましょう。 ・ いつも前向きな気持ち(「呑気、根気、元気」)で、児童生徒と一緒に、活動に汗を流しましょう。 □ 保護者が話しやすい先生に ・ 初めての担任で指導に不安はあっても、保護者からの励ましがあれば、千人力です。ふだんの何気ない 会話から始め、しっかりと保護者の話に耳を傾けることを大切にして信頼関係を築いていきましょう。 ・ なかなか見えてこない成長に不安を感じたり、小さな変化に一喜一憂したりするのは、親も教師も同じ です。ともに子どもを育てている喜びや悩みを分かち合いましょう。 □ 教室の外に、学びとかかわりの場を ・ 児童生徒ができるだけ多くの人とのかかわりの中で学んでいけるような教育環境をつくることが、特別 支援学級の経営のキーポイントです。職員室では、できるだけ意識して学級や児童生徒のことについて話 題にするようにしましょう。そして、たくさん児童生徒にかかわってもらうように呼び掛けましょう。 ・ 実際の生活に根ざした体験を増やすため、校外にも学習活動の場を広げましょう。地域で活用できそう なものは、何でも活用してみましょう。そのために、常に教師のアンテナを高く掲げ、幅広い情報収集に 心がけましょう。 □ 主体的に活動に取り組む児童生徒をめざして ・ 特別支援学級でも、教師がやらなければならないことは同じです。障がいがあるからといって特別な構 えはいりません。よりよい授業をめざして、日々の実践を重ね、児童生徒が精一杯力を発揮できるように 「できる状況づくり」を工夫しましょう。 ・ 特別支援教育では、あせらずにじっくりと腰を据えて、児童生徒自身の歩みに寄り添った支援をしてい く必要があります。もし指導に悩んだときには、もう一度、その児童生徒の立場になって授業を振り返っ てみることが大事です。 1 特別支援学級担任に求められるもの 3 第1章 年度初めに取り組むこと 初めて特別支援学級の担任となった年度初めは、何かとわからないことがたくさんあるかと思います が、1年間の学級経営に関する内容について、学校や学級の実態を考慮しながら、まずは全体的な見通 しをもってみましょう。 <特別支援学級の1年間(例:3学期制)> 学校行事 学級経営 学習指導 始業式 引継ぎ 教育課程の編成 入学式 教室環境の整備 個別の教育支援計画の作成 諸帳簿の記録 個別の指導計画の作成 学級経営案の作成 年間指導計画の作成 4月 時間割の作成 5月 6月 教材・教具の作成と活用 遠足 交流及び共同学習の推進 修学旅行 学級経営の見直し 1学期末の評価 教科用図書の選定 2学期に向けて 個別の教育支援計画の評価・見直し 11月 校内の共通理解と協力 個別の指導計画の評価・見直し 通知表の作成と記入 10月 実態把握(アセスメント) 授業づくりの充実 家庭訪問 7月 9月 次年度へ向けて 運動会 終業式 8月 その他年間を通して 学級通信の発行 始業式 学級PTA活動の運営 親子行事 授業研究会 保護者との連携・面談 市内交流学 習会 特別支援教育に係る校内 文化祭 委員会 終業式 12月 就学相談 学級経営の見直し 2学期末の評価 3学期に向けて 個別の教育支援計画の評価・見直し 個別の指導計画の評価・見直し キャリア教育 通知表の作成と記入 1月 2月 3月 進路指導 始業式 教育課程の編成 個別の教育支援計 生活指導・生徒指導 演劇教室 画の作成 個別の指導計画の など 作成 修了式 学級経営の評価 3学期末・年度末の評価 卒業式 諸帳簿の記録 個別の教育支援計画の評価・見直し 年間指導計画の作 個別の指導計画の評価・見直し 成 通知表の作成と記入 引継ぎの準備 4 1 特別支援学級担任に求められるもの 第1章 年度初めに取り組むこと 2 始業日までの準備・確認 児童生徒・保護者が安心して学校生活をスタートできるように、しっかりと準備をしましょう。 <準備すること> □ 出席簿 □ 各種名簿 □ 氏名印 □ 指導要録 □ 健康診断票 □ 連絡網 □ 連絡帳、使用するノートやファイル □ 教科書、副読本、学習用具 □ 学級通信 □ 机・椅子等の調整 □ ロッカー、傘立て、靴箱などの割り当て □ 教室の掲示物 □ 学級の事務用品や備品 <確認すること> □ 教室や校内の安全点検・環境整備 □ 登下校の通学路や通学方法 □ 登校後の朝の動き、休み時間の対応 □ 4月の生活の流れ・当面の時間割 □ □ □ □ □ □ 特別教室等の使用割り当て 交流及び共同学習の内容、支援や配慮点 児童生徒の持ち物 学級費・教材費 特別支援教育就学奨励費 児童生徒の実態把握 特に、児童生徒の実態把握では、前担任との引継ぎ、保護者との面談などを通して、まずは健康上や 指導上の留意点についてしっかりと把握しておくことが大切です。 就学前の場合には、前年度のうちに、体験入学や学級見学などの機会を設定し、本人や保護者から、 直接担当者が情報を得ておくことが考えられます。 その他、児童生徒の就学に関する資料、個別の教育支援計画や個別の指導計画、つながりのある関係 機関の文書などからも、児童生徒の実態について詳しく知ることができます。 2 始業式までの準備・確認 5 第1章 年度初めに取り組むこと 担任一人ではなく、保護者や校内の先生方とつながりをもってスタートすることが大切です。 <本人や保護者> <前担任など> 新年度の担任が決まったら、できるだけ早め 前年度継続の児童生徒の場合には、特別支援学 に、本人や保護者との顔合わせの機会をもちまし ょう。年度前に、学校として一度面談をもち、保 護者の意向をお聴きしておくケースもあります。 級の前担任から指導記録などの資料を見せてもら い、具体的な引継ぎを行います。 就学や通常の学級から移った児童生徒の場合に 引継ぎ資料だけでなく、実際に保護者から丁寧 に話をお聴きしながら、必要な具体的支援や配慮 は、関係する園や小・中学校の前担任より、でき るだけたくさんの情報を得るようにしましょう。 について把握します。 足りない場合は再度コンタクトをとります。 初めての出会いです。新しい担任に対して、本 人や保護者から、少しでも安心を感じてもらえる 前年度までの児童生徒の生活や学習の様子か ら、新しい特別支援学級での指導上のヒントをお よう、明るい対応に心がけましょう。 さえましょう。 <交流学級や学年の担任> <他の障がい種の特別支援学級担任など> 交流学級や学年の担任は、通常の学級の児童生 校内に、障がい種が一つだけでなく、他の障が 徒とともに、特別支援学級の児童生徒にかかわる 機会が多くなります。そのため、児童生徒の障が い種の特別支援学級が設置されている場合には、 特別支援学級の担任同士、常に相談し合うことが いと必要な支援や配慮について、早い段階から基 できます。行事や指導の内容によっては、学級合 本的な理解を図る必要があります。 交流時の特別支援学級の児童生徒の動きを予想 して計画し、実施の様子を見ながら、交流及び共 同での活動を組むことで、より指導効果が期待で きる場合もあるでしょう。 また、担任(教諭)だけでなく、講師や支援員 同学習の内容について一緒に検討していきましょ などが配置されている場合には、あらかじめ一人 う。それぞれの交流のねらいや学習の目標を明確 にすることで、特別支援学級の児童生徒が取り組 める具体的な活動も決まってきます。 一人の児童生徒へのかかわり方、複数の児童生徒 の役割分担などについて、打合せをもつようにし ましょう。 <特別支援教育コーディネーター> <管理職> どの学校にも、特別支援教育コーディネーター の先生がいるはずです。学校規模によっては、複 数指名されている場合もあります。 特別支援教育コーディネーターは、校内支援の 調整役や、保護者の相談窓口の役割などの仕事を 担います。通常の学級で配慮を要する児童生徒だ けでなく、特別支援学級の児童生徒についても、 相談に乗ってもらいましょう。また、校内委員会 特別支援学級は、少人数であっても、通常の学 級と同様、学校の一つの学級です。その適切な運 営のためには、担任だけではなく、より多くの教 職員の温かいまなざしとかかわりが必要です。 そのために、校長は、年度当初の職員会議や校 内委員会において、特別支援学級を大切にした学 校経営方針などについて、教職員への理解・啓発 の対象児童生徒として、教職員で共通理解に立 ち、支援のアイデアをもらいましょう。 体制について、状況に合わせた柔軟な調整を図る ようにします。 を促します。教頭や教務主任は、必要な校内協力 6 2 始業式までの準備・確認 第1章 年度初めに取り組むこと 3 始業式・入学式での配慮 当日、児童生徒が喜びや期待をもって、スムーズに学校生活をスタートできるように、前もって一日 の動きを想定し、学校全体で必要な支援や配慮について確認しておきましょう。 初めて児童生徒を受け持つ場合、まだ十分な信頼関係がとれていない状態で、初日一人で対応するの は大変なことかもしれません。必要な点については、朝から校内の協力を得ることが必要です。 保護者は、最初の学校行事を通して、担任の丁寧な対応の仕方や心遣い、児童生徒への穏やかなかか わり方などに安心感を覚え、その後の信頼関係へとつながっていきます。また、保護者からみれば、担 任だけでなく、学校全体の特別支援教育に対する姿勢としてとらえる機会になりますので、学校全体で 共通理解に立って取り組むことが大切です。 <学校全体での確認事項> □ 児童生徒の体調や様子(ここ数日の様子と当日の朝、健康や安全面における留意点) □ 昨年度までの行事への参加の様子から予測されること □ 式のプログラム、時間、会場レイアウト □ 当日の朝の動き(登校の仕方、待機場所と過ごし方、交流学級とのかかわり、トイレ) □ 入退場時の移動経路、移動方法 □ 並び順、座席の位置、前後左右の児童生徒の確認 □ 入学式での呼名者、呼名の仕方、返事の仕方 □ 式中の具体的な支援や配慮 (場面(起立、礼、着席、唱歌、待つ)に合わせた言葉がけ、場所の目印や指示カードなどのツール) □ パニックや発作など、ハプニング時の対応、支援 (休憩や退場の仕方、移動場所、サポートする教員) □ 式での付き添い、一日を通しての役割分担(特別支援学級担任、交流学級担任、養護教諭、その他の教員) □ 保護者の動き(担任への体調等の連絡、保護者の座席の位置、必要に応じた対応) □ 式後の動き、学級での指導(学級に戻ってからの活動、担任の自己紹介と抱負、当面の予定、教科書や学 級通信等の配付物) 中には、見通しがもてなかったり予定が変更になったりすると、パニックになる児童生徒もいます。 すぐその場から離すだけでなく、その場で落ち着ける方法を考えておくことも大切です。また、式の前 に、児童生徒に会場を見学させて座席等を確認したり、簡単な動きをリハーサルしたりしておくと、不 安が少なくなることがあります。前担任や保護者から具体的な対応について聞いておくことが必要です。 また、保護者の中には、特別支援学級への入級に、内心複雑な思いを抱いている場合もあります。交 流学級や学年の動きなどについてもお知らせしながら対応しましょう。 以上、始業式や入学式での配慮は、他の行事や集会などにおいても、引き続き大事にしていきたい内 容です。集団での活動が苦手な児童生徒に対しては、決して無理をさせることないように留意する必要 があります。様々な場面をとらえ、その児童生徒にとっての課題の緩和・調整・回避の対応の仕方について 考えていきましょう。 3 始業式・入学式での配慮 7 第1章 年度初めに取り組むこと 4 教室環境の整備 教室は、日々生活し、学習する場所です。一人一人の障がいの状態や教育的ニーズ等に応じて、児童 生徒が安心でき、落ち着いて過ごせるように、安全で健康的な教室環境に心がけましょう。 まずは、校内のどこに特別支援学級の教室を配置するかの検討から始めます。安全性・学習や生活上 の利便性・静かな環境の確保など、総合的な観点から検討を行いましょう。 また、施設・設備の整備の充実は、 「障害者の権利に関する条約」で提唱された概念である「基礎的環 境整備」や「合理的配慮」 に関して大事なポイントになります。 <教室内のレイアウトの工夫(例)> □ 学習、作業、休憩など、教室内でそれぞれの活動を行う場所を決める。 (活動と場所の一致) □ 個別学習の際に、個人ブースが必要な児童生徒のためのスペースを、仕切りなどを利用して作る。 □ 余暇、休憩、着替えの場所に、カーペット、マット、畳などを敷く。 (リラックスできる場所の設定) □ 歩行、車いす等の妨げにならないように、安全に移動できるスペースを確保する。 □ 机やロッカー、提出物用カゴや道具棚などの配置を工夫し、児童生徒が活動しやすい動線を作る。 □ 床に目印を付けて、机や椅子を並べる位置を示す。 □ ロッカーや棚の中に入れるものの名前の表示だけでなく、絵や整頓された状態の写真を貼っておく。 □ 机やロッカー等の角のある突起箇所には、安全カバーを付ける。 □ 教室内のレイアウトを替える際には、児童生徒に予告・説明をする。 廊下側 ←布 入口 机 学習や生活の掲示 個人毎の掲示 個人ブースの仕切り 机 机 黒 板 机 学級文庫 作業 食事 テーブル 机 余暇 休憩 着替え (カーペット、 クッション) T V ←布 提出物用かご 清掃用具 教 卓 ロッカー(各種ゲーム・その他教材の収納) 机 一人一人のロッカー 予定の掲示 入口 道具棚 金魚の水槽 歯ブラシ・コップ 水場 カーテン 窓側 8 4 教室環境の整備 第1章 年度初めに取り組むこと <視覚情報の調整・掲示や板書での配慮(例)> □ 学習に集中できるように、教室前面及び黒板とその周囲における余分な視覚刺激を減らす。 □ 必要のないときは、TV、各種棚、掲示物、教室外の風景等を、カーテンや布でマスキングする。 □ 適切な採光を確保し、座席から見える黒板の角度や光の反射などに配慮する。 □ 過度な色使いを避ける。板書の文字には、白や黄色のチョークを中心に使う。 □ 見やすい文字の大きさに配慮する。 □ 内容を精選し、要点を絞って板書する。端的な文章表現での掲示に努める。 □ 時間割(学級・個人毎) 、授業中の学習活動の流れ、学習活動や作業を進める際の手順などについて、視 覚的にわかりやすい表示で示す。 □ 作業や活動の仕方、出来上がりの状態などを表した絵や写真を掲示する。 A B C 棚の中の興味のある教材に、授業 個人毎の時間割の内容が、一目で見 中の児童生徒の注意がそれないよ てわかるように、小黒板を活用して表 う、ふだんは布で覆っている例。 した例。 ロッカーの整理の仕方 を写真見本にして掲示し た例。 <児童生徒の主体性を育てる教室環境の工夫(例)> □ 児童生徒にとって過ごしやすい生活空間を意識し、児童生徒の興味・関心に沿って学習上必要で効果的 なものを精選するなど、定期的に教室環境の見直しを行う。 □ 現在取り組んでいる学習コーナー、個人の作品コーナー、これまでの学習の足跡コーナー等、教室壁面 をいくつかのコーナーに分ける。各コーナーでは、児童生徒の活動の様子がわかる写真を掲示したり、児 童生徒の作品を飾ったりする。 □ 児童生徒の作品に、教師のコメントを添え、児童生徒の自信や意欲を育てる。 □ 児童生徒の作品に、インパクトのある見出しを付けて、校内に児童生徒の頑張りをアピールする。 □ 背面黒板の係コーナーの掲示を児童生徒に任せ、主体的に活用できるようにする。 □ 当番を決め、一日のスケジュールをカードにして貼るなどして、活動の見通しが持てるようにする。 □ 朝の会の司会シナリオやセリフを掲示し、一人でも進行できるようにする。 □ 児童生徒と教室環境について話し合い、一緒に掲示の貼り替えや教室内のレイアウト替えを行う。 □ 室内プランターや金魚の水槽などを置いて、動植物の世話ができるようにする。 □ 各種ゲームなどを準備して、休み時間に校内の児童生徒との交流を深められるようにする。 4 教室環境の整備 9 第1章 年度初めに取り組むこと <各障がい種別の特別支援学級における教室環境の留意点(例)> 弱視特別支援学級 □ 歩行の妨げになるものを置かない。置く場合には、定位置を決め、空間の把握の妨げにならないよ うにする。 □ 適切な机の選定や書見台等を設置する。 □ ロッカーや必要な道具等には、音や触覚を活用できるように工夫する。 □ 机やロッカー等の角のある突起箇所には、安全カバーを付ける。 □ 照明の適切な明るさやまぶしさの調整(教室の全体照明や机上照明、反射光をおさえる黒板、カー テンの設置)を行う。 難聴特別支援学級 □ 補聴器はいろいろな音を拾ってしまうので、カーペットを敷いたり、机やいすから出る音を防ぐ工 夫をしたりする。 □ 言語理解を助ける視覚的な支援ができるよう工夫する。 □ 正面から口元を見せて話しかけられるように、教師用いすの高さを調整する。 知的障がい特別支援学級、自閉症・情緒障がい特別支援学級 □ ロッカーや棚の一つ一つに、中に入っている道具などがわかるように、ものの名前、絵や写真を貼る。 □ 学習に集中することが難しい場合は、児童生徒の席から見える範囲に気を取られやすいものがないよう に留意する。必要に応じてマスキングを行う。(児童生徒の顔写真とかアニメのキャラクターなど) □ 一日のスケジュール表などを作成する場合は、児童生徒の実態に応じて、内容が明確に伝わるような表示 を行う。 □ 特に自閉症・情緒障がい特別支援学級の場合には、刺激統制のための仕切りを活用して個別の空間をつ くり、情緒の安定や注意集中を図ることができるようにする。しかし、常にそれがあることが必要条件で はなく、児童生徒の状態をよく見極めて判断することが大切である。 肢体不自由特別支援学級 □ 車いすでの移動、介助歩行やクラッチ(前腕型杖)を使用した歩行の妨げになるものを置かない。 □ 学習時や休憩(水分補給・体ほぐしの運動など)時に、効果的に使用できるカーペット、ソフトマ ット等を設置したスペースを用意する。 □ 日常生活や学習面において、水道の蛇口レバーや電灯のスイッチ等、自分で操作できるような補助 具を活用する。 □ 児童生徒の実態に応じ、適切な机やいすを活用する。 病弱・身体虚弱特別支援学級 □ 学習時や休憩時に、効果的に使用できるようなカーペット、ソフトマット等を設置したスペースを 用意する。 □ 机やロッカー等の角のある突起箇所には、安全カバーを付ける。 施設・設備に関する「合理的配慮」の観点としては、校内環境のバリアフリー化、発達、障がいの状 態及び特性に応じた指導ができる施設・設備の配慮、災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮があ ります。 10 4 教室環境の整備 第1章 年度初めに取り組むこと 5 教育課程の編成 ① 編成の基本的な考え方 原則は、「小学校又は中学校の教育課程」に基づいて編成する。 ただし、児童生徒の障がいの状態を考慮し、特に必要がある場合には、「特別の教育課程」を編成する。 特別の教育課程を編成する場合には、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考にする。 特別支援学級は、学校教育法第81条第2項の規定に基づき特別に編制された学級ですが、あくまで も小・中学校の中に設置された学級です。したがって、特別支援学級の教育課程に関する法令上の規定 は、小・中学校の教育課程に関するものが適用され、学校教育法に定める小・中学校の目的・目標を達 成するものでなければなりません。 しかし、特別支援学級は、本来、通常の学級における学習では、十分その効果を上げることが困難な 児童生徒のために編制された学級であり、通常の学級と同じ教育課程を適用することは適切ではない場 合があります。特に知的障がい特別支援学級の場合には、知的発達に遅れがあるという児童生徒の特性 に応じた教育課程が必要です。そのため特別支援学級の教育課程の編成については、学校教育法施行規 則で次のように規定されています。 【学校教育法施行規則第138条】 小学校若しくは中学校又は中等教育学校の前期課程における特別支援学級に係る教育課程については、特に必要 がある場合は、第50条第1項、第51条及び第52条の規定並びに第72条から第74条までの規定にかかわら ず、特別の教育課程によることができる。 この規定で引用されている第50条第1項以下の各条項は、いずれも小・中学校の教育課程に関する 規定であり、小・中学校の各領域や各教科それぞれの授業時数及び各学年の総授業時数、教育課程編成 の基準等を定めています。特別支援学級においては、これらの規定にかかわらず、学級の実態に応じて 特別の教育課程を編成することが法令上認められています。 また、特別支援学級において特別の教育課程を編成する場合は、特別支援学校小学部・中学部学習指 導要領を参考とするようになっています。 しかし、特別支援学級の児童生徒の実態は、特別支援学校の児童生徒のそれと同じではないので、特 別支援学校小学部・中学部学習指導要領の内容をそのまま特別支援学級に適用することは適切でない場 合もあることに留意する必要があります。 なお、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領に記載されている配慮事項は、児童生徒の実態に応 じて積極的に取り入れることが大切です。 5 教育課程の編成 ①編成の基本的な考え方 11 第1章 年度初めに取り組むこと 特別支援学級において、特別の教育課程を編成する場合は、小学校(中学校)学習指導要領解説総則 編の第3章教育課程の編成及び実施第2節3その他の教育課程編成の特例を参考にしてください。 【小学校(中学校)学習指導要領解説総則編】 3 その他の教育課程編成の特例 (1) 特別支援学級の場合 特別支援学級は、学校教育法第81条第2項の規定による障害のある児童(生徒)を対象とする学級であるた め、対象となる児童(生徒)の障害の種類、程度などによっては、障害のない児童(生徒)に対する教育課程を そのまま適用することが必ずしも適当でない場合がある。 そのため、学校教育法施行規則第138条では、「小学校若しくは中学校又は中等教育学校の前期課程におけ る特別支援学級に係る教育課程については、特に必要がある場合は、第50条第1項、第51条及び第52条の 規定並びに第72条から第74条までの規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。」と規定して いる。 この場合、特別の教育課程を編成するとしても、学校教育法に定める小学校(中学校)の目的及び目標を達成 するものでなければならないことは言うまでもない。なお、特別支援学級において特別の教育課程を編成する場 合には、学級の実態や児童(生徒)の障害の程度等を考慮の上、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参 考とし、例えば、障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域である「自立活動」を 取り入れたり、各教科の目標・内容を下学年の教科の目標・内容に替えたり、各教科を知的障害者である児童 (生徒)を教育する特別支援学校の各教科に替えたりするなどして、実情に合った教育課程を編成する必要があ る。そして、小学校(中学校)学習指導要領第1章総則第4の2(7) (中学校:(8))においては、「特別支 援学級又は通級による指導については、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うこと。」と示されており、特 別支援学級における指導に当たっては、学級担任だけでなく他の教師と連携・協力して、個々の児童(生徒)の 障害の状態等に応じた効果的な指導を行う必要がある。 特別支援学級について、特別の教育課程を編成する場合であって、文部科学大臣の検定を経た教科用図書を使 用することが適当でない場合には、当該特別支援学級を置く学校の設置者の定めるところにより、他の適切な教 科用図書を使用することができるようになっている(同規則第139条)。 ※下線は、本手引きにおいて便宜上ひいたものです。 以下5点が、特別の教育課程の編成のポイントです。詳しくは、この後のページをご覧ください。 <特別の教育課程とは> □ 各教科の目標及び内容 → 下学年や特別支援学校(知的障がい)の各教科の目標及び内容に替えるこ とができる。 □ 授業時数等の扱い → 年間の総授業時数は、小・中学校の各学年の時数に準ずるが、授業の1単 位時間などについては弾力的な取扱いができる。 □ 各教科等を合わせた指導 → 児童生徒の実態に合わせて、「各教科等を合わせた指導(いわゆる領域・ 教科を合わせた指導)」を行うことができる。 □ 自立活動の指導 → 領域である「自立活動」を行うことができる。知的障がいの場合は、学校 教育活動全体を通して行われていることが多いが、顕著な発達の遅れや特に 配慮を必要とする様々な状態が随伴して見られる場合には、時間を設けて指 □ 教科用図書 導することができる。 → 児童生徒に応じて、適切な教科用図書を使用することができる。 12 5 教育課程の編成 ①編成の基本的な考え方 第1章 年度初めに取り組むこと ② 編成の手順 特別支援学級の教育を行う上で、最も大切になるのが児童生徒の実態把握です。児童生徒一人一人 の実態が十分に把握されていなければ、適切な教育課程の編成や指導を行うことはできません。特別 支援学級の指導計画の作成に当たっては、児童生徒の実態を的確に把握した上で、教育目標を達成す るために最も適切な教育課程を編成し、効果的な指導の形態を考えることが大切です。 A 児童生徒の実態把握 □ 一人一人の障がいの状態や程度、特性、発達段階 □ 学習の状況、身辺処理等の生活の状況、コミュニケーション能力や対人関係、運動能力 □ 各種検査等の結果、心理的状況や認知特性 □ 興味・関心、経験、家庭や教室の環境 ・ 一人一人について、幅広い観点で実態を把握し、児童生徒の姿が見えるように整理します。 ・ 保護者、学校医、養護教諭、交流学級担任等から幅広い情報を集め、担任だけの主観による実態 把握にならないよう留意します。 ・ 必要に応じて保護者の同意を得た上で各種検査等を行い、客観的な実態把握を行います。 ・ 収集した情報等は、個人のプライバシー保護の観点から、取扱いには十分留意します。 B 学級の教育目標・児童生徒の目標の設定 □ 児童生徒の実態把握、生活年齢 ・ ・ ・ ・ □ 保護者の意向、教師の指導観 □ 地域や学校の実態 学校の教育目標に沿って設定します。 実態に即し、生活年齢等も考慮し、強調する点や留意する点を明らかにします。 児童生徒の将来の姿を見通して、長期的な目標や短期的な目標を設定します。 学級全体の目標とともに、児童生徒一人一人の個別の目標を設定します。 C 指導内容の選択と組織(指導の形態の工夫) □ □ □ □ 学年相当の学習が可能と予想される教科は何か。 学年相当の学習が困難と予想される教科は何か。 交流及び共同学習で履修可能と予想される教科は何か。 下学年の教科内容で履修が必要とされる教科(内容)は何か。 □ 各教科等を合わせた指導(日常生活の指導・遊びの指導・生活単元学習・作業学習)を行うことが適当か。 □ 着替え、食事、排泄等、身辺処理状況はどうか。 □ 各教科等で指導する内容は何か。 小学校(中学校)学習指導要領を基本にしながら、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし て内容をとらえ、実情に合った指導内容を選択・組織します。 ・ 目標に即して指導内容を選択・組織することは、教育課程編成上の主要な作業です。児童生徒一 人一人の目標を達成するためには、どのような指導内容が必要かを明らかにする必要があります。 ・ 学習指導要領は法令で定められた教育課程の基準の一つです。小・中学校に設置される特別支援 学級の指導内容については、原則として、小学校(中学校)学習指導要領に基づいて選択・組織し 5 教育課程の編成 ②編成の手順 13 第1章 年度初めに取り組むこと ます。 ・ 特別の教育課程を編成する場合に当たっては、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考 にすることになります。ただし、特に、知的障がいのある児童生徒の場合、知的発達に遅れがある という児童生徒の特性から、特別支援学校学習指導要領で示されている知的障がい者である児童生 徒に対する教育を行う特別支援学校の内容を十分に把握した上で、適切に取り入れることが必要で す。 ・ 選択した指導内容を組織する際は、各教科、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動 及び自立活動について、各教科等間の指導内容相互の関連を明確にします。その上で、実際に行う 指導の形態(教科別の指導、領域別の指導、各教科等を合わせた指導)について決定します。 D 授業時数の配当(年間指導計画の作成へ) □ 総授業時数は、小学校(中学校)の各学年における総授業時数に準ずる。 □ 各教科等の目標及び内容を考慮し、それぞれの年間の授業時数を適切に定める。 □ 各教科等を合わせた指導を行う場合には、その他の教科等との関連を考慮し、授業時数を適切に定 める。 □ 週当たりの授業時数が児童生徒の負担過重にならないようにする。 ・ 年間授業時数との関連において、指導の形態(各教科)毎に、おおよその配当時間を決めます。 ・ 次に、学期別、月別(又は単元毎)の各教科の授業時数を定めます。その際は、児童生徒が学習 したことを十分理解し、生活の中で生かすことができるようにゆとりをもって計画し、児童生徒の 学習の進捗状況に合わせて修正できるよう配慮します。 E 時間割の作成 □ 各教科等のそれぞれの授業の1単位時間は、各学校において、児童生徒の障がいの状態や発達の段階及 び各教科等や学習活動の特質を考慮して適切に定める。 ・ 1単位時間は、小学校で45分、中学校で50分が基本となりますが、弾力的な運用を工夫しま す。児童生徒の集中の程度により、短い区切りを多くとったり、生活単元学習や作業学習などは、 2~3単位時間続けて行ったりするなどの工夫が望まれます。ただし、小学校(中学校)学習指導 要領に定められた相当学年の年間標準授業時数を確保することに留意しましょう。 編成した教育課程は、5月に教育委員会へ届け出ますので、4月中にはおおよその計画を立てておく 必要があります。 特別の教育課程を編成するに当たって参考にできる資料として、「小学校(中学校)学習指導要領解 説総則編」、「特別支援学校学習指導要領」、「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領解説(総則 等編・自立活動編)」などについて、計画的な購入を行いましょう。 14 5 教育課程の編成 ②編成の手順 第1章 年度初めに取り組むこと ③ 障がい等に応じた指導の形態等 ア 教科別の指導を行う場合 弱視、難聴、肢体不自由、病弱や身体虚弱、自閉症や情緒障がいのある児童生徒の各教科 の指導 弱視、難聴、肢体不自由、病弱や身体虚弱、自閉症や情緒障がいのある児童生徒で、知的障がいがな かったり比較的軽度であったりする場合には、小学校(中学校)学習指導要領に示されている教科の目 標及び内容を学習します。ただし、指導計画の作成と内容の取扱いに当たっては、児童生徒の障がいの 状態や特性等を十分に考慮する必要があります。 以下の特別支援学校小学部・中学部学習指導要領解説総則等編第2章を参考にしてみましょう。自閉 症や情緒障がいの場合には、自立活動編の関連する内容を参考にしてみましょう。 <指導計画の作成と内容の取扱いに当たって> 弱視 ① 的確な概念の形成と言葉の活用……………見学、調査、観察、実験、操作活動等の体験的な学習 ② 文字の読み書きの指導……・・・・・・・・・・・・・・文字(漢字)の指導、文章の種類や内容に応じた読み分け等 ③ 指導内容の精選等……………………………指導の順序の考慮、観察・実験等の内容や方法の工夫 ④ 視覚補助具やコンピュータ等の活用………拡大教材、弱視レンズ、拡大読書器、書見台、照明器具等 ⑤ 見通しをもった学習活動の展開……………系統的な地図指導や図形指導、実習や実技等 難聴 ① 言語概念の形成と思考力の育成……………国語科を中心とした言語指導、具体的な体験 ② 読書に親しみ書いて表現する態度の育成…読書や書くことに対する意欲や興味・関心の的確な把握 ③ 指導内容の精選等……………………………基礎的・基本的な事項に重点、興味・関心のある事項に優先 ④ 保有する聴覚の活用…………………………定期的な聴力測定、適切なフィッテイングの状態等 ⑤ 教材・教具やコンピュータ等の活用………視覚的に情報を獲得しやすい視聴覚教材等や周辺機器 ⑥ 言葉等による意思の相互伝達………………音声、文字、手話等のコミュニケーション手段の活用 肢体不自由 ① ② ③ ④ ⑤ 表現する力の育成……………………………触れる、見る、操作する、作るなど体験的な活動 指導内容の精選等……………………………指導内容の重点の置き方、指導の順序、まとめ方の工夫 自立活動の時間における指導との関連……身体の動きやコミュニケーション等に関する内容 姿勢や認知の特性に応じた指導の工夫……いすや机の位置及び高さなどの調整、課題提示等の指導方法 補助用具や補助的手段、コンピュータ等の活用……歩行や筆記等が困難、話し言葉が不自由な児童生徒 病弱や身体虚弱 ① 指導内容の精選等……………………………各教科等相互の関連、指導内容の連続性に配慮した工夫 ② 自立活動の時間における指導との関連……健康状態の改善等に関する内容 ③ 体験的な活動における指導方法の工夫……様々な体験の計画、実際に体験できるような指導方法の工夫 ④ 補助用具や補助的手段、コンピュータ等の活用……児童生徒の身体活動の制限の状態に応じた工夫 ⑤ 負担加重とならない学習活動………………病気の特質や個々の病気の状態等の考慮、適切な対応 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 15 第1章 年度初めに取り組むこと 知的障がいのある児童生徒の各教科の指導 知的障がいのある児童生徒の指導内容は、小・中学校の各教科の目標及び内容を踏まえて指導しま すが、児童生徒の実態によっては、小・中学校の指導内容が適切でない場合があります。 そこで、教科別の指導を計画するに当たっては、一人一人の児童生徒の興味・関心、学習状況、生 活経験等を十分に考慮した内容を選択、組織することが大切となります。その場合には、知的障がい 者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科を参考にして編成することができます。 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領解説総則等編第3章を参考にしてみましょう。 以下、小・中学校の各教科との違いについておさえておきましょう。 <小・中学校の各教科> □小学校・・・国語、社会(第3~6学年)、算数、理科(第3~6学年)、 生活(第1・2学年)、音楽、図画工作、家庭(第5・6学年)、体育 □中学校・・・国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語 <知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科> □小学部・・・生活、国語、算数、音楽、図画工作、体育 □中学部・・・国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、職業・家庭、必要に応じて外国語 両者を比べると、教科の名称については同じようですが、以下の例のように、それぞれ領域や内容 が示すものは異なっています。 例 小学校・・・算数の領域:数と計算、量と測定、図形、数量関係 小学部・・・算数の内容:数量の基礎及び数と計算、量と測定、図形・数量関係、実務 また、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科の内容については、 小学校のように学年別に示さずに、段階別(小学部3段階、中学部1段階)に示されています。(特 別支援学校小学部・中学部学習指導要領解説総則等編) その理由は、対象とする児童生徒の学力などが、同一学年であっても、知的障がいの状態や経験等 が様々であり、個人差が大きいためであり、段階を設けて示した方が、個々の児童生徒の実態等に即 し、各教科の内容を選択して指導しやすいからです。 各教科の各段階では、基本的に、知的発達、身体発育、運動発達、生活経験、社会性、職業能力等 の状態を考慮して、目標や内容を定めており、小学部から中学部へと段階が積み上げられています。 こうした各教科の内容の取扱いにおいては、個々の児童生徒の実態に即して、生活に結び付いた効 果的な指導を行うとともに、児童生徒が見通しをもって、意欲的に学習活動に取り組むことができる ように配慮する必要があります。そのためには、児童生徒の興味・関心を考慮しつつ、家庭生活に即 した活動を取り入れたり、生活に十分生かされるように継続的な取組みにしたりするなど、指導方法 を工夫することが大切です。 16 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと 以下、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校における教科別の指導の特徴 を参考にしましょう。 <教科や授業時数の定め方> <生活的なねらい> 指導を行う教科やその授業時数の定め方は、対象 指導に当たっては、学習指導要領における となる児童生徒の実態によっても異なります。従っ 各教科の目標を踏まえ、児童生徒の実態に合 て、教科別の指導を計画するに当たっては、教科別 の指導で扱う内容について、一人一人の児童生徒の わせて、適切な授業を創意工夫する必要があ ります。学習活動に生活的なねらいをもた 実態に合わせて個別的に選択・組織しなければなら せ、児童生徒の実態に即して、生活に即した ないことが多くなります。その場合、一人一人の児 童生徒の興味・関心、学習状況、生活経験等を十分 活動を十分に取り入れつつ、段階的に指導す る必要があります。 に考慮することが大切です。 <指導計画の作成> <個人差が大きい場合> 指導計画を作成するに当たっては、他の教 児童生徒の個人差が大きい場合には、一斉授業の 科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動及 び自立活動との関連、また、各教科等を合わ せて指導を行う場合との関連を図るととも 形態で進める教科別の指導は困難であることから、 それぞれの教科の特質や指導内容に応じて、小集団 を編成し個別的な手立てを講じるなどして、個に応 に、児童生徒が習得したことを実際の生活に じた指導を徹底する必要があります。 役立てるようにする必要があります。 知的障がい特別支援学級における教科別の指導では、特に、国語、算数・数学に関する指導が多いの が現状です。いずれも系統性の高い内容が扱われる教科ですが、単に下学年の内容に時間をかけて順に 指導していくのではなく、生活に必要な知識の理解を指導内容として精選・編成し、生活を広げ、質を 高める教科の指導が求められます。 児童生徒によっては、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の教科の内容を 取り入れる必要がある場合もあります。読む、書く、数えるなどの学習の基盤となる認知能力を高めた り、概念形成をするなどの学習をしたりして、一人一人の発達段階に応じて指導内容を用意していくこ とが必要です。 小学校の特別支援学級では 国語科や算数科では、児童の実態、興味・関心、系統性、実生活との関連等を考慮しながら学習課題 を設定することが大切です。また、児童が楽しく意欲的に学習に取り組めるように、ゲーム的な要素を 取り入れることも有効な指導法です。 中学校の特別支援学級では 学習内容の選択には、生徒の生活年齢を十分に考慮する必要があります。生徒が小学校の段階の理解 であれば、小学校の内容を下学年適用として指導する場合が考えられますが、ただ小学校のドリルをそ のまま使うことに終始することなどがないよう配慮しなければなりません。 基本的には、個別の指導計画に基づいて指導しますが、個人差の大きな集団の中で個別に対応するた めには、題材の選択や十分な準備、教材・教具の工夫などが大切になります。 さらに、教科別の指導で学習したことが生活場面で生かせるよう、生活単元学習等の各教科等を合わ せた指導と相互に補足・補完できるよう関連を図り、発展的な指導ができるようにします。 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 17 第1章 年度初めに取り組むこと イ 各教科等を合わせて指導を行う場合 小学校・中学校における教育課程では、各教科、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別 活動がそれぞれ別に指導されていますが、知的障がい特別支援学級においては、特別の教育課程を 編成した場合、各教科等を合わせて指導をすることができます。各教科等を合わせて指導を行うと いうことは、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科、道徳、特別 活動、自立活動の一部又は全部を合わせて指導を行うことです。 知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校や特別支援学級においては、各教 科等を合わせて指導を行うことが効果的であることから、従前、日常生活の指導、遊びの指導、生 活単元学習、作業学習として実践されてきており、「領域・教科を合わせた指導」と呼ばれていま す。 特に、知的な発達が未分化な場合、各教科の目標や内容を教科別に指導するよりも、生活経験や 体験を通して指導することで教育効果がある場合があります。まとまりのある一つの活動を体験さ せ、興味・関心、満足感や成就感を大切にしながら、結果としてそれぞれの教科等の内容を学習す るのが「各教科等を合わせた指導」です。 特別支援学級では、教育課程を構成する指導内容を児童生徒の実態に応じて、「教科別、領域別 の指導」と「各教科等を合わせた指導」の2つの指導の形態の特性を考慮して教育課程を編成しま す。なお、総合的な学習の時間は、これらと関連を図りながらも、別に適切な時間を設けて指導す る必要があります。 【知的障がい特別支援学校小学部の学習指導要領を参考にした教育課程(小学校知的障がい特別支援学級)】 教育課程 <指導内容の分類> 各教科 道徳 外国語活動 特別活動 自立活動 総合的な学習の時間 <指導の形態> 各教科等を合わせた指導 教科別、領域別の指導 教科別の指導 領域別の指導 生活 道徳 遊びの指導 国語 外国語活動 生活単元学習 算数 特別活動 (作業学習) 音楽 自立活動 図画工作 総合的な学習の時間 日常生活の指導 体育 18 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと 【知的障がい特別支援学校小学部の学習指導要領を参考にした教育課程(中学校知的障がい特別支援学級)】 教育課程 <指導内容の分類> 各教科 道徳 特別活動 自立活動 総合的な学習の時間 <指導の形態> 各教科等を合わせた指導 教科別、領域別の指導 教科別の指導 領域別の指導 国語 道徳 生活単元学習 社会 特別活動 作業学習 数学 自立活動 理科 音楽 美術 保健体育 職業・家庭 (外国語) 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 19 総合的な学習の時間 日常生活の指導 第1章 年度初めに取り組むこと 日常生活の指導 日常生活の指導は、児童生徒の日常生活が充実し、高まるように日常生活の諸活動を適切に援助する 指導の形態です。 知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の教科の一つである「生活科」 の内容だけでなく、広範囲に、各教科等の内容が扱われます。 ○ 基本的生活習慣の内容 衣服の着脱、洗面、手洗い、排泄、食事、清潔など ○ 日常生活や社会生活において必要で基本的な内容 挨拶、言葉遣い、礼儀作法、時間を守ること、きまりを守ることなど ○ 指導に当たって ・ 日常生活の自然な流れに沿い、その活動を実際的で必然性のある状況下で行うものであること。 ・ 毎日反復して行い、望ましい生活習慣の形成を図るものであり、繰り返しながら、発展的に取り 扱うようにすること。 ・ できつつあることや意欲的な面を考慮し、適切な援助を行うとともに、目標を達成していくため に、段階的な指導ができるものであること。 ・ 指導場面や集団の大きさなど、活動の特徴を踏まえ、個々の実態に即した効果的な指導ができる よう計画されていること。 ○ 日常生活の指導の内容例 登校 目的地までの歩行、交通安全、交通機関・スクールバスの利用、靴の履き替え、雨具の始 末、定刻までの登校、教師・友達との挨拶 等 朝の支度 帽子・かばんの始末、持ち物の整理、ノート類の提出、着替え、用便 等 係の仕事 窓の開閉、小動物・草花等の世話、黒板ふきの清掃、ごみ箱のごみ捨て、提出物の回収、 日課の表示 等 朝の会 朝の歌、体操、出欠席調べ、月日・曜日・天気調べ、昨日のこと、日記の発表、今日の予 定、守ることの確認、健康観察、衛生検査 等 食事 手洗い、うがい、身支度、食器・食品の運搬、配膳、食事の挨拶、よく噛んで食べるこ と、好き嫌いしないこと、作法を守ること、食器の後始末、歯みがき、食後の遊び 等 掃除 身支度、分担して仕事、机・椅子等の移動、掃き掃除、掃除機の使用、雑巾がけ、床みが き、用具の後始末、手洗い 等 帰りの支度 着替え、帽子・かばん等持ち物の用意、用便等、連絡帳の記入、今日の学習、明日の確 終わりの会 認、帰りの歌、挨拶、戸締まり 等 下校 靴の履き替え、雨具の用意、目的地までの歩行、交通安全、交通機関・スクールバスの利 用 等 20 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと 遊びの指導 遊びの指導は、遊びを学習の中心に据えて取り組み、身体活動を活発にし、仲間とのかかわりを促し、 意欲的な活動を育み、心身の発達を促していく指導の形態です。 知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の教科の一つである「生活科」 の内容をはじめ、各教科等にかかわる広範囲の内容が扱われます。児童が比較的自由に取り組むものか ら、比較的制約性が高い遊びまで、連続的に設定されます。また、遊びの指導の成果が、各教科別の指 導等につながることもあります。 ○ 比較的自由に取り組む遊び ・ 場や遊具等が限定されることのない遊び。 ○ 比較的制約性が高い遊び ・ 期間や時間設定、題材や集団構成などに一定の条件を設定し 活動するといったもの。 ○ 指導に当たって ・ 児童が、積極的に遊ぼうとする環境を設定すること。 ・ 教師と児童、児童同士のかかわりを促すことができるよう、場の設定、教師の対応、遊具等を工 夫すること。 ・ 身体活動が活発に展開できる遊びを多く取り入れるようにすること。 ・ 遊びをできる限り制限することなく、児童の健康面や衛生面に配慮しつつ、安全に選べる場や遊 具を設定すること。 ・ 自ら遊びに取り組むことが難しい児童には、遊びを促したり、遊びに誘ったりして、いろいろな 遊びが経験できるよう配慮して、遊びの楽しさを味わえるようにしていくこと。 ○ 遊びの指導の内容例 遊びの種類 砂・水を使った遊び 紙・段ボールを使った遊び 遊びの素材・遊具等 砂、泥、シャボン玉、シャワー、ホース、シャベル、鍋、ふるい、たら い、ままごとセット、手押し車、小麦粉粘土、絵の具、筆、模造紙 等 段ボール、新聞紙、様々な色や材質の紙、ポリエチレン袋、各種テー プ、のり、はさみ、カッター、ペン 等 積み木・ブロックを使った遊び 様々な大きさや材質の積み木、ブロック、箱 等 遊具を組み合わせた遊び マット、跳び箱、平均台、トランポリン、スロープ(坂板と台)、ブラ ンコ、滑り台、ジャングルジム、タイヤ、 等 ボールを使った遊び 様々な大きさや材質のボールや球状のもの、的やゴールとなるもの、球 技用の道具 等 乗り物遊び 自転車、三輪車、一輪車、キャスターカー、スクーターボード、そり、 スロープ(坂板と台) 等 リズム遊び 手遊び歌、リトミック、ダンス、音楽CD、楽器、音の出るもの 等 ごっこ遊び かくれんぼ、劇遊び、お店屋さんごっこ、衣装、小道具、場面 等 その他の遊び 椅子取りゲーム、しっぽ取りゲーム、ジャンケン陣取り、グループ対抗 鬼倒しゲーム、かるた取り 等ルールがある遊び 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 21 第1章 年度初めに取り組むこと 生活単元学習 生活単元学習は、児童生徒が生活上の目標を達成したり、課題を解決したりするために、一連の活動 を組織的に経験することによって、自立的な生活に必要な事柄を実際的・総合的に学習する指導の形態 です。 児童生徒の学習は、生活的な目標や課題にそって組織されることが大切です。 小学校段階で、児童の知的障がいの状態等に応じ、遊びを取り入れた生活単元学習を展開している学 級もあります。 ○ 生活単元学習の内容例 単元の種類 学校行事と関連付けた単元 単元の活動、テーマ等 遠足、運動会、学習発表会、宿泊学習 等 季節や季節の行事と関連付けた単元 七夕、収穫祭、豆まき 等 生活上の課題を基にした単元 「~パーティーをしよう」、「~のお店を開こう」 等 生活上の偶発的な事柄を基にした単元 「~のためにボランティアをしよう」 等 ○ 指導計画の作成に当たって ・ 実際の生活から発展し、児童生徒の知的障がいの状態等や興味・関心などに応じたもので、個人 差の大きい集団にも適合するものであること。 ・ 必要な知識・技能の獲得とともに、生活上の望ましい習慣・態度の形成を図るもので、身に付け た内容が生活に生かされるものであること。 ・ 児童生徒が目標をもち、見通しをもって、単元の活動に積極的に取り組むもので、目標意識や課 題意識を育てる活動をも含んだものであること。 ・ 一人一人の児童生徒が力を発揮し、主体的に取り組むとともに、集団全体で単元の活動に共同し て取り組めるものであること。 ・ 各単元における児童生徒の目標あるいは課題の成就に必要かつ十分な活動で組織され、その一連 の単元の活動は、児童生徒の自然な生活としてのまとまりのあるものであること。 ・ 豊かな内容を含む活動で組織され、児童生徒がいろいろな単元を通して、多種多様な経験ができ るよう計画されていること。 生活単元学習の指導を計画するに当たっては、一つの単元が2、3日で終わる場合もあれば、1学 期間、あるいは、1年間続く場合もあるため、年間における単元の配置、各単元の構成や展開につい て十分検討する必要があります。 ○ 単元の活動と各教科の内容との関連 生活単元学習は、「各教科等を合わせた指導」という指導の形態の一つですが、各教科の内容を教 えるために単元を組むのではありません。単元のテーマは、児童生徒の実態を多面的に把握したり、 児童生徒の「~したい」という思いを総合的に捉えたりしながら設定していきます。設定したテーマ に基づき、単元計画を作成していく段階で、展開に関わる活動の中に内在する教科に関連する指導内 容が結果的に抽出されてくることになります。 つまり、児童生徒にとっては、生活上の目標を達成したり、課題を解決したりする活動に取り組む 過程で、結果として、いろいろな領域や教科の内容が身に付くことになります。 具体的には、お世話になった地域の人を招待して行う「うどんパーティーをしよう」の単元に取り 組む中で、招待状の書き方や説明の仕方(国語)、重さの量り方(算数・数学)等様々な事柄を学ん でいくような学習です。 22 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと 評価については、活動の視点だけでなく、各教科(例えば、国語や算数・数学)の視点から評価す ることも必要です。また、児童生徒の実際の生活の中で、評価できる場面を設定して、「~できた」 と評価することも大切です。 ○ 単元の目標や課題の設定 「生活上の目標や課題」とは、例えば、「おいもを掘って、焼いて食べたい」、「卒業生を送る会 をして喜んでもらいたい」等、生活をしていく上で、児童生徒自身が「~したい」と思っていること です。それこそが、生活上の目標や課題というべきものです。この目標や課題を設定するには、児童 生徒の実態を捉えることが必要であることは言うまでもありませんが、「~したい」という気持ちを 引き出すためにも、児童生徒の意欲的、主体的な生活の実現を目指した日々の取組みが大変重要にな ってきます。 ○ 特別支援学校の「生活科」と「生活単元学習」との違い 「生活科」は、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の教科の一つ で、「生活単元学習」は、各教科等を合わせた指導の形態の一つです。 「生活科」の目標は、日常生活の基本的な習慣を身に付け、集団生活への参加に必要な態度や技能 を養うとともに、自分と身近な社会や自然との関わりについて関心を深め、自立的な生活をするため の基礎的能力と態度を育てることにあります。その内容は「基本的な生活習慣、健康・安全、遊び、 交際、役割、手伝い・仕事、きまり、日課・予定、金銭、自然、社会の仕組み、公共施設」の12の 観点で構成されています。 生活単元学習では、単元の目標が十分に達成されるように、「生活科」の内容を中心としながら、 それ以外の教科等の内容を適切に取り入れ、効果的な学習の展開を図るようにする必要があります。 なお、日常生活の指導の内容を具体化するに当たっても、特別支援学校の「生活科」の内容を参考 にすることができます。 さらに、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の教育課程にある 「生活科」と小学校低学年の「生活科」は、それぞれ目標の程度や範囲等において異なりますが、教 科としては基本的に同じものであるととらえられます。 しかし、前者の「生活科」は、生活活動そのものを指導するのに対して、後者の「生活科」は、具 体的な活動や体験を通してその内容を指導します。また、前者の「生活科」の場合、小学部教育の全 期間を通して指導され、年間授業時数は定められていません。これは、「生活科」の内容が日常生活 の指導や生活単元学習などの各教科等を合わせた指導の中で継続して行われるからです。 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 23 第1章 年度初めに取り組むこと 作業学習 作業学習は、作業活動を学習活動の中心に据え、児童生徒の働く意欲を培い、将来の職業生活や社会 自立に必要な事柄を総合的に学習する指導の形態です。 主に中学校段階で取り組まれますが、小学校段階でも、生活単元学習において作業的な学習を設定し て、働くことの基礎を培うようにします。 作業学習の指導は、単に職業・家庭科の内容だけではなく、各教科等の広範囲の内容が扱われます。 ○ 作業学習の内容例 作業種目 農耕 園芸 紙工 木工 縫製・織物 金工 窯業 セメント加工 印刷 調理・食品加工 販売、接客 クリーニング 清掃 リサイクル 校内や校外の企業等の事業所から注文 を受けて行う作業 ○ 作業内容の選定 ・ 段階的な指導が可能なもの ・ 喜びや成就感が味わえるもの ・ 原料・材料が入手しやすいもの ・ 地域の特色が表れるもの 作業の内容、活動等 野菜、穀物、きのこ 等 花、植木、ドライフラワー 等 箱、紙すきのはがきや便せん 等 プランターボックス、写真立て、ペン立て 等 雑巾、巾着、エプロン、マフラー、花瓶敷き 等 七宝焼き、ちりとり 等 花瓶、湯飲み、コーヒーカップ、小皿 等 ブロック、敷石 等 名刺、はがき、カレンダー 等 カレーライス、クッキー、ジャム、味噌 等 作業作品の販売、バザー、喫茶サービス 等 洗濯、アイロンがけ 等 窓ふき、モップがけ 等 空き缶、古新聞 等 製品の袋詰め、箱の組み立て 等 ・ ・ ・ ・ 共同で作業できるもの 作業内容が安全であるもの 製品の利用価値が高いもの 多様な障がいの生徒が取り組めるもの ○ 指導に当たって ・ 生徒にとって教育的価値の高い作業活動等を含み、それらの活動に取り組む喜びや完成の成就感 が味わえること。 ・ 地域性に立脚した特色をもつとともに、原料・材料が入手しやすく、永続性のある作業種を選定 すること。 ・ 生徒の実態に応じた段階的な指導ができるものであること。 ・ 知的障がいの状態等が多様な生徒が、共同で取り組める作業活動を含んでいること。 ・ 作業内容や作業場所が安全で衛生的、健康的であり、作業量や作業の形態、実習期間などに適切 な配慮がなされていること。 ・ 作業製品等の利用価値が高く、生産から消費への流れが理解されやすいものであること。 24 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと ウ 領域別の指導を行う場合 道徳、外国語活動、特別活動、自立活動の時間を各教科とは分けて、領域別の指導といいます。 領域別の指導は、児童生徒の実態によって適切に取り扱うことが必要です。それぞれの目標と児童 生徒の実態に応じて指導の工夫をしましょう。 道 徳 道徳教育は、学校の教育活動全体を通じて、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養う ことを目標としています。道徳の時間は、小学校、中学校の道徳教育の目標に基づき、各教科、外国語活動、 総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によ ってこれを補充、深化、統合し、道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深め、道徳的実践力 を育成していきます。 特別支援学級の児童生徒の中には、自分の障がいについて悩んだり、自信をなくしたりしている場合もあ るので、自分の障がいについての認識を深め、自ら学習上又は生活上の困難を改善・克服し、強く生きよう とする意欲を高めるように指導していくことが大切です。また、その障がいの状態により、様々な面で経験 不足になりがちですので、道徳の時間における指導においても、各教科等との関連を密にしながら、経験を 広げていくことが必要です。 知的な遅れのある児童生徒の場合は、より生活に結び付いた具体的な場面を通して指導することが効果的 なため、知的障がい特別支援学級では、時間における指導よりも各教科等を合わせた指導で行うことも多い ようです。様々な経験を通して、豊かな道徳的心情を育て、広い視野に立って道徳的な判断や行動ができる ように指導していきましょう。 なお、児童生徒の興味・関心や生活に結び付いた題材について、視聴覚教材や教育機器、コンピュータ等 の情報機器を活用するなどの工夫をすることが大切です。 <道徳の内容の4つの視点> 1 主として自分自身に関すること 2 主として他人との関わりに関すること 3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること 4 主として集団や社会とのかかわりに関すること 外国語活動 外国語活動は、外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーション を図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーショ ン能力の素地を養うことを目標としています。 原則、小学校の特別支援学級に在籍する、5年生及び6年生においては、通常の学級と同様に外国語活動 の指導を行うことになります。授業時数は、小学校の各学年の標準時数を確保します。交流学級での外国語 活動の授業への参加や特別支援学級での授業の設定等を行います。 特別支援学級での指導内容については、障がいの状態や興味・関心を考慮して、内容や指導計画を考えて いくことが大切です。知的障がいがなく、外国語活動を行う場合には、指導内容を適切に精選するとともに、 その重点の置き方等を工夫します。例えば、聴覚障がいの児童で、音声を聞き取ることが難しい場合には、 外国語を用いた別のコミュニケーションを用いるなどの工夫が必要になります。 また、特別支援学級の児童生徒は、様々な障がいによる困難をかかえているため、外国語活動においても、 自立活動との関連を図ることが大切です。 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 25 第1章 年度初めに取り組むこと 特別活動 特別活動は、望ましい集団活動を通して、心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り、集団や社会の一 員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的、実践的な態度を育てるとともに、人間の生き方に ついての考えや自覚を深め、自己を生かす能力を養うことを目標としています。 特別支援学級では、特別活動の指導を計画するに当たって、各教科、道徳、自立活動及び総合的な学習の 時間との関連を図るとともに、小・中学校の児童生徒等及び地域の人々と活動をともにする機会を設けるよ う配慮することが大切です。 そこで、指導内容では、児童生徒の障がいの状況に応じて、活動の種類や時期、実施方法などについて考 えます。特別支援学級は集団の規模が小さいので、通常の学級との交流及び共同学習の機会を活用すること も考えられますが、交流及び共同学習を実施する場合には、通常の学級担任と実施の方法や内容などについ て十分に検討することが必要です。 <特別活動の活動内容> ・小学校 学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事(儀式的行事、文化的行事、健康安全・体育 的行事、遠足・集団宿泊的行事、勤労生産・奉仕的行事) ・中学校 学級活動、生徒会活動、学校行事(儀式的行事、文化的行事、健康安全・体育的行事、 旅行・集団宿泊的行事、勤労生産・奉仕的行事) 知的障がい特別支援学級では、各教科等を合わせた指導の中で、特に、生活に結び付いた内容を、実際的 な場面で具体的な活動を通して指導を行うことが多いようです。 26 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと エ 自立活動 自立活動は、特別支援教育に特別に設けられた領域の指導で、以下の目標と内容で指導を行いま す。 <自立活動の目標と内容> 【特別支援学校小学部・中学部学習指導要領】 第1 目 標 個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な 知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。(第7章第1) 第2 内 容 4 環境の把握 1 健康の保持 (1)保有する感覚の活用に関すること。 (1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。 (2)感覚や認知の特性への対応に関すること。 (2)病気の状態の理解と生活管理に関すること。 (3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。 (3)身体各部の状態の理解と養護に関すること。 (4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関 (4)健康状態の維持・改善に関すること。 すること。 (5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関す 2 心理的な安定 ること。 (1)情緒の安定に関すること。 (2)状況の理解と変化への対応に関すること。 5 身体の動き (3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克 (1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。 服する意欲に関すること。 (2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関 すること。 3 人間関係の形成 (3)日常生活に必要な基本動作に関すること。 (1)他者とのかかわりの基礎に関すること。 (4)身体の移動能力に関すること。 (2)他者の意図や感情の理解に関すること。 (5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。 (3)自己の理解と行動の調整に関すること。 (4)集団への参加の基礎に関すること。 6 コミュニケーション (1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。 (2)言語の受容と表出に関すること。 (3)言語の形成と活用に関すること。 (4)コミュニケーション手段の選択と活用に関する こと。 (5)状況に応じたコミュニケーションに関すること。 (第7章第2) 自立活動の内容は、人間としての基本的な行動を遂行するために必要な要素と、障がいによる学 習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素で構成され、それらの代表的な要素であ る26項目を「健康の保持」、「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「環境の把握」、「身体 の動き」、「コミュニケーション」の6つの区分に分類・整理したものです。 自立活動の指導は、学校の教育活動全体を通じて行うものです。特に教育課程の中に位置付けて 指導する時間を設けて行う指導を「自立活動の時間における指導」といいます。「自立活動の時間 における指導」の授業時数は、児童生徒の障がいの状態に応じて適切に定めることとなっています。 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 27 第1章 年度初めに取り組むこと 【特別支援学校小学部・中学部学習指導要領】 学校における自立活動の指導は、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服し、自立し社会参加する資質 を養うため、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に、自立活動の時間における指導は、各教科、 道徳、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動と密接な関連を保ち、個々の児童又は生徒の障害の状態や発 達の段階等を的確に把握して、適切な指導計画の下に行うよう配慮しなければならない。(第1章第2節第1の4) 特別支援学校における自立活動は、障がいによる学習上又は生活上の困難を改善・克服し、「自 立し社会参加する資質を養うため」に行うこととされ、それぞれの児童生徒の障がいの状態や発達 段階等について的確に把握し、指導の目標及び指導内容を明確にするために、個別の指導計画を作 成しています。 特別支援学級においても、自立活動を指導する場合には、以下の流れで、具体的な目標や指導内 容を立てることが大切です。特別支援学校学習指導要領解説自立活動編第6章には、児童生徒の障 がいの状態を踏まえた具体的な指導内容例と留意点が示されていますので、参考にしてみましょう。 <具体的な自立活動の目標や指導内容を考える流れ(例)> <児童生徒の実態把握> ① 障がいの状態、発達や経験の程度、興味・関心、生活や学習環境などについて情報収集する。 ② 収集した情報①を、自立活動の6つの区分に即して整理する。 (健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション) <目標> ③ 現在の児童生徒の実態把握②から、次にどのような力を身に付けていくのが望ましいかを指導目標を考え る。それらいくつかの目標の中で優先する目標を決める。 ④ ③の指導目標を達成するために、6つの区分にある26項目の中から、必要な項目を選定する。 <指導内容> ⑤ 選定された項目④を関連付け、具体的な指導内容を設定する。 ⑥ 各教科や領域の指導との関連を保たせながら、個別の指導計画に、指導目標③や指導内容⑤等を設定する。 <知的障がいの児童生徒の場合> 知的障がい者である児童生徒には、全般的な知的発達の程度や適応行動の状態に比較して、言語、 運動、情緒、行動等の特定の分野に、顕著な発達の遅れや特に配慮を必要とする様々な状態が、知 的障がいに随伴して見られます。知的障がい特別支援学級の児童生徒の場合も、そのような障がい による困難の改善・克服を図るためには、各教科の指導はもちろん、自立活動の指導を効果的に行 う必要があります。 顕著な発達の遅れや特に配慮を必要とする様々な状態とは、言語や運動の面で言えば、例えば、 「理解言語の程度に比較して表出言語が極めて少ない」、「全体的な身体機能の発達の程度に比較 して特に平衡感覚が未熟である」などです。また、情緒や行動等の面で言えば、例えば、「心理状 態が不安定になり、パニックになりやすい」、「極めて動きが多く、注意集中が困難である」など です。このような状態等に応じて、自立活動の内容の指導が必要となります。 知的障がい特別支援学級において、特別の教育課程を編成し、各教科等を合わせて指導する場合 には、その中で自立活動の指導を活動場面に応じてしっかりと行うことが重要です。さらに、自立 活動の指導は、学校の教育活動全般を通じて行うものであることから、自立活動の時間における指 導と各教科等の指導とが密接な関連を保つことが必要になります。自立活動の時間を設けて行う場 合は、個々の児童生徒の知的障がいの状態等を十分考慮し、個人あるいは小集団で指導を行う等、 効果的な指導を進めることが大切です。 28 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 第1章 年度初めに取り組むこと オ 総合的な学習の時間 特別支援学級は小・中学校に設置された学級であり、総合的な学習の時間が各学校の教育課程に 位置付いていることから、原則、特別支援学級の児童生徒も取り組んでいく必要があります。 したがって、特別支援学校の学習指導要領を参考に教育課程を編成している場合も、小学校第3 学年以上、中学校において総合的な学習の時間を設けます。総合的な学習の時間の授業時数は、小 ・中学校の各学年の標準時数を確保します。 総合的な学習の時間の目標及び内容並びに指導計画の作成と内容の取扱いについては、第一に、 児童生徒の障がいや発達の段階等を十分に考慮し、学習活動が効果的に行われるよう配慮し、第二 に、体験的活動に当たって、安全と保健に留意するとともに、学習活動に応じて交流及び共同学習 を行うよう配慮します。 <特別支援学級における実施形態> □ 特別支援学級独自に総合的な学習の時間を設定して実施する。 □ 通常の学級(学年、学校)で行う総合的な学習の時間に参加して実施する。 □ 他の学校の特別支援学級等と行う交流及び共同学習などを総合的な学習の時間に設定して実施する。 <総合的な学習の時間と生活単元学習の比較> 各教科等を合わせた指導(特に生活単元学習)と総合的な学習の時間は、 ともに総合的な課題を扱うため、その違いがよく話題になるところです。 両者を対比しながら、趣旨やねらいを明確にして、創造的な教育活動を 展開しましょう。 総合的な学習の時間 趣 旨 目 標 生活単元学習 各教科等で身に付けた知識や技能等を相互に関連 付け、学習や生活に生かし、それらが児童生徒の中 で総合的に働くように横断的・総合的な学習や探究 児童生徒が生活上の目標を達成したり、課題を解 決したりするために、一連の活動を組織的に経験す ることによって、自立的な生活に必要な事柄を実際 的な学習をする。 的・総合的に学習する。 ① 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通す ② 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体 的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力 を育成する ③ 学び方やものの考え方を身に付ける 学習指導要領に目標は示されていないが、児童生 徒にとっての生活上の課題を成就するための活動に 取り組む過程では、結果として、いろいろな領域や 教科の内容が習得される。ただし、各教科の系統性 に基づいて組織するのではなく、児童生徒の生活の ④ 問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同 流れやまとまりに基づき、生活の系統性を大切にし 的に取り組む態度を育てる て計画・展開する。 ⑤ 自己の生き方を考えることができるようにする 内 容 ・ 国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断 的・総合的な課題 ・ 学校行事と関連付けた単元 ・ 季節や季節の行事と関連付けた単元 ・ 児童生徒の興味・関心に基づく課題 ・ 地域や学校の特色に応じた課題 ・ 生活上の課題を基にした単元 ・ 生活上の偶発的な事柄を基にした単元 5 教育課程の編成 ③障がい等に応じた指導形態等 29 第1章 年度初めに取り組むこと 6 学級経営案の作成 学級経営案は、学校や学年の目標に即し、児童生徒の障がいの状態及び特性等を考慮し、年間を通し ての学級経営の目標や方針を明確にしたものです。各学校や学年の様式に基づいて記入しますが、児童 生徒の実態を丁寧に把握し、本人や保護者、担任の願いを受け、具体的な経営の方針等を立てましょう。 <経営案の項目例> □ 学級目標 ・目指す児童生徒像(本人や保護者の願い、担任の願いをすり合わせて、学級目標を明確にする。 ) □ 学級の実態 ・学級の構成や傾向、雰囲気 ・個々の児童生徒の障がいの状況や学習の様子 等 □ 学級経営の方針、指導の重点 ・学習指導面 ・生活指導面 ・特別活動、学校行事、集会等への参加の仕方 ・健康安全指導、避難訓練 ・教室環境、備品 ・交流及び共同学習 ・家庭、地域、関係機関との連携 特別支援学級の学級経営案も、基本的に通常の学級の場合と同じように、1枚程度にまとめられてい る場合が多いのですが、実際には、教育課程、指導計画などの補助資料も含めた計画としてとらえてみ るとよいでしょう。また、児童生徒一人一人について、個別の教育支援計画や個別の指導計画として作 成されている部分もあります。 学級経営案やその他補助資料については、児童生徒の個人情報が表記されている場合もありますので、 取扱いには特に配慮が必要です。 <学級経営の評価> □ 学級目標や経営方針について評価の観点を設定し、計画的・継続的に評価を行い、学級経営の改善向上 に役立てる。 □ 評価の観点の設定に当たっては、目標や方針と具体的な実践の結びつきを明確にしておく。 □ 日常の実践に当たっては、常に反省を加えながら学級経営の改善に努める。 □ 継続的に記録をとることに努め、その結果を改善向上に役立てる。学期毎の反省や評価を書き込んでい くことで、学年末の引継ぎに活用する。 目の前の児童生徒たちに寄り添いながら、発想豊かに、何ができるかを追求することができるのが、 特別支援学級の教育です。先生方の思いを学級経営案に表してみましょう。 30 6 学級経営案の作成 第1章 年度初めに取り組むこと 7 年間指導計画の作成 年間指導計画は、特別支援学級の児童生徒が、これから一年間、どんな学習を進めていくのかを計画 したものです。 その作成に当たっては、まず児童生徒一人一人の実態を的確に把握した上で、最も適切な教育課程を 編成し、学級の年間指導計画作成のための資料とします。 個別の指導計画を、そのまま年間指導計画としてみなせる場合もありますが、学級に在籍する児童生 徒数が複数だったり、異学年に在籍していたりして、個々の児童生徒の動きが多様なため、一覧表に表 しにくい場合には、主に児童生徒が一緒に学習する教科・内容を示した年間指導計画を作成するとよい でしょう。 <年間指導計画作成のポイントと手順> <作成のポイント> □ 一人一人の教育課程に基づいた個別の指導計画を踏まえ、各教科等において、それぞれの児童生徒が学 習する際に、より効果的な指導の形態について検討し、A「学級全員で学習する教科・内容」 、B「数名の グルーピングをして学習する教科・内容」 、C「個別に学習する教科・内容」を決める。 □ 年間指導計画では、特にAを中心に作成する。BやCについては、一覧表に記載可能な程度に留め、詳 細は個別の指導計画に記載するようにする。 <一覧表に表す手順> □ 紙面に大きな一覧表の枠組みを作り、横軸に月割りをする。 □ 縦軸では、まず学校行事の項目を、月毎に設定して書き入れる。 続いて、以下のように、各教科等の項目を設定して書き入れる。 ア 「各教科等を合わせた指導」の項目は、単元毎に書き入れる場合と、月毎や通年で扱う内容を書き入 れる場合などがあります。 イ 「教科別の指導」の項目には、月毎(または単元や題材毎など)の内容を書き入れる。教科の系統性 や順序性を検討し、教科によっては、学期毎や通年での扱いで書き入れることが適当な場合もある。 ウ 「領域別の指導」の項目には、月毎(または単元や題材毎など)の内容を書き入れる。領域によって は、通年での扱いで書き入れることが適当な場合もある。 ・ 「道徳」 、 「特別活動」 ・・・通常の学級と同様の計画をするが、知的障がいのある児童生徒の場合に は、各教科等を合わせた指導の形態の中に含めて行うことができることに留意する。 ・ 「外国語活動(小学校) 」 ・・・原則、通常の学級と同様、小学校5・6年生で計画する。 ・ 「総合的な学習の時間」 ・・・原則、通常の学級と同様、小学校3年生以上と中学校で計画する。 ・ 「自立活動」・・・児童生徒の実態に応じて、自立活動の指導の時間を設定する。(時間を設定せ ず、学校教育活動全体を通じて実施する場合もある。 ) 年度当初に立てた年間指導計画は、個別の指導計画と同様、PDCAのサイクルの中で、実践を通して計価 し、学期や年度途中の変更や修正を加えながら、より児童生徒の実態に合った計画にしていきましょう。 7 年間指導計画の作成 31 第1章 年度初めに取り組むこと 8 時間割の作成 始業後の第1週は、まだ時間割どおりには動けない時期かと思います。そこで、まずは当面の時間割 を立てて活動づくりを始めます。登校してから下校するまでの「基本的な日課」を作ってみましょう。 その一日の流れを基本とし、一週間の生活の流れを作り、正規の時間割にしていきます。 時間割の作成では、学級における週の授業時間と指導の形態毎の時数を決める際に、学校や学年の時 間割、特別教室の使用割り当て、行事や交流及び共同学習などの予定を参考にします。 特別支援学級では、児童生徒の実態、各教科等や学習活動の特質等に応じて、創意工夫を生かし、時 間割を弾力的に編成することができます。 <当面の時間割から活動づくりを始める> □ 昨年度の日課を確認にしながら、まず2週間程度の当面の時間割をつくる。 □ 登校から下校まで、児童生徒が見通しをもって生活できるように、基本的な流れをつくる。 □ 児童生徒の興味・関心のある活動を、午前や午後にそれぞれ一つずつ設定するなど、児童生徒の実態に 合わせて工夫する。 □ 各教科等の授業については、交流学級の時間割との兼ね合いを考慮しながらも、児童生徒にとって学習 しやすさを優先した時間割の構成になるようにする。 □ その日によって、情緒面や体調に応じて時間割を変更するなどの柔軟性をもたせる。 <時間割作成の手順> ① 学級や児童生徒の実態に応じ、各教科等を合わせた指導を行う場合には、 週当たりの時数を決める。 ② 年間標準授業時数を勘案しながら、教科別、領域別の指導(各教科等を合わせた 指導以外)の時数を計算し、週当たりの時数を決める。 ③ 特別支援学級と交流学級の時間割について調整を行い、児童生徒が交流学級で学ぶ時間を決める。 ④ 中学校においては、特別支援学級担任が、他学級で教科指導等を行う時間割について調整する。 ⑤ 時間割に、学級全員で取り組む各教科等を合わせた指導の時間①を設定する。 ⑥ 時間割に、教科別、領域別の指導の時間(特別支援学級で学ぶ時間②・交流学級で学ぶ時間③)を設定 する。 <作成のポイント> □ 保護者、交流学級の担任や学年主任の理解と協力を得ながら作成する。 □ 日常生活の指導など、継続性のある活動は、必要に応じて、帯状の時間割(毎日又は週に数日、同じ時 間帯に同じ内容の学習を組む)に設定し、児童生徒が見通しをもって取り組みやすい状況をつくる。 □ 交流及び共同学習については、児童生徒にとって必要な内容を十分吟味して取り組む。場合によって は、題材による「その時々に応じた部分的参加」も検討する。 □ 通常の教育課程を編成する教務主任等とともに検討する。 □ 特別教室の割り当ては、校内で調整を始める段階から考慮してもらう。 □ 児童生徒にとって、わかりやすい授業の名称にする。 (例 日常生活の指導→きらきらタイム、生活単元学習→いきいきタイム) 8 時間割の作成 33 第1章 年度初めに取り組むこと <小学校特別支援学級における時間割の例> 【小学校自閉症・情緒障がい特別支援学級の例】 ○ 対象児童 ・ 第6学年、アスペルガー症候群の児童。知的発達の遅れはない。 ・ 学習や生活の流れに対する見通しをもち、毎日落ち着いて過ごせるようになってきている。 ○ 配慮事項 ・ 1週間の見通しをもてるように、また、1週間の振り返りをするために、週の最初と最後の時間 に自立活動の時間を設ける。 ・ 児童の実態及びその負担過重を考慮し、各教科等の授業時数は標準時数を参考にしながら、自立 活動の時間を含めて総授業時数の範囲内で設定する。 ・ 各教科、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動の目標及び内容は、当該学年の目 標及び内容を適用する。 月 火 水 木 金 1 自立活動 国語 自立活動 国語 *体育 2 算数 算数 *音楽 算数 算数 3 社会 *体育 社会 *外国語活動 社会 4 *総合的な学習の時間 *道徳 *体育 *総合的な学習の時間 *家庭 5 理科 学級活動 理科 *図画工作 理科 6 *音楽 自立活動 *交流及び共同学習 【小学校肢体不自由特別支援学級の例】 ○ 対象児童 ・ 第5学年、脳性まひのある児童。 ・ 知的発達の遅れはないが、学習の遅れが見られる。歩行器を使って、移動することができる。 ○ 配慮事項 ・ 筋の不適切な緊張をゆるめ、その後の学習効果を高めるため、月、水、金曜日の3時間目に自立 活動の時間を設ける。 ・ 児童の実態及びその負担過重を考慮し、各教科等の授業時数は標準時数を参考にしながら、自立 活動の時間を含めて総授業時数の範囲内で設定する。 ・ 国語、算数を除く各教科、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動の目標及び内容は 当該学年の目標及び内容を適用する。ただし、国語、算数の目標及び内容の一部は、下学年の目標 及び内容に替える。 ・ 体育の目標及び内容の一部については、取り扱わない。(特別支援学校小学部・中学部学習指導 要領「第1章第2節第5の1(1)」より) 月 火 水 木 金 1 社会 国語 社会 国語 国語 2 国語 算数 算数 算数 算数 3 自立活動 体育 自立活動 *外国語活動 自立活動 4 *総合的な学習の時間 道徳 *総合的な学習の時間 社会 *家庭 5 理科 学級活動 理科 *図画工作 理科 6 *音楽 *音楽 *交流及び共同学習 34 8 時間割の作成 第1章 年度初めに取り組むこと 【小学校知的障がい特別支援学級の例①】 ○ 対象児童 ・ 第6学年、知的障がいのある児童。 ・ 落ち着いて生活しており、交流学習を楽しみにしている。 ○ 配慮事項 ・ 自立活動の時間を設け、コミュニケーションの基礎的能力に関する指導を中心に行う。 ・ 各教科の目標及び内容の一部を下学年の各教科の目標及び内容に替える。また、各教科の一部を 知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の各教科の目標及び内容に替 える。 ・ 音楽、体育、外国語活動、総合的な学習の時間については交流学級で学習する。ただし、目標及 び内容については、本児の実態に合わせたものを設定する。 ・ 日常生活の指導では、毎日反復して行うことで、望ましい生活習慣の形成を図る。 ・ 生活単元学習は、できるだけ帯状に時間をとり、見通しをもった学習ができるようにする。 月 火 水 木 金 1 日常生活の指導 2 国語 算数 国語 算数 国語 3 生活単元学習 4 *体育 自立活動 *体育 図画工作 5 国語 *音楽 図画工作 *総合的な学習の時間 *外国語活動 6 *体育 *音楽 *交流及び共同学習 【小学校知的障がい特別支援学級の例②】 ○ 対象児童 ・ 第3学年、知的障がいのある児童。(比較的知的障がいの程度が重い) ・ 気分のムラがあり、その日によって学習への取組みに差がある。 ○ 配慮事項 ・ 各教科の目標及び内容を知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校小学部の 各教科の目標及び内容に替える。 ・ 道徳の時間は、道徳教育の全体計画を作成し、教育活動全体を通じて指導する。 ・ 日常生活の指導及び自立活動、生活単元学習を帯状に位置付け、毎日同じリズムで生活できるよ うにする。 ・ 自立活動の時間では、日常生活の指導とともに、1時間目に設定し、心理的な安定を図り、一日 の生活や学習に意欲的に取り組めるようにする。 月 火 水 木 金 1 日常生活の指導/自立活動 2 国語 算数 国語 算数 算数 3 生活単元学習 4 *音楽 *体育 *体育 5 国語 *音楽 *総合的な学習の時間 図画工作 *音楽 6 *交流及び共同学習 8 時間割の作成 35 第1章 年度初めに取り組むこと <中学校特別支援学級における時間割の例> 【中学校自閉症・情緒障がい特別支援学級の例】 ○ 対象生徒 ・ 第1学年、自閉症の生徒。 ・ 知的発達の遅れはない。 ○ 配慮事項 ・ 自立活動の時間を設け、主に「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「コミュニケーション」 についての指導に力を入れる。 月 火 水 木 金 1 自立活動 国語 自立活動 国語 自立活動 2 国語 数学 数学 数学 国語 3 道徳 外国語 外国語 外国語 外国語 4 *美術 理科 理科 理科 学級活動 5 社会 *保健体育 社会 技術・家庭 社会 6 *総合的な学習の時間 *音楽 *保健体育 *交流及び共同学習 【中学校肢体不自由特別支援学級の例】 ○ 対象生徒 ・ 第2学年、脳性まひの生徒。 ・ 知的発達の遅れはない。発音が不明瞭である。車いすを利用している。 ○ 配慮事項 ・ 自立活動の時間を設け、主に「身体の動き」、「コミュニケーション」についての指導に力を入 れる。 ・ 保健体育の一部の目標及び内容については、取り扱わない。(特別支援学校小学部・中学部学習 指導要領「第1章第2節第5の1(1)」より) 月 火 水 木 金 1 国語 国語 外国語 国語 外国語 2 社会 数学 数学 数学 国語 3 自立活動 外国語 自立活動 外国語 自立活動 4 *美術 社会 社会 *道徳 学級活動 5 理科 理科 理科 技術・家庭 *総合的な学習の時間 6 保健体育 *音楽 *交流及び共同学習 36 8 時間割の作成 第1章 年度初めに取り組むこと 【中学校知的障がい特別支援学級の例①】 ○ 対象児童 ・ 第1学年、知的障がいのある生徒。 ・ 落ち着いて生活しており、交流及び共同学習を楽しみにしている。 ○ 配慮事項 ・ 自立活動の時間を設け、コミュニケーションの基礎的能力に関する指導を中心に行う。 ・ 各教科の目標及び内容については、下学年(小学校)の各教科の目標及び内容や、知的障がい者 である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校中学部の各教科の目標及び内容に替える。 ・ 音楽、図画工作、技術・家庭、体育、外国語活動については交流学級で学習する。ただし、目標 及び内容については、本生徒の実態に合わせたものを設定する。 ・ 日常生活の指導では、毎日反復して行うことで、望ましい生活習慣の形成を図る。 ・ 生活単元学習では、教科等の学習や交流及び共同学習で習得した内容を生活の中に定着させるこ と、また、さらに発展させることができるようにする。 月 火 水 木 金 1 日常生活の指導 2 国語 数学 国語 数学 国語 3 道徳 技術・家庭 体育 *総合的な学習の時間 数学 4 *音楽 外国語 音楽 5 *保健体育 自立活動 生活単元学習 美術 生活単元学習 6 *交流及び共同学習 【中学校知的障がい特別支援学級の例②】 ○ 対象生徒 ・ 第2学年、知的障がい(自閉症を伴う)の生徒。(比較的知的障がいの程度が重い) ・ 自閉症の特性から集団の中へ入れないでいる。 ○ 配慮事項 ・ 各教科の目標及び内容については、知的障がい者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学 校中学部の各教科の目標及び内容に替える。 ・ 道徳の指導は、道徳教育の全体計画を作成し、教育活動全体を通じて指導する。 ・ 日常生活の指導、自立活動の時間を毎日帯状に位置付けたり、生活単元学習や作業学習を3日間 複数時間続きでとったりして、同じ活動にじっくりと取り組み、できるだけ同じリズムで生活でき るようにする。 ・ 自立活動の時間を設け、情緒の安定、自己の理解と行動の調整、コミュニケーションの基礎的能 力に関する指導を中心に行う。 月 火 水 木 金 1 日常生活の指導 2 自立活動 3 数学 生活単元学習 作業学習 数学 4 *音楽 *保健体育 5 *保健体育 国語 数学 国語 *総合的な学習の時間 6 美術 職業・家庭 *特別活動 *交流及び共同学習 8 時間割の作成 37