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ハエ蛆症を合併した自己陰茎切断の1例 - Kyoto University Research

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ハエ蛆症を合併した自己陰茎切断の1例 - Kyoto University Research
Title
ハエ蛆症を合併した自己陰茎切断の1例
Author(s)
冨田, 雅乃; 内島, 豊; 岡田, 耕市; 山口, 昇
Citation
Issue Date
URL
泌尿器科紀要 (1984), 30(9): 1293-1296
1984-09
http://hdl.handle.net/2433/118265
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
1293
泌 尿 紀 要30巻9号
1984年9月
ハ エ蛆症 を合併 した 自己陰茎切断 の1例
埼玉医科大学泌尿器科 学教室(主 任:岡 田耕市教授)
冨田
雅 乃 ・内島
豊 ・岡 田
埼玉医科 大学寄生虫学教室(主 任:堀
山
A REPORT
口
昇
OF SELF-AMPUTATION
SUBSQUENT
Masano
OF THE
COMPLICATION
TOMITA, Yutaka
耕市
栄太郎教授)
PENIS
WITH
OF MYIASIS
UCHIJIMA and
Koichi
OKADA
From the Department of Urology, Saitama Medical School
(Director : Prof K. Okada)
Noboru
YAMAGUCHI
From the Department of Parasitology, Saitama Medical School
(Director: Prof. E. Hori)
A 38-year-old male was admitted to our emergency ward on Oct. 27, 1982, because of severe pain
at his penoscrotum.
Upon physical finding on admission, his penis was found to have been completely
amputated 2 cm distally near the root with a razor by himself to commit suicide a few days before
admission.
On the affected part were much coagulated bloodmass and slough and moreover there
were 50 maggots about 5 mm long swarming and wriggling, but no bleeding yet and little sign of inflammation.
After exclusion of these maggots and cleaning the slashed surface, cutaneous urethrostomy
was
performed.
Postoperative course was favorable but we could not prevent the patient from leaping to his death
45 days after the operation.
Self-amputation of the penis with subsquent complication of myiasis is a very rare condition. Since
the report of self-amputation of the penis by Matsushita in 1937, this case is the 16 th in Japan.
In most
cases the patients had mental disorder.
In this case the patient was schizoid.
On the other hand, 133 cases of myiasis were reported in Japan from 1903 to 1983.
In the present
case the species that caused myiasis was Lucilia ampullacea.
A very rare case of self-amputation
of the penis with subsquent complication
documented with u review of the literature
Key word:
Self-amputation
緒
of myiasis is
on this subject.
of the penis, Myiasis
言
症
例
自 らの意 志 に よ る外 性 器 の 損傷 は まれ で あ る.最 近
患
老:38歳,無
わ れわ れ は,自 殺 を 目的 とLて 自己 陰 茎 切 断 を 施 行
初
診:1982年10月27日
職
し,さ らに 受 傷 部 位 に ハエ 姐 症 を合 併 した 症 例 を経 験
主
訴:受 傷 部 位 の激 痛
した の で報 告 す る.
家 族 歴 二両 親 と もに,患 者 が幼 少 の 頃死 亡
1294泌
尿 紀 要30巻
9号1984年
既 往 歴:不 詳
現病 歴:1982年10月23日
自殺 を 図 った が,枝 が 折れ て失 敗.さ
らに,両 下肢 を
察
考
頃,雑 木 林 の中 で 首 を 維 り
自己 陰 茎 切 断 は,欧 米 に お い て1901年Strockが
紐 で縛 り,そ の紐 に 石 を縛 りつ け て池 の中 へ投 身 した
初 に 報 告1)し て以 来,10数
が,息 苦 し さに 耐 え きれず,岸 に 泳 ぎつ い て失 敗.そ
ず2),き わ め て まれ な 疾患 と考 え られ,本
の 後 カ ミ ソ リで,両 手 首 の皮 膚 を 数 ヵ所傷 つ け て はみ
も1937年 松 山 が報 告e)し て 以 来,わ
た が 死に きれ ず,最 後 に陰 茎 を切 断 す れ ぽ 死ぬ こ とが
ぎ りで は,1982年
で きる と思 い,カ
ミソ リを 用 いて,こ れ を 切断 し,切
断 陰茎 は 自 ら捨 て た,
そ の後,人
自験 例 は本 邦16例
最
例 の報 告 例 し か 認 め られ
邦において
れわ れ が 調 べ たか
ま でに15例 しか 報告 され てお らず,
目 に 該 当す る(Table1).本
邦自
己 陰 茎 切断16例 に つ いて 検 討 す る と,年 齢 は10代 か ら
目につ か ぬ よ うに か くれ て い たが,10月
27日 早 朝,受 傷 部位 に 蛆 が 発 生 し,蛆 が 動 くた び に 局
40代 の青 壮 年 層 に 多 く認 め られ,動 機 に つ い ては 患者
の話 か らは 理 解 す る こ とが 困難 で,背 景 に 精神 分 裂病
所 に激 痛 が 発 し,さ らに 空 腹 と寒 さに 耐 えか ね て,自
の存 在 す る こ とが 多 い.自 験 例 に お いて も真 の動 機 は
ら近 くの ドラ イ ブイ ン よ り救 急 車 を 呼 び,当 科 へ 入 院
不 明 で あ るが,「 周 囲 の人 々 は,自 分 を お か しい や つ
した.
だ とあ ざ笑 う。」 「精 神科 に 入 院 す れ ば,強 制 労 働 を さ
現 症:体 格 中 等大.血 圧138/94mmHg.顔
面蒼 白
で 苦 悶状 を 呈 し,眼 瞼結 膜 に 軽 度 の 貧血 を 認 め た.衣
せ られ,食 事 も取 らせ て も らえ な い,」 な ど と放 言 し,
精 神 病 気 質 の存 在 を示 唆 させ た.こ の ため,当 精 神科
服 に は泥 と雑 草 が 付着 し てお り,下 着は 凝 血 塊 で 汚 染
で も これ に つ い て転 科 の うえ,詳 細 な検 索 を お こな う
され て いた.両 手首 皮 膚 に は 九条 の ため らい 傷 を認 め
予 定 であ った 。
た.陰 茎 は 根 部 か ら約2cmの
と ころ で完 全 に 切 断 さ
陰 茎 切 断 に 使 用 され てい る道 具 に つ い ては,カ
ミソ
れ て お り,陰 嚢皮 膚 も一 部 切 除 され て いた.受 傷 面 は
リが 最 多 で あ る.い ず れ も鋭 利 な 刃物 が 多 く,切 断 部
凝血 塊 に お お わ れ て いた が,す でに 止 血 し,そ の表 面
位 も陰 茎 根部 で あ る.こ
に,体 長 約5mmの
は,た だ 衝動 的 に 切 断 した とい う よ りは,も
蛆 を50数 匹 認 め た.し
か し,受
傷 部 位 に は炎 症 所 見 を ほ とん ど認 め なか った.
の こ と に つ い て,萬
谷 ら4)
っ と根 底
に 切 断 して しま お うとい う積 極 的 な意 図 の あ る ことを
入 院 時 検査 所 見:
指 摘 して い る.
血 液 所 見:赤 血 球 数311×104/mm3,白
血 球 数7,000
/mm3,Hb9.8g/dl,Ht29.9%o.
治療 法 につ い ては,尿 道 皮膚 痩 が 多 い.自 験例 も受
傷 後 数 日を経 過 して お り,創 部 の汚 染 もい ち じる しか
生 化 学 的所 見:総 蛋 白6.69/dl,総
149mg/dl,BuN30mg/dl,ク
コ レス テ ロー ル
レア チ ニ ン1.4mg/dl,
った た め,尿 道 皮 膚 棲 を施 行 した.近 年,マ イ ク ロサ
ージ カルに 血 管 吻 合
,神 経 吻 合 を お こな って切 断 陰茎
GOTI37mu/ml,GPT78mu/ml,LDH289mu/
の再 吻合 の試 み もお こなわ れ てい る5).ま た,自
ml,ALP62mu/ml,Na136mEq/1,K5.OmEg/l,
で は,受 傷 部 位 の 著 明 な汚 染 と受 傷 後 数 日の経 過 に も
Cl95mEg/1,と
か かわ らず,局 所 の炎 症 所 見 が 乏 しか った ことの理 由
若 干 の 貧 血 お よび 腎 機能,肝 機 能 障
害 を示 したが,検 尿 所 見に は異 常 を 認 め な か った,
手 術所 見 ・1982年10月27日,全
麻 下 で 手術 施行.ま
験例
と して,ハ エ蛆 自体 の創 傷 浄 化 作 用 に よる ものが 考 え
られ る.そ の 本 態 と しては,ハ エ 蛆 の 分 泌す る蛋 白分
ず 創 部 の蛆 を丹 念 に取 り除 くと と もに,凝 血 塊 を 除 去
解 酵 素 と澱 粉 分 解 酵 素 の共 同作 用 に よる もの であ るこ
し,デ ブ リー ドメ ソ トを 施 し た(Fig。1).創
面 の凹
とが,1951年 藤 浪に よって 報 告 され て い る,こ れに よ
凸 不整 が い ち じる しい ため,陰 茎 根 部 を ネ ラ トンで緊
る と,ハ エ蛆 の 描 出物 に お い て も同様 の作 用 の存 在 す
縛 した の ち,約5mm近
るこ とが 実 証 され て い る9).
位 側 で 新 た に 陰茎 を 完 全 に
切 断 し,創 面 を整 え た.陰 茎 背 動 静 脈,深 部 動脈 を 結
紮 し,白 膜 縫 合 後,尿 道 皮 膚 痩 を 造 設 した(Flg.2).
創面 を おお って い た蛆 は,前 方 気 門,後 方 気 門 お よ
び 第1第2関
節 の硬 質 の咽 頭 骨 か ら,コ ガ ネ キ ンバ エ
術 後 経 過:術 後経 過 は良 好 で,患 者 自身 か な り多 弁
(Luciliaarnpullacea)の2齢
幼 虫 で,産 卵 後1∼2
とな った が,自 分 の過 去 の こ とや 自傷 行為 に つ い て の
日と推 定 され た(Fig.3),こ
の種 類 は,ヨ ー ロッパ,
動 機 は,あ
北 イ ン ド,中 国,朝 鮮 半 嵩,日 本 全 土 に分 布 し,春 か
き らかに し よ うとは しな か った.し か し,
当科 入 院 時,偽 名 を使 用 して い た こ とや,被 害 妄 想 的
ら秋 に か け て 低 い丘 陵 地 の林 に 生 息 し,早 朝 暗 い うち
な発 言 を 多 く認 め精 神 分 裂 病 の 疑 い が濃 厚 で,当 大 学
か ら動 物 の 死体 を求 め て活 動 す る もの で あ る6》.
精 神 科 の 指示 で 転科 予 定 で あ ったが,術 後1ヵ 月 半,
投 身 自殺 を した.
ハ エ蛆 症 は 本邦 に お いて ,1903年
し,1958年
小 沢が 最 初 に報 告
森 川7)が92例 を 集 計報 告 して い る.わ れわ
1295
冨 田 ・ほ か:陰 茎 切 断 ・ハ エ蛆 症
ふ'為
鍵
イ}
繋麟 ゾ
轟
Fig.Lハ
エ 蛆及 び 凝 血 塊 を 取 り除 いた 受 傷 部
Fig.3.受
傷 部 に 付 着 し て い た ハ エ 蛆(コ
れが調 べ えた か ぎ りで は,1983年
例報告 され て い る(Table2).133例
で,つ い で消 化 器33例,尿
まで に,本
症 は133
中67例 が 外 耳 道
路 生 殖 器14例 に 本 症 の 発 生
を認 め て い る.尿 路 生殖 器 の14例 中13例 は,い ず れ も
Fig.2.尿
ガ ネ キ ンバ エ の2令
道 皮 膚 痩 造設 術 後 の状 態
幼 虫).体
phacniciaspp.)に
り,自
よ る も の で は,わ
験 例 の よ うに,コ
と こ ろ で 本 症 で の 拡 大 解 釈 と し て,ハ
の が あ る が,こ
ように,陰 茎 切 断 部 を 中心 に そ の創 面 に 発 症 した もの
も の が 少 な くな い,し
は,森 川 に よ る蛆 症 分 類 に よ る と,外 部 蛆 症
(1965)8)の
蛆 の 種 類 と し て,133例
中 キ ソ バ エ(Lucilia
で あ
定義
エ症 とい うも
れ は 成 虫 の 生 体 内 へ の 迷 入 を も含 め た
か し,医
動 物 学 的 に は,Zumpt
「theinfestationoflivehumanand
vertebrateanimdlswithdipterouslarvae,which,
蛆 症に 相 当す る7).
ず か8例
ガ ネ キ ソバ エ に よ る も の は,
本 邦 で 最 初 と 考 え られ る.
尿 と ともに ハ エ蛆 が排 泄 され た も ので あ り,自 験 例 の
外傷性
長 約5mm
atleastforace≠tainpcriod,feedonthehost,s
1296
泌 尿紀 要30巻9号1984年
Table1.本
N。 報告者
年度
年齢
1松
山
T937不
2宮
川
194937不
3紺
屋
196517聖
4今
村
197147不
5有
吉
197321璽
6松
本
197639不
7西
動
機
邦 自己 陰茎 切 断症 例
道 具
詳 讐 灘 雛 幾 鷲 器 誘 臆 黎
療
法
詳
不
不
詳
尿道皮膚凄
術
詳
後
経
不
糟神科的診断
過
詳
神経衰弱
不
詳
カ ミソ リ
尿道皮膚撰
不
詳
不
詳
草 刈 り鎌
尿道皮膚痕
良
野
精神分裂病
尿道皮膚痩
良
好
精神分裂病
尿道皮膚痩
良
好
精神分裂病
カ ミソ リ
端々吻合(血管吻合せず)
良
婿
不
詳
料 理 包丁
瑞々吻合(血管吻合施行)
良
好
不
詳
カ ミソ リ
尿道皮膚痩
良
好
精神分裂病
不
詳
精神分裂病
詳
鍔行為m回のため舳蜘二nか入らない
詳
署留㌶ 霧i認査b瞥慧甥6こ と`=果 物ナイ フ
詳
197828性
治
不
欲[:Sttる"MSt:財
えらn'tい
菜
詳
鋏
17日目に破傷風 で死亡
8田
中
197824不
9菖
谷
tg7843㍑
le清
水
197825不
詳
不
詳
尿道皮膚痩
11清
水
197835不
詳
不
詳
陰茎再吻合
5日目に突然死亡
精神分裂病の疑
12岡
田
197935不
詳
不
詳
陰茎再吻合
4日昌に突然死亡
不
13斉
藤
197926不
詳
不
詳
尿道皮膚撰
6日目に突然死亡
精神分裂病
諺占
脚 しろ]tいうmtz`=も
とつ
14黒
田
197925榊
15奥
坊
198243覚
醒榊 郵・
よる幻e不
16自
験例
198338自
殺 目的
Table2.本
詳
陰茎形成術
不
詳
精神分裂病
詳
端々吻合(血管吻合施行〕
良
好
覚醒剤中毒
分酬 にetつく
幻eftfit:±e不
カ ミソ リ
尿道皮膚痩
1ヵ月半後に投身自殺
邦 に お け るハ エ 蛆症
部
位
例
数
外
耳
道
67
消
化
器
33
尿 路生殖 器
そ
の
詳
14
精神分裂病の疑
文
献
1)BlakerKHandWongN:Fourcasesof
autocastration.ArchGenPsychiant8:165∼
176,1963
2)有
吉 朝 美 ・楢 橋 勝 利:自
己 完 全 ま 勢 の1例
.西
日
泌 尿35:325∼329,1973
他
tg
計
3)松
山 七 五 郎=入
133
1983年3月
ハ
現在
院患 者 の 自殺 未遂 一此 ん な救 急処
置 を した 話 一
4)萬
谷 嘉 明:自
医 界 展 望115:16,1937
己 陰 茎 切 断 の1例.泌
尿 紀 要25:
709∼713,1979
5)奥
坊 剛 士 ・大 田 修 平 ・田 中 啓 幹 ・山 野 慶 樹 ・日本
deadorlivingtissue,liquidbody-sul〕staneus,
oringestcdfood」
ア ン ド ロ ロ ジ ー 学 会,第1回
に 従 う べ き も の と 考 え ら れ る が,
学 術 大 会 予 稿 集,
100∼102,1982
そ れ に よ る と 日本 で は,真
性 の 人 体 ハ エ 姐 症 は な く,
す べ て 偶 発 性 ハ エ 蛆 症 で,自
6)山
口
昇 ・藤 本 和 義 ・冨 田 雅 乃 ・内 島
豊 ・岡 田
験 例 もそ の ひ とつ で あ る
耕 市:ハ
と考 え ら れ る,
エ ウ ジ 症 の1例,第10回
埼玉 医科 大 学医
学 会 総 会 予 稿 集,9,1983
結
語
7)森
自殺 を 目的 とし て陰 茎 を根 部か ら切 断 し,受 傷 部 の
症 に 関 す る 研 究,第1報
日本 に お け
る 人 体 蛆 症 に 関 す る文 献 の 考 察.お
川 達 二:蛆
茶 ノ水 医 誌
6:1451∼1465,1958
ハ エ蛆 症 を 合併 した,精 神 分裂 病 の 疑 い の あ る38歳 の
8)ZumptF:Myiasisinmanandanimalsin
症 例 を 報 告 した,
theold,world,ATextbookforPhysicians,
VeterinaciansandZoologists,11∼15,Butter
稿を終 るにあたり,御 協力 頂いた東京医科歯科大学医動物
学 教室
worthandCo.,1.ondon,1965
加納 六郎教授に深謝致 します.
この 論文 の要 旨は,第41611
で発 表 し た.
日木泌尿器科学会東京地 方会
9)藤
浪 修 一=創
部 の ハ エ 蛆 療 法,現
代 医 学,1巻2
号r,98,卜1召 和26年1月
(1984年3月2日
受 付)
Fly UP