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鋳造工場向けアーク式取鍋加熱装置の開発
研究成果 Results of Research Activities 鋳造工場向けアーク式取鍋加熱装置の開発 省エネルギー化と作業環境の改善に貢献 Development of an Arc-Type Ladle Heating System for Foundries Contributing to Energy Conservation and Improvements in the Work Environment (エネルギー応用研究所 都市・産業技術G 産業エネルギー T) 鋳造工場において、鋳鉄の溶湯を溶解工程から造型・ 注湯工程に搬送する取鍋の加熱装置を開発した。本装 置は、熱源温度の高いアーク加熱を採用して取鍋に断 熱蓋を設置することで、加熱時間の短縮と排熱抑制を 実現した。その結果、従来のガス燃焼方式に対し、エネ ルギー量を91%、運転費を60%削減し、さらに、加熱 時の取鍋周辺温度や騒音などの作業環境も改善された。 1 (Industrial Energy Team, Urban and Industrial Technology Group, Energy Applications Research and Development Center) A heating system for the ladles used in iron foundries to transport and pour molten metal into the molds was developed. This method employs an arc heating system capable of giving a high temperature, and a heatinsulated cover on the ladle to achieve a reduction of both heating time and exhaust heat. As a result, compared to the existing gas combustion system, energy consumption was reduced by 91% and running costs by 60%. In addition, a better work environment was created with improvements to noise levels and the ambient temperature around the ladle during heating. 2 開発の背景と目的 アーク式取鍋加熱装置の概要 (1)特長 鋳造工場では、鋳鉄を溶かす溶解炉から鋳型を造る 造型ラインへ「取鍋(とりべ)」と呼ばれる耐火容器を用 ●省エネルギー化 いて溶けた鋳鉄(溶湯)を運搬し、鋳型に溶湯を流し込 熱源温度が高いアーク式の採用で排気損失を抑えると んで鋳物を製造している(第1図)。 ともに、断熱蓋の設置で取鍋からの放熱を抑え、加熱時 溶湯の温度低下を防ぐため、溶湯を注ぐ前に取鍋内 間の短縮とエネルギーの大幅な削減を実現できる。 部を予熱する必要があり、通常はガスバーナーが用い ●作業環境の改善 られている。ガスバーナーを用いた予熱は、第2図に示 ガスによる加熱のような化石燃料の燃焼排気を工場内 す通り、排気による熱損失が大きいため、多くの時間と に放出しないため、取鍋周辺の温度上昇が抑えられる。 エネルギーを要するほか、排熱によって取鍋周辺の作 さらに、従来はバーナー燃焼に伴う騒音が発生してい 業エリアまで高温となることが課題であった。 たが、断熱蓋の設置でアーク加熱時の騒音を低減し、作 そこで、省エネルギーとCO2削減を実現するため、ア 業環境の改善が図られる。 ーク加熱方式の取鍋予熱装置をトヨタ自動車株式会社 ●酸化物の低減 および特殊電極株式会社と共同で開発した。 ほぼ密閉での加熱が可能で、取鍋内部への酸素供給が なお、取鍋予熱のフィールド試験についてはアイシ 少ないことから、内部に残留する鉄の酸化を防ぎ、ノロ ン高丘株式会社の協力を得て実施した。 と呼ばれる酸化物 (廃棄物) の生成を抑制できる。 (2)装置の構成 開発装置のフローを第3図に示し、仕様を第1表に示す。 本装置は、直流電源、昇降装置、黒鉛電極、断熱蓋、不活 性ガス導入ライン、排気ラインで構成される。 アノードおよびカソード間に直流電流を印加し、アー クを発生させる。アークの中心部は5000℃以上であり、 第1図 取鍋搬送フロー ᪴㜾⨠ 䜯䝁䞀䝍 䜦䝒䞀䝍 䜰䜽ᑙථ䝭䜨䝷 โᚒ┑ ■燃焼排気の多量発生 㞹″ エネルギー損失大 作業環境悪化 (騒音、雰囲気温度) ᩷⇍ 1027 ᤴẴ䝭䜨䝷 ཱི㘘 㞹″ 䜦䞀䜳 ■酸化付着物 (ノロ)発生 保全コストUP 第2図 ガスバーナーによる予熱の課題 技術開発ニュース No.148 / 2013-7 第3図 開発装置のフロー 19 研究成果 Results of Research Activities その輻射熱により取鍋内部の耐火物を予熱する。温度計 項目 エネルギー消費量 測器からの信号に基づいて出力調整や電極昇降を行い、 100% 取鍋内部を所定の温度まで加熱する。 評価 結果 ランニングコスト 100% 䕜 91% 80% 第1表 開発装置の仕様 予熱時間 100% 䕜 22% 80% 60% 60% 60% 40% 40% 40% 項 目 仕 様 電 源 3相200V/210A 20% 20% 20% 定 格 出 力 61kW 0% 0% 0% 電 極 カーボン φ80×1800mm ユーティリティ 電気、不活性ガス 加 熱 能 力 800℃/ h (300kg 用取鍋) 3 䕜 60% 80% 䜰䜽 Ὡᛮ 䜰䜽 㞹ᴗ 㞹Ẵ 䜰䜽ᘟ 䜦䞀䜳ᘟ 䜰䜽ᘟ 䜦䞀䜳ᘟ 䜰䜽ᘟ 䜦䞀䜳ᘟ 第5図 取鍋予熱特性の比較 項目 騒音 雰囲気温 度 120db 80Υ 100db 性能検証および評価 䕜㻖㻓㼇㼅 80db (1)省エネルギー性能の評価 評価 結果 アーク式およびガス式の取鍋加熱装置で予熱した際 60db 60Υ 䕜㻖㻓䉔 40Υ 40db の熱収支の比較結果を第4図に示す。 20Υ 20db ガス式では排気損失の比率が82%となり、取鍋耐火 0db 物の予熱に要する熱量の比率(有効熱量比)が13%に留 0Υ 䜰䜽ᘟ まったのに対し、アーク式では70%が有効に活用され 䜦䞀䜳ᘟ 䜰䜽ᘟ 䜦䞀䜳ᘟ 第6図 作業環境特性の比較 ることが確認できた。 ガス式 そこで、フィールド試験にてアーク式取鍋加熱装置の アーク式 予熱性能を評価した結果、第 5図に示す通り、ガス式に 対してエネルギー消費量と処理時間がそれぞれ 91% 、 400μm 22%低減し、予熱に要するコストが60%削減できる見 130μm 酸化物 断面 通しを得た。 母材 (2)作業環境の評価 50μm 取鍋予熱の際の騒音および周辺温度を測定した結果 を第 6図に示す。この結果、アーク式ではガス式に対し 重量 て騒音が30dB、雰囲気温度が30℃低減し、作業環境の 20μm 238g 75g 第7図 酸化物生成量の比較 改善が図られることが確認できた。 4 (3)酸化物の低減 取鍋の内壁付近に鉄板試料を設置し、アーク式とガス 今後の展開 式の各方式で取鍋予熱を行い、鉄板表面の酸化物生成量 第 8図に示すアーク式取鍋加熱装置を、平成 24年 10 を比較した。 月から特殊電極(株)より受注販売している。 第 7図に示す通り、酸化物生成に伴う重量増加はガス 今後は、鋳造工場のお客さまに対して高効率電気機器 式の238gに対しアーク式では75gとなり、酸化物生成 として推奨し、普及に努めていきたい。 量は69%低減した。 燃料熱量 (100%) 有効熱量 電力量 13% (100%) 放熱損失 排気損失 5% 82% (a) ガス式加熱 有効熱量 70% 放熱損失 排気損失 27% 3% (b) アーク式加熱 第8図 アーク式取鍋加熱装置の外観 第4図 熱収支 執筆者/棚橋尚貴 技術開発ニュース No.148 / 2013-7 20