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国際観光戦略特別委員会調査報告書 世界的にも経済発展が
国際観光戦略特別委員会調査報告書 世界的にも経済発展が著しいアジア諸国は、我が国の重要なパートナーであり、本市経済 の活性化のためには、そうしたアジア諸国の活力を取り込むことが不可欠である。 本委員会においては、国際情勢の変化に対するリスク回避の視点も含め、十分に考察を重 ねたうえで、本市の国際観光及び海外販路開拓・拡大の現状と課題を把握し、今後の本市に おけるアジアへの国際戦略の方向性について鋭意、調査・検討を行った。 調査期間中には、海外からの観光客誘致の先進地である韓国の済州島への視察、国際観光 の現況の把握を行い、調査の参考とした。 また、今後の本市国際観光の可能性調査のため、社団法人長崎県観光連盟の専務理事を参 考人として招致した意見交換、並びに本市に在住する長崎大学の中国、韓国及び台湾からの 留学生と「外国人から見た観光都市長崎の強みと弱み」をテーマとした意見交換を行い、こ のような意見も参考に本委員会の調査・検討を進めた。 以下、調査の過程で出された主な意見、要望を付して、本委員会のまとめとする。 1 アジアを中心とした国際観光に対する取り組みについて 「長崎市アジア・国際戦略」が、アジア諸国に近接しているという本市の地理的特性 や長い交流の歴史などの特性を生かして、海外の活力を取り込み、本市の経済活性化を 図ることを目的として、平成 23 年8月に策定されている。 観光・交流の拡大、人材育成・支援・連携、企業活動への支援の3つの分野を定め、 その中で次の5つの重点プロジェクトを策定し、事業を推進することとしている。 ①「クルーズ客船・上海航路受入プロジェクト」 ②「外国人も歩いて楽しいまちづくりプロジェクト」 ③「ながさきの「食」和・華・蘭メニューの充実・強化プロジェクト」 ④「留学生支援・連携プロジェクト」 ⑤「キトラス等を活用した販売拡大プロジェクト」 本委員会の調査は、おおむねこのプロジェクトの内容に沿って実施した。 ⑴ 外国人観光客の受け入れ体制の整備 ア 快適な滞在のための取り組み 外国人が快適に長崎観光を楽しむためには、コミュニケーションを円滑に行えること が不可欠である。 インターネット普及率世界一と言われる韓国に対しては、スマートフォンで閲覧可能 な長崎の観光情報のアプリを開発し、さまざまなPR活動を実施した結果、ダウンロー ド数が3万を超える成果を生んでいる。 ほかにも、多言語表記案内板、ピクトグラムの整備については、平成 24 年度に 150 基程度の観光地等周辺の歩行者誘導サインを日、英、中、韓の4カ国語表記に改める予 定である。 また、 「外国語指差し会話シート」については、市内宿泊施設など 320 カ所への配布 に合わせて、市の観光ホームページからもダウンロードのうえ活用できるようになって いる。 宿泊施設への対応としては、平成 23 年度に宿泊施設の館内表示の外国語表記、外国 語放送の受信設備、インターネット環境整備、外国人対応のトイレ整備などへの支援を 実施している。 着地でのニーズの把握については、来崎した外国人の嗜好を把握するため、平成 23 年度に 2,000 サンプルのアンケート調査を実施しており、主な意見として、インターネ ットができるWi-Fi環境が十分でないことや両替所が少ないことなどが挙げられ ている。 そのほかに、平成 23 年度に本市が、国(観光庁)から「外国人旅行者の移動容易化 のための言語バリアフリー化調査事業」の採択を受け、主要電停やバス停での多言語案 内板の設置や市内タクシー全車両に指差し会話シートを配布するなど約 3,000 万円の 費用をかけ、国の直接事業として実施している。 平成 24 年度には、訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備に係る国の事業において、 長崎市は今後、外国人観光客の増加が期待される地域として「地方拠点」に認定されて いる。国の予算を受けた整備事業として、今年度においても「外国人旅行者向けコール センター」の実証実験やマップの作成などに取り組んでいる。 イ 上海航路の定着に向けた取り組み 乗客にスムーズに上陸し消費活動を行ってもらうために、CIQ(税関、入国管理、 検疫)の検査を迅速に実施する必要がある。 県と連携し、国に対しCIQに対応する職員の人員体制の強化に対する要請活動を行 った結果、平成 23 年度に福岡入国管理局職員の 10 名増員が実現しており、今後も要望 活動を継続していく予定である。 一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会が、「中国人向けさるく」5コースの 設定をするなど、長崎らしい取り組みを行っているほか、民間事業者と連携してインバ ウンド事業を推進するため「上海航路及びアジア・国際観光推進に係る官民連携協議会」 が設置され、情報の共有、意見交換が行われている。 CIQの体制強化やそのほかの受け入れ体制の整備については、クルーズ客船などの 対応についても十分に活用されるものであるため、外国人観光客の増加に向けて取り組 みの継続が必要である。 ウ クルーズ客船受け入れのための取り組み クルーズ客船の国内港湾への寄港状況については、長崎、那覇、鹿児島、博多など九 州・沖縄の港湾が常に上位を占めている。これは外国からのクルーズ客船が主に東シナ 海などの西太平洋の周辺を航行ルートとしており、そこに面する港湾に寄港していると いう状況があらわれたものである。 長崎港については、近年 40 隻程度の入港で推移をしているが、平成 24 年は 73 隻の 寄港があり、乗客・乗務員数は合計 12 万人を超え、寄港隻数とともに過去最高となっ た。この寄港隻数の増については、主に中国の富裕層をターゲットとした中国発着の東 アジアクルーズの定着に加え、韓国初となるクルーズ客船の船会社が立ち上がり、その 船が多く寄港していることによるものである。 乗船客の国籍別の状況については、中国発着の東アジアクルーズが多く寄港し、約半 分がアジアからとなっている。それに次いでは、ヨーロッパ、北アメリカ大陸、オセア ニアという順である。また、長崎港の松が枝岸壁は、水深、延長ともに九州の中では大 型客船の誘致に優位性がある状況となっている。 誘致の状況については、県と役割分担をしており、海外における国際クルーズコンベ ンションへの参加や海外船会社への直接的なポートセールスなど海外での対応は、長崎 県が事務局である長崎県クルーズ振興協議会が行い、海外船会社の日本での業務を受け る船舶総代理店や旅行代理店などへのポートセールスなど国内での対応を、本市が事務 局である長崎港クルーズ客船受入委員会が行っている。 受け入れ体制については、歓迎イベントとしての船内でのセレモニーや船内ステージ での乗客や船長などに対する歓迎のあいさつやオペラ演奏などの披露を行っており、岸 壁では和太鼓やブラスバンドの演奏、龍踊りなどのアトラクションを実施している。 ターミナル内のサービスとしては、ボランティアによる多言語での観光施設などの案 内、多言語観光パンフレットの配布、外貨両替や電車の一日乗車券、国際電話カードの 販売を行っている。 エ ショッピング環境の充実と消費拡大の取り組み支援 長崎を訪れる中国人などの外国人観光客の利便性の向上と消費の取り込み強化を図 るために、中心地区商店街エリアにおいて、銀聯カードなど多機能端末機を長崎市中央 地区商店街連合会が整備する際、その整備費の一部を助成している。 また、平成 22 年度には、商店街への集客向上を図るため、外国人観光客にとって旅 行先の情報収集手段の一つであるWi-Fi環境を無料提供する事業を経済産業省の 補助事業を活用し実施する地場企業の活動を支援し、浜んまち商店街、新地中華街、長 崎駅前商店街などがWi-Fi環境整備に取り組んでいる。 ⑵ 長崎市観光の魅力アップと情報発信 ア 外国人も歩いて楽しいまちづくり 長崎市内に存在する中国文化の体感や孫文・梅屋庄吉など長崎市と中国にゆかりのあ る人物に焦点をあてたものなどの中国人向けのさるくコースを5コース設定しており、 平成 24 年度中には韓国人向けのコースを5コース程度設定する予定である。外国語で の対応が可能なガイドは現在英語対応ガイド 11 名、中国語対応ガイド 10 名を養成済み であり、平成 24 年度中には韓国語対応ガイドを 10 名程度養成する予定である。 外国語さるくマップについては、外国人観光客の旅行形態及び動向を把握していく中 で、求められているものがまち歩きを通じた買い物であれば、マップの見直しなどの工 夫も視野に入れたニーズへの対応を検討していく。 また、新大工から浜町を通り、大浦に至るルートを「まちなか軸」と設定し、この軸 を中心とした5つのエリアの魅力の顕在化や回遊性を促す今後 10 年間の取り組みを 「まちぶらプロジェクト」として平成 24 年度に取りまとめている。これに伴い、平成 25 年度以降、回遊ルートの整備及びまちなか公共トイレの整備のほか、まちなか賑わ いづくり活動支援事業、まちなみ整備への経費の一部助成などを行っていく。 ほかにも、外国人に向けた夜景観光の取り組みとして、4カ国語表示の夜景案内版の 稲佐山展望台及び鍋冠山展望台などへの整備、ガイドブック「長崎ノ夜景」の4カ国語 版の作成、長崎ロープウェイのパンフレットの英語版に加えた中国語及び韓国語版の作 成を行っている。また、代表的な視点場である稲佐山については、山頂駐車場の拡張整 備、山頂展望台の屋上部分のLEDイルミネーションの演出、長崎ロープウェイのゴン ドラの世界的な工業デザイナーによるデザインのリニューアル、稲佐岳駅舎から山頂駐 車場までの連絡通路のLED照明による光のトンネルとしての改修整備を行っている。 本市の夜景は、平成 24 年 10 月5日に「世界新三大夜景」として一般社団法人夜景観 光コンベンション・ビューローから認定されたことから、長期的な計画も視野に入れた 具体的なプランの作成の検討など、継続的な環境づくりを行うことが重要な課題となっ ている。 イ ながさきの「食」和・華・蘭メニューの充実・強化 長崎は海外との交流により異国情緒にあふれた独自の文化を築いており、多種多様な 食文化が根づいている。これを「ながさき和・華・蘭メニュー」と称し、ながさきの食 として発信しており、今後は、その中から外国人観光客のニーズに沿ったメニューの発 信も行っていく。 また、市内の飲食店に向けて、「外国語指差し会話シート」の活用やメニューのPO Pなどの外国語表記についての啓発も行っている。 韓国のクルーズ客船「クラブ・ハーモニー」の乗客を対象に行った食に関するアンケ ート調査では、「食べたメニュー」の1位がちゃんぽんで7割を超える乗客が食べてお り、 「食事代」では 1,000 円以内で約5割、1,000~2,000 円以内が約3割となり、あわ せて約8割を占めた。そのほか「情報源」では旅行会社やブログといった意見が多いと いう結果であった。 また、すしや刺身への興味が深く、問い合わせが多数あることから、外国人観光客が 気軽に楽しめ、長崎ならではの食材を用いた手軽で注文しやすい共通メニューの開発や 提供のあり方などについて長崎県鮨商生活衛生同業組合と協議を行っている。 ウ 情報発信の取り組み 海外の外国人に長崎の観光情報を発信するためには、ホームページのサーバーを日本 に置かず海外に設置したほうが、検索の上位にヒットすることとなるため現地で見ても らえる確率が高くなる。そのため、社団法人長崎県観光連盟では、上海、ソウル及び台 湾にホームページのサーバーを設置しているところであり、本市のホームページへのリ ンクなど連携を図り、効果的な情報発信に努めている。 ほかにも、韓国内で人気のブログを運営するパワーブロガーを招聘し、前述の韓国向 けのスマートフォンによる観光情報アプリを実際に利用して行った旅行の情報発信は、 ダウンロード数の増加につながる大きな要因となっている。 必ずしも自前の情報発信でなく、人気のあるブログやツイッターと連携を行い、活用 を図ることが、効果的な情報発信の有効な方法の一つとなっている。 また、観光庁が行っているビジット・ジャパン事業では、中国を初めとする東アジア 諸国への招聘事業へ本市も参画しており、東日本大震災、原子力発電所事故の懸念の払 拭のための安全性のアピールを実施しているほか、中国などの教育旅行に対する本市・ 本市教育委員会との連携による積極的な受け入れも行っている。 ⑶ オルレコースの設定 韓国ではトレッキングやハイキングがブームとなっており、済州島には「通りから家 の角に通じる狭い路地」という済州島の方言でオルレとよばれるものがあり、済州オル レと呼ばれる多くのハイキングコースがある。平成 22 年度には、済州オルレに約 200 万人が参加していると言われており、韓国の人気観光メニューの一つとなっている。 国内においては、九州観光推進機構が社団法人済州オルレと協定を結び、平成 23 年 度から九州オルレが創設され、4コースが認定されている。 平成 24 年度には、一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会が、長崎市内の式 見地区から岩屋山付近のコースを長崎県へ申請したが、途中でもリタイヤできる交通の アクセスなどのオルレについて要求されるさまざまな条件に合致することができず、県 の選定から漏れた経緯がある。 オルレについては、まち歩き観光といった視点では、長崎さるくと共通するところで ある。今後は、韓国人が健康志向でトレッキングの要素を含む長距離のものを好む傾向 があることなども踏まえたうえで、オルレや長崎さるくといった外国人向けのニーズに 合ったコースづくりが求められる。 以上、アジアを中心とした国際観光の取り組みについて、本委員会では次のような意見・ 要望が出された。 ○ 韓国向けの観光情報アプリのほかにも、中国や英語圏向けの観光情報アプリの検討を 行うこと。 ○ ○ ○ ○ 宿泊施設や観光地のWi-Fi環境の整備を早急に行うこと。 写真つきで多言語化されたメニューを飲食店が作成するよう働きかけること。 函館市のように、長期的な夜景に関する戦略の検討を行うこと。 昼の観光(まちづくり)と夜の観光(夜景観光)の連携を図り、一貫性を持った取り 組みを行うこと。 ○ 長崎さるくにこだわらずオルレなどの外国人のニーズに合ったまち歩きコースを検 討すること。 ○ 観光ツアーでは、長崎の水産加工場や特産品の販売場など、お金を落とす場所に連れ ていくコースを設定すること。 2 国際交流・理解の推進について ⑴ 留学生等の支援・連携 長崎県内には平成 23 年5月現在で 10 大学に 1,432 人の留学生が在籍しており、その うち長崎市内の大学には 881 人が在籍している。長崎市内の留学生の国籍別割合は、中 国人が約7割、中国を含むアジア地域で9割を超えており、そのほかにアフリカ、欧州 という順である。 留学生等の支援事業については、生活支援としての国際ボランティア講師による無料 の日本語講座の開催や、日本(長崎)文化・生活への理解向上支援としての長崎さるく への無料招待、市有施設の入館料の免除、長崎平和大学の実施(被爆体験講話や原爆資 料館などの見学)を行っている。 また、海外への長崎情報の発信としては、長崎県が運営している外国人対象の情報発 信サイトである出島ネットワークのPRのほか、県内の大学と所在地の自治体が共同し て作成している留学情報冊子を、海外での留学生募集活動等において配布している。 ほかにも、一般市民向けに配布している生活便利ブックの多言語版の市民課での配布、 在住外国人向けの無料法務相談、在住外国人による意見交換会の開催を行っている。 ⑵ 市民の人材育成 小中学生への国際理解教育推進事業として、外国語指導助手(ALT)と市内在住の 小学校外国語活動インストラクターを市立全小中学校に派遣しており、小中9年間を通 した英語教育の充実を図っていく。 また、国際交流イベントとして、小中学生と留学生が異文化理解と交流を行う「なが さき異文化ちゃんぽんフェスタ」、小学生(低学年)と国際交流員や外国語指導助手が ゲームを通して英語に興味を持たせる「KIDS’国際ひろば」を開催している。 以上、国際交流・理解の推進について、本委員会では次のような意見・要望が出された。 ○ 留学生の帰国後の活用策を検討すること。 ○ 留学生の地域との密着や連携についての施策を進めること。 ○ 立命館アジア太平洋大学のような地域の中に留学生が入っていく取り組みについて 調査をすること。 ○ 言葉のコミュニケーション能力向上のため、小学生の海外への語学研修について検討 すること。 3 アジアに向けた海外販路開拓・拡大について ⑴ アジア市場の現状 2011 年の長崎鮮魚の空輸を除く長崎税関(長崎地区)の水産物の輸出実績は、1億 9,200 万円となっており、輸出額の国別割合は1位韓国 54.1%、2位ベトナム 43.6%、 3位中国 0.12%となっている。このうち、長崎輸出促進実行委員会においては、アジ アのほかにアメリカなどの新規販路を開拓し、かまぼこ製品などの輸出をしており、ベ トナムについては従来から民間により冷凍魚などが輸出されている。 ⑵ 長崎魚市の輸出状況 長崎魚市株式会社が平成 17 年から長崎・上海航空路を利用して、中国(主に上海) 向けの鮮魚輸出を開始しており、平成 20 年には上海に常設店を設置し、着実に輸出量 を増加させてきている。上海においては、長崎鮮魚の知名度は高く、高鮮度で品質の高 い魚としてブランド化されている。航空便による週3回の輸出を行っており、船便につ いても試験出荷を実施している。 中国国内の販売状況は、上海の直売店を拠点として、約 20 都市、約 160 店舗となっ ており、主要魚種はクロマグロ、ブリ、アジ、マダイなど長崎を代表する魚を輸出して いる。中国国内での長崎鮮魚の知名度は年々高まっており、需要の拡大が見込まれるこ とから、平成 24 年度中には新たな拠点として北京にも直売店が開設される予定である。 ⑶ 長崎輸出促進実行委員会の取り組み状況 ア 中国に対する取り組み 上海日本料理店における長崎県産マグロPRへの支援として、長崎鮮魚のPRのぼり の設置、中国福州市漁業博覧会における長崎かまぼこの展示、紹介、刺身調理の実演、 シティショップ上海(現地スーパー)の関係者と本市の事業者の個別商談を実施してい る。 イ 韓国に対する取り組み 長崎かまぼこ(長崎おでん)の販路開拓に向けた市内かまぼこ製造業者と韓国の日本 食輸入商社の商談、釜山市内のホテルでの長崎ちゃんぽん・皿うどん講習会及びおでん、 カステラの試食会を実施している。また、アンケート調査を行った結果では、皿うどん が韓国にはなく珍しいということで好評である。 ウ 香港に対する取り組み アンテナショップ「キトラス」で開催したこだわり商談会に香港の輸入商社を招聘し た現地商談、平成 21 年度から3年間継続してきた香港SOGO百貨店での香港ながさ きフェアへの出店及び現地商談を実施している。また、香港への輸出額は年々少しずつ 増加傾向にある。 ⑷ 販路拡大調査 ア アジアマーケット動向調査 中国の上海と韓国のソウルについて調査を実施している。双方に共通していることは、 現地の食品市場の状況の把握と輸出可能性の調査のために、現地のバイヤーを本市に招 聘し、食品市場セミナーや輸出商談会を開催することが望ましいということである。 また、違いについては、中国(上海)については、小売市場向けの輸出に特化して取 り組むことが有効であるが、韓国(ソウル)については、小売よりも居酒屋などの業務 用、あるいはネット販売向けの輸出可能性を検討することが得策であり、業務用食材の 売り込みについては検討課題となっている。 イ テストマーケティング調査 香港と韓国において試食調査を実施した結果では、長崎ちゃんぽん、長崎皿うどん、 長崎かまぼこ(長崎おでん)、長崎カステラの味、見た目、食感についての満足度は高 く一定の評価を得ており、販路開拓の可能性は十分あるため、今後はいかに輸出実現に つなげていくかが課題である。そのためには、販路開拓セミナーなどを開催しながら、 市内の事業者の意識を高めつつ、国内の貿易商社と輸入国の食品バイヤーをつなぐ流通 ルートを確立することが第一である。 ⑸ 販路開拓への支援 販路開拓への支援として、輸出に興味のある関係者を対象としたアジア市場販路拡大 セミナーの実施や市内の中小企業者が国内、海外で開催される展示会、商談会などへ出 展する際の出展料、旅費などの経費について販路開拓支援事業費補助金を設け補助を行 っている。 ⑹ キトラスの活用 キトラスでは、交流人口の拡大を目的とするキトラスツアーデスクにおいて観光情報 の提供、発信や観光スポットに食や体験を取り入れたバスツアーを実施している。 また、キトラスで行うこだわり食材商談会に香港や韓国のバイヤーを招聘し、輸出可 能な商品についての情報収集を行うなどアジアに向けた拠点の一つとして活用してい る。 以上、アジアに向けた海外販路開拓・拡大について、本委員会では次のような意見・要望 が出された。 ○ 相手国に好まれる味を取り入れた新商品の開発について補助を行っていくこと。 ○ 既存の付加価値の高いものの売り込みのほかに、安くておいしいものを売り込む戦略 を検討すること。 ○ 事業者の生産能力や商品開発能力の向上のために長期的な戦略をとり、事業者が海外 へ進出する状況づくりのサポートをすること。 ○ 松が枝から長崎駅までの間に、港を眺めながら飲食ができる物産館の開設を検討する こと。 ○ アジアに向けた海外販路としては、相手国との政治情勢の影響も視野に入れ、中国、 韓国、台湾、香港以外にベトナムなどの発展途上国をターゲットとすることも検討する こと。 4 世界遺産を観光に生かす取り組みについて ⑴ 世界遺産登録の推進 世界遺産の登録には、世界遺産委員会において、資産の内容が他に類例のない固有の ものであり、国際的判断基準に照らして世界遺産としての価値があると認められるとと もに、その価値を守るための保存管理がなされていることが必要である。 登録までの流れとしては、ユネスコの世界遺産暫定一覧表に記載後、推薦書の作成、 構成資産に対する法律などによる万全の保護措置を講じた後、ユネスコに対し国として 推薦書を提出する。その後、ユネスコの専門機関であるイコモスの現地調査などを経て 世界遺産委員会での審査を受け、登録、情報照会、記載延期、不記載という決定がなさ れる。 ア 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」 長崎県内の 12 資産に熊本県の1資産を加えた 13 資産に整理がなされており、長崎市 には、大浦天主堂、出津教会堂と関連遺跡、大野教会堂の3資産がある。 平成 24 年7月 12 日に開催された文化審議会世界文化遺産特別委員会において、ユネ スコへの推薦案件が審議された結果見送りとなり、審議結果における課題として5つの 指摘があっている。それは、時代や性質の異なる構成資産の関連性の明確化、 「かくれ」 の概念の全国レベルでの共通理解、構成資産の包括的保存管理計画の改善、平戸、外海、 崎津の構成資産のコアとバッファゾーンの範囲設定の整理、「長崎の教会群とキリスト 教関連遺産」の価値の全国での理解及び周知不足などである。 今後、平成 25 年度に国の推薦を得るために、指摘された課題を改善する作業を関係 自治体で進め、平成 24 年度中に推薦書原案の見直しを行っていく。その後、平成 25 年6月までには推薦書原案を文化庁へ提出したうえで、文化審議会世界文化遺産特別委 員会の審査を経ていく必要がある。 イ 「九州・山口の近代化産業遺産群」 平成 21 年1月に世界遺産暫定一覧表に記載された。その後、関係する8県 11 市で構 成する「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会において世界遺産と しての価値や構成資産の検討を行っている。 長崎市には、小菅修船場跡、三菱重工業株式会社長崎造船所関連の向島第三ドック、 同旧鋳物工場併設木型場、同ハンマーヘッド型起重機、同占勝閣、グラバー住宅、高島 炭坑、端島炭坑があり、そのうち三菱重工業株式会社長崎造船所関連の構成遺産は稼動 中の産業遺産である。 高島・端島炭坑については、現在、国の文化財としては未指定の状態であり、各分野 の専門家で構成する端島炭坑等調査検討委員会において、価値や保存のあり方について 検討している段階である。特に、端島は、シルエットや廃墟となった住宅群などに市民 や観光客から高い関心が持たれているが、世界遺産としては近代化に貢献した海底炭田 としての価値を明らかにする必要がある。 「九州・山口の近代化産業遺産群」の世界遺産としての価値は、19 世紀後半の約 50 年という極めて短期間に起こった工業化・近代化を特徴づける、鉄鋼・造船・石炭鉱業 といった重工業部門に西洋技術を移転する上での他に類を見ないプロセスである。長崎 エリアでは、特に造船及び石炭鉱業の分野での役割が挙げられる。 また、稼動中の産業遺産の取り扱いについては、企業の経済活動などに使用されてい る施設であることから文化財保護法での保護措置を講じた場合の経済活動への支障が 大きく指定が困難な状況であるため、国において産業遺産の世界遺産登録に向けた新た な枠組みが検討された結果、文化財保護法以外の法律や協定などによる保護措置が認め られるとともに、国内の推薦候補の選定担当についても、従来の文化審議会から新たに 設置された稼動資産を含む産業遺産に関する有識者会議へ変更されている。 平成 24 年度中に文化財指定や保存管理計画の策定、推薦書原案の作成を行い、平成 25 年度の推薦決定を目指している。 ⑵ 世界遺産を観光に生かす取り組み(インバウンドに関するもの) ア 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」 世界遺産暫定一覧表への記載後から長崎の教会群や巡礼地を訪れる外国人観光客は 増加しており、正式登録後はより一層の来客が見込まれる。 誘致セールスとしては、社団法人長崎県観光連盟と連携し、韓国平和放送局によるカ トリック巡礼ドキュメンタリー番組と韓国テレビ局CBSによるプロテスタント巡礼 ドキュメンタリー番組の制作支援を行っている。放送後の巡礼ツアーは、韓国のキリス ト教団体に好評であり、平成 25 年には牧師夫妻のツアーや大学生の巡礼ツアーも計画 されている。また、韓国の人口の3割はキリスト教徒と言われているため、今後、多言 語案内板の整備などの受け入れ環境の充実が必要である。 イ 「九州・山口の近代化産業遺産群」 好評を得ている軍艦島上陸ツアーは、外国人観光客もわずかであるが増加しており、 一部の運営事業者がみずから多言語でのガイドの育成やアナウンスなどに取り組んで いる。本市としても、4カ国語版のリーフレットを作成して提供しているところである。 また、海外の映画制作会社による企画として、タイの映画制作会社が、タイの人気俳 優が出演する映画を平成 25 年春頃に長崎において撮影予定であり、そのロケハンが端 島及び市内観光地で実施された。 映画「007」シリーズの最新作への端島の登場など、海外での露出もふえてきてい ることなどからも、世界遺産として正式登録された場合にはより多くの反響が予想され る。 以上、世界遺産を観光に生かす取り組みについて、本委員会では次のような意見・要望が 出された。 ○ 教会群について、平成 27 年度の登録時から観光への活用を始めるのではなく、県内 各市町と連携を取りながら早期に取り組むこと。 ○ 教会という信仰の場を観光に生かすためには、信徒との連携を十分にとるよう努める こと。 ○ 世界遺産に登録される前に、クルーズ客船入港時の世界遺産や既存観光施設との組み 合わせを検討すること。 以上、本委員会の調査項目についてまとめたが、理事者におかれては、委員会における調 査の過程で各委員から出された意見・要望を十分に踏まえ、今後、海外からの誘客のさらな る拡大につながるよう、海外のニーズに応じた施策の推進やリスク回避の視点を含めた国際 情勢の変化への対応を行いながら、特に、次の点について取り組むことを強く要望する。 ○ ICTを活用した情報発信や着地情報の提供 ○ 食・まち歩き・世界遺産候補資産などにおける外国人向けで長崎らしい素材の魅力の 向上 また、長崎~上海航路については、中国大陸と長崎港を直接結ぶ新たな交通アクセスとし て、官民の大きな期待のもと平成 24 年2月に営業運航を開始したが、9月の沖縄県・尖閣 諸島をめぐる日中関係の悪化などの影響から、訪日中国人観光客が大幅に減少し、10 月中 旬から運休、平成 25 年1月には、使用船舶の他社へのリースが発表されて同航路は長期休 止に追い込まれ、短期間のうちに大きく情勢が変化した。 しかしながら、中国を初めアジア諸国と地理的・歴史的にも関わりの深い本市が、率先し て交流を盛んにすることは非常に重要であるため、今後も誘致活動や受け入れ体制の整備に ついて、県や関連する民間事業者と十分に連携を図りながら継続することを期待する。 なお、事業の推進については、部局横断的に取り組むこととし、長期的な戦略を持って進 められたい。 あわせて、本市の強みや弱みを十分に把握し、ターゲットを明確化することで、一貫性の ある戦略の推進に努められたい。