...

思春期リプロダクティブヘルス強化プロジェクト

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

思春期リプロダクティブヘルス強化プロジェクト
案件別事後評価(内部評価)評価結果票:技術協力プロジェクト
評価実施部署:ニカラグア事務所(2014 年 3 月)
国名
ニカラグア
Ⅰ 案件概要
プロジェクトの背景
思春期リプロダクティブヘルス強化プロジェクト
ニカラグアでは、2004 年時点の妊産婦死亡率が出生 10 万当たり 86.5 人、乳児死亡率は出生 1,000
当たり 29 人という水準であり、妊産婦死亡および乳幼児死亡の減少を保健分野における最重要課題と
していた (ENDESA 2006/2007)※。特に、若年妊娠は妊産婦死亡や周産期死亡の危険因子であり、2003
年の保健省に登録された妊産婦死亡の 34%、流産の 25%が思春期の妊娠で生じている。ニカラグアに
おける 15~19 歳の思春期後期の女性のうち、妊娠の経験のある女性の比率は 25%と中米地域で最も高
い値であり、初性交年齢の低年齢化が進む一方で、避妊についての正しい知識を得て行動し、保健サー
ビスを利用する思春期層が少ないという問題がある。また正しい知識に基づかない性交渉により思春期
の若者、特に女性の性感染症、HIV/AIDS に対するリスクが高まっている。加えて、10~14 歳の妊娠の
多くが家庭内あるいは知り合いによる性的暴力の被害の結果との指摘がある。このような状況下で思春
期の若者が利用しやすい、保健サービスが提供されていないことが問題となっていた。
※ 妊産婦死亡率:出生 10 万当たり 170 人、乳児死亡率:出生 1000 当たり 21 人(UNFPA 2005)
プロジェクトの目的
実施内容
協力期間
相手国実施機関
日本側協力機関
関連案件
Ⅱ
1
1. 上位目標:対象県の思春期の若者の、望まない、かつ/または、予期しない妊娠および性感染症・
HIV/AIDS が予防され、思春期層のリプロダクティブヘルス(ARH: Adolescent Reproductive Health)
(注 1)が向上する。
2. プロジェクト目標:対象県の思春期の若者が、リプロダクティブヘルス(RH)に関する正しい知識の
下、適切な行動をとり、若者に親しみやすい RH サービスを利用している。
3. 課題解決への道筋: 本プロジェクトは、対象県におけるユースフレンドリーサービス(YFS:Youth
Friendly Service)(注 2)のための、保健スタッフの研修を行うとともに、思春期プロモーター
および若者リーダーの育成、地域住民へのピア活動(注 3)支援の研修、思春期クラブの設立を通
じて、対象県における ARH に関する適切な知識と行動を広め、思春期層の望まない・予期しない妊
娠、性感染症・HIV/AIDS の予防を図ることを目指す。
(注 1)ARH とは、思春期層の妊娠の予防、家族計画(避妊)
、性感染症・HIV/AIDS の予防・ケア、家
庭内暴力に関するケア等を指す
(注 2)YFS は、①居心地がよく、適していること、②秘密が保持されること、③プライバシーが保て
ること、④感性が高く、教育を受けた保健医療従事者がいること、⑤思春期ユーザーとその両親に対し
て、適切な情報を与えること、等を指す。
(注 3)同じ課題を抱える者同士が互いに支えあうという考えのもとに行う活動。
1. プロジェクトサイト:グラナダ県およびボアコ県
2. 主な活動:YFS に関する教材の整備、保健スタッフの研修、思春期プロモーター養成研修、地域住
民へのピア活動支援の研修、若者リーダーの育成、モニタリングシステムの構築、マネジメントツ
ール作成研修、等
3. 投入実績(上記活動を実施するための投入)
日本側
相手国側
(1) 専門家派遣 短期専門家 29 人
(1) カウンターパート配置 44 人
(2) 研修員受入 15 人
(2) 土地・施設提供 プロジェクト事務所
(3) 第 3 国研修(メキシコ) 10 人
(3) その他 日本側供与機材の維持管理費、CP の
(4) 機材供与 車両、診察器具、PC 等オフィス機
現地活動費
器、IEC 活動用 AV 機材、等
2005 年 11 月~2009 年 10 月
協力金額
378 百万円
保健省、グラナダ県保健局、ボアコ県保健局
財団法人家族計画国際協力財団
我が国の協力:青少年とその家族のための市民安全ネットワーク強化プロジェクト(技術協力プロジェ
クト、2007~2010 年)
、西部 2 県保健医療センター整備計画(無償資金協力、2004~2005 年)、ボアコ
病院建設計画(無償資金協力、2006~2007 年)、青年海外協力隊派遣(助産師、2009~2013 年)
評価結果
妥当性
本プロジェクトの実施は、事前評価時・プロジェクト完了時ともに「国家保健政策」(2004~2015 年、2007~2012 年)、
「国
家リプロダクティブ・セクシュアルヘルス戦略」
(2006 年)に掲げられた「リプロダクティブヘルスを含む保健サービスの質
とアクセスの向上」というニカラグアの開発政策、「思春期層の望まない妊娠や性感染症・HIV/AIDS の削減」という開発ニー
ズ及び保健・医療を重点分野とする日本の援助政策と十分に整合しており、妥当性は高い。
2 有効性・インパクト
本プロジェクトでは、15~19 歳の思春期層に対する RH に関する知識や保健サ
ービスに関する認識の向上、適切な避妊法等の実践に焦点を当てた取組が行わ
れ、本プロジェクトの経験をモデルとして他県への共有が図られた。プロジェク
ト完了時点において、RH に関する知識のオリエンテーション受講率は、グラナダ
およびボアコ両県で目標が達成されたものの、保健サービスが提供されているこ
とを知っている思春期層の割合は目標値を下回った。プロジェクト完了後も対象
県において、保健センターによる ARH サービスや思春期クラブ等による保健教育
が継続されており、事後評価時点ではオリエンテーションを受講したことのない
思春期層は両県で 6%未満であり、保健センターの ARH サービスへの認識も大幅
に向上した。現代的避妊法の実践についてはプロジェクト完了時に両県で目標値
を下回ったが、初回性交渉時のコンドームの使用率については目標値を大幅に上
回った。事後評価時点においては、前者についてはボアコ県で若干の改善が見ら
思春期クラブの活動の様子(ボアコ県サン・
れたものの、後者についてはグラナダ県では若干の低下が見られた。本プロジェ
ロレンソ保健ポスト)
クトの経験の他県への共有については、2009 年 9 月に全国 ARH フォーラムを実施
し、全国の保健局および ARH 関連団体の出席のもと、本プロジェクトの経験をモ
デルとしたアクションプランが作成され、YFS やピア活動/思春期クラブなどの活動を適用する例が見られた。プロジェクト期
間中に導入された家庭・コミュニティ保健モデル(MOSAFC:Modelo de Salud Familiar y Comunitario)には、YFS、ARH 研修、
思春期クラブ等が思春期層への活動として取り込まれるというインパクトも見られる。したがって、プロジェクト目標は概ね
達成されたといえる。
上位目標としては、対象県における思春期層の妊娠の減少については、グラナダ県では達成されたものの、ボアコ県では 2005
年時点とほぼ同じ水準である。出生総数に占める思春期層出生数を見ても、同様の傾向である。ボアコ県の保健センターでの
聞き取り調査では、思春期プロモーター等 RH について高い知識を有する思春期層は若年妊娠を望まず、就学を優先する傾向
がある。また、思春期層には RH の知識はあるものの、年配者や家族が若年での結婚・出産を望むことが、若年妊娠の増加の
背景にある。なお、対象県における思春期層の HIV 感染率(人口 10 万人当たり)については、2012 年時点でグラナダ県 2.4
人、ボアコ県 5.15 人と全国平均(16.6 人)を大幅に下回っている ※。
この他、本プロジェクトを通じて地域住民の RH に対する意識が向上し、地域全体の家族計画の向上や性感染症・HIV/AIDS
感染率の抑制につながっている。また、対象県の各市の保健センターで ARH のカウンセリング技術研修を受けた保健スタッフ
や思春期プロモーターが自発的に ARH 活動の普及に努めたり、中には思春期プロモーターとして活動した青少年が、ARH の知
識を深めるため保健医療の勉強を続け、保健スタッフとなった例も見られている。さらに、準備中の「国家思春期保健総合開
発戦略」
(ENSDIA: Estrategia Nacional de Salud y Desarrollo Integral de la Adolescencia)の策定にあたり、YFS、ARH
研修、思春期クラブ、ARH に係る統計データ報告システムなど本プロジェクトの経験・成果が参考とされている。
以上より、本プロジェクトの有効性・インパクトは、中程度である。
※ 出典:SILAIS グラナダ、ボアコ
プロジェクト目標および上位目標の達成度
目標
指標
実績
(プロジェクト目標) 15~19 歳の思春期の若者で RH についてオリエンテ (プロジェクト完了時)達成。グラナダ県では、RH のそれ
対 象 県 にお ける 思 春 ーションを受けたことのない者が 2006 年 10 月から ぞれの項目について下記のようになっている。
期の若者による ARH に 2009 年 10 月までに減少する。
グラナダ県
ボアコ県
関 す る 正し い知 識 に
グラナダ県 ボアコ県
妊娠の予防:15%
12%
基づく行動と YFS の利 妊娠の予防:26%→24% 23%→21%
家族計画: 19%
17%
用
家族計画: 23%→21% 21%→19%
性感染症:
6%
6%
性感染症: 13%→10% 13%→10%
家庭内暴力:19%
15%
家庭内暴力:41%→38% 28%→25%
(事後評価時)RH のいずれの項目のオリエンテーションも
受講したことがない思春期層の割合は、グラナダ県 1.4%、
ボアコ県 5.1%。なお、それぞれの項目についてオリエンテ
ーションを受けたことがない割合は把握されておらず、プ
ロジェクト完了時との単純な比較はできない。
15~19 歳の思春期の若者で、保健省保健センターで (プロジェクト完了時)未達成。グラナダ県 40.2%、ボア
若者のための保健サービスを提供していると認識し コ県 42%。
ている者が 2006 年 10 月から 2009 年 10 月までに増 (事後評価時)グラナダ県 77.7%、ボアコ県 75.9%。
加する。
グラナダ県(61%→67%)*、ボアコ県(48%→53%)
15~19 歳の性的に活発な思春期の若者のうち、何ら (プロジェクト完了時)未達成。グラナダ県 49.1%、ボア
かの現代的避妊法を現在使用している者が 2006 年 コ県 53.4%。
10 月から 2009 年 10 月までに増加する。
(事後評価時)グラナダ県 44.0%、ボアコ県 53.8%。
グラナダ県(61%→64%)、ボアコ県(54%→55%)
15~19 歳の性交渉の経験のある思春期若者のうち、 (プロジェクト完了時)達成。グラナダ県 34.5%、ボアコ
最初の性交渉でコンドームを使用した者が、2006 年 県 34.5%。
(事後評価時)グラナダ県 40.4%、ボアコ県 29.6%。
10 月から 2009 年 10 月までに増加する。
グラナダ県(14%→16%)、ボアコ県(16%→17%)
他の地域に影響を与えた等プロジェクトの経験と内 (プロジェクト完了時)達成。全国 ARH フォーラムで本プ
ロジェクトの経験をモデルとしたアクションプランを作
容
成。アクションプランに基づいて YFS、ビア活動等を導入し
た県があった。
(事後評価時)本プロジェクトをモデルとする ARH サービ
ス・活動の他県への普及はインパクトとして確認。
(上位目標)
10~19 歳の思春期層の妊娠が、2005~2012 年までに (事後評価時)一部達成。グラナダ県 29.44%、ボアコ県
27.6%。
対 象 県 にお ける 思 春 減少する。
(妊娠総数に対する思春期妊娠数)
期の若者の望まない、 グラナダ県(33%→30%)、ボアコ県(27.5%→25%)
かつ/または予期しな 15~19 歳の思春期層の HIV 感染率が、国家平均より (事後評価時)達成。国家平均 16.6 人(推計値)に対し、
い 妊 娠 およ び性 感 染 低い率を維持する。
(2005 年人口 10 万人当たり 7 人 グラナダ県 2.40 人、ボアコ県 5.15 人。
症・HIV/AIDS の予防 →2010 年 10 万人当たり 8.5 人)
出所:終了時評価報告書、プロジェクト完了報告書、カウンターパートへの聞き取り調査。対象 2 県 9 市における思春期層へのアンケ
ート調査(調査対象 360 名)
注:*終了時評価報告書では、プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)上の目標値は誤りであり、
「44%→49%」が正しいとの注
記がされているが、公式に PDM の修正は行われなかった。
3
効率性
本プロジェクトは成果の産出に対し、投入要素が適切であり、かつ、協力金額・期間は計画内に収まり(それぞれ計画比 98%、
100%)、効率性は高い。
4 持続性
政策面では、引き続き国家保健政策において ARH は重要性が強調されており、
保健省により策定中である ENSDIA には本プロジェクトの経験・成果が参考とされ
ている。また、各市の保健センターにおける思春期層への保健サービスを含む、
MOSAFC による ARH に係る取組みの体制は維持されている。本プロジェクトで育成
された市保健課職員や保健スタッフ等は、MOSAFC の導入による配置変更はあった
ものの、ほとんどが ARH 業務に携わっている。保健センターの ARH サービスに係
る施設・設備については概ね良好に維持されており、保健スタッフの ARH サービ
スへの意識が高い保健センターでは特に施設が有効に活用されている。他方、保
健スタッフや責任者の異動により業務が引き継がれず、YFS が継続されていない
保健センターも見られる。プロジェクト完了後も思春期プロモーターは両県で新
規に 152 人が育成されている。2013 年 6 月時点で活動を継続している思春期クラ
ブは 44 件に増加しているが、本プロジェクトで育成された思春期プロモーターが
ARH カウンセリング技術研修を受けた保健
成人となり活動を離れたため、クラブが活動を休止している例も見られる。技術
面では、ENSDIA の推進のために、保健省により「思春期層総合対応マニュアル」 スタッフによる新規思春期プロモーターへ
の研修(グラナダ市保健センター)
が策定され、2013 年初めから全国の保健センターで実践が開始され、2013 年 8
月には保健スタッフ対象の「思春期層カウンセリングマニュアル」、思春期プロモ
ーター対象の「生活技術向上ガイド」等も全国の保健センターに配布され、これらマニュアルを活用した定期的な研修も行わ
れている。しかし、ARH 業務については、本プロジェクトで ARH カウンセリング技術研修を受けた保健スタッフが配置されて
いるか否かで、知識・技術に差が見られている。財務面では、ARH のオリエンテーションで使用する避妊具・避妊薬等、ARH
に係る基本的な活動の継続・普及のための予算は保健省の予算で賄われている。他方、保健スタッフや思春期プロモーターの
継続的な研修や活動資金の確保にあたっては、NGO や市役所などの資金援助が行われているものの、すべての保健施設および
思春期クラブで苦慮している。以上より、実施機関の技術面、財務面にそれぞれ課題があると判断され、本プロジェクトによ
って発現した効果の持続性は中程度である。
5 総合評価
本プロジェクトは、プロジェクト目標として目指した対象県における思春期層の ARH に関する正しい知識・行動と YFS の利
用の普及について、多くの保健センターにおける YFS および思春期クラブによるピア活動が継続されており、また、上位目標
については ARH サービスや啓蒙活動により、両県において思春期層の HIV 感染率が全国平均に比して抑制されており、グラナ
ダ県においては思春期層の妊娠・出産が減少している。持続性については、国家保健政策において ARH の重要性に変化はなく、
基本的な ARH 活動への保健省による予算配分もなされているものの、ARH サービスの質にはバラつきが見られ、保健センター
および思春期クラブの現場における活動費の確保は容易ではなく、技術面および財務面に軽度の問題が見受けられた。
以上より、総合的に判断すると、本事業の評価は高いと言える。
Ⅲ 教訓・提言
実施機関への提言:
各保健センターで提供される YFS の質のばらつきは、同サービスに携わる保健スタッフの技術及び経験の差によるところが
大きい。本プロジェクトの教材、ENSDIA に基づき用意されたマニュアル等を活用し、保健スタッフ及び思春期プロモーターへ
の研修が継続的に実施されているが、彼らのモチベーションを高めるために、研修や ARH に係る活動に必要な文具などの消耗
品やグループ交流を行うための交通手段・費用の確保、同じテーマで活動する NGO 等との意見交換の機会等の設定が求められ
る。
JICA への教訓:
プロジェクト完了後においても実施機関が研修、人材育成等の活動を継続するには、計画時点でそれを見据えた技術移転計
画を検討するとともに、プロジェクト期間中に JICA 専門家や青年海外協力隊とカウンターパートや保健スタッフ等の関係者
が共同で活動することを通じて、関係者を十分に啓発し、自律的に活動を継続できるように技術移転を行うことが求められる。
また、完了時点での状況を確認した上で、必要に応じて、プロジェクト完了後におけるフォローアップを行い、活動の継続を
支援することも重要である。
Fly UP