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超音波画像診断装置を用いたトラフグの雌雄判別の可能性

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超音波画像診断装置を用いたトラフグの雌雄判別の可能性
超音波画像診断装置を用いたトラフグの雌雄判別の可能性
粕谷芳夫・根本
茂・仲野大地・佐野秀生*
*:アロカ株式会社
トラフグの卵巣には猛毒が存在しているが 、“白
子”と呼ばれる成熟した精巣には毒が無く、食通
の間で珍重されている。このため、養殖トラフグ
を出荷する際に、“生殖腺の発達した雄トラフグ”
として出荷出来れば付加価値が付くと考えられる。
しかし、出荷サイズの2歳前では、解体前に雌雄
判別することは今のところ難しい。このため、雄
トラフグとして出荷するには雄の種苗を生産する
か、出荷前までに雌雄判別を行うことが必要条件
となる。ここでは超音波画像診断装置を用いた雌
雄判別の可能性を検討した。
材料と方法
図2
平成 17 年 12 月( 出荷時期)、平成 18 年 5 月( 種
苗の歯切り作業時期 )、 10 月(出荷前)に、超音
波画像診断装置(アロカ製 SSD-1000:図 1)および
電子リニア探触子(同社製 UST-5524-7.5:図 2)を
電子リニア探触子(アロカ製UST-5524-7.5)
結果と考察
若狭湾海域における養殖トラフグの成熟状況は、
用いて、モニターに映るトラフグの腹部横断面画
像を観察した後、開腹して雌雄の確認をすること
によって、雌雄の画像の特徴を明らかにする。ま
た、養殖トラフグの成熟については、過去の養殖
福井水試が実施した過去の飼育試験の資料から月
齢と生殖腺重量の関係で示した。雌では月齢 18( 8
月)に、卵巣重量の増加がみられ始め、出荷時期
の月齢 21( 11 月)には2~ 3g に達している個体が
試験の資料を用いた。
多くみられた(図 3)。一方、雄では同様に月齢 18
から徐々に精巣重量の増加がみられ、月齢 21 から
急激に重量が増加している個体がみられた。なか
には 10 gを超えた個体の存在も確認され、月齢 26
(4 月)には 100g 前後の個体もみられ、雄として
機能可能な個体も一部にみられた(図 4,5)。
7.0
雌生殖腺重量(g)
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
図1
超音波画像診断装置(アロカ製SSD-1000)
-1-
0
5
10
15
月 齢
20
25
図3
雌の月齢別生殖腺重量(206個体)
30
表1
供試したトラフグ測定結果
雄生殖腺重量(g)
120.0
供試年月 No. 体長mm 体重g 性別
100.0
80.0
60.0
40.0
20.0
0.0
0
雄生殖腺重量(g)
図4
5
10
15
月 齢
20
25
30
雄の月齢別生殖腺重量(241個体)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
5
10
15
月 齢
20
25
30
図5 雄の月齢別生殖腺重量
(図4の資料から、4g以上の個体を除いたもの)
今回、供試したトラフグは月齢 22 以下の個体で、
生殖腺重量が増加し始めた個体またはそれ以前の
個体である(表1)。
12 月に供試したトラフグの内、No.1 ~ 4 は月齢
21 で、体重は 1kg 前後、雄の生殖腺は 10g を超え、
雌では 5g 前後であった。No.5 ~ 7 は月齢 9 で、
体重は 200g 前後で、生殖腺の長さは 10 ~ 20mm
であった。 5 月のトラフグ(月齢 14)では平均体
重が 312g、生殖腺重量が 0.4g 前後、その長さは
22mm 程であった。10 月のトラフグ(月齢 19)で
は平均体重が 560g、平均生殖腺重量が 1.4g、生殖
腺の長さが 30mm と大きくなっていた。
1
2
3
2005.12.5
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
8
2006.5.18
9
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11
12
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1
2
3
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5
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2006.10.11
11
12
13
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15
16
17
18
19
20
306 940 ♂
320 1106 ♀
-
- ♀
302 1036 ♂
182 206 ♂
172 208 ♀
178 184 ♂
212 361 ♂
225 408 ♂
193 303 ♂
178 212 ♂
228 428 ♂
225 457 ♂
224 411 ♂
221 421 ♀
206 302 ♂
228 452 ♀
203 262 ♂
189 205 ♂
185 201 ♂
184 222 ♂
183 198 ♂
173 149 ♂
227 556 ♀
267 585 ♂
263 532 ♀
269 588 ♂
261 522 ♀
268 607 ♀
277 627 ♀
250 480 ♂
273 660 ♂
268 570 ♀
266 637 ♂
277 604 ♂
258 558 ♂
274 559 ♂
261 532 ♂
265 617 ♂
256 521 ♂
261 472 ♂
250 481 ♀
251 465 ♂
生殖腺長
生殖腺
重量g
右mm 左mm
55.50
98
89
5.10
44
56
4.00
27
32
12.00
42
44
0.31
-
21
0.60
16
16
0.60
20
21
0.46
36
24
0.48
20
16
0.36
19
18
0.15
23
23
0.71
19
23
0.42
28
26
0.46
25
25
0.98
23
23
0.29
23
25
1.07
28
28
0.37
21
27
0.22
16
18
0.24
24
22
0.26
21
22
0.17
19
22
0.21
16
18
2.20
34
35
0.92
31
33
1.79
44
45
1.13
29
37
1.64
40
42
2.43
41
37
2.67
44
45
0.59
27
31
1.31
24
33
2.49
41
42
0.93
35
37
0.93
32
34
1.31
43
37
1.00
37
31
0.89
31
25
1.01
32
29
0.87
18
22
0.49
16
22
2.49
28
31
0.92
19
23
最初に出荷盛期の 12 月に超音波画像診断装置に
より画像を観察した結果、月齢 21 の個体では、精
巣が発達した個体がみられ、画像では楕円形の横
雌雄判別が可能と考えられた。しかし、月齢 9 の
魚体では生殖腺重量が少数点以下と極めて小さい
ことから雌雄の判別は不可能であった。
断面として映っていた(図 6)。一方、卵巣は数g
と小さいが、その画像は白く縁取りされた横断面
として映っていた(図 7)。また、生殖腺を取り出
して、その硬さを確認したところ、精巣は引き締
次に、歯切りの時期の月齢 14(5 月)のトラフグ
の画像を観察した。この時期の生殖腺はまだ小さ
く、重量も 1g 未満の個体であった。これら雌雄の
生殖腺を取り出して、診断に使用したゼリーで包
まっており少し堅いのに対し、卵巣は柔らかく、
表皮の上から腹部を探触子で押すことによって、
断面がより扁平状態になることが確認できた。こ
のことから、出荷サイズのトラフグは超音波画像
んだ状態で観察すると、精巣では内容物が白っぽ
く写り(図 8)、卵巣では輪郭が白く内容物は黒く
写っていた(図 9)。しかし、腹部を上にした肛門
前横断面の画像では、雌雄別の特徴もなく判別は
診断装置による画像とその断面画像の形の変化で
難しかった。
-2-
図8
図6
雄の横断面画像(月齢21,⇒:精巣)
図9
図7
取り出した精巣(⇒)の超音波画像(月齢14)
取り出した卵巣(⇒)の超音波画像(月齢14)
雌の横断面画像(月齢21,⇒:精巣)
図10
-3-
雄の横断面画像(月齢19,⇒:精巣)
付加価値を高めるものと考えられる。しかし、こ
の装置は現時点では医療目的のために高価であり、
利用するには関係養殖組合間の共同利用、メーカ
ーによる有料の雌雄判別サービス等が考えられる。
加えて、水産用小型ハンディータイプ機器の開発
が望まれる。
最後に、超音波画像診断装置を用いた雌雄判別
の可能性に向けて、検討機会を与えていただくと
共に、多岐にわたり指導・助言をいただいた福井
県水産試験場 伊藤文成 前場長にお礼申し上げま
す。また、計 3 回にわたり高価な超音波画像診断
装置の搬入・使用に便宜を図っていただいたアロカ
株式会社および丸文通商(株)敦賀出張所の和田泰
洋氏にお礼申し上げます。
文
献
・ Matsubara, T.,K. Watanabe, T. Yamamoto and S.
Kabaya( 1999) :Fish. Sci.,65,244-247
図11 雌の横断面画像(月齢19,⇒:卵巣)
(円内:肛門から挿入したプラスチック棒の陰)
最後に、出荷直前の月齢 19(10 月)には、肛門前
方 1.5 ~ 2cm の断面画像で観察しながら、肛門か
らプラスチックの棒を差し込んで生殖腺を動かし
て確認した。この時、精巣は中に横一に白い部分
が写っていたのに対し(図 10)、卵巣は周囲に血
管が多く、白く写るために薄い輪郭が認められた。
また、内容物は精巣のそれとは異なり、黒い斑点
状のものが写っていた(図 11)。
超音波画像診断装置を用いた雌雄判別は、マツ
カワで試行され、親魚の効率的な養成に利用され
ている(Matsubara et al.1999)。マツカワの場合は、
若齢魚での生殖腺の有無で雌雄を判別するもので
あったが、トラフグの場合は出荷前の若齢魚では、
雌雄の生殖腺共にその長さは 2 ~ 3cm、重量は数
g程度の大きさになっており、生殖腺の有無では
判別することは出来なかった。しかし、その写り
方に雌雄差が確認出来たことから、今回、養殖さ
れているトラフグにおいても、超音波画像診断装
置を用いることによって、出荷時期以前に雌雄を
判別することが可能であると考えられた。この技
術を利用し早期に雄を選別することによって、継
続飼育後の腹の膨れた個体を“白子を持ったトラ
フグ”として市場に出荷すれば、養殖トラフグの
-4-
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