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トラクターフランス社会
インフラ輸出競争力強化の方策 1/9 池田 章構成 第 1 章 インフラ輸出の概要と現状 第 2 章 分野別の課題・方向性 2-1 石炭火力発電分野 2-1-1 石炭火力発電の概要 2-1-2 世界における石炭火力発電の比較 2-1-3 石炭火力発電の課題 2-2 プラントエンジニアリング分野 2-2-1 PE 産業の概要 2-2-2 世界における PE 産業の比較 2-2-3 2-3 知的財産権の利用と PE 産業の課題 スマートコミュニティ分野 2-3-1 スマートコミュニティの概要 2-3-2 海外展開に向けた取組み 2-3-3 スマートコミュニティアライアンス 2-4 鉄道分野 2-4-1 高速鉄道の概要 ・定義 2-4-2 高速鉄道輸出とその意義 2-4-3 世界における高速鉄道の比較 2-4-4 日立製作所とイギリス高速鉄道 2-4-5 ビック 3 の動向と鉄道分野の課題 第 3 章 インフラ輸出競争力強化の方策 3-1 発電分野 3-1-1 IGCC の早期商業化と差別化 3-2 鉄道分野 3-2-1 規格の標準化 3-2-2 鉄道コンサルタントの育成 3-2-3 総合力の強化 参考文献 1 1.インフラ輸出の概要と現状 Q インフラ輸出って何? A.日本のインフラに関する高度なシステムを丸ごと輸出するというもの。インフラストラクチャーは「社会基盤」と呼ばれ、一般的に 経済インフラと社会インフラに分類され、経済インフラには鉄道、空港、港湾、発電所、通信、水道施設、パイプラインなどが含ま れ、中長期にわたり安定的な運用が見込まれる。平成 25 年 6 月の日本再興戦略ではインフラ輸出を海外市場獲得のための戦 略的取組と位置付けた。 海外インフラ市場の現状 図表 1 世界全体のインフラ投資予想(2005-2030 年) 図表2世界のコントラクターにおける売上高推移の自国内/海外別の推 インフラ輸出市場には巨大な需要が存在する。途上国、新興国では新規のインフラ整備需要が急増している一方、先進国におい ても既存の設備のリプレース需要を中心に市場が大きく拡大すると見込まれている。その規模は 2030 年までに世界全体で年間 約 1 兆 6 千億ドル、アジアのみでも年間 7,500 億ドルに達すると推計されている。こうした市場をインフラ輸出の活性化により取 り込むことで、現地国の経済成長を強力に後押しするとともに、進出企業のビジネス環境改善する事を通じ、日本経済の発展の 促進につながると考えられる。 日本企業の競争力 図表3 世界の上位 225 コントラクター域別海外売上高(2010)主要企業受注国内訳 現状、日本企業は諸外国のライバルに大きく 水をあけられている。我が国の受注ランキン グは、アジア、中東、アフリカの全てで低下傾 向にある。近年成長している国の中で、韓国 は中東、中国はアジア・アフリカでの台頭が目 立つ。 各国政府の対応 図表 4 各国政府・公的金融機関の対応 各国政府は、インフラ輸出促進を目指し、積極的な トップ外交など、推進政策に取り組んでいる。こうし た政府の後押しや官民連携による売り込みが功を 奏しているとも考えられる。 日本は諸外国に 4 年以上遅れている 2 図表 5 日中韓における海外インフラ受注額推移 2005~2010 年の間、日本の海外インフラ受注は 200 億ドル/年前後。 同期間中、韓国は 158 億ド ルから 645 億ドル、中国は 296 億ドルから 1344 億ドルに拡大。それぞれ約 4 倍に拡大している。 民間企業によるビジネスモデルや経営判断を前提としつつ、政府もあらゆる施策を総動員して民間企 業の取り組みを支援し、技術・資金両面で官民一体となった海外展開の推進を図る必要がある。 2.分野別の課題・方向性 2-1 石炭火力発電分野 ◎ 概要 •石炭を用いる火力発電は、2010 年時点で世界の発電量の 40%以上を占める主要電源である。 •火力発電に占める各燃料の割合は、天然ガスが豊富なロシア、石油資源が豊富な中東等、地域ごとの資源量によ り異なるものの、世界全体では石炭が 6 割を占める。 ・石炭火力の発電量 は 2035 年に現状の 1.4 倍になる。 図 6 石炭火力発電量 2010-2035 ・非 OECD 圏の高成長、安定した原料価格、 日本の高い技術力等の背景から、AESAN 地 域等の「負けられない市場」を対象に、石炭火 力輸出はインフラ輸出における重要な位置づ けになっている。 図7 日本の強み ◎ 日本の石炭火力は、高効率技術(超臨界圧・超々臨 界圧)と運転・管理ノウハウにより、世界最高水準の発 電効率を達成し、運転開始後も長期にわたり維持して おり、日本の技術を米中印の既存の石炭火力に適用 した場 合、約 13 億トンの削減が可能 (日本 全体 の 排出量に相当)。 現在 ASEAN では低効率の亜 CO2 臨界圧が主流。 3 図 8 各国メーカの比較 2-1-2 世界における石炭火力発電の比較 図3 2-1-3 石炭火力発電の課題 図9 日中韓におけるコスト比較 図 10 USC・IGCC の発電効率比較 SC で比較した際、韓国には 100 億円、中国には 200 億程コ スト面で後塵を排しているのが現状である。 ◎ 中国 中国の石炭火力発電の電源構成比は約 80%。国内の石炭火力設備は 2000 基に達すると言われており、2009 年時 点で 200MW 以上の石炭火力発電設備が約 1000 基(日本は 54 基)存在。高効率石炭火力発電設備は、2006 年 に同国で USC 第 1 号となる浙江省玉環発電所 1 号が運転開始して以降、2010 年末時点で 27 基の 1000MW 級 の USC が稼働中と言われている(日本は、同クラスが 12 基存在)。2010 年末時点で、新たな建設が予定されている USC は 30 基、SC が 53 基となっている。 4 欧米メーカーは中国市場のみならず、製品の第 3 国輸出も視野にいれ、中国に合弁会社を設立。今 後、安くて良質な製品を提供すると考えられ非常に脅威。日本もインドを拠点に周辺国へ行うべき。 ◎韓国 韓国の石炭火力発電の電源構成比は約 44%。全石炭火力発電設備容量のうち超臨界圧及び超々臨界圧の割合は 約 70%と他 のアジア諸国に比較しても高い。政府は第 5 次電力需給計画(2010-2024)の中で、CO2 排出量を削 減するため、原子力発電と再生エネルギーの割合を増加させる方針を打ち出している。その一方で石炭火力発電につ いても新たに 15 基の建設が予定されており、石炭火力発電の電源構成比は今後減少傾向にあるものの、石炭火力 の設備容量は増加する見込みである。 我が国にとって、高効率石炭火力発電設備の海外展開における競合相手。現時点において、韓国メ ーカーの USC の材料強度の開発が遅れており、差別化が可能。 図 11 事業投資における失敗事例として、伊藤忠商事と J-POWER による USC の建設遅延が上げられる。 USC は天然ガス発電の二倍の CO2 排出量であり、 また建設先の地主からの反対も根強い。結果、二 年間の遅延および多額の損失が発生した。 説明責任を果たし企業と地域住民間での 時間をかけたコミュニケーションを図るべき ◎ まとめ 超臨界圧及び超々臨界圧石炭火力発電に関し、中国、韓国勢が猛追している。SC は各国プレーヤーの技術力が非 常に均衡しており価格競争が激化中。USC は機器性能・品質面で我が国に競争優位性があるものの、中国、韓国勢 が価格競争力を武器に国際マーケット進出を計画中。欧州メーカの中国生産工場からの第 3 国輸出に留意すべき。 IGCC については、米国、日本、欧州、中国にて実用化に向けた実証実験が進行中。本年、米国にて米国企業による IGCC の商業機が運転開始予定であり、現在、建設コストを如何に抑えるかが課題である。 2-2.プラントエンジニアリング分野 概要 ◎ 日本では当産業をインフラ関連・システム輸出、環境・エネルギー課題解決産業と密接な関わりがある産業の一つ として、今後の戦略分野に指定している。しかしながら国際的な競合関係を見てみると、EU やアメリカの企業に 大きく差を広げられており、 中国・韓国企業にも追い抜かれている状況である。プラント・エンジニアリング産 業 と は 、 国としての総合力を製品とサービスという形で提供する分野であり、日本の国としての総合力が活かせる分 野でもある。そのため、今後も国際的な競争力の向上が求められている。 5 12 一次エネルギー需要の変化 -2035 図 エネルギー需要の増減を構成別にみてみると、今 後は石油と石炭には大きな変化が見ら れないも のの、ガスや原子力、バイオマスは増加していくと 予想されている。この需要の増減を地域別にみて みると OECD では、石油、石炭共に減少するの に対し、中国や OECD 以外の地域では大幅な増加 が見込まれており、全体として今後は、ガスが主流 になっていくと考えられる。 2-2-2 世界における PE 産業の比較 ◎ 日本の課題 国際的な競合関係を見てみるとこの 10 年のうちに、 EU やアメリカに大きく差を広げられ、中国韓国には追 い抜かれている状況となっている。日本のプラント・エ ンジニアリング産業が伸び悩んでいることがわかる。 図 13 各国の受注件数比較 ◎日本の強み プラント・エンジニアリング産業における成功条 件を案件の成約と仮定した場合、その成約要 因には、技術力や価格、納期を守れるか、支 払いの条件の良さ等さまざまなものが 考えら れる。その中でも比較的高い割合で成約要因 図 14 となり得るのが技術力の高さである。 一方で、O&M、トップ外交、FS 交渉は受注成 2-2-3.知的財産権の利用 功にはあまり寄与していない。 ◎ 知的財産 国内外で高い専門性を発揮する大手三社を対象に、プラント・エンジニアリング企業の競争力を知的財産という技 術的側面から評価し、比較することで、各企業の強みから競争力向上の方策を探ってみる。 図 15 6 日本企業 17 社と欧州企業 11 社との比較において、基本性の高い特許の比率の平均がそれぞれ日本企 業 17.41%、欧州企業 59.36%であるということが明らかとなっている。一方て専業プラント・エンジニアリング 企業では 36%と平均を大きく上回っていることや特許出願件数も少ないことから、当産業においては特許の 大量出願・取得によって製品を守るのではなく、技術的進歩の大きい技術に絞って特許出願を行っていく戦略 が主流であると想される。 図 16 日揮の場合 日揮では、売上の半分以上を占める石油やガス、LNG 等 の化石燃料の分野ではあまり特許出願がされておらず、化 学や一般産業の分野で多くの出願が行われている。石油・ 石油 化学・ガス・資源の分野では特許出願が 20 件であ るにも関わらず、そのうち 70%が共同出願である。これは 顧客となりうる企業と共同出願が行われており、案件受注 において重要な役割を果たしていると考えられる。また売 上高第三位である LNG の分野では特許出願件数が 1 件のみとなっており、LNG に関する技術を秘匿している か、または、他社からのライセンスで成り立っている。 ◎ まとめ 課題は、発電事業と同様に O&M 及び上流・下流域への拡大であると思われる。何故今まで取り組んでこなかったの か、社員にヒアリングしたが回答は無かった。一方で、国際的に高い評価を得ている専業エンジ同様に、特許の協同 出願・アライアンスによる競争力の強化を図っていくべきである。 2-3.スマートコミュニティ ◎ 概要 スマートコミュニティとは、そこに住む人、家庭、あるいは働く人、事業者などが、環境やエネルギーに優しい行 動を自律的にかつ持続的にとる街であり、これを支えるインフラや社会システムが整っている街のこと。 17 スマートコミュニティのイメージ 図 近年スマートコミュニティが注目される背 景には、エネルギー・環境問題、都市問 題など世界的な喫緊の課題がある。一国 の技術だけでは解決困難であり、グロー バルな連携、複合的なシステム構築が必 要不可欠なことから、産学官連携が求め られている。 7 方向性 ◎ ① 情報通信技術を用い、供給側のみならず需要側をも取り込んで、 エネルギーや多様なサービスの流 れを効率的に制御する、 スマートグリッドが解決の鍵。 ② エネルギーの有効利用という観点からは、電力だけでなく、熱エネルギーや他インフラの有効利用、 社会システムも含めたスマートコミュニティ構築が必要。 ③ 地域毎に異なるニーズに適合するモデルを、各国と共同で検討・構築していくことが重要。 2-3-2. 海外展開に向けた取組 1.日本にとってインフラシステム輸出市場の獲得のチャンス。単体機器の輸出だけでは新興国との価格競 争に陥り、中国、韓国等に市場を奪われる懸念。 2.世界の多様な国・地域ごとのニーズに対して我が国の技術を最適化(ローカライズ)し、 インフラシステム のパッケージとして海外へ展開。 3.国際標準化の獲得に向けて 、実証事業から得られた成果をフィ—ドバックし、国・個別企業との議論を 牽引。 技術開発 送配電制御技術 蓄電池 次世代自動車 熱供給 再生可能エネルギー 交通システム 水素・燃料電池 海外実証 日本の優れた技術をパッケージ化し 海外市場で展開する必要性あり。具体的には、、、 ◎ 海外実証にて日本の技術のショーケース化をはかり、輸出促進に寄与 日本の優れた技術をパッケージ 化し 、海外市場へ展開。 ◎ 日本国内では実証困難な技術システムを実証。 ◎現地企業・国研等の協力を得て高い品質のデータを収集し、国際標準化の推進に貢献。 図 18 海外における実証事業一覧 8 2-3-3. スマートコミュニティアライアンス (JSCA) 図 19 構成員内訳・事業一覧 日本の優れた技術をパッケージ化し、海外市場へ展開するため に、業界の垣根を越えて経済界全体としての活動を企画・推進す るとともに、国際展開に当たっての行政ニーズの集約、障害や問 題の克服等通じて、官民一体となった国内体制を強化。昨年4月 発足。会員625社。送電系統広域監視制御システムや、蓄電複 合システム・インターフェースに係る国際規格案への提案を行って おり、日本企業の競争力強化を図る上で重要な位置づけにある。 ◎ まとめ スマートコミュニティはまだまだ実証段階であり、複合的な産業関連系によって我が国が優位に立てる余地が大きい点 が、他分野との違いである。重工から家電、NEDO といった政府系支援機関から大学に至るまで、いかに産学官で他 国に先んじて実証研究を積み上げられるかが課題である。 2-4 鉄道分野 2-4-1 鉄道市場の現状 ◎ 海外 近年、世界各国で高速鉄道や都市鉄道を整備しようとする動きがある。国際鉄道連合によると全世界で運 行・建設・計画中の高速鉄道は、42,322km になる。また、都市鉄道の建設計画は高速鉄道の建設計画よ りもはるかに多く立てられており、新興国を中心に世界で 200 件以上のプロジェクトが進んでいる。 鉄道産 業の市場規模を推計した欧州鉄道産業連盟によると、世界の鉄道市場は 2015-16 年までは年率 2.0-2.5%の成長を続ける見込みである。また、UNIFE のレポートを基にした経済産業省の資料によると、そ の市場規模は、2007 年時点で年間 15.9 兆円だったものが、2020 年には同 22 兆円(うち、高速鉄道 1.6 兆円、都市鉄道等 20.4 兆円)に達する見込みである。このように諸外国で鉄道整備が進められている背景 には、都市人口の増加にともなう交通需要の増加、都市間輸送における自動車の競争力低下(道路渋滞 や駐車スペースの問題)、移動時間の短縮への要望、環境問題への関心の高まり、国家戦略(軍事目的)等 の理由がある。 ◎国内 環境意識の高まりから「モーダルシフト」の重要性が指摘されるなど、自動車と比べて CO2 排出量の少ない 鉄道への注目が集まっている。その一方、中長期的な人口減少により鉄道需要の低下が見込まれているた め、今後の車両需要は中長期的には現状維持あるいは減少傾向にあると予測されており、大幅な増加は見 込めない。需要不足にともなう車両製造の減少等により鉄道に関する技術継承が難しくなり、技術喪失の 9 危機に直面することかも懸念されている。 2-4-2 諸外国の鉄道建設事情 ◎インド インドでは、2009 年 12 月にインド国鉄が「インド鉄道ビジョン 2020」を策定した。そこでは、 総 延 長 3,700km 以上に及ぶ高速鉄道が計画されており、現在は予備的調査の段階にある。このうち 4 路線に ついては、フランス・ドイツ・スペインが予備的調査を請け負ったが、 残りの 2 路線の予備的調査は日本 が受注し、2015 年 12 月にインド最大の都市ムンバイと工業都市アーメダバードを結ぶ、約 500 キロメー トルの案件を受注した。 ◎ イギリス イギリスでは、2003 年に日立製作所が、ロンドン・英仏 海峡間 の高速 新線・海峡 トンネル連 絡鉄道 Class395 車両の入札に挑戦し、2004 年に HSBC Rail UK との優先交渉権を獲得し、2005 年に同社と 正式に契約した。これは、 車両の製造と保守を行う契約であり、2009 年から運行が始まっている。ま た、同じく日立製作所は、都市間高速鉄道の車両置換え計画の入札にも参加し、2009 年 2 月に、イギ リス政府から優先交渉権を獲得した。2010 年の総選挙結果を受けた政権交代の影響等により計画は 一時凍結されたが、その後交渉が再開され、2012 年 7 月 25 日に正式契約に至った。 ◎アメリカ これまでアメリカでは長距離の移動は主に飛行機または自家用車を活用していた。しかし最近になって高 速鉄道の建設を推進する動きが活発化している。アメリカで現在高速鉄道と見なされているのはボストン ーニューヨークーワシントンを結ぶ北東部路線のみである。このように高速鉄道建設には積極的に動いて 来なかったアメリカで今高速鉄道建設が注目される理由はオバマ大統領が 2009 年 4 月に発表した高速 鉄道網実現のための政府補助金にある。内訳は初年度に 80 億ドル、その後 5 年間に毎年 10 億ドルず つ計 130 億ドルを政府が支出し、高速鉄道網を全米に展開する起点とするというものである。現在助成 対象の候補に挙がっているのがカリフォルニア、フロリダなどを含めた 10 路線と、ボストン—ワシントン間 の整備事業を加えた 11 の計画である。 上記のうち具体性が高いと言われているものが、カリフォルニアの高速鉄道計画である。2008 年の 11 月の住民投票ですでに実施が可決されており、99 億 5000 万ドルの州政府債券の発行も決定してい るためだ。また、カリフォルニアには 80 億ドルのうち最大の配分である 22 億 5000 万ドルが充てられる 見込みである。この大規模なカリフォルニア高速鉄道計画が実現すれば、カリフォルニア州北部のサクラメ ントから同南部のサンディエゴまで総距離 800 マイル、最高速度は時速 220 マイル、サンフランシスコ— ロサンゼルス間を 2 時間 40 分で結ぶ高速鉄道が誕生することになる。高速鉄道の案件はオバマ大統領 が 2009 年の就任後すぐに、高速鉄道の建設計画を打ち出したが、これまで手が付けられずに来た中 で、このカリフォルニア高速鉄道の案件が今年の 1 月 6 日になりやっと起工された。2029 年にはサンフ ランシスコ—ロサンゼルス間の部分的開業を目指している。この路線については日本と中国の間で熾烈 な受注競争が行われており、日本は JR 東海をはじめとした企業群が、超伝導リニア高速鉄道の技術を持 って案件受注に乗り出している。 10 今後の課題と方策 ◎ 規格の違い 鉄道に関する基準や規格の国際標準化への対応が必要である。ヨーロッパでは、EU 統合の動きの中で鉄道 市場も一体化されるようになり、国境を越えた直通運転などが始まった。こうした状況下でヨーロッパ共通の 規格が必要とされるようになり、それらの規格がそのまま規格化されるようになった。 例えば、「RAMS」とい うシステム規格がある。これはもともと EN 規格であったものが国際規格化されたものであり、その内容は、 Reliability・Availability・Maintainability・Safety の 4 項目について、「目標値を設定し、それらが設計、製造、 試験および運用の各段階を通じてどのように実現されるかの証明手続きを定めた」ものである。これにより、 故障率、稼働率を、保全性から保全に費やされる時間率、また、安全性についても死傷率を求められるよう になり、発注仕様書に故障率、稼働率、死傷率等を定量的に規定することが可能となった。その一方、日本 では、そもそも鉄道技術が規格化されてこなかった。このため、たとえ海外プロジェクトの発注仕様書に日本 工業規格を国際規格と同等のものとして扱うと記載されていても、そもそも技術が JIS 化されていないケー スが多く、また仮に JIS 化されていても、その英文が準備されているケースは少ないことから、入札が難しくな る。 このように、国際規格と日本の国内規格とが合致していない場合、それが日本企業の国際入札への参 加の障壁となる可能性が高い。また、国内向けの製品とは別に、国際規格に合致した国際向けの製品を用 意する必要が生じることから、製造コストが上昇する懸念がある。 規格の国際標準化の推進、仕様書・技術のマニュアル化 ◎鉄道コンサルの育成 鉄道インフラの建設は、1 準備段階、2 入札段階、3 実施段階(建設・製造)、4 営業運転段 階に区分する ことができる。このうち、1 準備段階の重要性が高まっている。これは、準備段階の作業を請け負うことがで きれば、そのプロジェクトで用いる技術や標準について影響力を行使できるからである。例えば、欧州の鉄道 コンサルティング会社が準備を請け負った案件は、 欧州の規格を活用する前提で計画が立てられるため、 欧州の企業が参入しやすくなる。フランスでは、鉄道メーカー・アルストム社の出向者を受け入れているシスト ラ社がコンサルタント業務を行っていることから、鉄道メーカーが計画段階から間接的に関与できる。この場 合、日本の企業が入札しようとすると、フランス(欧州)基準に適合したシステムを納入する必要が生じるた め、コスト競争力等で不利になることが多い。また、世界の鉄道市場の 6 割程度を占めるビッグ・スリー各社 の場合、土木インフラの建設から運行後のメンテナンスに至るまでを完結させる体制が確 立 さ れ て い る。そ の一方、日本では鉄道を運行するにあたっての技術やノウハウが JR などの鉄道会社、日立や川崎重工とい った車両メーカーなどに分散している 鉄道コンサル・コーディネーターの育成 11 ビック 3 の動向 鉄道車両の世界市場において、日本勢の前に大きく立ちはだかるのが「ビッグ3」と呼ばれる鉄道車両メ ーカーである。日本企業のシェアは、日立製作所や川崎重工業などの主要な企業を合計しても1割程度 に過ぎないのである。それに対して「ビッグ3」と呼ばれるドイツのシーメンス、フランスのアルストム、カナダ のボンバルディアは各社とも世界で2割程度のシェアを誇っており、3社合計では世界の6割近いシェアを 持つのである。以下でビッグ3各社についてまとめた。 ◎ シーメンス 1847 年設立。インダストリー、エネルギー、ヘルスケアの3部門が軸であり、その売り上げは約 10 兆円に上 る。世界の鉄道車両生産額シェアで 16%を占めている。アメリカでも大きな存在感を持っている。シーメンス は最近 20〜30 年の間、アメリカで買収を通じて事業を拡大させてきた。現在アメリカでの従業員数は約6 万人に上り、売上高は 220 億ドルである。同社は、最近になってガスタービン設計拠点をカナダからノースカ ロライナ州シャーロットに移転した。この目的は、米国内での雇用促進を大きな売込み材料のひとつとして、 アメリカの高速鉄道の受注を得ることだ。また、シーメンスが高速鉄道計画を受注した場合は、カリフォルニ ア州の鉄道関係製造拠点を拡大する方針である。日本も同様にアメリカでの受注を目指しているが、その大 きなライバルである。 ◎ アルストム 1928 年の創業。イタリアやドイツの鉄道車両メーカーの買収を行い、シェアを拡大。世界の鉄道車両生産額 シェアでは 19%を占めている。近年では、オランダ、モロッコ、アルゼンチンがフランスの高速鉄道 TGV シス テムの導入を決定している。また同社は、ロシアで合弁事業を立ち上げ、製品開発を行っている。ロシアは総 延長 8 万 5,000km の鉄道を有しており、年間乗客数は 13 億人と欧州最大の鉄道市場を誇っている。さら に、ブラジルの高速鉄道計画を、有利に進めているのもこのアルストムである。日本も同様にブラジルでの受 注を目指しているが、その大きなライバルである。 ◎ ボンバルディア 1937 年設立。その後、航空機や鉄道車両などの企業を吸収し、カナダとヨーロッパにまたがる総合鉄道産 業に成長してきた。世界の鉄道車両生産額シェアでは 21%を占めている。ボンバルディアは、最近になって アジアの鉄道市場に参入してきた。その例が韓国である。ソウルの南約 50 キロに位置する龍仁市は、急増 する人口に対処するための都市鉄道の建設と運営を請け負う事業者を公募したが、それを受注したのがボ ンバルディアである。さらに同社は、2014 年までに中国へ同社製の高速鉄道車両である Zefiro を 80 台 20 億ドルで輸出する契約を明らかにした。現在、日本の新幹線が優位性を持っている中国の高速鉄道市場で あるが、ボンバルディアは今後の強力な競争相手になっていくと考えられる。 12 車両メーカーの比較 図表 20 鉄道車両生産ランキング・車両 スペック比較 日立製作所の奮闘などにより日本の鉄道メーカーの存在感 も増してきているとはいえ、ビッグ3には遠く及ばないという のが現状である。 3.インフラ輸出競争力強化の方策 3-2 鉄道分野 ◎ 総合力 ビッグ3は、鉄道事業の垂直統合を行い、鉄道車両のみではなく、電機品、信号、運行管理システムを自ら 製造、あるいは調達し、これらを一括して提供し、さらには、高速鉄道完成後における列車運行管理までも 行う総合鉄道メーカーである。発注者側からしても、そうしたものをひとつに統合されたトータルシステムとし て発注できれば便利であるため強みがある。それに対し、日本の新幹線は、車両、電機品、信号、変電など をそれぞれのメーカーが納入する分業スタイルによって造られる。各メーカーは JR や、私鉄といった鉄道事業 者に製品を納入し、車両の運行や保守は鉄道事業者側が行うのである。 交渉は商社(サンフランシスコ・ブラジル高速鉄道の案件の幹事役等)製造はメーカー・運営 は JR で分業していてはスピード down とコスト up に。新幹線分野は合弁で出資会社を作るべ き! 13 ◎ トップ外交 ランスとドイツは、トップセールス活動において日本の先を行っている。フランスのサルコジ大統領はアルスト ム、ボンバルディアの TGV を、そしてドイツのメルケル首相はシーメンスの ICE を売ることを責務として活動し ていた。日本の場合は、TGV=アルストム、ボンバルディア、ICE=シーメンスというような、受注窓口になる 企業が明確になった図式はできておらず、前述したように、新幹線を造るためのメーカーが多岐に渡ってお り、特定の企業を首相が応援できないというのが現状である。 上述のように合弁会社を設立し、輸出車両の窓口を一本化した上で営業すべき! 国家プロジェクト級の案件が多い高速鉄道は、外交手腕に頼らざるを得ない面もある。 ◎ 雇用面 各国が大規模な高速鉄道建設計画を掲げている要因のひとつとして挙げられるのが、雇用の拡大である。 特に金融危機以降、経済が停滞しているアメリカでは、雇用の創出が高速鉄道建設の大きな目的のひとつ である。そのため、技術力で勝っていたとしても、雇用の拡大が伴わなければ、受注を獲得できる可能性は 決して高くはないのである。高速鉄道建設に伴うアメリカ国内での雇用における貢献度が勝敗を分けるカギ になる。もちろんそれはアメリカに限ったことではない。雇用という形で発注国側に貢献できれば、それは受 注を獲得するために有利に働くのである。そこで必要になってくるのが、日本の車両メーカーの現地製造工 場の設立である。現地で製造工場を設立し車両の現地生産を行えば、現地の従業員を雇用することとなり、 雇用の拡大に貢献できるのである。一般の鉄道車両ではすでにその動きが始まっている。例えば、JR 東海の 連結子会社であり、鉄道車両メーカー最大手の日本車両製造は、住友商事と共同でアメリカシカゴの北東イ リノイ地域鉄道公社から鉄道車両 160 両を受注し、車体部分は日本から輸出するものの、最終的な組み立 て作業は現地で行った。こうした動きは、現地雇用の拡大に繋がり、アメリカでの高速鉄道受注を目指す日 本企業にとって追い風となる。一方で、全行程を海外に持っていってしまえば企業の利益は損なわれてしま う。 上述の住商の案件のように、生産ラインのどこまでを日本で担当し、どの部分からを海外で行 うのかという棲み分けを考える必要がある。制御装置などの高い技術力が必要なものは日本 で製造し、現地工場では部品の組み立て作業を受け持つといったような棲み分けを行うこと が好ましい選択と言える! 14 <参考文献> インフラ海外展開推進のための有識者懇談会(2013)『これからのインフラシステム輸出戦略』 経済産業省(2012)『インフラシステム輸出の現状』 経済産業省(2012)『日本企業の競争力の現状と課題』 経済産業省経済産業政策局産業再生課(2010)『産業構造審議会産業競争力部会報告書 ~産業構造 ビジョン 2010~』 一橋大学 鉄道研究会 (2014)『日本の高速鉄道輸出を考える』 平野雄一 土橋喜 (2010)『世界の高速鉄道需要と日本の輸出商戦(1)』 平野雄一 土橋喜 (2010)『世界の高速鉄道需要と日本の輸出商戦(2)』 真子和也(2012)『鉄道インフラ輸出—新幹線を中心に—』 みずほ総合研究所(2015)『アジアの「成長」を取り込むインフラ輸出戦略』 野村総合研究所(2011)『インフラ整備のためのインフラファンドの活用促進調査』 三菱東京 UFJ 信託(2012『海外投資家のインフラ投資動向について』 三井物産(2013)『進むインフラファイナンスの多様化』 大和総研(2011) 『インフラファイナンスにおけるインフラファンド』 経済産業省(2012) 『日本企業の競争力の現状と課題』 白川 宏昭(2011)『プラント・エンジニアリング企業の 知的財産活動の分析』 NEDO(2015)『スマートコミュニティの現状と今後の展望』 日本コンサルティング HP 経済産業省 HP MEMO 15