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BEPS 行動計画について

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BEPS 行動計画について
BEPS 行動計画について
デロイト・トゥシュ・トーマツ北京事務所
はじめに
2012 年 6 月の OECD 租税委員会本会合において、米国から「税源侵食と利益移転」(Base
Erosion and Profit Shifting: 以下は「BEPS」)が法人税収を著しく減尐させている点を憂慮してい
るとの問題提起がなされたことから、OECD においてワーキング・パーティーとは別に、
「BEPS プロジェクト」が開始された。
2013 年 2 月 12 日には初歩的な報告書「税源侵食と利益移転への対応( Addressing Base Erosion
and Project Shifting)」が発表され、わずか 4 ヶ月後の同年 6 月には「BEPS を取り扱うためのグ
ローバルな行動計画」の策定に係る新たな報告書が OECD で承認されることになった。各行動
計画の概要及び期限は以下通りである。
行動計画
概要
1
電子取引課税:電子商取引により、他国から遠隔で販売、サ
ービス提供等の経済活動ができることに鑑みて、電子商取引
に対する直接税・間接税の在り方を検討する。
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ハイブリッド・ミスマッチ取り決めの効果否認:ハイブリッ
ド・ミスマッチ取引とは、二国間での取り扱い(例えば法人か
組合か)が異なることを利用して、両国の課税を逃れる取引。
ハイブリッド・ミスマッチ取引の効果を否認するモデル租税
条約及び国内法の規定を策定する。
外国子会社合算税制の強化:外国子会社合算税制(一定以下
の課税しか受けていない外国子会社への利益移転を防ぐた
め、外国子会社の利益を親会社の利益に合算)に関して、各国
が最低限導入すべき国内法の基準について勧告を策定する。
利子等の損金算入を通じた税源侵食の制限:支払利子等の損
金算入を制限する措置の設計に関して、各国が最低限導入す
べき国内法の基準に係る勧告を策定する。
親子会社間等の金融取引に関する移転価格ガイドラインを策
定する。
有害税制への対抗:OECD の定義する「有害税制」につい
て、
①現在の枠組みを十分に生かして(透明性や実質的活動等に焦
点)、加盟国の優遇税制を審査する。
②現在の枠組みに基き OECD 非加盟国を関与させる。
③現在の枠組みの改定・追加を検討。
報告書等の公表期限
2014 年 9 月
2014 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 12 月
2014 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 12 月
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租税条約濫用の防止:条約締約国でない第三国の個人・法人
等が不当に租税条約の特典を享受する濫用を防止するための
モデル条約規定及び国内法に関する勧告を策定する。
恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止:人為的に恒久的施
設の認定を免れることを防止するために、租税条約の恒久的
施設(PE: Permanent Establishment)の定義を変更する。
移転価格税制(①無形資産):親子会社間等で、特許等の無形
資産を移転することで生じる BEPS を防止する国内法に関す
る移転価格ガイドラインを策定する。
価格付けが困難な無形資産の移転に関する特別ルールを策定
する。
移転価格税制(②リスクと資本):親子会社間等のリスクの移
転又は資本の過剰な配分による BEPS を防止する国内法に関
する移転価格ガイドランを策定する。
移転価格税制(③他の租税回避の可能性が高い取引):非関連
者との間では非常に稀にしか発生しない取引や管理報酬の支
払を関与させることで生じる BEPS を防止する国内法に関す
る移転価格ガイドランを策定する。
BEPS の規模や経済的効果の指標を OECD に集約し分析する
方法を策定する。
タックス・プランニングの報告義務:タックス・プランニン
グを政府に報告する国内法上の義務規定に係る勧告を策定
移転価格関連の文書化の再検討:移転価格税制の文書化に関
する規定を策定。多国籍企業に対し、国ごとの所得、経済活
動、納税額の配分に関する情報を、共通様式に従って各国政
府に報告させる。
相互協議の効果的実施:国際税務の紛争を国家間の相互協議
や仲裁により効果的に解決する方法を策定する。
多国間協定の開発:BEPS 対策措置を効率的に実現させるた
めの多国間協定の開発に関する国際法の課題を分析
その後、多国間協定案を開発
2014 年 9 月
2015 年 9 月
2014 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 9 月
2015 年 9 月
2014 年 9 月
(2015 年 2 月に追加
報告書を公表)
2015 年 9 月
2014 年 9 月
2015 年 12 月
本稿では、既に報告書が公表された行動計画のうち、在中国日系企業に影響を及ばすものと
して、行動計画 6「租税条約濫用の防止」及び、BEPS 行動計画 13:「移転価格関連の文書化
の再検討」を中心として紹介する。
二、 BEPS 行動計画 6:租税条約濫用の防止
OECD は 2014 年 3 月 14 日に、租税条約濫用の防止に係る討議草案が公表され、それに対す
るビジネス界からのコメントを踏まえ、同年 9 月 16 日に当該討議草案を改正した報告書が発表
された。さらに報告書において「更なる検討が必要」とされた事項について、同年 11 月 21 日
に、追加討議草案が公表された。本項では討議草案及び報告書の概要を解説することとする。
※討議草案※
2
 OECD モデル租税条約及び国内方の改定による特典の不当な享受の防止
 特典制限条項(Limitation-on-benefit provision)(以下は「LOB 条項」):討議草案には LOB
条項を OECD モデル租税条約に導入することを提案されていた。LOB 条項は、関連国
において十分な実態を持つ企業(及び個人、非営利組織、年金基金、政府機関等)にのみ
租税条約の特典を与えることを目的とし、締約国の居住者の法的性質、所有権の帰属及
び通常の活動に基き運用される。また、「派生的受益者(derivative benefits)」の規定を
LOB 条項に含めるべきか否かについても触れている。それは、締約国が特典を付与する
か否かを判断する際に、中間事業体がないものとして、その出資者を見ることを認める
ものである。
 主要目的テスト(Main Purpose Test)(以下は「MPT」):討議草案に、LOB 条項のほか、
MPT の導入が提案された。MPT というのは、たとえ LOB 条項の規定で租税条約の特典
を享受できるとしても、アレンジメントや取引が、条約特典の享受を主な目的の一つと
しているのであれば、当該特典を付与しないとする規定である。
 租税条約上の居住者の判定:討議草案では、現行の OECD モデル租税条約にある二重居
住者(国内法における取り扱いの相違により、一つの事業体が両方の締約国において居
住者と認定される可能性がある)に係るタイ・ブレーカールール(実質的な管理機構の所
在地に基づき居住者を判定する)を削除し、代わりに両国の権限ある当局が、実質的な
管理機構の所在地、事業体の登録地及びその他の関連の要因を参照して、協議により居
住者を決定することを提案している。
 最低持株期間:ポートフォリオ以外の配当に係る源泉税の低減税率の適用について、最
低持株期間の条件を加えることを提案している。即ち、株主が配当に係る低減税率の提
供を受けるためには、一定期間(配当支払時点を含む)、株を保有することが必要となる。
 恒久的施設(以下は「PE」)への支払に係る源泉税:第三国の PE への支払に係る源泉税
の免除を制限する条項の導入を提案している。具体的には、受領者の居住国と第三国
(PE 所在国)の合算税率が、居住国における税率の 60%を下回る場合には、第三国の PE
への支払に係る源泉税は免除の適用を受けることができない。
 二重非課税は租税条約の意図するものではないと明確化
 脱税及び租税回避(租税条約の濫用を含むが、それに限らない)の防止が租税条約の目的
であることを明確にするため、OECD モデル租税条約のタイトルと序文を改定する。各
国が租税条約を締結する目的は、脱税と租税回避の機会を生むことなく、二重課税を回
避することにある。OECD モデル租税条約のタイトルと序文の改訂は、租税条約の解釈
とも関連する。
 各国が租税条約を締結する前に考慮すべき租税政策上の考慮点
3
 討議草案には、OECD モデル租税条約において、各国が条約の締結、変更(又は終了)等
に関して考慮すべきキーポイントを提示することを提案している。クロスボーダーのサ
ービス、貿易、投資に係る税務上の障害を減らすために、二重課税の回避がなお租税条
約の主要な目的とされるが、その他の要因も考慮する必要がある。例えば国内法による
二重課税回避の可能性、非課税リスクの増加、高い源泉税率による過大な税負担、確実
性の向上、納税者のクロスボーダー紛争解決の能力、将来的な締約国との徴税上の協力
及び情報交換の可能性などを含む。
※報告書※
 濫用の防止:前に発表された討議草案とは異なり、報告書には LOB 条項及び PPT( Principle
Purpose Test, 討議草案には MPT という)の両方を同時に条約に含めることは勧告していない。
代わりに、当該報告書では、「最低基準」という形で、条約の濫用を防止するため、最低
でも各国が次のいずれかの措置を講じることとしている。
 LOB 条項と PPT 条項を組み合わせた方法
 単独で PPT 規定を採用
 LOB 条項と租税条約において扱われていない導管システムに対応するメカニズム(租税
条約又は国内法(司法判例を含む)に含まれる)による補完
 派生的受益者条項:LOB 条項に関する提案には、派生的受益者条項が暫定的に含まれてい
る。これは、締約国が企業を透視して、その出資者に特典を付与することを認めるもので
ある。条約の交渉国は租税条約を締結する際に、当該条項の適用範囲を配当所得に限定す
る柔軟性を与えれれるだろう。派生的受益者条項の導入は、それによって生じえる問題を
その他の BEPS 行動計画によって解決できることを前提としているため、2015 年に再検討
されることになる。
 主要目的テスト(「PPT」):租税条約の特典を受けることが、取決めもしくは取引の主な目
的の一つである場合、その特典を与えないというものである。
 租税条約上の居住者の判定:報告書では、現行の OECD モデル租税条約にある二重居住者
に係るタイ・ブレーカールール(実質的な管理機構の所在地に基づき居住者を判定する)を削
除し、代わりに両国の権限ある当局が協議を行い、居住地国の決定に向けて努力するとし
ている。ただし、現行のルールの濫用はないと考える国は、引き続き現行のルールを用い
ることができる。
 最低持株期間:租税条約の特典として、ノンポートフォリオ以外の配当に係る源泉税に低
減税率が適用される場合、最低持株期間の条件を加えることを提案している。即ち、株主
が配当に係る低減税率の提供を受けるためには、配当支払い日を含む 365 日間、株を保有
する場合に限られる。
 恒久的施設(「PE」)への支払に係る源泉税:税率の低い第三国にある PE への支払について、
当該 PE の利益が居住国において免税適用を受けている場合、源泉国における当該支払に係
る源泉税の減免待遇は制限される。
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三、BEPS 行動計画 13:移転価格関連の文書化の再検討
移転価格文書の行動計画 13 については、2014 年 1 月に発表された討議草案いついてビジネ
ス界からも多くのコメントが OECD に寄せられた。その後、同年 9 月 16 日に OECD は「移転
価格文書及び国別報告書のガイダンス」を含む報告書を発表した。本報告書は、移転価格ガイ
ドラインの第 5 章に係る改定案となる。第 5 章は、各国税務当局に対しては、移転価格調査や
リスク評価の際に納税者に要請する移転価格文書に係る規則や手続についてのガイドラインで
あり、納税者に対しては、関連者取引が独立企業間価格で行われていることを説明する最も適
切な情報となる移転価格文書を整備するためのガイダンスとなる。
2015 年 2 月 6 日に OECD は移転価格関連の文書化及び国別報告書に関わる指針を公布した。
それには、いつ国別報告書を準備し、提出するのか、どのような企業が当該レポートの作成を
求められるのか、各国がどのように当該レポートを使用するのかということ、および政府間で
の当該レポートの交換制度などの問題が含まれる。
なお、2015 年 6 月 8 日に OECD は国別報告書に関わる実施パケージを公表した。これは、上
記二つの報告書を踏襲したものであり、各国政府が新しい規則を採用する際に使用できるモデ
ル法令と国別報告書の共有メカニズムを実行するための権限ある当局間の協定について概説し
ている。
本項では移転価格文書及び国別報告書のガイダンスに係る上記報告書の概要を解説してゆく
こととする。
※移転価格文書を構成する 3 つのレポート※
 移転価格文書の目的を達成するために、標準化された取り扱いが必要となる。OECD はマ
スターファイル、ローカルファイル、国別報告書の三層レポート構造の移転価格文書化ア
プローチを採用した。
 マスターファイルは、企業のグローバルの事業、無形資産の開発と所有権の帰属及び金
融に関するグローバルポリシーの全体像を税務当局に提供することを目的としている。
現地の企業の取引に直接的な影響を与える情報を除き、マスターファイルに含まれる多
くの情報は、これまで税務当局が入手できなかったものである。概要を示す資料として、
主に以下 5 方面の資料が含まれている。
a)
b)
c)
d)
e)
多国籍企業の組織関係
多国籍企業の事業に関する概要
無形資産の概要
グループ内金融活動
多国籍企業の財務と納税状況
 ローカルファイルには従来の移転価格文書に含まれる情報と同様の内容が含まれる。ロ
ーカルファイルは機能分析及び経済分析が中心となるが、従来の多くの移転価格文書に
は含まれていない追加的な詳細情報が要求される。その中には 3 方面の情報が含まれて
いる。
5
a) 現地における対象事業体
b) 関係者間取引(取引の概要、金額、比較分析、適切な移転価格算定方法の選定等)
c) 財務諸表
 個別報告書は、国別の包括的な報告書として、国別に合計した所得配分、納税状況、経
済活動の所在を示す情報が含まれている。税務当局はそれを使ってハイレベルな移転価
格のリスク評価を行う可能である。ただし、国別報告書の情報は、各関連者間取引の移
転価格を検証する資料ではないため、それによって移転価格が適切であるかを議論する
ことはできず、国別の情報を使って全世界定式配分方式に基く課税を行うべきではない。
※コンプライアンスに関する論点※
 同時文書化
 納税者は、移転価格の設定前にその価格が適切であるか検討をすべきであり、税務申告
書を提出するときにその取引結果から独立企業原則について確認すべきである。
 納税者は文書化で、過大なコストや負担を強いられるべきではなく、税務当局は納税者
のコストや負担についてバランスを取ることを要請される。
 文書の作成時期
 移転価格文書の提出時期は各国で異なるが、ローカルファイルは、対象事業年度の税務
申告時までに作成されていることが望ましい。
 マスターファイルは、多国籍企業の親会社の申告期限までに再検討され、必要に応じて
更新されることが望ましい。
 国別報告書の作成時期は、構成事業体からの財務情報等の入手のタイミングに鑑みて、
多国籍企業の親会社の事業年度終了日から 1 年間期限とする。
 重要性
 各国の移転価格文書化の規定には、現地経済の規模や状況、現地企業の重要性、企業の
事業規模や内容、多国籍企業の規模や事業内容を考慮する、一定の重要性基準を設定す
ることが推奨される。
 重要性基準は、商業上の実務において一般的に理解され受け入れられる客観的な基準と
されるべきである。中小企業の文書化については、大企業に比して軽減されることが、
コストと負担のバランスを考慮する必要がある。
 国別報告書については、多国籍企業グループが事業を行う納税地での企業活動の規模に
関係なく、税務上の納税地のすべてが記載されるべきである。
 文書の更新頻度
 原則として、マスターファイル及びローカルファイルは、毎年更新されなければならな
い。ただし、負担軽減の観点から、ローカルファイルの一部は 3 年ごとの更新が認めら
れることとされた。
6
 言語
 移転価格文書に使用される言語は、各国の国内法に拠ることとする。各国は、文書化の
有用性を損ねない範囲で、汎用的な言語での提出を認めることが推奨される。なお、税
務当局は、納税者の負担を考慮し、マスターファイルの必要部分の翻訳を依頼できる。
 罰則
 移転価格文書を整備していなかった場合の罰則を既に導入している国にも多くある。罰
則は各国の国内法制度に基いて導入を検討されるが、納税者のコンプライアンス遵守と
移転価格文書の効果的な運用を確保することを目的としたものである。
 守秘義務
 税務当局は納税者の営業上の秘密情報、技術上の秘密情報や商業的に影響する情報が開
示されることのないように情報を管理する必要がある。
※執行※
 OECD はマスターファイルと国別報告書の提出先について、今後更に検討を行うが、ロー
カルファイルは、現地の税務当局に直接提出されるものとなる。
まとめ
BEPS プロジェクトの作業は 2014 年に多くの成果を上げた一方、今後多くの難題を検討する
必要がある。租税条約と国内法の法的位置付け、関連条約の執行可能性及び画一的な合意に至
るまでの困難に直面し、今後はどのような形で最終案を纏めるのかが注目されている。
なお、BEPS プロジェクトは中国の租税管理に実質的影響をもたらすことは必至であり、か
つ BEPS 行動計画の最終的な結果がどうであれ、中国の税務当局は関連の義務を履行すること
についてのプレッシャーを受けることになる。国家税務総局は 2015 年中に公布される予定の改
正後の特別納税調整実施弁法に国別報告書に関する具体的な規定を盛り込むものと見込まれて
いる。今後、BEPS の指針により、関連国内法律規定を改正する場面が予想されているので、
納税者は税法更新の動向に留意されたい。
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