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PDF/123KB - みずほ総合研究所
パナマ文書 Q:パナマ文書とは何ですか A:パナマ文書とは、中南米にある パナマの法律事務所「モサック・ フォンセカ」 から流出した内部資料 で、 顧客との契約書類や電子メール など、 1,150 万点にも上ります。ド イツの有力紙の記者がこれらの資 料を匿名の情報提供者から入手し、 世界各国の報道機関などが加盟す る国際調査報道ジャーナリスト連 合 (ICIJ) に提供しました。 ICIJは約1 年をかけて内容を分析し、 2016 年 4月に、資料の存在や関係する一部 の個人名を公表したほか、同年5月 には、タックスヘイブン(租税回避 地)に設立された 21 万社以上の法 人及び関連する個人や法人につい ての情報を公表しました。 Q:パナマ文書は、なぜ注目さ れているのですか A:パナマ文書により、世界各国の 首脳をはじめ、権力者や富裕層、大 企業などによるタックスヘイブン の利用実態が明らかになったから です。 多くの国では、2008 年の世界 的な金融危機後の国家財政の悪化 を受け、課税強化や福祉の削減が 進められてきました。一般の国民 が負担の増加を強いられる中、一 部の層のみが税負担を免れている のではないかとの疑惑が広がり、 各国で国民の批判が高まりをみせ ています。アイスランドでは、パナ マ文書の公表を受けて、首相が辞 任する騒ぎにまで発展しました。 Q:タックスへイブンの利用は 何が問題なのですか A:タックスヘイブンは、租税回 避地とも呼ばれ、税負担が他国と 比べて著しく低い国や地域のこ とを指します。有力な産業を有し ない小さな島国が多く、英領バー ジン諸島やケイマン諸島、パナマ な ど が 挙 げ ら れ ま す 。こ れ ら の 国・地域では、課税情報の入手可 能性や透明性が低いことも特徴 です。こうした特徴から、タック スヘイブンが企業や富裕層など による課税逃れ(過度な節税)や 資産隠し(脱税)の温床となって いるのではないかと指摘されて います。ただし、タックスヘイブ ンの利用が直ちに問題になるわ けではなく、日本の個人や法人の 場合、国内で適正に納税されてい れば、特段の問題はないことに留 意が必要です。 Q:これまでどのような対策が 講じられてきたのですか A:第一に、一部の多国籍企業によ る各国間の税制の違いや抜け穴を 利用した過度な節税への対応が挙 げ ら れ ま す 。経 済 協 力 開 発 機 構 (OECD)は、税源浸食と利益移転 (BEPS)と呼ばれるプロジェクト を立ち上げ、2015 年には 15 の行 動計画から成る報告書をまとめま した。現在、新興国を含めた 44 の 国・地域が報告書の内容を順守す ることに合意しています。 第二に、匿名性の高さを利用し た資産隠しなどの脱税への対応が 挙げられます。各国の課税当局は、 税の透明性を向上させる観点か ら、一定の基準を満たす非居住者 の口座情報を定期的に交換する 「自動的情報交換」の取り組みを本 格化させています。2014 年には OECD が共通報告基準を策定し、 現在、タックスヘイブンを含めた 101 の国・地域が順守することに 合意しています。 第三に、法人の実質的所有者に 関する情報の透明性の改善に向け た取り組みが挙げられます。課税 当局間の情報交換の実効性を確保 するためには、表面的な情報から だけでは把握できない法人の実質 的所有者を明らかにすることが重 要になります。2016 年 4 月に開催 された 20 カ国・地域(G20)財務 相・中央銀行総裁会議の声明でも、 実質的所有者情報について、入手 可能性の改善や当局間の国際的な 情報交換の重要性が強調されてい ます。 Q:今後の課題は何ですか A:タックスヘイブンの問題に対 しては、上記の通りこれまでも国 際的な取り組みが行われてきま した。今後は、こうした取り組み を 踏 ま え 、各 国 が 協 調 し て 対 応 し、課税情報の透明化を通じて、 実態把握の実効性を高めていく ことが重要になります。また、先 の G20 声明でも触れられた通り、 国際的な枠組みに参加してない タックスヘイブンに対しても参 加を促し、租税回避の抜け穴をふ さいでいくよう、国際的な協調を 一層進めていくことが求められ ます。 みずほ総合研究所 金融調査部 主任研究員 小山剛幸 [email protected]