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本文 - 京都産業大学

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本文 - 京都産業大学
I S S N 0 2 8 7 9‐0 2 ( 京 産大論集)
I S S N
0 2 8 7
フランス語 の 関係節 にお け る
文体 的倒置 につ いて
平
塚
徹
京都産業大学論集
外 国語 と外国文学系列 第 29号
平 成 1 4 年3 月
9国7 語
3 5系)
( 外
*
フランス語 の関係節 における文体的倒置 につい て
平 塚
要
徹
旨
主節 平叙文 にお い て倒 置 主語 が焦点 で あ る こ とは明 らかであ る。 しか し、以 下 の論拠
に よ り、 フ ラ ンス語 関係節 の倒置主語 は焦 点で あ る と考 える こ とはで きな い。 1)制限的
関係節 は 、通 常そ の 内容 が 前提 され てお り、焦点 を含み えな い 。2)関係節 の倒置 主語 は、
主節 平叙 文 の倒置主語 と異 な り、前方照応 的に解釈 す るこ とがで きる。 3)関係節 にお い
ては、1∼2語 か らなる主語 のなかでは 、固有名 詞 や人間 を指す単数 の主 語 が倒置 しやす
い。4)関係節 にお い ては、倒 置 主語 の後 に容易 に前置詞 句や副詞 句 が現れ うる。以 上 よ
り、関係節 の倒置主語は焦点ではない と結論 できる。
r■
duatlonの高 い 主語 の方 が 、そ うでな い 主語 よ りも倒 置 しや
関係節 にお い ては、indi■
す い。 この こ とか ら、以 下 の仮説 を提案 す る。制 限的関係節 にお い ては、主語 が動詞 よ
りも先行詞 の指示対象 の確 定 に寄与 してお り、か つ 、動詞 が主語 と先行詞 の 間 の関係 を
表 して い るにす ぎない場合 に文体的倒置が可能 とな る。
フ ラ ンス語 関係節 にお け る文体 的倒 置 に対す る この制約 は、名 詞句 の指示対象 の確
定 に対す る寄与 が大 きい 要素 ほ ど名詞 句 内 の右方 に来て、寄与が小 さい 要素 ほ ど左方 に
来 る とい う通言語的傾 向 の現れ と して理 解 できる。 この傾 向は、以下 の現象 にお い て観
察 され る。 1)多 くの言語 にお い て、不定代名詞 は、それ を修 飾す る形容詞 に先行す る。
2)ロマ ンス諸語 にお い て、外延 を狭 めない形容詞 は、名詞 に先行す る。
キ ー ワー ド:フラ ンス語、文体的倒置、関係節 、不定代名詞、語順
平 塚
1 は じめ に
文 体 的 倒 置 を適 用 され た 主 語 が 焦 点 で あ る こ とは 、 ほ ぼ 定 説 と認 め て よい 。
フ ラ ンス 語 に お い て も、 東 郷 '大 木 (1986)は 、 以 下 の 倒 置 構 文 で は 主語 名 詞
句 が焦 点 に な つ て い る こ とを確認 して い る。
(1)Edtta la guere(東 郷 ・大木 ,1986,pl)
う,夕)
iers marchホ
ent les soldtts(ブ
(2)Dcrriёre les cav』
しか し、 倒 置 主 語 が 焦 点 で あ る こ とは 、 主 に 主節 平 叙 文 を対 象 に して 論 じ
られ て き た 。 これ に対 して 、 フ ラ ン ス 語 で は 、 疑 問 詞 疑 問 文 や 関係 節 に お い
て も、文 体的 倒 置 が 頻 繁 に見 られ る。
肋″―
Cr,sa in崩 更 0巴 TF)
(3)Et tt habite ce gneur?lDumas,A,乙 夕C碑 ″舟″
H,
ma↑
(4)■oussommeslあ dans ie quartier ot habie votre ancienne tresse,(Murgei
解 F)
ルル うθみθ
″夕
sル 筋 ッ
挽カタ
,in DrSCO'切
問 題 は 、 これ らの 環 境 に お け る文 体 的 倒 置 も主 語 の 焦 点 化 と考 え て よ い か
で あ る。 平塚 ( 近刊 ) で は 、 疑 問 詞 疑 問 文 に お い て 文 体 的 倒 置 を適 用 され た 主
語 が 焦 点 で は な い こ とを示 した 。 本 稿 で は 関係 節 に お い て も倒 置 主語 はや は
り焦 点 で は な い こ とを主 張す る。
以 下 、 第 1 節 で は 、 関係 節 の 倒 置 主語 も焦 点 で あ る とす る仮 説 を支 持 す る
論 拠 を見 る。 第 2 節 で は 、 関係 節 の 倒 置 主 語 が 焦 点 だ とす る仮 説 の 問題 点 を
提 示 す る。 第 3 節 で は 、 関係 節 に お い て文 体 的 倒 置 を 引 き起 こす 要 因 に つ い
て 仮 説 を提 案 す る。 第 4 節 で は、 この 要 因 が 、名 詞 句 内 で の 語 順 に 関 す る通
言 語 的 な傾 向 の 現 れ と考 え られ る こ とを論 じる。
フランス語の関係節における文体的倒置について
2 焦 点化説の根拠
21 主 語
主節 平叙 文 にお い て は長 い 主語 ほ ど倒 置 しや す い こ とは広 く認 め られ て い
る。 これ は 、長 い 主語 ほ ど焦点 に な りや す いの で 、倒 置 しやす いの だ と説 明
。
■る ( c f J o n a r e , 1 9 7 6 , p 2 e8 L; F 1o 9u 9r 7 , p p 1 10 05 4) ‐
さオ
同様 に 関係節 にお い て も、 主語 が 長 い ほ ど文 体 的倒 置 が 適用 されやす い 。
154)は、Lc Mondcの 1994年 2月 18日 号 か ら採 集 した名 詞
Fuchs(1997,pp 152‐
句 主語 を含 む 関係節 の コーパ ス にお い て、 正 置 主語 の 平均 語長 は 329語 であ
るの に対 して、倒 置 主語 の 平均語長 は 726語 だ つ た と述 べ て い る (その他 に、
Wall(1980,pp 81-90)も
Grevisse(1986,p1612)、
参照 され たい)。長 い主語 ほ ど焦
点にな りやす いのだか ら、 この事実 は倒置主語が焦点である ことを示唆す る。
ま た 、Fuchs(1997,p154)は、 主 語 が 不 定代名 詞 ・指示 代名 詞 ・所有代名 詞
meに な
だ と文体的倒 置 が 適用 しに くい こ とを指摘 して、 これ を代名 詞 が rhё
りに くい か ら と説 明 して い る。 この 説 明 は、倒 置 主語 が焦 点 で あ る とす る考
え方 と同 じであ る。
22 動 詞
動 詞 に助 動詞 ・否 定辞 ・法 の標 識 が 付力日され て長 くな るほ ど、文 体的倒 置
よ困難 になZ3は ordahl,1973,p l19;Fuchs,1997,pp 155-156)。 特 に、Fuchsは 文
ヤ
体的倒 置 が適用 され て い る場 合 に は、動詞 の 部分 は 三つ 以 上 の 要 素 を含 む こ
とはほ とん どな い と述 べ て い る。 例 えば 、 次 の よ うに要素 が二 つ の場 合 に は
文体的倒置 が 見 られ る。
(5)Autrc
θ
″
l a ' gあarr姥
eあ
dル″
u ル括
M i/d , θ
e t t e u s s pa lb Co ur ld as t id fe : に
Z b ″冴彦, i n F u c h s , p 1 5 6 )
Cタ コ
これ に対 して 、以 下 の 例 の よ うに 三つ 以 上 の 要 素 が あ る場合 には正 置 が 見
られ るので あ る。
122
平
塚
(6)Nouveau coup dur ia semaine demitte quand les Etats―
Unis,Mァ
ルs?″夕な わ
Cだ cタノタ″膨 ,′
Pθ″均 7/S物 7リ ケ ,dもCident a leur tour de reconnattre la FYROM,
une reconnaissance suivie, mardi demiei par celle de l'Australie, oj vivent un
de航 ‐
milllon de Grecs(五 夕協 ″冴夕,in Fuchs,p156)
(7)0,tous ies auteurs du recuell ont pris garde d'こ
viter ce piё
ge assez grossieL θ ″
几わ″s た″/ ど 姥 筋 切 s セッ/ r P r 夕
か 吻 ″ゎ″ ルs ヵ 7 / g t″う
t οグ C タ ル 栃 滋 , m F u c h s ,
p156)
動詞 部 分 が複雑 なほ ど多 くの 情報 を含 ん でお り焦 点 とな りやす いの で 、逆 に
主 語 は焦 点 に な りに くい と考 え られ る。 よ つ て 、 上述 の 現象 は倒 置 主 語 が 焦
点 であ る こ とを示唆 してい る。
他 方 、Bhnkenberg(1928)は 、動詞 の種類 に よつ て も文体的倒 置 が適用 で きる
可能性 が変わ っ て くる こ とを指 摘 して い る。 先ず 動詞 が コ ピュ ラ 箭 eの 場 合
には 、通常、文体的倒 置 が適用 され る (pp l15-116)。
また、e 立eL se trouverの
他 、 主語 の 指示 対 象 の 存在 を表す 動 詞 の 場 合 に も、文 体的倒 置 が 適用 され て
い る ものが 多 い (pp l16-117)。
更 に 、動詞 が 先行 詞 に よつ て予想 され て 、意 味
的 に重要 でない場合 に も文 体的倒 置 が 適用 されやす い。
(8)lejouma que tt M chant』(Blinkenberg,1928,p l17)
a n o b l e s s力
e拡
()あ
( 9 ) l a e q u e m e n al ■
こ こで は 、動 詞 上r c や m e n e r は意 味 的 に 軽 く、 ほ とん どの 場 合 以 下 の よ うに言
い 換 え られ るほ どで あ る。
(10)lejOuma de M Chttt』
(Bhnkenbe唱
,1928,p l17)
noblessc(わ
滅)
(11)la vie deね
Fuchs(1997,pp 157-158)も
同様 の 言 い 換 えの 例 を挙 げ て い る。 以 上 の よ うな動
詞 は全 て 意 味 内容 が 乏 し く焦 点 に な りに くい の で 、 逆 に 主 語 の 方 が 焦 点 に な
フランス語 の関係節における文体的倒置 について
123
りや す く、 文 体 的 倒 置 が 適 用 され や す い と説 明 す る こ とが で き る ( c f F u c h s ,
159)。
1997,pp 156‐
2 3 直 接 目的 語名 詞 句
直 接 目的 語 名 詞 句 も関 係 節 に お け る 文 体 的 倒 置 を 妨 げ る ( O e v i s s e , 1 9 8 6 ,
ず、N o r d a h l は、
例 えヤ
p1613;Nordahl,1973,p122,Fuchs,1997,pp 145-147)。
( 1 2 ) の関係 節 に 文 体 的 倒 置 を適 用 した ( 1 3 ) や( 1 4 ) は、 か な り容 認 度 が 低 下 す
る と述 べ て い る。
res exerceraient les plus
(12)Lも nine promettalt de bahr un Etat dans iequel les cuisiniё
s lNordahl,1973,p123)
grandes responsabllitも
(13) (
res ies plus 3randes responsabilitls
)dans iequel exerceraient ics cuisiniё
(力材 )
(14) (
)dans iequel exerceraient les plus grandes responsabilitls ies res
cuisiniё
(妨,沈)
こ れ に対 して 、 主 節 平 叙 文 に お い て も、 直接 目的 語 名 詞 句 が あ る場 合 、 文
体 的 倒 置 が 困 難 で あ る こ とが 知 られ て い る ( 東郷 ・大 木 , 1 9 8 6 , p 6 ; F o u m i e L
1997,p108-109)。
(15)Lあ survelllaient une dizaine de gendarmes ie magasin
(十 十 )
率率率*
率キ率
(十
)
(0)
(―
)中
(__)本
( 東郷 ・大木 , 1 9 8 6 , p 6 ) 1 )
le magasin une dzaine de gendarmes
( 1 6 ) L a s u r v e lelnlt涼
ホキⅢ率ホ
ⅢⅢ ( 一一) 率
+)
( 十)
(十
(0)
(一 )Ⅲ
(カガ )
これ は 、 東 郷 ・大 木 (1986,pp 6-8)によ る と以 下 の よ うに説 明 され る。 先 ず 、
倒 置 され た 主 語 は焦 点 と して 解 釈 され る。 と ころ が 、 直接 目的 語 も焦 点 と し
124
平 塚
徹
て解釈 されや す い。 よ つ て 、両者 が 共存 す る と、 どち らを焦 点 にす る のか ス
トラテ ジー 上 の矛 盾 が生 ず るた めに不 自然 に な る の で あ る。 そ うす る と、関
係節 にお い て 直接 目的語 を伴 う文 体 的倒 置 の 容認 度 が か な り低 い こ とに も、
同 じ説 明 が適用 で きる と考 え られ る。
24 導 入 され る要素
Fuchs(1997,p160)は、後 置要素 は rhё
meと して、前置要素 は thё
meと して
考 え る こ とに よ り、 関係節 での文 体 的倒 置 を捉 え よ うと して い る。 そ して 、
この こ とを 正 置 の場 合 と倒 置 の 場合 とで導入 され る要 素 の 違 い に よつて 、例
示 して い る。 まず 、次 の倒 置 文 で は 、先行 詞 か ら位 置 づ けを表す 動 詞 に よ り、
rhё
meで ある倒 置 主語が 導入 され てい る と考 え られ る。
(17)1l rcgarda longtcmps ia nё che du mtt de huneも
crire des signes invisibles dans ic
″が挽
cici bleu ο力 sセrarr ι
8研 ゼ ″″炉″ c拘 'SS研 才滋 あ″タ タ″ Pοκ冴か″夕 肝軸 s′
(TournieL in Fuchs,1997,p160)
これ に対 して 、 次 の 正 置 文 で は 、 関係 節 内 の 主 語 は r h ё
m e で あ る述 語 を 導
入 す るた めの t h e m e と して機 能 して い る。
(18)Un bon h6tel doit etre celui dans iequel un client doit pouvoir sortir s'1l a envie
de sortii et ne pas sortir si sortir est pour lui une corvle(Perec,in Fuchs,1997,
p160)
この よ うな F u c h s の 見方 も、 関係 節 の 倒 置 主 語 を焦 点 と見 なす 考 え方 と同 じ
で あ る。
2 5 対 比 され て い る要 素
丹 羽 ( 1 9 8 2 ) は、 フ ラ ンス 語 の 関 係 節 に お け る倒 置 主 語 が 焦 点 で あ る こ とを
しめす 証 拠 と して 、以 下 の 例 を挙 げ て い る。
フランス語 の関係節における文体的倒置について
125
(19)■ Elle a recu le cadeau que Jean avait envoyも
,■on pas Paul(ダ子】ヨ,1982,p32)
'″)
(20)Elle a re9u le cadeau qu'avait envoyl Jean,non pas Paul(,あ
こ こで は 、 関係 節 内 の 主語 J e a n は P a u l と対 比 され てお り、そ の 意 味 で 焦 点 で
あ る と考 え られ る が 、 そ れ に は 文 体 的 倒 置 が 適 用 され な け れ ば な らな い 。
よ っ て 、倒 置 主 語 は焦 点 で あ る と考 え られ る。
Fuchs(1997,p161)も
は
、 主語 が 倒 置 され た 次 の 例 文 は、 主 語 が u n v O l e u r で
と う対 比 が 想 定 され
、る い は d e u x c l i e n t sはでな く u n c l i e n t い
な く u n c l i e n tあ
な い と発 話 で き な い と述 べ て い る。
″r(Fuchs,1997,p161)
ア
″″夕
″鷲
研 272 CF7夕
e celulあ sル?″タ
(21)Un bon h6tel do1 6廿
クタ
これ に対 して 、 主 語 が 倒 置 され て い な い 次 の 例 文 で は 、 太 陽 が 沈 む の で は な
く、沈 ま な い とい う対 比 を構 築 で き る。
/
(22)Le Club est iongtemps une entreprlse prontable,bient6t une muitinationalc,sク
脇夕″冴ル たsθた,′
″夕sc cθ
″cカタPあ s(め,夕)
以 上 の よ うに 、 主 語 の 倒 置 が 、 主語 に対 して対 比 的 な解 釈 を もた らす な ら、
これ は倒 置 主語 が 焦 点 に な つ て い る とい う仮 説 を支 持 す る。
26 ま
とめ
関係 節 にお け る文 体 的倒 置 に は 、 主語 ・動 詞 ・直接 目的 語 に対 して 、 主節 平
叙 文 の 場 合 と類 似 した 制 約 が 認 め られ る。 ま た 、 関係 節 の 倒 置 主語 は 導入 され
た り、対 比 され た りして 、焦 点 と して機 能 して い る と思 わ れ る例 もあ る。 この
よ うに 、 関係 節 で の 文 体 的倒 置 が 主 語 の 焦 点化 で あ る とい う仮 説 に は、利 点 が
多 い。 しか しなが ら、 この仮 説 に は問題 点が あ る。 次節 で は この こ とを見 る。
126
平
塚
徹
3 焦 点化説の 問題点
3 1 関 係節 と断定
英 語 にお い て は 、文 体的倒 置 は主節 平叙 文 にお い て見 られ る主節 現象 で あ
り、関係節 の よ うな従属節 では普通容認 され な い。
(23)率The rOtunda in which stands a statuc of Washington will be repainted(Ho
and Thompson,1973,p489)
文 体的倒 置 が 断 定 を伴 つてい る の に対 して 、従属節 の 内容 は前提 され て い る
こ とが多 い 。 そ の た め 、従 属節 に文 体的倒 置 を適 用す る と、前提 され てい る
内容 を断定す る ことに な り、矛盾 を生ず るので あ る。
3 )らか
が に した とお り、関係 節
しか しなが ら、H o o p c r a n d T h o m p s o n ( 1 9 7明
であ つて も非制 限的用法 の場合 には文体的倒 置 が 可能 にな る。
)
(24)The rotunda,in which stands a statue ofWasttngton,will be筋「
repainted(力
非 制 限的 関係 節 の 内容 は断 定 され て い るた めに 、断 定 を伴 う文体 的倒 置 を
容認す るので あ るか。
以 上の よ うに、英語 で は 、文体 的倒 置 は従属節 にお い て も見 られ る ものの 、
そ の場 合 に は、従属節 の 内容 が 断定 され て い る とい う条件 を満 た して い なけ
れ ばな らない。
と ころが 、 フ ラ ンス語 の場 合 に は、様 々 な従 属節 にお い て文 体的倒 置 が広
範 か つ 頻 繁 に見 られ る。 しか も、明 らか に 、断定 を伴 わ な い場 合 にお い て も
文体的倒 置 が観 祭 され るので あ る。例 えば、次 の 関係節 を含 む文 を見 られ た い。
(25)Celle qu'aime Fran9ols,c'est Marlc
フランス語 の関係節 にお ける文体的倒置 につい て 127
ここで は 、先行 詞 の 指示 対 象 は関係 節 の 内容 に よつ て確 定す るの で 、関係節
は制 限的用 法 で あ り、そ の 内容 は前 提 され て い る。 それ に もか かわ らず 、文
体的倒 置 が 可能 な の であ る。 よつ て 、 フ ラ ンス 語 で は、断 定 を伴 うこ とは、
文 体的倒 置 を適 用す る こ との 必要 条件 とは な つ て い な い 。 焦 点 は断定 され て
い る領 域 に 現れ る と考 え られ る の で 、 フ ラ ンス語 の 関係節 にお け る文 体的倒
置 は主語 の焦 点化 とは考 え られ な い。
3 2 主 語 の 前方 照応性
関係 節 で の倒 置 主語 と主節 平叙 文 での倒 置 主 語 は 、 前方 照応 的 に解釈 で き
るか ど うかで 異 な つてい る。
mourir bient6t
(26)Il prldit que le roit allお
a
Le lendemain cct命も
nement arriva
b Cetぷ tnement ariva lc lcndcmaln
c
ネLe lendemain amva cet evlnement
こ こで は 、後続 す る文 の主 語 は先 行す る文 の補 文 の 内容 を受 けて い るが、 (c)
の 文 体 的倒 置 は容認 され な い 。 これ に対 して 、次 の よ うに後方 照応 の 場 合 に
は文 体的倒 置 が容認 され る。
も
nementiにroi fut assassinも
(27)Lcに ndemttn arriva cet命
par unjeune aranger
これ は 、倒 置 主 語 が 焦 点 で あ る と考 え る と 自然 に説 明 で き る。 と こ ろが 、関
係節 にお いて は、以下 の よ うに前方 照応 が 可能 であ る。
(28)Le roi mourut en 1300
a Lejour ot arriva cet tttnement,le pttnce ttat en
1'ltranger
vOyageあ
b Lejourod cet念たnement attva,に
pAnce乱おt en voyage a lttranger
平 塚
この ことは、2 4 で 述 べ た倒 置 主語 が 導入 され てい る とい う議論 が
一
般 に成
り立 っ て い な い こ とを示 してお り、 関係 節 にお け る倒 置 主語 が 焦 点 で な い こ
とを示唆 して い る" 。
3 3 主 語 の指示対象
一
文 体 的倒 置 般 につ い ては 、有 生 の 主語 よ り無生 の 主語 の方 が倒 置 しや す
) の以下 の
い。例 えば、 自動詞 を含 む文体的倒 置 を扱 っ た G l d i n ( 1 9 8 0 , p p 6790‐
統 計 を見 られ た い。
表 1:主 語 の有 生性 と倒 置 (Gildn,1980,p69)
有生
無生
正置
308(590/0)
214(410/0)
倒置
11(260/0)
31(74%)
(p<01)
灼k i n s o n ( 1 9 7 3 , p p 1 8 - 2 1統計
) ので も、倒 置構文 では有 生 主語 が 1 5 1 例だつたの
に対 して、無生 主語 は 8 1 0 例 と圧 倒 的 に多 い 。 更 に 、文頭 に前 置詞句 を伴 つ
、倒 置 主語
た主節 平叙文 にお ける文体的倒 置 を扱 っ た F o u m t t r ( 1 9 9 7 , p 1 0 7 ) も
べ
は無生 の ものが 多 い と述 て い る。 この よ うな傾 向 は、有 生 主語 が無 生 主語
よ りも主題 にな りやす い と考 える こ とに よつて理 解 で きる。 つ ま り、そ の分 、
無生主語 の方が焦点になる確率が高いので、倒置 されやす いのである。
ま た 、G l d i n ( 1 9 8 0 ) は
、定名詞 句 の方 が不 定名 詞句 よ りも、 正 置 されやす い
こ とを示 して い る。
表 2 : 主 語 の 定性 と倒 置 ( Q i d l n , 1 9 8 0 , p 6 9 )
定
不定
正置
420(800/0)
102(200/0)
倒置
18(420/0)
(p<01)
24(580/0)
フランス語 の関係節 における文体的倒置について 129
この結果 は、定名 詞句 は不定名詞句 よ りも主題 にな りやす い と考 え る こ とに
よつ て説 明 で きる。 更 に 、Q l d n ( 1 9 8 0 ) は、単数 の 主語 の方 が複数 の主語 よ り
も、 正 置 されやす い と述 べ てい る。
表 3:主 語 の数 と倒 置 (Qldn,1980,p70)
単教
複数
正置
385(740/0)
137(260/0)
倒置
25(600/0)
17(400/0)
(p. .os)
これ も、 単数名 詞 は複 数名 詞 よ りも明 瞭 な指示 対象 を有す るた めに主題 にな
りやす い と考 える こ とに よつ て説明 で きる。
以 上 の 統 計 は 、必ず し も主節 平叙 文 に限 つ た もの で は な い が 、 主節 平叙 文
にお け る文 体的倒 置 の様 相 をか な り反 映 して い る と考 え られ る。 これ に対 し
て 、関係節 に 限定 して文 体 的倒 置 を観 察す る と、以 上 とはか な り異 な つ た傾
向 が 出 て くる。
W a n ( 1 9 8 0 , p p 8 3 - 8 4 )、関係節
は
お け る 1 ∼2 語 か らな る主語 を統計的 に調査
した結 果 、 固有名 詞 が倒 置 されや す い傾 向 があ る と述 べ て い る。W a 1 1 の 統計
で は、 主語 の種 類 や 主 語 と動 詞 の相 対 的 長 さに よる細 かい 分類 を して倒 置 と
正 置 の 数 を挙 げ てい る。 こ こで は 、 固有名 詞 と倒 置 の相 関性 を確認 す るた め
に 、 主語 が 固有名 詞 の もの と普通名 詞 の もの とい う二 種類 にま とめて 、倒 置
して い る例 と正置 してい る例 の総 計 を計算 した〕。
表 4:固 有名 詞 と倒 置 KWall(1980,pp 83-84)に基 づ く)
固有名詞
普通名 詞
倒置
98(81%)
274(680/0)
正置
23(190/。)
129(320/0)
計
(xz:7.02,p<0.01)
計
372
524
130
徹
平 塚
この 統 計 よ り、 主語 が 固有名 詞 の場 合 は 、普 通名 詞 の 場 合 に比 べ て有 意 に倒
。
置 して い る率が高 い ことが確認 で きる 。
また、Wa11(1980,p84)は、統計的数値 は示 してい ないが 、人間 を指す単数 の
、人間 を指
名詞句 が倒置す る比率が高 い とも述 べ てい る。Fuchs(1997,p155)も
す 主語 は、非 生物 の主語 よ り倒置 しやす い と述 べ ている。Fuchsが Le Mondeか
ら採集 した コーパ ス では、倒置 主語 の 42例 の うち 60%近 くが人 間 を指す主語 で
あ つたのに対 して、正置 主語 では 115例の うち 32%に す ぎなか つた。
固有名詞や人 間を指す名詞 が主題 にな りやす い ことを考 える と、 この よ うな傾
向は、関係節 における倒 置 主語 を焦点 と見なす考 え方では、説明が困難 である。
84)の 1∼2語 か らな る主語 の正 置 と倒 置 に関す る統
他方 、Wall(1980,pp 83‐
計 を、 定名 詞句 主語 と不 定名 詞句 主語 とい う分類 に ま とめ、倒 置 して い る例
と正置 して い る例 の総 計 を計算 した と ころ 、定名 詞句 主語 の方 が 倒 置 して い
る率が高か つ た ものの 、有意 な差 は認 め られ なか つたの。
84)に基 づ く)
表 5:定 性 と倒 置 (Wall(1980,pp 83‐
定
不定
計
倒置
330(890/0)
42(790/0)
372
正置
141(11%)
11(21%)
152
計
471
524
\ x 2 : 1 5 3 p, < 0 . 2 5 )
主節 平叙文 にお い て は不定 名 詞旬 の 方 が焦 点 に な りや す い た め に倒 置す る率
が 高 い と考 え られ る。 しか し、 関係 節 で は少 な くとも主語 が短 い ときに は 、
この よ うな傾 向 は現れ な か つ た。 この こ と も、関係節 にお い て は倒 置 主語 が
焦 点でない こ とを示唆 して い る。
以 上の よ うに 、関係 節 にお け る倒 置 主語 は
一
般 の倒 置 主語 と異 な る様 相 を
呈 して い る。 よ つ て 、関係 節 での文 体的倒 置 を主節 平叙 文 にお け る文 体的倒
置 と同 じよ うに見 なす 考 え方 に は問題 が あ る と言 え る。 つ ま り、関係 節 にお
ける倒 置 主語 が焦 点であ る とす る考 え方 には疑 間 が あ るの であ る。
フランス語の関係節における文体的倒置について
131
3 4 倒 置 主語 に 後 続 す る要 素
主節 平叙 文 に お い て は 、文 末 に他 の 要 素 が 現 れ る と容 認 度 が 低 下す る。
t e n t r 6 e A l i c郷
e (・
東大 木, 1 9 8 7 , p 4 )
( 2 9 ) J u t t e a c e m O m eあe
n ttヨ
e n)O t r e ( 力
( 3 0 ) ? ? J u s t e a c e m o m c ncttJtあc n t r t c A l i c c p a r L f材
材)
(31)A cette lpoque‐la travalllalent dans cette usine des ouwiers portugais(力
,″)
(32)?A cette lpoque-1あtravalllalent des ouvrlers pOrtugas dans cette usine(,う
Jonarc(1976,p62)は
、収集 した約 2800の 倒 置構文 の 中 で 、文末 に前 置詞句補
語 を有 す る もの は 2例 しか無か っ た と述 べ て い る。 ま た 、東郷 。大木 (1987,
p4)も 、収集 した 230例 以 上の倒 置構 文 の 中に 、倒 置 主語 の後 に状況補 語 を有
一
す る もの は つ も無 か つ た と述 べ てい る。東郷 ・大木 (1986,p4)による と、 こ
れ は以 下 の よ うに説 明 され る。 倒 置 主 語 は焦 点 で あ るが 、焦 点 は文末 に来 る
のが 自然 で あ る。 しか し、文末 に他 の 要 素 が 存在 す る と、 どち らを焦 点 とす
るか に関 して矛盾 を生 じて 、容認度 が低 下す るので あ る。
これ に対 して 、 関係節 で は 、倒 置 主語 の 後 に他 の 要素 が 現れ る こ とは、 特
一
に主語が短 い場合 には、それ ほ ど希 ではない。 表 6は 、Rll詞
句か前置詞句 を
つ伴 う関係節 にお け る語順 に 関す る Wall(1980,p102)の統計 であ る。 原 典 で は
動詞 の 法 と時制 に基 づ い て 分類 した数 字 を挙 げ て あ るが 、 ここで は 、合 計 を
計算 して掲載す る。
[32
平
塚
表 6:関 係節 での 副詞句 ・前置詞句 を含 めた語順 (Wall(1980,p102)に 基 づ く)
語数
語順
VSC
1-2
3∼ 6
47
25
7以 上
0
合 計 ( 百分 率)
72(100/。 )
VCS
29
129(17%)
SVC
26
485(65%)
SCV
10(
1
1%)
2%)
CVS
8( 1%)
CSV
X/aux C Vpp S
1
21( 30/0)
SX/aux C Vpp
合計
6( 1%)
424
261
746(1000/。)
(S:主語、Vi動 詞、Ci副 詞句 ・前置詞旬、Vaux:助動詞 、Vpp:過 去分詞)
J O n a r e の場 合 に は収 集 した倒 置 構 文 全 体 で の 比 率 で あ る の に対 して 、 W a l l の
一
場 合 に は 副 詞 句 か 前 置 詞 句 を つ だ け含 む 倒 置構 文 に 対 す る比 率 な の で 、 両
者 を数 値 的 に 比 較 す る こ とは で き な い 。 しか し、 関係 節 に お い て は倒 置 主 語
の 後 に他 の 要 素 が 来 る こ とはそ れ ほ ど希 で は な い と言 え る。 以 下 、W a l l が 5 1
用 して い る例 を若 干 挙 げ て お く。
(33)Les vacchations( )dont b伽 苗cie l'humttitt auJourd'hui(in Wall,1980,p106)
筋″
s que remportaient les chps sur le marchl btttattquc(わ
)
(34)le succё
θ
初,p109)
1ls connus?('冴
(35)Les sentiments qu'a Marc pour moi vous sont‐
lё
ne de lui dans ie wagon qui les portait vers l'humble
(36)Ce ibt l■dもe que prit Hも
c o i n d u F i n i s t e,r″
c)( 力
よる と、 主 節 平叙 文 に お い て時 を示 す 句 を倒 置 主語 の
ま た 、K o r z e n ( 1 9 9 6 ) に
後 に も つ て き た ( 3 7 ) は不 自然 で あ り、倒 置 主 語 の 前 に も つ て き て ( 3 8 ) のよ う
に しな けれ ば な らな い 。
フランス語 の関係節における文体的倒置について
133
(37)?Devant ia gare stationna■ la belle voiture de votre pere,tOus ies dimanches
(Korzen,1996,p36)
ant la gare stationnait,tous ies dimanches,la belle voiture de votre pere
(38)Dぃ ′
″)
(力′
と こ ろが 、 そ れ に対 して 、 関係 節 に お い て は ( 3 9 ) のよ うに 時 を示 す 句 が 倒 置
主 語 の 後 に来 て も構 わ な い の で あ る助。
(39)rendroit oS tai gartc la voiturc dc votre ptte,avant―hieちltait mal choisi
(,挽初,p35)
この こ と も主節 平 叙 文 で は倒 置 主 語 の 後 に他 の 要 素 が 現 れ る こ とが 困 難 な
の に対 して 、 関 係 節 で はそ うで は な い こ とを示 して い る。 この 事 実 は 、倒 置
主語 を焦 点 とす る考 え方 で は説 明 で き な い 。
35 ま
とめ
本 節 で は 、 以 下 の 事 実 を見 た 。 1)制 限 的 関係 節 は 概 ね 前 提 領 域 で あ り、 焦
点 と相 容 れ な い 。 2)関 係 節 に お け る倒 置 主 語 は前 方 照 応 的 に 解 釈 で き る。 3)
関係 節 で は 、 固 有 名 詞 や 人 間 を 指 す 単数 の 名 詞 句 が 倒 置 しや す い 。 4)関 係 節
は倒 置 主 語 の 後 に 容 易 に 他 の 要 素 を許 容 す る。 これ らに基 づ い て 、制 限 的 関
係 節 に お け る文 体 的 倒 置 は 主 語 の 焦 点化 で は な い と考 え られ る こ とを論 じた。
4 4到置 主 言
吾の individuation
41 主
語 の指 示 性
Korzen(1983)は、 主 語 が 不 定 代名 詞 quelqu'unだ と文 体 的倒 置 が 妨 げ られ る
と述 べ て い る。
(40)Voicila chambre oj a couchも(?quelqu'un/mon oncle)(Korzen,1983,p66)
134
平 塚
徹
実 際 、 以 下 の 作 例 で も、 不 定 代名 詞 が 倒 置 しに くい こ とが確 認 で き る。
(41)Celui que Fran9ois a tuも
,c'est Jean
(42)Celui qu'a tul Fran9ols,c'est Jean
(43)Cclui que quelqu'un atuも
,c'cst JCan
(44)?Celui qu'a tuもquelqu'un,c'est Jean
他 の 不 定 代 名 詞 も 、 や は り倒 置 し に く い 。 例 え ば 、 五e n に つ い て 、
F u c h s ( 1 9 9 7 , p 1 5 4 )以は下 の 例 を挙 げ て い る。
corateur prollxe,exlcute des
(45)Le foumisseur des ateliers rOyaux de tapisserie,dも
″″夕S'Prツ
タカ修7ああα″α力″(Fuchs,1997,p154)
allも
gories des saisons?″/,夕
(46)率 (
,″)
)que ne sauve de la banalitl hen(め
ー
を置 し
ま た 、W a l ( 1 9 8 0 , p 8 1 ‐8 2 ) は、対 象 と した ヨ パ ス 中 に t o u t l c m o n d e 倒
て い る例 を見 い だせ な か つ た と述 べ て い る。
(47)elle a ses ttidences intimes,que tout le monde a et qui par conslquent nc
prouvcnt hen (Wall,1980,p82)
( 4 8 ) C ' e s t c e q u e t o u t i e m o n d″e ) m e d i t ( , あ
t(力ね′)
(49)ces nouveaux technocrates dont toutie monde pariお
しか も、Wallも 指 摘 して い る とお り、 こ こで の 動 詞 は 意 味 的 に軽 く、倒 置 が
好 ま れ る 種 類 の も の で あ る に も か か わ らず 正 置 され て い る 。 Fuchs(1997,
p154)は (49)に倒 置 を適 用 す る と不 自然 で あ る と して い る。
(50)???(
)dont parlait tout le rnonde(Fuchs,1997,p154)
フランス語 の関係節における文体的倒置について
toutに mondeや
135
personneに 関 して も倒 置 を適 用 しに くい こ とを以 下 の 作例 で
確 認 した。
(51)Celle que Fran9ois aime,c'est Marie
(52)Celle qu'aime Fran9ois,c'est Mtte
(53)Celle que toutle monde aime,c'est Marie
(54)?Celle qu'aime toutle monde,c'est Mahe
(55)Ccllc que personnc n'aime,c'est Mtte
(56)?CcHe que n'aime personne,c'est Mae
これ は 、 不 定 代名 詞 を焦 点 に しに くい と考 え る こ とに よ つ て 説 明 で き る と
思 われ るか も しれ な い 勢。 しか しな が ら、第 2 節 で見 た よ うに、制 限的 関係 節
に この 説 明 を 適 用 す る わ け に は い か な い 。 そ の _ L 、 そ もそ も、 ( 4 1 ) ―
(44)や
(52)‐
( 5 6 ) で拳 げ て い る 作 例 で は 関係 節 の 内容 は前 提 され て お り、 焦 点 とは相
容 れ ない。
更 に 、F u c h s ( 1 9 9 7 , p 1 5 5 ) によ る と、 ( 5 7 ) のよ うな不 特 定 な 主語 や 、 ( 5 8 ) の
よ うな総 称 的 な 主 語 もほ とん ど常 に正 置 され る。
tonne RIen n'est plus dllicicux que dc partager
(57)Elle nous aonne parce qu'elle s'も
'″
_″夕
ia surpAse?″ ″彦ご
ガИブ
″膨ヵ ルa FP/サ
″夕(Le Monde)
lul―
mOme unも cr aln(Fuchs,1997,p155)
?( )la su中 Se que se faltあ
″らleS mellleurs technicicns ont tentl en
なs研 ア
ασ
カタ
(58)Dans un milieu θ,ル s海 ,c″
vttn de s'approprier le champlon(Le Monde)
? D a n s じn m i l i e u s o' ↓
arrachent ies tテ
a″
l )e n t s ( カ
以 上 よ り、不 定 の 主語 は倒 置 しに くい と考 え られ る。
136
平
塚
4 2 indi duation
3 3 で 見 た よ うに、W a l ( 1 9 8 0 ) は、関係節 にお い ては 、 主語 が短い 場合 に限
定す る と、 固有名 詞や 人 間 を指 す 単数 の名 詞句 が 倒 置 しやす い と述 べ て い る。
も間 を指す 主語 が倒 置 しや す い と述 べ て い る。 そ して 、
また、F u c h s ( 1 9 9 7 )人
4 1 で は、不定代名 詞や 非指示的 な名詞句 は倒 置 しに くい こ とを見 た。 関係節
に お い て 倒 置 を促 す これ らの 要 因 は 、 H o p p c r & T h o m p s o n ( 1 9 8 0 , p 2 5 3 ) の
i n d i v i d u a t i構
o n成す
を る要 因 に数 え上 げ られ て い る もので あ る。
(59) INDI\IIDUATED
NON-INDIVIDUATED
proper
common
human, animate
inanimate
concrete
abstract
singular
plural
count
mass
referential, ddnite
non-referential
(Hopper&Thompson,1980,p252)
HoppOr&Thompson(1980)に お い ては、transitivityを
構 成す る要 因 として 目
い う概念 を も
考 えて い る。 しか し、 この individuationと
的語 の individuationを
ともと提唱 した ■mbedake(1977)にお いて は 、 ロシア 語 にお け る否 定生格や動
詞 に語 彙的 に要 求 され る生格 の 消失 の 過程 を促進 す る要 因 と して考 え られ た
もので あ つ た。 そ こでは 、individuationは
、名 詞句 の指示 対象 が 個体 として概
念化 され て い る度合 い 、逆 に言 うと、指 示 対象 が 数 量化 され に くい 度 合 い を
表す もので あ つ た。本稿 では 、Hopper&Thompson(1980)を 受 け て 、名詞旬 の
指示対象 が背 景か ら明確 に区別 され て擦 立 っ てい る度合 い と考 える。
ここで、 これ までの観 察 を、関係節 にお い ては individuationが
高 い 主語名 詞
句 の方 が倒 置 しや す い とま とめ る こ とが で き る。 これ を説 明す るた めに以 下
の仮 説 を提 案す る。
フランス語 の関係節 における文体的倒置について 137
(60)制 限的 関係 節 にお い て は、以 下 の (a)と(b)を満 たす 場合 に 、文 体的倒 置
が適用 され る。
(a)主 語名 詞句 が先 行 詞 の指示 対象 の確 定 に寄 与 して い る程 度 が動 詞 よ
りも高 い 。
(b)動詞 は主語 の先行詞 に対す る関係 を表 してい るにす ぎない。
nが
けれ ば、それ だけそ の指示対象 は認知的 に際 立 っ
名 詞句 の i n d i v i d u a t i o高
てお り、他 の 指 示対 象 を確 定す るた めの い わ ば参 照 点 と して機 能 しや す い 。
太郎」は 、i n d i v i d lu o筑■の低 い 不
n のめて 高 い 固有名 詞 「
例 えば、i n d i v i d u a t i o極
定代名 詞 「
誰 か 」よ りも参 照 点 と して有 効 に機 能 す る。 あ る女性 を指 示す るの
一
誰 か の妻 」で
に、 「
太郎 の 妻 」と言 うと指示 対象 はほぼ 意的 に確 定す るが、 「
は指示対象 は不明確 に しか確 定 され ない。
制 限的 関係節 は、先行 詞 の 指示 対象 を関係節 の 内容 で制 限 して い くとい う
nが
けれ ば高 いほ ど、
機 能 を有 してい る。そ こで 、 主語名詞句 は i n d i v i d u a t i o高
先行 詞 の指 示 対象 を確 定す るた めの参 照 点 と して機 能 しやす い と考 え られ る。
つ ま り、先行 詞 の 指示 対象 の確 定 に寄 与す る度合 いが 高 くな る。 よつて 、 こ
の よ うな 主語名 詞 句 は 、仮 説 ( 6 0 ) によ り、倒 置 しや す い こ とにな る。 逆 に 、
い 主語 の場 合 には、先行詞 の指示対象 の 確定 に対す る寄 与が
i n d i v i d u t t i o低
nの
小 さ くな り、倒 置 しに くくなる。
(64))に
適用す る と以 下 の よ うになる。
以 上の議論 を、 ( 4 1 ) ∼( 4 4 ) ( = ( 6 1 ) ∼
(61)Celui que Fran9ols a ,c'est
tuも Jean
(62)Celui qu'a tul Fran9ols,c)est Jean
(63)Celui que quelqu'un atuも
,c'est Jean
(64) ?Celui qu'a tul quelqu'un,c'est Jean
指示
あ る場合 、 主語の方 が先行 詞 c e l u i の
関係節 の主語 が 固有名詞 F r a n 9 o i s で
は主語 の 先行詞 に対す る関係 を
対象 の確定 に対す る寄与が大 き く、動詞 a t u も
表 して い るにす ぎな い と捉 える こ とが可能 な の で 、文 体的倒 置 を適用 して も
138
平
塚
自然 で あ る。 勿 論 、逆 の 捉 え方 をす る こ とも 可能 な の で正 置 も 自然 で あ る。
と ころが 、 主語 が不定 代名 詞 q u e l q u ' u n の
場 合 には、 主語 は先行詞 の指示対象
の確 定 には ほ とん ど寄与 して い な い 。 む しろ 、 ほ とん ど、動詞 の 部分 が 表 し
てい る 「
殺 され た 」とい う情報 だ けで先行 詞 の 指示 対象 は確 定 され てい る。 そ
の ため、文体的倒 置 は不 自然 にな る と説 明 で きるので あ る。
( 5 1 ) ∼( 5 6 ) ( = ( 6 5 ) ∼
( 7 0 ) ) もほぼ 同 じよ うに説明で きる。
(65)Celle que Fran9ois aime,c'est Mahe
me Fran9ois,c'est Matte
(66)Cdに qu'ぶ
tOutle monde aime,c'est Marie
(67)Celle eqじ
(68)?Celle qu'aime toutle monde,c'est Mttie
(69)Ccllc quc pcrsonne n'aime,c'cst Marie
(70)?Celle quc n'aime personne,c'cst Marie
主 語 が 固有名 詞 の 場 合 に は 、先行 詞 の指 示 対象 の 確 定 に対 す る主語 の 寄与 が
大 き く、動 詞 は主語 の 先行 詞 に対す る関係 の み を表 して い る と捉 え る こ とが
可能 な の で 、文 体的倒 置 は 自然 で あ る。 それ に対 して 、 主 語 が 不 定代名 詞 の
場合 に は 、指 示 対象 が漠 然 と してお り、先行 詞 の指 示 対象 の確 定 に対 す る寄
与 は小 さい。 それ よ りも動 詞 の 部 分 に よ つ て 表 され て い る 「
愛 され てい る」と
か「
愛 され てい な い 」とい う情報 の方 が 先行 詞 の指示 対象 の 確 定 に寄与 して い
る。 このた め、文体的倒 置 は容認度 が低 いの であ る。
43 現 象 の説 明
21で 見た とお り、関係節 にお い て も長 い 主 語 の方 が倒 置 しやす い。 この こ
と も、仮 説 (60)と合 致す る。 なぜ な ら、長 い 主語 ほ ど、含 ん で い る情報 量 の
多 さか ら、先行 詞 の指示 対 象 の 確 定 に対す る寄与 が大 き くな る と考 え られ る
か らで ある。33で 見 た よ うに、individuatiOnの
高 い 主語 の方 が 倒 置 しやす い
傾 向が 1∼2語 か らなる主 語 に 限 つ た統 計 で 現れ て い るが 、 この こ とは、主語
の長 さが individuationよ
りも倒置 を促す 要因 と して強 い こ とを示唆 して い る。
フランス語 の関係節における文体的倒置 について 139
2 2 で は、動詞 が長 くなる ほ ど文体的倒置 が 適用 され に くい こ とを見た が 、
これ も仮 説 ( 6 0 ) と合 致す る。動 詞 が 長 くな る と、情報 量 が 多 くな り先行 詞 の
指 示 対象 の 確 定 に対 す る寄与 が大 き くな るだ け で な く、 主語 と先行 詞 との 間
の 単 な る関係 を表 して い る とは捉 え られ な くな るか らで あ る。 また、存在 を
表す動 詞や 先行 詞 か ら想 起 されや す い 動 詞 の 方 が文 体 的倒 置 を 引 き起 こ しや
す い こ とも、 この よ うな動 詞 は主語 と先行 詞 の 関係 を 表す もの と して捉 え ら
れやす いため と説 明 され る。
な お 、 主節 平叙 文 と関係 節 で は文 体 的 倒 置 に 現 れ や す い 動 詞 の 範 囲 が 異
に前 置詞句 を有す る主節
は
な つてい る。 例 えば、F o u m i e r ( 1 9 9 7 , p l 1 7 )、文頭
平叙 文 での文 体的倒 置 にお い て もつ とも頻 繁 に現 れ る動 詞 を大 き く二つ に分
一
類 して い る。 つ 目は前置詞句 で 表 され る時 空 間 での位 置 に主 語 の 指示 対象
を位 置 づ ける もの であ る。 これ には、以 下 の ものが あ る。
動 的位 置 決 定 :
・移 動 動 言
司 :a
vcL sonl与mOnteL vcnl,surglL passer
・事 態 の 開 始 と終 了 を示 す 動 詞 i n t t r e , m o u L c o m m e n c e , a p p a r t t r e ,avolr
lieu,s'ouvrlL dater
静 的位 置決 定 ( = 6 t r e ) i n g l l r e t t r c p o s e i 前s e' +o pu pv lr i 与
これ は、ほ とん ど存在や 出現 を表す動詞 であ る と考 え る ことができ る。 二つ 目
は、前置詞句 と主語の関連 を示す動詞 であるが、 これには以下の ものが ある。
・後続 ・付カロ:se succも
outeL Se mtteL rlpondre
deL s'句
・等価 :rも
pondre,correspondre,s'opposer
・依存 : r も
s u t t e i pdeも
ndre
F o u m i e r は 、 これ らの動詞 を、時空間 での位 置 づ けか ら派生 した抽象 的 な位 置
づ け を表す 動 詞 と見 な して い る。 主節 平叙 文 に現 れや す い これ らの 動 詞 は 、
主 語 の 指示 対象 を談話 内世 界 に導入 す る の に適 した意 味 を持 つ て い る。 これ
140
平
塚
は 、 主節 平叙 文 にお け る文 体的倒 置 が 主語 を談話 に提示 す る機 能 を果 た して
い るか らと考 え られ る。
関係 節 にお い て も、確 か に存在 な どを表す 上述 の動 詞 は文 体的倒 置 を 引 き
起 こ しや す い。 しか し、文 体的倒 置 に 現れ る動詞 は主 節 平叙 文 ほ どに は偏 つ
て い な いの であ る。 例 え ば 、 主 節 平叙 文 の 文 体的倒 置 では他 動 詞 は極 めて少
な いが 、関係節 では 、関係 代名 詞 が 直接 目的 語 で あれ ば 、 む しろ頻繁 に 現れ
る。 W a l l ( 1 9 8 0 , p p 4636‐
) は 関 係 節 に お い て 倒 置 を促 す 動 詞 を 、 i d e n t i、
も
localisatiOn,direction,appartenancc,aspiration,prOduction,pcrccption/lnonci航
lonを
表す もの と したが 、 この 分類 に 該 当す る動 詞 は 非 常 に 多岐 にわ た つてい る。
また、逆 に 、倒 置 を促 さな い 動詞 を 、 s e n t i m e n tc、
h a n g e m e n t を表す もの と し
たが 、 この 分類 に該 当す る もの で も、文 体的倒 置 が 適用 され て い る例 は多数
見 られ る。 この こ とは、関係 節 にお け る文 体的倒 置 の機 能 が 、 主 語 の 提示 で
は な い こ とを示 唆 して い る。 む しろ 、関係 節 にお い て は 、仮 説 ( 6 0 ) で述 べ た
よ うに、 主語 の 先行 詞 に対 す る 関係 を表 して い るにす ぎな い動 詞 が文 体的倒
置 を促す と考 えた方 が よい。
2 5 で 見 た とお り、丹羽 ( 1 9 8 2 ) は
、 (19)(=(71))と
(20)(=(72))を
関係 節 にお
ける倒 置 主語が焦点 であ る こ とを しめす 証拠 と して挙 げて い る。
envoyも
(71)率Elle a reou le cadeau que Jean avait ,■
on pas Paul(デ
子】
】, 1982,p32)
(72)Elle a re9u le cadeau qu'avお
t envoyも
Jean,non pas Paul(,あ
,夕)
この場合、確 かに、関係節 内の主語 Jcanは Paulと 対比 され てお り、対比的 な焦
点 であ る と考 え られ る。 しか し、 この よ うな主語 を倒 置 しなけれ ばな らな い こ
とは、仮説 (60)でも説明 でき る。 なぜ な ら、 ここで は 、対比 され て い る主語 が
先行詞 の指示対象 の確定 に とつて決定的な役割 を果 た しているか らであるЮ)。
23で は、直接 目的語名 詞句 が文 体的倒 置 を妨 げ る こ とを見 た。 これ も、直
接 目的 語 が 存在 す る と、動 詞 は 単 な る主 語 と先行 詞 との 関係 を表す もの で は
な くな るので 、文 体的倒 置 を妨 げ るのだ と説 明 できる11)。
フラ ンス語 の関係節 にお ける文体的倒置 について 141
44 不
定代名詞 が倒 置 してい る例
41で 不定代名 詞 の倒 置 が 困難 であ る こ とを見 た。 しか し、文体的倒 置 が 可
能 か ど うか は、 主語名 詞句 だ けで決 ま るの で はな く、 あ くま で も動 詞 との 関
ァで検索す る と、主語が不定代
係 で決 ま る。実際、電子 コーパ ス DrSC02〃
名 詞 で あ つて も文 体的倒 置 が 適用 され て い る例 が 極 めて 希 では あ るが 存在 し
て い る。 特定 の 作家 に偏 つ て い る こ とか ら文 体的 な要 因 も関 わ つ て い る と思
われ るが、動 詞 の意 味 内容 は希 薄 に な つ て い る。 例 えば 、次 の 例 で は 、 も と
もと意 味 内容 の希薄 な faireが使 われ て い る。
タラ″ルわ″ ル ″ο″ル (Dumas,A,と 夕∽ ″た 滋 九狗″″―
(73)Non pas,c'est ce?″
Cr,sわ,in DrSCO回 勁α F)
手 紙 」と言 え ば 「
次 の例 で は、 「
書 く」とい うよ うに、 先 行 詞 か ら予 想 の 付 きや
す い 動 詞 が 使 われ てお り、や は り動 詞 の 意 味 内容 が か な り軽 くな つ て い る。
(74)On comprend,あ
l a r i g u e u 与 q u e l e s i e t t r e s ″ 夕 的 2 r S t t C / 7?″
″夕物 ″
'″
″ SOient a peu
rente
じ
s semblables entre elles et dessincnt une image assez
di衛 de la pcrsonne
prё
mc pcrsonnal■│(Proust,M,
qu'on connaft pour qu'elles constituent une deuxiё
二α沢夕
cカタ
κみ夕七αP/7膨″/27θ
″,in DttSCθttF)
「
迷 子 に な つ た 犬 」と言 え ば 、誰 か が 自分 の も の だ と言 う出 来 事 が想 起 され や
す い の で 、動 詞 r l d a m e r は意 味 的 に 軽 くな る と言 え る。
(75)Ne pense donc plus a rien et tache de dormi馬
pauvre pctic chienne perdue?″タ
″夕Pa7/ソ
万
夕
″夕たo,α
初夕
″
αクグSθ
72Z夕
・(BloレL,乙 α rr2初
,in DISCθ切
ノ)
先行 文 脈 に で て きて い る動 詞 を繰 り返す 場 合 も、や は り意 味 的 に 軽 くな る。
平 塚
(76)Brichot avait,en efFet,du gott pour M De Charlus et,s'1l avait eu a se repOrter a
quelque conversation roulant sur lul,1l se ttt rappell bien plus les sentilnents de
sympathie qu'1l avaitも
l disait dc lui lcs
prouvlsあ 1'lgard du baron,pcndant qu■
memes choses?″
セ″冴5クル わ7/r形 初ο″滋 ,que ces choses elles―m6mes(Proust,
M,Lα 沢夕cみ夕k協夕七αPガざ
ο″ガ2″,in DrSCθ 盟夢何 F)
先行 文 脈 で 「
家 の 前 を うろ つ い て い た 」と言 え ば 、 人 が 出 て く る こ とが 当 然 予
想 され る の で 、 や は り動 詞 s o t t r の意 味 内容 は 軽 くな る。
coulё
rent,Fも
licien r6dait devant la pctitc maison,fou dc doulcu馬
(77)Dcux jours s'も
aux aguets des nouvelles
タC力
夕sγ脇ル ?″
夕
″ヵll dも
falllait de
句″
ルな ?″
物メ″
w,in DISCθ 露 汀 F)
crainte(Zola,L,ニタ択θ
以 上 の よ うに、動詞 の 意 味 内容 が 希 薄 な場 合 に は 、不 定 代名 詞 の倒 置 も全
1幼
く不 可能 ではない 。
この よ うな例 が 希 で は あ るが存在 して い る こ とを考 慮す る と、不 定代名 詞
が倒 置 され に くい こ とを形 式的 な制 約 で説 明す る こ とは不 適切 で あ り、仮 説
( 6 0 ) で説 明す る方 が望 ま しい と言 え る。し か も、仮 説 ( 6 0 ) の方 が 、 主語 名 詞
nに
じて文 体的倒 置 が適用 され る比率が変化す る とい う統計
句 の I n d i v i d u a t i o応
的事実 も捉 える こ とが できるのであ る。
4 5 ま とめ
関係 節 にお い て は 、不 定代名 詞 の倒 置 が 困難 で あ るだ け でな く、 主節 平叙
い 主語 の方 が 低 い 主 語 よ り倒 置 しやす い。 この
文 と異な り、i n d i v i t t a t i o n高の
こ とか ら、制 限的 関係節 にお い て は 、 主語 名 詞句 が 先行 詞 の指 示対象 の確 定
に寄与 して い る程 度 が動 詞 よ りも高 く、動 詞 の 方 は主 語 の 先行 詞 に対す る関
係 を表 して い るにす ぎな い 場合 に 、文 体的倒 置 が 適用 され る とい う仮 説 を提
案 した。 ま た 、 この仮 説 に よ り様 々 な現象 を説 明 した 。 最 後 に 、不 定代名 詞
が倒 置 して い る例外 的 な場 合 を検 討 して 、文 体的倒 置 の容認 可能性 が あ くま
で も主語 と動詞 との兼 ね 合 い で決 ま る こ とを強調 した。
フランス語 の関係節 における文体的倒置について 143
5 名 詞句 内での語順
5 1 不 定代名 詞 と形容詞 の語順
関係 節 にお い て は不定 代名 詞 の 主語 を倒 置す る のが 困難 で あ るが 、 この こ
とは名 詞句 全 体 の 最後 に不 定代名 詞 を もつ て くる こ とを妨 げ る とい う結果 を
もた らす 。 と ころが 、名 詞 句 の 最後 に不 定 代名 詞 が 現 れ な い よ うにす る傾 向
が 通言 語的 に観 察 され る。 それ は 、不 定代名 詞 を形容 詞 で修 飾 しよ うと した
場 合 に 、形 容詞 が 不 定 代名 詞 に後 置 され る とい う傾 向 で あ る。 この こ とを 、
先ず 、名 詞 を修 飾す る形容詞 が 普通そ の名詞 に先行す る言語 で見 る。
( a ) 英語
英 語 で は、形 容 詞 は名 詞 を修 飾 す る場 合 に は通 常そ の名 詞 に先行 す るが 、
不 定 代名 詞 を修 飾 す る場 合 に は逆 の 語順 に な る ( c f B o h n g c ■1 9 5 2 , p p l 1 3 7 1138)。
(78)(somethng/nothng/anythng}intcrCSting
これ は 、 人 を指 す 不 定 代 名 詞 s o m e O n e , s o m e b o d L a n y o n e , a n y b ondoレo n e ,
n o b o d y につ い て も同 じであ る。
1め
( b ) ロシア語
ロ シア 語 では 、形容 詞 は名 詞 に先行 す る の が 通 常 で あ る。 と ころが 、不 定
t o t‐o 「
t O n‐i b y d '(「
0「
何で も よい) 何か」、k t O ■
代名詞 こ
何 か 。あ る ものJ 、こ
誰か 。
あ る人 」、k t o t t b y d '(「
誰で も よい) 誰 か 」を修 飾 す る形 容 詞 は、 そ の 後 に くる
口み、
(本
示可
,1960,p181,Wadc,2000,p161‐
162)。
144
平
塚
徹
(79)kto‐to
vysok」
あ る人
(Wade,2000,p161)
い
高
「
ある背 の 高 い人」
(80)On
borlnOtal
彼は
つ ぶ つ 言 つ てい た
ぶ
tO‐
tO
も
何
か
nepOttatnOe
よ
く分 か らな い
「
彼 は何 か よ く分 か らない こ とをぶ つ ぶ つ 言 つ て い た。」
姥 ″,p162)
(′
(c)現代 ギ リシア 語
1つ
現 代 ギ リシ ア 語 に お い て も、名 詞 を修 飾 す る形 容 詞 は 名 詞 に 前 置 され る方
1〕
が 普 通 で あ る (ヽ
■ralnbd,1959,p196;Holon etぶ
,1997,p286)。
(81)mia
高
kok路
不定冠詞
赤
い
kareに
la
(Holton et al,1997,p286)
子
椅
「
赤 い椅 子 」
(82)o
oreos
定冠詞
ハ
antras
(わ
ンサ ム な
男
材)
「
ハ ンサ ム な男 」
と ころが 、 不 定 代名 詞 kati「
何 か 」に対 して は 、形 容 詞 は後 置 され る。 そ の 場
合 、形 容 詞 は定 冠 詞 を 伴 つ た り、伴 わ なか つ た りす る (Mirambd,1959,p199,
p201;Holton et al,1997,p286)。
(83)kati
何か
to
定
Oreo
冠詞
(Holton et al,1997,p321)
美
しい
「
何 か 美 しい もの 」
(84)kati
何か
sinithismeno
い
つ もの
「
何 か いつ もの こ と」
う,″)
(ブ
フランス語 の関係節における文体的倒置について
145
a「
なr a m b d ,
同 じ こ とは 、 不 定 代 名 詞 の t l p O t何
も な い 」に つ い て も言 え る ( 卜
1959,p199;Holton et al,1997,p286)。
(85)Den
ない
itan
tipota
あつた
で
何
も
to
定
spoudeo
冠詞
重
要な
「
そ れ は重 要 な こ とで は なか つ た 。」
(Holton et al,1997,p324)
(86)Den
ない
itan
tipota
あつた
で
冴)
(,ぁ ′
asinthist。
何
も
異
常な
「
それ は 異常 な こ とで は な か っ た 。」
更 に 、 疑 問 代名 詞 Ⅲ を修 飾 す る形 容 詞 も、 後 置 され る。 た だ し、 この 場 合 に
は 、 通 常 、定 冠 詞 を伴 う( H o l o n e t 』
,1997,p327)。
(87)Ti
何
to
kenOuho
定
冠詞
ihe silnvi?
しい
新
きていた
起
「どん な新 しい こ とが 起 き て い た の か 。」
(Holton et al,1997,p327)
( d ) デンマ ー ク語
デ ン マ ー ク語 で は
、 英 語 と同様 に 、 形 容 詞 は名 詞 に 先 行 す るが 、 不 定 代 名
「 か 」や ぶt 「
全 て の もの 」に対 して は形 容 詞 が 後 置 され る。
詞 n O g c t何
(88)Vl
tt
私 たちは
noget
得
た
godt
何
at
か
よ
spise
い
の
に
食
べる
「
私 た ち は食 べ る の に よい もの を得 た。」
(Allan et al,1995,p231)
(89)Han
彼
clsker
好
alt
きだ
全
dansk
て
デ
(,冴
ンマ ー クの
ー
「
彼 はデ ンマ ク の もの が全 て 好 きだ。J
夕
″,p209)
146
平
塚
徹
(e)スウェー デ ン語
ス ウェ ー デ ン語 で も、不 定 代名 詞 nttOt,nttOnting「何 か 」、 inget「
何も な
い 」、 1■
3a「誰 も な い 」、 】比「全 て の も の 」に対 して形 容 詞 が 後 置 され る
(Holmes and Hinctti掟
,1994,p186,p188,p179;司
(90)航 30nting
何か
gott
よ
(助
Orkhagen,1923,p124)。
6rkhagen,1923,p124)
い
「
何 か よい もの」
0ド イ ツ語
ドイ ツ語 で も、形容 詞 は不定代名詞 と共 に用 い る ときには後 置 され る。
なにか重要 な もの」(ヘル ビヒ ・ブ シ ャ,1982,p289)
(91)etwas wlchtiges「
(92)irgendwer Bekanntes「
誰 か知 つ て い る人」(力滅 )
(93)jemand Fremdes「
誰 か 見知 らぬ人」(め,夕)
重要 な人 は誰 も な い 」(力材 )
(94)nlemand Bedeutcndes「
(95)nichts Neues「
新 しい ものは何 も な い 」∽ 財 )
この 場 合 、形容 詞 は名 詞化 して い る と見 な され てお り、そ の こ とは頭 文字 を
大文字 にす る とい う書記 法 に反映 され てい る。
ょぃ もの は何 も な い 」
この うち etwas Gutes「
何 か よい もの 」や nictts Gutes「
にお い て は 、形 容 詞 は不 定 代名 詞 と同格 と意識 され て い る。 そ の た め 、例 え
ば与格 支配 の 前置詞 ml「 で 」や zu「 に 」の後 では、 (96)のよ うに形容詞 も与
格 にな る。
(96){航 t/Zu)
(で/に}
etWas
何
mtem
か
よ
(Paul,1959,p304)
い [与格 ]
フランス語 の関係節における文体的倒置について 147
しか し、m t e s は 、本 来、名 詞化 され た形容 詞 の属格 であ つ た。 この属格 は部
「よい ものの うちの何 か 」とい う意 味 で
分 の属格 であ っ たの で、e t w a s G u t e s は
あ つ た 。 そ の後 、 この形 態 が 中性 主格 ・対 格 と再解釈 され て 、 つ い に は不 定
101の
,Dal,1962,p27)。
代名 詞 と同格 とな つ たのであ る
( P a u L 1 9 5 9 , p p 330045‐
一 方 』l e s 全
「
の
ての
の
の
「 く も 」、w e n i g 「
ほ とん ど な い 」と
も 」、v i d ( e s )多
、
い つ た量 を表す不定 表現 に対 して も形容 詞 が 後置 され る こ とが多 い。
( 9 7 ) a l l e s G u全
t eての
「 よい もの」( H a m m e ■1 9 9 5 , p 1 2 6 )
( 9 8 ) v i c l l n t e r e s s多
a nく
t eの
s「
面 白い こ と」( 力材 )
( 9 9 ) w e t t B I n t e r e s s a面
n t白
eい
s 「こ とはほ とん ど な い」( 力滅 )
( g ) オラ ンダ語
オ ラ ンダ語 で は、不定代名 詞 i e t s / w a t何
「か 」、n i e t s何「も な い 」に対 して形
s と い う語 尾 が 付 く は血i s i n g a ,
容 詞 が 後 置 され るが 、 そ の 時 、形 容 詞 に は 一
1924,p88;Do■ aldson,1997,p90;Fehringe毛 1999,p7)。
(100)iets
何か
nieuws
新
(Donaldson,
1997,p.90)
しい‐
S
「
何 か 新 しい もの 」
(101)niets
何か
sterkers
強
姥初 )
(ブ
い サヒ較 級 ‐
S
「
何 か よ り強 い もの 」
「 くの もの 」、a l l e r lあ
e iらゆ
「 る もの 」、w e i n i gほ
「とん ど な
同 じこ とは、v e e l多
い 」、e e n h d e b o e多
l「
くの もの 」、g e n o e g十分
「 な量」とい う量 を示す 語句や w 航
voor「
どん な」につ い て も成 り立 ってい る ( D o n a l d s o n , 1 9 9 7 , p 9 0j,s灼
inga,1924,
p88,Feh
nge■1999,p7)。
148
平
塚
(102)veel
多 くの
徹
lekkers
(Feh nge与 1999,p7)
S
お い しい ―
「
多 くの お い しい もの 」
sは 、 か つ て の 属 格 語 尾 で あ つ た と考 え られ る (Donaldson,
形 容 詞 に付 く―
1997,p91)。 よつ て、 オ ラ ンダ語 の この表現 は、ド イ ツ語 の etwas Gutesと同
様 に、 もとも と部分 の属格 を用 い た もので あ つ た と考 え られ る。
以 上 、見 て きた とお り、多 くの 言語 にお い て 不 定代名 詞 を形 容 詞 で修 飾 す
る場 合 、語順 を入 れ替 えた り、部分 の属格 に 出来す る形 式 を用 い た りして、
不 定代名 詞 が名 詞句 の 最後 に来 な い よ うに な つ て い る。 この こ とが成 り立 っ
て い る不 定 代名 詞 の 範 囲 は 言語 に よ つ て 異 な つ て い る よ うで あ る。 言 語 に
よっ て は、疑 問 代名 詞や 量 を表す 表 現 を形 容 詞 で修飾 す る場 合 に も不 定代名
詞 と同 じこ とが成 り立 っ て い る。 英 語 にお い て は、形 容 詞 が 後 置 され る不定
一
代 名 詞 と 般 の 名 詞 と の 間 に 境 界 例 と お ぼ し き も の も認 め られ る 。
fortunes、
timcs、
よる と、thingsをは じめ events、
Bolinger(1952,pp l137-1138)に
の名詞 は、things incredible、
よ うに
evcnts American、
times medicvalの
matters等
形容詞 が後 置 され る こ とがあ る。
以 上 見 て きた よ うに、形容 詞 が 後 置 され る条件 には 、言語 間 で も言語 内 で
も変動 が あ る。 しか し、 い ず れ に して も指 示 対象 が漠 然 と した もの を名 詞句
の 最後 に も つて くるの を避 け よ うとす る力 が働 い てい る と考 え る こ とが で き
る。 ここか ら、次 の仮 説 を提案す る。
(103)名詞句 内で は、名 詞句 全 体 の指示対象 の確 定 に対す る寄与が小 さい 要素
か ら大 きい 要素 へ と配列 しよ うとす る傾 向が存在す る。
そ して 、 この傾 向 は、言語 に よつて 現 れ方 が 異 な つてい るが 、 あ る程 度 、通
言語 的 に顕 現 して い る もの と考 え られ る。 こ こで 、仮 説 (60)を、そ の 頭 現 の
一 つ と して捉 え る こ とが で き る。 つ ま り、仮 説 (60)では、先行 詞 の 指示 対 象
フ ラ ンス 語 の 関係 節 にお け る文体 的倒 置 に つ い て
の確 定 に対す る寄与 の 小 さい 要 素 が 関係 節 の 最後 の位 置 に 現れ る こ とが妨 げ
られ る の だが 、 これ は 、名 詞句 全 体 の指 示 対象 の 確 定 に対 す る寄 与 の 小 さい
要素 を名 詞句 の 最後 の位 置 に もつ て くるの を妨 げ た結 果 と捉 え る こ とが で き
るの であ る。
しか し、不定 代名 詞 が 形容 詞 で修 飾 され て い る場合 と、不定 代名 詞 が 関係
節 の 主 語 に な つ て い る場 合 とで は 、名 詞句 全 体 の 指示 対象 の確 定 に対す る不
定代名 詞 の 寄 与 の仕 方 が 異 な つ て い るの で 、 同 じよ うに論 じる こ とは できな
い と思 われ るか も しれ な い 。 とい うの も、 前者 で は不 定代名 詞 は名 詞句 全 体
の指示 対象 が 不 定 で あ る こ とを表 して い る の に対 して 、後者 で は名 詞 句 全 体
の指示 対象 とあ る関係 に あ る もの が 不定 で あ る こ とを表 して い るか らで あ る。
しか しなが ら、 こ こで は 、 この 違 い は重要 で はな い。 い ず れ に して も、名 詞
句 全 体 の指 示 対 象 の確 定 に対す る寄 与が小 さい とい う点 に 関 して は変 わ らな
いか らであ る。
以下 では、仮 説 (103)を例証す る他 の事実 を ロマ ンス諸語 か ら挙 げ る。
52 ロ マ ンス諸語 での不定代名 詞 と形容詞
51で は、形容詞 が名詞 に先行す るのが普通 である言語 を見 てきたが 、形容 詞
が名詞 に後続す るのが 普通 であ る ロマ ンス諸語 にお い て も、不定代名 詞 を形容
詞 で修飾す るときには、普通名詞を修飾す る とき とは異な つた構文になる。
(a)フラ ンス語
フ ラ ンス 語 にお い て は 、形 容 詞 は名 詞 に 後 置 され る の が 普通 であ る。 た だ
し、以 下 の よ うな極 めて頻 繁 に用 い られ る短 い 形 容詞 は 、名 詞 に先 行 す るの
が普通 であ る。
ouveau,ancien,jeune, eux,etc
(104)grand,petit,bon,mauvなs,beau,joll,■
また 、後述す る とお り、 これ 以外 の 形容 詞 で も名 詞 に 前 置 され る場 合 が あ る。
の 不 定代名 詞 を形容 詞 で
しか し、q u e l q u e c h O s ee n、、q u d q u ' u n 、
personne等
150
平
塚
徹
修飾 す る場合 には、形容詞 は前 置詞 deを 介在 して後 置 され る。 この こ とは、
(104)に挙 げた名詞 に通常前置 され る形容詞 につい て も成 り立 っ て い る。
(105)quelque chose de(bon/beau/nouveau〉
(106) en dc(bon/beau/nouveau)
つ ま り、 不 定 代 名 詞 を形 容 詞 で修 飾 す る場 合 に は 、 不 定 代 名 詞 は名 詞 句 の 最
後 に 来 る こ とは な い の で あ る。 同 じ こ とは 、 疑 問 代 名 詞 に対 して も成 り立 っ
て い る。
( 1 0 7 ) Q u o l d e n O u v e a u ?倉,
( 朝1 9 5 5 , p 1 2 4 )
( b ) イタ リア語
イ タ リア 語 で も、 不 定 代 名 詞 や 疑 問 代 名 詞 を形 容 詞 で 修 飾 す る場 合 は 、 前
167,Sc annl,1991,
置 詞 d i を 介 して 、名 詞 に 後 置 され る ( 坂本 , 1 9 7 9 , p p 1 6 6 ‐
pp 290-291)。
(108)C'l
ある
qu』 cosa
何 か
tt
DI
nuovo?
(坂
本 ,1979,pp 166)
しい
新
「
何 か 変 わ っ た こ とが あ ります か ? 」
(109)Egli
彼は
non
な い
fa
す
nulla
る
何
di
も な い
buono
DI
よ
(お
,″)
い
「
彼 は よい こ とな どち つ とも しない。」
( c ) スペ イ ン語
スペ イ ン語 で は 、不 定代名 詞 a l g o 何
「
「 か 」と n a d a 「
何 も な い 」が 、h a b e r あ
「つ てい る」の 直接 目的語 であ る場合 に、形容詞 が 前置詞 d e を 介
る」や t e n e r持
あ物θ, p p 4 1 5 - 4 1 6 ; B a c k v a l L
して後 置 され る ( 高橋, 1 9 6 7 , p 1 0 1 , p p 2 7 6 - 2 7 7 ; E な
1967;Femttdez Ranttrez,1987,pp 302-303,p306)。
フランス語 の関係節における文体的倒置について
(110)を■ene
algo
持 つ てい る
importante?
de
何 か
DE
重要 な
「
重 要 な こ とが な にか あ るか ? 」
(岸
話輛寄,1967,p 277)
(111)No
ない
hay
あ
nada
る
も な い
何
de
pa丸
DE
特
たular
(わ
滅)
別な
「
特別 な こ とは な に もな い 。」
以 上 の よ うに、 ロマ ンス 諸 語 にお い ては不 定代名 詞 を形 容詞 で修 飾 す る場
1働
合 、形容詞 は前 置詞 を介 して不定代名 詞 に後 置 され る 。 この場 合 に使用 され
る前 置詞 は 、 も とも と部分 を表す もの だ っ た と考 え られ る。 つ ま り、形容 詞
で 表 され る性 質 を有 した もの全 体 の 一 部 が 前 置詞 に よ つ て 取 り出 され 、そ の
一
部分 を不定代名 詞 が指 してい るので ある。例 えば、quelque chose dtttlressant
は興味あるもの全 体 の 中の ある一 部分 の こ ととなる (朝倉,1955,p124;Le Bidoお
スペ イ ン語 に 関 して も、齢 肋殉 (1975,p415)や
et Le Bidois,1971,p88,p234)。
Fernettndez Ramttez(1987,pp 294)は
293‐ 《a180/nada+de十 形容詞》 の 前置詞
deを 部分 を表す もの と して い る。 ロマ ンス諸 語 の この 表現法 は 、部分 を表す
形 式 を用 い て い る とい う点 で 、 か つ ての ドイ ツ語や オ ラ ン ダ語 に見 られ る も
の と類似 して い る と言 える。
Le Bidois et Le Bidois(1971,p88,p234)は
、 この deの 用 法 をラテ ン語 の以 下
の語法 と比較 してい る。
novi
(112)aliquid
何 か [主 ・対 格 ]
(Le Bidois ct Lc Bidois,1971,p234)
新 しい ( もの ) [ 属格 ]
「
何 か 新 しい もの 」
(113)sub
sole
の下 に 太 陽
novi
何
も な い [ 主格 ] 新
「
太 陽 の 下 に新 しい ものは何 もない。」
(ttum. p.88)
しい ( もの) [ 属格 ]
152
平
塚
こ こ で は 、 不 定 代 名 詞 胡l q u i d 何
「 か 」や n l 「何 も な い 」を修 飾 す る形 容 詞
novus「
新 しい 」は 中性 単数 属 格 に な つ て い る。 この 形 容 詞 は名 詞 化 され て い て 、
「
新 しい もの 」を 意 味 して い る。 これ を部 分 の 属 格 にす る こ とに よ り、 全 体 と
1勢
して 「
新 しい もの の 中 の い く らか ( 何も な い ) 」とい う表 現 に な つ て い る 。
icente(1985,p217)は
以 下 の ( a ) の文 の 論 理 表 示 と して ( b ) を
更 に 、 A z o u l a yV―
与 え てい る。
(114)a Quelqu'un de sl
Vlcente,1985,p217)
eux a par16(Azoulay‐
b Quelqu'un x,x∈ S,x a pariも
ns dす parla proprl乱
S=ensemble d'位res humお
1影 ガタ″χ(め,冴)
滅)
(115)a Tu as falt quelque chose d'intlressant(め
b
Quelque chose x,x∈I,tu as fait x
夕)
高mts d笥品 par ia prop位│力 ″″ssttr(おあ
I‐ensemble d'obJcts in例
こ こで は 、 形 容 詞 で 表 され る性 質 で 規 定 され る集 合 に 属 す る要 素 を問 題 に し
て い るが 、 これ は 前 置 詞 d e が 部 分 を 表 す もの だ とい う考 え方 と合 致 す る ( c f
Hulk,1996)。
以 上 見 て き た よ うに 、 ロマ ンス 諸 語 に お い て も、 不 定 代 名 詞 を形 容 詞 で 修
飾 す る場 合 に は 、 部 分 を表 す 形 式 を用 い る こ とに よ つ て 、 不 定 代 名 詞 が 名 詞
旬 の 最 後 に 現 れ る こ とが な い よ うに な つ て い る。 この こ とは 、仮 説 ( 1 0 3 ) に合
致 して い る。
5 3 ロ マ ンス 諸 語 にお け る形 容 詞 の 前 置
こ こ ま で は名 詞 句 内 で の 不 定 代 名 詞 の位 置 に 注 目 して き た が 、 こ こで は 、
逆 に 、 形 容 詞 の 位 置 に 注 目す る。 ロマ ンス 諸 語 で は形 容 詞 は名 詞 に 後 続 す る
の が 普 通 で あ るが 、様 々 な要 因 に よ つ て 前 置 され る場 合 が あ る。
( a ) フラ ンス 語
フ ラ ンス 語 にお い て は 、名 詞 に 前 置 され る形 容 詞 と して 、 も
te de nature
plhё
フランス語 の関係節における文体的倒置 について 153
と呼ばれ るものが よく知 られてい る。 これ は、名詞 の意味 に当然含意 されて
い る性 質 を表す形容詞 の ことであ り、名詞に前置 される。
(116)un rapide lciairc;le triste hiver;la vaste mer;une faible fcmmc;un pieux
も
v6que;un savant professeur;etc(朝
倉 ,1955,p35)
この 場 合 、形 容 詞 は 、名 詞 の 外 延 を狭 め る働 き を して い な い 。 つ ま り、名 詞
句 全 体 の 指 示 対 象 の 確 定 に 寄 与 して い な い の で あ る。 形 容 詞 の 表 す 意 味 が 名
詞 自体 に 含 まれ て い な くて も、名 詞 句 の 指 示 対 象 が そ の 性 質 を 有 して い る こ
とが文 脈 か ら分 か つ て い る場 合 に は 、形 容 詞 は前 置 され る (Aoki,1991,p42)。
(117)A quelques mttres dcvant moi,au croisement,unc auto,venant a vivc allure de
ilton qu'clc prit da
l a r u e d u R a no dp ap ga h ,d 説
e j u s t e s北
scer puonu rp争
pinceau lumincux de ses phares
″″piもton
L'automobiliste et l'テ ?/″ 冴夕
ё
changёrent des invectes sonores(Llo Malet,in Aokl,1991,p42)
一
般 的 に は 、名 詞 を形 容 詞 で 修 飾 す れ ば 、 名 詞 句 の 指 示 し うる対 象 の 範 囲 を
ressant「
お も しろ い 本 」と言 え ば 、 「
本」
狭 め る働 き をす る。 例 え ば 、un ttvre intも
の 中で 「
お も しろ い も の 」が残 る。 しか し、
お も しろ くな い もの 」は除 外 され 、 「
上 述 の 例 で は 、 形 容 詞 は名 詞 の 指 示 して い る もの を制 限 す る役 害Jを果 た して
い な い の で あ る (ct Wlimet,1981,p43;Mattin,1986,pp 255-257)。
(b)スペ イ ン語
ス ペ イ ン語 で も同 じこ とが 成 り立 っ て い る。 以 下 で は 、名 詞 の 意 味 に含 意 さ
れ て い る性 質 を表 す 形 容 詞 は前 置 され て い る の に対 して 、 そ うで な い 形 容 詞 は
474)
後 置 され てい る。 (c£高橋 ,1967,p98;ぶ 肋吻,p410,Gv6n 1990,pp 473‐
154 平
(118)la
塚
徹
blanca
定 冠詞
deve
(高
い
白
橋 ,1967,p98)
雪
「白い 雪 」
(119)L
manO
定冠詞
blanca
手
(お
だ)
い
白
「白い 手 」
(120)肱
dutte
定冠詞
ttel
い
廿
(わ
″)
(,あ
″)
蜜
「
甘 い蜜 」
(121)la
voz
定冠詞
duttc
声
さ しい
や
「
や さ しい 声 」
以 下 の 例 で は形 容 詞 を名 詞 に 前 置す る こ と も後 置 す る こ と もで き る。
(122)un
不 定冠 詞
edn● lo
hemoso
美
しい
建
(B。lingeL 1952,p l121)
物
「
美 しい 建 物 」
(123)un
不定冠詞
ed崎●10
建
物
hermoso
美
(Bolinge■1952,p l121)
しい
「
美 しい 建 物 」
この 場 合 、B o h n g e r ( 1 9 5 2 , p l 1 2 1 ) に
よ る と、 ( 1 2 2 ) のよ うに形 容 詞 を前 置 す る
と話 者 は建 物 を 一 つ 思 い 浮 か べ て い る だ け な の に対 して 、 ( 1 2 3 ) のよ うに形 容
詞 を 後 置 す る と他 の 美 し くな い 建 物 と対 比 して い るの で あ る。 つ ま り、 後 置
され た形 容 詞 は指 示 す る範 囲 を 限 定 す る働 き を して い るの に対 して 、 前 置 さ
れ た形 容 詞 はそ の よ うな働 き を して い な い の で あ る。
フランス語 の関係節における文体的倒置について
155
( c ) イタ リア語
イ タ リア 語 で も、名 詞 の 意 味 と当然 の 関係 を持 つ て い る性 質 を 表 す 形 容 詞
)。
は前 置 され る ( 坂本 , 1 9 7 9 , p 6 8 ; R e n z i , 1 9 9 1 , p p 443303‐
(124)una
dolce
不定冠詞
や
(ウ 更男卜,1979,p68)
carezza
さ しい
撫
愛
「
や さ しい 愛 撫 」
(125)un
tttste
不 定冠 詞
addo
しい
悲
,″)
(め
れ の 言葉
別
「
悲 しい 別 れ の 言葉 」
以 下 の 例 で は 、 ( 1 2 6 ) では形 容 詞 が 後 置 され て い るの に対 して 、 ( 1 2 7 ) では 同
じ形 容 詞 が 前 置 され て い る ( 冠詞 の 相 違 に も注意 され た い ) 。
ё
andato
ルカ
行
つた
amico
simpatico
(126)Luca
友人
感
a
に
Roma
con
un
suo
ロ
ーマ
と
不
定冠詞
彼 の
(Renzl,1991,p430)
じの い い
「
ル カ は あ る感 じの い い 友 人 と ロー マ に行 つ た。」
(127)Luca
ルカ
ё
行
simpatに
o
感 じの い い
andato
つた
に
ttco
友
a
(わ
Roma
con
ll
ロ
ーマ
と
suo
定
冠詞
彼
の
冴)
人
「
ル カ は彼 の 感 じの い い 友 人 と ロー マ に行 つ た。」
Renzi(1991,p430)に よ る と、 (126)では ル カ と ロー マ に行 つ た人 物 は 「
友 人 」の
感 じの い い 友 人 」と い う部 分 集 合 に 属 す る誰 か で あ る と言 う こ と
集 合 の 中の 「
しか 分 か らな い の に 対 して、 (127)では ル カ の 特 定 の 友 人 を念頭 に 置 い て 、 そ
の 人 物 に対 して 「
感 じが よ い 」とい う意 見 が 表 明 され て い る。 つ ま り、 こ こで
平 塚
徹
も、後 置 され た形 容 詞 は指 示 対 象 を限定 して い るの に対 して 、前 置 され た形
容 詞 はその よ うな働 きを してい ない (cf Se施 ,1991,p201)。
以 上 の よ うに、 ロマ ンス 諸語 で は 、指示 対象 を限定 す る働 き を しな い 形 容
20。 この こ
詞 は前 置 され る
とは、仮 説 (103)を例証す る もので あ る。
5 4 ま とめ
不 定 代名 詞 を形容 詞 で修 飾 す る場 合 、不 定代名 詞 が 名 詞 旬 の 最後 に現 れ な
い よ うにな つ て い る こ とが通 言語 的 に観 察 され る。 ま た 、 ロマ ンス語 にお い
て は 、名 詞 の外延 を狭 め な い形 容 詞 が 前 置 され る。 これ らの観 祭 か ら、名 詞
句 内 で は 、名 詞 句 全 体 の指 示 対象 の 確 定 に対す る寄与 が小 さい 要素 か ら大 き
い 要素 へ と配列 しよ うとす る傾 向が あ るこ とが推測 され る。4 2 で 提案 した仮
説 ( 6 0 ) は、 この傾 向 の現れ と見 る こ とがで きる。
6 結
語
主節 平叙 文 お い て文 体 的倒 置 を適用 され た主 語 は焦 点 で あ る。 これ に対 し
て 、関係節 にお け る倒 置 主語 も焦 点 で あ る と考 え る こ とに よつ て多 くの 事実
が 説 明 で き る。 しか しなが ら、 関係 節 にお け る文 体的 倒 置 を主語 の焦 点化 と
す る仮 説 には、以 下 の 問題 点が ある。
1 ) 焦点 は断定領 域 に現れ るはず だが 、制 限的関係節 は概 ね 前提領域 であ るの
で 、焦 点が現れ る とは考 え られ な い 。 2 ) 関係節 にお け る倒 置 主 語 は、 主節 平
叙 文 にお け る倒 置 主語 と異 な り、前方 照応 的 に解釈 で き る。3 ) 関係 節 にお け
るf a l 置
主語 は 、 特 に短 い もの を観 察す る と、 固有名 詞や 人 間 を指す 単数 の名
詞句 が 倒 置す る率が 高 い。 4 ) 関係 節 にお い ては 、倒 置 主語 の後 に容 易 に他 の
要素 が 現れ る。 よつ て 、制 限的 関係 節 にお け る倒 置 主 語 は焦 点 で ない と考 え
られ る。
のい 主語 の方が 、そ うでない 主語 よ り倒
関係節 におい ては、i n d v i d u a t i o n高
置 しや す い と言 え る。 この こ とか ら、制 限的 関係 節 にお い ては 、 主語名 詞 句
フランス語 の関係節における文体的倒置について 157
が 先行 詞 の 指示 対象 の確 定 に寄 与 して い る程 度 が動 詞 よ りも高 く、動 詞 の 方
は主語 の 先行 詞 に対す る関係 を表 して い るにす ぎ ない 場 合 に 、 文体的倒 置 が
適用 され る とい う仮説 を提案 した。
フ ラ ンス 語 の 関係節 にお け る文 体的倒 置 に対 す る この 制 約 は 、名 詞句 内 の
要素 を名 詞句 全 体 の 指示 対 象 の 確 定 に対 す る寄与 が小 さい もの か ら大 きい も
の へ と配列 しよ うとす る傾 向 の 現れ で あ る と考 え られ る。 この傾 向 は 、多 く
の 言 語 で不 定代名 詞 を形容 詞 で修 飾 す る場 合や 、 ロマ ンス 語 にお い て形容 詞
を前置す る場合 にお いて観 祭 され る。
注
助成
本稿 は、日 本 学術 振興会科 学研 究費補助金 ( 奨励研 究 ( A ) 課題 番 号 1 2 7 1 0 2 8 9 ) の
一
を受 けて行 われ た研究 の成果 の 部 である。
十) 碇s ■a t u r c l , ( + ) n a t u r e l , ( 0 ) m o y e n n c m c n t
東 郷 ・大 木 ( 1 9 8 6 ) での 例 文 の 評 価 は 、 l ■
で、9 人 のイ ンフォー マ ン
naturcl,()peu naturel,( )pas naturcl5段
d u 階評価
toutの
トのそれ ぞれ の 回答 を * で 示 してある。
但 し、制 限的関係節 で あつて も、先行 詞 に不 定冠詞 を伴 うもの は、そ の 内容 が断定
され てお り、そ のために文体的倒置 を許容す る。
o初,arlned guard(′
veen thc lobby and thc vault is a hallway in whch stands 万
an
(1)Bet、
p490)
同 じことは疑問詞 疑問文にお ける文体的倒置 につい て も成 り立 ってい る。
ablc quc ic roi lllollrut en 1300
(1)Il est indiscu↓
もncment?
a Mals,en quel mois amva 、
cctも
11?
ncmcnt arnva―
t‐
b Mais,cn qucl mois cet lvも
平塚 (近刊)で は疑問詞 疑問文 にお け る倒置主語 が焦点で な い こ とを示 したが、 関係
節 が疑 問詞 疑 問 文 と同様 に前方熙応 的 な主語 を許容す る こ とは、 関係節 にお け る倒
置 主語 も焦点でな い とい うことを強 く示唆す る。
2検
定 を行 つた と思われ る。イ ェー ツの修 正
Glldinは、イ ェー ツの修 正 を施 さず に χ
2=328、
を施 した場合 は、 χ
p<01と な り、それ ほ ど有意 な差 ではな くな る。 主語
の数 と倒 置 との相 関関係 を よ り明 らか にす るた めには、デ ー タを増や した り、不 可
算名詞 を除外 した りす る必要があ る と思われ る。
Wallは主語 を以下 の よ うに分類 して い る。
(1)Jean:一語 か らなる 固有名詞。
語か らなる固有名詞、称号 十固有名詞。
(11)Jean BAlni二
冠詞付 きの名詞。
(lti)lc Si定
示形容詞付 き の名詞。
(lv)cc S:指
(v)mon si所有形容詞付 き の名詞。
・部分冠詞付 きの名詞。
(vi)m7dll S 定冠詞
i不
ois S:数
詞 付 きの名詞。
(vil)併
(viil)tcut 定形容詞付
S:不
きの名詞。
158
平
塚
ここで は、 (1)∼(11)を
( viil)を
固有名詞、 (111)∼
普通名詞 としてま とめた。
6)こ の傾 向は 、短 い 主 語 を対 象 と した場合 に現 れ て くる よ うで あ る。Fuchs(1997)が
Le Mondcか ら採集 した名詞句主語 を含む関係節 157例全 体 の うち倒置 して い たのは、
42例 (27%)だ っ た の に対 して (p137)、限定辞 を伴 わない 固有名詞 だけか らな る主語
22例 の うち倒 置 して い た の は 10例 (45%)、 定冠詞 を伴 う固有名詞 だ けか らな る主
語 9例 の うち倒置 してい た の は 3例 (33%)、 固有名詞 を含む名詞 句 か らな る主語 12
例 の うち倒置 して い たのは 3例 (25%)だ つた (p155)。
rl)を
7)こ こで は、注 5に 挙 げた分類 の うち、 (1)∼(■
定名詞 句、 (vii)∼
(vili)を
不定名 詞
句 としてま とめた。
8)Korzen(1996,p36)に よる と、疑 問詞 疑問文 にお ける文体的倒置 で も、倒置主語 の後
に容 易に他 の要素 を もつ て くる ことがで きる。
la
hcr?(Korzcn,1996,p36)
ばc v。
dc Mttrc rrc,郎
ant‐
(1)Otも talt garlc お
平塚 (近干J)で示 した とお り、疑 問詞 疑 間文にお け る文体的倒置 は主語 の焦 点化 の操
作 ではな い ので 、疑間詞 疑 問文 と同様 に関係節 で も倒置主語 の後 に他 の 要素 が容 易
に現れ うる ことは、関係節 にお い て も倒置主語は焦′
点でな い こ との根拠 となる。
い った不定代名 詞 をlTl置
9)Fournicr(1997,p106)は
、主節 平叙 文で tout,hcn,pcrsonncと
で きな い と述 べ て い る こ とか ら、不定代名詞 が焦 点 になれ な い とい う考 え方 は支持
され うる。
10)31で 、制 限的関係節 の 内容 は断定 され な いの で、焦点が来 る ことはな い と述 べ た。
(72)で倒置主語 が対比的焦 点 にな っ て い る こ とは、 これ と矛盾 して い る。 これ は前
提領域 内で も、対比的焦点 が来 る こ とが可能 で あ る こ とを示唆 して い るが、 この 間
題 につい ては本稿 では論 じな い。
11)直 接 目的語 が 代名 詞化 されれ ば、主節 平叙 文で も、関係節 で も、文体 的倒 置 が可能
になる場合 がある。
(1)A DШkcrquc lcs attcndalcnt dcs auttmbllcs(h AthsOn,1973,p73)
tait bollrso縦
1'entrな
o工n aicnt scs
(11)Son■rlsagcも
,あia fois dc sommell ct de l'angoissc
cauttc■
lars(in Wall,1980,p93)
また、直接 目的語 が無冠詞 で動詞 と熟語 をなす場合 に も倒置 してい る例がある。
( 1 1 1 ) A c c t t c m t i c h atm bfracc cF auinseな s a l l e d ' o " r a t 1 0 n ( u l A t m s o n , 1 9 7 3 , p 8 2 )
cc d'assurance agressive dont fait preuve depuis quelque temps ie IIlinistre
(iv)ccttc cspё
ianOais a cu lcsた
sultats suivanls(血
Wal,1980,p100)
更 に、限定辞 つ き の直接 目的語 を伴 つていて も倒置 して い る例がある。
lcur c賦
もc,le duc ct la
(v)Tandis que la PHnccssc causalt avcc mol,falsalcntcis6mcnt
prも
d u c h c s s e d e G u e m Aa 面血
t lstocns, 1i9(7血3 , p 8 2 )
con旬 lcs pllotcs ricains
rも
amも
ccmmcnt
(vi)(campagncあ laqucllc Ont apportl lcur占bution
rlに
liblrls cn racontant lcs
cessも
auxquels ilstも
o■
te soumis en capti■
)(inヽvall,1980,
p 98)
しか しなが ら、主節平叙 文では、 目的語 を伴 う他動詞 の場合 で も、動詞句は主語 の指
示対象 の談話 内世界 へ の導入 に適 した ものであるよ うに思 われ る。それ に対 して、関
係節 では、その よ うな動詞 句でな くて も、主語 の先行詞 に対す る関係 を表 して い る動
詞句な らよい よ うに思 われ る。Lc Bidois(1952,p267)は
、限定辞 つ き の 目的語 を伴 う
倒置構 文は特 に関係 節 にお い て見 られ る と述 べ て い るが、 これ は主節 平叙 文 よ りも関
係節 の方が倒置構 文 の動詞 に対す る制約 が緩 い ためではないか と考 え られ る。以上 の
事柄 は、直接 目的語 が 多 くの場合倒置構 文 を妨 げ る こ とを、形式的 な制約 で説 明す
るのは適切 ではな く、意味論的 ・語用論的観 点か ら説 明す べ き ことを示 して い る。
12)本 文に挙 げた以外 の採 取例 を挙げてお く。
夕を″物″,auralt passt toute sa re
journё
e de oあ
(1)Lc mouran↓
,あcc?″θttθttr?″
dertuё
フランス語 の関係節における文体的倒置について
faire ses comptcs ct a rcchercher une somme dc cinq francs,qui devait lui etrc duc par
ia caisse de vlllclllcnt(Conco耐
rも
″冴 r′
87ク_7』
クθ)in》 SCO切
ノ)
,E etJ,乃 ″ん
(11) Lcs choscs qlle vous ditcs paraissent venlr d'un molldc ttranger?″
夕″夕oO″″ク'troir
/o,inttSCOWア
)
ノタパο″″。(Bicッ,L,Lα rセ″初夕pα閉レ
θ″¢ノk'ι
カメ
r ttα
′
″″″α″′わ″′ル ″θ″姥 (Flaubcrt,G,Co/″ ヮ ο″amc。 ,
(111)C'cst l'cIFct?″
血駆 SCO犯 軌T′ )
力″
夕〃assタ
な″マ
″
ざ
θ″″夕,On apcttoit ccttc rllalson au fond d'un
(iv)Dc la grandc route
ο
ブαttα
jardln tellemcnt funSbrc qu'un certaln jour,un ltrangcr,fatigulntdesOnncrあ
viwe,
la ttc pour demandcr qu'on 俺
ry∞
rat(Bbtt L,とα免海初θ〃α炒ア
タ
,h ZttSCO盟 ア)
(v)Et sans doute,cet emplaccmcnt,1'automobile n'cn falsait pas,comme jadis ic chcmin
dc Fcr,quand j'6tais venu dc Paris a Balbec,un but soustrait aux contingences de la vie
ordinare,Prcsquc idtal au dも
1'amhrlc, あ
1'arn、
tc dans ccttc
part ct qui, lc rcstantあ
grande denicurc 力″協
ο αかたP夕なο″″夕Ct qul pOrtc seulement le nom dc la villc,la garc,
al'alr d'ell prolllcttc clnn l'accessibiliに
alisation
, commc elle en seralt la lllatl
σ
乃夕″みo Sοあ″タタr Cο
ttθ
//Zマ
(Prous↓
)
,M,こ αttθ
,in】 SCOWア
これ らの例 にお い て も、様 々 な要 因に よつて 動詞 の意味 内容 が希薄 にな って い る と
考 え られ る。
1 3 ) 本 稿 では ロシ ア文字 を I S O 規 格 に従 つて ロー マ 字 に翻字 した ( W a d e , 2 0 0 0 , p p l - 2 ) 。
1 4 ) 本稿 では現代 ギ リシア語を A / c r b m g g h c ( 1 9 9 9従
って ロー マ字 に転写 した。
)に
1 5 ) 形 容詞 を強 調す るた めに名 詞 の後 に持 っ て くる こ とも可能 で あ る ( M t t a m b c l , 1 9 5 9 ,
pp 199-201;Holton et al,1997,p286)。
(1) ェ a
kartta 臨 敗
(Holton et al,1997,p286)
不定冠詞 椅 子 赤 い
(11)o
antras
o
oreos
\idem.)
定冠詞 男
定冠詞 ハ ンサ ム な
この場合 、形容詞 に強勢 が 来 て、 しば しば被修 飾 語 と修 飾語 の 間 に切れ 目が感 じら
れ る。 また、名詞 が定 冠詞 に先 立たれ て い る場 合 には、形容詞 の 前で定 冠詞 を繰 り
返 さな けれ ばな らな い 。 この ことは、形容詞 の 後置 が有標 で あ る こ とを反 映 して い
る と考 え られ る。
16)現 代 ドイ ツ語 では、形容詞 の強変化 は、 中性 単数 にお い て以 下 の よ うにな つてい る。
主格 :gutcs 属 格 :gutcn 与 格 :gute■
l 対 格 :gutcs
ここで、属格 は gutcnな の で、ctwas Gutcsの Gutcsが 属格 であ った とい う説 明に疑
間 を もたれ るか も しれ な い。 しか し、 中高 ドイ ツ語 にお い ては、 中性 単数 の形容詞
の強変化 は以下の よ うな もの であ った G目良,1954,p24)。
z 属 格 :grOtts 与 格 :guOtcm[c] 対 格 :guctez
主格 :guO俺
(ただ し、主格 ・対格 には guotとい う無語尾 の形態 も存在 した。)
ezが _esと な っ た の で、 この 時点で etwas
後 に音韻変 化 に よ り主格 ・対格 の語尾 ‐
Cuttsの Gutcsが 主格 ・対格 と再解釈 され た と考 え られ る。 一方 、強変化 の属格語尾
―
csは 、弱変化 に 由来す る 一
cnに 置 き換 え られ た (Paul,1959,P102)。
17)jemandや nicmandの 後で は、現代語 にお い て も、形容詞 は部分 の属格 に 由来す る形
態 で現れ る場合 がある。次 の文では、与格 の Fremdemだ けでな く、Frcmdcsも 可能
である (Grcbc cd,1973,p299;Dal,1962,p27)。
(1)Sic
schcnkte
ttcmand
(FrcIIldcm/Frcmdcs}
彼女 は 寄 せ た
誰に も な い
知 らな い
thr
Vertraucn (Grebe ed,1973,p299)
彼女 の 信 頼
「
彼女は誰 も信頼 しなかった。」
160
平
塚
徹
1 8 ) カ タ ロニ ア語 や ブ ラ ジル ・ポル トガ ル 語 にお い て も、 同様 の 現 象 が 観 察 され る
(Wheeler e,al,1999,p139;Tholllas,1969,p62,p293)。
19)形 容詞 が不定 代名詞 と同格 におかれ る場合 もある。
(1) allquid
bOntull
(Glldcrslcesrc&Lodgc,1895,p235)
い [主 ・対格]
何 か [主 ・対格] よ
「
何 か よい もの」
また、形容詞 が属格 にな りうるのは第 2曲 用 をす る形容詞 の場合 であ り、第 3曲 用
をす る形容詞 は不定代名詞 と同格 におかれ る。
あ′
夕)
(1)aliquid
lllcll10rabllo
(′
何 か [主 ・対格] 記
憶す べ き[主 ・対格 ]
「
ある記憶す べ き こと」
こつV`ては、Hofmalln(1965,pp 57‐58)、Kuhncr&Stc3marm(1966,pp 430-431)を
詳糸
田ヤ
見 られた い。
2 0 ) カ タ ロニ ア語や ブ ラジル ・ポル トガル 語 にお い て も同様 である ( W h c c l c r c t a l , 1 9 9 9 ,
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フランス語 の関係節における文体的倒置について
StylisticInversionln FrenchRelativeClauses
Tom IIrRATSL聴
色A
Abstract
There is no doubt that an inverted subject is the focus in matrix declarative sentences,
however it is erroneous to supposethat the same is true in French relative clauses,becauseofthe
following facts: l) restrictive relatives clauses, whose content is normally presupposed,cannot
contain a focus constituent;2) an inverted subject in relative clauses can be interpreted
anaphorically; while one in main clauses cannot; 3) in relative clauses, among one or two words
long subjects, proper noun subjects and human singular subjects invert frequently; 4) a
prepositional or adverbial phrase can easily appear after the inverted subject in relative clauses.It
can tlerefore be safely concluded that an inverted subject in relative clauses is not the focus.
In relative claluses,individuated subjects invert more frequently than non-individuated ones.
This leads to the following hypothesis: in restrictive relative clauses,stylistic inversion is possible
ifthe subject contributes to determining the referent ofthe antecedentmore than the verb and the
verb merely expressesthe relation between the subject and the antecedent.
This restriction on stylistic inversion in French relative clauses can be understood as a
manifestation of the crossJinguistic tendency that, the more an element of a noun phrase
contributes to determining its referent, the more rightward it moves, and vice versa. This tendency
is observed in the following phenomena: l) an indefinite pronoun precedes the adjective
modi$ing it in many languages; 2) an adjective precedes the noun it modifies, when it does not
reduce t}e extension of the noun, in Romance languages.
Keywords: French, stylistic inversion, relative clause, indefnite pronoun, word order.
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