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災害時の緑内障治療についてのご協力のお願い
「災害時の緑内障治療についてのご協力のお願い」 この度の東北地方太平洋沖地震の被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。 眼科施設、眼科医あるいは薬品の不足から眼科以外の先生方にも緑内障患者様からのお問 い合わせや処方希望などが多くなる可能性があります。 日本緑内障学会では災害時の緑内障治療について必要な情報を逐次発信、更新してまいり ますのでよろしくご協力のほどをお願い申し上げます。 第 1 報として喫緊の事項ついての情報を下記いたしますので参考にしていただければ幸 い です。 皆様が一日も早く元の生活に戻られることをお祈り申し上げます。 (なお、災害時におけるコンタクトレンズ装用について、あるいは視覚障がい者への支援 については日本眼科学会ホームページ(http://www.nichigan.or.jp/index.jsp)からリン クがありますのでそちらをご覧ください) 日本緑内障学会 平成 23 年 3 月 31 日 1. 治療中の緑内障患者様について 現在、通院中の患者様のほとんどは慢性緑内障です。緊急性を要する緑内障では被災前 に治療が行われているはずで、現在点眼治療中の方、レーザー治療を受けた方、緑内障手 術を受けた方々は慢性緑内障としての管理が行われています。慢性緑内障は緩徐に進行す る疾患で、1-2 か月点眼がなくとも急に進行することはありませんが、使用中の点眼薬を継 続することは大変重要ですので、処方ご希望の患者さんには処方をお願いいたします。 患者様の中には、どれが緑内障薬かわからず、手持ちの緑内障用でない点眼薬を使ってい らっしゃる方もおりますので、緑内障点眼薬と処方については別紙をご参照ください。 2. 緑内障手術を受けた患者様について 緑内障手術を受けた患者様では、衛生環境の悪化や抵抗力の低下によって細菌感染(濾過胞 炎・眼内炎)を生じる危険があります。感染では手術部周辺の結膜充血、眼脂を生じ、菌が 眼内に迷入した場合には、高度の充血に加えて、視朦、角膜混濁、眼内蓄膿を生じ、眼球 運動時の球後痛を生じます(下写真) 。手術部位の結膜は菲薄化し、白色あるいは軽度黄色 の隆起部として観察され多くは眼球圧迫によって隆起部から透明液(房水)が漏出します。 感染が疑われる症例では抗菌点眼薬(クラビット、タリビッド、ノフロ、ガチフロ、ロメフ ロン、ベガモックス、サンテマイシンなど)を 1 日 4-6 回点眼処方してください。また抗 菌薬の内服も処方してください。可能であればタリビッド眼軟膏の就寝時点入も指示して ください。感染確実と思われる症例や、上記の点眼、内服をしても症状が同日中に悪化す る例では抗菌点眼薬とベストロン点眼液の両方を 5 分間隔で 30 分毎に点眼させ、点眼継 続の状態で至急眼科への受診をするよう手配をお願いいたします。手術適応となります。 念のため日本緑内障学会における濾過胞感染時の治療指針を別紙に添付いたします。 なお、充血や感染と間違えられ易い病態として「結膜下出血」(下写真)があります。これ は結膜血管の断裂で眼脂もなく、視力変化もありません。出血の前に刺痛や異物感を訴え る症例もありますし、静脈圧を高める力みなどがきっかけとなる場合もありますが、ほと んどの例で自覚症状なく発症します。正常の方にもよくあります。長くとも 10 日ぐらいで 自然に治りますので治療は不要です。 3.緑内障治療薬以外の薬剤使用について 緑内障治療薬以外の薬剤使用に関して、緑内障として通院中の方の場合にはほとんど制限 がありません。 風邪薬、胃薬、咳止め、抗アレルギー薬、抗不安薬、睡眠導入薬、抗パーキンソン薬など 多くの薬剤が使用注意、あるいは使用禁忌となっておりますが、その理由は散瞳効果に伴 う緑内障急性発作誘発を考慮したものです。これは未治療の原発閉塞隅角緑内障において 懸念される合併症であり、極めてまれなだけでなく、緑内障の多くを占める開放隅角緑内 障では問題となりません。さらに原発閉塞隅角緑内障で急性発作発症リスクが高いと考え られた症例については、眼科ですでにレーザー虹彩切開術なりの処置が行われている可能 性が高く、その場合には散瞳に伴う発作発症は、まれな例を除けば、ほとんどないものと 考えられます。患者様の全身治療を優先して治療を行ってください。開放隅角緑内障でも これらの薬によって多少の眼圧上昇をきたすことはありますが、急激な視野障害進行の原 因となることはありません。 副腎皮質ステロイドの使用では眼圧上昇をきたしステロイド緑内障を発症する例がありま すが、通常の短期間の内服、点滴での発症は稀です。大量、長期使用では眼科受診をお勧 めください。 また、緑内障を合併した透析患者さんでは透析後浸透圧の変化により急激、高度の眼圧上 昇をきたす場合があり頭痛、視朦を訴える例もありますが、多くは数時間で回復します。 そのような症状の表れた場合にも眼科受診をお勧めください。 3. 急性緑内障について 災害時などでは心身不安から急性緑内障発作をおこす方がいます。急性緑内障発作は 50 歳 以上の方に多くに見られますが、放置すると失明する場合もありますから、緊急受診させ てください。緑内障として眼科に通院中の方の場合には、発作をおこしそうな方は予防処 置が行われていますのでほとんど心配いりません。 急性緑内障発作は眼圧の急激な上昇によるもので、電球の周りに虹が見える(虹視)から始ま ることが多く、その後、充血、霧視、眼重感、 さらには頭痛、嘔気、嘔吐を生じる場合も あります。両眼同時発症は稀ですから両眼の眼瞼上から眼球を軽く圧して、触診すると発 作眼では眼球がかなり固いことから眼圧上昇であることがわかります。また急性発作では 角膜混濁、中等度散瞳がありますのでペンライトで観察するとすりガラス状の角膜と、直 接並びに間接対光反応の遅延もしくは欠如が見られます (下写真)。 急性発作と診断されれば冷罨法を行いつつ眼科へ転送をお願いします。可能であれば下記 の処置、処方をお願いいたします。 急性緑内障発作の治療 ① 冷罨法(疼痛軽減と眼圧下降) ② 点眼・内服(縮瞳による発作解消と眼圧下降) サンピロ点眼液 1、2% 10 分毎 5-10 回点眼 ベータ遮断薬点眼1回 + プロスタグランジン点眼1回 (各点眼薬製品については別紙を参照してください) + ダイアモックス(250mg) 1錠内服 (点眼がなければ内服だけでも可) ③ 高浸透圧剤点滴(強力な眼圧下降) 20%マンニットール注射液、あるいは、グリセオール注射液 300-500mL を 45-60 分で点滴 (点滴がない場合にはイソバイド 100mL 内服、あるいはダイアモックス注射 用液を 250mg 静注も可) 注: 1. 最も眼圧下降効果が早いのは高浸透圧剤点滴です。 2. ベータ遮断薬点眼は重篤な閉塞性肺疾患、コントロール不良の心不全、洞 性徐脈、房室ブロック II、III には禁忌です。 3. マンニットール点滴は、利尿効果が強力です。急性尿閉塞、脱水に注意し てください 4. グリセオール点滴は、利尿効果は少ないですが肝で代謝され肺から排泄され るため、肝機能不全・呼吸機能不全には注意が必要です。また 320Cal/500mL と高カロリーですので糖尿病患者でも注意が必要です。 緑内障急性発作はいったん収まっても、再発しやすいので手術療法が適応とな ります。発作寛解後はすみやかに眼科へ転送をお願いします。 主な点眼薬をまとめます。 A:緑内障治療薬:眼圧を下げるために使用します。 1 プロスタグランディン関連薬 副作用:睫毛伸長、眼瞼色素沈着、全身的にはほとんどなし。 特徴:点眼後 5 分したら眼の周りを洗うように主治医に指示されていることが多い。 タプロス 1 回1滴 1 回/日 トラバタンズ 1 回1滴 1 回/日 キサラタン 1 回1滴1回/日 ルミガン 1 回 1 滴 1 回/日 2 炭酸脱水酵素阻害薬 副作用:局所、全身ともにほとんどなし。 トルソプト 1% トルソプト 0.5% 1回1滴3回 /日 特徴:白~微黄白色の濁った点眼液です。 エイゾプト 1回1滴 2回 /日 レスキュラ 1回1滴 2回/日 3 非選択的 β 遮断薬 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 特に高齢者の潜在患者に注意。 チモプトール 0.25% 1回1滴 2回/日 0.5% ミケラン 1% 2% 1回1滴 2回 /日 リズモンTG 0.5% 1回1滴 1回/日 リズモンTG0.25% 1回1滴 1回/日 チモプトールXE 0.25% 1回1滴 1 回/日 ミケランLA 1% 1回1滴 1回/日 0.5% 2% 4 αβ遮断薬 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III ハイパジール ミロル 1回1滴 1回1滴 5 2 回/日 1-2 回/日 β1選択的β遮断薬 禁忌:重篤な閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III ベトプティック 0.5% 1回1滴 6 ベトプティックエス 0.5% 2 回/日 1回1滴 2 回/日 交感神経刺激薬 慎重投与:3,4環系抗うつ薬 ピバレフリン 0.1% 1 回 1 滴 1-2 回/日 004% 及び MAO参加酵素阻害薬服用者 7 α1遮断薬 デタントール 0.01% 1回1滴 8 2 回/日 副交感神経刺激薬 慎重投与:気管支喘息患者 サンピロ1% 1回1滴 2% 3% 4% 3-5 回/日 緑内障発作時は、頻回点眼します。 9 配合薬 平成 22 年より発売の2つの薬理作用があるもの これらの薬には、どれも非選択的β遮断剤であるチモプトールが入って いるため全身的副作用に注意。 特に高齢者の潜在患者に注意。 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III コソプト 1回1滴 ザラカム 2回/日 1回1滴 デュオトラバ 1回/日 1回1滴 1回/日 それぞれの薬のジェネリック医薬品があります。 すべてを網羅できないので、主なものをあげ ておきます。 緑内障の点眼薬(主なジェネリック薬 先発品 チモプトール 後発品 チモロール チモレート リズモン ) 他 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 特に高齢者の潜在患者に注意。 先発品 キサラタン 後発品:ラタノプロスト 他 先発品 ミケラン 後発品 カルテオロール ブロキレート 他 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 特に高齢者の潜在患者に注意。 先発品 ハイパジール 後発品 ニプラジロール 他 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 特に高齢者の潜在患者に注意。 先発品 ミロル 後発品 禁忌:閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 先発品 ベトプティック 後発品 ベタキソン他 禁忌:重篤な閉塞性肺疾患、コントロール不良な心不全、洞性徐脈、房室ブロック II,III 先発品 レスキュラ 後発品 イソプロピルウノプロストン 他 先発品 サンピロ 後発品 慎重投与:気管支喘息患者 アドソルビン他 B 以下は、緑内障薬ではありませんが、臨床上よく使用 されている点眼を示します。 1 抗菌薬・抗生物質点眼薬眼科領域の感染症に使用 ニューキノロン系 クラビット ベガモックス タリビット眼軟膏 タリビット サンテマイシン アミノグルコシド系 エコリシン眼軟膏 ノフロ ベストロン セフェム系 ゾビラックス眼軟膏 ガチフロ ロメフロン エコリシン マクロライド系 バンコマイシン眼軟膏 2 ステロイド薬 ステロイド薬は、副作用として眼圧を上げる場合があり、また、感染した目に使用すると 急激に悪化をきたす事もありますので、眼科医師の指導下に点眼する必要があります リンデロン液 リンデロンA液 ネオメドロール EE 軟膏 3 抗炎症薬 ジクロード フルメトロン 0.1% リンデロンA軟膏 非ステロイド薬 ブロナック 二フラン フルメトロン 0.02% サンテゾーン 0.02 4 ドライアイ・角膜の薬 ヒアレイン 0.1% マイティア 5 0.3% ジクアス 3% ソフトサンティア ティアバランス ヒアレインミニ 0.1% 0.3% コンドロン フラビタン眼軟膏 抗アレルギー薬 リボスチン ザジテン アイビナール リザベン パタノール アレギサール インタール ゼペリン ケタス 6 白内障進行予防薬 カリーユニ カタリン 7 疲れ目の薬 サンコバ ミオピン 参考:濾過胞感染症治療管理に関する「日本緑内障学会濾過胞感染 発生率と治療に関する多施設共同研究プロトコール」抜粋 病期分類 StageⅠ:濾過胞の膿性混濁、周囲充血、前房内細胞フレア軽度 StageⅡ:StageⅠの濾過胞所見+前房内細胞フレア中等度以上+硝子体内波及なし Stage Ⅲa:StageⅡの濾過胞、前房所見+硝子体内波及(軽度) Stage Ⅲb:StageⅡの濾過胞、前房所見+硝子体内波及(高度) 治療 StageⅠ:濾過胞炎 ・ レボフロキサシン点眼(クラビット®)とセフメノキシム点眼(ベストロン®)の頻回点 眼(1 時間ごと) ・ オフロキサシン眼軟膏(タリビッド®)の就寝時塗布 ・ バンコマイシン+セフタジジム(モダシン®)の結膜下注射(モダシン®は皮内反応必要) 結膜下注射の作成法と投与法 ・ バンコマイシン(塩野義)1V(0.5g)を生理食塩水 10mlに溶解し、0.5ml(25mg) を結膜下注射する ・ モダシン®(田辺)1V(1g)をとり生理食塩水 5mlに溶解し、0.5ml(100mg)を結膜 下注射する 注)両者を混合すると沈殿するので別々に作成し、結膜下注射すること StageⅡ:濾過胞炎+前房内波及 ・ クラビット®点眼とベストロン®点眼の頻回点眼(1 時間ごと) ・ タリビッド®眼軟膏の就寝時塗布 ・ バンコマイシン+モダシン®の前房内注射(モダシン®は皮内反応必要) 注)効果 が不十分であれば 36 時間以上経過後に再度前房内注入を施行してもよい ・ 抗菌薬全身投与(薬物選択は担当医の判断) 前房内注射の作成法と投与法 ・ バンコマイシン(塩野義)1V(0.5g)を生理食塩水または BSS 5mlで溶解し、1ml をとり、生理食塩水または BSS 9mlを加えて総量 10mlに希釈し、0.1ml(1mg) を前房内注入 ・ モダシン®1V(1g)をとり、生理食塩水または BSS 5mlに溶解し、0.9mlとり、生理食 塩水または BSS 7.1ml を加えて総計 8mlにし、0.1ml(2.25mg)を前房内注入 注)両者を混合すると沈殿するので別々に作成し、注射すること Stage Ⅲa:濾過胞炎+前房内波及+硝子体内波及(軽度) ・ クラビット®点眼とベストロン®点眼の頻回点眼(1 時間ごと) ・ タリビッド®眼軟膏の就寝時塗布 ・ バンコマイシン+モダシン®の硝子体内注射(モダシン®は皮内反応必要) 注)効果 が不十分であれば 36 時間以上経過後に再度硝子体内注射を施行してもよい ・ 抗菌薬全身投与(薬物選択は担当医の判断) ・ 抗菌薬に対する反応をみてステロイド薬の全身および局所投与 硝子体内注射の作成法と投与法 ・ バンコマイシン(塩野義)1V(0.5g)を生理食塩水または BSS 5mlで溶解し、1ml をとり、生理食塩水または BSS 9mlを加えて総量 10mlに希釈し、0.1ml(1mg) を硝子体内注入 ・ モダシン®1V(1g)をとり生理食塩水または BSS 5mlに溶解し、0.9mlとり、生理食塩 水または BSS 7.1ml を加えて総計 8mlにし、0.1ml(2.25mg)を硝子体内注入 注)両者を混合すると沈殿するので別々に作成し、注射すること Stage Ⅲb:濾過胞炎+前房内波及+硝子体内波及(高度) ・ 抗菌薬に反応がなければ、あるいは硝子体混濁が高度であれば速やかに硝子体手術(抗 菌薬の硝子体内灌流) ・ 抗菌薬全身および局所投与(薬物選択は担当医の判断) ・ 抗菌薬に対する反応をみてステロイド薬の全身および局所投与 硝子体内灌流液の作成法と投与法 ・ バンコマイシン(塩野義)1V(0.5g)を生理食塩水または BSS 5mlで溶解し、その 1 ml(100mg)を 500mlの眼内灌流液に混入する ・ モダシン®1V(1g)を生理食塩水または BSS 5mlに溶解し、その 1ml(200mg)を 500mlの眼内灌流液に混入する(モダシン®は皮内反応必要) 上記以外の抗菌薬を用いてよい場合 ・ 上記抗菌治療に反応しないと主治医が判断した場合 ・ 菌種が確定し、より抗菌作用の強い薬物が特定できた場合 ・ アレルギー反応等、患者の要因で上記薬物を使用できない場合