...

工学システム学類が教育目標とする 技術者像とその育成法について

by user

on
Category: Documents
0

views

Report

Comments

Transcript

工学システム学類が教育目標とする 技術者像とその育成法について
特集「国立大学法人化の理想と現実 ① 教育Ⅰ」
工学システム学類が教育目標とする
技術者像とその育成法について
安信誠二
システム情報工学研究科教授 工学システム学類長
1.はじめに
識を得ることが出来る。
工学システム学類では、教育目標の明
すなわち図 1 に示すように、横断的に広
確化と、その達成度の定量的な評価の試み
く学び、2 つ(以上)の特定分野で深く究め、
として、目標とする技術者像を設定し、教
これらを複合・融合した先端技術の卒業研
育目標を掲げると共に、育成法と教育点検
究に従事させている。学類の卒業生のある
システムを構築している。これらにより、 べき技術者像は、ここで学んだ「基礎能力」、
JABEE(日本技術者教育認定機構)認定プロ
「遂行能力」、「基礎力」により、学生自身が
グラム「工学システム学類」として、平成17
社会に出た後も、複数の技術に立脚し、新
年3月修了の卒業生より、技術士の第1次試
しい技術を取り入れながら、人々の生活を
験を免除されている。この認定プログラム
支える人工システムを開発できるπ型技術
を維持するために、日々の教育点検の持続
者である。
を行っている。ここでは、目標をどのよう
に保証して実現するかをまとめ紹介する。
2.工シス型技術者はπ(パイ)型
工学システム学類は、横断的、複合・融
合領域である。学生は、2年次より知的工学
システム、機能工学システム、環境開発工
学、エネルギー工学の4主専攻に属し、その
分野の勉強と共に、他の分野に関しても知
108
筑波フォーラム74号
図1 工シスが目指すπ型技術者
3.
「工学システム学類」とは
択し、深い専門知識を習得する。4年次生は、
「工学システム学類」の名称である「工学
主専攻分野に限定されることなく学類内の
システム」とは、従来の縦割りの工学分野
希望する研究室の一つに配属され、習得し
ではなく、工学の多くの分野に共通する横
た基礎能力と幅広い専門知識を生かし、卒
断的な、制御工学、計測工学、材料学、機構
業研究を完成させることで目標とする技術
学、流体力学、などの基礎的技術を基盤と
者像に到達して卒業していく。
し、機械、情報、電気電子、土木、建築、シ
ステム、エネルギー、ロボット、宇宙航空、 5.目標を達成させる仕組み
リスクなどに関する複数の専門的工学分野
工学システム学類の教育目標は、本誌第
における先端工学的要素技術、を構成要素
70 号の付録にも記載し、学類ホームページ、
とし、これらを相互に関連させ、有機的に
学内掲示などで公開している。ここでは、
結合させることにより、高度な目的を達成
技術者を育成する目的関連樹木(図2)とし
させるよう統合化した、コミュニケーショ
て、主要授業科目と活躍分野と共に、まと
ン・ロボティクス・システム設計・社会基
めて紹介する。
盤・環境・エネルギーなどの人々の生活に
学類が育成目標とする卒業生は以下の 3
役立つ工学的なシステムの構築を目指す工
つを身に着けた技術者である。
学である。
(1)広い分野に応用できる基礎能力
(2)広い視野を持った仕事の遂行能力
4.学生の育成法
(3)社会人、職業人としての基本力
学類の教授陣は、
「工学システム」の概念
そのために、卒業要件の125単位として、以
を共有し、これを構築できる技術者の育成
下の能力が身に付くようカリキュラムを見
のため、主専攻ごとに分かれることなく一
直した。
体として本学類を担当し、融合的・横断的
「基礎能力」に関して、
カリキュラム体系の実現を追求している。 1.1 線形代数、解析学などの履修を通して、
学生は、1年次に、工学システム学類のどの
論理的・数学的な思考力と解析力、
主専攻にも対応できる基礎能力を養うとと
1.2 力学、物理学実験などの履修を通して、
もに、横断的に工学分野を捉え「工学シス
物理的な自然現象に対する理解力、
テム」の概念を学習する。2年次生と3年次
1.3 情報処理、プログラミング入門などの
生は、4 つの主専攻に分かれ専門科目を選
履修を通して、コンピュータを駆使し
特集「国立大学法人化の理想と現実 ① 教育Ⅰ」
109
情報を取得・処理・提示する能力。
なく確実に教育し、内容を修得させること
仕事の「遂行能力」に関して、
により、学類が目標とする技術者像から欠
2.1 他学群・学類提供の総合・専門科目
落した卒業生が出ない様、質を保証する仕
の履修を通して、社会・全世界・地球
組みを構築している。
全体との関連を理解する能力、
これらは、毎年自己点検(Check)すると
2.2 工シス提供の各専門科目の履修を通
ともに見直しを行っているが、特に今年は、
して、広範囲な工学知識を基に、専門
証拠を整理して自己点検書を作成し、審査
分野における最新知識を獲得する能
を受けることとしている。
力、
2.3 卒業研究遂行を通して、問題解決能力、 6.達成度の評価
2.4 デザイン能力に主眼をおいた主専攻
学類では、教育目標としている各項目に
実験Ⅱ、システム工学、ロボット工学、 ついて、学生自身による自己評価を毎年 2
機器運動学などの履修を通して、シス
回行うと共に、関連する講義科目に重みを
テムを設計し運用する能力、
付け、単位数と成績評価により総合達成度
2.5 実務経験豊かな講師による、システム
を求めている。現時点では、最低保証の確
開発論、産業技術論の履修を通して、 認を主目的としているが、この達成度を活
新技術を企画・立案する能力。
用した教育内容の改善が今後の課題である。
社会人としての「基本力」として、
3.1 外国語、専門英語の履修を通して、コ
ミュニケーション能力、
3.2 2 年次の基礎実験や卒業論文作成と発
7.おわりに
学類で最近見直した教育目標とその達
成法について述べた。これらを行った学類
表を通して、プレゼンテーション能力、 の教育点検システム(PDCA サイクル)は、
3.3 3 年次の主専攻実験、卒業研究の遂行
を通して、自主性と行動力、
3.4 工学者のための倫理の履修での討議
JABEE 認定後、これを維持する観点から見
直しており、現在のシステム構成を図 3 に
示しておく。これらの活動状況については、
考察により、社会性と責任感・倫理観、 次の機会に紹介する。
を身に着けさせている。
上記各項目にて示した授業科目群を漏れ
110
筑波フォーラム74号
(やすのぶ せいじ/システム制御工学)
図2 教育目標を達成するための目的関連樹木
図3 教育点検システム(2006年4月改定)
特集「国立大学法人化の理想と現実 ① 教育Ⅰ」
111
Fly UP