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第3号(H27年4月10日発行)(PDF:5323KB)

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第3号(H27年4月10日発行)(PDF:5323KB)
第3号
平成27年4月10日
編集
目
生産局農産部地域作物課
次
【生産局地域作物課からの情報提供】
日台茶業技術交流
農林水産省 生産局 農産部 地域作物課
地域対策官
白井
正人
【技術面に関する情報提供】
茶園凍霜害対策について、いくつかの情報
農研機構
野菜茶業研究所
業務第2科長
松尾喜義
茶被覆資材の展開・巻取り装置が発売されました
新農業機械実用化株式会社
【九州農政局からの情報提供】
和の空間(茶室)の展示について
農林水産省 九州農政局 生産部
特産係長
牧枝
竜二
園芸特産課
日台茶業技術交流
生産局農産部地域作物課
地域対策官 白井正人
1 きっかけ
前回は、台湾での日本茶プロモーションをご紹介しましたが、実はその後に続きがありました。日
台茶業技術交流です。唐突に思われるでしょうが、ちょっと長くなりますがまずきっかけを話させ
て下さい。
2013 年 11 月に台湾茶業博覧会でプロモーションの手伝いをした時、台湾行政院農業委員
会(農林水産省に相当する国の機関)の幹部を表敬訪問する機会がありました。先方が茶のこと
を知っていて、台湾中部にある試験場で紅茶の育種をしている、あそこは新井という日本人が開
発した、といった話をしました。その試験場のことはある程度知っていたのですが人物については
無知で、プロモーションが終わって日本茶輸出組合の方々とその話をしていたら、新井耕吉郎と
いう人がいて戦前台湾で茶の育種をしたと聞かされ、ほうそんなことがあったのか、と思いました。
それからしばらくの間、このことが頭から離れず、ずっと気になっていました。台湾に出張する前
の 2013 年 11 月上旬静岡で世界緑茶会議があり、講演者の一人である Peter Goggi
(President, Tea Association of the USA, Inc.)が述べた、消費者はストーリーを求めてい
るという一言がずっと頭に引っかかっていたのですが、ある日、新井の話は日本茶に新たなストー
リーを作れるのではないかと直感しました。ただしこのままでは行政機関が担ぐテーマにならない
ので、茶種は違っても同じ茶文化を有する国として共通する行政課題や技術テーマはあるので
日台茶業技術交流というタイトルとし、公式ルートを通じて台湾当局に対し提案をしたところ先方
も同意し、その第 1 回を台湾で開催できることになりました。
2 参加者及びスケジュール
生産、加工、機能性、マーケティングを交流のテーマとしたいと事前に台湾側から提案があり、
このテーマに沿って農研機構野菜茶業研究所に人選を依頼し、5 名の研究者が 11 月 17 日に
台北に到着、台湾茶業博覧会を見ていただいた後 18 日 08:00 台北発の台湾高速鉄道(新幹
線)で 08:58 台中駅着、1 時間程度で今回の会場である行政院農業委員会茶業改良場魚池
分場(南投県魚池郷。郷は村に相当)に到着しました。18 日は交流、19 日は南投県鹿谷郷の
烏龍茶農家を訪問したのち南投県竹山鎮にある茶製造会社を見学し、夜台北に戻りました。
参加者は以下のとおりです(敬称略)。
日本側 農林水産省 白井、稲垣(食料産業局輸出促進グループ課長補佐)
農研機構野菜茶業研究所 佐藤(上席研究員(金谷))、物部(主任研究員
(金谷))、屋良(主任研究員(金谷))、萬屋(主任研究員(枕崎))、山田(研
究員(金谷))
台湾側 行政院農業委員会 陳建斌(国際処長)、戴徳芳(国際処技正)、史瓊月(国
際行銷科技正)
行政院農業委員会農糧署作物生産組 蘇登照(雑糧特作科長)
行政院農業委員会茶業改良場 陳右人(場長)、楊美珠(助研員)、郭寛福
(魚池分場長)、蕭建興(茶作股長)、林儒宏(製茶股長兼副研究員)、巫嘉
昌(文山分場長)、他魚池分場職員
鄭宛綾(通訳)
3 概要
(1)18 日の交流の概要です。
a
双方あいさつ(台:農業委員会陳建斌処長、日:白井)
b
茶マーケティング及び協力(台:農業委員会史瓊月技正、日:白井、稲垣)
(a)台湾側プレゼン概要
・ 台湾では 1980 年代から茶の生産量は緩やかな減少傾向(1 万 8 千トン→1 万 5 千ト
ン)であり、過去の輸出の主力は紅茶、緑茶であったが、ウーロン茶が主力となっている。
特に高級茶である東方美人茶は人気。
・ 輸出平均額は 38.1 ドル/kg で輸出主要国は中国、米国、日本。
・ 輸出の課題として大きいのは残留農薬基準への対応。特に日本向けは命令検査対象
となっており、厳しい対応を取られている状況。
・ 輸出に向けた取組としては、安全な輸出(残農対応等)、マーケティングが柱。
・ 近年は一部トレーサビリティが出来るような体制も整備している。(後日、現地調査の際
に農薬履歴や産地が、QR コードで確認出来るシステムを確認)
・ また、輸出業者を対象としたセミナー等を行っている。
・ 世界的な動きとして、茶栽培は増加傾向、特に中国、インド、ケニア、スリランカ、トルコ
は世界でも有数の産地となっており生産量も伸びている。
・ 茶の輸入上位国は、ロシア、米国で輸出上位国は、中国、インド、ケニア
・ 注目しているのは欧米のマーケットであり、健康志向でも茶の輸入量が増加している傾
向である。しかし、EU の基準は厳しく量的にはかなり少ない量しか出せていない。
・ また、輸出に向けた取組として規制緩和を行うなどの取組をして、茶の国際マーケット
の開発を進めている。例えば自由経済特区のようなものを設けて、輸出向け茶葉の農
薬検査等が簡単に出来るようにしている。
・ 台湾ではコメの国内消費量が落ち込んでいるのが課題であり、米粉を使ったケーキや
菓子などの生産を行い、消費の拡大を図っている。
(b)質疑
台)輸出と消費拡大対策について。
日)消費拡大対策は苦労している。
台)台湾ではコメ消費拡大のため、ビーフン等の原料になる米粉で消費拡大を図って
いる。日本抹茶は外国人に受けている。
台)輸出団体を作る件、政府の役割は。
日)品目別に主体的に輸出を促進するための取組を輸出環境整備からプロモーショ
ンまで戦略的に実施していく団体。将来的な想定としてイメージできるのは、USMEF
や SOPEXA 等の団体。
台)日本における小中学生に対する茶普及対策の実態は。
日)日本茶インストラクターの活動を紹介。若者に茶を飲んで貰うことが重要である。
台)日本から台湾への茶輸出時残留農薬基準が問題となる件、日本の基準も厳し
かったが台湾は何とかクリアして台湾茶を輸出した。日本から台湾に対して何らかの
対応を図っているのか。
台)日本茶も EU 基準に対応できるようにするとのことだが具体的には。
日)EU の制度については、今年度調査をしたが、対応は非常に厳しい、1 つの農薬
を登録するための時間とコストは膨大であり、現状で有機以外の対応は現実的に困
難であると考えている。
c
魚池分場展示館見学
台湾茶、特に紅茶の歴史を展示しており、特に新井耕吉郎が「台湾紅茶的守護者」とし
て大々的に展示されているのが印象深く、野菜茶業研究所の方々にも関心を持っていた
だいたようです。魚池分場の方も新井の功績を熱く説明されていました。
d
茶生産技術(台:蘇登照科長 日:萬屋主任研究員)
台湾側のプレゼン概要以下のとおり。
・ 台湾での茶の有機栽培面積は 500ha 程度。
・ 台湾では残留農薬対応としては、天敵利用、有機で使用可能な農薬の活用、性フェロ
モンの利用や成長抑制剤の利用を行っている。
・ 台湾では、茶工場は ISO22000 や HACCP の取得をする事を推進するとともに、残
留農薬対応として検査の実施や教育プログラムを実施している。
・ 有機茶園での農薬のドリフト対策は両国で頭の痛い問題。基本的には、隣接地に高木
を植えるなど物理的に防御する以外の方法はない。
・ 台湾では、残留農薬違反の規則として、検査をした際に 5 種以上の農薬が検出された
場合、基準値以下であっても、1 年間の追跡対象となる(日本側からは、その制度だと
使える農薬が限定され、病害虫の抵抗性を強めることになる、国際的動きとは逆行す
るのではとの指摘あり)。
e
茶加工技術(台:農業委員会茶業改良場、日:野茶研山田隆太郎主任研究員)
(a) 台湾側からのプレゼンのポイント以下のとおり。
・ 台湾では茶葉加工技術として、ブレンド茶の開発やコーヒーと茶のブレンド、茶葉の料
理への活用を研究している。また、東方美人茶などの高級茶の加工技術の普及も行っ
ている。
・ 東方美人茶は高級茶であるが、他方普及拡大の取組として、ペットボトルでの販売も行
っている。(値段は、5~10 元ほど高価となっている)
(b) 質疑
台) CTC の日本における事情について紹介を(→適宜紹介した)
日) 東方美人茶のペットボトル茶が台湾で売られていることについて、付加価値を下げ、そ
ういう品質の茶と思われる可能性はないのか。
台) 東方美人茶は高級なものと、重度発酵した二級品の 2 種類ある。後者であっても普
通の茶よりは高い。こういうのを原料に使っている。
台) 台湾は茶に対するイメージが違うところがある。新しい製品についてはおしゃれというイ
メージが付いてきている。東方美人茶等は高い価格が付いている。故郷に戻って茶農家に
なったり、茶関係の仕事に就く若者も出てきている。台湾では煎茶が流行っている。そのた
め台湾でも煎茶を作るようになった。深蒸し茶を作るようになるかも知れない。
f
ティーブレイク
台湾スイーツと、台湾の品種で作った紅茶が出されました。この当たりの感覚、我が国と
非常に近いです。
g
茶機能性(台:茶業改良場楊美珠助研員 日:物部真奈美主任研究員)
質疑
台) 物部さんの研究について。どういう(実験動物と物質の)モデルを使ったのか。
台) GABA アミノ酸の研究は行っているか。
日) 日本では実施していない・
台) 機能性研究として、効能だけではなく身体に害を与える成分についての研究はないの
か。特にアルミについての研究ないか。
日) そのような研究はない。
h
その他
魚池分場に来る前の 4 日間、台湾茶業博覧会で台湾茶ブースのいまいち感を強く感じ
ていたので(日本茶輸出組合ブースの真っ正面がまさにそうで、小さい茶壺で何杯も烏龍
茶をおかわりしながら長時間まったりと過ごすスタイル)、日本茶への反省の意味も含め、
台湾茶はイケてない(不太時尚)と発言したところ、後で台湾側から、当方の発言に言及す
るコメントがいくつかあったので、ちょっと率直すぎる発言だったかもと思います。ただ、当方
の発言に対し、会場前列に座っていた茶業改良場の若い職員 2 名が大きくうなずいていた
のはしっかり目に入りましたが。
(2) 19 日の現地視察は以下のとおりでした。
a
連山茗茶(鹿谷郷)
・ 日本でいう自園自生自販。作業工程は、手摘みの茶葉を 20 分間日にさらして萎凋さ
せた後、屋根付きの 2 階に運び萎凋させる。陽光が強い場合は寒冷紗を引いて陽光
を和らげる。この後、専用のパレットに乗せ、温度及び湿度を管理しつつ萎凋させる。萎
凋の間、見て触って水分などを確かめながら作業を行う。
・ 降雨の際は茶を摘まない。パレットでは 1 日に 4 回撹拌する。その後釜に入れて殺青し、
揉捻機で軽く揉んで外部の揉捻業者に出し委託揉捻する。どこで殺青するかは経験。
作業工程を紙に書くことはできるが、その時の温度や湿度、様々な条件で違ってくるの
で、マニュアル化は実質的に不可能。
・ ここから少し標高の低い名間郷は機械刈りが進んでいるが、この鹿谷郷は手摘みが主
体。
・ 摘採は、春(4 月の清明節頃)、夏(春から 50 日後頃)、冬(10 月から 11 月。高山は
9 月下旬から)が多く、大体年 4~5 回が茶を製造するシーズン。
・ この茶農家は、HACCP、ISO22000 等を取得済み。
b
嘉振茶業股 fen 有限公司(南投県竹山鎮)の「遊山茶訪」(展示施設)
・ 元々茶農家だったがこの会社を設立し、高付加価値化、6次産業化の優良事例となっ
ている。
・ パッケージやデザインに相当の力を注ぎ、茶を高く売る戦略である。
・ また、台北にある、日本植民地時代の古い建物(直前は台湾大学の教授官舎)を茶
芸館兼文化施設にして、茶文化の振興を図っている。
・ 担当者に聞いたところ、先日フランスにプロモーションに行ってきた、欧州市場は有望、
台湾茶は向こうでは高い評価を得ていると相当の自信を持っていた。
c
その他現地視察中のやりとりです。
・ 鹿谷郷の茶園面積は以前は 1,800ha 程度だったが、標高の低いところで土壌の問
題(流亡か)などで茶園面積が減っている。
・ 台湾にも改植、更新補助金がある。1ha35,000 元。日本の改植補助金制度を農糧
署雑糧特作科蘇登照科長に説明したところ、金額が大きいな(当方より、コストもかかる
のでそれほどではないと補足)、内容は台湾と大体同じとの感想だった。
・ なお、台湾は複数のエスニックグループがあり、公用語は中国語(北京語)であり、職
場や学校は北京語だが、特に地方では台湾語(福建省南東部で話される閩南語とほ
ぼ同一)が日常に使われている。蘇科長によると、農業担当者は台湾語は当然のこと、
客家語(福建省や広東省の客家族地域から移住してきた人々の子孫が多く住む桃園、
新竹、苗栗県などで話される。これらの県は東方美人茶の産地でもある)も必要、自分
は客家語は話せないが聞けばわかるとのことだった。農業委員会の職員も、前述の茶
農家訪問時は台湾語で話しており、台湾語が話せないと仕事にならない(農家や地方
の人に対し北京語で話すと、お高くとまっていると思われ話を聞いてもらいにくい由)。
4
その他
第 2 回日台茶業技術交流は 2015 年日本国内で開催予定で、時期及び場所が決まりました
らお知らせします。
ところで冒頭のストーリーですが、今は海のものとも山のものとも付かない状態です。ただ、野菜
茶業研究所の方に調べていただいたのですが、金谷には台湾総督府時代の文献などが保存さ
れており、それを見ると当時から紅茶品種などの交流はあり、今国内にある印雑系統も台湾紅茶
の遠い縁戚関係にはあるのだろうと考えています。詳しい方おられましたらご一報いただければ助
かります。
(参考)写真
台北駅台湾高速鉄道(高鉄)改札前の表示。「月台」はプラ
地下プラットフォーム。
ットフォームの意味。乗ったのは 8 時発列車番号 617 の左
営(Zuoying)行き。
車体は日本製(700 系改良型)のため全く違和感なし。
違和感なさすぎ。
東海道新幹線に乗ったのかと思う。台中着 08:58、開通前
茶業改良場魚池分場内の建物。魚池分場は 1936 年台
は鈍い特急で 2.5 時間くらいかけて台中に行ったことを考え
湾総督府中央研究所魚池紅茶試験支所として設立され
ると隔世の感あり。
た。この建物は 1938 年紅茶製造実験工場として設置。
建物の中。今も現役で使用されている。
魚池分場内展示館にある新井耕吉郎の展示。「台湾紅茶
の守護者」とある。銅像は、著名な企業家である許文龍氏
(奇美集団創業者)が作った。
新井耕吉郎の紹介。日中両方の説明がある。
こういうものを出す感覚は我が国と非常に似ている。手前は、
グアバ、台湾バナナ、蓮霧(サクサクした食感の果実。台湾で
は主に冬に出る)
魚池分場で育成した紅茶品種の紅茶飲み比べ。全て香りも
味も違う。やや色が濃くボディーがしっかりとしたアッサム系
の紅茶の印象だった。
魚池分場内。台湾らしい風景。
鹿谷郷の茶農家連山茗茶。摘採された茶葉は最初屋外で
萎凋させる。ここは茶工場の 2 階で、気温や湿度などにより
適宜天井の寒冷紗を引いて調整する。
11 月だったこともあり、大分葉が大きく肉厚。
屋外萎凋後、1F の屋内萎凋室で萎凋させる。。
萎凋室は空調されており、これで温度と湿度をコントロール
このパレットに広げて萎凋させる。棚は収納できる構造。
する。萎凋の条件は季節、外気温や湿度などにより異なる。
農家によれば経験と勘。
このように電動で上下に動く。
萎凋終了後の殺青に用いる釜。中筒が回転する。
葉を揉み込む際に使う機械。この農家では揉捻作業は外
前列左から、茶農家の林さん、農業委員会農糧署雑糧特
注に出し、この機械は使わないと言っていた。
作科蘇科長、茶業改良場陳場長、農業委員会動植物防
疫検疫局植物防疫組陳科長、農業委員会国際処戴技
正。
HACCP、ISO9001、ISO14001 認定証。優良農家なの
ISO 等のマニュアル、管理帳簿類。我々が来ることがわか
だろう。出された烏龍茶も味香りとも大変優れたものだった。
っていたこともあるだろうがきちんと整理され目立つところに
置いてあった。
魚池分場は、台湾中部の観光名所である日月潭のすぐ近く
台中駅切符売り場。画面右側の窓口は一般客ではなくビジ
にあるが、日月潭周辺では台湾紅茶を名産として売り出して
ネスアカウント用と書いてあるが、国家公務員である農業委
いた。
員会の職員も使っていた。
茶園凍霜害対策について、いくつかの情報
農研機構 野菜茶業研究所
業務第2科長 松尾喜義
地域にもよりますが、一番茶の萌芽が始まる3月中旬から一番茶の生産が終わる 5 月中
旬までは、茶園の防霜対策がとても重要な時期です。そこで、いくつかの参考情報をお伝
えしますので、一層万全な防霜対策をお願いいたします。
霜害の発生状況
(左は通常年微弱な霜害、右 2010 年の激烈な凍霜害)
1:「茶園は他の作物に比べとても冷えやすい」
茶園では、送風により茶株上面に停滞した冷気を吹き飛ばすための防霜ファンや、水が
凍るときに放出される潜熱で防霜する散水氷結法(=液体の水が氷になり続けている限り
温度は0℃以下に下がらない)がいち早く実用化されています。その理由は、一番茶が高
価であったこともありますが、「茶園は特に冷えやすい作物」という特性に依ります。
熱画像装置で夜間の茶園周辺を観測すると、山林などは比較的冷えにくいのですが、人
家の屋根や茶園は温度が低くこれらは「とても冷えやすい」といえます(下写真左)。
とくに葉層が密で斉一に刈り均された茶園で温度が低く、逆に葉層がスキスキな不良茶
園や、整枝をしていない茶園は温度が比較的高いです(下写真右)。
2:防霜ファンなどの温度センサーの設置方法の確認
防霜装置の稼働を制御する装置の非常に重要な部分は、気温の低下を感知し防霜装置の
起動を左右する温度センサーの部分です。温度センサーの設置方法は、それぞれの現場実
態にあわせ各茶農家などで経験的に工夫されています。研究所の周辺地域で、温度センサ
ー設置方法を調べたところ、いくつかの問題があることが分りました。悪い事例と良い事
例を示します。
① 悪い事例
←センサー→
温度センサーの悪い設置事例
(左:畝間に垂らす、中と右:高いところにある)
温度センサーが、一番温度の下がりやすい葉層上面の部分に設置されていない場合は、
茶株の温度が防霜必要温度より下がってもセンサーで感知できず起動が遅れる可能性があ
ります。左では、センサーが畝間に垂れ下げられております。中と右では葉層の面上には
センサーがなく、10~15cm も上の株面から大きく離れたところにセンサーがあり、この状
態では一番温度が下がる葉層面直上の温度が感知できません。
② 良い事例
この調査で 30 か所程度調べたところ、上の 2 つが一番良いとみられました。いずれも一
番温度が下がる葉層面にセンサーが設置され、なかでも右では、支柱から離した位置にセ
ンサーを水平に設置しています。支柱に沿わせるのは物陰になるため、一見すると温度が
下がりやすく思われますが、「寄らば大樹の陰」といわれるように支柱に保護され物陰に
なってセンサーからの熱放射が減るので温度の下がり方が弱くなります。
新芽付近の気温低下にあわせて防霜ファンが的確に運転されてはじめて、茶の防霜効果
が期待出来ます。上記写真を参考にセンサー設置方法の再確認をお願いします。
3:改植中の樹がない茶園でのセンサー設置ヒント
茶園の改植中には、茶株が無くなってしまうので、その畑がセンサー設置茶園の時には
温度センサーをどう設置するかは、極めて重要です。上記で書きましたが、茶園の一番冷
えやすい部分は葉層の上の表面です。畝間や裾ではありません。改植で茶株が無くなった
時には、センサーをそのまま空中に垂らしておくのは最悪です。というのも空中で計った
気温は、霜がある時には茶株の表面の温度より多くの場合 2、3℃以上も高くなるからです。
ですから、長いコードを使って近くの茶園に電線を延ばしてセンサーを置くか、それが出
来ない時には茶株と同じように温度が下がるところの上面にセンサーを水平に置くのが理
想的です。
「茶株と同じように温度が下がる物体の上面」とはどのようなものでしょうか?
茶株の葉層は地面から離れており、細かい茶葉多数が空気を抱いた状態です。下左の写真
に示すように、茶株上、空中、発泡スチロール板上面、発泡スチロールトレイ面上でポリ
エチレンフィルムで覆う、などで温度低下を調べたところ、右写真示すような「発泡スチ
ロールの上面」に温度センサーを置くと、茶株の葉層面上にセンサーを置くのと同程度に
下がることが分かりました。改植中などでセンサーの置き場所がない時には右写真を参考
に地上 60cm 程度の場所にセンサーを設置してください。ちなみに、空中にただ垂らすだ
けでは、葉層面の最低温度から+3℃程度高温側にずれていました。
茶被覆資材の展開・巻取り装置が発売されました
新農業機械実用化促進株式会社
茶被覆資材の展開・巻取り装置は、第 4 次農業機械等緊急開発事業により、
(独)農研機構・
生研センターとカワサキ機工(株)が開発し、新農機(株)の実用化促進事業を経て、カワ
サキ機工(株)と落合刃物工業(株)から商品化されました。
1.構造と機能
本装置は、乗用型摘採機に装着し、チャの直接被覆栽培の被覆資材の展開と巻取り作業を
行う装置です。
1)乗用型摘採機に装着し、資材を茶樹の樹冠面に展開する展開アタッチメント(図 1)と、
資材を巻取り回収する巻取りアタッチメント(図 2)で構成されます。両アタッチメント共
図1 展開アタッチメント(機体後部に装着)
図2 巻取りアタッチメント(機体前部に装着)
通のベースフレームを介し
表1 茶栽培用資材被覆・除去装置の主要諸元
て乗用型摘採機に装着しま
す。(表 1)
項目
内容
展開アタッチメント
2)展開アタッチメントは、
芯のないロール状に巻かれ
適応資材:幅 2.0~2.2m、長さ 50m 以下
巻取りアタッチメント
た資材を保持し、動力を使
用せず走行しながら資材を
寸法:L 700×W2300×H670mm、質量:25kg
寸法:L1200×W2500×H880mm、質量:48kg
適応資材:幅 2.0~2.2m、長さ 50m 以下
ベースフレーム
質量:30kg
茶樹の樹冠面に展開します。
3)巻取りアタッチメントは、油圧モータ駆動で回転する巻取軸に資材をロール状に巻きつ
け、走行しながら資材を巻き取ります。巻取り用油圧モータは負荷に応じて回転速度を調
節することで資材への適度な張力を維持し、緩みなく巻き取ることができます。また、2
本の弧状のガイドフレームは、資材の左右への偏りを低減させます。
2.作業の進め方と留意点
1)本装置は、平坦茶園および装着する乗用型摘採
機の安全使用傾斜角度内での傾斜茶園で使用でき
ます。安全使用傾斜角度は機種によって異なりま
すが、畝幅、樹高、枕地などは乗用型摘採機の適
用条件と同じです。なお、平坦茶園でも搬入路の
段差などで瞬間的に安全使用傾斜角を超えるよう
な茶園では使用できません。
2)本装置では、産地で一般的に利用される慣行資
材に加えて、固定にロープを使用する新方式資材
が使用できます。新方式資材は、資材外周部に通
したロープを引き絞って茶樹の樹冠部に資材を被
図3
新方式被覆資材
せ、畝端部でロープをペグで地面に固定するため、固定や取り外しが省力的に行えます(図
3)。新資材の問い合わせ先はダイオ化成(株)です。
3)展開作業、巻取り作業ともにオペレータと補助者の 2 人で行います。また、両アタッチ
メントは 2 人の手作業で脱着できます(図 4)。
4)展開アタッチメントは機体後部の他に前部にも装着できます(図 5)。
図4
アタッチメントの装着
図 5 展開アタッチメントの機体前部への装着
図 7 摘採同時巻取り作業
(コンテナ式乗用型摘採機に装着した様子)
図 6 巻き取った資材の取り外し
5)巻取り作業でロール状に巻き終えた資材は
巻取軸から引抜いて取り外し、次回の展開作業にそのまま使用できます(図 6)。
6)資材巻取り作業と摘採作業を同時に行うことができます(対応機種のみ)(図 7)。
3.作業性能
1)資材の展開作業(人手による資材固定作業を含む)の能率は、オペレータと補助作業者
の2名作業により 10a 当たり作業時間が 1.1 時間(約 70 分)です。資材の固定にピンチを
利用しない新方式資材を利用した場合、10a 当たり 0.7 時間(約 45 分)です。
2)資材の巻取り作業(人手による固定解除を含む)の能率は、2名作業により 10a 当たり
作業時間が 1.1 時間(約 70 分)です。新方式資材を利用した場合、10a 当たり 0.8 時間(約
50 分)です。
4.利用の効果
表2 導入効果試算表 1)巻取り作業と摘採作業が集中する収穫繁
※1
忙期の労働負担が軽減され、被覆面積の規
導入による増益
模拡大とそれに伴う収益増も期待できます
導入コスト
2)既存の乗用型摘採機が利用できるアタッ
チメント方式です。また、これまで使って
3)摘採同時巻取り作業により遮光状態を維
持したまま収穫でき、高品質の茶生産をサ
0
140
労働費
※2
機械償却費
※3
被覆資材償却費
導入効果(1年あたり)
いた被覆資材も引き続き利用できます。
ポートします。
675
※1
(表 2)。
(単位:千円)
140
395
※1 下表参照
※2 機械価格100万円、 耐用年数7年で試算
※3 資材50本追加、耐用年数7年で 試算
■積算資料 (経営規模は変えず、被覆栽培面積のみ拡大するとして試算)
被覆栽培面積(ha)
被覆茶生産量(t)
増益(千円)
労働費(千円)
導入前 導入後
1.5
3.0
2.3
4.5
180
180
差
1.5
2.3
675
0
試算条件
被覆栽培を1.5ha拡大(一・二番茶計)
収量1.5t/ha(荒茶換算)とする
被覆による単価増+300円/kgとする
慣行労働時間12人時/10a、賃金1,000
円/時、導入で労力半減とする
茶栽培用資材被覆・除去装置現地検討会の動画、パンフレット等は新農業機械実用化促
進株式会社のホームページをご覧ください。
http://www.shinnouki.co.jp/index.html
和の空間(茶室)の展示について
~九州農政局での取組み~
農林水産省
特産係長
九州農政局
牧枝
生産部
園芸特産課
竜二
昨年6月に策定された「農林水産業・地域の活力創造プラン」において、伝統的
な和の文化の良さを国内外にPRし、国産の畳、お茶、絹製品や木材の需要拡大を
積極的に進めるため、農林水産省では秋田杉などの木材、熊本産の畳表、鳥取産の
和紙など国産の材料をふんだんに使った茶室を作成し、和の文化に触れる機会を提
供しています。
これに基づき九州農政局においても、和室(畳)やお茶、花等などの日本の衣・
食・住一体となった文化のPRをおこなっていくため「和の空間」(茶室等)を展示
し、本年2月2日に熊本地方合同庁舎A棟1階ロビーにて、お披露目会を催したと
ころです。
お披露目会当日は、熊本地方合同庁舎に在籍する各官公庁の長及び各業界団体を
来賓としてお招きし、お茶結びプロジェクト理事長
徳永睦子様より、大福茶を呈
茶頂き、一時の癒やしの時間を過ごして頂いたところです。
九州農政局としましては、茶室を活用したお茶のPR活動を今後も継続し、特に
九州のお茶を広く一般にお知らせすべく、各イベントを計画しています。
○お披露目会の様子
発行元:農林水産省 生産局 農産部 地域作物課
茶業復興振興班(岡本、矢野、三宅)
TEL
03-6744-2117(直通)
FAX
03-3502-4133
記事を転載される場合は、ご一報下さい。
全国お茶通信掲載HPアドレス
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/ocha_tuusin.html
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