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二輪車事故を抑制するための対策
別紙2(論文) 二輪車事故を抑制するための対策 俊彦1・小波津 米須 1沖縄総合整備局 南部国道事務所 交通対策課 秋乃1 (〒900-0001 沖縄県那覇市港町2-8-14) 沖縄県では,気軽に利用できる移動手段として二輪車の人気が高い.一方で,沖縄県内の直 轄国道で発生する死傷事故のうち二輪車が関与する事故の割合は,全国及び九州平均の約2倍を 記録しており,二輪車事故の削減は緊急の課題といえる. 南部国道事務所交通対策課では,県内の二輪車走行特性や事故特性を分析・把握し,事故対 策案として二輪車レーンの設置や広報によるドライバーのマナーアップを検討した. キーワード 二輪車事故,道路空間再配分,蛇行運転,広報 1. はじめに 沖縄県では,気軽に移動できる原付バイクをはじめと して二輪車の人気が高く,二輪車の保有台数の伸び率は ここ10数年で約1.9倍にも上る(図-1).一方で,全国的 傾向に反して,沖縄県内の直轄国道では二輪車が関与す る事故が減少しておらず,その割合は約29%と全国及び 九州平均の約2倍を記録している(図-2). ひとたび二輪車事故が発生すると重大事故に繋がりや すいという特性から見ても,二輪車事故の削減は緊急の 課題といえる. 0% 20% 二輪車事故 (N=1,936) 40% 60% 80% 100% 重大事故 23% 21% 2% 77% 約 2.9 倍 その他事故 (N=4,945) 9% 7% 92% 1% 軽傷事故 重傷事故 死亡事故 図-3 沖縄直轄国道の内容別事故発生割合(H22年~H25年)3) 図-1 二輪車保有台数(H14年~H27年)1) 0% 沖縄直轄 (N=1,690) 20% 40% 60% 58.3% 80% 28.6% 100% 5.9% 7.2% 約2倍 九州地整 (N=16,340) 12.3% 8.1% 3.5% 76.1% 全国 (N=98,054) 70.2% 自動車 二輪車 14.1% 自転車 歩行者 11.7% 4.1% その他 図-2 直轄国道における二輪車事故発生割合(H23年度)2) さらに,図-3の内容別事故発生状況をみると,二輪車 事故における重大事故(重傷事故又は死亡事故)発生割 合は23%に上り,その他事故(二輪車以外の事故)の約 2.9倍となっている. 上記の背景に鑑み,南部国道事務所交通対策課では, 二輪車事故抑制の検討を行った.本稿は,沖縄県におけ る二輪車事故削減に向けた取り組みの一環として実施し たヒアリング調査・交通挙動調査,二輪車走行特性の分 析及び対応方策の検討結果について報告するものである. 2. 二輪車事故抑制に向けた検討課題 沖縄県で発生した二輪車事故を事故類型別にみると, 右折車と直進二輪車による右折時事故が約30%を占めて いる(図-4).九州地方整備局管内の二輪車事故発生割 合と同様な傾向を示す福岡県と比較しても,その値は高 いことがうかがえる.既往調査等4), 5)によれば,二輪車 関与事故として多い形態は「二輪車すり抜けに伴う巻き 込み,サンキュー事故」であり,路肩すり抜け行為の抑 制を目的とした路肩縮小が実施されている事例が多いが, その他の対策事例はあまりないのが実態である. しかしながら,二輪車が関与する事故はドライバーの ルール不遵守や運転技術に起因するものが多く,道路管 理者が実施する道路構造の改良を主とした対策では抑制 が困難である. 特に沖縄県内の二輪ドライバーのマナーは他県と比べ ても極めて悪いとされており,問題点は二輪車の路肩す りぬけにとどまらない.このため,沖縄県内の二輪車走 行特性に留意した上で適切な対策立案を行う必要がある. そこで,二輪車の走行特性や沖縄県独自の留意点を把握 するためにヒアリング調査及びビデオカメラによる走行 挙動調査を行うこととした. 正面衝突 0.4% 追突 出会い頭 福岡直轄道路 (N=4,443)人対車両10.2% 14.2% 右折時 23.6% 左折時 31.3% 1.3% 車両単独 2.4% 車両相互その他 16.6% 右折時 正面衝突 0.6% 沖縄直轄道路 追突 (N=1,936) 人対車両 12.8% 出会い頭 14.2% 車両単独 7.2% 左折時 車両相互その他 14.1% 19.2% 右折時 29.0% 2.8% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図-4 事故類型別の二輪車事故発生割合(H21年~H24年)3) 3. 二輪車事故対策立案に向けた実態調査 た非日常レジャーの一環としてレンタルバイクの利用者 が増加している.レンタルバイク利用者は普段二輪車を 運転しないペーパードライバーが多く交通事故原因のひ とつになっているのではないかと考えられる.また,レ ンタルバイク利用者は運転技術に不安があること,県内 ドライバーのルール不遵守が多いことが判明した. (2) ビデオカメラによる交通挙動調査 二輪車ドライバーの走行特性(ルール不遵守行為の実 態)を把握するため,ビデオカメラによる交通挙動調査 を実施した. 1) 調査概要 沖縄特有の二輪車走行特性を把握するため,二輪車関 与事故の割合が高い国道58号松山交差点を対象として, 交通挙動調査を実施した.調査方法は,朝夕ピーク時 (7:00~11:00,16:00~20:00)の8時間のビデオカ メラ撮影とし,「車線別の二輪車走行状況」と「二輪車 の危険な交通挙動(以下に示す①~④)」を計測した. ①右折レーンを利用した無理な追い越し ②滞留車両の間のすり抜け行為 ③複数車線を縫うようなジグザグ走行(車線変更) ④左折レーンを利用した無理な追い越し 実施した調査項目と主旨を表-1に示す. 表-1 調査方法 調査項目 調査目的 ①ヒアリング調査 沖縄県特有の事故特性,二輪車走行特性の把握 ②交通挙動調査 二輪車走行特性の把握 (1) ヒアリング調査 利用者視点から二輪車特性を把握するため,沖縄県警 察とレンタルバイク会社へのヒアリング調査を実施した. 以下にその結果を示す. 1) 沖縄県警察へのヒアリング調査 二輪車事故の発生形態は右折時事故が多くを占め,す り抜けに伴う事故よりも見通しがきく状況でお互いに譲 ってくれるとの思い込みから高速度で衝突するケースが 重大事故になりやすいこと,またその対策としては優先 でない右折車に何らかの注意喚起を促すしかないこと等 が判明した.(表-2) 表-2 沖縄県警察ヒアリング結果 ① 状況 ヒアリング結果 ・事故形態は右折時事故、出会い頭事故が多い →サンキュー事故に加え、見通しのきく状況でも ② 発生形態 多く、重大事故になりやすい ・北部地域では、ナイトツーリング族による単独事故 が多い ③ 対策 ・右折時事故については、右折車ドライバーへの注意 喚起が重要 ・振動による違和感がスピード抑制に効果的 2) レンタルバイク会社へのヒアリング調査 観光立県沖縄では,レンタカーの代替手段として,ま 1,400 1,200 二 輪 1,000 車 台 800 数 台 600 / 400 8 h 200 ) ・沖縄県では二輪車事故発生割合が高い ・平成22年は二輪車をとめて注意喚起等の実施 →事故減少 2) 調査結果 a) 車線別二輪車走行状況 車線別の走行状況は,左折車線が約14%(282台/8h) となっており,他県でも多い路肩すり抜け行為と同類の 挙動である.一方,路肩すり抜け以上に第二車線,第三 車線の割合が約28%を占めていることが特徴的である. 1,204 H26.10.31(金) 7:00~11:00 16:00~20:00 合計 2,067台/8h 約 14% 約 28% ( 項目 写真-1 調査実施風景 271 310 第3車線 第2車線 282 0 第1車線 左折車線 図-5 車線別二輪車交通量(台/8h) b) 二輪車の危険な交通挙動 危険挙動は363件発生しており,二輪車交通量のうち 約17.6%程度が危険な挙動であった.その危険挙動は写 真-2及び図-6に示すように,特にすり抜け走行,左折レ ーンを使用した追い越し,二輪車の車線変更が多く発生 しており,沖縄県では二輪車が全車線を無秩序に走行し ている傾向が見られた. 余裕幅0.5mを加えて1.5mとし,そのために中央分離帯, 植樹帯,車道幅員を一部狭めることを基本的な考え方と した.(図-7 二輪車レーン案) 対策前 ②すり抜け走行 ①右折レーンを 利用した追い越し ③車線変更 対策後(二輪車レーンの設置) 写真-2 危険事象 二輪 200 180 160 ( 台 140 数 120 台 100 / 8 80 h 60 H26.10.31(金) 7:00~11:00 16:00~20:00 合計363台/8h 194 二輪車の走行位置は二輪車レーンに集約 蛇行運転等危険な走行は減少 ) 二輪 40 79 88 ③車線変更 ④左折車線を 利用した追い越し 2 0 ①右折車線を 利用した追い越し ②すり抜け走行 民地側 20 二輪車が様々な車線を走行 蛇行運転等危険な走行をするドライバーもいる ④左折レーンを 利用した追い越し 図-6 危険挙動の各パターンにおける走行台数(台/8h) 歩道 4. 二輪車事故対策の検討 各種調査結果から得られた以下の課題を踏まえ,沖縄 独自の二輪車事故対策の検討を行った. ①蛇行運転への配慮 一般に採用される路肩縮小では,蛇行運転を助長し危 険性が増す可能性があるため配慮が必要である. ②二輪車ドライバーのルール遵守に対する意識改善 道路構造の改善だけでなく,ドライバーのルール遵守 に対する意識改善の取り組みも合わせて実施する必要が ある. ③地元バイクとレンタルバイクの混在 二輪車ドライバーへの注意喚起に当たっては,地元バ イクだけでなくレンタルバイク等の混在にも配慮が必要 である. 課題を踏まえた対策方針として,単路部では二輪車の 安全な走行を確保することとして「二輪車レーンの設置」 を検討した.また,交通流が錯綜する交差点部では四輪 車に対して二輪車走行位置を明示することで,注意喚起 を促すものとした. (1) 二輪車レーンの設置 最も抜本的な対策として,道路空間再配分による「二 輪車レーン」の設置がある.本案は二輪車の走行空間を 明示することで無秩序に走行する二輪車を集約し,蛇行 運転等に伴う危険な交通挙動を抑制するものである. なお,二輪車レーンの幅員は,二輪車の占有幅1.0mに 二輪車レーン (1,500㎜) 図-7 二輪車レーン案 (2) 交差点内の二輪車走行位置の明示 沖縄県内で特に多い交差点内での右折車と直進二輪車 の事故は,サンキュー事故に加え,見通しのきく状況で も多く発生しており,二輪車の走行位置を明示させるだ けでなく,右折車に注意を促すことも必要である.そこ で,右折車と直進二輪車における事故抑制案として「交 差点内の二輪車走行位置明示(路面着色)」のためのア ローマークの設置を提案した(図-8).交差点内の二輪 車走行位置の認識をさせ,右折車への注意を促し,右折 車と直進二輪車の事故の削減を期待する. 対策前 二輪車のすり抜けを想定しておらず衝突 対策後(アローマーク設置) アローマークにより、二輪車走行の可能性を示唆 図-8 アローマークの設置 (3) 広報の積極的展開 いる. 専用レーン設置後も設置前と同様に停車された場合, 今回検討した二輪車レーンによる対策は事例が少ない 必然的に車線変更が必要となり事故発生の要因となる可 ため,利用者に認知されておらず,通行意識が根付かな い可能性も考えられる.横断幕や配布用チラシを活用し, 能性が考えられる. 二輪車レーンの告知及び利用促進,ドライバーのルール 遵守へ向けた情報などを広報していく必要がある.この ような積極的な広報の展開を併せて行うことで,二輪車 ドライバーのルール遵守への意識が向上し,事故削減が 見込まれると考えられる. 【走行中に情報を入手】 チラシ・ポスター等 ラジオ広告 道の駅・GSなど 看板・横断幕・情報板 交通安全対策効果の さらなる発現、 マナーアップの浸透へ 車内で情報を入手 【暮らしの中で情報を入手】 写真-4 路肩でバスが停まっている様子 情報が目・耳に入ってくる テレビCM 新聞広告 さらに詳しく調べる チラシ 自治体広報誌 交通安全対策効果が SNS(携帯電話) 十分に発現しない また、さらなる発現を 目指したい 直接話しを聞く 興味・関心 パンフレット ホームページ 興味・関心 イベント ・現地説明会 ・出前講座 ・パネル展 ...など 図-9 広報展開のイメージ ③多車線道路における二輪車の右折方法 二輪車レーンを設置することで,二輪車の走行が最左 に集約されるが,交差点右折時は,右折レーンへの大き な車線変更または二段階右折が必要となる. 右折レーンへの車線変更では,走行車両との接触の危 険性が生じ,二段階右折では,現状でもあまり守られて いないうえ例外的に二段階右折が禁じられている交差点 もあるため,ルールの徹底が不可欠である. 5. 対策案実施に際しての課題 6. おわりに 道路空間再配分による「二輪車レーン」の設置をし た場合,下記の課題への対応も必要となる. ①植栽の繁茂による専用レーンの阻害 路肩を含め専用レーンとして活用するため植栽の維持 管理が適切でなく車道部へはみ出した場合,想定した専 用レーンの幅員を確保することができなくなる(写真3). 特に,梅雨時期には雑草の生育が著しく,時期・植栽 の状況に合わせた適切な維持管理が必要となるが,維持 管理費は年々減少傾向にあり同区間の優先した維持管理 が必要となる. 写真-3 植栽が繁茂して車道部へはみ出ている様子 ②路上駐車による空間機能の低下 近年観光客の急増に伴い那覇市内の宿泊施設沿にバス 等の停車が確認されている.さらに交通量の多い時間帯 での停車が多く,円滑な交通阻害の大きな原因となって 沖縄県内における二輪車の走行特性を詳細に分析した 結果,沖縄独自の二輪車事故対策の検討を行うことがで きたと考える. しかしながら,道路空間再配分による「二輪車レーン」 の設置をした場合,植栽の繁茂による専用レーンの阻害 や,路上駐車による空間機能の低下が課題になってくる。 今後,これらの対応策を検討した上で,さらに詳細な 運用方法を検証していく必要がある. 参考文献 1) 一般財団法人 自動車検査登録情報協会:都道府県別・車種 別保有台数表 2) 公益財団法人 交通事故総合分析センター:道路管理者別交 通事故分析データ 3) 公益財団法人 交通事故総合分析センター:事故別データ 4) 小川圭一:幹線道路の渋滞時における自動二輪車の走行挙動 と路肩幅員・車線数との関連分析,第 29 回交通工学研究発 表会論文集,No.21 5) 濱本敬治:二輪車事故防止対策の実施とその改善効果につい て,平成 20 年度国土交通省国土技術研究会