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3 カウンセリングの考え方や技法を生かした教育活動

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3 カウンセリングの考え方や技法を生かした教育活動
3 カウンセリングの考え方や技法を生かした教育活動
児童生徒の学校生活に関する意識調査の分析から,学校への回避感情の有無と自己肯定感や学校
への所属感等との間には高い相関があり,学校への回避感情がある児童生徒は回避感情のない児童
生徒と比較して,自己肯定感や学級への所属感が低いことが分かった。
このことから,児童生徒一人一人が,自分がかけがえのない一人の人間として大切にされ,頼り
にされていると実感できることで,児童生徒は学校に行くことが楽しいという気持ちをもつことが
できるものと考える。
児童生徒は,学校で多くの時間を学級という集団の中で過ごしている。自分の所属する学級が受
容的で温かい人間関係で結ばれているような集団であれば,児童生徒はそこでの様々な活動に意欲
的になり,ありのままの自分を受け入れるとともに,友達のよさを認め,自己肯定感や学級への所
属感等を高めることができるものと考える。
したがって,自己肯定感や学級への所属感を高め,学校への回避感情を抑制するには,教師と児
童生徒,児童生徒同士の人間関係をはぐくむことが大切である。
このような豊かな人間関係をはぐくむためには,学校カウンセリングの考え方や技法を生かした
教育活動を積極的に推進することが重要である。特に,教師一人一人が児童生徒に対して「受容的
であること」「共感的であること」「誠実であること」という基本的な姿勢や態度を大切にしながら
児童生徒とのかかわりをもつことが重要である。具体的には次のようなことが考えられる。
教
師
の
姿
勢
や
・
児童生徒の話をよく聴く。
(受容)
態
度
・
児童生徒の考えや思いを批判せず受け止める。
(受容)
教師と児童生徒の
・
児童生徒一人一人のよさを見付け認める。
(受容・共感)
人間関係づくり
・
児童生徒が,何を感じているのか理解する。
(共感)
・
児童生徒を意欲と可能性をもっている個性的な存在として尊
重し,誠実な対応に努める。(誠実)
・
児童生徒が,相互理解できるような場を設定する。
・
児童生徒が存在感を味わい,級友から肯定的に受け止められ
児童生徒同士の
人間関係づくり
るような場を設定する。
・
児童生徒が,自己決定し責任をもって実行する場を設定する
ことで,互いの考えを尊重できるようにする。
このような教師の姿勢や態度は,児童生徒に次のような変容をもたらすと考えられる。
A
学校生活が楽しくなり,学習意欲が高まってくる。
B
教師に対して心を開き,素直な態度になって,指導を受け入れられるようになる。
C
児童生徒が相互に受容し合うようになり,仲間を理解しようとする共感的な集団が形成される 。
D
児童生徒が教師を受け入れ,教師と児童生徒との間に共感的な人間関係がはぐくまれる。
ここでは,学校カウンセリングの考え方や技法を生かした授業の在り方や豊かな人間関係づくり
のために,構成的グループエンカウンターやソーシャルスキルトレーニング,グループカウンセリ
ングなどを教育活動の中でどのように活用すればよいかなどについて具体的に述べることにする。
- 24-
(1) 教科授業を通して
学校生活に関する意識調査によると,学校に行きたくない理由の一つとして,多くの児童生徒が
「授業」を挙げている。このことから,不登校への予防的対応として,学校生活の大半を占める授
業を充実させることが求められる。
授業を充実させるために,教科・領域本来のねらいを踏まえ,児童生徒が学習内容を理解できる
ように授業を展開することは言うまでもないことであるが,同時に,教師と児童生徒及び児童生徒
同士の人間関係を豊かにし,受容的で共感的な学習の雰囲気をつくり出すことも大切にしなければ
ならない。教師がカウンセリングの考え方や技法を積極的に授業に活用し,その授業を通して,児
童生徒の学習意欲を喚起しながら学習内容の理解を図るとともに,児童生徒が満足感や自己存在感 ,
自己肯定感を感じることができるような授業を展開することが大切である。このような視点に立っ
て,授業を構想し,実践することは不登校の予防的な対応としても大きな効果を期待できるものと
考える。
ここでは,カウンセリングの考え方や技法を生かした授業を展開するために必要とされる教師の
姿勢や態度,身に付けたいカウンセリングの基本的な技法,及び児童生徒に身に付けさせたい基本
的なソーシャルスキルについて述べる。
ア
教師の姿勢や態度
教師が児童生徒とかかわりをもつときの基本的な姿勢や態度として,「受容的であること 」「共
感的であること」「誠実であること」が重要であることは前述したとおりである。ここでは,受容
・共感・誠実について,教師の具体的な言葉掛けや態度のモデルを小学校の授業の展開に沿って
示すことにする。
過程
受
言
葉
容
・ みんな, 生き生きしてい
るね。これからの活動を
楽しみにしているんだね。
共
感
・ なるほど,みんなは mm
という予想を立てたんだ
ね。 先生もその考え方は
いいと思うな。
誠
実
・ うれしいな。今日は,楽
しく勉強ができそうだ。
導
・
・
入
態
度
笑顔で児童生徒を見つ
める。
・ 児童生徒の目を見なが
ら話す。
言
・うんうん,なるほど。
・ええ, そうなの。
・ええ, あなたはそう思
ったのね。
・あなたは, こんなこと
だと言いたいんだね。
・先生もそう思うな。
・ゆっくりと, 考えてい
いんだよ。みんな待っ
てるからね。
葉
・ 児童生徒のよさを認め
てほめようとする。
・ 目や表情,態度等から
,
気持ちを分かろうとする。
・ 先生は, こういう気持ち
のことかなと思ったんだけ
ど, どうかな。
・ 先生も同じ気持ちだな。
・ 一生懸命頑張って発表し
ようとしているんだね。
・ おしかったね。もうすこ
しだったね。
- 25-
学級全体に目配りがで
きる。
・ 言葉に張りがあり身振
り手振りがある。
・ 児童生徒の反応に柔軟
に対応する。
・先生はとってもうれしいな。
・ 先生は , とっても悲しい
な。君のその態度は・・・
・ みんな頑張っているね。
・ 先生の説明がよく分からな
かったんだね。ごめんね。
・ ごめんごめん。先生の文字
が間違っていたんだね。
展
開
態
度
・ 笑顔で児童生徒を見つ
める。
・ 児童生徒の目を見なが
ら話をする。
・ うなずきながらよく聴
く。
・ ゆっくりと落ち着いて
応答する。
・ 沈黙があったら,相手
の気持ちを考えてじっと
待つ。
・ 児童生徒の言葉の内容
や大事な部分を反復して
返す。
・ 答えが間違っていても,
着眼点のよさや考え方の
ユニークさなどの児童生
徒の独自性を認める。
・
言
葉
いいよ。君の
言葉でまとめて
ごらん。
・ うまくまとめ
られなくても心
配はいらないよ。
・
学級全体に目配りが
できる。
・ 言葉に張りがあり身
,
振り手振りがある。
・ 児童生徒の反応に柔
軟に対応する。
・ 指示, 命令, 叱責が少
なく, 温かく柔らかな
表情が多い。
・ 自分の過ちや発問が
うまく伝わらない場合
等 , その場で素直に認
める。
・
児童生徒のよさを
認めて褒めようとす
る。
・ 目や表情,態度か
ら,気持ちを分かろ
うとする。
・ 児童生徒の心情に
合った表情や態度で
表現しようとする。
・ 児童生徒と一緒に
楽しむ。
・ 学級全体の理解の
度合いを確かめなが
ら授業を進める。
・ 発言や態度の背景
にある,うれしさ,
くやしさ,喜びなど
の気持ちを理解しよ
うとする。
・
大分できるよう
になったね。
・ 今日の勉強が分
かって楽しくなっ
たでしょう。
先生もうれしいな。
・
時間が過ぎるのが早く感じ
たね。
・ 次の授業が楽しみだね。
終
・
末
態
笑顔で児童生徒
を見つめる。
・ 児童生徒の目を
見つめながら話を
する。
・ 児童生徒の言葉
でまとめさせ,一
人一人の伸びを,
自ら実感できるよ
うにする。
・ できなかった児
童生徒に目を向け,
気持ちを受容した
言葉掛けをする。
・ 児童生徒の良さを認
め褒めようとする。
・ 目や表情,態度から
気持ちを分かろうとす
る。
・ 児童生徒の心情に合
った表情や態度で表現
しようとする。
・
学級全体に目配りができ
る。
・ 言葉に張りがあり,身振
りや手振りがある
・ 児童生徒の反応に柔軟に
対応する。
・ 児童生徒の授業態度や頑
張りについて感じたことを
素直に表現し,意欲を喚起
したり反省を促したりする。
度
イ
教師が身に付けたいカウンセリングの基本的技法
授業の中で児童生徒の考えや表情・感情をどのように受け止め,返していくかということは,受
容的で共感的な学習の雰囲気をつくり出す上で重要なことである。
教師一人一人が,第 2 章1の(1)で述べたカウンセリングの基本的技法を身に付け,それらを発問
- 26-
の仕方や児童生徒の発言の受け止め方,応答等に生かすことが大切である。例えば,児童生徒の気持
ちを受容することで,児童生徒は,周りに対して心を開き,自分の考えや意見に自信のない児童生徒
も,安心して自分の気持ちや考えを発表しようとする意欲をもつことができる。また,沈黙があった
ら,「どのように話そうか迷っているのかな。」「ゆっくり考えていいんだよ。」などと言葉を掛けるこ
とによって,理解の遅い児童生徒も自分のペースで安心して授業に取り組み,自分なりにまとめて発
表ができ,多様な考え方を引き出すことができる。このようなことが繰り返されることで,児童生徒
は,学習意欲や自己存在感・自己肯定感を高め,安心して授業に取り組めるようになる。
ウ
児童生徒に身に付けさせたいソーシャルスキル
ソーシャルスキルを身に付けさせる意義については,第 2 章2の(3)に述べたとおりである。
ここでは,授業中における基本的なソーシャルスキルを例示する。これらのスキルを授業の中で
繰り返し指導し,児童生徒に身に付けさせることで,受容的で安心感のある学級づくりに生かした
いものである。
[小・中・高等学校]
≪
聴
く ≫
1
2
3
4
上手な聴き方を身に付けよう
発表者の方を向いて,目を見て聴く
うなずいて聴く
話の途中で邪魔をしないで最後まで聴く
まちがっても笑わない
・
発表者の身振り手振りを見て,気持ちを考えながら聴く
・ 自分の意見と比べながら聴く
・ 事実と意見を区別して聴く
・ 人の話を聴く中で,自分の考えが変わったかどうかを考える
・ 要点をメモしてまとめながら聴く
5 よく分からないときは聞き返す
≪
質
問
す
る
≫
上手な質問の仕方を身に付けよう
1
2
3
質問したいことをまとめる
質問をしてもいいか相手の都合を聞く
質問する
・ 分かりやすく簡潔に伝える
・ 目を見て,語尾まではっきりと言う
お礼を言う
・ 気持ちを言葉にする
4
≪
話
す ≫
1
相手の気持ちを考えた話し方を身に付けよう
みんなに分かるように工夫して話す
自分の気持ちを話す
身振り手振りを使ったり,表情を出して話す
例を挙げて話す
絵や図を使って話す
2 聞き手の様子を見て話す
・ 聞き手の表情等から気持ちをとらえ,声の大きさや速さ・調子等を変えて話
す
・ 聞き手に話し掛けるようにして話す
・
・
・
・
≪
言
葉
掛
け
≫
相手の気持ちが温かくなるような言葉掛けを身に付けよう
1
2
相手のよいところを見付けて褒める
相手の気持ちを考えて励ます
・ 相手がどんな言葉を掛けてあげると元気になるか考える
「がんばってください」「とてもいいと思います」など
3 相手のことを心配した言葉を掛ける
・ 相手を思いやっている気持ちが伝わるようにする
「大丈夫ですか」「一緒に考えよう」
「こうしたらいいよ」など
- 27-
4
相手に感謝の気持ちを言葉で表す
「ありがとうございます」など
<留意点>
・ 発達段階に応じて,具体的な言葉で提示するなど工夫する。
・ 教師自身が,児童生徒の発表をよく聴き,相手をよく見て話すなど,ソーシャルスキル
のモデルを示すようにする。また,ソーシャルスキルを身に付けた児童生徒の行動を認め
褒めることで,児童生徒に積極的に身に付けようとする意欲をもたせるようにする。
(2) 特別活動や総合的な学習の時間を通して
不登校への予防的対応として,教師と児童生徒及び児童生徒同士の豊かな人間関係をはぐくむよ
うな取組が必要である。そのような取組は学校教育活動全体を通じて行われる必要があるが,中で
も,人間形成や生きる力を育成することを主なねらいとしている特別活動や総合的な学習の時間を ,
豊かな人間関係をはぐくむ活動の場として活用することが考えられる。
豊かな人間関係をはぐくむためには,児童生徒の内面に働き掛け,心を育てることを重視した教
育活動を積極的に推進することが大切である。活動内容としては,例えば,構成的グループエンカ
ウンターやソーシャルスキルトレーニングなどが考えられる。これらの活動を特別活動や総合的な
学習の時間に意図的・計画的に取り入れることは,希薄化していると言われる人間関係を豊かにす
るとともに,児童生徒の人間関係能力を高めることに大いに役立つものであると考える。
そこで,ここでは,特別活動や総合的な学習の時間を活用した構成的グループエンカウンターや
ソーシャルスキルトレーニング学習の進め方について,具体的に提示する。
ア 構成的グループエンカウンターの進め方
構成的グループエンカウンターは,与えられたエクササイズをグループで行い,そこでの気付
きやその時の気持ちを大事にしながら,シェアリングを通して自己理解や他者理解,自己受容や
他者受容などを促進し,心と心の触れ合いを深めようとする活動である。一般的な流れとしては,
「インストラクション→エクササイズ→シェアリング→まとめ」のように展開していくことになる。
構成的グループエンカウンターを計画的に実施するために,次のようなことに留意して指導計画
を作成する必要がある。
A
総合的な学習の時間や特別活動の指導内容のどこに位置付けるか明確にして,目標や時数を
設定する。また,目標は,学年や学級の実態を踏まえて,活動全体の目標とともに学期ごとや
1単位時間ごとの目標を明確にする。
B
総合的な学習の時間や特別活動や教科授業等との関連を図り,一領域だけでなく横断的な取
扱いも考えられる。
C
エクササイズは,児童生徒の発達段階を踏まえ,1単位時間ごとの目標を達成できるような
内容を選び構成する。また,効果を持続させるために,例えば,同じエクササイズを学期ごと
に繰り返し実施するようなことも考えられる。
次に,小学校での総合的な学習の時間における「豊かな人間関係づくり」をテーマにした活
動に,構成的グループエンカウンターを活用した指導計画例と展開例の一部を紹介する。
- 28-
(ア)
指導計画例(小学校4∼6年生:全7時間)
楽しい学級をつくろう
ね ら い
構成的グループエンカウンターの活動を通して,教師と児童,児童同士の受容的で共感
的な温かな人間関係のある学級づくりをする。
1学期
友人関係の輪を広げる。受容的で共感的な学級の
雰囲気づくりをする。
第1時
ねらい: 教師と児童及び児童同士の温かな人間関係をつくる。
エクササイズ: フルーツバスケット (P42 参照)
第2時
ねらい: お互いに質問をし合うことによって,教師と児童及び児童同士の相互理解を進
める。
エクササイズ: 質問ジャンケン (P32 参照)
第3時
ねらい: 自由な発想をはぐくみ,思ったことを安心して発表できる学級の雰囲気をつく
る。
エクササイズ: ブレーンストーミング
(P32 参照)
2学期
友達を深く知る。人間関係を豊かにする。
第4時
ねらい:
支えたり支え合ったりする体験活動を通して,他者に対するいたわりや優しさ
を身に付け,学級内の人間関係を豊かにする。
エクササイズ: トラストウォーク
第5時
ねらい: 協力して絵を完成させることを通して,温かな人間関係をつくる。
エクササイズ:共同絵画
3学期
(P32
参照)
学級集団の望ましい人間関係を形成する。
第6時
ねらい:
人とは違う自分を主張することで自己理解を深める。
エクササイズ: 私はわたしよ (P32 参照)
第7時
ねらい: 肯定的な評価をもらうことで,自己肯定感を高め,
温かな人間関係をつくる。 (P32 参照)
エクササイズ: 別れの花束
- 29-
(イ)
第4時の展開例
「トラストウォーク」
ね ら い
支えたり支えられたりする体験活動を通して,他者に対するいたわりや優しさを身
に付けさせ,学級内の人間関係を豊かにする。
過程
活
動
内
容
教師の指示★
留
子どもの反応◎
1 活動のねらいを知る。
・
(1) 目を閉じて部屋を歩く。
点
危険がないように,机など
は撤去しておく。
★ 目を閉じて,ゆっくりと部屋の中を歩いてみま ・
ウォーミングアップ程度の
しょう.
(2)
意
(30秒)の活動をすること
歩いたときの気持ちについて話し合う。
★
どんな気持ちがしましたか。
◎
怖かった。ぶつかるのじゃないかと思って心
で雰囲気を盛り上げるように
する。
おっとと。危ない,危ない。
ゆっくり歩かないとぶつかり
そうだ。
配だった。思うように歩けなかった。
(3) 活動の内容とねらいを知る。
目を閉じて案内してもらったときの気持ちや案
内してあげたときの気持ちを感じてみよう。
★ 目を閉じて歩くとみんな不安だったようですね。
★ これから,2人組になってもらいます。男子同
イ
士,女子同士で組みます。そして,1人が目を閉
ン
じて,もう1人に手をつないで案内してもらいま ・
ス
す。目を閉じて案内してもらったときの気持ちや
の2人組ができてしまう場合
案内してあげたときの気持ちを感じてみましょう
など事前に調整しておく。
ト
ラ
ク
それでは,2人組をつくってください。
★
ン
・
さい。2人組ができたら座ってください。
★
んでね」などと声掛けをして,
ジャンケンをして,どちらが先に目を閉じるか
2人組のできない子どもにス
話し合ってください。
★
トレスを与えないようにする。
順番が決まったら,目を閉じる人は右側に,誘 ・
導する人は左側に並んでください。
(7分)
★
2人組ができない子どもに
は,積極的に「mm さんと組
2人組ができない人は先生のところに来てくだ
シ
ョ
児童数が奇数の場合や男女
近くの2人をモデルにして
見せる。
右側の人が目を閉じますから,左側の人がしっ
かり前を見て案内をしてあげます。手をつないだ ・
り,肩につかまったり,後ろから支えたり,見え
ない不安が少しでも減るような工夫をしてくださ
い。目を閉じた人は,前に何があるか不安ですか
ら,ゆっくり歩いてください。決して目を閉じて
いる人がぶつかるようにしてはいけません。しゃ
- 30-
目は,周りが見えない程度
に軽く閉じさせるようにする。
べらずに行動だけで誘導してください。目を閉じ
ている人の気持ちを考えてください。
★ 右側の人は,さあ目を閉じてください。先生が
いいと言うまで閉じています。誘導する人を信じ
てついて行ってください。
肩に手を掛けてく
れると安心する
ね。
2
エクササイズ「トラストウォーク」をする。
・ 時間を決めて(様子を見て
(1 ) 部屋の中を自由に歩く。
5分程度)
,目を閉じる人と誘
★ この部屋の中を自由に歩くように誘導する人
導する人を交代させることで,
は歩き始めてください。ぶつけないように,ゆ
相手の気持ちを共感できるよ
っくりゆっくりです。
うにする。
★ ぶつかるようだったら立ち止まるのですよ。
そう,上手だね。
★ 交代してみましょう。
エ
ク
サ
サ
イ
ズ
(2 ) 階段を登る。
★ 少し慣れてきたようですね。相手の人を頼れ
るようであれば,階段を登ることに挑戦してみ ・ 階段は危険なので,登りだ
ましょう。1回登ったら交代です。
けに限定する。また,できる
だけ複数の指導者で目配りで
きるようにする。
( 30 分)
3
振り返り(シェアリング)をする。
(1 ) 目を閉じたときと誘導したときに感じたことや ・ 役割を交代して感じたこと
心の動きを話し合う 。(2人組)
を伝え合い,お互いの気持ち
シ
★ 目を閉じていたときや誘導したときは,どんな
に共感させるようにする。
ェ
気持ちがしましたか。相手の人に対してどんなこ ・ 振り返りの観点を与えて,
ア
とを感じましたか。 話し合ってみましょう。
焦点化した話合いができるよ
リ
◎ 歩き始めたときは,心配だったけど,⃝⃝く
うにする。
ン
んがゆっくりと歩いてくれたから安心した。
グ
◎ ⃝⃝さんが,優しく手を添えてくれたから,
少し心配がなくなった。ありがとう。
・ 子どもの状況によっては,
(2 ) 全員の前で発表する。
発表している子どもの横に並
(5分)
★ 2人で話し合ったことを,発表してください。
んで立ち,安心して発表する
ことができるようにする。
4 まとめをする。
★ 人を信じるってどんなことかな。人に身を任せる ・ 子どもの活動から感じたこ
ってどんなことかな。弱い立場の人にどんなふうに
とや気付いたことを全体に返
ま
たらいいかな。⃝⃝くんが,
「 îî くんが手を貸し
し,次回につながるように楽
と
てくれたので安心でした 。」と発表してくれたよう
しく終わるようにする。
め
に,困っている人や弱い立場の人には,優しく手を
貸してあげたり言葉掛けをしてあげたりすると,相
手の人もきっと安心できると思います。
(3分) ★ ⃝⃝さんは,真剣に目を閉じた人の気持ちを考え ・ 子どものよさを認めるよう
て, 安心できるようにしていることがよく分かりま
にする。
した。優しいね。
- 31-
(参考資料
1)
質問ジャンケン
・
2人組を作る。
・
ジャンケンをして,勝った方が質問する。
(相手の嫌がる質問はしない。
)
・
負けた人は,質問に答える。
・
繰り返す(時間を設定する 。)
別れの花束
・
最も活動した仲間と9 ∼10人のグループを作る。
・
一人ずつ順に右のような記録用紙を回し,その人のよさを書く。
・
全員が書いたら,1年間のまとめとして,
うれしいな。こんなふう
一人一人に贈呈する。
に思ってくれて。
ブレインストーミング(新聞紙の使い方)
・
5∼6人のグループを作る。椅子を丸く並べて座る。
・
テーマ「新聞紙の使い方」について,一人一人の考えを出し合う 。(時間を設定)
(言葉は使わず身振り手振りで伝える。テーマは,
「割り箸の使い方」など身近な物を設定
する。)
・
記録者は,相手の身ぶり手振りから,相手の伝えようとしていることを想像して,記録
用紙に書いていく。
・
終わったら発表し合う。
共同絵画
・
5∼6人のグループを作る。
・
広幅用紙に,順番に絵を描いていく。
・
絵を描く順番や内容などは,言葉を使わず身振り手振りで決めていく。(絵の中には,人
(マジック,クレパスなど準備する。)
家・木・川を描くように指示する。
)
・
時間を設定(10分程度)して,少なくとも1人
2回は回るように,お互いに時間を考えて活動する
ことを伝えておく。
一言もしゃべらないのは,
むずかしそうだな。
私はわたしよ
・
各自,紙に名前と自分の個性や自分だけの経験などを三つ書く。
・
回収して教師が一人一人のものを読み上げる。
・
読まれたのは,誰のものか予想して別の記録用紙に書く。
・
読み終えたら答えを合わせる。
- 32-
イ
ソーシャルスキルトレーニングの進め方
ソーシャルスキルトレーニングは,良好な人間関係をつくるためのスキルをトレーニングを通し
て身に付けさせ,コミュニケーション能力を高めることにより人間関係が深まるようにするもので
ある。例えば ,「あいさつの仕方」「上手な聴き方」「仲間への誘い方 」「上手な断り方」など,人と
のかかわり方をロールプレイングなどを通して体験的に身に付けさせることである。一般的な流れ
としては「インストラクション→モデリング→リハーサル→フィードバッグ→定着化」のように展
開していくことになる。ソーシャルスキルトレーニングを実施するに当たっては,次のようなこと
に留意して指導計画を作成する必要がある。
①
総合的な学習の時間や特別活動のどこに位置付けられるかを明確にして,目標や時数を設定す
る。また,一人一人の子どもについて,ソーシャルスキルの程度の実態も考慮して,目標や教え
るスキルを決定していくようにする。
②
日常生活でスキルが定着するように,他領域や教科授業との関連を図ることも考慮する。
次に,小学校での学級活動の時間における内容(2)「日常の生活や学習への適応及び健康や安全
に関すること。」に位置付けて,ソーシャルスキルトレーニングを活用した指導計画例と展開例の一
部を紹介する。
(ア) 指導計画例(小学校1∼3年生:全4時間)
み
,
ん
な
友
だ
ち
ね ら い
ソーシャルスキルを身に付け,生活の中で望ましい人間関係を築くことができる。
あ い さ つ を し よ う
じ ょ う ず に き こ う
第1時「あいさつリレーをしよう」
(獲得目標とするスキル)
① だれにでもあいさつできる。
② 相手の目を見て言う。
C 元気な声ではっきりとあいさつをする。
定
第2時「そうだねゲームをしよう」
(獲得目標とするスキル)
① 相手を受け入れながら聴くことのよさを知る。
② うなずきながら話を聴く。
③ 相手の目を見ながら聴く。
④ 最後まで話を聴く。
⑤ 笑顔で話を聴く。
着
化
いっしょに遊ぼう
各教科
道
徳
放課後
休み時間
総合的な学習の時間
特
- 33-
別
活
動
な
か
ま
を
つ
く
ろ
う
第3時「『一緒に遊ぼう』ゲームをしよう」 第4時「『仲間に入れて』ゲームをしよう」
(獲得目標とするスキル)
(獲得目標とするスキル)
① 相手に近づく。
① 近付く。
② 相手をきちんと見る
② 相手をきちんと見る。
C 聞こえる声で言う。
③ 聞こえる声で言う。
D 笑顔で言う。
④ 笑顔で言う。
⑤ だれにでも「一緒に遊ぼう」と言う。 E 「仲間にいれて」などの言葉を掛ける。
(イ) 第4時の展開例
○
「『仲間に入れて』ゲームをしよう」(仲間への入り方)
ね ら い
・
仲間に入れてもらうためのスキルを高める。
・
練習の過程で受容的な人間関係を体験し,自分の意思を伝えやすくする。
・
友達が仲間に入りたがっている気持ちを理解させる。
○
獲得目標とするスキル
①
相手に近づく。
②
相手をきちんと見る。
④
笑顔で言う。
⑤
「仲間に入れて」などの言葉を掛ける。
過程
活 動 内 容
教師の教示★ 子どもの反応 ◎
本時の学習のねらいを知る。
(1 ) 絵を見て,気持ちを考える。
★ こちらの絵を見てください。仲間と楽しく遊ん
でいる子どもと1人で遊んでいる子どもがいます
1人の子どもはどんなことを考えていると思いま
すか。
◎ 仲間に入れてもらいたいな。
どうしたら一緒に遊べるかな。
(2 ) 仲間に入るためには,どんな言葉掛けや行動が必
要か考えて発表し合う。
★ 1人で遊んでいる子どもが仲間に入るには,ど
のような言葉掛けをしたらよいでしょうか。ワー
クシートに書いてみましょう。(参考資料 2)
★ それでは,どんな言葉掛けをしたらいいか発表
してください。
(言葉)
入れて・あそぼう・一緒にやりたいな など
(行動)
相手を見る・近づく・にこにこする など
(3 ) 本時の学習のねらいを知る。
なかまへの入り方を学習して,なかまをふやそ
う。
③
聞こえる声で言う。
留
意
点
1
イ
ン
ス
ト
ラ
ク
シ
ョ
ン
( 10 分)
2
・ 仲間への入り方を学ぶメリ
ットを考えさせる。
・
一人ぼっちの子どもの気持
ちを考えさせ,これまでの自
分の体験を想起させる。
・
どうしたら仲間に入れるか
という問題意識をもたせる。
・
1枚の紙に一つの行動や言
葉を書き,行動と言葉に分け
て黒板に貼ることで,具体的
に示し理解させる。
。
仲間への入り方のモデルを見て改善点について考え
・ モデルを見せて, 言語的
る。
側面・非言語的側面を確
(1 ) 仲間に入るときの言葉掛けの確認をする。
認させる。
★ 仲間に入るための言葉掛けがいろいろ考えられ
ましたね。どんな言葉がありますか発表してくだ
さい。
・ 気持ちを伝える話し方のう
- 34-
モ
(2 ) モデルを見て,話し合う。
ち二つ程度できている例をや
★ 気持ちを伝える言葉や行動をたくさん見付けま
ってみせる。
したね。
・ 「気持ちを伝える話し方」は
★ これから先生が,仲間に入る子どもになってや
① 相手に近づく
ってみます。みんなが考えてくれたことが上手に
② 相手をきちんと見る
できているか見ていてください。後で,良かった
③ 聞こえる声で言う
ところ,どんなところを変えればよいか教えてく
④ 笑顔で言う
ださい。
・ 良い意見を褒めて認め,リ
★ さあどうでしたか 。
「○○がよくできていた。
ハーサルの時の児童同士の助
もう少し○○するともっといいと思う」という言
言の仕方に生かせるようにす
い方で教えてください。
る。
◎ 声の大きさが良かった。もっ
と近づいて言うといいと思う。
◎ 相手を見ながら言ったのが良
かった。にこにこした方がいい
と思った。
など
(7分 )
★ そう言われると変えようとする
気持ちになるね。
3 仲間に入る方法を練習する。
(1 ) グループで練習をする。
★ グループに分かれて仲間に入る練習をしてみま ・ 各自で仲間に入れて
もらうパターンを確立
しょう。4人が仲良く遊んでいるところへ,他の
させる。
1人が仲間に入るときの言葉と行動を試してみま
しょう。5人が1回ずつ交代をします。
★ 仲間に入るときのチェックシートを活用してお ・ 引っ込み思案の子どもに
互い仲間の入り方を確かめてみましょう。変えた
は,教師が側にいてよさを見
方がいい思うところがあったら,優しく教えてあ
いだし自信を付けさせながら
げましょう。 (参考資料 3)
モデリング,リハーサルを繰
(2 ) グループでアドバイスをし合う。
り返すようにする。
デ
リ
ン
グ
リ
ハ
ー
サ
・
ル
少しでもできるようになっ
た友達には,大きな拍手をし
たり褒めたりして認めるよう
にさせる。
◎
○○はいいけど,もう少し大きな声で言った
方がいいと思うよ。
◎ もう少し近くに来てから,言葉を掛けた方が
いいと思うよ。
◎ もう少しはっきりと言った方が,「どうぞ」
と言いやすいと思うよ。
(23 分)
フィ ー ド バ ッ ク
(5分 )
4
学習のまとめをする。
(1 ) 活動を通して感じたことを発表し合う。
・ 人間関係ができたときの満
★ 仲間に入る言葉掛けをして,実際に友達に「い
足感を感じさせるようにする
いよ」といわれたときどんな気持ちがしましたか。
◎ はじめはどきどきしたけど,「いいよ」と言わ
れてうれしかった。
◎ 今度は自分も「いいよ」と言ってあげようと
思った。
(2 ) 先生の話を聞く。
★ 仲間に入るとき,どのような言葉や行動をとれ ・ 日常生活の中で実践で
きるように, 定着を図る。
ばよいか練習ができました。学習時間や休み時間
などに生かしていきましょう。
- 35-
(参考資料
2)
ワークシート
なんといったらなかまにはいれるだろう。
(子どもたちが遊んでいるイラスト)
(子どものイラスト)
(参考資料
3)
チェックシート
なかまの入り方カード
名前(
★
)
友だちのなかまに入れましたか。友だちのようすを見て,良くできていたところは○,も
う少しのときは△をかきましょう。自分のようすも友だちから聞いてみましょう。
名
前
なかまの入り方
友だちから
あいてにちかづく
あいてをみる
きこえる声で話す
えがおでいう
★
きょうのべんきょうはどうでしたか。やってみて,どんなきもちがしましたか。
- 36-
(3) その他の活動を通して
児童生徒にとっては,授業以外の時間は開放的な気分になり,防衛機制も少なく,自己開示がし
やすい時間である。このような時間を活用して,グループカウンセリングなどの活動を取り入れる
ことで,教師と児童生徒及び児童生徒同士の人間関係を豊かにするような取組も考えられる。
また,児童生徒を取り巻く学習環境としての教室設営や生活記録ノートなどへのコメントの仕方
にも学校カウンセリングの考え方や技法を生かすことが大切である。
このような取組は,児童生徒の自己存在感や自己有用感を高めることになり,不登校を未然に防
止する方策として,その効果が期待できる。
ここでは,放課後を活用したグループカウンセリングやピアサポート,生活記録ノートや日記指
導について,学校カウンセリングの考え方や技法をどのように生かしたらよいか述べることにする 。
ア
グループカウンセリングとピアサポートの進め方
グループカウンセリングは,グループでの話合い活動の中で,自分の考えや気持ちをありのま
まに表現し,共感したり認め合ったりすることで,自ら課題を解決できるようにすることである。
また,ピアサポートは,コミニュケーション技能の訓練を受けた児童生徒が,友達の相談を聴い
たり,援助したりすることの総称である。一般的な流れは,両方とも「ウォーミングアップ→主
活動→振り返り」のように展開していくことになる。
このような活動を学級や学年を越えて,昼休みや放課後の時間等を活用して実施したり,ロン
グホームルームや総合的な学習の時間に位置付けたりして,段階的・定期的に実施するようなこ
とが考えられる。グループカウンセリングの実施に当たっては,次のようなことに留意して指導
計画を作成する必要がある。
A
指導者は,カウンセリングの専門的な知識や技能を身に付けていることが望ましい。
B
グループの人数は,大きくても動きにくいし,小さくても機能しにくい。また,指導者の指
導力や補助者の有無などにもよるが,基本的には5∼8人が最も適している。
C
グループは,課題や学年,係や委員会等の共通点に着目して構成することで,互いの共感性
が高まりまとまりやすい。
D
児童生徒の発達段階やグループカウンセリングの初期の段階によっては,教師がテーマを決
めて積極的にかかわり,児童生徒の人間関係づくりを支援することも考えられる。
E
導入時においては,複数の指導者で参加者の抵抗感や不安感をなどを軽減したり,話合いの
内容を深めたりする。
F
1回当たりの時間については,人数にもよるが60∼90分が基本である。
G
定期的に実施するのが望ましい。
ここでは , 高等学校において,生徒会役員を対象にした,グループカウンセリングの指導計
画例と展開例の一部を紹介する。
- 37-
(ア) 指導計画例(高等学校:全5時間)
お互いを理解し合おう
ね ら い
生徒会役員を対象としたグループカウンセリングを通して,生徒会活動への積極的な取組を
促すとともに,生徒同士が互いに支え合えるような資質や能力を養い,日常生活の中の様々な
場面でその力を発揮できるようにする。
第1回
ねらい:
参加者の良好な人間関係をつくり,実践への抵抗感や不安感を
軽減する。
(活動内容)
1 「質問ジャンケン」をする。
2 「フルーツバスケット」をする。
3 「人間知恵の輪」をする。
4 振り返りをする。
第2回
ねらい:
ピアサポートの意味を知り,ロールプレイングを通して,カウン
セリングの基本的技法を身に付ける。
(活動内容)
1 「フォーリングバック」をする。
2 ピアサポートやロールプレイングの説明をする。
3 ロールプレイングのモデルを示す。 (指導者2人)
4 ロールプレイングの演習をする。
(生徒同士)
5 振り返りをする。
第3回 ねらい: 物語文を用い, グループカウンセリングの考え方を生かした話
合い活動を通して,多様な考え方に気付き,お互いを認め合える
人間関係を築くようにする。
(活動内容)
1 グループカウンセリングの説明をする。
2 「バースデーライン」で5 ∼ 8人のグループをつくる。
3 物語文「危機からの脱出」を用いて話し合う。 (5∼8人)
(カウンセリングの基本的技法を生かして話し合わせる。)
4 振り返りをする。
第4回
ねらい:
テーマについて話し合うことを通して,互いを受容・共感し合い
相互理解を促進させる。
(活動内容)
1 「ブレインストーミング」をする。
2 グループカウンセリングをする。
テーマ「生徒会役員になった理由」
3 振り返りをする。
第5回
ねらい: 他者理解,自己理解を一層促進させ,生徒会活動に積極的に取り
組もうとする意欲をもたせる。
(活動内容)
1
「見えない卵」をする。
2
グループカウンセリングをする。
テーマ「生徒会活動の活性化について」
3
振り返りをする。(感想を書き発表し合う)
- 38-
(イ)展開例
第2回
ねらい
・
ピアサポートの意味を知り,ロールプレイング通して,カウンセリングの基本的技法
を身に付ける。
過程
活
動
内
容
教師の指示 ★
留
意
点
ウォーミングアップ
1 「フォーリングバック」 をする。
・
・
主
二人組になる。
・ 相手を信頼し,支えられる
一人は目を閉じ,身体を柱のように固く,まっす
体験を通して,二人組の相手
ぐしたまま,柱が倒れるように後ろに倒れる。(後
に対する抵抗感を軽減する。
ろの人の合図によって)
・ 怪我がないように注意をす
・ 後ろの人は,それを後ろで支える。倒れてくる距
る。
離と間合をよく測り,倒れてくる人の背中を,両腕 ・ 不安傾向の強い人は,浅い
で支える。
角度で支える位置を定めるよ
・ 交替して同じ要領で行う。
うにする。不安がなくなれば
(5分)
・ 2人組で感想を述べ合う。
少しずつ角度を深くしてい
く。
2 「ロールプレイング」の演習をする。
・ 生徒の理解できる範囲の内
(1) ピアサポートの意味を知る。
容や言葉で説明をする。
★ 前回は,楽しくゲームをしてお互いのことを理解
し合うことができました。今回は,これから行うピ
アサポートについて説明します。
★ みなさんは,友達を助けてあげたいのにどういう
ふうに言葉を掛けてあげたらいいか,どんなふうに ・ これまでの経験について想
してあげればいいか分からずに困ったことはありま
起させ,カウンセリングの基
せんか。困っている仲間を友達として援助すること
本的技法を身に付ける必要性
を「ピアサポート」といいます。この友達を援助す
を感じさせるようにする。
る力を身に付けることによって,友達の相談にも応
じてあげられるようになります。これから援助する
ために必要な技法をいくつか練習します。真剣に取
り組んで,これからの友達との会話や話し合いにも ・ 活動に真剣に取り組むよう
生かせるようにしましょう。
注意を促すようにする。
活
動
︵演
習︶
(2) カウンセリングの基本的技法の説明を聞き,ロール
プレイングのモデルを見る。
<傾聴>
・ 指導者2人でカウンセリン
A 「ねえねえ,今日は帰ったらうれしいことが待
グの基本的技法のやり方や効
っているんだよ。」
果について説明し,モデルを
B うなずいて聴いている。
見せる。
A 「今日は,僕の誕生日なんだ。誕生日のプレゼ
ントはなんだと思う。パソコンなんだよ。パソ ・ 具体的な応答場面を設定し
コン」
プリントを準備して説明をす
B 「うん,うん。」
る。
A 「うらやましいだろう。な,うらやましいだろ
う。ゲームをしたり,インターネットでサッ ・ それぞれの技法について簡
カーの情報を集めるんだ。
」
単な応答の仕方をモデルとし
B うなずきながら 。「あー,なるほど。なるほど
て示し,生徒が面接場面のイ
ね。」
メージをつかみやいようにす
<内容の繰り返し>
る。
A 「昨日さー。ハリーポッターと賢者の石の映画
を見に行ったんだよ。」
- 39-
B
主
「昨日,ハリーポッターと賢者の石の映画を見
たんだね。」
A 「おもしろいんだぜ。魔法使いの学校の話なん
だ。あんな学校があったらいいな。」
B 「魔法使いの学校の話なんだね。」
<感情の反射・明確化>
A 「私ね。バスケットが近頃おもしろくないから
止めようと思っているんだ。」
B 「バスケット部を止めようか,どうしようか迷
ってるのね。何かおもしろくないことがあった
みたいね。」
A 「先生が私ばっかり注意するから頭にくるの。
¦¦ さんは,いつもほめるのにさ。」
B 「先生がえこひいきをすると思っているのね 。」
<開かれた質問>
★
開かれた質問(「はい」や「いいえ」で答えら
れない質問)をすることの意義について話す。
<沈黙>
★ 相手が,沈黙をしたらじっと待ったり,「ゆっく
りと考えていいよ」などと言葉掛けをする意義に
ついて話す。
活
動
︵演
習︶
(3) ペアで演習をする。
・ 話しやすいテーマを設定す
ロールプレイング → シェアリングをして,役割を
ると抵抗感が少なく活動でき
交代する。
る。 例えば,「近頃うれしか
・ 傾聴 (一人2分程度)
ったこと」
「 好きなスポーツ」
・ 内容の繰り返し(一人2分程度)
「好きなテレビ番組について」
・ 感情の反射・明確化(一人2分程度)
などが考えられる。
・ カウンセリングの基本的技
法を意識して演習させるが,
緊張しないように言葉掛けを
する。
(4) カウンセリングのロールプレイングをする。
・ カウンセリングの基本的技
・ 相談をする役を決める。
(生徒)
法(傾聴,内容の繰り返し,
・ ロールプレイングをする。
(5分程度)
開かれた質問,沈黙への対応
相談を受ける役(教師)
,相談をする役(生徒)
など)を使ったロールプレイ
・ 感想を述べ合う。
ングを見せ,カウンセリング
の実際の雰囲気を味わわせる。
・ 笑わずに真剣に見させる。
・ 相談をする役になってくれ
(5) ペアで演習をする。
た生徒に感謝の言葉を述べる。
・ 相談を受ける役と相談をする役を決める。
・ 聴いてもらえる体験から感
・ 相談内容を,相談をする役が決める。
じたことやどうすればもっと
・ 交代してロールプレイングを行う。
安心して話せるのか話し合う
・ 感想を述べ合う。
ようにする。
(50 分)
振り返り
4
振り返りをする。
★ 全体の前で,代表が感想を発表する。
(5分)
- 40-
・
感想を述べたり,質問した
りすることで,今回の活動の
内容を振り返らせるようにす
る。
展開例
第4回
ねらい
・
テーマについて話し合うことを通して,お互いを受容・共感し合い,相互理解を促進
させる。
過程
活
動
内
容
教師の指示 ★
ウォーミン
グアップ
1「ブレインストーミング」をする。
★ P32 参考資料1参照
留
意
点
・
構成的グループエンカウ
ンターで雰囲気づくりをす
る。
(8分)
主
活
︵
動
演
︶
習
(45 分)
振 り 返 り
(7分)
2 「グループカウンセリング」をする。(5∼8人組)
(1 ) グループカウンセリングの説明をする。
・ ブレインストーミングの
★
前回は,物語文を使ったグループでの話合い活
メンバーのまま活動すると
動をしました。今日は,グループカウンセリング
抵抗感が少ない。
を行います。
★ テーマは,「生徒会役員になった理由」です。カ ・ カウンセリングの基本的
ウンセリングの基本的技法を使って,グループで
技法を生かして,人の話を
話し合い,お互いが理解できるようにしましょう。 聴くようにさせることで,
ブレインストーミングのグループのまま行います。
技法を身に付けさせるよう
(2) テーマ「生徒会役員になった理由」をグループで
にする。
話合う。
・ 一人ずつ「 生徒会役員になった理由」を発表する。 ・ 特に発表がないときは,
・ お互いに質問をしたり,意見を述べたりし合う。
無理をせず,次の人に進む
ようにさせる。
<指導者の姿勢・態度>
・ うなずきながら聴いたり,
★ 批判的な態度を避け,自由な話合いの雰囲気
発表者に拍手をしたりして,
を促すようにする。
人間関係が深まるようにさ
★ 受容的・共感的態度で傾聴し,発言者の感情
せる。
をありのままに支持する。
・ それぞれの意見を尊重し,
★ 繰り返し,明確化,質問等により,発言者の
「 mm さんと同じ意見です
気持ちを掘り下げながら,発言内容や感情が他
が,それに加えて ∼すると
のメンバーに伝わりやすくする。
いいと思います。」などと,
★ 率直な感情が表出できたメンバーを承認する。
発表できるようにする。
★ 発言者に共感していることを確かめ合えるよ
・ できるだけ生徒を中心に
うにする。
して,指導者はあくまでも
★ 生徒たちの発言の偏りや対立をうまく調整し,
支援をする立場をとる。
・
生徒同士の心の交流が図られるようにする。
3 振り返りをする。
(1) グループで感想を述べ合う。
・
自分の気持ちを話して,
聴いてもらえたことでどん
なことを感じたか 感想を述
べさせるようにする。
(2)
指導者の話を聞く。
êêさんの意見は,説得力がありましたね。みん
なの考えを深めるのにとてもいい意見でした。
★ êêくんは,人の意見のよさを認めた上で,きち ・ 個人のよさやグループ全
んと自分の意見が主張できていたので良かったと思
体のよさを認めて,次の活
います。
動への意欲をもたせるよう
★ 今日は,人の意見を聞くときの態度や姿勢が良く
にする。
うなずきながら聞いていた人が多かったですね。
★
- 41-
(参考資料
4)
フルーツバスケット
・
椅子で円形を作り,一人の鬼が真ん中に立ち,他の生徒は椅子に座る。
・
自分の好きな果物の名前を決める。
★
・
5種類位に限定をして決めさせた方がいい。
鬼が,指示する言葉で椅子に座っている生徒が移動をする。鬼は,空いた椅子に座り,
椅子に座れなかった生徒が鬼になる。
「フルーツバスケット」というと:
「イチゴ」というと:
全員が別の椅子に移動する。
イチゴと決めた生徒だけが移動する。
人間知恵の輪
・
10人くらいのグループをつくる。
・
それぞれのグループで鬼を一人決める。
・
鬼に部屋から出てもらい,鬼のいない間に輪を作る。その際,手は絶対に離さない。
・
手をつないだまま,できるだけ複雑な形ができるようにする。
・
輪ができたら,鬼を呼び知恵の輪をほどいてもらう。
バースデーライン
・
1月1日をスタートとして,場所を決める。
・
スタート場所から誕生日順に,全員で大きな輪を作る。その際,言葉を使わず,非言語
的コミュニケーション(目配せ,ジェスチャーなど)を使って並ぶようにさせる。
・
並んだら一人一人誕生日を言ってもらい,誕生日順に並んでいるか確認をする。
・
同じ誕生日がいたりしたら拍手をしたり,感想を言ってもらったりする。
見えない卵
・
10人位のグループで輪を作る。
・
スタートの人を決めて,卵があるように言葉を使わず非言語的コミュニケーションの方法
(目配せ,パントマイムなど)で表現する。
・
卵があるつもりで次の人に丁寧に渡す。その際に,卵に対する思いを伝えるようにして次
の人に渡し,渡された人は渡した人の気持ちを考えて受け取るように指示する。
危機からの脱出
・
各自が物語文を読む。
・
各自が登場人物について,共感できる順に順位を付ける。
・
グループ内で各自が順位を発表する。
(カウンセリングの基本的技法を使って話し合う。
)
・
グループ内で自由に話し合う。
・
グループで順位を決める。(できるだけ多数決にならないようにする。
)
・
全体の場で各グループで付けた順位を理由を述べながら紹介する。
・
各自が振り返りシートに記入する。
- 42-
イ
生活記録ノートや日記指導に生かす学校カウンセリングの基本的技法
日常的に行っている生活記録ノートや日記等の指導に,カウンセリングの基本的技法を生かすこ
とによって,教師への信頼感が高まり,教師との間に親和的な関係をはぐくむことができる。
生活記録ノート・日記等指導
★
小・中・高等学校
生活記録ノートや日記にコメントをして返す場合,カウンセリングの基本的技法を生かす
ことができる。
(留意点)
1
書く内容は,あまり限定せずに書かせる。
・
今日の出来事だけでなく,趣味,思ったこと,楽しいこと,つらいことなど視点を
与えて書く内容を広げる。
・
絵やイラストを入れてもよい。
2
書かない児童生徒には,
「書けるだけでいいよ。」などと言葉掛けをして抵抗感を軽減する 。
3
児童生徒の自主性を尊重する。
単 純 な 受 容
内容の繰り返し
C
今日は,塾の勉強があって遊べませんで
した。
T そう,塾の勉強があって遊べなかったの,
残念だったね。何をして遊びたかったの。
C
昨日,弟とゲームのことで喧嘩をし
ました。弟は,生意気で嫌いです。
T 弟と喧嘩をして,生意気だと思った
んだね。どんな弟になってもらいたい
と思っているの。
カウンセリングの基本的技法
感情の反射・明確化
開かれた質問
C
A君が,B君とばかり遊んで僕をのけ者
にするので,休み時間が楽しくありません。
T A君と遊べなくて休み時間が楽しくない
のね。A君と仲良くしたいのに,B君が邪
魔をしていると思っているのかな。先生も
小さい時にそんなことがあったよ。そのと
き「仲間にいれて」と自分から声を掛けた
ら入れてくれたよ。
- 43-
C
私のことをだれも心配してくれません。
みんな私のことが嫌いなんじゃないかな
と思います。
T あなたは,自分が嫌われていると思っ
ているのね。どんなときに嫌われている
んじゃないかなと感じるの。心配してほ
しいときはどんなときかな。先生に教え
てね。
(4) 学級経営に生かす学校カウンセリング
不登校への予防的対応の観点に立った学級経営では,児童生徒個人と学級という集団との心の絆
を太くするような日ごろの取組を大切にすることである。心の絆とは,児童生徒個人が自分の学級
に所属していたいという思いである。心の絆が太ければ太いほど個人と集団の結び付きは強くなり ,
細ければ細いほど,わずかな力がかかっただけで心の絆は切れてしまう。心の絆を切る力が不登校
の「きっかけ要因」と言われるものであり ,この力が働く前に心の絆を太くする取組が必要である。
学級内の児童生徒一人一人の心の絆を太くするために,次のようなことに留意した学級経営を行
うことが大切である。
心の絆を太くする学級経営
(ア)
心のよりどころとしての学級集団を育成すること。
児童生徒一人一人にとって学級集団が自分の心のよりどころとなっており,学級の一員と
して存在感を感じ,学級に所属することに満足するような集団を育成することである。学
級内に親しい友達がいて,自分の学級に対して「居場所がある集団」というイメージを児
童生徒がもてれば,学級集団に対する心の絆は太くなるのである。
(イ)
児童生徒間の人間関係づくりを援助すること。
友達づくりが苦手であったり,集団に入ると気後れしてしまう児童生徒が自然と集団の輪
の中に入っていけるような場面やきっかけを教師が意識的につくっていく必要がある。その
ような場やきっかけとして,前述した構成的グループカウンターのエクササイズやソーシャ
ルスキルトレーニングなどは大いに活用できるものである。
(ウ)
多様な観点で児童生徒の個性を認めること。
児童生徒一人一人には多様な能力があり,2∼3の能力の優劣でその児童生徒の人間性を
評価することはできないということや,多くの物差しで児童生徒を見ようとする教師自身の
態度や姿勢が大切である。また,結果だけでなくプロセスを通して分析的に児童生徒を見る
ことなど多様な観点で個性を認めることが大切である。このようなことを常に児童生徒にも
伝えることで,一人一人の存在が尊重されるような雰囲気を学級内につくることである。
(エ)
児童生徒の不安や悩みを共感的に受け止めること。
児童生徒は様々な不安や悩みを抱えて学校生活を送っている。例えば,対人関係に関する
不安や先々の出来事を悲観的に想像しての不安,完全主義から起こる不安,身体症状に関す
る不安などである。これらの不安や悩みをもつ児童生徒には,その不安が高まらないように
日ごろから温かい言葉掛けを行うなど,その児童生徒との人間的なかかわりを大切にしなが
ら,不安・悩みを共感的に受け止めてやることで,安心感を与えるような配慮が必要である 。
- 44-
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