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T B R 産 業 経 済 の 論 点
No.15―05
2015年6月8日
家電が希薄な家電見本市
― CES ASIA(中国・上海)見聞録 -
永井 知美
東レ経営研究所 産業経済調査部門
シニアアナリスト
TEL:03-3526-2927
E-mail:[email protected]
<ポイント>
1
2015 年 5 月 25 日から 27 日にかけて、全米家電協会(CEA) が主催する家電見本市・CES
ASIA(Consumer Electronics Show ASIA)が、アジアで初めて中国・上海で開催された。
2
CES ASIA には、デジタル家電、白物家電、スマートフォン等、消費者におなじみの製品
はほとんど見当たらなかった。代わりに主役となっていたのが自動車である。時代の流れを
映してか、ウェアラブル機器、ドローン、IoT(Internet of Things)関連機器のブースも多
く見かけた。
3
もう一つ、特筆すべきは日韓企業の不在である。日本メーカーでブースを構えて気を吐いて
いたのは、オーディオ機器メーカーの「オーディオテクニカ」のみ。寂しいのは日本企業だ
けでなく、サムスン電子、LG エレクトロニクスといった韓国電機メーカーの姿もなかった。
4
自動車が家電見本市の主役になっている背景には、IoT がある。情報通信機器以外の様々な
モノに通信機能を持たせ、インターネット接続や相互通信で、自動制御等を行うのが IoT だ
が、自動車は IoT を具現化しやすい分野である。CES ASIA では、独アウディが自動運転
のコンセプトカーをお披露目した。
5
基調講演では、米インテルが熱く夢を語った。テレビ、パソコン、スマホに続く大型製品が
不在の今、電機業界は、夢を語らざるを得ない状況にあるのかもしれない。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2015.6.8
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1.
CES ASIA とは?
2015 年 5 月 25 日から 27 日にかけて、全米家電協会(CEA)が主催する家電見本市・CES1
ASIA(Consumer Electronics Show ASIA)が、アジアで初めて中国・上海で開催された。
参加企業 250 社超、来場者数 1 万 5,000 人超。会場は人であふれかえっていた。
2.
家電見本市だが、家電はほとんど見当たらず
CES はビデオカメラや CD プレーヤー、プラズマテレビなどが、かつて世界で初めて公開され
たことで知られる。
だが、今回筆者が訪れた CES ASIA には、デジタル家電、白物家電、スマートフォン等、消
費者におなじみの製品はほとんど見当たらなかった。代わりに主役となっていたのが自動車で
ある。時代の流れを映してか、ウェアラブル機器、ドローン、IoT(Internet of Things2)関
連機器のブースも多く見かけた。
もう一つ、特筆すべきは日韓企業の不在である。日本メーカーでブースを構えて気を吐いて
いたのは、オーディオ機器メーカーの「オーディオテクニカ」のみ。寂しいのは日本企業だけ
でなく、サムスン電子、LG エレクトロニクスといった韓国電機メーカーの姿もなかった。
3.主役は自動車、アウディの自動運転車もお目見え
日韓大手電機メーカーに代わって、大きなブースを構え主役の座についていたのが独アウデ
、独メルセデス・ベンツ4、米フォードである(図表 1、
ィ3、独フォルクスワーゲン(以下 VW)
2)
。
自動車が家電見本市の主役になっている背景には、IoT がある。情報通信機器以外の様々な
モノに通信機能を持たせ、
インターネット接続や相互通信で、
自動制御等を行うのが IoT だが、
自動車は IoT を具現化しやすい分野である。①車両の位置情報などを収集・分析して、最適な
ルートを案内する、②災害時の通行情報を提供するなどのサービスが実現しているが、究極の
形とも言えるのが自動運転である。
今回の ASIA CES では、アウディが自動運転のコンセプトカーをお披露目した。最高時速 250
㎞、1度の充電で 450 ㎞走行可能、充電時間は 2 時間である。ビデオカメラ、レーダー、レー
ザースキャナや多くのセンサーを搭載することで自動運転が可能となっている。
アウディの Hackenberg 取締役は、CES ASIA の事前基調講演で「安全のために自動運転する
CES とは、全米家電協会(Consumer Electronics Association、CEA)が米国で開催する家
電・情報・通信・エレクトロニクスに関する総合展示会で、参加企業は 2,000 社超、来場者数
10 万人超と世界最大級である。
2 IoT(Internet of Things、モノのインターネット)とは、パソコン等情報通信機器だけでな
く、クルマや大型機械など、様々なモノに通信機能を持たせ、インターネット接続や相互通信
で、自動制御などを行うことである。
3 フォルクスワーゲン・グループに属する高級車メーカー。
4 ドイツの自動車メーカー・ダイムラーが所有する乗用車、バス・トラックのブランド。
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東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2015.6.8
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時代は目前だ」と語ったが、自動運転が普及するには法整備とセキュリティ5が課題となるだろ
う。
図表 1 アウディの自動運転車
出所:筆者撮影
図表 2 フォルクスワーゲンの電気自動車「e-ゴルフ」
出所:筆者撮影
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クルマがインターネット接続すれば、当然ハッカーの攻撃対象となる恐れがある。クルマが
ハッカーに乗っ取られ暴走すれば一大事である。
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2015.6.8
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4.家電、スマホはどこへやら
元気いっぱいの自動車メーカーとは対照的に、影が薄いのが家電、スマホ等、消費者向け製
品である。家電は中国・ハイセンスが大ブースで曲面テレビを披露して存在感をアピールして
いたが、テレビの大展示は同社のみで、
「家電の王様・テレビ」の時代が終わったことを改めて
感じさせられた(図表 3)
。白物に至っては、展示は全くなかった。
図表 3 中国・ハイセンスの曲面テレビ
出所:筆者撮影
一時代が終わったのはテレビだけではない。スマートフォン関連の展示に注力していたのも、
半導体のファブレス、中国・スプレッドトラムくらいである(図表 4)
。電機業界ではテレビ、
スマホは当たり前、展示するほどのことはない、ということであろうか。
図表 4 中国・スプレッドトラムの展示
出所:筆者撮影
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2015.6.8
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5.ウェアラブル、ドローンも登場
アップルウォッチの好調な出足を見てか、ウェアラブルのブースも散見された。本家アップ
ルやグーグルのブースはなく、オランダのナビゲーションシステム・メーカーTomTom の「GPS
スポーツ・ウォッチ」や米 Pebble Technology の「Pebble time」が目立っていた(図表 5、6)
。
チップ内蔵のバスケットボール(プレイ内容をスマホに転送、解析することによりバスケの
。
上達が早くなる(?)
)
、セグウェイ6もどき、ドローン・コーナーもあった(図表 7、8、9)
図表 5 オランダ TomTom のスマートウォッチ
出所:筆者撮影
図表 6 米 Pebble Technology のスマートウォッチ
出所:筆者撮影
セグウェイとは、米セグウェイ社が販売している電動立ち乗り二輪車である。図表 8 の立ち
乗り二輪車は、セグウェイ社製品とはハンドルの形状が違うので、類似品と思われる。
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図表 7 アイルランド・InfoMotion 社のスマート・バスケットボール
出所:筆者撮影
図表 8 セグウェイの類似品?
出所:筆者撮影
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2015.6.8
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図表 9 カラフルなドローン
出所:筆者撮影
6.なぜか元気なオーディオ・コーナー
日本の家電量販店では、オーディオ・コーナーは脇に追いやられている。
だが、CES ASIA ではオーディオ・メーカーのブースが頑張っている。前述のように、日本
で唯一本格的なブースを構えているのも「オーディオテクニカ」なのである(図表 10)
。
なぜ、オーディオなのか。
可処分所得が増えるにつれ、電気製品を購入していくわけだが、順番としてはテレビ、白物、
携帯、スマホであり、オーディオは後である。
中国では、これからが高級オーディオの時代なのである。
図表 10 オーディオテクニカのブース
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出所:筆者撮影
7.夢を語るインテル
日韓メーカーの不在とは対照的に、基調講演で熱く夢を語っていたのが IoT の旗手・インテ
ルだった。
巨大市場・中国の可能性を強調し、半導体が他産業に比べていかに目覚ましい進歩を遂げた
かを語った後に、パスワードもタッチも不要になる顔認証パソコンなど、IT のあるべき姿を提
示した。
IoT の見本としては、スパイダー・ドレスが披露された。ドレスにインテルの超小型コンピ
ュータ「Edison」7が搭載され、着用している人のストレスレベルを測定、不快なレベルまでに
他人が接近すると、首の周りのクモの脚が伸びる(図表 11)
。講演では、男性がドレス着用の
女性に近づき、クモの脚が威嚇するかのように伸びるデモンストレーションも行われた。この
ほか、情報を搭載した花瓶も披露された(図表 12)
。
今回の CES ASIA では、世界を席巻してきた日本と韓国のメーカーが展示を行わず、半導体
メーカーであるインテルが夢を語った。
電機業界の成長をけん引してきたテレビ、パソコン、スマホが世界中で普及し、スマホの次
の「目玉」が何かはまだ定かでない。急成長市場だった中国、インドもテレビ、白物家電、ス
マホは相当程度行き渡っている。
電機業界、特に消費者向けは、スマホの普及で成長が鈍化、岐路に立っている。インテルの
基調講演を聞きながら、電機業界は夢を語らざるを得ない状況にあるのかもしれないとの印象
を受けた。
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インテルの半導体「Atom」搭載。IoT デバイス開発向けのハードウェアとして発売されてい
た「Galileo」シリーズより大幅に小型化され、無線 LAN 機能なども搭載されている。
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図表 11 インテルの「スパイダー・ドレス」
出所:筆者撮影
図表 12 インテルの IoT 花瓶
出所:筆者撮影
(ご注意)
・当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、東レ経営研究所はその正確性を保証するもので
はありません。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承ください。
・当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料に
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